○中田吉雄君 私は、ただいま
議題となりました
昭和三十二年度特別会計予算補正(特第1号)に関しまして、
日本社会党を代表し、反対
討論を行わんとするものであります。
まず、反対をします第一の
理由は、本予算補正によりまする駆逐艦二隻の建造は、わが国の独立と平和に対しまするわが党の
基本方針と全く相いれないからであります。本予算補正は、
新設されまする臨時受託調達特別会計に関するものであり、この会計は、
日本国とアメリカ合衆国との間の
相互防衛援助協定に基き、米国より無償で譲渡される予定の艦船二隻を
日本国内で調達するため、新たに設けられるものであります。すなわち、これによっても明らかなように、これは日米間に取りきめられていますMSA協定に基くものであり、さらに日米安全保障条約に由来するものであります。これら安全保障条約、MSA協定については、わが党はその成立の当初より、かえってわが国の独立と平和を脅かし、民主主義をそこなうものとして、全党をあげて反対をしてきたところであります。自来両条約を締結いたしましてから、それぞれ安保条約は五年、MSA協定は生年を
経過いたして参りましたが、安保体制、MSA体制が、わが国の独立を妨げ、いかに平和を脅かしているかは、九千万同胞ひとしく身をもって、いやというほど体験しているところであります。すなわち、終戦以来十二カ年間を
経過いたしました現在においても、なお防衛分担金四百余億円をてことして、予算に対するアメリカの強い内政干渉を受け、また予算は軍事的な性格を与えられ、わが国経済の正常なる発展と国民生活の安定が著しく阻害されているのであります。若干の経済の好況をもって、この事態に目をおおうことはできません。また米軍は、今なお数百カ所の基地を保有するばかりでなく、その
拡大さえ要請し、ために内灘、砂川、相馬ケ原と、同胞相争い、国論は完全に分裂を来たしているのであります。かかる事態をこのままとし、幾ら再軍備をいたしましても、何ら安全保障とならないことは明白であります。従って、かような国民的悲劇の根源である安保条約、行政協定、MSA協定等の改廃ほど今日急務とするものはありません。不平等条約改廃のわが党の提唱が、一国民のほうはいたる共感を呼び起しておりますのは、這般の消息を物語るものと言わなくてはなりません。従って、わが国が今なすべきことは、本予算補正により、艦船の譲渡を
目的とし、艦船を建造し、安保、MSAの体制の
矛盾をさらにこの上
拡大することでは断じてありません。何よりも、安保体制を再検討し、これが改廃によって、新しいベースの上に日米百年の友好と真の平和のための
措置を確立すべきであります。しかるに、安保条約、行政協定を結ばれた当時、これを礼賛された自由民主党におかれてすら、その
矛盾を認め、岸総理自身、安保条約の再検討と岸政権てこ入れのための訪米
計画をされておりながら、ただでもらうのだからと防衛を安易に考えられて、依然として旧套を脱することのできないことを見ますると、岸
内閣の眼界もきわめて狭いと言わなくてはなりません。(
拍手)
そもそも、今回の米国よりわが国に対して、わずか二隻の艦船の譲渡とはいえ、これはアメリカの大きい世界戦略の一環としてのものであって、決して慈善
事業ではないのであります。すなわち、アメリカは一九四七年三月のトルーマン宣言以来、一九四九年四月のNATO、一九五二年四月のわが安保条約、一九五五年二月のSEATOを初めとし、ギリシャ、トルコの援助をきっかけとしてなされておりますところの一連の
措置であります。このアメリカの対ソ封じ込め政策に協力することに対する代償として、わが国へのこの艦船の援助が、果してわが国の防衛や平和について日米の利害の完全な一致があるでしょうか、まことに疑わしいと言わなくてはなりません。これは最近におけるアメリカの与国の動向を見れば明瞭であります。特に原子兵器や誘導弾兵器の出現とその発達は、安全保障条約の前提でありますアメリカの世界戦略と外交の一大転換と
修正が迫られております。すなわち、一九五五年においては、西欧同盟諸国は、人口において三〇・四%、共産主義諸国は三八・五%、中立主義諸国は二四・六%、面積においては、西欧同盟諸国はわずか三三%にすぎず、共産主義諸国は二七%、中立主義諸国は実に四〇%の多きに達しているのであります。すなわち米ソそのいずれにも属さない諸国が全世界の三分の一を占めているのであります。すなわち米ソ両勢力の間にはさまれた諸国で、わが国のような大国でありながら、米ソそのいずれかと割り切って、今なお対米一辺倒の外交政策をとっている国は、わが日本保守党のみと言わなくてはならぬのは、まことに遺憾と言わなくてはなりません。(
拍手)すなわち原子兵器の前には、勝利者はなん、原子兵器に防衛がないと言われている現在においては、現行の集団安全保障体制より、もっと次元の違った別な安全保障体制を探求すべきであります。ヨーロッパにおいてNATO、ワルシャワ両条約を包摂する新体制が熱心に求められています。アジアにおいても、自由民主党
内閣のごとく、一九四二、三年ごろの廃品同様の輸送機や哨戒機をアメリカからいただき、やがて原子力
部隊の駐留を求められ、中ソ両国を仮想敵国とするような方策が、断じてわが国の安全保障にならぬことは明らかであります。すなわちアメリカに偏せず、思想や制度は違っても、中ソ両国を敵にしない自主独立の、日本、米国、中国、ソ連を含むわが党の
相互安全不可侵体制こそ、最良の安全保障と言わなくてはなりません。(
拍手)元来独立の十分でない国が作る軍備は、いかなる原因によりましょうとも、自国のだめでなく、強国の手段に利用されているのが落ちであることは歴史がこれを実証するところであります。今なすべきことは、艦艇の供与を受けたり、軍備を増強したりすることではなく、アメリカからの完全な独立であり、基地の撤退であります。防衛力の充実が基地撤退の前提であってはならぬのであります。完全に独立してから、再軍備をなすべきかどうかは、国民の自由な意思によって
決定しても決しておそくないのであります。またインド、パキスタン、ビルマ、インドネシア、セイロン等、主要なアジアの諸国は、中共政権をいち早く承認しているにもかかわりませず、アメリカの意向をそんたくし、対中共政策をきめかねているようなことで、独立国の外交の面目はどこにありやと言わなくてはなりません。中国と国交を
調整しないことが日米外交であっては、それは協力ではなくて、対米従属と言わなくてはなりません。従って、わが国において大切なことは、繰り返して申しますが、米国からの独立の完成であり、外交自主権を確立し、積極的に対中共政策を確立すべきであります。しかるに岸総理は、安全保障条約の改訂を唱えられながら、また外交や防衛について、わが党と平仄を合わせ、世論を刺激しないような慎重な配慮を使われながら、その実、今回の
措置を見ても、徹底した対米追随の外交である点は断じて看過してはならぬと思うわけであります。鳩山、石橋
内閣の外交より、大きく後退している点は遺憾と言わなくてはなりません。本予算補正は単に駆逐艦二隻に関するものではなく、その日米の本質に触れる一端として、わが党は
基本的に反対するものであります。
第二に反対しまする
理由は、財政法上、憲法上等の立場からであります。
まず臨時受託調達特別会計の設置であります。特別会計は逐年増加の一途をたどり、本特別会計の設置をもって
昭和三十二年度には、実にその数は合計四十二の多きに達しています。これを、台湾、朝鮮等の特別会計を含んだ、そうして最も多かった大東亜戦争時代の
昭和十七年の五十一にはなお及ばないといたしましても、整理検討もせず、見さかいもなく特別会計を設置いたしますことは、財政法第十三条による単一予算主義の原則の例外として特別会計を認めた根本原則に反するものといたしまして、断固反対するものであります。次に、国庫債務
負担行為を三年間といたしたことは長きに失するものと言わなくてはなりません。債務
負担行為は、歳出予算とは違って、本来、後年度にわたるものであり、従来非常に長期にわたるものが多かったのであります。そこで、現行財政法においては、議会の
議決を経たものといえども、あまり長期にわたりますことは避くべきであるとしているのであります。それは時の
経過につれ、また議会の解散等で、その構成も変り、また経済界の情勢等の変化にかんがみて、財政法第十五条の三項は、これを三カ年以内と限っていたのであります。しかるに、本債務
負担行為を三カ年の限度ぎりぎりまでとったことは妥当の
措置ということはできません。国内におけるものならとも
かく、外国と、しかも、現在をもって明年を予測することのできない、ネコの目の玉のごとく変るアメリカの国防
計画を
対象とするものであっては、後年必ずや予算単価その他をめぐり紛争なきを保しがたいのであります。また、安保条約再検討の必要な現在、本予算補正を通じ、あるいは、これが本契約の真のねちいであったかもしれませんが、MSA体制に今後三カ年の長きにわたってわが国を縛りつけ、国民の要望であるところの安全保障体制の改廃を著しく困難にすることは断じて許すことができない点であります。(
拍手)
次に、丙号としての繰越明許費についても同様であります。繰越明許費が、本予算補正のごとく、軍事費を
目的にするものにあっては、かつての臨時軍事費がわが国財政に与えましたおそるべき悪夢を想起いたしていただきますならば、本予算補正によって、かかる治外法権的特権を与えることはできないのであります。
次に、受託契約に対して
政府が私契約としておる点であります。予算
委員会におけるわが党
議員の質問に対し、岸総理を初め
関係閣僚の答弁でも明らかなように、本予算補正による受託契約は、日米
相互防衛援助協定に基くものであり、単なる私契約にすぎないとして、事態の重大性に目をおわさんとしていますが、しかし決してこれを軽く見ることはできないのであります。ことに一国の国防に関するものであり、しかも一木契約によって譲渡を予定されています二千三百トン型のこの種艦船は、米国においてはすでに誘導弾フリゲートまたは駆逐艦として、誘導弾発射装置が据えつけられつつある現状にかんがみ、防衛の本質に重要な質的転換を与えるものであり、国の権利義務を制約するものであって、今回の
政府の
措置のごとく、私契約同様の取扱いをすることは、決して当を得たものでないと言わざるを得ません。国の権利義務に関し、国防と外交の本質にかかわる重要事項が、ほとんど日米安全保障条約からこれを除き、あげて行政協定に譲られ、現在、そのことが日米協力にかえって抜きがたい障害を与えていることをもってみましても明らかであって、当然
政府は、憲法第七十三条第三項に基き、日米間の条約もしくは協定を結び、国会にその承認を求めるべきであると存ずるものであります。しかるに今回、
政府はあえてこれをなさず、閣議の了解事項として事態を糊塗せんとすることは、憲法の
規定に違反するのそしりを免れないと言わなくてはなりません。……