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1955-12-12 第23回国会 衆議院 社会労働委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年十二月十二日(月曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 佐々木秀世君    理事 大坪 保雄君 理事 大橋 武夫君    理事 中川 俊思君 理事 野澤 清人君    理事 藤本 捨助君 理事 山花 秀雄君    理事 吉川 兼光君       植村 武一君    亀山 孝一君       草野一郎平君    小島 徹三君       小林  郁君    田子 一民君       田中 正巳君    八田 貞義君       濱野 清吾君    亘  四郎君       井堀 繁雄君    岡本 隆一君       多賀谷真稔君    滝井 義高君       中村 英男君    長谷川 保君       八木 一男君    山口シヅエ君       中原 健次君  出席政府委員         厚生事務官         (保険局長)  高田 正巳君  委員外出席者         参  考  人         (非現業共済組         合連合会理事         長)      今井 一男君         参  考  人         (大阪市立大学         教授)     近藤 文二君         専  門  員 川井 章知君     ————————————— 十二月十二日  委員石橋政嗣君島上善五郎君、八木一男君及  び山下榮二君辞任につき、その補欠として岡本  隆一君、中村英男君、堂森芳夫君及び井堀繁雄  君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 十二月十日  国立療養所附添廃止反対に関する請願(松田  竹千代紹介)(第二三〇号)  同(熊谷憲一紹介)(第二八八号)  同(河野正紹介)(第二八九号)  同(福田昌子紹介)(第三二〇号)  長野県の水道施設費国庫補助等に関する請願(  松平忠久紹介)(第二三一号)  生活保護法に基く保護費全額国庫負担に関す  る請願野田卯一君外七名紹介)(第二三二  号)  社会保険診療報酬一点単価引上げ等に関する請  願(大石武一紹介)(第二六八号)  健康保険による医療費の被保険者負担反対に関  する請願伊東岩男君外五名紹介)(第二六九  号)  同(纐纈彌三君紹介)(第三一九号)  健康保険法改正に関する請願(楯兼次郎君紹  介)(第二八七号)  医療扶助審議会設置反対に関する請願熊谷憲  一君紹介)(第二九〇号)  同(河野正紹介)(第二九一号)  戦傷病船員処遇改善に関する請願砂田重政  君紹介)(第二九二号)  国立療養所刀根山病院大阪移譲反対に関す  る請願大石武一紹介)(第三一六号)  国立療養所貝塚千石荘の大阪移譲反対に関す  る請願大石武一紹介)(第三一七号)  クリーニング業法の一部改正に関する請願(松  田竹千代紹介)(第三一八号)  美容師法制定に関する請願片山哲紹介)(  第三二一号)  の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭に関する件  健康保険問題等(七人委員会報告)に関する  件     —————————————
  2. 佐々木秀世

    佐々木委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたします。粉ミルク中毒事件に関する件につき理事各位と協議いたしました結果、十四日に委員会を開き、参考人より意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 佐々木秀世

    佐々木委員長 御異議なしと認め、そのように決します。  なお参考人の選定その他の手続等に関しましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 佐々木秀世

    佐々木委員長 御異議なしと認め、そのように決します。     —————————————
  5. 佐々木秀世

    佐々木委員長 次に、七人委員会報告に関する件について調査を進めます。本件に関しまして参考人方々が出席されておりますので、意見を聴取することにいたします。  この際委員会を代表いたしまして、一言あいさつを申し上げます。参考人方々には、御多忙中にもかかわらず御出席下さいまして、まことにありがとうございます。本件厚生省の所管をいたしております保健医療の両行政における重要なる案件でございますので、何とぞ忌憚なき御意見をお述べ願いたいと存じます。以上、簡単ながらごあいさつを申し上げた次第であります。  なお意見をお述べになる時間は、議事の整理上おおむね十五分ていどにしていただき、後刻委員から質疑もあることと存じますので、これに対しましてもお答えを願いたいと存じます。  それでは、まず今井一男君にお願いいたします。
  6. 今井一男

    今井参考人 最初に七人委員会性格一言お耳に入れておいた方がよかろうと存じます。新聞等の報道によりますと、これは厚生大臣ブレーントラストであるというような表現が使われておりまして、この点、われわれ非常な迷惑を感じておるのでありますが、ブレーントラストと申しますと、いかにも大臣がある施策をやるために自分の望ましい結論に対する理由づけのようなものを依頼するように聞えますし、また私的な印象を受けるのでありますが、この委員会は、閣議の決定によりまして、一応政府原案を作ります前の参考的な意見を中立的な人間に出してもらうというのがねらいでございまして、われわれ当初から、厚生大臣との約束の際にも、その点ははっきりお約束申し上げております。のみならずこの結論は、出しました機会に、異例ではございますが広く一般に公表するという建前をとりまして、厚生大臣の委嘱のもとに働いた委員会ではございますが、結局この国民的な問題を国民報告するという気持で書き上げたのでありまして、われわれは、自分の口から言うとおかしいのでありますが、いわば部外者が作った健康保険に関する白書のようなつもりに実は考えておるのであります。ただ予算編成前に報告しませんと期日に間に合いませんので、その点から見れば、われわれとしてもこの報告には不満の点また不十分な点を多々認めておるのであります。この点は十分に御批判を賜わりたいと存じます。  この問題に取っ組みまして特に私どもが感じましたおもな点をお耳に入れますと、第一は、疾病という保険事故というものは保険対象とするのにきわめてむずかしいものであるという点であります。これはきまり切ったことでありますが、この点が案外見のがされておる、また厚生省当局自身がこれを見のがしておる。申すまでもなく疾病の種類というものは大へんな数に上りまするし、これを社会保険対象としてどこまでを保険事故とするかという点に至りましては、なかなか大問題であります。しかも症状により、年令により、病歴により、その治療方法というものはいろいろに分れます。また医者によってもこの治療方法は分れるものであります。またこれが治癒したという段階の認定が非常に区々にわたります。そういったものを保険対象にするのでありますから、非常にむずかしいことは申すまでもないのでありますが、さらにこれを管理いたします場合におきまして、いわば保険者であるものの手を離れました何百万人という——政府管掌だけで、被保険者家族を合せますと、千万をこえる患者と、六万という保険医とのいわば取引行為と申しますか、そういったものに対する処置をするのが保険者の務めであります。しかもその保険医療に対する給付というものは、一方において収入すなわち賃金というような性質のものと必ずしも見合いません。一方の賃金は別の理由によりまして異動して参ります。一方給付の方は、そういう理由とはまた別の独特の歩みをいたすものであります。その中間にありましてこれを調整して参るのでありますから、非常に困難であることは当然のことでありますが、私どもも、数字的に取っ組みまして、いよいよそのむずかしさを感じまして、諸外国におきましても幾多の失敗例のあることも当然ということを痛感した次第であります。  第二といたしまして、特に感じましたことは、現在のわが国における医療がきわめて機会均等になっておるという現実であります。医療機会均等は、おそらく教育の機会均等以上に福祉国家的な立場から申せば大事な点だと考えるのでありますが、この点がはなはだもって不均等であります。この報告の中にもその点数字によりまして具体的に証明してございますが、一番中心になる入院の点を考えますと、共済組合を含めた健康保険関係人口にいたしまして約二千八百万ばかりで全人口の約三分の一が全国で四十八、九万に上ります病床の中の五〇%を使用しておる。一方二百万の生活保護が三〇%の病床を使用しておる。残りの国民健康保険並びに自費患者という人口の三分の二を占めておりますものが二〇%程度ベッドしか使用できない、しかもこの比率は年々下っていっておる、これはゆゆしい問題だと考えた次第であります。これにつきましては医療機関の再配置その他根本的な問題もございますが、同時に日本医療保険を進めていく場合に常に頭になければならぬ重要な点だと考えたものであります。  第三は現在の保健医療におきましての医療費の支払いの組み立て方がはなはだ不合理であるということであります。これは伝統的な関係からやむを得ず今日に至ったことは認めるものでありますが、一例をあげますと、例の薬治料並び注射料、すなわちお医者さんが薬を用いまして、薬を使ったことによって患者から得ます保険診療というものが、全医療費すなわち入院給食も一切込めて、今日ベッドが増加したにかかわらずなおかつ全医療費の四八%、約半分を占めておるということであります。外来だけを扱う一般診療所におきましてはこれが七〇%以上になっております。すなわちこういったものを使用しなければ医者収入が得られない、こういう仕組み日本医療をいたしまして世界中で一番多くこういった薬剤を使用するという医療にならしめた最大の原因ではなかろうかと思います。またこの医療費体系が、これは決して欠点ばかりではありませんが、その治療行為によりましてこれだけの効果をあげたということは、これは第二、第三、いや全然勘定に入れないという仕組みになっておるのが現在の医療費体系であります。すなわちどういう経費を使ったか、どういう材料を使ったか、こういった形ででき上っております。すなわち実費主義と申しますか、経費をカバーしようという考え方医療費が満たされる、従って一つ治療の目的を達しますために、変な言葉で申せば回り道をするほど、どんな回り道をいたしましても、またそれがどんなに効果に影響がありませんでも、その結果を全部医療費で見るという仕組みになっておる。少し誇張して申し上げますとそういった形の今日までの医療費体系、ここにやはり問題点が含まれておるという感想を持ったのであります。そういう点から極端な例を申しますお医者は薬代の実費が十五円を一銭越しますれば二点の診療費が四点になる。こうなりますと効果はなくてもそこに重曹もまぜなければならない、こういった考え方になりまして、そういった考え方自身が単に保険医療費としての問題のみならず、日本医療というものを世界的に水準の高い、従来誇りにしておりますわが国医療技術を進歩させるために非常な障害となっておるのではないか。こういったことは今後の国民保険のためには根本的に考え直さなければならぬ点ではなかろうか、こういうことを強く感じたのであります。同時に一方におきましてこれは非常に抜けておるところも感ぜられます。すなわち給食治療の一部であると考えられておるにかかわらず、現在なお給食を行わない病院がございます。しかもその病院に入りましても患者はその食費を自分のふところから出さなければならぬという不公平なことがいまだに行われております。また一方いわゆる完全給食というような程度になりますれば二千四百カロリー、あるいは蛋白八十というような制限がございますが、完全給食に至らない病院給食は全然野放図であります。こういった不公正なことがいまだに保険医療として行われておる。また一方におきまして病院施設になりますと、医療法関係上きわめて微に入り、細をうがった物的人的の制限がございますが、これが診療所でありますと、その入院に対しまして何らの法的な制限がございません。しかるにかかわらず点数は同じであります。こういった妙なことも行われております。これらの点はすべて保険医療を推進し、さらにまた日本医学技術の進歩のために国民幸福保持のためには根本的にメスを入れなければならぬところではなかろうかということを痛感したものであります。なお結局におきまして今申し上げましたような点から、私ども現在の問題と取っ組みますと、これまでに財政問題として一番抜けておったと考えますことは、医療費そのものをいかにすれば合理的に、すなわち給付そのもの医療内容そのものを低下させないで負担もふやさないで、しかも医療費そのものを安くするという方法に対してこれまでほとんど手が打たれていない。この点に第一に取っ組みましたならば、即日即効をあげることはできませんでも、将来にわたって一番大きな効果をもたらすゆえんではなかろうかと考えまして、われわれ七人委員会全体の意見は、書き方は妙に表現してありますが、まず第一にこういったところに重点を置いて政府は施策すべきだという考え方に立っております。その一例といたしましてたとえば薬でありますとかレントゲン・フィルムでありますとかいったような問題に対しまして、十分有効適切な手段を講じてほしいということを述べておるのであります。そうしてそのあとに給付をいじる問題、あるいは負担の問題、負担関係者負担並び国庫負担という問題を通じまして判断をしていく、こういう考え方に立っております。ただ現在の社会保険制度を見ますと、この社会保険制度がいずれかと申しますれば労務管理立場、これは歴史的に当然な順序ではありますが、何分現行法が大正十一年の古い法律でありますので当然なことでありますが、あまりにも労務管理的な色彩がいまだに強過ぎる、これをある程度改めまして新憲法のもとにおける社会保障的な基盤の上に取り寄せ、抱き込む、こういった配慮でこの問題をいじり直す必要があるのではないか。もちろん遠い理想までにはいろいろ過程はございましょうが、現在の段階を基礎といたしまして判断いたしますと、現在の健康保険仕組みというものは、ある意味においては行き過ぎの面があり、ある意味においては非常に行き足らない面がある。そういったものをこの機会改正いたしまして、そうして今後の社会保障の発展、国民保険への基盤たらしめる意味においてこの財政対策もその必要がある、これが対策としてのわれわれの基本的な立場になっております。まず医療費を安くするということを第一に考え、その次にそういう角度でこの問題を考える、こういったことが基盤になっております。個条的にはいろいろ書いてございますが、この点はお目通しを願えれば大体御了解願えるのではないかと考えまして、主といたしましてわれわれのよって立っておる考え方の基本的なものを一言紹介申し上げまして、御説明といたします。
  7. 佐々木秀世

    佐々木委員長 次に近藤文二君にお願いいたします。
  8. 近藤文二

    近藤参考人 この報告書は非常に膨大なものになっておりますが、さしむき国会等で御審議願いますときに問題の中心になるのは、百ページほどになっております第二部の対策というところだと思います。ところでこの対策ではいろんな問題を取り扱っておりますためにいろいろと誤解世間では起っておるようでございます。それは一つには私たちの仕事を単なる健康保険船員保険赤字対策としてしか考えなかった。赤字対策といっても、場当りの赤字対策ならばいろいろ考え方がありましょうが、赤字原因分析して参りますと、その原因は非常に根深いものがあるということがわかりましたので、広く基本的な健康保険の構造の問題までできればメスを入れたいというふうに考えまして、前厚生大臣にもその点了解を求めて研究にかかりましたので、対策編も今申し上げました非常に網羅的なものになりまして、中心がぼやけておるようなところもないわけではございません。よく皆さんの御意見を聞きますと、赤字対策としてのバランスシートのようなものを出して、三十一年度の予算を立てるときにはこれとこれとこの方法をやればこういうふうに赤字がなくなり、黒字になるのだというようなものをなぜ出さなかったかというおしかりを受けるのでございますが、それはいろいろな形で数字でもって示しております。しかし中には逆に赤字を作るような意見も述べておるのでございますが、これは今申し上げました基本的な考え方と結びつけまして、われわれ七人の者は社会保障制度前進ということを一応前提考えていたからなのでございます。  そこで社会保障社会保険ということが問題になるのではないかと思いますが、よく世間では国庫負担が非常に大幅に行われることをもって社会保障だというふうにお考えになっておる方があるようでございます。しかし国庫負担と申しましても、国民税金でまかなうか、何かが回り回って国民負担になる形においてしかまかない得ないものでございますから、問題は保険料という形をとるか、あるいは一般負担すなわち税金という形をとるかによって異なるのみでありまして、私たち社会保障社会保険を区別いたしますときには、社会保険というのは主として労働者の方を中心とした保険という技術前提にした制度であるが、社会保障は広く国民全体の生活考えておる制度だ、だから労働者の方だけでなしに、広く国民全体に医療保障が行き渡るためにはどうすればいいのかということを頭の中に入れて社会保険の問題を考えなければならない。今はすでにその時代が来ておるのだ。第二次世界大戦以前は必ずしもそうでなかったのでございますが、労働者保険国民保険への動いておるというこの世界的な動き方前提にして私たち考えておるわけなのでございます。それでお前たちは助け合いのような考え方だけで、保険のワクだけで問題を解決しようとして、国庫負担を無視しておるのではないかとおっしゃいますけれども、それは全然見当が違うのでございまして、私たち国民全体の助け合いということを考えておる。その限りにおいて国庫負担というものはもちろん考えておるのでございますけれども、その国庫負担考え方国民全体を対象にするということを前提にいたしまして考えておる。この点はぜひ誤解のないようにしていただきたいと思うのでございます。そういう意味におきましてこの報告書をごらん願いますと、国庫負担のところがいかにも国庫負担を否定しておるような議論の立て方のようにお読みになる方もあるかと思うのでありますが、いろいろの国庫負担論に対してそういう理屈に対してはこういう理屈があるのではないかということをそこで説明的に申し上げておるにすぎないのであります。国庫負担は今申しましたような観点からするべきだということを側面的に説明しておるようなわけでございます。  ところで現状の分析をいたしてみますと、結局いろいろの問題がございますけれども、その底にありますのは結核の問題、これは否定できない事実でありまして、結核の問題を無視いたしましては健康保険赤字問題は永久に解決できないのが実情でございます。そこでわれわれは結核というものを中心に問題を国庫負担と結びつけて考えまして、結核というものを中心国庫負担をやるのであれば、社会保障考え方とぴったりと合うし、健康保険赤字も解消するのではないかというので、その方にいろいろと分析を進めて参ったのでありますが、結核に対する国庫負担ということになりますと、本来ならばすべての費用を国費でまかなうというところまでいかなければたらないのでありますが、しかしそういたしますと一千億あるいは一千五百億といったような数字が出て参りまして、いかに局限いたしましても五百債程度の金が要る。これはここ一、二年の間において政府の方で予算案として出す原案にはとうてい織り込めないものではないかというふうに考えまして、まず百億程度のものならば、国庫負担として出す可能性があるのではないかというので、結核中心国庫負担を強調しておるのであります。この点は誤解のないようにしていただきたいと思います。同時に全国民医療保険が成立する、たとえば国民健康保険が強制されて全面的に実施の段階に移るというようなことになりますれば、全国民医療保障ということが一応形を整えるのでありますから、そのときこそはあるいは二割とか、三割、五割、あるいはイギリスのように九割とか、すべて税金でもって医療保障をやるという段階は、これは必ずしも空想的な段階ではないという考え方でございます。今日の場合そこまでいかないから、まず結核問題から解決していくのが一番現実的ではないか、このように考えまして、結核予防法という現にあるところの制度を手がかりにして国庫負担を説いてきておるのでありますが、厚生省の方でのお考え公衆衛生局考え方としては、健康保険等国庫負担健康保険の方でやりなさい、そういう結核予防法を通じていく方法をとらない方がよろしいという考え方らしいので、この点では私らの考え方と全く意見は対立したのでありますが、しかし私たちのような考え方で計算を立って、その金を健康保険の何割国庫負担という形に置きかえるのでございましたならば、私たち考えておることと結果においては同じところにいくのではないか、そういう意味においてたとえば一割の国庫負担というものが私たち考えましたような数字と合うものであれば、これは私たちが主張したことと結局同じことになるという見方をいたしておるのでございます。そういう点においても一つ誤解のないように、ぜひわれわれの真意を了解していただきたいと考えます。  それから、社会保障前進ということを考えればこそ、赤字を作ると考えられる五人未満零細企業における健康保険の実現をぜひともこの際取り上げてもらいたい。しかしこれを三十一年度においてすぐさま実現するというのは、あるいはむずかしいかもわかりません。われわれとして先ほど申しましたバランスシートを出さなかったのは、そういった予算関係から、これはやはり二年とか三年とかいった計画をお立てになってからでないとできないことなんだからという含みが実はあったのでございまして、現在からすぐに準備段階に入りまして、ここ二年か三年の将来には五人未満零細企業における健康保険をも実現する。さらにまた国民健康保険の強制も、そのときに同じくこれを実現する。同時に健康保険家族給付も六割に、また国民健康保険給付も大体六割に広げる、こういう方向に進んで行くならば、大蔵省も国庫負担を出す場合に出すべき筋合いが十分つくのでございますから、国会先生方のお考えいかんによりまして社会保障への前進は必ず可能であるという意味において国庫負担の問題なり社会保障の問題を取り扱ってきたつもりでございます。  いろいろこまかい技術的な問題はあるのでございますが、私の痛感いたしましたところは、現在の健康保険法というものがどちらかと申しますと組合主義中心に、また医療の面におきましては日本医師会の団体の性格というものを今日と違った性格として考え、それと団体的に約束をいたしまして健康保険を始めておる、こういうようなときの法律がそのまま残っておりまして、平がな、片かな入りまじった法律になり、保険医性格等につきましてもすっきりしたところの考え方が出ていない。ことに監査問題等を掘り下げて考えますと、かつて警察部の中にあった時代健康保険がそのまま残っておりまして、それが今日監査の問題についていろいろな実際上の困難を生んでおるというような意味もありますので、そういう意味においてぜひとも法律を根本的に考え直していただく必要があるのじゃないかということを痛感したのでございます。そういうような問題がありますので、技術的な面においてはいろいろと複雑な事情を生じております。そして、たとえば標準報酬を的確につかんでいないとか、あるいは被保険者の資格とか家族の資格を認定するときの取扱いが非常にすっきりしていないといったような問題が出てくるわけでございます。この点につきましては、率直に申しますと、今回の赤字厚生省の方が腹をきめてしっかりやろうという気持になれば赤字にならなかったかもわからない。現に健康保険組合の場合においては、政府とやや違ったような格好になっておるために赤字になっていない面もある。これはもちろん標準報酬の問題もございますけれども、それ以外に健康管理との結びつき、被保険者の資格認定における手続等の相違も大いに影響していると考えられましたので、たとえば末端の社会保険出張所の人員なんかも、現在のような人員てはとうてい十分なところの健康保険の監督なり運営はやっていけないのだというような点についても——私別に厚生省の代弁をするつもりではございませんが、実情から申しまして先生方のお考えをよくまとめていただきたいように思うのでございます。  その他いろいろ問題がございますけれども、与えられました時間が大体尽きましたので、この程度でお許しを願いましてあとは御質問によってお答え申し上げたいと思います。
  9. 佐々木秀世

    佐々木委員長 以上で参考人方々の陳述は終りました。質疑の通告がございますので逐次これを許します。岡本隆一君。
  10. 岡本隆一

    岡本委員 七人委員会方々が非常な御努力でもって大部な報告を作っていただきまして、健康保険赤字の問題あるいは日本健康保険制度は将来いかにあるべきかということについて大きな示唆を与えて下さいましたことは、その御労苦をまことに感謝する次第であります。こうしていろいろな観点から社会保障前進させたいという意図のもとに将来への大きな構想を作っていただいたのでございますが、現実において、それでは本年度の予算においてどういう形でその結果が出てきておるかということは、先日の厚生省の健保改正要綱を見て私ははなはだ心寒いのを覚えたのでございます。報告書の中にも、健保の国庫負担というものは原則的にはあるべきものではないということを強調されておるように思うのでございますが、ただいまのお話によりますと、原則的にはもちろんそれは国庫でもって大きく負担すべきである。しかしながらその恩恵は国民全体の上に及ぼす形において初めて容認されるのであるというふうなお言葉のように思うのであります。そうして健保の赤字国庫負担によって補てんする前に、特別健保あるいは国民健康保険の全面的な実施を先に行えというふうな御趣旨のようでございますが、それでは特別健保はどういうふうな形のものをお考えになっておりますか、その構想を承わりたいと思います。
  11. 近藤文二

    近藤参考人 今特別健康保険の問題についての御質問がございましたが、実は私たち最初、五人未満の事業場の被用者が健康保険から抜けておる、何とかしてこの人たち健康保険に入れる方法がありはしないか、あるいはどうすればそれができるかということを相当議論いたしたのでございますが、立て方としては現在の健康保険法を適用するという行き方でやるべきであるけれども、しかし零細企業になって参りますと、労働者と経営者というものの区別がはっきりしない。一人親方というふうな人も中に含まれてくる、あるいは家族労働という形で1西陣の場合に見られますが、非常に複雑な形態もある。従ってこれをたとえば十人あるいは二十人以上の事業場におきます賃金労働者と同じように考えるということになると非常にむずかしいのではないか。だからさしあたってはこういう人たち保険は、国民健康保険健康保険の中間といったような構想で何か特殊なものを考える必要があるのではないか。その場合にもし労使双方が希望されるならば、五人以上の場合においても、あるいは十人とか二十人というような事業場の場合においても特別健保の方に入ってもらって、この方は政府がやるのであるけれども、いろんな事務上の手続の複雑性から見て、今日の協同組合のようなものを考えまして、一つの事務組合をそこに作る。そうして保険の経済つまり保険料その他の全体の収支バランスの計算は、政府管掌の健康保険でやるわけでありますけれども、事務はそういった組合の形でもってやってもらう、あるいはまた傷病手当金のごときは、われわれの提案では五千円というフラット的なものを最低に考えておりますので、そういったフラット的な傷病手当金にする、給付内容は大体健康保険並にするが、いろいろ困難な場合があれば、多少国民健康保険に近づけるようなものも場合によって考えてみたらいいのではないかという意味合いで、特別健康保険という構想を考えております。これをしからば具体的にどうするかということになると、技術上のいろいろな問題が出て参りますので、それは一つ厚生省の方で具体的に案を作ってもらいたい。さしあたっての基本的な考え方は、今申し上げたような形でやったらどうか、同時にこの保険は当然国庫負担が要るわけでございまして、私たちは五千円に満たないところの賃金労働者に対しましては、保険料を大体半分くらいに減らして、それを国庫負担でもっていくようにということを申しておりますので、そういう意味において、当然特別健康保険の場合は国庫負担が要るわけなんで、大体五十億か七十億くらいの国庫負担をこの面には出してもらいたいということを要望いたしております。と同時に、低賃金労働者の方につきましては、現在の健康保険の方でも九億円ほどの国庫負担をそういう形において出すべきだということを主張しておりますので、それと合せまして今申し上げました国庫負担の問題を実は考えているわけなのでございます。大体その程度でございますので、もしそれ以上何かこまかい点で御質問等ございましたら、お答えいたします。
  12. 岡本隆一

    岡本委員 保険料はどういう程度のものを徴収するか、あるいはまた標準報酬をどうきめるか、あるいはまた事業主負担をどうするか、あるいはそれに対する政府の国庫補助の問題をどうするかという点をもう少し伺いたいと思います。
  13. 近藤文二

    近藤参考人 問題が非常にこまかくなるようでございますが、私たち一般健康保険の場合に傷病手当金とそれから医療保険とを区別して計算し、保険料等もすべてそれで、従って標準報酬の立て方も傷病手当金関係とそれから医療関係とは別に考えておるわけなのでございます。そういう意味でございますから、この場合におきまして、もしその労働者の方の賃金が五千円以上でありましても、一応五千円というフラット的なものに標準報酬を押えまして傷病手当金は出すという考え方も出てくるのではないかと思います。また医療の面も先ほど申し上げました給付の面を考えて、多少下げるというのでございましたならば、やはり同じような、多少フラット的な考え方も出てくるのではないかと思うのでございます。しかしながら五人未満と申しましても、高給を取っておられる三人とか四人を雇っておられる事務所等もございますので、これは一がいにちょっ、といきにくいと思うのであります。私たちはそういう具体的なところまで実は掘り下げておりませんので、ただ低賃金労働者の方にとりましては、先ほど申し上げましたように、全部保険料を五千円という形で最低線は計算いたします。そしてその五千円というものを最低線といたしまして保険料率をかけまして、この中の半分は経営者に負担していただきますが、あとの半分のさらに半分しか労働者の方には負担していただかないような形がとれないものではないか、もっともそういうことになりますと、三千円とか四千円とかしか払っていないところの事業主の方は、五千円分の保険料負担しなければならないというような矛盾も起ってくるのでございますが、大体今日そういった低いところの賃金を払っておられるということ自体が問題ではないかというような、これは割り切った考え方でございますが、そういう考え方もいたしておりますので、保険料率も政府並の料率を一応考えて、今申し上げましたような構想をわれわれとしては立てておるのでございますけれども、具体的には一体そういう労働者の方が何人くらいあるか、従ってそういう人たちと、全体の政府管掌との保険の計算がどうなるかということは、これははなはだまずかったのでございますが、数字的につかむことができなかったのでございます。従いましてこの構想を一応考えていただいて、ここ二、三年準備期間の間に具体的なものを出していただくより仕方がない、三十一年度においてはすぐにこれを実施するということにはいかないが、実施の一つ段階として、調査のための予算というものを、ぜひ出していただきたい、こういった程度なのでございます。こまかい点は今後の研究に待ちたいというのが本音でございますからどうぞ。
  14. 岡本隆一

    岡本委員 ただいまの御意向でありますと、低額の所得者に対しては特別の措置を講じていくということになりますと、この七人委員会報告の中にあるところの健保の標準報酬に対する国庫補助の構想が入っておりますが、それとほとんど同じような考え方の上に特別健保というものが成り立っているのではないか、そういうことになりますと、これを政府管掌の中に一本化できないものでしょうか、こういうことを私思うのです。ということは、いろいろな保険が何本もあるということは、非常に療養担当者の事務上の負担を多くする、それから給付の内容、が変ったり、あるいは一々それによって、たとえば給付期間が違うというのであったり、あるいは一部負担の徴収の方法が違うというふうなことになりますと、どうしてもその間に窓口において間違いが起ったり、紛争が起ったりします。従って保険制度というものは、望むべくは一本立でなくてはならない。もしも国民健康保険ができますなら、そしてそれに全国民を強制加入させるなら、何らかの方法考えて全国民保険税あるいはそういう形でもって保険料を徴収するというふうな、一本化した保険が行われたら、事務の錯綜というものが非常に簡素化して、同時にまた事務費というものが非常に節約されて、もっといい保険のあり方が出てくるのではないか、こういうふうに私思っておりますのですが、そういう点についての近藤先生のお考えを承わりたいと思います。
  15. 近藤文二

    近藤参考人 筋合いとしてはおっしゃる通りなのでございますが、われわれ今の社会保険出張所の人員で、非常に小さな事業場を一々調べまして、今申し上げましたような形で、おっしゃるような健康保険の実施ができるかどうかは非常に疑問に思ったわけなのです。これはかつて司令部の方からも、一人というふうにしても同じことじゃないか、事務量はかえってその方が少くなるのじゃないかというお話がありました当時、いろいろ厚生省の出先の方のお話等も聞いたのでございますが、今のような社会保険出張所のやり方でございましたら、とうていそれは不可能である、特に先ほども申し上げましたように、個人の事業主が現在健康保険の被保険者にはなり得ない、株式会社になりますと、社長さんも被保険者になり得るという妙なかっこうになっておりまして、固人の企業者が病気になってから株式会社を作って保険の被保険者になられる、奥さんも重役にしてというようなかっこうが現実にございます。それでこの際特別健康保険のやり方もあるわけなのだから、それとどっちがいいかというようなこともいろいろ考えたのですが、むしろ事業主の、そういう労働者でありまた事業家であるというような方も含めるという意味健康保険ということになると、やはり多少現在の健康保険と違ったやり方が必要になってくるのじゃないか、また事務的には、そういうおやじさんたちに組合を地域的に作ってもらってやる方が、お役所でやられるよりスムースにいくのじゃないか。これは現に総合組合というのか健康保険組合の中にございまして、これはやる方としては非常にむずかしい面もあるようなのですが、大阪なんかにはいろいろな事業主が同じ地域に集まっておられて、そして中小企業なのですが、健康保険の組合組織でやっておられるようなところもありますので、やはり多少組合的なものを入れて、むしろそれによって事務を簡素化する方法があるんじゃないか。これは社会保険出張所の人員を急にずっとふやすということは、現実上は非常にむずかしんじゃないかというようなことも考えて、こすいんでございますけれども、民間側の方にやってもらった方が手っ取り早くやっていけやしないか。将来筋が立ちましたならば今先生がおっしゃるようにこれは当然一本の筋にすべきものだ、こういう考えであります。
  16. 岡本隆一

    岡本委員 なお国庫負担の問題にいてお伺いいたします。ちょっとこれは議論を吹っかけるようなことになるのでありますが、二百二十七ページに政府管掌の健康保険赤字になった原因は、標準報酬の低い被保険者の集団だからというようなことを書いておられます。その通りだと思います。そこで裕福な組合になりますと黒字があり、さらに法定給付のほかに付加給付か行われておる。そういうふうな一方の集団があったと思うと、今度は、政府管掌の保険についてでありますが、一方裕福な組合の被保険者はやはり治療内容、給付内容の向上というものはどんどん要求しているのであります。そうすると政府の方でどんどん給付内容をよくしていくわけですね。だから政府管掌の赤字はなんぼでもできてくるわけであります。  このようにして積み立てられてきたのが現在の政府管掌の赤字であります。だから近藤先生がこの報告の中でおっしゃっているように、政府の施策が悪かったから出てきた赤字だということはこれはもう明らかであります。たからといって近藤先生は国庫補助をやらなきゃならぬ、国庫負担をやらなきゃならぬという根拠にはならない、こういうふうに近藤先生はおっしゃっておるのでありますが、もしもこの組合と政府管掌の二つのものをすっかり一緒にしてまかなえば、現在の給付内容でもってしてもこれは黒字になるという計数をはっきり出していらっしゃるのでありますが、そういうことから参りますと、この制度を三本立にしておくから赤字が出てくる、だから二本立にしておく限りは政府はこの健保の政府管掌の方の赤字に対してはやはりての赤字の責任をとるべきじゃないか、そしてまた一方でもって付加給付までもらっておるものがあるのに、一方でもってその赤字——赤字だからそれを埋め合せるために一部負担をしなきゃならないということになって参りますと、低額所得者の集団が病気になって収入のないときに一部負担をやらなければならない。こういうふうな無理な注文が出てくると思うのであります。これでは私は弱い者いじめだと思う。裕福な組合の方は一部負担をやっても付加給付でもってそれは全部戻ってくる。ところが低額な、賃金の非常に低い、日ごろ貧しい暮しをしておって、全然貯蓄も何も持っておらない、そういう人たちだけが病気になったときに一部負担をしなければ医者にかかれない、こういうようなことでありますと、これは社会保障的な見地からは非常に遠ざかってくる。それは、自分たちの始末は自分たちでするのだという建前に立つとしても、そこにやはり社会保障というものはあたたかい他の力が加わってくることによって社会保障の目的は達せられる。そういう観点から考えて参りますと、やはりこの政府管掌の赤字に対しては国庫負担があるべきだ、こういう考え方が出てくると思うのですが、近藤先生はどのようにお考えですか。
  17. 近藤文二

    近藤参考人 だいぶん私たちの方がやり込められておるようなかっこうになるのですが、筋だけで申しますと確かに標準報酬が高い低いという関係で今おっしゃったような結果になっております。しかし健康保険組合の中にも標準報酬の低いものもございますし、先ほど申し上げましたような総合組合ということになって参りますと、必ずしもこの私たち数字で出ておるようなかっこうにはなっておりません。これは全部の委員の方のお考えであるかどうか、ちょっと疑問なのでございますが、根本の考えといたしまして、将来医療保険というものの運営を全国的に中央集権的にやる方がいいのか、あるいはそうでなしに、民主的という言葉が当るかどうかわかりませんが、組合形態でやるのがいいのかという問題が一つここに出てくるわけなんであります。それで労務管理というような点からも、また労働組合の将来性というような点から考えまして、組合形態というのは捨てがたいものがあるように考えるのであります。そういう意味におきまして、いろいろな標準報酬の問題はほかの方法て解決することによって、組合主義というものは生かすべきだという考え方でこの報告は書かれておるわけなんでございますが、今のお話は結局組合の方は非常に標準報酬が高く、国庫負担も必要としないような形でそのまま生かしておけば生かしておけるのだからそれはそれでよろしい。しかし低賃金労働者、組合に入れないような人たちの場合はそうでないのだから、これはうんと国庫負担を出してやるべきだというような御説のように承わるのでありますが、その点をわれわれは先ほど申し上げましたように、組合であるとか政府管掌であるとかいうことでなしに、低賃金労働者の方に対する国庫負担というような形で割り出したわけなんでございます。これを組合の場合には国庫負担をしない、政府のものだけに国庫負担をするということになりますと、理屈がちょっと合わないような気持がいたしたのであります。そこがちょっと先生の結論と違いの出てくる根拠になるのじゃないかと思っております。  それからもう一つは、今まで組合の方に赤字が割合なくて、政管の方に赤字があるというのは、標準報酬だけの問題じゃなしに、実は健康管理、保険管理の問題が組合の場合に主として見られる。大企業の場合でございますが十分行われておる。ところが政府管掌の場合は、健康管理の面が中小企業の実態から申しまして非常にむずかしいというところに問題があるので、むしろ中小企業の方にも組合を作らして健康管理を自主的にやらすというような道も考えられるのじゃないかというふうにも考えておるので、この健康管理という問題が赤字という問題にやはり直結しておるような気がいたしますので、標準報酬だけで赤字が出たとか出ないとかいう議論は多少問題があるのじゃないかというのが私の考え方なんでございます。ちょっと答弁になっておらないかもしれませんが、一つ今井先生に補足してもらいます。
  18. 今井一男

    今井参考人 組合管掌と政府管掌というものと大ざっぱに対照して国庫負担の率を考えると、おそらく岡本先生のおっしゃる通りになるのじゃないかと考えます。しかしまた私ども国庫負担に反対というつもりでは少しもないのであります。要するに今の予算の中からどの程度国庫負担を出すのか、財政的にくれるかということはむしろ国会でおきめ下さる問題だと考えますが、そういう国庫負担の余裕が出ました際に、その負担をまっ先にやらすものはどこかと考えますと、われわれとしてはやはり五人以下でありますとか、国民健康保険あるいは日雇い健康保険の方が先ではないか、それだけのことなのであります。従ってたくさん出して下されば毛頭異存はないのであります。要するに国庫負担という考え方はその保険に入っておらない人の税金をこっちに回すということであります。それであらゆる制度が少くとも本人が希望いたしますればその保険に入れるような仕組みになっておればよろしいのでございます。もちろん今も五人未満でも一応希望すれば入れることになっておりますけれども、報酬の低いものは現実的には厚生省の秘密通牒か何かによりますと、赤字がふえる一方でございますから絶対に入れてくれません。国民健康保険も町村ごとでなければ設立できません。しかも今の保険以上の給付を自費で受けられるような国民が何人おるかと申しますと、これはきわめてりょうりょうたるものでございます。私ども驚いたのでありますが、昨今国会議員の方々が、国会議員だけで一つ保険ができないものかといわれておるほどに、今の自費で医療を受けるということは、非常にむずかしい問題であります。そういう保険医療のレベルというものは、国民全体のレベルの中ではかなり高いものであります。それでもし保険に入るということが、社会的に犠牲といいますか、言葉は悪うございますけれども、そういった式のものであるならば、一部分のものであっても、断然国画負担が必要であると思います。しかし今の保険に入っておられる方は、むしろ保険に入っておられない方の立場から見ると、うらやまれておる立場にあるわけであります。そういう人たち税金をまっ先にこちらに回すのは筋が通らない。従ってそういう入れない人たちをまず何らかの形で、入らせるような前提は必要じゃないか。その次でないと、いわゆる健康保険だけにという国庫負担論は、なかなか立ちにくいんじゃないか、こういう考え方であります。
  19. 岡本隆一

    岡本委員 非常にけっこうな御答弁でございました。ところがこの報告書には、どうもそういう精神が貫かれているようにとれないのですが、その点は非常に残念だと思います。そういうふうな書き方をしていただきましたならば、今のような議論をかけることもなかったと思います。  それから今井先生に一つ。この本の中で「保険医療論小考」というのをあなたは書いていらっしゃいますね。
  20. 今井一男

    今井参考人 そうでございます。
  21. 岡本隆一

    岡本委員 その中で、医療はもちろん十分な効果の期待できるものでなくちやならぬ、だからといって、そのために保険者の経済状態によって、医療制限が加えられてはならぬということはもちろんだと思います。しかしながら、やはり保険というものの建前上、医療というものはある程度の規格がなくてはならぬ、医療を規格化しなければならない、こういうお説のようでございます。なるほどごもっともであります。  そこで医療規格化の問題から、やはり指針というものが出たり、あるいは審査、であるとか、監査であるとか、指導であるとかいうふうな問題が出てくると思う。ところで本年の五月の統計を——これは多分あなたの方にもこういう統計は行っているのではないかと思うのですが、医師会の方で作った統計でございますけれども、これを見ますと、この医療の規格性というものを一番徹底しておらないのが大病院であるというふうな数字が出ております。ここに健康保険の本人の一件当りの点数を調べたものを持って参りましたのですが、その中で一件一日当りの点数を見て参りますときに、これは入院患者でなしに外来患者についてのものを見てみますと、公的病院では二八・二なんです。国立の大学病院では三三・七、公立病院では二一、私立病院では一五・六、個人病院になりますと一一・五、それから公的の診療所で十二・八、法人診療所で十一・四、個人診療所が九・八一、こういう数字が出ておる。とにかく一件一日当りの点数でありますから、これは一回の診療行為に対する報酬です。もちろん大学病院であるとか、あるいは公立病院では、手の込んだややこしい患者さんがやってくるというのでいろいろな検査とか、治療が多少複雑であるとこの点数が上るのはわかるのですが、これは非常に高過ぎるのじゃないか、私こういう考え方を持つのです。事実私らが知る範囲においては、こういう国立の大学病院などでは審査も何も行われないものだからどんどん放漫治療が事実行われておる。それは私らはよく知っておる。そういうことから参りますと、こういうふうな大きな病院診療費全体の中で大きなものを食っているわけです。大体医療機関別に見て参りますと、病院が件数においては二六・六%の患者さんを扱って六〇・一%の診療費を受け取っておる。それから診療所が七三・四%の非常に多くの患者さんを扱って、しかも受け取っておるところの診療費というものが三九・九%、四割に満たない。従って六割を占めるところのこういう大きな病院に対して規格化というものを十分に徹底させなければ、私は保険経済の赤字というものは救われないと思う。そこでこういうふうな大病院に対する審査とか、指導というふうなものについてはどういうお考えをお持ちになっていらっしゃるか、一つお伺いしたいと思います。
  22. 今井一男

    今井参考人 私も先生のお述べになりました数字、具体的には確認しておりませんが、そういった傾向はいろいろの機会に承知しております。この根本、やはり医療機関というものは今後いかに配置され、いかなる役割を負うべきかという立場において厚生当局特に医務局が基本的に考えてもらわなければならぬ問題とからまっておると思います。この点いづれかと申しますと、最近ようやく動き出されようとかいううわさは聞いておりますけれども、従来の行き方は何といいますか、やりっぱなしというような傾向を私も先生と同じように感ずるものであります。病院というものをはさみまして診療所とどういうコンビネーションで、どういう役割をそれぞれの機関が果すべきか、この問題が基本的に解決しない限りは日本保険医療全体のあり方というものは解決されない、かようにまで私も感じております。特に保険とからみまして、ただいまおっしゃいましたような点は七人委員会でも議論いたしました。私どもが確認いたしましたところによりますと、もちろんおっしゃる通りある程度重病患者病院に集まる、特に大学病院に集まるということは是認されますが、それにいたしましてもこれほどの点数の開きがどうして起るのか、しかも大学病院の中で一部——たしか六つか七つ全国の大学病院は全然厚生省の統制下にないということだそうであります。すなわち内訳も何も出さぬ、全然審査も受けない、そういったようなものに私どもはなぜ保険をまかせるのか、これは私は世論に訴えてしかるべき問題ではなかろうかと考えます。もちろん大学病院であります以上、研究上の必要な材料を集める、特別な検査をする、そういった必要もおそらくありましょうが、そういった問題はそれを保険患者負担においてやってもらうということは不合理だと思うのであります。そういったものが必要でありますれば、これは別に予算でとってもらって処理すべき問題であります。そこを従来あまりに大先生がそろっておられるからということで、何といいますか、やりっぱなしにしてきたことは、厚生当局として非常に怠慢だということは、たしか七人委員会報告の中でも、どこか一カ所触れておいたと思うのでありますが、特別にこの内容を調べまして、その上でなるほどと納得がいきますれば、これまた診療所方々の御意見もあるだろうと思うのですけれども、何も見せないでおいて、自分のやったことには全然触れさせないでおいて、これでよろしいのだというようなことでは通らない。必要なことがあれば、私どもは研究費なりあるいは文部省本来の予算なりでまかなっていただきたい。いやしくも保険医療を扱う以上は、ぜひ保険医療のルールの中でやってもらいたい。こういうことは、七人委員会委員全部のそろった意見でございます。
  23. 岡本隆一

    岡本委員 ちょうど保険局長がいらっしゃいますから、一つ今の御答弁について、今後どうされる方針か、方針だけ承わりたい。
  24. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 方向といたしましては、今岡本先生が御質問になり、それから今井先生がお答えになったような方向以外には考えられないと思います。ただそういうことを具体的に実現いたしまするにつきましては、これは岡本先生十分御承知だと思うのでございますが、いろいろ困難な問題もあるかと思います。しかしながらそれを何とかして克服をいたしまして、そういう方向に持って参りたい。非常に抽象的なお答えで恐縮でございますが、ただいまのところはこの程度でごかんべんを願いたいと思います。
  25. 岡本隆一

    岡本委員 どうして困難なのか、私にはその事情がわからないのです。しかしきょうはあなたに御質問するのは時間がもったいないですから、この程度で打ち上げたいと思いますが、この機会にお願いしておきたいと思いますのは、大体大学とかそういうふうな権威にはすぐへたへたっと屈服して言いなりほうだいになって、そして弱い個人診療所、大多数の者が非常な誠意を持ってやっておる一ここの点数を見ましても、一回の診療行為が大体九・八一、約百円なんです。ところが大病院の一回の診療行為が三百五十円。こういうふうな、三倍半の診療費をあげておるという事実、しかもそれでもって将来ぼつぼつやろうというふうなことでは、私は日本保険財政を建て直すことはできないと思う。こういう点こそほんとうに真剣に突いて、厚生省が取り組んでいかなければ、私は赤字というものは解消しないと思う。その辺を特にこの機会にお願いしておきたいと思います。さらにこの七人委員会報告書の中に、医療担当者の負担を軽くしなければいけないというふうなことについて相当いろいろ項目をあげていらっしゃいますが、それでいて診療明細書を政府で画一的に発行しよう、こういう計画を立てておられる。これは行政措置でできるのです。こういう案を出していただくと、厚生省は、これは幸いと、じきやりかねない。ところがこれをやられると、医療担当者は非常な迷惑をするのです。これはもう現在でも、生活保護法だけで往生している。生活保護法のいわゆる医療券というのがなかなか集まらない。集めようと思ったら、自転車でもって看護婦その他の事務員があちこち走り歩いて、あとから集めなければならぬというのが実情なんです。それが今度健康保険の方にどんどんやって参りますと、一回二回ですぐなおってしまうというようななにに対しては、なかなか請求書の用紙を持ってこない。こういうのは、ほんとうに末端の実情を理解していただいてないのではないかと思うのですが、その辺のことについては、末端の医療機関はどういう状態かということをよく御承知でこういうことをお考えになったのでしょうか、一つ承わりたい。
  26. 今井一男

    今井参考人 もちろん先生ほどは末端の事情を知らないと思いますけれども、ある程度心得た連中も中にはおりまして、そこでいろいろ練りました結果出たものでありまして、われわれの方のねらいは、むしろこれによりましてお医者さん方の手数を簡素化したい、のみならず基金の手数を間素化したい、こういう考え方から出ておるのでありまして、要は明細書の書き方だと思います。これを工夫いたしまして、なるべくならば不動文字の消し込みその他によりまして、あとで金額の統計等が簡単にとれるような、しかも用紙の大きさ、厚さその他の工夫によりましては、かなりその目的にかなえるのじゃないかと思います。のみならず被保険者証自身が保険医の手元に残りますから、被保険者証と引きかえでなければ返されません。従いまして、いずれにいたしましても、それは生活保護の場合のようにいつまでも野放図になってしまうということは考えられないのじゃないか。しかもあまりおくれるようでございましたならば、社会保険出張所なりにお電話を願いまして、社会保険出張所から督促させる手も十分考えれば実行上差しつかえないと思います。もちろん変りますことによって若干の御不便は——プラスの面とマイナスの面と、マイナスの面が全然ないとも私ちょっと申し上げかねますけれども、いずれにいたしましても、これによりまして御不便をかけることは全体的にはそうないのじゃないか。社会保険出張所の方でこういう管理は責任を持つわけでありますから……。のみならず、これまでのように、事業主が労働者の病気というものに対して全然関心がないということ自身も感心したことではございませんので、社会保険出張所からそちらへ連絡いたしますれば、おそらく先生の御心配になるようなことは完全に解消させることが可能だろう、かように見通しておるのであります。
  27. 岡本隆一

    岡本委員 非常に簡単に割り切っておるようでございますけれども、これは被保険者立場からも大へんだと思います。今日でございますと、住宅事情が悪いために、一時間あるいは一時間半くらいの距離を通勤しておる人は幾らもあるのです。そうしますと、被保険者が病気になると、その家内が高い交通費を使って事業所までもらいにいかなければならない、しかも片一方では、病人があるから看病しなければならないというふうなことになりますと、これは被保険者に対しても大きな負担をかけるのです。さらに診療所へ行くときに、診療所の方ではその回収が間々困難であるものでありますから、今度はこの請求書を持っていかないといい顔をしない。そうすると被保険者は、きょうはありませんけれどといって遠慮しながら診療を請わなければならない。恩に着せられて診療を受けなければならない。当然の権利があるところの診療を受けるのに、へりくだって診療を受けなければならない。こういうようなことを被保険者に強要することになるのです。しかもそのために、医者にかかりたいのをつい半日延ばした、一日延ばした、そのために病状が非常に悪化するというふうなことも出て参るわけです。従ってこの案は、なるほど受診率を押えることに非常に役に立つと思います。しかしながら、受診率を押えることに役に立てば立つぼど、それだけ被保険者に対しては非常な犠牲を払わす、さらにまた医療担当者にも犠牲を払わす、こういうような案を今井さんほどの保険通の方がお考えになるということは、どうも私はふに落ちない。むしろ受診率を低下するということが第一の目的である、こういうふうに思うのですが、私の思い過ぎでしょうか。
  28. 今井一男

    今井参考人 確かに被保険者立場から見てマイナスの面、不便のかかる面が全然ないとは私ももちろん申しません。申しませんが、たとえば現在でも被保険者証を持たないでお医者さんに悪い顔をされながら受けるような場合も現実論としてはあるわけです。その意味におきまして現状とどれほどの開きがあるかという問題でありますが、またプラスの面といたしまして、今のように被保険者証が一枚では、お医者さんに取られてしまいますと家族が病気になった場合大へんなことになる。この制度があると、家族が病気になった場合には、本人が自分の勤めておるところへ行って事業主から一枚もらってくればそれが通るわけでありまして、そうしたプラスの面もあるということも一つ十分お考えをいただきたいと私らは思います。  それから何も高い電車賃を払って事業所に行かなくても、電話で事業所に頼みますれば、事業所の労務管理の建前上そのくらいのことは当然話がつく問題ではなかろうかという面もございます。ただわれわれとしては、いわゆる一般的な文句のない受診率を押えようというそういうけちな考えはございません。しかしながらこれによりまして不正な受診は確かに押えられると思います。不正な受診は大いに押えてしかるべきものだと思うのです。今のように被保険者証を又貸しすることがある場合は写真を張れという説もあります。写真のようなこういう手数をかけて、しかもどれだけの効果があるか。しかしこういった方法によりますと不正受診は相当押えられることになる。ゼロになるとは申しませんが、相当押えられると思う。現在御承知のように被保険考証の貸し値が大阪では千円と。いう相場があるそうですけれども、そういうことはおそらくかなり解消するのではないか。私どもがねらっていることは不正受診を押えることで、決して正当な受診をどうするというのではない。だれでも病気になることですから、御自分が病気になった際は何も遠慮することは必要もないし、そういうこともあり得ないだろう。被保険者証を忘れていった場合にお医者さんに気まずい思いをするのと同じ程度に気まずい思いをすることがあるかもしれませんが、結局その月の審査の請求の日までに請求書をお届け願えればいいのでありまして、そのかわりに被保険者証はお医者さんのところにいっているからと電話ででも連絡があったときは、証明書をお出しいただけばいい。結局長い病気になった場合はそうですが、普通の場合であれば自分の勤務先に行った機会に解消される場合が。大部分でありまして、このために特に被保険者に非常な負担をかけるということは私どもとしてはあまり考えられません。従いまして巷間よく言われております写真貼付などの方法よりは、これははるかに民主的であって、しかも実効はかえって上り、経費もかからない、しかも一方において家族等の方々はこれによって非常に利便を受ける、こういう方法だろうと思いまして、いろいろ討論した結果、これは私のみではありませんで、委員会でも皆さんが大賛成をされてきめられた案でございます。
  29. 岡本隆一

    岡本委員 ちょっとくどいようですが、ただいまの家族の利便の問題は確かにそうなのです。被保険者証を預かっておいてそれに記入してから返すという方法は、非常にいけないのです。だから以前の提示主義に返さなければならぬ、これは前から私たちが、主張しているのです。また今今井先生がおっしゃるようなお考えのように被保険者証をこのなにと引きかえに返すということでありますと、記入ができない。たとえば病気にかかっております。被保険考証を預けておきます。そうして家族がまた病気をします。そうすると今度はまたその請求書は療養の途中でもって渡す。そしてその保険証を持ってまた次の医療機関に行くということになりますと、被保険者証への記入ができない。今は被保険者証に記入をさせる必要があるというのでもって被保険者証を預かるというシステムになっておる。だからこのシステムはこわれる、私はむしろこのシステムはこわした方がよいと思っておる。そうして提示主義とした方がよい。そう思っておる。しかしながら同じようなことは今の請求書をもらうという制度のもとではやはり不便は同じようであるし、また現在家族が病気した場合には、請求書をもらいに行くかわりに、事業主の証明書がございます。その事業主の証明書をもらえば第二、第三医の診療を受けられるシステムになっておる。やはりこれは一つ制度の改悪だと思います。これはどんなことがあってもやめてもらわないと、こんなことをやられたら被保険者が迷惑する。療養機関が迷惑するのであります。今井さんは保険者立場であられますから保険者立場に立ってお考えのようですが、しかしこれは被保険者立場に立ってもう一度御再考願いたいと思うのであります。これはもうこれ以上議論しましても何でしょうから、次の問題に入りますが、もし反論がありましたらどうぞ御遠慮なくおっしゃっていただいてけっこうであります。  もう一つ医療機会均等をやるためには医療機関の適正配置をやらなければならないということを今井さんは強調しておられる。非常にけっこうなことで、ぜひこれはやらなければならぬ。ところが医療機関の適正配置をやるのに、今のような資本主義経済の中にありますとやはりこれが適正に配置されるような施策をとらなければ、適正に配置されないと思いますが、それについて何か構想をお持ちになっておりますか。
  30. 今井一男

    今井参考人 これは私はそうむずかしいことに考えておらないのであります。資本主義でございましても、たとえば今の義務教育のように各津々浦々の山村僻地まで日本は教育機関を設けております。そして別に教師に義務でどうのこうのやらなくても、十分解決しております。ですから医療というものを教育と同じ程度の重要性に持ち上げられたら十分解決する問題ではないか、要するに医療をどう考えるかということだけの観点で動くのではないかと思います。
  31. 岡本隆一

    岡本委員 わかりました。仰せの通りでありまして、そのようにわれわれもこれから努力していかなければならないと思います。ただ今のような形でありますと、ことに戦後の健康保険におけるところの医療担当者に対するところの処遇というようなことを考えていくときに、非常に山村僻地には医者は集まらないということは言えると思います。従ってそこまで医療というものが国の施策として大きく取り上げられ、そういうような段階に達するまでの措置としては、やはりある程度の山村僻地にあるところの医療機関に対して特別の措置を講じなければ、これは普及しない。大体やはり何としても医療機関が普及されていくのには、第一に山村僻地に参りますと子弟の教育の問題があると思います。あるいはまた遠隔の地であるとこれは文化のにおいにも遠いものでありますから、みながそれを避けたいという気持もあるだろうと思います。あるいはまた一里、二里の山坂を越えて往診しなければならない。しかも雨の日に自転車で行かなければならない、こういうような大きな労苦を求める場合にはやはりそれ相応の報酬を与えなければ無理だと思います。ところが甲地、乙地の区別がある、いなかへ行くと診療費が安い、それでは困難だと思います。その辺についてやはりそれはもっと是正していかなければならないというお考えをお持ちでありますか。
  32. 今井一男

    今井参考人 一般的の労働者でありますと、いわゆる人事委員会でいつも問題になります地域給の問題では都会地の方を重くしろという意見が強いのでありますけれども、教員の場合にはさかさまに山奥を重くしろという意見がございます。これは私は教育者と医師とが全く同じものであるとは考えませんが、やはり似たような共通の点があります。今の先生の言われるような点はこれとやや似たような点ではないかと思います。従って教員には僻地手当等がかなり特別的に設けられておるようでありますが、そういった構想をやはり医師の場合にも設けませんと、おっしゃるような問題は解決しないと思います。
  33. 岡本隆一

    岡本委員 次に事務の簡素化のことについてもう少しお伺いしたいと思います。新医療費体系組み立て方がどうなるかまだはっきりしておりませんが、物と技術と分けておる。これは正しいと思うのです。しかしながらもちろんその技術を正当に評価しなければならぬ、ここに問題があると思う。これはこれから先大いにわれわれ厚生当局とも論争していきたいと思うのです。そこで薬価の計算の問題なんです。これも現在九月からのなにでもって薬価計算は大へんなんです。何が何グラム、何が何グラムで何ぼになる、それを二日分にすると何ぼになる、合計五種類ほどの調剤をするとその計算というものは大へんなんです。そうしてそれから点数を割り出して請求するということになるのです。今度はその請求書を書く場合に、処方内容が変るごとにその処方内容を書かないことには、一定の標準の固定点数を越えたところのなにに対しては計算の根拠が出てこない。だから全部処方内容を書いていかなければならない。請求書の調製がそれこそまた大へんなことじゃないか、そうしますと百枚、二百枚、三百枚という診療報酬の請求書を書かなければならない。医療担当者がこれをどう扱っていくだろうかという問題で私はまことに気の毒だと思っておるのですが、その点について何とかもう少し簡素化するような方法をお考えになることはできないでしょうか。
  34. 今井一男

    今井参考人 大体現在の点数制度が昭和二年の発足以来、実費診療主義という建前に立って参りました関係から、非常に物に重点を置き、物とからめなければ医師は報酬を得られないというような仕組みになってきたところに現在の問題点があると思うのであります。初めのスタートが実費診療主義という考え方でスタートしたためにこれはやむを得なかったと思いますが、それに非常にこだわり過ぎたために問題点が今出ておると思います。医療行為一々が完全にうまく。ぺイするということはこれは理想であります。でありますが、しかし医師の適正配置等まで頭に入れて考えますと、やはり受身の医師というものが保険医療に専心する基礎におきまして、その生活が安定を得る、保障を得るということは、これはまた保険医療一つの大きな柱でありますからして、そういった角度でものを考え、それとのからみ合いにおきまして極力事務を簡素化するという線は強く出ていいのじゃなかろうか。あまりに一個々々の行為にこだわりますと、今の先生の御指摘のような妙な形が出て参りまして、このために保険医の諸君がどれほど手数をかけておるかということは私も若干は承知しておりますが、私に言わせれば、この請求書の書き方、この事務的な面といかに薬剤を安く手に入れるかということに頭を悩ましておるような保険医療である限り、日本医療の進歩には貢献し得ない。やはり腕だけで競争する、こういう態勢に持っていくようなそういう時間的余裕を極力与えるような仕組みに全体を直すことが必要だ。もちろんあまりに不公平になりましてもこれは困るのでありますが、ともかく医療に専心されるお医者さんというものは特殊な考え方を持っておられますので、そうこまかいことが一々の行為ごとにペイするというそういう潔癖な考え方はある程度捨てていいのじゃないか、大勢におきましてバランスいたしまして、しかもその方がかりに薬では損をされましても、技術の方で十分認められたという形が出ましたならばそれでしんぼう願えるのじゃないかと思う。そういうような角度で極力お医者さんの事務の負担を軽くする、こういったことはわれわれとしては常々念願しておることでございます。ですから今の問題等も平均をとるとか何とかという便宜な方法が、ある程度までは勇敢に実行されてしかるべき問題じゃないか、かように考えます。
  35. 佐々木秀世

    佐々木委員長 岡本君に申し上げますが、十一時十四分からで大体一時間になっておりますが、質問の通告が六人ございます。この調子で参りますと六時間以上かかるということになるので、本日はただいま通知がありまして、予算委員会の審議が終り、一時から本会議予算が上程されるそうであります。それに全員出席してもらうようにというお話がございますので、できましたならば一つ簡潔にお願いいたしたいと思います。
  36. 岡本隆一

    岡本委員 じゃ端折ってごく重要な点だけ一、二点お伺いしたいと思います。ただいま今井さんから出ましたお説ごもっともであります。そういうふうな医療費体系というものが私は早くできることを心から望んでおります。一々こまかい計算をして、これで何ぼになる、そんなことを療養担当者がやらなければならないような医療は明らかに邪道なんだ。だから療養担当者がもっと医療に専念できるような医療体系でなければならない。そのためには当然ここで単価の問題が出てくる。また療養担当者に対する処遇の問題が出てくると思う。現在の一点単価というものが、これは昭和二十四年に十円になり、三十年の今日に至ってもそれが十一円五十銭でもって、ほとんど据え置きのままになっている。ところがその他の物価を見てみますときに、標準報酬は五千百四十円から一万一千三百四十円になっている。従ってこれは一般的な勤労者の収入の現況だと思うのですが、五千円のものが一万一千円です。また公務員の給与べースを調べてみましても、これは二十三年には、六月に三千七百八十一円、それから十二月には六千三百七円であったものが、三十年では一万六千二百円になっている。二十四年から比べますと、これはやはり二倍半になっている。公務員の給与ベース、それにしてしかり。また米価も五十七円であった二十四年の米価が、三十年には百九円になっている。このようにすべてのものがぐんぐんベース・アップされていっておるのに、医療費の単価だけがそのように据え置かれておるというところに非常な療養担当者の生活の窮迫というものが出てきて、ことしあたりは医師会も相当不穏な空気が出てきている。だからこういうようなことのままに置いておかれては、私はいい医療はできないと思うのです。ほんとうに日本の道義に基いた明朗な医療費体系というものが作られていかなければならない。だからこの辺についての問題をこの報告書はネグレクトしているのです。ネグレクトしているのじゃないが、わざと触れないで書いてあるのです。わざと触れないのでは問題にならないのです。私はこの問題はほかの——たとえば今の特別健保の問題、国民健保を全面的に広げよう、こういうような問題をお出しになっている、将来の日本の国全体の医療体系の構想を描いておられる。その中には何ぼこれは困難な問題であるとしても、この問題について、公正な立場に立って自分たち考えたのだと言うておられる限りにおいて、七人委員会は責任をもってこれに解決を与えなければならなかったと思うのです。その点七人委員会の皆さん方はちょっと怠慢であったと思うのです。この私の意見はちょっと無理でしょうか、一つ意見を承わりたい。
  37. 今井一男

    今井参考人 私率直に申しまして無理と思いますな。というのは、これだけの時間内にこれだけの問題を、しかも単価までやれといっても、これは実際時間的に余裕がありませんでした。それでついでですから、一言私の個人の関係として申し上げますが、今の単価問題は、御承知の通り二十六年以後臨時医療保険審議会というものができまして、これは特に医師会側の御注文でメンバーもきまりまして、ずいぶんすったもんだを重ねたのであります。ところがこの、審議が始まりましてから医師会長だけがかわるのがすでに四たびであります。そのたびに幹部がかわりますので、また御破算にしなければならぬということで、いろいろすったもんだしたのでありますけれども、ぶちまけまして、一昨日、私臨時医療保険の小委員長といたしまして、適正診療報酬樹立に関する問題点というような、第三次今井メモというものをこしらえまして、これを皆さんがお持ち帰りの上、目下ひそかに検討中であります。でき得るならば本年度一ぱいには診療報酬算定に関する問題点だけでも関係者意見をまとめようではないか、こういう空気にはなっております。おそらく年があらたまれば若干は、岡本先生にほめられないまでも、責任解消的にはできるのではないか、こう思っております。
  38. 岡本隆一

    岡本委員 非常に長時間なんでございましたがありがとうございました。これで質問を終ります。
  39. 佐々木秀世

    佐々木委員長 八田貞義君。
  40. 八田貞義

    ○八田委員 非常に時間がたったようでありますから、簡単に問題点だけをとらえて一、二質問をいたします。今井さんと近藤さんがお見えになっておりますが、私の質問に対しましてお二人の方どちらでもよろしゅうございますから、それについて御答弁をお願いいたしたいと思います。  まず私ただいまの報告を聞いておりまして疑問があるのであります。まず第一が、医療機関赤字問題とからんで、医療機関の再配置の問題を取り上げております。これはもちろんそうあってしかるべきでありますが、ただ赤字対策に対しまして医療費の検討を基盤としてこれをやっていきたい、こういうふうに御発言がありました。ところがこれに対しまして私は非常に疑問を持っておるのであります。というのは、七人委員会が出されたこの医療 費の問題ですね、受診率の低下を来たしておるわけです。しかも一部負担とかあるいは差額徴収という問題を取り上げておりまするが、このような一部負担をやった場合、これは受診率は下って参りましょう。受診率が下るということは、今日一般診療所に一体どのような患者が受診に来るか、ほとんど軽症患者が七〇%という状態であります。医療の道は早期発見、早期治療にあることは申すまでもないことであります。受診率の低下を来たすということは予防面の圧縮を来すということになり、早期発見、早期治療とは全く相反した方向に流れていくということになるわけであります。こうした行きかたは明らかに医療面に後退であります。私はこの点については、皆さん方のせっかくの研究でありまするけれれども、予防医学を学んだ人間といたしまして、もっと深く検討していかなければならぬと考えておるものであります。それで今赤字々々といっておられますが、二十九年度の赤字は四十一億というふうに厚生当局によって言われましたが、実際の赤字は四十一億ではなくて、三十八億六千万と私知っておりますが、一体どうですか、その点はっきりしていただきたいと思うのであります。さらにまた、三十年度の赤字が七十億というふうに言われておりまするけれども、二十九年度の赤字から計算しますると、これも実際の赤字としては三十億から四十億くらいになってくると思うのであります。こういったふうに、予算を組むときに全く黙って予算を組み、そうしてやってみて赤字ができた、赤字ができたからどうか国会でもって国庫負担を打ち出してくというように、赤字ができて初めて騒ぐ、保険行政について全然見通しが立っていない、この点についても私ははっきりと御意見をお伺いいたしたいのであります。二十九年度の実際の赤字は一体幾らか、また三十年度の赤字見通しは七十億となっておりますけれども、二十九年度は実際はずっと少かったということから考えてみるならば、これももっと少い、いわゆる政府管掌の予算は四百億円となっておりまするが、しからば一〇%くらいのものであったならば、いろいろな面において医療費の再検討というふうなことについて打ち出された七人委員会対策というものは、はなはだ実情把握に乏しいと考えるが、一体いかがですか。
  41. 佐々木秀世

    佐々木委員長 保険局長から答弁させます。
  42. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 両先生への御質問でございますが、赤字数字の問題でございますから便宜私からお答えいたします。今二十九年度の赤字が四十億くらいである、それから三十年度の赤字が七十億というようなことを言つたが、実際の赤字は一体幾らなのか、それが食い違っておかしいじゃないか、こういう御質問でございますが、二十九年度のことを申し上げてみますると、実際の赤字は約五十七億でございます。そのうち保険自体が持っておりました積立金十八億円をくずしておりますので、三十年度に持ち込みました決算上の赤字が三十九億年でございます。はしたがありますけれどもまるく申し上げます。それから三十年度の赤字七十億といったがどうかということでございますが、三十年度は当初予算を組みまするときに、七十三億円の赤字見込み額を考えたのでありまするが、それをいろいろな事務的な措置によりまして約六十億円くらいに圧縮をいたしまして、そのうちの三十億円については保険料率の引き上げと、標準報酬等級区分のワクの引き上げによる、それから残り三十億円については、二十九年度の赤字四十億円とプラス七十億円につきまして政府の長期融資を受ける、こういう方針を立てたのでございます。そのときの七十三億円というものが今御指摘の七十一億円に当るものだと私は了承いたしまするが、それにつきまして、御存じのように保険料率の引き上げにつきましては、本年千分の六十を千分の六十五に引き上げをいたしました。これは御存じのように法律に認められておりまする範囲内でございましたので、行政措置でやったわけでございます。これで約二十五億円ばかりの財政効果をあげております。それから標準報酬等級区分のワクの改訂につきましては、これも御存じのように約五億円の財政効果を見込んだのでございまするが、先般の国会でこの法案が流れまして、これは予定通り参っておりません。それから残りの三十億円の処理につきましては、当初御説明を申し上げました通り、前年の約四十億円、すなわち正確に申しますると三十九億円でございまするが、それとあわせて借入金をいたす、これはそういう方向で進んでおります。従いまして三十年度の見込みでございまするが、これは来年にならないとわからないのでございますけれども、ただいまの私どもの本年度における収支の推移から推定をいたしました見込み額が、予備金も食いつぶしまして約六億円見当の赤字が出るものと予想をいたしております。大体そういうことでございます。  なおつけ加えて申し上げておきますが、実際の決算上の赤字とそれから予算を組みまするときにいろいろその前提となる赤字の予想額と、若干の食い違いがあることは御了承を願いたいと思います。予算は年度の途中で組みまするので、従ってその通りにこれが推移するかどうかということは一にかかって実績にあるわけでございまするので、その点は御了承をいただきたいと存じます。
  43. 八田貞義

    ○八田委員 そういうふうに赤字問題について予算と実際と違うというところにその問題がある、さらにまた赤字問題については別の委員会において強くこの点を追究いたしたいと思います。  それで先ほどの問題をずっと延長して参りますが、どうもこの七人委員会報告を読んでみますると、医療費という問題に対策基盤をおいて、その圧縮だけがそれにつながっておりまするけれども、実際には徴収率が非常に低くなっておる。今日デフレ経済によりましていわゆる弱小の企業体が非常にふえてきた、実際に納めなくちゃならぬ保険金をほとんど納めていない、非常に徴収率が低くなってきておるわけであります。この徴収率の低下に対する対策というものを考えてみますると、まず役人をもっとふやさなければならぬ、それでは事務費の膨張を来たすというような状態になって参ります。それに対する分析対策が十分でないのに今また社会保障の面から雇用人五人以下の事業所に対しましても社会保険を及ぼしていきたいということが打ち出されてきました。しかし健康保険赤字対策には、はっきういうならば人命尊重と経済政策とが矛盾するというところに悩みがあるのです。ですからこのデフレ経済で参って保険料を納めることもできないような零細な事業主に対して一体どうするかという対策も立てないで、さらにもっともっと低い階層の雇用人五人以下の事業主にも及ぼしていくということは、これはあまりにも飛躍し過ぎておる、この点についても私は十分に考えていただきたいと思うのであります。この国は資本主義の社会であります。医師だけは社会主義のワク内に押し込められまして、金持ちが自動車で医師のところに来て保険証を出すというような状態も見られます。しかもまた先ほど七人委員会今井さんから、今日の医療実費主義であるといわれました。まことにそうであります。従って良心的な医師は少数の患者しか治療できない。おまけに技術の点に全然差が認められておりませんために、診療点数が下り生活に困ることになります。技術料というものは全然入っておらぬ。ですから未熟でも点数かせぎのうまい者は多くの患者を機械的に診察して比較的裕福に暮らしておるという状態になってきておるのです。しかも医師の収入というものを考えてみますと、とてもこれじゃ食えないというのが今日の状態である。点数の引き下げの医療面に及ぼしている影響について詳しく述べて参りますと時間がかかりますので省略いたしますが、ただ私としては七人委員会の人々に対して、医師に対する見方が非常にへんぱじゃないかということを強く訴えたいのであります。アメリカなんかでは医師は決して職業と認めておりません。オキュペーションという言葉は使っていない。今日のわが日本においてはどうですか、医者、役者、芸者というように者という呼び名で同じように取り扱っておる。アメリカにおきましてはプロフェッションとしてりっぱな学問的な素養の必要な職業と呼ばれ、尊敬厚遇されておるのです。ですからこういうことについて、医師のあり方ということについて大いに考えていただきたいのであります。医師は人の精神、生命、権利を守るために誠実に診察に当っておるということについてお考えを願いたいのであります。要するに、今日は原子力、抗生物質とビタミンだけでは病気はなおらぬということをよくお考えになっていただきたいのであります。  また医療機会均等、教育の機会均等というようなことがいわれましたが、現状ではむしろ医療機会均等が大切である。しかし実際にこれを推し進めていくためには医療の国家経営と結びつかなければならないことになる。十年以上も自費で勉強した者をいきなり公務員にするのは虫がよすぎます。ですからそういうことについてもお考えになって、患者は保障されても医師は保障されないという制度になっては困ります。  さらにまた今日のわが国の九つの社会保険についてみましても、各省に個個分散しておる。かつて私は支払いの基金のあり方につきましてもいろいろな点につきまして触れました。支払い基金においては審査をやられておりますが、審査というものは公的にやるべきであります。支払いの審査であってはならない。そこで私は今日各省に分れておる社会保険における支払いのフアンドの面だけでも一緒にしなければならぬと考えております。東京都だけでも十億の社会保険の支払いがされておる。その銀行は一体どことどこでやっておるかということを前の久下局長に話しましたところが、四つくらいでやっておりますと言いましたけれども、実際は二つしかやってない。富士銀行、三菱銀行しかやってない。しかも月十億の金が払われている。たった二つの銀行へ日銀から支払いがされている。たとえば日銀から小切手が支払い基金にいく、支払い基金から富士銀行の本店へいく、本店から支店へは一日で流される、ところが支店長は、月末の預金高が多ければ多いほど本店に対する顔がいいということで、医師に対する支払いを月初めまで延ばす。それで五日か六日、一週間ぐらいおくれてから初めて医師に支払いをするというのが今日の現状であります。その間の利子はだれが所得しておるか。こういった支払い制度についても十分検討しなければならぬのであります。富士銀行は全国にわたってこの支払いに当っております。こういったことについてもよく御検討を願いたいのでありまして、私は一部負担とか差額徴収というような医療の圧縮をねらう、しかも予防医学方面の圧縮を来たすような制度の打ち出し方に対しましては、あくまで反対だということを申し上げまして、御答弁も時間がありませんので願わないで、これでやめます。
  44. 佐々木秀世

    佐々木委員長 滝井義高君。
  45. 滝井義高

    ○滝井委員 時間がありませんので、たくさん尋ねたいことがありますが、一、二点おもな点だけお尋ねしたいのであります。私実はこの七人委員会報告を読まれた方の意見をいろいろ尋ねてみた。あまり詳しく意見を述べてもらうより一つこれを読んで率直に感じを述べてくれ、まあわれわれみたいにこういう問題と取り組んでいる人の意見を聞くと、実にこれはよくできている、まれにみる社会保険に関する白書であるという意見一つございます。それから今度は熱心にこういうのを読んでおる患者に尋ねたところが、どう言ったかというと、一語にしていえば、この報告書には受診率をいかに低下せしめるかという精神が全編に流れている、こういう御意見でございました。それから今度は療養担当者の方に尋ねてみました。そうしたら、いわく、この報告書は全編にわたって医師への不信が流れている、こういうことであったのです。これは私は当っておるような感じが実はするのです。まあ私はこれは権威あるりっぱなものだと思って一生懸命になって勉強させてもらっておるのですが、前の二つのこと、いかにして受診率を下げていくかということが全編に流れておる、医師に対する不信が流れておるということです。そうしますと、患者と療養担当者から七人委員会報告が軽視されるということになれば、今後の日本社会保険と申しますか、社会保障をやる上においてこれは大へんだと思うのですが、その点一つ先生方の世論から受ける感じをお聞きしておきたいと思います。
  46. 今井一男

    今井参考人 現状分析報告において受診率がふえたことが原因であるというふうに相当数字的に突っ込みましたから、あるいはそういう印象をお受けになる向きもあるかもしれませんが、先ほどの御質問と同じように、私どもは不正の受診というものは極力押えなければならぬと思いましたけれども一般に受診率を低下させようなんということはむしろ反対の方向であります。早期発見、早期受診というものがいかに望ましいことかということはこの中にはっきり書いてございます。一部負担ということの議論の場合におきましても、先ほどのお話にからまりますが、私ども世間ではあまりに軽く一部負担というものが言われ過ぎておると思う。しかも一部負担ということによって受診率なんというものは下るものではない。現にその反対の数字もたくさんあるわけです。のみならず一部負担というものを低率にいたしますと、軽い病気の場合にはちっとも受診率の引き下げにはなりません。また重い入院等の場合におきましては患者に病気になるなということであります。従って一部負担というものが軽々しく行われることに対してはわれわれはむしろ反対でありまして、一部負担につきましての考え方は、ごく手数料的なものしかうたってないこともそういう立場から出たことであります。ただわれわれとしても——これはお医者さん側に反対があるかもしれませんが、ややともすれば重点を差額徴収でいく——厚生省は従来反対しておりますが、新しい構想の差額徴収を打ち出して、患者負担すべきものは患者負担させる考えの方がより合理的である、普通の一部負担というのは本人が承諾しようと承諾しまいと、どんな場合でも例外なく持たせようという考え方であります。差額徴収とは本質的に違うのであります。そういう方へ重点を向けたのでありますから、実はわれわれには受診率をむやみに引き下げさえすればよろしいという式の考え方は毛頭ないということをこの機会にはっきり申し上げておきたいと考えます。  それから医師への不信という言葉は、私はやはりお医者さんが多少色目でごらんになったのではないかと思うのでございます。もちろん医師の中には不都合な人がおることも、一部ではありますが確かな事実であります。また被保険者の方にもそういった者がおることも事実でございます。特に厚生省の従来の指導というものが保険医の方に力を入れておって被保険者の方は全然力を入れておりません。あるいはこの中に書いてないかもしれませんけれども、これはわれわれといたしましても厚生当局には強く述べた点であります。むしろ保険医療体系、点数の組み立て、こういうものがいかに今の保険医療そのものをスポイルしておるか、またこういうことによって中正であるべきお医者さんの中にも心ならずも妙なことをやらざるを得ないような面に追い込んでおることが多々ある、こういったことはわれわれも考えておりますけれども、それはやはり医師そのものへの不信ではなくてむしろ体系の不備である、特に先ほどの御発言のようにうんと量をかせがなければ食えないというような仕組みになっております。従って腕のあるお医者さんが少数の患者を丁寧に見て、一件当りの医療費を安く、早くなおしましてもお医者さんとしては勘定は少しも合わないのであります。非常に悪い言い方でありますが、むしろなおさないでおく、しかもたくさん見るということの方がお医者さんとしては生活の安定が得られる。誇張して悪く言いますとそれに近い体系になっております。こういったものを基本的に直さない限りほんとうの保険医療のあり方もできないし、日本の医学医術の進歩にも貢献するゆえんではない。これはどこまで力強く表現してあるかは問題でございますが、少くとも私はそういった点を深く信じておるのでありまして、その意味におきまして今のお医者さんが全部が全部よろしいとも申し上げかねますけれども、医師への不信から出た考え方では毛頭ないのでありまして、体系問題点というのを強く取り上げたい、こういった気持であります。
  47. 滝井義高

    ○滝井委員 よくわかりました。そういう誤解があることを今井先生に知っていただきたいと思います。  次に、先生方に非常にたくさん網羅的に対策を打ち出していただいておるのですが、大きく分ければ、簡単に厚生省自身でできる措置と、それから同時に二番目には立法措置をやらなければならぬものと、第三番目には大蔵省と相当精力的に折衝して予算措置の相当のものを伴うというこの三つに分け得ると思うのです。現在厚生省がやろうとしておる、ちらちらそでの下から見える対策というものは、どうも大蔵省と精力的に折衝して、いわば日本社会保障前進せしめるというような——先生方報告されておるような特別健康保険を作って予算を何十億か出せということや、あるいは公費負担というものを相当大幅に拡大する必要があるということや、あるいは国民健康保険を全国的に強制して作らせてこれに金を出せというようなことは、どうもほおかむりされて、厚生省で簡単にできて、できればあまり摩擦もなく国会をすらすら通るようなおざなり的な対策が講ぜられようとする形勢が非常に強くなりつつあるということ、先生方の半年にわたる非常な御努力というものが、いよいよ厚生行政に川崎君が出ることについては期待しておったけれども、出たならば処女のごとくなってしまった。私、川崎君にそういう形が出ようとしている感じが非常にするということを言ったのですが、この点ある人が私にこういう話をしてくれました。滝井さん、これはサルカニ合戦だ、カキの種と握り飯をかえたようなものだ、ぼんやりしていると、被保険者ないし療養担当者はカキの種を握らせられて握飯をとられてしまうぞ、カキの種をとれば何年か何十年か先の秋には陶工柿右衛門がうっとりしたような、あの黄金のカキの実がなるかもしれぬけれども、それはどうせ今の日本ではいつのことかわからぬぞ、握り飯をしっかり握っていなければならぬ。そういうことを話してくれた人がいるのですが、どうも厚生省が被保険者と療養担当者にカキの種をやって握り飯を取り上げてしまうような感じがしてならないのです。先生方がこの報告を出したあとの感じが、どうも厚生省に都合のいいところだけをとって、あとはどうもカキの種をみんなにやろうというふうに思われるのですが、その点どうでしょうか。
  48. 近藤文二

    近藤参考人 大へんむずかしいお尋ねでございますが、率直に申しますと、私は厚生省の中で各局の意見が本気にまとまっているのかどうかという点について非常に不安を持っておりまして、実は厚生行政として行われているのか、それぞれの局の行政として行われているのかという点に疑問を持っておりますので、今お尋ねになりました点はカキの種になるか握り飯になるかわかりません。私どもでは見通しがつきません。しかしこれをカキの種とか握り飯というようなお話にしないように持っていくかいかないかは、むしろ先主方の御努力だと考えているのです。私はこの報告書は川崎国務大臣に頼まれたから書いたという気持で書いたのではございません。これを書きましたのは、国会議員の方に国会においてよく検討していただくために実は書き上げたつもりでおりますので、もしこれが握り飯だけになってカキの種が忘れられる、あるいは逆になるというようなことになりましたならば、その責任は先生方にあるという考え方を実は持っておりますので、この点よく肝に銘じてよろしく御審議願いたいと思います。
  49. 滝井義高

    ○滝井委員 私も実はその通りだと思います。ところが日本の政治というものは形は政党政治になっておりますが、やはり依然として官僚政治というものが強いのです。自民党にしてもまだできたばかりで、この七人委員会先生方の出されたものほど数字的に明るい者はそういません。われわれ社会党にしても一生懸命勉強いたしておりますが、これほどの資料あるいは優秀なる先生方のようなスタッフというものはなかなか得られない。そういうところに実は日本の政党政治の未発達の悩みもあるのですが、ちょうど日本社会保障の確立期に政党がこういう状態にあるということは、今先生が言われたように、われわれも深く自己反省をしなければならぬということは同感でございます。そこで現在そういうカキの種になるか、あるいは握り飯になるかということは別にしまして、先生が今言われたように厚生省自身がこれを一保険局の問題としてやっておるのか、あるいは第三次鳩山内閣の重要な厚生行政の一環としてやっておるのかということなんです。その点について私は、あるいは先生方からそういうお答えをいただければということを実は期待しておったのですが、言って下さったので、実は先生方のこの報告書の中にも、われわれがこういう健康保険赤字対策を出すということの前に、少くとも日本医療保険の方向づけをやる基本的な計画、年次計画というものが出てこなければならない。それなくしてこういう対策をするということは木によって魚を求むると同じだという意味のことを言って下さっている。私は全くそうだと思うのです。ところが厚生省が出しておる社会保障六カ年計画というものと、いわゆる国家全体の全般的な経済六カ年計画をやっておる経済企画庁の総合部会から出てきておる計画とを見ると非常な開きがある。経済企画庁から出ておるものと、厚生省のものとの開きは約一千四百億以上の開きがある。厚生省社会保障の全般的な六カ年計画を七千八百億ぐらいに見ております。ところが経済六カ年計画の中から出てくる社会保障計画というのは六千四百五十億ぐらいで千四、五百億も違う。いわば一カ年間の日本社会保障をやるほどの金が違うということなんです。こういうようにそれは一つ厚生省の局で勝手気ままにやっているのか、内閣でやっているのかということが私たちには全くわからない、どれほどの熱意を持ってやっているのかもわからない、こういうことなんです。そこで厚生省が五カ年計画とか六カ年計画を出しても信用がならない。いわば厚生省を信用できないように、経済企画庁から出た国の基本的な六カ年計画がどこまでがほんとうなのか信用ができない。いわば各省、各局ばらばらにやっておるのが現在の日本の姿なんです。こういう点については先生方はむしろ日本社会保険赤字の問題とともに、私はやはり基本的なものをある程度立ち入ってもう一ぺん諮問でもやれというぐらいの御催促はやる必要があるんじゃないかということを感ずるのです。いずれ局の行政と厚生省全般の行政について大臣に二、三ただしてみたいと思っていますが、そういう点について先生方はどういうお考えをお持ちになっているでし、ようか。
  50. 今井一男

    今井参考人 私どもこの報告を書きます際に各局の局長その他を呼んで議論をいたしました。またこれができましてからも、二、三度各局の諸君にレクチャーに参りました。その印象は今滝井先生のおっしゃった通りでありまして、これはやはりわれわれの意図と反しまして、私が出すときに厚生大臣ははっきり言いました。これは私個人の考えですが、厚生省の行政の最大の欠陥は事務官のやるべきことを技官がやり、技官のやるべきことを事務官がやっておる。こういった一言でその辺の調整が全くできておらぬ。こういうことを個人的に大臣に申したのでありますが、それと同じ意味におきまして、この仕事がやはり一保険局の仕事に取り扱われるにおいがどうもして仕方がありません。その点は先生の御心配になる通りだと思います。これはいずれ先生の方からも一つ厚生大臣によくお話を願いたいと考えます。
  51. 滝井義高

    ○滝井委員 最後にもう一つ大きな問題がありますので質問したいと思います。それは先生方のこの報告の中で特に何と申しますか、今まで権威ある機関から示唆されずして今回先生方がいわゆる一つの権威ある機関として示唆していただいたものは医薬品の広告の問題なんです。同時に医薬品及び衛生材料、あるいは医療器械器具の廉価提供の問題です。この問題はきわめて日本医療にとって重大な問題だと私は思っています。昭和三十年度の日本の総医療費というのは二千八百億だといわれておりますが、その二千八百億の中で医薬品の生産は小売価格にすれば少くとも一千億をこえるという状態なんです。この一千億をこえる医薬品の問題を、今まではほとんど厚生省の薬務局にしても保険局にしても取り上げ切れなかった。先般先生の方がこの問題を取り上げたから——私電通か何かの新聞で見たのですが、製薬業者あたりが声明書なんかを出されておったので、どうも今の厚生省のこの権威あるものを出したにもかかわらず、現在成り行きをじっと見てみますと、製薬業に対する広告の問題や、廉価提供の問題はどうも頭を通り越してしまって、この問題は最終的にはいわゆる薬価基準の引き下げ、バルク・ラインの問題等に集結をされてしまって、結局最終的には開業医と零細薬局がいわば負担を負わなければならぬ、しわ寄せをされるというような問題に取りかえられようとするような傾向が出てきておると思うのです。なぜか、これはすでに現在の日本の製薬業の広告料というものは約百億になんなんとしておる。少くとも生産高の七%をこえておるというのが現状なんです。ところがこれは御存じのようにマス・コミュニケーション——いわゆるマス・コミュニケーションの横綱は三つあります。テレビ、ラジオ、新聞のこの三つです。この広告問題の取り上げによって大恐慌を来すのは火を見るよりも明らかだ。従って輿論はこの巨大なマス・コミュニケーションによって一挙に押し流されてしまう。おそらくこの広告問題を取り上げようとするならば、厚生省の薬務局長は、二、三人くらいは首を覚悟してやらなければできない問題だと思う。もちろんこれはさいぜん近藤先生も言われたように、私たちも今度の臨時国会から次の通常国会にかけては、この問題は大問題として取り上げなければならぬと思っておりますが、これは一つ権威ある先生方から率直に百億になんなんとするこのマス・コミュニケーションに使われておる広告費というものをどうやるかということ——現在先生方があの問題を発表して以来こういう輿論が出て参りました。それはどういう輿論かと申しますと、広告費の節減をすれば薬は高くなるという輿論が出てきたことです。そういう輿論が巻き起ってきた。同時に、七人委員会報告というものは製薬業と被保険者を犠牲にして医者を得させようとする理論である、こういう理論が出てき出したということなんです。こういうことはさいぜんも申しますように巨大な新聞、ラジオあるいはテレビというものがその背景にあるだけにこれは相当むずかしい問題だということなんです。おそらくこの問題とほんとうに取り組もうとするならば、薬務局長でなく厚生大臣の二、三人はかわらなければならぬと思うのですが、この際率直に先生方の御見解を勇気を持って御表明を願っておきたいと思います。
  52. 今井一男

    今井参考人 勇気を持たなくても申し上げますが、とにかくこの保険国策、これは国民税金等によりましていかに無限的に将来末広がりになる産業であるかという点に関する自覚、この点が私は今の製薬界に非常に欠けておるということを率直に業者の諸君にも申しました。たとえばストマイなんか四社の独占問題で、この話がありますと私のところに参りまして、それなら四社が合併して独占価格を作って厚生省と対決するというようなことを申すくらいでありますからして、その産業がいかに恵まれた—要するに国策によって保険給付によって、将来が末広がりになっておる産業であるという認識の上に立つ公的な責任感、こういったものが根本的に欠けておる点において私どもは猛省してもらう必要があると思うのです。その一番具体的な例は滝井先生も御承知と思いますが、昨年以来今年の夏まで約一年間金券を封入いたしました。リベートのかわりに各社がそれぞれ特異の薬品につきまして金券を封入しました。金券を封入するという方策は悪意ではないかもしれませんが、結果的に申しますと、薬価基準をなるべく引き下げない。そうしてその販売に当る係員、病院で申せば薬局長とか事務長のふところになるべく入るようにという、こういった悪意の解釈ができる方策であります。そういった方策をとるということ、これは最近薬務局の御注意によってやめたようでありますが、そういった考え方自身が私はどうかしていると思うのであります。とにかく何とかして国民に、立場上安い薬を提供しなければいかぬ、もちろん薬業界というのは、責任がありますから、そう妙な、無責任な薬品を作ってくれては困りますけれども、そういう考え方一般に欠けておる。たとえばフイルム界にいたしましても、結核予防法の普及によりまして、国の経費で、国民税金で、集団検診というものが普及してこようという際に、レントゲン・フィルムの方は偵下げにならない。しかし一般の奢侈品である写真のフィルムの方は値下げする、こういう感覚では困ると思うのであります。すべてがこういった、一番弱い病人のために、日本医療の推進のためには、その面でできる限りの配慮をする、そういうふうな頭の切りかえができたならば、広告等の問題も一ぺんに解決するのじゃないか。要するにこの産業が、すべてが純粋の、悪い意味の商業主義といいますか、何とか自分のふところに何億の金が残るということをただ一つ、極端に誇張しますと、それを目標にした運営をはかっておられるのじゃないか。そういった限りにおいては、医薬というものは医療の二つの柱であります。今後の日本保険医療発展のために、この機会にどうしても根本的にPR的な立場から考え直す必要がある、こういったことで一言で申されると思います。こういった薬務局の考え方を基本的に直してもらう必要があるのは申し上げるまでもございません。これは重々御承知の通りだと思います。
  53. 近藤文二

    近藤参考人 一言つけ加えたいと思います。私はこの問題が出てからしろうと扱いを受けておりまして、広告学を知らない人間というふうになっておるらしいのですが、それはそういうことをいっておられる広告学の先生の方がむしろ一薬を知らない広告学者だと私は考えているのであります。われわれの言っておりますことは、お医者の使われる薬についての広告について、もっと自制してほしいということを申しておるのでありまして、この点新聞等はいささかノイローゼにかかっておるのじゃないか。各大新聞の広告部長が、てんやわんやのありさまであるというのは、それだけ底が深いものがあったのだということをわれわれに確認させたことになるので、逆に新聞等が騒いでおりますことが、私たちメスの入れ方が正しかったことを証明しておるというふうに理解しておりますので、勇気は常に持続して持っておりますが、ただ悲しいかな、世論を発表する機関である新聞、それからラジオ等がこれに反対でございますので、その辺のことをよくお含み願いまして、国会等において十分この問題についての何かの対策が講ぜられるならば対策を講じてもらいたい。つまり医師に対する広告の制限と同じように、医薬品に対する広告の制限というような問題も法制化される道もあるのじゃないか。これは薬務局にまかせておいたら二十年も三十年も待たなければならないというのが大体私の確信するところでございますので、もっとほかの手を打たなければ解決しないと思うのでございますが、しかしこの点につきましては、お医者さんの方にもお願いがあるのです。薬屋さんの方から申しますと、お医者のみしか使わない薬を一般新聞に広告するのは、日本のお医者さんは一般新聞しか読まないような方ばかりだからというので、従来はあったのですが、最近はそういうことを申しますとお医者さんの方で怒られますので、少し方向を変えられまして、一般新聞の方が広告費が安くつくからやるのだというような論法になっているらしいのでございますが、それならばお医者さんの方でいつもおとりになるところの、たとえば日本医師会なら日本医師会の機関紙というようなものに広告するというようなことで、お医者さんの方で申し合わされて、ほかの新聞には出さないということにされたならば、一挙にこの問題は解決するのではないかと思います。いろいろ方法がございますので、そんなにやかましくいわないで、しかも、新聞社の収入も、別にお医者さんのみが使われる薬、注射のようにしろうとがやってはいけないものにまで一生懸命に目の色を変える必要はないのでありまして、もっとほかにいろいろな広告費をかせぐ道もあると思いますから、そういう意味で、この問題はあまり騒がれておる方がどうかしておられるのであるというつもりでございますから、十分御安心あってしかるべきだと思います。
  54. 佐々木秀世

    佐々木委員長 野澤清人君。
  55. 野澤清人

    ○野澤委員 大体お聞きしようと思ったことを、頭のいい滝井さんから指摘されて、お二人ともはっきりと国会に責任を持ってこられたようでありますが、全体としてのねらいがどこにあるかという対策を見てみまして、そういう感じが強くいたすのであります。特に七人委員会を作りました当時には、川崎厚生大臣がことしは抜本的な対策をする、そうして七人委員会にお願いをして根本対策を打ち出すということが国会において再三述べられたことであります。従ってその当時私は七人委員会というのは、川崎厚生大臣の隠れみのでないのかという悪口を言いまして、これによって抜本策を強行する、たとえば標準報酬の値上げをするとか、あるいはまた被保険者制限をするとか、こういうふうな一つの隠れ行事をするための七人委員会を作ったのじゃないかということを申し上げた。ところが川崎君の方では、今度の七人委員会で学識経験者の知恵を借りて、社会保険の根本対策をするのが目的だ、従ってその結論に基いて六カ年計画なり五カ年計画なりに十分これを取り入れたいというのが当時のお話でございました。しかもまた国会内部における七人委員会に対する空気というものも案外険悪な状況であったのでありますが、いよいよ今度七百ページからの大冊が出てみますと、各所に大きな波紋を描いております。非常に権威あるものであるという見方、また特殊なねらいを持った作文であるという見方、いろいろな見方がありますが、私は一貫してよくもこれだけ勇敢にやられたものだという感じがいたします。ただそこで全体として考えられることは、七人委員会方々が、この対策を、たくさん並べておられますけれども、根本対策として取り上げられるものはこれを全部を並列して地ならし工作をしながらやっていかなければいけないのか、それともまた入りやすいものから逐次選んでこれに入らせればそれでよろしいのか、この辺の考え方について一応お尋ねしたいと思います。
  56. 近藤文二

    近藤参考人 申し上げるまでもなく、全般的にやっていただきませんと、ところどころいいところだけとつていただきますと困るというのが率直な考え方でございます。ただしかし三十一年度に全部全面的に実施してくれということは望む方が無理だと思いますので、ここ数年の間に実現してもらいたい、数年の間にこれならば実現できるであろうという確信をもって、こういうものを出しておりますので、その辺の取捨選択はある程度あると思いますが、たとえば五人未満の問題にいたしましても、ことしから、三十一年度からというのは無理だと、われわれもそう思います。従いましてその点は本年からやらないとしても本年から準備するように手はずしていただくとか、こういうやり方もあると思いますので、国民の方では国民健康保険の強制の問題にしましても、一体いつからかりに強制するなら強制するかということがはっきり打ち出されて、そうして五年なら五年の準備期間で実現するということになりまして、それに対する予算が出れば納得すると思うのです。そういう意味においてここしばらくの間にぜひ全面的にこれらのものをやっていただきませんと、われわれ報告を書きました者の考え方というものは現実化されないと、こういう考え方であります。
  57. 野澤清人

    ○野澤委員 大体御趣旨はわかりましたが、そこで私はこの七人、委員会報告書を見ましたときに、非常に要領のいい報告書で、さすがは頭のいい学者の方の結論だというように見たのでありますが、結局羅列されたこの対策というものが非常に広範にわたっておりますけれども、これを実施すべき強弱の度合いというものは全然明示されてない。従って滝井君の言われたように、立法化、行政化、予算化というような面に入ってきますと、これの選択権というものは、おそらく厚生当局の方の、あるいは局の仕事になるのか大臣の仕事になるのか、これは別でありますが、厚生当局で拾いやすいものから拾っていく傾向が強くなるのじゃないか。同時に近藤先生のお話では、国会が十分これを検討すればよろしいのだという、責任を国会に預けられた形ですが、私はこの対策を見たときに、大体七人委員会赤字対策に対する八割の基礎的柱を打ち立てたけれども、あとの二割をそっとしておいて国会なりあるいは役所なりにお預けをするのじゃないか。これは今井さんにもお会いしたときにちょっと申し上げました。お互い笑い合ったまま確答を得ずに別れたのでありますが、先ほど近藤先生のお話を聞きますと、大体二割を国会に預ける。預けますが国会自体としてこれの取捨選択というものは非常に困難だ。結論厚生省当局の方が一つ一つ拾っていくのじゃないか、こういう感じがいたしますので、そうなってきますと将来この社会保険中心にして、七百ページの対策がおそらく国会の議論の焦点になるのじゃないか。従って川崎君は簡単に隠れみのとして七人委員会に責任をなすりつけた形であったが、結果においては今後何年間かこの材料で国会で論議が繰り返されていく。そしてその取捨選択というものが時間的にもあるいは場所から見ても部分から見ても正確に取り上げられなければ何にもならないと思う。早くやるべきものがおそくなったり、おそくやるべきものが先に手をつけられたりということになってきますと、やはり従来のやり方と同様に抜本策に終ってしまうのじゃないか。なお本日発言の通告を五番目とわざわざ私が指定したことは、この中でどういうことが皆さんの中から指摘されるかということをながめていた。私の予想通りに滝井君から製薬を中心にした広告の問題が取り上げられた。また先生方も非常に勇敢にこれを取り上げたということであります。その通り私も考えますが、この広告の問題というものが単に広告だけをあなた方が指摘したものか、それともまた医薬品の価格の流通形態ということを基本にして現在のメーカーあるいは卸、さらに小売業というような零細な企業まで一貫して考えられて、しかも需要家の方の診療所なり病院なり大口需要なりの価格の流通形態というものの不均衡を指摘するために広告の問題をひょっとつまみあげてみた、こういうふうな感じもいたすのでありますが、あくまでも広告自体の検討をさせることが赤字対策の根本対策なのか。それともまた製造販売あるいは小売等に至るまでの今日の重要な医薬品の流通形態に対して一応再検討すべきであるという観点で広告をつまみあげたのか。この辺のところをお尋ね申し上げたいと思うのであります。同時にいろいろと重要な問題がたくさんございますから、そう数はあげられないと思いますが、ただ材料面において指摘されておりますいろいろ具体的な事例のうちで不可思議に思うことは、医師が直接あるいは間接に使用される薬品の衛生材料あるいは医療器具器械というものを廉価に供給する方法については今回はっきりとこれで示されております。しかし歯科医師が使用する歯科材料についての言及が全然なかったということ、これはおそらくアマルガム一つを作るにしましても、充填材一つにしましても、少くともこれも医療材料でありますから、現在これは衛生材料として薬品の中に入っているわけではありません。こういうものを野放しにしておいて、単に広告一つを俎上に上せて火をつけてしまう。こういうことはどうかと思うのでありますが、この広告に対するお二人の御見解はどういう点にあるのか。もう一度聞かしていただきたいと思うのであります。
  58. 今井一男

    今井参考人 前半の部分について私からお答え申し上げます。二百五十七ページにある程度われわれの羅列的な対策の重点的な考え方を書いておいたつもりでございます。すなわち第一は医療費を合理的に安くするという点に重点をおいてほしい。そうしてその他の問題はその次に考えてほしい。これは医療保険を将来どう持っていくかという問題と別問題でやるべきであり、やれる問題である。もちろんその中には報酬を的確につかむとかいろいろなことが入っております。それからその次には国庫負担なりあるいは給付の改悪なりあるいはまた一部関係者負担という問題が出て参りますが、国庫負担につきましては先ほど申し上げた通りでありますが、同時に関係者負担増加なり給付内容の低下は真にやむを得ない限度内にとどめるようにしてほしい。給付内容のいじり方などはできればバランスをとる、不権衡であるものを部内的に調整する。そういう観点でやってもらうように内容等も具体的に例示したつもりでございます。また一部負担その他の問題も、これはもうないことがいいにはさまっているのですが、やむを得ない範囲内において、しかもその負担がどういう人がするのか、負担的に見て合理的かという観点を重点に置いて考えてほしい。かような提案をしているのでありまして、ある程度われわれの方の要望、羅列的ではあるが、その中で基本的な方向ぐらいは書いておいたつもりでありますが、しかし何分にも大部でありますので読み流してみると一体どこが重点かわからないというおしかりは至るところで伺っているのであります。その点われわれも最後のまとめがまずかったということはひそかに申しわけないと思っている次第であります。なお広告につきましては近藤先生から申し上げます。
  59. 近藤文二

    近藤参考人 広告のことだけ非常に気にしておられるように聞くのでありますが、実は薬の問題等につきましてのところでは、たとえば野澤先生も御主張されております品種の制限の問題といったような問題も扱っておりますし、実は広告のことも問題ではございますが、流通あるいは配給過程という問題になってきますと、結核の問題に重点を置いております関係で、ストマイとかパスのような問題は公的買い入れ措置をとったらどうか、こういうことなのでありまして、すべての薬の配給を変えてしまえという考え方は持っていない。ただしかし将来社会医療というものが伸びまして、今までのように医務局があり保険局があって、医務局の方が保険局よりも大きな力を持っておったのが、今度は時代が変りますと逆になりまして保険局の中に医務局ができるという時代が私は来ると思う。それと同じように薬の面も少くとも社会医療において使う薬についてはやはり社会医療立場から薬の配給ということが出てくると思います。しかしこれは将来のことで今ここでそういう問題を考えるべき段階でないと思う。ただストマイ、パスのようなものは公的買い入れ措置をとってやった方がいいのじゃないか。これは結核との関係もございますので、その辺もお含みおき願いたいと思います。それから歯科について触れていないとおっしゃいますが、衛生材料や医療器具、器械についても問題は全く同じだという考え方で、その例にレントゲン・フィルムという問題あるいは衛生材料の問題も出ておりますので、歯科のいろいろな医療器械器具も同じように当然考えているわけであります。
  60. 野澤清人

    ○野澤委員 歯科の問題は別といたしまして、広告の問題についての考え方結核治療中心にして広告の問題が取り上げられたようでありますが、そのためにはいろいろと議論が起ると思う。それで指摘されたことについて私は文句を言うているのじゃなくして、指摘された精神というものがしろうと流の考え方で薬品の高いのは広告のせいだというふうにこの報告から見ますと感じられる。しかし薬品にはいろいろな種類がありますから、直接医療に使用するものと売薬に類するもの、家庭薬に類するものとあるわけです。こういう面から見てそう騒ぐほどのことでないと先生方おっしゃられるが、一般には相当国民感情を刺激しつつしかも業者は心配している、こういう結果論が出るのでありますけれども、この広告を抑制した場合の長所と欠点というものが、おそらく近藤先生をしろうと扱いにされた原因だと思うのですが、広告を制限するとどういう弊害が起きるかというと、メーカーは必ず学術部を動員して、直接お医者さんを回る部面が非常に多くなってくる。この費用というものもばかにできない。相当の大学教育を受け、専門教育を受けた者が中心になって、一軒々々お医者さんのところを歩く制度ですから、これらもなかなか放任できない。さらに経済的な根拠から申し上げますと、これに付帯するいわゆる生産者と需要家との交際費というようなものが、何らかの費目で莫大な金額が上ってくる。こういうことも御承知の上で広告を取り上げられたんじゃないかと、善意に私は解釈いたしました。従って広告には、生産から配給、小売に至るまでの流通形態を主体にして、先生方がお取り上げになったんじゃないか。こういう感じがいたしたものですから、御質問申し上げたわけなんです。
  61. 近藤文二

    近藤参考人 今御指摘になりましたように、私の知っております限りでは、学術研究費という費目で実は広告宣伝費が相当出ている。この点はよく承知いたしております。従いまして今先生がおっしゃったような方向でもし行われるとするならば、それは私たちが言っておる広告宣伝費の中に含まれるのでありますから、もしかりに損金繰り入れ否認という刑法上の措置の方が即効的かもしれない、これによってそういう措置がとられたとするならば、当然そういうものも含めませんと意味がないと思います。そういう意味であります。  それから研究費は非常にいると思うのですが、大体薬屋さんが研究するということは、少し疑問がございます。ことに日本の製薬会社は、製薬のいろいろな根本的な、新しい薬を発見するというような研究はしておられないで、外国で発見したものを取り寄せて、それをいかに製剤するかという製剤学の研究に専念しておられるようで、これは国策としてまずい。もっと一歩を進めて、新しい薬を作る方の研究が必要だ。そうなりますとこれはメーカーがするべき問題でなくて、大学その他の研究機関ですべきものだというふうに考えますので、その点につきましても、今後もっとメーカーなり大学当局が研究すべき分野があるんじゃないか。ことに野澤先生なんか、そういう点で単なる薬剤師という格でなしに、もっと広い社会医療の角度から、将来そういうことについての御研究を願いまして、いろいろ教えていただきますれば、われわれしろうとにならなくて済むのじゃないかと思います。われわれしろうと、しろうとと言われますので、はなはだ痛み入っている次第でございます
  62. 野澤清人

    ○野澤委員 逆襲を食っちゃった形ですが、そこで今度の広告の問題というものを先生方が取り上げたときの操作ほど簡単に一般考えておらないということを申し上げたい。同時にまた、七人委員会がこの広告の問題を多年論議されておりながら、どなたも手をかけなかったものに勇敢に火をつけたわけです。もう大体燃え上っておりますから、これを燃え上らしたままおきますと、滝井君の発言じゃありませんが、局長が三人かわったんでは間に合わなくて、大臣が三人かわるということです。単に医薬品の広告だけで大臣を三人もかえなければ、日本の医薬行政ができないということでは笑われますから、それでこいねがわくはせっかく、しろうとではなくて、くろうとと申し上げます。くろうとの先生方がこれだけのものをお作りになったんだから、火をつけるばかりでなしに、適当なときに火を消す方法考えてほしい。要はどこに重点があるかということをはっきり指示していただくことによって、薬務局もそうですし、業者自体もある程度まで協力ができるんじゃないか、こういう感じがいたしますので、質問につけ加えまして希望を申し上げておきます。終ります。
  63. 佐々木秀世

  64. 井堀繁雄

    井堀委員 大へん遅くなって恐縮でございますが、ごく重要だと思われる点を一、二お尋ねいたしたいと思います。  私どもは第二十二国会以来健康保険法の一部改正をめぐって熱心に討議を続けておるわけであります。きっと二十四通常国会にも政府健康保険法の大幅改正を提案されるだろうと思うのであります。またそのために七人委員方々に御足労を願うことだと厚生大臣は答えておる。私はこの七人委員会性格について多少疑問を持っておる。これは七人の皆様方には関係のないことでありましてはなはだ恐縮でありますが、多少関連をいたしますのでお含みの上お答えを願いたいと思うのであります。  まず私のお尋ねいたしたいのは、この七人委員会報告書を拝見いたしまして、皆さんの熱心な御努力に対しましては無条件に敬意を表しておる次第であります。また非常にりっぱな資料の提供をしていただきまして、個人といたしましても非常に感謝をいたしておるわけであります。そこで七人委員会結論とも申すべき対策について、大担な答申が行われておるわけで、ありますが、答申と申しますか、七人委員会結論と申しますか、その対策についてぜひ伺っておきませんと、次の法案と取り組む際に問題があると思いますことだけをお尋ねしておきたいと思います。それはまず対策を打ち出しました前提というべきものがあるはずでありますから、そういうものに対するわれわれの検討を加えておるわけでありますが、先生方のそれぞれの分析なされるときのお考え、あるいは基礎資料などが問題になるかと思うのであります。そういう点をお尋ねいたしますと大へん時間をとりますので、すぐ問題になると思いますのは、政府が当面しておりまする赤字危機を克服したいというところに重点があるようであります。私どもはこの赤字問題を克服することについては政府とともに熱意を有するものでありますけれども、その方法については非常な開きを見せてきておるわけです。今までわれわれの審議いたしました経過の上だけから申しますと、政府赤字の出た原因については保険の主要目的でありまする医療給付の増大をあげております。その通りだと思います。また乱診、乱療のきらいがあるというので、それに対するきびしい監督指導を試みようとする点についてもある程度わからぬわけではありません。しかしこれは私は根本的に私ども考え方と相いれぬところがある。私はこの前もこの点で政府に鋭く要望しておきましたが、この報告書の中にもそういう点が指摘されております。ただその深さにおいて、考え方において多少私は別な意見を持つものでありますが、そういう意味で、結論の中で赤字を克服する当面の方法としてであろうと思いますけれども、一部は政府の意をくんでおるようであります。一部は新しいものを出したようにも思われます。しかしここでかなり遠回しに触れておるようでありまして、もっと率直に突いていただけるはずのものであると思いますのは、今度の赤字の直接の原因は、皆さん方が昭和二十四年から二十九年までの保険経済に対する数字を資料としてわれわれにも示されておりますように、この数字だけを、二十四年から二十九年までの保険料とあるいは保険給付との関係あるいは事務費、積立金を積んだり食ったりした関係、あるいはこの保険のために必要な施設に投じた金額等だけの限られた範囲だけで見ましてもすぐわかるのはこれは政府の政策の中でも一番社会に大きな影響を与えておりますデフレ政策への切りかえから来た原因がどうも遠回しに触れられておるのではないか、それはいろいろの形をもって現われてきております。この表だけから見ましても、保険組合と政府管掌のものだけを比較してありますが、この二つの対照ではまだ不十分だと思いますけれども、表だけを見ましても、おおむねですが、今日保険組合というものは大体まあ大手筋の企業のもとにある保険であります。政府管掌はまあ零細企業が非常に多いという関係がある。こういう基盤の相違はいろいろありますから、もっとこの保険のよりどころになっております日本の産業構造なりあるいは労務管理の実態あるいは労使関係の姿、あるいは労働条件の推移、こういったようなものが結論を出す上には一番大切な資料になるのではないかと思う。それはこの赤字を検討するためにはぜひ分析していただかなければならぬものであると思う。私のごく卑近な見方ではありますが、毎勤統計にも引用が出ておりますが、今日三十人以上の事業場も、労働条件の中の賃金だけをとらえても格差がずっとひどくなってきている。三十人未満零細企業に至ってはひどいものなんです。こういうように企業の格差が出てくるというのは一体何に原因しているか。インフレからデフレへ切りかえる国の政策の、要するに一番大きな風当りを受けているというのは、これはもう異論のないところであります。それは中小企業自体が持つ悲劇だといってしまえばそれだけで、これは別の政策だといって逃げれば別でありますけれども、これを度外視して政府管掌の保険赤字を問題にするということは大へん無理な議論になると私は思う。一口に言いますならば、この赤字原因は、インフレの時期には、政府の場合には積立金をやっておるのです。それは標準報酬の基礎になりまする報酬実額が、中小企業、零細企業の事業場においては容赦なく下ってきておる。こういう関係から、やっぱり保険の問題も赤字対策ということになれば、こういう日本の産業経済の推移、労働実態の激しい動きというようなものの上から結論考えるべきものではないか、そうすればもっと違った答えが出てくるのではないかと思いますが、まずそのものの考え方になるかもしれませんが、こういう点に対して、お触れになったことについて私はどうこう申し上げるのではない。もっと深くこの点に中心を置いて、もっとはっきりしたものを出すべきではなかったかと思うのでありますが、七人委員会を代表されまして、どちらでもけっこうでございますから一つお答え願いたい。
  65. 近藤文二

    近藤参考人 根本的にデフレというものがどういう影響を及ぼすかという問題になることでございますが、政府管掌の健康保険だけを例にとりまして、そうして平均賃金が二十四年からどう動いているかということは、分析の最初から問題にしておる点でございます。従いましていわゆる健康保険の、特に政府管掌の健康保険対象になるところの労働者の人たちのふえる工合がどう動いているか、それと比べて医療費がどうなっているかという分析はやっておりますので、ここに出ております十二ページの表は、いろいろ問題があるのでございますけれども、従来ほかで見られなかったようなものを作り上げてそういった分析をやっておるわけなんでございます。ただ率直に私個人の意見を申しますと、今おっしゃったデフレの影響が特に激しく出てくるのは三十年以後ではないかと思うのです。二十九年度までしかわれわれ数字は実は扱っておりません。三十年以後になりますと、今おっしゃったような問題がもう少し深刻な形をとって現われてくるのではないか。これは多少懸念は持っておったのでございますが、しかしその場合におきましては、賃金が下るというよりは賃金の不払いというような格好の問題が出てくるのです。これらについての対策までわれわれの方でとやかく言うのは少し行き過ぎではないかと思われましたので、触れておらないのであります。しかしそういう今おっしゃったようなことを考えていなかったわけではございません。  それからもう一つ、インフレのときに積み立ててあったから云々というお言葉がございましたが、厚生年金保険のような長期の保険と、この健康保険のような短期の保険とはそこの点が少し違うように思いますので、過去において積み立てした、つまり厚生年金保険の積み立てがあるからこれを健康保険の方へ回せという議論も少しあるようでありますが、これも少し理屈に合わないものを持っておるのではないか。ただ一時的に厚生年金保険の積立金を借りるというような形へ持ってくることは可能でございますが、その収支を一本にしてしまうということになりますと、これはもっと社会保障全般の問題にまでからんでくると思います。そういう意味において今お考えになっておりますことについて、多少私疑問を持つのでございますが、基本的にデフレの影響というものの分析をやっていなかったわけではございません。これだけしかお答えできないのでございます。
  66. 井堀繁雄

    井堀委員 私の尋ね方がまずかったと思うのでありますが、私は必ずしもインフレの影響からくるものに対して、それをいかようにせよという主張はいまだいたしておりません。それから今あなたの御指摘になったように、別表に出されております保険の推移の中で積立金のことにちょっと触れたのですが、他の積立金、特に厚生年金積立金をこっちへ回したらというようなことは毛頭考えておりません。そういうべらぼうなことはやるべきではないとすら考えております。私の申し上げたいのは、あるときには積立金ができるようなよい成績もあったのではないか。これはいわゆる標準報酬が高かった。そのときに医療給付がどうかという問題については、インフレ、デフレの関係で出てくるように、賃金と物価の足並みなのですが、物価は早足なのです。それにデフレになると、賃金と物価との足並みが反対になってくるということもある。ところが保険の場合は、医療給付の場合には問題になる。賃金はぴしゃっとストップができるわけです。物価はじりじりとずっと上るのです。あるいは上ったままの物価を下げるということは容易なことではない。賃金を引き下げるということは、あなたが指摘されたように、未払いの方法をとってきておる。下げるどころではない、払わないのです。そういうものが保険収入にすぐ響いてくる。こんなことはデフレ政策を採用するときに、政府としては当然考えなければならないことです。私は資本主義経済の中にあってこういう政策を採用する場合には、この種の社会保険についてはこういう影響が起ってくる、それはこういう方法でやらなければならぬ。それは直ちに国庫負担になるかどうかというう議論はまだ早いかもしれません。そういう意味で国庫からどういう金を持ってくるか。あなた方が指摘されておるように、これは国民税金のすべてである国庫の負担でやるということが適当であるとは思いませんが、経済制作全般をにらんでやらなければならぬ。政府の施策の一つとして当然健康保険赤字問題がとりあげられるべきだと思う。そういうものを別ワクにして政府保険赤字を解決しようという考え方は、私はむしろ無責任きわまると思う。この根本的なものをついて対策が出てこなければならぬのではないか、こう考えておる。  もう一つこの機会に、これは皮肉にとられては非常に迷惑ですが、私はこの七人委員会性格について政府にもただしておるわけです。社会保障制度審議会であるとかあるいは社会保険審議会といったようなものは、法律でしかもそれが民主的であるという体裁を整えておる委員会なんです。その委員会が、いろいろ委員会の構成上からの欠点があるというのであれば、あるいは今日選ばれましたりっぱな七人のようなエキスパートを集めるということが必要であるならば、私は政府はその委員会に諮ってそういうものを設け、そのうちの専門委員会なりあるいは特別の人々を委嘱してやるというこは可能であり、またやるべきじゃないかと思う。ところが今度のは、大臣に私前回伺ったのでありますが、厚生大臣の諮問機関として七人の方をわずらわしたということは、七人の方々に対してまことに気の毒にたえぬと思う。だから依頼された側の意を受けて仕事をされるということは当りまえのことであります。こういう点でも私は非常にまずかったと思う。そういう意味で皆様方の労作を少し気の毒な結果にすると思うのですが、そういう考えがあるから今申上げることを言っておるのではありません。しかしもっとそういう点に重点を置かなければ、今当面しております二十九年に出た赤字を解決するというよりは、これから起ってくる赤字に対する対策にならぬ、こういうふうに心配をしております立場から実はお尋ねしておるわけであります。個人的な意見でけっこうでありますから、一つ率直に……。
  67. 今井一男

    今井参考人 御趣旨だんだんはっきりして参りましたが、われわれデフレ、インフレその他の経済政策を批判する立場にあった者ではございませんが、この表にありますように、少くとも毎勤の上り方よりも政府管掌健康保険の標準報酬の方がはるかに低いということは、はっきりここに出ております。それがおっしゃる通り赤字の大きな原因になっておることも確かでございますが、そういった意味からも、われわれとしてはまず今の医療費を構成する要素が的確であるかどうか、特に先ほど来お話が出ましたように、医療機関の不当といっては言い過ぎかもしれませんが、避けることが望ましいよけいな負担でありますとか、あるいは薬品、衛生材料の問題でありますとか、その他合理的に引き下げるという観点を打ち出したのも、要するにこの足取りが一般のより低いということを私たちの頭に持ったことが影響しております。と同時にまた五人以上のところであっても、なおかつかくのごとく乖離した線を引っぱっておるのであるからして、いわんやわれわれが提唱しましたような五人未満というようなものを取り上げたならば、この間の開きはもっともっと激しいであろう。従ってそれに対しては政府としてよほどの金をつぎ込むという決意を持たない限り手がつけられない。こういうことも考えますと同時に、国庫負担の問題につきましても、この方によほど思い切ったものをつぎ込んで、まずこの面を救え、こういった提案をした次第でございます。  なお七人委員会性格につきましては、私冒頭にちょっと一言申し上げておいたのでありますが、私どもは少くとも厚生大臣のプライベートな機関とは毛頭考えておりません。またそういう機関であるならば、おそらくわれわれは全部お断わりしただろうと思います。法律の決定ではございませんが、少くとも閣議という、やはり公的な決定を経まして設けられた機関でございます。もちろんやり方はいろいろあろうと思いますけれども、各界の方の御意見をまとめるような委員会は、急いで原案を作りますような場合には、性質上適当ではないように考えられます。その意味から比較的中立的な立場にある者だけを集めまして、そこで急いで一応抜本的な考え方をまとめてくれ、そのかわり案自身は全部おまかせする、こういう約束のもとにわれわれ御委嘱を受けた次第でありまして、先ほど近藤参考人からも申し上げましたように、川崎個人に、あるいは川崎一個に頼まれたという頭は毛頭ございません。われわれ七人は政府から頼まれましたならば、どの内閣でありましょうと、どの大臣でありましょうと、この健康保険の危機突破のためにお役に立つならば、おそらく皆さん全部喜んでこの仕事を引き受けられたであろうと思います。もちろんあまりうれしい仕事ではありませんが、ほかの人がなければ——火中のクリを拾う覚悟で飛び込んだつもりであります、と同時にそういった妙な意味の諮問機関的な誤解を避けるために、われわれといたしましては政府のお気に召すこと召さぬこと一切込めまして活版にいたしまして、これは大臣に答申すると同時に新聞発表する、こういう形にいたしまして、その間政府の私的な機関であるという印象を極力払拭していただくように作為したつもりでございます。
  68. 井堀繁雄

    井堀委員 七人委員会性格については、私はまた別な考えを持っておるのでありますが、これは政府対われわれの関係で討議すべきことだと思います。今井さんのようなお考えもあるだろうと思います。  そこで、今本会議が開かれているそうで、大へん御迷惑のことと思いますので、大事な点を一、二お尋ねいたしたいと思いますが、以上の政府の皆さんに御依頼をいたしました事柄に対する回答の基礎をなします保険の今日の危機の問題、特に社会保障社会保険関係近藤先生の論文が出ておりますが、私は全く同感であります。特に社会保険をどうするかということは、非常に重夫な事柄でありますだけに、今日まで社会保険の積み上げてきたよい成果というものをいささかも後退させてはならぬ、もしそういうものを後退させるような改正が許されるならば、私は社会保障制度審議会の答申などというものは全くほごにされるおそれがあると思う。今日ほど勇敢にあらゆる立場を越えて健康保険法の積み上げてきたよい実績を育て上げるための努力が集中されなければならない時期はないと思う。ただ赤字が出てきたから支出を減らすんだというて、保険給付をむやみと制限したり、あるいは行政的な手段でいろいろときびしい制限を加えたりするというようなことは厳に慎しむべきだと思う。むしろこういうときこそ、健康保険の躍進するいい機会だと思う。そういう意味ではもっと強いものを実は期待しておったわけであります。これは先ほど今井さんの言われるように、現在の政治力を無視しては具体的な答えにならぬこともある程度わかるのであります。  そういう意味でここに気になりまするのは、答申の中で標準報酬を得るために、報酬実額を正確に把握するための措置が二点ほどあげられております。これは私はいいことだと思います。それはやらなければならぬのでありますが、これをやる場合に、個々の負担能力あるいは被保険者生活をささえるに足りない低い収入等の実情の中から保険料を徴収していくことは非常に無理な問題があるわけであります。でありますから標準報酬を正確につかむためには、そういう実態を調査するということももちろん大事でありますが、それは事実を正確につかむと同時に、そこにはどういう措置が必要であるかということを国会としては十分考えなければならぬと思う。これは他の保険と違いまして、労務管理を加味しております歴史的な使命もありますし、私どもは私どもなりの見方がありますが、直接筋肉労働の機会が非常に多い被保険者でありますから、やはりこういう労務管理を加味した保険というものに対しては、それをいきなり国民保険と並べて取り扱うというやり方は危険だと思う。  その点てここに具体的に指摘いたしたいと思いまするのは、適用範囲の点で逆選択について意見が出されておるようであります。これは言うまでもなく健康保険家族に対する医療給付をある程度制限を加えて、これを国民保険に肩がわりしたらどうかといった意味のことを述べられておる。この考え方は以上申し上げる点で逆コースである。おそらくやはり保険の成長をはばむものだと考えておる。こういう点に対するお考えがもしございましたら伺っておきたい。
  69. 近藤文二

    近藤参考人 家族の問題は、家族の範囲をはっきりさせるということをむしろ重点においておりますし、われわれとしては勤労者のほんとうの家族、つまりその勤労者によって生活を営んでおる人を中心家族考えるべきだという観点なのでありまして、必ずしも後退というようには考えておらないのでございます。ちょっと御指摘になりましたお話を聞いておりますと、家族の範囲を非常に制限しなければいけないようにわれわれが言っておるようにおっしゃっておりますが、家族というものは従来外国人なんかが考えます考え方からいうと、非常に野放し的になっておる。女中さんのような人も家族考えるというような考え方があったり、親戚に病気の方ができると、それを家族としてそこへ籍を入れるというような形がある。こういうようなことのないようにしてもらいたいという意味なんでございます。
  70. 佐々木秀世

    佐々木委員長 参考人方々には、長時間にわたり、御苦労さまでございました。  次会は明十三日午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。     午後一時五十分散会