○井堀
委員 俗にいう
スト規制法についてただいま本
委員会が
審議をいたしております。これに関連いたしまして、法務大臣の所見を二、三ただしたいと思いますので、御
答弁をお願いしたいと思います。
この
法案提出に当りまして、
政府を代表され
倉石労働大臣から趣旨の説明がございましたが、その中で、本
法案を
提出するに当りまして、最も私どもの重要な点だと思いまする一節に、こう述べております。「
労働関係に関する事項につきましては、法をもってこれを抑制し、規律することはできる限り最小限度にとどめ、むしろ労使の良識と健全な
労働慣行に待つことが望ましいことは、言うまでもないところであります。」こう述べておるわけであります。これは本
法案にとりまして重要な
一つの趣旨弁明であると思うのでありますが、さらにこの
法案が第十五
国会に提案された際にも、
政府は異なっておりましたけれども、同様の趣旨のことを述べております。これは省略いたしますが、これも今読み上げたと同じような趣旨のことを述べております。そうして重ねて労使関係の事項につきましては、法をもってこれを抑制、規律することはできる限り最小限にし、労使の良識と健全な慣行の成熟にゆだねることが望ましいことは言うまでもありません。こういう説明をいたしておるわけであります。
そこで私がお尋ねをいたしたいと思いますことは、労使関係を律することは、ここにも繰り返し述べておるように、
法律をもってこれに
規制を加えるということは、ただ単に避けたいということだけではなしに、もっと根本的なものがあると思うのです。これは今後治安の維持あるいは司法上の問題などを通じてこの問題が当然出てくることになるわけでありますが、私どもの懸念いたしますことは、労使関係というものが明治憲法のもとにあって、すなわち所有権絶対の座に立った労使関係でありましても、御案内のように
労働者の国結権は
法律の上では全く否定され、団体
行動権は手かせ足かせを加えられて自由を奪われておった時代にありましても、
ストライキというものは一種の社会的な病気であって、これを阻止することはむずかしいというので、反射的な効果をねらったのでありますけれども、木に竹を継いだような
労働争議調停法といったようなものがありましたことは御案内の
通りであります。こういう全く民主的な自由というものが
労働者にない時代にあっても、こういうものが存在しておったわけであります。ところが今日
労働者の基本権の中におきましても、生存権を左右するような基本的人権というものは、そう数あるものではございません。ことに私は午前中
総理に
質問をいたしました際に引例をしましたが、それは今日の憲法は言うまでもなく主権在民でありますから、
政府が人民に対して基本的な人権に干渉を加え得るということがきわめてきつい
制限になることは、民主主義のおきてとして今さら申し上げる筋ではない。特に労使関係は、労使の良識ある慣行のもとに処理すべきことは社会通念になっております。これは古今東西を通じて共通した
考え方であります。こういうはっきりしたものが前提になって、しかも日本の憲法で何回となくこれを宣言し、さらには
法律をもって
労働者の団体
行動権あるいは団体交渉権、団結権に保護を加えておりますことは、言うまでもないことであります。こういうような時代に、こういう
法案がぼっこり出てくるということは、第十五
国会に提案されたときの提案趣旨によりますと、私は
一つの社会的意義があったと思うのであります。これは当時日本の有力な
労働団体が、あげてベースアップの戦いの中で、かなり強いスローガンを掲げて、しかも電産と当時の炭労が指導的立場に立って
ストライキを展開したことも、またその
ストライキが当時非常に大きな世論をゆり動かしたことも、事実であります。こういう社会的な
一つの大きなできごとを背景にして
政府が提案してきたということは、速記録をひもといてみればわかると思うのであります。だからこういうような関係は、今日全く変った背景であります。特に背景が変っただけではなくて、もっとはっきり言えることは、そういう社会的な諸条件というものがよい
意味において解消されておるという、この事実に
政府が目をおおっておるのではないかという点が重大であろうと思うのであります。もし目をおおうてないというならば、これはきわめて恐るべき陰謀がひそんでいるのではないかということを国民は疑わざるを得ないのでありまして、この
意味で
総理に実はお尋ねをし、さらにあなたにこれからお尋ねをしようとするものであります。これが私のあなたにお尋ねしようとする
考え方の前提をなすものでございます。
そこで具体的にお尋ねをいたしたいと思いますのは、これは前
国会の予算
委員会、あるいは本
委員会において、あなたにも御
出席をいただいてお尋ねをした、具体的な事柄が
一つあります。それは未払い賃金が非常に多いということ、そうしてこの未払い賃金というものの本質はどういうものであるかということは、もう明らかにしてきたところであります。
労働者が約束に基いて労務を完全に提供し終って、さてそれから受け取った賃金で生活を、しかもそれも最小限度
——最小というよりは、生命を維持する動物的な生存の意義しか許されないような低い賃金の
労働者が、未払い賃金の被害者の中に数多いということは、あまりにも明瞭であります。これは憲法や
法律によって繰り返し保護を約束しておるにもかかわらず、こういう
労働者の当然の保護すらが受けられないで、労務はすでに提供して、受け取る賃金それ自身がもらえない、生活ができないというような、こんな不合理な現実が当然として今日存在するのです。労務行政の中ではこれは一例にすぎません。私はあとで
労働大臣にお尋ねをするつもりでおりますが、そのほかにかなり広い範囲にわたって、これの統計が示すように、多くの国民の中で、完全失業者は言うまでもありません、不完全就業、不完全
労働、あるいは潜在失業、半失業と、いろいろな
言葉で言われておりますが、この人々の数を今日の統計の上では正確にわれわれに答えを与えておりませんけれども、幾つかの資料を検討いたしますと、最小限度に見積ってみましても、その
労働で生活を維持することができない、きわめて少い収入、もしくは不完全な就業で生活に悩んでおります
人たちが、少く見ても七百万から八百万、もう少ししさいに統計を検討いたしますならば、一千万を下らぬであろう。この数字については、もし反駁する資料がありますならば
出していただきたい。こういう多くの日本の善良な、しかも義務を果している国民の生活が許されないという現状であります。こういうものに対して
——私がここで憲法の条章を引例する必要はありますまい。言うまでもなくすべての国民に対してその生活を保障するということは、これは政治家たるものの重大な
責任を感ずるところであります。特に
政府はこれに保護を与えなければならぬことは、幾多の
法律が命じておるのでありますけれども、一方には、
鳩山内閣は社会保障
制度などと国民に呼びかけております。その前に
法律に命じておる、ことに賃金の未払いが放任されていて、何とも手をつけがたい。あなたはこれに対して、今日の場合においては特別の立法を
考えるより手がないということを、私の
質問に
お答えになっておる。もうその後かれこれ二年経過いたしておりますけれども、準備にいたしましては少し長過ぎる。もし特別の立法ができないとするならば、未払い賃金を解消する、たとえば今の
——これは
労働省の重大な
責任ですが、全国に基準監督署を設けて、こういうものに対しては手厚く保護をすべきことを
法律は命じておるのでありますけれども、その
原因はいずれにあるかはわかりませんが、今日基準監督署で報告を受けた未払い賃金だけが統計に出て参りまして、このことは午前中述べました。一方には、
政府は
労働者に対して、当然その生活を保障し、その権利を守ってあげなければならぬ義務を課せられておるのに、その義務が実行できない。これは私は、抽象論ではなくて、具体的事実をあげてお尋ねして、あなたがそう答えた。それが二年間かかってもまだできていない。それなのに、あにはからんやこういう
スト規制法というようなものを
出してくるということは、私どもはどうしても了解ができない。それは私も、何も
政府の全
責任において生活を保護するのが民主的な政治の建前だとは
考えておりません。国民自身が自主的な力において
自分の生活、権利を守る運動は、民主主義社会においては
一つの義務であるし、また権利として憲法で保障されておるわけあります。そこに団体
行動権、団体交渉権というものが重要な役割をするのであります。それに
制限をいささかでも加えるということは、一方にこういう事態を解消した、やや健全な経済、健全な社会状態にある国においてなら、私は悪いとは言わぬのであります。こういう点について法務大臣は特別な
措置をもうただ
一つの点だけお
伺いしましょう。未払い賃金の問題を解決できないか、解決しないで済むのか。この点に対してあなたがはっきり御
答弁ができるなら、私は、
スト規制法に対する
閣議におけるそれぞれの論争の際に、あなたの立場からも発言があったと思う。これは方々のことを申し上げることは、時間の関係で何だと思いますから、
一つに集約をしてお尋ねしておる。これはあまりに明確な事例でありますから多くを論議せんでいいと思いますので、このことを選んだ。この未払い賃金の問題に対してはあなたは立法
措置を必要とするとお認めになっておるが、それができてこない。現行法でこの問題を
政府はどう御解決になるか、この所存を
一つ伺って、次にまたお尋ねをいたしたい。
〔
委員長退席、藤本
委員長代理着席〕