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1958-03-01 第28回国会 衆議院 予算委員会 第15号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年三月一日(土曜日)     午前十時二十五分開議  出席委員    委員長 江崎 真澄君    理事 今井  耕君 理事 川崎 秀二君    理事 重政 誠之君 理事 田中 久雄君    理事 橋本 龍伍君 理事 川俣 清音君    理事 柳田 秀一君       小川 半次君    大橋 武夫君       太田 正孝君    北澤 直吉君       河本 敏夫君    坂田 道太君       櫻内 義雄君    周東 英雄君       須磨彌吉郎君    中曽根康弘君       楢橋  渡君    野田 卯一君       船田  中君    古井 喜實君       松浦周太郎君    南  好雄君       宮澤 胤勇君    八木 一郎君      山口喜久一郎君    山崎  巖君       山本 勝市君    山本 猛夫君       井手 以誠君    井堀 繁雄君       今澄  勇君    岡田 春夫君       北山 愛郎君    小平  忠君       小松  幹君    河野  密君       島上善五郎君    田原 春次君       辻原 弘市君    成田 知巳君       西村 榮一君    古屋 貞雄君       門司  亮君    森 三樹二君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         法 務 大 臣 唐澤 俊樹君         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 一萬田尚登君         文 部 大 臣 松永  東君         厚 生 大 臣 堀木 鎌三君         農 林 大 臣 赤城 宗徳君         通商産業大臣  前尾繁三郎君         運 輸 大 臣 中村三之丞君         郵 政 大 臣 田中 角榮君         労 働 大 臣 石田 博英君         建 設 大 臣 根本龍太郎君         国 務 大 臣 石井光次郎君         国 務 大 臣 河野 一郎君         国 務 大 臣 郡  祐一君         国 務 大 臣 正力松太郎君         国 務 大 臣 津島 壽一君  出席政府委員         内閣官房長官  愛知 揆一君         法制局長官   林  修三君         総理府事務官         (経済企画庁総         合計画局長)  大來佐武郎君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 三月一日  委員中居英太郎君及び八木一男君辞任につき、  その補欠として今澄勇君及び北山愛郎君が議長  の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十三年度一般会計予算  昭和三十三年度特別会計予算  昭和三十三年度政府関係機関予算      ————◇—————
  2. 江崎真澄

    江崎委員長 これより会議を開きます。  昭和三十三年度一般会計予算、同じく特別会計予算、同じく政府関係機関予算、以上三案を議題といたします。質疑を続行いたします。河野密君。
  3. 河野密

    河野(密)委員 私は社会党を代表いたしまして、本予算委員会におきまして今まで質疑を重ねて参りましたその質疑の中から、われわれとしてどうしてももう一度確かめておかなければならない問題について、重ねて政府所見を承わりますとともに、今度の政府が提出になりましたこの予算に対しましては、私たちも系統的、組織的に一つ考え方を持っておりますので、これらの問題を開陳しながら政府所見を承わりたい、かように考える次第でございます。  まず第一に総理大臣お尋ねをいたしたいのでありますが、それは現在の政治情勢、特に二大政党対立といわれる現下の情勢に対して、岸総理はいかなる心がまえをもって政治運営に当られておるかということでございます。いわゆる保守革新の二大政党対立しておるといわれておるのでありますが、御存じのように保守党の立っております基盤とその考え方、われわれ社会党の立っております考え方とその基盤、これは大きな違いがあるのであります。世界観におきましても違いがある。こういうように二つ政党対立しておって、しかも考え方を異にしておるというような場合において、政権移動あるいは政治の正常なる運営等については、特別なる考慮が払われる必要があると思うのであります。こういう情勢にあります国をほかに求めるとするならば、これはイギリスがその最も典型的なるものであると存ずるのであります。イギリスにおきましては伝統もあり、政治情勢もわれわれと違ったところもありますが、少くとも野党に対しましては次に当然政府を組織するものである、こういう考え方のもとにおいて、与党野党に対する考え方に一段の考慮が払われておるのであります。たとえて申しますならば、野党首領は陛下の反対党首領として特別なる待遇を受ける、こういうことに相なっておるのであります。私たちはもちろんこれを日本の現状において求めようとは存じませんし、またわれわれはそれを期待もいたしておりませんが、しかし与党野党とが二つ政党として対立し、その二つ以外に政党がないという場合におきまして、政治運営政権移動等についてどういう考え方を持っておるか、こういうことをまず私は総理大臣に承わりたいと思うのであります。
  4. 岸信介

    岸国務大臣 民主政治国会を通じて現実に実現していく上から申しまして、私は従来この政党が二大政党になって、そうしてこれがお互いに切瑳琢磨して与党となり野党となって、そうして国会を通じて国民の前におのおの主張を明らかにするというこの姿が、民主政治の進み方として最も望ましい形であるということをかねがね私は考えておったのでございます。しかして、この二大政党の間における政権移動は、言うまでもなく選挙を通じて、いずれの政党を多数支持するかという国民意思選挙によって表明せられ、それが現実に両政党間の政権移動として行われるということが望ましいのであって、民主政治があくまでも革命的な方法によって社会的、経済的、政治的各方面における非常な摩擦とそれから犠牲とによる激変を生ずることなく運営されるというためには、今申したような姿が一番望ましいことである、こう考えて私自身もその実現に努力して参ったのであります。  しかして現在の日本の二大政党のあり方につきましては、私は与党といい野党といい、十分にその民主政治を円満に実現していく上から申しますと、まだ互いに反省をし努力をしなければならない部分が非常にたくさんあると思います。特に二大政党があるということは、そこにおのおの考え方につきまして、またこれを支持する国民的の基盤において違うから、当然こういうふうな二大政党が出ておるのでありますけれども、しかしその根本は、あくまでも民主主義民主政治ということに立脚して、お互い国民の間に広く支持層を持ち、またおのおの考えというものを国民十分徹底、理解せしむる方法によってあらゆる活動をしていくということが、当然われわれの義務として行なっていかなければならないことだと思います。その両政党考えの違うところ、また立場の違う点につきましても、十分に国民にこれを理解、徹底せしめて国民の公正な批判を求めていくということが、当然二大政党責務であろうと私は思います。しこうしてそれが現実政治面において、国会を通じてこの論議が行われ、また現実政治が実現されるという上におきましては、私は、立場違い主張が違っておることにおいてもなお両政党の間で協力をし、民主政治民主主義の完成という共同の目的のために、大いにお互いの力を合わすべきところにおいては合せていくという考え方を持って進んで参りたい、かように考えております。
  5. 河野密

    河野(密)委員 与党といい野党といい、二つ政党議会政治あるいは民主主義という共通土俵の上に上っておることは申すまでもございません。しからばこの二つ政党が、共通土俵の上でいかなる政策上の違いによって相対立するものであるか、こういうことを検討いたしてみますと、私は最も大きな問題は外交政策の問題であると思うのであります。イギリスにおきましても、イギリス労働党保守党との従来の違いは、もっぱら経済政策にあった。内政上の問題にあったのでありますが、最近におけるイギリス保守党労働党対立は、主として外交政策にあるのであります。私も、わが国における保守革新二つ政党対決場面というものは外交政策であると思うのであります。経済政策あるいは貿易政策そういうような問題については、与党といい野党といっても、その違いは程度の違いにだんだん狭まりつつあると思います。しかし事外交政策の問題になりますと、これは与党野党と大いに意見を戦わさなければならないところの問題である、かように考えるのであります。岸総理言葉にこだわるわけではございませんが、岸総理は、社会党対決するということをしばしば言われておりますけれど、社会党対決場面を一体どこに求められようとするのであるか。外交政策の面において社会党政府党とは相いれない考え方を持っておるという立場に立たれるのであるか。それともどういう点において社会党との違いを強調されようとするのであるか、その対決されようとする場面はどこにあるのであるか、これを承わりたいのであります。
  6. 岸信介

    岸国務大臣 今私が申し上げましたように、両政党がその考え方やあるいは立っておるところの基盤を異にするということから、内政上また外交上、各方面に関して具体的の政策においてその意見を異にするということは、これは当然出てくると思うのであります。私は内政上におきましてもそういう点が幾多あると思いますし、また外交の点においてもあると思います。しこうして、これはあくまでも国会を通じておのおの考えておる考え方を、あらゆる機会に十分に論議を尽し、国民にその考え方を明らかにするとともに、お互いはまた論議を通じて、お互い自身考えというものに対して反省をし、また修正すべき考え直すべきことはお互い自身も直していくというところに、私はこの国会政治論議というものには非常な意義があると思うのであります。一ぺん主張したからそれはたといどんなことがあってもその立場上、もう理非いかんにかかわらずこれを貫くのだという考え方は、多数党においても、あるいは少数党においても、あるいは与党野党においても、私はやはりそこにゆとりを持って考えていかなければならぬと思うのであります。しかしあくまでも今の主張というものを、内政上また外交上のあらゆる面における両政党考えの違い、具体的政策の違う点を、国会論議を通じて国民の前に明らかにするということが、与党野党の二大政党としての当然の責務であり、それを対決するという言葉をもって示すならば、私はそういうことが対決というものの内容でなければならぬと思います。しこうしてそれは、ただ単に外交だけではなしに、内政外交の全般にわたる問題だと私自身考えております。
  7. 河野密

    河野(密)委員 今世界を見渡してみますのに、大体保守政党によって政権の維持されておる国々がございます。もう一つは、いわゆる共産党もしくは共産党を中心とする政権によって国政が運営されておる国々がございます。第三には、いわゆる広義の社会党政権と申しましょうか、そういうものが樹立されておるところの国々がございます。世間の分類によりますと、この第一と第三とを寄せて、これを簡単に自由主義諸国といっておるようでありますが、社会党政権の樹立されておる国々外交政策あるいは政治の動向というものは、おのずから保守政権の樹立されておる国々とは違っておるように思われるのであります。私たち社会党考え方といたしましては、この第三の社会党政権によって支配されている国々、アジアでいえばたとえばビルマであるとかセイロンであるとかいう国がそれであり、ヨーロッパにおいてはスエーデンとかノルウエーとかいう北方の諸国がそれでありますが、二つの陣営のいずれにも自主独立立場をとるというこの社会党政権の目ざしている方向にわれわれの外交方針を向けていきたい、こういう考え方を持っておるのであります。かりに社会党が現在の岸内閣にかわって政権を担当する日がきたならば、われわれとしてはそういう方向をとりたいと考えておるのであります。その場合に、外交政策政権移動によって大きく変化するということは、果して海外の諸国に与える影響がどうであろうかということを考慮いたした場合においては、日本のごとき保守政党社会主義政党という二つ対立があって、しかもその二つ政党考え方を異にしておるというような場合には、外交政策の面において何かの形で保守政党の側において考慮すべきではないか。もし保守政権にかわる社会党政権ができた場合においては、違った行くべき道がはっきりしておる。こういう場合には、外交方針においても保守政党の側において考える余地があるのではないか、こういう感じがいたすのでありますが、岸総理はこの点について一体どうお考えになりますか。
  8. 岸信介

    岸国務大臣 外交政策その他内政におきましても私は同様なことが言えると思いますが、ことに外交政策において、政権移動方針の上において非常な激変を生ずるということは、その国の国際的立場なり国際的信用の上からいって望ましくないということはお話通りであります。すなわち他の独裁政治やあるいは革命によって政権移動されるというのと違って、平穏裏に、しかもその国として進んでいく大道が政権移動によって非常に大きな激変をしないというところに民主政治の非常な特徴があり、またわれわれがそれをあくまでも守っていかなければならない理由があると思うのです。しこうして、先ほど私は、お互い国会を通じての論議においてあくまでもその主張を明らかにしていく、それを国民に理解してもらうと同時に、お互い反省し、お互いが協力すべきところにおいては協力するということを申し上げておいたのであります。今、河野委員は、外交政策についてそういうふうに両政党根本的な考え方が違っておる、ついては保守党の方で何かその点について考えるべきじゃないかというお話でありますが、私は、これは両政党ともお互い論議を通じ、また日本の長い将来を考え、国際的の立場というものを深く掘り下げて考えて、そうしてお互い反省すべきものである。私は決して社会党にだけ反省を求めるものでもありませんが、同時に、河野君の言われるように、ただ単に保野党だけがそれについて何か考えなければならぬのではなく、お互い考えるべき問題であると考えております。
  9. 河野密

    河野(密)委員 その外交政策の問題について、この国会において取り上げられた問題はたくさんあると思います。しかしその一つ一つを今ここであげるわけには参りませんが、私の見るところによると、この国会において一番大きな外交政策上の問題が二つあると思うのであります。一つは、日本防衛との連関における核兵器の問題でございます。核兵器持ち込みを許さない、自衛隊核兵器による武装をしない、こういうことは、本会議におきましても、この委員会においても、しばしば岸首相が言明されたところであります。この言明通り現実が行われておるならば、国民は安心しておるのでありますが、事実はこれと必ずしも一致しておらない。ここに国民の大いなる不安があるのでありまして、これは日本国民全体に関する問題であって、私は与党とか野党とか、保守党とか革新政党とかいう問題を超越した大きな問題であると思うのであります。そこで私は、岸総理お尋ねをいたしたいのでありますが、岸総理は何を根拠として核兵器持ち込みを禁止するとおっしゃられたのでありますか、岸総理核兵器持ち込みを禁止すると言われたその根拠をお示し願いたい。単なる首相考え方として自分はそう思っておるというのであるか、あるいは何らかの根拠があって核兵器持ち込みは許さないのである、こういうことを言われたのであるか、その根拠をお示し願いたいと思います。
  10. 岸信介

    岸国務大臣 核兵器の禁止問題、従ってひいて日本武装核兵器をもってしないということは、私は、これは日本国民の深い胸奥から出てくるところの国民的感情であると思います。そうしてその根拠には、人道的な考え、またわれわれ自身が体験したことに基く感情というものが基礎になっておって、いかなる人が政治の衝に立とうとも、この国民的の信念を実現するということが政治家の当然の義務であるというのが私の一番強い根拠であります。憲法上、あるいは核兵器といわれるところのものがどうなるかというような議論もございます。また核兵器の実情というものがいろいろ変化もしつつあるということでありますけれども、私の主張しておりまた自分が確信を持って強く述べておることは以上に尽きるのであります。
  11. 河野密

    河野(密)委員 核兵器持ち込みを許さないというのは、日本国民国民的感情である。その国民的感情というものを代弁して自分は言っておるのだ、こういう御趣旨であります。私は、岸首相のお気持としてはこれはよくわかるのであります。わかりますけれども、これをもって核兵器持ち込みを禁止するということを、岸首相のただ単なる考え方である、国民感情であるということで、他国にその考え方を徹底させることはできません。またその考え方をもって、政治運営を貫いていくことはできません。一体根拠はどこにあるのか、ないならば別であります。もし岸総理御存じないならば、私がその根拠をお示ししてもよろしいのでありますが、その根拠を一体どこに求めておられるのか。私はそういう一国の政治をおとりになる以上は、単なる国民感情だからというような、そういうあやふやなことではこの問題は解決できないと思います。
  12. 岸信介

    岸国務大臣 世界における軍事科学の発達が、いろいろな兵器を作り上げております。しこうして過去におきましては、あるいは毒ガスであるとか、あるいはばい菌を用いるというようなことが研究され、また一部においてそれが実戦に用いられたこともございます。これらに対しては、文明国国際条約でこれを禁止するということをとっております。私は今日までのこの核兵器、原水爆の被害というものが、ただ単にその時代の人だけでなくして、さらに次の世代にも、あるいはその次の世代にも悪影響を及ぼすという学問的な研究から見まして、人類の文明の名誉にかけても、こういう兵器お互いが無制限に用いるということは、当然高い人道的見地から、これは禁止されるべきものであると思います。またそれに向って日本努力をするということは当然であり、またわれわれの体験から見ましても、これを強く世界に訴えて、そういうものの禁止の方向にあらゆる努力を傾倒すべきものである、こういう見解を持っております。私はただ単に国民の一時的感情を云々しておるわけではございません。この考え方は、私は日本国民一つの胸の底に強い根拠を持っておる感情であり、あるいは信念と申してもいいと思います。これを実現するということは、ただ単に岸一個が思いつきでどうだということでなくして、私は先ほど申したように、何人が政治の衝に当ろうとも、われわれがこの国民的の強い信念であり考え方というものを実現するということは当然の義務である、こういうことが私の一番強い政治的の根拠であります。
  13. 河野密

    河野(密)委員 私は総理大臣が千万言を費してここで御答弁なさっても、それは一つ核兵器持ち込みを禁止するという力にはならないと思うのであります。私の見るところによりますと、日本国アメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定の第九条を開いていただきたいと思うのでありますが、いわゆるMSA協定であります。MSA協定の第九条には、第一項において、「この協定のいかなる規定も、日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約又は同条約に基いて締結された取極をなんら改変するものと解してはならない。」こう書いてあります。第二項には、「この協定は、各政府がそれぞれ自国憲法上の規定に従って実施するものとする。」と書いてあります。これは一体何のために、この第九条の二項を加えたのでありましょうか、「各政府がそれぞれ自国憲法上の規定に従って実施するものとする。」こういうことが厳然と書いてあるのであります。安保条約前文の中には、こういうふうに書いてあります。「日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章目的及び原則に従って平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、」と、こう書いてあるのであります。この安全保障条約前文にある「攻撃的な脅威となり」あるいは「平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、」というこの言葉は、MSA協定の第九条の第一項において、そのまま守られておるのであります。そこでこのMSA協定の第九条の一項によっても第九条の二項によってもはっきりとしておることは、日本においての軍備というものは、日本憲法規定されておること以外のものは許されないのである、こういうことがきわめて明確であるのであります。この明確なること、日本憲法規定されておる、日本憲法条章に従って行うものであるというそのことを、あなたが信念として、自分日本憲法条章によって日本政治を行なっておる限りにおいてというその考え方をお持ちにならないから、それを根拠として核兵器持ち込みを禁止するのだというきぜんたる態度をおとりになることができないから、私は国民が安心できないのだと思うのであります。岸総理自身の千言万語の信念国民は聞いておるのではないのであります。このMSA協定においても、安全保障条約前文においても明確にいわれておる。実際において何を根拠として岸総理は拒否しておるかという、そういうことを国民は実際は聞きたいのであります。その点を私は明確にしていただきたいと思います。
  14. 岸信介

    岸国務大臣 先ほども私、憲法上の議論もございますがということをちょっと一言触れておいたのでございますが、私はむしろそれよりももう少しこの問題は、政治家として強い信念を本質的に申し述べることが適当であると思って申したわけでございます。しこうして今の安保条約あるいはMSA協定を御引用になりました御趣旨は、これは当然その通りでございます。
  15. 河野密

    河野(密)委員 この条文によりまして、日本アメリカからMSA協定に基いて受け入れる武器においても核兵器というものは許されない、自衛隊核武装をしないということは、何も岸総理信念によってやるのではなくて、憲法を実施することを前提としておるMSA協定日米安全保障条約というもので明確なのであります。  さてそれならば、岸総理お尋ねしたいのでありますが、日本に配備されておるところのアメリカ駐留軍核兵器を持ち込まない、核兵器によって武装されることがないという保障は、これは一体何を根拠にして岸総理は言われるのでありましょうか。これを承わりたいのであります。
  16. 岸信介

    岸国務大臣 その点はしばしば議論されておりますように、日本がこれを同意しない限りはそういうものが持ち込められない。それは今度の安保条約のことから生起する各種の問題を協議するためできております日米安保条約による日米委員会において当然協議され、そしてそれの意見が一致しなければ、日本意思に反して持ち込まれることはないということを申しております。それは、配備ということには、われわれは当然そういう装備を含むものであるという解釈も明らかにいたしておる通りでございます。
  17. 河野密

    河野(密)委員 私はその点について岸総理考え方というものが非常にあいまいだと思うのであります。岸総理は本委員会における同僚の今澄委員の質問に答えまして、日米共同声明で軍隊の配備及び使用の、配備の中には装備も含むから、核兵器持ち込みを禁止し得るものであると考えておる、こういうようにお答えになっております。またただいまもお答えになりましたように、そういうことで、この共同声明のいわゆる軍隊の配備及び使用ということであるからして、これは持ち込むことはできないんだ、一方的に持ち込むことはないんだ。また多くのところで、法律上、条約上の根拠はないんだけれども、両国の親善関係から見て核兵器持ち込みはあり得ない、アメリカ日本との親善を考える以上は、日本国民が拒否しておる核兵器持ち込みということはないんだ、こういうように言っておるように思うのであります。この言葉によりますと、岸総理考えておるところによると、日本核兵器を持ち込んではいけないということは、条約上もしくは法律上の根拠がないというふうに考えおるようでありますが、そう岸総理はお考えになっておるのでありますか。日米共同声明以外には何らの根拠はないんだというふうにお考えになっておりますか。
  18. 岸信介

    岸国務大臣 御承知の通り、先ほど御引用になりました日本自衛隊の基礎というものは、その装備まで含めて、すべて憲法規定が法律的には中心になっておることは言うを待ちません。しかし、私は、現実の問題として一番大事なことは、日米共同声明に基くところのこの委員会運営によりまして、現実の問題を処理するという意味においてそういう答弁をいたし、そしてその共同声明というものは両国の完全なる理解と協力関係に基いておりますし、日本国民感情というものを無視してこれが運営されることはないということも、委員会設置の一つ目的にも明らかにいたしてありますことを考慮して、さように申し上げておるわけであります。
  19. 河野密

    河野(密)委員 きわめて不明確でありますが、私は日米共同声明というものが安保条約の不備な点を補充したものであって、むしろ日米共同声明のいわゆる安保委員会によって核兵器持ち込みというものが困難になったのである、それで初めて禁止されたのであるという考え方というものは、これは私は岸総理の詭弁であると思います。そうではなく、むしろ日本憲法、それからMSA協定安全保障条約、そういうものがあって、そういうものの上に安保委員会というものが初めて意味を持つのである。日本の態度、私はこれは岸総理が千言万語を費すよりは、日本のその間における憲法を中心としてという、その憲法条章を変えるものでないのだというその点についてのきぜんたる態度さえ持っておれば、あとはおのずから解決する問題であろうと思うのでありますが、この点についての岸総理国会の答弁を通しても非常にあいまいであります。この点についてはなお申し上げたいのでありますが、あとで同僚の委員からも追及があると思いますから、私はこの程度にいたしておきます。ともかく日米共同声明によってこの核兵器持ち込みが禁止できるんだというような、そういうばかなことはないはずだ、私はそういう考え方には承服するわけには参りません。  その次に、この国会で取り上げられました重要な問題は、日ソ関係の問題であります。現在漁業交渉が進展いたしておりまするし、事は微妙でありますから、私は必ずしもすべてを伺おうとは存じませんが、本委員会において明らかになりました点について、なおわれわれがふに落ちない問題をお尋ねしたいと思うのであります。  藤山外務大臣の本委員会における御答弁によりますと、日ソの現在の交渉は、昨年の六月にソ連政府に安全操業の問題について話し合いの申し入れをした、八月の十六日に口上書をもって交渉に入る用意があるとの回答に接した、そこで日本政府は安全操業に関する案を作ってソ連政府に申し入れをしたところが、なかなか返事が来ないで、昨年の十二月、日ソ漁業委員会でやることを回答してきたので、日ソ漁業委員会で交渉に入った、ところが本年の二月五日になって平和条約の問題と関連するといってきたので、さらにこれに対する日本政府の意向を伝えた、ところが昨日になってソ連政府の側から、河野・イシコフ交換文書についてソ連側の意向が伝えられた、こういう段階を経てきておるように承知するのでございます。  この交渉に当っての日本政府の態度を見ますと、本委員会における政府——岸首相並びに藤山外相の発言の経過を見ますと、安全操業交渉をする法的の根拠はないけれども、零細漁民の生活問題であるから交渉したいと申し入れたというように受け取れるのであります。口上書をもって応諾してきたから要求条項を提案したが、元来漁業委員会において安全操業の問題を交渉することは間違いであると考えておるけれども、向うが交渉に応ずるというのであるから、便宜漁業委員会というものでその交渉に入った、しかし安全操業の問題は漁業委員会で決定すべき性質の問題でなく、領土、領海の問題と関係のある問題であるから、平和条約と関連せしめてもよろしい、こういうように考え、少くとも並行的に行うべきものであるというように考えた、こういう答弁をいたして参っておるのであります。ところが政府はその後この考え方をやめて、平和条約の交渉と安全操業の問題とは厳に切り離してこれを交渉するのであるから、こういう態度に変られた。本委員会における答弁においても、私は一々は御指摘いたしませんが、政府考え方は二転、三転非常な動揺をいたしておるのであります。これはなぜであるか、私は政府の日ソ交渉に対する確固たる方針がないからであると思うのであります。安全操業の問題、漁業交渉の問題並びに平和条約の、この三者の関係について、政府は一体どういうものであるとお考えになっておるのであるか、これはまず岸総理もしくは藤山外務大臣から承わりたいと思います。
  20. 岸信介

    岸国務大臣 御承知のように、日ソの漁業条約に基きまして、年々におけるサケ・マスの漁獲量をきめるために、委員が両国において任命をされ、第一回は東京において会合を開きました。この委員会において、枝術的並びに科学的根拠において専門家が漁獲量を幾らにすべきかということを年々きめて、両国政府にその意見を出して、そうして両国政府においてそれをきめるような建前になっております。従いまして、漁業委員会における折衝というものは、漁業条約に基いて年々定期的に、ちょうど漁期がございますので、その漁期に間に合うように、その年の漁獲量また漁業の状況等をにらみ合して検討し、結論を出すという建前になって、本年はモスクワでというように、かわるがわる両国の間で、その会議を開く場所をきめておるわけであります。これはそういう年々の、漁業条約に基く定例的なものでございます。  しこうして安全操業の問題は、いわゆる千島等の、従来沿岸漁業を戦前からずっとやっておった漁民が、相当多数北海道に引き揚げて参ってきております。これらの人々が従来の漁業を続けようとしますと、あるいは領海の問題に関しての日ソ両国の間の考えが違うとか、あるいは領土問題が解決しておらない現状から、われわれの方からいいますと不法に拿捕されるという、あるいはソ連はソ連の立場から当然拿捕するというような、この問題が北洋においてしばしば起っておることも御承知の通りであります。これに対して、安全にこれらの人々が操業できるようにするということは、人道的立場から申しましても、また実際上ソ連の漁業上の利益を侵害するという点のきわめて少い点から考えましても、これは当然考えてもらうべき、少くとも日ソ両国の友好関係を増進するという立場に立つ以上は、当然善意を持って、好意を持って、両国の主張を調整した結論が出さるべきものである。しこうしてそれは領土問題が解決すれば、またそれがわれわれの希望するように、われわれの要望しておるように解決するならば、その問題は大多数自然解決する問題でございますけれども、その領土問題自身が、過去の交渉から見ましても、両国の主張が相対立して、なかなかこれの一致点を見出すことがむずかしいという問題でございますので、それが解決するまでの暫定措置として、少くとも日ソ両国の友好関係を増進するという見地に立つ以上は、この安全操業の問題を何らか解決して、先ほど来申しておるような事態、これを解決しようということをわれわれとしては当然考えまして、それを安全操業の問題としてソ連側に提案をいたし、今おあげになりましたような経過をとってきておるのであります。これはあくまでもわれわれからいうと、この領土問題を解決するまでの暫定的な措置として、この問題を解決したい、安全操業ができるようにしたいという考えに基いているものであり、そのことをよくソ連側にも徹底、理解せしめて、そうして一時はこれがそういう方向において——具体的の内容についてはあるいは両国の意見が違うかもしれぬけれども、方向としてはそういう点が理解を得たものだと私どもも一時は考えておったのであります。しかしそれがさらに領土問題に結びついてきて、平和条約を結ぶということを前提としてでなければ話に乗らないというふうな態度を示してきたわけでございます。そこでわれわれとしては、今申したような性格をもって、安全操業の問題は安全操業の問題としてこれをあくまでも交渉する、そうして領土問題を含む平和条約の締結の問題は、これは日本があの共同声明によって国交を復交する前から、われわれは平和条約を結ぼうというあらゆる努力をしてきたのであります。しかるに領土問題についてのわれわれの絶対譲れない線というものに対して、ソ連側がこれをとうてい認めないということのために、ついにその問題を継続審議とし、他日解決する問題として、共同声明によって国交を正常化した、こういう沿革のある問題でございまして、従ってソ連側において、私は日本のわれわれが主張しておる領土問題に対する要望に対して耳を傾けるという態度で、平和条約締結の交渉に当ってくるならば、われわれはこれに入る用意があるということを申しておるのでありまして、この三つをはっきりと、今言ったような性格の差異を頭に置いて、そうして交渉をしていくというのが私どもの考えでございます。
  21. 河野密

    河野(密)委員 総理大臣のるるとしての御答弁でございますが、私はこれはもう少し率直に言ってわかる問題だと思うのです。要するに安全操業の問題というものは、これは領土、領海の問題と関連がある、漁業委員会の問題というものは漁業条約に基くものであって当然の問題である。もし漁業条約の問題を領土の問題と関連させる、あるいは平和条約の問題と関連させるというならば、ソ連の主張というものは不当であるということが言い得ると思うのであります。しかしながらこの安全操業の問題は漁業条約の問題じゃないわけなんです。政府考え方というものはちっともその点についてのけじめがついておらぬ。これは向うを責むべきところも責めておらないし、向うが正当なことを言ってきたものに対して正当に応対するという態度もとっておらない、言いかえるならばまるでつかみ勘定みたいな交渉をしておるというところに、私は日ソ交渉の進展しない理由があるのじゃないか、こう思うのであります。これは藤山外務大臣にお尋ねいたしますが、藤山外務大臣は、今でも安全操業の問題を漁業委員会の交渉で一緒にやったということについては、失敗であったというふうにお考えになっておりますか。それともこれでよかったのだというふうにお考えになっておりますか。
  22. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 安全操業の問題を漁業委員会でやったらどうだという話はございました通りであります。しかしながらそれに対してわれわれとしては、漁業委員会と暫定的な安全操業という問題とは全く内容が違うのだから、同時にやるわけにはいかぬ。しかしながら時間的な意味で並行してやる、また人の便宜の上で一つのところでやるということについてもしソ連側が考えるならば、そういう意味において進めることは差しつかえない。しかし性質は全く違うのですから、漁業委員会の中でやるということは、われわれは応諾したわけではございません。
  23. 河野密

    河野(密)委員 そういたしますと、私は総理並びに外務大臣にお尋ねいたしますが、この安全操業の問題は、これは漁業委員会で決定すべきものではない、だからこれは平和条約の交渉と関連せしめることがいいのだというふうに言ってきた向うの立場はお認めになるわけですね。
  24. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 漁業委員会と安全操業の問題の性格が別だということはただいまで御了承を得たと思うのでございます。安全操業の問題は、あくまでも平和条約を締結するために両国の関係を友好に進めていく、それにはこういう問題があってもいけないから、暫定的にそういう話し合いを進めていこうということが趣旨なんでありまして、従いましてその問題として討議さるべきことが適当であるので、われわれは平和条約とこれを関連してでない、平和条約の前提としてこういうものができるまでの間暫定的にやりたいということを申したわけであります。しかし向うは平和条約の交渉と一緒にしてきております。従ってさっき総理も答弁されましたように、平和条約の問題につきましては、日本側の領土に対する考え方を向うが十分のみ込むならば、それはやれるじゃないかということなんでありまして、これと関連してやるということを申しておるわけではございません。
  25. 河野密

    河野(密)委員 私は失礼ですけれども、当委員会において私も出席をいたしましてしばしば伺いましたし、この速記録もたんねんに調べてみたのでありますが、政府のこの点に対する考え方というものは混乱そのものであります。なぜかと申しますと、藤山さんの言葉をかりれば、安全操業の問題は領土、領海の問題であるから、平和条約と関連せしむると向うが言ってきたのも一応うなずけるから、平和条約と込みでやってもいいということをあなたはこの委員会で答弁をしておられるわけであります。それから安全操業の問題と平和条約の交渉というものは並行的にやってもよろしいのだということを言っておられるのであります。ところがそれが突如として、私は率直に申しますが、与党の中における外交部会を中心とする強硬論が、安全操業の問題は安全操業の問題、平和条約の問題は平和条約の問題だ、両者を一緒にしようなんというのはソ連の陰謀だ、こういうことでもってこれを分離しろという意見が強硬に出てきたので、国会の中の答弁もその日からお変りになって両方は分離しておやりになる、こういうことを御答弁になっておるのであります。それから最近ソ連が河野・イシコフ会談に対する覚書の問題というものを持ってきた。これもソ連のいろいろな策謀であると言っておるようでありますが、漁業委員会の交渉というものは漁業条約に基いて、この漁業条約は平和条約に関係なくすでに両国が批准をして、これは効力を発生しておるのでありますから、この効力を発生した漁業委員会の交渉について、これを遷延するとか、あるいはこれに対していろいろな難くせをつけるとかいうならば、私はきぜんたる態度をもって、断固たる態度をもってソ連の不信を責めてよろしいと思うのであります。ただその場合に、河野・イシコフ覚書があったかなかったか、あるいはその間の話し合いがあったかなかったかということは、事実の問題でありますから、これは別個に究明さるべき問題であろう。しかし向うがこれを平和条約と関連せしむるというならば、日本政府としてきぜんたる態度をとるべきだ。しかし安全操業の問題は領土、領海の問題で、もともと漁業委員会において交渉すべき筋合いのものでないと日本政府考えているならば、別途それについては政府の態度を考えるべきである。しかるにこれらのものをみんな込みにしてしまって、そして強がらなくてもいいところに強がってみたり、押すべきところを押さないでみたり、政府外交方針というものは率直に言えばなっていないと思うのでありますが、この点総理はどうお考えになりますか。
  26. 岸信介

    岸国務大臣 漁業委員会の問題についての河野委員のお考えは私も全然同感であります。すなわち、れわれわの間に結ばれている漁業条約上の先ほど申したように施行に関する問題でありますから、これに対して条約趣旨にもとるような主張が出てきたことに対しては、きぜんとしてこの条約趣旨を貫いていくべきだという河野委員のお考えには私は全然同感であります。しこうしてこの安全操業の問題と平和条約の問題につきましては、先ほども申し上げましたように、平和条約において領土問題が解決すれば、安全操業の問題も大部分解決するという意味において領土、領海の問題に関連のあることは御指摘の通り私もそう思います。しかしわれわれが従来交渉をした経過は、昨年の六月以来の交渉は、要するに領土問題については両国の意見がなかなか調整できない、実際やってみて、過去においてわれわれが経験したものからいい、またわれわれはその当時の考えを変えておらないし、ソ連も変えておらないという現実に基いてこの問題を解決するということをやるのでは、なかなか安全操業の問題は実現がむずかしい。従ってそれが解決される前に暫定措置をとろうというのが交渉の趣旨でございますし、その意義がそこにあるわけであります。従ってその問題はその問題としてあくまでも最初のわれわれの考え通り押していく、またこの平和条約の問題については、われわれの主張に対してソ連が従来の態度を改めるということの見通しがつくならば、これに入って交渉しよう、こういう考えであることは、従来の経過から考えていくならば当然の帰結であり、そこに何の混乱もなければ、また考えの相違もあり得ない問題であると思います。
  27. 河野密

    河野(密)委員 岸総理の今の御答弁で明確になりましたが、安全操業の問題というものは、結局するところは平和条約根本的な関連のある問題である。そこで岸総理お尋ねをしたいのであります。平和条約に対して向うの考え方を変えない限りはとおっしゃいますが、どの程度に日本政府はこの平和条約についてソ連側と交渉をなさいましたか。二年以内の間に政府はこれに対してどれだけの交渉をして、どういう結果においてこの領土問題に対しての見込みはなかなか困難であるという政府の見解がおできになったのか、その間の経緯を一つ明らかにしていただきたいと思います。
  28. 岸信介

    岸国務大臣 正式にこの問題についての交渉を共同宣言をいたしましてからやっておりません。私はしばしば国会を通じて申し上げているように、この問題に関しては日ソの友好関係を増進し、そしてソ連側において日本国民的要望を十分に理解し、これに同情を持つような基礎を作っていかなければ、この問題を解決することはできないというのが私の根本的の考えでありまして、あるいは漁業条約の第一回の委員会を通じ、またさらに貿易協定等を作るというようなことをだんだん進めて参りました。ことに私はやはり安全操業の問題も、両国の友好関係を増進し、また領土問題に関する日本国民の要望をソ連側が理解する大事な一段階と考えて、これが友好的な解決をはかろうというような措置に出たわけであります。しかし、この間において、公式な両国の間の交渉はございませんが、いろいろなことに触れて、ソ連側の声明やあるいは考え方というものが、タスその他のなににおいても、あるいは要人の口からいろいろ言われておるということも、河野委員も御承知のような状況でありまして、まだソ連側がその点において意見を変えておらないというのが私どもの見解でございます。
  29. 河野密

    河野(密)委員 交渉を一つもしておらなくて、ソ連側が意見を変えておらないとか、あるいは領土の問題は困難だとかいうことをひとりぎめにしておるところに、私はこの問題の非常な難点があると思うのであります。困難であればあるように、体当りでぶつかるという手もあるのでありまして、そこらのところは、政府側において、この安全操業の問題等について交渉をする場合においても、この問題に私はもっと積極的であるべきだと思うのであります。われわれも北方の領土の問題については確固たる考え方を持っておりますが、しかしそういう場合こそ私は政府野党に呼びかけて、野党にこの問題についての協力を懇請するというような手がないとは言えないのでありまして、そういう問題については、私はもっと政府も積極的な、率直な態度をとるべきであろうと存ずるのであります。私たちは決して北辺の領土に対して政府と違った考え方を持っておるわけではないのでありまして、その交渉の過程、あるいはそういう問題についてわれわれに協力を求めるという態度こそは、私は望ましいと思うのであります。  そこで政府考え方がはっきりいたしましたから、今度は漁業委員会における向う側の主張というものが理不尽であるか、あるいは理不尽でないか、何らかの根拠があるのかということは、ソ連側が発表したといわれる河野・イシコフの話し合い、あるいは覚書、文書の交換というものがあるかないかというような問題にかかってくるわけでありますが、私はその点、もし向うの言うことが不合理であるならば、日本政府としては、こういう問題こそはきぜんたる態度をとってよろしいと思うのであります。大へんあれですが、これは当事者である河野氏の差しさわりのない限りにおける言明が、この場合私は必要ではないかと思うのであります。
  30. 河野一郎

    河野国務大臣 その点につきましては、昨日も申し上げました通り、話し合いは、イシコフ氏の方から、るる要請せられましたが、それは、わが方においては、すでに計画もいたしておることであるから、それは困るということで、当時これは——長くなりますが、その前年におきまして、日本側が試験操業をいたしました結果、相当この方面に鮭鱒の回遊が多いということで、大規模な計画を立てておったのであります。しかし、先方の言われますことも、ごもっともに聞える点もありましたので、これを話し合いの結果、二船団に限定いたしまして、そうして両者の間の意見の一致を見た、こういう結論でございます。今言われますような交換文書のごときは、むろんこれはございませんし、ただ先方からそういう要請もあって話し合いをしたということだけは間違いありません。結論は今申し上げた通りの結論になって別れた、こういうことであります。(「話し合いの結果はどうなっているのか」と呼ぶ者あり)話し合いの結果は、二船団わが方が出漁するということで両者の意見を一致いたしまして、わが方は、当時二船団出漁いたしました。引き続き昨年も二船団を出漁いたしておりますということでございます。
  31. 河野密

    河野(密)委員 事はこれからの交渉に関係する非常に微妙な問題でありますから、私はこれ以上追及いたしませんが、この点は、もしそういうソ連側の主張が正しくないとするならば、日本政府としては、これは条約上の根拠のあることでありますから、きぜんたる態度をとるべきものである、私はこういうように考えるのであります。  外交問題はこの程度にとどめたいのでありますが、ブルガーニン書簡なるものが参っておることは、先般の国会を通じて明らかになっておりますが、そのブルガーニン書簡なるものを見ますと、いろいろな点が書いてあるのでございます。この問題についてわれわれが非常に留意すべき点は、このブルガーニンの書簡に原子兵器の禁止の問題等についてるる述べておりますが、その中にこういうことが書いてあるのでございます。幾つかの提案をいたしておりますが、その提案に、監視制度を設ける。相対立する軍事ブロックの境界線の両側八百キロに空中撮影地帯を設けることについて協定を結ぶという提案がされております。この問題は、監視制度を設けて、相対立する軍事ブロックの境界線の両側八百キロに空中撮影地帯を設けるということが提案になっておりますが、これは私は非常に重要な問題であろうと思うのであります。ICBMあるいはIRBM等といわれる、いろいろな究極兵器といわれるものの発明がありましてから、両陣営の関係というものは、われわれが想像する以上に非常に緊迫したものがあると思うのであります。その緊迫したものがどういう形で現われておるかと申しますと、両陣営の上空における査察という問題に現われておると思うのでありまして、先般アメリカで発表になったものの中にこういうのがあります。ソ連の上空を査察しておるアメリカの飛行機でもって、撃墜されたものの数は、予想以上に非常に少いということが、アメリカ政府から発表になっておるのであります。総理も御承知のように、ソ連の前進基地というものが西ヨーロッパの側に大きく張り出しておる。これに対しまして核兵器を積んだ飛行機が四六時中この周辺を飛んでおり、お互いに飛行機をもって相手の出方を査察しておるということは、現在公然の秘密であります。この状態というものは一触即発以上の非常な危機をはらんでおる状況であると思うので、われわれが想像している以上に、この東西両陣営の関係というものは緊迫をしておると思うのでございます。そこで先般来この委員会において問題になりました、核兵器を積んだアメリカの飛行機が日本の上空に飛来する、あるいは査察をする外国の飛行機が日本の上空を飛ばないとは言えない、こういう問題について、われわれは真剣に考えなければならないのでありますが、岸総理は、この核兵器を積んだアメリカの飛行機が日本の上空を飛ぶこと、あるいは日本の基地を査察するどこかの飛行機が飛来するというような問題について、日本政府としてはどういう態度をおとりになるのか、この点について、率直なる考え方一つ述べていただきたいと思います。
  32. 岸信介

    岸国務大臣 今日国際法上、他国の領空を飛行機で飛ぶ場合におきましては、その国の承諾を得なければならぬことになっております。いろいろここで論議されておりましたが、アメリカの飛行機が——これは安保条約の何で日本自体におります米空軍の飛行機が飛ぶことについては、条約上当然でありますけれども、他から米国の飛行機が日本の領空を飛ぶ場合においては、当然日本の承諾を受けなければならないし、また他国の、査察の任務を持って飛んでくるものも、日本の承諾を得ずに勝手にするということは、国際法上認められない行為であると思うのであります。ただ現実にそういうことがあるかないかという問題に関しましては、ここで質問されましたいわゆる原子兵器をもって装備されておる、もしくはそれを搭載しておる飛行機が日本の領空を飛ぶというようなお話がございましたが、そういう事実はないということを申し上げておるし、そうしてそれについては、そういう飛行機は、安保条約日本に駐留しておる米軍がそういう装備をしておらないことはしばしば申し上げているように事実であり、他におるところのそういう飛行機が日本の領空を飛ぶという場合には、日本の承諾なくしては飛ぶことはできないということを申し上げておるわけであります。
  33. 河野密

    河野(密)委員 私は次に経済政策につきまして、社会党としてのわれわれの立場を申し上げながら、少しく政府所見を承わってみたいと思うのであります。  その第一は、今度の昭和三十三年度の予算でございますが、この予算に入ります前に、この予算が成立しました背景と申しましょうか、予算の編成の前提をなすものとして、政府は新長期経済計画というものを発表になっておりますので、私の理解いたしました新長期経済計画というものと予算の関係について一つ承わりたいと思うのであります。この新長期経済計画という、政府から御発表になりましたものを見ますと、これは五年後における日本の経済の望ましい姿を描いて、それに到達することを目的としておるのだ、それから五年後の望ましい日本の経済の姿というものはどういうのかというと、昭和三十一年度に比して、国民の総生産は四〇%を上げるのだ、国民一人当りの消費の支出は三八%上昇するのだ、輸出の規模は四十七億ドルになるのだ、昭和三十一年度に比べて八二%を増すのである、雇用量は四百九十八万人増すのであって、昭和三十一年度に比べて二七・九%を増すのである、こういうのを、大体五年後における、政府がお考えになった望ましい日本経済の姿である、こういうように考えられまして、次のような方法でこの計画を実現しよう、こういうことをお考えになっておるようであります。まず年率六・五%の経済成長率を達成するのだ、輸出においては年率一〇・五%の成長率を達成するのだ、雇用量においては年平均八十万人ずつの増加をするのだ、経済の成長をささえるところの資金は国民総支出の約三〇%に上る資金を貯蓄させるのであって、昭和三十七年度においては三兆八千九百三十億円に上るところの貯蓄が必要なんだ、財政の規模を一定の比率に押えて、この財政の規模というものはだんだんこれを比率的には小さくしていく、漸減していくのだ、こういうのが、この政府のお出しになっておりますところの経済計画の概要でございまして、この経済計画の概要に対しましては、幾つかの重要な前提があるわけであります。私の見るところによれば、次の四つの前提が満たされなければ、これは実現できない。輸出が今後輸入以上の勢いで伸びなければならぬ、輸出が輸入の伸び率をオーバーして伸びなければならない、それから国民総生産の三〇%は必ず貯蓄されなければならない、生産の成長は第二次産業において成長が確保されなければならない、雇用量の今申し上げました増大というものが確保されなければならないのだ、これがなければ、この経済計画の達成というものはできないのだ、こういうことでございます。  そこで私はお尋ねいたしたいのでありますが、こういう前提でもってこの経済計画というものが立てられておるが、この経済計画が実現せられる前提——今申し上げたような前提がどうして確保されるという保証が与えられるのであるか。政府はどうしてこの前提を充足することをやろうとするのか、その経済政策というものは一体どこに盛るのであるか、これを承わりたい。それからこの計画を実現するためには、今申し上げましたように、昭和三十七年度においては三兆八千九百三十億円に上る資金が必要であると、こう言っておりますが、この三兆八千九百三十億円に上る資金は、三十七年度であるが、この計画に必要なる資金量というものは一体どうしてまかなうのであるか。この資金量の算定も出ていなければ、この資金量をどうしてまかなうかということも明らかにされておらない。この資金の調達については、一体日本の国内の資金でやっていけるのかどうか。あるいは外資をどの程度に入れようというのであるか、外国の援助を当てにしているのかしていないのか、こういう問題について明確なる態度が示されておらないのであります。さらに将来の財政計画を圧迫するとわれわれが考えられる防衛費であるとか賠償費であるとか対外特殊債務弁済についての問題であるとかいうものについての経費をどういうふうに計上しておるのであるか、これははっきりしておらないのであります。こういう点についての私は政府の明快なる御答弁を願いたいと思うのであります。
  34. 河野一郎

    河野国務大臣 お尋ねでございますが、御承知の通り、経済の面に立脚いたしまして政治の理想を達成いたしますに当りまして、われわれは国民生活の安定、完全雇用というようなことを念願いたすわけでございます。さればと申しまして、これを念願するのあまり、不安定、不健全な計画を立てるわけには参りません。単なる計画に倒れるわけにも参りませんので、政府といたしましては、これらの点を十分考慮、検討いたしまして、民間各方面意見も十分協力を願いまして、そうして作り上げたのがただいまお話の長期経済計画でありますことは御承知の通りであります。そういう意味からいたしまして、もちろん今のお話の三〇%に上る国民の貯蓄は一体どこからどういう根拠によって出てくるかというのでございますが、これは過去におきまして、わが国の国民所得の示されました実績を参考にいたしまして、この程度のことは可能であるという各方面の御意見の一致によりまして、そういう前提をとっております。また貿易が、輸出が輸入を上回って、今お話のような伸びを見ることは一体どういうことだ、これもぜひそういう姿に合っていくことが望ましい。特に前段に申し上げました通りに、わが国の経済の発展が、雇用のなるべく完全に参りますように、国民生活の安定、向上を期しますためには、また経済の安定的成長を期しますためには、われわれ全国民諸君の協力によりまして、輸入を上回るところの輸出を期待いたさなければならぬ。しかもこれはただ単に期待だけでは、先ほど申し上げました通りに不安定な計画になりますが、今ここにわれわれどもが決定いたしました程度のものならば、過去の戦前のわが国の輸出入の実勢並びに国際貿易の実勢等から勘案いたしまして、政府並びに国民諸君の協力、努力によっては、この程度のことならば達成できるだろうという各方面意見を総合いたしまして、これを基準にしてやったわけでございます。  なおまた防衛関係の費用、それから賠償関係の費用、これらについてのお尋ねでございますが、たとえば防衛に関する予算につきましても、基本的にわが国の経済を圧迫せざる範囲において防衛はこれを充足していくことが基本的な考え方でございますので、防衛の関係において経済の運営に圧迫を与え、支障を来たすということは厳に戒めなければならぬという前提に立っております。また賠償につきましても、御承知の通り明年度予算にもあります通り、それらの程度において、また今後起って参りまする賠償につきましても、むろんわが国の経済成長を圧迫するというようなことのないように心がけていかなければならないという前提に立っておりますので、諸般の情勢を勘案いたしまして、ぜひその程度の計画を忠実に、着実に実行して参りたい、参ることを国民諸君にもお願いしたいということに立ってやっておるわけであります。  その他なお数字にわたりますことにつきましては、事務当局より説明をいたすことにいたします。
  35. 大來佐武郎

    ○大來政府委員 お答え申し上げます。特に数字のお尋ねの点でございまして、資本蓄積と投資の確保、この点についてのお尋ねがあったかと存ずるわけでございますが、大体この計画で、国民総生産の三〇%を総貯蓄に向ける。この貯蓄の中には償却分もございまして、大体源泉といたしましては個人貯蓄、会社の留保あるいは財政による貯蓄等のことがございまして、またその使われる中では、在庫の増加あるいは住宅その他すべて入っておるわけでございまして、この程度の三〇%という率は国際的に高いのでございますけれども、過去におきまして、昭和二十六年度と昭和三十一年度及び本年度三十二年度の実績推定を見ますと、それぞれ三〇%をこえた総貯蓄が実現いたしておりますので、過去の日本の経済の実績から申しましてそれほど無理な姿にはなっておらないということでございます。
  36. 河野密

    河野(密)委員 こまかい数字をお尋ねしたいのでありますが、時間の関係上これは別の機会にしたいと思いますけれども、私は今御説明になりました点で、戦前のいろいろなことを引き合いにお出しになりましたし、いろいろにお述べになりましたが、私は政府一つはっきりしておきたいことは、これで見ると政府は完全雇用ということをいっておりますが、この政府のお出しになったその長期経済計画によると、年間八十万人ずつふやしていきたい。少くとも現在の失業者は昭和三十二年度において持っておる六十万人を上回らない程度において失業者をとどめておきたいのだ、こういう考え方のようであります。政府は完全雇用ということをいわれるけれども、失業者を今よりもふやさないことが政府の完全雇用の意味であるということをはっきりと私は国民の前に明らかにしておきたいと思うのであります。これは数字にわたりますからあれですけれども、一体政府は完全雇用という場合のその失業率というものをどの程度に考えておられるのか。その失業率というものをどの程度に押えておるかということで、いわゆる完全雇用をどう考えるかということの標準になるわけでありますが、私は政府は現在よりも失業者をふやさないということをもって完全雇用なりと考えておるということだけははっきりと銘記しておきたいと思うのであります。
  37. 石田博英

    ○石田国務大臣 完全雇用という目標について、われわれの考えているのが六十万人程度、あるいは三十二年度で申しますと五十万少し上回る程度のものを常に持っておることが完全雇用の目標だと、こうおっしゃるのでありますが、西欧でいわゆる完全雇用といわれておる国々の例をとってみましても、たとえば西ドイツのようなところの例をとってみましても、完全失業者は全就業者のやはり三、四%はあるわけであります。ところが日本の全就業者の中に占めます五十万あるいは六十万程度の完全失業者の率というものは、そのパーセンテージから申しますと二%に足りないのでありまして、そこに日本の雇用及び失業の問題の重点があるのではなくて、最も重点は日本の就業状況の不安定にあるのだと考えておるわけであります。従って完全雇用の目標に達成いたしますのは、いろいろな摩擦や経済の変動等によって、時間的あるいは部分的に出てくる完全失業者の状態を改善していくことももちろんでございますけれども、それとともに就業条件というものを改善をいたしまして、そうして不完全就業者の状態をよくしていく、雇用の構造を変えていくということを目標に置いてやって参りたい。従ってそのためには、年々比較的不安定な就業状況にあるものを、安定した就業状況に変えていく努力をいたしますとともに、これは経済の長期計画に基いてやって参りたいと存じますが、いま一つは、今回政府が提出しておりますような最低賃金法、あるいは職業訓練法等の施行と相待ちまして、労働者の就業状況の安定向上をはかって参るつもりであります。
  38. 河野密

    河野(密)委員 西欧諸国でも完全就業という場合における完全失業者が就業者の大体三%と見ているということは、お話通りであります。しかし日本の就業状況はそういう西欧的な考え方、西欧的な標準ではかることができない事情があるのでありまして、年々ふえていく就職戦線に出てくる労働人口というものをどれだけ吸収していくか、五年間に四百九十八万人と言っておりますが、石田労働大臣もよく御存じのように、これは八十万人ずつ新しく雇用量を増大していくのだというのでありますが、本年度の計画は六十五万人ということになっておるわけであります。実際に行うものと、政府の計画とははなはだ食い違っておる。そういう点も議論をすればいろいろ議論はありますけれども、今は石田労働大臣の講義を聞く時間ではないのでありますから、一つここらでかんべんしてもらいたいと思います。(笑声)  その次に、私はこの昭和三十三年度の予算全般につきまして、われわれの考え方を述べながら、政府所見一つ承わりたいと思うのであります。この昭和三十三年度の予算全体を大観いたしまして、私たちが問題とすべき点が数点あると思うのであります。  その第一の点は、幾たびか言われましたが、この予算の編成が、昨年九月以来の政府の構想、あるいは予算編成の方針と全く別個で、政府経済政策が大きく修正されたのではないかということであります。従ってこの予算を実施した場合に、経済界にどんな影響を与えるであろうかという問題が、この予算を大観して最初に考えなければならない問題だと思うのであります。第二番目は予算の規模が無計画的にふくれ上って——政府は当初の予算規模に押えたと言っておりますが、これは表面上のごまかしでありまして、実質的には予算の規模というものは大きくふくれ上っておるのでありますが、一体どんな表面上のごまかしと申しましょうか、ドレッシングをやっておるのか、その内容が問題であります。それから今度の予算がどういうところに使われておって、どんなところから徴収されておるか、減税はどういうところに行われておるか。こういう問題が今度の予算を中心にしての問題であると思うのであります。  私がまず第一に政府にただしてみたいと思うのは、この予算の編成方針というものは、政府が従来昨年の九月十日に御発表になった予算の基本構想というもの、それから昨年の十二月に御発表になった予算の編成方針を貫いて、昨年の五月以来ずっと取り来たっておるところの経済政策というものをそのままこの予算で踏襲しておるのだ、手直し論というようなものが世間にはあるけれども、そういうことはやっておらないのだ、こういうことでありますか、あるいは経済情勢の変動に応じて、その変動に即応するように手直しをしたのだ、政府考える経済情勢の変化に応ずるように予算を手直ししたのだ、こういうふうにお考えになりますか、この点をはっきりお答え願いたいと思います。
  39. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 お答えします。三十三年度の予算を編成するに当りまして、御承知のように予算編成の基本構想を発表しまして、これはむろん言葉は抽象的になっております。それを具体的にした予算の編成の方針としまして、大体三つの柱が立っておるのであります。それは本年度の歳出増は一千億以内にとどめる、それから過年度から来ておる剰余金がありますが、これは法令で使途のきまった分を除いてはたな上げする、そうしてある程度の減税をしよう、こういうふうな柱を具体的に立てておるのであります。この線は予算編成に当りましてその通りに私はやって参っておるつもりであります。ただ問題は、おそらく御質問があるかもしれませんが、財政投融資等において、およそ三十二年度の実行額、これもこういうふうに具体的な計画を示してあるわけですが、その点が三百億ばかりふえておるのではないか、こういう御意見もあろうと思いますが、しかし三十二年度の実行額というものは、あの当時の経済情勢、特に投資を急に抑制しなければならぬという見地から、その当時資金が不足しておることは承知の上で、特に資金を押えておった。これは当時の経済情勢でやむを得ない。言いかえれば、三十二年度のほんとうに実行に要すべき資金量とは違ったものがあった。それで経済が今日の状況のように進みまして、生産調節ができた暁において、若干の補給をあとからしよう、こういう政策をとっておったのであります。従ってこれを加えたものから見ますと、実際の三十二年度の実行額と変ることはないのでありまして、こういうふうな姿になっております。
  40. 河野密

    河野(密)委員 まず第一に、昭和三二年度から一千億ふえる程度に押えた、こう言うのでありますが、この一千億ふやすということは、人口の増加あるいは当然の経費の増高というような点であろうと思いますけれども、その一千億円で押えて、政府が一月八日に発表になりましてから、政府与党の関係で復活をいたしましたのがちょうど二百五十九億、二百六十億あるわけです。これを一千億——総額は一兆三千百二十一億ですか、それに押えておる。しかし復活は二百六十億ある。これは子供の算術でもつじつまが合わないように思うのでありますが、これはどういうふうに処置をなさったのでありますか。
  41. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これは予算編成の上における折衝の技術に属する問題であります。御承知のように、これは何も新しい問題ではありません。こういうものは長い間のあれであって、予算というものは、どうしても歳出がふくれがちであります。いろいろな意味から要求が多い。財政上歳入の多いときには特にこういう要求が多い。従いましてこれはそう初めから——ほんとう言いますと、私たちとしても、これだけはこういうふうにやるのだ、それでけっこうだ、こういうふうにおさまれば、それでほんとうにいいと思う。(笑声)ところが不幸にしてそういう状況でない。そういう意味から、どうしても予算編成上においていろいろ苦労しなければならぬ、こういうことであります。
  42. 河野密

    河野(密)委員 内容は申しませんが、とにかく表向きは一千億の中で押えてございますが、そこでどんなところに使われておるか、私が大体計算してみますと、一兆三千百二十一億の予算で一番よけいに支出されておりますのが、大蔵大臣も御承知の地方交付税交付金が二千二百四十億、一七%であります。それから次が雑件と称しておられる行政費でありますが、これが千九百二十億、一四・六%、公共事業費が千七百三十七億、一三・二%、防衛関係費及び賠償費が千七百二十六億、一三・一%、文教関係費が千四百三十八億、一〇・九%、社会保障費が千二百五十四億、九・五%、恩給費が千百六億、八・四%、国債費が六百七十二億、五・一%、経済強化基金、いわゆるたな上げ資金が四百三十六億、三・三%、科学技術振興費が二百十五億、一・六%、住宅及び環境衛生対策費が百二十三億、〇・九%、農業補償費が百九億、〇・八%、中小企業対策費が三十一億、〇・二%、貿易振興費が三十七億、〇・二%、こういったように使われておるのであります。地方交付税交付金も、大体においてこれは行政費と考えてよろしいと思うのでありますが、行政費といたしますると、全体の三一・六%が行政費であります。防衛費と軍人恩給によってふくれ上ったところの恩給費、これを大体軍事関係の費用といたしますと二一・五%、この両者を合せますと、約五三%、予算の大部分、五割三分というものは行政費もしくは不生産的な費用に使われておる。消費的な費用に使われておる。この文教関係費とそれから社会保障費とを加えましても二〇・四%、約二割にすぎない。こういう予算をお組みになっているわけであります。しかも先ほど大蔵大臣がお話しになりましたように、金のあるときには与党がおさまらない。おさまらない与党に対していろいろ大蔵大臣がお与えになったものは、恩給費であるとかいうような、大体において私が申し上げた不生産的な方面に使われる費用であります。こういう予算の組み方というものは、私たちは決してこれはいい予算だとは考えることができない。われわれがもし予算を組むとすれば、この予算は全く逆になるわけであります。この点について大蔵大臣は、この予算の支出の方向、これは満足すべきものだとお考えになりますか、これをもってやはり岸内閣はりっぱな予算を組んだというふうにお考えになりますか、これを一つ承わりたい。
  43. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 この予算といたしましても、極力生産的なものに使用されることが望ましいということは、言うまでもありません。ただしかしながら、不幸にして日本は戦争に負けました。戦争に負けた結果、この国を立て直す過程におきまして、不生産的ではありますが、国民生活を維持していく上においてどうしてもやむを得ない出費が多いということは、一応原則的にお認めを願いたい。むろんずっとああいう戦争がなくて日本が進んできているとすれば、私は今日においてはよほど皆さんとともに社会保障的な方向に進んでいるだろうと思うのですが、どうしてもやはり国を立て直して一応の姿に持ってきて、それから先にいろいろと理想的なことを持っていかなければならぬ。そういう意味におきまして、今日のこの予算に満足しているわけではありませんが、しかし客観的な情勢から見ればやむを得ない、こういう程度でがまんするほか仕方がない、かように考えております。
  44. 河野密

    河野(密)委員 立て直しをするために必要だといわれますが、この予算の組み方というものは決して満足すべきものではないし、満足できないばかりでなく、これはわれわれとしてはとうていこの予算に対してこのまま承認するわけにはいかないわけであります。  そこでその次に問題になりますのは、どこに減税をするかということであります。政府の減税は、法人税の税率を一律に二%引き下げになり、相続税の減税をやり、大衆酒税の減税を行なったということでございます。このほかに地方税がございますが、この減税の方向として私たちは、所得税の、ことに勤労所得税の減税を行うのが、減税をやるならばまず第一にやるべきところである。戦前には御承知のように千二百円が大体免税点といわれておった。あるいは下っても千円が免税点であります。千二百円といたしまして、物価を三百倍といたしますれば、三十六万円であります。年収三十六万円のところまでは減税にするのが、まず減税の目標でなければならない、私はこう思うのでありますが、今度大蔵大臣が法人税に減税の方向をお向けになり、相続税をわずかに取り上げ、ちょっぴりと大衆課税である大衆の酒の税金をお下げになった、この減税のやり方も、大蔵大臣としてははなはだ適当でないやり方だと思うのであります。この点について大蔵大臣の減税の方針、将来の減税はどういう方向に向けるべきであるか、これからの減税はどうやっていくのだという点をはっきりとお示し願いたい。
  45. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 所得税が軽いというようなことを考えておりません。しかし所得税につきましては、昨年度いわゆる千億減税をやりまして、しかもこの効果は三十三年度において二百億、これがいわゆる平年度化する、こういうふうな状況にあるのでありまして、所得税については、また一応平年度化によって負担が軽くなる、こういう状況であります。それから一千億減税の場合に、臨時税制調査会の答申によりましても、一千億やってなお余剰の財源があれば、法人税に二%くらいやるのが適当であろう、これは税の専門家の意見であります。そういうふうな意見もありますので、法人税も重いことは間違いありません。これもやるべきである。それで二%。それからそのほかの税につきましては、御承知のようにすべてが低額所得者の負担を軽減するということを基本にいたしまして、今回はやったわけであります。将来の減税につきましては、これは私は直接税間接税を通じまして十分な検討を加えてやりたい、かように考えておりますが、まだ直接税に税の負担がやや偏しておるという考えを持っております。同時に税制を非常に簡素化する意味におきましても、間接税等についても十分検討を加えてみたいとかように考えております。
  46. 河野密

    河野(密)委員 ここでこまかい税金の問答はやめにいたしまして、次に私は国民年金制について政府所見をただしたいと思うのであります。国民年金制は現在すでに世論となっておると思いますが、一方においては恩給制度に再検討を加えなければならない、こういう問題からいたしまして、今回政府のおとりになった軍人恩給に対するきわめて不徹底な態度からして、国民年金制の世論は急激に高まって参りました。そこで私は国民年金制度につきまして、政府の基本的な考え方を承わりたいと思うのでありますが、政府は一体現行の恩給法あるいは厚生年金あるいは共済組合の関係の諸制度というようなものを積み重ねていって、その上に国民年金制を実施しようとお考えになるのであるか、それとも統一的な構想のもとに国民年金制を実施して、これらの現在あるところの制度というものを吸収していかれようとするのであるか、その根本的な考え方を承わりたいのであります。
  47. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 国民年金制度を創設いたします以上は、統一的な制度でなくてならないと私は考えております。ただ今御指摘になりましたように、恩給なりあるいは各種共済組合の年金制度なり、そういうものとの調整というものは、これは社会党自身もお考えになっておるようでありますが、私どももそれを考えております。しかしいずれにいたしましても、基本的な考え方としては、国民年金制度の性質上統一的なものでなければならぬ、こう考えております。
  48. 河野密

    河野(密)委員 統一的なものにしなければならない。ここできようの新聞の伝えるところによりますと、社会保障制度審議会においても近く答申を出されるそうであります。政府の今までの国民年金制度に対する唯一の逃げ口上は、社会保障制度審議会の答申を待って考えますということが唯一の逃げ口上でありましたが、いよいよこの社会保障制度審議会においても答申をお出しになるというのでありますから、政府もこれに対するはっきりした態度をおきめにならなければならないと思うのであります。現在私が申し上げるまでもなく、各種の年金制度がございます。一般を対象としたものとしては、厚生年金制度がございますし、それから官吏たる国家公務員に対しては恩給法、それから官吏を除いた国家公務員に対しては国家公務員共済組合法、それから公共企業体の共済組合法、それから地方公務員の共済組合法、それから自衛隊に対しましては自衛隊に対する恩給法の適用、警察官は恩給法と地方公務員の共済組合法の適用と、多種多様のものがあるわけであります。そこで近くこの国会におきましても、この年金制度の一部が実施されるような法案が出て参るわけであります。これに対しまして厚生省は反対をしておられるということも聞いておりますが、反対をしておるという厚生省自身は一向に足踏みをして何にもしておられぬと、こういうことでありますならば、われわれとしてはこの将来の国民年金制度というものに支障のない限りにおいては、それを目途としながらある程度の共済組合法あるいは共済関係の法律を立法していくということもやむを得ざる処置ではないか、こういうように考えるのでありますが、この点について一体厚生大臣はどう考えておるのでありますか。
  49. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 逃げ口上が社会保障制度審議会の答申を待つということを唯一としておるというお話でありますが、私も就任以来、この年金制度に準備期間がニカ年あることは御承知の通りでありまして、今度提出しました三十三年度予算においてこの準備期間が切れるわけであります。従いまして総合的にこの年金制度を解決いたしたい。お話しの通りに、こういう基本的な立場に立って年金を施行するのだという具体的な案ができませんときに、各職場を同じくする者等が自分たちの幸福をはかろうというときに、ただすぐにこれを阻止することができるものではない、こういうふうに考えますので、総合的にこの問題を解決いたしたい。現に社会保障制度審議会及び私のところにある五人委員会等と緊密な連携をとりまして、最近の情勢では、今おっしゃいましたように答申も非常に早くできるような予定であります。長沼委員長等ともお話をしながら、答申が出ましたときにできるだけ早く実施するような態勢を整えておるわけでございます。
  50. 河野密

    河野(密)委員 軍人恩給の問題につきましては、私の方では軍人恩給に対して二つの柱を立てておるわけであります。それは公務扶助料、傷病者恩給というものは一本の法律にして、これに対しては将来国民年金制度の実施に妨げにならないように、これに対してはできるだけ手厚くしてやろう、しかし職業軍人というと語弊があるかもしれませんが、一般軍人の生存者、そういう人たちに対する恩給というものは、この際打ち切り補償として交付公債の支給による打ち切りを行う、こういう考え方を土台としてきておるのであります。私たちはこの軍人恩給のやり方に従いまして、軍人恩給と現在のそういうものと並行してすみやかに本年度から国民年金制を実施しよう、こういう考え方をいたしておるのであります。この国民年金制を実際に実施するということが、この軍人恩給制度に対する合理的な解決の唯一の道であるというのがわれわれの考え方であります。平年度千三百億になろうとする軍人恩給というものをそのままにしておくことは、決して国家の財政を安泰ならしむるゆえんではない。この際にほんとうに踏み切っていかなければいけない、こういう考え方を持っておるのであります。私たちはこの国民年金制度の実施については、社会党がどうであろうというような偏狭な考え方はちっとも持っておりません。政府とも自民党の皆さんともよく話し合いをして、国民に最も幸福をもたらす国民年金制度というものを作り上げたい、こういう気持を持っておるのであります。軍人恩給でありましても、社会党がこう言うだろうとか、自民党の方でこうしなければどうだとか、いわゆる二つ政党が何かお得意様のごきげんを伺うような態度をとっておるというところにすべての誤まりがあると私は思うのであります。こういう問題こそは、われわれは率直にお互いにその話し合いをして、最も合理的な線において、国家の財政において許し得る範囲のものはこれであるということをお互いに話し合ってやるべきだと思うのであります。こうすれば社会党にしてやられるとか、こうすれば自民党が得だとか、そういうようなことがこういう問題を紛糾せしめており、こういう問題を世間の良識ある人々から批判される事態を招いておるところの理由だと私は思いますので、こういう問題こそは、われわれは率直に政府に協力をしたい、こういうふうに考えておるのであります。岸総理大臣国民年金制度について、その専門家である社会党の協力を求めるような胸襟を開いた態度を一つおとりになったらどうでありますか。そのくらいの雅量をお示しになってもよろしいと思うのであります。もち屋はもち屋で、国民年金というような問題は、われわれの方がはるかに実情を知っておるのでありまして、自民党の皆さんが御苦労なさる必要はないと思います。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 国民年金の問題につきましては、先ほど厚生大臣もお答えいたしておりますように、政府としてもこれをできるだけ早く成案を得て実施するということを決意いたしております。この恩給の問題であるとか、あるいはこういうふうな社会保障に関する問題等につきまして、両政党においてできるだけ話し合いを進めて、協力できる限りにおいて協力するという基本的な考え方につきましては、私も河野委員と同じであります。ただ従来の恩給問題や、あるいは社会保障制度の問題等につきましていろいろな委員会や審議会を作りまして、各方面意見なりあるいはその方面について造詣のある人々の意見を広く聞く、国会以外においてもそういう委員会や審議会、調査会を作って意見を聞くということは政府はやってきたわけでありまして、その際におきましては与党野党とを問わず、そういう問題についての権威者なり研究しておられる方々の御参加を願って成案を得ることに努めております。今後ともそういう考え方につきましては、私はやはり考えて参りたい、こう思っております。
  52. 河野密

    河野(密)委員 岸総理のただそういう答弁ではなしに、そのものずばりで、社会党と一緒に作りましょう、与党野党もなくして国民年金制度は作りましょうというようなくらいの雅量を示されることが、岸ブームの出てくるところであろうと思います。(「そんなことは政権をとってから言え」と呼ぶ者あり)そういうさもしいことは考えないことにしましょう。(笑声)こちらは教えてやろうというのです。そういう問題について一つ率直に岸総理考えていただきたいのであります。  われわれは、この冒頭に申し上げましたように、外交政策、そういうものについては与党野党あるいは保守党革新政党というものは、これは相当に対決しなければならない場面があると思いますが、しかし社会保障というような国民全体の福祉の問題につきましては、与党野党もない、われわれ自身ができるところから実現していく、最も合理的な問題で解決をしていく、こういう態度を政治の上に示したいと思うのであります。  以上をもちまして私の質問を終りたいと思います。(拍手)
  53. 江崎真澄

    江崎委員長 午後一時十五分より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後零時三十六分休憩      ————◇—————     午後一時四十二分開議
  54. 江崎真澄

    江崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。太田正孝君。
  55. 太田正孝

    ○太田委員 だんだんと質疑応答が繰り返されまして、私は与党たる自由民主党の立場から、取りまとめた御質問を申し上げたいと思うのでございます。むろん与党のことでございまするから、私といたしましては、政府が施策をよく国民に知らすように、この議場を通してその機会を与えるということが必要であろうと思います。問題は三つに分れまして、第一は財政問題であります。昭和三十三年度の予算を中心としての質問であります。第二点は経済についての質問でございまして、結局、俗にいう景気の見通し等についての問題でございます。第三点は、国の財政と地方財政とが非常に複雑にして、しかも大規模な問題をたくさん包蔵しているのであります。従ってその意味において、国と地方財政との関連についてお尋ね申し上げます。  第一の質問の予算についてのことでございますが、予算の編成方針の中に、安定した成長をはかるという言葉が使われております。またわが党のいわゆる新政策の中には、安定した繁栄ということをねらいとしております。長期五カ年計画におきましても、また同様の言葉があったように思います。安定は同じでございますが、成長といい、あるいは繁栄と申しますが、大体これも同じような意味であろうと思います。問題は、総理大臣に対してお尋ねするところは、この基本方針を達成したかどうかということでございます。念のために、私の解釈するこの安定と繁栄もしくは成長ということは、どういうことでお尋ねの眼目としておるかと申しますと、昨年からの経済情勢に対しまして、国際収支の関係から、金融引き締め等、いわゆる安定に向っての施策を総合的にやっていき、今もそれを続けておるのでございます。金融引き締め等、財政上の問題におきましても、ややもするとデフレーションになる傾向を持っていることはやむを得ないのでございます。しかしデフレーションが進んでいきまして、均衡をはかるにおきましても、縮小均衡になるということは、われわれのねらいとするところではありません。従ってこの安定ということと成長もしくは繁栄ということとの関連におきまして、できるだけの仕事はやっていかなければならない。安定した上に繁栄をはからなければならない。繁栄という問題を切り離して考えますと、財政上におきましては、とかくインフレーションになる傾向を持つのでございます。安定的繁栄、安定的成長というのは、インフレーションにもならず、デフレーションにも陥らず、あんばいよくやっていくというところに苦心があるのでございます。政府与党が、この安定と成長もしくは繁栄ということをねらいとして作ったこの予算は、その目的を達したのであるか。本来ならば、自然増収が一千億円以上もあるときですから、楽に進めるのでございますが、こういう時期に当りまして、一方に安定をはかりつつ、一方に繁栄をしていかなければならぬという意味におきまして問題があるのでございます。総理大臣は、本年度の予算につきまして、この目的を達成しているとお考えになるのでございますか。安定についてのこと、繁栄についてのことは、大蔵大臣等に続いて御質問申すつもりでございます。
  56. 岸信介

    岸国務大臣 太田委員の御質問にあります、安定の基礎に立って成長を考え繁栄を考えるということが、わが党の政策でもありますし、また三十三年度の予算を編成する場合に、われわれの最も基礎的な考えとして置いたところであります。言うまでもなく、経済界のことは、御承知の通りいろいろな変動がございます。しかし、日本のこの増していく労働人口のことからも考え、また国民生活の水準を上げることからも考えていって、日本の経済が成長を目ざし繁栄を目途として施策されなければならぬこと言うを待ちません。しかも今言ったような日本の経済は、ことに国際的の情勢からも影響を受けるところが非常に大きいために、相当な動揺を免れないのであります。その間にあって、堅実な成長を続け、繁栄の目途を達する上からいいますと、安定の基礎に立っての繁栄成長を考えていかなければならぬことは、私は当然の帰結であると思います。三十三年度の予算を編成する場合におきましても、そういう見地から、昨年の下期にとってきました総合緊急対策というものは、一時日本の経済界の伸びが予想以上に急速なテンポで進んで、そのために国際収支も悪化したというような情勢に立っておりますので、それを是正する意味において、安定した基盤を経済界に与える、そしてその基盤の上に成長を考えていくという、この基礎に立って私どもは三十三年度の予算を編成したわけでありまして、大体その目的を私は達成しておるものと考えております。
  57. 太田正孝

    ○太田委員 安定と繁栄とは、いわば二律背反的の傾向を持っております。安定だけはかっていくというのも、先ほど申しました通り、縮小繁栄になっては、とんでもないことになってくる。いわんや本年の労働情勢等を考えてみますると、非常に注意すべき問題があると思います。生産年齢の人数は百三十七万人もふえて、新規に学校を出てくる者も多くなってくる。しかも、現在において考えられても、大企業等における整理というようなものが十四万人見当も数えられておるのであります。失業八十万人という。こういう点を考えましても、安定だけでもって時局をしのぐことはできない。繁栄の道をはかるということが大切であり、それを念願として総理がやられたであろうという意味におきましては私も了承するとこであります。しかし掘り下げていきまして、まず安定についてたださなければなりません。これは大蔵大臣にお尋ね申します。  予算は経済を刺激しているじゃないかという批判があります。予算は経済を刺激しているじゃないか、こういう言葉があり、ことに金利引き下げ論が今月の初めごろ起り、株の値段の十二月二十七日のダウの数字が四百七十一円五十銭でしたかであったものが、五日か六日ごろになってぐっと上って参ったのであります。六十円も上って参ったのであります。そのときに批判が起ったのは、予算が経済に刺激を与えるということであります。四月後に財政の支出が多くなる、金融がタブついてくる、ゆとりが出過ぎる、こういうような議論がありましたのですが、安定ということを目的とする限りにおきましては、かくのごときこと万あるべからず。そこで問題は、予算と財政投融資とを通じまして、そのしからざるところ、不安定でない、刺激するものでないということをお示し願いたいのであります。いわく成長率が三%であるという企画庁の計画に対しまして、この予算の数字は、またこの財政投融資は大幅にふえているではないかということがいわれておりますが、これに対するお考えを聞きたい。  さらに、ついでに申しまするが、所得につきましても、所得が八兆四千七百五十億に対しまして、予算の規模は一五%になっておる。しかるに三十二年度の予算は補正後幾らになっているかというと、一四・二%、三十二年度よりも所得に対する予算の規模というものは多くなっている。これが説明を求められるところの一つでございます。  また消費が五%増す計画になっているが、この予算におきましては、決して刺激を起さないということを説明されたいのでございます。しかも私どもが与党政府一致してきめたところの大きな特色は、いわゆる四百三十六億円のたな上げ方式によるものでございます。このたな上げ方式というものは、初め政府考えられたのを党との間でよく練りに練っておさめたのが、五基金一資金でございますか、このたな上げの姿でございます。本来ならば財政に余裕があった場合に減税なりあるいは減債、公債を減らすというようなことが筋でございますが、それを安定が大切であるために、ドイツ式方式を入れまして、この方策をとったのであります。そして初めの案も党との間に練りに練った結果、私は非常によいものができたと思うのです。この安定をはかるがためのたな上げ方式の内容につきまして、五つの基金及び一つの資金のことをよく御説明願いたい。  また社会党の方々の御質問に対して、大蔵大臣の財政法上違反でないかということに対する御答弁が、少し速記録を読んでみましても私に了解できないような点がございます。よってこの際もう一回明らかに財政法十二条なり四十四条との関係において、法規にも決して背かないということを、はっきりお示しを願いたいと思うのでございます。
  58. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 ただいまお話がございましたように、三十三年度の予算は、経済に安定を招来さして、その上に発展をはかっていこう、いわゆる安定のために成長を窒息させるということは考えていない、そういう予算であります。     〔委員長退席、川崎(秀)委員長代理着席〕 従いまして、ある一面におきましては、これはインフレになるんじゃないかというふうな見方をする人もあり、ある人は少しデフレになるのじゃないかと見る、それは今申しました両面のそれぞれの面をとって議論をしておるのでありまして、総合的にいえば安定をもとにした、成長を目的とする予算、かように私は考えておるのであります。  それから予算の規模の問題について、国民所得との割合のお話がありました。なるほど三十二年度に比べてもそう大きい相違はありませんが、若干パーセンテージが上った。しかしこれは人口の増加ということを、どうしても政治の上において考慮しなくてはなりません。来年度の経済の成長が二・三%、実質で三%と言っておりますが、これはほんとう言いますと、ただパーセントの率だけを見ると、たとえば五カ年計画において年次平均に六・五%じゃないか、こう言っておりますが、二・二%の場合の基準になるそれは三十三年を基礎として二・三%でありますから、それは大きな基準の二・三%。それから五カ年計画の場合の六・五%は、基準年度というものがありまして、それらのいろいろなものを差しおきまして、ある一つの基準のものを描いて、それに対して六・五%であるのでありますから、私どもの勘案によりますと二・三%の成長率から生ずる、たとえば総生産は、三十三年におきまして十兆以上になる、十兆四百億くらいかと思います。そういう程度になるのでありますが、基準年度に対する六・五%もやはり十兆、ですからこういうこともお考え願わなくてはならないのでありまして、そういう意味から言って、単に昨年のパーセンテージと比べて幾らか大きいからといって、私はそれを懸念する理由は何もないと思います。  それから今回の予算において一つの特色をなしておりますのは、いわゆるたな上げ資金であります。これについて説明をせよということでありますが、今回におきましてなぜこういうようなたな上げ資金をしたか、本来から言いますと、大蔵大臣としては、こういうふうに使わなくてもいい資金があれば、減税に充てるということを考えるのが当然であります。私も常に予算を編成する場合において、その年は減税し得る財源があるのか、あるいはその範囲はどうであるかということを、まず考えるのでありますが、今回のたな上げ資金は、その資金の性格が三十二年度の剰余金でありまして、これは三十年、三十一年の経済の伸びが世界に類のない異常性に基いておるのであります。そういうふうな経済の伸びから生ずる歳入増というものは、常に期待はできない。従ってこの資金をもって減税とか、あるいは経常歳出に充てるということは、今後における財政の健全性を害するおそれがある。  それからもう一つは、三十三年度におきましても、むろん減税も私はいいと思うが、同時にまたこういう実情が日本の経済の常態でないとすれば、しなくてはならぬ歳出というものがまだあるかもしれない、またあると見なければならぬ。そういうふうなことを十分きわめずして、すぐにこれを減税に充てることもできませんから、こういう二つの見地から、今回たな上げにして歳入があるにもかかわらず、歳出にこれを使わずに、将来、経済の事情が許す場合に、最も有効な国家経費にこれを振り向けたい、かように考えて保留しておるのでありまして、これは財政の健全性を増しておる措置である、かように考えます。なお五つの基金と一つの資金になっておりますが、大体におきまして、若干使用の方途についての差異はありますが、財政的に見れば、いずれも元金を消費せずしてたな上げにしておく、ただ一つの資金については、将来歳入歳出に立てまして、国家目的のために使うことができる、かような性格になっております。これによって、私は、今後日本の経済にも大きく寄与し、また財政の健全性も増してくる、かように考えております。
  59. 太田正孝

    ○太田委員 いろいろ議論もございますが、私は、最初から安定と繁栄——安定というデフレの方面に陥ろうとするものを相当の程度でおさめていったというところに、この予算の特色があると思います。しこうして、これを実際に行なっていく上には、今後においていろんな問題があります。来たるべき上半期の外貨予算も組まなければならぬ。輸出の原材料を食ってしまっておるから、さらに原材料の輸入の問題が外貨予算においてかぶさってくるではないかという問題がある。金融の点から申しましたならば、市中銀行が日本銀行から五千億円の借り入れをしておる。これを、今、全国連合協会ですかの考え方としては、一千億円戻そうというようなことであるが、これをどうするのか。さらに、日本銀行から借りていない地方銀行の余った金をどうするか。こういったことについて一々御質問申し上げるわけですが、これを、与党立場でもありますので、外貨予算を組むに当って十分なる注意を払っていただきたいということ。日本銀行に対する市中銀行の借金の五千億円をどの程度において処理していくかということ。地方銀行の余った方の金につきましては、大蔵大臣は社債化の方に向けたいというのですが、私も大体賛成であります。その道を誤まらざるように、安定についての実行案を十分はかっていただきたいと思うのであります。  質問は次に進みます。一方に安定といってデフレ的のことを説きつつ、他方に繁栄というインフレーションにややもすれば陥ろうとする問題をこの予算においてうまく処理しているということをわれわれは信ずるのでございますが、歳出の規模におきまして、問題となる一千億円を新規事業に向けたというのがこの予算の特質であります。党の要求等はもっと大きいものでございましたが、ここに切り詰められたのでございます。あるいは道路の整備であるとか、教育の振興であるとか、恩給の問題であるとか、防衛費の問題等がこれに織り込まれておるのであります。道路の問題のごとき、わが党の、この岸内閣一つの大きな特色とも言うべきものでございますが、それも非常に大きなものになったのではない。五カ年計画をやったといたしましても、戦争前の世界の状況に迫いつく程度のものであることは言うまでもありません。しこうして、ガソリン税の収入を中心としてこの計画を進めておるところにおきましても、単純なインフレでなくて、われらがほんとうに力を入れてこの問題を解決しようという意味におきましての繁栄をはかろうとするものでございます。  そこで、問題は少しく理屈くさいことになりますが、今年まで年々歳々、前年の比較におきましては一般会計同士の間の比較をいたしました。ただいまの財政法は、古い会計法と多少違った点がございます。会計法においては総予算主義というものを主張しまして、第二条にこれを表わしております。しかるに、財政法におきましては、その十三条において、特別会計と一般会計との関係を規定しております。しかし、私は、総予算主義——国民から出た金が一般的に全体的にどう使われておるかという精神におきましては変りないものと思います。つまり、この予算を見るときにおきましては、前年の一般会計と特別会計と合せたもの、すなわち国の財政全体を比較すべきものであると思うのでございます。この意味におきまして、いわゆる純計予算というものが予算の説明の中にも加えられております。かつては小川郷太郎氏のごときは統合予算と申しましたが、統合される予算において比較が出て初めてこれは多いか少いかということが確定するのであります。しからば、その純計予算——特別会計は今幾つあるかというと、今度道路整備特別会計ができて四十一になっているのであります。一つの一般会計と四十一の特別会計と合せて、その間における出入りを整理して、初めて純計予算として、前年度より予算がふえているか減っているかということが批判されねばならないのであります。私は、この意味におきまして、純計予算立場から予算はどれだけふえたかということを大蔵大臣によって示されたいのでございます。  さらに、特別会計が四十一もございますが、この中には整理していいものもあるではないかと思うのです。この点から、特別会計を処理するについてのお考えを承わりたいのであります。  念のために申しますが、私は、本年ふやしました道路整備特別会計には賛成するものであります。特別会計の本質といたしましても、事業の遂行上から見ましても、これはいいと認めておるから、この点については御質問いたしません。御質問いたしたいのは、純計予算の中においてどれだけふえたかということと、特別会計をいかに処理していくかという二つの問題でございます。大蔵大臣から御返事を承わりたい。     〔川崎(秀)委員長代理退席、委員長着席〕
  60. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 まず純計予算について御説明申し上げます。  昭和三十三年度の歳入の予算純計額は二兆八千七百二十一億八千八百万円であります。三十二年度の当初予算では、これが二兆六千百九十五億二千九百万円でありますので、歳入におきましては二千五百二十六億五千九百万円の増加になっております。歳出の方を見ますと、三十三年度の予算純計額は二兆七千三百四億七千二百万円であります。三十二年度の当初予算の歳出純計は二兆四千九百四十七億二千九百万円でありますので、比較しますと、二千三百五十七億四千三百万円の増加になっておるわけであります。  それから、一般会計と特別会計のことでありますが、私としては、国の歳出がなるべく一括されて一目にわかるということが骨子でありますから、一般会計から離れて特別会計というようなものが多くできることはまず好みません。またそうあるべきではないと思いますが、これは財政法にも規定されておりまして、たとえば、特定の事業をする、あるいは特に資金の運用を必要とする、まあいろいろありますが、そういうふうな事柄で、特別に分けて会計を立てた方が——先ほど申しました、一般会計に入れておく方が一般会計を見る上においてかえって混雑してよくない、こういうふうな性質を持つものは、やむを得ず特別会計ということをいたしておるのでありますが、しかし、もうすでに今日では特別会計は四十になっております。ことしはもう一つ道路特別会計がふえたのでありますが、中小企業信用保険特別会計がなくなりましたので、これがために増減なしで四十になっておるわけであります。かようにふえておりますので、今後は、特別の事情のない限り、むやみに特別会計を、単にいかにもそれがよさそうだからというような意味において軽く設定されることについては賛成いたしかねるわけであります。
  61. 太田正孝

    ○太田委員 大蔵大臣、少し私の質問の意味を誤解しているようですが、前年に対して本年度が今言われるごとく純計予算から見ると二千三百億ふえたというお話でございます。それならば、去年の場合三十一年度と三十二年度の純計予算上のふえ方がどれだけあったか、本年が決して無理のないふえ方であるということを純計予算の建前から説明されるのがしかるべきだと私は思います。もしお調べがなかったなら事務当局からでもけっこうでございます。また、特別会計の数の問題は、総予算主義というものは法規にはないけれども、実際は通されたる考え方であると思います。今でこそのんきでございますが、もと国の予算のうちで軍事費が半分占めた。軍事費そのものが税と同じであった。尾崎行雄などという人がこれをとらえまして、税は全部軍事費じゃないか……。そのときに純計予算論というものが出て、それが尾を引いて今日にきておるのでございます。予算説明書の中にもちゃんと載っておるがごとく、これをもとにして初めて国の財政の、大きいとか小さいとか、規模というものが論ぜられなければならぬと思うのです。こういう意味から言って、特別会計を設くるのは法律によらなければならぬという厳格な規定はあるが、大体におきましてはなるべくふやさないという考え方であるのにかかわらず、四十一になった。その中に必要なものがあることは申されるまでもなく私も認めております。これを整理するお考えがあるかどうかということが私の質問の趣意でございます。
  62. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 数字がだいぶこまかくなりますので、事務当局に説明いたさせます。
  63. 石原周夫

    ○石原政府委員 お答えを申し上げます。三十二年度の純計予算額が三十一年度の純計予算額に比べまして増加になっております額を申し上げます。歳入におきまして千六百四十億四千七百万円、歳出におきまして千四百六十四億五千三百万円ということになっております。
  64. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 特別会計を現在以上にふやすとか整理する考えはないか、これは現在ある特別会計をすぐに整理するというような考えは私は持っておりません。しかし、目的を達成するにつれましてむろんこれは特別会計はやまっていくのであります。先ほど申しましたように、特別会計をこれ以上ふやすことについては私は非常に消極的である。特別な事情でないと容易にはふやしかねる、かように考えておるのであります。
  65. 太田正孝

    ○太田委員 私は野党であったならばという感じが起るのでありますが、どうか私の言った意味をよくお考え下さいまして——四十というのは相当大きい数字であります。この中にはほんとうに形式的なものもあるのです。通り抜け計算的なものもあるのです。よく御勉強なすって、整理することのしかるべきことを進言しておきます。  それから、安定と繁栄という二つについて大まかな線を進めていきましたが、私はここに総理大臣にお伺いしたいことは、歳出の規模について世間に疑いを抱いておる者がある。われわれは信念を持ってこの予算与党として政府とともに作った関係からして、かくのごとき疑いのないようにいたさなければならない。  第一は、防衛費につきまして削減するような議論もあるのでございます。防衛費は、経済力との関係、安全保障との関係、新兵器との関係等から見て、当然必要しかるべきものであるということをお説き願いたいのであります。  第二点は、恩給支出の合理性について疑う者があるのでございます。なるほど三十七億五千万円増した、平年度に三百億円になる、恩給総額は千億円をこす、三十六年においては千三百億円になり、そのうちにおいて軍人に対する恩給が千百億円になる、こういう数字が出て、かつてあったいまわしい言葉である恩給亡国などというようなことが叫ばれておるのでございますが、最低限度の要求に応じたものであるということと、上に薄く下に厚くしたということと、これがこの際における処理の当然なることを説明される必要があると思うのです。  この二つに続いてなお申し上げたいのは、国民年金制度とつなぐ場合が起ることは、総理大臣国民年金制度を考えておるという立場からも当然起り得るのですが、それに向っての方式を御説明願いたいのであります。  もう一つ伺いたいのは、軍人恩給ということにつきまして、打ち切りをしたらどうかという説があるようです。明治維新のときにおきまして秩禄公債というものが出た。その当時におきましては、法律もなかった。あるいは秩序もなかった。一方に各大名の出したところの紙幣があり、また各大名が借金した借金もありました。そういうものの処理の一端としてこれが行われたのであります。今日法律がありこういう秩序の保ったときにおきましてかくのごとき処理をすることがいいかどうか、将来の年金制度につなぐ上におきましても重要なる問題でございますから、その意見を承わりたいのでございます。
  66. 岸信介

    岸国務大臣 防衛費の問題につきましては、日本が独立国として自衛を全うして他から不正な侵略を受けない、これによって国民が安全感を持ち、平和のうちにおのおのその仕事に励み、生活が安定し得るという上から申しますと、いわゆる自衛の手段を講じなければならないというのが今の国際情勢でありますし、その自衛力をどういう程度に持つかということについては、すでに国防会議におきまして、日本の国情とこの国力に応じて、そして漸次これが増強をはかる、同時に、その増強をはかる場合において特に質的な面に意を用いる、すなわち最近の科学、技術の発達等を十分取り入れて有効な防衛の手段を講ずる、こういうことが基礎的の考えになっております。従いまして、予算を編成するに当りましても、われわれは日本の国力に応じた程度においてこれを増強するということが常に一つの大きな基礎的の考えになっております。本年度のこの予算の増額につきましても、そういう点を頭に置いて考えられたわけであります。決して全体から見て日本の国力に不相応な、もしくは国情に合わない膨大な予算を組んでおるというものではないのであります。将来もこの方針を貫いて参りたいと考えております。  第二に恩給の問題でありますが、特に今度の予算におきまして取り上げましたいわゆる軍人恩給と称せられるところのものであります。これは、本年度におきましては御指摘のように三十数億でありますが、平年度化した場合において三百億といわれております。しかし、その内容を御検討下されば明瞭であるごとく、その九割に近いものは言うまでもなく公務死された公務員の軍人の遺族に対する公務扶助料である。また、戦争によって傷病にかかったところの者に対する恩給というものがそのものであります。従って、世間の一部で言っているごとく、いわゆる職業軍人と称せられる人々に対する、生きたそれらの人々に対する恩給の増額という点につきましては、われわれは極力——全体から見ましてごく少額であることも言うを待ちませんが、同時に、これらのすべてを通じて、上に薄く下に厚くという方針を貫いております。たとえば、将官級の者に対しましては一切この額を増額しておりませんし、佐官の者は増額がごく少いし、尉官はこれに次ぎ、いわゆる下士官以下の兵に対して今度の増額の大部分が行っておるということを御検討下されば、上に薄く下に厚いということはきわめて明瞭であると思います。  しこうして、この恩給なりあるいは各種の年金の問題と、いわゆる国民年金との関係でございますが、私は、政府は文化国家とし、福祉国家として当然国民全体を対象とした国民年金の制度を実現すべきものであるという考えを持っております。しかし、これは十分に慎重かつ十分な準備を整えてこれを実行に移さなければならない。従いまして、政府としても、これに対する調査費をあげ、慎重に調査し、着実にこれを実現することにいたしたいと思います。ただ、その場合において、各種の年金やあるいは恩給との関係をどうするかという問題であります。恩給の制度は、これは、いわば国が使用主として、その使っておる者が多年の勤務の後退職し、もしくは病気にかかり、あるいは死亡するというような場合におきまして、これに対して使用主として当然償いをするという性質を持っておると思います。従いまして、この全部が決して国民年金のなにでもってカバーはできないと思います。従って、これをどういうふうに調整するかということにつきましては、十分に私は方法考えていかなければならぬと思う。しこうして、これについてのわれわれの調査、準備につきましては、政府もやっておりますし、御承知の社会保障制度審議会におきましても、十分各方面の権威ある意見を取り入れて研究して、万遺憾なきを期していきたい、かよに考えております。
  67. 太田正孝

    ○太田委員 ただ、念を押したいことは、軍人恩給という制度を国民年金制度の中に吸収するかどうかという点もやはり調査会においてきめる問題にされているのでございますか。
  68. 岸信介

    岸国務大臣 これは、ただ単に軍人恩給だけじゃなしに、文官の恩給も、その他の年金のものも、どういうふうにこれを国民年金を施行する場合に取り扱っていくかということを考えなければならぬ。今回の軍人恩給のうちにおきまして、先ほど説明いたしたように、大部分が遺族扶助料であり、私は、それの実態を見ますと、これらの遺族の人々の社会保障的な意義が非常に多いと思うのです。そういう意味から申しまして、国民全体を対象とする国民年金の制度を作る場合におきましては、そういう部分はできるだけ両方を吸収して、それ以外の、さっき申しました、国が使用主として特別に考えなければならぬ部分というものはどういうふうにしますか、それに付加するといいますか、また別に考えるかという、いろいろな方法があると思いますが、基本は、そういう同じような性格を持っておるものはなるべく国民年金に統一していくという方針のもとに考えて参りたい、こう思っております。
  69. 太田正孝

    ○太田委員 私の財政に対する大まかな論点としての安定と繁栄につきましては、以上をもって打ち切ります。  第二の点は、経済の見通し、俗に言う景気の問題でございますが、総括的にまず総理大臣お尋ねしたいのは、大蔵大臣が、操業短縮あるいは在庫整理等の生産過程における調整が済んだならば、また輸出が伸びるならば、また金融が常態を進めていくようになるならばという期待を持って金利論というものをされたのでございますが、しかも、その時期といたしまして、三月に底をつくか、そうして四——六に横ばいになる、七月からアメリカ等の景気がよくなればという大きな条件のもとにおいて、時の考え方から、利下げの問題も考え得ると言われたのでございます。私どもをもってすれば、これは常識なことを常識に言われたのであって、何ら間違いのないことと思うのです。しかるに、新聞等において、閣議でこれが論議された、——私は非常に不思議に思うのです。総理大臣は、大蔵大臣のこう言われた常識のことを信頼されており、また、時の点におきましても、この判断が大体において間違いがないとお考えになるのでございますか、それを承わりたいのであります。
  70. 岸信介

    岸国務大臣 経済界全体の見通しにつきましては、私どもも、あらゆる点からこれを検討し、その方向を誤まらないように細心の注意と努力をいたしております。しかして、今御指摘にありましたように、特に日本の産業経済から言うと重要なものである繊維製品及び鉄鋼の二つの大きなものをとってみましても、鉄鋼の値段は大体国際水準の価格になっておりますし、それから、繊維につきましてはすでに国際価格よりも二、三割程度低い状況にあります。しかして、これに対処するための生産制限やあるいはそれに対処するための企業の対策というものもほぼ一巡した形になっておるというのが現状であろうと思います。しこうして、その他のいろいろな経済上の指数等に現われておるなにから申しましても、大体昨年の秋以来とって参りました緊急対策の結果、特に景気は、投資景気の盛んであった情勢も平常の状態に返って参っておると見てよろしいと思う。日本の経済が国際経済の事情に非常に左右される点が大きいのであります。すなわち、貿易に依存する度が非常に強い関係上、従って、国際経済情勢がどういうふうに動くかということも今後十分に考えていかなければならぬと思います。私は、いろいろ見方があると思いますけれども、決して手放しの楽観論でもありませんが、いたずらに悲観すべき状況でもないように思っております。こういう諸種の情勢から見まして、これが平常に返り、そうして、すべての問題が安定の基礎ができ、繁栄成長の方向への健全な形が出てくるというときになれば、金融上の金利政策の問題、いろいろな問題も当然ノーマルな状態で考えらるべきものであるということは、太田委員のおあげになりました通り経済の常識だと思います。最近新聞に出ました大蔵大臣の金利論云々ということは、閣議において決定をいたしたことも了解をいたしたこともございませんし、大蔵大臣は全く今太田委員の言われる通り常識論としての見方を常識的に話されたことであって、私は、大蔵大臣としては当然のことを言われておるものだ、こう考えております。
  71. 太田正孝

    ○太田委員 この問題を掘り下げていくために、まず第一に、操業短縮について、及び在庫調整につきまして、通産大臣から現在の状況と見通しを承わりたいのでございます。ただいま総理大臣の話にありました金へんと申しますか鉄関係の方においては相当の進行を見ておりますが、繊維の方におきましては、操業短縮がはなはだしいのは五割までいこうというのを、三月、すでに今月でございますが、二割五分とか三割にいくだろうと言われておったが、事実はそうでない傾向にあるようで、しかも、自主的操業短縮でなく、今度は政府の方が口を加えた勧告的操業短縮にも進もうというような傾向にあることが言われておるのでございます。操業短縮及び在庫調整の実際の姿と今後の見通しにつきまして、まず通産大臣から御説明を願いたい。
  72. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 現在の各製品の価格の下落といいますのは、結局生産過剰に基いておることは御承知の通りであります。これは何としましても生産調節をやり、ことに繊維品等におきましては、綿糸、人絹は別でありますが、輸出は一昨年よりむしろ昨年はふえておる。従って、生産調節をまずやらなければならぬ、これは常識であります。昨年の国際収支改善緊急対策をやりましたときから始めておりましたが、十月ごろはだいぶ順調にいっておりました。従って、われわれとしましては、大体におきましてこの三月までに調節を終り、四月から横ばいならばいい、こういう計画で参っております。ただ、繊維につきましては、最近のインドネシアの政情不安、それと暖冬異変によりまして、最近におきましてさらにまた少し調子が悪い、こういうことでありますので、あるいは一、二カ月調節の段階が長引くんじゃないか。さらに、私としましては、やはり生産調節を強化するということでこの段階はいきたい、かように考えておるのであります。繊維につきましては、在庫は正常在庫に比べますと大体五割ないし倍というところでございます。四月、五月くらいやりましたら正常在庫に戻るのじゃないか、かように考えておりますが、それにつきましては、一段と操短をやりましても、実際におきましてはまだ少しゆるんでおるというような面もありますから、そういう面は強化していき、また、綿糸等につきましては、政府の勧告操短もやりたい、かように考えておるわけであります。
  73. 太田正孝

    ○太田委員 一萬田大蔵大臣が言われた現状の処理、操業短縮及び在庫の関係につきましては、ただいま通産大臣が言われたのですが、続いて大蔵大臣の指摘した大きい問題は、輸出の伸びという問題であります。その輸出の伸びにつきまして、三十三年度内におきまして三十一億五千万ドルを目途としておるが、これが問題とされ、本国会におきましてもたびたび質問と論議がかわされたのでございます。この点につきまして、まず外交の線から外務大臣に、また国内の問題につきまして通産大臣等からお答えを願いたいのであります。  輸出の伸び——相手方の国が繁栄しなければわが国の輸出も伸びないことは当然であります。通俗に、アメリカがくしゃみをすれば世界がかぜを引くというようなことを言いますが、問題は、一番の中心点はアメリカにあると思います。そのアメリカ自体が繁栄しても、日本から物を買ってくれなければ、日本からの輸出が盛んにならなければいけないのでございまするから、問題は二つになりまして、アメリカの景気いかんという見通しと、日本の貿易に対してアメリカが制限等をしておるが、これがどうなるかということが問題の主点でなけらねばならぬと思うのでございます。アメリカ自体の景気につきまして、アイゼンハワーの考えが甘い、おそらくこれは各国の評論であると思うのでございますが、しかし、何としても十一月に選挙があるということ、またアメリカの景気というものは国内の産業が主になるのでございまして、貿易の持つ割合というものは第二義的になっておることは申すまでもないのでございます。それから、使うだけの金を持っており、スプートニクに対しましてどういう手を打つかは別として、相当の軍事支出を出し得る関係にあり、特にまた外国援助費も経済関係において三十九億ドルのうち七億ドルも出そうというような傾向も出ておるところへ来ております。減税もしようと言っておる。すでに金利は二回にわたって引き下げて、しかも準備預金の率も下げた。こういうような情勢でございまして、私どもとしてはあまり悲観をしておりませんが、外務大臣はこれをいかに考えられておるか、これ第一点。  第二点の問題は対日関係のことでございますが、にがにがしい国会の動きというものがわれわれにひんぴんとして報道されたのは昨年からのことでございます。すでに三月十日をもってアイゼンハワー大統領の裁決をする問題が、関税公聴会等として来ておるものが三件あります。新潟県の燕市から出ておるところのフォーク、ナイフ等の食器問題、あるいは、こうもりがさの骨の問問、もう一つは体温計の問題、この三つが三月十日を期して決定されるといわれておるのでございますが、ずいぶん保護貿易論者の多いところであり、しかも日本の中小企業の輸出物に対し向うの中小企業者が打撃をこうむるというところに論点があるので、選挙を前にしてこれまた非常な運動が行われておるように思うのでございますが、これに対しましてどういう手を打っておるのであるか。外交の線を、また外交の期待するところを伺いたいのであります。  もちろん、日本といたしましては、アメリカ世界のドル不足に対しまして二百六十二億ドルもあるような大きな金を出すという考え方、また、自由主義の国の頭目といたしまして共産主義の国に対抗する意味におきまして先ほど言いました援助資金を出すというような考え方、さらに、フルシチョフは、十五年を期して自分がスプートニクで世界に覇を唱えたごとく、アメリカの経済に対して、資本主義国の経済に対して追いついてみせる、こう言っておる。社会主義理論の本当のねらいは経済にあるのでございます。われわれの経済の方式の方が資本主義的経済の方式よりも成功すると信じたところに社会主義運動があるのであって、結局、フルシチョフのほんとうのねらいというものは、軍事にあらずして経済にあると思うのです。こういう意味からいたしまして、アメリカ日本立場考えても、ドル不足の問題とか、自由主義国に対する頭目としての態度というものが問題とならなければならぬと思うのです。切り詰めて申しましたならば、アメリカの景気はアメリカ自体としてどうなるか、対日問題につきましてどういう措置をとっていき、どういう期待を持ってあらゆる手を打っておるかということを承わりたいのでございます。
  74. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 アメリカの経済の今後の動向でありますが、御承知のように、一昨年あるいは一昨々年と申しますか、アメリカの景気が非常な勢いをもって上昇してきております。ところが、昨年に参りましてこれが停滞して、鉱工業の生産指数におきましても、あるいは失業者数につきましても、最近では前年度に対して百五十万以上の失業者がふえておるというような状態でありまして、昨年の秋以来アメリカの景気は停滞ぎみであるということを申し上げられると思うのであります。むろん、その原因は、世界経済の一環はヨーロッパにおきますイギリスあるいはフランスの財政事情その他の経済上の困難な事情が反映しているということ、あるいはアメリカ、ドイツ等以外の国におけるドル不足の問題というような、いろいろな世界景気の中におきます影響もあるのであります。一方におきましては、上昇過程にありまして、生産活動の盛んであった軍需生産も一時停滞ぎみでありましたし、あるいはアメリカ経済におきます一つのガンと申しますか、月賦販売制度その他の行き詰まり、また一方では農業生産力の非常な上昇によります農業問題というようなものが重なり合いまして、景気が停滞してきたのだと思うのであります。しかしながら今日ではアメリカ政府が、先ほど太田委員が御指摘になりましたように、財政の上におきまして一応こうして停滞した経済活動を若干刺激する方向に向って政策を変えつつあるように、私どもには考えられるわけであります。五十億ドルの公債発行限度の引き上げというようなものも要求しておりますし、また先ほど御指摘になりましたように、一月には連邦準備制度理事会が公定歩合の引き下げをいたしました。引き続いて二月に準備金制度の割合を引き下げるようになったわけでありまして、これらの政策をながめておりますと、アメリカ政府として、また有力な経済の指導者としては、若干景気を刺激して、そうしてこれ以上に沈滞しない方向に経済を進めていこうという考え方があるように考えられます。従いましてそれらの状況とにらみ合せながら考えて参りますと、おそらく下半期にはアメリカの経済というものは今日よりも一そう活撥になってくるのではないかということが推測されますので、まずこの辺以降今年の下半期にかけては逐次アメリカの経済が好転していくのではないか、そして日本との輸入貿易その他についても、民間的な資金の流動によって購買力がふえてくるのではないか、失業者も減ってくるのではないかというふうに観測されるわけであります。  第二点の御質問は、アメリカ日本商品に対する問題であります。御承知のようにアメリカ民主主義の国家として、アメリカにも多くの中小企業者がおります。従いまして、それらの人人の意見が議会に相当反映してくるということも事実でありまして、私の記憶に間違いなければ、この七、八年あるいは十年間に、日本商品のみを対象としないのでありますけれども、関税引き上げというような問題で議会で取り上げられた問題が七、八十件あると思っております。ただ議会の関税委員会等でそういうものが採択されたものは二十四、五件であって、最終的に実施されたものは十件以内だと思っておりますが、日本商品につきましても、九種類ほどのものについて関税引き上げの案が議会で審議され、議会の関税委員会を通過したものは三件であると思っておりますが、その三件がことごとく大統領の拒否権によって消えておるような状態であります。従いまして、いろいろな意味において、アメリカが民主国家として関税問題その他が一般的に取り上げられることは当然でありますけれども、政府の首脳部の考え方としては、やはりアメリカが今日経済的な大きな力をもって、世界に寄与していかなければならぬという建前から、そういう意味において良識を働かして最終的判断をしておると思っております。なお輸入制限の問題等につきましても、個々の商品に対する輸入制限の法律案あるいは一般的な総合的な輸入制限に対する法律案等も議会に出ております。現在出ておりますそういう輸入制限の問題についての日本に関するものは、たとえば手袋でありますとか、その他七、八件出ておりますが、個々の商品に対する輸入制限というものは、最近ほとんど議会を通過していないように思うのであります。しかしながら、アメリカにおきましても本年は中間選挙のときでありますし、また互恵通商法の改訂期にも当っておりますので、こういう運動は相当活発になり、また議会等も通過し、あるいは政府にもこれに対して同意を求めることが多くなってくると思うのでありまして、われわれは決してこれを楽観しないで、そうして十分な手を打って参らなければならぬと思うのであります。ことに日本の商品につきましては、対米輸出のおもなものは中小企業の製品でありますので、日本としてはこれらの人の生活の大きな問題として、アメリカ政府要路また一般有識者、民間の人々に訴えていかなければならぬのでありまして、その意味においては、アメリカの中小企業者と同じ立場というよりは、アメリカの中小企業者よりより悪い立場日本の中小企業者がいるということを了解してもらわなければならぬと思うのであります。そういう意味におきまして政府としては公式の外交ルートをとり、絶えずワシントン政府と接触をいたしまして、それらの立場を十分に説明もし、また抗議もし、話し合いもいたしておるのでありますけれども、同時にアメリカにおきます世論の力というものが強いのでありまして、新聞雑誌等を通じまして、そういう意味のPR活動を展開して参らなければならぬと思うのであります。従いまして機会をとらえて、外務省の仕事の上においてもそういう面について最大の努力を払って参りたいと思います。ことに通産、農林両省が、優良な品質のものを作り、あるいは商標等も時宜に適した斬新なものを作られ、またオーダリー・マーケット等を、通産行政あるいは輸出農林商品等において十分努力をしておられるのでありまして、その実情等もわれわれは両省の方々とともに十分外国に知らせまして、そして日本が秩序ある輸出をやるのだ、しかも日本の品質は優良なものだということをやって参らなければならぬと思うのでありまして、国内的にはそういう緊密な連絡をとりながら、その面において進んで参りたいと思います。なおこれらの問題につきましては、民間それぞれの経済界の方々と十分連絡をとりまして、その面からも個々にあるいは団体としてそれぞれのアメリカの団体もしくは有識者に連絡をとっていただくことが必要なのでありまして、そういう面についてできるだけの連絡を民間業者の方々、また経済界の指導者の方々ととることによって万全を期して参りたい、こう思っております。
  75. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 ただいま外務大臣からのお話で尽きておるかと思いますが、先ほど来お話のありましたように、反撃を受けております商品を向うの中小企業者が反対いたしておるのであります。これらに対しまして刺激を与えないように、結局この数年におきましては、ある品目においては前年度の倍なり三倍なりというような輸出をやっておりますので、それらがみなこういう排撃を受けておるのでございます。従いまして、国内態勢としては、一割なり二割なりという着実な漸進的な拡大ということを考えていかなければなりません。それにつきましては、早目な規制をやっていかなければならぬと思います。どうも今までは少し考え方が甘過ぎたようであります。従いましてジェトロを特殊法人にいたしますと同時に、アメリカの調査網等を利用いたしまして、そういう動向を早く察知して、そうして規制を早目にやっていく、こういうような考え方を持ち、またできるだけ向うと競合しない新規の商品を考え出して輸出するというような方向に向って努力いたしたいと思っております。またいわゆる過当競争、これが結局あとからくるものが安いものでありますから、買い控えをするというようなことも起るし、また日本品の評価を悪くしておるゆえんでもあります。過当競争につきましては輸出入取引法等によりまして、またこれも改正いたしまして、過当競争を極力押えていくというようなことでいきたいと思っております。
  76. 太田正孝

    ○太田委員 経済外交の建前からのお話は私も了承いたしました。しかしよくお考え願いたいのは、現在アメリカにおきまして公聴会の開かれておる関税問題があると同時に、大きな問題は、この六月をもって期限になっておる互恵通商条約の延長の問題であります。ただいま外交路線からいろいろな働きかけをしておる。また国内の態勢においてもやっておる。ところが私は民間人の動員といいますか、力を借りるということが非常に大切だと思うことは、この間公聴会におきまして五人のうちで三人が反対して、二人が賛成で、反対の方が強くて、日本の体温計に関する問題だったと思いますが、負けてしまったのであります。負けて大統領の拒否権のところにきた。この数字を考えてみましても、もう一人とればよかったのである。しかもこれは今までの日本外交線がそこまでいかなかったとも見られるのでございますから、民間のよく仕事を知った人たちにこれを頼んで、一生懸命働かすということがいいのじゃないかと思うのです。新聞で鮎川君が行かれたということですが、こういう力が非常によく出ることを真剣に考えていくべきじゃないか。ただいま通産大臣が言われましたが、ジェトロの問題についても同様であります。せっかく特殊法人として立っていこうというこの問題に対しまして、政府が真剣に取り組めば私はでき得ると信ずるのです。政府の役人の力も大切でございますが、何といっても商売は民間人であり、しかも向うを知っておる人が相当多いのでございますから、全力をあげてこの大切なる対米貿易——それでなければ七億ドル以上の大きな輸出目的というものをアメリカに対して達することはむずかしいと思うのです。こういう問題について総理大臣信念と、またこういう方策を入れるべきものであるかどうかということについて、もう一度承わりたいのであります。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 三十三年度の予算を施行する上において、また将来の日本の長期経済計画の実現の上から申しまして、来年度において三十一億五千万ドルの輸出をするということは、私どもも絶対的な要請であると考えて、これに向って努力していかなければならぬと思います。その上から申しますと、何といってもアメリカ市場というものは非常に大きい。しかもアメリカ市場においては、日本との輸出バランスは、向うから日本が輸入しておるものが、日本から輸出しておるものの倍になっておるというような状況を見ますと、この日米の間におけるわれわれの貿易輸出を拡大するという今後の努力いかんは、先ほど言った大きな目的を達する上からいっても非常に重要であり、またこういうふうな日本品に対するいろいろな輸入制限やあるいは関税の措置というものが、日米の大きな関係から見ましても私は非常に遺憾な結果をもたらしておると思うし、ただ経済的の貿易の上だけではなしに、国交関係やこの両方の協力、友好の関係から見てもまずい。それには十分日本の事情を向うに知らせる。また向うの要望、向うの事情に合い得るものは日本内地において考えていかなければならない。この両者が両々相待つことが必要であります。またその関係においては、いろいろな政府の正常な外交機関を通す以外に、民間がそういう事情に精通し、またいろいろ関心を持っておる民間人の活躍を大いに期待していかなければならぬ、かように考えております。
  78. 太田正孝

    ○太田委員 こまかいいろいろな問題がありますが、時間もございませんので、次に中共問題についてお伺いいたします。  これは外交の機微に触れたことでございますし、お答えができぬかとも思いますが、とにかく鉄鋼の問題は長期五カ年計画ができて二億六千万ドルですか、その契約がととのおうとしており、まことにけっこうな喜ばしき新機軸、新しい道を開いたものと思います。問題は、ただいま交渉中である第四次計画がうまくいくかいかないかの問題であります。こちらとしても買いたいものがあり売りたいものがある。大豆は買いたいし、機械は売りたいし、今日盛んにいわれておるところであります。他の一面におきまして、五カ年計画の第二次計画を進めていく中共としても、日本から求めたいものがたくさんあるわけでございます。私はこの問題につきまして外交の線というものは清潔であってほしい。しかし経済というもののためには政治を動かしていくということが必要である。この二つの問題をうまくまとめていくところに中共問題の結論が出るのじゃないかと思うのです。承わることができるならばこれに対する見通し及び経過をお伺いしたいのでございます。
  79. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 対中共貿易の問題でありますが、日本の貿易を促進いたして参りますことは、これは日本の今日の非常に重要な問題だと考えます。従いまして中共との貿易関係もできるだけ円満にスムーズに参りますことが必要でありますので、その意味において、民間における今日までの各位が努力せられましたことは多とせざるを得ないのでございます。そういう意味において、政府としては貿易がスムーズにいくように希望いたしております。ただ今日、日本としては政治的に中共を承認するわけには参りませんし、岸内閣としてはその方針をとっておりません。従いまして、政府間において論議をいたし、または政府が手をかすというようなことをいたすわけには参らぬのでありますが、民間同士で円満に貿易量の拡大について話し合いができ、それがスムーズに進行されまして、そうして日本品が出、また必要とする原材料が短期もしくは長期に日本に入りますことについては、日本経済を振興することにもなり、また日本国民生活に対して非常に稗益するところがあるので、喜ばしいことと考えております。
  80. 太田正孝

    ○太田委員 もう一つの問題はソ連関係でございますが、何かちょっと私どもの聞いたところでは、平塚君を呼び戻すとかというようなことになったのでございますか、そういうことは御報告し得るところにきておるのでございますか。
  81. 藤山愛一郎

    ○藤山国務大臣 日ソの問題につきまして、平塚代表は漁業委員会に行っておりまして、すでに一月十四日から向うに滞在しております。いろいろ政府といたしましては経過を聞きたい点がございますので、一応帰って報告するように本日政府から申し入れたわけであります。平塚氏は現在漁業委員会委員ではございませんで、政府の代表であります。従いまして、平塚氏が帰りましても、漁業委員会そのものは中絶されるわけではなくて進行しているわけであります。中間の報告のために帰朝を求めたわけであります。
  82. 太田正孝

    ○太田委員 外交についてまだ聞きたいことがございますが、たくさんありますので、カットしておきます。  先ほど通産大臣は、過当競争のことを説かれましたが、各業界の懇談会を開いてやっていく、商社の出発における過当競争が今日の貿易に害をなしておるということについて、こういう方向に進んでおるやに聞いたのでありますが、それはどうなっておるのでございましょうか。  もう一つは、アメリカの公聴会に出た結果をいろいろ聞いてみると、向うの国際商人が来て、こっちで安く売りたたいていったのがもとであるというようなことも聞いたのです。しかも一方において日本工業規格というものがあるにかかわらず、いわゆるJISが最近取り消されたものが相当多いということも聞いておるのです。なすべきことが相当こっちに残されておるのではないか。しかも自由主義経済のもとにおいて、統制的態度をとることは厳に慎しまねばなりません。この過当競争、また国際商人に対する関係、あるいはJISの取り消しなどの問題が起らぬようにする意味においての努力をしていただきたいと思うのです。  さらにもう一つ聞きたいことは、通商に対する減税の問題であります。減税が、負担の公平という立場から見るのでなく、いわゆる輸出を進めるために政策減税をいたさなければならぬことは当然でありまして、今回もこの意味からいえば私は相当なことをされたと思うのです。輸出所得の特別控除を改めたことなどけっこうと思います。また第三国に行く場合の問題も、三%を五%にしたのはけっこうと思いますが、ドイツがどうして輸出が盛んになったかという税制上の問題を考えましたときに、私はドイツのとっておるような海外市場開拓準備金というものを——手っ取り早く言えば損金にしていく、しかも出した金がほんとうにその道に使われた場合においてのみこれを認むるというところに、非常に意味のあるものであると思うのです。ドイツが貿易の盛んになった税の関係におきましては、この点が大へん強調され、われわれ日本にとりまして輸出振興のための課税問題として、くれるにはくれる、実際に輸出振興したならばやるが、そうでなかったならばそれを認めないというこの方式は、とるべきものじゃないと思うのです。ついでに申しますが、政策減税ということは、私の言う意味においては、負担の公平というようなことももちろん税の本質で大切でございますが、たとえば貯蓄の減税問題にしても、貯蓄が大切であるならばなぜあんなややこしい、しかも効果の非常に薄らいでいくような税法にされたのであるか。この輸出減税の問題と貯蓄減税の問題を、大蔵大臣と通産大臣に承わりたいのであります。
  83. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 過当競争防止につきましては、先ほどのお話のように、海外支店の設置につきまして従来かなり無統制だったと思います。そして非常に多くの商社が出ております面、また行ってもらいたいところにはあまり行っておらぬ、こういう面があります。これは実は大蔵省の外貨の問題でありますが、それによって今後認めていきます分については、先ほどお話のありましたように、海外支店同士の懇談会あるいは本店同士の懇談会を設けて、そしてそれらの意見も徴しまして規制をやっていこう、これは実は法律を要しませんので、もう二月一日から始めておるのでございます。また輸出組合等におきましては、従来どうも政府の干渉という権限を持っておりません。協定を結んでおられる組合もありますが、協定を全然結んでおられぬ、あるいはまた結んでおられても内容がどうも感心しない、こういうものにつきましては、輸出入取引法を改正いたしまして、政府の監督権を持ちまして、それでもなおかつ聞かれぬという場合におきましては、貿易管理令によって輸出承認の品目にするというような方法をとりたい、かように考えておるのであります。またただいまJISのお話が出ました。これは国内におきましてはJISを取り消したこともありましたが、輸出品についてはJISを取り消したことは聞いておりません。しかしまだまだいろいろやるべき方法があると思います。またお話のように、いろいろ向うのバイヤーに乗ぜられることが多い。これらにつきましては、メーカー側につきましてアウトサイダーの規制命令を出し得るような輸出入取引法の改正等も考えたいと思っております。  また輸出に関します税制の問題でありますが、御承知のように急ぎましたものですから、先般の臨時国会で輸出所得控除の制度を拡充いたしまして、おそらく百数十億の減税をやっておると思っております。また海外支店につきまして特別償却制度があるのであります。そのほかにも輸出損失準備金制度、こういうのもあります。これは実はこの七月に期限が切れますので、その期限の延長を本国会でお願いすることになっております。ただ、海外支店あるいは輸出に対する準備金制度というのは運用がなかなか困難でありますので、新しい制度としては設けませんで、輸出入組合の非出資組合につきましては課税をしない。これはそういうふうにいたしますと、先ほどお話のありました海外宣伝の経費あるいはロビイストを雇う経費、そういうようなものに非常に役立つと思っております。そういう方法をとって輸出の振興をやりたい、かように考えております。
  84. 太田正孝

    ○太田委員 ドイツ方式については御返事もなかったのですが、主税局等において十分御研究を願いたいのです。  私は、昨年来の経済情勢を見て、非常に遺憾に思う根本的の問題を一つ感じておるのです。それはどういうことかといえば、金融引き締めをしたが、その引き締めされた人が非常に不平を言うけれども、国民全体が果して日本の国際収支がかかる危機に達したということが、政策の上においても生活の上においてもいかにくるかということを、ほんとうに納得されておるか疑うのであります。いわば円の生活でなく、お互いが外貨生活をしておる。こういう事柄が子供の教育においては最も大切なことであり、女につきましても、また一般人についても大切なのであるが、ほとんど何もないというのが今日の状況ではございますまいか。私は、イギリスが朝の食事の卵に輸入品なりとプリントしておる。飲むなというのではない。外国から買ったものであるということを今日の今において国民の間にしみ込ませておる。よく考えていいことじゃないか。ウイスキーの一番いいのを出すが、それは外へ出して二級品を使っておる。外国人が日本へ行けば世界中の一番うまい酒が飲めるということは、日本国民の生活について何たる侮辱ではございますまいか。こういう意味から言いまして、外貨生活というようなことをほんとうにしみ込ませなければ、明治、大正の時代と違って、この昭和の現在の経済生活というものは、朝から晩まで外貨生活であるのです。外貨生活の大切なことを一行でも今日の教育におきまして教えておるか。放送は盛んにされます。おもしろいこと、おかしいことはあるが、この切実なわれらの生活、われらの経済に関係したことがないということは、根本的に教育の面からも、放送の面からも、考えられていいことじゃないかと私は思うのでございます。これに対しまして総理大臣はいかにお考えになっておりますか。
  85. 岸信介

    岸国務大臣 私も太田委員と同じ考えをいたしておりまして、昨年来そういうことをいろいろな方面国民に徹底せしめるようにということを申し述べてきております。その際に——実はドイツのある新聞を私に届けた人がありまして、漫画で、二人が会話しておる。君は朝飯は何を食ったのだと一人が問うと、いや、いつもの通り、ごく簡単なものだと言う。簡単なものだと言うから、一体何を食っているのだ。いや、コーヒーと卵とパンだ。それは君大へんなものを食っているじゃないか、一体そのコーヒーというのは、ドイツのどこでできているのか、卵はどうなっておるのか、パンというけれども、ドイツでいかに小麦を輸入しているかということを君知っているのか、君の食っているものはほとんどドイツでできない、外国から来ているきわめて重要なものを食っているじゃないか、それを簡単と言っているのは、はなはだなにだということが、きわめて簡単な漫画で示されている。そういうドイツの新聞を私に示して、このことは、理屈じゃなしに、もう少し国民のだれにもわかるように、ごく平易な方法で知らせる必要があるということを教えてくれた人があるのであります。私も非常に感じまして、そのことを、いろいろ新聞やその他の方面にも一つ十分徹底するようにということをお願いしてきておるのでありますが、しかし、実際は、十分にその効果がいってないことは非常に残念でございます。太田委員お話通り、われわれは決して今日の日本の状況で、一切の外貨を使わないとか、あるいは外貨生活というものに対して狭い意味からそれを押えるということじゃなしに、国民が十分に理解し、その外貨をもってわれわれが食べなければならぬところのものをいかにして求め得るかといえば、やはり外貨を獲得することにあるんだ、そのためには、産業上の生産性も向上しなければいかぬし、不必要なストライキもやめなければいかぬというふうに(笑声)徹底せしめるところに、私はそのPRがある、かように考えております。
  86. 太田正孝

    ○太田委員 経済教育ということについて、政府が、もう少し力を入れてほしいということを御了解下すったことは、まことに感謝いたします。しかし、新しい時代には新しい考え方を持っていかないと、たとえば、今日昔ながらの貯蓄論を唱えておるが、こういうことでは、私はいけないと思うのです。河上肇君著わすところの「貧乏物語」は、何と言っているか。自分自分の金を自分で使うのに何が悪い、しかし、ぜいたくをすることは他人に迷惑をかけることであり、生活に不必要なものを作る意味においてぜいたくはいけないと言っている。ポヴァティ・ラインを引いて、貧乏線はここであるといったときに、その貧乏線を向上して貧乏を解脱するために何をするかといえば、新しい経済論によった新しい貯蓄論でなければ、ただためろ、ためろと言ったってだめです。こういう意味において、今の経済教育というものに対しては、私はいろいろな点が議論されているようですけれども、特に政府として今後力を入れてもらいたいと思うのです。  次にお伺いしたいことは、今までは国際収支の均衡ということからやって参りましたが、問題は、今後において物価の安定ということに経済問題の中心を置いていかなければならぬ、今までも置いていったであろうと思いますが、この点につきまして、どういう見通しを持っておるのか。昨年の四月が一番高かったのでございますけれども、すでに八分三厘にまで下りました。一昨年、いわゆる神武景気といわれたときが一〇・九%上ったのでございますが、相当に下ってきたのです。けれども問題は、非常に上ったり非常に下ったりということは、これはいけないことなんです。一割も一年のうちに上下するなんて、とんでもないことです。ある経済評論家がいわく、一割も上下するような内閣があったら、内閣総辞職すべしという警告を出したほどです。これは、まじめな人のまじめなお話でございますが、私は、そういう意味において、物価の安定ということは、われわれの経済生活に必要なるのみならず、経営をしていく事業の上からも必要なことであります。経済の基本方針といたしまして、今後にどういう考えをもっていかれるのであるか、その方策につきまして、企画庁長官なり大蔵大臣からお答えを願いたいと思います。
  87. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 昨年五月から緊急総合施策を実行いたしまして、ただいまのところこの一月で、三十二年の四月に比べまして、日本の物価指数で大よそ五%、それから経済企画庁の指数では、経済企画庁の方は本年の二月になっておりますが、昨年の四月に比べまして九・五%、約一割近い低落を見ております。大体こういうところで、私は物価の低落を目途としておる政策は大よそ成果を上げておる、かように考えておるのでありまして、今後は、むしろこういうような一般的な物価の引き下げという方向よりも、国際物価の関係において、国際的に安過ぎるのもありますが、なお国際的には水準が高過ぎるのもあります。これらを調整して、内外にわたって大体物価の安定を期そう。そして三十三年度は、平均いたしまして、三十二年度に比べまして大体私は横ばい、大まかにいけば卸、小売とも横ばいであろうと思いますが、卸価格は若干低く、小売の方、消費者価格の方ですが、この方は横ばい、企画庁の状況によりますれば、卸物価は一・四%三十二年度に比べて下るというふうになっております。大体そういうところを目途といたして物価政策を立てておるわけであります。
  88. 太田正孝

    ○太田委員 一・四%のねらいをもっていこうという、その計画はけっこうでございますが、ただいま大蔵大臣の話のうちに、国際物価との関係でございますが、先ほど通産大臣も指摘されたごとく、繊維問題というのを考えるときに、国際物価の上においては相当に低いのです。こういう問題をどう考えていくのであるか。日本の産業のうちで、二大産業といわれる繊維工業が今日の状態にあるときに、国際物価との関係におきまして、通産大臣なり大蔵大臣は、この物価問題を中心としてどうお考えになるのでありますか。
  89. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 繊維の価格については、これは、むしろ数年来といっていいくらい前からの問題でありまして、これは結局生産過剰にあるのであります。従いまして、この生産を調整しなくては、価格の安定も困難、また同時に、さようにこの生産がふえるにかかわらず、これを売らんとする商人は多いという関係で、貿易面におきましても、国際水準に比しまして不当に低い値段で売りさばいておる、こういう事態が発生いたしております。それで、そういうような状態が続いてきたのでありますが、今日では、もはやそういう状態では、生産者も、また商人もいけなくなりました。そこで、これは通産大臣からまたお話があるかもしれませんが、繊維については、二%ないし五%の生産の調整を加えておる。私は、やはりこの際は、繊維が相当な操短を思い切ってやるべしだという見解にあります。そして需給をほぼ見合うようにいたしておけば、今の滞貨を消化させる道はおのずと出てくる。そうしますと、今のように、たとえば国際水準に比べて三割も安いという値段で、品物はたくさん出るが、取る外貨は非常に少い、こういう損の取引をしなくても済むであろう、私は、大よそある程度国際水準に比して低い価格なら、十分競争し得るのでありますから、国際収支の上からも有利でありまして、そういうふうにいたしまして、価格を、国際水準に比してある程度低い、大よそ国際水準の程度に安定させたい、かように考えているわけであります。
  90. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 繊維につきましては、ただいま非常に採算割れを、ほとんど綿糸も何も全部いたしているのであります。従って、大蔵大臣のお話しの通り、生産調整をまず第一にやらなければなりません。またこの不況対策としましては、輸出入取引法に基きまして、政府の勧奨で、人絹等につきましては一手買い取り機関でやっております。また場合によりまして、といいますよりも、輸入原料についての削減をしまして、そうして安定をはかっていかなければならぬという段階にきておると私は思っております。また過剰織機につきましては、御承知のように予備金も出しまして、従来の使い残り等を入れまして一億くらいの金を出しまして、年度内に五千台の処理をいたします。また賠償等につきましても、要求があれば、それによって滞貨の処理をするということを検討いたしておるのであります。それで究極におきましては、それらに伴いまして、必要な資金につきましてはケース・バイ・ケースに考え、そうして安定した価格に早く引き戻したい、かように考えている次第であります。
  91. 太田正孝

    ○太田委員 以上をもって、私は経済の立場から見た諸問題——一萬田大蔵大臣の言われた、操業短縮がどういうふうに進んでいくか、また輸出がどういうように伸びていくか、さらに金融が普通の状況にあれば、こういう意味において順調に運ぶというのが大蔵大臣の考えであり、これを分けて質問したのでございます。その間に教育の問題等を中に入れたのでございますが、結局はこういうことが金利引き下げという問題のときに突発して、世の中で議論になったのでございますが、金利が下っていく、あるいは準備預金制度を進めていく、あるいはマーケット・オペレーションをやっていく道順は、大蔵大臣の指定された通りだと思うのです。ただ昨年来、病気にたとえますれば、病気にかかってだんだん回復してくるときにきているのでありますが、回復したときにあまり大事をとることもいけないし、一つの活気をもたらすことも必要であり、ここが非常にむずかしいところで、金利をいかなるときにいかなる方法で引き下ぐべきかということは、ことに異常に高い日本の金利に対しましては、大蔵大臣が深甚の注意を払わなければならぬことと思います。イギリスにおきまして昨今出ている新聞は、何かといえば、毎週木曜日に英蘭銀行は長い間の慣習で—一これは津島君が一番知っておられることですが、木曜日に二分ずつ下げていく、上げていくという方向をとっておる。今日英蘭銀行の前に英国の市民が木曜日になるとたかっているそうです。どうにかして景気をよくしてイギリス国民生活を高めたいと考えている。これは大いに味わうべきことであります。ソーニ—クロフトが非常に緊縮財政、緊縮経済をやってやめてしまった。それが幽霊となって現われておって、今金利を引き下げることができないではないかという皮肉な論説さえ出ております。日本はせっかくここまでしてきた。思い出せば昨年の—一やがてまる一年になります。この苦心の結果相当のよい成績を示してきたのでございますから、結論的にいって、金利のこれを動かすべき時期というものは十分御注意を願いたいと思うのです。聞きたい点もありますが、経済の問題はここで切り上げます。  三番目の問題に入ります。地方行政及び国家行政との関係でございます。申し上げるまでもなく、予算は国において一兆三千百二十一億円、地方財政計画がやや浮いておる。少し少い。例年になく少くなったんですが、一兆二千三百七十億。しかも国の財政と地方の財政とをつないでおるものは二つの大きいパイプでございます。一つは交付税でございます。もう一つは補助金でございます。いわゆる国庫支出金でございます。この点から見まして、地方の事情を知らない者が、非常に地方は豊富である——私は問題は二つあると思うのです。地方の行政というもののあるべき姿が、国家の行政の間においてきまらない、ここに問題があると思うのです。すでに町村は合併されましたが、問題は府県制度へきております。この府県が人口において非常な差がある。東京が八百万といい、鳥取県が六十万円という、こういう差がある。さらに貧富の懸隔がひどくなっておる。交通事情等を考えれば、この仕事をする人の建前から見れば、府県制度というものを今日のままにしていけないということは、だれも言われることである。一日おくれれば一日の損があるとまでいわれるところであります。すでに調査会は答申したのでございます。しかしこの答申案については、世間も区画割等につきまして必ずしも賛成しておらぬように思われますが、地方自治というものが民主政治基盤でありといたしましたならば、この行政機構というものをどういうふうにするかということは、日本政治の基本でもあると思うのです。すでに自治法しかれて十年、天皇はその十年のお祝いに来られて、国の政治の進展の基礎であると言われた。それが今日の姿であります。われらなすべきこと多しといえども、この府県制の問題をどういうように総理はお考えになっておるのでございますか。これを承わりたいのでございます。もう一問あります。
  92. 岸信介

    岸国務大臣 府県制度の問題はきわめて重大な問題であります。一面において、今御指摘になりましたように、民主政治の基礎ともいうべきものでございまして、この地方自治の政治は、わが国の民主政治の上に非常な大きな影響力を持っておる大事な問題であります。しかも御指摘のありましたように、現在の府県の区域というものが、いろいろな点において非常に懸隔を来たし、従ってこの地方自治の内容につきましてもいろいろの問題があることもよく承知いたしております。従いまして政府としては、今後これはいかにすべきかということにつきましては、地方制度調査会に諮問をいたし、その答申も聞いております。またこれに対して広く国民の間における議論も私ども聞いております。わが党としても特にこれについて調査をいたしておる問題でございます。私は各方面の御意見を取り入れ、またこの問題が今言ったように重大な意義を持つものでありますから、慎重に一つ調査研究した上において結論を出したい、かように考えます。
  93. 太田正孝

    ○太田委員 関連して問題となりまするのは、国の行政も地方の行政も非常にむだが多いということです。その第一の問題は出先の機関の問題です。前には土木出張所とか税務監督局などというものが九十四しかなかったものが、今日幾らありますか。千四十九あるのです。これが、現状の日本政治をやっておる姿から見て、いかにも大きい。考慮すべき、解決すべき問題ではないかと思うのです。むだここにありです。また行政がうまく流れていかぬゆえんもここにあると思います。  もう一つは、こういうことからして、国家官吏なり地方官吏、あるいは公務員関係の者が非常にふえたという事実を、お互いに深く考えねばならぬと思うのでございます。現在の一般会計、特別会計、政府関係機関における国家的立場における官吏の数というものは、百六十三万七千人です。それから地方公共団体、この中には市町村の一般職員、あるいは府県の職員、警察職員、消防職員、学校教員を入れておるのでございますが、地方官公吏が百四十四万三千人、国の方が百六十二万七千人でございます。これは臨時職員と称するものを二万人入れての計算でございますが、合計すると三百万人でございます。日本の人口九千万人に対しまして三百万人です。これらの人を割ってみまするならば、三十人に一人ということになります。一家もし五人の家族であるとしたならば、いわゆる六世帯において、一人のこういう官公吏があるという事実を、ほんとうに政治考えられれば、国の立場からあるいは地方の立場から、世の中においてこのくらい考えなければならぬ問題があるかと思うのでございます。出先機関の整理の問題及び役人の数の多いという問題、それで今年の予算についてこの程度でやらなければならぬということはわかっておりますが、政府与党との間に残されたる大きい問題として、この二つの問題を地方制度改革と同時に考うべきものではないかと思うのでございます。いかがでございましょうか。
  94. 岸信介

    岸国務大臣 地方制度の問題に関連して、いわゆる中央からの各省の出先機関が非常に多くなっておる。この問題と関連して考えなければならないのじゃないかという太田委員のお考え、私ごもっともだと思うのです。私のごとき戦前の役人をした経験を持っておる者から見まして、当時からもこの地方制度と各省の出先機関との関係というものにつきましては、いろいろ議論があったのでありますが、戦後におきまして現実の問題として、どんどんとその出先機関がふえておるということは、一面において地方自治制度の健全な発達の上から見ても、いかがかと思われる節が相当ありますし、従って自治制度の完備のためにも考えなければならない。さらにあるいは今御指摘のありましたように、能率の点、むだ排除の点、行政の有効なる効果的な運営という上から見ましても、大いに考えなければならぬ問題であります。従いまして地方制度の問題、これと関連して不可分の関係に立つ問題として、やはり一緒に考究して適当な方策を立てなければならぬ、かように考えております。
  95. 太田正孝

    ○太田委員 もう一言お伺いいたします。府県制度にいたしましても、区画の問題であります。そうしてこの事柄は一面に行政の執行者の問題であると同時に、議決機関の問題でございます。問題は結局するところ、その議決機関を構成する都道府県の議員の問題であります。さらに衆議院、参議院の議員の問題でございます。選挙制度の問題でございます。結局するところ、問題はここが結論であって、出発点ではないかと私は思います。これは時期の点は別といたしまして、総理大臣といたしましては、衆議院の選挙制度につきまして小選挙区制度を支持せられるや、あるいは参議院の全国区制度についていかに考えられるや。これをはっきりするところにおいて、初めて政治の道が開かれていくのではないかと私は思うのでございます。政策というものは一面に進歩性がなければいかぬ。他面におきまして同時にこれを行う決行性がなければいかぬ。若さと健康、これは実にいい言葉です。しかし若さは進歩性がなければいかぬ。健康ということは腕相撲をやることではないのです。これを行うことなんです。決行することなんです。こういう意味から申しまして、重大なるこういう問題についての総理の所見を承わりたいのでございます。
  96. 岸信介

    岸国務大臣 衆議院の選挙制度について小選挙区制の問題でございました。私はこれはかねて二大政党というものが、国民政党として両方とも発達していくためには、小選挙区制が最も適当な制度であるという考えのもとに、かつてこの小選挙区案を国会に提案をいたしたときの幹事長であったのであります。これは決して一部の人が言っているように、保守党が多数を占めるためだとか、あるいは憲法改正の前提であるとかいうような問題ではないのでございまして、ほんとうに二大政党国民政党として民主政治を担当する政党にふさわしいものに発達していくためには、どうしても選挙制度は小選挙区制がいいという私の信念から出ておるものでございまして、従いましてそれは時期であるとか、あるいは小選挙区の区割の立て方であるとか、いろいろ考究すべき問題はありますが、考え方としてはさように私は考えております。  参議院の全国区の問題につきましては、大体選挙におきまして全国区というような制度が、選挙の実態からいって適当であるかどうかは、非常に私は研究を要する問題であると思います。ただ参議院におきまして、ああいういわゆる全国区という制度が置かれたことにつきましては、やはりその理由が当時存しておったと思うのであります。すなわち二院制度である以上、衆議院の構成と全然同一のような構成のもう一つの院を作るということは、両院制度の趣旨からいってどうかという考えから、ああいう全国区というものが設けられたものだと思うのでありますが、しかし実際のこの選挙を見ましても、またどこの選挙で申しましても、こういう大きな、そうして日本のような九千万も人口のある全国的な選挙区で選挙をするということは、実は選挙の本質から申しまして、私は非常に疑問が多いと思います。しからばこれにかわるどういういい方法があるかということにつきましては、今申しました両院制度の本質にかんがみても十分に検討しなければならぬ問題である。私は結論的にどういう制度がこれにかわる制度としていいかということは、まだ結論を持ちませんが、全国区の制度につきましては、私は一つの疑問を持っておるということを申し上げておきます。
  97. 太田正孝

    ○太田委員 地方制度の問題につきまして、私は順序を追って聞きたかったのですが、総理大臣の都合によって問題のとり方を変えました。しかし残っておる大きい問題は、この国会においてもまた予算を作る途中においても大きい問題になった補助金の問題と事業税の問題です。何としてもこれは考えて解決しなければならぬ問題でございます。一体、税金を納めるけれども、それがどこを通してどう出ていくかということについて、思いをいたさなければならぬと思うのでございます。国税、その中には専売も入れ、入場税も地方道路税も特別とん税も入れまして、国へ入るところのものが幾らになるか、地方税が幾らになるか。そういたしますと、租税の総額は全体におきまして一兆六千八百五十六億円になるのです。この数字は自治庁に頼んだものですが、非常にいい数字と思いますから、もし各位に御参考になるならば委員長から渡されることを希望いたします。租税の合計におきまして一兆六千八百億円になるのでございますが、国へ出すのが七で地方へ出すのが三でございます。地方へ出すのは五千百五億円、かように窓口は別に納めるが、どういうようにして金が使われるかというと、大きな問題は、ほとんど大部分は、地方の門戸を通していくのであります。つまり、地方を通じて使われるものは、地方税はもちろんのことです。交付税は当然なことです。譲与税も入ります。国庫支出金という名前のもとにおいて義務教育の問題、公共事業の問題、失対事業の問題、普通の補助費の問題があるのでございますが、こういうものが幾らになるかといいますと、交付税の関係は三十一年度分の清算したものを引いて考えますと、二千百二十二億円です。これが国から出て地方へ渡る大きなパイプであります。もう一つのいわゆる補助金と称せられるものは、これに基地交付金も加えます。これは十億ありますが、私ども見たところでは補助金的性質と見ているのであります。そうしてそれが三千九十二億円でございます。結局地方へずっと流れていくところの金というものは、合計いたしまして一兆六百四十一億円でございます。国税とし、地方税等として入ったものの六割三分が地方の門戸を通して出ていくのでございます。これは私は非常に御注意願いたいことで一地方を通していくものが、国税地方税全部入ったものとしてその六割三分を地方で使っておるのです。国で使うところの金は三割七分です。ここに重大な地方行政と国の行政との関連があるということを考えましたならば、問題は二つあります。交付税の問題と補助金の問題でございます。その交付税は三大国税、すなわち酒の税と所得税と法人税、この大きなものの四分の一から三分の一の間に今あるのです。大きな国の税のうちでここまでいくということは、地方の問題を別としますれば、税制上から考えましても十分問題が壁にぶつかっておるということを考えなければならないと思うのでございます。また補助金につきましては今回初め大蔵省の役人の方方が削られましたが、実は今日は常任委員制度のもとにおいて、あるいは農林関係あるいは商工関係、これはみなよく知っておるのです。党にも同じ組織があります。そこでもってこれじゃいけないということで消していった。いやな言葉のようですが、国の財政を大蔵省の役人の方々は私物視してはいけません。私物視してはいけないのです。しかも法律できまっておるものさえも予算で削ろうなどということは、大それた考えと言わなければならないと考えるのであります。こういう点から考えまして、補助金制度というものをどう考えるか。効率的ということを申しますが、前には一つのものについて七、八百円の補助金がありました。今日といえども一県千円のものがあるのです。それを種にしてまた地方における事業の大きさを締めていくということが、今日行われておるのです。大蔵大臣知るや知らずや、自分の下の方においていろいろな整理をするが、あなたは租税の六割三分も地方へ金が出ていって、その中において三千億円というこんな大きな金が占めているということを、財政上におきましても、今まで国の財政のみ考えて、地方財政についてはとんとのんきであった。私は申すのです、実は私どもも知りませんでした。若槻礼次郎が何と言ったか、国の財政を知ったが地方財政は知らない。われわれもそうです。今日の役所の人もそうです。この国会においても同様です。しかも行政において国と地方とが関連のある形においていかなければならないと同時に、かくのごとき姿においてただ役人根性で法律まで踏みにじってやるというような、こんな整理ではいけない。もっと根本的に補助金制度というものを考え考え方はないか、また交付税制度につきましてどう考えるか、大蔵大臣及び自治庁長官にお尋ねいたします。
  98. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 補助金の問題は、一つは中央の行政と地方自治の問題にも関連をすると思いますが、今日の状況におきましては地方の財政も、これは自治庁からお聞き願いましょうが、私はやはり漸次よくなってきつつあると思います。従いましてこういう機会に補助金につきましては、従来からこれは地方が非常に困窮しておるというようなこと、あるいは地方のごく根幹的な経費に対して補助金を出しておる、あるいは先ほどお話しがありました千円とかいう、ごく零細な補助金、また何かを奨励するような意味合いで補助金を出すというのもありまするが、これらの補助金は私は原則として今後はやめていきたいというのが本旨であります。ただ御承知のように、どうも補助金ということになりますと、会計検査院等では非常に補助金の使途について毎年々々不適当な使用と件数、金額が上っておるのでありますが、いざ補助金について整理をするとなると、これは非常な政治上の困難がある。この点は御承知の通りであります。これは何回実行に着手したかわからないのですが、いろいろな事情で思うように行きません。これは一つには今お話のように、予算編成のときになって考えるというような行き方も、改正をいたすべきものがあるかと思うのであります。私は今度は関係各省の人と、何といいますか平常のとき、予算なんかに関係のないときに、特に農林省のお役人の方々に大蔵省に来てもらって、あるいは行ってもいいのですが、一緒になって、一つよく相談をして、これはみんな国のためを思うことには間違いないから、冷静なときに、一つこの補助金はやめにしよう、こういうことをきめていきたい。そうしたならばいいのじゃないか。そういうあらゆる手を尽して、そうしてこの補助金の整理は大蔵大臣としては断行いたしたい、かように考えております。  交付税の点につきましては、先ほど申されましたように、大蔵省としては三税について一定率を地方に交付することは、これは法律の規定でありますから、これについては私から特に申し上げることはありません。ただ私はやはり今日中央と地方との財政について非常に苦慮することは、これは地方自治という問題にからまる問題でありますから、中央からはいろいろな形で、今おっしゃるように財政的な援助とか資金が流れるのでありますけれども、この指導については何ら関与ができない。流れる分は流れるが、その流れ方については地方自治という建前の上において中央はどうにもやれない。こういうふうなことを一体どういうふうにすればいいのかという点を、やはり私は今後検討していいのじゃないか、かように考えます。
  99. 郡祐一

    ○郡国務大臣 補助金の点は確かに、国策を浸透させるという意味では、国庫補助というものは役割をいたしておりますが、同時に、これの交付の仕方でむしろ財源配分を狂わせる場合がある、あるいは地方の自治を侵害するというような場合がございます。従いまして私は補助の性格、対象、補助率、こういう点からよく判断をして参らなければならないと思います。御指摘の低額補助につきましては、その効果等の点、あるいは地方がやむを得ず継ぎ足しをいたしまして、その方が地方の財政を危うくするというような事情もございます。そういう点から特に検討を要するものがあると思います。地方交付税につきましては現在二七・五という率は、私はある程度交付税というものでは一つの段階に来ておると思います。地方財政全体を見まして、何と申しましても自主財源に乏しい地方の状況であります。独立の財源を私はもっと賦与して参らなければ相ならぬと思います。地方自治体というものの性格から申しまして、応益的なもの、応能的なもの、これらを組み合せて地方の財政が持っていくようにいたさなければ相ならぬと思っております。しかしながら、このたびの交付税の増率によりまして、公債その他の面とも考え合せ、漸次歳入構成が是正されているということは言えると思います。またなかなか行政水準を確保するというようなことが完全にはできませんけれども、それが可及的にできて参りますように、従いまして、一面におきましては、給与全体等につきましても国家公務員との比率は保ちながら、これをでき得る限り財政の大きい負担になりませんように、あらゆる点から注意をいたしまして、そうして地方財政の健全化をはかって参りたいと思います。
  100. 太田正孝

    ○太田委員 いま一問で終りますが、大蔵大臣の地方財政にゆとりありということは、常に聞かれることでありますが、なるほど一・五が加わった。けれども、これは党議においても決定しておるがごとくに、また社会党との間にできた附帯決議にも、公債を処理するということを主としたものが——全部ではない、主としたものであります、その金をもって用途がはっきりしておるようなものをもって、これが加わったからという論拠にすることは、いかがであろうかと思います。なお行政管理庁は、地方の不届きなる支出につきまして、しかも再建団体について指摘されました。そういう点があります。あるいは事務所がりっぱであるとか、自動車を乗り回すとか、陳情が盛んであるとか、私どもも知っております。けれども、地方自治体の実態というものを考えたときには、そこに非常な借金を持っておるということを考えなければならぬのである。三十一年度末—三十二年度末はまだわかりませんが、一般会計分で五千五百四十五億円あります。国の借金は幾らあるかというと、四千億円です。これに外債関係のものが、さらにほかに八百八億円あります。短期債としての大蔵省証巻等がありますが、地方は中央よりもずっと借金を持っておるという事実を何と見るのであるか。またもう一つは、整理をされた人とか、昇給をしておらない者が国家官吏のうち一人でもありますか。しかるに地方のまじめな人たちは、その村の人たちは、その町の人たちは、こういう点までして今日やっているものがあるということ、行政管理庁の非難があると同時に、こういう事実の少くないということも見ていただきたい。道路が悪い、学校が悪い、すし詰め教室などと言いますが、行政水準が下っておるという事実をのほほんと国家の官吏の立場において考えている人が、地方のことに果して思いを寄せておるのであるか、これが私のいつも問題とするところであります。こういう意味におきまして、行政というものと関連しなければ、ただいま言った交付税の問題も補助金の問題も解決できないのです。どうか大蔵大臣は、国の行政と地方行政、事務配分等の問題につきましてよく考えられた上に——ただ単に三を二にするというような考え方でもって、補助金の整理なり、あるいは交付税のことを考えてくれては困ると思うのです。その端的なる問題として、ここに出ているのが事業税の問題であります。今国会においては見送られましたが、この事業税は、地方府県の収入であります。しかも、これを負担するものは中小企業者であります。この府県の収入をどう考えるか、府県税収入の五割二分です。半分以上であります。これによって道路もできておるのである、下水もできておるのである、学校もすし詰めを免れるべく努力しておるのが、こういう金なんであります。府県へ入る金であります。この金が府県に行かずしていけるかということが、行政関係の問題であります。同時に中小企業者にとりまして——われわれは団体法を作るとき以来、非常な熱心をもってしました。今日の税の重いということも知っております。これは、税本来の建前から解決しなければならぬ一方に、税の五割二分を占めておる府県の収入をどうするかという問題と、中小企業者の現在の状況をどういうようにやっていいかという問題、シャウプ勧告以来、シャウプも困った、結局何ができたかといえば、附加価値税を法律は作ったが、実行できなかったじゃないか。アメリカのごとく、小売商業が盛んであって、一分の税をかけても非常に入る国、そういうのと日本とは違います。従って、軽い附加価値税を持ってきて、アメリカの州税であるところの小売税は入れなかったのでございますが、今日におきましては、零細中小企業の多いという現実をほんとうにながめましたならば、売上税か、あるいは附加価値税か、あるいは今の、所得がおそらく八割見当はあると思いますが、所得を標準にしてとっておる、従って二重課税といわれる現行の制度につきまして、租税の上からどう考えるのか、府県の収入をどう考えるのか、この二つの問題を同時に解決するところにおいて、初めて問題が解決されると思うのでございます。私は、中小企業者のためには、どうしても減税をしなければならぬと思います。ただし、中小企業を思うときには、同時に農村の負担がどうなるかということも考えねばならぬと思うのです。軽はずみにすべき問題ではない。従って、府県の収入という建前からの問題と税本来の性質の建前からと、二つの問題を解決すべく、政府は今後いかにやっていくかというのが、大蔵大臣及び自治庁長官に対する質問の最後であります。
  101. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 仰せのように法人事業税、これは、地方の財政の中で財源として最も大きなものであります。今お示しのように、約五割に近いものをこれが占めております。これについては、やはりかように地方の財政で非常に主要な財源であるということと、それからもう一つは、この事業税というものは、経済の景気に非常に左右されて、景気のいいときには非常に歳入がふえる。従って、地方財政の支出がこれに応じて膨張する傾向がある。そうすると、景気が悪いときには、歳入は減るが、事業は減らない。ここにまた地方財政を悪化させる原因を作るのじゃないかというような、そういう性向を持っておるのじゃないか。同時に、今お話しになるように、これが中小企業の負担にいく、いろいろの問題をこの税は含んでいると思います。私どもとしては、国の方において法人税を減税するに応じて、地方も法人事業税を軽減されることを特に希望するのであります。しかし、今言ったように、これは地方の財政において非常に大きな財源にもなるということであれば、国としても、やはりその財源について考えなければならぬこともある。これは十分検討いたしまして——そういうことを検討いたしましても、私は、やはりこの法人事業税は軽減するがいいという考え方でおります。
  102. 郡祐一

    ○郡国務大臣 中小企業者の日本の経済におきます特殊の立場、またその実態から申しまして、各般の施策に、さらに税制なり金融なりの措置を十分講じなければ相ならぬと考えるのであります。ただ、そのために昭和二十四年以来——改正をされましたのは二十五年度からでありますけれども、累年これを改正いたしまして、現在では、その当初に比べては約三分の一程度の率となっております。納税者からいえば半数に相なっております。従いまして、本年は、自転車税、荷車税を取り上げて、これを取り上げなかったのであります。さらに御指摘のように、府県の独立税の二千二百億のうち千二百億まで、事業税にたよっておるという状況であります。これを所得にかえて、附加価値なり売り上げを考えるということも一つ方法でございましょう。しかし、私は根本的に、府県といえば、事業税と住民税以外にたよるものがない、市町村は固定資産税と住民税以外にたよるものがない。雑税がふえてきたからといって、府県の税が増すから減税できるということは、なかなかこれは、地方の実情を知っておりますものには考えられないことでございます。従いまして、根本的に地方税制と地方の財政全体、また地方と国を通じまして、もっと有力な財源を与えて、地方の財政をほんとうに、かつては——かってはと申しましても、数年前まで、給与から失対事業まで全部起債で持たせておった、その荷が現在残っておるという地方に、いい財源を与えて、そうして、しかしまた必要な減税をして、負担の軽減をはかるという方にあわせて考慮して参りたいと思っております。
  103. 太田正孝

    ○太田委員 一言つけ加えておきますが、もちろんこの問題は税制調査会等において十分注意してもらいたいのです。しかるに税制調査会の構成はどうなっておるか。地方税については大蔵省と自治庁との共管でございますが、主たるものは自治庁であらなければならない。しかるに税制調査会の委員の中に何人おりますか、こんな状況で、地方の事情も知らぬような人たちが何を言うのであるか。構成も考えてもらいたい。そうして親切に地方の問題を考えなければならぬ。結局するところ、民主政治の基本が自治体にあるということを、ほんとうにのみ込んだときに、初めて政治の基本が生まれていくのであると思うのであります。  私はお約束にもかかわらず、長く話したことを恐縮に思います。第一点として述べましたる予算の問題、第二点として述べたる経済の見通しの問題、第三点として述べましたところの地方と国との関係についての行財政の問題、以上をもって終りといたします。  社会党のお考えについても、政府のお考えを聞きたかったのでありますが、これは討論に譲るべきものと思います。また国民に対しては、選挙のときにまみえようと思います。
  104. 江崎真澄

    江崎委員長 散会後、理事会を開きまするから、理事のお方はお残りを願います。  明後三日は午前十時より開会することといたしまして、本日はこれにて散会いたします。     午後四時二分散会