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今井参考人 最初に七人
委員会の
性格を
一言お耳に入れておいた方がよかろうと存じます。
新聞等の報道によりますと、これは
厚生大臣の
ブレーン・
トラストであるというような表現が使われておりまして、この点、われわれ非常な迷惑を感じておるのでありますが、
ブレーン・
トラストと申しますと、いかにも
大臣がある施策をやるために
自分の望ましい
結論に対する
理由づけのようなものを依頼するように聞えますし、また私的な印象を受けるのでありますが、この
委員会は、閣議の決定によりまして、一応
政府原案を作ります前の参考的な
意見を中立的な人間に出してもらうというのがねらいでございまして、われわれ当初から、
厚生大臣との
約束の際にも、その点ははっきりお
約束申し上げております。のみならずこの
結論は、出しました
機会に、異例ではございますが広く
一般に公表するという建前をとりまして、
厚生大臣の委嘱のもとに働いた
委員会ではございますが、結局この
国民的な問題を
国民に
報告するという気持で書き上げたのでありまして、われわれは、
自分の口から言うとおかしいのでありますが、いわば
部外者が作った
健康保険に関する白書のようなつもりに実は
考えておるのであります。ただ
予算編成前に
報告しませんと期日に間に合いませんので、その点から見れば、われわれとしてもこの
報告には不満の点また不十分な点を多々認めておるのであります。この点は十分に御批判を賜わりたいと存じます。
この問題に取っ組みまして特に私
どもが感じましたおもな点をお耳に入れますと、第一は、
疾病という
保険事故というものは
保険の
対象とするのにきわめてむずかしいものであるという点であります。これはきまり切ったことでありますが、この点が案外見のがされておる、また
厚生省当局自身がこれを見のがしておる。申すまでもなく
疾病の種類というものは大へんな数に上りまするし、これを
社会保険の
対象としてどこまでを
保険事故とするかという点に至りましては、なかなか大問題であります。しかも症状により、年令により、病歴により、その
治療方法というものはいろいろに分れます。また
医者によってもこの
治療方法は分れるものであります。またこれが治癒したという
段階の認定が非常に区々にわたります。そういったものを
保険の
対象にするのでありますから、非常にむずかしいことは申すまでもないのでありますが、さらにこれを管理いたします場合におきまして、いわば
保険者であるものの手を離れました何百万人という
——政府管掌だけで、被
保険者、
家族を合せますと、千万をこえる
患者と、六万という
保険医とのいわば
取引行為と申しますか、そういったものに対する処置をするのが
保険者の務めであります。しかもその
保険医療に対する
給付というものは、一方において
収入すなわち
賃金というような性質のものと必ずしも見合いません。一方の
賃金は別の
理由によりまして異動して参ります。一方
給付の方は、そういう
理由とはまた別の独特の歩みをいたすものであります。その中間にありましてこれを調整して参るのでありますから、非常に困難であることは当然のことでありますが、私
どもも、
数字的に取っ組みまして、いよいよそのむずかしさを感じまして、諸外国におきましても幾多の
失敗例のあることも当然ということを痛感した次第であります。
第二といたしまして、特に感じましたことは、現在の
わが国における
医療がきわめて
機会不
均等になっておるという現実であります。
医療の
機会均等は、おそらく教育の
機会均等以上に福祉国家的な
立場から申せば大事な点だと
考えるのでありますが、この点がはなはだもって不
均等であります。この
報告の中にもその点
数字によりまして具体的に証明してございますが、一番
中心になる
入院の点を
考えますと、
共済組合を含めた
健康保険関係、
人口にいたしまして約二千八百万ばかりで全
人口の約三分の一が全国で四十八、九万に上ります
病床の中の五〇%を使用しておる。一方二百万の
生活保護が三〇%の
病床を使用しておる。残りの
国民健康保険並びに
自費患者という
人口の三分の二を占めておりますものが二〇%
程度の
ベッドしか使用できない、しかもこの比率は年々下っていっておる、これはゆゆしい問題だと
考えた次第であります。これにつきましては
医療機関の再配置その他根本的な問題もございますが、同時に
日本の
医療保険を進めていく場合に常に頭になければならぬ重要な点だと
考えたものであります。
第三は現在の
保健医療におきましての
医療費の支払いの
組み立て方がはなはだ不合理であるということであります。これは伝統的な
関係からやむを得ず今日に至ったことは認めるものでありますが、一例をあげますと、例の
薬治料並びに
注射料、すなわちお
医者さんが薬を用いまして、薬を使ったことによって
患者から得ます
保険診療というものが、全
医療費すなわち
入院も
給食も一切込めて、今日
ベッドが増加したにかかわらずなおかつ全
医療費の四八%、約半分を占めておるということであります。外来だけを扱う
一般の
診療所におきましてはこれが七〇%以上になっております。すなわちこういったものを使用しなければ
医者は
収入が得られない、こういう
仕組みが
日本の
医療をいたしまして世界中で一番多くこういった薬剤を使用するという
医療にならしめた最大の
原因ではなかろうかと思います。またこの
医療費の
体系が、これは決して欠点ばかりではありませんが、その
治療行為によりましてこれだけの
効果をあげたということは、これは第二、第三、いや全然勘定に入れないという
仕組みになっておるのが現在の
医療費の
体系であります。すなわちどういう
経費を使ったか、どういう材料を使ったか、こういった形ででき上っております。すなわち
実費主義と申しますか、
経費をカバーしようという
考え方で
医療費が満たされる、従って
一つの
治療の目的を達しますために、変な言葉で申せば
回り道をするほど、どんな
回り道をいたしましても、またそれがどんなに
効果に影響がありませんでも、その結果を全部
医療費で見るという
仕組みになっておる。少し誇張して申し上げますとそういった形の今日までの
医療費体系、ここにやはり
問題点が含まれておるという感想を持ったのであります。そういう点から極端な例を申しますお
医者は薬代の
実費が十五円を一銭越しますれば二点の
診療費が四点になる。こうなりますと
効果はなくてもそこに重曹もまぜなければならない、こういった
考え方になりまして、そういった
考え方自身が単に
保険の
医療費としての問題のみならず、
日本の
医療というものを世界的に水準の高い、従来誇りにしております
わが国の
医療技術を進歩させるために非常な障害となっておるのではないか。こういったことは今後の
国民の
保険のためには根本的に
考え直さなければならぬ点ではなかろうか、こういうことを強く感じたのであります。同時に一方におきましてこれは非常に抜けておるところも感ぜられます。すなわち
給食は
治療の一部であると
考えられておるにかかわらず、現在なお
給食を行わない
病院がございます。しかもその
病院に入りましても
患者はその食費を
自分のふところから出さなければならぬという不公平なことがいまだに行われております。また一方いわゆる
完全給食というような
程度になりますれば二千四百カロリー、あるいは蛋白八十というような
制限がございますが、
完全給食に至らない
病院の
給食は全然野放図であります。こういった不公正なことがいまだに
保険医療として行われておる。また一方におきまして
病院の
施設になりますと、
医療法の
関係上きわめて微に入り、細をうがった物的人的の
制限がございますが、これが
診療所でありますと、その
入院に対しまして何らの法的な
制限がございません。しかるにかかわらず点数は同じであります。こういった妙なことも行われております。これらの点はすべて
保険医療を推進し、さらにまた
日本の
医学技術の進歩のために
国民の
幸福保持のためには根本的に
メスを入れなければならぬところではなかろうかということを痛感したものであります。なお結局におきまして今申し上げましたような点から、私
ども現在の問題と取っ組みますと、これまでに財政問題として一番抜けておったと
考えますことは、
医療費そのものをいかにすれば合理的に、すなわち
給付そのものを
医療内容そのものを低下させないで
負担もふやさないで、しかも
医療費そのものを安くするという
方法に対してこれまでほとんど手が打たれていない。この点に第一に取っ組みましたならば、即日即効をあげることはできませんでも、将来にわたって一番大きな
効果をもたらすゆえんではなかろうかと
考えまして、われわれ七人
委員会全体の
意見は、書き方は妙に表現してありますが、まず第一にこういったところに重点を置いて
政府は施策すべきだという
考え方に立っております。その一例といたしましてたとえば薬でありますとかレントゲン・フィルムでありますとかいったような問題に対しまして、十分有効適切な手段を講じてほしいということを述べておるのであります。そうしてそのあとに
給付をいじる問題、あるいは
負担の問題、
負担は
関係者の
負担並び国庫負担という問題を通じまして判断をしていく、こういう
考え方に立っております。ただ現在の
社会保険の
制度を見ますと、この
社会保険の
制度がいずれかと申しますれば
労務管理の
立場、これは歴史的に当然な順序ではありますが、何分
現行法が大正十一年の古い
法律でありますので当然なことでありますが、あまりにも
労務管理的な色彩がいまだに強過ぎる、これをある
程度改めまして新憲法のもとにおける
社会保障的な
基盤の上に取り寄せ、抱き込む、こういった配慮でこの問題をいじり直す必要があるのではないか。もちろん遠い理想までにはいろいろ過程はございましょうが、現在の
段階を基礎といたしまして判断いたしますと、現在の
健康保険の
仕組みというものは、ある
意味においては行き過ぎの面があり、ある
意味においては非常に行き足らない面がある。そういったものをこの
機会に
改正いたしまして、そうして今後の
社会保障の発展、
国民皆
保険への
基盤たらしめる
意味においてこの
財政対策もその必要がある、これが
対策としてのわれわれの基本的な
立場になっております。まず
医療費を安くするということを第一に
考え、その次にそういう角度でこの問題を
考える、こういったことが
基盤になっております。個条的にはいろいろ書いてございますが、この点はお目通しを願えれば大体御了解願えるのではないかと
考えまして、主といたしましてわれわれのよって立っておる
考え方の基本的なものを
一言御
紹介申し上げまして、御説明といたします。