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1958-03-14 第28回国会 衆議院 外務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十三年三月十四日(金曜日)     午前十時三十四分開議  出席委員    委員長 床次 徳二君    理事 櫻内 義雄君 理事 須磨彌吉郎君    理事 森下 國雄君 理事 山本 利壽君    理事 戸叶 里子君 理事 松本 七郎君       伊東 隆治君    北澤 直吉君       高岡 大輔君    並木 芳雄君       野田 武夫君    松田竹千代君       松本 俊一君    田中 稔男君       森島 守人君  出席国務大臣         外 務 大 臣 藤山愛一郎君         大 蔵 大 臣 一萬田尚登君         文 部 大 臣 松永  東君         通商産業大臣  前尾繁三郎君  出席政府委員         外務政務次官  松本 瀧藏君         外務事務官         (条約局長)  高橋 通敏君         文部事務官         (調査局長)  北岡 健二君  委員外出席者         外務参事官   白幡 友敬君         通商産業事務官         (通商局次長) 中山 賀博君         専  門  員 佐藤 敏人君     ――――――――――――― 三月十四日  委員大橋忠一君辞任につき、その補欠として薄  田美朝君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 三月十二日  通商に関する日本国とインドとの間の協定の締  結について承認を求めるの件(条約第八号)(  参議院送付)の審査を本委員に付託された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  日本国インドネシア共和国との間の平和条約  の締結について承認を求めるの件(条約第二  号)  日本国インドネシア共和国との間の賠償協定  の締結について承認を求めるの件(条約第三  号)  旧清算勘定その他の諸勘定残高に関する請求  権の処理に関する日本国政府インドネシア共  和国政府との間の議定書締結について承認を  求めるの件(条約第四号)  国際情勢等に関する件      ――――◇―――――
  2. 床次徳二

    床次委員長 これより会議を開きます。  まず国際情勢に関しまして、議題といたします。質疑の通告があります。戸叶里子君。
  3. 戸叶里子

    ○戸叶委員 田中委員インドネシアの問題で質問をなさることになっておりますけれども、その前に緊急に一つ伺っておきたいと思いますのは、新聞で御承知通り沖繩の立法院の選挙が行われることになっておりまして、それに対して社会党の大会で応援に行くように決定いたしまして、すでにその許申可請手続をいたしました。ところがおとといの外務委員会岸首相に対しまして、それに対する御意見を伺いましたところが、おそらくはだめだろうというふうなことをおっしゃりさらに自分の方としても行きたいくらいなんだけれどもなかなかこれはむずかしいという御答弁でありました。私は重ねて、すでに手続をしてあるのであるから、なお向う交渉してほしいということをお願い申し上げておいたわけでございますけれども、それに対して何らかの努力をしていただいたかどうかを承わりたいと思います。
  4. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 この前の委員会総理からお話のありましたように、自民党においても沖繩選挙応援に行きたいということで、交渉したそうであります。だめだったような経緯もありますので、社会党申し出も非常に無理なお申し出だと思います。従って現在その点においては、むずかしいのではないかと考えております。
  5. 戸叶里子

    ○戸叶委員 そうしますと、むずかしいという前提の上に立って全然政府としては交渉をしておらない、こういうことでございましょうか。
  6. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 総理のこの間のお話で御了解を得たものと思っておりますので、交渉はいたしておりません。
  7. 戸叶里子

    ○戸叶委員 努力をしないというふうにしか解釈できないわけなんです。三月十一日の朝日にも、ベンジャミン・マーチンというアメリカ電気労組の役員が論壇に書いておりますことは、労働界代表の査証も拒否している。こういうことは全く不可解だということさえ言っているわけで、アメリカの中でもこういうふうな意見が出ておりますし、さらにまた幾ら日本政府政情視察に行くための人をやろうとしても、それが許可されないというのに対して、やってみてもだめだと思いますというふうなだらしのない態度というものは、これから許されるべきじゃないと私は思う。やはりやれるだけのことはしていかなければならないし、そういうふうな努力をしないということが、かえってこの沖繩の問題は、日本政府ももう自分たちにまかせているのだというふうな印象を一方において与えるようにも考えられますし、施政権の回復を願うといっておりながら、一方においてその努力をしていないその一つの現われともなると思うのです。そういう意味で、ぜひとも私はこの問題についてさらに強硬にたび重ねて拒否されているという事実を指摘して、あらためてこの問題で交渉していただきたいと思いますけれども、いかがでございましょうか。
  8. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 だめだと申してあきらめたというお話でありますが、自民党の重ねての交渉、その他の経緯から見て、今回の社会党の場合も引き続き同じようなことであろうということを申し上げておるわけであります。しかし今後沖繩渡航についてのパスポートの問題については、全面的にわれわれとしては十分な努力をしていきたい、こう考えております。     ―――――――――――――
  9. 床次徳二

    床次委員長 これより日本国インドネシア共和国との間の平和条約締結について承認を求めるの件、日本国インドネシア共和国との間の賠償協定締結について承認を求めるの件、旧清算勘定その他の諸勘定残高に関する請求権処理に関する日本国政府インドネシア共和国政府との間の議定書締結について承認を求めるの件、以上三件を一括して議題といたします。質疑を許します。田中君。
  10. 田中稔男

    田中(稔)委員 外務大臣に対しましては大体質疑は済んだのでありますが、二、三残っておる点をお尋ねいたしたい。賠償協定実施に関する細目に関する交換公文、このうちに、「日本国政府は、使節団に対し、賠償契約締結する適性を有する日本国国民及び法人を推薦することができる。」こういうことがあります。この日本国政府推薦が公正に行われれば、これは問題はないわけでありますけれども、やはり人間のやることでありますから、公正を欠く、へんぱな取扱いをするというようなことになりますと、これはきわめて重大な問題であります。また「使節団は、そのように推薦を受けた者とのみ賠償契約締結するよう拘束されることはない。」こう書いてあります。このただし書きで非常にへんぱな政府取扱いを救済することもできるわけでありますけれども、また政府推薦に漏れたものの中に、何かインドネシアのブローカーみたいな人と結託いたしまして、どうも好ましくないような売り込みをするというようなものが出ましても、これは困ることであります。政府推薦というようなことについて、どういうふうな方法といいますか、用意をお考えになっておるか、そういうことについて一つ答弁願います。
  11. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 お話のように、向う賠償代表部契約をする日本側商社等につきましては、向う人方も不案内でありますので、条約上も日本からできるだけ公正な人を推薦してあげるということが、円滑な実施の上で必要であると考えます。しかしながら推薦した人に限るのでなくて、実際の契約当事者としては向うが自由に選択できるわけであります。お話のように、日本政府推薦いたします場合には、適正な資格を持ち、また信用のある人たち推薦しなければならぬのでありまして、それを誤まりますことは、日本インドネシア間の将来の国交の親善関係の上にも大きく影響をして参りますので、政府としては十分注意をして参らなければならぬと思っております。そういう意味において、ただいまお話のありましたように、人のやりますことでありますから、ある場合に誤まりもないとは申し上げかねますけれども、できるだけ基準等を作りまして、信用のある適正な人を推薦するということに取り進めて参りたい、こう思っております。
  12. 田中稔男

    田中(稔)委員 フィリピンとの賠償、それからビルマとの賠償、そういう際にもやはり同様の規定があっただろうと思うのでございます。そこで今までの実績としまして、フィリピンの場合、ビルマの場合、政府推薦を受けた会社やあるいは個人というようなものとの間に賠償契約はおおむね結ばれたものでありますか、それともそうでない場合の方が多いのか、その過去の実績についてちょっとお尋ねいたします。
  13. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 その点については政府委員から説明いたさせます。
  14. 白幡友敬

    白幡説明員 ただいままでのところでは、この条項を発動いたしました例は、正確なことは賠償部長がいませんのでわかりませんけれども、ほとんどこの条項は動いていないと思います。この条項ができました理由は、大体先方賠償使節団等日本国内事情にうといわけでありますから、先方取引対象がわからないという場合に日本側があっせんする、しかしそうかといって必ずしもそれに相手側が拘束されるものではないという意味でございまして、一般の場合には、大がい賠償によります契約というものは、公開入札という形式をとっているのがきわめて普通でございます。ごくまれな場合にしかこういうことは起っていないと思っております。現在までは動いた例はないと思っております。
  15. 田中稔男

    田中(稔)委員 賠償資本財で行われる場合と消費財で行われる場合と、いずれの場合におきましても、生産物評価その他においてあやまちを犯しますと、多数国民負担において一部の資本家のみを利益するということになる。ことにまた現在のように繊維製品その他滞貨が増大しております場合に、滞貨処分というようなことが賠償によって行われる。そうしますと、関係の業者は非常に助かる。しかも評価を誤まるようなことになりますと、国民負担において、ほんとうに一部の人が利益するという結果になるわけです。こういうことにつきましては、政府賠償実施に当って十分慎重な考慮を払っていただきたいと思うのであります。また経済協力の面におきましても、これは民間でやることでありますけれども、いわゆる一旗組というようなものがこの機会に大いにチャンスをねらっているということもあります。またりっぱな人であっても、いわゆる大東亜共栄圏的な考え方、換言いたしますと、植民地主義的な考え方をまだ残している人が少くないので、そういう人が経済協力のことに当るということになりますと、その結果は私は非常におもしろくないことになると思います。現在インドネシアに対しまして経済協力を与えようとしている、また現に与えている国はたくさんあります。アメリカもそうでありますし、ソ連もそうであります。その他まだたくさんあるのであります。そういう国々と競争して経済協力をするという形になりますから、日本としましてはそういう点でよほど考えませんと、せっかくの経済協力が失敗するということも考えなければならぬ。そういうことにつきまして、外務大臣はどういうふうにお考えになっておりますか。
  16. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 賠償を通じて一部の人が利益を壟断するというような形になりますことは、両国の親善関係からいいましても、また日本国内政治の上からいいましても、おもしろくないことであります。そういう点につきましては、厳に注意いたさなければならぬと考えております。なお一旗組というような名称で呼ばれるような人たちのことでありますが、私どもの見ておりますところによりますと、賠償等が片づきました際には、わっとそういう人が相当おどり出してくる例が、ビルマの場合でもあるいはフィリピンの場合でもございます。またおそらくインドネシアの場合でもあろうかと思います。しかしこういう経済協力というような問題は、なかなかむずかしい問題でもありますし、半年くらいのうちに必ずしも実効が上らないものでもあり、熱がさめていくというような関係もあるのでありまして、過去の例から見ますとそういうことでありますから、インドネシア賠償のような場合にも、フィリピンでうまくいかなかったから今度はインドネシアにやってみようというような一旗組的なものが当座は相当わいわいするのではないか。政府あたりもこれに対して十分注意を払いますが、長期にわたって考えますと、必ずしもそういう人たちが成功はいたしておらないような状態でございます。
  17. 田中稔男

    田中(稔)委員 新聞報道を読みますと、インドネシア政府軍スマトラのパカンバルーを奪還して、またスマトラ西海岸方面数カ所上陸をやるというようなことも書いてあります。いよいよ中央政府決意をいたしまして、反乱軍の徹底的な鎮圧に当っているようであります。私はインドネシアのそういう不安な事態はこれ以上発展はしないと思っておりますが、外務大臣のところにレーテスト・ニュースでもありましたら、御披露願いたいと思います。
  18. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 スマトラ反乱軍に対しましては、政府決意をいたしたようであります。従ってまことに遺憾ではありますけれども、武力的な手段が政府でとられております。前々から申し上げておりますように、スマトラ反乱軍の勢力というものもそう大きなものではないのであります。政府が硬軟よろしきを得た政策をとって参りますれば、またハッタ・スカルノ会談は必ずしもまだ結論に達しておりませんけれども、こういう時期におけるハッタ氏の考え方も引き続き変っておらないように私ども考えております。遠からず静穏になることを希望し、またなるのではないかというふうに最近の報道等を勘案して考えております。
  19. 田中稔男

    田中(稔)委員 最後に御質問申し上げます。SEATO理事会がいよいよ終りまして、何かコミュニケを発表されておりますが、せんだっても御質問したことでありますが、SEATOと、たとえばNATOと他の機構との間に連関をつけるというようなことになるようであります。さらにまた国際情勢判断において、特にダレス長官のごときは、アジアにおいて共産主義脅威は依然として増大しておる、それは武力侵略という形はとっていないけれども、経済的あるいは文化的侵略というような形で共産主義脅威は依然として増大しておる、こういうふうなことを申しておるのであります。この二つの点につきまして、日本外務大臣である藤山さんの御所見一つお伺いしたいと思います。
  20. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 共産主義脅威が増大しておるかどうかという問題でありますが、むろん共産党が活発に活動をいたしておりますことは事実だと思います。国際共産党活動が消極的になったとは必ずしも私は見ておりません。しかしながら同時に、やはり共産党に対する各国それぞれの経済的安定、その他によります抵抗力というものも逐次できていくということも、また一面では考えて参らなければならぬのでありまして、そういう意味において総体的に考えて参りますれば、必ずしも今すぐ非常に危険な状態に、共産主義からやられているというふうには判断しない方が適当ではないか、こういうふうに今は情勢判断をしておるわけであります。  それからSEATONATOとが何らかの連関をするということは、ありそうなふうに考えられますが、しかし武力をもって両陣営が対抗するというだけの限りにおいては、やはり世界平和は来ないのじゃないか。従ってそういうことについてはやがて反省をしていかなければならぬ。将来起るべき巨頭会談その他を通じて、やはりそういう点から安定を得るということは、ほんとうの安定でないというところに考えていかなければならぬのじゃないか、こう思っております。
  21. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこで具体的な質問でありますが、ソ連インドネシアに一億ドルの借款を与えることになり、インドネシアの国会でこれを承認することに決したことは御承知通りであります。その内容は、外務省の方でもよくおわかりになっておらないそうでありますが、私の仄聞したところによりますと、あるいは地下資源あるいは包蔵水力調査、そういうふうないろいろな資源調査をやりまして、さらにまた何か具体的なプロジェクトについて協力をする、こういうふうな内容のもののように聞いておるのであります。そこでソ連から一億ドルの借款が与えられたということは、これは武力侵略の形はとらないが、共産主義経済侵略の形をとってアジア各国に働きかけておると言ったそのダレス言葉、そういう経済侵略のこれは一種と見るべきであるかどうか、藤山外務大臣の御所見を伺いたいと思います。
  22. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ソ連が昨年以来相当活発に東南アジアなりあるいは中近東方面経済協力の線を通じて出てきておりますことは、これは事実だと思います。従ってその点につきましては、自由主義陣営においてもソ連が出てくることについては、脅威を感じる点がたくさんあると思いますが、同時にそれに対して、ただ単にソ連がそういうことをやるから脅威だということだけを言わないで、自由主義陣営においても、できるだけ公正な立場で経済的な援助をやるということが、必要なことではないかと思うのであります。自由な言論において共産主義に対抗すると同じように、自由な経済援助によって共産主義経済援助にも対抗していくという立場をとりますことが、非常に必要なことではないかというふうに私は考えております。
  23. 田中稔男

    田中(稔)委員 今の御答弁は私は大体それでいいと思います。さすがに自由主義者である藤山さんとして私はけっこうな御答弁であると思います。ダレス言葉によりますならば、ソ連アジアアフリカ諸国経済援助技術援助を与えておる、しかもそれは大体支払いは十二年、利率は二分五厘というような有利な条件を相手側に与えるわけでありますが、そういうことは全部これは経済侵略だ、こういうふうに言っておる。これは私はどうも片寄った見方だと思う。そういうことをいいますならば、逆にソ連側からはアメリカアジアアフリカ諸国に対する経済援助技術援助、これを全部また自由主義陣営からの経済侵略ということが言えるわけであります。そういうことではなくて、ソ連もまたアメリカも双方ともほんとう後進国開発のために政治的なひもをつけない、純粋な経済援助技術援助をどんどんやる、そうしてむしろその競争において優劣を決する。これは根本的に言いますれば、資本主義体制社会主義体制との優劣の争いだと思うのでありますが、そういうふうに出なければならぬというような御答弁になると思うのであります。日本外務大臣としてダレスのような非常にかたくなな偏見を持った見方をしないで、一つ物を公正に客観的に冷静に判断をして、日本外交政策を誤まらないようにしていただきたいということを、この際特に要望しておきます。  私の質問はこれで終ります。
  24. 床次徳二

  25. 高岡大輔

    高岡委員 お伺いしたい点は、経済開発借款に関する交換公文についてであります。これによりますと、相手インドネシア共和国政府国民というのが対象になるわけですが、その政府対象といいますと、どういうことが一応考えられるわけでありますか。私のお伺いしたいことは、それの第四項に、「機械及び設備並びにこれらに附随する役務」と書いてありますから、それとにらみ合せて考えますと、政府が管理する機械及び設備というふうに考えられるのでありますけれども、そういたしますと、一例をあげれば、インドネシアにおける鉄道でありますとか、そういったようなことが含まれるかと考えるのでありますが、その点一体どういうものを対象としてお考えになっておりますか。
  26. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 民間経済協力につきましては、今お話のように、日本側は純然たるコマーシャル・ベースでもって取引をするということになるわけでありますが、向う側の主体が民間であるということも許されるわけでありますが、こまかい規定につきましては政府委員より御答弁させます。
  27. 白幡友敬

    白幡説明員 具体的なこととしましては、今大臣からもお話いたしましたように、インドネシアには民間経済というものは、ほとんど発育しておりません。従いまして今後何とか産業を興していく場合、政府が直接やります政府事業、あるいは本来は民間でもって発展していかなければならない産業であるにもかかわらず、民間にその力がございませんために政府がこれを当分の間続けていく、金融的には国立の銀行が金融し、経営であるとかその他純粋の技術面というものについては政府一つの管理であるとか、あるいは政府監督下にございます特殊な公団公社というものが利用されていくわけであります。いずれの場合にも大体政府が当分の間最終的な監督をやるという格好になっております。従いましてこの経済協力の場合、日本民間でございますが、相手政府で直接ある場合、それから政府監督しております公社公団という場合もあるわけでございます。具体的な例としましてただいま御指摘のございました鉄道というのは、おそらく国営事業だろうと思います。それから船舶関係は現在までのところでは、必ずしも国営ということは考えておりません。いわゆる民営ということを考えておりますが、この場合も民営と申しましても、先ほど申しましたように、政府の財政的な援助のある民営ということでございます。それからはっきりしておりますのは、大体政府が直接やりたいと考えておりますのは、現在までわかっておりますのでは鉄道でございますとか、電力、電源開発、それから製鉄事業、はっきりいたしませんが、政府が一応考えているらしいと思われますのは、レーヨン事業ということでございます。それ以外は大体民間に一応解放される。その民間と申しましても、政府が常に背景に立っておる民間というふうに考えられます。
  28. 高岡大輔

    高岡委員 今の御答弁で大体わかったのでありますが、一つそれに付随してお伺いしたいことは、御承知のようにインドネシアには相当埋蔵資源があります。ところが石油等に至りましては、オランダが権益を持っておりますので、現在のものは全部オランダのものであります。従って将来石油等について、インドネシアの国家かこれを開発しようというようなところまで考えられるのでありますけれども、インドネシアに果してそういう何といいましょうか、権利といいましょうか、そういうことはオランダとの間にはどのような話し合いになっておるか、向う側情勢というか、様子をお知らせ願いたい。
  29. 白幡友敬

    白幡説明員 石油事業に関しましては、ただいままで私が了解しております範囲では、インドネシア政府が直接にこれをやろうという考え方は、比較的薄いように聞いております。これは石油事業というものの資本が非常にかかるということと、技術的にも相当高度の技術を必要とするというようなことから、むしろ一応形は民営という形にしまして、そこに外国資本の導入を考える。外国企業との合弁と申しますか、こういう形のものを主として考えていくというふうに聞いております。  そこで今後開発の余地があるかという点でございますが、インドネシアのような広い国では、可能性は非常にあるのだそうでございます。しかし専門的に聞きますと、その可能性があると見られておるところを確実に探知しまして、これを営業としてやるためには、その準備段階に非常に金もかかりますし、労務を必要とするということから、なるたけ既存のものを利用していきたいという考え方が強いのだと思います。そこでオランダ系石油会社インドネシア政府とのいわゆるコンセッションの契約租借契約というものは、非常に期間の長いものでございますが、そういうものも一応期限がぼつぼつ切れ始めてきておるのがございます。あと十年くらいのうちには、かなりそういうもので期限が切れてくるというのが出ておるのでございます。従いましてそういうものは、インドネシア政府がもしオオランダ側事業提携をやっていく希望がありましても契約の更新ということは成り立たない。インドネシア政府の方に権利が戻ってくる。そこであらためてほかの国と話し合いになるという形になるのではないかと思います。
  30. 高岡大輔

    高岡委員 外務大臣にお伺いしますが、先ほど大臣がおっしゃいましたように、この問題はコマーシャル・ベースによってなされることは明らかでありますが、従ってコマーシャル・ベースといえばもうけ事業ということにならざるを得ない。そういたしますと、もしもそれの計画がうまく参りまして、利益が出てくればいいのでありますけれども、何か向うにまかせっぱなしで、向うの計画通りにやって、それが失敗した場合、それは一体だれが責任を負うことになるのですか。その点をお伺いします。
  31. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 民間経済協力というのは、ただいまお話のありましたようにコマーシャル・ベースによってやるのであります。日本民間業者もなかなか採算はかたい人が多いのでありまして、従って今日までの経済協力が十分いかなかったというのもその辺にあろうかと思います。そういう意味で成り立ちましたものにつきましては、おそらくそう困難な状況になくいくだろうと思います。しかしやはり民間協力でありますから、もしうまく参りません場合には当事者が責任をとりますことは当然なことと考えます。
  32. 高岡大輔

    高岡委員 今大臣のおっしゃいました当事者というのはインドネシアの方の当事者ですか。
  33. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 いや、民間協力した人です。
  34. 高岡大輔

    高岡委員 そうしますと、民間側としましてはインドネシア側の計画等を見まして、向うの方で希望しましても。これは相当日本の実業家の中においては、インドネシアのことについては詳しい人がおりますので、それはうまくいかない、初めから損だということがわかるというような見通しを日本の実業家の方でしました場合、それにもかかわらず向うの方ではぜひこれはやりたい、損得を超越してやりたいといった企業に対しましては、政府がその間をあっせんするのでありますか。それとも政府は全然これにはタッチしないで、日本民間業者と向う政府または国民の方との話し合いによってその交渉が進められるのでありますか。その交渉がうまくいかない場合に、繰り返し申し上げますが、政府はその間に立って取り持つというか、そういうことをなさるのか、この点をお聞きしたい。
  35. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日本民間商社あるいは製造業者等と向うの人とが経済協力によりまして仕事をいたす場合、交渉は当然民間同士でやるわけでありまして、民間考えて採算に乗る乗らぬ、将来のその事業に対する見通し、あるいは運営の方法に対する両者の合意等の点についてそういう判断の面からやると思います。従いまして、むろん政府としては経済協力に対して直接の関与はいたしません。しかしこの意味における経済協力を別にいたしましても、日本事業家が海外において仕事をいたす場合に、政府としては当然あっせんをし、あるいはそれらのものが適当な仕事であれば成り立つように今日までも努力しておるわけでございます。そういう意味から申せば、こういう経済協力というような約束によっての範囲においてやられますものに対しては、政府はできるだけのあっせんをし、また協力もしていくことは当然なことだと思うのです。そういう意味において、政府はできるだけの努力を払うつもりでありますけれども、しかしこの協定の上におきましては、政府は直接の関与はいたしません。
  36. 高岡大輔

    高岡委員 それはスムーズに事の運んだ場合はそうでございますけれども、私は相手インドネシア政府である場合は、政府としては、どうも日本の業者と話し合いがなかなかうまくつかないというような場合には、結局日本政府に話し込んでくる。その場合には当然日本政府としてはそれに相手にならないと、友好関係に響きましょうし、結局日本政府がそこで話し相手に私は出てこなければならぬような状態に追い詰められるだろうと思う。その際に、やはりそこに将来の危険性が最初から出る場合があるのではないだろうか、それはただ単にコマーシャル・ベースの採算上の困難だけではなくして、インドネシアオランダの権益との間におけるいろいろの問題がございますから、その複雑しておるそういう点についていろいろと国際的な問題が出やしないかということを考えるのであります。といいますことは、日本事業家の中には相当に今までインドネシアとの間には関連を持っていられる方がありますので、先ほど大臣のおっしゃいましたように、この問題が批准されますれば、おそらく一時にどっとそういう方々は進出されるだろうと思う。従ってその間においては政治的な問題が――なるほど、仕事そのものはコマーシャル・ベースで経済協力でございますけれども、その間において私は相当政治的色彩を帯びてくるのではないかということが考えられるのであります。従いまして政府はこれにどうしても関与なさるように追い詰められていくのではないか。そういう場合にこれが単にこれだけではスムーズにいかないということを懸念するのであります。そういうことはないとは思いますけれども、あることもあり得るのではないかという気が私はいたします。その場合に政府としては、海外投資に対しまして今までは六割五分の保証が現在はたしか最近の国会において七割五分に上ったような気が私はします。それから保険率の方も今一分五厘が一分三厘に下ったような気がいたしますが、そういう点については大臣はどういう考え方をなさいますか。御承知のように、今やドイツは海外投資に対しては八割の保証をしており、たしか保険率も日本よりは低いと思うのですが、そういう面にまで大臣はお考えをいたしていただきませんと、今後の海外投資とか経済協力という問題は、単に日本インドネシアだけとの問題でなくして、最近はアジアの公館長会議を開いていらっしゃいますが、その際にいろいろと話題がありますことは、私ども新聞等によってわずかにうかがい知るのでありますけれども、そういう公館長会議の際に出ました話題からしましても、なかなかむずかしいのじゃないかというような気がしますので、この際東南アジアとは限りませんけれども、日本の経済外交といいますか、経済協力は、これは経済外交に当然タッチしていく問題でありますので、そういう点に対して大臣の抱負といいましょうか、お考え一つお聞きしておきたいと思います。
  37. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 ただいまお話のありました経済活動をした場合の損害に関する問題、あるいは保険の問題、これは私は全般的に強化してもらうことが将来日本経済協力のために必要なことだと思います。従ってそういう面については通産当局なり大蔵当局とも十分意見を交換して、われわれとしてはそういう面で十分な保護ができるような処置がこれから拡大されていくことを私は希望いたしております。  ただ先ほど言いましたように、特定の事業について特定の政治的な、特殊な何らかの援助を与えるという問題は、これは厳に慎んで参らなければならぬのであります。むろん輸出入銀行等の利息の幅がございますから、そういうものについてあっせんをする、あるいは期間等についてあっせんをするということは、特定の事業、特定の場合にも考えて適当であればいいと思います。それ以外の、お話にありましたような政治的策謀等によって特別に何らかの措置をとるということは、なるべく慎んで参ることが必要かと思います。     ―――――――――――――
  38. 床次徳二

    床次委員長 一般国際情勢に関してこの際質疑を許します。森島君。
  39. 森島守人

    ○森島委員 時間の制約があるそうですから、一、二問簡単にお聞きしたいと思います。大臣にお聞きしたいのは、日韓会談の最近の状況がどうなっておるかという点でございます。昨年の議会の演説におかれましても、日韓会談はいかにも直ちに完結するような御演説がございました。この点につきまして行き悩んでいるのは、外務事務当局として非常な不手ぎわを繰り返しているものだと私は信じております。大臣はその辺はいかにお考えになっておるか、お聞きいたしたいのであります。
  40. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 昨年十二月三十一日に、日韓会談に入ります前提条件の、両国間の友好関係を打ち立てる一番大事な問題としての相互の釈放について話し合いを取りきめたことは御承知通りであります。その後その手続を進行して参ったわけであります。日本側といたしましては約束しました通りに進めて参ってきておるのであります。韓国側におかれましてはその一部は履行されてきておりますけれども、三月一日の会談の日までには全部が履行されておりません。従って日韓正式会談を開いて今後両国が友好関係を打ち立てる、従ってこの会談というものは、前数回の会談のように、再び決裂をするというような事態に持ち込みたくないのであるから、われわれとしては、やはり約束した相互の釈放等が行われて、そうしてほんとうにお互いに取りきめたものについて、信義を守ってやったという状況のもとに会談を開きたい、そういうことであるから、日本側はすでにそれぞれの手続を済ましておるけれども、韓国側においてはまだ第二次送還をくるめて五百名しか帰してこない。従って残りの四百二十二名でありましたか、それが帰ってくるまでは、会議を開くことは会談の将来の進行上適当でないだろうということを二十七日に申し入れまして、そうして当時重ねて第三次の送還の日時等について質問をいたしたわけであります。それに対しまして今日まで正確な返事が参っておりません。その後板垣、柳公使等の会談もいたされたのでありますけれども、正確な日付等については承知しておりません。  先般金大使が帰られましたので、私としては一応日本側の趣旨を説明し、かつまた向う側手続上どういう点でおくれておるかということを聞きたいと思いまして、金大使にその意を伝えたのであります。昨日金大使は柳公使を帯同してこられまして、金大使は、自分は帰ってきてから病気等をしていたものであるから、出てくるのがおくれてというあいさつの後に、韓国側においても誠意を持ってやっておるんだが、その人の名前等の照合等についていろいろ時間もかがり、手数もかかっている、そういう点をできるだけ進めて――名前の間違った人もあるし、いろいろな変った人もある、そういうようなこともやって、そうして今やっておるところなんだ、こういうような話でありました。従って私は重ねて強く日本側のそういう考え方向うに申しました。そうして京城政府に抑留漁夫の送還について特段に一そうの努力をしてもらって、その結果が出れば、われわれは代表団等をすでに任命していることであるから、いつでも会議に移って、その上に立って友好的な雰囲気のうちに日韓正式会談を進めていこう、こういうことを申したわけであります。
  41. 森島守人

    ○森島委員 ただいまの経過は大体新聞等で私承知しておりますが、問題の根本にさかのぼりますと、北鮮へ帰国しようという人を日本が北鮮へ帰すんだということについて、事務当局間の話し合いにおいて明確なる了解をつけていないというのが、この交渉のおくれておる根本の原因だと私は信じております。その点はいかがでありますか。
  42. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 その会談においてはその点について特に触れておられません。あの協定でも御承知のように、韓国に引き渡す者については韓国がこれを受け入れる義務を持っておるわけであります。しかし日本はどこに引き渡すという義務を持っておりません。従って将来そういう立場において進めていくということであります。
  43. 森島守人

    ○森島委員 しかし韓国側の了解と申しますか、韓国側としては、全部韓国に送り帰されるんだという前提のもとに話を進めてきたのじゃないかとうかがわれる節が多いのでございます。やはり北鮮へ帰る人については北鮮へ帰るという明確な了解をつけて、二月の十四日までに抑留者を全部帰すという了解をつけたのでなければ、再び話がもつれる危険があるのじゃないか。この点について外務省の事務当局の交渉に手落ちがあったと私は信じております。この点は今後明確に打開し得る見込みを持っておられますか、どうでございますか。
  44. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 今後の交渉でありますが、私はただいま申し上げたような立場と態度においてで終始して参りたい、こう考えております。
  45. 森島守人

    ○森島委員 この点はさらにまた機会でもございましたらお尋ねすることにいたしまして、外務大臣の外交演説によりますと、「来たるべき全面会談に際しましては、公正なる基礎の上に諸懸案の妥結に努め、もって日韓両国間の友好関係を樹立いたしたいと念願しておる」ということでございますが、これはいかにもばく然たる表現でございまして、友好関係を樹立するということは一体どういうことを意図しておられるか、この際明確にしていただきたいと思います。
  46. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日韓間にいろいろな問題があり、また国交が回復しておりませんことは御承知通りであります。従いまして、日韓間における国交を回復し――公正なる立場に立ちまして懸案になっている問題を解決した上で、国交を回復するということを申しております。
  47. 森島守人

    ○森島委員 それではこの友好閣係を樹立するということは、つまり国交関係を再開するということであると了解してよろしゅうございますか。
  48. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 むろん国交がなくても友好関係を結んでいくことは必要だと思いますが、しかしながら友好関係を樹立するというのは国交を回復するということだと思います。
  49. 森島守人

    ○森島委員 それでは現在の李承晩政権を正統政府として認めて、これを相手に国交回復をするということと了解して差しつかえございませんか。
  50. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 さようでございます。
  51. 森島守人

    ○森島委員 そういたしますれば、何ゆえに李承晩政権だけを正統な政府と認めておられるか、この法的な根拠をお示し願いたい。
  52. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 国連の第三回総会の以後でありましたか、朝鮮における正統政府として国連かこれを認めております。そういうことによって、われわれもそう考えております。
  53. 森島守人

    ○森島委員 それじゃお尋ねいたしますが、南ヴェトナムの政府を正統政府として認めるというお立場政府はおとりになっておる。このときにはサンフランシスコの講和条約に調印をしているからだというお立場をおとりになった。しかし韓国は別に講和条約には参加してないと私は了解しております。その点の関係はいかがになっておりますか。
  54. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 どの国をどういう形において正統政府と認めるかということは、それぞれの環境、立場等によって決定していく問題だと思うのでありまして、ただ単純にサンフランシスコ条約だけ、あるいは国連総会決議だけということに限定されるべき問題ではない、こう考えます。
  55. 森島守人

    ○森島委員 時間もないようですから別の問題に移りますが、日ソ平和条約の問題に関しましては、ソ連では日本の要求と申しますか、これは非常に荒唐無稽なものだと言っております。日本側といたしましては、国後、択捉は千島列島の中に包含されていないんだという見解を今持しておられるようです。私はこの通りの両国の主張をもっていたしますと、一致点を見出すということは非常に困難である。私は、今後平和条約の問題が論議に上ります際に、政府としてはいま一応サンフランシスコ講和会議におけるいきさつ等をも十分御検討になりまして、日本立場を明確にされることが必要だと思う。岸さんも、この席上かあるいは他の委員会だったかと思いますが、サンフランシスコの講和条約の際に、外務省の条約局長が、択捉、国後は放棄したのだということを言ったのは誤まりであった、ということを岸さんは述べておられますが、私は、これははなはだしく事実をしいるものであって、当時日本政府としては明らかに国後、択捉等も含めて千島全体を放棄したのだということが、歴史上の明らかな事実であると信じておりますが、この点は外務大臣はいかがお考えでありますか。
  56. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私としては、国後、択捉は日本の固有の領土であって、放棄したというふうには考えておりません。過去の経緯から見まして、また今日そう確信を持っております。
  57. 森島守人

    ○森島委員 そこで明確にしていただきたいのは、当時のこの委員会における議事録を十分に御検討になって、政府として明確なる意思の統一をしていただかなければ、今後この問題は非常にごてると思うのです。わが党といたしましても、国後、択捉の返還を求めるということについては異議はございません。国後、択捉は日本の固有の領土であるが、しかし吉田全権が当時誤まってこれを放棄したのである。この前提のもとに立たなければ、私は問題の円満なる解決はできないということを確信している。外務大臣にお聞きするのは、吉田全権が講和会議においてこれを放棄されたと認められるかいなか、この点について現在の政府立場を明らかにしていただきたい。
  58. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 吉田全権が国後、択捉を放棄したとは私は考えておりません。従って現在の政府としても国後、択捉を放棄しているという立場には立っておらぬと申し上げます。
  59. 森島守人

    ○森島委員 それではあらためて当時の議事録を一応はっきりごらんになって、その上で明確なる解釈を、政府としての御見解を示していただきたい。私はこの点に非常な疑問を持っているので、当時重光大臣に対しましても、関係政府がいかなる解釈をしておるかという点について、関係政府の意図をただしてほしいということで、重光大臣は両度にわたりましてアメリカ政府の意向をただした。第一回のアメリカの回答は、外務省から資料として当委員会に配付されましたが、これによりますと、国後、択捉については必ずしもはっきりしていないのだ。従って国際司法裁判所で問題にしてよろしいのだという解釈だったと私は記憶しております。第二の解釈になりますと、政府の政治的意図が多分に働いておったと私は信じておる。従って第二の解釈においては、千島に包含されるという事実がないのだという回答に接しておるように思っております。ところがそのとき私はあらためてヤルタ協定の当事者であるイギリス政府がいかなる見解をとっているか、政府に問い合せてほしいということを申しました。政府はこれを約束したまま、何ら資料としてもこの委員会に提出していないのでございます。松本政務次官の御答弁によりますと、参議院でしたか衆議院でしたか私忘れましたが、関係政府の間においても必ずしもこの点について意見が合致していないというような御答弁があったと記憶しております。従って情勢次第によって、関係政府の意図を日本側の希望するような線にまで持ってきて、将来交渉をしたいのだというふうな御趣旨の御答弁があったように思いますが、私はこの点から考えましても、今藤山大臣が一方的に、独断的に国後、択捉は日本の固有の領土であって、これを放棄した事実がないのだとおっしゃるのは、私は多分に言い過ぎじゃないかと思いますので、この点につきまして明確に――私速記録をきょうは持っておりませんが、速記録の必要な部分を全部取りそろえまして大臣にお見せしてもよろしい。当時条約局長ははっきり放棄したのだということを、吉田全権、吉田大臣の意図を受けて答弁をしております。それから政府代表しております当時の草葉政務次官は、これは念入りにも南千島も、中千島も、北千島も含んで全部を放棄したのだということを述べておる。吉田さんはさらに、日本としてはこれに容喙すべき権限はないのだとまで極言しておられる。私はこの事実を日本側においても正確に検討されて、正確なる事実に基いて、将来平和条約交渉をなさることが必要である。これは国際信義の上からいいましても、外交の継続性という点からいいましても必要があるということを確信しておる。大臣にいま一応この点を御検討あらんことを切望してやまないのでございます。大臣は国後、択捉は日本の固有の領土であって、サンフランシスコの講和会議のときに放棄した事実がないのだと、あくまでおっしゃるのかどうか。なお一応念のために伺っておきたい。
  60. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 国後択捉の問題につきましては、私どもはそう承知しております。しかしながら今後ソ連交渉いたす場合に、当然われわれの論拠を固めて参って強い主張ができるようにいたしておきますことは当然必要なことだと思います。従いまして、私も過去の衆参両院におきますいろいろの議論の経緯等につきましては、まだ必ずしも――けしからぬとお話があるかもしれませんが、一々の点までは勉強いたしておりませんので、当然われわれとしてもそういう点について勉強しまして、国後、択捉の要求を正当な要求として、確信を持ってそれに当らなければならぬのではないかと思います。
  61. 森島守人

    ○森島委員 この点については、私たちもあえて異議はないのです。国後、択捉は日本の固有の領土であった。しかしこれを誤まって吉田さんが放棄したのだ。しかし固有の領土であったという歴史的な事実に基いてソ連に要求をすることは私は当然だと思う。当時私かこの議論を初めて持ち出しましたときには、自民党委員諸君の中にも動揺があった。私も相当――愛知さんに言わすと利敵行為だというでしょう、そういうことで脅迫状めいたものも受け取ったことがございます。しかし私はあくまで正しい事実に基いて議論を進め、交渉を続けなければ平和条約交渉なんかも円満妥結することはむずかしい。ただ一言、大臣はただいま、過去のことは一々勉強しておらぬとおっしゃいます。私は、非常な怠慢だ、この重要問題、目下の焦点になっているこの重要問題に対して、外務大臣の職責にあるあなたが勉強をしないというだけでは責任が済むものじゃないので、これはしっかり勉強していただきたい。  ついでに、私、松本さんから一つ意見を伺いたいのですが、松本さんの参議院の委員会における発言と思いますが、その点をあらためてこの席上で明らかにしていただきたい。
  62. 松本瀧藏

    松本政府委員 私は決して連合国側の意見がまちまちであるという答弁をしておりません。これは速記録をお調べになればわかる通りでありますが、アメリカにおきましては、国後、択捉の問題に関しましては、日本の主張に同意したような見解を表明しております。ただその他の国、たとえばフランスとか英国とかいうような国が、まだその意思表示をしていないのであります。その意味におきまして、どういう手を打っているのかという質問がございまして、あらゆる手を打っておるということを申しました。ただどういうチャンネルを通じて、だれがどういう折衝をしたというようなことを一々申し上げることは、森島委員も外務省におられましたので、よくそのテクニックはおわかりだろうと思いますが、私は申し上げるわけにはいきませんが、あらゆる手を打って、そういう方向に今導きつつあるということだけは、私はっきり繰り返して今日申し上げることができます。
  63. 森島守人

    ○森島委員 それでは、日本の主張に近寄るように努力を重ねておると、こういうわけでございますね。
  64. 松本瀧藏

    松本政府委員 そうでございます。
  65. 森島守人

    ○森島委員 その通りといたしますと、私は、前提があるので、日本が放棄したという事実があるから、その事実を曲げて、日本の主張に同調するように、今お働きになっているのだということだと了解して差しつかえないと思いますが……。
  66. 松本瀧藏

    松本政府委員 決してそういうわけではありません。西村条約局長答弁をいたしました速記録の問題でありますが、そのときの状況等からいたしまして、果して速記録に出ておる通りのことであったかどうかということは、まだ疑問に思っております。実はパリで、私はこの問題に非常に関心を持っておりましたので、今回私外務省に奉職する前にも、この問題を個人的にいろいろと話してみたことがあります。私も当時国会からサンフランシスコ講和会議に派遣されましたので、この問題についてはいろいろと関心を持っておりました。いろいろと話を聞いてみますと、速記録に出ている通りではないというようないろいろな雰囲気等あたりも聞きました。さらに当時は占領当時でありまして、そこにいろいろなファクターもあっただろうと思いますので、決して政府が申したことを曲げて、そうではなかったのだ、取り消してやるとかいうような意味でなくして、正々堂々と初心を貫くという方針でやるということを申し上げておるのであります。
  67. 森島守人

    ○森島委員 私重ねて外務大臣に要望いたしますが、これはやはり彼我の主張がどっちにあるにしましても、重要問題である。そのサンフランシスコ当時にさかのぼって事実を明らかにして、明らかな事実の上に正々堂々と交渉を進められることが適切と思うのでございまして、十分に御研究いただきますことを要望しておきます。  第二に、日中貿易協定の問題でございますが、これは根本は政府協定でやるべきところをやらなかった、民間へまかしたというところにいろいろな問題が派生してきた。自民党の態度もそこに原因しているものと私は思っておるのです。藤山さんは、この前のいつでしたか、私は期日は忘れましたが、国会において五人だけ通商使節を認めるのだという趣旨のことを御答弁になりましたが、その点はすでに撤回されたものと了解してよろしゅうございますか。
  68. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私は通商代表部の人数について具体的なものを発表したことはないと思っております。
  69. 森島守人

    ○森島委員 私は大臣からお聞きしたと思いますが、これは速記録でも読まなければはっきりいたしません。その他国旗掲揚の問題につきましても、政府としてはすでに同意を与えられたということになっておると存じておりますが、いかがでございましょうか。
  70. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 民間協定でありまして、政府が直接関与いたしておりませんので、そういう問題について同意を与えたことはございません。
  71. 森島守人

    ○森島委員 貿易協定全体といたしまして、政府としてはこれを受け入れると申しますか、支持すると申しますか、積極的にこれを支持するというお立場をおとりになるものと了解して差しつかえございませんでしょうか。
  72. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 日本と中共との貿易をできるだけスムーズに、できるだけ円滑にやりますことにつきましては、政府もやぶさかではないわけでございます。そういう意味において日中間の貿易が進むようにわれわれは考えております。
  73. 田中稔男

    田中(稔)委員 関連して外務大臣にちょっとお尋ねしますが、最近の外電によりますと、ポーランドのソ連筋に近いところからの情報として、北方の領土問題についてソ連側に若干譲歩の意向があるということが伝えられております。その譲歩の内容というのは、南千島の領土権の帰属について、今度結ばれるであろう日ソ平和条約で最終的な決定をしないで、いわばこれは将来に保留しておいて、そして平和条約を結ぶ、こういう内容のようであります。そこで今も大臣からお話がありましたように、日本政府としましては、南千島は固有の領土である、またサンフランシスコの対日平和条約においても、これは放棄していないのだというかたい御主張があるわけであります。ところがソ連は全くこれと逆に歯舞、色丹まで含めて千島全体は、とにかくソ連の領有に帰しておるのだけれども、しかし日本側の要望もあり、歯舞、色丹だけは好意をもって譲渡しよう、それ以外の千島の領土について、日本にこれを返還するというような意向は毛頭ないということは、たびたび繰り返しておるわけです。そこで安全操業の問題等とからんで平和条約の問題が取り上げられることになったら――政府はそれにも反対しておりますが、結果においてそういうことになったなら、また私は平塚さんあたりの言葉によりますと、何かそういうふうになる可能性も一応予想しておかなければならぬのじゃないかと思う。平塚さんは新聞記者とのインタビューにおいて、フルチショフともあらゆる問題について話し合えるような大物を今度派遣してもらいたいと言っております。フルシチョフともあらゆる問題について話し合うということになれば、領土問題なども触れるのではないか、そういうふうに思われますので、この際特にお聞きするのでありますが、従来は日ソ両国政府の間で南千島の帰属についてまっこうから対立した議論が行われている。これをどちらかにきめることは容易ではないのではないかと思う。その場合にソ連側で南千島の領土権の帰属を平和条約において最終的にきめないで、将来これはもう一ぺん問題にすることにして、しばらくたな上げしようというような提案が、かりに現実に行われるような場合には、一体日本政府はどう考えるか。日本の主張を譲ったわけじゃない、放棄したわけじゃないですけれども、それもいかぬのだ、どうしてもこの際一銭も負からぬのだというような、そういう態度で臨むものか、一つこの際心がまえを聞いておきたい。
  74. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 鳩山さんがやられました日ソ共同宣言は、領土問題を除きましてはほとんど平和条約に近いようなものであります。従いまして領土の問題が片づかない限り平和条約を結ぶ意味がないのであります。平和条約を結びませんでも、日ソ共同宣言の精神によって、今日まで日ソの両国は友好関係を進めてきているわけであります。従って領土問題を解決するということが、平和条約における非常に大きな意味だと思うのであります。そういう意味において、私といたしましては領土問題が片づかない限り平和条約締結する必要はなし、また締結しなくても、日ソ間の正常な友好関係は共同宣言によってできると考えております。
  75. 森島守人

    ○森島委員 私国連の人事の問題についてお伺いしたいのですが、国連に日本が加盟しましても、十年間以上の空白状態があったわけです。私はその人事の問題は相当大きいと思う。しかも国連においては十年間に相当込み入った問題をたくさん取り扱っている。わずかの日本の国連の派遣員では、十分にこなし切れないと思います。この際こそ外務省では――名前を私は今思い出しませんが、英国人を長い間外務省の顧問に持ち、それから日露戦争の交渉のときにはデニソンという顧問を使っておりまして、非常な働きをなしたことは、幣原回顧録等をごらんになればはっきりいたします。私は国連においてこそ有能なる外国人の学者なり国際法学者等を雇用する必要があるということを、現場を見ましても痛感しているのでございますが、これに対する何か御配慮がございますでしょうか。
  76. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 政府としまして国連を中心にして外交を展開していきたい、こういう考えでありますから、国連代表部を充実するということは、当然やって参らなければならぬと思います。従ってお話のように、日本人の国連における代表部を充実すると同時に、今お話のありました適当なしかも有能な国際的な法律その他の知識を持っているような外国人を得られるならば、そういう人を雇用してわが代表団を充実していくということも決してやぶさかでないし、また将来そういう適当な人がありますれば考えていいと思います。
  77. 森島守人

    ○森島委員 その点につきましてお伺いしたいのですが、これは事務当局でけっこうでございますけれども、何らか法規上これを雇えないのだというふうな関係がございますかどうですか。そういうふうに私は承わったのですが。
  78. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 もし通常の雇用契約ならば差しつかえないと思うのでございます。別に障害はないと思っております。
  79. 森島守人

    ○森島委員 それなら一つ至急に国連の人事を充実する意味からいっても、外国人をお雇いになった方が能率を上げ、事務を円滑に進捗する上に非常に効果があると存じておるのでありますので、この点について一つ御考慮を願いたいと思います。  次にお伺いしたいのは外務省の人事の問題でありますが、在英大使を後任を任命しないまま数カ月も放置する、これは大臣としては非常な手ぬかりだと思うのであります。いやしくも大英帝国、斜陽国といわれますけれども、依然として国際的に非常に大きな発言権を持っておる大英帝国の大使の後任を考えないで、ばく然とこれを更迭するというがごときやり方は不得策であると思うのですが、この点はどうお考えになりますか。
  80. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 後任を決定しないで異動をやったということについては、むろん後任を決定しなかったわけではないのでありまして、いろいろな事情のためにそれがおくれたということになっております。われわれとしても在外使臣の交代に当っては次の人をできるだけ早く任命する必要があるということは御同感でございます。
  81. 森島守人

    ○森島委員 次にお伺いしたいのはオーストラリア大使の問題について新聞紙上いろいろごたごたが伝えられておりますが、この真相は一体どうなのでございますか。
  82. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 私は就任いたして以来、御承知のように最近の外務省というのは非常に膨脹いたしております。大公使の数もふえております。また十分御承知でありましょうが、過去十年以上ほとんど外務省としての組織充実というものが行われておりません。一方では消極的な外務省の組織機能になっております。他面では独立国ができてそれぞれ大公使等もふえて参りました。従ってそういう意味からいって若干民間人に有能な人があれば外務省の仕事の中に起用していってもいい、こういう考え方でおったわけであります。ただしかし、そういう考え方をいたしてみましても、なかなか民間人から有能な人を起用するということが少いのでありまして、長い経験があられましても語学等の点もございます、またそれぞれの給与の関係、それぞれの家族構成の関係等いろいろな御事情がありまして、必ずしも有能な方を得られないわけであります。従って私はそういう方を起用するのに多くを望まない、ほんとうに二、三人程度にしか最終的にはならぬということだろうと思いますが、その一人の候補者として私は浜口君をと思っておったのであります。同君に話をいたしましたところが、現在のやむを得ない事情のために引き受けかねるという返事を受けたのでありまして、私に関する限りはそれが真相でございます。
  83. 森島守人

    ○森島委員 私はこういう問題をこの席上でお聞きすることは快しとしないのですが、私は神奈川県の出身なのです。神奈川県の自民党の候補者の問題についてはいろいろ取りざたされておりまして、私も詳細承知しておるはずであります。藤山さんは今度横浜からお出になる、そのためには河野君の子分である小林君をのけなければならぬ、そうしなければ選挙にならぬという事実です。これは私は外務省の在外使臣の人事を選挙のために情実的に取り扱うものだという感を深くせざるを得ないのであります。これは私のみじゃございません。すべての新聞はみなそのように伝えておりますが、私は在外使臣の異動をお考えになる上においては、こういうふうな内政的の考慮とからませないで、すっきりした姿でおやりにならなければ、行きました在外使臣も任地へ着きまして十分な働きをすることは困難じゃないかと思うのでございます。これは別に藤山さんの御答弁をこの席で求めようとはいたしませんが、将来外務省の人事を動かす上において、あまり内政的な考慮等に左右せられることなく、やっぱり純粋の外交上の立場からすっきりした人事をおやりになることが外務行政の実績を上げるゆえんである、こういうふうに私は確信しております。この点につきましては、一段の御考慮をお払い願いたいということを要望しておきます。  それから移動大使の問題につきましても、私はアイデアとしては非常にいいアイデアだと思う。ただしかし、これがいかにも政治的な意図でもって動かされたという人が多いと私は思う。二、三カ月旅行になって、海外を視察せられ、豊富な経済的な知識等もお持ち合せになっておるのですから、十分なるお働きをなさることと確信しております。この点につきましては、同僚の松田委員等もお触れになっておられましたが、私はむしろそういう方が、ただ二、三カ月旅行して帰ってくるだけでなしに、こういう方こそ進んで外務省の陣営にお投じ願って、二年でも三年でも腰を落ちつけて仕事を進められるようにお取り計らいになることが、私は外務省の人事を円滑に進めるゆえんである、こう確信しておりますが、移動大使等につきましては、今後どういうふうなお考えをお持ちになっておりますか。
  84. 藤山愛一郎

    藤山国務大臣 人事を内政に関連させてやらぬということは、私の信条としてそうやって参るつもりであります。  それから移動大使の運営でありますけれども、移動大使は御承知のように、ある地区を受け持ちまして、そうしてその間を数カ月回って、その地区間にいろいろ起っております問題について、総合的に判断をしてもらおうというのが一つの目的であります。また同時に在外公館の活動、機能等につきまして、民間人的立場から意見を述べてもらうというのも一つの任務でございます。ただ有能な方が行かれる場合に、ときにあるいは現地におきまするいろいろな問題があったときに、そういう問題についての先方側の意向等について話を聞いてくるということも必要であろうと思うのでありますが、そういう意味において移動大使というものを今後活用して参りたい、こう考えております。無論この人選は十分注意をしていたさなければならぬことは当然でありますし、また経済的な面における外交活動ばかりでなく、政治もしくは文化面におけるそういうような意味の移動大使的な任務も私は必要なんだと思うのであります。従って、逐次回を重ねるに従って、そういう考え方をもって移動大使は運営して参りたいと思っておる次第であります。大体先般移動大使を出しまして、それぞれ有能な方々にお願いいたしましたから、所期の目的を達したと思いますが、この制度も第一回を出しただけであります。回を重ねて、何か改善をしていくところがありますれば、十分改善をして有効に働かしていきたい、こう考えております。
  85. 森島守人

    ○森島委員 最後に一問だけ。民間から外交官を採用する御方針については今お話のありました通り、いろいろ民間には要望が多うございます。世間でも、いかにも外交の刷新ができるように考える向きも非常に多いのですが、私はただいま大臣の述べられました諸般の制約からいたしまして、非常に困難だということは率直に認めなければならぬと思っております。移動大使についても、今お話を承わりましたが、これも活用していただくことに異存はございません。ただ私は、問題はむしろそこにあるのじゃなしに、日本国民の間における国際知識を涵養する。そしてレベルを全部引き上げていくということが、最も外交運用上の要点であるということを確信しておるのであります。情報文化局等においてもいろいろお働きはあると思いますけれども、日本国民全体の国際知識の水準を高めるという方向に、外務省の努力を傾注していただきたいということを要望いたしまして、質問を終る次第でございます。
  86. 床次徳二

    床次委員長 大臣の都合もありますので、一般情勢に関する質疑は次会に譲っていただきます。     ―――――――――――――
  87. 床次徳二

    床次委員長 再びインドネシア関係条約に関しまして、質疑を許します。松本七郎君。
  88. 松本七郎

    松本(七)委員 この前にちょっと大臣にお伺いしたのでありますが、事務当局から御答弁があったのでありますが、例のガリオアの問題です。阿波丸請求権処理のための日本国政府及び米国政府間の協定、これの了解事項によって債務だということがはっきりうたわれておる、こういう御答弁だったのですが、そうなると今まで日本国民の債権債務に関することは、国会の承認を当然得ていなければならないことになると思うのですが、その点はどうなるのですか。
  89. 松本瀧藏

    松本政府委員 政府委員答弁させます。
  90. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 お答え申し上げます。ただいまの御指摘の点は、阿波丸請求権処理のための日本国政府及び米国政府間の協定というのがございますが、それの了解事項にその点が載っている次第でございます。そこで私当時の記憶をたどってみますと、この阿波丸の請求権処理のための協定は、国会の御決議によって、それに従ってこの協定をしたのじゃなかったかと思っております。従いまして協定及び了解事項も、それによって国会の承認は受けなかった。その前に国会の決議がございましたから、それで省略したのじゃないかというふうに考えております。それからもう一つ、阿波丸の了解事項は、日本アメリカから負った債務は、これは有効な債務であるという了解事項でありまして、それでは債務の額が幾らであるということは、これで確定したものじゃないと思っております。
  91. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると債務であるということはもうこれできまった。しからばその債務の額は幾らであるかということは今後にきまる。そうするとそれがきまるつど国会の承認を得るということになりますか。
  92. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 きまります場合は、おそらくきまると同時にその処理の方法が一緒にきまるのじゃないかと思っておりますから、その場合には国会の御承認を得ることになると思います。
  93. 松本七郎

    松本(七)委員 そこをはっきりしておきたい。阿波丸請求権処理に関する協定があり、付属の了解事項がある。その了解事項の中でこのガリオアあるいはイロアは債務であるということがはっきりしているわけですね。これは国会の決議に基いてやったんだ。今の御答弁だとそういうことになる。しかしその債務の額がきまっておらないから、その額がきまり次第、その額についてそのつど国会の承認を求めることになる、こう了解していいのですね。
  94. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 それは予算の形がいろいろあると思いますが、国会の承認を求めることになると思います。
  95. 松本七郎

    松本(七)委員 桑港条約の第四条及び日華条約の第三条において、台湾政府との交渉はどうなっておりますか。日本政府交渉申し出を行なったのですか。その経過を……。
  96. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 御指摘の件は第四条の特別取極のことかと思いますが、私が承知します範囲では、この点まだ何ら進行いたしていないようであります。
  97. 松本七郎

    松本(七)委員 大臣にお伺いしたかったのですけれども、時間の都合で退席しましたので政務次官から御答弁を願いたいと思います。岸内閣が外交方針を述べられるつど、自由主義陣営という言葉を使われるのですが、この自由主義陣営の正体は、国家体制あるいは社会制度をもってこの区別をするのか。自由主義陣営といわれるのは、国家体制とかあるいは社会制度をもってこれを分ける基準にされておるのか、それとも政策用の一用語であるのか。政府はどっちに使われておるか、はっきりしないので、この機会に伺っておきたい。
  98. 松本瀧藏

    松本政府委員 はっきりした線を引いてこれを申し上げることは非常に困難だと思います。たとえば共産圏に傾いておりました国も自由主義国の方に、徐々に国内体制等あたり変ってきておるところもございます。ただ一般的にわれわれの考えておりますのは、これは主として政治的に考えておるわけでありますが、必ずしも共産体制であるから全部それを敵視するとかという意味ではなくして、一応外交、政治の一つのブロックとしてわれわれはこれを考えております。
  99. 松本七郎

    松本(七)委員 そうすると、どっちかというと政策上の用語である、それに重点があると理解してよろしいですね。
  100. 松本瀧藏

    松本政府委員 政策と申しますよりも、むしろ政治的の問題だと思います。
  101. 松本七郎

    松本(七)委員 社会体制ですね。そうすると中立政策をとっているアジア並びにアラブ諸国は一体どうなんですか。社会体制なり国家体制に重点があるのなら、政策としては中立政策であるアジア・アラブの諸国は、これは日本政府の基準からいえばどっちですか。
  102. 松本瀧藏

    松本政府委員 先ほど申し上げましたごとく、はっきりした線を引くことのできない分野も相当あるわけであります。従いましてわれわれは政治、外交面でこれをいろいろと考えていくのであって、われわれのはっきり申しておりますところの自由陣営というのは、一応これは外交的に、政治的に一つのブロックと、こう考えております。
  103. 松本七郎

    松本(七)委員 そうなると社会体制とか国家体制でなしに、政策上の用語だということになる。国家体制、社会体制からすればきわめてはっきりしている。ただそれよりもその国のとっておる政策によって自由主義陣営というようなことに考えれば、これは非常に幅も広くなってくるということになるのですが、それはどっちなのか今の答弁でもはっきりしないのですが。
  104. 松本瀧藏

    松本政府委員 先ほど申し上げましたごとく、従来は共産圏のグループに入っておったと目される国は、だんだんと社会体制が変りまして自由陣営の方に傾きつつあるものもあります。従って完全な一つの中立政策に変ったところもあるように考えております。そういう意味からいたしまして、これは決してこのわれわれの考えておるいわゆる自由陣営というものが、全部これが国家体制であるとか社会体制によって決定するものではなくして、主として先ほどから繰り返しておりますごとく、政治的に外交的にわれわれはこれを考えておるのであります。
  105. 松本七郎

    松本(七)委員 従来共産圏に入っておった国で最近変ってきた国、その社会体制から変ってきたというものはどういうものがございますか。
  106. 松本瀧藏

    松本政府委員 これもはっきり申し上げることはなかなか困難かと思いますが、たとえばオーストリアのような国も一応これは体制的には共産圏に近いものであるというように考えられておりました。それが完全な中立的な態度を今日とってきておるというようなことを一応考えておった次第でございます。
  107. 松本七郎

    松本(七)委員 これは体制から共産圏にあったとは考えられない。これは見解の相違にもなるでしょう。そうすると、大体政策上の問題だと理解していいのじゃないかと思います。そうすると、日本政府の基本的な方針からいって、アジア・アラブ諸国、あるいはユーゴなどのとっておる積極的な中立政策というようなものをどう考えておるか、ある程度そういったものと協調を保ち、日本もそれに提携してやることが可能かという問題です。
  108. 松本瀧藏

    松本政府委員 もちろんユーゴとは友好関係を増進すべくいろいろ努力しております。先般国賓として副大統領を日本に招きまして、いろいろと接待もし、またいろいろと要談し、会談等を行いました事柄も相当成果をおさめておる、こう考えるのでありますが、もちろん一応これは共産圏であると目されることもありましょうが、われわれはもちろん中立国並みに考えて、友好親善関係を増進していきたいという政策をとっております。
  109. 松本七郎

    松本(七)委員 それから、この前からも御答弁があったように、債権放棄の分は賠償とは考えておらないようですけれども、インドネシア側は四億ドル賠償という言い方で、この債権放棄の分を加えて賠償のようにしきりに言っておるわけですね。そうすると、国際的な取りきめをやって、同じことを、両国で重点の置きどころを解釈が幾らか違う、こういう問題が出てきた場合に、もう少し明確に一致させるように解釈をしておく必要があるのではないでしょうか。その点は今までの経過と、果して私どもの心配するような不明確な点がなければいいですけれども、そういう点をもう少し説明していただきたい。
  110. 松本瀧藏

    松本政府委員 必要がありますれば、交渉の衝に当りました政府委員に詳しく説明さしてもよろしゅうございますが、焦げつき債権は賠償の一部分ではないということは、何回となく外務大臣並びに総理が繰り返して申しておる通りでありまして、われわれは賠償の一部分であるというようには決して考えておりません。はっきり確信を持ってわれわれはそれを述べておる次第であります。
  111. 松本七郎

    松本(七)委員 それはこちらの言い分はわかっておるのです。ただ相手国がそれを完全に了解しているかどうかということになると、インドネシア側では、いわゆる純賠償――賠償の中の純賠償と、それから債権放棄の分を合せて四億ドルをあたかも賠償であるかのごとく国内でも言っているわけです。それから外国でもこれを賠償に含めた考え方をとっておるように思うのです。ですから日本側が幾らそれを言っても、世界にこれが通用する過程を経、また相手国も十分それを承認しているかという点について御説明がないと、自分の方はこれは賠償じゃないんだと一方的に言っただけでは、国際的には通用しないのじゃないか。
  112. 松本瀧藏

    松本政府委員 決してその御心配はないと思います。この問題は何回となく委員会で討議されまして、その様子もインドネシア本国に伝達されておるというふうに聞いておりますが、先方におきましてはこのわれわれの答弁に対して何ら異議の申し立てもございません。繰り返して申し上げますが、確信を持ってわれわれはこの問題を回答している次第でございます。
  113. 松本七郎

    松本(七)委員 この前も戸叶委員から出たと思うのですが、債権棒引きについて、普通、賠償のときは四億なら四億と割り切った数字なんですね。ところが今度の場合は棒引きがあるために、非常に半端な数字がくっついて、数字的にいってもすっきりしないのです。そういう点から考えても、しきりに言われるけれども、向うさんはこれを賠償考えているのではないか。実際に当られた白幡参事官に、向うはその点をどういうふうに考えておるか、もう少し詳しく説明願いたいと思います。
  114. 白幡友敬

    白幡説明員 これは先回当委員会においてお答えいたしたのでございますが、この経過の過程におきましても、日本側としては賠償というものは大体二億であるということはずっと堅持されてきた方針でございます。それに対して先方はそれよりもはるかに多い額を持ち出してきました。終局的には、日本から賠償として期待し得るものは二億しかないのだという考え方は、向うでははっきりしたわけであります。従いましてこの前も申し述べましたように、インドネシアとしては国民感情等もございますし、事実上困難な経済情勢もありますので、何かそれに役立たせるような方法を考えてもらいたいという話もございました。この点は先方賠償額四億ドルというようなことは、インドネシア側の国内に対する一つのゼスチュアとして使われておると思われます。特にこれは御承知と思いますが、フィリピンの場合でも一般に当時は賠償八億ドルということを盛んに言われたのでございます。しかし事実はそうではございません。それを一般に非常にわかりやすいというような形で、国民感情をまとめていくという考慮から出ているものだと思われます。二つとも交渉の間にははっきり賠償はあくまでも賠償である。この前申し上げました焦げつき債権の処理をどうしようかということは、お互い前から考えておったわけであります。思想としてその中に賠償と焦げつき債権を混同させるような考え方はしてなかったわけであります。
  115. 床次徳二

    床次委員長 松本君、はなはだ恐縮でありますが、通産大臣が見えましたから、質疑をかわっていただきます。田中君。
  116. 田中稔男

    田中(稔)委員 ごく簡単に通産大臣に御質問申し上げます。賠償として供与される生産物資本財とするというのが賠償協定の原則でございます。ただしインドネシア側で消費財についての要請があれば、消費財をもって賠償に充ててもよろしい、こういうことになっております。現在はインドネシアでは相当インフレーションが熾烈でありまして、インドネシア政府としてもこれを抑圧する必要があって、そのために繊維製品を主にした消費財を要請するという見込みは大きいと私は思います。一方また日本の国内においても繊維製品の在庫が非常に増大しておる折柄でもありますので、いわば渡りに船というようなことで、おそらく消費財も相当多量に行われると思います。しかしながら本来消費財賠償ということはあまりおもしろくない姿でありまして、この賠償協定にも、「この協定に基く賠償は、日本国インドネシア共和国との間の常通の貿易が阻害されないように、かつ、外国為替上の追加の負担日本国に課されないように、実施しなければならない。」こういう規定もあるわけであります。そこでこの際通産大臣にお尋ねいたしたいのは、消費財賠償の行われる大体の見込み、どういうふうな種類のものがどれくらい行われるか、これについてのインドネシア側の希望なり日本の業界の希望なり、そういうことに関連いたしまして取りまとめて、できるだけ詳細に御答弁を願いたい。
  117. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 ただいまお話通りに、賠償としましては資本財が原則であります。しかし今までやって参りました状況からいいますと、現地通貨の調達ができませんと、せっかくの資本財賠償に持っていきましても動かぬ、こういう問題がありまして、従って例外的に消費財賠償で出す、こういう事態が起っておるわけであります。従いましてわれわれの考えとしましては、インドネシアにおきましても同様なことを予想しておるのであります。ただお話のように、どの程度にそういうものを出すかといいますと、結局これはまた資本財のどういうものがいくか、それに対して現地通貨がどの程度要るかということを見きわめませんと、それからまた、向うの希望によってやっていくわけでありますから、こっち側から押しつけるべき性質のものでもありませんので、ただいまのところ、ちょっと詳細にそういうお話に御答弁申し上げる材料もありませんし、段階でもないように思いますので、その点は御了承願いたいと思います。
  118. 田中稔男

    田中(稔)委員 大臣インドネシア側の要望ということを言われましたが、日本側にもその要望は強いと思います。そこで具体的な話は向うから要望があっての上のことでありますけれども、もう賠償を当て込んで繊維製品の業者その他は、在庫を処分したい、滞貨を処分したいということで、政府にもいろいろ話を持ち込んでおると思います。一体消費財賠償が行われる場合、日本ではどういうふうな種類の製品が出るのかというようなことについては大体見当がついておるし、また政府の方針も内々はお考えになっておると思いますので、一つそれについて御答弁願いたいと思います。
  119. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 おそらく向うからも希望があると私は思っておりますが、それは人絹であります。また国内におきましても、不況対策としてすでに業者の方々から要望も出ておりますので、これにつきましてはできるだけ滞貨処理という意味も兼ねまして、また十分考えていきたい、こういうふうに考えておるわけであります。
  120. 田中稔男

    田中(稔)委員 従来インドネシアとの通常貿易の形で人絹とかその他の繊維製品が相当出ております。過去数年間のそういう繊維製品を中心とした消費財の対インドネシア輸出の趨勢といいますかそういうこと、これは大臣でなくてもいいのでありますが、政府委員に御答弁願いたい。
  121. 中山賀博

    ○中山説明員 お答え申し上げます。仰せの通り、オープン・アカウントを通ずるインドネシアの輸出に当りましては、向うの需要にもかんがみまして、繊維品を主といたします軽工業品が多額に出たことは事実でございます。ただ最近は米綿の委託加工ということもございまして、繊維のそういう綿製品の重要性は若干減少しておるということは申し上げられるかと思います。それからオープン・アカウント開始後におきまして、不幸にして輸出の伸びがかなり減少しておりまして、それで以前に比べますとだいぶ落ちておりますが、しかし依然として消費財に対する需要は非常に旺盛だというように承知しております。
  122. 田中稔男

    田中(稔)委員 米綿の委託加工を引き受けているために、日本の綿製品があまり出ないということはよくわかります。しかし債権が焦げついておるというようないろいろな事情で、その他の繊維製品の輸出も最近不活発になっておる。その間に乗じて中国から繊維製品か、これはおもに綿製品だろうと思いますが、相当多量にインドネシア側に輸出されておるというようなことを聞いておりますが、それについて一つ答弁願いたい。
  123. 中山賀博

    ○中山説明員 中共からの綿製品の輸出については、なかなか正確な数字がつかみがたい実情は御案内の通りだと思います。ただ、われわれの方の対インドネシアの輸出につきましては、今申し上げましたように、直接の輸出はことにオープン・アカウント以後減少しておりますけれども、最近は香港なりシンガポールを通ずる輸出は、われわれとしてもその数字は正確に把握はできませんが、かなり伸びているのじゃないかと思われます。ことにインドネシアはああいうふうに政情がいろいろ不安でございまして、地方の方ではある程度の――私承知しておりますのでは、たとえばゴムとか砂糖とかそういうようなインドネシアとしての輸出主要商品というものは、むしろ周辺のローカルな地方に多く産するということを聞いておりますが、そういうものとのバーター的なことで、香港あるいはシンガポールとの間に相当商売が行われているのじゃないか、こういうように承知しております。
  124. 田中稔男

    田中(稔)委員 いずれにいたしましても、繊維製品を主とする消費財賠償が行われました場合には、そういう製品の通常の貿易が阻害されるということは当然起るだろうと思います。このことについて一つ通産大臣に御答弁願いたい。
  125. 前尾繁三郎

    ○前尾国務大臣 正常貿易によってとってもらえる分につきましては、これはもう極力正常貿易でやっていってもらいたいと思います。しかし御承知のように、なかなか外貨を持っておられぬのでありますから、そこらにこちらの輸入と輸出のバランスということと見合っていかなければならぬので、原則としてすでにうたっていますように正常貿易を阻害しない、こういうことでありますが、しかし資本財賠償に伴って現地通貨が要るのでありますから、それにも振り向けていきたいというふうに考えておるのであります。そのときそのときの情勢考えて、果して正常貿易を害するかどうかという判定をしていかなければならぬと思います。
  126. 田中稔男

    田中(稔)委員 時間もございませんから、通産大臣に対する質問はこれで終ります。  次に、インドネシアに対する賠償が、貿易上の焦げつき債権を放棄するということの条件において二億ドル程度でおさまったのでありますが、こういう賠償問題の解決の方式について、大蔵大臣はどうお考えになりますか。日本政府の中でもいろいろ違った意見があったようでありますが、大蔵大臣の御見解をお伺いしたい。
  127. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 今回インドネシアに対します貿易上から生じておる債権を棒引きすることにいたしたのでありますが、これは何も賠償と直接に関係する意味においていたしたのではありません。私どもが念願をしておること、また国民があげて念願いたしておりますことは、日本インドネシアの国交をすみやかに回復して、そうして日本インドネシアの経済関係もあるいは文化的なことも大いに交流を盛んにして、早く共存共栄というような状態にいきたいのだ、しかしこれを実現するには一体どういうことをしなければならぬのか、ただそう言うたからといってできるものではないので、そういうふうな国家目的を達成するために、具体的にどういうことを具現すればいいか。そうなると第一に賠償ということ、これはかの国に対して物質的、精神的に苦痛を与えたので、まずこれについて償わなければならぬ。それで賠償を解決しなければならぬ。それから従来進駐軍時代から多年の懸案になっておる貿易上の債権の処理というものも解決しなければならぬ。その他いろいろありましょうが、そういう意味において、日本インドネシアとの国交を回復するために処理する事柄として、それらを一切くるめてインドネシアとの関係をよくしよう、そういうふうな観点に立った場合に賠償はこういうふうにきめる、債権はこういうふうにしようということで、賠償ということのために債権を棒引きした、こういうことじゃありませんことを明確にいたしておきます。
  128. 田中稔男

    田中(稔)委員 あなたはそうおっしゃるけれども、インドネシア側は四億ドルの賠償を要求していた。ところがそれをそのままのむわけにいかないので、債権の棒引きと二億二千万ドル、これは実質的に四億ドルの賠償を払うことになるのであります。ただいま松本委員からもお話がありましたように、インドネシア側でははっきりそういうことを言っておる。さらにまた経済協力四億ドルまで含めて全部の額は八億ドルになりますから、八億ドルが賠償である、あるいは純賠償であるというふうに宣伝している。これは国内宣伝の関係もありましょうが、そういうことでありますから、日本国民に対してはむしろ実質的に賠償は四億ドルということを説明して、これは国民負担に関する問題でありますから、大蔵大臣としては率直に国民協力を求めるという態度があってしかるべきであって、何かごまかすような態度は私はとるべきでないと考えますが、もう一度大蔵大臣の御答弁を願います。
  129. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 私は決してごまかす考えは持っておりません。今申しましたように、日本インドネシア関係をよくするためにはどうすればいいか、場合によっては賠償を四億にして債権は回収をはかっていく、しかし何年たっても解消ができぬ、係争ばかりしている、そういう状態が果して日本インドネシアの国交をよくするゆえんかどうかという点も考えてもらわなければならぬと私は思います。そこで賠償を解決するというような機会にやはり債権も解決する。何も賠償問題だけを解決すれば日本インドネシア関係がよくなるわけではないと私は思う。ただ賠償問題を解決しても、債権は残しておいてぎゅうぎゅう外貨をよこせよこせといって係争していたら、日本インドネシア関係はよくならない。従いまして日本インドネシア関係をよくするのには、この機会に一挙にすべての従来の懸案を解決する、そういうことが一番大事だと思う。そういうことを国民によく理解していただけば、今回やった点について大蔵大臣は何か変なことを言っているということでもないと私は思います。そういう意味において私は国民の理解を特に得たいというふうに思います。
  130. 田中稔男

    田中(稔)委員 そこで政府に、賠償賠償として支払う、債権は債権として取り立てるという考え方と、それから債権を放棄して――私どもはそれは条件だと思うのですが、そういうことをして賠償額を減らすという二つの考え方か私はあったろうと思うのであります。それで今のお話からすると、大蔵大臣はむしろ当初から焦げつき債権は放棄して、そしてきれいさっぱりと賠償を支払うというような方式に御賛成であった、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。
  131. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 私は先ほど申し上げましたように、こういうものはどれが先かということより、やはり同時解決がいい、こういう考えであったわけであります。
  132. 田中稔男

    田中(稔)委員 同時解決という意味だと今度政府がとった方式を当初から支持された、こういうふうに解釈していいと思いますが、重ねてもう一ぺんお尋ねいたします。
  133. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 言いかえれば賠償は解決するが、インドネシアに対する日本の貿易上の債権はそのままに残しておく、これに係争をいたずらに続けている、これではいかぬ、また債権だけを解決して、そうして賠償はほっておく、こういうふうな行き方も不適当だ。これは要するに、いずれにしても国と国との債権債務の対立と思います。ですからこういうものはやはり総合的に一挙に解決するのが適当だ、こういう考えです。
  134. 田中稔男

    田中(稔)委員 こういうふうな解決の方式に決定いたしましたのは、御承知のように、岸総理がジャカルタに行かれてスカルノ大統領との会談において突如としてきまったことでありまして、その以前におきましては、日本政府は債権は債権として別に取り立てるというような方式を考えられておったようであります。だからそういう方式には大蔵大臣は反対であったというふうに理解すべきだと思いますが、そういう過程がどうあろうと、今日こういう賠償協定か調印されたということはけっこうなことだと思いますが、ただ私はその間の事情はそうであったろうということを一応確認しておく意味において発言したわけであります。  次に、これで年額二千万ドルの賠償の支払いをやるわけでありますが、フィリピンビルマにも同様に賠償の支払いを継続していかなければならぬ、その他各種の債権債務の支払いも別に行われます。そうしますと、国民負担において年々外国に支払わなければならぬ金額は、相当の額に達するわけであります。一方日本の国際収支の見通しというものは、最近若干改善されたようにもいわれておりますけれども、アメリカの景気後退がさらに深刻化するという見通しが一般に伝えられておるときでありますから、私は今後日本賠償その他による対外支払いというものは、日本の経済にとって、日本国民負担にとって、容易ならざるものがあると思いますが、一国の財政を預かる大蔵大臣として、そういうことについての御所見一つお伺いしたいと思います。
  135. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 むろん仰せのように今後の賠償の支払い、さらに約束しておりまする経済の協力並びに今後日本アジア・アラブその他の国と経済的な協力をしていく上において、日本としてこれらの国に対してもいろいろと可能な限りの支払を考えなければならぬ、こういうことを考えます場合に、私は容易ならぬ情勢にあると考えております。従いまして何だか対外的に援助を与えることはいかにもけっこうなことだ、派手でもありますし、いかにもけっこうだ。そうしてまたそういうことをすれば当面ある仕事をしやすいことも事実でしょう。しかしそういうことが今後無計画に拡大されていくということは、大蔵大臣としてはとうてい同意をいたしかねると考えております。従いまして今後の対外援助等については、私はきわめて厳格な態度で臨む所存をいたしております。ただ今の程度におきましては、国民所得との関係を見ましても、数字になりますが、おそらく七、八%というところ、一割以下の国民負担であろうと考えておりまして、この程度ならまあまあ、私、財政当局としても支障なく実行していける、かように考えております。
  136. 田中稔男

    田中(稔)委員 今後日本の対外援助のごときも一つ厳格に考えていきたいというお話であります。大蔵大臣として、これは私はごもっともなお考えであると思います。ところが一方岸総理は、東南アジアを二回にわたって歴訪されまして、方々で盛んに後進国開発に対する日本援助というようなことをひけらかされたようです。さらにまたこれは現在現職の大臣でありませんけれども、自民党の領袖であり、もと大臣を歴任された高碕達之助さんなどがエジプトに行かれて、アスワン・ハイ・ダムの建設に対する協力を申し入れられる、そういうことがありますと、向うからまた一つ援助してくれという、金額は覚えませんが、向うから希望があったようです。また岸さんがネールといろいろ話された結果だろうと思いますが、向うからたしか五千万ドルですか、援助の申し入れがあって、これは供与することに決したようであります。そういうように、いろいろ派手なことを現在の政府総理やあるいはもとの自由民主党の大臣なんかが言って回っておる。そういう約束をやたらにやって、から手形を発行して、いよいよその手形の履行ができないということになると、逆効果を来たしまして、信頼感が不信の念に変ると思いますが、大蔵大臣は現在内閣で有力な閣僚でありますが、そういう点において、それでは今後は一つ十分きんちゃくのひもを締めて、いたずらに派手な援助の約束はしないというような態度で発言もされ、いろいろまた施策もされることだと思いますが、いかがでしょう。
  137. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 先ほど御答弁申し上げましたが、全く私は同じ考えであります。
  138. 田中稔男

    田中(稔)委員 なおこの機会にアメリカの景気の後退ということは一般には比較的軽く考えられておる。アイゼンハワー大統領のごときも、政府がいろいろの施策をやって、てこ入れをすればそのうち立ち直るだろうというようなことを言っておりましたけれども、景気観測家その他経済学者等々、これはアメリカの内外を通じて、アメリカの景気の見通しについては、むしろ非常に悲観的な観測が強まったのであります。そうしますと、貿易の点において、あるいはいろいろな原料の点において、現在のようにアメリカに依存度の非常に強い日本の経済、それが日本の経済に連鎖反応を起すということは当然に考えられる。そうしますと一萬田大蔵大臣がいろいろ苦心されて日本の経済の立て直しをやっておられますけれども、私はなかなか思うようにいかない、こういうことになるのじゃないかと思いますが、アメリカの経済、これは何といったって今日世界の経済の中心であります。このアメリカの経済の見通しについて、日本の大蔵大臣としても私は十分研究もされておると思うし、またちゃんとした御所見もあろうと思いますから、この際一つ少し詳細にうんちくを傾けていただきたい。
  139. 一萬田尚登

    ○一萬田国務大臣 これはまた非常にむずかしい。なかなか経済のことについて予測を立てることは困難でありますが、しかし今日アメリカの経済を考えます場合に、アメリカの経済上の指標を見ますと、アメリカの総生産の伸びもとまっておる、なかなかこれ以上に伸びそうな状況もない。それから国民消費も、今後何かの措置をすれば国内消費がうんとふえるというような状況も、今のままではなかなか困難ではないかというような情勢も出ております。それから在庫の調整もなかなか困難である。こういうふうな若干の指標を考えても、むろん私は経済の動き自体としてはやはり相当な要素を持っておると思います。がしかし問題は、これは同時に若干国際経済の状況もありましょうが、問題はこれに対してどういう政策をとるか。私は今日の経済の困難は一国だけで解決しようというような考え方は不可能ではないか。やはり基盤を国際的な関係に置いて、政治を国連というような考え方において話し合いで解決するのと同じように、経済においてもやはり基盤を国際的基盤に置いて解決しなければいかぬ。私はこういうような視野に立つのですが、そういうふうな見地に立ちますのに、ヨーロッパは一応おきまして、アメリカ考えますと、アメリカの国は何といっても非常に貿易の受取勘定の国であり、また巨額の金を持っておることも御承知通りであります。それからアメリカの大統領が非常な権限を持っておる。それから国内的な資源も非常にあるということも争えないことであります。そうした場合に、アメリカの経済を動かすのに一番力を持っておるこの大統領が、しかもその大統領のまわりには多くのブレーンを持っておることも御承知通りであります。ですからそのアメリカの大統領が、自分はこういう政策をとって、こういう時期にアメリカの経済を回復しようとしておるのだということを、責任を持って世界に公言をしております。そうしますと、このアメリカ大統領のこの考え方政策というものは、十分考慮に入れる値打がある。ないとすれば一体だれの言を考えていいか、こういうように私は思うのです。従いまして問題は、そういう経済の自然的な動きに対しまして、政策的にこれをどういうふうに回復し得るか。あるいはまた回復した場合に、その時期は一体どの辺にあるか、こういうことが私は問題になるだろうと思うのであります。これについては、私も実地にいろいろと研究しておるわけでもありませんし、また十分勉強するひまもないのですが、しかしいろいろと見ると、大体においてソ連共産圏の学者はこれは否定している。これはやはり第一次大戦の後と同じように――あれは二十年後に世界の不況が来た。今度はそれが十三、四年目に来た。これはやはり世界的な不況を起すという考え方です。これはソ連系統の学者です。しかし自由国家の国々の学者、プロフェッサー連中はそうは考えていない。第一にアメリカ大統領の考え方について、一番近くこれをサポートしているハーバード大学の先生方は、若干の時期的ズレはあると思いますが、比較的にアメリカ大統領の意見と一致している。その他の大学の先生方もおおむね一致しておる。むろん世界経済というものは、やはり相当困難な事態にあるが、しかしアメリカを中心として西ドイツあたりが協力をして、強力な景気回復の政策をとれば、これは徐々によくなるということについては一致しておるようです。だんだんと明るくなるという点においては一致しておる。ただ、それならどの辺から明るくなるであろうかという点について、意見を異にしておる。一番早いのはアイゼンハワー大統領で、最初の当時は三、四月ごろからというような意見新聞等に伝えられた。人によっては六、七月、あるいは秋、おそいのは来年の春で、来年の春というのが今のところ一番おそいというふうに承知いたしております。そういうふうな状況にあると私は考えます。それで私は昨年の九月に、IMF、世界銀行の総会に出席したときに、アジア諸国が中心になって強く主張したのは、アメリカや西ドイツが、今のように自国の経済ばかりが債権国になるようなそういう経済政策をとっておる限り、自由諸国は経済的に参ってしまう。そんなことでは、一面において自由諸国がともに世界平和を確立するなどといっても、これはできやしませんよ。やはり経済的な裏づけがなければならぬBそれにはどうしてもアメリカや西ドイツが少し負け勘定になって、自由諸国から物を買い入れるような政策をとる。言いかえれば、アメリカや西ドイツが若干のインフレを起す。あるいはインフレにしなくとも、海外に資本投下をする。結局はインフレ経済にする。それをやらなければならぬということを強く主張した。それについてはみなその通りだというふうに言った。これは後にワシントンの首脳者に会ったときにも、みな言うておりました。それがアメリカにおいては実際に政策において具現をしてきておる。まず金融政策において景気政策をとっておる。しかしそれだけではいかぬから、最近では公共事業を拡大しよう、いや公共事業よりも減税を大規模にした方がつい、こういう議論になって、いわゆる財政面からの景気、これらも一応どういう程度思い切ってやるか見なければならぬが、同様なことは西ドイツの首脳者も言うておる。自分たちも金利を下げて国内景気を上げて、よそから物を買うようにしよう、なるべく輸入をふやそう、それでもなお国際収支が受け取りになれば、海外投資をやる。こういう海外投資が、実は西ドイツの東南アジア等に対する物資の輸出になって現われておる。こういうふうに自由諸国の強い国が協力をして、呼応して景気回復策をとるとすれば、それぞれ責任者の、あるいは学者グループの考え方を受け入れて、そうしてそれに対応するように日本の経済を持っていこう、しょせん日本の経済は輸出ということにあるのですから、これはやはり正統的な政策を持続していく以外にないと私は思っております。そうして世界の経済の動きに調子を合せていく。決して私は日本の経済にしても世界の経済にしても、そんなに安易には考えておりません。私は非常に楽なことを言うように宣伝して下さるのですけれども、私自身そんな楽な考えは持っておりません。しかし政策としては、そういうふうな国際情勢を見て、日本の経済はこういうふうに持っていこうという政策は、やはりしっかりした信念で確立していきたいという態度です。しかし経済ですから、またそのときどきで、あるいはいろいろな情勢の変化で、物事はずれていく。これは経済は生きものである以上、何も一人の人の意思によって世界の経済や一国の経済が動くわけではありませんから、これはある程度ズレが生ずる。しかし方向が間違わない限り、これは正しい、こういうふうに考えております。こういうふうなことが、私が大体考えておる内外経済に対する考え方であります。
  140. 田中稔男

    田中(稔)委員 わかりました。
  141. 床次徳二

    床次委員長 それでは文部大臣が来るまで松本君、質問を続けて下さい。
  142. 松本七郎

    松本(七)委員 終戦当時外国にあった日本国籍の船舶は、当時三百四十隻くらいと言われておったのですが、トン数にしてどのくらいですか。
  143. 松本瀧藏

    松本政府委員 ちょっと運輸省と連絡しないとわからぬと思いますので、いずれまた数字を……。
  144. 松本七郎

    松本(七)委員 それから終戦当時の軍艦、兵器等、これが外国に引き渡されたわけですが、これはやはり桑港平和条約十四条による賠償引当てになるのですか。
  145. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 ちょっとその点研究さして、返答を留保さしていただけませんか。
  146. 松本七郎

    松本(七)委員 それからインドネシアは桑港条約に署名をしておるけれども、批准はしていないという状態だと思いますが、法律的にインドネシアはいつ対日戦に参加したか。
  147. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 御承知通りインドネシアオランダの領土であったわけでございます。そこで戦争状態は、まずオランダ日本が昭和十六年十二月八日に発生して、従って地域的にも戦争状態インドネシアに及ぼされたということになるかと思います。自後一九四五年でございますか、昭和二十年にインドネシアが独立宣言をいたしまして、二十四年、一九四九年に主権移譲で独立いたしたわけでございますので、これによってその戦争状態によって生じました権利義務関係が、法律的にはインドネシア側に継承された、こういうふうに考えております。
  148. 松本七郎

    松本(七)委員 権利義務の継承の時期は、そうするとオランダの対日戦の時期、こういうことになりますか。
  149. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 さようでございます。オランダの対日宣戦がありまして、そこでいろいろな権利義務関係と申しますか、それが発生したわけでございます。それが引き続きインドネシアの独立によって移った、こういうふうに考えております。
  150. 松本七郎

    松本(七)委員 植民地が独立した場合、旧本国から継承する権利義務の範囲は一体どういうふうになるのでしょうか。第一には対外的な権利義務の継承、それから第二に独立した植民地国と旧本国との関係における権利義務の継承、その二つについて伺いたい。
  151. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 その点につきましても、いろいろむずかしい学説その他があるかと思っております。私実はその点どういうふうに個々の場合なりますか、詳しい点につきましては、まだ研究いたしていない次第でございますが、おもに権利義務の承継と申しますと、独立した場合は、その独立した地域に密接に結びついている財産あるいは義務、たとえば鉄道でございますとか、鉱山でございますとか、それに関係する権利義務関係、そういういうのが継承されてくるというふうに考えております。従いまして、たとえばインドネシアオランダの場合は、オランダインドネシアの地域に直接関係しておったところの対外的ないろいろな権利義務関係というのは、インドネシアが独立することによってオランダから継承されるのが一般的な原則であろうと考えておりますが、いずれにしましても、御承知通りこのように独立する場合には、その権利義務関係、すなわちオランダとの権利義務関係だとか、その他オランダが対外的に持っていた権利義務関係の継承はどうするかというのは、本国との協定によって詳細定められることになるというふうに考えております。
  152. 床次徳二

    床次委員長 それでは松本君たびたび恐縮でありますが、文部大臣が見えましたので、文部大臣に対する質疑を許します。田中君。
  153. 田中稔男

    田中(稔)委員 今度インドネシアに対する賠償実施されることになりました場合に、賠償の一種としてインドネシア技術者等の教育や養成というようなことが計画されると思うのであります。私はこの問題はきわめて重要なことだと思うのであります。従来ともアジア各国から留学生がたくさん日本に来ております。それは非常にいい効果を示しているものもありますけれども、また必ずしもいい効果ばかりでもない。日本に生活した結果、かえって反目的になって帰る人だってある。これは政府の責任だけじゃありません。またそういう留学生に接する日本人の責任に帰すべき問題もいろいろあろうと思います。そういうことになっては、これは非常に困るのであります。ところでインドネシア賠償がいよいよ実施されることを見越して、民間においてそういう留学生の教育計画を立てている人がいろいろあると思います。それで下中弥三郎というような方の名前も出ております。下中弥三郎氏あたりも私は個人的に知らないわけではありません。りっぱな方でありますが、従来ややもすれば、民間でそういう事事を企画し、実施する人の中には何かそれを利用してやろう、何か事をしようというような人もある。またいろいろ教育の方針その他が間違っておって、不成功に終ったという例もあるわけです。そこでそういう計画は、私は日本政府の責任においてやるとするならば、文部省あたりが積極的に取り上げて、そして教育の方針においてもまた教育の内容においても、また教育の設備にしましても、十分一つ考えていただいて、そうして十分な教育効果を上げるようにしていただきたいと思いますが、文部当局としてそういうことを予想して、何かお考えになっておるかどうか、大臣に伺いたい。
  154. 松永東

    ○松永国務大臣 御指摘になりました点ば、今審議せられて、おりますこの条約が通過すれば国交が回復するわけでございます。従ってまだ具体的にはそういう問題は講じておりませんけれども、しかし御指摘になりましたように、いろいろ民間側で計画いたしている人がございます。そこでこれに対する文部当局としての考え方も、きちっときめておかなければならぬじゃないかという構想のもとに、今いろいろ研究を進めておるのでございます。しかし仰せの通り、これは非常な重要な問題でありまして、人数は今までのところ、向うから特に自費で来る人は、御承知通り年々三十名かそこらでございますけれども、しかしながら、これからますますふえるだろう。それが御指摘になりましたように、国交に支障を来たす、さらに反日の傾向でも植え付けるようなことがあっては大へんだと存じまして、それぞれやはり計画を進めております。万遺漏なきを期したいというふうに考えております。
  155. 田中稔男

    田中(稔)委員 今までもインドネシアに限らず、アジア各地から留学生がたくさん来ております。そういう人々を収容する国際学生会館ですか、ああいう寮もあります。また最近何か渋谷の方にそういう施設をなさったようであります。それから大阪あたりでも民間アジアの留学生のための寮を建設せられておる。そういうふうな現在行われておりますようないろいろな事業を文部大臣は一々御存じじゃないと思いますが、ここに文部当局のそういう関係の局長でも見えておりましたならば、それを少し詳しく御説明していただきたい。
  156. 北岡健二

    ○北岡政府委員 お答え申し上げます。留学生の世話のために審宿舎等の用意というものが非常に重要な問題でございますので、従来外務省の関係では、大体東南アジア関係の者を中心にしまして国際学友会というのがありまして、これは東京の柏木が百三十人の収容人員でございます。それから大阪に昨年から事業を始めました関西国際学友会、これが五十余人の収容力を持っております。このほかに昨年から着手しまして最近実質的に開館の運びに至りましたのが日本国際教育協会の寮でございますが、これは東京の駒場に建てまして、収容人員百名程度でございます。この方は主として国費で招致する東南アジアの留学生を入れるというふうに考えて進めておりますが、いずれの寮におきましても留学生が実際に日本に来まして勉強して効果を上げるために、生活上日本語の修得が困難であるとか、あるいは生活のやり方がなかなか理解できないということを考えて、そういう面で気分を悪くしないようにということからいたしまして、生活上の世話をしようという意味で建てられた寮でございます。なお民間の団体でも、それぞれいろいろ世話の方法を立てられて進めておるのでございまして、財団法人その他の形で作られており、あるいはこれから発足しようとするものがなお幾つかございます。  生活の関係についてはそんなふうでございますが、今度は教育の関係考えますと、留学生に対して一番大切な点は、うまく教育の効果が上る、日本に来て勉強したかいがあったということになることだと存じますが、日本語の修得が非常に骨が折れますので、この点で何らかの手を打ちたいという考えから、国立の学校においては、現在までやってきておる一年間日本語の予備教育をしただけでは足りないようだから、さらに専門学科の基礎と一緒に日本語が学べるような組織を考えていきたいというので、東京大学と千葉大学に来年度から、そういうような形の教育の仕方を実施しようというふうに計画いたしております。そのほか特にこの際お耳に入れておきたいと思いますのは、学生の中で非常に東南アジアの学生のために力をかしてくれるグループが、あちこちの大学にございまして、留学生の人たちはノートがなかなかとれないので、ノートをかわりに整理してやる、それから試験のときには試験勉強の手助けをしてやる、非常な時間と労力をさいて応援してくれる学生たちが、非常にたくさんございます。これらは大学の学生補導の関係者が大体参加しておりまして、非常に積極的にやっておる次第でございますが、大いにその効果を期待しておるような次第でございます。簡単でありますが、御説明申し上げました。
  157. 田中稔男

    田中(稔)委員 今度の平和条約にも、バンドン会議の決定の精神に基いて、両国の関係を律するということが書かれております。このバンドン会議には日本からも、当時高碕達之助氏を全権として送っております。そうしてその決定は、日本政府もこれを承認しております。そのバンドン会議の最終コミュニケの中に、文化協力という項目かありますが、その中に、アジア・アフリカでは今なお多くの国が、彼ら自身の教育、科学技術の機構を発展させることができずにいる、会議はこの面で比較的恵まれた境遇にあるアジア・アフリカの国家が、以上述べたような国々の学生や講習生が、その機構に入るのを受け入れる面で便宜を供与するよう勧告したとある。バンドン会議まで持ち出して話が大がかりでありますけれども、このバンドン会議の決定は、つまり日本も道徳的には拘束される。高碕さんが判を押したのでありますから。そういうところではっきり、日本のようなアジア・アフリカにおける先進国の国際的な義務として、アジア・アフリカの後進国の学生を教育し、訓練するように、こういう勧告が行われておる。このことは今度の賠償実施ということだけでなく、もっと高い見地から、文部当局としては真剣に考えなければならぬ。ところが国費をもって受け入れる留学生は、年々たしか五十名くらいです。あんな広い、人口何億というアフリカから、たった一人か二人というところです。エジプトから来れば、もうほかからは来れぬということになる。こういう消極的な態度ではだめだと思います。  現在の文部大臣松永さんは、民間に長くいられて、いろいろなことを御承知だろうと思いますが、これらの問題が日本の国策としていかに重要であるかということは、よくおわかりになっていると思います。そうすれば、文部省当局独自の予算としても、こういう費目はもっとよけいとっていただきたいと思う。私はどの程度の予算が三十三年度に組まれているか知りませんけれども、おそらく想像するところでは、ごくわずかだろうと思うのです。しかし幸いに賠償という問題が起って、賠償で年々二千万ドルの金を支払うわけなんです。その一部をインドネシアの青年の教育や訓練に充てるということになれば、私は非常にけっこうなことだと思います。向う側にも強い要望かあり、しかもこのことを民間の人にまかせるのもいい。民間人でなかなかいい人もおりますけれども、また民間人にはいかがわしい人もおるのです。こういう場合に日本政府の支払う賠償であるならば、日本政府の文部当局がこの留学生教育には十分責任を持って当ってもらいたいと思う。これは質問というよりも一つの要望でありますが、文部大臣の御答弁をいただいて私の質問を終ります。
  158. 松永東

    ○松永国務大臣 それはお説のような気持を、全面的に私は持っております。ひとりこれはインドネシアばかりではございません。東南アジア方面から中近東、さらに遠く進んで南米、ブラジルあたりでも、どんどん日本に留学生に来てもらい、さらにまた日本からも向う技術者あたりが行って、国力を伸展するという足がかりにしたいというふうに、私は念願いたしております。従って御指摘になりましたような賠償問題あたりも、これからさらに利用して、そうして御指摘のような構想を実現しなければならぬと思います。現に受け入れ態勢が充実しさえすれば、さらにまた相手方の国がその気持を持ってさえくれれば、どんどん一つこっちに受け入て、そうしてやはり一つ親善向上のためにも利用してみたいというふうに、考えております。
  159. 松本七郎

    松本(七)委員 インドネシアとの間に通商航海条約を結ぶ予定はあるのですか。
  160. 白幡友敬

    白幡説明員 日本といたしましては、通商航海条約をもってしっかりした関係というものを作っていただかなければ、経済関係ではうまくいかないと思っております。しかし通商航海条約技術的にも大へん問題がございます。フィリピンでも先方の態勢がなかなか整いませんために、思うように動いておりません。インドネシアでも、たとえば国内法が十分完備していない点もあります。従いまして、こちらが希望する速度で進むかどうか疑問がある。従いまして、われわれといたしましては、平和条約第三条(B)項にありますように、それができますのに時間がかかれば、何か通商航海条約にかわるべき個々の取りきめを結ぶなりいたしまして、実際の効果を上げていきたいと考えております。
  161. 松本七郎

    松本(七)委員 第四条(II)の(ⅰ)は、外交職員もしくは領事職員の私有財産は返還されるという規定になっておる。ところが桑港条約の十四条の(II)の(ii)の規定でも同じわけですが、なぜこのように、特定人に対してだけこういう特別措置が与えられるのか。こういうのが国際法上の慣習であるのかどうか。
  162. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 御指摘の通り、サンフランシスコ条約と全く同文でございますが、外交官、領事官の財産と申しますのは、御承知通り、戦争中も没収せずに、その間管理しておく、没収ができないしというのが国際慣例になっております。従って国際法に従った取扱いをしたということであります。
  163. 松本七郎

    松本(七)委員 インドネシアは桑港条約に署名して、そうして今度は日本インドネシア間の平和条約を結ぶことになるわけですが、インドネシアは桑港条約に署名はしたが批准しておりませんから、これは永久に批准しないままになるだろうと思います。そうなると、インドネシアは桑港条約に拘束されない関係か続く、この点を確認しておきたい。
  164. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 御指摘の通りであります。この平和条約によって、前の署名は全然御破算になったと考えております。
  165. 松本七郎

    松本(七)委員 第六条の紛争解決の問題でございますが、「いずれか一方の締約国の要請により、国際司法裁判所に決定のため付託されるものとする。」これは無条件付託義務でしょうか、それとも国際司法裁判所規程第四十条によって特別の合意を必要とするものかどうか。
  166. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 無条件付託で合意は必要としないと思います。
  167. 松本七郎

    松本(七)委員 国際司法裁判所規程第三十六条2の選択条項による宣言をした国は今までどこでございますか。
  168. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 ただいまちょっと資料を持ち合せませんが、たしか三十二ヵ国あったと思っております。
  169. 松本七郎

    松本(七)委員 それではあとでその国の数と名前と、それからその際何か留保条件を付しておるかどうかということをあわせて知らせていただきたいと思います。それから日本はこの三十六条による宣言をする用意があるのかどうか。
  170. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 この点につきましては、選択条項の宣言をいたそうと思っております。従いまして、この三十六条の条文の研究――研究と申しますか、各国がいろいろな留保をしておりますから、その留保の研究その他の研究を進めておりまして、われわれ事務当局としては一つの成案を得ております。従いまして、関係当局ともいろいろ協議の末、できるだけ早い機会に受諾する方向に進みたいと思っております。
  171. 松本七郎

    松本(七)委員 それから賠償協定第二条の「賠償として供与される生産物は、資本財とする。」という原則を掲げて、例外的に「資本財以外の生産物日本国から供与することができる。」こうなっておりますが、この前からの御答弁で、このように桑港条約十四条の役務、加工賠償の原則を破った結果になっておる点については、日本の国力がついてきたからである、こういう御答弁があったのですが、しかし桑港条約十四条のこの原則が破れておることは事実なんでございますから、この点について第三国から苦情が出るようなことはないでしょうか。特にフィリピンあるいはビルマ等から……。
  172. 白幡友敬

    白幡説明員 この資本財賠償は、ビルマの場合もフィリピンの場合もインドネシアの場合と全く同じでございます。おそらく今後ヴェトナムなどの賠償がきめられる場合においても、大体同じようなものになると思います。ただいまのところ、どこからも文句は出ておりません。
  173. 松本七郎

    松本(七)委員 それから四条の契約の事項でございます。この契約は当事者間の契約が成立した後に政府の認証を受けるということになっております。フィリピン賠償協定の第五条第二項では、契約案はその契約締結前に日本国政府により認証されなければならない、こうなっている。この方がもっと合理的ではないだろうかと思うのですが、どうですか。契約が成立したあとで政府の認証を受ける際に、もし政府の都合によって認証し得ない場合は、契約当事者にとっても非常に都合が悪いじゃないか、それだけ紛争もこじれるおそれがあるのじゃないかと思うのですが、どうですか。
  174. 白幡友敬

    白幡説明員 事実上の問題といたしましては、当事者間が契約を結びます前、つまりネゴシエーションしております過程におきまして、常時外務省の賠償部あるいは通産省あたりと連絡をいたしております。従いまして、契約ができました後の認証というものは、きわめて形式的なことになって参ります。実質的にはその前に日本政府として断わらなくてはならないようなものは、交渉の過程において大体落していく、事実実際上の問題としては何ら支障はございません。
  175. 松本七郎

    松本(七)委員 ビルマの細目協定の第三項でも、やはりインドネシアの場合と同じになっておるのです。そうすると、実質的には変りはないとするならば、フィリピンの場合と同じようにしておいた方がいいと思うのですが、どうしてわざわざこう違えたのですか。
  176. 白幡友敬

    白幡説明員 フィリピンの場合は、実はフィリピン交渉いたしたときには、ビルマと同じ形式をわれわれとしては要求したのであります。ところがフィリピンの場合は国内の事情と申しますか、非常に国々によって考え方が違うわけでございますけれども、フィリピンに何か賠償の国家機関がありまして、その国家機関が出てきて、もしも万が一日本政府によって契約を拒否されるような事態があったら困るという向うからの異議がございました。そこで若干形を変えた。しかしやり方としては実質的には全く同じでございます。ただ形式的にこのようにしたというだけのことでございます。
  177. 松本七郎

    松本(七)委員 それから仲裁委員の構成員は何名、その選出方法、仲裁裁判が行われる場合、いずれの国において行われるか、それについての何がの規定というものはあるでしょうか。
  178. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 御指摘の点は、第四条の3でございますが、「一方契約当事者の要請により、両政府間で行われることがある取極に従って」ということになっておりますが、今後これに関する取りきめをしていきたいと思っております。
  179. 松本七郎

    松本(七)委員 それから第七条の「この協定に基いて供与された日本国生産物が、インドネシア共和国の領域から再輸出されないようにすることを約束する。」これは、目下のところ再輸出されることはないと思われますが、またそういう御答弁もあったわけですが、これは絶対にないという断言はできないと思います。もしも再輸出をした場合の措置はどうするのか。その場合は十条に規定しておるこの協定実施に関する両政府間の紛争として解決に持ち出すのか、その点を伺いたい。
  180. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 これはむしろ再輸出されないように向うは義務を負っておるわけでございますが、再輸出されたような場合は、わが方は条約上の既定権利に基きまして、強く相手国の注意を喚起することができると思います。そして相手国の注意を喚起し、なおそれについてもしも何らか紛争が起りましたら、第十条の問題になると思いますが、その前に相手国の注意を喚起することができると考えます。
  181. 松本七郎

    松本(七)委員 それからさっき御答弁のなかった終戦当時の軍艦、兵器等で外国に引き渡されたものの詳細、それからそれが桑港平和条約十四条によって賠償引き当てになるのかどうか、この点至急あとで御答弁願いたい。  それから資料をお願いしたい。第一が占領中に取り立てられたいわゆる中間賠償の額及びその仕向地、それから主要な品目、それから第二が終戦当時外国にあった日本国船舶の処理及び隻数算定額、もう一つ、旧連合国、中立国にあった日本国及び国民の私有物も清算されて賠償の一部に引き当てられたわけですが、その国別、金額、これだけをなるべく早く御提出願いたい思います。
  182. 床次徳二

    床次委員長 ただいま御要求の資料については事務当局においてできるだけすみやかに御準備願います。  なお先ほど御質問のありましたうちで、留保いたしましたものの御答弁を願います。高橋条約局長
  183. 高橋通敏

    ○高橋政府委員 先ほどの御質問のうち留保した点についてお答えいたしたいと思います。終戦当時の武器の引き渡しでございますが、これは第十四条の賠償という観念に入るよりも、むしろ戦利品として連合国側に引き渡した。すなわち連合国側は戦勝国としてこのような武器、弾薬を差し押え、かつ没収することができるという一般国際法の通念に従って先方に引き渡したと見る方が通常ではなかろうかと思っております。従って賠償の観念には入らないのではないかというふうに考えております。その他の点については資料を差し上げることにしたいと思います。
  184. 床次徳二

    床次委員長 これにて質疑は終了いたしました。  続いて討論に入ります。討論の通告がありますから、これを許します。山本利壽君。
  185. 山本利壽

    ○山本(利)委員 私は、自由民主党を代表して、ただいま議題になっております日本国インドネシア共和国との間の平和条約日本国インドネシア共和国との間の賠償協定並びに旧清算勘定その他の諸勘定残高に関する請求権処理に関する日本国政府インドネシア共和国政府との間の議定書に関し、一括して賛成の意を表するものであります。  岸内閣が従来しばしば内外に表明しておりますわが国の外交方針は、国連中心主義であり、自由民主主義諸国との協調であり、さらにアジア諸国との親善友好関係の樹立でございます。インドネシアは、今あらためて申し述べるまでもなく、その位置において、人口の多きことにおいて、また資源の豊富なる点において、東南アジア諸国中最もわれわれが注意を払うべき新興独立国でございます。しかるに今日までこの国とは平和条約締結を見ていなかったのでありますが、本年一月二十日ジャカルタにおいて藤山愛一郎とスバンドリオ両氏によって平和条約の調印を見たのでございまして、われわれとしてはこの機運を迎えたことに対し喜びを感ずるものであります。その条約案その他を先般来当委員会において審議した結果、これは両国間の戦争状態を終結するものであり、国際連合憲章の原則に適合して、両国国民共通の福祉の増進と国際平和及び安全維持のために、友好的な連携のもとに協力することを希望しておるものであります。  さらに一九五五年四月十八日から二十四日までバンドンにおいて開催されたアジア・アフリカ会議における決定の精神に従って、両国間の経済関係をさらに緊密化することを期しており、両締約国は友好的に、かつその貿易、海運、航空、その他の経済関係を安定した基礎の上に置くために、条約または協定交渉をできるだけすみやかに開始することを約束しておるのでございます。なお、それらの条約協定締結されるまでは、両国間の貿易、海運、その他の経済関係の分野においては、いかなる第三国に与える待遇に比較しても無差別な待遇を相互に与えることとなっておるのでありまして、われわれの満足すべきところでございます。  次に、日本国は、戦争中に日本国が与えた損害及び苦痛を償うため、インドネシア共和国賠償を支払う用意のある旨を述べておるのでありますが、この賠償問題に関する話し合いのつかなかったことが、今日まで両国間の平和条約締結を妨げていたおもな原因であったのでございますから、この際お互いに譲り合ってこの問題を解決しなければなりません。賠償を支払う方からいえば少いほどよく、受け取る方からいえば多いほどよろしいので、その額を決定することはきわめて困難でございますが、今回私どもに示された総額二億二千三百八万米ドルにひとしい価値を有する日本国生産物及び日本人の役務を十二年の期間内に供与することは、まず両方とも大局的観点から承認すべきものと考えます。  次に、賠償協定とは切り離してインドネシアに対するいわゆる焦げつき債権の放棄という問題がございます。インドネシアの財政的現状から見て、わが国に対する累積債務を今直ちに清算することはきわめて困難なことであり見方によってはほとんど不可能であるとも思われますので、両国が平和条約締結し、親善関係に入り、ともに手を携えて国際連合の中で活動するためには、わが国としてはあっさりこの際これを放棄し、これと賠償の支払いと相待って、かの国の経済の振興を援助することが賢明と思われるのであります。賠償問題並びに累積債権の放棄の問題については、目下かの国に内乱的のことが起っているというところから、今急いで現在の政府条約を結ぶことに懸念する人も相当あるようでございますが、これはあくまで同国の内政問題でございますし、われわれが相手とするのは単にかの国の政府ではなく、全国民との親善にありますから、政府が万々一更迭するようなことがありましても、この際平和条約その他を締結すべきであると考えますし、また政府当局の説明によりましては、現在の動乱も近く終結するという希望もあるようでございますから、われわれはこれに賛成するものでございます。  念のために申し上げたいことは、この際わが政府が決して先方の内政干渉と疑われるような処置をとるべきではないということでございます。  最後に、賠償支払いに当っては、いかがわしいブローカーや政商その他の策動が行われやすく、われわれの基本的な目的に反する結果となることもございますから、わが政府当局としては、この点に十分注意を払われることを希望いたしまして、賛成の討論といたします。(拍手)
  186. 床次徳二

  187. 田中稔男

    田中(稔)委員 私は、日本社会党代表して、この平和条約及び賠償協定等の承認に関し、賛成の討論を行いたいと考えます。  日本社会党は、かつてフィリピンとの賠償協定に対し反対の態度をとりましたが、インドネシアとの賠償協定に関しては、政府を鞭撻してそのすみやかなる成立のために協力し、特に鈴木委員長は親しく岸総理とこのことについて懇談を行なったほどであります。その結果として、日本インドネシア賠償協定日本インドネシア平和条約とともに過般ジャカルタにおいて調印されましたことを私は心から喜ぶものであります。  赤道にかかるエメラルドの首飾りといわれた三千の島々からなるインドネシアの国は、うるわしい自然と豊かな資源に恵まれ、八千万の人口を有しております。しかるに約四百年の長きにわたりオランダの植民地として抑圧と搾取に苦しみ、一九四五年八月十七日、初めてスカルノ及びハッタの指導のもとに独立を宣言したのであります。その後数年間オランダに対する独立戦争を戦い抜き、次いで困難な諸条件のもとで建設を始めましたが、まだとうてい成功の域に達したとは言えません。  最近一部の親蘭、親米の徒が、外国の支援を期待して反スカルノ政権を中部スマトラに打ち立てようとはかり、インドネシアの政情不安がしきりに伝えられていますが、大衆の支持を受けていないこの反乱はやがて鎮圧されるものと予想されます。今日スカルノ大統領の声望はますます高く、いわゆるスカルノ構想に基く民族的統一戦線は強固に結成されております。  私は日本が国連においてアジア・アフリカ・グループの一員として行動しており、また一九五五年のバンドン会議に高碕全権を送って、その討議の結果をまとめた世界平和と協力の促進についての宣言に賛成した事実からして、当然スカルノ大統領に率いられるインドネシア政府を支持し、インドネシアの独立の完成と建設の成功に協力すべきだと考えるものであります。そして、そうすることこそアジアから植民地主義を一掃し、アジアの平和を守る唯一の道であると私は確信するものであります。  この際、特に一言しておきたいことがあります。それは平和条約第三条に「両締約国は、」「バンドンにおいて開催されたアジア・アフリカ会議における決定の精神に従って両国間の経済関係をさらに緊密化することを希望する。」と書かれているのでありますが、言うまでもなく、日イ両国の間においては、ひとり経済関係のみならず、政治、文化等一切の関係がバンドン精神によって律しられなければならぬということであります。私は、この点に関する私の質問に対し、岸総理及び藤山外務大臣が当委員会において肯定的答弁を行われたことに満足するものであります。  次に、日本は太平洋戦争中インドネシアに対し多大の損害と苦痛とを与えたのであります。これに対し公正な賠償を行うことは、日本にとって当然の義務であります。しかしながらこの損害と苦痛とを十分に評価し、これに対する完全な賠償を行うことは、日本の経済力を考慮する場合、遺憾ながら不可能であります。スカルノ大統領の英断により、インドネシアに対する貿易上の債権一億七千六百九十一万三千九百五十八ドル四十一セントを放棄することを条件として、二億二千三百八万ドルに値する日本生産物及び日本人の役務をもって賠償に充てることに決定いたしましたことを、私は賠償問題の公正な解決として喜ぶものであります。  賠償協定第二条第二項において、「賠償として供与される生産物は、資本財とする。」ことになっております。それは、賠償の経済的効果が両国にとって永続的であり、かつ建設的であるためには、当然の規定といわねばなりません。ただしインドネシアの要請があった場合には、消費財をもって賠償に充てる道が開かれておりますから、インフレーションに悩むインドネシアとして、これを抑圧するために繊維製品を主とする消費財賠償物資として要請することは、容易に予想されることであります。他方わが国においては、繊維製品滞貨が増大しているやさきでもありますから、インドネシアのかかる要請はむしろ歓迎すべきことであるとも考えられるのであります。しかしながらインドシア賠償消費財で行われる場合、賠償協定第二条第三項にうたわれている、「この協定に基く賠償は、」両国間の「通常の貿易が阻害されないように、かつ、外国為替上の追加の負担日本国に課されないように、実施しなければならない。」という規定の趣旨に反する結果となりはしないかとおそれるものであります。政府がその実施に当って特に慎重な考慮を払われるよう、あらためて政府注意を喚起するものであります。  総じて、賠償資本財で行われようと消費財で行われようと、多数の国民負担において少数の資本家の利益をはかり、はなはだしきに至っては、一部に賠償ブームといった現象が起る危険さえなしとしないのでありますから、絶対にかかることのないように、あらかじめ政府に対して警告を発しておく次第であります。  なお賠償の一部として行われるインドネシア技術者等の教育及び実習については、政府が特に周到な計画を立て、その実施に当っていただきたいことを要望いたすものであります。  賠償とともに、日本からの民間経済協力が四億ドルの限度においてインドネシアに与えられることになっております。インドネシアは、豊富な資源を有しながら、資本技術とを欠いているのであります。アジアにおける先進国としてインドネシア開発と建設のために、日本経済協力技術協力可能性はきわめて大なるものがあります。しかしながら商業上の採算にのみとらわれたり、日本の一方的利益のためにはかったり、あるいは何らかの政治的なひもをつけたりするならば、経済協力技術協力は、必ずや失敗に終るものと覚悟しなければなりません。インドネシアに対して現在経済協力を行い、また将来これを行おうとしている国は多いのであります。アメリカしかり、ソ連しかり、西独しかり、チェコしかりであります。特にインドネシア国会は、最近ソ連からの一億ドルの借款を受けることに決定しましたが、その条件はきわめて寛大で、十二年賦支払い、年利率二分五厘であります。また経済協力を行うに当り、その当事者となるべき日イ両国の団体及び個人について十分なる選択が行われることが望ましいと考えられます。特に日本側において、いわゆる一旗組やいわゆる大東亜共栄圏的な思想を持った者や、あるいはアメリカ独占資本の買弁的な立場にある者が事に当ることは、厳重に警戒しなければなりません。  以上、幾つかの要望と警告を付して、私は本平和条約並びに本賠償協定承認に賛成するものであります。(拍手)
  188. 床次徳二

    床次委員長 これにて討論は終局いたしました。  採決いたします。日本国インドネシア共和国との間の平和条約締結について承認を求めるの件、日本国インドネシア共和国との間の賠償協定締結について承認を求めるの件、旧清算勘定その他諸勘定の、残高に関する請求権処理に関する日本国政府インドネシア共和国政府との間の議定書締結について承認を求めるの件、以上三件をそれぞれ承認すべきものと議決するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  189. 床次徳二

    床次委員長 御異議なしと認めます。よって、右各件は承認するに決しました。  なお、ただいまの各件に関する報告書の作成につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  190. 床次徳二

    床次委員長 御異議がなければさように決定いたします。  次会は公報をもってお知らせいたします。本日はこれにて散会いたします。     午後一時四十七分散会