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1958-04-23 第28回国会 衆議院 社会労働委員会 第41号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年四月二十三日(水曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 森山 欽司君    理事 大坪 保雄君 理事 田中 正巳君    理事 野澤 清人君 理事 八田 貞義君    理事 滝井 義高君 理事 八木 一男君       逢澤  寛君    秋田 大助君       小川 半次君    大橋 武夫君       加藤 精三君    加藤鐐五郎君       亀山 孝一君    草野一郎平君       倉石 忠雄君    小島 徹三君       小林  郁君    佐々木秀世君       薩摩 雄次君    田子 一民君       中山 マサ君    長谷川四郎君       福永 一臣君    藤本 捨助君       古川 丈吉君    保利  茂君       山下 春江君    赤松  勇君       井堀 繁雄君    岡本 隆一君       五島 虎雄君    多賀谷真稔君       山花 秀雄君  出席国務大臣         内閣総理大臣  岸  信介君         労 働 大 臣 石田 博英君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         労働政務次官  二階堂 進君         労働事務官         (労働基準局         長)      堀  秀夫君  委員外出席者         専  門  員 川井 章知君     ————————————— 四月二十二日  委員椎熊三郎辞任につき、その補欠として大  橋武夫君が議長指名委員に選任された。 同月二十三日  委員加藤常太郎君、加藤鐐五郎君、亀山孝一君  小島徹三君、福田赳夫君、松浦周太郎君、松村  謙三君及び亘四郎辞任につき、その補欠とし  て長谷川四郎君、薩摩雄次君、秋田大助君、保  利茂君、福永一臣君、逢澤寛君、佐々木秀世君  及び加藤精三君が議長指名委員に選任され  た。 同日  委員逢澤寛君、秋田大助君、加藤精三君、佐々  木秀世君、薩摩雄次君、長谷川四郎君、福永一  臣君及び保利茂辞任につき、その補欠として  松浦周太郎君、亀山孝一君、亘四郎君、松村謙  三君、加藤鐐五郎君、加藤常太郎君、福田赳夫  君及び小島徹三君が議長指名委員に選任さ  れた。     ————————————— 四月二十二日  国民年金法案八木一男君外十六名提出衆法  第一五号)  調理師法案参議院提出参法第一五号)  労働基準法の一部を改正する法律案藤田藤太  郎君外六名提出参法第一七号)(予) の審査を本委員っ会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  最低賃金法案内閣提出第五七号)  最低賃金法案和田博雄君外十六名提出、第二  十六回国会衆法第三号)  家内労働法案和田博雄君外十六名提出、第二  十六回国会衆法第四号)  国民年金法案八木一男君外十六名提出衆法  第一五号)      ————◇—————
  2. 森山欽司

    森山委員長 これより会議を開きます。  昨二十二日付付託になりました、八木一男君外十六名提出国民年金法案議題とし審査を進めます。提出者より趣旨説明を聴取することにいたします。八木一男君。     —————————————
  3. 八木一男

    八木(一)委員 私は日本社会党を代表して、ただいま議題と相なりました国民年金法案に関して、提案の趣旨並びに理由を御説明申し上げるものであります。  戦後わが国国民平均寿命は大いに伸び、六十才まで存命した人の寿命は、男子七十四才、女子七十七才に達しております。従って人口老齢化現象が進み、総人口に対する比率も、絶対数もともに相当に増加し、さらに増加する趨勢にあります。大勢の人が長生きをすることができるようになりましたことは、まことに喜ばしいことでありますが、生産年令人口もまたぐんぐんふえておりますので、老人が仕事につく機会は大幅に減ってきております。また現在の老人が、老後に備えてたくわえた貯蓄の価値は、貨幣価値変動により無価値にひとしくなっており、まことに気の毒な状態にあります。  現行民法は、扶養義務を明確に規定してあるのでありますが、家族制度改革によって、親に対する扶養義務がないとする誤まった理解が行われて、老人を心細がらしており、さらにわが国国民生活の貧困は、親孝行な子供たちにも十分な親孝行ができない状態に追いやっており、老人生活はまことに暗たんたるものがあります。長くなった余生を楽しむという理想とは、ほど遠い状態にあるわけであります。  さらに母子世帯においては、年収十八万円未満のものが全体の九〇%も占めており、まことに困難な状態のもとに子女の保育が行われております。  身体障害者に至っては、障害のため特殊な出費があるにかかわらず、所得機会には恵まれないで、その大部分最低生活の維持すら困難な状態にあります。  このような事態を救い得る制度が、年金制度であることは申すまでもございません。ところがわが国年金制度は、一部勤労階級に適用されているのみで、大部分国民はそのらち外に放置されております。勤労者の場合も、恩給と公企体共済組合適用者のうち、高給者であるものを除いては、厚生年金等すべてがはなはだ程度の低いものであり、また通算がほとんどないという不備なものでありまして、老後を安心させ得るものではありません。  このような状態にかんがみまして、昭和二十五年社会保障制度審議会の勧告が出たわけでありますが、自後四代の保守党内閣が、何らの推進もしなかったことは、まことに怠慢きわまるものといわなくてはなりません。  わが党は、以前より年金制度の必要を痛感し、その完成を主張して参りました。一昨年呼び水の意味では、慰老年金法案母子年金法案提出いたしたのでありますが、昨年全国民のための総合的な、根本的な年金制度を研究し、国民年金要綱を発表して、その基本法として、この画期的な本国民年金法案提出した次第であります。  以下膨大な内容の要点を抽出して御説明いたしたいと存じます。  内容は、現在直ちに年金を必要とする老人母子家庭身体障害者に対して無拠出、すなわち一切の掛金、負担金なしに支給して、これらの人の生活を援助する特別国民年金制度と、現在の青壮年あるいは以後続く国民に対して、一般財政よりの国庫負担と、特別会計国民が納入積み立てる資金をもって、その老齢廃疾あるいは遺族に対する完全な生活保障をするための、根本的な制度である国民年金保険制度とに分れております。  まず最初特別国民年金の方から御説明いたしますと、これはさらに養老年金母子年金身体障害者年金の三制度に分れております。  養老年金は、本人年収七万二千円以下の老人支給されるものでありまして、六十才から支給を開始するものであり、六十五才から倍額にいたしまして、自後一生涯毎年同額支給いたすことにいたしております。年収十八万円未満家庭老人には、その金額は六十五才以後に年二万四千円になり、従って老夫婦の場合は、毎年四万八千円が支給されることに相なります。年収十八万円から三十六万円の家庭は、右の半額支給されるわけであります。  母子年金は、二十才未満子女を有する母子世帯に対するものでありまして、年収十二万円未満母子家庭年額三万六千円を支給し、子女が二名以上の場合は、第二子から一名につき年額七千二百円の加算をいたすことになっております。年収十八万円未満母子家庭は、基本額加算額ともにそれぞれ半額支給することにいたしております。なお配偶者のない祖母、姉等子女を保育する場合も支給することにいたしております。  身体障害者年金は、廃疾程度によって支給金額が異なっており、年収十二万円未満身体障害者に対し、一級の場合は年額四万八千円、二級の場合は年額三万六千円、三級の場合は年額二万四千円を支給し、加算は、等級にかかわらず一名につき年七千二百円ずつ支給することに相なっております。年収十二万円ないし十八万円の世帯身体障害者に対しては、基本額加算額ともにおのおの半額支給することといたしております。  以上養老母子身体障害者の三年金、すなわち特別国民年金制度の全般を通じて申し上げておくべきことは、まず三年金とも収入により給付を制限いたしておりますが、最初に適用されなくとも、後に本人または世帯収入が不幸にして減少した場合は、そのときから適用されるわけでありまして、その意味で全国民のものということができると考えているわけであります。次にこの三年金は全然税金対象とせず、また生活保護完全併給とすることにいたしておりますので、以上申し上げた金額が、完全に全額対象者の手に入ることに相なります。さらに三年金に関して世帯収入境目について不均衡が起らないよう、細目の規定をいたしておりますので、先ほど申し上げました金額のうち、境目では幾分の増減がありますことを申し添えておきます。  次に将来に備える根本的な国民年金保険について申し上げます。本制度は、第一に現在五十四才以下の全国民対象として強制適用するものとすること、年金額は健康で文化的な最低生活保障するものとする、国民の受益をできるだけ公平にする、現行制度により得ている既得権は尊重するという四つの原則により作り上げられたものであります。この国民年金保険は、一般国民年金保険労働者年金保険に大別され、それぞれ老齢年金廃疾年金遺族年金給付があります。主として老齢年金給付につき御説明申し上げることとし、まず一般国民年金保険より御説明申し上げます。  この制度はすべての農民、漁民、商工業者、医師、弁護士のような職業の人、あるいは無職の人、または労働者家庭も含めた全家庭の主婦、そのような労働者本人以外の全国民対象とするものであります。年金額は全部一律で六十才から一名につき本制度完成された暁には、年八万四千円ずつ一生涯支給をされます。従って老夫婦の場合は十六万八千円になるわけであります。この場合もし本人が六十才より早く、またはおそくから支給を受けたいと希望する場合は、五十五才から六十五才までの間において、希望の年からそれぞれ減額、あるいは増額した年金支給することができるようにいたしております。国はこの八万四千円の年金給付の五割を負担し、支払いの年に特別会計に払い込みます。また別に特別会計で積み立てておくため、被保険者の属する世帯主に対し保険料一般国民年金保険税として徴収いたします。保険税施行法で定めることにいたしておりますが、大体一名平均月百六、七十円に相なる計算であります。国民健康保険税の例のごとく、所得割、収入割、平等割考え方で徴収すべきものと考えておりますので、収入少い人はかなり安くなる見込みであり、さらに納入困難あるいは不能の人については減免をいたすべきものと考えております。廃疾年金の場合は、一級養老年金と同じ、二級は四分の三、三級は二分の一に相当する金額支給することにいたしております。遺族年金老齢年金半額子供一名につき年一万四千四百円の加給をつけることにいたしております。以上で特に申し上げておかなければならないことは、年金については課税の対象としないこと、並びに年金額スライド、すなわち物価変動に応じて改訂されることであります。この場合保険税スライドされるべきであることは当然でございます。  次に労働者年金保険について申し上げます。本制度はあらゆる職種の労働者本人に適用されるものであって、五人未満事業所労働者日雇労働者山林労働者等にも適用されます。老齢年金については、完成した場合一般国民年金保険同額の八万四千円を基本額とし、それに標準報酬額に比例した金額をつけ加えます。現在の賃金水準平均六万三千円になる計算でありまして、合計平均十四万七千円に相なります。従って将来賃金水準が上った場合には、この平均額上昇いたします。年金額が高いのですから、保険税一般国民年金の場合より高額になりますが、この税金使用者半額以上を負担することに相なっておりますので、被保険者負担はあまり高くなりません。この労働者年金の特徴は、異なる事業所間はもちろん、一般国民との間にも完全通算をすることでありまして、基本額の八万四千円は何回職業がかわっても完全に確保され、平均六万三千円の賃金比例部分は、二十才から五十四才の間に労働者であった期間だけの割合で、それがたとい一年であっても加算されるわけであります。労働者年金会計への国庫負担率は二割であります。これは十四万七千円に対する二割でありますので、八万四千円に対する割合に換算いたしますと、約三割五分になり、将来賃金水準上昇考えると、完成時には大体五割程度となり、一般国民年金と実質上同程度のものと相なるわけであります。その他繰り上げ減額年金、繰り下げ増額年金制度、非課税、スライド保険税減免また廃疾遺族給付については一般国民年金と同様の内容と相なっております。  以上は一般国民労働者、両制度について完成時のことを申し上げたわけであり、一ぺんにそこまで達するわけではありません。二十才から五十四才まで、保険税を徴収するわけでありますから、現在五十四才の人は一年分しか保険税を納入いたしませんので、その人の六十才から支給される老齢年金は無醵出の養老年金より幾分よくなる程度であります。しかし一年でも保険税を払っておりますので、支給する際の収入による制限はなく、どんな金持でも支給することになります。反対減免を受けた人でも無条件で支給されることになっており、完全に全国民支給されるわけであります。五十三才の人はまた年金が幾分ふえて、だんだんと増加して三十五年後に完成するわけであります。御参考に途中の年金額を申し上げますと、現在三十五才の人は二十年保険税を納めるわけで、一般国民年金では年間四万八千円、労働者年金では八万四千円になる計算であります。  以上が本法案内容の大綱でありますが、施行期日、他の年金との統合等の問題は別に施行法をもって規定するつもりであります。  本案施行に要する経費は、平年計算にいたしまして、その第一年度約一千百三十七億であります。これは現在年金を必要とする人たちに対する特別国民年金のため一般会計から支出を要する費用であります。第二年度以降四年間は、ごくわずかずつ増加するわけでありますが、五年度以降は現在五十五才の者が六十才になり特別国民年金の新たなる適用者はほとんどなくなりますので、自後逓減をいたします。一方五十四才の人が六十才になりますと、国民年金保険の人に対する給付に対する一般財政からの国庫負担が増して参りますので、両方が相殺されてなだらかな坂を作り、一般財政よりの支出はだんだんと増加して参ります。国民年金保険完成時の支出は六千億を越すものと推定され、それ以後は上昇の坂はごくゆるやかになり、やがて増加をしなくなることが推定されるわけであります。この将来の一般財政負担については、私どもは心配ないと考えております。と申しますのは、経済企画庁の計画によるわが国経済伸長率は毎年平均六%であり、その率で計算いたしますと、四十年後の日本経済は十倍に拡大することに相なります。従ってそのまますなおに推定すれば財政規模もまた十倍すなわち十三兆と推測することができるわけであり、その計画の半分しか経済拡大が実現できず、また経済拡大による財政規模拡大の半分を減税に充当したといたしましても、右の四分の一、すなわち約三兆の一般財政規模ということに相なるわけでありまして、そのうち六千億程度支出は、この年金法案内書が全国民に対するものでありまする以上当然であると、国民双手をあげて賛意を表するものと信ずるわけであります。この法案要綱は、わが党においてすでに決定、天下に発表いたしました。その後社会保障制度審議会よりその要綱を資料として提出を求められ、同年金特別委員会において検討されたわけであります。その進歩的な内容は、同小委員会草案作成のために大いに参考になった旨をつけ加えて感謝の意がわが党に対して正式に表明された内容のものであります。社会保障制度審議会における本問題の権威者も、この要綱には異論のある人はほとんどなく、ただ問題は、最初の一千百億余に政府が踏み切れるかどうかにあるようであります。しかし私は、全国民のすべてを保障する国民年金に対して、一千百億の支出双手をあげて賛成すると思いまするし、国民年金に積極的になっておると言われておる与党の諸君も双手をあげて賛成せられるであろうと期待するものでございます。  何とぞ慎重に御審議の上、迅速に御可決あらんことを心からお願い申し上げまして、私の説明を終ります。
  4. 森山欽司

    森山委員長 これにて趣旨説明は終りました。質疑は後日に譲ることといたします。     —————————————
  5. 森山欽司

    森山委員長 次に内閣提出最低賃金法案並びに和田博雄君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案を一括して議題とし、審査を進めます。  この際総理大臣がお見えになりましたので総理に対する質疑を許可いたします。総理は本日午前中本委員会におられるはずであったのでありますが、国民年金法案の都合によりまして若干御出席がおくれましたので、特に正十二時半までおられるようにお願いしておきました。質疑者が多数おいでになりますので、質疑は一人当り十五分以内にとどめていただくようにお願いをいたします。赤松勇君。
  6. 赤松勇

    赤松委員 今委員長がおっしゃいますように総理の時間がありませんし、なお同僚議員が後ほど御質問申し上げますので、簡単に質問を行いたいと思います。  まず第一点でございますが、本問題はILO条約にも関連がございますので、この際総理お尋ねしておきたいのですが、去る二月一日、私、党を代表いたしましてこの問題について総理お尋ねをいたしました。すなわち、ILO条約の八十七号の件につきまして、即時批准の用意ありやいなやを御質問申し上げた。その際総理は、目下検討中である、なおすみやかに善処をしたいという御答弁であったことは、速記の上に明瞭に残っております。しかるに今日まで二カ月になんなんとしておりますが、それについて政府の方の何らの意思表示がない。これに関しまして当時お約束下さいました、検討してすみやかに善処する、それは一体どういうことになっておりましょうか、お尋ねをしたいと思います。
  7. 岸信介

    岸国務大臣 八十七号の批准の問題につきましては、政府としてもなるべく批准の方向に向って検討を加えてきております。国内法との関係もあり、いろいろな点においてなお検討を要する点がありますので、目下労働懇談会に諮問をいたしまして、その意見労働大臣からの報告によりますと、だんだん進んできておるけれども、まだ結論を得るに至っておらない。従って本国会には間に合わない、こういうようなことでありまして、われわれとしては真剣に検討を続けております。
  8. 赤松勇

    赤松委員 労働問題懇談会結論はいつごろ出るようでございますか。
  9. 石田博英

    石田国務大臣 ただいま小委員会を設けて審議を進行していただいておりまして、時折非公式でございますが、その審議状況についてお話を承わっております。それから推察いたしますと、いつという明確な期限を切るわけには参りませんけれども、私といたしましてはかなりに早く結論を見るに至るだろうというように考えております。いろいろの問題点について調整もだんだんと進みつつあるようでございます。
  10. 赤松勇

    赤松委員 それに関連をいたしまして、最低賃金条約についてはどのようにお考えでございますか。
  11. 岸信介

    岸国務大臣 今御審議を願っております最低賃金法が成立するならば、これを批推する手続を進めるつもりであります。
  12. 赤松勇

    赤松委員 先般大阪の公聴会出席をいたしまして、各階層の御意見を拝聴したわけであります。その際おおむね御参加下さいました発言者は、この最低賃金社会党案の示す一律実施が望ましいのであるという前提の上に立って、いろいろな御発言があったわけであります。総理日本の低賃金を打破いたしまして、目下国際的に非難をこうむっておりますソーシャル・ダンピングの汚名を一掃するためにこの際社会党考えておるようないわゆる全国一律実施最低賃金制、こういうものを望ましいものである——むろん政府の方は業者間協定を中心とした最賃制をお出しになっておられまするから、われわれの法案には御賛成ではないと思いますが、その趣旨については御賛成でございましょうか、いかがでございますか。
  13. 岸信介

    岸国務大臣 最低賃金法を定めて、労働賃金基準を高めていき、労働者生活を安定し、それを向上せしめるということは言うまでもなく望ましいことであり、またいわゆる最低賃金なるものの線もなるべく高いことが、そういう意味から言うと理想であり、望ましいことであることは言うを待ちません。しかしその国における経済事情産業事情というものを全然無視してそういうことをして、われわれが望んでおるような結果になるかどうか。日本には中小企業という非常に複雑多岐な様相の、しかもそれに従事している人が多く、日本産業構造の上から見て非常に重要なものがある。これが今申すような理想に走って、相当高い程度の一律に定めました結果倒れてしまうというようなことになると、これに従事しておる企業者はもちろんでありますが、労働者といえども生活上の困難を来たすわけでありますから、これはやはりその国の実情をよく見て、それに適応しているものを作って理想に向っていくことが望ましい、こう思います。
  14. 赤松勇

    赤松委員 一律実施をすると、何か中小企業が倒れていくというふうな御答弁でございましたが、高いということになれば問題は金額の問題だと思う。たとえば一千円の一律実施最低賃金制がしかれましても、これは労働者にとっては何らプラスにならない。これはまた即時実施可能なわけなんですけれども政府の方で一律実施をした場合、その企業に甚大な影響を及ぼさないで最低賃金制をしくことができると考えておられるその賃金の額は、大よそどの程度のものですか。総理大臣自身のお考えになっておるところをお聞きしたい。
  15. 岸信介

    岸国務大臣 なお、この一律に定めました場合に、その定め方が高いと、今言うように倒れるというふうなことができますし、また日本労働事情を見ますと、中小企業近代的工業との間におきましては御承知の通りの賃金の格差がありまして、定め方いかんによっては、今度は下の方は非常に困るし、上の方は一律に定めると意味をなさない、あるいはある部分はむしろ低賃金くぎづけてしまって、われわれの望んでいることに反する結果にもなるというような事情がいろいろあると思うのであります。今最低賃金をどの辺にすれば困らない、どの辺にすれば困るかということにつきましても、その線を具体的に出すことはなかなかむずかしいと思いますけれども、しかし専門的に労働大臣の方では、ある意見を持っているようでありますから、労働大臣の方から……。
  16. 赤松勇

    赤松委員 くぎづけになるということは私も反対です。これはやはり金額が今日のいろいろな状況を勘案いたしまして、社会党の出しているところのあの金額が妥当なものである。われわれは実はそう考えているわけですが、業者間協定でもって、その低貸金が打破されていくという保障が一体どこにございましょうか。
  17. 岸信介

    岸国務大臣 理論的に言いますと、いろいろな何が出ると思います。しかし日本で現実にやっている業者間協定というものが、実際に従来のその業種におけるところの賃金水準を高めておりまして、決してくぎづけにし、あるいは低い方に押えつけているという結果でない。これは実績が示している問題であります。
  18. 赤松勇

    赤松委員 どうも総理答弁明確ではないのですけれども、要するに私どもの言おうとすることは、業者間協定によって労働者の望ましい最低賃金というものが保障される根拠がどこにもないと私ども考えております。従ってこの際は法制による一律実施ということでなければ、とうてい最低賃金制をしくことは困難である、こう考えておりますが、総理大臣業者間協定でもって望ましい最低賃金制がしけるという、その保障は一体どこにあるか、こういうことなんです。
  19. 岸信介

    岸国務大臣 この法律によりますと、業者間の協定につきましても、それを最後に決定いたしますのには、労使、公益代表の三者が入っておりまする審議会に諮問をして、その意見を尊重して、行政官庁において最後に決定をするということになっております。  私は先ほど来申しますように、日本の実際に行われている実績が現実に改善に資しているということ、並びにこの審議会に諮問をして、その意見を聞いてやるならば、現状より十分によくなっていくという確信を抱いているわけであります。
  20. 赤松勇

    赤松委員 審議会に非常にウエートを置いておられますが、この点も公聴会において問題になりました。大阪市立大学の近藤教授は単なる諮問機関の性格を持つ審議会であれば、ここへ諮問をいたしまして、かりに答申をしても、それは答申のしっぱなしになって、何らの拘束力がない。従って審議会をしてその性格上拘束力があるものにするように修正をしたらどうであろうかという意見もございました。なおこれは全労会議の諸君よりもそういう発言があったのであります。またこれは私の方の八木委員発言でありますが、八木委員社会保障制度審議会に入っておられますけれども社会保障制度審議会がいろいろな答申をしばしばやりましても、その答申が一〇〇%生かされたことがない。尊重すると言いますけれども、その答申案がほんとうに尊重された例はない。従ってその審議会が諮問機関であるという性格の上にも労働者の非常な不信、単に労働者だけではありません。学識経験者の中におきましても非常に不信の念がある、こういうふうに私は思うのですけれども、この点について審議会方式を何か拘束力のあるものに変える御意思はないかどうか。
  21. 岸信介

    岸国務大臣 私の承知しております限りにおいて、こういう制度は、諸外国の例におきましてもむしろ諮問機関にしているのが普通であって、決定機関にしているのはごく例外であるように私は伺っておるのであります。それはともあれ、私はこういうふうな新しい制度が行われ、そうしてそれの非常に重要な地位を持っておる審議会というものが、これに諮問して、その意見が具申された場合に、これを普通の場合において認めないということは、私は社会の良識から言い、これはなかなかできないことである。ただそれがもしも非常に行き過ぎたことであり、非常に実情に反するというような場合においては、いわゆる社会的良識においてもこれが是認されるような場合においてのみそれに反したところの決定ができるのであって、私はいろいろそれは理屈からいって諮問機関であるから拘束しない、拘束しないのなら勝手なことができるじゃないかというふうな形式論をすれば別と思いますが、実質的の問題から言うと、私はこの審議会の構成等につきましても特に十分な良識のある人を入れるように努力いたしていくならば御心配の点はない、かように考えております。
  22. 赤松勇

    赤松委員 その審議会の問題につきましてさらに質問をしたいと思うのでありますけれども、時間がありませんから非常に不満でありますけれどもその程度にとどめておきます。  一つ重要な点は、先般労働法学会の一部の学者諸君が百五十名ほどの連署をもって共同声明を発表されました。それは必ずしも一律実施賛成をされない方もその署名に参加をされておるわけであります。ただ百五十人の方が一致して反対をされました点は、政府業者間協定の点なんです。これは業者間協定がいいとか悪いとかという、そういう政治的な意味の前に、御承知のように現行労働法規はすべて労使対等の立場から協議決定されるという原則の上にいろいろな法の運営がなされておる。また労使関係も政府が今までよき慣行といってこれをいろいろ助長させるように行政指導して参りましたのは、私は一方的な経営者だけの労働政策ではなくして労使双方によるところの協議決定のよき慣行だと思うのです。その原則が今度の最賃法案の中ではこわされておるではないかという点について非常な不満が表明されました。ILOの国際機関決定を見ましても、もうこれは申し上げるまでもなく労使双方の共同の決定によって望ましい最低賃金制を作っていくという原則が国際的にも確立しておるのにひとりわが国において、労働法学者の反対するような、こういう国際的に例を見ないような業者間協定、経営者だけの一方的な意思決定による賃金制度の確立というようなことは私はどうもおかしいと思うのです。この点につきまして一つこれらの人たちに答える意味において明確にお答えを願いたいと思います。
  23. 岸信介

    岸国務大臣 今回私どもの提案をいたしました案は、相当長きにわたりまして労使それぞれの代表の上に、学者や有識者を加えました審議会におきまして十分に議論を尽し、その意見が私どもの聞いているなにによりますと、労働者側においての一部の反対はあったようでありますが、労働者側におきましても全部反対ではなくして、これに賛成労働者側もあり、またこれを一応結論として答申をするということについては満場一致であったように承わっておるのでありますが、そういうふうな審議の結果できました案をそのまま成文化して今回御審議を願っておるわけであります。決して私どもは一方的な考え方ではないし、なお先ほど申しましたような日本の今日まで行われている現実と、それからさらに本制度の中にある審議会というものを十分に活用することによって、決して一部の人が懸念されているような事態も起るのではないし、また実際ILO条約に加盟しこれを批准するということにも差しつかえないという考えに立っております。
  24. 赤松勇

    赤松委員 国際機関憲章が決定しました労使共同による問題の決定という原則と政府案は違っておる。国際機関憲章の決定と違っておるという点はお認めになりますね。
  25. 岸信介

    岸国務大臣 ILO条約との法律的解釈につきましては労働大臣からなにしますが、日本中小企業には御承知の通り労働組合もまだないし、そういうものを組織することもむずかしいような事態のものもたくさんあります。私はこの労使のなにが業者間協定だけをとってこれをやろうというわけではありませんで、方式が四つくらいあげられております。その中に業者間協定という一つの方式があるわけでありますが、それを入れることは日本中小企業の実情からいったらむしろ適当な措置であり、法律的な解釈につきましてはわれわれは差しつかえないという考えに立っておりますから、その点は労働大臣からお答えさせます。
  26. 赤松勇

    赤松委員 総理の方でそういう点について明確にお答えが願えなければ、時間の関係もありますから次に中小企業の問題についてお尋ねをしておきたいと思います。あなたの御発言の中に中小企業の問題が出てきておる。中小企業の問題は支払い能力の問題と関連をするわけです。私どももその点につきましては全然考慮してないわけではありません。中小企業の支払い能力につきましては十分それを考慮しておるがゆえに、一方におきましては中小企業の振興政策をば同時並行的に進めていく。他方におきましてはこの実施につきましては経過措置を考える。こういうように二段方式でもって問題を現実的に進めようとしておるわけであります。ただこの間の公聴会に出されました意見によりますと、これは大阪の自転車部品の協同組合の代表の意見でございましたが、その平均賃金は十八才以上の人で一万六千円ということを言っております。大体八千円を下る者はないと言っております。こういうような中小企業の中におきましても、零細企業との間の格差はうんとあるにいたしましても、こういうような自転車の部品工場も多く存在しておるわけであります。しかしながら他方においてはずいぶん多くの零細企業があると思います。しかし支払い能力という点になりますと、社会党が答申の経過措置として言っておる六千円の実施ということは、私はいろいろな公聴会を通じましてあるいはいろいろな実態調査を通じましてずいぶん調査をいたしましたけれども実施不可能ではない。また御承知のように、私どもは生存費を割って労働者を使うということはできない。生存費の上になおかつ必要な生計費というものを基礎として労働問題を考えていく。その生計費は言うまでもなく労働力の再生産なんです。労働力の再生産を保障する最低賃金というものを与えることは経営者の当然の義務なんです。もしそういう能力がない経営者があるとするならば、経営者ではないわけです。労働者の責任ではありません。人を雇う上は労働力の再生産に必要な最低賃金保障額をばちゃんと与えるということは当りまえのことなんです。そういう意味におきまして、この業者間協定でもって進めていく。そうすると支払い能力の問題がずっと問題になりまして、支払い能力がないという理由をもってその中小企業の合理化、近代化がおくれていくということになるわけなんです。そうでしょう。またそのことを理由にする経営者も私はたくさんあると思う。だからこそ今日支払い能力がありながら、後進国的な非常な低賃金をとっておるところがたくさんあると思う。そのために政府最低賃金法という法律をばここにお出しになったわけです。それを打破するためにお出しになったわけです。そこで業者間協定実施する場合、あるいはあとの三、四の方式をもって行う場合、当然中小企業振興策というものが同時に並行的に行われなければならない。それにつきましてはどのような政策をお持ちでございましょうか。これを明確にしていただきたい。具体的に一つ御答弁願いたいと思います。
  27. 岸信介

    岸国務大臣 お話の通り、中小企業の振興策というものをこれと並行して、もしくはそれの先行的に行わなければならないという御議論は私も同感であります。これにつきましてはいろいろな方策がありますが、せんじ詰めてみますると、私は一つは基本的なものは組織化の問題であり、これがやはり組織化されてこないと、なかなかそれぞれの小さい零細企業を一つ一つの相手では、金融の問題にいたしましても、あるいはその他近代化の問題にいたしましてもむずかしい。組織化が基礎である。その上にわれわれが考えなければならないのは近代化なんです。近代化のなににしても、私は予算が、政府が出しているものは少な過ぎると思います。これを私は拡大していかなければならぬ。さらに金融問題が従来から問題になっております。この金融総額を、金融量をふやすのと、やはり率を安くして参らなければいかぬ。その意味からいうと国家資金によるところの金融の範囲を拡大すると、一番コストの安い金といえば国家資金でありますから、そういう意味における財政投融資の面におけるなにをさらに大幅に拡大する必要がある。もう一つは税金の負担ということが非常に苦しくなっていると思う。今主として論ぜられているものは事業税でありますが、その他今回の免税措置におきましても荷車であるとか自転車であるというようなものは、中小企業の多くは事業上の必要からなされている。その他こういうふうな、これに関連している中小企業が主として負担しておるような物品税等につきましては、これを軽減していく、かように考えております。
  28. 赤松勇

    赤松委員 そういうことは何度も何度もいつの政府もいうのです。私が聞きたいのは本年度の財政投融資の中で、中小企業に対してはどれくらいな額をさいていく考えであるか。それからこの減税の面におきまして、今も事業税を減らしていきたいとかなんとかいうことをおっしゃいますが、きのうかおととい自民党がそういう選挙政策をば発表になったようでありますけれども、これはいつの政府でも抽象的にはそう言うのです。事業税にしろ、あるいは国税の面にしろ、具体的にどの程度の減税を一般中小企業に対して考えておられるか、これを一つ明確にしていただきたいと思います。大蔵委員会ではない、これは中小企業の支払いの問題に関連するからだよ。
  29. 岸信介

    岸国務大臣 今まで財政投融資の面におきましては、御承知の通り中小企業金融公庫、国民金融公庫、それから商工組合中央金庫等を通じて投融資しております。私の聞いておるところによると、総額は約七百億近いと思います。私はやはりこれを千億ぐらいにすべきものじゃないかと考えております。なお本年度としては一応七百億くらいでありますが、できるだけこの経済の基盤の安定と同時にこれを拡張して考えることが望ましい。それから事業税につきましては、個人事業税のなにについては所得二十万円以下は免税とするという大体われわれは方針でおります。またどのくらいのところに法人のものをなにするかということはさらに検討を要すると思いますが、相当程度の低い中小企業の法人の事業税も減免をいたしたい、こういうつもりでおります。
  30. 赤松勇

    赤松委員 まだ同僚委員の質問が残っておりまするから私この程度でやめますが、ただいま最低賃金に関する総理大臣の御答弁をお聞きしまして私ども満足するわけには参りません。今の御答弁によればほとんど最低賃金を必要とする労働者に対するところの何らの保障もない。中小企業対策につきましても財政投融資の中から一千億ぐらい、今は七百億であるけれども一千億ぐらいにしたい。大体一千億という数字はいつも何かいわくつきなんです。前には一千億減税、今度は中小企業には一千億、どうも一千億はまゆつばものなんですが、それはそれといたしまして、総理が御指摘なさいますように昭和三十三年度の予算の中におきまして中小企業対策費というものが非常に少いということは事実です。どうぞ一つ、われわれは最低賃金制そのものに対しましては政府の提案には賛成できませんが、今言いましたこの中小企業の問題というものは、最低賃金の問題は別といたしましても非常に重要な問題でございますから、そういう点につきましては特に一つ御考慮をばお願いしたい。非常に総理答弁は不満であるということを申し上げまして、次に渡します。
  31. 森山欽司

  32. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理に簡単に二、三点お尋ねいたしたいと思いますが、第一点は経営者の中には自由経済でありますから企業において悪いことをしなければ何でもしてもいい、何の武器を使ってもいい、法律に触れなければ何の武器を使ってもいい、こういう考え方があると思う。ことに賃金の格差を利用する、要するに企業間の競争に賃金の格差を利用するということは基本的に私はあやまちじゃないかと思うのです。ことにアメリカの国におきましても州法並びにタフト・ハートレー法等において、賃金の高い北部から賃金の安い南部に逃避する、企業を移すというような場合、明らかにそれが賃金の格差を利用するということが認められる場合にはこれは移動を禁じております。こういったものの考え方に対して総理はどういうふうにお考えですか。
  33. 岸信介

    岸国務大臣 私はやはり賃金の問題については、これは産業の発展ということの基礎は労使ともに協力して生産性を高揚していくということ、それによって収入をふやし、そうして労賃も上げ経済も繁栄せしめていくということが最も近代的な考え方の基礎をなすものであり、またそれに対して労使がともに自主的立場でもってその間における協力なりその分配なりというものを公正にしていくということが望ましいことであると思う。今お話のように、ただ一時的に賃金の格差があったからといっても、それはむしろ正常な姿ではないので、必ず一国におきましても、国内におきましても、これがだんだんと水準が近づいてくる、また格差をなくするような政策をとっていかなければならぬと思いますし、そういうことからいって、基礎はさきに申しましたような考え方に立つべきものである、こう思っております。
  34. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 ことに私は賃金のある水準以下の切り下げをねらって、それを利用して競争をやる、こういうことは全く間違いである、こう考えるわけです。第一次大戦後の平和条約の労働編にもやはりそのことが非常によくうたってある。また一国において人道的労働条件を採用せざるときは、他の諸国が改善を企図するものに対しても障害になる。こういうところから国際労働機関というものが設立されたと聞いているわけでありますが、ことに最近の日本の低賃金に対して、外国ではいろいろ批判がある。まあ早い話が燕市の洋食器をとりましても、あの燕の洋食器の工場に行ってみますと、全くひどい劣悪な労働条件です。作業自体が、あのやすりでやられ、しかも包帯をまいてその上に指サックをして働いておるという状態、それで賃金はアメリカの同じ労働者の十三分の一、こういう状態であります。やはりこういう面も改善しなければ輸出が伸びない、かように考えるわけです。総理はどういうようにお考えですか。
  35. 岸信介

    岸国務大臣 お話の通り労働条件を劣悪にしておいて国内、国際的の競争をしていくというような考え方は私もとっておりません。私どもがこの最低賃金法を定めようという趣旨も、そこに一つの理由があるわけであります。そこで今燕市の例をお話しになりましたが、実際最近のアメリカにおける関税引き上げ等に関連してこの問題が非常に大きくクローズ・アップしておりますが、私どもは今これに対する対策として、組合におけるところの共同的態度をとること、さらに悪質のバイヤーにあやつられて値段を下げておるという状況を防いで、やはり正当な価格にこれを上げていく方法、またこの労働条件を改善するために機械設備等を近代化するというようなことについて、今具体的に案を立てております。おっしゃる通りに私も考えております。
  36. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 では総理に公契約における労働条件——公契約と申しますと、国が発注をするあるいはその品物を製造する工場、あるいはまた国が補助金を出しておる仕事あるいは公益事業、こういったところの労働条件というものはやはり国が発注をする場合の契約の中にうたう必要があるのではないか。アメリカあたりはやはり一般的な民間の労働条件を規制する前に、政府みずからそういうことをおやりになっておるのです。たとえばアメリカには公契約法が最初にできた。ですから、最低賃金実施する場合にも、一般民間がなかなか困難であるならば、政府がみずから需注をするもの、それを製造しておる工場あるいはまた政府が行なっておるいろいろな事業、こういうところに使われておる労働者、こういうところから最低賃金というものを実施したらどうでしょうか。
  37. 岸信介

    岸国務大臣 政府がやっておる公共的な事業については、その賃金べースにつきましては人事院その他——公務員につきましては人事院、また仲裁裁定等の方法によりまして定められておるところのものを、政府としても忠実に実行する方針できております。ただ、今の公契約をする一般の民間事業に対して労働条件をなにするというお考えにつきましては、なおこれは検討を要する。最低賃金法をやり、そういう問題についても私ほさらに研究をいたして参りたいと考えております。
  38. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、政府みずからが大きな発注をするわけですから、こういった面については十分検討をしなければならない問題があるのではないかと思うのです。また中小企業の問題につきましても、御存じのようにアメリカの海軍とか陸軍おのおの条項を設けまして、中小企業に対しては幾らのワクで発注する、こういうことをきめておると思います。こういった点についてはどういうようにお考えですか。  さらに特殊的な失業発生の地帯、たとえば多発的な失業発生の地帯——駐留軍が撤退したとか、アメリカの場合でありますと、鉱山の鉱脈が枯渇して、非常に特殊的に失業者が出た、あるいは軍需工場があったものがよそにいって非常に失業者が出た、こういうようなところには、同じようなコストであればそこに注文をする、こういうようなシステムになっておるのであります。政府みずからが需要をつけてやる、こういうような対策が練られておる。これに対して総理は、こういうことを日本においても実施する気持がないかどうか、これをお伺いします。
  39. 岸信介

    岸国務大臣 政府は相当な需要者として年々予算執行上いろいろなものを購入する場合において、中小企業の製品をあるワクを優先で買い入れるようにしろという意見は従来からもいろいろとありまして、政府としてもそれに対しては順次その方向に、需注にいろいろな規制をするように努力をいたしております。さらにそれを一そう進めていく必要があろうと思います。また駐留軍等、一時的にできます失業者に対しましては、これまたその対策としていろいろの方法を講じておりますが、すなわち共同して何かの事業を営むようなことに対して政府が助成をするとか、あっせんをし、その他の方法を講じておりますが、今多賀谷君の言われるように、なるべく政府みずからが需要するものを中小企業から購入し、かつその場合における労働条件を改善していくというような方向に努力をし、検討を進めていくことは私も同感でございます。
  40. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 総理は研究を進めておる、着々その準備を進めておる、こうおっしゃいますけれども、私は予算委員会の分科会で中小企業庁に、一体国鉄とかその他の政府機関あるいは政府自身が発注する需品はどのくらいあるのか、そのうち中小企業へは現在どのくらい発注しておるのか、こういうことを聞きましても答弁できないのですよ。現実はわからないのです。調べてないのです。この問題は御存じのように、アメリカでもそういうシステムになっており、かなり日本でもいろいろ言われておる。それにいまだに調査ができていない、こういうことで、私ほいかに総理が頭の中で考えられましでもうまくいかないだろうと思うのです。全然調べてないのですよ。これに対してどういうようにお考えですか。
  41. 岸信介

    岸国務大臣 十分一つ調査をいたします。
  42. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 さらに、公契約の場合における賃金の場合ですが、日本には一般職種別賃金というのがあります。そうして大工さんなら大工さんは、その付近の賃金が幾らであるかというのを調べたのがあるのです。ところが日本の法律はどういうことになっているかといいますと、それが最高賃金になっておる。それ以上払ってはならない、こう書いてある。これは一体どういうわけですか。全く総理考えとは異なったことが行われておるじゃありませんか。
  43. 岸信介

    岸国務大臣 これは一方から申しますと、国家の支払いは法規によって、かつ会計検査院の検査のもとに公正に支払われなければならぬし、不正に支払っちやいけない。今の調査のなにがどういうふうになっておりますか、ある地方で大工なら大工を雇い入れるという場合において、その辺における一般の水準というものがはっきりあれば、それを越えて高い値段で買うと、それは過当支払いをしたというあとの問題が起ってくるだろう。従ってそれを基準としてやるから、事実上はそこが最高価格ということになるかと思います。それは今の会計法なり国家の機構の上から申しまして——ただ私申し上げるのは、国家が買う場合に、不当にたたいて、いわゆる私企業のように、先ほど私が燕の例を申しましたが、ずいぶんバイヤーが悪らつな方法で値段を下げさしておるというようなことは、国家としてはすべきではないということは言うを待たない。しかし同時に、国家の予算を執行する上における不正をなくするためには、今申しましたことを基準にしてやっていくということも、これもやむを得ないと考えるのです。
  44. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 基準にしていくというならわかるわけですが、それ以上は支払ってはならないと書いてあるのです。ですからそれが最高賃金なんです。幾ら下を支払ってもいいのです。ですからそういうシステムは間違いじゃないか、かように考えるわけです。
  45. 石田博英

    石田国務大臣 ちょっと専門的な問題ですから私がお答えいたします。これは確かに今多賀谷委員の御指摘のような問題がございます。しかし現在の状態では、ただいま総理がおっしゃったような事情もあり、さらにこれがたとえば労働基準法における平均賃金の算定の基準になったり、あるいは失業対策事業の労務者の賃金の算定の基礎になっておるようなわけでありまして、影響するところが非常に大きいのであります。しかしこれが最高賃金賃金くぎづけにする材料にされるということは、私は望ましくないと存じておりますので、この最低賃金法実施せられましたあとにおきましては、この問題の処理についてはぜひ改正を加えたい。加えたいが、ただいま申しました大蔵省との関係もございますので、調整を要しますけれども、私は改正を加えたいものと考えております。
  46. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は国費の不正防止ということはわかります。しかしその面からだけではとらえられない問題があると思うのです。やはり労働政策の問題として、今総理の方は将来公契約における労働条件ということを十分考えなければならぬということでありますから、私はその面から今後は一つ改正を加えてもらいたい、こういうことを希望しておきます。  次に業者間協定ですが、なるほど政府は労働条約に何ら違反してない。すなわち労働条約の、最低賃金決定の制度創設に関する条約に背反してないから批准ができるんだ、こうおっしゃっております。あるいは形式論になりますと議論はありますが、そうかもしれません。これは非常に問題がありますけれどもそうかもしれません。しかしこの法律は御存じのように非常に古い条約なんです。同じ条約でも最低賃金には条約が三つある。三つありますけれども、当初まだ最低賃金というのがあまり行われていない時代にこの条約ができたわけです。そこでこの条約が、その決定制度の性質及び形態並びにその運用方法は自由にまかせられておる。これをいいことにして、業者の一方的からなる賃金をもって最低賃金だといったならば、なるほど条約違反ではないかもしれない。しかし私は各国の不信を買うんじゃないだろうかということを危惧するわけですが、総理はどういうふうにお考えですか。
  47. 岸信介

    岸国務大臣 業者間協定というものを一つの方式として今度の最低賃金法に取り入れましたことは、先ほど来赤松委員の御質問にもお答え申し上げましたように、日本の実情から見てこれはやむを得ない一つの方式であり、しかもそれが労使、公益代表の三者を含めた審議会に諮問をして、最後の決定をするという建前をとっておる、貫いておりますがゆえに、私は決して国際的の不信であるとか、国際的に非難を受けるというようなことはない。十分日本の実情を調査されてみるというと、この最低賃金法でそういう方式をとることはやむを得ないということは十分に了解いく、かように考えております。
  48. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は業者間協定が行政指導の範囲内にとどまっておるならば言いません。しかし法律で制度化し、その協定の効力を付与しよう、こういうことにおいてはなるほど国際労働条約には形式的には違反してないかもしれぬ。しかしこれを出すことによって非常な不信を買うんではないかと私は思うのです。その点はどういうようにお考えですか。私は非常に心配しておるんですよ。
  49. 石田博英

    石田国務大臣 業者間協定という最低賃金決定方式は、確かに御指摘の通り国際的には異例に属するものであるかもしれません。しかしながら同時にわが国の就業構造、産業構造というものも、非常な特殊性を持っておることもよく御理解がいただけることだと存じます。特に中小企業の生産性と大企業の生産性との大きな差、それから就業構造におきまして、第一次及び第三次産業に比べて第二次産業の就業率の低さ、そういうような特殊な産業構造、就業構造の上に立って、わが国の実情に即してやっていく必要があることが第一点。それから第二点は今わが国中小企業労働者の組織率が非常に低い。組織のあるもの、明確に対象労働者の代表を選び得られるものにつきましては、もう何度も議論になっておりますが、労使間協定の拡張適用ができるのでありますが、そういう労働者の代表を直接的に選び得ないものについて、経過的にこういう措置が必要だと考える点が第二点。しかもその場合におきましても、最低賃金審議会におきまして、労働者の代表の参加を得て、その審議会の議を経なければ強制力を持たないのであります。それからもう一つは、その最低賃金審議会が審議をいたします過程におきまして、専門部会を設けまして、労働者のそれぞれの専門的な御意見を聞くことになっており、こういうわが国の現状において、やむを得ざる各種の事情の上に立って、万般の処置を講じておる経過的な措置として御理解をいただきたいと存じます。
  50. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 大臣がILOの総会に行かれて、その説明をされても、一般の国は納得しないですよ。それはこの最低賃金を持っておるのはイギリスやドイツやフランスのような先進諸国だけではないのです。アジアの諸国でもほとんど持っておるのですよ。そういう国でも業者間協定というものは、労働法の大原則に反するからきめてないのです。ですから条約が比較的初期の時代に作られて、国に自由にまかせられておるからといって、こういう方式を持っていったのでは、私は各国は納得しないと思う。これは労働大臣にはあとから質問いたしますが、総理はもう一回御考慮願いたい。このことは重大なことだと思うのです。非常にこの条約がルーズに——ルーズといえば語弊がありますが、やむを得ず自由にまかせておる。そういうことを利用して、労働法の大原則をゆがめて業者間協定を出すということは、これはやはり慎しむべきではないか。日本がそういった面において疑いを持たれていなければ別です。しかし日本に対してはいろいろ危惧の眼をもって見ておる。そういうときに最低賃金を作った。実は業者間協定だ、それが柱だ。こういうことになると大へんだと思いますがね。
  51. 岸信介

    岸国務大臣 根本におきましてこれが柱だと言われることについては、この法律の建前からいって柱だとほ思っておりません。しかしこういうものをやはり置いておかなければいかぬということは、先ほど来私もお答えを申し上げましたが、労働大臣からも事を分けて御説明申し上げておるような、日本の特殊事情から見まして、これはやむを得ぬ制度であり、またこれによって現実に労働者賃金は上っていく、こういう実際のわれわれの実情というものに立脚をいたしておるのでありますから、これはやむを得ない制度とお考えを願いたい。
  52. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私が柱だと言ったら、労働大臣お笑いになりました。また総理も御否定になりましたが柱ですよ。なぜかというと現行法を見てごらんなさい。現行法は、労働協約の拡張適用については労組法十八条があります。これで十分できます。それからさらに審議会が調査審議して、そうして最低賃金をきめるのは、基準法の二十八条から以下に書いてあります。ですから現行法以上に出たものは何かというと業者間協定だけです。それなら何も現行法を改める必要はない。この新法になった柱は業者間協定ですよ。現行法でも十分できるのですよ。ただ政府がおやりにならないだけです。できるのに、わざわざ新法を作ったのは、業者間協定の効力を付与するところだけが違うのですよ。一体これで柱でないですか。
  53. 岸信介

    岸国務大臣 先ほどから申し上げておるように、この最低賃金法としては、そういう意味における柱としては、たしか四つの柱が立っておると思いますが、今のお話のようにこれが中心になるという問題ではないと思います。
  54. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 日本には最低賃金の法律がないのじゃありませんよ。りっぱな法律があるのですよ。そのりっぱな法律をおやりにならない。そうして何か日本には最低賃金の法律がないようにおっしゃるけれども、ちゃんとあるのですよ。それを政府がサボっておる。全部が行政官庁の裁量であるからサボっておる。そうして今度出したものは何かというと、現行法以上に出ておるのは結局業者間協定である。ですから私は業者間協定が柱であり、しかもこの業者間協定は国際的に不信を買いますよと注意しておる。一体どうです。
  55. 石田博英

    石田国務大臣 確かに労組法十八条とそれから労働基準法の現行規定がございますが、労組法十八条の労使間協定の拡張適用では労使間協定ができないところは救えないのです。それから労働基準法の規定は現状の中ではなかなか実施困難な問題が非常に多いのであります。そのギャップを埋めてそういう目標へ早く到着しようというのが業者間協定でございます。しかしながら柱というものはその法律の目ざす最終目標、最高目標が柱であります。業者間協定はその最高目標へ到着しようという柱へいくまでの廊下くらいのものでございます。
  56. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 しかもこれは実施を強制する規定はないわけですね。ですから今までの法律の不備を補おうとするならば、これは実施を強制する規定を作るか、あるいはまた賃金金額を明示するか、この二つです。ところがごの二つをやらないで新法を作った意義は何か、われわれは見出すことはできない。あえて言うなら業者間協定である。かように考えるわけです。ですから、この法律は全部経過規定の法律ですか。
  57. 石田博英

    石田国務大臣 先ほどからもいろいろ申し上げております通り、わが国産業構造、就業構造の中に非常に大きなギャップがございます。従って現在すぐに大きな理想へ、たとえばあなた方のおっしゃる最低十八才、八千円というところにもうすでにいっているものもある。またそれ以上の高い労使間協定ができる業種もある。しかしながらそれさえもできない未組織のもっと低いところもある。そういう非常に特殊な就業構造、産業構造の中にあって落されている部分、忘れられている部分を救済しつつ理想へ近づいていくこともまた必要であります。その両面を含んで実際的効果をねらっておるのでありまして、現実に組織がもうまんべんなくいき渡りまして、そうしてどこでも労使間協定が行い得るようになれば、これは業者間協定などはなくしてもよろしい。だから、そういう意味では経過的な法律と言えるかもしれません。しかしわが国の現状の実情におきましては、そういうことが私は必要である、こう考えておるわけであります。
  58. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私は、労働基準法が労使の対等の原則をいかに忠実に規定しているかということをよく知っていただきたい。組合のない場合も協定をする場合には、どの協定でも過半数の労働者の代表ということを一々入れておる。それを今度は全然はずして業者の一方的な行為でやるということは、これは労働法の危機です。私は労働大臣答弁するなら、もう質問しません。そうして今から夜の十二時までゆっくりやりたいと思いますから、これで終ります。
  59. 森山欽司

    森山委員長 滝井義高君。
  60. 滝井義高

    ○滝井委員 今政府提案の最低賃金法案が労使対等の立場に立つ日本の労働法の危機である点については、多賀谷君からいろいろ御質問がありました。まさにそういう感じが私もいたします。そこで幾分方向を変えまして政府お尋ねをいたしてみたいと思うのです。  それはこの最低賃金制度というものは非常に多面性を持っております。特に私たちが最低賃金制度を実施するという段階になって思い起すことは、憲法二十五条との関係でございます。少くともすべての国民に健康で文化的な生活保障するという、あの憲法二十五条の関係と、いま一つは労働基準法の中で労働条件というものは労働者が人たるに値する生活をするための必要を満たすものでなければならぬということを書いているわけなんです。この二つの趣旨によって私は最低賃金制度というものは確立されなければならぬと思うのです。岸総理は一体われわれのこういう考えに同感なのか。
  61. 岸信介

    岸国務大臣 考え方としてはそういう方向に考えていくということについては私は同感であります。
  62. 滝井義高

    ○滝井委員 そういう憲法なり労働基準法に規定をしている考え方について同感であるそうでございます。そうしますと、今多賀谷委員からいろいろ御質問がありました、いわゆる労働組合法の十八条なり、労働基準法の二十八条から三十一条にありました四本柱の中の二本の柱というものは、すでに十二年間実質的にはたなざらしにされておる。今度廊下の役割をする二本の柱がそれに追加されたわけなんです。一体岸総理日本の今までの経済の中で、なぜそれらのものが、二本の柱というものが十二年間も放置されておったのかという、その実施を阻害しておった条件というものは一体何なのかどうかということですね。これはどういう工合にお考えになりますか。
  63. 岸信介

    岸国務大臣 これは先ほどからいろいろと議論されております。私は日本産業構造の特殊性から来ておると思います。
  64. 滝井義高

    ○滝井委員 最低賃金制度の実施を、十二年間も柱を立てておったにもかかわらず、それを阻害をしておったものが日本産業構造である、こういうことなんです。しからば一体現在の日本資本主義の発展の中において、それらの産業構造を大幅に修正をして、そうして渡り廊下が近代的な国家における最低賃金制度となる見通しというものは、一体どのくらいかかればできるとお考えになりますか。
  65. 岸信介

    岸国務大臣 われわれが長期産業計画を立てて、日本産業構造の改善、産業の繁栄というものの計画を立てております。これを実行していくことによりましてそういう特殊性を漸次近代化していくという考えでおります。
  66. 滝井義高

    ○滝井委員 岸総理、最近公取が日本産業の集中の実態という書物を出しております。それをお読みになりますとわかるのですが、実は日本においてはだんだん資本主義が集中的になっていく。ところが一方においては中小企業がますます拡大再生産をされて非常に数がふえつつあるというような現状なんです。そうして日本企業状態を見ると、雇用というものが増加をしておるのは千人以上と十人以下という、こういう両極の状態に雇用というものが増加している。これははっきり統計的な数字で出てきておるわけです。そういう中で、総理が自分の方が安定政権をもってやれば、そういうものは解消するというけれども、現実にあなたの政権のもとで中小企業はますます拡大再生産をされておるわけなんです。一体そういう実態の中で、もう少し具体的に、阻害をしておる条件というものは、こういう工合に修正していくという答弁がなければ、今のような抽象的なことではこれは納得できないのです。
  67. 岸信介

    岸国務大臣 私は中小企業というものが日本にこういうふうな発展をいたしておりますのには、やはりその存在意義というものが十分あると思うのです。労働条件の面から見ると、非常に望ましくない事態にありますが、これは労働条件を改善していかなければいけませんが、同時に中小企業を将来なくするとか、すべて国営に産業を移して大産業だけでやっていけるという性質のものではなしに、中小企業中小企業として私は存在の価値があり、また十分その存在の意義を果すような改善を加えていくならば、その特徴を十分生かして一つの産業上の強みにすることもできるのだ、こういう見地から見ますと、要するに中小企業が近代的でなくして封建的な分子を多分に含んでおるというものを、これを改善していく。それを改善していくのには、あるいは機械設備も必要でありましょうし、あるいは資金も必要であろうし、あるいは組織も必要であろう、そういう点に関しての各種の施策と同時に、これに従事しておるところの労働者賃金の非常な大きな格差というものをだんだんなくしていって、向上せしめていって、そうしてやっていくということをあわせ行なっていく必要がある、かように考えます。
  68. 滝井義高

    ○滝井委員 なるほど中小企業に融資とか減税とかいろいろ言われます。しかしわれわれが問題にする、たとえば五人未満の従業員を使っている中小、零細企業と言った方がいいでしょう、そういうものの実態を見ますと、その所得が融資の対象とか、減税の対象になるものではないのです。もはやそれらのものは融資の対象からもはずれ、減税の対象からもはずれている部類なんです。しかもそういう五人以下に勤めている従業員というものは約百七十七万、二百万程度もおるのである。しかもそれらの者が、ある程度日本の輸出産業の一つの基盤を占めておることは、すでに現実に岸内閣が当面をしておる、たとえばアメリカに検温器を輸出する場合に、その検温器の問題、あるいは一ドル・ブラウスの問題、あるいは玩具の問題、こういうものは、最低賃金制度がないところにこそ、アメリカの経済的なボイコットの問題にもつながってきていると思うのです。それらのものは五人か十人の企業です。従って、それらのところにうまいことを言って、金融とか何とかおっしゃいますけれども、現在の日本の金融の状態を見ても、昭和三十二年度において、日本の大企業における設備というものは四割増加しました。四割増加して、政府の財政投融資と日銀とが、三十二年度に六千億を大企業につぎ込んだ。しからば、一体これらのものを中小企業に、千億ではなくて二千億くらいやれるだけの政策がとれるかというと、今の、いわゆる金融ベースに乗らない十人とか二十人以下の事業場に、金融がつくとは思わない。あなたがここで一千億円くらい出すと言われても、そのくらいでは焼け石に水です。だから、ここに根本的な融資を政府がやるためには、何かてこ入れをやらなければならぬ。あとで触れますが、やはりそこに五千円なり六千円というような、一律の最低賃金を徐々にしいていく形をとらなければ、業者間協定日本産業構造を変えようというようなことは、百年河清を待つにひとしいと私は思うのですが、その点どうお考えになりますか。
  69. 岸信介

    岸国務大臣 中小企業の問題につきましては、日本中小企業と一日に申しますが、百人、二百人の労働者を使っているのと、五人以下のところとでは、非常な差が私はあると思います。お話のように、そういうむしろ零細企業に対する金融ということを、かりにわれわれが財政投融資のワクを広げてやりましても、それらの人のところへは均霑しないという実情も、私よく承知いたしております。そこでそういうものに対する処置としては、どうしても組合を作り、原材料の共同購入であるとか、仕上げについての共同施設であるとか、あるいは共同販売についての一つの仕組みであるとかいうようなものを考えていかない限りにおいては、これらは結局は救えないし、これを近代化そうとしてどんな政策をとっても、社会主義にしたからといって、それができるものじゃないと思います。そういうことは、当然組織化の問題が、私が先ほども基本的だと申しているところも、そこにあるのです。それらをあわせて行いますし、また労働賃金の問題について、この最低賃金業者間協定について、先ほど来いろいろ御議論がありますが、これは最低六千円とか八千円とかいうような線を引いて、一律にやった方がいいのじゃないか。これは確かに八千円にもするならば、この零細企業の労働条件というものは、それももしも違反するならば、つぶすとかあるいは法律で強制するならば、そこに従事している人の労働賃金はほんとうに上るでしょう。しかし私は、日本の現状からいうと、大部分はつぶれると思う。つぶした結果が労働者の幸福になるかというと、そうじゃない。それなら現状にそのまま満足しておって、こういう特殊性だから仕方がないのだ、あきらめるかといったら、私はあきらめたらいけないと思う。そこにこの法案の提案された理由があるのでありまして、これによって私どもは改善を加えていきたい、こういうつもりでおります。
  70. 滝井義高

    ○滝井委員 今の総理のお言葉を通じてみますと、日本産業構造を変え得るような錯覚を与える御答弁なんですが、とてもこれでは零細企業の多い日本産業構造を変えるのは、私は夢にしかすぎないと思う。どうしてもある程度てこ入れをしていかなければならぬ。  それから組織化の問題です。たとえば五人とか十人しか使っていない中小企業を組織化すると言うけれども、現在の資本主義の発展の方向を見ますと、系列化というものが非常に進行してきているということです。大企業に結ばれるところの中小企業というものは、これはある程度共同施設を持ってやることができますが、いわゆるその系列化の外におっぽり出されている企業というものは、今やどうにもならぬという状態が出てきている。そしてこの系列外の企業の組織化というものは、とても莫大な金をつぎ込まなければできないという状態です。そうしますと、七百億を一千億に投資をふやしたということだけでは、とても系列外の問題は解決できないわけです。こういう点に対する考慮をぜひ払ってもらいたいと思います。  時間がありませんから次にいきます。私が特に岸総理お尋ねいたしたいのは、さいぜん岸総理は、事業税においては二十万円くらいの基礎控除をやりたいとおっしゃいました。それを今度は勤労階級に引き直して参りますと、まず所得が月額二万円程度年収二十四万円前後です。これらの勤労者が、たとえば四・五人の標準世帯で、一体二万円の所得があって、家計は赤字と総理は見ているのか。黒字と見ているのか。
  71. 岸信介

    岸国務大臣 日本の家計費、生計費というようなものも、地域によって生活態様等も異なって、必ずしも同様ではございませんが、私はそれで十分だということは申しておりません。おりませんけれども、それですべてが赤字であって、すべてが成り立たないのだと、こう論断することも、私は早いだろうと思います。
  72. 滝井義高

    ○滝井委員 もちろん地域によっていろいろ違っておりましょう。しかし全国的に、平均的に見て、一体二万円前後の所得というものは、たとえば三十二年八月の労働者と職員、労職を分離して賃金の推移を見ますと、大体労働者賃金は一万九千六百九十九円程度です。職員が二万九千七百七十円です。三十一年の平均をとってみると、職員が三万一千二百十四円、労働者が二万四百十九円で、職員の六割五分です。そうすると、まず二万円程度というものは、一応勤労者賃金としては標準的な賃金になる。いわゆる中小企業でいえば、まあ二十万円くらいを控除してもらったことになる。現在、多分二十七万程度所得のある者は無税になっておると思います。そうしますと、私の調査では、二万円程度の者は赤字です。問題は、今後われわれが最低賃金をやっていく場合には、最低賃金の多面性というもので、日本においてはまず人道的な問題を考えなければならぬと思う。そこで私は労働基準法の、やはり人たるに値する生活最低生活でなくちゃならぬと思う。そうしますと、私は消費の内容の貧しさという点を調べてみて驚いた。一人当りの消費は、牛肉は一週間にこま切れ一〇・四匁です。卵が五日に一個、牛乳は十日に一本、映画は二カ月に一回、新聞は一種類を完全に一ヵ月とれない、こういう実態なんです。そうしますと、三万円の所得で、標準世帯勤労者の消費内容というものが、こんな貧しい状態だということを考えると、最低賃金制度というものを、ただ日本企業がどうだこうだということでなくして、やはりまず人間としての生きる道、人間としてのあるべき姿というものを、人道上の問題から私は考えるべきだと思う。その上で、一体企業はどうなんだということが問題だと思うのです。この消費の貧しさというものを、岸総理もわかってもらわなければいかぬと思う。こういう最低賃金勤労者の消費との関係、これを一体どういう工合にお考えになっておりますか。
  73. 岸信介

    岸国務大臣 今の月収二万円の標準家族を持っている平均家庭において、どういう赤字になっているかということは、これは赤字であるか黒字であるか、いろいろな見方があるだろうと思いますが、統計局の方の調査によると、少しではあるけれども、むしろある程度の黒字になっておるという見方をしておることは滝井委員も御承知だろうと思うのです。しかしそれが非常に望ましい黒字であろうが、赤字であろうが、そのくらいの程度で、望ましい消費あるいは文化生活あるいは健康なる生活というものが確保されているとはいわれない事情だろうと思います。今度の労働者最低賃金を定めるにつきましては、各種のその地域における職種、その事業におけるただ事業場の経営上の資料だけではなしに、生活に関する資料等も十分に集めて、そうして審議した上で、今最低賃金審議会の最近諮問したことを決定する場合におきましては、十分にそういうものを集めてできるだけの資料に基いてこれをきめたい、こういう考えでおります。
  74. 滝井義高

    ○滝井委員 労働者の消費の貧しさを今述べましたが、どうも抽象的なお答えをいただいたんですが、一体日本企業の利潤というものを全般的にどの程度にお見積りになっておりますか。たとえば大きい五百社なら五百社でもかまわない。これは日経連その他から発表になっているのです。たとえば日経連は従業員一人について月千六百円、こう述べている。総評は公表した利潤が三十年から三十一年の二カ年間は五千五百十億円、一人当り一万四千円だ。こういうように日経連は千六百円、総評は一万四千円、こういうように見ておる。たとえば大きい五百社なら五百社でもかまわないと思うのですが、政府は一体そういう事業会社の利潤をお調べになったことがあるかどうかということなんです。これは最低賃金をやる上に労働者の消費の問題と企業の利潤という問題はきわめて密接不可分に結びつく。たとえばそれらの大企業がそんなに大きい利益を受けておるとするならば、大企業から租税特別措置をどけて中小企業に回さなければならぬという問題がすぐ出てくる。従って重要産業なら重要産業でもかまわぬが、それは労働省が調査しておるはずなんです。最低賃金をやる場合に、今岸総理がいわれたように七百億の財政投融資を千億円にするのだ、こういう面を考えていくときには、当然どこかから税金をとってくるか、預金をしてもらうかしなければそういう財政投融資というのは出てこないわけなんです。そうすると、政府企業の利潤というものを把握せずして最低賃金の問題を、あるいは企業構造を是正をしていくということはできぬと思う。大体これはどういう工合にお考えになりますか。
  75. 石田博英

    石田国務大臣 日本銀行の調査で資本金一億円以上の企業について調査いたしました結果を御説明をいたしますと、付加価値額を一〇〇といたしました場合、純利益が二〇、人件費が四五、金融費用が一二、賃貸料四、租税公深が二・八%、減価償却が一五・四%、こういうふうに出て参っております。その純利益の処理は利益積立金が四、それから任意積立金が一八、役員賞与が一、配当金が二九、それから税金が三九、繰越金が八、こういう数字になっております。絶対額については今手元に資料はございませんが、御要求があれば後ほど、これは私どもの直接の所管ではございませんが、調査をいたして御報告を申し上げます。
  76. 滝井義高

    ○滝井委員 私これで終りますが、労働省には私はあとでまた質問をいたします。最低生活を必要とするものについて、たとえば厚生省は生活保護金額をきちっと出してきているわけです。最低賃金をやる労働省が労働者の生計費というものについて標準的な生計費というものはこれだけ必要だというものをやはり私は出してもらわなければいかぬと思うのです。同時にまた日本のそれぞれの企業における利潤というものはどういう状態で止めるかということは、労働省は労働省の立場からやはり検討してもらう必要があると思う。それは賃金と利潤の関係というものはきわめて重要です。賃金と利潤からこそ社会保障費というものが出てくるわけです。たとえば労働者が社会保障保険料を半分納めれば利潤からそれが半分出てくるわけなんです。だからその利潤の関係というものを明白にしてもらわなければならぬ、生計費というものも明白にしてもらわなければならぬ、こういう点が労働省では明白でないというところに問題があるのです。一つそういう点について岸総理の御見解を伺っておきたい。
  77. 岸信介

    岸国務大臣 今お話のように、最低賃金を定め、一般の労働者賃金というものを考える上において、滝井委員のお話のように、私はやはり企業の利潤というものとこの労働者の生計費というものが一つの最低賃金を定める場合におきましても、十分重要な資料としてこれが研究されなければならぬというお考えに対しましては全然同感であります。
  78. 滝井義高

    ○滝井委員 どうか一つそういう点で労働省でできなければ内閣をあげてやっていただかないとわれわれはこういう重要な問題の決定についてなかなかうまくいかないと思う。これを要望して井堀委員と代ります。
  79. 森山欽司

    森山委員長 井堀君。
  80. 井堀繁雄

    ○井堀委員 時間の都合もございますからお約束に従いまして、重要な点だけを二、三総理に明らかにしていただきたいと思います。この最低賃金法内容につきましては、労働大臣その他政府委員からぜひただしておきたい重要な点がたくさんございますが、きょう総理お尋ねをいたしたいと思いますのは、この最低賃金法の一番重要な点は先ほど他の委員の質問にお答えになりましたように、ILOに対する日本国の態度であると思うのであります。これはILO条約を一日も早く批准しなければならないものの中で、最低賃金制度決定方式を勧告し、また条約になっております点はすでに政府からこの法案が成立することによって批准をするという意味の声明がたびたび行われております。私はこの法案が成立しなくても、労働基準法の規定するところによってILO条約というものが批准できるのではないかという見解を持っておるのであります。ただ金額を定めなければならぬという事態があるわけであります。この点については労働大臣よりは総理にお答え願うことが適当だと思うのでありますのでお尋ねをいたすのでありますが、あなたは専門でございませんから、私の方で便宜説明を加えていきたいと思います。労働基準法の二十八条、二十九条、三十条によりまして、最低賃金の額を、政府は必要と思うときには中央賃金審議会に対して最低賃金の額を業種あるいは職種、地域別にこれこれに設けたい、その金額はどのくらいが適当かということを諮問されれば当然中央賃金審議会はこの法律の命ずるところに従って幾ら幾らの金額が妥当であるという答申をしなければならぬことが規定されておるのであります。でありますから、政府案によりますと、今日地域、業種、職種の形においてこれをきめようというのでありますから、これはこれできまると思うのであります。この点は岸内閣の性格を決定する大きな要素の一つであると思いますので、責任ある総理から——こういう法律が現存しておるにかかわらず、また前内閣において二回にわたって正式に審議会に諮問されておりながら、なぜ最低賃金の額を中火賃金審議会に諮問されなかったのか。今回もまた諮問をしておるけれども金額を諮問してないということは、参考人として稻葉委員からそういう諮問を受けていないという明らかな証言がありました。これは私は最低賃金制度に対する政府の、国民に対する一番大切な点ではないか。私は最低賃金制度に対してはできるだけ早く実施していただきたい。また国民の切なる要望も、多少不満があってもこの法案を成立させたい。もちろん政府案に対しては大修正を加えてこれを実施したらどうかと思う立場をとるのでありますが、それにいたしましても、この一項だけは明確にいたしませんと、本法案と取り組むことが困難な案件だと思いますので、明快な御見解を伺っておきたい。
  81. 岸信介

    岸国務大臣 最初に、この法律とILO条約との関係につきましては、あるいは現在の法律だけでもってILO条約批准しても差しつかえないのではないかという議論もあるように聞いております。しかしそれに対しては反対論もありまして議論のあるところでございます。われわれは今度の最低賃金法を成立せしめるならば、そういう一切の疑惑なり議論がなくなって、ILO条約批准ということが非常にスムーズにいく、こう考えております。  それからこの二十八条に関して、中央賃金審議会に持っていくについて最低賃金の具体的の金額をきめてなぜ諮問しなかったか、こういうお尋ねであります。この点は先ほど来いろいろ質疑応答をいたしておりますように、日本産業構造上特に問題のある中小企業内容というものがきわめて複雑であり、多岐であり、これに対して政府として一定の基準を設けてするということは、実際上困難であったがゆえに、今日まで実行されておらない。従って中央賃金審議会においても最低賃金法をどういう方法でもって定めたら日本の実情に適し、これらの零細企業に従事しておる労働者賃金水準を高めることに役立つような最低賃金法ができるかということを諮問したわけでありまして、要は先ほど来お答え申し上げておるように日本産業の構造上の特殊事情に基くものと御了解いただきたい。
  82. 森山欽司

    森山委員長 井堀君に申し上げますが、総理大臣の本委員会出席のお約束の時間が参りましたので、あと一問で簡潔に終了されるよう希望いたします。
  83. 井堀繁雄

    ○井堀委員 これは私どもの立場よりは日本政府最低賃金法を世論に問う際に最も重要な点で、国民の知りたいところだと思うのであります。というのは、一部では政府の出されておる最低賃金法というものはごまかしだ。見せかけだけであって、実質は似ても似つかないものである。あるいはこの最低賃金法は名前は最低賃金制度と冠しておるけれども、その実質はむしろ賃金ストップの一つの機関としてこれが変節するのではないかというかなり強い疑念が特に労働者の層に多いのであります。だから私はこのことを明らかにする義務がわれわれにもあると思う。もしこういう問題をこの国会において明らかにすることができないということになりますならば、これは政府のみではありません。国会議員が国務に対する重大な責任を問われることになると思いますので、委員長には御迷惑かもしれませんが、多少この点については時間をおさきいただいて、政府の態度を明らかにしていただきたいと思います。
  84. 岸信介

    岸国務大臣 私どもの提案しておるこの案は、御承知のように労使、それに学者や有識者が入っておる審議会において審議いたしまして、一部において労働者の側の反対があったことは事実でありますが、これが賛成であり、しかもその反対された方も、これを答申として政府に出すことについては御了承いただいておるというこの案が出たわけでありまして、決して政府が見せかけのためにこれをやっているというような無責任なことではないことは、私は十分に国民も理解しておると思うのであります。  それから業者間協定というものが賃金を低い水準くぎづけするおそれはないかという御懸念でありますが、それは過去において、ことに最近における数十の実例が示しておるように、みんなそういう御懸念の反対の結果を示しておるというこの実情に基いて、私どもはこれをやることによって決して心配ない、その上にこの審議会を作っておりますから、そういう御懸念はないというのが私ども考え方であります。
  85. 井堀繁雄

    ○井堀委員 非常に重大な発言だと思います。それはさきにあなたから御答弁いただきましたように、基準法二十八条ないし三十一条によって明らかにしたものを実行できなかったということは、日本経済の脆弱な基礎の上に動揺を続けておった戦後の事態であることは私どもも認めるのであります。しかしあなたが昨日の参議院において御答弁なさった中に、新聞によると、来年度は税の上でも千五百億円程度の自然増収を見込めるほど日本国民経済というものが成長を遂げているという御見解を数字をあげて御答弁になった。もちろん私どもはその通りであると思うのであります。非常に日本経済は戦後から比べると最近躍進しでいるのであります。従いまして本案を提案しておりまする政府の重要な理由の一つにあげておりまする国際信義の上における日本の国際市場開拓をというこの見解には、これは労使の立場を越えて国民的立場に立って強い要請をしているところであります。そこであなたの先ほどの御答弁によりますと、最低賃金の八千円ないし六千円という社会党案に対する見解が述べられ、この八千円なり六千円を今直ちに実施することがいかにも理想論であるかのごとき感じを受ける御答弁がありました。私はここで議論をしようとは思いません。ただここに事実だけを紹介して、政府の見解を国民にかわって問い、また国際信義を高めていく上において日本政府の誠意のあるところを紹介してみたいと思うのであります。御存じのように、八千円以下の労働者がどういう状態にあるかということについては、全産業の数字を見てみましても、一千七百万の労働者のうち、一名から九名、十名から二十九名、三十名から九十九名が幾らというような具体的な事実が出てきているわけであります。そうすると賃金格差というものが政府の言っておりますように、零細企業における労働者の地位というものが今日生活戦線を割っている。こういう低い所得であるので最低賃金法実施して、これにてこ入れしようというのでありますから、これにこたえるような内容法案でなければ私どもは最低貸金制度としてこれを理解することができないというのが国民の疑いの一つだと思うのであります。こういう点を明らかにいたしまするために時間がありますならば、具体的問題について答弁をいただきたいのでありますが、不幸にして時間がございません。しかしあなたの御答弁の中で、これは国際的な立場において日本政府として明らかにする必要があると思う。それは日本企業の支払い能力が低いから最低賃金実施することができないということを、もし日本政府がここでそういう答弁をなさいますことは、ILO条約に反することはもちろんであります。先ほどの御答弁によりますると、何か最低賃金の額をここで明確にすることは直ちに中小企業、零細企業の基盤を動揺せしめ、あるいは崩壊に導く危険があるといったような御主張が、この実施ができないとする理由であるならば、これはきわめて重大であると思うのであります。私はそうではないと信じておりますが、そういう感じを受ける先ほどの御答弁でありましたので、ここは明確にしていただく必要があると思うのであります。もしこの法案実施するというなら一千五百億の自然増を見込めるような、そうしてあなたはそのうちの六割を減税にふり向けるという意味のことを述べられておる……。
  86. 森山欽司

    森山委員長 井堀君簡潔に願います。
  87. 井堀繁雄

    ○井堀委員 その六割はいかなくても、四割でもこれを中小企業、零細企業のために振り向けることができまするならば、きっと私は、最低賃金制実施の上に大きな障害となる中小企業、零細企業の支払い能力の問題についても、りっぱな裏打ちの政策が打ち立てられると思います。
  88. 森山欽司

    森山委員長 井堀君、簡潔に願います。
  89. 井堀繁雄

    ○井堀委員 この点はきわめて重大であると思いますし、岸内閣の性格にも関しますので、明確な御答弁をいただきたいと思います。
  90. 岸信介

    岸国務大臣 詳しい数字的なことにつきましては労働大臣からさらにお答えをすることにいたしまして、私は、この最低賃金法を定める場合に、今の日本の産業の特殊事情に基いて八千円とか六千円とか、こういうくぎづけの具体的のなにをきめることは実情に適さないものがある、従って実情を十分に参酌し、しかも先ほど来お話がありましたように、企業の収益あるいは労働者の生計費の問題、これらについて十分な資料を集めて、あらゆる面から慎重に検討して、業種あるいは地域その他の事情に適応した最低賃金を定めていくということが、今の状況からいうと最も実効的であり望ましいものであると考えます。
  91. 森山欽司

    森山委員長 総理に対する質疑はお約束によってこれまでとし、引き続き石田労働大臣に対する質疑を続行いたします。井堀君。
  92. 井堀繁雄

    ○井堀委員 今総理大臣の御答弁によりますと、最低賃金の支払い能力を政府は理由にいたしておるようであります。そうしますと提案理由と本法案内容との食い違いはもちろんでありますが、政府は羊頭狗肉だ、最低賃金制度を実施するなどと言っているけれども、これを国際的な非難や国内の正常な世論に対する防波堤にせんとするがための単なる見せかけのものだということをみずから明らかにする結果となるのでありまして、私はこれは岸内閣のためにも、また日本国のためにもとるべきところではないと思うのであります。少くとも最低賃金実施しようというからには、なるほど現状においてはこういう支払い能力であるから、この支払い能力をこういう方法によって補強する、そのことによってこうできるというように説明がなされるか、しからざれば支払い能力というものをここに理由とすることはILO条約に反することでありますから、少くともILO条約批准をするというこの政府の基本的な態度に偽わりがないとするならば、支払い能力の問題についてはその支払い能力を補強する他の政策というものを具体的に説明して、国民ないし国際的世論の納得のできるような材料を提供し、法案の中にその内容が盛り込まれていなければならぬことは言うまでもないのであります。この点についてはきわめて重要な点で、本来でありますならば総理がこれを明らかにするのが当然だと思いましたが、その御答弁を避けられたところにますます私ども疑念を深くいたしたのであります。  そこで端的にお尋ねいたしますが、政府原案の中に最低賃金の額を定める基本的なものとして生計費をあげておるのであります。また他の労働者賃金との類似の額をここに採用してきておるわけであります。でありますから、この点については、私は少くとも総理に端的にお答えを願おうと思っておったのであります。現在の日本労働者で、通常の労務を相手方に提供した者に対して賃金はどのくらいの最低額を定めることが妥当であるかということは、今日の段階においては政府は用意がなければならぬはずであります。その金額は幾らであるか、この金額を明らかにすることを前回から要求しておりますから、十分考えておいでになったと思いますので、この機会にその数字を一つここに提示していただいて、本法案審議をスムーズに進められるように希望いたします。
  93. 石田博英

    石田国務大臣 これは前回も申し上げました通り、生存費と申しますか、最低のいわゆる物理的に生きていくだけというような、軽労働と申しますか、ほとんど労働をしないで生きていくだけの金額というものは、いわゆる生活保護費の支給の基礎調査で一応でき上っております。また日雇い労働者諸君のような程度の労働をした場合の賃金のきめ方の中にもそういうことは考慮されなければならないと思っております。しかし労働者が労働を提供して、さらにその再生産を確保する必要な生計費、これはその労働者の住んでいる地域、あるいはその労働者が行います労働の質、量、それによって非常に違う場合がいろいろ数多く出て参るわけでございます。従ってそういう現状であればこそ、業種別、地域別の最低賃金を現状においては妥当として提案をしておるのでございまして、従ってこの法案に基いて最低貸金をきめる場合の基礎となる生計費の考慮、これはそれぞれの地域あるいは中央の最低賃金審議会におきまして必要な資料を基礎として考慮決定されるべきものと考えておるわけであります。そういうように必要な資料の提供の準備はございますけれども、これを画一的にただいま申し上げることは私は無理ではないか、こう考えておるわけであります。
  94. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私は決してあなたに画一的なものを出せと言っておるのではありません。今あなたの御答弁を伺っておりますと、多少言い過ぎて失礼かもしれませんが、あなたは最低賃金制度というものを理解していないのではないかという疑いを持つのであります。言うまでもなく最低賃金というものは金額が問題なのである。その金額を何ら用意なしに論議をするということは、あるいは中央賃金審議会に諮問するなどということは、これは異例なことです。一体どこの国の政府にそんなむちゃな答申や諮問を要求したところがございましょうか。私がここであなたに全国一律一本の最低賃金の額は幾らかということを質問したのであれば、今の御答弁もその最後の方は当日かもしれません。しかし前段は私の質問とは全く食い違った御答弁だと思う。あなたが出されておる法案の中で——業種でいいのです。これこれの業種、これこれの職種、これこれの地域でけっこうであります。それの最低額というものが一体幾らだと政府はわれわれにお示しになってこの法案審議させるかということは、これはイロハのイなのです。その提案をなさらないということになりますれば、それは一部で言っておるように、政府は人気取り、すなわち国民の多くの人たち最低賃金を要求することについては切なるものがありますが、その本質をごまかすものではないかという疑いは真実となって現われると思うのでありまして、この点は明らかにすべき義務があると思うのであります。もちろんそれは低いものであっても、あるいはかなり高いものであっても、それに対する批判は、国会検討を加えて、妥当なるものを出すような意見がここに出てきて与野党の立場も明らかになってくるのであります。こんなヌエ的なものを出して——名古屋でも公聴会で経営者側が言っておりました。この法案は一体何のことを書いておるかわからない、なかなかいいことを言っておる。どこがわからないかといったら最低賃金の額に対してどうして一体出してくるかということを他にまかしておる。この法律案は責任をとっていないのでございますから、基準法の、先ほど私が例に出しました三つの条項以下のものである。でありますから悪くとるならば、基準法をこういうものによって改悪せんとする一つの魔術ではないかという意見もここから生まれてくるのでありまして、これは重大な点でありますから明確になされることが政府のおためだと思います。
  95. 石田博英

    石田国務大臣 私が中央賃金審議会に諮問をいたしましたのは、わが国の現状において最低賃金制はいかにあるべきかということを諮問いたしました。これはきのうも申し上げたのでございますが、最低賃金制度をどう作ったらいいかという諮問でございます。制度については御承知のように二つ議論がある。全国一律に各業種もみな一緒にしてやれという総評の議論、これは社会党の議論と申しますより総評の議論と言った方が適切じゃないかと思います。そういう御議論、それからいま一つはそれは理想ではあるが時期が早過ぎる、わが国の現状で一挙にそれを実施することは、かえって経済界の摩擦と混乱を招いて、そうして結局は中小企業に働く労働者の諸君から職を奪う結果になるから、漸進的に行う必要がある。業種別、職種別、地域別にこれをその実情に応じて決定していくべきだという議論と二通りあります。その制度上についての、いかなる制度がいいかということを諮問いたしました。従ってその諮問の中には、金額をあらかじめきめて一律に実施すべしという御議論も出ましょう。そういう場合にはその金額が問題になりましょう。しかしわが国の経済界の実情やあるいは各地における生計費の実情その他から考えましていろいろそこに差があります。また労働の量、質それによってもいろいろ考慮しなければならぬ問題もございます。それだからこそ全国画一式の方式は適当でないとして、後者の方式を答申されたのでございます。その場合数字がなければ最低賃金制ではないという御議論でございますが、その数字はどこできめるか、それは各地の最低貸金審議会あるいは中央賃金審議会できめるのであります。政府はそこが御審議をなさるに必要な資料を提供し、そしてそこで適当な御結論を出していただくことを希望いたすわけでございます。  それから公聴会の御議論をいろいろ御引用なさいましたが、私も昨日公聴会の御報告を承わっておりましたけれども、修正の意見はいろいろございました。しかしながら根本的に反対だという立場をとられておるのは、労働側のきわめて一部の人の御意見でありまして、他の大部分は本案の原則を支持せられておることを、私ははっきりとこの耳で、しかも社会党側の委員の御報告の中で承わったことを記憶いたしておるわけであります。
  96. 古川丈吉

    ○古川委員 ただいま議題となっております三法案についての質疑を打ち切られんことを望みます。右動議を提出します。
  97. 森山欽司

    森山委員長 ただいまの古川君の動議に賛成の諸君の起立を求めます。
  98. 森山欽司

    森山委員長 起立多数。よって三案に対する質疑は終局いたしました。  内閣提出最低賃金法案並びに和田博雄君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案を一括して討論に付します。  討論の通告がありますのでこれを許します。小川半次君。
  99. 小川半次

    ○小川(半)委員 私は自由民主党を代表して、内閣提出最低賃金法案並びに和田博雄君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案について、内閣提出最低賃金法案賛成し、和田博雄君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案反対の意を表するものであります。以下その理由を申し上げます。  第一に、社会党提出案の全国一律八千円、当分、二カ年間六千円案については、わが国産業構造の実情、すなわち大企業中小企業、さらに零細企業の間に賃金の格差が非常に大きく、かつ、中小企業、零細企業に従事する労働者数が圧倒的に多い状態のもとにおいては、産業経済界にいたずらに大きな混乱を生じ、かえって失業者を増大する結果となるので、実行不可能であることを断言するものであります。従いまして、地域別、業種別、職種別に漸進的に、実情に即して実施していく政府案が最も適切なものであると思うのであります。  次に、政府案の最低賃金決定方式について、業者間協定を第一段階としている点について、効果が薄いのではないかという論があるが、これについては、まず政府案の最低賃金決定方式は四つの方式を採用しているもので、業者間協定のみではないのであります。零細企業については、労働組合の結成がおくれており、現状においては業者間協定を認め、労働組合の結成が進んでくれば、労働協約による決定方法に移行する方法をとることが適当であると思うのであります。また業者問協定は賃金くぎづけの結果をもたらすおそれがあるとの意見もあるが、現在行われている四十幾つの業者間協定では、賃金が一割ないし二割の上昇を見ていることは何よりも効果があることを証明していると思うのであります。  また、業者間協定では労働者の意思が入る余地がないと言う者もあるが、政府案の最低賃金審議会は完全な三者構成をとっており、この審議会の審議の過程において、十分労働者側の意見が反映する機構となっているので、右の反論は当らないと思うものであります。  次に、右に述べました点に関連して、国際労働条約の精神に違反するものではないかと言う者がいるが、政府案は前述のように四つの方式を採用しており、業者間協定のみではないことと、労働者の意思が反映する機構を採用していることにより問題はないのであって、国際労働条約の精神に沿うものと確信いたしております。  次に、政府案における最低賃金審議会の権限を強化すべしとの論があるようであるが、この審議会は三者構成であって、現在の制度としては最も進んだものであり、実際の運用において、この審議会の意見を無視することはできるものではないのであります。また、行政委員会としての権限を与えるというようなことは、現在その必要を認める理由がないのであります。これらの点については、将来必要があれば慎重に検討して、実情に即するよう機構を多少変更することはできないことではないのであって、労働者保護のため一歩を進めた政府案に対し、むやみに反対することが、果して労働者の福祉増進になるでありましょうか、社会党の諸君の反省を促したいと思うものであります。  次に、政府案は中小企業における労働組合の結成を圧迫するものであるという意見も見られるのであるが、これはむしろ助長し、健全な発達を育成するものであることを申し上げたい。この点ば使用者側として、中小企業の労働運動が激しくなるのではないかということを危惧している。すなわち、中小企業合同労働組合の動きに対しては、使用者は敏感で、この最低賃金法案の成立を推進するなら、合同労組の団体交渉方式その他について、使用者の立場を認めた労働組合法改正案を並行的に提出すべきであるという声さえ高かったのであります。この点は政府としても踏み切ったわけであり、本案の実施によって中小企業の過当競争を防止し、合理化を推進し、貿易の振興に役立たせ、あわせて正常な労働組合の組成と運動を期待するゆえに、進歩的措置をとったのが本案の内容であります。中小企業労働組合の圧迫などということは毛頭ありません。  また政府案は家内労働の抑制について、最低賃金関連するのみの規定で効果がなく、諸外国において家内労働法が制定されているのに比較して、劣るものであるかの説をなす者もあるが、わが国の家内労働は実に複雑多岐で、この全部に及ぼすというようなことは現状では事実上困難であり、法律を制定して実行はできないという事態を惹起すると思うのでありまして、これも現状としては関連するものについて適用し、将来的確な調査資料に基いて適用を拡大すべきであると存ずるのであります。  最後に、諸外国の相当多数がこの最低賃金制について、全国一律方式をとっているかのごとき言を聞くのでありますが、決してかような状態ではなく、国際労働条約の中にも全国一律方式をとれということは一言も触れてなく、現在わずかに米国とフィリピンに見られるが、米国は州際産業即ち数州にまたがる大企業のみ一時間一ドルを規定しているのみで、大部分の産業は州法で各独自の制度をもっており、フィリピンは理想に過ぎる規定のため、実際には実行されていないという事情にあるのであります。  以上種々申し述べましたが、私は政府案の実施により、従来比較的恵まれなかった中小企業労働者の福祉に多大の貢献をもたらすものであると確信するものであります。この意味において、わが国の労働保護法として画期的のものであることを強調して、政府案に賛成し、社会党案反対の討論を終るものであります
  100. 森山欽司

    森山委員長 これより順次採決に入ります。  最初内閣提出最低賃金法案について採決いたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  101. 森山欽司

    森山委員長 起立総員。よって本案は原案の通り可決すべきものと決しました。  ただいまの議決の結果、和田博雄君外十六名提出最低賃金法案及び家内労働法案は、議決を要しないものと決するに賛成の諸君の起立を求めます。
  102. 森山欽司

    森山委員長 起立総員。よってそのように決しました。  なお三案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。
  103. 森山欽司

    森山委員長 御異議なしと認め、そのように決しました。  暫時休憩いたします。     午後一時三分休憩