○
猪俣委員 まず
裁判所法の一部を
改正する
法律案の
逐条説明を申し上げたいと存じます。
これは、先般
提案理由として
説明いたしましたように、一切の
法律、
命令、
規則または
処分について、それらが
憲法に適合するかしないかを、具体的な
法律上の
争訟を離れて、
最高裁判所に
裁判により決定させる必要があります。ところが、そのためには
現行裁判所法には不明確な点がありまするがために、
憲法八十一条の
精神を体しまして、
抽象的違憲訴訟ができるような
裁判所法の
改正を企図したものでありまして、
裁判所法第一編
総則第三条の
裁判所の
権限、ここに以上申しましたような
趣旨の
規定を明確に入れたいと思うのがこの大体の
趣旨であります。
そこで、第三条第二項中「
前項」とあるのを「第一項」に改めまして、そうしてこれは第三項になるのでありまして、第二項としては新たにかような
文句を入れたいと思うのであります。
「
最高裁判所は、
前項に定めるもののほか、別に
法律で定めるところにより、一切の
法律、
命令、
規則又は
処分について、それらが
憲法に適合するかしないかを
裁判により決定する
権限を有する。」、これが第三条の二項になるわけであります。そこで、
現行法の第二項の「
前項の
規定は」という「
前項」を「第一項」に改めまして、「第一項の
規定は、
行政機関が
前審として審判することを妨げない。」、こういうふうに
改正したいと思うのであります。それでありますから、もう一ぺんこの
改正案の第三条の
全文を読んでみますと、こういうことになるわけです。「第三条(
裁判所の
権限)
裁判所は、
日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の
法律上の
争訟を
裁判し、その他
法律において特に定める
権限を有する。」、二項として、「
最高裁判所は、
前項に定めるもののほか、別に
法律で定めるところにより、一切の
法律、
命令、
規則又は
処分について、それらが
憲法に適合するかしないかを
裁判により決定する
権限を有する。」、第三項として、「第一項の
規定は、
行政機関が
前審として審判することを妨げない。」、四項として、「この
法律の
規定は、
刑事について、別に
法律で陪審の制度を設けることを妨げない。」、これが
改正せられましたときの第三条の
全文に相なるわけであります。
かようにいたしまして、
最高裁判所がいわゆる
抽象的違憲訴訟を
裁判する
権限のあることをこの
総則的な第三条の
裁判所の
権限の中に織り込んだのであります。
それから、第七条であります。第七条に
最高裁判所の
裁判権という
規定がありますが、これは、
現行法はいわゆる
具体的争訟事件に関する
裁判権を
規定したものでありまして、
抽象的違憲争訟事件を
最高裁判所が
裁判できるということを第三条の
総則に入れましたので、第七条の
裁判権は、これはいわゆる
具体的事件の
裁判権であることを明確にしなければなりません。そこで、第七条に「(
裁判権)」といたしまして
規定してありまするものを、これを「(
争訟に係る
裁判権)」と、こう改めました。そうして、「
最高裁判所は、」の下に、「
法律上の
争訟につき、」と、こう加えまして、結局、第七条の
全文を言いますならば、「(
争訟に係る
裁判権)」として、「
最高裁判所は、
法律上の
争訟につき、左の
事項について
裁判権を有する。」、こういうふうに改めて、「一 上告」、「二
訴訟法において特に定める抗告」、こういうことになるわけであります。
これは、次に
説明いたしまする
違憲裁判手続法案が成立いたしまして
最高裁判所が抽象的な
違憲訴訟を
裁判いたしますのに多少不明確な点のありますところから、この
裁判所法の
改正をはかったのであります。大した
説明の要もないのではなかろうかと思うのであります。
そこで、これはこの程度にいたしまして、引き続きまして次の
違憲裁判手続法案の
逐条説明を申し上げたいと思います。
第一条、「(この
法律の
趣旨)」、これは一般的にいろいろの
法律にありまする
法律目的を掲げたのでありますが、「第一条 この
法律は、国の
最高法規である
日本国憲法の各
条規が正しく運用されることを確保するため、
日本国憲法第九十八条第一項及び第八十一条の
規定に基き、
最高裁判所が
裁判所法第三条第二項に
規定する
権限として、」——これは
改正せられまする第三条第二項に
規定する
権限として、「一切の
法律、
命令、
規則又は
処分が
憲法に適合するかしないかを
裁判により決定する
手続その他の
事項について定めるものとする。」とあるのでありまして、この
違憲裁判手続法案の
憲法上の
根拠は、ここにあげておりまする九十八条の一項及び八十一条、これがこの
違憲裁判手続法案の
根拠であることを第一条において明らかにいたしました。九十八条には、「この
憲法は、国の
最高法規であって、その
条規に反する
法律、
命令、
詔勅及び
国務に関するその他の
行為の全部又は一部は、その効力を有しない。」とあり、この
憲法それ自体に違反いたしまするところの
法律、
命令、
詔勅及び
国務に関するその他の
行為の全部または一部は無効なのであるということが
憲法九十八条に宣言せられ、
わが国の
憲法がイギリスと違いまして
国家の
最高法規である権威をこの九十八条にうたわれておるのであります。さような
意味におきまして、無効なるものの存在を許されないこの
憲法の
精神、及び、これを具体的に処理いたしまする
国家機関といたしましては、
憲法第八十一条、
違憲法令審査権の
規定中に、「
最高裁判所は、一切の
法律、
命令、
規則又は
処分が
憲法に適合するかしないかを決定する
権限を有する
終審裁判所である。」と
規定せられ、九十八条によりまして
憲法に違反いたしまする一切の
国家行為は無効である、それを実現する
機関といたしまして八十一条に
最高裁判所というものを
規定されておる。かような、この九十八条と八十一条の両条を
根拠といたしております。ただ、この八十一条は原則を明らかにしただけでありまして、具体的な
手続はありませんので、この
違憲裁判手続法において具体的な
手続を
規定するという
意味であります。
この第一条の「この
法律は、国の
最高法規である
日本国憲法の各
条規が正しく運用されることを確保する」という
文句は、
日本国憲法の
公布記念式場におきましての勅語の
文句をここに使ったのであります。それから、
三行目の「
裁判所法第三条第二項」というのは、さっき申しましたように、
裁判所法の一部を
改正する
法律案の第三条第二項を
意味するのであります。
次に、第二条であります。「(
訴訟手続による
裁判)」、「第二条
最高裁判所(以下単に「
裁判所」という。)は、第五条に
規定する
訴訟において前条の
裁判を行う。」、これは、第一条の
裁判は
最高裁判所が第五条に
規定する
訴訟の方法において行うものであることを明らかにしたのであります。別に大した
説明の要もないと思います。
第三条は、「
事件の
審理及び
裁判は、大
法廷で行う。」、これは、
現行裁判所法の第九条、それから第十条に、
最高裁判所には大
法廷及び小
法廷というものが
規定されておるのでありまして、この
裁判所法の第九条、第十条の大
法廷、小
法廷の
規定の大
法廷を
意味するのであります。そこで、
事件の
審理及び
裁判、
本法における
抽象的違憲訴訟の
審理及び
裁判は
裁判所法の第九条、第十条の大
法廷で行うという
意味であります。
第四条は、「
裁判官は、その者が第五条に
規定する
訴訟の当事者又はその
訴訟代理人であったときは、当該
訴訟につき職務の執行から除斥される。」、こういう
規定でありますが、これはあまり
説明の要のないことで、一般の民事
訴訟法の原則と同じであります。ただ、後に
説明しますように、
訴訟の当事者は、
国会議員であり、あるいは検事総長でありますため、
最高裁判所の判事になる確率があるわけであります。そこで、原告であり被告である者が
最高裁判所の判事にならぬとも限らぬのでありますから、やはりこういう
規定が必要であると思ったのであります。
それから、第五条、「(訴の提起)」であります。これは、原告及び被告、つまり
抽象的違憲訴訟の形態を、
訴訟の形態にするか、非訟
事件手続法における非訟
事件のように
裁判所の職権
調査を中心としての
審理にするかということは、いろいろ問題があって、提案者も苦心したのでありますが、これはやはり
争訟の形式、原告、被告を立てて争う形式にすることが、今司法
裁判所的色彩である
最高裁判所に持ち込むには適当じゃないかということになりまして、ここで原告、被告
争訟という形でこの
手続法ができ上ったのであります。
そこで、第五条はその原告及び被告を何人にするかということの
規定であります。「衆議院議員及び参議院議員のそれぞれの定数を合計した数の四分の一以上の員数の
国会議員は、
法律、
命令、
規則又は
処分について、それらが
憲法に適合しないとの
裁判を求めるため、検事総長を被告として、
裁判所に訴を提起することができる。」、これは衆議院議員及び参議院議員それぞれの定数を合計した数でありますから、衆参両院議員の定数、今はっきりした数はわかりませんが、衆議院が四百六十七名、参議院が二百五十名だといたしますと、これを合計いたしました数の四分の一以上の
国会議員ですから、結局七百十七名を四等分いたしますと一七九・二五になりますが、百八十名以上の
国会議員のうち、衆議院議員が百三十名で参議院議員が五十名、あるいは参議院議員が百名で衆議院議員が八十名、いずれでもいいわけでありまして、衆議院及び参議院の
国会議員の定数を合計したものの四分の一以上の衆参両院議員が原告となる、こういう
規定であります。
原告を何人にするかということも非常に議論の分るるところでありますが、結局、日本の国民主権主義の立場に立ちまして、やはり国民の代表は
国会議員である。そこで、この
抽象的違憲訴訟を提起いたしまする
根拠はやはり国民主権主義から出ているのであって、その国民主権主義の原則から、国民の代表である
国会議員にこの訴権を与えるということに考えたのであります。さればというて、一人一人の
国会議員ということになりますと乱訴の弊もありますので、一定数の
国会議員——これは外国の
立法例がありまして、ドイツのごときは三分の一ということになっておりますが、ドイツの
憲法裁判所というものは、
日本国憲法の第八十一条の
最高裁判所と組織、構成、
権限が非常に違っておりまするので、全部を参考にすることはできませんが、やはり
国会議員につきましては三分の一というように数の制限をしておるのであります。私
どもはこれを四分の一というふうにしたのであります。
そこで、今度は、被告を検事総長にしたということ。これも実は、違憲なる
法律、
命令といえ
ども国の
法律であり
命令であるがゆえに、結局それが違憲なりとして訴える相手は国でなければならない。そうすると、国を相手に
訴訟する場合におきましては、現在においては
訴訟上国を代表するのは法務大臣ということになって単行法があるのでありますが、一応さように考えましたけれ
ども、ただし、法務大臣がこの
違憲訴訟の被告として適任であるかどうか、これも実は
相当議論があったのであります。政党内閣のものにおきましては、法務大臣はやはり与党の出身者が多くなるものである。この法務大臣を被告とするということは、結局において公正な
裁判をするという
意味の
訴訟であって、一個人の利益によってこの
訴訟は行われるのじゃないので、公益のため
日本国憲法を護持せんとする
意味におきましての
訴訟でありますがゆえに、相なるべくは
国家機関において比較的公正な地位にあると
法律上も
規定せられ、また事実上もそういう立場にあると推定せられまする
機関を被告にするということが妥当ではないかということに落ちついたのであります。政党内閣においては、法務大臣ということになりますれば、
訴訟の途中においてしょっちゅう変るかもしれませんし、あるいは二大政党が交互に政権をとるということになると、訴えた者が今度は訴えられる被告に変らぬとも限らぬということで、被告としての安定性も欠いてくる。そこで、
現行法を見ますると、検察庁法の第四条に、検事総長は公益の代表者であるという
規定があるのであります。そこで、もちろんこの
違憲訴訟なるものは、いわゆる具体的
訴訟と違って、一個人について利害のために出発するものではないのでありまして、いわゆる公益のために出発するものでありますがゆえに、被告もやはり公益の代表者ということが適任ではなかろうかということで、この検察庁法の第四条を
根拠といたしまして、公益の代表者として検察庁法に
規定せられておりまする検事総長を被告とする。検察庁法の第二十五条以下におきましても、検事は準司法官として
相当身分の保障もあります。安定性がある。それでありまするがゆえに、公益の代表者であり、比較的
国家機関として安定性のありまする準司法官的な立場に立っておる検事総長が適任であろうということに相なりまして、検事総長を被告として訴えを起す。ことに検事総長は
法律解釈におきましても専門家でありまするがゆえに、被告としてこれまた適任であるというような
意味において、検事総長を被告としたのであります。
第五条はさような
意味におきまして原告及び被告をきめたものであり、原告を
国会議員といたしましたのは国民主権主義にのっとった
趣旨であり、四分の一といたしましたのは乱訴の弊を防がんとする他国の
立法例も参酌いたしましてこの数を考えたのであります。被告は、検察庁法の第四条を基礎といたしまして、公益の代表者として地位の安定せる、
法律に詳しい検事総長を被告としたというふうに御理解いただきたいと思います。
次に、「第六条前条の訴は、
法律、
命令又は
規則については当該
法律、
命令又は
規則が公布された日から、
処分については当該
処分があった日から、それぞれ、六箇月以内に提起しなければならない。」、申すまでもなく、
法律、
命令、
規則、
処分というような
国家行為がいつまでも不安定でありますることは、これまた法の
秩序の安定を求める
趣旨から感心しないことでございまするがゆえに、かような訴え提起の期間というものをきめたものでありまして、かように提訴期間の制限をきめた例は行政
事件訴訟特例法の第五条にもあるのであります。その
趣旨にのっとった
規定であります。
次に、「第七条第五条の訴の提起は、訴状を
裁判所に
提出してしなければならない。2訴状には、
裁判所の定めろところにより、申立の
趣旨、
理由その他必要な
事項を記載しなければならない。3訴状が
前項の
規定に違反する場合においては、
裁判所は、
相当の期間を定め、その期間内にけん欠を補正すべきことを命じなければならない。」、これも、民事
訴訟法の、訴え提起の方式は二百二十三条、訴状の起載
事項については二百二十四条、訴状の欠缺補正につきましては二百二十八条一項、おのおのさような民事
訴訟法の
規定と相待ってかような
規定を作ったものであります。これはその
意味におきまして特別に
説明申し上げまする条文ではないのであります。
次に、「第八条不適法な訴であって、そのけん欠が補正することのできないものであるときは、
裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決をもって訴を却下しなければならない。」、この八条も、民事
訴訟法の二百二条及び二百二十八条二項——民事
訴訟法の二百二条は口頭弁論を経ないで判決をもって訴えを却下することの
規定でありますが、二百二十八条二項は訴状の却下
命令の
規定であります。さようなものを第八条に
規定したのであります。これもことさら御
説明申し上げる必要はないと思います。
次に、「第九条 原告は、当該
訴訟を行わせるため、その中から三人以内の代表者(以下「原告代表者」という。)を定めなければならない。2原告代表者は、当該
訴訟について、原告の全員のために、一切の
裁判上の
行為をする
権限を有する。3原告代表者は、二人以上あるときは、訴の提起、
訴訟代理人の選任・申立の
趣旨の拡張及び訴の取下については共同して、その他の
訴訟行為については各自、原告を代表する。4民事
訴訟法(明治二十三年
法律第二十九号)第五十三条及び第五十四条の
規定は、原告代表者に準用する。5原告代表者でない原告は、
裁判所の許可がなければ、
訴訟行為(訴の提起、原告代表者の選任、第十四条第一項の
規定による
訴訟からの一脱退及び第十五条第二項の
規定による承継の申立を除く。)をすることができない。」、こういう訴えの実際問題についての
規定を置いたのであります。
先ほど申し上げましたように、原告は衆参両院議員の四分の一以上ということになっておりますが、そうすると百名をこえる多人数に相なりまするので、そこで、やはり、
訴訟技術上、原告のうちに原告代表者というものをきめて、この原告代表者が実際の
訴訟行為をやるというふうにしたのであります。原告代表者ときめられた者は「原告の全員のために、一切の
裁判上の
行為をする
権限を有する。」、こういうふうにいたしました。
それから、原告代表者間の
関係は第三項に書いてあるのであります。「訴の提起、
訴訟代理人の選任、申立の
趣旨の拡張及び訴の取下については共同して、その他の
訴訟行為については各自、原告を代表する。」、つまり、大切な
訴訟については共同する、しからざる場合においては単独代表というような
規定であります。
それから、第四項で準用しております民事
訴訟法の五十三条、五十四条、これは御存じのように、民事
訴訟法の五十三条といいますと、
訴訟能力や法定代理権等の欠缺のある場合の措置について書いてあるものであります。五十四条は、
訴訟能力、法定代理権の欠缺の追認のことを
規定しているものでありますが、これも
本法に準用するということにしたのであります。
それから、五項は、原告代表者でない者、三人を除いたその他の者は、
裁判所の許可がなければ原則として
法廷へ出て
訴訟行為ができないことにいたしたのでありますが、ただ、訴えの提起とか、原告代表者の選任とか、第十四条第一項の
規定による
訴訟からの脱退及び第十五条第二項の
規定による承継の申し立て、こういうことができなければ原告の構成員になりませんから、これは一般の原告ができるが、その他の
訴訟行為は原告代表者がやる、それが原則だということにしたのであります。
それから、第十条は指定代理人のことでありまして、「被告である検事総長は、検察庁の職員でその指定するものに
訴訟を行わせることができる。」、第二項は、「
前項の
規定により指定された者は、当該
訴訟について、
訴訟代理人の選任以外の一切の
裁判上の
行為をする
権限を有する。」、これは別に事新しいことでありませんので、国の利害に
関係ある
訴訟についての法務大臣の
権限等に関する
法律にもこの指定代理人のことは書いてあるのでありまして、検事総長が被告でありますが、検事総長の指定した代理人が
訴訟行為ができるという
規定にしたのであります。これは、今の国を相手にいたしまする
訴訟においても大体そういうふうになっておりますから、そのようにやろうとしたのであります。
それから、第十一条は、「当事者は、弁護士ほか、弁護士法第五条第三号に
規定する大学を定める
法律に
規定する大学の学部、専攻科又は大学院において五年以上
法律学の教授又は助教授の職に在った者を、
訴訟代理人に選任することができる。」、第二項、「
訴訟代理人は、
訴訟代理人の選任、申立の
趣旨の拡張、訴の取下及び第十四条第一項の
規定による
訴訟からの脱退については、特別の委任を受けなければならない。」、第三項は、「民事
訴訟法第五十三条、第五十四条、第八十一条第三項本文及び第八十三条の
規定は、
訴訟代理人に準用する。」、これも大して
説明する必要がないのでありまして、大学の教授及び助教授の職にあった者を代理人にすることができるようにいたしましたのは、主として
憲法論議、法に関する論議を中心とする
訴訟になりまするがゆえに、学者も広く代理人として
法廷に出られるようにいたしたのであります。あとは民事
訴訟法を準用いたしましたので、大して御
説明申し上げることはありません。
第十二条は、「原告は、次に掲げる
法律、
命令、
規則又は
処分について、申立の
趣旨を拡張し、それらが
憲法に適合しないとの
裁判を求めることができる。ただし、これにより
訴訟手続が著しく遅延すると認められる場合は、この限りでない。一 申立に係る
法律、
命令若しくは
規則を実施するため、又一は当該
法律、
命令若しくは
規則の委任に基いて、制定された
法律、
命令又は
規則 二 申立に係る
法律、
命令又は
規則に基いてされた
処分」、これは、原則といたしまして申し立ての
趣旨の拡張はしない、こういう原則に立って十二条というものはできているのであります。これは、
訴訟の形態でありまして、職権
調査を中心としたのではないのでありますがゆえに、そこで、申し立ての
趣旨の範囲内においてのみ判決をすることができるということがあとの条文に出てきております。ところが、そうなりまして、申し立ての
趣旨というものの拡張を絶対に許さないということになりますと、非常に不都合なことが起るのでありまして、原告が申し立てをいたしますにも、そう凡百のいろいろの法令を並べ立てるわけには参りません。たとえば、ある
法律が違憲であると考えまして、その
法律を違憲として
訴訟を起したといたしますが、その
法律が無効だということになりますと、その
法律を基礎として出ました
命令、
規則はたくさんあるかと思います。あるいは
処分もあるかと思います。あるいは場合によりますと各自治体の条例もあるかもしれません。ところが、最初出すときにそれを一切調べて出すことは容易ではありません。
訴訟の進行の途上におきまして、この
法律を無効にする以上はこういう法令も無効にしなければならないというものがいろいろ出てくると思いますので、そこで、申し立ての
趣旨の拡張ということはある程度許さなければならぬ。しかし、それも無制限に許すと際限がありませんし、さればというて、
裁判所の職権
調査にそれを命じますと、
裁判所がまた大へんだと思います。全部の自治体の条例まで調べなければならぬなんていうことが起ってしまって、
裁判所の必要的職権
調査事項にそれを入れますと
裁判所が大へんだ。そこで、その調和をとりまして十二条というものをきめたのでありまして、原則としてむやみに申し立ての拡張を許さぬが、この一号と二号、これだけは例外として申し立ての拡張を許す。それは、「申立に係る
法律、
命令若しくは
規則を実施するため、又は当該
法律、
命令若しくは
規則の委任に基いて、制定された
法律、
命令又は
規則」が
訴訟の申し立て後に発見せられましたならば、これは
訴訟の各段階におきまして申し立ての
趣旨の拡張としてこれが許される。また、同じように、
処分におきましても、「申立に係る
法律、
命令又は
規則に基いてされた
処分」——ことに
処分なんていうものは容易にわからぬかもしれませんが、それが
裁判の途上におきまして発覚いたしました際には、それを申し立ての
趣旨の拡張として追加することができる。それがとうとう発見されないで判決になった際には、あとで発見された場合には、また別の
訴訟としてそれを起さなければならぬことを原則にするというような
趣旨なんであります。行政
事件訴訟特例法はこの
違憲裁判手続法に大へん似ている
法律なんでありますが、これにはやはり明文があまりないのでありますが、ただ、学者の学説の中に、田中二郎東大教授の意見といたしましては、行政
争訟の訴えの申し立ての拡張は許さないのが法理的だという
説明を「行政
争訟の法理」という本にお書きになっておられるのであります。そこで、そういう学者の言を
相当参酌いたしまして、かような十二条のような
規定を置いたのであります。
次に、「第十三条 原告は、何時でも、訴の全部又は一部を取り下げることができる。2
前項の
規定による訴の全部又は一部の取下があった場合においては、当該
訴訟の原告であった者は、当該取下の時におけるその者の衆議院議員又は参議院議員たる地位と同一の地位においては、当該取り下げられた訴に係る
法律、
命令、
規則又は
処分について再び訴を提起することができない。」、原告がある
法律が違憲であるといって訴えの提起をいたしましても、その後考えが変りまして訴えを取り下げたいということができるかもわかりません。これはやはり民事
訴訟と同じように訴えの全部または一部を取り下げることができるようにしたのでありますが、訴えの全部または一部の取り下げられた場合には、その取り下げた
訴訟の、原告であった者は、同じ資格では二度と同じ
訴訟について原告になれない、そういう
意味なのであります。たとえば、衆議院議員
猪俣浩三として原告の一員になって
訴訟を起したが、その
訴訟を取り下げた、ところが、同じような
訴訟をまた私が衆議院議員として起すということは相ならぬということなのであります。だから、ちょうど取り下げたと遂におけるその者の衆議院議員または参議院議員たる地位と同じ地位においてはできないというのでありますから、衆議院議員として取り下げたが、後に今度は参議院議員に当選したなら、参議院議員としてはまたできる、こういう
規定であります。
それから、「(
訴訟からの脱退)」、「第十四条 原告は、何時でも、
訴訟から脱退することができる。2 前条第二項の
規定は、
前項の
規定により
訴訟から脱退した者に準用する。」これも、訴えそのものは取り下げないのですが、百八十人の原告のうち、ある人間が、僕はもうやめた、こういうことができないとも限らぬ。それならば、それは脱退することができる。しかし、一たん脱退した以上は、前条と同じように、その脱退したときにおける地位と同じ地位では再びまた原告になれない、こういう
意味であります。
それから、「(
訴訟手続の中断)」、「第十五条 原告が、死亡その他の事由により原告たる資格を喪失し、又は前条・第一項の
規定により
訴訟から脱退したことにより、原告の総数が第五条に
規定する員数に満たなくなったときは、
訴訟手続は、中断する。」これは、原告が普通の民事
訴訟のように一人ということではなく、原告は員数が要件になっております。ある集団が原告になっておりますので、従って、百八十名のうち何人か死んでしまった、そうすると百八十名の計数がそろわないことになります。それから、衆議院が解散になれば、衆議院の何十名かが一ぺんにその地位を失ってしまいますから、原告たるの地位を失う。これは衆議院議員たる地位において原告たる地位ができるのでありますがゆえに、解散しましたとたんに原告たる地位を失うものであります。参議院の場合もしかり。さような場合においては、百八十名を原告たる要件といたしました
趣旨から、どうなるかという
規定を置かなければなりませんので、
訴訟の
手続は中断する、こういう
規定にしたのであります。この
訴訟手続の中断の
規定は、民事
訴訟法の二百八条ないし二百二十二条にもありますので、さような
趣旨を参酌いたしたのであります。
そこで、第二項といたしまして、「
前項の
規定により
訴訟手続が中断したときは、
裁判所は、遅滞なく、
国会議員であって当該中断した
訴訟の原告たる地位を承継する者があるときは、
裁判所の定める期間内に
裁判所に対して承継の申立をすることができる旨を官報で公示しなければならない。」、つまり、百八十名の原告のうち何名か脱退した、あるいは死亡したという場合におきましては、
裁判手続が中断されるのでありますが、
裁判手続が中断されましたならば、
裁判所は、遅滞なく、
裁判所の定める期間内に
裁判所に対して承継の申し立てができるように、その原告たる地位にある衆参両院議員に承継の申し立てをすることができる旨の官報の告示をしなければならない、こういう
規定を置いたのであります。この中断した場合補充をどうするかということは、実際問題は、今言ったように原告代表者が三名あります。あるいはまた原告代表者から委任されました弁護人があります。従って、実際上の問題は差しつかえないと思うのでありますが、中断した場合に承継者を一体どういうふうに作るかということもいろいろ議論したのであります。衆議院あるいは参議院の
議長に
裁判所が通告するようにして、その承継する者があるかないかを衆議院や参議院の
議長にあっせんさせるようにするかというような議論もあったのでありますが、結局これはやはり
裁判所の公示によって承継者をきめることが適当じゃないかということに落ちついたわけであります。
あと、大体専門家の
方々ばかりですから、原案を読んでいただけば別に
説明が要らぬのじゃないかと思うのですが、ただ
説明を要するものだけちょっと
説明しますと、十五条の三項、「
前項の
規定による承継の申立をした者は、同項に
規定する
裁判所の定める期間の経過した時から、原告になるものとする。」たとえば、三人死亡した、脱退した、そこで三人の者が承継した、しか上承継する期間はまだ先十日間あるが、さっそく承継してしまった、そこでいっぱいになった、あと十日間の承継の期間を待たぬで原告がそろった、そうしたらすぐ
裁判を始めていいのじゃないかという議論もありますけれ
ども、
裁判所が一カ月なら一カ月という承継の期間を置いた場合においては、たとい十日目に全部原告の数がそろったといたしましても、なお二十日間そのままの形で中断しておいて、期間が切れたとき初めて原告たる資格が発生する、こういうふうにしたのであります。それは、この第二項によって、官報で公示して
国会議員に一般的に呼びかけておる。従って、その脱退した人数だけ補充できたかもしれませんが、何かのことで、あるいは最初原告にならぬ人間で今度は僕も
一つやってやろうという人間が出てこないとも限らぬ。それですから、承継できる最終の期間までそれを待たねばならぬ。それを待って、
裁判所の承継期間の切れたその翌日をもって、初めてここに原告は確定したとして原告たる地位を承継するというふうにしたのが第三項であります。
それから、第四項は、前に
説明したと同じでありますから、
説明を省略します。
そこで、第五項ですが、
裁判所は一カ月なら一カ月という期間を置いて承継することを公告いたしましても、−カ月の期間待ったけれ
ども、どうも
国会議員四分の一の定数に満たなかったという場合におきましては、期間の経過した翌日になりましょうが、そのときをもって訴えを取り下げがあったものとみなすということにしたのであります。それが第五項であります。
それから、第十六条、これはやはり民訴の
規定でありまして、大した
説明をする要がないと思います。民事
訴訟法の百二十五条あるいは
裁判官弾劾法の二十三条に
規定されておるものと同
趣旨のものであります。
それから、十七条、「(証拠調)」、この第二項の「公務員又は公務員であった者は、その職務上の
事項について証言又は書類の
提出を求められたときは、他の法令の
規定にかかわらず、職務上の秘密を
理由として、これを拒むことができない。」、これは実は民事
訴訟法にも行政
事件訴訟特例法にもちょっとないのでありまして、民事
訴訟法の二百七十二条ないし二百七十四条に、御承知のように監督官庁の承認が公務員には要求されております。
刑事訴訟法の百四十四条、百四十五条にもやはり同じように監督官庁の承諾が要求されておるのであります。そして
国家公務員法の百条には公務員の秘密順守義務があるのであります。地方公務員法の三十四条にもあります。そこで、これはこの
法律の
一つの特例になるかもわかりませんが、一切の公務員の職務上の秘密を
理由として証言を拒むことを排除したのであります。
裁判長から要求いたされましたならば、彼の取り扱ったる職務上の秘密についてもこれを明らかにしなければならない。それは、
憲法を守る以外に重大な
国家機密なんというものはないのだから、
憲法を守り、
憲法に適合するかしないかという重要なる案件について、公務員の秘密をたてに、その判断の材料とすべきものを
裁判所に
提出できないという法はないのだから、
憲法は
最高法規で、公務員全部これを守らなければならぬ義務があることは九十九条に
規定されておるのだから、そこで、普通の証言と証言が違うのだということで、この
憲法裁判を非常に重要視しまして、公務員の証言の拒否権を剥奪したのであります。さような
趣旨でこの二項を書いたものであります。
十八条は大した
説明をする必要はないと思います。
十九条から二十条、これも、お読みいただけば、普通の場合と大した違いはないと思います。
二十一条は、「第一条の
裁判は、判決によって行う。」という、判決によって行うことを明らかにしたのであります。
そして二十二条には判決の
事項を書きました。「二十二条
裁判所は、原告の申し立てない
法律、
命令、
規則又は
処分について判決をすることができない。」、これは、先ほど申しました第十二条の「(申立の
趣旨の拡張)」とにらみ合せまして、「申し立てない
法律、
命令、
規則又は
処分について判決することができない。」として、そして必要やむを得ざる場合は十二条において申し立ての
趣旨が拡張できる、こう調和したのであります。それですから、やはりこれは職権
調査にあらずして、申立人の申し立てる範囲において、
最高裁判所は申し立てられたる
法律、
命令、
規則または
処分について判決するというふうにいたしたのであります。
二十三条、二十四条は御
説明する必要はないと思います。
それから、二十五条の「
法律、
命令、
規則又は
処分は、それらが
憲法に適合しないとの
裁判があった場合に、その効力を有しないことになるものとする。」、これも大した
説明の必要はないと思うのです。
憲法に適合しないとの
裁判があった場合に無効になる。無効
であるという
裁判ではないのです。
憲法に適合しないという
裁判です。
憲法に適合しないと
裁判されたら、いわゆる
憲法九十八条の原則に返りまして、それが無効になり、その効力を有しないことになるものとする、というのであります。
それから、第二十六条、この違憲
裁判の効果でありますが、「
法律、
命令、
規則又は
処分が
憲法に適合しないとの
裁判は、当該
法律、
命令、
規則又は
処分に基いて当該判決の言渡前に生じた
事項に影響を及ぼさない。ただし、
法律で別段の定をすることを妨げない。」、こういうふうな
規定であります。これは
相当議論がありまして、
憲法の九十八条において
憲法に違反するところの
法律、
命令、
規則または
処分は無効であるのであるから、無効であるものは初めから遡及して無効であるべきだという議論も立つのであります。ただし、初めからこれが無効ということになりますと、この
法律、
命令、
規則または
処分によって既成事実ができ上っており、こういうものがみな崩壊することになりまして、法
秩序の上からも一これは大へんなことになりますから、そこでこれは遡及しない。
最高裁判所で無効の判決があった以後に無効になるんだというのを原則としました。そうして、「ただし、
法律で別段の定をすることを妨げない。」、すなわち、何らかの例外があるならば、
法律で例外をきめることはできるというふうにしたのであります。初めから無効のものを、判決があったときに遡及しないで将来に向って無効にするということは原理原則に反するようでありますが、しかし、西ドイツの連邦
憲法裁判所法の七十九条二項もさようになっておりまするし、また、
現行法におきましても、商法の百十条、合併無効の判決、あるいは百三十八条の設立無効の判決、これも既往にさかのぼらぬのが原則でありまして、無効ではあるが遡及しない。法
秩序維持のためにさような特例になっておるのでありますがゆえに、さような私
ども趣旨をくみまして第二十六条をきめたのであります。
それから、第二十七条、「(違憲
裁判の公示)」、これは
最高裁判所裁判事務処理
規則の十四条に書いてあることでありまして、それをただ
法律にしただけであります。
それから、 二十八条、「(
裁判の費用)」、これは、お互いに私利私欲のためにやるのじゃなく、
憲法擁護をせんとする悲願から出発する
訴訟でありますがゆえに、また被告になる人も公益の代表者である検事総長がなるのでありまして、いずれにいたしましても、これは国庫の負担とするということが適当だと存ずるのあります。現在の
裁判官分限法の九条にも、
裁判官分限
裁判につきまして、やはりこれを国庫の負担とするという
規定がありますがゆえに、
裁判官分限法九条にのっとりまして、同
趣旨に基きまして二十八条を置いたものであります。
第二十九条は、「この
法律に
規定するもののほか、第一条の
裁判に関し必要な
事項は、
裁判所が定める。」、御存じのように、
最高裁判所には
規則制定権がありまするがゆえに、この
法律は大綱を
規定いたしまして、なおこまかいことにつきましては、この
規則制定権にゆだねて、
最高裁判所の権威を保持するとともに、また、実際実務をとられる
方々のやりやすいように
規則を作ってもらうという
意味におきまして、大綱だけをきめまして、詳しいことは
規則制定権に譲る
趣旨であります。
施行期日は、先ほど
説明しました
裁判所法の一部を
改正する
法律の施行の日から同時にこの
法律も施行するというふうにしたいのであります。
それから、経過
規定といたしまして、「この
法律の施行前に公布された
法律、
命令文は
規則及びこの
法律の旅行前にされた
処分に対する第六条の
規定の適用については、この
法律の施行の日に、当該
法律、
命令若しくは
規則が公布され、又は当該
処分があったものとみなす。」、だから、現存の
法律についてはいつから六カ月の期間計算をするかというと、この
法律の施行の日にこの
法律、
命令もしくは
規則が公布され、または
処分が行われたものと見て、それから六カ月間にもし
現行法で違憲なものがあるならば
訴訟を起さなければならぬという経過
規定を置いたのであります。
大体あらましの御
説明を申し上げましたが、きょう
説明申し上げましたことを基礎といたしまして、逐条の
説明書をやはりプリントにして、きょう御出席なさらない
方々にお配りしたいと思います。
わが国にいまだかってないような異例な
訴訟手続法でありまするがゆえに、
委員各位におかれましても十二分なる論議を尽していただきたいと存じます。
以上をもって
説明を終ります。