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参考人(大内義夫君)
船舶通信士協会の大内でございます。私はこういう団体におりますために、
船舶通信士がどういう実情にあるかということを知っておりますので、特に今回、こういう国会におきまして
電波法が
改正されると、こういうことがわれわれ
船舶通信士に伝わりまして、それがどういう状態になっておるかということをまっ先に申し上げたいと思います。
先ほど
船主協会の方が言われた
通り、
日本の
船舶通信士の乗組員の数が
外国に比べて非常に多い、従って、
定員を減らしたいと、こういう要求は毎年、戦後十年間、ほとんど毎年のように執拗に繰り返されておる、こういう事実はかねがね知っておったわけでありますけれども、今年に入りましてから、
船主協会がそういう
電波法を変えて
通信士の
定員を減らすということを運動し始めたと聞きまして、それが国会において取り上げられて、今
審議されておるという点を、船に乗っておる人
たちが非常にそれを聞きまして、無線ニュースか何かで知りまして、非常なショックを受けたわけであります。かねがねそういうような
通信士の
定員を減らすということは、世間の強い要望であったということは知っておったけれども、この
電波法という
法律まで変えて、この
通信士の
定員の最後の息の根をとどめてしまおう、こういうような強い形が今回現われた、それについては非常なショックを受けまして、私ども知らなかったのですが、
海上では毎日無線によるニュースが放送される、それを受けまして知ったんだろうと思いますけれども、私どもの団体に電報が来まして、各船からたくさん参りまして、ぜひこれは阻止していただきたい、ぜひわれわれは一丸となって、こういう点が誤解があると、われわれの正しい気持ちを伝えて、ぜひこういう
改正を食いとめてもらいたい、こういう陳情
意見が殺到してきておるわけです。なぜこういうような強く
通信士がショックを受けたかと申しますと、実は
電波法は戦後できた
法律でございますけれども、
船舶通信士は、
電波法という
法律は自分らにとっては
一つの憲法になっておるのです。
電波法によって定められたいろんな条件によってわれわれの
無線通信士という資格が与えられておるのです。さらに、それによって与えられた資格を持って船に乗った場合、
船舶無線電信局に服務した場合は、こういうような仕事をしなければならぬ、こういう条件、こういう状態の中でこういう服務をしなければならぬ、全部仕事の基準は
電波法で支えられておる、自分の一個の職業として最も忠実に働くための一切の根拠は
電波法にある、従いまして、
通信士としましては、
電波法は
一つの憲法になっておる、その憲法のうちの一番主要な根幹になる
電波法第五十条を変えるということになりますと、致命的な打撃なんです。
電波法第五十条は、
船舶無線電信局の局種別を定めて、どういう船が第何種に相当するか、こういう船はこういうような資格を持った
通信士を乗り込ませなければいけない、こういう種別の局はこういう時間を執務しなければならぬ、ところが、
電波法は、われわれ移動業務というか、船に乗っておる
通信士にとっては、特に第五十条というのは致命的な、一番生命になる条項であります。これを変えてそうして
通信士の
定員を減らす、こういう点が明らかになったために、これはいよいよ大へんなことになった、われわれの職業的な生命、われわれの常に考えておった航海の安全、ひいては
日本の
海運に
寄与するための
海上無線通信の機能、それを唯一の
信頼とし、それをもって職業的な誇りとしてこれをもって一生自分の職業としようと考えておった
通信士は、これでは自分の
信頼し得るよりどころを一挙に崩壊してしまう、こういうような痛烈な印象を受けたのであります。なぜかと申しますと、特にわれわれ戦前からの船の
通信士でございますけれども、最近商船の数もふえまして、大体
日本の商船の
通信士として乗っておる現職
通信士の数は三千名
程度であります。これは戦後最高の数字なんで、やはり船がふえまして、
通信もこれによってふえる、従事する
通信士もふえるわけですが、そのうちの大体三分の一
程度の人は、新しい
電波法ができて、この無線電信はこういうものである、
無線通信というものはこういうものであると、
電波法ができてから
電波法の中で教育される、こういうものだと思って教育されてそして乗っている人が三分の一くらいである。乗っていて非常に驚くことは、
法律で定められた条項によって働いている、ところが、これでは人が多いのだ、君
たちは
法律で定められているためにやむを得なくて三人乗せているのだ、だから
法律を変えて三人乗っているところを一人でもいい、二人でもいいというような問題を、職場についたとたんにそういうことを耳にするわけです。これでは一生自分の職業としてやろうと思ったところが、そういうようなことでは非常に不安である、そういうような心理影響を受けているわけなんです。さらに、じゃ、なぜ
船主の方は減らすか、減らす条件とは何かといった場合には、これは
オート・アラームというものがある、もう
一つは、
外国船と比べまして
日本の場合は非常に多いのだというような、こういうような相関連した
一つの
理由で、
電波法の
改正が可能であるし、またそうするのが正しいと、こういうようにわれわれは聞いておるわけであります。ところが、その
一つ一つについては、
通信士は絶対納得できない。第一、
オート・アラームは人にかわるものでない。これはよく知れわたっておるところなんですけれども、これは他船が遭難した場合に信号を打つ、他の船が航海中危険に陥った、そういうことを機械の力で探知する、そういう
性能を持ったものが
オート・アラームである。ところが、われわれ三人乗っているのは、自船の安全航行のために必要だと思って乗っている。だから他船の遭難を知るための機械でもって、自船の安全のために乗っておる者がそこでおろされるということが納得できない。それから
オート・アラームの
性能は、なるほど戦前に比べて多少はよくなりましたけれども、やはり最近のはやりの言葉でいえばオートメーションという概念からは違った機械でありまして、たまたまそれだけしかこれを受ける能力というものがないわけです。非常に高い金を出して単なるロボットに機械をかえてそれで減らす。そういうことは
通信士としての資格を持ち、技術を持っている立場からしますというと全然これは問題にならない。それからもう
一つは、
外国船と比べて
日本の
通信士が多い、こういうことなんであります。これについても、私
たち全部
各国の例を詳しく知っておるわけでありませんけれども、大体船の
無線通信の運用の状態というものは相当違います。それからいろいろな
海運企業上においての問題にも関連しまして、大分
日本の場合と事情が違うわけです。現在
日本の船は戦前と同じように
世界各国の至るところに就航しておりますが、戦前においては台湾あるいは、もちろん沖縄を含めまして南洋群島、そういうような非常に広い範囲であったのが、戦後は本州だけに限定されてしまって、地球の裏側へ行って毎日のように
日本と連絡をとらなければいけない、これは口でいえば非常に簡単でございますけれども、戦後短波
通信というものが非常に利用されまして、これは南極から
日本へ直接
通信できる世の中でございますから、これは可能なわけです。ところが、船の移動
通信に供する周波数の問題というものがありますと、同じ波を使っていろいろな
各国の船がやるわけです。混信というのが非常に多いわけです。その中を選んで
日本に向って地球のすみずみから
通信しなければならぬ、これは非常に労苦を伴う仕事なんです。ただ仕事がえらいというだけでなくて、これは
通信できる可能性でありますけれども、その時間だとか、走っている地域の条件によってはいつでもできるとは限らないわけです。たった一通の電報しかないのだから、たった一通の電報のために何人もかかる必要がないと言われるけれども、そうではなくて、相手をつかまえまして銚子なら銚子が返事してくれた、それからそれに対してこっちの船から電報を送るということは、わずか一分かそこらでできる。ところが、一分の時間をつかまえるために二十四時間いつでも、最も自分の都合のいい時間をつかまえるという態勢は容易ならぬことです。それからそれに機械の
性能ですね。これは
外国船あるいは
日本船を一目見てわかりますけれども、
日本船の場合は、一キロというのが非常に強い電力ですけれども、あるいは、それ以下の五百ワットという電力でやっている。大体五百ワットの電力があればこれは熟練した
通信士であれば、
世界のすみずみに行きましても
日本の内地とは連絡できます。さらに優秀な船は、一キロというような非常に強いパワーを持った設備をするわけです。そういうような優秀な設備は
外国に比べてない。なぜ
外国船はそういうような簡単な機械でいいかというと、
外国船の場合は百五十ワットとか、非常に簡単な機械でよろしいのです。それはイギリスの船であろうとアメリカの船であろうと、本国に
通信する場合には、どこにも中継地というのがある。同じ電報料金でもって、たとえばイギリスの船がロンドンを出発して
日本に来る。途中に香港がある。そうすれば香港に打てばいい。
日本の近海に来てロンドンを呼ぶ必要はない。途中スエズもあればインドもある。ですから百マイル、二百マイルの近距離から
通信ができる、そういう設備を持っている。簡単に
通信ができて、しかも、料金も国内電報と同じような
通信料金で打つことができます。それで一通打つために、二十四時間一秒間の休みもなく波をつかまえる、そういう
努力をする状態が、だいぶ違う。アメリカ船の場合でも大体そういうわけです。
それからもう
一つは、
通信士というのはこういう仕事をするのだということが、
日本と
外国の場合違います。アメリカ船のごときは、ただ機械を運用する、
通信をするというだけの仕事の内容ですけれども、機械がこわれた、修理するというような場合にはタッチしない場合が多い。それは自分の責任外の仕事である。従って、
船主協会の方もちょっと言われましたけれども、
通信士に限った任務は多いけれども、他の乗組員は大体他の
外国船と同じ
程度である。ただし、エンジニアの場合は多少上回っているようなこともあるようだということを
船主協会の方も言われましたけれども、そういう点はあると思います。それは電気士というような職名を持った人がおりまして、場合によったら無線のようなローラン、電源
関係はもちろんのこと、いろいろな修理、つまり
日本でいえば、技術
程度の知識内容を持った人がおりまして、そういう場合にはレーダーであるとか何がこわれた場合には修理する、こういう
性能を持った、職能を持ったエンジニアがおるわけです。ですから
日本の場合は、三人乗っておりましても全部単に無線電信の機械ばかりでなくして、最近はレーダーであるとか、ローランであるとか、航
海上非常に便利な機械ができまして、そういうものは全部その船の
無線局の仕事の
一つになっております。保守、修理の設備というのは
通信士の仕事になっております。こういう点がだいぶ違うわけです。
それからもう
一つは、
船主協会で言われますことは、
日本の
海運の
国際競争力をはかるためにどうしても
外国船並みにして、そして三人を二人あるいは一人にして、
日本海運の対外
競争力を強めたいということは、おそらくこれは
船主としては当然の要望だと思います。従って、私どもは立場は違いますから、また
意見が違う、これは当然ですけれども、ただし、私らどうしても納得できないのは、事実に対する見方がやはり間違っている、これはどうしても納得できない。
オート・アラームは、
外国船と同じような
性能を持っているからこれはいいんだとか、それからあるいは
外国船が一人でやっているところを三人でやるのはおかしいとかいう点は、それに対応する条件等を無視して、ただ
員数だけで比べた上でそういうことを言われる。ぜひ、そういう
外国船と
日本船の場合は、こういうような状態が違うということを
一つ一つよく見ていただかないというと、私どもの言うことが、単に自分の職業を守るための職業的な利己心だけで言っておるのだ、こういうふうにとられてしまう。それは非常に残念なんです。われわれは絶対に、無線
三直制というのは、当面は正しいものと思いますけれども、ただ、今三人で乗るかわりに、こういうような条件があって、こういう条件ができたから、従って、これは
オート・アラームというようなことがあれば、それはわかりませんけれども、今出されている問題は、
オート・アラームというものが
外国製と変らないのだというだけが根拠になっておりますから、私どもは絶対に承服できない。もっとそれにかわるような、こういう
方法を講じて、こういう設備をしたから、こういう条件を作ったから、従って、
外国と船同じようにしたからどうかと言われた場合には、これはどうかわかりません。しかし、われわれは当面そういうことはあり得ないと思っております。ですから、現在の
電波法のこの第五十条、これは
法律できめる場合には、いつの場合でも最低なんでありまして、われわれは
法律で定めたものが最低の基準である、こういうことを固く信じているわけでございます。特に、先ほど
海員組合の方が言われましたけれども、
昭和十九年の国会におきまして、
船舶職員法というものが
改正され、それによって初めて
日本の商船に乗っている
通信士は、
船舶職員という
法律上の待遇が取り入れられたわけです。それにあわせましてこういう船には
三直制が必要だというので、いわゆる従来の無線
関係の法規もありましたけれども、
法律上の建前として、
無線通信士の
三直制は
船舶職員法によって初めて確立したようなわけです。長い間のわれわれの要望や
努力がありまして、そういうことを国として取り上げていただいて、国の意思として、
船舶通信士は
三直制でもって運営されるのがいいのだということを、最初に
船舶職員法によって
法律的に認めていただいた。それが
昭和二十六年の
改正、あるいは今般の
改正にも、ことごとに
通信士の資格というようなものが問題にされて、これをくずそうとして、
船舶職員法だけいじったのではどうにもならぬから、根本は
電波法から直していかなければならぬ、その
電波法のうち、特に第五十条だけが問題だからこれを何とかこわして、これで最終的に息の根をとめてしまおう、こういうことになったのだろうと思います。ただ、
電波法の五十条をそういうことで
改正するということになりますと、われわれは
法律のことは門外漢でありますけれども、どうしても
無線通信士の立場から見ましても、
電波法の五十条だけを変えた場合には、
電波法の性格は根本的に変らないと思う。ただ
電波法の五十条
関係だけをいじったところで、これは完全な
法律体系というものができるかどうか疑問に思っております。われわれが職務に従事しておる場合に、われわれ職能的な使命であり、われわれはまずそれを誇りとしておるようなものを奪い去ろうとしていることに対しては、どうしても承服しがたいのです。
私どもはこれからもいろいろ
資料を集めまして、
皆さんにもぜひとも御了解願っていただくようないろんな
資料、
調査資料というものをそろえまして、これからも
お願いに上りたいと思いますけれども、本日は、時間の
関係もありまして、簡単に要点だけを申し上げておきます。