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稻葉参考人 いろいろ申し上げたいこともございますが、時間も限られておりますので、私は二点について申し上げたいと思います。その
一つは、従来の
国鉄の
資金の
使い方が、
国鉄の
輸送力確保あるいは再建という
ものに沿った
ものであるかどうか。第二点は、
外郭団体を含むところの
経営方式という
ものが、
経営調査会の
勧告以後合理的であるかどうか、この二点について申し上げたいと思います。
まず第一点について、実は私は
昭和三十年の六月に
設置をせられました
経営調査会の
委員に就任をし、その後約七、八カ月ばかり
国鉄の
経営内容という
ものを分析し、また選ばれて
起草委員になりまして、
国鉄経営調査会の
勧告案の
取りまとめに当ったのであります。これから
あとは私の
意見でございますけれ
ども、一番
経営調査会で私
どもが問題にいたしましたのは、なぜに
国鉄が
赤字を出すかということであります。これにつきましてはいろいろ申し上げたいこともございますが、簡単に申し上げますと、先ほど
石山先生も申されたと思うのでありますけれ
ども、
国鉄の
昭和三十年度
決算におきまするところの
運賃収入は、約二千五百億円ちょっとになります。そのほかに雑
収入とかいろいろな
ものがございますけれ
ども、これが大体
国鉄の
収入の主体であります。ところで、
支出の方を見ますると、これが問題の
勘定項目で、果して
国鉄の
経営勘定の
帳簿の
方式がいいのか、あるいは
資本勘定の
方式がいいのか、私はこれはやはり思い切って合理的に公社らしい
帳簿の
やり方という
ものを考えるべきだと思いますけれ
ども、一応この二千五百五十六億円の
内容を見ますると、大体
人件費に千二百億円、
物件費に千二十五億円、それから
資本勘定への繰り入れといたしまして、約三百億円
見当支出をされております。そしてなおかつ
国鉄の当時の
現状は、毎年々々借入金が増額をする。
終戦後
昭和三十年度の末で、千七百億円ぐらい借金が出ておる。三十一年度になりますと、それが二千億円になる。こういうような
実情になり、しかもこれだけのことをしながら、
国鉄は
終戦後の
輸送施設の
荒廃防止という
ものもできない。
国鉄の報告によりますと、取りかえを要するところの
施設が千八百億円ぐらいある、こういうようなことになっております。これでは非常に大
へんなことだ。しかし、
運賃値上げをしてこれを補てんをするのか、
値上げをする前にやはりそういううみが出ないような
やり方をとってもらうのか、あるいは両者を併合するとしてどういうことをしなければならないか、こういう
ものが
経営調査会の基本的な方針で、そして第一の
項目におきましては、
企業経営形態の
あり方、こういう
ものについて
勧告を行い、第二に金の
使い方あるいは
荒廃防止を具体的にどうしたらいいか、またその他
自動車あるいは
外郭団体、こういったような
ものについてはどの
程度の
合理化が必要か、それでもどうしても足らぬという
ものはどうしたらいいか、こういったような
ものも、
石山先生のおっしゃるように、もっと基本的な対策が必要なのかもしれませんけれ
ども、一応当面
国鉄の
経営のディスインベストを防止する、そうして当面はやはり
輸送力増強ということをしていかなければならないのでありますから、それをマイナスにならない
程度においてどういうふうに埋めていくか、つまり
合理化の点においてどの
程度これを埋めるか、またそのほかの
外部資金あるいは
プラスの
収入においてどの
程度埋めるか、こういったような
勧告をしたのであります。その
勧告案が
経営調査会の
答申案で、
工藤先生がおっしゃいましたように、一応私
どもが出しましたところのこの
勧告案は、組織の
形態の面において、あるいは具体的な実施の面において、百パーセントとは申しませんけれ
ども、ある
程度真剣な気持において着々と実行に移されつつある、こういったようなことは言えると思います。しかし、私個人で申し上げたい点は、それにもかかわらず、なおやはり
国鉄はもっと
合理化をする余地があるのではないか。またできるならば、やはり
国民に対する抵抗という
ものをできるだけとどめるために、ある
程度そうした
現状に即した思い切った
改善が必要なのではないかと思うのであります。
そこで、
経営調査会で私
どもがこれの
取りまとめをいたしまするときと、その後の問題という
ものを考えまして、
国鉄の基本的な金の
使い方について考えまする点は、
国鉄の
収入を目安に
支出をいたしまする
やり方が、どうも私
どもから言わせますると合理的ではないのではないか。つまり
国鉄は純然たる株式
会社ではないので、やはり
国民の
輸送力を全体としておんぶをする
ものでありますから、必ず不
採算線だといってこれをやめてしまうということは、なかなかむずかしいのでありますけれ
ども、大体
国鉄の
資金投下の対象は、大きく分けると
四つに区別ができると思うのであります。まず第一に必要なのは、
老朽施設を取りかえて
輸送の
安全性を期するということであります。それから第二の部面は、
輸送力の
増強であります。これはやはり
国民経済上の
要請に従いまして、将来は
石山先主と同じように、
国鉄が担任すべきところの
輸送分野は、全体の
輸送から見れば、相対的に低下はいたしましょうけれ
ども、当面は
輸送要請が上ってくるということは事実でありまして、当面の
輸送要請にどう応じていくか、それからさらに
短期並びに
長期で見ましたところの
経営の
合理化、たとえば石炭の使用をどういうふうにして少くするか、あるいは
物件費をいかに切り詰めていくか、あるいは
外部に
相当金を出しますので、
請負単価をどういうふうに
粛正をしていくか、さらにはまたいわゆる
電化や
ディーゼル化によって
経営上の
プラスをどういうふうに確保するか、こういったことに対する
資金の
投下、第四には、
国民の要求するサービスの
改善、こういったようなことがあるのであります。
ところで私の申し上げたい点は、どうも
国鉄の
やり方は、こういった
四つを合理的にやっていくという力に乏しい。やはり少い金でございましても
国鉄は今まで毎年五百億円ずつ
工事費という
ものを使っております。
昭和三十二年度からはこれを一千億円に上げる、こういうことになるわけであります。この五百億円の中で
ほんとうにまず行うべきは、
施設の
老朽淘汰でありましょう。たとえば私
どもも現実に見に行ったのでありますけれ
ども、地方に参りますと、今にもこわれかかったトンネルがある。また富士川の鉄橋は三億円もかければ取りかえがきくのだけれ
ども、それがなかなか取りかえられない。また新宿の
操車場などはもっと取りかえ
施設をやるべきだけれ
ども、これらはあまり合理的に行われておらない、こういったようなことが必ずしも即事故発生の
原因といことにはなっておりませんけれ
ども、そういった
施設をまず少い金の中で優先的にやっていくのが
順序でありましょう。そういうことを意識しながら他方では何億円かけて東京で倉庫を作るとか、あるいは停車場をきれいに掃除をするとか、こういったようなことを行なっております。やはり問題は、私も西独に行って非常に感心をしたのでありますけれ
ども、表面はきたなくても、まず第一に
施設の
老朽淘汰をある一定の金額の幅で合理的に行なっていく。その次には
輸送力の
増強をする、それと並行して
短期並びに
長期の
合理化をする。さらにサービスの
改善をする、こういったふうに合理的に
資金を
運営していただくということが必要ではないか。それがどうも
経営調査会の
勧告前も
勧告後もそういった点が無視されて、総花的に内部のチェック・アンド・バランスでお金が使われている。それが結局マイナスの効果を与えているのではないか、こういった点にやはり
相当の
改善が必要ではないか、こういう点を私は申し上げたいのであります。
もう
一つそれと関連をして申し上げたい点は、サービスの
改善という点でございまして、なるほどやはり
国鉄が
国民の
鉄道である以上、サービスの
改善ということが必要だということは認めますけれ
ども、私はいわゆる事故の発生をするような点を無視しても、あるいは
輸送力増強を無視しても、一応
国民に気に入られるような形で、きれいな車を作るとか、その停車場をきれいにするというような
やり方は、必ずしも合理的ではないと思います。そういうような点がなかったとはいえない。それと同時に、サービス
改善ということは、私は
国鉄だけを責めるわけにはいかない。むしろそういったような、
経営上半ば麻痺したような
状態になりながら、やはり新線建設ということを政治家はどうしてもプッシュをされる。また、やれ駅をきれいにしてくれ、新線を建設してくれ、自分の
関係の線にディーゼル・カーを入れてくれ、こういったような
要請が全国至ところから
国鉄にやってくる。これが回り回っていわゆる建設勘定の
プラスと、それから
経営勘定におけるところの
赤字、こういった
ものを造出している
原因になっているということも、これまた私は否定できない現実だと思います。
私
どもはそういったような観点から、まず
国鉄の
現状を中心にしてどの
程度資金が節約ができて、そしてその
資金の節約ができた部分は工事
投下量という
ものに増大をし、その工事
投下量が事故防止と
輸送力の
増強に応じられるか、こういうような点を算定してみたわけであります。若干腰だめではありますけれ
ども、何とか資材の買い方を節約するとか、請負の単価を切り下げる、さらに合理的な物の調達の仕方をする、こういうようなことによりまして、
物件費を五%あるいは一割
程度減らすというようなことができないか、その
程度の節約におきましても、経常勘定だけで百億円くらい節約ができるわけであります。
それから第二に、むしろ技術による
改良、たとえば石炭の使用の
合理化とか、あるいは
電化とか、こういったようなことにおいて、
長期で見てマイナス、
赤字を少くする、こういったような
方法がないか、しかしどうしてもいろいろ算定をいたしました結果は、
人件費部門に思い切った手がつけ得ないといたしますと、やはり借金を累年重ねていく、またいわゆる
輸送力増強をする、
国鉄の中でそう大きな節約がないといたしますると、ある
程度再生産を確保するためには、
運賃の
値上げが必要ではないか、こういった
結論に私
どもは到達せざるを得なかったのであります。
今度の五カ年
計画では、従来われわれが考えておりましたよりも
経済が伸張いたしました結果、当面
国鉄に対する
輸送要請という
ものが増大いたしております。こういう点が加味せられることになりまして、
工事費用が
相当増大をしております。しかし他方においてそれに伴うところの
輸送力の増勢からくるところの
運賃収入の増加という
ものも、別に
値上げをしなくても、より
プラスの条件という
ものが出てくるということは事実であります。この双方を勘案しなければならない。また私
どもがこの三十一年度末で二千億円になるところのこの
国鉄の借金をどういうふうにして消していくのか、こういうことに対しましてある
程度これを何年間と区切って、元利を償還するといったような
合理化を要望したのでありますけれ
ども、これは今のところ考えられてはいない。それからこの荒廃
施設の防止につきまして、五年たてば十分復旧ができますけれ
ども、もっとこれを徹底的にやるということに対する
計画がまだ十分行われていない、こういうふうに考えまして、必ずしも私個人はこの
計画によるところの金の出し方という
ものに同意はいたしませんけれ
ども、といって、私は
国鉄が
経営さえ
合理化すれば、
運賃価上げをしなくても、独立採算でできるということにつきましては、今まで検討いたしました結果、いわゆる疑義を惑ぜざるを得ない、こういう点を率直に申し上げておきたいと思います。
次に
工藤先生もおっしゃいましたけれ
ども、
外郭団体に対する措置は進められておるかということであります。私の率直な感じを申し上げますと、初め私は
委員になる前は、どうも
国鉄は非常にだらしのないところで、非常に官僚的で、かってな金の
使い方をしておるのではないか。そういう点がちらりほらりたくさん出ておるわけでありますから、そういったような感じで、むしろそういうことを公正化することにおいて、
運賃値上げをしなくても、
国鉄は十分やっていけるのではないか、こういうつもりで
委員になったのでありますけれ
ども、今申し上げました全体の
収入で、
支出の内訳を見ますと、やらねばならないところはたくさんあるけれ
ども、この
外郭団体や工事、こういった
ものの
粛正だけで、今の
長期に、
終戦後できた借金と今後の再建のための
工事費の増額の捻出をするということはできない。しかしいろいろ考え合せてみますと、どうもやはり
国鉄はもっと思い切った、こういう部外に対する措置をとってもらいたい。そうしてもっと公共
企業体らしく、また
国民の
鉄道らしく、いわゆる非難をこうむらないようにしてもらいたい、こういう点がなお多々あるのではないかと感じたのであります。また今でも感じておるのであります。そういったような観点で、
公正委員会では、先ほど
工藤先生のおっしゃいましたように、
鉄道弘済会以下いろいろな
外郭団体に対しまして、百まではいきませんけれ
ども、七十くらいの、いわゆる
改善策という
ものを
勧告し、それが実行に移されております。また三〇%くらいは直していただきたいと私は考えます。そしてどうも今までの
あり方を考えますと、本体がオンボロなのに、外郭機関だけはちゃんとする。そこへ
国鉄の出身者がひもをつけて入るという
やり方は、私はあまり好ましいことではないと思います。それはだんだん
改善をされつつありますけれ
ども、やはり
国民の
鉄道として、もっと思い切った措置をとっていただきたい。それからもう
一つ私
どもが――これは私は直接参加をいたしておりませんけれ
ども、最近は鉄が値上りをする、あるいは石炭も上るという形で、なかなか
物件費の切り詰めということはできないのであります。しかしいわゆるひもつきであるところのいろいろな
会社や何かを整理する、そしてさらに工事についてはもっと節約し、これを公正にやるということにおきまして、あるパーセントはこういう
ものの値上りにもかかわらず、今までよりもいわゆる
工事費が節約できた、
物件費が節約できたという余地はあったわけであります。従ってこういうことに対しまして、もっと
国鉄がやっていただく、また
決算委員会がもっと内部を洗っていただく、こういう必要があるのではないかということを痛感いたします。
最後に私が一番申し上げたい点は、国会や政党で
国鉄の問題がいろいろ審議をされますけれ
ども、どうも私は新線建設という
ものを政党や国会が推進されると考えられることに非常に疑義があるわけであります。そして今後の
国鉄の再建
計画におきましても、おととしまでは一年間四十億円の新線建設しか認めていないのを七十億円に計上されております。またこれを増大しなければならないという形になっておる、そして
へんぴな地方に
鉄道が敷かれるということは決して悪いことではありません。しかし結局先ほど申しましたように、今
国鉄は非常にその
財政上の危機になっている、またわれわれはできるだけ
国鉄の
運賃値上げを避けて、低い料金で
輸送を確保したいと考える。ところがこういった
ものに対する
ものが回り回って
国鉄の
赤字を生んでいる。つまり建設費におきましても、そういうお金が使われ、またそれができ上った
あとにおきまして、経常費において
赤字ができる、こういったようなことになつているわけであります。従いまして私はどうしてもこれを政治の必要上やらなければならないといたしますれば、むしろ税金から堂々とそういう
支出をお出しになって、そして
国民に信を問われるという必要があるのではないかと思うのであります。私
どもは
国鉄をもっときれいな
ものにし、りっぱな
ものにしたいと思います。従いまして、国会もそういうことに対しましてもっとはっきりした
責任をとっていただきたい、こういうふうに考える次第であります。