○柴谷要君 私は
日本社会党を代表して、ただいま上程になりました
国有鉄道運賃法の一部を
改正する
法律案に対し、
反対の
討論を行わんとするものであります。
思うに、
国鉄の消長がわが国の
産業経済に重大なる
影響を持っておることは、今さら贅言を要しないところであります。それゆえにこそ、
政府は、今回の
運賃法改正に当って、
国鉄の
輸送力を飛躍的に増大し、いわゆる
輸送の隘路を打開して、
国家の
産業経済活動、特に
国民生活に、より大なる貢献をいたしたいと申しているのも、これがためであろうと信じます。過去数年来、わが党は同様の見地から、
国鉄経営の
合理化、
近代化について
政府並びに
国鉄当局に対し、しばしば警告を発して参ったのであります。
政府は、基幹
産業の重点施策と称して、一方においては、他の基幹産案に対し莫大なる
資金、
資材を、いわば傾斜的につぎ込み、たとえば造船のごときは、必要以上の援助さえ与えながら、他方、全
産業の基盤となるべき陸運、ことにその基幹たるべき
国鉄には、何らの対策を講ずることなく、これを放置し、従来、
合理化と言えば、ただいたずらに
国鉄職員の努力、血のにじむような
労働強化にのみ依存するというのがその
実情であって、ついに今日の
輸送の大混乱を招来するに至ったことは、私の最も遺憾とするところあります。(
拍手)しかも、国際
経済の好転を契機としてもたらされた最近のわが国
産業経済の飛躍的な膨張
発展のために、
輸送需要の画期的増大が起り、さらに二年連続の農産物の豊作等々により、
輸送の隘路はいよいよ増大をし、それがために豊作貧乏という、泣くにも泣けない悲劇が全国至るところに続出する現象を呈したことは、
諸君のひとしく
承知されるところであります。
交通政策に対する
政府の無為無策は断じて許さるべきものではありません。しかして、おくればせながら、ここにようやく気のついた
政府は、
国鉄再建五カ年
計画なるものを発表して、
国民の目をごまかそうといたしておるのであります。しかしそれと同時に、これに便乗し、その財源と称して
国鉄運賃の
値上げを打ち出して参ったのであります。しかしながら、今回の
国鉄運賃の
値上げは、その
理由に乏しく、合理性を欠き、しかも他の適切なる方策をもってすれば、
運賃値上げを行うことなく、その再建
計画を遂行し得るのでありまするから、
国民のとうてい承服し得るところではないのであります。すなわち
政府の
運賃引き上げの
理由は、第一に、累積する
老朽施設の取りかえを行なって
輸送の安全を確保し、第二に、
電化、ディーゼル化等によって
国鉄経営の
近代化をはからんとするものでありますが、いやしくも
国鉄の累積した
老朽施設は、一朝にして起ったものではありません。長い戦争によって極度の酷使を行いながら、補強の道は断たれ、加うるに耐用命数を無視した無
計画使用、さらに戦後混乱したインフレ
経済の犠牲によるものであって、その復旧をもっぱら
運賃にしわ寄せすべき性質のものにあらざることは明白であります。換言すれば、戦時、
国家の無謀なる酷使の結果で、その責任はあげて国すなわち
政府が負うべきであります。
かかる事例に備えるためにこそ、日本国有
鉄道法は、その第五条第二項に、「
政府は、必要があると認めるときは、
予算に定める金額の
範囲内において、日本国有
鉄道に追加して、
出資することができる。」と規定しているのであります。しかるに
政府は、今日までこれを顧みることなく放置いたしておったことは、明らかに
政府の怠慢というも過言ではないと思います。
政府は、みずからの責任を回避するため、今回
国鉄運賃の
値上げを行い、
値上げ率一三%中、五%をもって
老朽施設の取りかえに充当するというに至っては、全く言語道断と言わざるを得ないのであります。(
拍手)何ゆえならば、
国有鉄道運賃法第一条に、
運賃策定の基礎基準に、
運賃及び
料金は原則として原価をまかなうものであることと定めております。
運賃策定の基礎として原価主義をとっていることは明らかであって、戦時中及び戦後の償却不足を、あすの
国鉄利用者に
運賃として
負担を負わしめることは、明らかにこの原価主義を逸脱せるものと言わなければなりません。その復旧は、
運賃値上げによるにあらずして、当然、
政府自身みずから
負担すべきものでありましょう。従ってわれわれは、この観点より、今回の
国鉄運賃値上げには絶対
賛成することができないのでございます。(
拍手)
第二点として、
国鉄の
電化、ディーゼル化等による設備
施設の
近代化でありまするが、宮澤
運輸大臣は
提案理由の説明において、
政府は、さきに臨時日本国有
鉄道経営調査会を設置して、広く民間有識者の
意見を聴取いたしたと申し、
運輸当局は、あたかも
運賃値上げが
経営調査会の至上命令であるかのごとく宣伝これ努めておりまするが、
経営調査会はその答申の中で、工事
経費の必要規模及びその
資金調達方法の項で、
国鉄近代化のため、
電化にディーゼル化、客貨車の増備などのごとき、将来、収益の
増加が見込まれ、少くとも収益の
増加の裏づけのあるものについては、
外部資金によることを明確に規定しているのであります。換言すれば、建設工事はもちろん、改良工事といえども、
採算上収益
増加可能なるものは、外部より
資金を導入することが企業
会計の立場から適当であると申しておるのであります。しかるに、本年度
国鉄予算は、
経営調査会答申の原則を無視し、将来、収益の存否いかんにかかわらず、そのすべてを
運賃値上げ案に依存せしめていることは、明らかに
経営調査会への挑戦といっても過言でないと思うのであります。現に
政府の
提案によれば、現在施行中の山陽本線、東北線、北陸線の
電化工事六十一億八千万円、これに伴う電気機関車、電車等の百二十三億円、さらに通勤
輸送緩和対策の東京、大阪付近の六十六億円、電車増備の四十四億円等、すなわち
運賃値上げ一三%中の五%をここに計上いたしているのでありまするが、これは明らかに
経営調査会の
意見に違反をし、
運賃原則の原価主義を乱るものと言わなければなりません。さらに七十五億円、すなわち残りの三%の固定資産に基く地方公共団体への
納付金、端的に申せば、明らかに
政府の
地方財政政策の貧困に基因するものであって、これこそ当然
政府がその責任において解決すべきものであるにもかかわらず、
国鉄利用者にその
負担をあえて押しつけるがごときは、私どもの断じて了解し得ざるところであります。
第三点として、
国鉄をめぐる醜悪の数々であります。
国鉄当局の言をかりて申しまするならば、血のにじむような努力をいたしておるにかかわらず、次から次へと
国民をして、またかの感を抱かしめているのであります。汚職汚職の連続であり、本国会においても問題になっている高架下又貸し事件を初め、鉄友会問題その他多数の外郭団体の不当利得、固定資産売却等にからむ不正事件等々、幾多の醜事実は、あげて
国民の
国鉄に対する怒りとなり、
国鉄の信用は、もはや地を払っていると申すも過言ではないのであります。(
拍手)かかる内部の不正を徹底的に究明することなく、
輸送力増強の美名に名をかりて、
運賃値上げを断行するがごときは、まことに思わざるもはなはだしきものと言わなければなりません。しかも、今回の
運賃値上げの
内容が、
旅客運賃の
値上げ、特に百五十キロ以内の通勤者、勤労者
大衆の
値上げに重点が置かれ、ために、中には十割
値上げに達する部分も存在するのであって、かかる無謀なる
値上げは、われわれの断じて許し得ないところであります。(
拍手)勤労
大衆のふところに直接響く三等
旅客運賃は、元来、従来の
運賃率をもってするも、すでに黒字であり、
反対に、
独占資本の独占
物資と言われる
貨物運賃は、ほとんど大多数が
運賃原価主義を著しく下回るものであります。かくのごとく、
独占資本の
物資輸送は犠牲
運賃をもってし、そのために生じたる赤字を勤労
大衆の近距離
運賃の黒字をもってカバーするという
運賃制度を、今回の
値上げをもって、さらにその不合理を拡大せんとしているので、われわれは、かかる無謀なる
法律案を断じて許し得ないのであります。(
拍手)いわんや、
国鉄運賃値上げが、直接間接インフレを助長する要因となり、
国民生活に多大の悪
影響を及ぼし、なかんずく低収入
大衆に重大なる犠牲を強要するものであるから、この際、わが党はこれを許すことができないのであります。
以上、
運賃値上げの
反対理由の大要を申し述べましたが、他方、
国鉄の
輸送力増強は、目下焦眉の急を要することは言を待ちません。ゆえに、この際、私は以下これが対策の大綱について申し述べ、わが党の立場を明らかにいたしたいと存ずるのであります。
今回の
値上げ額三百六十五億円の見返り財源として、第一に、
政府はさきに、
昭和三十二年度、税の自然増収は二千億円近くあると申しているのでありまするから、まず、
政府の借入金五百八十五億円を、日本国有
鉄道法第五条の規定に基いて資本金に繰り入れることによって、返済金五十五億円を節減をし、さらに、
資金運用部からの借入金八十億円を百二十四億円とし、公募債二百十五億円を三百十五億円に
増加をし、利子補給五億円を加えて、
政府原案よりも計二百四億円
増加計上、この金額と
値上げ額三百六十五億円との差、百六十一億円については、固定資産による
納付金七十五億円中、昨年と同額の三十七億円を納付することといたし、さらに三十八億円を浮かし、他方、本年度は五カ年
計画の初年度であるから、
物資調達の困難、
要員不足、その他諸般の情勢を考慮して、工事勘定一千六十九億円中、百億円
程度減額することが適当なりと考えられるのであります。かくのごとくするならば、
運賃値上げを取りやめても、なおかつ、
国鉄のいわゆる五カ年
計画はりっぱに遂行できるではありませんか。従って、
運賃値上げを用いずして、適切なる五カ年
計画初年度の事業は、これを遂行し得るはずであります。さらに、
国鉄当局において解決すべき高架下問題を初め、
国鉄資産の適正な管理運営により、決算
委員会で指摘された幾多の事件を大胆に勇敢に、しかも誠実に履行することによって、
国鉄の財政基礎は一段と強化されるのでありましょう。私はここに
国民の名において、強く要望してやまないところであります。
政府は、わが国
経済発展と
国民生活安定のために、すみやかにかかる無謀なる
国鉄運賃値上げ案を撤回し、社会党修正
意見によって、
目的を
達成すべきであると信じます。
これに対し、
諸君の御
賛成、御協力を望み、私の
反対討論を終る次第であります。(
拍手)
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