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1957-03-15 第26回国会 衆議院 大蔵委員会 第14号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十二年三月十五日(金曜日)    午前十一時三十六分開議  出席委員    委員長 山本 幸一君    理事 黒金 泰美君 理事 高見 三郎君    理事 藤枝 泉介君 理事 平岡忠次郎君       淺香 忠雄君    奧村又十郎君       加藤 高藏君    川島正次郎君       杉浦 武雄君    竹内 俊吉君       内藤 友明君    坊  秀男君       前田房之助君    山村新治郎君       山本 勝市君    石村 英雄君       春日 一幸君    神田 大作君       久保田鶴松君    竹谷源太郎君       横山 利秋君    石野 久男君  出席国務大臣         大 蔵 大 臣 池田 勇人君  出席政府委貸         大蔵政務次官  足立 篤郎君         大蔵事務官         (主計局次長) 村上  一君          大蔵事務官          (主税局長) 原  純夫君          国税庁長官  渡邊喜久造君  委員外出席者         参議院議員   平林  剛君         大蔵事務官         (主計局給与課         長)      岸本  普君         専  門  員 椎木 文也君     ————————————— 三月十四日  漁船保険特別会計における給与保険の再保険  事業について生じた損失をうめるための一般会  計からの繰入金に関する法律案内閣提出第九  九号)  関税法の一部を改正する法律案内閣提出第九  八号)(予) 同月十五日  法人税法の一部を改正する法律案石村英雄君  外十二名提出衆法第一三号) の審査を本委員会付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  たばこ専売法の一部を改正する法律案平林剛  君外三十八名提出参法第一号)(予)  物品税法を廃止する法律案春日一幸君外十二  名提出衆法第一一号)  酒税法の一部を改正する法律案平岡忠次郎君  外十二名提出衆法第一二号)  法人税法の一部を改正する法律案石村英雄君  外十二名提出衆法第一三号)  関税法の一部を改正する法律案内閣提出第九  八号)(予)  漁船保険特別会計における給与保険の再保険  事業について生じた損失をうめるための一般会  計からの繰入金に関する法律案内閣提出第九  九号)  所得税法の一部を改正する法律案内閣提出第  一三号)  法人税法の一部を改正する法律案内閣提出第  一四号)  租税特別措置法案内閣提出第四八号)  とん税法案内閣提出第一五号)  特別とん税法案内閣提出第一六号)  印紙税法の一部を改正する法律案内閣提出第  一九号)  トランプ類税法案内閣提出第四五号)  関税定率法の一部を改正する法律案内閣提出  第五六号)  関税定率法の一部を改正する法律の一部を改正  する法律案内閣提出第五七号)  揮発油税法案内閣提出第七二号)  地方道路税法の一部を改正する法律案内閣提  出第七三号)  中小企業の資産再評価の特例に関する法律案  (内閣提出第七六号)     —————————————
  2. 山本勝市

    山本委員長 これより会議を開きます。  去る十二日当委員会審査付託されました、春日一幸君外十二名提出にかかわる物品税法を廃止する法律案平岡忠次郎君外十二名提出にかかわる酒税法の一部を改正する法律案、及び本日付託となりました、石村英雄君外十二名提出にかかわる法人税法の一部を改正する法律案、並びに同日予備審査のため本院に送付せられて当委員会予備付託となりました、平林剛君外三十八名提出にかかわるたばこ専売法の一部を改正する法律案の四法律案、並びに昨十四日予備付託となりました内閣提出にかかわる、関税法の一部を改正する法律案及び同日付託となりました、漁船保険特別会計における給与保険の再保険事業について生じた損失をうめるための一般会計からの繰入金に関する法律案の二法律案との合計六法案一括議題として審査に入ります。  まず提出者及び政府側より、それぞれ提案理由説明を聴取することといたします。平林剛
  3. 平林剛

    平林参議院議員 私は参議院議員平林剛であります、ただいま議題となりましたたばこ専売法の一部を改正する法律につきまして、その提案理由を御説明申し上げます。  現在、たばこ専売事業は、たばこ専売法に基いて実施されているのでありますが、たばこ専売法による現行専売制度の建前は、すでに御承知通りたばこ生産過程のうち、公社の直営するのは、その製造事業に限定することとし、タバコ耕作公社がみずからこれをなさず、国民をしてこれをなさしめるのを原則としているのであります。  しこうして専売事業目的を達成するため、これに対しましては、種々の制限を設け、国家が広範囲においてタバコ耕作に関与することといたしておるのであります。すなわち公社葉タバコの需給を調整するため、毎年耕作区域及び耕作計画を定め、その範囲内で毎年耕作許可を与えることとするとともに、耕作者は、公社の定める方法及び手続により、その耕作を完成し、かつ、その収穫した葉タバコ公社の定める収納価格で納付する義務を負うことといたしておるのであります。  これらのことは、一面におきまして、専売事業目的達成のため必要なことではありますが、他面におきまして、これがため、タバコ耕作者経営ははなはだ不安定な状況に置かれることとなっているのであります。  特に最近におきましては、将来において予想されるいゆわる減反計画と関連して、耕作者経営がとりわけ不安定な状況に置かれており、また葉タバコ収納価格につきましても、耕作者の間に不満の声が次第に高まってきておるのであります。  しこうして、耕作者経営現状のごとく不安定な状況に置くことは、耕作者耕作意欲専売事業に対する協力の熱意を失わせ、かえって専売事業の健全なる運営をはかるゆえんではないと考えるのであります。  本法律案は、このような状況にかんがみまして、専売事業の本旨と耕作者利益の調和を旨とし、専売事業の健全な運営に支障のない限度においてタバコ耕作者利益を擁護し、その経済的地位の改善をはかろうとするものであります、  以下、本法律案概要を御説明申し上げます。  まず第一に、タバコ耕作者耕作権を保障するため、耕作許可有効期間を五年とするとともに、許可処分に対する異議の申し立て制度を創設することといたしております。  第三に、葉タバコ収納価格決定を適正ならしめるため、葉タバコ収納価格決定基準決定するとともに、収納価格は、公社耕作者とが協議して定めることといたしております。しこうしてその協議が成立しないときは、葉タバコ耕作調停委員会調停いたすものとし、その調停がなお成立しないときは、大蔵大臣収納価格を定めることといたしております。  第三に、耕作者団結権及び団体交渉権を保障するため、耕作者団体公社と団体交渉する権限を有することとするとともに、公社が、耕作者に対し、耕作者団体に加入したこと等を理由として不利益な取扱いをすることを禁止することといたしております。また公社耕作者団体との間に締結される団体協約は、いわゆる規範的効力を有するものといたしております。  第四に、耕作者利益を保護するため、収納代金の一部前払い制度及び災害補償制度につき、所要改正を加えることといたしております。  第五に、再査定及び再鑑定制度を合理化するため、当該制度につき、再査定人及び再鑑定人は、少くともその半数を耕作者団体の推薦する者の中から選定することとすること、再鑑定申し立てがあった場合における収納代金の仮り払い制度創設等所要改正をいたしております。  第六に、耕作者団体法律関係を明確化するため、耕作者団体大蔵大臣許可か得てこれを法人とすることができるものといたしております。  以上が、この法律案概要であります。何とぞ、御審議の上、すみやかに御賛成下さいますようお願いいたす次第であります。
  4. 山本勝市

    山本委員長 続いて石村英雄君からの説明を願います。石村英雄君。
  5. 石村英雄

    石村委員 ただいま議題となりました物品税を廃止する法律案提案理由を御説明いたします。  物品税は、周知のように戦時中に立法されたいわゆる戦時立法でありまして、現在七十数品目を残すのみとなりました。物品税が課せられている七十数種の品目の中には日用生活必需品があり、きわめて不公正かつ不均衡な課税となっております。この際このような物品税を全廃し、新たな見地から高級品奢侈品に限って税を課す必要があると思います。これがこの法律案提出する理由であります。  次に、酒税法の一部改正する法律案について申し上げます。  現在酒類に対しましては、相当の重税が課せられている現状にありますが、このたび大衆酒と目される清酒二級酒、合成二級酒、しょうちゅう甲乙雑酒二級酒、ビール等税金をそれぞれ引き下げようとするのがこの法律案の趣旨であります。  すなわち清酒二級酒については、現在石当り二万二千五百円の課税がされているものを、これを一〇%引き下げて二万三百円とし、合成二級酒については、現在石当り一万七千六百円の課税がされているものを、これを一〇%引き下げて一万五千八百円とし、しょうちゅう甲類については、現有石当り二万四千二百円の課税がされているものを、これを一五%引き下げて一万二千二百円とし、しょうちゅう乙類については現在石当り一万二千七百円の課税がされているものを、これを一五%引き下げて一万八百円とし、ビールについては現在石当り二万円の課税がされているものを、これを一五%引き下げて一万七千円とし、雑酒二級酒については現石行当り一万二千五百円の課税がされているものを、これを一五%引き下げ一万六百円とするものであります。  次に、法人税の一部を改正する法律案について申し上げます。  現行法人税法では、所得金額のうち五十万円以下の金額については、百分の三十五の税率が適用されることになっております。しかし現状でも中小法人税負担が過重であり、今般の政府改正においても、所得金額のうち年百万円以下の金額については、百分の三十五の税率を適用することといたしております。本法案の要旨は、所得金額のうち年五十万円以下の金頭については、百分の三十、所得金額のうち年五十万円をこえ年百万円以下の金額については、百分の三十五、所得全額のうち年百万円をこえる金額については、百分の四十の税率をそれぞれ適用することといたしたものであります。  以上、物品税法を廃止する法律案外二法律案提案理由を御説明いたしましたが、何とぞ慎重審議の上、一日も早く可決されんことをお願いいたします。
  6. 山本勝市

    山本委員長 次に、政府側説明を聴取いたします。足立政務次官
  7. 足立篤郎

    足立政府委員 ただいま議題となりました関税法の一部を改正する法律案につきまして、提案理由及びその概要を御説明申し上げます。  この法律案は、最近における関税犯則事件状況等に顧み、外国貿易船等でない外国往来船等についても入港届提出を要することとし、外国往来船への交通及び貨物保税地域への出し入れについての規制並びに輸出入についての虚偽申告等に対する罰則を強化するとともに、不開港出入許可手数料について減免規定を設ける等のため、関税法の一部を改正しようとするものであります。  まず外国貿易船等でない外国往来船等、すなわち通常外国に寄港する遠洋漁業船海技練習船等につきましては、従来は入港届提出を要しなかったのでありますが、これらの船舶等についても貨物輸出入及び免税船用品等用途外使用の取締りを行う必要があるので、その本邦の開港等への入港に際しては、入港届提出を要することとしております。  次に、外国往来船と陸地との交通につきましては、従来は、その交通する場所について制限が設けられているのみでありましたが、近時外国貨物不正買い出し等のためこれらの船舶に往来する者の少くない実情に顧み、成規手続を経ない貨物の授受を目的とする交通については、所要規制を加えることができることとしております。そのほか、貨物のすりかえ輸出入の防止を期する等のため、特定の地域については、一般内国貨物出し入れについても届出を義務づけることとしております。  次に、輸出入についての虚偽申告等の罪については、その罪質に顧み、また、許可を受けないで不開港に出入する罪については、とん税法等との関係をも考慮し、それぞれの罰則を強化するとともに、過失によるこれらの罪については体刑を科さないこととする等所要罰則の整備を行うこととしております。  その他、とん税及び特別とん税の税率との権衡を考慮し、同一外国貿易船同一の不開港に四回以上入港する場合においては、その四回目以後の不開港出入許可手数料を減免できることとしております。  以上が、この法律案提出した理由及びその概要であります。何とぞ御審議の上、すみやかに御賛成下さいますようお願いいたします。  次に、漁船保険特別会計における給与保険の再保険事業について生じた損失をうめるための一般会計からの繰入金に関する法律案につきまして、提案理由を御説明申し上げます。  漁船乗組員給与保険法規定による漁船乗組員の抑留を保険事故とする給与保険につきましては、保険事故が異常に発生したことに伴い生じた損失を埋めるため、従来も一般会計から、この会計給与保険勘定繰入金をいたしているのでありますが、昭和三十年度の決算上、なお約五百六十二万二千円の損失が残り、また昭和三十一年度におきましても、引き続き保険事故が異常に発生いたし、昭和三十一年四月一日から本年二月末までの間に、さらに約八千九百十八万七千円の損失が生じたのであります。そこで今回これらの損失を埋めるため、昭和三十一年度におきまして、一般会計から、九千四百八十万九千円を限度として、この会計給与保険勘定繰入金をすることができることとしようとするものであります。  何とど御審議の上、すみやかに御賛成あらんことをお願いいたします。
  8. 山本勝市

    山本委員長 これにて提案理由説明は終りました。  これら六法律案のうち法人税法の一部を改正する法律案以外の五法律案に対する質疑は後日に譲ることとし、所得税法の一部を改正する法律案税関係十一法律案を追加して一括議題とし、質疑を続行いたします。奧村又十郎君。
  9. 奧村又十郎

    奧村委員 主税局長にお尋ねします。利子所得の一年までの短期の貯金については課税を復活する。そうなれば、所得税法第六十一条のその分の銀行支払調書は出させるべきであると思うが、それはどういうふうになるか。
  10. 原純夫

    原政府委員 その点は、昨日申し上げ方が少し足りなかったと思いますが、その分についても、昨日申し上げました改正措置法規定によって、支払調書を取らないということにいたそうと思っております。理由は、一割源泉で取りますが、それで取り切れて分離課税になるということから、総合の必要はないということで、調書を取らないということに考えております。
  11. 奧村又十郎

    奧村委員 そういう説明の仕方もあるが、所得税法では、あらゆる所得に対して質問検査権というものを認めてある。課税分離課税でも、質問検査権というものは、これは一切に及ぼさなければならぬので、せめてその分くらいは申告させるというふうにいたすべきであると思いますけれども、その理由でいきますと、もし税制調査会答申案のごとく、将来一年以上の長期貯金も一割の課税をするという場合も、もう調書をとらぬということになると思うのですが、そういうようなお考えですか。
  12. 原純夫

    原政府委員 調査会答申は、やはり利子所得につきましても、本来は総合課税すべきである。ただ現状においては、貯蓄を奨励する必要がなお非常に大きいのにかんがみて、従来よりも縮めるけれども、ここ二年間特例を設けたいということでありますので、将来の方向についての考え方は、奧村委員と全然同じ考え方をとっておられますし、私どもも同様に考えております。
  13. 奧村又十郎

    奧村委員 この利子所得課税についての臨時税制調査会答申案は、まことに妥当な考え方であって、本来は、利子所得総合累進課税をなすべきであるということをはっきりきめても、現段階として急激に持っていくことはできぬのですから、せめて二年間は一割課税という方針をきめて政府答申した。これについては、銀行協会その他関係業者意見も十分聞いて御答申になったようであります。つまり一割の分離課税で満足するのではない。将来は、なるべく早く税制確立のためには、総合累進制度に戻らなければいかぬ、その第一段階として一割の分離課税というのでありますから、まことに妥当な——従って政府が真にこの総合累進制度を元へ戻そうというお気持なら、せめて答申案のごとく、長期の一〇%はかけなければいかぬと思うのですが、なぜ長期の一割をかけなかったかというその事情を一つお尋ねいたします。
  14. 原純夫

    原政府委員 まことにごもっともな御意見でございます。こういう特例はなるべく早く常的な状態に戻すということが筋だろうと思いますし、私どもも、おっしゃるような気持を相当持っておったのでありますが、この調査会審議しておられました時期から、だんだん予算の最後の詰めの時期、それから税法最後にまとめます時期にかけまして、これは御承知通り経済界の活況と申しますか、伸びと申しますか、非常に顕著な情勢がきわめて予想外に進んだ、そして一方税の方も自然増収が非常にふえると同時に、経済界全般に投資が非常に盛んになり、資金が足らないというような状態がかなり急角度に出て参っております。その状況考えまして、貯蓄の奨励ということは、これはもういつでも必要なわけでありますけれども、その必要が非常に強く感ぜられるようになった。一方、減税によって消費といいますか、納税者の手元に金が残るという面につきましても、それを極力貯蓄に向けさせたいというような考え方もあわせて強く出て参っております。そういうようなわけで、特に最近の経済の推移に考えて、調査会答申と若干離れた線に結論を落ちつけるという方が妥当であると思ってやりました次第で、将来の方向として、おっしゃいました理想の目標というものは捨ててはおりませんが、現在の経済情勢からして、長期の分についてはなおしばらく優遇をして、長期資金を大いに集めたいという気持をあわせて、こういう結論になったというふうに御了承願いたいと思います。
  15. 奧村又十郎

    奧村委員 なるほど長期資金の獲得はけっこうでありますが、税の制度の基本的な公平をそうしごく簡単に捨てるということはいかぬので、特に大蔵省の中でも主税局長が、これはあなたの責任でがんばっていただかなきゃならぬことであって、今の御答弁でははなはだ心もとない御答弁であります。なるべく大蔵大臣に私はお話をするつもりでおりますけれども局長も、自分の信念が通らなんだら、場合によっては腹を切るぐらいな覚悟を持ってもらいませんと、今の税制確立できません。そこで、どうですか、そういう場合に、何も税制の面でそう譲歩しなければならぬことはないでしょう。それは最後の場合で、貯蓄増強にはまだほかに打つべき手がいろいろある。貯蓄増強の一番大事な点は何であるか。これはインフレが進まない、通貨価値が低落しない、それを政府が保証することだと私は思う。それなくしてどんなことをしたって、終戦前後のように、一年に物価が倍も三倍も上るようになったら、ああいう悲惨な、インフレの災いの経験を持った今日の国民が、少々のことをしても、決して貯蓄は進むものではない。そうしたならば、その点をあなたは確かめなくてはならぬ。しかもこのインフレ対策において一番大事なのは、私の考えでは税です。税制確立です。あなた御承知通り昭和二十三、四年のあのインフレの進んだときに、いわゆるドッジ方式によって、あのさしものインフレを抑えたでしょう。あのドッジ方式は何ですか、税の確立でしょう。ところが、この税の確立で一番肝心な税の公平を乱して、そして貯蓄増強、それでは本末転倒しておらぬですか。そういう点、銀行局長その他、貯蓄増強貯蓄増強で、税を乱す連中に説いて聞かされましたか。これはインフレの問題からしても、局長はもっと信念を持っていただかなきゃならぬ。大蔵大臣にこの問題もお尋ねしようと思いますが……。  それからもう一つ、同じような問題がありますが、お尋ねしたところで、どうせコンニャク問答になるので、(笑声)こっちはなかなか……。  そこで、今度は、国民貯蓄組合のいわゆる無税限度を二十万円に引き上げましたね。そうしますと、一口二十万円までは無税、それから期限一年以上は無税。そうすると、御承知通り国民貯蓄組合が非常に乱用され、一口二十万円ですから、百万円の預金者は、五口以上に分ければ全部無税になる。従って、そのやり口でいけば、たとえば一億円持っておっても、それを名前を分けていけば無税になるわけです。そういう抜け道を奨励すべきではありませんけれども、そういう便法がある以上は、もうこの長期預金に免税して、それで喜ぶ人はよほどのお金持ちです。ほんとうに利子所得でぬくぬくと生活ができる。これは勤労所得者事業所得者たちと違って、一番楽なお方。そういうお方々から、所得税も取らない、地方税も取らない。そうすると税金は一文もかからぬ。国家に対して何の納税義務もない。そうして、きのうの話でもありませんが、住み込みの店員の食糧費までも税金をかける。そういうことをして、主税局長納税者に納得ができる説明ができますか。それが、ただ貯曹増強のためという御説明で納得すると思いますか。その点を……。
  16. 原純夫

    原政府委員 非常につらい御質問であります。利子所得の問題だけでなくして、特別措置全般につきまして相当多額の税収を犠牲としながら、いろいろな政策目的に対して税が力を添えておるというのは、多々ございます。私どもとしまして、経済が正常化するに伴って、そうしてその優遇を与えられる部面が力がつくに従って、これはすみやかに整理すべきものだという考えで、その点については、調査会も全く同じ考えで研究された。それで、今回結論としてきまりましたのは、初年度、増減差引で二百億の整理、平年度三百五十五億の整理という程度にとどめましたが、この点は、実は私どもとしましても相当がんばったつもりであります。先ほど、できなければやめるぐらいなというお話がありましたが、私ここでそういうことを申すのは何ですが、特別措置整理があまりできないということでは、とても主税局長は勤まらぬと思って、それでだいぶ悩んだときもありましたが、いろいろな面である程度のことはできた。その中で、調査会答申よりむしろ優遇をふやしたのは、利子の面と生命保険料控除、それから米穀供出課税とお医者さんの課税、これは政治的に触れられないということになりましたが、その辺が調査会の線と違ったわけで、私どももいわば素志とはだいぶ変ってきております。その中で利子所得に関する扱い、それから生命保険料控除の増額につきましては、先ほど来申しましたように、経済情勢法律案を固めます間ぎわに至って、非常にそういう優遇を必要とする度合いが強くなったということをあわせ考えてこういうふうにいたしましたので、おあげになりました他の所得者との権衡ということからいうと、非常に問題だと思います。私どもとしましては、今後日本の経済にだんだん力がつき、経済が正常化されて、こういう特例が一日も早くなくなって、税が公平に平等に、適正に課税されるようになることを強く願っておる次第でございます。
  17. 奧村又十郎

    奧村委員 もう一つ生命保険料控除引き上げ、これも貯蓄増強が一番の理由でありましょうが、私は、実は必ずしも賛成はできぬと思うのです。御承知通り、これは今回の引き上げで、生命保険料を支払っておる人はまた七千五百円ですか、いわば基礎控除が引き上ったと同様の恩典があるわけです。しかしそういう生命保険は、すでにもう一万五千円、保険金額で四十万円ですか、五十万円くらいのところまでしてあるので、それ以上すれば、やはりかなり豊かな人にそういう控除を与えるということであるから、これは税の公平からいえば、やはり公平がくずされる。そこで、主税局長一つこういうことも考えていただかなければならぬ。それほど犠牲を払って貯蓄増強をするのなら、その犠牲を払った資金が、ほんとうに国家に有用に使われておるかということを、一ぺん逆に銀行局長あたりにつついてごらんなさい。現に残念な話だが、金融機関は毎年不祥事件を起しておるじゃないか。そういう世界にも類例のないような恩典を与えて、その恩典のおかげでぬくぬくと預金がふえていったが、その貯金がどのように使われておるか、導入預金などにしたって大へんなことを起し、これはすでにお聞きのことと思いますけれども、年々不祥事件が起って預金者が大へんな迷惑を受けておる。保険会社にしても、話を聞くと、このごろ不祥事件が多い。そういう点も、主税局長、あなたは押される一方ではなくて、攻勢防御に出られないといかぬと思います。  それから次に臨時税制調査会では、同族会社の給与などの否認の問題、これを答申案の中に強く盛り込んであるわけですが、これに対しては、政府はどういう方針をおとりになっておりますか。
  18. 原純夫

    原政府委員 臨時税制調査会答申の中に、同族会社の給与の否認の問題を取り上げられましたのは、こういう角度からであります。問題の根本は、いわゆる法人成り、個人企業が法人になると税負担が変ってくる、そのために法人になるという傾向が非常に強い。ということは、やはり日本の企業全般に対する税のあり方として、そこに大きな問題があるという見地から研究を進められたわけであります。この問題は、世界の各国とも当面している問題でありますが、日本においては、特にその問題が深刻であるようにわれわれも常々考えております。  これをどう解決するか。まあ抽象的に申しますれば、法人になった場合でも個人課税するという式の行き方、つまりアメリカあたりでやっております組合課税、組合の課税は、組合員個人個人に所得を分けて課税するというような行き方もあろうと思います。あるいはこの同族給与を、世帯内において合算するというような行き方もあろうと思います。また逆に、それでは個人課税の方を法人成りした場合と似たようなやり方にするというような行き方もあろうと思いますが、税法としてどちらをとるかという問題については、なかなか簡単に踏み切れない。そこで、やはり各国ともそこは必ずしもはっきり踏み切っておりません。いわゆる法人擬制説というものもその一つ考え方でありますが、これも、法人の種類によって必ずしも結論的に常識的な税負担になっておらないことは、先般来当委員会においてたびたび指摘された通りであります。  そこで、どういう結論になったかと申しますと、今回所得税の負担を相当大幅に軽減合理化するということをいたします。そういたしますと、ただいま問題にしております法人、個人の間における税負担関係が、法人になっても利益が少い、あるいは利益がない、逆に損になるというようなものが相当出て参ります。つまり社会の常識からいって、あのくらい大きくなれば法人になるのが当りまえだろうと言われるようなところ——所得税法人税関係が、そういうふうに所得税でおった方が若干得だというような程度でありますと、社会の常識に合った程度のところで法人成りが始まるということであります。調査会は、所得税の負担の大幅な軽減合理化を行うならば、そういう事情が顕著に現われて当面の解決が相当できるのではなかろうかということで、いわば中間的な結論をそういうところに落ち着けられたわけであります。ただその際、それでも法人にしてやる行き方がないではない。また従来法人になっているものが、所得税の方が得だから戻ろうという気になるか、あるいは法人として同族に払う給与をそれでは倍にしよう。倍にすると法人所得は減りますから問題の焦点である事業税がそれだけ減ってくる。また法人所得が個人の給与に変るわけですから、給与に変りますと、今度の新しい減税の恩典を受けるというようなことから、そこにそういう法人利益の調節ということが行われはせぬか。それが行われたのでは、ただいま申し上げました線というものが単に観念的にあるだけで、実際にはそうはいかないということになる。かたがたそういう税を減らすために給与をふやすということを認めておいてはいかぬだろうという考え方から、同族会社の給与について規制をするということにしたいと考えられた。それがこの答申の出てきた理由であります。そこで、私どももそういう感じを持っておりますが、なぜこれを今回の法案に入れなかったかと申しますと、御案内の通り所得税法法人税法に同族会社の行為、計算の否認という規定がございます。あまりに不当に法人税を軽減するということになる場合におきまして、行為、計算を否認できる。所得税の側にもそれに対応する規定がございます。従来もこの規定で、そういう企業の否認と申しますか、あまりにめちゃな企業については、これはおかしいじゃないかということを言えるという解釈で、実際にもそういう運用をある程度いたしてきておりますが、新たに規定を設けるといわれた考え方は、やはり企業の否認の問題は抽象的じゃいかぬから、何か基準をはっきり法律に基くものを置いてやれるようにするというようなことはどうかというふうな考え方であったのですが、その後いろいろ研究の結果、そういう基準を一律にと申しますか、基準を作るということは、個々の具体的な場合について考えると、かなりこまかい意味のものを作らないといけない。また作ったとしましても、それが規制のつもりで作ったのが、逆にそこまでは所得を分割してもいい、当然の権利だというふうなことになるというような反作用もないではありません。それこれ考えまして、こういう問題は、だんだんと経済が進み国民の力も豊かになってくると、税制もそれぞれ納得し得る負担になるということになれば、そうして一方、行為、計算の現行の否認規定でいける程度の運用を努力してやれば何とかいけるであろうという判断になりまして、ちょっとうまい言葉は見当りませんが、あまりぎすぎすした規定を置くのもどうかというようなことから、今回お願いいたしております法案からは抜いたような次第でございます。
  19. 奧村又十郎

    奧村委員 よくわかりました。これは御説のようによほど慎重にしなければならぬと思いますので、私も早急にどうしろということは申しませんが、ほかの所得の把握がもう少ししっかりやれるようになりましたなら、歩調をそろえて何とか手を打ちませんと、きのうのいわゆる名義貸しの問題とちょうど同じようなことで、今のお説のように、いわゆる実質課税と申しますか、行為否認の規定もあり、実質課税規定もあるけれども、そういう規定がありながら名義貸しが押えられなかったと同様に、行為否認の規定がありながら、実際にはなかなかおやりができぬということになってまた手おくれになって、やったときにはそれでは今までどうしておった、こうやられますから、まあそこは急いでもならぬが、手おくれになってもならぬということで、よくお考えになられたいと私は思います。  国税庁長官がお見えになりましたので、ちょっとお尋ねいたします。これも臨時税制調査会で非常に議論があったことだそうですが、青色申告の納税者の問題であります。どうも青色申告が非常に増加してきたということは、表面上はまことにけっこうです。ところが案外に青色申告のその申告そのものが必ずしも正確でない。むしろ白色申告者とどっこいどっこいというようなことで、それなら青色申告は意味ないじゃないかという議論が、ずいぶん臨時税制調査会でも出たということを聞いております。私もまた現実にそういう事実をちょいちょい聞いております。しかしそれがあまりひどうなると、今度は青色申告なるがゆえに更正決定もやりにくいというようなことになって、逆に政府の打った手で逆手をとられていくというようなことにもなりかねぬと思うのであります。昨日の長官の御答弁によると、来年からお知らせはしない、やはり青色を育成して、それでお知らせしなくてもいいようなふうに持っていくんだ、こういうふうに読みとれるような御答弁でありましたが、青色申告に対して今後国税庁はどういう方針で指導していかれるのですか、お尋ねいたします。実際に今調査会で議論の出ておるように、青色申告というのはそれほど正確でないのか、その事実も一つ聞かしていただきたいと思います。
  20. 渡邊喜久造

    ○渡邊政府委員 青色申告につきましても、昨日もちょっと申し上げたと思いますが、初期の数が比較的少かった時分におきましては、割合にまじめな申告といいますか、正確な申告が大部分であったように思います。私が東京の国税局長をしておった時分には、数は少かったかわりに、内容がよかったということが大体いえると思います。しかしその当時は、何と申しましても数が少うございまして、営業の場合におきましても、せいぜい一割とか、そんなような数でありました。その後国税庁におきまして、どうもこれでは青色申告の意味がないじゃないかということで、数を急速にふやすことにかなり努力をいたしました。その意味におきまして、一つは妻の専従者控除を認めたという税制改正と結びついていると思いますが、青色申告の数が非常にふえて参りました。最近は、営業でいえば五割ちょっと越すくらいにふえて参りました。そうなりますと、おのずからやはり玉石混淆的な傾向が出てくるのも、ある意味においてやむを得ないと申しますか、一つの傾向のように見えます。従いまして、青色申告の中にも、帳簿上架空の仕入れを入れているとか、売上げを抜かしたりしているとか、本来の正確な申告になっていないじゃないか、それが決してないとはいえません。ある程度ございます。従いまして、われわれの方としては、それをそのまま放置しておくことは、これはほんとうの意味で青色の精神を理解し、青色らしい青色を出していらっしゃる方から見ましても、まことに妙な話でして、青色と白色と意味がないじゃないかという議論になるわけですから、従ってきのうも私は申し上げたと思いますが、さしあたっての段階におきましては、われわれは数をふやすことの努力というものは、この辺でストップした方がいいのではないか。もちろん納税者の方から進んで青色になるという方を、われわれが拒否するというわけではありません。われわれが進んで青色でおやりになさい、青色でおやりなさいといって勧めて歩く努力は、一応この辺でストップしておいて、そうして現在青色になっていらっしゃる方の中で、まあ青色らしくない青色を出していらっしゃる方を、ほんとうの青色になっていただくような努力、量の増加ということよりも質の向上、それに努力すべきではないか。見ておりますと、大体こうなるようです。今の青色らしくない方は二色あるわけです。一つは、気持の上では正確な申告をしたいのだ、しかし帳簿なり何なりのつけ方がまだまだほんとうになれないから、理解しにくいから、従って形式的に見るとまだ不備があるという方と、それから複式簿などもよくわかって、頭が発達していて、しかしもっぱら税金を安くすることが希望なるがゆえに、売上げを抜かしてみたり、あるいは架空の仕入れをやっている。前者の方については、われわれの方は、どちらかといえばそのまじめなお気持を十分尊重して、帳簿のつけ方などについての御指導を申し上げるとか、いろいろなことをできるだけ努力していきたい、あとの人については、よほど御反省を願わない限りは、われわれの方としては、青色の取り消しということをまず行なっていくべきじゃないか、そうして御反省を願ったあとで、また青色になるというなら別です。ただ正直に言いまして、その前の方の、まじめな方で帳簿のつけ方がわからないという方を見出すのは、これは割合簡単なんです。ところが一応帳簿の形式は整備していて、そうして内容が怪しいというのは、これはその帳簿だけをつかんでいたんじゃわかりません。どうしてもわれわれの方としては、間接資料なりを整備しまして、そうして売り上げがあるか、あるいは仕入れがあるか、はっきりしたほかの方の資料から固めていかなければならないわけです。そこにわれわれ税務官吏の苦労もあるわけだと思います。従いまして、いろいろな青色に対する批判もあります。従って、われわれの方としてもそういった意味において、やはり青色の中でも幾つかの段階があることを十分認識して、そうしてまじめな方と必ずしもそうでない方とある、その意味におきまして、われわれの方で現在とっております青色の解釈といたしましても、三月十五日前に全部問題を片づけてしまうというんじゃなくて、相当疑わしいといいますか、信頼するのもどうもおかしいというのは事後調査に回す、こういったことによりまして今の整理を続けていく。従いまして、量をふやすことは最終の目的でありますが、さしあたりとしてはそういうことでいきたい、こう思うのであります。
  21. 山本勝市

    山本委員長 それでは奧村君、また後ほどにしていただきまして、大臣が出席しましたから、横山君の質疑を許します。横山利秋君。
  22. 横山利秋

    ○横山委員 大臣にお伺いいたしたい問題は、当面の給与問題であります。お断わりをいたしておきますが、本件は社会労働委員会ないしは予算委員会でやるのが適当かと存ずるのでありますが、しかし緊急せっぱ詰まった問題でもありますし、かつはまた大蔵省関係の職員の主管大臣として、あなたに一つお伺いをした方がよかろうとも思ったからであります。  きょうは、新聞にも載っておりますように、政府側としては声明を出すと言います。それから仲裁申請がされる日であるといいます。あるいはまたこれに対して公労協は三・五波をどうしても十六日からやると言っております。従いまして、非常に重要な日でありまして、私どもとしては、何としてもこの際一つ政府と公労協側との間に円満な解決がされることを望んでやまない。私は率直に心境を吐露いたしまして、政府、特に政府の中の首脳部におられる大蔵大臣の率直な御意見を承わりたい、こう思って質問をいたしますから、ときには言葉の足らない点や激しい言葉があるかとも思いますが、その意味において、一つぜひとも御答弁いただきたい。(「けんかをするのか」と呼ぶ者あり)いや、けんかをするのじゃないということです。  大臣は、きょう鈴木・岸総理会談があることを御存じでありましょうか、また御存じだとするならば、その相談を受けていらっしゃいますでしょうか、どういうふうな過程において政府側としてはこの会談に応ぜられるお気持でありましょうか、まずそれをお伺いいたします。
  23. 池田勇人

    ○池田国務大臣 今朝の閣議で、鈴木委員長と岸総理大臣がお会いになることは聞きました。話の進め方等につきましては、官房長官と社会党の横路さんとが前もってお話しするということも聞きました。しかし内容につきましては、政府声明のことしか聞いておりません。
  24. 横山利秋

    ○横山委員 政府声明は、新聞の伝えるところによりますと、仲裁申請をすることにしたから実力行使をやめてもらいたい、こういうように私ども承知をしておるのです。ただそれだけであるといたしましたならば、この問題の円満解決ということは、私は期し得られないのではないか、少くとも岸総理と鈴木委員長とが会談されるについては、やはりそれ相当の——政府側として石田官房長官が応諾されて、そうしてあっせんをされておるというのでありますが、それ相当の腹ごしらえをなさらないといかぬのではないか、またあるのではないか、こういうことを私どもは感ずるのです、何のあれもなく、ただ仲裁申請をする、実力行使をやめてもらいたい、その声明を出す、その声明についての議論をするというのでは、今日のこの重要な段階における総理及び委員長の会談としては、これは非常に国民が期待をいたしておるのでありますから、無意味になるのではないか、そこのところをいま一回大臣から、本委員会を通じて、政府側の春闘に対する円満解決についての所信を伺いたいと思うのです。
  25. 池田勇人

    ○池田国務大臣 岸総理と鈴木委員長との会談の内容につきましての予測は、私にはできません。ただ政府といたしましては、公労法関係規定に基き、仲裁裁定が出ました場合には、誠意をもってこれに当るという基本方針を堅持しております。
  26. 横山利秋

    ○横山委員 重ねてお伺いをいたしますが、本日岸・鈴木会談が行われまして、総理からこの春闘の円満な解決のための両者の条件といいますか、話し合いが成立いたしました場合においては、あなたは今、内容を聞いておらぬとおっしゃるのでありますが、大蔵大臣として円満解決のために、その会談の結果について御了承をなさるおつもりであるかどうか、お伺いをしたい。
  27. 池田勇人

    ○池田国務大臣 会談の結果並びに仲裁裁定の結論につきましては、誠意をもって努力する、こういうことを申し上げます。
  28. 横山利秋

    ○横山委員 私が重ねてそれを特にあなたにお伺いをしたいゆえんのものは、ここしばらく大蔵大臣としてのあなたの立場が非常に春闘に重要な影響を与えておるからであります。  何となれば、一番最初に起りました問題は、先般私もこの委員会で言ったのですが、調停案が出ます前に、その調停案らしきものに対する大蔵省筋の数字として、それは困難であるということが新聞に載ったのが第一回の手初めでした。第二回目は、松浦労働大臣が、調停案については、これをもしやるならば補正を組んでやる、多少法理上の理屈には沿いませんでしたけれども、しかし真摯な気持を持って松浦労働大臣が申しましたその発言について、あなたは閣議ないしはその他の場合において、非常な制肘を加えられたことであります。かてて加えて、十二日に仲裁申請をするという政府の約束は、むざんにも今日までおくれてきたわけであります。そのおくれたゆえんは、あなた一人に私はかぶせようとは思いません。思いませんが、少くともこの問題について筋を立てられておるあなたとしての数字が、約束に反する結果になったのだと私は思うわけであります。私の思うことについて問題があるならば、あとで御答弁を願いたいのでありますが、少くとも労働者側はそういうふうに感じておるわけであります。  公務員給与につきましては、やはり労働省の問題でありますが、公務員の諸君がその体系について非常な反発を感じて、かりに八百円の基準外を含めて千二百七十円のアップがなくなっても、この体系についてはどうしても承知がならぬと言っておることも、主管大臣としてあなたは御存じであろうと思うのであります。  そういう点を数えて参りますと、今の池田さんの立場というものは非常に私は重要であり、あなたの決心、あなたの決断というものが、この春闘解決の非常な要素になるということを見のがすわけには参らぬ。従って私は率直にあなたにお尋ねしたい。  きのうも、あなたは某々に対しまして、自分の気持としては、春闘を解決する誠意は持っておるとおっしゃったそうであります。私はそれを聞いて非常に喜んだ。事実この春闘というものについては、国民すべてが、労使双方を含んですみやかに解決せられることを願っておるのでありますから、いろいろな法理上のあるいは予算上の、あなたとして言わなければならぬ制約があることは私も万々承知をいたしておりますが、しかし閣僚の一人として、岸内閣における重要なポストにおるあなたが、ここでそこを乗り越えて春闘解決のために勇断をふるわれる気持はないのか。私が前にあげました四点、五点については、いささかあなたに対して誹謗じみた点があったかもしれません。しかしきのうのあなたのある人に対する発言を聞いて、私は非常に喜んだのです。あなたはここで勇断を振って、岸総理を助けて春闘解決のために加速をなさるお気持があるかどうかということを、重ねてお伺いをいたしたいと思います。
  29. 池田勇人

    ○池田国務大臣 誠意をもって善処すると、こういうことに尽きると思うのでございます。何分にもあの調停案が出ましたときは、いつもの例とは違いまして、理由書もございませんし、われわれはその調停案の内容について十分検討して、しかる後にこれを公共企業体がのむか、あるいはまた仲裁裁定の申請を出すか、十分検討してやるべきだという考えで私はおったのであります。従いまして、検討の結果、きょう午前中に国鉄が仲裁裁定の申請を出し、続いて二公社四現業も出すようでございます。あくまで慎重に、そしてあいまいなところのないように、正道を踏んでいくべきだと思います。これも私が誠意をもってこれを解決したいという現われであるのであります。今後どういう裁定がおりますか、私はその後におきまして公労法二十五条並びに十六条の精神を体し、また三公社五現業の給与の引き上げがいかに財政に影響するか、またこういう望ましくない争いが続くことがいかに日本の経済に影響するか等々、万般の状況考えまして、大蔵大臣として善処いたしたいと思います。
  30. 横山利秋

    ○横山委員 あなたの今おっしゃったことは、もっともな点がございます。私は、それを肯定するにやぶさかではございません。しかし労働問題としては、タイム・リミットというものがあるわけであります。あなたの今おっしゃったことを正確に筋道を立てて議論をした、討論をした、審査をした、そうして仲裁を求め、そして仲裁して裁定が出てから、公労法上に言う十日以内に国会に出し、国会がそれをずっと審議をする、もしそういうことであるとするならば、まさにこれはタイム・リミットに合わないことはなはだしいのであります。あなたはそうではないと私は思うのでありますが、かりにそういう議論であるとするならば、本日の岸・鈴木会談というものは意味がなくなってしまうのです。少くとも労働問題というものは、あなたも御経験だと思うのでありますが、労使の間で話がつくということが、公労法でも労働組合法でも労調法においても、最もそれを主旨としたものであります。公労協の方は政府関係がございますから、百歩譲って、それが単純な労使関係においてのみ解決することができないにいたしましても、労基法を出してからすでに今日一年有余、その調停案の中にあります一つの問題は、すでに三十年度の調停案の問題であります。ここまで来て、しかもこの段階において筋道を立て、順序を立てということは、これは、私は政治感覚のすぐれたあなたとしては、そういう意味で言っていらっしゃるのではないと思うのでありますが、時期的判断ということをどういうふうにお考えでありましょうか。あなたのお話を了として、その上私は時期判断の問題について、本日どういうふうにするかという点をお伺いをいたしたいのであります。
  31. 池田勇人

    ○池田国務大臣 先ほど申し上げましたように、いざこざが起ることは望ましくない、これを早く解決したいということは、これは一般国民みな念願しておるところでございます。従いまして、それを早く解決する意味におきまして、事を明らかにせずにやるということは、根本的解決法じゃございませんので、急いでやる必要はありますと同時に、事を明らかにして進んでいくということがいいと思いまして、新聞に二、三日前でございますか、きょう裁定するというときに、理由書がよくわからぬじゃないか、理由書をよく聞いて、それから決意すべきだ、こう私は言ったことがあるのであります。この解決を急いでやろうという気持に何ら変りはございません。
  32. 横山利秋

    ○横山委員 私はあなたの今までの答弁を聞きまして、何といいますか、私とあなたの間にずれはありますけれども、大臣の常識的な立場における御答弁であったように聞いておるのであります。ただあなたの言うところの常識というものが、公労法の精神とやや反しておるところがあるのではないかと疑われるのであります。その点について少し質疑を重ねて、もしあなたがそういう点がありとすれば、一つ御反省を願って、公労法の精神に基いてすみやかに解決をしていただきたいと思うのでありますが、第一にお伺いしたいのは、なぜ調停案を政府は受諾しなかったのか、新聞でいろいろ伝えておりますが、政府公社側とがしばしば会見をされた、その結果としての調停案の拒否の理由が新聞に載っておるが、その新聞通りであるか。調停案を拒否するゆえんのものは何であるか、それを一つお伺いいたします。
  33. 池田勇人

    ○池田国務大臣 きょう国鉄の方で裁定を申請したのに載っております、国鉄関係法規の二十八条の点が十分考慮されておるかどうかわからない、それから千二百円の根拠もわからない、こういうことで、今の建前からいくと、それに従うわけにいかない、こういうふうに出しております。
  34. 横山利秋

    ○横山委員 本日の新聞が一斉に取り上げておるところを読みますと、政府公社との会見によって「一、政府が公労委の調停案を拒否した理由は1調停案が三公社、四現業の企業差を無視している2賃金引上げの積算の基礎に疑問がある3政府は今国会に「一般職職員の給与に関する法律改正案」を提出して国家公務員の賃金引上げを予定し、公社職員との給与差を縮小しようとしているが、この調停案を実施すれば、この政府の意図が壊れることになるなどの点である。」という三点をあげております。この三点は政府及び公社との間のしばしばの御相談においてこういうふうにきまったものであるか、伺います。
  35. 池田勇人

    ○池田国務大臣 その問題につきましては、私は関与いたしておりません。きょう国鉄の方で出しましたのは、ここに控えを持っておりますが、調停案の第一項前段については、理由書のお示しがないので、御指示の額の算定が明らかでなく、特に日本国有鉄道法第二十八条に規定せられておる給与の原則との関係が具体的に示されてなく、その内容についても問題を将来に残すものと思われますので、遺憾ながら受諾いたしかねます。こういうことでございます。第二は、第一項後段については、賃金改訂の分として実施することは了承できませんが、今年度の業績を勘案して業績手当として善処したいと思います。第三には、第二項については第二項に基く給与改正の原資の中で措置すべきものと考えますので、了承いたしかねます。こういう理由調停をのめない。そうしてまた大体こういう理由で裁定の申請をしたようでございます。このことを私は聞きまして、大体理由はこうだと自分は心得ておるのであります。
  36. 横山利秋

    ○横山委員 私が今言った三つの理由は、新聞の伝えるところでは、政府の態度を明らかにする官房長官談話の内容は次のようなものであるといわれておるというのですが、この三つのことは、官房長官の談話によってきょうないしは明日発表されるようなことになるのでありますか、大臣は御存じありませんか、だれか知りませんか。
  37. 池田勇人

    ○池田国務大臣 その点は発表されるかどうか私は存じません。官房長官がそういう意向で言われたのかわかりませんが、私の関与する限りにおいては、今申し上げたことを私は聞いておるのであります。
  38. 横山利秋

    ○横山委員 それでは別の角度からお伺いいたしますが、この間政務次官の足立さんが本委員会の席上でこういうことをいわれたのであります。さきに決定した国家公務員給与の六・二%引き上げは、三公社五現業の職員の給与水準に近づける意味もあったが、ここでまた、公社、現業のベース・アップを行うと、いたちごっこになるおそれもあるので、政府として調停案の方向には一がいに同意し得ないものがある。本俸だけの現行六・二%引き上げ後の国家公務員と、公社、現業の職員との平均給与の比較を行えば次の通りと言って、造幣局は現行公務員に比較すると百三十八円、印刷局は千二百九十五円、林野庁は三十四円、アルコール専売は五百八十一円、郵政は千四百二十一円、電電公社は二千三百六円、国鉄公社は千八百八円、専売公社は二千三百三十六円現在アンバランスがあるということをここでおっしゃったのであります。これは岸本さんにお伺いしましょう。岸本さんは、その数字について政務次官がここでおっしゃったのですが、政務次官は御存じのように、こういう問題にはしろうとの方でございますから、おそらく担当課長であるあなたから出たと思うのですが、いかがでしょうか。
  39. 村上一

    ○村上(一)政府委員 政務次官が御答弁申し上げましたのは、おそらく私の方で前に三公社と公務員の給与の実態を調べまして比較をいたしたことがございますけれども、それを御答弁申し上げたものと存じます。それは三十年一月十日現在の実態調査、これは比較的公務員、三公社を通じまして総合的な調査があるようでございます。それを基礎にいたしまして、その後の給与の改訂増減などが行われましたものを、それに増加いたしまして現状を比較したわけでございますが、ただその場合に、おそらく御説明があったことと思うのでありますが、御承知のように、各公社、それから公務員間におきましては、それぞれ職員の構成、学歴とか男女別、また勤続年数等が、平均いたしましてみますと、相当差異がございます。従っていずれの給与がどの程度高いかという場合には、それぞれそれを一定のレベルに引き直しまして、同一の標準でどうなるかという比較をいたす必要があるわけでございますが、そういった調整をいたしまして出しました結果が、今御指摘になりましたような数字に一応なっております。ただしこれは、今申し上げましたように、その標準へ引き直す計算の方法とか、あるいはその後各公社等で行われました給与の実態につきましては必ずしも明確でない、つまり程度が正確に把握できない、見方によって多少の差異を生ずるというような点もございますので、それらはあるいは計算の方法によりましては多少の狂いがくると思いますが、大体の姿といたしましては、政務次官の御説明申し上げた通りであると存じます。
  40. 横山利秋

    ○横山委員 これは非常に重大なことであります。大臣は、今私は知らないのだとおっしゃいましたが、私どもが今の話を聞くところによれば、三十年一月に調査をして、そうしてそれを調整をして集計をし、本委員会で発表されたのでありますから、政府部内、少くとも大蔵省が、この仲裁申請に当って政府が拒否する理由となった重要な因子となっておる数字だと私は思うわけであります。そうであるといたしますならば、私はもう少しこれを確かめなければなりません。今あなたがおっしゃったのは、たとえば第一に学歴とか、男女とか、経験年数とかをお調べになって、その比較を求められたと思うのでありますが、今政府が一番重要に考えておりますこの職務のウェート、責任度、あるいは重要度、そういう比較をなさったのであるかどうか、お伺いをいたします。
  41. 村上一

    ○村上(一)政府委員 ただいま申し上げました金額は、いずれも本俸だけにつきまして比較いたしたものでございます。従いまして、おっしゃいますような職務の重要度の比較というようなことは、もともと事柄としてこれを金額程度に表わしますことは非常に困難な問題でございますが、給与の面におきましては、本俸だけでございませんで、そのほかに特殊な手当、超勤等が勤務の態様において御承知のように加わって参ります。従いまして、おっしゃいますような勤務の性質に応ずる給与の差というものは、もちろん観念的には本俸にもある程度現われるでございましょうが、また実際問題として、より多く超勤あるい特殊手当といった面に相当部分が現われていくものじゃなかろうか、さように考えております。
  42. 横山利秋

    ○横山委員 あなたは一体給与のことを御存じでありましょうか。いいかげんなことを言わぬようにしてもらいたい。少くとも政府が、また人事院が国会において相当の紛糾を巻き起しており、政府が今出しております一般職の職員の給与に関する法律改正案にいたしたところで、職務の重要度というものを最も優先的に、最も職階制というものを力説強化しているときに、男女とか、動続年数とか、そういう比較だけをして、職務の責任や重要度はこの部面においては全然考えずに、ただその比較だけをして、これで格差がある、ないという議論ができますか。まさにこちらの方では、職務の重要度だ、職階制だ、こらちの方では、全然それと関係のない数字を持ち出して比較論をするということは、全く矛盾撞着もはなはだしいじゃありませんか。どういう根拠をもってあなた方はこの数字を——人事院の勧告や今度出ている法律案との関連は一体どういうことなんですか、重ねて御答弁を願います。
  43. 村上一

    ○村上(一)政府委員 先ほど御答弁申し上げましたように、本俸の面におきましても、もちろん職務の重要性の評価はある程度これを考慮に加えております。先ほど申しましたのは、本俸だけの面でなく、ほかの手当といったような面にも、それが実際問題として相当出て参るということを申し上げたわけでございます。
  44. 横山利秋

    ○横山委員 私がそう言えば、本俸にも責任度やその他はある程度加えている、こう言うのですが、ある程度とは一体何ですか。少くとも科学的に出して、それが今度の仲裁申請、調停案を拒否する重要な因子となったとするならば、ある程度というごとき言葉では許されませんぞ。  それじゃ伺いますが、三十年一月だとおっしゃるが、いかなる機関がこの調査をしましたか。
  45. 岸本普

    ○岸本説明員 この三十年一月の実態調査の基礎となりましたのは、大蔵省で実施いたしました全公務員——国家公務員、地方公務員、あるいは政府関係機関職員全員の約三百万近い職員の個人別カード調査をいたしまして、その結果に基いて私どもの方で一応集計をいたしました。また人事院勧告でもいっておりますが、人事院の方でも、その結果について集計し直して判断しておりますが、原票は大蔵省で集めた調査票でございます。
  46. 横山利秋

    ○横山委員 各公社並びに企業体は、この調査を承知しておりますか。
  47. 岸本普

    ○岸本説明員 調査いたしましたカードは、直接公社でお集め願いまして、大蔵省に御提出願ったのであります。
  48. 横山利秋

    ○横山委員 私の知る限りにおいては、財務局がこの調査をしたといいますが、違いますか。
  49. 岸本普

    ○岸本説明員 つまり大蔵省にいただく過程におきまして、各地方の鉄道管理局から財務局を通じて出て参ったということでございます。
  50. 横山利秋

    ○横山委員 そうすると、たとえば電通にしても、国鉄にしても、それらの企業が自主的に調査したんじゃなくて、あなた方が財務局を通じて横の方から調査をしたということになりますか。
  51. 岸本普

    ○岸本説明員 御説明の申し上げ方がちょっと不十分だったと思いますが、調査の仕方につきましては、その三百万の全公務員あるいは公社職員につきまして、同一の基準を作り、同じ形式のカードをもちまして、大蔵省から直接各公社あるいは各地方庁にお願いいたしました。その取りまとめの段階を財務局に依頼したということであります。
  52. 横山利秋

    ○横山委員 そうすると岸本さん、これは重要な問題で、あとで責任問題になりますから、気をつけて答弁してもらいたい。あなたのお話によると、これは少くとも各公社がその調査の実態を承知しているものであるということが第一、それから集計は公社が集計しないで、地方の財務局が集計したものである、その結果は公社承知しないものである、こういうことですか。
  53. 岸本普

    ○岸本説明員 つまり財務局に取りまとめを依頼したわけでございまして、カードが集まって参りましたのが私ども大蔵省の手元にございます。それを一定の角度から判断いたしますために分析いたしたわけでありますが、その作業は統計局に依頼していたしております。人事院としては、人事院自体でそれをいたしております。
  54. 横山利秋

    ○横山委員 そうすると、もう一ぺん聞きますが、公社はこの調査の全貌を承知しておるはずだとあなたはおっしゃるわけですね。
  55. 岸本普

    ○岸本説明員 私ども考えました角度での集計の結果については、あるいはまだ御存じないかもしれません。しかしカードの内容、どういうことを調査したかということは御存じと思います。またカードの写しもおそらく公社ではお持ちになっておるはずであります。
  56. 横山利秋

    ○横山委員 それではお伺いしますが、今あげたこの格差のもと、つまり三十年一月においては、たとえば造幣局は当時幾らであって、国家公務員は当時幾らであったというそのもとの数字を一ぺんそこで言って下さい造幣局から専売公社に至るまでのもとの数字を言って下さい。
  57. 岸本普

    ○岸本説明員 その点につきましては、ただいま正確な資料を打ち合せございませんので、後日資料をもってお答えさせていただきたいと思います。
  58. 横山利秋

    ○横山委員 それではその数字ばかりでなくて、その調査はいかに行われたか。そして各公社の三十年一月現在はどういうものであったか。それに対する国家公務員はどういうものであったか、その基準になる比較対照はいかに行われたか。村上さんが先ほど言った、ある程度責任度、経験度、それから職務の重要度、そういう問題はどういうふうに参酌されたか。それから原票、各個人に渡って一人が記入するその原票を一つ提示していただきたい。私は少くともこの数字が、こういう状態のときに、こういう角度で出されてきたことに対して非常な疑問を抱く。  それで池田さんに戻るわけですが、今ここに出ておる数字は、私の質疑応答を通じてわかるように、非常に科学性のないものなんです。これをまず言いたいのであります、この段階においてこの議論をすることが妥当かどうかということを、公労法上からあなたに尋ねてみたいのであります。先ほど言ったように、労使の問題というものは、極端なことを言いますが、たとい第三者がどうであろうと、労使の間でまとまるというのが労働問題の一番重要な問題であります。少しくらいへっこんでおったり曲っておったりしても、労使の間で、じゃあここでまとまって生産復興に遇進しようという気概こそ、労働問題にとって一番重要な問題だと思うのであります。もちろんそれには一つの社会常識というものがありましょう。しかしながらそれを乗り越して、労使の問題の重要度というのは、労使の間で話がまとまって、多少はこっちをのんだ、あっちをのんだ、けれどもこれで話がまとまったから、ここで争議を終結して、全力をあげて一つ生産復興に遇進しようということが大事なことであります。従って公労法でも、あるいは労調法でも、労働組合法でも、労使の自主的な団交を最も尊重しておるのはこのゆえんに立っておるのであります。たとい電通や専売やあるいは国鉄が政府関係のある機関であっても、私はこの大原則はまず置かねばならぬことだと思うわけです。調停最中における政府側の希望や、あるいは言いたいことがあったりいたしましても、私は調停というものはこの大原則を侵してはたらぬものだと考えるのでありますが、一つ公労法上の池田さんの見解を伺いたいと思います。
  59. 池田勇人

    ○池田国務大臣 お話しの通り、公共企業体と労務者の間で話が円満にまとまることが一番望ましいのでございます。しかし今回につきましては、先ほど申し上げました理由に基きまして、公共企業体は調停案を受諾するわけにいかないといっておるのであります。直接政府がこれをどうこうしたというわけのものではございません。
  60. 横山利秋

    ○横山委員 そうおっしゃるだろうと思っていました、けれども池田さん、新聞がずっと伝えている一貫した姿、それから世間が受け取っておりますものは、文章は確かに国鉄から仲裁申請が出ているけれども、その実態は、今や政府がその解決の能力を持ち、政府が国鉄総裁や電通の総裁を呼んで話をまとめておる、これはもう天下周知の事実であります。私は、それを必ずしも否定しようとは思いません。このぎりぎり一ぱいの段階で、政府が解決の能力を持っておるのであるから、鈴木・岸会談が行われることは好ましい最終的な姿で、これは最善ではないけれども、やむを得ざる次善の策として、今日最も必要なことだと思う立場に私は立っておるのであります。法律上の問題と現実の問題とあわせて、私は矛盾したような言い方をしておるのでありますが、少くとも公労法、労調法の問題として政府は今回誤まりを犯した。そして今その誤まりを解決するために、ここに鈴木・岸会談なりをして、政府は解決しようとして前進をしている、こういうことを私は言っておるのです。ただ前提としてお考えを願わなければならぬことは、少くとも調停段階において、政府がこの調停案はいかぬ、そして今いろいろ討議をいたしましたように、格差があるからこの調停案はのめぬということは、公労法上問題がある。それが公労法上の問題です。  もう一つは、政治的にこのぎりぎり一ぱいのときにこの格差の問題を出して何の解決があるか、今解決すべきことは、もろもろの問題はあるけれども、組合側は、不満であるが調停案を受諾したではないか、今政府がうしろから。今政府がうしろからしり押しをして調停案をけれというけれども、実際の問題としては、官房長官も受諾する気持があるとかつて言ったではないか。もしもこの調停案が仲裁裁定になった場合に、調停案と違う仲裁裁定が出ることをあなた方は望んでおられるのであるか、もしそうだとしたら、それは重大な間違いであるのではないかということを私は言いたいのであります、現に藤林さんが新聞でこう言っています。「(仲裁裁定は調停案と違った結論が出るか、との質問に)同じ人間がいくらも時を経ずにやるのだから自ら限度がある。調停と仲裁とは性質が異なるというが、調停案と仲裁裁定の内容が全く異なるというのでは、いずれかの機関が信頼を失うことになる。従ってそう違う結論が出るものではない。(政府が仲裁委員会に圧力をかけるのではないかというと憤然とした面持で)政府の圧力などがあったら私は辞任する。私は民間人だから腹を切ることは何でもない、私の性質は政府もよく知っているはずだ——とにかくこれだけ政治問題になっているのだから、ガラス張りの中で委員会として独自の判断によって慎重に仲裁をやるつもりだ。変なことをしたら委員会の自殺行為になるし、委員会の崩壊になる。(ポツリと)それは政府の思うツボかもしれないが……。」こう言って結んでおるのであります、私は藤林さんの言ったことが法理上からも実態論からも当然だと思っている、昨年公労法は改正されました、それ以前は、調停委員会の人間と仲裁委員会の裁定をする人間とは違っておったのであります。藤林さんが調停をやれば、今井さんが仲裁をやっておった、それを政府はみずから強引に調停と仲裁とを一緒にして、労働委員会にしたのです。そして今井さんをやめさして、調停委員長と仲裁委員長とを藤林さんの兼任にしたじゃありませんかしその法改正の趣旨は何であったかということです、あなたは閣僚の一人として、そこに責任を持つ必要があると私は思うのであります、少くとも調停案と仲裁裁定というものが、人は違ってもかつて数字は大体一緒だったのです。それにまた労働者も使用者も、大体まあやむを得ないものと思っておった。そこを百尺竿頭一歩を伸ばして一緒にしてしまった。機関も一緒なら、やる人間も一緒にしてしまった。今その上に立って政府がやろうとしておることは、調停案に理屈をつけて、仲裁裁定を何かほかに変えようとしているということです。これは公労法の精神から、言って間違っておる。間違っておるのみならず、現実問題としておやりにならぬ方がいい、また今ぎりぎり一ぱいのときに解決をする手段としては、絶対にそういう手段ではいけない。今私が言っていることは、仲裁裁定というものを藤林さんはこういうふうに言っておるのであるからして、すみやかに調停案を受諾するのがほんとうなんですけれども、かりに仲裁申請をした今日としてみれば、政府調停案を拒否する理由をお引っ込めになったらどうだろうか。一年もかかって、公社に無断で自分で適当な方法で調査をして、このぎりぎり一ぱいの段階ですぽっと出して混乱に陥れるということは政治的にまずい。この際そういうてにおはのことで問題を紛糾させるよりも、仲裁申請をした現実であるといたしましたならば、政府調停案を拒否した理由をお引っ込めになって、労使の問題をすみやかに解決する努力と熱意を私は期待したいのす。大蔵大臣としての池田さんには、いろいろ言わなければならぬこともあるでしょう。主計局や給与課としては、やはり言わなければならぬことがあるでしょう。しかしそれらを乗り起えて、今日この問題の解決のかぎは、やはり大蔵省の、また閣僚の中の一番重要なポストにあるあなたの勇断にかかっておると私は思うのであります。そういう意味合いで、重ねてあなたの真剣な御答弁をわずらわしたい。
  61. 池田勇人

    ○池田国務大臣 いろいろお話がございましたが、少し誤解があるのじゃないかと思います。この調停案に対しましては、公共企業体がその独自の立場でお出しになっておるのでございまして、形式的には政府関係いたしておりません。しこうして大蔵大臣といたしましては、仲裁裁定が出ました場合において、公労法三十五条の規定によって努力をいたすのであります。その努力を重ねた結果、十六条の規定によりまして、どうあんばいするかというのが私の立場でございます。従いまして、今、大蔵大臣として国鉄が出されました調停案をのまないことはよくない、あるいはいいとかいうことを言う段階ではないと思っております。しかし私は閣僚の一人として、国鉄がどういう理由でのまなかったかということは開き及んでおりましたから、ここで申し上げたのであります。  もう一つの点は、大蔵省で調べました公務員あるいは公共企業体職員についての給与の格差等につきまして、どういう工合に発表したか存じませんが、質問があってやったとすれば、やはりそれだけの調査があれば申し上げることもやむを得ぬのじゃないか。こっちから進んでこうだということを言ったのか、あるいは差がどうあるかという質問に答えて言ったのか、その場面のことは存じませんが、政府の知り得た資料に、国会で要求があれば申し上げるのが適当ではないかと考えております。いずれにいたしましても、先ほど来お話しの通りに、非常に重要な問題でございますので、私は慎重に、しかも公労法の精神をくみ、裁定の結論に対して誠意をもってできるだけの努力を払いたいということに尽きると思うのであります。
  62. 横山利秋

    ○横山委員 あなたは私の質問に対して、足立さんが答弁をしたかもしれないからとおっしゃるのですが、私は質問をしなかった、希望意見を申し述べたに対して、親切にお答えを願った。従って、私は足立さんをどうこうという気持は毛頭ありません。また足立さんのしたことをどうこうなさっても困るのでありますが、しかし少くとも足立さんがお出しになる数字というものは、大蔵省の中でも重要なウェートを占めているものだというふうに考えざるを得ないのです。今あなたは私のたび重なる質問に対して、一応大臣としての形の上の御答弁はされました。しかしそういう答弁を私が求めて質問したのではないということを、やはりあなたも百も御存じの上で、なおかつそういう答弁をなさったのだろうと推測いたします。しかしながら、この段階における世間の常識というものが、あなたの答弁だけでは認めないのであります。この段階においてとにかく両党首の会談が行われ、しかもその新聞の同じ面には、政府が仲裁申請をしたのだから実力行使はやめろと言い、片方では公労協の企画部長が調停案を受諾しその保証が得られればいつでもやめると言明している。世間はこの三つのことから答えがもう出ていると見ている。公労協といえども、好んで争議をしているのではございますまい。政府としても、また好んで弾圧するものでないといたしますれば、もはや答えは近い。八千八百万の人の前にすべて答えが出ているのであります。しかしその答えを出すについて、あなたの方で、これは慎重にとか、これは格差がとか、これは公務員の給与の問題とかいうようにいろいろの問題が前に出ますれば、このようなチャンスに対して時期を失するおそれを私は痛感するわけです。重ねて言いますけれども、労使の問題というものはタイム・リミットが必要である、これはいろいろ野党は野党の立場があるし、政府政府の立場があり、与党は与党の立場がありますけれども、この瞬間をのがしては、私はこの春期闘争の円満な解決というものは少し遠のくのではないかということをおそれるのです。従ってくどいようでありますけれども、重ねて大臣に伺いたいのは、今まであなたは、とにかく大臣としての形の上の答弁をされましたが、この事態に際して、すみやかにこれを乗り越えて解決をする誠意を、きょうあすにわたって披瀝する御用意があるかどうか伺いたいと思います。
  63. 池田勇人

    ○池田国務大臣 この問題は、仲裁裁定を申請しました関係上、私といたしましては、仲裁裁定を見なければ何とも言えぬ問題でございます。仲裁裁定がまだ下らぬうちに、大蔵大臣としてとやこうすべき筋合いのものではないと思います。従いまして適切な裁定が下れば、三十五条並びに十六条の規定によって善処するよりほかにいたし方がございません。
  64. 横山利秋

    ○横山委員 それではお伺いしますけれども、藤林さんがこう言っている。同じ人間が出し、同じ機関が出すのだから、変ろうはずがないではないかということが第一です。第二番目には、政府の圧力がもしあったら、私は辞任すると言っているのです。圧力といったって、別に政府が目に見えたことをおやりになる気持は毛頭ございますまい。またそんなことをやったら大へんであります。しかし目に見えない、いろいろな話の仕方というものはあるだろうと思う。政府は、この格差の問題が今内部であるのでありますが、政府は仲裁委員会の仕事に対してその自主性を守り、仲裁委員会の自生的な判断にまかせて一切関与しないという言明ができますか。
  65. 池田勇人

    ○池田国務大臣 政府が仲裁裁定につきまして圧力を加えることは毛頭考えておりません、しかし仲裁裁定の方でいろいろな資料、あるいは意見を聞かれる場合があるかもわからぬと思うのです。そういう場合には説明をすることがあるかもわかりません。しかしあくまで仲裁裁定は公正に厳正にやるべきものだと考えております。
  66. 横山利秋

    ○横山委員 かりに仲裁裁定が調停案と同じ内容のものが出た場合において、調停案を拒否せられた理由を重ねて仲裁裁定に援用される気持があるか、それをお伺いします。
  67. 池田勇人

    ○池田国務大臣 それは仲裁裁定がいかに出るかの問題でございまして、私が今ここでとやこう言う問題ではないと思います。
  68. 横山利秋

    ○横山委員 これはかつて吉田さんもおっしゃったように、仮定の問題には答えられぬ、こういうことではあろうと思いますが、しかしここのところが仲裁委員会の自主的な判断に非常に重要な問題であるのです。法律上の、公労法の立場からいっても、それから人間構成の立場からいっても、世間の常識からいっても、今調停案と同様の仲裁裁定が出るであろうというのは、仮定の問題ではなくて、世間が納得をしておるところなんです。公労法もまたその方向を示唆して、政府改正したものなんです。ですから、全然仮定の問題ではないのであります。そういう方向に対して世間が疑惑を抱いておるのは、政府がその道をじゃまするであろうとみんな考えておる。現にその証拠はあるのです。新聞が伝えておるのです。従って、調停案と同じ仲裁裁定が出た場合に——出た場合じゃない、出るというのが大筋の話なんです。その仲裁裁定に対して政府は尊重すると、あなたも言い、それからほかの各大臣もみんな裁定は尊重すると言っておるけれども、そのときには調停案を政府が否認した理由を一擲して裁定に従う、こういう気持なのかと聞いておるのであります。
  69. 池田勇人

    ○池田国務大臣 裁定にはいろいろ理由をつけ説明がしてあると思います。それを見てから政府がきめるべきであって、まだ裁定の出ないうちに、あるいは調停と同じことだとかいうふうな前提のものにとやこう意見を言うのは、私は早過ぎると思います。
  70. 横山利秋

    ○横山委員 それでは一体何を根拠にして、あなたは先ほども裁定は尊重すると言うのか、労働大臣も言い、岸さんも言っておる。裁定を尊重するというのは一体どういう意味なんです。
  71. 池田勇人

    ○池田国務大臣 公労法第三十五条に掲げておりまするがごとく「政府は、当該裁定が実施されるように、できる限り努力しなければならない。」こういうことが規定いたしてございます。われわれは、この意味におきまして裁定が出ましたなら、それが実施せられるようにできるだけ努力しよう、これが四、五年前はなかったのでございます。私が前、大蔵大臣をしておったときには、この文句はなかったのでございますが、その後こういうふうな規定が追加せられまして、われわれはその精神によってできるだけ裁定を尊重していこう、こういうことにいたしておるのであります。
  72. 横山利秋

    ○横山委員 それでは話が違うと私は思う。少くとも各大臣がこの段階において尊重すると言っているのは、その公労法のその条文を援用していることは事実であろう、事実であろうけれども、今の春季闘争の問題に対して、法律以上の立場において善処する、誠意を持ってやるのだ、こういうふうに言われておるかと私は理解をしておるのでありますが、もしそうでなくて、法律にそう書いてあるからそのことを言っているにすぎないのだ、こういうことでありますならば、労働組合やあるいは一般国民が受け取っております感じとずいぶん違いますよ。私がずっと筋を立ててあなたに質問をしてきたものは、今まで政府は裁定を尊重する、裁定が出たら、それに対してやる、労働大臣に至ってはその通りにやる、そこまで言っておるのです。それを言っておるが、その人自身は調停案を拒否した人だ。従って調停案を拒否した理由は残っておる。それが、調停案がそのまま裁定になった場合に完全実施をする、善処すると言っておるその気持は、調停案ではいかないが、仲裁裁定が出たら今までの立場は一擲をして、それは神聖なものだから文句があってもやります、こういう気持ではないのか、私の理解ないし労働者あるいは一般国民が理解をしておることと違うのか。もし違うといたしましたならば、これは政府に対する非常な不信の念が増加することを私はおそれるのであります。私は先ほど、あなたが新聞に伝えておる調停案を拒否する理由というものは、これは科学的ではないから撤回しろと言いました。やめた方がいい、今の時期に合わぬものの言い方だと言いました。百歩譲って、それがかりにあなたの方の立場だといたしましても、裁定が出たならば、その拒否した理由というものはここに一擲をして、そうして政府もやるから一つそれを信じてもらいたい、こういう気持でないとしたならば、政府はどこまで一体労働者をごまかすのかという不信の念を植えつけることを私は非常におそれるのであります。私の問い方が法理論過ぎて追い詰め過ぎるとかなんとかいうあれがあったならば、一つ私の気持をくんでもらって、もう一度大臣から答弁を願いたい。
  73. 池田勇人

    ○池田国務大臣 公労法三十五条には、従来こういうふうな規定がなかったのを、ここに特に規定された経過からかんがみまして、しかもまた私は努力するということだけではなしに、裁定を十分尊重し誠意を持ってやると言っておるのであります。これ以上のことは言えぬと思います。それで、私はこれをどうこう言うことは、かえって問題を紛糾させるのであって、誠意を持ってやる、これで私は尽きると思います。
  74. 横山利秋

    ○横山委員 最後一つお伺いいたします。これもやはり公労法の問題であります。第一回の裁定が出ましたときに、国会で紛争を起しました。そして当時、死なれた末弘厳太郎博士、それから今井一男さん、それから今与党の幹部になっておられる堀木さん、この三人が裁定に当られたのです。それで、その当時の学者の共通な理論として今でも労働法の中に残っておるのでありますが、裁定を実施するとは何ぞやということ、裁定というものは、たとえば百円の裁定が出た、それを二十円値引きをして八十円を実施する、これではならぬ。裁定というものは、一つの裁判制度であるから、罷業権のかわりに与えられたものであるから、これはストライキがそこで剥奪されるそのかわりに裁判をして、百円を出すというのならば、百円を出すか出さぬかが裁定を実施するかしないかということになる。八十円を実施するということは、これは裁定と実施したことではなしに、別の角度で給与を改善したということである。これが公労法の今日の理論であります。あなたは、その点についてどうお考えでありましょうか。私は公労法の解釈を伺っておるのではありません。少くとも労働者、学者の中に残っているこの気持をあなたは買わなければならぬ。労働者や学者の中に残っておる裁定の実施とは、百円の裁定を値引きしては実施したことにならない、百円は百円としてやるのである、これは公労法に厳として残っておる精神であるというふうにみな感じておるのであります。これをお聞きすると、またあなたは、形の上の御答弁をなさるかと思うのでありますが、少くともその気持が残っておるということ、これが公労法を貫く精神であるということを一つ御記憶願わなければいけません。今非常に重大な段階でありますから、私は重ねて言いますけれども、形の上の解決、あるいはいろいろな理屈を立てれば問題があるであろう、しかしこのとき、この事件というものが非常に重要であり、岸内閣の重要なウェートを占める、しかも財布を預かっておられるあなたが、ここで真の大臣として、政治家として一歩乗り越えられることを私は心から希望してやみません。この段階を乗り越えるのでなければ円満解決ということのなくなることを、私は非常におそれるのであります。政府も抜いた刀をおろさねばならぬ、それから労働者側も、抜いた刀をおろさねばならぬ、ともに傷つき倒れるということもあるでありましょう。そうして解決のチャンスを失ってどんどん進むこともあるでありましょう。しかも組合側は、不満はある調停案を受諾したのでありますから、ここで世論というものは、調停案が出る前においては必ずしも組合側に有利ではありませんでしたけれども、しかし調停案を一方が受諾して、政府がそれをけった、そのけった理由が公労法の精神に矛盾しておるということが歴然でありますから、錦の御旗は労働者の手に移っておるのであります。私の言い分は少し手前勝手かもしれませんけれども、世間は少くともそう思っている。おまけに松浦さんがやると言って、十二日に申請をやっていない。そうして調停案を拒否した理由が問題であるといたしますならば、政府はおさめがたきところではありましょうけれども、この際いろんな問題を一擲してこの調停案を受諾するか、あるいは仲裁裁定がもし出たならば、それに従うという明確な態度をこの際示すことが春季闘争解決のかぎになると私は確信いたしております。  これをもって私の質問は終りますが、最後に私の意見についてのあなたの御意見を承わっておきたいと思います。
  75. 池田勇人

    ○池田国務大臣 裁定につきましての政府の措置について、ただいま公労法を流れる精神であり学者の意見であるということを言われました。私も思い出します、今から五、六年前、ちょうどこの部屋で、その問題をお話しの今井君あるいは堀木君と議論いたしました。これは一部聞くとか聞かないとかいう問題が違法なりや適法なりやというので非常に議論をいたしたのでございます。しかしその結果におきまして、国会に一部履行の措置をとったこともございます。私は、この問題について今議論をしようとは思いません。お話しのように両方とも傷つくようなことがあってはいけない、両方とも立っていけるような格好にしなければならないのであります。しかして千二百円というものがいいか悪いかという問題につきましては、今藤林さんのお話をお読みになりましたが、中山さんの意見も今日出ているはずでございます。千二百円というものの根拠について、いろんな研究すべき点があるという含みの言葉がございます。われわれはそういう点も十分検討いたしておりまするが、いずれにしても、あなたが御心配になるほど重要な問題でございますから、前もってとやこうここで言うことはかえって事態を紛糾させる原因にもなりかねないのであります。私は先ほども申し上げましたように、慎重に仲裁裁定の結論を待って、仲裁裁定の意見を尊重し、法の命ずるところ、また国民国家全体を考えて善処いたしたいと思うのであります。
  76. 山本勝市

    山本委員長 午前中の質疑はこの程度にとどめます。なお午後は十四時三十分から再開をいたしますし  はなはだ恐縮でありますが、本日は税制についての重要な質問でもございますし、大臣も午後出席することになっておりますから、どうか一つ委員各位の、多数というより全員の御出席を委員長からお願いいたします。  暫時休憩いたします。    午後一時三十三分休憩      ————◇—————    午後二時五十一分開議
  77. 山本勝市

    山本委員長 それでは休憩前に引き続き会議を聞きます。  所得税法の一部を改正する法律案税関係十二法律案一括議題として質疑を続行いたします。石村英雄君。
  78. 石村英雄

    石村委員 大蔵大臣にお尋ねいたしますが、税法審議も三税関係がだいぶ進みましたので、根本的な考え方をまとめてみたいと思うのですが、今までは、どっちかといえば末端的な問題を扱っておりましたが、所得税法ではやはり税率関係が基本になってくると思います。世間では、今度の減税につきまして、一千億減税と池田さんは大へん振りまかれるが、税金を納めていない者はちっともいいことはないじゃないかという意見もありますが、これは予算関係の問題に触れてくることですから、その点は今お尋ねいたしません。次の非難は、低額所得者に対する減税が少い。そうして特に課税最低限が低過ぎるということが問題だと思います。せんだって当委員会で公聴会を開きまして、慶応の高木教授に来ていただきましたが、高木教授も、課税最低限が低過ぎる、もっと上げるべきだ、こういう御意見でした。政府案では、現行の二十四万幾らかの分が今度は二十七万円かに上っております。また独身者の場合は、現行の十万六千六百六十七円が十一万八千八百九十一円と上るには上っておりますが、しかしこの程度では、エンゲル係数から見ましても四五%から五〇%です。独身者なんか、学校を出て一万円も月給をもらえば、すぐ税金がかかるというようなことで、少し最低限が低過ぎる、もっと上げるべきではないか。高木教授も大へん御不満なお考えでしたが、譲歩しても、五人世帯の場合は三十二万円くらいに上げるべきだという御意見だったと思いますが、これを二十七万円におとめになった理由、お考えを御説明願いたいと思います。
  79. 池田勇人

    ○池田国務大臣 課税最低限をどの辺で見るかということは、そのときの情勢、またいろいろな点から考えなければならぬのであります。従来、税率よりも控除その他で課税最低限の引き上げに相当力を入れてきたことは、従来から政府委員の説明した通りでございます。ただ全体で見まして、課税最低限を引き上げることもさることでございまするが、中産階級並びにその上の方の負担が非常に重いので、今回はその方を主として見ていくことにいたしたのでございます。課税最低限につきましては、いろいろ議論のあるところでございます。私もそれは認めまするが、五人で二十七万円程度なら、まあまあがまんしていただけるのじゃないかという気持でございます。
  80. 石村英雄

    石村委員 がまんしていただけるとおっしゃっても、がまんできないからみんなが文句を言うのです。大蔵大臣はがまんできるでしょうが、実際の納税者はがまんできない。こういう二十七万円なり何なりになさるにしても、今度の税率をおきめになるのに、従来の説明を聞きますと、五十万円から百万円までの所得階層の税額が昭和十五年に比較して非常に高い、従ってこれを下げるというのでございますが、ただいまの基礎控除、あるいは扶養控除の問題にいたしましても、これを上げればやはり五十万円、百万円の人にも、その間基礎控除、諸控除引き上げによる税額の引き下げということは当然行われるわけであります。これを税率とかね合せて、もっと適切な方法はなかったかと思うのです。ここにある図に書いてありますように、なるほど三十万円前後から百万円までは税率は急進いたしております。この図をちょっと御説明申し上げると、税率の軸を対数目盛りにしているのがこの図の特徴なんです。政府の方でお出しになっている税率は、対数目盛りでないわけです。政府のお出しになった資料のカーブを見ますと、このように急激に上っておりません。なだらかに一応ここまでが上っているようにとれるのです。それを対数目盛りでやると、政府のおっしゃる通りに、百万円までが急激に上昇しているということをむしろ立証した形になるわけですが、内容を調べてみると、当然でございまして、たとえば五十万円の人の実効税率は、政府案でいきますと、五・二%、百万円で一二・六%、二・四倍くらい上っているわけですが、二百万円というところは一二・六%が二〇・七%と、わずかしか上っておりません。従ってこういう書き方の図の方が正確だと言えると思います。それはまあどっちでもいいとして、その意味では、私は政府のおっしゃるように、五十万円、百万円という所得階層の税率を下げなければならぬということは、程度は別問題ですが、この国から見ても一応生まれてくると思うのです。ところがこの図を見ましてもわかりますように、百万円までも下げていらっしゃいますが、あわせてずっと上の所得もかなり下っておる、これが問題じゃないかと思うのです。それでこちらの手取り増加率、あるいは減税率の図に入りますが、いつも池田さんにしろそのほかの方にしろ、いや今度は減税率がこの通りに低額所得者の方は大きいのだ、こういう御説明でございます。なるほど減税率は低額所得者の方が五〇%前後で、高額所得者の減税率は三〇%というふうに下っておりますが、現実の問題は、手取りが幾らふえるかということが納税者の立場からいえば問題になってくるわけなんであります。減税をする、なるほど減税けっこうですが、その減税のありがたみは、手取りが幾らふえるかということがありがたみの正体になるわけなんです。この図で示しますように、三十万円あるいは五十万円というものは減税率は五〇%前後ですが、手取りは幾らもふえません。こう申し上げると、池田大蔵大臣は、それは税金が少いのだから、幾ら減らしたってふえようがないのだとおっしゃると思います。また理屈ではその通りになるのです。しかし、個々の事例を取り上げて言えばその通りですが、この税法がいいか悪いかというときには、全般的にどういうカーブがこの実効税率によって手取り増加率、あるいは減税率に表われておるかということを見なければならぬと思います。何も政府通りに、そうなるのだから政府案よりほかにはやり方がないのだという結論には私はならないと思います。ここの図にありますように、一千万円の所得者は、所得税だけでは三七%余りの手取りと、地方税を今度二六%にして計算してみますと、五五・九%手取り額がふえます。これが政府案の手取りの増加の最高点でございます。このように、一千万円の人の手取り増加を、地方税を含めた場合に五五・九%もふくらますように税率を作ることが果して妥当かどうか、これが問題じゃないかと思います。税金を少く納めているんだから、手取りはふやしようがないのだということは、形式的な理屈であって、所得税法税率をお作りになるときには、この点の配慮もあってしかるべきだと私は思います。何も一千万円の人の手取りを、五五・九%もふやしてやる必要はないのじゃないか。それだけふやすほどなら、むしろ百万円以下の手取りがもっとふえるように、その方の減税率をもっと高くするというやり方をすることが不可能ではないはずでございます。この点に対する大蔵大臣のお考えはいかがでございますか。
  81. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は、手取りの問題は二の次、三の次であると考えます。これは従来の負担のいい悪いを論じておるのでございます。従来の負担がいいものだ、改正する要はないのだという前提には立てないと思います、従いまして、今までは、減税のときには税率その他控除の問題で主として下の方の減る割合を多くする、こういう考えで進んで、私はこれが本筋だと思います。
  82. 石村英雄

    石村委員 手取りの増加とかなんといかうことは第二、第三の問題だ、従来納めておる税金がいいか悪いか、その方が問題だとおっしゃいましたが、政府は大体今度の税率をお定めになって、われわれに下さった資料を見ますと、一つ昭和十五年の税率と比較して議論をされておるように思います。十五年と比較して、また税率もおそらく配属のうちの一つに入って作られたのだと思います。五十万円の所得の者は、現行昭和十五年に比べて三十六割、三倍以上上っておる。あるいは七十万円の者は昭和十五年に比べて四・四一倍高くなっておる。こういうように、昭和十五年と比較してお作りになっていらっしゃいます。これで見ると、大体今度の税法というものは、昭和十五年と比較して——これが全部ではないでしょうが、税率をお作りになった、こう判断せざるを得ないわけでございます。説明にもそうした趣旨のことがあったと思いますが、ところが五百万円、千万円というところを下げていらっしゃる。五百万円の者は、昭和十五年に比較すると二・一六倍、一千万円の者は約一・九倍、これだけ高くなっておるが、今度は五百万円の者は一・四三倍、一千万円は一・三五倍、こういうようになっておる。こういうふうにお示しになっておるのですが、百万円までを下げるという趣旨なら、昭和十五年と比較して少くとも同じか、あるいは少しぐらい高くなさっていいのじゃないか、何も百万円までにお供をさせて百万円以上の者をうんと下げていかなくてもいいのじゃないか、こう考えるわけです。この手取り増加率を見て結論をつければ、政府は五十万円から百万円までの人の税金を下げるといって、実は五百万円、千万円の高額所得者の減税を大きくねらっていらっしゃったのだ、百万円以下の人は方便に使われて、実際は高額所得者の減税を目的としておったのだ、こういう結論も生まれてくると思うのです。この点に対するお考えを御説明願いたいと思います。
  83. 池田勇人

    ○池田国務大臣 やはり所得税というものは、各階層で適正な負担が望ましいのでございます。そうしてその累進税率は、やはりそこは常識的にやらなければなりません。従いまして、住民税を入れまして、一千万円の人が今大体七割程度の負担になっているかと思いますが、七割近くの負担をするということはいかにもひどいのでございまして、高額所得者を目のかたきにするような税率の盛り方はいかがかと思うのであります。各国のそれを見ましても、やはりなだらかな累進税率でいくことが理想であると思うのであります。  昭和十五年を基準にとったというのは、御通知の通り昭和十五年には中央・地方を通じまする画期的な大税制改正をいたしまして、一応の税制がこれでいいということになったので十五年をとったと思うのでありますが、過去を振り返ってみる場合に、やはり十五年というのは一つの基準になりますので、そういうのを参考にしたと思うのであります。  なお、貨幣価値の違い等があり、貨幣価値の違いが今度所得階級別にどういうふうに響いていくか、いろいろな厄介な問題もあると思うのでありまするが、要は、やはり全体の所得納税者の負担を大所高所から見て課税率をきめることが必要であると考えます。
  84. 石村英雄

    石村委員 高額所得者を目のかたきにする必要はない、そういうことはよくないという御説明でございますが、しかしこの税法をお出しになったときは、五十万円から百万円までの所得階層の税金が高過ぎるからこれを下げるというのが表看板でございました、その表看板を今引っ込められて、一般的に高額所得者税金は高いのだからこれも下げるというふうな御説明ですが、それじゃ、今まで審議した前提がくずれてくると思う、変ってくると思う。われわれはそういう事実になっているかということで論議してきたのです。あなたはその事実を、いやその通りにやったんだ、できておるのだからやったんだといえばそれまでですが、五十万円から百万円の者が高いから、これを下げるのだという表看板はもう引っ込められて、五十万円、百万円も高いが、一千万円も高いからこれもうんと下げるのだ、こういう御説明になったと思うのです。これでは今までの審議というものは、ずいぶん前提の変った形で出されておるということにならざるを得ないと思う。われわれはこういう事実を、そういう高所額得者が非常な減税を受けておるということを追及してきた。あなた方のおっしゃるのは百万円以下だ、こうおっしゃつていらっしゃるが、百万円以下でなしに、五百万円、一千万円一億、こういう人が大きく減税されておるというのがわれわれの質問の中心だったわけです。それを今になって、いやそれを中心にやったんだなんということは、どうも今までの審議は、新規まき直しにやりかえねばならないということにならざるを得ない。
  85. 池田勇人

    ○池田国務大臣 数の点から申しまして、また下げる率の点から申しまして、五十万円、百万円の人の方が数が非常に多く相当下っている、百万円をこえる人は一つも下げないとも言っていないと思うのであります。やはりその階層々々に応じて減税案を作り、そうして減らす割合は下の方に重く、上の方に軽い、こういうことを説明しておると思うのであります。今回の税制改正を五十万円から百万円までの人を負けることのみを考えている、こういうことじゃないと私は考えております。
  86. 石村英雄

    石村委員 五十万円の者が、今度は十五年に比較して一・七六倍という倍率になっておりますが、四十万円の者が十五年に比較すると一・四六倍に今度の改正案ではなっているのですが、せめて千万円くらいもこの程度にお納めになってはどうか、千万円の方の倍数が低くなっておる。四十万円というものが非常な低額者だということは言うまでもありません、これが昭和十五年に比較して一・四六倍に改正案はなっておる、一千万円の者は、昭和十五年に比較して一・三五倍、下りようがどうもひどいように思う。むしろ四十万円の方が一千万円の人よりも十五年に比較しましてよけい下るのが当然ではないか、こう考えるわけです。政府案では千万円の方がよけい下っている、これはおかしなことじゃないかと思うのですが、どうですか。
  87. 池田勇人

    ○池田国務大臣 これはそのときどきの状況によって違うのでございまして、先ほど私が触れましたように、貨幣価値の移動の点だけで各階層がすっと当てはまるべきものでもないのでございます。そうしてまた十五年のとさは、総体として大体基準になるというところであって、これに全部右にならえというふうにも税率は盛りにくいものでございます。ことにその後におきましてたびたび税制改正がございまして、私は単に十五年は参考に考え程度でございまして、この率がこのときはこうだったから、こういうことは、私は直ちにこれに従うわけにいきません。全体を見て考えるべき問題だと思います。
  88. 石村英雄

    石村委員 なるほど昭和十五年と現在とは事情は違うでございましょう。これは昭和十五年は一ぺんしかないのですから、また昭和十五年になるといったって無理でしょう。これは違うにきまっております。しかし政府も、昭和十五年と比較して、物価の変動による修正をして比較表を出していらっしゃる。全然同じにしろといったって、これは実行不可能なことは私もよく承知いたしております。だが、それならなぜ昭和十五年に対する倍数を、四十万円の人よりも一千万円の人をよけい下げなければならぬのですか。事情変更の具体的理由、それをお示し願いたいと思います。いろいろ事情が変っているのだということは一般的に言われますが、それならなぜ千万円の人を昭和十五年に比べて今度税金の倍数を低くきめたか、それが四十万円と比べたとき、それより千万円の者は税金を低くしなければならぬという積極的な理由ははっきりしないと思うのです。いろいろな理由があってと、こういうお話ですが、同時にいろいろ理由があって、もっと下げるということも可能ではないか、四十万円の人をもっと減税するということも可能ではないかと思います。大蔵大臣も、まさか四十万円のものがこの程度になれば、高額所得ではそう考えなくてもいいというふうにお考えになっておるとは思いません。四十万円くらいの所得層は、できるだけ税金を下げるというのは、おそらくどなたもお考えになっていらっしゃると思います。積極的にそれができない理由、ただ事情はいろいろありますからというだけでは納得できないと思うのです。なぜ昭和十五年に比較して四十万円のものは一・四六倍、一千万円のものは一・三五倍というように低くなさったか、その積極的な事情を御説明願いたいと思います。
  89. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は、今回の税制改正案は、これで権衡がとれていると考えたのであります。過去の事例に一々はめて、各階級がどうだこうだという議論は、私は直ちに賛成ができないと思うのであります。全体として今の負担を考え、そうしてこの程度ならけっこうじゃないかと思うのであります。
  90. 石村英雄

    石村委員 そうすると、つまり昭和十五年は、あなたの理屈でいうと、これは高額者税金が高過ぎた。それで今度は下げる、こういう理屈なんですね。昭和十五年の税額というものは、低額者の方が低過ぎておって、高額者の負担が重過ぎたのだという御判断なんですね。
  91. 池田勇人

    ○池田国務大臣 先ほども申し上げましたように、現行税法をいかに改正するかという場合において、私は低額所得者の減税の割合が、高額のものよりも多いということを主にして考えたのであります。従来の税制改正では、十五年が一番大きかったと思うのですが、それに比較してどうだとか、あるいはその前の税制改正、馬場財政のときの昭和十二年に比べてどうだということまでは、私は考える必要はないと思います。
  92. 石村英雄

    石村委員 それなら、なぜわれわれに昭和十五年のものと比較してこうだというような資料をずっとお出しになっていらっしゃるのですか。税制調会査も、対照はみな昭和十五年です。それなら、なぜそんなことをなさったのですか。われわれにお示しになるのに、今までは昭和十五年度との対照において議論を進めていらっしゃる。きょうになると、そんなものはどうでもいいのだ、そんなものは考えなくてもいいのだ。われわれに考えさせるように資料を出しておいて、考えなくてもいいなんというのなら、どうして資料をお出しになったのですか。考えなくてもいい資料はちょうだいしなくてもいい。われわれが要求したらお出しになったがいい。すべてこの資料は、みな昭和十五年が一つの対照の資料として出ておる。税制調査会も、また答申案その他の報告なんか見ましても、昭和十五年がいつも今度の改正をやる場合の一つの基準として考えられている。それをきょうになって大蔵大臣は、十五年のそういう過去がどうだなんて考えることはない、今だけで考えればいいのだというようなことをおっしゃっては話にならないですよ。どうですか。なぜ昭和十五年の比較表なんか、たくさん下さったのですか。よけいなことをわれわれは考えさせられる。今まで作業をお進めになったことと、今あなたのおっしゃることとは前提を全く変えておると言わざるを得ない。
  93. 池田勇人

    ○池田国務大臣 参考資料として御判断願いたいというつもりで出したのでございます。従いまして、十五年のときと、今と比べて四十万円と一千万円とがこうなっておるという御議論は、この資料から出てきたのでしょう。しこうして、そういうお考えに対しての私の考え方は、十五年はそうなっておりましょう、しかし今の場合は、私はこういう気持税制改正案をいたしたのです、こうやっているのであって、今までの前提を全部くつがえすというものではございません。
  94. 石村英雄

    石村委員 そう言ってしまえば何のことだかわからなくなってしまう。この出しておる提案がいいと考えているから、お前らはいいと判断しろ、こういうことになるわけです。とにかく、おれはいいと考えておったので出したんだ、こういうことになると、いい悪いのあなたの判断の基準、この実効税率をお作りになった基準、どういうわけでこういうところはこうなっていいんだというようなことを積極的に示していただかないと、われわれは判断ができません。われわれはこの税率を作るについては、いろいろお互い人間のすることですから、前年度の税率と比較して考える場合には、過去の税率と比較して考える。絶えず比較のものを持ってこなければ、どういう税率がいいかということは、実際問題としては作れません。単純に、昭和三十二年度は税率はこうだ、もう今までの行きがかりその他は全然考えずに、全く昭和三十二年というものを抽象的に引っぱり出して、そうしてそれだけで税率を作るなどということは、実際問題としては不可能なはずでございます。前年度の税金がどうだ、そして前年度の税金については、個々には負担が重過ぎるとか、あるいは軽過ぎるとか、いろいろな意見があって、新しい税率を作ってこざるを得ません。おそらく大蔵省は、そうやっていらっしゃると思うのですが、大蔵大臣答弁では、過去のことなんかは何ら顧慮することはない。三十二年は三十二年で判断したのだ、その三十二年の判断は、どんなものが判断のもとだかちっともわからない。自分はいいと思っている、なぜいいと御判断なさったか積極的にこの改正案の税率がいいという理由をはっきり示してもらわないと困るわけでございます。とにかくいいんだというのでは説明になりません。
  95. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私はめくらめっぽうにこれがいいといっておるのじゃございません。現行の各階級の負担割合と、今度改正いたしまする負担割合を比べまして、まず低所得者の方の軽減の割合が多いようにしよう、こういう考えでいっておるのであります。そうして今十五年との比較をとったという大蔵当局の説明は、一応十五年が両期的の税制改正でございまするから、それを比較してみたのでございましょう。しかし昭和十五年の各階級の負担割合が絶対不変のものではない。しかもこの算出の仕方は、一応貨幣価値というものが何倍になっている——何倍というのは語弊がございますが、貨幣価値の異同がどういうふうになっているかということを各階級にぽんと当てはめてやったので、先ほど申し上げておりますように、それよりも一歩もたがわないようにしようということは、これは私は時代の趨勢を見ない考えだと思うのであります。現行の負担税率改正法の税率とどうなるか、そして各階層の負担の状況がどうなるかといなことを現行と今後を見てやったもので、めくらめっぽうに、いいかげんにやっておるわけではございません。
  96. 石村英雄

    石村委員 そうしますと、先ほど一千万円の者の手取り増加が地方税を含めれば五五%九もふえる。三十万円、四十万の者の手取りはわずかしかふえない。そういうことは、結局あなたの御判断でいくと、今まで一千万円の者が五十万円や四十万円の者よりも税金が高過ぎたのだから、これをうんと下げる結果、手取りが五五%九も上っても、それはやむを得ない、今までが一千万円の者は高過ぎたのだ、五十万円や四十万円、三十万円の者は今までの税金が実は安過ぎておるのだ、こういう理由なんですか。
  97. 池田勇人

    ○池田国務大臣 これは過去の税制改正をごらんになってもわかると思いますが、どこの手取りがどうこうという場合は、税制改正のあの累進税率の刻み方によってよほど違ってくるのであります。百万円の場合もありましょう、五百万円の場合もありましょう、あるいは一千万円の場合の方が手取りの増加割合が多くなるということは、累進税率の刻み方からくる当然の結果と申しますか、ネセサリー・イーブルと申しますか、その点がなかなかむずかしい。だから、手取りの増加額をもってやることは、そういう議論が起きますので、われわれ財政法、税制関係しておる人は、ほとんど使っておりません。税制改正につきまして私も未熟ではございますが、過去十数回やっております。そうしてまたこの税率の盛りようにつきまして、アメリカのシャウプその他いろいろな各国の人と私は議論したことがございます。今のような話でやっておったら際限がない。私は累進税率の盛り方につきましては、先ほど申し上げましたように、全体として低所得者に軽減割合を多くし、大所得者に軽減割合を少くする、それが本筋たと思うのであります。今度は、この塁進税率の使い方をやりますと、あるいは千二百万円の人が手取りのふえ方がもっと多くなる場合がある。また盛り方によりますと、一千万円が二百五十万円程度に落ちてくる場合もある。そういうことをしておったら議論が尽きません。そういうことをやっておると、税率の盛り方で神経衰弱になってしまう。私は今までの過去の十数回の軽減の場合、あるいは増税の場合におきましては、おおむね今私がお答えしたような方法でいっておるのであります。これについて、いい悪いの問題は常にあると思います。私は今までこれでやってきたのであります。またそれが各国の税率の盛り方の基本をなすものと考えます。
  98. 石村英雄

    石村委員 簡単にそういうやり方をすれば、非常に楽でございます。減税の率だけを見ていけばいい。しかし現実の税金の問題というものは、個々の納税者の負担が重いか軽いか、それが今度はどんなに軽くなるかということが中心でございます。幾ら減税してやった、こういっても、その人の財布のふくらみ工合が幾らふくらむかということが、実際の納税者には問題でございます。名目だけで一〇〇%減税をやった、こういわれても、幾らもふえなければ問題にならないわけでございます、その分については、金をふやしてやるわけにはいかぬじゃないか、こういう御議論をなさるかと思います。しかし国全体の納税者税率決定するときに、各所得者層が、改正税率によってそれぞれの個々の納税者がどれだけ助かるかということを積極的な面でとらえてみなければ、意味をなさないと思うのです。ただ百万円のものは何%、五十万円は何%減らしたというだけではおさまらないと思います。一般的には大蔵大臣がおっしゃるように、減税率だけでいって、そうして低額所得者の方だけの手取りをふやすということは不可能でございます。これは税金を少くしか納めておりません。ただその増加傾向がどうあるかということを、やはり政府としては、政治家としては見なきゃいかぬのじゃないか。この図にありますように、社会党案でいけば、何も一千万円のものを五五・九%も手取りをふやさなくたってできるのです。つまり減税率を出して、そうして今度手取り増加率を出して、その手取り増加率がどのように上っておるか、どの階層において非常に高くなっておるか、そこまで上げなくともいいじゃないかという考え方は、自然に生まれてくるはずでございます。大蔵大臣は、税金をよけい納めておるんだから、減税すればそういう層の手取りがふえるのは当り前だ、こう言われるが、これは減税率を変えれば、手取りはまた減ってきます。政府の現在の改正案でも、一億のものは、所得税だけではほとんど増加しておりません。地方税を含めないで所得税だけを言うと、一億一千三百八十三万円ですか、これが現行と一致する線でございます。もうその辺は、手取りは幾らもふえておらぬ。減税率一本でいっても、そういうことが起るわけであります。無限に手取りというものは、高額所得者になればなるほど上っていくのではありません。一定の限度が自然出てくる。最高限度をどこに抑えるかということは、政治的な配慮でなければならないと思います。そんなことは各国やりません、こうあなたはおっしゃいましたが、各国はやらなくとも、大蔵大臣池田さんは、そのくらいのことは考えていただきたいと思う。
  99. 池田勇人

    ○池田国務大臣 これはやっぱり全体の減税額と見合わしてやらなければいけません。もしあなたのようなやり方でいきましたら、私は相当減税額が減るんじゃないかと思う。そこで間をとって、この程度の減税をしよう、そうして各階級について減税の割合をどういうふうに持っていこう、こういうところから累進税率のきめ方もあるのであります。従いまして、どのくらいの負担になり、その減税額の割合がどうなるか、これによって全体の減税額がどうなる、こういう各方面のことを考えてやっておるのであります。
  100. 石村英雄

    石村委員 あなたは各方面と言われたが、手取り増加率の方面だけは考えなかった。そうして、お前の言うようにすると減税額が減るというのですが、それはどういうわけですか。たとえば一千万円では、政府案では所得税で三七・六%ですか、手取りがふえるわけです。この限度をもっと抑えて、二〇%くらいにすると、もう減税額全体が減ってくるというのは、いかなる理由であるか。
  101. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は正確な計算はしておりませんが、今あなたのようなお話でいきますると、多分五百万、一千万という人の減税はそう行われないんじゃないか、こういう点が一点あります。そして下の方の手取りの増加割合を上よりも多くしようということになりますと、相当全体の減収が、つまり減税が相当多くなるんじゃないかという想像をいたしておるのであります。これは計算をしないとわかりませんが、減税の総額と各階層の負担割合の減り方と各方面から考えていけば、今の税率の盛り方が一番いいんじゃないか、こう私は考えております。
  102. 石村英雄

    石村委員 減税の仕方によって、それぞれの減税額が変り、また税収額が変るということは当然のことで、あらためて大蔵大臣からお伺いしなくったって、これはだれでも常識ある者にはわかってくると思います。かりに千二百億なら千二百億政府通りに総体を減らすにしても、上の方の減税額をもっと少くして、下の方の減税額を大きくするということも可能なはずでございます。こう言うと結局水かけ論になって、池田さんは千万円のものが五五・九もふえたって、それはいいんだとおっしゃれば、それきりになってしまいますが、もっと下げる余裕があるのではないか、こう私は考えるんですが、下げる余裕は全然ないわけですか。
  103. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は控除の問題、それから累進税率の問題等々各般にわたりまして考えて、これが一番いい案だと思っております。
  104. 石村英雄

    石村委員 結局これがいいんだということで、なぜいいかということはわからなくなってしまう。大蔵大臣の主観で、この間の物品税問題のように、あれは全部、大部分がぜいたく品だと判断しておるのだというのと同じことで、ここで幾らあなたと議論したって一向進展しないでございましょう。  そこでお尋ねしますが、この間高木教授から言われたことですが、大蔵大臣にお尋ねしますが、現在の、この三月現在での三十一年度の自然増収願は幾らに推定されますか。
  105. 池田勇人

    ○池田国務大臣 三十一年度の自然増収は、まだしかとはわかりませんが、当初九百三、四十億円と見込んでおりました。しかし最近の租税収入の状況は非常にいいようでございます。ごく最近の分はまだ知りませんが、私は一千億を相当上回るんじゃないかと思っております。
  106. 石村英雄

    石村委員 三十二年度の自然増収の推定額は幾らでございますか。
  107. 池田勇人

    ○池田国務大臣 三十二年度の自然増収は、今御審議願っておりまする予算上千九百二十億円、大体この程度だと思っております。
  108. 石村英雄

    石村委員 その千九百二十億というものは、いつの判断なんですか。あの予算をお出しになったときの判断ですか。私の聞いてるのは、その予算をお出しになったときの推定ではなしに、その後日にちがたつとともに、三十二年度の予想というものはかなり正確に立てるんじゃないかと思います。三月現在ではどのように推定されるか。
  109. 池田勇人

    ○池田国務大臣 他の政府委員から御説明したかと思いますが、三十二年度の自然増収の見込みは、三十年度の実績によって計算いたしておるのであります。ただし間接税等におきましては、最近の状況も見ておりますと、ことに酒税の方におきましては、これはただいま作っております酒類その他ビール等を何しておるものでございまするが、直接税関係については、おおむね三十年度の実績をつかまえて増加率を見ておるのであります。
  110. 石村英雄

    石村委員 千九百二十億というのは、そんなら三十年度に比較して三十二年度という意味ですか。
  111. 池田勇人

    ○池田国務大臣 直接税の方はそうでございます。それから間接税の方は、大体最近の状況を見込んでおります。技術的なことは主税局長より答弁させます。
  112. 原純夫

    原政府委員 歳入見込みの技術的なことになりますから、私から補足して申し上げます。ただいま大臣が言われましたのは、三十二年度の税収見積りのうち、所得税法人税、この両税につきましては、三十年の課税実績というものがございます。これを基礎にして、法人は、三十年とも言い切れませんが、もう少しあとまで基礎にいたしておりますが、それをその後の生産、物価等の伸びによって作っておる、従ってその間の三十一年における所得税の実績がふえてくるという点は、一応考慮の余地はありますが、私どもの計算としては、三十年の生産物価に比べて、三十二年の生産、物価がどうか、その割合が幾ら伸びるかということでいたしておりますので、三十二年の生産なり物価なりがただいま企画庁を中心に見込まれております線が動かない限り、その見込みが動かない。間接酒税につきましては最近までの月々の分を見て、この予算におきましては、予算を作る際における最近までの実績を見て、それから推定いたしております。その後若干の異同はあるかもしれませんが、そう大きな効きはないと思っております。
  113. 春日一幸

    春日委員 関連。私は、これはやはりすなおに、かつ科学的に答弁を願わなければいかぬと思う。今の御答弁のようだと、三十年の実績によって推算するのだから、その推算は、一たび推算したら動かぬものだ、こういうふうに御答弁になっておると思うのですが、実情はどうであるかと申しますと、必ずしもそういう工合に動いてないと思うのです。たとえば昨年の八月ごろでありましたか、税制調査会に対して、三十二年度の税の伸びがどのくらいあろうか、こういうことで税制調査会の資料として大蔵省当局から御提出になった三十二年度の伸びは、たしか一千億でありました。税制調査会は、一千億の自然の伸びがある、これを基礎として各種の税制改革案を検討し、答申しておるわけです。その後三ヵ月ばかりたちまして予算編成期になりまするや、あなたの方は何を基礎にされましたか。さらにこれを検討されて、ただいま大臣御答弁のごとく、三十二年度の税の自然増収千九百二十億、こういう工合で一〇〇%も三ヵ月のうちに変化が示されて参ったのであります。このことは、三十年度の実績を基礎とするならば、八月期における推算と、それから十一月、十二月における推算もこれは変り得るはずがないののです。そういうわけでありますから、私たちが今お伺いするのは、昨年の八月と十一月、十二月と違ったがごとく、十一月、十二月に推算した額というものとその後の実績というものは、本三月現在期においては相当違っておるべきだ。公正なる高木教授も、先般公述人としてその意見を特に、強調して述べられておりました。だから、その点をお伺いしておるのでありますから、これは政治的な御答弁ではなく、やはり実情に即した、ありのままどういうように自然増収が出るのであるかということをお述べ願うのでないと、これは少くとも一年たてばわかることですから、あまりでたらめに誤まったことをここで御答弁になって、われわれの判断を誤またしめるような材料を故意に御提供願うということは、私は困ると思う。ですから、そういう機械的な三十年度における決算の実績ということでなく、さらにいろいろな材料等を集められて、そうして実際の伸びはどの程度のものであるか、一年先にはわかることなんですから、この際われわれに正確なる資料を与えていただいて、われわれの判断こあやまつところなからしめたいと思うので、あらためて御答弁を願いたいと思います。
  114. 池田勇人

    ○池田国務大臣 過去の自然増収に対しまする議論の点をずっと見ますると、水増しじゃないかとか、いろいろ議論があったのでございます。大蔵当局としては、できるだけ正確な見方をしていきたいと努力しておるのでございまするが、何分にも過去の実績から申しますると、日本の経済の上昇、好転は予想以上のものがずっとあってきたのでございます。昭和三十一年度の予算のときにも、私は、あのときは毎日出ておったわけではありませんが、自然増収が多過ぎるではないかというような議論もあったようでございます。そこで、私今回の予算編成に当りまして、三十二年度をどう見るかという問題につきまして、今主税局長が触れましたように、所得税法人税の直接税につきましては、三十年度を基準にいたしまして、そうして伸びは経済企画庁のファクターによってやったのであります。そういうことが基本の建前になっております。しかし皆さん御承知通り所得税は累進税率を使っておりますので、俸給が全体で一割ふえた場合におきましては、給与所得の場合は二割も二割五分もふえる場合がある、上積みになって参ります。その点がなかなか計算がむずかしいのでございます。従って三十年度を基準にはいたしますが、各月々の源泉徴収の状況を見まして、そうして経済企画庁の基本的資料を参考としながら、三十年度を基準としてその増加歩合を見ていくのであります。法人につきましても、三十年度の決定税額を基準といたしますが、その後における法人の決算状況も加味するわけでございます。たとえば法人利益率はこうだということで全体が出ますけれども、表面に出ております利益率と税務計算における利益率は、過去の実績によって動くのであります。また会社の方で準備金その他の経理のいたし方によりまして、実際課税の分はかなり動くのでございます。税務当局といたしましては、三十年度を基準といたしまして、その後の決算の状況を、大きい会社については最近の分を参考に見る、こういうふうにしておるのでありますが、基準はあくまでも三十年を基準といたします。そうして企画庁の伸び方を参考としてできるだけ実際に沿うように、個々についても事例を見て判断をするのであります。また大きい税目の酒税その他の間税におきましては、いろいろな統計を加味して最近の実情からやっていくのであります。何分にもこの税収は非常にむずかしいのでございまして、相当の見込みがありますが、なるべくかたく見るというふうな行き方でいっておると思います。私は主税局並びに国税庁の様子を見て、あるいはまた毎月の入る状況を見まして、そうして税目別に見て、今言ったような過程をたどって三十二年度を一千九百二十億円と見ておるのであります。
  115. 春日一幸

    春日委員 私が質問いたしましたのは、そういうような方式によって推算された三十二年度の税の伸びというものが、昨年の八月ごろ、すなわち税制調査会へ出された政府の資料は一千億であった。それが三、四ヵ月経過いたしますれば、そういう方式によって清算されて一千九百二十億になった。そこで私がお伺いをいたしており、また石村君が伺っておられるのですが、そういう方式によって本日ただいま積算、推算されたならば一体それはどれくらいになるか、このことをお伺いしておるのであります。先般本委員会において公述人の意見の発表を願いましたときに、慶応大学の高木教授は、その後わが国の経済の発展は目をみはるものがある、あの人が現実に専門的に、かつ学者的良心でいろいろ積算されたところによると、二千七百億円をはるかに上回る二千八百億円に至るのではないか、これは国政全般を通じて、それぞれの施策を論ずるに当ってきわめて重要な要素となることであるから、適当な機会に大蔵当局に責任ある答弁を求められることが必要であろう。こういうことを述べておられました。こういう質問に対して、ただいまの大臣の答弁は、結局三十年を基礎にし、その他の条件を云々してあるのだからというような御答弁でございまして、これは予算編成期の清算というものから一歩も出ていない、動いていない。そういうことではなくて、その後会社の決算も続々と出されておりましょうし、その他経済の動きき現実にいろいろな現象を示しております。そういう立場から、あなたの方は、あやまたざるところの三十二年度の税の伸びを当然この機会に積算される義務もあるでありましょうし、やってやれないことはないと思います、そういう意味でわれわれは今質問しておるのでありますから、その後の経済の推移にかんがみて、ただいま積算をするならば、三十二年度の伸びはどの程度見込み得るであろうか、そのことを一つお伺いをいたしたいと思います。
  116. 池田勇人

    ○池田国務大臣 昨年八月ごろの見込みと暮れの見込みとのおもなる違いは、昨年の九月期の法人の決算が予想外によかったことでございます。今もし春日さんのおっしゃるような見込みを立てるとすれば、ちょうど今は悪いときでございまして、三月期の決算がどうなるかということが問題でございます。租税収入の見方にピークをなすものは、三月、九月の決算と年末調整の問題でございます。私は予算編成のときにも見ましたが、十二月の年末調整の結果がどう現われるか、一月の五、六日ぐらいがその見方の山であるのでありますが、今後の問題として、今までの状態では、私は見込みをやり直してもあまり変りはないと思います。しかし三月決算が済んで五、六月ごろになりますと、大体様子がわかってくると思います。そして春季闘争の賃上げの問題も相当影響いたしましよう。ただ思うに、本年の九月決算は、必ずしも今までのような上昇ぶりを示さないのではないかという考え方が多いようでありますが、これは本年の九月の問題であります。そういたしますと、私は、今千九百二十億円をそう変えるほどの材料は出てこないのじゃないかと思います。慶応の高木さんがどういうふうな根拠でおっしゃったのか存じませんが、私は大体二千億程度が至当のものではないかと思います。
  117. 春日一幸

    春日委員 関連質問でありますから譲りますが、いずれにいたしましても、この問題は三月決算期を待って、それを五、六月ごろに集計すれば、わかることでありますし、少くとも一ヵ年後においては明確に現われて参ることと考えます。そこで学者たちが、いろいろな専門的な検討を加えて、具体的な資料の上に立っての判断によれば、先日ここで公述をいたしました通り政府が提示しております伸びよりもさらに四〇%上回る伸びがある、こう言うておるにもかかわらず、大臣は、故意にそれを上回る何ものも発見いたしがたいという御答弁でございます。このことは、事実によって証明されるでありましょうから、そのとき、特に故意に過小評価されることによってわれわれに誤まった資料と誤まった判断をしいたということになりますれば、これは当然あなたの政治的責任をそのときに問うことにいたします。そういうわけでありますから、五月になればわかることです。一年たてばわかることでありますのに、八百億というような財源がここにあるにかかわらず、ないないといって抗弁されることは、政治的に重大な意義を含んでおると思うのでありますから、なおよく検討されることを望みますが、いずれそういうような積算が具体的に現われる日を待って、再度私は大臣に責任を問うことにいたします。
  118. 石村英雄

    石村委員 あと二、三点だけお尋ねしますが、今度の所得税改正で現在問題になっているのは、例の六十一条の名義貸しの問題でございますこの点につきましては原主税局長からもある程度お伺いしましたが、この名義貸しの報告限度を、いろいろのことを命令で定めるということになっておりますが、大蔵大臣として、これに報告限度をお定めになるお気持があるかどうか。たとえば五千円以上報告しろとか、千円以上報告しろとか、そういう金額限度ですね、それとも、そういう限度は置かない御方針であるか、御答弁願いたいと思います。
  119. 池田勇人

    ○池田国務大臣 名義貸しの株に対しまして、六十一条で報告を命ずることに相なっております。従いまして、その報告をする場合に、細大漏らさずするか、あるいはある程度限度を設けるかということになりますと、これはやはりある程度限度を設けなければならぬと思います。それを幾らにするかということは、この前もどこかであれしましたが、どれだけの名義貸しがあるか、まだ十分調査しておりません、実際上調査の上、どの程度にしたら負担の公平を期し、また経済界に急激な変動を与えないか、この点は事務当局で十分検討して、そうして私のところへ持ってくると思うのでありますが、今までのような状態ではいけませんので、これを徐々に直していきたいということが私の念願であります。
  120. 石村英雄

    石村委員 大蔵大臣は何もかも漸進主義で、すべてを徐々にやるということですが、ほかのことは徐々もいいですが、この名義貸しというのは、事実上脱税をやっていることなんです。脱税の捕捉を徐々にやっていこうというのはおかしな話だと思うのです。しかも、これは低額所得者のわずかな所得を捕捉するという問題ではございません。名義貸しをするような者は、非常にたくさん配当を受けるような連中が、名義貸しをして総合課税をされない方が税金が少くて済む、脱税ができるという考えでやっているはずでございます。これを徐々に税金を取っていこう、何年間年賦で過去の分を納めさせるというならばわかるが、大口の脱税をやっているやつを徐々に押えていこうというのは、どうも受け取りかねるのです。その徐々を改めていただきたいと思うのですが、限度をお置きになる理由はどこにあるのですか。
  121. 池田勇人

    ○池田国務大臣 今でも配当所得につきましては、あまり小さいものは多分報告義務を免除しておるのじゃないかと思います。これは昔からあった制度でございます。しかし、やはり徴税の手数その他の点から適当にきめられなければならぬ問題と思います。  名義貸しの点につきましても、小株主で、いろいろ手数だから、証券会社にまかしておいてやっていこうというのも中にはございますが、いろいろな事情を調べまして、適当な方法で処理していきたいという考えでございます。
  122. 石村英雄

    石村委員 まさか五株や七株、そんなものを名義貸ししておるとは思いません。配当の報告をするのが一万円ですか、大蔵大臣はお忘れになっていらっしゃるようですが、現在は一年で一万円になっておりますが、この一万円との関係、こういうようなことをおっしゃるようですが、私はこの一万円は、もうこの前原さんに申し上げましたから深くは繰り返しませんが、一万円とか二万円の低額の配当を受ける者は、一方に所得が、やはり給与所得にしろ、他の事業所得にしろ、そう大きいものではないと思うのですが、ある。そういう人たちは、五千円でも一万円でも二万円でも申告して総合課税を受けた方が、配当控除があるし、また源泉で取られる一〇%が戻ってくるという関係で、むしろ有利なんです。私はどの金額かどうだということは繰り返して申しません。だから、一万円の配当の報告義務を免除しているのは、零細所得者所得をほじくらないという意味ではなくて、事業会社がそんな五株、七株というような、わずかな株主の所得を一々報告するのは非常に手続がめんどうだということからやっておるのだと思うのです、ところが証券会社で、今度の名義貸しの一万円だろうが二万円だろうが、そんなのはあまり多くないと私は思いますが、決して手続がそのために煩瑣になるということはないはずでございます。証券会社は一つの業務としてやって、手数料を同時に受けておる。普通の事業会社が零細な株主に配当して、そうして日ごろいろいろな手続のめんどうがある上に、税務署へそんなものまで報告しなければならぬというのは、そういう事業会社の関係では、確かに手続が煩瑣で気の毒だというようなことがあるでしょうが、証券会社の今度の名義貸しの関係については、そんなことは全然ないはずでございます。主税局長お話を聞くと、名義貸しの場合には数銘柄がある、十銘柄、二十銘柄とあるかもしれません、そんなこともあるから考えなければならぬということですが、対象とする一万円の配当の報告義務と、今度の名義貸しの報告義務とは性質が全く違うものだということを、大蔵大臣はお考え願いたいと思いますが、この点いかがお考えでしょうか。
  123. 池田勇人

    ○池田国務大臣 いろいろな事情もございますので、事情を検討いたしまして、適正なところできめたいと思います。
  124. 石村英雄

    石村委員 この名義貸しについては、政令の定めるところによる、こうあるから、結局政令ですぐにきまるようになっております。これを削除するということにすると、また報告様式とかなんとかいうことも起ってきて、削除できないかもしれませんが、かりに限度を置くとしても、どこに置くかということは、この名義貸しの問題は脱税の捕捉を骨抜きにするかしないかという大へん大きな問題になってくると思います。世間は、すでにこの問題では疑惑の目を持っております。悪くすると、これはまた造船疑獄の二の舞をするのじゃないか、このように見ておる。新聞に伝えられるところでは、この名義貸しは三百億に達するとか五百億に達するとか、いろいろ取りざたしておりますが、そうした高額のものが現在税金をのがれておる。これを捕捉しようというのに、限度を五十万円に置くと二十万円に置くとかいうことにすると、証券会社を二社、三社とまたがって利用すれば、二十万円にしても、五社に関係してやれば百万円になります、全く脱税を押えようというねらいは骨抜きにされてくるおそれがあると思います。そこで、かりにその事柄を含めて命令に譲るとしても、重要な問題ですから、国会の大蔵委員会審議の対象にしていただきたいと思いますが、この点のお考え審議の対象になさる腹があるかどうか。命令で定めるという法律、これはかりに通るかもしれません。通れば四月から、実施されるわけでしょうが、そのときに、もう法律で委任してくれたのだから勝手にきめて一向かまわないという態度をおとりになるのか、それとも国会は五月の十日ですから、そのころまであるわけですから、国会の審議に付すというお考えがあるかどうか、御答弁願います。
  125. 池田勇人

    ○池田国務大臣 実情をよく調査いたしまして、なるべく早く結論を出していきたいと考えております。従いまして、その結論が出まして、国会開会中なら、もちろん御相談を申し上げたいと思います。
  126. 石村英雄

    石村委員 いま一つ重要物産の免税が、これは従来もそうですが、やはり命令によって定められることになっておりますが、この点もあわせてお願いしたいと思います。  それからいま一つ大蔵大臣にお尋ねしますが、現在の法人税法の固定資産関係の償却関係ですね。耐用年数が何年とかなんとかいうことで、償却が認められておるのですが、あの耐用年数をきめたのは相当古くて、現在の工業界なんかの伸展には時期おくれになっておる面が相当あるのではないか。特に中小企業関係は、この間これによる免税と申しますか、税金の軽減と申しますか、当然のことかもしれませんが、そういうことが大きく影響を受けると思いますが、これを再検討して、早くおやりになる御意思があるかないか。とかく租税特別措置関係のあの分だけでやっていらっしゃるようですが、あれでは時代おくれのあの耐用年数によって困っておる一般中小企業、その他の関係は救われないと思います。たとえば租税特別措置法によらずに、今後法人税法のあの分の関係の政令を改められる御意思がないかどうか、お尋ねいたします。
  127. 池田勇人

    ○池田国務大臣 耐用年数の問題は、昭和二十六、七年に全面的に検討したのではないかと思います。この問題は、常に大蔵省としても検討している問題でございまして、実情に沿うようにかえていきたいと思います。
  128. 石村英雄

    石村委員 この問題は、租税特別措置法の方にあまり熱心にならずに、根本法の方に熱心になっていただくように要望しておきます。  それから最後に、これは主税局長に後学のためにお尋ねしておきますが、ここにある実効税率表で昭和十五年分というのをあげております。これは、大蔵省の資料によって書いた図でございますが、昭和十五年は、法人関係の分は、法人実在説によって十五年分の税金はとられておったのではないかと思うのですが、そうでございますか。
  129. 原純夫

    原政府委員 実在説、擬制説と申しましても、その時分のは、今でそういう名前をつけて呼べばやはり中間にあった時代であります。ずっと昔は、配当所得法人の方でかけて、個人の配当にはかけないという時代がありました。それがだんだん配当については何割かける、始めはたしか四割かけるというところから始まったと思います。そのかける度合いがだんだんふえていって、最後に何割引きというのがなくなったのは、たしか昭和十九年だったと思います。ですから、昭和十五年にはまだ何割引き——何割と申しておりますのは、今のように税額で幾ら控除するというのではなくて、配当所得について何割引いてかける、所得控除ですね、おそらく二割かそこら引いて——だいぶ全額に近くなって、十五年は九〇%かけるということになってきておったのでございます。
  130. 石村英雄

    石村委員 そうすると、この間大蔵大臣も、五千万円を問題にしたら、いや五千万円は事実は配当所得の分が入っておって、配当控除関係で高くなるのだというような御説明があったわけですが、この昭和十五年の分は大体実在説にによっておる。こうしますと、今度の改正案の実効税率があるのですが、千万円程度になると、ほぼ十五年と同様な線に、千万円について配当が幾らというのが、五百万円と見るか七百万円と見るかいろいろあるでしょうが、政府の資料で見ると、千万円の場合なら三割と七割というのですが、それは上も含めてですから、千万円だけをとらえれば、五割・五割で五百万円ずつくらいになるのではないかと思うのですが、今度の改正案は、ほぼ十五年分と同じ条件に置いて考えると一致してくるのではないかという気がするのですが、いかがですか。つまり改正の実効税率の千万円が四〇%のところになっておりますが、これは事実配当が相当あるということになると、今度は二割控除によってその税額は下ります。従って実効税率というものは四〇%が下るわけです。下ったところが完全に十五年の三〇%でもないでしょうが、三二%が三%くらいに下るのではないか、こういう気がするのですが、これはまあ計算していらっしゃらなければ、あとでお教え願えばけっこうです。
  131. 池田勇人

    ○池田国務大臣 昭和十五年のときは、実は私が主になってやったのですが、あのときは、個人に対しての配当は全額課税だったと思います。昔話で何ですが、思い起しますが、夜中の二時ごろ、源泉一割をとろうという案が出まして、夜通しで苦労したことがございますが、多分源泉で一割とるということは、そのときできたと思います。発案者は、私は覚えておりますが、小笠原三九郎さんです。そして源泉で一割とるということにしたのでございますが、法人、個人の関係では、あのころはたとえばコンツェルン、持株会社、これが非常な負担になっておった。孫会社からの配当を子会社がもらえば、それは全額課税になります。そして子会社は親会社からもらえば、また全額課税で相当の税金を納めておったのでございますから、一千万円もある人のほんとうの負担、擬制説とか、あるいは実在説とかいうことを加味したところのほんとうの負担は、なかなか困難です。今親会社と孫会社とひ孫会社は、その間何もとっておりませんから、そういう点から考えますと、なかなかあなたのような負担の問題は非常にむずかしくなってくると思います。ちょっと思い出しましたので、御参考に申し上げておきます。
  132. 石村英雄

    石村委員 実は、私も十五年は全部とっておったということを物の本で読んで知っておったのですが、原さんが割引きとか何とかおっしゃったものですから、あるいはそうかもしれぬ、私の読んだ本が間違っておるかもしれぬと思って伺ったのですが、大蔵大臣がそれを御訂正下さって、まことにありがとうございました。
  133. 山本勝市

    山本委員長 続いて平岡忠次郎君。
  134. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 私は、主として租税特別措置法案につきましてお伺いいたしたいと思います。本会議でも質問申し上げ、御回答を賜わったのですが、的が相当はずれておったと思いますので、この機会にかいつまみまして、要点だけお伺いしたいと思います。  まず御質問申し上げる前に、私は現在の租税自体が非常に重い、これが軽ければ租税特別措置の余地がある、こういう点を少し掘り下げて考えていただきたいと思うのであります。たとえばコップの中に水を入れまして、それに塩を加えていきます。ある程度の塩は、飽和点に達するまでは溶けますが、そのあとは沈澱します。それと同様に、税金も飽和点以上だと、溶解され切れずに沈澱を生ずると思う。これが労働界においてはストライキとなって現われ、なおまた中小企業に発しては、自衛上の脱税となって現われます。ストライキと脱税の現象面だけをとらえてこれを論難したり、あるいはお知らせをぶっかけたりすることでは、問題の解決にならぬ、こういう認識に私どもは立っておるのであります。そこで、この納品を余さず溶かすためには、コップの中の水を増すか、あるいは塩の分量を減らすか、この二つに尽きると思うのです。まず水を増す方の課税は、大蔵委員会の課題ではないようです。要するに不当に飽和点以上にいっておるところの塩の分量を減らすということ、しかもその塩の絶対量がどうしてもどこかのコップに入れなければならぬというのなら、飽和点に達してないところのコップに注ぎ込む、こういうことが私ども委員会に課せられた重大な任務であろう、かように考えます。では、現在の租税負担がどれほど重いかということの目安としまして、十五年に基準をとるか、あるいはシャウプのように昭和九、十、十一の三ヵ年の平均をとるか、いろいろ議論がありましょうが、私は昭和十五年は準戦時体制として、もう大衆収奪が始まった、こういうふうに考えておりますので、やはりシャウプがとった昭和十年を一応基準にしまして、現在日本の国民の一人当りの税負担がどんな工合になっておるかにつきまして、一応数字を示してみたいのであります。昭和十年の国税・地方税を含めての国民一人当りの租税負担額は、当時の金で二十七円です。従いまして、現在の金の値打で八千百円になると思うのです。ところが三十二年度の見込みにおきましては、一万七千百八十七円が国民一人当りの租税負担になることを、あなたの方の、大蔵省の資料が示しております。まさに税負担は二倍以上に達しております。ここに飽和点を突破する結晶の問題が生じておる、こういうふうに私は思うのです。この昭和十年度との比較論にもし異論があるとしましても、実はこの前の予算委員会に井藤半弥教授が指摘している数字がございます。これはいわゆるエンゲル指数が正しいとか、そのことよりなお一そう正確を期するためには、次の方法があるということを指摘しております。それはどういうのかといいますと、分子を租税の額とする、分母の方は国民所得から食費を引く、これは食わなければ死んでしまうのですから、食費の全体を国民所得から引き去って、その額を分母として租税の額を割るのです。これで見ますと、昭和十年におきまして一九%のものが、三十二年の見込みにおいて三四%になります。ところが、租税の総額を例の予算における国民所得で割りますと、それは十四対十九なのです。ですから、前者の数字でいきますと八割増でありますが、後者では三割六分、ですから井藤教授の指摘する正しいとされる比較からは、十九から三十四に上りました八割増が正しい、いずれにしましても、大ざっぱに言いまして、やはり日本の戦前の平和時における水準から見まして、現在の税金が倍になっておる、こういうふうに言えると思うのです。これは非常に大ざっぱな議論ですが、ですから、そうしたぎりぎりの重課を課せられておるときに、租税特別措置の特定層に対する免税というものがどういう意味を持つかということに対しまして、われわれは深い関心を抱かざるを得ないのです。これはもちろん経済政策とか、あるいは産業政策が租税の制度によってカバーされる、こういうことの必要も私は一がいに否定はいたしません。しかし、日本の経済がいわゆる神武景気を謳歌するまでに成長してきたのですから、この三十二年の税制改正におきましては、せめてこの租税特別措置の問題を根本的に改正してほしかった、これは、単に私どもばかりでなしに、国民の念願であったと思うのです。ところがふたをあけてみると、これは看板とは大違いだ、こういうことになろうと思うのです。私は非常にこれを残念に考えております。  そこで、まず具体的に質問に入りますが、現在の租税特別措置法による三十二年度の免税総額は、千五十一億円と出されております。これには私自身異論がありますが、一応政府の出された通り、千五十一億円といたします。これは法人関係のものと個人関係の二つのカテゴリーに分れると思いますが、ひっくるめて千五十一億、これが特定層にどのように恩典となって現われておるか、このことについて私は指摘申し上げたいのです。現在法人の数は四十万ございまして、一億円以上のものが、三十年現在で千二百四十一社、つまり〇・三%です。ところでこの〇・三%の小さなグループが、千五十一億のうちの六〇%以上を壟断しております。こういう事態は、社会人心の上に悪影響を与える。これは、あまり知らぬから人は文句を言わないかもしれないけれども、とんでもない不公平であります。もともと特別措置ですから、不公平にできておるかもしれませんが、これは異常でございます。それから個人の関係の最もティピカルな例は、配当所得特例であります。配当所得は、法人経理の段階で一〇%の源泉課税をされているという理由をもって、課税所得を計算する際に三〇%の税額控除を現在までなしてきたために、配当だけで食っている人は、現行法で百二十二万円までが非課税だ。それで世の指弾を浴びてきたのです。今度その税額控除を三〇%から二〇%に引き下げたので、だいぶ進歩したなと思ってよく検討してみますと、あにはからんや、これは所得税における高額所得層に対する累進税率の鈍化によることですが、結論的には百四十九万円までがぬけぬけと非課税となっておるのです。片や勤労所用得者は、今回の改正税法をもってしても、例の標準家族において二十七万円を出れば課税されます。不労所得の配当所得者は、百四十九万円まではびた一文も税金がかからぬということです。税制度におけるこの極端な不公平に対して、大蔵大臣はどう御説明をなさろうとしますか。まずその一点をお伺いします。
  135. 池田勇人

    ○池田国務大臣 今、法人四十万のうちで一億円以上のものが〇・三%という実態になっております。これは、最近十数年間の状況でございます。今から十五、六年くらい前までは、七万くらいしかなかったのでございますが、個人納税者がずっと法人成りになってしまったので、数で言うとお驚きになりましょうが、実際の問題としては、私はそう大した変革ではないと思います。それから、個人の所得なんかでも、昔のことを申しますと、昭和五、六年から十年くらいは、所得税法人税は一緒になっておりましたが、個人所得税の大体一割というものは三井、三菱で納めておった。それが非常に民主化されまして、今ではそういうふうな事例はございません。最高納税者が一億円程度であります。この変革は、そう御心配のような状態でなく、ただ個人所得税が非常に変ってきたということでございます。従って、特別措置法によります軽減免除の問題は、お話しの通りに、われわれもこの段階になってきたら相当整理しなければいかぬ、今までの悪いくせと申しますか、一旦認めたら、これをやめるときを考えなかった、そういう考え方はよくないからというので、大蔵省としては、今度かなりきつくいったわけです。しかし実際問題になりますと、役所には助長行政の役所が相当ありまして、臨時税制調査会答申通りにはいかなかったけれども、われわれとしては、その方針で相当がんばってきたわけであります。今後も今申しましたように、これを合理化して、だんだん少くしていこうという線は変りはございません。やりっぱなしにしない、常に検討を加えていって、負担の公平の理想に向って進まなければならぬ。しかしそれではふやさないかというと、今度は一定期間重要産業でめんどうをみなければならぬものが出てくるかもしれませんが、方針としては、今申しましたような方針であります。  次に、配当所得に対する個人の問題でございます。私も実は十分気がついておりました。臨時税制調査会答申を見まして、これではいかぬぞというので、調査会答申よりも五%下げたわけであります。このことは問題となっております法人擬制説をとるかとらぬかという問題であります。私は税制調査会答申を五%減らす場合におきましても、各国の事例を調べてみましたが、やはり控除を相当やっております。イギリスなんか相当やっております。しかし、これは法人関係等も考え合わさなければなりませんが、徐々にこれは改めていきたいという気持を持っているのであります。しかし、これが直ちに法人擬制説を排除するというところまでいけるかどうかという問題は、これは産業政策上重要な問題でございますから、少くとも私といたしましては、この問題について将来十分考慮しなければならぬという気持は持っているのであります。  税率が急に緩和せられましたので、百二十二万円が百四十何万円になったという過渡期の問題でございますが、われわれの趣旨といたしましては、平岡さんにも御了解がいただけるのではないかと思います。従来から配当所得に対する課税は、ちょうど預金利子に対する課税と同じでありまして、ことに配当の方は、税率の点がなかなか問題でございますので、産業界に及ぼす影響等万般の問題、もちろん税を主にして考えまするが、そればかりではいけないので、こういう制度は徐々にやっていかなければならない問題だと思います。
  136. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 結局、法人擬制説をめぐる問題で、源泉徴収を一〇%しておるから、そういう理屈がつくのですから、いっそのこと源泉徴収をやめたらどうでしょうか。そして税額控除三〇%もやめればすっきりすると思う。そういうふうに改めるお考えはありませんか。
  137. 池田勇人

    ○池田国務大臣 そういたしますと、法人実在説になってくるのであります。控除を全然やめますと、実在説になって参ります。しかしそういうふうにすることが、今の払い込み資本の増加等、産業の基盤拡大にいいか悪いかということは研究すべき問題だと思います。
  138. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 その問題から、直ちに法人実在説にはならぬと思うのです。法人で源泉徴収せずに、そのまま個人の配当として百パーセント帰属させたらそれでいいんじゃないですか。一つも実在説に関係がないと思うのですが、いかがですか。
  139. 池田勇人

    ○池田国務大臣 あなたのおっしゃるのは、配当を全部個人に総合するという考え方でございますか。
  140. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 そうです。
  141. 池田勇人

    ○池田国務大臣 それなら法人は擬制的なものであって、法人税を納めているじゃないか、個人の出資によってそこに法人ができて、法人が四〇%納めているじゃないか、これは個人のかわりに納めているのだ、こういうのが法人擬説であります。そこで今度は、全部課税することになると、法人でも取られ、個人でも取られる、こういうことになったら産業の進歩に困るじゃないか、こういう議論が昔からございまして、大正八年までは配当には課税しなかった。こういう沿革を持つのでございますから、源泉徴収もやめ、控除もすぐやめてしまうということになりますと、それは株式界に及ぼす影響が非常に大きくなりますし、また新規の払い込みその他についてもいろんな支障があるのであります。
  142. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 そうしたら、その問題は一応預かりにいたしまして、次にいたします。  御承知通りこの減税、いわゆる特免措置をやめまして初年度に増徴されるものが、二百億円と予定されております。この二百億円をよく検討してみますと、概算所得控除がそのうちで四割、七十九億を占めておるのです。概算所得の恩典こそ、農家とか商店、それから社会保険診療関係からはずした人たちをカバーする、そういう措置であったはずでありますが、それを一番弱い層から七十九億円取り返している。このことにつきまして、どういうように大蔵大臣考えておいででしょうか。
  143. 池田勇人

    ○池田国務大臣 いろいろ議論はあると思いますが、私は概算所得控除制度は、行く行くはやめなきゃならぬ、みんなが健康保険その他に入るということになれば、これはやめてしかるべきだ、そうした場合に、今回のような減税、所得税あるいは事業税の免税のときがやはり一番やめやすいのだ、こういう考えのもとに——そして実際において、だんだん健康保険に入ってこられる人もおありのようでございます。そして税制調査会の議論も、これはやめろというふうなお話もありましたので、やめることにきめたのでございます。税の実際の理論からいけば、お医者さんの場合も農家の所得の場合も、事務当局としては強く主張したのでございます。しかし私は、これは政治的にいましばらく残すべきものではないかというので、これは保存することにいたしたのであります。そこのかね合いが私なかなか苦心したところであります。幸いお医者さんの方と農家の方は、満場一致存続することに結果においてきまりました。概算控除につきましては、私は将来を見まして、皆さんに健康保険に入ってもらう、国民保険のことを予想いたしまして、この際取りやめることにいたしたのであります。
  144. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 今あなた非常にいいことをおっしゃったのですよ。社会保険診療が全国民に普及した暁、これをはずした方がいい、そういうふうに私お聞きしたのです。ですから、その通りにしていただいたらどうですか。七十九億ここにぶった切るというやつは、ほかのぶった切るものがうんとあるときに、これに目を向けておるということに対しまして、私どもは納得いきません。どうですか、それはお考え直しする余地はありませんか。
  145. 池田勇人

    ○池田国務大臣 この概算所得控除を置きますときにも、いろいろ議論があったのです。私はこれを決心する前に、社会党の方々は、この問題についてどう言っておられたかと聞いたわけです、そうすると、これはもう反対せられた、こういうようなあれで、それならますますいいわい、こういうことになったのでございます。(笑声)
  146. 横山利秋

    ○横山委員 関連。そういうことをおっしゃるなら、私も一言言わなければならぬ。今ここで話しておったのですが、子供が少し腹の中に出た、それは流さなければならぬといって流しても、罪にならぬ、生まれてから殺したら罪になります。だから、もし私が言った言葉をとらえられるなら、あのときになぜ政府は断固として、いわゆる筋を通すなら筋を通す、こういうことを主張しなかったか。自分の責任をたなに上げて逃げて、あのときああ言ったのはあなたじゃないかと私の顔の方を見るのは、ほんとうにけしからぬ。(笑声)少くともこれは実施をされて、中小企業のために恩恵になってしまっている。私はあらゆる問題について、既成事実ほどおそるべきものはないというのでありますが、既成事実としてできてしまったのであります。その事実が今あるのにかかわらず、生まれる前の問題を取り上げて、あなたはやるつもりがなかったと言うがごときは、それはいけませんよ、それはお取り消し願って、この現状の観点に立ってお話しなさらぬと、誤まりを犯される。いささか釈明に近いことを申しましたが、現在の政治というものは生きものでありますから、今の観点に立って、一つ大臣は考えてもらわなければいけません、これはあなたが、政府が準与党に屈服をしたことを告白されるようなものでありまして、自分の責任を痛感されなけばいけません。
  147. 池田勇人

    ○池田国務大臣 社会党さんがどうだからこうやったとかというあれじゃないのでございます。私はそのときには、政府の要路者じゃございませんでした。政調会長や幹事長をしておるときじゃございませんが、いろいろ相談は受けたのでございます。これはなかなか問題だ、なかなかいい面もあるし、まためんどうな面もある、こういうので、やはり主税局出身の連中で議論が分れたのであります。私はいずれとも結論を出しません。そうして今度悩んだ問題は、先ほど申し上げましたが、概算控除とお医者さんあるいは農業所得の方、これは理論から言えば、一体となすべきものであり、ことに中小企業のことも考えて、置いておくかどうかということにつきまして苦慮いたしましたが、そのときに、やはり健康保険等に加入を促進する上におきましても、またこういうふうなのはやはりすっきりした方がいいじゃないか、こういうことで一応きめたわけであります。そうして参考に、ほんの参考の参考にそういうこともあったのかということを聞きまして、ああ、そうか、やれやれということで、責任を回避したり何かする気持はございません。設けるときから、税に関係した先輩、後輩がかなり議論した問題でございますし、答申の数字もありますので、やめることにいたしたのであります。
  148. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 概算控除を社会党がその当時反対したといわんよりは、勤労者の関係の社会保険診療の中の恩典の率が平均三・三%、そこで五%ですから、そこの均衡論で横山君がついただけの話です。それですから、七十九億をいきなりぶった切らずに、やはり、今、健康保険と申しましょうか、社会保険国民の全般に及ぶように、政府は予算の面でも調査費として一つ芽を出しておるような状況ですから、そのときが来るまで、三・三%に下げてもいいから、これを置くというような点で、再考の余地はないかどうか、これをお伺いいたします。  もう一点、あなたは、社会保険診療報酬は、政策単価を低位に押しつけているために、税法上カバーをする、同様のケースがお米の問題です。こういう点で、この改正を与党において、政府において審議されておるときに残したとおっしゃる。もしそうでしたら、やはり政策単価、いわゆる一点単価が低位に定まっておるためにお医者の方に迷惑かけておる、そこでこれを税法上でカバーしてやるという立法の趣旨であったはずでございますから、それで関連のある柔道整復師、はり、きゅう、これの社会保険診療報酬の分もやはり同一に処置しなければならぬと私ども考えておるのです、その金額はおそらく一億か二億くらいのわずかなものでありますので、そうした大蔵大臣のお考えでしたら、やはり筋を通しまして、租税特別措置法は原則として全面的に廃止すべしという建前を私はとっていますけれども、現実の事態において、今申し上げました点を御考慮なさる意思があるかどうかもあわせてお尋ねいたします。
  149. 池田勇人

    ○池田国務大臣 初めの概算所得控除の問題は、一応原案通りで御審議願って御通適いただければけっこうだと思っております。  次に、はり、きゅうの問題でありますが、これは健康保険の方に単価もきめておりませず、よほど医療に関係はございますけれども、一点単価の問題もございませず、またお金を払う場合においてもあの制度によっておりませんので、そしてまた所得率もかなり違いますので、私はこれはごめんこうむりたいという気持を持っております。
  150. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 柔道整復師などでも、やはりその単価を押しつけられておりますし、社会保険診療の対象になっております。しかも現在のお医者さんの一点単価は、都市において十二円五十銭、地方において十一円五十銭でございます。ところが柔道整復師などは、その前にきめられた単価のまま据え置かれておるのです。十円と九円ですから、被害はそっちの方が大きいのです。ですから、今の十二円五十銭、十一円五十銭に見合う課税所得が二八%だとされておるならば、柔道整復師の場合はそれより低くなければならぬのです。ですから、こまかいことは申さずに、せめてお医者と同様な特例をこの際やっていただく方がよろしいと思うのです。それによる減収もごくわずかのように思うので、ぜひともこの際御再考をお願いしたいのです。
  151. 池田勇人

    ○池田国務大臣 あんまさんのことでありますが、今のお話のような点はよく研究いたしまして、事務的なものでございますから、それをまず固めてから御返事いたしたいと思いますが、私は、今のお医者さん、歯医者さんとはよほど違っているのじゃないかという気持を持っておるのでございます。しかしいずれにいたしましても、調査して御返事いたしたいと思います。
  152. 平岡忠次郎

    ○平岡委員 いろいろ質問がございますが、私に与えられました時間はもう過ぎましたので、この程度にとどめます。
  153. 山本勝市

  154. 春日一幸

    春日委員 私は、従来本委員会で懸案として論じられておりまして、なおかつ問題が解決をしておりません一つ、二つの問題について、われわれの見解を述べて大臣の所見を伺いたいと存ずるわけであります。  それは第一番に、零細事業者の事業所得に対して、何らかの特別の損金算入の措置を講ずるの必要をお認めにならないか、問題はこれについてであります。現在の所得は、大体資産所得事業所得と、それから給与所得と、大まかにいって三つに分けられると思いますが、なかんずく給与所得者については、そういう所得を得るに必要なる経費といたしまして、共礎控除があるわけであります。特別控除が引かれてあるわけであります。ところが事業の中には、大まかに大別して、資本性企業と勤労性企業と二つがあると思うのです。資本性企業は、やはりその資本の額が比較的に大きいのであります。その資本によって生産設備を調達し、それから生産に必要なるところの従業員並びにその経営者、管理者、こういうものもこれが資本によって大体調達し得る。その所得が発生するのは、その資本の貢献に待つ比重が比較的大きい。ところが零細事業所得者は、その資本の額が小さいので、資本だけではわずかに店舗だとか小さな工場だとかは調達し得るけれども、しかしその事業から所得を生むには、その経営者みずからの労働力が貢献することなくしては、所得が発生してこない。そういう意味で、同じ事業所得の中でも、零細所得については、勤労所得が現実の問題として相当部分にわたって加味されておる。その度合いというものは、所得が零細なれば零細なるほど、勤労所得が多く、それはだんだんと高くなるに従ってその率は少くなる、こういうたぐいのものであろうと考えるわけであります。こういう主張の上に立ちまして、私たちは今まで本委員会において、零細業者の事業所得、零細所得のうち一定部分を、これは明らかに勤労の成果であるから、そのためにはそれぞれ別個の経費を伴うておるであろうから、その経費をやはり損金として非課税の措置を講ずる必要があるであろう、こういう立場に立って論拠を進めて参りました。勤労所得者に対しては、今百分の二十というものが控除されておりますが、零細事業所得者に対しては何らそういう控除がされておりません。このことは、事業所得というものが、国税とは別に、県税として事業税が付加される立場において、特別の意義を持つものであります。こういう意味でありますから、大臣にお伺いをいたしたいのは、現実に、たとえばとうふ屋さんのようなものであるならば、とうふ屋さんは朝早く起きて、とうふの豆をひいて、できたとうふを早く売り出しにいかなければならぬ、冬ならば寒いから、暖かいものの一ぱいも飲んでいかねばなるまいし、かぜを引かぬようにそれだけどてらの一つも余分にまとうていかなければならぬ。要するに零細所得に対しては、それだけの所得を得るための必要なる経費が伴うておるので、夜ふけの働きをする人々については、やはり夜食の一つも食べなければならぬ。そういう工合で、現実にその費用を伴うておるのだから、こういう人々に対しては、この際事業所得を一律にこれを見ないで、その事業所得のうち勤労性事業所得に対しては特別勤労控除、すなわちその所得を生むに必要なる経費というものが現実にあるのだから、その経費を損金として見てやるための制度を新しく設けるの意思はないか、この問題について一つ大臣の御見解を伺いたいと思いおす。
  155. 池田勇人

    ○池田国務大臣 事業所得につきましては、やはりその所得を生むに必要な経費は見ておるはずでございます。お話しのように寒いから何とかいう分は必要な経費に入るかどうかは存じませんが、一応必要な経費として見ておるはずでございます。しかしその問題は第二として、春日さんのお気持は、やはり所得の種類によって担税力が違うのではないか、大きさによって担税力が違うと同時に、種類によって担税力が違うのじゃないか、こういうふうな気持がおありじゃないかと思う。しかしいずれにしても、まあそういう考え方で、昔は分類所得税というもので、勤労所得事業所得と資産所得とは税率を分けておった時代もあります。しかし最近におきましては、どういう仕事であろうが、百円もうけたのは百円だ、どの商売でも、百円もうけたものは百円だ、こういう観念がかなり強くなってきたようであります。その点は、やはり時代の趨勢でいろいろ考えなければならぬ問題だと思いまするが、事業所得につきまして必要経費の見方は、私は税制の問題でなしに、税の施行の問題として考えるべきじゃないか。所得の種類による部分につきましては、補完的に地方税事業税で見て、そしてその事業税につきましても、低額の方には税率を少くする、こういう考えで今はいっておるのであります。いろいろ批判はありましょうが、まあそれでやむを得ないのじゃないか。あるいはもっと税率を下げたらどうかという議論も、私はあると思います。そうしてまた事業のうちでも、とうふ屋さんとお百姓さんを区別するのはどうだというような議論も出てくると思いますが、私は、今の直後の必要経費の問題は、十分考えなければいけないと思います。しかし所得の種類によるところの問題は、今のところは直ちに結論を出しにくい問題だと思います。
  156. 春日一幸

    春日委員 問題の核心はこういうところにあるのです。零細業社の所得は、形式的には事業所得ではあるけれども、実質的にはこれば勤労所得である。全部勤労所得であるとば断じがたいし、そう言い切ってしまうものではありませんけれども、やはり勤労の対価というわけではありませんが、勤労の対価は給与所得になりましょうけれども、勤労の成果としてその所得が発生して、それをことごとく事業所得として扱われておるところに問題点があるのです。それはすなわち国税として所得税がかけられ、その所得税に対しましは、地方税が賦課される、こういう立場でこの問題を取り扱わなければならぬと思うのです。一方勤労所得には勤労控除がありまして、現実に勤労所得であるところのこの零細事業所得に対しては、勤労控除が見られていない。そういう分に対しても事業税がかけられてくるから、現実の勤労所得者に対して事業税がかかるという問題は、救済をしてやらなければ苛酷ではないか、こういうところにわれわれの理論の根拠があるのです。ですから、その点について一つ大臣の御見解をお伺いしたい。たとえばとうふ屋さんだって八百屋さんだって、まあ極端なことを言えば大工や左官、そういうような人々の所得は勤労による所得なんです。勤労による所得、これが勤労の対価である場合は給与所得になるが、事業の形式を持っておるものだから事業所得になって、給与所得には事業税がかからずして、零細業者のこの勤労の成果に対しては事業税がダブってかかってくる。こういう意味で、ただ国税の面からだけでは一応の均衡がはかられておるかもしれないけれども、この事業税がこれに賦課されてくるという点において、その非常なアンバランスを生じ、そうしてこの人々対して二重課税、あるいはその税が多過ぎる、こういう苦情が発生しておるわけでございます。従いまして、私どもはこういう立場に立って、今まで本委員会でしばしば論じて参りました。その結果今大臣が御答弁のように、そういう実情はよくわかるので、従いまして、これは税法上の問題としてではなく、やはり徴税行政上の問題としての取扱いということで、これは暫定的でありますかどうでありますか、大工、トビ、左官というような人々に対する事業所得のうちで、金額を区分いたしまして、年所得三十万以下の人の所得については、その中の何十%が勤労所得であるから、そういうものを区分して申告し、そして勤労所得とみなされたものについては事業税をかけない、こういう取扱いの通達が出てはおりますが、これはいうならば、租税法定主義の原則にも反しましょうし、なお通達はことごとく明確を欠いておりまするし、そしてこれは法事でありませんので、国民がこれを知っておりません。従って納税する場合において、ある者はこの通達に基いた取扱いを受け、しからざる者はこの恩恵を受けていないという、いうならばめちゃめちゃになっておるわけです。私は、この国税庁長官の通達というものの精神をやはり法律によって明確にその基準を定めて、明らかにこの精神は法定されてしかるべきである、こういう工合に考えておるのでございますが、御見解はいかがでございますか。
  157. 池田勇人

    ○池田国務大臣 まだその通牒を私は存じません。百般の事態を法律できめたいということは、私も春日さんと同じでございますが、実際問題を一々法律に書くことはなかなかむずかしいものではないかと思います。同じ大工さんでも、請負契約による場合と、雇われ大工さんで大工をやる場合と、いろいろ違いがございまするが、いずれにいたしましても、事業主としてやる場合に、勤労の持つ部分の非常に多いのと少いのとがあるのであります。そういう点をどういうふうに区別するかというこは、昔から非常にやっかいな問題でございまするが、私は、やはり必要経費の見方について考慮し、そしてまた地方税の方の、小さい方々につきましては基礎控除の点を考え税率の点を考えていくよりほかに、万般の事態のときにはなかなかやっかいな問題だと思います。通牒その他については、国税庁長官が来ておりますので、その気持を長官からお答えいたしたいと思います。
  158. 春日一幸

    春日委員 私たちもこの問題を、長官がかつて主税局長であられたころ、さらにまた平田さんが長官であられたころずいぶん論じまして、中間的の措置としてこの通達を出してもらい、さらにその補完通達を一再ならず出していただいて、その執行を求めて参ってはおります。けれどもその効果があがらないから、またわれわれの理論というものは、やはり法律によらざれば最終的な効果をおさめることができないと考えたので、特に大臣にこの法的措置を講じていただきたい、こういうことで質問をいたしておるわけであります。非常に複雑で取扱いが困難であるといえば、しかくさようでありましょうが、私たちは、いろいろ専門的立場においてこれを検討して一つの案を準備いたしております。これは不日法律案としてここに出して御検討願いたいと思っておるのでございますが、そのアイデアを申し上げますならば、この勤労性事業、すなわち資本性事業ではなく勤労性事業をいかに規定するかということも、まず問題でありましょう。けれども、私どもはこれを大胆に踏み切って、まずその事業の規模において、工業ならば従業員十名以下、商業ならば従業員二名以下の零細なもの、そしてそれらの事業から生じてくるところの所得のうち最初三十万円までは、しょせんはその営業主の勤労の成果であろう、こういう規定をいたしまして、勤労所得に対して勤労控除が経費とみなして損金に入れておるというこの例を徴して、これに対しても特別勤労控除百分の二十を適用してはどうであろうか、まあこういうのがわが党の案であるのであります。そういうふうにして参りますれば、さきに国税庁長官通達で発せられておる所得税の取扱いの区分等の精神ともそんなに隔たるものではなく、そして零細所得者のそういう所得に対して、税法上の恩恵を勤労所得者と同じように及ぼして、よってもって事業税から来たるところの重圧をこれによって救済することができる、こういう工合に考えておるのでありますが、一つ長官、これはどうしようこうしようということを事務当局と話すべき問題ではないのです。これは渡辺さんと何べん話したって問題ではない。これは、私はきのうも執行委員会であなたの人物評論があったのですが、いずれにしても、あなたは現実の問題として一個の国宝的存在です。少くとも徴税行政については、あなたは確信を持っておられるから、いいことはいい、悪いことは悪いといって踏み切れるのです。だから、一つ本日ここに残っておりまする委員たちは、少くとも国会を通じての税法上のベテランです。ですから、一つ政府における権成者、そうして権力を待つあなたと私たちの側とで、この問題を政策論として胸を開いて一つ解決のために努力をしてみようではありませんか。私たちは、今唐突にこの理論を起したのではありません。これは歴史的に見れば、すでに数ヵ年さかのぼりますけれども、これは今までの大臣、小笠原三九郎さんでも、それから一萬田さんでも、税金のことを話したってカエルの顔にしょんべんで、何もわからない。へらへらと聞いているだけでだめです。あなたならばやはり心に触れていくし、ものの判断もあやまつことがないと思う。ですから、これは私たちもやはり税制の特別委員会であらゆる角度から法制家たちの意見を徴して、ここに一案を作ったのですから、どうか一つこの問題を、あなたは通達をお読みになっていないということでもありますから、どうしてこんな通達を出さねばならないような必要を生じておるのであろうか、その後の経過等も一つ十分に御検討になって、この際零細事業所得者が、この給与所得者にはないところの事業税の二重課税について困っている分に対して——青色申告や法人の人は、経費は経費として全部計上できますから問題はありません。主として白色申告の場合を私は論じておるのでありますが、この際実情に適する措置を講ずる意思はありませんか。この際一つ大臣から、高い政治的の立場から御見解が承わりたいと思います。
  159. 池田勇人

    ○池田国務大臣 非常にやっかいな問題を提起せられました。前から私もいろいろ考えたことがあるのであります。しかし春日さんの案がどういうふうになっておりまするか、お考え方向としてはわかりましたけれども、どういう御案か、まだ拝見いたしておりません、名案がございましたなら、十分研究いたしたいと思います。
  160. 春日一幸

    春日委員 責任を石村君が負うておりますので尋ねましたところ、ここ一両日のうちにはコンクリートな案ができるようでありますから、わが党が長くかかりましていろいろと専門家の意見も聞き、かつ税法土の均衡等も考えて練っておりました一案がありますから、一つどもがわが党案として提起いたしまする場合に、その際大臣にもお見せして、できることなら政府提案、あるいは両党共同提案でもけっこうでありますから、一つこれら零細企業者の多年の要望にこたえていただきたい。申し上げるまでもなく、本年度は税の自然増収が神武以来といわれており、さらに予算は通過したといえども、高木教授も申される通り、本年度においても来年度においても、これは相当の自然増収が見越されております。しかもこれがあなたによって締められておるわけであります。あなたの腹の芸で、この程度の特別控除というものをやってやれないわけではございません。どうか一つこの問題は切実な問題として、零細業者たちの多年のその要望にこたえていく。そうして、それは今期をおいてはその適当なチャンスはない。こういう意味でも、一つ案ができましたら特別な御考慮をわずらわしたいわけであります。  ではこの問題は、その程度にいたしまして、もう一つあなたに具体的措置を要望いたしたい事柄は、伺いますと、今回あなたの財政投融資のあの中で、金融保証協会の特別会計に対して十億円の政府出資が行われました。この金融保証協会の制度は、これは全国地方公共団体の出捐によりまして、現実に中小企業金融に対して大きな貢献をいたしております。ところがこれがだんだんと貸し出しの額が累積して参りまして、保障基金が足らなくなってきた。よってもってその保証能力というものについても次第に限界に達しておるかと存ずるのであります、そこで考えられることは、当然この保証基金、これをふやさなければなりません。政府が今回十億円の出資をしてくれましたけれども、これは全国の保証協会にそれぞれ貯託するといたしましても、その額は知れたものでしかございません。そこで私はお願いしたいことは、これは金融機関が当然この保証協会への基金として適当な額を出捐すべき義務があると思うのです。と申しますのは、この保証協会は、本人が借りて返さなければ、県なり地方自治団体がかわってこれを代払いをする。金融機関には一銭も損がかからない、一銭も損がかからない制度で、この保証によって金融機関は相当な利益を壟断しておるといっても過言ではありますまい。そういう意味から、この受益者がそういうような機関に対して、ある程度資金的な参画をするということは、これは筋の通ったことであろうと思う。ところが金融機関は、本日までほとんど名目的な出費にとどまって、実質的な出資をいたしておりません。そこで、これは一体どうしたらこの金融機関がそういう保証協会に出捐できるか、こういうことを考えますると、これは税法上の特別措置と申しましょうか、金融機関が保証協会へ出捐する場合にその金額を損金とみなす、こういう一つの政令でありますか、これを出していただきさえすれば、この問題は解決するのではないかと存じます。なるほどこれは金額ではありませんから、そういう法律が出たからといって、税金によって保証協会の基金がふえるというわけのものでもなく、これは百分の四十なら四十という限界においてのみしか効果を奏しないでありましょうけれども、しかしこれを契機として、ほうっておけば税金にとられるやつを、一定額一つ保証協会に出資しよう、こういうことで保証協会と金融機関、それから金融機関とそれから保証を受けて金を借りる人々との間のつながりというものが実質的にできて参る、精神的にも、また保証協会の機動力を高める点においても、これは非常に有効な措置であると思いますが、オリンピックだとか、いろいろなものがすっと政令によって寄付金や損金に算入の制度があるわけでありますから、私はこのような、保証協会というような団体に対しての出捐金が損金に算入されるというようなことは、私は本日すでにおそきに失するのではないかとすら考えるものであります。今日中小企業者が金融難に困っておるし、金融の前途も必ずしも明るくはない、政府もこれを認めて十億円出資しておるのでありますから、この際金融機関が保証協会に出捐する場合、その出捐金を損金として算人することができるという、こういう制度をこの際お打ち立てに相なるの意思はないかどうか、そういうことをやってもらいたいと思うのであります。このため一つ踏み切っていただけませんか、御見解をお伺いいたします。
  161. 池田勇人

    ○池田国務大臣 保証協会が数年前からできまして、私もかなり関心を持って、そうして今回十億円の財政投融資をやることを決意いたしたのでございます。今この問題につきまして、金利をどうするかという問題がございまするが、そういう問題以外に、あなたがおっしゃるように、普通銀行が保証協会とタイアップしてもっと力を入れて、そうして金融を受ける人たちのことを考えたらいいではないか、まことにごもっともな御意見と思います。この普通銀行の信用保証協会に出しまする出資を損金に見るということは、今ちょっとお触れになりましたオリンピックに出すとか、これは出しっぱなしでございまするが、これはあとあと戻るべき筋合いのものでございます。なくなったものじゃないのでございますから、これを損金にするということに今すぐ結論を出しまするよりも、私はもっとつながりを強くして拡大していく、こういう方向一つ考えていきたいと思います。
  162. 春日一幸

    春日委員 これは消費されるものではありませんから、従いまして、後日これが解放されるという場合に、その財産の帰属ということをいろいろ考えられたこともあろうと思いますが、これは、そういう腹さえきまれば、こまかい措置というものは合理的にどういう工合にでも規定されると思います。総財産がもとのところに帰属していく、そうしてそのとき収入になって、これがそのときの課税の対象になっていくということで、私は不合理な面は、その執行の面において別にどうにでも補充措置が講ぜられると考えるわけであります。全国の中小企業者たちも、とにかくこの保証協会の基金をふやせと言っておるが、いずれも地方公共団体は財産乏しくして、なかなか保証協会の基金の増額措置はできませんし従いまして、やはり国家においてそういうような非常にデリケートで、しかも効果の上る方策を講ずることによって、容易にその中小企業者の要望にこたえ得るのであります。これは、今銀行の経理状態も必ずしも悪くありませんし、さらにかれこれ七、八カ年間にわたりまするこの信用保証協会の制度によって銀行が上げておりまする利益というものは膨大なものです。それは貸し倒れが一つもないということ、貸し倒れがあれば、全部この保証協会が代位弁済をしておるというこういう立場において、この際の還元給付というわけではありませんが、そういう立場において、この保証協会に対してある程度の出捐がなし得るように、しかもそれがこの税法上の一措置によって大きな効果が上るというならば、これはこの際一つ大胆に踏み切ってみるときではないか、こういうふうに考えるのでありますが、大臣、一つそういう方向へ向って努力をしていただく御意思がございませんか、あらためてお伺いいたします。
  163. 池田勇人

    ○池田国務大臣 損金に認めるかどうかという税法上の問題よりも、もっと広い目でいろいろ考えてみたいと思います。こういう問題は、ここで大蔵大臣としてぱっと答えまして、それがうまくいかない場合もありますし、またかえって限定せられて全体の問題が解決しない場合もありますので、そういうお考えの点は頭に入れまして、少くとも私が今回十億円出す気持も、信用保証協会を拡大強化しようという趣旨から出ておるのでございますから、今後検討してみたいと思います。
  164. 春日一幸

    春日委員 くどいようではありますが、国の財政投融資をもって、あるいは地方公共団体のそういう投融資をもってこの保証協会という機構はなさるべきものではない、これはやはり政策融資でありまするから、政策機関か政治団体がそういう措置をするということは当然のことではありましょうけれども、やはりこれと最も密接な関係にある金融機関がこれを冷たくひややかにながめておるという現在の態勢というものは、よろしくない。私はこの組織論の上から考えましても、これは適切な資金構成ではないと考えるのです。これは、当然地方公共団体が出捐すると同時に、むろん協会も出捐をする、同時に金融機関もこれに出捐して、三位一体の形で資金構成がなさるべきである。そして、その資金というものがさらに増大を必要としているときに、その増大の方策いかんということになれば、私が申し上げたように、当然彼らが自分の白紙の金をもって出捐するに越したことはないけれども、現実にはなかなかそういうことが期待できない、なし得ない状態にある。なし得る状態に誘いの水をかけるためには、そういうような損金に算入できるというような方策を講ずる——私は自説に固執するわけではないけれども、そういうことは、最もその誘いの水として効果あるの措置と考えるのでありますが、しかし大臣には、ほかに案もあるようであります。だとするならば、この際大臣がこういう公けの席で言明されることは、責任は重大なんです、影響することもいろいろありましょうけれども、これはあなたもでたらめなことを言われるわけではなく、やはり相当の抱負を持っておっしゃることでありましょうから、どのように影響したってかまわないじゃありませんか。一つこの際あなたのアイデアを、アウト・ラインだけでもけっこうでありますから、大臣の構想の方向だけをお示し願いたいと思います。
  165. 池田勇人

    ○池田国務大臣 この出資その他を免税という甘いと申しますか、一つの方法で誘うということも考え得るのでありますが、これは強制するわけにはいきませんので、いずれ普通銀行の方の意向等も聞きまして、また先ほど触れましたように、十億円出資に対しまして、政府の金利その他もきまっておりません。いろいろの点がございますので、総合的に検討していきたいと思います。ただお話しいたしたいのは、今回十億円を出すことにいたしましたのも、やはり保証協会を拡大強化して、中小企業の方々がお金を借りやすくする一つの方法としてやったのでございますから、趣旨としては、春日さんのおっしゃる気持は私は十分わかる。今免税にしてこれをやるのだというようなことは、全体の問題を調べてから結論を出したいと思います。
  166. 春日一幸

    春日委員 それではこの問題は、私がただ思いつきで申し上げておるわけじゃなくて、こういうような方向をとるにあらざれば金融機関の資金は導入いたしがたい、こういう全国の保証協会が——これは三、四年前でありましたが、当委員会に陳情を寄せて参りました。けれども、そういうような事柄は当時もいかがでありましたか、いろいろな事情で実現を見るに至りませんでした。そこで私は、今金融機関の経理内容もだいぶ好転しておりますし、また中小企業金融というものも政策的に高く評価されておるこのときに、税法の操作によってそういう効果をおさめ得るのときである、可能性もあるし、またそうしなければならない必然性というものも非常に高められておるときだから、こういうことを繰り返して申し上げておるわけであります。従いまして、大臣がさらに検討してということでありますから、税法審議されておりまするこの段階において、できることならば、一つこの際英断を持ってこれを実現していただきたいと考えます。伺いますに、火曜日になりますと、この税関係法案が上るようでありますから、相願わくば、それと相前後いたしまして、これに対する大臣の最終的な方針が本委員会において明らかにされますことを強く要望いたしまして、私の質問を終ります。
  167. 山本勝市

    山本委員長 石野久男君。発言の前にお願いいたしますが、大臣との約束の時間がはるかに過ぎておりますから、なるべく簡単にお願いします。
  168. 石野久男

    ○石野委員 委員長からの御注意もございますので、きわめて簡単に税制改革の問題についての概括的な質問だけさせていただきたいと思います。  今後の税制改革は、前から盛んに政府では、税制の根本的改革ということを主張しておられたので、今回の改革は、その根本的改革の趣旨に沿うものであるかどうかということを、まず大蔵大臣からお聞きしておきたい。
  169. 池田勇人

    ○池田国務大臣 根本的改革と申しますと、直接税、間接税各般にわたって、スケールの問題もございます。それから所得税等におきまする非常な税率の変更等も、所得税自体といたしますと、根本的の改革とも言えると思います。しかし金額その他におきまして、所得税あるいは租税措置法につきましていまだかつてない改正を加えておりますので、直後税の方面につきましては、私は相当の改正だと考えております。
  170. 石野久男

    ○石野委員 今度の改革、特に所得税関係については、大体先ほど来同僚議員からも言われておるように、昭和十五年というものをめどに置いての改正が行われておるようです。しかし昭和十五年というのは、御承知のように当時の国内の事情から言いまして、戦費調達のための税制改革が行われたというふうに見られると思います。あのとき以来、非常に大衆課税が積極的に行われてきておるのだとわれわれは見ておるわけです。従って、われわれの考え方からすれば、むしろやはり改革の基準というのは、シャウプ勧告などでもありますように、昭和九年から十一年というようなものを中心とする、そこへ改正の主目標を置いていかなければいけないのではないか、こういうようにわれわれは考えるけれども政府としては、その点についてはどういうふうに考えておりますか。
  171. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は、これは見方の問題だと思います。実を申しますると、税制改正案が審議せられる途中におきまして、私は大蔵省出身の、ことに主税局育ちの者として相談を受けました。三十分ないし一時間ばかり聞いたのでございますが、どこに主眼を置くかということにつきましては、主税局長の原君の説明を聞いたので、私は必ずしもそれがどうこうという問題ではないと思います。先ほど来、いろいろな質問に対して私がお答えしたのも、いつの年度を基準にしてこれと比較するかという問題につきましては、私は各人各様の見方があると思います。そうしてシャウプ勧告が昭和十年を基準にしておりましたか、(石野委員「九年から十一年」と呼ぶ)九−十一年を基準にしておりますか、私はそうは受け取っておりませんが、昭和九年ないし十一年というのは、よく戦前の経済力の基本をいっておりますが、昭和九年に改正いたしました臨時利得税法、これは九年の暮れにやって十年から施行いたしましたが、臨時利得税法も、それならば満州事変以後の臨戦態勢といわれないか。昭和十一年の広田内閣の馬場財政のときには、これは準戦時態勢ということが、ちらちらにおっておったのであります。従いまして、私はどこを基準にして今の税法を論ずるかということにつきましては、事務当局はだいぶ言ったかもしれませんが、また私もそれに反対したわけではありませんが、しかし考え方としては、現在の負担と将来どうなるかという問題を主にして議論すべきだと思います。ことに貨幣価値の異同をそれに盛り込んで、しかも所得の階級層を、あまり実際の階級層を入れずに比較をするということは、私は一がいに悪いとは申しませんが、それが金科玉条のものと考えるべきではないと思います。
  172. 石野久男

    ○石野委員 これはいろいろの見方の相違もあると思いますから、そういう観点の相違についてはとかく申しませんが、たとえば昭和十一年が準戦時態勢の時期であるという時期における税法上の、たとえば所得税などを見ますと、税の中で所得税が占めておる率というのは、大体一一・一%か二%だったと思います。昭和三十一年度におけるところのそれが二七・三%になっているわけです。所得税それ自体を見ましても、当時から見ると、非常に税制上に占める率が過重になっているというふうにわれわれは見ております。しかもその内容が先ほど来言っておりまするように、昭和十五年という特に戦時態勢に入ってきて、戦費調達をきわめて必要としておる時期におけるそれを大体共準にした姿が出てきておると思う。その後昭和二十五年にいわゆるシャウプ税制というものが出て参りましてから、あなたのいわゆる税制の、その後における何回かの改正を通じて持たれた税制改正というものは、ほとんど資本蓄積という形にその重点が置かれてきていると思います。そういう形の中から、その資本蓄積というものが、非常に高額所得者だとか富裕者だとかいう者に対して優遇策をとってきた、それは今日の税法上のいろいろな面を見てよくわかると思います。ところが昭和十五年当時の大衆課税の性格というものを、それじゃ昭和二十五年以降におけるところの税制改正の中で何らか手を加えて、それを減退させるようにしてやったかどうかというと、そういうことはしていない。ところが一方においては、とにかく資本蓄積のために高額所得者だとか富裕者だとかを非常に優遇してきておる状態が出てきておるし、一方においては、大衆課税的性格をそのまま残してきているというのが、今の税制のいわゆる特筆的なものだろう、こういうふうに思うのです。従って、私はこの際今日の税制の基本的な核をなす資本蓄積のためのいろいろな考え方というものを、もう少し別な角度から考えなければならぬのじゃないかというふうに考える。特に神武景気だとかなんとかいわれている時期においては、資本蓄積のために行われる施策を、もっと日本の資本家の自主的な立場からする自分の資本への構成をはっきりさせるという立場に置きかえていく、そういうふうな税制の立て方をしなければいけないんじゃないかというふうに私は考えるわけです。そういう立場から、特に昭和十五年とか十年という時期をきわめて大事に考えるわけでして、そういう意味からもう一ぺん所見を承わりたい。
  173. 池田勇人

    ○池田国務大臣 私は先ほど申し上げたので尽きると思いますが、この税制改正につきましては、やはりいろいろな原則、いろいろな考え方があると思います、われわれはあくまで、負担の公平を考えながら、そのときどきによって必要な施策を加味していきたい、こういうのでいっておるのであります。  資本蓄積に重点を置いたのではないか、こういうお論でございますが、われわれは、日本経済再建のためにやはり資本の蓄積が非常に必要であるということを感じてやったのでございます。わが国の戦後の経済が今日まで急速に伸びたということも、国民各位の御努力によることとはいいまするが、財政経済政策としては、まあ大体無難にいったのではないかと、私は言い得ると思うのであります。しこうして今後の税制の問題についてはどうするかということになりますと、ここまで参りますると、ある程度経済政策を加味しておったものを、徐々に負担の公平の方に重きを置いていくようにすべきではないかというのが、今度とられた税制改正の措置であると思います。
  174. 石野久男

    ○石野委員 そこで、今まで資本蓄積のために非常に重点を置いてきたという問題を、負担公平、税の公平化という立場から改正を行われた、しかしそれにもかかわらず、なおまだやはり大衆の負担は非常に大きいと思うのです。ことに最近では、所得の格差というものは大衆の中で非常に強く出ておると思います。大企業と中小企業との間の格差、あるいはまた就業している者と就業していない者との差、こういったものの差を今是正していこうというについては、どうしてもこれは租税政策上の立場からしなければ、今のところはとてもできないのではないか、こういうふうに考えるけれども、その点についてはどういうふうにお考えになりましょうか。
  175. 池田勇人

    ○池田国務大臣 資本の再分配、所得の再分配等につきましては、これはお話しの通りに、税制が相当の役割を勤めることは昔からいわれておるところでございます。
  176. 石野久男

    ○石野委員 もう一つお伺いします。そういうような立場から、今のところ資本蓄積のための非常に重点を置いた施策をやはり改めるのには、どうしても累進制度というものをもう少し重要視しなければいけない、少くとも米英並みに七、八〇%程度までは累進率を持っていくということを考える、あるいは課税程度を逓減させるために、四十万円くらいまでは非課税にするという考え方をしていかなければ、とてもそういう方策は出てこないというように考えるのですけれども、その点についての政府考え方はどういうものですか。
  177. 池田勇人

    ○池田国務大臣 まだ日本の経済といたしましては、イギリスあるいはアメリカのような低率にはなかなかいかないと思います。そしてまた理想といたしましては、四十万円程度までは所得税をかからないようにすることも理想でございましょうが、現実の問題といたしましては、なかなか一足飛びにそこまではいかないのではないかと思います。歩んできた昔をお考えいただければ、われわれは先ほど申し上げましたように、日本の経済力の上昇に伴いまして、やはり相当の低額所得者に対する負担の軽減をはかってきておると言い得ると思います。
  178. 石野久男

    ○石野委員 時間が非常にないようでございますから、私はこれだけで、こまかい点はもう省きます、
  179. 山本勝市

    山本委員長 本日はこの程度でとどめます。なお次会は公報をもって御通知申し上げます。  これにて散会いたします。    午後五時三十一分散会