○木下友敬君 私は、ただいま上程されました
健康保険法、
船員保険法並びに
厚生年金保険法の一部
改正及び自由民主党
提案の修正案に対し、
日本社会党を代表しまして、絶対反対の
討論をいたすものであります。(
拍手)
まず第一に、これらの
法案が今
国会に提出されましたことは違法であります。すなわち
健康保険法第二十四条の二、
社会保障制度審議会
設置法第二条の二によりますと、
社会保障制度に関する企画及び
立法等をいたします際には、総理大臣及び関係大臣は、あらかじめその大綱を社会保険
審議会並びに
社会保障制度審議会に質問しなければならないことが義務づけられておるのでありますが、今日上程されておりますこれらの
法案は、遺憾ながら上述の諮問を経ていないことは御承知の
通りでありまして、これは明らかに違法であるのでございます。法治国の国民といたしまして、かような違法のまま本議会に提出されましたことは、まことに暴挙であるとして遺憾にたえない次第でございます。(
拍手)
岸総理は就任以来、特に
国会運営の正常化を強調しておられますが、今や私どもは、岸総理のこのまことしやかなる主張が、全く国法を無視し、国民を欺瞞するものであることを知るものでありまして、まことに遺憾にたえません。さらに、
衆議院においても、また参議院においても、
委員会の
審議の途中におきまして、いまだ十分論議し尽されない以前に、多数の暴威によって
審議を中断された行為は、みずから
国会議員の任務を怠り、かつその権利を放棄したものでありまして、九千万国民
諸君に対しても、まことに申しわけないことであると思うのであります。(
拍手)
さて、
わが国社会保障制度の現状を見まするに、今日最も急速に取り上げなければならないのは、従業員五人未満の零細なる事業所に働く人たちを、医療
保障の中に包含することであります。これら百五十万をこえる気の毒な人たちは、日の当らぬ零細企業の従業者であるばかりに、きわめて低い賃金に押えられ、しかも、何ら社会
保障の恩恵がないために、一たん疾病におかされまするや、治療どころか、その日の生活にすらたえることのできない状態にありまして、疾病によっては、血を吐く思いでただ死を待たなければならない、実に同情にたえぬ状態に置かれております。これら五人未満の従業員を擁する零細事業所に働く従業員を、
一般勤労者同様、被用者保険の
適用対象とすることは、今日すでに常識でありまして、わが
日本社会党におきましては、衆知を集め、長い日月と精細緻密なる労作を経てでき上りました、きわめてすぐれた
法案を提出しておるのであります。
しかるに、
政府並びに与党におきましては、実態の把握が困難である、あるいは移動の激しいという事務的な
理由によりまして、全然これに手をつけていないことが、本
国会審議の過程において明らかになったのでありますが、その怠慢は、私どものとうてい許すことができないところであります。現在
わが国では、実に三千万に近い同胞が社会医療の面から置き去りになっております。私はその解決のため、本
国会においては必ずや国民
健康保険法の
改正案が、
政府、与党によって提出されるものと期待していたのでありますが、一昨二十八日の
委員会におきまして、神田
厚生大臣は、国民
健康保険法の
改正はとうてい手に負えないものとして、これを断念したことを明らかにしたのでありまして、私はその無力と無誠意にあぜんたらざるを得ないのであります。(
拍手)今や国民皆保険は、全国民のひとしく切望してやまぬところであり、わが
日本社会党は、早くよりその五カ年計画を意図し、詳細はわが党政策として天下に発表したところであります。このわが党の首唱に刺激されまして、自由民主党においてか、石橋内閣当時から国民皆保険を主要政策の一つに取り入れ、岸内閣またこれを受け継いで今日に及んでおります。本年度五百万人にこれを及ぼすと申しておりますが、従業員五人未満の零細事業所における従業員の保険を放置し、さらに、国民
健康保険法の
改正すら手をつけない状態で、何の国民皆保険だと言うことができましょうか。
政府、与党の無能と無誠意と無責任は、実に驚くのほかございません。
ここで、私は
法案中おもなる
事項について論じます。まず、私どもがこの
法案を見て最も憎しみを感ずるものは、一部
負担の増高でございます。そもそも一部
負担増徴の構想は、三十年度の赤字六十億を解消する手段として考えられたものであります。御承知の
通り、
わが国の健康保険の
保険料率は、千分の六十の場合、すでに世界
最高でございました。この六十億の赤字解消のため、三十年六月には
保険料率はさらに千分の六十五に
引き上げられ、一カ年一人当りの平場保険料は実に九千八百八十四円という、たくさんの額に上っております。しかし、このたびの
改正案によりますと、初診時には従来の倍額、あるいはそれ以上に当るところの百円を一部
負担として納めなければならない。しかも入院の場合には、毎日三十円ずつを支払って行かなければならないという仕組みになっておるのであります。このようにして、保険
給付に要する
費用は、すべて事業主と被
保険者の醵出による保険料によってまかなわれており、国は今日までのところ、
運営費のみを
負担しているのにすぎない状態であるのであります。しかしながら、
社会保障制度の一環として、強制加入の建前のもとに、国がみずから
管理に当っている
制度である以上、国が社会
保障に対する責任を分担する意味において、
給付費について一定率の
国庫負担を行うことは当然であります。現在以上一部
負担の増徴を行なって、赤字を満たそうとする考え方は、社会
保障の本質をわきまえないものでありまして、これこそ資本家的搾取意識につながる暴政と言わなければならないと思うのであります。(
拍手)現在、初診時の部
負担は、四十六円ないし五十円でありますが、これらの支出ですら思うにまかせぬ気の毒な患者がたくさんある社会の実情を見のがしてはなりません。これらの気の毒な人たちが、もし入院でもしなければならなくなったとき、毎日三十円ものお金を支払わなければならないことになりましたら、この人たちは、被
保険者でありながら入院さえできずに、みすみす死の道を急がなければならないという気の毒な状態になるのであります。為政者としては最も思いをいたさなければならない重要な点だと思うのであります。
そこで、この一部
負担のねらいでありますが、もちろんこれが保険
給付の
財源の一部になるのでありますが、そのほかに、いま一つ、一部
負担を増徴することによって患者の出足が鈍るということ、これがまた
政府のねらいであります。与党のねらいであります。すなわち初診時に百円を徴収することによって、受診率をぐっと押えようというのでございます。その結果は、果してどのような結果になりますか。申すまでもなく、早期診断による疾病の早期発見と早期治療、この機会を失う結果となりまして、患者をして重態に陥れるおそれがあるのでございまして、これは人道上許すことのできない重大なる問題を内蔵するものであります。(
拍手)言うまでもなく、病気は人生の最大の不幸であります。のみならず、病気によって貧困がかもされ、さらに貧困によって多くの社会悪が作り出されることを思えば、この意味においても、病者を個人にまかせず、一日も早く皆で助け合って健康を取り戻して行くことが、これが近代社会におけるところの当然の法則であるのであります。(
拍手)しかるに、一部
負担の増高によって、あえてこのあわれむべき弱者を塗炭の苦しみに陥れようとすることは、とうてい許すべからざる行為でありまして、人命よりも財貨を重んじる資本家的色彩と、国民の幸福よりも、
制度と権力を守ろうとする官僚独一善の臭気があまりにも露骨に打ち出されていることを、私は国民の一人として悲しまずにおれません。(
拍手)
次に、最も奇怪なのは
審査の官僚化であります。そもそも
社会保険診療報酬支払基金の任務は、診療
報酬の単なる支払い事務であります。それゆえに、現在においてさえも
審査が支払側である基金の機構の中において、一方的に行われていることはきわめて不合理でありまして、私どもはこれが
改正を叫んで参ったのでありますが、
政府はそれどころか、さらにこの点を強化して、
審査委員の任命権を基金幹事長の手に掌握せしめて、
審査業務を全く幹事長の支配下に置くことを企図しておるのでございます。今までさえ、
審査の切り捨てごめんのやり方には、診療担当者をふるい上らせたものでありまして、これが萎縮診療の原因となり、診療
内容の低下を来たしておるのでありますが、一たびこの改悪案が通過いたしました暁には、この傾向は数段激化されてくることをおそれるものであります。(
拍手)
次に、このたびの
改正案は、被
保険者並びに医療担当者に対する係官の検査、監査のはなはだしい峻厳化を企図しております。係官は、自由に家屋の中に侵入することがこの
法律によって認められるのであります。しかも私どもは、単に係官の質問に対する答えに誤まりがあったというだけで一万円以下の過料に処せらるるとか、係官の質問に答えなかったということだけで健康保険医の登録を剥奪されるという
ごとき、きわめて苛酷な
罰則が
規定されているのであります。さらにこれらの
措置を一そう峻厳化する意図のもとに
おいて、医療担当者と医療機関をそれぞれ別々に登録、指定することを
規定したのであります。実にアリのはい出るすきまもないというほどにきびしいおきてで、最も重要な協力者であるところの医療担当者を鉄の鎖で縛り上げ、むちでたたくといったような、きわめて理不尽な
法案であります。一体同じく日本人でありながら、ひとり医療担当者のみが、何ゆえに
かくの
ごとき封建的屈辱にたえ忍ばなければならないのでございましょうか。私は国民がひとしく憲法によって
保障されて
いる基本的人権が、国民の公僕たるべき官吏によって踏みにじられ、法によって認められた黙秘権が、一片の行政
措置によって否定され、その天職たる医業までが剥奪されるという戦慄すべき超時代的法規が、公々然と多数の暴威によって押し通されるという悲しむべき事実と、これによって引き起される社会不安をおそれるものであります。岸総理は、今
国会においてしばしば、心を入れかえて民主的政治家として努力すると言われましたが、今やこの
法律案を通じてみても、戦時中、日本刀の
ごとき鋭さで、そのファッショ的政策を大上段に振りかざして中小商工業者を泣かしめた、かつてのあの岸信介氏本来の姿が、政策を通じて明々白々に露呈していることは、わが日本現下の最大の不幸と言わなければなりません。
思うに、健康保険が実施せられて、「すでに三十年を
経過しております今日、なお
かくの
ごとき不安定な状態にあるは、全く歴代保守党政権の失政の跡を物語るものでありまして、私どもは、一月も早く私どもの手によって、私どもの打ち出す民主的理念による
改正によって、その抜本的建て直しをしなければならないと思うのであります。まず第一に考えますのは、現在
わが国の医療保険には、被用者保険だけでも、健康保険を初めとして
船員保険、日雇い健康保険、共済組合保険、厚生年金保険等、多種多様でありまして、何ら一貫した体系が形作られていないのであります。これでは
運営面においても、
経済面においても、きわめて不合理であります、非能率であります。ここで一大英断をもちまして、各種保険を有機的に整理統合し、保険体系の再編成を敢行するとともに、
運営の民主化と
合理化によって、医療
保障制度の確立をはかることが必要であると思うのであります。
これと同時に、重要に問題は、結核対策についてであります。今
わが国には、治療を要する結核患者は実に二百九十二万人にも及んでおります。健康診断の普及と診断技術の進歩によって、要治療者は、どんどん発見されて参ります。一方、結核の治療法もいよいよ進歩して参りまして、このことが急激に結核
療養費の膨張を来たし、これが健康保険その他の
保険財政を大きく食いつぶしているのが真相であります。すなわち健康保険
医療費の三六%は、結核
医療費であります。これが今日及び将来における社会保険の運命を左右する最も重要な課題であると思うのであります。しかるに、今日御提出になっている
改正案にも、また三十二年度
予算案にも、この重大な問題について何らの考慮が払われていないことは、きわめて遺憾であります。結核予防については、
全額公費
負担を打ち出してはありますが、肝心の治療費が従来
通りでありますことは、結核予防法を有名無実の骨抜きにするもので、ひいては、
経済的には、相も変らず健康保険依存という寄生虫的存在に転落させるものであります。このことは、再三にわたって
社会保障制度審議会が勧告して参ったところでありまして、私もまた、結核予防法を強化するにあらざれば、健康保険
経済の確立は、とうてい望みがたいと信ずるものでありますが、
政府の結核問題に対する施策は、きわめて微温的でありまして、とうていこの重大問題を解決する意欲と能力を持たないものと断ぜざるを得ません。まことに国民的不幸でございます。
以上、私は今日
提案されておる
健康保険法等の一部を
改正する
法律案を中心として論じましたが、
船員保険法並びに
厚生年金保険法の一部を
改正する
法律案についても、大体同様のことが当てはまるものでございます。なお、
船員保険法について、わが党の片岡議員が
提案いたしました
付帯決議案は、きわめて重要にして欠くべからざるものであることを付言いたしておきます。
以上をもちまして、私は反対
討論を終ろうとするものでありますが、最後に、強く
政府の注意と猛省を促したいことが
二つあります。その一つは、医療
報酬の適正化、すなわち適正単価の改訂であります。現在の単価は、実に
昭和二十六年以来据え置きであり、その後の社会情勢、
経済動態の実情とは、全く隔絶されたきわめて不合理なものであります。これでは医療担当者は、とうてい時代の要求するが
ごとき医療施設の充実
整備ができないのみか、その子弟の教育、さらに生活をさえ脅かされる実情であります。尊い人命を頂かる医療担当者の生活の
保障なくして、何の医療
保障ぞと私は言いたいのであります。私は、
政府がすみやかに早急に、大幅な単価の
引き上げを、万難を排して断行することを要求するものであります。
次に、医療
保障の円滑なる遂行には、特に医療担当者の協力を必要とすることは申すまでもありません。
保険者たる
政府としては、この点に十分に力をいたさねばならないはずであります。しかるに事実はどうであるか。第二十二
国会以来、全医療関係者は、一人残らず猛烈な反対を続けて参っております。従来もそうであったように、今回もまた、保険医総辞退をかけて反対を続けてておるのであります。すなわち去る三月十七日に、日本医師会幹部は、本問題に関して全会員の不信任によって総辞職を余儀なくされ、翌十八日、両国の国際スタジアムにおける日本医師会、日本歯科医師会合同の健保改悪反対、全国医師歯科医師総決起大会は、実に二万数千の医人が血の出る叫びを叫んだのでございます。しかして保守党政策の非を徹底的に糾弾したことは、すでに皆様が身にしみて感じられたことであると私は思うのである。(
拍手)一方においては、全被
保険者六百万の反対、一方においては十六万の医療担当者の猛烈な反撃、これで一体医療行政が、保険行政が、円滑にやって行かれるとお思いになるのでございましょうか。(
拍手)
以上をもちまして、私は本日提出されました
健康保険法等の一部を
改正する
法律案並びに自由民主党の提出になる修正案に対する反対の
討論を終えるのでありますが、申すまでもなく、健康は人生最大の幸福であります。健康のないところ、政治も
経済も、真にその成果をあげるものではありません。このことは前総理大臣の石橋氏の例によっても明らかであります。(
拍手)そのゆえに国民の健康を守り、これを助長するための医療
保障の発展拡充のためには、政治家たるものは、政党政派を超越して、全知全能を動員して、これが達成に努めなければならないと信ずるものでありますことを付言しまして、私の絶対反対の
討論を終るものでございます。(
拍手)