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政府委員(村上朝一君) この
法律案につきまして、逐条的に御
説明いたします。
まず第一条でございますが、本条は、この
法律が船舶による物品運送で、船積港または陸揚港が本邦外にあるもの、すなわちいわゆる国際海上物品運送に適用するものであることを明らかにいたしており、ブラッセルでできました船荷証券の
規定の統一に関する条約は、その適用範囲について地域的な制限を設けておりませんけれども、わが国は、署名の際、内国沿岸貿易についての留保をいたしておりますのと、内国沿岸貿易につきましては、この条約の
規定にそのままよることは事情適当としないものもあると
考えられますので、別途検討することにいたしまして、さしあたり外国航路による海上物品運送についての商法の
特例を定めることにしております。
なお本条の「本邦外」という言葉につきましては、付則の第三項に「この
法律の適用については、
政令で定める本法の地域は、当分の間本邦外にあるものとみなす。」という
規定が設けてございまして、沖縄その他の南西諸島、小笠原諸島は、
政令で本邦外の地域とされる予定でございます。
次に第二条でありますが、本条は、この
法律で用いております用語の定義を掲げております。
まず第一項の「船舶」の定義は、商法の用語例によって定めております。商法の
規定によりますと、はしけであるとか、その他推進機を用いない舟は、船舶の定義から除外してございますので、この
法律案につきましても、同様の
趣旨に使っておるわけであります。
次に第二項に、「運送人」の定義が掲げてございますが、これは条約で用いております運送人という言葉と同じ
意味に使っております。
ただ現行商法におきましては、運送人という言葉は、陸上運送においては使っておりますけれども、海上運送におきましては運送人というかわりに船舶所有者という言葉を使いまして、船舶賃借人につきましては、船舶所有者と同一の権利
義務を有する、こういうような
規定の立て方になっておりますので、商法との関連を明らかにする
意味からむ、運送人の定義を掲げる必要があると
考えるわけであります。なお、「傭船者」は、船舶所有者あるいは船舶賃借人に運送を委託する
立場におきましては、第三項にございますように「荷送人」の側に立つわけでありますが、個々の積荷の荷主との
関係におきまして、運送契約を引き受ける側に立つ場合がございます。いわゆる再運送の場合でございますが、その場合には、傭船者も運送人という定義の中に含まれるわけであります。
第二項は「荷送入」の宗義でありますが、ただいま申し上げました傭船者が、船舶所有者等に運送を委託する
立場においては、運送契約の当事者として、あたかも個々の積荷の運送契約における荷送人と同様の
立場に立ちますので、これを含めて用いることにしております。
次に第三条でございますが、これは運送品に関する運送人の注意
義務を
規定しております。
第一項は、商法の七百六十六条で準用しております五百七十七条と同一の
趣旨でございまして、これを海上運送に適合するように書き改めたのでございますが、第二項の
規定でこれに対する大きな例外を設けておるのであります。すなわち条約の
規定に従いまして、船長、海員等の航海上の過失または船舶における火災によって生じた運送品の損害については、賠償の責任を負わないことといたしております。これは商法の原則に対する大きな変更になるわけでございますが、英米その他各国において、広く、長く慣行として認められておりますところを条約に
規定いたしました
趣旨を尊重いたしまして、国際上の慣行に従うという
意味で、この例外
規定を設けたわけでございます。
次に第四条は、これも条約に従いまして、第三条についての運送人の立証責任を
規定いたしております。すなわち運通人は、三条第一項に定あられました注意
義務を怠らなかったことを証明しなければ、その責を免れるととができないこととしております。ただ例外といたしまして、第二項に、第一号から第十一号までに掲げております事実があります場合には、その事実があったことと、及び損害が、ここに掲げてある事実によって通常生ずべきものであることを証明すれば足りることとして、運送人の責任を軽減しております。これも、各国の国際的な慣行を基といたしまして、条約で定めておりますものと同一の
内容でございます。
次に第五条は、航海にたえる能力、いわゆる船舶の堪航能力に関する
規定でございます。商法におきましては、堪航能力については、運送人に無過失責任を負わせておりますけれども、条約の
規定では、船舶の航海にたえる能力に関する運送人の
義務について、過失主義をとっておりますので、これも商法に対する大きな
改正点の一つでありますけれども、堪航能力に対する運送人の責任を、過失主義に改めたのであります。
次に第六条は、船荷証券の交付
義務に関する
規定でございますが、本条は、条約の第三条第三項、第七項に従いまして、運送人に船積船荷証券と受取船荷証券の交付
義務を負わせることにしまして、受取船荷証券が交付された後に、船積船荷証券の交付を請求する場合には、さきに交付された受取船荷証券を回収して、船積船荷証券を出すということに広めております。現行海法におきましては、船荷誰券を発行できるのは、船積みがあった後でございまして、船積み前に船荷証券を発行することは、現行法に認めておりませんけれども、船積み前に運送人が荷物を受取ったという場合には、受取船荷証券を出して、金融その他の便宜に供するという
趣旨であります。
次に第七条は、船荷証券の作成に関する
規定でございますが、第一項に掲げてあります記載
事項は、条約が要求しております
事項及び現行商法の七百六十九条の
規定及び国際海上運送における実際上の取扱いを参酌して定めたものでありまして、この
趣旨におきましては、条約と全く同一でございます。
第二項におきましては、前条について御
説明申し上げました受取船荷証券を発行しました場合に、これを回収して、新たに船積船荷証券を出してもよろしいし、また船積船荷証券を出すことなく、受取船荷証券に、船積みがあった旨を記載して、船荷証券の作成にかえるととができるという便法を認めております。これも条約第三条第七項の
規定に従ったものであります。
次に第八条は、船荷証券の作成に関する荷送人の通告に関すみ
規定であります。本条は、船荷証券の記載
事項中、運送品の
種類及び数量につきましては、運送人に荷送人の書面による通告の
通り記載すべき
義務を負わしめますとともに、運送人がその通告の
通り記載することを拒絶し得る場合を定めまして、荷送人と運送人の利益の調整をはかろうとするものであります。運送品の数量に関しましては条約の
規定に従い、また、運送品の
種類に関しましても、いわゆるこの
規定に準じて、かような
規定を設けた次第でございます。
なお、第三項におきまして、荷送人に通告が正確であることを担保する責任を負わしめ、船荷証券の記載を正確ならしめ、その流通を円滑ならしめようとするものであります。これも条約第三条第五、項の
規定に従ったものであります。
次に第九条は、船荷証券の不実の記載が行われた場合の
規定でありますが、一たん船荷証券に、ある
事項を記載しておきながら、後にそれが事実と違うということで、船荷証券所持人に対し、運送人の責任を免れるようなことがあっては、船荷証券の信用を維持することができませんので、船荷証弊の信用を高め、所持人の利益を擁護する
意味で、運送人がその記載について注意が尽くされたことを証明しなければ、その記載が事実と異なることをもって、善意の船荷証券所持人に対抗することができないものとしております。もっとも条約におきましては、船荷証券について、運送人がその記載の
通りの運送品を受け取ったものと推定する効力を有するという、やや異なった
規定をいたしておりますが、その
意味は、運送人が反証をあげれば、何どきでも船荷証券に記載してある
事項の推定をくつがえすことを無制限に認めようとする
趣旨ではなく、運送人がその記載について注意を尽くしたことを証明しなければ、その記載が事実と異なることをもって、善意の船荷証券所持人に対抗できない
趣旨を含むものと
解釈されまして、英国においても、これと同
趣旨の判決がなされておるような次第でございますので、この
趣旨を明らかにしたのでございます。
第十条は、この
法律で
規定してあります船荷証券について、条約の
規定の不足を補ら
ために、商法の船荷証券に関する
規定を準用しております。
次に第十一条は、危険物の処分に関する
規定でございますが、危険性を有する運送品について、運送人、船長及び運送人の代理人がその危険な性質を知らないで船積みしたときは、何どきでも陸揚げし、破壊し、あるいは無害にすることができるものとし、これらの者がその性質を知って船積みしたときには、船舶または積荷に危害を及ぼすおそれが生じたときに、陸揚げし、破壊し、無害にすることができるものといたしました。これも条約の
規定の
通りでございます。
次に第十二条は荷受人の通知
義務でありますが、運送品が一部滅失または損傷がありました場合に、運送品引き渡しの際、立ち会いによって確認された場合を除きまして、荷受人または船荷証券所持人にその性質を書面で通知すべき
義務を負わせまして、その
義務を怠った場合の制裁として、運送品が滅失及び損傷なくして引き渡されたものと推定し、立証上の不利益を与えようとするものであります。この
規定が現行商法と異なる主要点は、荷受人が通知
義務を怠った場合におきまして、商法の
規定によりますと、荷送人の損害賠償請求権を消滅させることにしておりますが、本条は、単に立証上の不利益を与えるにすぎないのでありまして、その
意味におきましては、運送人の利益よりもむしろ荷受人側の利益を保護することになるわけでありますが、その
規定も条約の第三条第六項の
趣旨に従ったものでございます。
次に第十三条は、運送人の責任の限度を定めた
規定でございます。第一項は、運送人の運送品に関する損害賠償責任につきまして、一包みまたは一単位について十万円を限度とすることにしております。運送人は、あらかじめ運送品の
種類及び価額が通告されない限り運送品の価額のいかんにかかわらず、同様の注意をもって運送するのでありますから、この運送品に損害を生じた場合に、予期しない金額の賠償の責任を負うということは負担にたえないところであり、荷送人としては特別な取扱いを要求して高額な運送賃を支払うよりも、万一の場合の損害賠償額は少くても、運送賃の安い方を望むものでありますので、早くから損害賠償額に限度を設ける約款をつけることが行われているのであります。条約は、このような慣行を認めつつ、次の十四条の
規定と相持って、賠償金額の最低限を定め、運送人の利益を保護することとしたのであります。現行商法におきましては、このような約款は禁止されておりますが、条約の認める世界的慣行に反してまでも荷主の利益を保護するととは適当でないと
考えられまして、この条約に従ってこの
規定を置いたわけであります。条約には責任限度額を一包みまたは一単位についてスターリング貨百ポンドと定めており、この金額は、現在の為替和場によりますと邦貨十万八百円に相当いたしますが、この
法律におきましては、条約第九条に端数のない金額に換算してよろしいということになっておりますので、十万円を責任限度額と定めたのであります。
第二項は、荷送人の利益を考慮いたしまして、あらかじめ運送品の
種類及び価額を通告し、船荷証券に記載されたときは、第一項の
規定を適用せず、実損額の賠償を求め得ることといたしました。
第三項以下は、荷送人が運送品の価額について虚偽の通告をした場合に対する制裁を
規定し、荷送人等が不当に賠償額を要求することを防止しております。この
規定も条約の定めるところと同
趣旨でございます。
第十四条は、運送人の運送品に関する損害賠償責任につきまして、「一年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。」ということにいたしまして、除斥期間を設けたわけであります。これも、条約の
解釈上、この一年という期間は除斥期間であるというふうに
解釈されますので、第十四条におきましては、除斥期間と
規定したわけであります。
次に第十五条は、特約禁止の
規定でございますが、第一項は、条約第三条第八項の
規定に従いまして、運送人の運送品に関する損害賠償についての
規定に反して、荷送人、荷受人または船荷証券所持人に不利益な特約をすることを禁止しております。条約は、当時欧米において無制限に行われておりました運送人の免責約款の乱用を抑制することを主たる目的として締結されたのでありますから、運送人の運送品に関する損害賠償
義務の最小限度を条約に
規定しまして、この
義務を免除しまたは軽減する等、荷送人等に不利益な特約を禁止したのであります。
第二項は、第一項がただ荷送人等に不利益な特約を禁止するだけの
意味であって、運送人に不利益な特約まで禁止する
趣旨でないことを明らかにしております。でありますから、たとえば第十三条の責任限度額につきましても、責任限度額を五万円と制限することは、十五条の規矩によって無効な約款となりますけれども、これを二十万円と
規定しますことは、第上五条第一項の禁止するところでなく、第二項によりまして有効な約款になるわけであります。
また第三項は、条約の
趣旨及び各国の
立法を参酌しまして、第一項の免責約款禁止が、運送品の船積みから荷揚げまでの間に生じた事実に基く損害についてのみ適用があることを明らかにしております。条約におきましては、運送品の船積みから荷揚げまでの間についてのみ海上運送の特殊性を認め、その間に免じた事実に基く損害についてのみ免責約款の禁止を適用することにしまして、運送品の船積み前または荷揚げ後に生じた事実に基く損害につきましては、各国の自由にゆだねているのでありますが、わが国におきましても、各国
立法の実情にさからってかかる免責約款を禁止する必要もないと
考えますので、運送品の船積み前または荷揚げ後に生じた事実に基く損害につきましては、第一項の免責約款禁止の
規定を適用しないものとしております。
次に第十六条は傭船契約についてでありますが、傭船契約の当事者間の
関係は、各国の
立法の実情から見ましても、免責約款の禁止を及ぼす必要がないものと
考え、運送人と船荷証券所持人との
関係についてのみ、条約に従って、免責約款の禁止を及ぼすことと定めたのであります。条約は、傭船契約につきましては、運送人と船荷証券所持人との間の
関係についてのみ条約を適用するということにいたしまして、傭船契約の直接の当事者間の
関係につきましては、各国の
立法にゆだねているのでありまするが、それは、傭船者が船舶所有者と同様に船舶を利用する海上企業者でありまして、海運の事情に通じておりますし、船舶所有者と対等の
立場において契約をなし得るというところから、条約において進んで傭船者の
ための免責約款を禁止しなくても、当事者の自治にまかせて弊害を生じないという
理由によるものと
解釈されるのであります。国内
立法といたしましても、この見解に従ったわけであります。
次に第十七条は、特殊の運送についての
規定でありますが、条約第六条の
規定に従いまして、特殊の運送については免責約款禁止の例外を認めることにしております。運送品の性質もしくは状態が特殊であるとか、または、運送が特殊の事情において行われる場合、たとえば座礁した船舶のぬれた積荷を、積みかえて運送するような場合に、運送人の運送品に関する責任を免除しまたは軽減することが相当と認められる場合があるのでありまして、このような場合にも、免責約款禁止を強行するということになりますと、特殊の運送は事実上不可能となるおそれもありますので、かような場合には免責約款禁止を適用しないものとしております。ただ、船荷証券所持人は、かような特殊性を知るよしもないのでありますので、船荷証券所持人に対する
関係においては、免責約款禁止の効力を及ぼすこととしたのであります。
次に第十八条は、生動物の運送及び甲板積の運送についての免責約款禁止の例外
規定であります。条約は、生動物の運送及び甲板積の運送につきましては、条約の
規定を適用しないものとしているのでありますが、これらの運送は、特殊の運送の一つの場合とも
考えられますし、その特殊性にかんがみて、これらの運送についての運送人の責任を、通常の運送についての運送人の責任よりも軽くする必要はあっても、重くする必要はないのであります。従いまして、これらの運送につきましても、原則として条約の
規定を適用させるものとして、ただ、免責約款禁止に関する第十七条第一項の
規定は、特殊の運送の場合と同様、これらの運送に適用しないことにしております。なお、との場合には、生動物の運送または甲板積の運送であるととが、船荷証券上に明らかにするととができるのでありますから、免責約款を船荷証券に記載する限り、その所持人に対抗ができることとしております。
次に第十九条は、船舶先取特権に関する
規定でありますが、再運送契約の場合におきまして、運送品に関して生じた損害について、傭船者に対して賠償の請求をすることができる者が、船舶及びその属具の上に先取特権を有することを定めたものであります。再運送の場合の荷送人の利益を保護する
ために設けた
規定であります。
第二十条は、この
法律で定めております国際海上物品運送につきましては、この
法律の
規定と矛盾する商法の
規定の適用を排除いたしますとともに、この
法律に
規定のない
事項については、商法を適用する等、商法の
規定とこの
法律の
規定との調整をはかったものでございます。
第二十一条は、郵便物の運送について、その郵便物たる特殊性にかんがみまして、この
法律を適用しないものとしております。
付則の第一項は、施行期日を定めた
規定でございますが、条約の方は批准書を寄託した時から六カ月を経て効力を生ずることになっておりますので、この
法律も、条約がわが国について効力を生ずる日から施行することにしております。たとえば本年七月一日に条約の批准書を寄託したといたしますと、条約及びこの
法律は来年の一月一日から施行されるということになるわけであります。
以上、簡単でございますが、逐条
説明を終ります。