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辻原弘市君 ただいま
議題となりました
昭和三十二年度
特別会計予算補正(特第1号)に関しまして、私は、
社会党を代表いたしまして、これに
反対の
討論を行わんとするものであります。(
拍手)
このたびの
補正第一号に対して、私は二つの
立場からこれに
反対であります。
その第一は、
わが国の
完全独立と
平和維持という
基本的立場と相いれないからであります。これが
内容とするところは、その説明によって明らかにされておりますように、直接には
日米間のいわゆる
MSA援助協定に由来するものであり、さらに、その源は
日米安全保障条約に発しているものであります。これら
安保条約、
MSA協定については、当初より、わが党は、
日本の
独立と平和をそこねるものであるという
主張を終始続けているのでありますが、今やこの
主張は具体的に実証されつつあり、
国民は、
MSA援助の見返りである
軍事予算の累増に、今さらながら、ただより高いものはないと、ほぞをかまされているのであります。あるいは、また、内灘、砂川、
相馬ヶ原と相次ぐ基地の悲劇から、
不平等条約の実態を目のあたりまざまざと見せつけられ、これら一連の
不平等条約改廃の声は、ほうはいとして
国民の間にわき起っているのであります。(
拍手)
さらにまた、
MSA援助によって行われている
わが国のいわゆる自衛力増強なるものが、果してわが身、わが子を守るたてとなり得るかどうか、相続く大国の原水爆の実験、あるいは誘導弾等の出現によりまして、身をもってそのおそろしさ、威力を知らされた
国民は、今や深い疑惑の眼をもって
政府の施策を注視いたしているのであります。わずか十八万の地上兵力と、千トン、二千トンの、ささたる艦艇を
中心とする艦隊と、中古の航空機を中核とする航空兵力をもって、いかようにして原子兵器に対抗するのであるか、どうして原水爆から国を守るのか、
国民の生命、財産を守らんとするのか、これは幾ら考えても解き得ない数学であります。
世はすでに
原子力の
時代に入り、戦争もまた原子兵器によって行われることは必至であります。
各国の戦略もこれに即応して改められているということも、諸君御
承知の
通りでございます。
アメリカにおいては、去る一月、大統領教書によって、全く新しい原子機動部隊を
中心とする新戦略体制への根本的な転換を発表いたしております。また、
イギリスにおいては、その国防白書において、原水爆兵器と誘導弾を
中心とする体制への切りかえを明らかにし、現に、新
予算には、陸上兵力、
艦船類の費用削減を断行いたしておるのであります。なお、国防白書において、従来の
艦船は今日においては全くスクラップにひとしいとさえ極言していることは、まさに注目に値するではありませんか。現に、米ソ両国では、現在、千八百マイルの射程を有する中距離誘導弾ミサイルが完成されているといわれておるのでありますが、御
承知のごとく、ウラジオ東京間は千百二十キロメートル、一マイルは一・六キロでありますから、約この距離の二倍を飛ぶことができるのでありまして、これに原水爆を装置いたしますれば、砂川を
中心に遠く名古屋付近までを一瞬にして死の焦土と化してしまうというのが、今日のおそるべき
実情であります。
こうした危険に対抗する手段は、決してびょうたる自衛兵力の増強ではございません。
世界的に原水爆の禁止を行い、平和共存を推し進め、アジアにおきましては、日、米、中、ソを含む相互安全不可侵
条約を締結するの強力な外交を展開することこそが、今日われわれの生きる道であり、とるべき手段であり、これによって、初めて、アジア、アフリカを含めて全
世界に起っている平和希求の悲願が達成できるものと確信いたす次第であります。(
拍手)
このような
世界の大勢を顧みずに、いたずらに、今回の
予算措置におきましては、旧態依然たる十九世紀的な駆逐艦を二隻増強して、
政府はこれを一体何の役に立てようとするのでありましょうか。沿岸の警備救難なら、海上保安庁に所属を変更してもらわなければなりません。もちろん、今回の駆逐艦は、そうしたもののために
アメリカから与えられるものではありません。それは、
MSA協定の第八条に明らかなごとく、
アメリカ防衛の一環として、その一翼をになう運命にあることは、今さら論を待ちません。すなわち、
MSA協定第八条第三項には、
日米安全保障条約に基き
日本が軍事義務を履行すること、また、第四項には、自由
世界、すなわち
アメリカ側の
防衛力
発展に貢献をすること、そのため、第五項には、自衛能力、実はひもつき再軍備強化にあらゆる
措置をとることという、
アメリカに対する軍事協力の義務が規定されているのであります。さらに、言うなれば、米軍基地
防衛のための将棋の一こまであり、一たび米ソ相戦うというような事態に至ったならば、いかに悲惨な運命に陥るか、繰り返して申し上げるまでもございません。こうしたことは、平和を願う
世界の大勢に逆行するのみでなく、米ソいずれの陣営にも属せず、ひたすら
世界の緊張緩和に努めようとするアジア、アラブ、アフリカ等の諸民族の意図とは反し、ますます
日本国民が火中のクリを拾わなければならぬ公算が
増大するのであります。また、このことは、今回渡米をして
安保条約の改訂を交渉するという岸総理の言明と全く矛盾するものであり、言行不一致の馬脚ここに現われたりと申して決して過言ではありますまい。(
拍手)
日本の資本家たちにこういう甘い考えを持たぜることによって、平和と
独立の盛り上る機運に水をかけ、その上でMSA再軍備促進の気分を盛り上げ、しかる後に
日米安全保障条約を双務的軍事同盟
条約に改訂し、さらに憲法改正へと
日本国民を引きずり込む、こうした甘い毒薬の役目を今回の
予算措置と付属法規がになっているのではなかろうか、こういう予感が勤労大衆の胸に深い暗雲となってわだかまっているのであります。そうでなくて、何で、あのそろばんずくめの
アメリカ政府が、このような甘い条件を許すでありましょうか。われわれは、この一見何でもないように見える今回の
補正第一号とその付属語法案に対して
反対をしなければならぬ理由の第一を、ここに発見するのであります。(
拍手)
反対の第二の理由とするところは、法理上、
会計上の
見地からであります。すなわち、このたびの
特別会計予算補正特第一号は、繰越明許費の使用を当りまえのように許して、これを前提としている点に問題があります。繰越明許費につきましては、特にこれが軍事費に使用される場合、かつて臨時軍事費が
国民に与えたおそるべき結果と当時のインフレの様相を思い起すならば、危険きわまりないものであることは、明々白々たる事実であります。従来より、多くの財政
学者が、ひとしく財政法上将来に危険な悪例を残すものであると指摘し七おることは、けだし当然といわなければなりません。かつて、わが党議員は、参議院におきまして、再三再四、時の
政府にその点に対する危念のあることを指摘し、
政府から絶対に
防衛関係予算にはこれを使わないという公約を得ておるのでありますが、今や、これらの公約は完全にじゅうりんせられ、
昭和三十一年度より繰り越されておる額は約二百億に上り、すでに臨時軍事費的性格を帯びておることは、もはや疑う余地もないところであります。今回の
臨時受託調達特別会計においても、同様の繰越別許費を当然のごとく認めておる以上、これを許容することはできないのであります。
次に指摘いたしたいのは、受託
契約に対する
政府のとっておる態度についてであります。岸総理は、わが党議員の質問に答えて、今回の受託
契約は、
MSA協定によって
わが国が
アメリカから武器の供与を受けるその過程に起った単なる私法的
関係に基く
契約であると言っておるのでありますが、事はさような簡単な問題ではないはずであります。少くとも重要な一国の
防衛に関する問題であり、国と国との公けの
契約である以上、当然そこに有形、無形の
権利義務が生ずることは必然でありましょう。
MSA協定それ自体
わが国に軍事的協力の義務を課しておる以上、その一環として結ばれるこの種
契約が、今後の対米
関係、さらには国際
関係にいかなる影響をもたらすかは、論ずるまでもないところであります。ますます対米従属を深め、自衛力増強に名をかる対米軍事協力の桎梏を強める以外の何ものでもないと断ぜざるを得ないのであります。かかる重大な結果を招来することが常識的にも予想されているにもかかわらず、あえて国として何らの
権利義務も生じない私
契約同然のものであると言う
政府の態度は、われわれにはとうてい了解、納得できがたいものであります。(
拍手)もし、かかることを見のがすということになれば、将来、
国民の承諾なくして、国際的協定と同様なことが、私
契約によって、なしくずしに行われるという危険が多分に存在するのであります。従って、
政府としては、当然、憲法第七十三条に基き、国際間の
条約もしくは協定を取り結び、国会にその承認を求める必要があると考える次第であります。あえてこのことをやらない
政府の態度は、まさに憲法違反の疑い濃厚であると断ぜざるを得ないのであります。(
拍手)
最後に指摘しておかなければならぬのは、この受託
契約の裏づけとなる具体的の建造
計画についての危念であります。その
一つは、
防衛庁は現在に至るも
艦船建造について独自の基本設計を行う能力を持ち合せておりません。従ってこれらの
艦船の設計は、船舶設計協会に莫大な
経費を払って委託しておるのであります。この船舶設計協会の代表者は造船会社の社長であります。言うなれば、
防衛庁は、特定の
業者に単価をきめてもらい、
随意契約によって特定の
業者に発注建造させるというやり方をとっているのであります。このような
関係から起ってくる弊害が従来見受けられたのでありまするが、今回もまた、
政府の答弁するところによれば同様でありまして、そこに何らの
改善が見受けられていないということは、まさに不可解千万なりと申さなければなりません。(
拍手)
いま一点は、今回の建造
計画は、
予算法案成立後直ちに基本設計を開始し、十一月ごろこれを完了し、本
契約を明年二月ごろと予定しておるようでありますが、三十一年度
予算に計上された
艦船建造が今なお手がつけられていない状況から見ますなれば、この
計画も、果して予定
通り年度内に着工、十二億七千万円計上された
予算額の執行に至るかどうか、はなはだ怪しいものであります。従来、とかく、
防衛関係の
経費だけは金が先にできて
計画があとからつき、しかも使い方はきわめてずさんであるとの批判が強く、また、事実その例が少からずあったことは、
会計上看過できぬことであります。もし、かかることが事前に予想されるならば、事の本質はいかようにあれ、とうていこの
予算をわれわれは認めるわけに参らないのであります。
私は、以上の観点、理由に基きまして、ここに
昭和三十二年度
特別会計予算補正(特第1号)にあくまでも
反対をいたすものであります。(
拍手)