○佐竹(晴)
委員 ここにおいて、私は、過去にあった具体的事実の
一つといたしまして、われわれの同僚衆議院議員の堂森芳夫君の御夫人堂森一枝様の公職選挙法違反
事件に
関係いたしまして警察並びに検察庁のとった態度というものは
人権じゅうりんではないかと
考えられる点がありますので、法務
大臣もおかわりになったことではありますし、ただいまの御
意見を承わりまして意を強ういたしますので、ここに私はその具体的事実の一端をお訴えいたしまして、さらに将来における
検察行政の上に十分御配慮を願いたいと同時に、この
事件に対する御所見がいかがであるかということをもあわせてこの際承わっておきたいと
考えます。
それは、堂森氏の御夫人は、本年二月十九日に、丸岡警察署の署員によって、戸別訪問の疑いで路上において職務質問を受けまして、同日同署に同行を求められ、同日午後十時三十分逮捕状が執行されました。同二十二日に勾留状が発せられましたが、その前日二十一日には、
本人は心臓病で悪いからと署長に訴えられております。二十二日勾留状が出たときに、主任巡査部長に対して、心臓病で頭痛がするので取り調べをやめてほしいということを
要求いたしております。そうして二十二日の夜に取り調べを中止いたしまして、保護室へ移しております。同夜半、すなわち二十三日午前三時ごろ悪寒を訴えまして、湯たんぽを提供いたしました。二十三日の朝十時ごろ前夜同様に苦痛を訴えまして取り調べ中止を求める旨記録にはございますが、そのときには実際は失心状態にあったようでございます。そこで丸岡警察署から荒川医師に診療を請いました。その荒川医師は平生警察から委嘱をいたしております最も信用のあるところのお医者さんであります。その来診を請いまして、診察をいたしました結果、荒川医師はかように診断をいたしております。患者は極度に身体衰弱しており、これに加えて心臓弁膜症で、血圧は非常に低く、早急に入院静養すべきである、このまま取調べを続行するときは生命が危ぶまれるとあります。そこで、取調べを中止いたしまして、
被疑者を抱きかかえるようにいたしまして宿直室に連れて参り休養させたことが、刑事記録の上に明らかにされております。しかし、そのときに適当なる病院へ移すことについては
当局は意を用いておりません。翌二十三日に福井
刑務所の
高橋医官を呼んでその診察を求めましたところ、同医官においては荒川医師とは全く違った判断をいたしました。血圧、動脈、体温等に異状なく、取調べを続行しても生命に異状はない、かように述べております。同夕刻
本人より強心剤の注射を求めましたので、丸岡町の友影医師の来診を請うておりますが、この医師の診断によりますと、多少のシッョクはあるであろうが別段悪いとは見受けられない、但し心臓は少々わずらっているようであるというのであります。しかし、この荒川医師の診察もございましたので、一応取調べを中止いたしまして、二十四日午後二時三十分福井
刑務所の病監に移しております。そのときの記録によれば、四人がかりで
刑務所の自動車にかかえるようにして乗せたとございます。かくて、
被疑者の拘禁はそのまま続きまして、警察並びに
検察官の取調べが続行されましたが、三月二十六日の夜分、福井地方検察庁、井村検事の取調べ中に、ついに一枝さんは卒倒いたしました。午後十時四十分まで検察庁で休養させ、十一時高志警察署に戻しましたか、同署に行ってからもなお意識は明瞭でなかったとあります。
以上のごとく、二月二十三日にすでに失心状態に陥り、三月二十六日には卒倒をいたしております。しこうして三月二十六日の晩高志警察署へ戻したときにもなお意識不明瞭な状態が続いておりました。しかも、荒川医師の診断のごとく生命に危険があるにもかかわらず、これを病院その他適当なところで療養せしむることなく、強権をもって拘禁を続行いたしまして取調べを進行いたして参ったおりますことは、私はこれは
人権問題であると言わなければならぬと存じます。
もっとも、右荒川医師の診断に対して、先ほど申し上げますがごとく、
刑務所の
高橋医官及び友影医師が、異状はない、別段悪いところはないと診断は合っておりますけれ
ども、しかし、福井
刑務所の
高橋医官御自身の
裁判所に出しております病歴書になれば、二十四日入所、同時に検診、胸部に所見はないが、脈搏結滞一分間に二、三回あり、体格一般に弱く、栄養かなり衰えているとあります。
高橋医官自身、異状はないと認めておられますが、しかし、その病歴書によれば、脈搏結滞一分間二、三回とある。そして、血圧に異状はないというけれ
ども、荒川医師が現実にはかったところによれば、血圧最高八十であります。しこうして、荒川医師は、この血圧最高八十というのは心臓弁膜症のそういった場合非常に危険な状態であるということを強調しております。これはもう学理でも
議論でもありません。事実です。しこうして、荒川医師がブドウ糖、ビタカンファーを静脈に注射いたしておりますような事実に徴しましても、いかにこの荒川医師の診断が適切なものであったかということは、それに反対の
意見を出しております
高橋医官の病歴書においてもこれを肯定いたしておるのであります。ただ、裏面上、
刑務所のお医者さんなるがゆえに、そういったような、病人はどんなに悪くても、生命危険の状態にあっても、いや異状はない、いや別段悪くない、こんな
報告書を出させる
刑務所並びに検察庁は、一体となって何か人間の命のごときは全く眼中に置かない思いを私
ども国民に与えるような事態をあえて続けてきておるのであります。しかも、
高橋医官の病歴書にはさらにこうあります。二月二十四日以来三月四日まで、ビタミンA1十ミリ、ビタカンファー二本混合注射を毎日連続いたしておるのであります。また、三月二十六日検事の前で卒倒いたしまして、二十九日再び
刑務所の病監に移した後も、ビタミンA1十五ミリ、ビタカンファー二本を混合注射いたしまして、それが四月十二日まで続行をいたしておるのであります。このような髪状の、しかも心臓弁膜症の人で血圧最高八十といったような、だれが
考えても人命に不安な状態にありますその人を、何カ月も拘禁を連続いたして、ここに適当なる療養と治療の
方法を講ぜしめていなかったのであります。
私が申し上げるまでもなく、この御家庭はわれわれの同僚の
国会議員堂森氏である。そして医院を経営しておるところの医学博士である。しかも
被疑者はその御夫人である。こういう人に対して、かような一命に影響のあるような事態にある場合において、適当な方策を講ぜしむることなしに警察並びに
刑務所の病監に拘禁を連続いたして、おりますというがごときは、容易ならざる事態ではないかと私は思うのであります。いかに捜査権行使といえ
ども、
人権は尊重すべきであります。危険なる病人はまずなおして
——逃げも隠れもいたしません。りっぱな方の夫人でありますので、まず生命保全の
方法を講じて、しかる後になぜ調べなかったか。この適切なる
方法を講じなかったために、御夫人は今なお救うべからざる病気の状態が続いておる。御主人の
事件はすでに控訴審まで済んでおるけれ
ども、その御夫人の
事件はついに今日までなお進行していないではないか。かくのごとき厳然たる事実が存在いたしますにかかわりませず、これをこのままほうっておいてよろしいというものではございません。その
方法が果して適切なものであったかどうかということについては、新法務
大臣において十分の御
調査を願いたい。ここに私の申し上げたことが真実であるかどうかわかりませんので、これに対する十分な
意見を承わることができないかもわかりませんが、すでに刑事記録となって、争うことのできない記録となって現われておりますから、
一つ十分の御
調査を願って、次会でもけっこうでありますが、それに対する御所見を承わりたいと思います。この
事件は名古屋の高等
裁判所金沢支部刑事部の
被告人堂森芳夫氏の公職選挙法違反
事件記録中にその記録が明確にされております。従いまして、これをお調べいただきましたならばすぐわかることでもございますし、問題は有名人の御夫人の
事件でございますので、すでに法務
当局においてはそれらの点については十分お調べになっておられるかもわかりません。もしお調べになっておられますならば、この際御
答弁をいただきたい。そうでなければ、御
調査の上その御所見を承わりたいと思います。