運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1958-04-17 第28回国会 衆議院 社会労働委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年四月十七日(木曜日)     午前十時四十七分開議  出席委員    委員長 森山 欽司君    理事 植村 武一君 理事 大坪 保雄君    理事 田中 正巳君 理事 野澤 清人君    理事 滝井 義高君 理事 八木 一男君       大橋 武夫君    加藤鐐五郎君       亀山 孝一君    倉石 忠雄君       小坂善太郎君    小島 徹三君       小林  郁君    中山 マサ君       藤本 捨助君    松浦周太郎君       山下 春江君    亘  四郎君       赤松  勇君    井堀 繁雄君       五島 虎雄君    多賀谷真稔君       中原 健次君    長谷川 保君       吉川 兼光君  出席国務大臣         労 働 大 臣 石田 博英君  出席政府委員         労働政務次官  二階堂 進君         労働事務官         (労働基準局         長)      堀  秀夫君  出席公述人         国民経済研究         協会理事長   稲葉 秀三君         労働科学研究所         社会科学研究室         主任研究員   藤本  武君         全日本労働組         合会議議長   滝田  実君         日本労働組合総         評議会事務局長 岩井  章君         日本経営者団体         理事      入江 乕男君         東京商工会議         所中小企業委  石田謙一郎君         員会委員長  委員外出席者         専  門  員 川井 章知君      ――――◇――――― 本日の公聴会意見を聞いた案件  最低賃金法案内閣提出)、最低賃金法案(和  田博雄君外十六名提出)及び家内労働法案(和  田博雄君外十六名提出)について      ――――◇―――――
  2. 森山欽司

    森山委員長 これより会議開きます。  内閣提出最低賃金法案並びに和田博雄君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案について公聴会を開会いたします。  この際公述人皆様方に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は御多用中にもかかわらず当公聴会公述人として御出席下さいましたことにつきまして、委員一同を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく最低賃金に関する法的規制の問題につきましては、早期に制定すべきであるとの要望が強いのでありますが、その内容をいかにするかという点につきましては種々議論もあると存じます。ここに本日公述人各位の御意見を承わることに相なっております三案は、御承知の通り内閣から提案のものと、社会党から提案のものとそれぞれ内容等について重要な相違点があります。本日はこれらの三業について出軍低賃金制の確立の必要性及びその内容問題等中心各位のそれぞれの立場から忌憚のない御意見を御開陳願いまして、法案審査の万全を期したいと思う次第であります。  ただ議事の整備上公述の時間はお一人十分ないし十五分程度といたし、その後委員よりの質疑にお答えを願いたいと存じます。  なお念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、公述人方々発言をなさいます際には、委員長の許可を得なければなりませんし、発言内容については、意見を聞こうとする問題の範囲を越えてはならないことになっております。また委員公述人質疑をすることができますが、公述人方々委員質疑をすることはできません。以上お含みおきを願いたいと存じます。  次に公述人方々が御発言の際は適当に職業または所属団体名並びに御氏名をお述べ願いたいと存じます。なお御発言の順序は勝手ながら委員長においてきめさせていただきたいと存じます。  それではまず稲葉公述人に御発言をお願いいたします。稲葉公述人
  3. 稲葉秀三

    稲葉公述人 私稲葉秀三であります。所属団体財団法人国民経済研究協会理事長であります。それでは私に与えられました時間をでき得る限り有効に使う意味で、最低賃金に関する私の意見を申し上げたいと思います。あらかじめ私の個人的な立場につきまして二つ了承を得ておきたいことがございます。実ば私は提出された内閣の案の取りまとめをする中央賃金審議会でこの答申をまとめまする起草委員長になりました。きょう私が御報告申し上げまするのは、小委員長立場あるいは委員立場ではございませんで、もっぱら私個人見解でございますけれども、私は委員もしくは小委員長といたしましてあのような立場を支持をいたしました。またそれが、日本実情を考えましたときに、合理的なものではないか、こういうふうに考えておるということであります。  それから第二に御了承を得ておきたい点は、この最低賃金は、ただ単に労働法的な関係あるいは労働政策的な関係だけではなくて、やはり藤業政策、特にわが中小企業対策のあり方とか、あるいは漸進的にもっと広範な意味賃金格差を解消するとか、あるいは日本産業全体の近代化に資するとか、こういったような労働関係以外の点もあわせて考慮をすべきものではないか、こういうふうに感ずるということであります。この立場に立ちまして、私の感じておりまする点をこれから申し上げたいと思います。  まず第一に問題になりまするのは、最低賃金を作りまする場合の基本方式だと思います。この基本方式について、内閣案あるいは社会党案は相当根本的に変っております。その一つは、内閣案の方は、言うまでもなく段階的に業種別地域別職種別、こういうものを考慮をして最低賃金を進めていかねばならないという考え方であります。これに反しまして、社会党案はむしろ一律的に――一律と申しましても、いろいろな一律があると私は思いますけれども、やや一律的に、やはり最低賃金である以上は最低の生活を保障するという意味もございまして、これ以上下にはならない、そのあとでいろいろ実情考慮して段階的に積み上げていく、こういう方式を主張しておるということであります。方式自体では、私はどちらがよいとも、どちらが悪いとも言えないと思います。また個人的に望むらくは、やはり日本あと方式の方に早くでき得るようにしてほしい、こういうふうに考えております。  ところで、先ほど私が申し上げました第二点から推論をいたしますると、日本のような経済あるいは産業構造が非常に複雑な国、また地域別に非常に格差があるといったような国、こうした場合におきましては、結論的に申しまして、民主主義という形を漸進的に進めるといたしますると、やはり漸進的に地域別職種別業種別というものを積み上げていく、こういう形はやむを得ないのではないか。そういうことを経過することなしにだんだんと本格的な最低賃金を作っていく、またそれを実施することにおいて、産業経済政策とのつながりをつけるということはむずかしいのではないか、こういうふうに考えております。私が中央賃金審議会、あるいはそれの中の基本方式を決定するための労働問題懇談会等で、いろいろ聞きましたり、あるいは調査をいたしました結果を総合いたしますると、日本の場合非常に重要な点は、非常に貸金格差が大きい、しかも賃金の低いところが必ずしも利益の高い産業ではないということであります。そういったような実情考慮しながら、やはりこれ以下の賃金を払ってはいけないという条件を導入をして、漸次家内工業あるいは中小企業米合理化を進めていく、それをでき得る限り職種別業種別に積み上げていく、こういったようなやり方は、やはり日本の場合においてやむを得ないのではないか。あとで申し上げまするように、一律方式を導入して、そしてその線でやや急激に産業構造を変えていくというやり方も全然可能でないとは思いませんけれども、やはりそういったような場合におきましては多少無理が生ずるのではないか、こういうふうに考えておる次第であります。  それからもう一つ最低賃金の場合において一番重要なのは、私は、日本で大きく申しますと、産業が三種類に分れているのではないかということであります。その一つは、いわゆる大企業であります。その二つは、いわゆる中小企業であります。しかし、それ以下に、日本ではいわゆる零細な家内工業とか、あるいは内職とか、いろいろなものが普及をいたしております。従いまして、現在のところ、この最低賃金法実施されるといたしましても、実は第三のところへは手が届かないのであります。そういったような意味から、下手なことをいたしまして、かえって第二のグループを第三のグループに転落をさせるという心配があるのではないかということが私は非常に心配をして参ったわけであります。だけれども、いろいろこの問題を討議をいたしておりますると、家内労働家内工業まで国の賃金あるいは産業規制をやっていくということはかななかむずかしいということになりまして、結局は中小企業におきまして、最低賃金法を作りましたときに、関連する家内工業の工賃を規制をする、そしてまたでき得る限り家内労働法家内工業法を本格的にもっと進めるということに努力をする、こういったようなことで私ども答申が行われ、また政府はそういう決意でおやり下さるだろうと思うのでありまするけれども、この条件はどうしても守っていただきたい。でないと、結局漸進的な意味最低賃金方式すらマイナスの効果を及ぼす、しかも業界の近代化というものに役に立たない、こういう心配があるのではないか。そのように、日本の場合においては、非常に産業組織というものが複雑だ、そういう点をお考え願いたいと思います。  それから第二に、この最低賃金方式をめぐって、先ほど一律方式ということが問題になりました。一律方式につきまして私の考えておりますことを申し上げますると、私は方式としてはこの考え方は十分成立するのではないかと思います。だけれども、たとえば先進諸国最低賃金方式というものを考えました場合におきましても、歴史的にも、その国の経済特殊性によりましても、国で作る一律方式とか、あるいはあとで御報告申し上げますが、労働協約による方式最低賃金化するといったようなやり方なり、やはり各国最低賃金の歴史もそう簡単なものではない。こういうふうに考えますと、かりに八千円、それから二ヵ年問を限って六千円ということになりますと、やはりある程度それに合見った財源というものを積み立てておくということなしには、どうも私どもの知る限り、賃金実態調査の結果は、これがスムーズにいわゆる一律方式を前進せしめるということはむずかしいのではないか、こういうふうに考えます。つまり私の申し上げたいことは、考え方としてはきわめて合理的な考え方である、しかし日本の場合において、これを受け入れ態勢あるいは産業政策との連関において、よほどその実施の場合においては円滑な方策、あるいは財政資金の裏づけというものがなければ、そう簡単にうまく進み得ないのではないか、こういうふうな点を私個人は感じているということであります。  それから第三に申し上げたい点は、この内閣案業者協定というものを相当中心に置いておる。また事実その通りだと思います。従いまして、これは業者協定、つまり労働者の要求というものが最低賃金方式に入らないやり方ではないかという考え方がきわめて強いということであります。これについて私の感じておる点を申し上げますと、そういう面がないとは申しませんけれども、この内閣案におきましても、御存じのように四つの方式がとられている。そして二つ御存じのように業者協定以外のものではない。その一つは、国が必要と認めるときには中央賃金審議会あるいは地方賃金審議会のいわゆる協力を得て一つ最低賃金を作り上げるということもできまするし、また労使協定に基く方式も成立が可能だということになっております。ですから私は業者協定だけの法律であればこれは最低賃金法ではないと思いますけれども、その二つの点がともかく入っているということにおいて、この内閣案ですら私は最低賃金法案と称して差しつかえないのではないかと思います。また日本実情というものを考慮いたしますると、そういったような形にならざるを得ないのではないか、こういうふうに考えるわけであります。  ところで業者協定というものをどのように考えるかということになりますと、確かにこれは、私最近ずっと労働省からいただきました結果を調べましたし、それからまた数ヵ所の実際業者協定をやっておられる地域に行きまして、そして親しくそれの実情その他を調査して参ったのでありますけれども、それは労働者マイナスになっているか、また将来マイナスになる可能性があるかと申しますと、必ずしもそうではない、こういうふうに考えておる次第であります。もっともこれが即最低賃金だとは申しませんけれども、私が調べました関する限りにおきましては、業者協定すらそれを通じて関連産業が技術の交流をしたり、あるいは品質改善に積極的に努力をいたしましたり、あるいは平均賃金がただ単にいわゆる高等学校卒業というものを対象にし、あるいは中学卒業者対象にして、今までよりはいわゆるプラス・アルファの形を及ぼすだけではなくて、現にその上の層にまである程度効果的な役割を示している、またその結果きわめて前よりもいわゆる労働者を集めるということに対してプラス役割があり、また賃金の上昇が必ずしもいわれているほどコスト値上げということに響いておらず、大体私の感じているところでは、平均二〇%の業者協定による賃金値上げ製品コストに二%、あるいは二・五%くらいに上昇し、それが他方におきましてはいわゆる質の改善とかあるいは販路のプラスだとか、いろいろ反面におきまするプラス影響を与えている、こういうことを考えますと、業者協定だから何が何でも全部いけない、こういう考え方はあまり形式主義に過ぎるのではないか、もとより最低賃金制度というものを国が作り、結局国民が作るということになりますればこれではいけないので、ほかのいろいろな措置を認めなければならないと思うので、ありますけれども、この法案をそれだけだから全部いけない、こういうふうに反対をするのは、多少日本経済産業実情や、あるいは漸進的にでも下の方の労働されている方々の福祉をはかり、あわせて日本経済全体の合理化に資するという線に対しまして、やや形式的な意見を出し過ぎる、こういうふうに考えるわけであります。いずれこれは私以外のほかの方々から御発言がございますけれども、一応私は以上のように感じておるということを申し上げまして、あとほかの方々と一緒に皆様方から御質問を受けたいと思います。(拍手
  4. 森山欽司

  5. 藤本武

    藤本公述人 私労働科学研究所社会科学の方を勉強しております藤本武でございます。これから最低賃金法案に関する三つの案につきまして若干私の意見を申し上げたいと思いますが、この問題について申し上げる前に私非常に残念に思いますのは、一般に議論されております場合に、現在日本では最低賃金立法があるということを何だか忘れて議論される場合言が多いのであります。少くとも現在労働組合法の第十八条と労働基準法の第二十八条以下の条項におきまして、最低賃金制に関する規定がすでにあるということ、しかも労働基準法規定は残念ながら行政官庁が必要ありと認めるときというような条項によりまして、今もって十二年間にわたりまして実施されてこなかった。そういう段階での現在の問題として考える必要があるのではなかろうか、こういうように思っております。  昨日実は社会政策学会日本労働法学会有志の者百六十六名の声明書を発表したのでございますが、これは主として現在政府の方から提案になっております最低賃合法案につきましていろいろ話し合いました結果、どうも社会政策あるいは労働法を専攻している者の立場から言いまして、何かやはり声明を出して世論に訴える必要があるのではなかろうか、こういうような点で声明を出したわけでございますが、その一番の重点は、今度の法案を見ますと、どうも業者間協定法制化というのが中心になっておる。業者間協定というものにつきましては、自主的になさるということでありますればそれはそれとして別問題でございますけれども、これが最低賃金法の中に入ってしまうということでありますと非常に重大な問題であるというように、私ども研究しておる者の立場から強く感じたわけでございます。その理由は、業者間協定といいますれば業者だけの協定でございまして、主として過当競争を抑えようというような意味合いから各国ともそういう例はございます。これは自主的になさるのでございますから、取り立てて法律上どう取り締るということはないのでありますけれども各国ともそういうことはございますけれども、しかしながらこれを最低賃金立法の中に入れるということになりますと、非常に社会政策全体から見まして危惧すべきことではなかろうかということが私ども見解でございます。たとえばILO条約によりましても、これは最低賃金制に関する条約でございますが、その中に最低賃金を決定する機関には労働者並び使用者代表が入って協議の上決定するということになっております。世界各国の例を見ましても、業者間協定をそのまま横すべりしまして法定最低賃金として認めるという例は各国ではございません。これは賃金というのは労働者資本家との間で協定をしてきめるということが原則として一般にみなされておるということだけではなくて、業者だけではやはり労働保護が全うできないというようなところから、一般労働保護立法並びに最低賃金立法ができておるという根本精神から考えられておることなのでございます。そうしてそういう点から見ますと、業者間協定という業者だけの協定をそのまま国家法律として最低賃金として認めるということになりますれば、その行きつくところ、労働時間につきましても、労働基準法規定はやめて業者間協定でそれをそのまま国家として認めようというようなことになる道が今後開いていく危険性があるのではないか、そういう点を私たちは一番危惧しておるわけであります。そういう点から見まして、めったにこういうような声明なんか出さなかったわけでございますけれども、あえて有志が集まりまして声明を出しましたわけでございます。これが第一点でございますが、第二点といたしまして、この中に労働基準法規定に似たもの、ないしは労働組合法規定に似た規定、こういうものが入っておりますけれども、私たち既存立法と比較いたしますと、やはり内容的にもやや民主的でない方向に進んでいるのじゃないか、こういう点でむしろ既存立法を活用する方がまだしもいいんじゃなかろうか、こういうように考えております。それから家内労働者につきましては、関連家内労働だけについて規定がされておりますけれども、私たちの考えではもっと家内労働全般について本格的な最低賃金制実施というものが必要なんじゃなかろうか、このように考えております。それからこの日本最低賃金制を問題にされます場合に、日本賃金構造特殊性、つまり企業間の格差だとか、あるいはいろいろな意味賃金格差が大きいということが理由としてあげられておりますが、私各国のいろいろな実例を調査研究いたしました結果によりますと、むしろ最低賃金制によって各国賃金構造というものが相当大幅な影響を受けて現在のようになっている。たとえばアメリカの場合、最低賃金制実施される前の状態では、ある工場賃金と他の工場賃金が三・五倍の開きがあったというような研究が発表されております。ところが最低賃金制実施されました結果、そういう大きな開きがなくなったというようなこともございます。それからまた最低賃金制実施されますと、中小企業が一ぺんにつぶれるんじゃないかというような御心配日本の方はなさっておりますが、たとえばアメリカ綿糸紡績業につきましても、最低賃金制実施されました場合、その以前には三十セント未満労働者が八九%を占めておったわけでございますが、これは南部地区綿糸紡績業ですが、ところへ三十セントの最低賃金制実施されました結果、一年後には三十セント未満労働者数はわずか六%に減少しております。こういうことから見ましても、この最低賃金制というものが賃金構造に大きな影響を及ぼすということが明らかでございますし、その場合にそれらの企業がつぶれたかと申しますと、ほとんどつぶれておりません。どこの国でも最低賃金制実施される前に、中小企業がつぶれるんじゃないかということを御心配なさるのは無理からぬことだと思いますが、やはりもう少し経済というものは動的なものじゃなかろうか、この綿業の場合で申し上げますと、その賃上げの三分の二は企業合理化によって消化したということをいわれております。日本の場合にも賃金が低いために中小企業近代化しないんだというように私たち考えておりますので、最低賃金制実施されますれば、この近代化がむしろ積極的に促進されるんじゃなかろうか、こういうように考えております。それから全国一律がいいか、あるいは業種別地域別がいいかという問題でございますが、これも画一制をとっている国が比較的少いので、私いろいろ調べました結果、むしろ画一制の少い理由は、ヨーロッパ諸国では団体協約によりまして、しかも日本と違いまして産業別労働組合と、産業別経営者団体との間で統一的な団体協約最低賃金をきめておりますので、そういう組合のありますところではほとんど低賃金労働者がいない。従いましてそういう労働組合のないところ、そういう団体協約のないところについて業種別最低賃金法律上設定していく、こういうために画一的なものが作られていない、こういうように考えておるわけでございます。アメリカで画一的なものができましたのは、一九三〇年代にはまだ非常に組織労働者が少くて、そのために画一的なものが設けられた、こういうように考えていいんじゃないか。そういう点から見ますと、日本ではいろいろ賃金調査を見ましても、特にある種の産業だけに低賃金労働者がいるのじゃなくして、ほとんどすべての産業に低賃金労働者がいる。こういう点から見ましても、私は日本の現状に適応した最低賃金制といたしますと、むしろ画一的なものの方が必要なのじゃなかろうか、こういうように考えております。それから最後にもう一つつけ加えておきますが、日本最低賃金制実施が非常に困難なような産業あるいは賃金構造を持っているというような主張が多いのでございますが、インドなんかを調べてみますと、インドなんかはむしろ日本よりは困難な状態にある。しかるにかかわらず向うではちゃんと最低賃金制を一応実施している。もちろんその内容を見ますと、実施上いろいろ問題点が多いのでございますけれども、それは承知しておりますが、しかしながら少くともそういう熱意をもって政府当局なり政党の方が御努力なさっている。私も日本においてインド以上に皆様が御努力なさりたいという御気持をお持ちだと思っておりますので、できるだけ早くいい最低賃金制を確立していただきたい、こういうように考えております。簡単でありますが、私の公述を終りたいと思います。(拍手
  6. 森山欽司

    森山委員長 次に全日本労働組合会議議長滝田実君に公述をお願いします。
  7. 滝田実

    滝田公述人 滝田でございます。全労会議議長並びに全繊同盟の会長、中労委の委員等をいたしております。  最低賃金制が必要であるという理由については今さらここで述べる時間がありませんから省略いたしますが、もう少し労働経済実態に触れて最低賃金法に対する意見を述べたいと思います。この法案内容についての意見を述べる前に、この機会に一言つけ加えておきたいと思いますことは、昭和二十五年に最低賃金法はぜひ必要であるという建前のもとに労働大臣の諮問によって中央賃金審議会昭和二十九年に第一回の答申案を答申いたしました。それが実効ある措置を講ぜよという言葉が明確に答申案にうたわれておったのでありますが、しかも三十六業種の低賃金業種を選んだ中で四業種を選んで、せめてこれだけでも早くやることによって全産業に適用すべきであるという第一回の昭和二十九年の答申案というものが今日までまるきり無視されておった、このことはまことに私は遺憾なことだと思います。なぜ今までやらなかったかということについては、今回の提案に当っても政府原案の中に、その経済的な条件その他が備わっていなかったというふうに今日まで放置してあった理由があげられておりますが、しからば今日まで置いておいたから最低賃金法がより実現しやすい情勢になりつつあるかということについては、遺憾ながらまるきり逆行する傾向になっているのであります。この点をおそきに失するという意味において一言づけ加えておきたいと思います。なぜこういうことをあえて申し上げているかということでありますが、昭和二十五年から五、六年の傾向を見ますると、賃金格差の増大傾向が非常に大きくなって参っております。五年間に一一%ないし一二%賃金格差がひどくなってきております。そうして現在四千円ないし六千円というところの賃金労働者が二百万を越えている。あるいはまた四千円以下の労働者が百五十万近くもいる。これをパーセンテージにしますと、二千円ないし四千円の労働者が七%前後、それから六千円以下の労働者が約二一%くらいおります。人数にして六千円以下が三百七、八十万いるわけであります。まして八千円以下ということになりますと六百万前後の労働者になると思います。パーセンテージにして三四、五%の労働者がそれに該当すると思います。それが賃金格差の面においてパーセンテージがさらに十一、二%ここ五年間にふえてきたことについて、なぜ手が打たれなかったかということであります。実金額をあげてみますと、この間の事情がさらに明らかになります。五人以上二十九人までの事業場の人々の賃金が五百人以上のところの賃金に比べて五四%になっている。さらに家内労働に従事する一人ないし五人の事業場の労働者賃金が五百人以上のところに比べて三五%になっている。こういうように格差が激しくなっている傾向、これをさらに増大する傾向にありますから、今回の最低賃金法案というのは即時実施しなければならないという必要性を私ども痛感するわけであります。これをまず強調いたしたいと思います。  そこで私は第一にこの法案についての意見を述べたいのは、最低賃金法案は今国会でぜひとも成立するということを前提にしていただきたい。これを今日以後も放置することは、各面から見て許すことができない状態になっているという理由に基いてであります。第二点は、この政府の原案は非常に不満であります。中央賃金審議会答申案が労働大臣に提出されるときに、私ども中央賃金審議会答申案の内容についても不満でありました。不満でありましたけれども、三者構成の審議会の中で、不満ながら労働側の委員として賛成をいたした経過があるわけであります。この点は、私は今さら否定いたしません。従って中央賃金審議会答申案を最低線として賛成する立場をとりたいと思います。第三点として、しからばこの政府内閣案と称するものが中央賃金審議会答申案を、その提案理由に掲げておりますように全画的に尊重しているかどうかということがきわめて重要な点だと思います。私は企面的に尊重されていないと思います。そこで、中央賃金審議会答申案が全面的に尊重されるということが最低線であるという立場に立って、全労会議としての具体的な修正あるいはまた削除のことを後ほど披瀝したいと思います。  その大きな問題点でありますが、今労働組合の中にも大別して二つ意見があります。一つは、全産業一律一本何千円というきめ方でいくか、それとも審議会方式をとって、その出審議会の決定によって業種、職種あるいは地域賃金をきめていくか、そこに最低賃金法の基本的な骨格とも言うべき考え方二つに分れておるのであります。私は、全産業一律一本何千円ということは現状に即しない、審議会方式によって業種、職種あるいは地域別賃金をきめる、その審議会の権限を行政当局が一方的に左右するようなそういう内容であってはならない、そういう立場に立って、審議会の権限というものを大幅に強化すべきである。むろん労働者立場から言えば、全産業一律一本ということは望ましいことであります。そういう意味合いにおいては、将来それに近づけることについての最善の努力をしていただきたいということは重ねて言うまでもありませんが、現状でこの法案に対してどういう考えを持つかということになれば、以上の基本線を明らかにしておきたいと思います。  それでまずこの内容に入りたいと思いますが、重要点の指摘をいたしますと、第三条に「最低賃金は、労働者の生計費」ということが冒頭にうたわれております。労働者の生計費というものが、最低賃金をきめるに当って最も大切な要素であると考えるならば、業者間協定というものは、労働者の生計費について業者の意思だけでやっていいものかどうか。これは根本的に政府の原案がこう書かれておりながら、法案としてはそのような形態をなしていない、ここに大きな矛盾の点があると考えるのであります。賃金は労使対等できめるべきもの、最低賃金労働者の生計費を第一の要素と考えるならば、業者協定のごとき、業者の一方的意思によって労働者の生計費をくぎづけするのは間違いであるというふうに考えるのであります。これが重要点の一つであります。  次に、その業者間協定が、また当事者の全部の合意による申請によって左右される。こういふうに賃金そのものが業者の決定により、それを変更する場合にはまた合意による申請ということでなされてくる。法制化する場合にもそういう手続がとられようとしておる。これでは労働者が参加していないものを、さらに業者の勝手な意思によってやられるという二重の間違いを起していくように思います。最低賃金審議会の調査審議に基く最低賃金という第十六条の項に至っては、労働大臣が「労働条件改善を図るため必要があると認める場合において」、この「必要があると認める場合」というのがそもそもそもせ者だと思うわけであります。先ほどの公述の方も主張されたわけでありますが、労働法からいって」も、基準法からいっても、あるいは従来答申を出した経緯にかんがみても、必要があるかないかということが一方的な政治判断によってなされるとすると、非常にゆがめられたものになっていってしまうという点から、審議会の権限を強める必要があることをここで重ねて強調いたしたいと思います。第三章の「最低工賃」という項に入っても、賃金審議会が調査審議を求められたときに初めて調査をし、審議するということであって、必要を認めるか認めないかは行政当局に判断があるというようになりますると、これもしり抜けになってしまうというふうに考えるのであります。こういったこの法案を流れる重要点について私どもは満足することができない諸点がありますが、具体的に修正点について指摘いたしたいと思います。  まず第一に、業者間協定でありますが、具体的な修正点として第九条を全文削除する。これは業者間協定というものがこの原案によりますると最低賃金法の主軸になっておりますから、それを第一議的に取り扱っているのを全文削除して、右と関連して第十条を修正する。使用者の申請がなくとも最低賃金審議会の勧告により適当と認めた場合には業者間協定地域的拘束力の拡張ができる、こういった一条文を挿入する。第二に、関係労働者側の異議の申し立てを認める旨の一項を挿入する。次に、労働協約による最低賃金協約のきめによって最低賃金ができ上っている場合には、業者間協定よりも優位に取り扱っていく。これを具体的に第十一条中に「一定の地域内の事業場」の次に「または一定の業種もしくは職業について」という字句を挿入する。第十一条中「当該労働協約の当事者」伝々「合意による申請があったときは」、この字句を削除する。次に、最低賃金審議会の調査審議に基く最低賃金の具体的な修正点としては、第十六条第一項終りの字句を、最低賃金審議会の意見に基いて最低賃金の決定をしなければならないということに審議会の権限を具体的に強化する条項に改めてもらいたい。最低工賃の決定、修正の主要点は、第二十条第一項終りの字句を、「その意見に基いて」云々、あと最低工賃の決定をしなければならない。これも労働大臣あるいは行政当局の判断ではなしに、審議会の意見を尊重して工賃決定をするようにしてもらいたい。  次に最低賃金審議会でございますが、二十七条に「建議」とあるのを「勧告」としてもらいたい。第二十七条は、労働大臣または地方労働基準局長は最低賃金審議会の答申に対して異議ある場合は、その再審議を請求することができる。審議会の再審議により決定が行われたときは、その決定を職、権により変更できないこととするということで、審議会の決定を勧告にするようにしていただきたい。異議があれば、この勧告がまずいということを政府当局が言ってもう一度決定したら、その決定については、それを実施してもらうというふうに条文を改めていただきたい。政府関係者が特別委員に入るという考え方は反対であります。これは削除して、別に賃金審議会の事務局に関する規定を設けて、事務局として取り扱うということにすべきである。審議会は労使、公益という三者構成を守るべきであると考えるわけであります。  次に監督及び罰則の問題でありますが、一カ月間の期限を付して、その命令に対する猶予期間を置いて、そしてその命令に従わない場合には一年以下の懲役または違反労働者一人一日につき一万円以下の罰金刑に処する。これくらいにしなければ本法の具体的な推進はきわめてむずかしいのではないかということが、過去の労働基準法の経緯を見てもわかると思います。要するに正直者がばかを見るような法案であってはいけない点を、私どもしっかり指摘したいと思います。単に罰することが目的ではなしに、そのことによって過当競争の非常に巧妙な、やみをぬっていくような動きに対しては、私どもは厳罰の態度をとるべきであると考えるのであります。  まだいろいろ意見があるわけでありますが、時間がありませんので、あとで御質問があればその際に詳述いたしたいと思います。
  8. 森山欽司

    森山委員長 次に日本経営者団体連盟常務理事入江乕男君の公述をお願いいたします。
  9. 入江乕男

    ○入江公述人 日本通連株式会社の常務取締役をしております入江であります。所属団体はただいま委員長からお話がありました日本経営者団体連盟常務理事であります。  私どもといたしましては先ほど稲葉公述人からお話がございましたように、わが国の経済過剰人口及び特異な産業構造、特に中小企業の現状から考えまして、社会政策労働政策的な立場から考える最賃というものは、現段階としては非常に時期が早い。やはり経済問題として現実に即した観点から最賃の法制化については考えるべきであると思うのでございます。従いまして原則的には内閣提案の最賃法案に賛成するものでございますが、提出法案中、これから申し上げます条項の修正方につきまして強く要望申し上げる次第でございます。なお条文修正と、それから施行に当りましての問題、また施行に当りましての省令等につきましての意見等を、そのあとに加えたいと思います。  まず条文修正につきましては、第一に第十条、十一条、業者間協定労働協約に基いて決定する地域的最賃においては、原則として成年労働者つまり満十八才以上を標準とした一本の最賃を定めるものとしていただきたいのであります。事業もしくは職業の実態から未成年者と定めることの必要ある場合は、成年労働者にかえて、未成年労働者を標準として定めていただきたい。この理由としては今締結されておりまする業者間協定実態、また労働組合産業別最低保障賃金獲得の闘争方針等から見まして、年令別の最低賃金締結の公算が非常に大きいのであります。これらがすべて十条、十一条により拡張的解釈を見て国家が定める最賃となるようなことは企業の支払い能力の観点から見まして、この能力を無視し、賃金の本質に混乱を与えるおそれがありますから、原則として成年労働者について一本の最賃額の方向をとっていただきたい。  次には十二条の第二項の異議申し立ての期間でございますが、案といたしましては公示のあった日から三十日とございますが、これを六十日以内と延長していただきたい。この理由としては、適用対象となる中小零細企業実態から見ますると、異議申し立ての期間が三十日以内ということはあまりに短かきに過ぎて、異議申し立ての機会を失わしめるおそれがあるのであります。  その次は第十六条の問題であります。十六条は行政官庁の職権により最賃を決定する場合におきましても、適用対象たる使用者に救済の道を講じていただきたい。この理由といたしましては、行政官庁が職権により最賃を決定あるいは改正する場合においても、事前に適用対象となる使用者に十二条におけるような救済のための措置を法定化しておくことが、法の円滑なる運用を期せられると思うのでございます。  もう一度十二条に返ります。業者間協定に基く地域最賃あるいは労協に基きますところの地域最賃十条、十一条にからむのでございますが、及び前段申し上げました十六条の使用者救済の道を講ずる問題を含めまして、都道府県基準局長が最賃の決定におきまして、異議に対して別段の措置を講じなかった場合においては、当該使用者はさらに労働大臣に対し異議を申し立てる二審制を設けていただきたい。その理由といたしましては適用対象となる該企業の困難な事情、立場をできる限りしんしゃく考慮していただきまして、適切なる措置を講じ得る道を開いておくことが、法の実施を容易にし、混乱を避け、漸次実効性を上げていく道であると思うのでございます。その次には十七条の第二項の問題でございます。決定発効の日は公示の日より三十口経過したる日とございますが、これを九十日後としていただきたいのでございます。この理由は護当企業に最賃の決定事項を示唆いたしまして、企業内で賃金体系、賃金序列の修正などの受け入れ態勢を十分に整備せしめまして、混乱を伴わないようにするためには、三十日では非常に短か過ぎるのでございます。  それから次には附則の第一条でございます。施行期日は公布の日から九十日とございますが、これを百八十日以上を経過した日以後で政令で定める日とするということにお願いしたいのであります。本法の対象となる中小企業に本法の趣旨を知悉し、この実施を円滑ならしめるためにも、事前に啓蒙が必要でございます。中小企業団体法の施行明日等に見られるごとく、またその他の中小企業の諸法につきましても、大体六ヵ月という期間が置かれてございます。それらとにらみ合わせまして、百八十日というものは決して過当ではないと思います。  その次、付則第八条でございます。労組法十八条一項の申し立てによる労協が最賃に関するものである場合は、労組法十八条は適用せず、本法十一条の規定によるものとしていただきたいのであります。この理由といたしましては、労組法十八条の調整規定において付則八条を置いてございますが、この規定は拡張適用の要件の決定機関、効力の存続等を異にして混乱を免れない。少くとも最賃に関するものはすべて本法によるということにしていただくことが必要であると思います。  それからその次の付帯といたしまして、本法の施行につきまして本法の実施条件としまして、中小企業の現状から見て金融、税制、技術、拡張等、各般の中小零細対策の推進、社会保障制度の拡充等について適切なる措置をすみやかに強力に実施していただきたい。  第二、本法施行に当りましては、監督行政は立ち入り検査などをできるだけ避けていただきまして、監督より、当面啓蒙、指導に重点を置いていただきたい。違反者に対しても直ちに罰則をもって臨むごとき措置はとらないようにしていただきたい。さらにこの施行に当りまして政令あるいは省令で規定することになる問題も出てこようかと思いますが、そこに織り入れていただきたいことは、第十条、第十一条の一定の地域、同種の労働者、大部分という抽象的な文章がございますが、これは認定解釈を政令あるいは省令で明確にしていだたきたい。この理由としては、認定解釈に疑義を生じますと、法の運用上非常に問題点がやはり出てくると思うのでございます。  それからもう一つは、十二条、最賃の決定、異議申請の要旨の公示は当該使用者に文書をもって通知するなど、周知徹底をはかっていただくような措置を講じていただきたい。官報のみによる公示では不徹底でございまして、異議申し出の機会を失い、あるいはわからなかったことによっての違反あるいは紛争を起すようなおそれもございますので、これらのことを防止するためにも、そうした文書通知というものを一つお順いしたいのであります。  以上が法にからまる問題でございます。この問題につきましては、経営者団体としましてすでに政府に対して要望している点を私が重ねて申し上げたような次第でございます。  それであとは時間がもしございましたならば、先ほどからお話がございました総評さんの考え方、全労の御主張の中で経営者の立場から見まして、これに対する考え方を申し上げたいと思います。  ます第一に、滝田さんは、賃金格差が非常に大である、特に八千円未満が三四、五%、六千円未満が二一%、大企業との格差は千人以上と比較すると、大体一〇〇対五一、二というような線をあげられましたが、さらに大きい問題は、生産性格差が問題なくこれより上回っております。時間当り生産性格差が千人に対して五一のところが、千人に対しておそらく四〇程度であります。こうしたような現象はやはり中進国的経済国家の特徴がありありと出ておるものと思いますし、一つは、こう申してはまた滝田さんからおしかりをこうむるかもしれませんが、やはり千七百万都市工業労働者のうち、組織労働者は現在六百五十万と記憶します。組織労働者はおおむね大企業に足がかりを持っております。いわゆる滝田さんの春祭、秋祭とまでは申し上げませんが、恒例の春祭、秋祭で組織労働者賃金が高まることで、まさに滝田さんのおっしゃるような理由とは別に、やはり格差は聞いてきておるものと考えます。もう一つは出かせぎ型という米食依存国家状態をよく考える必要がある。四割二分というのは、わが国の戸数のうちの農村戸数でございます。従って賃金自体が先進欧米諸国と違います。いわゆる先進諸国は時間当り何ドル、あるいは週幾ら、また一日幾らというふうに、すべてあらかじめ社会基準化された熟練、未燃練というものの基準が明確になっているのでございます。従って仕事に対する賃金というものはきわめてはっきりしている。わが国の場合においては生涯的雇用関係にありまして、企業の中で初めて熟練を得るという、しかも社会基準化されていない賃金実態というものを直視する必要がございます。そういうことと、それから今申し上げました通りに、中小企業状態が、先進国にも中小企業はございますが、専門化されております。従って賃金格差は一〇〇対九〇というようなアメリカの場合におきましても、企業者数に約五〇を占めるといった中小企業は、むしろ十人、二十九人が千人以上一〇〇に対して一〇一という、生産性はむしろ上回っているという、専門化している中小企業状態でございます。わが国の場合は中小企業の体質の問題がはっききりここに出ておるのでございます。そうした観点から見ましても、全国一律幾らというようなことは、先進国を見ましてもその例がございません。先ほど藤本さんがおっしゃいましたが、アメリカの一本化は、州際にまたがる職種について一本化はございますが、州のみの地方的のローカルのものは州ごとの最賃で全体が一律しているのでございません。ことにわが国の場合はそうした非常な経済力の浅い中に、ここにもし一律方式を用いるならば、まさにわが国の産業経済界の混乱を来たすほかはございません。従いまして最賃はやはり漸進的方向をとることが望ましい。すなわちこの混乱を招かないということがやはり法治国家としましても治安的な漸進の姿をとることがいいのじゃないかと考えるのでございます。今度は滝田さんの方のおっしゃることでございますが、もう一つ総評さんは、官できめるものの手続で、業者間協定は最賃法でないと申しまするが、国できめるものまでの手続というものがやはり内閣法案の中に出ております。これで私は十分ILO条約を生かすものと思いますが、すなわち届出によって三行構成にするから、私の判断に限ってはILO条約違反というものは起きないものと思います。次に全労さんの滝田さんの御主張では、最賃審議会を決議機関にしようという御主張でございますが、先進国のかような審議会におきましての性格は決議機関的なものを持っておるものはございません。ほとんど諮問機関でございます。ただしイギリスのごときものは特異例でございます。強い諮問機関を持っておるものとしては、一応最賃審議会で政府答申したものを、政府がその審議会と異なったものを出した場合は、もう一度審議会にかけるという少し性格的に強い審議会がございます。諮問的な性格がございますが、やはり決議機関ではございません。もう一つは、これはちょっと触れられなかったのですが、何か新聞で拝見したのですが、家事使用人も対象にすべしというような御主帳があったようでございますが、これは労働基準法対象外でもございまするし、また家内工業関係の方の加工の方の方向によりまして本問題は解決するものと思います。直接的に最質法の中にこれを適用するということは、むしろ法律の構成の上ではおかしいものと思っております。以上でございます。
  10. 森山欽司

  11. 石田謙一郎

    石田公述人 私は最賃法が主として向けられておる中小企業立場から公述いたしたいと思うのであります。実は私は昭和二十三年から商工会議所の中小企業委員会の副委員長をし、その後委員長をしておる者でありますが、この最賃法の問題につきましては、当時から中央賃金審議会にも、中小企業立場から人を出し、いろいろやっておったのでありますが、その当時においては、この最賃法に対しては、中小企業は全面的に反対だったのであります。日商傘下の中小企業者は、最賃法なるものは、全く事実を無視しておるという考え方であったのでございますが、その後いろいろ研究が進み、中央賃金審議会の方の意見もまとまって参り、二十九年には最後の意見が一応出たのであります。私はその当時の委員になっておりましたが、これもその当時には、まだ日商傘下のメンバーは、ほとんど全部が最低賃金法というふうなものは、まだわれわれにとっては無理だという意見が多数を占めておったのであります。しかし私どもは、日本の置かれているいろいろな事情から、輸出をどうしても中心としなければならぬ。その場合にいろいろと諸外国の考え方、ダンピングの問題その他から、最賃法は何とかのまなければならぬ、またのむ時期がくるのだという立場から、実は日本商工会議所のメンバーを盛んに説いたのであります。そして二十九年の当時において、政府に対して中央賃金審議会から、十分な中小企業対策をやってほしいという要望が出ましたので、当然これについておやりいただけるというふうな考え方から、政府の出方を見ておったのでありますが、これがあまり進まないうちに、今回中央賃金審議会が再開されるようになりまして、あらためて私ども中央賃金審議会答申を出さなければならないような事情に立ち至ったのであります。そして私どもは二十九年の五月に出まして以来、実は各地を回りまして、最低賃金というものはやむを得ないものだ。方法はいろいろあるだろうが、何とかのまなければならぬという教育をやって参りました。そして、その形によってはやむを得なかろうというところまで、今日までようよう努力して持って参ったのであります。ただし下部においては、全く最賃法に反対する中小企業者が、相当多かったことは事実でございます。この点から私どもは、この政府提案最低賃金法案について、いろいろ問題はあると思うのでありますが、ただ現状ではやむを得ない。先ほど滝田さんから、政府の方針は全労にとっては最低線だというお話が出たのでありますが、私ども中小企業にとっては逆に、これはやむを得ない。日本がガットに加入し――輸出の面で中小企業は六〇%をもっておるそうでありますが、これらの姿から、何とか物を買ってもらわなければならぬ立場、そのときにダンピングというそしりを受けないという、それらの点においてもやむを得ない。ことにILOの問題もありますので、どうしてもこれはやむを得ない。これはわれわれとしては、どうしてものまなければならない最高線である。私ども中小企業、特にこの対象になるのは当然零細企業が多いと思うのでありますが、それらの側から申しますと、これはやむを得ない最高線だ。これは立場々々の相違であろうと思うのでありますが、逆なんだと、そのように私どもは考えておるわけであります。  なお、先ほどからいろいろ中小企業賃金は低い、最低賃金制をしくことによって、直ちにこれが上り、同時に企業がつぶれることも少いという御意見もあったのでありますが、これは私はいろいろ問題があると思うのであります。アメリカのように、物が豊富で国も広く、伸びている国は別でありますが、日本のように狭く、敗戦というものを受け、しかも戦後十数年の間に、基幹産業である大企業に対しては非常な助成をやりましたが、中小企業に対しては力が及ばなかった現状においては――ただいま入江公述人からも生産性と賃金の問題をお取り上げになったようでありますが、低い理由は、生産性が低いからやはり賃金も払えないというのがその姿であります。でありますから、私ども最低賃金制実施に当っては、完全な中小企業対策をやるということ。そしてこれの基盤となるために、中小企業者に対しては組織をまず与えろということ。働く労働者の皆さんには、一応労組法その他で組織が与えられておりますので、中小企業にもやはり指導をして、組織させる必要があるのではないかという要望をし、同時にこれらの最低賃金法――現在政府提案のものも、私どもから見ると最高線だと思うのでありますが、これを実施するに当っては、やはりどうしても被害を受ける零細企業が出てくるであろう。そのためには五人以下の企業に対して実施しておらぬところの社会保険制度を必ずやってほしい。それも、経営者と働く人たちだけでなく、むしろ政府負担を多くしたものをぜひやってほしいという要望をしたわけであります。そして団体法だけはどうやら通ったのでありますが、社会保険はまだ緒についたばかりで、ほとんど問題になっておりません。そうしますと、最賃法はやる、しかしその結果として町にほうり出された人たち、先ほどの公述人のお言葉の中に、倒れないというお言葉があったのでありますが、今この姿は、やむを得ず生きておるようなことでやっておるのであります。これらを救うことは、確かに私ども日本としての大きな問題であろうと思うのでありますが、そういう姿であるということ。それを救うのには、簡単に一日では救えないということ。これらを見ていただきますと、必ず町にほうり出されるたくさんの零細企業者があると思うのであります。しかもそれに対しては何らしていないというふうな姿。こんな点を見ますと、現在提案の最賃法でさえも私どもは無理だと思うのであります。しかし、無理だから最賃法はやらなくていいかというと、そうは私どもも思っておらぬのであります。まあ現在提案されているような姿なら、これはやむを得なかろうというふうに実は考えているわけであります。  そして、この間において業者間協定の問題がいろいろ出てきておりますが、私ども中小企業者が作るところの業者間協定というものは、まるで働く人をしぼるために作ったというような印象を受けておるのでありますけれども、そうじゃないと思う。業者協定の姿というものは、皆さんの方がよく御調査の結果御存じだと思うのでありますが、大体今出ております線は五千円前後でございます。一日二百円ないし二百十円。御承知の通り高知県の石切りの方々は一時間三十円でありますから、これは六千円であります。しかも、最近この線が徐々に上りつつあります。こういうふうな姿を見ましても、決してわれわれ中小企業者が山椒太夫じゃないのであって、やはり社会のいろいろな目を感じながら業者間協定を結んで、そしてよりよく出せるように努力しているのだ、こういうふうに御理解を願いたいと思うのであります。あたかも業者間協定は、働く人たちをいじめるために、最低の線を出しているというふうにお考えになっているように見受けられるのでありますが、逆にそうではなくて、業者としては――いろいろなほかの原因もございます。たとえば零細企業には人が集まらないというような点もあるであろうと思いますが、自分たらが出せる精一ぱいの線を努力して出している。そして、やはりこれらがよくなることは、日本の今後の働く人たちにとっても、また最低賃金制の将来にとっても決して暗い面じゃなく、明るい面だと思います。社会党なり総評、全労の方々の要望されている、八千円ないし六千円という線に、もうすでに近づきつつあるのであります。そしてこの姿も、私ども経済の実際に動く姿によってそうあるべきが当然だと、かように考えておるのであります。  アメリカの例その他いろいろ出たようでありますが、アメリカの例は、皆さんの方がよく御存じのように、一時間一ドルでございます。日本の短期労務者がカリフォルニアに参りますと九十五セントだそうでありますが、そのように、アメリカでも一時間一ドルは低い線であります。私は機械屋でありますが、機械の職員と申しますのはアメリカでは大体一ドル六、七十セント前後、中には、特に花形その他で優秀な者は、三ドルから四ドル取っております。そういたしますと、一ドルということはずいぶん低い線であります。私がロサンゼルスで低賃金労務者の住宅を見ましたとき、どういうふうな人が住むのかと言って聞きましたところ、これは月収百六十ドル以下の人ですというようなお言葉がございましたが、このような点を見ましても、私は一時間一ドルというものは決して高くない、低い線なんだ、こういうふうなことで――一律ということは、果して是か非か問題があろうと思いますし、また私ども仄聞しているところによりますと、フィリピンがやはり一律をしいておるそうでありますが、これがたしか四・五ペソですか、そういうようなことになっておるように聞いておりますが、これは逆にいささか高いために小さな企業が成り立たないというので困っております。こういうふうに最賃の一律という問題にもいろいろ問題があるのじゃないか。しかもその後私どもがいろいろ研究しておりましても、おのずと業者間協定というふうな姿の中にいろいろな線が出ましても、やはり一つの線が出つつあるように思うのであります。そうして問題は、この最低賃金制の善悪よりも、むしろ最低賃金制をしくことによって被害を受ける者――中小企業ないし零細企業のものでありますが、これらの立場の人たちをどうして救うか、今日まで企業を継続しながらも、何とか乏しい設備と乏しい賃金でやって、わずかな人でも雇用を続けてきた人たちが、この最低賃金制をしかれることによっておのずと説落する人が出てくると思うのであります。この脱落する人々を救っていく、この方に問題の重点があるのじゃないかと私は考えるのであります。最低賃金制のこの法案そのものに対しては、私どもはそのような見地から、いろいろ批判する問題はあると思うのでありますが、これはやむを得ないと思う。世界の目が日本賃金というものに注がれておる今日、本来を申せば、われわれと事情を一にしておるイタリアがまだ最低賃金制をしいておらぬ実情からしても、私はまだ早いと思うのであります。早いと思うのでありますが、イタリアはヨーロッパに対してまだ労働者を出すこともできまするし、アメリカも年々相当の移民を受け入れている。こういうような国と、日本のように、とにかく移民はできず、輸出をするよりほかに道のない国家では、やはり世界の目をいろいろと考えてやらなければならぬ。そうすればこの程度の、われわれにとっては無理であるとは思いながらも、やむを得ず引き受けなければならぬという実情を、むしろ私どもとしては中小企業者及び零細企業者にPRをしておるのであります。そしてのみ込めないというものを、これをしないとかえって脱落するのだということ、そしてこの最低賃金制の結果としては、私どもははっきり申すと、中小企業の中の過当競争一つのブレーキになると思う。これは私はいいことだと思う。いいことだと思いますが、その過当競争をこれによってある程度まで防げると同時に、その線以下にある方々は必ず説落してきます。こういう点に私はずいぶん問題があると思いますので、私ども中小企業者としましては、最低賃金制のこの法案に対しては、批判はありながらもぜひやっていただきたいということが一つと、そういうふうないろいろな外の問題から、同時にむしろ問題は、これによって出る中小企業者及びそれに付随するところの働く人たちに、この法律がしかれることによって起きるいろいろな問題がすでに予測をされますので、この方へぜひ政府で力を注いでいただいて、いろいろな社会保険あるいは失業者の救済の方法その他をぜひやっていただきたい。それと同時に、この法律がしかれるとともに、今までより以上に中小企業に対しては、設備の問題あるいは資金の問題その他で、最低賃金制が漸次しかれながらも十分たえられるように育成をしていただきたい。このようにお願いをしたいわけであります。よろしくお願いいたします。
  12. 森山欽司

    森山委員長 以上で公述人公述は一応終ったわけであります。ちょっと速記をとめて。     〔速記中止〕
  13. 森山欽司

    森山委員長 速記を始めて。午後一時まで休憩いたします。なお御多用中を公述人方々に御出席を願っておりますので、定刻には必ず御出席を願います。     午後零時七分休憩      ――――◇―――――     午後一時二十一分開議
  14. 森山欽司

    森山委員長 休憩前に引き続き会議開きます。  岩井公述人が御出席になりましたので、岩井公述人の御意見を聴取いたします。  岩井公述人には御多用中御出席をいただきましてありがとうございました。それでは十五分程度にまとめて御意見をお述べを願います。  なお念のため申し上げますが、衆議院規則の定めるところによりまして、公述人方々発言をなさいます際は委員長の許可を得なければなませんし、発言内容につきましては、意見を聞こうとする問題の範囲をこえてはならないことになっております。また委員公述人質疑をすることができますが、公述人方々委員質疑をすることはできません。以上お含みおきを願いたいと思います。岩井公述人
  15. 岩井章

    ○岩井公述人 私は総評の岩井であります。ここに最低賃金法と銘打たれて提出されている法案並びに社会党提案法案について私たち総評労働者がどう考えているか、そしてまたどのような最低賃金法を望んでいるかについて述べたいと思います。  第一に内閣提出法案は、その第一条において「賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金最低額を保障することにより、」「労働者の生活の安定、」云云と書かれています。このことから私は賃金の低廉な労働者について賃金最低限をきめることが本法案の骨子であろうかと考えるわけであります。つまり地域、事業、職業というのは、それぞれに応じて額が違うということであって、いずれにせよ賃金最低限がきめられない労働者はないということになるのだと思うのであります。ところが本案をしさいに見て参りますと、そうではなくて、業者間協定のできるところはそれでいこう。一定の地域内で同種の事業所で使用される労働者及び使用者の大部分が業者間協定の適用を受け、しかも使用者の大部分の者の合意の申請があった場合には地域的な拡張をやる。労働協約に基く地域最低賃金も、労働組合、使用者の全部の合意がある場合には決定できる。また労働大臣や基準局長が必要と認めたときには、賃金審議会の意見を尊重して最低賃金をきめ得るというように、四つの方法で最低賃金をきめ得るようにしていますが、これでは全労働者最低賃金規制を受けるという保証はないものと思うのであります。つまり第一条で言うように、低廉な労働者について最低賃金をきめるという本法案の目的は達せられず、低廉な労働昔でありながら最低賃金がきめられない部分が相当に出てくると思うのであります。目的と内容とが違うという点で、本法案最低賃金としての実態をなしていない第一の問題点であります。このように政府提出法案が全産業にわたって労働者最低賃金の保障を行なっていないということは、国際的に見ても致命的な欠陥を持つお粗末なものと思うのであります。アメリカ、フランス初めILO条約の批准国三十万国のうち、約半数は全産業一律方式による制度を採用しており、残りは後進国や、あるいは労働協約による方式などが発達して、全産業方式が必要ないという国々であります。高い工業生産水準と利潤を生み出している主要な工業国の一つとして認められたわが国において、一律方式が時期尚早であるかのごとく言うのは全くのごまかしではないかと思うのであります。八時間労働制が画一立法であるように、最低賃金法も画一的に最低生活を保障することがこの法律の大原則であり、業種や地域でそれぞれ別々に最低賃金を作ることは、賃金格差と全体の低賃金水準を個足する危険があります。  第二の点は、しばしば良識ある人たちから指摘されているように、本法案業者間協定中心としたものでありますから、このようなものを最低賃金制と呼ぶことはできないということであります。昨日発表された日本労働法学会社会政策学会関東部会有志による声明も「業者間協定はあくまでも業者だけの協定であって、それをもって法定最低賃金というのは、ILOにおいて決議された最低賃金決定機構の創設にけする条約規定されておるところの、最低賃金労働者及び使用者代表の参加する機関において協議の上決定すべしという一般最低賃金立法の精神に背反する」と指摘しているところであります。このような最低賃金法案は、おそらく諸外国の人々から低賃金をカムフラージュするための擬装最低賃金法という非難を受けましょうし、国際信義にもとるものだと考えられます。業者協定によっても経営者が自主的に賃金を上げることができるというのは全くのごまかしであり、むしろ逆に協定によって高い賃金労働者を引き抜くことを防止する申し合せを行うことになりましょう。業者間協定方式と呼ばれる政府案は、まさに賃金ストップ法であると確信いたします。私は賃金決定方式として、業者間協定による最低賃金を法制に取り入れたものを最低賃金法とみなすことは絶対に反対であります。  第三に、しばしばこの法律はわが国では初めて考えられるものであるから漸進的に実施しなければならないといわれていますが、それだからといってすでに法律規定されている最低賃金関係の諸条文あるいはそれに基く審議会の答申などより悪くしてもよいということにはならないものと思います。すなわちすでに労働組合合法第十八条、労働基準法第二十八条以下は、一般的拘束力や最低賃金決定のための審議会の設定について規定しています。本法案は少くとも労働組合法労働基準法規定よりも下回るものであることは明らかであります。日本経済が安定しつつあることは、政府関係の諸文書のも明らかなことでありますのに、労働者保護の面だけがなぜ下回らなければならないか。以上が第三の問題点であります。  第四に、政府法案では最もみじめな家内労働者の低賃金を全体として救済するものではなくて、単に最低賃金をきめた業種に関連する部分の家内労働者にのみ工賃の規制を行うものですが、これではより労働者保護の必要の大きいとされておる家内労働者全体の低賃金はそのままにほうっておかれることになり、これでは全く法の趣旨は達成されたものとは言えないと思います。  以上指摘をいたしましたように、政府提出法案は、最低賃金法案と呼ばれるにもかかわらず、その実質は何ら伴っていないものであります。ないよりは少しはましだというよりは、むしろ労働者はこの法案により賃金ストップの危険と、現行労働法規改悪という事態を招くことになり、従って労働者立場からはこのような法案には、その成立に反対を表明せざるを得ないのであります。  次に、社会党提出法案は全土産業一律方式により低賃金労働者に漏れなく最低賃金を保障することにおいて、さきの案とは基本的に違っているということができましょう。なるほど経過措置として二年間六千円という少い額できめられていますことには労働者も十分な満足ができない点もありますが、現実的には諸条件考慮いたしますと、当面やもを得ないものであろうと考えるのであります。大体極端な低賃金をわが国の中に残しておくということは、労働者にとっても資本家にとってもまことに恥ずかしいことだと考えます。すなわち一日八時間の労働をする、労働をする以上当然生活をする権利はあるわけであります。現在一ヵ月六千円の収入では、一人が独立して生活することには非常にむずかしいということが言えましょうが、少くとも当面この程度の賃金額は、その労働者がどこで働いていても、だれに雇われていても、どのような仕事をしていても、保障されなければならない額と言えましょう。それ以下の低賃金を残しているというのは、われわれ労働組合立場においても済まないことでありますし、まことに恥かしい次第だと思うのであります。また経営者にとってもどれほどの利潤をたくわえているかは別といたしまして、企業を行い、りっぱに一人の労働者を働かしていながら六千円の賃金をも払い得ないとしたならば、事業者として恥じ入るはずだと思うのであります。事業者が一人前の能力を持ち、普通の労働者を雇って、しかも六千円すら支払い得ないのであるならば、これは政府の施策がこれらの中小企業者育成のために不足しているのではないかと考えます。政府社会党案最低賃金額をすべての労働者に支給し得るような中小企業対策を至急立てるべきだと主張いたしたいと思うのであります。これは世人の人道的な気持からいっても当然なことであると考えます。社会党提出法律案については賃金額であるとか実施の時期、八千円を実施する間などについて一そうの改善が望ましいということが言えましょうが、当面まずこの法案をすみやかに可決して、これを土台にしてできるだけ早く労働者の生活を保障し得るような最低賃金法を作られることを強く望みたいと思います。  最後に一言申し述べたいと思いますのは、この政府法案は、中央賃金審議会において労働者、公益、使用者の三者において、完全に意見の一致を見て出された答申案を法制化したものであるという政府当局の説明についてであります。私はこの際はっきりさせたいのは、昨年中央賃金審議会において、総評は明確にこの答申案の内容に反対を表明しております。従って政府案は、労使の同意を得て出された答申案に基くものでなく、使用者の一方的主張を主として採用したものとみなすことができるものと思うのであります。私たちは真に労働者の低賃金をなくすことのできる最低賃金法の成立の一日も早からんことを望むものであります。だからこそすでに昨年前国会において社会党から提出した法案の促進に努力してきたわけであります。私は本国会が一歩前進のごとく見えて、巧妙に現行法の後退を盛り込んだ政府案を否決し、確実に労働者の利益をもたらすと考えられる社会党案最低賃金法を、家内労働法とともに成立させるよう強く要請を申し上げまして、意見の陳述にかえる次第であります。
  16. 森山欽司

    森山委員長 以上で一応全公述人よりの御意見を伺ったわけでありますが、引き続き公述人方々に対し委員より質疑の通告がありますので、順次これを許可いたします。井堀繁雄君。
  17. 井堀繁雄

    ○井堀委員 稲葉公述人にお尋ねをいたしたいと思いますが、あなたは中央賃金審議会の特別小委員長としていろいろお骨折りをいただいておりますので、この点を中心にして一、二お尋ねをいたしたいと思います。  政府が今提案されておりまする最低賃金法答申案の関係は、申すまでもなくきわめて重要であるだけではなく、民主主義の建前を貫く政治の中では、このようなものについてその趣旨が貫かれないようなことでありましては、本問題のみではございません。全体にも重大な影響を持ちまするので、特にわれわれはこの点を重視いたしておるのでございます。そこで答申案と政府案とを比較検討いたしてみますと、一応条文の並べ方その他については歩調を合わせておるかに見えるのでありますが、本質的にはなはだしく相違するものを感ずるのであります。そういう点についてお尋ねをいたしたいのでありますが、時間の都合上多くを伺うことができませんから、大事な点と思われるものだけをお尋ねいたしてみたいと思うのであります。  第一は政府の出されておりまする最低賃金法の原則を第三条で規定しております。この中で私どもの非常に重視いたしたいと思いますものは、答申案でもその点はやや明確を欠いておると思いますが、最低賃金の原則として「労働者の生計費、類似の労働者賃金」――ここまでは何らの疑いを持たないのでありますが、次に「通常の事業の賃金支払能力を考慮して」ということを原則の中にうたっておるのであります。このことは答申案の全体からながめてみましても問題のあるところではないかと思うのであります。ことにILO条約並びに勧告案は、このことを否定いたしておるのであります。政府の本法案提案理由の説明の際に、この法案が議会を通過すればILOの最低賃金決定制度に関する条約を批准すると労働大臣は言い切っておるのであります。そういたしますと、当然この法案ILO条約に抵触しないものでなければならぬことは申すまでもないわけであります。ところがILO条約、勧告、これを通じて見ますると、四つの要素を掲げて賃金決定を指示いたしておるのであります。その中には支払い能力は言及されていないのであります。この条約が総会で講義をされ、もしくは理事会で取り扱われた議事録などで詳細に検討いたしてみますると、ここでは支払い能力の問題は取り上げられておるのであります。しかし総会の総意としては、支払い能力を取り上げる場合には、最低賃金制度というものに発展することの不可能な事情を認められまして、総会の意思としては支払い能力の問題は一応取り上げないという形をとっておるのであります。非常に重要な点だと思うのであります。しかし答申案については支払い能力については公然と言及をされておるのであります。まずこの辺について――この答申案にはもちろん三者構成でありますから、それぞれの意見が総合的に表われたものと思うのでありますが、それにしてもILOのこの精神と答申案とについて、矛盾があろうとは私どもは思わないので、まずこの点について御解明を願いたい。
  18. 稲葉秀三

    稲葉公述人 御返事申し上げます。今一番勧めに申し上げましたように、私がこの中央賃金審議会答申案がまとまる場合の起草小委員長になったわけですが、井堀さんのことに対してお答えをいたしますると、今度の政府案ができまする場合に、現在まで四段階を経由しておると思います。一つの段階は昭和二十五年に基準法に基く中央賃金審議会が開かれ、そしてそこでその後最低賃金が取り上げられて、二十九年の答申になったというところ、その二は、昭和三十一年に労働問題懇談会で最低賃金の問題、業者間協定法律化の問題が一応決定さたというところ、第三が今問題の中央賃金審議会が去年の七月から開かれて、なかなか紛糾いたしまして、十一月だと思いますが起算小委員会というものが作られまして、そこで答申案の原案を作っていろいろ折衝をしてやったという段階、第四はそれが法律化され、また同時に社会党案が出て皆さん方の御審議にかかったという段階であります。  そこでまず明らかにいたしたいのは、その中央賃金審議会また特に起草小委員会では、この案とILO条約との関係ということを頭に入れて特別に審議をしたということはなかった。従いましてその点につきましては個人的な見解としてしかお答えができないと思うのであります。それでよかったらお答えをいたしまするし、小委員長として言えということになりますと、ここに小委員会に基きましていろいろ私どもの案を作って、ほんとうにまとめるということに粉骨砕身をして、その間滝田さんにもお会いをし、それからここにおいでになる石田さんその他の方々にもお会いをしてやったのですけれども、その間においてはILO条約との関係ということを小委員会で特別にやったことはないのです。その点どうでございましょうか。
  19. 井堀繁雄

    ○井堀委員 それはまたいずれ別な機会に。きょうは時間もありませんので、もし取り上げておいでにならなければないということでけっこうです。
  20. 稲葉秀三

    稲葉公述人 お答えをしなくていいのですか。じゃその次におっしゃった賃金支払い能力の関係で、これは答申案には出ていないけれども政府の案については出ておるということになりますと、これも別にそれほど小委員会では大きな問題になっておりませんけれども、当然世界のどこの国でも、また特に日本でも、やるときには政府が差額を補償するという特別な規定がない限りにおきましては、賃金協定あるいはこういうものの中には支払い能力というものは当然考慮されてしかるべきものだと考えております。従ってこれが出ておるということと出ていないということは、それほど大きな差があるものであるとは私は考えません。しかしこれも小委員会でそういったような点を特別に論議はしなかった。だから委員会全体の判断ということになりますと、私個人として以外にはお答えしかねるのです。
  21. 井堀繁雄

    ○井堀委員 ILO条約の問題は、今後この法案を審議する上に、先ほども申し上げましたように、政府みずからがこの法案が成立することによってこの条約を批准すると明言されておりますので――これはよも行き当りばったりの発言ではありません。本会議における提案理由の説明の際に付言されたことでありますから、これは政府の真意であろうと思います。これはいずれこの委員会で審議をすることとなりますので御参考に伺いたかったのでありますが、しかし答申案をお作りになった小委員会でこの問題を特に取り上げて御討議なさらなかったということでありますから、これ以上お伺いすることはいかがかと思います。  そこであなたが先ほど公述なさいました中で、今あなたも御答弁願いましたように、支払い能力の問題の中で三点ほど事実問題を、しかも重要な点を言及されております。その一つは、現在日本賃金格差の問題は、ひとり労働問題のみではありません。大きな社会問題、政治問題に発展しておるのでありまして、このことはいずれの問題からいっても早期解決をはからなければならぬ重大問題になっておるのであります。そこでこの賃金格差業種別にもしくは職種別に、地域別にそういう段階がはなはだしく現われているということでありまするならば、またその方法を講じなければならぬと思うのでありますが、今日の統計の上で一番明瞭に出ておりまする賃金格差状態というものは、規模別に表わすことによってその事実は顕著になってきておると思うのであります。しかもあなたが言及されましたように、この法案を作るときにこの点を重視されるということは当然だと思うのです。そこで大規模の事業場においては、すでに社会党案ですらその効力の問題は全体の賃金水準を維持するという点に大きなささえになることは申すまでもありませんが、これによって直接救済されるすなわち八千円なり六千円以下の低賃金というものは、おおむね労働組合も団体交渉その他の団体行動で民主的な方法で解決のつく立場にまで成長しておるといっていいと思うのです。残念ながら中小企業の場合においては、組織ができてもその維持にすら困難です。従って労働組合法その他の労働保護法規に基いてみずからの力でこの問題を解決するということが事実上はばまれておる、ここに私は最低賃金法の重大な意義があると思うまたあなたも言及されておりますが、そこで私はやはり日本の場合の最低賃金制度法制化するという場合には、中小企業労働対策という問題を正確に把握して、それに対する対策でなければならぬと思うのであります。あなたは中小企業家内工業と大企業の三つの段階を御指摘になりまして、そして中小企業労働者を救おうとして最低賃金法制化することによって家内工業企業家がもぐり込んでしまう危険を御指摘になりました。それはその通りだろうと思うのです。しかしそれは全体の問題としては私はいかがかと思うのであります。そこで家内労働法を同時に出してざる法にならないようにするという配慮が社会党はなされておるのであります。私はこの三つの現実の日本の、世界に類例の少い規模別の非常に激しい二重構造などといっておるのは、こういうところをさすものだと思うのです。この問題を解決するのに、先ほども中小企業の代表者の方もかなり深い御理解ができつつあるお話を聞いたのであります。むしろ労働者の保護政策という片寄ったものの見方をしなくても、中小企業対策として当然最低賃金法のようなものができて、そして不公正な競争の限界というものを秩序立てていくということが、この三つの不合理な日本企業の乱調子というものを調整する第一段階ではないか。そういう点からいたしますと、家内工業にもぐってしまうということについては、部分的にはありり得ると思う。しかしあなたのように経済問題を専門に御検討いただいておる方から見ますと、中小企業対策いな日本産業を近代的なものに置きかえていくという行き方からすれば、全国一律の最低賃金が望ましいのではないか。これは漸進的に進むという点については私は全く同感なんです。そこでそれを地域的にやるか業種別にやるかというような問題は、方法論として過程にいろいろ出てくることだと思うのです。しかし日本企業のこの規模別の賃金の上に現われた格差だけではありません。あらゆる日本経済問題を混乱に導いている大きな要素はここにあるわけでありますから、この点にメスを入れるということになれば、やはり全国一律一体の最低賃金法というものが一番切実なそして現実に適したものとなるのではないか、こういうふうに私どもは考えられるのです。社会党がこういう法案を出したからこだわって言うのではありません。これを出したからには、いろいろな問題を調査いたしましたその上に立ってそういう見解をとっておるのでありますが、あなたはこの点については、この答申案の中でも、一律一体が望ましい、時期的にもう少し先にという答申案のようにとるのであります。しかし時期的に見て今が一番大事な時期ではないか。この時期はそういう形において取り上げてこそ、今日の経済問題あるいは政治問題、社会問題化しつつある問題を解決に導く一番最初のステップではないか、このように考えるのですが、あなたの御見解はいかがですか。
  22. 稲葉秀三

    稲葉公述人 井堀さんにお伺いしたいのですが、小委員長としてお答えをするのですか、それとも稲葉個人としてお答えするのですか。
  23. 井堀繁雄

    ○井堀委員 どちらでもけっこうです。
  24. 稲葉秀三

    稲葉公述人 それでは両方一緒にしたところでお答え申し上げます。実は今井堀さんがおっしゃった点は非常に大きな問題なんです。現実に小委員会でも現われましたことは、一つ家内労働法あるいは内職、その他をどうするかということで、御存じのように案外日本では内職が普及しておりまして、ほとんど内職あっせん人というものは税金も払わない、ただ問屋さんの下請になっている。そして家で働けるということになっているのですけれども、ネクタイのものなんか一日一生懸命にやってせいぜい百円か百五十円で、それに比べれば、やはり私個人あるいは委員の中でも、むしろその家内工業に対する規制というのは早くすべきじゃないか、こういったような意見が私は圧倒的に強かったと思います。それがこの答申案の中にも現われておりまして、一応ここにございますように、この際家内労働改善に対する総合的立法のために調査準備に着手すべきである、こういう点になって現われているわけです。これに至りました経過を若干参考的に御報告申し上げますと、委員の一部からの、早く相関的に家内工業法家内労働法を作れということにつきましては、現在の労働基準局ではとてもそれができないのだ。従って労働基準局ですら早くできないので、さらにそれをするためには機構を何倍かに大きくして国民の税金を注ぎ込まなければいかぬ。それでも果してできるかできないかわからぬものだということに、だんだん実情が明らかになってきました結果、とりあえず最低工賃だけは規定をして、それ以下にもぐるようになることは防止をする。それと並行的に家内主業法や家内労働法を作っていただくというところで私たちは了解をしているというふうにお考え願いたい。筋から申しますと、やはり中小企業方々中心こしてある程度最低賃金で仕切っていくと同時に、設備の近代化合理化をやりながら上げていくということをほぼ並行的に、あるいはそれ以上に家内主業や家一内労働法労働というものを表面に出すということが、日本産業近代化になり、二重構造でなくて三重構造だと私は思うのですが、それを解消するに一番必要な措置だと思うのです。ぜひとも私は国会で次には家内労働法家内工業法を取り扱って、そしてサラリーマンとか下級の労働者の奥さんが無理をして働くというようなことがなくなって、表に出て賃金が得られる、こういう形に御配慮願いたいということを申し上げたいと思います。  それからその次に一律の最低賃金がどうかということでございまして、この点につきましては一番初めに私申し上げましたけれども、一律の賃金方式が望ましいということは委員会の意向であります。しかしこれがどの程度望ましいか、望ましくないか、望ましいという言葉を出すか出さないかということは、実にえらい紛糾いたしまして、最後の段階で無理に一つ入れていただいたというところもないことはない。そして御存じのように答申案の一番初めに最低賃金は業種、職種または地域別に定めることとする、こういうのが、やはりはっきり申しますると政府答申をいたしました審議会の意向ではないか、またそこに国民のいろいろな層の方から御批判を願うところがあるのではないかと私は思います。それではその一律の最低賃金法ががきるのかできないのか、またできたときに日本経済あるいは労働者の保護というのはプラスになるのか。さらに翻ってみて今この日本経済こそこういうものをやるべきではないか、こういう御主張に対しましては、これは個人的な答弁だと思うのでございますけれども、少くとも私個人経済的に見まして今のところ一律に六千円なら六千円というものを限ってやるということは、国がある程度これを保障するということがならないと、どうもやはりうまくいきにくいのではないか、こういうふうに考えます。と申しまするのは、この点は労働省からすでに詳細な資料が出たと思うのでありますけれども、案外やはり六千円以下の賃金というものの層が多い、三割以上になるのじゃないかと思います。そうしてしかも労働賃金実態調査の結果は、低いところは利益が高いのならいいのですけれども、生産性が低いという結果、それが払えない。もう一つはある程度下を仕切れば上を上げていかなければならぬ。上を上げていくとするならばある程度一時的には保険制度をとるとか、あるいは場合によっては国が税金の中から補給するということにならないと、いわゆる形式倒れのことになってしまうのではないか、こういうふうに私は思います。だから考え方としては漸次経済政策労働政策とかみ合って、そうして今の形式をだんだん普及することにおいて、結局においてはできる限り早い機会に一律的なものへ持っていく、こういう形が、これは言い過ぎかもしれませんけれども経済労働を考えました場合において、日本としてやるべきやり方ではないかというふうに、これは委員会の意見でもございますけれども、私個人といたしましてもそのように考えます。しかしそれがいろいろ各界から御批判の対象になるという事実も私はこれを認めるにやぶさかではございません。
  25. 井堀繁雄

    ○井堀委員 実は私の方からお伺いしたいのは、やはり順序を追うてお尋ねする方が能率的だと思っておりましたが、入江さんと石田さん御都合があるそうでございますから、多少不手ぎわになるかと思いますけれども、それでは先に入江さんと石田さんに一、二お尋ねをしておきたいと思います。先ほど入江さんの公述の中で、政府案に対して御質感の向きを明らかにされておりました。修正の必要性も述べられておるようでありましたが、あなたは団体が日経連でございますので、日本の経営陣の指導的立場におありになる方だと思いますので、公述はきわめて私どもとしては重視いたしておるわけであります。そこでお尋ねをいたしたいと思いますのは、先ほども稲葉さんに私はお尋ねいたした途中ではありますが、日本産業実態というものは、中小企業の占むる地位というものがいろいろな角度から見まして非常に重要な立場をとっておると思うのであります。これは国会におきましては保守革新の二大政党が政策を中心に対決を進めておるのでありまするが、こういう状態を越えて、私は政策上共通の広場として求めることのできるものは、日本経済を復興していくためには、輸出貿易に依存するという点については異論のないところだと思うのです。ところが輸出の上に占める中小企業の地位というものはきわめて重大な段階にあると思うのであります。先ほど石田さんもちょっとお触れになっておりましたが、払はこれはただ貿易というものに限界しなくても、日本産業の抜本的な改革を望まれるのはここにあると私は思うのです。そういう点でいきますと、今度の、衆議院は通過して参議院に回っておりますが、職業訓練法のごときものもその要請にこたえて出てきたものと思うのです。ここでもわれわれ論議をいたしてきたのでありますが、今日中小企業のためにいろんな法政策が考えられているようでありますが、一向徹底していないのであります。これは私は中心をそれておるからではないかと思うのです。これは私見になるかと思いますが、日本産業経済を指導なさいます団体としては、中小企業のこの状態をどういう方面から改めるかといえば、やはり国際信義を踏みはずさない公正な国際市場における競争を進めようということになれば、日本の低賃金、ことに賃金格差の形で叫ばれております中小企業の低賃金、長時間労働というものを早急に改めなければ、国際信義にそむかない国際貿易市場の開拓ということは不可能ではないかと思う。これは私どもだけではありません、そういう主張が強いのであります。日経連の立場から、この問題と最低賃金法の問題を国際的水準にまで持っていく――国際水準と申しましてもこれは幅のあるものですけれども、少くともここではILO条約あるいは勧告の精神を尊重するという線にまで近づけるべきではないか。日本企業経営を指導される団体としても、この程度までは態度を明確にすべき時期ではないか。まだわれわれそういうことを伺っておらないのでありますが、よい機会でありますので、抽象的でけっこうでありますから、その御見解を伺っておきたいと思います。
  26. 入江乕男

    ○入江公述人 お答えします。お話の要点が、単に中小企業にとどまるだけでなく、日本の全産業構造の問題、また輸出貿易を中心にした産業構造、特に国際通商場裏におきます最賃という問題をテーマにしまして、非常に大きな問題でありますが、私はこのように考えております。これは日経連の代表的意見ということよりも私見になるかもしれませんが、その点御了承願います。  まずわが国の経済力は底が浅いと申しますが、何と申しましてもわが国は加工貿易――これはもう先生方も御存じでいらっしゃいます。しかも明治時代から軽工業を中心にして日本の資本主義が発達した。その跡を見ましても、またわが国の中進国的な発展という過程から、先進国のような並列的な産業の推進が見られず、非常に跛行的になっております。こうしたものがやはり企業格差賃金格差という問題を大きくしていると思います。また抜本的に見ますと、結論としては狭い国土に世界一の、耕地面積当り千三百六十人という経済過剰人口を擁している。しかも、その経済過剰人口を持っているたとえば都市工業の労働者というのは、都市に定着性がなく、農村の経済に結びついた出かせぎ型労働者が働いているという実態がある。それから国際貿易を見渡してみまして、わが国のとりおくれました技術の問題あるいは品質の問題から、また価格の問題からながめてみますと、かすかに化学繊維を除きましては、いずれも一商品の価格が、政府がある程度の補助政策をとって調整しておるものもございますが、割高であります。その内容を調べてみますと、やはり技術の問題、また技術の問題が結局品質に来ている。それから価格自体も、やはりそういう技術関係の立ちおくれから来ているという問題が、大きな問題としてあると思います。しかも資本蓄積が諸外国に比して非常に低い。たとえば自己償却で再設備をする割合は、英米あたりにおいては八十であるが、わが国の場合は四十五であるというふうに低い。また自己資本、他人資本の構成ですが、戦前から見まして自己資本六十という保有率が、今日では逆に自己資本が四十というような非常に各企業平均的な姿が、資金調整の上におきましても資本構成においても、戦前から見ますと弱い面がある。そうした輸出貿易におきますところの価格という問題では、いわゆるテープ・レーバーにおけるソーシャル・ダンピングというような戦前の状態は、今日のわが国には見られないと思う。もちろんアメリカにおきまする、ナイフあるいはフォークというような一世帯当りニダース、あるいは一ドル・ブラウスという問題は価格の問題ではなくて、向うの製造業者の自立を脅かすというものであって、価格が低賃金によってなされているという価格競争の問題ではないということが私は言えると思うのであります。そこで中小企業におきまする賃金格差をつらつら見てみますと、先ほども触れましたが、わが国の中小企業は専門化されていません。外国の場合は、時間当りの生産格差を見ましても、賃金格差と並行している状態は、専門化しているということであります。例を申し上げますと、たとえば桐生における内地向きのお召しのごときは大企業ではできません。そういうような専門化している状態にあるところの外国に比してわが国の場合は、やはり下請という関係が非常に割合が多いということであります。おそらく七十五か八十を占めておる。しかしこういう状態にわが国の産業構造が現実にあることは事実でございます。従って私たち日本状態が中進経済国家的な状態で足れりというようなことで決して満足しているものではございません。やはりこういうようないろいろな経済立地条件の最悪な国の場合、また宿命的な人口問題をかかえておりますので、雇用問題と賃金問題の相関性の上に立って、漸進的な歩み方をすべきだと私は考えております。はなはだ抽象的なお答えになりましたが、以上をもってお答えにかえます。
  27. 井堀繁雄

    ○井堀委員 いろいろお尋ねいたしたいのでありますが、時間の都合がありますのでもう一問だけお答えいただきたいと思います。それは実は稲葉さんにお尋ねしてからあなたにお尋ねすればすぐお答えができたと思うのであります。それは稲葉さんがここの公述の中でお述べになりました、中小企業賃金と事業利潤の問題であります。中小企業の場合には高利潤で、それが低賃金を導いているというのでないことは明確に統計が説明しているわけであります。これは今あなたがお述べになりました、一つには客観的なものとして、過剰労働人口からくる一つのしわ寄せだということについては私ども承知しておる。いま一つ企業近代化が叫ばれる理もここにあると思うのであります。ことに中小企業の設備あるいは生産方式というものがいかに拙劣なものであるかということもよく承知しております。このことは先ほどあなたもお述べになりましたが、中小企業と大企業と付加価値生産性の問題を比較してみますと、この統計の上でも驚くべき格差が出てきておる。こういう問題を私はもちろん一つの政策だけで解決できるとは思いません。しかし順を追ってやっていくとすれば、まずどこに第一の順序を求めるかということになりますと、日本の宿命的な過剰人口というものをはやり解決していくこと、労働政策の面での抜本的な対策がここからも求められてくる。付加価値生産と賃金の問題、労働時間の問題は不可分のものでありますから、こういう点で私は最低賃金法というものが、労使関係の問題としてよりはむしろ日本の今あらゆる問題を解決していくための突破口として要請されてきておるのではないか。それが意識的であろうと無意識的であろうと、そういう要請が集約されて、政府をして提出せしめたものだとわれわれは判断しておるのです。法案を審議していけば、漸次明らかになると思うのですが、労働組合の要請が識烈になったから、あるいは労使問題の焦点が賃金問題にあるからということでありましたならば、私はこういう形をとって出てこないと思うのです。むしろ私は、日本の経営者がこういう問題に対する、積極的な主張を持たなければならぬのじゃないかという考え方をいたします。時間がありますなら、私どもの考えておりますこと、また具体的な資料を出して、御答弁願いたいと思って多少用意しておりましたが、お急ぎのようでありますから、他日の機会を得たいと思います。そういうことについて、率直に一つ意見を漏らしていただきたいと思います。
  28. 入江乕男

    ○入江公述人 簡単にお答えいたします。賃金というものは生活をささえる要件、それからまた支払う側から見ると、支払う能力という、この中に含まれる二元的な要素を持っております。もう一つは、その支払い賃金が同時に国内において多数大衆のふところをこやして、いわゆる有効需要を呼び起すという役割を持っております。しかし逆に、そういうような有効需要を求める賃金支払い能力の上に立った水準が、やはり外貨獲得のために、あるいは国民経済国民所得が高まるという一種の刺激とならなければならぬ、こういう関連性があるわけであります。従って私は、現在の低賃金をもってしかりとは決して申しておりません。  それから、もう一つ経営者の考えとして、これはお聞き及びと思いますが、また実践段階に入っておりますが、今日の経営者の経営理念というものは、企業は社会のために存立するのだ、要するに消費者、労働者、株主、企業の繁栄という四つの柱の並行推進によってやっていくのだという、やはり強い理念を、今日少くとも大企業の経営者は持っておりますし、さような現実に進んでおります。もう一つは、わが国の中小企業の現状から見まして、特に技術のおくれている中小企業というものについて、生産性向上問題を取り上げています。すでに諸外国の生産性本部に対しましても、派遣団を出してやっております。直接そういった技術指導問題も、いろいろな方法をもって行なっております。そういうことで、経営者は決して中小企業の体質改善に無関心ではありません。従って、こうした中小企業の体質改善と並行して、最賃というものを漸進的に進むべきが当然じゃないか、こういうふうに考えております。
  29. 井堀繁雄

    ○井堀委員 時間がありませんので、はなはだ失礼でございましたが、私どもはやはりどうしても中小企業対策として、最低賃金法を考えていきたい。そういう点で、先進国のいろいろな例などを学ぶことも必要でありまするし、そういう特殊性を取り入れた最低賃金制度というものが法制化されることが、日本にとって現実的なものと考えておるわけであります。従いまして、労使の利害問題の争いの中にこれを巻き込ませたくない。もっと日本全体の民族の繁栄のために、この問題を考えてほしいものだと思っておるわけであります。せっかくの機会でございますので、日経連といたしましても、何か労働団体をにらんでものを言うというようなお考えでなしに、一つ御検討を願いたいと思います。  それから、中小企業関係の指導にお当りになっておられます石田さんに、一、二お答えをいただきたいと思います。これにつきましては、私どもも長い間苦しんできておる者の一人であります。実際情の上においては、中小企業、雇い主と労働者の間というものは、古くから言われておるように一つかまの飯を食っているのでありすから、情の上においては、何とか世間並みつの生活をさしてあげたいものだという考え方は、日本の経営者、特に中小企業、零細企業者の中には持っておると思う。しかし俗にいう背に腹はかえられない。それは今日の中小企業実態を検討するまでもございません。先ほど稲葉さんが簡単に指摘された中にあるように、低賃金中小企業者の利潤の関係を見ればすぐわかるのであります。これは、先ほど何回か皆さんがお述べになっておりましたように、一  口に言って付加価値生産性の問題といえばそれだけであります。これは企業個人の責任で解決できるものもありましょうが、しかし個人企業家の力によってはどうにもならない国全体の、いいかえれば政治力の問題にかかるような状態が、私は現実の問題だと思うわけであります。従いまして、それを解決するためには、最低賃金というものを、諸外国のように、労働組合と雇い主の民主的な折衝にまかせて、すなわち労働組合と団体交渉の形で積み上げていくということは、私は中小企業の場合にそれを求めたら、これだけでも混乱をふやしていくだけである。そしてその争いは、大企業における賃金値上げやあるいは特選改善のように、妥協の余地というものが非常にはばまれてくる。それを力の上で、あるいは権利義務の関係で、争いて解決するということは、いたずらに労使問題を社会問題とし、政治問題と化するだけだと思。うこういう点に一つの解決の方法を、政治的な方法でやろうとすれば、日本の場合においては最低賃金を持ってくる以外にないじゃないか。いろいろ考えた末、われわれはそう思い詰めているのかもしれませんが、むしろ中小企業、零細企業立場からは、こういう点に積極的な主張が起ってくることを予期しておったのでありますが、あなたの公述の中で、最初は猛烈に反対であったけれども、大へん変ってきて、今日ではやむを得ないという、運命的な意味で賛成される向きもあるようでありますが、そうでなく、かなり積極的な意味で、中小企業者のっ中からも最低賃金制をしけという声や投書なども、私はいただいているわけでありす。あなたのさっきの公述はわかるような気もいったしますが、この点対して、一つあなたの御見解を伺っておきたいと思います。
  30. 石田謙一郎

    石田公述人 今のお話は、まことにごもっともだと思います。実はこの問題は非常に問題が深いのでありまして、お話のように、中小企業において、労使の間の交渉による賃金協定、この問題はまさしくいたずらに紛争を生み、企業の壊滅を来たすだけではないか。こんな点からも、特にまた戦後労働組合の方の組織化ということについては、いろいろ指導もいたしましたが、中小企業者の結束ということについては、何ら指導がなかった。わずかに協同組合というような形でもって認められてはおりましたが、これは全般的じゃない。こういうふうに中小企業者が結束をされない状態においたままで、労使の間で賃金協定しなければならぬ姿になれば、お話のような形になるのじゃないか。これが、端的に申せば、表面上は何の紛争もなく静かに現われているように見えております、高知県の石切り山の最低賃金に現われている一時間三十円という賃金は、最低賃金として取り上げられ、基準法に、よる拡張適用を受けて最低賃金になったのでありますが、その根底には、あの山で相当高額な、三千円になんなんとするような賃金値上げがあって、その結果として最低賃金一時間三十円というのが打ち出されたのでありまして、お話の通り状態だった。現われたものは一時間三十円の最低賃金制でありますが、その根は、まさに労働組合と組織のない経営者との争いの結果、そういうことが現われてきておるのであります。このような形が出ることはまずい。こんなような考え方から、私ども業者協定というふうな姿で、業者自身も大いに理解しながら、漸次最低賃金制を固めていくということが必要じゃないか。こんな点から、私ども業者協定中心とする最低賃金法中小企業立場からお願いしたことが一つであります。同時にまた将来あくまでもこれが長くこのままでいいとは思っておりませんので、やはり中小企業者も組織化されなければならぬというので、団体法をお願いし、昨年通過いたしたわけであります。こんな点はそのようなふうに私どもは考えておりまして、そういう点の御指摘については全く同感であります。ただしからば、われわれ中小企業者がそういうふうな見地、及び業者自体の中の過当競争、あるいは不当な競争という見地から、中小企業者が逆に最低賃金を要望するのが当然ではなかろうかという御質問だと思うのでありますが、これまたまことにごもっともで、私ども、ものを突き詰めて考えますればまさしくその通りだと思います。しかしここでお考えいただかなければならぬことは、御指摘のありました通り、今の中小企業者の生産性が非  常に低い点が一つ、それから日本中小企業者と大企業者との産業構造と申しますか、これが特別に人口が過剰であるために違うということ、世界の国国で中小企業者の数、ことにその系列化されておる働く人の数が六割以上という国はあまりないだろう思うのです、大体欧米先進国では中小企業の経営者の数は九五、六%から九七、八%だと思うのでありますが、働く人の層は三割ないし四割をこえる国はないと思います。日本だけが六割をこえている。こういう点に問題の種が一つある。そしてその経営の基盤においては、その中の相当な部分が企業ではない。生業である、食うための仕事であるということ、やむを得ずやっておる。ここに問題の焦点があるのではないかと思うのでありますが、そのような姿の中で、もしかりに合理性を求めて、最低賃金というような形で企業の健全性、及び世界の貿易に対する競争性というような見地からやるならば、これは筋としては通るのでありますが、現在の実態がそうでないときには非常に問題が多いと思うのです。先ほど一律の問題が出たのでありますが、アメリカの一時間一ドルというものは、どういう方でも、壮年と申しますか、一応成人に達した人が働く場合に一時間一ドルだと私どもは承知しておるのでありまして、もしかりにその仕事に対する熟練度が加わった場合には、これにプラスされるのだろうと思います。でありますから機械工あたりでも一ドル五、六十セントからニドル五、六十セントぐらいのものもあります。極端な例では先ほど申し上げた通り金型工のような特別な技能を要するものは四ドルとなっておりますが、何ら不思議にもなっていないのであります。こういうものは、もしかりにその技能だけでもって、合理的に働く時間に対する技能度、熟練度というようなものだけで賃金を律することができるならば、私は問題は簡単だと思うのであります。しかしなかなか日本の現状ではそう参らぬのではないか、このように考えている点が一つあります。そしてこんな点からも現状の中小企業がもしかりに過当競争を防ぎ、公正な競争をするために制定賃金制を要望するならば、お話の通り中小企業問題の解決には一応すっきりした形になると思います。なると思いますが、それをやる過程において極端な優勝劣敗が招来する。でありますから私ども最低賃金制をそのような見地からお考えいただくこともあり得ると思いますし、またむしろそういうふうな考え方を持っていただくことも筋は通ると思うのでありますが、その結果は非常に大きな混乱を招くというので、実は二十九年の五月の中央賃金審議会答申以来、政府に対しては最低賃金制中心としての混乱を防ぐ意味から、社会保険制度の全面的な拡張と、そして失業その他に対する社会保障の制度を十分やってほしいということを特に商工会議所は要望してきたのであります。しかもこの最賃法がお話のように中小企業の体質改善に役立つことは、私は認めるに何らやぶさかではないのでありますが、そういう見地からそうありたい、しかしながらそれもただほっておかれてもできるものでないから、設備の改善あるいは金融の助成というような点から、ぜひ中小企業対策を十分にやっていただきたい、このようにお願いしたわけであります。こんな点が今日までわれわれ中小企業者が進んできた点でありまして、お話のように、中小企業者の中にも、自分でみずから力を持つ、信用を持つ方々では、もちろん最賃法の適用を希望しておられる方もずいぶんあると思うのであります。しかし私どもは、問題はそれだけではむしろ社会混乱を巻き起す。やはり今、やむを得ないとは申しながら、このような形になっている以上は、何とか漸進的にやっていくより道がない、かように考えて、今回の最賃法に、いろいろ私どもの側からも問題がありながらも、政府案に賛成せざるを得なかったということを申し上げたいと思うのであります。  なおこの問題については、仰せの通りいろいろ問題がありますが、最賃法の適用によって大きな混乱を巻き起しても中小企業の体質が改善できればいいというふうには私どもは考えておらないのであります。それは必要ではあるけれども、何とか漸進的に同じ産業圏の中からほうり出されるにしても、そのいろいろな対策を講じながらぜひしてほしいというふうに考えている、一このように申し上げたいと思うのであります。
  31. 森山欽司

    森山委員長 ちょっと速記をとめて下さい。     〔速記中止〕
  32. 森山欽司

    森山委員長 速記を始めて下さい。井堀君。簡潔に願います。
  33. 井堀繁雄

    ○井堀委員 これは私は一番問題のあるところは、中小企業立場をとるいわゆる経営者側、またその下に働いております労働者の問題としては、私は一番大きな問題だと思う。それだけに私どもとしても、この立場をとる代表者の考えというものは、できるだけ詳しく承知して、法案の審議にあやまちのないようにいたしたいと思っているわけであります。大へん御迷惑でございましょうけれども、そういう本法案の性格上、お二人には少しお時間をさいていだだいて、御答弁を願いたいものだと思っておるわけであります。  そこでもう一つ二つお尋ねをしてみたいと思いますが、それはあなたも公述において、また今も御答弁いただきましたように、中小企業労働実態というものが、統計を通して見ますると、身ぶるいのするような実態が浮び上ってきておるのであります。日本政府筋で従来とっております統計、あるいは地方の公共団体や、その他の団体がいろいろ調査の結果を明らかにした文献もございますけれども、いずれも三十人未満の零細事業場、また労働基準法を適用されておるところでありましても、五人未満の事業場の統計というものは、官公庁のものには全くなかった。私どもは絶えず雇用問題を論議する場合にも、あるいは労働政策を取り上げる場合にも、この実態をつかんで論議しないと、間違いを生じてはならぬということで、その統計の一日も早く作成されることを政府にも警告しまして、またみずからも調査を始めてきたのであります。一昨々年厚生省が健康保険の改正をめぐって、その方面から調査をした五人未満の事業場の実態が出てきておる。それから同じ厚生省の中で生活保護の関係の中でこれに関係した資料が少しと、それから労働省が臨時調査の形で、あるいは総理府の統計局がそういう要請にこたえて、従来の統計に多少工夫をこらしてそういう方面の資料を出してきております。これが最近信憑力のある統計であります。いずれもこれを見ますると、賃金格差というものは、ただ金額の開きだけで興味を持つような問題ではなくて、全く飢餓をしいるような低賃金であるということ、しかもそれが中小企業、零細企業をささえている実態であるということを考えた場合に、これはもう人道上の問題として片時も放棄できない状態にある。私は日本最低賃金法というものは、こういう一般先進国で対象とならなかった大きな問題を処理する一つの公けの任務をになって出てきておると思うのであります。またこのことは先ほど来中小企業問題で論議されておるものに解決がつけられる。そこで私どもはそういうふうな消極的な人道主義的な立場でも問題になりますが、さらにもっと積極的な民族の要求でありまする日本国民生活の繁栄をはかろうとする立場から、一つ中小企業の人たちの御奮起を願うという意味でお尋ねをいたしたい。それにはいろいろ具体的なものをたくさん持ってお尋ねしたかったのでありますが、時間がありませんので一ぺんに申し上げますが、日本の今のような統計資料等で申し上げるとすぐお答えが願えると思うのですけれども、繁雑を避ける意味で申し上げませんが、先進国の例をあげますと、スイスでありますとか、スカンジナヴィアの国々でありますとか、あるいは西ドイツの国々には大いに学ぶべきところがあるのであります。それは中小企業がその民族の繁栄の基礎である経済を振い立たしておるという事実がある。これは職業訓練法の中でもわれわれたびたび論議いたしてきておるところであります。これはやはりいろいろな形でその国の繁栄をはかっていくでありましょうか、アメリカのように大量生産方式あるいは物量にものを言わせて経済の復興を促進するというやり方は、日本ではやりたくてもできることではありません。でありますから中小企業、零細企業立場というものを重視して、そこから日本経済を復興していくというこの現実の問題から問題を取り上げていきますならば、どうしても付加価値生産――という言葉が適当であるかどうか知りませんが、この問題の解決をはかる以外にはない。スイスの例を見ても、スカンジナヴィアや西ドイッの例を見ても、それは労働者の資質を引き上げるというところに全力をあげておる。十分な休養と、ものを考える地位を保障する、食うや食わずで毎日家賃の心配や質屋通いをしていて、仕事のできるはずがないことは昔からきまりきっておることであります。こういう問題を早急に――あらゆるものをあと回しにしても解決をはからなければならぬということは、今の国々の例を見習えばわかると思う。私はこういう意味で、中小企業者が直剣に、目先の問題だけではなくて、ほんとうに日本産業をにない、そしてそこの労働者と手をつないで日本経済の復興に協力しようというお考えがあるならば、最低賃金中小企業者の中から声が起ってきても一向不思議じゃない。それが所によってはどうやら基準法を改正してくれなどということを私どもは聞かされるのてあります。これはジリ貧であって、こういう点で私は労働者の生活の安定向上と、そして自由を保障するための措置を考えていくということについては、いずれの立場をとる人でも賛成されると思うし、ことに日本中小企業の場合に、こういうものに対して具体的な要請があってしかるべきではないか。ところが労働団体の方は、もう最低賃金どころではなくて、相当の生活を守る自信を持ってきておる人々から叫ばれておるが、叫ばれなければならぬ中小企業、零細企業の面はその声さえ出てこない。これは一つには中小企業自身が、雇い主と労働者関係は、ある場合には分配問題で対立するかもしれませんけれども、運命としては共同の運命にある。そういう労働者の声が上ろうとするとふたをするような立場中小企業者の間に――これはむろん意識的ではない、無意識的に行われているのではないか、こういう問題に対してもっと自由を、そういう問題の声を、合理的に取り上げるような動きが中小企業の側から見られぬわけじゃありませんけれども、それがばらばらの形で出てきているのでありますが、幸いにして商工会議所であるとか、ことにその中に中小企業対策委員会などがございますから、こういう機会にそういうところからそういうものに対する御意見をお聞かせ願うことが、この法案審議の上にまことに重要な役割を持っておりますので、具体的にお尋ねしているのでありますが、時間の都合もありますから、お答えはできるだけ具体的にしていただけばなおけっこうであります。
  34. 石田謙一郎

    石田公述人 まことにごもっともなお話でございます。実は私ども商工会議所の中小企業委員会とし、また私委員長として、今日まで持に最賃法を中心として考えて参りましたことはお話の通りでございまして、何ら変りはないのであります。最賃法というものが中小企業の体質改善になり、同時に今のお話のように、ともに働く勤労者の方々の生計を維持する上に非常に重大なものであるということ、全く同感でございます。そして実は私ども商工会議所の中小企業委員会の立場としては、今日までこの数年間、中央賃金委員会で最低賃金の問題が審議されましてから以後というものは、最賃法に反対というのは、最賃法の姿に反対なんであります。そのあるべき姿に反対をしてきたのでありまして、その精神においては何ら反対をしてきておりません。そのためにむしろ私どもは今日まで、商工会議所は最低賃金法に対して初めから賛成なんじゃないかというふうな声も、傘下の商工会議所から聞いているのでありますが、井堀委員のお話の通り、私ども日本産業労働者が、特に零細企業方々の御不幸を目の前に見ておりまする立場から、当然過当な競争に陥らないように、公正な競争によって産業基盤を確立するように、しかも自分たちも生産性を向上して大企業に負けないような形にしたいということで今日まできたのであります。ただ遺憾ながら戦後十数年、中小企業に対してはなかなか政府からの御助成もございません。ことに税金関係では非常につつらい目にあっておりまして、ようやくここにきて何らかそういう形が出そうになったということを申し上げて、われわれとしては今日までこの数年間最賃制に対して、どうしてもそうならなければならないという啓豪運動を、商工会議所のそういう面を通じて行なってきたということだけ申し上げておきたいと思うのであります。
  35. 井堀繁雄

    ○井堀委員 もう一つだけ具体的なことをお尋ねしてあなたに対する質問を終りたいと思いますが、そうして今度の政府の改正案――それを、答申案の中にも性格はちょっと明確ではありませんけれども、段階的に、漸進的に進めていくということについては、たびたび申し上げているようにわれわれも賛成なんです。またそうあるべきものなんですが、しかしこの業種別地域別というやり方は、私は他の国におけるいろいろな前例を調べてみておりますが、きわめて妥当な行き方だと思う。しかし日本の場合、先ほど来お尋ねを繰り返しておりますように、もし中小企業の場合に地域別という例をとりましても、その地域が広ければ問題はないと思う。広いとか狭いとかいうことを言う前に、経済地域と申しますか、そういう地域があるとすれば、同業者一つ地域をなしておるような産業があります。秩父の織物とか川口の鋳物とか行田のたびとかいったような一つ地域をなしたブロックがあります。そういう場合はそのブロックだけで最低賃金をきめるということは、そのブロック内の摩擦は避けられると思うのです。御存じのように織物は秩交に限ったことではございません。またたびばどうやら今日衰退していますから対象になりませんけれども、それでも久留米にもある。鋳物につきましては桑名の集団もあるが、大阪の集団もある。あるいは小さなものでありますけれども、歴史的には南部の鉄びんもあります。でありますから、業種別にとるにしても、他域別にとるにしても、実際問題としては紛糾を増すのではないか、たとえば川口だけの業者最低賃金協定ができ上ったと仮定しますと、桑名との競争に負けます。桑名が先にやると川口が有利になる。今日の日本中小企業実態はそういうものを段階的に運んでくる犠牲の方が大きいのではないか。税金の例を見ればわかる。なるほど中小企業に対する税は他に比較して重いとか軽いとかたびたび議論されます。あり得ることではありませんけれども、税金を地域的にやったら問題になるでしょう
  36. 森山欽司

    森山委員長 井掘君簡潔に願います。
  37. 井堀繁雄

    ○井堀委員 そういう点でむしろこういう問題は地域別にやることの方が中小企業としては実際問題を起すのではないか。何か頭の上では漸進的にやるつとか、区切りを切ってやるとか、業種別にやるとかいうことはもっともらしく聞えるのでありますが、日本の場合は特にもう少し考えるべきではないか。むしろ中小企業立場からすれば問題があるのではないかと思いますが、この点何かお考えがあれば率直に述べていただきたいと思います。
  38. 石田謙一郎

    石田公述人 この問題は実は私ども中央賃金審議会の場合と同じように、地域別に簡単にやると問題が起きることを懸念して、特に地域的にあまり強く拘束されないようにということは中小企業者の立場からお願いしてございます。井堀委員の御意見と同じでございます。
  39. 入江乕男

    ○入江公述人 御質問の要点は、要するに地域の点について、たとえば埼玉県と福岡県とまたがる業種の場合、この最低賃金の決定に当って労働大臣が当然調整する手続をとることになっていると思います。もう一つどもの主張した中に二審制をやってもらいたい、こういうことを申し上げたのであります。  それから先はどの御質問なのですが、私どもは福祉国家を形成することには非常な意欲は持っております。労働省が従来は毎勤統計三十人以上のところを対象としていたのを二十九年に職種別あるいは業種別にしさいにわたって五人以下を対象として調査した。そのときにあげたデータは私は今的確に覚えておりませんが、通常いう休日を除いた一カ月フルの出勤をあげたのではなくして、もっと低いところの稼動日数をあげたと思うのです。しかも調査した対象が季節的に変化のあるものをある一定期日に調査した。なぜ私がこういうことを申し上げるかというと五人以下の場合は農村工業なんですね。たとえば二十九年五月に答申いたしました四業種零細企業なんかも、要するに農閑期における家内主業的なもので、五人以下の使用人を使うところの零細企業との区別があり得ない。いわゆる農村工業的なものです。従ってこの五人以下のところをあげました労働省の統計が、低い賃金だという最低賃金の場合の賃金実体になるかどうかということについては疑問を持っておるわけなのです。何回も申し上げますが、スイス、スカンジナビア等は民族的な立場がございます。これは何と申しましてもやはり国土面積当り百二十六人、しかも八割の山岳を持っておる、従って耕地面積当り千三百六十人と問題にならないのであります。あるいはアメリカは三十七人、またスエーデンにおいては五十二人だというようなところと立地条件が実に異なるわけでありまして、従ってそういう関係から私は諸外国のような福祉国家、資本主義国家形成は私の念願するところでありますが、その悲願を達成するについては、やはり現実の上に立たぬと危険性が伴うのではないか、こういう点でまず最低賃金法案については政府案に賛成する、こういう意見を持っております。  もう一点労基法について、改正意見に対しての御不満があったようでありますが、わが国の労働基準法は戦後世界にないモデルケースのものです。しかもサービス企業、商業と工業というものは一本にされておる、そこに問題がある、大衆にサービスするサービス企業といわゆる自立製造工業と一本にやっておるというような基準法はいまだ世界にない、そういった点から何も基準法の中の条件を引き下げるということでなく、もっと適切なものがきめられ得る実体の基準法を少しお考え願う必要がありはしないかとわれわれは思っているのです。
  40. 井堀繁雄

    ○井堀委員 いろいろ貴重な御意見を拝聴いたしましたけれども、まだいろいろお尋ねをしてぜひ啓蒙してもらいたいこともたくさんございますが、時間の御都合合でまことに残念でございます。ことに日本労働人口の多いことがいろいろな問題に災いをしておることは御指摘の通りで、われわれもこの問題については一生懸命何とか解決をいたしたいと思っております。しかしただこの機会に経営者団体の方にお考えをいただきたいと思いますのは、やはりその生活が飢餓線を割るようなことになりますと、飢餓という言葉が適当かどうか知りませんが、やはり一般国民の生活水準というものの中で、アンバランスが非常に大きくなってくるということは――それはなるほどスカンジナビアのように諸条件に恵まれた、それも急に成長したわけではないと思いますが、成長する過程に学ぶべきものがあるのではないかということを私どもは考えて、人口の密度などから言えば問題になりませんけれども、かつて七十年くらい前のスカンジナビアの国々はかなり貧しい国であった、それが今日の福祉国家を作り上げたということの中に、私は学ぶべきものがあるということを指摘したのです。ただ人口が多いということは議論があるところでございましょうが、人口の多いということは生産力もたくさん持っているということにも置きかえることができるのであります。近代工業は組織の経済である、また労働力は個人の技術を尊重するのではなく、組織の技術を尊重するという近代的ないき方というものが新しい文化国家、福祉国家を作り上げているというところを学びたい、そういう意味日本は特に組織を尊重していかなければならない、人数が多過ぎるのでありますから、全体の生活の水準を考慮しながら、ともに苦しみ、ともに楽しむという福祉国家の理想にもたえずマッチさせるように現実問題を調整していくというところに、私はそういう国々にも学ぶべきものがある、こういう点では労使対立の中で、問題をと権利義務で割り切らないで、共通の広場もあるのではないか、特にわれわれ政治に志す者として非常に重視いたしましたので、そういう点からいろいろお尋ねしてきたのであります。時間の都合がありますからお二人に対する質問はこの程度で終りたいと思います。
  41. 森山欽司

    森山委員長 入江、石田公述人に申し上げます。本日は長時間にわたりまして貴重な時間を賜わりまして、まことにありがとうございました。その他の公述人方々におかれましては、なお暫時各委員からの御質疑にお答えいただきたいと思うのであります。
  42. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私だけが長く時間をちょうだいすることは恐縮でございますので、もうお一人だけの質問時間をちょうだいして、他の方には他の委員からお尋ね願うことにいたします。  藤本さんにお尋ねいたしたいと思いますが、あなたの公述の中でもお述べいただきましたが、先日新聞で社会政策学会日本労働法学会声明書を拝見いたしました。この声明書を拝見いたしますと、政府の原案に対しまする批判がなされておるようでありますが、しかもその批判の中で、私の見たところによっていろいろお尋ねいたしたいのでありますが、これも時間を節約する意味で、私の方からお話し申し上げてお答え願うことにいたします。  この声明によりますと、業者間協定というものが賃金の原則を否定するものであって、条約の精神にもそむくということでしょう。その通りだと思います。それから二には、これが一般的適用を業者間協定から広げていこうというところにありますから、一と同じ意味に解釈する。三番目は、労働協約による最低賃金地域的、一般的適用というものは、すでに労働組合法十八条の定めで無用な存在であります。四は、最低賃金審議会の組織権限の問題でありますが、これも基準法二十八条から三十条にかけて明らかであります。むしろそういうものをこの際改悪するような形において基準法、労働組合法から最低賃金法へ移行させようしという点を指摘しているようであります。そして業者間協定の問題については、ILO条約の精神を取り上げて、日本政府のあやまちを指摘しているように伺うのであります。それから次に家内労働の問題について一言及されておりますが、これは社会党提案も行われていることでありますから、政府案にはそれがきわめて消極的だという点があるわけであります。そのような声明でありますが、われわれにとりましてはまことに力強い御支援だと思うわけであります。そこで、よい機会でありますから、もし先生がこの辺の内容を詳しく御承知おきでありまするならば、お尋ねをしておきたいと思います。答申案と政府案の関係は、先ほど稲葉さんからお答えいただき、また伺ったわけですけれども、時間の関係であなたにお答え願うことはどうかと思いますが、答申案と政府案とはそういう点に非常な開きを見せております。答申案というものは、こっちの方から見るとどうやらはっきりするし、こっちの方から見るとピンぼけするというような、なかなかもって巧妙な組み立て方にでき上っておると思うのでありまして、相手によってどうにでも写るような性格があるように思います。それで、この答申案ときのうの学会の先生方の声明書との比較でありますが、今後審議をする上に何とか役に立ててもらいたいとわれわれは思いますので、ちょっと伺います。
  43. 藤本武

    藤本公述人 お答え申し上げます。御質問の趣旨は、今度の法案とそれから答申案との違いというような点にあるのじゃないかと思います。私個人意見になりますけれども、私が了解している限りでは、答申と今度の法案と根本的な考え方については違いがないのじゃないか。ただこまかい点になりますと違いがありますけれども、根本的な考え方はやはり業者間協定中心に置いていこうというようなことでありますし、それから現在立法化されております労働組合法労働基準法は、労働者保護の面から見て、答申の場合にも、この法案の場合にも改悪の方向に一歩進んでおるのじゃないか、こういうように考えております。
  44. 井堀繁雄

    ○井堀委員 なお、次にお尋ねをいたしたいと思いまするのは、この政府案と答申案の中で私の考えを申し上げてお答えいただくことが便宜だと思いますが、この答申案によりますと、全産業の一律一体方式が望ましいということは時期の問題でずれてきております。時期の問題ですから、望ましいということは、われわれ審議する上に、この国会で意見が一致すればすぐにでもやれるということにもとれる。答申案というものはそういうところが存外ゆるいものだ、そういうふうに私どもは解釈しているわけです。それから答申には「最低賃金は、業種、職種又は地域別に定めることとすること。」としておるわけです。これに到達する一つの段階として業者協定もまんざら捨てたものでもない、これを利用したらどうか、こういうふうに私はとったんです。ところが政府原案だと、業者間協定をここへ持ってきて、業者間協定実施していくためにこれこれのものをやっていく、さらに地域別業者別もこうしてやるんだ、こういうふうに持ってきているところは非常な違いがあるんじゃないかと思うのですが、この辺のお考えはいかがでしょうか。
  45. 藤本武

    藤本公述人 私の理解では、その二つのものは大して違わないというように考えております。それで、ただその答申の方に載っております二の小さい2の終りに、「なお1、2については、労働者側の意見も反映されるよう事実上の措置を講ずること。」こういうことになっておりますが、法案の中では実際問題としてそれが規定されていないということは事実だと思います。しかし私はもし労働者側の意見も反映されるということでありますならば、労働協約を結ぶというのが一番そういう措置を講ずることであろうというのが、外国でも一般的に認められている原則でございますが、何かここのところは答申自体が少し矛盾しているんじゃないかというふうに私たち考えております。
  46. 井堀繁雄

    ○井堀委員 次に、あなたの専門にかかる問題について一、二啓蒙していただく意味でお尋ねをしたいと思います。  それは、最低賃金を定める場合は政府原案の中でも、原則として第三条の労働者の生計費ということを明確にうたっておるわけです。でありますから、労働者の生計費の問題は、今後この法案を審議する上に意見の分れ道になる一番大きなポイントだと思う。一応理論生計費、実態生計費などといって、生計費についてはなかなかやかましい問題が提起されておると思います。しかし法案に生計費をしかもトップに書いてきておりますし、ILO条約の精神でもあります。そこで、その生計費について先生の御見解をちょっと伺っておきたいのであります。これは先ほど来中小企業関係経営者団体に聞きたかった問題で、あなたに伺ってそれからお尋ねするときわめてはっきりした態度がわれわれ伺えたと思ったのでありますが、あと先になってしまって残念であります。生計費の問題は生活保護法の中でやや具体的に立場を表わしてきているわけです。カロリー計算やなんかやかましいことはここでお伺いしょうとは思いませんが、最低賃金ですから、生計費というものを金額で言い表わすということがここで一番問題になってくると思います。そこで、こういうお尋ね方は少し迷惑だろうと思いますけれども、一体最低生活というものが問題になるわけです。日本の現段階でけっこうでありますが、一体最低生計費というものは、これはおしなべてですから問題ですけれども労働年令は十五才以上ということに基準法が規定しておりますので、この辺に立って、十五才以上の労働者最低生計費というものは、世帯は別にして、個人の場合と、それから日本の標準家族の大体基準がありますが、そういうものについて通り相場というものがあると思う、その通り相場を学者の立場から一つそのものずばり教えてもらいたいと思います。
  47. 藤本武

    藤本公述人 お答え申し上げます。労働者の生計費といいましても、これは非常にあいまいな概念でございまして、こういうところに生計費というお言葉が入っていいのかどうかということも実は私疑問に思っております。むしろ労働者最低生活費だとかもう少し具体的な言葉でないと、生活保護世帯の人でもある生計費を費しておるのでありますから、私は不適当だと思います。しかしお尋ねのはむしろ労働者最低生活費というような意味だろうと思いますので、その意味でお答え申し上げますが、最低生活費についてはいろいろの方が発表になっておりまして、通り相場というような確実なものは実はございません。ただわれわれの方で医者などと協力いたしまして、厚生省の委託研究で相当大規模な調査を行なったことがございますので、その結果を若干御披露申し上げますと、一九五二年の秋でございますが、東京で消費単位当り――よくこれは一人当りと間違えられますが、そうじゃございませんので、消費単位当り、つまり成人男子一人当りの生活費に換算した最低生活費が約七千円というように出したことがございます。それでその当時の物価で七千円でございますから、現在に直しますと、おおむね八千円ということになります。それで、これは単身の男の人が一人で生活しておるという場合の生活費じゃございませんので、むしろ夫婦と子供が一緒に生活しておる場合のそのおやじさんの一人当りの生活費に換算した比率、こういうように御了解願いたい。ちょっと例を申し上げますと、赤ん坊は消費単位が〇・三というようなことで換算されておるわけです。それで、その生活費を使いまして、現在標準的な五人家族、つまり夫婦と子供三人で合計五人世帯の生活費をとりますと、大体消費単位が三・五ないし三・六くらいになりますので、おおむね二万九千円くらいになるわけでございます。これが三人家族ですと、消費単位が二・二くらいに落ちますから、そういうように計算するわけでございます。そういたしますと、現在東京ですっと、この最低生活費を満たしていない職員並びに労働者家族の割合は約五〇%になります。これは東京の場合でございまして、地方都市の場合では三〇%もう少しこえる程度じゃなかろうかと思っております。
  48. 森山欽司

    森山委員長 井堀君、質疑は御簡潔に願います。
  49. 井堀繁雄

    ○井堀委員 せっかくのよい機会なものですから、長くなって恐縮しております。ほかの諸君もありますから、もう一問で終りたいと思います。  ここが法案で一番論議の多いところでありまして、最低賃金が必要であれば、従来の基準でいつでも労働大臣がやればやれるのにやれぬのは、私は金額を出すことがむずかしいからだと思う。また今回の場合も金額を逃げておる。そういう点、私はどうも最低賃金法として一番大事画龍点睛が欠けておると思う。ここがこの審議の山になってくると思う。せっかく基準法では、行政的な措置できめることができるようになっていて、労働大臣が中央賃金審議会に、最低賃金制実施したいから、生計費なり、これこれのことについて金額を出してくれという諮問をすれば、できぬという答申をするか、及ばずながら金額に対して何らかの意思表示をするという結果になると思うが、そういう答申をしていない。問題はむずかしく言いくるめておりますが、簡単なことだと思う。  この法案だって、ここで問題がはっきり出てくると思う。いろいろやかましく言うておりますけれども、むしろ中心は、今度の法案でも、第三条の原則の説明の中でこう言っているのです。「その最低賃金の決定に係る労働者の属する地域における労働者の生計費が考慮されるべきことは当然である」こう言っているわけです。しからば具体的には生計費か何ぼかということが出てこなければ、当然もハチの頭も何もあったものではないから、私ども政府に質問する場合に、地域というときには、どこどこの地域という資料は持っておられると思いますから、当然出されると思うのであります。そういう際にあなたの所属されます労研の場合には、いろいろと公けのお仕事をおやりになっていると伺っておりますので、この際の御発言は非常に審議の上に重要な役割を持っておりますので、はなはだ御迷惑ですけれども、数字を少し言っていただきたい。またできれば資料を提供していただければなおいいと思いますので、お教え願いたいと思います。
  50. 藤本武

    藤本公述人 今の御質問は最低賃金をきめる前に具体的な金額としてどういうものをとるかという御意見だと思いますが、私の方は労働者の生活ということを中心において考えているわけでございまして、先ほど御質問にお答えいたしましたように、消費単位当り八千円というのは、私たちとしますと、現在では最低生活費の線というように考えているわけであります。もちろん地方になりますと、これよりは一〇%近く下回ると思いますが、しかしまた一方独身者ということにかんがみますと、実はこれでは最低生活はまかなえないというのが私たちの考えでございます。ただ一人で生活している場合の最低生活費というのは、私の方でまだ具体的に調査研究したことがございませんので、プラス・アルファーになるだろうというような推定でございまして、正確な金額はお答えできかねるわけであります。最低賃金を決定される場合にやはり一番重要視されるべきは、労働者最低生活費であろうと思う。そしてそれにでき得るだけ近接した金額というものが必要なのではないか。農近いろいろ議論になっておりますが、四千円とかいうような線でございますり、実は私の方で研究しました場合に、最低生存線というのがもう一つ出て参りまして、これを下回りますと、お母さんの知能が高くても、子供の知能はがた落ちになるという一つの線を発見したわけでございます。これは現在の東京の生活費に直しますと、消費単位当りで約四千六、七百円ということになりますが、かりに四千円というような最低賃金を決定いたしますとすれば、これはもう最低生存線さえ満たせないということが、私ども研究からは確実に断言できるわけでございます。私たちの考えとしますと、労働者の生活の上から見て、そういう八千円というようなところの最低賃金が設定されると、労働者労働能率もよくなるし、憲法で保障すべしと言っております、健康で文化的なというような、そういう水準がおおむね確保されるのじゃないかというように思います。しかしこれは最低賃金だけでそういうものが確保できるとは思っておりませんので、社会保障だとかその他いろいろな問題もございますし、それ以外に賃金自体の形態の問題とかそういうものがあろうかと思います。
  51. 井堀繁雄

    ○井堀委員 大へん時間を私一人でちょうだいして申しわけありません。もうやめたいと思いますが、最後に最低賃金の額をわれわれが論議をいたします場合に一番信憑力のある資料を得たい、かような要求があるわけです。そういう点から、実は労研の資料を私どもの知る範囲内では非常に貴重なものだと考えてお尋ねをしたわけであります。政府機関のものは全部出させるはずであります。その他に何かお気づきの点で、こういう資料だったらよくわかるというような点で御注意いただけるならば、この機会に一つ言っていただきたいと思います。
  52. 藤本武

    藤本公述人 特別に私知っておりません。
  53. 井堀繁雄

    ○井堀委員 大へん長い時間御迷惑をかけましたが、最後に稲葉さんに一つお尋ねしておきたいと思います。  この審議会で金額の問題を諮問されなかったから答申されなかったのでしょうけれども最低賃金の問題は、私は金額をどこら辺に定めるかということがどこから議論してきても問題の中心をなすと思うのですが、この審議会では一体どのくらいの金額を地域別でもいいし業種別でもいい、そういうものに対して何か検討を加えたことがおありでしょうか。
  54. 稲葉秀三

    稲葉公述人 審議会では一律方式か、業種別職種別地域方式かということにつきまして、先ほど御報告申し上げましたように、あとの方の線をとりました。従いまして審議会全体としては金額について議論しなかった、こういうふうに御報告しなけりればならぬと思います。しかし一応小委員長としまして、御存じのように八千円、六千円それからさらに五千五百円とか五千円とかそういったようなことにつきまして若干検討いたしましたことはございますけれども、これは委員会の問題としては出なかった、こういうふうに御報告申し上げます。
  55. 井堀繁雄

    ○井堀委員 滝田さんと岩井さんにもぜひお尋ねしたいことがございますけれども、時間の制約と他の質問者の関係がございますので、はなはだ失礼でございますが割愛させていただきたいと思います。どうもまことにありがとうございました。
  56. 森山欽司

    森山委員長 赤松勇君。
  57. 赤松勇

    ○赤松委員 井堀君からかなり詳細にわたっていろいろ質疑が行われましたので、私簡潔にお尋ねしたいと思うのです。  言うまでもなく、公述人の皆さんと論争したりなどしたくはないし、またそんな性質のものではございませんので、ただ必要なことだけをお聞きしたい。  それでで稲葉さんにお願いしておくのですけれども、ときには小委員会の委員長としてお尋ねする場合もあるし、あなた自身の御見解をただしたい場合もございますので、その辺のところは一つ了承願いたいと思うのです。  第一にお尋ねしたいのは、三十二年四月に次官通牒が出されまして、業者間協定の行政指導、内面指導は基準局に労働大臣が命じておりますが、その間の実施の状況――先ほど公述の際に、実施の状況についてはかなり見るべきものがあったような御発言、つまり業者間協定で相当高く評価していいような状態も生まれておるような御発言があったのでございますけれども、その点について一つ見解をお伺いしたいと思います。
  58. 稲葉秀三

    稲葉公述人 先ほど御報告申し上げましたように、三十一年に、労働問題懇談会の中に最低賃金をいかに進めるべきかという特別の小委員会ができまして、私もその中の中立委員の一人になったわけであります。そこで申し合せましたことは、ともかくテスト・ケースとして業者間協定を進めていく、第二はそれと並行して、これを法的な措置をとる、こういうことでございました。その後それに基きまして、労働省の方から次官通牒で基準局長あてに、その業者間協定の推進のことが各地方に行ったのではないかと推測いたします。労働問題懇談会でこれを取り上げておりましたときには、実は静岡県清水の一つの例しかなかったのであります。その後次官通牒が出ましたのと、もう一つは、若干私の個人的な推測になりますけれども、神武景気で局部的には労働不足が起ってきたわけであります。従いましてたとえば日立の商店街とか、それからいなかの方の中小企業では人がほとんど集まらない、こういうこともありまして、これはむしろ私は受け身の最低賃金だと申しますけれども、そういったようなものができてきた。それからさらに技術を交流せしめるとか、あるいはいろいろな要素もございまして、それ以外の要素の業者間協定がだんだんできて参りまして、現在のところ、詳細はよくわかりませんけれども、私の見通しでは約三十から四十くらい、いわゆる法的措置によらない業者間協定ができておると思います。今の赤松さんの御質問に対しまして、実は私、その中で書類もいただきましたのですけれども、NHKの現地放送というものがございまして、新宮の架線機の業者間協定と、長浜のちりめんの業者間協定と、清水の業者協定がその後どうなっているかということを実地に調べました。そのほかに一応私の友人その他が神奈県の手捺染、桐生の絹、人絹織物、東京のメリヤス、こういったものを調べました。これは実際に調べたのでありますから、簡単に御報告申し上げますと、従来に比べて、上の方は業者間協定によりまして何ら最低賃金の変化はいたしておりません。ですけれども、一応下の方について申し上げますと、たとえば新宮の場合は百五十円が百八十円になっております。その前は百二十円くらいだったのですけれども、一応昭和三十年くらいに百五十円に直ったのを、今度は百八十円にする。それから長浜の例で申しますと、大体下の方は二十円ないし三十円賃上げになっております。清水の例から申しますと、二十円くらいそれが上っております。そして、これは中卒なんですけれども、そのうち特に十八才の高等学校の事業に匹敵するところになりますと、たとえば新宮の架線機の場合は、三年働いて三百円になるようになっている。清水の場合は、これは女の方ですけれども、二百円ないし二百二十円という最低の仕切りができておる。そういったようなことになっておりまして、そして第三の特徴はやや上の方に進んでおるということです。つまり平均いたしますと大体一割五分から二割くらい全体として賃金が上り、そしてコストの値上りは若干違いますけれども、一番高いところで三%、二番低いところで〇・五%、こういったようなことで、私の直接業者並びに労働者に聞きましたところは、初めは実はおっかなびっくりだったけれども、やってみて案外のものだった、つまり中小企業についていろいろお話が出たのですけれども、実際やりました結果は、案外中小企業の労賃比率が私どもが予想したよりは低いために、全体のコストに対する比率が少い。他の要素としては、技術を共同化するとか、いろいろなプラスの要求が業者間協定でも現われている。それがもう一つ心配したのは、御存じのように神武景気のときに局部的にそういう現象が出てしまったのだ、しかしたとえば不景気になってきて人が集まらない、そうするとこういったものをしなくなってしまうんじゃないかということを心配しておったのですけれども、一応今調べました七つの例につきましては、繊維の関係あたりも不景気だけれども、一応今まできめた線は実行する、そしてむしろ不景気なときに実行をしていくということが他のプラスになるだろう、こういった関係がうかがえるわけであります。このような例で全体を律するのは決して好ましいことではありません。それからまた私たち中央賃金審議会答申をいたしました線は、この業者間協定をそのまま最低賃金としろということではないのです。その点だけは一つ誤解のないように申し上げたいのです。地方の賃金審議会を作ってもらう、あるいは各府県にまたがるところについては中央に賃金審議会を作っていただいて、それをいろいろ、先ほど申した――それはどの程度できるかわかりませんけれども、その地域の特殊事情や生計費や支払い能力を考えながらスクリーンするということが最低賃金法最低条件じゃないかということであります。  それで、そういう業者間協定が行はれているときに、かりに今度の国会で政府案がいよいよ通過したときに、ではあなた方は法の適用を受けるか受けないかということを聞いてみました。私の聞きましたところでは、受けようと思うというところと、まあ当分このままでやろうというところと半々くらいであります。だから業者間協定最低賃金でスクリーンしたこの業者間協定をやるというものとは必ずしも同じではない。また同じにするのではほんとうの法的なものにはならないはずだというふうに考えております。
  59. 赤松勇

    ○赤松委員 景気変動に伴う局部現象でそういう若干の値上りというものが随所に見受けられる、私は確かにそうだと思うのです。そこでこの点はどうでしょうか。そういう景気変動に伴う局部現象が起きておる。そういうものを基礎として業者間協定というものを作っていけば、なおそれは局部が全体になっていき、だんだんよくなっていくだろう、そういうお考えでこの業者間協定というものを立案され、あるいは賛成をされ、もしくは答申をされた、そういうことになるのですか。
  60. 稲葉秀三

    稲葉公述人 これはそこまで小委員会で議論をしておりませんで、小委員長というより、若干私個人意見が入るかもしれませんけれども最低賃金法最低賃金法たるゆえんは、ある程度もう中小企業特殊性を考えながら、これ以上の賃金は払わせないということにして、そのかわりに合理化近代化を進めていこう、こういうてこにしたいというところがやはり大きなねらいでありまして、労働政策的な側面と経済政策的な側面の二つがなければならない。またここが一審大きなものではないかと思います。  ですけれども、先ほど若干中立的な立場で私が心配をしたことが二つあるのです。一つは、やはりいろいろ条件が違うために家内工業にもぐっていってしまうという点が一つありはしないか。第二は、中小企業と申しても別に一律のものでなくて、最近は御存じのように三百人くらいの中企業で――石田さんは中小企業の代弁者ですけれども、実際は大企業であるかもしれません。そうすると、たとえば先ほど申しましたように、同じ地域でも従業員二百人くらいの工場がございます。他方では十人以下のところもある。そうすると今度は十人以下の方は最低賃金をやって、三十人以上のところは今までと同じという形になって、場合によっては中小企業の中における内部的な問題が起りはしないかということです。これは私は今のところ何ともお答えができません。今後の経済の動向とかいろいろなことによるだろうと思いますけれども、そういったような心配があると思いますけれどもあとの問題につきましては、少くとも私が今まで実地に調べたケースにおきましては心配をするというほどのときにはまだ至っていない。しかし経済が今後も下降するということになりますれば、そういうケースは場合によっては起らないとは限らないと思います。
  61. 赤松勇

    ○赤松委員 私がこの点非常に大事だと思いますことは、これはあと藤本さんにもちょっとお尋ねするのですけれども、たとえば労働法の根本原則がくずれるという問題のほかに、先ほど藤本さんもおっしゃいましたが、最低賃金というものは最低生活費である。生存費ではない、生活費である。これは再生産のために必要な生活費だと思うのです。従ってこの問題を見るときに、稲葉さんは経済の方をやっておられますから、どうしてもあなたの目は経済のバランスの方に向いていくと思うのです。労働法学をやっておられる方は、そうではなくてやはり憲法やその他で保障する基本的人権というものへ目が向いてくる。これは争われない事実だと思うのです。しかしあまり経済のバランスの方へ目を向けていきますと、憲法の保障する基本的な権利があいまいになってくる。最低生活費なんですから、労働者労働する限りにおいては、その最低生活費というものは保障されるのが当然である。保障し得ない経営者は経営能力がないのだ、経営者の資格がないのだ。そうでしょう。ただ政治論的に言えば、規模別の格差というものが広範に存在しておる。日本企業自身が近代化がおくれこておるために、客観的にはそういう事態が存在するけれども、本来人間としてこれは階級以前の問題ですね。階級以前の問題で、働くという立場から見れば、再生産に必要な生活費が保障されるということ。もし保障し得ないとするならばこれは経営者の能力、資格がないということです。労働基準法は八時間労働制というものを作って、労働者の健康を保障するようにしておる。そうすればこの八時間労働制に見合った最低生活費というものは、当然労働者の要求する以前の権利として国が保障し、あるいはまた個々の経営者が保障しなければならぬと思う。あなたの議論からいきますと、支払い能力とか経済状態とかそういう政治論、経済論が先にいってしまって、労働者の権利はあと回しになってしまうわけですね。われわれはそれを非常におそれるわけです。労働法学的な三者構成の根本原則がくずれていくという問題も重要ですけれども、やはり基本的な問題として、たとえばさっきインドの例なども引かれましたが、ILOなどでこの支払い能力があまり問題にならないというのは、本来最低生活費は保障されるべきであるという国際的な通念の上にお互いに議論しておりますから、従ってそういうことが論外になっておると思うのです。ですから業者間協定最低賃金制ではないのだ。これは政府一つの施策にすぎないのだ。言いかえればこれは労働者の局部現象にしろ、とにかく労働者の生活をば少しでもよくするために行う政府の政策の一つであり、行政指導なんだ。制度としての最低賃金制度ではないと私は思うのですが、あなたはどうですか。
  62. 稲葉秀三

    稲葉公述人 今赤松先生のおっしゃいましたように、私は従来の自分の経歴に支配されまして、やや労働問題を経済的な側面から考え過ぎる点があるということを決して否定いたしません。しかし申し上げたいことは、確かに賃金最低生活を保障しなければならないことも事実ですけれども、これはやはり民間企業におきましては一つ労働に対する価格である。価格である限りにおきましては、結局労働者と経営者とが総体的にきめるところにあるという面も持つということは否定で、きないのであります。だからたびたび申し上げましたようにこれを保障するという形で、かりに一人当り八千円というもつのが正しければ、一時的に国が税金をたくさんとってそこへ納めるということになれば、その制度は決してできないことはないということを申し上げているわけです。けれどもそうするとやはりこれはまた中小企業たちや私たちに税金負担がかかっていくということになるのでありまして、本来から言えばこれは総体的にだんだん改善をしていくという形が、ことに日本のようにただ賃金問題だけではカタがつかない。雇用対策もやっていかなければならぬ、産業構造も求めていかなければならぬ、また同時に大きくなるという場合においてはそれをせねばならぬ。ことに国会という立場で大所高所からお考えになるというときになりましては、やはりそういう要素も御考慮願わなければならないという要素を持っているということは否定できないと思う。そういったような面は確かに労働という立場から見ればそれ以外のものでございますけれども、やはりそういう要素も御勘案願いたいと思います。
  63. 赤松勇

    ○赤松委員 国会という広い立場から考えておりますから――私も稲葉経済理論に大いに傾倒いたしまして、あなたのものはなるべく読ましていただくように、広い視野の上に立って物事を考えるくせをつけておるわけでございますけれども、どうも考え方の出発点が違うと思うのです。私は先ほどから言ったようにこれは階級以前の人道上の問題だ、別にマルクスを引っぱり出すわけじゃないけれども、この労働の再生産を可能ならしめる保障賃金を与えるということは、これは経営者としての義務でしょう。この点はおそらく否定なさらないと思うのです。経済がどうあろうと何がどうあろうとですね。従ってそういう労働者最低生活を保障する制度を作るということと、それから経済のいろいろな条件があって今すぐやれない、しかし将来やろうと思っているのだということとは別なんですね。やはり制度としては当然こういうものを作っていって、たとえば労働時間八時間制を十二時間も十三時間も働かしておるような、そういう過酷な労働を強制しておる非人道的な経営者というものを国家権力で抑制していく、同時に低賃金の問題も労働の再生産を不可能ならしめておるような経営者にあらざる経営者というものを、たとえば近代化の過程を通じて救っていく。これは政府の責任ですね。それはもっぱら政府の政策あるいは国会の仕事、政党の仕事なんですね。労働者が要求する場合には、そんな稲葉理論のように経済のバランスを考えたり、あるいは今のいろいろな諸条件を考えて、だからおれの最低生活費は四千円であってもいいんだ、いや三千円であってもいいんだ、がまんしなければならぬのだということはないと思うのです。それなら労働を半分に、八時間働くのを四時間にしておけばいいかといえば、そういうわけにはいかないのです。やはり八時間働かなくちゃならぬのです。八時間働く以上は当然生存の権利を主張しておるのでなくして、その労働の再生産のために働くきょうの賃金を与えてくれ、こういう要求が出てくるのは当然なのです。従って賃金委員会で答申案をお作りになるときには、制度としての最低賃金というものとあなたのおっしゃる条件付のいろいろな今の階級間の所得をうまく直していくとか、そういう政策の面のそれとはやはり区別していかなければならぬ、私はこう思うのですが、そこでもう一口でけっこうです。この政府案に入っている業者間協定というものを最低賃金制度とお認めになるかどうか、この一点だけをお答えいただきたい。
  64. 稲葉秀三

    稲葉公述人 先ほど申し上げましたように業者間協定をやらねばならぬという点は、日本としては非常に特殊的な存在だということは認めます。しかも第二に、私が申し上げたい点をそのままのみ込むような制度であれば、これは最低賃金制度じゃない、しかしそれをやはりいろいろ段階的にやるために、やはり三者構成になる審議会を作ってやっていくという限りにおきましては、私はこれは完全な制度でないかもしれませんけれども、制度であるということを認めるにはやぶさかじゃないと申し上げます。
  65. 赤松勇

    ○赤松委員 そうすると、こういうように理解してよろしゅうございますか。最低賃金制度を作るための基礎的な条件を作る第一歩として、業者間協定というものを考えたんだ、こういうことでよろしゅうございますか。
  66. 稲葉秀三

    稲葉公述人 そうです。
  67. 赤松勇

    ○赤松委員 わかりました。次に一つ稲葉さんにお尋ねしたいのです。やはりあなたは答申された小委員長という責任があるから、かんべんして下さい。心安いは常のことで、公けの場所ですから、公けに僕も質疑しておいた方がいいと思うので……。  次に、先ほど金額の点をおっしゃいました。それから一律実施は望ましいということをおっしゃったわけですね。そうすると、一律実施は望ましい、けれども今はできない、それは金額の点ですか、何ですか。
  68. 稲葉秀三

    稲葉公述人 はっきり申し上げますと、金額と並行いたしましてやはり日本産業構造経済構造、現実にあるところの家内労働中小企業におきまする格差や大企業のいろいろな点というものを考慮した結果である、こういうふうに御了承になっていただきたいと思います。
  69. 赤松勇

    ○赤松委員 ちょっと私にはわからないのですが……。
  70. 稲葉秀三

    稲葉公述人 それからもう一つ赤松さんに申し上げておきたいのですが、これはやはり理論でやったのではなくて、現実的に中央賃金審議会政府が各界の御意見を聞かれるということになって、審議会ができ、そうしていろいろ事情を聞いて、最後に経営者側、労働者側、中立的な学識経験者でまとめるということで、決して国会のような政治的なものではありませんけれども、現実的には経営者側と労働者側のものを今申し上げました線においてまとめるという現実的なものもあったので、基本的にはやはり最低賃金の制度そのものと、あと中小企業特殊性を主張せられる方と、もう一つは、最低賃金はこれだけだ、そのほかに今度は業種別職種別にいろいろなものを積み重ねていくのが最低賃金だといわれる労働者側の立場と、それを一本にするという現実的な行動もこれが支配的だったということもあわせて御勘案願いたいと思います。決して学者としてやったということだけではないのであります。
  71. 赤松勇

    ○赤松委員 稻葉先生を僕は崇拝し、尊敬しておるのですけれども、僕が非常に気になったことは、さっき日経連の人ですか、こういうことをおっしゃいました。一時間三十円、六千円程度の収入がある。これは高知の石切り工ですが、こういうことをおっしゃっておられる。何か六千円の収入があれば、最低生活費として大手を振って天下を歩けるようなものだというようなものの言い方をされたので、実は日経連の人にもその該博な知識を一応お伺いしたいと思っておったのですが、御都合があってお帰りになったので、非常に残念ですけれども、これは藤本さんの分野に属するのですが、六千円では最低生活費として十分なものだとは考えられません。これはたとえば政府の生活保護費を見たってはっきり出ておるのです。ですからこれはもう常識的にいっても社会通念からいっても六千円の高知の石切り工の最低賃金というものが十分なものだというようなことは全然私は考えていないわけです。ただ私は稲葉さんにお尋ねしたいのは、もし金額に問題があるとするならば、たとえば今総評さんが八千円といっておりますね。われわれも八千円といっておるわけだが、その八千円は、かりに五千円なら実施ができる、四千円なら実施できるんだ、一律実施が望ましいということをおっしゃった。望ましいならば、どこにネックがあるかといえば、金額の点に問題があるのです。今構造の問題とか仕事の点をおっしゃいましたが、突き詰めていえば、中小企業を含めて支払い能力の問題に帰着すると思う。そうすると、その支払い能力が問題になれば、金額というものがやはり問題になってくる。そうするとたとえばこういうことを言った人があるんです。どうだ四千円くらいで妥協しないか。そうしたら一律実施でいこうじゃないかということをちょっと私に言われた向きもあるわけです。そうするとこの際僕たちは、何としても一つやってもらいたいのは、制度をこの際作ってもらいたい。それは個々ばらばらにやったのでは実施はできない。あなたの議論とは逆に、私は部分的にやったのでは完全実施ができぬ。これは国家権力でもって基準法と同じように、労働時間と同じように一律実施をやらなければだめだ。ことに石田労働大臣のような非常に政治力の旺盛な人の手によって、国家権力を行使していただいて、そうしてぴしゃっと一律実施をやってもらうことが私は望ましい、こう思っておりますが、その際にもし金額が問題になるとすれば、金額の点で私は八千円が正しいと思っておりますけれども、あるいは相談できないこともないわけなんです。ただ一律実施はできないのだ、そんなものは理想論なんだ、現実性がないのだ、こう言われると、これはいささか僕たちもちょっと言い分があるわけなんですね。その点はどうでしょうか。
  72. 稲葉秀三

    稲葉公述人 お答え申し上げます。先ほど滝田さんがおっしゃったのですけれども、かりに六千円以下の賃金ということになると、滝田さんのお話では二八%ということになる。この点は実は日本ではほんとうの意味賃金調査というのができていないのです。それこそほんとうにやっていかねばならぬことだと思いますけれども、しかしおそらく二十何%が六千円以下になる。しかし他方いろいろ私どもの方へお話がありまして、たとえば最低賃金協定をやっているいろいろな地区を見ますと、食費が千五百円とか千三百円のところがある。そのほかに若干日本の場合においては家族主義的ないろいろなこともある。こういうものを計算をすると、案外日本の場合でも、たとえば表面は四千円かもしれないけれども、五千五百円であり六千円になるのだ。そういったようなこともやむを得ないので、ある程度やはりこれ以下は絶対に日本では至るところで賃金を払ってはいけないというのを、六千円でなくとも五千五百円とか、あるいは一時的には五千円とか、こういうことをしてはどうだという意見がきわめて有力に主張され、私のところに話をしてきたということも私は決して否定いたしません。     〔委員長退席、大坪委員長代理着席〕 また私はでき得る限り公平にまとめるということでいろいろな労働組合方々、それから中小企業方々、あるいは政党方面にも個人的にお話を申し上げ、社会党でない政党の中でも、まあ四千円ならいいじゃないか、あるいは四千五百円ならまとまるならいいじゃないかということをおっしゃったということも決して否定いたしません。ですけれども一つ政治的な問題としてお考えになっていただきたいのは、現実がそれでは四千円の場合なら百パーセントカバーするから四千円ということであれば、先ほど申しました漸進的に日本経済産業構造を変えながら保障をするという最低賃金じゃないわけです。やはり作るときには、ある程度、若干最低よりは高いところにきめて、そうして漸次抑えていくというものでなければ、はっきり申せばそれによって中小企業者が、企業合理化努力をされたりするということがない以L上、やはり赤松先生のやつを逆に計算をしまして、四千円なら百パーセントだから、四千円という一律賃金制度を作れということはどうかと思います。  それから第二に中央賃金審議会の場で出ましたのはむしろそれにいろいろプラス・アルファがついているということなんです。先ほど申した、いろいろ対立した意見をするときに、どうもこういうのはいろいろな要素から考えて望ましくない。もっといろいろな立場を主張すべしということもあり、他方においては、相当高いところにプラス・アルファの賃金でなければならないとまん中をとったということもありまして、答申案はこういう形になったのだ、こういうふうにお答え申し上げます。
  73. 赤松勇

    ○赤松委員 答申案を作られる過程におきまして、いろいろ御苦心があったことはよくわかります。それからさっき金額云々といいましたけれども、私は誤解されるといけませんが、僕たちの考えている金額は妥当だ、かように思っております。なお、他の方からというのは実は自民党の人からそういう話があったのであって、滝田さんの方ではないから、どうぞ誤解ないように……。そこでどうでございましょう。ずばりそのものですね。大体原則的に言って、今最低賃金を設定しようとすれば、業者間協定か何か抜きにして、どの程度の金額が妥当だと思われますか。そこへいろいろつなまた経済条件などを考えて本来これが妥当だと思うけれども、今の経済のもとにおいては、まあこの程度ではなかろうか、二つやはりあれが出てくると思うのですけれども、それはどうなのですか。稲葉さん個人でけっこうですが、あなたは経済学者としてどうでしょう。
  74. 稲葉秀三

    稲葉公述人 遺憾ながら私はそこまでえらい経済学者ではございませんのでお答えができかねます。
  75. 赤松勇

    ○赤松委員 そうですが。大へん失礼しました。それではどうでしょう、もし業者間で極度に低い協定が行われる、そういう危険がないこともないと思いますんですがね。それが逆に賃金のくぎつけ、つまりストップになるおそれもあると思うのです。そういうことを十分予想されて答申をされておると思うし、ずいぶん委員会の中でもその議論はあったのではなかろうかと思うのですけれども、そういう協定が極度に低くて、逆にさっきおっしゃいました不当競争、過度の競争をば防止するために、経営者自身の利益のためにいろいろな協定が行われるというような場合、その場合は生存権も生活費も何もあったものではない。ただ自分たちの利益のために協定が行われる。そういう場合はこれを修正変更さす措置ですね、審議会というお話もございましたが、法的にはそれを矯正する具体的な方法というものを考えておられますか。
  76. 稲葉秀三

    稲葉公述人 その点赤松先生のおっしゃったことはきわめて重要なことだと思います。つまり景気のいいときに局部的に人を集めるためにやや高いことをする、人が集まれば、もう足らなくなったし、多少産業マイナスになるから低くにやるという考え方が出てこないとは限らないと思います。今までについては、私が調べました限りにおきましてはそういうことはないけれども、将来これが広範に普及されましたときにはそういう要素がある。そこを――先ほど申し上げましたように地方賃金審議会中央賃金審議会は、ともかくこれを認めた以上は法的拘束力を持つわけです。単なる業者協定の場合においては私はそれがあまりないと思うのです。ですから各地域あるいは全国の業種や職種をにらんでおきめ下さるときには、そういう点をきめてほしい。そしてまたそういうことが、やや多角形的にできる方々がほんとうにこの賃金審議会の委員さんになっていただきたい。こういうことによりまして、決してこれがマイナスの方向にはいかないだろう、こういうふうにしていただきたいと思うのです。
  77. 赤松勇

    ○赤松委員 せっかく公述人御多忙のところをおいで願っている。しかも高邁な御意見をば拝聴しているのですから、あまり私語をやらせないように、委員長みずから私語しておっては困るのです。けしからぬと思うのです。全然聞いていない。私が質問しておっても全体がやはり公述人の御意見を十分聞いて、そうして法案審議の資料にしなくちゃならぬので、この点はもっと厳粛にやってもらいたい。次に今度は全労会議滝田さんに一つお尋ねをしたいのですけれども、先ほどの御意見では業者協定には反対であるという御意見でございましたね。この点は私もよく了解しておるのですが、そこで九条削除という問題が出たのですけれども九条を削除した場合はこの法案に賛成されますかどうか。これは法案審議の非常に重要な点ですから、一つ全労会議の態度をお聞かせいただきたい。
  78. 滝田実

    滝田公述人 九条だけ削除すればよろしいかどうかと言われると、全体の関係がありますから、一つだけでは直ちに判断が出ないのです。私がなぜ九条削除の問題を主張したかということですが、これは労働側の委員答申案を出す井過程において、実は統一した意見を、出した経過があるわけです。それが職種別地域別業種別にきめるという制度でいって、現実漸進的な方向をとろうということだけでは足りないから、最低賃金最低というものをもう一ぺん打ち込んでもらいたい、これが労働組合としてのぎりぎりの統一見解であったわけです。その最低賃金最低というものをきめる場合に、今も御質問が出ておりますが、最低最低というものをきめようとして全産業一律一本ということを入れれば入れるほど金額が下っていってしまう。一本を主張すれば主張するほどそういうように下っていって、六千円がいいか、五千五百円がいいか、五千円がいいかというほど下ってくる。そうなるとむしろ一律一本をとることによって賃金を下げられる危険性がある。くぎつけになる危険性をわれわれは感じたわけです。そういう点から、最低最低ということを具体的な金額にした場合に、むしろ労働者側として好ましくない傾向が出るから、そこで職種別地域別業種別賃金ということが出たわけです。この九条の関係は、この答申案と政府の原案との相違点は――答申案は四本立てになっております。この業者間協定と、地域、それから審議会方式、この中で一、二については労働者側の意見を反映する事実上の措置を講ずるということがここに一項入っている。ところが今度の政府案では、この事実上の措置を講ずるということは入っておりません。そこで、賃金が労使によって決定されるという、そういう正原則を否定されたのはいけない、だから九条のように業者間協定を横すべりに制度化するというようなことは認めがたいということで、九条そのものを否定したという考え方になっているわけです。それと、全労会議はこれさえなくなればそれで満足かということは、そうではないということを今総合的にお話したわけですが、きょう冒頭に申し上げたように、どうも解散が間近でありますのにきょうも一日こうやって熱心にやっていただいておりますが、全産業一律一本ということを今主張して、政府の原案が今ここにあるが、そうでなくてはだめだといっておった場合に、今度の国会で法案を作らなくてもいいかどうかということに非常に重点を置いているわけです。それで、私どもが主張しているような、ある程度の修正意見がいれられることによって、今度の国会で法案を作った方がよろしいというのは、もしも一律一本が実現しないで、社会党の継続審議の案あるいは総評の考え方があるが、これがいれられないならば今度の国会で通らなくてもいいんだという見解に立った場合に、現実に進んでおるものは業者間協定が進んでおる。だから反対だ反対だと言って何も作らなかったら、今度は業者間協定だけが事実上でき上ってくるじゃありませんか。この点に対して一体どう責任を持つのか、ここが私は事実問題としてきわめて重要なことだと思う。だからそういう業者間協定というものは労働者が参加しなければいけないということで、審議会方式によってスクリーンをかける、あるいは審議会自体が自分の発意によって勧告することができる、こう持っていった方が、今の賃金格差の増大傾向、ことに昨今各産業に操短が起っておりますから、この操短が済んだあとは必ず賃金格差が増大してくると私は思います。これは生産が集中して利益の収奪が行われることは明らかなことでありますから、そういう刻々と現実の業者間協定が進んでおる事態に対処するために、答申案が完全にやられるならば、あるいはそれを最低線とするならば、この際やるべきだという見解であります。九条だけを独立してそれでよろしいかと言われると、そうではありません、こうお答えいたします。
  79. 赤松勇

    ○赤松委員 今、稲葉さん、それから滝田さんの御意見で、政府原案が答申案とかなりかけ離れたものであるということが明瞭になってきたわけです。ここできのうも労働学者の声明が発表されましたが、やはりこの点が非常に問題だと思うのですが、本来三者構成であるべきものを一方的に業者間で協定をしていく。もちろんそれはすべてじゃないのです。四つの方式をあげてありますけれども政府のウエートを置いているのはやはり第一、第二であると思うのです。また私どもの三観的な意図がどうあろうとも、この法が施行された場合に客観的にそういう方向に行くおそれが十分にある、こう思うわけであります。そこでわれわれは、答申案の意見が十分に反映していないということのほかに、もう一つは私どもの立法に関する根本原則である三者構成というものがくずれておる、そしてこういう法律ができますると、将来これがスタートとなりましてよき慣行がくずれていく危険があるのではないか、こういう点を非常に法律研究されておる学者の皆さんが心配されておるものと思うのです。そういうことを考えて参りますと、なるほど、この法律で示す最低賃金にあらざる業者間協定、及びそれ以外の審議会方式等の若干望ましい点がかりにありといたしましても、今言った重大な労働慣行が崩壊していく危険を内包している、そういう点に重点を置いて考えてみますと、この法律案は大きな将来の危険を内包しておるから、これを通すことはどうかという意見も実はあるわけなんですが、これについては藤本さん、岩井さんあたりはどうお考えでありましようか。
  80. 藤本武

    藤本公述人 今の問題をお答え申し上げます。先ほどもちょっと申し上げたのでございますが、業者協定をそのまま法律上の最低賃金にするとか、あるいはそれの効力拡張まとしまして一般的拘束力を与えるという規定は、外国ではないわけなんです。でありますから、これは私ども最低賃金制度ではないというように了解しておりますし、国際的にもそういうように了解されております。この内容を見ますと、一、二、三、四と四つの方法が併用されておりまして、一と二が業者間協定関係であります。それから三が地方的労働協約の効力拡張でありますが、実は日本労働組合は統一的な団体協約を結びませんので、実際問題としてこれはほとんど空文に近いようなことになってしまうと思います。ところがこの四の賃金審議会方式を用いますものは、一、二、三の方式が困難または不適当な場合にのみ発動するわけでございますから、実際問題としますと、四が発動しかけますと、業者の方がお集まりになって、労働者の代表が出る賃金審議会で議せられたら少し高いものがきまるのじゃないかということで、あらかじめそのニュースをキャッチすれば、すぐそういう協定をお作りになるのじゃないかと思います。少くとも私が業者でしたらそういう気持を持つだろと思いますが、そういうことになりますと、せっかくの最後の規定がほとんど発動する余地がなくなってしまうというように私どもは見通しをつけておるのであります。そうしますと、この法律全体が実は一、二に重点がある。しかも三は労働組合法の第十八条ですでに規定されております。四は労働基準法規定されておりますので、もしかりに地方的あるいは業種別最低賃金を決定するということでありますれば現行法を発動すればそれで私は十分だ、すでに昭和二十九年に答申が出ておるわけであります。三年半もかかって答申が出ております。それをその線に沿っておやりになれば少くとも業種別、地方別の最低賃金というものは設定できるはずだと私たちはそういうように考えております。この法案につきまして社会政策学会あるいは労働法学会の署名されました方の中には現行法でたくさんじゃないかというような意見の方と、それから社会党案を支持するという方と二種類実はあるわけでありますが、そういう方がこの点については統一してどうもまずい、それで外国で将来私たちが問題にされるのではないかと実は危慎しておるわけであります。そういう場合に日本の学者がこういう法律が審議されておるのにこれは本来の最低賃金法の原則から逸脱しておるのだぞということを黙っておったりしますと、日本労働法学者、社会政策学者は何をしておるのだというような国際的な批判をわれわれが受けてもますいというような点もありまして、昨日そういう声明を出したような次第でございます。
  81. 岩井章

    ○岩井公述人 私は結論的に現在の政府の案が国会で討議されることに反対でございます。それは先ほど述べた通りであります。その反対だという意味は、繰り返すことになりますけれども、ILOの条約の中に書いてあることはたびたびもう話が出たから繰り返しませんけれども、要するに賃金を決定する際に労働者と協議する、こういうことが原則として言われている意味は私は非常に大切だと思うのです。先ほどどなたかから話がありましたが、景気が少しよかったから昨年は業者間協定がかなり伸びたように思いますが、若干景気下降の今日ではおそらく私はまだ原則的に業者間協定の改廃というか、あるいは低下という実情を知ってはいませんが、一般的にはやはり業者だけの都合によって低下することはこれは経済の上の原則としてあり得ることだと思う。おそらくILOの条約労働者の協議ということを原則として採用していることは、そのことを私は明確に指摘しているのだろうと思うのです。ところが先ほども滝田さんからの話があったが、政府の案を見ると答申案の中で一番大切な業者間協定の、つまり答申案の一、二を決定する際には、労働者側の意見も反映されるよう、事実上の措置をしてもらいたいということを書いてあるにもかかわらず、政府提案の九条の一、二を見ますとそういうことに何ら触れていないのであります。私は先般中西労働次官にこの問題について話し合いをした際にそういうことを指摘いたしましたところが、それは賃金審議会は三者構成であるからその中で十分労働者側の意見が反映できるのではないか、こういうことを述べていましたが、私はそれは問題をすりかえているのではないかと思うのであります。答申案の筋になっていることは、業者協定を国による最低賃金だと呼ぶ必要のある際には労働者側の意見を必ず聞くようにということを述べている。だから私どもはこの政府提案が――公述人なるがゆえに質問はできないそうでありますから省略はいたしますが、政府がどの程度修正されるのか、あるいは政府がこの答申案とどの程度違うということをお認めになっているのか、大臣もおいでですから実は聞きたいのですが、これは省略いたします。そういうような一番大事な原則を除いた政府案が通っても何ら役に立たない。極言をすれば現在進んでおる業者間協定を進ませようとすれば、先ほどもどなたからか話があったように行政指導で十分できる。やめようと思えばこの法律が通ったところでできるようになっておる。だからないよりあった方がいいではないかというような常備的な議論は、私ども一般的には常識論者でありますけれども、この政府案をそのまま見せられたのでは、これは通っても何ら値打ちがないというように判断する。むしろ値打ちがないよりは積極的に今藤本さんからもお話があったようにすでにある法律を使うとか、あるいはその他の方法でもってやれば事足りるものを名目だけこうすることによってかえって積極的な改悪というものが生まれることになるのではないか、こういうふうに私どもとしては理解をいたしております。
  82. 赤松勇

    ○赤松委員 先ほど日経連の方であったか、どなたであったかおっしゃっておられましたが、僕はあの意見には賛成できないのです。意見を言うのはおかしいのですが、それは農村の生産構造というものはやはり大きく変化しまして、あれはいつの統計をおとりになっておられるかしりませんが、最近におけるそれは生席構造は大きく変化いたしまして、実際は農村人口と都市の人口というものの上に非常な変化が起きて、そうして今最低賃金対象になっておるのは、若干農村に部分的に存在しておるところの家内工業的なものではなくて、これはやはり消費サービス部門とそれから生産部門と二つ対象になってくると思うのです。従ってああいうような例外的なものを一般的に引用されるということは私は賛成できませんが、それはそれといたしまして、たとえば消費サービス部門におきまして、この間の総理府の統計を見ますると、四人以下の従業員を使用しておる全中小企業の商店、零細商店といいますか、それが全体の約九割を占めておりますけれども、これが年間の売上高はわずかに十四万四千円だ、こういうふうに統計がはっきり出ておる。その中で最低賃金をしいていくということ、これは非常に困難ではないかという意見も一面では出てくるわけであります。ところが先ほど稻葉先生も御指摘なさいましたように現に東京の世田谷区の商店街におきましては進んで業者がこの問題を取り上げておる。これは全国的にそういうふうに部分的にしろそういう現象が見受けられる。それはどういうわけかというと、別に人道的な理由からそういうことをやるのではなくて、そうしなければ優良な店員が確保できないというところに問題があると思うのです。つまり今日の消費サービス部門の企業自身も優良な店員を確保するためには最低賃金制をしかなければならない。しからば一体今の支払っておる賃金はどの程度のものであるか。これは社会党は全国で公聴会をやりましていろいろ調べたのですけれども、ここで六千円の一律実施をやりましても、さしてそう大きな障害はないというように私どもいろんな資料からこれを立証できるわけです。当面六千円の一律実施をやりましても、決して大きな障害はないということを私は確信を持って言えます。ただそういうように非常に零細な所得の中で、やはり企業それ自身も消費サービス部門におきましては大体賃金内容というものが変化しつつある。あるいは雇用の形態というものが退職金の制度その他によって変化しつつあるということはこれは認めなくてはならないと思うのです。それから生産部門においてはどうかといえば、さっきも盛んに日本の国は敗戦したとか、とてもできないのだというような普通よく娯楽雑誌に書いてあるようなことを日経連の人が言っておられましたが、あんなことは承服できません、原則論からいけば、さっき言ったように最低生活費なんですから。しかしそういう公式な議論は別といたしましても、私どもは今日この生産部門におきまして最低当面六千円、そして経過措置をたどって一律八千円ということは決して無理のない要求でもあるし、また稲葉さんおっしゃいましたように、国会の広く高い立場から考えましても、実施可能な現実的な案である、こういうふうに考えるわけであります。そこでこの消費、サービス及び生産部門におきまして、そういうような新しい近代化のそれが行われておるけれども、この近代化をはばんでおるのは、日経連の人が言っておったように、敗戦の結果だとかなんとかいうのではない。これは独占資本、つまり大企業の系列化が進んで、その下請制が強化をされて、むしろ低工賃によるところの低賃金というものが固定化されつつあるということが顕著だと思うのです。それは別に数字をあげなくても明瞭だと思うのですが、しかもり独占資本の方は、御承知のように八幡製鉄の三月の決算を見ても、二十八億という膨大な利潤をあげている。東洋レーヨンなどは半期でやはり三十億の利潤をあげておる。その中で繰短その他が行われておるという中におきまして、私どもは、そしてそういうような日の当る産業におきましてもやはり最低賃金制は必要である。と同時に、その日の当る独占資本の系列下にあるこういうような下請工場近代化をはかる、それにはさっき井堀君が指摘されましたように、やはり下請工場に対しましては、何といっても賃金条件というものを革命的に変化をさせていく、そして近代化をはかることは、中小企業自身にとっても利益になるというふうにわれわれは考えておるわけであります。賃金審議会におきまして、いろいろ稻葉先生を初め一皆さん御苦労を願いまして一答申をしていただきましたが、その答申案と政府原案というものは著しい相違があるということ、この点が明らかになったわけであります。     〔大坪委員長代理退席、委員長着席〕  それからもう一点明らかになったことは、業者間協定というものは最低賃金制じゃない。しかし最低賃金制を作るための基礎行為としてこれを考えたんだということも明らかになって参りまして、大へん長時間にわたって、ありがとうございました。なおあと御質問をしたいのでございますけれども、同僚の中原君を初め、皆さん待っておりますから、私の質問はこの程度にいたします。私の発言中あるいは表現の上で非常にまずいので、お気にさわった個所があるかもしれませんけれども、この点は、話が下手なんですから、一つお許しを願いたいと思います。どうもありがとうございました。
  83. 森山欽司

    森山委員長 多賀谷偵稔君。
  84. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 端的に公述人の方にお尋ねいたしますが、まず第一には、業者協定が今後推進するかどうかという点を稻葉先生にお尋ねいたしたいのです。と申しますのは、業者間協定というのは今まで、先ほども出ておりましたけれども、求人難という要素が非常にありました。そしていわば職業安定所の募集要項といいますか、そういう面から実際調べてみますると非常に多かったようであります。それが第一点。その次には組合がかなり、やはり統制力を持って強く――この組合というのは業者組合でありますが、強いという要件がなくちゃならない。それから三番目には、やはり地域的にまとまったという要件がなくてはならない。さらにまた四番目には、企業の質が均一だという要素が必要である。さらにまた五番目には、過当競争の業種で不公正競争の排除の必要がある、こういう要素も必要である、こういうように考えてみますると、一年間かかって政府がかなり宣伝をいたし、強力な指導をいたしましても、現在できておるのが二十、現在進行しつつあるのが四十と、こういうわけですが、今後神武景気も遠ざかって、不況という要素が出てきておるときに、果してこれが推進できるかどうか、一年間かなりの指導をしてもこのくらいでありますけれども、今後締結というのがかなり進行するかどうか、これを稲葉さんはどのようにお考えでありますか、お尋ねいたします。
  85. 稲葉秀三

    稲葉公述人 私は先ほど申し上げましたように、不況になりますと、だんだん業者協定をやるというのは下ると思っておったのですけれども、最近数個所見まして、必ずしもそうじゃないというふうに感じて参りました。たとえば長浜のちりめんでいろいろ難航してやったのですけれども、やはり峯山の同じ業者がやるという気運がだんだん高まっております。たとえば信号みたいな架線機のメーカーの最低賃金ですけれども、やはり三重県とか、同業種がやっていこう、こういったようなことがあります。それから繊維産業は非常に苦しいのですけれども、ある程度技術の改善、生産分野の協定、こういうこともございまして、案外やはり他の地域に普及をしていくのではないかと考えております。だから一般的な景気の下降によるところのマイナス要素、そういう特殊の事情という両方を考えまして、一応先のことですから、これははっきりわかりませんけれども、私個人の見通しでは、案外まだこういう業者間協定というのはふえていくのではないか、こういうように考えます。
  86. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 条件がそろうておるところには余地があると思いますが、監督署あたりの指導の行き届いたところでは、かなり限界に来ておる、もうあまりいい業者間協定を結ぶ業種がない、こういうことも現実にはちらほら聞いておるわけです。ですから全然未開拓の地というのはかなり進行するのじゃないかという点も考えられますけれども、なかなか条件のそろうたところというのは、業者間協定としてはかなり限界があるのじゃないだろうか、こういう気持を持つわけですが、その点もう一度お聞かせ願いたい。
  87. 稲葉秀三

    稲葉公述人 私の少くとも今まで見聞をいたしました限りにおきましては、私は四十弱くらい現在進行中だと思うのですけれども、そのほかに実は日本のいろいろな業種を見ますと、こういうことに入るのがおそらく千以上あるのじゃないかと思います。そういったような部類につきましては、どうもある程度進んでいく、こういったような感じを非常に強く受けております。しかしこれは将来のことですから、なかなかわかりません。しかし案外、先ほど申しましたように、関連企業とか、それからまた地域別一つやりますと、たとえば同じ地域のほかの産業もやり出すとかいうこともありまして、それは最低賃金はまちまちですけれども、たとえば信号みたいなところでやりますと今度は自動車修理工の最低賃金業者協定をやるとかそういったような同じ地域一つできますと普及するのと、それから同じ業種に対して普及をしていくというのが、好景気であればもっとできるはずですけれども、一応景気が現在のところ停滞気味といたしましても、将来やはりふえていくということはあり得るのではないかというふうに想像するのです。しかしこれは、なってみないとわかりません。
  88. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 それから次に、これは滝田さんにお尋ねいたしますが、先ほど私の危惧と違って、滝田さんは、どんどん業者間協定が現に進んでいくだろう、こういうお話ですね。任意の業者間協定が進む、こういう意味だと思いますが、その場合に、今度の政府案は、任意に進む業者間協定をいわゆる法律のワク内に入れる、要するに法律のいう最低賃金として申請をさすというこれが義務づけはないわけですね。それからその場合に、労働者が審議に参加しておりましても、任意に進んでいくものについてはとやかく言うわけにいかない。これを法律的にどう修正をしたらいいというふうにお考えですか。
  89. 滝田実

    滝田公述人 それはちょっと受け取り違いされておるのです。私が先ほど申し上げたのは、今度の国会の審議で、社会党の案と政府案とある。社会党の一律一本ということは通らないということで、そしてこの政府案もできない、何もなしということになったときに、業者間協定が野放しにおっても、せっかく心配しておる事態に対しては何にも打つ手がないじゃないか。そこで、政府の原案では困るけれども、審議会の権限を強化して、そして業者間の申請がなくても、審議会の権限によって必要だと認める業種、職種、地域に勧告を持つというような強い権限で、そこで作らせることが――何にもなしに業者間協定ができていくということに対して、現実的にはそういう法律を作った方がいいではないかというような意味なんです。ですから、どうもオール。オア・ナッシングみたいな形になってはまずいから、答申案よりももっと下っておる今度の政府案を、答申案の方でまず照し合せてみて――現在の政府原案というものは、答申案にもきていないですね。答申案のところまでまず検討してみて、この際答申案よりもう少しいい条件のものを作っておかなければならない。これが私どもの真意であるわけです。それから、これは先ほどから、使用者側の公述人が帰られましたから何ですけれども経済の底の浅さとか、資本蓄積とかいうことを主張しておられる。この答申案を作るときにも、経営者側の委員は、地方賃金審議会で、五年間の猶予をもらいたいということだった。労働組合側は即時実施の立法でなくちゃならぬ。それで三者構成でもんでもんだあげく、公益側で、妥協案で二年でどうだという意見が出た。私はそのときに、この稻葉小委員長に向って、学者の良心に基いて、二年間猶予するということがいかなる根拠があるのかということを、反間したことがあるのです。二年間猶予を置いたら、日本産業構造のでこぼこの問題とか、経済の非常に特殊な条件というのは緩和されると考えるのか、悪化すると考えるのか、どっちです、もし猶予することによって時期尚早論というものが解消されるならば、私はそれに賛成するかもしれない。しかし、二年間猶予、時期尚早ということは何にも意味がないじゃないか、そういうことで、これは即時実施というところまでこぎつけたのが、この答申案を作るときの内容であります。そしてまた資本蓄積が非常に必要である、経済の底が浅いといって、営者の人たちが時期尚早論を唱えるならば、現在の操短が起きているような問題は、経済の底が浅ければ浅いほど、もっと資本の蓄積が有効にされなければならない。それが何の計画もなしに、産業がでたらめな投資をやっておるから、今日の混乱を招いておるのであって、ここに大きな問題がある。最低賃金が時期尚早ということと、経済の底の浅さということは、関運がないと言ってもいいくらいの問題である。そういうところに問題をすりかえて、そして時期尚早論を唱えるということは私は好ましくないということで、即時実施論を損えてきたわけであります。ですから、私の主張したのは、今度の国会でこの法案を成立させるということ。それから業者間協定というものはり、労働者が参加していない。どうも今の業者間協定でそのまま最低賃金にすることはよくない。そこで審議会に対して政府が必要と認めるときには――そういう得手勝手なやり方はいけないから、審議会の権限というものは、もっと自主的なものであって、勧告権にかわるべきものである。そうすれば、現在の、ただオール・オァ・ナッシングで議論して、そして今度の国会において法律を作らないよりもましである、こういう見解に立ったわけです。
  90. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 滝田さんの真意を誤解しておるわけじゃないのです。ちょっと技術的な点に入ると思うのですが、業者間協定が結ばれた場合、審議会の方で、その業者間協定が任意に締結された場合には、引き上げて審査するわけですか。
  91. 滝田実

    滝田公述人 どこまでも望ましいものは、業者間協定そのものに労働者が参加するということで、それが最低条件です。そしてその業者協定は、労働者が参加しておるから自動的に認めるかということ、それをもう一回審議会で検討する権限がなければならぬ。そうしないと、業者間協定というものは、非常に弱い労働者が参加しない場合には、それはやはり抑えられた賃金として制度化されたものになっていくからまずい。だから、業者間協定そのものにも、賃金は対等できめるべき原則を入れて、それを審議会でまた取捨選択する。それで地方と中央の関係は、地方で非常に低い経済地域――たとえば東京で業者間協定ができた。労働者も参加しているとします。そこで協定を結んだために、他の協定のない地域に注文がいってしまったんではまずいから、地方の審議会に対して中央の審議会は優先権を持ち、決定権を持つべきである。ですから、地方で、労働者が安く参加して業者間協定をして、よかろうという結論が出ても、中央から見て、他の地域とのバランスにおいてまずいという場合には、中央審議会が、その地方の決定であっても、それを修正させるだけの優先権を持つ、そういうシステムを作った方がいいというふうに考えるわけです。
  92. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 そういったしますと、実質は、業者間協定と称するけれども労働者が参加するわけですから、組合との労働協約ということにならなくても、いわば広い意味における労使の協定、こういう形になるわけですね、考え方では……。
  93. 滝田実

    滝田公述人 やはり労使協定ということが本質だと思います。
  94. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 それから、稲葉さんにお尋ねいたしますが、先ほど、任意の業者間協定といいますか、それから法均に認められた業者協定といいますか、要するにこの法律のワク内に入ってくるのが半々ぐらいだろう、こういうお話ではなかったかと思うのですか、なるほど、地域的拘束力を受ける必要のある場合には、申請をして法的なものになるでしょう。ところが、地域的拘束力の必要がないというような場合には、何も罰則まである法的な最低賃金ということにはしないんではないだろうかと思うのです。こういった場合に、一体どういうふうな救済をするのか、こういう点をどういうふうにお考えですか。
  95. 稲葉秀三

    稲葉公述人 その点、今後のことですから、具体的にお答えがいたしかねるわけでありますけれども、私が現実に調べました結果は、最低賃金法ができたときにそれに入れるというふうな希望を持っている業書と、それから当分今のままの形でいこうというのが、半々だったということであります。それを解釈をしますと、つまりわざわざ罰則を受けるようなものまでやらなくてもいい、こういったのが起ってくるかもしれません。しかし現在のところ、先ほど申しましたように、案外他方においてプラス役割を占めるということであれば、業者といえども進んでこれに法的な手続をする、こういったようなこともあり得ると思うのです。しかし、一応私が行って聞きました限りにおいては半々だったということで、将来についてはよくわかりません。ただ若干私今までお聞ききをして、そういうことを言うのはおかしいんですけれども、私はこれを最低賃金として受け取ったわけです。ところが、どうもいろいいろ問題にされ、批判をされてみると、やはり賃金全般としてお考えになる方が割合多いんじゃないかと思います。現実では、業者間協定といえども、これ以上のものを払ってはいけないということを言ったところはない。それじゃ一つこれ以上のものになってないかということになりますと、組合の力が割合弱いとか、そういったようなことで、現実の業者間協定をやっているところを見ますと、案外組合の貧弱なところが多いということであります。また強いところでは、相手方の経営能力とにらみ合せて、差しつかえのない限度においてこれをプラスにするということができる。それを制度だけに全部きめてしまわねばならないかということが、どうも僕にはちょっとわかりかねるのです。
  96. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 稲葉さんの調べられたところによると、組合があっても、やはり業者間協定を結んでおりますか。
  97. 稲葉秀三

    稲葉公述人 私がずっと調べましたところ、組合があって作っているところもあります。しかし、大部分のところはやはり組合がなかったです。
  98. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 藤本さんにお尋ねいたしますが、日本賃金構造、ことに賃金格差、これはどういうところに特徴があるでしょうか。たとえば今度の法案では、事業もしくは職業の種類、こういうことで地域を除きましては事業の、種類、職業の種類、こういうことになっておりますが、日本では職業とか事業、あるいは大きくいえば産業別賃金というのは非常に賃金格差が大きいのか、あるいはまた規模別な格差が大きいのか、日本賃金構造の特質はどういう点にあるか、これを調べられた範囲でお聞かせ願いたいと思います。
  99. 藤本武

    藤本公述人 お答え申し上げます。一般的に申し上げますと、賃金格差はすべての面で世界一大きいんじゃないかと実は思います。男女別の賃金格差は、外国では大体三〇から四〇%くらいな格差ですが、日本でには大体五五%くらいの格差になっております。それから産業別格差は、主要諸国ですと、一番賃金の低い産業を一としまして、高い産業が一・五から一・八くらいなんですが、日本は大体二・九くらいなんです。それから年令別の格差も、これは非常に大きいということは事実でございます。それから地域別格差も、イギリス、フランスなんかに比べますとはるかに大きい。格差としますと、いろいろなものがあるのですが、それ以外で一番先ほどから注目されておりますのが企業規模別の格差なんです。企業規模別の統計が割合少いものですから、正確なことは申し上げられませんが、スエーデンの場合には、五百人以上を一〇〇としまして大体一人から十人の企業賃金が九〇くらい、たった一〇%くらいしか賃金格差はございません。イギリス、アメリカのは、先ほどもだれかおっしゃいましたし、いろいろな資料に載っておりますので繰り返しませんが、フランスあたりで、私がある本で読みましたのでは、金属産業の場合には中小と大で基本賃率については全然差がございません。ただ奨励加給が幾分違うという程度の格差しかない。この点で日本はアブノーマルに賃金格差が大きいというのは、私は一つ労働組合運動にあると思う。つまり向うの労働組合は統一的な団体協約をいつでも結びますから、企業間の格差ということが自動的にその過程で縮小していくわけでありますが、日本企業別に結びますから、その格差が縮小するというよりもむしろ拡大する傾向がある。こういう点が一点。それからもちろん産業構造が違うということも一つあろうかと思います。その点になりますと、詳しく申し上げますと時間がありませんので、それからまた一般にも言われておりますから繰り返しません。それからもう一つは、やはり最低賃金制の問題であります。私、最近見ましたのでは、イギリスでもフランスでもアメリカでも、最低賃金制ができる前とあとで、企業間の賃金格差というのが相当大幅に縮まる。こういうところから見ましても、私は、日本企業間の賃金格差が大きいというのは、やはり最低賃金制の欠如というものが相当大きな役割を果しているんじゃないかと思います。従って、最低賃金制がない場合の賃金構造を固定的に考えて、そうしてこれは一指も染めることができない、従って、それに賃金格差が自動的に縮小するようなそういう経済的な政策が先行して、そのあと最低賃金制がついて回るというのじゃなくて、むしろ最低賃金制を先行させて、そうしてそのすぐあと経済政策でそれを受け入れるような諸条件を作っていく、こういう行き方が妥当だし、また諸外国でも私はそういう方法をとっているんじゃないかと思っております。
  100. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 最低賃金を非常に研究なさっておりまする藤本さんにちょっとお尋ねいたしたいのですが、最初最低賃金が制度としてり行われたところでは、家内労働とかあるいは未組織労働者、ことに未組織労働者でもきわめて低い賃金労働者、こういうところから、だんだん組織労働者にもやはり最低賃金という要求が起っておる。日本では、われわれが苦慮しておりますのは、組織労働者にも最低賃金の連動が起っておる。これは最低賃金の歴史からいいますと、日本では初めてのような要素があるかと思えば、非常に後の要素もある、こういうような状態になっておるわけです。そこでフランスあたりが、なぜああいうように変化して、そうして終りに組織労働者、全国一律というような運動になったのか、こういう点、最低賃金を歴史的に、あまり時間もないので概略お話し願いたいと思います。
  101. 藤本武

    藤本公述人 お答え申し上げます。時間がありませんのでごく要点だけ申し上げます。フランスでは、一九一五年に家内労働法通りまして、家内労働者だけの最低賃金が決定することになったわけです。ところが一九二九年の大恐慌のあと賃金が低下しまして、一九三六年に人民戦線政府ができましたときに団体協約法が成立したのであります。この団体協約法というのは、日本にもあります労働組合法の第十八条と性質は同じなのですが、統一的な団体協約を結びましたときに効力拡張をする、こういうような規定ができた。その場合に、効力拡張を受けました団体協約は約四百というように私記憶しておりますが、それくらいなものが受けまして、それで相当数の方がその最低賃金制の恩恵を受けた。それからそのあと、戦時中になりまして賃金統制になって、それから戦後、賃金統制の最低賃金の統制だけが賃金命令として残りまして、それがずっと続きまして一九五〇年に団体協約法いうのが新しくできまして、その中で、一九三六年のような団体協約の効力拡張の規定と同時に、全産業、全職業的、全国的最低保障賃金というのを、一つの諮問委員会でございます団体協約高等委員会という労使代表と中立が参加します機関で審議をして、その結果を閣議において政府が決定する、こういうような形の統一的な、全国的な最低賃金を決定するということになったわけであります。この現在の立法に移ります前に、結局戦時的な統制があったというのが、一つはそれをやりやすくしたということと、それからもう一つは、それをはずされると困るというので、労働組合の方で相当反対があって、それをもう少し民主的な形で全産業的な最低賃金をきめる、こういうような主張が強かったものですから、今のような形になったのじゃないかと思います。簡単でありますが、一応これで終ります。
  102. 森山欽司

    森山委員長 滝井義高君。
  103. 滝井義高

    ○滝井委員 これは稻葉先生にお尋ねしたいのですが、最低賃金の原則として労働者の生計費を参考にする場合に、一体どういう程度のものを基準にしてとるかということなんです。いろいろ今までの答申案をやられる経過において、どういう程度のものをとることが議論されたのか、それを一つお教え願いたいと思います。
  104. 稲葉秀三

    稲葉公述人 お答え申し上げます。中央賃金審議会と起草小委員会におきましては、今御質問の件に関しましては、はっきり申しますとそれほど具体的な討議はなかったわけであります。一応私たちが了解をするのは、やはりその時、その土地の生活費というものが、当然最低賃金の場合においては考慮対象になるべきじゃないか。しかし、具体的に、たとえば生計費としてどういうものをとるか、マーケット・バスケットをどうするかといったような技術的な点につきましては、それを詰めて政府意見を申し上げるという時間的余裕がございませんでした。
  105. 滝井義高

    ○滝井委員 最低資金というからには、当然最低の生活費が問題になってくると思うのです。その場合に、人間の基礎代謝プラスそれぞれの労働によって消費されるエネルギーの率が違ってくる。それに加えて、同時にある程度文化的な生活というものが考慮されなければならぬと思うのです。そうしますと、原則の第一に労働者の生計費を考慮するからには、日本最低賃金を決定する場合、その平均的な最低の基礎は政府がある程度出す必要があるのじゃないかと思うのです。そうしないと、中央賃金審議会で何か諮問が出て決定をする場合にも、政府にものさしがないと非常に労働者が不安定になるわけです。そこらのものの考え方を、マーケット・バスケット方式をとるとかいろいろあると思うのですが、何か先生個人としてこういうところをとることが妥当だろうというようなお考えがあればお聞かせ願いたいのです。  それからもう一つは、藤本先生になるかと思いますが、労働科学研究所でそういう研究をわれわれ学生の時代からしておったと記憶しておるのです。最低賃金の基礎となる労働者の生計費というものを科学的に見た場合、一体どういう程度に学者として見ているのか、それを経済的な面からは稻葉先生に、生理的な面から藤木先生にお尋ねしたいのです。
  106. 稲葉秀三

    稲葉公述人 お答え申し上げます。これは私個人意見でございますけれども業者間協定地域別にやる場合においては、一律の場合に比べますとやはり生計費というものに対するウエートの置き方はだいぶ軽くなるのじゃないか、こういうふうに考えます。  第二に申し上げたい点は、たとえば現実に最低賃金対象になるいろいろな産業や事業を調べますと、働いておられる方が家計補給的と申しますか、つまり自分が働くのじゃなくて出かせぎに来るとか、あるいはおやじさんがどこかに働いているのだけれども出てくるとか、そういった要素がやはり入っているのでしょう。しかしそれは漸進的にだんだんなくなってくることが望ましいのです。ですけれども、現実に、先生方が御存じのように、自律的なものがなければそういうようなところでも働こうという形が出て、それが日本家内工業中小企業というもののささえになっているということは免れがたいと思います。そういう事実を考慮いたしますと、漸次段階的に、つまり、働いておられる方々に対しまして一律に支給をするというところから最低賃金を積み重ねていくことは、あまり現実に引きずられ過ぎるということになるかもしれませんが、やはりむずかしいところではないか、こういうふうに考えております。  もう一つ申し上げたい点は、それでは問題をもとに戻して、十八才あるいはその他の賃金ということになりますれば、生活保護費をもう一ぺんスライドさせてやるのが最低限のものとして望ましい形ではないか、こういうふうに考えます。  もう一つつけ加えたい点は、ともかく日本の憲法では最低生活というものが保障されることになっている。憲法が作られたとき一体この問題はどういうことになっていたのかということなしに、今度賃金になったときにすぐこの問題が出ることの間に断層があるではないか。こういうふうに考えます。  もう一つ日本の現状を見ましたとき、やはり総体的の経済力と最低賃金との関係、こういう問題がやはり究明されなければならないのではないか、こういうふうにも考えます。
  107. 藤本武

    藤本公述人 お答えいたしますが、御質問のありました最低生活費の問題は、ずっと前に御質問があって、井堀先生にお答えいたしましたので、速記録をお読みいただきたいと思います。
  108. 滝井義高

    ○滝井委員 どうも、途中で立っておったものですから。井堀さんの質問途中聞きそこなって失礼いたしました。今稻葉先生の御答弁の中の、個人見解として、生活保護費をスライドさせるというのは、日本最低賃金をきめる場合に一つの有力な足がかりとなる。そして、今現実に行われているのは生活保護費だと思うのです。日本国民年金制度を作ろうという場合も、やはり老後の保障ということで問題となってくるのは、有力な足がかりとしては生活保護費だと思うのです。そうすると、先生はフェビアンの方で、フェビアンの久保さんのあれを見ても、やはり老人で月三千円は必要だという見解が出てきておるわけです。純粋の生活費だけを見ていっても、労働力のある若い十八才くらいの人ならば、食うだけでやはり四千円は保障しなければならぬということは生活保護費から見て――生活保護費の調査の仕方もいろいろ問題がありますが、やはり四千円だと思います。われわれ今回軍人恩給、公務扶助料の問題を論議する場合、社会党立場として四千円が最低だ、つまり四万八千円、それに一人の扶養者があれば、遺族は〇・八であったのですが、一人四百円としている。四千八百円だから五万二千八百円程度のものが最低のものとして必要だ。これは実際文化的なものを加えず、食っていくだけである。そうすると、近代的な労働者としてある程度技術を身につけ、近代的な国民としての教養をつけていくと、やはりそこに家屋費その他のものもある程度加えていくと、五、六千円というものは、科学的に今の生活保護を基礎に置いて――あれは非科学的だという学者も相当あるのですが、あれを科学的と見てもその程度のものは必要となってくると思うのですけれども、この点は今生活保護費というものを先生がお出しになったことはまあその程度のことは先生もお考えになっているのではないかという感じがするのですが、その点どうですか。
  109. 稲葉秀三

    稲葉公述人 先ほど申し上げましたように、一律的な賃金の場合におきましてはおそらくそういう点が非常に大きな問題になると思います。藤本先生が先ほどおっしゃいましたけれども、生存線四千円といったようなところは仏も同感で、できれば四千円、もっとそれ以上の一律的な最低賃金制日本に普及させたい、こういうふうに思うのです。ところが先ほど現実的に申しまして、私たちが調べますと、つまり家計補給的な働き方というものがあり。そういたしますると、やはり一番大きな問題は、むしろ私がぜひとも社会党の皆さん方にも訴えたいことでございますけれども、できれば内職を含んだ家内労働と、それから中小企業の方についてでき得る限り、場合によってはその従業員を減らすということはやむを得ないのですけれども、そこをまず何とか初めに断ち切っていく。それを場合によっては賃金で保障するというやり方があるか、あるいは別個の社会政策として保障するというやり方があるか、これはどちらかよくわかりませんけれども、そうしてやはり下から漸進的に積み重ねていただきたい。実は家内労働と何かの問題を僕らが強く出しましたのはそういうことだったのですけれども、なかなかこれが現実的にできない。従ってその賃金が、日本の家族制度もあって、非常に経済が低くて人の多いところは、共かせぎ的な家計ということになりがちなんですね。だから完全雇用に行くまでのいろいろな過渡的な段階においては、それを一方においては漸進的に産業政策や社会保障をかみ合せながらやっていくという措置がどうしても国の経済政策として必要ではないか、こういうふうに考えます。そうするとだんだんやはり貸金が近代化して、その人が生きていくといったようなところへ近づいていくのではないかというふうに、これは賃金審議会ではそこまで問題は進まなかったのですけれども、私個人としてはそう思っております。
  110. 滝井義高

    ○滝井委員 これで終りますが、産業政策とそれから社会保障とのかみ合せの問題ですが、今日本の資本主義発展の形態を見てみますと、さいぜん先生は二重構造の問題を言われたのですが、多分中山先生だったと思いますが、資本主義はだんだん独占化の傾向を日本でたどっている。ところが中小企業の数が、独占化をたどるとだんだん減って、そして大きい資本ががっちり蟠踞していくだろうというのが常識的な考え方だったのだが、実質的に日本企業集中過程における中小企業状態を見てみると、拡大再生産されているのだ。中小企業はますますふえつつあるというのが現状なんだということになりますと、家計補給的なものがますます実は拡大再生産されてくる情勢がある。そういう中でこの業者間の協定をやるということになると、それがいわば最低賃金が最高賃金のような形で固定化してくる。そうすると一方それをてこ入れするために社会保障をやるんだといっても、実際社会保障ができないという矛盾が起ってきているのですね。たとえば今国民皆保険をやらなければいけない、年金制度をやらなければいけないといっても、現実の出かせぎに行く日本の農村の労働力というものは、もはや壮年はみんな出かせぎの兼業です。そうして農村に残っているのは婦人、老人ばかりですね、農業労働をやっているのは。そうしておやじさんもみんなどこかに出かせぎに行っているという状態です。そうしますと、農村においても出かせぎをしなければ、農業だけで食っていけないという状態で、社会保障をやるために、たとえば皆保険をやるための探険料と年金の掛金が払えるかというところが払えないという状態です。それから零細な中小企業が、資本主義の進展で再生産をされると、ここでもさいぜんも石田さんがおっしゃっておったのですが、われわれのところで社会保障を作れというけれども、五人未満のと零細企業には今度失業保険ができるだけで、健康保険もいかない。じゃそれらのものを国民保険に入れた場合に、国民保険の保険料が払えるかというとこれも払えないといいますと、業者問の協定ができて、賃金はくぎづけされる。社会保障を作らなければならぬけれども社会保障はできない、こういう矛盾が起ってきます。そうしますと何かここで、政治権力といってはおかしいけれども、やはり政府が何か責任を持った最低賃金のてこ入れをやる以外に現在の日本の資本主義の進展の状態からほとんど不可能ではないか。国ではなるほど社会保障を作れ、中小企業対策をやれと言うけれども、もはや中小企業対策以前の状態が――家内工業や何かでは中小企業対策ではいかないですね、実際は。そこで何かはかのもののてこ入れが必要だということになると、今の日本で考えられるてこ入れというものは、いろいろ分析した結果、一律の最低賃金制度以外にはないのじゃないかという感じがするのですが、その点どうお考えになりますか。
  111. 稲葉秀三

    稲葉公述人 私は御存じのように小委員長としてこの答申案をまとめたんですけれども個人的にもこういう考え方で一応日本の現状を考えれば合理的じゃないかと考えました一つの基礎は、案外日本の場合におきましては所得と賃金の全体としての上昇の幅が少いというふうに考える。これはほかの先生方と違いますので、その点はほかの意見もあるということを排除いたしませんけれども、大体国民総生産の六〇ないし六一%が日本では国民の消費になっているわけです。この比率は西ドイツよりもはっきり申し上げますと高いわけです。イギリスよりは低い。そてして他方日本は今後経済を発展いたしまする場合に、道路とかそれから基礎施設その他を充実していきませんと、あとの発展につながらない、こういったようなやはり非常に大きな問題があるわけです。そうしたような段階においては国民総生産に占める消費の比率を六五とか七〇に上げて、あとの投資とか財政の比率を落すということは一時的にはプラスでありましても、場合によっては先使いをするという心配がある。もう一つ申し上げたい点は、私はやはり賃金というものは上れば上るほど国内に市場を作るのですから非常にけっこうなことだと思います。しかしその場合日本において特に考慮しなければならない点はやはり国際収支と物価でございます。だから国際収支と物価とそれから貯蓄という限界以上にふくれ上りますと、やはり何らかの形においてそれがマイナスの要素と考えられる。そういたしますると、一番望ましい形はやはりある程度下の方を上げてそうしてやや所得そのものの平衡作用をするということが、日本の場合においては経済全体のことを考えながら非常に合理的じゃないか。その意味におきまして私は税制調査会におきましてもたとえば高額累進税を取ってはどうか、あるいは高額相続税を付するということもやはりやむを得ない。そうしてそういったような財政やいろいろな余力において、もっと家内労働とかその下の方の人々の所得を上げていくという形がやはり合理的じゃないか。本来国民総生産に占める消費の比率の割合の低いときには、経済政策労働政策としては思い切って所得を増加をして国内で購買力を与えてやるという方式が成立するのですけれども、どうもそういったような限界が日本ではあまり見当らないのじゃないか。やはり賃金も上げたいし、道もよくしたいし、それから港湾もしたいし、同時に日本の化学工業や機械工業を充実して、そうして次の国際競争に処していかねばならぬといったような多元的な考慮が、これは自民党が与党の場合も社会党の政権の場合においても同じ問題として出てくるわけです。そういったような経済論理に立ちました場合において、確かに私は、ある一定の最低賃金考慮してこれだけは守るという線を主張したいのですけれども産業があまり複雑な形になっているということと関連しまして、やはり漸進的にしかそれができにくいのじゃないか、こういうふうに個人的には考え、その考え方が間違っているのかもしれませんけれども、一応これは、別に委員じゃなくて、いろいろな機会に私個人の所見を発表さしていただきましたときにもそういう考え方が基礎になっているわけであります。その点、確かに先生のおっしゃるように、ある程度基準を作り、政治では確かに国民最低生活を保障しなければならないのだから、何らかの形において強くやっていくという考え方は賛成なんですけれども、どうも折衷主議か相対主義ということになりますと、すぐにはそれが私個人としてはなかなか同意がしかねる、こういうふうに、つまり考え方がややその場が違うという意味で御了承願っておきたい。しかし別の考え方として、そういうことをやりながらそれから出山てくるマイナスを漸次なくすることにおいて国内市場の形成やその他をやれるという手が全然ないとは申しません。ただその場合においては、場合によっては非常に不測のマイナスを起すという傾向もあるのじゃないか、その点では私の考え方はやや慎重であり過ぎるというふうにおしかりをこうむるかもしれませんけれども、一応現段階ではそのように考えております。
  112. 森山欽司

    森山委員長 公述人方々には、本日ははなはだ長時間にわたりまして貴重な御意見を承わりまして、本委員会の審議に裨益するところまことに多大でありました。ここに厚く御礼申し上げます。まことにありがとうございました。  これにて公聴会を散会いたします。     午後五時三分散会