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1956-12-05 第25回国会 衆議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年十二月五日(水曜日)     午前十一時十六分開議  出席委員    委員長 高橋 禎一君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 高瀬  傳君 理事 福井 盛太君    理事 猪俣 浩三君 理事 菊地養之輔君       小島 徹三君    小林かなえ君       世耕 弘一君    林   博君       花村 四郎君    松永  東君       横川 重次君    古屋 貞雄君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 牧野 良三君  出席政府委員         法制局参事官         (第一部長)  亀岡 康夫君         法務政務次官  高橋進太郎君         検     事         (刑事局長)  井本 臺吉君         法務事務官         (入国管理局         長)      内田 藤雄君  委員外出席者         議     員 石野 久男君         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君         検     事         (入国管理局次         長)      下牧  武君         最高裁判所事務         総局事務総長  五鬼上堅磐君         判     事         (最高裁判所事         務総局総務局総         務課長)    海部 安昌君         判     事         (最高裁判所事         務総局刑事局         長)      江里口清雄君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 十一月三十日  印章法及び印章師法制定に関する請願松岡松  平君紹介)(第三一六号)  更生保護関係事業窮状打開に関する請願(鈴  木周次郎紹介)(第三一七号) 十二月三日  保護司実費弁償金増額等に関する請願江崎真  澄君紹介)(第四一二号)  同外一件(河野密紹介)(第四三六号)  同(高橋禎一紹介)(第四三七号)  仙台地方裁判所登米支部庁舎改築請願(村松  久義君紹介)(第四三八号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  法務行政に関する件  人権擁護に関する件  裁判所司法行政に関する件     —————————————
  2. 高橋禎一

    高橋委員長 これより法務委員会を開会いたします。  それでは法務行政及び人権擁護に関し調査を進めます。発言の通告がありますので、順次これを許します。古屋貞雄君。
  3. 古屋貞雄

    古屋委員 私は外国人登録に関して法務大臣にお伺いしたいと思います。外国人登録目的は、御承知通り、居住の関係身分関係を明らかにいたしまして外国人の公正な管理をすることにあるのですが、同じ外国人でございましても、かつて日本人であり、日本の国民として納税義務、兵役の義務を果し、さらに大東亜戦争には身をもって戦争に参加をさせられ、あるいはたくさんの徴用工として強制労働をしいられました朝鮮方たち並びに台湾方たち、これらの人々は、日本ポツダム宣言を受諾いたしました以後外国人としての取り扱いを受けておるのでございます。しかもこれらの人々相当数日本におります。しかし、これらの人々は、ポツダム宣言を受諾した直後に、あるいは日本平和条約をサンフランシスコにおいて締結いたしました当時に、国籍選択の自由を与えられていないのです。日本に長いことおり、内地を永住の地と定め、しかもそこで生まれて参りました人々相当おるわけであります。その後日本帰化をしておる方もありますし、最近においても帰化申し出をしている方たちがあり、私どももそのお世話をしているのがずいぶんあるのです。そういうような特殊関係に置かれている事実、この人々は他の外国人と本質的に異なっておる。従って、同じ外国人といたしましても、これらに対する取扱いは同一であってはならないと思うのです。従いまして、台湾中国朝鮮国籍を持っておるが、日本に長年住んでおり、しかも現在は朝鮮に帰りたいと思いましても日本政府自身が帰さないという不合理な状況に追い込まれておる人々に対して、ほかの外国人と相違のあることを法務大臣はお認めになられるかどうかということをまず最初にお尋ねいたしたい。
  4. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は古屋委員のお心には沿いたいと思うのでありますが、どうもわれわれ日本人戦争に負けました直後少し用意が足りませんでした。立法が行き届いておりません。御指摘のようなまことに遺憾な状態に置かれているようであります。と同時に、今お話しのような人々の中からあまりにも犯罪者が多いということから、またその特殊な考えをわれわれ日本人が持つような事態がありますので、これは深く現在の事態を見きわめまして正しい立法をして、まじめなこれらの人々に不必要ないやな思いをさせないようにいたしたいと思っておりますが、それをどういたしたらいいかということに私も大へん苦慮いたしております。むしろ、私は、だんだん国際関係正常化いたしまして、これらの人々が容易に自分の欲する地方へ、国へお帰りになれるようにした方がいいのじゃないか、かように考えますが、この点については成案が熟しておりません。どうか皆さんと一緒になってこういう者の取扱いに関する特別な法規を制定するようなところまで持っていきたいと思います。御質問の御趣旨に対しては、私も非常に苦慮しているということを御推察賜わりたいと存じます。
  5. 古屋貞雄

    古屋委員 大臣は非常に良心的で、御心配になっていることはよくわかりますが、ただいま申し上げたような、ほかの外国人と違ったケースで、違った歴史で日本にいる。先日も本会議におきまして総理大臣から、韓国に関する大村収容所の方の釈放問題の質問に対して答弁がありましたが、そういうことももちろん大事でありますが、そういう小さいことを抜きにして、不幸にいたしまして朝鮮南北二つに分れているという関係もございましょうけれども、しかし、在住朝鮮人の六十万の方々は大部分帰りたいという方が多いわけであります。それが御承知通り韓国においては受け入れない、拒否されているというような現状がありますし、北鮮では、昨年参りましたのですが、喜んで帰してもらいたいという要望がある。このことは、法務委員会だけの問題ではなくて、両国間における国交正常化の問題、あるいは従来の自由の問題、その他の貿易文化交流の問題がございましょうが、法務委員会関係のありますことで私は制限してお尋ねしたいのですが、ただいま申し上げましたように、生活が困っている、犯罪が多い、こういうことを私ども詳しく考えて参りますときに、日本犯罪を犯さなければ生きていけないような状況に追い込んでいるわけです。それは日本だけではない。韓国では帰りたい者を受け付けない。しかし、北鮮では、幾らでも帰してもらえば受け入れます、こういうことを申し述べておりますし、帰りたいというので、しばしば代表方たちが、実は本年も相当長い間赤十字の前にすわり込みまでして、帰してもらいたい—。この問題については、さきごろ国際赤十字から代表が参りまして、北鮮南鮮調査されました。日本人大村状況調査されました。そして少くも来たるべきニューデリー国際会議においてはこの問題が取り上げられることでありましょう。そして、私は、国際赤十字が中心になって、南と北と日本赤十字を呼び寄せて、そこで相談して何とか解決してもらわなければならぬということを強く要望いたします。このことは、人道上の問題でありますから、やがて実現されるであろうと思います。それでありますが、そういう、今大臣が御心配になっているような問題は、総合的に大きな解決の道がつかなければ解決がつかぬのでありますけれども、私が当面の問題としまして承わりたいのは、ただいま御答弁がございましたように、そういう特殊な関係に置かれている朝鮮方たち台湾方たち、これらの人々に対します登録の切りかえが迫っておるわけです。この登録の切りかえについて、こまかいことは入管局長に私はお尋ねいたしますが、相当人権じゅうりんが行われておるわけです。しばしば私のところにも全国代表が参りまして陳情をされておりますし、お願いを申し上げておるのでございますが、実は本日もここに大阪から日本人並びに朝鮮人諸君七千名の署名の文書が私のところに届いております。いずれ正当な手続をいたすつもりでおりますけれども登録の問題につきまして特別な取扱いをしてもらいたいというのが要望なんです。たとえば、今私が御質問申し上げたように、特殊な事情下に置かれておる人でありますから、他の外国人のように、日本一定期間を切って旅行しておる人、あるいは日本に特殊な事務処理のための用件で上陸された方たち、こういうようなばらばらに日本に参ります外国人とは違った、固定した生活を持ったいわゆる生活の根源は日本にございました。登録令目的でありますところの住居の関係、それから身分関係というものは、もうこれらの人々は何十年間おりまして、日本政府ではっきりと管理されておるわけです。これらの人々が同じように登録令によって登録の切りかえをしいられるということに、今問題が起っておるわけです。全国の六十万の朝鮮人諸君だけでも相当これはトラブルが起きております。なるほど、このトラブル原因は非常に複雑でございまして、地方々々によって違っておりますが、そのトラブルの起きておりますということは、法務大臣がただいま御答弁ございましたように、なるべくいやな気持にさせないように、スムーズに何ものも処理して参りたいというお気持とは、およそ相反する結果が生まれておるわけです。新聞にも出ているように、指紋問題について相当ごたごたが起きております。それから、このことは、各市町村並びに区役所などの係の方たちが十分にこの規定の運営について考慮されていないという点に問題があると思うのです。従いまして、私が端的に法務大臣にお尋ねしたいのは、これをスムーズに何とか納得させて登録の切りかえをいたすような御方針で法務大臣はこれに対する処理をされるかどうか。長い間日本におり、ただいま申したような、日本戦争にも協力しておるし、納税もしてきたし、日本永住の地と心得て日本生活しておった、こういう方たちは、この外人登録ワクからはずすべきものではないか、そういう立法ほんとうに正しい立法ではないか、こう私は思います。この問題については、これも法務大臣のお考えだけはあとから承わりたいと思うのでありますが、その特殊事情にかんがみまして、登録をいたしますことを、少くも何らかの方法によって塩る一定期間まで、猶予と申しますとちょっと変でありますが、相当弾力性を持たれた処置をされる御意思が奉るかどうか。このことは、ただいま申し上げましたように、毎年一定期間が参りますと北鮮に帰れる見込みのついた朝鮮方たち相当あるわけです。そういうような道が開けるまで、あまり無理をせずに、登録問題については弾力性のある御処置が願えるかどうかということが、法務大臣に対する私の質問なんです。この点はいかがでしょうか。
  6. 牧野良三

    牧野国務大臣 御意見は私も全く同感なので、善後策のことを具体化することであろうと存じます。第一は、すでに幸いにして七、八〇%は指紋押捺その他の手続が終っております。残っているところに対して心配があるのと、どうも下の人々取扱いにはなはだ行き過ぎがある。その誤まりがこれらの人を刺激して、まことに遺憾にたえません。それは何とか今後を戒めるということでお許しを請うよりほか、ただいまはないと思います。私といたしましては、法律を制定する際に不用意であったと思いまするが、今は、これをどうして取り返すか、なるべく早く帰りたい人を帰す道を講ずるということを急いでおりますが、もう一つは、いい人、そうして日本にいたい人は、日本人帰化する手続を簡易にした方がいい、そうして帰化お許しすることのできない人は、はっきりあなたほお許しすることができないという理由を明らかにする方がいいと思うのであります。入国手続及び帰化手続について毎日御陳情を受けておる。それほど問題は重大だと私は思っておりますから、この点は、古屋さん、あなたのようなお方とよく御懇談申し上げて、具体的な善後措置を講ずる、そうして、とりあえずの措置としては、下部で実際事に当っている人々を深く戒めて、どこの人たるとを問わず、指紋をとることをいやがらないように思わせたい。文明人ほど指紋をとることをいやがらないのであります。現に、あなたも私も、どこで指紋をとられてもいやがらない。これを犯罪人扱いをしているからいかぬので、そういうことのないように大切に取扱いをすれば皆さんもおきらいしないものを、非常に不親切な取扱いをするらしいのであります。それは事務の方面を打ち合せまして深く戒めたいと存じますが、ほんとう心配でありますから、この点に対してはどうか御協力をいただきたいと存じます。
  7. 古屋貞雄

    古屋委員 非常に御親切な御答弁でございますが、問題は、八〇%までとられておるということになっておりますが、それはとれたかもしれません。しかし、それはスムーズにとれた問題ではなくして、たとえば非常にむずかしい無理な処置をとっておるわけであります。強制して連れていってしまいます。それで、登録令違反で、切りかえが行われなければ、やられるわけです。ひどいのは、陳情にも来ておりますが、山仕事に行っております間に、七日に一度しか家に帰らぬということで、警察がそれをつかまえて、やほり登録令違反ということで引っ張っている事実もある。それからまた、はなはだしいのは、現に今私が裁判をやっているのですが、日本人登録令違反で起訴しているのです。私は、検事ざんに、これは一体どういう理由ですか、日本人ですよ、日本人にこういうことをして起訴をしておる、これは職権調査事項だから、裁判所でお調べになって片づけたらどうですかと言ったのですが、これは三回開かれて、私も驚いたのです。楊八重子というのですが、楊八重子という名前ではないのです。ところが本人らしい。それは台湾人と結婚したというだけです。結婚したことは事実です。国籍は抜けていない。帰化に関する手続であるとか、国籍も何も見ないで、部長が告発したのか、どこが告発したのか知りませんが、これが調べられて起訴されておる。この事実一つだけでも、どれほどでたらめにやっているかということがはっきりわかる。それだけ厳重に相手方に対して苦しみを与えておるということが証明されると思う。私は、日本国籍を喪失しておるかどうかは、法務省のこれこれに行けばおわかりになりますと検事さんに説明するのだけれども、これは三回ほど開かれておる。まことに迷惑千万です。日本人なんです。日本人においてさえしかりですから、登録令違反がいかに厳重に末端においてほんとう常識はずれのことをやられているかが証明されるわけです。そこに人権の侵害があるわけです。こういう問題がありますので、朝鮮人諸君にいたしましても、台湾人諸君にいたしましても、登録令に絶対に省かれるものであるし、当りまえじゃないか、日本人じゃないか、日本人であって戦争に行って死んでおるじゃないか、しかも今戦争で死んだ数万の遺骨は、政府はそのまま呉と佐世保に積んでおるじゃないか、こういうでたらめなことをしておりながら、日本法律に従えということは一体何事かと言うのも、私は無理はないと思います。従いまして、法律がございますから、この法律を例外的に取り扱えということは無理でございまし、うけれども、私の申し上げるのは、相当弾力性のある処置をしていただきたい。これは、なるほど、法務大臣指紋をとることは文明人のやることだとおっしゃいますが、遺憾ながら東洋思想からいくとあまりよくない。現に中央の商業使節団方たち日本代表で参っておりますが、日中貿易促進議員連盟池田君に対して、あの指紋登録をするなら絶対に中国では遺憾ながら日本には使節団の派遣をいたしませんとまで言われておる。東洋におけると申しますか、アジアにおけると申しますか、古い考えかもしれませんが、遺憾ながら実際はそういう考え方を持っておる。登録をさせて指紋をとることは犯罪人だという先入観が入っておる。これを無理にしいて、国際上におもしろくない感情を与えたり、今後日韓交渉の再開されようとするこの大事なときに、そういう感情を起させるということも、あまりよくないことだと私どもは信じまして、日本の将来のために、一つ法務大臣は度量を大きくしていただきまして、相当取扱いは慎重にすると同時に、登録の切りかえに対する処置について弾力性のある考え方をどうか下の方にお漏らしを願って、公然と法律違反をしてもいいということは言えませんでしょうが、そこはやはり法務大臣政治性に基いて弾力性のあるお示しが願えればけっこうだと思う。  なお、参考に申し上げますが、朝鮮の総連にいたしましても、台湾の華僑にいたしましても、ずみから自分たちの方では組織的に一斉に啓蒙はすると言っておりますので、やはり納得をさしてやっていただきたいと思います。それについて相当期間今日まで実際やって参りましたが、末端までそれが届いておりません。自分の方でもとりあえず努力する、従ってこれは取扱い当局の方でもこれに対する弾力性のあるお取扱いのお示しを願いたい、こういうのが今の緊急的なお願いなんです。恒久的にはこのワクをはずしてもらいたい。これは、私ども立法者としての立場から、今から政府協力を賜わりまして、この改正には努力をいたしたいと思います。どうかそういう点について明快な法務大臣のお心持を発表願えれば、この問題を非常にスムーズに行えるのじゃないかと存じます。  繰り返して申しますが、近く北鮮南鮮に対する往来自由の原則の道を赤十字において開かれるという見通しがついておりますので、長い時間ではございませんから、その間におきまする取扱いを、ただいま申し上げたような弾力性のあるお取扱いを願えることをお約束ができればけっこうだと思いますが、法務大臣、いかがでございましょうか。
  8. 牧野良三

    牧野国務大臣 できるだけ御希望に沿うようにいたします。すべて御意見同感でございます。とりあえずのところは、団体の代表の方とよく打ち合せてそうして仲よくやる、無理なことはしないということが大事だと思います。具体的にはなはだ誤まったことを御指摘いただきましたが、これはほんとう人権じゅうりんのはなはだしきものであってよろしくございません。そういうものについては断固たる処置をとりましてそういうことを例として下の方にはどこまでも慎重に扱えということを徹底させることにいたします。
  9. 古屋貞雄

    古屋委員 その通り実行ができますように御配慮を願いたいと思います。入管局長もいらっしゃいますので、局長の方からもどうか一つそういうような趣旨処置お願いいたしたいと思います。  ただ、私最後にお願い申し上げたいことは、韓国に対する問題で緊急質問いたしておりますけれども北鮮のことについては政府もあんまりお考えになっておらぬようですが、北鮮の方はもう帰してもらえれば受け取ると言っているのですよ。それで、非常に北鮮では喜んで受け付ける、それからなお、困った者には金も送る、赤十字を通じて送るということになっておりますので、大村におきまする収容所の問題につきましても、やはりこの大村諸君に対する処置を緊急に何とか御配慮願いたい。法務大臣は、非常にその点について責任を感じて御解決を願うような、いわゆる釈放を願えるような御配慮をしていただいておるそうでございますけれども、これらの人々北鮮では受け入れると言っておる。そして金も送りますと言っております。生活の困る者については金も送りますと言っておる。特に日本生活保護を受けている関係が非常にでたらめだというので、厚生省ではやかましくこれを整理しておりまして、その整理の行き過ぎもあるようです。その生活費赤十字を通じて送りたいと言っております。教育費用赤十字を通じて送りたいと言っておる。こういう点を相当御考慮賜わりたい。今の現状においては、食うに食われないから犯罪を犯す——これは、朝鮮人諸君でなくしても、日本人といたしましても、生活が困るから悪いことをするのです。朝鮮には帰さないわ、職業は与えられないわ、上の方からはやかましくその本人管理をされているわ、これでは立つ瀬がない。従って、自殺も行われるし、凶悪な犯罪も行われるというような結果に追い込んでいるような、これに対する政府責任も多少考えて、こういう人々に対する態度というものは、こういう事情だということの事情をよく御考察の上で処理していただかなければならぬ。その意味において、大村収容所におりまする方たちも、長いのは四年もおりますし、相当人権じゅうりんも行われておる姿になっておりますので、やはりこの点は近い期間に開かれまするニューデリー世界赤十字大会においても大村収容所の問題の報告が行われると思うのです。そういうような重大な責任もあることでございまするから、これらの人々釈放も、やはり日本韓国における抑留民との交換というような、そういう功利的なお考えではなくして、人道上から釈放するのだということで、国際的な、民族的な信用を高めていただきたいと、かように私は要望する次第でございます。
  10. 牧野良三

    牧野国務大臣 よくわかりました。私どもほんとうにもう十カ月それに没頭しておるのであります。なお思うように実現できないということに対しては深い責任を感じておりますから、必ず御期待に沿うように努力いたします。
  11. 古屋貞雄

    古屋委員 終ります。
  12. 高橋禎一

    高橋委員長 次に、衆議院議員石野久男君より委員外発言申し出があります。これを許可いたすに御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  13. 高橋禎一

    高橋委員長 御異議なければ、さよう決定いたします。  石野久男君。
  14. 石野久男

    石野久男君 お許しをいただきまして、非常に事案の込んでおるところですが、きわめて簡単に、大臣に、ただいまの古屋氏からの質問になりました件に関連いたしまして、お尋ねいたしたいと思います。  在日朝鮮人の問題は非常に困難な問題になっておると思うのです。特に登録の問題を通じましてそういうことが考えられますが、在日朝鮮人の問題は、内務省統計から見ましても、一九一五年に三千九百人ほど在留しておったものが、一九四四年には百九十三万七千人というものになっておるわけです。特に一九四〇年から四四年までの間に約百万人の朝鮮人が在日することになった事情があります。その間、内務省統計復員局調査によりまして見ますると、三十六万五千二百六十三名という者が、今次の戦争軍人軍属等によって徴用され、または戦争に応召された人であるということは、すでに御承知通りだと思います。在日朝鮮人の内容は、そういうような事情のもとに、日本における在住者として外国人のうちでも非常に特殊の性格にあるものだと考えなければいけないと思います。今回の登録令施行に当りまして、そういう事情のもと、そういう歴史的な関係にある在日朝鮮人に対する取扱いの問題は、当然ほかの外国人の場合とは違った取扱いをすべき考慮をめぐらさなければならなかった事情があったと思います。しかし、そういうような点が不幸にしてこの法の施行に当ってはされていない。それと同時に、今日の在日朝鮮人は、国交が回復していないという事由によって、他の外国人が持つ国の出入りの自由を持っていない実情であります。本国を出て本国に帰るという自由も持っていないという条件にも置かれております。そういうことがいろいろな問題を引き起す原因にもなっておると思います。私はこの際に大臣一つお尋ねしておきたいのは、ただいまの古屋さんへの御答弁で、大体、非常に考慮をめぐらして、事の困難にならないように配慮しようという御意見があったわけですから、そのことは非常に私は了といたしますものの、なお次の点だけを大臣にお聞きしておきたいのです。  それは、この在日朝鮮人本国に帰すに当っては、今本国というものが南と北に分れている事情にあります。その本国に帰るということに対する本人たちの自由な意思を日本としては認めるかどうか、そういうことに対して何かの制約を加える意思があるのかどうか、この点をお聞きしておきたいのです。  それから、第二番目には、ただいま古屋さんに対しての御答弁でもはっきりしているのですが、法律上の取扱いに対して若干の不備といいますか、見落しのようなものがあったという意向のことも申されているので、在日朝鮮人取扱いに対する歴史的な関係考えて、将来法を何かの形で適当に改正するなり何かしなければならないという考え方をお持ちになっているものと思いますが、その点についての御意見一つ。  それから、もう一つは、先ほどの言葉の中に、これはちょっと私非常に重大だと思いますが、指紋を取るということは、今日では文明人指紋を喜んで取るんだということを言われている。その逆を言えば、指紋をきらうのは野蛮人だということになるわけです。しかし、これは非常に重大です。特に、隣の中国では、指紋を取られるということは犯罪人だというふうに見ている。従って、雷任民氏あたりも、周恩来氏あたりも、この指紋を取られるということになるならば、一人の人間といえども日本に国の名において出すことはできない、また中国の人民も行かないだろうということまで極言しております。そういうことを考えましたときに、指紋を取られることを喜ぶのは文明人だという発言は、ちょっと何かの調子で間違った発言じゃなかろうか、こういうように私は思うのでございますが、それについての法務大臣の御意見をもう一度承わっておきたい。  以上三点についてお尋ねいたします。
  15. 牧野良三

    牧野国務大臣 お答えをいたします。  在日朝鮮人に対して、帰国されたい場合においてその国を選ばれる自由意思を尊重いたしたいと存じます。それに対して誤まった推定をしたり別な取扱いをするというような意思は毛頭ございません。  法律はただいまのところ改廃する意思はございません。ただし、皆さんとよく打ち合せまして、どういうふうに適用をいたしたらいいかということは十分考慮しなければ、あまりにも在日鮮人の方々に御迷惑が多いようでありますから、そのことは考慮いたしたいと存じます。  私が最後に文明人の言葉を用いたのは、文明人指紋をいやがらない、野蛮人はいやがるという意味じゃありません。それで、文化的に御指導を願いたい。日本のあの法律は、外国人犯罪人その他特殊なものに扱うのではない。どこまでもこれは文化的に国際交流を円滑ならしめる方法であります。それを、御説のように、朝鮮でありますとかシナでありますとかの人々は、ただ自分の国で罪人扱いをせられた、そういうことを非常に強く御意識になっておるのじゃないかと思いますから、そういうお方はそういうように取り扱うように注意しなければいかぬ。日本でも、一たび罪人扱いをされた人が非常にいやがるのはそのためであります。だから、私ども人権を尊重して、そういういやがられることを無理にしないで、いやであれば他の方法がないかということを研究するということに努めなければいかぬと思います。そうしてどこまでも親善の実をあげることにいたしたいと存じます。
  16. 石野久男

    石野久男君 指紋の問題についての考え方は、いろいろと考え方の相違があると思いまするので、私は他日その問題は伺うことにしまして最後に、法務大臣の、いやがられるようなことであればなるべくいやがられない方法を考えるというそのお言葉は、私は非常に含蓄のある言葉だと思いますので、一つそういうふうにそれぞれの担当の実務者に対しての御指示を徹底さしていただきますように切にお願いいたしまして、私の質問を終ります。     —————————————
  17. 高橋禎一

    高橋委員長 次に裁判所司法行政について調査を進めます。  この際お諮りいたします。すなわち、最高裁判所当局より出席して説明をいたしたいとの申し出がありますので、国会法第七十二条第二項の規定によりこれを許可いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  18. 高橋禎一

    高橋委員長 御異議なしと認め、さよう取り計らいます。  それでは質疑を許します。高瀬傳君。
  19. 高瀬傳

    ○高瀬委員 私は主として裁判の遅延の問題について当局の意向をただしたいと考えております。御承知のように、新憲法が発布されてからすでに十一年になりますが、この憲法は、民主主義と人権擁護に非常な重点を置いて規定を設けておるのが特色と私は考えております。しかしながら、実際現実の状態を見ますると、司法及び警察の機関の行動は旧態依然たるものがあると考えられる節が多々あるのでありまして、これは旧憲法時代と比較して決して改善されておらないばかりでなく、かえってこの両機関の独善的傾向を非常に強くした感さえあると私は思うのであります。従って、私は、もっぱらこの司法機関の動向について当局の所信を伺いたいかように考えておるわけであります。  とにかく、迅速な裁判を受ける権利というのは、憲法三十七条に御承知のように確然と規定されておりまして、これは国民の非常に重大な基本的人権でもあり、早い裁判を受けるということは裁判の非常に重大な使命であると考えます。また今日国民が痛切に要望するところでもあると思うのであります。先般新聞紙などで報道されておるところを見ますと、メーデー事件のごときは、普通の審理方法及び速度をもっていたしますると昭和五十年過ぎに判決が下るということになるそうであります。その他これに類する事件が数々あることは諸君承知通りであります。従って、もし裁判がかくのごとく遅延いたしますると、極端に言いますならば、そのときの社会情勢も異なり、非常に刑の裁定についての考え方も変るというようなこともなきにしもあらずであって、全く歴史を裁判するような形になりますので、この点は非常に重大である。従って、こういうことで一体裁判のやり方が憲法に違反すると当局は考えていないかどうか、私はそういう根本的な考え方についてちょっと伺っておきたいと思うのです。
  20. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 御質問の御趣旨、まことにごもっともであります。これは少し前のことになりますが、進駐軍がおる時代にも、日本の裁判は公正ではあるけれどもいかにも遅延しておるじゃないかということでいろいろな非難をされたのであります。ところが、おっしゃる通り、新憲法は迅速なる裁判、公平な裁判を受けるところの権利を規定されております。でありまするからしてわれわれといたしましては、全体的に訴訟の遅延をどうして防いだらいいかということについて司法行政の面から日夜苦心いたしておるのであります。もとより、いろいろなこまかい点もございますが、大体、一つには、全体的に考えますと、終戦後に刑事事件が非常にふえた、その割合に裁判官の数がふえていない、かようなことが申されるのであります。たとえば、戦前五年間の裁判官の数と戦後の数とを比較いたしますと、裁判官の数においては一・二八倍の増加率に対して事件数の増加率は三・八九倍に増加しております。一人当りの負担件数は、戦前刑事事件において四十件程度のものが、今日では百十件くらいの負担件数になっております。事件のふえたという点もございますし、もう一つは、新刑事訴訟の手続そのものが、従来の予審制度を廃しまして公判中心主義になったために、非常な手数と時間がかかる。特に証拠とかその他の点についていろいろな問題が起ってくるのであります。そのために確かに刑事事件の遅延ということについてはいろいろな方面から手を打っていかなくちゃならない。かようなわけで、私どもの方といたしましては、まず裁判官の増員の要求をいたしておるのであります。たとえば、来年度の予算においても、裁判官、判事を合せて百六人の増員の要求をし、法廷その他の物的設備の要求もいたしておるのでありますが、今日のこれまでの状態では、この増員の要求はなかなか認められないし、施設の要望もなかなか容易に認められないというような相当苦しい立場におるのであります。しかしながら、それをもってただ苦しい立場におるわけには参りませんので、いろいろな会同、あるいはブロック別の会同、あるいは通達というようなことにおいて絶えず審理促進の方法を考え、協議いたしておるのでございます。
  21. 高瀬傳

    ○高瀬委員 ただいまの説明は、全く事務的にわれわれはそういう実情があるということは一応わかりますけれども、具体的な問題として、非常に裁判が遅延したために困っている人がたくさんおる。現に私はあとで具体的の例について伺いたいと思いますが、新憲法の趣旨から言いましても、どうもいろいろ定員を増そうとしても国家がなかなかそれに応じない、あるいは機構そのもの、あるいは刑事事件の取扱い方の手続というようなものが支障になっているという話でありますが、事実問題として、重要な裁判の遅延によって損害をこうむり、また精神的の打撃を受けている人もたくさんあり、事件もあるわけでありますから、これらの点についてはぜひ憲法の趣旨に違反しないように極力善処方を私は司法当局に要請したいと思うのであります。先般もわが党の政務調査会の法制部において最高裁判所の機構改革が議論されたことがあります。その際に、機構もさることながら、一体それによって裁判の迅速化が保障されるかどうかということが多数の委員の異口同音の議論であったのであります。ただ最高裁判所の機構を改正しても、それによって裁判の迅速化が保障されなければしかたがないということが多数の意見であったので、裁判遅延に関して責任ある法務大臣あるいは最高裁判所事務総長は、これらの点についてよく肝に入れておいていただきたい、こう思うのであります。先ほどの答弁だけではよく納得いたしませんので、裁判の遅延防止あるいは迅速化の具体的対策について一つ伺って場おきたいと思います。
  22. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいま御質疑にありました最高裁判所の機構改革の問題に関連いたしまして、これも実は昭和二十七、八年ごろに最高裁判所の未済事件が七千件を突破するような事態になっております。最高裁判所自体としては、最高裁判所の事件促進のためにいろいろな規則を作って、あるいは調査官その他書記官等の執務方法を考えるというようなことをしてやって参りましたのでありますけれども、何と申しましても、当時最高裁の訴訟遅延に対しては相当世間から御非難がありました。結局、政府においても、法制審議会において司法制度部会を設けて、そうして最高裁判所の機構改革に手を染められたのであります。この法制審議会において約三年間討議されたのでありますが、その結果、ただいま御指摘になりましたような政府案というものが一応法制審議会の答申に基いてでき上って、そしておそらくその政調会に提案されたのだろうと思います。もとより、この案は、私どもの方から申し上げるよりも、政府から御説明申し上ぐべきだろうと思いますが、とにかく、訴訟遅延の対策、最高裁判所自体の訴訟がおくれておる、これに対しては何とかしなければならぬ、かような趣旨から政府としては考えられた案だと私ども考えております。
  23. 高瀬傳

    ○高瀬委員 ただいまの事務総長の御答弁はさることでありますが、裁判遅延について総括的に、牧野法務大臣から、具体的の信念あるいは対策がおありであるかどうか、一つ伺っておきたい。
  24. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は全く根本的に意見を持っております。これは大陸法的な頭を持っておる国へ持っていってアメリカの行き方をそのまま入れた戦後における国会の当局者に大きな責任がある。外国をほめるときざに思いますが、ドイツへ行ってみますると、ドイツは、裁判は自分の国の人間を自分の国の法律でやるのだから、外国のおさしずはまっぴらごめんだといって彼らは自分の国の行き方を支持しております。日本は全面的にアメリカの指揮命令にそのまま従った。あなたも御承知通り、ことに刑事は証拠を検事と弁護士が競争みたいに出す。ああいうことをやってもし許さないと裁判官を忌避する悪い風習ができました。だから、ただいまあなた方が一審強化ということを仰せられたこの機会に、根本的に日本の裁判制度、ことに戦後輸入しました制度を再検討して、あなた方の手でしっかりしたものを立案してもらいたいのが一つ。  それから、最高裁判所にはずいぶんまだ反対の御意見があるようですけれども、あれほど一流の大家だけを十五人寄せて、あの十五人で判決を書かせようというのは非常な無理だと思います。あの人たちは裁判長の資格はあるけれども陪席になる点においては資格が欠けておる。だから調査官にたよるということがあり過ぎる。しかも、調査官は、責任がないのと、それでは重過ぎるということから、どうも裁判の進行が要領よくいかぬ。だから、何といいましても、現在の制度のもとにおいては、裁判長と、その下にきわめてたんのうな陪席になる四名の最高裁判所判事を配していきますれば、どんどん事件が消化できる。そして、大法廷だけが全員今までのような方々が出られるというあなた方の御意見を勇敢に実行してほしい。しかるに、どうも、裁判のことは専門的であるのに、ほかの人が入ってきて、皆さんの専門的た意見をスムーズに通さないので、今度の通常国会にはぜひあれを実現していただきたいと思います。
  25. 高瀬傳

    ○高瀬委員 ただいまの法務大臣の御答弁ですと、どうも今の最高裁判所の判事とか長官はあまり適任じゃないというふうに聞える。私も全く同感です。実を申しますと、田中最高裁判所長官は、始終夫人帯同で、やれカソリックの大会だとか、やれローマの国賓だとか、日本の裁判の進行に何ら関係のないことに絶えず外国に行っておる。それは国際的でけっこうであるかもしれませんけれども、具体的にあとで例を言いますが、現にいろいろな裁判に引っかかってもう八年も十年も苦吟している人々を全然顧みない、こういうことを言われても、僕は一言もないと思うのです。現に刑事裁判の非常な遅延というものは日本国中の問題になっておるのです。やれ外交官の古手を首つなぎに持っていく、やれ何だかんだといって、最高裁判所の長官から判事まで全部不適任じゃないかと僕は思う。われわれの選挙の際に国民投票だなんて愚にもつかないわけのわからないことをやって、いかにも国民の支持を得たような形でやっておられるけれども、裁判そのものの進行状態というものはゼロだ。特に私は田中最高裁判所長官のもっと責任ある態度を要望したい。あれは外国の招待だからいいのでしょうけれども、いやしくも最高裁判所の長官が年の半分ぐらい留守しておるのでは、裁判の進行がうまくいかぬのは当りまえだと思う。しかも、牧野法務大臣の言われたように、あの連中は不適任だ、私は全く不適任だと思う。ですから、一つ最高裁判所の長官に対して、あれは非常に偉い地位にあるのだそうでありますけれども、とにかく牧野法務大臣から厳重にむだな外遊などをやめろということを正式に言っていただきたいと思うが、いかがですか。
  26. 牧野良三

    牧野国務大臣 全く、そういう点をつかれると、その点に遺憾があると思います。十分皆さんの御意思に沿うような取り計らいをいたしたいと思います。
  27. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいまいろいろおしかりを受けたのですが、とにかく、現在どういうように事件を処理しているかということは御了承願いたいと思います。というのは、最高裁判所の現在においては、大法廷と小法廷が三つありまして、長官は大法廷の事件の裁判長はいたしておりますけれども、小法廷の裁判はいたしてございません。それから、小法廷に事件が参りますと、民事、刑事、どういう事件でも、全部順番に回転いたします。そして、事件が来ますと、調査官の方でその記録の調査とかあるいはそれに関係してくるところの法令の調査はいたしますが、さていよいよ裁判の審理に入りますと、今日では調査官は関係いたしておりません。やはり裁判官において合議をし、審理をし、そうして結論を出し、判決も裁判官自身において書いてやっておる。しかもその事件は今日年間六千件から七千件という非常な数多い事件を処理しておるということは御了承願いたいと思います。
  28. 高瀬傳

    ○高瀬委員 非常に数も多いし、なかなか大へんだということはわかるのですが、たとえば、ことしの五月五日に、これは阿部真之助氏だと思うのですが、毎日新聞の土曜評論で「歯がゆい裁判、余りにも延びると人権を圧迫」、こういう標題で裁判の遅延を指摘しておるのです。それは、やまり民主的な憲法を持っている国ではどこでもいろいろな事情で裁判が遅延しがちであるということは、私もわかります。しかしながら、日本の場合はかなり重大な事件が延び延びになっている。重大な事件でなくとも、たとえば小説家の今日出海一氏なども書いている。これはドキュメンタリーと銘打っているのですから、おそらく事実でしょう。これは昭電事件のごときものと比べて小さなケースではありましょうけれども、事実の記録だと思うのです。「黒白の外」という一つのドキュメンタリーがある。これは、自動車の運転手が自動車事故を起した。そうして裁判になった。もし自分に過失があれば非常な賠償をしなければならないので、本八も一生懸命になって過失でないということを主張し、裁判になって、第一審は無罪、それから最高裁に行ったところが、おそらくめんどうくさかったのでしょう、原審に差し戻した。そうすると、結局ああだこうだと林時雄君も、せめて自分の死ぬ前にこいって騒いでいるうちに五、六年たって、自動車の運転手は失職するし、経済的にも非常に困る。そうして、やっと裁判が済んだのが六年ばかりたってからで、そのときは両方ともくたくたになっちゃって、結局罰金五千円。そうすると、勝った方も負けた方も、何が何だかわからなくなつちゃってこの裁判の結果に対してただ苦笑するだけであったというのが筋なんです。だから、裁判もそういうふうにだらだらと延びてくると、えらいことになってしまう。この間に非常に多くの人が財産を失ったり、あるいは気の弱い者はめんどうくさいから主張を捨ててしまう、あるいは裁判に服してしまうというようなことがあって、それが人権じゅうりんのもとになると私は思う。私は特に法務大臣もおられるから注意を喚起したいのですが、昭電事件のごときは現に、名前を言ってあれですが、芦田均先生のごときは、いまだに問題が解決しないから、政治的活動というものは非常に制約されておる。現に、あの昭電事件は、御承知のように昭和二十三年の十二月十六日に起訴になり、第一審の結審が二十六年の九月にあった。また判決が二十七年の十月二十二日、そうして検事控訴が間もなく二十七年の十月二十九日にあって現在第二審、そういうような状態です。しかも三十一年二月二十八日第二審控訴審の結審、こういうことになっているので、その関すでに足かけ九年もたっておる。ですから、その間に、われわれの知っている議員でも、北浦圭太郎君のごときは、この裁判がきまらないうちに七十才で悶々のうちに死んでしまった。それから梅務大臣の御意向もちょっと伺って、みたい。いかがですか。
  29. 牧野良三

    牧野国務大臣 おっしゃる通りに、実にわが国の現在の裁判制度の欠陥を現わしておる模範的な事実のように思う。全く、こんな事態があるということは、文化の高い国としては非常な恥だと私は思います。何とかこれを改めなければならぬ。しかも、これは今ようやく控訴の程度で、さらに場合によって上告になれば十何年かかるということになると思いますから、それはおっしゃる通り根本的な重要なところにメスを入れなければならぬと思います。同感であります。(「それはよその国のことじゃない、あなたがやらなければならぬじゃないか」と呼ぶ者あり)私にはやれないのです。やりたいのですが……。前の司法省時代であると、私はある程度やれたと思います。ところが、全く手のつけようがない。それは私もあなたと同感で、遺憾を感じておる。
  30. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、その点について最高裁判所事務総長の具体的な御意見を伺いたい。
  31. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 先ほどの例に引かれた運転手の事件、これは、お言葉を返すのじゃないが、何か最高裁まで上告してきて六年かかった、それが破棄されて原審へもどった、めんどうくさいから破棄したのだろうとおっしゃるが、それはとんでもない誤解だろうと思う。おそらくそういう事件について原審の裁判を破棄するということはめったにないのです。だから、これは相当法律上の問題があって破棄して原審に差し戻した、従って相当年月がかかったのだろう、かように思うのです。なお、今の昭電事件とか、あるいはその他例に引かれたメーデー事件というような事件もございます。これらについて裁判所の現在の制度のもとにおいて、裁判所としては、昭電事件等は、全然ほかの事件はやらないで、八人の判事がそれに専念してやっておるのです。ほかの事件は全然扱わない。しかも中には病気になり、その点、現に一生懸命やっている。それにもかかわらず、やはりここに制度上のことも考えなくちゃならない欠陥もあるのじゃないか。メーデー事件でもその通りなんです。判事はこれに専任して、ほかの事件はやらずにやって、しかもなお現在の状態なんです。この点について、私どもの方の刑事局長から、大体どういうこまかいところにあれがあるか、詳細説明させます。
  32. 江里口清雄

    ○江里口最高裁判所説明員 刑事事件が非常におくれておるというお話でございますが、統計的に一般的に資料についてまず御説明申し上げたいと思います。  刑事事件は、地方裁判所ではその九〇%までが起訴後一年以内に裁判されておると思います。地方裁判所における第一審既済事件の審理期間別人員の昭和二十八年、二十九年のこの表をごらんいただきますと、昭和二十八年の既済人員は五万九千二百四十人、二十九年は六万三百五十二人でございます。そのうち、昭和二十八年では、一月以内が九千九百六十四人、一六・八%、二月以内は二七・八%、この二月以内というのは、一月を越え二月以内であります。それから、二月を越え三月以内が一六%、三月を越え六月以内が一八・五%、六月を越え一年以内は一一・六%、結局、起訴後一年以内に裁判がなされたものは、昭和二十八年では九〇・七%、昭和二十九年では八九・三%というふうに相なっております。このように、地方裁判所では、全事件の六〇%以上が三月以内に裁判されており、それから八〇%近くが起訴後半年以内に裁判がなされ、九〇%までが一年以内に裁判がなされておるという状態でございます。  資料にはございませんが、簡易裁判所では、昭和二十九年中の全既済事件について調査いたしますと、起訴後九七・五%、すなわち百人のうち九十七、八人までが一年以内に裁判をされておるというような状態でございます。これは昭和二十八年、九年について申し上げましたが、さらに年限をとってみまして、昭和二十五年から二十九年までの五年間に、第一審の、すなわち全国地方裁判所、簡易裁判所の全公判処理事件について調査いたしますと、起訴後六カ月以内には八五・六%、百人中八十五、六人が裁判されております。一年以内には九十四人までが裁判を終ってわずか六人が統計的には残っておるというような状態でございまして、一般的には刑事事件はそれほど遅延しておるということは言えないのじゃないかと思います。  なお、平均の審理期間を見て参りますと、簡裁では二カ月あまりが一件の平均審理期間でございます。地方裁判所では五カ月が平均の審理期間ということに相なっております。数の上では少数ではございますが、ただ選挙事犯の一部のものとかあるいは文書偽造詐欺事件あるいは涜職事件、公安事件等、一部の特殊の事件の審理が迅速に進まないで、そのうちのあるものは相当長期にわたって未済になっておるというものもあるのでございますが、それらの事件は、事犯自体が非常に複雑困難でありまして、また事実の認定、証拠関係あるいは法律問題においても複雑困難かつ微妙なものがございまして、証拠調べに非常に手間取っておるものもあるという状態でございます。裁判所といたしましても、これらの事件につきましても一般事件と同じように迅速な裁判が行われるように、今工夫、努力をいたしておるわけでございます。
  33. 高瀬傳

    ○高瀬委員 ただいまの説明ですと、なるほど、一カ月以内、二カ月以内、三カ月以内という例をとっていきますと、裁判は割合進行しているように見えますが、問題は、大きな問題で二年以上を越すもの、これらが非常に問題なのでありまして、それらには、やれメーデー事件であるとか、あるいは昭和電工事件であるとか、そういう問題を含んでおるわけです。従って、私どもの問題にしているのは、二年以上を越した裁判の進行状況が問題なのであって、この点、これだけの統計では私はあまり実は満足していない。進んで裁判所当局がこれらの刑事事件の未済あるいは既済の所要時間あるいはその未済の理由について統計を作っておるのかどうか。作っておるのならば、やはり当然進んで裁判当局がこれらの統計を国会に提出して、われわれの論議の材料にする、あるいは裁判遅延防止の一つの方法にするということが私は当然だと思う。ただ、われわれが質問するからといって、これだけの紙切れにこれだけの統計を出して、これでわかるじゃないかと言われても、私どもはあまり満足できない。従って、そういう統計をちゃんと作っておるのか、作っておるならば、進んで裁判遅延防止に積極的に裁判当局が協力する意味で、その理由を付して国会に提出する意思があるかどうか。こういう点は、私は、当然なされなければならない、裁判の民主化という点から言っても進んでなされなければならぬと思うのですが、それらに対して、そういうものを作っておるのかどうかということと、それから、将来そういうものを権威を持って進んで裁判当局がこれを国会に提出して明らかにする意思があるのかどうか、それから、一体何年分ぐらいもうできておるのか、そういう点を一つ……。
  34. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 ただいまの資料の点は、実は、年間統計もございまして、従来提出しておったと思ったのですが、本日持って参りまして、あちらの方に置いてあります。ただ、今の訴訟の遅延の対策につきましてこれは実際やっておることを申し上げるのですが、私どもとしては、臨時的あるいは定期的に事件統計というものをとって、どれだけ受けてそのうちどれだけ審理になったかという統計をとりまして、そうしてあまりたまっているところの裁判所に対しては、裁判所法による代行制度というものがございまして、幾らか手のすいておるところの判事をそっちへ回しまして、そうして事件をはかすというようなことを常にやっておるのでございます。現に、東京、大阪のようなところへは、地方から判事を代行に命じまして、そうしてやって来て処理させております。ところが、処理さすために判事を持って来るということになると、法廷とかいろいろな問題が起ってきて、すぐそこで行き詰まってせっかく来てくれた人も法廷がなくて仕事ができないということにしばしばぶつかるのであります。  もう一つ、二年以上おくれたというごもっともな御質問なんですが、事件の遅延について、一審だけの問題を考えるのと、それから一審からさらに二審、三審と行くまでの問題を考えるのとでは、多少違いがあります。地方裁判所から高等裁判所、それから最高裁判所と来る間に、いろいろな法定の期間とか弁護人の選任とかいうような期間がございます。それはどうしてもその間は全然動くことのできないロスの時間というものもある。これらの点もなるべく現在の法律の定めておる範囲においてやっておるのでありまするけれども、そういう点にも考慮すべき点があるのじゃないか、かように私どもは思っておるわけです。一番欠陥とするのは、今のメーデー事件のような、多数の百人、二百人というような大きな事件に対しても、一人の窃盗の被告を調べる刑事訴訟の手続と同じにやっていかなくちゃ裁判はやれないというところに欠陥があるのじゃないか。これは国会においても御考慮願いたいと思います。
  35. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、今後これらの資料については詳細にその事由を付して提出するということに了解してよろしいですか。——では、さよう了解します。  私は、特に、日本の刑事裁判の遅延の問題について、外国の裁判の進行状態、イギリス、フランス、アメリカとかいろいろあるでしょうが、そういうようなものに関する一つの資料を要求していた。そうすれば日本の刑事裁判がいかにおそいかということがはっきりするわけなんですが、それは提出されていない。田中最高裁判所長官のごときはたびたび外国へ行っているのだから、少くとも最高責任者としてそういうことは絶えず注意しておらなければならぬと思う。最高裁判所に全然そういう資料はないのですか。当然あってしかるべきだと思う。
  36. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 外国の審理期間統計は、今手元にございませんものですから提出できなかったのですが、外国の事件の審理と日本の事件の審理と比較して遅延しているということは、いろいろ外国へ視察に行った人々の書いたものもございますし、田中長官みずからも、イギリスの裁判とかアメリカの裁判と比較されて出された論文もございます。そのようなものはございますが、統計はちょっと手元にはございません。
  37. 高瀬傳

    ○高瀬委員 先ほどからの事務総長の説明で、裁判の遅延の原因がいろいろあることは私も了解します。たとえば、法律制度上からくる場合もありましょうし、関係者が非常にたくさんで、そのために実務の運用がなかなかうまくいかない、あるいは司法行政の欠陥、あるいは予算面からもいろいろ制約される、そういう点もありましょうが、一体、ほんとうの遅延の原因は、突き詰めていくとどこにあるのですか。私はそれがどうしてもぴんとこないのです。
  38. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 どこにあるかといって、いろいろな欠陥が集約されてきてなるのだろうと思いますが、私どものところで、新刑訴の手続というものが、やはり今までの旧刑訴あるいは戦前の裁判よりは一番おくれてくる原因の大きなものになっているんじゃないか、かように考えているのですが、この点は刑事局長から御答弁いたします。
  39. 江里口清雄

    ○江里口最高裁判所説明員 特殊の事件につきまして遅延の事件があるという最も大きい原因は、やはり新刑訴の旧刑訴に対する手続上の相違にあると思うのであります。新刑訴の特色は、何と申しましても公判中心主義であり、当事者主義であり、弁論主義の徹底にあるわけでございます。公判審理というものは、審判官の予断を排斥するという意味から、起訴状一本主義で、旧刑訴におきましては記録と同時に証拠物全部が裁判官の目に通されたわけでありますが、新しい訴訟法のもとにおきましては起訴状だけが裁判所に送られる、それから、証拠の面では、書証あるいは伝聞証拠は原則として排斥される、それから、自白のみでは有罪の裁判ができない、弁護人制度が非常に拡張されて、当事者の積極的な訴訟活動が期待される、法廷における審理及び言論が丁重に尽された後に判決をされるということに相なっておりまして、起訴と同時に書証やあるいは一件記録、証拠物が裁判官の手元に回されて職権主義的な審理がなされておった旧刑訴時代に比しまして、新刑訴の手続自体が非常な手間と時間をとるということは当然のことではないかと思うのです。旧刑訴では、捜査官やあるいは予審判事の作成した調書が証拠能力を持っておりましたために、法廷では証人を取り調べるということはあまり行われておらなかった。ところが、新刑訴では、被告人が同意しない限りは、捜査官あるいは裁判官の作成した調書、証人調書等がございましても、それは証拠能力がない。法廷で百人、二百人あるいは千人もの証人を尋問する必要がある。一事件について証人を十人、二十人を調べることはもう普通でございます。三百人あるいは五百人の証人調べをするという事件も決してまれではないのであります。従って、証人の取調べを要する事件の数も、証人の数も多くなっている。被告人一人当りの証人の数も、開廷回数も、旧法時代に比してはるかにはるかに大きくなっておるというような状態でございまして、新法下の第一審の裁判官は旧法下の裁判官に比して多大の労力と時間を費しておる結果でございます。この結果幾分の遅延を来たしておる。また、特殊な複雑困難な事件、あるいは被告人多数、犯罪事実の多数の事件につきましては、手続上遅延しておるというような状態が出ておるのでございます。これは、憲法の保障する弁護人の選任権とか、あるいは証人尋問が自己に不利益な供述を強要されない、あるいは自由を強要されないとか、その他憲法で保障するところの基本的人権を守るために必要であるある程度の遅延、あるいは事件の性質上遅延することは、ある意味においてはやむを得ないところではないかと考えるのであります。  しかし、刑事裁判も適正であると同時に迅速でなければならないということ、これまた憲法の要請でございまして、憲法も迅速な裁判を保障しておるわけでございます。裁判所といたしましては、現在の審理の速度が満足すべきものであるとは決して思っておりません。なおさらに迅速な裁判が行われるようにということで、不断の努力はやっておるわけでございます。     〔委員長退席、福井(盛)委員長代理着席〕
  40. 高瀬傳

    ○高瀬委員 ただいまの刑事局長の御説明によりますと、新しい刑事訴訟法の手続が古い刑訴と比べて非常に煩雑だというようなこと、従ってこれは憲法三十七条の臨本的人権をどういうふうに具体的に具現するかということに非常に関係があると思うのです。従って、いろいろのお題目だけを並べて済む事柄ではなかろうと思うのです。これは実行して実績を上げるということでありますから、そういう点については、われわれも協力するに別にやぶさかではないのであります。従って、もしたとえば新刑訴が悪いというなら、それを改正することについて法務大臣はどういう御所見をお持ちになっておるか。新刑訴でも何でもどんどん改正して裁判の遅延を解消する決意があるかどうか。それならそれでわれわれも協力するにやぶさかではないのですが、いかがですか。
  41. 牧野良三

    牧野国務大臣 刑事訴訟法、刑法、両方とも改めなければいかぬと、もう着手しております。この点については必ず御期待に沿うことができると信じております。
  42. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それから、たとえば司法行政によって裁判の迅速化をはかるということですね。そういうことは憲法上どうなんですか、できるのですか、できないのですか。
  43. 牧野良三

    牧野国務大臣 できます。
  44. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、ぜひその点を法務大臣として具体的に進めていただきたい。先ほどの昭電事件でも何でも、もしできるなら一つどんどんと促進するように最高裁判所でも何でもやっていただきたい。さっきはそれができないというようなお話でしたから、私はちょっと戸惑ったのですが……。
  45. 牧野良三

    牧野国務大臣 ただいまできると言いましたのは、改正をしてできるようにしたいと思うのです。先ほどできないと言ったのは、裁判所法務行政とをすっかり分離しまして、法務行政裁判所の行政には一指も染めることができない。その辺に非常に不便がございます。そして、もうそろそろ弊害までが現われてきておるようであります。この点は、五鬼上事務総長と私とは心を合せて互いに提携してりっぱな成果を上げたいということに苦心をいたしておりますから、いずれ遠くない時期に具体化して御批判を請うことができると考えております。
  46. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、具体的に伺いますが、裁判所裁判所長が裁判官に裁判を迅速にやれ、そういうことを有効適切に注意を喚起し、あるいは勧告することはできるのですか。
  47. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 これは非常にむずかしい問題でありまして、司法行政と裁判の独立ということに関連してくる問題だろうと思うのでありますが、たとえば、今御指摘になったような、非常に事件がおくれておるというような場合に、裁判所長はそれについて早くやってくれということを注意することができるという裁判所規則がございます。
  48. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、牧野法務大臣も言われたし、事務総長も言われたのですから——昭電事件ばかりでなく、いろいろな事件がありますから、昭電事件が非常に長いということが今私の頭にあるわけでありますが、そういうことについて一つ最高裁判所長官に注意を喚起するように言っていただきたい。それはどうですか。
  49. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 これは、先ほど申し上げたように、要するに、どこの裁判所全国的に見て一番事件がたまっておるか、どれだけ長い事件がその裁判所にあるかということは、司法行政として私ども統計上これを調査いたしております。そうして、あまり長くて多くの事件がたまっているときには、先ほど申したような代行制度というものを使って手助けするということもいたしております。また、所長、長官会同において常に訴訟の促進ということについて協議いたしまして、おくれておる事件についてはどういう理由でおくれておるのか、そうしてできるだけ早く片づけるということについては、常に注意をいたしてございます。
  50. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、これに関連してもう一つ伺っておきたいのですが、司法行政の主体であるところの裁判官会議というものが現在あると思うのですが、私は司法行政責任の所在が非常に不明確であると思います。なぜかといえば、自分自分を監督するというような形になっておりますから、何人も責任をとらない結果になりやしないかと思いますが、いかがですか。
  51. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 現在の裁判所法では、司法行政は裁判官会議の議を経てやるということになっておりますが、しかし、実情は、常置員とかいろいろな者を置きまして、大体それにまかせて運営をやっておるのが実情であります。だから、裁判官全員がそうしょっちゅう集まって司法行政をやっておるというわけじゃない。実情はそういうわけでありますが、現行の裁判所法では、司法行政は最後は裁判官会議でやる、かようになっております。
  52. 高瀬傳

    ○高瀬委員 結局、この裁判の遅延というものは、相当に裁判官の一般の気風、綱紀というよりは気風の弛緩ということに原因があるようにどうも思われてしかたがない。従って、この裁判官会議の制度、これらの点について法務大臣は改正する意思があるかどうか、ちょっと伺っておきたい。
  53. 牧野良三

    牧野国務大臣 私にはその希望はあるのですが、今の法律の客観的状態から言うと権限がないのであります。そこで、これは何といっても国会です。お互いにやりましょう。こんな状態では、検察の方も裁判の方も、両方とも根本的に改めていかなければいけません。これは戦後状態としてはなはだ私はよろしくないと思います。あなたと一緒にこの点は率先して具体化するように努めたいと思います。
  54. 高瀬傳

    ○高瀬委員 長くなりましたが、もう一つ伺いたいのは、この間、日ソ共同宣言で恩赦だの特赦だの大赦だのということをあまりわいわい国会で言ってくれるなというお話でありましたが、きょうの新聞を見ますと、牧野法務大臣は特赦を売るとかなんとかいうことを言われている。ほんとうですか。
  55. 牧野良三

    牧野国務大臣 全くの偽わりでございます。新聞社がああいう誤まりを新聞に出す、まことに困っております。そのことは、東京における法務省の新聞記者諸君には、あれはうそですということをはっきり答えておきました。
  56. 高瀬傳

    ○高瀬委員 大へんそれで私も安心いたしました。これは非常に重大だと思って、もし恩赦を売るなんて法務大臣が言われたのならば、一つ国会の記録に残しておこうかと思っていたのですが、全くのうそだということを国会の記録に残せたことは非常に幸いだと思います。ただ、法務当局では、今度は皇太子殿下が結婚すればまた大赦がある、そう続けざまにやってはだめだから反対だなんということもありましたが、法務大臣は恩赦の問題については確かにこれを実行したいという御意思をお持ちになっておるのですか。
  57. 牧野良三

    牧野国務大臣 ただいまの御意見に正面から御返事することはできません。しかし、いいことは何べんやってもいいと思います。いいことがあって、その結果どんな事態がいい方面に向っても、世の中を明るくする方向、人を許す方にはどんなに努力しても私は乱用と言う余地はないと思います。
  58. 高瀬傳

    ○高瀬委員 法務当局があれをやると、共産党はメーデーのことだろう、自由民主党は選挙違反だろう、社会党は国会で暴力をやって起訴などをされておるから、それも御破算になるだろう、いろいろなことが言われておりますが、私どもはそんな問題でこの問題を論議したくはないのであります。ただいまの法務大臣の御答弁で、私もおそらくおやりになるのだろうということをはっきり推測いたします。従って、司法当局の、これは続けざまにやることになるから反対だということには反対であるということをはっきり御言明になったわけですね。いかがでしよう。
  59. 牧野良三

    牧野国務大臣 何べんも繰り返されるからやってはならぬというような議論は成立しないと思います。いいことは何べんやってもよろしい。
  60. 高瀬傳

    ○高瀬委員 それでは、これで私の質問を終ります。
  61. 福井盛太

    ○福井(盛)委員長代理 猪俣君。
  62. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 五鬼上さんにお尋ねしますが、裁判行政の最高責任者は一体どういう機関なんですか。
  63. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 先ほど高瀬委員に申し上げたように、司法行政の最高の、最後の責任は結局裁判官会議だろうと思います。
  64. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 全国裁判所に対する裁判行政の最高の責任は裁判官会議だ、そうすると、最高裁判所の裁判官会議全国の裁判官会議の一等最高のものだと思うのですが、そういうことになっておりますか。
  65. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 その通りだと私も思います。
  66. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 その裁判官会議の議長は一体何人で、また裁判官会議そのものの主宰者というか最高の責任者はだれなんですか。
  67. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 これは裁判所法にございまして、議長は、最高裁判所では長官であり、高等裁判所では長官、地方裁判所では所長というふうに定まっております。そうして議長はその裁判官会議を統宰する、こういう形であります。
  68. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、検察行政については最高責任者は法務大臣であるがごとく、裁判行政についての最高責任者は田中最高裁判所長官だということになる。これは判事としての田中さん自身じゃない。裁判行政というものは国会の審議の対象になると思うが、あなたはどう考えるか。
  69. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 司法行政をやっておる以上は、国会に対して説明し、あるいはその審議の対象になるということは、もとよりさようであると思います。
  70. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 しからば、国会において裁判行政のことについてその最高の責任者である田中最高裁判所長官の出席を要求することは当然のことだと思う。国会は最高の統治機関、しかも裁判行政も国会審議の対象であるならば、この国政調査権を持っておる国会に対して、裁判行政全般の問題として最高責任者が出て応答することは当然のことだと考えるが、あなたはどう考えるか。
  71. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 もとより国会法においてもやはりさように定められておりまして、「最高裁判所長官又はその指定する代理者は、その要求により、委員会の承認を得て委員会に出席説明することができる。」となっておりますから、その法律通りだと思います。
  72. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこで、最高裁判所事務総長なるものは裁判官会議の構成員であるかどうか、どういう責任を持つのですか。
  73. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 先ほど申しましたように、司法行政は裁判官会議できめる、そうして、その司法行政の執行の任に当るのが事務局であり、それを率いるのが事務総長である、かように考えております。
  74. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、一体事務総長は執行機関、事務機関にすぎない。その事務機関が裁判行政全般のことについて委員会で一体責任ある答弁ができるのですか。責任ある答弁はできないと思うのです。その責任ある答弁ができない者が国会に来て、一体正式に裁判行政全般についての応答をするということはどういうことになるか。
  75. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 私は、国会法に定めるように、国会に出席して説明することのできる長官の指定代理人となってこちらへ参っておるつもりであります。
  76. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それは、あなたの出席も要求したのであるから、出てきたことがいけないと言うのではないのです。また来てやってもらわなければならぬ。私の言うのは法律問題で、最高の責任ということになると結局田中長官でなければならぬと思うのです。ですから、田中長官に対しましては、私はしばしば当委員会に出席を要求した。これは今回に限らぬのです。ところが、田中長官は、最高裁判所の長官が国会へ出るなんということは世界に例がないと称して出ておいでにならぬようです。そこで、あなたにお聞きしたいことは、田中さんには事務当局から折衝したはずなんだが、どういう理由で国会べ出席をしないであなたを代理人に命じて出席さしておるか、理由があると思う。その理由は、非公式に聞いたところでは、世界に類例がないということをおっしゃったということを一度聞いたことはあるが、公式の理由を聞いていない。そこで、今回は田中長官に対して私どもが出席を要求しても出ておいでにならない。それについては、今あなたが説明したように国会法に規定がある。そうしてまた、今の裁判所法の構成から言っても、裁判官会議の最高峰が長官である。最も責任ある立場にあるのです。そうすれば、国会の国政調査に応じて出て国会議員に答弁するということは当然のことだと思う。これは三権分立と私は関係がないと考えるのです。最高裁判所の大法廷の裁判長としての田中さんならば三権分立と関係があります。しかし、司法行政の最高責任者としての田中さんが国会へ出てくることを渋るという理由はないと思うが、しかし、えらい法学者だから、何かの法律的の理由をお持ちじゃないかと思う。それをあなたは聞いておったらお漏らし願いたい。それに理由があるならば、私どももまた考慮しなければならぬ。
  77. 五鬼上堅磐

    ○五鬼上最高裁判所説明員 特に田中長官が出席をしないということは事務的にも申し上げたことはないと思うのですが、まあしかし、大法廷の裁判長もしておりますし、いろいろ御都合があってあるいは以前に出席しなかったこともありますので、今おっしゃられた御質疑の趣旨は十分私長官の方までお伝えいたしたいと思います。
  78. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それを了解して、憲法上、法律上、裁判行政の最高責任者として国会へ出ることが決して違法じゃないということをお認めになれば、実際出ていただくかどうかはまたお互いの話し合いでできると思います。司法行政の最高責任者としても、やはり最高裁判所の長官でありますから、われわれもまたある程度三権分立の精神から考えなければならぬと思います。それは別問題として、法制局からもおいでになっておりますが、内閣の法制局の法律意見としても、最高裁判所の長官が国会へ出席して答弁に当ることは違法でもなければ違憲でもないということであるかどうか、これも一つ明らかにしておいていただきたい。亀岡さん、おいでになりますか。
  79. 亀岡康夫

    ○亀岡政府委員 ただいま最高裁判所事務総長が答弁になった通りだと思います。
  80. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 その法律関係が明らかになればよろしい。われわれ必要があるときは御出席願うことにいたします。  それから、今訴訟遅延その他のことにつきましていろいろ問題があります。これは確かに制度からもきております。制度からきておることに対しましては、これは国会なりあるいは内閣なりに責任があるので、ただ裁判所を責めても始まらぬと思う。確かに事件数に比較して判事も検事も私は少いと思います。そうして法務省とか裁判所というものは予算をとるのがはなはだ下手で予算が少い、これは確かだと思う。そこからくるいろいろな支障のあることもわれわれは認めざるを得ません。われわれは実際裁判所に出入りいたしましてそれは痛感いたします。さようなことは裁判所当局を責めるよりもわれわれ自身が反省しなければならぬ問題だと思います。いま一つは、そういう法律制度、予算、そういうこと以外に、どうも裁判官それ自体が弛緩しているような傾向があるのではなかろうか、法律とか予算ということからくることは裁判所の威信に直接関係しないことでありますが、裁判官の精神の弛緩からいろいろなことが起るといたしますと、これは裁判所それ自身の威信に関係してくる。どうも近ごろ「真昼の暗黒」というような映画が出たが、あれも私どもあまり感心しないと思っております。ああいう相当の誤解を与えるような映画が大いに民衆に歓迎せられる。それからどうも何となしに裁判に関しまするいろいろの記事が新聞に出てくるように相なりました。私ども司法行政の一端に参画いたしておる者といたしましてはなはだ遺憾にたえない点がありますが、これは申し上げるまでもなく裁判所当局においても御存じのことだと思うのです。今法律時報の十二月号に掲げてありますのを見ましても、東京地方裁判所の判事の慰安旅行中二人の容疑者が全く法律上の根拠なしに十二時間以上も不当の拘置を受けた、こういう事件、あるいは無効の法律で罰金刑を課したという事件、あるいは二重罰金にして非常上告が行われた、あるいは判決確定前に刑を執行してしまった、このほかなお、この法律時報にございませんが、読売新聞の報ずるところによると、これは和歌山裁判所でありますが、裁判所に裁判官が酒に酔っぱらって出てそうして刑法に規定のない重刑を言い渡した。これなどもとほうもないことだと思う。こういうことが新聞にだんだん発表せられる。実に近ごろおびただしい事例があると思う。私はそれらの新聞の切り抜きを全部持っております。読んでみると、どうも予算の関係だけじゃない。法律制度の関係だけじゃないですよ。予算や法律制度の関係で、酒に酔っぱらってよいということは書いてないはずです。一体そういう裁判官自身が執務において弛緩している傾向がある。そこで、一体、こういうことに対して、私どもひざを交えて話をするその相手はやはり最高裁判所長官でなければならぬので、私どもはその意味において出席を要求したのでありますが、おいでなかった。  そこでこの一つ一つについて私はお尋ねしたいと思ったのですが、こういう原因に関しまして、これは一体、最高の責任にある者も、下の前線にある人たちも、ともに多少精神が弛緩しているか、あるいは何かどうも奇妙なことが官庁全体にあるんじゃなかろうか。いろいろほかの経済関係の官庁にスキャンダルがたくさんできてくる。そこで、私はこの点につきまして法務大臣にちょっとお尋ねしたいのです。これはちょっとお尋ねしにくいことでありますけれども、これもジャーナリズムに載った問題でありますので、ちょっとお尋ねしたいのであります。それは本年の十月八日の週刊新潮に出ております「女の園と牧野法相」という問題であります。これは、当法務委員会におきまして、精神衛生法に関しまして日本女子大学の教授でありました東佐誉子という女史が精神病なりとして精神病院に不当監禁させられた、そこで不当監禁事件として取り上げ、当法務委員会では結論を出しました。そこで、この事件について熱心に調査をいたしました。あなたの管轄下の人権擁護局では、この国会における結論に従いまして日本女子大学に対しまして警告を発したのであります。それは、東京法務局長斎藤二郎氏の名前で、どうも女子大学のやった行為は人権、自由に対する侵犯がある、注意すべきであるという勧告をした。そうすると、日本女子大学ではあなたのところへ訴えてきた。そして、ここに報じていることが真実であるとすると、あなたはこういうことを言うた。「勧告はまだ手続きがすんでいなかった。これを伝達し、また発表したのはイカンだ。残念ながら、あれを取り消すことはできないが、国会法務委員会でも人権擁護局長も、あんなにまでする必要はなかったといっている。以上のようなわけで、善後策としては、今、当事者(勧告を出した係)を解職させることは、かえって世間を騒がせるのでせぬ方がよいと決定したが、内部としてやりすぎに対する戒告をする。大臣として学校に対してイカンの意を表し、後日、何かの償いをする」とあなたはわびを入れている。これは真実であるかどうか、その真相を御発表願いたい。
  81. 牧野良三

    牧野国務大臣 大体真実でございます。
  82. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、あなたの管轄下の東京法務局長が公式の文書で出した勧告というものを、あなたがこういうようなことを言うてやられるのは、政令二途に出ているという感じがいたすのですが、それでよろしいかどうか。
  83. 牧野良三

    牧野国務大臣 政令二途に出ているとは思わないのであります。といいますのは、いやしくも国会における法務委員会で問題になって詳細お取り調べの結果、ある程度の結論に達せられたものを、法務当局が処理する場合に、次官及び大臣の決裁を仰がないでこれを社会に発表したということは、私は穏当でない、国会を軽んずる傾きがある。そんなことがあってはならぬ。いやしくも国会で重大事として審議されたるものが結論が出て、それを社会に何らかの方法をもって伝達し、もしくは発表する場合には、必ず法務大臣の決裁を仰ぐべきものだと思います。決裁を仰がないでこんなことをしてはいかぬと言いました。その点において、二途に出たのではない。あなた方の御審理下すったことを私は尊重し、重んじたのでありますから、さよう御理解を承わりたいと存じます。
  84. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういう答弁は私どもは理解できない。国会では、慎重審議した結果、人権じゅうりんの疑いありという結論を出している。そこで、法務局長の名においてこれが出されている。ところが、内部関係で法務局長その他の人たちとさような話し合いをする、内部関係でしかるのはよろしゅうございましょう。しかし、それを外部に、ことに勧告の相手である日本女子大学の当局者にさようなことをぶちまけるということは、一体どういうわけですか。それじゃ人権擁護局長というものは全然台なしじゃありませんか。そういうことは外部から見れば政令二途じゃございませんか。大体あなたが言ったことがほんとうだとするならば、人権擁護局長がそんなにまでする必要がなかったとかいうことを国会の法務委員会でだれがそう言ったんです。国会ではちゃんと結論を出しているじゃありませんか。はなはだ遺憾である、人権侵害の疑いがあるといって結論を出している。それをそのまま放任したならば、私どもは問題になると思う。この国会の結論を尊重して日本女子大学に勧告したわけなんです。それを、国会はあんなことまでする意思はなかったなどと、だれに聞いてそういう御意見をあなたは発表されたのですか。国会ではちゃんと法務委員会で結論が出ている。それに対してあなたは、だれに聞いて国会があんなことをする必要がなかったとおっしゃったか。これは私が提出した問題で、私が今日までやってきた問題であります。
  85. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は、ざっくばらんにそういうことを明らかにすることが民主主義の正しい道だと思います。隠したり、気取ったり、いいくらいのことをすべきものじゃない。私の態度はきれいだと思います。非難しないでおいて下さい。
  86. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それが、あなたは、国会の法務委員会はあんなことをする必要はなかったと言っている。だれが言ったというのです。国会の法務委員会は結論を出している。その後国会は開かれなかったはずですが、一体だれが国会を代表してあんなことを言ったか、この材料をあなたはどこから御入手になったんですか。それでは国会法務委員会は面目まるつぶれじゃありませんか。法務委員会が結論を出して、法務当局がそれに従って勧告したのです。私ども委員会としては、やるべきことを法務当局はやったと思っておったんです。それを、国会もあんなことをやる意思はなかったということを、あなたはどこからそんなことを感じられたか、だれがそんなことを言ったのですか。
  87. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は、あの文章と国会の決議とは必ずしも一致していないと思います。でありますから、私がそう自由意思によって自由に判断したわけでありますから、そういうことは干渉しないでおいて下さい。
  88. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そういうことは、あなたは一体責任を痛感しませんか。しかも、なおお問いすることは、日本女子大学の先生方があなたをたずねて来た。これは個人的にあなたと前から懇意の人だそうだ。それを訴えて、あなたは口頭で言うた。ところが、日本女子大学は、口頭では済まされない、それであなたに文書を要求した。あなたは今ここに発表されたような意味の文書を渡した。その文書を、日本女子大学では緊急教授会を開いて、牧野大臣がこういうお墨付を下さったといって読み上げ、だから法務委員会で取り上げたあんな問題は、人権、自由を侵害したというようなことは何もないのだ、当の法務大臣がこういうお墨付を下さったということで教授会へ諮った。あなたはそういう書類を出されたかどうですか。
  89. 牧野良三

    牧野国務大臣 ありません。
  90. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それじゃ私は証拠を出します。その教授会へあなたの出した文書として、女子大学では印刷した写しと称するものを教授会で配った。そうして、今ここに書いてあるようなことを明らかにして、各教授の了解を得て、結局、法務委員会というものは出ほうだいもないことを決議したというふうなことに到達したらしい。人権擁護局というのは全く出しゃばった、話にならぬことをやったということになったらしい。こういうことであなたは一体国会を尊重することになりますか。あなたが文書を出したか出さぬか、私が立証します。
  91. 牧野良三

    牧野国務大臣 私が文書を出していないということを信じて下さい。  それから、第二に、国会尊重の実を明らかにした。国会でそういうことになったならば、関係者は私のところに報告しなくてはならぬ。その報告に従って善後処理をしなくてはならぬ。その手続ができていないから、こういうことではいけないと言ったのです。内部を厳格にするために、それを粛正するために私たちはやったんだから、これ以上にこの点については御論じ下さらないように頼む。お願いする。
  92. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それは、内部関係であなたの方針と違ったことに対して、あなたが戒告せられるのはいいと思う。しかし、せっかく国会が人権じゅうりんの事実ありとして慎重に審議して結論を出しておるのです。それにまるで水をかけるようなことをあなたはやっておる。それが国会尊重なりということは私は了解できない。論理的に合わない。国会で人権じゅうりんの疑いありとして結論を出しておる。それに対して、国会もそんなことをやるつもりはなかったというようなことを言って、結局において日本女子大学の教授会では、あなたの言ったことを議題にして、国会の法務委員会なんというのは、猪俣なんという出過ぎたのがいいかげんなことをやった、人権擁護局なんというものもおっちょこちょいがやった、大臣がこう言っておる、こういって教授会に諮って学生に報告をした。国会が満場一致であの決議が出た。多数決でも何でもありません。提案は私がやったに違いないけれども、結論は委員長を中心とする法務委員会で正式に満場一致であの決議が出たものである。それが、まるで何でもない、でたらめな決議のようにとられてしまっておる。私は遺憾千万です。ことに、中心となって審議を一進めた私は、実に無念残念です。これはあなたが黙っておれと言ったって放任できません。それこそ国会の権威のために放任できない。のみならず、官庁の政令二途に出る。いやしくも擁護局長が出したものをあなたが取り消しておる。そうすると、この擁護局長に対してあなたはいかなる責任を追及されましたか。
  93. 牧野良三

    牧野国務大臣 あまり極端に考えないでおいて下さい。私は、私に相談をしないでそういうことをしちやいかぬよということを言ったので、断わるわけにもいかず、取り消すわけにもいかず、そこに書いてあるのは大体委曲を尽しておると思います。一体、委員会でそういう結論が出て決議されたということを大臣に黙っていてはいけませんよ。そういうものはちゃんと大臣に見せて、こういうことになったからあなたも今後慎しめという材料が私に来なくちゃいけません。そうして私のところでつつしんで手続をとらなければ、委員会に対して私は申しわけないと思う。だから、私にこういう取扱いをすることは実際において弊害があるから今後は慎しんでくれ、——ただしこれを取り消すことはできない。これはこれでちゃんとした公文書として効力を発生せしめなければならぬ。そこで、これは手続に正しいものが踏まれていなかったことを御婦人たちが大へん喜んで行って、校内の動揺をおさめるのにいろいろとお用いになったという心情も了としなくてはならぬ。そこで、こういうことはまあ穏やかに取り扱って今後を戒めるというのが女子大学経営の人々とわれわれ法務局との間のことだと思うから、まあまあこの程度でおおさめ願いたい。特に御了承を請います。
  94. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それではあなたに質問します。手続があなたの承諾を得ないで出したというだけのことならば、その内容、女子大学が人身の自由に対する侵犯をしたその事実はあなたは認めるのか認めないのか。
  95. 牧野良三

    牧野国務大臣 その点は、認めることも認めないことも今ここで御返事はできません。
  96. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 とにかく、擁護局長がその名前において出したものを、手続を経なかったということだけでなしに、内容についてあなたは認めるか認めないか、今はっきりしない、こういうわけですか。
  97. 牧野良三

    牧野国務大臣 あなたの御質問に対してはそう答えざるを得ませんが、公けの手続としては、事実そういうものが公文書として出たのでありますから、これはやむを得ない結果だと思います。
  98. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 ただし、その公文書というものはあなたの談話によって無効になっている。教授会ででたらめだということになってしまって、何ら大学に反省されておらない。私ども日本女子大学に何にも縁はありません。しかし、たとい一人の老教授といえども、二十数年教鞭をとった老教授を、いかに学校の利便のためといえども、これを精神病なりとして五十数日間もぶち込んで、この老教授の一生を棒に振らしてしまうようなことをやることがいかに人権侵犯になるかという、その点について当法務委員会が結論を出しておる。しかるに、あなたは、人権擁護局手続が違ったというだけで、まるで日本女子大学に対してそういう事実はないのだ、あれは係の者が行き過ぎてやったのだ、法務委員会もそんな意思じゃなかったのだと、係の者に全責任を負わせるような言動をして、そうして日本女子大学に万歳を三唱せしめておる。教授会では、そうか、それではわかった、大臣がそう言うなら、あんな委員会なんてでたらめをやっているんだということになったらしい。私はこれは遺憾千万です。われわれは何も虫のせいやかんのせいで今までやったのじゃない。この一老教授はいわゆる人権の化身として出ておるものなんだ。ただ一人の老教授にあったにしましても、これに対して最高学府の当局者がかような途方もないことをやることに対しまして、当委員会は結論を出したのだ。それに対して、当委員会の数カ月にわたる——これは数カ月にわたっているのです。年を越している問題なのです。当委員会の数ヶ月にわたる調査をまるで一片の反古にするように、彼らにいい口実を与えてしまった。なに、法務大臣がこういうことを言っておるのだ、あれは下っ端のわからずやのやったことだということで片づけさしてしまって、何らの反省を大学に与えなかった。私どもは大学をどうしようというのじゃないのです。反省を与えたかったのです。当委員会の意思もそこにあったのです。だから、もっと強い言葉で言いたかったけれども、まずこの程度で学校に反省を与えるというのがあの結論です。内容はもっとはっきりしておるのです。しかるに、あなたの行動によって、この法務委員会調査というものがこっけいのようになってしまった。これが国会尊重のためだなんて、とんでもないことだ。そういうことを内部に打ち合わせるならば、それは意味がわかります。こういうようなことを今後大臣を経由しなければいかぬじゃないかと注意なさるのはいい。あるいは、当法務委員会に対して、どうも大臣を経由しないで乱発したのはいけないから、これから私どもは注意するつもりだとおっしゃるならいい。ところが、われわれが弾劾いたしました当の相手である学校当局に、われわれに何の相談もなしに、当委員会の活動を無にするような言動をあなたはなさっておる。それでよろしいならいいですよ。あなたがそれがりっぱな行為だとごらんになっておるなら、天下の世論が裁きます。そんな途方もないことはないと私どもは思うのだ。委員会の活動というものはまるで水泡に帰したじゃありませんか。現に大学は、私どもに対する誹謗をこれ事として、てんで反省の意思はない。学生に訴え教授会に訴え、牧野さんがこう言った、それを一枚看板にしてやっておる。上代たのだの、こういう人たちはあなたを個人的に知っておられる人だそうです。だから、頼まれればあなたもいい返事をしなければいけないかもしれませんけれども、しかし、これはとにかく人権擁護局長というりっぱな者が一旦出したことだ。内部の手続の粗漏についてはしかるべき問題があるけれども日本女子大学のやった行動は速記にも明らかになっておる。人権擁護局が明らかに知っておることです。それを、人権擁護局長に何らその点を相談せずして、いきなり女子大学に向ってそれを発表なさる。あなたは、この女子大学に発表なさる前に人権擁護局長と打ち合せなさったかどうか。まるで法務委員会の活動を無にしてしまうような、そして政令二途に出るようなこういう重大なる発言を当の相手である女子大学に向って発言なさる前に、人権擁護局長と相談なさったかどうか、伺いたい。
  99. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は政令二途に出たとは思いません。委員会の決議を尊重する意思を明らかにし、国会尊重の意思を明らかにしたのであります。意見の相違であります。それほどあなたが激越な言葉でもって、むちゃだの、全然何したと言われるが、私は女子大学まで行きまして、現場も見て、こういうことに対しては最善の注意をなさらなければいかぬと由しましたら、深くおわびいたしまする、十分今後注意いたします、ありがとうございますと言って頭を下げて、ほんとうに徹底いたしました。御安心下さい。
  100. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 人権擁護局長にお尋ねします。あなたは人権擁護局で非常に苦労してあらゆる点から調査して、当法務委員会にかかっても足かけ二年かかった事件です。それに対して、当の相手の日本女子大学に対して、これはまるで下っ端の係官が出過ぎてやったようなことを言われる。こういう発表をなさる前にあなた方は何か相談を受けたかどうか、あるいは手続が違っていることをおしかりを受けたかどうか、それをお尋ねします。
  101. 戸田正直

    ○戸田説明員 お答えいたします。多分勧告いたしましたのが九月の八日ごろかと思います。その後二、三日いたしまして、この勧告案が学校に到達したと見えまして、大臣から実はお呼びを受けまして、かかる国会において問題になった事柄について私の方に報告をしないということはけしからぬじゃないかという強いおしかりを受けております。実は、これは長く国会で審議されたことだし、また私の方としても調査いたした事件でありますから、この問題を大臣及び次官の方に報告をせずして事件を処理したということは、手続等において遺憾であった、かように私は考えております。
  102. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 東京法務局は、あの勧告は十分に根拠があるものだ、手続上不備だというのは、勧告が大臣、次官の決裁を受けていないことをさすのだろうが、あの程度の勧告は局長の決裁で行われるのが常識である、慣例である、大臣の決裁を要するという規則は別にない、こう言っておるのですが、これはどうですか。
  103. 戸田正直

    ○戸田説明員 特に重要な事件については大臣の承認を得ることになっております。ただ、私の方でこの勧告をするところを、東京法務局長名でいたしましたので、実は私の方でこの点にこだわりましたので、私の限りでいたしたわけです。少くもこうして国会で大きく問題になっておりまする問題である以上、次官、大臣等の承認を得るならば、これは非常によかったであろうと考えております。ただ、東京法務局のそういう談話が事実なされたかどうか、承知しておりませんが、東京法務局としては本省に伺いを立てて、私の方から承認をいたしておりますので、東京法務局としてはそれでよろしいと考えておるのであろう、かように考えております。
  104. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 あなたは人権擁護局では相当調査をしたのであるが、手続は別として、こういう勧告の内容、つまり人身の自由に対する侵犯があるという見解が今でも変らぬかどうか、お尋ねします。
  105. 戸田正直

    ○戸田説明員 私の方は、すでに勧告をいたしておりますので、その考え方には変更はございません。ただ、これは私前に大臣にも申し上げたのですが、そのことが今の週刊新潮に現われております記事に多少影響いたしておるかと思います。検察庁は不法監禁罪に対する告訴に対してこれを不起訴にいたしております。私の方ではそのことと違ったように思われるじゃないかという大臣のお話でありましたので、私の方の勧告文の内容は必ずしもこれが不法監禁罪をなすのだという結論を出しておるのではございません、私の方では、これを民事の紛争に利用したような疑いを持たれるので、今後そういうことのないようにしていただきたいということを要望したものであるという御説明をいたしたのでありまして、この点は大臣も御了解を願ったのであります。ただ、勧告文案の中に、そういう意味からすると文意を十分尽してない点があるのじゃなかろうか、こういうことが思われるのでありまして、この言葉あるいは文意等においては多少御議論もあるかと思いますが、その精神においては決して変っておりません。
  106. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 国会活動に対して行政府がまことにけちをつける。私は立正交成会の調査を要求し、当法務委員会でもその結論が出ておる。しかるに、文部省の役人が、私の教会でありまする麹町の教会に行って、私を信者の籍から除籍せよということを牧師に勧告したことがある。かような問題、あるいは国会に来てあることの証言をしたために左遷せられた役人がいる。これは例の決算委員会のボロ靴事件あるいは中古エンジン事件あるいは佐久間ダムの事件について証言をした役人を左遷しておる。かように、国会活動について行政府が中心となって何らかこれを妨害することをやっておる。牧野法務大臣は国会を尊重するようなことを言うておるが、詭弁もはなはだしい。国会のせっかくの調査を台なしにしてしまいました。あなたが女子大学に行ったら、神様になるでしょう。銅像を建てるなんて言うかもしれない。しかし、われわれは全く面目まるつぶれであります。なぜわれわれに一応相談なさらなかったか。あれだけ国会が熱心に調べて結論を出したものを、まるでささいな手続の違いということだけでこれを無にするような言動を与え、彼らは鬼の首を取ったように喜び、何ら反省していません。あなたが行けば、それは大いにペこぺこ頭を下げるだろうし、恩に着るでしょうが、何ら反省していません。私に対して極端なる非難をやっておる。私はこの学校に何の恩怨もありません。ほんとう人権擁護の立場から、何のあれもないこれを取り上げて、苦心惨たんしてここまで結論を出してもらった。当法務委員会相当政党的にも公平な人が多いために、妙な色めがねをかけないでこの結論を出してくれた。それをあなたは、——女子大学とどういう御関係があるかしらぬ。いろいろ私も調査しております。それは今の当局者と御関係が深いでありましょう。しかし、それと公人の立場は違うはずなんです。われわれに何の一片のあいさつもなしに、これをまるで台なしにしてしまう。私のごときは、立正交成会からもまるで北条高時みたいに思われ、またこの日本女子大学からは共産党の先鋒隊のようなことを言われている。それを、文部省の役人でも、あなたでも、そういうものの味方をして、国会活動を阻害しようとしている。国会尊重のためになんということは弁詭もはなはだしいですよ。私に対して女子大学の人間がどういうことを言うておるか、あなたもお聞きになっておるかもしれぬ。これでは、国会の権威ある、正常な、正義に基いての活動ができません。私は何も一銭も金をもらったわけじゃありません。ほんとうの正義の観念、人権擁護の立場からあの老教授のうっぷんを世の中に訴えた。その後また精神病院というものに対して人権侵犯事件がたくさん新聞に出ている。その一つの典型としてあの東女史を取り上げた。そこで、法務省、厚生省でも、精神衛生法の改正まで及んでいるはずであります。少くとも宗教法人法、精神衛生法の改正には寄与している。これだけの活動をやったわけだ。しかるに、あなたはまるで国会の活動を茶番劇にしてしまう。私どもは遺憾千万です。しかし、これは意見の相違と言われれば仕方がありません。  なお私は法務大臣法務行政につきましてお尋ねしたいことが実はたくさん用意してございましたが、きょうは時間がありませんし、師走も控えておりますので、明日に譲って、明日もう一ぺんぜひ御出席願いたいと思います。きょうはこれだけにしておきます。
  107. 福井盛太

    ○福井(盛)委員長代理 志賀義雄君。     〔牧野国務大臣「この辺で食事にして下さらぬか」と呼ぶ〕
  108. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 法務大臣人権も尊重します。から、きょうはただまくらになることだけでやめておきます。  昨日の夕刊及びけさの朝刊でいろいろな新聞にも出ておりますが、昭和二十七年六月二日大分県竹田市菅生地区で起った駐在所爆破事件の真犯人が実は現職の警官であったという事件があります。これに対して、私どもでも、実はそのために十年の刑、八年の刑、三年の刑を受けた者がおるのでありますが、きょうは警察庁長官が全国管区警察局長会議でどうも出られないというので、主として明日質問いたしますが、検察庁が非常に重大なミスをやっております。と申しますのは、この事件について、現職の警官、当時市木春秋という偽名を使っている戸高公徳、この警察官が脅迫状をその駐在所にほうり込んだのであります。その脅迫状というのは、自筆で、革命は近いぞ、覚悟はよいかという脅迫文であります。ところが、その脅迫状が、大分地方裁判所の裁判のときには押収第七号として証拠物件にあった。第二審になりますとこの証拠物件が消えております。そこで、弁護人の万から第二審で——福岡で行われました。検事に尋ねましたところ、大分地方裁判所か検察庁に残っているものと思うということを言っておるのであります。この市木春秋なる人物が戸高公徳であるという事実は、ここにその戸高公徳の結婚写真がございます。この写真を地元の人に見せたら、当時菅生村と言っておりましたが、そこにいた市木春秋と同一人物であるということを多くの村の人が証明しております。この男が製材工場の会計係をやっておったときに一緒におった人々が証人になるとまで言っておる。しかるに、この男が大分県から東京に出てきたのであります。だんだんあとをつけられたので東京へ出てきたのでありますが、東京へ出てきたのは事件の翌年の二十八年十月二十八日で、東京都西多摩郡福生町福生六百四十四におりました。妻クリ子及び長女由起子と一緒でありました。その翌年の二十九年十一月十五日は同じく福生町福生の九百二十一の町営住宅に移っております。しかるに、本年四月六日には品川区荏原三丁目百十五に移り、これからが奇怪なことでありますが、五月三十一日には中野区囲町二の一へ転居しております。この囲町二の一というところは警察大学の所在地であります。ほかには同じ番地はどこにもありません。そこへ移っております。もうこのときにはこの市木なるものが戸高であるということはだんだん判明しているのであります。こうなってきますと、警察大学は明らかに真犯人であるということを被告及び弁護人が推定して裁判所に対して証人として呼ぶことを申請している人物を警察大学の中へかくまっておったということになるのであります。ところが、ことしの十月一日には杉並区西荻窪二丁目百三十八番地へこの男は移っております。そこで、昨日私どもの方で中野区役所桃園出張所に問い合せましたところ、明らかに転出証明書を出しました、それは警察大学の所在地であるところから今申しましたところへの転出証明書を出しましたというのであります。そこで、今度は転地先の杉並区役所荻窪出張所へ問い合せましたところ、まだ転入の書類を出しておらないというのであります。今どっか行方不明になっている。この人物が真犯人と推定されるからこれを呼べと言ったときに、第一審で検事は市太春秋なる人物はいないと言っております。事件の起った直後これは警察のジープで逃げているのであります。こういう事件があります。そうして、次に、市木なる人物がおったということを地元の人が証明した人物、これを証人として呼ぶことになれば、検察庁はこれを逮捕してでも呼ばなければならないのでありますが、そういうこともやっておりません。一体検察庁は何をしておったか。警察のことについては明日関係大臣及び警察庁長官に伺いますが、検察庁は一体何をしておったか。こういうことは前から問題になっているのでありますが、法務大臣はこのことについてお聞きになりましたか、また、お聞きになりましたならば、この事件についてその市木春秋と偽名を使った戸高公徳という男に対し検察庁の活動を命じられたかどうか、そのことを伺います。
  109. 牧野良三

    牧野国務大臣 ただいまお尋ねのような事実につきまして聞きましたので、取調べを命じております。刑事局長がある程度までの御答弁ができると思いますから、刑事局長より申し上げます。
  110. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 では刑事局長にその点伺います。というのは、昨年ここで数事件を扱いましたときに、あなたは確かに猪俣委員、古屋委員、細迫委員、また私に対して答弁をされました。その御記憶はあるでしょう。その後どういうことをされたか。
  111. 井本臺吉

    ○井本政府委員 お尋ねの事件は、昭和二十七年六月二十三日に起訴されまして昭和三十年七月二日に第一審におきまして有罪の判決があったわけでございます。この事件につきましては、お話の通り被告側から控訴がありまして、目下福岡高等裁判所に事件は係属中でございます。この第一審の公判におきまして、被告側の方から、本件は市木何がしが主犯であったということの主張がなされ、またそのための証拠申請もあったのでありますけれども、第一審判決におきましてはその主張は認められず、第一審は有罪の判決があったわけであります。第二審につきましては、福岡高裁におきまして、ただいまお話しのような主張が被告側からなされまして、取調べ中でございますが、何と申しましても、この事件は現に裁判係属中の具体的な事件でございますから、私どもといたしましては、私どもなりに取調べはいたしますけれども、今後の公判の経過を待ちたいというように考えております。
  112. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 裁判にひっかけて逃げちゃだめです。私の聞いているのは、第一に、押収第七号といって、市木春秋が、革命は近い、覚悟はよいかという脅迫状を出した証拠物件があった。第二審にそれが出されていない。二審の裁判長が検事に聞いたところ、検事は、大分地方検察庁に残っておるだろうと言っておる。その点は調べられましたか。また、検察庁としてそういうことはどうされるか。
  113. 井本臺吉

    ○井本政府委員 さような点は目下取調べ中でございます。
  114. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 取り調べたその結果はここへ発表されますね。こういう奇怪な事件、常識で判断すると、これは検察庁が証拠隠滅をやっておることにもなりますよ。この戸高という現職警官の犯罪を隠蔽することにもなりますよ。そういう点を十分考えた上で、調査してここで発表して下さい。というのは、明日警察庁の方も出ますから、その点を明らかにしたいと思います。大分県の警察では、そういう人物はいないと言っておりますが、私ども権力を持たない者が探しても、警察大学の寮にいたことはわかる。検察庁は何もやっていない。そうして、昨日その件について朝日新聞社の方で警察庁の山口警備部長に聞きましたところ、確かに昭和二十七年六月二日には当時の国警大分県本部に戸高公徳巡査部長という名の警察官が在職していた、しかし同年六月末同人は健康上の理由で依願免となった、こういうふうになっておる。ところが、この戸高という男は、それより三カ月前の三月にその村の松井製材所に会計係として入っているのですよ。そうすると、現職の警官が会計係として入っていることは一体許されるかどうか。製材所の会計係として現職の警官が入っていたことを山口警備部長は事実上認めたことになります。三月に製材所に入ったのですから、現職のまま入ったことになる。六月二日、事件の発生当時確かにそういう男がいた、そうして六月末に依願免職になった。ここから推察されることは、この事件は明らかに警察が計画的にやったということが言えるでしょう。現に警察大学にいた。では、あなたの方は、調査の結果そういうことが明らかになったら、警察大学に調査の手を及ぼされますか。警察大学に犯人が隠れていた。警察大学というものは警官でなければ入れないところでしょう。明らかに警察がかばって、東京の警察大学の寮に入れて、危なくなってからこれを出して行方不明にさせたということになるじゃありませんか。そういう点についてあなたは調査される意思があるかどうかという点も伺いたいと思います。
  115. 井本臺吉

    ○井本政府委員 とにかく、主犯が別におって、犯人が市大何がしであるという主張が詳細なされているのでありますから、その関係が果して真実であるかどうかという点は、私ども義務としても当然調べるべきことだと思っております。
  116. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 法務大臣、ただいまお聞きのことであります。現職の警官が駐在所を爆破して、それに関係のない人が十年の刑を受けているのですよ。人権上これは重大な問題でしょう。往々にして裁判に誤判ということがあります。検察庁で事実関係の誤認ということもあります。しかし、これは明らかに仕組んだ事件です。こういう重大なことがあるのに、市木という人物がいてこれをやったんだと被告側が幾ら主張しても、検察庁がこれを取り上げなかったという事実があるのです。明日私は石井警察庁長官、大麻国務大臣の御出席を願ってこのことについて質問いたしますが、こういうような事件があるということをあなた十分認めて、検察庁にしかるべき活動をするようにやっていただきたいのですが、その点、法務大臣に簡単に御答弁願います。
  117. 牧野良三

    牧野国務大臣 同感であります。貴意に沿うように努めます。
  118. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 なお一言だけ人権擁護局長に伺います。これは人権じゅうりんとして最も悪質のものであります。現職の警官が事件を仕組んで、無実の人が懲役十年を第一審では受けております。あなたの方で今日まで調査なさったか、これから調査なさるのか、その点だけちょっと伺います。
  119. 戸田正直

    ○戸田説明員 今までこの事件を承知いたしておりませんので、調査いたしておりません。しかし、ただいま事件をお伺いいたしましたので、可能な範囲において調査いたしたいと思います。
  120. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 それでは、きょうはこれだけにしておきます。
  121. 福井盛太

    ○福井(盛)委員長代理 本日はこれにて散会いたします。     午後一時四十八分散会