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1957-02-28 第26回国会 参議院 社会労働委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年二月二十八日(木曜日)    午前十時三十七分開会   —————————————   委員異動 二月十一日委員坂本昭辞任につき、 その補欠として木下友敬君を議長にお いて指名した。 二月二十三日委員寺本広作辞任につ き、その補欠として近藤鶴代君を議長 において指名した。 二月二十七日委員藤原道子辞任につ き、その補欠として大矢正君を議長に おいて指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     千葉  信君    理事            高野 一夫君            谷口弥三郎君            山本 經勝君            早川 愼一君    委員            勝俣  稔君            草葉 隆圓君            紅露 みつ君            近藤 鶴代君            榊原  亨君            鈴木 万平君            西岡 ハル君            大矢  正君            木下 友敬君            藤田藤太郎君            山下 義信君            田村 文吉君            竹中 恒夫君   国務大臣    厚 生 大 臣 神田  博君    労 働 大 臣 松浦周太郎君   政府委員    警察庁刑事部長 中川 董治君    法務省刑事局長 井本 臺吉君    文部政務次官  稻葉  修君    厚生政務次官  中垣 國男君    厚生省公衆衛生   局環境衛生部長  楠本 正康君    労働省労政局長 中西  實君   事務局側    常任委員会専門    員       多田 仁己君   説明員    厚生省引揚援護    局引揚課長   石塚 冨雄君    労働省労政局労    働法規課長   石黒 拓爾君   参考人    東京衛生局公    衆衛生部獣医衛    生課長     北浦弥太郎君   —————————————   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○労働情勢に関する件  (労働教育行政指針に関する件) ○社会保障制度に関する調査の件  (犬の咬傷被害対策に関する件)  (奄美大島戦没者葬祭料の支払  に関する件)   —————————————
  2. 千葉信

    委員長千葉信君) ただいまから社会労働委員会を開会いたします。  委員異動を御報告いたします。二月十一日付をもって坂木昭君が辞任し、その後任として、木下友敬君が選任されました。二月二十三日付をもって寺本広作君が辞任し、その補欠として、近藤鶴代君が選任されました。さらに、二月二十七日付をもって藤原道子君が辞任し、その補欠として、大矢正君が選任されました。   —————————————
  3. 千葉信

    委員長千葉信君) この際、参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。社会保障制度に関する調査一環として、犬のこう傷被害対策に関する件の調査のため、参考人から意見を聴取してはどうかと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 千葉信

    委員長千葉信君) 御異議ないと認めます。参考人は、東京衛生局公衆衛生部獣医衛生課長北浦弥太郎君とし、日時は、二月二十八日午後一時といたしまして、手続等委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 千葉信

    委員長千葉信君) 御異議ないと認めます。よってさよう決定いたしました。   —————————————
  6. 千葉信

    委員長千葉信君) 労働情勢に関する調査一環としまして、労働教育行政指針に関する件を議題とし、前回に引き続き御質疑をお願いいたします。  なお出席者は、政府側より松浦労働大臣中西労政局長並びに間もなく伊能労働政務次官が参る予定でございます。それでは御質疑をお願いいたします。
  7. 山本經勝

    山本經勝君 前回、本委員会で御質疑を申し上げて、大臣の御説明を求めたのですが、その際の問願点というのは、労働次官通牒に関してであります。それで御承知のように、労働省設置法によりますというと、その第三条に、明確に労働省任務規定しております。そうしてまた、この労働省が設置されましたときに、労働省訓令第一号というものが発せられた、これも御承知通りだと思います。このときに訓令の骨子となっているのは、労働省設置目的は、労働省設置法第三条に明記された通り、「労働者福祉職業確保とを図り、もって経済興隆国民生活の安定とに寄与する」ことにあると、こういうふうに非常に明確な規定があるのです。ところが、通牒内容をこれに対照して検討してみますというと、まことにこの訓令趣旨とはおよそ質的にも、また、形の上でも変ったもののような印象を強く受ける。そこで、前回質問申し上げたのは、単に労働運動をあたかも取り締るというがごとき印象を与えるような通牒ではなくて、もし通牒が必要であるならば、内容から申しまして指導通牒という性格を持っているでしょう。しからば、少くとも労働関係の双方に対して、正しい労働省立場教育指針として出されるということなればわかりますが、ところが、そうではなくて、もっぱら労働運動団結権団体交渉、あるいは団体行動権に関する規制を目的としたごとき内容教育指針なるものは全くもって不可解である。いやしくも、労働者福祉をはかり、労働者保護する、あるいは職場を確保する、こういう趣旨であるなれば、もっと広い範囲の、しかも公平な教育指針が出されるべきでないかということを御質問申し上げた。ところが、そこで今すぐに答弁するのを差し控えてるというような意味の御答弁があったように記憶いたしております。でありますから、本日まず冒頭に大臣から、ただいま申し上げました点についてわかりやすく、しかもはっきりした一つ答弁をお願いしたいのであります。
  8. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 労働者福祉生活の安定のために、今度出しました労働次官通牒というものはもちろんそういう意味が十分含まれておりますが、ただいま御指摘になりました労働省設置法、同じ設置法の中の労政局事務の中の第七条に「労政局においては、左の事務をつかさどる。」その四に「労働組合及び労働関係調整に関する啓もう宣伝を行うこと。」というやはり教育意味に関する規定がありますから、やはり労使関係教育指針として労働省がいろいろいたさなければならぬことは当然のことであります。そこで、先般の山本さんの御質問に対しまして、通牒を出した意味は、一体労働大臣としてはどう思うのか、局長としての意見は聞いたけれども、そういう事務的なものではいけない、大臣としてはどういうふうに考えるかというお問いでございましたから、それをまとめてこの次に御答弁を申し上げる約束をいたしました。そこで、私といたしまして通牒を出しました趣旨について、私の考え方をまとめて申し上げたいと思います。  従来、労働法に関する行政解釈は、そのときどきの必要に応じて断片的に出されておったのでありましたが、本通牒は、これらの行政解釈基底をなす精神に従って、労働組合労使関係あり方についての考え方労働組合法施行十年を経た機会に系統的に取りまとめて公けにしようという計画のもとに、昨年来検討を加えてきたのでありますが、本年初めにようやくこれが完成いたしましたので、さっそく発表いたしました次第であります。従って、一部に臆測されております向きもあるようでございますが、それ以外の特別の意図も全然持っておりません。本通牒内容は、憲法労組法規定する労働組合団体交渉労働協約争議行為に関する保護保障労働条件集団的決定という中心的目的のための制度一環として解せられるべきものであり、また、四者はそれぞれの密接不可分な関係において保護保障されておったのであることを明らかにし、その上に立って団体交渉あり方労働協約の締結、平和義務不当労働行為制度あるいは争議行為の具体的な問題について、憲法労組法が従来予想し、期待しているところの労働組合運動労使関係あり方に関する基本的な考え方を系統的に取りまとめたものであります。労使関係の健全な発展は、労使の自主的な努力に待たなければならないことは言うまでもないことでありますが、政府といたしましても、このために、できる限り、援助努力をする責務を負っておるのであって、本通牒は、労使関係者及び国民一般に訴えてその理解納得を得て、よりよき慣行の成長を促進するために、政府及び都道府県の行う労働教育行政指針となすものであります。  その内容は前述のごとくであって、いわゆる行政解釈を定めたものではなく、また、労働委員会には、もとより労使当事者を直接拘束するものでもないのであります。労働組合運動労使関係国民経済あるいは社会生活に関する影響も大きく、民主的国家にふさわしく健全に発達することは国民ひとしく願うところであります。これを育成助長することは政府任務であり、また、重大関心事であります。本通牒趣旨とするところが関係者理解納得を得て、これにより、労働組合運動の一そう健全強力なる発展の一助とならんことを希望してやまない次第であります。  以上がお問いになりました本通牒を出しました私としての考え方でございますから、御了承願いたいと思います。
  9. 山本經勝

    山本經勝君 今のは大体、この間、局長お話になりましたような筋を書き物にしてお読みになったと言わざるを得ないと思うが、ともあれお話になっていることでもって重大なのは、今まで多くの問題が起ったときに、あるいはまた、解釈意見等を求めた際に出された解釈通牒、あるいは施行通牒、それから指導通牒といったようなものが出されていることは私もよく存じております。そこでそういうものの総合的な何といいますか、集大成といったような形でまとめたものであるということであれば、今まで出たもので足りると私は思う。ところがそうではない。ここに問題になっているのは、ここにありまするおよそ労働省設置以来出されました一切の法令がまとまっておりますが、その中には、個々事件について、あるいは行政的な立場から、あるいは知事等から質問があり、また、関係団体からの質問に対して答えられたもの、解釈例規に至るまでたくさん載っております。これはあらためて教育指針としてまとめて出さなくても、およそ皆さん知っていると思うのです。ところが、今度の出されたねらいが私どもにはわからぬから御質問申し上げているのですが、今ここで行政解釈ではないということをはっきりと大臣はおっしゃっておる。ところが、この間の質問の際には、中西労政局長の方からの御答弁では、行政解釈ではないが、行政解釈基準をなすものである、こういうふうに御答弁になっておる。私ここに至ってますますわからなくなる。行政解釈行政解釈基準とは一体どういう違いがあるのか、全くその内容について懇切な御説明をいただかないというとわかりかねる。
  10. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) まあわれわれの方で行政解釈というのは取締り上違法であるとか、あるいは間違っておるという行政上の適法でない、あるいは違法である、そこでまあいろいろ行政上の制裁を加えるというようなことを行政解釈と言っておったのであります。私もこの間、答弁の中におきまして、行政解釈といったような言葉を使った記憶があります。その場合に、私の使った言葉は、適法であるとか違法であるとかというものではなくて、まあ通俗的な意味においての解釈といった考え方という意味を私は申し上げたのでございますから、この際この機会に、釈明いたしておきますが、行政解釈という言葉は今申し上げたようなことでございますけれども、その行政を行うための基底をなす精神が今出しました次官通牒である。また、従来機会のあるごとに断片的に出してきたものを総合的に取りまとめたものであると先ほどから申しておりますが、それに違いないと私は思っております。
  11. 山本經勝

    山本經勝君 今のお話、まことにどうもあいまい模糊としているのですが、行政解釈ではない、行政的な立場考え方というのはまたどういうことになるのですか。行政解釈ではない。そこで行政解釈でなくて一体何なのかというと、労働行政上の考え方、こういうのが通牒という形で本来であったならば出されるものなのですがね。そこら辺が私にはどうもわからない。個々の問題があって問い合せがあるなら、解釈例規として出された実例がたくさんある、あるいはこの事件について非常に解釈上の疑義が生ずるというような場合に、一応労働省としてのこういうふうに解釈するものであるという事例はここにも全部載っているのですが、一まとめにそこでその中を見て、およそ今まであり、かつまた、あり得る問題については遺憾なく一応載っている、そのいい悪いは別問題ですよ。ところが、それが一括してこういう通牒じゃなくてういわゆる教育指針として出されなければならなかった理由が私にはわからない。これをもしもっと見れば、この中には今度出された通牒という内容教育指針以上に詳細なのです。これだけのものが全部この種のものであり、解釈までついているのですから、それほどのものが出されておるのに、それを一括してなお出して、今度は通牒行政解釈ではなくてですよ、労働者教育する方針である、指針である、こういうふうにして通牒の名において押し付けなきゃならぬということが私にはわからぬ。
  12. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 法制的の問題については局長から答弁さしたいと思うのでありますが、今の問いについて私、もう一点申し上げたいことは、これは労働教育指針であるということがわれわれの最初から申し上げている点であります。一つ行政を行うために、その基底をなす精神をその取り扱う省から出すことは、私は当然であろうと思っております。それでありますから、教育指針として出してひとり労使関係のみならず、一般国民労使教育労働教育指針というものを知らしめるということが私は最もわれわれのとるべき道であると、かように確信いたしております。
  13. 山本經勝

    山本經勝君 今の大臣の御意見、非常に貴重なものだと思う。ただいまお話になったのは、いわゆる労働行政に関する基底をなす指針である、こういうことなのです。そうしますと、この内容に盛られたものはいいですか、労働省設置法先ほど読み上げましたね、訓令第一号なるものに載っているような精神である。あるいは労働省設置法第三条に掲載されている九項目の、いわゆる労働省任務と題する明確な規定がある。この線にのっとってなされたものであるかどうかをます大前提として明らかにしておきたいと思う。
  14. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 法制的な問題については、局長から答弁いたさせます。
  15. 山本經勝

    山本經勝君 こういう問題については、労働省設置法なんというものは、労働省最高責任者としての大臣が、これは事務担当者等に代弁させるものではなくて、私は基本問題だから、これはやっぱり大臣に答えてもらいたい。
  16. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 法制的な問題については、局長から答弁いたさせます。
  17. 山本經勝

    山本經勝君 もう一度申し上げますが、先ほど申されたことは非常に重要なんですよ。そもそも労働省が何のためにあるのかということにまでなってくると思う。この労働省の、さっきのをもう一度申し上げますが、訓令第一号を見れば非常にはっきりしておる。これに何か別の意見がおありなら、それははっきり承わっておかなければいかぬと思う。  もう一度読みますと、「労働者福祉職業確保を図り、もって経済興隆国民生活の安定とに寄与する」ことにある。これですよ。これがすなわち、労働省労働者に対する保護機関であり、あるいはサービス機関であるといわれたゆえんだと思う。こうしたものを基礎にしていろいろな問題が派生し、そして時事問題を取り入れて、ときどきの状況を取り入れて政策が考えられておる。これは私はよくわかるのです。そうしますと、基本精神はどこにあるかといいますと、この精神にのっとっておらなければいかぬと思う。今度出された通牒にしても、教育指針そのものが出されて、悪いとは申しておらぬ。内容が問題だから申し上げるのです。そして労働行政基底をなす指針であるということであれば、このいわゆる基本精神から逸脱したものであってはならない。
  18. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) そうです。
  19. 山本經勝

    山本經勝君 と思うんですよ。そこでこの三条の規定を見ますというと、第一番に、「労働組合に関する事務労働関係調整及び労働に関する啓もう宣伝」第二番目は、「労働条件向上及び労働者保護」第三番が、「婦人の地位の向上その他婦人問題の調査及び連絡調整」第四が、「職業の紹介、指導、補導その他労務需給調整」第五番が、「失業対策」六番が、「労働統計調査」第七番が、「前各号に掲げるものを除く外、労働者福祉の増進及び職業確保」第八番が、「労働者災害補償保険事業」九番が、「失業保険事業」こういうことになっておる。そしてそのあとには、四十数項目にわたって非常に懇切に明らかに労働省の持っている権限規定せられておる。私はこれを読んでみても非常にはっきりしておると思う。  ところで、その前提がます明らかになっておらなければ、今度の次官通牒が非常に重要だから、私は念のために申し上げておるのですよ。基本的な労働省立場、そうして労働省最高責任者として労働行政を担当されておる大臣が、このことをどういうふうに御理解になっておるかを今あらためて勉強し直さなければならぬ事態になってきておると私は考える。ですからこれは、労政局長等いろいろ経験者多数おいでになりますが、少くとも最高責任者の口から明らかに解明してもらわないと私は納得できない。しかもこの私の申し上げておることは、日本の現在働いておる労働者一千二、三百万が聞いておると思ってもらわなければならない。そこで一つ大臣からこの点は明らかに解明を願わなければならない。
  20. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 先ほど読みになりました「労働者福祉職業確保を図り、もって経済興隆国民生活の安定に寄与する」ことにあるとお読みになりましたが、その目的を達成するために、民主主義的かつ平和的な労働運動及び労働団結労働政策が行われて初めて国民生活の安定並びに労働者福祉ができるものであると思いますので、この目的を達成するための教育指針であると、かように考えております。
  21. 山本經勝

    山本經勝君 大臣に重ねてお伺いしますが、今のお話はまことに肩透かしを食わされたようなお話で、それじゃ全く納得がいかないのであります。それは私は、大臣としてですよ、労働行政を担当している最高責任者である、今度新しくなりました岸内閣の閣僚の一人として、当面する多くの労働問題が個々にどうなっているかということを一々伺っているのじゃない。総括的に言うたら、基本的な精神が、訓令第一号、この訓令労働省設置法に基いて発つせられている。しかもその任務権限基礎にされているのですよ。そうすると、出されている通牒と私ども内容において非常に食い違いがあると感じているから申し上げている。このます前提になるのは、今の労働省設置法でいっている任務基礎にしているのかと、その一体どこに該当しているのかと私は申し上げたいのですが、基本的には、今の労働行政に関する基底をなす指針である、またあるときには、その目的を達成するための教育指針である、こういうようにいろいろに言葉が変るのですが、これでははっきりしていないと思うのですよ。つまり、個々に今まで規定されている、これに載っております、労働省設置以来何百というたくさんな通牒訓令あるいはまた、いろいろな命令等が出ている。この中に載っているものをいろいろ読んでみますが、ことごとく個々の問題についてはほとんど漏れなく出ている。今まであったもの、また、あり得るものまで予想して出されている。ところが……ちょっと聞いておいてもらわぬと。
  22. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) ええ、聞いております。
  23. 山本經勝

    山本經勝君 そこで、基底をなす指針と、こういうものとは、一応関連を持っていると思うのですが、その個々のものがいい悪いは別問題として、あらためてそれを一括した教育指針としてあの大きなものを出している。しかもそれの中身には、団結権、それから団体交渉権、それから団体行動に関する権利、こういうものが具体的ないわゆる注釈まで加わって載っている。ところが、そうしたものは、要するに教育指針であり、それから基底をなす、労働行政基底をなす指針であるということになりますと、私はやや食い違った気持が起るのです。そういう誤まった解釈を私どもの方でしてはなりませんから、そこで念のために伺っているので、労働省の本来あるべき任務と、そうしてまた、その性格なりあるいは権限といったようなものから見て、これはどうもそぐわぬ点があると思えばこそ伺っているのであって、その基本をもう少し懇切に御説明をいただかなければ、私はどうしても納得がいかない。
  24. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 先ほど申し上げましたのは、労政局事務、第七条においても、啓蒙宣伝というものがありますが、また、今御指摘になりました第三条の一項の終りの方に、「労働組合に関する事務労働関係調整及び労働に関する啓もう宣伝」という業務上の規定があります。で私はこの規定に基いて、もちろんこの教育指針というものを出したものであると思うのでありますが、今までまちまちに、断片的に、事態の起ったたびに出しておったものをまとめたと申し上げましたが、それのみならず、判決例、その他、諸法令関係も十分参酌いたしまして、このものを一冊見れば、すべて労働団結権団体交渉権あるいは行動権等についてはまとめてあるのでありますから、それが労働行政労働のこれらの三つの、団結権団体交渉権団体行動権教育指針と、こういう意味で出したものであると思っております。
  25. 山本經勝

    山本經勝君 どうもそこがわからないのですよ。この私の質問の要領が不徹底でわからないのかもわからぬと思います。その点は一つ指摘をいただきたいのですが、この問題になっている指針の中には、労働組合団結権、それから団体交渉団体行動、これが中心なんです。ところが、労働組合運動の中で、この三つ言葉は、表現は、労働運動におけるほとんど全部と言っていいのですよ。遺憾なく尽されているのです、労働運動としてはですね。労働者の問題としては、さらにその他の問題がたくさんある。ところが、労働組合運動から見ますというと、大体中心をなしておるだけではなく、この基本的な三つの——まあ労働三権とも言われたのですが、その三つ権利ともいわれるものは、少くとも労働組合運動の中の中心をなしている。その中心をなしておる行動だけが、今度の教育指針の中の問題として取り上げられているのですよ。これは大臣はお認めになると思う。あるいはおいでになります事務当局も御承知通りなんです。ところが、労働省労働行政基底をなす指針としてこれを出そうと言われるのであるなれば、これはもっと幅が第一広くなければならぬと思うのですよ。この通牒そのもの内容が、教育指針内容が……。少くとも先ほどからたびたび申し上げておるように、労働省設置法に明確に規定づけられた任務なり、権限というものは、もっと幅の広いものである。単にここに取り上げられているのは、通牒の中に取り上げられているのは、労働関係調整という、ただ一部だけなんです。その一部だけをもって労働行政基底をなす指針であるとは、一体これは労働大臣として、どこからそういう意見が導かれるのか、これは私全くわからぬのですよ。
  26. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) ただいま申し上げましたように、団結権団体交渉権団体行動権に対しては、これが指針になると私は思っております。従来個々ばらばらになっておったものをとりまとめて、総合的にこしらえたものであります。また、労働省といたしましては、私はこういうことを考えるのです。労働者も、使用者も、国民も、これは自分の意のままに、あまりわがままであってもいけないと思うのですよ。だから、何か一つの規制された法律のもとに行動しなければならない。だからして私どもは、この労働行政一つのサービス省といいますか、これをお世話をする方としては、やはりはっきりとその法律による権限内容、それがやはり教育として、ひとり労働者ばかりでなくて、国民一般に、こうあるべきであるということが知られていくことの方がいいのではないか、かように思うのであります。
  27. 山本經勝

    山本經勝君 全く大臣はうまく私の質問をそらしていかれますが、今のお話を承わりますと、この通牒は、労働者団結権団体交渉、あるいは団体行動に関する三つの問題を中心にした教育指針であると言われたのですね。ところが、私が今申し上げているのは、ここの中身は、先ほどから申し上げているように、きわめて疑義がある。まだその中には触れていないのですが、非常に私どもが読んだところでは疑問がある。しかし、先ほどからお言葉をいろいろ、そのときどきに変えられると困るのですが、労働行政基底をなす指針であると、——私はお言葉通りにこれはメモしたのですが、そういう重大なものであるとするなれば、少くとも労働省設置法の、労働省に与えられた、あるいは大臣に与えられた権限の中から出てくるのが私は当然なことだと思う。そこで、私はさらに今の言葉を借りて言いますというと、労働者団結権団体交渉権団体行動権、こういったものについてのいわゆる教育指針として出された。そのもの一つが出されて、その他の点は出されていない。こういうことは、やはり労働行政基底をなす指針には、私はならぬと思うのです。——なりますか。その点を明快にしていただかないと、これはあと質疑を進める上からも非常に困るのですがね。
  28. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 私はやはり先ほど申しましたように、団結権団体交渉権団体行動権、この三つ基底をなすものであるということを申し上げておりますから、間違いないと思っております。
  29. 山本經勝

    山本經勝君 そういうことを伺っているのじゃないのですよ。この通牒は、あなたのお言葉を借りれば、先ほどの表現では、労働行政基底をなす指針である、きわめてこれは重要なものである、そういう御説明があった。ところが、そのあとで、労働三権に関する今度の通牒は、その部分について労働省本来の目的を達成する、任務を達成するための手段として出したものであると言われたのですが、その基底をなす指針というものは、少くとも、私はもっと幅の広いものではなかろうかと思うのですが、大臣説明によるというと、その一つであると言われるからその他があるはずです。その他が多くあるはずです。もっとなければならぬと思うのです。先ほどから言うように、設置法の三条の規定には九項目あげられている。しかも、労働大臣みずから述べられていることは、労働者福祉の増進、保護、職場の確保、こういうことにあることはもう申し上げるまでもないのであって、そうしたらもっと幅の広いものになってこなければならぬ。つまり基底をなす指針としてであるなれば。ところが、そうでなくて、単に労働三権に対して規制を与えるための指針なんですから、私はますますわからなくなってくるのです、質問しながらも。
  30. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 先ほど私の申し上げましたのは、行政解釈基底をなす精神に従って、労働組合労使関係あり方についての考え方労働組合法施行の十年に出したと、こう言ったのでありまして、その基底というのは、行政解釈基底をなす精神であります。だから速記を見ていただけば、そういうふうに私は申し上げたのです。
  31. 山本經勝

    山本經勝君 私はその点速記録あとで見てから……。
  32. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) それで、今そういういろいろこまかしくおとりでございますが、われわれの今考えているのは、行政解釈基底をなす精神に従ってやったのだ、こう言っております。私は先ほどそのためにこれを読んだのですが、何かそのほかの答弁のときに、労働行政基底をなすと、一般労働行政基底をなすと、もし私が申し上げたのであったならば、それは取り消します。私は本通牒は、これらの行政解釈基底をなす精神に従って云々と言ったのであります。その基底はそこに使ったのですが、労働行政一般の基底をなすものと、もし私が答弁中に申し上げたことがあったならば、それは取り消しておきます。
  33. 山本經勝

    山本經勝君 今のお話は問題がちょっとありますので、あとで速記を調べた上で、したいと思うのですが、行政解釈ではないということを重ねて強調されている。その行政解釈でない行政解釈基底である、これはどういうことですかね。ちょっと具体的に一つ説明を承わらぬとわからないのです。
  34. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 行政解釈基底をなす精神です。
  35. 山本經勝

    山本經勝君 基底をなす精神……。
  36. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 基底をなす精神、その基です、それの精神です。
  37. 山本經勝

    山本經勝君 ますますわからぬ。これは行政解釈ではない、政府解釈基底である、こう言われる。ところが行政解釈基底精神である、次第に下っていってさっぱり主軸の方が……さっぱりわからぬ。その点もう少し、どういうことですかね、これは。中西さん、どうですかね。そこら辺の一つ御解明をいただかぬと、大臣の話ではさっぱりわからぬ。
  38. 中西實

    政府委員中西實君) 先ほど大臣が申されましたのを、そのままおとりいただいてけっこうだと思うのでありますが、従来の行政解釈をなしておる精神に従って、今回系統的に取りまとめて、労働組合労使関係あり方についての考え方をまとめたものである、こういうことであります。
  39. 山本經勝

    山本經勝君 そうすると、従来出しておられる行政解釈基底をなすいわゆる行政解釈、やはり行政解釈ですね。
  40. 中西實

    政府委員中西實君) 行政解釈という言葉意味でございますが、これは先ほど大臣言われました通り行政庁が出す解釈を全部行政解釈といえば、これもあるいは行政解釈かもしれません。しかし普通いわれている行政解釈と申しますのは、条文に即しまして適法、違法ということを行政庁の立場からはっきりするというのが行政解釈でございます。そのほか、この教育指針は全体の構想を書いてございますので、中には適法、違法ということについて触れておるところもございますけれども、さらに、あるべき姿ということから、違法、適法と直ちに言えないけれども、こうあるのが筋であろう、こうあるのが望ましい、そこまで実は書いておるわけであります。従って、これは労働教育指針であるということが言えると思います。
  41. 山本經勝

    山本經勝君 局長の今のお話は、大臣もその通りに御理解になっているのですか。
  42. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) そうです。
  43. 山本經勝

    山本經勝君 そこで大臣にお伺いしたいのですが、そうしますと、行政解釈労働関係法規に照して適法であるか、違法であるかという問題点が、一つ行政的な立場解釈されている、こういうことなんですね。それが今度は一般に、この場合には教育指針というような名で出されたのですが、もともとこの中に出ている通牒は、ものすごくたくさんあるのですが、このたくさんある通牒の実例を見てみますと、大ていこういう行政解釈的な、適法であるかどうかということの決定的なものになっているのですよ。さらに、今度出された通牒の中にも、中身を私は今一々触れませんが、私の見たところでは、相当たくさんないわゆる問題点がからみ合っている。しかもそれに対して違法である、大体、こういうことが総括的に言えると思う、この労働組合法並びに労働関係調整法など、つまり労働三法といわれる三つの法律の焦点は、やはり労働者が団結をして、自分の賃金や、労働条件向上させるために集団的に問題を処理する基底的な、基本的な規定である、こういうふうに一応解釈されるのです。そこで私なりにこれを解釈するというと、労働者が、個人と経営者との間で契約によって取りきめたものには不当なものが過去にあった、あるいは資本家の力によって圧迫を受けるという事実もあった。従って、そういうものを保護するという基本的な立場に立って、集団的に労働条件を決定する、労働条件を決定するためにのみこの団結権、あるいは団体交渉、あるいはまた、団体行動権は許されているものであって、その他のものについては、幾多違法の実例が列挙されている。あるいは違法ではないまでも、それすれすれのところまで不当性の批判を受けるというような意味のことを言われている。ここら辺が先ほどお話からいったら、行政解釈という言葉に、少くとも適法か違法かということの判定については問題があるのです。しかし、そういうような形でやるものなれば、私はむしろ今まで出た個々のいわゆる通牒で事は足りていると思う。ところがまた、事あらためて通牒を出されて、しかもそれは通牒ではなく、行政解釈ではなくて、いわゆる教育指針であるというような、ここら辺がまことにうまく、なで回したようなごまかしが感じられてならないから、私は熱心に質問を申し上げているのです。そこで、行政解釈適法か違法かということの具体的なそういう事例があれば、それは述べられますか、大臣は。
  44. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 今の適法の例、違法の例、今までの労働行政上いろいろあろうと思いますから、局長からその例を申し述べさせます。
  45. 山本經勝

    山本經勝君 例はあとでいいです。私のなお質問の中でお願いしたい。  ちょっとまた、なかなか迷路のようなところに入ってわからなくなってしまったのですが、これはやはり基本的に一つ御迷惑でしょうが、御検討を願いたい。それで、行政解釈適法か違法かという問題は、一応内容について今度あらためて質問をやってこまかにして、明らかにしていきたいと思います。  そこで、労働省で、労働省設置法基本的な労働省任務基礎にした諸政策がいろいろあると思うんです。そこで、教育指針の中に盛り込まれるべきその他の要素は、この団結権団体交渉団体行動権等に関すること以外にはありませんか。
  46. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) いろいろあろうと思いますが、とりあえず、この三つの問題について指針を出したわけであります。
  47. 山本經勝

    山本經勝君 そのとりあえずが非常に問題なんです。たくさんその他にあるにもかかわらず、労働省保護することが目的であり、その労働者の職場を確保してやることが目的の、任務労働省が、教育指針を一般労働者大衆、あるいは第三者を含めて認識を新たにさせようというので、今まであった通牒の集大成を作ってまで出さなければならぬとすれば、その他の問題が私は取り入れられてしかるべきではないかと思うんです。その点は大臣どうなんですか。
  48. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) 先ほどのお問いになりました場合に例をあげられたのでありますが、この三つの問題が団結権団体交渉権団体行動権、この三つのものが勤労者側、あるいは使用者側から見ましても、先からお話しになったように、ほとんどこの労働行政の大部分を占めていると思うんですよ。しかし、そのほかにもいろいろなまあ事務的な問題もあろうと思いますが、とりあえず、この三つが一番大きな問題であるとでありますから重点的にこれを取り扱ったと、こう申し上げていいと思います。
  49. 山下義信

    ○山下義信君 関連して一つ……。今聞いておりまして私もよくわからないのですが、これは何ですか、労働省労働教育の資料ですか。これは労働教育の資料ですか。教育指針という言葉をお使いになったんですが、結局労働教育の資料ですか、性格として。
  50. 中西實

    政府委員中西實君) 法律的に申しますと、次官名で府県知事あてに、こういう労働教育指針を作ったから、これを内容をよく知って、そしてこれに基いて労使関係あるいは労働運動に対処しろと、そしてできれば労使、一般社会の方々にもその趣旨理解してもらえと、こういう趣旨なんでございます。
  51. 山下義信

    ○山下義信君 それで通牒されたということと、通牒したものの、このものとの関係ですね、今、山本委員質問はその辺をぐるぐる回って、御答弁になったようでありますが、御答弁の中には、教育指針だとおっしゃった。言葉から聞くと、指針であろうと何であろうと、一つ教育資料ですね。教育資料というものと、今あなたがおっしゃった法律上の解釈通牒というものとの関係はどうなんです。つまり言いますと、教育指針という名であろうと、教育資料であろうと、その労働教育のために作った一つのこのものですね。このもの、そのものとこれをお出しになったその形式の通牒というものとの関係は、今労政局長が一通りの御説明をなさったが、その関係はどうなるんですか。言いかえますと、教育の資料なら教育の資料が拘束力を持つはずはありませんからね、通牒なら言うまでもなく拘束力があるべきですね、法理論からいきまして……。ですから、あなた方の方では、答弁の中には一つまあ率直に言えば逃げておいでになるところがあると思う。これが拘束力を持ったら大へんだということを議論しておるこの質問者に対して、教育指針だというような言葉を使うことは、何も拘束力はないのだ、大したことはないのだというような言い方をなさる、単に参考に出したのだというような言い方をなさる。言いかえましたら、これはただその通牒を受けたものは参考に見ていればいいのですか。そうじゃないでしょう。通牒というものは言うまでもなく、一つ行政命令の一形態でしょう。通牒を受けたものはその通牒によってこれによって処理していかなければならぬ拘束力があります。ですから、そこを当局はどう考えておるか、この方針でやれという、これは一つの命令でしょう、通牒は。ですから、そこをはっきり一つ性格をですね、明らかにしていただきたいと思います。
  52. 中西實

    政府委員中西實君) おっしゃる点、若干詳しく申し上げたいと思いますが、これはおっしゃるように、通際の別添として、全体が通牒の形になっておるわけであります。いわゆる参考として見ておけというものじゃございません。やはりこの内容をよく知って、そうしてこれによって善処しろと、こういうことでございます。しかしながら、これは行政解釈ということとも関連するのでございますが、労政局のまあ担当しております労組法、労調法その他の法律ございますけれども、これに対して、いわゆる行政解釈を下す部面が非常に少いのでございます。そうして最後の決定は、大体は裁判所なり、あるいはまあ不当労働行為なら労働委員会の決定に従うということになっております。これがこの基準法等でございますと、たとえば、労災補償の問題でも、ある具体的の問題が起ったと、これが業務上か業務外か、これによってこの労災補償の適用、適用でないというのが出てきます。そうしますと、勢い行政を行います必要性から、いわゆる行政解釈を出しまして、これのこういう基準によって行政をやれ、こういうことになるのでございます。ところが、この労使関係の法律は、労働大臣において持っておる権限というものは非常に少い。しかしながら、中にはございます。たとえば、労働委員会の任命をどういう手続でどういうふうにやるかというような場合は、これは直接労働大臣がやらなければいけませんので、一応の労働大臣としての行政解釈によりまして実行すると、こういうことでございます。しかしながら、ほとんどのところは、これは最後は裁判所なり労働委員会における交渉ということになると思います。そこで、こういういわゆるまあ教育指針的なものは労政局関係におきましては、もうほとんどがそういうまあ性格になってくるわけであります。で、数年前も、実は労働協約に関するこういったやはり通牒を出したことがございます。で、こまかく労働協約というものはこういう心持でこういうふうに締結するのが望ましいのだ、それからその内容も、この点についてはこうだというふうに、まあ相当詳細に書いたものを出しました。これはやはり労働教育指針。で、当時はその内容がまあ組合に非常に有利と見られたのか知りませんが、非常にこれは組合から評判がよかったのですけれども、そういう関係で、労政局関係のこういったいろいろの法に対する考え方に対しての通牒というものは、ほとんどが労働教育的なものだというふうにまあ言えると思うのでございます。で、これは法律に対する行政官庁の権限がどの程度にあるかということによって非常に違ってくるわけですが、労政局関係が持っております労働関係の法規に対しましては、行政官庁は直接の権限は非常に少いものしか持っていないという関係から、出まするのは、一応のまあ解釈基準というようなことになりまして、その性格は多分に労働教育的になる、こういうことが言えるのではなかろうかと思います。
  53. 山下義信

    ○山下義信君 関連質問ですから多くはお尋ねしません。ことにしろうとですからお尋ねしませんが、労働教育的なニュアンスがあるということは、今日の労働行政の現状からして、従来そういうニュアンスでやってきたという御説明はあるいはそうであるかもしらぬが、しかし要するところ、これは一つの拘束力を持っておるものであるということは間違いない。拘束力は何もない。ただ単に一つ労働省の見解を一つの参考に提示したにすぎぬというなら問題は別でありますけれども通牒という形を持った以上には、明らかにこれは拘束力がある、その拘束力のあるものの内容が、言いかえれば、新たに労働大臣権限を拡大するような内容があることが非常に重大であると同時に、労政局長、いわゆる質問者が問題にすることは、ただ解釈の相違だけが基準として出ているならばいいけれども、必要以上の批評があることは何を意味するのか、必要以上の批評を命令するのです、こういう見方をしろと、労働組合あり方労働者の行為を批評しています。あるいは必要以上にばりざんぼうしている、そういう考え方をお前たちは持てということをなぜ強制する、解釈上の相違を、ずっと基準を出していくのならよろしいけれども、批判や皮肉や、あるいは極端にいえばばりざんぼうしている、そういうことを命令するのはどういう意味ですか、私はその点を伺っておきたい。
  54. 中西實

    政府委員中西實君) 内容についてばりざんぼうその他というお話でございましたが、私どもは気持としてはそんなことは全く考えておりませんで、事実をきわめて率直に述べたという気持でございます。  それから拘束力のお話でございますけれども、これは労政の出先機関は府県知事になっております。府県知事のもとにそのスタッフとして関係の部長、課長がおります。そこで国の事務を委任しております場合には、これはそれに対しまして出しますのは拘束力を持ちます。ところが、労働教育の面はこれは府県の事務になっております。従ってこれは地方自治法によりまして主管大臣はその事務について府県知事に協力を求めることができる、その施策についての助言、助力をするということしかできない。この指針通牒の形ではございますが、法的な建前からいいますと、知事には拘束力はない、つまり助言だということでございます。それから一般国民労使に対しまして直接もちろん何ら拘束力を持ってないのでございます。それからこの内容につきまして、われわれはこういうことが望ましいとして出しましたのでございますけれども、最後の判定は先ほど申しましたように、裁判所において行われるということになりますので、その意味において拘束力というものは実はないということでございます。
  55. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 中西労政局長、まあ大臣も同意されたのですけれども、従来出しておった行政解釈基底をなしている精神、具体的な事例で適法か違法かを明確にする、こういう形であるべき姿というものを出した、それは単なる教育指針じゃなしに、通牒という拘束の問題が現われている。そこで問題になるのだが、労働組合と使用者との間というものはあらゆる問題、ここで特に労働三権が問題になってきて、主として労働委員会というものが中心になって具体的な問題が処理される、また、労働関係解釈というものを最終的には裁判所で結論される、こういう事例なんだが、そういう事例の中で適法、違法を明確にし、あるべき姿を出すのだといわれておるこの通牒内容を見てみたいと思うのです。たとえば労働省の出しておられる直接かどうか知らないけれども、あの新聞の次官通牒要約の欄を見ますと、団体交渉内容というものは労働条件労働協約のみと考えられるべきだ、それでなければ、違反のような印象を与えるような頭で縛っていく問題だ。また内容に入りますと、いろいろと単に行われてきた問題よりももっともっと拘束して行動権に制約を加えるような法解釈的な問題を並べておる。そうして今言われたように、根本的な考え方適法、違法を明確にするのだ、これで次官通牒という命令で、これに従いなさいという格好で出てきておるのだが、実際問題として、労使関係というものはそういうものでしょうか。労働関係法の解釈というものと運営、実際問題との関係についてわれわれから見れば、押えつけるようなこういう通牒というものを出された意図というものは、この前も質問したけれども、今のお話をせんじ詰めていくとなおわからぬ。そこのところあたりちょっと聞いてみたい。
  56. 中西實

    政府委員中西實君) 労使関係というものは、ほんとうの自然な行き方としましては、労使の長年の間における慣行によってだんだんと打ち立てられていく、その間に健全なる慣行が伸びていくということをわれわれ期待しておるわけでございます。従って、もう全く自由にまかしておいたらいいじゃないかというのも一つの行き方です。しかしながら、自由にできてくる慣行の中で、必ずしもそれが自由にして民主的な社会、国家にとって望ましいものとは限らない。従って、政府として健全なもの、望ましいものというのはこうだということについて一応基準を作って、この行政の衝に当る者がそれを基本に頭に置いて行政に当るということは、私は必要じゃなかろうかというふうに考えます。
  57. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 そこで、今の問題に関連してたとえば、交渉の内容の問題に入ったといたしましても、憲法で三権の保障を明確にしておるとおっしゃる。労組法を見ても単に、労働条件労働協約という労働省の意図されておる非常に狭い感じで法律はできていない。そういう形で出ておるのに、これを見ると、非常に拘束して、とにかくお前らは行き過ぎだ、何のかのといってもとにかく動いちゃいかぬという感じを強く与えておる。それからたとえば、先ほど最終的には裁判所がきめるのだと言われましたが、裁判所の下級審は法現性がなければ云々というようなことで、それは最高裁判所のときにも出た問題ですけれども労働問題で具体的に地方裁判所で結論がついておるやつを軽くあしらっておる。こういう問題も法文の全体の中に出てくるわけです。ですから、私はそういうところをどういう工合に考えておるかということをだんだん考えてみますと、その労働三権というものをいかに制約するかという立場からこの教育指針が出されたとしか感じられない。そこのところあたりもう一ぺん聞かして下さい。
  58. 中西實

    政府委員中西實君) ちょっとその間に誤解があるのじゃないかと思うのですが、憲法二十八条、さらに労組法、労調法、その他の、労働関係法でございますが、その諸法によって労働組合活動というものがその保護保障を受けておる。つまり国家権力によって保護保障を受けておる限度といいますかはこの程度のものなんだと、つまりここにもございますように、集団的な労使関係確立、その中心問題は労働条件の集団的な決定、これのために行使される団結権団体交渉権、その他の団体行動権憲法並びに労働関係諸法によって保護されておるところだと、現実にはそれ以外の活動はございますございますが、それは労組法なりまた、憲法二十八条が保障しようとして予想しておるものじゃない、その以外のいろいろの現実に行われておる行動というものは、それは直ちに違法と言っているのじゃないので、それぞれ関係の法規によって律せられる。しかし、憲法二十八条なり、労働関係諸法が保護保障しておりますものは、その活動の範囲というものは、一応この程度ということが法全体の建前から感じられるということを言っておるわけであります。
  59. 大矢正

    大矢正君 まずこの出されている通牒というものに対する規定づけというか、性格づけというものが、私は非常に内容的に問題があろうと思うのでありますが、たとえば、裁判所指定をしておる、指定をするという言葉が大げさかもしれぬが、下級裁におけるところの判例というものは必ずしも妥当なものじゃないということをうたっている。それからまた、あとの方にくると、今度は労働委員会の決定に対しては、これは単に労働の面だけ考えた結論だけであって、民法であるとか、刑法上、そういうほかの法律との関連が具体的にないままに結論が出されているから、従って、この結論もあいまいのものが多いという印象が明らかにこの中に載せられておるわけであります。こういう面から考えてくると、私はこの出された通牒趣旨というものは、下級裁判所の判例にお前たちはこだわる必要はないし、それからまた、労働委員会の決定やあるいは考え方に必ずしも拘束される必要はないのだと、少くとも今後の労使間の問題の解決やそれから究明というものは、これはこの通牒をもってなされるべきであると解釈を私はするのであります。そうなって参りますと、この通牒というものは、先ほど大臣を初め労政局長が言われておるように、教育指針ではなくして明らかに具体的な労使の問題を解決する必要があるためにこしらえられた内容であるとしか判断ができないのであります。  私は考えてみて、これを出された内容には二つの目的がある。それは先ほど来いみじくも労政局長が言われておるようでありますが、過去においては非常に労働問題というものが裁判所に持ち込まれ、また、不当労働行為労働委員会に持ち込まれるという傾向にあるけれども、これは労使間で解決をしてもらいたいという気持から出たことかもわかりませんけれども、その中には明らかに、何と申しますか、裁判所を軽視するような面から考えてみても、労働大臣憲法内容はもちろんでありますけれども、総理大臣の上をいったり、あるいはこの通牒解釈なるものは、これはむしろ裁判所の決定やその他より優先する内容のものであるという、自己の何というか、権益を拡大するために出されておる通牒ではないか、このようにも私は感じ取れるわけでありますが、こういう私の考え方が誤まりであるかどうかお聞かせを願いたいと思うわけです。
  60. 中西實

    政府委員中西實君) このお読み方により、受け取り方によっていろいろとお考えも出ようかと思いまするけれども、われわれ、裁判所の判例はこれは尊重すべきじゃないということは申しておらないのでありまして、下級裁判所の裁判といえども、これは裁判として尊重すべきだということは、もう前提でございます。ただ下級裁判所には御承知のごとく、同じような事案につきまして異なる結論が出ている。従って表現としましては、最高裁できまればそれが最も権威あるものになるということを申しておるのであります。また、労働委員会の決定につきましても、それを尊重すべきことは当然でございまして、従って、それに対してとやかく申しておるのではございませんけれども、これもまた、地労委、中労委それぞれ結論の違うのもございます。従って私どもとしまして、もちろんここに書いてあります、こういうような考え方で、社会全般が、まあすべてのことを御判断いただきたいという欲望は持っておりますけれども、しかしながら、これはあくまで教育指針としてわれわれが考えたところでございます。労使を拘束するものでもなく、もちろん裁判所、労働委員会を拘束するものでもない。従って、裁判所は、たとえこういうものが出ましても、独自の判断によってそれぞれ具体的な事案に対して判断を下すのであろうし、労働委員会にいたしましても、不当労働行為に対しましては独自の判断で決定を下すということになろうかと思いますが、もちろん政府といたしましては、この書いております趣旨、これが正してことを確信いたしておりますので、それに従ったものが出ることを期待はいたしておりますけれども、それは期待でございまして、そういう法律的な因果関係、まあ拘束力というふうなものは全然ないわけでございます。
  61. 山本經勝

    山本經勝君 大臣が、衆議院の方に同じ社労委員会があって行かれるという模様のようですが、詳細なことは次回に譲らなければならないと思いますが、そこで、さっきの続きですが、もう一点だけ明らかにしておきたい。  先ほど山下委員質問に対しましてお答になったところによりますと、それは局長の方からのお話でありますが、大臣立場で確認されるかどうか確かめておきたい。つまり、労働行政に関するこの種通牒なるものが、行政の系統として直接労働省がやっているのじやなくて、地方にあります都道府県知事に委託された事務一つとしてやっているのであるから、それに対して、労働施策という立場に立って助言をしたものである、このように御答弁になった。これは大臣もその通りにお考えになっておるかどうか。
  62. 松浦周太郎

    国務大臣松浦周太郎君) その通り考えております。
  63. 山本經勝

    山本經勝君 そうしますと、先ほどお話は、この通牒はいわゆる行政解釈ではない、政行の解釈基準である、しかし通牒と名がつけば、いやしくも一応の拘束力があるものであるということをおっしゃった。その拘束力とは、つまり委託された知事に対してあるのではないというふうになるのですか。そういうことは大臣の方に。
  64. 中西實

    政府委員中西實君) ちょっと法律問題ですから……。先ほど質問通り、府県固有の事務になっておりますので、従って、主管大臣は援助、助言をするにとどまるわけでございます。拘束力と言われますが、その拘束力という意味ですけれども、そういう筋合いでございますので、結局主管の大臣から、こういうものによってやってもらいたい、やるのがよろしかろう、こういうことでございますので、従ってまあはっきり法律的に言いますれば、府県の知事がこんなものに従わないと言われれば実はそれまででございますけれども、まあ常識から言いまして、一応通牒として出ますれば、これを尊重してくれ、この助言を受けてくれということは確かでございます。
  65. 山本經勝

    山本經勝君 大臣にはっきりと伺っておかなければならぬのですが、今、中西さんのお話をそのまま受け取るとするならば、これは全く軽い意味のものに解釈される。ところが、この及ぼす影響はどういうことになるかといいますと、現在労働組合が御承知のようにたくさんある。そうして労働条件維持向上のために日常闘争を幾多展開し、しかも今日では、中小全業の中では、この労働法に基く各種団結権団体交渉等十分に展開され得る条件を持っておらない点もあるのです。ところが、そういうことになってきますというと、むしろ非常に低い部分が下積みになってくる。たとえば、総評、全労会議、新産別といったような大きな組織を持って、長い闘争でもって訓練をされて、そうして企業の中における労使の力も均衡が保たれておるところはまだしもとして、それ以下のレベルのところがあるのであります。東京都内においても、東京亜鉛の争議があり、あるいは栗林、日本パルプの争議がある。こういうような実態を見てきますというと、今後の行政指導にしましても実際問題がたくさんあると思うのです。ところが、この通牒を今そうした団結の過程にあり、しかも低い労働条件のもとで何とか改善しなければならないという熱意に燃えて団体行動を展開していくものがあるのです。こういうものにはこれらの規定をまんべんに、地方の出先きによって、教育指針であれ何であれ、通牒でありますから、出先きはそういう立場はとらないと思うのです。そうしますと、勢い、結果的には山下委員の言われたような意味における拘束力を持ってくる。あるいはいわゆる争議に対する組合側のあり方、経営者側のことはほとんど書いていないが、組合側のあり方についてワクがはめられてくるということが問題だと思う。ですから、大臣のおっしゃるように、あるいは局長がおっしゃっているように、ただ単なる施策に対する助言という形で出されておったとしても、事実はそうではなくて、逆な問題が起ってくる。そこで、私はこういう点非常に問題があるので、具体的に事例をあげて次回に大臣の御出席を願って、十分掘り下げて御検討を願いたいし、さらにもう一点は、少くとも労働者として、次官の名において通牒という形式をもって出されたとなれば、これはやはり公平な幾多の労働法学者もおるわけですから、これらの外部の人の意見を十分徴されてしかるべきだと思う。なぜといいますと、この通牒の中にある問題についてあるいは意見を聞いたというようなお話もあった。しかし、それは特定の都合のいいような人だけを引っぱって意見を求めたのであって、いわゆる公平な第三者の立場事態を見ている学者等もたくさんいる、専門の法律学者もいる。しかも事件を取り扱った幾多の専門家がおる。ですから、こうした者の意見を少くとも私は聞く必要がある。そういうことを基礎にしてさらに検討を私はしたいと思う。ですが、今申し上げるように、大臣は衆議院の社労の委員会の方においでにならなければならぬということで、先ほどからせかれておるようですから、一応きょうの質問は中途でありますけれども、これで打ち切りまして、次回またあらためて大臣に御質問を申し上げたいと思います。
  66. 千葉信

    委員長千葉信君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  67. 千葉信

    委員長千葉信君) 速記をつけて。これにて暫時休憩いたします。    午前十一時五十五分休憩    —————・—————    午後一時二十七分開会
  68. 千葉信

    委員長千葉信君) それでは休憩前に引き続きまして、社会労働委員会を再開いたします。  この際、お諮り申し上げます。都合によりまして、労働教育行政指針に関する件の調査はあとに回しまして、次の議題を進めることにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  69. 千葉信

    委員長千葉信君) 御異議ないと認めます。  それでは社会保障制度に関する調査一環として、犬の咬傷被害対策に関する件を議題といたします。本件につきましては、東京都内に起りました小学生に対する犬の咬傷事件について、その内容をつまびらかにするために、それとともにこれが対策について各当局から意見をただしたいと存じております。東京都庁からは特に北浦獣医衛生課長参考人として御出席願っております。なおそのほか本日出席しておりますのは、参考人のほかに、厚生省環境衛生部長楠木正康君、法務省刑事局長井本臺吉君でございます。それでは、北浦参考人から、本件の概要、経過並びに対策等についてお述べを願います。
  70. 北浦弥太郎

    参考人北浦弥太郎君) 北浦でございます。東京都で発生しました二例につきまして、経過を簡単に御説明申し上げます。  最初は二月四日でございます。水橋という方の所有犬で、グレートデンという種類の非常に大型の犬でございます。この犬二頭を使用人に運動をさしておりました際、道路を通行いたしております佐野麗子さんが通りかかりまして、突然麗子さんにこの犬が二頭かみついたわけでございます。上半身数カ所に及ぶ咬傷を与えまして、二十七針縫った全治一週間を要する重傷を負わせた事件でございます。  これに対しまして、東京都といたしましては、狂犬病予防法による事項を照らし合せますと、登録はしておりませんでしたし、なお注射はいたしておりましたが、注射の済んだ、俗に済み証と申しますあのメダルをつけておらない点によりまして、告発をいたしております。  もう一件は、二月十九日に発生いたしました北多摩の小平町に起きました事件でございます。これは放し飼いになっておりました雑種の雄犬でございます。平林さんの所有の犬でございます。この犬は反町和美さん八才に、顔面咬傷を与えた事件であります。この犬は登録はしておりましたが、注射は、秋の注射はやっておりませんでした。なお、この問題につきましても、狂犬病予防法によりますと、その犬が狂犬であるかどうかを決定する問題になりますので、狂犬病予防員という職員によりまして検診をすべく指示いたしましたにもかかわらず、勝手にこれを処分いたしまして、殺してしまったのでございます。これによりまして、その事実を突きとめまして、さっそくその所要部分を私ども検査所に送付いたしまして、今検査中でございます。これにつきまして、目下告発の手続をこれからやるべく準備中でございます。  なお、もう一つつけ加えさしていただきますが、二十六日、一昨日でございます。赤坂にもう一件、九才と十三才になる子供にシェパードの雄犬の二頭の犬が咬傷を与えた事件がございました、このような経過でございます。
  71. 千葉信

    委員長千葉信君) それでは政府委員の方々に対する御質疑を含めて御質疑をお願いいたします。
  72. 山下義信

    ○山下義信君 私は本件につきまして、当委員会が特にお取り上げ下さったことを心から感謝するものであります。  質問いたします前に、この問題を委員会に提起いたしました私の気持を一言申させていただきたいと思います。  一国の総理が交代するということももとより重大事件でございますが、市井の一隅に起きました犬の咬傷、小さい子供が犬にかまれたという事件も、考えようによりましては、軽々に看過し得ない問題であると考えます。  最近、国の政治が混乱いたしまして、筋道が通らないところがたくさんあります。強訴政治が大手を振ってまかり通り、力でこねればゆえなく数百億の予算を奪い取るというありさまでありまして、一方におきましては、善良にして力なき市民は、損害を受けましても泣き寝入りするということは、われわれとしてはとうてい黙視することができません。われわれはわれわれの所管の範囲内におきまして、できる限りの注意と努力を払いたいと考えたのであります。たとえば、ある食中毒事件が起きた、これはゆゆしき大事であります。再びかかる危険の発生しないように、直ちに適切な措置がとらるべきは、われわれ委員会の責任であると思うのであります。それと同じように、ここに一人の子供が、あるいは数人の少女たちが犬にかまれたという、われわれはあらゆる角度からこの問題を検討いたしまして、全国一千万の少年少女、その父兄、数百万頭に上るといわれておる犬の飼い主、それらに対しまして、かつまた、仁政禽獣に及ぶと申しましょうか、たくさんの犬たちにもけんけんごうごう異議を言わさないように、今後の対策を確立すべきであると痛感いたしたのでございます。どうか委員会におかれましても、十分御検討を賜わりたいと思うのであります。  なお、さきに厚生大臣並びに文部省の当局に出席を求めておりますので、委員長からその出席のお督促を願いたいと存じます。  ます、厚生省の環境衛生部長にお尋ねいたしますが、現在の狂犬病予防法は、名の通り狂犬病予防が主体としての法律でございますが、実際におきましては、狂犬病が近来発生いたしておりません。予防措置はこの法律によりまして実施されておるのでありますが、直ちに狂犬病そのものについての事例はあまりないのでございます。つきましては、この種一般の犬についての、あらゆる角度からの措置といいますか、そういうものの法的根拠に、現在のところではまっとうなものが見当らないんです。そこで一つには、現在の狂犬病予防法の中に、狂犬病予防法そのもの自体に、私ども今から見ますというと、非常に不完全なものがある。いわゆる法の盲点のようなものがあるということを痛感するのでありますが、関連してそういう点について厚生省当局はどうお考えか。  それから第二は、一般の犬についての取締りというか、管理というか、同時に今回の問題の場合のようなときにとるべき措置というようなものが、もとより狂犬病予防法の中には、それに適切なような条文等も見当らないんでございます。そういう点につきまして、厚生省当局はどう考えておるかということをまず伺いたいと思います。
  73. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) お答を申し上げます。現行の狂犬病予防法は、戦後狂犬病の大流行をいたしました際に、これに対処することを主たる目的といたしまして制定されたものでございまして、それだけに内容等につきましては、緊急的な対策に主力があったかに思われるのでございます。しかしながら、これら狂犬病予防法の施行によりまして、確かに狂犬病予防目的は相当の効果をおさめまして、年々狂犬の発生が減りました。昨年度におきましては、わずか全国で六頭の発生を見ただけでありまして、本年はまだむろんかようなものは発生いたしておりません。かような推移をたどりますと、おそらく近いうちに、日本としては狂犬病のない国になるのではないかと存ずる次第でございます。しかしながら、と申しまして、狂犬病予防の対策を全部やめるわけには参りません。なくなったらなくなった状態を維持しなければなりません。つまり、できるだけこの常時防疫的な性格に、今後は逐次対策の重点を移していかなければならぬと存じまして、現在法の許される範囲におきまして、かような点を考慮して実施をいたしております。また一方、行政指導等によりましてもさような観点から対策を進めて参っております。そこでこの法目的からいたしまして、その重点からいたしまして、多少常時的な対策に現行法は若干不備な点があろうかと存じます。しかし、これらの点は目下のところは、行政運営並びに行政指導をもって実施して参りたいと、かようにまあ考えておる次第でございます。特にこの常時的な狂犬病予防というものは、やはり正しい犬の飼い方というようなものを中心にいたしまして進んで参ることが当然かと思われますので、かように考えておる次第でございます。  次に、一般的のこの犬の取締りと申しましょうか、狂犬病予防を離れました一般の犬の取締りというような問題、特に今回発生いたしました事例等に対する取締り等につきましては、もちろんこの狂犬病予防の観点から関係なしということは申せません。と申しますのは、犬にかまれてます心配になりますのはこの狂犬じゃなかったかという不安でございまして、これはただいま参考人からも開陳がございましたように、一々かような点はかまれたら必ず狂犬であるかいなかを確かめて、かまれた方に少くとも安心をしていただくという態度で臨んでおります。従いまして、今回の事件、あるいは一般の取締りにつきましても関係なしということは言えませんが、しかしながら、一般的の畜犬をどういうふうに責任をもって行なっていくかというようなこと、あるいは今回の具体的な対策をどうしたらいいかというような点になりますと、これは単に狂犬病予防を担当いたしております厚生省だけでなく、やはり関係の当局とも十分に連絡をいたしまして、それぞれ適切な対策をとっていかなければならぬものと考えます。特に狂犬病を離れましても、畜犬というものはいろいろ苦情の対象になる場合もございますので、これらの点につきましては、今後はできるだけ関係の各省とよく連絡をいたしまして進んで参りたいと、かように考える次第でございます。  なお、現在の犬の取締りというようなものにつきまして法的な根拠というようなことになりますと、私これは所管を離れますが、たとえば、軽犯罪法の問題等も若干は関係してくるんじゃないかというようにも思われます。しかし、いずれにいたしましても、一般畜犬というものに対する取締りというものの総合的な法的措置というものは、現在これは規定がないわけでございます。
  74. 山下義信

    ○山下義信君 問題は一般の犬の飼育の方法、管理の方法、取締りという言葉意味に当てはまるかどうかわかりませんが、まあそういうこと、ある意味においては、飼い主についての注意、そういうものを問題にして検討したいと思うのでありますし、また、関係者においても御検討願いたいと思うんですが、一応まあ狂犬病予防法について関連のところがありますから、その点について一応伺っておきますが、この狂犬病予防員というものが置いてあるんですね。これは一般の犬について仕事をすることはできませんか。狂犬病に関係のことしか仕事ができませんか。一般の犬についてもいろいろこの予防員の持っておりまする権限といいますか、そういうものを使って、いろいろこの犬の管理の面について十分監督をしていくということができますか。
  75. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) ただいま御指摘の予防員につきましては、これが権限として当然の職務として行いますことは、現在の狂犬病予防法に規定された範囲内においてのみ執行ができるわけでございます。従いまして、理屈を申しますれば、正しい飼い方の指導というようなことについては職権もなければ、むろん責任も持っておらぬわけでございます。しかしながら、従来は私ども指導して参りましたのは、予防員は犬に対する知識も深いし、また、専門家でもありますので、機会をとらえていろいろ正しい指導、飼い方の指導というようなものをいたすようにはいたしておりますけれども、これがその職権上あるいは当然の責任としてでなく行われておりますために、必ずしも徹底をしかねておるといううらみはないといたしません。
  76. 山下義信

    ○山下義信君 この将来いろいろ必要な法律等も考えていただかなければならぬと思いますが、いずれにしても、今狂犬病予防法の中にはそのことの職務のために予防員というものが置いてあるのでありますから、これを十分活用するように一つ検討していただきたいと思うのです。たとえば、登録しておるとかいないとか、そういうことは予防員は調べないのですかね。それから一つには、そういうことを調べるために飼い主の家に行って、むずかしい言葉で言えば、立ち入りとか何とかいうことになりましょうが、法律もそういうことがうとうてありますが、その辺がスムーズに飼い主の家に行っていろいろ聞き合せてみたり、指導してみたり、状況を観察してみたりすることが円滑にできるようにこの法律なっておりますか。もしなっていなければ、そういうことの必要が考えられはしないかと思いますが、その点はどうでしょうか。
  77. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) 予防員は、私どもは従来指導といたしましてできるだけ戸別訪問等を行なって、登録の催促、あるいは予防注射を勧奨するというようなことを指導としていたしております。従って、場合によりますと、これはスムーズにいっておる場合もございます。しかし、予防員はこれを職権としてかようなことを実施していない建前上、まあ立ち入り権等もございません。従いまして、拒まれれば何も言えないということはございますが、しかし、かような場合はむしろきわめて珍しい場合でございまして、大体親切に戸別訪問をいたしますれば、まあ話は大体指導ができているように聞いております。ただ私どもが一番困りますのは、この狂犬病予防、あるいは予防員の仕事というものが何となく犬取りというような、一つの何か暗い半面を連想いたさせますために、正しい犬の飼い方をお互いに力を合せて指導していくというようなことになると、何となくこの受け入れる方で困難があるというような点もございます。この点は、私ども今後行政運用上十分注意いたしまして、決して犬取りというようないやな感じのない狂犬病予防対策を進めていかなければならぬと反省をいたしておる次第でございます。
  78. 千葉信

    委員長千葉信君) ちょっとこの機会に申し上げておきますが、政府委員として警察庁刑事部長中川董治君が出席されております。
  79. 田村文吉

    ○田村文吉君 ちっょつと私時間の都合で退席しますので、その前に関連して伺いたいのですが、今山下委員の御心配になっている問題は、私もよくわかると思いますし、この問題は軽々に見のがしてはいけない問題だと思います。その意味におきまして、今狂犬病の取締りの方から何か手がないかということでいろいろおただしになっておるようでありますし、今後まだ質問は進められることと考えておるのでありますが、私はこの間、新聞記事を見たときに、東京都内に猛獣が横行していることを平気で許していられるが、それは一体東京都としてそういうことは何ともお考えにならぬのか、あるいは今警察関係、あるいは厚生省関係ではそういうことを何ともお考えにならぬでいるのか、こういうことを私は痛感したのであります。結局狂犬病の問題は、狂犬病という一種の病気の問題だけでとどまるのでありまするけれども、七つや八つの子供が最近において三件も侵されておる。しかも一つの場合には野放しの犬である。一つの場合には、非常に大きな犬を一人の人間が連れて歩くのは、ちょうどトラやクマを町のまん中を引っぱっているのと少しも変らない。そういうことを今日東京の都内で許さるべきか、こういうことをだれの責任として取り締られるのか、こういうことについて私は伺いたい。
  80. 中川董治

    政府委員(中川董治君) ただいまの御指摘の猛獣は、動物園に大体昔からおるのですけれども、猛獣が町やその他に出てくると、こういう傾向が一部にございます。それから犬が、東京の千代田区で起った問題ですけれども、子供をかんだ。こういう事件等もございますので、その内容が刑法犯のたとえば傷害とか、刑法犯等に該当する場合におきましては、警察の方におきましても犯罪として検挙いたしまして、この犯罪を犯しておる者等につきまして、たとえば、千代田区の場合のごときも、狂犬病予防法で登録がなかったものですから、そういった罪で警察で立件いたしまして、検察庁に送致し、刑事手続が進んでおるはずでございます。  それから一般的に御質問の、猛獣の類で危険を及ぼすというものでそいつを禁止する法律、そういう法律は現行法でございません。それで、われわれといたしましては、結果としてだれかを傷つけ、だれかを殺すというようなことになりますれば、もちろん刑法の罪等に多くの場合は該当すると思うのですけれども、それ以外、軽犯罪法に本件に関連いたしまして規定等もございますので、そういう犯罪の面につきましては、警察はもちろんこれをやっております。ただし、その犯罪を犯す以前の状態だと思いますが、以前の状態につきましては、何といっても危険な状態があり得ますので、これは警告等をいたしまして、どうも危ないから気をつけていただきたいというような警告等は行なっておりますけれども、現行法におきましては、そいつをだれが許可するとか、そういった規定があまり完備されていないものですから、そういった点につきましては、これは完全な法律規定がございません。それで現在ありますのは、条例で、地方自治法に基きまして条例で若干本件に関して規制を加えられている向きがございます。たとえば、闘牛等でお互いに動物同士戦わすというような場合につきましては、東京都の場合には東京都条例、都知事のもとにおいて条例がございますので、その条例でひっかかる場合があり得る。ただいまの山下委員の御意見の、狂犬病のことはわかるけれども、狂犬病以外の一般畜犬についてはということのお話があったわけですけれども、一般畜犬につきましては、楠木政府委員からもお話がありました通り、現在は、国の法律の規定は、刑法とか軽犯罪法以外にはございませんので、これも若干の都道府県、公共団体におきまして、たとえば埼玉県であるんですけれども、埼玉県という公共団体では、一般畜犬について必要な規制を行う条例を埼玉県等で実施しておる。こういう状況でございまして、国の法令といたしましては、刑法とか軽犯罪法になる面はございますけれども、それ以外の面につきましては、狂犬病については御案内の通りであるわけですけれども、一般畜類、猛獣の類についてこれを規制する法令はございませんので、そういった点につきましては、地方公共団体等が当該公共団体の実情勘案の上、いろいろ御工夫になって、あるいは条例等における立法等を考えておられる向きがあり得る。これが現状でございます。
  81. 田村文吉

    ○田村文吉君 もし、国の刑法で取り締る方法がないというような場合に、さりとはいいながら、一方には猛獣が東京のまん中を毎日横行して歩いておる。こういったことを放置しておいて、さて実害がなかったかと言えば、はっきりとした実害が最近において三件も起っておる。こういうことを取り締る方法がない、あるいはこれを刑罰に付する方法がないということでは、いかにも不安でならぬのでありまするが、東京都として、条例で、そういうことがあった場合には、直ちに撲殺し、それに対して刑法上のあれをもっていくような考え方はありませんですか。
  82. 北浦弥太郎

    参考人北浦弥太郎君) 実は、都民の世論として非常に巻き上っておりますのにこたえまして、これに対する対策を再三立案いたしたんでありますが、私衛生当局に所属しておりまして、犬の衛生問題以外のものは意見を出すことができません。私の立場として責任回避をすることはできませんので、何とかこの案を案出すべく現在目下考慮中でございます。具体的に申し上げますと、狂犬病予防法の内容からいきますと、狂犬病というものを対象にしてのみ考え切れません。しからば、こういう犬にかまれて、狂犬病以外の悪性伝染病が感染するかという問題は、学術的にちょっと考え切れない問題がございます。従って、この狂犬病をとらえて条例等を作ることは、非常に疑義がございますので、現在では係留命令等だけをいたしておる次第でございます。従って、しからば、これを治安維持的な面から警察行政として取り上げていただいたらいかがかという問題になりますけれども先ほど厚生省の楠本部長がお話になりましたように、かんだ場合に、必ず衛生当局に対して犬の狂犬病であるかないかを、判定を依頼されることはいつも通例でございます。従って、この恐怖の中には狂犬病のこわさというものがかなり強く織り込まれておるのでございます。これらの面につきまして、東京都としての、地方庁としての立場から考えますと、狂犬病予防法を一部改正していただけたら、この問題はある程度犬については解消するんじゃないかという気持を現在持っております。と申しますのは、たとえば、畑を荒すとか、あるいは庭を荒すという苦情も非常にたくさん殺到しております。咬傷はもちろんの問題でございますが、犬をかりに常時つないでおけということがもしできましたら、かなりこの被害は少くなるのじゃなかろうか。つないでおけという根拠はどこにあるかという問題でございますが、狂犬病の発生動機というものは、犬同士の接触にあるのでありまして、犬同士の接触を排除すると同時に、感染の動機のもう一つは、犬同士がかみ合うことによって特に感染するのでありまして、従って、先ほど楠本さんのお話にありましたように、狂犬病を常時これを未然に防いでいく措置としては、かむ動機をなくするということも必要ではないかということが考えられますので、結局つないでおくということは、愛犬家にとっての常識であらねばならぬわけでございます。このつないでおくことによって結局は畑を荒し、あるいは糞便を勝手に方々の公道にするということも防げていけるのじゃないか、苦情の大半はこれで解決するのじゃないかというふうに犬に関しては考えております。
  83. 田村文吉

    ○田村文吉君 警察の関係に私伺いたいのですが、もしクマの子であるとか、あるいはヒョウの子でも、物好きの人があって町を連れて歩いていたような場合に、これを取り締る法律は日本にありませんか。
  84. 中川董治

    政府委員(中川董治君) そのクマならクマを連れて歩くことだけをもっては、現行法上は取締り規定はございません。ところが、猛獣等が危害を直接与える、こういうような場合におきまして、警察官等職務執行法で危害を直接に救ってやる、こういう場合に警告、制止ができるわけであります。それで本件の問題につきまして事情を申しますと、最近動物の医学が発達いたしまして、動物園の猛獣の子供の繁殖率が非常にいいものですから、動物園同士交換をなさってもまだ余る、生産過剰ということで余りますので、そうしてだんだん町場に出てくる、こういう傾向等がございましたので、これは一般的傾向でございますけれども、こういったことで、とにかく被害が起りましたら大へん国民の方々に迷惑をかける、お互いに迷惑をかけるということで警告はいたしたのでございますけれども、具体的にそういう猛獣を持っておるだけ、飼っておるだけをもって直ちにこれはいかぬという規定は現行法上ないのでございます。それでそこに現在大へん御心配の点があろうと思うのですが、私どもといたしましては、直接の危害がある、こういう場合には、現行法で警察官等職務執行法で直接に危害があった場合は制止できますが、これはやり得るわけですが、直接の危害まではいかぬけれども、どうも飼っておる……、こういう点につきましては規制する方法が現行法ではないのであります。その点につきましては、いろいろ立法その他について関係各省と考究するのも一つの方法なんですけれども関係者の、国民の御自覚等によってだんだんそういった危険をなくしていこう、飼い主等に特にそういう注意を持っていただくということでいく方法と、法律等によってさらに厳重にするようにしていく方法と、二様考えられると思うのですが、現在のところは、若干ちらほらと出てきたという程度のことでございますので、そういう関係でまあ飼い主の方々の御自覚を——自覚と申しますか、人に迷惑をかけないということについての自覚をしていただきましていろいろ注意していただく、こういうことで警告等はいたしておるのであります。
  85. 田村文吉

    ○田村文吉君 念のために申し上げますが、私の猛獣冷々と申しておりますのは、今の猛犬のことを言っておるのです。つまりああいうものが町の女の子がいるところに飛びかかっていって二匹の犬が食いついたということは、まさしくもう猛獣であります。そういうものを取り締る方法がないということが困るのだが、何かそれに対する対策が考えられるかどうかという点で伺ったので、なおこの点については、山下委員からもいずれ引き続いて御質問があると思いますので、私の質問はこれで終ります。
  86. 北浦弥太郎

    参考人北浦弥太郎君) ちょっと言い漏らしまして失礼申し上げましたが、対策につきましてもう一点ございます。今度発生いたしております咬傷被害について係留というものを常時行うという問題と、もう一つはかんだ犬、あるいはかむ癖のある犬に対してある一定期間口輪をかませておく義務を負わすことによってある程度防げるのじゃないかということを考えております。と申しますのは、あの種の動物というものは、一回かむとおもしろがって二回かむ、また三回かむというようになりまして、だんだんその癖が猛烈になって参ります。従って、かんだ犬は必ず被害者から届けがございますので、その現象をとらえて、ある一定期間口輪をかませるという義務を課せれば、このかむという癖もなくすことができるのじゃないか。かむ癖がなくできれば、たとえ、つないでおっても、あるいはまた、口輪をかましておけばかむ癖のある犬であっても、これはこの事例の中にも一件あるのでございますけれども、つないでおってしかもなお被害を受けておるというものについても防げるのじゃないかというように感じております。
  87. 山下義信

    ○山下義信君 今田村委員からも問題の焦点に触れられたんでありますが、それから東京都の方からも一応お答えがあったのでありますが、常時係留することを命令することはできますか。
  88. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) 現在の狂犬病予防法に基きまする係留は蔓延の防止——蔓延のおそれありという判断のもとに都道府県知事が係留命令を発し得ることになっております。従って、この数年引き続いて狂犬がなかったというような事態になりますと。この係留命令を発するには相当な疑義が生ずるのではないかと存じます。しかしながら、私ども東京都にお願いをいたしまして、相談をいたしまして、なるほど東京都においてはすでに緊急的な蔓延の状況は見当りませんけれども、しかし、現在東京都におります約二十万頭の飼い犬というものを、今ここで放し飼いにいたしますことは一そう弊害も伴いますので、これらの点を勘案いたしまして、多少法文上疑義はあろうかと存じますが、東京都と相談の上、引き続いて係留命令を継続している次第でございます。
  89. 山下義信

    ○山下義信君 私どもそういう点も、将来、法の改正の中で検討をしていただきたいと思うのでありますが、先年狂犬病予防法の現行法を審議いたしますときに、これは政府からその当時配付されました資料であって、まあ少し古いかしれませんが、今取り出してそれを見ますと、諸外国には普通の犬の飼育についての法律が非常に完備しており、飼い主のエチケットその他いろいろに規定されて、非常なスマートなものがあるということで、その立法令等も資料として当時いただいたことがある。野放しを許している国は先進国にはないということなんですね。野放しを許している国は日本だけだということなんですね。私はこの点は一つ当局にも大いに検討されまして、係留ということが非常な手段でなくして、係留というか、係留的管理というか、十分に注意深い飼育が行われるということのいろいろ法律的な明快な一つの根拠を規定されたいと思うのでありますが、御所見いかがでしょうか。
  90. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) ただいまの御指摘はまことにごもっともでございまして、日本におきましては、たしかにこの犬の正しい飼い方ということが徹底いたしておりません。従いまして、私どもといたしましては、できるだけかような点も勘案いたしまして、法的の整備も研究を進めたいと存じます。しかしながら、一方正しい飼い方というようなことは、なかなか取締りあるいは法律の規制だけでは困難な面もございますので、すみやかに私どもといたしましては、一そう国民に対しまして正しい飼い方、犬を飼うエチケットというものを十分に徹底いたさせますように、早急に適切な措置を講じたいと、かように考えております。
  91. 山下義信

    ○山下義信君 これも田村委員が御指摘になったのでありますが、犬を外へ連れて出て、つまり犬を連行する場合ですね、そういう場合に、一人の人間が二頭も三頭も連れて歩く、つまり、それを制御する力以上のものを連行して行くというような場合に、非常に危険が多い。今回もまたその事例なんです。人間以上の大きなグレートデンを二頭、しかもそれは獣医学校で勉強した人であるということでありますが、その専門家が連れて歩いておっても、子供に飛びかかった時分には、もう制することができなくってこういう事件が発生した。そういう猛犬といいますか、そういったようななかなか管理に手の要るような種類の犬の外出、連行等につきましては、たとえば、自転車に一人で乗って三頭も四頭も運動に連れて歩いているというようなことも、私どもは十分注意していかなきゃならぬと思う。また。外出等については、高木博士は、許可証を出したらどうかということの御意見もあるようでありますが、まあ、犬に外出許可証を出すということもどうかと思いますけれども、しかし、外に連行する場合に、そういったような大きな猛犬的な犬になりますと、口輪をつけさすというような規定も必要じゃないかということが考えられる。こういう点につきましては、楠木部長、どう考えられますか。
  92. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) これもまことにごもっともな御意見でございまして、連行する際に、たとえば咬癖のある犬につきましては、口輪をはめるというようなことは、ぜひ実行をしなきゃならぬことと思っております。そして、犬をほんとうに人間の生活に近い、マッチしたものに、逐次訓練を徹底さしていくことが必要かと存じます。しかしながら、私も一昨年来蚊とハエの駆除運動を実施いたしておりましたが、一つの隘路は、犬が方々に汚物を出すことで、これは何分にも、連行しておりましても汚物が出て参りますので、これをどうしようかということをいろいろ研究をしてみましたが、なかなかうまい方法もございません。そこで、これらの点も今後十分に一つ指導をいたしまして、飼い主の協力をいただきまして、何とか改善しなけりゃならぬものだと思っております。すべて法的規制で行えるかどうかは別といたしまして、犬の正しい飼い方というものを中心に、今後国民の協力を一そう求めて参りたいと、かように考えております。
  93. 山下義信

    ○山下義信君 だんだん伺ってみますと、いろいろ狂犬病予防法の中においても、一般の犬に関連の点があって、いろいろ法律内容についても検討する必要がある。また、一般の犬についても、今回の事件にかんがみまして、適当な法規が要るということだけは、これはもういなむべからざる事実です。今までの質疑応答の中でも、これが強く感じられるわけでありますが、私はこの際、法務省の井本刑事局長おいで下すってあるようでありますが、そこで伺うんでありますが、先ほど中川部長からも、軽犯罪法の話が出たんです。私もそういう点はしろうとでつまびらかでありませんが、こういうふうに犬の飼育をしておりまして、そしてその飼い主、あるいは飼い主の使用人等の犬の管理が不十分であって、そして人に危害を加えたような場合は、軽犯罪法の中へ入れていただくか、その中でどこか適用する点があるか、あなたの方でそれを取り締っていただくというような方法がないものでありますかどうでありますかという点でありますね。実は先ほど冒頭にこの種の事例についての御報告が東京都からありましたが、飼い主は全然責任がないのですね。犬を運動に連れて歩いておつた者は獣医学校で学んだ男で、犬を飼うために雇われておる。犬をいろいろ世話をすることが仕事で給料をもらって主人に雇われておる。それが連れて出てそうして少女に危害を加えたのですから、その連れて出ておった本人が業務上の過失罪で麹町警察署が告発した。それはまあいい。ところが飼い主はてんとして、おれの責任じゃないと、こういうのですね。そうして、今朝の新聞にも報道されておりますが、被害者の家に見舞にも行かない。てん然とうそぶいておる。これはまことに不道徳な話でありますが、しかし道徳上のことを責めたってしようがありませんけれども、飼い主に一向責任がないのですね。それで軽犯罪法におきましては——私の調査も疎漏でございますが、そういう危害を与えるようなものを野放しに置いたときには軽犯罪法に触れるようになっておりますが、今のような場合に、雇い主に一向刑事上の責任がないというようなことはどうかと思う気がするのであります。それで飼い主のエチケットがいろいろな御指導その他によりまして自然に自覚せられていくようになりますとけっこうでありますけれども、私は、この種の事件が最近出てきましたことにかんがみまして、軽犯罪法におきまして何とか一つ警告を与えていただく、つまり軽犯罪法を用いてその責任を追及し得るような必要があるのではないかと考えるのでありますが、その点はいかがでございましょうか。
  94. 井本薹吉

    政府委員(井本臺吉君) 麹町の事件につきまして私の方に参っております記録の点を先にちょっと申し上げたいと思います。この水橋章吉という人につきましては、私の方には、毎年犬の登録をする登録を申請しなかったという事件と、それから狂犬病予防注射の注射済証をつけていなかったという二点につきまして、事件の送致が参っております。それから富田栄という犬を連れて歩いた者につきましては、これは業務上過失傷害ということで事件の送致が行われております。  私、法律の観点からかような犬を自由に二匹連れさせた主人の水橋章吉という人の刑事責任が現行法でどういうことになるか、十分の注意が足らなくて、人をかむようなものを一人の男に連れさしたというような点につきまして、必要な注意を怠ったのではないかというような点も多少考えられまするが、現在の状況では、この点は、そう重い刑をもって臨むほどの事件とは一般的には考えられないのであります。ただ、係留命令といい、かような狂犬病予防法関係の事案といい、私、私事を申し上げて恐縮でございますが、私どもも実は杉並に住んでおるのですが、朝約十分くらい散歩いたしますると、十数匹の野放しの犬が歩いておるのです。一向に係留命令が実際行われていない、結局法律を作りましてもさような命令が行われていないのでは何もならないのでございまして、先ほど以来いろいろお話がありまするが、狂犬予防法でも、登録と注射と係留命令を厳格にやっておれば、おそらく本件のようなものもある程度防げるのではないかと思うのでございます。ただいまの現状では、本人の刑事責任につきましては、ただいま申し上げたような点が送致になっておりまして、来週早々所轄の東京地方検察庁で関係者を調べるということになっておりますので、その結果を待ちませんと一般的な結論は出ないのでございまするが、とにかく、与えられた法律をある程度励行いたしましても相当程度の効果があるのではないか、その法律の励行以上にさらに次の罰則規定など設けるということにつきましては、ある程度必要かとも存するのでございまするが、私といたしましては、まず現行法を厳重に励行していただきたいということを考えます。  それからお話の軽犯罪法につきましては、確かに何といいますか、人畜に危害を加えるようなものを放してはいかぬというようなことがございまして、本件は二匹を一応つなぐにはつないでおったようでございますから、放したうちには入らぬかもしれませんが、少くも当該の犬を飼養しておりました富田という人の件につきましては、これは業務上過失になるか、あるいは普通の過失になるかわかりませんが、ある程度の過失罪があることは明らかでございます。過失によりまして人に危害を与えたということになりますれば、これはりっぱな刑法犯でございまして、その点につきまして、これを処置するということは刑法上当然できるわけでございます。さようなことの検討をしていただきますと同時に、一般的に犬もずいぶん、どうもうな犬もあるのでございますから、現行の程度で法律がいいものかどうか、私少しく欠ける点があるのではないかということにつきましては、先ほどお尋ねの点まことに同感でございまして、もう一度法律の励行以外に、現行法について欠陥がどの程度にありまするか、さらに検討いたしたいというふうに考えております。
  95. 千葉信

    委員長千葉信君) 申し上げます。ただいま神田厚生大臣、稲葉文部政務次官が御出席になりました。
  96. 山下義信

    ○山下義信君 刑事局長おいでになりますし、中川刑事部長も見えております。関係者がおられますから、こういう場合の処分は、現在の法規でできますかどうかお聞きします。狂犬予防法の登録もしない、注射もしない、そういうものを飼っておる。登録もしない、狂犬予防注射もしない、狂犬予防法に違反しておるのです。その犬を係留はしておるでしょう、野放しにはしていない、飼い主はある、のら犬ではない、その犬を没収することはできますか。それでやや没収に似たようなことが狂犬予防法の中にあって、何か保健所へ連れて行く、のら犬みたいな届けがあったら、飼い主の不明なものがあったら連れて行くでしょう。保健所へ連れて行った犬を、あれは私の犬ですと飼い主が判明したら返すでしょう、もしそれを没収とか処分とか、まあ露骨にいえば殺したら、所管都知事は賠償しなければならぬですね、損害賠償を。違法のことをしておいて、その処分をしたら賠償しなければならない。所有権の、私有財産の賠償の原則によるのかもしれませんが、そういうようなことをやっていたんじやあなた、法が励行されるはずがないですよ。私有財産権の尊重とかいうことを何も私は否定するのではありませんけれども、一例がそうなんです。それで今登録もしない、注射も受けないといったような違法な犬が飼育されておるということになったら、これを没収したらどうか。たとえば、これは銃砲刀剣類所持取締令というのですか、ああいう危険なものを持っておったら没収するのですよ。没収のような規定のようになっておるということであります。危険なるものを許可を受けないで所持しておればこれを没収する。登録をしないということは、登録は許可ではありませんけれども、登録ということは一応認めてもらっておる、許可ということとは性質が違うかもわからぬがやや似ておる。無登録が無注射で、それでそういうような危険性のあるしかもいつ人をかむかわからぬといったような犬については没収することができたらばうんと違うと思うのですが、今ではそれはどうすることもできませんか。
  97. 楠本正康

    政府委員(楠本正康君) 今は罰則的な方法で没収というようなことは法的にはできません。従いまして、さような犬は捕獲いたしまして、そうして飼い主に返しますときに、返すかわりに、すぐその場で登録と注射をしろというような指導をいたしましてそうして必ず登録させる、注射をさせる。そういうことによって飼い主に返しておるわけであります。今のところは、さような没収ということはできないということになっております。ただ罰則から申しますと、三万円以下の罰金に処せられることになっております。
  98. 山下義信

    ○山下義信君 私の質問は、警察庁の中川刑事部長に伺ってそうして厚生大臣に一言お伺いして終ることにしたいと思います。これは東京都内に起きたただいま顕著な事件は三件でございますが、しかし全国に四百万頭ですか、五百万頭という莫大な数の犬であり、また、被害がどこで発生するかわからぬのですが、ですから全国的な問題である。警察では、盗難予防のために犬を飼うことを奨励しておられますね、一面は……正式に奨励しておいでになるかどうかわかりませんが、盛んにこの風が行われておる。また、非常にそれが効果を上げておるのでしょう。ですから、だんだん猛犬を盗難予防に飼うでしょう。中には正常な盗難予防でなしに、警察予防の犬もあるかもしらぬ。奥の方ではばくち打ちが賭博をやっておる、密通しておる。刑事が入ってきたらかみつくような犬を飼っておるかもわからない。私はこういう事件を起したら、飼い主の身元を時には洗ってみる必要があると思う。私が実際行ってみたそれがそうだということではありませんが、何でも終戦後全国で二番目の多額納税者であって、今でも相当多額な資産がある、何をしておるかわかりませんが、あまり盗難予防の必要もなさそうな地域、住宅にいてそうして三頭置いておる。少女をかんだのは二頭でありますが、まだ一頭持っておる。警察が来たらかみつけといって……。そこで警察は盗難予防のために犬を奨励しておられるかもしれませんが、こういう危害を与えた事件が起きたときには、われわれ今検討してこの席上で判明したように、法規やいろいろな面の不備があって飼い主の責任を追及することもあるいは民事上の損害賠償の訴訟よりほかにないかもわからない。そこで警察はこれらの事件が起きたときに、おそらく私は警察で被害者と俗にいう加害者、飼い主の間に示談とかその他のお世話をなさることがしばしばあるのじゃないかという気持がするのですがね。そういうときに警察はできるだけ一つ被害者に対しての道徳上の責任を飼い主が自覚しますように、そしてそれらの事件が刑事上の追及ばかりじゃなくて、そういう飼い主の徳義上の責任等につきましても、警察がいろいろ警察行政の運営上、親切にそれらの御尽力をなされておられますか、またそういう御方針でありますか、あるいはまた、将来そういうふうに御注意下さるというお考えがありましょうか、その辺一つ伺いたいと思います。
  99. 中川董治

    政府委員(中川董治君) まず警察が犬を奨励しておるかという点から申し上げます。あの犬の嗅覚を利用して犯罪鑑識に用いる犬がございます。この犯罪鑑識に用いて、嗅覚によって賦物だの何だのの関係を見る犬がございます。そういった犬につきまして、鑑識上警察みずから飼っている犬がございます。ところが、一般の家庭で、犯罪鑑識以外にどろぼうよけのために犬を飼ったらどうかというようなことは奨励しておりません。  それから第二の御質問の、犬によって危害があったような場合につきましては、ただいま東京の例もそうなんでございますけれども、軽犯罪法に当てはまる場合と、軽犯罪法に当てはまらない場合とがございます。軽犯罪法に当てはまるものと認められるものにつきましては、全国的に警察がこれを軽犯罪法違反として検挙しております。さらには、軽犯罪法を越えて、刑法の傷害の罪とか、業務上の傷害の罪とか、そういうものと認められる事態につきましては、刑法違反として警察は検挙しております。それで、そういう犬を用いて軽犯罪法に触れるまたは刑法に触れる犬につきましては、警察としては、どしどし法を適用いたしまして、法の執行を厳正にして問題の解決に当りたい、こう思っておるのでございます。  第三点の、刑法にも触れない、軽犯罪法にも触れない、ところが、いろいろどうもうな犬がおる、こういう点につきましては、しばしば御指摘がございましたように、現行法でも狂犬予防法の法律があり、あるいは若干の都道府県においては条例の定めがありますが、そういった点については御指摘のような事情等もありますので、それが法令で、法律的にも困難な点がありますし、実際問題としても非常に多数のケースでありますので、一々警察が指導するという点も、ことに犬の飼い方等につきましては、警察としては専門でございませんので、そういう指導、そういう犬の飼い方に至るまでの指導ということになりますと、警察という機関の性格上若干疑問がございますので、そういう点につきましては、厚生省初め関係各省ともよく相談いたしまして、よく現場を検討してみたいと思うのでございますけれども、そういう今申した第三の点につきましては、相当考究すべき問題でもありますし、また、関係各省とも大いに研究すべき問題だと思います。第二点の軽犯罪法に触れる事件または刑法に触れる事件につきましては、法の執行を厳正にいたしまして、やって参りたい、過去もやっておるつもりでございますが、今後ともさらに厳正に取締りをやって参りたい、こう思っておるのでございます。
  100. 山下義信

    ○山下義信君 私が大臣に伺います前に、もう一つ文部政務次官が見えておりますので、簡単に伺うのでありますが、実はお聞き及びでございましょうけれども、都内におきまして、ただいま東京都の報告によりますと、昨日もありましたし、猛犬が小学校児童などに危害を与えた。それで文部省とされましては、児童、すなわち小学校の低学年の子供たち、これらが通学の途上等におきまして犬からかまれて傷を受けたというこの件に対しまして、どういうふうに御注意を下さいますでしょうか、御配慮を下さいますでしょうか。あるいはそれらの犬の管理その他について、法的に不備、その他の諸問題について、関係者に十分厳重な配慮を文部省としても強く要求なさるお考えでありましょうかどうかという点、それから一面は、私は教育に無関係とは私は言われぬと思う。本日の委員会文部政務次官の御出席を私は求めた。特に政務次官の御出席を求めた。われわれは主として国会の御答弁大臣もしくは政務次官に願いたいと思いますから、政務次官を求めた。ところが、文部省に何の用があるのでしょう、犬が子供をかんだことについて何の用があるでしょうかと言わぬばかりの何があったのでありますが、用がなければそれでよい、何らの感じもなければそれでよい、あるいは子供が犬にかまれたのが学校の校内において起きたことでない、直ちに直接つながりがあるのじゃない、文部省は犬の所管でないというような感覚、センスならこれはよろしい。しかし、私はこれはなかなか軽々には考えられない。子供を危害より守るということも大切なんです。ただいま申し上げた前段はそれなんです。しかし、私は今危害をいかに防止しようかという、その関係当局の御苦労を今伺ったのでありますが、犬そのものは、愛すべき動物であります。言うまでもなく、お互いに幼少のときを振り返ってみると、犬はみんな飼っています。人間の愛情の芽ばえるのは、私は心理学者じゃありませんけれども、犬を飼うことによって私どもは愛情を覚える、動物を愛護する教育上非常に重大な要素だろうと思いますが、このことによって子供と犬を離すわけにはいきません。子供と犬は、何といっても子供と犬との親善関係は、もうますます動物愛護の上からいきましても深く考えるべきであります。あなた方の教育なんとか規程の中にも、動物に対する愛情を云々という文部省規定にもある。それでこの点につきまして、文部省としても一つ重大視していただきまして、関係当局に対しての危害防止の点、また、犬を愛護するという動物愛護の精神との関連性におきましても、一つこういう案件を、こういう事犯を、こういう問題の発生を契機にされまして、何かこれがプラスになりますように、指導の上におきまして、同時にまた、父兄等に関連いたしましても、何だ、犬の問題かという考え方でなしに、一つ特段のお考えをお願いしたい、こういうことで文部当局の御所見を伺いたい、こういうことでございます。
  101. 稻葉修

    政府委員(稻葉修君) 文部省といたしましては、学童が通学の途上、犬にかまれて負傷するというような事件ははなはだ遺憾である。事柄は教育上重大な事件であるというふうに考えておりまして、犬をお飼いになる飼い主の責任につきましては、現行法の規定は不備であるとするならば、それらの点についても、今後通学児童擁護の責任を持つ関係省といたしまして、法律整備等に、関係当局に対して強く要望する覚悟であります。  こういうことのために、学童と動植物愛護の関係が薄れますと、将来の教育上に及ぼす影響がきわめて甚大でございまして、この点につきましては、いろいろな幼稚園の教科課程から、小学校、中学校に至るまで一貫いたしまして、動物愛護の精神涵養に努めておるわけでございますが、こういう事件がありますと、これらの従来の方針に非常に支障を来たす重大性がございますので、法規を検討いたしまして、もし不十分な点がありますれば、十分関係当局に文部省の要望をお伝えいたしまして、協力して、今後再びこういう事件の発生がないように、従来文部省がとって参りました動植物愛護の教育方針に支障を来たしませんように、十分に注意して、山下先生のこの問題を取り上げられだ御精神に報いたいと思います。
  102. 山下義信

    ○山下義信君 厚生大臣に伺うのでありますが、おそらく担当事務当局から大臣のお手元にこの事件の御報告があったろうと思うのであります。本件を当委員会が取り上げられましたゆえんは、この簡単な事件の背後といいますか、基盤といいますか、これに非常に重大な要素がありますことを私ども考えて、こういう問題が国会で議論されますことが直ちに国の政治の文化性のバロメーターとは言いません。言いませんけれども、私は一般の社会が注視いたしまする、影響の大きい事件は、表面小さく見えましても、私どもこの所管委員会として直ちに取り上げて検討する、そして一般国民に不安の念のないように問題の善処をしたいと考えまして、委員会はその点を容認されまして、この問題を出した次第であります。それで結局、所管は厚生省の所管が主でございます、それのみではございませんが。関係の法律等につきましても改正を要する点が多々あるように感ぜられるのでありますが、大臣におかせられましても、至急一つ関係法規の御検討を願いまして、必要な改正案を早急にお出し願うという御配慮がいただけましょうか、どうでしょうか、お答えいただきたいと思います。
  103. 神田博

    国務大臣(神田博君) お答えいたします。最近都内等におきまして特に犬の被害を児童が受けておりますので、厚生省といたしましても非常に憂慮いたしております。御承知のように、狂犬病に対する予防の法律が、戦後狂犬の猛烈な蔓延に伴いまして予防法を作ったのでございまして、その結果、予防の実をあげたと申しますか、今日では根絶に近いような成績をあげておりますことは御同慶にたえない次第でございますが、狂犬病にならないが、最近頻発した例等を顧みまして、これらの防止対策と申しましょうか、予防対策と申しましょうか、今の狂犬病予防法のままでいくか、あるいは適当な立法措置をとるか、これは関係各省とも相談いたしまして、どの省が担当することになるか、これらの点も、これは法律の内容によっては問題があると思うのでありますが、いずれにいたしましても、ただいまの頻発した事件から、私ども、ことにこの参議院の委員会等に、先ほど来活発な御意見等を承わっておりますので、対策といたしまして、立法措置を一つ研究いたしまして、すみやかに適正を期するような措置をいたしたいと考えております。
  104. 山下義信

    ○山下義信君 本件に関します私の質疑は終了いたしました。まことにありがとうございました。
  105. 榊原亨

    ○榊原亨君 この事件に関して非常にとっぴなことを承わるわけですが、自家用自動車が事故を起しましたときに、その事故の責任は運転手だけでなしに、その自動車を持っている人にも責任は及ぶように私承わっておる。私自身そういう場所に遭遇したことがあるのですが、その点はいかがでございましょうか。今犬の飼い主の責任についてお話がありましたので、ちょっと少し違うようですが、その点を井本さんに。
  106. 井本薹吉

    政府委員(井本臺吉君) 私実は刑事の方を担当しておりますので、民事の方は直接の所管の外でございますが、便宜申し上げますが、民法の七百十五条に業務の執行についての規定が、また、七百十八条にも動物占有者の責任の規定がございますが、七百十五条の業務の執行について、業者が他人に損害を与えたというようなことになりますれば、民事上の損害の負担は所有者がしなければならないということになるのであります。「事業ノ執行ニ付キ」という文字が使ってありますけれども、さような条文に該当するかどうかということで所有者の責任がきまるというふうに考えております。
  107. 榊原亨

    ○榊原亨君 ただいまの場合、その犬の飼育並びに運動を命ぜられて、その人が獣医学校を出たような人が歩いているような場合、その関係はちょうど自家用自動車の運転をやるのと同じだと思う。業務執行に関しての傷害が起ったものに対しては、当然これはその人がやるということにも責任を負わなければならないと思うのでありますが、その点の御見解はいかがですか。
  108. 井本薹吉

    政府委員(井本臺吉君) 所管外で恐縮でございますが、七百十五条の業務の執行というのは、ちょっと無理ではないかと考えますが、おそらく問題の関係は民事の関係でいきますと、七百十八条の規定の適用があれば当然犬の占有者である主人が責任を負わなければならないということになるのではないかと考えます。
  109. 千葉信

    委員長千葉信君) 本件に関する本日の質疑は、この程度にいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  110. 千葉信

    委員長千葉信君) 御異議ないと認めます。   —————————————
  111. 高野一夫

    ○高野一夫君 私はこの際、本日の議題に問題を追加いたしまして、奄美大島群島関係戦没者にかかる葬祭料未払いに関する件がございますので、それを問題に供せられるように動議を提出いたします。
  112. 谷口弥三郎

    谷口弥三郎君 ただいま高野委員の御提案されました点につきましては、賛成でございます。
  113. 千葉信

    委員長千葉信君) ただいま高野委員から提出されました動議の通り、この際、追加いたしまして、奄美大島群島関係戦没者にかかる葬祭料未払いに関する件を問題に供することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  114. 千葉信

    委員長千葉信君) 御異議ないと認めます。  それでは奄美大島群島関係戦没者にかかる葬祭料未払いに関する件を問題に供します。質疑を願います。  ただいま出席されておりますのは、中垣厚生省政務次官並びに厚生省引揚援護局引揚課長石塚冨雄君であります。御質疑を願います。
  115. 高野一夫

    ○高野一夫君 まず私は、引揚援護局の事務当局から経過並びに実情について説明を願って、あとで大臣おいでになりませんから、大臣にかわって中垣政務次官から、これに対する見解の表明を願いたいと思うのでありますが、この件は、私は最近初めて知りまして、実にびっくりしている事件でございまするが、それは奄美大島群島は御承知通り、二十七年ですか、ようやく日本の行政権内に復帰して参った関係があるわけでありますが、この奄美群島出身の戦没者に対する葬祭料、あるいは遺族引き取りの経費と、こういう国から援護する費用が復帰後は渡っている。復帰前は全然渡っていないで、しかも一番最初制定されたる五百何十円ですか、わずかの経費がそのまま日本銀行に供託されたまま今日に至っていまだに遺族に渡っていない、こういう事実を私は最近承知いたしたのであります。詳細のことは事務当局から御説明があると思うので重複しますから申し上げませんが、この奄美群島の戦没者の遺族に対するさようなものの支払い状況、あるいは未払い状況、それが済んだり済まなかったり、供託したり、供託したまましつぱなしにしておいたり、こういう実情について、どういう経過であったか、事務当局から事務上のまず経過を伺っておきたい。
  116. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 御説明申し上げます。  終戦後死亡処理されました遺骨につきましては、昭和二十二年の六月五日に当時行政が分離しておりました関係上、奄美大島関係の遺族の方の遺骨百六柱を沖縄政府の方へ送っております。続きまして、二十三年の十二月三日に千三百二十三柱同様に送っております。続きまして二十四年の九月二十四日に百九十六柱送還しております。続きまして二十五年の四月二十一日に百六柱送っております。二十七年の七月二十五日に九十柱送っております。二十八年八月六日に十柱、それから二十八年八月十八日に三十一柱送っております。なお、二十四年の十一月ごろから沖縄県庁の方へ送還しておりました遺骨のうち、便船を利用しまして向うへ行かれる方に、船長に託したり、あるいは内地におりますところの親戚関係の方々に託送しましたものが千八百八柱ございます。合計三千六百七十柱ございます。これらの遺骨に対する送還時の葬祭料、当時は遺骨埋葬経費でございますが、経費が当時の定額で申しますというと、昭和二十二年六月が五百八十円でございます。二十三年が三千円でございます。二十四年の九月は三千円でございます。二十五年の四月が三千二百円でございます。二十七年の二月が五千三百円でございます。二十八年の八月が五千三百円、二十四年の十一月から沖縄県庁へ便船を託して送還しました分は五百八十円から三千円の間にまたがっております。これらの埋葬経費につきましては、全部でありませんが、大体第四次分までの分につきましては、日本銀行の方へ供託いたしたのでありますが、ただ、供託の定額は二十二年の五百八十円という定額で一応供託しておる次第でございます。
  117. 高野一夫

    ○高野一夫君 その五百八十円の問題はあとで伺いますが、その後はどうなっておりますか。その後、奄美大島がこっちの行政権に復帰した後はどういうようになっておりますか。
  118. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) それは逐次送っております。
  119. 高野一夫

    ○高野一夫君 逐次というのは、金額はどうなっておりますか。その年度年度に、たとえば五千三百円の場合、五千七百円の場合と、こういうようなふうにそのときそのときの定められたる費用で随時支障なく向うに支払っておられるわけですか。
  120. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) それは鹿児島県庁を通じまして、その引き渡しの定額で引き渡しております。
  121. 高野一夫

    ○高野一夫君 そういたしますと、二十四年までは日本銀行に供託してある。それが五百八十円で、その後年々金額が変ったにもかかわらず、一番最初の五百八十円のままで毎年々々それを計算して日銀に供託してある。この点の問題、それはどういうわけであるかということが一つと、そしてかりに五百八十円のままで供託しなければならない理由があったとして、それが今日なおそのまま供託されっぱなしになっている、これはどういうわけであるか。その二点について一応伺いたい。
  122. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 五百八十円を供託しましたということは、供託の法律事項としては、供託しますれば弁済の代り債権債務が消滅するということになりますが、当時供託の意図としましては、この三千円のものに対して五百八十円を供託したということは、必ずしも債務の本質にかなった弁済とは解せられませんので、この点については必ずしも債務は消滅したと考えておりません。この供託の意図は、おそらく当時の当事者としては財源を確保するというような考え方で供託されたのではないかと思っております。
  123. 高野一夫

    ○高野一夫君 二年後も三年後も、前年の、それがだんだん逓減してくるなら別でありますが、だんだんふえてきた。一番最初二十二年はわすか五百八十円、それを財源の基礎にして供託している。そうして次の年からだんだん金額がふえてきた。そういうような場合に、これを支払う方法がないことになると思うけれども、それはどういうふうにお考えになったか
  124. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 一応この埋葬経費の法律の基礎としましては、当時の未復員者給与法に基くものでございます。当時の法律の規定としましては、遺骨を引き渡したときの定額ということになっておりますので、そういうような考え方で、したのだと思います。
  125. 高野一夫

    ○高野一夫君 その当時の五百八十円というのは、二十二年が五百八十円、二十三年は先ほどあなたのお話通り、三千円、二十三年も四年も三千円、二十五年は三千二百円、それから二十七年には五千三百円、こういうふうに毎年上っているわけなんで、それを二十四年までを供託しても、したならしたでいいけれども、その二十三年、四年はすでに三千円になっているのに、なぜ二十二年の五百八十円を基礎にして供託しなければならなかったか。
  126. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) それは先ほどもちょっとお話申し上げたと思いますが、供託の意図が債務の弁済を免れるということでなしに、幾らかでも財源の確保でもしておこうというので供託したのではないかと私ども考えております。
  127. 高野一夫

    ○高野一夫君 私はあなたの、援護課長のおっしゃることはどうしてもわからぬのだけれども、これは財源の確保とか何とかいっても、当然遺族にお渡ししなければならない金である。しかも奄美大島は終戦後何年かたったら日本に復帰する、これは復帰したら日本並みに渡さなければならないことは自明の理である。それをただ財源確保のために、初年度の一番最低額で供託して置くということはおかしいじゃありませんか。次の年は三千円、次の年も三千円、あるいは五千円、これは遺族に渡さなければならぬ金である。これは国がとっておく金でないので、三千円なら三千円渡すべきなのに渡す金がない、その方法がない、アメリカがそれを許可しないといういろいろな事情があるかもしれないけれども、それは時期がくれば五百八十円を渡し、次の年は三千円を渡す。これは当然遺族に渡さなければならない金である。遺族が受け取る金である。それならば、百二十六柱なら百二十六柱分の三千円というものは確保しておかなければならないのではないか。それをなぜ最初の最低の五百八十円で財源確保ということができるかどうか、このことが私はわからぬ。
  128. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 仰せの通りであります。仰せの通りでありますが、まあ五百八十円でも、供託いたしておきますれば、それを当該年度の歳入に繰り入れまして、そうして払い戻ししまして、そうしてそれを財源にして予算を組むということも考えられたじゃないかと思っております。
  129. 高野一夫

    ○高野一夫君 これは国の予算でして、国から出る金です。そこで二十二年度は五百八十円で、百六柱分を供託して、二十三、四年はそれの金額がふえている。それをどういうふうにしてそれじゃこの金をお出しになるのですか。一応は五百八十円の割で供託しておいて、そうして今度はまとめて支払う場合は、どの予算でどういうふうにしてそのお金をお出しになるのですか。出す道がないと思いますが、予備費なら予備費でそういうものが出せるのですか。これは法律に従って予算を当然組むべきだが、それを組まないで、一番最低の金額で供託しておいて、払うときは全額を、もっとたくさんふえた正規の金を払わなければならない。その払う金はどこから出すつもりであったか、こういうことです。
  130. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) それは現在の留守家族援護費の中から支出するということになります。
  131. 高野一夫

    ○高野一夫君 留守家族援護費は、年々そうすると余裕をとって予算が組んであるのか。一ぺんにこういうふうに増額された分をまとめて大島の遺族に支払わなければならないとした場合に、毎年々々支払われるような余裕があるようには予算は組んであったわけですか。私はさように了承していないのですが、どうなんです。
  132. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 十分余裕をもって組んでおるとは申しません。まあこの程度のやり繰りは、あるいはつくんじゃないかと思います。
  133. 高野一夫

    ○高野一夫君 それじゃ一歩譲りまして、この程度でやりくりができるものとあなた方が想定されて、とりあえず、五百八十円を基準にして供託されたということを一応かりに了承するとして、それが今日までなぜほったらかしてあったわけですか。しかも復帰後は、それに準じ、順当に支払っておられる。復帰前のものは供託したままほったらかしてある。これはどういうわけですか。あなたのお話によれば、復帰直後、予算の中に、それにこのくらいの余裕を見込んで予算が組んであるはずだから、何年分かのものはすぱっと払わなければならない。それを払わないでほったらかして、あとの分はちゃんと正規に払ってある。それはおかしいと思うのだが、どうなんですか。
  134. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) これは実は送還のいきさつが、沖縄政府を通しまして、沖縄の遺骨と同時に一緒に送還したのであります。沖縄の方で五百八十円について、もう少し高い定額でもらえないだろうかという要望がかなり強いものでしたから、そういった実はいきさつがありまして、なかなか解決つかずに残ったわけです。これはいつまでも放置できませんので、われわれとしてできるだけ早くこれを解決したいと思います。
  135. 高野一夫

    ○高野一夫君 この問題について鹿児島県から厚生省にひんぴんと陳情が来た。昨年はすでに年内にこの問題を解決するという言質を与えている。その前もおそらくそうだったろうと思う。それが今年になれば、三十二年度中には何とか解決したいと、こういうことで、厚生省の言うことはだれも信用しませんよ。そこで私はもう一度伺うのですが、二十二年分は五百八十円という計算で、二十三年は三千円、二十四年も三千円、こういうふうなことで計算をして渡せますか。当然渡すべきだと思うが、その渡す金のことをお考えになっておりますか。それはどうですか。
  136. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 五百八十円、三千円が規定の定額であれば支給できます。私が先ほど申し上げましたのは、三十二年度のは沖縄を対象として申したのであります。奄美の分につきましては、実は県の方へ先般通知をしまして、できれば年内にでも支給したい、こういうことで通知をしております。
  137. 高野一夫

    ○高野一夫君 私は今沖縄の問題と大島の問題は切り離してお尋ねをしているんです。沖縄はまた事情が違いますから、沖縄のことは伺っておらない。日本に行政的に復帰した鹿児島の奄美大島の問題について伺っておる。そこで先ほど申し上げたこの点についてお答え願いたいのは、二十二年に五百八十円、その以後は、その年々に皆さんが内地の人にお渡しになった金をお渡しになるつもりであるかどうかということを一応伺いたい。
  138. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 一応法律の規定でいきますと、当時の定額ということになります。従いまして今のところでは、当時の定額で支給しようというつもりでおります。
  139. 高野一夫

    ○高野一夫君 それがわからない。金の問題は法律に従うということは、どうなんですか、二十三年、二十四年もやはり五百八十円という意味ですか。三千円ずつお渡しになっておるでしょう。
  140. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) これは二十二年の六月送還した分は五百八十円、二十三年十二月に送還したものは三千円、それぞれその送還したときの定額で支給する、こういうことであります。
  141. 高野一夫

    ○高野一夫君 その年々の定額で今度まとめてお払いになるということならば、まあ一応了承するとして、もしも二十二年に五百八十円もらっておったならば、これは五百八十円が非常に役に立っただろうと思います。それを十年たった今日、当時の五百八十円もらって、一体何になるか、まあ何にもならぬということはないだろうけれども、それを今日まで延ばして払わなかったのは、いろいろな国際上の事情もあったでしょうけれども政府としてはこの五百八十円を、これを十年後に換算して、今日のこの定額に直して支払うということは考えられたことはありませんか。
  142. 石塚冨雄

    説明員(石塚冨雄君) 法律では、それぞれの支給事由の生じた引取経費については、それぞれの支給事由については従前の例に従って支払うということに明記してありますから、貨幣価値の変動に応じた支給方法ということについては、何ら規定しておりませんので、そういった支給方法はちょつと考えられません。
  143. 高野一夫

    ○高野一夫君 政務次官に伺います。そこで中垣政務次官の御意見を伺いたいのでありますが、十年もほったらかされておった五百八十円が、十年後の今日、なおかつ今日の五百八十円で支払わなければならぬということは、法規の建前上はあるいはやむを得ないことかもしれませんけれども、いろいろな社会情勢、政治情勢から考えてみて、今まで長い間占領されておって、ようやく多年の願望が達せられて復帰した。そういうことを念頭に置いて、この五百八十円を、今日の場合はあらためて考え直して支給する、これは当然の私は一つ事態でないかと思うけれども、これについてどういうふうにお考えになるのでありましょうか。
  144. 中垣國男

    政府委員(中垣國男君) 高野さんにお答えいたします。ただいま事務当局から説明をいたしました内容によりますと、昭和二十二年当時の、いわゆる送還当時の定額というものが五百八十円であって、その後ずっと変って参っておるわけでありますが、これは一番最後の今日渡しております五千三百円、これに全部直して考えるべきではないかと、こういうお考えは私も非常によくわかるのでありますが、一応この当時金の査定をされましたそれぞれの法律によってこれができておると思いますので、それを直す場合には、これは相当なやはり法律上の措置が要ると思うのでありまして、今ここで直ちにこれを第何条を直してどうするということは、ちょっとお答えいたしかねますけれども、高野さんの御意見通り、五百八十円というものを今渡して、十年前と今と、これはもう大へん内容が違っておるじゃないか、こういうことについては私も全く同じ意見であります。でありますから、一応この問題は、それぞれ査定をいたしました当時の法律をよく考えまして、よく調査いたしまして、そうして次の機会くらいにこれに対する意見というものをお答えさしていただきたいと思います。
  145. 高野一夫

    ○高野一夫君 御意見よく了承できますが、しからば一つ希望を申し上げておきたいことは、私が調査いたしました範囲におきましては、この二十二年、二十三年、四年というのは埋葬料が参りませんので、ほとんど仮埋葬、金もかけられないような仮埋葬をせざるを得ない状態にあったわけでありまして、それで今度金が渡るならば、そのときに初めてほんとうの埋葬をやる、葬祭をやる、こういう事情になる。そうすると、今日は漸次定額が五千七百円、五千三百円ということがきまっておりまするが、そういうのに相当するような葬祭料がやはり必要になる時期になってしまってきたわけなのです。当時済んでおったならば、五百八十円で済ませられたのですが、十年後の今日では五、六千円最低かかる。こういうような事情もございますので、それでどうかこの問題についても、五百八十円を現在の金額に直して、多くの相当の金でもないと思いますので、支出するような方法をお互いに考究していきたい、こう考えるわけでございますから、その辺の事情を十分汲んでいただいて、次回までに御検討おき願いたい。  これで私の質問は終ります。
  146. 千葉信

    委員長千葉信君) 他に御質疑ございませんか。……別に御質疑もないようですから、本問題に対する本日の質疑はこの程度にいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  147. 千葉信

    委員長千葉信君) 御異議ないと認めます。  暫時休憩いたします。    午後三時十二分休憩    —————・—————    午後三時二十四分開会
  148. 千葉信

    委員長千葉信君) それでは休憩前に引き続いて、社会労働委員会を再開いたします。  次に、労働教育行政指針に関する件を議題といたしまして、午前中に引き続き御質疑をお願いいたします。ただいま出席しておりますのは、中西労政局長でございます。
  149. 大矢正

    大矢正君 実は午前中の大臣との質疑の中でまだまだ解明をしなければならぬ幾多の点があることを私どもは感じておるのでありますが、不幸にして都合に上り大臣がお見えになりませんので、従って、次官通牒をめぐる問題点の基本的な点については、これはいずれまた、大臣が出席をいたしました折にただしたいと思いまするので、この点は保留をして、特に労政局長が来ておられますので、この次官通牒に関連する具体的な問題として二、三私は質問をいたしたいと存ずるのであります。  まず、第一点といたしましては、この出されました通牒内容を総括的に判断をしてみて、特に労政を担当されておる局長立場からの判断を私はいただきたいと思うのでありますが、最近非常にこの労働争議というものが深刻になってきておる。終戦以来十年間労働運動は非常にめざましい勢いで発展は遂げて参りましたけれども、しかし、その労働争議の内容たるや年を追うて非常にこの何と言いますか、陰険と申しますか、非常に内容的にはむずかしい労働争議というものが発生をしてきております。なぜこのように労働争議というものが非常に深刻になってきたかということを考えてみますれば、私どもはもちろん基本的には今の政府政策の不満をあげることができますけれども、それは労働委員会の場において論議をすることを本旨といたしませんので、その点に私はあえて触れようとはいたしませんけれども、とにもかくにも終戦以来、当分の間は大きな企業を中心にして行われていた労働争議というものが零細な企業に発展をしてきておるという、進行をしてきておるというのが今日の実態だと私は思うのであります。今の政府は減税をする場合には、これはもう神武以来の減税であり、そしてまた、神武以来の景気であるとか、あるいはまた、その他の政策を行う場合には仁徳以来の政策であるとかという、非常に何と申しますか、今までの政府の中ではこれほどの善政をしく政府はなかったと言わぬばかりのことをよく口にするのでありますけれども、しかし、実際的には非常に深刻な争議が各所に勃発をしておる。これは必ずしも政府が言う今の善政ということを裏書きしていないものだと私は思うのであります。特に大企業が中心に行われてきた労働争議というものが、中小企業ないしはそれ以下の零細企業に進行をしたということは、これは一面では大企業の非常に経済的な要因というものがだんだん下に下ってきたということも言い得るでありましょうけれども、私はもっとその根底を流れるものの中に経営者の考え方の相違というものがあげ得るのではないかと思うのであります。いろいろ今日まで経営者の方々のものの考え方も、戦後十年間の労働運動の過程を経て変化は来たしておりまするけれども、そういう経営者のものの考え方というものは、中小企業ないしは零細企業にいくに従って、非常に新しい民主主義を基調とした労使関係というものに対する判断の仕方というものが、これがテンポが非常にのろい形で行われておる。急速に頭の切りかえをすることができない状態に置かれておるために、そういうことから特に中小企業、零細企業の中でひんぱんに争議が発生をする。その争議の内容たるや、これは実に深刻なものがあって、単にこれは欲望のみに基いて要求をするという段階ではなくて、みずからが与えられた権利や権益を守るための立場からの争議、あるいはまた、ほんとうに人権を無視したような経営者の態度から起った争議、こういうのが非常に多うございます。こういうような今の一般的な情勢の中で次官通牒というものが出されたのでありますが、私はこういう次官通牒を出すことによって、今の日本の労使関係というものの置かれている主体的な条件というものに対する考え方が、大企業の場合も、それからまた、中小企業の場合も、あるいはまた、家内工業に近くなるような零細企業の場合にも同様な判断をもって律せられるきらいが出てくるのではないかと思うのであります。私は判断をいたしまして、少くとも今日出されました次官通牒というものは、これはちょうど国税庁が税金をとるためにやる方法と同じような結果が現われるのじゃないか。労政局長はけさほど来の答弁の中で、この次官通牒というものが取締りの内容ではなくて、単に教育を施す内容が主たるものであるという答弁はいたしておりまするけれども、しかし、これが事実一つ一つの企業体なり、あるいは都道府県にまで行き渡りました場合には、単に教育指針として解釈をされるのではなくて、これを守らなければ法律に違反をするのだという、こういう経営者の強制的な態度が出て参るでありましょうし、そのことから逆にかえって争議を招来する結果になるという危惧を私は持たざるを得ないのであります。今までの労働争議の中では幾多裁判所において、あるいは労働委員会においていろいろな判決なり、裁定が下されておりまするけれども、私はそういう内容を否定をする立場ではないかもわかりませんけれども、そういうような内容にはあまりこだわる必要性はないのだ、あるいはそういうものを中心として労働政策労働行政をやることは、これはむしろ今日の段階ではおかしいのではないかという立場に立脚したような、こういう次官通牒を出すことによって画一的に大企業の場合も、中小企業の場合も、あるいは零細企業の場合も労使関係が律せられて、ちょうど国税庁のお役人が法律があるからすべてこの法律によって税金は徴収をしなければならない、ああいう今日までの強硬な態度と同じような立場が将来においては行われるという危惧が私はあると思うのでありますが、この面に対する労政局長の私はお答えを願いたいと思うわけであります。
  150. 中西實

    政府委員中西實君) この労働教育指針は、午前中も申しましたように、違法適用というものについての判断を書いているのではございませんで、望ましい、あるべき労使関係、また、労働組合運動の姿というものについてその方向を書いておるものでございまして、従って、これが直ちに違反になれば、これの書いてあることに反すれば違反だというような趣旨でないことは、もう繰り返し申しておる通りでございます。ただおっしゃるように、あるいは一般の人たちが見ました場合、読み違いその他のことで、あたかもここに書いてあることに反するようなことは、直ちに違法だというような解釈をする人がないとは言えません。しかしながら、そういう誤まりは当然われわれとしても是正し、また、そういうことがないように心がけたいと思っております。大体私らは最近中小企業においていろいろの争議が起きておりますが、その実態を見ますると、いよいよやはりこういった教育指針というものの必要性を痛感するのであります。どちらも不なれである、それからまた、組合の方もいまだに組合活動、大衆活動なら大ていのことをやってもいいのだというような思い過ぎがあり、また、経営陣はこの組合の存在あるいは団体交渉と、そういうものに対する認識に欠けておる。従って、憲法保障し、それからまた、労組法等に規定してあります労働組合活動に対する保護保障というもの、これに対する認識というものは労使ともに非常に欠けておる。最近の実態を見まして、ことに中小企業の最近の争議の実態を見まして、私どもはやはりこういった指針が今こそ必要じゃなかろうかという感じを持っておる次第でございます。
  151. 高野一夫

    ○高野一夫君 ちょっと関連して聞きたいのですが、私はこの問題は二つの問題があるのじゃないかと思うのですが、たとえば、こういうようなものを次官通牒で出すことがいいか悪いかということが一つと、一つはその内容が適正であるかどうかという問題が一つ、二つに区分して考えてみた方がいいのじゃないかしら。そこで先ほど午前中にお話が出ましたが、学者の意見を聞いたとか聞かぬとかいうお話が出ましたが、そこでこういう種類のものを次官通牒で出すことの是非ということはしばらくおいて、私はこの機会に、大矢委員の御質問に関連して労働省側に伺っておきたいのでありますが、この内容、この解釈についてはどういうような方法でこれを編さんされたのであるか。労働省関係だけでおやりになったか、そのほか各関係委員、学者、そういう方面の意見も十分徴し、あるいは判例等も参酌して解釈労働省解釈として一本化すべく下されたのであるかどうか、その点を一つ伺ってみたいと思います。
  152. 中西實

    政府委員中西實君) この指針を作ります準備を始めましたのは、もう一昨年あたり、昨年一年一ぱいは優にこの仕上げにかかっておりますが、その間これに関連をする従来の判例、それから従来のわれわれから出しております解釈例規とか、あるいはまた学者のいろいろの説、それからさらに労働委員会の決定等もございますが、これあたりも十分に参照して、そうして少くとも判例、それから労働委員会の決定、従来の解釈、これと矛盾しないということは確かめてございます。それからさらに、これを作りますに当りまして、中労委の公益委員の方々の御意見も聞きました。なおまた、政府部内におきましては、法制局、これはまあ法律解釈の元締めでございますので、これは法律の、例の行政解釈じゃございませんけれども、しかしながら、考え方基準をなすものでございますから、法制局とも打ち合せまして、さらに法務省関係とも打ち合せをいたしまして、この内容でいいということで、政府部内では、関係方面では意見が統一されておる、こういうことでございます。
  153. 大矢正

    大矢正君 これはね、書かれている内容憲法やあるいは労組法に違反するかどうかという問題もありますけれども、私はこの書かれている内容の中で非常に数多く挑発的な内容が私はあると思うのです。具体的にあげてもよろしゅうございますけれども、それはまた、いずれ機会をあらためて、そういう問題は大臣が来たときに私は明らかにいたしたいと思うのであります。きょうはそれを差し控えますけれども、その書かれている内容が非常に挑発的な内容が多い。挑発というと、どちらを挑発するかということになりますれば、これは明らかに労働組合を挑発すると言えると私は思うのであります。これだけ読んでみて、書かれている内容の九九%までは労働組合に対して、お前たちはこういうことをしちゃいかぬぞということが中心になっておる。あとわずか顕微鏡で見なきゃわからないような程度だけが、これは経営者もこういうことは気をつけなさいという程度なんであります。こうしてみますると、その書かれている内容基本というものが私はおぼろげながら現われてくると思いまするし、それからその輪郭もほぼ明瞭になってくるのじゃないかと思うのであります。労政局長はこの通達が出た場合に、かりに読み違えたとした場合のようなときに、いろいろな紛議が起るかもしれないというようなことを言っておりますけれども、これは学校へ行かなきゃ読み違いがあるかもしれないけれども、みんな学校へ行っていて字は読めるのだから、読み違いというようなことはない。ただあなたのされている解釈通りにこの通牒というものを解釈して、そうして経営者は労働対策をやり、労働組合はまた経営者対策をやり、地方の出先官庁はまたそういう考え方の上に立って労働行政をやるかどうかということに私は尽きるのではないかと思うのであります。少くとも労使関係というものは、機械と機械との関連じゃなくて、人間と人間との関係であり、さらにまた、それを発展させるならば、感情と感情との関係だと私は思うのであります。そういう面では、たとえば右の方が一だから左の方も一でいいということにならないと思いまするし、それからかりにまた、もっと具体的にいけば、ここの組合ではピケが張られ、またピケ破りが来た場合は実力をもってこのピケ破りを押えたという実例の場合は、非常に何と申しましても法律の建前から正しくはないのではないかという結論が出たからといってすべての組合に必ずしもそういう考え方は私は当てはまらない。なぜ当てはまらないといえば、これは置かれている主体的な条件というものの相違が企業別によって、あるいは事業場によって変化があるから、従ってそういう面では一律的にあるいは画一的に法律や通牒をもって規制をすべき内容のものではないという解釈を私どもは持っておるわけであります。先ほど来申し上げましたように、この中に書かれているものは、経営者を擁護する立場以外に何もない、これをこのまま労働者に読ませれば、労働省というのは労働者保護する省でなくて、労働者に圧迫を加える省であって、いうならば経営省というふうに名前を変えた方がむしろいいではないかという疑義を私は持たれるのではないかと思います。さすれば、労働省設置法の本来の目的とも反しますし、それからまた、あなたが単に労働組合を圧迫しようという立場からではなくて、ほんとうに日本に正しいというか、非常に好ましい労働慣行を作ろうとする立場から書かれた内容というものが、故意ではないが、曲げられて解釈される危険性も出て参ると思うのであります。そこで、私は具体的にお尋ねをいたしたいと思うのでありますが、今までの労働争議の経過、それからまた、これは当然あなたがこの中で否定をされておるように、下級裁判所の判決などというものは当てにならない、なぜ当てにならないかといえば、右と左の裁判所では相当違いがある、あるいは具体的にいえば、北海道と東京の裁判所では相違がある、だから一本のものではないから下級裁判所は当てにならない。ところが、日本の国には最高裁というのは一つしかありませんから二つの結論が出ようはずがないから、最高裁は正しいのだというあなたの考え方は当然であり、しかも私は逆にいうとおかしいと思う。そういうような立場から考えられておるあなたの立場からいけば、またこのことは当然であるかもしれませんけれども、私はこういう通牒がなければ、実際的に経営者と労働組合の中においては労働争議がひんぱんに起る、そうしてまた、正しい労働環境を作ることができないという結論になるのかどうか、その点について労政局長の判断を私はお尋ねいたしたい。私はこういうものがなくても、けっこう日本が労働運動は決して法律をそう踏みはずさない範囲において行われておるものだと考えておりまするが、その辺いかがなものでしょうか。
  154. 中西實

    政府委員中西實君) 私も大矢さんの言われるように、しかく法律を踏みはずすというふうになるとは思っておりませんし、現在も正面から踏みはずしておるものが多いということは言えないと思います。おっしゃるように、労働運動というのは大衆運動でございますので、ときに具体的な事情によりまして相当な方向に行き過ぎるということもありがちなものであることはよく承知しております。そういうものであればこそ、やはりものの考え方として、一応筋を通せばこういうことが正しいのだということのはっきりしたものを基礎として打ち立てておくということが必要じゃなかろうかと思うのでございます。従って、具体的な問題に当りましてはなかなか理屈通りにいかないことはよく存じておりますけれども、その場合にやはり基礎的に正しいもの、判断の尺度というものを打ち立ててあるのとないのとでは非常に違いが一起きてくる。そういう意味においてここに労働教育指針としては一応こういうものがあって、その上に具体的なものがえらく軌道をはすれないでできれば、自由民主主義のルールに従って、合理的に物事が解決されるように向うということが期待されて私は非常に効用があるのじゃないかと考えております。
  155. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 ちょっと今の答弁と関連をするわけですけれども教育指針、いろいろと労働行政立場から先ほど話に、設置法の三条の問題が出ておりました。この立場労働省が設置されて今まで何回となしにいろいろの問題を出してきておられる。午前中の理屈をいうと、行政解釈基礎をなす精神の違法か、適法か、こうあるべきだ云々ということで出しておる、こう言われる。内容に入ってこの貫かれておるところは、さっき大矢委員が言いましたように、労働組合行動に対する制約的なものを九九%含んでおる。そういう工合にわれわれも感じておるわけです。そこで問題なんだが、労働省はいろいろのものを出されるけれども、意図としてはわれわれはこの内容に反対ですけれども、いろいろ出されることは実施してもらいたい、単に片方だけ痛めるということに尽きては労働行政立場では私は万全ではないと思う。たとえば、ここにもたくさんな問題が掲げられておりますけれども、今日具体的な事件一つ取り上げてみましても、たとえば、神戸の中本商店の争議、東京における栗林の争議、私は数えあげれば相当たくさんあると思いますけれども、経営者と労働者関係がどうなっておるか、労働省としても多少お調べになっておると私は思うのです。その中には、労働省先ほどいかにもりっぱなような労働指針を出した、今までやってきた云々と言われますけれども、まるで今の時代とは遠く離れたような労使関係というものが行われ、これに対して労働省は監督行政立場から労働者保護するあるいは労働条件労働者を守ってやるということをやられたのかどうか、私は非常に疑問に思っておる。だから、私はこの問題について、労働省意見を聞きたい。たとえば、中本商店なんかの労使関係を見てみますと、犬、ネコ畜生扱いに労働者をしておる。それで膨大な利益を上げておる。これは利益を上げておる点、それから労働者の人権を無視した雇用関係にあるのは栗林も同じであります。こういうところについて、どういう工合にお考えになっておるか、一つ聞きたい。
  156. 中西實

    政府委員中西實君) 中本、栗林その他の具体的な事件は、私どもの方でもある程度は承知しておりますが、その労働条件等はやはり労使の話し合いできめらるべきであり、内容的にそれが非常に劣悪でどうこうということに立ち入ってわれわれから批判するのはどうかと思うのであります。ただ労使ともに非常に不なれで、ことに中本商店のごときは組合が二つあって、それとの関連において非常に問題がこじれておるということ、さらにまた、やはり経営陣も非常に労働組合労働運動というものに対する認識が足らないと同時に、組合の方でも指導に当って、やはり大企業と中小企業、ことに中小企業は一つ一つが非常な特殊性を持っておる、そういうものを十分に把握して指導されておるかどうか。一律的指導ということがかえって非常なトラブルを起すということもありますので、やはりこれは労使ともの批判ということに帰せられると思います。私ども労働省の、ことに労政局といたしまして労働組合を非常に愛するといいますか、健全なる発展をこいねがう者はこれ以上のところはないと思うのであります。ただしかし、組合のやることなら何でもいい、相合のやることはすべて擁護するというのはほんとうに組合を大事に考えておる者の取るべき態度でないので、やはりさらに健全なものになってもらって、そうして自由にして民主的な社会国家が、なるほど労働組合運動というものは社会組織としても十分に存在価値があり、これは十分にやはり尊重して、そうしてそのあるべき機能を営まそうというような気持になるようにわれわれとしてはなってほしい、こう思っておるのでありまして、あるいはこの指針も見方によれば非常に組合につらく当っているというようなふうにお感じかもしれませんが、しかし、冷静にお読みいただければ、決して間違ったことを言っているのじゃない。やはりさらに好ましい姿というものをここに記述しておるのであるというふうに考えます。
  157. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私は具体的な問題に少し入りたい。それでは労働省にお尋ねしますけれども労働省労働組合を作る、これはもう憲法で認められた団結権、交渉権、行動権というものはりっぱにある。労働組合を作るということについては、私はいまさらここで否定とか何とかという問題じゃない、論ずる問題じゃないと思う。ところが、今言った中本商店でも、栗林でも、労働組合を作ろうとした者を首を切るということは、これはどうなんですか。
  158. 中西實

    政府委員中西實君) 作ることは、これはもう憲法上の保障もあり、また、自由民主主義の労使自治の制度を尊重する建前からも当然のことでありまして、ただ問題は、これが正当な、正常なやはり組合活動として考えられるかどうかというときに問題になると思うのであります。具体的に、中本、栗林等の組合結成活動というものが果して正当な行為に属するかどうか。私は組合を結成したいという者は、一応これは経営人としても介入すべきじゃないので、従ってそれ自体について私は経営者側の介入なり、あるいはそれの切りくずしということがあれば、これは不当労働行為ということになろうと思います。問題はその行為自体が正常のものかどうかということにかかってくるのじゃないかと思います。
  159. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 だから私は具体的な例をあげて申し上げておるのですけれども、栗林、中本の組合の今の争議の現状は、労働省はよく調べておられることだと思いますが、組合を作ろうとした者、その幹部が首を切られている。非常に安い賃金で五千円ですか、中本は五千何百円という低い平均賃金で労働者を使って膨大な利益をあけている。このような格好で労使関係があるということは、私の調べたところではそうなんです。そういう場合には、私は労働行政当局としてはやはり正常な関係にするように、労働組合を作ろうとして首を切られた者には、使用者に対する教育というような問題はいつも言われている問題だけれども、そういうことが行われているのかどうか、それを聞きたい。
  160. 中西實

    政府委員中西實君) 労使間の関係、これは自主的に決定するのが原則であり、そうして不当労働行為というものは第三者機関である労働委員会において救済される道もあるわけでありまして、ここにわれわれとして干渉することはできもしませず、やることは差し控えた方がいいというふうに考えております。  この両争議を見ましても、首切りの問題は撤回をしているのですね。その後のいわゆる経済的な要求の話し合いにおいて、あるいは組合が二つに分かれたりいたしまして、非常に感情的になっており、合理的な解決というよりは、非常に感情が先へ走って、双方非常に尖鋭化しているというふうに、私は現場を見ておりませず、報告だけでしか存じませんけれども、大体従来の実例を見聞きしているのから想像いたしまして、非常に感情の方が強くなっておる、そのために合理的な解決という本来の筋が見失われて、非常にこじれてきておるというふうに見ております。
  161. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 私は労使間における争議というものは、これは争議自体を解決すれば問題を解決することになるのですから、これはむろん労働委員会を鞭撻してもらうとか、労働行政立場から、アンバランスならバランスするように使用者の労働教育をしてもらうという私はたくさんの仕事が残されていると思うのです。ところが、たとえば具体的にそこまでいく間、それから動いている間に、不当労働行為は、第三者によって不当労働行為を処理する機関がある。これは法律できめられているのだから、それは機関があるでしょう。あるでしょうけれども、しかし、第二組合と第一組合とがあって、なかなか感情が云々と言われますけれども、具体的にはその使用者の組合に対する支配介入というような形が既成事実として力関係でどんどんいってしまって、不当労働行為が第三者で審議されるようなときには、今の何といいますか、封建的な職場環境、労使環境によって、またまた元の木阿弥になってしまうというのが、こういう争議には多い。これは私が申し上げるまでもなしに、労働省はよく御存じのはずだと私は思うのです。だから、そういうところには、日々の労働委員会とか行政上の問題とかいう適切な私は教育の問題、使用者に対する教育の問題というものが私は必要でないか。そういう問題は、この前この委員会でも千葉の問題やいろいろの問題が出てきましたけれども、ちょうど似たようなスケールの問題がたくさん出てきている。そういう工合にして、一般的には使用者に対する問題はほうってけぼり、監督行政はほうってけぼりという状態に置いて、そうして労働運動にはこういう格好の次官通牒が出てくる。これで片手落ちでないかどうかということが重要な問題に私はなってきている。しかし、この労働次官通牒の問題については、私は労働大臣や皆さんのおいでのところで論議したいと思いますけれども、さしあたって私は今の具体的な中本商店、栗林の争議については、争議を解決するという適切な手を、私はやはり労働委員会を通じてとか、または、労働行政立場から、もっと積極的にやっていただきたい。労働省としては、この争議解決のためにどういう考えを持っておられるか伺いたい。
  162. 中西實

    政府委員中西實君) 労働省としましては、できるだけ無用な損害なしに争議を解決すべく、これは現地々々で、片一方は東京、栗林の方は東京でございまし、中本は兵庫でございます。それの解決機関といたしまして、それぞれの労働委員会がこれの解決のために当っておる。われわれとしましても、常に両方を報告さしておりますので、それぞれ県当局におきましても、この解決には努力しておると思います。それで先ほどおっしゃいましたように、解雇、組合を結成したからといってすぐ解雇する、これはまあやったところがあるようでございますが、これは撤回しております。問題は労使ともに非常にせっかちといいますか、そのためにその後非常に暴力行為的なものが起きておる。そのためにまた、新たな解雇等が起って問題が非常にむずかしくなってきておる、こういう事態でございますので、従って、特に中小におきましては、そう一ぺんに従来の状況というものをよくしようとしても、それはなかなか無理でもあり、徐々にやはり経営陣の頭も変っていくようにし、また、従業員の方も徐々に成果を得ていくということでないと……どうも見ておりますと、一気に勝負をつけようというようなことで、非常にその間実力行使的なものがある。従って、ここいらはやはり労使とも気をつけなければなりませんけれども、特に労働組合としましては、暴力ざたによって物事を進めようという考え方は、これは根本的にはわれわれとしましては排除しませんと、やはり自由民主主義のルールによる解決というのと相反することになります。
  163. 藤田藤太郎

    藤田藤太郎君 今暴力ざただという発言があったのだけれども、組合がいかにも暴力をやったように聞えるのでありますが、その実態というものを十分つかんでおられないと私は思うのです。この争議は、神戸の中本商店は、組合の組織者が首を切られてそのままになっておる。第二組合とか、暴力団をつかまえて、むしろ暴力というものを向うの方からしかけてきておる、こういう状態である栗林にいたしましても、組合が暴力をふるったというような格好のものではない。むしろ会社が動員して、第二組合、その他から暴力をしかけてきた、こういう形のものが現実なんです。ここで話を聞いていると、いかにも組合が暴力をふるったように聞える。私はそういうことは一つ慎んでもらいたい。もっとよく実態をつかんでやってもらいたい。そういうつかみ方だから、今のような一般論的なお話が出ると思う。だから私はまあまだ質問がほかにありますけれども山本さんに譲りますけれども、私はこの問題の解決のために、争議をどうして解決するかという問題、この解決のためにはもっともっと努力をしてもらいたい、これだけお願いして私は質問を終ります。
  164. 山本經勝

    山本經勝君 今の質問と関連をもっているわけですが、中西局長の方のお話を伺うと、中小企業に関しては争議がとかくせっかちである、あるいは労使関係が非常に未熟であるので深刻な争議が起る、こういうようなお話のように承わった。ところが今、具体的な事例をあげられましたから、私はあわせてお伺いをしたいのですが、この一つの事例をあげれば、東京の足立区にあります栗林写真工業の争議、ここでは二千円の賃金ベース・アップの要求が第一点。それから二名の解雇と、四名の配置転換を取り消せという要求だった。そこでこれは一月の中旬から紛争になりまして、双方交渉がまとまらずに二月初めに争議になった。そこで第一組合、第二組合と二つの組合があるのはこれは事実である。そうして第一組合はやむにやまれず二階の方の工場の一部にすわり込みをやった、こういう事件です。ところがこのときに、約三個中隊にのぼる警察官が動員されて、そうしてこれは二月の四日以来毎日のごとく警察官が示威運動をやっている。こういうような形でもって長い間紛争をしたのですが、たまたまこの二階におります第一組合約百五十名の組合員の立ちのきを警察官の力でもって、実力行使でもって強行するというのが二月十八日発表された。そこで組合の代表並びに地元の有識者等が協力してそれはちょっと行き過ぎじゃないかということで、警視庁の警備部長並びに地元の西新井署長と会見して、これは一応本来からいって労働委員会があっせんをして問題を処理するのが至当であるということで、労働委員会のあっせんが何らかの結論を得るまで一応待とう、待てということで、これは了解ができて、十九日の午後の四時からですか、東京労働委員会においてあっせんをすることになった。それまでの経過を静観せよということで、一応事態が進行した問題がある。ところが、これは労働者が直接関与される外局である労働委員会のあっせんによって、労働紛争を処理するところの一つのケースであると思う。ところが、十九日の午前十時半ごろ、西新井警察署の某警備係長が、組合が二階で大会を開いている席上に入り込んで、本日は労働委員会のあっせんがあるので、一応強制立ちのきは見送ったが、明日の午前十時五十分、二十日の十時五十分を期して立ちのきを強制するものである、こういうことが宣言された。私はこういう事態を聞いたときに、なるほどその日の午後四時から労働委員会はあっせんをする。本来から言って、労使双方が自主的に解決をするのは、局長の言われる通り当然の姿である。ところが解決がつかないりだから、第三者によって解決をつけるということが、この労働委員会が設定された法の立法の趣旨であると思う。ところが、労働委員会は、労使双方を招いて、東京労働委員会においてあっせんをする。ところが次の日、二十日の午前十時五十分には、第一組合は警察の実力でもって二階から追い出されるという明白な事実がある。そうすれば、会社側は、自分たちの主張しているところの二千円のベース・アップを押えつける一方、二名の首切りと、四名の配置転換を行うという、かねての既定方針を強行することができる。これは二十日の午前十時五十分には、そういう警察官の実力行使によって一応問題の落着を見られるわけです。労使の紛争がおさまったわけではありませんが、もはや力によって屈服しなければならぬ状態に追いやられる。第一組合の立場、それから会社の立場をよく考えてみますと……。ところが、労働委員会であっせんするに当って、会社側の方では、この組合側の要求に対しては決して耳をかさない。一顧の価値もないものとして拒否してしまう。これは当然だと思うのです。労働委員会という労働関係調整する法の定める機関が、正式の手続を経てやっているけれども、使用者側は初めから相合の要求を認めようとしておらぬ。それから、そのやさきへもってきて、一方では警察官の実力行使をやるんだという、もう時を限ってしまっている。会社はそれまで待っている。それから勝つんだ、こういう状態で、対等の労使の交渉、あっせんというものは成り立たないと思う。そこで労政局長に伺いたいが、こういう場合をあらかじめ予想して、かつて労働委員会の全国連絡協議会でもって、こういう労働紛争によって、警察あるいは検察庁、あるいは裁判所等が関連した事件等の、同じ一つ事件について、労働委員会と、裁判所と、検察庁と警察、こういうものが立ち混って動くことがあるが、そういう場合に、本来労使間の紛争であるから、その取扱いには慎重を要するということで、この四者乃至三者の連絡懇談会というものを、各労政局長の名で通達か、指示をなさったことがあると記憶しているが、こういうような政府機関同士の内部調整が、まず一つにははっきりしておらないということ、そういう形であっては、いわゆるあっせんは正常な形で軌道に乗らないのです。これはよく聞いていただきたい。時を切って時限爆弾がしかけてあって、爆弾が爆発すればみんなパアになる。調整しようとしても、できない。だから一方、おれが黙ってがんばっておれば、最後に勝つんだという線が引かれて、こういう形では私は労働委員会の本来的な機能が発揮できないのではないかということを非常に心配している。ですからこの点について労政局長の方から御説明をいただきたい。
  165. 中西實

    政府委員中西實君) 警察が争議に介入すべきじゃないこと、これはもうかねてからの原則でございます。ただちょっと私ども前提が違いますのは、ことに中小企業の最近の争議を見ておりますと、必ずといっていいくらいに職場占拠、そうして結局立ちのかない、これは実は違法でございます。そうして占拠のままいろいろと経営陣の入り込むのを全く排除するということ、そういう状態では平和的に話し合いができないということからトラブルが起る。違法な状況を排除するというのを自力でやりますれば、これはお互いに暴力団同士のけんかみたいになるのでありますから、従ってその場合に結局国家の、公けの許された力によって排除するということになるわけであります。この職場占拠、工場占拠ということからいろいろと問題が起っておるようでございます。第三者のあっせん機関あるいは調停機関にかかっております場合、こういった違法な状況のままでやるというのはやはり許されないのじゃなかろうか。ある業務組合の運動方針を見ますというと、もう争議の場合、ことにロックアウトでもあった場合に必ず占拠すべしというような方針で指導しておるようであります。これでは中小企業の争議はすべて非常に深刻な暴力的なものになり、私は非常に遺憾なことだと思っておるのでございます。ただそういった場合、それなら経営陣が労働委員会の調停をはねつけて、そうして不法な行為は警察で排除してくれる。そうするとじっとしていれば組合の方は負けてしまうから、そこで経営陣としてはのほほんとして常に拒否の態度でがんばるという事態が起りはせぬかということでございます。そこは公正な第三者が判定して出したものに対して経営陣がけりますれば、そこにやはりおのずから社会的な非難、また、その組合の行動にある程度緊急避難というと、あるいは当らぬかもしれませんが、そういった許される場面も出てくるのではなかろうか。それから一時は負けたような格好になっても、若干長い目でそのことを反復していきますれば、必ずや、やはりいい状態になってくる。そこをせっかちに暴力行為によって一気に解決しようということだと非常にそこにトラブルが起り、いやなことでありますけれども、やはり実力排除ということで警察官の出動ということもあり得るのではないかというふうに考えております。
  166. 山本經勝

    山本經勝君 ただいまの局長の御答弁についていろいろ問題があるので、特にこういうことを申すのですが、私の伺っているのは、労働委員会という公的な機関があっせんしておるという事実を、これは今の例については事実西新井警察署長も認識し、しかも一方、警視庁の刑事部長もこれはよく知っている。そうして最後には実はあっせんして処理をしたというような事態なんです。ところが、今の労働省当局の意見として考えてみるというと、これは暴力であると考える——なるほど不法占拠とかいうようなことを言っている。ところが、本来あるべき姿としては、やはり占拠を排除する警察官の実力行使というものに法的な根拠が必要なんです。それができていなかったというのは、かりに不法に占拠されたものであるならば会社が裁判所に対して立ちのきなり、あるいは立ち入り禁止なりのしかるべき処分をして、それを決定して執行した、しかし執行したにもかかわらず、なお立ちのかないというときに初めて警察官憲の実力行使というものは一応法的根拠に立っておると思う。ところがそうでなくて、不法占拠なのだというけれども、実は警察署長自身がこの争議によっていきなりすわり込んだ、この実態を認めている。ここが私は大事なんだと思う。これはもともと不法に占拠したというのは一体刑事的に言われるのは、よその人が入り込んできて、自分の職場でもないところに入り込んできて不法に占拠したならば、これは明らかに暴力であり、不法占拠であるでしょう。そのことは私も認める。ところがそうじゃない。その工場で働いておった労働者が交渉が軌道に乗らない、要求が通らない、その不満からやむにやまれずいきなり工場の入口にすわり込んだという事態、これが直ちに暴力である、あるいはいわゆる不法な占拠である、こういうことになるのかどうか。私はここに大きな疑問があると思う。警察自身がそのことを認めた。ですからそこに至って私が考えるのは、この労働省というお役所が労働者福祉を守り、職場を守る、あるいは労使関係調整して平和な職場を確立したいということに端を発して、しかもこの行政を担当しているというならばその機能が本来的に行われるような措置が講ぜられていかなければならない。そのことが私は労働委員会の全国連絡協議会あるいは、局長の通達でもって出された趣旨であろうと思う。今のお話は全く労働者の一方的ないわゆる暴力行為があるから排除する。その暴力行為があるその原因となるものに対する根源を掘り下げた検討なり調査というものが、労働省の手によってなされなければ、少くとも労働者福祉を守り、労働者の地位の向上をはかる、あるいは生活の安定をはかるという労働省の本来の任務と反するのではないかということを申し上げておる。この点について、私は本来大臣に伺うべきところですけれどもおいでにならぬから局長から一応伺っておきたい。
  167. 中西實

    政府委員中西實君) 労使対等の立場で話し合いをする、この話し合いによって事を解決していく、で、事が解決しませんければ争議もやむを得ませんし、それからどうしても自力でいかない場合には労働委員会というような第三者機関によって解決する。その場合に、不当な行為の存在というものは必要ではないわけであります。平和裡に話し合いをでき得るわけであります。従って、不当な状況がなければその話し合いができないというものではなかろうと思うのでありまして、なお今の占拠の問題、職場占拠の問題と、それから仮処分との問題、これはちょっと法律問題で法規課長からお答え申し上げます。
  168. 石黒拓爾

    説明員(石黒拓爾君) 職場占拠につきましての法律問題につきまして御説明申し上げます。山本委員も御承知でおっしゃっておいでだろうと思うのでありまして、私も聞き誤まりかと存じますが、権限なくして他人の管理する建造物に入り、退去の要求を受けてこれを退去しない場合には、つまりその不退去という事実については、これは違法な状態でございまして、違法な状態があればこそ裁判所に持っていけば、立ちのき、仮処分が出るわけでございます。違法状態は仮処分がなくてもすでに存在していることは、これは御承知と存じますけれども、法律としては当然のことでございます。そういう違法な状態がありまする場合に、警察官が制止等の措置を取り得ることは警察法その他で規定がございます。
  169. 山本經勝

    山本經勝君 それで、全く今のお話は、法律解釈からいったらその通りだと思うのでございまして、ところが、先ほど来申し上げるように、問題は労使間の紛争によることですよ。つまり今の法規課長お話だと、権限なくしてと言われる。権限なくして不法占拠した、こういうことなんです。権限なくして不法に占拠したならば、やはり一応その理屈もあると思う。ところがそうではない。権限があるかないかは別問題として、その工場で働いている労働者労働組合を作って、賃金のベース・アップ並びに首切り、配置転換反対の要求を掲げて闘争をやっているその交渉が軌道に乗らないので、やむにやまれずその工場にすわり込んだ。これが一般的な法解釈の上に当てはめようというところに労働省の持っている性格があると思う。これは労働問題を解決するというならば、いずれもこの根本問題を解決しなければ、労使間の対等な立場ということを言っておられますが、その対等の立場において労使間が話し合うことが順調にできるならばこういう事態が発生しておりませんよ。そこに問題がある。これをたな上げにしておいて、法律の一般的な通り一ぺんの解釈をもって臨もうというところにこういう通牒も出さなければならなくなってくるのであります。こういうことが率直に言えると思う。ただ私は、法規課長に法規解釈を願っておるのじぐないのであって、問題は労働委員会という公的な機関があっせんをする際に、そばからいろいろな力が加わったら正常なあっせんができぬのです。これは東京都労委のときに行って話をした。公益委員の何がし、労使双方のあっせん委員とも話し合った。こういうふうな時限爆弾的な経過の中であっせんしてもおそらく会社はのらぬだろうということを労働委員会で述べている。それで労働委員会精神がどうして発揮できますか。少くとも労使間の意見調整する機関であれば、行政機関、たとえば、警察なりあるいは検察庁なり、そういうものとの横の連携を保って事態の収拾をやる。親切な労働省設置法規定している根本的な考え方が私は生かされていかなければ、労使関係の対等な状態というものは生まれてこないと思う。私は断言してもいいと思うのですよ。私も長い間労働関係の、特に労働委員をやった関係で、調整についてはある程度自信を持っておる。しかし、今のような事態になるとこれは絶対にだめです。それでは労使間の問題は労使間の相互の間での話し合いで解決がつくのじゃなくて、やむにやまれず法で作られた国家の機関である労働委員会調整に待たなければならぬ事態になる。その調整機関さえも頑迷固陋な資本家が断固として拒否しておる、あるいはストライキをやり、工場閉鎖をやる、こういう手でやむにやまれず労働者はその工場に仕事を守り、生活を守るためにすわり込みとか何らかの措置をとらなければ対等な交渉にならないのですよ。そういうときの調整が全くこの労働委員会任務であり、あるいは労働省労働行政の中で占める調整任務であると思う。こういう点では私は非常に片手落ちな実態が現われている。このことははっきりしてきているのだ。これは労政局長の方から御答弁をいただきたいのですが、こういう実態がある。しかも今の関係行政庁との横の連携を保って、労使関係を正常な形に引き戻すという役割を労働省は持っておるのか持っておらぬのか、その点をはっきりしてもらいたい。
  170. 中西實

    政府委員中西實君) ちょっとやはり考えの前提が少し山本さんと違うのでございますが、われわれは争議行為の本質は、そういう労働条件では働けませんと言って集団的に労務提供を拒否するところにあるのであります。それよりプラス職場を占拠するということは、これは争議行為として行き過ぎである。これは労働者に争議権があると同時に、やはり経営者には経営を存続させるというような権利もあるわけであります。しかしながら、もしもその場合に、経営陣が別の者を持ってきて作業を続けるとなればいよいよこじれましょう。従って、そういうことはやはりやるべきじゃないと思います。ある国の立法では、争議中は操業してはいけないというのを規定しているところもたしかあったように思っております。しかしながら、占拠してしまってそして管理者側も入れないというようなこと、これは争議行為の本質からいってきわめて行き過ぎでございます。それで、従って私は争議に警察権が介入するということはいけないし、何らかの国家権力が加わることによって公正な第三者の判断というものが阻害されてしまってはならない。同時に、違法な状態があって、そのために第三者の判断にゆがみが生じるということもこれはやはり許されないと思うのであります。そこで、双方ほんとうの民主主義のルールによりまして話し合う、そして違法な状況じゃなくして、第三者の判定に待つというのが筋である。これはあらゆる場合にそういうことが守られるとは思いませんけれども、筋としてはそういうふうに考えております。
  171. 大矢正

    大矢正君 どうも労政局長の答弁というのはウナギかナマズのようにぬるぬると手から抜けていってしまう。ほんとうのびりっとからだの絞まるような答弁をしてもらいたいと思うが、そういう前提局長にお尋ねしますが、今の法律論の、いわゆる法律の解釈という問題もあるでしょうけれども、これは法律の解釈というのは労働省がやるのではなくて、これはあなた方はこの通牒を見ると、下級裁判所の意見とか、労働委員会意見とか言っているけれども、そういうところに法律の解釈はまかしておいてけっこうだと思うのです。労働省というのは、具体的にどうやったら労使の間が安定をするかということに重点を置けばいいので、法律の解釈がこうだから職場を占拠すれば何条に違反するとかどうとか、そんなことに私は重点を置いてもらいたくない。しかし、これは私の言うことでありますから、この通り聞いていただけるかどうか別問題だが、そこで、かりに一つの企業体があって、その企業体に働いている労働者が非常に封建的な搾取にあって、今の金に換算すればわずか月に二千円か三千円の給料しかもらっていないという企業体がかりにあったとする。ここに働いている労働者は二千円や三千円ではとうてい食べることもできないから、何か賃上げをしなければならぬというので労働組合を作って、そうしてそういう過程を通じて経営者との間に正当な団体交渉をもって、みずからの生活的な基盤を築かなければいかぬ、こういう考え方になるわけで、労働組合を作り、そして直ちに経営者に通告をしてストライキに入ったと仮定いたします。これはストライキに入ったとしても、今言っているように、わずかに月二千円か三千円しか長い間もらっておらぬのでありますから、たくわえなどないはずでありまして、当然二日か三日ストライキをやればみずからに響いてくる。こういう場合の労働者は一体どうなるかと私は思うのでありますが、かりにそういう労働者は一週間どうにか飯をおかゆにしてストライキをやったといたします。しかし、一週間以上はどうしても持ちこたえることができない。それじゃ職場に戻って飯を食うために働かなければならぬ、こういう事態が出て参りますね。その場合に、方法として職場に自分が帰って働くのに、経営者に「われわれは参りましたから一つまた働かして下さい」という参り方と、それから帰る場合に、これはもうとてもわれわれはこれでは経営者に圧力を加えることができないから、その働く職場に帰ってみずからの力でいわゆる生産を開始して、そうして自分の生活を守っていくという、こういう二つの立場が出て参ると思うのでありますが、第一に申し上げたように「もう参りましたから、従って私ども一つまた使って下さい」という申し入れを経営者に行なって帰っていけば、これはまあ労政局長の言うように、不法占拠とか何とかいう問題が起らぬし、法にも違反をしないし、経営者も喜ぶからいいでありましょうけれども、しかし、それをやったのでは、働いている労働者はまたやはり二千円か三千円で働かなければならぬ、こういう現象になりましょう。だからそういう場合に、私は特にお尋ねしたいのだが、そういうような状態の中に置かれても、なおかつみずからが職場に帰った場合には、その法律的にこういう立場があるから、だから現場に帰って一部の事業場を占拠するという言葉が当てはまらぬかどうか知りませんけれども、そこを自分で生産を開始するというようなことは、これはやはりそういう場合でも絶対いかぬというように労働省みずからが私は考えておるかどうかという点なのであります。これは法律の第何条にはどういうことが書いてあるから、従ってそういう解釈からいくとどういうことになるということをお尋ねするより先に、労働省として労働者立場を守らなければならないというあり方労働省立場においてそういうような状態におった場合に、その労働者をどうしたらいいとお思いになるか、その点を私はまずお伺いしたい。その答弁によっては再びそれに関連してお尋ねしたいと思う。
  172. 中西實

    政府委員中西實君) 労働条件は、まあその企業の自主性、あるいはまた、この労使の契約によって、あるいはまた、労働協約等によってきまっていくわけでありますが、それに不満があればストライキももちろん認められるわけでありますが、そのことと、しかしまあ非常に賃金が低くて、このストライキをしたために生活に因る、そこで帰っていって職場を占拠して勝手にやるのかどうか知りませんが、それはやはり許されないのじゃないか、やはり秩序というものが、これは労使の間においても守らるべきものでありまして、それだからといって、勝手にまあ生産管理になりますか、そういうことはこれはやるべきではない、そういうことがいいということになりますれば、これはもう法治国ではなくなるというふうに私は考えます。
  173. 大矢正

    大矢正君 そうすると、あなたの言われるのは、それじゃどうやって救済するのです、その労働者は二千円か三千円しかもらってないのでほんとうに食えない、しかも今月、先月、二千円もらったのではなくして、長年そういう封建的な搾取の中にあえいできている労働者が二千円か三千円しかもらってない、こういうのを一体どうやって救済される、たとえば、今の段階で言えば、中労委なんかでもひどく争議が高まってはげしくなれば、積極的にあっせんとか何とかやるけれども、そうでない限りはなかなか依頼をしても、経営者が受けないからだめだとか何とかいう形でもって、非常に時間的にはのろい、その間黙って労働者は一体いなければいかぬ、こうなってくればもうほんとうにいつまでたっても二千円、三千円しかもらってない労働者は、みずからの生活を上げることができないという結果になるのじゃないですか。そしてまた、あなたの言われておるように、そういう一面的な解釈からいけば、永久に労働者は救えない、あくまでもこの労働力の売買は、労使の間においてこれは順当な経路を経て、そして法律の存するところ、それに従って行われるべきものだと、こういう一貫した態度をいずれの場合にもくずさないと言うのであるから、そうであるとすれば、あなたの言われていることは、あまりにひどいのではないかと思う、人を殺したって正当防衛という場合もあるだろうし、それからまた、殺さなければならなかった動機によっては、その人が無罪になる場合もあるでしょう、ましてやそういう問題について、画一的にあなたはそれを規制して、どんな場合でもこれは全部、これは法律があるからこれはいけないのだという、こういう解釈でやっていこうとする考え方が私には理解できないし、しかもここに書かれているやり方が、あなたの一貫した方針を貫ぬいておるのだと思う。あなたの言われるような論法でいけば、いくらたっても労働者生活を上げることができないということは、全部ではないですよ、ほんとうに悲惨な零細企業、顕微鏡で見なければならぬような小さな企業におる労働者は永久に上っていかないという結果になるのじゃありませんか。自分が組合を作ってやろうとか、また、職場を押える、押えるとこれはもう法律違反だからこれは警察がくる、どんな場合でも警察がきて、職場に入った者はぱくるなり、あるいはまた、追っ払うなりするのが正しいのだという解釈を一貫してとった場合には、絶対にあなたはもう労働者生活保護することができない、だからそういうあなたの一貫した趣旨を貫ぬいていけば、労働省でなくて経営省になるのだと私は言っておるのだ、どうですか。
  174. 中西實

    政府委員中西實君) 自由民主社会におきましては、労使関係というものは、これは話し合いできまっていく、個々人の話し合いというのもありましょうが、労働組合、経営者という話し合いもございましょう、それできまっていくわけなんであります。従って、それで生活ができないとかという問題になりますると、これは労使関係の問題ではないので、これは社会全体の問題になってくるわけであります。それだからといって、経営陣に暴力をもって対するということは許されない。私はこの現在のそういう機構からいたしまして、そのことが当然ではなかろうかと思います。
  175. 千葉信

    委員長千葉信君) ちょつと待って下さい。委員長からお諮り申し上げますが、きょうの案件についての質疑は、次官通牒に関する質疑中心として、そして具体的な中本であるとか、栗林の争議の問題に入って参りました。先ほど山本君の質疑の中で問題になりました点は、その具体的な争議の関連の中で、二月十九日における栗林の争議について、非常に重要な発言がございましたが、その発言というのは、十九日のあのすわり込みの状態は、西新井署長の見解をもってすれば、その現場における状態、発生の経緯等から見て、これは不法占拠とは認めないという発言があった。ところが、その労働省側の労働法規課長答弁からいたしますと、一般的なその労働法規の、もしくはまた、民法等の解釈から出発して簡単に一般論としてこれは不法占拠だ、こういう御答弁がありました。こうなりますと、まあその署長の見解と労働省の見解との食い違いは、委員長の見方からすればちょうど逆になっている。署長の見解と労働省の見解が違っていれば、その反対になっていれば、私は一応了承できると思います。これはちょうど完全に反対になっている。しかも法律の解釈において、一般論だけを適用することのできない実際問題を論議しているのですから、従って、そういう労働省の一般論から出発した法律の解釈でこの問題を解決したり、解釈をすることができない。従って、委員長の今承わっておりました見解としては、どうも争議の状態等に対して、労働省側の調査が不十分な点がありはしないか。こういう点を、これ以上このままで審議を進めてもむだですから、もっと労働省側では責任をもって、少くともその警察官なんかの見解と食い違って、労働者側にとって過酷な、つらい見解をとるような、そういうことのないように、もう少し事実を調査してもらい、日にちを残して、次の機会にこの問題を続行したいと存じますが、御異議がなければさよう取り計らいたいと思います。
  176. 山本經勝

    山本經勝君 異議はないのですが、つけ加えてお願いしておきたいのは、争議の調整だけの問題ではない。実は基準法違反の問題が指摘されている。たとえば、栗林の場合ですが、昨年の四、五月ごろと聞いたのですが、あそこの工場に五百人ばかりの従業員がおって便所の施設さえもなかった。ところが、それを西新井の基準監督署が調査をした結果、すみやかに設置すべしという勧告を与えた。ところが、今日なおできておらないという点、あるいはその他基準法違反の問題が相当ある。こういうふうに、労働省が当然監督し、指導すべき分野がたな上げになっている。全くやっていない。やっていなくて、今のような局長の見解あるいは法規課長の見解等が述べられるに至っては、全く私は言語道断だと思う。だから基準関係の問題を含めて詳細な実態調査を要求します。  それから、さらにこれは栗林だけではない、東京亜鉛の争議並びに日本パルプの争議、それから神戸の中本商店の争議、この四件については、通牒と重大な関連をもっていると考える。従ってこの実態というものは、きわめて明確にしてもらうと同時に、いま一つ次回には、西新井の警察署長あるいは会社側の代表、さらに警視庁の警備課長、もしくは部長、大体両方来てもらった方がいいと思うのですが、こうした人々を参考人に呼んでいただきたい。
  177. 千葉信

    委員長千葉信君) さよう取り計らうことにいたします。  本日はこれをもって散会いたします。    午後四時三十九分散会