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1957-03-26 第26回国会 衆議院 法務委員会 第18号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年三月二十六日(火曜日)    午前十一時十二分間議  出席委員    委員長 三田村武夫君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 長井  源君 理事 福井 盛太君    理事 横井 太郎君 理事 猪俣 浩三君    理事 菊地養之輔君       犬養  健君    小林かなえ君       世耕 弘一君    高橋 禎一君       林   博君    松永  東君       山口 好一君    横川 重次君       神近 市子君    田中幾三郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         検     事         (法制局第二部         長)      野木 新一君         検     事         (大臣官房調査         課長)     位野木益雄君  委員外出席者         最高裁判所事務         総長      五鬼上堅磐君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局         長)      關根 小郷君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局総         務課長)    海部 安昌君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 三月二十二日  判事補の職権の特例等に関する法律の一部を改  正する法律案内閣提出第一一〇号)  裁判所法の一部を改正する法律案内閣提出第  一一一号) の審査を本委員会に付託された。 三月二十二日  鹿屋市に公証人設置に関する陳情書  (第五七四号) を本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  公聴会開会承認、要求に関する件裁判所法等の  一部を改正する法律案内閣提出第八九号)     ―――――――――――――
  2. 三田村武夫

    ○三田村委員長 これより法務委員会を開会いたします。  裁判所法等の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の通告がありますので、順次これを許します。猪俣浩三君。
  3. 猪俣浩三

    猪俣委員 裁判所機構改革に関しまする質問の前に、五鬼上総長が見えておられますから、ちょっと参考のために承わりたいのですが、私どもが各地の裁判所へ行ってみまして、その土地の弁護士諸君意見を聞いてみますと、近来裁判官態度がすこぶる非民主的でよろしくないという批判をたびたび聞かせられる。私自身も痛切なる経験を得ておる。ある裁判所判事のごときは、法廷で、立錐の余地ない傍聴人を前にして、なぜ猪俣弁護人に選任したのか、前の弁護士はなぜやめたのか、その理由を言えと被告人に釈明を求めた。そうすると、被告人は、実は、ここに立ち会いの検事さんが何何弁護士というのはよくない弁護士だからやめろと言うので、やめて、猪俣弁護人に頼んだ、こう釈明しました。それは、満場の傍聴人のいる際に、そういう発言を被告裁判長に問い詰められてしたのです。そのためにその弁護士は非常に職務上の妨害を受けたとして憤慨しておりました。私はその裁判官を今忌避しておりますが、実に非常識なる裁判官相当出てきた。これは、裁判官がその地位の保障あることを奇貨とし、のみならず、裁判官が今日払底しているために、首の心配はないというようなことから、非常に傲慢な態度になってきているのじゃないか。そこで、もちろん、裁判官は、判決それ自体につきましては、要するに良心に従って裁判すべきもので、何人もこれを曲げてはいけないことは事実でありまするけれども裁判官といえども人間であります。官吏であります。公務員としての人間である裁判官に対しまする行政上の監督とか指導とかいうものは一体どうなんであろうか。何をやっても、彼らは独立不覊なんであろうか。私ども司法権独立の関係する範囲においては裁判官職務独立は認めますけれども、さればといって、彼らが常軌を逸したり、非民主的な、スムーズな司法事務にかえって渋滞を来たすような行動をしていいことはない。はなはだしきは弾劾裁判所法において訴追委員会なり弾劾裁判所なりの問題になりますけれども、これは著しく非行のあった場合であります。著しき非行までに至らぬでも、いわゆる裁判民主化というものを妨げておる裁判官相当できておるというふうに思われます。そこで、こういう裁判官に対して、司法行政の上から指導監督する機関は一体何であろうか。彼らの非行を弾劾して罷免することは弾劾裁判所でありましょうけれども、それまでに至らぬ、裁判運営について非民主的な行動をして、それかために裁判遅延を来たしたり、スムーズにいくべき訴訟の進行を妨げるような判事に対して、一体どういう機関が戒告したり指導をしたりあるいはアドバイスをしたりするのであろうか。私は五鬼上総長に後刻具体的な事実を申し上げてお聞きしたいと思うか、抽象的に、一体どういう機構最高裁判所にあるのかないのか、それを承わりたいと思います。
  4. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 裁判官地位独立を保障されているがゆえに非民主的になったりあるいは傲慢であってはいけない、一般公務員としての域を脱してはいけないということは、猪俣委員の仰せられる通りでございます。私どももさように信じております。そこで、ただいまの御質問の極言の、裁判官に対する監督は一体どこでやっているかということでありますが、裁判所法の上からは、当該裁判所裁判官会議及びその上級裁判所——地方裁判所なら高等裁判所裁判官会議及び最高裁判所最終的に監督しております。なお、下級裁判所事務処理規則におきましては、所長裁判官そり他の職員に対しても、注意を与えることができるという規定がございます。
  5. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうしますと、下級裁判所におきましては、裁判所所長注意、勧告する権限があるし、なお、それに対して一種の懲罰的な行動は、地方裁判所なら地方裁判所裁判官会議、なおその上級高等裁判所あるいは最高裁判所裁判官会議がそういう監督権がある。そうすると、地方裁判所のある判事に対する最高監督権最高裁判所裁判官会議、こういうことになりますか。
  6. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 それはおっしゃる通りであります。
  7. 猪俣浩三

    猪俣委員 それでは、それはわかりましたが、今法務委員会理事会理事諸君いろいろ話をしたのでありますが、私だけの感想じゃない。皆さんの御意見として、実に裁判官は非常識で非民主的な者が多くなったという感想を述べられた。私は今ここで具体的な事実は指示いたしませんが、その現われが本日の読売新聞のトップ記事となっている。新潟に起った。ごらんになったろうと思うが、ああいうことは、新聞に出なくても他にもたくさんある。今度私どもは具体的に最高裁判所に具申いたしますから、十分なる御監督を願いたいと思う。はなはだ憲法精神に背反するような、昔の天皇の名において裁判したものよりもなおより以上のような態度をとる裁判官がふえてきていることにだけ、どうか事務総長は留意していただいて、適当な御勘考を願いたいと思います。具体的のことは上申します。  そこで、政府提案になりました裁判所法等の一部改正法律案につきまして質問いたしますが、私は質問の要旨はプリントいたしましてお配りしてあるのでありますから、これに従ってお尋ねいたしたいと思います。ただ、最高裁判所機構改革は、目的とするところは訴訟遅延を防止するということにあるのでありまして、これはみな一致した意見であります。どういうふうに機構を改革したならばこの目的を達することができるかというと、甲論乙論があるわけであります。そして、これは、当法務委員会におきましても、また法制審議会におきましても、最高裁判所におきましても、弁護士会におきましても、相当長い間論議を尽されましたのでありまして、その政府結論的なものが法案となって現われたのでありますがゆえに、相当敬意を表して私ども審議しなければならぬと思うのであります。ただ、申し上げるまでもなく、最高裁判所機構改革と申しますのは、三権分立一つである司法権最高峰に関します事柄であり、しかも、明治憲法と異なりまして、日本国憲法におきましては、最高裁判所の荒筋を憲法規定事項として規定されておる。それでありますがゆえに、この機構、組織を変えるということは、直ちに憲法との調和ということを考えなければならぬ。それのみならず、一般訴訟でありますから、訴訟法の原理あるいは国民感情、こういうものを広く参酌いたしまして、そうして是非を決定しなければならぬと思うのでありますがゆえに、私もそういう見地に立ちましてお尋ねいたしますが、きょうは、自分意見というものを差し控えまして、政府のお考えになっております御所見を承わって、後に公聴会が開かれましょうから、政府所見公述人所見とあわせてわれわれ脳裏におさめまして、しかる後に自分意見を固めて、今度は一問一答式の討論を尽し、最後の仕上げに参画したい、こういうふうに考えておりまして、その意味におきまして、きょうは、私の意見をまじえない、ただ政府所見だけを承わりたいと存じまずから、その趣旨において御答弁いただきたいと思います。  一つは、今回の政府のご提案は、最高裁判所判事の員数を九人に減員いたしまして、これを憲法問題の終審裁判所として力強く発足させる、こういう趣旨に相なっておる。そこで、最高裁判所の現在十五人の定員を増員すべきか減員すべきかという議論の根底は、帰するところ、最高裁判所性格が、司法裁判所として理解すべきか、あるいは憲法裁判所として理解すべきか、それにかかわってきておると思うのであります。これはいろいろその道の専門家諸君がみな説いておることでありまして、私もその意味におきまして第一の質問をいたしたいと思うのであります。  そこで、これは弁護士会の長老であり法務大臣をなさいました岩田宙造氏の御高見が相当代表的なものでありますが、「憲法七十六条に最高裁判所といい、またこれに対して下級裁判所というは、最高裁が原則として一般法令に関する訴訟終審裁判所たることを表示するものに外ならない。」、こういう議論をしております。そして、「政治及び立法的方面よりこれを見るに、最高裁国民日常生活を規制する一般法令終審裁判所としてのみ、一般国民の深甚なる関心と尊敬をかちうるものであって、単なる憲法裁判所として違憲審査専門裁判所とするときは、一般国民日常生活とは極めて縁遠き存在となり、特別なる憲法上の問題がある場合の外、一般国民最高裁に対しては無関心となり、これを尊敬する念も消え去り、恰もキリスト教徒が京都の本願寺を見ると異なるところなきに至るであろう。」、かような意見を発表されております。そこで私はこの質問が出てくるのであります。なおまた、最近の新進学者であります団藤教授も、「最高裁判所は単に違憲審査権だけを行使する機関であるのか、あるいは司法裁判所としての終審として、少くとも重要な法律問題について裁判権を持つようなものでなければならないのじゃないか。今のような方法確定後に違憲問題だけを理由として最高裁不服申立てを認めることにすればいわゆる終審裁判所としての性格は非常に弱まるのではないか。言いかえると、やはり上告裁判所であるべきであって、最高裁判所以外の上告裁判所を認めるということは、その点に問題を残すのじゃないかと私は思うのです。」、かような議論もあるのであります。そこで、実務家としての岩田さん、あるいは新進学者としての団藤さん、こういう方々の御意見があるのでありますが、これに対して、提案者はどういうふうな御所見で本法案をお作りになったのであるか。憲法七十六条には、司法権最高裁判所及び下級裁判所にある。その司法権というものはどういうものであるか、そこから議論が分れてくると思うのであります。  そこで、私は、第一点といたしまして、本法案日本国憲法七十六条の司法権の問題とをどう調和的に御理解なさっておるのであるか。最高裁判所憲法裁判所として発足するのであるかどうか、そして、いま一つは、憲法問題を含まざる刑事、民事の終局裁判最高裁判所がやらないということが日本の国の憲法精神と調和するものであろうかどうか、そういうことに対しての御所見を承わりたいと思うのであります。
  8. 中村梅吉

    中村国務大臣 猪俣さん御指摘通り学者の間にもいろいろ議論のあるところであります。最高裁判所は、憲法第七十六条の定むるところによりまして、あくまで司法裁判所である、かような見解に立っておる次第であります。そこで、しからば一般事件についてすべて最高裁判所終審裁判所でなければならないのではないかという議論も出てくるわけでありますが、しかし、私は、憲法第七十六条の、最高裁判所司法裁判所であるという基本に立ちましても、あらゆる事件全部の終審裁判最高裁判所でしなければならないと解釈する必要はないと思うのであります。要するに、違憲関係その他判例統一等につきまして、最も重要な事項について終審裁判所であるという使命を果すことによって憲法精神は貫かれるのではないか、かように考えます。なお、八十一条によりますと、「法律命令規則又は処分憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」、こういうように最高裁判所使命が明らかにされておるでありますが、現在の制度をもっていたしますと、最高裁判所に非常に多くの事件が山積をいたしまして、この憲法八十一条が最高裁判所に対して最小限度のなさねばならない本来の任務というものをここで規定いたしておりますが、この使命を果すことすら非常に困難になりますので、むしろ、この八十一条の精神に沿いまして、この八十一条に明記いたしました事項及びそのほか判例統一に必要な重要な事件について最高裁判所審判をする、審理判断をするということにする方が、憲法全体の精神に沿うゆえんではないだろうか、かように考えておる次第であります。
  9. 猪俣浩三

    猪俣委員 学者の中には、憲法八十一条を二つに分けておりまして、「最高裁判所は、一切の法律命令規則又は処分憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」、いわゆる違憲審査権があるということと、終審裁判所であるということが、最高裁判所性格としてこの八十一条に規定されておるのだという議論をなす者があるのでありますが、これに対しては政府はどういう御見解でありましょうか。
  10. 中村梅吉

    中村国務大臣 そういう議論もあるようでございますし、あるいは日本国憲法を国会で審議いたしたときの経過等もあるようでございますが、最高裁判所判例によりましても、この点は御承知通り近来明確になってきておりますし、私どもは、最高裁判所のすでにしばしば出されております判例のような解釈が正しい、こう解釈をいたしておるような次第であります。
  11. 猪俣浩三

    猪俣委員 わが国の在来の訴訟制度は三審制度であって、しかも昔は大審院というものが終審裁判所として最後判決確定をはかった。その慣習が相当国民感情として残っておるのでありまして、とにかく最高とせられるところの裁判所において最後判決を得たい、こういう国民感情相当にあると思う。それは、現在最高裁判所相当訴訟が輻輳しておる点から見てもわかります。これが一がいにただ乱訴であるというて簡単に割り切るわけにいかぬのであります。たとえば、われわれが病気になっても、とにかく日本で一等偉い医者に手を持ってもらうだけでも成仏するという感情があるわけであります。何も、そういう偉い医者に脈を見てもらっても、寿命のない者はないのでありますけれども人間感情として、それを最後のあきらめとしてその運命に服する、そういう感情もあり得るわけであります。そこで、三十二条には、われわれはどこまでも裁判所裁判を受ける権利があることを書いている。この憲法三十二条の基本的人権とこの国民感情とをマッチさせて考えたときに、いわゆる最高裁判所という名称を用いる裁判所終審をしないでいいものであるかどうか。これについては、そういう議論を、実務家の多くが、岩田宙造さんその他の在野法曹方々が多く持っておる。在野法曹の方が多く持っているということは、国民感情がそこにあるという証明になるのでありますが、これに対しまして政府はどういうふうな御意見でありますか、承わりたい。
  12. 中村梅吉

    中村国務大臣 最高裁判所使命及び管轄をすべき事柄につきましては先ほど申し述べた通りで、ございまして、今の御説のような点もなるほど非常に重要な点だと思いますが、その考え方から参りますというと、最高裁判所裁判官を非常に増員をしなければ事件処理がつかないということになって参りまするのと、もし増員をいたしました場合には、憲法及び判例統一等、これに関連する重要事件というものは、一般上告事件に比してさらに国家的に重要でございますから、これらの重要な事件についての判断を一貫せしめ、またそれらの重要な事件について合議を全からしめて、ほんとう裁判官同士討論を尽して最終的な論議結論を出すということにするためには、工場等にも適正規模というものがあると同じように、裁判官合議にも、適正人員といいますか、適正の限度というものがやはりおのずからあるのではないか、かように考えます。もし数十人の裁判官判例統一あるいは憲法判断等について一つ合議体事件処理するということになりますと、これはなかなかそれらの人たち意見を十分尽すということが困難になり、結局は、多数意見少数意見ということで、形式的にそれぞれの意見を述べ合って解決をするようなことになるきらいもありますので、むしろ、これらの重要事件ほんとうに本質的に重要な扱いを行い、慎重な判断のもとに適切な結論を得るということのためには、今回提案をいたしましたように、九人程度の合議制が最も妥当ではないだろうか、かようなふうに考えるのでありますが、そういたしまするためには、やはりそういう重要任務を遂行する憲法所定最高裁判所と、それに付置いたしまするところの、上告専門に取り扱いまする下級裁判所とに分れた方が、事件処理の上から見ても適切ではないか、かような結論に立って今回の提案をいたしておるような次第でございます。  なお、それについて、最終最高裁判機構自分関係事件判断してもらうことが国民感情としてしかるべきではないかということ、この点、私ども趣旨はまことにごもっともに存じますが、今申しましたような点から、また憲法解釈上からも、今回の提案のような方法によりましても、あえて憲法精神に反するのではなくして、むしろ憲法精神を高揚するゆえんになるのではないか、かような見地に立ちまして今回の提案をいたしておりまする次第で、その意味から言いますと、この上告を取り扱いまする小法廷を、全然分離した下級裁判所にいたしまするよりは、最高裁判所に付置したところの最高裁判所小法廷という形で構成せしめることが国民感情にも沿うゆえんではないか、かように考えて今回の成案を得ましたような次第であります。
  13. 猪俣浩三

    猪俣委員 次に、学者の説をなす者によりますと、この最高裁判所判事国民審査制度というものを非常に重視しておる人があるのであります。ある者は有名無実だとして廃止すべきであるという議論をするのでありますが、国民主権主義を貫きますと、すべて国権の発動は国民にありということになりますならば、国権の一分派であります司法権だけが国民主権主義から超然たるわけにはいかない。ですから、三権分立論として司法権独立が考えられますけれども民主主義国民主権主義をとっておる憲法下におきましては、その国民主権主義のもとにおけるコントロールというものは司法権にも加えらるべきことは当然であります。その基盤に立ちまして、国民審査制度なるものをわが憲法が採用しておる理論的根拠はそこにあると思いますが、そこで、その国民審査を受け、その信任を得た判事によって、国民基本的権利義務に関係いたします最終判断をしてもらって確定をするというところに、人権の尊重の重要な面があるのだという説をなす者があるのであります。そこで、憲法規定しておりまする最高裁判所国民審査制度と、国民審査にかかわらざるところの判事でもって構成しております最高裁法廷国民基本的権利関係最終的に確定するということが、国民主権主義から見て妥当であるかどうか、そういう議論に対しまして、提出者はどういうふうな御所見がありますか、承わりたい。
  14. 中村梅吉

    中村国務大臣 最高裁判所は、御承知通り、みずから裁判を行う裁判業務のほかに、下級裁判所を統轄し、その他裁判に関する諸規則を制定する等の特殊の権能を持っておりますもので、いわば行政における総理大臣あるいは内閣と同じように、裁判における最高峰をなしておると思うのであります。この最高峰をなす者については少くも国民審査に付すべきであるというのが憲法七十九条でございますか、国民審査に関する規定を設けた趣旨ではないかと私は考えます。かような点から、さらに、国民審査に付する最高裁判所がすべての事件について最終的な判断をなすべきではないか、こういう議論も推論ができるのでありますが、これは、事実上、すべての事件と申しましても、問題をしぼらなければ上訴精神にかないませんので、すべて、歴史的にも、また立法の慣例の上から申しましても、上訴ピラミッド型になって参るのが本来の姿でございますから、結局、最高裁判所は、そのピラミッド型の一定のワク内の最高事件、そのワクに概当する事件についてはすべて最終的な判断をする、こういうことで、憲法精神に沿うものではないか、かように私どもとしては解釈をいたしておる次第でございます。
  15. 猪俣浩三

    猪俣委員 今の大臣の御説明は少し不明確でありますけれども、私はきょうは御意見を承わるだけにとどめておきたいと思いますが、今大臣が触れられました、最高裁判所司法行政もやっておるのだ、——裁判の本格はやはり判決審判それ自体であると思いまするが、そのほかに司法行政をやっておる、規則の制定をやっておる、——非常に繁雑なる職能を持つように相なっておる。そこで、説をなす者は、最高裁判所判事種多な仕事のうちから、本来の審判それ自体に精力を集中してもらうためには、一般司法行政は別な機構でやるべきではないか、最高裁判所裁判官会議ということでなしに、たとえば最高裁長官あるいは高等裁判所長官あるいは地方裁判所長官、こういう三長官あたり合議制司法行政をゆだねるのが適当ではないかという議論をなす者もあるのでありますが、これに対してはどういう御所見をお持ちでありましょうか。
  16. 中村梅吉

    中村国務大臣 御指摘の点は今後大いに研究をすべき価値のある問題と思いますが、ただ、現在では、最高裁判所使命任務については憲法で明記されておりますので、最高裁判所使命に関する限りは、この憲法の定むるところに従わなければならないと考えます。ただ、下級裁判所の運用につきましては、最高裁判所がどういうふうに指導し、どういう規則を定め、どういう運営をするかについては、ただいま御指摘のような点について今後十分検討をいたしまして、そして改善をはかる余地はまだあるのではないか、かように私自身も考えております。
  17. 猪俣浩三

    猪俣委員 次に、最高裁判所判事増員すべきか減員すべきか、現在の政府提案減員論になっておるのでありますが、その論拠は、今申しましたような憲法裁判所的色彩相当濃厚にするか、あるいは一般法令違反上告裁判所たる色彩濃厚にするかによって、増員論減員論が出てくると私は思う。当法務委員会で審議した際には、そういう点から増員論になったのでありますが、今回は、政府提案減員になっておりますから、その半面、われわれの理解するところは、憲法裁判所的色彩が濃厚になったというふうに考えるのです。それをあえて反対するわけではありません。私どもも違憲裁判手続法案を出しておるのですから、それならまことにけっこうで、竿頭さらに一歩を進めて、抽象的違憲訴訟もやるような憲法裁判所たらしめたいとわれわれは考えるのでありますから、政府のお考え必ずしも反対ではありません。そこで、もう一つ減員論の根拠は、憲法の七十九条、これは、最高裁判所はワン・ベンチでなければならないということを、最高裁判所側の方々が前から強硬に主張なさっておる。そして、その当時、最高裁判所小法廷というものは最高裁判所ではないという議論も飛び出して、まことに大胆なる論を展開せられたようでありますが、そこで、提案者は、この憲法の七十九条は最高裁判所のワン・ベンチの趣旨規定したものとなさるのであるか、あるいはそうではないというふうに理解なさるのであるか、それをお尋ねしたいと思います。
  18. 中村梅吉

    中村国務大臣 七十九条に、「最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成」するとと明記されておりますので、この七十九条の文理解釈から、あくまで最高裁判所はワン・ベンチでなければならないのだ、小法廷というものはこの七十九条の規定に反しているのだという議論も、御指摘のようにあったようでありますが、私どもとしては、この七十九条の規定はそれまでを予想して規定したものではない、小法廷裁判といえどもやはり最高裁判所裁判である、かように解釈をいたして差しつかえないと考えるのでございます。先ほど当初にお話のありました増員論減員論につきましては、いろいろ、国会におきましても、その他におきましても、長い年月にわたって議論をかわされてきたところでございまして、私どもといたしましては、双方にそれぞれの理屈は十分にあると思いますが、学識経験者をもって御依嘱申し上げて構成いたしておりまする法制審議会で、これらの点につきましてもあらゆる角度から論議を尽しました結果、結局、ほとんど全部の委員が、増員よりもむしろ減員をいたしまして今度のような機構にすることが適切であるという結論になりましたので、私どもとしても、大部分の学識経験者が減員論に傾むきましたということは、やはりそれぞれ長年議論をかわしました結果自然に落ちついたものでありますから、その方が適当である、かような判断に立ちまして、今回の提案をいたした次第であります。
  19. 猪俣浩三

    猪俣委員 今回の提案は、判事を九人にいたしまして、憲法問題を審査する憲法裁判所的色彩相当濃厚になったと考えておるのであります。そこで、わが国憲法界の元老であり、大家でありますところの佐々木惣一博士等は、憲法の八十一条はいわゆる抽象的違憲訴訟を認めたものであるということを詳細をきわめて論文で発表いたしております。なおまた、新進学者でありまする同志社大学の田畑忍教授も、大同小異の、やはり抽象的違憲訴訟が八十一条を根拠として最高裁判所でできるのだという学説をとっているのであります。今回の政府提案は、さきに申しましたように、憲法裁判的色彩が非常に濃厚になってきた。一般司法裁判所というよりも、憲法裁判所的色彩が濃厚になってきた。そこで、提案者は、憲法八十一条を根拠といたしまして抽象的違憲訴訟ができるという御見解でありますが、できないという御見解でおりますか。これは、できるということを相当権威ある学者が主張をいたしておりまするがゆえに、提案者の御所見を承わりたいのであります。
  20. 中村梅吉

    中村国務大臣 御指摘の点は、学者の間にも非常に議論のあるところで、両論あるようであります。八十一条の規定は、具体的事件について法律命令規則または処分憲法で違背するやいなやを判断するのが八十一条の規定であるという説もございます。さらに、憲法八十一条は、抽象的に違憲問題を判断する裁判所ではない、具体的事案が生じた場合に、その具体的事案は違憲なりやいなやと判断するの最高裁判所使命である、また八十一条の定むるところである、こういう解釈に立ちまして一貫した判例を続けておりますので、私どもといたしましては、現在までに行われてきております判例のような解釈、すなわち、具体的事件について違憲なりやいなやを審査判断をするのが最高裁判所使命である、こう解釈するのが妥当である、かような見解を持っておる次第であります。
  21. 猪俣浩三

    猪俣委員 憲法七十八条には最高裁判所判事の身分が保障せられておるのでありますが、今現在十五人在職しておられるのであります。本法が通りますと、九人ということに相なります。そうすると、六人がはみ出てくるのでありますが、現在勤めておられる十五人の判事をどうして九人に減員されるのであるか、減員するとすれば、いかなる法的根拠でおやりになるのであるか、それと憲法の七十八条との調和はどうなるのであるか、その御所見を承わりたい。
  22. 中村梅吉

    中村国務大臣 実は、この点につきましては、この法律が成立しました暁に経過立法をいたしたい、かように考えて、それに必要な準備を整えておる次第でございます。その経過の措置といたしましては、御指摘のように、憲法七十八条の保障がございますので、現在おりまする最高裁判所裁判官を定年あるいは任意退職があるまで減員するわけには参りませんので、その間適切な経過立法をいたしたい、かように考えております。
  23. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、六人の判事というものは最高裁判所判事である、それを減員することができないということになりますと、事実問題としてどうなりますか。最高裁判所判事で給料をもらっておるから、自分訴訟審判に当るのだということを主張すると、いや、お前は最高裁判所判事であるが、職務をとってはいけないというようなことを一体立法でいけるかどうか。それを立法でできるとすると、憲法七十八条との調和はどうなるのであるか。名前だけくれて、俸給だけもらって、そうして神だなに上げてしまうということは、結局七十八条の問題に私はひっかかってくると思う。そこで、任意に退官なさればいいけれども、七十八条を根拠としてがんばって、どこまでも最高裁判所判事である、国から俸給をもらっておる以上は遊んでおっては申しわけないから、自分審判するのだ、こう主張されたときには、それはいけないのだということが一体言えるかどうか。言えるとすれば、どういう根拠で言えるか。結局七十八条との調和の問題になりますが、それをどういうふうに御理解なさっておられますか。
  24. 中村梅吉

    中村国務大臣 基本立法でございます本案におきましては、大法廷を構成する最高裁判所裁判官は九人をもって適当とする、こういう判断に立ちまして提案をいたしておるのでございますが、今御指摘のような次第でもありますので、この法律成立と同時に、政府といたしましては、経過立法の措置を講じまして、その間は現在おられまする最高裁判所裁判官十五人をもって大法廷を構成し、それが定年になりあるいは任意退職をいたしまして減員いたしました場合には、減員した人数が九人に達するまでは、その在任中の裁判官全体をもって最高裁判所の大法廷を構成して、一体になって審理裁判を行う、こういう方法を講じて参りたい、かように考えております。
  25. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうしますと、とにかくこの法律では九人ときめたが、定年になったりみずから退職する者ができて九人に減るまでは、やはり在来の人数で最高裁判所としてやっていくんだということになるわけですね。これは議論はありましょうが、御趣旨だけは承わっておきます。  それから、これは、日本弁護士連合会の御意見を先般承わったのでありますが、政府提案はわが国の長い間の三審制度という慣習をぶち破って四審制度になることが最大の不満であるという御意見を漏らされているのであります。他に学者方の中にもさような議論をなさっている人がある。現に最高裁判所判事であらせられる藤田八郎氏がその点を極力主張されておる。別な下級裁判所である上告裁判所を設ける必要ありやと題して、上告裁判所を設けることの反対意見をるる述べております。結論としては、自分は、裁判官三十年の経験からして、わが国の実情から見れば、訴訟遅延を防止する方法は審級を簡素にするほかに結局適切な方法はないと結論せざるを得ない、それだから、訴訟遅延防止を目的としながら上告裁判所を別に設けるというがごときは実に理解できない、そうして、上告裁判所を設けることによって最高裁判所に来る件数を減らす考えなのかもしれぬけれども、それは今までの実情から全く事実に反たしる構想だ、上告裁判所の新設をしたところが最高裁判所事件は少しも減りはしない、結局訴訟遅延を招き、しかも最高裁判所の負担などはちっとも軽減しない、で、この四審級制度のごときは世界に類例のない制度であると結んでおられるのであります。最高裁判所の現職の判事からかような御意見が出ているのでありますが、これに対して提案者はどういうふうに理解になっておるか。すなわち、これは四審制度であるのかないのか、そうして、最高裁判所小法廷なる下級裁判所を設けることが、訴訟遅延を防止せんとしての最高裁機構改革目的を一体達することになるのかならぬのか、現職の最高裁裁判官がさようなことを言っておりますが、これに対する政府の御見解を承わりたいのであります。
  26. 中村梅吉

    中村国務大臣 四番制度なりやいなやの問題につきましては、先日も高橋委員の御質問にお答えいたしたのでありますが、原則としては四審制にはならないのであります。すなわち、事件が小法廷上告をされますと、小法廷におきましては一応の審理をいたしまして、原審判決憲法の違反があるという主張をいたしております事件は、ことごとく大法廷である最高裁判所事件を移して、みずからは判断をいたしません。なお、小法廷において審理をいたしておりまする間に、みずから原審判決に対する憲法違反を発見いたしました場合には、これまた小法廷最高裁の大法廷事件を移すのであります。しからざる事件についてのみ小法廷限りにおいて上告申の最終判断をいたすのでございまして、従って、これらの事件につきましては四審ではありませんので、ただ最高裁判所憲法違反問題について判断をいたしまする下審査的な業務を小法廷が取り扱うということにはなりますが、裁判それ自体においてはあくまで三審であるわけであります。ただ、小法廷が行いました判決に対して、さらに当事者が憲法違反があると主張した場合におきましては、小法廷裁判に対して異議の申し立てを最高裁判所の大法廷にすることができる、こういうことにいたしておりますから、この分につきましは若干三審プラス異議の申し立てということになるわけでございます。これは、ちょうど、現在簡易裁判所が第一審で行いまする民事の訴訟事件につきまして民事の特別上告制度がございます。高等裁判所が三審としての最終判決をいたしましたのに対して、当事者から異議の申し立てをすることができる道を開かれておりますが、これと全く類似の手続でございまして、現在の民事特別上告の場合におきましても、特別上告はできますが、判決それ自体高等裁判所において確定をいたすのであります。今回提案の法条におきましても、小法廷判決をいたしますと異議の申し立ての道は開いてありますが、判決はそれで確定をいたすのであります。ただ、異議の申し立てを受けました大法廷、または異議の申し立てがありました事件についてその取扱いをいたしました小法廷自身が、なるほど異議の申し立ての理由あるものとみずから判断をいたしました場合には、その確定を停止する救済の道が開かれておるというにすぎないのでございますから、私どもといたしましては、四審ではなくあくまで原則は三審でありますが、三審に対して特殊な場合の救済の道を開くために、三審プラス異議の申し立てという制度を採用せんといたしておるにすぎないのでございます。  なお、審理の簡素化以外には事件の山積を防ぐ道はないという説も御指摘いただきましたが、この制度を検討いたします上に常に非常に複雑な問題になりますのは、審理の簡素化ということになりますと、これはどういう方法で行うにいたしましても、民権を圧迫する、当事者の主張なり権利を圧迫することになります。できるだけ本案におきましては当事者の権利を伸張する、同時に裁判の迅速をはかろう、こういうような点を双方から検討いたしまして、かような結論が出たものと考えるのであります。すなわち、刑事の上告につきましては、従来非常に上告理由の範囲を圧縮してございましたが、これを、今回は、原審判決に法令の違反があって、それが判決の結果に影響を及ぼし、著しく正義に反するような場合には、憲法違反でなくても、あるいは判例抵触でなくても上告ができるように上告の間口を拡張いたしまして、当事者の権利の主張をできるだけ認めようということに努めている半面において、裁判の迅速をはかろう、こういうことの双方を織り込むことに努力いたしました結果が本案のような成案になりました次第でございます。  この点を御承願っておきたいと思います。
  27. 猪俣浩三

    猪俣委員 藤田さんという現職の最高裁判所判事がそういうふうに主張されておりますが、実際現実に事務を取り扱っておりまする事務総長の御所見を承わりたい。こういうふうな、いわゆる最高裁判所小法廷という下級裁判所上告専門裁判所を設けることが、一体事務の簡素化になるのであるか、訴訟遅延を防止する結果になるのであるか、今までの長い問の御経験から最高裁判所としてはどういうふうにお考えになっておるか、その御所見を承わりたい。
  28. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 藤田判事の発表された御意見は藤田判事個人の御意見でございまして、最高裁判所全体としては、この政府提案の案に対して、大体、法制審議会で数年間にわたって論議され、まあ一番この案がベターであるという考えのもとに、政府提案に同意をいたしておるのであります。訴訟遅延の防止と同時に国民権利の擁護の両面から考えましていろいろ論議した結果、結局、上告事件というものを取り扱うところを一つ設けて、その間口の広がった上告事件をそこで審理し、憲法問題及び判例抵触その他重要な法律事項解釈に関するものだけはやはり最高裁判所でやるのがいいのではないかというのが、大体最高裁判所会議で考えられた結論であります。
  29. 猪俣浩三

    猪俣委員 この藤田案というのは、これは実務家でありますから、私ども相当尊重して政府のお考えを承わっておきたいと思うのですが、藤田判事の御所見によりますれば、上告裁判所というのを設けると、少くとも二十人以上の相当判事を全国高等裁判所判事の中から、抜擢しなければならぬじゃないか、これは判事の人事行政上の打開策にはいいと思うかもしれぬけれども、実際は非常に困る、第一に、高等裁判所判事の人員は現在のところ余裕があるとは考えられない、もしかりに幾らかでも余裕があるならば、これは第一審の強化に充てなければならぬ、−第一審の強化をはからなければならぬということは、これは実務家学者みな一致して述べておることで、ここに私はその文献をたくさん持ってきております。最高裁判所が全く憲法裁判所性格を強めてきたことは、提案者がどう説明されようが、明らかなことであります。従って、下級裁判所、特に第一審裁判所を強化するということが非常に重要な問題に相なってくる。そういう際に、ここに上告裁判所的色彩の特別な裁判所を設けて、そうして優秀な判事を三十名も抜擢する。藤田判事の説によれば、そんな余裕はないはずだ、かりにあったとしても、それは第一審強化に向けらるべきではないかという御議論であります。そこで、政府提案のこの法案と第一審強化策とはどう調和するものであるか、その御所見を承わりたい。
  30. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 第一審強化については非常にいろいろ努力いたしております。ただ、この法案が成立したときにどうなるかという御質問でありますが、むろん第一審の強化をなおざりにするというようなことは私たちは考えておりませんが、御承知通り、現在最高裁判所に二十四人の調査官がございます。これは、第一審の判事として出られても、相当年数もたち、有能な判事の資格を持つ人であります。この二十四人が、大体今回のこの小法廷においては、こく若い調査官を一つの小法廷で大体二名程度に考え、しかも判事補程度の調査官で間に合うだろうというような考えですから、この二十四名の調査官そのものを今の小法廷判事にするというわけではございませんけれども下級裁判所判事と入れかえることによって、そう第一審強化に影響するものではないだろう、かような見通しであります。なおまた、この小法廷裁判官の待遇の問題はどうなるか、これは政府当局においてお考えのことだろうと思うが、相当の待遇をもって迎えれば、在野法曹からこの小法廷判事を迎えることにさほどの困難はないのじゃないか、かように考えておりますから、私どもとしては、第一審強化の線に非常にはずれてくる、さようには考えておりません。
  31. 猪俣浩三

    猪俣委員 そうすると、最高裁判所の調査官というのは廃止するのですか。
  32. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 最高裁判所のこの法案によりますと、廃止はいたしませんけれども、非常に数を少くし、しかも小法廷においては大体判事補をもって充てればいいのではないかという考えで、大法廷も今のような判事の数が減ると同時に、調査官もそんなにたくさん必要ではなくなるのではないか、かように考えております。
  33. 猪俣浩三

    猪俣委員 具体的に、二十四名おる調査官を、何名最高裁判所の調査官として残される予定でありますか。まだその予定は立っておらないのですか。
  34. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 大体半分程度でまかなっていけるのではないかと思います。しかも、人そのものから言えば、いわゆる判事の資格のある者を第一線に出して、判事補の若い判事を迎える、こういう考えであります。
  35. 猪俣浩三

    猪俣委員 弁護士から相当任官するのではなかろうかという御見解、それは承わっておきますけれども、今の判事の待遇では弁護士から判事になる人が非常に少いのではないか。ことに恩給制度であります。こういうことを考慮しないと、今五鬼上事務総長が言われたように楽観はできないのではなかろうか、こう思われるのです。最高裁判所の小法廷判事になるには相当の練達堪能の弁護士でなければならないはずであるが、そういう練達堪能な弁護士が、今のような恩給制度もない場合に、また今のような判事待遇でなれるかどうか、そういうことについて具体的にお考えになったことがあるかどうか、御所見を承わりたい。
  36. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 弁護士から裁判官になるには今の待遇では来ないのではないかという御意見、ごもっともであります。私ども非常に苦心いたしておるのですが、しかし、最高裁判所の小法廷判事の待遇は、私どもは、小くとも現在の裁判官の待遇よりかある程度高かるべきものである、かように考えております。そういう点と、任地が東京というところに制限されておるという点からして、一審強化ができないほど得るのに困難であるかというと、私どもの見るところでは、得られるのではないか、かように考えております。
  37. 猪俣浩三

    猪俣委員 なお、この調査官の問題につきましては、当委員会審査した際にもいろいろ問題に相なりました。また、弁護士会あたりの意見を聞きましても、調査官裁判というふうな悪名も出ております。そこで、このいわゆる政府案のように上告裁判所を設けるとともに、調査官なんというものは廃止すべきじゃなかろうかという意見があるわけであります。政府では廃止の意思がないような現行法になっておりますが、外国におきましての実情等をお調べになったことがあるなら、調査官制度なんというものが外国の裁判所においてどうなっておるのであるかをお漏らし願いたいと思う。
  38. 位野木益雄

    ○位野木政府委員 外国立法例でございますが、すでに御承知かと思いますが、西独の憲法裁判所、ここで、各州の法令なんかを調べる必要があるということから端を発したように聞いておりますが、ヴィセンシャフト・リッフル・ヒルフス・アルバイターという名前の、日本の調査官の制度に似たような制度があるようであります。これはいわゆる法令の調査に当っているという、ふうに承知しております。それから、アメリカの裁判所でも、ロー・クラークというものがあって、判例とか学説というようなものの下調査に当っておるというふうなことを承知いたしております。なお、ほかにも、レフェリーとか、英国でもマスターとかいう制度なんかもあるようであります。日本の調査官の制度そのものは、制度が違いますから見当りませんが、類似のものでは、今あげたようなものがあるように承知いたしております。
  39. 猪俣浩三

    猪俣委員 私の聞くところによれば、アメリカの調査官というようなものは日本の調査官と非常に違って、ある学者はアメリカには調査官なんというものはいないのだというような議論をしておる人がありましたが、あるにはあるが、しかしそれは日本の司法官試補みたいなものであって、実務練習で来ておる。医者で言えば大学の助手みたいなもので、実務実習のために来ておるような者がある。ところが、ただいまの日本最高裁判所の調査官なんというものは、直ちに第一審強化の責任ある陣頭に立つことのできるような実力のある人がなっておる。だから、調査官裁判なんというデマも飛ぶのです。私もドイツに行きましたときに憲法裁判所の調査官なるものを聞きましたけれども日本の調査官なんというものと非常に性格が違っておるし、ドイツの憲法裁判所日本最高裁判所というものは、これまた全く性格が違うもので、比較できません。そこで、この日本のような最高裁判所の調査官というものは特有のものじゃないかと思うのですが、これはどうしても廃止できないものであるかどうか、あるいは、何かそういうものを調べさせるだけならば、アメリカのように、実務実習のために司法研修所を出たような人間だけでもいいのじゃなかろうかと思いますが、そういうことについてどうお考えになりますか。
  40. 位野木益雄

    ○位野木政府委員 裁判の内容に影響を与えるような調査官というものの存在がもし考えられるといたしますれば、これは好ましくないものであります。これは異論のないところであります。ただ、判例とか学説、外国の立法例等の調査は、やはり判事みずから方方へ出かけていってそういうふうないろいろ雑用的な部分も含めましてやらせるということになりますと、判事相当負担が重いですから、自然判決の内容に影響を及ぼす、すなわち、用多くして負担を重くするということは好ましくないと思いますから、そういう意味においてはむしろ必要であるというふうに考えております。
  41. 猪俣浩三

    猪俣委員 きょうは私は大体憲法問題を中心といたしまして政府の御所見だけを承わることに最初からきめておりまして、こまかい問題じゃなく憲法上の大きな問題についてだけは大体政府趣旨を聞きましたので、私の発言はきょうはこれをもって終ります。
  42. 三田村武夫

    ○三田村委員長 高橋禎二君。
  43. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 法務大臣に、先ほど猪俣委員から質問された問題に関連して一つお尋ねしておきたいと思いますが、この法案によりますと、これは三十三年六月一日から施行するということになっております。それから、最高裁判所判事が現在十五人だが、この案によると九人になるので、あとの六人をどう取り扱うかということは、臨時のと申しますか経過的な法律をもって処置する、こういうお話なんです。ところが、その法律というものは、この案と並行的に審議しないと、あとで困ることになるのじゃないかと思うのですが、それについての見解をお伺いするわけなんです。と申しますのは、それを法律でされるのかどうかという問題と、これは法律でされなければいかぬと思うのですが、法律でされる場合には、今国会にその関係の法案を提出される予定であるかどうかということ、それから、法律で出されるとすれば、先ほどお答えになったのはややはっきりしない点もありましたのですが、その内容はどうかということ、これはやはりこの委員会ではっきりしておきませんといかぬと思うのです。できれば法律案をお出しになるべきだと思うのです。そうしないと、もしこの案だけが通ってほかの法律が通過しないということになったときには、処置なしということになると思うのです。それについて一つお考えを伺っておきたいと思います。
  44. 中村梅吉

    中村国務大臣 実は、この法案につきましては、多年国会その他において数々の議論のありました法案でございますから、基本的には、この法案の御審議をいただいて成立しましてから、来国会にその経過立法をいたしたい、それで昭和三十三年六月からの施行には間に合うのではないか、かように目下のところ考えておる次第でございますが、ただその構想につきましては、すでに法務当局では持っておりますから、状況に応じてあるいは提案を考えてもよろしいと思うのですが、今までのところでは、法案成立後来国会において施行に必要な関係法律として立法措置を講じたい、かように考えておりました次第であります。
  45. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 その点はやや危ない橋を渡るような感じがしないでもないのですが、一つ間違いのない方法をおとりにならないといかぬと思うので、申し上げておきます。  それから、最高裁判所事務総長がおいでになりましたから、やはり先ほどの猪俣委員質問に関連をし、そうして、私はこの前の委員会で法務大臣にはその点をお伺いし要望もいたしたのでありますが、なお要望をし、かつお尋ねをしたいと思うのであります。  第一には、実は、最高裁判所に対しては、気持の上ではいささかお気の毒な感じもしないわけじゃないのですけれども、今度の問題は、最高裁判所機構改革の問題として、その機構改革論議されるようになったのは、国民的要求としては、上告の門戸を開放しなければならぬということと、それから、いま一つは、訴訟の促進という、おもにこの二つの理由から出ておるわけです。そこで、この法案によりますと、別な裁判所を作るというのですから、最高裁判所の門戸は狭められたと申し上げても過言ではないと思うのです。国民の気持はそうじゃないのです。現在の最高裁判所制度のもとにおいて上告の道を開けというのが要求なのです。最高裁判所側として、そういう要求を国民が持っておるというふうにお考えになるのかならないのか、ここのところをはっきりお伺いしたいわけなのです。国民の方では、最高裁判所一つもっと門戸を開放してどしどし裁判をしてもらいたいと思っておったら、そういうところから出発した最高裁判所機構改革が、今までよりはさらに門戸を閉ざされた結果になることは、この国民の要求に沿わないのじゃないか、そこをどうお考えになるか、こういうことです。  それから、その次の訴訟の促進ということには、いろいろの条件をそろえないといかぬと思うのです。単に機構改革をやっただけではだめである。申し上げるまでもなく、その機構のもとでその地位にある人が一生懸命働かなければだめなのです。最高裁判所の今までの裁判官の仕事のしぶりというものは一体どういう程度であるか、これをやはり知らないと、この法案の審議はほんとうにはできないと思うのです。ただ、最高地位にあって、はたからそうやかましく言われないし、立法、司法、行政で、司法は独立しておるのだといって、国会で論議するについても、ほかのものとはやや異なった面がある。もちろん、行政府がこれを監督するというような立場には置かれない。こういう独立をした司法機関のもとにおいて、しかも最高の立場にある者が一生懸命働いておるのであろうかどうであろうかということをはっきりしておかないといかないわけです。この前、法務大臣に対して、最高裁判所のそういうことを一つ調査して委員会へ考課表のようなもの、仕事のしぶりについて一つ御報告を願うように話したのですが、法務大臣は、そういうことは最高裁判所に対してやややりにくいようなお言葉もありましたから、最高裁判所としては、堂々と、われわれは今日までこれだけの仕事をやっておるのだということを一つここにはっきりしていただきたい。これをまずお願いをいたしておきます。  それから、お尋ねしたいのは、今度の最高裁判所機構改革によって、これは猪俣委員も先ほど心配され、そうして私も非常に心配をしておるところなのですが、訴訟はかえって遅延するのじゃないか。法務大臣は、訴訟遅延しないという見通しを持っておる、こうおっしゃいましたけれども、どうも私ども見通上が違うのです。と申しますのは、今度の案によりますと、上告事件は、普通の争いについては、最高裁判所小法廷上告の申し立てをする、そうして、その裁判が終れば、これを確定させる、これに対して異議の申し立てができるようになっておるのです。異議の申し立てをあまりしないのじゃないかという意見のようですが、私は、そうではなくて、ほとんど異議の申し立てをするのじゃないかという見解を持っておる。と申しますのは、最高裁判所に異議の申し立てをすれば、最高裁判所は刑の執行を停止するなりあるいはその他の必要なる措置をとることができる、こういう規定がありますが、おそらく、確定はしたというものの、まだ憲法の問題が最高裁判所に係属をしておるのだから、やはり相当刑の執行を停止されるようになるだろうと思う。もしそれをしないと、行刑の面で大へんなことが起ると私は思うのです。ですから、強い要求があるのですから、最高裁判所は刑の執行を停止する。そういうことになると、やはり、こういう人間の考えは正しいかどうかはわかりませんけれども、とにかく最高裁判所一つ異議の申し立てをして、そうしてそれが決定をするまでは刑の執行を延ばしてもらおうというような趣旨で、これからは下級裁判所においても最高裁判所においても憲法問題が非常に取り上げられるようになると思う。ところが、それは実際には憲法違反という結論は出ないかもしれませんけれども、確かにやると思う。これも国民感情からすれば無理からぬことだと思うのです。そういうことになりますと、どうでしょう。事務的にお考え下さっても、一ぺん記録を見なければなりませんでしょう。異議の申し立てをしたら、記録を見なければ、刑の執行を停止していいか悪いか、その他必要な措置をとっていいか悪いか、わからないはずです。もしも記録を見ないままそうやるなんということだったら、これは無責任きわまることだ。そうすると、相当数の者が異議の申し立てをして、最高裁判所では調査官の数が減るのだそうですが、大へんなことになると思う。その記録を一々ごらんになって、執行停止をするかどうか、その他必要な措置を講ずるかどうかを決定して、それからまた本案の裁判をやるということになり、二重手間ですよ。そういうことになったら、今よりは憲法問題に関連しての異議の申し立てによって裁判所に係属する数は多くなり、最高裁判所の手数が、二回やることになるのですから、これまた倍になってしまう。そういうことになって一体訴訟の促進ということができるかどうか。今よりはもっとおくれてくるのではないか。しかも、ものによれば最高裁判所小法廷最高裁判所の管轄だといって移送することができる、最高裁判所はまた、その書類を調べてみたところが、これは最高裁判所小法廷の管轄だといってそれを逆送することができることになっておる。これをまじめに取り扱って書類を一々調べてやっておるということになると、今までより大へんではないか。事件はふえて、最高裁判所は、ただ裁判官の数が少くなってこじんまりとしてきた、そしてこれが天下第一流の人物が集まっておる最高の場所だ、こういうような気持だけは一応するかもしれませんけれども国民の要望する上告の門戸を閉ざして、そして今までよりはもっと訴訟遅延を来たすということになったら、これこそ大へんなんです。大体最高裁判所機構改革という問題の出発点の理由となっておるものを全然満たし得ない逆なことになるということを非常におそれておるわけです。それについて一つ所見を伺っておきたいと思います。
  46. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいま御質問通り、この機構改革というものは、昭和二十六年、七年あたりには、七千件も最高裁判所の未済件数が出た、最高裁判所自体としても、何とかしなければならぬというので、いろいろ内部的に規則を作るとかいうようなことでやって、そうして裁判官の数をふやすとかいうようないろいろな手当をしたのだけれども、どうも追いつかない、ところが一面、民事上告特例法が廃止になり、従って、民事においては上告の門戸が広くなった、さらに、今回おそらく刑事の上告事件の範囲もある程度広がってくるだろう、こういうなるほど国民的要望で国会においてさようなことに法律ができて参りますと、われわれといたしましても、現状ではとても背負い切れぬ、そこで結局政府法制審議会にかけていろいろ案を練られた、そういう状態でありますので、全く御質問の御趣旨通り訴訟遅延の防止ということについてはいろいろ考えなくてはならないことだろうと思いますが、その節に御質問になりました、最高裁判所は何をしておるのだ、働いておるのかという御質問の御趣旨でありますが、これは、りっぱに一生懸命に仕事はいたしておるのだと申し上げましても、ただ申し上げるだけではどうかと思いますので、大審院当時と最高裁判所になってからの一人当りの裁判官の負担件数を申し上げれば、なるほどと御了解願えることだと存じます。大審院当時判事が四十五人おりました。民事の一人当りの裁判官の負担件数が五十七・六件、それから刑事の一人当りの裁判官の負担件数が四十六・四件、これは大審院の昭和十六年、十七年ごろの平均負担件数であります。ところが、最高裁判所になりまして、ただいま問題となりました七千件の未済のできた当時の一人当りの負担件数というものは、民事においては、二十六年が六十三・二件、二十七年が八十六・九件、相当の増加でありますが、刑事に至りましては、驚くなかれ、大審院当時四六・四件であったのが、昭和二十六年には五百二十三件、二十七年が四百七十六件、かように一人当り何層倍もする負担件数になって参ったのでありまして、一向減ずるような傾向がございません。そこで、上告の範囲が広がってくる以上は、やはり何とかしなければならぬ。そこで増員論という議論も出てきたのでございましょうけれども、私どもといたしましては、今の最高裁判所小法廷たる、いわゆる上告審において、エキスパートの判事を入れて処理すれば、三十人ぐらいで大体処理ができていくのじゃないか、そうすると、憲法問題といわゆる判例抵触という事件がきわめて少くなり、確定いたしますものですから、そう異議の事件は多くならないのじゃないか、かように考えます。  その実例といたしましては、民事の簡易裁判所の特別上告事件上訴率を調べてみますと、大体昭和二十八年ころが六%、二十九年ころが二%、三十年が一九%というようなきわめて少い数であります。数から申しますと、二十八年が十三件、二十九年が二十件、三十年が二十五件というようなきわめてわずかの特別上告がございます。従って、事件確定してしまえば、これは悪い言葉かもしれませんが、事件を延期するというようなための異議の申し立てというものも一向役立ってこないのじゃないかと思います。なるほど停止の規定はありましても、そういう停止の場合の事件というものは相当慎重に審理するでありましょうけれども、そんなに停止をする事件が多くないのじゃないか、かように考えておりまして、見通しとしては、大体これでいいのじゃないか、こういう考えであります。
  47. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 どうも私には了解できないのです。先ほどおっしゃった大審院時代と最高裁判所時代との件数の比較がありましたが、これは事務総長はよく御存じのはずなんです。大審院時代の上告事件というものは、刑の量定が不当であるとか、事実の認定が誤まっておるという問題等に関連して、事実調べというものを盛んにやられたのです。これは大へんな手数のかかる問題なのです。ところが今、刑の量定だとかあるいは事実の誤認というようなことに関連して上告しようといっても、できないでしょう。そして、最高裁判所は、これは職権調査に属することだといいながら、職権調査を一体やっているかというと、これまた、上告した側の人が特に注意でも喚起しなければ、どうもやられるようにも思えないのです。あんなものは法律にあっても全く空文にひとしいようなものだと思えるのですが、そういうことになっておる。だから、ただ簡単に上告理由がないといってはねてしまう。特に裁判書きを印刷することにしておいてはねてしまうような裁判と、それから、真剣に事実問題、量刑の問題について事実調べをどしどしやって結論を出すのと、これは比較になりません。同じ上告理由を認めておいて件数を比較するのならば、話はわかるのです。だから、これは比較にならないのです。ですから、私の要求しますのは、一体一人が現実にどういうことをやっているのか、たとえば、裁判を開いた回数であるとか、あるいは出勤の模様であるとか、それを処理した内容等について、これを調べていただかないといかぬ。特に、憲法国民審査という制度を設けて、常に国民に司法に関しての深い関心を持たせ、そうして裁判官の一人々々の行動国民によく了解させていくのが憲法精神なんです。ですから、毎年、最高裁判所は、そういうふうな点について、国民審査の資料としても、仕事のやり方を十分公表して、理解納得できるような処置をとるべきだと思うのです。それは別にしましても、今度のような機会においては、ぜひとも法案審議にもっと詳しい仕事のしぶりということが必要なんでしょう。当然なんです。これがわからないで機構を改革したってどうにもならない。こういう趣旨でありますから、その点詳しく御調査下さいまして、当委員会に提出していただきたい。これを強く要求いたしておきます。  それから、門戸を開放するというのを、今度は最高裁判所自体としては逆に門戸を閉ざしたことになるのでしょう。それが国民感情に合致するかどうか、その点です。一般としては、三審制度のもとにおいて、最高裁判所において、——ほかの裁判所を設けて解決してくれ、こういう考えじゃないのです。この最高裁判所において、国民審査をして非常に待遇を受けておる、よく言われる天下第一流の人物をもって構成されておるであろうと国民が期待し信頼しておる、その裁判所一つ門戸を開放して裁判をしてもらいたい、これが要求なんです。今度の案では、それに違反するのじゃないか、その点なんです。  それから、促進問題に関しては、これは見通しの問題ですから、あまり重ねて申し上げませんが、今申し上げた二つの点について、はっきりとしておいていただきたいと思います。
  48. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいま御要求の資料は、後ほど十分調査いたしまして提出いたします。  それから、上告の範囲を広げて、そうして国民審査を受けた判事によって行う審理を国民が要望しておるのだということ、おっしゃるようにまことにその通りだろうと思います。思いますが、しかし、現在の司法制度において、しかもピラミッド型の司法制度を認めておる、審級制度を認めておる制度においては、すべての事件最高裁判所において審理するということは、これはとうてい不可能なことであります。従って、どこかでしぼらなくちゃならないという考え方から、おそらく今度の案が最高裁の小法廷というものでしぼって、そうして一般上告事件をそこで扱っていこう、こういう考え方であろうと推察いたすのであります。私どもとしましては、それはなるほどたくさんの判事増員いたしまして、そうして全部国民審査をやれば、あるいはこたえられるかもしれないけれども、今それほど大きな大裁判所を作ってこたえていくということにはいろいろな困難があるのではないか、かように考えます。
  49. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 いま一つ法制局から野木政府委員が来ておられますから、お尋ねしておきたいと思います。と申しますのは、今最高裁判所事務総長にお尋ねいたしましても、どうも私ども満足できる御答弁をいただくことができない。というのは、これは根本的な考え方の問題なのです。大審院時代でもピラミッド型であったのですよ。それから、今よりはもっと上告理由の範囲を広げても、これはピラミッド型になりますよ。第一審に係属したものをすべて残らず理由を制限しないで上告へ持っていけという、そんなばかなことを言っているのではないのです。やはり、ピラミッド型ということは三審制度というのと同じなんですから。  そこで、なぜこの法律案のような考え方になるかというと、結局、問題は、いわゆるワン・ベンチ論などというものが私は相当影響しておると思うのです。法制局の考えではどうなのですか。いわゆる最高裁判所においては、これは裁判官全員が裁判をしなければならぬという考え方に立っておられるのであるかどうか、憲法解釈上どうなるか、その点を一つ明らかにしていただきたい。
  50. 野木新一

    野木政府委員 最高裁判所のすべての裁判において最高裁判所判事の全員が関与してこれをしなければならないかどうかという点につきましては、すでに現行裁判所法におきまして小法廷という制度を認めておるわけでありまするから、私どもは、この現行裁判所法憲法のもとにおいても合憲的であると考えております。そうでありますので、絶対に小法廷というものを許さないかという御質問でありましたら、許し得るというように考えます。しかしまた、逆に、それではあらゆる事件を小法廷審判させることができるか、たとえばある法律が違憲であるかどうかという点をも小法廷最終的に審判させることができるかどうか、そっちの面から考えてみますと、果してそこまでいくのが憲法精神に合するものかどうかという点につきましては、私どもはまだ疑義を持っておる次第でございます。従いまして、私どもといたしましては、現行裁判所法並びに今度の改正案の程度におきましては、少くともこれは違憲の疑いはないだろう、そのように考えておる次第であります。
  51. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 憲法解釈上、違憲かどうかという問題を最高裁判所全員でなくても裁判をできるという見解であるかどうか、こういうふうにお尋ねしますが、お答え願いたい。
  52. 野木新一

    野木政府委員 ある法律なりが憲法違反であるという判決を、最高裁判所判事の全員が関与をしないで、すなわち法律などで認められた小法廷ですることができるかどうかという点につきましては、私ども、現在の考えによりましては疑義を持っておる次第であります。
  53. 高橋禎一

    ○高橋(禎)委員 その疑義を持っておられるというのは、できないというふうに考えておられるのであるか、どちらがどうかまだはっきりした結論を持っておらぬというふうにお考えになるのかどうか。そして、一つこういう例をあげて、これが憲法に違反するかどうか御意見を承わりたいのです。最高裁判所に小法廷を五部なら五部置いて、そうして、その五部の部長と最高裁判所長官とをもって構成する、名づけて大法廷と言ってもいいでしょうし、別な憲法部と言ってもいいでしょうが、そういう部を設けて、その部長をきめたり、憲法部と申しますか、今申し上げた部を構成する人たちを、できるだけ憲法精神を尊重して選び出すという方法をとって、そしてその部で——これは全員ではありません。その部において憲法違反という問題を取り扱うことができるかどうか、それは憲法に違反しないか、はっきりした意見があるかどうか、ただ疑問であるのか、それを伺っておきたい。
  54. 野木新一

    野木政府委員 大へんむずかしい御質問でありまして、非常にむずかしい問題ではございますが、私どもかねがね議論してきたところにおきましては、どうもそういう制度は現行憲法精神に沿わないのではないか、疑義がある、もっとはっきり言えば、今のところではどうも違憲くさいではないか、そういうように私どもは一応考えております。
  55. 三田村武夫

    ○三田村委員長 猪俣君。
  56. 猪俣浩三

    猪俣委員 さっき聞き落しましたが、最高裁判所判事増員説というのが法務委員会委員会結論になっておるわけですが、最高裁判所判事を三十名に増員するということが不適当であるかどうか、不適当であるとすれば、どういうところに適当ならざるところがあるのであるか、これは法務大臣及び最高裁判所事務総長何方から御説明願いたい。これは大へんいけないことであれば、われわれまた考えなければなりませんが、法務委員会としては一応そういう結論を出しておりますので、それに対して御意見を承わりたい。
  57. 中村梅吉

    中村国務大臣 これは、せっかく国会におきましては、かつて小委員会を設けられまして、長期にわたり御検討されました結果、一つ増員説ともいうべき大体その当時の結論を得られたようでありますが、増員方法によります難点としましては、三十人というような大人数で一つ法廷を構成して、十分の討議を尽して掘り下げた検討をいたしまして適切な判決をするということが、裁判合議体として不適当ではないだろうか、人数が多過ぎますと、自然に多数意見少数意見ということに分れて、結局多数意見裁判をすることになりまして、少人数の合議制のようにあらゆる角度から——単なる法律論や何かでありませんので、具体的事件に触れた法律問題の込み入ったことを適切な結論を得て判断をするのには、もう少し人数がしぼられた方がいいのではないか、現在の十五人ですらも多いのではないだろうかという考えが一部に強いようでございます。同時に、増員した場合に、先ほど高橋委員からも御発言がありましたように、何かの方法で人数をしぼったらどうか、こういう考え方も成り立ち得ると思うのでありますが、この点につきましては、市法の七十九条で、最高裁判所長官、その長たる裁判官一つの別の地位を持っておりますが、その他の裁判官は、おそらく国民審査の点におきましてもその他の点においても同列に見ておるわけであって、これらの同じ最高裁判所裁判官のうち、幾通りかの地位の違った裁判官をもっていたして、一部の者は大法廷憲法問題に参画し、他の者は憲法問題に参画しない裁判官である、こういう行き方については、憲法上疑義が残るのではないだろうか、いろいろな角度から議論が戦わされた結果、結局増員説はとるべきでないというように落ちついてきたのが法制審議会結論でございますので、私どもといたしましては、この学識経験者多数をもって構成し、しかも数年間にわたって討議を尽し、小委員会を作ったりいたしまして、各部会でそれぞれあらゆる角度から検討いたしまして得た結論というものは、やはり妥当なものであろう、こういう判断に立っておるような次第であります。
  58. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 大体法務大臣から答弁申し上げたと同じように考えております。ただ、三十名に増員するということは、三十名をもってもし憲法問題をやろうとするならば、非常に合議に難渋を来たすのではないかというのが最高裁判所裁判官の一致した考えであります。それから、先ほどの、憲法問題に参加する裁判官と、しない裁判官があるということは、やはりそういうことは憲法は考えていない、かように考えておる次第であります。ただ、問題は、たとえば法廷を二つなり三つに分けて憲法問題をやった場合に、違憲訴訟に対する法令の合憲性につき、甲の部においては合憲として、乙の部においてはそれと相反するような意見があった場合に、非常に混乱を来たすのではないか、かようなことも考えられるのであります。
  59. 猪俣浩三

    猪俣委員 きょうは政府側の御意見を承わるだけでいいのですが、五鬼上氏が言うた、甲の部では合憲、乙の部ではしからずというようなことになった場合には、これは法務委員会でも考えまして、連合審査制度というものを設けて、旧大審院と同じような形で幾らもできると思いますから、それは大した理由にならぬと思うのです。しかし、それは御意見だけ承わることにして、ついでに五鬼上さんにお願いしたいことは、あなたの下部機構として最高裁判所の家庭局とか総務局とかいろいろな局があるようですが、私はその機構がよくわからないのですが、そこに相当判事の資格のある人が入っておるようにも承わっておる。その点も第一審強化と連関して考えなければならぬのじゃないか。それで、事務局の組織、及び判事の資格のある人が一体何人おるのであるか、そういうことに対して、後日でいいですが、報告していただきたいと思います。
  60. 三田村武夫

    ○三田村委員長 この際公聴会開会に関する件についてお諮りいたします。すなわち、裁判所法等の一部を改正する法律案につきまして公聴会を開き、学識経験者等より意見を聴取することについて議長の承認を得たいと存じますが、これに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  61. 三田村武夫

    ○三田村委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。なお、議長の承認がありましたならば、開会の日時、公述人の選定等につきましては委員長に御一任願いたいと存じますが、これに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  62. 三田村武夫

    ○三田村委員長 御異議なければ、さよう決定いたします。  本日はこの程度にとどめ散会いたします。次会は公報をもってお知らせいたします。    午後一時五分散会