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政府委員(長戸寛美君) 私から
法務省所管
部分について
逐条説明を申し上げます。お手元に
売春防止法案逐条説明書というのが差し上げてございますので、それをごらんになりながら御聴取願いたいと思います。
第一条はこの法律の
目的を明らかにしたものでございます。特に
説明の要はないと思います。
第二条は売春の定義を定めたものでございます。売春という言葉がすでに
社会通念として熟しておるということで、特に定義の要はないのではないかというふうな御
意見もあるようでございますが、この法律におきまする構成要件の重要な基礎的な用語でございますので、第二条におきまして特に定義を設けた次第でございます。「対償」と申しますのは、売春をすることに対する反対給付としての経済的利益であり、対価または報酬と同じ意味であります。なお、対償は、売春の相手方自身から直接に受ける場合はもちろん、第三者から間接に受けても、あるいは、相手方にかわってこれを負担する第三者から受けても、対償であることに変りはありません。従いまして松元
事件のような場合におきましても、対償を受けたというふうにあるいは言い得るかと思います。
「不特定」の相手方とは、性交するときに不特定であるという意味ではなく、不特定の人間の中の任意の一人という意味でありまして、大ざっぱに申しますと、対償さえ受ければ不特定な範囲の中から相手を選ばないで性交するのが売春であるということになります。従って、特定した相手方と性交することは、売春の中には含まれないわけであります。
いわゆる性交類似行為は、例えば男娼あるいは獣姦と称するようなものはここにいう売春の中に含まれておりません。売春の主体は女性に限らず、男性であっても差しつかえない。最近におきまして男が有閑マダムなどにこびを売るというものがあるようでありまして、そういうふうな男性を主体とする売春もここに言う売春であります。その実態は必ずしも明らかではないのでありますけれども、
社会の善良の風俗を乱すという点においては女性の場合と変らないというふうに
考えられますので、特に主体を制限しなかったわけでございます。しかしながら刑罰の関係においては男性を含むのでありますけれども、保護厚生の措置はもっぱら女性に限定しておるわけでございます。
第二条は、売春をし、またはその相手方となる行為の禁止を宣言したものであります。ただ、この
規定に違反した場合の罰則は定めてありません。これを処罰すべきであるというふうな見解にも相当の
理由はあると思われますが、第六条から策十五条までにおきまして売春を助長する行為を厳重に処罰することといたしまして、他方第三章において女子に対する保護更生の措置を講ずることにいたしました結果、売春をする者の数は相当減少するものと予想されるわけであります。しかも、第五条の勧誘等の
規定の活用によりまして、「売春をし、又はその相手方となる行為」それ自体を処罰することによって達成しようとする
目的を相当程度まで達成し得るとかように思っております。さらに、売春をし、またはその相手方となる行為のように、立証が極度に困難であり、かつ、徹底的な立証をしようとすれば、人権侵害の非難さえ生じ得る行為につきましては、この際は
立法政策上これを除外するのが妥当であるというような観点から、これを処罰しないといち態度をとったのであります。
第四条は、第二章の罪の
捜査に当る
警察及び
検察庁の職員等この法律の実施に携わる者に対する注意
規定を特に置いた次第であります。
第五条は、売春をしようとする者がみずからその相手方を勧誘する行為等のうちで、
社会の風紀を害し、一般市民に迷惑を及ぼすものを取り締る
趣旨であります。これによりまして、常習として売春をするような悪質な者をかなりの程度まで処罰することができると、かように
考えております。第五条の主体は売春を行う者自体でございます。
第一号は、売春をする者がみずから勧誘する行為を
規定しております。「勧誘」と申しますのは、特定の人に対して、積極的に、売春の相手方となるように勧めることであります。言葉によって勧誘するのが普通でありますけれども、身ぶり、動作によって行う場合も
考えられます。「公衆の目にふれるような方法で」と申しますのは、第二号にあります「道路その他公共の場所で」というよりもやや広い概念でありまして、たとえば、室内から路上の人を勧誘するようないわゆる呼び込みも含まれるのであります。
第二号は、勧誘の準備行為のうちで、特に公衆の迷惑になるような行為を
規定したものであります。「公共」の場所と申しますのは、軽
犯罪法第一条第五号の、「公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場」という言葉があり、あるいは第一条の第十三号には、「公共の場所において多数の人に対して著しく粗野もしくは乱暴な言動で」という言葉がありますように、「公衆の利用し得る」場所を意味するのでありまして、広場とか公園などはもとより、興業場のようなものも、やはり、これに入る、かように
考えております。
第三号は、勧誘のように積極的に人に勧めるのではありませんが、みずから売春をする意思のあることを多数の人に表示し、相手方となる者の申し込みを待つ行為を
規定したものであります。前段の方は、売春をする者自身の動作によってこれをする場合であり、売春をする
目的のあることを明らかにするような態度で、公共の場所をうろついたり、公衆の目に触れる場所に立ちどまっていたりすることがこれに当ります。後段は、広告とか看板とか拡声器その他多数の人に意思を表示し得るような方法による場合を
規定したものであります。「誘引」と申しますのは民法学上契約の申し込みを誘うことに使われているのでありまして、本号では、「広告その他これに類似する方法により」という制限があるので、
事案上は、不特定または多数の人に対する場合だけが本号に当る、かように
考えられます。
第六条は、いわゆる客引きとか、ポン引きとかいうものの処罰
規定であります。第一項は、周旋行為を
規定しております。「周旋」と申しますのは、売春をする者とその相手方となる者との間で売春行為が行われるように仲介をすることであります。
次に第二項は、第一項の準備行為のうちで、風紀を害し、公衆に迷惑を及ぼす行為を
規定したものであり、第一号ないし第三号は、それぞれ、前条第一号ないし第三号とパラレルになっております。ただこの第六条の卵二号におきましては、前条の一号のような「公衆の目にふれるような方法で、」という制限がございません。従いまして客引きが勧誘する以上は、公衆の目に触れるような方法にようない場合でも処罰されるというふうになるわけであります。
それから第七条は、人に何らかの不法な圧力を加えて売春をさせた者の処罰
規定であります。
第一項前段は「勅令」第九号の第一条と同じであります。
後段は、親族の情誼を利用し、やむを得ず売春をせざるを得ないようにしむける場合を
規定したものでありまして、多くは、父母とか兄とか姉とかの年長者が行為者となるものと思われます。このような行為を特別に処罰の対象といたしましたのは、従来の実情から見て、これによって売春の行われることが非常に多く、しかも、親族関係という人倫関係を利用して売春という不法な行為をさせることは、
社会道徳上特に強く非難さるべきことと
考えられたからであります。子のために親を罰するということは、その子のためにならないのではないかというふうな
考え方があろうと思いますけれども、農村等における封建的なものの
考え方というものは、なかなかに抜き難いものがあるわけでございまして、それを是正する意味からも、かかる
規定を特に設けた次第であります。
第二項は、暴行または脅迫を手段とした場合であり、刑法の強要罪特別罪として、刑法よりも重く処罰し得ることにいたしました。強要罪は「三年以下の懲役」というふうにされております。
第三項は一、二項の未遂を
規定しております。
第八条は、売春によって得られた利益の分け前にあずかる行為の処罰
規定であります。
第一項は、前条の罪を犯した者に関する場合でありまして、前条の罪の加重犯ということができます。前条の罪によって行われた売春がここにいう「その売春」に当るわけでありますからして、後になってその一部をでも収受すれば、新たに不法な圧力を加えなくても、本項の罪が成立いたすわけであります。
第二項は、売春行為自体があるいは自由意志によって行われた場合でも、親族関係による情誼を悪用して売春の対償を要求し、その結果として売春を続けることとなることを防止するために、これを
規定しているわけであります。
第九条は前貸し等の禁止
規定であります。
本条は、売春をさせる
目的で、人に財産上の利益を供与する行為の処罰
規定であります。このような行為は、経済的な利益によって人の自由を拘束し、心ならずも売春をさせるおそれが多い上に、従来も、売春と密接な関係を保っておりましたので、
本条によってこれを防止しようとしたわけであります。供与する「財産上の利益」には、何らの制限もありません。金銭、動産等を交付することはもとより、債務を免除することその他金銭に見積ることのできるあらゆる利益を包含しております。ただ、「前貸その他の方法により」という制限が置いてありますので、売春をする意思のある者とする経済的取引がすべてこれに当るのではなく、相手方に対して何らかの影響力を及ぼし、これに売春をする意思を生じさせ、またはこれを強めるような方法を用いた場合に限られるのでありまして、その最も普通の方法として、前貸しを例示しているわけであります。で、無償で利益を与える行為なども、これを受ける者に心理的な拘束力を持つことが多いわけでございますから、ここにいう「その他の方法」に入ることがあると思います。利益の供与は、売春をする者に対してするときだけでなく、第三に対してする場合であっても含まれます。従って子に売春させるために親に前貸しをする行為は、
本条によって処罰されます。かように
考えております。
第十条は勅令九号の第二条及び第三条と同じであります。売春をさせようとする者と売春をする者の父母などとの間ではもとより、売春をさせようとする者と売春をする者との間でも、
本条の契約が成立すると解しております。たとえば楼主と女の親と契約する、こういうことが
考えられます。楼主と女自身と契約するということも
考えられます。前の場合には双方が処罰されます。楼主も親も処罰されるのでありますが、後の場合には売春をさせようとする者、楼主だけが処罰される
趣旨であります。これは女は売春をさせられる対象となるわけでありますからして、処罰から除外されるという
考え方に立っております。
第二項で未遂を罰することにいたしております。これは契約の申し込みまたは承諾の段階から処罰ができることとしているわけであります。
第十一条は、売春を助長するおそれのある行為のうち、最も行われ易い場所の提供を処罰する
規定であります。
第一項は、単純な場所の提供であります。「売春を行う場所」というのは、売春行為に使用される場所のことでありまして、主として、建物またはその一部がこれに当ると思いますが、その他の建造物やあるいは自動車などもこれに入る。「提供」と申しまするのは、売春に利用し得る
状態に置くことでありまして、貸与その他の
処分をする権限のある者が占有権を移す場合はもとより、場所を事実上占有している者が、一時的に使用を許可するような場合も含まれるのであります。で、建物または部屋を貸しました後に事情を知った場合に、これを
理由として賃貸料を引き上げをしたり、あるいは容易にその部屋の
返還を求めることができるのに、賃貸期限後契約の更新をしたりするなどは、実質的に見て新たな契約提供があったと認められるわけでございますから、本項の罪が成立する、かように
考えております。
第二項は、場所の提供を業とした場合の処罰
規定であります。業とすると申しますのは、単に継続的に行う意思をもってするだけでなくて、一個の業体としてする必要があると
考えております。ここのしまいの方に、「旅館業等を憎む者がたまたま売春の場所を提供したときは、その回数が多くても、前項の罪」——すなわち単純な場所の提供罪——「が成立するのは格別、本項にはあたりません。」こう書いてありますが、これはたまたま行われるならば、たとえその回数が多くても第一項の単純な場所提供罪であって、この二項の方には当らないという
趣旨でございますが、しかしその回数が非常に多くなってくるという場合におきましては、二項の業体犯が成立する場合もあろうかと
考えております。
第十二条は、人に売春をさせることを業とする者の処罰に関する
規定であります。この種の行為は、売春を助長する行為のうちで最も悪質なものとして、特に処罰の必要が痛感されるものであります。自己の占有する場所と申しますのは、所有権、賃借権その他の権利に基いて占有する場所をいい、管理する場所と申しますのは、事実上その場所の使用について相当程度の発言権を持っている場合、たとえば自分では賃借人にはなっていないけれども、賃貸人との間の特殊な関係によってその場所にだれが居住するかについてある程度指図ができる場合などをいうのであります。自己の指定する場所と申しますのは、売春をする者との連絡を容易にするために指定した一定の場所のことであります。これらの場所に人を居住させ、これに売春させることを業とすれば
本条の罪が成立する。いわゆる貸座敷業はもちろん、娼婦置屋といわれておるものの多くはこの自己の占有する場所に人を居住させてこれに売春をさせているといえるわけでございますが、今後はアパート等に人を居住させ、呼び出し等の方法によってこれに売春をさせる場合、すなわち管理しまたは指定する場所に居住きせて売春をさせる方法のとられる場合が多い、かように
考えております。売春をさせられる者の数には別段の制限がありません。なお売春をさせる場所についても制限がございませんからして、自己の占有する場所で行わせる場合でも、また他の場所に行って行わせる場合でも
本条が成立する。従っていわゆる派出するというような
状態もこの十二条によって処罰の対象となるわけでございます。
第十三条は、第一条第二項の場所の提供を業とする者及び前条の売春をさせることを業とする者を幇助する行為のうち特に悪質なものを通常の幇助犯よりも特に重く処罰する
趣旨の
規定であります。
本条に
規定する行為は資金、土地または建物の提供であります。提供した資金が売春に関する営業に用いられていることを知った後、容易に回収できるのに手形の書きかえ等をした場合には、新たな提供として処罰の対象となる、かように
考えます。
第十四条は両罰
規定、第十五条は併科の
規定でございます。
付則に飛びまして、第一項は
施行期日を定めた
規定でございます。この法律は本来ならば直ちに実施し、一挙にその
目的を達することが望ましいのではありますけれども、第三章に
規定する保護更生の措置を講ずるには、施設、人員配置その他の面で相当の準備を必要といたしますので、第一章及び第三章、すなわち総則、それから保護更正の
規定は、昭和三十二年四月一日から実施することとし、また第二章の刑事
処分に関する
規定は、売春に関係している者が自発的に転業その他の措置を講じ得るための猶予期間を設ける
趣旨で、一年おいた昭和三十三年四月一日から施行することにいたしてあります。
第二項は勅令九号の廃止の
規定でございます。
第三項はその経過
規定であります。第四項は地方条例との関係を
規定いたしております。第四項はこの法律の施行が地方公共団体の条例に及ぼす
効力を明らかにした宣言的な
規定であります。従来は地方条例が出ておったわけでございますが、この法律では売春を助長する行為を初め、売春をする者の勧誘行為等を広く処罰することにいたしましたので、これによりましてこの法律に
規定する行為はもちろん売春をし、またはその相手方となる行為、その他売春に関係する一切の行為は、すべてこの法律によって規律しようとする国の意思が明らかとなるわけでございます。ここに二十一ページに「取締ろうとする国の
意見」とございますが、これは規律しようとする国の意思というふうに訂正いたしたいと思います。従って国の意思に反することとなるいわゆる売春条例の
規定は当然無効となるわけでありますので、本項におきましてその
趣旨を明らかにしたのであります。これによって初めて条例を廃止するこういう創設的な
効力を
規定したものではない、いわゆる宣言的な
規定にすぎないわけであります。なお性交類似行為を取締りの対象とする条例は、この法律の施行によって何らの影響をも受けないと、かように
考えております。売春及び売春助長行為に関する処罰
規定のみが失効するのでありまして、性交類似行為を取締りの対象とする条例及びその罰則
規定は影響を受けない、かように
考えております。
第五項はその経過
規定を定めたものでございます。
私どもの関係の部面を申し上げました。