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石田公述人 私は最賃法が主として向けられておる
中小企業の
立場から
公述いたしたいと思うのであります。実は私は
昭和二十三年から商工
会議所の
中小企業委員会の副
委員長をし、その後
委員長をしておる者でありますが、この最賃法の問題につきましては、当時から
中央賃金審議会にも、
中小企業の
立場から人を出し、いろいろやっておったのでありますが、その当時においては、この最賃法に対しては、
中小企業は全面的に反対だったのであります。日商傘下の
中小企業者は、最賃法なるものは、全く事実を無視しておるという
考え方であったのでございますが、その後いろいろ
研究が進み、
中央賃金審議会の方の
意見もまとまって参り、二十九年には最後の
意見が一応出たのであります。私はその当時の
委員になっておりましたが、これもその当時には、まだ日商傘下のメンバーは、ほとんど全部が
最低賃金法というふうなものは、まだわれわれにとっては無理だという
意見が多数を占めておったのであります。しかし私
どもは、
日本の置かれているいろいろな事情から、輸出をどうしても
中心としなければならぬ。その場合にいろいろと諸外国の
考え方、ダンピングの問題その他から、最賃法は何とかのまなければならぬ、またのむ時期がくるのだという
立場から、実は
日本商工
会議所のメンバーを盛んに説いたのであります。そして二十九年の当時において、
政府に対して
中央賃金審議会から、十分な
中小企業対策をやってほしいという要望が出ましたので、当然これについておやりいただけるというふうな
考え方から、
政府の出方を見ておったのでありますが、これがあまり進まないうちに、今回
中央賃金審議会が再開されるようになりまして、あらためて私
どもが
中央賃金審議会の
答申を出さなければならないような事情に立ち至ったのであります。そして私
どもは二十九年の五月に出まして以来、実は各地を回りまして、
最低賃金というものはやむを得ないものだ。方法はいろいろあるだろうが、何とかのまなければならぬという教育をやって参りました。そして、その形によってはやむを得なかろうというところまで、今日までようよう
努力して持って参ったのであります。ただし下部においては、全く最賃法に反対する
中小企業者が、相当多かったことは事実でございます。この点から私
どもは、この
政府提案の
最低賃金法案について、いろいろ問題はあると思うのでありますが、ただ現状ではやむを得ない。先ほど
滝田さんから、
政府の方針は全労にとっては
最低線だというお話が出たのでありますが、私
ども中小企業にとっては逆に、これはやむを得ない。
日本がガットに加入し――輸出の面で
中小企業は六〇%をもっておるそうでありますが、これらの姿から、何とか物を買ってもらわなければならぬ
立場、そのときにダンピングというそしりを受けないという、それらの点においてもやむを得ない。ことにILOの問題もありますので、どうしてもこれはやむを得ない。これはわれわれとしては、どうしてものまなければならない最高線である。私
ども中小企業、特にこの
対象になるのは当然零細
企業が多いと思うのでありますが、それらの側から申しますと、これはやむを得ない最高線だ。これは
立場々々の相違であろうと思うのでありますが、逆なんだと、そのように私
どもは考えておるわけであります。
なお、先ほどからいろいろ
中小企業の
賃金は低い、
最低賃金制をしくことによって、直ちにこれが上り、同時に
企業がつぶれることも少いという御
意見もあったのでありますが、これは私はいろいろ問題があると思うのであります。
アメリカのように、物が豊富で国も広く、伸びている国は別でありますが、
日本のように狭く、敗戦というものを受け、しかも戦後十数年の間に、基幹
産業である大
企業に対しては非常な助成をやりましたが、
中小企業に対しては力が及ばなかった現状においては――ただいま入江
公述人からも生産性と
賃金の問題をお取り上げになったようでありますが、低い
理由は、生産性が低いからやはり
賃金も払えないというのがその姿であります。でありますから、私
どもは
最低賃金制の
実施に当っては、完全な
中小企業対策をやるということ。そしてこれの基盤となるために、
中小企業者に対しては組織をまず与えろということ。働く
労働者の皆さんには、一応労組法その他で組織が与えられておりますので、
中小企業にもやはり指導をして、組織させる必要があるのではないかという要望をし、同時にこれらの
最低賃金法――現在
政府提案のものも、私
どもから見ると最高線だと思うのでありますが、これを
実施するに当っては、やはりどうしても被害を受ける零細
企業が出てくるであろう。そのためには五人以下の
企業に対して
実施しておらぬところの社会保険制度を必ずやってほしい。それも、経営者と働く人
たちだけでなく、むしろ
政府負担を多くしたものをぜひやってほしいという要望をしたわけであります。そして団体法だけはどうやら通ったのでありますが、社会保険はまだ緒についたばかりで、ほとんど問題になっておりません。そうしますと、最賃法はやる、しかしその結果として町にほうり出された人
たち、先ほどの
公述人のお言葉の中に、倒れないというお言葉があったのでありますが、今この姿は、やむを得ず生きておるようなことでやっておるのであります。これらを救うことは、確かに私
どもは
日本としての大きな問題であろうと思うのでありますが、そういう姿であるということ。それを救うのには、簡単に一日では救えないということ。これらを見ていただきますと、必ず町にほうり出されるたくさんの零細
企業者があると思うのであります。しかもそれに対しては何らしていないというふうな姿。こんな点を見ますと、現在
提案の最賃法でさえも私
どもは無理だと思うのであります。しかし、無理だから最賃法はやらなくていいかというと、そうは私
どもも思っておらぬのであります。まあ現在
提案されているような姿なら、これはやむを得なかろうというふうに実は考えているわけであります。
そして、この間において
業者間協定の問題がいろいろ出てきておりますが、私
ども中小企業者が作るところの
業者間協定というものは、まるで働く人をしぼるために作ったというような印象を受けておるのでありますけれ
ども、そうじゃないと思う。
業者問
協定の姿というものは、皆さんの方がよく御
調査の結果
御存じだと思うのでありますが、大体今出ております線は五千円前後でございます。一日二百円ないし二百十円。御承知の
通り高知県の石切りの
方々は一時間三十円でありますから、これは六千円であります。しかも、最近この線が徐々に上りつつあります。こういうふうな姿を見ましても、決してわれわれ
中小企業者が山椒太夫じゃないのであって、やはり社会のいろいろな目を感じながら
業者間協定を結んで、そしてよりよく出せるように
努力しているのだ、こういうふうに御理解を願いたいと思うのであります。あたかも
業者間協定は、働く人
たちをいじめるために、
最低の線を出しているというふうにお考えになっているように見受けられるのでありますが、逆にそうではなくて、
業者としては――いろいろなほかの原因もございます。たとえば零細
企業には人が集まらないというような点もあるであろうと思いますが、自分たらが出せる精一ぱいの線を
努力して出している。そして、やはりこれらがよくなることは、
日本の今後の働く人
たちにとっても、また
最低賃金制の将来にとっても決して暗い面じゃなく、明るい面だと思います。
社会党なり総評、全労の
方々の要望されている、八千円ないし六千円という線に、もうすでに近づきつつあるのであります。そしてこの姿も、私
どもは
経済の実際に動く姿によってそうあるべきが当然だと、かように考えておるのであります。
アメリカの例その他いろいろ出たようでありますが、
アメリカの例は、皆さんの方がよく
御存じのように、一時間一ドルでございます。
日本の短期労務者がカリフォルニアに参りますと九十五セントだそうでありますが、そのように、
アメリカでも一時間一ドルは低い線であります。私は機械屋でありますが、機械の職員と申しますのは
アメリカでは大体一ドル六、七十セント前後、中には、特に花形その他で優秀な者は、三ドルから四ドル取っております。そういたしますと、一ドルということはずいぶん低い線であります。私がロサンゼルスで低
賃金労務者の住宅を見ましたとき、どういうふうな人が住むのかと言って聞きましたところ、これは月収百六十ドル以下の人ですというようなお言葉がございましたが、このような点を見ましても、私は一時間一ドルというものは決して高くない、低い線なんだ、こういうふうなことで――一律ということは、果して是か非か問題があろうと思いますし、また私
ども仄聞しているところによりますと、フィリピンがやはり一律をしいておるそうでありますが、これがたしか四・五ペソですか、そういうようなことになっておるように聞いておりますが、これは逆にいささか高いために小さな
企業が成り立たないというので困っております。こういうふうに最賃の一律という問題にもいろいろ問題があるのじゃないか。しかもその後私
どもがいろいろ
研究しておりましても、おのずと
業者間協定というふうな姿の中にいろいろな線が出ましても、やはり
一つの線が出つつあるように思うのであります。そうして問題は、この
最低賃金制の善悪よりも、むしろ
最低賃金制をしくことによって被害を受ける者――
中小企業ないし零細
企業のものでありますが、これらの
立場の人
たちをどうして救うか、今日まで
企業を継続しながらも、何とか乏しい設備と乏しい
賃金でやって、わずかな人でも雇用を続けてきた人
たちが、この
最低賃金制をしかれることによっておのずと説落する人が出てくると思うのであります。この脱落する人々を救っていく、この方に問題の重点があるのじゃないかと私は考えるのであります。
最低賃金制のこの
法案そのものに対しては、私
どもはそのような見地から、いろいろ批判する問題はあると思うのでありますが、これはやむを得ないと思う。世界の目が
日本の
賃金というものに注がれておる今日、本来を申せば、われわれと事情を一にしておるイタリアがまだ
最低賃金制をしいておらぬ
実情からしても、私はまだ早いと思うのであります。早いと思うのでありますが、イタリアはヨーロッパに対してまだ
労働者を出すこともできまするし、
アメリカも年々相当の移民を受け入れている。こういうような国と、
日本のように、とにかく移民はできず、輸出をするよりほかに道のない
国家では、やはり世界の目をいろいろと考えてやらなければならぬ。そうすればこの程度の、われわれにとっては無理であるとは思いながらも、やむを得ず引き受けなければならぬという
実情を、むしろ私
どもとしては
中小企業者及び零細
企業者にPRをしておるのであります。そしてのみ込めないというものを、これをしないとかえって脱落するのだということ、そしてこの
最低賃金制の結果としては、私
どもははっきり申すと、
中小企業の中の
過当競争の
一つのブレーキになると思う。これは私はいいことだと思う。いいことだと思いますが、その
過当競争をこれによってある程度まで防げると同時に、その線以下にある
方々は必ず説落してきます。こういう点に私はずいぶん問題があると思いますので、私
ども中小企業者としましては、
最低賃金制のこの
法案に対しては、批判はありながらもぜひやっていただきたいということが
一つと、そういうふうないろいろな外の問題から、同時にむしろ問題は、これによって出る
中小企業者及びそれに付随するところの働く人
たちに、この
法律がしかれることによって起きるいろいろな問題がすでに予測をされますので、この方へぜひ
政府で力を注いでいただいて、いろいろな社会保険あるいは失
業者の救済の方法その他をぜひやっていただきたい。それと同時に、この
法律がしかれるとともに、今までより以上に
中小企業に対しては、設備の問題あるいは資金の問題その他で、
最低賃金制が漸次しかれながらも十分たえられるように育成をしていただきたい。このようにお願いをしたいわけであります。よろしくお願いいたします。