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1956-01-30 第24回国会 参議院 本会議 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年一月三十日(月曜日)    午後三時七分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第四号   昭和三十一年一月三十日    午後三時開議  第一 国務大臣演説に関する件     ━━━━━━━━━━━━━
  2. 河井彌八

    議長河井彌八君) 諸般の報告は、朗読を省略いたします。      ——————————
  3. 河井彌八

    議長河井彌八君) これより本日の会議を開きます。  この際、お諮りいたします。鹿島守之助君から、病気のため三十一日間請暇の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 河井彌八

    議長河井彌八君) 御異議ないと認めます。よって許可することに決しました。      ——————————
  5. 河井彌八

    議長河井彌八君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。  鳩山内閣総理大臣重光外務大臣、一萬田大蔵大臣、高碕国務大臣から発言を求められております。これより順次発言を許します。鳩山内閣総理大臣。    〔国務大臣鳩山一郎登壇拍手
  6. 鳩山一郎

    国務大臣鳩山一郎君) 第二十四回国会に当り、本日、昭和三十一年度予算案を提出いたしまして、政府所信を述べる機会を得ましたことは、私のまことに光栄とするところであります。  昨年の秋、自由民主党の結成と社会党の統一とによりまして、二大政党対立実現を見ましたことは、わが国憲政史上画期的な意義を持つものであります。この機会に、両党は、政党責任政治のあり方を国会運営の上に誤まりなく映し出しまして、相共に国会の品位を高めることに努力いたさなければならないと考えております。二大政党対立実現民主政治確立ために、身をもって尽されました緒方竹虎君を突如として失いましたことは、国家ため、まことに痛恨のきわみでございます。  さて、平和外交推進は、第一次鳩山内閣以来、一貫してとってきた不動の方針でありますが、政府は一そう強力にその方針を推し進めて参りたい決意をしております。申すまでもなく、わが国外交基調は、自由民主陣営の一員として、米国を初め、その他の民主主義諸国との協調にあることは当然であり、政府は今後これら諸国との提携を一段と緊密にして参るつもりでありますが、ソ連に対しましては、必要な重要案件解決し、平和条約を締結し、すみやかに国交正常化するとの既定方針に従って引き続き誠意をもって交渉を進める所存であります。  さらに、アジア諸国との関係につきましては、貿易伸張に必要な経済外交の建前からも、一段と協力親善の度合いを密にする必要があると痛感をしております。従ってまず懸案の賠償問題、なかんずくフィリピンとの賠償問題の早期妥結に最善を尽すとともに、その他の東南アジア諸国との国交樹立や、中共に対する貿易関係改善にもカを注ぎたいと思うのであります。  日ソ交渉と関連いたしまして、特に一言したいことは、共産主義国家国交正常化をはかることと、国際共産主義宣伝方策に対処することとは、おのずから別個の問題であるということであります。政府は、国内的にはあくまでも反共主義立場を堅持いたしまして、国民共産主義思想の浸透から防いで、自由と民主主義を守るために、厳正な方策を講じて参る決意をしております。さらに治安維持に関しましては、関係機関連絡を密にいたしまして、遺憾なきを期する所存でございます。  以上のような外交方針とも関連をして、わが国国力国情に相い応じた自衛力整備いたしまして、みずからの手でみずからの国を守り得る態勢を整えて、米駐留軍の撤退に備えることが必要なことは申すまでもないことであります。政府明年度においても、自衛隊の人員や装備について所要の増強を行うとともに、防衛に関する施策に遺憾なきを期するために、すみやかに国防会議の構成などを定め、これを発足させたいと考えております。  次に、わが国が真の自主独立達成するためには、占領中に制定せられました各種の法令や制度を、わが国情に即したものに改める必要があることは、しばしば申し述べた通りであります。私はさき国会で、憲法改正行政機構改革を施政の目標として掲げましたが、この二つ目標こそ、心から日本独立をこいねがう為政者としては、終戦十年の今日、何よりも先に考えなければならない責任であると信じて疑いません。特に、国の大本を定める憲法については、その内容とともに、これを制定するときの経緯と形式が非常に大きな意義を持つものであります。日本国民がみずからの手によってみずからの憲法を作り上げる準備を進めるために、まず内閣憲法調査会を設ける手続きをとって、慎重に検討を開始すべきであると考えております。  また、行政機構につきましても、実情に適合しない制度組織は、この際根本的に改革をして、国民に便宜を与えるものに作りかえる必要があります。政府は昨年の末、行政審議会強化して、広く各方面の公正な意見をとり入れつつ、根本的な改革案検討しておりますが、成案を得次第、できるだけ早い機会に、所要の法案を提出いたしたい所存でございます。  次に、わが国経済状況を見ますると、昭和三十年度の国際収支は、輸出貿易の飛躍的な増加によりまして、きわめて好調を示し、さらに農産物空前豊作も手助けとなりまして、産業活動は活発となり、国民経済は安定した基礎のもとに、拡大発展方向をたどりつつあることは喜びにたえません。政府は、今回このような経済事情にかんがみまして、経済自立五カ年計画を決定したのでありますが、その五カ年計画の初年度に当る昭和三十一年度においては、引き続き経済正常化方向を一そう促進しつつ、生産基盤強化輸出振興雇用増大等施策重点をおきまして、計画目標達成ため基礎確立することに努めたいと考えております。三十一年度予算案に盛り込んだ重要政策の詳細のことにつきましては、関係閣僚から説明することになっておりますので、私はそのおもなるもの二、三について簡単に申し述べることにいたします。  その第一は、産業基盤強化輸出貿易振興についてであります。わが国経済発展基礎が、この二つにかかっていることは申すまでもありません。そのため政府は、あらゆる産業近代化合理化を一そう推進いたしまして、さらに労使の協力体制確立することなどによって、生産性向上をはかり、産業基盤強化することに力を尽す考えであります。また経済外交推進と相待ちまして、国際通商改善海外市場の開拓、輸出品価格の安定などによって、貿易振興に特段の力を注がなければならないと考えております。  その第二は、民生の安定と失業対策についてであります。国民生活の安定は、自主独立完成ために欠くことができないものとして、われわれが第一次内閣以来掲げている重要政策一つでありまして、そのため政府は、特に今まで社会保障拡充強化住宅建設、減税、この三つに力点をおいて参りました。そのうち、社会保障中心課題とも申すべきものは、疾病に対する医療保障確立にあると思われますので、将来、全国民を包含する総合的な医療保障達成することを目標として、計画を進めて行くつもりであります。また住宅につきましては、既定方針通りに十カ年で住宅難解決するという目標のもとに、三十一年度は質の向上にも重点をおきまして、四十三万戸を建設する予定であります。さらに従来不均衡の感を免れなかった国民税負担につきましては、三十一年度は、さしあたり特に勤労所得税軽減重点をおきましたが、さきに三大目標一つとして表明した中央地方を通ずる税制の根本的改正は、三十二年度からこれを実施することとし、早急にその検討を開始する所存であります。  現下の失業問題は、政府の最も重視しているところであります。この根本的の解決は、結局経済拡大発展による雇用増大に待たねばならないところであり、経済五カ年計画において、その実現に努めることにしておりますが、当面の対策としては、特別失業対策事業と道路の新設整備や、各種国土開発などによる公共事業総合的運用によりまして、極力失業者の吸収をはかる計画でございます。  重要政策の第三は、新農村の建設中小企業振興でございます。まず農林漁業対策としては、特に青年の自主的活動中心として適地適産を目標とした土地条件整備経営多角化技術の改良などに力を注ぎまして、村全体として安定した経営生活確立し得る新農山漁村建設を助けることにしております。中小企業につきましては、極力その組織化をはかり、設備の近代化技術向上などを促進する一方、中小企業金融を円滑にいたしまして、資金を確保することに意を用いる所存でございます。  その第四は、文教刷新科学技術振興についてであります。自主独立達成も、正しい民主政治確立も、その基はすべて国民の燃え上る祖国愛と良知良能にあることは言うことを待ちません。その意味で教育こそ一切に通ずる大本でございます。そこで政府は、教育制度を根本的に検討するため調査機関を設けまして、文教刷新をはかりたいと考えております。さらに科学技術振興を目ざして各種試験研究体制整備に努めまして、特に原子力の平和的利用につきましては、強力にその推進をはかる考えであります。  次に地方財政につきましては、政府地方団体の過去の赤字を解消するため必要な措置を講じて参りましたが、今後はさらに機構簡素化補助金制度改革公債費合理化自主財源の充実などによりまして、地方財政健全化をはかりまして、赤字の発生を見ないために根本的な対策を立てる所存であります。  最後に、政府は二大政党対立の新事態に即応いたしまして、政局の安定と政界の刷新をはかるために、選挙制度を根本的に改正いたしたいと考えております。その内容につきましては、近く行われる選挙制度調査会の答申ともにらみ合せまして、政府としての態度を決定したいと思っております。  以上、ここに所信一端を述べましたが、私は国民の総意をできるだけ施策の上に反映いたさせまして、民主政治にふさわしい明朗な政治を行なって参りたいと念願をしております。国会を通じて国民各位の御理解と御協力を心から切望する次第でございます。  以上。(拍手
  7. 河井彌八

    議長河井彌八君) 重光外務大臣。    〔国務大臣重光葵登壇拍手
  8. 重光葵

    国務大臣重光葵君) 第二十四回通常国会の開会に当りまして、最近の国際情勢動向と、わが外交の諸問題とについていささか所見を申し述べますことは、私の最も光栄とするところでございます。  昨年十月ゼネバに開かれた外務大臣会議が、事実上ソ連側西欧側との間に物別れとなりまして以来、両者の緊張は不幸にして緩和されぬ形勢でございます。  欧州においては安全保障機構も、ドイツ統一の構想も、すべてたな上げのまま、形勢は行き詰まり状態でありますが、欧州以外の地域においては、ソ連の新たなる積極的政策によって形勢は著しく動いて参りました。すでに御承知通りソ連は、エジプトに対して武器供与の手段によって、まずアラビア諸国民族主義思想に投じ、さらに首脳部はインド、ビルマ、アフガニスタン等、いわゆる中立主義諸国を歴訪して、また経済援助を提供して、西欧勢力の駆逐をはかっておるようなありさまであります。  かかる情勢のもとに、米国大統領年頭教書をもって、ソ連に対して確固たる決意を表明し、英国首相もまたこれに呼応して強く警告を発しておるありさまであります。米国議会に提出された新予算は、重工業中心ソ連の第六回五カ年計画に対するものでありまして、ともに軍備、なかんずく原子兵器に力を入れておることが注目されるのであります。ここにおいて、せっかくゼネバ首脳者会談によって原水爆による戦争は不可能であるという印象を与えて、世界の神経を鎮静せしめた効果は減殺されんとしておるありさまであることは、まことに遺憾なことでございます。  以上のごとき形勢に対し緊張の緩和を希望する声は世界の識者の間に高くなるものと観察せられるので、関係国の平和に対する努力は、結局実を結ぶこととは思われますが、かかる深刻なる情勢は、わが国内外の諸般の問題に対して直接複雑なる影響を与えるものでありますから、その推移に対し、特別の注意を払う必要のあることは言うまでもありません。しこうしてこれに対処するためには、わが国の置かれたる国際的地位を十分に自覚し、いやしくも国家の進路について誤解を与え、信を友邦に失い、または他国の侮りを受けるがごときことなきを期せねばならぬと思うのであります。自由民主日本建設は、自由民主諸国との協力によってなし遂げ得るのであって、政府自主独立外交を進めるに当っても、あえて米国との緊密なる協力をもって国策の基調といたしておるゆえんのものはこのためでございます。  米国とは、国防についてのみならず、全面的に協力関係にあるのであります。この協力関係は、わが国独立完成をなすためにも、また国際的地位を高めるためにも基礎的重要事でありますから、よく相互の間に理解を深くし、密接なる連絡のもとに必要なる施策を講ずるの必要があります。私が政府を代表して昨年八月渡米して、基本問題について米国政府との間に了解を遂げたのもこのためでございます。  防衛問題はもとより日本自身の問題であって、日本において自衛上必要な国防を備えることは、独立国家として当然のことでございます。しかしながら、現代における国防は、単に武力のみをもって論ずるわけには参りません。国防を全うするためには、総合国力向上をはかることが不可欠の要件であるとともに、国防はまた他国との連携においてのみこれを考うることができるのであります。  米国とは、日本は、安全保障条約及びこれに基く行政協定によって、共同防衛関係にあるのであって、御承知通り日本防衛力を漸増するに従って防衛分担金の支払いも減少することに相なっておるのでありまして、今回、来年度の防衛費に関連して、防衛分担金軽減はもちろん、その将来の漸減方式についても両国政府の間に合意が成立いたしたのでありまして、来年度分担金は大幅に減少されるように相なった次第でございます。  さて、わが国力の伸張に伴いまして、わが国国際的地位は次第に向上しつつあるのでありますが、これがためにはアジア新興諸国との親善に、特に重きを置き、手近なところから実際的に施策を進めていく必要がございます。アジアアフリカにおける民族主義実現は、第二次世界戦争の最も貴重なる所産でありまして、その国際上の重要性は近来とみに比重を増しつつあるのであって、現に国際連合において二十三カ国のアジアアフリカ国を算するに至っておるありさまであります。わが国としては、これら諸国発展を衷心からこいねがうものでありまして、あるいはこれら諸国親善友好条約を結び、または経済的に文化的に互いに協力して、もって平和外交推進することを方針としておるのでございます。  そのため政府としては、わが国のコロンボ・プラン参加等を通じて、同地域に対する経済協力体制を整えつつあるのでありますが、わが国の資本と技術とを活用してアジア諸国経済開発に貢献し、その生活水準向上協力することは、わが国の使命として重要なものであると思うのであります。他面わが国は、いまだフィリピンインドネシア等、有力な国々との間に賠償問題の解決を見ざるため国交樹立に至らず、従ってこれら諸国との経済関係発展せしめる上に多大の支障を来たしておる状態でありますので、政府といたしましては、この戦争の跡始末ともいわれる賠償問題の解決を一そう促進する所存でございます。フィリピンとの間の交渉は、今日なお鋭意続けられておるのでございますが、遠からずこれも妥結を見ることを期待しておる次第でございます。  次に、韓国との国交が今日なお調整せられていないことは、東亜の全局から見ても遺憾しごくでありますから、わが国としては、すみやかに懸案解決し、国交調整の目的を達せんことを企図しておるのでございますが、これがためには、サンフランシスコ条約立案者である米国の公正なるあっせんをも期待しておる次第でございます。緊急に処理を要するものは、抑留漁夫の帰還問題でありますが、いまだにその解決を見ず、関係者に対して真に同情にたえないのでございます。この問題は、韓国側より大村収容所にある韓国人の釈放が引きかえに要求せられておるので、これに対しても、わが方は実際的調整案を提出して、すみやかに妥結し得るよう極力努力しておる次第でございます。  国民政府を承認いたしておりまするわが国が、同時に中共中国政府として承認し得ないということは言うを待たざるところでございますが、中共政権の現存する事実にかんがみて、国際義務に反せざる範囲内において、中共地区との貿易増加をはかる政府方針は、これまでと変りはございません。なお、東亜の大局に重大なる関心を持つわが国といたしましては、台湾海峡の紛争がすみやかに国際的に取り上げられて、話し合いによって何らかの平和的解決方法が見出されるよう希望してやまない次第でございます。  日ソ交渉は去る一月十七日四カ月ぶりで再開いたされました。政府といたしましては、既定方針を堅持してこの交渉を続行するものであって、双方主張が漸次調整せられ、すみやかに交渉の成立せんことをこいねがうものであります。平和条約締結方法によって国交正常化をはかることにつきましては、交渉再開後においても、双方の間に意見の一致を見ており、また相手国国際的立場については、これを問題としないということについても了解が遂げられておるのでありまして、この基本的の了解の上に平和条約内容をなすべき諸問題について、現在故障なく折衝が続けられておる次第でございます。重要問題はもちろん領土問題であります。わが方は御承知通り、歴史的に日本固有の領土である地域の返還を要求しておるのであって、自余の地域の帰属は、サンフランシスコ平和条約関係もあって、国際的に審議決定すべきものであると主張しておるのであります。  なお、抑留者の引き揚げについては、人道上の見地より、一日もすみやかにこれを解決すべきものであるという、これまでの主張を繰り返して、その実現努力をいたしておる次第でございます。  最近わが国貿易が著しく好調を示しておりますことは、わが国にとっての重要市場であるドル地域との貿易が目ざましい伸張を示しておること、また対スターリング地域貿易も、客年の日英貿易取りきめによって、ますます増加しておるということが大きな原因であると思うのでありますが、この貿易好調の趨勢を助長するため、今後も引き続き経済外交を極力推進せんとするものでございます。これがためには各国と個別的に貿易協定等、必要なる交渉を行うのはもちろんのこと、広く国際的に経済交流を一そう盛んならしめるよう努力する方針でございます。  他面、わが国対外経済発展を安定した基礎の上に置くためには、でき得るだけ多くの国と通商航海条約を締結することが必要であります。現在わが国は十数カ国との間に、この種の条約を締結しておるのでありますが、本年はさらに多くの国々通商航海条約を締結するように一段の努力をなす考えでございます。また国際経済上の諸問題を国際機関を通じて解決していくという一般的の傾向にかんがみまして、わが国もまた広く国際機関との協力を進めていく方針であるのであります。  右のほか、長期的にわが国貿易の着実な進展をはかるためには、経済を一層合理化して商品の国際的競争力を高め、また公正なる取引慣行を尊重し、貿易に対するわが国際信用を大ならしめることが肝要であることは申すまでもございません。さらに国際的大勢にも対処して貿易自由化という方面努力することが必要であると思うのでございます。  なお海外移住の問題は、経済外交一端としても、きわめて重要でございます。移住は、もとより移住国の希望に従って行われなければならぬのでありますが、わが移住者は、年々歓迎される傾向にありまして、これらの移住者がその国々の繁栄に少からず貢献しておることは、われわれの喜びにたえぬところでございます。  さて終戦後すでに十年になりまして、世界情勢は大なる変化を見ておりますが、さらに今後の十年は、おそらく人類の平和か破滅かの決せられる時期であるとさえ言われておるくらいでございます。私は人類は、必ず破壊よりも建設の道を選ぶことを信ずるものであって、この信念の上に、われわれは自由民主日本建設に全力を尽し、世界の平和と安定とに寄与せんとするものでございます。国際情勢を大観いたしますのに、今日は、わが国が力強き建設の道を進むために、国民の総力をささぐべき時期であると言っても過言ではないように信ずる次第でございます。いささか考うるところを申し上げまして、私の外交演説を終ります。(拍手
  9. 河井彌八

    議長河井彌八君) 一萬田大蔵大臣。    〔国務大臣萬田尚登登壇拍手
  10. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) ここに、昭和三十一年度予算を提出するに当りまして、わが国が当面いたしております内外の経済情勢と、これに対処いにしまする財政金融政策基本方針を明らかにいたしまして、国民各位の御協力を得たいと存じます。  最近におきまするわが国経済推移を見ますると、いわゆる経済正常化が進み、安定した基調のもとに経済拡大発展が行われつつあります。’、ハ  すなわち、昭和三十年度は前年度に比べまして、輸出は二八%、鉱工業生産は一〇%、国民所得は九%と、それぞれ大幅な増加を示すものと見られております。これは世界にもまれな記録と言わねばならないのであります。また、国際収支は、昨年中に五億ドルに近い黒字を示し、外貨保有高は、昨年末現在十三億ドルを突破いたしました。かくて、わが国経済は、漸次、特需依存状態を改めまして、自立達成に近づきつつあるのであります。しかもこの間におきまして、物価はほとんど横ばいの状態推移して参りましたため国民通貨価値に対しまする信頼はますます高まり、預貯金の増加につれまして、金融面正常化が進み、金利は大幅に低下して参りました。また、憂慮されました雇用の問題につきましても、その最悪の状態を脱しまして、好転のきざしがうかがえるのであります。今や、われわれが、かねて強調しておりました「インフレなき経済拡大」が実現しつつあると言っても決して誤まりではありません。  それでは、このような経済拡大がどうして生じたかと申しますと、それは、農産物空前豊作もありましたが、世界景気好転わが国輸出を増大させたことが大きな原因と言えましょう。しかし、その前提としてわれわれが忘れてはならないことは、この世界的な好景気を受け入れるだけのわが国経済態勢というものが、両三年来の経済健全化政策の実施によりまして準備されていたということであります。(拍手経済健全化政策の実施と世界景気好転とが、時を同じくいたしましたことは、わが国にとってさらに幸いであったと言わねばなりません。  かようにいたしまして、わが国経済再建は、今や、新しい段階に入ったのであります。今後は、この経済基調をできるだけ堅実に発展させながら、真に底力のある日本経済を築きあげるため努力をいたさねばなりません。  その場合、特に注意を要しますることは、貿易をどうしても主としなくてはならぬ日本経済の構造から見まして、海外経済動向がどうなるかと言うことであります。  ここ一両年、米国及び西欧諸国を初め、多くの国々では、経済は繁栄し、工業生産は顕著な上昇を示し、経済交流の活況によって、世界貿易は全体として空前の大きさに達しました。このような海外諸国の好況は、にわかに後退するとは思いません。しかし他面、各国とも好景気に伴いますインフレの高進を避け、国際収支均衡を得るため、昨年来、中央銀行公定歩合引き上げ等によって、信用を抑制し、景気調整ため努力を払っております事実は看過できないのであります。  このような景気調整の政策が、わが国輸出の前途に影響いたしますかどうかは今軽々に判断できませんが、この点について、警戒的な見方をする向きも少くありません。加えて、これら諸国は、すでにわが国に先んじて経済力を充実し、生産性向上に努めておりますので、これがその効果を発揮しますと、わが国としても、国際市場を舞台に激しい輸出競争にさらされることは避けがたいのであります。また地域的な経済圏の存在を考えますと、世界経済の活況が続いたといたしましても、それがそのまま、わが国貿易拡大をもたらすとも限りません。このような情勢にかんがみましてわが国としては常に、世界経済動向に即応し得るよう、国内経済態勢を整え、産業国際競争力を強化していくことが何よりも必要と存ずるのであります。  以上申し述べました内外の経済情勢にかんがみまして、今後の経済運営の基本方針として、あくまで現在の健全化政策の基調を堅持すべきであると信ずるのであります。かくて、通貨価値を安定させ、インフレを避けながら、経済拡大発展をはかることがどうしても必要であります。健全財政政策では経済が縮小均衡に陥りやすいとよく言われるのでありますが、さきに述べました昨年以来のわが国経済の現実の推移は、この種の見解の誤まりであることを実証していると思うのであります。むしろ逆に、財政金融をより健全化し、通貨の安定を確保することこそ、インフレなき経済拡大実現する基礎であることが明らかになったと思うのであります。私は安易な拡大均衡論に賛成することはできません。財政運営の基本方針は、何よりも財政の健全性を堅持することに置かれるべきであると存じます。  昭和三十一年度予算は、この趣旨にのっとりまして、収支均衡の原則を貫徹いたしまして、財政面からするインフレ要因を厳に排除することを目途といたしまして編成いたしました。このため、一般会計予算の総ワクを、租税その他の通常収入によってまかない得る限度内にとどめ、その範囲内において重点的に緊要施策推進をはかったのであります。  もとより、国の重要施策が、すべてこの予算のワク内で十分に遂行されるとは申しがたいでありましょう。一部には、公債等の発行によっても財源を調達し、積極的に各種経費の増額をはかるべきであるという声もないではありません。しかし、私はいまだその時期にあらずと考えるものであります。  戦後の異常な時期におきましては、経済の再建復興のために、財政が直接に大きな力となってきたことは当然であります。しかしながら、今日経済全般が現に正常化方向に進み、民間の資本蓄積も充実しつつある段階におきましては、漫然と財政規模を膨張せしむることは、国民負担の増加を招き、あるいはインフレを引き起して、かえって経済発展を阻害するおそれが多いのであります。経済の自立発展は、財政、金融を含め、総合的な経済施策の運用によって初めて達成し得るものであることをここに強調いたしたいのであります。  以上申し述べました財政運営の基本方針に即応いたしまする金融政策のあり方といたしましては、私は、現在進みつつある金融正常化をさらに推進し、金融が、健全にして自主的な機能を十分に発揮するよういたしたいと考えております。  御承知のように、近時、通貨価値の安定により、金融機関の預貯金は、きわめて順調な増加を続け、金融機関の日本銀行に対する依存傾向はほとんど解消をみるに至りました。しかし、この資金の需給関係の緩和と金利の低下は、特に短期資金において著しいのであります。  従いまして、今後の金融施策といたしましては、これらの短期資金の長期市場への流入を促進し、長期金利の引き下げをはかることが肝要であります。このため、社債等の発行条件を改訂するとともに、その取引を円滑にいたしまするよう、社債市場を再開することが必要であると思います。かようにして、長、短期資金を通じて金利の平準化が達成され、漸次、金利体系が確立されるでありましょう。政府といたしましては、さらに一段と預貯金の増強をはかりまして、資金需給の緩和によって、この平準化された金利の低下を一そう促進して参りたいと思います。  このような金利の低下は、企業経営合理化、安定化に寄与いたしますとともに、健全な投資の伸張を通じまして、経済拡大発展の要因となると思うのであります。企業におきましても、このような情勢に即応して、社内留保を充実し、増資を積極化する等、資本構成の是正に一段と努力をいたされることを望むものであります。  次に、市中銀行が日本銀行依存の状態を脱しました今日におきましては、中央銀行の通貨調節機能につきまして、新たな角度から検討を加える必要があると考えます。このため日本銀行による証券の売買市場操作が、より一そう適切に行われ得るようにいたしますとともに、支払準備制度の創設についても、慎重に検討いたしたい所存であります。  また金融機関のあり方につきましては、各種金融機関の性質に即して業務分野の調整をはかる等、金融制度全体について検討を進めたいと存じます。これとともに金融機関は、金利低下の情勢対処いたしまして、経費の節減、配当等、社外流出の抑制をはかって、内部留保を増加し、その経費の合理化に一そうの力を尽されたいのであります。なお、金融機関がさらにその経営基礎強化いたすため、自主的に合同するなどのことも、望ましい方向であると考えております。  次に、財政金融総合一体化の原則のもとに、財政資金と民間資金を通じて、経済発展ため真に緊要な方面に資金が投下されるよういたしたいと考えております。このためには、金融機関の自主的かつ積極的な協力を期待するものでありますが、さらに資金の運用に関し、国の施策がより円滑に反映いたしますよう、適当な方途を講ずる考えであります。  中小企業金融につきましては、金融全般の正常化に伴い、漸次改善される傾向にありますが、信用保険、信用保証制度の活用と相待ちまして、民間金融機関がさらに積極的にこの方面に力をいたすことを期待いたすものであります。政府といたしましても、その重要性にかんがみまして、昭和三十一年度予算において、政府金融機関の資金を充実する等、中小企業金融については、格段の意を用いた次第であります。  次に、為替及び貿易面の施策につきましては、正常輸出の増進に特別の努力を払うことはもとよりでありますが、国内経済正常化に対応し、貿易為替制度正常化自由化推進したいと考えております。すなわち外貨予算の編成運用に当っては、輸入の自由化推進するよう配慮を加えまするとともに、関税の引き下げを通じまして、貿易拡大に一歩を進めたい考えであります。また、すでに双務協定の整理、商社の外貨保有の実施等を行なって参りましたが、今後銀行、商社等について、その機能の強化、活動の自由化及び自主責任体制の確立に資するため、為替管理制度及びその運用の改善について具体的な検討を加えて参りたいと存じます。  以上のごとき施策は、対外的にも、相互互恵の原則の上に立ちまして、輸出の促進、貿易規模の拡大をはかるという公理にもかなうわけでありまして、これは国際通貨基金及びがットの目ざすところとも合致すると思うのであります。  以上、今後の経済運営の基本方針につきまして、政府考え方を明らかにいたしました。  昭和三十一年度予算は、この趣旨にのっとりまして、財政の健全性を主眼といたしまして編成いたしましたが、同時に、さきに策定されました経済自立五カ年計画ともにらみ合せ、財源の許します限り政府の重要施策の遂行に遺憾ないよう努力したのであります。  一般会計予算の総額は、一兆三百四十九億円でありまして、前年度に比べますれば四百三十五億円の増加となっておりますが、国民所得増加等を勘案いたしますれば、この程度の予算規模は適当であると考えるものであります。また、財政投融資は、二千五百九十二億円と前年度に比べまして若干減少になっておりますが、別途民間資金の活用と相待ちまして、必要な資金を重点的に確保することができると確信をいたしております。  次に、政府が特に重点を置きました重要施策につきまして、その概要を申し述べたいと思います。  貿易振興及び産業基盤強化につきましては、輸出入銀行の資金を増額いたしますほか、海外市場の開拓、経済外交推進等に必要な措置を講じました。さらに民間資金の活用と相待ちまして、電源開発、基幹産業合理化、新規産業の育成、北海道開発等に努めることといたしております。  次に、民生安定のための経費といたしましては、まず社会保障関係費の充実をはかりますため、百二十二億円を増額をいたし、千百三十四億円を計上いたしました。特に失業対策につきましては、前年度に比べまして約三万人を増加して、約二十五万人の失業者を吸収することといたしております。  また住宅対策といたしましては、引き続きこれを強化向上して参ることといたしました。すなわち民間の自力建設を含め、約四十三万戸の建設を目途といたしまして、公営住宅、住宅金融公庫及び日本住宅公団を合せまして、五百十二億円の資金を予定し、前年度に比べますれば、四十五億円の増加となっております。  次に、新農村の建設を促進いたしますため所要予算措置を講じ、農林漁業金融公庫の融資と相待ちまして、農山漁村振興に必要な総合対策を強力に推進することといたしました。また、農業改良基金制度を設け、農民の自主的営農改善を助長することとしております。  中小企業対策につきましては、国民、中小両公庫の貸付資金を合計約百億円増額いたしますとともに、商工組合中央金庫の貸付利率の引き下げをはかる考えであります。また、設備の近代化経営合理化等を促進するため所要の経費を計上いたしました。  次に、文教及び科学技術振興につきましては、まず義務教育費国庫負担金を増額いたしましたほか、講座研究費の増額等国立学校運営費の充実をはかったのであります。特に原子力の平和的利用の研究を初め国際地球観測年、南極探検の事業等のための経費を計上し、科学技術振興には大いに意を用いたのであります。  次に国土の開発、保全につきましては、公共事業重点化、効率化をはかることといたしまして、特に道路の整備重点を置き、道路事業費を大幅に増額いたしますとともに、新たに日本道路公団を設立し、有料道路の整備を促進する考えであります。  次に、自衛体制の整備でありますが、国力に応じて漸次自衛力を増強するという基本方針にのっとりまして、防衛庁費として所要の金額を計上いたしますとともに、米国政府交渉の結果、防衛分担金を前年度に比し八十億円減額する等の措置を講じまして、総額千四百七億円の防衛関係費を計上いたしております。  地方財政につきましては、その根本的な建て直しを行いますことは、多年の懸案でありますが、昭和三十一年度におきましては、この際あとう限りの改善ため施策を講ずることといたしました。すなわち地方団体の自主的再建努力と相い応じまして、特にこの際、地方行政機構の簡素、合理化に努めますとともに、国の補助金等については、地方負担軽減の見地から、補助率の引き上げ等極力その合理化をはかるほか、自主財源強化等につき、所要の措置を実施する方針であります。以上の対策を講じますとともに、地方交付税につきましては、その税率を三%引き上げて二五%といたし、前年度に比べまして二百五十四億円を増額計上いたしたのであります。  最後に、歳入に関連いたしまして税制の改正について申し述べます。  過去数回にわたる減税にもかかわりませず、国民の租税負担はなお過重であります。さらにその負担の軽減をはかることが望ましいことは申すまでもありません。しかしながら他方財政支出に対する需要は、年々増加を続けている現状でありまして、この両者の要請を満足に調整することは、はなはだ困難な実情にあるのであります。政府国民負担の合理化をはかりますため、臨時税制調査会を設けまして、税制の根本的改革について目下慎重に検討中でありますが、さしあたり昭和三十一年度予算におきましては、勤労者の所得税負担を軽減いたしますため、給与所得控除の引き上げによりまして、初年度約百五十億円に達する減税を実施する予定であります。これによりますれば、夫婦子供三人の標準家族におきまして、月の収入二万五百五十六円までの所得は課税されないことになるのであります。なおその財源を調達するために、間接税の一部の増徴、退職給与引当金制度の改正等、税制に若干の調整を加えることにしております。  以上、財政、金融を通じまして基本的な政策及び昭和三十一年度予算について私の所信を申し述べた次第であります。生産及び貿易規模の拡大を通じまして、経済の正常な発展実現していきますことは、さきに策定を見ました経済自立五カ年計画も、その趣旨を同じくするところでありまして、この目標実現することに、最善の努力を尽したいと考えております。もとよりその道は決して容易なものではありませんが、私は国民諸君とともに、日本経済の将来に明るい自信と希望を持ちまして、堅実な前進を続けたいと存ずるのであります。国民各位におかれても、政府の意のありますところを了とせられまして、一そうの御協力を賜わりますよう切にお願いいたす次第であります。(拍手
  11. 河井彌八

    議長河井彌八君) 高碕国務大臣。    〔国務大臣高碕逹之助君登壇拍手
  12. 高碕達之助

    国務大臣(高碕達之助君) 政府は、昨年一月経済自立達成雇用機会増大をはかるため、総合経済六カ年計画を策定し、この構想に基いて昭和三十年度の経済計画を立て、その実現ため各種施策を実行して参ったのであります。最近におけるわが国経済は、産業貿易経済各分野にわたって目ざましい発展を遂げつつありますことは御承知通りであります。ここに、昭和三十年度も終末に近い現在において、この一カ年間を回顧し、わが国経済発展と、政府が当初立てた目標とを比較検討して、今後の経済施策の参考といたしたいと存じます。  昭和三十年度の経済計画を大幅に上回る発展を見ましたことは、主として輸出の伸長に負うところがあるのであります。すなわち輸出は、世界的な景気の好調によって予想以上に伸び、十六億五千万ドルと予定しておりましたものが、二十億五千万ドルと約二四%上回るほどの見込みでございます。かかる輸出増大を背景として、鉱工業の生産は、計画を約一〇%こえた発展を遂げることが確実に相なったのであります。また農林水産生産は、まれに見る好天候に恵まれまして、約一一%増しとなるものと考えられます。  かような貿易、生産の拡大に伴いまして、国民所得計画より約六%増加する見込みでありますが、その割に消費は節約されまして、個人の貯蓄は計画の約二〇%増しになると考えられます。また海外物価の上昇にもかかわらず、国内の物価は、ほぼ昭和二十九年度の水準の横ばいで推移していくものと考えられます。それで雇用情勢も、以上のような経済情勢を反映いたしまして、若干好転のきざしが見えておるのであります。  昨年の経済が、かように順調なる発展を見ましたのは、わが国が、一昨年来経済健全化政策をとり、経済健全化と金融の正常化と、これに努めて参りましたその効果が、たまたま海外経済の未曾有の繁栄に際会いたしまして、一そう発揮されたものであると考えなければならぬと存じます。しかしながら雇用につきましては、年々増大いたします生産年令人口の重圧、これが存在いたしますことと、企業の設備並びに技術の後進性、資本構成の不均衡、金利水準の国際的割高等に見られますように、経済基盤はいまだ脆弱でありまして、わが国経済の今後の発展には、なお多くの問題を残しておるのでありますので、昨年の経済の順調なる発展を楽観いたしまして、安易なる気持を抱いては相ならぬと考えるのであります。  政府は、昨年八月以来新たに総合的な長期経済計画のあり方を経済審議会に諮りまして、広く民間有識者の御協力のもとに慎重に検討を加えたのであります。その結果、経済審議会の答申を基礎といたしまして、経済自立五カ年計画樹立したのであります。この計画は、昭和三十一年度から昭和三十五年度に至る五カ年間において、国民の総生産を基準年次である昭和二十九年度に比して約三四%増加せしめ、その間、輸出は二十六億六千万ドルと六六%の伸長を見込みまして、国際収支は、二十九億六千万ドルの線でほぼ均衡することといたしておるのであります。本計画は総合経済六カ年計画と同じく、個人及び企業の創意を基調といたしました経済体制のもとで、経済自立と完全雇用達成することを目標といたしております。もとよりこの計画の性格から考えまして、目標数字等は必ずしも固定的なものとは考えず、弾力的に考慮していく所存であります。  さて、昭和三十一年度は、経済自立五カ年計画の初年度といたしまして、その目標を明示し、これにのっとって貿易、生産等、各分野における経済政策の向うべき方向を明らかにして、着実に計画達成することを企図し、内外経済動向をも勘考して、昭和三十一年度経済計画の大綱を立てたのであります。  今、計画の概要を申し上げます前に、その前提として考えました今後の海外経済動向を申し上げたいと存じます。  本年の海外情勢は、概して好況が続くものと期待されておりますが、昨年見られましたような未曾有の好況は期待することができない、景気の上昇率は若干鈍るのではないかと考えられるのであります。すなわち米国におきましては、やや伸び悩みの景気にありまして、またその他西欧諸国につきましても、これまた投資ないし消費の行き過ぎから多かれ少かれインフレの様相を呈しておりまするから、その是正のために引き締め段階に入った国が多いようであります。さらにわが国と最も密接の関係にあります東南アジア諸国について見ますと、この地域の景気は、世界景気の反映により左右されるのでありまして、昨年は若干景気が上回っておりますが、今後米国、西欧、英国等の景気が、昨年ほどの好況を期待することが困難でありまするので、当面大幅な購買力の増加は望まれないと考えるのであります。かような海外情勢を考慮いたしますというと、輸出振興中心として今後わが国経済が昨年同様の歩調で伸長いたしますには、少からざる努力が必要と考えられるのであります。  以下昭和三十一年度計画についてその大要を申し上げます。  まず貿易及び国際収支につきましては、輸出は約二十二億ドルまで伸長せしめ、他面特需は、約四億五千万ドルに減少するものと見込んでおりますが、国際収支全体といたしましては、若干の黒字になるように計画しております。また輸出の伸長、国内における投資及び個人消費の増大に対応いたしまして、鉱工業生産は、昭和三十年度に比べて約七%の上昇を予定するとともに、農業生産は、平年作として考え、物価は横ばいに維持することとしまして、国民の総生産を約八兆二千六百億円と昭和三十年度に比し約四%増加させることを企図しておるのでございます。  昭和三十一年度のかような計画達成いたしますためには、現在の経済正常化傾向を一そう促進しつつ、安定経済基調のもとに経済基盤の強化をはかり、積極的なる輸出振興ため施策を講ずるとともに、雇用問題の重要性にかんがみ、就業機会増大をはかることに施策重点を置いて行きたいと考えるのであります。  まず、輸出振興につきましては、対外的には、わが国の重要なる輸出市場である東南アジア、中近東及び中南米の諸国との経済外交をさらに推進して、国際経済協力並びに海外投資を積極化いたしたいと考えております。ことに賠償問題のある諸国とは、その合理的な解決に努め、正常なる通商関係確立して参りたいと存じます。さらに、今後米国、カナダ等の市場につきましては、輸出取引の適正をはかる措置を講じ、その維持、拡大をはかって参りたいという所存でございます。また対内的には、輸出企業の合理化、並びに輸出原材料の確保とその価格の安定に努めて、輸出品のコストの引き下げ、品質の改善を引き続きはかって参りまするとともに、輸出入取引法等の強力なる運用によって、輸出体制整備、取引秩序の確立を促進し、もって過当競争を防止することに努めたいと存じます。プラント輸出、海外投資等の促進につきましては、輸出後における各種のサービスの強化日本輸出入銀行の資金の確保、海外投資保険制度の新設等の措置を講じたい所存でございます。また、国際収支改善に資するために、引き続き外航船の建造を促進し、観光事業の推進をはかる等、外貨の節約、貿易外収支の改善に努めるほか、ドル地域からポンド及びオープン勘定地域べの輸入の転換についても、今後ともに努力いたして参りたいと存じております。  経済基盤の強化につきましては、一般的に設備の合理化近代化を一段と推進し、技術向上経営健全化、科学的管理方式の普及、労働能率の改善並びに労使協力態勢確立によって生産性向上に努めることといたしたいと存じております。また、将来における産業基盤強化、重化学工業化の要請をも考慮しつつ、基幹産業の合理的再編成、特に機械工業等の近代化を強力に推進するとともに、新規産業の育成、地下資源の開発に努める所存であります。なお繊維産業につきましては、設備の制限、転換、買い上げ等の措置を講ずるつもりであります。  科学技術振興につきましては、新たに科学技術庁を設置して、試験研究態勢の充実に努め、特に原子力の平和利用につきましては、これを強力に推進いたしたいという所存でございます。  中小企業につきましては、わが国経済に占める重要性にかんがみまして、その経済的地位の向上をはかるために、関係法規の整備、百貨店法の制定等により、中小企業組織化、安定化を一そう推進いたしますとともに、輸出適格産業中心といたしまして、設備の近代化技術向上経営合理化等を促進し、特に中小企業の金融につきましては、資金源を充実して金利の低下の促進と金融の円滑化をはかって、信用保険制度改善に努めたいという所存でございます。  農林水産業につきましては、畜水産物を含めた総合的な食糧の自給度向上の基盤を強化するほか、新たに農業改良基金制度を設けて、農業者の自主的なる営農改善を助長するとともに、農山漁民の経済の安定と生活向上をはかるため、その自主性と創意に基く新農村建設計画を強力に推進して参る考えであります。  以上申し述べました産業の育成策と並行して、わが国産業の基盤を強化するために、公共事業につきましては、国土総合開発の観点から総合調整をはかって計画的に実施するとともに、工業用水等、産業関連施設の整備、森林資源の開発をはかり、道路につきましては、その現状にかんがみまして、一般道路整備事業の一そうの促進と、有料道路の整備、拡充をはかって参りたいと考えております。特に北海道につきましては、資源の未開発、人口収容力の現状にかんがみ、未開発資源の開発を促進し、産業振興の基盤となる基礎施設の整備、拡充に一段と努力いたしますとともに、北海道開発公庫を新設し、各種産業振興をはかり、国民経済の伸長に寄与いたしたいと存じます。また、東北地方につきましても、同地方の特殊性にかんがみ、総合的開発を促進するために特段の措置を講じたいという所存でございます。  雇用機会増大と民生の安定につきましては、輸出の伸長、経済基盤の強化をはかりつつ、経済規模を拡大して雇用機会増大をはかって参りたいと存じますのでありますが、特に公共事業等の実施に当りましては、経済効果とあわせて、極力雇用増大に役立つよう努めて参る所存でございます。なお、これと並行して、失業対策事業を一そう充実して参りたいと考えております。また、就業機会増大に資するため、職業紹介、職業補導等の事業を引き続き強化して行く考えであります。なお、民生安定につきましては、社会保障の充実及び公的扶助の強化をはかるとともに、家族計画推進に努める所存であります。又住宅につきましては、その質の向上と適正なる住居費負担を配慮しつつ、民間自力建設をも含めて約四十三万戸の建設実現いたしたいという所存でございます。  以上、昭和三十一年度計画達成ための主要なる施策について申し述べたのでありますが、これら諸施策の実効を確保いたしますために、物価の安定をはかり、相当多額の民間資金の活用をはかる所存でありますので、一段と貯蓄の増強に努める必要があり、国民各位理解ある御協力を念願してやまないのであります。  私は、以上のような諸施策を総合的、かつ重点的に実施し、昭和三十一年度経済計画目標達成するにとどまらず、目標を突破せんことを念願するものであります。ここに決意を新たにいたしまして、国民各位とともに、日本経済の自立と発展ために、最善の努力をいたす覚悟であります。(拍手
  13. 河井彌八

    議長河井彌八君) ただいまの演説に対し、質疑の通告がございますが、これを次会に譲りたいと存じます。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  14. 河井彌八

    議長河井彌八君) 御異議ないと認めます。  次会は、明日午前十時より開会いたします。議事日程は、決定次第公報をもって御通知いたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後四時二十九分散会      —————————— ○本日の会議に付した案件  一、議員の請暇  一、日程第一 国務大臣演説に関する件