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1956-02-15 第24回国会 衆議院 法務委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十一年二月十五日(水曜日)    午後一時二十二分開議  出席委員    委員長 高橋 禎一君    理事 池田 清志君 理事 椎名  隆君    理事 高瀬  傳君 理事 福井 盛太君    理事 佐竹 晴記君       犬養  健君    小島 徹三君       小林かなえ君    世耕 弘一君       古島 義英君    横井 太郎君       横川 重次君    神近 市子君       菊地養之輔君    吉田 賢一君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 牧野 良三君  出席政府委員         警  視  長         (警察庁刑事部         長)      中川 董治君         法務政務次官  松原 一彦君         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君         法務事務官         (公安調査庁次         長)      高橋 一郎君  委員外出席者         検     事         (刑事局刑事課         長)      横井 大三君         検     事         (刑事局公安課         長)      桃澤 全司君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 二月十四日  委員辻原弘市君辞任につき、その補欠として神  近市子君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  人権擁護に関する件     —————————————
  2. 高橋禎一

    高橋委員長 これより、法務委員会を開会いたします。  人権擁護に関する件について調査を行います。  質疑の通告がありますので、これを許します。佐竹晴記君。
  3. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 昨年十二月十六日の当委員会におきまして、堂森代議士夫人に対する人権じゅうりん問題をお尋ね申し上げましたが、その際・法務大臣は、「すでに調査のある程度のものは手元に来ておりますが、納得がいきません。十分調査いたしまして、善後措置に遺憾なきを期します。」とお答えになりまして、その内容の詳細には触れられなかったのであります。その後十分の御調査が行われたものと信じますので、この際この件に関する詳しい御答弁を承わりたいと存じます。
  4. 牧野良三

    牧野国務大臣 説明員から御答弁を申し上げます。
  5. 横井大三

    横井説明員 私からお答え申し上げます。  お尋ねの堂森一枝氏につきましては、昨年の二月十九日福井丸岡警察署におきまして、公職選挙法違反——これは戸別訪問と買収でございますが、公職選挙法違反の容疑で逮捕いたしまして、同月の二十一日福井地方検察庁におきまして事件の送致を受け、勾留の上取調べを行い、四月十二日保釈となったのであります。その間二回にわたり病的な症状が認められた事実がございましたので、この状況を申し上げます。  最初は、逮捕いたしまして四日目の二月二十三日、これは午前九時ごろでありますが、丸岡警察署の山口という巡査部長が二隊の刑事室取り調べ中、約三十分後に胸部圧迫感を訴えましたので、同巡査部長は直ちに取調べを中止いたしまして、その部屋に仰臥させました上、上司に連絡いたしまして、同女の希望する荒川という開業医診断させました。さらに、別の開業医友影というお医者さんと、それから福井刑務所高橋医師診断をさせましたところ、荒川医師は、心臓弁膜症が進んでおる、身体が衰弱しているから勾留のままの取り調べには耐えられない、こういう意見を述べております。しかしながら、他の二名の医師は、脈榑結滞は認められまするが、慢性症であって、勾留のまま取調べを継続しても差しつかえない、こういう意見を述べられたのであります。そこで、検察庁といたしましては、慎重にこれらの意見検討しました結果、三名の医師のうち二名が勾留のまま取調べを続行しても差しつかえないという意見であり、脈榑結滞は慢性的な症状である、さらに同女は逮捕される相当前からオート三輪車等に乗って連日のように有権者たちを訪問していたというような事実がありますのにかんがみまして、勾留を継続の上取調べを行うことに決定をいたしたのであります。同女につきましては、その後病的症状は認められなかったのでありますが、翌月の三月二十六日、最初のときから約一カ月たちましたあとでありますが、今度は検察庁において検事取り調べ中、めまいを起しまして腰かけより倒れかかった事実があるのであります。検事は直ちに立会い事務官とともに同女を備えつけの応接セットのいすに仰臥させまして、数分間休憩させた後宿直室に移したのであります。その際職員が同女に肩を貸しましたところが、感謝の意を表されておったという事実があります。他方、倒れかかった際、直ちに先ほど申しました高橋医師来診を求めまして、診察してもらったところ、軽い脳貧血を起したものと認められ、心臓には異常がないということで、注射等の治療を行いましたのであります。その際、検事は、高橋医師に対しまして、身柄拘束を続けられるかどうか、今後取調べに差しつかえないかどうかにつきまして慎重な意見を徴しましたところ、高橋医師は、身柄拘束は差しつかえなく取り調べについてはあす診断の上決するということになったのであります。そこで、同日は、留置場であります警察署に対して、病状を伝えまして、その措置について万全を尽すべきことを命じまして別に命令があるまで取調べを行なってはならないということを指示して、自動車で警察署の方へ送ったのでございます。翌二十七日高橋医師診断の結果は、取調べは差しつかえないということでございました。取調べは差しつかえないということでございましたけれども、同女の希望によりまして、二十七日と二十八日の二日間は取り調べを中止いたしたのであります。  同女の留置中の病的発作並びにその措置につきましては以上の通りでございまして、同女に対する措置といたしましては、検察庁といたしまして、その事件の性質、それから社会的な地位並びに健康状態等にかんがみまして、身柄拘束及び取調べにつきましては慎重の上にも慎重を期して最大限の注意を払ったのであります。病気が継続しておるにもかかわらず身柄拘束を続けたのではなくて、二回にわたります病的な発作につきましては・それぞれそのつど慎重の措置をとったというふうに考えておるのでございます。  なお、堂森一枝氏の取調べが過酷な取調べ取扱いのもとになされたかいなかということにつきましては、これは堂森芳夫氏の公職選挙法違反公判の審理にも関連いたしますため、裁判所におきましても重要視いたしまして、この点についてしさいに取調べが行われたのでございます。その結果は、堂森芳夫氏の第二審の名古屋高等裁判所判決中に次のような判断が下されておりますので、御参考までに申し上げます。「(一)堂森一枝昭和三十年二月十九日逮捕され、同年四月中旬釈放されるに至るまで約五十日間身体の自由を拘束されていたこと。(二)同人に対する検察官取調は該期間中になされたものであったこと。(三)一枝は元来身体が虚弱であり、同年二月下旬一回、三月下旬一回、いずれも一時失神状態に陥り、その都度医師手当を受けるに至ったこと等の諸事実の存在を首肯し得ない訳ではないけれども、この種の事案において、叙上程度期間被疑者身体拘束したとしても、これを目して直に不当な長期の勾留であるとなすを得ないのみならず、被疑者身体が虚弱なため取調中失神した事実があったからといって当該被疑者検察官に対する供述任意性な上と断定するの過れることもまた勿論である。却って、丸岡警察署長作成身分調査等送付についてと題する書面、外十一通の書面原審公判調書中の証人高橋栄外八名の各供述記載証人堂森一枝に対する原審証人尋問調書中の供述記載当番証人堂森一枝外二名の各供述を綜合すれば、(一)取調官は、堂森一枝取調をなすにあたり、特にその身柄保護室又は病監に収容し、保温、医療等に特別の配慮を払い、その健康を十分に注意しつつ取調を進めて行ったものであったこと、(二)係官は、一枝に対し、暴行、脅迫を加えたり、その供述を強制したりするようなことがなく、一枝の健康が勝れないときは、取調を中止し、その回復をまって、更に取調を進めていたこと、(三)取調官一枝に対する態度は、左程峻厳なものでなく、一枝原審における証言中に「検事もよくして呉れ、布団によりかかったまま取調を受けた」旨の供述部分が存在する程であることなどの諸点を認め得べく、以上の諸事実を綜合すれば、堂森一枝検察官に対する供述任意になされたものであり、同女の原審に対する供述よりもむしろ同女の検察官に対する供述を信用すべき特別の情況の存在することを認めるに足る。」旨を判示しておるのであります。直接には任意性の問題ではございますが、取扱いについては検察庁においても配慮をしておるという点が、この判決の趣旨に認められるように思われるのでございます。
  6. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 先日の委員会におきまして、井本刑事局長は、堂森夫人勾留された昭和三十年二年二十四日の病状勾留の適否に関しましてこう申しております。「荒川というお医者がまず見ております。これは堂森さんの派のお医者さんだそうでありまして、別にお医者さんの診断がへんぱに失すると申しませんけれども」と言い、何か奥歯にもののはさまったような言い方をし、何かしら荒川さんの診断は信用できないという気持がにじみ出ております。一体堂森派のお医者さんというのは何を意味するのでございましょうか。   〔委員長退席高瀬委員長代理着席
  7. 横井大三

    横井説明員 荒川医師堂森一枝氏の希望によりまして呼んだのでございまして、私ども報告によりますと、堂森派選挙運動に関与しておられたということでございます。
  8. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 なるほど、堂森氏の刑事事件の記録、警察報告書の末尾に、荒川氏が堂森候補運動員であったかのごときことが記載されております。しかし、そういう事実は全然ないのです。全くどうもお役所というところは何と言ってもかまわぬところだというような気持すらもする記載でございまして、堂森氏は憤慨いたしております。荒川医師堂森氏とは高等学校が同期であったというだけでありまして、普通の同業としておつき合いをいたしておる程度のものにすぎません。荒川医師は平常事実上いわゆる警察医でございまして、常に警察側依頼によって勾留されておる人を診療いたしております。本件の場合も警察側依頼によって往診をしたものであります。どの人を呼ぶか呼ばないかは警察が自由にできたのであります。そして警察がまず荒川医師に頼んで来た。それは平素警察医の仕事をいたしておるからであります。しかも、その診断というものは科学的、合理的であって、どうもいわゆる堂森派と言われるような行動はとっておりません。その診断内容に、いわゆる堂森派の人であるからへんぱな診断をしておるものと認められる点が何かございましょうか。これを一つ御説明いただきたいと思います。
  9. 横井大三

    横井説明員 私どもへの報告によりますと、これは堂森一枝氏の希望により、荒川医師を呼んだということになっておりますが、ただいまの御質問によりますと、そういうふうな関係はあり得ない、警察の方で呼んだのだということでありますが、これはなお調査してみまして、もし間違いでございましたら、その点は訂正いたしたいと思います。  なお、荒川医師診断はそういう関係があるから間違いであって、だからそれを信用しなかったと申しますよりも、三名の医師診察してもらいまして、そのうちの二名が取調べを続行しても差しつかえないという結論になりましたので、おそらく現地といたしましては勾留を継続して取調べを行うというふうに決定したものと考えるのでございます。
  10. 中川董治

    中川(董)政府委員 ただいま法務省の横井課長からのお話なんですが、佐竹委員が御指摘になりました荒川さんというお医者さんでございますが、佐竹さんがおっしゃる通り福井県の丸岡警察署におきましては、警察留置人等病気などの場合におきましては荒川医師にいつもごやっかいになっております。本件につきましても、堂森夫人の御依頼に基いて荒川さんを頼んだのではなしに、警察といたしましては、荒川医師常々留置人病状等について御診察いただいておりますので、とりあえず荒川医師の御診断をいただいて、さらに、勾留中の被疑者でございますので、ただいま横井課長から申されました通り刑務所医務課長高橋医師の御診断を仰ぎ、さらに、事の慎重を期するために、警察始終留置人病状等について御厄介になっている友影という別の医師の御診察をお願いした。従って、刑務所医務課長高橋医師と、いつも御厄介になっておる荒川医師と、それから友影医師の三人の方に御診察を願ったということになっております。私、実情を調べまして、その点が明らかになりましたので、補足させていただきたいと思います。
  11. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 結局、三人に見せたところ、そのうちの高橋友影医師意見荒川氏の意見とは違って、高橋友影医師意見勾留に耐え得るという診断であったので勾留を続けたものと、こう言われるのであります。過般の刑事局長の御答弁にもさような御答弁がございました。ところが、ある一人の医師生命にかかわる重症であるという診断をいたしました以上、その内容が根底から間違っておるという確証がつかめない限り、不安は除去されません。立場を変えてお考えを願いたいと思います。どなたか政府委員の奥様があるお医者から非常に病状が危険であると診断されたと仮定いたしましたならば、他のお医者がたとい大丈夫ですよと言ってくれても、その病状危険だという診断の根拠がないということが明らかにならない限り安心するわけには参りますまい。一対二だから二の方が安心だなぞと多数決できめるべき問題ではございません。必ずやその診断内容を詮議せずには済まされまいと思います。  そこで、本件の場合でも、果して荒川医師の言うことを信ずべきか、高橋友影医師の言うことを信用すべきか、その診断内容によってきめなければならぬ問題だと考えます。よって、まず荒川医師診断内容について私は検討してみたいと思います。  昭和三十年七月二十五日付、丸岡警察署長から福井地方裁判所大野裁判長あて身分調査等送付書中勾留中の病状の欄に次の通りあります。「二十三日午前十時ごろ昨夜と同様の報告があったので、さっそく荒川医師来診を求め、取調室において受診せしめた結果、患者被疑者)は極度に身体が衰弱しており、これに加えて心臓弁膜症病状血圧も非常に低くて早急に入院静養さすべきである、このまま取調べを続行するときは生命が危ぶまれるという言葉があったので取調べを中止し、被疑者を抱きかかえるようにし直轄に連れ、宿直室で就寝せしめた」とあります。  当の荒川医師は、昨年七月十五日に福井地方裁判所第十一回公判において宣誓上次通り証言しております。すなわち、「主訴は、全身しびれ感、目まいがする、頭が痛い、心悖高進がある、以前にも心臓病をやったことがある。現症は、脈搏は微弱で不整脈であり、一分間に七〇、顔色は蒼白、やや苦悶状を呈し」云々、「心臓を打診すると心臓独音界左右とも横指ほど肥大しており」云々、「聴診器聴診すると収縮期性雑音を聞き」云々、「精神状態不安状態で涙を流し泣き通しであり、タイコス型血圧計血圧を測定すると最高八〇ミリ、最低六〇ミリ、そこで私は心臓弁膜障害僧帽弁閉鎖不全症でないがと診断した。よって二〇プロのブドウ糖液四〇CCにビタカンファー一CC二本を加え、静脈注射左ひじ静脈にはどうしても刺入することができず右のひじ静脈辛ろじて注入し得た。血圧が下降していたので静脈が出なかったからである。そこで証人は、即時入院させ安静加療を要する、上からざれば生命に危険がある、ちょうど警察の隣が中野病院であるのでそこへ入院させなさい、もし取調べ内容が漏れるという心配があるならば一室患者に、隣一室警察官に与えるようにして一室用意しておくから早く入院させなさいと言って帰った」とございます。これは宣誓の上の証言で、うそ偽わりはないと信じます。また、その内容もありのままに述べております。何の不自然もなく、その後の被疑者症状も全くこの診断通りであります。これは一件書類によって明確であります。また、荒川氏が警察医立場から捜査上のことまで配慮いたしておりますことは、ただいま申し上げた通りであります。  この荒川医師診断は全く信ずるに足ると考えますが、しかし、それを信ずることができないと言うならば、一体この荒川医師診断のどこが虎偽であるか、どの点が信ぜられなかったか。おそらくこれは検討を加えた結果であろうと存じますので、当時この荒川医師診断の信ずることができないといたしましたその具体的な事実を指摘して御説明いただきたいと考えます。
  12. 横井大三

    横井説明員 ただいまの御質問にありましたように、三人の医師診断いたしまして、二人が差しつかえない、一人が危険であると、二対一できめたというようなことではおそらく私の方もなかろうと存じます。こういう問題につきましては、そのような判断は適当でないということは当然でございます。ただ、今お述べになりました荒川医師診断の結果は、非常に医学的なものでございまして、私におきまして、どこが悪かったという点の判断はもちろんできないのでございますが、われわれの感じといたしましては、その診断と、それから、他の二人の医師もやはりこれは医師でありますので医学的な診断をしたことと存じますが、その二人の診断を総合いたしまして、その上で取調べを続けるかどうかという判断をしたことと存じます。その際に、荒川医師判断のどこが間違っておって、他の医師判断がどうして正しかったかという点につきましては、私どもまだ十分この診断書内容検討しておりませんし、存じておりませんので、ここで申し上げかねるのでありますが、一般論として、ただいまお説のように、生命に危険があるということが万一にでも考えられるという場合には、検察官としまして、よほど慎重な態度をとらなければならないということは当然でございます。そこらへんまで考えた上での判断であろう、こう考えておる次第であります。
  13. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 それなら、さらに進んで、高橋医師が一体どのような診断をいたしておるか、これにもまた検討を加えてみよう。昭和三十年七月二十二日付の高橋医務課長の「病歴書」というものが福井地方裁判所に出ておりますが、これによれば「胸部に所見はないが、脈摶結滞一分間に二ないし三回あり、慢性症と認められる。体格一般に弱く、栄養もかなり衰えいるものと認められたので、ブドー糖静脈注射を施そうとしたが、静注は要らないとのことで、もっぱらビタミン耳一〇ミリ、プラスビタカンファー二本の混注を毎日連続、三月四日まで、高志警察署へ移されるまで施した」とございます。次いで、荒川医師同様に福井地方裁判所公判に出まして、宜誓の上に次の通り述べております。「丸岡警察署独居房にふとんをしいて寝ていた堂森一枝を無理に起して、監房内にある看守の当直室へ連れて来て、その部屋に寝かしたまま私が診察したのです。その結果は、体温六度四、五分正常、全身を詳細に診察したが、胸部疾患のおそれなし、脈摶は一分間に二、三個の結滞があり、聴診によると心臓部で同様の症状が認められ、血圧はエルマのメーター血圧器(水銀柱)によって測定したところ、最高一一五、六、最低八〇前後でありました。心臓結滞について本人に問うたところ、以前に妊娠腎炎入院加療をしたことがあると申し立てましたので、これは急性症ではないと認定し、この程度なら勾留にたえるものと診定し、その旨を係官に告げて帰ったのであります」あります。  検事はこれを取り上げたでしょう。ところが、胸部疾患のおそれなしというのでありますけれども荒川医師心臓独音界左右ともに一横指ほど肥大しており、聴診器聴診するに収縮期性雑音を聞くと診断しておりまして、事実その通りであることは、その後きわめて明白になっております。この症状高橋医師はよう見ておりません。この病状は初歩の医学生でもわかる程度だそうであります。現に、堂森一枝さんの夫堂森代議士医学博士であり、つぶさにその話を聞いたのでありますが、この程度症状はだれでもわかります、これを見のがすというのは故意ではないかとさえも思われる、こう述懐いたしております。こういったような重大欠陥のあるところの診察炉基礎になって人権左右せられるということは、これはまことに危険ではないか。だから、ここに病状危険である、人命が危ぶまれるという医師があり・それに反対の意見が出たといたしますならば、もっと精密に専門医に見せるべきであった。それを、警察医の言うことならば何でもよろしいといって、その言う通りにしたというごときは、これは生命を扱う者の態度でないと私は思うのであります。しかも、荒川医師診断による、血圧最高八〇ミリ、最低六〇ミリ、これはきわめて危険な状態であります。しろうとでもわかります。その差二〇ミリです。これに対し、高橋医師は、最高一一五、六から最低八〇前後で、普通である、危険がないと診断をいたしておりますが、それは、荒川医師診察して応急手当すなわちブドウ糖ビタカンファー静脈注射をして平静になって間もなくのところへ来ての診断であります。この応急措置の効果の現われたときの状況診断して、危険なしと言って勾留を続けております。問題は、そうでありません。その応急措置をしない以前の真に危険な状態診断し、その診断基礎として、勾留を続けるかどうかということを判定すべきである。その最も危険なるときに診定をいたしましたものは荒川医師です。その意見を聞かずに、荒川医師応急措置をして平常に復している、そのときに高橋医師が来て診断したその診断書をもって生命に危険なしといって勾留を続けるというがごときことが、一体許されることでございましょうか。
  14. 横井大三

    横井説明員 非常に医学的な問題になりますが、それを離れまして、一般論として、今佐竹委員の仰せられたことはごもっともでございます。従いまして、かりに、荒川医師診断の結果安定しておる状態刑務所高橋医師診断いたしまして、そのときの判断と倒れました直後の判断とを比べまして、そうして差しつかえないのだというような判断は、なるほど危険なことであると思います。われわれといたしましても、こういうような人命に関する点は十分注意しなければならぬことは御説の通りでありまして、ただ、この場合の判断が果して誤まっておったかどうかということは、私どもとしてはにわかにいずれとも決定いたしかねるのでありますが、ただ、そこら辺のところは十分検討した上の判断であろうと思われるのであります。
  15. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 私はそういう点について深く掘り下げて御検討を願うために時間をかしたのであります。そういったことについては私はここに詳細な御報告をいただけるものと思ったのであります。また、それに対する疑問は前回のこの委員会においてすでにそれを投じておるのであります。しかるに、本日、その点はまあ専門的な点であるから私どもには十分わからぬなどという御答弁をいただきますことは、まことに遺憾であります。刑事事件について堂森氏が公判に立ったときに、ただいまの高橋医師証人として出て参りましたので、堂森氏は、みずから医学博士であります関係上、その当時の状況について家内から聞いたところを基礎といたしまして、高橋証人質問をいたしております炉、これによると、高橋証人はこう答えております。「打診、聴診だけで心臓病気診断することはきわめて危険だと思いますが、どうですか。」との問いに対し、高橋証人は、「その通りです。専門的に診断する機械設備もありませんので、私の三十年間の経験によってそうした診断をしたのでありまして、科学的ではありません。」と言っております。これでは全く慄然とせざるを得ないのであります。このような不備な診察を百パーセント信用し、しかうして最も科学的に理論的に信頼するに足りる診断荒川医師がいたしておるにもかかわらず、これに一顧だも与えずに、人命危険のまま勾留を続けておったというがごときは、被告は死んでもよろしいというようなことを前提としたものとより見るの外はありません。一体法務省や検察当局はそのような方針でありましょうか。こういうような問題については、ただいまの仰せに従いましても、もっと深く検討をしてやるべきだとおっしゃるけれども、実際検討をしておらないではございませんか。
  16. 横井大三

    横井説明員 本日報告いたしました点では、なお今の御質問によりますと不十分であったということでございます。従いまして、もし時間が許されるならば、そこら辺の点をなお検討いたしました上でお答えいたしたいと思います。
  17. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 そう願わなければなりません。この人命に関する問題を、監獄医が報告したならば、市中のどんな医学博士、どれだけの権威者の診断書を持って来てもそれは信じない、監獄医の言うことだけが信頼できるのだといって、人命を犬ネコのように扱われては困ります。  私は、さらに、十分の御答弁をいただきますために、一対二という、その二のうちのもう一人の友影医師診断について考察を加えてみましょう。  丸岡警察署長より福井地方裁判所あての報告書によると、友影医師堂森夫人を次のように診察いたしました。すなわち「多少のショックはあるでしょうが、別に悪いところは見えない。ただし心臓は少しわずらっておるようである。」とあるのでありますが、しかし、同医師は、福井地方裁判所公判に出て宣誓の上、「心臓弁膜症である。」と証言をいたしました。「脈搏数はやや多くて微弱で、不整脈がありました。聴診の結果心臓部収縮期性雑音がありました。」と言い、かつ「本人は憂うつ性があって、すぐ目から涙を落すので多くを語れなかったのですが、あの状態で、期間的に長く拘束しておくとどうなるかなあという不安の念は十分に持っていました。」と述べ、「係官に、診察の結果を言いましたか。」との問いに対し「言いました。心臓が悪い点は確実である炉、入院を必要とするかどうかは専門医でないから十分にわからないと答えた」。と言っておるのであります。  これによれば、高橋医師と同様どころか、荒川医師診断とほとんど同様であります。きわめて重要なる基礎をなしております心臓部収縮期性雑音があることは、友影医師もそのときちゃんと診断をしております。警察報告にないだけであります。しかし、友影医師は、良心に従って、公判廷において宣誓の上に、確かにその通りでありましたと認めている。荒川医師診断とぴったり合っております。何ゆえ、荒川医師を一とし、高橋友影を二とし、二対一で荒川診断が信ぜられないなどと、かようにおっしゃるか。その根拠は全くないと思います。この点も、ただいま結論を伺いましても、それはよくわからぬとおっしゃるでありましょうから、こういった各診断の結果についてなおこれから十分にお調べをいただきたい。さらに私はこの委員会においてこれから関係人を証人として出ていただかなければならぬと考えますので、それ以前に法務省といたしましても責任をもって御調査をいただいておきたいと考えます。  さらに進んで、それなら三人の医師はどうやっているかというに、その三人の医師ともその手当はほとんど同様であります。荒川医師は、二〇プロセントのブドウ糖液四〇CC、ビタカンファー一CC二本を静脈注射、ハンビタン二CC、ネストン二CC、ビタカンファー一CCを皮下注射高橋医官は、ブドウ糖静脈注射をやろうとしたが、本人がいやがりましたのでやらずに、ビタミン耳一〇ミリ、ビタカンファー二本混注を二月二十四日以来毎日連続して三月四日まで施したとあります。それから、友影医師は、二〇プロのブドウ糖二〇CC、右腕静脈注射、これも右腕静脈血圧が低く現われぬために苦心惨たんしてようやくやった、左はできなかったと友影医師も言っております。それから、ビタミンBとビタカンファー皮下注射をしている。三人とも同じことをやっている。品で何と言おうと、医師としての良心から施すべきところは大体方向を一にいたしております。そうしてブドウ糖静脈注射ビタカンファーの連続注射によらねば平常を保ち得ないような病人であったことは、まことに明瞭であります。そのような病人を警察刑務所に閉じ込めておくのはすこぶる危険であり、時に一命も危うくするということは、常識でも察せられることでありますが、それでも勾留を継続いたしたことは、人権に影響のないことだとお考えでありましょうか。
  18. 横井大三

    横井説明員 ただいま仰せられましたように、人命に影響する場合に勾留を継続したとすると、これは人権問題になることは当然であります。ただ、先ほども申しましたように、われわれの方で、医師三名の診断の結果並びに処置につきまして詳細に調査いたしまして、その上でなお機会を得て答弁させていただきたいと思います。
  19. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 記録をぜひお取り寄せいただきまして、詳細にごらんを願いたい。ここに写しがありますから、きょうこれをお持ち帰りになってごらんをいただいてもよろしゅうございます。警察及び検察庁における堂森夫人の動向から、医者がどういう注射をし、どういう食物を与えたか等も全部明かになっております。これによって、だれが見ても、人命に危険なしとだれが言い得ましょうか、先ほど、課長は、発作は二回だけしかないとおっしゃるけれども、これをごらんなさい。ずっと注射が続いております。二回だけ発作炉あっただけで、その他はほうっておけるような、そういう病人ではなかったのであります。まことに重大な症状で、注射によってのみ生きておった人であります。記録をとくとお読みいただきまして、これに対する御所見をさらに承わりたいと考えます。  さらにこの際承わっておきたいのは、三月二十六日の卒倒であります。井本局長は前回細田委員に対して、「卒倒々々と言われるのですが、私どもの方に参った報告では、目まいを起して腰かけからゆるやかに床の上に倒れたことがある旨の報告があります。ただこの場合でも、別に意識がどうというのではなくて——非常に弱っておったことはうかがわれますが、」というように御答弁をなさっておる。きょうの課長の御答弁も大体その通りであります。相もかわらぬ御答弁であります。しかし、これまた記録をごらんなさい。刑務所医官高橋は地方裁判所公判に出て、これまた宣誓の上にはっきり申しております。検察庁から堂森一枝が卒倒したから来てもらいたいという電話がかかった、そこで飛んで行ったと証言しているのであります。今ごろになって、いすから静かにすべり落ちた、卒倒でも何でもない、また正気も失っておらぬ、このようなことをおっしゃるのでありますけれども、その際検察当局から高橋医師へ救いを求めたときは、堂森一枝が卒倒したから早く来てくれと電話がかかったのであります。この記録に現われておるところがうそであると言われましょうか。しこうして、一件記録をよくごらんになればわかるのでありますが、当日は決して単に気分が悪くていすから静かにすべり落ちたといったような程度ではありません。気絶をして応急手当を受けて、それから、警察報告書をごらんになればわかります通り警察へ連れて行かれた後もなお意識が明瞭になかったと書いてあります。この委員会に出て参りますると、卒倒したものでもなく、精神状態には何の影響もなかったなどと、さようにおっしゃておるけれども、その当時は、ともかく検察庁当局もあわてて、刑務所のお医者さんに、堂森一枝が卒倒した、早う来てくれと救いを求めておるのであります。そうして手当をした。警察へ連れて帰ったが、警察でもなお意識が不明であったとあります。三月二十六日のこういったような状態であるのにかかりませず、このときでもなお病院に入れることなしにその取調べを続行したというがごときは、これは人権じゅうりんではないでありましょうか。
  20. 横井大三

    横井説明員 私たちの報告によりますと、倒れたとはいえ意識ははっきりしており、いすに寝かしてからも起き上ろうとするのでということが書いてありますので、おそらく前回刑事局長は卒倒というほどではないといったような言葉をあるいは用いたかもしれないのでございます。しかしながら、名古屋高等裁判所判決によりますと、一時失神状態に陥りということになっておりますので、通俗に申します卒倒と申してもよろしいのかとも思いますが、ただ、その後警察に行ってまで失神状態であったかどうかということについては、私どもはっきりいたしませんので、もしそうであれば、かなり取扱いには慎重を要する場合であろうと思います。従いまして、それらの点もなお調べまして次の機会に一緒にお答えいたしたいと思います。
  21. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 高志警察署被疑者動向簿を一つお調べを願いたいと思います。午後十一時署に帰署したが意識はっきりせず云々、これは記録に明確にされております。お調べをいただきたい。しかも、この卒倒した原因はどこにあるか。検事がどなったからであるということではありませんか。これは公判調書の中にも現われております。しこうして、このとき高橋医師は、これは二、三日取り調べるのは無理であるということを、さすがの刑務所のお医者さんも警告を発している。しかるに、翌日直ちにそれをゆり起して調べているじゃありませんか。刑務所のお医者さんすらも、これは調べぬ方がよろしい、二、三日はじっとしておきなさいと言われているのに、すぐ翌日行ってゆり起してそれを調べている。一体こんなにしてまで被疑者をいじめなければならなかったでありましょうか。私は解釈に苦しむのであります。人権じゅうりん呼ばわりをせざるを得ないところがそこにあります。この点も記録によく現われておりますから、よくお調べを願って御検討を願いたい。  それから、どうでしょう。この堂森一枝勾留されたときの体重は、平素十三貫あります。帰って来たときは九貫です。まさに肉を削り、骨を削って帰って来たのであります。ところが、これに対して検察当局は公判で何と言ったか。ハンストをやったのだ、だからやせたろうと言った。河という言い分でありましょう。それならば、お調べいただきたい。差入簿がちゃんとできております。何月何日何を入れて何を食うたか、何を飲んだかということがちゃんと記録されております。しかも堂森一枝氏はこう言ってます。食欲はないけれども、人さんが心配をするから食べなければなりませんといって、いやだのに食うたということが、この記録の中に明らかにされている。何という悲惨なことでありましょうか。かくて、肉を削り骨を削り、十三貫のものが九貫になって戻されております。人権が尊重されたとだれが言い得るでありましょう。きょうはそれらの点もおそらくわからぬとおっしゃるでしょうが、一つよくお調べを願いたい。  しこうして、さらに、本年の二月四日には検察官はお医者さんを連れて堂森一枝の寝ているところにやって参りました。それは、一枝さんはにせ病だ、にせ病を摘発して保釈取り消しだということを来られる前におっしゃったということでありますが、やって来られたところが、やっぱり病気です。さすがに、参りましたお医者さんも、これは寝かしておくよりほかにないということでお帰りになっております。かようにして、昨年の二月二十三日に警察へ引っぱられて、そうして五十幾日もの長きにわたって苦しんで、十三貫のものが九貫になって帰って来た。自来立つことができぬじゃありませんか。今日といえども法廷に立つことができない。事件にされておるけれども、その事件が進行することができない。それで、出ていかぬと、にせ病だと言って、にせ病呼ばわりをしている。ずいぶん疑った話であります。人権をじゅうりんして、そしてその人をほとんど回復困難な病人にまでたたき込んでおいて、にせ病呼ばわりをいたしまして保釈取り消しをしようなどという、そういったような出方は、これは検察ファッショだという声が起らざるを得ないではありませんか。しかも、この堂森一枝さんがだまって出ないのじゃありません。有力なるお医者診断書を添えて、こういう状態であるからという届けをいたしておるのでございまするが、これを信じません。そして、にせ病だ、保釈を取り消すぞ、こう言って威嚇されておるのであります。しかし、今なお立つことができないまでに健康を害しておるのであります。先日刑事局長はかようなことをおっしゃいました。「ずいぶん、病気の様子をいたしまして、外へ出すとすぐびんびんしてしまうというようなことで、悪い者がのがれるという事例もありますので、」と言っている。いかにも堂森一枝を悪人でもあるかのごとく、そうしてにせ病を便ってのがれておるかのごとき言辞を弄せられておりますることは、同僚堂森氏とともに泣いても泣き切れません。堂森氏の人格とその御家庭をもう少しお調べを願いたい。  本日は私はこれ以上申し上げませんが、今少しくよくお調べいただきまして、次回には責任のある御答弁をいただきたいと思います。  本日は私はこの程度にいたします。
  22. 高瀬傳

    高瀬委員長代理 佐竹委員の質疑はこれにて終了いたしました。  次に古島委員の質疑に入ります。——古島義英君。
  23. 古島義英

    ○古島委員 大臣を呼んで下さい。
  24. 高瀬傳

    高瀬委員長代理 大臣はただいま自由民主党の治安対策委員会の方に出ておりますが、すぐにこちらへ出席するとのことであります。
  25. 古島義英

    ○古島委員 それでは、大臣の分を抜きにして伺います。  昨年の二月八日午後十時五十分ごろ、埼玉県児玉郡の上里村大字金久保の一二〇八番地先中仙道道路上において、自転車に乗って通行中の諸岡政雄という者、この諸岡政雄を追いかけまして、植原明という者が、諸岡の右の方から丸太棒をもって同人の顔面を殴打して、その場に自転車ともろともに転倒させ、柴崎稔陣がさらに長さ二尺五寸くらいの丸太棒をもって、右諸岡の肩付近を数回殴打し、暴行を加え、その反抗を抑圧して同人の所有である現金一千七百円及び皮製チャックつきの手さげカバン一個、万年筆一本、そのほか十数点を強奪したという事件があるのであります。そして、同年四月七日の午後十時五十分ごろでありますが、埼玉県児玉郡の上里村大字金久保のやはり道路上において、自転車に乗って参りました松本宗太郎という者を、柴崎稔陣、植原明が自転車を追いかけまして、植原明が右松本の右の方から長さ二尺六寸ぐらいの丸太棒をもって松本の顔面を殴打し、その場に自転車もろとも転倒せしめて、さらに植原明及び柴崎稔陣において右棒をもって右松本の頭部及び肩等を殴打する等の暴行を加えて、反抗を抑圧し、同人所有のキャラメル一個、時価にして二十円のものを強奪した、こういう事件があるのであります。この事件について、結局この人たちが五月の十四日に検挙されまして、本庄警察で調べたのであります。本庄警察から浦和裁判所熊谷支部に送りまして、検察庁でもこれを証拠十分として起訴いたしました。熊谷の裁判所ではこれに向って懲役五年の刑を言い渡したのでありますが、その刑を言い渡して、保釈を願い出したにかかわらず、結局保釈が許されませんから、控訴の取り下げをいたして、昨年の八月十日から服役いたしておったのであります。  ところが、その後において、昭和三十年の十二月十六日に、本庄警察署は自動車窃盗の現行犯人の磯野義久という者を検挙いたしました。そういたしますると、この磯野義久と伊早坂丈二と二人が、今申し上げました二つの事件は自分らの仕事であるということを自白いたしたのであります。自白いたした結果、その諸岡から奪ったところのカバンであるとか、あるいはその他の臓品が、磯野のところから出たのであります。その後、今度はとられた万年筆が伊早坂の洋服から発見された。これで、次に発見した人たちが真犯人であって、前の犯人は全くうそであったということが現われて参ったのであります。この点について、非常な人権じゅうりんの問題を起したものであります。が、法務省ではどういうふうにこれをお調べになって、今日明らかになっているのでありますか、その点を御説明願いたい。
  26. 横井大三

    横井説明員 これは、一度確定判決を受けた事件につきまして真犯人が出ましたこととして、新聞にも取り上げられた事件でありまして、ただいま古島委員の仰せられました通りの結果になっているわけでございます。現在では、この新しく発見されました犯人につきまして、一人は起訴いたしました。他の一人は少年でございますので家庭裁判所の方へ送致いたしまして、なお逆送を待ちまして起訴する。なお、もう一人自首しました男がおります。これは、真犯人発見ということで新聞に大きく出ましたので、自分もそれに加わっておりましたので自首して参ったのでありますが、これは諸般の事情を考慮いたしまして起訴猶予にいたしてございます。  この事件がなぜこういうようにわれわれとしてまことに申わけない結果になったかという点は、記録に基いていろいろ調査いたしたのでございますが、確かに検察官としまして検討が足りなかったために、たやすく自白調書を信用いたしまして、そしてそのまま起訴した。ことに、前に被疑者として取り扱いましたうちの一人は精神薄弱者でございました。そういう者の供述を信用いたしまして事件を処理したという点、取調べ方法その他につきまして手落があったのでございます。従いまして、われわれとしてまことに申わけなく思うわけでございますが、なお、この事件を扱いました本庄警察の署長は、辞表を出されまして、責任をとっておられます。私どもの方としては検察官でございますが、二人の検察官が関与いたしまして、そのうちの一人は、この事件がこういう結果になる前に昨年中に退職いたしております。なお一人の検察官は現在たしか青森検察庁検察官としての仕事をしておると存じますが、われわれの方といたしましては、この検察官取調べその他について検討いたしまして、その上で適当な措置をとりたい、こう考えておる次第でございます。
  27. 古島義英

    ○古島委員 相棒の植原明が精神耗弱者であるということは、初め検挙したときからわかっておるはずであります。さような精神耗弱者の言うことを信じて、新たに自分とともに犯罪を犯したという人間を検挙いたしたのでありますが、そのときに柴崎はあくまでも自分でやらないと主張したにかかわらず、精神耗弱者植原の言うことのみを信じて、これと会見もさせなかったということは、はなはだしく手落ちだと思うのです。植原明とほんとうに罰せられた柴崎稔陣とを会わせれば、こんな結果は来たさないことと思うのであります。しかるに、会見をさせてくれということを要求したにかかわらず、警察でもあるいは検事局でもさらにこれを会見させなかったということは、まことに大失態でありますが、その点を御調査なさってくれましたか。
  28. 横井大三

    横井説明員 私どもの調べた範囲におきましては、会見の申し入れ、つまり対質の申し入れがあったのに会わせなかったという結果は出ておりませんので、なおその点も調査いたしまして取扱いをしました者の責任を考えて参りたいと存じます。
  29. 戸田正直

    ○戸田政府委員 本件は検察側の失態であったのであります。人権擁護局もこの問題を重視いたしまして、ただいま浦和の地方法務局においていろいろと事実を調べております。やりもしない事実に対して自白をせしめた、これについて拷問、暴行あるいは自白の強制等があったかどうかというような点についても詳細に調べたいということで、ただいま調査中であることをつけ加えておきます。
  30. 古島義英

    ○古島委員 拷問があったか、脅迫があったかということは私の方で大体調べておりますが、警察では森巡査部長が調べ、それから宮島刑事が調べ、徳江刑事が調べている。森巡査部長のごときは柴崎稔陣を二時間正座させております。そうして、足が痛くてかなわぬというので動くと、これをけ飛ばしているという事実がある。それから、宮島刑事のごとき、髪の毛をつかんで五、六回壁に頭をたたきつけている。そうして三回ほど万年筆で額をこづいております。徳江巡査は、夜おそくこれを引き出しまして、髪の毛をつかんで振り回したという事実がある。それから、署長の上原という人も、やはり髪をつかんで壁にこれをたたきつけたという事実がわかっている。こういうふうなことをして、しかも、自分は絶対にそういうことをしないと言うにかかわらず、お前がやったに相違ない、相棒の柏原が自白をしておるのだというので、その精神耗弱者の植原の言うことのみを信じて、植原と自分と会わせてくれれば自分でないということがわかると言うにかかわらず、さらに会わせということをしないのであります。この際一ぺんでも柴崎と植原とを会わせるならば、この人間は相棒でなかったということがすぐわかる。ところが、その精神耗弱者であった植原も、同じくこれは無実の罪である、こういうことになりましたから、ほんとうにこれはでっち上げだということになるのであります。しかも、警察ででっち上げまして、こういう拷問、脅迫もしくは誘導尋問等によって作り上げた仕事でありますから、検事局で少々気がついたならば、これは直ちに暴露されたわけであります。ところが、その警察で調べた供述を何でもかまわず検察庁で信用した結果、こういうふうな人権じゅうりんの問題が起つできたのであります。そう考えますと、森巡査部長のやったこと、あるいは宮島、徳江両刑事がやったこと、上原という署長のやったことを詳細に取調べしなくんば、この事件は解決しないと思います。もう取調べをどの程度やっておるか、そこも承わっておきたい。
  31. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいま調査中でございますので、詳細な点参っておりませんが、とりあえず被害者について十分事情を聴取するということに、ただいまその程度しかわかっておりません。
  32. 古島義英

    ○古島委員 ところが、今度は、この問題で騒いでおるときにまた大へんなことが起って参ったように私は聞いておるのであります。深谷市稲荷町の製めん業をやっておる広川忠次郎の長男浩一という青年でありますが、近所の長島はるから米一斗を盗んだという嫌疑で、昭和三十年十一月四日深谷警察署に検挙され、五日に本庄区検察庁取調べをいたしました。佐藤副検事が調べたのでありますが、結局窃盗の嫌疑はないということで釈放したという署長あての釈放通知書を押送の佐藤巡査に手渡した。佐藤副検事は釈放通知書を手渡す際に押送の巡査に向って、安倍市長が身柄の引受人になっているから渡してくれということで特に頼んだ。ところが、押送の巡査は、釈放したと言われている広川浩一に対して手錠をかけて警察に連れ帰り、捜査係の山崎警部補にこれを報告して、安倍市長に連絡をとって、安倍市長の来るまでの間これを留置場にほうり込んでおいたという事実がある。釈放の通知を受け、しかも釈放したのであるから市長に渡してくれと言われたにかかわらず、なおこれに手錠をはめて署まで連れていくことは不都合である。しかも、署に連れていってまず普通のところへ置くならばいいが、留置場にほうり込んでおいて安倍市長に連絡をとるに至っては、まことに不都合きわまることだと思いますが、この点はお調べ下さっているでしょうか。
  33. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいまお尋ねの事件につきましては調査中でございますが、釈放通知書が出ていますのを手錠をかけて連れていくということは許されないことです。いわんや留置場に入れるというようなことはよろしくないと思います。調査いたしまして、検討の上適切な処置をいたしたいと考えます。
  34. 古島義英

    ○古島委員 そこで、大臣がおいでになりましたから、大臣に承わりたい。  先ほどから佐竹委員のああした人権じゅうりんの問題といい、私が申しました人権じゅうりん問題といい、実にゆゆしき大事であります。こういうことが常に行われるということになれば、憲法の保障する基本的人権の保護はもちろん、実体的に訴訟法で明瞭に保護しておる人権の擁護というものも絶対に望むことができません。そこにおいて、大臣は、ほかの人たちとは違うので、練達堪能な士であるし、ことにいろいろの尊敬しておる方でありますから、多くの大臣が言うようにそのときばかりの答弁でなく、どうしたらばいいのか、そういうような問題がほんとうに起ったというならば、真剣にこれのもとをただして、抜本塞源的に何とか改革する必要があろうと思いますが、何かそれに対策がございますか、承わっておきます。
  35. 牧野良三

    牧野国務大臣 お答えを申し上げます。  お答えをいたすに先だちまして、かような事態が幾たびも繰り返されております実情に対しては申しわけございません。ことに本日あなたから御質疑のあった埼玉県の二重被告事件のごときは、どうも弁解の言葉もないのであります。  私は、就任とともに、これらの事態を従来しばしば知悉いたしておりますので、まず法務省の中に人権擁護局といものをもっと拡大強化して、人権じゅうりんの事実があってからいろいろの施策をするというようなことであってはならない、この種の事案が起らないようにあらかじめ用意をしておかなければならぬということに思い至りまして、特に大蔵大臣、大蔵の両次官、主計局長、主計官、この人たちの前で、今後法務省の予算措置について特に人権擁護局を尊重してくれなければならないということをくれぐれも申しまして、今年はわずかながらこの方面に特別の措置をする予算も計上し、省内においてもその方針を進めることに省議も決定いたしております。  と同時に、ここで、大へん私は失言になることがあってはならぬと思うのでありますが、特に申し上げたい。それは、私が任を受けましてから、全国の次席会同をいたし、その席上で、私は犯罪人を作るということを手柄にしてくれては困るという趣旨のお話をした。どうも検事というものは犯罪を製造する人間のごとくに世間で思っておる、人にはあやまって罪を犯すこともある、生来の精神的欠陥から犯罪をなす者もあるが、とにかく罰するということ、罪人をこしらえるということよりも許すということを頭に置いてお取り調べを願いたい、そうすれば必ず容疑者は包み隠しはしないで初めから取調べ官に対して真実を述べたいという心持になる——。堂森氏の例のごときも、選挙法違反を犯している事実のあることは当りまえです。それを、自分が求める供述をさせようとするから、そこに無理が出てくる。初めから、弁解したいことがあれば何でもおっしゃい、何でも聞きます、親類にも会わせましょう、弁護人にも会わせましょうと言えば、必ず涙を流して悔悟の供述をするに違いない、人の性が善だということを信ずる限り、私は検察行政はこの精神をもっていってほしい、従来検事のうしろには鬼という字を何人も想像した、しかし、事情の許す限り罪とはしないという心でお取調べをするのだからと言って、真実をお述べになる機会を与えますれば、必ず私は検事のうしろには後光がさすと思う、そういうふうにしなければいかぬ、近ごろ事件が多い、そして事件に苦しむ、検事一人で三千件以上も受け持って、それで正しい取調べができるとは思わない、検事も人間であります以上、白状しない、つべこべと弁解をして言いくるめようとするならば、自然手が出る、なぐりたくもなる、これは本能の行為だ、こんな本能の行為をしなければならないようにするのは事件が多過ぎるからだ、事件を少くする、そして起訴案件も少くすれば裁判所も救われる、だから、私は、どうしてもその方針を進めてほしいと思うがどうでありますかということを述べて、さらに、最高と高等の各検事諸君に私のところへおいでを願って、懇々と懇談をしたのであります。それに聞いて下さい、大蔵省は従来、司法部に対する予算といえば、犯罪件数が多ければ予算をくれる、検挙の数が百件ごとに何百万円といって予算をくれるというような、こんな予算の盛りようはいかぬ、取扱い件数がうんと減ったら予算を与えなさい、だから、私の法務行政はこの方針でいきたいから、来年取扱い件数が減ったら予算を与えなさい、ふえたら与えなさるな、私がおるといないとを問わずに大蔵省は根本から方針を変えなければいけないというつもりで、従って、法務行政につきましては思いつきや独断で方針を新たにしてはならないと私は思いますから、これは訓示じゃありませんよ、私はごあいさつをするのです、訓示とは命ずることだ、守らなければならない、しかし、私はあいさつでものを言うんだから、自由な御批判をして、なるほどと思われたら必ず一緒になって行なって下さいということを申しました。しこうして、私はこれを名古屋で申し、京都で申し、大阪では管内の検事全部の会同の席上で申し、神戸でもこれを申しました。機会があれば私は全国へ行ってこのことを申したいと思いますが、私は、こうすれば罪を犯した者が免れるということはたくさん出てくるかもしれぬけれども、あなたのおっしゃるように無実の者が罪せられるということは断じてなくなる、こう思うのでございます。これは宗教家のお教えを待つまでもありません。法務行政として、ことに検察行政においてはこの心を持っていくことが、新憲法の趣旨に従って、時代精神を明るく一変させるゆえんだと思うのでございます。  せっかくのお問いでありますから、この機会に、今般の埼玉県の申しわけのない事案をおわびするとともに、私はこんな心持を抱いて検事会同でものを言ったということに一片のあわれみを与えられて、どうかここでわが国の検察行政並びに一般法務行政を皆さんの力を得て一変いたしていきたい、こんなふうに思います。何とぞ御了承を賜わらんことをお願いいたします。
  36. 古島義英

    ○古島委員 さすがに牧野法務大臣はわが意を得た答弁をいたされました。しかしながら、あなたの仰せになる人権擁護局を拡大強化するというようなことがもしほんとうであるとしても、その拡大強化しただけをもって一切の人権擁護ができ得ると思っておったら大へんな間違いであります。何しろ、人権擁護局は、人権をじゅうりんする疑いのある、またじゅうりんするかもしれないというようなことを世間に思われるところの検事が主になってやっておるのであります。これは、警察人権擁護をいたすということで宣言いたしましても、検事人権擁護をいたすと言いましても、ほんとにできるわけではない。今佐竹君の言うた問題にしても、私が申し上げた問題にしても、警察検事局で人権をじゅうりんしておるのであります。この人権をじゅうりんする本家本元の検察庁人権擁護局を持っておる、これを拡大強化いたしたところでこれは何もなるものじゃない。むしろこれは民間団体に人権擁護局を移譲しまして、あるいは弁護士連合会というようなものがこの任務を全うするならば、おそらくはほんとうに人権擁護の成績があがると思うのであります。あなたは、この拡大強化するというあなたの方の人権擁護局を、民間団体の弁護士連合会、もしその他に適当な団体があれば別でありますが、その方に移譲しようというようなお考えはありませんか。その点を承わりたい。
  37. 牧野良三

    牧野国務大臣 ごもっとものことでございますが、人権を尊重するということを国の行政の一つに置くということは、きわめて大切のことだと私は思うのであります。従って、ただいまのお説はしごく賛成でありまするから、私は、人権擁護委員を非常に尊重するということが一つ、もう一つは、各弁護士会に私みずから出向きまして、特にこのことをお願いして御協力を願いましたことが二つ、第三は、バー・アソシエーションへ行きまして、バー・アソシエーションというのは弁護士だけではなく判検事、それに学者、民間の有識者等を集めた一つの団体であるから、どうかここでは特に人権を尊重するという方面のことについて特別に御協力を願いたい、人権が侵害されてからいろいろの手当をするというようなことでは目的を達しない、いかなる場合においても人権を侵害するというような事実が絶対にないことを期するというふうに、ちょっと言い過ぎかもしれ広いが、どうか皆さんが責任を分って下さらぬかということを申しました。実は、二、三の弁護士の諸君から、あなたは少し言葉が過ぎるという非難をお茶の席で受けましたけれども、過ぎたら許してくれ、もう役所だけにまかしておってはいかぬという心で言ったんだから、悪く思わぬでくれ、こういうことで、しかし役所は必ず役所として国の行政にこれが非常に重要なるものとして進めていきたいということは同時に認めていただきたいと思うのでございます。従って、私はあなたの御趣旨通りなことを昨年の暮以来進めておるつもりでございまして、人権擁護委員の全国代表者を表彰いたしました際にもそのことを申し述べて、感謝するとともに将来のことを懇々とお願いした次第でございます。人権擁護委員というものは民間からお選びを得て今日御協力を得ているので、この機会にその方面を一そう充実いたしたいと思うのでありまするから、どうぞ御了承を請いたいと存じます。
  38. 古島義英

    ○古島委員 人権の侵害はやりたくてもやれないようにするということは、少くとも人権の侵害をするということがどういう原因に基いて侵害することになるか、どのような欠陥があるからそういうふうな侵害をすることになるのかということを探求せねばなりません。そこで、まず気のついたことは、どこがもとでさような多くの人権侵害が起るかということを研究せねばならぬのでありますが、私は、これがためには、訴訟法の一切の改正もせねばならぬ、あるいはまた証拠法の改正等もせねばならぬと思うが、大臣はどこにこの欠陥があるとおぼしめすのであるか、その点を承わりたい。
  39. 牧野良三

    牧野国務大臣 お答えをいたします。私は、世の中に人権じゅうりんが絶えない原因はどこにあるかといえば、取調べ官が優越感を持って、自分の独断で、その独断をもとにして調べる、そうしてどうしても犯罪を自白させようという観念、つまり、優越感と独断と自白を強要する、この三つにあると思います。ゆえに私は検察官の会同に際してそのことを申し述べた。と同時に、やはりおっしゃる通り荒事訴訟法を変えなければいけません。それで、刑事訴訟法の改正を取り急いでおりますと同時に、監獄法、これがまた大へんな法律で、人権じゅうりんをいたしておるということを思わざるを得ません。何といいましても五十年もたって、今年はあたかもフェリーの百年祭に当るので、この機会に特に皆さんの御協力を得て今年中に監獄法の根本的血改正をしたいということを決心いたしまして、これも予算審議の際閣僚に披露いたしましたが、大へんみんな喜んでくれましたので、これもまた大蔵当局は協力をするということを約束してくれました。これら万般の措置に対して、なかなか目的を達するには容易でないといたしましても重要な基盤だけはこの機会にこしらえておきたい、こう思います。どうぞ御協力を請います。
  40. 古島義英

    ○古島委員 先ほど申しました柴崎稔陣の事件にいたしましてもそうであります。およそ自白のみで処罰をされないことは憲法の明文にも書いてあることで、かように自白のみで有罪の判決を受けないということが訴訟法でも特に明記してある。しかるにもかかわらず、自白をあくまでも強要するということがどこにあるかといえば、これは警察でとりあえず調べたことが検察庁で重きを置かれるのです。検察庁が重きを置くということは、むしろ検察庁が手を省くつもりでやっておるのである。こういうふうなことから考えると、まず第一に着手せねばならぬことは、少くとも警察取り調べるというようなことがあった場合に、その取調ベの供述書もしくは聞き取り書というものは絶対に証拠にすることを許さぬ、この規定があると、今後は自白を強要することはありません。そうして、自白のみで有罪の判決を受けたり処罰されたりしないということであるから、何か傍証がほしいというので、柴崎の場合には丸太棒を持って来た。この丸太棒でお前がなぐったのであろうと言って、さようでございますということで丸太を認めた。そこで、自白と丸太とを並べて、この丸太でなぐったということで、いよいよ有罪の判決ができることになった。これはみんな警察でこしらえるのです。その丸太棒を知っておるはずはない。全然見ないのだ。ところが、これであろう、これであろうと言われるものだから、それだということを認めて、ようようこの調書ができることになりました。ここにおいて、警察の一切の聞き取り書というものは、検事がその事件を調べるに当っての参考にはなるが、どういうことがあってもこれを証拠として提出することを許さないようにする。われわれがしょっちゅうこれは遭遇するのでありますが、任意性がないから証拠に出すことを反対すると、この場合に任意性があるかほいかを立証するには、その取り調べ警察官を呼びます。呼んで、お前は脅迫をしたか、これは脅迫をしたと言う者はありません。あるいは拷問をしたか、拷問をしたと言う者は一人もありません。それならお前誘導したのだろう、いえ、誘導はいたしませんと言う。それこの通りりっぱな任意性のある供述だ、こういうことで裁判所に証拠に出す。これはどんな場合でも、どんな脅迫をいたしましても、どんな拷問をいたしましても、あるいはどのような誘導をいたしましても、その証拠を用いるということにになれば、取り調べた人をして、脅迫をしない、拷問しない、誘導しないと言わせるのでありますから、ごく簡単であります。だから、まず一切これを証拠に用いることを許さぬようにする。検事事件を捜査するに当って、その参考にはよろしいが、証拠力はないものだということにまできめねばいかぬ。訴訟法を改正する気持があるならば、この点を大臣はどういうふうにお考えになるか。
  41. 牧野良三

    牧野国務大臣 もとよりその点は学界でも法曹界でもすでに定説のあるところであります。十分研究もされておる点でありまして、それらの点を参酌いたしまして、刑事訴訟法の改正に資したいと存じております。
  42. 古島義英

    ○古島委員 私は牧野法務大臣に別にたてついておるわけではないが、学界でも研究しておるとか、その他有力な弁護士が研究しておるというのでは通らない。あなた自身、大臣としてその点は共鳴をいたして、改正する場合にはこれを改正する意思があるかないかを私は聞いておるのであります。  また、さらに進んで検事の方に移りますが、これは警察でも同じでありますが、検事は、幾ら被疑者を調べましても、自分で思うつぼに行かない場合調書は作らない。これは実際の事実であります。そこで、強盗なら強盗ということの目星をつけたならば、これが強盗を自白するまでの間は、何としても調書はとらない。十回調べようが何回調べようが、調書は作らない。いよいよ自分の思うつぼに入ると、初めて筆をとって調書をこしらえる。そこで、裁判所にこれが出て参りますと、初めからすらすらと自白をしたようなぶりをして、その調書が証拠に出て参るのであります。これは一大改革をして、むしろ検事被疑者を初めて見たときから最後にもう取調べが済むというときまでの間は一片も残さずこれを調書にとる必要があろうと思う。そして、否認するならば否認したまま、あるいはこれを認めるならば認めたまま、これを調書にとって、その認めたものも否認したものもまぜてこれを証拠に提出いたす。もしその中に、何月何日に否認しておるにかかわらずその調書が抜けておるというならば、一切の調書は証拠としてこれは無効であるというようなことまでに進めていかねば、どうしてもこのことの改革はできないと思います。大臣はその点はときどき遭遇したことと思いますから、その点についての御感想を伺いたい。
  43. 牧野良三

    牧野国務大臣 全く同感でございます。
  44. 古島義英

    ○古島委員 あまり変なことを申すようでありますが、今までの大臣でありますとその場限りのことを言います。われわれもあくまでこれを追及しもしくは監視するわけには参りませんから、そのままでほうってしまう。かつては言われたが、何の役にも立たぬということになります。われわれの尊敬する法務大臣は実務家であり、断乎としてその信念を貫くことと思いますが、実際警察の調書なりもしくは検察庁の調書なり、これを思うつぼに入らぬ前に書いたならば、その思うつぼに入ったときまでの経過がわかる。どういうときにどういうふうなことで自白するに至ったか、その経過をつまびらかにしなくんば、自白をいたしましても、その証拠の価値というものはありません。そして、裁判所が心証を作るにいたしましても、心証形成において全く欠けるところがある。これはどうしても、あのときは否認いたしておった、そのときは認めたというその経過を見まして、ある場合においてはその被疑者の家庭の状況、ある場合においては検事との対面の模様、これらが明らかとなって大体推察ができることとなります。その推察ができると、いよいよ最後に自白をいたしましても、その自白がほんとうに信ずることができるか、あるいは信ずることができずして突如としてわいて起った自白であるかどうかの推察もできるのであります。こうなると、どういたしましても、あらゆる面接のたびに、どんな場合でも、たとい一行であってもその調書を作るということにせねば目的が達しません。そこで大臣はその点について固い信念があることと存じますから、さらにその点を承わっておいて、安心をいたしたいと存じます。
  45. 牧野良三

    牧野国務大臣 その点は全く同感であります。そうしなければ調書の値打ちがありません。御承知の通りに、ただいま刑訴は法制審議会の審議に付せられております。そのことは私はりっぱな材料として取り入れてもらうことにいたしたいと思います。
  46. 古島義英

    ○古島委員 ついでに国選弁護の点を承わりたいのであります。先ほどの柴崎稔陣の件についても、これは国選弁護でやっておるのであります。そこで、国選弁護については、一人の被告に対してどれくらいな金を払っておるか、そうして旅費、日当等はどう払っておるか、今日本の政府で全体においてはどれくらい払っておるか、二十八年度、二十九年度だけでもよいから、概略を承わっておきたい。
  47. 横井大三

    横井説明員 その費用の点は、裁判所の方の予算になっておりまして、裁判所の方で調査してお答えいたしますか、あるいは裁判所の方に出ていただいてお答えしていただくかいたしたいと思います。
  48. 古島義英

    ○古島委員 そこで、大臣に承わりたいのでありますが、どれくらいな費用を払うかわからぬが、今日実際われわれがまのあたりあうところは、国選弁護を付せねばならぬということになっておる。つまり、貧困者であるとかその他の事由があれば、申し出によって国選弁護をつけることになっておるが、貧困者は国選弁護をつけるのは当然であります。その他の事由というのがあまりに広過ぎて、ほとんど捕捉するに困難で、それがためにすべての事件について国選弁護をつけねばならぬことになる。そういたしますと、中には、国選弁護をつけておいて、そして保釈の請求をする。これはずいぶん不都合な話です。弁護料がないからということで国選弁護を頼んでおいて、一方においては保釈となれば、二万、三万の保釈料、保釈の保証金を払う。こういう不都合な横着な被告も出て参る。これは、国選弁護をしてほんとうの仕事をやらせる、真剣な仕事をやらせようというならば、こういうやたらに国選弁護をつけることは廃止せねばならぬ。そうして、こういうふうな者につける国選弁護を廃止するとともに、貧困者に対して国選弁護をつけるためには、多くの金を提供して、やや私選に塁を摩すような弁護料を払い、日当を払って、そして真剣にやらせるということになれば、この柴崎の場合でもおそらくは国選弁護人がこの非を発見したことと思う。ところが、残念なことには、柴崎稔陣の場合においても、国選弁護はやったのでありますが、ただほんとうの名ばかりの弁護人であって、ただ形式的にその公判に立ち会えばいいというような弁護人がついておりますから、この事実を発見することができなかった。そういたしますと、やはりどうしても刑事訴訟法改正の場合においては国選弁護制度というものを大改革をせねばならぬと私は考えております。大臣はその点について何か別にお考えになるところはありませんか。
  49. 横井大三

    横井説明員 ちょっと大臣の御答弁の前に……。現在の刑事訴訟法上国選弁護人をどういうふうにしてつけることになっておるかという点でございますが、刑事訴訟法を作りました当時の考え方といたしまして、憲法の三十七条の第三項に、「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」、こうなっております。それを受けまして、刑事訴訟法の三十六条におきまして、被告人が貧困その他の事由により——貧困ばかりではございませんで、その他の事由に上り弁護人を選任することができないときは、請求によって弁護人を付する、こういうふうにいたしたのでございまして、憲法の趣旨は、自分でつけられないといろ場合には国でつけてやれ。従って、刑事訴訟法におきましても、貧困ばかりでなくて、その他の事由でつけられないというようなことがもしありますとすれば、その場合には本人の請求によりつけてやろう、こういうふうにいたしております。  なお、弁護費用の点につきましては、貧困の場合には訴訟費用として被告人をして負担せしめないことができるという形をとっておるのでございますから、この憲法の解釈にして間違いがないといたしますというと、公判中に被告人から請求があります場合には、ある程度弁護人をつけてやるということにならなければならないと思います。ただ、本人は十分金を持っておりまして、弁護人も依頼できるのに、ただ、国選弁護をお願いします、それじゃつけてやろうというような建前には実はなっておらないので、やむを得なはい事由の場合には国で付する、こういうことになっておる次第でございます。
  50. 古島義英

    ○古島委員 言葉じりをつかまえるのはきらいでございますが、それはどうもそうはほらないのです。刑事訴訟法の三十六条には、「被告人が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判所は、その請求により、被告人のため弁護人を附しなければならない。」、こう義務づけておる。これはもう、その被告の申し出ることがあれば、どうしてもつけねばならぬということになっておる。つけなくていい場合は起って参りません。どうしてもつけるということに触りますと、国選弁護には相当な費用を提供して、そうして私選と同様なことにせねばならぬ。同様なことにすることが国家予算上できないといたしますならば、いたし方ないから、この方を何か制限したらどうか。あるいは、貧困なら貧困証明書を出す、その他の事由ならその他どういう事由があるかということを明瞭に申し出るようにする。この規定が今ありません。それで、いつでも裁判所の方で、弁護人を自分で選任するか、選任することができなくんばこちらで頼んでやるという印刷物をつけてやります。こうなると、結局、古い言葉で言うならば、お上でつけてくれるというんだから、それではつけてもらおうかということで、国選弁護を頼む。国選弁護を頼むことになると、今度は国選弁護人の費用があまり払ってないから、本人はどうも迷惑をいたす。しょうがないから形式的に立ち会うというだけになってしまって、柴崎稔陣の場合のような、あれほど重大な問題があるにかかわらず、これを発見することができない。証人の申請もしない。こういう乱暴な弁護のやり方をしてしまう。こっちを改正するか、向うを改正するか、改正することができなくんば、費用の点でこれを保障するか何かしなければ、国選弁護の効力はないと思いますが、その点を承わりたい。
  51. 横井大三

    横井説明員 私の御説明があるいは足りなかったかと思いますが、刑事訴訟法の三十六条では、「貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは」、こういうふうになっておりまして、ただ自分が選任しないというのではなくて、選任することができないときは、こういう要件になっておりますので、裁判所の規則によりますと、法三十六条の規定により弁護人の選任の請求をするにはその事由を示さなければならない、貧困であるかその他の事由で弁護人の選任ができないということを示さなければならない、こういうふうになっておるのであります。ただ、現在の実際運用の点は、これは別個にまた検討を要すると思いますけれども、法律の建前はさようになっておりますので、御了解願いたいと存じます。
  52. 古島義英

    ○古島委員 実際はさらにやっていない。実際はただ、自分で頼むか、私選にするか私選にしないか、その問い合せだけです。だまっておけば国選弁護をつける。これは、その規則をこしらえておくならば、それを徹底させなければ何にもならない。徹底させるために、別に訓示をするとかあるいは裁判、所にそれを言うてやる。何かしなければならない。このままでうっちゃっておいては法律の目的を達しない。やりますか。
  53. 横井大三

    横井説明員 確かに、現在の運用は、請求があればすぐつける。これは裁判所がおつけになるのでありまするが、おそらく、一々こまかい資産状態その他を検討いたしますには相当日がかかる、請求があるんだから弁護人をつけてやることは人権擁護になるんだという路考えでおつけになっておられるのではなかろうかと思います。しかしながら、今古島委員のおっしゃったように、そのためにこの国選弁護というのが形式的に流れまして、かえって必要な場合の弁護が十分できないというような結果になりますれば、これは法の趣旨に実は反することになる次第でございます。一面、弁護料と申しますか、報酬と申しますか、この国選弁護人に給する報酬というものもよほどこれは検討しなければならぬ点であろうと存じます。私、現在どのくらい裁判所の方で給与しておられるか、詳細を存じませんが、大した額ではなかろうかと思います。それらの点を総合して、なおこの問題は事務的に検討してみたいと存じます。
  54. 古島義英

    ○古島委員 柴崎稔陣の場合においても千島某という人が国選弁護人になっておる。普通の私選であれば、あれほどの事件でありますから、おそらくは植原というよう血相被告を証人に呼ぶなり、あるいは取り調べた人を証人に呼ぶなり、これは十分な手を尽したものと思う。ところが、実際にはさらにその証人等も呼ばず、ほんとうに公判を形式的に開いた。警察検事の調べた書類を見て、それで判決をする。しかも、証拠十分なりとして、あるいはなぐった棒などを証拠物として、そして警察の調べたものと検事の調書等を証拠にする。何らほかに証拠がないにかかわらず、この棒と供述書とを結びつけてこれを有罪にいたした。弁護人がほんとうに私選であれば、この場合にそういうふうな間違いが起らないと私は思う。しかるに、国選であったがために、あまり形式だけで、この事件自体を調査いたさなかっから、この結果が来た。そうすれば、義務づけられて国選弁護をつけなければならぬということになっておれば、国選弁護をつける場合においても、その費用等はよほど考慮せねばならぬのであります。別に弁護士が費用をよけいもらったから丁寧にやるというわけではありますまい。そんな弁護士はないでしょう。しかしながら、相当な、その日の弁当くらいは十分に食べられるくらいな費用を提供せねば、人情としてやれません。そこで、費用は十分に払う。また、その他雑多に五人も六人も一ぺんに国選弁護人に持たせて、これを形式的にやるようなことをさせては、人権を擁護するために弁護士をつけましても、かえって人権擁護にはならない。目的は人権擁護でありましても、結果としては何らの擁護にならないということになります。これではならぬからして、この点を改正をいたして、その他の事由等があるならばその他の事由を明瞭にせねばならない。時間がかかっても、自己のために弁護してもらうのであるから、その取調べの時間等はいたし方ない。貧困ならば貧困ということの証明を出させる。そうしてあとでこれを免除する。これならいい。しかるに、今日の実際の状況は、貧困者に向っても貧困証明はとらない。資産なき証明等はとらない。その他の事由等は問うところではない。すべての事件にやります。そして、哀れだというので国選弁護をつける、今度は翌日保釈の願いだけをする。そして三万、五万の金さえも自由に保釈の金は払え、これでは人権を擁護するというつもりでもかえって至心を助長するということになります。ほんとうに大きな目で見たときに、かえって国選弁護をつけるということの方が弊害が多いということになる場合があります。これはどうしても、先ほども刑事訴訟法を抜本的に改正をいたしたいというのである炉、この点も憲法と抵触しない範囲において、また憲法改正等の意見も出てきておるのでありますから、十分にこれは考慮してやっていただきたいと思います。大臣はこの点別に考えておりますか、ちょっとお伺いいたします。
  55. 牧野良三

    牧野国務大臣 実は初めてあなたから今のお話で知ったので、そういう知識を私全然持たない。十分考えておきたいと思います。
  56. 古島義英

    ○古島委員 よろしゅうございます。
  57. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 大臣がちょうどお見えになりますので、一言訴えておきたいのでありまするが、先ほど堂森一枝さんの人権問題についてお尋ねをいたしました。ちょうど大臣は他の委員会へおいでにならなければならぬというお話でございましたので、その方へ譲ったのであります。それで、事務の方で詳細の御答弁があるものと信じておりました。実は昨年十二月十六日の委員会において問題と触る点は具体的に実は申し上げてあるのであります。ところが、今日のこの御答弁は、その日刑事局長の御答弁なさいましたより粗略なのでございます。何がゆえに二月もここにかけて御調査を願ったのか、ほとんどその意味を解することができません。そこで、だんだん質疑をいたしてみますると、果してこれが人権じゅうりんになるかどうか、果して堂森一枝さん炉病気で危険な状態にあったのであるかどうかについて、各医師診断を記録の上から抽出いたしまして検討を加えて参りますると、これは一向存じない、わからないとおっしゃるのです。それなら御調査を願って次回に御答弁を願うよりほかにはないということで、きょうは実は、またいま一度御答弁を願うことにお約束をいたして、先ほど私の質疑を打ち切ったのであります。この問題は実に重大なる点がございますので、どうか大臣、ずいぶん御多忙ではありましょうけれども、この速記録をぜひとも一つ時間をさいて一度だけはお目通しを願いたい。それから、刑事課長におかれましても、ただいまお約束をいただきましたので、責任を持ってお調べをいただきますと同時に、本日の状況をつぶさに大臣に一つ御報告を願っておきたいと存じます。実は、そういったような軽く扱われるようでありましたならば、私は刑事課長には質問するのでなかったのです。大臣に出ていただいて、大臣が二月もかかっているのに責任ある答弁ができないというならば、私はきょうは大臣の責任を問いたかったのです。ところが大臣はちょぼっとおいでになって、行かれた。刑事局長は洋行している。新しく出て来られた刑事課長が前よりも粗略な答弁をなさっている。実に小ばかにしている。憤慨を感ずると同時に、堂森一枝氏のあの状態を顧みて、実は涙をこぼしながら先ほど質疑を続けたのであります。どうか次回に責任ある御答弁を願いたい。と同時に、この問題については一つつぶさに御検討おきを賜わりたいと存じます。お願いをいたしておきたいと存じます。
  58. 牧野良三

    牧野国務大臣 まことに申しわけありません。堂森さんの事件というのは、私自身としては申しわけない事案だと思っているのです。それに、私がおりませんかったばかりじゃない。刑事局長を洋行させた。そのあとには局長代理がおるのでありますが、これがきょう病気でここへ出られない。そのために政府委員は十分調査内容を知らなかった。調査はしております。それに対する個人牧野の考えはまとまっておりますが、しかし、法務省として、役所を代表しての答弁の十分でなかったことは、重ねておわびいたします。次回に答弁させますから、お許しを請います。
  59. 高瀬傳

    高瀬委員長代理 志賀君。
  60. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 先ほど古島委員に対する牧野法務大臣からの御答弁によれば、次席会議において、犯罪を作るな、それからまた事件を少くすることが必要だということを言われたそうでありますが、法務大臣は治安対策ということに非常に御熱心なようであります。そうすると、共産主義あるいは共産党というものはお好きじゃないことはよくわかるのでありますけれども、今の犯罪を作るな、事件を少くするということは、個人として、あるいは大臣として、おきらいな共産党に対しても同じお考えであるかどうか、まずそれを伺った上で質問を進めたいと思います。いかがでしょうか。
  61. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は率直に申しまするが、共産党に対するのと一般容疑者に対するのと考えは違えろ、こう言った。共産党の方面におきまして、私は、共産党というものは日本の憲法ではちゃんと日本に存在することを認めている、しかしながら、共産党のなされる戦術は認めない。破壊活動、国家の基礎を破壊して暴力によって革命を遂行しようというのは、これは認めない。だから、困ったな。あなたのその質問に私は答弁するのに困るが、それを公然とやられるときには犯罪になる。秘密にやられるときには秘密結社的な行為である。どっちにしてもこれは取り締らなければならぬのです。その点は率直に私に答えさせないようにしておいていただきたいと思いますが、しかし、どうも私は、破壊活動は容赦ならぬ、こういう考えを持っております。
  62. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 ちょっと牧野法務大臣、見当違いをなすっていらっしゃるのじゃありませんか。共産党の場合は、犯罪のないものを犯罪にでっち上げる、それから事件のないものを事件があるようにすること、これはどうですかというのです。あなたの共産主義に対する御見解を伺っておるわけじゃないのです。ここは法務委員会ですから。
  63. 牧野良三

    牧野国務大臣 誤まりました。従来共産党の人に対しての警察官の態度というものは全くよくない。それは認める。
  64. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 ところが、あなたのよくないと言われることが現にいろいろ起っておりますので、私ども非常に困っておりますが、それにつきまして少しばかり伺いたいのであります。  事は京都の破防法事件というのでありますが、去る昭和三十年一月二十一日京都地方検察庁で、八住梧棲、菅原実に対する破壊活動防止法違反被疑事件論告要旨という検事の論告がございます。この論告の中に、証人炉喚問されておる事実も明記されております。その証人の名前は小林誠吾という者であります。昨年の春証人としてこの事件に喚問された者であります。この小林誠吾という人は、この法務委員会で法務委員をしております自由民主党の横川さんに関する事件——横川さんはこの事件の前後についても非常にりっぱな態度を示された方でありますが、この俗称横川事件の被告であります。判決は八年を一審及び二審で受けております。これが証人として昨年の春呼ばれたのでありますが、昨年の九月十三日に最高裁判所に対して上告趣意書を出しております。その上告趣意書の写しを外部へ郵送したものをただいま写真をとっておりますが、それが一部中に落丁がありました。刑務所から外へ送り出すときにその点を省いたかどうかということは、ただいまよくわかりませんが、その中で、自分は自白を強制されたんだ、横川事件においてそういうことはなかったんだ、こういうことを言っておるのであります。それは、「初め警察官の取調べを受けるなかで時にはどなりながらおどかしたり、またやさしい言葉ですかしながら、十数人の警察官からこずき回され、気の小さい私は言葉なし、真実の反発なしに、ただ警察官の言いなりになってでっち上げの供述調書に同意し、どのように書いてあるものかわからないままに過ごしてきました。」云々とあります。「逮捕されてから数日の間、何の注射であるか知りませんが、腕に注射を打ったことがあります。」、こういうこともこの中には書いてあります。それからなおこういうことがあります。   〔高瀬委員長代理退席、委員長着席〕 「本部の警察官の数十回の呼び出しの中で、小使いがないだろうといっては五百円を数回もらったことがあります。東京拘置所に移監となるので、せんべつと今後ともよろしくということで二千円もらってきました。その他食事代金などを含めると、二万円以上になると思います。」、こういうふうにこの上告趣意書の中には書かれておるのであります。ここにこの写真の写しがございますが、現物はおそらく最高裁判所にあるでございましょう。こういう者が京都の先ほどの破壊活動防止法違反事件に対する証人として呼ばれておるのであります。それで、その証言が論告要旨の中にも引用されておるのでありまして、これによって、京都の破壊活動防止法違反事件というものは法務大臣がきらわれるように共産党が全国的な組織をもって破壊活動をやっておるという証言に、この小林誠吾の言ったことが利用されておるのです。本人はこのように上告趣意書の中で金をもらっておるというようなことを、言っております。検事としては、その上告趣意書を見る権利もありますから、見ておられるでしょうが、そういう点についての調査は刑事局でできておりますかどうか。刑事局は御存じですか、そういうことは。
  65. 桃澤全司

    桃澤説明員 小林誠吾の上告趣意書は拝見いたしておりません。
  66. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 法務大臣は労働組合と会見されるそうで、それを考慮してなるべく早く打ち切りたいと思いますので、法務大臣がいらっしゃる間に法務大臣に質問を集中しますが、こういう事件がありますと、この小林誠吾という者は腹背に刑罰の脅威を受けるのです。御承知の通り、強制された自白を証拠としておるのであります。これで今判決が一審、二審で八年ですね。とろが、こういうふうに、自分が関係していないことについていろいろと供述をした。それに基いて、この男は適当であるといって京都の裁判所証人に呼ばれた。そうすると、御承知の通り証人というものは宣誓をさせられます。ところが、宣誓のときに、真実を包み隠さず、よけいなことは言わないということになっておりますが、これでいくと、今度上告趣意書で、自分が言ったことはすべて架空のことであった、そもそも自分の関係ない事件であるというのですから、それに基いて検事の方で、かくかくのように全国的組織でやっておると言われると、この男は偽証罪に問われることになるのであります。  こういうふうになってくると、警察及び検察庁というものが、法務大臣の言われる犯罪をでっち上げてはいかぬ、犯罪を作ってはいかぬということとまるであべこべのことをやるということになるのであります。警察関係のことはあと回しとして、こういう事態が現に実例として起っておるのであります。これは法務大臣の御方針に考えてどういうことになりましょうか、その点一つ……。
  67. 牧野良三

    牧野国務大臣 私は、戦後における刑事の事件取調べについては、あなたと同じように非常な不合理を感じるのです。同一人をそういうふうにして縛って、ほんとうの供述を言い得ないような状態にする、言えば片方で処罰を受ける、これはどうしても私はやめさせなければいかぬ、こう思います。と同時に、どうも共産党関係の諸君なんかに対する事件取調べが、先入観に基いて誤まったことがあるんじゃないかということを私は憂慮いたしております。その点に対しては、私は一方を正すと同時に、一方に対しては正しく進ませるということに対しては、どこまでも最善の注意をいたしたいと存じます。
  68. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 実は、この破壊活動防止法違反事件というものは、他にも各地にいろいろあるのです。北海道の釧路及び三重県における事件は、そういう背後のものがないということで無罪になっておるのです。そこで、京都の検察庁があるいは手柄を立てるという心持があるのかどうか、そこまでのせんさくはおきまして、こういうような背後のものがないのは無罪です。東京のメーデー事件も、主魁者があるよう、木村篤太郎君なんかはヒステリーのばい菌でも注射したように言っておられましたけれども、あれも結局主魁がない。主魁と目されておった岩田英一君という人も裁判所の方で免訴にしております。そういう事件に対して、ここでやらないと検察庁の面目が立たないというような気持が働いたとしかこの場合思えない。こういうわけで、私の方としては、この事件は、今法務大臣の言われたように明らかに予断を持ってかかっておる、先入観を持ってかかっておるということになると思いますが、法務大臣自身も、共産党は破壊活動をやっていて、あまり突き詰めた質問をするなと言われたあとでありますから、どうもそういう法務大臣のお考えもこの際お捨て願った方が法務大臣の職責を全うされる上に非常にいいことじゃないかと思いますが、とにかく、この事件についで、刑事訴訟法では、御承知の通り証人は「何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。」となっておりますが、刑事訴訟規則の方の第百二十二条を見ますと、こういうことになっておるのです。「証言を拒む者は、これを拒む事由を示さなければならない。」、これが第一項であります。第二項は、「証言を拒む者がこれを拒む事由を示さないときは、過料その他の制裁を受けることがある旨を告げて、証言を命じなければならない。」、こういうことになっておる。実は、こういう法律及び規則のために、今法務大臣が危惧されたようなことが起るのであります。これは、弁護士としてみれば、こういう法律があればそれに従わなければらないということになる。せいぜいのところ違憲論でもって検事あるいは裁判所と渡り合う以外に道はないのであります。ここは裁判所の法廷ではありませんから、立法の方から考えまして、こういう矛盾した規則があり、せっかく法律できめたものを訴訟規則でもって実質的にくつがえすようなことになっておりますが、こういう矛盾したものがある。そうして、証人を裁判の前に裁判長が呼ぶことができて、その証言が証拠にされるということになることも刑事訴訟法ではやはり起っておるのでありますが、こういう点について改正の意思がおありでしょうかどうか、その点を伺いたいと思うのであります。
  69. 牧野良三

    牧野国務大臣 この点は、私も少しわからないところがある。それで、政府委員から答弁して、しかる後に私が答弁いたします。
  70. 桃澤全司

    桃澤説明員 ただいま志賀委員は、証言を拒否すると制裁を受けるということで非常に束縛を受けるというお話でございましたが、訴訟規則の方の事由を述べると申しますのは、刑事訴訟法の百四十六条は「自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。」となっておりまして、自分はこれを証言すると訴追を受けるかもしれない、あるいは有罪の判決を受けるかもしれない、だから証言を拒否するという、そのことを訴訟規則に基いて述べればいいわけでございます。ところが、何もそういう関係がないのに、ただ私は証言するのはいやだということで拒否する場合には、訴訟規則の先ほどおあげになりました条文で処罰を受ける、こういうだけのことでございまして、もし自分がそういう証言をすれば起訴されるかもしれないというときには、そのことを裁判所に申し立てれば、それで免除されるわけでございますから、その御心配はないと考えます。
  71. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 そこが心配です。それは、あなた方上からみておりますからそういうのんきなことを言っておられれますけれども検事の方で盛んに捜査をしており、警察も捜査をしているときに、自分は刑法上の処罰を受ける、訴追を受けるおそれがあるから陳述しませんと言えば、どういうふうに警察検事は見ますか。確かにこれは関係かある、そこでその方からたどっていかれることになるのですよ。あなたは、そういうことを言えば本人にとって少しも束縛にはならないと言われるが、まさにそこが落し穴になっているのです。まあしかし、大臣は時間がありませんから、そこのところの追及はあとにしておきます。法務省から見るのと被告になったのとは天地の差があるということを考えに入れて答弁なさらないと、とんでもないことになるのですよ。  そこで、もう一つおかしいことは、この小林という人は横川事件関係があるのですが、この横川事件関係のある人物で工藤通夫というのがおりますが、これがまた今度の京都の破壊活動防止法事件証人として呼ばれております。ところが、この男がまたとんでもないいわくつきの人物であります。横川事件には直接関係はしてないのでありますけれども、この男が陳述したことで、横川事件の被告が非常に組織上の関係があるというので不利になっておるのでありますが、この男は埼玉県に来る前に秋田県の小坂鉱山の万におった人物であります。小坂鉱山には例の火炎びん事件というのがありました。これは、党員の方ではそういうことをすべきではないという結論を出しておるときに、会社から金品をもらっておる当時十八才の少年三人が、おれたちがやることにするからというととで出かけていって、労務課長の社宅に火炎びんを投じたという事件です。これが、京都の検察庁の論告の中には、課長宅及び警察署にも火炎びんを投じたということをあげてあります。それで、結局事件が明らかになって、この三人の中の一人の少年が会社の労務係の弟でありますが、その労務係に労務課長の方から金が出されて、この少年たちに金品が授与されておるということは、法廷における尋問で明らかになっております。そういうようなわけで、この三人はスパイ行為をやっておったのです。この三人が四年の判決を受けてやはり監獄に入ってしまったのです。つまり、おとり捜査をやった場合には、そのおとりになった人物も処罰していいということになります。そうなってくると、この三人をおとりに使ってこういう事件をでっち上げ、その事情がはっきりわかっておりながら、これを事件として取り上げた検察庁、——あるいはこれに対して裁判所判決をしておるのでありますが、裁判所のことは別として、検事の方からこういうものに対して論告をする、おとりになった者も悪い、こういうことになりますと、法務大臣が最初に言われました犯罪を作るな、事件を多くするなというそれと全く反対のことがやられておるのであります。これはまあ法務大臣の今度就任される以前の事件でありますけれども、京都の破壊活動防止法は近く判決ができるのでありますが、検事がこういう論告をしたのは一月二十一日でありますから、確かにこれはあなたの御就任のあとのことでございますね。こういうことがあって、こういう人物が証人として呼ばれておるのであります。前の小林誠吾の場合といい、この工藤通夫の場合といい、この事件関係しておった人物、よりによって小林誠吾とか工藤通夫とか、こういう者を呼んでくる以上、京都の破壊活動防止法違反事件というものは、明らかに証人とすべからざる者を証人として犯罪を作り事件を大きくするという立場でやっているとしか思えないのであります。こういう奇怪なことが行われておるのであります。このことについて法務大臣はいかがお考えでしょうか。
  72. 牧野良三

    牧野国務大臣 ただいまの御質疑は、あなたの前提からしては、あなたの結論を私は是認しなくてはなりません。私の知る限りにおきましては、小林の場合、三年前に判決があったもので、昨年の証人に呼ばれたときには上告中だった。しこうして捜査とは全く関係がない。また、工藤はおとりに使われたものじゃない。こういう事実があるとするならば、あなたのおっしゃることは上告趣意書になるけれども、ここの審議の対象にはちょっとならないように思うのですが、どうでしょう。
  73. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 事件が非常に奇怪に組み立てられておりますから、形だけではそういうふうにお受け取りになっても無理がないです。課長がそばからあまり変な知恵をつけられると、大臣がしくじられますからね。  いいですか、第一の小林誠吾の問題は、彼自身の事件が上告趣意書によればでっち上げだったというのです。そういうでっち上げを食ったような人物が、まだ上告趣意書を書く前に京都に呼ばれておるのです。そこで、自分はやらないと本人が信じておることに対して判決八年を受けなければならないという問題が一つある。ところが、一方宣誓をして証言をさせられておるのです。自分自身の事件をのがれようとすれば偽証罪にひっかかる。偽証罪にひっかからなければ、今度は八年の方を受けなければならない。こういう状態に置かれている人間が証人としての価値があるかどうか。よりによってこういう者をなぜ検事裁判所に対して証人として請求したかということなのです。このことを一つは伺っているのです。  もう一つの方は、おとりを使ってやったような事件、これは当時新聞にも書かれましたけれども、全然当人がやったことじゃない。おとりがやったことなのです。そうしてこの人間はおとりではないのです。この工藤というのは、当時逃亡しておったというので、あとで逮捕されておる。この男は後に自首して出ております。おとりを使ってでっち上げた事件でひっかけられたような人間、そしてそれが自首しておるのですが、そういう人物をどうしてまた第二の証人としてよりによって京都の事件に持っていったか。  こういうことを考えると、釧路の事件あるいは三重の事件その他で破壊活動がないということが証明されておるにもかかわらず、それと同じような案件で京都でこういうことを問題にする、——特に検事の論告の中の項目にもはっきりと出ておるのです。「武力革命を目的とする非公然な全国的組織が存在し、武力革命方針に従って軍事活動をしておったこと、日本共産党はこの全国的組織と密接不可分の関係にあり」云々ということを言っておる。これを証明するために、こういう者を呼んでおるのです。だから私はでっち上げだと言うのです。犯罪を作るためにこういうことをやっている。事件を大きくするためにやっておる。これでは、法務大臣が先ほど古島委員に御答弁になったところと全くあべこべのことを、あなたが就任された以後に検察庁がやっておると言うのです。そのことを伺っているのです。上告趣意書について法廷と法務委員会とを取り違えてしゃべるほど私もまだのぼせてはおりません。その点は、御安心なすって御答弁願いたいと思います。
  74. 牧野良三

    牧野国務大臣 お答えをいたしますが、どうも具体的事実に関して意見を述べられるので、何だか私が鑑定をするようなことに相なりまして、ここで法務大臣がちょっと事件の鑑定みたいな所見を述べてはならぬと思います。どうかこのことに対する答弁はお許しを請いたい。
  75. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 法務大臣として検事に対してどういう関係にあるかということは、私から申し上げるまでもないと思います。検事がこういうふうに犯人を作り犯罪を作りあげて、そして事件を多くすることに一生懸命になっておる。現に多くの人がそのために非常に困っておる。また私の所属しておる共産党自体でもはなはだ迷惑をこうむっておる。そしてあなたの方ではしきりに共産党に対して治安対策ということをおっしゃっておるでしょう。新聞にも出ましたが、新聞にうそが出ておるのじゃないと思います。何もあなたにこの事件の鑑定を願っておるわけではない。そういうわけで、こういうことが行われておるようでは、あなたのおっしゃる趣旨に全く反対のことが行われておると言うのです。そういうわけでありますから、このことについては、今後私どもとして、事件事件として大いに争うつもりでございます。当委員としても関係しておるのでありますけれども、そういう事態がある、このことについて法務大臣はその責任をどういうふうにお考えになっておるかということであります。全然そういうことの責任は法務大臣にはないのか。検事がこういうことをやっておるのを、そういうふうな意味でおっしゃるのですが、私はあなたにこの事件の鑑定を願っておるのではない。法務大臣としての責任はどうかと伺っておる。検事がこういうことをやっておる、またあなたとしてそういうことを言われておるが、事実かどうか、わからないとおっしゃるならばその事実をお調べになる意思があるかどうか、この点を伺いたい。
  76. 牧野良三

    牧野国務大臣 お答えを申します。私はさような事実はないと存じます。しかし、あなたがあるとおっしゃるので、あるならば非常な興味を持ってこれを調べてみたいと思います。
  77. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 調べていただきたいと思います。その上で、事実がはっきりしてからお伺いします。法務大臣はもうけっこうです。  それでは、次に北海道の白鳥事件でありますが、これは近く判決になるのであります。この事件に高安知彦という被告がおります。この被告は今までいろいろと相被告に関して証言をさせられておったのでありますが、つい四日前までこの人は三年以上月寒の警部派出所に置かれておったのであります。これは監獄ではありませんよ。代用監獄であります。監獄法の規定によって代用監獄を使用し得るという規定はありますけれども、今日まで白鳥事件に関して調べたところでは、代用監獄でも畳を使用しなければならないという規定があるにもかかわらず、畳はなく窓もない地下室です。相被告であった村上さんなんかもそのようなところに入れられておったのであります。この村上は昨年の夏七月に国会が終るとすぐ監獄の方に移されたわけです。これが、高安知彦は三年近くも入っておるのです。憲法第三十八条に「何人も、自己に不利益な供述を強要されない。強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。」という規定がありますが、この男は自分に対してそういう不利益な陳述をそのためにさせられたばかりでなく、さらに相被告の村上国治に対してまでそういう自白をやらされておるのでありますが、これについて御答弁願いたいのであります。
  78. 桃澤全司

    桃澤説明員 高安被告は二年余り拘禁されて現在裁判中であることは事実でございますが、被告の処遇については十分注意を払っておる模様でありまして、本人並びにその弁護人から一回も苦情は聞いておりません。  なお、長期拘禁の後の自白の証拠価値の問題でございますが、長期拘禁した後の供述を証拠に供するというようなことは私ども聞いておりません。その点の御心配も御無用かと存じます。
  79. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 これはとんでもないことです。高安の陳述、供述基礎にして村上という男は死刑に相当する殺人の容疑にかけられて起訴されておるのです。殺人の起訴というものは非常に重大なことでしょう。この人物の言った証言基礎になってそういう起訴を受けておるのであります。あなたのように、さようなことは聞いておりませんと、何でもないようなことを言われるのは、一体どういうわけですか。あなたはこの事件を御存じないのですか。
  80. 桃澤全司

    桃澤説明員 その点についてはわれわれ十分考慮して捜査をやっているということを申し上げたのであります。法廷に出た証拠書類などをごらんいただけは明白だと存じます。なお、高安被告は、当時の日共の極左冒険主義に疑惑を抱きまして、これから離脱した一人でございまして、今日もその心境は変っていないように聞いております。なお、本人に対して相当復党の勧誘が執拗になされているようでございますが、今日のところ高安の考えはやはり冷静な立場にあるように聞いております。
  81. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 今問題になっておる事件関係のないことをあなたはおっしゃるが、それじゃ答弁になりませんよ。私の言っておるのは、どうしてそういう人物を長い間月寒という警部派出所に置いたかということであります。あの寒い北海道です。そしてあなたは月寒の警部派出所の内部の構造なんかお調べになった上で答弁されておるのですか。どういう処遇をしておったかということを十分文書その他現地に出張してお調べの上で言われるのですか。その文書があるならば、文書を見せていただきたい。現地に出張されたその報告書があるならば、その報告書を示していただきたい。ここで一々伺うことは何でしょうから、簡単にその点を御答弁願いたい。
  82. 桃澤全司

    桃澤説明員 私ども調査したところによりますと、月寒と申すかどうか存じませんが、本人は豊平町警察署勾留されていると聞いております。その身柄の処遇については十分担当官において考慮をし、今日まで、先ほど申し上げましたように本人並びにその弁護人——この弁護人はおじさんと聞いております炉、一回の苦情もなく過ごしてきているのでありまして、志賀委員の御心配の点はなかろうと存じます。
  83. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 では、なぜ三年以上もそういう被疑者を拘置監に入れずに警察署に置かれたのですか。何か特別の方針がなければそういうことはないはずですね。それはどういう意味でしょう。そこのところを伺いたい。
  84. 桃澤全司

    桃澤説明員 正確には存じませんが、この村上被告はこれも相当長期になっておりますが、村上被告は、御存じのようにこの事件の一番の責任者として起訴を受け、いろいろな事件で起訴を受けておるのであります。と同時に、いろいろな事件がありましたために、その関係者が相当多数各地に検挙されて拘束を受けておった。その秩序維持の問題あるいは証拠関係、そういう点から各地に分散されていたのでありますが、これから先は私の推測になりますが、本人並びにその周囲の希望というようなものも相当参酌されて、そのままここにいたのではないか、かように考えます。なお、その点について特に御要望がありまするならば、私の方でここにいるという理由を問い合せいたします。
  85. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 本人の希望云々ということですが、こういう事件に関連して警察の方なり検察庁の方なりがそれをやすやすといれるということは、ほかの場合にはないことです。ことに共産党に関係する被告の場合には本人の意思に反していろいろなことをやられておる。後に大分県の菅生事件のことをちょっと申しますが、こういう場合に本人の希望云々ということは、この事件の背後にいわくがあるということを示すのでありますが、この事件については、殺人罪の起訴で、殺人の幇助ということに高安被告はなっているわけでありますが、これを特に長期にわたって警察に置くということ、本人の希望云々ということが、なれ合いでないとだれが断言できるかということであります。そういう点については、今後私どもの方でも事実をどんどん糾明して、この事件についていかに乱暴が行われているかということもはっきりしたいと思うのであります。  次に、大分県の菅生事件について、後藤秀生という被告、これは今日福岡の拘置監に移されておるのでありますが、これに対して、たしか安藤文彦という何か暴力犯人でありますが、これが監獄の役人の援助をしてこの後藤被告に対して暴行を行なった。最初たしか園田という役人が行なっておったのでありますが、その後安藤文彦という暴力犯人が、これは離れた監房からこの後藤の入っておる監房ーーかぎのかかっておる監房ですよ。それをあけて入って、これに対して暴行を加えた。この事実を御存じでしょうか。
  86. 桃澤全司

    桃澤説明員 そのことで告訴があって、捜査が進められたという記憶があります。事実の詳細、実はここに用意して参りませんので、もしお許しいただきまするならば、次回にでも御説明申し上げたいと思います。
  87. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 では、それは次回に説明をしていただきますが、これがほったらかされておるのです。検事はこの事件をほったらかしております。きょうはあとで椎名さんが一つ関連質問をなさるが、東京でも現に検事がやはりこういうことはやっておるのであります。さらに奇怪なことは、この事件が起って間もなく、この暴力をふるった在監者が中で死んでおる、自殺しておるという発表であります。こういうことについて、戸田さん、人権擁護局長の方に何か報告がありましたか、お調べになりましたか。
  88. 戸田正直

    ○戸田政府委員 ただいま初めて聞きましたので、事件、承知いたしおりません。従って、調査いたしたいと思っております。
  89. 桃澤全司

    桃澤説明員 後藤秀生で思い出しましたが、前にたしか志賀委員から、この後藤秀生の調書が偽造されて、それが法廷に出ておる、はなはだけしからぬというおとがめを受けたような…。
  90. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 あれは私じゃなかった。他の委員です。
  91. 桃澤全司

    桃澤説明員 さようでございますか。実はそのことについて、ちょうどいい機会でございますから申し上げたいのでありますが、鑑定の結果、その後藤秀生の偽造されたと称するその署名の下の拇印が、本人の指印であることがはっきりいたしました。それで、昨年それらの関係で誣告罪ということでもう一回起訴されております。それでありますから、後藤はどういう立場でそういうことを申したかわかりませんが、一応そういう関係になって陥ることも、この際御報告しておきたいと思います。
  92. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 それと暴行とは少しも関係はないと思いますがね。
  93. 桃澤全司

    桃澤説明員 後藤秀生の関係で申し上げました。
  94. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 後藤秀生が暴行を受けておるのですよ。いささか顧みて他を言うということになりますが、ごまかさないでください。どうして、そういろ凶悪な犯人が自分の監房から出てきて、かぎのかかっている監房をあけてこういう暴行をやった、それを黙認しておったか。今度は、どういうことが起ったかというと、これが自殺した、こういう事件が起っておるのですね。それを人権擁護局長の方でもまるまる御存じない。ここで初めて聞いたと言う。これはもう私にとっても解せないことであります。お調べになるそうであります。これは至急調べて御発表願います。それからまた、これについて、検事はなぜこれを取り上げなかったのか、取り上げない、起訴しない理由があると思いますが、その理由も明示していただきたいと思うのであります。  それだけお願いしまして、次は公安調査庁の方に伺いたいのでありますが、これもはなはだ困った事件であります。名古屋に大須事件というのがあるのは御承知の通りでありますが、この大須事件の被告になった者の裁判が今進んでおります。これに対して、せっかく就職すると、公安調査官並びに警察官が来て——あとで警察関係のことはまた別に伺いますが、すぐやって来て、就職を不可能にする、こういうことがあるのであります。たとえば、芝野一三という被告がおりまするが、近所の人が病気で入院するときに世話をしてやったところ、公安調査官が病人をわざわざ呼んで、芝野は共産党員の被告だからこんなものと関係するな、こういうことを言っておるのであります。それから、中部公安調査局の近藤賢八郎、丹羽節夫という調査官でありまするが、工場に来てスパイを強要し、拒否すると勤労課に名前を出すので、進歩的労働者は首切りの危機にさらされておる。これはこの事件ではありませんが、こういうこともあるようであります。それから、さらに進んで、伊早坂竹雄という、この人の場合は貧困で病気であったが、羽佐田という調査官が見舞に来、就職を世話してやるからと言って千円置いていった事例もあるのです。一体こういうことは公安調査庁としてやるべきこととしてやらせておられるのですか。その点を伺いたいのですがね。高橋さん、いかがですか。
  95. 高橋一郎

    高橋政府委員 具体的な人の場合は私必ずしも存じませんけれども、一般には共産党の動向を調査しておりますので、これらの人々の調査をその意味でしたことはあるかとも思います。
  96. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 ところが、報告ではSという頭文字の女の人になっておりますが、これは大須事件の被告人であります。栄町センター喫茶店——センター喫茶店と言います。そこでこの人が働いておりましたときに、中部公安調査局の公安調査官が来て、支配人にこの婦人に会いたいと要求してきて会った。そして、この婦人に対して、お前はスパイになれということを強要した。これを断わったために、その翌日そこの店を首切られたという事態が起った。あなた方は、調査をすることが共産党に対してはあるかもしれぬと言われたが、こういうふうに、その人の生活の道を断つようなことをしてまでやっておられるのですか。それを許しておるのですか。そうでないと言われるならば、なぜあなた方の監督する現場の公安調査官がこういうことをするのですか。その点についてお尋ねいたします。
  97. 高橋一郎

    高橋政府委員 私ども、公安調査官の調査に際しましては、決して不当に、たとえば就職を妨害したり、あるいは退職させられたりするようなことのないように、これは間違いのないように指導もし、また実際やっておるのであります。ただ、共産党員だからというようなことで一般民間ではその就職をきらって、これを採用することをきらったりなどすることは、これはもうやむを得ないことではないかというふうに考えておるのであります。われわれの役所は、民間の企業に働きかけてその経営をどうするというふうな力を持っておりません。
  98. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 あなたは大へんけしからぬことを言う。民間でその就職をいやがるとは何事ですか。あなた方がそういうことをやるから、みんなきらわれるのですよ。これは一般の共産党員だけではない。監獄から出た者に対して法務省はそれの更生ということに非常に努力しておりながら、いつでもそれがぐれていく。これは何が原因になっているか。刑事が出かけていって就職先を調べ、首になる。生活の道がない。生きるには結局監獄に行く道を作る。こういうために、そこいらでこそどろをやる。悪いことをやる。これ以外に道がない。そういうことをさせておきながら、一般がいやがるとは、これは何です。そういう頭だから、こういうことを平気でやらせておるのだ。やらせておりませんと言うたって、現実にやっておるじゃありませんか。公安調査庁というのは、膨大な予算を持って、する仕事がないから、こういうよからぬことをするのです。国会の開かれた日に、委員会質問があることは百も承知しておりながら、両国の花火大会に出かけていく。そういう量見だから、今のような答弁が出てくるんですよ。あのときだって、公安調査庁長官はここの議事堂に帰っていたでしょう。帰っていたのに、ここに出るとまずいからというので別の部屋にいた。国会をあなた方何と心得ておられるのですか。人を小ばかにしたようなことを言って、それで済むと思いますか。現にこういうことをやっておるではありませんか。これを知っていなかったら、どうかあなたは調べて下さい。それを答弁して下さい。
  99. 高橋一郎

    高橋政府委員 あとでもう少し具体的な人名なんかをお伺いしまして、調査してみようと思っております。
  100. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 同じく警察官の場合があるのです。宇佐美という被告の場合でありますが、名古屋の東署の私服刑事が来て、あれは赤だから首切りをやれといって勧めたために・本人が首になった。次の工場へ行ったところ、またそこで首になっておる。これが一つの事例であります。そのほか、これはまたある朝鮮人の被告でありますが、商事会社に勤めておった場合、保証人のところへ、あの男にスパイになるように言ってくれと言われたが、そこまでは保証人として保証いたしかねますと言ったために、保証人でないというので、結局試験的に就職しておったのが首を切られたというような事件が起っております。こういうことがやはり警察関係でも起っておるのでありますが、私がここできょう特に取り上げるのは、こういう人たちが困っているばかりでなく、法務委員会ともどうしても関係の深い裁判所で、井上裁判長という方が係で、その人が、こういうことで就職はできない、裁判所が呼び出しをかけても法廷へ出ることもできないから、こういうことをしてくれるなということを公安調査庁及び警察に対して言うのです。それにもかかわりずこういうことが行われておる。問題はここにある。何人も正当な裁判を受ける、これは日本人として法の前には平等であり、憲法に明記された権利でしょう。それを警察や公安調査庁が妨害するようなことをしておる。そこで、井上裁判長が、裁判の進行が阻害されるから困るということを言っておるのです。法廷で常にはっきり、裁判を進行する過程において、こういうことをされては困る困ると被告や弁護人は言うのですが、そういうことをいたしておる、今後こういうことをしないように、ある場合には事実そういろここの有無ということについては調査をされるというのでありますが、このことについて御答弁を願いたい。
  101. 中川董治

    中川(董)政府委員 国民が正当な裁判を受ける権利という点は、全く裁判所を初め国民すべてについて結びつけなければならぬことは当然のことでありますが、ただいま御指摘になりました事件の詳細はよく調べてみなければわからぬので、よく調査いたします。一般的に申しまして、警察官が活動いたします場合に、もちろん関係者の雇用を強制したり解雇を強要したりすることがあってはならないことは当然でございますが、同時に、いろいろ犯罪の捜査とか、犯罪があるということを認知するためには、どうしても国民の御協力を得なければなりませんので、そこに、見聞なさった方々、そういう事情に詳しい方々の御協力を願って、国民とともに犯罪の防遏に当っていく、こういう態度は当然でございますので、警察官といたしましては、関係住民の方々の御協力を得て、事情をつまびらかにする、こういう職責は常々やっておると思いますが、ために雇用を強制的に防遏するという態度があってはなりませんので、そういう点は間違いのないようにいたしたいと思いますけれども関係住民の方々にいろいろ事情を聞いたり、いろいろ変ったことがあったら教えてくれと話すことは、当然警察官の職務としてやらねばならぬことだ、こう理解しております。
  102. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 こういうことは現に起って、裁判長の方でも困っていると言っているのですよ。だから、こういう事実ありやなしやということを第一に調べていただきたい。そして、それについて、ただいま申したような行き過ぎがあるといけないという通牒なり何なりを、そういう事実があった場合に出される御意思があるかどうか。その点を高橋次長並びに中川刑事局長にお伺いしたいのです。
  103. 高橋一郎

    高橋政府委員 昨年の十月十三日のアカハタに、大須事件の記事としまして、真実に基く審理、裁判長に被告の権利を保障さすという題の記事のところに、ただいまおっしゃったようなことがきわめて抽象的に書いてあるのです。私も当時これを見たのでありますが、これだけでは、一体どういう点が不都合だというのであるか、実はよくわからなかったのです。それから、裁判所の方で何か善処するというようなことに記事はなっておるのでありますけれども、今日まで裁判所の方から何か申し入れがあったという報告に接しておりません。実際何の要請も私どもの方に対しては参っておらないのが事実と思うのであります。いずれにいたしましても、そういうわけでありますから、まず第一に御指摘のような事実があるかないかということを調べまして、その結果を待ってしかるべき処置をしたいというふうに考えております。
  104. 中川董治

    中川(董)政府委員 お話にありましたような事件の有無が問題でございますので、事件の有無並びに内容等をよく調べた上でないと、そっちの方はお答えできないのであります。
  105. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 有無がはっきりしないとわからないとおっしゃるのですが、もし調査をして、あった場合にはそういうことのないようにされますか。それすらも今答弁できないと言われるのですか。
  106. 中川董治

    中川(董)政府委員 いずれにいたしましても、よく事情を調べてからにいたしたいと思います。
  107. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 では、調べを待ってまた問題にします。きょうはこれだけにしておきます。
  108. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 きょうは人権じゅうりん並びに人権侵害の問題をやっておられるのですが、議題をぐるっと変えまして、私は、人権じゅうりん、人権侵害ではなく、むしろ検事のあまりに寛容な処置のため善良な帝都の市民が夜出て歩けないという脅迫心理にかられている問題についてお伺いするのですが、これは、ちょうど千九百四十何年かのニーヨークにおけるところの、昼は治安大臣が治安を支配する、夜はアル・カポネが支配すると言われたのと同じような様相を呈してきたのではないか、こういうふうに考えるのです。もちろん、今まで新聞等によって見ますと、捜査当局なり警察当局なりは、暴力団並びに暴力行為者によって被害を受けた人間がありとするならば、その被害者は届け出てほしいということを言っておるのです。ところが、いわゆる善良なるところの都民は、せっかく届け出てもすぐに釈放されるのでは、今度お礼参りに報復せられるのがおっかないから、結局届出をしないというようなことになってくるのです。先ほど法務大臣がお話しの、次席会同で言われた、必ずしも犯罪者をこしらえるのではないのだからという、この趣旨を体得したのかどうか知りませんが、時はちょうど本年の二月十二日の午前二時ごろです。場所は杉並区西荻窪二の一三一。管轄の警察署は荻窪の警察署です。しかして、荻窪の警察署から送られた地検の担当検事が山岸検事である。加害者が長谷川某と酒井正勝です。被害者が百武という人間でして、これがどういうようなことであったかと申しますれば、十二日の午前二時ごろに百武という男が杉並区の西荻一二○の知人の古川という家をたずねて行った。ところが、主人が留守で、そこのおかみさん一人であったがために、そこの家にいるわけにもいかぬので、表に出て待っておった。そうしますと、酔っぱらったいわゆる長谷川という男がやってきまして、何もしない百武に対しまして、このやろう何をうろうろしていると言いながら、いきなりそれをなぐりつけた。理不尽になぐりつけられましたが、百武の方では何か間違っているのだろうと思って、古川方を訪問したが主人が留守だから今ここで待っているんだ、おかみさん一人で、いるわけにもいかないから、こう言ったけれども、なおなぐりかけた。そうすると、そこに酒井正勝という男が通りかかった。理由も何もなくなぐられるから助けてくれ、こう酒井に頼んだ。その男と長谷川という男がぐるになりまして百武をなぐった。しかも、頭突きを食わしたために、歯が六本もかける、鼻は二つにも三つにもなってしまう、目はよく飛び出さないというほど眼瞼の上下ともにまっさおになった。こういうような事案があったので、荻窪の警察署に飛び込みまして、実はただいまこういう事情だということを申し出ますると、すぐに逮捕してくれた。逮捕して来たことはいいが、ここはあとでまた申し上げますが、考えてもらわなければならないことは、長谷川という男が、おれがやったのじゃない、この男がやったのだと言って、かえ玉を出している。そうして二人とも逮捕せられまして十二日に送られたわけです。ちょうど今月の十二日は日曜でございます。日曜に送られましたところが、係検事の山岸検事は、公判検事でたまたま宿直であったので、すぐに釈放してしまった。この点について私はお伺いしたいのですが、長谷川並びに酒井という男が平素不良であるという意見書が荻窪の警察署から検察当局に行っているわけです。その意見書が行っていたか行っていないか、まずこの点をお伺いしたいのでございます。
  109. 松原一彦

    ○松原政府委員 このことは、被害者である百武から先日直接私にもお話がありましたので、法務大臣の命を受けて取り調べましたから、私から一応お答え申し上げたいと思います。  荻窪警察の署長にも当時の事情をただしましたところ、署長の言いますのには、今のお話とは少し違いまして、長谷川雅宣というのは飲食店を営む者で、これがその細君と女給と三人でうちに帰る途中、古川家の前あたりにあやしい者がおった、それはずっと前から長い間そこに立っておったらしい、女給があとをつけられるような気がするといってその長谷川の住まいの方に入って行った、女給が一人で帰るのはこわいというので、長谷川がこれを送って通りがかったときにできたことであった、かように警察の署長は申しております。従って、署長はこのことを取り調べまして、意見書をばつけてこれを検事局の方に送りましたが、この意見書には、長谷川雅宣はただいままで警察事犯を起したようなことはない、その妻の先夫の子であるあとからかけつけておやじを助けようとした酒井正勝という者は数回警察の方の厄介になったことのある者であるということを証言いたしております。従って、意見書はそういうことを書いて出したのであって、特別に書いたものではない、ただありのままを書いて検事局に送ったということの証言をいたしております。
  110. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 この事件につきまして、被害者の百武が木村荻窪署長のところに行って、あまり簡単に釈放されたのはどういうわけだと聞いた。すると、署長は、釈放の権限は検事にあるのだが、常識的にこんなに簡単に釈放される理由がわからぬということを被害者に言っているという。今あなたが聞いたところによると、荻窪の署長の言うことと少し違っているというが、荻窪署長からはあなたにどんなことが答えられたのでしょうか。
  111. 松原一彦

    ○松原政府委員 荻窪の署長は格別私にそういうふうなことは申しませんでした。ただし、この事柄はよほど誤解があるようでございます。私はそのことを初めて知りましたので、百武氏くも伺ったのでありますが、かえ玉を出したわけではないと署長は言っております。あとから見当をつけてその飲食店の主人のところに行ってみたところが、妻とそれからこの酒井という者の弟とがおったので、それを警察に連れてきて百武氏に会わせましたところが、これは違っておると言う。もちろん違っておるので、酔って寝ておったのですか、翌朝のことでございますか、この二人が出て参ったということでございました。これが署長の申すところでございまして、この二人が緊急に逮捕せられまして検事局に送られましたところが、今お話の通りに、山岸という当直検事取り調べました結果は、本人ははっきりとその事実を申述べ、かつ住所もはっきりわかっており、逃亡のおそれもなし、証拠隠滅の憂いもない、かように認めたので一応これを帰したのであって、釈放したのではない、ただいま担当の検事は赤沢正司というものがこれを取り調べまして、その後の措置をいたすようにいたしておる、慎重に取調べ中であるということでございまして、証拠隠滅のおそれもなし、また逃亡のおそれもなし、こう認めて検事は釈放したのであるということでございます。これは非常に誤解がありまして、長谷川は、あやしい者が夜中にそこをうろついておるというところから、とがめた、こういうのでありまして、被害者の方はまことにお気の毒なことであったと私は信じております。
  112. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 かりに釈放するとするならば、私は被害者を取り調べて被害状況を一応調査する必要があると思う。被害者を一ぺんも取り調べることなく、また被害状況も全然見てない。もしかりに釈放するならば、一応被害者の方から——診断書が出ていたかどうかよく知りませんが、少くとも、歯が六本とれてしまって、鼻の上にまた鼻ができてしまった目はよく目玉が飛び出なかったと思われるほど強くなぐられておるにもかかわらず、被害者を一ぺんも取り調べもせず釈放するというのは、私はちっとやり方が不親初に思うのですが、いかがなものでしょう。
  113. 横井大三

    横井説明員 おそらく、山岸検事措置は、勾留の理由があるかどうかという点の判断をいたしまして——勾留は、犯罪の嫌疑が相当にあります上に、住居不定あるいは逃亡、証拠隠滅のおそれがあって初めてできる。従いまして、ただいま政務次官からお答えになりましたように、住所もあり、逃亡のおそれもない、事件は自白しておりまして、証拠隠滅のおそれもないというところから、もちろん事件の処置を全部してしまったわけではございません。なお今後引き続き被害者等の調べももちろん行われることと存じますが、勾留の理由があるかどうかという面から、釈放したのではなかろうかと考えております。
  114. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 そうすると、先ほど私が申し上げたように、わが東京都もニューヨークと同じように、昼間の治安は司法大臣がやるが、夜は暴力団がどんなに暴力をふるっても、どんなにけがさせても、送ってすぐに帰されるというようなことになってくるのか、善良なる都民が自分の用足しさえもでき得ないということになります。また、もし勾留されると、勾留されて出された後すぐ報復せられるのがおそろしくなりますから、結局こういうことを届けするということもなくなってしまうのじゃないか、これでは治安は守れないし、善良なる都民はおそらく夜用足しさえもできなくなるのじゃないかと考えるのです。少くともこういう事犯をいわゆる現行犯として逮捕した場合には、相当慎重なる態度をもって私は取調べをしてもらいたいと思います。これを希望しておきます。
  115. 横井大三

    横井説明員 ただいまのお話、われわれ捜査の事務に当ります者が常に考えさせられておる問題で、ございまして、釈放すれば何をやるかわからぬという場合に、引き続き勾留ができますれば、実は捜査の面からははなはだありがたいのでございますが、何分にも法律の上ではさようになっておりませんので、現在のところやむを得ないかと存じます。ただ、実際の運用におきましては十分慎重にやって参りたいと考えております。
  116. 高橋禎一

    高橋委員長 本日はこれをもって散会いたします。    午後四時四十九分散会