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1957-02-19 第26回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年二月十九日(火曜日)     午前十時二十六分開議  出席委員    委員長 山崎  巖君    理事 江崎 真澄君 理事 川崎 秀二君    理事 河野 金昇君 理事 小坂善太郎君    理事 重政 誠之君 理事 川俣 清音君    理事 柳田 秀一君       伊藤 郷一君    今井  耕君       植木庚子郎君    宇都宮徳馬君       小川 半次君    小泉 純也君       纐纈 彌三君    周東 英雄君       須磨彌吉郎君    中曽根康弘君       楢橋  渡君    野田 卯一君       福田 赳夫君    船田  中君       古井 喜實君    松本 瀧藏君       三浦 一雄君    山本 勝市君       井手 以誠君    井堀 繁雄君       今澄  勇君    河野  密君       小平  忠君    辻原 弘市君       西村 榮一君    古屋 貞雄君       矢尾喜三郎君  出席国務大臣         労 働 大 臣 松浦周太郎君  出席政府委員         自治政務次官  加藤 精三君         総理府事務官         (自治庁財政部         長)      小林與三次君         大蔵事務官         (主計局長)  森永貞一郎君         労働政務次官  伊能 芳雄君  出席公述人         経済団体連合会         副会長     植村甲午郎君         経済評論家   木村禧八郎君         日本労働組合総         評議会事務局長 岩井  章君         一ツ橋大学学長 井藤 半弥君  委員外出席者         専  門  員 岡林 清英君     ————————————— 本日の会議に付した案件  昭和三十二年度予算について     —————————————
  2. 山崎巖

    山崎委員長 これより会議を開きます。  昨日に引き続きまして昭和三十二年度予算につきまして公聴会を続行いたします。  御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は御多忙のところ貴重な御時間をさいて御出席をいただきましたことに対しまして、委員長といたしまして厚く御礼を申し上げます。申すまでもなく、本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十二年度予算につきまして、広く各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚のない御意見を承わることができますれば、本委員会の今後の審査に多大の参考となるものと存ずる次第であります。  議事は、植村さん、木村さんの順序で御一名ずつ順次御意見開陳及びその質疑を済ませていくことといたしまして、公述人各位の御意見を述べられる時間は、議事都合上約二十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお、念のため申し上げておきますと、衆議院規則の定むるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得られることとなっております。また、発言の内容は、意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことに相なっております。なお、委員公述人質疑することができますが、公述人委員に対して質疑をすることができませんから、さよう御了承をお願いいたします。  それでは、まず経済団体連合会会長植村甲午郎君より御意見開陳をお願いいたします。
  3. 植村甲午郎

    植村公述人 本年の四月から来年の三月末日までの国際収支、そのもとになります貿易関係についての見通しについて陳述しろ、こういうお話でありますので、その問題について私の考えておりますところを率直に申し上げたいと思います。  貿易見通しというようなことは、非常にむずかしい問題でございますので、大体いつでも、ことに日本のような国といたしますと、国際経済景気がどうであるか、この好況、不況でもって非常に左右されることは、昨年の見通しと結果からごらんになってもわかると思います。そこで、初めにまずその問題をごく概略触れてみたいと思います。  この予算基礎になっております経済計画の大綱、企画庁で編まれたものを見ますと、この第一ページにおいて、国際収支の先行きは必ずしも楽観を許さないという点が書いてあります。しかしながら、同時に、輸出及び特需という項を見ますと、三十二年度においても世界経済は引き続き高水準の繁栄が予想されるということになっております。この点がどういう見通しになりますか、一番問題だと思います。  それで、世界経済景気を左右いたしますアメリカの最近の動向はどうかとまず第一に当ってみたいと思いますが、御承知のように米国経済が記録的な高水準を持続しまして昨年を終った。ところが、最近になりましてアメリカ経済情勢というものは確かにある微妙な段階にさしかかっているように思います。従って、一九五七年の景気見通しについては、引き続き今までのような上昇を期待するという見解と、それから、どうもそうでない、少くともことしの半ばごろ前後からは何かの調整をしなければならぬようになってくるんじゃないかという、この二つの見解が入りまじって、まだほんとうにきまってないというのが現状であろうと思います。それらの国民総生産がどうなるかということの構成の諸要因について現在言われているところは、一つ設備投資でございますが、昨年は三百五十億ドル、一昨年に比べまして二五%も伸びたのでありますが、ことしはこれが十億ないし二十億ドル程度増加ではないか、その増加分価格上昇によるものが大部分であるから、実質的にはほとんど増加しないんじゃないか、これが一つであります。それから、消費支出は、これも昨年の伸びは五%くらいであったんだけれども、まあ三・五、あるいは四・五というような少し下った伸びではないか。建築につきましても、住宅着工件数が昨年は百十一万件というものが計上されましたが、ことしは百万がことによると割れやしないかということが言われ、在庫につきましても、過去の二年間は四十億ドルの割合で増加したけれども、本年は特に後半にかけて増加率が低下するんじゃないか、また価格賃金利潤というような関係につきましても、卸売物価が昨年は四・四%、小売物価は三%の上昇を見たのでありますが、ことしもこの点は上昇を考えられる、同時に賃金上昇も相当避けられないと思われるので、その上昇生産性の向上を上回って、その結果基準の利潤率が少し低下しやしないか、どうもこのごろ企業利潤率が低下しているということが言われるのであります。これらは、いわば景気伸びないであろう、スロー・ダウンするであろうという要因になりますが、それに対して、今度は支持する方の要因としては何としても政府支出でありまして、大体予算規模といたしますと、連邦予算においてもまた各州の予算においても、それぞれ約三十億ドルというものが増加されるのではないか、こう言われているのであります。それで、国民生産は、大体昨年は四千百十八億ドル、これが四千二百五十億ドルないし三百五十億ドルという線へ上るのではないか、これも昨年は五・四%増したのでありますが、これが三・三あるいは五%弱の増加になってきはしないか、しかも物価が若干増加するので、実質の増はさらに少くなる、こういうことになっております。同時に、一方金融関係といたしますと、若干のインフレ圧力というものが増して参りましたことに対しまして、連邦準備銀行は積極的な金融引き締め政策で立ち向っていることは御承知通りであります。従って、現在においても相当金融は緊迫しておりまして、従って金利上昇しております。これが現在におけるアメリカ経済の相当な問題になっております。それから、同時に、鉄鉱を初めあるいは石炭石油、ニッケル、セメントというような基礎資材部面につきましては、今までの経済の拡大からいたしまして、これまた幾らか品不足のような状況になっておったのであります。これが一つのやや隘路的な——隘路という言葉は強過ぎると思いますが、やや足りないという形になってきた、これが今までの状況でありますが、さらに最近になりまして、鉄鋼関係等の需給についてもややゆるんでいるというようなことも言われるのであります。と申しますのは、日本から買付をしようと思えば案外買えるというふうなことが言われまして、こういう点から見ますると、幾らか景気スロー・ダウンする傾向がすでにきざしているのではないかというようにも思われます。  それから、ヨーロッパでありますが、これも、御承知のように、西独、イギリスという有力な二国が今年に入りましてから相次いで公定歩合引き下げを行なっております。これがアメリカとちょうど違ったわけであります。それはちょうどアメリカから一年先になるのでありますが、ヨーロッパ経済というものが一九五三年から好況に入って参りまして、初めは住宅建築であるとかあるいは消費財部面の活躍でありましたが、基本的にはやはり産業の合理化設備更新というようなものを基盤にしたブームでありまして、これは非常に健全な形で静かなブームを続けて参ったわけであります。ところが、だんだんにその限界に達して参りまして、生産力設備あるいは労働力不足というようなことでだんだんに需要が供給を上まわり、従って物価が高くなるというようなことが懸念され、あるいは国際収支の面で悪化が現われて参ったのであります。そこで、これに対応するために高金利政策に変ってきた。ところが、それが最近になってまた低金利に変った。  イギリスは、一九五四年以来、国内需要増大による輸入増大輸出停滞ということが国際収支に非常な困難を来たしまして、一九五五年の一月以来昨年の二月までに公定歩合引き上げを三回やっておりまして、ついに五分五厘まで引き上げたのであります。そのほかに月賦販売の期間の短縮であるとか、あるいは銀行貸し出しの抑制というような引き締め政策一般にとりました。しかし、これが非常に効を奏してきまして、だんだん工業生産活動水準というものが成長率が鈍りまた新規注文も急減いたしましたし、消費も急減して、そしてブームの形がだんだん違ってきまして、一九五三年のブーム以来初めて企業求人数に対して失業数が上回るというような形になったのであります。輸出も従って昨年はドル輸出が二五%もふえましたのに、輸入は持ち合ったために、貿易収支も三億ポンドというふうなものが好転をいたしたような次第でございます。ところが、御承知スエズの動乱が起きまして、いろいろなせっかくやりかけておりました関係がめちゃめちゃになったわけであります。で、ついにポンドが低落して、切り下げうわさが飛ぶ、また実際ポンドの維持がなかなかできにくい形になったのでありまして、ついに十一月末にはいわゆるイギリス安全線と言われます二十億ドルを割ってしまうというような形になっております。そこで、イギリスとしましては、御承知のように、IMEから十三億ドル、それからアメリカ輸出入銀行から五億ドルの借款を受けましたし、また米国カナダに対する借款の利払いを延ばしてもらっておる、こういうようなことをやりましたので、今のポンド切り下げうわさも消えまして、ポンドの信用も回復した。そこで一息つけることとなりましたが、しかしながら、一方生産の分野では、物資の不足や値上りというようなものがインフレ圧力を生んで参っております。と同時に、石油が御承知のようにとまったものでありますから、企業活動停滞といったような形で、何か変則なデフレ的な傾向すら現われて参った。そこで、イギリス政府としましては、その状況を切り抜けるために今度はやや積極に移っているのではないか、こう思われます。  それから、ドイツも、一昨年以来非常な輸出超過でありまして、これに刺激されましてあらゆる面の経済活動が盛んになったのでありますが、最近に至りまして、投資ブームもようやく頭打ちの形をとって参っております。特に昨年の機械生産高も、一九五五年、前の年に達しなかったということを言われております。それから、この伸びからいきましても、昨年の第一・四半期の工業受注高は前年同期に比べて七%増加したのに対して、八月にはわずかに〇・六%、九月は二・六%というようなことになっておりまして、投資財受注高がかなり減少したことが目立つと言われますが、その結果、毎年見られる秋には景気上昇するということがおそく始まり、またその上昇の力も弱ってきている、こういうことを申しております。受注高伸び悩みは主として国内市場からの受注減にもっぱら原因しておりまして、ところが外国からの受注は依然活発であるようであります。こういうような情勢を反映しまして、一月の十日には公定歩合引き下げが断行されました。ドイツにおきましても、今までを顧みてみますと、一昨年の八月、昨年の三月、同五月というように三回にわたって公定歩合引き上げが行われたのでありますが、これで投資熱というものがおさまりまして、今度は逆に少し減退の傾向が強くなって参りましたので、だんだんに今度引き下げに変ってきたわけであります。これもすでに引き下げが二回目でありまして、昨年の九月には公定歩合を五歩に引き下げましたが、今回また再度これを引き下げるというような形になっております。こういう形でありますので、今度は幾らか景気上昇政策をとって参りましたが、果してこれがいつになって響いて参りまするか、同時に、金利引き下げたということは結局輸出の増強に力を入れるという面もございますから、日本として考えれば相手方の輸出力が強くなったという面も考えられるわけであります。  そんなようなことでございまして、アメリカが今までのような経済の高水準を果して維持できるかどうか、それからヨーロッパ景気というものが果して期待できるかどうかという点について、私どもとしますと、やや引き下った感じを持っていくのがほんとうじゃないかと考えるのであります。  それから、この基礎になっておりまする輸出計画というものを見ますると、これは必ずしも不可能な、あるいは根拠のない計画ではないと思います。この各品目につきまして、また地域別に私ども業界の人の意見も聞いたのでありますが、原案作成に当りましても、やはり政府としましては業界意見を十分聞きまして、その積み上げでこしらえているようでありまして、その意味においては、必ずしも基礎がない、あるいははなはだしく楽観的に見ているというようなことはないと思います。  しかしながら、おもなものについて当ってみまして、たとえば金額の多い綿織物というものがどうなっているか。これは綿織物のごときはあまりふやしておりません。金額にしまして二億六千百万ドルのものを二億六千三百万ドル、つまり〇・八%増というふうな形になっておりまして、これらの点はまずいけるのじゃないか。それから、人絹並びにスフという問題についても、数量的に見まして必ずしも不可能ではないだろう。ただ問題は、スフにつきましては、設備が相当増設されまして、従って、輸出しなければ困る状況も出ましょうから、数量は大丈夫なのですが、同時に今度価格競争がひどくなって、まずいことをやると金額をあげられないというような心配もないではございません。それから、船舶機械類としますと、船舶については、過去の注文あるいは現実の制約というふうなものを根拠にした計画でありますので、この数字は全く確実なものである、ほとんどもうできたものをそのままあげているような確実なものであると思います。それから、自動車等につきましても、これは相当伸びるように出ておりますが、これも相当伸びるであろうということは考えられます。最近に新聞で読みましたところでも、たとえばエジプトにおいて消防自動車を相当数担いすずから買うとかいうような記事が出ておりますが、今までの機械類輸出努力、だんだんに見本注文を受けてこれを向うで使ってもらうというふうなものがだんだんに実を結んできているというようなことは機械類について相当見られるのでありまして、先般も、今のいすず自動車の話を出しましたら、石川島でも、クレーンなんかについてやはりアルゼンチンへ相当量行ったのは、初め見本を送り、そうして使ってもらうと、それだけの価値を認めて買ってくれるようになるということで、またチリーへ三菱のバスが出ましたが、こういうようなものも、やはり一つ行ってちゃんと納まってしまえば、また追っかけて注文がくるというようなことで、だんだんにそういう効果もありますから、相当出るのではないか。ただ、この伸び率が、数字はこまかいから申し上げませんが、相当大きいのであって、果してそこまでいけるかどうか、これは努力を要するというように考えます。それから、たとえば肥料というふうなものも相当伸ばしてございますが、これは政府政策とも関連いたしますので、みんなで出すようにするという形にすれば、これはやれるのではないか、こういうように考えますが、ならして各地域に割当ててみまして、やや、感じを申しますと、ポンド圏については幾らか計上が少し甘いかもしれない、しかし豪州のごときは、これはあるいは予想以上に伸びるかもしれない、こういうような感じがいたします。それから、カナダのごときは、これまた相当伸ばし得るのではないか。ただし、最近また何か日本が約束を守らない点があるとかいうので、何か申し入れがあったとかいうようなことなんでございますが、これは相当伸ばし得る余地がありはしないか。それから、アメリカについては、これは繊維の関係は御承知のようないろいろな経緯を経て自粛して数量がきまったわけでありますが、ほかのものについてもやはり問題を包蔵している。しかし、雑貨等に対する要求は相当積極的でありますので、まあ全体として見れば若干の伸ばしを見ることも不当ではないだろう、こんなふうに考えます。  それから、地域的に申しますと、スエズ問題以来、この購買の申し込みと申しますか、というようなものについては、中近東諸国からは相当参っているようであります。ただ、先方の国際関係にいろいろな不安もありますし、それから多少実際の支払い問題その他で問題も出てきやしないかと思いますが、何といっても感情的にもヨーロッパ品にかわって日本品を買いたいというような意欲もありますので、これらもある程度伸びるのじゃないか。それから、東南アジア地方については、どうも実際の点から言いますと、ヨーロッパものにかわるという点もございますが、同時に、ヨーロッパ輸出していたものが、なかなか思うようにいかない、従って支払いの資金の関係から制約されることで、あまり大きな伸びを期待することはできない。むしろ持合程度じゃないだろうか。それから、中南米等も、これまたある程度伸びていますが、この辺がせいぜいじゃないだろうか。アフリカはあるいはもっと伸ばし得るかもしれません。それから、中共は、これはどの程度に参りますか、聞いてみますると、計上してありまする数量は今まで民間の協定等で一応載ったものの中で実現性の強いと認めるものをまとめてあるようでありまして、それだけの基礎はあるのでありますが、あるいはこの支払い向う都合であるとかいうような関係からも、果してそういくかどうか、これが若干心配になる。まあこういうのが、品目に当り、また地域を見ました概観したところでございます。  それから、今度は輸入の問題でございますが、この計画によりますと三十二億ドルの輸入ということになっておりまして、これが三十二億ドルで済むかどうかということにつきましては、私ども新聞紙上で拝見いたしましても、いろいろな議論があるので、この二十八億ドルの輸出計画して、そうして輸入が三十二億ドルで済むだろうか、こういうのでありますが、これは、ちょっと数字計算してみましても、三十年度と三十一年度を比べてみますると、輸出の方が三億八千六百万ドル増加することに対して、輸入の方は七億四千六百万ドル増加しているわけであります。今度の計画は、輸出を三億二千万ドル増加させることに対して、輸入の増というものが三十一年度実績に比べると二億九千万ドル、そういうふうな形でありますので、三十一年度というものは、なるほど、二十九年度、三十年度にかけて非常に輸入をしぼったわけでありますから、その補充という意味輸入が入ってくるということはあるけれども、どうも数を見ると果して三十二億ドルでおさまるかどうかという点について問題があるわけであります。ところで、この問題になるのは、議論としては、ストックが相当ふえているのだからよろしい、三億ドルあるいは四億ドル近くもストックがふえている、また計算の仕方によっては、いやそこまではふえないけれども、一億ドルくらいはふえているのだから、そう心配することはない、こういう議論一つあります。しかしながら、私は、このストックのふえているということは、どうもこの数字から見ますると、実数としてはふえておりましょうが、この生産規模がふえておりまするから、何カ月分というふうな率にいたしますと、そうはふえていないのじゃないかというようにも思うのであります。それから、同時に生産規模が相当ふえておりますので、かりに今一億ドル、三億ドルのストックというものがふえたところで、そう大した数じゃないのじゃないか。従って、ストックがふえているから輸入はこの程度で大丈夫なんですというのは、必ずしも私はそうは思わないのであります。ただ、この輸入輸出関係は必ずしもパラレルになるのではなくて、あるときにどかっと入りまして、次の年度はまた入らない、そうしてまたその次に今度は必ず入るかというと、必ずしもそうでなくて、その次の年度も比較的少くて済んで、またどかっと入るというような、必ずしもきまった形でいくんでありませんので、昨年入りましたのでことしはこの程度で済みやしないかというような意見、あるいはまた、何といっても一般金融が相当締まっておりますので、従っておのずから調整がつくのであるから、そうは入ってこないであろう、また、実際の生産の必要という点から言えば、まあこの点まであれば十分足りるという計算になる、これもうそでないので、そういう意味から言って、あるいはおさまるかもしれない。ただ、私の率直な感じを言えば、もうちょっとふえるのではないか、そういうような感じがいたします。  それから、その他の国際収支の項目といたしまして、特需関係は計上されてある額くらいは大丈夫、あるいは幾らかプラスしやしないかというようにも思うのであります。それから海上運賃は少し上っているのでありまして、その点がどうかという点が一つ考えられます。よく標準にとられます石炭ハンプトンローズ積みロッテルダムアントワープ向け運賃の足取り、これは不定期でありますが、これを見ますと、大体スエズの紛争が拡大しましたときからぐんぐん上りまして、そうして、昨年の十一月の末、十二月にかかりますと、季節的なことでだいぶ上ったのであります。それがアメリカ予備船隊の解除があったり何かしてだんだん下って、そういうことがあります前には大体七十シリング見当であったのが、ちょっと百シリング近くになって、平らにこのごろなってきている。従って、そういうふうな傾向であるとすると、まあその辺のところで持ち合っていくかもしれません。そうすると、幾らかそこに運賃関係国際収支の方に変りが出てくる。  そうしますと、大体結論的に申しますと、この国際収支から言っても、あるいはとんとんになるというか、一億五千万ドルとかあるいは二億ドルとかいうことが赤字になる場合もあるかもしれないというようなことになって参ります。  そこで、時間がたちましたので急ぎますが、今申し上げましたのはあくまで予想であります。御承知通り、昨年も、予算のときにこしらえました予想よりもずっと多く輸出がいったのでありまして、これがどういうことが起きてくるかということは、実際に当ってみませんとはっきりしないわけであります。しかしながら、いずれにいたしましても、先ほど申し上げましたように、輸出入ともに計画というものは相当積み上げて検討されたのである。従って、これははなはだしく過当であるというふうなことではございませんが、輸出についても目標達成には相当の努力を要するし、また、輸入の方につきましても、その程度にとどめるにはやはり努力を要するのではないか、こういうように考えます。  そこで、輸出のためには、まず一つ価格が安定しなくてはならない。幸いにして消費物価の方は上っておりませんし、これは昨年の状況を見ましても三・二%高くらいであります。また、十二月に物価が急にちょっと上ったのでありますが、それでもやはり、卸売物価は五・五%上りましたけれども、この消費物価の方は一%程度で済んでおりまして、同時に今の衣料品その他の供給等を考えますと、消費物価はあまり上りそうもないので、その辺は大へんいいのであります。従って、そういうような基盤のもとに価格が高くならないようにいきたい、これに対するいろいろな施策をお願いしたいわけであります。  同時に、市場開拓につきましてはいろいろな面から申し上げたいことがありますが、いわゆる経済外交というものをいろいろな角度からぜひ力強く具体化いたしていただきたい。そして、同時にここで、やはり輸出は何といっても日本経済一つの大きな柱でありますので、幾らかこのごろ少しなれっこになった感じがいたしますが、もう一度輸出第一主義ということに徹して、そして政府の制度そのものにつきまして、たとえば今の経済外交の推進であるとか、それから同時に為替管理制度の手続その他、輸出入ははなはだ複雑でありまして困っているわけでありますが、こういうようなものの抜本的な改善であるとか、あるいは税制その他についての優遇であるとかいう点についても、もう一度輸出第一主義に徹して施策をやっていただく必要がありはしないか。  それから、輸入関係にいたしましても、これは人為的に輸入を阻害するようなのはいけないのでありまして、やはり自由に入れる形にする。ただ、自然調節でそれが輸入しないで済むような、また輸入意欲が過当に起きないような形でいくのが一番いいと思います。そこで、あるいは今の消費物は相当増産できるし、また消費物の物価は上らないのであるからこれはいじる必要はないというような議論もございますが、やはり一方金融の問題もございますしいたしますので、日本経済の健全な発達ということからいきますと、貯蓄の奨励というふうな面について特別に力を入れていただく必要がありはしないか、こういうように考えます。  大体以上で私の陳述を終ります。ありがとうございました。(拍手)
  4. 山崎巖

    山崎委員長 植村公述人の御発言に対し御質疑がございますれば、これを許します。
  5. 須磨彌吉郎

    ○須磨委員 ただいまのお話は、私といたしましては、最近ごく短期間でございますが、ヨーロッパアメリカ等を回って参りまして、何とはなしに感じられたことに非常に符合するように思われまして、まことに私は肯綮に当っておると思いますが、特に今の経済外交、輸出第一主義というようなお言葉に対しては傾聴に値するように思われますが、ただ一つここでお教えを願いたい点がございます。それは、来たるべき年度におきまして、国際収支と申しますか、国際貿易の上に大きな影響を及ぼすべき事柄であろうかと思われますが、一つ二つこの点をあげましてお教えを願いたいと思うのでございます。  第一は、英国の政変にちなみまして、何とはなしに経済的に大きな変化が来はせぬか、こういうようなことを英国でも聞き及び、またアメリカでも聞き及んで参ったわけでありますが、英国では、どうしても今までのような世界第一の国として立っていくには何としても少し柱がゆるんできた、それを立て直すために考えたこととしてあげられておりますことは、御承知通り、今までは閣外の閣僚として軽視されておりました動力相でございますか、いわゆる動力、エネルギー、これに当ります大臣をば、今度は閣内の有力なる大臣として、しかも燃料省というものをやめてこれに合併をして、パーシー・ミルズというようなリヴァプールにおる実業家を起用いたしまして、これを今度の政変の中の一番の大柱であると言っておるのでございますが、英国内においてもこれが非常に大きな動力となって英国の経済が発展して参る、その発展の方向としては東洋である、ことに極東である、こういうことが非常に申されておったのでございます。その極東の中でも中共である。御承知のように、英国は、アヘン戦争以来中国大陸との間には大きな貿易があるばかりでなく、中国大陸の中の貿易と申しますか通商に関することも英国がやっておった時代が、いわゆる大帝国を形成した一つの動力であったわけでございます。それに今の英国は非常に郷愁を感じておりまして、こういうものを今度この機会に一つ実現しようじゃないか、もっと手取り早く申せば、中共貿易というものに勇ましく出ようじゃないか、こういうことが申されておるのでございます。中共貿易は今日本の非常に大きな問題でもございますから、かような点において、英国のこの方面における活動が来たるべき年度において非常に期待されるのではないか、そういうことが出てくることによって、われわれが関係いたしております国際収支等についても何らかの波動があり得るという予想はどういうものであろうか、こういう点をまずお教え願いたいと思うのでございます。
  6. 植村甲午郎

    植村公述人 ただいまお話しの、イギリスが中共貿易に対して積極的に出てくるんじゃないか、これもまことにありそうな問題だと思います。ただ、これが日本国際収支に対してどういう影響を持ってきますか、そういう関係で全般的に中共に対する貿易の道の幅が広くなったというようなことがありますれば、日本のものにつきましても必ず好影響があるということにもなりましょうし、その辺のところになりますと、全く研究をいたしたことがございませんので、私、お答えができないのでございます。
  7. 須磨彌吉郎

    ○須磨委員 いま一つお教えを願いたい点は、もう少し大きな問題になりますが、今度はマクミラン内閣ができたことによって特に注目をされておるのでございますが、御承知のように、二年前以来ヨーロッパの中には自由市場をこしらえるという問題が起っておったのでございますが、マクミランが書いた「中道」という書物の中にもそれを唱導しておる、それがいよいよ内閣に坐って、ソーニクロフト蔵相も賛成をして、英国としては一つ自由市場というものに乗り出す、言いかえれば、アメリカとの協力はもちろんいたしますが、それが中心である時代から去って、ヨーロッパ本土中心主義になっていこう、こういう大きな傾向が見え出して参ったわけでございます。そういたしますと、西独、イタリア、フランス、それにベネルックス、こういう六カ国が集まったいわゆる小欧州六カ国というものが、今まで考えてきたのでありましょうが、それに今度は英国も加わって、一つ自由市場というものをやろうじゃないか、そこには多少の違いはあるようでございますが、小さいことは別といたしましても、五月の末ごろにはさような意味の協商のようなものができやせぬかということが、もう具体的な問題として現われて参ったようでございます。こうなりますと、アメリカに関する観測についても多少のくるいがくるのみならず、世界経済の全般に大きな影響があるのではなかろうか、こういうふうにも考えるのでございますが、さような点については、もちろん的確なことはどうしてもわからないのでありますけれども、御専門の見地から、あの問題がどういう影響を持ってくるであろうか、言いかえれば、わが国の貿易にプラスであるか、マイナスであるか、こういったようなことだけでもお教えを願えればと思うのでございます。
  8. 植村甲午郎

    植村公述人 ヨーロッパ経済的連合の問題でございますが、これはその実体その他についてもまだ研究が不十分でございますけれども、とにかく、この地域としての繁栄がもたらされるということになりますれば、その意味経済力が強くなるわけでありまするし、外国で競争するというこになれば、それだけ相手が強くなるという点はございますが、同時にヨーロッパ経済が繁栄するといういい面があろうかと思います。結局、一つの大きな経済的な点から見ますれば、大きな国と申しますか、あるいは昔の英連邦のような大きな勢力が一つ固まるわけでありまして、従って、今までヨーロッパの各国との間に結ばれておりました、その国の特殊事情も織り込んだ貿易のパターンというようなものも影響されるのではないか。そういたしますと、問題は、日本を何かディスクリミネートするような扱いをされると、非常にこれは困った問題になる。従って、それらの点については一つ十分に外交的な御努力を願いたいというふうに思います。何か強い一つの大きな相手ができると、果してこれがどうなるか、若干の心配を持つというのが、私の率直なただいまの感じでございます。
  9. 須磨彌吉郎

    ○須磨委員 非常によくわかりました。ただ、今のことに関連をいたしますが、私は今度七年振りでヨーロッパへ参りまして、強く打たれましたことは、アメリカナイゼーションと申しますか、アメリカ化ということが世界を通じてのことでございましょうが、これは大きな波であると思います。たとえば、イタリアのごとき、またスペインのごとき、こういうラテン系の諸国が、今までは全く経済貿易界においては第二流、三流のような格好をいたしておりましたのが、今度行ってみますと、ホテルといわず、すべてのことについてアメリカのようなネオンサインの世界になって、非常な景気が訪れているように感じられました。イタリアの住宅政策でありますとか、スペインの土地政策でありますとか、非常におくれておったはずの国が非常に進んで参っているわけでございます。そういたしますと、このアメリカナイゼーションと、ただいま私がお尋ねいたしましたヨーロッパの形勢との間にどうしてもこの杆格が起ってくる。そうすると、今のところ日本といたしましてはやはりアメリカ経済の中に入っている国でございますから、自然、アメリカの方は大へんだよというようなことを、私はヨーロッパにいるフランス人の友人から闘いたわけでございます。御承知石炭及び鉄鍋に関する最高会議の最高顧問をいたしておりましたジャン・モネーは東洋にいるときから知り合っておったのですが、その人の意見によりますと、今度は非常な革命が起るんだ、——あれは自分の発案でございますし、ことにスパーク委員会等にも入って牛耳っておりますから、自分の我田引水かもしれませんが、革命的なことが起るんだよと言っている様子でもありますから、特にアメリカ経済に好むと好まざるとにかかわらず関係を持っている日本としましては、やはり重大な関心を持つべきことではなかろうかということとを感じたのでございます。ただいまのお示しによって尽きてはいるようでございますが、そういうような懸念について、もう一応お話しを願いたいと思います。
  10. 植村甲午郎

    植村公述人 どうも、それらの点に関しましては、問題は大へん大きいようでありますし、はなはだ研究不十分でありますので、お答えがなかなかできないのが実際でございますから、御了承願いたいと思います。
  11. 川俣清音

    ○川俣委員 ちょっとお尋ねしたいと思いますが、国際貿易の点ですが、輸入は大体大した動きはないであろう、幾らかふえるであろうということですが、内容は御存じの通り、ことしは食糧の輸入をかなり減らしてつじつまを合せておる形になっております。もちろん原料の輸入に力を入れておるのですから、考え方については別に反対はないのですけれども、この基礎になっております国内食糧の生産高を平年作と見ておるのです。この平年作も従来の平年作と違いまして、平年作としては最高の六千七百万石を目安にしての計画であるわけであります。従来大ざっぱに平年作というと、六千三百万石くらいを平年作といって参りましたが、これは統計上平年作が六千七百万石に上ってきておるわけです。これを基礎にしておるわけです。そういたしますると、ことしの気象台の長期予報によりますと、今年は必ずしも平年作とは見込まれないような状況でございます。しかしこれは天気予報でございますから当てにはならないにいたしましても、二年も豊作の続いたあとの今年でございますから、必ずしも楽観は許されないと思う。食糧の輸入が天候によりまして増大して参りますと、原料の方を制約することになるか、あるいは食糧の輸入のために輸入高が非常にふえるのではないかという危険を感ずるのですが、この点についてのお考えはどうでしょう。
  12. 植村甲午郎

    植村公述人 今の食糧の問題でありますが、結局今お示しのように作柄にかかる点が非常に多いと思うのであります。この点になりますと、私どもどうも専門外ではなはだ不調法でございますが、いずれにいたしましても、そこに食糧の輸入をもう少し増すということになりますれば、当然輸入がふえてくる、あるいはほかをカットしなければならぬということになろうと思います。ほかをカットする場合に、原材料の方にどの程度影響するかということになりますと、これは物によって非常に違うと思うのであります。従ってあるいは一億ドルなら一億ドルというものを、そちらに振り向けるためにカットしましても、輸出に見合う生産をやるのに差しつかえるということのないようにできることは、できるだろうと思います。ただ作柄の点については私ども専門でございませんので、何とも申し上げられません。御了承願いたいと思います。
  13. 川俣清音

    ○川俣委員 もう一点お聞きしたいのですが、食糧輸入の中で、国内生産でかなりカバーできるような大麦が輸入されておるわけです。しかもこれは国内産よりもさらに高い大麦でありますために、大きな赤字の原因を生んでおるわけです。そこでこういうものを削るというようなことについて御意見がございませんかどうか、お尋ねしたい。
  14. 植村甲午郎

    植村公述人 これもどうも特別な意見はございませんが、要するに食糧計画の全般としての問題だと思いますので、私特別な研究をいたしておりませんので、はなはだ失礼でございますが御了承願います。
  15. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質疑がなければ、植村公述人に対する質疑は終了いたしました。植村さんまことにありがとうございました。(拍手)  次に、経済評論家木村禧八郎君の御意見開陳をお願いいたします。
  16. 木村禧八郎

    木村公述人 与えられた時間も少うございますので、四つの点に要約いたしまして、三十二年度予算についての意見開陳をいたしたいと思います。第一は産業活動、国民生活の均衡的発展と三十二年度予算との関係であります。第二点は歳入の問題点、第三点は歳出の問題点、第四点は三十二年度予算及び三十一年度予算補正と財政法違反との関係であります。  まず第一点でありますが、三十二年度予算編成方針を見ますと、こう書いてあります。完全雇用の達成と国民生活の向上とを目ざしてあくまでもインフレを避けつつ、産業活動、国民生活の全般にわたって均衡のとれた発展を推進する必要がある、これがために三十二年度予算は、まず第一に国民負担の大幅な軽減合理化を行う、第二に重点施策の積極的推進を行う、こううたっておるのであります。これを言いかえてみますと、産業活動、国民生活の全般にわたる均衡のとれた発展を推進する手段として、いわゆる一千億減税施策を行うという建前になっておるわけであります。私は日本経済の現状から見まして、三十二年度予算編成方針といたしまして、こういう点に着眼したことは正しいと思います。つまり均衡のとれた発展を産業活動、国民生活全般にわたって推進する、この着眼はよろしいと思うのであります。なぜならば現在の日本経済の状態を見ますと、あらゆる面において不均衡が著しく激成されておることが特徴だと思います。たとえば産業部門を見ましても工業に対する農業の立ちおくれ、また工業部門につきましても、鉄鋼、輸送、電力等のいわゆる隘路部門が生じておるということは、経済の発展の不均衡を現わしておると思うのであります。また企業の間について見ましても、たとえば東京証券取引所上場の株式会社、銀行二十三社を除く三百十六社の三十二年三月期の純利益の予想を見ますと、半期で千百五十一億円の純利益を上げる予想なのであります。前期の純利益九百七十一億円を加えますと、一カ年に実に二千百二十二億円に達するものすごい利益であります。利益率は三十一年の九月期五一%、三十二年の三月期四九・七%、ざっと五〇%の利益率であります。昭和二十九年九月期の純利益五百六十八億、昭和三十年三月期の純利益六百三十三億、合計一千二百一億、及び二十九年九月期の純利益率一九・七%、三十年三月期の純利益率二二・七彩に比べますと、純利益はざっと倍、利益率は倍以上になっておる。私は神武景気というのはここに現われていると思う。ところが今度中小企業の方を見ますと、これは中小企業庁の振興部調査公報課の中小下請工場の実態調査、昨年の六月三十日現在でありますが、これによりますると、調査対象になりました下請工場五百四十二社のうち税金の滞納が二〇・五%、外注費すなわち下請費の支払い延期工場が一四・九%、賃金支払い延期工場が一四・一考、この三つで四九・六%を占めております。さらに債務の遅延、延期工場二五・三%を加えますと、下請中小工場の七四・九%がこの神武景気のもとに苦しんでいるわけであります。これらの中小企業は、神武景気でもちろん受注は多いのでありますが、その受注を消化するための運転資金に非常に詰まっている。それも親工場の支払い遅延に基くところが大きいのであります。第二十四国会で中小企業の援護法といたしまして、下請代金支払遅延等防止法やあるいは百貨店法が法制化されましたが、何ら実績をおさめておらないと思うのであります。政府は品では中小企業の振興と言っておりますけれども、実際にはこれらの法律の実行をさぼっているのではないかと疑いたくなるのであります。何のためにこういう法律を作ったのであるか。さらに個人間の不均衡について見ますと、賃金差、所得差、生活の格差が拡大されまして、貧富の差か神武景気のもとでかえって拡大されているわけであります。国民生活は著しく不均衡の度合いを深めております。総理府統計局長の森田優三氏の発表したところによりますと、都市勤労者のうちでエンゲル係数が五〇%以上の人の世帯は、戦前におきましては勤労者全世帯のわずか四%にすぎなかった。ところが最近では勤労者世帯の四四%がエンゲル係数五〇%以上であるというのです。厚生白書を見ましても、これまでの政府の無理な資本蓄積の強行によりまして、低額所得層が累積、沈澱、固定化されるに至っている。そうして神武景気の恩典を均霑することができない。こういう点にものすごい不均衡が現われておる。さらにまた国の財政は健全である、地方財政は赤字である、中央財政と地方財政との間にも、著しい不均衡が現われておるわけであります。そうして地方はこの赤字を整理するために、いわゆる地方財政再建促進特別措置法によって再建整備をやっておりますが、自治庁の発表したものによりますと、それを行政内容の低下によりまして、地方住民の福祉の犠牲においてこの赤字を整理しているという状態になっておる。全く地方財政は行政内容の低下によって憂うべき状態にあると、自治庁でも指摘しているわけであります。国の方の財政は健全である、地方財政は憂うべき状態にある、こういう同じ国の財政面において中央、地方の財政にものすごい不均衡が出ております。このような経済、財政、国民生活の全般にわたる著しい不均衡を是正しまして、均衡のとれた発展を推進するというのが三十二年度予算の編成方針であるわけなのであります。そう書いてあるのであります。ところが歳入面のいわゆる千億円減税の仕方を見ましても、歳出面のいわゆる千億施策のやり方にしましても、予算編成方針とは全く逆であります。全く逆で、経済、財政、国民生活の不均衡を一そう激化する公算が大きいのであります。私は歳入歳出面について、その点を具体的に申し述べてみたいと思う。  歳入面につきましては、正確には千百七億の減税をするわけであります。そのうちの大部分、千九十一億円は所得税の減税であります。この減税によって国民生活の上にあるいは国民所得の分配の上に、次のような不均衡が激成されるのであります。第一は、いわゆる千億減税は所得税の減税であります。従って所得税を納めていない低所得の人は減税がないのであります。こうした所得層は三十一年度予算ベースで見ますと、三十一年度の総人口九千三十万人のうち七三%、六千五百六十八万人に達するのであります。人口の七三%が所得税を納めることができないほどの低所得層の家庭に属している人口であります。それではこういう人たちは税金は納めていないのかと申しますと、御承知のように地方税、間接税としてたくさんの税金を納めている。言うまでもなく間接税として酒税、砂糖消費税、揮発油税、物品税、入場税、関税、専売益金、地方道路税あるいはまた地方税としては県民税、市民税、電気ガス税、たくさんの税金を納めているわけです。所得税は納めておりませんけれども、国及び地方に対して、こうした人たちはたくさん税金を納めておりますが、今回の減税は所得税だけの減税であります。従ってこの所得税を納められないほどの低所得層に対しては、減税がないために非常に不公平になります。しかもこういう所得税を納められない低所得層から、この三十二年度においては四百億円の間接税を増徴することになっております。そういう人たちは四百億円の間接税をよけい取られる、その取られた四百億の間接税が、所得税を納めることができるような高所得層の減税の財源に回される、こういう不合理があるのであります。  第二に、歳入面のいわゆる千億減税の問題点は、所得税を納めることができない人が減税の均霑を受けないだけでなく、今度は鉄道運賃の引き上げ一三%がありますが、それによる増収三百六十五億の約七〇%、約二百五十五億円は、こういう所得税の減税の恩典のない人が負担する割合になるのであります。池田大蔵大臣は、所得税の減税の恩典を受けないで、鉄道運賃値上げ等の負担を負う低所得者層に対しては、社会保障費をふやして、そうしてこれを調整するということを言われた。なるほど社会保障費は九十一億円ふえております。九十一億円ふえて、国鉄運賃の値上げ三百六十五億のうち、その七割二百五十五億を負担する。この低額所得層に対しては二百五十五億の負担に対して九十一億の社会保障費の増額ではどうしてもつじつまが合いません。それはごまかしあるいは言いわけと見るよりほかにないように思われるのであります。そういう不合理がこの減税にはあります。特に所得税を納めることのできないそういう階層が七三%を占め、国民の大部分である。こういう点はきわめて重大です。ですから運賃値上げの上に米価を引き上げるならば、これに対して非常な反対が起るのは当然であると私は思います。  次に、所得税の減税を受ける人たちの間におきましても、減税額に非常な不均衡がございます。千億減税のうち、年所得五十万円以下の人に三百億ぐらいの減税をする、それから年所得五十万円以上の人に七百億ぐらいの所得税の減税をすると言われております。ところが年所得五十万円以上の人の納税人員に対する割合を調べてみますとわずか七%です。年所得五十万円以下の人たちは納税人員の九三%を占めております。九三%に三百億の減税、七%の人に七百億の減税ということになっておりますから、五十万円以上の高額所得層はものすごい減税になるわけです。なるほど減税の率から見ますと、低所得層の方の減税率は大きいのでありますが、減税の額から見ますと、高額所得層はものすごいたくさんの減税を受けます。いわゆる生活にゆとりのある人ほど非常にたくさんの減税を受ける、生活にゆとりのない人ほど全然減税の恩典がないか、あるいは減税の恩典があっても非常にわずかである。そこに非常な不均衡があると思います。  さらに第四に問題になる点は、神武景気で非常に潤っている配当所得者、これに対して配当控除三〇%を二〇%に引き下げたのでありますけれども、所得税率が非常に下ったために、現行では夫婦及び子供三人の場合、年配当所得百二十二万円までは無税であります。それが配当控除三〇%が二〇%に下ったにかかわらず所得税率が非常に下りましたから、今度は百四十九万円まで無税になる、こういうことになる、そういう配当所得者をここで一そう優遇している、いわゆる不労所得者を一層優遇している。さらに公社債の利子、銀行預金の利子、これは現行では全然無税、今度の改正で銀行預金一年以下のものだけについて一割の税金をかけるという改正をしたにすぎません。こういう資本蓄積の名によって不労所得を非常に優遇しております。その反面勤労所得に対しての措置が非常に不十分だ。繰り返しますが、厚生白書を見ますと、過去において政府があまりに資本蓄積に重点を置き過ぎて、これを強行し過ぎたために、低所得層が累積し、沈澱、固定化するに至っておる。それを今度の税制改正は一そう促進するものなのであります。予算編成方針に国民生活の全般にわたって均衡のとれた発展を推進する、こううたわれておるのに、この減税内容を見ますと、逆なんです。国民生活の全般にわたって著しい不均衡を激成することに相なっておるわけであります。  それから次に、歳出の問題点でございますが、その問題の第一は、歳出内容がやはり非常に不均衡だということであります。予算の各歳出費目のバランスは、予算の性格を表わすものであって、きわめて重要なものであると思います。私、三十二年度の国民一人当りの国税負担を調べてみましたが、一人当り赤ん坊まで含めて一万二千二十九円でございます。前年度より減税にもかかわらず千三百七十三円、一二・八%税金がふえております。この一万二千二十九円という国民の血税がどういう方面に使われるか。その三十二年度の使い道を調べてみますと、防衛庁費に千五十八円、八・八%、米軍への分担金四百二十一円、三・五%、旧軍人恩給費一千十円、八・四%、賠償二百十六円、一・八%、合計二千七百三十円、二二・七%がいわゆる防衛関係、あるいは防衛関係経済的には同じような性格の非生産的な賠償、そういうものに使われておる。民生安定の方には生活保護三百八十五円、三・二%、児童保護九十六円、〇・八%、遺家族援護七十二円、〇・六%、失業対策費三百六十円、三%、結核対策費百四十四円、一・二%、住宅対策費百二十円、一考、合計千四百七円、一〇・七%、そういういわゆる非生産的な方面に二二・七%、民生安定の方には一〇・七%、さらに三十二年度は、三十一年度で使い残りの防衛庁費二百億が繰り越されて使われておる。そうしてこれを使うことによって三十二年度は、防衛費を特にふやさなくてもいいということになったと思う。ですからこの二百億を加えますと、予算上は防衛費千四百十一億になっておりますが、実際に三十二年度において使われるのは千六百十一億である。そう考えますと、この民生安定費と防衛関係費、賠償等の非生産支出との比率はもっと開くと思います。これが予算の性格だと思うのです。各支出の項目のバランス、これが予算の性格であって、ことしの防衛費は一応前年度とは同じように見えますけれども、この予算の使途のバランスを見ますれば、これがいわゆる再軍備防衛ということに、非常に重点を置いておる予算であるということは、これは疑いのないところであります。これがまた予算編成方針ご矛盾すると思う。予算編成方針には均衡のとれた発展をはかるということになっておりますが、これは均衡がとれておりません。  歳出の第二の問題点は、公共事業費、特に道路費、港湾費の激増であります。いわゆる積極財政約千億の——正確には千二十五億の歳出のうち、この公共事業費特に道路、港湾費が二百三十七億激増しております。私はこれは他の支出増加に比べて著しく不均衡にふえていると思うのであります。もちろん道路港湾の建設の必要は十分認めておりますけれども、どうも私はこれは実行計画の裏づけのないような道路港湾費までも増額されているのではないかという気がするのであります。著しくふえたについては、一説には建設省で驚いている。予定したよりもよけい予算がついてしまって、実行計画がまだないから、これから考えるというような予算がついておるやに聞いております。そうしますと、これはいわゆるどんぶり勘定であります。今度国会でも問題になりましたつかみ予算、そういうつかみ予算的なこの道路、港湾費の増額というものが相当にあるのじゃないか、このように積極財政の場合、著しく歳出をふやす場合には、しかも政府と与党が十二日間にわたって折衝をいたしたようでありますが、そういう過程において予算がふえているときには、いつもどんぶり勘定的あるいは池田大蔵大臣が言われたつかみ予算的なものが相当出てくるのではないか、そういう意味で今度の歳出、特に道路、港湾費については皆様方の具体的な掘り下げた御審議をぜひお願いしませんと、それが乱費のもとになる、あるいはまた利権、汚職などのもとになる危険があると思うのであります。そういう温床にならないようにお願いしたいと思います。またこの道路費等については、費用は増額されましたが、人件費がついていないといわれています。人件費がついていないということは何を意味するかといえば、結局これは直轄工事でやるのじゃない、民間の下請に出す、そういうことを意味するよりほかにないと思う。そうしますと、このように道路費がものすごくふえて、それがどんどん民間の業者の下請に回される場合、私は工事内容が低下しなければ幸いだと思うのです。これまでの実績から参りまして、業者に下請させた場合、国がこの工事内容の低下を防ぐために監督することのいかに困難であるかということは、建設省の人がよく知っているわけであります。監督に行っても追い返されてしまって、なかなか十分な監督ができないというのが実情であると聞いております。従ってこういう予算のふやし方、どんぶり勘定的な予算については十分御審議をしていただきたいと思うのであります。  それからまた今の道路費について、これは道路を建設することは必要なのですが、それよりもさらにセメントの生産過剰対策ではないか、こういわれております。それはこれまで駐留軍関係の工事が大体一段落して、セメントの生産設備が非常に過剰になっている。ですから最近池田大蔵大臣は新聞で御発表になっているように、この予算を組んでもインフレにならない一つの証拠として、セメント工場は一カ月二十五日くらいしか稼働しないではないか、だからインフレにならない、こう言っておりますが、これはどうも問わず語りにセメントの過剰生産対策として、道路費がふやされたのではないかというような疑いを持たせるのであります。  第三の問題点は、三十二年度予算の地方財政に及ぼす影響であります。時間がございませんので簡単に要点を申しますれば、要するに一般会計で公共事業費が非常にふえまするが、それについて地方負担分もふえてくるのではないかと思う。積極財政の足場は結局地方団体である。地方団体を基礎にして積極財政をやるのでありますが、その場合に地方団体に負担分がかかってくる。その負担分は十分国で見てもらいませんと、そうでなくてさえ、すでに地方の行政内容は低下しておるわけでありますから、国の積極財政に伴う負担増加によって、地方でやらなければならないいろいろな施策の費用が食われてしまいます。一そう行政内容が低下する危険があるのではないか、地方財政との関係が憂慮されるわけであります。そうなりますと、国と地方財政との不均衡がこの予算のために一そう激しくなってしまう、予算編成方針にもとってしまう、こう思われるのであります。  第四には、この予算インフレ的性格でありますが、これについてはもうすでに各方面で議論されておりますから、簡単に要点だけ申し上げますと、予算自体はインフレ的性格を持っておることは、はっきりしていると思います。かりに均衡がとれていても、非生産的な支出の比重が非常に多くなれば、これはインフン的な予算であるといわざるを得ません。三十二年度予算は前にも申し述べましたように、非生産支出が非常に多くなる。賠償費、防衛費、そういうものが多くなれば、かりに均衡はとれていましても、物価は上らざるを得ないと思うのです。さらに三十一年度の防衛費の使い残りが、三十二年度に使われますれば、これもインフレ要因をもう一つ加えるわけであります。さらに財政投融資がふえまして民間の投資と競合関係になって物価を上げると思います。従ってその上に鉄道の運賃の引き上げが行われれば、物価騰貴に拍車をかける。しかし予算自体はインフレ的性格を持っておりましても、これまでの経験によりましていつもインフレが激化して物価が上ろうとする場合、輸入を激増することによってこの物価を押えてきているのであります。昭和二十八年の例がそうであります。昨年も八月ころ物価が非常に上りそうになりましたときに、輸入を激増させました。すなわち三十一年度は前年度より七億五千万ドルも輸入がふえておる。輸入増加によってインフレを押えることは可能であります。特に日本の場合は、為替金融関係政府に円を売ってドルを買うという操作になっておりますから、輸入しますと円が政府に吸収される、そして物は外国から入ってくる、そういう形で財政がかりにインフレ的財政であっても、輸出関係でこれがデフレになることもあります。財政面がデフレ的であっても、貿易関係で出超がうんと続けばインフレ的になる、こういう場合があります。従って三十二年度予算インフレ的性格を持っておりますが、輸入をどれだけふやすことによって、このインフレを押えるかというところに問題のかぎがあると思うのであります。しかし輸入を非常にふやしますと、今度は国際収支が赤字になる。そこで輸出が重要になる。ところが輸出については、先ほども中共貿易等のお話がございましたが、約一億ドルくらい輸出を見込んでおるやに聞いておりますが、もしこれが岸外務大臣のように中共貿易に消極的になりますと、三十二年度の二千億円の自然増収は輸出二十八億ドル、輸入三十二億ドル、生産増加一二・五彩、国民所得八兆一千八百億ということを前提にして、二千億円の自然増収が見込まれておりますから、予定された中共貿易日本側の消極的な態度によって減小するというようなことになれば、これは予算全体がくずれてくると思うのです。そういう意味貿易政策は、この三十二年度予算の実行によって起るインフレをとめる場合に、非常に重大なかぎになってくるのではないか、私はそう思います。  最後に、財政法違反の問題について簡単に触れておきたいと思うのでありますが、今度の三十二年度予算及び三十一年度予算補正について財政法十二条の問題が起っております。その十二条の問題の一つは、三十一年度の食管会計の赤字を三十二年度において補てんするという問題、もう一つは、三十一年度の自然増収を産業投資特別会計に繰り入れて、これを三十二年度に使うという問題です。これは会計年度というものを非常に軽視することになってくると思うのです。財政の民主化のうちには、公開性とか、明朗性とか、単一性とか、いろいろその原則はあるのでありますが、会計年度というものをよく守るということも、やはり財政民主化の一つの重要な原則なんです。しかし窮屈に考えて何でもいけないというわけではありませんけれども、やはり筋の通った形でなければ、この会計年度の原則をあまり乱すことは私はよくないと思うのであります。そういう意味で、この財政法違反の問題は慎重にお取り扱い願いたいと思うのであります。  もう一つ財政法の問題としては継続費の問題があります。本年度は甲型警備艦二十億五千万円、これが継続費として出ております。昨年度は潜水艦二十四億四千三百万円か継続費として出ております。いずれも三カ年の継続費であります。財政法の十四条の二、これは昭和二十六年の十三国会で改正して継続費を認めるということになった際、あの十四条の二には「工事、製造その他」とありますが、この製造の中に兵器を含むか含まないかで、参議院では非常な論議があったのであります。どうも政府は、いわゆる再軍備の準備として継続費が可能になるようにするのではないか、今までは国庫債務負担行為でやってきたのを、またやってこれたのに、どうして継続費予算として組むのかということで非常に議論しましたが、たしか政府側はそういうことはございません、再軍備のためではございません、兵器生産のためではございません、そういうふうに答弁をされておったように記憶しておる。そうして社会党の菊川孝夫氏が修正案を出しまして、製造という文字をとって工事に限定するということで論議したのですが、結局今の法律案のように「工事、製造その他」となって、製造の中に兵器を含む。この継続費予算がだんだんふえて参りますと、国会の審議権をそれだけ制約する。しかも過去の例を見ますと、継続費は継続費で軍事費がまかなわれておる。今後の防衛費は需品費がだんだん多くなってくる。ニュールック政策の結果、新型兵器をだんだん作る、人員の増加よりもそういう兵器を作る需品費が多くなってくる。そうなると、この継続費予算はだんだんふえてくるのではないか。そうして継続予算がふえると、これは国会の審議権がそれだけ制約されるわけです。もちろん十四条の二を改正するときに、制約しないように、継続費予算は三カ年予算としてきめた場合、あとでは一応審議しない建前になっておりましたが、特別に各年度について一カ年、一カ年これを審議し、修正してもよろしいという形に改めたのであります。しかしそうなれば本来の継続費予算の体をなさない。そこで規定は非常にあいまいになっておりますが、とにかく継続費予算があまりに今後不用意に、イージーにふやされ、これが乱用されてきますと、財政法上重大な問題になってくるのではないかと思うのであります。そういう点一つ皆様方に御考慮願いたいと思います。これをもって私の公述を終ります。(拍手)
  17. 山崎巖

    山崎委員長 木村公述人の御発言に対しまして、御質疑がございますれば、これを許します。
  18. 小川半次

    ○小川(半)委員 木村さんに簡単に一、二点お伺いしたいと思います。  お説の中に、資本蓄積に気を配り過ぎたために配当所得者を優遇するに至った、結論的にいえばこういうお説がございましたが、そのお説を裏返してみますと、資本蓄積には反対であるという意見にもとれるわけでございますが、御承知のように、資本蓄積には何としても重点を置かなければならぬと思うのです。なぜかと申しますと、今日までの日本のあらゆる産業面は、ほとんど自己資本というものを持っておらぬのです。銀行その他金融機関から借金をして産業を行なってきておるのでございまして、そうした日本の大部分の企業状態を見ますと、今申したように、自己資本というものに乏しい、結局借金によって企業を行なっております以上は、銀行利子その他金利というものが製品にかかってくるわけです。要するに生産コストの中に金利というものが含まれておるのですから、日本の製品が金利を含んでおるだけ値段が高くて、海外進出の場合にも外国品におくれるというような結果が生まれてくる。そういうところから何としても自己資金によって企業を行うことでなければならぬ。そういうところから資本蓄積というものが重んじられなければならぬ。私は、そういう立場から、今後もやはり資本蓄積に重点を置かなければならぬ、こういう考え方を持っておるのです。あなたとは少し違うのですが、その点をお聞きしたいことと、もう一つは、配当所得者を私は優遇しなければならぬと思うのです。なぜならば今後配当を受ける人々は、昔のように単に一部の大資本家が、あるいは自己一人とか、あるいは親族一統によって株券というものを買い占めるものではなくして、あらゆる会社の株というものは大衆化されつつあるわけです。要するに今後の配当というものは大衆配当なんです。御承知のように、今後株券というものは、一部の資本家が牛耳っておるのではなくして、ほとんど大衆に配られておるのです。配当というものは大衆配当に変りつつあるのですから、やはりどういう会社でも、そこに働く従業員や工員たちがみな株を持ってきつつあるのです。そういう大衆配当ということを考えるときに、私はやはりこの配当所得者の優遇ということを考えなければならぬのに、あなたが日ごろからおっしゃっておられる説とそこがちょっと違うように私は思うものですから、この点をお尋ねする次第です。  それからもう一つは、防衛費はふえておる、さらに再軍備予算であるということですが、これは私はちょっと誇張のように思うのです。御承知のように、三十一年度からの使い残りというものはございますけれども、三十二年度の防衛関係予算そのものは減になっておることは御承知通りなんであって、少し誇張されておるのではないかと思うのです。ただし継続費用というものは年々どうも多くなってきておるということには賛成しがたいという説には、もちろん私も賛成でございます。だからといって、それが結局再軍備予算のためのものであるということとは別問題でございまして、先生のお説の、本年度は特に再軍備予算のためのにおいがするという御意見は誇張過ぎられるように思いますので、その点をお伺いしたいのでございます。  この二点でけっこうです。
  19. 木村禧八郎

    木村公述人 第一点の資本蓄積の問題につきましては、昭和三十年度以前におきましては、日本経済はまだ正常化していなかったといわれておるわけです。それで特に租税特別措置が非常に強化されましたのは二十八年ごろからで、シャウプ税制改革あたりから始まりました。ところが三十年度において経済企画庁長官なんかも日本経済は正常化した、安定化した、そうして今まで日本経済が正常化し、安定化していないときに、特に特別の措置をとったんです。租税特別措置法というのは特別の措置なんです。従ってここで経済が正常化し、安定化した場合には、その特別の措置は必要でないんじゃないか。そこで臨時税制調査会でも、租税特別措置の整理について答申されているのでございます。私は資本蓄積は社会主義の社会にならうと資本主義の社会にならうと、資本蓄積自体が王であることは決して否定しておるのではないのでございます。私が申しますのは、正常化したといいながら、まだ正常化していない時代の特別措置をやはり依然として継続していることは問題があるんじゃないか、そういう点であります。  それから第二の配当控除につきましては、シャウプ税制改革によりまして、法人というものの課税の考え方が、法人は独立の人格を持つものか、持たないものかということで違う。昔の日本の税法はドイツ流であります。法人にもかけ個人にもかける。今度はシャウプのアメリカ流になりましてから、法人に法人税をかけた場合、個人から取れば二重課税だというので配当控除をやるわけなんです。これは一つ見解の分れるところであります。これは非常に議論の分れるところでありまして、私はやはり法人は独立人格として扱うべきだ。それでやはり配当だけで暮しておる人は、とにかく、たとえば百四十九万まで源泉一割納める。住民税は七百円だけ納めればいいというのでは、これはどうも割り切れない点ではないかと思うのであります。そこで私は元の税法のように法人を独立体と見て、そうして配当控除は課税にすべきではないか、こう思うのです。  それから防衛費につきましては、私は、特に誇張しすぎたのではないかと言われましたが、実は誇張しておるのです。なぜならば他面において、ことしは防衛費が前年と同じであるというので、防衛費というものを忘れやすい傾向があるのではないか。全体の予算の中に占める防衛費の比率をごらんになれば、なるほど前年度よりことしはふえていないけれども、その比率自体は大きいのです。今のたとえば社会保障その他から考えまして、千四百十一億というのは、決して少い金額ではないのです。また賠償費は今度百十五億ふえております。そういうのは決して少い額ではないのです。ですから非生産的なそういう費目が、予算全体の中に、防衛費はなるほど前年度と同じであるけれども、全体を見ればやはり大きいのだ、そのためにたとえば勤労所得税全体が二千億円とすれば、そのうちの非常に多くの部分が防衛費に使われておるという関係になる。そういうことを見ますれば非常に多い税金がそこで使われておるのだ、非生産支出について、どうも三十二年度は防衛費はふえませんでしたから忘れかかるといけない、またインフレの問題を考えても、やはり一つインフレ要因ですから、それを除外して考えないようにという意味で、多少お話のように誇張した感があったかもしれませんが、そういう意味でございます。
  20. 小川半次

    ○小川(半)委員 わかりました。
  21. 辻原弘市

    ○辻原委員 簡単に三点ばかりお伺いいたしたいのでありますが、第一に、これは本年度予算を見た場合に、予算規模に対する考え方について、いろいろ政府のお話とわれわれの見解とも違うし、また経済学者の間においてもその点の考え方が非常に違っておるように思うのであります。私どものとっておる立場は、少くとも経済好況期に入って非常に伸びておると言われておるような際における国家財政の規模というものは、できるだけこれを締めて膨張の傾向をたどらないようにする留意が必要である。いわゆる好景気経済に特に刺激を与えるようなそういう一つ予算編成は不可であるという立場をとっておるのでありますが、先生のお話には、この点に対する予算編成全般のお話がございませんでしたので、御見解一つ承わっておきたいと思います。  それから第二の問題は、これは鉄道運賃を初めとしまして、また将来予想されておる米価引き上げの問題、また予算上盛り込まれておる揮発油税あるいはトン税ないしは軽油引取税あるいは印紙税等々といったような、財政からするいわゆる増徴の面、さらに間接的に起される、たとえば鉄道運賃でありますと、遠からずこれまた非常に問題になってくると思うのですが、バス、タクシー等の値上げ、こういったもろもろの値上げの問題について、先生は主としてこういった増徴の低額所得者の家計に対する影響から今お話がありまして、その点われわれ全く同感でありますが、これと同時にこういう種類のいわゆる増徴というものが経済全般に、どういうふうな影響を与えるかという点について、われわれは少くとも、鉄道運賃のごとくかりに一割三分といたしましても、それがめぐりめぐって諸物価引き上げの誘因となることは、ほぼ明らかであるという見解をとっておりますが、昨日朝日の土屋さんのお話によりますと、たとえば鉄道運賃等の引き上げは、必ずしもインフレ的な要素にはならないで、むしろ経済的にいえばこれはデフレ要因であるということを論断せられたのでありますが、それらについて先生の方ではどういうふうにお考えになっていらっしゃるか、これをお答え願いたい。  それから第三番目に、中小企業の問題でありますが、先刻お話のように、大企業の利益率が昨年から本年へかけて、少くとも五〇%上回る、こういうような好景気に入っていながら、中小企業のいわゆる隘路というものは依然として解消されていないし、また実際の状態をながめてみましても、何ら今の好景気の波の恩恵に浴していない業態がたくさんある。むしろますます金詰まり、あるいは経営難、あるいは過当競争、こういうものにあふられて非常に困ってきておる業種も非常に多いようにわれわれ見受けるのでありますが、それに対する政府の施策、端的に申しましてその他の施策に対して、非常に中小企業ということを予算編成の中にもあげておりますが、政府の施策としてははなはだ物足らぬものがあるのであります。特にこの好景気の中で資金が引っぱりだこであるということになりますると、勢い中心企業の資金手当というものは、これは重要になってくる傾向があるのであります。そういう場合にはどうしても国家資金でもってある程度の手当をしていくということでなければならぬと思うのでありますが、若干は、資金運用部等から中小企業金融公庫へ約五十五億程度増加ということで、見込んでおることはおるのでありますけれども、しかしながら、先刻先生のお話の道路その他に対する一つ政策等と比較をしてみましても、手ぬるい感がするのであります。こうした中小企業者に対する金融というものについて、時間がありませんので多くを申し上げませんけれども、根本的に、これは農林漁業等の金融についても同じでありまするが、ある意味においては政策的なものがあるのであります。回収とかその業態のよし悪しということを非常に厳格に見積る一般の市中銀行の融資と、国家からする一つの資金手当というものとは異なった性格を持っていなければならぬと思うのでありますが、この点先生、今後の中小企業金融問題の打開について、いかにお考えになっておるか、簡単にお伺いをいたしておきたいと思います。
  22. 木村禧八郎

    木村公述人 第一点の予算規模の問題ですが、これは計算の仕方によっていろいろ違います。国民所得に対する比率、たとえば三十一年度の五百億の補正を加えて計算するかしないか等等、私はこの国民所得に対する比率も、予算の性格がインフレ的性格かどうかをきめる場合の一つの目安になるかと思うのですが、しかし過去の国民所得と予算規模とをずっと統計をとってみますと、必ずしもそれとは直接——反対の場合もあるのです。特に日本の場合、貿易の問題が非常にこれに関係がありまして、さっきお話ししましたように、予算自体はインフレ的でも輸入をふやすとインフレにならないという要因がありますので、にわかに断定できません。しかし私は本年度予算については、先ほどのお話のように、民間が好況を呈している場合、特に設備投資なんかの需要が非常にある場合、従って財政投融資については非常に問題があると思います。  それからこれは土屋君もやはりそういう公述をされたように新聞でも見ましたが、やはりこういう際には減税を思い切ってやる方がいいんじゃないかというように思っております。しかしただチープ・ガヴァメントということは、今の近代国家については許されない、どうしても国家の費用が多くなっていくと思うのであります。そういう際に無理にチープ・ガヴァメントの政策をとりますと、今のような状態だと、そのしわがどこへ寄るか、結局そのしわは国民大衆の方へ寄ってくる危険があるのです。そういう点を考えて、ただ財政規模が小さければいいというふうには私は考えておりません。ただ三十二年度については民間投資の関係で、やはり調整を考えませんと、私にはどうも二十八年のインフレの後に、二十九年のデフレ政策をとらざるを得なくなりましたが、下手をすると三十二年度のこの予算執行の結果、間違うと三十三年度は相当なデフレ政策をとらざるを得なくなるような気もするのであります。三十三年度予算が今度は重大になってくると思います。  それから第二の鉄道、バス運賃値上げその他の一般国民経済に与える影響でありますが、経済実態がインフレ的になっているときにこういうものを引き上げれば、それ自体はインフレ要因と思っていません、鉄道運賃を上げても全体の物価に影響を及ぼさないときもありますし、及ぼすときもあります。しかしこういう条件のもとで上げれば、これは促進要因と私は言っておるのですが、インフレ要因は財政面、金融面にあるのですが、それで促進要因になると思います。そういう促進要因があってインフレ的になるときに、金融をうんと締めてインフレにならぬようにする場合、日本金融を見ますと系列金融になって、中小企業はまことに困る、こういう矛盾が出てくる。私はインフレ促進要因になるということは間違いないと思います。  それから第三の中小企業に対する金融対策ですが、これは非常にむずかしい問題ですが、今度の予算で大体百億ばかり中小企業の方に設備資金を出す、いろいろ考えてみますと、今中小業者が非常に求めているのは設備資金よりもむしろ運転資金なんです。それでこれも中小企業庁なんかの調べを見ますと、中小企業あるいは零細企業あたりは設備の改善よりも、むしろ今のところは運転資金がほしい。そこで本年度予算では設備資金を非常に出しておりますが、中小企業者のほしいのは、運転資金であって、その運転資金を貸すについても中小業者の負債比率といいますか、負債は非常に大きいのです。ですから私はただ金を貸すばかりが能じゃないと思います。親工場の支払い遅延を、こういう法律があるのでありますから、もっとこれを促進させる。それを何か措置を講じてやることによって相当私は効果があると思う。ただ法律で縛っても、これでは意味がなくなるのではないかと思います。ある専門家の一つの着想としては、たとえば中小企業金融公庫で保証するわけです。ある親工場に物を売った、そのときにそこで保証して、そして中小企業金融公庫から払ってくれる金利は親会社持ち、そういうことで一応金融をつけてやることが大切なんですから、ただ罰することが目的ではなく、何かそういうふうにすることが必要じゃないか、私は支払い遅延を防止するだけでも、相当下請業者なんかは助かるのではないかと思っております。
  23. 山崎巖

    山崎委員長 ほかに御質疑がなければ、木村公述人に対しまする質疑は終了いたしました。  木村さん、まことにありがとうございました。(拍手)  それでは午後一時半より再開することといたしまして、暫時休憩いたします。    午後零時三十一分休憩      ————◇—————    午後一時五十九分開議
  24. 山崎巖

    山崎委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  公聴会を続行いたします。  御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。本日は、御多忙のところ貴重なる御時間をさいて御出席をいただきましたことに対しまして、委員長といたしまして厚く御礼を申し上げます。  申すまでもなく本公聴会を開きますのは、目下本委員会において審査中の昭和三十二年度予算につきまして、広く各界の学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算審査を一そう権威あらしめようとするものであります。各位の忌憚のない御意見を承わることができますれば、本委員会の今後の審査に多大の参考となるものと存ずる次第であります。  議事は岩井さん、井藤さんの順序で御一名ずつ順次御意見開陳及びその質疑を済ませていくことといたしまして、公述人各位の御意見をお述べになられる時間は議事都合上約二十分程度にお願いいたしたいと存じます。  なお念のために申し上げておきますと、衆議院規則の定めるところによりまして、発言の際は委員長の許可を得ることになっております。また発言内容は意見を聞こうとする案件の範囲を越えてはならないことに相なっております、なお委員公述人に対して質疑することができますが、公述人委員に対して質疑することができませんから、さよう御了承をお願いいたします。  それではまず日本労働組会総評議会事務局長岩井章君に御意見開陳をお願いいたします。
  25. 岩井章

    ○岩井公述人 私は今委員長から紹介がありました総評事務局長の岩井であります。  私たち労働者階級から見た三十二年度予算及び経済の動き、そういうふうなものについてごく大ざっぱに意見を申し述べまして、皆さんの参考にしていただきたい。  まず第一に私が言わなければならぬと思いますのは、三十二年度予算は、結果として国民生活の上下の断層というものをますます拡大させることになるのではないか、こういうふうな心配を持つのであります。御承知通り、世上神武景気という言葉をしきりに使われておりますけれども、私どもは労働者の運動を通してみて、神武景気というものの実態をこういうふうに見ているわけです。確かに神武景気というものの実態はある、しかしながらその神武景気の実態というものは、一部の巨大な会社に利益を集中させている結果だ、そしてその陰に泣くたくさんの国民大衆の生活の実態というものは、必ずしも十分な生活をし得る態勢にはない、こういうふうに私どもとしては見るのであります。一つの資料として、ごく最近日銀なり開発銀行が発表しています全国約六百社近くの大きな会社の利益上昇率を見ると、三十年度上期は二十九年度上期に比較して一一四・七%という数字であります。ところが三十一年度上期になりますと、三十年度上期に比較してさらに二八%ふえた一二八%という数字が、これは私どもが調べた数字ではなくして、今もお断わりをしましたように、日銀の大体六百社ないし七百社の調査の数字であります。こういうふうに全国で七百か六百というような大きな会社は、今私が申し上げましたような利潤上昇率を持っている。さらに設備投資の前年対比を同じく開発銀行の調査を引用して申し上げますと、三十一年度は三十年度に比較して一七一%という設備投資をしているのであります。こういうふうに相当巨大な会社においては大きな利潤を上げているということは、今日明らかに言い得ると思います。しかしながらその一面私たち労働者を初め、あるいは失業者あるいは生活保護を受けている人たち、こういう人たちの生活の実態を見ると、この巨大な会社の利潤上昇率に比較をしてどういうふうな状況にあるか、私が一々数字を申し上げなくても、そのうち比較的生活がよい、比較的まあまあの労働者階級、特に組織労働者の実態を見ましても、一昨年に比較して昨年の賃金上昇率は、わずかに三%ないし五%であります。そうなって参りますると、極端に大きな会社の、あるいはごく一部の人々の神武景気というものと、生活の不安定な条件にある国民の多くの生活というものを比較してみました場合に、果してそういう上下の生活の断層を今回のこの予算案というものが埋めるだけの作用を持っているだろうか、こういう点を私どもとしては一番鋭く注視するところであります。しかし遺憾ながらこの予算案に示されている各種の施策というものを実行した暁におきましては、このような上下の国民生活の断層というものはますます拡大することになるのではないか。  その一、二の例を申し上げますと、まず第一番目に減税であります。減税は私自身も労働者を代表して税制調査会に長い間参画して参りましたけれども、この減税を見ますると、一千億あるいは七百八十億というふうな大きな金額を使いながら、その結果としてはごく一部のところに重点的な減税の恩恵がいくのではないか、特に私が税金の問題で労働者として一番皆さんに注目をしていただきたいと思いますのは、昭和二十九年の所得税を納めている人たちは、御存じだと思うけれども、約一千百万いるのであります。ところが戦争前、昭和十年の納税総人員を調べてみますると約七十六万であります。この事実を私どもとしてはまず一番重視します。従って私どもの希望から申し上げますと、でき得る限り税を納める人たちを減らしてもらいたい。具体的に言えば、一番下級のサラリーマン、下級の所得階級、こういう人たちをできるだけ今回の税制の減税の恩典によって納税人員からはずすような努力をしていただきたい。私どもはかかる主張をもって税制調査会でも述べました。ところが今回提案されている政府の原案を見ましても、五十万から百万のところを主として重点的に減税の対象にしているのであります。もとより私は長い間税率を修正せず、あるいは諸種の控除を中心にしてきたという歴史的な事情を否認するものではありませんけれども、今日の五十万から百万の所得階級と、五十万以下の所得階級の実態というものを、十分見ていただきたいと思うのであります。私が特に一つ数字を申し上げて参考にしたいと思いますのは、昭和十年に三十万から五十万の所得、つまり当時の金額を今日に換算をした数字になるわけですが、三十万から五十万の所得を持っていた人は三八%であります。五十万以上は六二%の数字が示されている。ところが昭和二十九年の納税実員を国税庁で調べてみると、年収三十万以下の納税者は七一%であります。そして三十万以上五十万までの所得階級が二二%であります。そして五十万以上の所得者は、わずかに七%という実態であります。従って、五十万から百万のいわゆる中堅と呼ばれている人たちに減税の恩典を与えることを、私どもは何ら否定するものではありませんけれども、今日のこういう条件の中では、やはり重点をもっと下級の所得階級に与えるべきではないか。その意味では、私どもが原則的に持っている勤労基礎控除をもっと引き上げたい、私ども労働者階級からいうと、十五万円に引き上げたいのでありますけれども、そういう原則的な態度を一応譲歩いたしましても、この辺で現在提案されている九万円を、ぜひ十万円程度基礎控除に引き上げていただきたい。そうすることによって、納税人員というものは、おそらく約百万ぐらいははずれることになるのではないか。こういう点をぜひ委員各位に参照していただきたい、このように申し上げるところであります。  なお、減税の問題であわせて付言しておきたいと思いますのは、地方税の住民税の引き上げであります。御承知通り、きょう閣議できまったそうでありますけれども、国税の面で減税をしながら、一面地方税、なかんずく住民税の七%引き上げということは、言葉を強めていうと、八百長にかかったという印象を国民が持つのではないか。もちろん絶対金額として現在の納税金額よりは減るかふえるかは、各人によって違うでありましょうけれども、国税の面でこのような大きな減税をするならば、同時に住民税を引き上げるような形はとらない処置をぜひとっていただきたいと思うのであります。このことは、私ども労働者あるいは国民の中の下層の生活をしている人たちが、おそらくひとしく声を大にして叫ぶところではないか。特にこの点を第一番目に申し上げたいのであります。  次に、社会保障関係であります。社会保障関係は、総体的には御存じの通り金額はふえております。しかしながら、この中にはたとえば失対費を三億七千五百万円でありますか、減らしております。その理由は、私はまだ詳細には知りませんけれども、おそらく最近の景気の動向を反映して、失対労働者が減っていくのではないか、こういうふうな判断をしているのではないかと想像いたしますけれども、現状を申し上げますと、現に約四十万の失対事業を希望する失業労働者があるのでありますが、そのうち、この予算で実行いたしますと、おそらく二十四万八千人というのが、この失業対策費の内容として含まれている人員ではないかと思うのであります。従いまして、私どもとしましては、ぜひ失業対策費の内容を十分ふやすような努力をしていただきたい。特に今回の単価は二十円プラスをされていることは大へん感謝をいたしますけれども、今、日雇いの、世間の中で一番最下層の生活をしているこれらの労働者は、どのくらい希望しているかというと、御存じだろうと思いますが、一日五十円のプラスを希望しているのであります。そして私ども組織労働者階級から見ましても、なおかつ生活の困難なこれらの諸君のことを考えてみた場合に、どうか本院におきましても十分なる配慮を加えていただきたい、かように思うところであります。  次に、健康保際の問題であります。健保の問題は、長い間政治問題としてもめて参った問題ではありますけれども、私どもの立場から参りますると、現在健康保険にかかっている患者の負担がふえるということについては、簡単にいえば、どうしてもかんべんしてもらいたい。少くとも今回の予算が総額約一割くらいふえておるにもかかわらず、社会保障費関係というものは一割ふえていない。なかんずく健康保険の問題等にいたしてみるならば、患者の負担をふやす、こういうふうな内容を含んでいるものと想像いたしますけれども、こういう点はぜひ患者の生活実態等を皆さんからも十分見ていただきまして、十分なる配慮をしていただきたい、かように申し上げておきたいと思います。  三番目に申し上げたいと思いますのは、独占物価引き上げの問題であります。この点は特に冒頭に申し上げました国民の上下の生活の断層の問題と関係が深くあるのでありますけれども、約一千百万の納税人員のほかに、たくさんの人たちが税金を納めることのできないような所得階級なのであります。そういう人々にさえ今回の独占物価引き上げは深刻な影響を及ぼすことは、私がここで強調するまでもなく御理解になるところだと思います。  たとえば第一番目の問題として、運賃の問題があります。私は運賃の問題にいたしましても、次に申し上げますガソリン税にいたしましても、あるいは鉄鋼製品、最近鉄鋼の建値が続けて何回も上っておるのでありますけれども、こういうふうな問題につきましては、減税の恩典を受けずに、しかもなおかつ日常生活費が上る、こういう事実を皆さんから十分検討していただきたいと思うのであります。特に運賃値上げの問題につきましては、世上あまねく論議されているところでありますけども、私をして言わせるならば、現在国鉄は二兆何億というような膨大な財産を持っておる。それにもかかわらず、私どもが調べた限りにおきましては、投下されている資本というものは、わずかに八十億程度ではないか、ここにそもそもの問題の出発点があるのではないか。しかも御存じの通り、いわゆる公共性という名前のもとに、全然もうけにならない新線開発というものをしなければならない使命を持っておる、そういう場合に、これを利用するものだけに負担させるというやり方は、果して穏当な処置であろうか。私から言わせるならば、そもそも国家のオール資本でやっている企業であるならば、当然資本を国家の責任においてもっと投下すべきではないか。普通の会社形態の場合ともちろん違うでありましょうけれども、常識的に見て当然もっと固定の資本をふやすべきではないか、そういう処置をとることによって、利用者負担によって国鉄の赤字をカバーする、こういうふうな処置は避けることができるのではないか。この点を特に御留意をいただきたいと思うところであります。  第四番目に、私ども労働者階級に直接関係のある賃金の問題について、若干意見を申し述べたいのであります。それは今回の予算の中に、人事院が勧告をしている国家公務員、あるいは間接的に関係のある地方公務員に対する賃金引き上げの問題が配慮されています。この配慮されていることは大へんけっこうでありますけれども、私が言いたいところは、今日官公労働者の賃金は、今まで三年の間上っていない。従って、三年目の今日この点については二千円上げてもらいたい、こういう要求をしています。そうして、その二千円の要求はどこに根拠があるかといえば、人事院勧告で示しているように、民間労働者に比較して国家公務員の賃金は一一%安い、ここに根拠を求めて二千円の要求をしているのであります。しかし、それにもかかわらず、人事院勧告で示されておるものは、総額千二百七十五円でありますか、わずかにそういう金額が盛られているにすぎない。さらに私が特に皆さんに声を大にして配慮をしていただきたいと思いますのは、国の立場から総額百五十何億でありますか、そういう膨大な金を使いながら、しかもああいう給与の体系では、それを受け取る側の労働者がこれを喜んでいない、こういう事実をぜひ皆さんに知っていただきたいのであります。従って、相当の金額を使うのでありますから、せめてそれを支給することによって労働者階級が喜んで働く、そういうふうな給与の体系に直していただきたい。これはひとり総評という立場ばかりでなくして、おそらく労使——この場合の使は当然国の性格ではありましょうが、当然大きな金額支出をするわけでありますから、喜んで働き得るような賃金体系というものを入れてやっていただきたい。このことを国家公務員の労働者が特に強く希望しておるということを皆さんに知っていただきたいと思います。  賃金関係で第二番目に申し上げたいのは、最低賃金制の問題であります。最低賃金制の問題は、まず第一に知っていただきたいのは、全世界ですでに五十余カ国が最低賃金制を実施している、こういう事実であります。そうして世界の情勢の中で、これほど発達した工業国家でありながら実施していない国は、わずかに日本とイタリアくらいであります。そういう事情をまず前提にいたしまして、今私たちが要求しているこの最低賃金制を拒否する側としては、よく使われる言葉でありますけれども支払い能力がないじゃないか、こういう一点にしぼられているのであります。確かに私どもが見まして、今日直ちに中小企業の経営の中から、たとえば私どもの要求している八千円という最賃制は、支払い能力はないのかもしれません。しかし問題は、そのことに入る前に、ぜひ考えていただきたいのは、たとえば私は今国鉄で首になってしまっていますけれども、国鉄の労働者の賃金を考えていただきたい。国鉄の賃金の場合は、新制高校を出て五千六百円であります。しからば国鉄に八千円の支払い能力がないのか、私は断じて国鉄に支払い能力がないとは思いません。問題は、従って支払い能力論に入る前に、現実のこの最低賃金制というものを、世界の趨勢と相マッチするという形の中で、やるという建前に立つか立たないか、こういう点がまず私は一番大きな前提ではないか。そうして今冒頭に私が言いましたように、支払い能力を持っていない中小企業経営に対しては、各種の助成策というものを十分手当することによって、漸次支払い能力を持つような形というものが生まれてくるんじゃないか。特にこの十年間の経済政策を見て参りますと、大企業にのみあまりにも国家の名前において各種の優遇策を講じ過ぎてはいないか。たとえば税制の問題にいたしましても、金融の問題にいたしましても、そういう面で種種の配慮を加えていただくならば、私は最低賃金制というものが一歩進むことができるのではないか。  特に、時間がありませんから最後になるわけですが、かりにこの最賃の問題と関連して、最近米国の繊維労働組合から私どものところへ手紙が参っております。その手紙は御存じの通り米国に今各種の綿製品が日本から流れ込んでいる、その事情について種々訴えているのであります。その資料を見ますと、繁雑でありますけれども簡単に数字を申し上げますと、一ダース当りでアメリカ日本を比較すると、驚くなかれ賃金の面ではアメリカの労賃が五ドルであります。日本賃金は一ドルであります。従ってその結果卸売価格アメリカの場合には一ダースで十三ドル二十セント、日本の場合には七ドル三十セント、これを小売価格としては、アメリカの場合には二十三ドル七十セント、日本の場合には十一ドル六十セントという数字が出るのであります。  そこで、私は皆さんに声を大にして申し上げたいと思いますのは、わざわざ日本からアメリカに運び、従って当然輸送費その他の諸経費が日本の製品の方に高くかかるのでありますが、そういう結果にしてもなおかつ米国のブラウスよりは、日本のブラウスの方が半額においてできる、こういうふうな事態というものは、どこに一体原因があるか。今私が申し上げました五ドル対一ドルという点に、おそらく決定的な原因があるということは、どなたも御理解がいくところではないか。  しからば日本の繊維業界日本の繊維会社の利益の状況はどうか。皆さんも御存じの通り、大企業の利益の状況というものは非常なものであります。従ってこのブラウスの問題等も、これはひとりアメリカの事情ではなく、昨年の十一月にはヨーロッパ各国の人々が集まりまして、日本の綿製品輸入の問題について、やはり相当議論をしている模様であります。従って今後日本が当然日本経済的な条件の中から輸出を重視しなければならないということは賛成でありますが、その場合にこのような飢餓輸出ともいうべきような条件を一日も早く改善をすることが、何よります必要ではないか。そのためには私どもとしまして、ぜひ最低賃金制というものを一歩進めた見地に、皆様方に立っていただきたい。そうすることによって、初めて日本のこのブラウス問題あるいは輸出等の問題におきましても、今までの各種の障害というものが一歩省けることになるのではないか、こういう点をもぜひ委員各位に御理解をいただきたいと思います。  最後に一つだけ申し上げておきたいと思いますのは、私どもの傘下にある専売の労働組合、こういう組合から見たいわば専門的な立場からの意見でありますが、たばこ益金を五十億一般会計にプラスを予定していますその結果、今でさえ新生であるとか、バットであるとか、みのりであるとかいうような下級たばこが、御存じの通り相当販売制限をしているのでありますけれども、それが五十億の益金プラスの計算によりましてさらに強まる。たとえば一つの例を申し上げますと、新生の場合には今日五日間の品切れをしているのでありますが、益金プラスによりまして、さらに五日くらいプラスされるだろう、バットの場合には十日間の制限しをているのが、さらに二十五日はおそらく品切れになるであろう、みのりの場合でいうならば十日間の現状が、新しい予算になりますと、さらに二十日の品切れというような実態になるだろう、こういうふうな実態というものを、どうか委員各位も十分見ていただきたい。もとより経営全体の問題等について種々御研究され、種々施策を立てられることはけっこうでありますけれども、こういうふうな下級たばこにしわが寄る事態は、冒頭申し上げましたこの予算が持っている基本的な性格というものを、一そう強めることになるのではないか、こういうふうな角度から十分なる、慎重なる御配慮をいただきたい、かように申し上げたいと思います。  時間がありませんから中途半端な意見しか申し上げることができませんけれども、御質問がありましたらお答えをいたしたいと思います。(拍手)
  26. 山崎巖

    山崎委員長 岩井公述人の御発言に対しまして、御質疑がございますればこれを許します。
  27. 小川半次

    ○小川(半)委員 岩井さんに一、二点お尋ねいたします。ただいまあなたの御意見のうち、特に賃金の問題について強弁いたされましたが、この点についてお尋ねしたいと思います。  まず公務員のベース・アップの件でございますが、あなたは過去三カ年間ベース・アップはされていないから、この際ベース・アップすべきである、こういうことでございましたが、べース・アップというものは、あながち一年たったからあるいは五年たったから上げなければいかぬという原則論というものはないのです。ですから、三年たったからベース・アップしなければならぬというその原則論は成り立たないのです。ただし定期昇給というものはあるのです。御承知のように定期昇給は年々行なっております。  そこで、それでは定期昇給以外のベース・アップというものは、いかなる場合に考えられるかという問題ですが、それは物価上昇しまして、どうしてもその物価に比べてベースが極端に低い場合は、その物価に伴うてベース・アップしなければならぬ、これは当然のことでございますが、そこでそれでは昨年来の適去一年間の国内物価の統をとってみましても、これは御承知のように上っておりません。たとえば働く人たちと最も関係のあるサービス営業を見ても、それから主食を見ましても、御承知のようにやみ米は過去一年間の統計をとってみましても、これは下っているのです。働く人は特に一般の人よりもよけいに飯を食うでしょうが、その一番肝心のやみ米は下っておる。それからサービス営業の方を見ましても、たとえば理髪ですね、理髪店なども百五十円であったところは百円にしておりまするし、二百円取っていたところは百五十円に値下りしております。それからコーヒーですね、よく公務員の人たちは、いこいの場所として喫茶店などを利用しておられますが、コーヒー店なども一年間見ておりますと、大体十円安くなっております。その他数え上げればたくさんありますが、このようにして物価は一面においては下っておる、もちろん多少上っておるところもありますけれども。そうして全体の物価の統計をとってみると、これは横ばいでございまするから、決して上っておりません。物価は横ばいであるわ、定期昇給というものは依然としてあるわ、その上になおかつなぜ公務員にベース・アップをしなければならぬかというところに、国民はやはりそのことについてもっと納得のいくようなものがほしいんです。そういう説明がほしいわけです。ですから物価上昇のときにベース・アップをなされることは国民は了解するでしょうけれども、横ばいのときに公務員のみに優遇するということは、一体おれたちの税金で、公務員をより優遇するのかというような不満の声も一面には起ってくるのです。こういう点なども考えなければならぬと思うのです。  そこでよしんば公務員のベース・アップをした場合に、全体に及ぼす影響はどういうものかというと、日本はどうも悪いくせがあって、すぐ役所を見習っていくのですね。役所の給料がこうだから、おれの会社もこういう給料を出せということになってきまして、公務員の給料を上げますと、日本国内全体の企業に影響してくるわけです。公務員のベースというものは、やはり国内産業に従事している人たちのベースを上回ってはならぬと思うのです。今日公務員のベースよりも、高い給料を払っている企業も事実あります。しかし公務員の場合は大企業、中小企業全体の、バランスの上に立つものでなくてはならぬ。要するにそれを上回ってはならぬ、それと並行する給料が私は妥当ではないかと思うのです。そこで中小企業の場合は特にそうですが、公務員のベースが上ってきますと、やはり中小企業のベースも上げなければならぬ。そこで中小企業の給料を上げる場合は、どうしても製品の単価の値上げをしなければならぬわけになってくる。ところが中小企業は御承知のように大企業の下請工場ですから、大企業の方もベースを上げなければならぬでしょう。大企業の方で公務員に見習って給料を上げるということになりますと、経営が非常に困難になってくるから、そのしわ寄せとその犠牲をどこに持ってくるかと申しますと、中小企業の製品の単価引き下げに持ってくるのです。中小企業経営者はそのしわ寄せ、犠牲をそこに働くところの労働者の賃金に持ってくる。こういうことになりますと、公務員のベースを上げることによって、その大きな犠牲を受けてくるのは中小企業の労働者になってくるのです。あなたは特に全国の労働組合のいわば最高の指導者であるわけですから、やはりそういう立場を考えて、ただやたらに公務員のベース・アップのみに熱を入れられて、その犠牲となり、そのしわ寄せとなる多数の労働者がおるということも、あなたはやはり念頭に置かなければならぬと思うのです。私はそういう御意見がほしかったのですが、あなたは肝心な御意見を出さずに、公務員のベース・アップのみを主張されたものですから、私は今申し上げたようなお尋ねをするわけでございます。  それから中小企業の労働者と違って公務員の場合は、景気景気に影響がないから非常に安定感があるのです。この点を一つ公務員はやはり——今日のような給料で甘んずるということは失礼ですけれども、私はある面で中小企業の労働者から見れば満足しなければならぬものがあるのではないかと思うのです。中小企業の労働者は絶えず一つの不安感がある。景気景気によって非常に極端な山、谷があるのです。公務員の場合はそういう不景気が来ても、一つも不安というものはない。公務員はそういう安定感の上に立っておるということなどを考えて、私はやはりその国全般の給料生活者の立場から見れば、公務員はそういう立場にもあるということも考えなければならぬではないかと思う。こういう点も一つあなたの御意見などを聞きたいのです。  それから勤労課税の点において大体私も同様な考えを持っておりますけれども、あなたは直接所得税の納税者を極力減らすべきだ、かつては七十数万人であったものが今一千数百万になっておるといって、非常に遠い昔の日本の例を申されましたが、私はあなたの考えとは逆なんです。私は直接納税者をふやすように持っていかなければならぬと思う。しかしそれはその国民の生活を豊かにしてですよ。問題は所得を豊かにし生活を豊かにして、一人でも多くの国民が納税するというところに私は生きた大事な政治があると思う。過去の日本の納税義務者のように、何か特権階級のように、おれたちだけは税金を納めているのだ、お前らは税金を納めてないじゃないかというような考え方を持たせるようなことでは、私は逆だと思う。そして納めない者が卑屈になって、納めている者がうぬぼれるような時代を作るべきじゃないと思う。ですから私は豊かに所得を多くして、そして一人でも多く、要するに国民全部が納税のできるような態勢、そういう政治が望ましいのです。あなたが飛躍された御意見を出されたのは、おそらく結論だけ申されたのだと思いますが、ちょっと御意見が飛躍し過ぎておりましたので、聞く人は非常に疑問を持ちます。そういう意味でお尋ねしたのであります。
  28. 岩井章

    ○岩井公述人 公務員のベースの話をいたしたのでありますが、それに関連して中小企業に働く労働者のことを少し軽く見ていやせぬかという意味でのお話だったと思います。私どもとしてはむしろ中小企業の労働者の現状が組織労働者の現状よりはるかにひどい生活をしている、こういう点は全く認識は同じであります。またそれなるがゆえにぜひ最低賃金制などを考えていただきたい、こう申し上げているのであります。公務員のベースは一体どういう形があれば、中小企業の労働者あるいは中小企業経営者にまでどういう影響があるか、こういう角度の研究などはもとより要求する際に十分しているつもりであります。それで問題の所在は、公務員の賃金のベースというものは一体何を基準に置いていくのがいいか、これはなかなか議論の分れるところだと思います。しかし私は学歴その他も大体似たような民間の事務員級の賃金を参考にして置くことが一番常識的ではないか、そういう角度から見て——これは私どもが言うのじゃなく、例の人事院勧告の中に、民間に比較して国家公務員の賃金は一一%低い、こういう結果が報告されているわけです。この人事院勧告の性格を私ども労働者はどう見ているかというと、ざっくばらんに言って、必ずしもわれわれの味方をする存在だとは思わない。その必ずしも味方をしないところでさえ、民間に比較して一一%違うじゃないか、こういうことを言っているということをぜひ委員各位に知っていただきたい。だから私ども労働者階級の数字というものは、とかく議論をする人たちに有利になるように作りがちなものなんですが、この場合一歩下ってみても、人事院勧告が実証しているという事実をぜひ知っていただきたい。従って一一%かりに上げたところで、それはお話の通りまるっきり民間の賃金にそのはね返りがないとはいえません。しかし公務員が低いといわれている現状を直すということが、それほど大きな影響があるだろうか、そういうことをおそらく政府の立場でも了承されたからこそ、人事院勧告の内容というものが出されているのだと思います。そこで、やかましいようですが、われわれがもう一ぺん皆さんに強調しておきたいと思いますのは、せっかく百何億という金を使うにもかかわらず、あの賃金の体系では受け取る公務員の側がいやだと言っているのです。だから体系について政府に対して団体交渉をする権限はありませんけれども、働く者の立場からのこういうようにやってくれという注文はぜひ聞いてもらいたい。そうすることによって公務員の方も喜んで働けるのじゃないか。これは私はきわめて常識的な意見だと思うのです。だからこの予算委員会の専門的な皆さんからも、そういう面をぜひもう一ぺん検討していただきたい。  それから中小企業の問題は、少し根本的な理屈を言うと、先ほども言いましたように、この十年間の日本経済のやり方は、例の敗戦直後の傾斜生産方式というものから始まって、結局大企業だけをあらゆる形で援助してきたと思います。しかし敗戦直後の灰の中から何かをまず復興しなければいけない、そこで鉄なり石炭なり船なりというものが重点的に取り上げられたことは、当時の条件の中では私どもやむを得ないと判断したから、当時は傾斜生産方式というものにもあまり反対しませんでした。しかしすでに経営者の団体がもはや戦後ではないと言うような今日になって、依然として税制の面でも金融の面でも、すべての補助というものがあまりにも大企業にのみ集中し過ぎていはせぬか。あとで大学の井藤先生が税の専門的なお話をされると思いますが、あの税制の中で特別措置法というのがあります。これを全部廃止していいかどうかは疑問に思いますが、大半のものは整理しなければいけない段階だと思う。そしてむしろ超党派的に中小企業の発展にもう少し目を向けなければいかぬのじゃないか。だから私ども総評としては、あるいは労働者階級としては——あの終戦直後には多少中小企業の労使の間にごたごたがある場合がありましたが、しかしその後だんだん中小企業の労使の間にはあんなに激しいごたごたというものはないようになってきている。ないようになってきているというのは、世間では総評が一番激しいといわれておりますけれども、私どもの指導方針でも、できるだけ中小企業経営を盛り立てるような方策をとるようにという指導を実はしているつもりなのです。だからこれは単なる予算の問題であるかどうかわかりませんけれども、国の経済政策あるいは政治の方向というものが、全体的にそっちの方を向いてもらうことが必要なことじゃないか、こういうことを常日ごろ考えているわけなんです。  大衆課税の問題についての理解は、どうも根本的な違いがあるようです。確かにお話の通り、税金というものはできるだけ層を薄く、広くやるべきだという意見は、私も何かの本で見たことがありますけれども、それにしてもあなたがおっしゃるように、生活が安定した中で初めてそういうことが成立するのであって、あなたも御存じだと思いますが、遺憾ながら一カ月働いて三千円から五千円というような安い賃金があるのです。そういうところにまで幅を広めるというようなことはお考えになっていないと思うのです。だから現状においては、もっと金持ち、というと言葉は悪いのかもしれませんけれども、比較的所得のたくさんある人たちから納めてもらう、これは学説的にどういうことになるのか、私にはよくわかりませんけれども、そういう角度からぜひ見ていただきたい。私がかりにその角度から言ってみても、今の超過累進のやり方が非常に不十分だと思うのです。御存じだと思いますが、イギリスあたりは九五%まで超過累進の最高はいっているのです。だからそう角度から見て、また現状から見て、ぜひ大衆課税の下の方の層をできるだけ税金からはずすようにということを、私どもとしてはお願いしたいと思っているわけです。
  29. 小川半次

    ○小川(半)委員 生産性向上運動について、実はきょうあなたが触れられるかと思いまして期待していたのですが、お触れでなかったので、お尋ねすることをお許し願いたいと思います。  御承知のように、あなたの所属しておる組合だけが参加しておらずして、他の日本の代表的な労働組合が生産性向運動に参加しておられる。このことにつてい国民は疑問を持つのです。なぜ総評のみが生産性向上運動に参加しないのか。生産することは国を豊かにすることだ、生産して輸出を高める、そして国力を充実し、国民生活を豊かにしていくという、日本経済の柱を作るべき産業の拡大をはかろうということに、なぜ総評は協力しないだろうか、こういう疑問を持つのです。ところが総評のあなた方は、要するに生産性向上運動は資本家をより豊かにさすことだ、物を生産すればするだけ、それは資本家をもうけさすのだというふうな考えをいつか発表されておることを、私は本で読んだのですが、こういうことは幼稚な意見です。よく考えてみれば、遠い過去の日本はいざ知らず、今日は御承知のように、国家機関の税務署というものがあって、その企業がどれだけ利潤を得ているかという経理の内容を調べ、そしてもうけているところから税金を取ったりしているのですから、それは資本家がべらぼうにもうけているところもあるかもわかりませんけれども、もしそれを見のがしておれば、それは国家機関そのものが悪いのであって、生産性を高めることが資本家をもうけさすことであるから、総評は、これに参加しないというような幼稚なことでは、日本の労働組合のために私は残念だと思うのです。御承知のように、今ヨーロッパを初めアメリカでも、世界の各国がこぞって、とにかく生産を高めることが人類の向上になるのだという目標でやっているときに、日本のあなたの組合だけがこれに参画しないということは、非常に残念なんです。ですから一つこの機会に、簡単でよろしいからあなたのお考えをお聞きしたいと思うのです。
  30. 岩井章

    ○岩井公述人 別に生産性の問題を故意に避けたわけではなく、時間がありませんでしたから触れませんでしたが、幸いに今の御質問がありましたからお答えをしたいと思います。私ども総評だけが生産性本部に参加していないということは事実であります。しかし御存じだと思いますが、中立組合でたくさんのところがまだ参加していませんけれども、その問題について私はこう考えているのです。今あなたはものの一面を非常に強くお話になったのですが、その論理を今度は私が使ってみると、労働組合なり労働者として、首切りなり労働強化が起ることに対して反対しない労働組合というのは一つもないのです。しかしそれはやはりものの一面なんです。これは私がきわめて常識的な男ですからざっくばらんに言ってしまえば、ものの一面同士を強調していることはもちろん問題の発展にはならない、こういうふうに私自身も考えるわけです。だから少しまん中に入ってみてものを考えれば、お話の通り日本産業全体を発展させる生産性向上というのもいいじゃないか、こういう見方はあると思うのです。ところが今やられていることを見ると、確かに私ども総評が反対しているにもかかわらず、生産性はどんどん伸びているのです。というのは、総評にそれほど決定的にそれを食いとめるだけの力がないから伸びるのです。それでは総評は一体何のために反対しているか、私どもの立場から、首切りなり労働強化なりあるいは配置転換なり、そういうふうな労働条件にかぶってくる被害を一つ一つ反対をしておる。そうすることによって、経営者側から見れば、ほんとうはもっと早く生産性が自分の気ままにどんどん伸びるものを、労働組合が反対をするから、幾分なりとも労働者側の犠牲を防ぎながら発展をしているというふうに私どもとしては見るわけです。だから抽象的な生産性向上運動あるいは生産性向上に反対するのかどうかと言われてみても、これは抽象論で問題にならない。今現に行われている生産性面上運動は、やはり労働者側に一方的な犠牲をかぶせられ過ぎるという事実をぜひ知っていただきたいのです。私は数字なんかを引くことを省まますけれども、先ほども簡単に言いましたが、昭和二十九年と三十一年度の大きな会社の利益上昇率を見れば、五〇%以上なんです。それほど利益を上げている。それにもかかわらず、それでは労働者側に賃金としてどのくらいを出しているか、先ほど私はわかずに三%ないし四、五%だと言いましたけれども、それではあまりにも開き過ぎるのじゃないか、今生産性本部の方々はわれわれを説得して、生産性を上げれば賃金を上げると言っておるのです。それから生産性を上げれば物価を下げると約束する。けれどもどもから見れば、生産性がこんなに上っているにかかわらず、賃金はちっとも上っていないじゃないか、こういうことをまず言わなければならない。それから先ほど鉄の建値がここで何回も上ったということを言いましたけれども、製鉄の場合は、生産性日本の場合一番上っておる。それにもかかわらず、御存じの通り昨年の六月、さらに秋、またここで何だかもやもやしているようですね。これはおそらく政府が実際には権限を持っておるのだろうと思うのです。それにもかかわらず、ここで一年以内くらいに約七〇%くらい鉄の建値を上げているのです。そのことがみんな自転車の下請だとか、あるいは自動車の下請だとか、そういう中小企業経営に非常な影響を与えるのです。だから生産性本部の皆さんが、せっかく絵に書いたお話として、生産性を上げれば物価を下げると言っているけれども、少しも下っていない。あなたのお話しのように、中には率直にいって下っているものもあります。やみ米なんかまさにそうですが、しかしこれは何も生産性とは関係がない。だから私どもの立場からみれば、イデオロギー的な問題も確かにあるけれども、当面多くの労働者大衆が反対しておるのは別にイデオロギー的な面じゃない。多くの大衆が反対しておるのは、労働者に加えられている害があるから、その害を除いてもらいたい。この点にわれわれの反対論というものがしぼられているわけです。私ども労働者階級だって、別に日本の産業発展というものを、決して希望しないどころじゃない。私は労働者なんか一番単純だから一番希望していると思う。しかし、そのやり方というものは、これではあまりにひど過ぎるじゃないか、こういうふうに私どもとしては日ごろ考えるわけです。
  31. 小川半次

    ○小川(半)委員 あなたのただいまの御意見の中に、われわれは労働者の首切りをあくまで拒まなければならぬから、生産性本部のやり方にも反対しているのだ、こういうお話しですが、何か生産性向上運動がここで労働者の首切り等とつながっているような御意見のようにも聞えるのです。おそらくあなた方のお考えは、生産性向上運動をやることによって、要するに産業を合理化するから、そこで失業者が出るのじゃないかというようなお考えのようですが、これはそういう単純な考え方でいけばそういうことも考えられるのです。しかし産業を合理化するということは、そこで非常に知能を高めて、そうして新しい産業を生むのです。新しい産業を生み、新しい企業を作るのです。そうしたらAの方を合理化して、たとえば失業者が出るとしても、Bの新しい産業が生れ、Cの新しい企業が生れるところに労働者が吸収されていくのです。そこに生産性向上の運動の根本があるのです。生産性向上運動の進歩さすことによって、労働者が必要になってくるのです。現在のものにばかりとどまっておることでなくて、新しい産業を生ます、新しい企業を生ますというところに、生産性向上運動のほんとうの精神があるのですから、そういう点をお考えになられて、やはり協力しなければならないと私は思うのです。
  32. 岩井章

    ○岩井公述人 今の御意見ですけれどて、確かに経済の論理としては、Aの産業でかりに十人の労働力が過剰になっても、やがて回り回っていってB、C、Dに発展するだろうということは、論理の一つとしてあるだろうと私は思うのです。しかし現実遺憾ながらそうなっていないのです。それはやはり日銀かなんかの数字ですけれども、最近の雇用の状況を見ると、こういう数字があるのです。遺憾ながら結論は製造工業の雇用は少しもふえていないということを示しているのです。通産省でしたか厚生省かの意見によると、日本の商業雇用は二〇%くらいまだふえてもいいような話しをしているのですが、私どもから見ると今あなたのお話しの通り、AからB、C、Dというふうに発展していくというのには、国の産業全体を発展させる基幹である製造工業の面において、そういうあなたがお話しになったように現実いかなければいけないと思うのです。これがサービス業だとかそういう面にのみ集中しておるというのが現実なんです。しかし文明が発展していけば、サービス業がだんだん拡大していくという原則もあるだろうと思いますけれども、今の日本状況では遺憾ながらあなたのお話しになるような工合に進んでいない。しかももう一つ私が強調したいと思いますのは、アメリカにしろヨーロッパにしろ、ほとんど完全雇用なんです。従って日本の炭鉱労働者がルール炭鉱に飛行機で送られていったように、そういう条件のときに生産性向上運動をやるやり方と、日本のように顕在失業者は六十何万とかいいますけれども、潜在まで合わせるとおそらく七、八百万いるだろう、こういう条件のときにやる生産性向上運動というものは、おのずから異なるものがあってしかるべきではないか。従ってあなたのおっしゃるように、やがてAが拡大していってB、C、Dに発展するから待てというお話しはよく経営者からも聞かれる。そこで待つには待つなりに総合的対策を立ててもらいたい、こういう主張をする。そうすると総合的対策というものは、一経営者の問題でなく国の問題になる。きょうは幸い国の皆さん方を前に置いてだから、申し上げれば、まず失業対策費をなぜ減らさなければならないか。総合対策の一つとして当然待ってくれの期間があるならば、もっと失業の面なり社会保障の面で十分なる配慮を加えることが必要ではないか、従って私どもが言いたいことは、お話しのように発展していく道どりはあるかもしれないが、遺憾ながら現実がそうなっていない、こういうふうに私どもとしては言わざるを得ないのです。
  33. 小川半次

    ○小川(半)委員 けっこうです。
  34. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質疑がなければ、岩井公述人に対します質疑は終了いたしました。岩井さんまことにありがとうございました。(拍手)  次に一橋大学学長、井藤半弥君に御意見開陳をお願いいたします。
  35. 井藤半弥

    井藤公述人 一橋大学長の井藤半弥であります。お招きにあずかりまして、昭和三十二年度政府提出の予算案について意見を申し上げます。  私に与えられました題目は主として租税及び地方財政、この二つの問題を中心に意見を述べろというお話でありますが、実はそれ以外にも関連がございますので、それ以外の問題につきましてもきわめて簡単に触れさしていただきます。  それからもう一つお断わりしておきたいことは、申すまでもないことでございますが、予算というものは種々雑多の角度から問題にすることができるのでありまして、昔は国防ということが中心になっておりました。あるいは治安こいうこと、社会保障であるとか、あるいは生産力の向上であるとか等々、いろいろな角度から論議することができるのでありますが、私は主として経済中心の立場で申し上げることといたします。従って私の申しますことが偏経済的であるという、いい意味あるいは悪い意味においての特性のあることは私自身がよく承知するところであります。  それからもう一つ申し上げたいことは、何分私は学校の教員で申すことがきわめて大まかでございますので、話が多少学校の講義風になることもやむを得ませんので、この点どうか一つ御了承を願います。むしろお前は教員だから、教員らしく講義風にやれというような御命令もあると思いますので、やはり教員の本性を現わしまして、皆さんを生徒扱いにいたしますから、どうぞ失言がありましたらお許しをいただきます。  そこで中身に入りますが、きわめて簡単に要点だけを申し上げます。私実は三十分の予定で参りましたが、二十分にせよという委員長のお話ですが、多少超過することも御了承願います。  そこでまず第一に最近、前からでもそうでございますが、予算の規模が問題になっております。それでこの予算の規模が大き過ぎるか、小さ過ぎるかということにつきまして、経費の総額を国民所得で割り算をやりまして、去年と比較して多いとか少いとかいうことが問題になっております。計数を申しますことは省きますが、その計算をいたしますと、予算の説明の第二ページに出ておりますように、昭和三十二年度一般会計の経費は国民所得の一四%に当るということであります。これは予算の説明には出ておりませんが、一般会計及び特別会計を総合いたしました純計について計算いたしますと三一%であります。最近数年間の趨勢を見ますと、純計によって計算した場合と一般会計だけによって計算した場合とあまり変りません。それからまた純計によることにつきましてはいろいろ問題がございますので、一般会計だけについて申しますと一四%になっておるのであります。それで昭和三十一年度はどうだったかというと、当初予算について申しますと同じく一四%。そこで今度は、国民所得がいわば国の経済力を代表するものなんだから、国民所得もふえたのだから予算の規模がふえてもいいだろう、こういう議論一般に行われております。私はその議論は間違いとは申しません。熱が少し出た場合に、からだに多少異常があるのと同じでございまして、確かにその点は正しいのでございますが、きわめて粗野な議論であることは申すまでもないことでございます。それではどの点が問題か、これも結論を申しますと、そんなことはわかり切ったことだとおっしゃるにきまっているのですが、しかし一応結論を申しますと、国の経済力を表わすものといたしまして国民所得をとるということは、これは不正確であります。国民所得のほかに、過去から蓄積されました国民財産があります。それから外国の経済力であって、自分の国が利用するものがあるのであります。経費の数量を国民所得で割って、それをもって財政の規模の標準といたしますと、たとえば昭和十九年度などはとんでもない数字が出まして、一般会計及び戦費の純計を国民所得で割りますと、一七三%という数字が出るのであります。なぜそういう数字が出るかと申しますと、御案内の通り昭和十九年度は、これは井藤の推算でございますので少し怪しいのでございますけれども昭和十九年度一般会計及び戦費の純計のおよそ四三%が外地の経済力を軍が徴用いたしまして戦争に使ったのであります。そこで昭和三十二年度日本の国民財産の規模はどれだけかという問題でございますが、御案内の通り日本の国民財産につきましては、昭和五年末及び昭和十年末についての精密な計算がございます。それから昭和二十年の八月十五日現在資本的富についての概算があるくらいでございまして、終戦後今日まで国民財産についての計算はございません。何でもあと一両年の間に総理府の統計局で国民財産の推算をやるそうでありますが、しかしわれわれの感じから申しますと、戦争前に比べまして一人当りの国民財産は減っておるのではないかと思われるのであります。そこで、そういう点が無視されておるということと、それからその次に経費を国民所得で割って何パーセントだという結論が出ましても、経費の内容がどうか、経費がうまく使われておるかどうかということがまた当然問題になります。それからその経費をまかなうための収入調達のやり方がどうか、これもまた問題になるのでありまして、これらのものを総合して問題にしなければならない。簡単に申しますと、予算を問題にする場合は、すべて総合しなければならないのだという、きわめて平凡なる結論になるのであります。  そこで経費の内容についてきわめて簡単に申しますと、現在わが日本におきましては、私の言うところの消極的経費が非常に多いのであります。  経費を積極的経費と消極的経費に分けまして、これは経済という立場から申しまして、作用の消極的なものを消極的経費、具体的に言ってどういうものを消極的経費と言うかというと、防衛関係費、それから恩給の経費、国債の経費——公債の元金、利子であるとか国債費であるとか、社会保障の経費、賠償の経費等々、こういうものはみな消極的経費になるのであります。何でも私は経済中心の立場から見ておりますので……。そこでそういうような立場から見ますと、現在日本では消極的経費が非常に多い。私は消極的経費がむだとは申しません。しかしながらあくまでも一番最初に申しましたように経済中心の眼から見ますと、たとえばこれは失言になるかもしれませんが、恩給をもらうような者は早く死ねということになるのであります。(笑声)これは経済中心の立場から言えば当然そうであります。それじゃお前は恩給はもらわない方がいいのかというと、私は来年停年でありまして、恩給が廃止されては困るのですが、(笑声)しかし恩給をもらうようになった場合は、早く死ぬ方が足手まといが減る、こういうような非人情的な立場で計算いたしましたものが、累計されましたのが消極的経費であります。  そこで消極的経費、積極的経費を国の一般会計について区分いたしますと、昭和三十二年度は消極的経費が五三%であります。残りの四七%が積極的経費であります。昭和三十一年度は幾らかと申しますと消極的経費が五四%、一%消極的経費が増しております。過去にさかのぼりますと、昭和十年は消極的経費が七二%、これは非常に多かった。なぜかというと、当時軍事費が非常に多かったからであります。軍事費は一般会計では約半分を占めております。それに比べますと現在の五三%というのは、消極的経費は少いのであります。終戦後の趨勢を見ますと、消極的経費の多かったのは、昭和二十二年の六四%であります。これは当時終戦処理費が多かったり、価格補給金が多かったり等々、そういう事情で消極的経費が六四%、これが非常に多かった。ところがそれから後終戦処理費が減ったり、価格補給金が減ったりいたしまして、消極的経費がだんだん減って参りました。昭和二十二年度六四%であったものが、一番減った底はいつかと申しますと、アメリカ日本を占領しておりました最後の年の昭和二十六年度で、昭和二十六年度一般会計における消極的経費のパーセンテージは四一%、非常に減っております。ところがそれから後また徐々にふえて参りまして、昨今ではどうしても五三%、五四%、半分以上になっておるのであります。将来はどうかといいますと、やはり賠償費がどうしてもふえる見込みでございます。それから恩給費の増額、防衛関係の経費も、いい悪いは別といたしまして、ふえるような情勢になっております。それからガリオア、イロアを返さなければならない等々で、日本の財政という点から申しますと、しかも経済中心の立場から見ますと、消極的経費がふえる傾向がある。この点大いに問題があるのではないかと思うのであります。  今度は収入の方面に入ります。申すまでもなく現在日本一般会計の収入の中心は税金であるということは申すまでもないこと、そこでしばらく税制問題について卑見を申し述べさせていただきたいと思います。この場合、私は国税、地方税を合計いたしまして問題にいたします。国税、地方税を合計いたしますと、政府発表の資料によりますと、昭和三十二年度は一兆五千六百四十億。そこでこの一兆五千六百四十億という税金の総額が一体これでいいかどうかという問題、日本の国民経済その他の立場から見て、これでいいかどうかということについて、普通一般に行われる方法は、この総額を昭和三十二年度国民所得で割り算いたしまして、大体の見当をつけるという方法であります。御案内の通り昭和三十二年度は一九%であります。この一九%というのは、ここ数年来は大体二〇%ないし一九%で、ほとんど変っておりません。シャウプが参りました年、すなわちメャウプ税制改革の前年であります昭和二十四年度は二六%、これは大へん重うございました。それでこれを戦争前と比較いたしますと、昭和年度は租税の国民所得に対する割合は一四%であります。これに対して現在は一九%、昭和十年と現在と比べまますと、現在は三割六分重いという。パーセンテージになります。ところが御案内の通り国税、地方税を国民所得で割った比率だけによって、国の租税負担が重いか軽いかを判断することは、さっきも申しましたような意味で、熱があるからからだが悪いとか、顔色によって、声の大きさによって健康状態を判断するのと同じでありまして、ある点は正しいけれども、そう当てにならない。それで、どこが当てにならぬかということを六つ、七つ、八つ、学校の教員は教室で列挙いたしますが、ここではそういうような数字は遠慮いたしまして、やはり計数で申し上げないといけません。私の今出し得る計数は、私が公聴会などで絶えずやっておる方法でありまして、皆さん方の中には、またあれかとおっしゃる人があるかもしれませんが、ばかの一つ覚えでこれはやむを得ないのであります。そこで、私がやっておりますのはどういうやり方かといいますと、分子には租税を置きまして、分母は国民所得から食費を引いたものをもってかりに負担能力の最大限を示すものとみなしまして、それをもって租税を割るとどうなるか。その計算をいたしますと、昭和三十二年度は三四%であります。昨年は三六%であります。この計算によりますと、昨年よりはさすがに今度は減税が行われておりますために、三六%が三四%に減っております。ところが日華事変の前の昭和年度はどうであったかと申しますと、今の計算をいたしますと一九%であります。さっき申しました、租税を国民所得で割った場合はどうかというと、さっきの計数に戻りますが、昭和年度は一四%だったのが、昭和三十二年度は一九%でございますので、三割六分現在の方が事変前に比べて重いことになっております、ところか租税を今申しました負担能力の最大限によって割り算いたしますと、昭和年度は一九%であったものが、現在三四%になっております。すなわち昭和十年に比べますと現在は八割重い。租税を国民所得で割り算すると三割六分しか重くなっておりませんが、私が申し上げました、より精密と思われる計算によりますと、八割重くなっておるのであります。これが租税総額であります。  今度は租税の内容であります。一般普通にいわれていることは、租税の内容を大づかみに判断する場合には、直接税のパーセンテージが多いのが望ましい、何となれば直接税は累進課税が行われている。しかし間接税はとかく大衆課税の色彩が強い。私は大ざっぱに申しまして、大体そう言っていいと思います。これは御案内の通り昭和三十二年度は直接税が五〇%、それから残りの五〇%が間接税、これは国税だけです。地方税は入っておりません、それから昭和三十一年度、去年はどうだったかと申しますと、直接税は五一%であります。これは戦争前の直接税三五%に比べますと、直接税の比率が高まっておるということは言うまでもないことであります。しかしながら、昭和三十二年度は三十一年度に比べますと、一%だけ直接税の比率が減っておる。しかしこの辺の一%ぐらいは大勢に影響ございません。そこで申し上げたいことは、これも私はいろいろな機会に言っておるのでありますが、直接税、間接税と分けましても、現在は直接税にはきわめて大衆課税の色彩が強いのであります。先ほど岩井さんの公述の中にもちょっと出ましたが、多分同じ資料ではないかと思うのでありますが、計数の扱い方がちょっと違います。私は、現在の日本の直接税、ことに所得税というものが非常に大衆課税の色彩が濃厚であるということを計数で申し上げます。これは三十一年度予算について大蔵省主税局が発表した数字でございまして、半年ほど前でちょっと古いのでありますが、しかし私の入手し得る一番新しい数字であります。昭和三十一年度の所得税の申告納税だけについて見ますと、申告納税者総数は百八十八万人であります。このうち一年の所得五十万円以下の者が何人占めているかというと、その。パーセンテージは八七形であります。申告納税者のうち、人数から申しまして八七%の者が五十万円以下であります。それから申告所得総額は幾らかというと七千百三十億円でありますが、このうち五十万円以下の者の合計は全体の六八%であります。大体申告納税は金持ちがやるのだ——金持だけじゃなく農商工業者もおりますが、申告納税はまあまあ金持ちがやるのだと常識で考え得ないこともないのでありますが、今申しましたように、人数から申しまして八七%であります。それから所得金額から申しまして、六八%は五十万円以下の者です。現在五十万円以下といえば、これは大衆とみなすべき階級に属することは言うまでもないことであります。それから課税の対象となる給与所得者はどれだけかというと、八百四十七万人、このうち五十万円以下の者は九二%、これはわれわれの常識であります。大部分は五十万円以下であります。  それから課税の対象になる給与所得総額は幾らかというと、二兆四千億円であります。このうち五十万円以下の者は八〇%であります。そこで、給与所得並びに申告納税両者についてみますと、大部分が、ぼんやりした言葉で言うと七割ないし九割であるが、このぼんやりした言葉で言うと七割ないし九割に当るものが五十万円以下の階級である。五十万円というのは昭和十年ごろの貨幣価値に換算いたしますと千四百円でございますので、昭和十年ごろの千四百円といえば大した金持ちではありません。そういう人たちが現在日本の所得税の大部分を負担しているのであります。  それで納税者の数でありますが、これは先ほど岩井さんが申しましたように、昭和十年までは所得税の納税者の数が百万人をこえるということはほとんどなかったのでありますが、昭和三十一年では一千万人になっている。これを見ても、いかに現在所得税が大衆の負担になっているかということがわかる。  それからもう一つほかの数字を申しますと、現在日本におきまして——これは昭和二十九年度でありますが、たとえば所得税を払う人のうち百万円以上の人はどれだけか、五十万円以上の人はどれだけおるかということを所得税のかかる所得の階層別の分布表によって計算いたしますと、昭和二十九年度において二百万円をこえる所得は全体の何%を占めておるかというと、驚くなかれ、わずかに二%しか占めておらぬのであります。二百万円をこえる課税所得というものは、所得税の対象となる所得のうちわずかに二%しか占めておらないのであります。ところが、昭和十年ごろはどうであったかと申しますと、二百万円を昭和十年ごろの貨幣価値に換算いたしますと大体六千円です。これは大ざっぱな計算でありますが、昭和十年ごろは六千円である。ところが、六千円以上の所得のある人が所得税を払う人の中で何割占めてをったかというと、三九%、四割に近いのであります。すなわち現在はどうかというと、二百万円以上、すなわち昭和十年ごろの貨幣価値で申しますと六千円の人が、課税の対象になる所得総額のうち占める割合はわずかに二%である。ところが昭和十年ごろは四九%であった。これを見ても、現在わが日本におきまして富の分配関係がいかに平等になっているか、その平等になっているのも、さっきの小川さんのお話のように上の方に平等になったらいいのでありますが、下の方に国民皆貧という形で平等になってきたのであります。  そこでなぜこうなったかと申しますと、これも申すまでもなく、次に述べますような一連の事実並びに終戦後の政策の結果によるのでありまして、それは具体的に申しますと、まず戦災、戦災は持てる者が失うことが大きいのであります。裸の者は何も失いません。それから農地改革、それから臨時の財産税、財閥解体、集中排除、インフレーション等々、そういう高いものがずっと切られたという事実、もちろん最近はこの情勢がだいぶ変って参りましたが、こういう事実がありましたために、国民皆貧という方向になってきたのであります。ここに日本の租税政策のむずかしさがあるのであります。たとえば累進税を金持ちには九九・九%にしよう、これは私は制度として非常にいいことだと思います。しかしながら、それから一体どれだけの税収があがるかというと、二百万円以上の人が二%しか占めておらないのでありますので、どうしても大衆課税をやらざるを得ない宿命的な——だからといって大衆課税がいいというのではもちろんございません。こんなことはもちろんよくないのでございますけれども、ここに日本の租税政策のむずかしいところがあるのではないかと思うのであります。  そこでそれに関連して私が申し上げたいことは、現在日本におきましては、今のような客観的な事実がございますので、間接税もやはり意味があるんだ。間接税がどんな場合でもいいというのではありませんが、現在の日本では間接税も存在理由がある。なぜ存在理由があるかと申しますと、間接税は選択の余地がある。たとえば井藤の月給が五万円あるとすると、いやおうなしに直接税は取られますけれども井藤は遊興飲食税を払いたくなければ遊興飲食をやらなければいいんだ等々、間接税は選択の余地があること、それから分割払いをしてもらえる、それから納税の苦痛が少い。これは間接税がいいということではありません。納税者の苦痛が少いということはいい面も欠点もあるのであります。知らぬ間に、興奮しておるうちに徴収されるという面もあるのであります。それから課税の便宜等々、今のはどちらかというと末梢的なものが多いのでありますが、それよも理論的に申しますと、間接税というものは奢侈の重課ができる、直接税は非常に評判がいいので、私も直接税はいいと思うのでありますが、直接税だけですとどうしてもいけません。と申しますのは、たとえば一年の所得が十万円の独身者の勤労者といえば、その人の金の使い方いかんにかかわらず所得税の金額が均一であります。ところが同じ十万円の所得のある人でも、その人の金の硬い方が社会的にいい面に使う人もあれば悪い面に使う人もある。それを税金の方で差別するということになると、どうしても消費税、間接税でかけざるを得ないのであります。それには奢侈重課という建前をとらなければならぬことは言うまでもないことであります。  そこで今度は税制の内容に入りますが、御案内の通り税制調査会の答申書が出ております。これについて、私どうも世間に誤解というと少しえらそうなものの言い方でございますが、税制調査会の今度の答申書は日本の税制の根本的改革だというような印象を一部に与えておるのでありますが、私をして率直に申し上げますと、制度としては根本的改革と私思いません。部分的改革でございます。何をもって根本的改革か部分的改革かということが問題ですが、それよりももっと意味があるのは、大規模な所得税の減税をやったこと、これは大きな意味があるのであります。しかし税制としては私は根本的な改革と思っておりません。そこでこの税制調査会、それから地方制度調査会、私も委員として参加さしていただいたのでありますが、私がこれから申しますことは税制調査会、地方制度調査会の意見ではもちろんなくて、あくまでも井藤一個の意見であることは申すまでもないのでありますが、あの税制調査会がいろいろこの問題を取り扱いましたときに、去年の九月ごろでございましたか、自然増収は大体千二百億、それを前提として議論をしていったのであります。ところが答申書のまとめ上るまぎわになりますと、これは別に大蔵省がこういうことをやったのではありません。これは情勢の変化によって判断が変ってきたのでありますが、十二月になりますと自然増収が千五百億、それから予算の説明を児ますと二千億以上の自然増収となっております。そこでわれわれ税制調査会で考えた場合には、千二百億を前提として考えた、二千億の自然増収があったのだったら私は税制調査会の答申の内容は、非常に違ったものとならざるを得ないのじゃないかと思います。私はそういう自然増収がふえたということをも念頭に置きまして、政府の今度の租税政策について一応申し上げておきたいと思います。  そこで税制調査会の建前は、皆さん御案内の通りに三本足からなっておりまして、第一、番の足は、普通の所得税についておよそ千億円の減税をやる。それからもう一つは租税の特別措置を廃止する、これは減税をやめるということですから増税になる、それからもう一つは間接税を増徴する。こういうようなものを差し引きして、数百億円の減税をやろうというのが税制調査会の案であります。ところが今度の政府の案を見ますと、三本の足のうちの第一番の、所得税を一千億円余り減税するということは、政府の案と税制調査会の案とは違いますが、大体その方針は貫かれておりまして、私はこれは非常にけっこうなことだと思います。ところがあとの二本の足については、私と政府の今度の原案とは意見が違うのであります。  まず租税の特別措置の整理の問題でありますが、これにつきまてしは政府の案は大体税制調査会の案を尊重されておりますけれども、次の三つの点につきまして私は政府の案に賛成することはできないのであります。それはまず米穀所得課税の特例です。米の所得課税の場合に予約売り渡し米穀代金の一部を非課税とするということが現在租税の特別措置で行われております。これにつきまして非常に恩恵をこうむるのは大農であります。これは農家が一般に恩恵をこうむるようでありますが、事実これによって恩恵をこうむるのは大農であります。この制度は税制調査会ではやめるようにという答申だったのでありますが、政府はこれを存続されるようであります。それから社会保険料の診療報酬の課税の特例として、社会保険料診療報酬の七二%を経費とみなすということでありますが、これも社会保険料の報酬の単価が安過ぎるというので、そのしわが税金の方に寄ったのでありますが、やはりこれによって負担が非常に不合理になっておることは言うまでもないことであります。それからまた利子免税をやめるようにすることが税制調査会の考えであったのですが、これは一部しかいれられないで、一年以上の定期預金について利子は課税を免税とする、もっとも二年間に限る。これは貯蓄奨励とか理屈はあるのでありますが、私は貯蓄奨励はやはり税金が安いということよりも、通貨に関する国民の信頼の程度ということが貯蓄に一番影響するものだと思っております。それから負担の均衡その他から申しまして、利子免税というものを全部やめなかったということは、これは私はどうかと思うのであります。  結論を申しますと、租税の特別措置につきまして、政府が今度とろうとする案のうち、今申しました三つの点はむしろ税制調査会の案の方がよくて、政府案がよくないと私は考えております。  それから今度は第三番目の足の、間接税の増徴の問題でありますが、政府の案で原糸課税は中止されたのであります。私は率直に申しますと、原糸課税中止は私は賛成なのです。というのは、税制調査会の案における原糸課税におきまして、やはり大衆課税を防止するために多少免税品目を作りましたけれども、しかしながら大衆課税の要素はある程度まであったのであります。それをやめたということは、これは自然増収が千二百億の予定が二千億になったということから、これは当然だと思います。ただ遺憾なことには奢侈重課を目的としたところの物品税の重課というもの、税制調査会では物品税の重課を答申しておったのでありますが、それが行われなかったということは、私は税制調査会の案がよくて政府案は賛成できないのであります。具体的に申しますと、物品税のうちテープレコーダーや観光バスなどは新たに物品税をかけるように追加しようとか、あるいは電気洗たく機などの課税の最低限を引き下げて税金を少し重くしようとか、そういう奢侈性——まあ電気洗たく機なんか井藤のうちにもありますので、これが一体奢侈のものかどうかわかりませんけれども、しかしながらとにかくやや奢侈性の大なるものの税金を重くするということは、間接税の負担を重くするというならばやはり物品税の方をふやすよりほかに道がない。私は取引高税は反対です。私はやはり広く浅く税金をかけるということは反対です。間接税を重課するのだったら、物品税の奢侈性の大なるものを重課する以外に道がないのではないかと思っております。そういう建前から見ますと、今度の物品税の改正が見送られたということは私は遺憾であると思うのであります。これが税制調査会と政府の案との比較に関する私の考えです。  それから今度は税制の内容について申しますと、現在日本の税制のうち、理論的に申しまして一番問題が多くて一番整理されておらないのは、それは税制調査会の答申においても整理されておりませんが、それは何かと申しますと法人所得の課税制度であります。これは具体的に申しますいとまもございませんのでやめますけれども、法人擬制説的な課税の要素と実在説的な課税の要素が非常に混在しておるということだけを申し上げたいのであります。  そこで、私は日本の財政の理想といたしましては、やはり歳出の膨張をできるだけ抑制して、そうしてできるだけ余裕を減税、ことに小所得者の減税に充てるのがいいのじゃないかと思います。  それから地方財政の問題でありますが、地方財政の問題は国家財政の問題と違いまして、皆さん御案内のことでありますが非常に複雑で、金持ちの地方団体もあれば貧乏な地方団体もございます。現在このことは一口で申し上げにくい問題がございまして、非常に複雑なのでございますが、現在の日本の地方財政の特性は私は次の二つにあるだろうと思っております。昭和三十一年度は、地方財政再建整備促進法ですか、あれによりましてだいぶ日本の地方財政は再建に向っておりましたけれども、現在なお地方財政において大きな問題があります。それは次の二つであります。  一つは、公債費が累増しておるということ、それから二番目は地方の独立税が地方財政の歳入において占めておるパーセンテージが低いということであります。昭和三十年度の決算の見込みについて申しますと、地方独立税が地方団体の歳入において占めておる地位は、全国平均いたしますと二二%であります。国家の場合は、専売益金を加えましておよそ九二%までは税金であります。地方公共団体では三三%、ことに府県にあきましてはわずかに二四%だけが税金でありまして、残りの七六%は税金以外のもの、それから町村は四五%が税金であります。申すまでもなく、資本主義社会における代表的な収入形態は何かといいますと、税金であります。税金の地位が、現在日本の地方財政においてきわめて低いということは、何といっても変態であります。  そこで私は、この点ちょっと一部の方々とは意見が違うのでありますが、今度の税制改革で、国税については減税をやったが、地方税については減税のやり方が少いという点について不満がありますが、私は不満ではないのです。私は、これはやむを得ぬと思っております。というのは、現在の地方団体において税金の地位があまりにも低いということは変態でございますので、この変態を画すということは、地方団体の健全なる発展のために必要じゃないかと思うのであります。しかしながら私は、国税は減税すべし、地方税は増税すべしというのではございません。もちろん地方団体の中にも富裕な団体がございます。これは大いに減税すべきでありますが、減税をやろうと思ってもできないものがあるという点、それから租税の地位が低いという点は、これは何といっても変態でありまして、税制改革、財政改革によってこれは何とか直さなければならないのじゃないかと思います。  そこで、よくこういうことを言われます。地方自治ということは非常に望ましいのだ。ところが現在の日本の地方団体を見ると、どうも身分不相応の金を使っておる、貧乏なくせにいろいろなぜいたくをやっておる、そうだからして地方財政に赤字ができるのだ、何とかして自分の資力相応の行政規模を持つようにしたらどうか、こういうような議論がかなり強いのでありますが、私、結論を申しますと、現在の日本では——これは日本だけではありません、外国でも同様でありますが、こういうことは言うべくして行うことができないのじゃないかと思います。私は身分相応の生活をやるということ、かりに名づけまして孤立的地方自治ということ、すなわち自分の資力で自分の財政をまかなうということは、言うべくして行うことができない。  なぜかと申しますと、資本主義発達下の現在の諸国の地方団体におきましては、次に述べる二つの特性が現われております。そのうちの一番の特性は、各地方向の違いがなくなったということであります。昔は地方間にいろいろな差異がございましたが、現在では通信交通の発達、それから大企業の国民経済における支配力が強くなりまして、全国の経済がとかく同じ条件によって左右される。そういう事情で、各地方のローカル・カラーがいろいろな意味においてなくなったということが一つ。それから二番目の特徴は、地方行政におきまして最低限の行政規模の確保の要求ということが、デモクラシーという立場から言われております。デモクラシーという立場から言うならば、金持ちのところであろうと貧乏なところであろうと、教育やその他文化施設については、国家として、また地方団体としてなすべき最小限度があるのだ、たとえば金持ちのところは六・三二二・四までやる、貧乏なところは六・三をやめて六・二にしておこう、こういうことをやるということは、国民全体の発展のためによくないのであります。これはほかの点についてもあります。そのために、地方行政におきまして最低限度の行うべき行政内容というものがあります。この二つ、これがあるために、これが地方財政にどういう影響を与えておるかと申しますと、まず経費について申しますれば、各地方の経費にあまり違いがないということです。それから二番目には、経費の伸び縮みの弾力性が非常になくなったということであります。ところが経費をまかなう歳入、経済力はどうかというと、これは日本国内でも外国でも同様ですが、非常な違いがございまして、昭和二十九年度について申しますと、一人の所得の全国平均を一〇〇といたしますと、金持ちの多い東京都民の所得は一五五で、全国平均よりも五割五分多いのであります。大阪府は一五三であります。一番所得の少いのは鹿児島県でありしまて、全国平均の一〇〇に対しましてわずかに五四、岩手県が六八、こういうように富の力が大差がありますので、各地方団体が身分相応の生活をせよといってもとてもできません。そうしますと、どうしても中央政府から金を出しまして財政の調整をするということが必要なのでありまして、これが地方自治ということ、あるいは地方民の全体の発展のために必要なのであります。  ところが、現在の日本の財政調整制度について私申し上げたいことは、現在日本には財政調整制度の中心として交付税があります。ところがそれ以外に入場税譲与税があります。それから地方道路税があります。また今度は、今国会に出ております案によりますと、特別とん税譲与税というのがありまして、現在中央政府による財政調整財源ともいうべきものは四つありますが、もう一つあるのであります。それは何かと申しますと、たばこ消費税、これは地方独立税とは申しますけれども、納税義務者は専売公社でありまして、私は、これは性質は譲与税と同じものでありまして、譲与税の方に入れる方がいいのじゃないかと思います。そういたしますと、中央政府による財政の調整のやり方は五つある、これは非常にややっこしいのであります。私は学校の講義をする際前夜下調べをしていかないと学生に講義ができない、ことほどさように複雑であります。私は、複雑ということが、制度が複雑にならざるを得ないために複雑になるのだったらこれはやむを得ませんけれども、五つもあるためにこれはいろいろ不合理なことがあります。私は学校の教員ですから空論を申し上げますので御了承願いたいと思いますが、私はこの五つをやめてしまって、そうして交付税一本にしたらどうかと思うのであります。そのかわり交付税の内容につきましては修正を加えなくちゃいけません。  それから、私は交付税がいいと申しましたけれども、交付税よりは昭和二十八年度までやられておった地方財政平衡交付金制度の方がよかったと思っております。なぜかと申しますと、交付税は御案内のように、所得税、法人税、酒税で、これは初めは二二%、現在は二五%、今度は二六%に上りますが、毎年々々交付の率を変える。建前からいいますと、変えないことになっておりますが、毎年変えますので、大蔵省と自治庁と地方団体の間に、もっとふやせ、ふやさないということが起るから、この三つの税金の割合にしておけば、そういう摩擦が少いだろうということが大きな理由になっておりました、ところが過去の経験によりますと、毎年あの税率をふやせ、ふやさないということが議論になっております、これは当然のことなので、この三つの税金の二二%とか二五%とかいうふうに機械的にきめるという制度自体に無理があるのでありまして、幾つも幾つも要素があって、地方団体の赤字といいますか、歳入の不足ができる、それを埋める場合に今言った三つの税金の割合にしようとしても、これは制度自体に無理があるのでありまして、そういう意味においては、平衡交付金制度の方がよかったということを、当時から言っております。それから過去三年間、四年間の経験からしますと、やはり私の考えがよかったように私は考えておるのであります。  それからもう一つ、これを平衡交付金に統合するにつきましても、現在の交付金の配分の基準その他については修正を加えなければならないということは言うまでもないことであります。  いろいろまとまりありませんことを申しましたのですがこれをもって私の公述を終ります。(拍手)
  36. 山崎巖

    山崎委員長 井藤公述人の御発言に対しまして御質疑がございますればこれを許します。
  37. 柳田秀一

    ○柳田委員 先生に一つお尋ねしますが、先ほど地方の団体では税の占める割合が非常に少い、そういう点はよくない、これはお説の通りで、それで所得税は減らすが地方税はふやした方がいいのではないか、私はこれは一つのアイロニーとして受け取ったのですが、結局そのことは日本の税体系がやはり中央集権的で、所得税にしても酒税にしても法人税にしてもそれからたばこ消費税にしても、徴収にあまり金がかからぬ、人件費がかからぬ、取りこぼしがなくて広い範囲からとれて、しかも多額のものがとれるといううまい税金は全部大蔵省が吸い上げて地方税にかすばかり残っている、こういうこと自体に問題があるのじゃなかろうか。従って国税と地方税の税体系の根本的な配分の問題、これに対しては先生はお触れにならなかったのですが、この点に関してはどういうふうにお考えになりますか。
  38. 井藤半弥

    井藤公述人 御案内の通り、現在日本でおもないいところはみな国がとって、国の食い残りを地方税に回す、こういうような傾向は確かにあると思います。そこで地方財源、地方税をふやすようにするとなるとやはり全体として増税になると困りますから、やはり国税を減らして地方へ持っていかなくちゃならぬ、こうなるのではないかと思います。ところが御案内の通り、私はさっき県民所得や都民所得を申しましたように、富が東京その他の大都会に偏在しておりますので、地方独立税をふやしましても潤うところは金持ちで、貧乏なところは依然として貧乏だということです。そういたしますとやはり独立税を強化しろということは現在あまりひどいから強化しろということを申しましたのですけれども、おのずから限度がございまして、やはり現在のような状態でいくと、平衡交付金制度のように、とにかく富の多いところからたくさん国税をとって、そうして別の基準で地方団体にならしてやるということが、どうしても必要じゃないかと考えております。それからもう一つは御案内の通り地方団体はこまかに分れておりますので、あまり、たとえば所得税だとか法人税とかいうふうに、一人の納税者の税源が全国に大きく地方団体にまたがってあるようなものは地方税としてやりにくいのです。地方税として適当なのは物税でございます。それで現在の日本ではシァウプ税制以来だいぶ物税を中心に地方税が強化されました。たとえばもとは地租だとか営業税とか、あるいは家屋税、家屋税は地方税だったことが多かったのですが、地租や営業税は国税の中心でございますが、今度は御案内の通り固定資産税とかなんとかの形でだいぶ地方へいっております。それで私全体といたしまして何とか再配分の余地はあるのではないか。たとえば私は固定資産税なんかは府県税にする方がよいのではないかと思っております。その他いろいろございますけれども、しかしこれは今申しましたような意味で限度がございまして、これを国家の場合のように税の収入の中心にするということは、できないのじゃないかと思っております。
  39. 柳田秀一

    ○柳田委員 私も個人的には昔の平衡交付金制度の方がうまみがあったのじゃないかというふうに考えます。それと同じような考え方で、たばこでも酒でも消費税、あれもやはり私はそういうふうな観点から、これは公平に人口によって再配分した方がいいのじゃないか。その消費された土地にそれだけの税を与えるということになれば、もうけるのはそういう都会とか、遊覧地だとか、そういうところがやはり不当に多くなり過ぎる。東京の人がいなかに行って酒を買うたり、たばこをのむことは少いのですから……。逆はある。こういうようなことも今の再配分をしていって、これは人口を再配分をした方がいいと思うのですが、先生はどうですか。
  40. 井藤半弥

    井藤公述人 このたばこ消費税、これは御案内の通り現在購買高を標準にしております。私さっき申しましたように、たばこ消費税を入れることがいいか悪いかは別にしまして、これらのものはみな統合して調整制度をすっかり根本的に変える方がいいのじゃないか、こう考えております。その場合にことに譲与税は、現在の譲与税ですが、これは人口を標準にして再配分される、あるいは道路の面積を標準にして再配分されますが、これは非常に争いのない便宜ですけれども、きわめて粗野な配分基準じゃないか。人口ももちろんけっこうでございますが、それで私は今申しましたような五つの調整財源を統合して、そうして平衡交付金でやればいいのじゃないか。平衡交付金にいたしますと、財源とそれからこの交付金とは一応は関係なくなります。私はこれはやむを得ないのじゃないか、こう考えております。
  41. 山崎巖

    山崎委員長 他に御質疑がなければ井藤公述人に対しまする質疑は終了いたしました。  井藤さんまことにありがとうございました。(拍手)  以上をもつて公述人意見陳述は全部終了いたしました。  明日は午前十時より理事会、十時半より委員会を開催することといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後三時四十七分散会