○高津委員 戦犯か戦犯でないかは争う必要がないということを言われる。しかしそういう概念でやっぱり戦犯ということをここには大いに主張しておられるのでありますが、私は外務省の見解が統一しておるのか統一していないのか。寺岡参事官が先月の末に留守家族が参った場合に非常な暴言を吐かれたという
陳情を受けました。言葉で聞いたのでは責任がないから、五人の人間が来ましたから五人に
署名をさせて
文書で書いてくれと言って書かせたのであります。重大な問題だから、五分程度だろうから私はこれを読ませてもらいます。
私たちは十一月一日に兵庫県在ソ同胞留守家族大会をもって、ほとんど全員参加のもとで日ソ平和
条約を即時
締結することこそがわれわれの肉身を掃えす唯一の近道であるということを話しあい、日ソ平和
条約即時
締結の要請決議を採択し、東京に代表を送ることになり私たち代表が上京いたしました。
そして十一月二十七日午前十時、在ソ同胞留守家族の委員の方たちに迎えられまして例会に出席して、留守家族のみんなが日ソ交渉の即時
締結を切実に望んでいることを話しあいました。
二十八日には日ソ国交回復
国民会議の全国大会に出席して私たちの生まの声を訴えました。
三十日午前九時四十分頃外務省で松本全権にお目にかかり、私たちの要請決議に
署名を添えて御礼と共に衷情を訴え、なお一そうの御努力をお願いしましたところ、全権も私たちの
気持ちを充分おくみとり下さいました。折角外務省に来たので日ソ交渉に最も
関係の深い欧州参事官寺岡洪平氏にもおねがいいたしたく守衛さんにおたずねして案内されて三階の同氏の部屋に通されました。
寺岡氏は快く私たちを迎えて椅子をすすめて下さいました。
席に着いて、一代表が「兵庫県の在ソ同胞留守家族を代表して私たちは一日も早く肉親を掃えしていただきたいために上京しました」と申し上げ、そして名刺を一枚と要請決議を渡し、寺岡参事官の名刺をいただきました。氏は要請決議を読んで下さいました。
男一代表「この要請は兵庫県代表が十一月一日ほとんど全員が集まって決議した
ものです。どうかよろしくおねがいいたします」
代表の一人は平和
条約即時
締結の「たすき」をかけました。
一代表「この要請決議には兵庫県と書いてばありますが、東京の方ともいろいろ話しあい、全部が平和
条約即時
締結によって掃えしていただけることを願っております」
寺岡氏はうなづいておられました。
一代表「西独は国交回復してどんどん帰えっているのに、
日本だけほどうして私たちの肉親を掃えしていただけないのかということについて、
納得のいかない点がありますので、こういうことについても御
説明ねがいたいと思います」
寺岡氏「西独の場合と
日本の場合はちがう。
日本はソ連が攻めてきて三日間しか戦っていないのだから戦犯はいない」
一代表「戦犯はありえないといわれますが、私たちの夫は満州でソ連に対してスパイ的な行動をしてきたことを知っております」
一代表「私も主人が対ソ諜報をしてきたことを知っております」
一代表「南方にいたら憲兵や私たちのような特務機関であった夫は殺されていたかも知れません」
寺岡氏「戦犯という
ものを認めるような留守家族とは
自分と
意見が違うのだから話を聞く必要はない、お帰りなさい」
一代表「そのようにおっしゃいますが、私たちは大東亜戦争の犠牲者として、指導者から戦犯と認めねばならないような行動をさせられたのですから、国策の犠牲者としての戦犯です」
寺岡氏は立ちあがって「戦犯と認めるならばそのような人は刑が満了するまでソ連にいたらよいのだ」
「そんな
ものは帰って来なくてもいいんだ」
「話す必要はない」「帰れ」「帰れ」 と手をふり払われました。
そして寺岡氏は、要請決議を四つにたたみ、その間に名刺をはさんで
自分の机の右すみに置かれ、そしてまた「帰れ」「帰れ」を連発されました。
その声につれて、そばにおられた秘書の人も「帰りなさい」「帰りなさい」といわれました。
一代表「大東亜戦争の犠牲者として軍の幹部からの命令で戦犯といわれるような行為をしたのであって、それと同じ人が今でもスガモにBC級戦犯としておるではありませんか」
しかし寺岡氏はそれには応じられず、なお「帰れ」「帰れ」といわれて戸口の方に行かれました。
一代表「私たちは国策の犠牲者として十年苦しんでいるのです」女の二人の代表は氏のおそろしいけんまくに廊下にとび
出しました。
一代表「そんなことをいうあなたたちが私たちの肉親を帰さないのではないか……」と大声をあげましたが、
「帰れ」「何をいっているんだ、帰れ」といわれて部屋を出てしまわれました。
秘書も「帰りなさい」といわれましたので私たちも部屋を出ました。
私たちは、十年間苦しんで帰りを待ちわびていたので、寺岡氏におねがいにあがったのに、帰れ帰れと何も聞いていただけずに、追い払われたことを大へん残念に思っております。
私たち留守家族は、このような方のために十年間も苦しめられて、肉親を掃えしていただけないのだと思います。このような責任ある方の私たちに対する
態度や
考え方について、どこまでも良心的に追求していただきたいと思います。
なお二十九日には衆議院で岸信介氏、池田正之輔氏、水田政調会長、堀内一雄氏ともお会いして日ソ平和
条約を即時
締結して一日も早く私たちの肉親を掃えしていただくようお願いし、同情はしていただきましたが、この方たちのお心のなかにも寺岡氏と同じようなお
考えをおもちのように思われ、このようなお
考えが私たちの肉親を掃えすことをはばんでいるのではないだろうかとその点を憂慮いたしております。
衆議院議員
高津正道先生
神戸市兵庫県下祇園町三九〇
笠原金一郎 印
吉岡 瑞穂 印
神戸市灘区深田町ニノ一二
亀田 秀子 印
神戸市兵庫区矢部町三一四
黒沢 悦子 拇印
神戸市灘区城ノ内通七丁目二
沢田千枝子 拇印
こういう
陳情を受けましたが、私はこれには誇張がなくてほんとうだろうと思うのでありますが、外務省の参事官のこういう
態度という
ものは許しておいていい
ものであろうかどうか、そして私から見ればこれではあまりにも官僚的であり、十年聞悩んで、抑留者の釈放を気も狂わんばかりに待ちあぐんでいる留守家族に対して、あたかも気違いになれとでも言っておるふうに私には思われるのであります。外務大臣は
自分の部下にこういう
考えの者があり、この
考えはこのままでいいのかどうか、それからこういう留守家族をいやが上にも刺激するような
態度をとる者があっていいのかどうか、この点をまずお伺いします。