○
参考人(森
信胤君) 私は放射能の生理学的研究、ことに放射能をいかに医学方面に利用するかということをやっておるのでございまして、このごろの
言葉で申しますと、
原子力の平和的利用という一部を担当しておるわけでありますが、何分にもごく一部のことだけを勉強しておるものでありまして、今日の問題のような広範な判断力といろいろのデータをまとめて批判しなければならぬ問題に対しては適当なお答えをすることができぬと思いますが、ごくわずかの一部のところでありましても、何かお役に立つところがありましたらと思いまして参りました。どうぞよろしく。
結論から先に申しますと、人間としてまたわれわれ医人といたしまして、いかなる場合といえども、いかなる場所においても、兵器としての原爆あるいは
水爆が
実験されるということは大へん悲しいことでありまして、こういうことのないように希望したいと思うのであります。またこの希望は単に一カ国ばかりでなくて、どの国に対しても希望したいと思っております。
で、放射能の生物に及ぼす
影響で、どんなに及ぼすかということの一端を申し述べまして、その
災害がどういうように起るかということにつきましての御批判を願いたいと思っております。
御承知のように、原爆も
水爆もともにウラニウムの核分裂を利用いたしまして、従って放射能が起って参ります。ここで熱であるとかあるいは機械的な破壊力等を度外視いたしまして、放射能のみについて申しましても、ウラニウムが分裂いたしますときに発生いたしますところのガンマ線それから中性子それからいわゆるフィッション・プロダクト、核分裂物質でありまして、これはみんな放射能を持っております。この放射性物質はベータ線ないしガンマ線を出します。そのほかときによりましてアルファ線を出す場合があります。また先に申しました中性子が他の物質に当りまして誘導放射能、つまり二次的な放射能を起しますので、結局その放射能の
被害はこれらのガンマ線それから中性子及び核分裂によってできたいわゆる放射性同位元素の放射能であります。
そこで放射能が一体どういうように人体に
影響するかということでございますが、これは御承知の
通りでございまして、うまく使えばガンのごときものを治療することができますが、極端に使えばからだを誤らせることは御承知の
通りであります。この放射線が外から当る場合とからだの中に入って放射線を出す場合がございます。従来は御承知のようにX線だとかあるいはラジウムのごとく、おもに外部から照射したものでありますが、この放射性同位元素等が盛んに使われ、また現に
水爆、原爆等によってそういうものが発生しておりますが、そういうものは今度はからだの中に入って参ります。そうするとからだの中で放射線を出しますので、現在では外部からする放射能と体内における放射能とに分けて考えなければならぬと思います。そこで外部から放射能がくる場合、どれだけの量がくると危険かと申しますと、これも御承知の
通りでございまして、現在のところでは、大体各国認められておるところあるいは慣習上知られておるところは、一週間に〇・三レントゲンということになっております。このレントゲンという単位はガンマ線やエックス線のごとき電磁場に適用する単位でございまして、ベータ線であるとかあるいはアルファ粒子のごとき粒子に対しましてはこれと同量の量をもちましてレプとかいうような
言葉を使っております。いずれにいたしましても大体において〇・三レントゲンないし粒子でありますと〇・三レプが一週間の分量、そこでそのレントゲン量を単位といたしましてどれだけが危険であるかと申しますと、一週間に〇・三レントゲンをこすというようなことがございますと、まずわれわれのからだに白血球が減ってくるという現象、これが顕著に出て参ります。そうして白血球の種類が変って参ります。その他いろいろの障害が出てきまして、レントゲン量、すなわち放射線をたくさん受ければ受けるほどそれに従って障害が多いわけでありますが、どれだけになると最も危険であるかと申しますと、大体四〇〇レントゲンをこしますと、これは一ぺんに受けてもそうでありますし、一生を通じて集積した分量でも同じでありますが、大体四〇〇レントゲンをこすとまず半分の人は死ぬる。六〇〇レントゲンを受けますとこれはもう致命であります。致死でありまして、すべてやられるということになっております。それでありますからもしわれわれが毎日かりに〇・三レントゲンずつ受けるとしましても、こういう状況を二十五年以上続けますとやられるわけでありますが、これらはわれわれのごとく放射線を毎日取り扱っておる人間といえども、絶えず注意しておりますので四〇〇レントゲンをこすというようなことはないわけでありますが、ただ目標といたしまして四〇〇レントゲンないし六〇〇レントゲンという量を申し上げておきます。もっと通俗的に申しますと、われわれが時計を持っておりますが、この時計に夜光塗料がついております。これなんかが普通裏側で計りますと大体〇・〇二レントゲン、すなわち百分の二レントゲン、一日でありますが、一日量それくらい出ておるそうであります。そこで、結局まあ〇・三レントゲン一週間というのが標準になって危険度をきめるわけでございますが、そうしますと、この外部から照射する、たとえば原爆を受ける、こういう場合でありますが、大量に受ければ当然危険なことはわかっておりまして、たとえば
ビキニで遭難されました第五
福龍丸の方なんかは、あの土地で大体一〇〇レントゲン以上受けられたというような推測が計算されております。また広島の場合では、爆心地でちょうど六百メートル上で落ちておりますが、その直下から一キロ離れたところで測定した値いが大体九〇〇レントゲンと推定されておりますが、今申しましたように六〇〇レントゲンが致死量であるとすると、九〇〇レントゲンというものはいかにおそろしいかは御推察の
通りであります。
こういうものが外部からの照射でありますが、今度はからだの中に入った場合、たとえばストロンチウムのごときおそろしい同位元素がからだの中に入ってくる、そうすると、これはその特性といたしまして骨に集まって参ります。骨に集まってきまして放射線を出すわけでありますが、この場合もその骨で大体〇・三レプ一週間について……。まあ〇・三レントゲンと申してもよろしいのですが、そういうくらいの値いの放射線を出しますと、われわれの造血作用が参ってきます。
言葉をかえますと、われわれの血液を作っておるのは骨の中でいわゆる骨髄でございますが、その骨髄が骨に集まったストロンチウムの放射線のために壊されるわけでありますから、そういう障害が起って参ります。そこで現在では体内に入ったいわゆるインターナル・レディエーションの場合におきましては、その問題になる危険な臓器というものを仮定いたしまして、たとえば造血系統、すなわち血液を作るところであれば骨髄、その骨髄において集まりやすいストロンチウムだとかまたはカルシウムだとか燐だとかという骨に集まりやすい物質を考えまして、たとえばストロンチウムのクリティカル・ティシューあるいはクリティカル・オーガソは骨髄であるとして、骨髄で一週間に〇・三レプ以上出すと危険であると、こういうふうに出しております。
これでまず危険の限界はおわかりと思いますが、そこでこういう放射性の同位元素がからだの中に入ってくる場合でございますが、これはもちろん空気で吸う場合もございますし、あるいは飲食で入る場合もございましょうし、あるいは皮膚から入ってくるような場合もございましょう。いずれにしましても、これらが入ってきますと、妙なことに特定な場所へ集まって参ります。と申しますのは、同位元素でありますから、放射性であってもなくても、同じ化学性状を持っております。従って同一の生理的性質を持っていますので、たとえば燐であれば骨に集まりやすい、カルシウムであればまた骨に集まりやすい、また燐やカルシウムと同じ化学性質を持っているストロンチウムも骨に集まりやすいというように、骨に集まってくるそういうもの、また、ヨードのごときものは、甲状腺にありますサイロキシンの合成に参与するものでありまして、ヨードはほとんど全部甲状腺に集まって参ります。そうしますと、この場合ヨードについて考えますと、クリチカル・オーガンは甲状腺ということになって参ります。同じ問題になる危険が、臓器でも、大へん大きなものの所へごくわずかなものが集まったときと、甲状腺のごとき小さいものにたくさんの放射性物質が集まった場合と危険度が大へん違うということはおわかりのことと思いますが、こういうように受ける方の側から申しますと、その危険になる問題の臓器と、それに集まってくるものと、それからその性状、たとえば放射性のナトリウムの、こときものは、からだじゅうどこへでも参りますが、この半減期がわずか十五時間足らずでありますから、比較的早くからだから抜けて参ります。ところが、ストロンチウム90というような同位元素は、骨に集まるとともに、なかなか抜けがたい。しかもその半減期が二十五年、このごろは二十八年と言われていますが、こういうものが入って参りますと、なかなか取れにくい。また、ヨードのごときものは、放射性ヨードは半減期が八日でありますけれども、これが甲状腺に集まってきますと十数日もかかります。と申しますのは、物理的の半減期というのは八日でありますけれども、われわれの方では生物学的半減期と申しまして、からだの中に入ったものが汗や尿やその他のものになって失われて参ります。そうして半分になって行く場合を生物学的半減期と申しますが、それが十数日でありまして、結局これらのファクターを考えて参りますと、ヨードが甲状腺で放射線を出しているのは七日ないし八日というようなことになっていますが、いずれにいたしましても、半減期の長いものがからだの中に入って、しかもその中から大きなエネルギーのものを出してくるということになりますと、問題が大きくなって参ります。こういうように、放射性同位元素は、その化学的性状によって、たとえば燐であれば骨に集まる、ヨードであれば甲状腺に集まるというように集まって参りますので、実はわれわれがやっておりますのは、骨の骨髄で起る造血系統の病気の、たとえば白血病であるとか、あるいは直性赤血球増加症というような特殊な病気の場合には、かえって放射性の燐を与えまして、そして骨に集まってきた燐がベーター線の集中照射をするというような方法をとって治療をやります。また、甲状腺のガンのごとき場合には、甲状腺にヨードが集まってくるという性質を利用しまして、ベーター線やガンマー線を出さして治療をするのでありますが、この治療に使われる面と悪い方の面とは紙一重でありまして、いわゆる薬も毒になるし、毒もまた薬になるわけでございまして、われわれが意図しておるところは、そういう放射性物質を特定の病気の場所に集めて、そして治療をしようというのでありますが、原爆、
水爆等によって起ってくる灰の中にある放射性物質がからだの中に入ってきますと、特定の場所に集まって、そうしてそこで放射線を出す。ことにストロンチウム90のごときものは骨に集まって、しかも集まりやすくて、しかも骨髄に対して強い放射線を出すというところにおいて害があるのであります。そういうように集まりまして、たとえばストロンチウムが骨に集まって来ると、そとに集積いたしまして骨髄系統を侵す。そうすると、造血系統がやられるから、次第に白血球が減ってくるとか、あるいは先般の第五
福龍丸の惨劇のごとき急性汎骨髄虜というような形で結局血液を造る所が侵されてきまずから、生命を侵す。また、たとえばヨードのごときものでは、甲状腺に集まってそこで作用しますと、甲状腺では御承知のようにサイロキシンと称するホルモンを分泌するわけでありますが、そのホルモンの分泌異常を起してきまずから、からだの調子が変るというようなことで、それぞれ致命的な作用をするわけでございます。しかし、この場合でありますが、さっき申しました危険度をレントゲンまたはレップという量で表わす場合と、それから放射線を出すその物質の一秒間にどれだけずつ放射線を出しておるかというディスインテグレイションの方から単位を表わす場合がございまして、たとえば一秒間に3×1010ディスインテグレイション、これをキューリー、また一秒間に三万七千個ずつ原子核が壊れて放射線を出しているようなものを一マイクロキューリーと申しておりますが、ストロンチウムの90が骨に集まりまして危険になるその限界です、最大許容量と申しておりますが、マキシマム・パーミッシブル・ドースあるいはアマウンツでありますが、その限界になる量は、ストロンチウムでございますと、一マイクロキューリーということになっております。われわれのからだの骨の中にカルシウムが大体一キログラムあると言われておりますが、カルシウムとストロンチウムとは同じような働きをしますので、結局カルシウムがある所にはストロンチウムが集まりやすい。そうすると、一千グラムの骨に対して一マイクロキューリーのストロンチウムが入ってくると危険になってくる。この一マイクロキューリトのストロンチウムと申しますと、目方で言うとどれくらいになってくるかというと、これはたいへん小さい分量でございまして、大体十億分の一ぐらいのごく微量であります。そういたしますと、骨に対して最も危険になる限界がストロンチウム90では一マィクロキューリーと言われておりますけれども、分量であれば、ごく微量入ってきても大へん危険ということでございまして、あとはたくさんございますけれども、一例だけ申しまして次に参ります。
ここで、結局外部からくる放射線の場合と、それからからだの中に入った放射性同位元素による内部的照射の場合でありまして、その内部的照射に該当するものは、さっき申しましたように、灰となって入ってくるものが問題になるわけでありますが、いずれにいたしましても、たとえばストロンチウムが骨に集まってくると、一マイクロキューリー以上入ってくると危険だということになります。
問題を今度はさらにしぼりまして、
水爆並びに原爆の方に参りますが、御承知のように、ウラニウムの核分裂を利用しますので、冒頭に申しましたように、原爆また
水爆が爆発いたしますると、ガンマー線が出てくる、それから中性子、それから放射性の同位元素が出てくるわけであります。この場合に、危険度から申しますと、言うまでもなくその爆心地並びにその附近にいる人は当然強烈な放射線を受けるわけでございますから、これは問題ないわけでありまして、大へん危険なことであります。遠隔の地にある者といたしますとどういうことかと申しますと、これは結局そのときできました放射性物質を持っているところの灰が問題になって参ります。灰の場合でございますけれども、結局これは爆発したものの性質だとか、エネルギーによって違いましょうが、灰の粒子の大きさによって
影響が違って参りまして、粒子が大きければ早く落ちる、これは当然のことであります。また、どれだけ高く上るかということによっておのずから違って参りまして、たとえばエネルギーの強いものを使いますと、高いところまで上りますが、先般リビィが一月十九日に講演しましたその講演に書いてあるところを見ますと、広島に落したごとき二万トンの、いわゆるキロトン当りのものでありますと、対流圏あたりくらいのところから落ちてくる。メガトン、すなわち百万トン以上のTNT爆弾に相当するそういうメガトンのものを
使用すると成層圏まで入って行く、こう申しております。成層圏に行ったものは大体十年くらいは成層圏におって、そうして一年に一割くらいの割で落ちてくる。成層圏に行かないいわゆる対流圏におるものは、大体数週間ないし数カ月でごみとなって雨やその他で落ちてくる、こう申しておりますから、そういたしますと、その爆発のあった所及びそれに続く近い所は別といたしまして、
日本のごとき離れておるところから考えますと、雨やあるいはごみとなって、いわゆる放射性物質の落ちてくるそのことが問題になってくると思います。この灰は、さっき申しましたように、粒子の大きさとか、それからどれだけ高く上っておるとか、風の方向だとか、それから風の速度によって流れて行く方向も違うし、
影響範囲も違って参りましょう。まず条件を一定にしまして、まっすぐに上ったとしましても、これが落ちてくる場合に汚染を受けるのはまず海水と地上でございますが、たとえば
マーシャル群島で行われました爆発によって海が汚染される、こういう場合に海水が問題になってくると思いますけれども、との海に入った灰は比較的早くいわゆる希釈されるわけでありまして、実際に一昨年の場合、
日本で調べられたととろでは
日本付近の海水にはその
影響はなかった、しかしながら、その
ビキニのあたりには強力な放射能があったということは御承知の
通りであります。また海におる生物、特に魚の汚染が問題になって参りますが、その爆心地及びその付近におる魚類は、これはもう当然やられるとか、あるいはまもなく死ぬものでございますから問題はないといたしましても、それよりもある
範囲の離れたところにおる魚の汚染ということがわれわれに
たちまち問題になって参ります。あとでまた
参考人の方からお話があると思いますが、こういう場合医学的
立場から申しますと、落ちてきた灰が海の中に入って、魚の外についたものは大して問題はないと思いますが、それをのみ込んできたやつがございますと、ちょうどさっき申しました人間におけるインターナル・ラジェーションと同じでございまして、胃から腸に行って吸収される。たとえばストロンチウム90のごときは魚の骨に集まりやすい。また同じように、原爆のときに出てくる核分裂のもので、バリウムだとか、ランタン等でございますが、こういうものは骨に集まりやすいものでございます。ロジウムのごときは腎臓に集まりやすいと申されておりますが、いずれにいたしましても、集まりやすい臓器を見ますと骨だとか、腎臓で、さっきの胃腸器官も一しょに入れまして、内臓等においては魚の汚染というものは大へん危険であるということが言えるわけであります。しかし半減期ということを考えてきますと、
日本なんかのように遠隔のところにおりますと、半減期の長いものは残っておりますけれども、早く失われるものでありますと、
日本にくるまでに放射能がなくなるわけでありますから、結局魚の場合でも、ストロンチウム90のごとき半減期の長いものがからだの中に入っているその魚が問題になってくると思います。それから同じく遠隔の地におりましても、たとえば
日本のごとき
ビキニから離れたところにおりましても、一番問題になってくるのは空気の汚染でございます。空気の汚染の場合は、さっきも申しましたように、爆発物による放射性同位元素がごみとして含まれておる場合、これはさっきから申しました
通りでありますが、もう
一つ危険なことは、よく皆さんから言われているところの放射性の炭素ができる、さっき申しましたように、ウラニウムが核分裂をやりますと、そのとき中性子が出ますが、その中性子が二次的に放射性の同位元素を作りますが、これが空気中の窒素に当って、窒素の原子核を変化させまして、放射性の炭素、すなわちカーボンの14を作りますが、このカーボンの14は半減期が五千六百年でありまして、ベーター線を出します。これが大へん心配されておりまして、これが炭酸ガスとなって吸われるわけでございます。結局空気中における放射性カーボンを持った炭酸ガスと、それから遠隔の地においてはストロンチウム90が問題になって参ります。ところで先般のリビーが一月十九日にやりました講演を見ますと、こういうことを申しております。まず問題を二つに分けまして、空気中に放射性のカーボンができる場合を論じますと、これが炭酸ガスとなってわれわれのからだの中に入ってくるわけでございますから、実際に自然のままで何ら放射性物質を作らない場合もあるのですが、自然のままで大気の中に放射性のカーボンが中性子で作られております。すなわち宇宙線の中にある中性子が窒素に当って放射性のカーボンを作っているわけでございますが、そのカーボンが全地球の表面上において大体放射性のカーボンとして八十トンになると申しております。そうしてそのためには中性子が大体五・二トン必要であると申しておりますが、もしからだの中に害になる程度に放射性のカーボン、従って放射性の炭酸ガスができるためには、呼吸する分量だとか、その他を換算いたしまして、結局大体放射性カーボンの濃度が二倍以上にならないといけない。そのためには一千ないし五万メガトンくらいの爆弾を使わないとそのくらいにならない、こういうことを論じております。そういたしますと、この前の
ビキニの爆弾は、御承知のように、メガトンで二十メガトンでございましたかでございますから、今の一千ないし何万メガトンというような爆発をするためには、かなりたくさんの
水爆を使わなければならない。従ってそういう危険はあり得ないということを申しております。
それから次に、ストロンチウム90がまず放射性同位元素、ことにちりとなって落ちてくるものの中で一番危険なものとされておりますが、これがまず落ちて、
水爆や原爆が爆発した所や、その付近のいわゆる危険
地域は別といたしまして、遠隔の地で、まずどこでもほんとうにあるものと仮定いたしますと、人間のからだの中に入って、そうして骨の中にあるカルシウムの一千グラムに対して、ちょうど一マイクロキューリーに当るくらいになるためには、どれだけくらいの
原水爆を爆発させなければならないかというと、ちょうどTNT爆弾にイクイバレントいたしまして一万一千メガトンに相当すると申しております。その三十倍ないし四十倍をとって、それだけのエネルギーをもって動物
実験をやっているらしいのでありますが、この骨の中に悪性のできものができるかどうかを
実験している。そうすると、十倍、すなわち十一万メガトンくらいのところではまだそういうものがないが、三十ないし四十メガトンくらいの、つまり三十ないし四十倍でありますから、三十ないし四十メガトンくらいの爆弾に相当するエネルギーを与えてやると、明らかに骨髄の中におできができてくるということを申しております。しかしこれだけの障害を起すくらいに爆発さすためには、またそれより前に、最大許容量であるところの一マイクロ・キューリーに相当するだけのストロンチウムを作ろうとすると、少くとも
ビキニの場合の五百五十個だけの爆弾を爆発させなければならないということをこの間
発表しておりましたから、そういたしますと、まず現在の段階からいたしますと、そういう大きなものさえやらなかったら、まず遠方の土地の人間は心配ないのじゃないか、こういうのが彼の
論文の要旨でございまして、そのまま受け入れれば別に問題はないのでありますが、ここで問題になるのは、今の場合はたとえば空気中の炭素がどこにも同じように分散しておるとか、あるいはできてくるストロンチウムの割合がどこにも同じようにあるという仮定でありますが、実際はそうではないわけでございますから、それが集中しておるところでは大へん危険だということが言えるわけであります。
その次にまず、上から降ってくる灰が今のようにかりにからだに害がない程度に降ってきたといたしましても、この前の
ビキニの灰の場合にもあるごとく、それが雨となって井戸水に入る、またそれらが野菜その他農作物等にかかってくる、そういう場合の
影響も考えなければなりません。これも
ビキニの灰のときには、立教の田島教授がすでにそのフィッション・プロダクトを使いまして適当な濾過を行いますと、井戸水のごとき水にも放射性物質は除かれて安全であるというような
実験をやっておりますし、また野菜なんかも適当に洗えば汚染がとれる、あの当時大へん騒ぎまして、御承知のように野菜にも放射能がある、くだものにもあると、だいぶん騒がれたのでありますが、もちろんこれらの灰がかかって汚染を起したことは事実なんでありますが、その場合特に考えなければならぬのは、天然にこういう野菜や
一般植物や、それから肉あるいは魚等でもそうでありますが、そういう食品の中に天然産のカリウムがございまして、カリウムの中にはカリウム40と称しまして放射性カリウムがございます。しかも植物は御承知のように大へんカリウムをとるものでありますから、そのカリウムの放射能がありますから、カリウムの放射能ということを考えずに野菜やくだものを計りますと、大ていパチパチいいますので皆驚くのでありますが、このカリウムが動植物にたくさんあるということは、われわれの教室の秋山その他がすでに数年前に証明しておるところでありまして、現在におきましては、とに
かくそういう場合にはカリウムの放射能を除いて、そうしてバック・グラウンド、地上の放射能、宇宙の放射能を除いてその他の残りの放射能について論じなければならぬことになっております。こういうことになりますと、比較的放射能の汚染はわりに少かったようでありまして、いまだそのための
影響があったということは聞かないように思います。これらはすべて
日本とか、あるいは
アメリカのごとき遠隔の地のものが考えておることでありまして、遠隔の地でやりますと、今のリビーの
実験成績、あるいはその論議が正しいものだとすると、そう心配するものではない、こう考えてもいいと思いますけれども、ここに問題になることは、平等にストロンチウムが空から降ってくるかどうか、また平等に同じように空気中のカーボンができるかどうかということでありまして、同じようにできれば、さっきのように危険ではないかもしれませんけれども、ある所で大へん濃縮されておると危険であるということは当然であります。
さらに進んで、遺伝学上からこれを見まするときに、今までのところでは遺伝上
影響がないとされておりますけれども、今後どういうことが起るかということははかり知ること、ができません。遺伝の専門の方に聞きましても、この点に関しては内外を問わず不明瞭でありまして、全くわかっておらないというのがほんとうでありまして、突然変異を起すところの確率は大へん小さくて、ほんとうにごく僅かの確率で起ってきますけれども、一ぺんこの染色体に放射線が当ると必ず突然変異が起ることは事実なんであります。そうすると、プロバビリティが当ったら必ず遺伝の突然変異が起ってくるということになると、これは重要なことでありますし、また大海の孤島に数名だけ住んでおるような人間を考えるときは別でありますが、狭い所にたくさんの人間が集団生活しておるような場合に、その外部からくる放射能のために突然変異を起すということを考えますと、そのプロバビリティは少くても人間が多ければ多いほど危険でありますし、一ぺん起ってくると子孫に及ぼす
影響ということを考えると相当慎重でなければならぬと思います。これにつきましては、一昨年参りました
アメリカの
原子力関係の人も、それから先般参りましたウォーレン
たちも遺伝に関しては何も申しません。また実際においてはっきりしたデータがございませんし、また
日本においても、はっきりとここまでくれば危険だという何らデータがありませんから、はっきりしたことを申すことはできませんけれども、それだけに心配なのであります。はっきりとこれだけくれば安全だということがわかっておれば、これはもう防ぐことができますけれども、たとえプロバビリティが少くても、必ず当ればできるということがあるとすれば、しかもそれはいつくるかわからぬということになってくると大へん心配であります。
以上でありますが、結局爆心地を中心としてその所からその付近の人が危険である。またその辺の生物が危険であるということはもう問題外でありまして、たとえばこの
マーシャル群島辺の人
たち、あるいはその辺の生物は偉大なる
影響を受けて損害をこうむるということは当然であります。また
日本という所を
一つ目標として遠隔の地から考えてみても、理論的にはそうこわいものでもないし、また一昨年の
福龍丸事件のときから考えてみても、もうすでに二年後においては
福龍丸の放射能もなくなっておるとか、あるいはその後放射によって
影響を受けた人間が出てこないということから考えれば、見た目には遠隔の地の人は安全かもしれないけれども、いつどれだけのいわゆるアクシデントが起るかわからない。たとえば前の
ビキニの灰のときでも、これだけは安全地帯であると考えてその外にいた人
たちもやはり障害を受けておるわけでありますから、アクシデントということを考えると、先方の学者
たちが計算しておる以外にどういうような間違いがあるかもしれぬということ、それからそれは一応ネグレクトしても、遺伝という点から考えて行くと、まだまだ心配な点があるのではないかと思っております。それで今般行われます
実験では、昨日いただきました案内状と一緒に、ストローズのアナウンスが書いてありまして、この前やったよりも小規模のものであると言われておりますから、文字
通り受け取れば、今まで申しましたような理由で
日本ないし遠隔の地の人ではさほど
影響はないと、人間に対してはでありますが、考えておるわけでありますけれども、しかし水産物であるとか、あるいはそれを取り扱われる方とか、またそれを実際にわれわれが最もよく食べる人間でありますから、そういうことを考えてみますと、これは大へんゆるがせにできない問題だと思います。なおまた遺伝という点から考えますと、繰り返して申し上げますように安心ができない。
結論でございますけれども、冒頭に申しましたと同じように、今かりに今回行われる
実験によって、すなわちいわゆる
危険区域以外の所では、見かけの上では安全だといたしましても、しかしとに
かく一部の人は大へんな損害をこうむるわけだし、見かけの上で安全だとされておる所でも確実に安全だという保障がないのであります。いわんや
人道上こういう
災害を与えるような爆発が行われるということは大へんゆゆしい問題であって、ことに戦争を前提にした兵器としてこれが
実験される場合でありますと、理由のいかんにかかわらず反対せざるを得ないと思います。またこれは先ほど申しましたように、どこの国に対しても言えることだと思います。