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中村国務大臣 ただいま
政府委員から、この
法案を立案するに至るまでの諸般の
経過について詳細に御説明を申し上げたのでありますが、御
承知の
通り現在の
最高裁判所の
制度が
事件の積滞その他の点において非常な行き詰まりを来しておりまして、
国会におきましても、数年前からお取り上げになりまして、小
委員会等を設けられて種々御
検討をいただいておりましたのですが、
法務当局といたしましても、
法制審議会で、ただいま
政府委員から御説明申し上げましたような
経過をたどりまして、いろいろな
検討を続けて参ったのでございます。
この間いろいろ
意見がありまして、ただいまお
手元に配付されております
資料にも明瞭でございますように、単純に
最高裁判所の
裁判官を
増員すべきであるという
意見であるとか、あるいは別個に
上告裁判所を設置すべきではないかとか、あるいは
上告の
範囲の問題であるとか、その他小
法廷、大
法廷の構造に関するいろいろな
論議が戦わされて参りまして、あらゆる角度からこの
間合同小委員会を
中心に各方面の識者の
意見が戦わされて、だんだんと煮詰められてきたのであります。その結果、今回
提案をいたしました
法律案を立案するに至ったのであります。
これに関しまして、大きな問題になると思われる点を考えてみますと、まず第一には、どうして現在の
裁判所の
機構で何とかやっていけないのか、こういう点が第一点であろうと思いますが、これはすでに御
承知の
通り、現在の
最高裁判所は、
違憲審査を行う
権限を有する
終審裁判所である、こういうことを
憲法で定められておりますほかに、
訴訟手続その他に関する規則の制定及び
下級裁判所の
裁判官の
指名、こういうような重要な
権限を
最高裁判所は与えられまして旧
大審院とは全く趣きを異にする存在になっております。かような
関係から、現在の十五人の
裁判官をもってしては
負担が過重でありまして、
事件の
処理等も非常な困難を来たし、従いまして、そこに年々五、六千件の
上告が続いて参りますので、この
事件の
処理にも困難を来たしまして、勢いのおもむくところ、十五人の
裁判官が下
審査から
判決の
原稿書きから全部取り扱うということは至難でございますので
調査官がいろいろな
資料を集め、あるいは
調査官が
裁判の案を作る、こういうようなこと等も起らざるを得ない
事態から
世間ではあるいは
調査官裁判であるとかいうような
批判すらもあるようになって参りまして、
現状をもってしては
上告審としての
任務を全うすることが非常に困難であるという段階に逢着いたしておりましたわけであります。一面また、当事者の
権利擁護という点から、
学識経験者、特に
在野法曹とか
学者の側からは
上告範囲の問題が非常に問題にされております。今までの
刑事訴訟法におきましては、
違憲の問題と
判例抵触の場合しか
刑事については
上告が認められておりません。
民事におきましては、先ほど御説明申し上げましたように、
上告の
範囲が明確にされまして、
法令の
違反があってそれが
判決に
影響を及ぼす場合には
上告の
理由になるということになっておりますので、
民事、
刑事の
上告の間口が現在そろっていない。そういうことも
一つの
原因でありまして、
事件についても
上告の
範囲を拡張すべきであるという議論が次第に強くなって参りまして、これも正論であると認められますので、こういうことを取り入れるとするならば、なおのこと、現在の
最高裁判所をもってしては
上告審としての
任務を全うすることができない、こういうことになって参りました。そこで、しからばどうすればいいかということになりますと、今申し上げましたようにいろいろな説がございますが、一番簡単なのは、
最高裁判所の
裁判官を思い切って
増員する、そして小
法廷の数をたくさん、ふやしてやったらいいじゃないか、こういう
考え方が
一つできますが、これになりまと、現在の
憲法が、
最高裁判所の
裁判官については
国民審査に付する、こういう非常に重要な取扱いをいたしておりまして、
最高裁判所の重要な
任務にかんがみて、
国家第一流の
人物をもって構成させようとしておることが明確であります。この
国民審査との
関係を考えましただけでも、現在の十五人でさえいろいろ
批判があるところへ、さらに大量の
裁判官増員をいたしまして
国民審査に付するということは、どうも
憲法の予期したところに反するのではないか。また、小
法廷で個々の
事件を扱うにいたしましても、
憲法に関する問題、それから
判例の
変更等、
判例の
統一に関することはどうしても
ワンベンチで、
一つの組織でやりませんと、
判例に
安定性を置くことができない。
憲法の
解釈に
統一性を持たせることができませんから、従って、何十人の
全員裁判官が
裁判に参加するということになりますと、その間
審議及び
合議等の円滑を非常に欠くことになります。現在の十五人でさえも円滑な大
法廷の
運営ということがなかなか困難であるところへ、さらに多数の者が
裁判官になりました場合には、とうてい円滑な
運営というものは困難ではないか。しからば、やはり、そういうような
憲法問題、
判例抵触等の、あるいは
判例の
変更等の重要な
案件も、幾つにか分けて大
法廷を構成したらいいじゃないか、こういう
考え方もできますが、そういたしますと、先ほど申し上げたように
判例の
安定性が欠ける。そうして時に食い違った
判例が出るということになりましては、非常な大問題でありますから、こういうことは許されない。同時に、同じ
裁判官の
増員をいたしましても、今なお五千件近くの
事件が積滞いたしまして、
裁判がなかなか
解決をしないことについて
世間から大きな
批判のあります際に、小規模の
裁判官増員ではこれまた問題を
解決することができない、こういうことになって参ると思うのであります。しからば、大ぜいの
裁判官を
増員して、そのうちの一部の人をもって、
ワンベンチの大
法廷を構成したらどうか、こういう
考え方ももちろん今までの
論議の中にもあったわけであります。考えられると思うのでありますが、これも、そういうことになりますと、同じ
最高裁判所の
裁判官の中に格式の違う、
権限の差異のある
裁判官が、できてしまうということになりますので、これらもとうてい筋の通らないものであるということになると思うのであります。それから、
最高裁判所が
一つの
最高裁判所である場合に、大
法廷の
裁判官だけ
国民審査に付して、他の自余の
裁判官については
国民審査に付さないということなども
論議の中に出ておるようでありますが、これらも、
最高裁判所の中に
国民審査に付する
裁判官と付しない
裁判官ともしあったとするならば、これは
憲法上重大な疑義を生じてくると思う。
憲法は、そういう差別を与えないで、
最高裁判所の
裁判官については
国民審査に付すべしということになっておるのでありますから、これらにかなわないことになると思うのであります。さような点が基本的な
一つの問題かと思います。
さらに、今度の案につきまして問題になる点は、四審制を招来するのではないか、これが
一つの大きな論点かと思いますが、しかし、私どもの考えでは、原則としては四審制にはならないのだ、こう考えます。
上告事件はまず小
法廷で
審査されるのでありますが、小
法廷自身が
審査をいたしました結果、
憲法の
判断を必要とする
事件、あるいは
判例の変更を必要とする
事件、こういう重要な
事件であるということがわかりましたならば、その
事件については、みずから
裁判をせず、直ちにこれを
最高裁判所に移して、
最高裁判所で
判断をさせて、小
法廷は最終的な
判決をしない、こういう建前をとっておりますから、この意味から言えば、小
法廷の
裁判所は大
法廷である
最高裁判所の
一つの事前
審査のようなことになるかと思いますが、そういう
憲法について
判断を必要とする、あるいは
判例の
統一を必要とするという見解が出ましたら、みずから
判断をせずして
最高裁判所の大
法廷の方に
事件を移す、そうして大
法廷の方で
裁判をするのでありますから、これはその意味からいたしますれば明らかに四審ではないのであります。ただ例外的に四審になる場合があり得ると思います。すなわち、小
法廷の
裁判に対しましては異議の申し立てができることになっておりますが、異議の申し立ては、すでに
法案でも明瞭でございますように、
裁判の確定を妨げないのであります。ただ、その場合に、小
法廷の
裁判に対して異議の申し立てがあって、その異議が
理由のあるものというような観点に立った場合には、執行の停止を
裁判所みずからがすることができます。この場合には四審制のような姿になっていくのでありますが、これはきわめて例外的の場合であると思うのであります。現在の
民事事件についての特別
上告の点などと比較してみますると、大体これは
民事訴訟法にあります特別
上告に匹敵したものであろうかと思います。
そのほか、この
法案について重要な問題点を考えてみますると、小
法廷の性格、これは一体
下級裁判所か
最高裁判所の一部か、こういうような点が、これまた大きな論点になろうかと思いますが、これは、本
会議でも御説明申し上げ、先日も
趣旨説明を当
委員会で申し上げましたように、小
法廷は、独立いたしました
憲法七十六条にいう
下級裁判所でございます。すなわち、
一般事件の
上告を取り扱う
最高裁判所の
下級裁判所であります。しからば、その
下級裁判所である小
法廷になぜ
最高裁判所小
法廷という名称を付しまた
最高裁判所と別個に事務組織を設けないか、こういうような問題も派生して参ると思いますが、しかし、先刻来申し上げましたように、大
法廷である
最高裁判所とこの小
法廷とは非常に緊密な
関係にございますので、そういう緊密な
関係にあります
下級裁判所が、全然独立した事務局を持ち、あるいは
長官を持ち、いろいろな
機関を持つということは、かえって
運営を困難ならしむるおそれがありますので、むしろこれは
最高裁判所の傘下に
下級裁判所としての
最高裁判所小
法廷を置くというのがよかろう、こういう結論になって立案されたのが本案でございます。
なおいろいろ申し上げるべき重要な点は多々あるわけでありますが、いずれ
委員の方々からの御質疑に伴いまして必要に応じて御説明を申し上げ、お答えをいたしまして、慎重御
審議のほどをお願い申し上げたいと思います。