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1957-03-19 第26回国会 参議院 予算委員会 第12号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年三月十九日(火曜日)    午後三時二十二分開会     —————————————   委員異動 三月十八日委員高橋進太郎君辞任につ き、その補欠として柴田榮君を議長に おいて指名した。     —————————————   出席者は左の通り。    委員長     苫米地義三君    理事            迫水 久常君            左藤 義詮君            安井  謙君            吉田 萬次君            天田 勝正君            中田 吉雄君            吉田 法晴君            森 八三一君    委員            石坂 豊一君            小林 武治君            柴田  榮君            新谷寅三郎君            土田國太郎君            苫米地英俊君            林田 正治君            一松 定吉君            前田佳都男君            内村 清次君            海野 三朗君            岡田 宗司君            栗山 良夫君            佐多 忠隆君            曾祢  益君            中村 正雄君            羽生 三七君            松浦 清一君            山田 節男君            湯山  勇君            加賀山之雄君            梶原 茂嘉君            田村 文吉君            豊田 雅孝君            千田  正君            八木 幸吉君    国務大臣    内閣総理大臣    外 務 大 臣 岸  信介君    大 蔵 大 臣 池田 勇人君    通商産業大臣  水田三喜男君    労 働 大 臣 松浦周太郎君    建 設 大 臣 南條 徳男君    国 務 大 臣 宇田 耕一君    国 務 大 臣 小滝  彬君   政府委員    法制局長官   林  修三君    法制局次長   高辻 正巳君    防衛庁長官官房    長       門叶 宗雄君    防衛庁防衛局長 林  一夫君    経済企画庁調査    部長      小出 榮一君    経済企画庁計画    部長      大來佐武郎君    外務省アジア局    長       中川  融君    外務省条約局長 高橋 通敏君    大蔵省主計局長 森永貞一郎君    大蔵省主計局次    長       宮川新一郎君    大蔵省主税局長 原  純夫君    大蔵省理財局長 河野 通一君    大蔵省銀行局長 東條 猛猪君    通商産業省公    益事業局長   岩武 照彦君    労働省労政局長 中西  實君   事務局側    常任委員会専門    員       正木 千冬君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和三十一年度一般会計予算補正  (第1号)(内閣提出、衆議院送  付) ○昭和三十一年度特別会計予算補正  (特第1号)(内閣提出、衆議院送  付) ○昭和三十一年度一般会計予算補正  (第2号)(内閣送付予備審査) ○昭和三十一年度特別会計予算補正  (特第2号)(内閣送付予備審  査) ○昭和三十一年度政府関係機関予算補  正(機第1号)(内閣送付予備審  査)     —————————————
  2. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) ただいまから委員会を開きます。  まず、委員異動について申し上げます。三月十八日高橋進太郎君が辞任されまして、柴田榮君が補欠として指名されました。     —————————————
  3. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) 次に、本日の理事会で、昭和三十一年度補正予算審査日程について協議決定いたしました事項を御報告申し上げます。  一、昭和三十一年度補正予算は、第一次、第二次分を一括して審査を行い、十九日、二十日及び二十二日の三日間で審査を終了する。  二、二十二日午前中に質疑を終了して、討論採決を行う。  三、質疑時間の割当は、十九日は、自民党九十分、社会党六十分、二十日は、自民党四十分、社会党八十分、緑風会五十分、無所属二十分、十七控室二十分、二十二日は、自民党三十分、社会党三十分、以上でございます。     —————————————
  4. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) これより昭和三十一年度一般会計予算補正(第1号)、昭和三十一年度特別会計予算補正(特第1号)、昭和三十一年度一般会計予算補正(第2号)、昭和一二十一年度特別会計予算補正(特第2号)、昭和三十一年度政府関係機関予算補正(機第1号)を一括して議題といたします。  第一次補正分につきましては、すでに提案理由説明を聴取いたしておりまするので、まず、第二次補正分について、提案理由説明を願います。
  5. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 政府は今回、昭和三十一年度一般会計予算補正第二号、特別会計予算補正第二号及び政府関係機関予算補正第一号を国会に提出いたしましたが、ここに予算委員会の御審議をお願いするに当りまして、その概要を御説明いたします。  一般会計予算補正追加額は、歳入歳出ともに百四十七億円でありまして、これにより、さきに提出いたしました予算補正第一号とあわせまして、昭和三十一年度一般会計予算総額は、一兆八百九十六億円となる予定であります。  歳出におきましては、三十一年度の予算作成後に生じました事由により、当面必要とされる最小限度所要額を計上いたしました。  これを義務教育費国庫負担金についてみれば、三十年度における義務教育教職員給与費の実支出額に基く負担額が、三十年度予算計上額を上回り不足することが確定し、さらに、昭和三十一年十二月第二十五回国会において成立した一般職の職員の給与に関する法律の一部を改正する法律に関連して、教職員期末手当が増額されることとなったので、三十一年度の国庫負担金を増額する必要があり、そのほか、遺族及び留守家族等援護費国民健康保険助成費、旧軍人遺族等恩給費地方交付税交付金などについても、これと同様の趣旨で、成立予算追加して所要額を計上することが必要となったのであります。  また、食糧管理特別会計損失は、三十年度末において完全に補てんされる予定でありましたが、その決算確定の結果、なお損失を残すこととなりましたので、これを一般会計負担で補てんするための所要額三十三億円余を計上しております。  なお、沖繩問題については、講和条約発効前における米軍接収による土地等損失の補償に関する問題は、早急に解決することが困難でありますので、土地等所有者等の困窮の状況を考慮し、特別措置として見舞金を贈ることとし、その他の対策とあわせ沖繩関係特別措置費十一億円を新規に計上することといたしました。  次に、一般会計歳入についてでありますが、租税及び印紙収入百三十億円を追加計上いたしました。これは、三十一年度の税収が、国民所得の予想以上の伸びを反映して、大幅の収入増加が見込まれ、そのうち所得税法人税につき四百億円を第一の補正予算に計上いたしましたが、今回の補正を行うに当り、その財源として、さらに、酒税物品税関税増収百三十億円を引き当てることとしたものであります。  なお、租税収入のほか歳入として雑収入等約十七億円を計上いたしました。  特別会計予算補正としましては、交付税及び譲与税配付金特別会計及び漁船保険特別会計給与保険勘定におきまして一般会計予算補正とも関連して必要とされる補正を行い、また、特別会計予算総則の一部を改めて、輸出保険特別会計契約限度額を増額することとしております。  政府関係機関予算補正は、成立予算予算総則に規定されている国民金融公庫中小企業金融公庫借り入れ限度額増加することを内容とするものであります。  以上、昭和三十一年度予算補正につきまして概略申し述べましたが、なお詳細にわたりましては、政府委員をして補足説明いたさせます。
  6. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) 次に、森永主計局長より補足説明を願います。
  7. 森永貞一郎

    政府委員森永貞一郎君) お手元に、「昭和三十一年度予算補正説明」という印刷物がお配りしてございますので、その印刷物につきまして、簡単に補足説明をいたしたいと存じます。  まず、一般会計歳出から申し上げます。二ページ以降に、重要事項につきまして簡単に説明が加えてございます。  第一は、遺族及び留守家族等援護費でございます。追加額は二十八億円でございます。この内訳は、本年度内の裁定件数増加に伴う不足額が二十四億九千六百万円、三十年度の不足額が三億四百万円、合せて二十八億と相なっております。  社会保険費は、十億六千九百万円の追加でございます。御承知のように、国民健康保険助成金が三十年度来、いわゆる清算補助に切りかえられたのでございますが、三十年度の清算の結果、療養給付費補助におきまして十億四千三百万円、事務費補助におきまして二千六百万円の不足を生じましたので、その合計十億六千九百万円を追加計上いたしております。  次は、義務教育費国庫負担金十七億四千五百万でございます。このうち十億三百万円は、三十年度の決算上の不足でございます。残りの七億四千三百万円は、昨年末、公務員に対しまして、期末手当を〇・一五分だけ増額いたしたのでございますが、その関係からくる義務教育費国庫負担金不足でございます。合せまして十七億四千五百万円を計上いたしております。  国立学校運営費におきまして、一億五百万円の追加でございます。これは、国立大学付属病院におきまする患者の増加診療内容の向上に伴う医療費不足分でございますが、なおこのほか、別途予備費から六千万円を支出いたしております。一方歳入におきましても、国立大学付属病院関係で、二億七千三百万円の増収がございまして、今回の補正財源として計上いたしております。  次は、旧軍人遺族等恩給費二十五億九千百万円の追加でございます。このうち、十九億六千百万円は、遺族扶助料の本年度における不足でございます。当初百六十万の受給人員を見込んでおりましたが、裁定が進行いたしまして、すでに一月末で百六十一万に達し、年末までに、さらに五千人裁定が予想されますので、これに伴う不足額追加計上いたしました。なお、別に一時金についても、六億二千九百万円の不足を来たす見込みでございますが、合せて追加計上をいたしました。  地方交付税交付金は、十億円の追加でございます。これは、今般の補正に際しまして、財源として、酒税四十億円を計上いたしておりまするが、これに伴う地方交付税交付金十億を計上いたした次第でございます。  次は、食糧管理特別会計への繰り入れ三十三億五千五百万円でございますが、これは、三十年度末の損失を、食糧管理特別会計法付則第二項の規定によりまして、補てんをいたすための繰り入れでございます。  次は、沖繩関係特別措置費十一億円がございます。このうち十億円は、米軍に接収せられておりまする土地等所有者に対する特別措置としての見舞金でございます。御承知のように、土地問題につきましては、目下対米折衝が行われておるわけでございますが、早急な解決は困難でございますので、この際十億円を見舞金として、特別措置として支給をいたすことといたした次第でございます。この性質は、ビキニ被災者等の場合に準ずる立てかえ金的な性格と考えております。このほか、沖繩への引揚困窮者等に対する措置といたしまして、別に一億円を計上いたしております。  国庫受入預託金利子六億七千五百万でございますが、これは、国鉄並び電電公社余裕金国庫が預かっておるわけでございますが、その場合、一定の限度を超えました分につきましては、日歩八厘の利子を付することといたしております。当初予算で計上いたしましたよりも、相当多額の預金が現に預けられておるわけでございまして、そのための不足分を今回補正に計上いたしました次第でございます。  さらに、漁船保険特別会計への繰り入れ一億七千九百万円がございます。これは、二口に分れておりまして、一つは、同特別会計普通保険勘定の三十年度における国庫負担金不足分八千四百万円でございます。もう一つは、同特別会計給与保険勘定に対する九千四百万の繰り入れでございます。御承知のような、李承晩ラインの問題がございまして、拿捕船舶が相当多く、かつ、その拿捕が長期化いたしておるのでございますが、それに伴いまして、この特別会計給与保険勘定におきましては、歳出源不足を生じ、その関係から、特別会計補正もお願い申し上げておりまするが、その機会に、財源といたしまして、同特別会計損失額の一部九千四百万円を一般会計から繰り入れることといたしておる次第でございます。  歳入でございますが、租税収入が百三十億円、その内訳は、酒税四十億、物品税三十億、関税六十億となっております。租税収入のほかに、官業益金及び官業収入といたしまして二億七千三百万円、これは、先ほど申し上げました国立大学附属病院における収入増加でございます。なお、雑収入といたしまして、十四億五千六百万円を計上いたしておりますが、これは、金融機関再建整備が行われました際に、国から補給いたしました金額をその後の調整勘定における利益をもって国庫に納付いたすことと相なっておりますが、その分の当初予算に計上いたしました金額が二十五億ございましたが、これをこえる実績がすでに十四億五千六百万円上っておりますので、今回補正に際し、財源として計上いたしました。  特別会計につきましては、ただいま一言ずつふれましたので、説明を省略させていただきます。  なお、政府関係機関につきまして、国民金融公庫におきまして十五億円、中小企業金融公庫におきまして二十億円、それぞれ借り入れ限度額を引き上げることととし、予算総則につきまして、補正をお願い申し上げております。  以上、簡単でございますが、説明を終ります。
  8. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) それでは、ただいまから、昭和三十一年度予算の第一次補正及び第二次補正質疑に入ります。
  9. 吉田法晴

    吉田法晴君 自民党鳩山内閣当時、その総選挙に当って、国民に約束された外交方針の中には、国交回復国との国交調整という一項がありました。このうち、曲りなりに実現した日ソ国交回復も含まれておったわけでありますが、その最初に言われておりました、国交回復国との国交調整という中には、中国、皆さんの言われるいわゆる中共国交調整も含まれておったのであります。このことは、重光外務大臣は認めておられました。しかるに岸総理は、中国との国交回復は、いまだその時期でないとして全然問題とせられておりませんし、通商代表部設置、それから支払協定締結等貿易の拡大にも消極的であるようであります。共産主義陣営との国交調整によってアジア緊張を緩和したい、日本の実質的な独立達成したいという外交方針はどうなったのか、一つ岸総理外務大臣にお尋ねいたしたいと思います。
  10. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 鳩山内閣時代に、国交を回復しておらない国々との国交を回復して行くという考え方の一番のねらいは、言うまでもなく、その当時は日ソ国交正常化の問題であったと思います。これは昨年、鳩山内閣を通じて実現をいたしました。また・最近ポーランドやチェコとの間にも国交を正常化して回復して参っております。いわゆるこのアジアにおける中国、いわゆる中共との間の問題につきましては、貿易経済関係はこれを推し進めて行くけれども、これを承認し・またはこれとの間に国交を正常化する段階には私はなっておらないということを、あらゆる機会においてお答え申し上げておるのであります。私どもすでに国際連合一員となり、国際連合中心として、国際場裏において今後の一本の活動する場面を開いて行きたいという考えでおりまして、私はあくまでも国連を通じて、いわゆる東西の緊張緩和日本として努力して行くのが日本の根本的な考えではないか。私ども自民党といたしましては・ずっと一貫しておる、大体一貫しておる外交政策達成をその進展に伴って考えて行きたい、こういうふうに理解いたしております。
  11. 吉田法晴

    吉田法晴君 変っておらぬと言われますけれども国交回復国との国交調整という中には、鳩山内閣のときには、最初選挙に出られます際には、中国との国交調整というものが含まれておった。それは重光外務大臣も認められております。それからさっきも説明がございましたけれども国交回復国との国交調整という中には、中共も入っておったという点は認められたのであります。そうして石橋内閣においても、鳩山内閣のこの共産主義陣営との国交調整、それによるアジア緊張緩和独立達成という点は、むしろ前進をするのではないかと考えられておりました。ところが岸内閣になって、対米協力中心にして進むということで、方針は変っておらぬと言われますけれども、私ども、あるいは国民が受ける感じは変ったように私どもこれは受け取るのであります。前に同僚議員から、東南アジアに行かれるという話が、まず総理になったら対米協力ということでアメリカに行くと、こういうように行き先も変ってきたじゃないかというあれがございましたけれども中国との国交調整という具体的な事実をとってみても、これはだんだん変って参っております。で、変るならば、選挙で公約をし、そして多数の支持を得られた、それが岸内閣になって変るならば、それは選挙によって国民批判を受けられる以外に私はないと思うのです。重ねて総理の御答弁を願いたいと思います。
  12. 岸信介

    国務大臣岸信介君) ただいま私がお答え申し上げましたように、われわれは国際社会一員として、国際間に存在しておる緊張緩和に努力することは、これは当然でありまして、国際連合中心としてこれを推し進めて行くということを申し上げておるのでありますが、その上において、まだ国交の回復されておらない国々との間に、順を追うてこの国交を正常化して、国交を回復して行くということは、これは当然努めなければなりませんが、それにはおのずから段階があり、いろいろな国際情勢やその他のものを見合わして行く必要があるということは言うを待たないのであります。私は決して中国との間に永久に国交を正常化しないということを申しておるわけじゃございませんが、今日の段階においてわれわれがこれを承認し・これとの間に国交を正常化する段階に至らないということを申し上げたのでありまして、まず貿易関係であるとか、あるいは文化関係等において推し進めで行くというのが最も適当な段階であり、また方策である、こういうふうに考えておるのであります。
  13. 吉田法晴

    吉田法晴君 それでは経済文化の交流を拡充して行きたい、こういうことでありますが、それでは通商代表部設置あるいは支払協定等、前から問題になっておりました問題についてはどういう御方針であるか、伺いたいと思います。
  14. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 通商貿易を増進いたしますにつきましても、私は現在の段階においては、先ほど申し上げたように、政府を正式に承認して、これとの間に国交を正常化するという段階ではないと考えておりますので、それで民間のレベルにおいて話し合いが進められ、そうして貿易を増進するというのが適当であるという考えのもとに、今日第四次の会談でありますか、民間会談が行われておりまして、それが貿易を促進する上において、通商代表部お互いの国に持ち合うということが適当であるという結論に、大体の方向は進んでいることも承知いたしております。ただこの問題につきましては・かねて御承知通り・いわゆる日本に置かれる中国側通商代表部に公的な資格を認めるかどうかという問題が、指紋をとるかとらないかという問題に関連して論議されておることも御承知通りであります。現在の法律から申しますというと、この指紋の問題は相当に法律的には困難な点がございます。しかし私どもはこの民間における話し合いの進行を見まして、この間の取扱いの調整いたして、そうして通商代表部お互いに置いて、そうして通商貿易を増進するという方向に、なるべく便宜のように処置したいという考えのもとに今日立っておるのであります。
  15. 吉田法晴

    吉田法晴君 まだございますけれども、別の機会にこの問題については御質問申し上げることにして、次に移りたいと思います。  岸総理は、大東亜戦争開戦当時の閣僚であり、戦争遂行のために産業行政上重要な役割を果されたことについて、徹底的に自己批判をして、民主政治家として生き抜きたいと、こうしばしば言明せられて参りました。徹底的に自己批判をして、民主政治家として生き抜きたいと言われるならば、戦争への傾向、平和への傾向、その二つの流れのどっちにも乗るということじゃなくて、日本国憲法の差し示しております徹底的な平和、非武力の方向にこれは徹せらるべきだと思うのでありますが、岸総理はどういう工合にお考ええになりますか。
  16. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お答えいたします。日本現行憲法の大精神である民主主義平和主義ということに対しましては、私はこれを尊重して、そうして日本の国の進んで行く方向をはっきりとつかんで、そうして私としてはこれに挺身をいたす考えでございます。
  17. 吉田法晴

    吉田法晴君 民主主義平和主義に徹して参りたい、こういうことでありますならば、それは言葉の上だけでなしに、今後のあなたの行動あるいは政治的方針基準となる考えの上で、思想の上で、帝国主義的な、あるいは最近の言葉で言いますと、植民地主義的なと申しますか、あるいは戦争を推進して参りました・これは官僚と軍部の結託だと言われましたが、官僚主義的な要素を完全に克服、止揚されるという明白な証明がなければならぬと考えるのであります。ところが憲法平和主義民主主義には徹する、こう言いながら、個人としては日本憲法改正賛成である、改正すべきである、あるいは小選挙区制については自分としては賛成だ、こういうことを言っておられる。昨年の小選挙制は憲法改正一つの手段として、小選挙区制によって三分の二を占めたいという、これは自民党のいわば党略と申しますか、大きい党略でありますけれども方針に基いて作られた小選挙区制だと私どもは了解して参った。ところがその小選挙区制には原則的に賛成だ。これでは口では日本国憲法平和主義民主主義に徹しておられると言われるけれども、実際にはそうじゃないじゃないか、この矛盾をどういう工合説明をされますか、明らかに承わりたい。
  18. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は憲法、いわゆる自主憲法制定論者の一人でございます。私は現行憲法を尊重し、現行憲法を順守するということについてはあえて人後に落ちないものでありますが、しかしわれわれはわれわれの国の基準であり、基本であるところの憲法に対して、あらゆる点からこれを検討もし、これに対する自由な意見を述べるということは、これは民主政治、いま憲法が保障しておりまする民主主義言論の自由からいって私は当然であると思う。そして私の考えによれば、この憲法制定の由来及び制定された事情等から見まして、われわれがわれわれの憲法一つ検討して自主的な憲法を作ろうという考えがあるのであります。しかし、しからばというて、私は現行憲法が認めておる大きな主義であり、基本であるところの民主主義や、あるいは平和主義、あるいは基本的人権を擁護するところの人権尊重主義等の大きなこの柱は動かすべきものではないと私は確信をいたしております。いかにしてわれわれが民主主義を徹底し、また平和主義によって日本安全保障を確保するか、あるいは基本的人権を擁護して行くかという問題について、われわれみずからが、民族みずからが考えて、民族みずからがこれを憲法として作り上げるという考えのもとに、私は今申すような憲法についての意見を持っておるわけでございます。  小選挙区の問題につきましては、これを社会党の諸君が、自民党がこの憲法改正考えと結び合してこれをやるのだというふうに論断をされておりますけれども、私が少くとも小選挙区案を考えておる根拠は、過日も申し上げましたが、私は本来、日本民主政治を完成して行く上において、二大政党によって国会運営をすることが、一番望ましいという考えを持っておるのでございまして、この二大政党というものを健全に発展せしめ、そうして国民選挙を通じてはっきり両政党の主張を明らかにし、国民がいずれを選ぶかというこの自由な判断によって投票するということを明確ならしめる意味から言うというと、一人一区を原則とするところの小選挙区制度が一番望ましいものであるという私は考えのもとに小選挙区を主張しておるのでありまして、二大政党論者である私の小選挙区への何は必然的な論理のように私は思うのであります。しかしそれには現実との間の調整の問題もありましょうし、困難なる区制の決定の問題もありますから、十分に研究をしなければならぬ問題でありますが、少くとも私が考えておるのは、この小選挙制と先ほど申した憲法の改正とか、あるいは自主憲法制定という考えとの間にはちっとも関連のない問題だと御理解願います。
  19. 吉田法晴

    吉田法晴君 小選挙区制に原則的に賛成だ、二大政党制のもとにおいては、その二大政党の判断を、いずれに政治をやらせるべきかという判断をするには小選挙区制がよろしい、こういう純理を言われた。純理を言われるが、実  際に去年小選挙区制を出された自民党の案は、これにゲリマンダーでもあったが、そのねらいとするところは、憲法の改正のために三分の二を得たいと、こういう意図に出ておりましたことは、これはもうはっきりしておる。それから憲法について、これは自主的な憲法でない、民主主義あるいは平和主義、人権の尊重というがごときはそれを否定するものではないけれども憲法を再検討したい、こう言われるけれども、しかし、それも実際にはだんだん自衛隊を作って行き、そうしてその自衛隊が国際的にも十分働き得るために改正しなければならぬという運命に、だんだん自民党のあれでは運命に到達した。そこで憲法改正問題が起ったということは明らかである。それからもう一つ、その憲法改正問題については、自民党では従来そう考えられて参りましたけれども、昨年の参議院選挙で、衆参両院においても、日本国民憲法改正に反対である。改正すべきではない。自民党は自主憲法でないと言われるけれども国民のための憲法としてこれを守るべきだという判断はこれははっきりしておると思う。しかしこの点は議論になりますから、議論はこの程度で遠慮をいたしますが、そこでその憲法問題の一番大きな問題の再軍備問題であります。あなたは憲法の言う民主主義には、憲法の言う平和主義には第九条のごとく軍備は持たない、あるいは潜在戦力さえ持たぬと、こうはっきり言明をいたして  おりますが、どうもその辺にまだあなたが前の考えを克服、止揚されておらぬという片りんがときどき見える。それを私ども心配をし、総理としてはその点について、岸総理としてははっきりせらるべきだと、こう考えるから御質問申し上げておるわけであります。例をあげますが、元技術院総裁をしてこれは陸軍中将であった遠藤三郎氏、この人が徹底的な平和主義あるいは再軍備反対であることも御承知通りであります。それからこれはあなたは御存じないかもしれませんけれども、当時あなたの下で物動計画に参画いたしました高橋甫という人がおります。これは物動計画を推進をしたのでありますが、今日では徹底した平和主義あるいは再軍備反対論者に徹しておられる。で、戦争に再び巻き込まれないようにしたいという言明をしておられますが、自分で防衛をするのだ、自分で外敵の侵入に対しては防衛するのだ、そのために漸次防衛計画をふやしていくんだ、漸増する、防衛計画を完遂していくんだ、あるいは日米共同防衛という方針をとっていくということになりますと、これは少くとも憲法九条あるいは憲法のいいます徹底的な平和主義というものと矛盾してくる。抽象的に申しますと、これはそうじゃないと言われるかもしれませんから、最近の具体的な実例をあげて、あなたにお尋ねをいたしますが、これは高橋甫さんも言っておられることでありますけれども、原子兵器はすでに大小自由な規模で作り得るに至っております。で、今日ではすでに戦術兵器と戦略兵器の区別がなくなって、実質的な戦争——それは戦闘でないと言われるかもしれませんけれども、戦闘行為——局地戦と言われようとも、戦闘行為が  行われる場合には、原子兵器が使われる、必然的に使われるという状態になっておりますことは、NATOの演習あるいはSEATOの最近の演習に徴しても、これは明らかであります。それからまだ移っておらぬそうでありますけれども、御殿場に従来ありました富士学校においても、日本の自衛隊自身において対放射能の訓練をやっております。こういう事実は、私が申し上げますような戦闘、あるいは事実上の戦争が行われるならば、原子兵器が必らず使われるということを実際に証明しておる。原爆の実験については、先般院の決議があり、その方針に従って総理も努力する、こういう話でありましたが、原水爆の実験、保管、使用の禁止というものが事実上でき、徹底的な軍縮を実現するのでなければ、軍隊がなくなるのでなければ、戦争の危険というものはこれはなくなりません。そして過去の失敗にかんがみて、日本国憲法——日本国民は軍隊は持たない、戦争はしない。その戦争あるいは軍隊に至る危険のものさえも持たぬという徹底した民主主義に徹する、平和主義に徹すると言われるけれども、しかし再軍備、自衛力を漸増していくという方針であり、あるいは対米協力で防衛に当る、こういうことになりますならば、その決意と言われるところと今後の実際の運命というものは、違って参ると思う。もし本当に日本国憲法平和主義に徹すると言われるならば、憲法に違反しております自衛隊の漸増ではなくって、その廃止の方向に努力せらるべきだと私は思うのでありますが、岸総理の決意をお伺いいたしたい。
  20. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 憲法九条の解釈におきまして、これはいろいろな解釈上の議論がございますけれども、これがいわゆる自衛権を否定しておるものじゃない。われわれが国を持ち、民族がこういうふうに生活しておるという、この平和な状態が、急迫不正な方法によって侵害されるという場合において、われわれがみずから守り、この急迫不正の侵害を排除するという意味の自衛的な行動は・否認されておるものじやないという解釈につきましては、私はこれはそう解釈すべきものであり、またそれが同条の解釈の通説であると考えております。その意味において、われわれは常に国民が安全であると、自分たちの生活は他から不正急迫な侵略を受けないんだという一つの安心感を持つということが、政治の上から申しましても、またわれわれが平和な生活をしていく上から申しても、必要でありまして、その意味における自衛の手段としてこの自衛組織を持つというのが、われわれの考えでありまして、今日の国際情勢その他を見まするというと、もちろんわれわれは絶対の世界的平和を念願して、これを実現するように努力しなければなりませんけれども、しからばというて、自分たちがその理想を揚げ、理想を持っておる限りにおいては、いかなる場合においてもそういう侵略を受ないという保証というものは、実は残念ながらまだ全然ないのでござまして、みんながそういう安全感を持つのには、やはり一つの自衛の組織を持つ必要がある。しかも今日それでは世界が、われわれが、一国の力でいかなる侵略に対しても、いかなる事態に処しても自分たちを守り切るだけの防衛力というものを持ち得るかというと、それはできないから、集団保障、安全保障の機構が考えられる。日本は今、日米共同防衛の体制によって、日本の安全を保障するという体制になっておる。従って、その方向において今日はものを考えていくということになる、私はかように考えております。従って、決して私はこの平和主義戦争日本が巻き込まれないようにするという考えから申しますというと、全然無防備で何も持たないということの方が、むしろ現在の国際情勢の判断からいうと危険であって、われわれが不正な侵略に対しては、とにかくわれわれみずからが守っておるという体制を持っておることは、むしろ平和主義を徹底する意味からいうて、現状の国際情勢からはそうせざるを得ない、かように考えておるわけであります。
  21. 吉田法晴

    吉田法晴君 自衛の権利がある。これは論理的にはそうであります。ただし・その自衛の方法を軍隊によらないで、外交的な手段、あるいは国連のお話もございましたけれども、国連等により・国連に加入する場合に・自民党は言われておったけれども、実際に国連に加入する場合には、あるいは軍事的な任務を負わなくてもいいということは、はっきりいたして参りました。武力によらないで軍隊によらないで、そうして外交方式により、あるいは国連によって、この安全を守るというのが、この憲法予定して参ったこれは自衛の方法であります。自衛というものを、これを武力でとにかく自衛をする、こういうことになりますと、これは戦術家あるいは軍事専門家の言うところによると、だんだん広がっていって、これは先制攻撃は最大の防御と言われるように、バイカル湖の辺までもやっぱり広がって参ります。だんだん朝鮮から満州、満州から中国、あるいはとにかくシベリアの方に今申しましたように広がって参る、この軍事的な防衛の範囲というも、防衛線というものは。ですから、武力による防衛じゃなくて、無防備による防衛というのが憲法の精神だと思うのでありますがお話を聞いて参っておりますというと、だんだん昔の日本を守るために、自衛のために戦争をやる。あるいは支那事変が起った、あるいは起したということになりますかに——起った。あるいは大東亜戦争が起った。こういうような感じ、がいたしますが過去の大東亜戦争その他についても、自衛のために起ったやむを得ざる戦争だ、こういう工合考えておられまするか、それとも全然違った考えを持っておりまするのか、重ねて承わりたい。
  22. 岸信介

    国務大臣岸信介君) もちろん外交手段や、あるいはわれわれが国際連合に加盟いたしましてわれわれの平和に対する考えを述べて、そうして世界の緊張を緩和することによって、自分たちが自衛していくということは、これは当然のことであります。ただ私どもが、この憲法九条ではそういう一切のいわゆる狭い意味における自衛権というものを放棄しておるかといえば、そうじゃなしに、今われわれが急迫不正の侵害に対して、その場合に手をあげてただその侵略にまかせるということではなくして、われわれみずからが、その場合に自分の体を保護する、民族を保護するという意味の最少限度の自衛力を持とうということでありまして、もちろん過去においてわれわれがやった戦争のようなことを頭において考えておるものでないことは、言うを待たないのでありまして、従いまして、われわれの持っておる防衛力というものも、今申した意味における最小限度のものを持つということは、憲法の九条には違反しない、こう解釈することが、私は今までのあの同条の解釈としては通説な考え方である、こういうふうに思っておるのであります。
  23. 吉田法晴

    吉田法晴君 克服されたと申しますか、追放された昔の考え方が、完全にまだ払拭されていない心配をするのであります。これらの問題については、また別に機会もございましょうから、先に進みたいと思います。  独立外交という点が、これは前から鳩山それから石橋内閣を通じ、この点は言葉の上では継承をされておるようでありますが、近くアメリカにもおいでになるというし、講和条約それから安保条約等の不平等条約に対して努力をせらるべきであるし、また努力をしたいという御発言もあっておりますが、その具体的な内容について、どういう工合考えておられますのか、承わりたい。
  24. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 過日曾祢君の御質問であったかと思いますが、いわゆる外交方針として独立の完成ということが強調されていないということを御指摘になりましたが、私は、この点は当然われわれが内政外交を通じて、特に強く考えていかなければならぬ問題であると思います。アメリカとの関係におきましても、私は日米間の関係を再調整して、そして日米の間のほんとうの理解の上に立った協力関係を強化して参りたいということを申しております。今この独立の完成や、日米関係を調整するということを前提として考えるならば、いろいろサンフランシスコ条約以来、いわゆるサンフランシスコ体制のもとにある日本というものが独立が完成されておらないし、またいわゆる過去におけるわれわれの経験から見ましても、こういう状態であることは・日米の真の協力関係を深めていく上からいっても望ましくない、従って、これらの諸問題についても、機会があれば十分アメリカの首脳者との間に話し合いをして、是正すべきものは是正して、そして真に独立の完成に向って国が進んでいかなければならぬと考えております。ただ、具体的にどの事項をどうするか、あるいは今日安保条約の改訂の話を持ち出してするかというふうな御質問に対しましては、私はそこはまだそういうことを明確に申し上げる時期ではないという御返事を申しておくのでありますが、根本の考え方について十分御了承をいただくならば、具体的の問題はおのずから演繹されることだと考えまして、具体的にここで御返事申し上げることは差し控えさしていただきたいと思います。
  25. 吉田法晴

    吉田法晴君 改訂に努力をしたい、それからアメリカに行った場合に、その点について話を出す、これは確認をしてよさそうであります。具体的に言いにくいということでありますが、私からそのひどい例を申し上げて参りたいと思います。これは御存じだろうと思うのでありますが、空の管理権は現在全部米軍にございます。これは日航機など民間機に至りますまで、一々とにかく発着についてこれは許可をとらなければならぬ。それから米軍の駐留とその基地の設定は無制限であるし、無期限であります。それから米軍と顧問団の費用は、その半ばあるいは大半を日本負担しており、その結果、米軍から日本人が被害を受けたという場合に、その被害の補償を日本人が税金でその半分と申しますか、をやっておるというのが、これが今日の現状であります。これらの点は、これは例でありますけれども日本予算が、米国の了解なしに事実上最後に組み終り得ないといったような事実とともに、これらの点は直ちに直さるべきだと考えますが、これについて一つ御所見を承わりたい。
  26. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今御指摘のありましたような事項につきましても、私は従来の状態がそのまま永続される  ことは決して望ましいことだとは考えておりません。しかし、いろいろ段階を追うてこれを是正する必要のある問題も、今の御指摘のあったもののうちには、あるように思いますし、すでに将来ある段階のもとに改正される段取りになっておるものもあるように、私は承知しております。たとえば空の管理の問題等につきましても、ある一定の順序で日本の方へ移されるようなことになっておりますし、すべてこれらの今おあげになったようなことは、これは今申し上げたように望ましい形じゃない、適当な是正をされるように努力しなればならぬと、かように考えております。
  27. 吉田法晴

    吉田法晴君 近い将来に解決をさるべき問題としてあります問題に、領土の問題がございます。日ソ間において南千島、それから日米間において沖繩、小笠原、その復帰についてどういうプログラムを持っておられるか、お示しを願いたい。
  28. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 南千島の問題につきましては、私は日ソ交渉において領土問題が一番ガンであったことは御承知通りでありまして、此彼両国の主張が真正面から衝突しておる問題であり、今日まで数回あるいは数十回の会談において解決をみない問題であります。私どもは、日ソ間の国交を正常化して、そして日ソの友好関係を深めていくと同時に、大使を交換することによって、両方ともその国民的の気持や何かよく理解された上において、これを話し合っていくことが適当である。従って、日ソ間においてはいろいろ懸案の漁業問題やあるいは通商問題その他の問題を解決することにおいて両者の理解を深めていくというか、友好関係を増進していく、そうしてわが方の主張を十分に理解せしめて、これを実現するように努力したいと思います。また、沖繩の問題につきましては、すでに施政権の返還について国会の議決もありまして、アメリカ側にその意思も通告してあるのでありますが、アメリカ側としては、極東におけるこの情勢の緊迫している状態から、今返すわけにいかないということになっておりますが、私はよくこの極東における情勢等についても、世界情勢とともに、これを分析して、両国のこの考え方を一致せしめていき、また同時に極東における諸情勢の緩和にも、日本がこの上とも努力していって、この施政権の返還からまず実現するように努めていくことが必要であろうと、こう思っております。また小笠原の問題につきましては、今一番問題になっておりますのは、小笠原の従来の住民の帰島というものが——島へ帰る問題が、ずと懸案になっておりまして、まだ解決を見ないような状況であります。根本は、これらの領土問題を解決するということは、アメリカとの関係におきましては、要するにサンフランシスコ体制というものが根本的に是正されるということになるわけでありまして、それには極東における情勢、国際情勢あるいは世界情勢というものの全体にも関連を持っている問題でありますけれども、わが方の主張は、機会あるごとにこれを向うにわれわれがなぜそういうことを強く要望するか、という根源をよく理解せしめて、順を追うてこれは解決することが適当であるし、ソ連の関係においては、やはり日ソの間の友好関係というものをもう少し進めて理解を深めていかないと、この領土問題は昨年、一昨年の経過から見てなかなか解決がむずかしかろう。いずれにしましても、すでに国民的の一致しておる要請であるところのこれらの領土の返還については、今申しましたような方針のもとにこれは実現をはかっていきたい、かように考えております。
  29. 吉田法晴

    吉田法晴君 沖繩の問題はあとでまたお尋ねをいたしたいと思います。  これは大蔵大臣にお尋ねをすることになるかと思いますが、第一次補正、第二次補正の緊急性と申しますか、ほとんど三十一年度に使うのではなしに三十二年度において使う費目が多いようでありますが、第一次補正あるいは第二次補正を三十一年度においてしなければならぬ緊急性は何であるか、一つお答え願いたい。
  30. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 第一次補正は、御説明申し上げましたごとく、将来の産業特別会計に必要な金が予想いたされますので、本年度出て参りまする自然増収を、財政の弾力性の意味から、資金として将来の投融資に充てようといたしておるのであります。第二次補正の支出金額は、交付税を除きまして、ほとんど三十一年度中に使用するのでございます。
  31. 吉田法晴

    吉田法晴君 三十一年度に自然増収はどのくらい見込まれておりますか。
  32. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 三十一年度の自然増収はまだ締め切りませんので、正確な数字はわかりませんが、ごく最近の収入状況は非常によろしゅうございまして、一月末ごろに大体九百数十億円と見込んでおりましたが、最近の情勢によりますと一千億をこえまして、千百億円程度に相なるのではないかと思っております。
  33. 吉田法晴

    吉田法晴君 そういたしますと、この第一次補正、第二次補正できまりました残りは五百五十億をちょっとこすと、その取扱いはどういうようになさるおつもりでありますか。
  34. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) お話の通りに、租税収入の自然増収補正予算財源になりましたものを除きまして、五百五十億程度と相なると思います。正確な数字ではありません。これは三十一年度の剰余金の財源になるのでございまして、租税収入以外の歳出不用額と合せまして、三十三年度の歳入になってくるわけでございます。
  35. 吉田法晴

    吉田法晴君 これは戻りまして首相にお尋ねをいたしたいことでありますが、この第一次補正では、三十一年度の自然増収の一部を産業投資特別会計に振り入れて、そして三十二年度に使う、こういうことでありますか。  それからこれは別のことになりますけれども、三十一年度の食管会計の赤字は三十一年度の補正予算補正しないで、しりが出たところで補てんをしよう、こういうお話でございます。で、この民主的な財政制度はどうしてでき上ったか、あるいはどういう原則で貫かれておるかということは私が申し上げるまでもございませんが、継続費、債務負担行為等を通じてその年の税金は国民からどういう工合に徴収するか、それについて国会国民の了承を得る、あるいはその金は税金をどういう工合に使うか、国会国民の承認を得る。こういう点がだんだん何と申しますか、一部でくずされてきておる。産業投資特別会計へではありますけれども、それを三十一年度補正をしてその次の年に使う、あるいは食管特別会計の赤字を、三十一年度分を三十一年度で埋める、こういうごときこれはやっぱり財政の民主的な制度を、私はだんだんくずしていくものである、こういう工合考えるのでありますが、総理なり大蔵大臣はどういう工合にお考えになりますか。
  36. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 財政法ではお話の通りにその年の歳入でその年をまかなうことが原則になっております。予算単年度制度と申しております。しかしいろいろなやっぱり財政経済上の事由がございまして、予算単年度の例外をなすものとして継続費とかあるいは予算国庫負担契約、こういうふうに相なっておるのであります。継続費あるいは予算国庫負担につきましても、事理を説明して国会の承認を得ることになっておることは御承知通りでございます。  それからもう一つの問題に予算単年度制度の例外といたしまして、財政法第四十四条は例外として特別の資金を設けることができることを規定いたしておりますが、やはり原則は原則、例外は例外として規定しでおりますので、昭和三十一年度のごとく自然増収のみをもってしても一千億円を上回るという場合におきまして、私は将来の財政投融資のことを考え、この際資金を設けた方がいいと決意いたした次第でございます。  なお食管会計の方で三十一年度の赤字を埋めないのはどういうわけか、こういうお話でございまするが、食管会計の赤字につきましては、その年の見込みによって一般会計から繰り入れる場合もありましたが、私の考えではいずれをとりましてもいいのでございますが、今年のごとく、食糧管理特別会計におきまして、根本的な合理化をはかっていこうという場合には、やはり決算確定を待ってやるのが適当だ、ことに私は食管会計の赤字は食管会計法付則第二項に規定しておりまするがごとく、決算確定を待ってならば特別の立法を要せずして一般会計から繰り入れることに相なっておりますので、この規定によりまして特別の法律を設ける案を避け、今回は先ほど申し上げました合理化をはかっていこうというときでございますので、決算確定を待って入れて差しつかえないと考えるわけでございます。
  37. 吉田法晴

    吉田法晴君 差しつかえがないことはわかっておるのですけれども予算単年度制の崩壊があちらこちらでだんだん行われてくる。それともう一つ決算確定を待って云々という点は、食糧管理制度についての合理化と関連があるから私は残しておられるんじゃないか、こういう工合に思うのでありますが、これに関します一月八日から十五日あるいは二十六日等の閣議決定あるいは了解等も、実はもう一ぺん引き出して見たのでありますが、食管の特別調査会、臨時食糧管理調査会、これは七月末までと存続期間が定められております。七月の末までに結論を出すということになっておりますが、閣議決定との関係で七月末日までに結論を出す、こういうことになっておるのかどうか。それからその点は一番最初の一月八日の閣議了解は、内地米配給価格の引き上げを行うとともに、国内産の、これは麦価と書いてありますが、米麦価だと思いますが、体系を調整し、食糧管理を合理化すると、こう書いてある。この閣議了解は、あとで合理化あるいは米価その他特別会計基本問題を処理する。こういう工合に変ってはおりますけれども、すなおに、すなおにと申しますかその底意を考えますと、食糧管理制度の改革をやって米価を引き上げるというつもりなのか。先般総理大臣は、食糧管理制度は現行通り参りたい、こういう方針を別の機会に述べておられます。本年度中食糧管理制度は現行のままでいって価格は据え置きでいかれるのか。そのいずれであるのか、はっきり一つ承わりたい。
  38. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 食糧管理特別会計におきましては、いろいろ困難な事情がございますので、米価の問題等、あげて臨時食糧管理調査会に問題を付議いたしまして結論をみたいと思うのであります。それまでは米価その他につきましては全然白紙で進んでおるわけでございます。
  39. 吉田法晴

    吉田法晴君 白紙で進んでおると言って三十二年度予算を審議し、それから三十一年度予算補正をここで審議をしておるわけです。三十一年の赤字を三十一年度で補てんをすべきであるか。この点がはっきりしないからあとに決定を待ってうんぬんということであるから、三十二年度中には食糧管理制度は現行通りいくと、従ってまた価格についても現行価格でいくのかどうか。こういう点ははっきりしてもらわないと、これは予算の審議はできません。
  40. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 三十一年度の食管の赤字というものは三十一年度の補正で私はすべきであると断定いたしてはいない。する場合もありまするが、しない場合もある。本則は食管会計法付則第二項できめておりまする、決算確定を待って、一般会計から埋めることが本則であろうと考えます。それはいずれでもいいという考え方はありますが、本則は食管会計法付則第二項できめておる、決算確定を待ってやるのがいいのではないか。ことに昭和三十二年度におきましては、食管の米価その他につきまして臨時調査会の議を待ってやるのが適当だと考えます。従いまして臨時食管調査会の結論が米の値上げをしないということになれば、ただいまの状況で参りまして、予定は一応百六十一億と予想はいたしておりまするが、この始末はできるだけ早い機会一般会計から繰り入れると、こういう考えであります。
  41. 吉田法晴

    吉田法晴君 総理の御答弁を願います。
  42. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 米価問題につきましてはすでに御承知のように、石橋内閣当時一応閣議の了解事項として、米価の引き上げということを一応きめたのであります。しかしその後において、この消費米価を直ちに上げることは適当でない。むしろ食管制度全体を十分検討して、これの合理化、健全化の方針をはっきりと立てる必要があるという考えのもとに、臨時食管特別調査会というものを内閣において、その審議によって結論を待ちまして、その結論によってさらに政府は責任を持って閣議できめて、これに対処するという考えをきめたわけであります。私どもは、将来消費米価を上げるということを前提として、これの調査会を設けたわけでもございませんし、全然今大蔵大臣の申したように白紙でこれには臨んで、調査会の意見というものを聞いてそうして政府の態度をきめよう、こういう考えであります。  なお昭和三十一年度の食管特別会計で予想される赤字を、三十一年度においてなぜ補正しないかという問題につきましては、十分われわれも研究いたしました結果、これはやはり今大蔵大臣が申したように、決算確定後において、これに対して一般会計からこれを埋めるというやり方をやることがよろしいという結論に達しまして、今回の補正予算にはそれを出しておらないというわけでございます。
  43. 吉田法晴

    吉田法晴君 重ねてお尋ねいたしますが、三十二年度予算を審議しております国会に、米価がどうなるかということについては御相談にならないのかどうか。七月末日までに調査会の結論が出たら、それは国会にも何にも報告なり相談もしないできめられるということでありますか。一月八日の閣議は白紙になっておるというお話がございましたけれども、その点だけは一つ伺っておきたいと思います。
  44. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 一月八日の閣議は白紙にいたしております。そうして調査会の審議を待って、そうしてもちろんその審議の結論が出ましたら、この結論を尊重することは当然でありますけれども政府の責任において、また米価の具体的な決定は米価審議会等に諮問いたしてきめなければなりませんが、そういうあらゆる法律的、政治的の責任を明確にして、政府の責任において決定するつもりでおります。
  45. 吉田法晴

    吉田法晴君 この点については同僚議員からあとまた質疑があることと思いますので、時間がございませんのでその次に移って参ります。  この民主的な公務員制度が従来のいわゆる官僚制度というものにかわったことは総理もご承知であろうと思います。ところがだんだんその民主的な公務員制度が職階制、あるいは人事院の勧告無視その他をもってくずされて参っております。そうして民間との間に相当の差を招来いたしておりますことは御承知通りであります。そのことは、これは今まで総理も心配されましたけれども、現在の網記問題その他の原因であることも一つの事実であろうと思います。今回の民間の賃上げその他によってさらに差が拡大をいたして参っておりますが、これらについて公務員に対してどういうように政府としては是正をしていく、あるいは公務員が誇りを持ち得るように給与、待遇の引き上げに努力せられるか伺っておきたいと思います。
  46. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 政府は人事院の勧告を尊重して、今回の給与の改正も行なっておるわけであります。申し上げるまでもなく、公務員あるいは公企業体につきましては、民間の一般の場合と違いまして、一切の争議行為が禁止されておりまして、従ってこれにかわるこれらの人々の権利または利益の擁護の意味におきましては、公務員について人事院というものが設けられており、人事院があらゆる給与体系、給与の現状等を調査いたしまして、適切と考えられるものを政府及び国会に勧告する、という制度になっていることは御承知通りであります。しかして私どもはこの人事院の勧告を尊重して、そうしてこれを実現するように努めることが政府のなすべきことである、という考えのもとに立っておるわけであります。もちろん今日の公務員制度は、かつての官僚制度とは根本的に違って考えておりますし、同時に今度の給与体系の改正につきましても、私どもは決して職階制というような考えでもってやっているわけではなくして、従来の職務給の考え方に基いての、この人事院の勧告を尊重して改正を提案しておる、こういう考えであります。
  47. 吉田法晴

    吉田法晴君 時間がだんだんなくなって参りますから、この問題については、また別な同僚議員からの質問に待つことにして、先般私は、これは岸外務大臣も関連されました御発言があった点があるようでありますが、沖繩に参ることができ、沖繩八十万の悲願を聞いて参りました。詳細は別に文書等で差し上げたいと思うのでありますが、基本的な点についてお尋ねをしたいと思うのであります。  沖繩日本の領土であり、沖繩八十万の県民が日本国民であるという点は、これははっきり認められるかどうか、まず承わりたいと思います。
  48. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 沖繩に対して、日本がいわゆる潜在主権を持っており、また、沖繩の住民が日本人であるということについては、今御質問の御趣旨と全然同感でございます。
  49. 吉田法晴

    吉田法晴君 先般施政権の返還を個別的にでも要求し、実現するという意味の御答弁があったようでありますが、その意味はどういうことでありますか、もう少し詳しく承わりたい。
  50. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 施政権の全体の日本への返還というものを国会は議決をいたしておりまして、その意思が通じてあります。この目的をもちろんわれわれは実現しなければなりませんけれども、その段階としては、これを一括して日本に返還するということは、なかなか現在の状態からいうと、私は困難じゃないかと思います。そうしますというと、たとえ一部であっても、これはたとえばの話しでありますが、たとえば教育に関するもののごときは早く返してもらうというような、いろいろ向うと話し合って、たとえ一部であっても、そういうような問題から解決していくというと、全体を解決する足がかりになり、段階になる、こういう意味で申し上げたのであります。
  51. 吉田法晴

    吉田法晴君 沖繩の今日の地位の根拠となっておるのは、講和条約第三条だと思いますが、一九五三年には、この第三条の西南諸島のうちの北部奄美大島等は返っておる。そうすると、この条約にいう沖繩の法的地位というものは固定したものではないと、こういう工合考えますが、どうでしょうか。
  52. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 講和条約第三条の解釈は、一応文理的にアメリカ側の一方的考えで、将来委任統治にすることのできるような、それを予定しているような文理上の解釈ができるのであります。しかし、実際問題として、今お話しになりましたように、奄美大島は返しておりますし、私どもはこれを将来日本に当然返してくれることを予期しておりますし、また、そういうことを期待いたしておりまして、必ずしも文理解釈上そういうことを予定しておるからといって、沖繩法律的地位がこれによってはっきりときまって、動きのならないものであるとは考えておりません。
  53. 吉田法晴

    吉田法晴君 戦争中の、あるいは終戦までの事柄については、日本政府が全責任を持つべきだと先般お話がありました。そうすると、ここに出ておりませんが、いや有給吏員の方は出ておりますけれども、徴用船舶のことについての補償、あるいは郵便貯金、簡保年金、それから国債等は、これは当然補償さるべきだと思うのです。金額が、有給吏員の恩給が四千万円、徴用船舶のあれが一億、それから郵便貯金等のやつが六千五百万弱でありますが、こういうものはこれは当然出さるべきだと思いますが、どうしてそういうものが出ていないのか承わりたい。
  54. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 終戦前のいろいろな関係につきましては、事情がまだ明確にわかっておらないところが、たくさんあるのでありまして、十分一つ事情を明確に調査しまして、これに対する適当な措置考えていきたいと、かように考えております。
  55. 吉田法晴

    吉田法晴君 はっきりすれば、今申し上げたような金額、どんな金額になりましょうとも、これは出すと、こういうことですね。
  56. 岸信介

    国務大臣岸信介君) まず事実をはっきりして、そうしてそのおのおのに対する処置を具体的に考えていかねばなりませんので、事実が明らかになれば、全部政府が払うのだという結論をここで申し上げることは、私は早かろうと思うのであります。事実をよく調べまして、その事実に適応した処置をそれぞれ考えていきたいと、こういうことでございます。
  57. 吉田法晴

    吉田法晴君 それでは先ほどの終戦までのあれについては、全責任を持つということとは違うのでありますが、たとえば引揚者について、有給吏員の隠退料と合せて一億というのでありますが、引揚者についても、本土の例にならいますと、一億じゃなくて、二億七千万円くらいになるかと思うのでありますが、どういう計算をされたのでしょうか。
  58. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 引揚者に対しましては、今回の措置は三百万人をこえておるのでございます。そのうち沖繩関係の方々が七、八万人あると思います。しかして、それら引揚者に対する処置として出すのでございますが、今回予算審議を行なっておりまする一億円なるものは、それとは違いまして、引き揚げた方々が非常に生活にお困りでございます。内地の引揚者は、以前におきまして国民金融公庫から三十億円程度の融資をいたしておるのであります。で、それにならいまして、今度は一億円のうち大部分が、引揚者で生活困窮者に対しまして沖繩政府の貸付金に充てようと、こういうことでございまして、引揚者に対する今回の措置とは違った考え方のもとにいっておるのであります。
  59. 吉田法晴

    吉田法晴君 琉球政府を通じて貸し付けるということでありますが、琉球政府をどういう位置づけをして貸されるのでありましょうか、自治体同様の取扱いになるのでございましょうか。
  60. 池田勇人

    国務大臣池田勇人君) 琉球の政府にそれだけ出しまして、適当に処理していただきたいという考えでございます。なお、一億円の中には、引揚困窮者に対する分と、沖繩県に使われておった職員の方がございます。これらの人に対しまして、恩給請求権を認めてどうこうとかいう問題につきましては、なお検討の余地がございますので、一億円の中から、沖繩政府において、そういう沖繩県に勤められておった職員の方々には、一時金としてと申しまするか、見舞金としてと申しまするか、そういう方々に対する分も一億円に含めておるのでございます。
  61. 吉田法晴

    吉田法晴君 インド等で船員が、インド政府との間に問題が起りました場合には、日本の領事館を通じて世話をしておるということでありますが、その点は、沖繩県民がインドその他の外国に参りましたときには、日本人としての取扱いを受けるということだと思います。中国——これは国民政府でありますが、台湾の警備船か何かに、先般第三清徳丸というのが連行をされ、人間、船ともまだ帰って参りません。これは重光外務大臣のときであったかと思いますけれども、質問をしておりますが、そのまま回答なしということになっております。これについて、どういうようにお考えになりますか。私は日本政府が折衝をすべき問題だと考えるのであります。
  62. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 沖繩の人たちが、外国においていろんな問題を起す場合におきましては、言うまでもなく、日本の在外公館は十分これが保護につきまして、アメリカと共同してこれに努めております。今、御指摘の船の問題につきましては、沖繩の近海においてそういう船が国民政府につかまったということであって、これはもちろんアメリカが第一の保護の立場にあるので、アメリカのいろいろな機関を通じて、その事実を調べさせたのでありますが、その事実が明確にならないというのが、今までのお話でございます。
  63. 吉田法晴

    吉田法晴君 沖繩の県民が日本人であり、日本政府から責任を持ち、いろいろその幸福をはからなきゃならぬというのであるならば、米軍による沖繩の人畜に対する被害、あるいは土地の賃貸借、あるいはこれに対する補償等は、これは完全になさるべきであるし、それから人種の差別に基く賃金の欠配のごとき、あるいは人権問題等については、当然これは政府が申し入れらるべきだと思うのであります。どういう工合政府としてはお考えになりますか、伺いたいと思います。
  64. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 御承知通り沖繩における施政権を一切アメリカが持っておりまして、一切の責任をアメリカが負担して、日本人である沖繩の住民のあらゆる点の保護に当っておるわけであります。しかし、沖繩住民のいろいろな要望なり、あるいは何らか米軍との間にトラブルが起ったような場合におきましては、私どもは常にその沖繩住民の意思をアメリカに通告して、これが実現をはかるようにという注意を喚起いたしておりますし、その他の事件が起りました場合におきましても、十分アメリカ側の注意を喚起して、これが妥当なる解決をするように努力をいたしてきております。
  65. 吉田法晴

    吉田法晴君 米軍との間のトラブルについては云々というお話しでございますけれども、従来の政府のあれを見ておりますと、先ほどの船の問題についてもそうでありますけれども、施政権が向うにあるということで、私は施政権が向うにあるといったって、講和条約第三条も固定的なものではないし、それからたとえば国籍も日本にあります。あるいは政府から、十一億にしても金を出すというのは、日本人だからこそ出されるのだと思う。国籍がアメリカに移っていれば、これはそうは参りますまい。しかも、私どもが参りました際に、これは当間主席、これが民政府のかいらいと考えられておりますけれども、それでもやはりまま子でないならば、早く日本からの救いの手を伸べてもらいたい、八十万の県民がまま子でないならば、まま兄弟でないならば、家族一致して救いの手を伸べてもらいたい、日本に帰りたいというのは、これは八十万の悲願だ。私どもが参わました南のひめゆりの塔、あるいは健児の塔等に参ります途中で、沿道に子供あるいは野ら着のままの農民、百姓さん、あるいは子供をおんぶした母親にしても、たくさんの人が沿道に並んで私どもを迎えてくれた。しかし、それは何も興味をもって見ているんじゃなくて、日本国会議員が沖繩に来た。そこで何と申しますか、残された道として、すがりつきたいと申しますか、日本国会議員を通じて祖国復帰の機会がつかまえられるのではないか、こういう訴えを、私は必死の目を通じて見て参ったのであります。これはひとり四原則、あるいは人権問題、あるいは祖国復帰というのは、八十万の沖繩県民の切望であるだけでないしに、これは九千万の国民の決意になっていることは、これは私が申し上げるまでもなかろうと思うのであります。それについて私は現地で多くの人から、日本政府だけが冷たい、こういう……ひがみかもしれぬけれども、そういう感じを持っておるということを言われて参りました。この要望にこたえるべく政府として、あるいは近くアメリカにも行かれることでありますし、総理外務大臣としてどういう決意を持っておるか、もう少し積極的にとにかく方針を承わりたい。
  66. 岸信介

    国務大臣岸信介君) お話しの通り沖繩の住民はこぞって日本の復帰を望んでおりましょうし、また、日本内地におります九千万人の同胞も、また沖繩の住民が日本人であり、同胞であるという考えのもとに、一日も早く日本に完全に復帰することを要望しておることを、私もよく承知いたしております。また、戦後あるいは戦争中あるいは終戦後、あるいはサンフランシスコ条約が結ばれた後におきましても、沖繩住民が常にこの念願を持っておるにかかわらず、これが今日まで到達されておらないし、また、アメリカが一切の施政権を持っておるというために、日本政府が十分なこともなし得ないということにあることは、非常  に遺憾に考えております。しかし、沖繩の住民の諸君が日本政府が非常に冷たい態度であり、頼りないというふうな気持を持たれるに立っては、われわれとしては、もちろん忍びないところでありますから、今回の十一億の問題も、ごくわずかではございますけれども、従来のこの法律関係や、あるいは条約の解釈上に、お互いの間に食い違いがあるということで、じんぜんと日を送るわけにもいかないという見地のもとに、こういう取扱いをしたのであります。われわれは今後あらゆる機会に、この完全復帰を実現するように努力するとともに、その中間において、沖繩の住民が、この日本政府が冷たいというふうな感じを持たないようなあらゆる施策をいたしたい、かように考えております。
  67. 吉田法晴

    吉田法晴君 施政権の返還一祖国復帰について大きな努力を願いますとともに、教育の点について先ほどお話がございましたが、もっと沖繩の本土との交通の自由等についても、すぐできることから一つ実現をしていただきたいということを要望いたしまして、沖繩問題については質問を終ります。  最後に、補正予算の中に出て参りました李ラインの問題、あるいは韓国抑留者の問題については、これは昨年来約束になっておる点でありますが、最近の実情と、それからその成否と申しますか、約束がいつ実現するか、この際承わっておきたい。
  68. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 何の問題ですか。
  69. 吉田法晴

    吉田法晴君 年度内に返すという約束でありましたから、それがいつ実現をするか、お見通しを承わっておきたい。
  70. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 韓国との問題につきましては、特に釜山に抑留されております漁民を、「日も早く日本に返すという考えのものに、韓国との間にずっと交渉をして参りまして、昨年末においては、前内閣のときから、年内にこれが帰国できるようにという目標のもとに交渉して参ったのであります。ところが、なかなかこの問題がいろいろな問題に関連をいたしまして、今日までまだ交渉が最後的の段階に来ておりません。が、その後においていろいろの提起される問題を、一つ一つ両方で話し合い、歩み寄りをいたしまして、今日におきましては大体最後的の段階に来ております。今、いつ必ずできるということを明言することはできませんけれども、私は最後的段階に来て、遠からずこれが解決をみる段階だということだけを申し上げておきます。これは私、外務大臣就任以来、最も早く解決をしたいという考えのもとに交渉をずっと続けて参りまして、ようやく最後的段階に立ち至っておりますので、ごく遠くない時期に、釜山の抑留されておる漁民は、日本に帰られることになると私は申し上げ得ると思います。
  71. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 補正予算に関連をしまして、産業投資特別会計中心に質問をしたいと思うのですが、産特会計は申すまでもなく電源開発の問題、電力の問題が大きな問題になっておりますので、それに関連するものとして原子力発電のこと、特に原子力発電自体の問題については、後ほど企画庁長官にお尋ねをしたいと思うのですが、総理には一点だけ、原子力委員会の湯川委員がおやめになるというような話しであります。しかも、そのおやめになる理由が、一応表面上は病気を理由ということになっておりますが、いろいろ伝えられるところによると、そうばかりではなくて、あるいは研究所の問題、さらにはもっと根本的には原子力発電をどう扱うかという問題で、政府、あるいはもっとあれすれば、財界の業者諸君がもっぱら学者諸君の意見を無視して早急にやろうとしてそれを強行をする。それらの方針に対する不満その他から、やめる決意をされた事情があるというようなことが、いろいろ伝えられておりますが、これらの点はどういうことになっているのか。それから辞意を申し出られたのは、これは筋からいえば、宇田長官のもとに申し出られるのじゃないかと思いますが、それを経由しないで直接に総理の方に申し入れられたということが報ぜられておりますが、それはどういうことを意味するのか、その辞意に対して、総理はどういうふうにこれに対処しようとしておられるのか。
  72. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 今回湯川博士が原子力委員会委員をやめたいという辞意を、湯川博士の中学時代からの親友であり、非常に親しい間柄である、私もよく承知しております湯浅佑一君が、辞表を持って私を訪ねてきたのであります。事情は湯浅君から私が直接に聞いたことでありますが、湯川博士は最近非常に健康を害せられて、神経性の胃腸障害ということが直接であるけれども、こういう症状は、湯川博士がかつてアメリカにおいてもそういう症状になったことがあるが、最近原子力委員になって、学者としての研究ということがほとんどできないほど、いろいろ原子力委員としての——ああいう学者らしいまじめな人でありますから、非常にりちぎに考えられて、重大な責任を感ぜられて、そのために健康を非常に害せられた。主治医の話によれば、どうしても絶対に面会謝絶で、そうして数カ月静養し、あるいは研究の問題も、しばらく離れて転地して静養する必要があるというように非常に健康を害せられた。自分も会って、この上原子力委員というものの敷地におることは、ああいう学者に対して自分としては非常に考えなくちゃならぬと思って、むしろ、この際健康を十分回復して、そうして本来の学者としての研究に精進せしめることが国のためであり、また、学界のためであるということを自分が確信して、本人がぜひ原子力委員をやめたいというこの意向を、自分ももっともだと思うという意味において私のところへ出られまして、同日直ちに石川一郎氏並びに宇田国務大臣にも話しをするということでありました。私としては、湯浅君と親しいから、その病状等とも考えて、あるいは一応原子炉の設置の準備委員長というものをやられておるが、これが非常に健康にさわっておるのじゃないだろうかとか、あるいはその方をやめられて、原子力委員だけは残っておられたらどうだろうという意見も、実は私親しい間柄で話したのであります。しかし、湯浅君の話しでは、自分も最初そう思ったけれども、しかし、今日のどうも健康状態からいうと、やはり原子力委員も辞任して、そうして専心静養さすことが、友人としても必要であると自分は思うに至ったから、実は来たのだ。ぜひこれは、今回は本人の辞意を認めるように骨を折ってもらいたいと、こういうことでありました。それで、私は辞表を一応お預かりしますけれども、さらに担当大臣である宇田国務大臣等とも、とくと相談した上で、何分の御返事はすることにいたしましょうと言って、お別れをしたのであります。その後、同日宇田国務大臣とも、石川氏とも、湯浅君は会われまして、同じ事情をるる述べられたようであります。なお、そのことにつきましては、宇田国務大臣から、私報告を聞いておるのでありますが、藤岡君を京都に派して慰留に努力するということでございました。その程度の経過でございます。いろいろ世間では、あるいは新聞等におきましては想像の記事も出ておるようでありますが、私は今申し上げたことを事実であると信じておりますし、ああいう学問的に非常にすぐれた人であると同時に従って、政治的なことや、その他のことに関しては、われわれが想像することよりも、より以上に神経を労せられておるのじゃないかと、実は考えておるわけであります。
  73. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そういう辞意の申し出があったにもかかわらず、やはり少くとも原子力委員としては、ぜひとどまってもらいたいという意向に対しては、なお堅持して、それを慰留をし、説得されるというおつもりでしょうか。
  74. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私自身が湯浅君にもそういうことを申し出ました。宇田国務大臣の方からも、藤岡博士を京都に派してやはり同じような意向を通じて、慰留に努めておるという状況でございます。
  75. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 宇田長官にお尋ねしますが、原子力委員、特に学者側の委員としては、理論物理学の学者よりも、工学関係の学者の方がより適切だ、という御意向をお持ちですかどうですか。
  76. 宇田耕一

    国務大臣(宇田耕一君) 理論物理学の学者よりも、工学関係の学者が好ましい、そういうようなことは考えておりません。ただ、原子力委員会委員としては、湯川博士のような、その道の世界的な権威のある人が好ましいものであると、こういうように思っております。
  77. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 二、三の新聞には、宇田長官は工学関係の学者の方がより適切だし、ぜひ、そういうふうに考えたいということをお話しになっているようですが、そういう御意向ですか。
  78. 宇田耕一

    国務大臣(宇田耕一君) 委員会委員の構成から見て、湯川博士が、もしどうしても御病気その他でおやめにならなければならんという場合には、どういうふうな構成にするのが好ましいかと、こういうことになりますと、原子力の現在の世界的な趨勢から見ると、工業方面のエンジニヤリングの知識をこれに加えることのできるような委員会の構成が必要である。そういうふうに委員会では話はしております。
  79. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 そういうふうな考え方であるのならば、やはり湯川さんが、そういう考え方があるとすれば、自分はむしろこの際やめた方がいいのだ、ということをお考えになるのは当然であるし、ことに健康を理由としてでも、一ぺんそういうやめるという決意をされ、しかも長官がそういうお考えであるならば、これは慰留をするということは、むしろ形式的な問題にすぎないのであって、やはりやめてもらって、あと、より適切な人員構成を考えた方がいいという気持がほの見えることは、もう明瞭だと思う。そうなればやはりこれは、辞任の理由は、今、総理がおっしゃったように、単なる健康の問題でなくて、構成の問題であり、さらには、それはもっと背後の問題を言えば、さっき言ったような、学者側の意見に反して、財界の諸君が特に性急にそういう問題を促進をしようという意図の現われであるとしか思えない。長官はそういう気持で、ああいう新聞の談を言われたのかどうか。今もそういうことを言われておる限りにおいては、これは慰留をしようとされたって、絶対に慰留に応じないことは明瞭であると思うのです。人を説得する場合に、そういう含みを持って説明ができるとお考えになっておるのかどうか。そういう軽卒な態度をとられるから、こういう問題になるのじゃないか。これはあなたの非常に重大な責任であると同時に、もし、その考え方が正しいのであるならば、当初の原子力委員の選定基準が誤っていたのだ、理論物理学者だけ二人も入れたということが間違っていたのだということになって、前からのあなた方の保守党の内閣の責任になるし、いずれにしても、そのどちらかの重大な政治的な責任であると思うのでありますが、まずこの点について、総理はどういうふうにお考えですか。ああいうことで慰留ができるとお考えになりますか。
  80. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 私は先ほど申し上げた通り考えに立っておりまして、従って湯川博士がこの際考えをひるがえして、原子力委員だけに残っていただくということができることが一番望ましいと実は考えて、湯川博士と特別の親密な関係にある藤岡博士を慰留に出すということを私も承認をいたしまして、藤岡博士が京都に行っておるということであります。しかし、同時に湯浅君を通じての湯川博士の気持から申しますというと、これをひるがえせしめることは、相当に困難であろうということは、もちろん私は予想してあったわけであります。もしもどうしても慰留できなかった場合においてどうするか、という問題については、まだ私は担当の大臣から意見も聞いておりませんし、また、私自身の意見もこれについて発言をいたしておらないわけでありまして、私としては、最初に申し上げた通り、もしも湯川博士が思いとどまって、原子力委員だけにとどまって、それ以上のいろんな負担をかけないということを承認してもらえれば、一番都合がいいという考えでございます。
  81. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 宇田長官どうですか。
  82. 宇田耕一

    国務大臣(宇田耕一君) 私は、湯川博士の慰留については、ただいま総理から申された通りでありますが、ただ御承知通り原子力委員会の構成というものは五人でありますけれども、あとの二名は任期が六月に参りまして、そして半分々々、一年半で交代しなければならないということになっておりますから、そういう場合に、交代の時期が近づいて参りますと、委員会では次の構成は当然二人ずつ交代をしなければなりませぬが、選考の場合には基準をどういうふうにするものであるかということを委員会の内部ではそれぞれ委員の責任において意見が出ております。その出ておる意見を、昨日もある委員からこういう構成が将来、二人はどうしても六月に交代しなければならぬのであるけれども、ただいまの委員会議としては、工業的なエンジニアリングを必要とするのではないかということが話題に出ております。そういう場合に、現在の四人でいいのか、あるいは増員によって新しく委員を求めていくか、それはこれからの委員会が取り上げて検討しなければならぬ問題である。これは従来からずっとそういうことを言うております。それで、湯川博士の場合に、そういうことを特別にここに話題に出して、湯川博士の慰留に対して、非常な蹉跌を来たすようなことにならぬように配慮はしなければなりませぬ。こういうことは十分話し合っておったわけであります。それで、昨日の四時ごろに湯浅氏が見えての話を伺いますと、当初約束をしたのは、研究時間をさかないこと、また湯川博士の研究しておる以外の仕事について頭をわずらわさないことと、こういうかたい約束があったそうでありまして、それが、御承知のように責任感の強い方ですから、そういうふうな、時間をさかないこと、あるいは他の仕事に頭をとらわれないこと、ということがなかなかうまくいかなくなったから、どうしてもこの際研究に没頭する時間がほしい、あわせて、健康もすぐれない、こういうふうな話でありましたから、そのときに、ほかの委員の諸君も、慰留はするが、自分たちとしては深く考えなければならぬ、そういうのが、ざっくばらんに申してわれわれ委員会話し合いの結果であります。従ってここに私一人が独善でとやかく申し上げるのではなくて、委員会全部としては、委員会の責任によって、総理にわれわれの意見を具申しなければならぬ責任がありましたからそういうふうな話し合いをした、こういうことでございます。
  83. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 交代される予定の、任期がくる二人というのはどなたと、どなたですか。
  84. 宇田耕一

    国務大臣(宇田耕一君) 五月一ぱいで任期の参ります委員は有澤博士と藤岡博士であります。
  85. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 委員会においては、委員構成の問題でいろいろ論議がある、このことはあるいはあるでありましょう。しかし、そういうところで、過去何年ですか、一年ですかやってみて、そういう意見が出るということは、先ほど申し上げるように、当初の人選がいかに当を得ていなかったものであるかということの証明にしかならないと思います。そういうことを承認されて、とにかく前は悪かったんだというふうにお考えになるかどうかが第一点、次に、かりに委員諸君の間ではそういう問題が論議をされていたとしても、政治家である、国務大臣であるあなたがその上に立っておられるということは、これを政治的に配慮しながら扱わなければならないという問題である。そうでなければ何も担当の国務大臣その他がその上にすわっておる必要はない。その政治的に配慮をしなければならない大臣が委員会で純粋に技術的な意味においてそういう論議が行われているからといって、最もデリケートな時期に湯川博士が辞表を出されたその直後にそういう空気なり何なりを新聞に談話として発表するということは不見識きわまりない能度であると私は断ぜざるを得ないのです。それならば何も担当の国務大臣がそういうものを主宰する必要はないのですよ。その意味においてあなた自身の政治的な責任、さらに前の内閣の選定の標準を誤まった政治的の責任は何としても免れないものであると思うのでありますが、総理はどういうふうにお考えになりますか。
  86. 岸信介

    国務大臣岸信介君) これは、原子力の問題は佐多君もよく承知通り日本において全く新しい問題であり、と同時に世界的に見ましてもまた日本内地におきましても非常に進展のスピードの早いものでございます。一年前の原子力に関する日本のいろんな状況と、今日一年後のなにとは相当に私事情は変っていると思います。もちろん将来また一年後、二年後というときにはずいぶん私は急テンポにこれに関する諸問題が進展していくものだと思います。従いまして私は原子力委員最初のなにとして理論物理学の大家であり、社会的な権威であり、また国民的の、非常に一面においては国民の誇りと考えるような湯川博士が原子力委員会委員になられたということは、原子力に対する一般の認識を非常に高め、これに関する研究やその他のものを非常に刺激をし、促進することに私は非常に役立ったことであると思うのです。しかし、さらに一年たって見ましていろんな事情、またさらに一年たっての事情というようなものを考えて、将来どういう構成にすることが、さらにいいということがかりに議論をされましても、それだからといって最初にそういう人を任命したことが直ちに政治的責任を生ずるような誤まりだったとは実は私考えません。ただこれは第二の問題として今そういう湯川博士についてこれを慰留するという段階において新聞等の宇田国務大臣の発言が非常に微妙な点になって、従ってそれが及ぼすところのいろんな事情というものも十分考慮して、たとえ委員会の中においてどういう論議があろうとも湯川博士の慰留ということを、私もそうでありますし、宇田国務大臣もその他これを慰留するということは誠心誠意をもって慰留しておるわけでありまして、そういう段階にやや不穏当な影響を及ぼすような発言をしたということは、これは適当でなかっただろうと思いますが、私並びに宇田国務大臣も十分話し合って、われわれとしては誠心誠意先ほど申したように原子力委員だけに湯川博士がとどまって下さるなら、なお私はこれは非常に有意義であり、またそのことが望ましということについては私は一貫して考えております。
  87. 海野三朗

    ○海野三朗君 関連してちょっと。先ほどからるる総理と宇田長官から話を伺ったのでありますが、理論物理学者の考えというものは一般のそのアプリケイションをやる工科の方の人たちの考え、それから政治家の考えとは異なっていると思うのであります。その異なっているとはどういう点が異なっているかと申しますると、理論物理の学者は真理を探究しておるのであり、原子力というものはいかにあるべきかということをまず最初考える。それはもうアインシュタインも同様である。それを政治家の力が入りまして、応用の人や工科の人が入ってくるというと、原子爆弾なんかを考えて、悪い方面に、とんでもない方面に行くので、そこがよくない。それを、純粋な学者の考えと申しますと、これを湯川君はよく考えているはずであります。そこで、そこに原子力委員というもので、宇田長官が原子力委員長をしておりますから、そういう方面から一番政治的ないわゆる圧力で学者の考えを率直に申し述べることができない。一例を申しますと、この原子炉をあの京都に設ける問題につきましても、阪大と京大との争いがある。そこに政治的な色彩が実に濃厚なんです。そういうことが入ってきますと、自分の研究しておる真理の探究ということからずれてきまするので、そこにいや気がさしますのですが、これは私は湯川君の気持はよくわかるのです、私と専門が同じですから。私はその点につきまして、宇田長官といたしましては、どういうふうな今日までのあり方であったか、そういう点を深く反省なさって慰留をなさったらいいのじゃないか、こう思うのです。先ほど応用の方面の人云々がございましたが、それは全然考えが違います。応用をやるものと、真理を探究していって新しい道を開くのが理論物理でありますから、理論上からいいますると、そんなに劣っていない。日本の原子力についての学者の探究は、それはアプリケイションがあるので一つもそれができない。それで少し古くなりましたけれども、西野博士が生きていたときに、サイクロトンの問題にしても、研究費がたった三十万しか渡らなかった、そのとき、アメリカは三十億ドル使っておるものでありますから、その応用からこの原子爆弾というものができていったのじゃないか、こう思うのでありますが、この学者の考えをほんとうに宇田長官に一つ把握していただいて、学者の進んでいくべき道を阻害しないようにしていただかなければならないように思うものですが、そうしてあくまでも理論物理の学者をこれに加えて、この原子力がとんでもない方向に将来政治力によってあるいは曲げられることがあると思うのでありますが、そういう点についての宇田長官の一つ御信念を承わっておきたい。どの程度に理論物理学者というものをごらんになっておるか、ただ、応用さえすればいいのだというようなお考えではこれは全然違うのです。いかにあるべきかという真理の探究が理論物理でございます。その点の御信念を一つ承わっておきたいと思います。
  88. 宇田耕一

    国務大臣(宇田耕一君) 私はただいまの御意見と全く同感であります。ただ、人事を決定いたしますときには、われわれは委員会でもちろん推薦をいたしますけれども、そのほかに、原子力に関しましては、委員会の下に参与会員があります。参与会員は御承知の学界の学術会議議長以下たくさんのいろいろの方面の、理論物理学はもちろん、その他の学界の諸君が見えております。それらの諸君が人事についてもかなりの希望意見も申されます。その内容を一々私からここで申し上げるのは差し控えますけれども、いろいろの御意見があります。そうして、その意見等を参酌いたしまして、おそらく昨年の一月にこの人事は決定されたものだと思っております。そうして、そのときの事情等を聞きますと、やっぱりそれは国会の了解も求めて、そうして総理大臣の決定になったということを伺っております。従ってそのときの事情は、おそらく皆さんの御意見を十分に取り入れて今日の構成になったのだと、こういうふうに思っておりますから、その人事に対してはあくまでも尊重して、そうして初期の……推薦をせられたときの事情にそぐうように努力いたさなくてはならない、こういうふうに考えております。従ってただいまの御意見の点につきましては、私は全然それはそうあるべきだと考えます。
  89. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 岸総理大臣は少くとも宇田長官の言葉の非を、あるいは不穏当を、率直にお認めになりましたので、私はもうこの問題、これ以上追及をいたしません。ただ総理並びに宇田長官にもお願いをしたいのは、同時にそういう学者を動員をされるときに、初めの約束が理論的な研究をわずらわさないということで委嘱されたのでありますから、その方の運営については十分にお考えになって、初めの約にたがわないよう、しかも学者に最も有効に協力を願えるような特段の配慮をしながら、今後の運営をやっていかれることを特に希望をいたしておきたいと思います。  次に日中、日ソの国交回復の問題ですが、これはあらためて別な機会に、詳しく一つ一つについて御質問をしたいと思っておりますが、ただ一点だけ、非常に緊急な問題でありますから、ただ一点だけお聞きをしておきますが、日ソ交渉の問題、これは申し上げるまでもなく、漁業交渉が今のような停頓の事態に入っておる。しかしこの漁業交渉を漁業交渉自体として、これだけを孤立して交渉をされるならば、少しも道は打開しないと思う。これは日ソ国交回復後の両国の友好親善関係の増進の全般的な問題と関連をしながら問題の解決をしていくということは、漁業交渉もさることながら、それに引き続き通商航海条約の問題、あるいは少くとも貿易協定の締結の問題、さらには文化交流の問題、あるいは技術交流の問題、なお人的なひんぱんな交流の問題等を積極的に推し進めて、両国の友好関係を進めるんだという決意が強く示されなければ、なかなかこの問題は進展をしないというふうに考えられるのであります。そういう意味において、むしろ総理がこの際そういう政治的な判断をしながら、そういう角度から、政治的に促進をされることがぜひ必要であるというふうに思うし、またわれわれがいろいろな情報で得たところによると、ソ連側もそういうことを非常に希望をしておると私は確信をいたします。同時に、申し上げるまでもなく、あの日ソ国交の回復の場合には、世論がさまであれに賛成をしていなかったときに、社会党は率先してあくまでもその必要を説いた。同時に、それと並行して漁業者の諸君が、世の中の、ある意味ではあの当時は世の中の世論に抗してでもその必要を非常に説いたんであります。それで日ソの国交回復における功績——漁業者諸君の、これは経営者も労働者諸君も、その功績は非常に大きなものである、その功績は、ソ連側が十分に配慮をしながらこの問題の解決をするということも、またソ連が当然に考えていい点であると私たちは思う。そういうことを率直にソ連に要求をし、そういうふうに進めることを話し合いながらこの問題を妥結する以外にないと思いますが、その辺の点を総理はどういうふうにお考えになっておりますか。
  90. 岸信介

    国務大臣岸信介君) 佐多君の今の御見解に対しましては、私は全面的に賛意を表するものであります。実は新聞で御承知であろうと思いますが、私はそういう考えのもとにテヴォシャン大使を先日外務省に呼びまして、約一時間半にわたりまして私の考えを述べて、ソ連の政府にそのことを通じてこの問題を打開するようにということを申し入れたのであります。と申しますのは、私はこの国会においてしばしば言明しておる通り、自分はほんとうに真剣に日ソの友好親善関係を将来推し進めていきたい。それにはその究極の問題としては非常にむずかしい領土問題というものがあるけれども、その前にあらゆる面において両国の関係、友好関係、親善関係を進めていくということが私の念願であり、実は自分自身が日ソ交渉に当って、鳩山総理が当時訪ソされる前後において自分自身のとった態度についても、ソ連側はよく承知されておるはずであります。私はそういう意味において、この漁業問題というものが日ソ国交回復後一番初めにぶつかったところの両国の交渉事項である。これが友好的に解決されるということが、さらに両国の友好親善を進める上からいうと非常な私は効果があるし、またそれがもしも今のような状態で停頓し、決裂という言葉は私はこういうことには絶対に使いたくない言葉であるけれども、少くとも両国の間においておもしろくない形において停頓するということがあるというと、あるいは私のかねて考えておる両国の友好関係を増進していくという上からいっても、非常に自分としては残念であるし、おそらくそのことは、ソ連政府の首脳部においてもそういうことは非常に遺憾だと考えられるはずだと思う。そこでこの問題の妥結についてはこういうふうに考えております。日本の一般の国民感情からいって、私はこれは常識であり、冷静に考えるならば理解できると思うけれども国交が正常化しておらない、すなわち友好関係もでき上っておらないときにとった漁獲量と、友好関係ができて国交が正常化がされて、これから仲よく親善関係を進めていこうという年にとるべき漁獲量というものを比較して、少くとも友好関係が成立したので、これだけ北洋の漁業も都合よくいくのだということが国民に一般に徹底するような数量にきめられてこそ、私はほんとうの両国の友好関係というものが、これから日本の期待しておるように、また努力しようとしておる通りに動いていく、それがもしも期待を裏切るというような結果になるということは、これは非常に私は私自身として残念であるのみならず、おそらくソ連政府の首脳部もこのことについては非常に遺憾に考えられるような結果になると思う。今もちろん、こういう問題については、技術者なり専門家が統計的に、科学的にいろいろな検討をすべきことは当然である。その委員会でもやられておるけれども、さらに大局的な見地から、両国の友好関係を一そう進める上において一つ考えてもらいたいということを私は申し入れたのであります。もちろんそのときに、別にソ連側の方からあるいは通商の問題であるとか、あるいはその他の問題と関連してどうということは、向うからも提議もございませんし、私も関連せしめては話はいたしておりません。しかし自分は、これが第一歩であって、さらに通商の問題もあるし、両国の関係における文化の交流もあるし、あらゆる問題を一つ一つ積み重ねていくということが、両国の親善友好関係を進めるもとである、その第一の、いわば第一歩を踏み出したこの問題を、一つぜひ大局的にソ連の首脳部において考えてもらいたいということを申し入れて、まだ返事が参りませんけれども、そういう政治的な意味からこの委員会の交渉を見ておりますというと、あれだけにまかしておくのじゃ、なかなかこれは解決できないむずかしいような段階にあると思いまして、私は直接にテヴォシャン大使にそういうことを……テヴォシャン大使を通じてソ連政府に申し入れてある次第であります。
  91. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 その点は言葉の上だけではなくて、行為において誠意を持って友好関係を増進するというふうにお進めを願いたいと思うのですが、その当然なことが、当然であるはずのことがなかなか進まないのをいろいろ打診をしてみますと、どうもその中に、前任者であるところの河野前農林大臣の漁業交渉における秘密取りきめがどうも非常な障害になっておるらしい。この点については、しかし後刻御本人に来ていただいて徹底的に究明をし、あわせてそれがどうもあなた方保守党内閣の政治的な責任になると思いますので、そういう形で追及することにして、この問題は一応後の問題に留保をいたしておきます。  それじゃ、総理への質問はまだ残っておりますけれども、何か御時間があるそうでありますから、一応きょうはこれで解放いたします。明日また……。  それじゃ次に進みます。
  92. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) 質疑ありますか。
  93. 佐多忠隆

    ○佐多忠隆君 残っておる。
  94. 苫米地義三

    委員長苫米地義三君) 佐多君いいですか。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時四十九分散会