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1958-02-26 第28回国会 衆議院 予算委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年二月二十六日(水曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 江崎 真澄君    理事 今井  耕君 理事 川崎 秀二君    理事 重政 誠之君 理事 田中 久雄君    理事 橋本 龍伍君       小川 半次君    大橋 武夫君       太田 正孝君    上林山榮吉君       北澤 直吉君    久野 忠治君       河本 敏夫君    周東 英雄君       須磨彌吉郎君    中曽根康弘君       永山 忠則君    楢橋  渡君       野澤 清人君    野田 卯一君       船田  中君    松浦周太郎君       南  好雄君    宮澤 胤勇君       八木 一郎君   山口喜久一郎君       山崎  巖君    山本 勝市君       岡田 春夫君  出席国務大臣         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 一萬田尚登君         厚 生 大 臣 堀木 鎌三君         農 林 大 臣 赤城 宗徳君         通商産業大臣  前尾繁三郎君         運 輸 大 臣 中村三之丞君         労 働 大 臣 石田 博英君         国 務 大 臣 郡  祐一君         国 務 大 臣 津島 壽一君  出席政府委員         内閣官房長官  愛知 揆一君         法制局長官   林  修三君         総理府総務長官 今松 治郎君         大蔵事務官         (主計局長)  石原 周夫君         大蔵事務官         (主税局長)  原  純夫君         厚生事務官         (大臣官房長) 太宰 博邦君         厚生事務官         (保険局長)  高田 正巳君         水産庁長官   奥原日出男君         気象庁長官   和達 清夫君  委員外出席者         大蔵事務官         (主税局税制第         一課長)    塩崎  潤君         海上保安監         (水路部長)  須田 皖次君         運 輸 技 官         (気象庁予報部         長)      肥沼 寛一君         専  門  員 岡林 清英君     ――――――――――――― 二月二十四日  委員植木庚子郎君、内田常雄君、春日一幸君及  び横路節雄辞任につき、その補欠として中川  俊思君久野忠治君、勝間田清一君及び辻原弘  市君が議長指名委員に選任された。 同日  委員久野忠治君及び中川俊思君辞任につき、そ  の補欠として河本敏夫君及び植木庚子郎君が議  長の指名委員に選任された。 同月二十五日  委員古井喜實辞任につき、その補欠として久  野忠治君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 二月二十五日  昭和三十三年度予算に関する陳情書  (第五〇六号) を本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  昭和三十三年度一般会計予算  昭和三十三年度特別会計予算  昭和三十三年度政府関係機関予算      ――――◇―――――
  2. 江崎真澄

    江崎委員長 これより会議を開きます。  昭和三十三年度一般会計予算、同じく特別会計予算、同じく政府関係機関予算、以上三案を議題といたします。  質疑を続行いたします。船田中君。
  3. 船田中

    船田委員 私は防衛問題を中心といたしまして、国際情勢及びそれに対する日本方針、もしくは東西話し合いについていかなる努力をするか、また日米安保条約、そういうような問題につきまして、質問をいたしたいと思います。外務大臣がお見えになりませんけれども、主として防衛見地から見ました現在の国際情勢、いわゆる東西話し合いがまさに行われんとしておるがごとき状態でございますが、この日本の安全ということを前提といたしました今日の国際情勢をどういうふうに見ておられますか、これは外務大臣防衛庁長官質問申し上げます。
  4. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。外務大臣がお見えになりましたら一般国際情勢ということについてはお答えがあると思います。しかし防衛見地から申しまして、私の見るところについてお答えをいたしたいと存じます。  御承知のように、最近の国際情勢ICBMその他の発射以来相当の変化を見ておる。この結果といたしまして自由陣営においてはさらに一そうこの科学兵器の促進、開発をはかるといった方針に徹しておるようでございます。この間にNATO会議が開かれ、またその他の会合も開かれるというような状態でありまして、要すれば新兵器による防衛というものに非常な拍車をかけてきておる、こういう事態が起っておるわけでございます。しかしながらこの事態が起ったにかかわらず、私は東西陣営軍事力において、ここにバランスがこわれておるというようなことは考えておりません。そういった事態において、今日もし万一の事態があったならば、非常な大きな人類自殺行為勝者といえども私はその目的を達しないような事態が起るということはこれは政治家もまた国民全体がおのおの反省し認識しておる点であろうと思います。そういった見地から東西陣営の相剋、対立、冷戦ということは非常に激化される状態に押し進んでおりまするが、しかしながらこれらの究極兵器ともいわれるような武器を全面的に使用して、いわゆる全面的の水爆、原爆、核兵器を利用するといったような大戦争が起るという公算が少いであろうというのが、大体各国政治家、また軍事専門家の見るところでございます。しかしながらそれだからといって全然戦争といった不幸な事態が起らないというようなことを考えることもできない。その場合においてはあるいは局地戦争、また武器においては通常兵器ないし制限的の核兵器を使用したところのそういったような事態が起るということは、一応考えるべきことであろうと思います。その意味におきましてはわが国防衛の上においても、これらの見地から自国を守るだけの防衛整備というものを、一そう進めていくという必要を感じておる、こういうのが現状であると思います。
  5. 船田中

    船田委員 ただいま御答弁のありましたように、東西対立がやや緩和し、または緩和させようとしている情勢にあるということはよくわかるのであります。また原水爆をもってする第三次世界大戦というような大戦争が今直ちに起るとは考えられませんが、しかしICBMあるいはスプートニクの打ち上げというようなことからいたしまして、科学兵器の非常な発達進歩によりまして、なるほど勝者もあるいは敗者もいずれも全滅的な打撃を受ける、そういうことからしていわゆる核兵器ミサイルによる兵器手詰まりという状態にあるようには見られるのでありますが、しかし同時にかような状態にあるということを利用いたしまして、局部戦争あるいは小戦争もしくは制限戦争というものの危険も、むしろ一方においては多くなっているのではないか。またそれを利用する一部の勢力、はっきり申しますれば、ソ連中心とした共産勢力が、それを利用しようとしているという状態もかなりうかがわれるのであります。現にソ連軍事指導的立場にあるあるいはアントノフとかヤコーレフというようなものが公けに発表した——これはおそらくソ連戦略戦術を物語っているかと思うのでありますが、そういうような人々の戦争に対する考え方、あるいは小国に対する外交攻勢、そういうようなものから見ますと、むしろ核兵器による東西手詰まりということを利用いたしまして、小戦争あるいは局部戦争を指導している、あるいは扇動しているのではないか、こういうような情勢がかなり各地においてうかがわれておる。中近東の情勢にいたしましても、あるいは東アにおける状況にいたしましても、世界の至るところにそういうような小噴火山が起りつつある、こういう状況が見られるのでありますが、防衛庁長官は、そういうソ連及び共産陣営からくるところの攻勢に対して、いかなる考えを持ち、またこれに対していかなる措置を講ぜられんとしているか。
  6. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。極東軍事情勢も相当われわれは関心を持って見守っておるものでございます。しかし日本防衛に当りましては、特に仮想敵国を設けてこれに対抗していくということよりも、わが国国力国情に応じた必要限度防衛体制を確立していこう、そうしていかなる事態に処しても、またいずれの国から侵略があっても、これを防止また撃退する、こういう方向防衛体制が築き上げられつつあるのであります。もとよりわが国国力国情からいいまして、十分なる防備を持つということは事実困難であるのでございまして、この点から申しますと、やはり国連の集団安全保障体制、また日米安保条約による防衛体制、こういうものをもってあらゆる事態に対処していこう、こういう方針で今日まで一貫して参っておる次第でございます。
  7. 船田中

    船田委員 日本周辺における国際情勢、ことにソ連中共北鮮における軍事情勢は、あたかも日本を包囲しておるがごとき態勢をとっておるように見えるのでございます。この日本周辺における国際情勢、ことにその軍事情勢を、防衛立場からいかにこれを観察し、判断しておられるか、またこれに対していかなる措置を講ぜられんとしておるか、それらについて防衛庁長官の御所見を承わりたいと思います。
  8. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。極東方面におけるソ連または中共北鮮軍事情勢はどうであるかというような御質問であると思います。具体的の軍事力についてはなかなか調査困難であり、また確実なる情報をつかむことについてなかなか容易でないものがございます。しかしながら、今日まで軍事専門家またその他の情報を総合いたしまして、私どもとして総合的に推測される軍事情勢なり、その配備は、大体このようなものであると伝えられ、またそうであろうと思っておるのでございます。まず第一にソ連の方でございますが、陸においては、大体四十万ないし五十万といわれております。また海軍の方においては、大体六百ないし七百隻と申しますか、その程度艦船配備がある。そのうちで潜水艦が百余隻と伝えられております。空軍につきましては、各種の飛行機を合わせて四千機ということが報ぜられております。  なお中共については、これまた非常に不確実な点もあるかと思いまするが、これらの情報を総合いたしますると、大体陸が二百三十万ないし二百五十万、海軍は約四百隻、空軍は大体三千機、これは多少の情報の違いがあるようでございますが、そういったわけでございます。北鮮につきましては、陸は三十五万ないし四十万、海は三十ないし四十隻くらいの艦船があるということでございます。なお空軍については、これまた正確な計数として申し上げるわけにいきませんが、大体七百機、こういうふうにいわれております。  こういうような情勢からいたしまして、極東軍事関係においては、まことにわれわれといたしましては重大な関心を持っておるということでございまして、われわれわが日本防衛体制を確立する上においても、十分その事態を判断していくということが必要かと思っております。
  9. 船田中

    船田委員 日本周辺における共産陣営軍事力については、ただいま大体伺ったのでありますが、ソ連日本に対する態度は、最近の北洋漁業の問題についても、あるいは近海安全操業確保の問題につきましても、口には非常に平和共存あるいは対日平和友好を進めるということを言われておりますけれども、実際の交渉に当ってみると、なかなかそうはいかない。昨年の十二月にはブルガーニン総理大臣から、わざわざ岸総理大臣にあてて手紙を出しておる。そうして平和条約を早く締結のしようじゃないかということを要望してきておる。これに対して日本側としても一昨日返答を出したようでありますが、その書簡外交においては平和友好平和共存ということを言っておるのでありますが、いざ具体的の交渉になりますと、なかなかその通りにいっておりません。ことに日本零細漁民が、しかもわずか一万五千か二万くらいの零細漁民近海に入って操業しようという、そういうきわめて零細な漁民の生活の問題につきましても、なかなかソ連の方ではそれに対して便宜を与えない。そればかりではなくして、現にオーツク海はほとんど全域を自己領海のごとき主張をいたして、そうして北洋漁業制限あるいは禁止を要望してきておる。こういうような状態であり、ただいま防衛庁長官が説明されたような、日本周辺共産側軍事情勢にあるといたしますると、やがては日本海も彼らが領海のごとくふるまってくるということもないとも限らぬ。現に平和交渉の最中において津軽海狭その他の海峡の自由航行を要望してきておる。こういうような状況から見ますると、なるほど口には平和共存を言い、対日友好親善ということを唱えておるけれども、事実においては少しもそれが行われておらない。ことに北海道周辺における軍事情勢というものは、ただいま御説明になったところを見ましても、きわめて日本に脅威的な陣容を整えておる、こういう状況でございます。ですから、口には平和共存であるけれども、事実においては日本に対して脅威を与えておる、こういう状況でありまして、なるほど日本としては仮想敵国ということは、今日言うべき限りでないと思いますけれども、これに対してやはり日本といたしましては北海道中心として防衛体制を固めるという必要がある。この国土防衛についての大体の構想を伺いたいと思います。
  10. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。極東軍事情勢、は先刻申し上げた通りであります。わが国防衛体制は、国防会議における基本方針、また同時に決定されました防衛整備目標というものが、後承知通り、三十五年ないし三十七年にわたって漸進的にこの体制の根幹を作っていこう、こういうことでございまして、もとよりわが国防衛自衛権の範囲においてみずからを守り、敵の侵略を防止する、こういう体制であるのでございます。こういった見地から申しますれば、わが国防衛の漸進ということは、外国からの軍事力わが国に積極的に及ぶということは、私ども想像できぬことであり、また諸外国においてもこの防衛方針十分理解をお願いして、そうして極東の平和とまた各国自由独立を尊重してお互いに助け合うというような格好に持っていかなくちゃならぬと思う。外交の面において具体的な種々の問題がありますが、そういった高いまた広い視野から極東の平和を確保していくようにお互い努力し、協力するという方向に向けらるべきものでございまして、わが国防衛方針は、現在の状態において、すでにきめられたる基本方針並びに整備目標国力国情に応じて早く漸進的に整備していくということで一貫いたしたい、こう思っておる次第でございます。
  11. 船田中

    船田委員 外務大臣がお見えになりましたから、国際情勢について全般的なことを伺いたいと思います。  ただいま、防衛見地から今日の国際情勢をいかに見ておるかということにつきまし、防衛庁長官から御所見を承わったのでありますけれども、外務大臣は特に今日の国際情勢について、先般の外交演説におきましても、東西話し合いを進めることについては非常な熱意を持ってこれを推進したい、またそのために努力をしたいということを言われておるのでありますが、外務大臣東西話し合いについてこれを促進するいかなる具体的の構想をお持ちになるか、伺いたいと存じます。
  12. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 お答えいたします。ただいま船田委員からお話のありましたように、現在の国際情勢は非常に緊迫したものがあると思うのであります。ことに大陸間弾道弾ができ、あるいは人工衛星ができ、そういうような科学進歩がさらに国際間の緊張を増加していると思います。日本といたしましてはこれらの緊張した情勢を緩和し、将来軍縮等の問題に進んで参りまして世界が平和になることを庶幾しておるのでありまして、これ以上緊張が続きまして大きな戦争がないとは考えますけれども、もしありましたならば、大へんな人類破滅事態が引き起されかねないようなことに相なるわけであります。そういう情勢はできるだけ避けて参らなければならぬと考えておるわけであります。そういう意味において、東西緊張を緩和するために、東西両方首脳者がともに相話し合って、そうして何らか世界平和の道を見出していくということは必要欠くべからざることだと思うのであります。従いまして、日本といたしましても、その線に向って努力をして参らなければならぬと思うのであります。ただ日本国際社会に復帰いたしましてまだ日は浅いわけであります。日本の諸般の実際の発言力並びにそれに裏づけをしております実力というものが、必ずしも現在まだ非常に力強いものとは言えません。従って日本だけが声を大にして言うだけでなしに、国際連合を通じ、あるいは各国とともどもに意見の交換をしながら、それらの最大目的に向って努力をして参らなければならぬのでありまして、われわれは外務省の機能をあげまして、各国意向を打診し、あるいは各国意向相違等につきまして十分検討をした上、それらの相違が何らかの形で接近される方法はないだろうかということに向って力を尽しておるような次第であります。
  13. 船田中

    船田委員 東西話し合いを進めるということに努力するというそのことは抽象的にはそう承わって、またそれが私もいいと思うのでありますが、先般総理大臣施政演説におきましても、力の均衡による平和というものは恒久的なものではない、こういうことを言っておる。必ずしもその力の均衡ということを悪いとは言っておりませんけれども、何か力の均衡ということを軽く見ておられるように見えるのであります。ところが最近の戦争、第一次大戦、第二次大戦のあの戦争の勃発する直前外交交渉を見ますと、第一次大戦のときには御承知通りに、イギリスドイツの間において、初めはイギリスが二国の海軍相手にして戦い得るだけの力を持とうということで英独海軍競争が行われておった。それがだんだん低下いたしまして、ドイツの一に対してイギリスが一・六という程度でがまんしなければならぬ、こういうような交渉になって参りましたときに、御承知通りドイツのカイザー・ウイルヘルム二世は、イギリスは弱ってきた、こういう観測を下し、それが結局あの大戦争を勃発させておる。それから第二次大戦の勃発の直前を見ますと、御承知通り一九三七年の九月にミュンヘン会議を開いておる。そうしてあのときにはネヴォル・チェンバレンがイギリスを代表して参っておりますけれども、ヒトラーの前に屈伏をして、そうしてあのズデーデンの問題で妥協しておる。そこでドイツの方ではこれはくみしやすしということで、ついにいわゆる隴を得て蜀を望む式の非常に相手を見くびった態度でもってあの会議に臨み、その後の国際情勢はわずか半年ならずしてあの大戦争が起っておる。こういう状況歴史の上において見ますと、ほんとうに力の均衡が保たれ、また力の均衡が保たれておるとお互いに確信しておるときには私は戦争は起らぬと思う。ところが最近の八月以後の情勢を見ますと、八月の末に、ソ連においてICBM実験に成功した、あるいは十月四日、十一月三日にスプートニクを上げた、こういうことによりまして、これを武器とするソ連平和攻勢というものはかなり激化してきておる。そうして相手弱しと見ておるような情勢がうかがわれるのであります。こういうことはこの過去の二十年、三十年前の歴史上の事実から見まして、きわめて危険な状態にある。そこでヨーロッパにおける国際情勢の判断は、西欧側においては今日の国際情勢を決して楽観しておらない。日本においてはむしろ逆に今にも平和がくる、手放しの楽観が非常に多い。またそういう論者が日本にたくさんございます。しかしヨーロッパから来て日本に滞在しておる高官筋意見によりましても、今日の国際情勢を決して楽観しておらないというのが、私は事実だと思う。こういう見地からいたしまして、今日の東西話し合い、それが勢力均衡バランスオブパワーの上に立ってこそ初めてできるのであって、そのバランスオブパワーが、相手に対して自己が優位なりと過信するような状態にあることは非常に危険である、こういうふうに思うのでありますが、それらについての外務大臣の御所見を承わりたいと思います。
  14. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 御説の通り、どちらかが優位だというような考え方を持って参りますことは今日の国際情勢を相当混乱させることだと思います。ただ今日のように科学兵器が発達してきて、科学兵器によっての力のバランスというものは日々の科学進歩によって絶えず動揺しているのではないかということもまた考えてみなければならぬわけであります。従いまして、両陣営の力の均衡あるいは優位というものは単に科学兵器ばかりでなく、やはり世界各国が十分な理解と同情をもって立つ、たとえば東南アジアなりAAグループなりが、やはりアメリカ立場というものを十分理解する、あるいはソ連立場理解する、そういう問題によっても、全体としての政治的な力のバランスというものは保たれていかなければならねのではないか。科学兵器だけのバランスということになりますと、一方が優位になれば、またさらに一方が優位になる、絶えず不安定な状態にあろうと思う。従って大きな意味において世界の民心をつかんだ国が相対的に優位に立つということもいえるわけであります。そういう意味におきまして、日本としても単に科学兵器分野でなしにも、世界平和のために貢献し得る大きな分野があるのではないかということを理解しておるわけであります。
  15. 船田中

    船田委員 今の外務大臣のお考えまことにごもっともだとは思いますが、国際関係というものはなかなかそう簡単にいかないのじゃないか、そう甘くは見られないのじゃないかと思うのです。それで東西勢力対立ということを見ますると、ソ連は何といっても陸軍、空軍というものにおいて非常な強大な力を持っておる。おそらくソ連だけでも百七十五個師団というような戦闘部隊を持っておる。それに衛星国の兵力を加えると、さらに百個師団くらいは加わる。それに対してNATOの方では四十個師団から四十五個師団。そういう関係におきまして、少くともヨーロッパにおける通常兵器、いわゆる在来兵器によるところの対立考えましたときに、ソ連の方がはるかに優位である。従ってこれに対抗するためにはどうしても自由国家群におけるところの基地を固めて、ソ連武力に対してはいつでも武力をもって大量報復ができる、こういう態勢を整えることにおいて、最近米英の間においてミサイル協定ができておる、こういう状況である。そしてその核兵器のできた沿革を見ますると、このソ連軍事的優位に対して、いかにこれを押えるかという対抗し得る方法考えなければならぬということで、核兵器というものができておる。ところがソ連の方でも核兵器を持った、こういうことでありますが、それに対して日本やり方ソ連の方で核爆発実験があっても、これはほとんどほったらかしておいて、アメリカイギリス核爆発に対しては非常にやかましくいう、結局正直者がばかを見るというようなやり方をしておる。これでもって東西対立を緩和するというようなことが日本努力によってできるのか。そういう東西勢力対立ということに対しても、一体日本はどちらの側についているのか。なるほど理想的にいえば中立ということはいえましょう。しかし今日の国際情勢からいたしまして、ことに日本地理的条件日本のよってもって立つ国柄というものから考えましたときに、アメリカを初め自由主義国家群と協力なしに日本が独立してやっていけるかということを考えました場合においては私はとうていそれはできない。そういう見地から見ましたときに、やはり日本といたしましてはアメリカを初め自由主義国家群とほんとうに強力に力を合せて、そうして東西バランスに対しても日本はやはり確固たる信念をもって対処していくということが必要じゃないか、私はそれらについての御所見を承わっておきたい。
  16. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日本が自由主義陣営の国であり、しかもアメリカと強力な連携をもって進んで参ることは、これは当然のことだと思います。ことに日本の今日置かれております国際情勢その他の立場から見ましても、日本を守っていくためにアメリカとの協調が欠くべからざることであることは申すまでもないことであります。  ただ核爆発実験等の問題につきまして、今お話のありましたように、米英にだけ抗議をしておるというふうにお感じでありますけれども、その点は今日まででもソ連に対しても抗議をいたしておるのでありまして、日本といたしましては国民的な要望からその点に関しては米ソ両陣営いずれを問わず日本立場を明確にいたしておるつもりでございます。今後日本国際社会に立って参ります上において、われわれとしては日本の置かれております環境あるいは立場というものを、十分見て参らなければならない。これは軍事的な情勢も判断して参らなければなりませんし、またその他の諸諸の情勢考えて参らなければならないのであります。それを通じてアメリカとの協調を強化して参りますことは当然のことだと思うのであります。お説のように努力をして参りたいと思うのであります。
  17. 船田中

    船田委員 具体的に伺いますが、昨年の六月二十一日に日米共同声明を出しております。これは岸総理大臣がアイゼンハワー大統領と会見をして、そしてその話し合った結果を声明したものでありますが、その線をやはり堅持一していかれるという、今のお話から考えればそういう結論になると思いますが、さように理解してよろしゅうございますか。
  18. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 昨年の六月におきます岸・アイゼンハワー大統領間の共同声明は今日における日本外交の基本的方針の一つでございます。
  19. 船田中

    船田委員 次に外交防衛関係いたしましてさらに伺いたいと思いますが、ただいま外務大臣から御説明されましたような国際情勢であり、防衛庁長官が見ているような日本周辺状況であるということからいたしまして、昨年五月、国防会議の決議を経て決定をいたしましたいわゆる長期防衛計画、防衛に関する根本方針及び長期整備計画、これらの方針は今後も堅持してこれをすみやかに実現していく必要があると思いますが、外務大臣及び防衛庁長官の御所見を承わりたいと思います。  それにつけ加えて私の申し上げたいのは、少し説明をいたしますと、五月二十日に決定を見た防衛に関する基本方針整備計画、それから六月二十一日の日米共同声明、その以後におきましてソ連においては大きな政変が起っておる。また先ほど来お話の出ておりますICBMスプートニクの打ち上げというようなこともあり、またアメリカにおいても国内においていろいろな論議が戦わされて、戦争概念についてのかなり論議が行われております。それからまた国防の方針についても、まさに変化しつつあるかのごとき状態である。本年に入りましてから、アイゼンハワー大統領の各種の教書等によりましても、再び軍事費を増加するというようなことがあります。また最近におきましてはアラブ連邦ができた、またインドネシアには内乱が起らんとしておる、こういういろいろな情勢の変化、あるいは事態が起つてきておるのでありますが、それらを通じてみても、昨年五月二十日に決定された防衛基本方針整備計画というものを変更し、あるいは改訂する必要はないかどうか、それらについての御所信を伺いたいと思います。
  20. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。先ほどお答えした中に、ただいまの御質問の点は一応触れたと思っております。すなわち昨年五月、また六月決定を見ました国防の基本方針、また防衛整備目標というものはこれは防衛の根幹を作り上げようという基本的なものでございます。最近の軍事情勢の変化にかかわらず、わが国としては国力国情に応じて必要な最小限度の防衛はここに盛り上げていこうという考え方がこの方針、目標に表われているのでございます。その意味においては、まず何をおいてもこれは完遂したい確立したい、こういうことで方針を進めて参っておるのでございます。三十三年度予算においても、年度割といたしまして、陸の増勢、また海、空における人員並びに器材、機数、船艦の建造といった計画がこの基本方針に即応して作られておる、こういうことに相なっておるのであります。ただし、もとより実行の段階においては今日の科学兵器進歩、その他の装備の刷新という点は個々の場合において十分に考慮に入れて、時代に即応したところの防衛力というものを作り上げていくということは当然でございます。こういった観点から、三十三年度——今後もそうでありまするが、装備関係においては従来にましてその改善、刷新をはかるということに、経費も多額のものを計上いたしておる、特にいわゆる誘導兵器の研究ということ、また開発ということには予算においても相当多額の増加を計上していただいておる、こういう状態でございまして、要すれば、民生の安定、またその年度における財政の事情というものを勘案しつつ、わが国の必要とする防衛というものをここに確立していこう、こういう方針でございまして、時代の変化に応じた特殊のその事情を考慮して、防衛というものの完璧を期したい、こういうことでございます。
  21. 船田中

    船田委員 ただいまの御答弁によりますと、科学兵器の非常な進歩、いわゆる宇宙兵器、そういったような時代になっても、昨年五月決定をし、政府の方針としてきめた防衛基本方針並びに昭和三十五年度に至る長期防衛整備計画というものはそのまま実行するということでございますか。
  22. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。長期防衛整備計画は目標は御承知のように、陸十八万、また艦船においては十二万四千トン、飛行機においては一千三百機、こういう目標でございます。この実際の艦あるいは機、また陸の装備という問題はこれは方針にも書いてありますように、時代に即応して刷新改善をはかるということでございまして、一応の目標となっておるものについては今日の事態において変更をしないでこれが実現を期そう、こういうことでございまして、実行上の面においての改善、事態に即応したところの刷新をはかるということは当然であろうと思うのでございます。要すれば、基本的の目標についてはこの際これを変更する必要はない、こういう考え方でございます。
  23. 船田中

    船田委員 ミサイル時代に陸上自衛隊の増強ということは時代おくれじゃないかという議論がだいぶ行われておるのであります。しかし今伺うと、既定方針はそのまま実行するということでありまして、その内容についてできるだけ時代に即応するところの改善進歩をはかっていく、あるいは科学兵あるいは技術兵とか、そういうものを増加して内容を改善充実していく、こういうことでございますか——今日の東西の行き詰まりというのは、ちょうどつぼの中に二匹のサソリが入っておるような状態だというようなこともいわれておるのでありまして、いずれも先に手を出せば自殺をするというようなことから、必ずしも大戦争にはならぬということは、これは先ほど来お話しのことで大体私もそうだろうと存じますが、小戦争、部分戦争というものに対しては、必ずしも手放しの楽観はできない。そうしてしかも日本周辺状況から見て参りましたときに、外部からの侵略が起るというような場合においては、必ずや国内においても内乱的なものが起ってくる、あるいは破壊活動が伴ってくるということが予想されるのでありますが、それらに対する政府の用意、それに対する対策をいかに考えておられますか、それらを承わりたいと思います。
  24. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。ただいまの御質問は、直接侵略のみならず、間接侵略、国内の治安といったものについてわが防衛体制はどうなっておるか、どうすべきか、こういう御質問であったと承わるのでございます。わが国の自衛隊の任務は外部からの直接侵略のみならず、間接侵略に対しての実力行使をするという任務になっておるのでございます。現在の整備計画の目標によってこれが実現される場合は、外部からの直接侵略、また国内の治安に対するいわゆる間接侵略を防止するということについて、私は可能なものであるというふうに考えております。もっとも外部からの侵略は、その要素、程度、時期等によっては、いわゆる日米安全保障条約の共同防衛に待つところが多いと思います。間接侵略の問題につきましては今日の陸その他の配置から申しまして、中部の日本が非常に手薄になっておるわけであります。そこで来年度の増加一万人の陸のごときは、主としてこれを中部の日本あるいは一部は関東地方、こういった方面に編成配置いたしたい。これによっていかなる間接侵略に対しても手薄の状態をここに補うという観点から増勢を要求しておるわけでございまして、私どもはそれらの点に十分の考慮を払っておる考えでございます。
  25. 船田中

    船田委員 大体防衛関係についてお話を伺って理解いたしますが、現在は自衛隊の育成についてアメリカから相当援助を受けておる。年々少くとも四、五百億円もしくはそれ以上の装備品、兵器類の供与を受けておる。こういう軍事援助がある、またそれに待つところが多いのでありますが、しかし国際情勢の変化あるいはアメリカにおける政策の変更というようなことから、将来アメリカの援助をそう多きを期待することはだんだん困難になってきはしないか。しかも兵器の非常な進歩発達によりまして、飛行機がミサイルにかわっていくというようなことになりますと、その新しい兵器の研究開発も日本においてやらなければならぬ。しかも侵略の各種の様相を考えた場合においては、在来の兵器もある程度これを持っておらなければならぬというのが防衛のためにぜひ必要なことであろうと思います。そうなって参りますと、防衛関係の経費というものは決して少くない。三十三年度において千四百六十一億円ということは国費の一一%余、国民所得から言いますと一・七%ということになっておりますが、日米安保条約の規定によりましても、国力の回復に従って日本防衛力を漸増していく、こういうことでございます。そして従来の話し合いからいえば、大体国民所得の二%強が防衛費に充てられることで日米の間で話し合っておる。そういうような事情を勘案して参りますと、将来まず第一期計画としては三十五年度において一応完成するようでありますが、この三十五年度に達成される防衛整備計画が完成いたしたといたしましても、これはただに米軍撤退の基礎を作るというにすぎないのでありまして、その後においてさらに長期計画を持たなければならぬと存じます。そこで私はその後における防衛の長期計画をどう考えておるか、もし構想があればそれを承わりたいし、またただいま申し上げるような防衛関係の費用が相当増額されていくということも考慮いたしまして、これを財政上、将来どういうふうに按配していくか、これにつきまして防衛庁長官及び大蔵大臣の御構想を承わりたいと思います。
  26. 津島壽一

    津島国務大臣 お答えいたします。先ほど来お答えしましたように、今日の問題は昭和三十五年、また完成の時期を三十七年度といたしております防衛整備目標を実現するように鋭意努力しておるわけでございます。その後における長期の防衛計画、整備計画と申 しますか、その計画があるか、こういうお尋ねが一点だったと思います。これはまだ三、四年、四、五年あとの問題でございますので、具体的の構想なりは今持っておりません。今後の軍事情勢の推移並びに財政の事情、また装備の関係の今後の進展の状況等を考えまして、それらの各要素を考慮した上にこれは慎重に考えるべきであると思 います。  なお防衛経費の今後の見通しということにつきましてはむしろ大蔵大臣からお答えするのが適当であろうと思いますが、お触れになりました一点のアメリカの援助、MDAPと申しますか、日米共同防衛協定に基く援助供与というもの、これは御承知のように、年々大体四百十億の物資でございますが、額においてはそういうものを持っております。これはわが防衛費の膨張を押えることには非常な貢献があるのみならず、ものとしてはそういうものがわが国で生産されないで、必要なものであるという点も同時に含まれておるのでございます。この米国の対外援助、特にMDAPと申しますか、この供与がどうなるかという問題も将来の問題でありますが、抽象的に申しますと、ただいまの防衛整備目標を達成中においては、これに必要なる程度のものについては、われわれは供与を期待していいのではないかということを考えております。長期の防衛については先ほど申し上げましたように、まだ具体的の構想ができ上っておらない。  それから防衛庁費を含んだ全体の防衛費の将来の見込みがどうなるかという問題であります。これは防衛整備計画にもありますように、そのときの財政事情、民生安定をはかりつつやるという基本の方針のもとに、毎年度の予算の全体と見合って適当の金額を盛り上げるべきではないかということに考えておる次第でございます。
  27. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 防衛費と財政との関係でありますが、これについては今防衛庁長官から大よそのことをすでにお話があったのであります。今お話がありましたように、防衛計画について新しいものはまだありません。三十五年において一応目標を達する防衛計画も別に年度割をしておるわけではありませんで、ただいま防衛庁長官からお話がありましたように、財政の状況をよく勘案して、かつ民生の安定ということと兼ね合って考えるという基本方針であります。従いまして私は防衛庁費が特に財政上たえがたい負担になるとは考えておりませんし、またそうあるべきものでもない。これは必ず民生の安定と均衡を得た姿でなくてはなるまい、かように考えております。
  28. 船田中

    船田委員 大体長期計画について、第二期のものは構想ができておらないということでございますから、それ以上は質問いたしませんが、防衛のために相当の経費を出す。どこの国でも金があり余るから防衛をやろう、国防をやろうというようなぜいたくな国はないのでありまして、アメリカといえども、イギリス、フランス、西ドイツ、いずれの国も苦しい中から防衛費を出しておる。国家の安全ということから考えれば、やむを得ず防衛費を捻出するというのが実情だと思うのであります。そういう点につきまして、政府はやはり防衛の長期計画を立てて、そうしてそれに今お話のような民生の安定、あるいは諸般の状況を勘案して調整をした均衡のとれた財政を立てるということが、必要であるということを痛感いたしますので、その点を申し上げておきます。  次に防衛生産の問題について、通産大臣から伺いたいと思いますが、政府は岸総理大臣を初め、自主防衛ということをよく言われるのであります。自主防衛ということは、必ずしも独力で日本の国土を防衛するという趣旨ではなかろうと存じます。そういうことの意味であるならば、これはとてもできることじゃありません。しかしながらいつまでもアメリカ兵器弾薬、あるいは装備、艦船、飛行機をもらって、これでもって自衛隊を育成するということでは、ほんとうの日本防衛は全うし得るものじゃなかろうかと思います。どうしても日本人に適するところの兵器を作り、また新しい兵器を研究開発していくということにならなければならぬと思うのでありますが、すでに二年前に防衛生産のためには日米技術協定ができておる。しかるにこれはいまだ活用されておらない。また、武器相互開発援助ということによりまして、アメリカ日本に対して新兵器を供与してもよろしいということをいわれておるが、それに対しても日本側の方はまだ受け入れ態勢を作っておらない。私はアメリカからそういう新しい兵器を供与されるという意思があるならば、どんどんこれを受け入れて、そうして新兵器の開発研究をするがよかろうと思うのであります。昨年の暮れサイドワインダーが供与されるということになりましたが、これに対しても私はもう少し防衛庁が国民にはっきりした説明をして、そうしてサイドワインダーをもらったから、すぐ日本が原水爆の基地になって共産圏から爆撃されるというような、あの間違った宣伝に乗せられないように、十分な説明を与えることが必要だと思います。いずれにいたしましても、かかる新兵器を供与するという意思がアメリカの方にあり、日本の方でこれを受け入れることはよかろう、また自主防衛を実現するためにはできるだけすみやかに日本日本国力によって防衛生産を育成強化していくということの必要があると考えられるのでありますが、その防衛生産についての通産大臣の御所見、御構想を承わりたいと思います。
  29. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 御承知のように、防衛生産につきましては、アメリカの特需というようなことで修理などから始まっておるのであります。しかし将来におきまして、新兵器等につきまして国産化していきますことはこれは防衛上の問題もさることながら、科学技術の進歩という面からも非常に重要なことだと思っております。従って、もとよりわれわれとしては育成していかなければならぬ、ただいまのところは非常に片ちんばといいますか、また微々たるものでありまして、銃砲弾等につきましては量産はできるような態勢になっておりますが、飛行機にいたしましても、その他の兵器にしましても、まだまだ幼稚なものであります。航空機等の育成についてはわれわれ極力考えておるのであります。先ほど来アメリカからのいろいろ新技術の導入という問題についてのお話がありましたが、これはわれわれ産業面から考えますと、極力推進していただきたいのであります。ただそれ以外のいろいろな問題があるために、遅々として進まぬ、こういうふうに考えておるのであります。今後の防衛体制の計画に従って、極力国産化していくようにわれわれも十分努力していきたい、かように考えます。
  30. 船田中

    船田委員 新兵器の開発研究ということになりますと、ここにやはりある程度の国家秘密を維持し、保護するという必要があるのではないかと思うのです。これは外交についても防衛についても同様でありまして、今日の日本ぐらい言論自由があり、秘密漏洩ということに対して、むとんちゃくな国はおそらく世界にも例が少いと思います。たとえば、在外公館で得た特ダネを日本においてばらしてしまっても、これは何にも取り締る法がない。あるいは外国からスパイ団が入ってきて、破壊活動をやり、あるいはスパイをするというような場合におきましても、全く野放しである。こういう国は私は世界には例がないのではないかと思います。これらの事情を考えてみた場合に、これは総理大臣から伺いたいことでありますが、国家秘密保護に対する法規あるいは防諜法ともいうべき法規の制定が必要ではないかと思いますが、政府の御所見を伺いたい。防衛庁長官からでよろしゅうございます。
  31. 津島壽一

    津島国務大臣 ただいまの御質問の機密保護という問題でございます。これは単に防衛関係だけの問題ではございません。外交もあり、またその他の国家秘密の重要性を保護するという点からいけば、全体の問題であろうと思います。さしあたり防衛関係につきましても、先ほど来御指摘のありましたように、新兵器科学兵器の研究といったような部面についても、私どもはすでに先進国のでき上った科学兵器を導入し、それによって研究開発をはかるということの必要を認めておるのでございますが、今日の秘密保護の法制下においては、これが受け入れができないといったような事情にもあるのでございます。その他防衛の全体の機密についても、これを保護するという必要は防衛関係としては認めておるのでございます。ただこの問題は先ほども申しましたように、国家機密に関した事柄は、単に防衛関係だけではないように思うのでございます。それらの全体の問題を考慮するときには、なかなかこれは重要な問題でございます。今日まだ具体的の成案が出ておるという段階ではないのでございまして、慎重に検討を加えたい、こう思っておる次第でございます。
  32. 船田中

    船田委員 最後に、外務大臣に二点ほど伺いたいと思います。一つは日韓問題でございます。もう一つは日米安保条約の問題でございます。先ほど来外務大臣東西の緩和ということには、非常な熱意を持っておられることがよくわかりますが、東西勢力対立を緩和するということもまことに大切なことであり、世界平和のために貢献するということはよいことではありますけれども、日本といたしましてはまず足元を固める、近所の国から仲よくしていくということが、もっと大切なことではないか。そういう意味におきまして、日本と韓国とが終戦後十三年もたって、いまだに正常国交が回復されないということは、非常に遺憾なことであります。しかるに、昨年の年末になりまして、日韓会談が、相互釈放を無条件でお互いにやろうということで話し合いができ、三月初めから日韓会談が全面的に始められるということになりましたことは、私はまことに慶賀にたえないと思いますが、その後いろいろ新聞等によって見ますと、これがなめらかに進行しておらないがごとき感を与えておる、非常に憂慮にたえないのでありますが、この日韓会談の成功を私は念願する熱意からいたしまして、その事情を承わりたいと思います。  それからもう一つは先ほど来国際情勢あるいは防衛問題等を論議してみますと、結局国際警察軍というようなものができて、そして国際秩序が国際警察軍によって維持される——外務大臣国際民主主義ということも言われておりまして、その意味も実は承わりたかったのでありますが、国際間において法と秩序を守るという手段が整備されますれば、これはその国際警察軍にたよってよろしいのでありますが、しからざる限りにおきましてはやはり集団安全保障ということになり、日本立場といたしましては日米安保条約を基本といたしまして日米共同で国土の防衛に当る、こういう以外に道はなし、またこれを今後も相当期間続けていかなければならぬと思うのであります。ところがこの日米安保条約につきまして、世間の一部には誤解もあり、また駐留軍がかなり長く駐留しておるということからいたしまして、一部には反米思想等も起ってきておる。これはまことに私は日米国交の上から好ましからぬことと存じます。そこで日米安保条約及び行政協定を合理的に改訂する、改善するというようなことが、岸総理大臣からも言われておるのでありますが、しかしそれは言うべくして実際はなかなかむずかしいことであると存じます。外務大臣日米安保条約のいわゆる合理的改訂ということについて、いかなる構想をお持ちになり、また今後どうこれを処置されていこうとするのであるか、その二点を最後に承わって、私の質問を終りたいと思います。
  33. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 韓国は御承知のように日本と隣接をしております。この国と友好親善関係を持って参りますことは当然のことでありますし、また国連その他において、合法政府として認められておるわけでございますから、韓国政府と円満な関係を続けて参るように努力を続けて参りたいと思います。不幸にして数年来韓国と日本との間には漁夫の抑留その他の問題で、いろいろ相互に必ずしも円満な態度でなかった。政府といたしましても、十分これが改善に努力して参りました。幸いにして昨年の十二月三十一日に日韓間の抑留者の相互釈放の問題で話し合いがつきましたので、今後日韓全体の問題を調整するために、三月一日から会談をする予定で進行いたしております。抑留漁夫の相互釈放の問題等につきましても、事務的にはいろいろ事情がありますので、それらの問題を解きほごしながらやっておりますが、幸いにして第一次の漁夫の三百名の釈放が行われまして、近く第二次、第三次がとり行われるように進みつつあるのでありまして、これらのものを円満に解決した上で日韓会談に入りたい。そして両国の関係を正常なまた友好親善な関係に打ち立てていきたい、こういうふうに努力をいたしております。  また、お説のように日本が今日、日米安全保障条約によりまして日本防衛を進めておりますことはその通りであります。これらの問題につきましては、岸総理も先般ワシントンに行かれましたときに、安保条約の問題についてアメリカ政府当局と十分な話し合いをされてきております。こういうような安保条約の問題等につきましては両国が緊密な協力をして参りますために、誤解の起る、あるいは運用に何か疑問があるというようなことではなりませんので、従って、岸・アイゼンハワー共同宣言にもありますように、両国民の願望にできるだけ沿いますように、これを改善して参りますことは、われわれが極力やらなければならぬことで、それがまた日米相互理解の深き根底をなすものだと考えております。この問題はしかし相当困難でもあり、また長期にわたって十分検討を加えて参らなければならぬ問題でありますので、共同コミュニケにありますように、日米安保委員会を作りまして会合を開き、お互いに率直に意見を交換しながら、その中から新しいそういう問題を取り上げていこうというので、せっかくただいま努力をいたしておるわけであります。しかしながら問題はそういうふうに広範かつデリケートな問題が含まれておりますから、十分慎重に忍耐強く時間をかけて、この問題を練り上げて参らなければならぬと思っておるわけであります。そういう意味において今後一そうの努力を続けて参りたい、こう存じております。
  34. 江崎真澄

    江崎委員長 山本勝市君。
  35. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 お手元に質問要項を差し上げておいたわけであります。順序はいろいろ変りますけれども、なるべくたくさんの方が残って聞いてもらいたいのです。いつ何どき質問がどっちへ飛ぶかわかりませんから、一、二、三と順番でいきませんから、そのつもりでお聞き取り願います。  まずその第四というところの、いわゆる中小企業安定政策における若干の盲点について、この点から一つお伺いを申したいと思います。中小企業の安定維持振興といったことが、今日政府の重大政策の一つになっておる——労働大臣、農林大臣、一つよく聞いておいてもらいたい。ということは、これはもう疑問の余地がありませんけれども、重大政策として掲げておるにかかわらず、実際のやっておる施策の運営状況がこれと逆行しておる点が見のがされておる点があると私は思う。そのまず一つは相続税の問題であります。御承知通り相続税の改正が今回の国会に提案されておりまして、それによって全国の自作農の程度の方々は、大部分これまでの苦悩から解放されるということは、これはまことにけっこうなことだと思いますが、しかしなお中小企業という点から申しますと、従来の弊害が若干緩和される程度で、なお改まっていないと私は思う。  まずお伺いしておきたいのは、同族会社で、つまり株が上場されていないような会社で、一千万円ぐらいの財産が相続される場合に、その株を一人で持っておったとしたらどれくらい税がかかるか、大蔵大臣にまず伺いたい。大蔵大臣でなくても事務当局でもけっこうです。
  36. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 今度の相続税の改正で、遺産額が一千万円で百五万九千円、約一割相続税がかかるということになります。
  37. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 そんな安いことでいきますか。
  38. 塩崎潤

    ○塩崎説明員 お答えを申し上げます。現行の負担と今度の改正法の負担とは、必ずしも相続人の数によってぴしゃっと一致することはないのであります。計算は非常にむずかしいのでございますが、一応平均的な場合を仮定いたしますと、現行遺産では百四十六万円の負担が今回の改正によりますと、百五万九千円、こういうふうに軽減されることになります。
  39. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 ここにこれまでの表を私は持っておるのですが、大体一千万円について四五%かかる、二千万円なら五〇%かかる。基礎控除が今回変ってふえてきた関係で、税額がだいぶ減ってきたのでありますけれども、しかしもう少し大きなところへ行きますと、百五十万の基礎控除というものは大した大きな働きをしません。いずれにしましても同族会社の株の評価が、一流会社の株よりも一般に高く評価されるということが、これまでのやり方であります。大蔵省の説明では、とにかく同族会社の株は一般に一流会社の株より高く評価されるのはそこに財産の裏づけがある、その財産の評価が、再評価を一般にしてない関係でそうなるという説明であり、これをもし安くすれば、個人企業の法人になっていないものとの間のバランスがくずれるからということの説明のようでありますが、私は国家が個人経営といわず、あるいは法人経営といわず、およそ中小企業の安定というために非常な努力をしておりながら、それがその企業の経営者が生きておる間だけの安定であって、死んだとたんに、その事業そのものの安定がくずれるということが全然考慮に入っていない。ただこれだけの遺産を相続したんだから納めるのは当りまえだという関係で、事業が安定を失うかどうかということを考慮をされないで税法ができておる点に、非常な矛盾があると思います。その矛盾を緩和する意味で、今回の改正が行われたわけでありますけれども、なおその税法の建前が変っていないために、事業者が死んだ、そうして相続したというときに、その税が所得から払えない。営業財産を売らなければ、税が払えないという実情であります。これをどういうふうにして、国策と一致したようにやっていくことができるかという点であります。これは大蔵大臣から、事業が安定を失わないで所得から払えるような構想考えておられるならば、お聞きしたい。
  40. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これはやはり非常にむずかしい問題で、御承知のように税を公平に徴収しなければならぬ立場にあります。従いまして今お話の点は相続税に限るのでありますが、問題は相続税自体が重いというところに原因があると思います。相続税がそれほど重くないとすれば、別に遺産を分割して事業の継続を困難ならしめるような方法によらなくても払える。またある程度——それかといって特に相続税を軽減するわけにもいかぬとすれば、少くとも延納というような方法によって徐々に税金を納めていく、こういうような方法を今日とる以外に、私はさしあたりこの解決の方法はないのではないか、かように考える。問題はやはり総じて税金を軽くするようにするということが、一番基本であろうと考えております。
  41. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 今の相続税が、中小企業の安定に、相続という機会に急激な動揺を与えるという事実を通産大臣は認めておられますかどうか、通産大臣に伺いたい。
  42. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 先ほどお話のありましたように、大体一千万円で一割という程度でありましたら、延納でいって、まあ耐え得るのではないか、また今度はいろいろ法定相続の考え方で、放棄をいたしましても税額が上らぬというような措置もとられておりますから、大体今度のやり方で、そうお困りになることはないのではないか、ただ先ほどの評価の問題につきましては、これは前からあるむずかしい問題で、大体大蔵大臣のお話のように、公平という面からとまた大会社の株というものとのある程度の調整は考えなければならぬだろうと思います。
  43. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 一千万円で一割というのではないのですよ。税率は四割五分。ただ今度は基礎控除を百五十万円に上げた。そうして一人で相続する場合にはさらに一人について三十万。百八十万の控除をするというから、一千万円の場合はそれぐらいになるというだけであって、税率ははっきりここに書いているように四割五分なんです。非常に高い。大蔵大臣の延納で救うというのも私は一つの方法だと思う。今の税法を根本的に変えないとすれば延納で救う。そのかわり利益があったときに利益で落していく。そのときの延納の利息ですね、利息を免除するということになれば私は確かに大いに救われると思いますが、延納は認めるけれども、しかし利息はとっていくということではこれは大へんなことです。これはどうでしょう。
  44. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これまた非常にむずかしい問題で、利息をとらぬとすれば、延納した方がいいという形になりますから、これはやはり私はある程度の合理的な利息はとった方がいい、こういうふうに考えているのであります。それでは実際に払える能力があっても払えないといって延納しているのか、その辺の捕捉が非常に困難になりますので、ある程度の利息はやむを得ないと思っております。
  45. 塩崎潤

    ○塩崎説明員 少し補足説明さしていただきます。先生のおっしゃいました千万円をこえる四割五分という税率の問題でありますが、現在の相続税は取得税体系をとっております。今度の改正法におきましても取得税体系は維持するといっております。千万円と申しますのは相続人一人の取得者を標準といたしております。従いまして千万円というのは遺産千万円ではございませんので、相続人が五人おりましてその五人が均分相続をいたしますれば五千万円のところの累進上積み税率では四十五という意味でございます。ちょっと誤解がおありのように思いましたので補足説明させていただきました。
  46. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 それはよくわかっているのですが、中小企業の同族会社の実態というのは、個人経営と内容的にほとんど変らないのです。その株をよその人に売ったらやっていけない。その企業は一般の一流会社と違って、だれが株券を持っておってもその事業に影響がないというものではない。だから普通の法人でありながら、その株は中小企業自身が一つの家業という実態を持って相続されておる。しかもその事実を認めてこれを安定していこうというのが国策なんです。ところが相続税は死というある偶然のチャンスに財産をもらったんだから国に納めるのは当りまえだ、つまり労せずしてもらったんだから納めるんだというのが、今日の税法の最も有力な根拠であるということは、税制審議会の速記録を見てもちゃんと書いてある。要するに今遺産を取得したのは偶然のチャンスに無償でもらったから納めるんだというので高率の税がかかってきておる。これは必ずしも一つの論拠ではないでしょうが、大きな論拠であることは審議会の記録を見ても書いてあるのです。そういう建前で進んでいったら、中小企業を安定させるということはその人間が生きておる間だけの安定であって、死んだとたんに、もうそれ以後の安定というものは実際に考えてないんですよ。しかしこれは時間をとるから申しませんが、延納を認めることにする、そしてその延納を事務当局の方では利子を半分くらいにしてやったらどうかという話も実は内々聞いた。まあそれは今後の研究問題でありますが、私は、所得から払えるということならば、相続税を払うために何か税をかけないような、控除でずっとためておくような制度でも作るか、そうでなければ延納を認めて利子を取らない、それで弊害が起らぬようにするか、とにかくその事業が営業財産を売らなければならないような——つまり相続税は所得があるなしにかかわらぬ財産税、遺産税ですから、そういうところに矛盾があるということで御研究を願いたい。  第二にお尋ねしてみたいことは今日の中小企業金融のやり方です。これは国民金融公庫の方は弊害がそうないと思いますけれども、しかしそれでも絶対に弊害がないとは私は考えないのである。いわんや中小企業金融公庫のような場合には、政府として中小企業金融に金を出したのがあたかも中小企業全般が、金融をされたかのごとき錯覚を起させるのですけれども、実際は中小企業者の中の何の何がしという企業者が金融を受ける。ところが金融を受けられない者が多数なんでありますけれども、多数の受けられない者と受けた者とは競争の関係に立っておるのであります。御承知通り過当競争と言われるほどの火の出るような競争をしておる業者の中で、特定の業者に国家が有利な金融を与えるということは、その金融を受けた業者が恩恵を受けると同時に、その半面、金融を受けられない競争関係に立っておる業者は国家のそういう金融政策によって非常な打撃を受ける。これは間違いのない事実であって、今日政府もあまり重視していないし一般の中小企業者自身も問題にしておりませんが、実際に金融を申し込んで、そうして断られた場合、断られなかった者と断わられた者とが近所におって同じ業種で競争しておるような場合には、初めてそれが痛切に身に感じられるわけです。これを救う道でありますが、根本論としては、社会政策は別としまして、一体事業に対する貸付というものは民間の金融機関にまかすべきものであって、政府が銀行のまねをするということの一つの弊害はそういうところに起ってくるともいえるでありましょうが、しかし現実問題として中小企業金融を一枚看板にしてどんどんやってきておるものを、これをやめるわけにいかぬでしょう。やめるわけにいかぬとすれば、これを救済する方法は貸付方法を変えていく以外にない。今までのように、中小企業の同じ業種の中で比較的力のある業者を選んで貸す、そして弱い者はあぶれてしまう。政府の政策で横つらを張られたような結果になる。これは何としても政府のやるべきことではない。ですから、下から積んでいくというか、下の方の、最も政府が維持安定を目的として対象にしておくかぎり、すなわち中小企業である限りは下の方からみなに貸していく。もちろん払えない者に貸すわけにいきませんから、力相応に、二万円より払えぬ者は二万円、十万円より払えぬ者には十万円、そんなわずかな金は要らぬという人は別ですけれども、それでもけっこうだというなら全部に貸していくという方法で、だんだん下から積み上げていくような方法にでも変えなければ、国は中小企業者にいいことをしておるつもりで非常な悪いことをしておると思うのです。通産大臣、大蔵大臣、これはその場限りの答弁じゃだめですよ。
  47. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 ただいまお話のように、同じ業者で同じ信用力というか同じ能率ということになれば、これは公平に貸していかなければならぬ。ただ、これはやはり回収を考えていかなければなりませんし、また事業そのものがいいか悪いか、こういう判定に基いて育成すべき事業を優先的に貸していく。実際問題としましては、御承知のように中小企業金融公庫にいたしましても、国民金融公庫はもとよりでありますが、非常に少額の金を貸しておるのであります。あまり大きな金は実際には貸しておらぬ状況にもあるわけであります。また政府の金融機関を作っておりますのも、できるだけ公平に——一般の市中金融機関でありますと、えこひいきというか情実その他がありまするから、できるだけ公平に貸していこうという考え方に基いておるわけであります。しかし私は、事業がよかったら、担保がなくても一般の市中金融機関から借りられるものは、それが一番よいのだと考えております。今度の信用保険公庫を作りましたのも、結局将来は全部包括保険で中小企業に貸し出しても何ら心配がないのだ、こういう関係に変っていきますと、結局公平に貸すという結果になっていくだろう、将来はそういうところにもっていきたいということで、今度公庫を作っておるような次第であります。これはできるだけ公平に貸さなければならぬということは当然のことであります。
  48. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これは結局御承知のように資金量に限界があるのでありますが、借り手が非常に多い、こういうところに根本的な原因があると思うのであります。むろんそういうふうな状況ですから、金融機関としてもできるだけ公平にやるのでありますが、資金量に限界があるのですから、自然そのときにおいて社会的に見てこれが大事だというようなものにやはり貸すということになると思います。できるだけ同業者、同じような業種については公平に扱うというような方針はあるのでありますが、自然そういう傾向は私は起ってくると考えております。そういうふうなことを考えてみた場合に、私は根本的には中小企業金融に携わっておる機関の資金量をふやすということが、やはり一番解決に資するのではないか。同時にまたそのためには一方において市中金融ではなし得ないような方面に、政府の中小企業金融機関ができるだけ分野を広げていく、こういうふうにして分業的になるべくやっていく。こういうふうにしていって、同時にもう少し私はやはり現実の問題として、中小企業金融について考えておることは、昔は問屋というようなものがありました。問屋が中小企業について非常によく個人的にも動静を知っておる。そうして金融等については問屋が非常にうまくやっておった。むろん問屋は中小企業を搾取をするというようないろいろな社会的な問題もあるのでありますが、しかし他面いい面もある。そういう面を、搾取するというような形ではなくして、問屋的機能を営むような組織というものを考えられないか。それについては一方においては組合組織を拡大する、他方においては中小企業と大企業との系列化ということを考える。中小企業がいろいろな部分品なんかを作っておることに対して、大企業が問屋的機能を果すとか、また銀行自体が中小企業との関係においては問屋的な役割をする。いろいろな資金のめんどうも見てやるし、相談も受ける、こういうふうにして今後やったら、中小企業金融というものも実情に即して比較的にうまくいくのではないかと考えております。
  49. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 時間をとるばかりで何ですが、もう少し実態を見てもらいたいと思う。私が申し上げるのは資金量が少いとかいうことは問題ではないのだ、これは何べんも予算委員会でも大蔵委員会でも言っておる。そうすると資金量が少いからそうなるのだという答弁なんです。ところが資金量が少いから、大多数の零細業者の横つらをはってもいいということにはならない、資金量が少いから、大多数の零細業者に迷惑をかけてもいいという説明にはならない。つまり競争をしておる業者の中で、だれかに有利な条件を与えることは、その条件を与えられないものに非常に打撃になるということは、争う余地のない事実なんです。宿屋なら宿屋が二軒やっておる、こっちの宿屋が有利な金融を受けて設備をよくし、サービスをよくすれば、こっちのものに打撃を与えるのは当りまえです。それを両方に出すだけの金がないから仕方ないというような答弁では、これは済まない。ですからどうしても中小企業に政府が金融をするという方針を続ける限りは、私はせめて貸し方の上で考えて、むしろ中小企業という概念をアメリカのように小企業とまず限定して、日本の今のように中小全部というのではなしに、小企業と限定して、そうして下の方からまず政府の力で、一種の社会政策的な意味も含むのですから、やっていくという方式を重ねていく。そうして余裕ができればだんだん上に行くというのでなければ、資金量がないにかかわらず中小企業の中では相当有力なところが金融を受けることになる。こういう実情は一つ十分御研究を願いたいと思う。  それから中小企業の問題で、もう一つ残っておるのですけれども、厚生大臣にまずお伺いしてみたいと思います。それは昨日の公聴会でも実は問題にいたしたことでありますが、社会保障の理念というものを、まず簡単に伺っておきたい。私どもの了解しておるところでは、日本国憲法第二十五条に基いて生活保護法というものができておることは生活保護法の条文にも書いてございますが、これは生活の困窮した者に対してこれを困窮しない者が社会的に扶助していく、あるいは国家が扶助していく。そうして最低の生活は何とか保障していこうというところに、憲法第二十五条でいう社会保障というものの理念があったと思うのです。ところが私がこういう質問をするのは最近新聞でちょいちょい国民年金制度というものができる、その年金制度は全国民を対象としているのだ、しかも国民皆保険というものは、病気にならない人はこれは出しっぱなしであって、病気になった不幸な人にめんどうを見ていく。また金のある人は個人の医者にかかっておるというようなことで、ほんとうの社会保障の意味がありますけれども、年金制度の場合には、まだ構想は固まっていないようですが、全国民を入れるといたしますと、大金持ちも入ってきます。それから有力な企業者も入ってきます。また答申案の中には自家営業者も入れなければならないというように書いてあります。そうして全国民を入れますと、かりに無醵出でやりましても半醵出でやりましても、もし政府が全然援助しないならば、普通の養老保険みたようなものになってしまいますが、社会保障でやる以上は、醵出をさせても政府がこれをやはり半額とかあるいは何割かは援助していくということになるでしょうが、金持ちやあるいは会社の課長、部長、局長というようなところで、月に三万も五万も取っておる人で、自己の将来の生活については、自分で備えをなすということを当然期待してよろしい人までもその中に入れて、そして醵出金が多いから政府の補助金も多いというようなことをもし今後やるとしたら、私は自由国家の原則である自由なる立場で企業を営むことができる、自由な立場で職業を選ぶ、そのかわり生活上の危険は、自分で備えもし、老後に対しても子孫に対しても自分で備えをするという、こういう自由主義の原則と食い違ってきやしないか。その自由主義の世界で、自分で責任を負えないようなものが起ってくることは免れないので、そういう人たちを、そういう窮境に陥らない人々が共同の責任として保障する、国家が保障するということは社会保障としてけっこうですけれども、当然に自由かつ自分の備えを期待すべき人までも包括しようというふうになりつつあるのではないか。そうなると私は非常な危険を感ずる。私だけが危険を感ずるのではなくて、たとえばドイツのエアハルト経済相も、社会保障の限界という題目で、絶対に入れてはいけないのは自由に企業をし、そうして自由に責任を持っていくという立場にあるものを入れてはいけないと書いている。困難に対して自己責任を負う、と同時に創意を発揮していく、その自己責任と創意の担当者、トレーガーとしてそれが自由世界における貴重なる一つの精神である、そういうものまで、責任だけは国家でめんどうをみていこうといったようなことになることは、いかなる場合にもいかぬということを書いております。また役人でも、あるいは会社の勤人の場合でも、これは独立の企業者ではありませんけれども、高額の俸給を取って、当然自己で備えをすることを何人も常識上期待できるものまでも入れていくということは、非常に憂慮すべきことだと述べておりますが、私は日本の年金制度を前にして、いかなる点に限界を考えておられるか、自由世界における社会保障の限界というものをどう考えておられるか、こういう点で厚生大臣のお考えを伺っておきたいと思います。
  50. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 社会保障の観念は、もう山本さんの御承知通りに学説としてはいろいろあるようであります。しかし今通念的に考えているのは、やはり公けの負担とか、保険方式によって、そして生活困窮に陥った者に対して備えをしていくということであって、しかもほんとうに自己の責任において考えられない困窮者に対しても、公的扶助によって養っていくというものを考えておるということは確かだと思うのであります。憲法二十五条にありますのも、御承知通り第二項をごらん願えば相当広範囲に努めなければならないとして、社会福祉及び公衆衛生等まで含んで考えられておるというふうな情勢でありますが、結局現実的にはその国家社会の経済的、社会的諸条件というものによって制約を受けるということは当然じゃなかろうかというふうに考えております。ただおっしゃっる通りに、生活保護法だけの関係というふうに狭く解釈すべきじゃなしに、国家社会として考える。それを努めて考えなければならないのじゃないか。特に民主主義社会、民主的なる文化的な国家としてはそういうふうに努めて参るのが当然じゃなかろうかというふうに考えます。国民年金制度について具体的な例をおあげになったのですが、現在の社会保険制度においても、あるいは今後起ります全国民を対象とする国民年金にしても、結局その保険財政なり年金の財政なりだけで考えるわけにいかないのじゃなかろうか。やはり相当の富を持っておる者は税負担も多くございますし、掛金と申しますかそういう保険料その他のものも多く負担しておるというふうな点から考えますと、一概にどうだということは言えないのじゃなかろうか。     〔委員長退席、川崎(秀)委員長代理着席〕 ただ山本さんのおっしゃるように、一定の制約があってしかるべきじゃなかろうか。日本経済の現段階ではそれは現段階の社会事情、そういうものとの関連をにらみ合して物事を考えていくべきじゃなかろうか、こういうふうに考えております。具体的におあげになったような例につきましては、今後社会保障制度審議会なり、あるいは厚生省にあります五人委員会なりの答申を待っていたしたい。ただあの答申は予想より進むようでございますから、私は相当精力的に現在これらの委員が対策を講じておるその答申を待って善処いたしたい、こう考えておるような次第であります。
  51. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 どうも堀木大臣の考えは、日本の財力がないからある限界を置かなければならぬというように響くのですが、いかに日本に財力の余裕があってもやはり一定の限界を設くべきだ、というのは自由世界の根本原則に照らして、自由と責任は裏表ですから、自己の将来に対して自分が備えをなすという精神は自由世界における独立人の必須の条件なんです。どうしても自分で負えないものを、国または社会がめんどうをみていくということであって、金がないからある限界を置くというのではなく、その自己責任の原則が弱まるようなところまでいっては、これは限界を越えると思うのです。アイゼンハワーの、アメリカの年金制度の改正のときの声明書をちょっと見たのですが、アイゼンハワー大統領は年金制度に対して、諸君自身が自分で老後の備えをすることに対する代替物と考えたら大間違いだ、絶対そうじゃない、これはあくまでも自分で備えるのが大原則だ、それに対する一つの礎石を政府として作るにすぎないのだということを繰り返しておりますが、私はそれはやはりイギリスのああいう制度が行き過ぎたというようなことからの言葉でないかと思います。憲法二十五条には公衆衛生とかそういうこともありますけれども、福祉国家の概念を私は聞いておるのじゃない。社会保障としては困窮した者を救うということであって、困窮しない大金持にまで、醵出金をたくさん出したから政府の補助もよけいやる、おそらく醵出額に対して政府の援助は比例するような制度にならざるを得ないと思いますが、それを包括するとそういうことになりはしないか。これは時間もありませんから研究してもらうことにいたしたい。
  52. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 社会保障は、自助の精神と申しますか、自分自身で自分の生活を守るということを否定しておるものでなくして、その前提の上において積み上げられるということは、アイゼンハワーなりエアハルトの言を御引用なさったが、私は当然しかあるべきものだと考えております。そうしてそれは私ももっと研究しなければわかりませんが、自由主義経済であろうと社会主義経済であろうと、自助が基本になっておるということだけは、そうしてこれら問題を解決する上においてこの根本を忘れてはいけないということについては、ごもっともだと思います。具体的な問題はいずれまだ先のことでございますから、お話のように将来の研究にいたします。
  53. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 私がこういうことをくどいように申しますのは、ある世界の最高峰をいっておるという有名な自由主義の学者があるのですが、その学者の本の一番初めのところにこういう言葉を書いておるのです。これを私は頭に置いてもらいたいと思うのです。私のような者が言うのではなくて、世界のだれに聞いても最高峰だと認めておるある自由主義の経済学者の書物の劈頭に、こういうことを書いておる。「われわれの時代の合言葉は「完全雇用」、「計画経済」、「社会保障」、「欠乏からの自由」これは貧乏追放とはいっていない。フリーダム・フロム・ウォントと書いてある。「欠乏からの自由等という語で表わされているが、われわれの時代の事実を見ると、それらのどの一事も、政府の政策の意識的な目的とする場合には不可能だということを暗示している。それらは見かけだけの美しい言葉にすぎない。それらの合言葉はイタリアにあっては国民をアフリカの炎天下に死に至らしめた。ロシヤでは第一次五カ年計画が作られたが、三百万の富裕農クラークが殺されている。ドイツでは一九三五年と一九三九年の間に完全雇用が実現したが、六十万人のユダヤ人がその土地を追われて、またはポーランドの森の中で集団的に殺された。アメリカでも完全雇用のために次々に呼び水を試みたが、ポンプは一度も一ぱいにならず、戦争のみが完全雇用を約束した政治家たちを救ったのである。」というのです。これは今ここで聞くと、とんでもない反動の言葉のように思うものがあるかもしれないが、世界で最高峰をいくと認められておる学者の書物の劈頭に書いておるのです。ですから、社会保障といい、完全雇用といい——貧乏追放はこれは日本で初めてでしょうが、アメリカのルーズヴェルト大統領が四つの自由の中に、フリーダム・フロム・ウォント、欠乏からの自由ということを掲げた、そしてニュー・ディールでいろいろやったようなことを心配して、これはやはり述べておる言葉だと思う。完全雇用という言葉がこの中にありましたが、完全雇用を最初に実現したのは一九三五年から三九年まで、平時において完全雇用が実現したのは、御承知通りナチスが初めてです。ところがナチスがああいう六十万のユダヤ人をポーランドの森の中で殺した。最近「光ほのかに」というユダヤ人の「アンネの日記」をもとにしたシュナーベルの小説が出るということを、産経の広告などで見ましたけれども、ああいう悲惨なことを裏づけにして、辛うじて完全雇用が実現できた。ですから、完全雇用の歴史というか、事実というものは、実に悲惨なる裏づけを持っておるということは、これは石田労相などは常識家で、そういうことは絶対やられないにきまっておるのですけれども、少くともこれまでの完全雇用というものにはそういう暗い面を持っていることを忘れないでほしい。ロシアのように、権力でもって、お前は安くてもどこへ行って働け、こういう組織ならたちまち完全雇用ができます。あるいはインフレーションでどんどん金にかまわず仕事を作って、そうしてやれば、たちまち完全雇用どころじゃなしに、超雇用もできます。けれども、とかく完全雇用を実現しようとしてあせる結果は、そういう権力政治とイフレーションの危険をはらんでくるという歴史があることを一つ御記憶願いたい。長いことは、時間もないから説明できませんけれども、自由主義の国家といわず、分業の高度に発達した社会においては、新しい技術の進歩が一つ行われましても、そこに経済の均衡が破れて、失業の発生は免れない。戦争や革命のみならず、政府の予算の項目の中で相当大きな新しい項目ができましても、購買力の流れに大きな移動を生じますから、それは経済の均衡を破壊して失業者を生ずる。豊作か不作かということ、貿易の盛衰、インフレ、デフレはもちろんでありますけれども、そういうものが均衡破壊の原因であり、従って分業社会においては失業が出るのですから、失業そのものの発生というものは、これはどんなにやっても絶対に避けることはできない。そこで、できるだけそういう経済の波動に対して、ひどい混乱や苦しみのないように、持ちこたえていけるようにするにはどうしたらいいかということが、結局ほんとうの雇用対策になると私は思う。そういう点で、ほんとうの雇用対策はこうなければならぬという石田さんの抱負を一つ聞かしてもらいたいと思う。
  54. 石田博英

    ○石田国務大臣 日本の雇用、失業の状態と、西欧でいわゆる完全雇用といわれておる国々の雇用、失業の状態を比べてみますと、ただいま山本さんの御指摘の、経済の進歩、変動、政策の変更等によって生じます完全失業というものは、日本は必ずしも多くない。ここに若干の統計をちょっと御披露いたしますと、日本の場合は六十四万、これは昭和三十一年の統計であります。それから米国の場合は二百八十二万、イギリスが二十六万、西ドイツが七十六万という数字が出ております。これを全就業者の中に占める率で見ますと、日本は一・五%、アメリカは四・二%、イギリスが一・二%、西ドイツが四%で、日本は決して多いと言えない。ただ日本の場合に、それではなぜ雇用及び失業の問題が大きく取り上げられるかというと、どなたもおっしゃいます通りの不完全就業者の数、低所得者が非常に多い、そこに本質的な問題がございます。私どもの方の役所で、現在そういう就業状態にある者につきまして、転業の希望あるいは新しい仕事を得たいと思っておる者その他を調査いたしますると、二百五、六十万という数が出ます。それから一定の所得以下の者を調査いたしますと、もっと大きい数字が出るわけであります。すなわち、この不完全就業者の状態を改善していくということが、日本の雇用問題の基本である、こう私は考えておるわけでありますが、これは根本的には、長期計画により、経済の成長率の伸びに期待していかなければならないと思うわけでありまして、昨年改められました長期計画におきましては、農業その他労働力が過剰で、そのために不安定で、しかも低廉である階層からは昭和三十七年ごろまでには八十五万程度の過剰労働者を減少せしめて、それを第二次、第三次産業に転用し、新規労働力の増加もまたそちらの方へ吸収していくという計画を立てているわけであります。そこで確かに本年のごときは、新しいと申しますか、国際収支改善のための緊急施策、それに駐留軍の引き揚げに伴います離職者、そういうもののために、相当数の失業発生あるいは雇用の伸びの停止ということが見込まれまするので、これは本年度におきましては公共事業の増加とか、財政投融資の増大等に期待をいたしますとともに、失業対策費その他を十分見込んでおるようなわけであります。しかしこれはもちろん根本的なことでございません。これを直していきます一つの方法といたしましては弱小企業、零細企業あるいは前時代的な企業に対しまして、最低賃金制を実施いたしまして、労働力の質の向上、労働の生産性の向上を期待して、労働条件に規律を与えていくことが一つ、第二は、これは日本の産業に限りませんが、非常に激しい技術の進歩に対比いたしまして、特に中小企業、零細企業におきましては、技術の低下のために生産性が低い状態にある、ひいてはそのために雇用が不安定という状態にもございますので、職業訓練制度を拡充いたしまして、それによって技術を付与するという方法で解決をして参りたい。特に、現在の雇用、失業の状態の中で著しい特徴は、未充足求人が職業安定所の窓口だけでも十数万人もあるという状態でありますので、これに技術を付与していくことが第二であります。  以上のようなことと並行しつつ、長期経済計画によります経済の伸びと産業構造の改善というようなことに期待をいたしまして、同時に、昭和四十年以降になりますると新規労働人口の減少を来たして参ります。これと相待って雇用の状態をよくしていきたい、こう考えておる次第であります。
  55. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 昼からも継続して質問できるのですか。
  56. 川崎秀二

    ○川崎(秀)委員長代理 いいえ、きょうは午前中に終りたいと思いますけれども、時間は十分——ことに、先ほどからお話を承わっておりますと、非常に系統的なお話ですから、ゆっくりおやりになってけっこうだと思うのです。
  57. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 私が石田さんに申し上げたいことは、経済界の変動そのものはどんなにしても防ぎ得ない。それは、たとえば趣味とか流行とかの変ってくることも均衡を破壊してくる。安定を破壊してくる。それから歳出の変化も税制の変化も、それから豊作か不作かもその通りだし、もちろん貨幣の発行の状況も経済界に波動を与えます。そのほか、貯蓄の量とか外国貿易の盛衰とか、あらゆる条件は大ていわれわれが防ごうとしても防げない。また防いではならないような技術の進歩というようなものが実は経済界の均衡を破壊し、失業の原因になる。永久失業というものではないが、一時的には、少くとも新しい設備ができれば、古い設備でやっておったものは、そこに一応新しいものがつくまでの間には時間もかかりまするし、失業状況ができるのですが、そういうことを考えると、一番大切なことは、そういう変動に対して絶えずこれに適応していくことのできるような状況に置くということ。どんなに豊作であろうが不作であろうが——自転車で行く場合の例を引きますと、どんなでこぼこにぶつかるかわからぬ。ぶつかっても自転車がひっくり返らないようにそれに適応して、次の均衡をとって、つり合いをとっていくという適応力というものを持つ必要がある。そのためには絶えず動き得る状況に置いておかなければならない。逆に申しますと、経済全体のあらゆる部分にわたってできる限り動き得る状況に置いておくということが大切だ。固定化するということが適応力をなくすることになると思う。これは長く言えば際限ありませんけれども、簡単に結論を申しますと、変化に適応することができるためには、絶えず動き得るようにしておかなければならぬ。自転車のハンドルというものは自由に動くようにしておかないと、道のでこぼこにぶつかったらひっくり返ってしまう。その動き得るという状況が、どうも政治の実際を見ておりますと、組織化だの何だのかんだのと言って——自然にこれがいいからといっておのずからできる組織は別です。これは一つの技術の進歩と同じように、組織の上に進歩があるのは当りまえですけれども、そうではなしに、実際を考えないで、いろいろなことを頭から編み出して組織化する。そうすると、それは安定を目的としておるのでありますが、固定化するために一時的安定をはかり得ても、実は適応力というものをなくしてしまって、大きな変動にはひっくり返ってしまうようになる。こういったことは具体的にあげれば際限がありませんが、私は抽象的な言葉で申します。決して、最低賃金法とか団体組織法とかいうものをここで取り上げて、この点はこう、あの点はこうということは申しませんけれども、総括的に申しますと、経済界の諸条件の変動は、人力をもって防げない。また防ぐべきでないものがたくさんある。それに対して絶えず適応していく、そのための必要条件は、経済の細部にわたってできる限り動き得る状況に置かなければならぬ。固定化するということではその反対の適応力を失わせる。このことは、大きな一つの原則としてそうなければならぬと思いますが、労働大臣どうでしょう。そういうことを御承認なさいますか。
  58. 石田博英

    ○石田国務大臣 私が申し上げたいのは経済の変動やその他の条件によって、ある程度の失業の発生ということは常にあるものであり、またそれを押えるために経済の根本的な進歩や発展を押えるようなことをしてはならないという今の山本さんの御意見、それからそういう実情に対する認識には、私も変りありません。従って、いわゆる完全雇用と申しましても、先ほど数字で申し上げましたように、西ドイツアメリカのような場合におきまして、アメリカのように非常に労働力が不足を来たしておるというようなところにおきましても四%程度の失業者は常にあることであります。しかし、そういう状態に対処いたしますためには、たとえば失業保険制度の拡充ということで対処していく。しかし、一方、私どもがお預かりしております労働者の生活を安定させ、向上させるという責任の上から考えますと、やはり雇用の状態というものをどうしたら安定させていくか、つまり、労働者個人々々の立場から考えますと、安定性を付与することを考えなければなりません。それから、安定性というものは、おっしゃいましたように、ずっと間断なく一定のところに固定化することだけが安定性ではないのであって、その固定した事業なり産業なりというものが他の諸条件によってあるいは進歩によって移り変った場合においても、その人が持っておる技術、能力によって直ちに変動に応じ得るようにしていかなければならぬ、それは結局は技術の付与ということでいかなければならぬ、こういうことを私は申し上げたのであります。それから、日本の場合におきまして特に大切なことは、その変化に応ずる、あるいは当然必然的に出てくる失業の問題というよりは、就業しておるけれどもその就業状態が不満足な者、また非常に低収入であって生活を確保できない者、そういう者が非常にたくさんあるところに日本の失業問題の重大性、重要性と特殊性があるのだという私の認識をあわせて申し上げた次第であります。
  59. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 そこで、初めの貧乏追放ということと関連してくると思うのですが、貧乏の問題というものは、御承知通り何千年来の問題で、何とかして貧しい労働者の生活を高めていきたいということはわれわれの念願でありますが、その方法の問題、失業者をできる限り少くする方法、貧乏をできるだけなくしていく方法とか、方法の上にやはり危険な方法と危険でない方法が出てくるのだと思う。それから、今日は社会党の諸君はおられませんけれども、数日来のこの委員会の議論の中にも、資本を犠牲にして労働者の労賃の高さを上げていこうというような一つの考え方も聞かれたのでありますけれども、これは問題だと思います。国において労賃が一定の高さにあり、地代が一定の高さにあり、あるいは利子が一定の高さにあるということは、偶然にそうなっておるのではなくて、経済の万般の条件の結果としてそうなっておる。ですから、その経済の諸条件というものを変えていく方法でなければ——それをそのままにしておいて、法律を作って力でもって労働者の労賃の高さを上げていこうということになりますと、必ず経済の過程に波動が生じて、その結果は、もし資本を犠牲にしてやるということになりますと、資本の供給力が減ってくる、あるいは投資意欲が減ってくる、結局労働のチャンスが減ってくる。かえってそのはね返りは労働者の不利益になる。ここにそういう危険があると思うのです。  世界のどこの国を見ましても、資本量の多いところほど労働者の労賃が高い。そうして金利が安い。ですから、地代とか金利とかあるいは労賃という一つのカテゴリーでの所得分配を考えた場合に、一定の資本に対する金利の高さ、あるいは一人当りの労賃の高さ、あるいは一定の面積に対する地代の高さというものの相対関係においてできる限り労賃の高さを金利や地代に対して高くするためには、——高いところはどこかというと、できるだけたくさんの土地とたくさんの資本がある国ほど、金利は安く地代は安い、そして労賃は高いということになるから、結局、弊害のない、労働者にはね返りのこない労働者の労賃を上げていく方法、あるいは失業者を少くする方法というのは、資本量をふやすということが私は第一じゃないかと思う。土地は簡単にふやせませんけれども、少くとも資本量をふやしていく。資本量が労働に対して相対的に多ければ多いほど、金利は安くて労賃は高い。逆に言うと、資本量の割に労働者が多ければ多いほど、労賃は安くて金利は高い、こういうことになるんだと私は思う。ですから、アメリカのような資本の多いところほど労賃は高い。資本が少くて労働者が多いところほど金利が高くて労賃は低い。  こういう点で私の考えをちょっと申し上げて御意見を聞きますが、そういう直接的権力、力でもって資本を犠牲にして労賃を上げるというふうな方法でなしに、ほんとうに労働者の賃金を上げていく方法は、一言で言えば労働の生産性を上げていくということに尽きると思うのです。一言にもし言うなら、労働の生産性を上げていく以外に方法はないと思う。そうして資本の量あるいは土地の量が労働量よりも比較的に多いほど労働の生産性が上ってくる。ですから、日本のような場合に、土地を広げることができなければ、まず資本量をふやすような考え方が必要であり、そうすれば金利も下ってくる。それから、資本量を減らすという政策をとれば、必ず労賃が下ってきて、金利が上ってくる、こういうことになると思う。それから、賢明な分業をうまく利用して国際分業に参加していくということも、私は労働生産性を上げる理由だと思います。ですから、国産奨励も時に必要ですけれども、しかし、ほんとうに労働者の分け前、所得を多くするためには、国際分業に聡明に参加していくということが必要だと思う。それから、技術の進歩を十分に利用することはもちろんであるが、もう一つ、労働人口の適度の増加ということを考えないといけない。労働の増加というものは購買力の増加にもなり、生産性増加の原因でありますけれども、そのかわり一方で労賃引き下げの原因にもなる。結局、多過ぎても少な過ぎてもいかぬが、適度の増加ということが考えられないと、どんなに資本の量をふやしていっても、労働量がそれ以上にふえていくということになれば、やはり労働の生産性は下ってくる。人口問題も考えなければならない。それから、平和とか安全とかあるいは秩序とかいうようなものが保たれていけばいくほど、あるいは信用が確実になるとかいうことが、要するに労働の生産性を高めていく方法だ。こういったようなことをやっていくことが、ほんとうに労働の生産性を上げていく道だと思う。  それから、個人間の所得の分配をできるだけひどい不平等のないようにしていくためには、私は競争というものを失ってはいかぬと思う。逆に言うと、独占とか、あるいは不公正な競争を排除し、公正競争を確保することはやはり個人間の所得の不平等をできるだけ少くしていく方法である。労働の世界においても、特定の労働階級というものが一つの独占的地位を占めて高い労働収入を持っておる、ほかの者はそこに入り込む余地はないということが、すでに労働者の中においても所得の不平等を激しくするし、また企業者の中でも独占というものが進んでくればくるほど、やはり不平等が激しくなる。こういった意味で、日本の今の政治の傾向全体として考えて、あくまでも公正な競争を事業界においても労働界においてもできるだけ保持していくようにしないと、それをだんだん失わせるような方法は結局個人間の所得の不平等をますますひどくしていく、こういうふうに思うのであります。  それから、もう一つ私の考えを申しますが、不完全労働者が多いということが日本の非常な欠点のように言われますが、これは欠点であると同時に日本の経済の一つの強味を示すものでもあると考えられる。というのは、今日のような非常に高度に発達した分業の世界というものが世界的規模で行われておる場合に、一つの波動は必ず全面的に及んでくる。そうして経済条件の変化のたびごとに動揺は免れないのですけれども、その動揺を食いとめる一つの大きなクッションは、やはり国としては包括的な広い立場でいかねばならぬ。そういう分業世界における波動を国全体のクッションで食いとめるところを絶えず用意しておく必要がある。そのクッションとして一番大きなものは、やはり日本の自作農だと思う。ああいった自作農の世界ではあまり時間も厳重に守らない。しかし、よその人が来ても昼になれば飯を出して米代は考えないといったような、非常に不合理のようですけれども、そういうふうなものはやはり全体から言うと一つの大きなクッションである。中小企業は非常に不安定である。不安定でありますけれども、不安定ということは何を意味するかというと、絶えず新しい者が腕一本で入っていける余地のある世界。よそへはなかなか入っていけない。農業をしようったってできない。資本家になろうとしてもできないが、中小企業だけはからだ一つで入っていける。そのために、中小企業の世界は確かに不安定でありますが、しかし運がよくて少し腕がよければ小金もたまる。しかしまたすぐ没落もする。こういった世界というものは非常に不安定な世界ですけれども、その不安定であるということが日本経済全体の大きな安定帯たる役割を果していないだろうか。たとえば、戦争が済んだという変化で何百万という人が外国から引き揚げてきたような場合に、もしきちんと合理的な分業組織でどの組織も固まっておって歯車を合せたようになっておれば、とうてい何百万の人間をとにかく糊口をつなぐ吸収力はなかっただろうと思う。それが、日本のようなああいうばく然とした農村あるいは未組織の中小企業の世界、そういったものがあって、これを吸収したというか、波動を比較的平和裡に受けとめた。とにかく全体の秩序が破壊しないようにそこに食いとめる大きな作用をしておる。そういう意味で、私は、いろいろな労働の生産性を上げる政策とか、その他の政策のほかに、高い意味における経済全体の変動に対するクッションの世界考えるということが、やはり雇用政策の上、あるいは労働者の賃金向上、日本の経済安定の政策全般として必要ではないか、こう言うのであって、こまかいことを言えば、たとえば、つけものを買うてきた方が得であっても、まあできるだけは自分のうちでつけものをつけるというふうなことも、その意味で小さいながらクッションの働きをする。経済的なこまかいそろばんだけから言えば近所でつけものを買うてきた方が合理的と言えましょうけれども、しかし、とにかく自分でつけものをつけておくという習慣が残っておるということが、経済のいろいろな思わざる波動、変化の場合には大きなクッションの役割をする。日本の自作農はそういう意味において国策として保護していかねばならぬ。そういう全体の経済の安定帯、クッションの役割についてどういうふうにお考えになるか。これは農林大臣にも一つ御所見を伺いたい。
  60. 石田博英

    ○石田国務大臣 労働者の生活条件の向上、賃金の上昇をいたします場合において、それはその資本に食い込んでまでそれをやろうという議論の誤まりであることは申すまでもありません。それは労働の生産性を高めてその生産性の分け前をとるという形で取り扱われるべき問題だと私は思っております。それから、結局産業基盤を強くする、あるいは労働者の生活をよくするためには資本の蓄積を促進していくことの必要性、それによって生ずる金利の低下を期待することがひいては労働条件の改善になるという御意見にも異存はありません。しかし、これはニワトリが先か卵が先かという議論に若干似てくるのでありまして、相当の資本の蓄積が行われるまで賃金の上昇は押えてしまう、あるいはそちらの方を犠牲にしていくというような逆の処置をとって参りますと、労働者諸君の生産性向上に対する勤労意欲を欠いてくる、あるいは労働の質の悪化を来たすというようなことも考えられる、だから、やはりその間の処理というものは、どちらを一方的に強くするというような片寄った施策は私は、基本的にはとるべきものでないと思います。山本さんもそういうことをおっしゃっているのではないと私は思います。原則論としては、おっしゃった通りのことを承認いたします。しかし、これは日本経済全体を考えた場合の問題でありまして、同時に、先ほどの不完全就業者の問題、これは経済変動に対するクッションとして役に立つじゃないか、これは、自作農の存在あるいは農村人口の問題だけでなく、いわゆる社外工あるいは臨時工というようなものの問題も経済変動のクッションになっていることは事実であります。しかし、私どもの立場、つまり労働者一人々々の生活の向上と安定を考えていくという立場から申しますと、経済全体としてはいいかもしれませんが、クッションの役割を果させられた者一人々々の立場はこれを放任できないのでありまして、そういうヒューマニティの立場から、われわれはやはりこういう人たちに安定とか向上を与えていく努力をしていかなければならない。しかし、日本の雇用構造の中に相当大きく不完全就業者があるということは悪いことじゃない、こういう御議論でありますが、悪いことでないということは、私はこういう膨大な不完全就業者の労働条件を改善し、大企業、公企業並みに生産性を発揮させる余地が相当残っておる、その余地に希望をつなぐ、そういう状態になれば日本の経済もさらに大きく強まるだろう、そういう意味においては私は希望をつなげるということは言えるかと思います。けれども、こういういわゆる不完全就業者は、第一に非常に低賃金である、第二には雇用が安定いたしておりませんから、労働者に今日与えられておる諸種の福祉事業あるいは施設、福祉立法、そういうものの恩恵に浴しがたい状態にある、こういうことが事実なのでありまして、これは大蔵大臣とか通産大臣あるいは経済企画庁長官がおっしゃることなら別でございますが、私どもの労働者一人々々の生活を守ってその向上をはかっていくという立場から申しますと、お前はクッションだから、日本の経済全体のために役に立つんだからがまんをしろということは私どもとしては言えないのでありまして、そのクッションの役割を無理に果させられておる人たちの条件の向上と安定をはかっていくことが私の責任であると考えております。
  61. 川崎秀二

    ○川崎(秀)委員長代理 赤城農林大臣の答弁はありますか。
  62. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 今のお話のように、国全体の経済の中に弾力性を持たせるとかクッションを持たせるとかいうことは非常にけっこうだと考えております。そこで、お話にも出ましたが、自作農というような制度を国が国策として保護をする必要もそういう点からあるだろう、こういうことでありますが、雇用という問題と離れましても、私は山本さんのお考え方と同じような考え方であります。と申しますのは農業政策におきましても、土地を国有なら国有にして全部雇用労働という形に持っていくべきものじゃない。農民におきましても、あるいは中小企業者におきましても、日本の制度から言いましてはやはり独立自営の農民である。こういう立場から、農民の立場をよくしていく、生活の向上をはかったり安定をしていく、こういう考え方を基礎に置いておるわけでございますので、お考えの点等は私も同様に考えております。
  63. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 労働大臣、最低賃金法というものは失業者を減らすかふやすか。私は先ほど一つの国において労賃とか金利とか地代の高さというものは偶然に定まっておるのじゃないんだ、資本の量、労働人口その他一切の経済条件の結果なんだから、原因を無視して結果を力で変えようとすれば必ず反動がくると申し上げた、反動は一番弱い労働者自身にくる、こういうふうに申し上げたのでありますが、具体的に最低賃金法というものをやった場合に、就職しておる者の地位を安全にするというだけならば、それが守られておる限りいいのですけれども、しかし、それが現在の最低で、どんな不況になってもそれ以下にはいかぬような低いところにきめれば、これは意味のないことで、ちょうどこの天井にさわってはいかぬという立札を立てるのと一緒だ。上でも下でも届かぬようなところにきめるのは意味ない。結局、現在のは低過ぎるからというので、まん中とか下から何割か上ったところにきめることになるでしょうが、そうなった場合に、失業者というものはさしあたり必ず出てくると私は思うのです。しかし、それにもかかわらずなおほかの理由からそれはそれとして対策をとるつもりですか。国鉄の総裁が国鉄の従業員だけを考える、よその者はどうでもいいのだというのは、国鉄総裁はそれで済むかもしらぬけれども、しかし、労働大臣としては日本国民全部を対象において、そしてそれらがかりに賃金は少くても就職しておる方がいい、半失業でも失業よりはいいということも考えなければならぬ点だろうと思うのです。どうですか。
  64. 石田博英

    ○石田国務大臣 ただいまのお説の中に、賃金なり地代なりというものはあるべくしてそこにあるのだ、従って、それを力で改めようとするときには不測の変動が生じてくるのだという御議論、これは原則論としては私は決してそれに異議をさしはさむものではありません。ありませんが、特に中小企業及び零細企業等におきまして賃金と他の経営の諸要件との関係であります。よく、たとえば、最低賃金法の提出を準備をいたしておりますときは中小企業の代表者、特に地方における代表者が参りまして申しますことにはわが国の中小企業というものが第一原始的な形態をそのまま続けておるのだ、設備も古い、それから信用も低いから金融も不円滑である、また高い金利の金を使わなければならない、そういう中で経営を維持しているのは労働者の条件が悪いからだ、低い賃金で長く働かしていることによってようやく他の条件の不利を補っているのだ、こういう話があります。これは私は首肯できない議論でありまして、やはり、経営維持に対するいろいろな要件というものは、少くとも平等の立場において改善さるべきものであって、設備が古い、近代的でない、信用が低いというもののしわ寄せを全部労働者に寄せられるということは、これは私どもとしては承服しがたいことであります。それから、日本の中小企業における低賃金の状態というものはこれは実は非常にひどい状態です。これは確かに生産性に見合っていると言えばそれまででありますけれども、大企業と三十人以下の中小企業との賃金格差は一〇〇に対する五八、十あるいは五人以下となりますと、二四、五からやっと三〇という状態であります。そういう状態を改善をしていくことはこれは私ども社会的な義務だと第一に根本的に考えます。  次に、それではそれに対して立法措置をもって改善をはかっていけば新たな失業の発生を来たさないか、それは急激にやればそういうことも起るだろうと思います。しかし、今日本の中小企業というものはいわば手一ぱいの人間を決して過剰に抱えているわけじゃない。過剰よりもむしろ不足がちな人間をもって長時間労働と低賃金で経営を維持しているわけでありますから、漸進的にこれをやって参ることによって失業の増大を来たすことはない。それだからこそ漸進的な方法を採用しておる。むしろこの法律の実施によりまして労働条件の向上を来たし、労働に秩序を与え、それによって中小企業の持っておる封建性あるいは前時代的な様相の改善をはかっていくことが中小企業の健全化に役立つものと信じております。
  65. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 これは議論になりますからやめますけれども、やはりできれば生産性を高めるということに努力すべきで、生産性が低いままで法律でいじくると反作用が来る。生産性を高める要点はやはり資本量を増加することと労働者をあまり多く増加させないこと、そしてできる限り新しい技術を利用していけるように、資本がふえていけばそういうふうになるから、資本量をふやして労働者をあまり多くしないということが、つまり簡単に言うと労働生産性を上げる条件です。その条件をそのままにしておいて結果だけ追おうとすると弊害が来ると思いますが、すでに政府で法案を出して、われわれも与党だから反対するわけにはいかぬのだから、運用上無理のないように、もし悪い不測の結果が出てきたときには、無理に無理を重ねて結果を追って対策をとらないように、もとに帰って、改むべきは改める。もとの方は直さずに、出てきた結果ばかり追っかけていくと大へんなところへ行って、上げも下げもならぬようになる。そういうことで間違いのないように、運用上あなたの力量を示してもらいたいと思います。  最後に、農林大臣を中心に伺いたいんですが、食糧増産ということが日本の農業政策における大きなスローガンになってきておるようでありますが、食糧を増産すればいいという考え方がややもすれば常識化しているのではないか。ところが、私は、食糧はある程度足らぬ方がいいのじゃないかということを申し上げてみたい。食糧だけでありません。物は必ずある程度足らぬようにしておかぬと、足らなくなくなったら無価値になってしまう。生活必需品であればあるほどなお不足がなくなったときには無価値になってしまう。水のようななくてはならぬものでも、何ばいか飲んだらだれも見向きもしないで、それ以上は金をくれても飲まないようになる。米なども、不足しているから、それで相当な金を払ってでもこれを買おうとしますけれども、不足しないようになったら、こんなものは水と一緒で、だれも見向きもしなくなる。だから、一定量までは絶対的に生活必需品は要求しますけれども、一定量になったら、それ以上は効用の落下速度というか、それはぜいたく品とは違いますから、あるところまではずっと横ばいしていきますが、満腹というところまで行ったら、今度は急転直下価値が下ってくる。昨年は、たしか、全国的に白菜の生産が過剰になったために、価格の値下りが生産の数量の増加よりもひどくなって、豊作飢饉のような現象を生じておりますが、これはああいう生活必需品の一つの免れない法則だと私は思う。限界効用の落下速度が非常に強い。ですから、数量というものに、絶えず農業政策では頭を置いてもらいたい。どの程度に置くかというと、コスト、つまり生産費を償ってなおそこに若干の利益が残るような程度に市場の値段が定まるような、その程度が生産のマキシマムである。これは政府で高く買い上げるような値段はだめですよ。勝手に一時やっているだけで、値打がなくなってしまったものをいつまでも買い上げられるわけがありません。ですから、やはりそのものが生産費を償って幾らかの利益が残るようなところへ値段が定まるというくらいの希少価値を残す。ですから、よく、日本で足らぬのだから外国から輸入するんだとか、足らぬのだから増産すると言いますけれども、不足しないで一ぱいになるまで生産したら、あとは急転直下水のように無価値になって、これは実は農民をいじめる政策である。消費者のことも考えなけりゃなりません。それから生産者のことも考えなけりゃなりません。その両方を同じように考えた限界点というものは生産者のコストに若干の利益等を加えたところへ、消費者が支払うところの市場の価値がすなわちその辺までなら払えるというところで、生産をとめなければならぬ。だから、絶対量が足らぬのだから作るとか輸入するとかいうのでなく——白菜なんかもそろそろそういう限界を去年あたり越えた。米なんかも、ひたすら増産政策をやって、八郎潟の干拓とか有明湾を埋め立てる、愛知用水でどうとかなどと言ってやたらに増産をはかっているように思う。昔朝鮮や台湾で米を作り過ぎて上げも下げもどうもならぬようになった。そういうことを私はおそれるので、増産政策の限界というものを頭に置いてもらいたいと思う。しかもその限界というものはどこかというと、くどいようですがコストに若干の利潤が加わったところに価格が定まるところだ。今日の実情はどうかというと、ほっといたら下るというのならば、私はもはや限界をこえておるのではないか、こういうふうな心配を持っておるのです。  それでもう一つ時間もありませんから一緒にお尋ねいたしますが、聞くところによると、繭が買上機関に滞貨になっておるということであります。同時にまた来年の繭の生産はことしよりもまた増加するという話を聞いております。そうしてその滞貨買上機関の資金がなくなるから、そこで政府で若干の金をまた貸すワクを今度は広げるように、先般財政部会でもそういう案が出て参りましたが、すでに繭の滞貨、生糸の滞貨があるのに、生産はさらに増す。そうして借入金の資金ワクをふやして、さらにもっと続けていった場合に、かつて昭和の初めごろに繭の滞貨で上げも下げもならぬ経験をなめましたが、そういうふうな心配はないものか。アメリカのような財力のあるところでも、あの価格支持制度を続けていった結果は余剰農産物という世界の厄介な経済のたんこぶのようなものを作ってしまったのでありますが、日本でかつて経験したような、またアメリカが今経験しつつあるような余剰農産物というものを作り上げる心配はないものかどうか。農産物価格安定法に基いて買った澱粉が滞貨になっておるということも聞いておりますが、これなども今後この制度を続けていった場合に、澱粉の余剰農産物が起ってきて、そうして倉の中で寝ているその滞貨が市場の価格を圧迫する、倉の中で寝ているやつがいつ何どき出てくるかわからぬ。焼いてしまうわけにはいかぬ。現に存在しておるのだから、潜在供給力として市場の価格を圧迫するということになって、一時的には生産者の安定になることは確実でありますけれども、しかしその一時的安定が実は大きな不安定をだんだんはらんでいくというおそれはないかという点であります。ことわざに「安定政策が進めば進むほど不安定になる」という有名な言葉がありますが、部分的な、一時的な安定策というものが、どうかするとしわをだんだんためていって、大きなしわになって今度は大きな不安定の原因になる。農産物価格安定法及び糸価安定法等に基いて買い上げた品物の滞貨の状況、今後の見通し、それに対する対策といったようなものについて簡単にお答え願いたいと思います。
  66. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 食糧増産にも限界があるのではないか、ことにあまり豊富になると希少価値というものがなくなってきて、価格が下落し、生産者が損害が受けることになりはしないかという御質疑でございます。米を例にとられましたが、現在米等につきましてひたむきの増産対策をしているわけではありません。実は自給に見合って増産というか、国内の自給力を強化するという意味における増産は進めておるわけであります。今もお話がありましたように、三千四百万人の生産者があると同時に、消費者は八千万ありますので、生産者及び消費者の両方に適当なところで、量においても価格においてもきめられなければならない、こういうふうに考えておるわけであります。そこで今価格支持の問題も出ましたが、アメリカ等も価格支持政策というものには非常にむずかしい問題があると思います。長々と私が申し上げる必要もありませんが、農業は生産面においてはたとえば年一度かせいぜい二度くらいしか生産はできません。ところが生産したものは今度は消費になります。だから生産したものが消費になると、市場の価格というか市場操作ということが必要になるわけであります。農業が弱体な生産面を持っているという点から考えて、その商品を単純に市場操作だけにまかして価格決定をしていくということには相当難点があるんじゃないか。こういうようなところから価格支持政策にはいろいろ問題はあるといたしましても、米麦あるいはカンショ、バレイショ、菜種、大豆などもありますが、食糧管理とかあるいはまた農産物の価格安定法とか、あるいは今の繭糸価格の安定法というようなことで、農産物の約七割を価格支持というか、そういうことで今やっておるわけであります。しかしこれはお話のように、無理な価格を決定するということにはなっていないわけであります。ちょうどあと三割が市場操作にまかしておるというか自由になっておるわけで、その中で野菜、果樹、牛乳などもありますが、こういうものは市場の自由操作になっておるような形であります。この流通加工といいますか、流通対策につきましては非常にむずかしい対策でありまして、統制経済下にありましては御承知通り戦争中にああいうことで失敗しております。さりとて全く放任しておくというような形では——今申し上げましたように生産面が非常に弱い農民の立場でありますので、まるっきり市場操作だけにまかしておくというようなことでは価格の維持もあるいは消費者に対しても適当でないのではないか、こういうふうに考えまして、流通対策ということは統制ではありませんが、私どもも今年から手をつけていってみたい。そうして生産者が価格の安定を得る一方、消費者にも高いものにならぬようにやっていこうじゃないかというので、その手始めをしていこうと思っております。そこで先ほどほかの方でもお話がありましたが、私どもといたしましても、市場操作だけでいくべきではなくて、やはり労働の生産性、農業においても労働の生産性とか土地の生産性を高めて、コストを低めていこう、こういうのが価格政策の一つの重要なポイントではないかということで、その方面に力を入れておるわけであります。  今特に御指摘になりましたカンショ、バレイショ、澱粉等でありますが、繭の方から申し上げますと、今政府の保有している生糸の数量は一万八千六百四十八俵あります。その内訳は白繭糸が一万八千百三俵、玉糸が五百四十五俵でありますが、これがいろいろ保護政策をとっておるので増産になって、また価格がたたかれるというようなこと、あるいは輸出市場において困るような場合に当面しないかというお尋ねがあったと思うのであります。三十三年度の繭の生産見込みは三千五十万貫、生産される生糸は三十四万俵と見ておるのでありますが、これにつきましては今お話のありましたように、繭糸価格安定制度によって生糸の買い入れをしまして、糸価を支持しておるのですが、なお繭価維持のために乾繭共同保管の実施等によって安定をしていく予定であります。なお糸価安定特別会計資金におきましても、今御指摘のように三十五億円を生糸の代金として支払っておりますが、なお三十億円の資金ワクを持っておりますのを、今回同会計の借入金限度を二十億増額する法律案を提出しております。これで繭の価格の安定は大体できるという見込みを持っておるのであります。また繭の点におきましては御心配のように、そう急激な増産というようなことでなくて、実はむしろ減産の形でもありますので、現在の状態を維持していく。しかも生産費を安くしていくというような指導をしていくのでありますので、そう急激に増産していくというようには見られません。でありますので、現在の生産に対しまして、価格の点におきまして支持をしていって、養蚕農家の安定をはかっていく。その安定をはかっていく見通しも、今申し上げたような制度においてできるというふうに考えておるわけであります。  それからカンショ澱粉等も今三千八百八十九万貫持っております。これも一つの価格支持制度のもとで政府が買い上げておるのでありますが、こういうふうに多く手持ちを持っておると、かえって価格を下落させたりするんじゃないかという御心配も一般的にあるようであります。この放出につきましては、需給の状態をよく調べまして、大きな影響をこうむらないようにして放出いたしております。同時にこの澱粉につきましては、消費面を拡大しなければ、政府がやたらに買い上げて支持だけしていてもまずいじゃないかということで、新しい用途といたしまして一つ考えておりますのは精製ブドウ糖の工業化というような形で、この澱粉の新規用途を広めていこう、こういうようなことでカンショ、バレイショ等の価格支持をしているのでありますけれども、カンショ、バレイショ自体におきましても、なかなか生産費が高くなっておりますので、政府の買上価格ではまだ安いというような声もあります。しかし、これにつきましては適当な価格をきめていくと同時に、畜産方面の飼料化をするというようなことに向けて、やはり生産費を低くしたり畑地におけるカンショ等の転換を奨励いたすというようないろいろな方面から、畑作、ことにイモ作農家の安定をはかる、こう考えておりますので、お話のように急激に農産物が増産され、稀少価値を失って価格の下落を来たすのじゃないかというような面は主要農産物といいますか、今までの米麦とか繭とかあるいはカンショ、バレイショ等、価格支持をしておる方面には御心配はないと思います。ただ野菜とか果樹とか、価格支持に関係のない自由市場においてさばかれるもの、この点につきましては今お話のような点もあります。これにつきましては流通対策も考え、お話のような点を十分頭に入れてやっていきたい、こう考えます。
  67. 山本勝市

    ○山本(勝)委員 最後に希望を申し上げておきますが、流通市場に出ておるものはこうだけれども、そうでないものは安定しておるというのは、政府で一時的に買い上げるという政策があるからであって、そういうのは一時の弥縫策である。やはり自由な社会で労賃といわず、物といわず、価格の形成を法律の力、そういう技巧で動かそうというようなことでは、必ずしわがあとへ寄ってくる。私は農村の保護は、先ほど言いました通り、国全体の安定帯としても、ぜひともこれを育成強化していくということは賛成なんです。けれども自然の法則とも称すべきもの、需要供給の関係できまるべき価格を、需要供給の均衡点と違ったところで一時的に力できめていこうというような政策は、これは行き詰まるにきまっている。私は農産物価格安定法を作るときから強力にそれを警告したのでありますけれども、ジャガイモにしても、澱粉は腐るものでないからそうすぐ影響はないと言いますが、これもだんだんたまってくれば市場価格を圧迫します。そうしてマイナスの影響を将来の生産に与える。そういう政策をやめて、むしろ農村の保護のためには、大蔵大臣も聞いておいてもらいたいんだが、金の使い道を、たとえば農村の義務教育、文教施設の設備費を全額国家で出してやる、そのかわりそういう価格の支持を自然法則に反してやって、行き詰まって、農民に大きな迷惑をかけ、政府がしりぬぐいをしなければならぬような、そういうむだ金は使わないで、道路をよくしてやるとか文化施設を作ってやるとかあるいは義務教育の費用は全部国で出してやるとか、これは時の財政の都合を見てですけれども、そういう方針をとるならば、少しも自由な社会経済秩序の法則と矛盾しないで農民のためになります。自由国家、自由秩序の中でりっぱに国の政策としてその効果を奏する、ほんとうに有機的な方法であると思う。ところがそうじゃなしに、自然法則にそむくような一時的な弥縫策で、金利を政治力で動かしてみたり、労賃の水準を法律で動かしてみたり、あるいは物の値段を政治的にきめたりしたら、必ず反作用が来ますから、そういうむだなことをしないで、一時の安定即長い目で見れば大きな不安定になるような政策をやめるがよい。もちろん一気にやめるわけにはいかぬでしょうけれども、だんだんとそういう方向考えて、そうして大きな激動のないうちに、自然法則と矛盾しないような意味で、農村の保護、中小企業の保護、こういうふうに大きく政策を考えていってもらいたい。弥縫策というか、目先だけの安定では、あとで行き詰まることは火を見るより明らかなことです。そうしてまた業者とかあるいは農民はさしあたってが問題ですから、それは農村の言うことを聞いておれば、農協の役員は役員の立場で、自分の当面の利害の立場で主張するにきまっていますし、それぞれ当面のことを考えるのが当然でございますけれども、しかし政府としては、長いしかも広い総合的な見地に立って効果のある方法考えねばならぬ。こういう希望を申し上げて私の質問を終ることにいたします。
  68. 川崎秀二

    ○川崎委員長代理 午後二時十五分より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。     午後一時四十一分休憩      ————◇—————     午後二時四十一分開議
  69. 江崎真澄

    江崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。野澤清人君。
  70. 野澤清人

    ○野澤委員 総理大臣も官房長官も見えていないので、この際自治庁長官にお伺いをしておきたいのですが、それは町村合併に関する基本的な態度についてお尋ねをしておきたいと思うのです。  およそこの問題の処理については二つの考え方があると思うのですが、第一は問題となっている町村の住民の意向をどこまでも尊重するという行き方、もう一つは、関係町村民以外の者の立場なり思惑なりに従って方針を定めるという行き方である。たとえて言うと、その地域の地方議員の地盤関係を考慮したり、あるいは県当局の面子を考えたりしまして、小規模な町村を解消するために、住民の多数の希望していない町村を無理やりにそれにくっつけるようなやり方は、いわゆる第二のやり方だと思うのであります。こうした町村合併に対しまして、今まで政府はどちらのやり方をとってこられたのか、この点明らかにしていただきたいと存じます。
  71. 郡祐一

    ○郡国務大臣 合併を促進して参ります場合に、あっせん、調停、住民投票、いろいろな方法で今までいたして参っておりますけれども、いかなる場合も住民の福祉を増進するのが町村合併の目的でございます。従いまして多くの場合はあっせんの段階あるいは調整委員の調停の段階でものがまとまっております。いかなる場合を通じましても、当該住民の公正な意思を最も基本に考えて合併を進めております。
  72. 野澤清人

    ○野澤委員 ただいまの御答弁でその筋道がはっきりいたしたのでありますが、実は今回の新市町村の合併促進に関しては、各地ともいろいろな要素、あるいは理由等によって、住民が混乱の極に達しておるというような事態もかなりあります。これらに対しては、県当局が上申してきましたものについての調査が、私どもの見ますのにきわめてずさんな調査をしておるのじゃないか、その結果総理大臣勧告というような措置も講じられたというような事実も見聞しておりますが、実際にこういう事態を引き起すということは全く日本の民主政治の欠陥でありまして、住民の意思を明らかにするのには、どうしてもこれは住民の投票によって、そうして何ら行政庁が圧迫を加え、また不当な干渉をしたり、警察官を出動させてまでその住民に不安と焦燥の念をかもし出させる流血の惨を生ませる、また子弟の教育に対して不安のどん底に追いやる、こういう行き方はきわめて不穏当でないかと思うわけであります。従ってたとい総理大臣の勧告が誤まった基礎調査の上に立ったものといたしましても、大臣としては今後個々に県の当局あるいは村当局の立場、さらにまた住民の立場というようなところをよく勘案せられて御善処をされるよう希望いたしたいのでありますが、特に紛糾を重ねます合併市町村の実態というものは、最も悲惨を見るのは村民各位であります。従って三つに分村するとか、全村合併するとかいう戦いのために、全く同じ地域に住む同胞が相はまなければいかぬ。しかもそれらがまるでかたき同士のような状態を半年も一年も続けさせるということは、これは明らかに総理大臣にも責任があるが、所管大臣の大きな責任じゃないかと思う。しかもこうした事態のまま、単に感情問題であるというて、その村会のリコール等の投票に際しては、警察官が三百名も出動する、ジープが三十台も出動する、そうして血の雨を降らさなければ選挙にもならないというような実態に放任しておくということは、この勧告が大切なのか、村民が大切なのか。ひとしく日本人だと思う。日本の領土内で、しかも善良な村民というものが、かような悲惨な取扱いを受けるということは、きわめて穏当を欠く行為じゃないかと思うのですが、これらに関しては、少くとも一日も早くこの民意を善良な理解のもとに結束させ、増産意欲を発揮させないことには、すでに十二月から今日までほとんど作業もろくろく手につかないというような町村が現在あります。従ってこれらについては適切な御措置と善後策とをぜひ講じていただきたいと思いますが、自治庁長官としての御決意のほどを、はっきりと承わっておきたいと存じます。
  73. 郡祐一

    ○郡国務大臣 中央審議会の答申を得て全国に勧告をいたした分がございます。しかしこれはどこまでも勧告でありまして、これ以上の措置を住民投票によってやることが適当なものもございましょう。しかしそのような住民投票にまで参りませずに解決した方がむしろよろしいものもございます。県があるいは合併促進に急なるあまり行き過ぎがありますならば、むしろそれは戒めなければならぬことだと思います。私どもは住民の多数の意思を尊重いたしまして、その住民が将来発展して参りますために一番いい結果をもたらせばいいのでありますから、住民の意向を無視して強行するようなことは考えておりません。これから関係者とも十分相談をいたしまして、最善の結果を生み出すように努力いたして参ります。
  74. 野澤清人

    ○野澤委員 官房長官がお見えになったので、基本的な問題についてお尋ねしたいのであります。  岸内閣の予算編成に関しまして、編成当初からこの委員会の審議が進むにつれて、一般に比較的均衡がとれた予算だとか、あるいはまた不均衡予算であるとかいうような議論が戦わされておりますけれども、全体としてはむしろ非常に均衡のとれた予算だというようなうわさまで出ておるような状況であります。一般国民からむしろ信頼とあたたかい期待とを持たれておるように私どもは感じるのでありますが、ただ予算の金額の多寡によって一般大衆はよい政治である、悪い政治であるという見解の差をつけがちであります。それぞれの施策に深い理解が行われるならばいざ知らず、ほとんど大半が反対のための反対であり、また悪口雑言を政策的に利用するというような面もありますけれども、全般として政府自体がとりました今度の予算には比較的難色はないとわれわれ感じております。ただしかし社会保障関係費だけは、きのうの公述人の陳述にもあります通り、重点施策に対する予算金額がきわめて少いために、かえって批判の対象となっているというきらいがあります。一体岸内閣の社会保障に対する基本的な構想というものはどこにあるのか、こういう点につきましてまず厚生大臣の考え方を一応お聞きいたしたいと存じます。
  75. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 お答えします。何と申しましても当面しております一番の問題は、各種社会保険の整備なかんずく国民保険の全国普及が大切であって、これによりまして医療保障が完備をいたしますということに相なると思うのであります。もう一つは現在御承知通りに準備中であります国民年金のいわゆる所得保障の面から見た年金問題の解決、これが大きな柱ではなかろうか。むろんあげればきりがないのでありますが、ここで申し上げたいことは、ただ金額的にものを見るとおっしゃることはまことにお話の通りでありますが、金額的に見ました場合に千七百億の増加経費を基本にするか、あるいは実際に使います千億を基準にするかによって割合は違って参るわけでございます。と同時に国民皆保険の目標に対しましても、医療保障の問題、地方財政との調整の問題等、長年の問題であって、しかも皆保険を実施いたします上において必要な経費というものは、これが平年度化いたしますときにはさらに相当の額に上る、単純なうわべだけの計数の比較では物事は決定いたさないものだと、かく考えておるような次第でございます。
  76. 野澤清人

    ○野澤委員 基本構想としては、皆保険の実施と国民年金の早期実施ということがはっきりしておるわけですが、厚生大臣として、たとえば国民年金に対する対策としては、どういう構想で、今後御出発になられますか。
  77. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 今回の国会ほど国民年金について論議されたことはないのではなかろうかと思うのでありますが、国民年金につきましては、これはよく御承知のように三十二年度から準備に着手いたしております。そして三十三年度もなお準備期間として考えておるわけでございますが、御承知通りに内閣に社会保障制度審議会、厚生省に年金のための五人委員会を設置いたしております。この御答申も最近は非常に精力的に進められておりまして、事務が非常に進捗しておるように見受けるのであります。従いまして私の方もそれに照応いたしまして、年金実施のための諸般の準備を完了いたしたいと考えて準備室を設けて、そうしてこれに対応して万遺憾なきを期したい、こう考えておる次第でございます。
  78. 野澤清人

    ○野澤委員 ただいま厚生大臣がお述べになったように、国民年金の準備のためには内閣の社会保障制度審議会並びに厚生大臣の方の五人の委員によって検討が進められておる、準備室もできておる、こういうお話ですが、一体厚生大臣としては社会保障制度審議会の答申を待ってこれをやろうというのか、厚生省自体の案で出発しようというのか、この辺の見解を簡単でけっこうですからお伺いいたしたいと思います。
  79. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 むろん内閣にございます社会保障制度審議会の御答申を待ってやるわけであります。しかしそれがためにじんぜん待っているわけにも参りませんし、また社会保障制度審議会の方の準備段階に私の方も常に相呼応して進めておりますので、基本的には社会保障制度審議会の御答申を待って実施をいたしたいと思いますが、その答申を待って準備のために多くの時日を費さないようにいたしたい、こう考えておる次第でございます。
  80. 野澤清人

    ○野澤委員 これは社会一般では国民が非常に疑惑の目を持っております。しかも最近の事例としては社会保障制度審議会の答申が四、五月ごろに出るだろうと、国会で総理が答弁しているにもかかわらず、一方では新聞発表があって、社会保障制度審議会の答申がどうであろうとも厚生省は強行突破するんだ、こういうふうなうわさが流れているのですが、一体岸内閣としては内閣に所属する社会保障制度審議会をどの程度まで信頼し、その答申を期待されているのか、官房長官から決意のほどを明らかにしていただきたい。
  81. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 社会保障制度審議会につきましては、岸内閣といたしましては十二分にその御審議を尊重して参りたいと思っているわけであります。野澤委員にもその審議会の委員として御活躍をいただいておりまして、日ごろ感謝いたしておるわけであります。今後とも十二分に尊重いたして参りたいと思います。
  82. 野澤清人

    ○野澤委員 これは非常に重大な問題でありまして、私が委員になっているから申し上げるわけでありますので、はっきりと政府の決意をしていただきたいことは、委員の方から非常に不平不満が出ております。しかも今度の年金制度の問題については、総理大臣からわざわざ正式に諮問が発せられておる。にもかかわらず、厚生省の方では早期準備のために五人委員というものが厚生大臣の指揮下にできておる。しかも今日まで歴代の内閣がどの程度まで社会保障制度審議会を信頼してきたか、あるいは尊重してきたかという問題については、きわめて私は満足な答えは得られないのじゃないか、あれだけのエキスパートが集まって論議されている問題というものが、政府に答申されても、答申された内容について一体政府はどれだけの尊重心をもってこれに対する審議をしたか。また最近の事例としては、当然年金制度まで総理大臣が諮問しなければならぬという考え方ならば、恩給の改正に対してどうして社会保障制度審議会に諮問しないのかということです。一方においてしかも総理大臣は、今国会においては将来恩給は国民年金と調整をはかるべきだ、一部は調整すべきだという答弁までしておる。こういう状態でいながら、日本の社会保障制度を着実に推進しようとする機関がりっぱにあるにもかかわらず、特別委員会を作って、そこで成案を得て三百億を支出する。しかもこれの経過に対しては、社会保障制度審議会には何らのお断わりもない。一体これは何だ。政府自体が、尊重すると官房長官は言われているが、どこに尊重した事実が出ているのですか。これは当然学者としてあるいは委員として不平不満を持つのはあたりまえです。そこへもっていって、最近のように年金というものは、こちらの答申が出ないうちに厚生省は出発するのだ、こういううわさが流れている実態から見ると、政府が社会保障制度審議会を信頼する度合いというものはきわめて不安定であり、信用ができないと私は思うのでありますが、もう一度これに対する見解を述べていただきたい。
  83. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 ただいまお話の点につきましては、従来のやり方等について政府の態度につきまして反省を要することもあるということを、私は率直に認めざるを得ないと思います。ただそのうちで、このいわゆる軍人恩給の問題についての御質疑がございましたが、この点については、過般本院の本会議におきまして岸総理から御答弁申し上げましたように、恒久的な制度としての国民の年金制度については社会保障制度審議会の御答申を待って、これを理想的な形態に持っていきたい。ただ現下のいわゆる軍人恩給の問題につきましては、特殊の現在の社会情勢において、過去のいろいろの沿革から申しましても、この際すみやかにケリをつけたいと申しますか、措置をいたしたいということで、現在御審議を願っておりますような案になっておるわけでございます。この点は一つ将来十分にその間のいろいろの調整をとるように考えさせていただきたいと思っております。  それから年金制度の問題については、先ほど来いろいろと御意見がございますが、実は農協との関係につきましても、政府職員その他これに準ずるようなものとの権衡というようなこともございまするので、場合によりましては、こういうものについては社会保障制度審議会の御意見等をも十分に頭に入れながら、将来のことをも考えながら、具体的に処置をしていかなければならぬ問題もあろうかと思うのでございますが、今後厚生省と特に内閣側としても緊密な連絡をいたしましてやって参りたいと思うのでありまして、これらの点については実は数日来関係の大臣の間におきましても、話し合い等行なっておるわけでございまして、十分慎重に措置をし、御趣旨に沿うようにいたしたいと考えております。
  84. 野澤清人

    ○野澤委員 そこで私は諸政策の基礎資料並びにこの予算編成等の基礎調査を中心とした問題について二、三御質問を申し上げたいのですが、関係閣僚はまだお見えになっておりませんようですから、一応そのうちでも特に最近の時局をにぎわしております日ソ漁業交渉の問題について内面的な問題を解剖して、これに対する政府の進捗状況といいますか、また御決意のほどを伺っておきたいと思う。  これはどういうことかと申しますと、日ソ漁業交渉がやかましく論議されておって、いろいろな御意見が沸騰されておりますし、サケ・マス等の魚族の保全等の問題を初め、現地においても科学技術小委員会というようなものが十数回開かれて交渉されている事実も了承いたしております。しかしながらこれらの交渉に対して、この科学的な資料を基礎として政府は交渉しておるというような通信等が新聞に明示されておりますけれども、一体こういう資料の収集はどこの機関でやっておるのか、また水産庁なら水産庁だけの資料で折衝しておるのか、     〔委員長退席、田中(久)委員長代理着席〕 政府全体が資料を収集して、これを統括した上で資料を出されておるのか、こうしたこの資料の提出またはまとめ方について、一応官房長官から伺いたいと思う。
  85. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 ただいまのお尋ねの、たとえばサケ・マス等の漁獲についての科学的な資料というようなものにつきましては、申すまでもございませんが、農林省の水産庁がその所管の官庁でございますから、水産庁が中心になりまして検討をいたすわけでございます。しかし同時にこれは国際的な非常に大きな問題でもございますので、政府全体として、一体的の立場でこの資料を総合調製し、そうしてこれを国際的な会議等に利用することにいたしておるわけでございます。  なお現に行われておりまするいわゆる漁業交渉は、日ソ間の漁業条約に基きます技術的な双方同数の委員を出して検討をいたしておるわけでございますから、これらの委員の構成等は御案内の通りでありまして、民間側等の御協力も十分に得て、これを総合的な日本側の技術的な資料として、国際的な検討の具に供しておるわけであります。
  86. 野澤清人

    ○野澤委員 水産庁の長官見えておりますか。水産庁関係の人はいますか。——農林大臣まだ見えてませんね。
  87. 田中久雄

    ○田中(久)委員長代理 もうすぐ農林大臣は見えるそうです。水産庁呼びますか。
  88. 野澤清人

    ○野澤委員 要求しているのだから、早く呼んでもらわなければしようがない。  それでは一応外務大臣におただしいたします。  日ソ漁業交渉の資料の収集については先ほどお尋ねを申し上げ、官房長官から概略御説明を願ったのですが、最近漁業問題に付帯しまして、日本海でニシンがとれないという話が出ております。同時にこういう漁獲の品種というものがかなり変ってきて、北海道の北岸でサバがとれるとか、暖流異変といいますか、暖冬異変といいますか、日本全体が非常に暖かくなってきた。特に海流関係と気象関係に対する考え方からして、たとえばきょうは二月の二十六日でありますから、かつては二・二六事件の大雪のあった日であります。しかもこういうふうに暖かい。こういう問題について日ソ交渉等のいろいろな文書のやりとりはされているが、一体外務大臣等はこの交渉の過程において、何かそこに自然現象の変化というものをお考えになったことがあるかないか、この点について御見解を承わっておきたいと思います。
  89. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 お答え申し上げます。天候が世界的にどうも異変があるように感じられるということは一般的にいわれている問題でありまして、日本等におきましても、ただいまお話のありましたように、最近では例年暖冬が続くというようなことで、いろいろ異変状態があるように思います。従いまして、お話のような漁業問題についてこれらの気象状況からくる影響というものが相当にあることも推察されるわけであります。われわれといたしましても、今後そういう点につきまして、漁業に関しましては、各方面との交渉をいたさなければならぬ日本立場でありますから、従ってそういうことに十分注意をすることにいたしたいと思います。
  90. 野澤清人

    ○野澤委員 それでは運輸関係、気象関係、あるいは海流関係等に専門の運輸大臣の方にお尋ねしたいのですが、最近の気象の異変について、あるいは海流の変化について、何か特にお気づきになったり、考えたりされた事項はございませんか。
  91. 中村三之丞

    ○中村国務大臣 冬が暖か過ぎる、夏が低温で凶作になる。これは社会の問題であり、また経済問題でございます。従って運輸省は水路部、また気象庁を持っておりますから、この海上保安庁、気象庁から時々刻々私は報告を受けております。その報告を基礎としてお答えを申し上げまして、技術的、科学的の問題につきましては、今当局が来ておりますからお答えいたします。  本年の暖か過ぎるということを局部的に見ますと、北極方面の前にありますところの寒帯前線というものが、南に動くか、北に動くかによって非常に違うのであります。今これは北の方に動いておる。こういうことが本年の暖冬異変という現象を来たしておるものと判断をされるのであります。さらに大きく申しますと、北半球全体を見ると、日本ばかりじゃないようでございます。それは気象庁などの調査によりますと、炭酸ガスの増加ということも一つ暖かい原因にもなる。それからまた太陽の黒点の増加ということも、気象庁あたりで研究いたしますと、気候に関係をいたしておる。それから想像して、よく言われます原爆、水爆の影響というものは大してない。こういうことを気象庁は今研究でもって判断をいたしておるのでございまして、なお詳細な技術的の問題につきましては予報部長、水路部長からお答えいたした方が、私の受け売りでお答え申し上げるよりも、もっと科学的で的確であると思いますが、以上私が気象庁、海上保安庁から受けております報告を基礎としてお答え申し上げました次第でございます。
  92. 田中久雄

    ○田中(久)委員長代理 水産庁の長官が来ております。
  93. 野澤清人

    ○野澤委員 大臣から、暖冬異変の原因というものには、原爆だとか、炭酸ガスの影響だとか、いろいろな原因があるという高邁な御高説を拝聴しましたが、私は日本政治家なり一国の大臣というものは、閣議の席上でも、少くともこうした自然現象に対する話し合いなどはもう少し進んでいなければならぬと思うのです。すでに昨年の十二月の十六日の読売新聞の夕刊にはこういうふうに載っております。「人工暖冬異議あり」ということで、気象庁の海洋課長の竹内さんが「前にも日本海が暖かくなった、これはソ連で間宮海峡を埋め立てて、樺太と沿海州を地つづきにしたからであるといううわさが盛んに言われたこともあった。これは後で根のない話であることが明らかになった。冬には氷で閉ざされる小さい間宮海峡がふさがっても日本海にはあまり影響はないと考えられる。」こういうふうに述べております。それから日本経済新聞は十二月十六日に「ニシンがとれなくなった理由について水産庁では対馬暖流の勢力が次第に強くなり、ニシンを北へ北へ追い上げている海流の変化が最大の原因だといっている。」こういうふうに、すでに新聞紙でも数回となくこういうことが報道されております。これについて水産庁の方では、こうした問題と漁獲量の問題とを結び合せて何か考えたことがあるかないか、この点を明らかにしていただきたい。
  94. 奥原日出男

    ○奥原政府委員 魚の回遊が水温と非常に密接な関係があるということは、水産に関する限り技術人におきます一つの定説でございます。たとえば北洋のサケ・マスにいたしましても、サケ・マスの中でマス、白ザケ、紅ザケ、銀ザケ、それぞれ水温によって回遊の時期が違うのでございます。また日本海におきましてわれわれ対馬暖流の調査をいたしておりますが、アジ、サバの回遊も、対馬暖流の強さと、北から入って参ります寒流との交錯のいかんによって全く状況を異にする次第であります。ニシンの問題につきましても、大体ただいま御発言のありました通りに、われわれの方でも考えておる次第でありまして、そういう意味におきまして、海流の調査ということに関しましては、われわれの研究所におきましても十分な関心を持って予算も計上し、調査をいたしておる次第であります。
  95. 野澤清人

    ○野澤委員 重ねて水産庁にお尋ねしておきますが、海流の変化と漁獲量との問題がきわめて密接な関連がある。一方昨年来新聞ではサハリン州と沿海州がつながっているのではないかといううわさが出ている。こういう問題がありますけれども、これに対して真剣に御検討になった機会があるかどうか、この点明らかにしていただきたい。
  96. 奥原日出男

    ○奥原政府委員 ただいまお話のございましたサハリンと樺太との間を閉鎖するということに関しましては、いろいろな学術雑誌等においてそういう計画を見まして、われわれも日本海の暖流と寒流との消長ということに関しまして、非常に深い関係がある、かような観点から注意をしてこれを見守っておるのでございます。しかしただいままでのところでは、これを今具体的に実行する計画はないようでございます。現に北洋の材を受け取りに参ります船は、間宮海峡を通過いたしまして、黒龍江へどんどん遡河する、こういうふうな状況にあるのでございまして、まだそういう計画が具体化はいたしておりませんが、非常な関心を持って見ております。
  97. 野澤清人

    ○野澤委員 これは大へんな問題で、水産庁の長官が、少くともこの間宮海峡を通って黒龍江へ上ると言うのは、これは世界の地理の上でもおかしなものだと思うのですが、そういうふうな考え方で今までおられたと思うと、今度も日ソ漁業交渉に対するあなたの考え方というものが、かなりピントがはずれているのではないか、こういう感じがいたします。
  98. 奥原日出男

    ○奥原政府委員 ただいま私申し上げましたのは、シベリアから木材を日本が受け取りますときに、サハリン海峡を通過いたしまして、そして黒龍江のマゴ、ニコライエフスク、そういうような港湾から木材を引き取ってくる、こういう趣旨を申し上げたのでありまして、もし言葉が足りませんでしたら訂正いたします。
  99. 野澤清人

    ○野澤委員 それだけの御経験を持っておられて、それでは間宮海峡の封鎖問題については真剣に検討をしたこともない、これからもおそらく調査はされないだろうというような御回答は不自然だと思うのです。こういう問題に対する情報なり諜報なり、こうしたことを官房長官として、今まで内閣調査室等において聞いたことがありますか、ありませんか。
  100. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 どうも私といたしましては、的確にお答えするだけの今用意はございません。
  101. 野澤清人

    ○野澤委員 そこで私は今度の岸内閣の予算編成やら政策の立て方等について、少くとも調査の行き方についての基本資料について、私は問題を提起いたしておるわけであります。つまり水産庁としては、今までそういううわさはあったけれども、聞いたことがないと言いますが、おそらく日ソ漁業交渉の資料として収集されたものの中の統計を見ますというと、はっきり出ておりますことは、北海道の西海岸の漁獲、特にニシンの漁獲が年々減ってきているということは事実だと思うのです。しかもそれは昭和二十七年に八千五百万貫、二十八年に七千三百万貫、二十九年に三千五百万貫、三十年には七分の一に減って千二百万貫、しかも三十一年には九百四十八万貫、三十二年には千百万というように、きわめて少い漁獲量を一方において示しておる、ところがソ連の方ではオホーツク海では三、四年来非常に豊漁だといわれて、各漁業コルホーズは、非常な超過水揚げをしていると報じられている。この二つの場合を考えた場合に、水産庁なりあるいは内閣なりで、何かここに疑問の点を差しはさむ原因がないかということを、私自身は冒頭から申し上げておるわけであります。この点に対する御見解いかがですか。
  102. 奥原日出男

    ○奧原政府委員 ただいまお話がございましたように、北海道沿岸におきまするニシンの漁獲は年々減少を来たしておるのでございます。他方昨年のソ連のいろいろな統計等を見てみますと、西カムチャツカ沖におきまして、油ニシンが相当に豊漁であるのであります。これは海流の、海況の変化から水温がだんだん高まってきたということのために、ニシンの回遊経路がすっかり北に寄った、こういうふうにわれわれとしても判断をいたさざるを得ないのであります。そこでこれに対しまする対策といたしまして、もはやニシンは北海道の沿岸で網を建てて接岸を待っておる、こういう漁業方法をとることはできないのでありまして、むしろ沖に出まして網をもってニシンをとる、こういう漁業方法に転換をしなければならない、かように考えておるのであります。で、北海道におきましても、沿岸の従来の窮迫したニシン漁業者はこれをオホーツクの北海道寄り地帯におきまして沖刺し網をもってこれをとらえる、こういうふうな漁業方法に転換を指導いたしておるような次第であります。
  103. 野澤清人

    ○野澤委員 魚のとり方についての質疑を私はしておるのではなくて、海流の異変について何か基礎的な問題点があるのじゃないかというお尋ねをしたのですが、おわかりになっていないようでありますから、私から申し上げたいと存じます。すでに外国の文献で、一九五四年のドイツのミュンヘンに所在するソ連科学歴史研究所から発行されたソ連の「水力建設の意義」という本によりますと、タタール海峡の最狭部には大陸と樺太を結ぶ築堤工事が一九四九年に着手され、一九五三年までにはほとんど終了した、この構想の主目標が何であるかは判然としないが、戦略的考慮が実現を促進したことは疑いない、こういうふうな本が発行されております。しかもまた最近のソ連情報等によりますというと、ソ連邦が極東地域において大自然改造をすでに実施しておる、しかも一九五四年といいますと、これはスターリンの死んだ年であります。その年まで囚人五十万を動員してサハリン州と沿海州の間の閉鎖工事に着手して、しかも一九五四年に一時これをストップしたという情報も入っております。こういう事態で、しかもあすこに入ります船が、一体水産庁としては漁船やあるいは材木積みに行く船が、あの間宮海峡を自由に航行できるというふうにお聞き及びになっているのか、あるいはまたパイロットが来て、浮氷から浮氷を伝 わって進むようになっておるというように聞いておられるのか、この点はいかがですか。
  104. 奥原日出男

    ○奥原政府委員 間宮海峡を日本の商船等が通行する際に、どういう通過の仕方をしているかということについては私も十分なる知識を持っていないのであります。ただ先ほども申し上げましたように、とにかくそこを通過してサガレンの材を日本に運ぶ、こういうことが現実に行われておる、こういうことは事実でございます。
  105. 野澤清人

    ○野澤委員 そこで問題点を明らかにしたいと思うのですが、信ずべき報道によりますと、シベリア地区では極寒地の気象の大変革を企図して、大自然改造にすでにもう乗り出したということは事実だと報道されております。しかも一九五四年にタタール海峡の閉鎖の第一期工事というものが完了したところで中止にはなっているが、それが証拠には、シベリア東海岸からハバロフスク、ブラゴヴェシチェンスク、この方面に対して非常に雨量が多くなってきた。それからまた日本の気象異変というものが、大体二十九年あたりから暖かさが非常に増してきている。こういうことを関連してみますと、いわゆる日ソの漁業交渉の重点であるこのオホーツク海の漁場についての交渉をされるという以上はこうした問題点について少くとも政府自体としては相当の関心も持ち、信ずべき資料であるかどうかということの調査もすべきじゃないか。しかもソ連の計画したこの海洋封鎖ということはひとり魚の移動することを防ぐということが目的でなくして、シベリア開発の大構想であります。しかも世界中でこれだけの大自然改造のできる国民というのは少くとも全体主義国家であるソ連でなければなかなかできない。こういうことは私どもかつて向うに三年も抑留生活もし、七年後にまた訪ソ議員団で向うの土地をながめてきております。大きな川の逆流等は平気でやる国民です。そういたしますと、一応疑いを持ってこういうものについての調査の必要があるのではないか。しかもその計画というものは今まで流刑地であったシベリア地区に対しては移民を希望するものがなかった。なぜないかというと、野菜物もろくろくできない。こういうことで、わざわざソ連としてはこの海流を変えてしまって、寒流を遮断して暖流を導入する、それによって気象の変化を来たして、少くともシベリア地区においても野菜類のとれるようにしさえすれば、住民が移動するのではないか、こういうふうな大きな構想のもとに、すでに一八〇〇年間からこれらの構想が練られて、しかも昨今では外国文献等にも堂々と図面まで示して出ておる。こういう事態に対して、日ソ漁業交渉をしている政府自体が、そんな記事は見たことはあるけれども、一切知らぬのだというようなことでは、もってのほかだと私は思うのであります。なぜならば、海洋の漁業権というものは、いわゆる沿岸からの何海里だというて、三海里説、十二海里説等を日本の政府の代弁者が一生懸命議論しておっても、日本海自体にニシンが入らなくなって、そうして漁業交渉をしてみて一体何になるかということです。しかも今日、あなたのおっしゃられたように、日本の輸送船というものがどんどんあのサハリン州のわきの間宮海 峡を通ってそうしてアムール川に上っているのは実際その通りである。しかしそういう漁夫や船長等の話もたまに聞くだけの余裕を持っていいんじゃないか。一体そういうこともなさっていない。どうしてあそこの間宮海峡を現在日本の船が通っているかも知らない。こんなことで日ソ交渉の一体基礎的資料が出せるかどうかという問題です。これに対してどういう御見解をお持ちですか。
  106. 奥原日出男

    ○奥原政府委員 日ソ漁業交渉の問題になっております漁場は御承知のごとくべーリング海及びオホーツク海であるのでございまして、それらの海域に関しましては、ただいまいろいろ御指摘がございましたが、われわれといたしましても、特別な調査船をサケ・マス及びカニについて現地に派遣し、また母船に対しまして専門の研究者を乗船いたさせまして、常に、もちろん水温の問題も含めまして、魚の回遊の状況及び生態学的な分析等の研究をいたしておるのでございます。そういう基礎のみならず、さらに民間会社等にも相当な学識経験者が現在おりまして、その中にはただいま日ソ交渉にモスクワへ顧問として行っている者もあるのでありますが、そういう方々からのいろいろな知識をも総合いたしまして、資料を作りまして提示をいたしておる次第であります。
  107. 野澤清人

    ○野澤委員 わからないものはわからないでけっこうですけれども、これは大きな政府の欠陥だと思うのです。たとえばナホトカから引き揚げてきた日本の引揚者の動向というようなものも細心の注意を払うべきじゃないか。つまりナホトカという例のソ連抑留者の引揚港ですが、一九五〇年に再開しまして、その第一回の引き揚げがあったときから、五六年十二月、一昨年の十二月二十七日に日本に帰還しました第十一回の引き揚げがありましたが、この二つのナホトカの状況を調べてみただけでも疑問が起きなければならない。第一回のときは、ナホトカ港が凍っていたので、引揚船の興安丸は非常な迂回をしてようやく出てきたと報告されている。ところが一昨年の第十一回のときは、一片の氷も見当らず、また現在山下汽船等は冬季も休まずに配船しているという話が出ている。ナホトカ港は非常に暖かくなってきて、近ごろは野菜類も相当とれるようになってきたという情報が入っている。こういうことは信ずべきかどうかわからないが、こうした問題について少くとも日本情報というものは、一カ所に集約されないまでも、各省間において疑問を持たなければいかぬと思う。それからさらにまた南樺太の対岸のソフカワニというところ、これはかつて大戦まではいわゆるソ連潜水艦の基地だった。樺太の対岸であって、ここに潜水艦が陣取っていたといわれるほど有名な土地でありますが、昨年の結氷は十二月二十八日に湾の最北部に薄い氷が張り始めたという放送が入っている。これは例年ならばいつも十一月の一日には湾口まで凍結するのが今までの例である。こういう気象異変というようなものが出ているにもかかわらず、これを傍観しているということは、きわめてずさんだと私は思う。特にニシンの漁業の問題等に対しましてはこうした事柄について水産庁あたりがもう少し中心になってしっかりした基礎調査をして、それは報道の誤まりであるとか、あるいはこの気象異変、海流異変というものは原爆の影響だとか、炭酸ガスの影響だという結論をお出しになっても一向差しつかえないと思う。しかしながら何にも調査しないで、常識論だけで事を運ぼうというのはいわゆる日本の多年やってきた悪い一つの習慣じゃないか。日ソ漁業交渉に対する科学技術小委員会に対して出している資料というものはどこまで政府が真剣になって作った資料かどうか、またソ連の民族性というものをどこまで理解してあなた方は対策を講じているのか。ただ御都合主義で、民間の代表を連れて行ったから、その苦い経験が貴重な資料というのならいざ知らず、それに加うるのに、科学的な資料というものがしっかりと積み重ねられたものによって交渉が開始されなければならない。しかもこういう海流異変や気象異変に対して全く忘れられておるというようなことは実に政府としては手落ちではないかと考えます。  昨年の十月にタタール海峡、いわゆる間宮海峡の一番狭い部分のラザレフという港の航海において、十七日間停泊した日本船の報告によりますると、同船の汽罐水の補給要請に対してソ連港湾当局者は、近年この海域の海水は南へ流れているときは塩分がない、ボイラー用水として使用可能であると水先案内が説明している。事実南流の際の海水を補給して航行を継続した。なお同海域の北方ジアオレというところにおいては海流の南流、北流に関係なく、常時真水を採水することも可能である旨も伝えられておる。この事実はタタール海峡以北においては海水の流入が僅少か、あるいはないのではないかと思われるような情報であります。そうしますと、現在ニシンがとれない、あるいは寒流が来ないんじゃないかというようなことはそうした船舶の乗組員に聞いただけでも私は大体の想像がつくんじゃないかと思うのです。特にタタール海峡の流速の差等についていろいろ調査もいたしておりますというお話でありますけれども、これは少くとも運輸省あたりでこうした資料が的確に私はわかっておらなければならぬと思う。そこでタタール海峡における潮流の満干というものはいわゆる満潮時に際しては南流している、干潮時に際しては北流している、要するに南と北との流れが反対に流れている、こういうことが報告されている。しかも流速は一番狭いラザレフにおいて南流が時速四マイル、北流が三マイルであります。従ってタタール海峡の自然海流というものは時速一マイルで南流していることとなって、その自然流水量は僅少であるということが伝えられているわけであります。この問題に関してはすでに私は自民党の外交調査会に持ち出して、この実態をお伝えするつもりで、須磨彌吉郎先生に頼んで、印刷物もできております。機会がなくて今日まできておりますが、こうした問題についてただ私は架空のことを申し上げているのではないのです。かつての私のシベリアの戦友だった者が船に乗ってあの海峡を通って、しかも写真までとってきている。ここにちゃんとあります。要するに樺太から出たところのいわゆる閉鎖線で、幅二十メートル、高さ三メートルのコンクリートの道路が約千メートル突き出しておる、それから沿海州の方から出ているものは八百メートルからやはり二十メートルの幅で出ておる、そうしてその中間に二つの人工島ができている、こうした写真まではっきりと出ております。一体これだけの事実があるのにもかかわらず、日本の政府としては単なるうわさとして、海流異変やあるいは気象異変に対して等閑視しているということは、きわめて私はずさんだと思う。しろうとでさえこれだけの資料が入るのですから、少くとも内閣調査室あたりでこれだけの資料の入る現今、単に魚がほしい、漁獲量を増してくれという交渉よりも、一体日本人が天与の自然の資源を遮断されてしまって、今後日本海で魚がとれないような状態に追い込まれる、この日本人の生活権、また人道的な立場からも、また領海権を守る、自由航行世界人民の利益のためからも、これは重大問題だというてなぜこれをソ連に申し上げないか。農林大臣はどう考えられますか。今度の日ソ漁業交渉に際して、それは資源の調査も必要でありましょう。しかし少くともソ連人民がやっております大自然改造に対して、あなた方はどの程度の信頼を置き、どの程度の疑問をはさみ、どの程度今後お考えになっていくのか、その御決心のほどを聞かしてもらいたい。
  108. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 今漁業の交渉に関連しまして、ソ連の開発計画とかあるいはまた海における情勢とか、そういうものをもっと調査すべきじゃないか、こういう御意見でありましたが、そういうふうに私どももすべきだと思います。実は漁業だけにわたりますが、去年の漁業交渉の結果、ソ連側と日本側で調査をすることが去年の第一回委員会できまっておったのですが、今年そういうことで申し入れましたところ、向うで断わってきました。漁場の調査ができなかったので、そこで今第二回の委員会を開いておるのでありますが、そういうことにつきましてもソ連側の不信をわが方の委員がついておるのであります。  それから今のもっと調査すべき問題、人道上の問題、あるいはソ連が広域な地域にわたって公海における漁業を締め出すというようなこと等に対しては向うへ行きます際にも委員と打ち合せしまして、単に委員会における漁獲量とか漁業という問題のみでなく、もっと大きな観点から、日本ソ連立場、あるいはソ連のいろいろな問題等について、政治的にもわが方の主張すべきこと、相手の主張の無理なこと等については強く主張することは打ち合わしておりますし、そういうことを主張しているというふうに私どもにも報告があります。しかし今お話しのように、もっと大きな観点から日ソ間の問題について研究もし調査もし主張もすべきであるという考えには私も同感であります。
  109. 野澤清人

    ○野澤委員 農林大臣としては漁業問題ばかりでなしに、全般のものを考えたい、そういう基礎的なお考えがあるならばなおさらのこと、私はこの大自然改造と申しますか、気象異変等については全般的のものに対して内閣が誠心誠意取り組むだけの価値があるのではないか。たとえて申し上げますと、寒流が間宮海峡で閉鎖されて、いわゆる暖流が北上して間宮海峡の入り口までいく、アムール川の水がどんどん流れ出しても四マイル、三マイルの流速によって北に流れないで南に流れてくる、従ってこの水は真水の場合もあるということは先ほど申し上げた通りです。そうしますと、塩水に住んでおる魚が南へ下ってこないというこうもはっきりわかっておる。こういう実態を一応想像して考えてみた場合に、単に海上封鎖による海流の変化ばかりでなしに、日本の内地の気候、特に北海道の気象というものに大変革を来たすということを考えなければならぬ。ただ暖かい、暖かいというて、きょうあたりも汗ばんで歩いておりますが、あの二・二六事件のときは全く大雪であった。こういう比較について何も疑問を差しはさまない。一応は部下の者に命じてもよろしいから、気象の変化の状況をきちんとデータにとったらいい。民間人がわざわざこれを役所に持っていって、このシベリア帰りの者が報告に行き、写真を見せても、りっぱな資料ですが、私たちにはどうにもなりませんと答えた。一体こんな政府がありますか。これだけの情報を持って行って、親切にこういう状態ですよ、この通り閉鎖されています、しかもたった七キロ半しかない。そこに二キロ近くも海に突堤が出て、アムール川の運んでくる土砂というものがそこにどんどん累積されていく。先ほどもお話があった通り日本の船が入るときにははるか手前のところから第一ブイが出ておって、そこから水先案内がつかなければ入れないそうです。そういう実態で、一番狭いところでは三千トン級の船が二十メートルくらいしか入れない。それは全部埋まってきているからです。海底が埋まってきて、しかも一方突堤が出たということは、そういう土砂をそこにためるためだというように学者は申します。こうした工作が着々行われておるのに、北海道の開発にしても、あるいは日本海の漁民対策にしても、政府の予算を見てみても、一体どこに科学性を持った日本の政治の根底があるかということを私は疑わざるを得ない。それはそれとしてもよろしいが、少くとも漁業交渉に関して、こうした問題こそソ連に対して正々堂々と挑戦できる問題ではないですか。それを気がつかなかった、これからやります、それはひとり漁業問題ではない、大きな問題なんだ、こういうふうにお広げになることはけっこうだが、これに対しては農林大臣としても北海道における米作あるいは一般作等を考えて、あるいは西海岸の漁民対策等に対しても、すでに十八日か十七日かの新聞に出ております。漁民の対策は国家補償をしないということを政府は打ち出しておる。国家補償したならばソ連交渉に不利になるということが基礎的な考え方だと思うのですが、そういうことのテクニックよりも、あのがっちりした、民族性のはっきりしたソ連の国民を屈服させるためには、科学的な資料以外に私はないと思う。写真も必要だろう、地図も必要だろう。現実にそうした気象の変化等について、たとえばブラゴヴェシチエンスク市では町の中を船で歩いておる。これは漁民が聞いてきておる。こういうふうな実態というものを指摘してみて、大自然改造に対して受ける日本人民の不利益というものを堂々と主張したらいいじゃないか、こんなことは隠す必要がありません。すでに西独の雑誌にまで出ておる。図解まではっきり出ておる。しかもこれはドイツ語ばかりでなしに、ロシヤ語で発表されておる。こういう状況であるにもかかわらず、政府がただ放任しておくというようなことは、まことに遺憾千万だと思うのです。  そこで私はただ文句を言うだけでなしに、こうした問題について十分お考えを願い、御調査を願うことは必要でありますが、今後、総理大臣がいないので官房長官にお願いを申し上げておきますが、今までの日ソ交渉の経過から見ますと、政府自体の発表というものは、日本人にいたずらな畏怖の観念を与えるにすぎない。たとえば歯舞、色丹の問題にいたしましても、あるいはまた今回のピョートル大帝湾の問題にいたしましても、ソ連情報を的確に発表することはよろしいが、そのために日本人民の受けとる恐怖観念というものは——たとえば南千島にしましてもどんどん軍事施設が強化された、こういうことを政府が堂々と発表しておる。それに対する対策というものは何にも示していない。そうしますと、日本は社会党も自民党も南横太は日本の固有の領土であると言っていながら、その領土に基地がどんどんできていったということを単純に発表している。しかも日ソ漁業交渉のさなかにこういう発表をしている。あるいはまたピョートル大帝湾の問題にいたしても、新聞の記事等を見ますと、もう誘導弾、潜水艦などの基地としてソ連が使うのだと言うて、単に海域封鎖の新聞記事を出しておる。一体これに対する対策を、政府があからさまに出しておるかといえば、何も出していない。そうするとかつてソ連がはっきり日本人に言われたことを思い起すならば、日本人を、日本国を圧迫しようとするときには漁業問題さえ持ち出せばよろしいという、いわゆるソ連常識というものが、私はぴったり当てはまってくると思う。そういうふうな羽目に追い込まれておりながら、政府自体が手をこまぬいているということは、日本の政府としてきわめてずさんじゃないか。従ってピョートル大帝湾の軍事施設、あるいは南千島の軍事施設は発表することはよろしいが、少くともこれに対して国民世論を誘発するだけの大きな柱を立ててなぜ国民を引きずらないか。日本ソ連外交交渉というものは、この前河野さんと鳩山さんが行かれたときも、はっきりと向うの要人たちは言うております。世論がそこまでいかない限りは平和条約には調印できないということを、はっきり言っているじゃありませんか。世論とは何ぞや、ソ連の世論をわれわれは問題にしているのではない。日本の世論を誘発しない限りはとうてい今後の外交には勝てない。ろくな軍艦もない、戦える軍隊も兵器日本はないのだ。全く裸でこれからソ連と権益を交渉し、しかも祖先伝来の領域を復興しようというような立場なんだから、少くともこういう問題については、もっと総合施策というものがあってしかるべきではないか。岸内閣としてこれだけ進歩的な政策を打ち出して、善政を施すというならば、今度の日ソ漁業交渉等に対しても、もう少し国民世論を誘発させるだけの大きな材料とプロパガンダが必要ではないか。私は与党なるがゆえにかように申し上げるのでありまして、官房長官として本日の私の問題については、よく岸総理に申し上げて、また閣僚会議のお茶飲み話のときにでも、少くともこういう問題に疑問を持ったならば、いち早く調査をしていただきたい。また調査をした資料をどう扱うかということは、昔のように諜報機関を作りなさいと言うのではありません。いろんな省に集められた情報あるいは諜報というものが、どう転化していくかということについて心配をいたしておるのでありまして、この点について官房長官の御決心を承わりたい。
  110. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 先ほど来の御意見につきましては、まことにごもっともで、一々私どもとしてもなるほどと考えることのみでございます。そこで今最後に御提案になりました点につきましては、実は私どもも大いに努力はいたしておるつもりでございますが、なおただいまのようなお話を十分念頭に置きまして、そういう御提案に沿うようにいたしたいと存ずるわけでございます。  それから先ほど来お話がございました点について、ちょっと私から申し上げておきたいと思いますことが一つございますが、それは先般も当委員会で簡単にはお答え申したのでございますが、内閣調査室を中心といたしまする情報の収集あるいはこれを総合的に分析をいたしまして、重要国策にこれをぜひ反映いたしたいということは私の念願でございます。さような点から今回予算におきましてもあるいは法律案におきましても御審議をすでにお願いしているわけでございます。これは戦争前あるいは戦争中の諜報機関といったようなことを考えているわけでは毛頭ないのでございますが、先ほどもお話がございましたように、最近におきましても、先ほどおあげになりましたような地域等から帰った人、あるいはそういうところに関係を持ったような人のお話を聞くこともやっております。それから外国の新聞、雑誌、文献あるいは放送の聴取、これらの翻訳、分析というようなこともやっているわけでございますが、実はこれは従来、ともすれば各省庁がばらばらに、それぞれの目的でやっておりましたものが相当あるわけでございますが、これを総合調整して、総合的な立場からいわば価値判断をつける。そうしてこれを再調整をいたしまして、価値の高いものは十分に国策の上に反映いたしたい、こういうふうに考えております。内閣調査室といたしましてもそういう趣旨で運営をし、また今後大いに活用してこれを国民的に活用していただけるようにいたしたい、こういうふうに考えておりますので、そういうような仕事が活発にでき、あるいはただいま御指摘のような趣旨に沿い得るように、この上ともに私どものやろうとしておりますことに対して御鞭撻と御支援を賜わりたいことを、この際お願いを申し上げる次第でございます。
  111. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 日ソ関係の調整やその他の問題につきましては官房長官が今述べた通りと思います。ただ御承知のはずですが、一言申し上げますと、漁業交渉の問題は新たに日ソ交渉ということに、これも関連はありましょうけれども、御承知のように一昨年に日ソ間に漁業交渉ができまして条約ができておるわけであります。それで昨年その条約に基いて第一回の委員会が開かれた。ただいま第二回の委員会が開かれておりますので、その内容、委員会の様子等も御承知と思いますが、両方から三人ずつ委員が出まして科学的根拠に基いて漁獲量その他区域等についても話し合う。その話し合ったものをお互いの政府において政府の権限で漁業の許可等を出す、こういう建前になっておりますので、現在交渉していますのはその条約に基いて第二回の委員会をやっている、こういうことであります。ただしその中において科学的根拠等を相当強く示唆すべきである、これは御説の通りであります。ただ漁獲量その他魚の点につきましては、うぬぼれを申し上げるわけではありませんが、ソ連側の科学的根拠よりも日本側の方が相当正確で、統計等におきましても、去年などはソ連側でも日本側の統計の方を使って根拠にしたというような情勢もあるわけであります。しかし科学的根拠をもっとしっかりしろということについては、私どもなお念を入れて科学的根拠をよく資料として提出したい、こう思っております。
  112. 野澤清人

    ○野澤委員 時間がありませんので、その他の問題もたくさんありますが、今農林大臣は、日ソ関係の問題については協定があるのでその範囲内で交渉している。ところがその範囲内でソ連が常識的に交渉しているかというと、次々と打ち出してくる漁場の問題等は全く協定外なのです。そういう問題で満身創痍をあびておって、日本がただ科学的根拠でございますといって、川に上るのがどのくらいある、あるいは産卵時期に死ぬのがどのくらいあるかという資料をそろえて、一体それは科学的根拠かということです。外交は生きものなのです。しかもソ連との外交折衝をしようという以上はそれだけ大きなわなをひっかけてくれば、こっちだって堂々と戦うだけの考えをもって資料をそろえてほしいということを私は念のために申し上げたわけでありまして、決してあくまでもずさんだということでなしに、お気づきがないならば今後はそうしてもらいたい。特に外交上の問題としてはこれは相当の資料を持たなければ今後の日ソ交渉などというものは肝心なわけにいかねと私は思う。いずれの交渉を見ても、日本外交あるいは日本交渉というものは民間人などのエキスパートを引き上げさえすればそれで事足れりという行き方をしている。政府の責任は一体どこにある。これは外務大臣が藤山さんだからというわけではありません。こういう大臣ができたからそうするのではなくて、今までの日本外交というものはみんなそうではありませんか。民間でもって通商貿易に特別明るいとか、あるいは鉄、鉱業に明るいというのをたまたま引き出してくる、そうしてそれを交渉委員の中に入れる、入れたから政府の責任が半減されたように考えているのかどうか知りませんが、とにかく日本の民主的な組織体の運営は大体そういうところにしわ寄せされているのじゃないか。従って膨大な予算を使う以上は政府機関においてももう少しそうしたエキスパートの経験やあるいは知識等にマッチするだけの裏づけの資料をもって外交交渉をされるならば私はりっぱなものだと思う。これは国民が期待しております。また岸内閣に対しても国民がほんとうに信頼してついていくのにはそういう実体がなければついてこないのじゃないかと思う。特にまた最近のスカルノ大統領の来日に対する情報等がどうなっているか。これは少くとも外交上の問題ですから、一々名前をあげることがいいか悪いかは私もちゅうちょしておったのですが、情報というもの、あるいはそうしたうわさというものをただ放任しておくことは民族の敗北だと思う。一月の下旬にスカルノ大統領が来たときに、来て十五日に離日したインドネシアの大統領は、その方が来られてから種々の情報が乱れ飛んでおります。こういうことはすでに各所において聞いておられるでしょうが、ただ私たちが注意しなければならないのは、同氏の随員の十数名の中にソ連関係者が含まれていたということです。しかも同政権は人も知る容共政権である。これは何もソ連が暗躍しているとか、ソ連の諜報網が発達してそこまで入り込んでいるという考えではなしに、ソ連外務省の極東部長のクルジュコフというのが十二月十三日に日本に来ているのです。そうして当時の新聞には当局も来日目的がわからないと伝えている。同氏は前のインドネシア大使であります。かつてはゾルゲ事件の上海関係者と言われている。スカルノ大統領の来日との関連がなかったかどうかと一応疑いの念を持ったっていいではないかと思う。ところが単にうわさが出るだけ。また大使館の参事官のイワノフが十一月末にモスクワに帰任している。表向きは漁業交渉準備と称しているが、関連があるかないか。これも一応日本の政府としては常識的に考えるべきではないか。しかも同人や代理大使のザブロージンもインドネシアに在勤している。今日の隆盛を取り戻すとともに共産党を育成してスカルノ容共政権を樹立するに暗躍した人物であると伝えられている。しかも巷間伝えるところ、日本の有力な人たちが武器の密輸出について両方の相談を受けたとまで乱れ飛んでいる。事実は何かあるかというと何にもありません。一月の月にソ連武器を満載した船がフランスの官憲につかまったという報道がきておりますが、日本から武器を売ったという事実は出ていない。そうするとこれをせんじ詰めて三段論法でいくとどういうことになるかというと世界人が笑っているように、かつての上海が日本に移った。スパイとこうした謀略の策源地が日本に移ったとまで日本は言われている。そういうさなかにあって日本全土が大統領が来たというて大騒ぎをしている間に、着々とそうした工作が日本を舞台にしてもしも行われると仮定したならば——仮定と申し上げましょう。仮定したならばゆゆしい事態だと私は思う。従って日本政府はこうした情報等についても少くとももう少し真剣の度合いを増してもらいたい。そうしてまた日本の国民が安心していけるようにしてもらいたい。どんなに社会保障を説いてみてもどんなに予算の増額を主張してみてもこうした面にマイナスをとっておったのでは、とうてい満足な政治は生まれないのではないかと思うのであります。従ってこうした点については関係閣僚はもちろんのこと、政府自体においてもこうした問題についてぜひとも遺漏のないようにしていただきたい。  なお小さな問題ですが官房長官にお聞きします。二月十七日の次官会議で、政府は北方地域に対するところの諸問題を処理するために、総理府の南方連絡事務局を拡充して、南方連絡事務局とともに北方地域問題の連絡調査処理を積極的に推進させる方針だ、こういう新聞記事を見たのですが、これは特別地域連絡局として名称が出ておりました。こういうものを現にお作りになるお考えかどうか、この点明らかにしていただきたい。
  113. 愛知揆一

    ○愛知政府委員 ただいまお尋ねの点は事実でございまして、総理府設置法の一部改正法案としてすでに国会に提案をいたしております。その企図いたしておりますところは、ただいまお話の通りで、実は政令でその特定の地域を定めるという案になっておりますが、北方関係で本来日本固有の領土であるとわれわれが確信しておりますような地域を大体対象といたしまして、それらの地域に前に居住しておったような人たちについてのいろいろのお世話をする必要がある、こう考えまして、従前の南方連絡事務局にさような職権を与えて、同時に名称を変更しよう、こういうわけです。
  114. 野澤清人

    ○野澤委員 最後に、農林大臣がお見えにならなかったので、あとに残しておいたのですが、これも予算編成に対する基礎調査の不十分が、発表の行き違いかと思うのですが、大利根川の総合開発の水系調査費の要求に対して、農林大臣が大蔵省に予算要求をされた際に、鬼怒川の上流地点ですが、今市市というところの風見、山田ダムの建設計画というものが、一挙に十二月に新聞紙に現われました。しかもその出所はおそらく大臣が出したのではないと思いますが、きわめてうがった記事が出ております。それは風見ダムの建設計画をいたしまして、千葉県あるいは茨城県の農地改良の用水にするのだ。しかも幅が千二百八十メートル、高さ四十三メートル、貯水量三億トン、水上面積二千町歩という発表が出ております。そしてそのために栃木県の今市という町の一角では、水田約八百町歩が湖水に沈む。そうしてその水底に沈む人口が四千人だ、こういうことが一流新聞の地方版を十二月中旬から連日にぎわしている。しかもこのダム建設は、新聞の報道によると赤城構想として発表してある。大利根水系の統合開発であるというので、今市市地区の住民は激高しまして、部落会を初め村民大会を開き、県会に陳情し、国会にまで陳情に来ております。こうした事柄は、いち早く私の方であなたの部下にどういうことだと聞いてみたところが、単に調査費がほしいので申請しただけで、別段そこの地域を指定しているわけではないのだ、こういうのです。しかしながら住民はそれじゃおさまりません。農林省のこの不用意な発表があったために、その基礎調査に対して非常な疑惑を持っている。今日でも四千人からの住民が、百姓が手につかない。一体この土地を奪われて、しかもそのうわさの出どころは、おそらく農林省から発表しないことには、これだけの数字は出ないと思うのですが、出たものから出たものに対するうわさの伝播というものは、今日きわめて先まで飛んでいってしまいます。栃木県の百姓が、霞ケ浦の干拓をやってそこへ全部強制移住されるのだ。まるでソ連みたいな話が栃木県の一角に出ている。今日百姓がここを追い出されるならば、立木も切ってしまった方がいい。早く金にかえるものはかえた方がいい。こんな騒ぎまでしているのは、一体農林大臣どういうお考えです。これは一日も早く善処してもらはなければ困ると思うのです。優秀な農民が植付もできないで、放置しておくというようなことは、これは全く行政上の大きな欠陥だと思うのですが、これに対する赤城大臣の御見解を承わりたい。
  115. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 そういう誤解というか、騒ぎを起さしていることはまことに遺憾であります。私が考えていますことは、御承知通り農林政策として、その一つとして生産基盤の確立強化、こういうことを政策の中に打さ出してあるのであります。関東地方、特に鬼怒川の流域等におきましては水も相当豊富なのでありますが、伏流水がありましたり、十分な利用もできておらないわけであります。また関東全体から見ますと土地は広いのでありますが、生産性は割合に低いのであります。こういうところでありますから、工業用水に、あるいは地元の使う水も必要でありますし、東京において水道等に使う水も必要でありますので、これは一つ利根水系を中心として総合調査をして、関東方面の農業の立ちおくれを回復するということが必要ではないか、こういうことから調査をする費用が必要だというようなことで調査費の要求をしたわけであります。その際に、今お話のような話は私の方からは別にいたしません。今言ったような構想のもとに調査費を要求したのであります。そこでそういう場合には、鬼怒川には五十里ダムとかあるいは川俣ダムとか、あるいはまた中禅寺の水を使うという場合もありますけれども、あるいは将来ダム等を作るようなことがあるかもしれないというようなことは私も言っています。しかしその場所が、今お話の今市ですか、風見地区だとか、そういうようなことを具体的にどこにどういうふうにするというような話までは、実は進んでおらないのであります。三十三年度から少額の——額も少いのであります。調査費を置いて、今鬼怒川沿線において土地改良をやっておりますが、そういうところから、洪水量だとか川の流水量だとか、あるいは畑地灌漑を適当とするような点あるいは田畑、林間、こういうような総合的な調査をしようというようなことで調査費をつけてあるわけであります。地元の人も私のところへ陳情に来ましたので、こういうふうにこれは調査が済んでから、どこをどうするかというのは先の問題で、今はどこヘダムを作ってそこの犠牲をしいるというようなことなどは、全然まだそこまで調査の何がいっていやしないのだ、だからそういうふうなことは心配なさらぬで、もしそういうようなことを何年か先にやるということであるとしても、そういうときには頭からそういうことをやるということは全然しないし、地元の人とも相談する機会は作って納得を得なければやらない。かりにやるとしてもそれは先々のことで、今やるという段階でも何でもない。関東全体について利根水系を中心としての調査をしたい、こういうことなのだからということを、陳情に来た人にも話をしたわけであります。そういう事情でありますから、新聞等に相当そういうふうに大きく具体的に何か出たということは、私もよくは承知しておりませんでしたが、今のお話のようなことでありまするならば、非常に動揺を与えておると思います。そういうところまで進んでもおらぬし、また少額の調査費で、これから調査を進めていくということでありますので、動揺しないように、私の方でもよく地元の方にも連絡いたしたいと思いますが、そういうことでありましたら、そういうことはないということを、この席で申し上げるのは失礼でありますが、お伝え願いたいと思います。
  116. 野澤清人

    ○野澤委員 これで終ります。よくわかりましたが、これは住民の激高した現在の情勢ですと、たとえば五百万でも七百万でも調査費を取ってから、一応水源調査に行うというようなことは、下手に入ったら、これは砂川以上の問題になります。ですからもう少し農林大臣は、県庁なり何なりを通じて、一般の者が安心するようにお話しされることが必要だと思うのです。これは老婆心ながら私はちょっぴり御質問申し上げたのです。  そこで全体として岸内閣に対する希望を申し上げたいのですが、いろいろな情報、調査というようなものが当然発表さるべきものが隠されておる、そうして発表しなくていいものが、今のようにこの湖底に沈むような大ダム建設の案が、まことしやかに通じてしまう。これは民主政治だからそういう欠陥があるのかもしれませんが、実際に私はこれは日本の政治の、あるいは行政の腐敗堕落だと思うわけです。こういう問題についてもう少し政府自体としては慎重にしてもらわなければならない。漁業交渉においてもその通りです。社会保障制度にしてもその通りです。社会保障制度審議会の委員連中が非常に激高しているというのもこういう点にあるわけです。これは昨日も私は皆さんから、どの程度まで信頼するんだということで自民党の態度を要求され、官房長官の新聞記者に話した内容についてまで問い詰められております。こういう事態というものは決して政治を明朗にするものでない。また円満な行政が遂行されるものでないと私は考えるのであります。特にソ連の漁業などは、日本でどんな科学的な資料をもって日本の見解が正しいんだと言っても、ソ連の漁業なんというものは大自然そのままに戦って、川へ産卵に来る魚を丸太ん棒を持ってひっぱたいて殺している。向うの漁業はそれで十分とれるのです。日本の漁業は網を持って海の中に出ておる。命をかけて日本漁民というものは生活のために戦っている。こういう実態を比べます際に、十八日の朝日新聞を見ますと、漁民に対する国家補償というものは二月十八日の閣議の席上で赤城農相が「北洋近海の安全操業交渉がまとまらなかった場合に自民党内で国家補償を要求する意見があるが、農林省としてはにわかに賛成できない旨を発言、閣議もこれを了承した。」という記事が載っております。真偽のほどはお答え願わなくてけっこうであります。しかし、少くともあのソ連のような大国と外交交渉をするのに、これはしまっておこう、これは発表しようというような戦前の日本人流の外交交渉では、私はまとまらないと思う。捨身に出たらいい。日本漁民がこれだけ失業したんだ、これだけ職場を失われたんだ、なぜそういうものの積算の基礎をはっきりさせて交渉に当らないか。もう少し調査室を持ったり調査機関を持ったり情報を入れたりしたならば、そしてこれを統合する中枢機関を持って、しかも政治も行政も的確にこれを使いこなすということが日本の内閣の使命でもあり、また岸内閣自体の誇り得る善政の基礎ともなると私思うのであります。ひとり外交交渉ばかりではなしに、内政の問題全般にわたって——本日のこの一般質問に、われわれの同僚も少いし、また閣僚の方々も非常にお疲れでありましょうけれども、少くとも、私は、保守政権が脱皮するということは着実な基礎の上に立って行政あるいは政治というものと正しく取っ組むことが国民の念願している大きなポイントじゃないか、かように考えて申し上げた次第であります。  以上希望意見を申し上げまして私の質問を終ります。(拍手)
  117. 田中久雄

    ○田中(久)委員長代理 永山忠則君。
  118. 永山忠則

    ○永山委員 厚生大臣御用があるということでありますので、最初社会保障関係質問いたしたいと存じます。  国民皆保険ということは昨年来高らかに掲げられた目標でございますが、これに対する皆保険の関係法案はいつごろお出しになるおつもりでございますか。
  119. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 国民健康保険法の改正につきましては目下関係方面で調整中で、時ならず出すことができる、こう考えております。
  120. 永山忠則

    ○永山委員 予算関係いたしておる法案でございますので、すみやかに御提出を願いたいと思うのでございます。実際上国民皆保険ということを言い、昨年来計画を立てられたのでございますが、計画通り本年はできておりません。計画通りの普及になっていないのでございます。われわれは従ってまた本年、来年、三十五年までの計画はとても実行ができないのではないか、すなわち、現在の予算処置並びに構想されておるところの法案内容ではこれが実行できないのではないかということを非常に憂慮いたすものでございます。それは、現在国民健康保険をやっておりますところの市町村は、保険財政が非常に苦しくて、もう手をあげねばならぬ情勢まで追いやられておるのでございます。それをさらに保険財政を苦しくしようというような状況に今回の行政措置が進んでいるのであります。その一つは自治庁の関係でございます。保険財政が苦しいので、すでに町村の一般会計から保険財政の特別会計へ繰り出しているのが約三十三億ぐらいあるのであります。これを繰り出しを抑制しようということで鋭意町村を指導されているのであります。政府が政府管掌の健保をやっておりましても、赤字が出てくるのであります。政府管掌の健保の層は平均年収二十万円内外の層であると思うのであります。     〔田中(久)委員長代理退席、重政委員長代理着席〕  健保の層はそうでありますが、国保の方はその半分、十万円内外の所得層であります。その一番弱い層を抱えたところの国保が赤字経営になることは当然である。従って、その責任者である市町村は、どうしても一般会計から繰り出して、力の強い町村財政から弱い層のプールしか持っていない国民健康保険特別会計への繰り出しは、やむを得ず行なっていることである。また、それを繰り出すことが適正な処置であるということで厚生省は旧来指導してこれたのであります。しかるところ、今回再建整備その他地方財政の健全化の理由をもって、この繰り入れをとめようという情勢になりつつあるのであります。そうすれば、その赤字はどうして補てんするかということが大問題であります。さらに、国保の保険財政を苦しくしようとするものは政府の構想している医療報酬の適正化の問題であります。この政府の考えが実行されましたときにおいては、どうしても負担増になるのであります。現在でも苦しい状態にあるのに、さらに負担増になるということでございます。そうして国保経済がますます苦しい状態に置かれて、そうしてしわ寄せがますます国保被保者大衆の方に来るのであります。しかも、昨年来の米の値上り、あるいは燃料費、交通費の値上り等、物価高に見舞われて、経済的にはますます苦しくなっているところへ負担を増すという状態、そうして一般会計からの繰り出しは許さぬというようなことで、どうして国民皆保険が実行できるかという点でございます。
  121. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 国民皆保険が予定通り進行していないということは、三十一年度の実績が大体四百万人、そういう点から見まして、三十二年度の実績がおそらく四百万人くらいで結末をするんじゃなかろうかということから見ますと、確かに予定通りできていないのであります。ただ、四百万人というのは、従来の実績から見ますと相当の成績をあげているということは言い得るのであります。ただ、この問題につきまして、しばしば各方面の御質疑があるし、ことに、予算面から見ますと、基礎人員が三千五百万人というふうなことであり、三十三年度予算は三千六百万人で、三十三年度もまた百万人しかふえないんじゃないかと言われるのでありますが、これは少し間違いがあるわけであります。しかし、いずれにしましても、永山さんの言われる通り、予定通り四カ年で完成するかということについて疑問を持たれるのはやむを得ない。しかし、そのうちで過去の実績から顧みまして一番考えなければならぬのは、御指摘の市町村財政との調整の問題であります。私も、実は、皆保険を遂行いたします責任を負ってからこの点が一つの柱であり、重大な支障である、この問題を解決しなければならぬというふうに考えまして、今回の予算におきましても実はその問題は一番苦労いたしましたような次第でございます。事務費を引き上げましたり、あるいは二割から二割五分と五分の調整交付金を多くつけるようになりましたのも、御趣旨に沿うように努力した結果なのであります。しかし、医療費の値上げによります分につきましても、ある程度計上はいたしておりまして、これらの問題につきましては、自治庁と常に緊密な連係をとりまして、一応一般会計と保険財政の関係につきましては調整をはかって参りたいと考えておる次第でございます。
  122. 郡祐一

    ○郡国務大臣 国保の全面的な実施をいたしますために自治庁といたしましても常に関心を持っているところであります。それで、現在いたしておりますようないろいろな措置が改善されるに従いまして、特別会計自体もかなりによくなって参ってきておりますし、さらに、人員の配置の点、あるいは保険税の徴収について市町村税とあわせて徴収するというようなやり方での改善の点もあろうかと思いますが、いろいろの方途を講じたい。一方、市町村というようなものの財政は住民の負担との関係が濃いものでありますから、国保と職域との関係で二重の点など市町村の中にも起りますし、従いまして、一般会計が特に繰り入れませんでも、その特別会計自身が完全な実施ができますよう、この点は市町村当局を督励いたしまして、だいぶ改善されてきてはおりますが、これからさらに改善の方法をとりたいと思っております。
  123. 永山忠則

    ○永山委員 自治庁長官の言われるような構想は各市町村がすべて旧来やっておるのであります。そうして、実際上において経営が成り立たないので一般財政より繰り入れをいたしておるのでございますから、一般会計より国保特別会計繰入れの問題をどうしても基準需要額に見て、そして基準財政需要額に収入の面と支出の面をお作りになりまして交付税の対象にするというところへ踏み切っていただかなければ、口でそう言われましても、実際上の問題として可能ではありません。そうなったときに、今日の赤字の解消していくのには、やはり調整交付金は五分ということではとても赤字解消はできません。現在の国保の赤字が三十三億でございますから、約療養給付費の一割であります。それで、保険経済の一割というものを赤字に出しておるのでございますから、どうしても五分の調整交付金というようなことではとても赤字経済を克服することはできないのです。何ぼ少くても調整交付金は一割以上必要であるのでございます。しかも、その五分という見合いは、医療費の値上りに見合ったところの五分であるのであります。地方財政を調整しようという名目であっても、実際上は医療報酬の適正化による値上りに対応するものであって、しかも、その金額は値上りの半分以下であるというような情勢でございますから、保険経済はいよいよ苦しくなるといわなければならぬのでございます。この点十分一つ厚生省と自治庁は検討をお続けになっていただきたいと思うのでありますが、さらに、国民皆保険の困難なる情勢では、医師会の協力を強く求めることが必要であると思うのであります。その関係が、遺憾なことには、今は必ずしも協力態勢でない情勢に置かれておるのではないか。そのことは医療報酬の適正化の問題にも関連をいたしておるのでございますが、政府が医療報酬の適正化をやる場合においては昨年健保修正案を通過させましたときに、医療金融公庫を設ける、そうして長期の安い金を出そうということが付帯決議になっている。さらに、医師会法を作って厚生省の官僚統制から自主的な統制へ持っていこうというようなことと総合して医療報酬の適正化は考えられるべきものである、さらに、租税の特別措置法によってもう今少し税の面を引下げを考えてやるべきではないかというようなことも総合して論議をされたのであります。それらの諸点については何らお考えをされずに、ただ医療報酬を合理化するという問題だけを切り離してこれに進まれようとするところに医師会の協力態勢を得られない一つの原因もあると思うのでございます。これらの総合施策ができておりませんから、実は国民皆保険を非常に要望しながら、実際上は行き詰まっておる情勢にあるのでございますが、これらの対策について厚生大臣の御意見を承わりたい。
  124. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 永山さん非常によく御承知のいろいろな問題点をおあげになったのでありますが、医師会との従来のいろいろな問題につきましては私も、どういう理由にいたしましても、国民皆保険を推進していく上におきまして、医療報酬の適正化をはからなければならない、ということは、医師の協力態勢を作らなければならぬ、医師の診療報酬を過去六年の間そのままにしてあるということは決して国民皆保険を推進するゆえんでないと考えまして、その適正化をはかる、そうして、合理的なものを考えまして、三十三年度予算に大体八分五厘を考えるということで計上いたしたような次第でございます。しかし、医療費の問題だけではなしに、医療金融の問題、官僚統制に陥らない協力態勢、各方面の施策を総合してはからなければならないとおっしゃることも、私はその通りだと思います。同時に、中には相当誤解もあるように私は考えております。いずれにいたしましても、実施は十月一日のことでございますので、私どもそれまでに御趣旨に沿うように万全の処置をして参りたい。ただ、医療金融の問題は不幸にいたしまして今回の三十三年度予算におきましては目的を達成することができなかったのでございます。税金の問題もおあげになりましたが、総合施策の上に立って医師会との協力をしろとおっしゃることには、私は全然異議がございません。今後とも万全の処置をして参りたい、こう考えておるような次第でございます。
  125. 永山忠則

    ○永山委員 国立病院さえ事実上は経営が困難でございましても、修理改築あるいは設備の近代化というようなことはできないということを言っているような情勢でございますので、ことに医療金融の問題、あるいは租税の特別措置の問題、医師会法の問題等、熱心に一つ総合的に施策が考えられなくてはならぬのであります。私はこの際特に大蔵当局に申し上げたいのでございますが、国民健康保険が生活保護の範疇の費用を負担いたしておる金額はどれだけであるかということであります。すなわち生活保護法第四条によりまして、社会医療保険が生活保護法に優先してその負担を持つことになっておるのであります。この場合生活保護法第四条を排除されるかどうか。排除されないならば、生活保護法第四条で国民健康保険が、当然政府が持つべき生活保護法の医療給付の、ことに単給をかついでおる。政府が持つべきものを国保が負担しておる。それくらいならば、政府は補助金を出さなければならぬ。その金額はどれだけありますか。
  126. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 私から便宜お答えさせていただきます。実はその点につきまして正確な資料を待ち合せておりませんが、今おっしゃいましたように、医療単給は生活保護法によって持つべきであるということは、私どもの方の原則として考えておるところでございます。それを国庫に負担させるようなことはよくない、こういうように考えておる次第でございます。
  127. 永山忠則

    ○永山委員 医療単給の中で政府の持つべきものを国保経済で持っているわけなんですよ。すなわち生活保護法第四条によりまして単給の医療保護を受ける層をかついでおるのであります。それで医療単給分の中で国保が持っておる金額があるのであります。それではいわゆる医療給付の単給分はどれだけになっておりますか、本年度の分についてお聞かせ願いたい。
  128. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 政府委員から一つ。
  129. 太宰博邦

    ○太宰政府委員 お答え申し上げます。三十二年度は医療扶助が百三十六億でございます。     〔重政委員長代理退席、委員長着席〕
  130. 永山忠則

    ○永山委員 それは単給の医療扶助ですか。
  131. 太宰博邦

    ○太宰政府委員 両方でございます。
  132. 永山忠則

    ○永山委員 そのうち単給はどれだけですか。
  133. 太宰博邦

    ○太宰政府委員 ちょっと今数字がありませんので……。
  134. 永山忠則

    ○永山委員 それでは時間がありませんから、私の方で三十一年度の数字で申しますと、大体単給が九十億くらいあるのであります。その単給の九十億くらいのうちで、国保が現実にかついでおる金が約十六億ばかりあるのであります。そこでその十六億は国保がなかったならば当然に政府が出すべき金である。さらにその十六億をのけて計算いたしまして約七十四億ばかりでございますが、それは国保がないところのものだけが単給を受けておるのであります。これを要するに、国保というものがなかったら十六億だけではない、七十四億というものを別に政府は出さねばならぬ。すなわちちょうど国保をやっておる市町村と、やっていない市町村と半々あるわけなんですから、国保をやっていなければ、その七十四億の負担並みに十六億を加えたところの九十億というものはどうしても政府が持たなければならぬ。国保をやっておるから医療単給の費用が少いのであります。すなわち国保がボーダー・ラインをかかえて、そして全部でプールして保険経済を保ち、ボーダー・ラインの層も国保へ入っておるわけで、もし国保がなかったら、そこのボーダー・ラインの層は生活保護へ落ちておるのです。生活保護へ落ちるべきところのボーダー・ラインを国保がかついでおる。そのために政府は医療単給の九十億も少く済んでおるのであります。そうすれば国保の方へ国の補助を二割くらい出すということは当りまえだ。私は国保の補助はどうしても三割をお出しにならねばいかぬということを言っておる。それで財政調整の交付金を一割出す。四割給付へ持っていかなければ、そうして一部負担を三割くらいにしなければ、国保は全面実施はできません。これは口でだけ言っても実際問題としてできるはずはありません。私は昭和十二年にこの国保の法律案が通ってからの関係者だ。そしてみずからわが村でそれを実践しておる。村長を十四年間やってきた。今日もなお関係しているんだ。事実、実際上の問題として、こういうような補助の行き方ややり方でできるはずがない。なお私は、国保をやっている町村とやっていない市町村と比べて、どれだけ国保をやっていない場合は生活保護費をよけい使っているかということの統計を知りたいのであります。また生活保護に落ちる原因は病気が何割あるか、この点を一つ聞いてみたい。
  135. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 お答えいたします。御指摘のように、国保をやっておりますところとやっておらないところでは、生活保護法の単給について差があるということは、傾向といたしまして事実だと思います。ただそのパーセンテージがどういうふうなことになっておるかということにつきましては、ただいまのところ手元に資料を持っておりませんから、調査をいたしましてから申し上げたいと思います。
  136. 永山忠則

    ○永山委員 生活保護に落ちる原因の病気は何割ですか。
  137. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 生活保護法に落ちます動機といいますか、原因としましては、単給と生活扶助平均とを一緒にして考えます場合には、病気が相当大きなパーセンテージになっております。
  138. 永山忠則

    ○永山委員 国保全面実施をするという場合にはそれらの調査ははっきり出ておらなければいけないのでありまして、おそらく病気の事由が五割ないし六割です。普通七割と言われておるのであります。そうすれば、この医療社会保険を解決すれば生活保護法の方は五、六割削減されると言っているでしょう。観念的な議論から言うならば皆保険になれば生活保護費は半減することになる。事実上において、国保をやっていないところの町村とやっておる町村と比べた統計は千葉県でやってみたことがある。ちょうど同じような経済状態の町村で、半分はやっており半分はやっていないところを調べたところが、一割以上違うという統計が出ておるのであります。これらの点も十分調査をされますよう希望する。実際上は市町村長がほんとうに苦しい思いをいたして、これは何といってもやらねばならぬところの事業であるというので、ほんとうに挺身をしてやっておるわけなのであります。そうして苦しい立場でやっておるのに、政府が国保をやらなければ当然生活保護費はどんどん出さなければならぬ立場にありながら、その補助金を三割くらい出すことさえも困難だ、さらに今回五分の調整金を出す場合において、これを義務負担にすることは困難だというような考え方を持っておるようでは、国民皆保険ということは、羊頭を掲げて狗肉を売るということがあるが、行ってみたら狗肉さえもなかったではないかというようにさえ、私は皮肉を言いたいくらいでございます。私は時間がありませんから一々計数をここでお願いするわけにもいきませんが、さらに農林漁業団体の共済年金制は、総理大臣はこれをやるということを予算委員会でも言われており、農林大臣も農林委員会でも言われておるのでございますが、厚生大臣及び農林大臣はこの法案はいつごろお出しになるわけでございますか、この点一つお聞きしたいのであります。
  139. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 内容の技術上の点で二、三折衝をしておるところであります。それから今社会制度審議会にかけて審議をしております。これが済みまして、ごく近いうちに提出できるようにいたしたいと考えております。
  140. 永山忠則

    ○永山委員 これは提出ということに対しては、閣内意見の一致を見ておるわけだというように了承いたしておるのでありますが、ただその給付の補助率の関係がやはり多少いろいろ折衝されておるように聞いておるのでありますけれども、年金関係が長期給付はこれまでの例が一割五分ないし二割ということになっておるのであります。私学共済もそうでございますし、厚生年金制もきょう厚生大臣の言われましたごとく、漸次給付範囲を広げ、あるいは給付金額を上げようというような状態になっておるのに、その長期給付の補助率を下げるというようなことはあり得ざることだ、そういう社会保障の後退はあり得ないのでございますから、私は一割五分の長期給付補助を確立されまして、すみやかに提案されんことを要望をいたしておるものでございますが、さらに中小商工業者の零細なる関係企業者に対する社会保障の関係はどういうようにお考えになっておるのでございますか、承わりたいのであります。
  141. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 なるほど現実的に自分たちの年金問題を解決したいという欲求の強いことは私どももよくわかるのでありますが、しかし御承知通り、国民年金を早急に実施するという態勢から見ますると、一部の階級なりあるいは一部の職種を同じくするような人々が、自分だけでもってどんどん年金制度を実行している。ことに現在あります厚生年金制度から離脱してもそういうものがどんどんできて参ります。そういたしますと、相当の、何と申しますか、国民年金制度に包含する残りましたものは、果して国民年金制度の趣旨に沿って適当にやっていけるかどうかという問題がありますので、私どもとしては、これらの問題について、今後そういうものが発生して参ることは、国民年金制度の実施を前にしては好ましくない現象である、こういうふうに考えておる次第でございます。
  142. 赤城宗徳

    ○赤城国務大臣 今の国の補助率につきましては実はまだ交渉中なのでございます。というより、私の方から申し上げますと、農業団体共済年金の掛金は、厚生年金の掛金より非常に高くなります。あるいは私学共済組合などよりも掛金の率が非常に高くなりますので、国庫補助も私学と同じくらいに百分の十五ということに今折衝中でありますが、まだ決定いたしておりません。それから国民年金との関係でありますが、私も国民年金ということは非常にけっこうなことだと思っております。農業団体関係は公務員でありませんが、市町村職員と非常に仕事が似ておるようなことでもありますので、御承知のように、市町村の農業関係は農業団体が扱っておる、こういうような形でありますので、市町村の職員との関係もありますので、国民厚生年金の提案を待たずに御審議を願いたいということで、今お話もありましたが、この点につきましては関係大臣等とも話し合いがついております。
  143. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 先ほど厚生大臣から御答弁がありましたように、私も実際言いますと、今中政連などの申しております詳細は全然わかりません。われわれといたしましても検討しなければなりませんが、やはり国民年金の一環として統一されたもので考えていくべきではないかというぐらいのことを、ただいま考えております。これはまあ今後の検討に待たなければなりません。
  144. 永山忠則

    ○永山委員 最低賃金制が出ておるこの際におきまして、中小企業、ことに零細企業者に対する社会保障制度の確立ということが、なお考え中であるというようなことでは、私は中小企業者の今日の苦しい立場を救済するということにはなりかねるのではないかということを、非常に憂慮するものでございますので、この点に関してはすみやかに一つこれが具体策をお進め願いたいのでございます。ことに中小企業の関係におきましては、最低賃金制が確立されようということに対しまして、本年度の施策は見るべきものがない。ただ団体法が通過いたしたから、その自主性に待つのだということを唯一の旗印にされておるのではないかというように考えるのでございます。ことに強く要望されておるところの零細企業者の事業税の撤廃というような点が、いわゆる優先をして考えねばならない問題であると思うのでございますが、これらの点も考えられていない。さらに中小企業者の設備の近代化に対するところの会社の積立金に対しては、ドイツあたりは無税にいたしておるのであります。これらの近代化に対するところの社内費用は税金を非常に軽減するというような租税特別措置をおとりになって、中小企業の近代設備を促進するというようなことにならなければならないと思うのでございますが、税の面を通じて中小企業者の育成強化ということに対する構想を承わりたいのであります。
  145. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 従来から私が申しておりますのは、中小企業者の振興策といたしましては、三点を考えて参ったのでありまして、第一点は御承知のように組織化でありますが、すでに団体法を通していただきまして、これの円滑な運用を本年の四月からいたすことになっております。第二点は金融の問題でありますが、金融につきましては従来の政府関係の金融機関を通じて政府資金を流すという方式だけではいかぬ、根本的に中小企業者の信用力を補完するという考え方のもとに、御承知のように、百六億の基金をもって中小企業信用保険公庫というものを来年度は創設いたしまして、これによって非常に従来の信用保証協会の活発になるばかりでなしに、包括保険に将来持っていきます。そうして全般的に包括保険に持っていきますと、これは銀行は心配なしに金が貸せるというような関係になりますので、金利も引き下げる、こういうような考え方に金融機関もなってきております。これが金融に対する根本的な対策であります。第三点は、何と申しましても、体質の改善とわれわれが呼んでおる設備の近代化と技術の向上という面であります。本年は六億円を府県の特別会計に出しまして、府県分がその同額の六億、さらに回収分が一億八千万くらいあります。従って自己調達分を入れますと、四十五億ないし五十億の設備の近代化ができる関係になります。それから技術の向上につきましては、従来の府県の指導をいたしております研究機関がほとんど今まで顧みられておりません。それにつきまして、六千万円の補助金を出しまして、さらに同額の府県分を入れますと、相当な設備の改善ができ、技術の向上のための指導ができると思います。またさらに企業診断につきましても、従来より一そう力を入れるように予算を要求しておるのであります。  税金の問題につきましては、本年度におきましては、やはり法人税がきついという声にこたえて、御承知のように二%引き下げるばかりでなしに、従来の逓減税率の適用範囲を百万円から二百万円に上げる、こういうような措置もいたしておるのであります。また遺憾ながら事業税は、これは地方財政との関係がありますので、今回は見送らざるを得なかったのでありますが、自転車税、荷車税の廃止、私は事業税につきまして廃止ということはどうかと思っております。これはやはり地方団体との関係がありまするから、将来あくまで減税はやっていかなければならぬ、かように考えておりますが、さらに設備の近代化につきましては、昨年十月ころでありましたか、中小企業者に対しまする特別償却をいたしまして、三年間五割増し償却の制度を実施いたしておるのであります。各方面にわたって極力努力はいたしておるつもりであります。
  146. 永山忠則

    ○永山委員 今日、中小企業あるいは中小商工者が悩んでおりますことは、生活協同組合との関係でございますが、生活協同組合が非常なる勢いで伸びております。これらに対する規制をどういうように持っていこうと考えられておるのでありますか。小売商業特別措置法その他中小企業振興法、これをぜひこの議会で成立せしめるという熱意があるか、あるいは団体法の改正によって、生活協同組合を規制するところまでいく決意があるかどうか。これらの総合的な施策をやはりやらなければ、私は今日中小企業者が立ち上ることはできないのじゃないかということを非常に憂慮するものでございますが、この点を伺いたいのであります。
  147. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 お話の通りに、消費生活協同組合との関係はだんだん激化すると思います。ただ団体法につきましては、御承知のようないきさつでありますので、まだ実施をいたしておりません。これは将来の問題として、ただいまのような取扱いではないような方向に持っていきたいとは思っておりますが、これはやむを得ないと思います。従ってすでに政府が出しております小売商業特別措置法、それによって員外者の規制をぜひやりたい、これは極力すみやかに通過をさしたい、かように考えておる次第であります。
  148. 永山忠則

    ○永山委員 そこで大蔵大臣にお尋ねいたしたいのでございますが、今回の予算編成の一番大きな柱というものは、国際収支均衡、安定経済をはかるということであると思うのであります。この国際収支を均衡にするという行き方としまして、金融と財政の面で強く打ち出されておるのでございますが、税の面での打ち出し方が非常に少いのではないか。いな、税の面においては、この国際収支均衡、安定経済に対する根本的の施策というものがとられなかったのではないかということをわれわれは思うのでございますが、この点に対する意見を承わりたいのであります。
  149. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 仰せのように、今回の予算編成の一番基本的な点が、国際収支の改善、輸出の増大、こういうところにありますことは、その通りであります。従いまして今お話のように、これに対しまして各般の施策を予算面にも盛ったつもりでおります。また税の点につきましては、すでに臨時国会におきまして、輸出の振興に関しまして改善を加えてあるのであります。今回におきましても、できるだけのことはいたしておるつもりであります。
  150. 永山忠則

    ○永山委員 ドイツあたりでは、特に税の面におきまして景気を調整するという点に非常なる力を入れておるのでございまして、ことに消費税並びに取引税をかけまして、国民の消費安定に寄与するというような考え方、あるいは法人税にいたしましても、設備の近代化に使うところの積立金は無税に持っていくとかその他の不生産的部門の方に対する、いわゆる社用族等の不当に社外に流れておるようなものに対しては税金を重くするというような形で、税の面で景気を調整するということを抜本的にいたしておるのであります。これらの税の面での調整ということが抜本的に考えられておりませんので、少し財政規模を拡大すれば、直ちにインフレ的要素を含んでくるということであるのではないかと私は思うのでございますが、この税を中心としたる景気を調整するという抜本的な施策を今後おやりになるお考えがあるかどうかを承わりたいのであります。
  151. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 税の面から景気を調整するということも、むろん考えられるのでありますが、しかし私の考えでは、税制からする景気の調節は、むしろ長期的な見方から考えるべきなので、短期的、直接的には金融の措置によるのが適当であると考えております。同時に税でもって景気を調整するというためには、財政自体にやはり相当な余裕を持っておることが必要であると思います。同時にまた税自体が弾力性を持って、ある場合には税率を上げ下げしてもいいというような弾力性も必要である。しかしこういういき方は税自体が国民全体からこれを徴収するという関係もありまして、きわめて公平に扱わなければならぬ。そのときどきの事情によって、かなり著しい変化を与えていくことも認めなければならぬ。こういうふうに考えるのでありまして、今のところ私は日本の経済に対しては金融措置でやるのが至当であり、あるいはまた財政投融資を含めるのでありますが、金融的措置でやるのが適当である。同時に税の方では補完的に考えていきたい、かように考えております。
  152. 永山忠則

    ○永山委員 それが、税の面の調整ということが総合的に行われておりませんので、結局出血が多いのじゃないか。そして結論は、縮小均衡の健全財政というところへ陥ってきているのではないかということをわれわれは憂慮するものでございます。これを金融と財政措置だけで急激なる処置をするということがどういう結果になっておるかと申しますと、三十二年度の上期において四億七千万ドルの赤字でございました。それが三十二年度の下期では三億二千万ドルの黒字が出まして、結局差し引き一億五千万ドルの赤字——政府の方は一億三千万ドルくらいと言っておりますが、そういう赤字で、わずか半カ年の間にそこまで取り返すことができた。そのことは大蔵大臣の手腕であるということにも考えられましょうけれども、金融と財政面で強くこれを縛り過ぎたということがそういうことになってきておるのではないかと思うのでありますが、これが黒字へ向って移行するということは悪いことではございませんけれども、やはり税の面をも総合されていくことによりまして、縮小均衡ではなしに、インフレなき拡大均衡財政ということに行き得るのではないかというようにわれわれは感ずるのでございます。特にこの場合、二十八年度の赤字が三億四千万ドルであった、それから二十九年度の方で、一年かかって二億五千万ドル黒字が出てきた。すなわち二十八年度の赤字は一年間でこれを解消いたした。本年は半ヵ年で解消することができたということの大きなる原因が、どこにあるかと申しますと、それは二十八年においては食糧が足らなかった、本年度は食糧が幸いにして豊作であったということが、この赤字を克服するところのまた大きなる原因であるということを私は考えるのであります。  時間の関係がございますから、続けて申しますが、そこで私は国際収支均衡財政をやる上において、いかに食糧増産ということが大切であるか、農村に対する補助金はむだではないということを、一つ大蔵大臣に強く認識をしてもらいたいのであります。長い間農村に対しましてあらゆる補助金を出していただいた。実は三ヵ年豊作であるということは天候がよかったからではないのであります。あるいはむしろ冷害があった、あるいは風水害があった。それにもかかわりませず三年間の豊作が続いたということは農民が非常に努力をいたしたという点もございますし、高い農薬品も入れていきました。さらに高い農業機械を利用いたし、あるいは耕地の改良、開拓に力をいたす、こういうような総合的な農村の努力と、政府の助成金、補助金とが相待って食糧増産ができたのであります。国際収支均衡に重点を置く本年度の財政計画の上から見れば、農村に対するところのこの補助政策あるいは農村に対する諸種の施策に対する財政支出というものは、これは非常に重要なる地位を持つものであるということを思うのでございますが、どうも大蔵省の方では補助金を出すのがむだ金を出すのではないか、あるいは農村は少しどうも放蕩むすこを抱えているようなものではないか、といったような気分があるのではないか、そういうことが補助金を一律にへずつてしまう。われわれは旧来の補助金をへずるどころではない、補助率を上げなければいかぬ、そうして融資はもっと長期の融資にいたし、金利も下げるということにならなければ、今日都市と農村の生活のギャップというものはますます開きを大にしてくるものであるというように考えているのでございますが、この点に対する大蔵大臣の御意見を承わりたいのであります。
  153. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 大蔵省としてもただむやみに農業方面の補助金を切るというようなことは考えていないのであります。私どもの考えは必要な補助金はむろん出しますし、また必要があれば新規に考えてもいいのであります。ただ必要がなくなった、あるいはすでにその目的を達したと思われる補助金は一つやめてほしい、何でもかんでも従来ある補助金の上にただ積み上げていくというような行き方は必ずしも妥当ではない、こういう考え方があるのであります。そしてこのことは毎年会計検査院で事実指摘されていることは御承知通りであります。ですから、やはり毎年こういうことがあることは大蔵省としては補助金を出す上において非常に困るし、遺憾に思います。同時に大蔵省が出すというと、いかにも大蔵省の金だから、少しでもたくさん出せという考え方があってもいけないので、これは税金なんです。だから税金が高いじゃないか、税金はなるべく安くしなければ、国民生活を圧迫し、日本の経済がうまくいかない原因もまたそこにもひそんでいるということもありますから、この点は税金という見地と、この金を最も有効に使うという見地から補助金を考えているような次第でありまして、どうぞ誤解のないようにお願いいたしたいのであります。
  154. 永山忠則

    ○永山委員 今日農村あるいは中小企業者、庶民大衆、みな同じでございますが、非常に生活が苦しいのでございまして、ことに農村は生活保護に四〇%が陥っております。そして農村の収入は一割八分くらいでございます。四割八分くらい農業従事員がおるにかかわらず、その収入が二割以下である。またエンゲル係数から申しましても五〇%を上回っているのでございます。都市生活は五〇%を下っておるのでございます。こういうような点から見て、私は岸内閣は貧乏追放ということを強く打ち出されて、予算編成上それが指導方針であるとするならば、農村の方面に対してもっと強く総合施策を打ち出すべきであるということを考えているのであります。それには何としても税の問題でございます。私はその面から見ても税の調整、いわゆる景気調整の抜本的な税の問題を取り上げられて、そうしてこういったような農村、中小企業者、庶民大衆の社会保障という面にもう少し金をお出しになって——そのことは断じて景気を刺激するものではない。今年の酒の税金を安くし、あるいは法人税を安くすることの方がむしろ景気を刺激するのである。この庶民大衆の一番苦しい生活状態におる者に社会保障や、あるいはその他の助成政策をやる方が景気の刺激が少い。いわゆる景気を刺激することをできるだけ避けようという考え方予算方針であるならば、私はこの減税というもの、税の調整をもととするところの抜本的税制をやって、その基盤において社会保障あるいは農村、中小企業者の助成をもっと強く打ち出されていくべきであるということを強く考えるのでございます。それと同時に、この場合特に大蔵大臣に申し上げてみたいと思うのでございますが、恩給関係でございます。これは何といっても岸内閣が終戦処理をいたした。そして対外の賠償関係もわれわれ国民の中にはもっとねばってみたらどうかという気持のある者もあると思うのであります。しかし、すみやかに賠償問題も解決して、そうして国民総意の上において強力なる自主外交を展開しようという考え方に協力をいたしておるものであります。しかるときにおいては、私は、終戦処理は内外ともに終戦処理をやるべきであると考えるのでございまして、このときにおきまして、旧恩給の是正問題は当然私は終戦処理の一環としても取り上ぐべきであると考えるのでございます。この旧恩給問題につきましては、すでに二十八年において一応の線が出たのでございます。その際において、戦死者の家庭の皆さんは、支那事変当時死んだ者から言いますれば、実に十五年ないし十年という間は何ら恩恵を受けずに歯を食いしばって日本再建に努力を続けてこられた。その間の苦しい状態はこれをそのままにしておいたのでございます。そうして二十八年旧恩給法改正の際将官を二号俸下げた、佐官も一号俸下げた、そうして旧軍人恩給問題は一応の線に出てきたのでございます。これが問題になりましたところの大きな原因はどこにあるかというと、政府がこれまでとられたところのインフレ的施策がどうしても恩給まで上げなければならぬところへ入ってきたのであります。いわゆるこのインフレ的施策、という言葉は少し過ぎるかもしれませんけれども、公務員の給与べースも上げた、さらに期末手当も上げる、さらにまた交通費も出す、あるいは燃料費も出すというようにして、現在の国家、地方公務員が生活上困るから引き上げたというならば、当然に恩給もスライドして上げねばならぬ。この点についてはすでに調査会がそのことを答申いたしておる。その調査会には森永次官も出られておる。前の大蔵次官の河野君も出ておる。前の給与局長でありました今井君も出ておる。社会党代表も言論界代表も出ておる。そうして、調査会はこれを取り上げてどういう答申をいたしておるか。当然これはべース・アップをしなければならぬということを言っておるのであります。その答申に言っておるのが、恩給が老後の適当な生活の支えとするための保障であるという精神からして、使用者としての国の立場から政策的配慮として考慮さるべきである、昭和二十九年一月一日以後に退職したる公務員のレベルにできるだけ到達せしめることに意見の一致を見たということを答申書が出しておるのであります。でございまするからして、私は、これに対していわゆる旧退職公務者のベース・アップをするということはやはり当然過ぎるほど当然であると思うのであります。答申案に出ておる。さらに、倍率の問題につきましてもどういう答申が出ておるかと申しますと、「倍率はそれ自体に絶対の意味があるものとは考えられないが、現に一部の旧文官との間に倍率の相違があるので、そのために生じている不均衡感を以上の諸点を考慮して解消することが望ましいということについてはおおむね意見の一致をみた。」ということで、倍率に対してもこれを文官との不均衡感をなくするようにすることに意見の一致を見た、こういうことが答申に出ておるのであります。また、傷痍軍人の問題に対しましても、「二十七年恩給法特例審議会当時兵の第一項症の金額を月一万円程度と定めた考え方を想起し、これを相当額に増加する」必要があるということ、相当額増加しろということが出ておる。さらに、「現在の傷病恩給は、外形の症状に重点がおかれ、内部疾患については軽視の傾きがあるので、裁定官庁におけるすみやかな検討に期待する旨意見の一致をみた。」というように出ておるのであります。これに対して、どうも、大蔵省の原案を見ますと、倍率の問題あるいは傷痍恩給の問題でも非常にちゅうちょされたように見える。あるいはいやいやながらこの恩給是正をやったのだという風が見えるのでございますけれども、恩給というのは当然にやはりスライドしなければならぬ性質のものである。老後の生活の保障なのじゃないか。これをやらなければ——汚職なき善良なる官吏を政府は要求いたしておるが、この汚職なき善良なる官吏は一生を行政にささげて挺身をいたしておるのであります。その老後の保障をするという恩給の精神というものはどこまでも堅持されることが、私は特に官吏の汚職追放ということを言われる岸内閣としては当然の処置であると考えるのでございますが、大蔵大臣の意見を承わりたいのであります。
  155. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 御承知のように、政府といたしましては、四年ではありますが、四年間に三百億を限度としまして、旧軍人等の恩給の増額を予算にも組みまして、これに要する法律はもう国会に提出いたしておると思います。これはもう今から議論の余地もありません。解決済みと思います。私どもとしても国会ですみやかに御審議があって通過することを希望いたしておる次第でございます。
  156. 永山忠則

    ○永山委員 そこで、今大蔵当局におきまして公務員共済年金制に切りかえるべきではないかというような議論が行われておると聞いておるのでございますけれども、国家公務員及び地方公務員がほんとうに一生を挺身して行政事務に専念をするというこの精神を堅持するならば、善良なる汚職なき官吏をどこまでも要求する政府の態度としては、これを公務員共済年金制度に切りかえるという考え方の方が行き方としては邪道であると考えるのでございますが、所見を承わりたいのでございます。
  157. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 国家公務員の恩給につきましては、ただいま関係の間でいろいろと検討を加えておる過程でありまして、まだ何らきまったことではありません。
  158. 江崎真澄

    江崎委員長 永山君に申し上げますが、だんだん所定の時間が経過しておりますから、結論にお入り願います。
  159. 永山忠則

    ○永山委員 私は、今度の四年間に三百億円というワクで構想を立てられたのでございますが、そのことはやはり予算規模から見ましてきわめて適正なる処置であると考えるのでありまして、これが財政を圧迫するような、あるいは恩給亡国論とかいうような議論をなす者があるのでありますが、それは要するにためにする議論であり、財政を圧迫しておるものではないのではないかということを申し上げるということは、昨日も公述人の某氏は、恩給費が一割以上になるというようなことを言われておるのでございますけれども、一割以上になることはないじゃないですかということを強く公述人に申し上げた。責任あることを言ってもらわなければいけない。四カ年目の三十六年が千三百億である。すなわち援護法の金を入れて千三百億でございます。現在の予算が一兆三千二百十億である。この予算規模と四年先の分とを合せても一割弱になるじゃないか、四年の間に経済の成長率があるだろう、五カ年計画をわれわれに発表されており、年々国民経済が成長されて予算規模は拡大しておる。しかも本年度一千億円からのさらにまた続の増徴分が出る情勢にもなっておるのであります。これらの点からいったときにおいては、予算規模から見れば恩給費は予算の七分五厘だ、援護法を入れても八分八厘くらいだ。この率で四年間平均して大体七、八分のところでいっておるのであります。そして三十七年度になれば逓減率で非常に落ちてくる。政府が発表いたしておるところの三十七年度の逓減はどれだけあるかと申しますと、六十四億ある。三十六年がピークで、三十七年になれば六十四億逓減をするということになっておるのであります。財政を圧迫するものでも何でもない、恩給亡国でも何でもないじゃないかという点を私は強く昨日も話をいたしておるのでございますけれども、この逓減率の問題につきましても、政府は実質調査よりも辛過ぎる逓減率を出しておる。さらにまた死亡認定の数字が約七万人からあるということになりますと、四年に割って一人平均二十二万円、この中に死亡認定によりまして、留守家族等の、援護を受けている者、受けていない者、こういうような死亡認定を計算した場合においては、実に百五十億に近いものはこの死亡認定の恩給金が入っておるのであります。これらの点から考えますときにおいて、私は断じて財政を圧迫するような予算ではない、四カ年間の査定というものはきわめて適正規模であると考えるのでございますが、大蔵大臣の意見を承わりたい。
  160. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 今回の増額も加えまして、恩給費が財政を圧迫しないとは私は申し得ないのでありまして、今後やはり財政を相当圧迫して参ると思いますが、しかし今度の増額を見ましても、特に世間にわかっていただきたいことは、これは公務扶助料並びに傷病の恩給が大部分であるのでありまして、世間一般に言うように実質において社会保障に近いものである、こういうような観点から見まして、この戦争によった不均衡が是正されていくということは、これで民生が安定してみんなに働いていただくということになれば、私は非常にけっこうではないかとも思っております。財政的な負担から見ますと、これはピークになるのが三十六年でありますが、三十六年になりますと恩給費がおそらく千二百六十億余になるかと思うのでありますが、そうしますとこの三十三年度に対します比率は、おそらく二割二分程度になる。そのときにおける経済の成長率は一割八分、二割以下である、そういうような観点から見ました場合に、相当な負担とは申さなくてはならぬと思うのであります。しかし御承知のように三十七年になりますと、これはずっとその割合も下りまして恩給費の方が一割六分程度、経済の成長の方は二割五分というようなことになります。これは四年以降におきましてさらに減っていきます。そういうような傾向をとりまして、四十三年くらいになりますと三十六年のピークに比べて二割近い、一割九分くらい減額になるようであります。従いましてこれが戦前のときの恩給みたように、毎年々々積み重なって増加するのとは全く性格を異にしておる、そういうふうに申していいと思うのであります。この恩給増額を生かして国民生活が安定し、みんなが協力して大いに国勢を盛んにしようということになるように私は念じておるのであります。
  161. 永山忠則

    ○永山委員 ただいまお説のように、傷痍軍人と遺家族が大部分でございます。遺家族の関係が八三%、傷痍軍人が七%でございます。従って恩給費の九割は遺家族と傷痍軍人でありまして、わずかに一割が生存者の文官及び武官であるのであります。従って千三百億、これは援護法を入れての数字であります。一割ならば百三十億ということになるのであります。ことに文官側は今日納付金をしておる。その納付金が八十億ないし九十億あるのであります。その納付金の金利五分というものを見ましても、私は文官側が恩給のスライドをいたしましても、その納付金と見合いの上において少しも無理はないというように考えるのでございまして、しかも私はこの予算内の数字に対しましても、少し見積りが強く過ぎておる。いわゆる人数におきましても、あるいは逓減率におきましても、逓減率は低過ぎる、人数は多過ぎるというような点を見出しておるのでございます。従ってここに、この結果としてきわめて残念な問題が起きましたことは傷痍軍人が一番上昇率が悪くて、そうしてその次は遺家族、生存者。これを率で言いますと、昭和二十一年度の終戦当時の状態から恩給のスライドした率を見ますと、傷痍軍人の方は百十一倍、遺家族の方は百五十三倍、さらに一般生存者の方は百七十三倍、すなわち生存者の方が一番高く率が上っている。そうして傷痍軍人が一番低くて、その次に遺家族というふうな状態になっておるのであります。それは遺家族の方が倍率の点について問題がある。さらに傷病軍人は傷病恩給の点について低きに失しているのではないか、これらの諸点に対しましては委員会で十分論議をいたしまして、せっかくお出しになりましたこの三百億のワク内におきまして、最も公平妥当を期するようなことに政府とともに検討を続けたいというふうに私は考えておるのでございます。  それでは大体この程度で私の質問を終りたいと思います。
  162. 江崎真澄

    江崎委員長 明日は午前十時より開会することといたしまして、本日はこれにて散会いたします。     午後五時三十九分散会