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1957-05-06 第26回国会 衆議院 法務委員会 第30号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年五月六日(月曜日)     午前十一時四十七分開議  出席委員    委員長 三田村武夫君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 長井  源君 理事 横井 太郎君    理事 菊地養之輔君       小島 徹三君    小林かなえ君       高橋 禎一君    花村 四郎君       松永  東君    山口 好一君       佐竹 晴記君    田中幾三郎君       志賀 義雄君  出席政府委員         検     事         (民事局長)  村上 朝一君  委員外出席者         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 四月二十七日  委員林博君及び古屋貞雄辞任につき、その補  欠として中村三之丞君及び河野密君が議長の指  名で委員に選任された。 同日  委員中村三之丞辞任につき、その補欠として  林博君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  国際海上物品運送法案内閣提出第一三七号)     —————————————
  2. 三田村武夫

    三田委員長 これより法務委員会を開会いたします。  国際海上物品運送法案を議題とし、審査を進めます。  まず政府当局より本案の逐条説明を聴取いたします。村上民事局長
  3. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 逐条的に御説明申し上げます。  まず、第一条でございますが、この法律適用を受けます海上運送は、船積港または陸揚港のいずれかあるいは双方が本邦外にある場合だけに限っております。この法律案は、別に御審議いただいておりますいわゆるブラッセル条約の実施のための立法措置でございますが、この条約の方には適用範囲につきまして別段制限を設けていないのであります。わが国内国沿岸貿易を別遂に取り扱うことに留保いたしておりますし、また内国沿岸貿易につきましては国際海上運送規定によりがたい場合もあると考えられますので、この法律案はいわゆる国際海上運送だけに限ることにいたしたのであります。この第一条に「本邦外」とございますが、これは、わが国の領土でありましても現に統治権の行われていない地域を除外する趣旨であります。附則第三項におきまして、さような地域を政令で明らかにすることになっております。  次に、第二条はこの法律に用いております用語定義規定したものでありますが、第一項の一「船舶」の定義、これは商法用語例によったものであります。従いまして第一条にいう「船舶による物品運送」という言葉商法第四編の規定適用のある物品運送をいうことになるわけであります。  次に、第二項に「運送人」の定義をあげてあります。が、これは条約におとて使っております「運送人」と同じ意味であります。「運送人」という言葉日本商法海商編においては用いていないのでありまして船舶所有者船舶賃借人及び運送を引き受ける傭船者というようなものがこれに該当するのでありますが、これらをひっくるめて「運送人」という言葉でこの法律においては表わしておるのであります。  次に、第三項の「荷送人」でありますが、「荷送人」という言葉も、商法におきましては、いわゆる個品運送における運送を委託する者だけを「荷送人」といっておりますが、この法律においては、傭船契約におきまして運送を委託する側の傭船者をも「荷送人」という言葉に含めて規定しておるのであります。  次に、第三条は運送品に関する運送人注意義務規定でありますが、この条約の第二条及び第三条第二項に定めてあります運送品に関する注意義務原則を表わすとともに、条約の第四条第二項の規定により、例外として船長海員等航海上の過失または船舶における火災により生じた運送品損害について運送人賠償責任を負わないことを明らかにしております。  第一項は、商法第七百六十六条で準用しておりますところの第五百七十七条と同趣旨でありまして、この規定自体現行法とほとんど差はないのでありますが、第二項を設けることによりまして、現行商法と大きな違いができてくるわけであります。  第二項で、船長以下船員の航海上の過失及び船舶火災によって生じた損害について運送人責任を負わないものとしております点は、各国において長く慣行として認められているものを条約において取り入れておりますので、しかもそれが条約の主たる眼目の一つになっておりますので、それをそのまま国内法として規定したのであります。  次に、第四条であります。これは、条約第四条第二項の規定によりまして、運送人運送品損害について賠償責任を免れるためには、原則として第三条の注意義務を為したことを証明しなければならないものとし、例外として、第二項にあげております事実がある場合には、その事実があったことと、損害がその事実から通常生ずべきものであることを証明すれば足りることにしまして、運送人責任を免れるための立証責任を軽減したのであります。これもまた欧米において行われております慣行を採用したのであります。  次に、条約第三条第一項の規定に従いまして、船舶航海に堪える能力に関する注意義務について過失主義をとることを明らかにしたのが第五条であります。商法は、船舶航海に堪える能力、いわゆる堪航能力につきましては運送人に無過失責任を負わしめておりますが、条約におきましては過失主義をとっておりますので、これを本法に条約通り取り入れたわけであります。  次に、第六条は船荷証券交付義務に関する規定でありますが、現在の商法におきましては、船荷証券は一種類でありまして船積み後初めて船荷証券というものが発行されるわけでありますが、条約におきましては、運送人荷物を受け取ったときに、受取船荷証券というものを出すことができることになっております。すなわち、船積み後に発行する船積船荷証券のほかに、船積み前でも荷物を受け取れば山せるという受取船荷証券というものを認めているのでありますが、これも一般慣行を取り入れた条約規定でありまして、そのまま国内法に取り入れることにしたのであります。  次に、第七条は船荷証券記載事項等であります。これもおおむね現行商法と大差はないのでありますが、これに国際海上運送における実際上の取り扱いを参酌いたしまして、若干記載事項を増減をしたのであります。  次に、第八条は荷送人の通告に関する規定であります。船荷証券記載事項中、運送品種類及び数量について、運送人に荷送人の書面による通告通り記載すべき義務を負わしめるとともに、運送人がその通告通り記載することを拒絶し得る場合を法律規定いたしまして、荷送人と運送人利益調整をはかろうとするものでありまして、運送品数量に関しましては条約規定に従い、また運送品種類に関しましては条約規定に準じて定めたものであります。  なお、第三項で、条約第三条第五項の規定に従い、荷送人に通告が正確であることを担保する責任を負わしめ、船荷証券記載を正確ならしめて、その流通をはかろうとしたのであります。  次に、第九条でありますが、九条は船荷証券記載と事実とが兵なる場合における運送人の主張を制限して、船荷証券所持人利益を保護しようとするものであります。条約の第三条第四項によりますと、運送人がその船荷証券記載通り運送品を受け取ったものと推定する効力を有するという規定になっておりますが、その趣旨とするところは、運送人が反証によってその効力をくつがえすことを無制限に認めようというものではなくて、英国その他の判例でも認められておりますように、運送人がその記載について注意を尽したことを証明しなければ、その記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗することができないという趣旨に、この条約規定一般に解釈されておりますので、その解釈に従いまして、これを第九条のような規定にして取り入れたわけであります。次に、第十条でありますが、この法律におきまして船荷証券に関する数ヵ条の規定を設けましたけれども、これだけでは船荷証券に関するすべての規定を網羅したことになりませんので、商法所要規定船荷証券に準用することにいたしております。  次に、第十一条は危険物の処分に関する規定でありますが、条約の第四条第六項の規定によりまして、危険性を有する運送品につき、運送人船長及び運送人の代理人がその性質を知らないで船積みしたときは、いつでも、陸揚げし、破壊し、または無害にすることができるものとし、これらの者がその性質を知って船積みしたときは、船舶または積荷に危害を及ぼすおそれの生じたときに、陸揚げし、破壊し、または無害にすることができるものといたしました。これも条約と全く同趣旨であります。  次に、第十二条は荷受人等通知義務に関する規定であります。これも条約第三条第六項の規定に従いまして、運送品の一部滅失または損傷がありました場合に、その引き渡しの際、立ち会いによって確認された場合を除き、荷受人または船荷証券所持人にその性質書面で通知すべき義務を負わせ、その義務を怠った場合の制裁として、運送品滅失及び損傷なくして引き渡されたものと推定し、立証上の不利益を与えることにしたのであります。この規定商法規定と違う主要点は、荷受人等通知義務を怠った場合におきまして、商法第五百八十八条の規定によりますと、荷送人の損害賠償請求権を全部消滅させるのに対しまして、本条は単に立証上の不利益を与えるにすぎないとしたのであります。従いまして、商法と比べますと、本条は運送人利益よりもむしろ荷受人等利益になるわけであります。  次に、第十三条は運送人責任限度に関する規定でありますが、第一項は、条約第四条第五項の規定によりまして、運送人運送品に関する損害賠償責任について一定の金額による限度を設けたのであります。運送人は、あらかじめ運送品種類及び価額通告されない限り、運送品価額のいかんにかかわらず同様の注意をもって運送するのでありますから、そのような運送品損害を生じた場合に予期しない金額賠償責任を負うことは負担にたえないところであり、荷送人としては、特別な取扱いを要求して高額な運賃を支払うよりも、損害賠償額は少くても運送賃の低廉であることを望むのが通常でありますので、早くから損害賠償額限度を設ける約款が行われてきたのであります。条約は、かような慣行を認めつつ、次の十四条の規定と相待って、賠償限度額の最低限を定め、運送人利益を保護することとしたのであります。現在のわが商法ではかような約款禁止しておりますが、条約で認められております世界的慣行を排斥してまでも荷主利益を保護しなければならない特別な理由も見当らないと思いますので、条約趣旨通りこの規定を置いたのであります。条約責任限度額を一包または一単位につきスターリング貨百ポンドと定めており、この金額は現存の為替相場によりますと約十万八百円に相当するのであります。この法律におきましては、条約第九条の規定によって端数のない金額に換算し、一包または一単位につき十万円を責任限度額と定めたのであります。  第二項は、荷主利益を考慮し、あらかじめ運送品種類及び価額通告し、船荷証券記載されたときは、前項規定適用せず、実損額賠償を求め得ることといたしております。  第三項以下は、荷送人が運送品価額につき虚偽の通告をした場合に対する制裁規定し・荷送人等が不当に賠償額を多額に要求することを防止したのであります。その表現において若干条約規定と異なりますが、内容は全く同一でございます。  次に、第十四条は条約第三条第六項の規定によりまして運送人運送品に関する損害賠償責任について除斥期間を一年と定めたのであります。  次に、第十五条は、この条約の要点の一つでありまして、条約におきましては、運送人責任を免れる規定を定めます反面、それ以外の免責約款を無制限につけることを禁止しているのでありますが、その条約趣旨に従いまして、荷主等不利益特約禁止しているのであります。  第二項は、前項規定がただ荷送人等不利益特約禁止するのみであって、運送人不利益特約までも禁止する趣旨でないことを明らかにしたものであります。でありますから、たとえば十三条の責任限度額について申しますと、責任限度額五万円という免責約款を設けることは十五条の特約禁止に触れるわけでありますけれども、二十万円の運送人不利益特約をつけることは、この条約禁止しておりません。従いまして、その趣旨を十五条に表わしたのであります。  次に、第三項は、条約趣旨及び各国立法内容を参酌いたしまして、第一項の免責約款禁止運送品船積みから荷揚げまでの間に生じた事実に基く損害についてのみ適用があることを明らかにしたのであります。条約は、運送品船積みから荷揚げまでの間についてのみ、海上運送特殊性を認めて、その間に生じた事実に基く損害についてのみ免責約款禁止適用することとし、運送品船積み前または荷揚げ後に生じた事実に基く損害については、各国の自由に委ねたのでありますが、わが国におきましても、各国立法実情に従いまして、この場合に免責約款禁止する必要はないものと考え、運送品船積み前または荷揚げ後に生じた事実に基く損害については第一項の規定適用しないものとしております。  次に、第十六条は傭船契約に関する規定でありますが、本条は、傭船契約につき、その当事者間の関係におきましては免責約款禁止をしないものとし、運送人船荷証券所持人との関係については条約に従い免責約款禁止をするものとしております。条約は、傭船契約につきましては、運送人船荷証券所持人との間の関係についてのみ条約適用し、直接の傭船契約当事者間の関係については各国立法に委ねるものとしておりますが、それは、傭船者船舶所有者と同様に船舶を利用する海上企業者であり、海運事情に通じ、船舶所有者と対等の立場において契約をなし得る者でありますので、当事者の自治にまかせても弊害を生じないものと考えられるのであります、この法律案におきましても、同様の見解に従いまして、傭船契約当事者関係については免責約款禁止規定を設けないことにしたのであります。  次に、第十七条は特殊の運送について免責約款禁止例外を認めるものでありますが、運送品性質もしくは状態が特殊であり、また運送が特殊の事において行われる場合と申しますと、たとえば座礁した船舶に積んであってぬれた積荷を積みかえて運送するという場合においては、十五条第一項の規定にかかわらず、運送人運送品に関する責任を免除しまたは軽減することが相当と認められると思われるのであります。このような場合も免責約款禁止を強行するとなりますと、特殊の運送は事実上不可能となるので、これを除外することにしております。これも条約第六条の趣旨に従ったものであります。  次に、第十八条も免責約款に関する規定でございまして、本条は亀動物運送及び甲板積み運送について免責約款禁止例外を認めようとするものであります。条約は生動物運送及び甲板積み運送については条約規定適用しないものとしておりますが、これらの運送は特殊の運送一つの場合と考えられますし、その特殊性にかんがみ、これらの運送についての運送人責任を軽くする必要はありましても重くする理由はないと思われるのであります。従って、これらの運送についても、原則として条約規定適用させるものとし、ただ免責約款禁止に関する第十五条第一項の規定は、特殊の運送と同様に、これらの運送適用しないことといたしました。なお、この場合には、生動物運送または甲板積み運送であることが、船荷証券主明らかにすることができるのでありますから、免責約款船荷証券記載する限り、その所持人に対抗することができるものとしております。  次に、第十九条は船舶先取特権に関する規定であります。本条は、再運送契約すなわち傭船者と荷送人との契約について、運送品に関して生じた損害につき傭船者に対し賠償を請求することができる者が船舶及びその属具の上に先取特権を有することを定めたものでありまして、条約上の規定に従い再運送について商法第七百五十九条を適用しないこととした結果生じた不備を補らものであります。趣旨は全く商法七百五十九条と同様の趣旨に出たものであります。  次に、二十条でありますが、本条は、第一条のいわゆる国際海輸送については、この法律規定と矛盾する海法規定適用を排除する反面、この法律規定のない事項について商法所要規定適用する等、商法との調整をはかったものであります。  次に、二十一条は郵便物運送については、その特殊性に顧みて、の法律適用しないこととしております。  附則の第一項は、ブラッセル条約効力を生じた日からこの法律を施行するといとうことにしておりますが、この条約批准書寄託の口から六カ月を経て効力を生ずることになっておりますので、かりに本年七月一日に批准書寄託が行われたとしますと、この法律は明年一月一日から施行されるということになるわけであります。  以上をもちまして、簡単でありますが、逐条説明を終ります。
  4. 三田村武夫

    三田委員長 以上で逐条説明は終りました。  次に、質疑の通告がありますので、これを許します。長井源君。
  5. 長井源

    長井委員 簡単に、疑問とする点をお聞きしておきます。  この法案全体を通覧いたしまして、どこか船主の方の責任を軽くして、荷送人または荷受人等荷主の方が不利益になっておるようらな気がするのですが、趨勢としてそんな国際的な状況があるものですか。まずそれをお聞きします。
  6. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 その点については補足説明の際にもちょっと触れておいたのでありますが、この条件は、本来、船下が勝手に免責約款をつけて荷主利益を著しく害するような傾向に対して、免責約款を制限するという意味で、統一的な条約ができたのでありますが、わが国商法は、当時の情勢から申して、著しく荷主利益を保護しようという傾向の強いときにできた立法であるために、この条約に入りますと、かえって船主地位が有利になるというわけであります。船主地位が有利になるということは、反面荷主側不利益になるということになるわけでありますけれども、実際問題として、その不利益がだれに帰属することになるかと申しますと、国際海上運送においては、通常積荷保険に付せられておりますので、終極的には保険業者の、不利益になるわけであります。ところが、海運の実際は、すでにこの条約と同様の内容約款によって運送が行われておるのが通常でありまして、保険契約をする際には、荷主日本荷主であるか外国荷主であるか、あるいは準拠法ほどこの法律であるかということで一々保険料を区別して約定するということなく、一率の保険料保険に付しておるわけであります。保険業界実情といたしましては、この条約に加盟してもさしたる影響を受けないように了解いたしております。
  7. 長井源

    長井委員 それは、保険業者の方は従前通り慣行に基いた方が利益だと考えているのではないかとこも思うのでずが、もっともこれは国際的に関係がありますので、しいて私どもはこれについて特別にこの法案に対する修正等の意見はまだ考えておりませんけれども、これらの点については取扱い注意を要するものではないか、こう思っております。  それから、もう一つは、国内海商法との関係、これは、船でありますから、国内港湾にも立ち寄ることもありますし、ついでに国内輸送もやることがあると思いますので、そういうときに、国際的な外国港湾のみにおけるこの法案と、それから国内における海商法による扱いとが違っておる点がありますので、荷主としても、船舶業者としても、あるいは輸送人としても、よりどころに迷うようなことになるおそれがあります。これらの点については、ここに調整するという条項もありますので、これで十分調整がつく予定でございますか。
  8. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 ブラッセル条約に加盟して、内国沿岸貿易についてもこの条約に従った趣旨国内立法をするということになりますと、商法海商編のうち海上運送に関する規定の大嘱な改正が必要になってくるわけでありますが、また、昭和十年に当時の司法省に置かれておりました法制審議会では、商法改正という線で考えられておったようでありますが、国内沿岸貿易まで取り入れて海商法改正というところまでいくためには、国内における沿岸貿易実情が果してこの条約通りで適当であるかどうかという問題が多数あるわけであります。一例を申し上げますと、十三条の運送人責任限度額を「一包又は一単位につき、十万円を限度とする。」という規定も、国際海上運送については適当でございますけれども、沿岸貿易についてはこれを適当としない場合も多かろうと思うのでありまして、沿岸貿易実情を十分調査して、必要な特例を設けるというような立法も必要になると考えますので、内国沿岸貿易を取り入れた海上商法改正ということになりますと、なお相当の時日を要するかと存じまして、とりあえず国際海上運送だけについて特別法の形として提案して御審議を願った次第であります。
  9. 長井源

    長井委員 とりあえずというお話でございましたが、とのブラッセル条約というのは、一九二四年に船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約として成立している。わが国がこれに署名して以来実に三十三年たっておるわけです。そこで、この長い間わが国がどういうわけで批准しなかったのでしょうか。想像すると、この条約わが国にとってあまり有利でなかったということが原因をなしておったのではなかったのですか。
  10. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 この条約が署名されましたのは、一九二四年、すなわち大正十三年でございまして、その後三十数年たっているわけでありますが、この条約効力を免じましたのは、一九三一年、すなわち昭和六年でございます。当時司法省法制審議会で検討いたしました結果、海上運送に関する規定はこの条約によって改めらるべきであるという結論に達して、昭和十年の「商法商行為編及海商編改正要綱」の中にその旨を明らかにしているのであります。当時、検討されました結果としては、この条約に加盟することは不利であるというふうには考えていなかったのではないかと思うのであります。それでは、なぜこんなに長く批准されずにきたかという点でございますが、当時の事情は現在におきましては必ずしも明白になっていないのでございますけれども、昭和十年にただいま申し上げました要綱が発表された後、司法省におきましてはこの立法化に着手したようであります。しかし、その後間もなく支那事変が起り、大東亜戦争が起きて、戦争のためにその事業が中断いたしまして、また、占領期間中は、特別な必要がない限りは基本的な法典の改正等は差し控えるという方針でもございましたので、平和条約発効後、法務省に設けられた法制審議会商法部会で初めて取り上げた二つの問題のうちの一つが、この条約批准すべきかどうかという点であったのであります。戦争その他の事情で非常に長引いておりますので、条約ができた当時の事情と現在とでは国際的な情勢も変っておるのではないかという疑問を持って、一昨年東大の石井教授外国へ行かれます際に、特にその点の御調査を願ったのであります。この条約は今や世界的な慣行として行われており、これに対する改正の気運もないということを伺いましたし、一方、海運業界からは、すみやかにこの条約に加盟して国内立法措置を講じてもらいたいという要望が昭和二十八、九年ごろから強くされておりました関係上、急速に立案に着手した次第でございます。
  11. 長井源

    長井委員 ところが、現在、世界主要国の大部分はこの条約批准または加盟しておりますけれども、カナダとカメキシコとか南米の諸国などはれに入ってないようであります。これを批准しない理由はどういうわけでございますか。
  12. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 お尋ねの諸国のうち、カナダは、英国が一九三〇年に批准して国内立法措置を講じたのでありますが、カナダはこの条約の当事国にはなっておりませんけれども、英国の属領諸国の一つでありました関係上、この条約と同一内容国内立法をいたしまして、海運の実際はこの条約によってやっておるものと考えております。南米諸国が入っておりません事情は十分承知しないのでありますが、この条約に入っていない国としては、共産圏の諸国、東南アジアの一部の新興国家及び南米諸国だけでありまして、おそらく、いわゆる海運が相当程度に発達した国ではないと、この条約加入等の問題が起きないのではないか、かように想像いたしております。
  13. 長井源

    長井委員 なお、この条約のできたのは、一九二四年で、三十三年も前のことですが、今日では、国際情勢や貿易関係なども非常に変遷があります。また、第二次世界大戦後は新しい独立国がよけいできましたから、それらについての考慮、あるいは条約自身に対する再検討というようなものの予見はありませんか。
  14. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 海商法関係条約は多数ございますが、ほかの条約につきましては再検討のための国際会議等も予定されているものもございますが、船荷証券に関する統一条約につきましては、これを改正するという気運はないように承知しております。
  15. 長井源

    長井委員 条約の成立当時はわが国世界における船主国だったのてすが、現在では荷主国と言ってよかろうと思うのです。外国の重要なお客さんとでも言いますか、取引の得意先とも言われる地位にあると思うのですが、わが国の経済事情の全般から考えて、船主側に有利になるというふうに改正される法案の措置というものは、少し妥当を欠くように思われるのですが、これは特別なる日本の貿易状態の不利を招くというふうには思っておいでにならないですか。
  16. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 わが国荷主も、日本船舶だけを利用するわけではございませんので、便のありますつど、諸外国の船による海上輸送も行われておるわけでございまして、この条約に加盟して日本船主の状態が有利になるということによって、日本荷主がそれに相当する不利益を受けるということはなかろう、かように考えております。
  17. 長井源

    長井委員 運送人定義の問題をさっき御説明がありましたですね。第二条の二項のところで、条約では運送人定義中に船舶賃借人を含むことを明示していないが、解釈上船舶賃借人を含むことは疑いがないから、これを明らかにしたと善いてある。それには疑義は全然ございませんか。
  18. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 日本商法では、海上運送における運送人船舶所有者という言葉で現わしておりまして、船舶所有者に関する規定船舶賃借人に準用すると申しますか、七百四条におきまして、「船舶ノ賃借人カ商行為ヲ為ス目的ヲ以テ其船舶航海ノ用二供シタルトキハ其利用二関スル事項二付テハ第三者二対シテ船舶所有者ト同一ノ権利義務ヲ有ス」ということにしております。従いまして、運送人という観念は現益の海商法にはないのでありますけれども、条約では運送人という言葉を使っているわけでありまして、その運送人というのは日本商法用語に直せば何かといいますと、これは船舶所有者のほかに船舶賃借人を含むことは明白疑いない、かように考えるわけであります。
  19. 長井源

    長井委員 第二条の第三項の説明のうちに、「運送を委託する傭船者」という言葉があるわけですが、これと賃借人との関係はどうなりますか。
  20. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 傭船者はいわゆる傭船契約によって船舶所有者または船舶賃借人運送契約当事者地位に立つわけです。その場合における傭船者を荷送人の定義の中にあげているわけであります。
  21. 長井源

    長井委員 この船積船荷証券受取船荷証券というものが第六条において区別されておりますことにも関連いたしまして、港湾運送の場合、沖仲仕とか岸壁内の積荷積みおろしの責任ということはどうなっておりますか。つまり、この受取船荷証券という今の説明でちょっと疑念を持ったのですが、一般の慣例として沖仲仕と申します港湾における船の荷積み荷おろしの関係、これは扱いとしてはどういうことになり、その責任はどこにいくことになるのですか。その間事故が起る場合もしばしばあることでございますから……。
  22. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 運送人運送品を受け取った場合には、受け取ったときから運送人責任が始まるわけでございますが、船積みまでの間は免責約款をつけることができる。でありますから、免責約款によって、受取りから船積みまでの間に生じた事故については運送人責任を負わないという約束をすることができるわけであります。もしそういう特約があれば、有効でありますから、責任を免れることになります。
  23. 長井源

    長井委員 そうすると、免責約款特約があればその特約に従う、こういうことになるわけですか。
  24. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 そうです。
  25. 長井源

    長井委員 原則としてはどうなのですか。
  26. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 原則としては、第三条によりまして、運送人責任があるわけであります。
  27. 長井源

    長井委員 附則の第三項の、「政令で定める本邦の地域は、当分の間、本邦外にあるものとみなす。」というのは、これはどこを予想していられるのでございましょうか。
  28. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 わが国の領土でありましてもわが国統治権が現に行われていない地域、たとえば北緯二十七度以南の南西諸島、小笠原群島等を指定するつもりでございます。
  29. 長井源

    長井委員 沖縄はどうです。
  30. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 沖縄は、もとより北緯二十七度以南の南西諸島でございますので、わが国の領土であっても本邦とみなされない地域の中に規定されるわけでございます。
  31. 長井源

    長井委員 本法は船荷証券の国際性というようなものを高揚する上に大いに役立つものだろうと言われておりますが、この船荷証券というのは、単に海上運送関係者だけでなくて、貨物の転売買関係者であるとか、銀行とか海上保険会社というようなものも介入してきまして、いろいろな紛争が予想されるのです、それがまた国際的な問題にもなる。そうしますと、裁判管轄というような問題が起ってくるわけです。これには十分の注意を払わなければならぬと思いますが、国際法の規定を設けるとか、国際司法仲裁をもって訴訟にかえるように考究をするというようなことがあるか、政府の所見はどうでございましょうか。
  32. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 国際的な問題につきまして、裁判管轄がわが国の裁判所にあるか外国の裁判所にあるかによって当事者利益が非常に違うということは御指摘の通りでありまして、その点に対する考慮といたしましては、当事者契約をいたします際に仲裁条項を設けて、わが国なり外国の仲裁人の仲裁に服するということも一つの方法であろうと考えますし、またこれは海上運送だけでなくあらゆる渉外的な事件についての共通の悩みであります。各国とも裁判管轄及び仲裁等の問題につきましては国際的な条約によって何らかの相互に便宜な取りきめをしようという動きがありましてわが国といたしましても極力そういう方向に協力していきたい、かように考えております。
  33. 三田村武夫

    三田委員長 私からちょっとお尋ねいたしたいと思います。  ただいま長井委員の御質疑にもありましたように、本法案は海上物品輸送に関する立法で、貿易の面から見ても非常に重要な関係を有するものと思われます。すなわち、貿易の実際面を規制するもので、船主荷主の商行為を、あるいは保護し、あるいは規制し、あるいは海上輸送中の損害に関してその責任の所在などについても規定を設けておるのでありますが、本法案の立案の過程において、船主側及び荷主側の意見などを参酌されたことがありますかどうか。もしおありになるならば、その間のいきさつを御説明願いたいと思います。
  34. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 この条約に加入し、国内法立法するということは、海運界が強く要望しておりますことは当然のことといたしましても、荷主側でありますところの貿易業者なり保険業者の意見はどうであるかということは、私どもも当初から問題にしたのでございますが、東京商工会議所におきまして、海運界のみならず金融界、保険業界及び貿易業界の各方面の方々を集めて慎重に検討されました結果、この条約に加益すべきであるという結論に達しましたので、東京商工会議所が法務省に批准並びに立法化を経済界の総意として要望したことが、法制審議会によってこれを取り上げたきっかけであったのであります。その後、法務省といたしましても、商工会議所を通じまして、運海界のほか、銀行、保険業者、貿易業者等の意向も取り調べましたところ、補足説明の際に申し上げましたように、国際的な趨勢でもあり、この条約に加盟してこれを立法化するということは各方面異議がないということを確かめまして、今回提案する運びとなった次第であります。
  35. 三田村武夫

    三田委員長 重ねて伺いますが、そういたしますと、条約と同時に条約に基く本法案内容については、荷主側船主側も保険業者も、別段この法案内容について異議があるとかあるいは疑義があるとか別な見解を持っているとかいうような形ではなくて法案内容そのものに賛成だという趣旨に了承してよろしいのですか。
  36. 村上朝一

    村上(朝)政府委員 当初、海運界からも、またその他の方面からも、いろいろ法案内容につきましては意見が出たのでありますが、また条約の解釈についてもいろいろ疑義がございまして、商法学者数名の方に立案をお願いする反面、それらの各方面の意見との調整をはかりまして、これならば異存はないというところに落ちつけたのがこの法律でございます。
  37. 三田村武夫

    三田委員長 他に御質疑はありませんか。——御質疑がなければ、本日はこの程度にとどめ散会いたします。  次会は公報をもってお知らせいたします。    午後零時四十七分散会