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1958-04-08 第28回国会 衆議院 社会労働委員会 第34号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年四月八日(火曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 森山 欽司君    理事 植村 武一君 理事 大坪 保雄君    理事 田中 正巳君 理事 野澤 清人君    理事 八田 貞義君 理事 滝井 義高君    理事 八木 一男君       亀山 孝一君    小島 徹三君       小林  郁君    田子 一民君       中山 マサ君    古川 丈吉君       松浦周太郎君    井堀 繁雄君       五島 虎雄君    多賀谷真稔君       中原 健次君    山花 秀雄君       吉川 兼光君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 堀木 鎌三君         労 働 大 臣 石田 博英君  出席政府委員         厚生事務官         (医務局長)  小澤  龍君         厚生事務官         (保険局長)  高田 正巳君         労働事務官         (労政局長)  亀井  光君  委員外出席者         厚生事務官         (保険局健康保         険課長)    小沢 辰男君         労働事務官         (職業安定局失         業対策部長)  三治 重信君         参  考  人         (毎日新聞論説         委員)     井上縫三郎君         参  考  人         (東京大学教         授)     石川吉右衞門君         参  考  人         (朝日新聞論説         委員)     江幡  清君         参  考  人         (東京都立大学         教授)     沼田稲次郎君         専  門  員 川井 章知君     ————————————— 四月四日  委員中村高一君辞任につき、その補欠として片  山哲君が議長指名委員に選任された。 同月八日  委員片山哲辞任につき、その補欠として多賀  谷真稔君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 四月七日  医師等免許及び試験特例に関する法律の一  部を改正する法律案野澤清人君外七名提出、  衆法第一四号)  失業保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一五五号)  保健婦、助産婦及び看護婦等の産前産後の休暇  中における代替要員の確保に関する法律案(片  岡文重君外九名提出参法第一〇号)(予) 同日  民間電気治療営業禁止反対に関する請願外三件  (永田亮一紹介)(第二七二九号)  同外三十八件(受田新吉紹介)(第二七三〇  号)  同(井手以誠君紹介)(第二七五三号)  同外二十四件(受田新吉紹介)(第二七五四  号)  同(原彪紹介)(第二七五五号)  同外二件(福田昌子紹介)(第二七五六号)  同外二十八件(大橋武夫紹介)(第二七八七  号)  同(古井喜實紹介)(第二七八八号)  同外一件(眞鍋儀十君紹介)(第二七八九号)  同(永田亮一紹介)(第二八二九号)  同外十件(受田新吉紹介)(第二八五五号)  同(千葉三郎紹介)(第二八五六号)  同(福田篤泰紹介)(第二八五七号)  同(松岡駒吉紹介)(第二八五八号)  衛生検査技師法案受験資格適用に関する請願  (並木芳雄紹介)(第二七三一号)  職業訓練制度確立に関する請願鈴木善幸君紹  介)(第二七九〇号)  調理改善法制定反対に関する請願外一件(中原  健次紹介)(第二七九一号)  薬事法改正に関する請願田中武夫紹介)(  第二七九二号)  同外二件(山口丈太郎紹介)(第二七九三  号)  国民年金制度創設に関する請願田中久雄君紹  介)(第一八二八号)  引揚者給付金等支給法の一部改正に関する請願  (小枝一雄紹介)(第二八五九号)  医業類似行為既存業者業務存続に関する請願  (淵上房太郎紹介)(第二八六〇号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  日本労働協会法案内閣提出第三九号)  医師等免許及び試験特例に関する法律の一  部を改正する法律案野澤清人君外七名提出、  衆法第一四号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (内閣提出第一〇三号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (八木一男君外十二名提出、第二十四回国会衆  法第四号)      ————◇—————
  2. 森山欽司

    森山委員長 これより会議を開きます。  日本労働協会法案を議題とし、審査を進めます。  本日はまず参考人として御出席をいただきました毎日新聞論説委員井上縫三郎君、東京大学教授石川吉右衛門君、朝日新聞論説委員江幡清君及び東京都立大学教授沼田稲次郎君よりそれぞれ本案に対する御意見を承わりたいと思います。  この際参考人方々に一言ごあいさつ申し上げます。本日はお忙しいところを御出席下さいまして、まことにありがとうございました。何とぞ忌憚のない御意見をお述べ願います。ただ時間の都合上恐縮でございますが、十分ないし十五分程度に要約してお述べ願い、御意見を開陳された後に、委員の質疑にもお答え願いたいと存じます。なお議事規則の定めるところによりまして、参考人方々が御発言をなさいます際には委員長の許可を得なければなりませんし、また参考人方々委員に対して質疑することはできないことになっておりますので、以上お含みおき願いたいと存じます。  ではこれより参考人方々より御意見を聴取いたします。毎日新聞論説委員井上縫三郎君。
  3. 井上縫三郎

    井上参考人 毎日井上でございます。実は毎日新聞におりますが、きょうこちらで皆さんの前にお述べいたしますことは、毎日の代表でありませんで、私、井上個人意見としてお聞き取り願いたいと思います。  参考人として参りまして日本労働協会法案を見ますと、目的の中で第一に、労働問題について研究を行うとともに、広く労働者使用者国民一般の労働問題に関する理解と良識をつちかう、これが目的としてあげられておりまして、第二十五条に、労働問題に関する研究資料整備、続いて出版、放送、講座の開設、労働組合使用者団体の行う労働教育事業に対する援助、その他第一条の目的を達するために必要なる業務、こういうことが掲げられておるわけでございます。そこで私ども考えます場合に、こういうものを政府がしいて作る必要があるかどうかということが、第一番目に問題になってくる点じゃないかと思います。労働問題に関して、政府はどういう役割を持っておるかということを考えました場合において、根本的には、労使間の健全なる関係を発展させることを援助する、これが私は政府のになっておる役割だと思います。その中には、大体四つばかりの政府としてやるべき仕事があるんじゃないか。第一は、労使間の問題に関し、あるいは労働運動に関しまして法律秩序を確立する、基本的な権利を保護してやる、さらに経済的、社会的な進歩に役立っところの環境なり条件を作ってやる、これが政府のやるべき第一の仕事だと思います。第二番目に、そういう点からいたしまして起きて参りますものは、この法律制定規則を作るということ、さらに労使間の問題に対する調停というふうなサービスを提供するということが政府の役目だろうと思います。第三番目に起きて参りますものは、労働分野におけるところ調査研究というものがあるだろうと思います。第四番目に、労働教育活動を推進する。直接自分で行うのでなくて、それを助成していくという仕事政府役割じゃないか、こういうふうなことが、民主的な国家におけるところ政府のやらなくちゃできないところ仕事ではないか。そういう観点から見ました場合に、今日の日本では、大体法律制定とか、規則を作る、あるいは調停というふうなサービスを提供することは、一応軌道に乗っておる仕事ではないか。残されておる大きな問題として特に今後力を入れなくちゃできないものは、いわゆる調査研究という問題、教育活動という問題、これはやはり日本現状において特に必要な問題ではないかというふうに私は考えます。日本の戦後の労働運動の特性ということもありましょうが、今日私どもから見ました場合に、労働組合というものは、大体労働者の四割近いところの者で組織されておるし、数字的には一応先進国家の水準にきておる。問題は、これからさき質の向上ということが大きな問題になっておると思うのであります。もう一つあります点は、日本産業構造という点からいたしまして、どうしても中小企業の方につきましては、使用者の労働問題に対するところ認識が浅いという点があるんじゃないか。この二つの問題が残されておる問題として取り組まなきゃならぬ問題になっておる。こういう点を私ども見ました場合において、労働争議というものが、この数年間は、年間千二百件から千三百件という労働争議が起きている。これを争議に入っていく過程から見ました場合において、十分団体交渉を尽してやむを得ずして争議というところの手段に入っていくのかどうかという問題が一つあるのであります。それから第二番目には、調停機関にかかっておるという場合において、何かこうあらかじめ日程表が作られておって、その調停機関調停が行われておる間にもストというふうな圧力をかけてくるという行き方が行われておるという点であります。この点は果して現状でいいかどうかという問題があるのじゃないかと思う。もう一つ不当労働行為という問題、これは主として経営者側の問題です。不当労働行為として地労委なり中労委に出て参りますものを見ますと、多くの場合において使用者側が現在の労働法規とか近代的な労使関係ということに対する理解が薄いために起きている問題がある。これが大体四百件を前後する状態。そうしますと一日に一件ないし二件という不当労働行為毎日行われているということになってくるんじゃないかと思う。これは表面に出ましたばかりで、おそらくまだ泣き寝入りをしている問題も相当あるのじゃないかと思う。こういう点からいたしまして、そういう場合においてどうしても使用者の方に対する一つ教育がやはり必要じゃないか、こういうふうに考えられます。もちろんこれについてはいろいろな原因があるでしょう。日本労働運動の歴史が浅い、あるいは日本の全体の民主主義に対する理解なり認識というものがない、あるいは日本経済の特殊の構造という問題があるだろうと思いますが、これは私はある程度やはり教育というものによって、あるいは調査研究をやることによって、どういう点を直していかなければならぬかという点がはっきり出てくるだろうと思うのです。そうすると、そういう問題は政府自体が直接やればいいんじゃないかということ、あるいは民間団体にまかしておってやることはできないかという問題にかかってくるのじゃないかと私は思う。そうしました場合に、政府ばかりにまかしていくということになりますと、どうしてもこれは法律中心の取り扱いになってくるのじゃないか。最近石田さんがおなりになりましても、あるいはその前の倉石さん、松浦さんの場合も、どうしても法規の解釈ということが問題の中心になってくるので、その点は政府ばかりにまかせておくべきではないというふうに考える。第二に、政府がこういう労働教育とか調査とかいうことをやりますと、どうして目先のことにとらわれていくということ。同時にその教育というものが何か上から押しつける教育というふうな感じを持たれる点があるので、これは政府だけにまかせておく問題ではない分野がある。民間にまかせるのも一つ方法ですが、残念ながら日本労働組合なり使用者団体にまかした場合にそれがうまくいくかどうか。戦前でございますと大原さんのような、ぽんとお金出しておいて労働問題を研究することに注文をつけないというふうなことが行われますが、日本経営者というものはそれほどの太っ腹で、それほどの資力があるような経営者を見つけることができないように思います。どうしても私は政府がやることができない点は、政府が何らかの形において十分にやらせるものというものが要るのじゃないか、そういう意味において、私はこういうふうな日本労働協会といったものができることは、日本労使関係労働運動の発展に寄与するところの性質のものである、こういうふうに思いますが、そういたしました場合に、一体日本労働協会というものがそういう役割を果すような仕組みになっているかどうかということが、この法案の具体的な問題になってくる点じゃないかと思いますが、これは政府がそういうものを作らしてやるという場合におきまして、財政的な問題、それから機構なり人的構成という点、こういう点でどれだけその団体に対して活動を行い得るとにろのものを与え得るかということが検討されるべき問題ではないかと思います。  第一番の財政の点でございますが、この点につきましては今度の法案を読みますと、大体日本経済基盤を強化するためにとってあります金のうちから二十億の基金を出し、大体その利子として上りますところ年間九千万円というものでおやりになるという。これは私は政府としては少し上出来だったと思う。率直に申し上げまして、なかなか保守党政府は労働問題なんかにお金を使うということはおやりにならない傾向が強かったが、経済基盤を強化するという点においてこういうところに金を使っていこうというお考えは、保守党政府としては少しできがよ過ぎたということがいえるのじゃないか。しかし私から言わせれば二十億では足らない、もう十億ぐらいお出しになったらどうか。三十億あれば大体年間一億五千万、月千二百万円の金が使えるからかなりの仕事ができると思いますけれども、この金では不足がありますが、この点は補助金でやるよりも私はいいと思う。補助金でやるということでありますと、どうしてもそれぞれの役所からいきますと、政府の言う通りにならないような団体には補助金を減らすということが往々にして行われがちでありますから、基本的な金をお出しになってまかせるということであれば、その方が政府のひもがつかない行き方ではないか。もちろんそういうことになりますと、あるいは金額がきまっているから仕事が限定されるのじゃないか。しかし仕事が限定されることよりも、私はまだ基本がしっかりしている方が役に立つのじゃないかと思います。  第二番目には人事の問題でありますが、この人事の問題を見ました場合に、重心がどこにあるかということになりますと会長評議員会、この二つの点に重点がありますが、この会長と監事というものは労働大臣が任命される。理事会長がお選びになって労働大臣の認可を得て任命するという形になっている。私は会長理事というものはやはり一体であるべきだと思う。従って自分の補佐をする人間というものは会長がお選びになって差しつかえない、むしろその方が一体としての仕事ができるというふうに思います。そこで問題は会長大臣が選ぶのがいいかどうか、ほかの方法がないかということがあります。私はやはりこの点については、大臣が適材をお選びになるということなら、やはりまかしてしまう以上は自分の信頼できるところ会長を選ぶということで一向差しつかえないと私は思う。むしろそれの方がいいというふうに考えます。第二番目には評議員会です。評議員会というものは諮問機関でありますが、労働問題に公正なる判断をすることができるところ学識経験者を選ぶということになっており、この会で重要なる事項が審議される。実は私も東京都の労働教育諮問委員というものを仰せつかってやっておりますが、これは三者構成という形になっております。そこで大体三月に一回だけ会の計画というものを諮問を受けてきめまして、そこで運営するということになっておりまして、会長がもし独断専行で変な方向に持っていくという場合においては、重要事項評議員会で決定されるということになれば、会長の行うところ仕事というものは評議員会で大体大きなワクがはまってくるからして勝手な行動はできなくなってくると思いますので、この点において評議員会が大きな役割を果すことができるのじゃないか。こういうふうに私は見て参りますが、これは表面のつらだけを見て参りまして、私の考えからくるのでございまして、どうしても私として最後条件と申しますか、こういうことを聞いていただきたいと思いますことは、協会というものに対して政府があくまで自主性を与えるという点に力点を置いていただきたい。そのためには、会長の人選というものをよほど注意していただかなくちゃならない。ここにいろいろな制約がありますが、それ以外に私望みたいことは、一党一派に偏しないところ人物を選んでいただきたい。会長になる人でございますならば、自民党の場合においては、社会党ともよく連絡がつくといいますか、理解してもらえるような人物、もし社会党の天下の場合において会長をお選びになる場合においては、保守党との話し合いがついて理解ができるような人であってほしいということであります。特に労使関係から申しました場合においては、やはり自民党の場合でありますと経営者団体と仲がいいと思われがちでありますから、そういう場合において、やはり労働組合側からも広く支持されるように、社会党の場合は私はむしろ逆のことを望みたいわけでありますが、そういう幅の広い、一党一派に偏しない、党派心の少い方を選んで会長に任命していただきたい。そういう方におまかせするという態度をとっていただくことが大事ではないか。評議員会の場合においては、私は三者構成ということは申しません。三者構成ということは申しませんが、でき得るだけやはり労、使、第三者といいますか学識経験者の中から選んでくる、しかもそれもやはり労働組合だけの立場経営者立場だけにとらわれることじゃなくて、広い視野からものを見ていく——私が言いますならば、国民経済立場であります。国民生活というものを考える人というものを選んでいく。それは三者構成という厳密な意味ではなく、現実的に三者構成という考えのもとに評議員会を作っていただくということが大事ではないかと思います。もう一つ、これはよけいなことでありますが、ここにお役所の方もいらっしゃいますから申し上げにくいことでありますけれども、官僚の方は入れていただきたくない。官僚の方を入れるということになりますと、日本の場合においては、役所外郭団体関係からして、どうしてもおもや注文が入ってくるから、おもやの方に受けがいいような人がいくということになってくるので、私は官僚の方は入れないでほしい。もちろんそう申しましても、これは政府の金で運営されるのでありますから、財務関係とか、そういうふうなものについては、会計的な面においてそういう人が必要かと思いますが、役人上りの人は入れてほしくないということであります。  最後に私申し上げたいことは、今日この委員会でも最低賃金の問題が出ております。私は、この最低賃金の問題がもし実行に移されるということになって参りました場合において必要なことは、経営者使用者に対するところ教育じゃないかと思う。これは一朝にしてできることではないし、政府がやるということでも、もしこの団体ができるならば、私は最低賃金の問題というものにまず最初に取っ組んでもらいたい。組合側からいたしました場合においては、中小企業というふうな場合に、最近労働組合側でも熱心にやっておられますけれども、できてはつぶれ、できてはつぶれという状態にあります。そういう点におきましても、どうしても経営者に対するところ教育というものが大事になってくるし、同時に、こういう中小企業におけるところ組合組織を推進していくということが必要である。最初に取り上げる問題といたしまして、こういう現実に労使関係が確立されておるところの大企業というふうなものよりも、むしろ未組織分野中小企業分野というものにおいて、こういう協会というものが果すべき役割が大きいのしゃないか。そういうことによって労使ともに信頼されるような仕事をまずやり、第一回の仕事というか、最初仕事によって協会のやるべき仕事方向というものをはっきり打ち立て、労使ともに信頼され、国民からも支持されるような仕事をやっていただきたいということで、まずこういうものができました場合においてはスタートを切っていただくならば、こういう協会というものは決して無用ではなくして、相当日本労使関係改善に役立つことができるのじゃないか、こういうふうに考えて、私は根本的には賛成いたします。むしろさいぜん述べましたような条件といいますか、希望というものをいれていただいてお進め願えれば非常にけっこうじゃないかと思います。
  4. 森山欽司

  5. 石川吉右衞門

    石川参考人 この法案に関しましてはいろいろ問題点も多いと存じますが、私研究者という立場からこの点を見ていきたいと思うわけです。ここで問題になっておりますのは、結局研究ということと資料整備ということなんですが、その両者を合せまして研究という言葉で一括してみたいと思うわけです。今さらわが国労働問題全般に対する研究が不十分であると言う必要は毛頭ないと存じます。もちろん問題はこういう協会でやるかというところにあるわけですが、その点についてはほかの方がおられますし、また御質問もあったら申しますが、時間の関係もありますので、研究者というところから申し上げてみたいと思うわけです。現在いろいろな労働問題が起っておりますが、それに対する研究不足である、あるいは資料整備不足であるということは万人が認めるところだと思います。これは常識的にわかっているばかりでなくて、専門的に申し上げてもそういうことであります。特に私が申し上げたいことは、客観的な研究不足ということでございます。及び客観的な研究を行う素地が実際上ないということであります。その点これから申し上げようとするわけです。こういうようなことは実は私も学者の端くれといたしまして、はなはだ言いにくいことです。じゃお前今まで何をしておったかと言われますと、困ることなんですけれども、これは率直にそう申し上げるより仕方がない。もちろん学界あるいは実際家というものがサボっておったわけではないので、一生懸命やっておったわけですが、労働問題の進展の方が早かったということから、おそらくそのぺースについていけなかったのだろう、こういうような説明をすれば最も好意的な説明と言えるでしょう。そういうわけで、具体的の問題が起りましても、結局確実な一資料とか確実な判断の材料というものがないわけです。結局当てずっぽうの議論にならざるを得ない、これは皆さんが常にお感じになる点だろうと思います。そういう常識的な点ばかりでなくても、私は次のように考えておるわけです。たとえばある争議が起った、あるいは今度の私鉄争議が起るというようなときに、私たちといたしましてはその実態調査ということをしたいわけです。現在まで実態調査がなされていないとは申しません。ところがこれも率直に申しまして、少くとも私にとって納得のいくような、信頼性の置けるような実態調査というものははなはだ少いと言わざるを得ない、信用度が薄いということです。実態調査そのものの数が少い上に、少く行われた実態調査信用度が少いと私は思っております。それからまた外国のことですが、これはもちろん外国のことを比較的に研究するということは、これは内国すなわちわが国の労働問題を解決する一つ参考資料という意味ですけれども、しかしいろいろな点で、少くとも資本主義においては先進国である国々のことを調べることは参考になるわけですが、その場合にもわが国における客観的な研究というのははなはだ不足しております。ちょっと例を申しますが——大学の先生らしくて少し固くなり過ぎたと思いますが、たとえば同情ストという問題が去年起りました。これは支援ストとも言っておりますが、あのときの新聞を見てみますと、同情ストが違法であるとか違法でないとかいうことをいろいろな人が論じております。外国では同情ストはどこでも適法であるとされている、こういうふうに言います。それは確かに全くそうである。しかしどういう意味かと申しますと、それは刑事の問題です。同情ストをやった、あるいは支援ストをやったから刑事犯として引っ張ってくるということはないということです。民事の問題としては、あれが債務不履行の問題になるかならぬかという問題については、イギリスの例を見てもこれはもちろん、日本のように期間の定めのない雇用契約の場合同情ストをやった——いや同情ストではありません、いかなるストでも、いわゆる抜き打ちストみたいな、日本でやっているようなストがあれば債務不履行の問題が起るわけです。イギリスでは債務不履行の問題をなくしておいて、つまり日本的に申しますと、十四日の告知期間を守っておいて、それからストをするわけです。ですから民事の問題というのはイギリスでは全然起らないわけです。ところ日本では割合にそういう点がわかりませんで、あれは違法であるとか適法であるとかいうことを申しておる、私ちょっと横道になりますが、日本で同情ストを十四日前に予告してやったら、これは裁判所泣かせの問題になると思いますが、そういう例はたくさんあります。外国の例についての客観的な研究がなされていないということ。しからばなぜその客観的な研究が不十分であったかと申しますと、これは大体二つあると思います。それは研究者の主観あるいは世界観というものが、この問題については非常に入ってきやすいわけです。ですから実態調査をする場合にも、あるいは外国の本を読む場合にも、自分の都合のよいような結論をどうしてもとりたくなる。わが国争議を見てもそういう例はあるわけです。それからまた外国の書物を見る場合でも、たとえば外国ではまるでもう死んでしまったような議論、かつて行われたような議論を、少くともこういう議論もあるというような格好で引っ張ってきますと、それはそれだけだというふうに思われてしまう。あるいはまた全然先ほど申しましたように民事と刑事の問題をとんちんかんに取り扱っている場合もあります。あるいはまたちょっとした片言隻句をとらえて、たとえばアメリカでも同情ストは民事的な意味においても正当であるという議論が強いとか、それはそういう議論をする人はありますけれども、それは正確ではない、すなわち研究者の主観というものが入りやすいわけです。しかしもちろん学者あるいは研究者立場といたしましては、客観的な認識ということが第一番であります。それから物事が出発するということはだれも異論のないところでありまして、すべての人はそれをそうであろうとしているわけですが、しかしそういう非常にむずかしい点がある。しかしまた翻りまして、わが国の学者あるいは研究者の中でも、そうであってはならない、労使双方に偏しないで——偏しないということは客観的にできるかできないかという議論はありますけれども、少くとも客観的に、労使双方に偏しないので、結局は労働者の生活をよくしていく、国際関係も見ながらというような立場の人が少数おります。少数ではありません、大多数がそうであってほしいと思いますが、そういう人もおるわけです。その人たちがなぜ研究ができないか、一口に申しますと研究費と研究施設の不足なのです。たとえば私大学におりますけれども、ここには講座に対する研究費がありますが、それも大学全体の費用としてプールされて、私のところにはびた一文も参りません。科学研究費というものもありますが、これは額が非常に少いところへ持ってきまして、率直に申しましてシシの分け前と申しますか、まあウサギの分け前くらいなところでみなが寄ってたかって食っておるというような見苦しい格好をしておるということです。結局こういうような協会ができて、どういう格好か知りませんが、委託研究というような形で私たちに出してもらえば非常にありがたいわけです。こんなことを申し上げてはあれですけれども、率直に申しまして、労働者側か経営者側にくっついてしまえば学者はきわめて簡単だといわれておりますが、研究費の面から申しますと、そういうことをいさぎよしとしない多数の人がおるわけです。その点を一つ考えていただきたい。もちろんこの協会がどういうことをするかよく知りませんけれども、もしそういうことができたらしていただきたいと思うわけです。  それからもう一点、これは労働問題全体に対して総合的な研究機関が欠除しておるということです。私どもの例で申しますと、私は労働法ですが、たとえば労働法学者あるいは経済学者あるいは社会学者、心理学者というようなものがそれぞれ特別のかたまりをなしております。お互いの連絡があまり行われていない。そこで私、こうあってはならないということを申し上げますと、労働法だけやっておりますと、労働法だけで世界が全部わかってしまうような気持になる。たとえば農民問題なんかどこかにいってしまう。中小企業の問題なんかどこかにいってしまう。労働者の点からどうしても問題を把握しなくなりがちだ。しかし私はそうあってはならないと思います。そうでありますと、とんでもないところから反撃が参るということになる。これは学者あるいは研究者の世間知らずという言葉で現わされておるかもしれません。しかし生活苦で生きるのがやっとで研究なんかとってもできないということで、今のようなことではそうなるのも無理はない。ですから総合的な研究機関ができるということを私は前前から望んでおりましたが、これから本協会がどういうふうにするかわかりません。  最後に一言申しますと、それは先ほど井上参考人が申されましたように、こういうような協会を国がやるというようなことは、はなはだどうもおかしいことだと思う。しかし、ほかにそれではあるかと申しますとない、ちょっと考えられない。それから労働問題は非常なテンポで進んでおりますので、それに追いかけていくという意味もあるわけです。ほかの国では、労使双方がジョイント・オーガンと申しますか、そういうものを作ってやっていく場合もあるわけですが、それが待てないという場合もあるかと存じます。そういうことで、私といたしましては一応これを試みてみたらどうか、私個人といたしまして、もしかこれが発足して中立性を失うというようなことになるといたしましたら、ここにおられます朝日新聞、毎日新聞、読売新聞に投稿いたしまして、あれをつぶせという意見を出そうかと思っております。そうしましたら、おそらく四十五人か五十人でやられるのでありましょうけれども、自衛隊と違って、つぶすこともそんなに不可能とは言えないだろう。ともかくもやっていただきたいと思っております。  はなはだ簡単でありますが、これで一応私の意見を終ります。
  6. 森山欽司

    森山委員長 次に朝日新聞論説委員江幡清君にお願いいたします。
  7. 江幡清

    江幡参考人 時間が限られておりますので簡単に申し上げますが、これから私が述べますことは、別に私の勤務しております朝日新聞の意見ということじゃなくて、私個人の意見とお聞き取り願います。  日本労働協会目的に示されておる仕事につきましては、やはりこういうふうなものをする団体が必要だろう、これはおそらく何人も異議がないと思います。ただ問題は、こういうふうな仕事をだれがやるか、あるいは政府ならば政府がやるとして、政府の関与する仕事の範囲はどこまでであるか、そういうことが問題になると思います。そこでこの日本労働協会は言うまでもなく経済基盤強化基金の中から十五億円の資金をとりまして、その六分の利子として九千万円をもとにして運用するわけであります。いわば政府が全額を出資して作るところ団体であります。それではその政府が全額を出資して作るところ団体が、ここにあげておるような仕事を全部やることが果して適当かどうか、そういう問題が次に出てくると思うのです。その点につきまして私が一つ希望したいことは、先ほど石川参考人も申されましたが、やはり労働問題についての公正かつ科学的な研究に当る、それからまた大学その他の研究機関に対して特定問題の研究を委託し、あるいは資料を収集していく、この面に重点を置いていただきたいということであります。と言いますのは、日本では労働問題というのはかなりやかましくなっておりますけれども、実際問題として考えますと、それについての実証的な研究というものが非常に少い。いろいろなイデオロギー的な理屈は相当多いのでありますが、実証的に日本労働運動あるいは労働争議というものを調べてみまして、そこから何が最も大事であるか、何が最も基本であるか、そういうことについての反省なり研究不足しているわけであります。またやろうとしてもなかなか金がなくてやれないということであります。たとえば私どもも外国の基金を使って若干労働争議実態調査をいたしておりますが、おそらく日本においてはどこからも労働争議調査とか労働問題の調査とか、そういう実態的な調査につきまして金を出してくれるところはまずありません。組合ももちろんでございますが、使用者側もない。またそういうような金を使ってやることは、どちらかにひもがつきやすいのでなかなか困難だ。従って当然日本で労働問題の実態的な調査を行うとすれば、大体においてこれは外国の金であります。これは全体として日本の経済が貧しいということもありますが、しかし今後起るでありましょう労働問題の重要性を考えますと、これはやはり日本の金で、日本研究者によって行われるのが望ましい、そういうふうに思うわけです。そういたしますと、おそらくここにあげておりまする九千万円という金は、この協会の規模がどの程度になるかわりませんが、二十五条にあげておる全部の目的を達成するほどに十分であるかどうか、これは非常に疑問であります。おそらく実態的な調査研究ということを考えますならば、もう少し金があっても足りない、もう少し金を出してやってもいい、そういうものであろうと私は思う。従ってここにあげてある事業については、特に重点的に研究あるいは資料整備ということに重きを置いていただきたい。  それからいま一つ、この協会の行う事業について私希望申し上げたいのでありますが、それは基礎的な問題を扱ってもらいたいということであります。たとえばここに労働教育あるいは啓蒙という問題がございますが、これはいわば恒久的な問題でございまして、特にこれは政府が出す金でやるのでありますから、その場の目先の問題あるいは場当りの問題、そのときどきに起ってくる問題についてのいろいろな啓蒙宣伝、そういうことではなくて、日本の労働問題あるいは労使関係あるいは労働経済、そういうものを基礎的に研究するあるいは教育する、そういうことが必要だろうと思うわけです。  それから第二にこの協会の構成でありますが、この協会が先ほど申しましたように経済基盤強化基金から十五億円の金をとったということは非常によかったと思っております。先ほども井上参考人も申しましたように、政府の補助でやるということになりますと、これはそのときどきのいわば財政あるいは政党の都合によって減らされたりふやされたりします。そうしますと、基礎的なあるいは恒久的な研究調査というものはなかなかできない、資料整備もできません。やはりこれからの研究機関といいますものは、どうしても相当の基金を持って財政的にしっかりして運用しないと、おそらく途中で破綻りするのでありましょう。今日本にいろいろな研究機関がありますが、大体どこも財政的に苦しんでおりますが、これは一つは十分な基金がない、財政的な基礎がない、そのことが理由であります。そういう意味経済基盤強化基金の中からとったことは非常によかったと思っております。  それからいま一つ、話が前後いたしますが、もしこの団体労働教育をやりますならば、私の希望は、特に日本の経済問題についての教育を行なってもらいたい。労使関係ということがありますが、それ以上に今の日本の労働問題にとっての重要な問題は、やはり日本国民経済の問題であります。その点になりますと、日本では非常に抽象的な、あるいはいろいろな経済についての啓蒙宣伝が行われておりますけれども、しかし一般の労働者あるいは国民に対して、日本の経済が今どういう状態であるか、そういうことをわかりやすくしかも実証的に教育する機関というものはないわけであります。しかもこれからの労働問題を考えますと、今の経済はどこに問題があるか、どうしたらいいか、そういうことを特に労働組合の幹部だけじゃなしに、教育といいます以上は、一般の中堅的な労働者、そういう人たちに十分にわかってもらう、これが今の日本にとって一番必要であります。単に労使関係団体交渉がどうであるとかあるいは争議がどうであるとか、そういうことではなくて、今の経済の現状というものをできるだけ多くの労働者にわかってもらうことが必要である。しかしこれは単に場当りに宣伝するのではなくて、基礎的な機構で行うところの基礎的な研究の結果としてぜひやらなければならない、そう思うわけです。  それからいま一つこの法案について問題になっておりますことは、言うまでもなく協会の中立性といいますか、あるいは公共性といいますか、あるいは自主性といいますか、そういうふうな運営の問題があるわけであります。これは非常にむずかしい問題でありまして、この社会労働委員会においてもしばしば論議されておるようでございますが、やはり先ほど井上参考人が申されましたように、評議員というものを相当重要視して、そして会長理事の思うように運用ができるのでは困る。もちろん会長理事の方はりっぱな方が選ばれるでありましょうけれども、しかしそれだけでその会の運営というものが公平にいけるかどうか。何といいましてもこれは政府から全額金をもらってでき上っている機関であります。そして、しかも法律の上ではかなり自主性あるいは中立性が保たれておるように見えましても、一たん団体として発足いたしますと、それが自己回転いたしまして、思わぬ方向にいくということがあるわけです。そういうふうな危険を防ぐためには、相当この評議員その他の人事の公正の問題について、やはり厳格な制限なり、あるいはその協会の行う事業の決定につきまして、相当関係社の意向を強く反映できるような方法が必要だろうと思います。  結論的に簡単に申し上げますと、私の希望といたしましては、やはりこの協会の事業といいますものは、労働問題についての実態的な調査あるいは資料整備、そういうことに重点を置く。もしさらに教育という問題をいたしますならば、日本の経済についての理解を一般の国民あるいは労働者に与える、そしてできるだけこの機構の中において中立性を確保する、そういうことが必要だろうと考えるわけであります。
  8. 森山欽司

    森山委員長 次に東京都立大学教授沼田稲次郎君にお願いします。
  9. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 この法案は、おそらく社会党が政権に何年間かおられたら、そのうちには一度出されたかもわからない、社会党内閣の方が出すにふさわしいという気持は、私も実は持つのであります。各県においても、社会党知事のいらっしゃるところが、こういう労働機関が整備されておるというようなことを見ると、おそらくそう言うことができる。しかしそれは大まかに言ってのことで、何らか総合的な研究機関なり、あるいは教育機関なりというものを作るであろうし、あるいはそれよりももっと一般的にいえば、そういうために予算をさくであろうということにおいて、私は社会党内閣というようなものがあれば、こういう問題を取り上げるであろうということを申し上げたわけです。しかし私は、果してそれではこの法案に示されたようなプランがどれくらいプラスを持つか、どれくらいマイナスを持つかということになると、これはやはりつぶさにながめてみなければいけないし、そしてもしそれがマイナスの面が多いようだったら修正すべきものは修正しなければならないし、どうにもならなければ、またできる時期を待つべきこともあるだろう、こう思われるわけであります。それで、もちろんそういうことを審議していただくのはこの委員会、あるいは議会でありますが、それについて、この構想の中で多少危険もあるのではないかと思われる点をここで提示さしていただいて、そして御審議の参考にしていただければ幸いだと思います。  一番気にかかることは、労働問題の主役である労働組合自体が、あまり賛成してないということがどうも気にかかる。この点はやはり、まず労働問題の主役の労働組合というものに、もう少しよくわかるだけの努力をして出発されることが非常に大事である。どういう法案でも、その法案の適用になる対象が、それにどこまで理解をしておるかということが大事なんで、これをよく理解させてから発足しないといけない。そういう点でどうも気がかりなのは、労働問題の主役である労働組合が、あまり賛成の意を表されておらないように見受けられる。もちろん、中小企業の方たちは賛成なんだ、お前は知らないんだと言われるかもわかりません。しかし声なき無数の労働者がいらっしゃるわけです。組織されておっても発言力の弱い組合もあるわけでありますけれども、少くとも労働者の声を代表している主体があまり賛成していないということは、最初に注意しなければいけないと思います。  それから、政府が全額出資でやっておりますこの協会の運営ということについてであります。一つは先ほどから石川参考人が強調されておったことですが、つまり研究したくてもどうも金もないし、それから総合的にやりたくても、どうも各派にとらわれておってうまく連絡もいかないと、いう関係から、総合的な機関を作った方がどうもよい、作るとすればだれが作るかといえば政府よりほかないじゃないか。もっともな意見だと私も考えるのであります。ただそこで気になるのは、そういう研究の必要件なり、あるいはそれについてどれくらいの金が要るのか、どういう研究にどれくらいの金が要るのかという問題を一体だれがきめるかということを抜きにしては考えられないのではなかろうか。もしかりに労働大臣なら労働大臣がそれをきめるという生殺与奪の権をもし握るといたしますと、これはその政府が、自民党政府であろうが社会党政府であろうが、あまりおもしろくないと思うのですが、わけても労働組合の側がしばしば勇ましく敵などと呼んでいるような、そういう政府でもし握るとすれば、どうもおもしろくない。社会党にしても、私は政権をとってこういう形で握ってしまうのは非常に問題があると思う。やはりそれは研究自体が問題を提起して、それをたとえば公正な第三者に、たとえば学術会議というようなところにおいて現在科学研究費の割当をやっておりますが、ああいう仕組みで問題の重要性を把握する、そうしてそれに幾らか渡す、こういう形にならないならば、下手をしますと、研究者というものに黄金のなわをもって首をくくるという結果を生じないものでもない。学者の給与が悪くて、研究熱望が非常にあるにもかかわらず研究費が少いというこの状態は、ある意味では研究者に黄金のなわをもって首をくくるということが、非常に容易な状態であるともいえるのです。どうもその点、この法案を見ていったときに、果して研究の重要性を評価する上に公正な判定機関ができているのかというその点でながめてみますと、どうもまだ、評議員会というものは諮問機関にすぎないし、どうも生殺与奪の権は結局労働大臣ところに握られる。事業運営計画その他が認可にかかるわけでありますので、その点が私はこの協会発足について非常に危惧されるわけです。これは、ほんとうの自信をもってあくまでも客観的な研究をさせていくべきだという気持ならば、そういうようなことができるような、そういう態勢を法案自体の中へ植え込んでいただかないことには、私はプラスよりも、下手するとマイナスが多くなるのではないかという心配を持つわけであります。  次にもう一つの機能であります労働者教育という問題でありますが、労働者教育ということは私も非常に必要だということを、かねがね実は考えております。労働者教育といえば、大きく分ければ技術的な教育、スキルの教育と、もう一つはモラルの教育といいますか、労働者労働者としてのあり方、たとえば組合を作れば組合の中にいる労働者としてのあり方、メンバーとしてどういう行動をとるべきであるか、組合員としてはどういうふうにものを考えていくべきであるかというようなモラルの教育であります。昔のギルド的なものは両者をあわせて教育しておったわけでありますが、今日こういう高度に発達した産業機構のもとにおいては、技術の方の教育というものは、これはもはや組合の手だけでは片づかない。あるいはもっと大きな規模でやらなければならない。もちろん大企業なんかでは企業者みずからおやりであります。しかしこれは個別資本の手にまかせておくべきでなくして、一国の生産力のにない手である労働の質を決定する問題でありますから、これは当然政府がおやりになってよろしい、精力的におやりになってよろしいと思います。ところがモラルの教育ということになると、これはやはり自主的に自生さしていくべきものでなかろうか、つまり組合みずから自主的に規制していくべきものでないだろうか。なるほど今日非常に低調であります。労働組合は何をしておるかと思うくらい教育に対して関心が薄い。それで、これによってモラルが高揚するのじゃないかという考え方かもしれません。それもないとはいえない。しかしながら労働者教育というものは独自の課題として組合みずからが考えられてよいことだと思います。これは遺憾ながら低調ではありますが、やはりある程度必要なものは存在していると言えましょう。自主的な教育活動がだんだん出てきておるのじゃないか。そういう自主的に出てきておるいろいろな教育活動をこの法案ができることによって生かすかどうか、助成するか、あるいは抑圧するか、これが問題だと思う。そういう教育活動というもののてこ入れをするような意味合いを持つものでなければいけないのじゃないか。こういう法案ができることによってそれを殺してしまってはどうにもならないのじゃないか。各県労政課、あるいは都内における労政事務所といったようなところで、やはりいろいろ苦心されながら教育なさっておる。非常に狭い規模でありますが、なさっておる。これはかなり見ておりますけれども、労働行政をプリンシプルにやっておられるのじゃなくて、同時に聴講者の来る範囲で教育をなされておる。それならば、こういうふうな機構の芽ばえつつあるものをもう少し活用するということを考えていかなければならないのじゃないか。そうすると、この法案においては果してそのようなことになるかどうか。私は下手すると、何か労働省の握ってしまった教育ということになりそうな気がする。これはどうしても何とかしなければいけない。それにはやはり労働大臣の監督ということが少し手きびしくはないだろうか。たとえば十条、十三条、十六条、二十七条、三十五条というようなところなどを見ますと、実質的にも非常に労働大臣の発言力が強い。握り過ぎておる。これはどうも非常に疑問に思う。第一、人選その他においてももう少し客観的な形をとらなければいけないのじゃないか。たとえば学術会議でもよろしいし、あるいはその関係学界の推挙という形もありましょう。それから何よりも労働教育を受ける側の労働組合側の主張、いろいろな言い分も聞かなければならない。いずれにしても、そういう基盤の上で選ばれていく人でこの協会を形成することが大事なのじゃないか。労働大臣が握るということになりますと、これはある程度非常に危険がある。たとえば公労法十七条は憲法違反であるという解釈をとっておる学者がある。これは公労法に反してストライキをやることはけしからぬという政府側としては、どうにもかなわない。あるいはこんなものは要らぬと思うのはもっともであります。それからまた逆に、公労法を改正して、こんなものは違憲だ、違法だ、こう思っている社会党内閣が天下をとったときに、あくまでもそうでなくて可能なのだということになってしまったならば、これはある意味では学者の自主的な研究に対して非常な悪影響を及ぼしてくる。また同時に、学者にプレッシャーを及ぼすとすれば、労働組合の人たちに対して、何か非常に権威的な影響力を及ぼすことになり、労働協会側の意見というものが何か学界の公正な意見であるような印象を与えるということになりはしないか。そうしますと、やはり労働大臣というのがこれくらいところどころにちりばめられるということは、今はよろしいでしょうが、もし保守党がやる気になるかもしれない、そうなったときに、これは同じように社会党内閣になった場合、社会党に握られてしまうのじゃないか。その点で、社会党がこの案をお出しになろうが、どちらがお出しになろうが、これくらい政府機関が握るというのはいけない。既成の自生しつつある自主的な労働教育機関というものを生かすような方向でこれに助成をするというような形での予算を使う道はないものだろうか。この予算をとっていただくということは、これは何といっても労働行政の少し前進だと思うのですけれども、その予算の使い方について非常に危惧されるものが私はありますので、どうかその点は衆議院において徹底的に議論をしていただいて、そしてもっと客観的な調査が可能であり、そして労働教育についてももう少し合理的な制度が打ち立てられるように配慮をしていただきたいものだ、こう思うのであります。
  10. 森山欽司

    森山委員長 引き続き参考人方々に対する質疑を行います。滝井義高君。
  11. 滝井義高

    ○滝井委員 非常に貴重な御意見を聞かしていただいて感謝にたえないのですが、一、二点だけお伺いいたしたい。  それは御存じの通り、最近どうも政府は直接金を出すという補助金とか負担金という形をとらずに、たとえば生産性本部なんかも余剰農産物資金なんかの金を一応財政投融資に入れて、そうしてその中から今度は五億か十億の金を別の機関に入れて、その利子を回していく形をとっておるのですが、今度もまた日本経済基盤を強化するためのたな上げ資金の中から十五億の金を出して、それを資金運用部に預けてその十五億の利子六分、九千万円ですか、それで今度労働教育をやる、こういう回りくどい道を生産性本部においてもとったし、今度もそういう方法でやっておるわけです。今諸先生方の御意見を伺っておりますと、石田労働大臣もそう言っているのですが、この基金の形で運営をしていくと、内閣がかわっても恒久的に金が出てくるんだ、こういうことなんです。そういう点は、ちょっと考えるとなるほどいい考えだという感じがするのです。しかし資本主義のもとにおいて経済の基盤を強化するということは、現在の日本状態からいくと、結局資本の蓄積をやるということになってくるだろう。そうしますと、資本を蓄積するために労働教育をやるんだということになると——企業が動いて、そこに出てきたものが利潤である。そうすると、一体利潤をどういう工合に労働者と資本家が分けるかというような問題がだんだん先へ行きますと、これはやはり日本経済の問題になってくる。そうすると、さいぜん江幡さんは、この協会ができたら日本経済のことを少し教えてもらいたいと言われたが、私も同感です。そういう本質的な日本経済の矛盾、日本経済がいかに働く大衆に多くのしわ寄せをやっているかという現実を見てくると、これは保守党政府の矛盾というものが立ちどころに労働階級にわかってくることになるんですが、それがわかったら保守党政府は大へんなんです。今から五、六年前に各都道府県において労政事務所が労働教育をやった。たとえば私なんかの福岡県においてもやりました。賃金は事業主持ちでやった。ところがその教育をやるたびごとに組織はますます強くなってくる。それは経済の実態を知り、労働運動の過去から現在に至る歴史的な流れをだんだん知ってくると、意識あるものになってくる。これは大へんだというのでやめてしまった。そうしてしばらく鳴りをひそめていて、今になって今度は労働協会というものが出てきたわけです。生産性本部基金の状態を見ると——一体この協会というものが、さいぜん先生方が言われたように、基本的な、基礎的な調査研究をやることをほんとうに目的とするなら、これは私たち賛成いたします。ところが今までわれわれが石田労働大臣なり政府の答弁なりから得たニュアンスは、それらのものというものはそう多くの比重があるとは考えられない情勢なんです。それはこの提案の説明の中にもありますように、近代的な労使関係を打ち立てていくんだ、そうしてそのためには労働問題に対する理解を、労使はもちろん国民大衆にも知らせるのだ、こういうことでありますから、これは決して基本的な、労働争議なり労働問題に対する調査研究という学術を主眼としたものではないのです。こういう点に私は一つのもやもやとしたものをこの法案の審議の過程を通じて感ずるんですが、こういう点についてもう少し突っ込んだところを、非常に詳細な公述をいただいた井上先生と、それから朝日と毎日といっては語弊がありますが、江幡先生の——これは学者の諸先生方はどうもそういう基礎的な研究をある程度重点にせられるような感じを持っておるのでありますが、いろいろ世論に耳を傾けておる——もちろん学者の先生も耳を傾けていらっしゃるでしょうが、直接新聞という世論に関係しておられる井上先生と江幡先生にもう少しそこらあたりの関係を、私はそういう感じ政府の答弁から受けておるのですが、先生方の感じておるところをお聞かせ願いたいと思うのです。
  12. 井上縫三郎

    井上参考人 滝井さんからただいま御質問がありました点でありますが、生産性本部の場合は余剰農産物の方から入ってきた金を使ってやるということが基礎になっておるわけですが、今度の場合は三十一年度のあれで浮いた金が基礎になっておるので、この点ちょっと事情が違うのじゃないか。国民の税金から浮いてきた支出というものと、一方はともすれば日米間の国際関係と申しますか、日本が従属関係にあるのじゃないか、そういうものが特に労使の問題といいますか、生産性の問題に入ってくるという点でより日米の従属的な関係を強めるのじゃないか、こういう見方をされる方があるので、その点は根本的にちょっと違って参るのじゃないか。むしろ私は国民の金であるだけに国民の幸福、国民経済の発展向上に役立つように使うという点で、決してその点が間違っておるというふうには考えませんし、生産性本部の場合とは一応別個にお考えになって差しつかえない問題じゃないかというふうに考えるわけであります。  それから第二点といたしまして、そういうふうな経済基盤強化ということは資本の蓄積ということで、資本の蓄積ということは労働者の搾取の上に成り立つものであるという滝井さんのお考えは、私はそういう見方も成り立ち得るかと思いますけれども、私はやはり日本経済基盤を強化するということは、労働者の搾取の上に立つということではなく、国民の努力の上に立つものというふうな見方をしたい。従ってそういうものに対して労使問題、労働問題の研究、あるいは日本労使関係が安定向上するようなものに使うということ、それが何か搾取のために使っているというふうな立場はとりたくない。やはり全国民的な立場からこの問題と取り組んでいく、そのために政府が出すということをそれほど気にするような考え方は私は持たないのであります。若干御見解と違うかと思いますが、私はそういう立場をとっております。
  13. 江幡清

    江幡参考人 ただいまの問題は井上参考人が申されましたように、やはり生産性本部の資金と経済基盤強化資金とは違うと思います。ただ経済基盤強化資金に食いついたのは、たまたまそういうふうな財源があったから労働協会もそこに便乗したのだろうと思います。その点はどうしてもよくわかりませんが、もちろんでき得れば、これは経済基盤強化基金という中でなくてほかの方から金が出れば一番いいわけであります。しかしたまたま、おそらくいろいろな予算上の都合でそうなったのでありましょう。その場合に、経済基盤強化基金から全額出資であるから資本の蓄積だけの労働強化が行われる、そこまでのことを考える必要があるかどうかということよりは、むしろ問題はこの労働協会がどういう仕事に重点を置いて、そしてどういうふうに自主的に動けるかどうかという問題の方が重要だと思います。私先ほど申しましたのは、今の日本でやはり大事なことは、特に政府がこういうふうな全額を出資してやるような機関では、やはり労働問題についての実態的な調査研究というものが一番大事だ、しかもそれは基礎的な調査でなければならない。それからまたそれを発表する場合、あるいは労働協会活動といいますものも、そういうふうな基礎的な調査研究に基いたものでなければならないということは申し上げました。そこでそういう点から考えますと、おそらくこの労働協会がここにあげておるような全部の目的を達成できるほど金が十分あるとは思われません。私はできますならばこの第一項の目的に重点を置いてもらいたい。しかしもちろん滝井委員から申されましたように、この二十五条のままではどうしても悪用されないという保証がないようでありますならば、私は第一項に重点を置くように修正をされたらよろしいと思います。  それからいま一つ、この協会自主性を確保するために、あるいはその研究というものが非常に客観的であり得るために、評議員会のことを先ほど申し上げましたが、やはり政府によって非常に強くこまかいところまで監督される、たとえば補助金なら補助金の問題にいたしましても、政府の希望しない研究あるいは団体には金を出さない、そういうことがないように評議員会と協議いたしまして、そうしてそこに関係者の意見を反映して、できるだけ客観的に全体の労働者並びに使用者のために使われることが望ましい、そういうことを私は申し上げたつもりであります。
  14. 滝井義高

    ○滝井委員 大体両先生のお考えはわかりました。次は、どの先生いずれも御心配になっておったのですが、会長労働大臣が任命する、それから理事会長が任命しますが、労働大臣の承認を必要とするのです。評議員は、井上先生は三者構成にやるべきだと言われておりますが、われわれもそうだと思うのです。これは学識経験者をずばりそのまま大臣が任命するにとになっておる。理事にしても、大臣の承認なり認可を必要とするということになれば、実質は任命と同じ形になり得る可能性が十分あるわけです。そうしますと労働協会人事面が確実に大臣に握られる。労働大臣が非常にまじめな、労働問題をじみちに考えていく人の場合は、これは問題ないと思うのです。しかしがんこな、政党的な偏見を持つということになると、これはたちまちくずれる可能性も出てくるわけです。財政は全部国がまかなっていく、もちろんこれは、多分寄付金も多々ますます弁ずで、受けるだろうと思うのですが、寄付を受けるとすれば一体どこから出るかというと、これは財界です。従って財政的にいうと国が金を出す、あるいは財界その他から金を受ける、寄付金は条文にはないのですが、しかし大臣の答弁では寄付金を受けるということだったと思います。こうなりまして人事はなるほど任命をする形になりますが、やる仕事はもうそこの自主性を尊重するのだ、こうおっしゃっておるけれども、法律上から見るとそこの役員というものは公務員と同じだという形がとられてきておるわけです。こういう形になりますと、人事の面から見ても財政の面から見てもがんじがらめです。そういう中で政治的な中立性の保持が一体できるかどうかということなのです。最近は御存じの通り次官通牒みたいな工合で、いろいろ労働法に対する解釈まで労働省が出しておられるわけです。あれも労働教育のために出しておるのだとおっしゃるわけです。そうすると、労働協会で委託をされた学者なり大学がそれと違った見解を出した場合には一体どういうことになるのだ、こういう形も出てくる。いやそれはもうやむを得ません、そのまま放置いたしておきます、こうおっしゃるのですが、ところが一貫して労働次官の通牒をもって労働省が一定の解釈を、教育だといって出しておきながら、今度は労働協会から違ったものが出た場合に、地方の労政担当官は一体どういうことになるのだ、こういう問題なんかも考えていきますと、そこには必ず目に見えない意図が大学なんかに及ぶ。さいぜん沼田先生だったか、黄金の綱で首を締められると言われたが、そうだと思う。現在そういう状態が各省にないとは言えないと思う。各省に、現在文部省にしても厚生省にしても、それぞれいろいろの調査をやるために、各省は各省のテーマについて学者に委託しております。ところが、長年の間二十万、三十万もらっていらっしゃいますと、はなはだこれは恐縮な言い方ですが、各省に所属しておる御用学者といったらおかしいですが、非常に親しくなっている学者の方々意見というものは、いつの間にかその省の意見と同じような状態にだんだんなってきている傾向が現実にあるのです。そうすると、見えざるアダム・スミスの手じゃないが、見えざる黄金の綱というものが首にいつの間にかいく可能性もある。というのは、これは語るに落ちたりで、石川先生が大学の実情をお話しになって、シシの分け前ならいいが、ウサギの分け前さえも競争しなければならぬという実態、そうしますと心にもないことをやらなきゃならぬという形が出る。私はむしろ九千万円の金を政府が出すとするならば、この際大学の労働問題を研究する学者に九千万の金を分けてやった方がいいと思うのです。毎年分けておあげになるならば、日本の労働問題に対する基礎的な調査は、五年を出ずしてりっぱなものになると思う。さいぜん江幡先生から労働問題に対する、あるいは労働争議に対する基礎的調査は、日本のいろいろの機関から金をもらうとひもがっくので、外国の金でやっておるというお話をわれわれは聞かしてもらったわけです。こういう点から考えると、この際政府は、われわれの膏血、税金でこういう機関を作るなら、文部省を通じてでなくてもいいから、労働省を通じて、この際大学の研究機関にそれを出す方がもっと有効じゃないかと私は思うのです。それの方がほんとうのじみちな研究ができる。その点は労働協会という一つのまとまった機関において大臣が任命するよりは、文部大臣という全然別個の任命機関のもとにおける大学校で行われれば、まだ日本の大学の学者は、黄金の見えざるなわがつけられても、やはりがんばる人は相当おると見ております。そういう点からいうと、これは一つの示唆を得ましたから、いずれあした岸総理が見えるので、そういう点も追及してみたいと思いますが、そういう点、先生方どうですか。九千万の金は毎年大学の基礎講座にやってくれ、こういうことの方がむしろはるかに日本の労働問題の基礎的な調査研究ができるのじゃないかと思うのです。そして、むしろそういう関係があるならば、中央労働委員会か何かにそういう金をプールして、そのときそのときに学者に委託して、労働争議を客観的に調査をしてもらう。争議が起れば、たとえば私鉄の争議が起れば、臨時的に学者を任命してやってもらうというような形の方が、こういうまとまった機関を作るよりも、はるかに日本の労働問題の基的調査ができるような感じがするのですが、そういう点こういうものを作るより、むしろこの際そのお金は労働省を通じて研究機関なり大学校に支給していくということの方が、自主的な研究ができてかえっていいんじゃないかという感じがするのですが、その点はどうですか。
  15. 石川吉右衞門

    石川参考人 九千万円を大学に下されば、それが一等いいにきまりきっております。ただそれができるかできないかという問題です。出してくれれば一等いい。問題はないのです。黄金のなわというのは非常にいい言葉ですが、言葉のあやに迷わされてはいけないのでありまして、黄金のなわのかけ方なんです。かけたと思ったってかからない人間がいるのです。それは今おっしゃったように、私個人的なことを申し上げて非常にあれですけれども、そうあってはならぬと常に思っております。そういう人がたくさんおります。先ほど申しましたが、現状におきましては、どっちかへくっついてしまえば研究は可能だということを私は一つ言いたい。世の中にはこういうことはないですよ。
  16. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 今九千万円大学に下さればけっこうだとおっしゃったが、私はあまりけっこうじゃないのです。大学の教授としてはけっこうのように見えますけれども、やはり可能性が同じことになるのです。これは結局こういう機関を作るなら、むしろそういう金を総合的に使った方が有益だと思うのです。しかしその使い方、先ほどから心配しておったのはかかってそこにある。つまり客観的な調査をする、あるいはまた何らかの労働教育をやるということについても、その性質にふさわしいような機能を果し得る、そういう客観的な機構ができておらなければいけない。先ほど、労働大臣がいい大臣ならいいとおっしゃったけれども、私は、いい大臣が出ようが悪い大臣が出ようが、大臣があまり口を出さぬ方がいいというのが私の考えなのです。たといかりに社会党でどなたか大臣が出られても、おそらくは、いい大臣であるということに御質問者は考えておっしゃるのでしょうが、それでもあまり口を出さない方がいいんじゃないか。もう少し自主的な機構にするようにしたい。それから、黄金のなわにかかりたくないということについては、主観的にはもちろんそうであります。これも私が言うのは、ある研究者には補助金出したけれども、ある研究者には出さないということが、ある政権をになっておる側からきめられるということになったのでは、これはむちを当てるというよりは、むしろ差別的に助成することによって黄金のなわをかけるということを申したのであります。言葉のあやではない、実質はそういうことであります。これは一人々々が自分がかかるなんて思っておる人はだれもおらないですが、そういうふうな差別性は、事柄の重要性という問題から客観的に出てくるのでなくてはならない。この調査よりこの調査が重要だということが客観的に評価ができる、少くとも社会的な機構の中でこれが是認されるようなものに金を出す、ここいうことにならなければ、だれかがきめる、そのだれかというのは、自民党労働大臣であることもあろうが、社会党労働大臣であることもあろうけれども、しかしそこできまってはいけないのではないか。政権はどちらへいくか知りませんけれども、どちらにいくにしろ、これから労働協会を長く存続させていく、コンスタントに活動をさせるということを考えられるならば、そういう影響を受けないようなシステムにしなければいけない。その点は、この法案を見ると、少し労働大臣の監督というか、関与が多過ぎるといいたい。そもそも労働教育は、国家的な立場においてやることには異議ないとしても、それはあくまでもモラルの教育として考えれば、労働組合みずからの中から、自分らの描く労働者像を築き上げていく、これが教育であります。何か外から押しつけられた労働者像を教育されるというのは、ほんとうの労働者教育にならない。だから、労働者が最も労働者らしい教育をみずからするということを助成することによって、初めて国家的観点での労働者教育が成就するという考え方を私はとっておるわけであります。
  17. 滝井義高

    ○滝井委員 一番最後の方の、労働者教育国家的な立場からしなければならぬ、労働者みずからがあるべき労働者像を作る方向教育されていく、これは私は同感でございます。そこで沼田先生に、客観的な機構の問題で少しお教え願いたいと思うのですが、さいぜん先生のお言葉の中に、たとえば、学術会議というようなところでというような簡単な示唆があった。研究主体というものを作り、その主体の選び方、それからいろいろの運営の仕方は、学術会議でやってみたらというようなお話があったのですが、そこらあたりの先生方の考え、労働協会というものをつぶすとすれば、その九千万円の金というものが一体どういうもので肩がわりしたらほんとうによりよき労働者層を作るような機構ができるだろうかということなんですが、もう少し、わかれば詳しく言っていただきたい。
  18. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 私も今そんな具体的な言葉でこまかいことを考えておるわけではございませんが、この法案修正という形でいくと不可能だとは必ずしも考えておりません。どちらにしても私は、学術会議ということを一つ申し上げましたが、学問的な領域については、今のところ科学研究のことに関しては学術会議が関与いたしておるのです。学術会議は、もちろん絶対公正であるとは言えませんでしょうけれども、しかしながら、客観的にながめて評価し得る機関を今の制度の中から探し求めますと、学者としてはどうも、学術会議かしからざればそれぞれの学会、社会政策学会とか労働学会とか、あるいは経済法学会とか、いろいろ学会があるが、こういうところ一つの母体にしていったらどうだろうかという感じを実は私個人としては持っておるわけでありますが、もちろんそういうことを審議しておいていただきたいというのが参考人意見でございます。だから私はその中に立ち入ってどういう案を持つかということは、今申し上げたようなところでお許しいただきたい、こう思っております。
  19. 滝井義高

    ○滝井委員 これで終りますが、この労働協会目的をずっとせんじ詰めていってみますと、結局最後二つの面が残るような感じがするのです。一つは純粋な、ほんとうの意味労働教育、さいぜん言われておったようなモラルということ、労働者としてほんとうの自覚を得るような労働者を作っていく、こういう純粋な面です。それからいま一つは、現在の日本の客観的な情勢から考えてみると、総評なら総評という労働組合が非常に強い。これは現在政府にとっては好ましからぬ団体になっている。そうすると日本労働運動の支柱というものはやはり総評、全労、こういうふうにきまってきているわけなんです。そうしますと、労働教育の対象となるものは一体どこなんだというと、総評と全労だということになります。そうするとそこから出てくるものは、過去の日本労働運動の弾圧の姿から見ると、御用組合化というものが一つ出てくるわけです。そうすると純粋なものと御用組合化、こういう二本の軌道のみが労働協会法のずっと先を見つめるとしかれておるような感じがする。一体今のいずれを政府が選ぶのか、いずれを労働大臣が選ぶのかといいますと、さいぜん石川先生が、自衛隊はつぶすことはできないけれども、これが違ったらつぶすことができるだろう、こういうお話があった。再軍備はいたしません、再軍備はいたしませんと言っておるうちに二十万になってしまって、どうにもならなくなった、やがて核兵器も持ち込まれる、日本もミサイル基地になるのだ、こういうようにがらっと情勢が変ってきてしまった。そういうことから考えていきますと、過去の弾圧の姿等を考えると、どうも二本のレールが、先に行くといつの間にか御用組合化という一本の姿になってしまいやせぬかというように、それはお前が亡霊におののいておるのだということを言われればそれまでですが、何かそこらあたりの感じがあるのです。せんじ詰めていくと、今言ったような二本のどちらかになるような感じがするのです。先生方はそこらの運営がうまくいったらと言いますけれども、過去の日本労働運動の歴史から見ても、あるいは今までいろいろなことをやられた姿を見ても、そこらあたりで私たちが純粋な気持でこれをなかなか受け取れないということは、そこにこの法案に対する一つの悩みというか、疑問というか、何かそういうものがあるのです。この点をせんじ詰めていったときにどうかということを一つ簡単に四人の各先生方から、一言二言でいいですから御示唆を願いたい。これで私の質問を終ります。
  20. 井上縫三郎

    井上参考人 ただいまの問題は非常に微妙な問題になりまたと思うのです。具体的に言うと、総評と全労という二つのものが組合として対象になる。そうすると、これは私の受け取り方が悪かったのかもしれませんが、それは一本化するということは、一方はほんとうの労働組合で一方は御用組合だというような感じを受ける。私の取り方が間違っておったら訂正いたしますが、そういう御理解ではなかったろうかと思うのでありますが、これは非常に重大な問題をお出しになったと思う。  私は、この協会としてやります場合において、日本労働運動はまだ日が浅いと思う。そういうふうな点から諸外国に学ぶべき点が結局ある。それから、各参考人から意見が出ましたように、日本の実態をもちと研究しなければいけないのじゃないかと思う。特に中小企業における労働者の実態がどうかという問題でも、ほとんどこれは見当がついていないと言っていいのではないかという感じがするのです。さらに国民生活という点から言って、労働者と農民というものの生活がどれだけ違っているのかという点について、実態的な調査、実証的な調査というものがもっとなされなければいけない面が多分にあると思うのであります。これはこういうことを調査する一つの大きな使命になっている問題じゃないかと思う。同時に、日本労使において近代的な労使関係が打ち立てられていない、そこにもくわを入れなければいけないものがあるとすれば、これはやはり研究だけではなくて、それと唇歯輔車の関係にあると申しますか、教育の面においてもこれをやらなければできないものがある。その対象になるものは組織的な労働者と、それからいわゆる経済団体に網羅されているような使用者団体というもの、それ以外に中小の企業の問題、中小の労働者の問題、そういう点にも教育分野というものが大きく残されているのではないかと思う。従って、この二つというものを、研究だけやって教育は要らないという立場ではなくて、両方とも並行的に進められなければできないというのが日本現状じゃないかと私は考えます。  それでは、この団体が自主的にやっていけるかどうかという問題については大きな問題がある点ではないかと思いますが、大体財政的には、先ほども申し上げましたように、基金という制度は補助金よりもはるかにすぐれた面があるという点は強調してもいいだろうと思う。それから人的な構成の場合におきまして、諮問機関でありますところ評議員会を決議機関にいたしまして、そこで会長を選んでいくというようにお考えになる場合もあるかもしれないと思うのです。しかしそれならば、こういう大きな団体会長について、政府が全額出資でおやりになっております特殊法人でそういう例外があるか、そういう形があるかということになってくると、それは作ってもいいという御議論はありますけれども、その点は、やはり会長だけは大臣が、自主性を与えれば与えるほどやはり大臣の責任において御任命なさるべきものじゃないかと私は存じております。もちろんその場合において、これは私は最初から申し上げていることでありますが、労使いずれにも偏しない、党派的な人でないということで大臣が選んでいくということになれば、労働問題についてはおのずから分野が限定されてくる問題じゃないかと思う。これは各界の広い分野から選ぶということだけれども、労働に関しては、学問的におやりになっている方あるいは労働委員としておやりになっている方、こういうふうな面からして、やはり一応その範囲というものは限定されるので、だれでも納得できる範囲から会長を選ぶということは曲げることはできないのではないか、かように、私は見ます。  評議員会の点でありますが、評議員会三者構成ということを申しましたが、厳密な三者構成ということはいかがかと思うのであります。これはむしろ実態的な三者構成という考え方をもってお選びになることじゃないか。もしそれが厳密な三者構成ということになりますと、大体三者構成委員会を見ておりましても、全部が、組合側組合側経営者側経営者側で、その団体中心にしてものをお考えになる弊害が出てきておる。そうすると、そういう三者構成会議というのは何か他流試合の場所というような形になるので、そうではなくて、実質的に三者構成的な考え方を持って公正なる人選をおやりになるということ。同時に評議員会はもう少し権限を強化していいんじゃないかというふうに感じますので、理事会と評議員会との関係がどういうふうになっているかという点が問題になってくる点じゃないかと思うのです。そこらあたりは何らかのほかに御工夫か御名案があるなら、お考えになって差しつかえないが、私は評議員会がそういう建前において正しい議決をやってくるならば、おそらくどういう会長が選ばれましても、おのずから評議員会によって制約を受けて、その制約の範囲外に出ることはできないんじゃないか、そういうふうに考えております。
  21. 森山欽司

    森山委員長 時間の関係もありますので、なるたけ簡潔に願います。
  22. 石川吉右衞門

    石川参考人 組合の点ですけれども、教育ということに関連して二つ組合が問題にされたと思うのです。私の個人的な考え方は、労働教育というものはない、本来あってはならぬ、どうしてもやらなければならぬということは、これはほんとうの次善の策、ネセサリー・イーブルとして、必要な悪としてやらざるを得ない。先ほど江幡さんがおっしゃいましたように、私はこの協会に対しまして教育ということはたしかなかったように思っておった。教育という言葉をたしか使っていなかったように思います。あるいは意識してやられたとすれば大したものだと思ったのですが、二十五条の四号に、「労働教育活動に対して援助を行う」、これは自主的なものに対して援助を行うことだけで、自分自身はやらないということだと思ったのです。ところが労働問題に関し講座を開設ということになりますと、それとどういうふうに差があるかということは問題になりますが、ただ私はこういうようなものは研究及び資料整備、客観的なものをちゃんと出してやる、あとう限りの客観的なものを出してやって、あとはどうしようと労働者にまかしておけばいいのだというふうに思うのです。先ほど江幡さんも言われた通り、特に経済的な問題とかあるいはほかとの関連、農業問題、そういうものが全体的に使用者あるいは労働者がわかってくれれば、自分たちだけの世界だとは思ってこないだろうと思うのです。そういうことで、組合二つにお分けになりました。お分けになるとすれば将来一本になる方がいいわけだ。ちょっとこれは私見にわたりますけれども、今の総評のようなのは、率直に申しまして非常に世論の糾弾を受けておりますが、これにはああいうような組合が生まれてきただけの基盤があるだろうと僕は思う。スケジュール闘争というもの、私はもちろんあれには賛成じゃありません。しかしなぜああいうものが出てきたかというと、学問的な研究の対象になるわけですが、こういう原因だということが大体わかってくれば、幽霊の正体見たり枯れ尾花で、大してこわいものではなくなってしまう。そういうことこそまさにやらなければならぬ面だろうと思うのです。こういうものだということを世間に示してやれば、それを世間がどうとるかはそれの勝手です。使用者がどうとるか、あるいは組合がどうとるか、こういうふうに私は思っております。ですから基礎的な——私先ほど私鉄の争議があったらすぐ実態調査をしたいと申しましたが、そこへ行きまして私がやった実態調査の結果を直ちに現在の問題の解決に使うというのでなくて、基本的な調査研究資料にしたいという意味でありましたから、一つ誤解のないようにしていただきたいと思います。  それから機構の点が先ほど問題になっておりましたが、機構の点は、これは実際ほかの法律との関係もありまして、要するに政府がこういう形でやるといったら、あとは腹でもって、結局会長の人選とかそのほかの人選はある程度まかせるより仕方がないと思う。四年間の任期ということですから、これも非常によいことではないかと思う。ちょっと御参考のために申し上げますが、アメリカの行政委員会委員の任期は大てい四年間です。日本では一年だと言ったら、アメリカ人は非常に驚きまして、それではとても物事はできないだろう、こういうことを言ったということを一言申し上げます。  それから金の点が、研究費の配分という点でやはり問題ですが、これはまさに先ほど沼田参考人から言われた点、大体において同感なのですけれども、そういうことをしておりますと非常に長くなるかもしれませんので、ただ、こういう協会ができまして、どこに委託研究したかということが、はっきりしたということだけでよいと思うのです。私などはそんなこと今まで一回もありませんが、組合の方から金をもらってやって、組合に有利な結論を出したら、かえって困るのではないか。そういうようなことは私なんかには不幸にして一回もないのです。そういうようなことで、金の出方があるということは、講演料を一回行って十万円もらえば、どうしてもそのとき悪いことは言えなくなるということもあるだろうと思う。そういうことではなくて、はっきり出ておることが必要だろうと思うのです。組合が反対しておるということも、私に言わせれば、実態をほんとうにわかってくれば、そんなにいきり立って反対することもないし、もしかおかしいということになれば、先ほど滝井委員が自衛隊とやや同じだと言われましたけれども、私なんか、どうも日本法律全般を見てみまして、予算的裏づけのあるものを、これも予算的裏づけがあってよいと思うのですが、つぶすことは非常にむずかしい。これは一つ改めていただきたい。そのことこそ、これは一般的な問題ですけれども、先ほども申し上げましたように、もしか私が見て変なふうにいったら、ここで賛成しておりましても、絶対に反対いたします。
  23. 江幡清

    江幡参考人 今滝井さんの御質問は、はっきり申しますと、要するに政府なり政党なり、そのときの労働組合対策にこういう機関が利用されるのではないか、そういうことでないかと思います。私どもの心配する点も確かにその点にありますので、できますればこのような機関におきましては、中立性を維持するためにも、あるいはこの会の信用を維持するためにも、そういうことのないように機構的にはっきりしてもらいたい。もちろんこれは一つ団体でありますから、特に相手が政府でありましても、金をもらって一たん発足いたしますと、たといいかに善意の人々が集まりましても、やはり団体としての面が出る。そういう点がありますので、評議員会の機構なりその他の点において、この団体の中立性、自主性を維持するような工夫が必要だろうと思います。  それからいま一点でありますが、そういうことに利用されないためにも、今の日本の労働問題で重要なことは、当面の組合対策よりももっと客観的、基本的な調査が必要なのだ。経済的な問題でもそうでありますが、あるいは労働争議の問題につきましても、今目前にある争議をどう中止させるか、そういうことよりも、今までどういうことがあってこういう争議になったか、あるいはどこに問題があったかということを基本的に調査し、研究する面が不足だったようであります。従ってそういうことを研究すると同時に、また諸外国の例につきましてもいろいろ向うのことを調査いたしまして、一般の国民あるいは組合に対してもその研究調査の報告を知らせる。そういうふうな形の講座を考えるわけです。またそういうところに重点を置いていくことがこの労働協会を生かす道ではなかろうか。それから先ほど石川さんから申されましたが、こういう労働協会一つ団体でありまして、特に日本では労使間の不信といいますか、あるいは政党間の対立といいますか、そういうものが強いのでありますが、しかしこの協会を運用するに当りまして大事なことは、やはり信用ということだと思います。従ってもし会長にいたしましても、あるいは理事にいたしましても、それが両方から信用されない、あるいは信頼を受けないような人であれば、あるいはまたその仕事が相互の不信を買うようなものであれば、これはできましても結局何の役にも立たない、かえって害になろうと思います。またそういうふうになりますれば、これは先ほど石川さんが朝日、毎日、読売の新聞に投稿して反対すると申されたのでありますが、一般の世論もそういうふうになって参りましょう。従って私どもといたしまては、この協会を特に日本の労働の現状にかんがみまして生かしますためには、やはり調査研究資料の収集、そういうことに重点を置いてもらいたい。それからこの団体自主性あるいは客観性を生かすような工夫がありますれば、これをできるだけやっていただきたい、そういうことであります。
  24. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 先ほどから私の申し上げた構想は、もう繰り返すまでもないことであります。今の御質問なさった趣旨の一つである御用組合化へいくのじゃないかという問題でございますが、実際やってみなければわからないことでございましょう。あらゆる施策というものは、たとえば協調会というものでありましても、あれもやはり何ほどかプラスをなしたでありましょうし、それからおそらくこれができたからといって、すべてが御用組合化にだけ奉仕するとは言えない。おそらく中小企業組織化ということにある程度の役割をなすかもしれませんし、あるいはまた、ことに使用者の啓蒙、中小企業なんかにおける使用者の啓蒙ということにもおそらくある程度の役割を持つでありましょう。そういうことを否定しようとは思わないのであります。そうしてこれは皮肉なことなんで、あらゆる労働政策というものは、いかに弾圧立法でありましても、長い目で見るとかえってそれによって労働組合が鍛えられたりなどしまして、そうしてかえってそういう法律を作った政府が思わぬ結果に逢着することだってございます。従ってこれができて御用組合化が出てくるか、こう聞かれると、私が答えられるものでは実はございません。ただもし申し上げるとすれば、これだけ政府が——私は現在の政党を頭に置いておりません。いろいろな意味において政府がこれだけ発言するような、そういう機構であると少くも客観的にながめると、その機構の中からは御用化を生み出す要素を多分に持つ。従ってそういう危険性をなくせしめるための、先ほどから申し上げた私の考え方をどうぞ御参考にしていただきたい、こういうことであります。
  25. 滝井義高

    ○滝井委員 今の私の発言の中で誤解があるといけませんから……。さいぜんいわゆるこの法案が、せんじ詰めていくと純粋に労働教育をやるということは、組織化を非常に高めていくことを意味しているし、また今ある大きな二つの総評、全労というものを御用組合化していくという方向にも役立ち得る、結局ずっと見通していくと、二本があるが最後は御用組合方向にいくんじゃないかということを質問したのであって、現在の総評、全労のうちの全労が御用組合であるということを言ったのではないことだけを、一つ誤解のないようにしておいていただきたいと思います。
  26. 森山欽司

  27. 松浦周太郎

    松浦(周)委員 本協会法案の審議に当りまして、御多忙のところ長時間いろいろ参考意見を聞かしていただきましたことは、ほんとうに感謝にたえない次第であります。先ほど沼田さんから、社会党内閣ができた場合に、社会党内閣が提出する法案としてふさわしいものであるというお説がありましたが、その反面を考えるならば、いろいろ社会党から批判は受けておるけれども、保守党もこれだけのものを出すようになったということは大いに進歩しているというおほめの言葉であったと思っておるのであります。これについて私は二つの問題を聞いてみたい。第一は経費の問題です。政府が金を出しておるから黄金の綱で首を絞められるということに陥らないかという先ほどの心配でありますが、この点は先ほど皆さんからお話がありましたように、経済基盤強化の金を使ったのでありますから、そのもとをただせば税である。しかもこれは毎年補助金をもらうのではなくて、一応出したもので、あとは会長になった人の運営でいくという点は、毎年補助金をもらうほど首を絞められない点はあると思うのです。しかしながら大臣が任免権を持ち、政府が金を出しておりますから、仰せになるようなことは当らぬでもないと思うのです。そこでこれは公平を期するために、滝井君は冗談で言ったのでありましょうけれども、外国から金をもらってきた方が公平だと言うが、それならばソ連から金をもらってくればソ連に首を絞められる、あるいはアメリカからもらってくればアメリカ的にやられるということも付随いたしますので、今は出発するに当っては、だれも金を出すものはありませんから、日本国家民族的に日本経済を引き上げていこうとするならば、だれかが最初に心配しなければならぬから、まあ経済基盤強化程度のものを持ってきてこのことを考えるといったのは、比較的公平であると私は思うのです。そこでこのものは永久的に公平とは考えられないものでありますから、資金の出所について、三者から出したらどうかという点であります。政府が今出しましたからこれは運営していって、これをもっとよくするために改善していくとするならば、使用者出し勤労者の団体も出すという点であります。勤労者の団体といいましても相当の資金が集まっておるということは事実でもあるし、うわさにも聞いております。その中から三分の一ずつ出すことが公平でありましょうけれども、私は金額の多寡ではないのです。かりに三分の一ずつ出せなければ五分の一でも、二割くらい出してもいい。それでともに日本国家民族の経済及び国家民族のあり方というものをお互いに考え合っていくという意味において、将来改善する場合なすべきではないか。その場合これを出すということが勤労生活者のとるべきことであるかどうかという点です。それから負担についてどうか。これを出すことによって、今までの労働組合の負担金の中から出すことが困難で、増税というか、つまり負担金を増額するというようなことになるなどという場合に、負担にたえられるかどうかという点、これを出すということはどうもみずから矛盾があるというような二つの点についてどうお考えになりますか、沼田さんにお伺いいたします。
  28. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 私は実は資金が今おっしゃったような形で出るのも必ずしも悪いとも思いませんが、資金が政府からのみ出たって必ず悪いものでもない。それよりもその金の使い工合といいますか、使い方についてもう少し客観的にきめること、私はやはり制度の方に重点を置いて考える。そうしないと、非常にすぐれた君主がおられてもなおかつ君主制度に反対するということをロックが言っておる。そういう意味で、いかにすぐれた労働大臣が出られても私はこの制度に反対したい。つまり制度としてはいかに衆愚が集まろうとも、その衆愚の集まりの機関がこういうものの配分についてあるいは研究の重要性というものについてきめられるような機構を考えていただきたい。それと資金とは無関係でないとおっしゃるならば、それも確かに無関係だと言い切れないのであります。しかし今その段階で一体組合に負担を負わす、使用者に負わせるという形がふさわしいかどうか、これは私どもではなかなかわかりにくい。その点はどうか一つ社会党あたりとよく相談していただく事柄ではないだろうかと思っております。
  29. 松浦周太郎

    松浦(周)委員 今仰せになりました機構、制度の問題についていろいろ御指摘がございましたが、資金を出すということになればおのずとその制度を改めなければならぬことになっていくと思う。不合理なものは出しませんからね。それで私はやはりこの勤労者の仲間においても、それだけの決意があれば——出すものは一切出さないけれども文句だけ言うというような言い方ではいけないと思うのです。負担がかかってくるということになれば、勤労者の方に重点を置いたならば、今までよりも軽んじないようなことになる。だからこの点は必要でないかということを今強調したのでありますが、時間がないからもう一つの重点を申し上げたいと思います。  労働大臣も、これは運営する人によるから、会長を選んで、会長に運営させるのだということをしばしば言っております。これはもちろん現在のこの法律の面から見れば、それよりほかに方法がないと思います。先ほど来朝日新聞の江幡さんもしきりに申しておられましたが、どうも日本労使の紛争の処理に当っては、現在の私鉄の行動を見ましてもそうでありますけれども、国家民族経済の確立とか、国家民族の永遠の発展のためにという考え方が非常に低いのです。ただこれは紛争ですし、使用者にも近江絹糸のようなものがありますから、私は使用者もいいとは言わないが、勤労者も、紛争になってしまうのですから、どうしても唯物的に走ってしまって、国家民族の将来とか、国家民族経済を確立するというようなことについては非常に低い考えを持っているのです。そのことを解決するための行動そのものが将来の日本国家民族のために大きな影響があるということは、極力自分からうとんじてしまうのですね。そういうときこそ、こういう機関が働かなければならないのじゃないかということです。  私はドイツに参りましたが、ドイツにも、これと同じ機関ではありませんけれども、そういう場合に備えた機関が幾つもあります。そういうものの会長及びやり方を見ると、法律そのものはそんなにむずかしいことは書いてないが、運営が実にうまくいっているのです。それはやはり人選なんです。ドイツ民族があれまでにたたきのめされて二つに割られて、しかも今産業が発展しているのはどこに原因があるかというと、政府経営者のみならず勤労者に至るまでが、民族経済を確立するのでなければゲルマン民族の永遠の発展はないということに徹しているのですよ。それは使用者の側からいうならば、搾取の手段としてそういうアヘンを飲ましているというようなことは全然ない。ほんとうにそう考えているのです。でありますから、労働の生産性の向上なんということについては相当みんなが強く考えております。日本の総評の行動を見ますと、ないとは言いません。しかし非常に低い考え方である。特に生産性向上運動について反対している。私は向うへ行ったときに、日本の生産性向上の運動というものは他の国よりも使用者側の方を偏重しているのではないか、だから勤労者の方が反対しているのではないかというので、フランスの生産性向上本部に行っていろいろ実態も見ましたし、ずいぶん調査もいたしました。けれども郷司君のやっている行動は本部の運動とほとんど変っていない。けれども総評はああ言うのです。総評の言うようにやったならば日本の民族経済はどうなるかということを私は心配いたすわけです。そこで使用者も勤労者も政府日本民族の将来に対して、日本民族の経済を確立しなければわれわれの生存権はないというところに一致させれば争いは起きないと思うのです。そこまで追い込んだら——私の持論は三位一体なんです。労働と経営の問題は三位一体と矛盾するというけれども、そこまでドイツはやっている。ですから、労働運動というものは経済問題である、政治問題ではないということであるならば、生産が向上すればそれに対する配分は当然与える。その与える配分が少いものだから問題が起るのです。だからそこまで全部国家民族主義的に考えるならば、さっきも言ったように生産の報奨制あるいは利潤の分配、ドイツでやっているように二割五分までいくのがよいか悪いかということはそれぞれの段階がありますからいろいろありますけれども、そこまでいくためには政府使用者も勤労者も一体になるあり方がなければならない。こういう点から労働協会なりが必要ではないかということを考えたのでございますが、そういう面において、経営に当る会長を選考するに当って、大臣が選考することになっておりますけれども——労使関係は常に対立になっておって、その争いが、今度の私鉄のあれを見ても同じでありますが、どうしても唯物的に走って中心を忘れてしまうのです。でありますから一党一派に偏することはいかぬ、政党人はいかぬという先ほどからの皆さんの御意見がありますが、この会長になる人は、ドイツのそういうような機関を見ても、そうやっておるのでありますが、近代的な学識経験の必要なことは言うまでもない、しかし宗教的な情操が必要ではないかということを私は痛感するのです。あの争いをほんとうに直すのには私は宗教的な情操が必要ではないかと思う。そういう人が中に入って公平な裁断をする。これは裁判機関ではございませんけれども、啓蒙その他のことをやるということになれば、自然そこにいかざるを得ないのであって、この会長に選考される資格者は、近代的な学識経験のほかに宗教的な情操の深い、つまりアデナウアーのような、信仰のもとに国政をつかさどるといったような信念的なものがなければいけないのではないかということを私は考えておりますが、これについての四人の簡単な御意見をお伺いしたいと思います。
  30. 森山欽司

    森山委員長 長時間にわたりましてまことに恐縮でありますが、簡潔に御答弁願います。
  31. 井上縫三郎

    井上参考人 ただいまの松浦さんの御意見でありますが、宗教的という言葉で言い得るかどうかわかりませんけれども、公正なる人物であるということ、それから党派心のないということが私は必要ではないかと思う。同時に信念を持って労働者を愛するということを根本に持っていなければいけないことだ。通俗的ないろいろなものは別としましても、労働者を敵とするとかなんとかいうふうな考え方では困るのであって、やはり労働者を愛するという気持を根本に持っていただいて、労使の信頼のもとに、国民としてもまかせ得る、信頼できる人であるということを望みたいと思います。
  32. 石川吉右衞門

    石川参考人 全く同感であります。ただ宗教心と申しましても、宗教心があるかどうかということはなかなかわからないのです。私なんかは仏教ということになっておりますけれども、仏教であるかどうかわからない。しかし私自身は非常に宗教的な男ではないかと実は思っている。そういう点で、もしか私が会長の候補になることがありましたら、あれは宗教心がないからということでないことにしていただきたい。  それからもう一つは、これはちょっと話が違うのですけれども、さっきから資本蓄積ということを言われておりましたが、ごく近ごろ若い学者が、資本蓄積ということは銀行の預金の番付が上るだけのことじゃない、労働者の日々の生活を上げていくということ、そのことがまさに資本の蓄積である。それはなぜかと申しますと、たとえば不況になりましたときに賃下げというような問題が起ったときに、どこでそれでは抵抗するかというと、労働者が日々やっておるということにおいて抵抗力があるということ、こういう点をごく若い学者が言っております。その若い学者の名前は申し上げません。私ですから。
  33. 江幡清

    江幡参考人 会長について宗教的情操ということでありますが、私はあまりよく宗教的情操ということは知りませんが、やはり近代的な社会運動に対しても、あるいは社会改革に対しましても、たとえばヨーロッパにおいてはキリスト教というものが非常に大きな役割を持つこと、これは事実であります。従ってこういうような大きな問題については、別に宗教的ということは私は申しませんが、何かそれに相応するような情操の方であることはよいことだと思います。ですからただいま松浦さんがおっしゃられた中で、労働協会がそういうような人をもって事件を裁断するというふうなお話があったように思いますが、私はつまり利潤配分がいいとか、そういうことよりも、あるいは三位一体でなければならぬということよりも、かりに三位一体なら三位一体という考え方がよいといたしまして、なぜそれでは日本にはそういうものが生まれないか、そういう点をもっと実証的に評価していく必要がある。初めから結論を出して、こうした方がいいのだ、あるいはこの労働事件については、こう判断した方がいいのだ、そういう当面の問題に出て参りますと、弊害も起ってくるのではなかろうか、そういうふうに感ずるわけであります。
  34. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 私、今江幡さんがおっしゃったことを申し上げようと思っていたのですが、この協会は中労委と違う、協調会と違いますのはそこにあるのじゃないかと思います。前の発言で僕は申し上げようと思って忘れたわけですが、外国の資本によって研究をさせる方が公正であるというような意見が、もしどこかから出ておったとすれば、その点については私はあまり賛成でない。やはりこういうものは国内の資本によってやるという見解を持っております。  それはそれとして宗教的心情その他の問題については、私は今何も申し上げることはありません。と申しますのは、問題は、私にとっては賀川豊彦さんがいいのか、徳田球一さんがいいのか、こういうことはかかってだれに選ばすか、だれがそれをふさわしいと思うかという、この機関を作らすことが問題だ。だからもしかりに公正な機関が、もしこれを学術会議だとするならば、この学術会議が賀川さんをいいと思っておるならば、それによってやるべきだし、それはその選ぶ人たちがそれをふさわしいと思ったからである、そういうものを作らなければいけないんだということは、実は終始一貫しておるわけであります。それが主観的に評価する場合に、選出された男がいいか悪いかという、われわれ一市民としての批評をする場合には、これはまたあるいは今おっしゃったような批評を下すことがあるかもわかりませんし、あるいは反対の批評を下すことがあるかもしれない。どうもそのこと自体よりも、私にとって関心が持たれることは、だれがそれを最もふさわしいと選ぶであろうかというにとであります。
  35. 江幡清

    江幡参考人 若干補足したいのですが、実は私がさいぜんの公述において申し上げました中で、外国から資金をもらって研究するのが公平だと、もしそういうふうな印象を与えるような発言があったとしたら取り消します。決してそう申してないつもりであります。私が申し上げましたのは、特に労働問題の調査におきましては、なかなか日本においては研究費を出す者がない。これはおそらく労働問題というものは非常に重要だと考えておるには違いないのでありますが、しかし当面の利益にはすぐに現われてこないということもあるでしょう。これは組合の方はもちろんでありますが、使用者の方におきましても、なかなか金を出さない。従って今日本において行われておりますいろいろな労働問題あるいは賃金問題の調査にいたしましても、ほとんどこれは外国から資金的な援助をもらって行なっておる現状であります。これは私は率直に申し上げますが、国辱であります。
  36. 松浦周太郎

    松浦(周)委員 今の話はあなたの話じゃなくて、滝井君が外国から資金をもらったらどうかと言ったから、それで話したのです。
  37. 中山マサ

    ○中山(マ)委員 何かで私読んだのでございますが、日本におけるところ政府というものは、学者に対して十分なるところ調査費を出さない、それだから結局日本の頭脳といわれるような人がみな外国へ流れていく。何年間の予定でもって外国研究してもらうようにしておっても、もう日本に帰ってくることを希望されないで、いつまでも外国におって、日本の頭脳というものが外国へ流れるということを、読んだのか聞いたのか、ふと思い出したのですが、政府がここで十五億の金を出しまして、労働問題一つにしても、そういう世論に対してこういうことをするということは、日本政府としては、特に労働問題などに理解を持たないとか何とかいうことを、革新陣営といわれる人たちがおっしゃることを考えますれば、これは一歩前進ではないかと私は考えますが、皆さん方いかがお考えになりますか。その頭脳が流れているということもお認めになりますか、これがある意味においては流れることをとめる一端になり得るとお考えになるか、お尋ねいたします。
  38. 石川吉右衞門

    石川参考人 代表になるかどうか知りませんが、私アメリカにおりまして、特に自然科学系統は全くそうです。私の友だちなんか、一緒に船で行った人なんか、帰ってこない者の方が多いくらいです。はなはだ遺憾と思います。ただしこの問題に関しましては、金がないから外国へ行くという問題でないので、私はたといアメリカで何万ドルくれるからといったって、行く気は毛頭ございません。それは私の専門学が日本の問題だからです。一年や二年は行くかもしれませんけれども、ずっと向うで永久にやるということはないと思います。これが一歩前進かどうかということは、まさにここできめるべきことであって、私たちの関することではないと思います。
  39. 森山欽司

    森山委員長 多賀谷真稔君。時間がだいぶおそくなりましたので、恐縮でありますが、簡潔に願います。
  40. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 先生方のお話を聞いておりますと、若干の意見の相違はありましたけれども、この法案の評価というものは運営後にあるというようなお話が大部分であります。しかし私はこの法案の提案された動機というものがきわめて問題にすべきものがあるのではないか、その点が一つも触れられないで、何か労働協会法案だけが抽出して論議されている。こういうところに問題があるのではないかと思うのです。私たちは今後の運営とともに、やはりこの法律を審議しております際に参考にすべき点は、政府がなぜこれを出しているか、どこに意図があるか、こういう点がやはりきわめて問題ではないかと思います。学校の先生方の勤務評定だけの問題を取り上げましても、それは教育そのものの評価ということは困難であろうと思いますが、それ以上に労働組合対策、日教組対策として出されているところに問題があると同様に、やはり労働協会法案も、そういう面があると思いますが、その面の話が欠けておったのではないかと思います。そこでお尋ねいたしたいと思いますが、政府の提案理由の説明の中にも、なるほど日本労働協会法の第一条には、労働問題についての研究というのが目的に出ておりますけれども、提案理由におきましては、そういうことは書いてない。それはずっと後にちょっと付帯的に書いてあるにすぎない。それはすなわち、一方においては労働組合運動を頭から否定する者もいる、あるいは反面においては労働組合側の行き過ぎがある、この正しい批判の目を養わなければならない、こういうことが主題になっているわけです。そうしてこれは従来とも鋭意労使及び国民一般に対して労働教育を行なってきたけれども、役所がやる仕事は不得手な分野が多いから、大衆的に、機動的にやる必要がある。これが要するにこの労働協会法案の提案の趣旨なのです。そこでその点について皆さん方の御意見を聞きたいと思いますが、ことにこの法案が出ました動機といいますものをわれわれが外部的に見ますると、昨年の九月四日に政調会の労働部会で労働新政策というのが出されました。そうして労使関係安定策というのが発表された中に、次のようなことがうたってあるわけです。健全な民主的な労働慣行の確立を促進し、極左勢力の強力な宣伝活動に対処するため、強力な民間団体を設置する。そこで私たちは極左勢力の強力な宣伝活動とは何かということで調べてみましたところが、にれは昨年の六月の総評の大会において、総評機関紙を日刊紙にするという提案がなされた。このとき執行部は三十億という予算を組んだのですが、日刊紙にするについては金がよけい要るというのでそれは否決になった。そういうようなことに対して、総評でも日刊紙を出す、これは大へんだということで、民間団体ということが出てきたとわれわれは聞いておる。また外部にもそういう発表がなされておる。そういうことをわれわれは考慮せずしてこの法案の審議はできないと思います。そこで私は石川先生並びに江幡さんに、一体立法の動機をどういうふうにお考えになるか、これをお聞かせ願いたいと思います。
  41. 石川吉右衞門

    石川参考人 立法の動機にまで入りますと、実はよくわからないのです。ほんとうのことを申しまして、あるいはこれを成立させるつもりはなくて、ほんとうは最賃の方にあって、これは当てうまかどうかというようなこともありますが、私よくわからないのです。今極左勢力云々、日刊新聞に対するものだったり、それが、ほんとうだとしたら、それはナンセンスな話で、ともかくも私たちそこまではちょっと考えてもおりませんでしたし、なぜ組合側の方が反対するのかよくわからなかったのですが、そういうことならというので、今教え願った程度であります。ただ少し乱暴ですけれども、もしこれができて総評がだめだと言ったら、総評が出したらどうか、まあこう言いたいですね。あまり長くなりますからその程度で……。
  42. 江幡清

    江幡参考人 立法の動機をどう考えるかということでありますが、私は提案理由によって判断するわけであります。先ほど多賀谷委員がおっしゃいましたように、昨年九月の自由民主党の政調会のあの決定と結びつけてお考えになることも、もちろん自由であろうと思いますが、ただしかし、立法の動機がたといそうだといたしましても、この機構の内容あるいは運営の方法によっては、これを是正できるのではなかろうか。この立法の動機にとらわれて、どうにもならないのだと、そこまで考えねばならないかどうか、これは私若干疑問があるように思います。従って、特に私どもといたしましては、かりに立法の動機がそうでありましようとも、たとえば労働組合運動を頭から否定してかかる使用者とか、あるいは労働組合側の行き過ぎ行為というものを是正することがあるといたしましても、問題はそういうふうな当面の問題がなぜ起るか、そういうことに重点を置いて調整をしていけば、やはり若干修正できるのではなかろうか、そういう感じを持つわけであります。
  43. 多賀谷真稔

    ○多賀谷委員 私たちもこの法案は、食べてはみたいけれども命は惜しい法案だ。それで労政局始まって以来の膨大な予算をとられたというようなことから、何とかして日の目を見せたいと思うのですけれども、われわれが審議しておりますと幾らも疑問が出てくる。そこで、いわゆる学術的な研究あるいは基礎的な調査の範囲にとどまりますれば、それは異論のないところで賛成できると思う。ところが問題は、対組合の啓蒙であるとか組合に対して、あるいは一般に対して放送をするとか、こういう点が問題じゃないかと思うのです。今松浦労働大臣が、はしなくも語るに落ちるような言葉を言われましたが、私鉄の争議はけしからぬという考え方がある。それで労働協会を作って何とかしたいという考え方が自民党内にはある。いかに良心的な役人が頭の中で考えても、十五億の予算がついたという事実を見れば、今のシビアな政府がこれだけの金を出すところには何らかの意図がある。これはわれわれが逆の立場だからそう言っているのではない。そこで、放送についてもどういう放送をするんだろうかというのでいろいろ聞いてみたが、結局ある争議が起る。そうすると第三者か、あるいは労使双方を呼んで、この争議についてはどう考えるかということを聞くんだ、こう言うのです。そうすると当面の争議に対して水をぶっかけるか促進するわかりませんけれども、とにかくそういうことはすべきでない。なぜ政府がおやりにならないかといえば、政府は要するに、大臣の言葉をかりて言えば、大衆性がない、機動性がない、というのは政府には政府としての、具体的な争議には中立であるという原則があるわけです。そこで政府は出ていけないけれども、民間団体にやらすならできるというところにこの法案のねらいがあるように見える。私はむしろ現在は、労働組合としても労働教育については十分熱心とは言えませんけれども、これを助長さしていく方が弊害が少いのではないかと考えるわけですが、この何といいますか、政府も責任を持たないような機関にただ金だけ出して、実際は人事その他の面において政府があやつって、表面はいわば民間機関という形にして争議に介入してくるという面があるのではないか、こういうことを危惧するわけですか、これについて沼田さんからお考えを伺いたい。
  44. 沼田稲次郎

    ○沼田参考人 情勢はよく存じ上げませんけれども、また参考人というものも、私は参考意見を述べるには一つのワクがあり限界があるのではないかと考えます。それで結局ある法案が出た場合でも、参考意見となれば、そのいろいろの意図が明確にされて、それをも含めて参考意見を述べよという道があるものだとすれば、それをも含めて評価する。そうすれば今のような事情を背景として、もっていかんとなす、こうおっしゃれば、これは明らかに御用化であり、争議介入であるというような意図をもって出された法案に対しては、善良なる市民はとうてい賛成できないことは明らかです。ただ私ども参考人として申し上げましたのは、この法案をながめて、ここからどのような危険性があり得るか、そしてこれが労使関係を円滑ならしめ、あるいはまたいろいろ研究その他のことについて、この協会が任務を果すことが社会全体にとってプラスになり得るようになるためには、どれだけの条件が要るかということをながめてみますと、先ほど申し上げましたように、下手するとマイナスの面が少くない。だから参考意見としましては、本委員会初め国会本会議において、その危険だと思われる点について、どうぞしっかり修正をしていただきたい。そうでなければ、それが修正せられないのであれば、この法案はまだある時期まで待たなければならないこともあり得るかもわからない。だから食べたくもあり命も惜しいとおっしゃいますけれども、その辺のところは食べる人の責任においてやってもらわなければなりませんので、私ども参考人としては、これにはこういう毒がある、フグは毒がある、しかしながらこの毒は血液の中にあるのだから、これをのければこのフグも食える。しかしそれにもかかわらず、この肉の中へ毒も仕込んであるのだ。そのことについてはこの法案自体からはわからない。それはいわゆる情勢の問題つまり意図の問題で、毒を仕込んであるフグだから、たとい血液を除いても食えないとおっしゃれるかどうかは、毒を仕込んだかどうかの証拠の問題であって私はよくわからない。ただ問題は、私どもとしてはどこに毒になりそうなものがあるかということを先ほどからるる申し上げまして、そしてこの毒をのけるための努力をしてもらいたい。しかし第一の前提として、この法案の対象となる労働組合が反対をしておるという事実をよほど考えて審議してもらいたい。少くともそれを説得する努力が積まれなければいけない。果してその努力を積まれたかどうか、それもわからないし、今のところ説得が進んでおるのかどうか、とうてい一市民としてはわかりません。そういうことを申し上げておるわけで、はなはだ不満足な参考意見であるかもわかりませんけれども、それはやむを得ない限界があろうかと思います。
  45. 森山欽司

    森山委員長 これにて参考人方々に対する質疑は終了いたしました。  この際参考人方々にごあいさつを申し上げ。御多忙中のところ長時間にわたる御出席をいただきまして、まことにありがとうございまたし。厚く御礼を申し上げます。     —————————————
  46. 森山欽司

    森山委員長 次に昨七日本委員会に付託されました野澤清人君外七名提出医師等免許及び試験特例に関する法律の一部を改正する法律案を議題とし、審査に入ります。まず提出者の趣旨説明を求めます。野澤清人君。
  47. 野澤清人

    野澤委員 ただいま議題となりました医師等免許及び試験特例に関する法律の一部を改正する法律案の提案理由を御説明いたします。  終戦前に満州国、朝鮮、台湾、樺太等の地において、その地の制度によって医師または歯科医師の免許を得ていた者のうち、昭和二十八年三月以降引き揚げてきた人々につきましては、現行法によって免許を取得するための特例が講じられているのでありますが、昭和二十八年三月以前に引き揚げてきた人たちにつきましては、医師法または歯科医師法の附則に規定されていた同様の特例が昭和二十八年または昭和三十年をもって期限が切れたために、現在では国家試験予備試験を受験する以外には免許を得る道が閉ざされているのであります。  しかるにこれらの人々の中には、特例が認められていた期間中に免許を取得することができなかった者がなお相当数おる状況であります。  以上のような現状にかんがみまして、昭和二十八年三月以前に引き揚げた人たちに対しましても、それ以降引き揚げた人たちと同様に昭和三十四年末まで免許取得のための特例が認められるように現行法を改正しようとするものであります。  なお、特例試験の受験回数につきましては従来二回に限って受験することができることとされていたのでありますが、今回、回数の制限は行わないこととしたのであります。  次に外地で歯科技工の業務を行なっていて昭和三十年十月十五日以降引き揚げてきた人々につきましては、内地の特例技工士との均衡をはかる必要上その法務の継続、歯科技工士試験の受験資格について特例技工士と同様の資格を認めることといたしております。  以上が本法改正の理由でありますが、何とぞ慎重御審議の上すみやかに可決せられるようお願い申し上げます。
  48. 森山欽司

    森山委員長 次に質疑に入るのでありますが、本案につきましては、質疑並びに討論の通告がありませんので、直ちに採決いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。
  49. 森山欽司

    森山委員長 御異議もないようでありますから、採決いたします。本案に賛成の諸君の起立を求めます。
  50. 森山欽司

    森山委員長 起立総員。よって本案は原案通り可決すべきものと決しました。  なお本案に関する委員会報告書の作成につきましては委員長に御一任を願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
  51. 森山欽司

    森山委員長 御異議なしと認め、さように決しました。  暫時休憩いたします。     午後一時十五分休憩      ————◇—————     午後四時十五分開議
  52. 森山欽司

    森山委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  内閣提出日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案及び八木一男君外十二名提出日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案の両案を一括議題とし、審査を進めます。質疑の通告がありますのでこれを許します。八木一男君。
  53. 八木一男

    八木一男委員 日雇労働者健康保険法政府案について、並びに政府のその他のお考えについて厚生大臣にお伺いいたしたいと思います。この前に一番最初の点だけ質問を申し上げまして、その後とだえておりましたが、自後の点について要約して御質問を申し上げたいと思います。  傷病手当金の問題でございまするが、政府原案では十四日、それから出産手当金も十四日となっております。これにつきましては社会保険審議会並びに社会保障制度審議会において、少くとも両方三十日にすべきであるといっておるわけでございます。わが党の案ではこれが九十日になっているわけでございますが、傷病手当金の本質から見て、当然健康保険の六カ月に合わせる方に大幅に近寄っていかなければいけないと思うのですが、最初に十四日というような短かいことでは非常に不満足であると思うのです。その点につきまして厚生大臣考えを伺いたいと思います。
  54. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 傷病手当金、出産手当金等についての御質問でありましたが、私どもといたしましても、社会保障制度審議会の答申にできるだけ近寄らせたいということを考えたのでありますが、御承知の通りに、現在の日雇労働者健康保険法は、現行のままで参りましても相当の赤字が出るという状況にありますときに、長い間の懸案でありました傷病手当金、出産手当金等を新しく創設いたしましたような次第でございまして、保険財政との関係及び政府の財政上の許す限りの限度という点できめましたものでありますから、必ずしも満足する状況ではございませんが、まずさしあたって新しい制度をしくときにこの程度でがまんをしていただこうという考え方で原案を作成いたしましたような次第でございます。
  55. 八木一男

    八木一男委員 同じく両審議会の答申で待期四日間は長過ぎる、少くとも三日にすべきでであるという答申が出ておるわけでありますが、それにつきましてのお考えをお聞きいたしたいと思います。
  56. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 待期四日を三日にすべきであるということも、大体社会保障制度審議会の御意向として私ども了承いたしておるところであります。しかしこれらの点につきましても、全般の状況を考え、かつ失業保険等との関係をも考慮いたしますときに、四日でもってまず日雇労働者健康保険の人はがまんしていだたこうということできめましたような次第であります。
  57. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣はその点は将来において待期を減らす、あるいはまた出産手当金、傷病手当金の期間をもっと延長する、少くとも九十日ぐらいにする、そういうお考えをお持ちであるかどうか。
  58. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 待期の問題及び出産手当金の問題、傷病手当金の問題等につきましては、もとより私どもとしては保険財政の許す限り、その給付内容の向上ということを期すべき当然の考え方でございます。できるだけ諸般の情勢を考慮しつつ早く実現ついたしたい、こういう考え方でございます。
  59. 八木一男

    八木一男委員 総括的に社会保障制度審議会、社会保険審議会の答申を尊重する御意思があるかどうか。
  60. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 もとより私どもとして、社会保障制度審議会に私どもの原案の御審議をわずらわしております以上は、また私ども自身がこの保険財政資金の給付の内容の向上を期すべき当然の責任として、社会保障制度審議会の御答申には、できる限りその実現の一日も早からんことを希望いたしておるような次第でございます。
  61. 八木一男

    八木一男委員 この前の質問のときも申し上げたのですが、当然来年においてはその答申を尊重して法の改正案を出される意思があると思いまするが、それにつきまして……。
  62. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 私どもとしては、率直に申して、三十三年度の予算は、御承知の通りに経済の調整過程でございます。しかしながら、私ども調整過程ということだけで現状に満足すべきものでないと考えまして、この日雇い健康保険につきましても、長い間の懸案でございました傷病手当金、出産手当金等を解決いたしたいという念願からいたしましたわけでございます。同じように、今御質疑の点につきましても、この点は、私自身の熱意を疑って、いつからやるということをここでお約束させられなくても、事実私ども過去の実績から御判断願いたいと思います。ただすべての条件はすべて無視して、そしていつからということは困難だと思いますが、私どもはできるだけ諸般の情勢を乗り越えて、これらの問題を解決いたしたい、こういう考え方でございます。
  63. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣は、結局社会保障制度審議会、社会保険審議会の答申を実現するために、諸般の困難を乗り越えて最大の努力をされるということであろうと思います。それでよろしゅうございますか。
  64. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 おっしゃる通りでございます。
  65. 八木一男

    八木一男委員 それにつきまして、次の国会において当然そういう改正案は出していただけると思うわけでございまするが、それにつきましてもう一言御返事をしていただきたい。
  66. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 八木さん、いつも、いつからということを約束しろしろとおっしゃいますが、それは私の政治行動を見て御判断願うよりしようがないじゃないかということを考えますので、お許しを願いたいと思います。
  67. 八木一男

    八木一男委員 それは困難を乗り越えて出していただけるものと私は理解いたしまして、その点はそれだけにしまして、実は今度は予算が通った後に、こういうことになっているのだから非常にやりにくかったことはわかりますけれども、社会保障制度審議会、社会保険審議会の答申が出てから、政府でお直しになったのは国庫負担を法文に明記されたという点のみにとどまっておるわけです。ですから、現在国家財政は一つも動かしていないわけです。ところが、国家の財政の中にも予備金もあれば、また日雇労働者健康保険法特別会計にもゆとりがあるわけです。その限度内においても尊重するほんとうの具体的な態度をお示し願いたかったわけでございまするが、法案を制度審議会にかけられてから後に、こういう点の具体的努力が顕著に見えていないわけです。そういう点について私どもは非常に遺憾だったわけでございまするが、それについて、厚生大臣はどうしてそういうふうになさったか、そういう点について伺いたい。
  68. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 社会保障制度審議会に原案を予算執行前におかけいたしまして、それによってやるということが私も常道だと思います。ただ御承知の通りに、本年度予算について、この手当がほんとうにでき上るかどうか、実は私としては最大限の努力を払いまして、この前八木さんは、日雇い労働者健康保険創設以来、非常に御熱心に実現方を御努力なすった方でありますから、非常に御主張の強いことはよくわかります。御主張の強いことは私よくわかるのですが、私としては、率直にいえば、これは各種社会保険についてよく精通しておられる八木さん自身が、ある程度日雇い労働者健康保険の御主張が強くても、この全体を通じて見れば、今回の予算的処置は、日雇い労働者健康保険については、均衡から見ましても相当比重を強く持って解決することができたと思うのであります。むろん私はこれで満足はいたしておりませんが、全般を見て考えまするときには、相当ここにウエートを置いてこの際解決した。実はこの点が解決しないのに社会保障制度審議会におかけするのもどうかということで、ある程度の前後になりましたことは、私もむしろ常道に反したと思います。それだけに予算上獲得に苦労いたしました。なお社会保障制度審議会の御答申が出まして、やはりそれに従ってできるだけ修正しようと努力いたしたのですが、必ずしも今御指摘のように、社会保障制度審議会自身の御答申に十分こたえることができなかったという考え方もありますので、先ほどからの御質問に対しても、今後それに沿う努力をいたしますということを申し上げましたような次第でございます。
  69. 八木一男

    八木一男委員 特に保険料の値上げが一番大きな問題だったわけでございまするが、当然この保険料の値上げは高過ぎるという答申が出ますし、私どもも、いつもすべきでないという考え方を持っておりますし、大臣の方も財政が許せば、そうすべきでないとお考えであろうかと思います。でございますから、国庫負担を将来ふやす、あるいはそのままでも、保険財政がやってみたら案外よかったというときには、保険料、特に労働者負担の多い分労働者負担を減らすということを今後お考えになっていただけるかどうか。
  70. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 御承知の通りに、国庫負担を一割五分から一挙に二割五分に今回は上げております。それから傷病手当金、出産手当金に対しましても、三分の一の負担を認めているということは、いろいろと御不満はあると思いますが、従来の経過から見ますと、なかなかむずかしかった問題であるということはお察し願えると思うのであります。しかし、本来おっしゃる通り、私どもとしても給付内容は向上し、そうして保険料は安いことを希望いたすわけであります。と同時に、被保険者その他の御協力も得なければならない。それらを総合いたしまして、御質疑の点は、今後できるだけのことはいたしたい、こう思うのであります。ただ保険財政の建前から、被保険者の負担増をいたさせないのがいいことは確かですが、どんなになっても全部国庫負担だとおっしゃるようなことではむろんないだろうかと思います。私はよく八木さんのお気持もわかりますので、それらについてできるだけの善処をいたしたい、こう考えております。
  71. 八木一男

    八木一男委員 これは労働大臣に申し上げたことがございます。さらに重ねて強く申し上げたいと思っておったわけでございますが、大臣お見えにならないそうで、また後に労働大臣には申し上げますが、厚生大臣からも言っていただきたいと思います。この保険料を値上げしないとバランスが合わないということは大蔵省の考え方だろうと思います。そういう考え方自体がいけないので、これは国庫負担でまかなえばいいのです。それは別といたしましても、日雇い労働者の就労日数が全国で非常に少い。それをふやせば現行の保険料で十分保険財政が保て、もちろん国庫負担は今の二割五分以上にしていただく必要がありますが、とにかく保険料を値上げしないでも済んだわけです。その点厚生大臣にいろいろと申し上げるとともに、労働大臣にも申し上げているわけでございますが、一つ厚生大臣からも、国務大臣として労働大臣に、また内閣総理大臣にも言っていただきたいと思います。就労日数をふやせば保険関係がよくなる。この場合には保険料を値上をもっと下げるようじゃないかというお話をしていただきたいと思いますが、その点いかがでございますか。
  72. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 就労日数がふえ、労働者の貸金が上って参りますれば、当然保険財政に好ましい結果を及ぼすことはよく存じております。と同時に、これらの人がやはりそれに相応する労働価値を持つべきであろう。お互いの理想は、就労日数をふやし、労賃は高く、仕事の能率は上る、そして保険財政はあまり保険料値上げを考慮しなくても済むというふうにになりますれば、これは非常にいいことじゃなかろうかと考えます。労働大臣に対する御質疑でありますが、この調整過程を控えまして、私ども自身も失業問題については十分労働大臣と協力して参りたいと思っております。
  73. 八木一男

    八木一男委員 あと滝井委員の御質問もあるようなので、なお何十時間も質問したい点があるのですが、残念ながらあきらめまして、手続の簡素化の問題で御質問したいと思います。今度の傷病手当金、出産手当金の給付は指定市町村でできないようになっているのじゃないかと思うのですが、その点どうでございますか。できますか。
  74. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 現金の支給は指定市町村でなくて保険官署でございます。ただし、手続の協力といいますか、そういう点については指定市町村も御協力を申し上げるということになっております。
  75. 八木一男

    八木一男委員 指定市町村で現金給付についてもできるようにしていただく必要があると思うわけでございますが、それについてどうでございましょう。
  76. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 現金給付の手続等におきましては、調査等いろいろなこともございますので、現在のところ指定市町村にそれをお願いすることはちょっと事務能力の上から無理である、かように私ども考えているわけでございます。将来ともそういう点研究はして参りたいと思いますが、ただいまのところさように考えております。
  77. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣にその点について御意見を承わりたいのですが、今高田保険局長研究してと言われましたけれども、研究を大いに早くして、ぜひ指定市町村で現金の扱いができるようにしていただきたい。でないと、傷病手当金もあまり額の多いものではありません。遠い出張所に参りますと、それだけで電車賃が要ったりなにかしますし、そのために仕事を休むというようなこともありまして、非常によくできた制度も手続の面で効力が半減してしまうおそれがあるわけです。ですから、市町村でできるよう至急お手配を願いたいと思うのですが、それにつきまして厚生大臣のお考えを。
  78. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 何分実施上の手続であります。むろん手続の簡素化ということが結局これらの支給を円滑にやるゆえんであると考えますが、手続でありますから、なるべく実施の上で研究することにさしていただきたいと思います。今後ともその点については十分研究を重ねて参りたい、こう考えております。
  79. 八木一男

    八木一男委員 現金給付以外の処理も現在指定市町村に委託するようなことになっておりますが、指定市町村というのは非常に少いのです。ですから、指定市町村を全国に拡大していただきたいと思うのです。でございませんと、そういうことをやるために療養の給付を受けるのに非常に不便を感じて、一番大切なことが手続上で効果が少くなる点がございますので、これを全市町村に拡大していただくことにつきまして厚生省側のお考えを承わりたいと思います。
  80. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 現在たしか八百八十四市町村であったかと思いますが、これは従来も御承知のように逐次ふやしております。私どもこれをしぼっていくという考え方はいたしておりません。むしろ逐次ふやして参りたいと思いますが、全市町村にこれを拡げるということは、今のところ必要のない市町村もございますので、その辺までは考えておりません。しかし、逐次御希望に沿うような方向に必要に応じてふやして参りたい、かように考えております。
  81. 八木一男

    八木一男委員 ふやす方向に向っておられることはけっこうなんですけれども、全市町村に広げていただきたい。というのは、小さなところですと、出張所に行くのに非常に不便なことが起るわけです。そういう不便なところはいろいろな点で国家の施策が及ばないで不幸な目に会っていて気の毒ですから、できるだけ早く全市町村に拡大するようお願いをしておきます。それにつきまして、総括的でけっこうですが、厚生大臣の御決意のほどを伺いたい。
  82. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 私は、八木さんの言われるように、指定市町村が多いほど実際受給者にとっては便利だ、制度の運用もその方がよくいき、結局被保険者のためにもなると思うのでありますが、これは御承知の通り事務的な能力の問題ですから、それらの能力の充実と相待って逐次拡大して参るべきものだ、こう考えております。
  83. 八木一男

    八木一男委員 その事務的な能力の問題ですが、事務的な能力のために法の実際の効果を発揮できない。それで、結局遠いので現金給付だけではなく、療養給付が受けられないために病気が重くなって死んでしまうとか、早くなおせばなおる病気が重くなって経済的にも支出が大きくなるということは非常にまずいと思うのです。その点で全市町村に及ぼすというふうに御配慮願いたいのでございます。このことぐらいは厚生大臣、大いにやるというお答えを願いたいと思います。
  84. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 今回指定市町村をふやしましたことも今八木さんの言われるような方向に従って行っているのでありますから、ただ事務能力に籍口して範囲の拡大をはからないわけでないということはお認め願えると思うのであります。一挙に全市町村にしろとおっしゃることは現状からは少し無理じゃなかろうか。私どもは何も現状に即しているのがいいとは思いません。ですから逐次そういうふうにすべての問題を整えるように促進しなくてはいけないということは認めますが、いかに厚生大臣といえども、現在一挙に全市町村にといわれることは、少しちゅうちょせざるを得ない、こういうふうに考えております。御趣旨に従って拡大して参りますことは、今回の改正案をごらん願っても、御趣旨の方向に従っておるとお考え願いたいと思います。
  85. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣のお言葉、一挙に全市町村に拡大はいかない。大いに拡大に努める。一挙ではないけれども、とにかく割合近い機会にそこまで拡大さす、そういうお考えだと理解してよろしゅうございますか。
  86. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 八木さん非常に念には念をお入れになりますが、これもそう口だけの上ではございません。事実やっていくかやっていかないかですから、そういうふうにごらん願っても、やはり今回の改正案によって、私どもが何を意図しているかということは明らかなんですから、できるだけ御趣旨に従って参りたいと思います。
  87. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣にさらにまだ質問があるのですけれでも、関連がありますので労働省にちょっと間を入れまして質問をしたいと思います。  労働大臣にこの前申し上げたのですが、日雇労働者健康保険法改正案、政府案のことについてでございますが、今度の日雇労働者健康保険法改正案に、国庫負担を上げるとか、傷病手当金、出産手当金をつけるといういい面もございまするが、保険料の値上げという非常に悪い面がございます。しかも保険料の値上げは傷病手当金、出産手当金の給付の額よりも、保険料の値上げの額の方が多いわけです。その原因は何かといいますと、結局全部国庫負担で解消すればいいのですが、その点は大蔵省に質問しますが、もう一つの原因は労働省の政策に関係があります。というのは失業対策事業が十分な就労日数を持ち、十分な賃金を持てば、現在の保険料の料率でも十分に傷病手当金をつけ、さらに給付をふやすことができるわけでございますが、そっちの方が戸惑いをしているために、保険の方にしわ寄せが来て保険料を厚生省は値上げをする。この点もけしからぬけれども、労働省がそういうことではいけないのです。われわれの方が失業対策のワクをふやすから、就労日数をふやすから、賃金を上げるからそういうことは待ってもらいたい、保険料値上げは困るということを、労働者側に立って労働省は主張されるべきです。その点は七月に石田さんが労働大臣になられたときに、この失業保険法とか日雇労働者健康保険法労働者に重大な関係がある、それを厚生省だけにおまかせしているのは、労働省がその点についていろいろとお手伝いをしなかったり、あるいは労働者側の希望を述べずにほったらかしてあることはけしからぬ、これからはしてくれと言いましたところ労働大臣は大いにすると言われたのです。ところがそれから半年たってみると、労働省が当然主張なさったならばそうはならなかったでしなうし、また労働省側が十分に失対事業を拡大したら当然そうならなかったであろうと思ったことがそうなってしまった。これは労働省の重大な責任だと思う。それについて労働省側の意見一つ聞きたい。
  88. 三治重信

    ○三治説明員 私のお答えだけでどうかと思いますけれども、この健康保険法の改正につきましては、実は私の方は予算を大蔵省が入れたのは第一次内示で初めて知ったので、それから私としては事務的には相当折衝したつもりでおります。それから事実その法案の大蔵省原案に対する四階級なんかも、非常に失対事業をやるわれわれの立場から見れば失業保険と分れる。これは印紙が四段階になっている。実際問題といたしまして、一たん事業主体が郵便局から買い入れた印紙を、あとで余ったから返す。また賃金をすりかえた場合に、三級から二級に上った場合に、三級の印紙が余った場合はこれは事業主体の完全な負担になってしまう。そういう関係でわれわれの方としては事務的には非常に簡素化してもらいたい。もちろん現実に給付を受ける方の立場から申しますと、やはり賃金階級別にそれぞれ六割、大体概算でやっていきますと、賃金が四百円とか二百八十円、百五十円という段階的に印紙ができることによって、実質上の傷病手当金は違ってくるわけなんで、その方が受ける側から見ればいいけれども、失対事業をやる立場から見ると非常に問題があるというようなことで、予算の原案から見ると実際の今度出されました法案までは私の方としては厚生省、大蔵省に強力に意見を申し上げて、あるいは一部の委員さんには不満の点もあったようですけれども、われわれとしてはこれは労働省としての立場を十分反映してもらったと思っております。それから予算の問題でございますが、これはそういうふうな関係で結局時間切れみたいになってしまったわけなんです。これは施行されて実施の部面の場合には、われわれの方としても労務者の現在の手取りが下らないように、できるだけ実行上の部面について大蔵省とも折衝し、実行部面について労務者から二円、三円差し引かれないようにできるだけ努力するつもりでおりますので、現在のところどうこうという方向、最終的な明快な御答弁は申し上げかねますけれども、そういうふうに実行部面では十分努力して参りたいと思っております。
  89. 八木一男

    八木一男委員 十分に反映していると言われるが、こんなもので十分反映したと言われてはとんでもない。こんなものを一文も上げたらいけない。少くとも労働者負担を一文も上げてはいけない。そんなもので十分反映したと言われるようでは、労働省が本腰を入れてこの問題にかかっていない証拠だ。それについてどう思われますか。
  90. 三治重信

    ○三治説明員 これはやはり保険の給付が上ってそのために財源が要る場合に、これは社会保険ですが、失業保険においてそうでございますし、やはり労使が——政府負担は一応別として、どれだけ負担するか、割合は別として労使が社会保険で平等に負担するという部面については、私の方としてもこれはもうやむを得ないことだと思っております。この負担が使用者側だけ負担がふえて労働者側が負担がふえない……。
  91. 八木一男

    八木一男委員 そんなことを聞いてない。労使折半の条件なんか聞いていない。
  92. 三治重信

    ○三治説明員 労働省としては、社会保険として保険料がやはり給付が上るために財源が要る、そのために労使が……。
  93. 八木一男

    八木一男委員 そんなことは聞いてない。保険料全体のことを聞いている。保険料全体が上ったことについて……。
  94. 三治重信

    ○三治説明員 だからわれわれの方としては、傷病正手当金という給付がふえてそのために財源が要るのだから、厚生省が保険料を上げられるという部分についてはこれはやはりやむを得ないと思っております。
  95. 八木一男

    八木一男委員 給付がふえた金額よりも保険料の上った金額の方がはるかに大きいのですよ。そういう説明をされるところを見ると、この法案にほんとうに取っ組んでおられるとは私は理解できない。保険料の値上げの部分の方が給付のふえた部分よりも多いのです。そういうふうに理解されたらそんな答弁ができるはずがない。それについてだけ、折半負担なんか、よけいなことを言わないで。
  96. 三治重信

    ○三治説明員 それはまあわれわれの方も赤字の経理の内容が、給付の内容と保険料の値上げとがどうかとか、その部分についてまでは研究しておりません。
  97. 八木一男

    八木一男委員 そういうことだから困るんですよ。あれだけ言っているのを、労働者に重要な関係がある、しかも失対事業の自由労働者に非常に重要な関係ある法案を、労働省がそんなことがわからないで、十分に反映したと言っておられるけれども、法案の内容がわからないで十分に反映ができますか。ほんとうにわかって十分に反映したらこういう法案はもっとよくなると思う。労働省が労働者のことを考えていない証拠じゃないか。労働大臣は問題にされているのですか。
  98. 小沢辰男

    ○小沢説明員 ただいまの労働省に対するいろいろなお尋ねでございますが、いろいろ事務的な交渉なりその他のことに関連しておりますので、先生に一言御了解をお願いしたいわけであります。  先生のおっしゃるねらいあるいはそのお気持は十分わかるのでございますが、実は御承知の通り、昨年度の予算編成に際しましては労働省の方で失対労務者の賃金改訂をおやりになったわけであります。そのときに実は同時に、そういうような機会にこの保険財政の関係から見て、失対労務者を相当多数の部分かかえておりますわれわれの方の日雇い労働者健康保険の保険料も当時すでに相当の赤字でございましたし、また将来給付内容も若干ずつでも改善したいという気持を持っておりましたので、労働省の好意ある連絡を受けまして、われわれの方もそういう点をかみ合せて、端的に言いますと、それの改訂の時期にむしろ保険料の引き上げを合せた方がいいんじゃなかろうかというようなことも実は主として大蔵省からもいろいろお話がございましていろいろと検討したのであります。けれども、失対賃金の引き上げをやりましたにもかかわらず、私どもの保険料は、実は給付改善等の措置が若干でもこれに伴いますればいいわけでございますが、そういう点の見込みが立たなかったものでございますから、私の方の日雇い労働者保険の財政が非常に困難をしておりましたが、実は保険料の引き上げということを見合わしておるわけでございます。むしろそういう面から見ますと、いろいろ御意見もございましょうけれども、今回の保険料の引き上げは賃金の引き上げよりも一年おくれたというようにお考え願いまして、若干のところ一つ御了承を願いたいのでございます。
  99. 八木一男

    八木一男委員 賃金の引き上げよりも一年おくれたのですか、賃金引き上げの方がおくれたのですか。
  100. 小沢辰男

    ○小沢説明員 いや、前年失対事業の労務者の賃金改訂をやったわけであります。御承知のようにこれは昨年度から行われておるわけでありますが、保険料の方の引き上げは、何も理論的にそれと期を一にしなければいかぬということではもちろんありませんけれども、私どもが保険料の引き上げを本年度から実施することにしたという結果だけを見ていただきますと、程度の差は若干ありましょうけれども、賃金引き上げの方がちょうど一年先に上りまして、保険料の方は一年引き上げがおくれておるわけでございます。そういう点で、私八木先生の御意見に反論をいたすわけではないのでありますが、ただそういう事情がありますので、一つ好意的にごらんをいただきたいということを申し上げておるわけであります。  なお、労働省の方も、先生おっしゃるような線に従った事務的な御努力というものは昨年度非常に強くやっていただきましたので、実はその点についてはむしろ労働省に事務的に迷惑をかけたことをわれわれ非常に心苦しく思っておるような次第でございます。むしろ先生のお気持は保険料の引き上げの点に問題が集約されておると思いますので、労働省の方の努力なりあるいは善処なりということにつきましては一つ御了解をいただきまして、こちらの方の議論に移っていただきたいということをお願い申し上げます。
  101. 八木一男

    八木一男委員 労働省も厚生省も両方ともとんでもない考え方を持っておる。今の課長の説明なんか、とんでもない。賃金を引き上げたらすぐ保険料を引き上げようなどということは、日雇い労働者健康保険に関する限り考えるべきではないのです。失業保険と偉うのですよ。現金給付が賃金に比例してくるとかなんとかという問題ではなしに、病気なんだから、物価が上るとかなんとかそういうことをまたおっしゃるかもしれませんけれども、そういうことは別にして、療養給付が大部分の給付を占めておる以上、それは大体においてそのままなんですよ。それはそのままの金額しか要らないのですよ。賃金が上ったって、それで保険料を上げるというような考え方を基本的に厚生省が持っておられたらとんでもないことですよ。賃金が上る、だから現金給付が上るということの条件があるならば、その部分、その割合だけは保険料を上げるという理屈も一応成り立ちます。しかし日雇い労務者に関する限りは非常に貧困だからそういう理屈は成り立たせてはいけないのですよ。物価の水準は別として、少くとも医療給付というものは賃金とそう直接関係はない。医療給付が大部分の給付である以上、賃金が上ったから保険料を上げるというような考え方を厚生省が持っておられたらとんでもない。それについては厚生大臣のお答えを願います。
  102. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 私ども自身は、率直に言って社会保障を推進していこうという立場にあるわけであります。でありますから、すべての観点はそういう方向からものを考えているのです。従いまして全体として考えますと、今度の場合でも、国庫負担の割合をふやしましても、一割五分の国庫負担では、率直に言って日雇い健康保険の性質上満足すべき状況でない。むろん三割がいいという議論も出て参るということも存じております。また、社会党のおっしゃるようにもっと国庫負担を多くしまして、少くとも五割ぐらいまでいくというようなお考え方も一つ考え方だと私は思います。むろん社会保障が財政的な制約というものが少ければ少いほど、またある程度従来の考え方より違った考え方において編成される以上、そういう点でもって物事を考えていく、方向としてはおっしゃることに私は異議はありません。ただ実際問題として、能力のある場合、能力が幾分でもふえたというときに、その分についても考慮するのは、これは保険財政から見ましてやむを得ないことじゃなかろうかというふうに考えているのであって、大へんなおしかりですが、私ども基本的な頭の方向はそれであります。ただ事務として見ますときに、従来とのいろいろな事務的な権衡を考えることも、財政上の制約を受ける場合にはある程度これはやむを得ない処置であるというようにお考え願いたいと思います。
  103. 森山欽司

    森山委員長 ちょっと速記をとめて下さい。
  104. 森山欽司

    森山委員長 速記を始めて下さい。
  105. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣が、賃金が上ったから保険料を上げるというようなことはいけないという考え方を基本的にお認めになりましたからこれでいいですけれども、別に私は小沢君をつるし上げるわけではないが、そういうさっきの言葉の言い回しの関係かもしれませんけれども、そういうような考え方が基本的には間違いであるということを厚生省の方では銘記してこの問題に当っていただきたいと思います。  傷病手当金を非常に大きなものにしていただいて、それが自動的に賃金に比例するようになっている制度であれば、現金給付が一年も続いて、そうして金額は五百円くらいくれるようになって、自動的に賃金が上れば傷病手当金が上るような制度になっていれば、それは幾分さっきおっしゃったようなことも通らないではありませんけれども、そうでない以上、賃金値上げとこの日雇い労働者健康保険の保険料の値上げというものは断じて関連して考えるべきではない。保険料の値上げはすべきではない。そういうような貧困な労働者に対する健康保険の内容を強めるには、国庫負担をもってやるのが本筋であるということを一つ銘記していただきたいと思います。厚生大臣の御答弁は基本的にけっこうでございます。  今度ば労働省の三治さんに伺いますけれども、今のようなことですから、あなたは保険料の値上げの方が傷病手当金、出産手当金より金額が多いということを御存じのはずです。さらに言いたいこともあるけれども時間がありませんが、今度の傷病手当金は七月から、保険料の値上げは四月からで、三月違う。その間においては保険料値上げ法案——三治さん、それは間違いないです、時期が食い違っている点は、小沢さんも言っておる。保険料の値上げが先に行われて、傷病手当金を出すのはあとなんですよ。そういうところにも、労働省の非常に不備な点がある。そういう点を御研究になっておらないと思いますが、やっぱりそういうものは十分に研究されて、厚生省と話し合い、厚生省と意見一致したら、両省一体になって大蔵省に当られれば、大蔵省が財政で何かごちゃごちゃ言っても、二つの省が一致したら、もっといい案になるはずです。そういう点で労働省が非常に怠慢であったといえる。その点御存じだったのですか、首なんかかしげておられるけれども……。これは面子のことじゃないですよ。ほんとうのところを知っておられたら、今みたいな、十分だというような御答弁がなされるはずはない。そんな表面をつくろわれないで、今までの怠慢であったことは認められて、これから態度をかえられなければいけないと思う。それについてはっきりした返事を伺いたい。よけいなことは要らない。
  106. 三治重信

    ○三治説明員 保険料を上げるのと給付の開始のことにつきましても、私の方は当初は年度初めから上げる案の内示があった。それについて労働省としてこういうふうな日にちと全然関連なくして、ただ値上げと給付との間に二、三カ月のずれがあるというのは、やはり、これは御存じだと思いますけれども、給付するからには、財源がなくちゃならぬ。二、三カ月のおくれというのはやはりやむを得ないことだと思いますが、当初の案の年度当初からやる、それから給付する場合になってまた値上げをするという二段階の大蔵原案に対しては、私の方もずいぶん反対して、これは給付と見合った値上げの方にやってもらうように、時期はちょっとずらしているのであります。
  107. 八木一男

    八木一男委員 厚生省と労働省にその点ははっきりとさせておいていただきたいと思いますが、給付を受けるには要件が要るから二カ月前でいいというのは間違いですよ。それは首なんかかしげなくてもいいのです。ちゃんと聞いていなさい。最初法律ができたときには、いろいろな要件があるから二カ月おくれて始まるというのは、筋が通ります。しかし、今まで法律ができていて、要件が適当であるかどうかということは判定がつくのだ。そうしたら、財政上は傷病手当金がふえたときから、それに見合う上った保険料が入るのですから、財政上は、途中からだったら、同時に始まるのが当りまえです。新法だったら、要件がわからないから二カ月見なければならないということは労働省の三治さんも、おそらく小沢さんもそうだろうと思うけれども、これはそう簡単に考えられては困る。僕らがひまのない中でやっても、そのくらいのことはわかるのですよ。あなた方がほんとうに労働者のことを考えておられたならば、傷病手当金がここについた、保険料は十月から上る、そのときに対応すればバランスがとれるというのは、大蔵省の役人に聞いてもわかるはずです。ただ要件がわからないから一番最初にやるときには二カ月待たなければならない。しかしこれはすでに出ている法律ですから、要件はわかっているはずです。そういう点はもっと労働者に親切に考えて、親切味のある案にしていただかなければ困る。通り一ぺんで、要件があるから二カ月前でなければいけないというような繁文褥礼的な考え方で、こういう零細な労働者のことを考えてもらっては困る。それについてお考えを承わりたい。
  108. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 今回保険料の値上げをいたしましたにつきましては、八木さん御指摘のように、傷病手当金創設に伴うあるいは出産手当金創設に伴う三分の二分の国庫負担以外のその保険料に相当する値上げ分もございます。しかし同時に、御指摘のように、医療保険の面が、いわゆる疾病給付の面が非常に財政不健全な状態を示しておりまして、これを健全化するという面があるわけでございます。従いまして、前者につきましては支給期日開始日の十月一日からやる、後者についてはこれは年度初めからやるべき筋合いのものであります。そういうふうな考え方も理論的にはできるわけでございます。ところがそういたしますと、二回にわたって保険料の引き上げをしなければならぬ、まあ切手もまた作り直さなければならぬ、関係者にも非常なお手数をかけるというふうな諸般のことを考えまして、両方合せて四月一日でもなく、十月一日でもなく、七月一日からというふうに、私どもは考えたわけであります。従いましてそれは理論的には分けてやる考え方もありますけれども、そういうふうな実際問題を考慮いたしましてやりましたので、その辺の事情は一つ先生におかれましても十分おくみとりを願いたい。御指摘のように、確かに赤字対策のいわゆる健全化の部面に相当する保険料値上げもあるわけであります。
  109. 八木一男

    八木一男委員 その先にあげられたのは、われわれは非常に反対ですけれども、一応保険局長説明は、いけない方法ではあるけれども、理屈としては合うと思います。三治さんも一つそういう点を分けて簡単に考えられないでやって下さい、理屈としては合わないです。それから三治さんの方にさっきのことでお伺いしなければならないのは、結局そういうことですから、至急に失対事業の賃金を上げてそのワクを広げて就労日数をふやすということをしなければならないわけであります。労働省としてそういう点についてどういうふうにお考えか、積極的に取り組まれるお考えを持っておられなければいけないと思いますけれども、それについての御答弁を伺いたいと思います。
  110. 三治重信

    ○三治説明員 私の方で今考えておりますものは、就労日数の増加ということにつきましては、もう予算も日数はきまっておりますし、これはちょっと実行上不可能かと思いますが、保険料の値上げのはね返り分についてはわれわれの方の実際問題としての賃金支払いの技術的な問題からいっても、二円というような値上げの問題について非常に処理がしにくいので、この点は労務者側に保険料値上げに伴っての手取りが減らないようにするように努力したいと思っております。
  111. 八木一男

    八木一男委員 三治失対部長に、実際的にはね返りが労働者の負担にならないようにしていただく、これはぜひしていただきたいと思います。ことしの予算がきまっておるから、ことしのことを言っても無理ですけれども、来年度以降においてあるいは今年度の補正その他において失対事業の賃金を上げるとか就労の日数をふやすとか、そういうことを進めていただかなければならないと思いますが、それについて総体的な話でけっこうですけれども、労働省としてはどういうふうに考えておるかという点を伺いたい。
  112. 三治重信

    ○三治説明員 ことに就労日数の問題につきましては、われわれの方も従来とも就労日数の引き上げについては毎年努力しておるのであります。今後とも努力していきたいと思っております。
  113. 八木一男

    八木一男委員 実質的に今のしわ寄せをさせないようにする、これはぜひやっていただかなければならぬ。ただし今度賃金の値上げとか就労日数の引き上げをしたからといって、へずるようなことをしないで、これはこれとして、こっちはこっちとして当然やるべきことをやっていただかなければならないと思いますが、一つそれについてのお考えを伺いたい。
  114. 三治重信

    ○三治説明員 御指示の趣旨に沿って努力していきたいと思っております。
  115. 八木一男

    八木一男委員 それから三治さんに対する最後の質問をしますけれども、さっきの折半負担です。これは簡単に考えていただいたらいけないと思う。労働者の健康保険、これは健康保険法と全部関係ありますが、そういうものはいろんな観点、事情で、工場によるものは全部使用者が見るということから、一般の傷病にも適用されて、歴史的に見てだんだんここにきたものなんです。そういうことで、本来は全部使用主が見るというもとの原則があったわけです。それで今、半分だと数がきれいでいいし、資本家も半分にしたいから半分々々だと言っているけれども、こんなものが学説的にいいものになっているわけではないのです。ただ、今までの社会保険が折半負担になっている点が、日雇労働者健康保険法よりもほかの健康保険法のようなものが未発達なんです。労働者負担の方が少いということは、この点で日雇労働者健康保険法が発達しておるのです。ほかのものがたくさんあるからといって、幼稚なものをもとにして考えていただいてはいけないと思う。発達したものをもっと発達させて、未発達のほかの健康保険法や何かをそれに近づけるようにしていくことを逆に考えなければならないのに、ただまずい方の大きな方にならしていにうという考え方をしてはいけないということ、その点について一つ御答弁を願いたい。
  116. 三治重信

    ○三治説明員 そういう全体の議論になりますと非常に時間がございませんので、先生の御趣旨もよくわかりましたので、今後も研究したいと思います。
  117. 八木一男

    八木一男委員 では厚生大臣に御質問いたします。  まだそのほかに適用要件の問題も述べていただきたいと思いますし、いろいろとございますが、厚生大臣はよく御存じですから、当然そういう御配慮は願えると私は理解いたしまして、その点についてこれ以上時間を食うことを避けまして、最後に適用の拡大の問題でございます。昔から山林の労働者とか鼻緒工とかつき添い婦とかという人々にこういうことを法的に適用すべきである、土建労働者に対しても擬制適用でなしに法的に適用をせしめよということがしばしば論議されて、大体いつも社会労働委員会ではそうだった、歴代の厚生大臣もそうだというふうになっておったわけです。ところが実際にはなかなかそういかなかった。それで今擬制適用として、土建労働者の人に適用になっておるわけです。これば本適用になるような条文は非常にむずかしいかもしれないけれども、社会党一つ条文があります。これをもとにして一つ研究下さるというように前の厚生大臣はなっております。それを法的に適用する道を御研究になっていただきたい。  それからもう一つは、現在の擬制適用を、山林の労働者とか鼻緒工とか、つき添い婦とか、またその他の似たような業種の人が健康保険がなくて非常に気の毒な状態にございます。これを国民健康保険へという厚生省のお考え方もあるでしょうけれども、国民健康保険法では、今のところ本人が十割という給付に達しておりません。それから使用者が半額負担するという条件もございません。それから傷病手当金という条件もない。ですから労働者である以上、これはあくまでも健康保険の様式に従った日雇い労働者健康保険法を適用すべきものだと考えるわけです。そういう点について実質的に拡大の道を開いていただきたいと思うわけでございまするが、それについて厚生大臣の御答弁を願いたいと思います。
  118. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 八木さんさっきから労働省に御質問になったけれども、政府委員には方針のことは無理だと私は思うのです。方針に関することはやはり大臣としての責任だと思います。そしてことに労働者に対する問題は、労働省だけがやることではなくて、実は私の方もおしかりをちょうだいしておるのだと思って、私は十分考えておったようなわけです。従いまして、両省の間に、ともに一方は社会保障の観点から、一方は労働者自身の実際の生活の改善、向上という点から、単に保険の問題だけで共同戦線を張るというふうなことを考えるのではなくて、全部として、私ども当然責任として考えてみたいと思います。  なお、最後に適用の範囲の問題でありますが、この問題につきましては、さらに一そう研究を進めてみたい、こういうふうに考えております。
  119. 八木一男

    八木一男委員 そうすると、擬制適用などを拡大する道を実質的に考えていただいて実施していただけるわけですね。
  120. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 八木さん、何でもあなたの言う通りにするように答弁しなくちゃお気に召さぬでしょうが、私の従来の政治行動——ことに日雇い労働者健康保険の状態から見て、今この問題非常にむずかしい問題であることはあなたのよく御承知のところであります。今後十分研究して参りたいと思います。
  121. 八木一男

    八木一男委員 厚生大臣に御質問いたしますが、今の厚生大臣日雇労働者健康保険法をよくするために非常に熱心におやりになった点は私も御熱意を認めたいと思います。しかしながら大蔵省なりが非常に頑迷固陋であり、それから労働省が協力が足りなくてそれが十分にいかない点については非常に遺憾であるわけであります。これから大いにやっていただく御決意をさっき披瀝していただきましたので、この案には別な態度をとりましても、とにかく厚生省が一生懸命これから取っ組んでいかれるという御決意に対しては敬意を表します。それでそれを言葉だけでなしに、早く実行していただきたいと思います。  それからもう一つ、この前申しましたけれども、社会保障制度審議会の答申並びに勧告は、これは内閣を縛るものでございまするから、厚生大臣は、大蔵大臣や何かが首を横に振りましたときにそれを大きな力となさいまして、必ずそのことが早く進むようにやっていただきたいと思います。その強い御決意を最後に披瀝していただきたいと思います。
  122. 堀木鎌三

    ○堀木国務大臣 これは八木さん御承知だと思いますが、私も中央労働委員会委員をし、仲裁裁定の委員をして衆議院に参考人として参りましたことも数度ございます。従いまして私の政治行動をごらん願えば、終始一貫労働者のために、やはり私自身が尽すことが一つの政治上の大きな目標の一つだと思います。それはひとり日雇い労働者健康保険に限りませんが、日雇い労働者健康保険に対しましては、私も八木先生と相呼応いたしまして、十分努力するつもりでございます。
  123. 森山欽司

    森山委員長 本日はこれにて散会いたします。     午後五時二十分散会      ————◇—————