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小山(亮)
委員 法務
大臣は、
山口県の方からずっと旅行されてきたのですから、大体いろいろのうわさでお聞きでございましょう。けれ
どもこの
事件は、当時の
状況から申しますと、わずかに三十九トンの小舟です。三十九トンの小舟というと、ほとんど引き舟くらいな小さなものです。それで、それの乗り組み
定員が七十七名、それに二百三十九名乗っているわけです。三倍乗った。この船はどんな人が見ましても船令が古いのです。木船で三十三年六ヵ月ですから、もう
相当古い船で、その船に三倍も乗るということは、ちょっと想像がつかないのですよ。これはちょうど生口島のお寺のお祭に出かけていきましての帰りの花見客ですから、みな
相当行楽気分で、酒なんか飲んでおったものと私は思う。それで帰りは、離れ島ですから帰ってくるときに船がない。船がないから、この船は、人が多過ぎて困るというので
臨時に出されたように新聞で見ております。そうしますと、それに乗り込んで
定員以上に乗ったけれ
ども、まだどうも
あとに残されそうで、残されちゃかなわぬので、団体客がどんどん乗り込んだ。団体客の性質として、大部分の人が乗って
あとに三人や五人残されるということはいやなものですから、ことに酒気を帯びておれば、無理やりに乗りたがるのが人間の普通の
考え方です。ことに国税庁の役人が二十人も乗っておったということを聞きますと、こういう
人たちも
相当帰りを急いだことだろうと思う。そこで、船の者が制止しましてもなお乗り込んだ。従ってある新聞によると、生き残ったお客さんが、この船は乗ったときから妙な船だった、右や左にぐらりぐらりゆれて妙な船だったということが出ている。私はそれを見て実に戦慄したのですよ。
定員以上に乗せて、しかもそんなに大ぜいの乗るべからざる人間が乗ると、船の復元力というものがなくなっているから、ほとんど危ない
状態になっている。そのときには船は頭が重くなりまして、ぐらりぐらりする。だから岩にぶっからなくとも、突風か何か起きて一波くると、片方の船ばたから波が入っただけで、お客さんはみな反対側に逃げますから、それだけでもひっくりかえる危険性を持っているのです。そういうことを
考えると、
船員が、自分は乗せないと思っても、わずか四人しかおらぬのですから、四人の
船員が、しかもその中の二人は十八才と十六才です。それがどんなに乗せない乗せないと言った
ところで、二百何十人がわっと乗られたら、もうそれでおしまいです。それでこわごわ出たものだろうと私は思う。ただそういう場合に、十六才の者に
かじを持たせておくのはけしからぬということは成り立たないのですよ。広い安全な
ところだったらだれが持ったっていいのです。
ところが私が非常に残念に思うのは、その
かじを十六才の子供に預けた場所が、佐木島の西海岸の
寅丸礁という岩が波の上に出たり入ったりするその暗礁の
ところで、その十六才の子供に
かじを預けた。これは
切符を見に行ったとかなんとかいう話を聞きます。しかし長い間の航海に一人で
かじをとらなければならぬということはない。便所へ行く時間でも
かじをとって、そこで用を足せというわけにいかないので、必ずそれはちょっと人に預ける場合がある。それは安全な場所に限る。この場所は岩に近い危険な場所だ。しかも聞いてみれば、潮が満潮になれば一尺五寸か二尺岩の頭が引っ込む、干潮になればその岩の頭が大半出るというような場所だという。そういう危険な場所に標識がないということがすでに間違っておる。私はきのうは
海上保安庁の長官にこの
責任を追及した。結論は日本の大蔵省が金を出さぬからできぬというのだ。私はこんなことに金を惜しまないで、世界の公園であるとか観光地であるとかいって風光明媚を誇っておる瀬戸内海が、だれが航海してもちっとも危険のないような
状態にまでするのには、そういう暗礁なんかというものを親切に教えてやるような標識を完全に整備するのがほんとうなんですよ。そうでなくて外客を誘致するなんというおおそれたことをやらぬ方がいい。それにもかかわらず、何にも措置がない。それではからずも
かじを六分間子供にまかせておる。そして岩に近づいて、しまったと思ったときには、やっちゃった、こう言う。新聞の報ずる
ところでありますが、私はそれを聞いて、なぜそういう
ところで
かじをこんな少年の手にまかせたかということだけが非常に問題だと思うのですよ。そのほかに悪意を持って船を沈没させようと思った形跡は一つもない。証拠を隠滅しようと思ったって、どこから見ても隠滅のしようがありません。しかもこれを取り調べるためにその道の練達堪能な、長い間
海上の経歴を持った
審判官が調べる場合に、この三十才の若い二等運転士の免状を持った
船長がごまかしようがないのです。それを警察官が調べれば、人をみんなどろぼうと思って調べるのですから、どれもこれもみんなけしからぬやつだと思うかもしれませんが、そうじゃないのです。どろぼうしようと思ってやったのでもなければ、船を沈めてやろう、人殺しをしようと思ってやったのじゃないのですから、動機が違うです。ですからなぜ勾留して調べなければならないか。人がたくさん死んだから勾留しなければならないのか、それとも新聞に大きく書かれたから手荒く取り扱った方が受けがよくなるからやったのか、あるいは人間の
権利とか自由とかいうものを全然無視して、元来そういう頭だから自然にこういうことを
考えずにやってしまったのか、私にはわからぬ。わからぬが、こういうことはやってもらいたくない。この点重ねて法務
大臣の御所見を伺いたい。