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楠本政府委員 一昨年の
ビキニの
原爆実験の以後いろいろな問題がございまして、私
ども調査をいたした
経験もございますので、これらの点を
中心といたしまして、簡単にお話を申し上げたいと存じます。
私
どもの一昨年の
経験によりますと、
被害の現われます時期が、大体
二つの山になって現われているように思われます。
一つは、
爆発直後、その地方を一帯として、
空気等が
汚染されることによって
被害が当然あるわけでございます。これは
福龍丸でその例を示しております。次に、これらの
汚染物が次第に静められまして、だんだん
被害が少くなってくる。一方、第二次
放射能等の
関係もございまして、約半年以後におきますと、
魚類その他が再び相当な
汚染度を示して参ります。かような
経験からいたしまして、今回の
実験の結果の
調査は、一応
実験直後と、さらにその後半年くらいを経過した時期の
二つに分けてやるのが適当であろうと考えております。なお、
前回の
実験の結果いろいろ問題を起しましたが、私
どもといたしましても、初めてのことでもあり、
経験もありませんし、また
試験研究の
成績等もなかったために、
かなり厳密に過ぎると思われる
程度の
対策を
国内に実施をいたしました。しかしその後
事態がはっきりするにつれまして、もっと合理的に、重点的に、効率的に行い得る確信を得ておりますので、まず今回は、
現地におきましてできるだけの
調査をいたしまして、それらの結果、さらに
国内に
影響があると思われましたときには、いつ何どきでも、それに対して徹底的に
国内の
対策を立てることが適当かと考えております。
しからば、この前の一
経験から、
見通しはどうかということになるわけでございますが、これはこの前と全く同じ
規模、同じ
性質の
実験をしてくれますれば、そのまま一昨年の
経験が役立つわけでありますが、私
どもの考え方では、おそらくこの前と全く同じ
性質の
実験ではなかろうと思っております。そういたしますと、勢い第二次
放射能その他の
関係も違って参ります。なお、
汚染の
状況等も違ってくる
可能性も考えられますので、一応
現地における
調査を行いまして、その結果を判断するのが
国内の安全のためと考えております。なお、今回の
調査は、もちろんただいま申しましたように、
被害の
未然防止が
一つのねらいでありますけれ
ども、もう
一つは、やはりこれらの
実験に基きまして、将来期待されるであろう
原子力の
平和利用等に伴ういろいろな
被害の防除にも十分な
成果を得られるものと考えておりますので、私
どもとしてはできるだけ厳密な
調査をいたしたい、かように考えております。
なお、念のために一昨年の
被害の
状況をごく簡単に申し上げますと、
国内におきまして当初問題になりましたのは、
マグロの問題でございます。これらは、その後いろいろ調べましたところが、最初のうちは、からだの
表面が
汚染されておる。従って
表面を洗い取ることによって、十分危険を防止できることがわかって参りました。それからしばらくたちますと、主として
南方地域の
プランクトン等が選択的にいろいろな
放射能を吸収いたしましてそれをえさとする魚が
汚染されることがわかって参りました。この場合には、
かなりの蓄積を必要といたしますので、先ほど申しましたように、半年以後それが強く現われてくるような結果になるわけであります。この場合といえ
ども、
前回の場合には、われわれの食用に供せられる
筋肉部への
沈着はほとんど見られず、主として骨あるいは
内臓臓器に限られたのであります。しかもその
沈着物は
ストロンチウムのようなきわめて注意すべきものではなく、むしろ
半減期のきわめて短かい、
危険性の少い、亜鉛六五であったことが
日本の
学者の手によって明らかにされたわけでありました。これらの点から考えますと、今直ちに各港で
水揚げ魚類の検査をする必要はなかろうという判断を打っております。
次に、
雨等によりましていろいろ問題が起きておりますが、これらもいろいろ調べてみますると、たとえば
野菜、
牧草等がなるほど
汚染をされました。しかしこれとても、
野菜について見ますれば、われわれの調理をして食べるという
一つの操作によりましてほとんど問題のないことが明らかになりました。また一時
牛乳というようなものがだいぶ問題になりましたが、これらは、
牛乳の中のカリウムの
放射能が強く現われておったことがわかりました。これを差し引きますと、これまた問題にならない
程度になったわけであります。その他
お茶類であるとか麦であるとか、いろいろなものに問題が提起されましたが、われわれが現在まで調べたところにおきましては、あえてこれを取り上げる必要はないと考えております。また一方雨の
汚染によりまして、
水道水あるいは
井戸水等が
汚染されるかということにつきましては、現在も引き続き
場所を指定して
調査をいたしておりますが、
かなりの
放射能を含む雨が降りましても 、まだ
井戸水あるいは
水道水等が
汚染される危険は認めておりません。特に
実験的には
かなりの
放射能を含む水も、現在の
濾過方法によりまして、相当量除去できることが明らかになっております。従ってわれわれといたしましては、現在
各地で相当な雨が降っておりますが、かような場合には、念のために
濾過の
速度をゆるめるということを指示いたしまして、かようなことを
各地で行なっております。これはもちろん念のために
濾過速度をゆるめておるだけでございます。なお問題になりますのは、
大島その他内地にも若干ございます
干拓地等の
天水使用の
場所でございます。
天水使用の
場所は、雨が降りますと、まことにこれは困った問題でありますが、これも私
どもの
実験では、
かなり濾過能力、
濾過機能が強く発揮されますので、私
どもといたしましては、かような場合には、必ず雨水を完全に
濾過して飲むように指導をいたしております。一方、降り始めの雨はきわめて強い
放射能を持っておりますが、三十分とかあるいは十五分というような時間がたちますと、ほとんど
放射能はなくなります。従って、私
どもは、かような場合には、降りたての雨を避けて、しかも
濾過を念のためにするということを指導いたしております。なお、
大島その他かような地帯においては、いまだこれによる
被害は一例も出ておりません。これらがこの前の
研究のおおむねの
成果であります。
一方、その当時、先ほど申しました第一次の
爆発直後の
被害につきまして、
福龍丸以外に、
南方を航海する
船員たちにいろいろな不安もありました。私
どもはこれらの
健康診断を実施し、あるいは
船体のいろいろな
放射能を調べました。なるほど
船体には相当の
放射能を認める場合もありましたが、現在なお
船員その他で、
放射能の
被害を受けたという確証は一例もございません。
なおもう
一つ、この前私
どもが非常に困りました問題は、現在も同じことでございますが、
日本におきましては、いまだこの
放射能の
測定方法について必ずしも統一されておらぬわけでありまして、いろいろな
調べ方、いろいろな材料の
とり方等によって、それぞれ発表されております。従ってこれらを私
どもが統一して考えてみますると、たとえばある地で何万
カウントの雨が降ったと申しましても、はかり方を統一することによりまして、かような著しく極端な差等はないもののように思っております。従って、今後われわれはすみやかにこれら
測定方法並びに
測定の
基準というようなものを確立して、どこで調べても、比較のできることが必要だと存じております。それから一方必要なことは、
国内に
かなりの
放射能に対する不安も生まれておるようでありますが、この
一つの原因といたしましては、いまだ
国民の間に、通念化されました
一つの恕限度、つまり
許容量、許される範囲というものが確定されないことでありまして、従っていろいろな不安があるわけでございます。もちろんこれらのものはないに越したことはありませんが、ある一定限度以下ならば、あったところで支障ないことは当然でありますので、これらの点をもう少し確定いたしまして
国民の間に広くこれを普及することが、この出題に対処する
一つの必要なことではないかと考えまして、目下私
どもの手元におきまして、これら恕限度の点につきまして鋭意
研究を重ねまして、少くとも来たるべき
実験までには、これを確定いたしたい所存でおる次第でございます。