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1956-04-16 第24回国会 衆議院 法務委員会 第25号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年四月十六日(月曜日)    午前十一時五分開議  出席委員    委員長 高橋 禎一君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 三田村武夫君 理事 猪俣 浩三君    理事 佐竹 晴記君       小島 徹三君    小林かなえ君       世耕 弘一君    林   博君       花村 四郎君    古島 義英君       横井 太郎君    横川 重次君       吉田 賢一君  出席国務大臣         外 務 大 臣 重光  葵君  出席政府委員         法制局長官   林  修三君         法制局次長   高辻 正巳君         警  視  長         (警察庁刑事部         長)      中川 董治君         警  視  長         (警察庁警備部         長)      山口 喜雄君         法務政務次官  松原 一彦君         検     事         (刑事局長事務         代理)     長戸 寛美君         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君         法務事務官         (入国管理局         長)      内田 藤雄君         外務事務官         (アジア局長事         務代理)    森  治樹君         外務事務官         (条約局長)  下田 武三君  委員外出席者         総理府事務官         (南方連絡事         務局長)    石井 通則君         法務事務官         (事務次官)  岸本 義広君         検     事         (刑事局刑事課         長)      横井 大三君         専  門  員 小木 貞一君 四月十六日     ―――――――――――――  委員古屋貞雄君辞任につき、その補欠として勝  間田清一君が議長の指名で委員に選任された。     ――――――――――――― 四月十三日  在日朝鮮人保障に関する陳情書  (第  五四〇号)  売春等処罰法制定促進に関する陳情書  (第五六七号)  接客婦に対する社会保障対策確立に関する陳情  書  (第五  八九号)  死刑廃止反対に関する陳情書  (第五九〇号) を本委員会に参考送付された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  外国人の出入国に関する件(大村収  容所韓国人問題)  法務行政及び人権擁護に関する件     ―――――――――――――
  2. 高橋禎一

    高橋委員長 これより法務委員会を開会いたします。  本日の日程に入ります前に参考人決定ついてお諮りいたしますすなわち、先ほどの理事会決定通り、立正交成会問題について参考人より実情を調査いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 高橋禎一

    高橋委員長 御異議なければ、さよう決定いたします。  なお、参考人の人選、その日時等につきましては委員長に御一任を願います。     —————————————
  4. 高橋禎一

    高橋委員長 次に、前回委員会において調査を行いました日韓問題について、重光外務大臣出席を得ましたので、質疑を続行いたしたいと思います。御発言は、先ほど理事会で申し合せいただきました発言順位及び発言時間を御了承の上で行なっていただきたいと思います。  それでは質疑を順次許します。猪俣浩三君。
  5. 猪俣浩三

    猪俣委員 先週の重光大臣の御答弁によりますと、この大村収容所における朝鮮人釈放問題については閣議決定されておるような御報告でありました。そうして、それは三月の三十日の閣議できまったのだ、法務大臣病気出席しないで松原政務次官が出たのだというようなお話があったと思うのであります。この点についていささか不審に存じますることは、四月の六日に当法務委員会におきまして松原政務次官のお答えがありましたが、どうも重光大臣が言うような調子でなかったと思います。これは速記録を調べれば直ちにわかる。外務省考え方に対して相当の疑問を持ち、筋道が通らぬことを強調されておったはずであります。なお、これは、個人的なことになりまして、公けの席上の発言でありませんので、私はその言葉は申しませんが、松原政務次官からはたびたび話を承っております。なおまた、去る金曜日の委員会の終了後、これも公けの発言でありませんので申しませんけれども岸本次官もどうも御了承になっているような模様が見受けられぬ発言がおありのようでありまして、そうすると、一体この朝鮮人収容問題は閣議方針が確定しておるものなりやいなや、外務省としてはその方針であったといたしましても、大村収容所に関することは法務省管轄でありまして、この法務省外務省とが不離一体をなしまして閣議において調整せられたる政府方針として打ち出されておるものなりやいなや、はなはだ私は疑問なのです。一体この内閣は何かそういう調子が見える。これは日ソ交渉についてもそうです。閣内がまとまっておらない。  そこで、重光外務大臣にお尋ねいたしますが、一体閣議決定されたということは、要するに、大村収容所前科者たちをことごとく内地に釈放し、そうして韓国に収容せられておりまする日本漁夫の刑期の終った者を引き取る、将来かような韓国人にして犯罪を犯したような者は国際慣例に従って韓国が引き取るということ、及び李ラインを越えたような日本の漁師を、しかも韓国裁判の結果もう服役期間を過ぎているにかかわらずなお引き渡さないというようなことがあるのかないのか、さような将来の保障のようなことが閣議でちゃんとおきまりになったのかどうか、そういう方針が統一されておるのかどうか。どうもこの前の御答弁では明白を欠いておると思うのです。ですから、閣議決定されたならば、一体その決定はどの程度であるか、法務大臣外務大臣とが再確認されたとも言うが、それは一体将来の保障まで含んでおることであるかどうか、さようなことについて御説明を承わりたいと思います。
  6. 重光葵

    重光国務大臣 日韓の問題として、日本人漁夫の帰還問題、これに関連して大村における韓人釈放の問題、これについては、前回私が詳細にわたって御説明をいたした通りでございます。それにつけ加えるものはございません。そして、その閣議決定並びに日韓双方との了解、すなわち意思の合致したことは、すべて発表をいたしておる通りでございます。それによって御了承を願いたいのでございます。
  7. 猪俣浩三

    猪俣委員 私は、ただいま申しましたように、法務省上層部人たちの言とあなたの言うことが違っておるから再質問しておるのです。  それでは岸本次官にお尋ねいたします。これは閣議決定されたと称しますが、法務省は、この大村収容所の、何犯か、中には十二犯も犯したような犯罪人がおるが、これを無条件で釈放することに同意されたのであるかどうか。その点について私どもが承わっておる事情は、そうじゃないと思われる。実は、一昨日も、重光大臣は、法務省政府委員答弁しようとするのを、ほとんど押えるような形で、すっと立ち上り、質問者法務省質問しておったにかかわらず、外務大臣は立ち上って、閣議決定して、本日確認したというようなことをおっしゃって、押えてしまったような形跡がある。だから私は再質問しておるのに、この前と同じことだというようなことでは、わかりません。もう一ぺん法務省の側の御意見を承わりたい。あなた方の御答弁によりましては、われわれはだまされておるようなことになる。はっきり答弁していただきたい。
  8. 岸本義広

    岸本説明員 お尋ねの件につきましては、外務省から事前の連絡はございません。
  9. 猪俣浩三

    猪俣委員 今岸本次官は、何の連絡もないということを言っておる。松原法務政務次官は、大臣にかわって閣議に出ておると言っておる。その松原法務政務次官事務次官との間に連絡がない道理はない。松原政務次官は、——これまた後ほど私どもはお尋ねしますが、われわれにはどうしてもこれが筋が通らないということをしばしば繰り返していらっしゃる。私は六日の速記録をここに持っておりませんが、あとでわかることだと思う。それを、あなたは、かような、重大問題を何かおっかぶせるような態度でおっしゃっておるような形跡が見えてしょうがない。ちゃんとあなたのわきに並んでおられる方は連絡がないと言っておられるではありませんか。どういうわけですか。それを明らかにして下さい。さような重大問題を、しかも主管省である法務省と何も連絡なしにどんどんあなたが外交交渉を進めていったとするならば、はなはだけしからぬことだと思う。大村収容所の問題は法務省の所管ではありませんか。あなたは総理大臣ではないはずです。外務大臣です。それが法務省意見にかかわらずどんどん外務省の考えた通り既定方針で進むということになると、一体この内閣はどういう内閣なんですか。今岸本政務次官は明白に連絡がないとおっしゃる。それに対して御答弁願います。
  10. 重光葵

    重光国務大臣 それでは、従来のいきさつをさらに一そう詳細に申し上げましよう。  この問題はずいぶん久しい以前からの問題でございました。そこで、大村収容所における朝鮮人釈放について法務省で難色があるということは私ども承知をいたしておりました。それはごもっともなことだと思っておりました。そこで、非常に長い間この問題は懸案になって解決をいたさなかったのであります。大村収容所の問題について解決することができなければ、日本人漁夫の帰還ということはどうしても承諾を得ることができません。そこで、われわれの承知しておるところでは、牧野法務大臣前任者花村法務大臣は、みずから韓国代表者である金公使に一再ならず会われて、一つ了解をされたということを聞いております。ところが、その点はどういう了解であるかというと、大村収容所朝鮮人釈放については了解は与えられたということでございます。しかし、それは後に花村法務大臣自身によっても、事実そうでなかったというふうに取り消されております。しかし、朝鮮側はさよう了解をいたして、それで非常にもつれたのでございます。それはそれにいたしまして、その後牧野法務大臣になりましてから、私は初めからこの問題について牧野法務大臣意見を十分聴取して進んで参ったのでございます。私の了解しておるところによりますと、牧野法務大臣はこの問題については相当広い考え方を持っておられる。ときとしては、これらのことについては十分に韓国側の希望をも考慮して差しつかえないじゃないかという広い意見をもっておられるわけであります。それは事実でございます。私はそれを再三聞いたのであります。法務省との連絡は、事務的にはどういう連絡があったかということを私から今つぶさに申し上げることは差し控えますが、大臣同士の間には密接な連絡を持って進んできたものであるということをはっきり申し上げます。  そこで、最後には、先ほど申しました通り、三月三十日の決定のときには、私は法務大臣の居所をたずねたのでありますが、病気のために面会はできませんでした。その後、病気の後に法務大臣が来られて閣議に列席したときには、この問題をさらに詳しく話をし、閣議の問題になったのであります。その際においても、一応これを再確認されたということはこの前申し上げた通りであります。ただし、再確認をいたしましても、大村収容所の問題について、釈放の実際的方法については双方代表委員においてこれを打ち合せるということになっておるのであります。それですから、釈放の実際的方法をどういうふうにやるかということは、閣議決定主題目ではなく、閣議決定を実行する細目でございます。これは事務的レベルで話をしなければなりません。そして、その場合においては、十分に法務省関係当局意見処置等を取り入れて実際的方法を処理いたさなければなりません。さような順序法務省との話を進めておるわけでございます。  以上の点で、私は、大方針としては閣議においてきめ、また関係大臣のところにおいてこれを処理し、その実行方法については担当事務当局の方において十分に連絡調整をする、こういうことが順序であろうと考えて、その通りに進んで参っておるわけでございます。
  11. 猪俣浩三

    猪俣委員 牧野法務大臣松原政務次官もおりませんので、これ以上あなたに質疑を重ねておっても水かけ論になるおそれがある。大事なときに大臣かおいでにならぬのでわかりませんが、それは、大体の傾向として、日本人漁夫を助けようと思うことは世論でありまして、何人も反対じゃない。問題は事務的なことにあると思うのですだから、ばく然たる大まかな点で一つ手を打つということは法務大臣としても考えるであろうし、われわれもえたことでありますが、それにはも う少し事務的に十二分に用意をしてかからなければならぬ。事務次官が全然連絡がないといったようなことで外交交渉をどんどん進めてしまって、言質を向うに与えてしまうということは、私どもは策を得たるものじゃないと思う。どの範囲まで牧野大臣とあなたが打ち合せなされたか、その点が不明でありますが、事が外交問題のことでありますので、もう少し細部にわたってあなたにお尋ねしたいのだけれども、それ以上は遠慮いたします。牧野大臣と打ち合せをした、一つ大まかにやろうじゃないか、それはだれでも言うことです。そんな程度で、もう法務大臣了解したものなりとして、向う代表とどんどん会って、事務的なことまで交渉してしまっておる。この大村収容所には三犯から五犯の犯罪人が二百六十五人、六犯から八犯の犯罪人が七十三人、九犯から十三犯の犯罪人が十八人おるのです。これは治安をつかさどっている法務省としては考えざるを得ないことであろうと思う。元来、鳩山内閣は、外交責任者である外務大臣を差しおいて、農林大臣その他が日ソ交渉に乗り出してみたり、今度は、こういう治安責任を持っておる管掌大臣である法務大臣は何かわき役というか、ほとんど大した相談もなしに、外務大臣がこういう治安に影響あるようなことをどんどん推し進めてしまう。何か私はこの鳩山内閣のやり方にはなはだ安心できざるものがある。あなただって、外務大臣として、日ソ交渉などの場合に妙な他の大臣がどんどんやられたらお困りであろうと思う。同じことですよ。法務大臣をたな上げしたような形で、法務大臣病気であるならば、政務次官があるし事務次官があります。少くとも十二分なる同意の上で事を運ばないというようなこと、これは私は非常な失態だと思う。だから、ほんとうから言えば、一体牧法務大臣とあなたがどの程度相談としたのであるか、再確認というのはどういう点まで再確認をしたのか、将来のことまでちゃんと話しあったかどうか、そこまで聞きたいのですが、それは差し控えておきます。  それで、次にお尋ねいたしますことは、韓国が主張いたしまする李ラインなるものは、一体国際法上これはどういうものでありましょうか。これは条約局長でもよろしゅうございますから、私の質問の前提としてお答え願いたい。
  12. 下田武三

    下田政府委員 李承晩ラインはどういうものであるかという仰せでございますが、御承知のように、国際法上、公海においてある一が一方的に主権を、主張し、または管轄権を主張するということは、現在認められておらないところであります。いろいろ魚族資源の保存その他の必要は認められておりますけれども、ほかの国の国民関係ある公海区域において、ある国が一方的にあるラインを設定して、その中に他国の漁船は入ってはならぬというような立ち入り禁止区域を作ることは、これは現行国際法上まっこうから抵触するものであることは御承知通りであります。李承晩ラインはあるいは平和ラインというような名前で呼ばれておりますが、これは、日本占領時代マッカーサー朝鮮事変に関連いたしまして軍事上の見地からあるラインを引いたことは事実でございます。これは漁業とは無関係、また平和的の目的で航行する船舶とも関係がないものでございます。そのあと李承晩ラインが、単独で御承知のようなラインを引いたというようなことでございます。その国際法上の合法性あるいは不法性につきましては、日本政府見解は、たびたび申し上げておるようにきわめてはっきりいたしておる次第であります。
  13. 猪俣浩三

    猪俣委員 そこで私は外務大臣にお尋ねいたします。全く李承晩ラインなるものは不法なものである。しかもこれは多少アメリカ関係がある。マッカーサーラインなるものをほかの目的で設定した。それを李承晩が受け継いだような形でありますから多少アメリカとも関係がある。そこで、この李承晩ラインなるものは全く不法なものであるといたしますならば、ここに日本漁民が平和に操業をしているのに対して、これを拿捕するということは、日本民族に対する不法攻撃侵略じゃなかろうか。侵略とは国土に上陸することばかりじゃない。国民不法侵害を加えることも侵略であります。わが民族に対する侵害行為不法侵略、しかも、日本保安隊なんかが警備するならば向う海軍が砲撃すると言っている。これは武力攻撃です。こういう場合において、私はあなたにお尋ねしたいのですが、一体日米安全保障条約というものは効力はないものであるか。いわんや、台湾海峡その他はアメリカの第七艦隊が警備していることは申すまでもないことです。韓国といえども、ほとんど日本以上にアメリカに依存している国である。日本政府は特別にアメリカの恩寵にあずかっている政府である。こういう日本民族に対する不法侵略が行われるということに対して、一体日米安全保障条約は何らの効力がないのかどうか。日米安全保障条約というのは特定の国家だけに向けられたる条約であるかどうか。こういう李承晩ラインなる物が不法なものであるならば、そこに働く日本国民不法攻撃して拿捕するということは侵略だと思う日本国民に対する侵略日本国家に対する侵略であると思う。日米安全保障条約の前文には、さような場合には日本の安全を保障してくれるとアメリカは言っているはずである。これに対してどういう御所見があるか、承わりたいと思います。
  14. 重光葵

    重光国務大臣 李ライン設定並びにこれを越えた場合において日本船舶を拿捕する等の行為公海の自由の原則に対して国際法不法であるという見解日本政府はとっているということは、今条約局長の申し上げた通りであります。従いまして、国際的に不法なことを正すために手段をとっているわけでございます。しかし、これが直接に日本国家及び国民に対するいわゆる侵略行為であるかということについては、これはまだ法理的には疑問があると思います。そこで、これが直接に安保条約を援用すべき事態が生じたものである、こう断定が法理上、理論上できかねるのでございます。しかしながら、理論理論として、外交理論だけでやっているわけではございません。国家の利益を擁護しなければなりません。そこで、この問題について法理安保条約を援用してどうするいうわけには参らなくとも、東亜、日本地域安全保障に対しては、米国としては非常な関心を持っているわけであります。また当然のことでございます。そこで、この問題については、十分わが方の態度方針について米国了解をせしめて、いろいろそのあっせんと助力を得ることに努力しているわけでございます。この問題によって日韓国民の間に非常に緊張した感情をかもし出したということは、過去において事例があるのであります。しかしながら、今日のわが政府方針といたしましては、かような問題について、力をもってせず、すべて話し合いによってこれを解決したいという方針を立てておりますから、韓国との間に話し合いをして解決をするために最大の努力を今いたしているのであります。その目的を達するがためにも、米国がこの問題について大きな関心を持っているというその事態を十分に頭に置いて米国側との連絡に当っていることはもちろんでございます。
  15. 猪俣浩三

    猪俣委員 林法制局長官にお尋ねします。今申しましたような、李ラインなる不法なるものを設定し、そこに漁に行っておった日本漁民を拿捕する、しかもこれを守らんとするなら海軍を出動せしめて砲撃する、これは一体侵略でないのか。あるいは、竹島なるものを勝手に自分領土なりと宣言し、そこに砲台を築いて近寄るものを砲撃する、そして韓国切手には竹島自分領土になったという記念としてそういう切手を使っている、そういうようなことは一体日本国土に対する侵略であるのかないのか。そういうことは侵略でないとすれば、一体侵略とはどういうことなのか。それを一つ法制的に御説明願いたい。
  16. 林修三

    ○林(修)政府委員 ただいまの李承晩ラインを越えるものの拿捕についての御質問でございますが、現在の状況は要するに李承晩ラインを越えるものを向う沿岸警察力をもって拿捕するというようなことの事態だろうと思います。こういう事態が直ちに侵略と言えるかどうかということについては、国際法上いろいろ議論のあることだと思いますので、ただいま外務大臣から御答弁がありましたように、直ちにこれをもっていわゆる日本に対する武力攻撃意図をもってやったものと言えるかどうかという点についてはまだ問題があるように思います。従いまして、これをもって直ちに日本に対する侵略なりと断定するだけの根拠と言い得るかどうか、これについてはやはり多少の問題があるように考えるのでございます。竹島については、結局これは、もちろん日本から言えば竹島日本領土と考えているわけでございますが、これを韓国がああいう状態において占有しているということについては日本としては不法なことと考えているわけでございますが、これをもって直ちに日本に対する武力攻撃という意図をもってやったものかどうかということについてはなお問題もありますし、やはり平和的に交渉して解決すべきもの、かように考えるのでございます。
  17. 猪俣浩三

    猪俣委員 大臣にお尋ねしますが、一体日本漁船を拿捕するのは私ども向う海軍だと思っているのですが、これは警察ですか。韓国には一体こういう水上警察なんというものが編成されているのかどうか。海軍であるか、警察なんですか。今、林さんは警察だというような御答弁でしたが、私ども警察と聞いておらない。ことに、軍艦をもって砲撃するなんという警察があるのだろうか。これは海軍だと私は思うのです。いかがですか。重光さんにお尋ねします。
  18. 重光葵

    重光国務大臣 私の承知しておるところでは、朝鮮沿岸防備警察隊、こういうふうに承知をいたしております。しかし、お話通りに、それが警察隊であろうが海軍であろうが、そういう行為日本として認めることができぬことは当然でございます。
  19. 猪俣浩三

    猪俣委員 私どもがこの議論をいたしますのは、巷間に、デマであるかも存じませんが、日本憲法改正、再軍備を促進するためにああいう行動アメリカ了解の上で黙認しておるのである、そこで、日本政府も、あんなまるでいかなる国際法あるいは国際慣習その他から見てもむちゃな行動を、何かあまりはっきりさせない、彼らの言いなり次第になっておる、——竹島郵便切手なんというのはどうなったか、やめたかどうかわかりませんが、そういうふうにして日本の単純なる、素朴なる民衆の自衛熱をあおるその手段に使っておるのだという情報を私ども手にしておる。そこでこういう質問が出るのです。そうじゃないならば、アメリカももっと真剣に考えるべきものである。日本政府もまたアメリカにもっと積極的に働くべきことを要請すべきじゃなかろうか。侵略とは国土に対する侵略のみならず国民に対するものであることは国際法上明らかなことです。何らの悪意のない他国民をいたずらに拿捕して、そうしてこれを裁判にかけて処罰し、その刑が満ちてもこれを釈放しない。片方は自然犯を何犯も犯している人間、それは国際法上引き取るのが当然のことなんです。それと交換にする、こういうむちゃなことが一体今までの外交史上あったろうか。何かそこにこのデマのデマだとみなされない何かがあるのじゃなかろうか。これはあなたに質問したってそうだとは言いませんでしょうが、この李承晩ラインなるものはアメリカの遺産みたいなものです。これに対して一体アメリカ政府韓国政府に何か交渉してくれたでしょうか。それについて日本政府から強くアメリカ政府に仲介をたびたびお頼みしたでしょうか。安全保障条約を結びなさるような精神ならば、まず第一にこれをやらねばならぬのじゃないですか。それを重ねてお尋ねいたします。
  20. 重光葵

    重光国務大臣 米国との関係を重ねてお答えいたします。もっとも、今の御議論は大きな日米韓三国にわたる問題であるのでありまして、前回から問題になっておる漁師を帰す、大村収容所をどうするという問題ではなかったと思うのであります。漁夫帰還の問題については、前回申し述べた通りでありますので、私は繰り返しません。しかし、今お話しの点は、外交上の御質問としては相当重要な問題だと思います。漁船を拿捕することは、日本の軍備を増強するための手段に使っておる一つの国際的策謀によるものではないかという意味のお話がございましたが、そういうことは実は今までいろいろ内密の情報でも私の注意を引くくらいには聞いておりません。おりませんが、今お話がありましたごとく、もしそういうことの片鱗でもあれば、これはまことに重大なことと思うわけでありますが、さようなことは絶対に私どもの取り扱っておる範囲内においてはないということをはっきりと申し上げます。のみならず、先ほど申した通りに、この問題については、米国としては当然のこととして非常に重大な関心を持っておる。これは米国側もその関心を持っておることを表示しておるのでございます。それでありますから、米国側自身においても、日本の言うこともよく聞き、また韓国側の言い分も聞いて、日韓双方においてこの問題についてでき得るならば妥協に達するように、いろいろと韓国側にも説いてくれた事実を私は承知をいたしております。むろん、米国といたしまして、日本の代弁だけをするわけではございません。米国といたしましては、日韓関係から生ずる東亜の平和安定ということが害せられることをおそれて、それを守ろうとして十分に努力をいたしておるわけであります。かような点かち見ても、今ある方面で疑われておるような裏面のことがあるということを信ずることは、私はとうていできないのでございます。それでは、日本政府としてはどういう連絡なり交渉なりを米国との間に持っただろうかということですが、これは一々ただいまここでどういうことをしたかということを申し上げることの自由を持ちません。何となれば、それを言うのには、詳細なことを発表する場合においては一々相手方の同意を求めなければなりません。しかし、こういうことだけははっきり申し上げます。機会があるごとにこの問題については米国側にわが方の立場を十分に理解せしめて、そうして米国側もそれを参考にして、そして全局を救いたいという考え方で動いておる、これだけは申し上げることができるのであります。
  21. 猪俣浩三

    猪俣委員 どうも外交問題の質問というのは非常に困難で、あまり詳しく法律問題できめつけるような質問をしますと、国の全体の利益を害するようになるし、はなはだ困難でありますから、私もある程度でとめたいと思います。ただ、両国が平和になるために第三者に調停を依頼するとかなんとかいうことは、何も恥かしいことじゃない。ことに、私が申し上げたことは、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の前文を見ましても、その精神から言っても、これは韓国侵略だと思うのである。しかも砲撃をするという宣言をしておるとすれば、武力攻撃であります。さればというて、アメリカ海軍を出動させてやってくれという意味ではありませんが、こういう安全保障条約を結んでいる責任上からも、私はアメリカに強く要望していただきたい。ことに、今日本韓国とは条約関係がないのですから、なおさら第三国というものがほんとうに骨を折ってくれなければならぬと思う。アメリカもまた、ほんとうに日本のためを考えるならば、こういう不法なことを韓国側の言いなり次第になっている道理はないと思うのです。今あなたの説明によれば、相当心配してくれているように見えますけれども、われわれ国民としては少し納得いたしかねる。アメリカ態度それ自体に私どもは問題があると思う。竹島の砲台を築いたのなどもアメリカの技師が築いたという情報が入っています。そうすると、何が一体韓国にこういうふうに乱暴な態度をとらしているか、その陰にあやつっている者があるのじゃなかろうかという疑惑が解けない。もしそれがいまだあるとするならば、アメリカのためにはなはだ惜しむことでありますので、日米の国交の関係から言っても、外務省としては何らかの機会においてもっとその間の事情を明白になさる必要があるのじゃなかろうか。かようにアメリカは考えてかように努力しているということを、何らかの形で国民に知らせる必要があるのじゃなかろうか。どうも、今までの経過を見ますと、かような乱暴な処置に対してさっぱりアメリカは動いておらぬように見受けられる。これは私ははなはだ遺憾だと思うので、強く外務省からアメリカを動かしていただきたい。韓国というのはアメリカのロボットであることは世界周知の事実です。アメリカ韓国に相当の忠告をしてくれるなら、こんな問題は立ちどころに解決すべき問題じゃないかと私は考える。これが今日までこうなっておる点について割り切れない感じをわれわれは持つのであります。これは希望として申し上げておきます。  次に、なお外務大臣にお尋ねしたいことは、これは去る金曜日の質問のときもはっきりいたしませんでしたが、将来の保障の問題です。李承晩ラインの問題は、将来の問題となりますと努力するということになりましょうが、密入国者とか犯罪者とかいうものは、今回はやむを得ないとしても、かようなことは国際慣例上明らかなんです。条約があろうがなかろうが、韓国が引き取るということに対して、何か今までの交渉の間に保障があるのかないのか、それとも、これからの釈放してしまってからの問題となるのかどうか、李ラインのこと及び密入国者及び朝鮮人犯罪者引き渡しの問題について一体どういう保障があろうか、外務大臣としての見込みはどうであろうか、これは毎回繰り返されておってはたまらぬことですから、もう一度その点について信念のあるところをお聞かせ願いたいと思う。
  22. 重光葵

    重光国務大臣 韓国側との話し合いは、先ほど申しましたようにすでに発表せられておる通りでございます。そこで、李ラインの問題を将来どうするかという点が御質問の第一点ですが、李ラインの問題は日韓の間において話し合いによって解決をするほかに方法はございません。むろんそれについて米国側の口添え等が有力に働き得るようになるでありましょうし、またそうしなければならぬ、こう考えておりますが、これは本交渉の日韓関係の調節の一つの大きな題目になると考えます。  それから、韓国人である密入国者は、将来とも密入国がありましょうが、韓国には、かような者は将来とも引き取る、こういうことは話し合いはしたのであります。そうして向うに異存はないのでございます。そこで、問題は、戦前と申しますか、独立国になった以前の合併当時の在留の朝鮮人に属する者がどうなるかという問題でございます。これは将来の問題として十分に、これは日本側の、主張がこれまであるのでありますから、その主張を貫徹すべく韓国側話し合いを進めなければならぬ一つの題目だと考えております。
  23. 猪俣浩三

    猪俣委員 もう一点お尋ねしますことは、韓国側では国籍が明らかでないということを引き取らない口実にしておるそうでありますが、これは法律的に見まして国籍というものはすでに明らかである日本人ではなく朝鮮人であるということは法律的に見ても明らかになっておると思うのです。それを彼らは無理を言っておると思うのですが、外務大臣朝鮮人の国籍というものは現在において明らかじゃないと思っていらっしゃいますか、また、これは明らかなことであって、向うが無理を言っておるんだけれども、仕方がないという態度なのか、そこをもう一応お確かめしておきたいと思います。
  24. 重光葵

    重光国務大臣 私はその問題は日韓民族の間に横たわっておる非常な深刻な問題だと考えております。それを、李承晩大統領が常に言うごとく、日韓合併当時にさかのぼって日韓関係を整理しようという考え方は、これは私は行き過ぎておると思います。しかしながら、すべてそういうような問題を、これは日本内地におる者の関係ではありますが、日本側だけの法規、観念によって処理するという主張は、法理的に果してどうかと実は考えております。しかし、それはそれにいたしておきまして、韓国独立後において、日本在留のいわゆる従来の朝鮮の人々が、自分らは韓国人であるということを主張するに急であったということもまた事実でございます。さようなことは、事実を事実として日本側の主張を固める上においては、私は有力なことになる、こう思います。しかし、両国の独立後の間において、まだ御承知通りに国籍の問題は双方の間において解決をいたしておりません。国籍条約はございません。そこで、日本側の主張というものは、有力な事実及び日本側の従来の処置によって背景を持つわけでありますから、私は、これは十分に主張し、これを実現することに最大の努力をしなければならぬ、こういうように考えておるわけであります。
  25. 猪俣浩三

    猪俣委員 私は、その国籍問題は、法律的に相当日本側の主張ははっきりしておると思うのですが、今ここで申し上げている時間がないのであります。そこで、今回外務省が、何としても韓国と友好関係を増進せしめて、日本の拿捕されている漁民を救い出そうという熱意、これは私はある程度まで同情申し上げ、その成功を祈るものなのであります。やはり、多少筋の通らぬところがあっても、両国の親善のために、ある程度だだっこをなだめて、そしてだんだんと友好親善を厚うしていこうというその態度は、私はある程度賛成するのですが、ただ、外務大臣のやり方が、国際関係全体から見て公平を欠いておると私は思う。なぜならは、ある程度の筋は犠牲にしてもまず両国の平和親善関係を増進しようという本来の外務大臣の仕事、そのためには、ある程度のことはがまんしなければならぬということを韓国だけにせずに、なぜソ連の外交にも思い切りなさらなかったか。ソ連との友好親善を増進するあの交渉に、南千島の返還問題などを持ち出したら、ぶちこわれるここは、低能ならざる限り、たいてい常識人にわかることです。また、南千 島、樺太が、国際法日本が権利を主張し得るものかどうか、学者間にも実は異論が多い。学者間にも法律的に見異論の多いところで、私どもも研究してみましたが、相当むずかしい。いわんや、政治的に見て、松本全権が 言っているように、今ソ連と日本の国力関係その他の国際関係から見ても、領土問題などを持ち出したら友好親善なんというものはぶちこわれることは初めからわかり切ったことです。だから、昨年の八月ごろ、すでにソ連との関係はぶちこわす方針なんだということを、朝鮮問題について情報を提供してくれたと同じ人が私に言っております。そんなことはなかろう、今松本さんが行って一生懸命やっているじゃないかと言ったら、いや、そうじゃな い、領土問題を持ち出せばぶちこわれてしまう、領土問題を持ち出せばぶちこわれるのだという予測のもとにやっているんだ、そういう情報を聞かされて、まさかと今日まで思ってきましたが、その通りになってきております。同じ人が私に対して漁民の逮捕問題というものは再軍備の伏線であるということを言うて聞かしてくれている。これも当らざることを願うものでありますが、片っ方は当っちゃったのです。これは法務省の主張する通り筋が立たぬことですけれども、とにかくあなたが韓国と早く友好関係を増進しようという熱心のあまりの場合にはある程度筋の立たぬこともがまんしなければならぬと思うのです。しかし、なぜ逆に日ソの関係については筋の立たぬことを持ち出してぶちこわしてしまうの か。片っ方は筋の立たぬことでも友好関係を進めるためにはがまんするという外務大臣が、片っ方は筋の立たぬことを持ち出してぶちこわしてしまう。公平を欠いていると思うんです。そういう外交方針というものは、私は国民及び世界における信用を落すと思うんです。初めから色をつけて見られてしまう。私どもはそういう態度をとるべきものじゃないと思うこれは意見の相違になるかも存じませんが、今回の韓国の問題に対処せられるような外務大臣の腹がまえで日ソ交渉なんかもすべきであった、それについてはなはだ遺憾であるということを、これは私は息見として申し上げておきます。あなたに弁解があるならばお聞きしてもいいですが、時間がないから意見として申し上げておきます。
  26. 重光葵

    重光国務大臣 答弁を要求されたわけではございませんが、外交問題としは非常に大きな問題でありますから、私は一言申し上げておきます。日韓関係を何とかして正常化していくということは、日本の対外方針、特にアジア問題に関する処置の第一歩として重大視しておる、こういう全局のことについては御賛成を得たわけでありますから、私はその点は非常に感謝いたします。ただ、筋の通らぬことをやっておると申されますが、私は筋はきわめてよく通してやってきておるつもりでございます。しかし、御批評はいろいろございましょう。私はこれ以上申し上げることは差し控えます。そこで、対ソ問題、これはさらに大さな問題に相なります。対ソ問題においても、趣旨は同じ趣旨で私はやっております。領土問題を出したらいかぬと言いますが、一体領土問題を少しも解決しないで対ソ関係が平和正常の関係に復することができましょうか。私は、そういう大きな問題については、根本の了解がなくては、正常関係は紙の上でこしらえてみたってできるものじゃない、日ソ関係は実質的に正常関係を樹立して、そして平和安全に貢献したい、こういう考えを持って進んでおるのでございますしかし、お話通り領土問題について意見が最後的にはまとまらなかったことは事実で、それで自然休会になったわけであります。しかし、これは、いわゆる決裂というようなことではち合せをしたわけではございません。まあ一つ双方ともよく考えてみようじゃないかというふうにして別れたのでございますから、今領土問題をこっちが取り下げて、そして、ごもっともだから、向うのそのまま、おっしゃる通りだ、こういうふうな時期にはまだ達していないと思います。それだから、何もこれをぶちこわそうとか、そういう考え方ではございません。これは日にちをかけても双方国民了解するところにこれを落ちつけていきたいという熱意意を持って進めていっておるわけでありますから、今お話しの通りの大局的の御趣旨とは決して相反するものではないのであります。私もそういう考えでやっておることを申し上げて、お答えとするわけじゃございませんけれども、一言私の考え方を申し上げます。
  27. 猪俣浩三

    猪俣委員 時間がないので、その点はこれで終ります。  なお、これは外務大臣意見だけ簡単にお聞きしておかぬといかぬと思いますから、お聞きして、あとは詳しいことは他の方にお尋ねしたいと思いますが、それは沖繩の問題です。沖繩には残存主権があるということは明らかになっております。そこで、残存、主権とは何ぞやということが相当問題だと思いますが、しかし、沖繩住民は日本国籍があり、日本国民だという考えをわれわれは持っておる。しからば、沖繩住民に対する国家の保護権というものがあると思うのです。アメリカの施政権の範囲において減縮せられておりますけれども国家の保護権というものがあると思う。もし沖繩の人たちが他国に滞在している場合、一体これは日本の大使館が世話すべきものであるか、あるいは施政権者であるアメリカの領事その他が世話するものであるか、一体残存主権の中に日本国家の沖繩住民に対する保護権というものがあるのかないのか、その点について大臣の御所見を承わりたいと思います。
  28. 重光葵

    重光国務大臣 その御指摘の点は私は相当国際法的に見てむずかしい問題だと考えます。しかし、沖繩に関して潜在主権を米国自身も日本に対して認めておるわけでございます。しかし、統治の態様——立法、司法、行政の権は米国がこれを行なっております。しかし、潜在主権を日本が持っておるという建前で日本は当然それを主張するわけでございます。そこで、そのために日本は沖繩の住民に対して保護権を持っておると解しておるわけでございます。従いまして、沖繩の人々が外国において保護を要する場合においては、日本の出先外交機関は従来の通りにその保護に努力いたしておるわけでございます。これは、国際法学者の議論を世界的に問うてみると、どういうふうな結論になるかということはまだ十分に私にはわかっておりませんが、私はそういう工合に解釈して、そういう工合な処置をとっておるわけであります。これすなわち、米国側が沖繩においていろいろやっておることについて沖繩民の不満がある場合においては、でき得るだけ日本側においてその不満のないように処置すべくあっせんの労をアメリカ側にとっておるわけであります。これは法律関係ではございません。そうすることが当然沖繩人に対する日本態度でなければならぬ、こう考えてやっておるわけでございます。
  29. 猪俣浩三

    猪俣委員 今重光外務大臣にもっと詳細に聞きたい点があったのですが、きょうは時間がないということで、私ども大臣に聞くことができませんでした。大村の収容所の問題で、法務省治安関係から無条件でこの前科者を釈放することに難色を示されている、これはもちろん責任官庁として当然のことだと思うのです。ところが、今外務大臣説明によると、法務省了解の上でだった、こういうことでありました。ところが、その了解したというのが三月三十日の閣議であって、しかも牧野法務大臣出席なしで、松原政務次官出席しておって了解したのだ、こういう話だ。しかるに、四月六日の当委員会における松原政務次官答弁はそうじゃないと思う。了解しておらぬ答弁である。また、岸本事務次官答弁は、外務省から連絡がないのだという答弁を当委員会でなさった。さっぱりわけがわからないのです。松原政務次官の口吻を見ますならば、法務省が十二分に了解したとは思われない。そこで、一体閣議決定とか法務大臣了解というのはどの範囲なのですか。あるいはまた、法務省はどういうところが反対であるのであるか。全面的に外務省に賛成してきたのであるか。当法務委員会法務省政府委員の訴えを筋の通ったものなりとして支持する空気で今日まで来ているのに、外務省不離一体をなしているような形になるのか。どういうことになるのですか。皆さんの説明はちょっとちぐはぐである。そこで、松原法務政務次官から、閣議決定というのはどの範囲でされたのか、そうして法務省外務省が妥結したというのはどの範囲で妥結したのか、今外務大臣説明によれば、大綱はきまったが、事務的なことはこれからだというのですが、それは相当ごまかしのある答弁であると思うのです。収容している者を釈放するかしないかというようなことは事務的なことではないのです。これは根本方針でなければならぬ。将来またどうするかということも根本方針でなければならぬ。それを、そういうことは事務官僚があとでやる。大綱はきまったのだと言うのはごまかしの答弁だと思うのです。そこで松原政務次官の良心ある正直な御答弁を伺いたいと思います。
  30. 松原一彦

    松原政府委員 お答えを申し上げます。  三十日の閣議におきましては、出席閣僚はあのとりきめを了解したということでございました。法務大臣代理として私が出まして、即刻この了解に同意を求められましたが、これは重大問題でございますので御同意申し上げかねます。いずれ法相の意見も聞いた上であらためてお答えを申す、かように申しまして、官房長官もこれを了とせられて、法務省に関する限りは後日あらためて外務省との間に交渉せられたい、他の閣僚の了解のもとにこれを同様に了解するかいなかをきめられたいということで、私は引き下ったわけでございます。大臣にも意見を病床に求め、省内における意見も取りまとめまして、翌日私は外務大臣をたずねしまて、一日も早く漁夫を引き取りたい、日韓両国間における国交を正常なる軌道に乗せたいということを念願する点において私どもは全く異議はない、どうか一日も早く御成功を祈る、ただし、漁夫大村に収容中の四百二十人の刑余の人々をば交換的に釈放するということにつきましては非常に疑義がある、これは釈放すべき理由があっての釈放であるならば認められますが、もし国籍に対しての疑義があるということになると、従来そういうふうになっておりませんから、国籍問題には触れないで、仮放免という法律に条項がございますが、その仮放免の条項を拡大して一時的に収容所の外に出すということであるならば、これは外交調整のために御同意申します。しかし、国交が回復すると同時に、つまりとの交渉が妥結すると同時に、今後は国際慣行に従って刑余の人々はすべて先方が引き取ってくれるということだけは確保しておいていただきたい、こり二点について希望を申し述べまして引き下ったわけでございます。私はこの希望はいれられたものと信じておるのであります。ただし、外務大臣としのお答えは、最後のその実行方法につきましては委員をあげて事務折衝をするということであるから、その際に極力諸君の希望に沿うように努力する、こういうことでございました。  私どもは、大村に収容しておる四百二十人という刑余の人々の収容は、従ってどこまでも国籍は韓国籍であるいう条件でなければ収容できないのであります。もし国籍不明の者であれば、監禁しておればこれこそ、不法監禁になります。また、韓国国民であるというがためにこそ外交手段に訴えて韓国政府はこれに釈放とかいうような要求を出すのでありまして、国籍のない者に対してさような要求をするわけはないと私どもは信じておるのであります。従って、韓国籍というものは、日韓併合そのものが間違っておったという彼らの主張の上に、独立とともに自動的に取得したという今日までの主張、しかも、一方には、血統説をとって、血筋のある者はすべて独立した朝鮮国民である。こういうことになっておりますので、それに伴って私どもの方では日本の国内法、出入国管理令に従うて指紋をとって登録いたしております。本人たちもみな承諾しておる。それが六十六万七千人すでに登録済みであります。従って、外国人として今日までその登録に苦労して管理いたしておるという点で、今もし釈放によって永久国内に居住することができるというようなことになりますと、これはゆゆしき大事であります。私どもは決してこの日韓交渉をば否認するものではなく、一日も早く進めてもらいたい、そして両国の間に自然な交流が行われるようにいたしたいという念願を持っております。しかし、国内法を破るわけにはいきません。出入国管理令の第五十四条にあります仮放免という条件付で放免せられるという条項もありますので、その範囲内においてこれを最大限度に拡大して、そしてできるだけ交渉がすみやかに妥結するように努力いたしたいと今もなお考えておる次第でございます。
  31. 猪俣浩三

    猪俣委員 先ほど私の国籍問題に対する外務大臣答弁ははなはだあいまいなものであって、その間どうも法務省と相当意見が違っておると思う。だから私は念を押したので、これは法律的には全部韓国人であり、国籍は明らかになっておるはずである、それに対してどう思うかと言ったら、どうもあいまいな答弁だったと思うのです。——あとで速記を見てみないとわかりませんが。  そこで、今の政務次官のお説のように、これを明らかにしないと後日に災いを残すと思うのです。なお、法務省としては外務省に厳重に交渉なさって、法務省外務省見解を一致せしめて韓国交渉に当るよう御努力願いたいと思いますが、それに対する松原次官の決意のほどを承わりたいと思います。
  32. 松原一彦

    松原政府委員 外務大臣外交的・交渉をなめらかにかつすみやかに行わしめるという意味におきまして、外務省からの御要求もございましたために、法務省としましては、この交渉における委員として、入国管理局の内田局長と戸籍法に関しての専門家である平賀参事官の二人をば委員としてすでに文書をもって先方に通達いたしております。この二人が交渉の間に立って、今後災いが後に残らないような手段をとるものと確信いたします。
  33. 猪俣浩三

    猪俣委員 なお、条約局長及び林法制局長官が見えておられますから、一、二点沖繩問題を簡単にお尋ねさせていただきたいと思います。  実は、今外務大臣は沖繩住民に対する保護権は日本が持っておるということで、残存主権は領土主権のほかに人民主権もあると思いますので、私は外務大臣見解は正しいと思うのであります。されば、アメリカの施政権と衝突しない範囲においては日本の国権が沖繩の住民に及ぶと思うのであります。しかるに、実際の出先官憲のやっておることは、この趣旨が徹底しないところがあるのではなかろうか。これはもう旧聞に属することで、私が当法務委員会で一ぺん質問したことがあるのでありますが、沖繩の漁民が非常に生活難にあえいで、全財産を売り払って船にかえて、乾坤一=生活のために遠洋漁業に出ている。それが運悪くしけにあって、インドのどこかに漂着して、インド官憲につかまった。そして密漁の疑いで監獄へぶち込まれた。この三十四人の日本の漁師のことについて日本の領事館に交渉しても、総領事は、これはアメリカの統治権に服している住民だから自分の方は手出しができないと言ってほうっておく。アメリカアメリカで、沖繩というのはアメリカ国民じゃないのだからと言ってほうっておく。そこで、弁護士もつけず、何人も弁護する者なくして半年以上もインドの監獄へ留置せられ、インド人のバル博士という人が同情して救援運動を行なったということが新聞に出ております。そこで、私は、インドなどに参りました沖繩の住民の保護権がどこにあるのかという問題を明らかにしてもらわなければならぬと思う。外務大臣はああいう答弁をしましたが、事実は違っておる。外務省としてはこれに対していかなる統一的方針のもとに出先機関を指揮しておられるのであるか、外務省方針を承わりたいと思います。
  34. 下田武三

    下田政府委員 沖繩の住民につきましては、サンフランシスコ平和会議のときから、吉田全権は、沖繩人は引き続き国籍は日本人であることを認めてくれということを米英に申しまして、米英の賛同を得ておるわけであります。つまり、領土に対する潜在主権は日本が持ち、また住民については日本人として待遇するということについて了解ができておるわけであります。ただ、現実におきましては、沖繩における立法、司法、行政のあらゆる施政権を米側が持っておりますために、第三国において沖繩人を保護する場合に、どうしても現実の施政を行なっておる者の手でなければ保護し得ない問題がございます。もちろん、日本の恩給を受け取るとか何とかいうことは当然日本側においてするわけでありますが、出漁許可を与えるのは日本の官憲でなくて米当局の許可で与えられておるわけであります。筋道といたしましては、実は日本外務省の出先も自分責任のある問題ではないのでありますけれども、しかし、そういう筋道は度外視しまして、できる限り日本人としての保護を与えていこうというのが外務省方針でございます。ただいまお話しのインドにおける事例も、出先から直ちに報告が参りまして、そして日本政府の担当局であられる南方連絡事務局の方に移牒いたしまして、保護の手段がとられておるというふうに伺っております。
  35. 猪俣浩三

    猪俣委員 この件はどういうふうになったのですか。昨年の暮れには十八人だけ帰国したという報告を私聞いておりますが、その後の経過を聞いておらぬ。三十四人逮捕監禁せられておる。それをみな日本の官憲が世話して助けたようなあなたのお話ですが、全部帰ってきたのですか。その後どう なったのか、その報告が今できましたらしていただきたい。私は質問の通告をしておりませんでしたら、今直ちに答弁できなければ次回でもよろしゅうございます。この三十四名の運命がどうなったのであるか、それを御報告願いたいと思うのです。
  36. 石井通則

    ○石井説明員 南方連絡事務局におきましては、外務省の在外公館で細部にわたってどう取り扱われるかについて、十分その実情はわかりませんが、ただ、そういう沖繩の人が南方方面の外国の難船したりあるいは不法入国いたしました場合におきまして、当該国が沖繩に送還命令をやることがまま起っておるのでございます。その場合に、日本の在外公館から外務省に通報がございまして、外務省から南方連絡事務局に移牒せられます。そういう人たちは、直接沖繩に帰る便がございませんので、在外公館が非常なあっせんをせられておったようでございまして、その外務省からの連絡によりまして、私どもの方といたしましては、船会社等と連絡いたして、どういう船で引き取ってもらうか、また、日本本土の港に着いた場合におきまして、沖繩にどうして送るかということの細部のお世話をいたしております。従来そういうお世話をした事例が相当ございますのでありますが、御指摘の事件に関しましては、確かに新聞紙上に何か出力機関の世話が不十分であったというような話が載っておったように記憶いたしますが、それに対しまして、いろいろ詳しい情報を聞きましたところか、在外公館で非常にお世話になったこいうことが明らかになったのでありまして、その場合に、そういうことを話された人も、たしか、こういう事情で在外公館が非常に世話をしたということを話したはずでございます。そうして、そのときに、カルカッタと思いますが、仰留された人たちは、全部二回ないし三回にわたりまして一応日本本土に引き取り、直ちに沖繩に無事に送還いたしたのであります。その際に、その送還された人たちの話も聴取してもらいましたですが、日本の在外公館の取扱いにつきまして非常に感謝しておったのでございます。万事解決いたしたのでございます。
  37. 猪俣浩三

    猪俣委員 了解いたしました。  それから、国家の保護権は沖繩住民にもあるのでありまして、沖繩住民が外国にいる際ははっきりしますが、沖繩にいる際におきましては、施政権がアメリカにありますから、思うように日本の保護権が直接行われないとは存じますけれど、アメリカ政府日本国民としていわゆる善政をしくような要求は当然できるはずだと思うのです。私が先年中国へ参りました際に、沖繩の飛行場で十月でありますか、一時間半ばかり滞在したときに、沖繩の新聞記者が三、四人やって参りまして、もう実にひどいことが起ったと言う。何であるかと言ったならば、アメリカの兵隊が六つになる女の子を強姦して殺してしまって、全島は火の玉になって怒っている、こういうことを聞かされた。何とかしてもらいたいと、行きにも帰りにもその訴えでありました。そうして、至るところに強姦、傷害が行われ、自動車やなんかにはね飛ばされて死んだのは全部そのまま犬死にになっている、一切何らの弁償をしておらぬという陳情を受けたのであります。今日私の手元にはっきり住所、姓名、年令、事犯、全部書きましたものが二十件も参っております。今ここで一々御披露するのは大へんでありますから、いずれ文書にして委員会に出そうと思うのでありますがことに、さようなアメリカ兵が夜住民の住宅を龍撃して参ります。それを助けようとする警官をみな射殺している。こういう件を日本政府は知っておるのか知らぬのか。南方連絡事務局でやっていらっしゃるとすれば、一体こういうケースが耳に全部入っているのかどうか。まず、その代表的なものとして、九月四日、永山盛吉長女由美子、六才がハートという軍曹によって嘉手納の海岸に拉致せられ、暴行の上殺された、こういう事実が一体あったかないか。あったとするならば、それはどういうふうになったのであるか。日本政府はいかなる手を打ったのであるか。
  38. 森治樹

    ○森(治)政府委員 昨年九月に発生しましたただいま御指摘の事件は、私どもの方で南方連絡事務局の方から御通報を受けました。そこで、アメリカ政府に対しまして、十月十五日に、この種犯罪が再び繰り返されないように万全の措置をとられたい、しかしてまた、こういう行為によって琉球の人々が受けた損害の賠償をせられたいという趣旨の申し入れを行なっております。その後本件は琉球米国当局から、九月になりまして琉球政府主席に書簡が出されておりまして、この中で、米軍当局は被害者の父兄に遺憾の意を表明するとともに、この種事件を今後絶対に起さないようにするということを繰り返し述べております。その後本事件は、裁判が沖繩の人々の非常な希望でありましたように公開で行われまして、米兵被告二名のうち一名は無期懲役、一名は死刑の判決が下っております。
  39. 猪俣浩三

    猪俣委員 死刑の判決が下ったことは承知しておりますが、これは全部本国に送還するらしいのであります。それですから、島民は、本国に行って釈放するのだろうという考えを持っている。一体死刑が執行されたかどうかというようなことを日本政府として質問する権利があると思いますが、死刑がただ言い渡されただけで、本国に帰されたらどうなるのかさっぱりわからぬ。その死刑の言い渡し後どうなったか、その後の状況はどうです。
  40. 森治樹

    ○森(治)政府委員 この結果に関しましては、ただいま御指摘の通りに、控訴審査はワシントンの軍事法廷で行われるものと承知しておりまして、その結果につきましては、日本政府としてはいまだ通報を受けておりません。
  41. 猪俣浩三

    猪俣委員 今まで幾多の犯罪があるが、みな本国に連れていってうやむやになってしまっている。今、日米関係は友好関係にあるのですから、こういうことこそ厳重なる調査報告を求める権利があると思う。それに対しては、今まで幾多事件があるけれども、ただ向う裁判したというだけの報告で、あとどうなったかさっぱりわからぬ。これはもっと外務大臣質問すべき事項かもしれませんが、だから憤激がおさまらないのです。これはアメリカのためにもマイナスだと思います。自今こういうことをしないと言うても、九月四日に起る、六日に起る、十一日に起る、十二日、十四日みな起っております。十一日のごときは、三、四人のアメリカ兵がある農家へ入って雨戸をたたいて、これは所番地から、住所から、みなわかっておりますが、その又吉カメという人のうちの家族がこわがって裏から逃げたら、火をつけて焼いてしまった。こういう殺人、暴行、放火、数限りなくしておる。じゃ、もう一ぺん聞きましょう。十一日の午前二時ころ具志川村の西原区七班の又吉カメという宅に白人兵が押しかけて放火したという事件は報告になっていますか。
  42. 石井通則

    ○石井説明員 沖繩の現地における犯罪行為等につきましては、いろいろ、またたびたび起っておるようでございますが、南方連絡事務所といたしまして、いわゆる現地住民に対しましては政治的あるいは行政的な管轄を持っていないものであるということで設置されておりまするので、現地のそういう行政につきまして詳細なる調査をすることができないのでございまして、ただ、その重要な事項に関しましては、相当広範囲にまた大きく影響がありまするので、新聞報道等を参考にいたしまして、できるだけ実情を把握し、必要に応じて外務省に情報を提供するとともに、またアメリカ側への話し合いをしていただくようにお願いをいたしておる次第でございますが、御指摘の事件に関しましては、私、まだ情報を得ておりません。
  43. 猪俣浩三

    猪俣委員 この問題についていま一点お尋ねしまして打ち切りたいと思います。  今の事件については情報を得ていないということですが、いま一つ、情報を得ているかどうか、私はためしに聞いてみます。昭和二十七年三月十六日の晩、那覇市十区十二組の浮島ホテルのダンス場で白人兵同土の集団けんかがあった。その際に仲裁に行きました警部補の比嘆兼才というのがジャック・ナイフで刺されて惨殺されておる。この事件は報告されておるかどうか。
  44. 石井通則

    ○石井説明員 南方連絡事務局は昭和二十七年の八月に設置されたものでございまするので、その当時は現地に日本政府の機関はなかったわけでございます。そのために、その情報はあるいは新聞、雑誌等で読んだことはございますけれども、詳報を得ておりません。
  45. 猪俣浩三

    猪俣委員 委員長、この問題は私はまた時期を見て別なテーマでもっと詳しく聞きたいと思います。たくさん材料が来ておりますから。本日はこれで打ち切りたいと思います。     —————————————
  46. 猪俣浩三

    猪俣委員 委員長、この問題は私はまた時期を見て別なテーマでもっと詳しく聞きたいと思います。たくさん材料が来ておりますから。本日はこれで打ち切りたいと思います。
  47. 高橋禎一

    高橋委員長 次に、法務行政及び人権擁護について調査を進めます。すなわち、京都地検における犯人誤認問題について法務省より調査の報告を求めます。横井君。
  48. 横井大三

    横井説明員 それでは、ただいまから京都のいわゆる五番町傷害致死事件につきまして、現地に参りまして調査いたしましたので、その結果の概略を御説明申し上げます。  まず、調査いたしました日時は四月十二日でございます。これは、真犯人と称します佐藤久夫が検察庁へ出頭しましたのが四月四日でありますから、約八日たってからでございます。調査の場所は京都地方検察庁及び犯行の現場でございます。事情を聴取いたしました人は京都地検の検事正熊沢孝平氏、同次席検事泉正憲氏、同公判部長の中沢良一氏、この方は最初に検察庁としてこの事件の捜査をされた方であります。事件は少年事件であります。が、当時少年係が病気欠勤中でございましたので、前少年係ということで中沢検事が担当されたようであります。次に、京都地検の検事の早川勝夫氏と森島忠三氏、早川勝夫氏は現在佐藤久夫について調査中であります。その主任検事であります。森島忠三氏は公判担当の検事であります。以上が検察庁関係でございまして、次に、警察関係では、京都の警察本部の刑事部長の揚子春秀氏、監察課長の黒田新一氏、以上が警察関係で、最後に、京都家裁の調査官三省、渕上雄二氏、塩見雅弘氏、川口誠三郎氏であります。この方々から事情を伺いまして、さらに、公判記録、保護事件の記録等をざっと見て参ったのであります。  調査の目的は、第一に、宋外三名を傷害致死の犯人として起訴した事情はどうなっておるかという点と、西村外二名を偽証罪で検察庁で調べまして、うち二名を逮捕した事情、この二点に集中いたしまして調査いたしたのでございます。  調査の結果、まず、宋外三名を傷害致死の犯人として起訴した事情でございますが、現在までのところ、みずから傷害の犯人として検察庁へ出頭して参りました佐藤久夫の供述は大体間違いないように思われのるでございます。なお、持参いたしました凶器、服等の血痕につきましては、鑑定中でございまして、鑑定の結果は出ておりませんが、供述の裏づけ捜査をいたしておるところでは、現在までのところほぼ傷害の犯人と思われるという状況にございます。従いまして、検察官が宋外三名を傷害致死の犯人として、ことに宋を実行行為者として起訴いたしましたことは、結果的に間違いであったように思われます。  しからば、どうしてそういう間違いが起ったかという点でございますが、それには数個の事情がございます。簡単に申し上げますと、宋外三名の現に被告になっている者が犯行現場におったという事実が、これは間違いない事実として現在でも確定しておるのでございます。さらに、宋外三名が被害者木下治外三名となぐり合いをしておったという事実も、これも間違いない事実とされております。次に、宋と浜田の服装に被害者の血痕が付着しておった、これも事実であります。現在起訴されております四人の被告のうち二人が、これは浜田と山本らしいのでありますが、その供述といたしまして、宋があの傷をつけたように思うという供述をいたしておるのであります。これは警察ばかりでなく、家庭裁判所におきます審判調書あるいは少年の供述調書にもそれが出ております。それらの事情を考えまして、検察官は、傷害を加えた犯人はこの四人のうちのだれかである、いろいろの事情から宋が現実にやったのではなかろうかという心証をとりました。それで四名を暴力行為及び傷害致死の犯人といたしまして起訴をいたしたということでございます。なお、宋は警察で自白しております。この自白も一応考慮いたしておるのは当然でございます。検察官は、しかしながら、宋は自白しておりますものの、その凶器の処理について明確を欠いておる、——宋の供述によりますと、警察では、凶器は初めマンホールへ捨てたと言い、マンホールを調べてみますと、それが出てこないその後宋の供述は十数回変わっておるようでありますその十数回の供述に基まして、捜査も十数カ所行なったのでありますが、ついに出てこない。従って、検察官といたしましても、宋の自白には一応の疑いを持っておったのであります。しかしながら、先ほど申し上げましたいろいろな状況から、やはり宋を傷害の下手人と考えざるを得ないという観点に立ちまして、事件は少年事件でございますから、刑事処分相当の意見を付しまして家庭裁判所へ送った。同時に凶器の行方をなお捜査を続けるということになったようであります。家庭裁判所はどうしたかといいますと、約一カ月間宋ほか三名を鑑別所に収容しながら調査を行なったのでありますが、家庭裁判所の調査は、主としてこの四人の少年の環境とか性格というものに主力が注がれたようであります。傷害致死の事実の確定は、一応四名の少年に当ること、保護者等に聞くことにとどまったようであります。その結果、家庭裁判所といたしましては、宋には本件のほか暴行とか恐喝等十九に及ぶ余罪がありまして、前に数回家庭裁判所へ送致されておる少年である、山田には窃盗及び詐欺について過失四回にわたって家庭裁判所へ送致された事実がある、山本も暴行、窃盗などで三回、浜田も窃盗等で二回、いずれも家庭裁判所に過去に送致されてきた少年であるということ、さらに、被害者木下治の両親が、加害者はだれであるかということに非常な関心を持ちまして、家庭裁判所へ参りまして、その確定を強く要望しておったという事実があるようであります。それらの事情から、家庭裁判所といたしましては、宋ほか三名、ことに宋には傷害致死の主犯として、なお凶器が出て参りませんために多少の疑問は抱いておったようでありますが、しかし、宋に疑いをかけるかなりの理由もあるというところから、その黒白を家庭裁判所できめるよりも刑事裁判所できめる方が適当であろう、こういうお考えから、事件を一括して検察庁へ逆送してこられたのであります。そこで、検察官は、この家庭裁判所における取調べと従来の捜査の結果を総合いたしまして、凶器が出てこないということについて依然として一応の疑念は持ちながら、裁判所の判断を求めるという意味で公訴を提起した、こういうような事情にあるということであります。  この結果を、現在真犯人と称する男が出て参りましたのと比べてみまして、このような間違いが起ったのは一体どこにあるかということでございますが、これはあるいは私の判断になろうかと思いますけれども、三点ばかりあるわけでございます。  一つは、佐藤、つまり新しく出て参りました真犯人と称する佐藤が、木下治と、つまり本件の死亡した被害者でございますが、木下治と犯行直前その付近の一力というところで最初にけんかをしておる事実があるのであります。もしこの佐藤が木下治とけんかをしておる事実が当時明らかになりますと、佐藤という人物が捜査線上にくっきり浮び上ってくるはずであった、こう思われるわけであります。それがそこまで聞き込みが及んでおらなかった結果、後に佐藤と申しますか、そういう格好をした人間が傷害の現場付近に現われておったということがちらちら供述の中に出て参りますけれども、それがいつのまにか立ち消えになっております。もしこの犯行直前一力において木下治とけんかをしておった人間があったということになりますと、その点がもう少しはっきりしてきたのではなかろうかと思われるわけであります。  その次は、やはり真犯人と称しまする佐藤が犯行直前及び犯行直後立ち寄った酒場なのでございますが、これが現場から多少離れておりますが、そう遠くないところに酒場がございます。その酒場に勤めております女が、犯行直後佐藤が参りまして、そして犯行の現場を見てきてくれとこう言って、その女が見に行きましたところが、救急車で被害者をつれていったということを言っておる。そうしますと、この酒場まで聞き込みが及んでおりますと、佐藤という人間がもっとはっきり浮び上っておったはずであろう、こう思われるわけであります。なお、当初から仲裁人と称する人間が犯行の現場に現われてきておりますので、これが現われたり消えたりいたしておりますが、もう少しこの人間の追及をやっておくべきであった、こういう感じがいたすわけであります。  これらの三点がもし十分行われておりますと、あるいは結果は先ほど申し上げましたことと変ってきておるのではなかろうか、こう思われるわけであります。それから、捜査の過程において人権じゅうりんの事実があったかどうかという点でございますが、これは、私が聞きました範囲内におきましては、まだはっきりした人権じゅうりんの事実というのは現われておりません。ただ、私が聴取いたしましたのは、先ほど申し上げましたように、国警の警察本部の刑事部長と監察課長でございまして、この説明からは出てこないということでございます。それから、監察課長は、なお現在人権じゅうりんがあったという被告人らの主張に基きまして鋭意調査中であるので、その結果を待たなければ自分としてははっきりしたことは申し上げられない、こういうことを申しておりました。  これが第一のあやまって起訴した点についての私の見て参りました事情でございます。  次は偽証の点でございます。これはかなり微妙でございますが、従って私の説明があるいは不十分な点が出てくるかと思いますが、その点はあとから補充いたすことにいたしまして、どういう事情で検察官は偽証と考え逮捕までするに至ったかという点でございます。  まず、昭和三十年十一月十七日に、偽証と考えられた被疑者の一人佐藤和代が、公判廷におきまして、事件当時鍋町通六軒町のかどの公衆便所で何か洗っている人を認め、氏名不詳の友人から、あれは刃物を洗っていたのだということを聞いた、こういう証言をいたしました。もう一つ、犯行現場へ行きます途中で、白シャツ、黒または紺のせびろ、帽子着用の男と出会いがしらに衝突した事実がある、こういう証言をいたしました。この男が犯人ではなかろうかというのをつけ加えております。それから、この証言は公判記録で見ましたが、かなりぐらぐらしておりまして、あいまいな点がございます。従って、検察官としては、この段階では偽証の疑いを持ちながら何ら新しい手を打っておらないようであります。  ところが、三十一年、ことしの二月十六日に、村松泰子という者が法廷に出て参りまして、犯行当時、犯行現場付近の公衆便所で凶器、日本手ぬぐい等の血を洗っている男を目撃した、その男の服装を詳細に述べまして、さらに、洗っていた模様につきましても事こまかに供述しておるのであります。そこで、裁判所は、その供述が終りました直後、便所の位置を確かめるために村松泰子を伴いまして検証いたしました。ところが、その村松証人の指示しました便所は、新しく真犯人が出て参りまして指摘した便所の位置と非常に違うのであります。真犯人と称する佐藤が指示いたします便所は仁和寺街道六軒町通のかどになるのでありますが、村松証人の指示いたします便所は下立売通七本松通のかどであります。最初の六軒町通の公衆便所かどうかということを見せましたら、そことは違うとはっきり証言したようであります。そこで、検察官としては、とにかく、もし村松証人の指示するような場所の便所であれば、その採光、つまり光の工合から言って、そんなにはっきり犯人が手を洗っている模様なり持ち物なり詳しく見られるわけがないということ、しかも、その犯人の服装が非常に事こまかに述べられておるというところから、佐藤の証言とこの村松の証言との間にも食い違いがある、それらを総合いたしまして、いよいよ偽証の疑いを濃くいたしました。  そして、村松証言の後約一週間たちまして佐藤を呼びまして、任意の供述を聞いたわけであります。佐藤は、ある程度供述を合せた、それは西村という者に頼まれた、こういういわば偽証の「目白をいたしました。公判廷での供述全部がうそであるというのではなくて、自分の見たところにある程度西村から頼まれた粉飾を加えて述べた、こういう供述をいたしました。  そこで、今度は西村の逮捕であります。西村も、主たる点はもちろん偽証を教唆したとは申しておりませんが、ある程度供述を合せることを依頼したようなことを述べております。そこで村松の逮捕ということになりました。村松の逮捕されましたのが三月二日でございます。三月二日に村松を逮捕いたしました。そうして西村、村松その他関係者を検察官としていろいろ調べたのでありますが、この数名の者がそれぞれ自己の認識した部分に幾らかの脚色を加えて法廷で述べておるというところまではそれぞれの供述から出ててるのでありますが、本質的に公判廷における供述が全部うそであるというような状況は出てこなかった。そこで、検察官としては、疑いを持ちながら、これ以上の偽証の追及は困難であるというところで、三月二日に村松も西村も釈放した、こういうことになっております。村松は逮捕請求が三月一日の午後十一時ごろであります。逮捕状の出ましたのが三月二日の午前一時ごろであります。その日のうちに調べまして釈放いたした、こういう状況になっております。  以上のような事情に徴しまして、偽証関係につきましては、はっきりしたことは実は私にもわかりかねたのでございますが、犯行現場近くにおきまして、佐藤なり村松なりがある程度事実を経験したことはあるのではなかろうか。ことに、仲裁に入りましたと称せられる真犯人らしい佐藤であります が、これは、木下治という被害者と、それから浜田、山本という本件被告人とが相対峙しておりましたときに、一定の服装をいたしまして、中へ入って参りました。そこで、浜田は大体この真犯人と称せられる男の服装についてどうやら認識があったと思われる。その認識に基きまして浜田が母親に話した。浜田の母親は、目分のむすこはどうも犯人じゃない、こう考え、そこでだれかそういう服装をした人間を見たことはないかといろいろ探すわけでございますが、たまたま佐藤がそのときにかどで男の人にぶつかった。それは白いシャツを着ておった。そこで、それに上着を着せるといったような工作があったのではなかろうかと思われるわけであります。         なお、便所で血を洗っておったという点でございますが、これは佐藤和代自身は見ておらないが、便所で何か手を洗っているらしい人間を見たというだけで、それは友人から聞きますとドスを洗っていたということになるわけでありますが、一方村松は明確に、場所は違いますけれども、ドスを洗っておった人間がおった、こういうことになってきますので、あるいはだれかがどこかで犯人が洗っておる状況を見まして、それが浜田の母親なりだれかに聞えまして、そういう形になっていったのではなかろうかと思うのでありでます。  以上が、これは私の主観が多少加わりますが、私が聞きましたところから申し上げられる事情でございます。最後に、佐藤久夫の自首の事情でございますが、——自首と申しますか、検察庁へ出頭して参りました事情でありますが、これにつきましては、佐藤には母と妹と姉夫婦がありまして、姉の夫は高木敬三といわれる方でございますが、谷口義弘という弁護士の事務所の事務員をしております。で、佐藤は犯行後非常に憂うつな状態でございまして、本年に至りましてからさらに食事をしないようなときもあるくらい沈んでおったということでございます。佐藤の説明によりますと、三月二十日過ぎころ、新聞にもございましたように、例の映画を見まして、さらに煩悶をいたしました。もし自分が自首すれば自分の母親が非常に困る、自首しなければ被告人になっておる者たちの母親がむすこの無実の罪に泣くことになるということで煩悶いたしまして、それで高木敬三に相談をいたしました。高木敬三から母親に伝えられまして、母親は自首を勧めたようであります。そこで、四月四日に、当時の服装として中折帽と紺の背広上下と、白り毛糸のいわゆるとっくりシャツと申しますか、首のところがつぼまっておりますシャツと、それから革の半長靴、ナイフ、それに裁判所が検証いたしましたときに京都新聞に大きく「真犯人は第五の男か」という題で出ておりますその新聞、これだけを持ちまして検察庁に参った、こういう状況になっております。  私が調査してまいりました結果の概略は以上の通りでございまして、なお、先ほども申し上げましたように、血痕等の点については鑑定未了でございますので、真犯人と称される佐藤につきましては、まだ処分はきまっておりません。  以上でございます。
  49. 猪俣浩三

    猪俣委員 質問は次回に、もっと詳細に御調査になってからお尋ねをしたいと思いますが、ただ、要望として申し上げておきたいと思いますことは、今横井説明員のお言葉にも出ましたように、「真昼の暗黒」事件としてこれが新聞に宣伝された。「真昼の暗黒」という映画には私は非常に意見があるのであります。しかし、警察及び検察、裁判官に与えられましたる不信の念というものは驚くべき浸透力をもって広がっております。ああいう映画を上映することの是非は別問題といたしまして、事実として警察及び検察、裁判官の威信というものは非常に落ちたろうと思います。私どもの近親者からも、何がゆえに裁判官があれを無罪にしたのであろうか、警察は何という乱暴なことをするのであろうかということを聞かされる。あなた方なぜあれを法務委員会でもってやらぬのかということで、逆に私は叱咤激励を受けるような始末であります。しかし、私どもはあの「真昼の暗黒」をそのまま信ずることはできませんけれども、そういう際におきまして、それを裏書きするような生きた証人が出てきたようなこの事件が京都事件でありまして、当法務委員会が重視するのもそれであります。このままでいきますと、警察及び検察、ひいては裁判に対してまでも国民の信頼が落ちまして、司法の危機であります。この点につきましては、要は赤裸々にすべてのことの真相を研究して、間違ったところは間違ったところとして抜本の対策を講ずる、あるいは訴訟法の規定が間違っておるのかもしれませんし、あるいは警察官の教養が劣っているのかもしれませんし、私は、どうかくさいものにふたをするようなことをやらぬで、国民の前に赤裸々に事の真相を明らかにして、その対策をわれらとともに協議願いたいと思います。とにかく、傷害致死という重罪を自白したということは実に受け取れぬ。のみならず、また偽証の自白もした。二つの自白がここに出てきておる。そうすると、これが真犯人現われざりし場合においては、無事の人間が何人か処罰せられることに相なる。これは一つのゆゆしき問題だと思うのです。どうか、法務省におかれましても、さような意味において、私ども何も法務省攻撃したい材料として言うておるのじゃありません、ほんとうの法及び裁判の威信を高めなければならぬ意味におきまして、これはどうぞもっと詳細にお調べいただいて、当法務委員会に報告していただきたい。私ども、それに基きまして、どこに欠陥があるのか、何がそうさせたかをよく研究したいと思います。これは希望として申し上げておきます。
  50. 高橋禎一

    高橋委員長 ただいま事件の報告がありましたが、本問題については今後も調査を続行いたすことといたします。  なお、警察庁、人権擁護局等も調査していらっしゃると思いますから、それを整理されて後日当委員会に報告していただくようにお願いいたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後一時二十五分散会