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1956-05-17 第24回国会 参議院 法務委員会 第20号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年五月十七日(木曜日)    午前十一時七分開会     ―――――――――――――    委員の異動 五月十六日委員川村松助君、井上知治 君及び藤原道子辞任につき、その補 欠として泉山三六君、西郷吉之助君及 び吉田法晴君を議長において指名し た。 本日委員松野鶴平君、西郷吉之助君、 岩澤忠恭君、泉山三六君、吉田法晴君 及び小林亦治君辞任につき、その補欠 として菊田七平君、島津忠彦君、西岡 ハル君、井上清一君、亀田得治君及び 藤原道子君を議長において指名した。     ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     高田なほ子君    理事            一松 定吉君            亀田 得治君            宮城タマヨ君    委員            井上 清一君            上原 正吉君            菊田 七平君            中山 壽彦君            西岡 ハル君            赤松 常子君            藤原 道子君            羽仁 五郎君            市川 房枝君   衆議院議員            椎名  隆君   国務大臣    法 務 大 臣 牧野 良三君    国 務 大 臣 大麻 唯男君   政府委員    警察庁長官   石井 榮三君    警察庁刑事部長 中川 董治君    法務政務次官  松原 一彦君    法務省刑事局長    事務代理    長戸 寛美君    厚生省社会局長 安田  巌君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君   法制局側    参     事    (第二部第一課    長)      三原 次郎君   説明員    法務省民事局参    事官      平賀 健太君    最高裁判所長官    代理者    (事務総局家庭    局長)    宇田川潤四郎君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○理事補欠互選売春防止法案内閣提出衆議院送  付) ○接収不動産に関する借地借家臨時処  理法案衆議院提出)(第二十三回  国会継続) ○派遣委員報告     ―――――――――――――
  2. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) これより法務委員会を開会いたします。  議事に入る前に委員の変更について御報告をいたします。五月十六日付川村松助さん、藤原道子さん、井上知治さんがそれぞれ辞任され、その補欠として泉山三六さん、吉田法晴さん、西郷吉之助さんが選任せられました。  本十七日付西郷吉之助さん、松野鶴平さん、吉田法晴さん、小林亦治さん、岩澤忠恭さんがそれぞれ辞任せられ、その補欠として島津忠彦さん、菊田七平さん、亀田得治さん、藤原道子さん、西岡ハルさんがそれぞれ選任せられました。以上御報告を申し上げます。
  3. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) まず理事補欠互選の件を議題に供します。本委員会理事が欠員のままになっておりますので、これよりその補欠互選を行います。  互選はその指名を委員長に御一任願うこととして御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 御異議ないと認め、理事亀田得治さんを指名いたします。
  5. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 売春防止法案議題に供します。  質疑に入ります前に、ここに数々の要望書が参っておりますので、御披露を申し上げます。  全国婦人福祉施設連合会は、昭和二十一年十一月の次官会議決定の「私娼の取締り並びに発生の防止及び保護対策」にもとづき厚生省社会局長より発せられた「婦人保護要綱」により、全国主要都市に十七カ所設置され、昭和二十二年より、それぞれ事業を開始し、現在に至ったものであります。われわれはその事業の性質上、今回政府提案によって国会に提出された「売春防止法案」の成立を強く望んでおります。またその成立への期待は、年来の非願であったのであります。  事業開始以来、赤線青線区域の泥沼に呻吟しているか弱き女性を救出し、また、それらの区域に転落しそうな女性保護収容し、彼女等の更生を補導する機関として存在するわれわれの施設は、たとえその数において、また、その規模において、小なりといえども、その果して来た役割は貴重なものであったことは、自負してはばからないと思います。しかして今後も施設総力をあげて、これら、女性更生のために努力を傾倒するものであることは言うまでもありません。  しかしながら、売春禁止保護更生国内立法なきため、これらの女性の救出並びに保護にまたその転落防止に、われわれの活動が万全を期し得なかったことが、われわれの過去の経験です。また遺憾のきわみでありました。故に今回の「売春防止法案」は、われわれの活動をより活発にし、その保護更生により以上の効果あらしめるものと期待し、その成立を強く待望しているものであります。  故にこれら、かよわき女性をさく取して、虚飾あくなき生活をほしいままにしている業者利益代弁者によって、またまたこの法案が葬り去られるようなことがあってはなりません。この際、是非これら悲運に泣くか弱き女性に対し一顧の同情をも持たざるのみならず昔ながらの婦人の人権を無視した封建性を暴露せざるよう、そしてこのよぎ機会に世界中に知れわたっている「売春国日本」の汚名をぬぐい去るよう、国会議員特に参議院議員各位の良識に訴え、是非とも今国会において成立でき得るよう、最善の御努力をお願いいたす次第であります。  われわれの施設活動がたとえ小なりといえども法案成立の暁には、その総力をあげて、彼女等の保護更生転落防止活動をより積極化し、法案の明文化されている保護更正施策の整備充実される日までのつなぎの役割を果さんものと、各施設とも着々と内部の整備に、経営の強化につとめつつ、覚悟をあらたに待期しております。  これ以上この問題を混乱させ、業者利益のみを擁護し、かよわき女性をなお一そう不幸のどん底に陥れないために、是非ともこの「売春防止法案」を成立させていただくよう、重ねて最善の御努力を切望いたす次第であります。  昭和三十一年五月十七日    全国婦人福祉施設連合会        会長 瀬川八十雄   法務委員長高田なほ子殿      加盟施設     宮城県 宮城野婦人寮     東京都慈愛寮          救世軍婦人寮          幡ケ谷女子学園          聖友ホーム桂寮          救世軍新生寮     神奈川県 む つ み 寮          若  草  寮          神奈川婦人寮          白  菊  寮     愛知県アンカ学園     大阪生野学園          救世軍朝光寮     兵庫県神戸婦人寮          姫路婦人寮     福岡福岡婦人寮          北九州婦人寮  これらの方々名前を連ねて本院に対する要望が参っておりますので御披露申し上げました。なおけさほど来渡辺こしょうさんという岡山の方から、「バイシュンホウゼヒ トウセ」という電報が参っております。また同じように栃木県売春防止福祉団体白梅会から「売春防止法を今国会中必ず通過を請う」こういうものが参っております。なお大阪売春禁止法制定促進委員会会長山本君代さん、この方のお名前によってやはりこの売春法を今国会中に必ず通してもらいたいという強い要望書が参っておりますことを御披露申し上げます。  なお売春防止法制定促進委員会全国地域婦人団体連絡協議会ほか三十一団体をメンバーとするものでありますが、これらの方々の力で売春のない明るい日本を建設する連動を起しまして、売春禁止法制定し不幸な女性の鎖を断ち、更生を助ける、こうした記録映画を作成して明るい日本の建設を目ざされた非常な努力が続けられ、すでに国民募金は、五万部という非常に大量な成果を上げられて、本日ここにこのものを、まだここにありますが、御持参下さいまして、どうぞ委員方々に御披露を願いたいということでございました。これから御審議をしていただくわけでありますが、前もってこうした御要望がありましたということを御披露申し上げまして御報告にかえたいと存じます。  それでは本案について御質疑のおありの方は順次御発言を願います。速記をとめて。   〔速記中止
  6. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 速記を起して。
  7. 一松定吉

    一松定吉君 売春防止という問題に関しまして、数年前から国会においてこういう法律制定要望しておったことはこれは顕著な事実でありまして、私ども売春防止ということに向っては少しも反対ではございません。一体尊き節操を守らなければならぬ婦女が、その原因のいかんを問わず、春を売るというようなことが、国において認められるというようなことは絶対に不可であることは言うまでもありません。こういう意味においてわが国が数百年前から行われておったいわゆる売笑問題、いわゆる娼妓だとか女郎だとかいうようなものの存在が、世間の非難の的になっておった事実も明らかであります。  しかしながら性の問題は必らずし理屈通りには参りませんので、そういうようないわゆるはけ口というものが必要であるというようなことのために、わが国においてもまた諸外国においても、そういうような制度が認められ、ある地域を限ってその地域内においてそういう行動をすることを認められておったということは、これは事実の証するところでありますから、これらの点につきましては、人生の上において考えなければならぬ問題であることは言うまでもございませんが、しかして戦後においてわが国が世界のどの国よりもこういうような行動がしきりに行われておるということについて、はなはだ国民として遺憾に思うておった点も明らかであります。ゆえにこういう問題についてこれを防止しなければならぬということにおいて、国民が関心をもっておったことは言うまでもありませんし、なかんずく御婦人の方がそういうような立場におる婦女に対して同情するという意味から、また婦人地位を向上するという意味から、こういう法案の必要であることを強調されておったことについて私どもはその御婦人の御意見に向っては全然賛成を表するものであります。  ところが先年この法案衆議院において否決せられましたことは、どういう理由であったかというと、これらの売春行為に従事する婦人は、ただ自分みずから好んでこういうような醜業を営むものではない、あるいは父母の生活のために、あるいは子女の教育のためにやむを得ず金を得なければならぬというようなことのために、泣く泣く世人のいやがるような業務に従事しておったことは事実でありますから、こういうようなものを保護更生する施設を設けずして、ただ頭からこれを防止することになってくると、そういうような悲境にある婦女をますます悲境に陥らしむるがゆえに、政府としてはこれらの保護更生施策を講じた上でやろうではないかという意味において、衆議院において否決せられたということもこれは顕著な事実であります。今回そういうようなことが認められまして、たくさんではないけれども少しばかりの予算がとれたということは、実にけっこうであるから、この売春というものを禁ずるということはこれはもうおそらく何人も異論はありません。私どもももちろん賛成です。賛成であるから今後はそういうような醜行為に従出しておった婦女ほんとう更正させるために、真にこの更正目的を達成するような施策をとらなければならぬ、その意味において本法案の中にいわゆる保護更生規定を設けられたことも実にけっこうである、これらのものはこの法案成立すると同時にこれを実施して、それらの悲しむべき婦女地位を向上発展せしむることはいいと思います。この意味において私は絶対に賛成です。ただしここで考えなければならぬことは、一体こういうような不都合なことをしておるということはよくないということで、たとえば吉原、福原、島原、飛田というような所がみな禁止された。禁止されておったときにアメリカ軍日本に駐在をして、そうしてこういうようなものについては何らかのはけ口だけはこしらえてくれなければ、アメリカ人婦女に対してどういう暴行をし、秩序を乱すかもわからぬからということで、日本政府に要請し、政府は公けにこれを受諾することができなかったとしても、内面いわゆる秘密であるかのごとくして、その実公けにもと業者を呼んで、何とかして一つそういうようなはけ口をこしらえてくれないかということを要求せられて、それに応じてできたものがいわゆる赤線であるということは皆様御承知通り、そこでこの赤線をいわゆる禁ずることは非常にいいことであるが、しかしそういう要請に応じてこれらの仕事をやっておった人間を一朝にしてこれをすぐにやめさしてしまうということになってくると、そういう業務に従事しておった人のやり方はいいことではありません、世間の人がはなはだ卑しむ行動である、しかしながら自分がその仕事がきょうからできないようになってくると、それらの人のいわゆる失業という現状を見なければならぬ、そこでこういうような人が日本にどのくらいあるかというと、少くとも数が人の人があると聞いておる、それならばこれを政府としては直ちに失業さして、それらの人を生活に困らせるようなことはこれはできないわけです。業者が五万だとすればその家族を加えれば少くとも二十五万、十万だとすれば少くとも五十万ある、そういう人の生活をできないようにするということは、これはもう日本国民であるから政治家がこのままにしておくことはできませんから、これらの業者に対して、やはりいわゆる春売婦に対する保護更生が必要であると同時に、業者に対しても保護更生の必要を認めなければならぬ、そこでそれら業者に対してしからばどういうふうな保護史生をするかということにつきましては、政府においてこしらえました審議会においてそれがすぐに問題になりまして、それは一つその問題については後日適当な時期をはからって、この委員会を促進して、そしてそういうふうな人たち保護史上の道をさらに審議しようではないか、ただしこれについて国家がお前方失業するからその失業を救済する意味において相当の補助金を出してお前方生活を保障しようというようなことは、わが国財政上とうてい今日できない、そうすればどうすればいいか、これはすなわち政治家として考えなければならぬことでありまして、私どもは与えるに時日をもってするという以外に方法はないのじゃなかろうか、こういうように私は考えております。ちょうどかの療術師というもの、はり、きゅう、あんま、柔道整復師というものを私は厚生大臣のときに認めまして、それ以外の電気療法だとか、あるいは紅療法だとか、いろいろの療法があるものも全部禁止してしまわなければならぬということはマッカーサー方面から指令があったのでありますが、そういう業者をすぐに禁止するということになると、すぐにそれが失業するということになる。失業するとその失業者に向って国家はこれを救済しなければならぬということは当然のことである。なぜかというと今まで政府はこれを認めておったことをにわかに禁止するという以上は、失業状態に陥るから、これを保護してやらなければならぬということにおき幸して、私はそれらの業者に対して、八年間だけは右方は業を続けてよろしいから、その間において技術を練磨して、そうして国家試験を受けて資格を取っておやりなさい、八年間はただしよろしいから、その八年の間におやりなさい、八年を経過してもなおそういう資格を取らず、自分技術を練磨せずして業を廃するということは、これは国家保護する必要はないからというので、八年間延期したということは皆さん方承知通り。それがちょうど昨年の十二月三十一日であった、それが厚生省の都合でできなかったために、また国会の承認を得て三年間延ばして、この三年の間に自分たち技術を練磨して試験を受けて、そうして生業に困らぬようにせよということが設けられたことは皆さん方承知通りであります。それと同じようにこのいわゆる赤線ということで一応業者が許可されたようなものが、すぐきょうからその業を禁止せられて、あしたからすぐに失業するということは、これは救済しなければならぬ、救済するについてはどうするかというと、国家がこの財政の窮乏しておるときに金をもって救済するということのできないことは、これは議論がありません。そうすると、残るところの問題は結局この業者に対して何カ年かの猶予を与えることが必要である、その与えられた期間内において業者保護更生の道を考え転業方法を考究して、そうして万遺漏なきを期するということをしなければならぬ、それがこのいわゆる付則の第一項に、「第二章及び附則第二項の規定は、昭和三十三年四月一日から施行する。」というちょうど一カ年間彼らの業務をすぐに禁止はしないぞという、これが保護更生規定であろうと思います。そこでこれだけの二カ年の期間にそれらの業者保護更正もしくは転業の実をあげればけっこうなんです、できれば。できないとすれば、たとえば一年が短かければ三年というようなことにして、彼らがほんとう保護更生してゆく、今までの自分らのやったことを反省して、国家のおかげでわれわれも正業に復することができたと言って喜ぶような方法をとることが政治家の務めである。ただお前方が今までやっておったようなことは婦人の節操をもてあそんで、それによってお前方利益を受けておったんだからお前方やり方は憎むべきであるから、すぐに禁止して、お前方生活ができなくてもよろしいということは、これは政治家としては言わない。この付則の第二項において二カ年間施行を延期するということになったこれらの精神は、私は大いにけっこうだと思いますが、ただ問題は二カ年間でいいか悪いか、もとは、原案は一年六カ月となっておったのを、衆議院において二カ年ということになったのでございますが、二カ年でよいかどうか、私どもの方にきておるところの業者からのなにによりますると、二カ年では困りますからぜひ一つ五カ年間にしてくれないかというようなことの大へんな陳情がやってくる。で私はそういうような人々立場考えてみてですね、なるほどそういうようなものも大いにこれは考えなければならぬのじゃなかろうか。実は私はけさ旅行から帰ったところが、きておって、以前にきておったものはほかの方に保管しておりますが、ずいぶん多いのです。こういうようなものを二カ年でいいかどうか、これは業者に聞いて、二カ年でお前方更正ができるのか、あるいは三カ年要るのかということを聞いて、その上で適当な方法をとったら非常によいのではなかろうかと思うのですが、しかしすでに衆議院において一年六カ月を二カ年に延期したらいいではないかということであれば、きょうこの業務禁止してあしたからお前方仕事をすることができないというような厳重な規定ではなくて、そこに二カ年の余裕を得たのだから、業者はそれで一応満足しなければならぬ、こういうようにも思うのでございますが、そういう点について一つ政府委員のお考えを承わりたい。それは二カ年で十分に保護の実をあげることもできるし、彼らも更生ができるということであれば、それでけっこうだと思うが、もしそれについて果して保護更正の道が完備するかどうかということに多少でも疑いがあれば、あるいは二カ年を三年にするとか、あるいは二年半にするとか、そういうことも必要ではないか、こういうこと一つ政府のお考えを承わってみたい。何も私は三年にしなければならぬということを固執するわけではありませんよ。業者がすぐに生活ができないようにして、その業者を帯しめるということは政治家やり方ではない。しかも彼らは好んでやったのでなくて政府が口をきいてそういうものをやらしておった、つまり赤線だ、それを今度は法案通過をしたからといって、すぐにやめさせようということは、初めはアメリカ軍の慫慂によって政府がやらせたものを、もうすぐに禁じてしまうということは、業者に対する保護が薄くはないかと、その点がどうであろうかということを思うだけですから、政府の御意見一つ承わってみたい。
  8. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) お答え申し上げます。お話の通りにこの法案のねらいどころは婦女子被害者立場にあるということであって、婦女子を罰するのじゃない、婦女子をば保護救済してこれを正業につかしめようというのが目的でございますので、予算は今年ははなはだ乏しゅうございますが、明年からは大幅に取る予定を立てまして保護更正の面は明年四月一日から出発いたすのでございます。これが強化せられますというと、いわゆる売春に従事しておる婦人の数字は減っていく、減っていけばもう業者は立つ瀬はないのであります。業者は業をする余地はない、業者に業をする余地を与えておけばいつまでたってもこれは解決はつきません。そういうところから売春対策審議会はまず保護更生を先行させて、その実績によって業者その他の売春助長行為を処罰する、やめさせるという強制執行の方に向けたのでありまして、その期間は三十三年一月一日からという御答申があったのでありますが、政府で立案の際にいろいろ研究した結果、年度の初めからがよかろうということで保護更正は三十二年四月一日より、その実績によって業者その他の売春助長行為に対する刑罰の事項は一年後の昭和三十三年四月一日から実施することが妥当であろうということにきまったわけでございまして、業者の方でも私どもの聞いておるところでは、最初はよほどもうこれは転廃業するほかないというので覚悟をしておられたというふうに承わっておるのでございます。願わくは業者の方におきましてもこういう時代であるということをば認識せられまして、一日も早く転廃業のために努力せられたい、そういう御希望を持っておりますので、これを先に延ばせば延ばすほど、ほとんど法律意味がなくなるのであります。せっかく画期的な文化立法ができましたことでございますから、この法律意味を明らかにするためにもこの期間は三十三年四月一日が妥当と心得ますが、その方法につきましては売春対策審議会の方ですでに議に上って、転廃業するためにその家屋等をいかに利用すべきかということが議せられることになっております。いずれ適切な御答申があると思いますので、御答申を待ってよく研究いたしたいと思います。
  9. 一松定吉

    一松定吉君 松原政務次官の御意見ごもっともであって、私もその御意見には少しも反対はいたしません。問題はこの婦女子を擁護してりっぱな正業に復せしめ、婦人本来の地位を向上せしめるように国家の手においてしなければならぬということは最もいいことである、これはおそらく何人も反対する者はありません。ただ問題は業者が今言う通りにこれをやめてしまうということになると、すぐにあすから生活に困るというときに、この業者に対していわゆる転業というようなことについて政府がその転業方法を指導するとか、あるいは転業を容易ならしめるというような何らかの策を講ずる必要は私はあると思う。聞くところによりますると、業者の今までやっていた家屋は、これを旅難業に変更しょうとしても施設が直ちに旅館業に転用ができないような施設がいろいろあるらしいのです。こういうような者に向って、政府が指導もしくはしばらくの間旅館業に適しないような箇所があっても、それは相当の期間を設けて、その期間内にこれを改造し、修築することができるようにして、これは旅館業はできるぞというようなことにやるか、あるいはこういう業務に従事しておった者は旅館営業禁止してやらせないのであるというようなことにやるか、しかしこれはますますそういう者を苦しめるのであるから、そういうようなことのないように。それからまたこれらの業務に従事しておった人々の居所、つまり建築物が、一つ所に密集している、そういうな所をどういうようにしてこれを散在せしめ、そうしてこれを正業につかしめることができるかということについて、何とぞ急速にそういう施設を設けて、そうしてこれらの人人が転業し、もしくは廃業をしても生活に困らないようにするというのがこれが政治の要諦であると私は思います。でございますから、政府の設けました売春防止に関する審議会というものはまだ任務が終了しておりませんから、一つ早くこれを開いてそういう方面に力を入れて、業者もだ、まあまあこれでわれわれも安心したというような喜びを分つことができるようなふうにするということが、業者も助け一面にはこの婦女をばりっぱに更生せしめるということができようと思う。そういう点について一つ政府は十分力を入れなければならぬということを私は要望するものでありますから、その点について松原政務次官もしくは牧野法相の確信を一つ承わってみたいのであります。
  10. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) その対策につきましてはほんとうによほどむずかしいと思うのです。集団地域におけるあんな大きな象をどうするかということにつきましては、私どももただいまいい方法を持ちませんが、先般来これが審議会の議に上っておりまして、一松委員もその有力なメンバーでおありでございますし、ここには幾人もその対策委員がおいででございますが、どうぞ至急に案をお立て下さいまして、この二年の間に遅滞なく、処罰を受ける者が一人も出ないような善政を施すように努力をいたしたい。あの刑罰規定は刑罰規定を適用することが目的じゃなくて、刑罰規定を適用しないことが目的であります。従ってその間においてきわめて円滑に転廃業ができるようにし向けることが必要でございますが、政府の側においてもし補償の責任を負うということになりますれば、業者はやめはいたしません。やはり政府によりかかって何とかしてくれるだろうということになる。これはこの期待を持ってもらっては困ると思います。断じて持ってもらってはならい。これは非合法な業務でありますから、一日も早く転廃業せられるような決意を持っていただきたい。現に調布のごときは非常に苦労をして転廃業せられた、筑前八幡においても同様な事実が行われている。また大きな家ではありませんが、内藤新宿にありましたかってのいわゆる妓楼は、小さな部屋がたくさんあったにかかわらずりっぱにほかのものに更生して使われているのであります。これはもうどうしても決意をもって業者も社会も政府も一にかような立法をやった以上は十分な決意をもって、二年後には、刑罰を受けてまでやろうとするもぐりのないように努力をいたしたいと思いますので、どうか対策審議会の方でも御協力の上にいい御答申を願いたいということを希望いたすのでざいます。
  11. 一松定吉

    一松定吉君 今の政府の御意見のあるところを承わりまして、非常にけっこうだと思います。ただ私の心配いたしまするのは、この売春防止法が実施せられるということになったときに、一体この法律において制限を受けない婦女がたくさんおる、制限を受けない婦女が。それはどうかというと、これはこの第五条に規定してありまするように、いわゆる「公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。」ができないということと、「売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。」を禁じておる。「公衆の目に、ふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。」、これだけですからして、これだけのものは当然罰せられる。これ以外の、公衆の目に触れないような方法でこういうことをやるというものがあれば、それはやはり売春法制定して婦人地位を向上せしめて、こういう世間からいやがるような行いをさせないようにしようという国民要望は、そういう禁じられた以外の売春婦によって裏切られることになる。これについては、これは非常に対策が私はむずかしいと思う。公けの目に触れないような方法によって、ないしょでやっているというようなものに対する取締りがこれはできない。ことに赤線というものがやめられ、従って青線というものも取り締られるということになっても、そこはなかなか取締りが十分にいかずして、これを取り締ろうとすると、いわゆる人権じゅうりんという問題が起りかねない、こういうようなことについては非常にこれはむずかしいのであって、同じ目的を達成して婦女のこういう醜行を禁じてしまうということであれば、ほんとに純真なりっぱな婦女というものをたくさん養成して、これが日本婦人であり、世界の婦人の模範たるべき人物だというくらいに世間から尊称を受けるくらいまで持っていかなければならぬ。しかしこれだけのことが禁じられただけで、今言ったように、ないしょでいろんなことをやっているということは、これから禁じられていないからして、ますますふえてくる。それを私は非常に心配する。そればかりでない、こういうことをやって今までおるものは、みんなそれぞれ検診の方法によっていわゆる梅毒とか淋病とかいうものを取り締って、そういうことがないようにするのであるが、これから先は一そうこういうことが多くなりはしないだろうか、こういうことを私は非常に心配するのですが、そういう点については政府当局はどういうお考えでありますか、それも一つこの際承わっておきたい。
  12. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) この立法は御承知通りに、第三条において売春を国の意思として否定しておるのであります。「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」という一、項目を置きまして、日本国は国民売春をしてはならぬという意思表示をいたしておるのであります。ただしこれには刑罰規定がついておりません。これは倫理規定でございます。今お尋ねになりました通りに、この法律によって売春婦が罰せられぬというふうに世間に伝わってはおりますが、それは誤まりでございまして、第五条は売春を誘引する行為を行う売春婦は全部処罰を受けます。刑罰がついておるのでございます。ただ性行為そのものを文字の上にも表わしてない、そこがただいま一松委員もお話がありましたように、これを検挙する等の手段が非常に困難であるということが一つ、いま一つは、男女間における性行為そのものが合意的に行われた場合に対しての、それが果して犯罪かどうかということについては非常に疑義があるということを私はたくさんのものを読んでおります。意見を聞いております。問題は性行為そのものではなくして、それから生ずるところの善良なる風俗を乱すということであり、社会の秩序をあやまつということであり、いわゆる風紀を純化するための手段を法律において求めるとするならば、この性行為に至るまでの外郭を規制するということよりほか道がない。これがまあこの法律を作りましたところの一つのお考えであるのでございまして、合意の男女間の性行為が、それがただ金によって行われるといった場合が犯罪であるということは――罪であるということはここで規制しておりますが、犯罪として刑罰の対象にするかどうかということは、社会党の方でお出しになった案ではごく軽い刑罰がついておりますが、政府提案のものについてはその点は抜いてあるのであります。これはどうしても国民一般の教養による問題であって、性道徳の普及発達、それから純潔教育というものの徹底、一面におきましては宗教等の戒律によって人格的に個人的に高い品位をみずから守るところの人格の向上に待つよりほかいたし方がない。現在のごとく戦争に打ち負けたことによって希望を失い、誇りを失ってしまった国民の堕落した姿が、今こういうふうに現われておるのでありますから、これを一片の法律をもって規制することはとうてい行われないと思う。それをしいて法律によって規制しようとしますと、つい往年のごとく警察官が泥靴をもって寝床に踏み込むといったような、非常な許すべからざる人権侵害の行為も行われますので、この点につきましては、この法律は戦々きょうきょうとして実は用心いたしておるのであります。そういうことでありますから、かゆいところに手は届かぬおそれはありますが、これが文化立法として全国民の支持のもとに、教育の面からも衛生の面からも、風紀の面からも、あらゆる面から総合して効果をあげてもらわなきゃならないという期待を持っておるゆえんでございまして、不徹底なところにこの法律の非常にむずかしい、また大きな効果を全国民の総合力に待つというわけでございますので、どうか御了解を得たいと思うのでございます。
  13. 一松定吉

    一松定吉君 今政府当局のお話は一応よくわかりました。第三条に「何人も、売春をし、又はその相手方となってはならない。」この規定があることによって売春というものが悪であるということは、これはもう間違いはない。国家がそういうような行いをすることを禁じておるということは間違いない。しかしながらこれは松原政府委員の言われたように、刑事上の制裁が全部でありません。刊下上の処分のものは第五条に規定してある、公けの目に触れる方法において売春行為をやり、もしくは勧誘しもしくは誘導するというようなものだけが刑罰をもって処罰される。売春そのものをしてはならぬということは第三条にあるけれども売春そのものをしても第五条の条件を具備していないものは処罰を受けないことになる。私の心配はそれなんです。それについてつまり社会党の方面から提案された、ごく軽犯罪として軽微な刑を課するということもあったということも、これは一応私は考慮すべき余地があろうと思うが、この点をほんとう売春というものはよくないことだということを国民に認識させると同時に、この保護更生規定において十分にその運用において、適宜にその目的を達するような方法によってこれをやりさえすれば、自然にそういうようなものがなくなろう、それについては相当な予算が要る。ですからして、今までのような保護更生に十分でないような予算では目的は達しません。松原次官が言われたように、次期の予算のときには、もう少したくさんの予算を取って、そういう目的を達成しようという御意見、ごもっともでありまするから、ぜひそういうようにほんとうにやっていただいて、このいわゆる第三条の規定目的を達するように、何も公けの目に触れなくてやっても、そういうようなことをいわゆる慣行的に、習慣的にやっておるというようなものについては、評判が立つ、あそこはどうも売春をやっておる、あるいは売春をやっておる女だということがわかってくると、人の家を借りて売春をやれば、その貸した人間が罰せられるけれども自分が尿を借りて、自分の住居において、公けでも何でもない、客の来るのをずっと待っておって売春するというものは罰せられないことになる。そういう点について一つ十分注意して、このほんとうの真の目的を達するように、一そうの御研究を願い、またわれわれ委員としても、そういう点についてできるだけ御協力を申し上げまして、この目的を達するように努力いたしたいと、かように考えております。
  14. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) いや、御了解いただいてありがとうございますが、ただ世間でこういうふうに伝わっておることを非常に私は遺憾に思う。今度は単純売春は罰しない、目に見えぬところでやるのはちっともかまわないのだ、こう伝わっておることは非常に遺憾でありまして、そこでこの第三条というものがありますので、倫理規定を置いた、法律にこんな規定を置いたことはないのでありますが、この法律には倫理規定を置いて、売春は悪であるという意思表示を国がしてあるのであります。法律に触れないものというか、刑に値しないものは善であるということはないのであります。刑罰に値いしないことは、何をしてもよろしいとは申さないのであります。刑罰には値いしないけれどもが、そういう行為をすることは悪である、してはならないということを、ここに国家は宣言したのであります。だからして国民は、それは国の意思にそむくことであり、道徳にもとることであり、道でないというふうに考えて、刑罰に値いしないことは何をしてもよろしいといったような、すてっぱちなものの考え方をしないようにしてほしい意味が、この今度の法律にはっきり表わしてあるのであります。これは私はすなわち、この法律は性立法じゃなくして、一つの風俗純化の規定であり、文化立法であると考えておる次第でございます。どうか世間方々が、今お話の通りに、自分一人でやる行為は何をしてもよろしいというふうに考えていただかないように、この際申し添えておきます。どうぞ御了解を得たいと思います。
  15. 一松定吉

    一松定吉君 それはしかし松原次官のお考えとも考えられぬが、第三条によって売春をしてはならない、また相手方になってはならないということを国家が意思表示しておることは、これはあなたのおっしゃる通りであります。そうしてそれが道徳上からいけば悪であることも議論ない。ところが五条において制裁がない、五条の条件を具備していない限りには、刑事上の制裁がない。制裁がないとすると、人によっては、おれは、やったからといって制裁がないから、やろうじゃないかという不心得者があるからそれで困る。それをそういうような不心得者のないようにするべく努力しなければならぬのではないか。それをするについては、お互いがどういうようなことを研究し、どういう施設を設けて、そういうような、国家売春は悪であるということを実現させて、国民がそういうことをしないようにするについて、一つ大いにその施策を研究考慮しなければならぬじゃないかという意味なんです。あなたの言うのは、この三条に売春をしてはならぬということがあるから、これはだれもやらぬのだろう、やることは悪であると。しかし悪であることを知りながら、刑罰がないから、刑罰がないからやろうという不心得者が出てくる。それを一つそういうものがないように、お互い研究しなければならぬのではないか。これだけではまだ完全ではありませんよ。完全にすることについては、お互いに衆知を集めてこういうようなことを防止するということを一つやるようにしなければ、ほんとうのこの売春目的を達しませんから、それを私どもお互いは協力してやろうではございませんか、それについて政府の御意見はどうですかということを伺っておる。
  16. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) くどいようでございますが、実は姦通罪というものは今日ございません。姦通罪がなくなった、刑罰はありませんけれども、それは姦通してよろしいか。それはもう悪いにきまっておりますけれどもが、姦通罪というものはございません。刑罰の対象になっておりません。それを一体どうしたら取り締れるかというと、刑罰の対象になっていないものを、法律で取り締るわけにはいきません。それで、さっきから申し上げておりますように、性行為に対しては、主としてその人々の人格、自重に待つほかないのでございます。そこで、これは一方において法律ではこの限界をとりますが、一方におきましては教育の面において、性道徳を高め、性教育を進め、特に純潔教育といったようなことを十二分に徹底しなければならぬのであります。純潔教育、これは非常に大事な教育であります。そういうようなことから、おのずからにして私はその金を取る取らぬにかかわらず、性行為の紊乱を防がなければならぬ、金を取るから悪いのであって、どういうふうに性行為が紊乱しようと、性道徳が混乱しようともいいというわけには参らない。そういう一般的な性に対する規制は、一にこれはもう個人の自覚と自制とに待つほかにはないのであります。世界的に、低い国民はそれが乱れ、高い優秀な国民は、おのずからにして規制していくものと私どもは信じますが、そういう意味から、この法律はこの限界を盛ったものでございまして、今お尋ねのごときことは、一方においては生活保障を拡充して、そうして性を売りものにする者がないように、あるいは一面におきましては、性をえさとして金をもうけておるというような不心得者がないように、性を売りものにする者もなく、性をえさとする者がないようにし、同町に一面におきましては、性道徳を十分徹底さして、性の乱れがないように和行っていきたいというのが、私どもの希望でございます。お説の通りに、宗教の方面からも、教育の方面からも、あるいは厚生行政の面からも総合して参りたいというのが、重ねて申しておる私どもの希望でありますことを、どうぞ御了解いただきたいのでございます。
  17. 一松定吉

    一松定吉君 質問終了。
  18. 藤原道子

    藤原道子君 私は売春対策審議会委員といたしまして、十分審議をいたしたわけでございます。今一松委員が最後に言われた点は、私の最も憂えておるところでございますが、私どもといたしましては、そのときにそれを突っぱねれば今度も法案が出ないだろうというようなことをおそれまして、やむを得ず少数意見で引き下ったわけであります。私どもは、社会党案が御案内の通りにすでに提案されておりましたし、私たちの理想とするところは本法案とはあまりにもかけ離れてはおりますけれども衆議院におきまして社会党といたしましては、売春は悪なりという規定をぜひほしいという立場から一応了承いたしまして、衆議院通過しておりますので、私も委員会通過を念願いたしまするがゆえに、多くを私は質問しようとは思いません。ただ最小限の質問をここでいたしたいと思うのでございます。  先ほど来、一松委員の御質問に対して松原次官から御答弁になって大体明らかにはなりましたけれども、なおかつ世間におきましては、一応業者が、もう法律が出ればこうした業態はできないのだというような覚悟ができて、転業する者が漸次ふえてきて、業者のほとんどは覚悟している。ところが一部において暗に政府業者に対する補償をするかのごとき説が流布されまして、それによって業者は最近居直った傾向がある。が、転業しようとした人も先ほどの八幡の例でございますけれども、私も行って調査いたしましたが、初めの熱意が欠けてきております。がんばっておれば補償される、補償が取れる、それならば今やめちゃ損だというふうな傾向が出ておるようでございますが、これを明らかにいたしますために、大臣はここで業者に対する補償の意思がないということを明確にしてもらいたい。世界的な状態を見ましても、業者に対する補償のある国は私の調査の範囲内ではないようでございますので、大臣の御所見を一つここで明確にして、そうしてあやまった業者の希望をこの際明確にここに断ち切ってほしい。将来も補償しないのにずるずるして、早く転業すれば転業ができたものを、そうした希望を持っておったがために転業の機会を失するというようなことがあっては、業者にもお気の毒でございますから、一つ大臣の御所見をこの際明確に伺いたいと思います。
  19. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 法務大臣としては断じて補償する意思はございません。ただしこれらの内容の詳細につきましては審議会の御審議を待たなければならないと考えております。
  20. 藤原道子

    藤原道子君 私はただいまの大臣のお答えを伺いまして満足いたします。私も審議委員といたしまして、今後その点については十分御相談を申し上げていきたいと考えております。  そこで私は最近私どもが前回審議いたしました法案には、前国会で否決になりました法案には、相手方をも処罰する規定があったのです。ところが今回は単純売春を処罰の対象としないために、相手はもう罰することができないわけです。ところが、最近ひんぴんと起ります状態を見ますと、どうしても相手方を罰しなければどうも解決のつかない面がたくさんあるのです。たとえばいわば児童の問題、児童福祉法には児童に淫行させた者はこれは処罰の対象になる。三十四条の六項におきまして児童に淫行させた者は十年以下の懲役ということになっておるのです。ところが淫行した者はこれが罰せられていないのでございます。かわいそうな十四や十五の少女を犯した男は憎むべきものと思いますけれども、これが処罰の対象になっておりません。従いまして世間を騒がせました松元事件――鹿児島の松元事件等におきましても制服の少女を犯しながら、犯しましたと自白した者が三十数名ありながら、これは処罰の対象外におかれておるのです。そして淫行させた者という条文によりまして、この人は料理屋のおかみさん、ふとんを上げたり下げたりした女中さん、これが処罰の対象になっております。しかしながら淫行した者はこれが処罰の対象にならない、こういうことでは私どもには納得がいかない、あるいは十四や十五の、まあ芸者にいたしましてもいわゆる水揚げと称してつぼみの花をじゅうりんしております。けれどもこれは男のやり得ということになっておる。これではどうも私どもには納得いきませんが、大臣はこれらに対して何かお考えはないでございましょうか。
  21. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 政府委員からまず御答弁申し上げます。
  22. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) 今のお話ごもっともでございますけれども、相手方の処罰ということは、売春行為をした婦女そのものの処罰と関連いたします。従いまして相手方を罰するかいなかというふうな問題については、今回の法案におきまして売春行為を罰しないことにした理由と同じでございますので、この法案では相手力を処罰の対象外にいたしておるわけでございます。  ただいま児童福祉の関係から十八歳未満の児童に対して淫行をさせる行為というのが児童福祉法の三十四条によって規制され罰条がある次第でございますが、その相手方となった者を処罰するかどうかというふうなお話でございます。この点につきましてはやはり売春の場合に性交そのものが犯罪になるというふうなことになりますというと、相当にこの売春防止との関連において考えてみなければならないことが一つ。それからさらには刑その他の関係におきましては、刑法との関連をさらに検討しなければならないのではないかということが一つ。またその規制の仕方によりましては、相手方となる者が未成年の場合もあるわけでございます。そういたしますと、児童福祉法というものは児童の福祉ということを考える次第でございますから、現在の三十四条の形でいたしますれば、児童に淫行をさせる者はおおむね成人でございましょうけれども、相手方となる者は今度は児童で、それ自体が児童である場合もあるわけでございまして、そうなるとその相手方の児童を罰していくということが果していかがであろうかというふうな点も考えられますし、従いましてこの問題は私どもはでき縛るならば売春行為それ自体を罰すべきかいなかということが、さらに審議会においてもちろん調査研究を進められる次第でございますので、それに関連して御検討願った方がいいと、かように考えております。
  23. 藤原道子

    藤原道子君 それではちょっと厚生省に伺います。ただいま児童の福祉を目的とした法律であるから相手方が児童であった場合は処罰するのはいかがかというお考えはこれはおかしい。児童の福祉という中にはいろいろ含まれておる、私ども売春婦に軽度の罰を加えておりますのは、これは罰するのが目的ではなくて、これによって転落した女性――政治の貧困から転落した女性をこれによって救い上げよう、保護しよう、更生させようというのが私たちのねらいでございます。従いまして児童を犯した者がその相手方も児童であったというような場合には、まだほかに方法があると思う。矯正教育をしていくという意味の少年院もあるし、また児童福祉法においての教護院もあるのでございます。こういう点をお考えになっていただきたい。それから相手方が成人であった場合に、小さい子供がじゅうりんされてもされっぱなしになっておりますが、売春防止法でこれが除外になっておりますので、厚生省としては児童福祉法を改正して、これら児童を犯した者に対しての対策をお立てになる御意思はあるかどうか。
  24. 安田巌

    政府委員(安田巌君) 児童福祉法の三十四条は、先ほどもお話のように児童に淫行させる行為、それからそういうふうな行為をするおそれのある者等に児童を引き渡す行為、あるいは引き渡されるおそれのある者に情を知って他人に児童を引き渡す行為というものは処罰いたしておりまして、相手方の問題に触れてないのは御指摘の通りでございますが、この問題につきましては今お話の点もまことにごもっともでございますが、売春防止法なりあるいは刑法との関係もございますので、審議会とも相談いたしまして研究してみたいと思います。
  25. 藤原道子

    藤原道子君 ほんとうに子供を守る意思があったならば、その点はもっと強くお考えを願わなければ児童福祉法はあってなきがごとき状態になりますので、考慮をお願いしたいと思います。それから今水揚げという言葉が出ましたので一つこの際お伺いしておきたいのは、この法案から見るとはずれているようでございますけれども、かりに売春のために家屋を提供したものという点がございます。ということになると、いわゆる料亭とか置き屋とかいうような所でも明らかに売春をさせそれによる収益をあげておるというような場合には、当然処罰の対象になるものと解してよろしゅうございますか。その点が一点。  それから水揚げという言葉は私は売春だと思う。一同に何万円というような金を出してそういう獣欲を満足させている男、さらにそのために巨額の利得をあげている料理屋とか置き屋、こういうものに対してはやはりこれは売春をさせたものとして厳重な一つ処罰を行う御意思があるかどうか。聞くところによれば、置き屋の相当数、料理屋の相当数はすでに売春業者と変りないような状態にあるということが明らかになっておるようでございますが、これに対しては今後厳重な態度をもってお臨みになる御意思であるかどうかという点をこの際お伺いしておきます。
  26. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) いわゆる水揚げが不特定の者を相手方としてなされる限りにおきましてはここにいう売春に当ると思います。それからお尋ねの待合あるいは置き屋等におきまして特定の者を相手方とするものはここに言う売春ではございませんけれども、不特定の者を相手方となす場合におきましては、その待合なるものは場所の提供罪あるいはその二項の場所を提供することを業とする者等によって処理し得る、かように考えております。
  27. 藤原道子

    藤原道子君 まことに御病後でおそれ入りますけれども大臣から伺いたいのです。大臣は平素より芸者は芸術家だと、芸者の育成のために努力していると昨年予算委員会では芸者大学云々まで出てきておるわけでございます。私は大臣のお考えになっておる芸者がどのようなものであるか、そうしてさらに芸者の実態、相当数が売春をしておると言われておりますが、これに対して大臣の御見解を大臣のお口からこの際伺っておきたい。
  28. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 藤原さんの御質問の場合はりっぱに処罰いたします。それと同時に先ほど子供に関する御質問がありました。だいぶ御不安があるようでございます。これは刑法に規定があります。大ていの場合には刑法の百七十四条、そういう場合に理屈を言わないで大ていの場合はいけない、わいせつ罪でやりましょう。そういうことはほうっといちゃいけない、そういうことはあなたや私がこれから社会運動をしてそういうことを厳重に取締るという方向に行きたいと思います。
  29. 藤原道子

    藤原道子君 刑法にあるのは十三才以下となっておるのですね、ですから大臣が児御の問題、十八才以下の者でもどしどし刑法でやりましょうというお言葉で私は満足でございます。しかとお願い申し上げます。  それからそこでお伺いいたしたいと思いますのは先ほど一松さんの御質問にございましたいわゆる単純売春、これは松原さんの言うようになれば至極けっこうなのでございますけれども、非常に不安なのは最近業者がこんなざるみたいな法律では幾らでもやり方があると、こういうことをしきりに言っておるのです。だから下宿屋に転向する、宿屋に転向する、こういう場合には、私は知らぬと言えばそれで済む、それから今一つは、一つの所に置いて電話で呼び併せて売春をやらせるという派出婦のようなやり方も今考えられ、すでに実行されておると聞いておるのです。それから部屋を貸した者がそれならば罰せられて、明らかに売春のために家を提供した者が罰せられるということになると、明らかにそこで売春をしているわけなんですね。それがわからなければ罰せられないわけですね。ということになると、家を貸した人は罰せられ、そこで明らかに売春によって、法律に違反している行為を明らかにしている者がのがれるということになると、ずいぶん変な方向へ追いやっていくのではないかという不安がどうしても私には絶えないのです。ですけれども、これは言い出さぬつもりだったのです、あきらめて……。しかし一松さんからお話がございましたが、最初にこれを審議会でくどいほど繰り返えしまして、ついに一松さんも御賛成下さった。あのとき少数意見だったとはいいながら、九名署名している、そういう点もございますので、それに対して、そういう場合にはどうするか、明らかにやっている、それが周囲の空気を乱す場合、私がもっと若くて売春婦といたします。(笑声)家を一軒借りて売春で生計を立てておるのです。けれどもこれは私は引っ張りもいたしません。けれども絶えず不特定の相手が多数出入りする、近所では非常に迷惑をしている、けれども引っ張りもしない、広告もしない、こういう場合には一体どういうふうになさるのでしょう。私が家を借りているのですよ、売春をしているのですよ。しょっ中不特定の相手方が出入りをして評判になるのです。評判にはなるのだけれども、引っ張らない、街頭にも出ない、写真を飾るということもないということになったら、これは一体どういうことになるのです。
  30. 一松定吉

    一松定吉君 私の名前が出たから申しますが、ほかのことは別だが、電話をかけて呼ぶというようなことは私の解釈では五条の三の「又は広告その他これに類似する方法により」とある、類似する方法によって人を売春の相手方となるように勧誘する、私はこれに入るように思っておる。あなたの今の電話の場合ですよ。ほかの場合は別だが、これは「広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。」これに入るから、これはいいわけだ。こういうようなことはこれはちゃんと規定があるからあなたと同じ考えであります。その他あなたの質問していることはこれは政府から答えてもらいたい。(笑声)
  31. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) この点に関して特に私は委員の皆さんにお願いしたい。この売春防止法案は社会政策的文化立法だと思います。従って刑罰を目的とするのではない。どうかあなたと私どもが一緒になってこの法律通過後においては大きい社会運動を社会に展開したいと思う。そうして恥かしい営みをする、こういうことをして自分生活が続けられるものでないという心得を皆に推し進める、そういう国風をこしらえるということにあくまでも主眼を置きたいと思うのでございます。従って抜け穴があるというようなことは私は心配いたしません。世の中には犯罪をしようとすればいつも抜け穴があります。ただここでわれわれが健全な社会を作りたいというこの社会運動を起すということをこの法律通過の後に私は御相談いたしたい。どうぞさように願いたいと存じます。さらに先ほど刑法の場合において十三才以上……あれは百七十六条でございましたが、私は百七十四条に該当する場合が大へん多いと思います。それらのことについては別の場合に申し上げます。
  32. 藤原道子

    藤原道子君 宣伝をし啓蒙するということは私ども人後に落ちるものではないのです。けれども私は罰するということを非常に刑罰々々と呼ばれるところに遺憾な点があるのです。私は軽罰という――軽く罰するということは、この規定がなければ保護観察処分に付することもできないのです。そうするとそれらに対してあたたかい愛情を持っての更生に資するための軽い刑罰というふうに私たちは考えております。罰するのではなくて。けれどもそれはもう私はあきらめておりますからここでは申しません。けれどもここに第十三条がございますが、「情を知って、第十一条第二項の業に要する資金、土地又は建物を提供した者は、五年以下の懲役及び二十万円以下の罰金に処する。」、第二項において「情を知って、前条の業に要する資金、土地又は建物を提供した者は、七年以下の懲役及び三十万円以下の罰金に処する。」こうなっておる。そうすると情を知らなかったと逃げた場合にはどうなさるか。
  33. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) この「情を知って、」という文字がありましても、ありませんでも、その事情を知らなければ犯罪にならないことは当然であろうと思います。ただ弁解としてそれがなされた場合におきましては、検察、警察ともにその実情を明らかにしてその者の処罰を行う所存でございます。
  34. 藤原道子

    藤原道子君 具体的にもう少し話して下さい。
  35. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) この十一条一項の場所提供におきましても「情を知って、」という文字を使ってございます。この場合もただいま申し上げましたように、法律的には「情を知って、」という言葉があろうとなかろうと、情を知って初めて犯罪の成立があるというふうに考えられる次第でございます。私どもといたしましては、全くの難点でもって貸すときに、それを知らなかったというふうな者を処罰の対象にすることは問題でございますので、それを除外する趣旨でございますけれども、ただ後に知った場合におきましても、たとえば手形の書きかえをするとか、新たなる資金の提供を認められる行為がありましたときには、十三条に触れる、それから場所の提供についても同様に考えております。
  36. 藤原道子

    藤原道子君 時間もだいぶ経過しておりますので、その点はよほど抜け穴をふさいでいただかなければこれは名目だけの条文になるおそれもございますので、その点よろしくお願いしたいと思います。  それから今度私がお伺いしたいのは費用の面でございます。これは非常に地方に大きな負担をかけることになりますが、これに対して「国は、政令の定めるところにより、」云々という費用の負担をすることが規定されておりますが、二十二条の三項におきまして「国は、予算の範囲内」でとあるのでございますが、こういう言葉が使われておりますと、国に予算がないといった場合、たださえ赤字の多い地方でこうした困難な仕事をやっていただくのに、さらに多額の費用を要するというふうになると、幾ら法律規定されましても、そこに熱意が入らないのじゃないかというふうに私は憂うる者でございますが、この点一つと、それから「都道府県が第二十条第一項の規定により支弁した費用のうち、同項第三号に掲げるものについてはその十分の五以内、」となって、それから「第四号に掲げるものについてはその十分の八以内」というふうになっておるのでございますが、こうするとどの点までを補助してもらえるかということに非常な不優を打つ者でございます。それで、二項におきましては「国は、厚生大臣の定める基準に従い、市が第二十条第二項の規定により支弁した費用の十分の五を補助するものとする。」と、はっきり規定しておる。三項に至りましてはその「以内を補助することができる。」四項でも「補助することができる。」というふうになっているのですが、この考え方はどういうふうに解釈したらよろしいのでしょう。「補助するものとする。」と前項ではなっておる。ところが三項、四項では「補助することができる。」費用の何分の何以内というふうになっておるのでございますが、これに対して……。
  37. 安田巌

    政府委員(安田巌君) 御指摘のように、都道府県の婦人相談所と、それから婦人相談員に要する費用の方、これは都道府県に設置しなければならぬとなっておりますので、それを受けまして費用の方も実は負担ということになっております。従いましてその補助率につきましても十分の五なり、あるいは十分の八というふうに書いてあるのでございまして、それから今の御指摘の三項の方は、これは実は婦人保護施設の方でございまして、これは十八条をごらんになりますと「設置することができる。」となっております。それを受けましてまあ「補助することができる。」というふうに規定いたしまして、補助率の点も予算の範囲内とか以内とかいう言葉を使ったわけでございます。実施に当りましてはぜひこれだけに要する費用は取ってもらいたいと思っております。
  38. 藤原道子

    藤原道子君 その御答弁は、私、まあ法の建前からいけばその通りでしょうけれども、そうするとほんとう実績を上げていくのが実は十八条の項だと思うのですよ。今までもこの施設の方がどんなに苦労してきたかということを考えますときに、費用なきがゆえにこうもしたい、ああもしたいということができないのです。しかも拘束力はないものだから、入ってきた者も逃げ出していくというようなことで、施設の人の御苦労というものはもうわれわれの想像以上のものなんです。だから今度新しい、いわゆる大臣の言うところの文化立法として出まする以上は、これはどうしてもこれの費用を国の責任で十分出せるようにこの際していただかなければ、今のような状態が続くのじゃないか、一番大事な仕事をするところが一番苦労しなければならないという点もございますので、この点も御考慮願いたいと思っております。
  39. 安田巌

    政府委員(安田巌君) 大へんごもっともな御質問でございまして、まあ問題は、婦人保護施設を設置することができるという点にだけあるわけでございます。まあこの法律国会通りまして公布されますというと、今まであまり働かなかった現在の生活保護法でありますとか、あるいは児童福祉法であるとか、母子福祉の関係でありますとか、そういったような現在の制度、あるいはまたいろいろな福祉事務所でありますとか、児童相談所でありますとか、職業安定所でありますとか、そういものもまた動いてくると思います。そのほか民間の篤志家、民生委員方々、児童委員方々、いわゆる司法保護司の方々もお働きになるようになりまするし、また現在ある保護施設につきましても、いろいろと収容していただくような余地が出てくると思います。しかし、それにいたしましても、まだそれでは手が届かない部面が出てくるわけでございますので、昭和三十二年の四月一日からは全国婦人相談所を設けて、相談所で、なるべくそこでいろいろと鑑別いたしまして、そこで措置をとっていきまして、また必要あれば一時保護所をくっつけますからして、その一時保護所に入れておる間にだんだんと、そこでできるだけ立上るようにしていく、そしてどうでもいけないのを婦人保護施設に持っていくと、こういう構想でございます。一体婦人保護施設がどの程度要るものかということは、実はここではっきりこれこれの施設が要るということを申し上げる自信がないのでございますけれども、しかしこの法律通りますれば、また来年の予算を組むまで、あるいはまた三十二年の四月一日までには相当の猶予期間もございますので、そういったような事情も睨み合せしまて、婦人相談所を重点的に作っていくというふうな考えもございまして、一応この法律ではこういうふうになっております。しかし実情によりまして必要なるものはどしどし作って参りたい。この法律の施行には、できないようなことはいたさない考えでおります。
  40. 藤原道子

    藤原道子君 私は最近の人身売買等の傾向が、農村方面よりもむしろ軍事基地周辺の漁村方面に多くふえてきたということを聞いておるのです。たまたまきのうの新聞に、非常に漁村が疲弊して一年間二万円か、三万円の収入しきゃない。そのためにその生活は惨たんたるものである。しかし生活保護を願い出ても、漁村はこれはその生活環境からして一定したものでないから、漁はあるかもわからないというようなことで、生活保護の適用が受けられない。願い出た数の、それこそ一側にも満たない、ごく限られたものしか保護の対象にしていただけないということが新聞に出ておりましたが、そういう厚生省考え方から、貧困の結果、やむを得ず娘を売るということも出てくるのじゃないかと思うのですが、なぜこのごろのように生活保護の適用が厳しくなったのでしょう。もとわれわれが生活保護審議し、その後いろいろ当局と質疑、相談等を経てきた当時のやり方と、最近の生活保護の適用が非常に厳しく、苛酷になっておるということを私は考えさせられておるのでございますが、どういうお考えで、現実に月に千円や、千五百円の収入で食っていけないことがわかっておりながら、生活保護が出されないのでしょう。そういう結果が転落する女がふえてくるのでございますけれども、私は政治の貧困だと思うのです。また厚生省はそういう人をこそ救うべき立場にありながら、出し惜しみをするという結果が、よけいな費用を国にかけ、そして社会に犯罪を増加させるという結果になると思うのですけれども、それに対して安田さんのお考えを伺いたい。
  41. 安田巌

    政府委員(安田巌君) 生活保護のことは、これは藤原先生、一番よく御存じでございまして、漁業でございましょうと、あるいは災害でございましょうと、どんな原因がございましても、最低生活が維持できないという場合には生活保護を適用いたしまして、国民生活を保障するという法律規定がはっきりあるわけでございます。決してそのように予算を締めて、適用すべきものをしないということはいたしておらんつもりでございます。よくそういうふうなお話を承わりまして、調べてみますと、それぞれまた理由があります。御承知のように、一人々々につきまして福祉事務所のケース・ワーカーが行って、詳しくこの人の所得が幾らあるか、財産はどのくらいあるか、同時にまたその世帯におけるところの必要な最低限度の生活費は幾らであるということを細かく計算いたしまして、彼此対照して、足りない部分を生活保護いたすというやり方をやっておりますから、それはそういうお話がありました場合には、御説明がつくようになっておると私思っております。なおまた御不審な点等ございましたら、私どもの方へ具体的にお出しいただきますというと、さっそく調査をいたしたいと思います。
  42. 藤原道子

    藤原道子君 生活保護の適用は、少しでも財産があるとだめなんですね。漁師は今不漁のために生活ができない。ところが網がある、自転車がある、あるいはリヤーカーがあるとか、これがあるうちは生活保護がもらえないのです。ところがこれを売り払ってしまえば、漁があったときに、魚が来ても漁ができないのです。私はそういうものまでも売り払わなければ生活保護の適用ができないという、ただいまの法の解釈に疑義がございます。これはさておきまして、いずれの機会かにいずれ社会労働でやりたいと思いますが、いろいろみじめな状態が続出いたしておりますので、法の運用にもう少しあたたかい親心を持っていただきたい。  最後に私は施行期日の面についてお伺いしたいのです。この点はずいぶん論議のあったところでございます。社会党案は、御案内のように、一年、初め六カ月でございましたが、これはまあ妥協で一年にいたしました。昨年の法案は三カ月なのを六カ月にして譲歩したのです。ところが山崎案と申します売春対策協議会ですか。あの案でも一年になっております。私たちは最大譲歩いたしまして一年以上は困るのでございまして、一年ということを強く主張したのです。ところが審議会ではいろいろ論議が白熱いたしまして、その結果、会長から妥協案が出されまして、それで三十三年の一月一日から施行するということになったはずなのです。ところが今回提案されましたこの法案は、四月一日から施行ということになっておるのです。私はこうして猶予期間が長くなれば長くなるほど法の性格がぼけてくる。適用にかえって支障が出てくることになる。わずか四カ月ではございますけれども、私たちにとっては非常に重大だと思う。これは答申案の線を四月一日まで延期されましたこと、この理由を伺いたいのです。先ほど松原さんから年度がわりからこれをやるのが便利だというような御答弁があったかと思うのでございますけれども、これは来年の四月一日からということでございましたら、これはまあわかるけれども、ずっとこれから来年一年準備してそれから施行するわけでございますから、一月一日でも何ら私は不便はない。予算獲得という面においても不便はない、こういう点からいって、私には断じてこの点だけは了承のできない面がございますが、これに対する御見解とその方針を伺いたいと思います。
  43. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) それは別に格別大した意味はないのでございまして、これでも短か過ぎるというおしかりもあれば、これはどうも長過ぎるという御非難もいただいておる現状でございますが、明年の四月一日から行います保護更生面の実施、これは予算を取って、十二分にとまではいきませんでも、これを先行させる。保護更生面が充実していきますと売春婦は減っていく。適当に売春婦が減っていけば刑罰によって業者その他の助成行為をば処分するということがだんだんなくなっていく。従って保護更生の面を実施することから、一年間の余裕を見て、刑罰の力の実施をやろうというのでございますから、その間はただ一年と見たのでありまして、年度がわりでなくてはならんという理屈もなければ、非常に延ばさなければならぬという理屈もございません。保護更生の面を実施して一年、そこで一年後には何がどうあってもこれは絶滅を期するという態度をもってかかったわけでございます。どうぞ御了承願います。
  44. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) ちょっと速記をとめて。   〔速記中止
  45. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 速記を起して下さい。
  46. 藤原道子

    藤原道子君 私はこの法案が生きるのも死ぬのも政府覚悟一つだと思うのです。業者たちは言っていますよ。あと三年たって見ろ、もとへ戻して見せるということを言っておる。だから三年猶予期間を持とうと、五年持とうと、一年でやろうと、これは政府覚悟一つであろうと思います。すでに調布におきましても、この法案が去年あたりからあれだけ世論が上ったために、みずから廃業しておる人も出ておるのです。従って保護更生を四月一日から始めるから、だから一年の猶余を見たのだということは、私は御答弁にならないと思う。私は、答申案の決定を尊重すると言われた政府に、ぎりぎり一ぱいここまで妥協せざるを得なかったのです。ところがそのときの言明にもかかわらず、法案が出てみれば、四月一日からということになっております。これは私はぜひ答申案の線をこの際生かしていただきたい、こういう強い要望を持っております。政府がやる意思があればやれるのです。それから調布あたりではみずから廃業している。各所に廃業する人が出ている。かと思うと、尼崎のように今ごろ大々的に四万六千坪からの敷地へ持っていって遊廓を建設している所がある。これらに対しましては、政府の御覚悟一つだと存じますので、私はこの点を強く要望いたしまして、私の質問を終りたいと思います。
  47. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) ちょっと藤原さんの質問に関連して牧野法務大臣にお尋ねしておきます。ただいまの藤原さんの御質問の中に少女に対する合法、非合法、形ははっきりしないが、売春が強要されている。これをどうするかという質問に対して、刑法による公然わいせつ罪を適用する、こういう御答弁がございました。私お尋ねしたいのは、公然わいせつ罪の刑法百七十四条、ここには公然わいせつ罪が規定されて、「公然猥褻ノ行為ヲ為シタル者ハ六月以下ノ懲役若クハ五百円〔二万五千円〕以下ノ罰金又ハ拘留若クハ科料ニ処ス」、こういうふうに規定されております。ところがその次の強制わいせつ、つまり強制的にわいせつ行為を行なった者、これは百七十六条で、「十三歳以上ノ男女二対シ暴行又ハ脅迫ヲ以テ猥褻ノ行為ヲ為シタル者ハ六月以上七年以下ノ懲役二処ス十三歳ニ満タサル男女に対シ猥褻ノ行為ヲ為シタル者亦同シ」、これは公然わいせつ、強制わいせつ、この条文によって非常に懲役の刑の比重が違ってきております。従って百七十四条だけ適用されるということになれば、これは何べんでもこういうことが繰り返される。私の所見は百七十八条に規定される準強制わいせつ・準強姦に私は該当すると思うのです。なぜなら、百七十八条では「人ノ心神喪失若クハ抗拒不能二乗シ又ハ之ヲシテ心神ヲ喪失セシメ若クハ抗拒不能ナラシメテ猥褻ノ行為ヲ為シ又ハ姦淫シタル者ハ前二条ノ例二同シ」、こういうふうに座敷の中に閉じ込めておいて、そうして前借をもって抵抗不能ならしめる状態に陥れて、水揚げとか何とかということがやられている。むしろこういう子供たちは政治的な責任、あるいは刑法上の責任も何も負い得ない、そういうような不能の者に対する強制的なこうした行為というものは、明らかに百七十四条ではなくて百七十八条に規定する準強制わいせつ、準強姦罪に私は該当するものだと考えられますが、非常にこれはこの刑罰の比重が違い過ぎますので、この点について大臣もしくは長戸刑事局長代理の所見を伺っておきたい。
  48. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) お答えいたします。お説すべてごもっともでございます。私の言葉に足らないところがある。百七十四条以下と言うべきで、百七十四条と言いましたるところに限局したことは遺憾でございます。
  49. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 長戸刑事局長代理に重ねて尋ねます。こういうことは従来行われております。当然これは公然わいせつ百七十四条以下の罪状に該当するものですが、こういうものは今まで摘発されておりましたか、おりませんですか。それだけお尋ねいたします。
  50. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) こういうものがと仰せになるその事実が確定いたしませんが、公然性を持つものであれば百七十四条に触れる場合であり、またその者を抗拒不能に陥れてそのような行為をなされるというものであれば、仰せのように百七十八条に該当する、かように考えております。
  51. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 大へん官僚的な、また法律的なお答えでありますが、そういうお答えを私は尋ねておるのではないのです。ここであなたと論争するのにはあまり時間がありませんが、今藤原さんが指摘されたことは客間これは伝えられる、また当り前のことにしてこれが行われている。なぜそうであるか、これはこの百七十八条の規定に抗拒不能に乗じてこういうわいせつの行為を行なった者に対する刑罰規定があるにかかわらず、それは公然でない場合には該当しないのだというような答弁では、はなはだ私は不満足だし、この法の精神はそういうものではないと私は考えます。もう一度意を体して答弁をしてもらいたいと思います。
  52. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) 私の説明が悪うございましておわび申し上げます。松元事件につきましては、百八十二条の淫行勧誘罪を適用して処断したのであります。従いまして大臣の仰せのように、場合によりまして百七十四条以下の各条項を活用して処理すると、かように考えます。
  53. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 私はこの百八十二条の淫行勧誘の処罰は、これは業者に対する処罰、私が尋ねているのは、現にその者を強姦にひとしいような方法で処女の肉体を奪ういわゆる水揚げ行為というものは、明らかにこの強制わいせつ、強姦に匹敵するものではないかと言っておるのです。松元事件の業者に対する処罰はもう知っています。相手方となった者に対する処罰です。
  54. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) 相手方に対しましては、仰せのようにその事案によりまして百七十六条あるいは百七十七条、百七十八条、ことに百七十八条のような場合が適用されることがあろうかと考えます。
  55. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) あろうかと、どの程度あったかという質問ですね、私の質問は……。  それじゃまたその事例は十分御研究いただいて御答弁願うことにして、私はこれで終ります。
  56. 藤原道子

    藤原道子君 ちょっと今委員長に対して御答弁になりました松元事件に淫行罪を適用したことは承知しておりますが、それはその後どうなっておりますか、それも調べて御報告願いたい。どうも男の人は女の子をやるのが当り前だ(「失言だ」と呼ぶ者あり)、ごめんなさい、(笑声)――というような考え方があるやに一部に……。
  57. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) そういう藤原委員からの発言もあるし、私もこれがどういうふうに摘発されておるかということを尋ねておりますから、詳しく資料をちょうだいしたいと思います。お願いしておきます。
  58. 藤原道子

    藤原道子君 児童福祉法で三十四条の適用では十年以下のとなっておるのが、その判決が非常に軽いのです。体刑になったものはほとんどないと言っても過言でないと思う。そういう点が私は問題だと思うのです。法律があっても適用していない。起訴されてもその判決はほとんど罰金か執行猶予の状態でございますから、その点もあわせて、最近そのことは十分考慮するというこの前言明をいただいておりますから、その後の判決の状況をもあわせて一ついただきたい。同時に松元事件の淫行勧誘罪で起訴されておりますけれども、その後どうなっておるかも御答弁願いたいと思います。
  59. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この不幸なわれわれの兄弟姉妹の悲しみを救おうとされる立法の趣旨に対しては、私は潔く敬意を表するのでありますが、この社会的政治的原因のある悲しむべきできごとを、社会的、政治的な原因を除去しないで法律をきびしくすることによって除去しようとすることは、私は立法上はなはだ危険があると考えます。不幸な兄弟姉妹を救われようとする立法の精神に対しては深く敬意を表しますが、かつまた政府がこの法案を作られる上に立法上の慎重な考慮を払われたことには深く敬意を表するのですが、私の非常に心配する点が三つございますので、法相の御意見を伺っておきたいと思います。  第一は最近衆議院におきまして文学上の作品に対して、一般芸術家が、また言論に関係する人々が非常に不安におびえるような発言がなされております。社会に認められた高いレベルの芸術家の作品に対して、国会においてそれがわいせつ文書であるかのごとき発言がなされている。これは全く言論または表現の自由を脅かすものであります。いわゆる芸術上の作品に対するそういう低い理解から検閲が発生してくる。また悲しむべき売春を根絶しようとするその正しい動機から、場合によっては令状によらない捜査、人権の侵害ということが発生してきます。この際牧野法相に伺っておきたいことは、現在政府は文学に対する検閲、表現の自由に対する制限というものを少しでもお考えになっているかどうか。またこの本法がかりに通過いたしました場合に、いやしくも令状のない捜査、人権の侵害というものを絶対に発生させないという確信をお持ちになっておいでになるか。これが第一点です。
  60. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 思想の自由、表現の自由等に関しましては、これはきわめて慎重な態度を持さなければならないと存じまするが、同時に偏狭なる言論をなしたからといって、それをあまり気にすることも時代としては杞憂に属しやせぬかと存じます。その点は御了解を請います、  次に人権じゅうりんのことでございますが、この点は特に私は羽仁さん、御協力を請いたい。法務行政の中で人権擁護局というりっぱな局があるにかかわりませず、国会においてこの局を尊重するの念が乏しい。何としても人権じゅうりんの事実ができてから後に騒いでもいけません。それが起る前に人権擁護局の法務行政というものを十二分に拡充、強力なものにしていただきたい。私はぜひそれをやります。やりますから御助力をいただきたい、と同時に、この法律案が幸いにして第一条とともに第四条のごときりっぱな規定を入れてくれられることができたということは、非常に満足を感じております。
  61. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 第二点は、この法律の第二条でございますが、私寡聞にしてこのような第二条のような規定が世界のいずれの国の法律にも存在することを知りません。この第二条によってわれわれが最も尊いものと考えているところの夫婦の愛情というふうなものが、やはり法律もとに置かれている結果となっているのではないかと、そう考えざるを得ない点がございます。すなわち「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交する」のではない性交であるから本法に触れない、これは全くわれわれのモラルを破壊するおそるべき条文であります。高邁なる識見を持っておられる法相がどうしてこういう二条が本法に存在することをお認めになったのか。あるいはお見逃がしではないかというようにさえ考えますが、それについての御所見を承わりたいと思います。
  62. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 羽仁さん、私に答弁ができません。どうかお許しを請います。
  63. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ずいぶん卒直なお答えで私もこれ以上質問することはできませんが、国会の権威に関係します。また日本国家の面目にも関係する、そういう意味でどうかできるだけ近い機会にこの条文を適当に処置していただきたいと、このように考えておりますが、いかがでございますか。
  64. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 同感でございます。
  65. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 第三点は、この情を知ってて、先ほど政府委員から御答弁がございましたが、法相から私にお答えを願っておきたい。「情を知って、」というのはあくまで客観的な証拠に基いて判断さるべきものだと思います。情を知っておってということを主観的に探求しようとすれば、必ず自白の強要その他人権じゅうりんを伴うと思いますが、そのようにこの本法が了解さるべきものだと考えてよろしゅうございましょうか。お伺いいたします。
  66. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) そこが刑罰法令適用の上で非常にむずかしいところでございます。情を知らない者を処罰することはできません。犯意のない者を処罰することはできません。しかしながら情を知ったか否か、犯意があるか否かということを明らかにするのは、これは証拠によらなければなりません。これまでの警察及び検察当局は、とかく人権じゅうりんのきらいのあるのはその点でございまするが、これは日本の犯罪捜査及び証拠集収に関する従来のしきたりが悪いのであります。私はこれを根本的に改めたいと思います。しかして要するに人というものは、罪を犯したからといって、無理に処罰するという必要もないものだと思いまする。従ってどこまでも社会政策的に文化立法の趣旨を徹底せしめて、社会というものを善良に導くことに互いに心をいたしていきたいと存じます。
  67. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 最後にどうか文学そのほか芸術上の作品に対する社会の一部の人々の無理解あるいはこの売春の問題などについて社会的、政治的条件の除去ということに重点を置かなければならないことについて、十分の努力が行われない現状におきましても、警察国家への方向を一歩も断じて許すものでない、許すべきものでないと考えますが、その点について、法相から、この際本法審議について御所見を一言伺っておきたいと思います。
  68. 牧野良三

    ○国務大臣(牧野良三君) 全く同感であります。この点に関しましては、政府当局、官吏も、国民も心持を新たにしていかなければならぬ。そのためには、われわれが非常な努力を要する点でありますが、私はその点に将来大きな希望を持って努力を続けていきたいと存じます。
  69. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) それではさらに明日質疑を続行することにいたしまして、暫時休憩をいたし、午後二時から再開をすることにいたします。    午後一時一分休憩      ―――――・―――――    午後二時四十八分開会
  70. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 休憩前に引き続き、委員会を再開いたします。  議事に入ります前に、委員の変更について御報告をいたします。  本日付泉山三六さんが辞任され、井上清一さんが補欠に選任せられました。以上御報告いたします。     ―――――――――――――
  71. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) まず接収不動産に関する借地借家臨時処理法案議題に供します。本案について質疑のおありの方は御発言をお願いいたします。  御質疑がございませんでしたら質疑は終局したものと認めます。  この際お諮りいたしますが、井上委員から委員長の手元に修正案が提出されておりますので、本修正案を議題とすることに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  72. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) それでは井上委員より修正案の趣旨説明をお願いいたします。
  73. 井上清一

    井上清一君 私は本法案に対しまして左の通りの修正案を提出いたしたいと存じます。接収不動産に関する借地借家臨時処理法案に対する修正案を朗読をいたましす。    接収不動産に関する借地借家臨時処理案に対する修正案   接収不動産に関する借地借家臨時理法案の一部を次のように修正する。   第三条第一項本文及び第二項前段中「相当な借地条件で、」の下に「かつ、賃借権の設定の対価を支払うことが相当でない場合を除き、相当な賃借権の設定の対価で、」を加える。   第七条第一項中「借賃の全額」の下に「及び賃借権の設定の対価」を加え、同条第二項中「譲渡の対価」を「賃借権の設定の対価又は借地権の譲渡の対価」に改める。   第八条及び第九条中「二年」を「一年」に改める。   第十二条中ただし書を削り、次の後段を加える。    この場合において、第三条第一項本文中「賃借権の設定の対価を支払うことが相当でない場合を除き、相当な賃借権の設定の対価で、」とあるのは「相当な賃借権の設定の対価で、」と読み替えるものとする。   第十二条に次の一項を加える。  2 前里の規定は、昭和二十三年九月十四日までに罹災都市借地借家臨時処理法第九条において準用する同法第二条の規定による賃借の申出又は同法第九条において準用する同法第三条の規定による借地権の譲渡の申出をした者については、これを適用しない。   第十四条中「一年」を「六箇月」に改める。   第十七条中「第三条(第十二条において準用する場合を含む。)に規定する借地条件」を「第三条文は第十二条に規定する借地条件及び賃借権の設定の対価」に改める。  以上でございます。  修正の要点及びその理由の大要を申し上げますが、次の四点でございます。  第一点は、土地が接収されました当時におきまするその土地の借地権者で、その土地の接収中にその借地権が存続期間の満了によりまして消滅いたしました者、及び土地が接収された当時から引き続いてその土地に借地権を有する者で、その土地にある当該借地権者の所有に属する登記した建物が接収中に滅失したため、その借地権をもってこの法律施行の日までにその土地について権利を取得した第三者に対抗することができない者は、他の者に優先して相当な借地条件でその土地を賃借することができると第三条に規定しておりますが、当事者の公平を考えますると、いわゆる権利金を支払うのが相当ある場合がございますので、かかる場合におきましては権利金を支払って土地の賃借権の設定を受ける旨を明らかにいたしたのでございます。  第二点は、接収地が疎開建物の敷地である場合に、この原案では第十二条で第三条を準用いたしまして、土地の優先賃借権を認めておりまするが、元来両者は本質的に異なるものであります。すなわち第十二条で規定しておりますところの接収地が疎開建物の敷地である場合は、補償を受けて疎開しておりますので、その借地権はそのときに消滅しておるわけでございます。しかし第三条の規定によって貸借権の設定を受けるものは、接収という事態によって消滅いたしましたのでございますから、両者の間に差異を設けるのが妥当であると考えられるのでございます。そこで第十二条の場合、すなわち接収地が疎開建物の敷地である場合には常に権利金の支払いを要することといたしたのであります。  第三点は、第八条、すなわち接収地の借地権の対抗力及び第九条接収地の借地権の存続期間の契約の更新の請求の二年の期間をそれぞれ一年に短縮し、さらに第十四条、すなわち接収建物の賃借権の対抗力の一年の期間を六カ月に短縮いたしました。かようにいたしました理由は、対抗要件なくして長期間第三者に対抗し得るとしておきますることは、第三者に不測の損害を与え、不動産取引の安全を害するからでございます。  第四点は、第一点、第二点の修正に伴った条文の表現の修正でございます。  以上が私が提案いたしました修正案の大要を御説明申し上げた次第でございます。なお詳細の点につきましては私から、または法制局の諸君からお答えを申し上げたいと存じます。以上。
  74. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 本修正案に対し御質疑のおありの方は順次御発言を願います。
  75. 亀田得治

    亀田得治君 最初に原案の提案者の御意見を概括的にお伺いしたいのですが、ただいま出されておる修正案ですね。これに対してどういうような御意見でしょうか、若干お伺いいたしておきます。
  76. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) きのう法務委員会で決定するわけであったのですが、いろいろ取り込んでおりました関係上、あしたの午前十時に委員会を開いて大体参議院の修正案をのむつもりであります。
  77. 亀田得治

    亀田得治君 それでは本法はやはりちゃんと修正案が成立する、こういう見通しでありますので、その前提に立ってこの法律が施行された場合のことを若干考えて、二、三お聞きしておきたいと思います。これはあるいは法務当局の方で補足的に御説明願うかもしれませんが、一つは修正案によりますと、「相当な賃借権の設定の対価」というものが賃借を回復する場合に出てきておるわけです。でこの場合の「相当な」という問題ですね。これをどういうふうにお考えになっておるか、提案者並びに原案の提案者も大体この趣旨でいいとおっしゃっておるのだが、その辺のめどをお伺いしたいと思います。
  78. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) それはその土地の周囲の事情その他を参酌して決定すべきものだと思います。
  79. 井上清一

    井上清一君 ただいまの御質問にお答えいたしますが、その賃借権の対価は客観的な周辺の事情を参酌いたしまして、当事者間において協議し、協議が成立すればそれできまるわけであります。協議がきまらなかった場合には裁判所で訴訟において裁判所が諸般の事情を参酌して決定することになると思います。
  80. 亀田得治

    亀田得治君 まあ一応そういう抽象的な説明で誤りはないと思うのですが、私が特にお聞きしたいのは、少くともこういう立法をするということは、失った賃借権者に気の毒だと、こういう立場がとられておると思うのです。でまあこういう立法がいいか悪いかとこれはいろいろ議論があるようです。まあ議論がありましても、これを作るという以上は、その立法の精神に沿ったやはり運用でなきやならぬと思うのですね。そういたしますと、相当な賃借権の対価つまり権利金、こういうものの算定も、普通の賃借権の対価、普通支払う権利金、これと同じものであっては、私は賃借権者に対するその手当にならないと思うのですね、だから普通権利金として支払うたとえば十万円支払うのだが、まあこの場合には大体半々が適当と考えるとか、あるいは四分六とか七、三とか、いろいろ考え方があると思う。その辺のところのめどをどのようにお考えになっているか、まあ原案では全然ゼロだったわけですね、その点が……、これはただでともかく回復すると、こうなっておるわけですから、その点私特に……。もちろん一つ一つの土地の事情について、周囲の事情を勘案してきめることになると思いますが、原則的な考え方ですね、それをどういうふうに考えておられるか、それを御両者にもう一度お聞きしたい。
  81. 井上清一

    井上清一君 第三条の場合と第十二条の場合とまあ違えて、私どもは修正案を出したわけでございますが、その具体的な問題についてやはり考えていくよりほか仕方ないのじゃないか、こう思うのです。しかしながらまあおそくらこの協議の整わなかった場合において、裁判所でもってこの賃借権の対価というものを決定すると思いますが、その場合において、裁判所が決定します賃借権の対価が、おそらく標準になっていくのではないかとこう思います。そういう場合に、世間一般的の非常な、何と言うか、賃借権の対価、権利金というようなものは、若干そこに私は趣きが違うのじゃないかと思うのですが。
  82. 亀田得治

    亀田得治君 若干の程度ですか。
  83. 井上清一

    井上清一君 若干と思いますが……。それを今ここで立法するときに、いやこれは非常に違うのだとか、非常にこいつは何割だとか、いや安いとかいうようなことを、それをどうもここで予測することも無理でしょうし、やはり個々の具体的な場合に当ってきめていく、いろいろな具体的な場合が積み重なって、そこに標準的な価格というものが出てくるのではないか、かように私は考えておるのです。
  84. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) その算定については、大体本法の立法趣旨を勘案されまして、裁判所において適当にしんしゃくするのではないかと思うのです。当事者間できまればこれほどけっこうなことはないし、きまらない場合においては、立法趣旨を参酌して適当にその点勘案されるだろうと思うのです。
  85. 亀田得治

    亀田得治君 立法するのはこちらですからね、裁判所はわれわれの考えに基いて行動するわけですから、だから、できればこれが通るときにやはりそういう点についての立法者であるわれわれの考え方を明確にしておいた方がいいと思って聞いておるわけです。そうしませんと、裁判所が従来と同じような、普通に行われておる権利金をこれに対して、取っていくということになりますと、立法の趣旨が私は若干曲ってくると思うのですね。そこでお聞きしておるわけです。
  86. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) もともと本法の立法の趣旨が、賃借権者を保護しようという趣旨に基いて立法するのですから、当然その点は参酌されるのではないかと思っております。
  87. 亀田得治

    亀田得治君 そうするとどうですか、普通の権利金に比較して何割程度低いものであるべきだといったような見当というものがつけられませんか。場合によってはもちろんそれに違いがあるということを前提にして……。
  88. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) それは良識に基いてやってもらう以外にないのではないでしょうかね。
  89. 亀田得治

    亀田得治君 これは法務省の方はどうなんでしょうか。法務省の方は立法そのものに賛成でないようですけれども、そういう基本的な立場は別として、これができるという以上は、権利金なり賃借権の相当な対価ということについては、どのような運用であるべきかということについての御見解はいかがですか。
  90. 平賀健太

    説明員(平賀健太君) ただいま御質問の御趣旨は、借地権設定の対価が取れるとした場合に、その借地権設定対価はいかなる基準で取るべきかというそういう立法論の御意見でございましょうか。それともこういう修正案のような条文ができた場合に……、
  91. 亀田得治

    亀田得治君 運用ですね。
  92. 平賀健太

    説明員(平賀健太君) もしこういう修正になりますと、結局法案の第十七条におきまして地代とか、そのほかの借地条件とともにやはり借地権設定の対価というものもこの十七条の条文にございますように「土地又は建物の状況その他一切の事情を参しゃくして、これを定める」裁判所が鑑定委員会意見、これを聞きまして、「これを定める」ということになっておりまして、この「一切の事情」の中には三条、四条のような関係の接収当時借地権のあったものと十二条のような借地権の全然なくなってしまっておったもの、接収当時になくなってしまったもの、こういう区別があるのでございますが、そういう事情も勿論参酌されるということになるわけでありますけれども、具体的に裁判所で問題になった場合に、どういうふうに借地権設定の対価が定められるかということにつきましては、ただいま御質問のような御趣旨には必ずしもなるとは限らないというふうに考える次第でございます。
  93. 亀田得治

    亀田得治君 質問のような趣旨になるとは限らぬというのですが、それは個々の判断の場合に、裁判官なり調停委員があやまってそういう趣旨に反するようなことになることがあるかもしれぬ、具体的に……。しかしそういうことは何も正しいことではないのであって、この法律制度の趣旨からいったならば、普通の権利金よりも安くしてやるということが運用上正しいのではないか、これだけは少くとも言えるのではないか、もちろんたとえば普通の権利金といったってそれ自身が明確でない場合もありますから、はなはだこれは具体的になると不明確なこともありますが、考え方としてはそういうことが相当なんじゃないか、どうでしょう。
  94. 平賀健太

    説明員(平賀健太君) 要するにこれは具体的なケースによってやはりきまることでありまして、一般的に安くあるべきだと、安くあるように運用すべきだということには必ずしもならぬのじゃないかと考えます。
  95. 亀田得治

    亀田得治君 これはどうですか、原案を提出された方の御意向と、それから修正案を出された井上委員の御見解と、それから法務省が言われるのと少しずつ私何か違いがあるように思うのです。法務省がどうも一番高い。原案を出された方が一番低く感ずる。井上委員のはどうもその中間ぐらいのところの印象を受けるのですがね。私は立法する場合に、そういう不明確なことじゃやはりいけないと思います。で、法律を作る以上は、その精神が生きるようなあとの運用を私ども希望するわけで、そういう立場から聞いているのです。こんな法律を作らにゃならぬなら別です。作る以上は、普通の権利金を要求する。こんなことは私は少くとも……そんなことをするなら、こんな法律作らぬ方がいいと思う。自然に、放ったらかしておいたらいいと思う。作る以上は、そこに何らか若干やはりこのために助かるのだ、現実的な利益がなきゃ何もならぬのですよ。原案を提案された方は、自身の修正案ではありませんので、はなはだ遠慮された表現をさっきからおやりになっているのですが、ほんとうにそういう点、もう少し明確に考え方をおっしゃってもらいたいと思いますね。
  96. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) 本案を提案した当時の社会情勢と提案してから後何年か時代のずれがありますので、まあこの程度で仕方がないというふうに考えております。
  97. 亀田得治

    亀田得治君 それは時代のずれは若干あるでしょうけれどもね。あるでしょうが、原案では全然無償で賃借権を回復するわけなんです。ところが今度は有償になってきたわけです。だから時代のずれが幾らかありましても、無からまるで完全なものがぽこっと現われるというような、それほど私は大きな時代のずれというものはないと思う。だからそういう意味でお聞きしているのですが、どうもあまりはっきりしませんが、私はこの権利金が普通にこれが取られるのだということになりますと、ちょっとこの立法そのものに若干今疑問を持ち出したのですが、そういう矛盾はお感じにならぬでしょうか。
  98. 椎名隆

    衆議院議員(椎名隆君) できることならば私の方としては最初から賃借権を設定するときには無償でというふうにやって参りました。だんだん時代のずれも出てきましたし、また当事者間で折衝がつくならば、その当時の事情を参酌されまして、ある程度まで相当安く値引きされるのではないかとも考えておりますし、またまとまらない場合におきましても、裁判所におきまして諸種の事情を勘案されまして、その点適当に私は処置してくれるというふうに考えまして、この程度の修正ではやむを得ないと考えており、ます。
  99. 亀田得治

    亀田得治君 まあ裁判所なりそういう法を運用する諸君の良識に待つということなんですが、その良識が生きてくるためには、立法者の方がやはり質疑の過程においてもっと明確にしておくということがぜひ必要だと思ってお聞きしているのですが、まあこの程度にいたしまして、それからもう一つは、この第三条の場合と第十二条の場合ですね、これをまあ区別されたわけです。で、先ほどまあ井上委員の御意見では、この二つが違う、事情が違うということは明確だ、こういうふうにおっしゃったわけですが、私はまあ必ずしもそういうふうに断定はできないと思うのです。これは二つとも戦争に関連して強制的に借地権を失ったということは、これは同じことなんで、ただその形態が若干違う、それだけのことなんです。で、その根本的なことは少しも変っておらぬので、その点どういうふうにお考えでしょうか。
  100. 井上清一

    井上清一君 これは私はやっぱり第三条の場合は賃借権があった。それでたまたま接収をされておったために接収期間中に貸借権の期限が切れたためにこの賃借権が継続することができなかったということなんです。だから第十二条の場合は戦争中の防空法によりまする疎開によって賃借権が消滅した、その当時すでに国家から補償を受けている。しかしこれが都市復興という見地から、終戦直後戦災地の借地借家臨時処理法によって、きわめて特例中の特例でもってその賃借権の優先、何というか、優先的な賃借権の申入れの権利を認めたわけで、きわめて例外的な措置であった、例外的な立法措置であったと私は考えなければならぬと思う。そういう意味で三条と十二条は区別してかえるのが正当である、正しいと、私はさように考えておるわけであります。
  101. 亀田得治

    亀田得治君 これはまあほかの、たとえば農地が接収されて、戦時中軍用農地なんかとしてずいぶん接収されたのもあります。その当時若干権利金等をもらって、離作料といいますか、そういうものも相当あります。しかしそういうものがあっても、大体その当時の強制的な事情ということはもう少しも変らぬわけですね。意思に反してやったということは、権利金をもらっているから、任意だからそこで一応終了しておるのだとか、そういう考え方を言われるのは、はなはだこれは形式的だと思うのですね、根本的に。だから従って農地等でもそういうものが渡っておるといったようなことは、あまり問題にされないのであって、渡っておろうがおるまいが、あとの回復措置というものは大体私は同じようにやられてきているのが現実だと思うのです。そう見ますると、この三条の場合と十二条の場合と非常に何か違うのだという考え方は、まず取っておく必要があると思うのです。それが何に影響してくるかといえば、結局一方の場合において常に権利金を払う、こういうところが出てくるわけです。しかしこれはまあ修正案の条文に一方が払う場合と払わぬ場合とある。一方は常に払う、こういうふうに大きな違いが出てきているわけですが、今度はもう一つは権利金のやっぱり算定に影響してくると思うのですね。この三条と十二条は根本的に違うのだというふうな考えが背後にあったのでは、それは必ず十二条の場合には非常に権利金をお前高く出せ、そういう考えを是認するならば、そうなってくると思う。しかし私はそれは必ずしもそんなことは言えないと考えるのですよ。だから具体的に聞きますと、三条の場合のこの権利金のめどですね。それから十二条の場合の権利金のめど、こういうものを一体皆さんの方では差等をつけてお考えになっているのかどうか、こういう点どうでしょうか。
  102. 井上清一

    井上清一君 私はその権利金の額について別に差等をつけて特に考えることはいたしておりません。ただ第三条の場合は零から百までの間において当事者間で協議がまとまればまとまった額、まとまらなかった場合には裁判所が決定する額、かように考えまするし、それから第十二条の場合においては百と零でないある程度の間において当事者間できまる場合、またきまらなかったら裁判所できまる、かように考えるわけでありまして、ただ十二条の場合においては何がしかのとにかく賃借権の対価というものを払うということは第三条と違う、さように考えておるわけであります。
  103. 亀田得治

    亀田得治君 まあ一応この程度にしておきます。
  104. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 一松さん御発言ありませんか。
  105. 一松定吉

    一松定吉君 私は接収された不動産も、なるほど修正する御意思の方も、それはすでに国庫から代金をもらって、その人は権利がなくなったんだ、だからその人を保護するのと、権利のあっておる間に接収されて、接収期間中に権利がなくなったのを保護するのとは、趣きを異にしなければならぬということは、少し私は納得ができないのです。(「その通り」と呼ぶ者あり)なぜかというと、接収されたときに政府から金をもらった、そのもらった金は、他に移転するような場合相当な対価ではなくて、ただ政府からそのときの政府考えで、至って安い金をもらって権利を消滅された人間なんだ、だから罹災地の場合において、そういうようなときには二年間にさらに自分の権利の要求を申し出たときには法律保護するという規定があると同じように、その接収期間中に権利が消滅したということになってくると、その人の消滅は同じで、自分が国庫から金をもらって権利を消滅したのを同じように保護するという意味において、私は何も無理はないと思うのです。そういうときには結局その権利のないものが接収される、ただしそれは政府が金を出してくれた、地主も自分は金を何も出さずして、そうして自分の借地権のあった土地がさら地になった、そのさら地になったのを自分がうまうまとさら地のままもらうということになってくると、地主が非常にもうける、それだから地主にも相当な負担をかけるがよろしい、そのかわりに自分が疎開して権利がなくなったものに対しても、自分の意志に反して疎開されなければならぬような実情であったのだから、やはりこの人に、相当の期間内に自分が権利の回復を申し出るときには、法律はこれを保護しなければならない、そうして期間内に権利の消滅した人と同じように保護することがようはないかと思うのですが、この修正案は期間中に権利がなくなったというものと、疎開したがために権利がなくなったものとの間に、保護の程度が少し違っておりますから、その点がどうかと私は思うのです。その保護の差違を設けた理由を、もう少し詳しくやっていただいて、そうしてわれわれの納得のいくように説明がしてもらいたい。賃借権の期間があるうちに接収された、接収されたがために自分は賃借権の更新ができないでじっと手をこまねいて自分の賃借権の期間の満了するのをじっと見ていなければならぬ、そうして満了してしまったのにいまだに接収期間が満了しないがために、自分の賃借権は当然なくなってしまう、ところが今度接収期間が解除されたから、そこで初めてその期間中に権利のなくなった人を保護しよう、これがこの三条の規定です。ところが接収された人は政府からお金をもらって、自分は疎開したとか、権利をあけ渡したとかいうのだからして、ほんとうはその人もやはり自分の意志に反して政府から自分の権利を放棄させられたわけなんだから、同じようにしてもいいのに、一方は相当の権利金を出さなければならぬ、一方は出さぬでもいいというような、その点です大体は。その点もう一ぺんよく説明していただいて、この疎開を命ぜられた人々の納得するようなふうにこの原案を修正するということであれば私はあえて反対はしない。
  106. 井上清一

    井上清一君 今一松先生から御質問のありました点について御説明をいたします。  実は第三条と第十二条の場合と違うことは、一松先生ちょっと御理解……、第三条の場合は、出さぬでもいいという場合は今、まれにあるかもしれませんけれども、十二条の場合は常に出さなければならぬとなっておりますし、第三条の場合は原則として出すということになっております。その違っておりますることは、 第三条の場合は、先ほども申し上げましたように、賃借権行が接収中に賃借権の期限が切れたために、賃借権を継続していくことが、接収という事実によって、妨げられたという関係でございますので、当然賃借権があった場合なんでございます。第十二条の場合は、一応賃借権はなくなっているわけです。ただしなぜこの賃借権がその後問題になるかと申しますと、戦災直後における都市復興の見地から罹災都市借地借家臨時処理法第九条によって、きわめて例外的な、法律の原則からいってきわめて例外的な立法をやった、しかも短期間の間に申し出があった消滅した賃借権者の権利を認めよう、こういうことがあったわけであります。その権利が接収中に消滅したことを、今度の十二条によって救おう、こういうわけでございますので、自然賃借権そのものが第三条と第十二条の場合は違うと、まあ私はかように考えるわけでございます。  なおこの点については法制局で補足的な説明をしていただけば非常にけっこうだと思います。
  107. 三原次郎

    ○法制局参事(三原次郎君) 三条の場合は、簡単に申しますと、結局接収中でありましたので借地権を更新する手続がとれなかったわけであります。結局接収なかりせば借地権は継続したであろうということが予想されるわけなんでありますが、十二条の場合は、接収とは関係なしに、接収前に疎開によって消滅したとして、しかもそれに対しては補償金をもらっておるということがありますので、本質的に性質が違うと思います。
  108. 一松定吉

    一松定吉君 それならば私ちょっと伺いたいのは、罹災都市借地借家臨時処理法の第二条だね、「罹災建物が滅失した当時におけるその建物の借主は、その建物の敷地又はその換地に借地権の有しない場合には、その土地の所有者に対し、この法律施行の日から二箇年以内に建物所有の目的で賃借の申出をすることによって、他の者を優先して、相当な借地条件で、その土地を賃借することができる。」とあるね、罹災都市借地借家臨時処理法の第二条に。この場合と今の疎開によって政府から金をもらって借地権がなくなったものを保護するのと比較して、こちらを二年の間に優先して初出な借地条件で借りることができると同じような意味において保護していいのじゃないかね。その点はどう違うのかね。
  109. 三原次郎

    ○法制局参事(三原次郎君) 第二条は借地権者でなくてその家に、つまり戦災後の復興を早めますために、借地権がなくてもとにかくそこに住んでおりました者を早くそこに復帰させようというために、借家人に早くその家を建てさせるようにしようという趣旨の規定でございますので、ちょっと十二条と比較するのが工合が悪いのじゃないかと思います。
  110. 一松定吉

    一松定吉君 いや、私はその保護――同じように権利のなくなっているものを保護するという立法の趣旨からいくならば、この罹災都市借地借家臨時処理法の二条と、この疎開することによって権利の消滅したものを保護するについて、法律は公平なる立場において同じような意味保護するということがよろしくはないのですかと、こう聞いておるのです。
  111. 三原次郎

    ○法制局参事(三原次郎君) そういうふうな意味でございましたら、それは保護するという点から言えば同じことだろうと思います。ただ二条の方は、保護するということもありますけれども、今申しましたように早くそのもと住んでいた所に家を建てて復帰させようという趣旨が非常に強く出ているわけなんです。
  112. 井上清一

    井上清一君 それからもう一つ、十二条の場合は今度の立法でもって保護するわけでございますが、罹災都市借地借家臨時処理法の第九条によりまして、「疎開建物が除却された当時におけるその敷地の借地権者、その当時借家権以外の権利に基いてその敷地にその建物を所有してみた者及びその当時におけるその建物の借主については、前七条の規定を準用する。」こうありましてこのただし書き「但し、公共団体が、疎開建物の敷地又はその換地を所有し、又は賃借している場合は、この限りでない。」というようなただし書きなんかがありまして、疎開をいたしましても接収された人は今度のこの立法によって救われるけれども、公共の建物、公共の用に供されているもの、あるいは道路になっているものなどは、これは全然補償を前に受けたきりだけで、優先貸借権とか何もないわけでございますので、そうした人々とのつり合いをとる意味におきましても、ある程度第三条と差別を設けることが適当ではないか、かように考えるわけでございます。
  113. 亀田得治

    亀田得治君 それは意見の違いだ。私は区別するのは反対だ。
  114. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 他に御質疑はございませんか。
  115. 一松定吉

    一松定吉君 ちょっと、この相当の対価で借りることができるとあるね、相当な対価で争いがある場合には、結局裁判所の調停か何かで決定して、地主、借地人も一応納得するようなことで折れ合うという意味ですか。
  116. 井上清一

    井上清一君 御質問の通りであります。
  117. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) それでは一つ井上さんにお尋ねをしたいと思います。  この法律は御承知のように、戦争という不測の事実によって、自分の意思に反して疎開をさせられ、そうして借地または借家権を失なった者に対する保護立法として私どもはこれを了承しております。こういう意味衆議院におかれましては第十九国会において、御臨席の椎名議員を初めとしてわが党の猪俣議員の非常な御尽力のもとにこの保護立法が満場一致で可決されましたわけであります。その後再度第二十二国会衆議院はさらにまた満場一致でこの法律を可決せられました。私は衆議院のこうした御良識に対して深甚な敬意を表し、ぜひ参議院においてもこうした精神が生かされることを念願して実はやまなかったわけでございました。けれども、若干の時日が経過し善意の第三者に対し不測の損害を与えるおそれがあるというそういう事態のもとに、言葉を平たくして言うならば、利害相反する立場の主張がありまして、なかなかこの間の意見の調整というものが困難であったために今日まで遷延しておりましたことは、まことにもって申しわけないことと存じます。こういうような相互の意見を十分了せられてここに井上委員から修正案が出されたわけでございますので、私が井上議員にお尋ねをしたいことは、この修正案をお作りになるに当って、衆議院で全会一致で通された、この戦争という不測の事態に際して、自己の意思に反して疎開しまた借地借家権を失い、あるいはまた第三条に言うがごとく借地権を更新する手続がとれなかったという、こういうような不幸な立場にあられる方も、いずれもこれは原因が戦争ということのために受けた損害であろうと存じます。そこで当事者間の意思も十分これは参酌せられて修正案を作られたとしんしゃくしますが、井上委員にこの間の利害相反する方々のお立場が、この法案作成に具体的にどういうふうにお互いが譲歩せられているのか、その点についてお差しつかえがなければ御答弁をわずらわしたい。
  118. 井上清一

    井上清一君 ただいま委員長からこの修正案を提出するについて利害関係相反する双方の立場方々から意見を聞いたかどうか、またその意見をしんしゃくして法案を作成したかどうか、こういうような御質問がございました。実はこの法案を作るにつきまして、先般当法務委員会におきましては公聴会を開いて関係人の方々にお集まりを願っていろいろお話を承りました。またその後しばしば、まあ主としてこの法案を出してもらいたいと推進される側の方々からもずいぶんまた陳情も受けたのであります。またそれと同時に、先般自民党の参議院の政策審議会におきまして、両派の方々にもおいでを願っていろいろ御意見も承りましたが、なかなかやはり利害が輻輳しております関係で、なかなか両方の意見を完全にこの修正案に入れるということは私は至難だと考えましたが、しかし大体この程度のものであれば御納得がいき、筋の立った私は修正案じゃないかと、かように考えまして、自民党の政調会の方々とも御相談をし、また私ども党の方でも相談をいたしましてこの原案を作ったようなわけでございます。何といいましても不動産に関しまする法律というものは、これは非常に利害関係者があるわけでございまして、ある法律を作りますと、必ずこうした不動産に関する法律はなかなかむずかしい。ことに今度の法律のごとく相当遡及をする、相当の年月を遡及して効力をさかのぼらせるというような法律につきましては、これは不動産に関する立法としてなかなか異例なもの、きわめていろいろな問題を打ち、私は法律的に見ましてむずかしい立法だと思うのでございますが、まあ今申し上げましたような修正案であれば、大体その間の調整をとって、比較的うまく当てはまるのじゃないか、かように考えまして修正案を提出いたしましたような次第でございます。
  119. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 御趣旨を了といたしますので、もう一点お尋ねをいたしますが、この第十七条は、接収地、借地、借家関係の裁判について規定してあります。第十七条の最も骨子とするところはこの裁判に当って「鑑定委員会意見を聞き、土地又は建物の状況その他一切の事情を参しゃくして、これを定めることができる。」こういうまことに含みのある条文が規定されておりますが、従って修正案によりますと、自己の意思に反して疎開させられ、または借地借家権を失った、こういうような方々の中には、きわめて零細な借地権を持ち、零細な不動産の権利を持っている力が多いので、衆議院で二回もこれらの方を保護するために作られた立法の趣旨がこの十七条の「一切の事情を参しゃくして、」という中に含まれていると了承しておりますが、この点について明確に御答弁して下さい。井上さんにお尋ねいたします。
  120. 井上清一

    井上清一君 つまりただいま委員長の御質問は、きわめてまあ零細と言っちゃはなはだあれですが、狭い土地の賃借人とか小さな家屋を賃借していた方々に対する保護ということがこの十七条の「一切の事情を参しゃくして、」という中に入っておるかどうかと、こういうような御質問、御意見だったように思います。私も同様に考えまして、こういう点はこの「一切の事情」という中にはそういう事情は私は含んで考えていいのじゃないかと、かように私は考えております。
  121. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 実はこの法案に対しては社会党は強く、衆議院で二回も満場一致で通過せられましたその精神を了として、社会党の方としてもこの原案支持に強い実は意向を持ったわけであります。それはとりもなおさずこの精神が没却されて、せっかくの保護規定が無になっては何にもならない、立法の精神に反するようなことであってはならない、こういう趣旨から原案を強く主張したわけでありますが、当委員会としては、お互いの主張は主張として、国民のためになる譲歩というものはお互いにしていかなければならない、こういう大乗的な気持に立って、ただいまの修正案についても含みのある態度をもってお迎えしたい、こういうわけで、私はお互いのこうした崇高な気持を委員長としては十分にそんたくし、この法案の運営に当って、運営の妙味を発揮して衆議院の意志が無にされないようにということを強く実は念願しております。そこで平賀参事官に最終的の法の運営の妙を、衆議院の意志をそんたくしてされることができるか、こういう点を一応お尋ねをしておきたいと思います。
  122. 平賀健太

    説明員(平賀健太君) この運営は、結局利害関係人とそれから利害関係人の間で争いがあります場合には、裁判所の問題になるわけでございまして、法務省といたしまして、この法律の運用につきましてどうということは実際にやらぬわけでございます。そういう関係で、この法律案が成立いたしました暁におきましては、この法律案全体の立法趣旨、それから各条の解釈に従いまして、裁判所の方で公正に運用されていくということになるだろうと思うのでございます。
  123. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 他に御質疑がなければ修正案に対する質疑は尽きたものと認め、これより原案並びに修正案について討論に入ります。
  124. 一松定吉

    一松定吉君 ちょっと……。これは一つ私はもう一回だけ審議を継続さしてもらいたい。きょう私どもはこの修正案をとって、まだ十分に検討する時間が実はないのです。で、私は決してそれを阻止する意味はないけれども、もう一回だけ余裕を与えていただいて慎重にやっていただきたい。なぜ私そういうことを言うかと申しますと、衆議院で満場一致で二回通過した案を、こちらでただ井上委員その他の方がこういう修正案を出したということですぐにこれを委員会で、ただ一回の審査で、質問を打ち切って、採決するということは少し早計のように思う。もう一回だけ皆さんの御了解を得まして、この次の委員会一つこれを採決なら採決するということにして、その期間一つ検討の時間を与えていただいたら私は非常にいいと思います。
  125. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 速記をとめて。   〔速記中止
  126. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 速記を起して。  御意見のおありの方は賛否を明らかにしてお述べを願います。  御意見はございませんか。なければ討論は終局したものと認めます。  これより採決に入ります。まず井上委員提出の修正案を問題に供します。  本修正案に賛成の力の挙手を願います。   〔賛成者挙手〕
  127. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 多数でございます。よって井上委員提出の修正案は可決されました。  次にただいま可決されました修正部分を除いた原案全部を問題に供します。修正部分を除いた原案に賛成の方の挙手を願います。   〔賛成者挙手〕
  128. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 多数でございます。よって本案は多数をもって修正すべきものと議決せられました。以上でございます。(拍手)  なお、本院規則第百四条による本会議における口頭報告の内容、第七十二条により議長に提出すべき報告書の作成、その他日後の手続につきましては、慣例によりこれを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  129. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 御異議ないと認めます。よってさように決定いたします。  それから報告書には多数意見者の署名を付することになっておりますから、本案を可とされた方は順次御署名をお願いいたします。   多数意見者署名     亀田 得治  赤松 常子     菊田 七平  西岡 ハル     一松 定吉  井上 清一     宮城タマヨ  上原 正吉     藤原 道子      ―――――・―――――
  130. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 次に派遣委員報告の件を議題に供します。五月七日から三日間京都地検における犯人誤認事件調査のため現地調査を行いましたので、その御報告をお願いいたします。  速記をとめて下さい。   〔速記中止
  131. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 速記を始めて下さい。  亀田委員より御報告をお願いいたします。  ちょっとその前に先立ちまして、委員長から大麻国務大臣にお願いをいたしますが、先ほど来より、お約束の時間にお見えにならないので、皆さんがお待ち申し上げておりました。どうぞお約束の時間にはおいでいただけるように、特に人権問題を双肩にしょってお立ちになる大臣の使命は非常に私は思いものと思います。どうぞ非常に熱心な委員の期待を裏切らないように、せいぜい御勉強下さるようにお願いいたします。
  132. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 大へんおくれまして申しわけございません。おわびを申し上げます。今後注意をいたします。
  133. 亀田得治

    亀田得治君 京都における犯人誤認事件に私ども調査に参りました結果を概略御報告いたしたいと思います。  京都地方検察庁における犯人誤認事件の調査結果について、私がお許しを得て派遣委員一同を代表し御報告申し上げます。委員羽仁五郎及び新谷寅三郎及び私の三名は、去る八日、九日の二日間にわたり、京都府庁、西陣警察署及び京都地方検察庁において本件事件の関係人である四少年、公判証人、弁護人、警察官及び検察官その他合計十八名から事情を聴取したほか、問題の公衆便所そのほかの犯行現場付近の状況並びに西陣警察署の内部を視察して参りました。関係者のうち少年一人及び森鳥検事には先方の都合で会うことができませんでしたが、京都府庁及び前堀弁護士から調査に多大の便宜を与えられたことを特に御報告いたし、感謝の意を表したいと存じます。  今回の調査は、関係者も多くきわめて多様にわたっていますので、詳細は別に報告書に譲り、ここでは最も大きい問題点、つまり四少年を犯人と誤認したことにつき、捜査上のミスがなかったかどうか、四少年に対する自白強制、暴行拷問の事実がなかったかどうか、村松証人を逮捕したことにつき検察上の、ミスがなかったかどうかの三点について報告いたします。  まず捜査上のミスの問題でありますが、これについては村井京都府警本部長も明らかにミスであったことを認めています。私どもとしては、このミスは次の六点、すなわち第一点は予断による見込捜査をしたこと、第二点は捜査官の合理的、科学的判断力が十分でなかったこと、第三点は検察庁の処理にたよろうとする甘い態度があったこと、第四点は人権尊重の精神に欠けるものがあったこと、第五点は捜査の有機的統一がとれていなかったこと、第六点は、これは検察庁の責任ですが、警察の捜査に対する指導が万全でなかったことの諸点にあると判断いたしました。  その理由は、宋、浜田両少年は、事件発生直後警察で第五の人物の怪しむべき行動を詳細かつ具体的に述べているのであります。これはきわめて重要ですから、その供述調書の部分を、少し長くなりますが、御参考までに読んでみます。  宋少年曰く「私も又相手をなぐろうと思ってよく見ますと、附近は暗いので顔はよくわかりませんが、年齢不詳、丈五尺二寸位、中折帽子、白トックリダブル背広の男がけんかをとめておりました。すると相手の二人はこの仲裁の均に食ってかかりましたが、私たちもおるので、この二人は鍋町を西へ逃げ、約三十メートルくらいの隆本方横手で、うち一名の男に追いつきました。このときも私が一番おくれ、春夫や浜田、山本はすでにこの男を相手になぐっておりました。私が行くと、この男は北側の塀にもたれるようにしながらばったり倒れました。現場にはたくさんの人が見ておりました。」こう述べ、翌日には浜田少年が当時白トックリシャッを着た男がジャックナイフを出したのを見たことを浜田少年からけんか後聞いた事実を供述しています。  つぎに浜田少年いわく「どこから出てきたのか、私の後の方え廻って来た一人の男が私と相手の間に立って相手の男に向って、まあ待て、とか言って居りました。すると相手の一人が仲裁に入った男の瀕を手でなぐりつけました。その心仲裁の男は川手を手で押して一歩後方に退り、〃やるのか〃と言うて上衣のポケットに手を入れて何か出したように思いました。その時相手の二人は西に向って逃げ出したので、私は川手を追い、二人の中の一人の男に追いつきなぐろうとしたとき横から相手の一人が私の肩をつかんで引っぱったのであります。それで私は相手の脇下であったか手を入れて、そのまま道路の北側のお寺の石坑のところに押したのであります。すると仲裁に入った男が横から出てきた相手の首に手を巻いてしまいました。そのとき私の手が相手から離れたのでとっさにズボンの後ポケットに入れてあったハーモニカを取り出して相手の頭の付近を数回なぐりつけました。そのときもう一人の川手の男は山本が川手をしていたように思いますが、判然しません。とにかくもう一人の男が逃げ出したので私も追っていこうと思うたとき仲裁に入った男がまた追っていったのであります。そのときあとに残っていた相手の男も少し走りましたが路上の北端の方に横向きに倒れました云々。仲裁人の人相は一見二十六、七歳、丈五尺三寸位中肉で色が黒いようでありました。判然覚えているのは、トックリのシャツに、ナンド色の背広の上下、半長靴をはいておりました。」こう述べ、さらに、この仲裁人が下手人であると直感したわけについては、「その男がポケットに手を入れて何か取り出した様子であり、私が相手と取組んだ時この男が相手の首を手で巻いた動作等から、その時何か刃物で突いたのじゃないかと考えた」と、供述しているのであります。  山田、山本二少年の警察における供述調書の内容は、残念ながら入手することができませんでしたが、少くともただいまの供述によってわかりますように、真実に触れている感があり、第五の人物が直接の下手人ではないかを疑うべき余地が大きいのであります。  しかるにこの点について警察では事件発生当時の見物人二十数名について取調べをしたが、判明しなかったと釈明していますが、多数の参考人のうちに二少年の客観的真実に合致した供述を裏づける一人の目撃者も得られなかったということはまことに驚くべき現象であります。  果して警察が、二少年の自由なる供述を尊重し謙虚にして真剣な態度をもって捜査をしたかどうか、疑問とせざるを得ません。換言すれば、警察では事件の外形的な形態や少年の経歴その他の表面的な現象に捉われ、始めから下手人は四少年の中の一人であるとの予断を抱き、その見込みの下に捜査を進めた疑いが濃厚であります。  事件の捜査主任の一人であったある警部は、私どもに対し「四少年の中のだれかがやったのではないかとの見込みであったが、予断を持ったわけではない。そう信ずるについては事件の経過を通観し、多年の経験に基く確信であった」旨述べ、事件の筋と勘によって四少年を犯人と認定せざるを得なかったことを強弁していますが、この言葉は本件の捜査が予断と見込みのもとにいかに誤まられたか、そして多年の勘なるものが厳粛なる事実の前にはいかに危険をはらむものであるかを自白しているにひとしいのでありします。見込み捜査の弊害はまことにおそるべく、これを根絶せねばなりません。捜査は常に証拠に基き、あくまでも人権尊重を基盤とし、合理的科学的考慮の裏づけを伴ったものでなければなりません。これを欠くときは、本事件のように真相を見誤まり、あまつさえ、自白を強制し、暴行拷問のおそるべき人権じゅうりんの問題を惹起することを捜査官は深く銘記し、戒心すべきであります。これが第一点であります。  先般刑法等の一部を改正する法律案の公聴会において、高田委員長から、わが国警察の科学捜査施設の貧困な状態について御質問があったと記憶しておりますが、捜査の合理化、科学化は近代司法警察の要請であります。現行刑事訴訟法が自白のみによる断罪を排し、傍証を要求しているゆえんのものも、またそこにあることは申すまでもありません。ある参考人の警部は、私どもに対し「四月二十六日宋少年が自供を翻えして犯行を否認したが、これまでたびたび凶器の出所についてでたらめばかり言うので、その否認も信用しかねた」と答えていますが、犯行を自白した者が何ゆえ凶器については真実の供述をすることができないのかということを合理的に追及していけば、当初宋少年が犯行を否認していた事実と相待って、当然そこに宋少年は凶器について語るべき何ものも持っていないのではないかというきわめて自然の大きな疑惑にぶつからざるを得ないはずであります。これは一例にすぎませんが、かように合理的探究の精神に欠けるものがあった、これが第二点であります。  それでは警察は四少年を真犯人と確信して送検したかと申しますと、必ずしもそうとは見られない。一まつの疑点を残して送検したのではないか、そこに捜査の不徹底があったもののように感ずるのであります。  前堀弁護士は「警察は検察庁に事件を送致すれば検察庁がこれを何とかしてくれると甘く考えている」と述べています。ところが、ある警部は「裁判所は警察を信用していけません」と述べています。あとでそれは裁判所が警察を盲信していないという意味であると釈明しましたが、盲信していないのは当りまえの話であって、やはり「裁判所は信用していない」という意味で述べたものと解されます。しかしかような自信のない考えで、捜査上の疑点の究明を怠り、あとは検察庁まかせでは、人権保障上まことにゆゆしいことであります。宋、浜田少年はあとで述べますように、事件後友人岩本宅で真相を語っております。また佐藤真犯人は料理屋の女中をして犯行現場を見にやっております。これらに対しどこまで捜査の手を伸ばしたか、徹底を欠いたうらみがあったのでないかと感ずるのであります。これが第三点であります。  由来西陣警察署は伝統的に取調べがきついということで、一昨年にも積慶園の収容児の取調べで暴行問題を起し、責任者の処分をみています。  取調べがきついということは、人権尊重よりも警察独善に傾いているものと批判されなければなりませんが、かように人権忠恕に対する自党のおくれていることが、自白を強制し、ひいて真実発見を妨げる誘因になったということは重大な問題であります。これが第四点であります。  次に、浜田少年はけんかが終った後、友人の岩本君宅に立寄り、けんか闘争の状況を岩本君に話したことを明らかにし、取調官に事件当夜の真相をうかがう手がかりを与えています。  しかるに警察では岩本君を取調べたかどうか判明しませんが、捜査主任の一人は、そのような報告は一こう耳にしていないと述べており、私どもは、果して警察が捜査官の縦横の連繋を十分に保ち、有機的に統一された捜査を展開したかどうか、一まつの疑問を抱いております。これが第五点であります。  もとより私たちは四少年を真犯人と誤認し、あるいは真犯人を発見し得なかったことについては、警察のみを糾弾しようというのではありません。そこには検察庁側の責任はどうか、家庭裁判所もその職責を尽すに遺漏はなかったか、あるいは一般大衆の協力が得られたか、その他いろいろの事情をしんしゃくしなければならないことは当然であります。  現地では、検事拘留の期間十日のうち七日は警察側に食われている実情のようでありますが、これではわずかの残り期間内に担当検事が、警察側の取調べの欠陥を考究是正し、みずから種種の取調べを行い、適正な起訴不起訴を決定することは、けだし困難といわなければなりません。勢い本件のような否認事件については確信のないまま起訴する羽目に陥るのであります。  四少年の起訴状を見ますと、検察官は包括的に一個と見るべき行為を前後二個に分割し、最初のけんか暴行については暴力行為等処罰に関する法律を適用し、後の殺人結果については傷害致死罪に問擬しています。これは理論的にはとにかく、起訴の常道から見るとまことにおかしい。重い罪の傷害致死一本で起訴すれば、それで十分ではないかと思います。しかるに検察官がことさらに暴力行為をくっつけたゆえんのものは、四少年の犯行に確信がなかったから、これをもって突っかい棒をしたと、こういうふうにしか解釈されないのであります。これはひっきょう検事拘留が本来の意味で活用されなかったことに起因すると批判しなければなりません。検察側が司法警察職員に対する指導指揮に完璧を期し、検察権行使の適正をはかるため、一そう反省努力すべきことを切望するのであります。これが第六点であります。  それから犯罪捜査が一般大衆の協力なくしてはよくその実効をあげにくいことは多言を要しません。本件の場合、けんか闘争の現場に居合せた多くの元物人、先にもあげましたが、少年らの次人岩本君、また真犯人に頼まれて犯行現場を兄にいった女中など、幾多重要な関係者が存在しています。しかるに、これらの人々のうちで捜査線に現われ、真相発見に有力な手がかりを与えた者が、果して幾ばく存在したでありましょう。そこに大衆の協力の欠陥があった。というよりも警察の民主化が西陣警察署の「警察は最も民主化されている」という言葉を逆に行っておって、まだ地についていないことを暗に物語っているのではないでしょうか。  なお、家庭裁判所については、応問の都合上直接調査することができませんでした。裁判所からは報告書が提出され、その中で第五の男について「少年に相当追及し発兄に努めたが、少年らの供述に具体性がなく、目撃者もなく、十分な捜査機能を持たない家庭裁判所としては、結局第五の男を確認することができなかった」と述べていますので、一言付け加えておきます。  第二に、自白強制、拷問、暴行の問題について申し述べます。  この問題については、少年らは、口をそろえ一様に事実行われたことを訴えているのであります。たとえば、宋少年は、四月十二日から十八日までの間岡本、広瀬、権藤、永徳という刑事から手を引っ張られる、腹を突かれる、手錠をはめられ、正座させられる、数人の刑事に取り囲まれて自白を強いられたり、刑事の股倉に頭をはさまれて小突かれる、髪の毛を引っ張られる、いろいろの乱暴にあい、耐えかねて虚偽の犯行を自白したと訴えております。  浜田少年も、おもに権藤刑下から四月十二日またぐらに頭をはさまれ小突かれた、正座の姿勢をくずしたといってはなぐられた。無理な姿勢で手錠をかけて調べられ、短刀を突きつけられたこともあると述べております。  山本少年は、やはり権藤刑事のため良心があるかと腹を突かれたり、首や顔を打たれたり、うしろ手に手錠をかけて調べられたり、また刑事十名ばかりに取り囲まれてひっくり返されたこと、食事を与えられず、自白したら食わせてやると鼻先に突きつけられたりしたことを申し立てています。  しかるに、これに対し警察官側では異口同音に少年らの言い分を否定するので、ついに対決の手段をとったのであります。そうすると、少年らは当の刑事諸君に対して、こうしたではないか、ああしたではないかと、もろもろの事実をあげて詰問するのに反し、刑平諸君は、ただ一方的に否認し去るというありさまで、結局は水かけ論であります。  しかしながら、少年らの自白強制などに附する供述の内容がきわめて具体的かつ詳細であって、事実無根であると考えることは無理であるのに反し、警察官側の態度は、いずれも申し合せたように、ほとんど抽象的、一方的否認に終始しています。もし警察官側においてそれが捏造虚構のものであるというのであれば、もう少し積極的な反駁があってしかるべきではないかと感じました。  前堀弁護士のごときは暴行の事実を強硬に主張し、あくまでその責任を追及するとさえ極言いたしています。  もとより私どもは少年の言い分をそのまま信ずるわけではありませんが、これまで調べた諸般の状況からして自白強要の疑念を深めたことはいなむことができません。  前回警察庁中川刑事部長が暴行脅迫の事実はないと認められると報告していますが、京都府警本部監察課においては、格別に刑事、少年について調査しています。かような手ぬるさで真相が究明できたと思ったらもってのほかであります。よろしく四少年に弁護人を付し、双方を対決させるのでなければ、らちはあかないということを警察は自省すべきであります。  とにかく、警察における自白強制、あるいは暴行拷問は、戦後いまだに跡を絶たない民主主義のガンでありまして、これが根絶は司法警察行政に課せられた急務の一つであります。従って法務委員会としては、本件について追及の手をゆるがせにすべきではありませんが、現在警察本部において徹底調査を約していますので、いましばらくその是正作用を監視し、その上で態度を決定されたいと存じます。  同時に、かような事件の抜本策についても深く検討すべき必要があろうかと考えます。この点について前堀弁護士から、次のような三つの意見が述べられています。  すなわち、その第一点は現在警察では一人の刑事が取調べを行なったように外観上調書が作成されているが、実情は多くの刑事がそれまでに入れかわり立ちかわり被疑者の取調べに当るのである。これでは被疑者はだれによって取調べを受け、暴行などされてもだれにされたかはっきり見きわめることが実際上困難ある。従って、責任の所在を明確ならしめるため一人の警察官が身分、氏名を明らかにして取調べに当るようにすべきである。  第二点は、逮捕勾留を検事勾留に切りかえた場合は、警察の留置場を拘置監に代用する制度は廃止すべきである。現在のようでは警察は検事の知らない間に自由に被疑者を出し入れして取調べをする結果、とかく人権じゅうりんの問題を起しやすい。従って留置場の出し入れに厳重な制限を設けるか、でき得べくんば検事勾留について特別の立法措置が望ましい。  第三点は、現行法上被疑者の自供調書はそれが警察官の作成したものも検察官の作成したものも、証拠力は全く同一であるから、その間の何らか差等を設けることが必要である。かように三点をあげていますが、まことに有益な参考資料として付け加えた次第であります。  最後に、第三の証人逮捕問題について申し述べます。まず、偽証の認定自体が相当であるかどうか、私どもは、これはきわめて疑わしいと考えています。なぜならば、検察庁が偽証を認定したおもな理由は、佐藤証人の証言と村松証人の証言とに食い違いがあること、現場の照明の関係上、村松証人の証言のようには公衆便所の外で第五の男の服装、行動などが詳細に見えるはずはないこと、この二点にあることは、先般法務省の報告どおりであります。しかし、肝心の佐藤証言については、裁判長がこれを伝聞証言のため中途で証人調へを打ら切ったということを聞いています。真偽は裁判所に聞いてみなければ判然としませんが、もし村松証言とが食い違ったところで全く問題になるわけはありません。  それから公衆便所の点ですが、天地視察の結果によれば、相当薄暗い個所ではあるが、附近に外燈もあって、人の服装行勅はもちろん、刃物を手洗い水の中に入れてみたところ白く光り、決してわからないという状況ではありません。これをわかるはずがないと考えた検察官は果して実地検証の上便所付近の照明の状況をよく確めたのかどうか、疑問であります。  とにかく、偽証の認定において、すでにミスがあったと考えられるのでありますが、それは警察の場合と同様、やはり予断と見込みに出発した非合理的な検察活動が災いしたといわなければなりません。その後村松証人は森鳥検事の予断圧迫に耐えかねて、法廷で第五の男が背広を着ていたと証言したのは偽証であって、実はその男は背広を着ていませんでした、とさらにうその上塗りをしておるのであって予断追求もここまで来るとむしろこっけいにたえないのであります。  次に深夜に及んで村松証人を逮捕した経緯はどうかと申しますと、ただいまのように、予断をもって取り調べたものですから、なかなか村松証人は森島検事の期待するような供述をするわけはありません。そのうち夜に入ってようやくうその上塗りを供述したので、午後七時ごろ取調べを打ち切り、それから森島検事は中田刑事部長に経過報告をし、それから連れ立って泉次席検事をたずね、村松証人の取調べ状況を報告し、打ち合せなどをしていますが、森島検事の上申書――これは私どもの出発前に受け取ったものですが、これによれば、打合せに午後八時半頃から十一時頃まで約二時間半かかっています。わずか一人の証人の取調べ状況を報告し、その逮捕を協議するにしては、慎重を期したとしても長過ぎる時間ですから、おそらく逮捕問題について泉、中田両検事と森島検事との間に相当意見がわかれたであろうことは、察するにかたくありません。直接森島検事から真相を聞くことができなかったことは残念ですが、上申書には、森島検事は、村松証人の逮捕に反対したところ、泉次席からそれでは検察庁の士気を阻喪する、君は無能検事だ。あす有能な検事に村松を取調べさせる。もし偽証を自白すれば君は責任をとれ。とにかく今夜逮捕しよう。と言われ、やむなくその命に従った旨記載してありますが、一方泉検事等は、そういう激しい言葉を吐いた事実を否定しています。言葉のやりとりはとにかくとして、泉、中田の両検事は当時逮捕説を強く主張したことを認めていますから、結局森島検事が上司の意見に屈服したと申しても差しつかえないかと思います。  それでは、証人逮捕の責任は、泉、中田両検事にあるかと申しますと、必ずしもそうとはいえない。熊沢検事正は決裁者としては責任は自分にあると述べていますが、それはそれとして、森高校事もまた佐藤証言が伝聞証拠であることを果してよく説明したかどうか、上司の判断を誤らしめたという意味においての責任はないかどうか、なお究明を要する点であります。  裁判官に逮捕状の発付を請求したのが十一時半ごろ、ところが疏明資料不十分のため裁判官はたやすく応ずることをせず、ようやく午前一時を過ぎて発行したというのが真相のようであって、ここにも検察庁の見込み違いがあったわけであります。  検事正は証人逮捕のミス、特に深夜逮捕の行き過ぎを認め、事件全体の責任を強く感じていると申しています。  しかし、そうであるならば検察当局は、すべからく村松証人の起訴猶予処分を撤回し、不起訴処分の決定を断行して、国民に与えたいたずらなる疑惑、不安、恐怖の念を一掃し、みずからの不明を謝すべきである。国民が今後片言隻語の違いで偽証罪の汚名を着せられることをおそれ、証人台に立つことを忌避するような事態に至ることがあれば、責任だけでは片づかない重大な問題であります。  現に村松証人のごときは再び証人台に立つことはこりごりだと述懐しています。この人の名誉を回復するためにも、検察庁が官僚的面子を捨てて、不起訴処分に訂正することが当然の道であると考えます。検事正は上司と協議の上善処方を確言していますが、委員会としては、その結末を見守り、場合によっては法務当局に勧告せられたいと思います。  以上概略申し上べましたが、要するに、犯人誤認問題については、見込捜査その他六点の欠陥を究明しましたが、これは制度上及び運営上において検討されなければなりません。自白強制問題については、なお真相の究明を待ち、委員会の態度を決するとともに、関係当局に対し具体的対策の樹立を勧告するのがしかるべきかと考えます。  また証人逮捕問題についてはなお当局の調査を希望し、今後の反省を促し、起訴猶予処分の取り扱いを監視すべきものと思います。  なおいろいろ細かいことがありますが、割愛してこの程度で一応の報告を終ります。  なおこの報告書の結論といたしまして私どもの調べで事実関係が完全に明らかになった部分と、若干明らかになっておらない部分と二つあります。すでに明らかになった部分については、この際警察、検察当局においてもその部分についてだけでも考え方を明確にし、とるべき責任はとるべき段階ではないか、こういうふうに概括的に考えております。これは本日は大麻国務大臣、松原さんも見えておられますが、一応報告を終り、報告に対する委員各位の御質疑等あればそれをいたしまして、そのあとでそれらの点について私ども特に現地で調べてきた者としてその点についての若干質疑をしてみたい、こういうふうに思っております。
  134. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 御苦労さまでございました。  本件について御質疑のおありの方は御発言をお願いいたします。
  135. 一松定吉

    一松定吉君 この調査報告は調査報告でありのままで大へんけっこうですが、これについてまずあなた方のもう少し具体的にこういうことはこうしたらよかったのに、こういうふうにしたとか、結論はここに書いてありますけれども、もう少し何か、はあそうかなあというふうに具体的にお話はできませんか、ことに亀田さんなんかはだいぶよくこれを御調査になったことは敬服をして聞いたのですが。
  136. 亀田得治

    亀田得治君 ただいまお尋ねの点はなかなか考え方によって結論の出し方がいろいろあろうと思うのです。まあそういう立場から実は報告書自身としてはきわめて控え目な結論にしておいたわけなんです。私ども行った者だけであまり具体的に露骨に出してしまうのはどうかということで、こういうことに一応なっております。しかし若干腹臓なく言ってみたいということであればここで付け加えてみたいと思うのですが、たとえば警察の関係ですね。私どもが今まで報告を受けていたのでは、やむを得ぬ誤認であった、こういうことが報告されておる。ところが、私ども現実に調べてみますると、思った以上に宋なり浜田が真犯人の模様を供述調書の中ではっきり言っているのですね。出てきた真犯人とそっくりのような特長は大体つかまえて言っているんですね、半長靴のことも言っているし、とっくりシャツのことも言っているし、一人で全部は言っておりませんが、二人のやつを全部総合すると、ちゃんと出てきておる真犯人と同じことになるような表現を使っておる。  それからもう一つはけんかがあった後に、先ほど報告の中でも書きましたが、少年の友人の岩本弘という家に寄っておるんです。寄って実は今けんかしてきたと、で、けんかの模様を詳しくしゃべっておるわけです。で岩本弘の姉さんでしたかね、これは供述調書をごらん願えばわかるんですが、姉さんなどもどんなけんかだと附いてですね、相当詳しくしゃべっておる。そうして岩本の家に寄ったことは警察でもしゃべっておる。だからほんとうならば当然岩本のところに警察から出かけていってほんとうにそういう話があったかどうか、こういうことを聞いてみるとか、そういうことをなすべきなんですが、岩本を調べたかどうかについては、私ども西陣署のその当時の中心になって調べていた刑事に聞いたんですが、その岩本という名前すら覚えておりませんでした、私に対する答えでは。  そういうわけですから最初の警察の見込みのつけ方ですね、ここにまあ一つの大きなミスがあった。避けられない誤認であったというふうには考えられない。従ってその点は京都の本部長も率直に認めました。認めましたから私どもそれ以上の追及はしませんでしたが、しかしその点は少くとも明確なんですから、私はその上に立って、重大なる捜査の見当違いだと、これに対する責任だけはもうこの段階で明確にすべきではないか、警察の関係では、そういうふうに思います。  もう一つ残っておるのは拷問の問題です、警察の関係では。これは先ほども報告申し上げたようにいろいろ両者の言い分が食い違っております。ただ私どもの第六感としては、ただ警察官の方はやらぬやらぬ、こう言うだけ。一力の子供の方はどういうふうにどういうことをされたと、この警察官はこんな歌を歌いながらこうしたと、具体的におっしゃるわけですね。それからことに宋以外の人は留置場なんかの経験がないということです。本人もそう言っておるし、警察もその点は認めておりました。ですから捜査の作りごとを言っておるんじゃないという感じを私ども受けたわけです。それでまあ警察の本部でもそれじゃもう少しこれは徹底的に慎重に調べてみたい、こういうことを率直に言っておりました。警察ではもちろん対決という方法をとっておりませんが、なぜとらぬのかと言いますと、対決させると結局よけい調べる人が警察の監察課長ですから、圧迫になっても困るからというようなことを言っておりましたが、いやそういう場合には少年には弁護人がついておるのだから弁護人をつけて控えさせておいて、そうしてほんとうの真相を言ってみなさいというふうに言えば、そこは何とか真相がつかめそうに思うがどうかと言いましたところ、十分そういう方法一つ検討してみますというお話でした。だから私どもこの点についてやはり警察自身としてもうやむやにしないで、もっと究明してほしいとこう思っております。  検察庁の関係では深夜に逮捕をした、これは全く間違いない。これははっきり皆さんがかぶとを抜いでおります。従って私はやはりこれも事実ははっきりしておりますから、ほかの点と違って、たとえ偽証であろうがなかろうが夕方から翌日にかけて逮捕した、これはもう明らかにミスですから、これに対する責任はやはり明確にすべきだ。それが偽証かどうかということが明確にならぬからということで、そういうことまでやっておったのでは、どうも今の世論がやはり許さぬという感じがいたします。だからその点だけは一つ松原さんの方でも十分考えてもらいたいと思っております。それ以外の点、午前一時から二時にかけての深夜逮捕というものは非常に非常識な問題ですから、重点がそこに移っているのですが、実際は任意出頭ですから、夕方の六時ごろになれば本人を帰さなければいかぬわけです。ところが六時ごろからすでに十一時ごろまで引っぱっていったわけですね。それ自体が実は重大な人権侵害なんです。おそらく検事の方から言えば帰りたければ自分で帰って行ったらいいじゃないかとおっしゃるかもしれないが、それは実際上はちゃんと調べ室へ入れられておって、そう調べを続けられておったら、もうよろしいというまではなかなか振り切って帰れるものじゃない。それは事実上そういう人権という問題を真剣に考えておられれば、これは当然みずから自発的に帰してあげるべきです。そこですでに人権侵害がなされておるのです。私はこれも特に調べをまたないでも事実上明確なんですから、この点も私は法務当局で検討してもらいたい、こういうふうに考えております。  それから偽証であったかどうかという点ですね。これは私ども現場で調査をやり、裁判の模様等具体的に聞きましたし、とにかく本筋において大体合ったことを言っておるのです。ですから、多少の違いがありましても、そんなものを偽証として引っぱるというようなことをしたら大へんだと思うのです。国会議員であろうが大臣であろうが、どんなに頭のいい人でも。一年もたったことをもう一度言ってみいと言えば、多少のことは私は間違ってくると思うのです。しかもその多少間違っておるかというと、必ずしもそうじゃないのです。私は一歩譲って多少間違っておるとしても、こんな程度のことを、自分の面子を立てるためにあれは偽証をやったんだから逮捕したんだと突っぱるのははなはだ思わしくない。もしそういうことを言い出せば、弁護士自身も言っておりました。私ども事件についてようこれから人に証人に立ってくれということをおっかなくって頼みにくい、こういうことをおっしゃっておりましたがね。そういう恐怖感を与えるわけですね。こういう態度に出れば、私はこの点は若干疑いのある問題ですが、もっと大乗的な立場からやはり法務当局の適切な一つ御判断をお願いしたいと思っておるんです。それから、従ってですね、不起訴処分にはなっておりません、起訴猶予処分になっておりますが、これなんかも当然早く不起訴処分ということで疑いを晴らしてやってほしい、こういうこともあります。  それからもう一つは少年についてですね、余罪があったということでまた裁判をやっておるわけですね。これははなはだ非常識なことで、先ほど起訴状自体がおかしいということを申しましたけれども、ともかくこれだけの迷惑をかければ、もう少々のことはあってもそこが衡平、つり合いという問題でありまして、ともかく済まんかったということで白紙にするくらいの気持で私はあってほしいと思うのですね。そういう点の扱いが、いや、あれは人違いであったけれども、まだこいつらはこういうものがあるのだといったような非常な証人に対する扱いとしてははなはだ私ふに落ちないという点、こういう点いろいろありますがね、まだ残された問題というものは。それで私どもこれを調べて感じましたことは、一つは人権擁護局、今日は局長見えておりませんが、擁護局の局長衆議院で大体の模様について説明をされました。大体あの説明が事態の真相をつかんでおるという感じを結論的にもっております。このきわめて明確な点以外の点についての拷問があったように思います。それから偽証という点については、どうも疑わしいといったような表現をしておられますが、大体あの局長の表現がこういう問題になる点についても是認されているのじゃないかというような結論的な感じをもっております。これはまあまだいろいろありますが、ことに羽仁先生いろいろ御意見がありますのでつけ加えて一つ
  137. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 羽仁さん、補足がございましたらおっしゃっていただきたいと思います。
  138. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 いや僕は大麻国務相にあとから質問……。
  139. 一松定吉

    一松定吉君 ちょっと委員長、質問する前に亀田君にお尋ねしておきたいのですが。あなたの報告書、今御朗読になったこと並びにこの報告書を詳細に調べてみますと、まだ一番、この事件について捜査の主任検事であった森島検事の調べができておりませんね。そうして一面には森島検事とこの森島検事に対して、君は無能検事だ、もし君がやらなければ検事をかえて取り調べるというようなことを言ったという泉、中田両検事の意見の衝突、これに対して熊沢検事正の裁断というようなことはこの事件の一番の重大な責任の分れるところだと思います。森島検事が本当に自分の得た心証をありのままに泉、中田両検事並びに検事正に報告したならば、その点がこれらの検事によって検討せられて、事実の真相をどうすればいいかということが研究せられなければならない。その点が私はこの御捜査お取調べの分だけでは十分納得ができないので、森高検事がどういうわけで取り調べられなかったか、先方の都合によって取り調べられなかったというだけで、何かお取調べに応じなかったのかどうか、これらの点です。そうしてこの一体検事の間の意思の疎通なんかということは、御承知通り検事はもちろん一体ですから、森島検事、泉検事、中田検事、検事正というものが寄って十分に協議を凝らした上で結論を得た上でどうする、こうするときめなければならない、検事の態度が然るにこの点が疎隔あるように感ぜられるのですが、その点のお考えをもう一ぺん述べていただきたい。
  140. 亀田得治

    亀田得治君 御指摘の点私も特にそれは重大点でありますので、ぜひ森島検事に会うべくいろいろ努力をいたしましたが、ところが私どもの方に診断書を提出されまして会いにくいから、こういう御連絡があったわけです、初日に。それで私ども、もしこちらまで出てこられるのが健康等に差しさわるようであれば、私どもの方から伺いたい、そうしてもし病気等が重ければその上司の検事との食い違いの問題点なんかに問題をしぼって、若干この要だけを確かめる程度にしたいと思うから、というふうに連絡もいたしまして、そうして京都の地検からわざわざ極事が一人森島検事の宅に行ってくれて、その旨相談したのですが、結局健康にさわってはというような意味で遠慮したいということになったわけです。それで私どももまあ証人として呼び出しているわけでもない、まあ強制的にお会いするということもどうかと思いまして、一応そのままで打ち切ったわけです。  それからこの上司の中田、泉両検事に私ども事情を聞いたときには、この三者の会合のときには明らかに意見が対立したということは、これははっきり認めておりました。で森島検事はどうも逮捕はどうかと思うということをはっきり言っていた。その意見の食い違いのあったことは事実のようです。しかし上申書に言われ、あるいは新聞等に載っておるようなひどいことを泉検事等が言ったとかいうことについては、そんなひどいことじゃないということは言っておりましたが、食い違いだけは言っておりました。結局森島検事の意見が採用されないで上の方の意見が通ったんだ、こういうことです。それでまあこの点に関して私ども委員の間でいろいろ意見も交換したのですが、ある方面からの情報によると、何かこの森鳥栖事が懲戒免にされるのじゃないかというふうなことがあります。で、これは私どもちょっと実はふに落ちないと思っているのです。それはなぜかといいますと、この森島検事は、こういう重大な問題ですから若干内部の事情が外部に洩れるようなことをしたということでありまして、それをすぐにつかまえて君は懲戒免だというふうな形式的な処置をすべき問題じゃないと思うのです。普通の事態とこれは相当違いますから、むしろ両者の意見が食い違ったわけですから、結果からいうと森島検事の意見が通っていれば逮捕になっていないのです。上の意見が通ったので逮捕になったわけです。何かそのへんの実質の面からいうと、私は上の方が悪いと思うのです。だからそのへんを、森島検事を懲戒免にすることによって何かうやむやにされるということでははなはだおもしろくないと思うのですね、処理の仕方としては。しかしもちろんこの偽証罪として取調べにがかった森島検事の当初の意図は、やはりこれは偽証としてつかまえたい、こう森島検事自身も思っておったわけですから、そのへんにはやはり実質的な森島検事の責任があると思うのです。上司との連絡の関係なり、途中で意見の変ったことは事実なんです。村松証人に強硬に突っ張られたために、だからその実質的な面で森島検事の初めの見当自身が大分違っておったのじゃないか、それから同町に誤まって伝えたのを急に訂正もできないといったようなことで、そういう面での責任を追及されるということなら、これは私はそのかわり上の中田、泉あるいは検事正、これはみんな同じように追及されたらいいと思う。それをぼやかして、どうもあれは秩序を乱したとかそういうことで懲戒免にされる、これでは私は森島検事非常にかわいそうだと思うし、それから第一そういうことでおどされると、あるいは懲戒免にされると、あと弁護士もできませんし、これはやはり真実をはっきり言わなくなると思うのです。そういうことを調査の過程で私ども若干感じましたので、これはまあ今後の取扱いですが、かく御参考までにちょっと申し上げておきます。
  141. 一松定吉

    一松定吉君 亀田委員のただいまの御説明でよくわかりましたが、そういたしますると、結局これは森高検事を一つこの委員会においていま一度直接調べなければならぬ、事実の真相は明らかになっておりません。直接調べた結果、森島検事と泉、中田の検事との間の意見が食い違っているということであれば、直接捜査の任に当ったのは森島検事、その森島検事が十分な心証を得ずしてこれはどうも起訴の程度に達していないと言うたにかかわらず、泉、中川が君は無能だというようなことを言うて彼らが威圧して、そうして不本意な逮捕状が出たということになると、森島検事どころじゃなく中田、泉の両検事にむしろ責任がある。そうしてその点について森島検事が横事正に上申し、もしくは泉、中田のその三人の検事の話し合いの実情を拠出正に報告しなかったということが元になって、検事正の認定が誤まったのかということになると、その根源は森島、中田、泉の三検事の間にあり、しかも責任は泉、中田の両検事に重大な責任がある。それだのに森島検事を懲戒免に付するというようなことはこれはどうもとんでもないことだ。今あなたのおっしゃる通りそういうことはすべきでない。これはどうもこの辺をいま少し取り調べませんと、この委員会としては結論が出ない、私はかように思います。
  142. 亀田得治

    亀田得治君 御指摘の点は私どももそういうふうに思っております。だから森島検事の点は一つまた後刻理事会等においてよく御検討を願いたいと思います。
  143. 一松定吉

    一松定吉君 でございますが、今日は警察に関する問題ではないから、今大麻国務大臣からはちょっとわれわれの質問についての御答弁はないわけですが、しかしこの点について大麻国務大臣が警察官の処置に関して何か御意見があれば、それは承わっておきたいと思います。今私ども警察の点についてはまだ十分に事情を知っておりませんが、ただ警察官が少年らを拷問したということになればこれは一つ……、これはこの事件に限りませんわ、警察官は常に自分らの功をあせって、そうして被疑者を口実を設けて何とかかんとか言って結局自分の意志に合うよりに引っ張りまして、合うたときに合うたところだけの供述調書を作って、これを証拠としてやるという傾向が至る所にありますから、これはどうしても面さなければならないと思うから、そういう点については監督の画にあたらせられる大麻国務大臣において、警察官の会合とかもしくは特例な指示によって、そういう間違った態度は改めるということを十分に御訓示を賜わることが必要だ、こう私は考えております。
  144. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 亀田さんにちょっとお尋ねいたしますが、四少年に対する無実の論告があるという一方、この被害者の木下さんの死因を確めて、刃傷による死亡かあるいは殴打による傷害致死かということを確めて、そうしてまた、四少年にその奉行事実を認めさせるような原因を発見するように努力しているやの新聞報道があったのでありますが、そういう点についてはお調べでございましたでしょうか、死因の探究です。
  145. 亀田得治

    亀田得治君 大体真犯人が出ていてそういう問題については直接響かなかったものですから、そこまで細かくはやっておりません。
  146. 一松定吉

    一松定吉君 もう一つ報告の中になかったのですが、凶器を使ったと、しかしその凶器を捨てた場所が十回も変った、調べたけれども結局わからなかったということであれば、果して凶器を使った人間が殺したのであるかどうかということを調べるために、凶器を捨てた場所はわからなかったが、しからば凶器の出所は警察なり検事が調べて、それではお前の捨てた凶器はどこにあったのか。お前が持っておったのか、お前の家にあったのか、だれか人のものを取ったのかということになってくると、凶器の出所がわかり、しかも凶行のときに使った凶器を捨てた場所はわからなくても、凶器の出所はわかるはずである。凶器の出所がわからぬ、凶器がどこから出たか調べなかったということになってくると、やはりそこに捜査の手落ちがあるが、そういう点はどうですか。
  147. 亀田得治

    亀田得治君 凶器の出所については、どこまで調べたのか不明ですね、私どもの聞いた範囲では。とにかく捨てた場所だけを大いにやっておったようです。
  148. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) もう一点お尋ねしますが、科学捜査に頼り過ぎたという検察庁側の反輪が一部新聞に出ているようです。つまりこの四少年のスボンに血痕反応が現われた。それが被害者と、同一の血痕だから、これは殺したのだろうという科学捜査に頼り過ぎた結果引っぱったんだというようなことが出ているわけでrが、こういう点について何か特例に補足していただけましょうか。
  149. 亀田得治

    亀田得治君 まあこれは議論になりますけれども、むしろ第五の人物というものを述べておるわけですから、第五の人物が殺しておるからこそ血痕がほかの人にもつくわけです。けんかしていることは皆一緒にやっているわけですから。だから、ただその血痕が同じだからというそれだけじゃ、あまり科学的じゃないと思うんですがね。あまりそういうことは力説はしませんでした。一応抽象的にはやむを得なかったんだというふうなことを言いたかったようですが、しかしどうしてやむを得ないのかと私ども具体的に聞きまと、結局総合的にはミスであったと、本部長はそういうふうに答えております。
  150. 赤松常子

    ○赤松常子君 ちょっと亀田さんにお尋ねいたしますが、ただいま報告書を伺いますと、ほんとうに私どもりつ然とした次第でございます。いろいろの問題がございますわけですが、御調査に行かれましたときに、これを拝見いたしますと、ずいぶん目撃した大衆が出ているということでございますが、この大衆に対する警察の調べというようなものは、どの程度いたしておりましたでしょうか。またあなた方おいでになったときに、そういう人々にはお会いにならなかったのでございますか。
  151. 亀田得治

    亀田得治君 とても時間的に余裕もありませんので、お会いしておりません。で、警察の方では二十数名観衆を調べた、こう言っております。それが事実とすれば、二十数名も調べて一人も出てこぬというのは大体おかしい。事実と、すれば調べ方が悪いのか、あるいはおざなりな調べをしておるのか、だからまあそんなにたくさん調べておれば、だれか出てきそうなものだと思います。ただ全般的に感ずることは、被疑者の言うととを初めから信用しない。やはりこういう精神があるのですね。これは一つの大きな間違いじゃないかと思うのです。これを全部調べておってそういう感じがしましたよ。どうも国民、人民大衆というものはうそをつくものだ、こういう感じがどうもある。それは私は、場合によっちゃそういうこともあるでしょうがね、やはりそういう考え方じゃ非常に間違いが起ると思う。この証人の場合でもこれがあると思います。今度の証人の誤まった取扱いでも、ほんとうに一応その少年がいろいろなことをしゃべる、一応そのことに耳を傾けてみるという気持があれば、これだけ具体的に第五の人物の認証を言っておるわけですから、それは私はもっと違った結果になっておったと思います。観衆がこれを知らないと言いましても、第五の人物がいたって、観衆は全部が一つのけんかだと思っているかもしれません。だから一番知っている者はけんかしている当事者である。だれかほかのやつが来たというのは、だから私はこれはけんかの当下行であって初めてわかるんだと思うんです。第五の人は見ておっても、それは一緒にけんかしているんだとおそらく思っております。だから第五のの人物について、観衆を二十数名調べたのはほんとうとしても、それがわからなかったから責任解除だということにはならぬと思う。けんかの当当事者自身が、これだけ動作についてはっきり言っているんですから、それはやはり国民の言うことを一応その気になって聞いてやる、この気持ちがやはり足らぬところからきていると思います。
  152. 赤松常子

    ○赤松常子君 ほんとうにそういう点に問題があると思うのでございまして、何か警察が取り調べる態度に、非常に威嚇的な態度があるものですから、市民はさわらぬ神にたたりなしというようなことで、もう避けよう避けようとしている。こういうことは私今度の問題にも大きな何か盲点ががあるように思うわけなんでございます。これはまたあとからそちら様にもお尋ねしてみたいと思っておりますが、もう一つ亀田さんあれででございましょうか、先ほどその少年の一応の最初の疑惑というものが白くなった、けれども、あと次にこういうことをしているじゃないか、ああいうことをしているじゃないかというようなことを追及しているということは、またその後引き続いてやられているのでございましょうか。打ち切られているのでございましょうか。まだ引っかかっているのでございましようか。
  153. 亀田得治

    亀田得治君  それはまだ続いておやりになっているようですね。大体先ほどから御説明申し上げた、ように、全般的にこの事件というものは、どうも不当な取調べがあったんじゃないかということですね。その中の一部の調書を、今度もう一つの事件に利用しているわけですから、それだけでも、たとえほかの問題を問題にするにしても、この調書を全部焼いてしまってそうしてあらためて全部解放した立場で聞いて上げるべきだと思います。不当な経過で作られた書類を元として、まだ君の方は余罪があるから放さぬぞ、これは私はこの子供に対して酷なように思うんてす。
  154. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それでは大麻国務相に質問をしていいただきたいと思います。ただいま私どもの調査の報告を十分にお聞き下すったことと思うのであります。今回の京都五番町事件については、御承知のように国民が非常に注目をしております。で、その一、二の例として、私どもが受け取っております市民の皆さんからの、手紙を今ここで聞いていただきたいと思います。なお、この調査報告誉にはさらに詳細な報告をつけ、現地京都における新聞報道その他の資料も添付しておくつもりでありますから、それも十分にごらんを願いたいと思うのであります。同時に、この問題が、東京はもちろん、全国の各新聞に相当重大な意味をもって報道されております。私どもが地方に出ました機会にも、この問題の成り行きというものについての国民の関心がきわめて高いことを感じております。  ここに代表的なものを二つだけ読み上げさしていただきますが、一つは福山の方面から寄せられた亀田委員、新谷委員並びに私の三人に対してのはがきであります。「京都五番町事件に対し日本全国国民代表者として詳細なる御調査を感謝いたしております。松事といい警官といい、いずれも取調べの任に当る者が一たびわが身が取調べを受ければ、いずれもみな否認しておりますが、もはや事ここに至ればいかに彼らが否認しても否認するほど国民は信頼せず、一点の同情もこれなく、ために関係検事一同、関係警官一同を免職処分にして下さい。これが日本国民の一致する世論でありますから、この点をくれぐれもお願い申し上げます。というように書いてある。それからいま一つは、京都市東山区八坂町有志代表田中正義君の手紙で、これは先ほど受け取ったのですが、「このたび京都五番町事件現地調査に、御遠方わざわざ御出張下さいましたことを厚くお礼申し上げます。私は事件の少年とは何の関係もありません。京都市民としてこの事件に対して義憤を感じておりましたので、直接閣下らが御調査下さいましたことを心よくした一人であります。不幸にして警察は事実行なったに間違いもない拷問を上下一致して否認してしまった。少年らと対決させても、しらを切って否認する。村井本部長に至っても拷問の事実あったとの前提でこの問題を見ないようとか、どこまでも盗人たけだけしいありさまに終った。私は非常に悲しく思った。なぜ警察がいさぎよく拷問の事実を自白しないのか、自白をもって自後明朗な警察として再発足することを誓わないのか。われわれ京都市民はそれを心に願っていたのである。これではいつまでも信頼のできぬ警察として、うそつく、拷問するおそろしい警察として油断ができぬ。いつどんな冤罪をこうむるかわからぬ。一日としてまくらを高くして寝られない。京都市民としてかわいそうなものである。上は熊坂長範――熊沢検事正、村井長庵――村井本部長、二大悪党をいただいているので心安からずである。今から四十年の昔、大阪で警察署同士のなわ張り争いから、各署の刑事たちの無銭遊興が大問題になって、警察の粛正が断行された。今いう赤線区域や飲食街で各署ごとに持ち場をきめた無銭遊興場所があって、弱い業者を泣かせていたのである。今京都の警察署がこれをりっぱにやっている。弱い業者を食いものにしている。特に色町地帯を区域に持つ警察署員が一番役得をかせいでいるわけである。拷問したり弱い業者を泣かすことは上手であっても、肝心の殺人事件は何件か迷宮入りになっている。各署にあっても刑事の拷問は有名である。ある警察相手の商人の女性が、警察に使いするのはいやだ、若い男の人が皮帯で縛られ、お母さんと泣き叫んでいるさまを見て、帰った日は胸が悪くて御飯がのどに通らないとこぼしていた。また某は長年住みなれた家も警察が隣りへ移転してきてから、毎晩拷問による悲鳴を聞かされるので、とうとう転宅したと言っていた。せんだって東京都と京都を結んだ東西街頭録音は五番町事件の拷問の有無を世論に問うた放送で、東西ともに拷問を認めた方が大多数であった。否定者はほとんどなかった。いかに世間が警察の拷問を今もなお行われていることを認めているわけである。四月十三日大阪読売新聞の気流欄に被疑者を自白させるためになぐる、ける程度の暴行は朝飯前のことで、すわらせた被疑者のひざとももの間にしないを挟んでその上から重量をかけたり、バケツに満した水の中へ顔を押し込んだり、線香の火を耳の穴や鼻の中に差し込んだり、目にあまる拷問の方法を用いたことはサツ回りの経験ある往年の新聞記者諸君ならだれでも知っていよう。今度の事件はそれが今なお何の不思議もなく行われている疑いがあることを証拠立ててはいるまいか。これでは民主警察は名ばかりで、一歩裏返せば人権の尊重などはおよそ縁の遠いことになる。徹底的に究明して拷問などの事実があれば従来のような起訴猶予や執行猶予などで片付けることなく、断固たる刑罰をもって臨み、いまわしい手段によって罪をでっち上げようとするいわゆる刑事根性根本的に掃滅すべきであろう。表面は民主警察として人権尊重をうたっていても、裏では旧態然として被疑者を取扱っている。これがほんとうの京都の警察である。京都市民おそらく全部の人がこの拷問を認めます。何とぞ国会において正式にこれを究明して京都市民のためにこの上の御尽力をなし下さいますことをお願い申し上げます。」というように、これは亀田委員と私と両名あての手紙です。  それからこれも多分もちろんお目に触れていると思いますが、法律時報の四月号には、逮捕状の発付と人権の保障という特集をされております。その中の要点だけをとりましても、昭和二十九年の一年間に全国で警察が嫌疑をかけた人が、五百二十六万五千余人おります。実に多くの数です。それから昭和三十年の統計はこの特集までに――一月から九月まででありますが、その一月から九月までに警察が嫌疑をかけた人が二百七十八万二千人、昭和二十九年から三十年の九月までにおよそ八百万人の人が警察から嫌疑をかけられている。そうしてそのうち逮捕せられました方々が七十万人であります。そのうち約八割は釈放せられ、ついに最後におよそ十四万人の方が犯人ということになっている。この犯人というものもやはり京都五番町事件、あるいは大阪の親子爆弾事件あるいは静岡あるいは各地において真犯人が名乗って出られたので、その方は無実の方であったということが明らかになったような方をも含めた十四万人の方が、犯人ということになっている。警察から疑いをかけられたことがありますか、というように国民に伺えば、大多数の方が疑いをかけられたことがあるということになってしまうのではないかと思う。  以上のような点を十分に御考慮下さいまして、この京都五番町事件に対して現在最刊の責任を負うておられますあなたは、どういう処置をおとりになろうというようにお考えでございましょうか。これについては符に申し上げておきますが、先ほど一松委員からも御発言がございましたように、これは法務省の方でございますが、検察のあり方について重大な問題があるのじゃないか。それは法務省御自身によって明らかにならないとすれば、やはりこの法務委員会においてそれを究明しなければならない。同様に警察における、自白の強制、この問題について、こういうふうなただいま例として読み上げましたような国民の声、また新聞、言論を通じて現われております一般国民の声、また統計などに現われております警察が人を見れば直ちに疑いをかけるというふうな、こういうあり方、これらに対して警察担当国務相において適宜の処置をおとりになることができないということになるならば、この法務委員会としては人権擁護のためにあくまで徹底的に究明をせざるを得ないのであります。願わくはこの直接の責任負うておられるあなたによって断固たる処置がとられることを、われわれ立法府に連なっておるものは心から切望するのでございます。そういう意味におきまして大所高所に立たれ、そうして明快な所見を示されたいのであります。
  155. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) だんだんのお話を謹聴いたしました。また亀田さんの御報告もつつしんで承わりました。私といたしましては日本の警察を正しい姿の民主警察に育成したいということを念願をいたしておるものでございます。日夜どうしたらその目的を達成することができるだろうかということを苦慮いたしておるような次第でございます。それで今度の京都の事件のみならず、こういう事件が起らないように、また起った以上はこの事実を探究いたしまして翼相を把握して、そうして将来また起らないように災いを転じて福となし、そうしてこれが警察の民主化のいしずえになるというようにしなければ申しわけがないと、かように考えておる次第でございます。かかるゆえに、たとえば卑近な話でございますけれども、この事件が起りまして以来直ちに国家公安委員会を開きまして、会議を持って、この人権の擁護ということについて、警察は常に注意はいたしておるけれども、こんな注意は何べんでもやった方がよろしいから、ここでみんなの決議をもって警察庁に一つ勧告しようではないかということで、そのことを警察庁に御誓いたしまして、警察庁も同感でございましたので、今までやらないつもりではおりますけれども、事実そういう非難が起っているのでございますから、注意をいたさなければならぬと言って、直ちにそれぞれの処置をとっておるような次第でございます。私はそれで、ことにこの京都の事件につきましては虚心たんかいに、自分の身内の者がやったことだからといって、下手にかばいだてをしてはいけない。世論に聞いて、道理に聞いて、識者に聞いて、そうして警察をよい警察に育てることに皆で専念しようではないかと、下手な隠しだてはよそうじゃないかということ、そういうことを言った。幸いにして警察庁の当局も、首脳部はみんな同感でございまして、それに専念をいたしておるような次第でございます。この京都の事件につきましても、また一面からいえば、これはこういうことを申し上げてどうかと思いますけれども、警察官にも同情すべきところもあるのですね。一生懸命やっている。やっているけれども、大勢の者の中にはまた間違った行為をするものがあるのです。それだから全体が国民の非難を受けるようなことになってしまうということも、必ずしもなきにしもあらずで、これは決して警察をかばうわけではありませんけれども、私はそういうこともあり得ると思うのです。それで処罰するとか何とかいうことにつきましても、ちょうど警察が犯罪捜査をするのに、慎重な態度と周到な用意をもって臨まなくちゃならぬと同様に、警察官の処置をするにつきましても、よほど慎重に、一々の真実を把握してのちに慎重な欄密な考慮をめぐらした上でやらなくちゃならぬと、かように考えておるわけでございます。決して言い逃れをするわけじゃございません。それで、この京都の事件につきましても、今、亀田さんの御報告書を私拝聴しまして、非常に共鳴いたしまして、啓発されるところが多く、これは警察の一種のお手本にしてもいいかと思うのでございます。ところが、やっぱり神様ではない人間のなさることだから、皆さんのおっしゃったことにも間違いがあるかもしれませんが、大体の考え方というものは、警察が全科玉条として考えていかなければならぬことじゃないか。それが京都の事件にぴったり当てはまるか当てはまらぬかは、それは見方によって違うところもあると思いますが、この考え方につきましては、同感の意を表せざるを得ぬと思うのでございます。またそれがいいとすれば、警察をりっぱな民主警察に育てるゆえんだと考えておる次第でございます。それで、この報告書は、これはよく検討いたしまして、そうしてこれを参考とし、これをつつしんで拝聴して、そうして警察をりっぱな民主警察に育てあげるということに専念をするだろうと思いますが、私もまた、そういうふうに警察首脳部に対しまして勧告したいと、かように考えておる次第でございます。  一言ちょっと所感を述べさしていただきました。
  156. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 直接には、真犯人が名乗って出られたことになって明らかになりました警察の自白の強要で、この拷問の事実などについては、さらに京都の現地の責任者も、調査をわれわれに約束しておられますし、また中央でもその調査をせられることであろうと思うけれども、問題は拷問だけではございません。自白の強要ということが明らかにある。われわれ三名の委員が、報告書の中にも明記しておきましたように、自白の強要はあったと断ぜざるを得ない。自白の強要がなければ、どうしてその少年がみずから犯したことのない殺人を自白をすることがあり得ましようか。かつまた、現在国民が五番町事件について非常な義憤を感じ、あるいは非常な注目をしているのは、日本全国の警察において自白の強要はあったのであります。場合によっては、拷問も行われているのであります。ただそれを警察官は常に否認する。しかも、警察官は悪い意味において専門家だから、その証拠を残さない。またその目撃者を絶対においておかない。先ほど弁護人の御意見の中にもありましたように、入れかわり、立ちかわり、だれがやったのかわからないようにしてそういうことをする。そういうことについて、なおまだあなたは最高の責任者として、その点が明らかでないというようにおっしゃるおつもりか。それともその自白の強要については、その事実があること、またそして社会の非難激烈であることをお認めになるのか。もしなるとすれば、それを今後根絶するために、現在どういう処置をおとりになるつもりか。第一には、その点をまずはっきり伺わしていただきたい。すなわち自由の強要があるということをお認めになるかならないか。そしてもしお認めになるならば、その責任をどうおとりになるおつもりであるか。それによって、今後日本全国の警察に二度と再び自白の強要は起らないという確信をもってわれわれに臨まれるには、どうなさるおつもりであるか。この三点をまずはっきり伺っておきます。
  157. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 京都事件につきましては、かように私は考えております。まあこんなことを申し上げてどうかと思いますけれども、実に奇妙な事件ですね、これは何と申しますか、ちょっと言葉が適当でないかもしれませんけれども、探偵小説にでも出てきそうなところもある。偶然の事実が重なり合っている。いろいろのことが……。それだから、警察が間違えても無理はないんじゃないかという、決して強弁しようというのじゃございません。それはそういう強弁は決していたしません。何と行っても真犯人は別におったのですから、これは、捜査上においてもっと慎重に、周到なる注意と、それから稠密なる用意をもって、もっと真相把握に努めるべきであったと思います。それを間違ったということだけは間違いなかろうと思うのでございます。どうしても、この報告書にありますように、これは警察のミスと私は言わざるを得ないと思うのでございます。事実の真相を把握し得なかったのでございますからして、それに多少なるほどそういうことで間違えたかもしれないという言いわけが立つかもしれないが、言いわけであってよろしくない。そういうことを警察は考えてはよくない、こういうふうに考えているのであります。それで、再びこういうことにならないようにしなければならないと、こういうふうに考えておりますけれど、今、目白の強要とか、拷問があったとかないとかいうことは、まだ今せっかく一生懸命虚心たんかいに、おのれをむなしゅうして真相を把握して、そうしてその上で処置しよう思っておりますので、今どうしようという段階ではないと思います。かように考えている次第でございます。それで、これを逆に考えて見ますというと、これもまた軽率に――これは世間の非難がもちろんございます。私も承知いたしております。恐縮もいたしております。恐縮もいたしておりまするけれども、それだと言って直ぐに、お前が間違っていた。お前が拷問したんだろうと、こう言ってやるのには少しくまだ早いんじゃないか。もっと調べて児なければ、懐重考慮を払わなければならない。わかりました以上は決してこれを処断するのにちゅうちょするものではございませんけれども、今の段階で、これによって確かに拷問があったと、自白強要があったと、こういうふうに断定するのには少しく慎重の用意を欠いていると、かように私は考えている次第でございますから、どうぞしばらく……。警察は今度は虚心たんかいに、ほんとうにおのれをむなしゅうして取調べをして、よりよい警察にしようとして一生懸命やっているところでございますから、しばらく猶予を願いたいと、かように考えている次第でございます。
  158. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 あなたのように、長年政治、家として立っておられた方が、これだけの国民の非難を受けて、そうして必ずや、あなたの面目にかけて、はっきりした措置をおとりになるというふうに私どもは期待しています。あなたは単なる官僚の出身というようなものでもないし、従って言いのがれができるものだともお考えになっておる永いし、この政治責任というものは必ずおとりになるというふうに私は考えておる。あなたのような多年の政治上の御苦労になった方が、何のために現在警察担当の国務相となっておられるのか。もしこれだけの国民の非難を受けて、それでこの警察民主化という新しい光明をもたらすことがおできにならないとするならば、私はまことにあなたのために遺憾にたえないのであります。この点は、どうか一つ十分の御認識を持って御措置を賜わりたい。お答えがあるならば伺ってから続けます。
  159. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) ありがとうございます。つつしんで承わりました。私が今警察に、この職に身を投じておりますゆえんは、日本の警察というものは、決して私はそう悪い警察ではなかったと思うのであります、戦前でも一般警察は。   〔委員長退席、理事亀田得治君着席〕 ただこれが、警察というものがややもすると、ある時代におきましては、時の政府あるいは時の政党の手先になったという感がなきにしもあらず、これが一つの大きな欠点。それともう一つは、思想警察について行き過ぎが多かったのじゃないか。この二つの点だけは、どうしても弁解がつかぬと思うのです、戦前の警察でも。しかし、その他の一般警察は、日本の警察は、決して世界各国の警察に比べて、悪い警察ではなかったと、私はかように信じておるのでございます。けれども、戦後におきまして、国家公安制度というものが設けられまして、そうして日本の警察をりっぱな民主警察に仕立てたい、今の二つの欠点を排除して、警察というものを時の政府とか、あるいは時の政党とか、そういうものの自由にさせずに、それから警察人を守って、警察は日本国民全体の警察である、一部少数の人の警察ではない、全体を守る警察であるというふうに仕立てようというのには、この公安制度が私は一群いいのじゃないかと、かように考えております。それで、私のような経歴を持っております者がこういうことにいきますというと、初めなりましたときには、参議院でも衆議院でも、予算総会でも、何かしら、私は政党出身のやつであって、その方の専門家のようなやつだからして、警察を利用して選挙干渉でもするのじゃなかろうかと、そういう疑いばかりだったのですね。しかしながら、一選挙しまして、選挙干渉をしたかということは、一つも非難を受けておらぬつもりでございます。それだけは、私はやって参ったつもりでございます。それで、明治以来、大臣の護衛なんというものは、妙なお話でございますけれども、七十年も続けてきたのですね。これを廃止してしまうということは、私が就任の翌朝、鳩山のところに行きまして、話をして、即日廃止して、今日までも実行しております。それは、警察というものは八千万国民の警察であって、一部少数の人、一鳩山及び一大麻の警察ではない。なぜそういうことをするかといえば、大臣にもしものことがあってはいかぬから、大臣に護衛をつけるという話であります。とんでもない話である。それならば、八千万の国民に、一人一人に警察をつけてくれ、大臣であろうと、市井の一老婆であろうと、生命の貴重きに変りはない、ぜひこれだけはやってくれということを警察に私は頼んで、そうして廃止をしておるのでございます。そういうつもりでおりますからして、そうした私のような政党出身のやつがそういうことをすれば、この後、政党以外の人が出てこられても、私のような政党生活を長くしたものでない人がおいでになっても、大麻さえこうしたのだから、おれたち恥かしくてやられないというよう次警察の運営をしていきたいというのが念願で、私はこの地位についておるものでございます。自分のことを申し上げて、はなはだ恐縮でございますけれども、さような次第でございますからして、今度の京都事件につきましても、ほんとうに虚心たんかいに、これは人さんのお説をよく承わって、そうして警察をよい警察にしなければならぬ。それがせめてもの世間の今日の非難に対してこたえるゆえんである、かように考えております。幸いにして警察当局も私と同感を持ってくれておりますから、全く今度は目的を達成するように全力を尽したいつもりでありまするから、どうぞ羽仁さんもそれだけお認めを願います。これだけお答え申し上げます。
  160. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 拷問などはもとよりのことであると思います。拷問については、われわれはその濃い疑いを持っておりますが、確実にそれがあったと断言することはしばらく差く控えますが、少くとも自白の強要があったということは、そう断定せざるを得ない。そこで国務相たるところのあなたの御責任というものは、その所管の警察が、国民のたとえ一人であろうとも、二十才前の少年であろうとも、それに自白を強要したという点についての御責任、政治的な御責任というものは痛感しておられることだろうと思うのです。これ以上るる申し上げませんが、その点については、一つあなたがステーツマンとして、いかにも国民が納得するような処置をとっていただきたい。いわんや今後、再び警察のどこかにおいて自白の強要が起るようなことが私は絶対にないことを切望しておりますが、また日本国民もそれを心から切望しておるのです。警察官がああいうことを断固としてやめてもらいたい。そのためには、警察が今までやってきたことを、なぜ男らしく認めないか。今までやってきたことをあくまで逃げ隠れ、上下一致して否認しておるという卑怯未練なあり方というものは、将来においてもまだ続けるというお気持でございましょうか。実に情ないという、さっきの京都市民のお手紙も、まことに軽々に看過することができないのであります。そういう意味で、今後二度と自白の強要などが起らないようにという措置も、必ずあなたがおとり下さるというふうに信じますが、このわれわれ法務委員会も、ただそれを、日をむなしゅうしてお待ち申し上げておるというわけにもいきません。国民がこれだけの要求をしておられるのでありますから、一刻も早くその当面の措置というものに到達しなければならない。けれども、直接には行政上の責任を負うておられるそちらにおいて、できるだけ早くその処置を明らかにする、また、その方針を明らかにせられるということを今しばらくお待ちを申し上げますから、しかし、いつまでお待ちを申し上げるということもできないので、どうか十分に政治的判断を生かして、この際はっきりした態度をおとりになることをお願いいたします。いかがでございますか。
  161. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) つつしんで承わりました。
  162. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 どうか重ねてお願いいたします。  もう一つ、これに関連をしてでございますが、この警察官の拳銃の携帯について、法務委員会は数年来、それが人権に対する圧迫の問題があるために、いろいろな機会に問題にして参っております。今日の日本の状況において、なお警察官が常時拳銃を携帯しておることの必要があるかどうか、私は疑問があると思います。この点について、どの程度まで御調査をなさっておられるか。もしこれが無用な武装であるとするならば、国民に対する圧迫とされざるを得ない。こういう点について、やはり最高責任を帯びておられますあなたは、いやしくも無用な武器をもって国民を威嚇するというようなことを一日もお許しになるべきではないと思いますが、私は、今日の状況において、警察官が常時拳銃を携帯しておるということははなはだ見苦しいと思う。   〔理事亀田得治君退席、委員長着席〕 日本の敗戦後しばらくの状態においては、そういうこともやむを得なかったかもしれないが、それを依然として続けておるということは、これは国民の人権に対する尊敬、あるいは敏感というものに欠くるところがあるのじゃないかと思います。端的に申しますが、警察官の拳銃の常時携帯ということは、即刻におやめになるべきだとはお考えになりませんか、どうですか。
  163. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 私まだ研究が積んでおりませんから、ちょうど警察庁長官が参っておりますから、長官からお答えいたさせます。
  164. 石井榮三

    政府委員(石井榮三君) 警察官の拳銃の携帯につきましては、羽仁委員からは、かつてこの委員会で私御質問を受けました。一度お答えしたことがあるやに記憶いたすのでございます。御承知通り、終戦後警察官は拳銃を常時携帯するということを建前としておりました。制服の場合でも私服の場合でも、警察官は勤務につくときは常に拳銃を携帯するという、常時携帯するという、こういう建前を当初とったのであります。ところが、これにつきまして私どもも、ただいま羽仁委員の御指摘のありましたように、果してその必要があるのかどうか、常時制服、私服の警察官のすべてが拳銃を携帯することが果して必要であるかどうかという点につきましては、いろいろ検討いたしたのであります。特に拳銃を常時携帯しておるがために、いわゆる拳銃事故を起すとか、こういうことも絶無ではない実例に徴しまして、これはある程度研究をいたしまして、必要欠くべからざるときのほかは、拳銃の携帯をやめるのが適当ではないか、こういう考え方もいたしてみたのでありますが、そうして現状におきましては、昨年に相当大幅な改正をいたしまして、制服で勤務する場合といえども、必要のない場合には拳銃をはずしてよろしい。これは所属長の判断に待つということに改めたのであります。たとえば交通整理に当るような制服の警察官、こうした者は拳銃を始終持つ必要はないではないか。あるいは部隊として活動するような場合、拳銃を持っていることがかえって暴発事故を起し、相手方にそのために被害を与えたりするようなことがあっては相ならぬので、そういう場合には、むしろはずすのが適当ではないか、こういうふうにいたしました。  また私服の場合には、犯罪捜査等に従事する者で、真に自己の防護のために拳銃の携帯を必要とする、たとえば相手が凶悪犯人で、凶器を持っておるような者に立ち向って、これを逮捕に行かなければならぬというような場合には、これを携帯をしなければならぬのではないかと思いますが、そうでない場合には、もちろん持たないでもいいじゃないかというような点、あれこれ考えまして、かなり大幅に、昨年のへ月であった小と思いますが、拳銃携帯について大幅な緩和の改正をいたしたのであります。自来今日に至っているのでありますが、ただいま御指摘のありましたように、全面的にこれを廃止してしまうかどうかという点につきましては、今しばらく研究をさしていただきたいと思うのであります。と申しますのは、この拳銃を警察官が携帯するということは、もともと自己並びに第三者の生命、身体の保護目的のために待つのでありまして、決して攻撃のための武器ではなく、むしろ防御のための武器ということで携帯をいたさしておるのでありまして、昨年一年の実績に徴してみましても、凶悪犯人逮捕に向いました警察官で、相手が拳銃あるいはナイフ、出刃ぼうちょう、こういったようなものを持っており永して、それによって、警察官が殉職いたした者が八名あるのであります。また、重軽傷いたしました者が六十九名の多きに及んでおるのであります。  こういう実情からいたしまして、警察官の自分自身の防衛のため、また第三者の生命身体の保護のために、やはり武器の携帯というものを必要とする相当の理由のある点も、私ども十分考えなければならぬ、かように感じておりますので、今しばらくこの問題につきましては、全面的携帯廃止ということにつきましては、慎重なる考究をさしていただきたいと、かように存じております。
  165. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今、拳銃についての御説明がございまして、近来次第に拳銃携帯を緩和して、必要かくべからざる場合でなければ拳銃を携帯しないという段階になっておることの御説明を伺いました。私が最後に大麻国務相に伺っておきたいのは、私がこういう問題についていろいろと申し上げるのは、警察官に対する深い同情からくるのであります。警察官が、国民からほんとうに信頼されていないのでは、さぞ勤務がおつらかろうと私は思うのであります。警察官はやはり自白の強制というようなおそろしいことをするのじゃないかというふうに国民から見られて、警察官として勤務しておられるということは、私は耐えがたいことだろうというふうにお察しをするのです。ですから、この自白の強制というようなことを根絶するということは、日本の警察に対する国民の信頼を高める意味において、一刻も早く着手せられたいことであります。同じように、この拳銃の携帯ということについても、さらに一歩を進めて、今御説明があった以上に一歩を進めて、私は全廃しろというのではないのであります。イギリスの場合のように、相手が拳銃を持っていて、そしてそれを相手が発砲したときに初めてこっちが発砲するというくらいの、国民の人権に対する意識を持って使用されることが望ましい、これは、拳銃だけの問題ではありません。警察官に対してわれわれが、国会法律によって付与しておりますところの権力というもののすべてがそうでありますが、この権力あるいは武装あるいはその調査というものについて、きわめて国民の人権に対する敏感さをもってそれを活用せられるならば、国民から信頼せられる警察ができるのですが、その点について十分敏感でないと、国民の恨みの的のようになられる。そうして勤務されていることは、われわれは見るに忍びない。不幸にして現在、わが日本の警察は、国民から十分の信頼を受けているとは申し上げかねる。むしろ最近の五番町事件などを契機として高まっております世論は、明らかに日本の警察がまだ人権尊重の精神が欠けている、そうして自白の強要などをやっているのではないか、そういう疑いを受けておられるのですから、そういう意味で私は、一面においては五番町事件をめぐって、立派な態度を示されたいということと、それを関連して拳銃の問題などについて、やはり電車の中などで拳銃を携帯していることを国民は決して快く思っておりません。そういう点も十分お察しなされて、そんな所で、電車で拳銃をぶら下げて歩いていることによって、かえって国民から冷たい感情をもって見られているという必要がないことであって、そうして国民からあたたかい目で見られないというようなこともあるのですから、それら等も一面においては、この自白の強制あるいは拷問などの疑いを一掃すると同時に、他面においては、警察みずからが拳銃その他権力の取り扱いについて、この際いま一歩前進して、そうして国民の前に信頼されるにふさわしい姿を示されんことを心から切望いたします。いかがですか。
  166. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) まことにごもっともな御意見であると謹聴いたしました。私考えますのに、見方によっては、警察官はどかわいいものはないはずなんです。身命を略して、不眠不体で国民の生命財産を守ってくれるものですから、これが一番頼もしい、かわいいものでなくてはならぬわけです、国民から言えば。今ニワさんの仰せになる通りである。しかるに、事実は往々にしてそれに反するような非難を聞く。それは、昔では簡単なことでございましたが、言葉がが、用語が悪い、おいこらこらという古典が気にくわないで、江戸っ子ならばそれが気にくわない、そういう点もある。でありますから、今御指摘のような、まま大勢の警察官の中には、あるいは人権を尊重しなかったり、あるいは拷問した人があったに違いがない、それで国民にそういうふうにうとんじられておそれられる。こんなばからしいことはないのですから、ほんとうを言うと。ばからしいということははなはだ不縦帆でございますけれども、身命を賭して国民を守っでいるものをあしざまに言われて、そうしてそれでも守っていかなければならない。これは実際はたまらないのです、ほんとうをいうと。けれども、それにはそれだけの原因があるのじゃないか、こういうふうに反省しなければならぬと思うのでございます。今ニワさんの御指摘になりましたような……。
  167. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ニワではなくて羽仁です。
  168. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 失礼いたしました。私は、そういう大事な人の名前を呼びそこなうこともありますから、警察官もたまには間遠いがありますから、それは御了承願いたいと思いますが、それでもって、仰せになりましたように、警察官がほんとう国民に親愛される、愛される親しまれる警察官になる、そてれには自分の身を正しくして、そうしてそういう非難を受けないような行動をとる、立派な行動をとりさえすればいいわけでございますから、それについて、私どもはそれが念願でございます。その点、警察当局ともよく相談いたしまして、御趣旨の点をよく勘考いたしまして、だから、あしたからすぐというわけにはいかぬかもしれませんけれども、すみやかなる機会に、国民がさすがに警察の態度も改められて、それだから国民から非常に親まれる警察になったということに皆さんからほめられるようにしたいというふうに考えておる次第であります。以上、お答えいたします。
  169. 赤松常子

    ○赤松常子君 私、大蔵国務大臣にお尋ねとお願いを申し上げたいのです。それは、この五番町事件は、また今後いろいろ調査なされまして、御報告を待つことにいたします。先ほど、お言葉の中に禍を転じて福となしたいというお言葉を伺いまして、ほんとうに私は、今度の問題がそういうことに役立てば、いささか意味もあると思うのでござごいます。で、第一、警察の刑事部屋でございますね。こういう所で、先ほどの調査報告そ聞いておりますとあの薄暗い畳の刑事部屋で刑事にかこまれて少年が拷問を受けておる、その姿を想像いたしまして、ほんとうに私、たえられないわけでございます。これは、ただそればかりではございませんが、過日新聞で、こういう取調べの部屋の改善をして、畳式をかえて、いすに腰かけて、対等の立場で、調べる者と調べられる者が話し合えるというふうな改善を、たしか警察でしたか、検察庁でしたか、そういうふうに改めるという記事が出ておりました。私、ほんとうにこれが実現すれば、どんなにか明るくなるだろうと、そのとき非常にうれしく思った次第でございますが、こういうことに関連いたしまして、あの暗い、陰惨な警察の施設の改善、こういうふうな点をどういうふうにお考えでございましょうか。まず具体的には、あの警察の部屋、畳敷きの、ああいう見ただけで陰惨な気持を起させるところなどに、何かその改善の糸口を考えておられるのでございましょうか、いかがでございましょうか。
  170. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 申し上げます。ごもっともでございます。刑事部屋の施設の改善について、さすがに御婦人の御意見だけあって、こまかいところ、こまかいというと何ですけれども、大切なところにお気づき下さいまして、まことにごもっともでございます。これはしかし、警察の方でもそういうことを考えておりまして、せっかく努力をいたしております。けれども、建築を伴いまするので、急ぐときにはなかなか参りませんが、逐次一つ、今お話しの御趣旨等もよく翫味いたしまして、できるだけすみやかに改善いたしていきたいと、かように考えておる次第でございます。
  171. 赤松常子

    ○赤松常子君 私、今その刑事部屋の問題は、私自身過去いろいろ経験をいたしましたものですから、身にしみて、そういうことを深く痛感しているものの一人でございます。続きまして、その警察の方の待遇の改善でございますが、あれでございますね、団結権、罷業権もお待ちになっておりませんものですから、そういう待遇の改善などに関しまして、いろいろ下の声、いろいろな職務上の要求というようなものはどういう方法で取り上げ、考え、解決していらっしゃるのでしょうか。警察官の待遇の歌書について、どういう具体的な方法を今おとりになっていらっしゃるのでございましょうか。
  172. 石井榮三

    政府委員(石井榮三君) 警察官の待遇につきまして、御好意ある御配慮いただきまして、まことにありがとうございます。警察官の待遇につきましては、御承知のように、現在の制度の建前におきましては、都道府県の警察ということになっておりまして、警察官の紛々は、上級幹部である一部の者を除きましては、すべて地方公務員でございまして、都道府県において給与一切はまかなう、こういう建前になっております。従いまして、御承知のように、現在各都道府県、地方公共団体財政が非常に恵まれておるところも一、二ございますが、おおむね赤字財政で困っておるような、こういう状況にあるのであります。府県の警察以外の職員の方々も、待遇の点については、なかなか理想通りにはいかないというような現状にあるわけであります。警察も、おのずからそれとの均衡におきまして、警察官だけを特別扱いいたしまして、穂別に待遇をよくするということはなかなか困難であるという事情もあるようでございますが、しかし、警察の職務の特殊性ということは、これは各県の責任者におかれましても十分に配慮していただいておるようでありまして、警察官の特殊性からくる待遇条件等につきましては、地方財政の許す限り、好意ある御処置をとっていただいておるようでございます。府県の財政状況が、先にも申し上げます通り、全般的に申しまして赤字で、困難を含んでおる現状にありますので、警察官の待遇を飛躍的によくしていただくということをお願いすることは、これはなかなか困難かと思いますが、今後地方財政の再建ももくろまれておるような状況でございますから、今後健全な地方財政の歩みとともに、警察官の待遇の改善についてもまた、配慮がしていただけるものと、かように考えております。
  173. 赤松常子

    ○赤松常子君 ちょっと一点、私の大事なことはですね、下の声をどういうふうに上で察知なさるというか、取り上げるというか、そういう職務上の、下の声が上にどういう方法で通ずるようになっているかということを具体的に聞きたいのです。
  174. 石井榮三

    政府委員(石井榮三君) お答えいたします。御承知のように、警察には職員組合というようなものが認められておりません。しかしながら、たえず上下といわず、お互いの間に意思の疏通をはかり、懇談的な会合等は持っております。下の声は上司において十分にこれを把握するということにはつとめております。上司において部下の声、要望というものにはたえず耳を傾けております。それを十分に具体化するように努力をしておるような実情であります。
  175. 亀田得治

    亀田得治君 ちょっと、また機会をはずしますと、あらためておこし願うことになりますので、少しおそくなりましたが、二、三点だけお尋ねしておきたいと思います。  一つは、捜査上の大きな見当違いをした、これは私、この段階でもう明らかになっておると思いますし、この点は、京都府の本部長がはっきりそうおっしゃっておりました。大臣も先ほど、その点は少くとも大体そういうふうにお感じになっておるような発言でありましたが、従ってそうなれば、これだけ世間が注目しておるわけですから、そういう大きな過失を犯したということに対する責任ですね。だれが一体これが責任者なのか、そしてそれを明確にして、その点だけでも、こういうふうにいたしました、こういうことが私出てくる段階だと思うのです。それをどういうふうにしようとされておるか、お伺いしたいのです。といいますのは、警察を民主化して、国民の期待に沿いたいと盛んに大臣おっしゃるので、私も非常にその点は意を強くしているのですが、やはり問題は、具体的なケースが起きたときに、それに対してどういうふうに大臣が処置されるか、その処置のいかんによってやはり改まってくると思うのですね。その処置が非常に手ぬるいというようなことであれば、まあ結局は、少々間違ったって、何とか警察仲間は警察仲間で保護してくれるわ、こういう感じを与えたんでは、これはとてもだめなんです。そういう意味で、私、もうすでにこの大きな見当違いをしたという点についての責任は明らかにすべきだ、その時期だと思っているのです。具体的にどういうふうに処置されようとしておるか、大臣に気持を聞きたい。拷問の点は別ですよ。
  176. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) ごもっともな御意見でございます。けれども、もう少し事件を進めまして、そうしてほかにも処置しなければならぬことが起るかもしれませんからして、できれば一緒がいいと私は今のところ考えております。けれども、よく一つ当局とも相談しまして、御意見もあるところなども長官も聞いておりますから、よく相談いたしたいと思います。
  177. 亀田得治

    亀田得治君 もう少しとおっしゃいますが、これは、いろいろ国民がやはりそれを注目しておることですから、できるだけ早くやってもらいたい。もう結果における大きな間違いは、これは明確なんですから、処置することだけは間違いありませんか。内容は別として……。
  178. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) まず御意見通りと思います。
  179. 亀田得治

    亀田得治君 それから拷問の点ですね。自白の強制、この点について、私どもが心証を得たように感じておるのですが、警察当局では、もう少し調べたい、こういうふうな御意向なんですが、私どもも若干それを待つつもりではおりますが、この警察庁の本庁みづから、この問題に対して一つ調査をしてみるというようなところまでやりませんと、うまくいかぬのじゃないかというふうな実は気がしております。私ども京都に行って、監察課長等に会った感じからいたしましてもですよ。これは何といっても、やはり同じ京都におりますれば、そこにいろいろやはり平生協力し合っている中ですから、理屈通りいかぬ点もある。私は、そういう意味で、ぜひ警察本庁みずからが一つ問題を明確にするというようなやり方考えてほしいと思うのです。この点、どういうふうにされようとしておるか、その点だけちょっと聞いておきたい。
  180. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) ただいま捜査課長を出しまして調べておりますところでございます、本庁から。いや、話が間違いました。一度参りましたけれども、まだ足りませんから、なおやるつもりでおる、こういうことでございますからどうぞ。
  181. 亀田得治

    亀田得治君 こういう重大な問題について、警察庁の方が行ったのか行かぬのか、そういう不明確なことでは私困ると思います。まあ一度本庁から行かれた、さらに明確にするために御派遣になるということですから、私その結果を大いに期待したいと思うのです。多分秦野さんが行かれるらしいので、私は大いにその手腕に期待をするものですが、ぜひ私どもが本日報告申し上げたような点ですね、こういう点も参考にされて、一つ一方的にならないような調べを十分やってもらいたい。希望しておきます。そうしてもし自白の強要とか、暴行、拷問というようなことが出てきた場合、そういう場合に、大臣としてはどういう一つ断を下す覚悟をしておるか、これを一つ聞いておきたい。
  182. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 私としましてはですね。警察官がもしこういうことをしたならばこうするということだけは、どうぞ一つ差し控えきせていただきたいと思うのでございます。しかし、悪かったらどしどし厳重に処置をするつもりでございます。
  183. 亀田得治

    亀田得治君 まあ若干仮定的なことをお聞きしたわけですが、ただ問題が非常に重要なものですからして、また国民にも、私どもに投書が来るように、何かうやむやにするのじゃないかというふうな疑念もあるものですから、仮定でありましたが、若干お聞きしたのであります。断固たる、もしあればはっきりした処分をされるということを私ども聞きまして、十分一つ期待さしております。  もう一つは、先ほど赤松さんからお聞きになった点ですが、警察官の下の方の意見が上の力にうまく出てくるようになっているかどうか、こういうふうな趣旨のことに対して、職員組合等はありませんが、十分考慮している、こういう石井さんからのお話があったのですが、私は、京都にわれわれ行きまして、調べたときに、こういう言葉をよく聞いたのです、私どもがお話を聞く刑事の方から。といいますのは、私ども何か少し気にくわないことを申しますと、お言葉を返すようですが、こういう言葉を再三お使いになる。お言葉を返すようですが。私はこういう言葉の使い方は、デモクラシーの社会にはないと思うのです。これは、封建時代の上の人が下の人に何か言う。下の人は、それはあなた違いますよと、こう言えないものですから、お言葉を返すようですがというような言い方をしている。出てくる刑事がみなそういう言葉を使うのです。私はこれを見て、警察というところは、自分の上官だとか上の人といえば、普通に話ができない。上の人は言葉を下へ押しつける、こういうような感じを実は持ったのです。私あまり言われるものだから、いや、幾らでも返して下さい、こう言ったくらいなのですけれども、私は、そういうところには決してほんとうのなごやかな、民主的な空気というものはあり街ないと思っているのですが、大臣はどういうふうにお考えですか。
  184. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) それは別に亀田さん……それは無理ですよ、そう私は思います、今の日本の現状では。日本人はそういう言葉を使っているのだ、警察に限らず、参議院議員で、国会のえらい人とやはり思っていますよ。自分の目上の人と思っています。だから、決して萎縮しているわけではないけれども、礼儀として、言葉を返すようですがと申します。それを言うたからといって、それをつかまえて、上官に何も言えないとおっしゃるのは御無理だと私は思います。これはお言葉を返すようですが。(笑声)それは亀田さん、ある意味において礼儀だと思うのだ。いやしくも国会議員のそうそうたる人がおいでになって、そうして調べられるから、警察官がそれに向って、お言葉を返すようですがと申し上げたからといって、これがどうも警察官は上官に対して萎縮している……それはちっと私は無理だと思います。それは決して悪い意味ではありません。むしろ私が聞きますというと、それは親しみのある言葉だと思うのです、ある意味において。お言葉を返して済みませんが、(笑声)しかし、申し上げるだけ申し上げますと、こういう意味で言ったのだと思うのです。それは日本語です。(笑声)それで、それはあまりおとがめにならないように願いたいと思います、注意はいたしますけれども、そこまで使ってはいけないというのは、これはちょっと無理だと私は思います。私でもやはりあなたに言います、お言葉を返して済まぬけれどもと。これは日本語だから、決してそう萎縮しておるわけではございませんから、そこらあたりは少し大目に見て、しかし警察官の言葉を注意はいたしますよ、そういう言葉は使わぬがいいと。しかし、それまでとがめだてしては、それはちょっと無理だと、こう私は感じます。
  185. 亀田得治

    亀田得治君 私ども、ほかではそういう言葉をいただきませんよ。ほかではどんな人でも、たとえば労働組合なんかの人としょっちゅう話しますけれどもほんとうに対等に話していますよ。ところが、これは羽仁さんも、それから新谷さんも、みな奇妙な感じを受けたのです。出てくる人出てくる人がみなそう言うのです、お言葉を返すようですがと。ははあ、なるほどね。これだったら、西陣署の内部に行くと、こういう言葉がはやっているのだなと私は思ったくらいです。これはやはり、言葉はその実態を現わすわけでして、何かそこに反省すべきものがあるように思いました。それから森島検事と上司との関係ですね。これも私は、そこに自由な、純粋な法律問題としての討議、そういうものが欠けておると思うのです。それはやはり、そういう民生的な空気を……職務の上下はもちろんあります。しかし事態の正確な処理ということについては、ほんとうに民主的に討議できるという空気になっていないのじゃないか、こう思うのです。それで、これは言葉を、ちょっと何かあげ足とったようなことじゃなしに、ほんとうにそういう空気を感じたのを言葉に現わして言っただけです。  ところが、先ほど報告書の中でも申し上げたのですが、現在警察が一番民主化しておる、こういうことを警察官の方が言われましたが、これは大臣どうですか。そういうふうに思っておりますかね。警察は官庁の中で一番民主化していると、その次、検事の方が出てこられたら、検事もまた、検察庁が一番民主化しているとわれわれは思っていると。一番が二つあるのかとわれわれが言ったら、そこをちょっとやわらげられました。これは、言葉の端をとらえる意味ではなしに、私はね、こういう状態で、自分自身が一番民主化しているのだという自覚をほんとうに持っているのだったら、これは一番ですからその上がない。これは努力する目標がないでしょう、そうじやなしに、やはり民主化しておらぬ点があるのだ。この自覚を持っておるかどうかが私は大事だと思うのです。この点どうでしょうか。私どもが一番民主化していると、こうおっしゃるのですがね。京都の人はそうは思わぬ。大臣、どういうふうに見られますか。
  186. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) その警察官は、少し年とった警察官ではございませんでしたか、昔と比べて、ずいぶん民主化してきたから、昔からおった警察官はそう思っておるかもしれません。私はそう思います。これは言葉ですから何ですけれども、私はそういうふうに観察しますね。その警察官はきっと年寄りだろうと思いますね。前からおったから、昔と比べると非常に民主化しておるから、おれの方が民主化しておると、こう申し上げたのじゃないかと私は想像します。これは想像だからわかりません。そこで亀田さんにちょっと申し上げますが……。
  187. 亀田得治

    亀田得治君 大臣自身はそうお思いになりませんですか。
  188. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) 昔と比べて……。
  189. 亀田得治

    亀田得治君 ほかの官庁よりも一番民主化しておると……
  190. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) いい方じゃないでしょうかね。
  191. 亀田得治

    亀田得治君 その認識を持って御努力してほしいと思います。
  192. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) それだからといって、自分が一番だからといって、もう反省する必要がない、こういうことを申し上げるのでは決してございません。あなたの文章だってたくさんありますよ。御説明いたします――そんなよけいなことは要らぬ。説明するでじいいゃないか……。(笑声)そういった言葉の端まで言えばいろいろございますよ。この報告書だってずいぶん御丁寧な報告書でございますよ。(笑声)それだから、こういうことを委員会で私ども申し上げられるということは、これはやはり民主化しているゆえんではないでしょうか。委員会でこんなことは言えませんでしたよ。ほんとう言うと失礼ですもの。けれども、言ったってとがめられないだろうという、こういう安心感があるから、何でもかでもざっくばらんに申し上げられるです。(藤原道子君「警察はそうではないですよ」と述ぶ)そうですか。(笑声)
  193. 亀田得治

    亀田得治君 大臣自身は、一番民主化されているとはお考えになっておらぬようですから、やはりこれは、そういうふうな覚悟努力してほしい。ところが京都の本部長は、たとえば先だってこの事件が起きたのちに、警察庁の本庁から人権尊重についての通達を出しましたね。私どもそのことを聞いたわけです。その通達が皆さんの方にも来ておるはずですが、聞いたのです。そうすると本部長は、いや私の方は、ああいうものが来ないでも、もうそれ以上のことをやっております。こういう返事なんです。で、私どもこれは非常に不愉快に思ったのです。実は時間がないから、そんなことで理論闘争もできませんけれども、そういう思い上った考え、これはだれが今の警察の衝についたって、一朝一夕にすぐ国民の期待に沿えるようにということには、この大きな機構というものがすぐなるとはだれも考えませんよ。やはりその実態をほんとうに認識して、そういう御努力をなさることを私ども期待しているのです。ところが、そういうことをおっしゃるわけですね。だから、こういう点は十分一つ大臣の方で注意してやるようにお願いしたいと思います。あるいはほかの府県でも、そんなことを思っておる人があるかもしれぬが、自分のことはよくわからない、これは一つお願いしておきます。
  194. 赤松常子

    ○赤松常子君 ちょっと簡単に……。今、お言葉のことでほんとうに私、丁寧になさいますことはずいぶん丁寧でよろしいと思うのですが、最近私が経験いたしましたことで、この前の委員会でもちょっと申したのですが、ある街頭で私どもちょっと受けた事件があったのですが、そのとき私は議員のバッジをつけておりましたから、警官の方、割に丁寧でしたが、私と一緒に事件を起しました運転手の方に対しては実に傲慢だったのです。こういうことが――御丁寧である面もある。それはいいですけれども、少し力の弱い立場にある人に対しては、そう手の平をかえしたように傲慢な、無礼な言葉をお使いにならないようにということをぜひ御注意をしてもらいたいと思いますが、私、はっきりこれは、この間経験いたしましたものですから、これは石井警察庁長官が直接御担当の方ですから、くれぐれも御注意いただきたいと思います。
  195. 石井榮三

    政府委員(石井榮三君) 警察官が国民の皆様に対して、絶えず懇切丁寧でなければならぬということは、初任の巡査のときから機会あるごとに教えておるのでございますが、なかなかこれが十分に徹底しないうらみがあるのは、まことに申しわけないと思っておりますが、今後とも指導教育の面については、一そう力を入れまして、御期待に沿うよりに、一日もすみやかにりっぱな真摯たる警察官を作り上げることに最善の力をいたしたいと思っております。
  196. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) ちょっと速記をとめてください。    〔速記中止
  197. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) では速記を始めて。
  198. 亀田得治

    亀田得治君 それでは、法務省の方に若干……。検察庁の関係でも、深夜逮捕、これはもう全く問題にならぬことだと、これははっきりお認めになっておるわけです。この点の責任を明確にしてもらいたいと考えることが一つ。  それからもう一つは、不起訴処分に村松証人等を変更してやるべきではないかということが二つです。  それから少年の余罪に関する批判が続いておるのですが、これは私、少し何とか処理のしようがあるのではないかと思っております。これが三つ。  それから三月一日に村松証人を夕方になっても帰さなかったわけですね。私も、これがすでに人権をじゅうりんした、行き過ぎた行為だと、こういうふうに考えるのです。これは今までは、ほかの問題があまりにも大きいものですから、そこの点がずっと素通りしておるわけですが、しかしこれは、今の、訴訟法の建前からいったって、そんな任意に来ているものを、夕方を過ぎてもとどめおく、こんなことはとても許されることではないと、こう思うのです。これらの点、結論的に一つ意見を承わりたいと思います。
  199. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) ちょっと速記をやめて下さい。   〔速記中止
  200. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) では、速記を起して下さい。  長時間、大麻国務大臣にはありがとうございました。  最後に、私が御要望申し上げたい点は、警察の機動力を発揮するためには、その職務の特殊性から考えて、相当に職階制の強化ということが行われがちであります。その職階制の強化がややともすると、警察の民主化に非常に大きなブレーキをかけている結果になると思います。そういう点について大麻国務大臣は、機動力の発揮――統制力による機動力の発揮、その中で、どういうように民主化するかということ、大へん微妙なむずかしい問題でありますから、大臣はこの点に留意されて、きょうの各委員の御発言が無にならないように十分な御留意をいただきたい。  それから警察の民主化について、一片の紙きれや通牒では、これはとても民主化できません。大麻国務大臣は、末端の警官の職場に直接お入りになってお話し合いをされたかどうか。私は、おそらく大麻国務大臣はそういう機会をお持ちにならないのではないかという疑問を待つ一人です。先般東京地検に伺いまして、末端の警察官がどういう勤務をしているかを私は見て参りました。百数十人の容疑者が一ところにまとまっている空気というものは非常に異様な空気です。反逆と哀れみの満ちた、くさい陰惨な空気の中で、警官はこれに対峙して監哨している、その監哨する場合には交替をするわけですが、その交替をして空気を抜く場所が警官に与えられていないのです。それで、その容疑者たくさんおられるすみっこの方で警官は休み、そこでお茶を飲んでおられる。これでは、日本の警察官の目というものは、それは陰険な目にならざるを得ない、警官に人権を尊重してほしいということを私どもは要求しますが、同時に、警察の職務上における待遇という問題についても、これは大麻国務大臣は、よほど努力をされて、いろいろな待遇改善のために私は万全を尽されなければならないと思う。警官の人権が尊重されないところに、警官みずからがまた国民の人権を尊重されないという悪循環があるのだということを、不肖私は初めて現場の警官の勤務状態を見て発見して参りました。どうぞ一つ、近い機会に、末端の警官の勤務というものを十分御視察下さいまして、そうしてあるいは犯人と朝から晩まで対峙している末端のその警官の勤務の苦しさなどについても、あたたかみをもってお話をしていただきたいということを特に私は御要望申し上げます。  これについて大臣のお答えを要しません。どうぞ実行に移していただきたいということだけを御要望申し上げます。
  201. 大麻唯男

    ○国務大臣(大麻唯男君) まことにありがとうございました。つつしんで拝聴いたしました。必ず実行いたすつもりでございます。それだけ申し上げます。  はなはだ失礼でございますが、これでもって……。
  202. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 御苦労様でした。
  203. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) 亀田さんのお尋ねでございます深夜逮捕のことを申し上げます。これは悪いことにきまっておることは仰せの通りでございます。不起訴処分になぜしないか、余罪の処理をしていることはよけいではないか、村松証人を帰さなかった点についてはどうするか等々御質問の点、なほさきに、森島検事を懲戒処分にするのではないかといううわさが伝わっておるということでございます、そういうことにつきましては、すべてをあげてただいま現地調査をいたしておりまして、近く結論を出すことになっております。ただし、懲戒処分にするといったようなことは、まだ一度も聞いても何もおりません。そういうことは何ら具体化しておりませんから、どうぞそういうふうな憶測をお持ち下さらないように希望しておきますが、責任は明らかにいたすつもりでございまして、このことはもうとっくに、この事件が起ると同時に、病床において法務大臣とも懇談をいたしております。事務的にも十二分に用意をいたしておるところでございます。いずれにしましても、今回のことは大きな黒星だと世間から言われる通りに、われわれは重々恐縮いたしておるのであります。国民の前に治安の責任を負うて、複雑な事件を処理し、捜査し、起訴し、あるいは不起訴とするといったような重い責任の前に与えられておる権力が、同時に乱用せられる。権力の座におる者はよほど深くみずから省みないというと、つい権力の乱用が出るということは、もう昔から幾多の実例が示す通りでございまして、今回は、この機会に検察側におきましても、十二分に改心して省みたいということを私どもの仲間では常に申しておるところでございます。いましばらく時間をかしていただきたいと思います。
  204. 亀田得治

    亀田得治君 ぜひ一つ、だれが見ても納得がいくような結論と処分をお願いします。  もう一つ、そういうこまかい具体的な解決すべき問題が、先ほど申し上げたように、約五つ、六つあるわけですが、それらとは離れてですね、どうも裁判所へ証人に出るのがちょっと工合が悪い、こういう印象を与えたことですね、これはもう確かにその通りなんです。この問題はきわめて私重大だと思いますので、こういうことについてどういう対策をお考えになるか。一片の声明書を発表してみたって、うまくいかないと思うし、どういうふうにお考えでしょうか。
  205. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) 率直に申して、すべていろいろな点に非常な落ちがありますが、証人を逮捕したことだけは、全く黒星以上の黒星だと思って、その当時から困ったなあということを皆で申しておるのでございます。これをどうしたらよろしいかということについては、皆さんの御意見も承わりたいし、私どもも実はいろいろ考えて、意見はございますが、こういう印象を与えることによって、証人がこわがって今後出てこないというようなことのないようにいたしたい。苦慮いたしておりますところで、対策というものは今はっきり申し上げられませんが、これは全くよくないことでございまして、失敗だったと思います。
  206. 長戸寛美

    政府委員(長戸寛美君) この問題については現在検討中でございますけれども、今、表を待っておりませんが、多いときには一年間に証人として二十万人ぐらい、これは一人の者が三回呼ばれれば三人として計算してございますけれども、そのようにたくさんの証人の調べがあるわけでございます。その中で、身柄を逮捕いたすものは非常に少いのでございますけれども、私どもといたしましては、昭和二十八年に最高検におきまして、特に法廷で証言をして、すぐその場からその者を取り調べるというふうなことは妥当でない、原則的には妥当でない、そういうふうなことはせぬようにをいう通達を出しておるわけであります。今回のは、その日に直ちに調べた案件ではございませんけれども、私どもとしては、公判中心主義という建前から、検事のところで言ったのと、公判廷で言ったのと違うからということだけで、直ちに偽証云々というふうに問擬すべきものでないことはもちろんでありまするし、それにはむしろ反対尋問の活用をするということをもっと徹底いたしまして、偽証でもって取り調べる、あるいは逮捕してまで取り調べるというのは十分戒心して、やむを得ざるものに限って行う、こういうふうな態度で臨むべきである、かように思っておりまして、近く会同等もございますので、その点をさらに徹底したい、かように思っております。
  207. 亀田得治

    亀田得治君 十分内部のそういう徹定の方法一つよく考えてもらいたい。  で、先ほど松原次官から、皆さんの方で何かいい考えがないかというような意味のことも若干ありましたので、忌襌なく私希望を申し上げますが、やはり今度の事件の処分の仕方だと思いますね。ああいう逮捕なんかをやるのは、やはりこれはもう逮捕をやった方が間違っておったんだ。まあ個人としてははなはだ気の毒でありますけれども、そういうことをやはり現実に国民に示すこと以外に、国民を安心させる方法はなかろうと思います。で、その処分と同時に、私は、やはりそういう証人という問題について、国民に対して、決しておそれないでやはり協力してもらいたいとか、そういうふうな処分と同時に、意を尽した声明なり、そういうものはやはり法務省として考えてもらいたいと思うんですね。その二つですね。その二つを用意してもらいたいと思います。そうして内部におけるそういう徹底は、これは検事の会同等において十分やってもらいたいと思いますが、私は、外部に対しては、結局そういう二つの点をよく検討してやってもらいたいと思っているんですが、いかがでしょうか。
  208. 松原一彦

    政府委員松原一彦君) 御高見まことにごもっともと思いますので、よく研究さしていただきたいと思います。ただ私は、今後といえどもそれは偽証する者もありましょうし、法によってこれを逮捕すべき必要もございましょうと思うのであります。しかし、今度の私どもがしまったというのは、あとから顧みて、ほんとうの犯人が現われて、そうしてこれは誤認であったという結果から見て、まことに困ったと、こう思うのであります。しかし、今後私が心配いたしますのは、検事などの仕事は実にむずかしいのでありまして、複雑多岐にわたる事件を処理しますのですが、それはよほどしっかりした信念を持って当らなければならぬ、一々おっかなびっくりでは、それはとてもできるものではないと思います。それで私は、もし検事全体に危惧を起さして、そうして検事の正しい考え方の上にちゅうちょせしめるようなことがあってはならぬというので、私は、検事が責任を追及するところに誤まりがあったとしたならば、私が責任をとると申したのですが、正しいことを行うことに対しては、私はもう断じてあとに引いちゃいかぬと思います。信念を持って行う。それが間違っておったら、いさぎよく責任をとる、この二つだと思いますね。上司の方も、お前の信ずるところを断行しろ。ただし間違っておったら処分するぞ。よろしい引き受けた、こういうことでいかなくちゃならぬと思います。こういう職務にある人たちが、一々、またしかられはせぬか、またとがめられはせぬか、また間違わないかというような態度をもって職務に臨むことは私はよろしくない。だから行うことは断じて行うが、それは確信の上に立って行うのであって、間違っておったら、その重責にいる以上、責任をとる、いかなる責任をもとる、甘んじて受ける、こういう態度を常に持っておってもらいたいを思って、私みずからその気持ちでいるのです。間違ったら私も責任をとる、こういう気持でやっておりますので、今の御意見まことにごもっともと思いますので、よく内輪でも相談いたしますけれども、法務大臣が病気で、ここに委曲を尽しての御答弁ができないことを残念に思いますが、牧野法務大臣は独自の立場を持っておりまして、検事のあり方ということについては、常にいろいろ言っておりますので、私も承知をいたしております。今後は御意見通りに私ども考えて、せいぜい反省、かつ努力いたしたいと思います。御了承願います。
  209. 高田なほ子

    委員長高田なほ子君) 長時間どうもありがとうございました。   本日は、これをもって散会いたしますが、その前に、本件の取扱いにつきましては、委員長及び理事打合会においてあらためて御協議することにいたしたいと思います。御了承をお願いいたします。  それでは散会をいたします。     午後六時五十一分散会