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1957-03-12 第26回国会 衆議院 法務委員会 第13号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年三月十二日(火曜日)    午前十一時六分開議  出席委員    委員長 三田村武夫君    理事 福井 盛太君 理事 横井 太郎君    理事 猪俣 浩三君       世耕 弘一君    高橋 禎一君       馬場 元治君    花村 四郎君       古島 義英君    松永  東君       山口 好一君    横川 重次君       神近 市子君    田中幾三郎君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 中村 梅吉君  出席政府委員         検     事         (大臣官房調査         課長)     位野木益雄君  委員外出席者         刑     事         (最高裁判所事         務総長)    五鬼上堅磐君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局         長)      関根 小郷君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局総         務課長)    海部 安昌君         判     事         (最高裁判所事         務総局人事局         長)      鈴木 忠一君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 三月八日  委員小松幹君辞任につき、その補欠として西村  彰一君が議長の指名委員に選任された。     ————————————— 三月八日  裁判所法等の一部を改正する法律案内閣提出  第八九号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  裁判所法等の一部を改正する法律案内閣提出  第八九号)     —————————————
  2. 三田村武夫

    三田委員長 これより法務委員会を開会いたします。  裁判所法等の一部を改正する法律案議題とし、政府当局より提案理由説明を聴取することといたします。中村法務大臣
  3. 中村梅吉

    中村国務大臣 ただいま議題となりました裁判所法等の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明します。  御承知通り日本国憲法の施行とともに、わが国司法制度は、旧憲法時代とは異なりまして、新しい構想のもとに発足いたしたのであります。特に、最高裁判所は、違憲審査を行う権限を有する終審裁判所とされましたばかりでなく、訴訟手続その他に関する規則の制定及び下級裁判所裁判官指名というような重要な権限をも与えられ、旧大審院とはこれらの点において著しく趣きを異にいたしているのでありまして、その重大な職責にかんがみ、最高裁判所は、識見の高い法律の素養のある十五人の裁判官をもって構成されることになったのであります。  最高裁判所のこのような性格及び構成にかんがみ、その取り扱う上告事件範囲をいかにするかという問題は、すでにその発足当時から存在しておったのでありますが、まず、刑事訴訟につきましては、昭和二十四年から施行されました新刑事訴訟法によりまして、訴訟手続根本的改正が加えられ、第一審における公判中心主義の徹底、控訴審事後審化とともに、上告理由範囲は、憲法違反判例抵触等の重要な事項に限定されまして、これによって、刑事訴訟に関する最高裁判所裁判権範囲については、一応の調整が行われたのであります。また、民事訴訟につきましても、昭和二十五年に至り、有効期間の定めある臨時立法として、最高裁判所における民事上告事件審判特例に関する法律、いわゆる民事上告特例法が成立いたし、さらに、十九国会において民事訴訟法改正が行われ、上告理由範囲憲法違反判例抵触及び法令解釈に関する重要な事項に限定されることになったのであります。  しかしながら、このような上告制限措置にもかかわらず、最高裁判所における取扱い事件の件数は年々増加の一途をたどるとともに、その裁判官負担は著しく過重となり、昭和二十六年末には未済事件数がついに七千件を突破するに至ったのでありまして、現在の最高裁判所機構をもっていたしましては、ますます増大する事件負担に耐えることが困難ではないかと考えられるに至ったのであります。また、一方、右に述べましたような上告制限方向に対しまして、在野法曹方面中心として批判的な意見が次第に強く唱えられて参りました。すなわち、従来のわが司法制度においては、長く一般法令違反上告理由として認められてきたのでありますが、これを制限して憲法違反判例抵触等上告理由として認めるのみでは、個々事件における当事者救済に不十分であり、このような制度わが国の実情に適しないものであるというのであります。このようなことから、最高裁判所機構及び上告制度改善の問題が早急に解決を要する問題として、盛んに論議されるようになりましたことは、御承知通りであります。  政府といたしましては、前に申し述べましたいわゆる民事上告特例法有効期間の定めある臨時立法として成立いたしました関係もあって、すでに昭和二十六年以降、法制審議会におきまして、民事訴訟法及び刑事訴訟法の問題の一環として、この上告制度改善等の問題につき研究を進めておりましたが、右に申しましたような情勢を考慮し、昭和二十八年二月、法制審議会に対しまして、新たに裁判所制度改善する必要があるかどうか、あるとすればその要綱を示されたい旨の諮問を発したのであります。  法制審議会におきましては、この諮問に基きまして、新たに司法制度部会を設け、最高裁判所機構の問題を中心として調査審議を進めたのでありますが、当初は裁判所側在野法曹側中心に相当な意見相違点があったのであります。しかしながら、この問題についての審議を促進するため、昭和二十九年八月、新たに司法制度部会民事訴訟法部会及び刑事法部会から選出された小委員をもって構成する上訴制度に関する合同小委員会を設け、最高裁判所機構及び刑事事件上告理由範囲の問題を中心として鋭意審議を進めて参りましたところ、回数を重ねるに従いまして、次第に多数の委員賛成を得られるような方向が明らかになり、昨年三月には右合同小委員会としての案が決定され、その後右三部会においてこの案が審議承認されました。次いで昨年五月八日法制審議会の総会において出席委員二十一人のうち二十人の賛成により答申案の決議が行われ、同会より最高裁判所機構及び上告制度に関する立法措置について適切な答申がなされたのであります。そこで、政府は、これに基き慎重に立案いたしました結果、ここにこの法律案を提出する運びに至った次第でございます。  次に、この法律案の要点につきまして簡単に御説明申し上げたいと思います。  この法律案は、裁判所法及び刑事訴訟法の各一部改正内容とするものでありまして、その骨子は、上告事件等審理円滑化をはかるため、憲法違反判例変更等の重要な事件について審判する最高裁判所裁判官を減員するとともに、別に最高裁判所最高裁判所小法廷を置き、刑事訴訟についての上告理由範囲を拡張して、個々事件における当事者救済を全うしようとするものであります。  改正点のうち特に重要と思われる数点についてその概略を申し上げますと、まず第一に、最高裁判所構成でありますが、現在の最高裁判所は、最高裁判所長官及び最高裁判所判事十四人をもって構成され、憲法事件その他の重要事件につきましては、全員裁判官合議体である大法廷審理裁判をするとともに、その他の一般上告事件につきましては、この十五人か三人以上の員数裁判官合議体である小法廷に分れて審理裁判をすることになっておりますが、このような現在の構成では、一つの合議体として重要事件処理するためにはむしろ裁判官の数が多きに失し、また、その他の一般上告事件処理のためには小法廷の数が少きに過ぎるのみならず、裁判官が大法廷及び小法廷の双方の事件審判に追われて、その能率か阻害されているように思われますので、これを改め、ます、最高裁判所は、憲法違反判例変更等重要事件のみを取り扱うことにいたしますとともに、その取り扱う事項重要性にかんがみ、さらに裁判合議を全からしめ、審理を円滑ならしめることを期するため、最高裁判所長官及び最高裁判所判事八人でこれを構成するものとし、その全員裁判官合議体審理裁判することにいたしました。また、一方、一般上告事件につきましては、現在の最高裁判所構成では、事件処理が遅延の傾向に陥りやすく、また、裁判官負担が著しく加重となっている点を考慮し、かつ、後に述べますように、刑事上告理由範囲を拡張することにより一般上告事件処理するための負担が増大するものと予想されることに伴いまして、その審理円滑化をはかるため、別に最高裁判所小法廷首席判事六人及び最高裁判所小法廷判事二十四人で構成する最高裁判所小法廷最高裁判所に付属して設置し、この小法廷は、三人以上の員数裁判官合議体審理裁判することにいたしました。  第二に、上告理由範囲は、民事につきましては、現に憲法違反のほか判決影響を及ぼすことが明らかな法令違反上告理由範囲といたしておりますので、現行法のまま改正を加えておりませんが、刑事につきましては、上告審における個々事件当事者救済を徹底させる等の見地から、現在の刑事訴訟手続の構造及び上告審負担等の点をも考慮しつつ、その上告理由範囲を拡張することにし、憲法違反及び判例抵触のほか、判決影響を及ぼすことが明らかな法令違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反することをも上告理由とすることにいたしました。上告の窓口を民事事件と均衡のとれるような措置を講じた次第であります。  第三に、事件審判につきましては、最高裁判所小法廷は、原則として上告その他につき最高裁判所同一裁判権を有し、事件はまず小法廷審理することといたしますが、憲法問題について判断をする場合及び従来の判例を変更する場合におきましては、最高裁判所において裁判をさせることが適当と考えられますので、事件最高裁判所に移させることとし、最高裁判所は、原則として小法廷から移されたこれらの重要事件について審判することにいたしました。また、小法廷裁判に対しましては、憲法違反理由とするときに限り、特に最高裁判所異議申し立てをすることができることにいたしました。  第四に、最高裁判所長官及び最高裁判所判事は、憲法にいう最高裁判所裁判官としてその任命国民審査に付する点につきましては、もとより従来通りでありますが、内閣がその指名または任命を行うについては、一そう慎重を期するようにするため、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験者で組織する裁判官任命諮問審議会諮問すべきものといたしました。また、最高裁判所小法廷裁判官任命方法任命資格等は、高等裁判所長官等と同様といたしましたが、その地位重要性にかんがみまして、特にそのうち小法廷首席判事の任免は天皇が認証するものといたしました。  以上が裁判所法の一部を改正する法律案趣旨でございます。何とぞ御審議のほどをよろしくお願い申し上げます。
  4. 三田村武夫

    三田委員長 大臣は参議院の予算委員会で質問があるそうですから、退席されてよろしゅうございますか。——ではどうぞ。  次に補足説明を求めます。法務省位野木調査課長
  5. 位野木益雄

    ○位野木政府委員 便宜法案の条項に従いまして補足説明を申し上げます。あとで書面で差し上げたいと思いますが、まず裁判所法改正の部分について御説明いたします。  まず、第一条の、目次の改正でございますが、第二編及び第三編の目次を改正いたしております。現行法は、第二編の編名が「最高裁判所」というふうになっておりまして、その第二編の中に最高裁判所のことを規定し、第三編の編名が「下級裁判所」となっておりまして、その編の中に高等裁判所地方裁判所家庭裁判所及び簡易裁判所に関する事項規定いたしております。改正案は、後に述べますように、下級裁判所の一種といたしまして最高裁判所小法廷というものを置くことにいたしておりますので、最高裁判所小法廷に関する事項が、最高裁判所に置かれる関係上、第二編の中に規定されることになるわけでありますが、第二編及び第三編の編名を、それぞれその内容を一致さすために、第二編の偏名を「最高裁判所及び最高裁判所小法廷」、第三編の偏名を「高等裁判所地方裁判所家庭裁判所及び簡易裁判所」というふうに改めようとするものであります。  それから、第二条についてでありますが、これは新たに下級裁判所の一種として、最高裁判所小法廷という裁判所を設けることを定めたのであります。現行法の第二条の第一項は御承知のように下級裁判所の種類について規定しておりますが、最高裁判所小法廷を設置することに伴いまして、条文の体裁を改めまして、本項を裁判所の種類に関する規定といたしたのであります。すなわち、裁判所の種類といたしましては、すでに憲法規定されておる最高裁判所のほかに、高等裁判所地方裁判所家庭裁判所及び簡易裁判所が本項の規定によって設置されますことは従来の通りでありますが、これらの裁判所のほかに新たに最高裁判所小法廷という裁判所を設置することにしたのであります。この最高裁判所小法廷という裁判所は、憲法第七十六条にいう下級裁判所の一種ではありますが、後に述べますように、事件の処理上また司法行政上、最高裁判所ときわめて密接なる関係を持っておりますので、特にこれを最高裁判所に付属して設けることにいたしております。  第二項でありますが、「下級裁判所の設立、廃止及び管轄区域は、別に法律でこれを定める。」というふうな字句になっておりますが、これを「高等裁判所地方裁判所家庭裁判所及び簡易裁判所の設立、廃止及び管轄区域は、別に法律でこれを定める。」ということにしようとするものでありまして、これは、最高裁判所小法廷というものが下級裁判所のうちに加わったのでありますけれども、これについては、性質上その管轄区域は全国に及ぶというものでありますから別に法律でこれらのことをきめる必要がないので、このように改正をいたしたのであります。  それから、次に第五条の改正であります。これは、裁判所の官名の種類を追加したのと、最高裁判所裁判官を減員することにしたのと、二つのことについて規定いたしてあります。  現行法の第五条第二項は下級裁判所裁判官に関する規定でございますが、最高裁判所小法廷の設置に伴いまして、新たにこれを構成する裁判官といたしまして最高裁判所小法廷首席判事及び最高裁判所小法廷判事という二種類の裁判官を設けることにいたしました。  それから、現行法第五条第三項は裁判官員数に関する規定でございまして、最高裁判所判事員数を十四人ということに定めておりますが、これを改正いたしまして、最高裁判所における審理円滑化をはかるために、最高裁判所判事員数を八人に減ずることにいたしたのであります。それからまた、小法廷首席判事及び小法廷判事は、いずれも下級裁判所裁判官ではありますが、その占める地位のきわめて重要であるということにかんがみまして、この員数を特に裁判所法の中で規定することにいたしまして、首席判事の方は六人、それから法廷判事の方は二十四人にすることを定めております。その他の下級裁判所裁判官につきましては別の法律できめることにいたしたのは現行法通りであります。  次に、第二編の編名でありますが、この改正につきましては先ほど目次のところで申し上げた通りであります。  それから、第六条、第七条、第八条の見出しを改めております。これは、現行法は第二編で最高裁判所に関する事項のみを規定しておりますので、見出しのところで特に最高裁判所ということを断わっておりませんが、今度は第二編の中で最高裁判所のほかに最高裁判所小法廷に関する事項規定することにいたしましたので、六条、七条、八条は最高裁判所についてのことを規定しておるという趣旨を明らかにするために、それぞれこのように見出しを改めようというのであります。  それから、第八条の二の規定を新設いたしましたが、これは小法廷の設置の仕方及びその構成について規定いたしたのであります。小法廷下級裁判所の一種でございますから、これを最高裁判所機構から全く独立した別個の裁判所として設置いたしまして、別個の長官、別個の事務局等を置く、そういうふうな全く別の裁判所として設置するというやり方も考えられるのでありますが、小法廷事件の処理上最高裁判所密接不可分関係にありますので、これを最高裁判所に付属して設置することにいたしました。そうして、その司法行政事務は、特別のものを除きまして、小法廷みずから行うことなく、最高裁判所に取り扱わせることにいたしております、これは後に述べます。そうして、長官事務局等は別に置かないことにいたしたのであります。  第八条の二の第二項は、国法上の裁判所としての小法廷が、小法廷首席判事六人及び小法廷判事二十四人で構成されることを定めたものであります。これは、裁判所法の他の規定、すなわち十五条、二十三条等で最高裁判所地方裁判所等について規定されている規定の体裁にならった規定のいたし方をいたしております。  第八条の三の新設がありますが、これは小法廷権限について規定しております。  まず、第一項は、上告事件審判を初めといたしまして、最高裁判所が第七条及び第八条の規定によって裁判権を持っておる事項につきましては、原則として小法廷最高裁判所と同様の裁判権を有することにいたしております。ただ、小法廷裁判権を有するのを適当でないとして最高裁判所の特に定める事項、たとえば裁判官に対する分限事件人事官弾劾事件等が予想されるのでありますが、そういうふうな事件はこの例外とすることにいたしておるのであります。小法廷は、そのほか、裁判所法によりまして、小法廷裁判に対して異議の申し立てがあった場合に、原裁判執行停止等の処分を命ずる権限を認められております。これは後に出て参りますが、そういうような権限を別に持っておりますし、また、一定の範囲内の司法行政事務を行う権限が認められております。これも後に出て参りますが、そういうふうに、この法律で別に定める権限を持っておりますほかに、他の法律において特に定める権限も持つわけです。この他の法令において定める権限というのは、たとえば、刑事事件につきまして、小法廷がした裁判に対して異議の申し立てがあった場合における原裁判所としての刑の執行の停止または原裁判の執行の停止、これもこの刑事訴訟法改正によりまして今度その趣旨の規定が加えられることになっておるのでありますが、こういうふうな他の法律規定される権限、特に定める権限というものも持ち得ることになる。これらは小法廷固有権限というふうに申して差しつかえないのであります。これが第二項の規定でございます。  それから、次に、小法廷憲法判断等を必要とする事件につきましても抽象的には裁判権を今申しましたように持っておることになるわけでありますが、しかしながら、憲法問題について判断を要する場合、あるいは従来の最高裁判所または小法廷の判例を変更しようとする場合等におきましては、みずから裁判せずに、直ちにこれを最高裁判所の方に移しまして最高裁判所審判を受けさせるのが適当というふうに考えられますので、これらの場合には小法廷裁判をすることができないことにいたしたのであります。その場合を第三項に列挙いたしております。ここに列挙いたしました一、二、三の事項は、いずれも現在の最高裁判所の小法廷、これは別の裁判所でなくて最高裁判所の中の裁判機関としての形態だと考えておりますが、この現在の小法廷において裁判をすることができない場合、すなわち大法廷事件を移す場合とほぼ同様でございます。そのほか最高裁判所が定める場合におきましても同様に小法廷裁判をすることができないことといたしておりますが、この最高裁判所が定める場合といたしましては、憲法その他の法令解釈適用について特に重要な事項を含むものと認められる場合、すなわち法令の解釈に関する特に重要な事項、こういうふうなものが最高裁判所によって規定されることが予想されるわけであります。以上の場合には小法廷はみずから裁判をすることができないので、その事件を大法廷に移すことになるのであります。これらの場合を通じまして、小法廷は抽象的には最高裁判所と競合して事件についての裁判権を有しておるのでありますが、その裁判権の行使が制約されることになるわけでありまして、この関係は、選択刑として罰金が定められておる罪に当る事件等審判する場合の簡易裁判所科刑権の制限、すなわち現行裁判所法三十三条の二項、三項にその定めがありますが、この場合の考え方と同じような考え方をとっておる次第でございます。  それから、次に第九条の改正であります。これは、最高裁判所審理及び裁判をする場合の裁判機関としての態様を改めますとともに、新たに小法廷審理及び裁判をする場合の裁判機関としての態様について規定したのであります。すなわち、現行法の第九条第一項及び第二項は、最高裁判所審理及び裁判をする場合の裁判機関の態様としての大法廷及び小法廷について規定しておりますが、改正案における小法廷最高裁判所とは全く別個の裁判所でありますので、この新しい関係に応じまして本条を規定いたしたのであります。  まず、改正案による第九条第一項といたしまして、最高裁判所審理及び裁判をする場合には、その取り扱う事項重要性にかんがみまして、すべて最高裁判所長官及び最高裁判所判事全員、すなわち九人の裁判官合議体審理及び裁判をするというふうにいたしたのであります。この場合の合議体を便宜大法廷と呼ぶことにいたしております。従って、現行法における小法廷のように、一部の裁判官からなる合議体審判をするという方式は認めないことになるわけであります。  改正案の第九条第二項は、小法廷審理及び裁判をする場合の裁判機関としての態様について規定いたしております。小法廷は三人以上の員数裁判官合議体審理及び裁判をするということに規定いたしておます。各合議体裁判官員数につきましては、現在の小法廷の例にならいまして、法律では単に三人以上とのみ定めることにいたしまして、その具体的の員数最高裁判所が定めることにいたしたのであります。  次に、第十条の改正であります。本条の改正は、現行の小法廷を廃止いたしまして、独立の裁判所として新たに小法廷を新設することに伴いまして、従来の最高裁判所の大法廷と小法廷の間の事務の分配等に関する規定を改めまして、小法廷と大法廷すなわち最高裁判所との間の事件処理上の関係を新たに規定するとともに、小法廷裁判に対する不服の申し立てについて規定したものであります。  まず、小法廷は、原則として大法廷と同一の裁判権を持っておりますことは先ほど申し上げましたが、第八条の三の第三項の場合、すなわち小法廷裁判をすることができない場合は、その裁判権の行使が制限されて裁判ができないことになりますので、事件を大法廷に移すべきものといたしたのであります。改正案の第一項はこの趣旨の規定であります。なお、小法廷が先ほど申し上げました固有の権利としての裁判権を行使する場合があるわけでありますが、この場合にも、第八条の三の第三項に該当する場合には、事件を大法廷に移すということになるわけであります。この場合の大法廷裁判権は、事件を移されたことによって発生するということになるわけでありまして、この関係は、現行民事訴訟法の三十一条の二、すなわち簡易裁判所がその管轄に属する事件を裁量によって地方裁判所に移送した場合の法律関係と同じように考えておる次第であります。  しかし、原則として、最高裁判所裁判権を有する事項につきましては小法廷もまたこれと競合して裁判権を有しておりますので、上告事件その他第八条の三の第一項の規定によって大法廷及び小法廷の双方がともに裁判権を有する事項につきましては、両者のうちいずれがこれを取り扱うかということについて規定を設ける必要があるわけでありまして、第二項はこの点に関して規定したものであります。このような事件はまず小法廷において審理をする、そうして大法廷事件が小法廷から移された場合に初めて現実に裁判権を行使するということにいたしたのであります。ただ、最高裁判所が規則でもって大法廷のみが裁判権を有して小法廷には裁判権がないということにすることがあるわけであります。これは先ほど御説明いたしましたが、そういうふうな場合については大法廷が初めから事件審理に当ることは申すまでもございません。  次に、第十条の第三項でありますが、小法廷が、第八条の三の第三項の場合に当るものとして、すなわちみずから裁判をすることができない場合に当るものとして事件を大法廷に移した場合においても、大法廷審理いたしました結果、当時者の主張が実は憲法違反の問題じゃない、従って事件の処理につき憲法適否の判断を必要としないということが認められた場合、こういうふうな場合には小法廷において裁判をすることができるわけでありますから、小法廷において裁判をすることができる場合に該当するものと認めたときには、大法廷は、本来これは小法廷審判できた場合であるということで、事件を再び小法廷に移しまして、小廷法でさらに審理裁判をさせることができることを認めるというふうにいたしたのが第三項であります。  第四項は、小法廷は一種の下級裁判所でありますから、憲法第八十一条、すなわち、最高裁判所は違憲判断についての最終審裁判所であるといっておりますが、その規定との関係上、その裁判憲法適否の問題につきましては大法廷の最終的判断の機会を与える必要がある。そこで、第四項におきまして、「他の法律規定により不服の申立をすることができる裁判を除いて、小法廷裁判に対しては、その裁判憲法の解釈の誤があることその他憲法の違反があることを理由とするときに限り、大法廷に異議の申立をすることができる。」ということにいたしました。しかし、裁判憲法の解釈の誤りがあるという場合には、これは本来小法廷事件を大法廷に移す建前でありますから、このような事例は実際上はあまりないわけと考えるのであります。その他憲法の違反があるときということがありますが、それは小法廷裁判の手続が公開手続に違反したというようなことが考えられますが、こういうようなことも実際上はきわめてまれだろうということが考えられます。「他の法律規定により不服の申立をすることができる裁判」とありますが、その意味は、刑事訴訟事件につきましては、小法廷で行われた裁判に対して刑事訴訟法中に新たに異議についての規定を設けることになっておりますが、ここに他の法律規定により異議の申し立てをすることができる裁判とはこのような裁判をいうのであります。  また、裁判の遅延による正義の実現の遷延を極力防止しなければならないということと、小法廷裁判には今申し上げましたように憲法違反があるというふうな事例はきわめてまれであろうということが考えられますこと等を考慮いたしまして、民事訴訟の特別上告の例にならいまして、異議の申し立ては、裁判の確定を妨げまたはその執行を停止する効力を有しないことといたしました。ただ、事案によりましては、大法廷または小法廷は、最高裁判所の定めるところによって裁判の執行を停止し、またはその他必要な処分を命じ得ることといたしまして、当事者の権利保護に遺憾なからしめるようにいたしたのであります。第五項がこの趣旨であります。  第六項でございますが、第一項の規定によって小法廷から大法廷事件を移し、または第三項の規定によって再び大法廷から小法廷事件を移すという場合には、これは必ずしも訴訟法に定めるような厳格な移送手続による必要もないと考えられます。むしろさらに簡易迅速なものとすることが適当であると考えられますので、これらの手続の詳細については最高裁判所の定めるところによるものといたしております。また、右に申しました異議の申し立て及び裁判等に関する手続等につきましても、同様最高裁判所の規則で定めることにいたしました。これが第六項であります。  次に、第十一条の規定でございますが、これは、各裁判官の意見の表示を必要とするのは、最高裁判所裁判、すなわち大法廷裁判をした場合に限られることになっております。これは、小法廷裁判官としましては、国民審査もございませんし、下級裁判官でございますので、特にほかの下級裁判所の場合と区別する必要はないと考えたからであります。  次に、十一条の二の規定を新しく設けましたが、この規定を設けましたのは、小法廷裁判官の職務の代行を認めようとするものであります。高等裁判所地方裁判所家庭裁判所及び簡易裁判所裁判官につきましては、現行法によって裁判官の職務の代行が認められております。これは、差し迫った必要がある場合においては他の裁判所裁判官にある特定裁判所裁判官の職務を行わせることができるというような趣旨の規定であります。十九条、二十八条、三十一条の五、三十六条等でありますが、小法廷におきましても、裁判事務の輻湊等の場合が考えられますので、その裁判事務の取扱い上差し迫った必要がある場合においては、最高裁判所は小法廷判事の職務を高等裁判所判事に代行させることができるようにしたのであります。これは、高等裁判所判事の資格等は小法廷判事と同じでありまして、このようにいたしたのであります。  それから、十二条の改正でありますが、これは最高裁判所に置かれることになる小法廷司法行政事務について規定したものであります。第二項の改正は、最高裁判所長官及び最高裁判所判事の全員で組織する最高裁判所裁判官会議と、後に述べます小法廷裁判官の会議との区別を明らかにするための字句の整理でありますが、その次に新しく加えました二項の規定は、小法廷司法行政事務のうち直接裁判事務に密接な関係を有するもの、すなわち小法廷における裁判事務の分配、裁判官の配置及び裁判官に支障があるときの代理順序は小法廷みずから定めることとするのが適当でありますから、第三項の規定によりまして、これらの事項最高裁判所の定めるその他の事項とともに小法廷裁判官の会議で自主的にきめることといたしました。しかし、小法廷が、前に述べましたように事件の処理上最高裁判所密接不可分関係にある点にかんがみまして、小法廷に関する司法行政事務のうち、第三項に掲げるもの以外のものは、原則として最高裁判所がその司法行政事務として処理するということにいたしまして、司法行政事務関係では最高裁判所に従属しているという関係になるわけであります。  次に、第三編の編名改正でありますが、これは目次の改正のところで御説明した通りであります。  三十九条の改正、これは、最高裁判所長官の指名または最高裁判所判事の任命につきまして、内閣の諮問機関として裁判官任命諮問審議会を設置しようという趣旨であります。裁判所法制定の当初は、御承知のように裁判官任命諮問委員会制度がございました。この委員会はその後昭和二十三年の一月から廃止されまして現在に至っておるのでありますが、内閣が最高裁判所長官の指名または最高裁判所判事の任命を行うにつきましては、その人選について一そう慎重を期するようにする必要がございますので、裁判官任命諮問審議会の意見を聞くべきものとするのが相当であると考えられますので、このようにしたのであります。この審議会は内閣に置きまして、裁判官、検察官、弁護士及び学識経験のある者のうちから任命される委員で組織するものといたしております。その詳細につきましては、前例にならいまして政令で定めることにいたしております。  第四十条でございますが、これは、小法廷首席判事及び小法廷判事につきましても、他の下級裁判所裁判官と同様に憲法第八十条に従った任命方式をとる、すなわち、最高裁判所の指名した者の名簿によって内閣でこれを任命する、そしてその任期は十年とすることにいたしました。そのほか、特に小法廷主席判事については、その地位の重要性にかんがみまして、最高裁所判事及び高等裁判所長官と同様その任免を天皇が認証することにいたしたのであります。  四十一条の改正でございますが、これは最高裁判所裁判官の減員並びに小法廷自席判事及び小法廷判事の新設に伴う改正でありまして、現行法第四十一条は、最高裁判所裁判官十五人のうち、一定の法律専門職に在職の経歴を必要とする者の数を少くとも十人というふうに定めておりますが、今度この最高裁判所裁判官長官を入れて九人ということに減員いたしますことに応じまして、現在と同じ比率で、この一定の法律専門職に在職の経歴を必要とする裁判官の数を少くとも六人ということにいたしたのであります。また、その在職年数の計算につきましては、小法廷主席判事または小法廷判事の在職を高等裁判所長官判事等の在職と同一に取り扱うことにいたしましたほか、必要な字句の整理を行なっております。  次に、四十二条の改正でありますが、これは、小法廷首席判事及び小法廷判事の任命資格を高等裁判所長官及び判事の任命資格と同一にいたしましたほかは、四十一条の改正に伴う字句の整理を行なったのであります。  四十四条でございますが、これは、小法廷首席判事及び小法廷判事の職にあった者につきましても、高等裁判所長官判事等の職にあった者と同様、簡易裁判所判事に任命することができるようにしたほか、字句の整理を行なったのであります。  四十七条でございますが、これは、下級裁判所裁判官のうち最高裁判所がその職を補することになるのは、小法廷首席判事及び小法廷判事以外の裁判官、すなわち高等裁判所長官判事判事補及び簡易裁判所判事に限られるということを明らかにしたのであります。すなわち、小法廷首席判事及び小法廷判事については補職の必要はないから、このようにいたしたのであります。  それから、第五十条でございますが、これは、小法廷首席判事及び小法廷判事の定年を、高等裁判所長官等と同様、年令六十五年に達したときというふうにいたしたのであります。  第五十四条の改正でございますが、これは、最高裁判所判事員数が八人と定められることに伴いまして、最高裁判所判事秘書官の人数を八人ということにしたのであります。  次に、第五十七条の改正でありますが、これは小法廷にも裁判所調査官を置くようにしたのであります。現行の第五十七条第一項では、「最高裁判所及び各高等裁判所裁判所調査官を置く。」というふうに規定いたしておりますが、これとの均衡上、また実際上も、小法廷において判例の索引、外国立法例、文献の調査その他裁判官の補助的事務を行うということは必要であると考えられますので、小法廷にも裁判所調査官を置き得ることにしたので、あります。  七十七条、これは小法廷裁判の場合の評決につきましても最高裁判所は特別の定めをなし得るようにしたのであります。小法廷は前に申し上げましたように最高裁判所の定める三人以上の人数の裁判官審理及び裁判をすることになっておりますので、場合によっては偶数の裁判官裁判をすることも考えられますから、最高裁判所裁判の場合と同様に、最高裁判所が特別の定めをする余地を認める必要があると思われるのであります。  以上が裁判所法改正関係でございますが、次に、第二条、すなわち刑事訴訟法改正の条文について申し上げます。  まず、三百七十条の改正でございまますが、三百七十条の第一項は上訴費用の補償決定をする裁判所を定めておるのであります。このたび小法廷上告裁判所となったことに伴いまして、小法廷が補償決定をするということが考えられるのであります。そこで、従来上訴裁判所たる最高裁判所または高等裁判所が補償決定をするという趣旨になっておったのでございますが、これを単に「裁判所」というふうにいたしまして、小法廷がこれに含まれるという趣旨を明らかにしたのであります。  それから、第三百八十五条第二項及び第三百八十六条第二項、この二つの条文は、高等裁判所の控訴棄却決定につきまして規定いたしておりますし、また、第四百三条の第三項は高等裁判所の公訴棄却決定について規定いたしておるのでありますが、いずれもそれは高等裁判所でそういうふうな決定があった場合にはその高等裁判所に異議の申し立てをすることができるというふうになっておるのであります。ところが、従来は、四百十四条の規定によりまして、これらの規定上告審における同じような種類の決定にも準用せられるものと解釈されておったのであります。しかし、後に述べますように、四百十五条及び四百二十八条の二という規定改正ないし新設されることになりますので、小法廷のした決定に対しましては最高裁判所に異議の申し立てをすることができるようになったわけであります。そういたしますと、上告審におきましてはもはやこの三百八十五条第二項、三百八十六条第二一項及び四百三条第二項の準用によって異議を認めるという必要がないものと思われますので、これらの規定を削除することにしたのであります。しかし、高等裁判所がしたこれらの決定に対しましては従前通り異議の申し立てを許す規定が要りますので、後に申し述べます四百二十八条の改正によりましてこれを認める趣旨を明らかにいたしております。  次に、四百五条の改正であります。四百五条の第二号及び第三号の改正は、「最高裁判所」の下に「又は最高裁判所小法廷」を加えようというのでありますが、これの趣旨は、憲法問題を含む事件とかあるいは判例変更を必要とする事件等を除きまして原則として最終の法律審となる小法廷、すなわち、小法廷というのはそういう憲法問題、判例変更等を除きまして最終の法律審というふうになるわけであります。そういうふうな小法廷の果す重要な役割にかんがみまして、その判例にも最高裁判所の判例に準じた権威を認めまして、これに違反する高等裁判所の判決に対しては常に上告することができるようにしようという趣旨であります。  次に、本条に第二項を加えますが、これは、刑事訴訟法における上告理由範囲を拡張いたしまして、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反することを理由とするときにも上告を認めようとする趣旨でありまして、この法律の中でも最も重要な改正点の一つであります。現行法は、御承知のように、上告理由憲法違反及び判例違反に制限をいたしまして、一般の法令違反理由とする上告を認めていないのでありまして、高等裁判所が一般の法令の解釈または適用を誤まった場合にも、これに対して当事者が権利として救済を求めることは許されないわけであります。もちろん、上告事件処理の実情におきましては、最高裁判所は、第四百六条の事件受理の制度及び第四百十一条のいわゆる職種破棄の制度を活用いたしまして、法令の解釈の統一と個々の事件における当事者の救済とをはかってきたのでありますが、これらの制度はいずれも最高裁判所の良識に基く裁量にその運用がゆだねられておるものでありまして、当事者といたしましては、適正な裁量が行われるかどうかということについて不安がないわけではないのであります。上告制度法令解釈の統一を重要な目的とすることは当然でございますが、一面、国民の権利、人権に直接影響する刑事裁判におきましては、個々の事件における当事者の救済という要請も無視することはできないのでありまして、現行法制定以来上告申し立て理由を拡張すべきであるという意見が一部に強く主張されておりますのも、また最高裁判所が前に申しましたように四百六条、四百十一条等の制度を活用してきたのも、刑事裁判のこのような性格に基くものと思われます。そうだといたしますれば、上告審における一般の法令違反の審査を最高裁判所の裁量にゆだねてしまうよりも、これを上告裁判所の義務とすることによって、個々の事件における当事者の救済を十分にいたしまして、裁判の公正に対する保障を一そう強化するのが相当であると考えられるので、本条に第二項を加えましたのもこの趣旨に基くものであります。  ところで、この一般の法令違反上告理由に加えるといたしましても、その範囲をいかに定めるかは問題でございます。たとえば、いろいろの場合が考えられるわけでありまして、すべての法令違反上告理由にする、あるいは判決に影響を及ぼすべき法令違反上告理由とする、あるいは判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反上告理由とするといういろいろな場合が考えられるわけでありますが、ここではこれらの事由を直ちにとってもって上告理由とすることはいたさなかったのであります。その理由は、これらを上告理由といたしますと、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反というのはすでに御承知のように控訴理由となっておるのであります。三百七十九条及び三百八十条等の控訴審規定等との均衡から見まして、これは適当でないというふうに考えられますばかりでなく、上告審の負担をあまりに過重とするというおそれもございますので、そういう点を考慮いたしまして、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があって原判決を破棄しなければ著しく正義に反することを新たに上告理由として認めることにいたしたのであります。ここに「原判決を破棄しなければ著しく正義に反する」という字句がございますが、この趣旨は、すでに御承知のように、改正前の現在の四百十一条に同じような字句がございます。例の職権破棄の制度、この条文についてすでに多くの判例が出ておりますので、大体の意味は明らかにされておるのでありますが、結局、当事者の権利関係に実質的な影響を及ぼすような場合はそういう場合に当るというふうに考えております。たとえば、有罪か無罪かの結論を逆にする、あるいは刑期に変動を生ずるというような法令違反があれば、これはもちろん上告理由になるわけでありますが、ただ単に、たとえば刑法十四条の適用を示すことを忘れる——十四条というのは刑期を加重しても二十年をこえないというふうな趣旨のものでありますが、これの適用を示すことを忘れるというような場合、こういう場合にも今までの控訴審では判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違反に該当するという判決例がある。ですから、あとの正義に反するということを加えないと、それも上告理由になるということになるわけであります。そういう場合とか、あるいは、放火事件につきまして刑法第十九条の適用を誤まりまして、無価値に近いマッチ一個を誤まって没収したというような場合、こういうふうな場合等にはこれを事由として上告理由とすることができないというふうになると考えられるのであります。  それから、四百十条でありますか、これは、四百五条の第二項の新設によりまして上告理由が拡張されたことと相待ちまして、上告審における原判決の破棄の事由を整備したものであります。  四百十一条でございますが、これは、上告裁判所が職権によって原判決を破棄することができる場合を本条は定めておりますが、本条第一号の事由が前に申し上げましたように、新たに四百五条第二項に上告理由としてつけ加えられることになりましたので、その第一号を削除することにしたわけであります。  次に、第四百十五条でございますが、これは最高裁判所小法廷のした判決及び上告を棄却した決定に対する最高裁判所への異議について規定したものであります。裁判所法改正によって設けられることになりました小法廷下級裁判所である以上、その裁判憲法適否の問題につきましてはさらに最高裁判所による最終的な判断の機会を与えることが憲法上の要請であると考えられますので、小法廷裁判に対しまして憲法違反があることを理由として最高裁判所に異議の申し立てをすることを認めたのであります。本条は、四百二十八条の二、これは後に述べますが、それの新設の規定とともに、改正後の裁判所法第十条——さきに申し上げましたが、この第十条の第四項、第五項などと趣旨を同じくする規定でありまして、特にこれを刑事訴訟法中に裁判所法とは別に規定を設けることにいたしましたのは、刑事訴訟法が人権に直接の関係を持っておるという性質にかんがみまして、異議に関する事項をすべて最高裁判所規則の定めるところにゆだねるということにはいたさなくて、一定の事項法律によって規定するのが適当であると考えられたからであります。  本条の第一項は、小法廷のした判決及び上告を棄却する決定に対し、四百五条第一項第一号に規定する事由があることを理由として最高裁判所に異議の申し立てをすることを認めております。上告を棄却する決定は不適法な上告申し立てを棄却する決定でありまして、事件の内容を審査した上でなされるものではないのでありますが、これによって事件を終結せしめるという点では判決に類似いたしておりますので、ここにこれを加えた次第であります。四百五条第一項第一号に規定する事由、すなわち、憲法の違反があること、または憲法の解釈に誤まりがあることと申しますのは、改正後の裁判所法第十条第四項に出ております憲法の解釈の誤まりがあることその他憲法の違反があることというのと同じ意味でありまして、本項の規定によりまして異議の申し立てをすることができる裁判裁判所法の第十条第四項、これは改正後の条文でありますが、それにいわゆる「他の法律規定により不服の申立をすることができる裁判を除いて」云々というその裁判に該当するわけであります。  第二項は、第三項とともに、異議の申し立てと小法廷裁判の効力との関係規定したものであります。まず、第二項の本文は、異議の申し立てがあっても判決の確定が妨げられない、また裁判の執行が停止されないことを規定いたしております。従いまして、小法廷が有罪または無罪の判決をいたしますれば、その判決は直ちに確定いたします。また、小法廷上告棄却の判決または決定をいたしますれば、有罪または無罪の第一、二審の判決が直ちにここで確定することになるわけであります。これによって、刑の執行を初めとして、判決、決定のあらゆる効果が発生するわけでございます。このようにいたしましたのは、前に裁判所法第十条において述べましたように、裁判の遅延により上訴事件の遷延を極力防止しなければならないということと、小法廷裁判憲法違反があるような事例はきわめてまれであるということが予想されること等を考慮いたしたためであります。ただ、確定判決の効力のうちでも、最も重要でございます刑の執行につきましては、執行停止の必要のある場合も考えられますので、本項のただし書きによりまして、最高裁判所または小法廷の決定で、異議についての裁判があるまで刑の執行を停止し得ることを定めますとともに、その場合には、上訴権回復の請求があった場合の刑事訴訟法第三百六十五条の規定の例にならいまして、勾留状を発することができることにしたのであります。  第三項は、小法廷裁判によって確定する判決が死刑の判決である場合には、その重要性にかんがみまして、異議の申し立てがあれば、これについての裁判があるまで当然に刑の執行が停止されるということにしたのであります。  第四項は、異議についての裁判においては、不利益変更禁止の原則が適用されまして、小法廷のした有罪もしくは無罪の判決、または小法廷のした上告棄却の判決もしくは決定によって確定した第一、二審判決より被告人に不利益な裁判をすることはできないことを明らかにしたのであります。検察官が異議の申し立てをした場合にもこの規定が適用されることになるわけでありまして、この点は特色があるわけであります。第二項におきまして、小法廷裁判によって被告人の有罪または無罪を確定させることにいたしましたので、非常上告や再審の場合と同じく、もはや被告人の不利益には変更しないことにしたのであります。  第五項は、異議に関する手続については、この法律、すなわち刑事訴訟法に別の規定があるものを除きまして最高裁判所の規則の定めるところによるということを定めたのでありまして、改正後の、裁判所法第十条第六項後段の規定と同じ趣旨であります。  最後に、現行法の第四百十五条は、四百十六条から四百十八条までの規定とともに、上告裁判所のした判決に対する、いわゆる判決訂正の制度を定めておりますが、小法廷の、判決に対しましては、前に申し上げましたように、四百十五条の規定によりまして最高裁判所に異議の申し立てができることになっておりますし、また判決訂正の制度は従来から裁判の威信及び事件迅速処理の観点から種々の批判がなされておったのでありますが、その運用の実績に徴しましても、特にその制度の必要性があるということも考えられませんので、これを廃止することにいたしたのであります。  次に、四百十六条から四百十八条までの規定でありますが、これを削除いたしておりますが、これは今申し上げましたように、判決訂正に関する条項であって、四百十六条及び十七条はこの判決訂正の制度の廃止とともに不必要となったのであります。また、四百十八条の方は、上告裁判所の判決が言い渡しとともに確定するということは、改正後の四百十五条の第二項に規定してございますので、これも不用となったので廃止しようというわけであります。  四百二十八条でございますが、これは、さきに三百八十五条第二項、三百八十六条第二項、四百三条第二項の削除について申し上げましたところですでに説明いたしてありまするが、高等裁判所がしました控訴棄却または公訴棄却の決定に対する異議の申し立てに関する規定がなくなりますので、第二項に後段を加えまして、それらの決定に対しては従来通り異議の申し立てをすることができる趣旨を明らかにいたしますとともに、第三項の字句を整理したのであります。  四百二十八条の二でございますが、これは、改正後の四百十五条に規定する小法廷のした判決及び上告棄却の決定を除きまして、小法廷のしたすべての決定に対して憲法違反理由として最高裁判所に異議の申し立てをすることができることに定めたもので、四百十五条と同趣旨の規定でございます。ただ本条に言う小法廷の決定の中にはいろいろの性質のものが含まれておりますので、第四百十五条の場合のように単に刑の執行の停止ということではなくて、裁判の執行の停止というふうになっております。  次に、四百三十三条の規定でございますが、この改正は、四百五条の改正による字句の整理であります。  それから、四百五十三条の二の規定を新設いたしております。これは、改正後の第四百十五条の規定によります異議の申し立てを棄却した最高裁判所の判決に対しましても、上告を棄却する判決に対する場合と同じように、再審の申し立てを認めようとする趣旨でございます。なお、最高裁判所が小法廷の判決を破棄した上でした有罪の判決に対しましては、四百三十五条の現行の再審の規定によりまして再審の申し立てが許されるということは、申すまでもないところであります。  最後に、四百七十五条の規定でございますが、これは、法務大臣が死刑の執行を判決確定後六ヵ月以内に命じなければならないが、この死刑の執行を命ずべき期間、これが一定の場合に延長されるとなっておりますが、この延長される場合といたしまして、新たに設けられました四百十五条による異議の申し立てがあった場合を付加したわけであります。  以上簡単でございますが条文別の説明を終ります。
  6. 三田村武夫

    三田委員長 以上で補足説明は終りました。  本法律案に対する質疑は次回に譲ることといたします。
  7. 古島義英

    ○古島委員 この法案はきわめて重大でありまして、最高裁判所機構を変えるものであります。そこで、最高裁判所機構を変えるのに、最高裁判所のだれが責任を負われるか。事務総長がおいでになっておるが、事務総長で答えられないところはだれが説明するのですか。その説明のために責任のある人が審議のときには来てもらわなければならぬ。練達堪能な事務総長ですから、一切法案のことについても説明ができましょうが、最高裁判所の四百五条、四百十一条というような重大な問題があるのでありますが、これはその局に当っている人が出てこなければだれも説明できません。ぜひ長官なり何なり出てもらうように御尽力をお願いいたします。
  8. 三田村武夫

    三田委員長 古島君に申し上げます。御意見通り、本法案は非常に重要でありますから、どのように取り扱うか、法務委員会散会後理事会あるいは御出席の委員全員まじえましての審議の進行についての御懇談をいたしたいと思います。了承願います。  本日はこの程度にとどめ散会いたします。次会は公報でお知らせいたします。    午後零時三十一分散会