運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1957-03-15 第26回国会 参議院 内閣委員会 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年三月十五日(金曜日)    午後一時二十六分開会   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     亀田 得治君    理事            上原 正吉君            大谷藤之助君            秋山 長造君            竹下 豐次君    委員            松岡 平市君            荒木正三郎君            伊藤 顕道君            田畑 金光君            八木 幸吉君   国務大臣    国 務 大 臣 小滝  彬君   政府委員    調達庁長官   今井  久君    防衛庁次長   増原 恵吉君    防衛庁長官官房    長       門叶 宗雄君    防衛庁防衛局長 林  一夫君    防衛庁教育局長    事務取扱    都村新次郎君    防衛庁人事局長 加藤 陽三君    外務政務次官  井上 清一君    外務大臣官房長 木村四郎七君   事務局側    常任委員会専門    員       杉田正三郎君   説明員    法務大臣官房秘    書課長     津田  実君    外務省欧米局第    二課長     安川  壮君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○国の防衛に関する調査の件  (強行軍による自衛隊員死亡事件  に関する件)  (相馬ヶ演習場事件に関する件) ○外務省設置法の一部を改正する法律  案(内閣提出衆議院送付)   —————————————
  2. 亀田得治

    委員長亀田得治君) これより内閣委員会を開会いたします。  国の防衛に関する調査のうち強行軍による自衛隊員死亡事件に関する件を議題に供します。  まず本事件責任者に対する処分について当局から御報告願います。
  3. 加藤陽三

    政府委員加藤陽三君) 今回の事件につきましての処分につきまして御報告申し上げます。  二月の五日、六日の広島県下、原村演習場附近におきまする第三管区徒歩行進訓練において、隊員二人の死亡者を出しました件はまことに遺憾なことでございます。防衛庁といたしましては、その後当時の状況につきまして詳細に調査いたしました結果、先日次のような責任者処分をいたした次第でございます。  第三管区総監金山陸将減給一月十分の一、第三管区総監衣川陸将補戒告、第三管区総監部幕僚長橋詰一等陸佐停職三日、同第三部長枦山二等陸佐減給一月十五分の一、第七普通科連隊連隊長吉田一等陸佐戒告、第二大隊長岡崎二等陸佐停職十日、第二大隊演習大隊長河津三等陸佐停職三日、第二大隊演習人事主任八幡二等陸尉停職二日、第二大隊重火器中隊長中村二等陸尉戒告、第二大隊第四中隊長代理谷口三等尉戒告。なお金山陸将は第三管区総監を免ぜられ、陸上幕僚監部勤務を命ぜられました。岡崎二等陸佐は願いにより本官を免ぜられた次第でございます。
  4. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 御質疑のおありの方は順次御発言を願います。
  5. 田畑金光

    田畑金光君 処分について当局のなされた処置報告がありましたが、三月八日本内閣委員会におきまして、責任問題あるいは処分について質したわけであります。その節当局といたしましてはすみやかに責任の所在を明らかにいたしたい。こういう御答弁がありまして、私たちもその結果を新聞等を通じて明らかにされることを待っておりましたが、内閣委員会の翌日、ある新聞で大きく処分問題の内容について報道があったわけです、ところがその後三月十二日の夕刊紙に違った処分報道がなされたわけですが、このような重大な問題が事前に漏れたというか報道された。しかも内容等が大きく違っているわけです。この点のいきさつをまず伺っておきたいと思います。
  6. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) 読売新聞がああいう想像記事を掲げたのでありまするが、これは全然私どもの方から出したものでもなく、その結果をごらんになってもおわかりの通り想像記事であったということが判明する次第であります。私どもはこの委員会においても申しましたし、他の委員会においても、きわめて近いうちに発表するということを申しましたために、夜非常におそく、朝三時に電話をしてこられた新聞の方もございます。しかしその後取調べましたところ、内部から出したものでもないようでありまして、従いましてそれは単に想像によって書かれたものでありまして、私どもの方で直接関係し、あるいは示唆を与えるというようなことはなかったものであると御承知を願いたいと存じます。
  7. 田畑金光

    田畑金光君 こういう重大な発表が、当局の方から何らかの形で漏らされるとか、あるいは当局考えておる処分内容等について、何らかの概要等の暗示がなければ、今お話のように、三月九日の読売等に、あういうふうに大きく取り上げられるはずはないと私たち考えておるわけなんです。この点については遺憾なことだとこう思うわけでありますが、さて先ほどのいろいろ各人について処分について報告がなされましたが、この処分をなされるに当りまして、当局としてはどういう考え方のもとになされたか、とにかくこの処分内容については、総括主宰者と申しますか、演習計画の立案に当った者、あるいは総裁に当った者等々については、比較的軽い処分で済まされておるが演習を直接指揮した指揮官その者については、非常に重いと申しますか、比較的重い処分をなしておる。こういうようなことでは今後の自衛隊士気に影響する。あるいは自衛隊の今後の統帥上についても問題を残すであろう等々の批判が一般世上に出ておるわであります。この点につきまして、当局はどのようなお考えをお持ちであるか、これをお聞かせ願いたいと思います。
  8. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) これを発表するに当りまして、詳細な点の説明を、新聞にいたしましてもほかにいたしましても、掲載もしてございませんし、そうした点は略しておきまするけれども、大体私の考え方を申し上げたいと存じます。  こういう犠牲者を出しました以上、もちろんその責任を明らかにしなければならない、そこで、ただ単に監察隊とかあるいは調査関係の人を出すのみでなく、御承知のように警務隊も派していろいろ証人を調べ、またこれらの関係者を取調べまして、慎重に調査いたしました結果、最も公平なる処分をいたしたいという気持で進んだことは、これまでも申し上げておる通りでございます。御指摘のように結果的に見ますると、計画面の者が比較的処分が軽く、実施の面の方に重くなっておるということになっておりまするが、これは実は実情によってこういうような処分をいたしたのであります。総監は、なるほど計画最高責任者でありまして、その面においては当然責任を負うべきであり、平素部下訓練しておる責任者でもございますので、その点は十分考慮に入れたのであります。しかしこの方針そのものというものは昨年も実施いたしておったところであり、また事実今年も現場に行って相当詳細に調査をした上で企画いたしたのとあります。しかもまたこの実施に関しましては、もし雨でも降ったらやめてもよろしい、あるいはこの競争に際しては規律が最も大事である、速力はすべてではないというような点にも指示を与えておるのであります。ただ、しかしこの計画面についても、よく考えてみますると相当なる考慮をもって慎重なる準備をもって行われたものではあるけれども競争の形でこれほど速い距離をやった、しかもそれが去年やって成功しておるけれども、特に今年度と昨年度と違っておりますのは、各連隊から選抜された大隊を出したので、よけい競争意識をそそるいうな糸口を作ったことに責任があるというような意味において、総監処分いたしたのでありまするが、とにかく大きな部隊指導者である者が減俸になり、しかも現地部隊から陸上幕僚監部に転任させられるということは、そういう職務にもかんがみまして、相当な処罰であるというように私ども考えておるのでございます。  次に、総監よりも幕僚長処罰の方か重いんじゃないかという感じもあるであろうと思いまするが、幕僚長は、ただ単に専門家として総監を補佐してこの計画に参画したのみならず、当時は実は統裁官として現地において指揮いたしておるのであります。その際もし雨が降ってこれはやめようかという際に、あるいはこれを思いとどまるとか、あるいはもう少し雨のやむのを待つということをやったら、あるいはこういう犠牲者は出ないで済んだかもしれないとも考えられまするし、現地で統率しておりまする以上、最初連隊、次の連隊のみならず最後の問題を起しました連隊の方に当ってみても、これはあまり激励が行き過ぎたら、それを直接現場で制止することもできた立場にあるのでありまして、計画面のみならず実施面統裁の面においても責任があるということも考えなければならないのでありまして、詳細は人事局長からさらに御説明さしてもよろしいんですが、そういう意味において幕僚長の方が、より大きな責任をこの行進に関しては持っておったというような判断で、三日の停職ということにいたしたのでございます。  なお、これまで新聞紙上において、あるいは私の存じ上げておる方からいろいろ批判されておりますのは、この問題を起しました大隊長に対する処分が過酷ではないかということでございますが、しかしよくこの問題を検討してみますると、総監の立てた計画においても指揮者が適当な措置をとったならば、あれほど隊伍が乱れるとか、あるいは社会党の一部の方からは、これは暴行罪に当るんじゃないかというような御指摘もありましたが、こういうことなしに、りっぱに犠牲者も出さずに行進を続け得たんではないかというようにも考えられるのであります。何となれば、最初に出発いたしました第十五連隊は、なるほど速度においては二時間近くもおそかったけれども、一人の落伍者も出すことなく、りっぱに規律正しく目的地へ到達しておる。またその次の連隊におきましては、なるほど落伍者は十名出した、しかしその際には、統率者の方が一々当ってみて、十人を落伍せしめたというような事構もあるようでありまして、これの方も速力最後岡崎大隊長が率いていたのよりはおそいの、でありまするが、とにかくりっぱにこの行進を終了いたしておるのであります。でありまするからこの計画というもの必ずしも、そこに指揮者としての十分なる良識を用いたならば、もっと規律正しく行進も行われ得たのではないかと考えます。しかもまたここに当って、従来新聞でも指摘せられましたし、衆参両院委員会等でも指摘されましたようないろいろな事件、これは私どもよく調査してみますると、一部で言われまするような犯罪を構成するようなものではなくして、激励が度を過ぎてそうしてそれが一部から相当な非難を受け、また事実妥当性を欠いておったというような点のあるということも、私ども率直に認めたものでございまして、そういう意味においてこの実施面、時にこの問題を起しました部隊の方が、これは目撃者もございまするし、一番大きな責任者であるというような判断から、ただいま人事局長説明したような処断をいたしたのであります。しかしながら、士気を阻喪するようなことがあってはいけませんので、今後の訓練も十分やらなければならないからして、そういう点も考えまして、今申しましたように処分に差をつけ、調査の結果、一番責任が重大であるという者により重い処罰をしたというような経過でございます。
  9. 田畑金光

    田畑金光君 時間がないようですから、なるべく簡潔にお尋ねいたしますが、この処分は、どの範囲の首脳部で協議なされて結論を出されたのであるか。お伺いする趣旨は、陸上幕僚長等々の意見も、処分に当っては聴取されたのか。あるいはさらに一般的に申しますと、このような事例、事件処分に当っては、制服である首脳部だけでやられるのか、それとも非制服首脳部でやられるのか。あるいは制服意見等も聞いてやられるのか、あるいは両者の合議の上に立ってこのような場合の処理というものはなされるのか。世上伝えられるところによりますと、この処分問題をめぐって、防衛庁の中では特に制服側と非制服側の中に、処分内容についても、あるいは重く処罰するか、あるいは軽くするか、こういうようなこと等々についても相当論議がかわされたように承わっておりますが、これらの点について一つ経過をもう少し掘り下げて長官から承わっておきたいと思います。
  10. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) 私から答弁をしろということでございまするから、私の知っておることを申し上げます。  元来、こういう処分はすべて長官責任を持ってやるべき制度にはなっておりません。事件によりまして、階級に応じてそれぞれその処分をいたし得ることになっておりまするけれども、これだけ世間をお騒がせしたし、重大視されていることでありまするから、この処分は私として責任を持ってやったというふうに御了解願いたいと思います。ただしこの処分に当りましては、陸上幕僚長の方からも、陸上幹部の方の意見をまとめてまず出してもらって、局内であと参事官を集めまして、庁議を数回にわたりまして開いて、そしてこれを決定したのであります。その際陸上幕僚幹部内において、あるいはかっての軍人であった人とか、そしてそうでない人との間にあるいは意見の違った点があったかもしれません、併しながらこれは、ただかつ軍人だったからというようなこととか、あるいはかつて文官出身であったからということではなくして、見る角度から、重点の置きどころのいかんによって違うことがあり得るものであります。違うところがあればこそ会議をして、最も公正なところに持っていくというのが、責任ある者の当然とるべき措置であろうと思いまするので、私の受けました印象からいたしまするならば、特にこれは制服だから軽くしろとか、あるいは文官であるから重くしようとしたというような感じは、やり方は全然なかったものと了解いたしまするし、私がまたそういう制服の人、あるいは文官の人を集めまして、私の部屋で協議いたしましたときにも、そういう出身の違いによっての見解の相違などというものは絶対になくして、いろいろな角度から皆が真剣に検討してくれましたので、私はその結果につきましては、私自身責任を持つつもりでありまするが、その経過においては今御指摘のような事実はなかったことを申し上げておきたいと存じます。
  11. 田畑金光

    田畑金光君 今のような長官答弁通りであるならばけっこうでありますけれども、しかし私たち自衛隊の今日の構成を見ました場合に、今の答弁を素直に受けていいかどうかということは、我々自身も相当疑問を持つわけであります。しかしながらこのことは、折に触れ、また問題によっては、将来とも表面化することもありましょうが、今の長官答弁答弁として、そのような方向に部内の行政指導を進めていただきたいと考えるわけです。  同時に私はこの間局長からも、この事件の真相についていさい報告がなされましたが、特に千頭君、あるいは岸上君が、あのような悲惨な形で倒れたわけです。そして私はあの経過を聞いて不思議に思うことは、当然医官というものもいるはずです。またその援護と申しますか、医療班等についても十分の配置となされておるというような、この間の報告でありましたが、当然そのような医療班も整備され、医官もついておりますならば、あれだけ悲惨な最後というものはなかったと、こう思うわけなんです。ところが残念なことには、結果においてああいう始末に終った。またこの事件処分内容等においても、医官等については何ら表面に出てきていない。こういうようなことを考えたとき、これは医官の仕事とか、任務とか、あるいは行軍の場合における役目、こうこういう点についても、相当それは考えさせる点があるのではなかろうかと、まあ考えるわけなんです。  私はちょうど手元にこの二人の最後に立ち会われたというか、最後に立ち会われたのじゃない、もうすでに息を引き取っておりますから、これは診療所でありますか、西条町の診療所にかつぎ込まれた、その国立広島療養所厚生技官医師の立ち会いのときの診断と申しますか、これが診断書があるわけなんです。これを私は長官にこの際読んで、いかにこの問題が人命軽視と申しますか、まことにわれわれとしては想像を絶する姿であるか、これをよく聞いていただきたいとこう思うわけです。これは最後に立ち会われた、最後というよりも、もうかつぎ込まれたとき立ち会われた佐々木ヨリ子というお医者さんですね。内容を読んでみますと、「二月六日正午頃内科外来主任看護婦より意識不明の急患ですとの連絡あり直ちに処置室へ行った。衣服はずぶぬれで腹臥位にて担架で運ばれていた。脉膊は触れず呼吸及び心臓は停止し、瞳孔は散大し、顔面及び胸部には死斑あり、四肢硬直中等度にあった。」これが千頭氏です、「更に午后二時頃内科外来主任看護婦より又意識不明の急患ですとの連絡あり、直ちに外科外来室に行った。衣服はずぶぬれで横臥位にて担架で運ばれて居た。すでに脉膊はふれず呼吸心臓は停止し、瞳孔は散大して居り、四肢硬直は著明ではなかった。(岸上氏)午后五時頃私に死亡診断書を作製して呉れる様、依頼があったが、すでに死体であるため、その死因は臨床上推定困難であると考へたので作製をことわった。尚本死体には同隊の医官が随行していたのでその方で作製するのが本旨と考へた。尚岸上氏を運び込んだ時は、患者は未だ氏名も確認されていなかった模様であり、顔面には帽子がかぶせてあった。随行した隊員帽子を取除け、上衣のポケットから身分証明書を取り出し氏名を確認した。帽子を取り除いた時『これだこれだ、綱をつけて引っ張られ、尻を叩かれ乍ら歩いてゐた奴は』とつぶやいてゐたことを見聞した。附添って来た医官は尚隊内に数名の重症者があると語っていた。昭和三十二年二月十九日広島県賀茂郡寺西町寺家五一三国立広島療養所厚生技官医師佐々木ヨリ子」同時に外科外来主任看護婦森田亀子、あるいはこの療養所研究検査科厚生技官藤原増男病理細菌手飯田三百男等々から当時の模様を詳細に書いた文書が私の手元に屈いているわけであります。こういうような悲惨なこの事件内容というものを十分長官の方には報告なされて、こういうような報告を御承知の上で先ほどのような処分をなされたのであるかどうか。あるいはまた今後のこういう極端な人命軽視措置に対しまして、長官から先般抽象的には御答弁を私は伺いましたが、今後具体的に演習訓練等の面にどのようにこの教訓を生かそうという御方針であるのか、あらためてお尋ねしておきたいと考えます。
  12. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) いろいろその当時の事情は調査いたしましたし、また衆議院側からも今御指摘になりましたような事実などについてもお知らせいただいた次第であります。先ほどから申しまするように、非常に妥当性を欠いて、とにかく勝とうということのためにこういう無理のある行進をしたということを、私どもはそれを率直に認めたものでございます。ただ医官についてお話がございましたが、私もいろいろ調べて見ますると、医官が直接そういうことを責任を持ってやるという組織になっていない。結局この大隊長以下の幹部隊員健康管理あるいは救護措置についての配慮が足りなかったというようになっておりますので、今後はこういう場合には、医官の方が統裁官、そこの指揮官の要求によって動く、そうでない場合は後尾についているというやり方でなしに、医官をもっと積極的に活用するような方法でも考えなければならないと考えまして、この点を注意いたしておるのであります。私はその発表の際にも申しました通り、今後もこういう訓練は十分行わなければならないが、しかし今度の事故にもかんがみまして、人命の尊重というものを基礎として科学的精神合理性を持った運営をしなければならぬということを申しておりまするが、これについてはもっと具体的にいろいろ指示もしなければならないと思うのであります。幸いにしてこの次の日曜にも、陸上関係の各地の部隊長が皆集まって参りますので、みんなにもよく私の気持を伝えると同時に、事務的には内局の方でもすでにこうした点を検討さしておりますが、一体にこうした事件が再発することのないように具体的な措置考慮中でございますので、これを今後実施することによって一つの目安とし、事前に防ぎたいという考えで進んでおるのでございます。
  13. 田畑金光

    田畑金光君 私は先ほどの質問の中で医官を持ち出しましたが、医官について責任をとらせるとか、処分をするとかいうふうに受け取られたら、非常な誤解でありまして、軍隊組織の中における医官とか経理官、あるいは技術官等々の地位と任務というものがどうであるかということは、私も十分承知しているわけであります。ただ私はやはり新しい今後の自衛隊というものが、逆コースの昔の古き軍隊に戻る今の情勢としてはそういう危険性があるわけです。特にいかなる環境であれ、いかなる職場であれ、団体においても人命を尊重するということが基本的な立場であるといたしますならば、このような演習等において当然医官の医学的な見地、見解、あるいは要請等というものが十分取り入れられ、尊重されるような、そういう内容であり機構でなければならない、また運用でなければならぬ、こういうふうに考えているわけです。そういう面に各段の私は留意をお願いしたい。  特にまた私は関連してお尋ねしたいことは、この問題はなるほど行政処分としては先ほど発表されたような処分が行われましたが、業務上の過失罪を構成するかしないか、こういう問題が残されようと思っておるわけです。この処分発表の直後の小滝長官談話として、新聞で拝見いたしましたがこういうことを言っておられます。「事件処分についていろいろ意見が寄せられていたが、防衛庁としてはこれまでの調査の結果では業務上の過失とは思わない。ただこうした点についてはすでに検察庁資料を提供してあるので、今後検察庁で検討されることになるだろう。」こういうように割り切って発表されておるわけであります。  ところがもう一つ新聞等によりますと、警備隊の方では捜査の資料を整えて地検に一切送った、こういうようなことが出ておるわけであります。このことが要するに業務上の過失致死罪を構成するかしないかという、また一般刑法上の観点から究明する必要があってこういう措置をとられたと思うわけでありますが、長官談話内容警備隊が送検した事実というものとにはいささか食い違いがあるように考えておりますが、送検されたという事実を考えましたときに、問題のいかんによっては一般刑法上の業務上の過失致死罪を構成すると考えますが、この点についての見解を承わっておきたいと思います。
  14. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) 二人の犠牲者も出したことでございまするし、またその際に相当暴行が行われたのじゃないかというような疑いもありましたので、実態調査をしましたり、あるいは業務上の過失致死というような点もありはしないかというので、われわれの方ではできるだけの調査をいたしたのでありますが、しかし防衛庁における調査の結果といたしましては、これは刑法上の犯罪というところまではいっていないような判断を持ったのであります。しかしながらこれはこういう致死者も出したことでありまするし、こういう刑法上の関係というのは検察庁で最終的に取り調べられなければならないものでありまするからして、私どもが調べましたあらゆる資料検察庁へ差し出しまして、検察庁の最終的な判断を求めることにいたしたのであります。新聞にはわれわれの方ですでにそういう判断を確定しているかに出ておりましたが、それは事実に反するのでありまして、これは検察庁の方へ、そういう重大性にもかんがみ、書類を一切送致したということでありまして、私どもはそういうふうに判断をいたして最終的な判断を下したという意味ではございませんので、そのように御了承願いたいと存じます。
  15. 田畑金光

    田畑金光君 まあ時間がないようですから最後にお尋ねいたしますが、この種事件は、先般来の報告にありましたように、競技といいますか競争意識、これを鼓吹して結局無理があのような形になって現われたと思うんです。要するに、行進の競技、行進競争、こういうことから出て参ったと思うのでありますが、こういうような形の訓練あるいは訓練の強行というのは、特に昔の日本の陸軍等において激しかった事例でありますが、今後自衛隊訓練等において、行進の競技とか競争とかこういう点等については、どういうような角度から対処されようとする方針であるか、承わっておきたいと思います。
  16. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) 実は、私も就任早々でありましたが、この一ヵ月間にいろいろと各地の部隊の様子も聞いておるのでありますが、これまでのところ競争の形でやったのは第三管区だけのようであります。基本的な指示に従いまして、そうしてそういう形式等はまあ部隊考えるというようになっておりまする、競争の場合はどうしなければならぬという相当詳細な訓令も出しております。が、少くともこういう非常に長い距離のものをあのような格好で競争させるということは、どうも私のまことに乏しい知識でありまするが、いろいろ調べたところでは弊害を生ずるんじゃないかと思います。ことにこの前の行進については規律とかあるいは速力とか、いろいろ採点の方法もありまするけれども、かりにこういう競争をまあこれは距離についても考慮すべきところがあるでしょうが、かりにやるということになれば、もっと規律というところに重点を置くべきであって、規律も一点、速力も一点ということになれば、あるいは速力を非常に重要視するとか、落伍者の数が多いのは減点になるとすれば、無理をしてでも落伍させないようにするという弊害も生じて参りますので、今御指摘の点は、まさしく私の頭の中で考えておる問題でございまするので、田畑さんの趣旨も大体私もわかるのでありまして、これはもう少し方法を変えなければならぬというので、せっかくその方向に考慮を進めております。
  17. 秋山長造

    ○秋山長造君 お急ぎのようですから、簡単に。先ほどの長官のお言葉の中にもありましたが、なぐったりけったりしたということの説明で、これはなぐるとかけるとかいうことでなしに、まあ激励が少し度が過ぎたというような御説明があった、これは前にも、人事局長からそういうお話があったと思うんですけれども、これは、ただ単に激励が過ぎるということとは質の違う問題じゃないかと思う。長官は旧軍隊時代の軍隊生活をされたかどうか知りませんが、まあ私自身四年ばかり兵隊勤めをやった経験から考えた場合、これはもう回りくどい説明でなしに、こういうことを聞いただけで実にぴったりくるんですよ。全く手に取るようにその場面の光景というものは想像がつくんですけれども、私が一番おそれるのは、今の自衛隊の特に実地訓練なんかに当っておるのは、ほとんど全部旧軍人だと思う。その旧軍人が今度自衛隊へ入る場合には、昔の考え方はさらりと捨てて本当に民主的な軍隊幹部という心がけで入っておるということは、しばしば当局から聞かされることですけれども、しかし、これは、自分がかって士官学校なり何なりで受けた教育というものが間違っておったのだ、というように徹底して考える人は少いのじゃないかと思うのです。自分らたちの受けた教育がやっぱり一番いい教育だったという気持というものは、なかなかそう簡単に通り一ぺんの訓辞を聞いたくらいで抜けるものじゃないと思うのです。別にその人たちを私は憎むわけでも何んでもないですけれども、事実を言っている。そういう人たち訓練の衝に当って、しかも年ごろの屈強の若者ばかりが、大勢外部の社会から隔絶された世界で団体生活をやっているわけですから、これはどうしても勢い非常にぎごちないというか殺伐な雰囲気というものになりがちだということも想像がつく。現に以前の軍隊では激励するという言葉にかえて、気合いを入れるという言葉が使われておった。ところが、今の自衛隊だって、やっぱり激励というような言葉はあまり使われていない。やっぱり非公式には気合いを入れるという言葉が使われておる。その気合いを入れるという内容は、これはやっぱりなぐる、けるです。なぐるけるということが別名気合いを入れる。おそらくこの死の行軍でたたいた、けったというのは、気合いを入れた、こういうことだろうと思う。この気合いを入れるということが私は結果的には非常におそろしい効果が出てくるのじゃないかというように思うのですがね、まあ旧軍隊の当時は、そういうことがあまりしばしば表面化したために、あるいは戦陣訓が出されたり、機会あるごとに師団長会議連隊会議等でえらい人がそういうことのないようにという訓辞をされたりなんかして、そうして上の人のところまで出てくるということはまああるいはなくなったかもしれんけれども、しかし実際には気合いを入れるということはひんぱんに、もう日常茶飯であるかのごとく行われたことも事実です。そういうことになって参りますと、もう全く「真空地帯」じゃありませんけれども、民主的な軍隊の建設ということを目ざしておられる自衛隊も、実質的にはやっぱり真空地帯になってしまうのじゃないか。こういうように考えてきますと、私は最近直接間接見聞きするのですが、文民優位の原則がやはり実質的にはくずれつつある、そうしてもっぱら職業軍人の発言権が強まりつつあるというようなこととも関連をして、今の自衛隊の将来ということに対して非常な不安と心配を感ぜざるを得ない。今度の事件で、長官は、自衛隊訓練あるいは統率のあり方というようなものを根本的に再検討されるというお考えのようですけれども、根本的と言っても、ただ部隊長を集めて訓辞されるということでは、私はきわめて不十分だと思う。そういう点についてよほど深刻にしかも訓練の実情に即してお考え直しにならないと、私は、もう非常なあらぬ方向に進んでしまうおそれが多分にあると思う。その点について、ただいま田畑委員にお答えになったわけですけれども、どうもその程度のお答えでは私どもも納得して引き退るという気持にはなれない。で、それらの点について、気合いを入れるというようなことが実際に行われておるということを、幹部の人は一体承知されているのかどうかということからまず御答弁を願いたい。
  18. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) 私ども説明がまずかったかもしれませんが、制裁というような意味でやったのではないけれども、行き過ぎがあったということは認めるという意味で申したつもりでございます。もちろん、昔の部隊にはいい点もありましたが悪い点もあったので、そういう悪い点を持つようになっては大へんでありますから、十分教育の面にも力を、これまでの先任者の方も入れてこられたようでありますが、さらにこの点については、十分全部に行きわたってそういうことをさせないような教育が一層必要であろうかと思いますので、その点は十分努力しなければならぬと思います。ただ普通の自衛隊員に接触いたしますのは、何としても昔で言えば大尉とか少尉の、今で言えば一尉とか二尉、三尉とかいうような人たち、こういう方面は昔の軍隊にいた人は非常に減って参りました。たとえば陸上自衛隊の全部を例にとりましても、将官級は依然として昔の人が多いのですけれども全般で見れば約二割くらいになっておるのですから、下の方は新しい教育を受けて入ってきた人が大部分である。またよく申すことでありますが、とにかく今の自衛隊は昔と違って国民のほんとうの信頼がなければ、そうでなくともいろいろと批判がされておるのに、ますますもって大手を振って歩けないというようなことになる。そうして志願制度であるというような点もありますから、昔のようになぐる、けるというようなことであればりっぱな人も入ってこない。またそうなれば、現在でも下の者といえどもそれに対するいろいろ是正を求める方法も十分認められておりますし、公正審査会とかいろいろの組織もありますので、前よりはそういう可能性はよほど減っておるのであります。こうした制度と同時に精神的の面でそういうことをさせないようにいろいろな角度から注意いたしまして、そうした危険がもしあるとすれば、絶対にそういうことにならないようにこの事件を契機といたしましてそうした傾向を根絶させるということに最善を尽したいと考えます。
  19. 秋山長造

    ○秋山長造君 もう一つ端的にお伺いしますが、簡単に。防衛庁幹部にしてもあるいは自衛隊幹部の方で、自分の部下の部隊の中に私的制裁といわれるようなものが、暗々裏に行われるというようなことを承知されても、あるいはそのままこのくらいなことは、ということで黙認されておるような傾向はないですか、いかがですか。
  20. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) 非常に大切な点で御質問をいただきました。私ども最初に警察予備隊で発足いたしましたときに、旧軍隊における一つのよくない点としまして、やはり私的制裁、気合いを入れるという問題を最も重点として取り上げました。最初警察予備隊で発足しました七万五千の際に、その点は当時の総監でありました林総監以下部隊としての指揮に当ります全体の者も、その点を最も平素のしつけの問題としては重点に取り上げまして、絶対に部隊内でいわゆる私的制裁、気合いを入れるということをやってはならないということをかたく具体的に取り上げまして、自後努力をいたしたわけでございます。私自身もその点は折に触れて具体的に十分に目をみはったつもりでございます。当時私どもいろいろなソースからそうした情報を取って事態の推移を見ておりましたが、私どもの観察をしました限りにおいて、警察予備隊出発以来の実情として、いわゆる私的制裁としての気合いを入れるということはまずないという状態を、私どもは観察をいたしまして、これは自衛隊の出発としては私は非常にいいことであり、ぜひこれを続けていかなければならぬということを信じたわけでございます。ただこのたびの非常に不幸な事件を契機として、私どももその後だんだん部隊が大きくなり、現地統轄方面の整備につれまして、そういう日常の問題から少しく、うとくなつたようなうらみがあったわけでございまするが、今回の事件を契機として、残念ながら若干そういう気配が再び出かかっているのではないかという心配は十分にいたしております。しかしこの点は先ほど長官も申されましたように、私どもとしては絶対に自衛隊内に出してはならないことであると深く信じますので、これは単に一片の訓示をするということではならぬことは仰せの通り、十分日常のしつけと訓練を通しまして、そういうものを部隊内から根絶をしていきたいというふうにかたく考えるわけでございます。
  21. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  22. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 速記をつけて下さい。
  23. 秋山長造

    ○秋山長造君 今の点はあとで増原次長にもう少しお尋ねをいたしますが、長官にお伺いしたいことは、今度の事件はたまたま新聞でいろいろ出たから、こういうように国会でも取り上げたり、皆さんの方でも非常に慎重に取り組んでおられるからまあいいんですけれども、これは死に至らした事件ですが、死に至らないまでもこれに類した事件、まあ先ほどの私的制裁というようなものが相当高じて、そのためにけが人を出したというような事件、あるいはさらに今度は逆に部下が上官を傷つけた、あるいはけんかをして何とかしたというような事件、こういうような事件長官は全然他に御存じないですか。
  24. 小滝彬

    国務大臣小滝彬君) いや、承知いたしております。上官をスパナか何かでなぐってそれでそのためにその上官がなくなったという事件も先月中旬かに起りまして、非常に遺憾なことだと思います。  そうしてまた部隊規律に関する事件につきましては、これは従来は長官の方には報告しなくて済んでおったかもしれませんが、私は決して答弁の便宜上やりますというのではなくて、私自身考え方では皆さまから御指摘までもなく、そこにあったのでありますから、漏らさずにわかる限りのものは知らしてもらっておりますので、そういうことのあったこと、あるいは北海道、あるいは九州辺で二、三そうした事件のあったことも承知いたしております。
  25. 秋山長造

    ○秋山長造君 今のスパナか何かで殺したという事件はどういう事件ですか。これはまたはなはだ重大な……。
  26. 亀田得治

    委員長亀田得治君) ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  27. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 速記を始めて。
  28. 加藤陽三

    政府委員加藤陽三君) ただいま長官がお述べになりましたのは、先月の十五日でございますが、午前七時五分から十分ごろ大分県の中津駐屯地教育隊におきまして、第十九普通科連隊第三大隊第九中隊第二小隊所属の一等陸士の熊谷定美君が、同小隊の陸士長、一階級上のものでございますが、末松久君を刺殺したという事件でございます。これは当日の午前八時に警衛隊が交替することになっておったのでございますが、警衛隊の交替にあたりましては、管理運用規定によりましてストーブの掃除をすることになっておったのでございます。そこで被害者の末松君が加害者の熊谷君にストーブの掃除を命じました。熊谷一士は同僚の津川という者と一緒にストーブの掃掃を行おうとしたのでございますが、煙突が破損しておりましたので、清掃及びその接合をあと回しにいたしまして二人で朝食に参りました。朝食後、熊谷君が警衛所に入りまして、鍵の保管箱の横にありましたドライバーを持ってストーブ掃除中に、末松士長が参りまして、まだ修理ができないのか、できなければできないように初めから言えと、こういうふうに問詰をいたしました。熊谷君は交替までまだ時間があればできるというふうに反発をいたしております。これに対して末松君は大きなことを言うとのされるぞと言うなり、熊谷君のほおを平手でなぐったのであります。そこで不穏の状態のまま末松君は退去いたしましたが、その直後、熊谷君はストーブを土間にけ飛ばしまして、そのときに一曹の警衛任務者が控室に七、八人おりましたので、二、三名がストーブを起して清掃にかかったのであります。熊谷君も煙突を外に持ち出して清掃を行い、警衛所の控室に入ろうとしたところ、たまたま控室に帰り、憤激しながらほうきを持って清掃をいたしておりました末松君が、熊谷君の頭部と顔面をほうきの柄をもって二、三回なぐったのであります。そのため熊谷君は末松士長の胸ぐらを、取りまして、煙突修理のため所持しておりました、ドライバーを左手に持ちまして末松士長ののどを刺したのでございます。こういう事件がございました。
  29. 秋山長造

    ○秋山長造君 今たまたま承知した事件なんですが、この末松士長が大きなことを言うとのされるぞと、こう言ったというのですが、こののすということもやっぱり旧軍隊の言葉なんですよ。まあ気合いを入れるとかのすとか、幾らでもありますが、私わずらわしいからもう言いませんが、相当これに類することがあっちこっちであると思うのです。これはほんとうに今のうちにこういう根を徹底的に切っておかなかったら、手がつけられないことに私はなってくると思う。手がつけられないことになった後に、どんなに国会で皆さんとの間にこの論争をやってみても、また長官や次長がどんなにやかましい訓示をされても、これはとても及ばぬ事態になるのじゃないかと思うのです。この点は増原の次長、自衛隊育ての親という立場ですが、増原次長はどういうようにお考えになっておるのか。この事件そのものについてどうお考えになって、どういう処理をされたのかお伺いしたい。同時に、全般的な問題としてこれをどういうように再検討していかれようとするのかということ。  それから先ほど、そういうことのないように教育をやっていきたいということですが、こういうことが高じていきますと、しまいには一ぺんや二へんなぐられると腹が立つけれども、朝から晩までなぐられると、もう不感症になってしまって、少々なぐられても何ともないくらいで、ああ夕立が来たということくらいであきらめてしまう。そういうことを繰り返しているうちにだんだんばかになっておらにゃ勤まらぬ、こういうようなことになる。そうしていわゆる人間性というものはすかり抜けてしまった特殊な世帯という意味で、真空地帯というようなことに私はなってくるものだろうと思う。だから今日の自衛隊が昔の軍隊と違って、いわゆる特攻精神だとか竹やり精神だとかいうようなこととは質と次元を異にした、科学的、合理的なやはり質の軍隊でなければ、またそういう軍隊を育てようとこうされている以上は、そういう軍隊教育における合理性、あるいは科学性の涵養とか、あるいはさらにもっと広く言えば、人間性の涵養というような点について、具体的にどういう方法を今日までとって来られたか。またこういうできごとにかんがみて、今後そういう点をどのように具体的に展開していかれようとしているのか、これらの点についてさらにお伺いしたい。
  30. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) ただいま御報告をしました事件は、事柄の性質上検察当局事件を今扱っておりまして、検察当局事件究明に従って強制処分をもちろん付随してやるようになると思いまするが、検察当局の捜査の結果に待つという、この事件自体は加害者についてはそういう態度でございます。しかし部隊につきましては、これは中津で起りましたが中津には教育隊がおりまして、その警衛のための人員が足りないので、久留米の方から派遣をしてくる部隊であった。親元の部隊に対しては、さらに具体的にそういう問題についての注意を厳重にいたしたわけでございます。  基本的な問題としては、先ほども考え方の基本は申し述べたつもりでありまするが、秋山委員仰せの通り、われわれの育てていきまする自衛隊というものは、民主主義の基本に立ちまして、基本的人権の尊重ということが考え方のものの基盤でございます。防衛庁法、自衛隊法というものの組織自体がそうした趣旨をもって一貫をいたしております。基本的な問題は国会の承認を経た、この自衛隊法、防衛庁法によってこれは、その条章をしかるべき所についてお読みをいただけば、基本的人権を尊重した上に、しかし国の防衛に当るという実力部隊としての訓練をやっていくという趣旨を一貫をいたしておるわけでございます。そうして当初部隊を作りまするときに、先ほども申し上げましたように、いわゆる私的制裁というふうなものを絶対に部隊内に芽ばえさしてはいけないということで、これはほんとうに具体的にいろいろな点で留意をしまして、部隊を御視察いたただくと大体の空気を私は察知しいただけると思いますが、そういう意味においては、現在の自衛隊は各志願によって入りました者が、基本的人権という点については、十分明るい、明朗な、伸び伸びした形で勤務しているということは私申し上げられると思います。外部の方々が視察をされましても、旧軍隊というものを知っておられる方は、その点については一様にそうした感じを受けるということを私どもにも話していただいておるわけであります。この、いわゆる私的制裁というようなものは、当初私は、いわゆる絶無の形で出発し得たというふうに、一応私どもはいろいろ観察をして考えておるのでありまするが、しかし最近の事情を、いろいろ具体的事実から判断をしてみても、先ほども申し上げましたように、いかんながらそうした面が、若干非常に好ましくない萌芽を現わしておるのではないかということを率直に心配をいたします。この点はいわゆる部隊総監部、幕僚監部の幹部一同といたしまして、そういう事態を容認するという考えを持っておる者はございません。上級幹部には先ごろ減給がありましたが、いわゆる旧軍人出身の人が多いわけでありますけれども、そういう諸君もこれを容認するという立場をとっておる者は私はないと考えております。やはり部隊生活、階級的な上下の関係、きびしい訓練、一応部隊というところで世間と隔たった生活、先ほども指摘になったような傾向が、ややもするとそうした私的制裁を生むという心配を表わしてきたのではないかということを心配するわけであります。これは一層上級幹部一同がさらに思いを改めまして、そうした点の絶無を期するということをさらに再確認をいたしますとともに、日々の行動、訓練、しつけの際に徹底してそういう点を実行 実施できるようにやっていくよりほかに私は手はないと思います。しかし構成その他の面においても考えるべきものはもちろん考えなければなりませんが、公正審査会その他の措置も、従前ありませんでした措置が現在は講じられておりまして、具体的な事例として、懲戒を受けしました者が公正審査会へ訴え出て、再審査の上、前の措置が軽減をされたというふうな措置も相当にあるという次第で、現在の一般の隊員がただいろいろ気合を入れられて、やむを得ず黙っているという雰囲気は、昔に比べても非常に少いということは、まあ明瞭に言えるわけであります。そうした個人々々の自覚ともちろん相待ちまして一部隊の指揮統率に当っている者がそうした雰囲気を絶対に起させない。萌芽があればこれを善処するということで、十分にこれからの日々を気をつけていくより、これの絶滅の方法はないというふうに考えます。
  31. 秋山長造

    ○秋山長造君 増原次長は、先ほど人事局長のおっしゃった中津のこの殺人事件なんか、これは単純な刑事事件とお考えでしょうか。単純な刑事事件としては、これはもうこれだけの特殊な事件だということで、単純な刑事事件として片づけてしまうというお考ですか。
  32. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) この事件は、部隊内の調査といたしましては調査をいたしたわけであります。これは私どもはやはり偶発的な事故という形のものである、というふうにただいま調査の結果は了解をいたしております。両者の間は平素怨恨その他の関係というものは、調査の結果ないと認めておるわけであります。ただ、加害者という方が若干短気なといいまするか、怒りっぽいという性格を、それも非常に顕著であるというふうではないようであります。若干短気、怒りっぽいという性格を持っておったというふうには考えられるわけでありまするが、上下指揮統率と申しますか、これは昔でいえば上等兵と一等兵の間でありまして、明確に上官、下官というふうな観念のまだある階級でありませんが、そうした上官、下官の関係で指揮統率の上で問題がある、というふうな事案とは考えておらないわけであります。
  33. 秋山長造

    ○秋山長造君 その点が私多少見解が違うのですがね、これは先ほども次長自身の口からおっしゃったようにさっきの私的制裁の問題、あるいはこれに類する問題が最近若干出てきた、萌芽を現わしてきた。こういうお言葉があったのですが、これはまあ萌芽であればあったで、やはり氷山の一角じゃないかと思うんですね、大きく言えば。で、かなり私的制裁というものは、こう一般に広くびまんをしておる現象じゃないかと思う。ただそれを防衛庁幹部の方は直接部隊で生活してられないだけに御承知でない。たまたま新聞等に大きな問題として取り上げられた場合に、初めてびっくりされるというような形になっているので、従って中津の問題にしてもこれはまあその当人が短気だということも、もちろん一つの要素じゃある。しかしこういう事件をたまたま起したというその背景というのは、やはり私が今言うような一般のばく然とした雰囲気、空気というようなものがたまたまそういう形になって表面に出たというように理解するのが、私は正しい理解の仕方じゃないかと思う。従って、もちろん今の幹部が私的制裁というようなことを大っぴらに容認する、という建前をとっているものではないとおっしゃるのは、もうその通りで、これはもういつの時代だってその通りだと思う。それからまた自衛隊法の建前もるるお述べになりましたけれども、まあいわば自衛隊法というのは昔の軍隊の戦陣訓だとか、あるいは軍人勅諭だとか、そういう一つの表向きのスローガンなんですから、だから自衛隊法が民主的な軍隊を作る、あるいは基本的人権を尊重すると書いてあるから、だから今の軍隊は昔と違うということは言えないと思う。私の申しているのはもっぱら現地の実態ということを問題にして質問をしているわけなんですがね。そうはお考えにならないで、やはりこれは単純な、偶発的な、それきりの事件だというように軽くお考えになるという考え方は、私はどうも間違っているのではないかというように思うのですがね、どうでしょうか。
  34. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) 基本的に、部隊の中に私的制裁というものがびまんをしてきてはならない、という御意見はその通りなんでございまして、そういうことをなからしめるように、さらに私どもは、今回の三管区行進事件を非常に痛い反省の資料として、将来の施策をやって行きたいというふうに考えます。で、もとよりそうした私は若干の萌芽があるのではないかというふうに心配するということを申し上げたのでありますが、そういうことがところによって若干行われているのではないかという心配をもっているわけで、もとより私どもは始終部隊に直接いたしておりませんが、本部といいましても幕僚幹部の諸君は、いろんな形において部隊とは接触をいたしているわけであります。諸種具体的な事例を通じて、そうした徴候なり事実なりを伺い得る立場にあるわけでありまして、そういうところからわれわれのところにはさらに連絡がつくということでありまするが、そうした組織のみならず部隊を視察、検閲をするというふうな制度もあるわけでありまして、そうした場合にそうした方面のことは十分注意をして、従来とも気は配ってきたわけであります。その配り方に十分と言えない点があったかもわからぬ、ということを十分反省をしなければならない。そうした意味において私的制裁を絶滅する方法には、十分努力をして、十全の注意をしなければならぬ。そのことと今度の事件が、最初のすとか何とか言ったり、平手でたたいたり、持っておったほうきの柄でたたいたということは、もとより私的制裁的な意味を持つものとして、そういう意味においては私はいわゆる関連のないものとは申しません。しかし今度のいわゆる刺殺という非常に大きな不祥な事件に発展をしたこの事故自体は、偶発的なものであるというふうに考えていいと申し上げたわけでございまして、いわゆる私的制裁というふうなものは絶滅をする方向にどうしても進まなければいかぬということは、しかと心がけて行きたいと思うわけであります。
  35. 秋山長造

    ○秋山長造君 人間性の涵養ということがその裏づけにならなければならぬということは、これはもう次長も同感されると思う。それを具体的に、それじゃ、ああいう部隊の性質上、知情意のうちどうしてもこれは意思を鍛えるということに重点がかかりやすいと思う。それがあまり行き過ぎて、そうして他の情操教育というようなことが極端に軽んぜられるということから、やはり問題が起ってくると私は思うのですがね。この自衛隊の内部における情操教育というような点については、どういうことに重きを置いてやっておられるのですか。
  36. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) そうした点は、具体的な実行、方策というのはなかなかむずかしい問題で、自衛隊に入って参ります者は、いわゆる志願の形で志を持って入ってくる、強制的に、意思に反した者は入ってこないという建前のものであります。入って参りました者を教育して参りまするのは実力部隊としての、それぞれの部隊の構成員としてのあれは違いまするが、普通科部隊であればカービンを操作し、ライフルを操作し、機関銃を操作するという実科の訓練というものが一つあります。一面には学科の訓練というものもやるわけであります。学科の訓練は、ごく基本的な憲法その他の法律の観念その他を中心としてやるわけでありまして、今ちょっと教育局長がおりませんで、こまかいスケジュールを私も記憶をいたしておりませんが、情操教育といたしましては、部隊は、一応日課時限後は自由な建前である。平素も時限後は外出を許すという、昔とは全然違った建前をとっておるのです。そうして何と言いましょうか、いわゆるリクリエーションという方面を考えまして、運動競技その他の点を平素の科目訓練の中において、できる限りこれを取り入れ、部隊の中には、大体小さいながら講堂を設けることを一つの基準といたしまして、そこでいろいろなそうした情操的な方面のことをやる、そのほかは昔の酒保にあたりまするものを、これは防衛庁共済組合の直営あるいは請負等のあれでありまするが、そこに若干の部隊設備としての慰安、娯楽の施設をいたしまして、これがまあ経費の関係でまだ十分なことはできませんが、そうしたところで慰安、娯楽の設備をはかる。これは現実の動き方は昔の、これは私も一年志願で兵隊に行った経験を持っておりまするが、昔の部隊における隊員とは、私はまあ基本的に違った明るい明朗な態度で、そうしたものを楽しむことができるように心がけておるというふうに申し上げていいかと思うのであります。しかし、そういう面はなかなか経費の関係その他もありまして、われわれとしても十分行き届かないということを考え、漸次これを改善をして行く、共済組合の方もだんだんと基礎ができてき、また共助会というふうなものは、やっとこれは一昨年の暮、一年少々たったものでありまするが、だんだんとその方面でも措置をし得る、財政的なものがだんだんとできてくるというようなことで、国の経費と見合ってそうした方面をだんだん充実をして行きたい、そういうふうに考えておる次第であります。
  37. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 重複を避けて一つ、二つお伺いをしたいと思いますが、先ほど田畑委員から、今度の処分について、上に軽く下に重過ぎる、そういう意味指摘があったのでありますが、そのことに関連して防衛庁の設置法第十二条を見ますと、「自衛隊の行動の基本に関すること。」が明記してあるわけです。それから同じく十三条には、「職員の教育訓練の基本に関すること。」と、そういう面もあって、今回の処分現場責任のみに追及が向けられて、自衛隊幹部にはあまり軽過ぎているということと、さらに私のお伺いしたい点は、防衛庁自体に何ら責任がないのか、そういうことなんです。これは長官にお伺いするのが一番いいんですけれども、今おりませんから、次長としてどういうふうにお考えになるのか伺いたい。
  38. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) このたびの行進の問題につきましては、先ほど長官も申し上げましたように、こういう訓練をいたしまする際は、基本的な要項は長官訓令及び達の形をもって示されるわけであります。この訓令及び達に不十分と申しまするか、遺漏があるというふうな点を検討をいたしたわけであります。基本的なこの訓令、達という面に遺漏、そごがあったものではないという判定をいたしたわけであります。従いまして、そういう面に携わる者については、このたびは責任をとるという処置長官としてはとられなかったわけでございます。この訓令、達に基きまして、具体的な実施については管区総監計画を立てる。これは異例なもの、あるいは特に重大なもの等は、そういう計画もやはり幕僚監部へ持って参ります。上申をして承認を受けるというふうな措置をとるわけであります。このたびの行進訓練というふうなものは、長官の訓令なり達なりをもって示された範囲内の計画のものとして、管区総監責任と権限において計画をされたものである。従いまして計画責任者としては管区総監をその責任者と認めた、こういうわけでございます。しかし全体の陸上幕僚監部の何と申しますか、統括者という意味におきましては、陸上幕僚長という者が長官に対する最高の専用的助言者という任務を与えられておるわけでありますので、将来こうした面について、さらに周到な注意を加えて行く、具体的にどこをどうというふうに明示できるものではありませんが、将来そう注意を加えて、部下、管区総監等の監督指導に当るべきものという意味において、長官から幕僚長にはそういう意味の訓戒を与えたということになっておるわけでございます。
  39. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 そのことに関連して、今回の処分の結論を出す過程において、いろいろ旧職業軍人系の方々と、文官系統の方々との間に対立があって、いろいろ問題になったように聞いておるわけですけれども、こういうことが平素において、やはり前の刺殺事件とか、今回の死の行軍等を通して、何か職業軍人文官系統の方々との間にいろいろ対立があって、今回そういうような訓練計画の立案等に関連して、特に旧軍人系の圧力によって、それがどうもそごをきたすというようなことを伝え聞いておるわけですけれども、そういうことの有無、おそらく平素そういう対立等はない、うまく行っておると、そういうふうにお答えになるでありましょうけれども、そこのところを一つ率直にお聞かせいただいて、もしありとすれば、これに対する対策も大事なことだと思うわけですから、そういう点についてお伺いしたいと思うのです。
  40. 増原恵吉

    政府委員(増原恵吉君) その点は、御趣旨の前半は、先ほど田畑委員から長官に御質問がありまして、長官からお答えをいたしたのでありまするが、今回の事件の処理につきまして、一部に、いわゆる旧軍人文官出身との問に意見の相違、あつれきがあったというふうに伝えられておる向きがありましたが、私どもこれに関係をいたしまして、慎重にいろいろ研究、論議をいたし、それに参画をした者といたしまして、先ほど長官が申したように、そういうふうなことはございません。もとより人によりまして、当初から意見がピタット一致をしたという、今回の問題はいろいろ事件が複雑でありまして、真相の究明にも私どもとしても調査をいたし、折り返し調査をするという形で、だんだん真相を究明してきたということもございまして、当初からみんな意見がピタットと一致しておらなかったことは私は当然かと思いますが、事実であります。しかしだんだんと事実を究明し、それに従って意見が出て、長官のもとで私どもが話し合いをして、長官意見を申し上げる段階には、最後においては完全に長官を補佐する私ども意見が一致をし、長官はそれを参考とされて最後の決断を下されたということに相なっておるわけでございます。で、平素いわゆる旧軍人文官出身の間にいろいろあつれきその他があるというようなことを、これまた一部に伝えられることでありますが、これは私率直に申しまして、旧軍人の方々の何と申し上げまするか、受けられた教育なりその環境、そうしてすべての人が終戦直後に、その地位職を全部失って、相当の期間はいずれも一般の社会に入って生活をしたという経験を皆持っておるわけであります。そうした経歴なり、教育の経世というものを、文官文官として、これは非常にバラエティがありますが、それぞれの教育を受けてきた。そうして文官と申しましても、また一年志願というような短期間の軍隊の経験を持っておる者が非常に多いわけでありますが、そういう者と比べてみまして、若干ものの考え方なり意見の立て方の相違があっても、それぞれには若干似たような考え方があるということは、私は言い得るのではないかと思います。しかしそれは、そのことがいわゆる旧軍人文官出身というふうな、比較的明瞭な形となって対立を現わしておるということは、私確信を持って申し上げまするが、自衛隊の中にはないと思います。経歴なり教育のあれによって、考え方として、ある似た方向を一方の人が持っておる。文官文官として似たようなまた考え方を持っておるという、ある方向というものは若干あるかと思いますけれども、しからば、ある問題についての意見を旧軍人は全部一致いたし、文官は全部一致しておるかというと、そういうことはありません。今度の具体的問題についても、文官の中にもいろいろの意見が当初ありましたし、旧軍人の中にもいろいろ意見がありました。決して両方が完全に一致をして、旧軍人の方は上を軽く、下を重く、文官の方は上を重くし、下を軽くしようといったような事実は毛頭ございません。私どもは旧軍人というところは御承知のように、昔で言えば少将級から大佐、中佐という、一将、二将というクラスには相当多いわけであります。もう大尉、中尉という、一尉、二尉ということになりますと、ほとんどおりません。だんだんこれから出てくる者は、全部旧軍人としての経歴のない、新しい教育を受けてきた者であります。全体を通じましても、陸においては、旧軍人幹部については二〇%くらいであります。でありまするから、これはそうした意味の傾向というものは、だんだん乏しくなるわけでありまするが、しかし旧の人々が持っておった経歴と教育というものは、いろいろ御心配になるようにもいい点と悪い点を持っておりまして、その悪い点が出てきてはならないということについては、その人々も十分私は自戒しておると考えまするが、われわれとしては、その点は十分注意をして行かなければならぬということを考えて、平素その点については注意をいたしておるわけでありまするが、私をして言わしめますると、少し、何か常にそういう面にあつれきがあるかのごとく一部の方で唱えられることが、場合によっては、人間としては反射的な悪影響を及ぼす場合もありはしないかということを心配いたしておるのであります。部隊内におります者は、そういうふうなことは解消をして、自衛隊内の一団の幹部として、新しい自衛隊のあり方、育成に努力をするという基本的な考え方は十分持っておるのであります。そういう方向がますます助長されて、いやしくも旧軍人文官というような対立のないようにという方向に私どもも一緒に努力をいたしまするし、皆さん方も御援助、御鞭撻を願いたいということが私どもの念願でございます。
  41. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 本件に関する質疑はこの程度にいたします。   —————————————
  42. 亀田得治

    委員長亀田得治君) それでは次に、外務省設置法の一部を改正する法律案を議題に供します。  本件について御質疑のおありの方は、順次御発言を願います。
  43. 秋山長造

    ○秋山長造君 お尋ねしますが、結局今までの欧米局を、かつての終戦前のように、アメリカ局と欧亜局に分ける、こういうことなんですが、しかもこの分られた欧亜局が、結局ヨーロッパとアフリカと、それから中近東、こういうものを轄管するということなんですね。で、これはもう昔の分け方に完全に帰ると思うんですが、私どうもこの十何年かの間に、かつてのアフリカなり、あるいはアジアの情勢というものとそれから今日とでは、これはもう全く見違えるような変化があると思うのです。むしろ国際連合内におけるアジア、アフリカ等の新興諸国の動向、あるいは世界情勢全般の中でのこういうアジア、アフリカの新興諸国の、どう言いますか、立場というか、発言権というか、そういうものを考えた場合に、これはこういうものを依然として昔通りヨーロッパヘくっつけて、欧亜局でいわばヨーロッパのつきものというような形で管轄して行くという考え方が、一体適当なのかどうかというように思うのですがね。この点は外務当局としてどうお考えになっておるのか、それをまずお尋ねいたします。
  44. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 今度、欧米局を分けましてアメリカ局と欧亜局とするわけでございまして、アメリカ局は南北アメリカを所管し、欧亜局はヨーロッパと中近東と大洋州を管轄するわけであります。御指摘の点は、アジア局をもうちょっと範囲を広げて、アラブ諸国をアジア局の中へ含めたらどうかというような御趣旨じゃないかと私は思います。それはAA会議その他で非常に密接な関係があるし、かつまた新興、つまり国際連合におきましてもAAグループというものが、関係上アラブを一緒にしたらどうだろうか、こういうアジア諸国とアラブ諸国を一緒にして、そうして大きなアジア局を作ったらどうかという御意見を伺いましたが、アジア局の実はその所管が非常に広いのであります。しかも東南アジア諸国との外交というものが日本の外交の重要な部門でございますし、かつまた東ア諸国との賠償の問題でございますとか、また戦後処理に関しまする諸般の問題もございます。そういう点からアジア局の仕事は非常に広いので、一応アジア諸国とアラブと諸国を一緒にした方が便宜なようではございますけれども、ちょっと仕事の範囲が多うございまして、まず一つアラブ諸国は、一応中近東の諸国と一緒に欧州、アフリカ、大洋州を一緒にしました欧亜局に含めた方が適当であると考えたわけでございます。実はこれまで、ついでに申し上げたいと思いますが、欧米局でありました時代は非常に範囲が大きかったのでございますが、最近ソビエト連邦、また共産圏でありますポーランド、チェコとの国交も回復いたしました今日におきましては、相当やはりこの方の仕事はふえておりますし、かつまた中近東方面におきまする例のスエズ運河をめぐりますいろいろな情勢、非常な緊迫した情勢下におきましての日本の外交方針を進める上においても、平素からの準備も非常にふえておる、また先ほど御指摘になりましたように、アラブ諸国との交際というものも非常にふえておりますので、そういう点からも欧亜局の仕事がずいぶん多いわけでございまして、かつまた大洋州とは御承知のように貿易関係も非常に緊密でございますが、最近は濠州におきましては、日本と通商航海条約を結ぶというような機運もございます際でございますし、一つぜひこの際欧米局からヨーロッパ、中近東、アフリカ、大洋州というものを分けまして、一つの局を形成するのが適当だと考えまして、本法律案の御審議を願っておるような次第であります。
  45. 秋山長造

    ○秋山長造君 アジア局の扱う事務が非常に広くて多い、特に賠償関係というようなお話があったのですが、なるほど賠償問題は、あとまだインドネシア等が残っているということはよく承知しております。ただこの賠償問題というのは、事の性質上、これはここ当分の仕事なんですね。特に中近東あたりは、これを欧亜局ということでヨーロッパの関係というワクに入れられるということが、どうも私は単なる機構の問題でなしに、外務省自体の考え方が、やはり中近東がかつてヨーロッパの植民地ということで、いわばヨーロッパのつけたしというような時代の頭で、ごく事務的にお考えになっておるのではないかというふうに思える。やはり今日の新しい情勢から言えば、中近東と言えば、なるほどスエズの問題はヨーロッパに多くの関係があることはわかりますけれども、しかしスエズだけが何も中近東の問題ではないので、その背景には、もっともっと大きなアジア全般に燃え盛っている民族独立運動というような背景があるわけですから、やはり中近東くらいは少くともアジアに入れて、そうしてその一つのまとまったアジアという体系として事務的にも扱って行かれるということの方が私は正しいのではないか。それからもう一つは、オーストラリア、大洋州、これなんかをヨーロッパと同じワクで扱って行かれるということも、私は果して適当かどうかと思うのですね。これはもう地理的に見てももちろんそうですが、これはアジア、あるいは東南アジアというものと同じワクでやはり扱って行く、また考え方もそういうワクで考えて行くということの方が実情に即しているのではないかというように思うのですが、その点いかがでしょうか。
  46. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 秋山委員の御意見まことにごもっともでございます。実は私どもの方でも、最初、アラブ・アフリカ局というものを考えたらどうだろうということも一つの案だろうと思って十分検討したのです。ところがそういたしますと、これはアメリカの国情ではそういうふうな分け方をしているようでございまして、それにならって検討を加えましたけれども、二つの局を一度にふやすということは、とうてい現在の情勢からいって困難だ、とりあえず欧亜局ということで、アラブ・アフリカの仕事も含めようということで落ちついたわけでございます。もう一つは、アラブ・アフリカ局を作りましても、最近新興国家が非常に多くて、日本との関係も非常に多いわけでございますけれども、どうもやはり仕事の分量からいって、もう少し時期を見たらよかろうと考えたわけでございます。なお、御質問、御指摘になりましたように、アジア諸国との賠償問題というものも、やはりもうそろそろだんだん片づいて行きつつあるわけでありまして、がしかし、何と申しましても、日本のアジア外交というものがやはり日本の外交の重要な部門でございますので、それらの点も考慮いたしますと、やはりアジア局というものをそう広げるわけにも行かぬのじゃないかというふうに考えるわけであります。しかし、将来賠償の問題等が片づきますれば、この事務の分担等につきましては、さらに再検討を私は要するのじゃないか、そのときにはいろいろな問題は十分また考え直してみなければならぬのじゃないか、こう考えるわけでございます。なおまた、大洋州を含めたということについても御指摘通りなのでございますが、何分、局をそうふやせるわけではございませんので、最も密接な関係のあるところということで、欧亜局の方に大洋州をくっつけた方が、まあ便宜的と言えば便宜的かもしれませんが、まあその方が便利だという結論に到達いたしまして、そのように分けた次第でございます。
  47. 秋山長造

    ○秋山長造君 私は大洋州を別な局にした方がいいと言うのじゃないんですよ。大洋州をアジアというワクで考えないで、ヨーロッパというワクで考えることが間違っているんじゃないかということなんです。
  48. 井上清一

    政府委員(井上清一君) それはもうごもっともなんです。ですから、たとえば先般アジア公館長会議なんかやりましたが、その際にはアジアの諸国の出先の公館長を集めますと同時に、ニュージーランドあるいはオーストラリア、皆来てもらって会議をやったようなわけであります。事務的には非常に密接な関係をやっているのですが、一応の区分けとして欧亜局の方に入れたわけでございます。
  49. 秋山長造

    ○秋山長造君 まあこれはアジア公館長会議にニュージーランドやオーストラリアからも呼んだということ自体が、やはり単なる事務の便宜から言うても、これはやはりヨーロッパ——イギリスやフランスと同じワクで考えるということでなしに、やはりアジアというワクで大きく考えて行くということの方がいいという何よりの証拠だと思うのですで、まあ現在のアジア局だけでも非常に扱う問題が多いから、そう広げられぬとおっしゃるけれども、しかしこれは何じゃないでしょうか、そういう単なる事務上の都合というようなことよりもやはり、考え方の問題ですから、アジアという以上は、やはりただ東南アジアだけでなしに、これは中近東まで含めて、ほんとうの言葉通りのアジア全般というものを一つのワクで扱って考えて行くという考え方の方が私は適当なんじゃないだろうかと、こういうように思うものですから、繰り返し尋ねているわけでございますが、大体何じゃないですか、この欧米局の方が、アメリカをとられ、さらに中近東の方までとられては、どうもなわ張りが狭くなってしまうということで、なかなか離さぬのじゃないんですか、どうですか。
  50. 井上清一

    政府委員(井上清一君) いやどうもこれは役所内部ではそういう……同じ役所でございますから、そうなわ張り争いのようなことをやっているわけじゃございません。ただまあほんとうにアジア局があまり仕事が多過ぎるということなんです。たとえば現在のアジア局においては、日韓交渉の問題、日韓交渉というか日韓関係のいろいろの調整の問題にしましても、賠償の問題にしましても、それから中華民国との諸般の問題、まあなかなか実は問題が多いのでございまして、また経済協力というような面につきましても、何としましても、ほかの方には経済協力なんという問題は出てきませんけれども、アジア諸国に対するこの経済協力の問題というものは、これは日本の経済外交としての最も大きな問題をたくさんかかえておりますので、実は非常に多い。まあ御指摘のようでございますが、アジア局というものを二つ作って、第一アジア局、第二アジア局というふうに二つ作れば非常にいいじゃないかと私は考えますが、とにかくそういうようなことで欧亜局ということで、ちょっと名前からくる感じ、またあるいはその仕事の分量から言いまして、大洋洲をどうするかというような点で若干いろいろ御意見の点はもっともだと思うのですが、さような事情で実はきめたような次第でございます。
  51. 秋山長造

    ○秋山長造君 これはまあ朝鮮の問題もあり、台湾の問題もあるということをおっしゃったけれども、これはまあ大した理由にならぬので、これはまあ大きいと言えば大きいけれども、これは外務省というのは、そういう仕事を日常茶飯のこととして手がけて行くためにあるものですからね。だからそのためにはアジア局があまり手が張り過ぎるということにはならぬと思うし、それからまあ経済協力という点があるとおっしゃるが、それはまあもちろんありますけれども、それはまた別に、外務省のその受け持ちとしては経済局というような別な局もあるわけですから、そう決定的な理由にもならぬのじゃないかと思うのです。  それからもう一つお尋ねしたいのは、まあ以前と違って、今は共産圏の比重が非常に大きくなってきておる。しかも共産圏の場合はこれを個々別々なものとして扱うよりも、やはり一つのこの大きな、どう言いますか、ブロックと言いますか、そういうものとして、これを専門に扱って行くということの方が実情に即しておるのではないか。で、特にソ連との国交も回復され、そしてまた中国などの問題も遠からずこれは日程に上ってくると思うのですがね。で、これは人口の面からいっても、あるいは地域的な広がりの面からいっても非常に大きな比重を持っているし、また日本にとっても非常に大なこれは問題なんですが、この共産圏諸国の問題は、外務省として今まで通り、ヨーロッパの方はやはり欧亜局で扱い、アジアの関係はアジア局で扱いというような形で分散的に扱って行かれるということのようですけれども、そこらの配慮はどういうようになっているのですか。
  52. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 共産圏国家を一括して扱う局を作ったらどうかというような御意見でございますが、そういう考えも一応は成り立つと思いますけれども、これはやはり地域的に私どもは見て行くのがいいのじゃないか。で、他のヨーロッパにおける共産国家と西欧諸国との間の、つまりいろいろな関係というものがいろいろなこの外交上の重要な問題になっているわけでございまして、やはりそれらの関係というものを総合的に見て行くことが必要なわけであって、共産圏だけを切り離して外交の対象としてまとめた形で行くということは、私は不適当じゃないかと、さようにまあ考えておるわけであります。  それから先ほど経済関係の問題が出ましたが、経済協力の問題は経済局で実はやっていないのです。経済協力とか、あるいはまた賠償とかいうような問題は非常に政治との関係が深いので、政務関係の方の地域担当局でもって扱っている。経済局は貿易だけでございまして、貿易がまあ経済局の仕事の中心になっておるわけであります。ただ、まあ共産圏を一括して扱っておりますのは、経済関係でこれは一括して扱った方が便利だということで、経済局におきまして共産圏と非共産圏と分けまして、別個の課で仕事を扱っておるような実情でございます。御了承願います。
  53. 秋山長造

    ○秋山長造君 そうすると何ですか、今度の分け方というのは、賠償問題等もにらみ合せて、さしあたりこう旧いう分け方で行く、たとえば中国との国交問題というようなものが解決した暁において、もう少し事態が変ってくれば、あるいは賠償問題も片づいて事態が変ってくれば、改めて大洋州をどうする、あるいは中近東をどうする、アフリカをどうするというような問題を、改めてそのときこれは根本的に再検討すると、こういう二段がまえの考えなんですか。
  54. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 将来いろろいこの客観情勢が変化して参りますれば、それに応じて私ども考えて行かなければならぬと思うのです。今御指摘になりましたように、アジア諸国の戦後処理に関する諸般の問題が解決しした場合におきましては、事務の再調整というのは、これは当然やらなければならぬ、かように考えております。
  55. 秋山長造

    ○秋山長造君 それからこのジュネーヴの日本政府代表部を設置されるという問題ですが、これは今まであすこの総領事館がその仕事をやってきたわけなんですね。
  56. 井上清一

    政府委員(井上清一君) その通りでございます。
  57. 秋山長造

    ○秋山長造君 それでこの間の次官の説明によりますと、ジュネーヴの総領事館はいろいろな仕事に忙殺されて、本来の領事事務の範囲を越えてしまっておるということが言われておったのですが、これは何ですか、本来の領事事務の範囲を越えたというのは、仕事の性質が本来の領事事務からはみ出しておるということなんですか、それともその仕事の量も非常にはみ出しておる、こういう意味なんですか。
  58. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 仕事の性質におきましても量におきましても、まあ非常にはみ出しておるというような意味であります。
  59. 秋山長造

    ○秋山長造君 そういたしますと、まあ俗な言葉で言えば、とても手が足りないということだろうと思うんですが、人はふやさないのですね、全然。
  60. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 人はふやさないのであります。
  61. 秋山長造

    ○秋山長造君 人をふやさなくて、そうしてそのはみ出した仕事を、ただ看板を書きかえることによってこなして行けるものとも思われないのですけれども、その点はどうなんですか、
  62. 井上清一

    政府委員(井上清一君) これは実は新たな公館の設置について要求したと同時に、予算人員の増加も要求したわけであります。しかし予算の上において認められなかったのでありますが、私どもも内部的に相当これはやりくりをやらなきゃならぬと同時に、将来においては適当にこの増員計画についても御考慮を願いたい、かように思っておるわけであります。
  63. 秋山長造

    ○秋山長造君 まず人をふやす前提として看板をまずかけかえる、そうしておもむろに人をふやして行くと、こういうことになりますね。
  64. 井上清一

    政府委員(井上清一君) そういうことで、正面からそう言われると実はちょっと困るのですが、理屈からいうとそうではないのであります。
  65. 秋山長造

    ○秋山長造君 私はまあ別に人をどんどんふやしてくれということを言うわけではないのですけれども、ここに書いておられる通り、やはり国際連合に加盟し、さらに日ソの国交も回復し、またアジア、アフリカ等を中心にしたこの情勢の変化で、日本の外交というものもだいぶこれは質的にも量的にも変ってこなきゃならぬ、新事態ということを考えた場合ね。それだけやはり飛躍的に外交の陣容というものも、これは強化されて行かなきゃならぬものだろうと思うんです。にもかかわらず、今度のこの改正の内容というものは、全然そういう点は考えないで、ただ看板のかけかえ、あるいは縄張りの張りかえだけに終っておるように思うんですけれどもね。
  66. 井上清一

    政府委員(井上清一君) これはまあ実はわが国の外交陣の非常に貧弱だということについては、御指摘通りでございます。大使館と申しましても、きわめて少い人間でもってやっているというようなのが実際の実情で、日本の国際的な地位の向上に伴って、在外公館の充実をやらなければならぬということは、これはもうだれが見ても明白なところでございますけれども、なかなか一度にというわけにも参りません、逐次やはりそうした方向に努力をして参りたいと私ども考えておるわけであります。で、今度の場合のごときは、この仕事の性質というものに応じて非常にその在外公館の性格というものを明確にしたし、そうしてまあそれによって仕事の能率をできるだけ上げて合理的に一つ運営して行きたい、こういうようなことで代表部の設置をお願いしようとしたようなわけでございます。なおまた在外公館の強化という点につきましては、新たに別個に在外公館の名称及び位置を定める法律等の一部を改正する法律案というのを、今衆議院の方で衆議院先議で御審議願っております。これでもって在外公館の新設増強、またそれに伴いますところの人員増加は五十数名になっております。人員増をお願いを申し上げておるような次第でございます。
  67. 秋山長造

    ○秋山長造君 それはソ連の大使館の設置等に伴うものじゃないのですか。
  68. 井上清一

    政府委員(井上清一君) ソ連の大使館の新設に伴いますのは二十名程度でございまして、あとは他の諸国、たとえばネパール、ポーランド、チェコスロバキア、ベネズエラ等に大使館を置き、イエーメン、リビア、チュニジア、モロッコ等に公使館を置くというようなことなどが、その内容になっておるわけでございます。
  69. 秋山長造

    ○秋山長造君 まあ私の言いたいのは、そういう人の増員ということも、もちろんこれは必要なところは増員しなければなりませんが、同時に、日本の各国に置いておる外交機関というようなものが、やはり昔通り考え方で、ただ人の送り迎えだとか、あるいはまあいわゆる外交、社交というようなことに終始しておるとは言いませんけれども、やはり新しい、特にアジアの情勢の変化、アフリカの情勢の変化、こういうようなものを考えた場合に、もっともっと出先の外交機関というものが実質的に有能な働きをしてもらわなければ困る、情報の収集だとか、いろいろな面でもっと日本が新しい局面に直面して、一つのこういう新しいアジア、アフリカの情勢というものを頭におきながら、昔とは変った新しい構想とスケールをもって日本の外交というものを推進して行かなければならぬという場合ですから、やはりこれを扱って行くいろいろな外交機関というもののかまえも、やはりそれに即応したかまえというものが当然考えられなければならぬと思うのです。そういう立場から先ほどの機構の問題について質問をしたわけです。まあこういう問題は外務大臣に直接お尋ねしなければならぬと思いますが、しかし同時に総理大臣を兼ねておられるのですから、やはり事実上の外務大臣はこれは井上さんに引き受けてやってもらわなければならぬと思うのですが、そういう一つ大きな見通しとスケールをもってやってもらいたいと思うのですよ、その点の心がまえをお伺いしておきたいと思います。
  70. 井上清一

    政府委員(井上清一君) ただいまお説の点については、私どもも平素から考えておりますことについて端的に御指摘をいただいたわけでありますが、従来の日本の外交が、これは外交のみならず、出先の外交官に経済関係の知識が乏しかったとも言えましょうし、またそういう方面に目を向けることがどうも少くて、日本の外交、ことに新しい時代に適する外交のやり方というものにはふさわしくないというような御非難は、もう前々からあったわけで、最近の外務省の若い外交官なりを指導教養いたします根本として、そうしたお示しのような考え方を再訓練の場合あるいはまた教育機関において十分とっておりますし、また実際外交活動といたしましては、先般来、岸外務大臣が就任されまして以来、経済外交というものを外交の中軸に一つ打ち出して、日本の外交というものを日本の経済的な発展、また貿易の伸長というようなことと相伴って、形影相伴って行く形において外交を推進さして行きたい、こういうような念願から、今後の外交方針としては経済外交を中心として行かなければならぬということで、出先の公館の諸君に一応意のあるところを強く訴えておるわけであります。先般アジア関係の公館長が集まりました際も、この趣旨を十分に徹底させましたし、またつい先だってアメリカにおきまして領事会議をサンフランシスコでいたしました。その際もこの方針を、北米、南米、中米の各国に駐在いたしております領事が会同いたしまして、この趣旨を徹底さしたような次第でございまして、まあ一ぺんにというわけにはいきませんかもしれませんが、逐次そうした方針に重点を向けて効果を上げるようにやって参りたいと、かように考えております、
  71. 秋山長造

    ○秋山長造君 経済外交が非常に重要だということは、これはもうおっしゃる通りで私も異存がないのですが、ただしかし、経済外交を大いにやるということだけでは私は不十分だと思うのです。アジア・アフリカ・グループと俗に替われておりますが、こういうグループの新しい動きというようなものを、外務当局はどの程度に評価なさって日本の外交を展開して行かれようとしておるのかということをお尋ねしたいのですが。
  72. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 一昨年でございますか、バンドンで開かれましたAA会議では、日本としても率先参加をいたしまして、AAグループとの間の親善の実をあげるように努めて参ってきたわけでありますし、また国際連合におきましても、AAグループ諸国とは非常に平素から緊密な連絡をもってやっておるわけでございますが、何と申しましても、AAグループは国際連合に参加しております国が二十七ヵ国、全参加国の三分の一に達しておる非常に有力な国家群で、しかも新しい新興国家であって、新興の意気というものは盛んな国家でありまして、まあこういう国家と親善の関係を増進し、かつまた緊密に手に握って行くということは、日本の外交としてきわめて重要な問題である、さように考えまして、そうした方面にもっぱら力を入れて行きたいというふうに考えております。なおまた、たとえば新しい公使館にいたしましても、チュニジア、モロッコ、リビアという方面には、特に今年度におきまして公使館の増設をお願い申し上げておりますのも、さような意味合いに基くものでございます。また最近、岸外務大臣が就任いたしましてから、招待外交などと申しまして、いろいろ向うの政府の人、また民間の人を日本に招きまして、日本の各方面を視察をしてもらって、そうしてそれによって日本を十分認識してもらうというようなことで、いろいろな人に来てもらっておるようなわけでありまして、シリアあるいはまたイスラエル、レバノンというような国々から続々こちらの方に来ております、そうした仕事を通じまして緊密の度を増して行くように一つはかって参りたい、かように考えております。
  73. 秋山長造

    ○秋山長造君 井上政務次官のおっしやるのは、全く行き届いた方針のようでございますけれども、これは実際は、バンドン会議なんかでも、率先参加したとおっしゃるけれども、これは率先じやなくて、一番しりから不承々々に参加したという形だったし、それから東南アジアということになれば、国際的な発言権の比重ということから考えると、やはりインドだとか、ビルマというような国々との親善関係ということは特に重要だと思うのですが、最近のインドとの外交関係というものは必ずしもうまく行っていないというように承知しておるのです。それからビルマにしても、賠償協定はできたけれども、その賠償の実施面においていろいろ問題があるようですが、そのビルマやインドとの関係というのはどういうことになっておるのですか。
  74. 井上清一

    政府委員(井上清一君) インドとの関係は、もう別に何ということなくきわめて親密な関係にあると考えております。それからビルマの賠償問題について御意見がございましたけれども、賠償実施計画のでき上りますまでは、いろいろ問題がありましたけれども、一たん賠償計画ができ上りました後においては、賠償計画がきわめて順調に実施されておるということが、現在のところ何にも問題がないように承知いたしております。
  75. 秋山長造

    ○秋山長造君 時間の関係がありますから私もうこれでやめますが、ちょっとお願いしておきたいのですが……。
  76. 亀田得治

    委員長亀田得治君) ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  77. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 速記を始めて。
  78. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 中近東は今どこの局の扱いになっておるのですか。
  79. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 中近東は欧米局の中に入っております、
  80. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 それからアフリカは。
  81. 井上清一

    政府委員(井上清一君) アフリカも欧米局です。
  82. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 大洋州も。
  83. 井上清一

    政府委員(井上清一君) さようでございます。
  84. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 そうするとアジア局の事務と欧米局を二つに分けるというこの案との関係は、別に直接関係ありませんですか。
  85. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 直接関係はございません。
  86. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 先ほど政務次官の御説明の中に、聞き落したのかもしれませんが、アジア局が大き過ぎて、第一アジア局、第二アジア局というようなものを作ったらいいのかもしれないというような、確信のあるお答えじやありませんでしたけれども、そういうことを何かこの分課に、アジア局の大き過ぎることが関係があるかのような御答弁のように私は承わったのですが、そうじゃありませんか。
  87. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 実は先ほど中近来のアラブ諸国はアジアの方へ入れたらどうか、また大洋州をアジアに入れたらどうかというような御意見でございました。そうすると、現在のアジア局で、はとても一局じゃ大き過ぎるので、二局に分けなければいかぬのじゃないかというように申し上げたようなわけでございます。
  88. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 ただ大き過ぎるからということのほかに、私の想像では、事務的に考えて、やはりアジア局と一緒にしないで、欧ア局というものを一つにまとめた方が、事務の処理の上にも、たとえば経済的関係においても、あるいは思想なり、国柄によって似よった国をそっちの方にまとめた方がいいのである、逆に言いますと、アジア局にそれを合せるのは無理じゃないかというような事例もあるのじゃないかということを想像しているのですが、その点はいかがでございましょうか。
  89. 井上清一

    政府委員(井上清一君) 御指摘通りでございます。
  90. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 本件に関する質疑は、本日はこの程度にいたします。   —————————————
  91. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 次に、国の防衛に関する調査のうち、相馬ヶ演習事件に関する件を議題に供します。  質疑に入る前に、去る十二日の本件に関する日米合同委員会刑事裁判権分科委員会経過について、当局から一応御報告願います。
  92. 津田実

    説明員(津田実君) 去る十二日、日米合同委員会刑事裁判権分科委員会を法務省におきまして開きました、その模様につきまして御報告申し上げます。  当委員会におきましては、アメリカ側から三軍並びに憲兵師令部関係の合計七名が出席し、日本側もほぼ同数でございます。日本側は事務職員等もおりますので、十二、三名に全体はなっております。  それで、会議を開きました当日は、日本側におきまして現在まで認定いたしました事実を説明し、これを概略の証拠に基いて、その認定が正当な認定であるゆえんを説明したわけであります。なお米側からすでに出しております本件が公務にかかるものであるという証明書に対しまして、反対をする理由もあわせて説明をいたしたわけであります。  それに対しましてアメリカ側におきましては、事実並びに公務証明書に反対する理由についていろいろ質問がございまして、それに対して逐一回答をいたしたのであります、その日の日程は、大体それで終りましたわけであります。  アメリカ側の事実に関する認定並びに公務に関する見解、あるいは日本側の見解に対するアメリカ側の見解というものは、次回までに検討をした上説明をする、かようなことに相成りまして、次回期日は今月の二十六日あるいは二十八日の両日のうちに開く、かようなことに相なりましたわけであります。日本側といたしましては、次回期日の指定につきまして、もっとすみやかに指定することを強く要望いたしましたが、アメリカ側におきましては、陸海空軍並びに参謀部その他各般の協議をして、なるべくすみやかにこの問題を解決するためには、相当の日時を置いた方が結局早く結論が出せる、アメリカ側の結論が出せる、こういうようなことでございましたので、日本側としては、次回期日を二十六日あるいは二十八日の両日のうちの一日にするということを了承した次第でございます。  なお、日本側の見ました事実につきましては、あるいは先般政府委員から御説明申し上げたかと存ずるのでありますが、概略をつけ加えて申し上げますと、犯罪の日時は本年一月三十日午後一時五十分ごろでございます。場所は群馬県群馬郡相馬村、キャンプ・ウエア、旧相馬ヶ演習場でございます。事実は被疑者でありまするところの、ウイリアム・S・ジラード三等特技下士官が上官から機関銃等の警備を命ぜられておりました際に、当時その演習場内におきまして薬莢等を拾うことに従っておりました小野関英治さん、坂井なかさん、こういう両名の人に対しましてカービン銃にグリネード・ラウンチャーという手榴弾を投射する機械をつけましたものに、から薬爽を詰めまして、通常の空砲を装填いたしまして、二発おのおの小野関並びに坂井のお二方に向って射撃をした、空砲を発射した、その結果、小野関さんには当からなったのでありますが、坂井なかさんの方に当りまして、下行大血脈上部裂傷による出血をしまして、それによってその場で死に至ったものであります。さような事実を日本側としましては現在の段階においては認定した次第であります。
  93. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 本件に関し、御質疑のおありの方は順次御発言を願います。
  94. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 お伺いしますが、今十二日の分科委員会ですね、アメリカ側から七名、日本側からほぼ同数というのはどういう意味ですか。七名じゃないのですか、日本側は。何かほぼ同数と言うと意味がありそうですね。
  95. 津田実

    説明員(津田実君) 日本側は書記と申しまするか、書記その他通訳関係の者もおりまして、そういうものは正式の委員として認められていないわけであります、委員といたしましては私が委員長でございますが、あと刑事局の課長参事官が三名、警察庁の課長一名、それから海上保安庁の課長代理、これが参っております。
  96. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 アメリカ側はどういう立場の人が来るのですか。
  97. 津田実

    説明員(津田実君) アメリカ側は、委員長は極東陸軍法務部の次席に当ると思われますが、ホドソン中佐であります。あと空軍から二名、これはいずれも法務部、海軍の法務部長ティランという中佐、それから憲兵軍司令部から少佐が一名、あとジェイ。ファイブから大佐が一名、こういう構成でございます。
  98. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 これは日米行政協定で同数ということに承知しているのですが、その数は一応了解したとして十二日、次回が二十六日、あるいは二十八日の二日だ、そういうふうに今承知したわけですけれども、二週間置いてあるのですね。そうしてはなはだ解しかねることは、次回までに日数を置くほど事件の解決を早くさせることになる、そういうふうな説明までいただいている。これはどうにも納得ができないのです。なるべくすみやかに一刻も早くというのが国民の声であるということは重ねて申し上げておる。にもかかわらず次回まで二週間置いている。で、たまたま十二日にあったわけですけれども、事実に対する認定とか、あるいはまた公務に対する見解の相違で一応何ら得るところなく、簡単に別れてしまっておる。それで次回が二週間後というようなことにして、しかも二週間長く期間を置けば置くほど早く解決する、これはどうも矛盾しておるとしか考えられないのですけれども、わかるように、一つ納得できるように御説明いただきたいと思います。どういうことなんですか。
  99. 津田実

    説明員(津田実君) 日米の委員の数の問題であります。これは分科委員会におきましては、日本側委員あるいはアメリカ側委員というものを正式にきめておりますが、これは問題について討議をする場であるというふうに今まで運用がされておりますので、委員の数によって多数決をされるというような問題ではございません。のみならず、従来からの運用から申しまして、発言は全部委員長同士でやるのでございまして、あとは委員長にいろいろ勧告をしたりするという立場委員という形で運営いたしておりまして、アメリカ側におきましても委員の出席が非常に少い場合もございます。例によりますと、陸海空三軍が一人ずつきておったような場合も、過去の例にございます。委員の数の問題は別にきまっておりませんし、それが議決等に影響することは全然ございません。  それから、ただいま次回期日を二週間後に定めたという問題でございますが、向う側の申します説明は、かりに早くすみやかに次回期日をきめて討議をしても、そこでかりに結論が出ても、また合同委員会にこれを持ち上げました場合に、合同委員会でとやかくの議論が出ては非常に困る。そうすれば、またさらに分科委員会におろされるというようなおそれが多分にあるということをアメリカ側が申しておりまして、そういう意味におきまして、アメリカ側の各方面と協議をして、結論をきめてこの次に臨みたい、こういう考え方でございます。そういう説明でございましたので、日本側といたしましても二週間の日時を置くことを了承した次第であります。
  100. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 この事件は申し上げるまでもなく一月三十日に起きて、その後一月有半かかっておるわけですね。そういう長い間、日本側のいわゆる生きた証人の証言についてはいずれもその証言が一致しておる。しかもその事実については日本側は確認をしております。検事でも確信をもっておるということをしばしば承っているのですが、そういう事態を考えてきたときに、もうこれ以上日を重ねたところで、いたずらに日を延ばすだけで、何ら意味がないと思うのですがね。私としては、どうにもまだ事実の認定が終っていないということであれば、これはそのために調査期間等が必要でしょう。その調査期間等については、一月有半の永い時日をもう経過しているのであって、しかもこちらはもうこれ以上調査の必要がないというところまで念入りに調査して、しかも関係者は確信を持っている。そういう段階にある。今、一応の御説明がありましたけれども、時日を置くほど将来問題を残さないで解決できるというそこのところが、それだけの御説明ではわかりかねるのですけれども、もう少し自主的に……岸外相がいつも言われているように、自主的な立場で、あくまで積極政策で行くと、そういう立場で……。そういう面が欠けているのじゃないのですか。向うに気がねして、なかなか遠慮ぎみでこういうふうな事態になっているのじゃないか。もうこの段階では、ただ簡単に集まって……、せっかく私どもは十二日を期待しておったわけです。これはもう当然結論が出るだろうと、そういうふうに期待しておったわけですが、そういう期待はむざんに裏切られてしまった。そうしてまた二週間後にいま一回、それも見通しがないわけですね。そういう点、一つわかるように御説明いただきたいと思います。
  101. 津田実

    説明員(津田実君) ただいまの御質疑、ごもっともでございますが、実は日本側におきましては、仰せの通り取調べはまず全部完了したと申してよろしいと思います。従いまして、それによりますと、証拠を検察庁並びに法務省で検討いたしまして、先ほど申し上げましたような結論を出しまして、委員会に臨む。その委員会に臨む前に、私どもの結論は、相当前から出ておったわけであります。ところがアメリカ側におきましては、これはまあアメリカ自身の事情がいかようであるかということは、たやすく想像できませんのですが、私ども想像といたしましては、アメリカ軍の委員会構成は、陸、海、空軍並びに憲兵司令部、三つのほぼ独立した機関、この問題は陸軍の所管に属するもので、陸軍におきましては、この問題の事実について、むろん捜査官が取調べております。その結果報告によって内容承知していることであります。日本側の取調べにつきましても、いかような内容であるかということは知っているわけであります。ただ、日本側の証人につきましては、あるいはこの分科会で」初めてこういう趣旨のものであるということを聞いたものがあるかもしれないというふうに想像されるわけです。そこで、さような事実につきましては、陸、海、空三軍並びに憲兵司令部、それから参謀本部等が集まりまして、アメリカ側としての態度をきめたい、こういうことでございます。いわば三軍の中の、陸軍以外のものにつきましては、事実の内容に今まで深くタッチしておらなかったという事情があるように、私どもとしては見受けられた。その意味におきまして、さような三軍におきまして、いろいろ議論をされますし、あるいはさらに上層の部とも論議をするのだろうと想像されますが、そういうふうな趣旨もやや見受けられるところでございます。そういう意味におきまして、次回二十六日といたすことは、私どもとしてはやむを得ないのじゃないかというふうに考えておるのであります。この事実は、もとより日本側の見た事実でございます。私ども事実そのものに確信を十分持っておりますけれども、アメリカ側としては、アメリカ側として見た事実というものも一応きめて述べたいという、猶予を求めておるわけです。これは合同委員会が日米協議の場であるという性質にかんがみまして、それを待たないで議論をするというわけには参らないわけであります。きょうな次第で次回の時日がきまったと私は思います。
  102. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 お聞きしておりますと、大へんアメリカ側に御理解の深い御答弁のように受けとれるのですが、それも先ほどから重ねて申し上げておりますように、陸海空の三軍と、それから参謀、憲兵司令部、こういう五者の連絡が必要なので手間どっている、それも一つの理由である、そういうふうに、受けとったのですがそれにしても、申し上げるまでもなく、一月三十日で、その後アメリカも十分調査を重ねておって、調査についてはとうに済んでおるはずなんですね、しかも今の陸海空三軍と憲兵司令部、参謀、これも全然初耳のことでもないし、重大関心を持って、以来協調してきたと思うのですよ、それを、何かこうだんだんだんだん時日を経過させて、遷延策をとっておるようにしか考えられないのです。あなたは今よくアメリカ側のそういう態度はわかると、御理解を持って見られたわけですけれども、私どもにはそういう理解は持てないのですけれども、そういう点、今少し具体的にお聞きしたいのですけれども、向う側は陸軍が主体になるということは当然のことですが、一つその辺の状態をいま少し具体的に承わりたいと思うのです。
  103. 津田実

    説明員(津田実君) この十二日の会合前にすでに当委員会におきましても、大臣が御説明申し上げたと思いますが、日本側の委員長である私と、アメリカ側の委員長と三回ばかり非公式に会合を持っております。その事情等からみまして、今申し上げましたような、私は想像判断をいたした次第でございます。それ以上の内容のことにつきましては、はっきり申し上げかねる次第であります。いずれにいたしましても、従来安保条約発効以来続いております合同委員会の分科会で、私も当初から委員長をいたしておりますが、もちろん問題のむずかしさによって、いろいろ時間がかかることはございましたけれども、今まで解決をしないで、うやむやにせられた事件というものは、一件もございません。事件——問題というものはございません。現在問題になっておる小さい問題も一、二ございますけれども、それも遠からず解決ができると思っております。本件の問題は、具体的事件としては非常に重大な問題であります。しかしながら、私は必ず近いうちに解決を見るものと信じておりますが、それ以上アメリカ側の意図がいかようであるかということは、私としては申し上げかねる次第であります。
  104. 秋山長造

    ○秋山長造君 今のお話は、伊藤さん同様私どもも納得ができませんがね、二月の十八日の日米合同委員会で、分科会を設置するということにきめて、それからアメリカ側が応諾してきたのは三月の七日ですね。この間にも相当の時間がたっておる、三月の七日にアメリカ側が分科委員会の設置に賛成をしてですよ、それからまた一週間たった十二日に第一回をやったのですね、事件が起ってからもうすでに一カ月半たっている、合同委員会もやる、それからまた分科委員会の設置に賛成するのに、いろいろ向うは向うで打ち合せ、相談をされた、その相談は当然ただ何日にこの分科会を開くというような形式的な相談でなしに、事件の根本に触れた実質的な相談をやってきていられるに違いない。それからまた日本の政府側の見解、出方ということも向うはもう十分知り抜いておるはずなんです。にもかかわらず、十二日になって、あたかもそのときからこの事件についての向う側の相談並びに見解の取りまとめに取りかかるというような態度というのは、きわめて私は誠意のない態度としか思われないのですがね、もう全然何ですか、十二日には向う側の詳しい見解というものの表明はなかったわけですか。
  105. 津田実

    説明員(津田実君) 十二日におきましては、向う側の質問、事実並びに公務証明書に対する反対理由の質問について、向う側の態度といいますか、ということは、あるいは想像される面もございましたけれども、向う側の見解は、今とうていこの席に述べることが準備されていない、日本側の正確な事実の認定並びに反対理由を承知した上でやりたい、こういうことでございました、私どもは会の運びの順序といたしましては、当然そのようにされるのが筋であろうというように考えておりますし、従事もさような線で、かかる具体的な問題につきましては、日本側は起訴するかどうかという問題にかかるものでありますので、日本側が積極的に事実を述べるという前提でいくべきであり、またいったわけでございますので、そういうふうに会議を運んだ次第でございます。
  106. 秋山長造

    ○秋山長造君 そうすると何ですね、こちら側から、向うがもうすでに十分承知しているはずの日本側の見解を、ただ一方的に述べて、向うは聞き置くということで終ってしまったのですね。
  107. 津田実

    説明員(津田実君) 日本側の見解と申しまするか、およその見解につていは、非公式に述べたところにおきましても、承知しておると思われる、しかしながら日本側の公式の見解と申しますのは、十二日に初めて日本側から通告をした、その前に、かような犯罪があったという通知は、むろんいたしておりますが、それは全部が具体的な証拠に基いたものではございません。今回十二日に通告いたしました犯罪事実は、具体的証拠に基いたものでございます。なおアメリカ側におきましては、アメリカ側の証人、つまりアメリカ側における現場にいた者、あるいは被疑者本人というものの供述書を相当とっております。日本側の供述書も内容承知しております。日本側も、アメリカ側でとった被疑者の供述書の内容は十分承知しておりますが、その被疑者並びにアメリカ兵であるところの証人の証言と、日本側の証人の証言においては、やや食い違う面がございます。従いましてその点につきまして、どちらが信用されるべきものであるかということは当然先般の会で論議になった次第でございまして、そういうあらゆる日米における証人の供述並びに現場における実況見聞の検討に照らしまして、日本側がかくかくの結論をしたのだということを強く主張した次第でございます。
  108. 亀田得治

    委員長亀田得治君) ちょっと速記をとめて。    〔速記中止〕
  109. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 速記を起して。
  110. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 関連しまして……。先ほど御説明ありました点ですね、この問題についてのアメリカ側の主管は、もとより陸上部隊である。陸軍である。しかし海軍の方やら空軍の方ともよく打ち合せなきゃならない。それが済まないというと、アメリカ側として意見を正式に発表するわけにはいかない、こういうことですね。まあその点は私どもありそうなことだと想像がつきます。しかし、先ほどから同僚の諸君のおっしゃる通りに、この問題が起りまして相当に長い期間を経過しておるわけであります。向うに誠意がありましたならば、もうすでに陸上部隊の方では海軍やら空軍ともよく相談しなきゃならないということは、よく自分でわかっているわけですから、すべての点をその方の係の人たちにも打ちあけて話して、そうして十二日の会合には、アメリカの意見をまとめて出てくるというのが、まあ順当な行き方じゃないか、急ぐという気持があればですよ。それが先ほどの御説明によると、向う側では日本人側の証人の証言を初めてその席で聞いたような人もあったのじゃないかと思う、というようなことであったのですが、そういうことでは、向うの内部の打ち合せをあまりしてなかったんじゃないか、言いかえれば、急ぐという気持がなかったんじゃないかということを疑わざるを得ないのですね。それで、この間の会合でのあなたの受けました印象としてはいかがでございますか。向うはもうできるだけの打ち合せは相当にしっかりやっておるような、ほかの部隊でもこの事実は相当に聞くだけ聞いておるのだ、たまたま聞き落しがあったとかいうようなふうにお考えになりましたのですか。何だかこう、向うの方の急ぐという気持、熱が非常に少かったのじゃなかろうかというような気持がしてならないのです。もし私が想像するような気持であったとすれば、あなたとしては相当に向う側をお責めにならなければならない立場にある。その点はどういう印象を受けられましたでしょうか。
  111. 津田実

    説明員(津田実君) これはもちろん確認できないことでございますし、印象として申し上げるのは恐縮なんでございますが、まあ私どもは率直に考えまして、ただいまのお尋ねに対しましては、はっきり空軍あるいは海軍と事前に打ち合せをしていないもののように思われました。従いまして日本側から示しました事実並びにそれを認めるべき証拠というものについては、おそらく初めてであったろうと思われます、のみならず、アメリカ側からはいまだ日本側の供述調書全部にわたりまして、これを送付を求めておらなかったわけでありますので、日本側の各証人、これは数十名ないし二十名以上であったかと思いますが、の供述は、知らない点が相当あったと思われました。
  112. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 大体印象を受けました点についてはわかりましたが、向うからこちらに資料を要求をしてなかったというのですが、こちらの方からは向うの決意を早く促すための資料として、できるだけの資料は向うの要求あるなしにかかわらず提供さるべきじゃなかったかと思うのですが、それはなさらなかったのですか。
  113. 津田実

    説明員(津田実君) この点は非常にむずかしい問題がございまして、かりに本件が日本側で起訴されまして、問題の供述調書は全部日本側の証拠としてこれは検察側が使用いたさなければならない。被告人がいかなる証拠を持っているかということにつきましては、これはまあ日本側では想像もできますが、しかしその具体的内容はもちろんわかってない。ただ行政協定によりますところの日米協力して捜査をするという意味におきまして、日本側が要求する向う側の供述書は遅滞なく向う側が出してくれておるということでございます。しかしながら、日本側のあらゆる供述書をそのままの形におきましてアメリカ側に要求がないのに出すことが至当かどうかという問題は、将来の検察官と被告人の訴訟におきましての攻撃、防禦にも影響する問題でございますので、日本側としては抽象的に事実として主張はいたしておりますが積極的にかくかくの証拠があり、この点はこうだということは、あまり詳しく立ち入ってはやりにくい状態でございます。
  114. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 そうしますと、向うの要求のない部分についても、こちらから提供された資料もあるわけですね。
  115. 津田実

    説明員(津田実君) 向う側の要求のないものにつきましてはないと思います。ただ大体の趣旨をですね、現地で口頭で話しておる、捜査官同士が。そういうことはあると思いますが、具体的に調書自体を、アメリカ側に写し等を示したという報告は、まだ参っておりませんので、おそらくさようなことはないと私は思っております。
  116. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 そうしますとあなたが代表者で交渉せられるわけですから、あなたと検察、日本側の当局との間には、向うに打ちあけて話していい資料と、そうしてしからざる資料とについての分け方は、もうお話し合いでも済んでおるわけですか。
  117. 津田実

    説明員(津田実君) これは全体の趣旨におきましてですね、要求があれば共同捜査の建前から示さないわけには参りません。しかしその示す場合には、これは被告人の攻撃、防禦として使用することは認めないという条件をもって示しておるものもございますが、さような次第でございまして、全部ただいまのところ示しておるとは申せませんが、それとてこの分は隠しておいて、あとから出すべきだというようなふうな打ち合せは、全然いたしておりません。あらゆる証拠は、法務省の手元に全部参っております。
  118. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 まあ問題点は、証人の言ったことがよくわからなかった。証人の言うところは、そう向うで言っているのとこちらで言っているのと食い違いの件は、距離が何メートルあったかですね、一発撃ったか二発撃ったか、そういう点が大事な点だと思います。それくらいのことは初めから両方にわかっておるわけですね。この間の集まりのときに、向うが空軍、海軍の力の人たちが証人の言うことについて初めて聞いたようなことだったというような点は、それはどういうことなんですか、具体的に言って。証人の証言についてですね、知らなかったことがあったようだ。それをまた持ち帰って相談し直す。こういうことになるわけですが、それは具体的にどういうことを知らなかったんでしょうか。ただばく然と何か言ったのでしょうか。
  119. 津田実

    説明員(津田実君) 詳しい内容につきましては、実はまだ刑事事件前なんでございますので、申し上げることは少しはばかれる次第でございますが、たとえて申しますと、御指摘のような被疑者の発射したのと被害者の距離というような問題についても食い違いがございます。それから一発とか二発という問題につきましては、その後大体食い違いがなくなっております。二発を撃ったことについては食い違いがなくなっておりますが、そのほかの、ごく瞬間的なできごとでございますけれども、やはりそれらの点についての両方の証人の食い違いがございますし、また上官から受けた命令の内容等につきましても喰い違いがある面がございます。
  120. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 このあとで日本で裁判するような場合に、あまり秘密なことを向うに今から打ち明けてやるわけにはいかない。それは捜査の都合で秘密を守らなければならぬ点などのあるということはわかりますけれども、大してそんなことはないと思うのですけれども、そういうところは今のそういう二点、大きな食い違い、そう秘密にしなければならないようなことはないように思うのですけれども、それはしかし検察側のあれもありましょうから、私の方からかれこれ申しませんが、先ほどもあなたがおっしゃいましたように、どうもこれは、向うの連絡が急いでやっていないということは、これは想像が当っているだろうと思います。それじゃ実際国民の感情としては、確かにこの席で繰り返されているように、非常に不愉快なんですね。向うはほんとうに悪かったという気持があるならば、悪かったということを考えないはずはない。犯罪の程度がどの程度かというくらいの程度だろうと思うのですけれども、それならそのように一日も早く解決して、……日本人のほとんど全部です、これに対していい感情を持たないものは……。その感情を早くやわらげるように、アメリカが努めなければならないことは、これは当然過ぎるほど当然だと思うのです。それを忙しいとか何とかいうようなことでは理屈にならないわけです。少し気をつけて早くやる誠意があったならば、もっと早く何とか参るのではないか。もう少し具体的に進んでおやりになる必要がある、こういうふうに思わざるを得ないのですね。もうこの上御答弁は必要ございませんが、一つその点をよくお含み下すって、今後一そう強力に押していただきたいと思います。それだけ私は申し上げておきます。
  121. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 日米合同小委員会の日米両方の意見が対立しておる間は、いつまでも平行して結論が出ないと思う。そうして裁判が開かれない、そういうことになりますと、被害者の坂井一家もさることながら、いろいろ各面に影響するところ重大なことになるわけだが、そこで今までの例を見ますと、対立のまま平行線でいったために、一年以上も結論を得なかったというような事例も今までにはあったわけですね。今回の問題はもちろんそういうことはないと思いますけれども、今までの過程から見て、非常にゆっくりゆっくりとやっておる足取りがはっきりしておるわけですね。しかも十二日、次回が二十六日あるいは二十八日、こういうのをもっと切り詰めて、早急に結論を出す二十六日、二十八日というのは、アメリカ側の言われているそのままできまっておるのですか。これは日本側がそれを了承したというのか、日本側のまさか提案ではないと思いますが、この点はどうなんですか。
  122. 津田実

    説明員(津田実君) 日本側といたし決しては、一週間おきました三月十九日それを提議いたしたわけでございます。それに対しまして三月二十日に合同委員会の本会議が定例で開かれ、その十九日にかりに結論を出しましても、二十日には間に合いかねるのです。そういたしますと、その以後に会合ということになりますと、その次の本会議は四月四日になります。ですから四月四日の本会議に間に合うように、できるだけ早く、しかもアメリカ側に、先ほど来申し上げましたように、内部討議の時間をおいてほしいという要望でございます。それによりまして二十六日あるいは二十八日できるだけ早くということで、二十八日を希望しておったのでございますけれども、できれば二十六日ということで、二十六日までに準備が整えば二十六日に開く、こういうことになっております。
  123. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 そうしますと、ここでもまず最初から日本側の意向はいれられなかったというふうに解釈できるわけですが、どうもこういう大事な日程等についても、いつも向うに譲歩しているような、最初からそういうことではなかなか心もとない気がするわけです。一つそういう点は十分頑張ってもらいたいと思うのですがね。どうもそれ以外にないと思うのですよ。事実は判明ですし、同じことを繰り返したくないわけですから、結局こういうことが解決しない限りは、いつまでもよくないと思うのです。そういうようなことにも関係あって、遺族の問題だけではないと思うのです。基地を取り巻く周辺の農民の方々は非常に重大な関心を持っておるわけですね。そういうわけで、一つ早急に結論が出るように……。ただ努力する、懸命にやるという態度でいるわけですが、もちろん内容については、まだ解決の前で、はばかる点もあろうかと思う、そういう点はよくわかりますけれども、少し強力な態度で一つ早急に一刻も早く結論を出してもらいたい。ただ向うの言うがままにならないで、先ほども申し上げたように、日本の自主的なそうして積極的な態度で解決をはかっていただきたい。十二日の結果についていろいろ質問したいと思ったわけですが、何ら結論が出ていないので、結局御質問することもできなかったわけですが、そういうようなことで、本日はこのことについては自分の質問は打ち切りたいと思うのですが、一つそういう点についての確固たる御方針を承わりたいと思うのでございます。
  124. 津田実

    説明員(津田実君) ただいまの仰せはまことにごもっともでございます。日本側各委員といたしましては、極力すみやかに解決するように従来も努めて参りました。むろん今後とも努めて参るつもりでございますが、私どもといたしましては、早い機会に当然解決がつくものと信じております。
  125. 亀田得治

    委員長亀田得治君) ちょっと一つ私もお尋ねしておきますが、日本側の言い分を米側がよく聞いて、その上で判断する、そのために時間を若干おいて、こうなっているのですが、どうもその辺が、米側は米側としてちゃんと調べて、一つの調べた以上は考え方というものははっきり持っているわけです。その持っている腹の中というものはこちらと対立しているから、こういう分科会に進んでいるのですから、そういう腹を持っておるのにそれを表明しないで、まず日本側の一つお手の内をできるだけ出してもらいたい、こう出てきているわけですね。外から見ていると、何かこう日本側の出すもので、そうして米側で利用できるものがあったらそれに飛びついてきて、そうして日本側の主張というものをうやむやにしていく、そういうやっぱり感じを受ける、だから米側としても彼等の立場を、これは米側の関係者全部の人が打ち合せしたかどうか、内部のことであってわかりませんが、しかし一つ立場というものは、実地調査に基いて持っておるわけですから、日本側が日本側の主張と、それに対する裏づけを説明したのであれば、同時に同じときに米側としても、今までも米側の調査に基く主張と、それに対する裏づけというものを同時に出すべきですよ。これは訴訟の場合の原告と被告が、どちらに立証責任があるという、そういう問題では、私はなかろうと思います。両方が裁判権を、言うてみればこれは主張しているのですから、実質的には。だからそれならば、日本側がそういう説明を、主張をした以上は、同時にその日に、やはり現在までの段階における米側の主張と、それに対する裏づけというものを聞くべきですよ。おそらく次会になれば、もし十二日であれば、米側が言うたかもしれないことであっても、どうも日本側は、こうこうこれだけの裏づけを持っているようだから、この点はこういうふうに若干変えていこう、こういうふうにやっぱりなりがちですよ。そういう気持がないのであれば、当然十二日の分科会において、私は米側がともかく特別の意図がないのであれば、一応の説明はあってしかるべきであって、日本側の主張に対する反駁なり、そういうことは、それはまあ次の日にやってもらっていいでしょう。そのかわり、こちら側も米側の主張に対して納得のいかぬところは、その次にやればいいわけですからね。一方だけ手のうちを出してだ、そして打ち切ってしまった、これはどうもちょっと私納得いかないのでまが、その点どうしてそういうことになったのですか。もう少し説明してもらいたいと思うのですけれども
  126. 津田実

    説明員(津田実君) ただいまのようなお話の順序に参りましたのは、かような事情から起るわけであります。行政協定十七条の第三項(a)の(ii)に関しまする公式議事録というものが、行政協定十七条を改訂いたしますときにできております。その公式議事録によりますると、ここに読み上げまするが、「合衆国軍隊の構成員又は軍属が起訴された場合において、その起訴された罪がもし被告人により犯されたとするならば、その罪が公務執行中の作為又は不作為から生じたものである旨を記載した証明書でその指揮官又は指揮官に代るべき者が発行したものは、反証のない限り、刑事手続のいかなる段階においてもその事実の充分な証拠資料となる。前項の陳述は、いかなる意味においても、日本国の刑事訴訟法第三百十八条を害するものと解釈してはならない。」こういう公式議事録によるとりきめがございます。で、これは北大西洋条約当事国間の協定をいたしておりますヨーロッパ諸国におきましては、同じような合意がなされております。ただ、日本よりももう少し駐留側、つまりアメリカ側にとって利益といいますか、利益なように、「前項の陳述は、いかなる意味においても、日本国の刑事訴訟法第三百十八条を害するものと解釈してはならない。」これは刑事の自由心証で、ありますが、こういうところを欠いておる。つまりそういうもののない、反証のない限り、いかなる段階においても十分な証拠書類となる、こういうふうな合意に、ほぼ北大西洋条約当事国間の協定諸国においては、なっておるんです。  そこで、その意味におきまして、公務執行中であるという証明書は、すでにアメリカ軍から出しておるんです。これはこの公式議事録による証明書でございます。従いまして、それに対してこちら側が反証を主張する立場がここに生じて参る。従いまして反証として、本件は反対の証拠と申しますよりも事実が問題でございまして、事実さえ確定すれば、もちろんこれが公務であるかないかということは確定される性質の事件だと日本側は了解しております。そこで、もっぱら事実の確定に力を注いで結論を出した次第でございます。そういう意味におきまして、こちら側が反証として主張したところを、アメリカ側が十分了解した立場でございます。了解した上で、自分側の主張なり見解をきめた、かようなことになっておりますので、大体理論といたしましては、この公式議事録の趣旨に従って会議を進めておるというふうに解釈しておる次第でございます。
  127. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 向うの方からは積極的に向うの説明をしないんでございますか。向うがこっちの言い分だけ聞いて、理解をするかしないかという腹をきめるということになっておるように今承わったんですが、それを逆に、向うから言ったことが筋が通っておるかどうかをこっちで考えるというような段階になるんでしょうか、片っ方だけですか。
  128. 津田実

    説明員(津田実君) 先ほど申し上げましたように、この事実の説明、主張並びに公務証明書に反対する理由の説明並びに主張に対する質問といたしまして、アメリカ側の見解らしきものが、質問の間に片りんが現われるということによって看取するわけでございますが、しかしながらアメリカ側のこの公務証明書は第一線部隊長の出しておるものです。従いましてさらに上級の当局である合同委員会分科会のアメリカ側の当局においては、その証明書の内容も、日本側の反証と相持って審査しなければならぬ立場にあるわけです。その審査をするということになろうかと、かように考えております。
  129. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 どうも済みません、わかりませんですが、いろんな資料——向うの考え方をこちらで聞く、聞きたいということで質問したり、資料の提供ですね、要求したりする権限は、こちらにはないんでしょうか。
  130. 津田実

    説明員(津田実君) 向う側の取り調べました資料は全部要求しております。その写しは全部日本側に参っております。それ以外に、向う側は、日本側の知っておる限りにおいては、調べたものはございませんし、また向う側も調べたものはないと申しております。従いまして、向う側の持っておる証拠資料は、日本側に全部集まっておるというふうに考えられるわけでございます。
  131. 上原正吉

    ○上原正吉君 行政協定の内容について伺いたいんですが、アメリカ側が日本で軍務といいますか、公務といいますか、公けの仕事をしておる間に、その仕事のために日本人に危害を加え損害を与えたら、その損害は日本国が賠償するんだ、弁償するんだ、こう覚えておりましたがその通りですか。
  132. 安川壮

    説明員(安川壮君) この問題は刑事問題を離れまして、損害賠償の関係もあらうかと思いますので御説明申し上げますが、その点は行政協定十八条に規定がございまして、アメリカ軍の軍人軍属の公務執行中日本人の身体または財産に与えた損害につきましては、日本国は次の規定に従って処理するものとする、こうなりまして請求は、請求が生じた日から一年以内に提起され、日本国の法令に従って審査し、かつ解決し、または裁判する、こうなっております。そうしてその結果日本側が損害を審査しまして、日本側がまず補償額を定めまして被害者に支払いました後に、その支払いの金額は日米両国が一定の比率で分担することになっております。そしてその分担比率につきましては、この行政協定の規定そのものには直接定めていませんが、別個に日米間で取りきめをいたしまして、損害額はアメリカの負担が七五%、日本側の負担が二五%、こう定められております。これは北大西洋条約諸国の損害補償の負担率と全然同じでございます。従いまして一応全額日本政府が調達庁の手を通じまして支払いまして、それをあとからその七五%に当る部分をアメリカ側が償還する、こういう手続をとっております。
  133. 上原正吉

    ○上原正吉君 そうしますと、今度はアメリカの兵隊がパンパンを売いに行って酒を飲んで酔っぱらって人を殺したとか、商店の器物をこわしたとか、そういうことになりますと、これは公務によってやったんじゃないから、アメリカ軍が責任を負わないということになりますか。
  134. 安川壮

    説明員(安川壮君) 公務執行外の損害につきましては、日本政府は何ら損害を賠償する責任を負っておりません。これは相手が個人でありますから、これはそういう民事上の損害については、相手のアメリカ軍の軍人軍属は、日本の裁判権に服するわけでありますから、被害者はこれを裁判を通じまして損害賠償を求めることももちろんできます。ただ、そういう場合に非常に裁判手続によりますと被害者にとりましてもいろいろ煩瑣な手続がありますので、それを保護するために、一応日本政府を通じまして米軍側に慰謝料を請求するという道が開かれておりまして、もしそれに米軍が応じまして慰謝料を支払いまして、それに被害者が満足すればそれで解決いたしますし、もしその慰謝料で被害者が満足しない場合には、やむを得ず裁判に訴えると、こういう手続でございます。
  135. 上原正吉

    ○上原正吉君 その米軍側というのは米軍個人ですか。アメリカの軍隊という意味ですか。
  136. 安川壮

    説明員(安川壮君) アメリカ軍でございます。
  137. 上原正吉

    ○上原正吉君 そうすると相馬ヶ原の事件の場合には、これは公務執行中であると、公務執行中に日本人に危害を加えたんだということになれば、日本も全額とにかく賠償なり何なり払って、そして七五%アメリカ軍から取るということができるが、公務執行中でなくて、酔っぱらって町でけんかをして殺したのと同じだということになってくると、かえってその坂井さんの不利になるんじゃないかというおそれがありますが、この点はどうなりますか。条約の解釈上。
  138. 安川壮

    説明員(安川壮君) 条約上はまさしくその通りでございまして、被害者の単に損害賠償という面から見ますと、公務であった方が迅速に事が運ぶということになりますし、公務外となりますと、そういう慰謝料ということになりますので、これはもちろん日本政府として迅速に手続をとる点においては変りありませんけれども、若干補償支払いの手続から申しますと、その面からだけ申しますれば、公務であった方が有利であると言うことはできると思います。
  139. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 その点は私はそういうふうに理解していないのですがね。公務外の場合は結局日本で裁判権があった場合のことを意味すると思うのです。そういう場合には結局その補償については調達庁を経由して向う側に、米軍側に申請する。米軍側が補償の審査をして、向う側が審査をして向う側が全額払う、そういうことになっておると理解しておるのですがね。だからかえって公務外の方が不利だということはあり得ない、そういうことはあり御ないのですか。
  140. 安川壮

    説明員(安川壮君) ちょっと私の申し方が適当でなかったかと思いますが、もちろん慰謝料は米軍側が全額払うわけでありまして、日本政府は、これは公務上の場合には一応日本政府が立てかえと申しては語弊がありますでしょうが、全額とにかく払いまして、米軍の支払いはその後に日本政府に対して支払われますので、被害者の立場から考えれば、米軍の支払いが早かろうがおくれようが、とにかく日本政府の責任で一たん支払われるのでございまして、慰謝料の場合はもちろん調達庁が日本政府を代表しまして米軍に交渉はいたしますけれども、支払うのは合衆国軍隊が直接支払うので、日本政府がそれを前もって立てかえて払うという道はないわけであります。その面でまあその方が不利だという私の言い方は適当でないと思います。それだけの違いがあるわけであります。
  141. 竹下豐次

    ○竹下豐次君 いや、先ほどの課長の御説明によるというと、原則論としてまた法律論として、いかにも公務でない方がこっちの方が都合がいいのだというようなふうに聞えたのですよ。これは私は公務の場合であっても公務でない場合でも、被害者から見れば、時と場合により、その慰謝料がうんとたくさんもらえるというようなことを予想される場合もあるかもしれないし、これはまあ非常にしみったれで、それで訴訟になって長引くということもあるだろうし、早く解決する場合もおそくかかる場合も、多くもらえる場合も少くもらえる場合も、いろいろあるだろうと思いますから、原則論としてどっちの方が有利だとか不利益だとかいうようなことは言えない。まあしかし、やはりその公務でない— 公務のときに何かの間違いでけがした、死んだというなら、これはまあある程度は許すべき点がないとも限らぬと思うのです。公務以外でやられたということになったら、これは非常に不愉快な問題でありまして、国民感情としては最も悪い立場に追い込まれるということになるだろうと思っておりますが、そういうふうに理解してよろしゅうございますか。
  142. 安川壮

    説明員(安川壮君) ちょっと私の説明がまずかったかと思いますが、この公務外の場合にも、幾ら払うかということを査定してきめますのは日本政府でありますから、そこに公務上と公務外によって不公平な取扱いが起ると、少くとも日本政府に関する限り、その間に不公平な取扱いが起るということは、法律上はないわけであります。
  143. 伊藤顕道

    ○伊藤顕道君 従って公務中から公務外かということは、本人には関係ない。ただアメリカと日本の負担の率が変ってくるだけであって、あなた方がさっきおっしゃったように、あたかも公務中の方が非常に有利なような印象を与える発言があったことは、はなはだ遺憾なんですがね。
  144. 安川壮

    説明員(安川壮君) 有利という言葉をそういうふうに誤解されるといけませんので、有利という言葉は取り消しまして、手続上違いがあるということに御了解願います。
  145. 亀田得治

    委員長亀田得治君) 本件に関する質疑は、本日のところこの程度にいたします。  本日は、これにて委員会を散会いたします。    午後四時四十八分散会