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1955-04-25 第22回国会 参議院 本会議 第9号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年四月二十五日(月曜日)    ○開 会 式  午前十時五十七分 参議院議長衆議院参議院の副議長及び議員内閣総理大臣その他の国務大臣最高裁判所長官及び会計検査院長は、式場に入り、所定の位置に着いた。  午前十時五十九分 天皇陛下衆議院議長の前行で式場に出御、玉座に着かせられた。    〔諸員敬礼〕  午前十一時 衆議院議長益谷秀次君は式場の中央に進み、次の式辞を述べた。    式 辞   本日天皇陛下の御臨席を仰ぎ第二十二回国会開会式を挙げるにあたり、衆議院及び参議院代表して式辞を申し述べます。   去る二月二十七日衆議院議員の総選挙が行われ、三月十八日に特別会が召集されて、暫定予算をはじめ当面の緊急案件を議了したのでありますが、ここに昭和三十年度予算その他重要議案の提出をみるの運びに至りました。   思うに現下の時局はまことに重大でありまして一日の偸安を許しません。われわれはかかる情勢に鑑み、この際強力に内外の諸施策推進し、もってすみやかに時局即応態勢を確立しなければなりません。これがため、内においては産業発展を図り経済自立を促進して国民生活の安定を図ることが急務であります。また外に対してはますます列国との親善を深めると共に一だんと経済外交をおしすすめ貿易を振興して国際収支改善を図る必要を痛感いたすのであります。   ここに国会は過般の総選挙による新議員を迎え、われわれに負荷せられた重大な使命に鑑み、日本国憲法精神を体しおのおの最善をつくしてその任務を遂行し、もって国民の委託に応えようとするものであります。次いで侍従長御言葉書天皇陛下に奉り、天皇陛下は次の御言葉を賜わつた。    御言葉   本日、第二十二回国会開会式に臨み、全国民代表する諸君とともに、一堂に会することは、わたくしの深く喜びとするところであります。   国会が、衆議院議員選挙による新議員を迎え、わが国経済発展民生の安定に、新たな覚悟と力をもって努力されることは、わたくしのきわめて多とするところであります。   内外情勢多端のときにあたり、わたくしは、国会が国権の最高機関としての使命を遺憾なく果し、また、全国民憲法の諸原則をよく守り、世界平和の達成と国運の隆盛のため、互に協力して各自の最善を尽すことを切に望みます。    〔諸員敬礼〕  衆議院議長は御前に参進して、御言葉書を拝受した。  天皇陛下参議院議長の前行で入御。  次いで諸員は式場を出た。    午前十一時六分式終る。      ─────・───── 昭和三十年四月二十五日(月曜日)    午後三時十一分開議     ━━━━━━━━━━━━━  議事日程 第九号   昭和三十年四月二十五日    午後三時開議  第一 国務大臣演説に関する件     —————————————
  2. 河井彌八

    議長河井彌八君) 諸般報告は、朗読を省略いたします。      ——————————
  3. 河井彌八

    議長河井彌八君) これより本日の会議を開きます。  議員松永義雄君は去る十四日逝去せられました。まことに痛惜哀悼至りにたえません。  青木一男君から発言を求められました。この際発言を許します。青木一男君。    〔青木一男登壇拍手
  4. 青木一男

    青木一男君 ただいま議長より御報告がありました通り議員松永義雄君には、去る三月二十七日、埼玉会館における全国身体障害者大会に出席中に、突然脳溢血にて卒倒せられ、直ちに浦和市第一病院に入院御加療中でありましたが、四月十四日、ついに逝去せられました。私ども同僚として、まことに痛惜至りにたえません。ここに同君の生前を回顧し、哀悼の辞をささげたいと存じます。  松永君は、明治二十四年愛知県海部郡立田村に生まれ、大正六年、東京帝国大学独法科を卒業後、弁護士を開業せられ、かたわら日本社会党の創立、農民組合運動等に尽瘁せられたのでありますが、一方政界に志を立てられ、昭和十二年以来、三回にわたって衆議院議員に当選、その間司法委員長法務政務次官を歴任せられたのでありますが、こえて、昭和二十五年、参議院議員に当選せられ、大蔵予算農林等の各委員補助金等臨時特例等に関する法律案特別委員会委員長として、同君の残された功績は多大なるものがあります。今や内外の諸情勢にかんがみ、国会の責務いよいよ重大なる時に当り、同君のごとき人格高潔、誠実にして経験に富む政治家を失つたことはまことに惜しんでもあまりあるところでございます。  ここにつつしんで哀悼の辞をささげる次第でございます。(拍手
  5. 河井彌八

    議長河井彌八君) お諮りいたします。松永義雄君に対し、院議をもって弔詞を贈呈することとし、その弔詞議長に一任せられたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 河井彌八

    議長河井彌八君) 御異議ないと認めます。議長において起草いたしました議員松永義雄君に対する弔詞を朗読いたします。  参議院議員従四位勲三等松永義雄君の長逝に対しまして、つつしんで哀悼の意を表し、うやうやしく弔詞をささげます。      ——————————
  7. 河井彌八

    議長河井彌八君) この際、お諮りいたします、大山郁夫君から海外旅行のため会期中、松本治一郎君、吉田法晴君、安部キミ子君から海外旅行のため十一日間、それぞれ請暇の申し出がございました。いずれも許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 河井彌八

    議長河井彌八君) 御異議ないと認めます。よっていずれも許可することに決しました。      ——————————
  9. 河井彌八

    議長河井彌八君) 日程第一、国務大臣演説に関する件。  鳩山内閣総理大臣重光外務大臣、一萬田大蔵大臣石橋国務大臣から発言を求められております。これより順次発言を許します。鳩山内閣総理大臣。    〔国務大臣鳩山一郎登壇拍手
  10. 鳩山一郎

    国務大臣鳩山一郎君) さきに行われました総選挙の結果に基き、私は第一党たる日本民主党の総裁として、本国会の指名により、再び内閣総理大臣の重責を荷いまして第二次鳩山内閣を組織いたしました。本日、昭和三十年度予算国会に提出して、国政本格的審議を求めるに当りましてここに政府所信を申し述べる機会を得ましたことは、私のまことに光栄とするところであります。  私は、まず私の抱く政治理念大本について申し述べたいと思います。その第一は、民主政治のあり方についてであります。およそ民主主義基調は、個人の自由の達成人格尊厳とを主張する自由主義にありまするが、それは同時に、他人の自由と人格尊厳を認めることを前提としていることはもちろんでありまして、私はこれを友愛精神と呼んでおります。要するに、互譲、寛容の精神こそ、民主政治を正しく運用させる基本であると思うのであります。各政党がそれぞれの信念に基きましてお互いに自説を主張し合うことは当然でありますが、それはあくまでも国家国民のために、よりよい政治を実現することが目的でなければなりません。しかるに、不幸にして、近来わが国政治の実態は、この民主政治精神から逸脱をして、何事についても与野党の間に、絶対に相いれない形の政争が繰り返されましたことは、まことに遺憾に堪えないことであります。このような風潮に対して政府は、今後あくまでも民主政治の本義に徹して、みずから恥じない行動をとり、わが国民主政治を正しい姿に引き戻しまして、立派に育て上げ、国民議会政治に対する信頼を回復するため、最善努力をいたすべく深く決意をしておるのであります。いたずらに権力をふるつて独善に陥ることなく、あくまでも謙虚な態度で各派の意見に耳を傾けまして、国政審議に当つては十分その意を尽し、国民の要望する政局安定のために誠意を披瀝いたしまして、その協力を求める態度をとりたいと考えております。  次に、その第二は、平和外交推進についてであります。従来しばしば申し上げました通りわが国外交基調が、自主独立方針を堅持しつつ、米国を初め、その他の民主主義諸国との協調にあることは、不動の方針であります。他方ソ連に対しましては、たびたび表明した通り、すみやかに戦争状態を終結いたし、正常関係を回復したいという考え方を持っておるのでありまして、同じく中共に対しましても、極力貿易関係改善に努めたい所存であります。  私はこの機会に、特にあらためて明かにしておきたいと思いますことは、共産主義国家国交を行うことと、共産主義を受け入れるということは、全然別個の事柄であるということであります。われわれはあくまでも反共の態度を堅持しまして民主主義擁護のため万全の対策を講じて参る覚悟であります。  しかしながら、いくらわれわれが反対している共産主義思想であっても、現にその共産主義を信奉している有効な国家が存在する事実は否定はできません。このような国家に対しましては、お互い相手国の主権を尊重し、自国の思想を他に宣伝、強制することなく、正常なる国際関係もしくは経済交流の道を開くことによって、ともに利益を得ることを考えなければなりません。しかもこのことは、世界のだれもがおそれる第三次世界大戦の勃発を防ぐためにも必要であると信ずるのであります。戦争の回避と平和の確保こそは、今、日本国民にとって何ものにもかえがたい絶対の悲願であります。従いまして平和外交推進こそは、今日の日本の為政者に与えられましたる最大の努めであると私は確信をするものであります。  もとより、アジアに国をなす日本として、アジア諸国との親善に力を注ぐことは当然なことであります。そこで政府は、あらゆる機会をとらえて、アジア復興の方策に参画し、さらに他国の主唱するアジア援助計画にも積極的に参加するなどの手段をとりまして、相携えてアジア自立発展に寄与したい所存でございます。  以上のような外交方針とも関連をして、わが国自主独立の実をあげるためには、どうしても国力の許す範囲内において、自分の国を守る態勢を整えておく必要があるのであります。従って政府は、国力に相応した自衛力を漸次整備いたしまして、米国駐留軍が逐次撤退できるようにいたしますため、経済六カ年計画に見合う長期防衛計画を作成するつもりでございます。そのためにも国防会議を設置いたしまして、国防に関する重要事項審議することにいたしたい考えでございます。  次に、国民生活の安定と向上について申し述べたいと思います。独立の完成は、経済自立がその基礎でありますが、その経済自立のためには国民生活の安定をはからなければなりません。国民生活を安定させることは、ひいては真の防衛力を培養することともなるのでありまして、わが国共産主義の脅威から守ることにもなるのでございます。国民生活の安定のためには、まず、農林、水産、鉱工業等生産貿易を盛んにするとともに、消費生活をできるだけ豊かにすることが肝要であることは言うまでもございません。しかしながら、敗戦によって経済基盤を破壊されたわが国におきましては、終戦十年を迎えた今日、いまだその回復が十分でございません。従って民生の安定も一挙にその成果を全うすることは困難でありまして、長期にわたる総合計画を着実に実施いたさなければなりません。政府さき経済六カ年計画を発表しましたが、本年はその出発の第一年として拡大生産への地固めと、民生安定の第一歩を着実に進める方針でありまして、このため諸般施策を三十年度予算に具体化した次第でございます。詳細については関係閣僚から説明することになっておりますので、そのおもなるもの二、三について簡単に申し述べることにいたします。  その一つは、住宅問題であります。政府住宅政策に大きな重点を置いておりますことは、すでに種々の機会に申し述べたところであります。昭和三十年度における建設目標を四十二万戸として公営住宅、住宅金融公庫による住宅等のほか、新たに住宅公団を設立いたしまして、一般庶民住宅建設宅地造成等を積極的に推進していく予定であるのでございます。また民間の自力による住宅建設に対しましては、税制その他の面において必要な措置を講じてできる限り、これに協力を惜しまない所存であります。  その二は、社会保障関係の問題であります。まず失業問題については、政府の最も重視しているところでありまして、根本的には長期経済計画のもとに逐次産業活動を活溌化し、それによって雇用の増大をはかっていく考えでありますが、当面の対策としては、失業対策費を大幅に増額して失業対策事業を拡充し、また特別失業対策事業公共事業総合的運用によって失業者の吸収をはかり、いやしくも社会不安を引き起すことのないよう、万全の措置を講ずるつもりでございます。また医療保障及び各種の公的扶助等社会保障充実は、民生の安定上きわめて肝要の事柄でありますので、政府もこれに十分力を注ぎたいと思っております。  その三は、所得税減税であります。税制国民生活に影響することはきわめて大きいものでありますが、本年度においては、所得税中心とする直接税三百二十七億円の減税をはかりました。国民生活関係の深い所得税については、特に低額所得者の負担を軽減することといたしまして公約の実現に努めたのであります。  以上、私は政局の現状に対する基本的態度重要政策の二、三について申し述べましたが、私は民主政治は「力の政治」ではなく、あくまでも「正義政治」でなければならないと確信いたしております。正義政治が行われる土台が、その国の国民の香り高い品性と良知良能にあることはもちろんでありまして、その意味で教育こそ、すべての大本であることは申すまでもございません。政府はそのため必要な文教の充実と刷新の諸施策を講ずるとともに、国民の間から盛り上る新生活運動を助長して参りたいと考えております。政府は、民主主義のルールを守り、みずからその身を清廉に持して、国会の品位を高め、それによって政治信頼を回復することに全力をあげる覚悟でございます。しかも、国民大衆の声をできるだけ施策の上に反映させて国民と血のつながる明朗な政治を行い、人心を一新して国民が前途に希望の持てるような、正しい社会を築き上げたいと念願をしております。  ここに、政府所信の一端を申し述べまして、国会を通じて国民各位の御理解と御協力を、衷心より切望する次第でございます。(拍手
  11. 河井彌八

    議長河井彌八君) 重光外務大臣。    〔国務大臣重光葵登壇拍手
  12. 重光葵

    国務大臣重光葵君) ここに政府外交方針について、いささか所信を申し述べますことは、私の最も光栄と存ずる次第でございます。  最近の国際情勢は前国会において申し述べまして以来、少しも改善を見ておりません。世界情勢緊張は依然として緩和されない状態でございます。ヨーロッパにおいてはパリ諸協定批准手続が完了しました結果、西ドイツの再軍備は始められており、西欧連盟は結成されましたが、ソ連の方は二月政変によって軽工業主義から重工業主義に移行して、「力には力をもってする政策」に転換をして以来、いわゆる共産勢力平和攻勢は様相を変えてきましたがために、国際関係緊張の度を増してきたと判断せざるを得ない状況でございます。  しかしながら、第三次世界大戦人類のために何としても阻止しなければならぬのでございます。日本の現在の地位よりしても、国際平和のために最善努力を尽すことがその義務でなければならぬと思うのであります。日本ソ連等との間に、戦争状態の終結を期して国交を正常化せんと企てておるのも、この趣旨にほかならぬのでありまして、日ソ交渉は不日ロンドンにおいて開かれる手はずに相なっておるのであります。さらに中国が二つに分れて台湾海峡を差しはさんで国民政府中共政府と相争っておることは、東亜の安定と平和を害するものであって事態はすでに重要なる国際紛争となってしまったのであります。日本としては、かかる紛争は一日もすみやかに武力によらずして話し合いによって、平和のうちに解決せんことを祈っておるものでございます。  日本はいかなる国といえども、相手国がこれを欲するにおきましては、武力を排し、紛争平和的手段によって解決することを約束する用意があるのであります。いな、かかる国際慣習を確立することそれ自身が、平和を確保するゆえんであると信じておるのであります。これはすでにわが平和憲法において明らかにされておる主義でございますのみならず、国際連合憲章趣旨と完全に一致するところでございましてすでにアジアアフリカ会議におきましても、わが全権が明確に世界に向って声明したところのものでございます。この主義基礎といたしまして初めて国際間において国交は樹立せられ、友好関係は増進し、通商貿易は進展するのでございます。繰り返して申しますが、われわれは平和外交推進して各国との間に理解好意とを交換して一般平和の基礎となし、この基盤の上に経済外交を促進して貿易立国基礎を開かんとする次第でございます。  米国初め民主主義諸国との協力関係が、わが対外国策基調であるということは、しばしば声明いたしたところでございまして、これによって以上のごときわが平和政策を展開する基礎を得るのでございます。日本平和条約によって民主陣営内における自主独立民主主義国家として出発したものであって、同じ主義米国とは安全保障条約によって共同防衛の立場に立っておる次第でございます。日米根本利害はここにおいて完全に一致し、両国協力関係はきわめて緊密であるのでございます。しかしながら、占領行政時代残淆が多少とも残っておる今日、幾多の困難が両国の間に存在することも否定することはできません。これが共産活動の乗ずるところとなるのであって、なかんずく防衛の問題が、その目標となっておるような状況でございます。米国は、日本防衛上、今日安固な地位におるとは決して判断しておりません。そこで日本においてみずから防衛力安保条約趣旨に従って増強せんことを希望するわけでございますが、この点はまた日本経済力調整を要する点が多々あるのでありまして、最近防衛分担金減額の問題について双方の間に合意が成立いたしましたことは、日米共同声明によってすでに発表いたされた通りでございます。日米の間に、見解の相違をみることはあり得ることでございます。しかし、その調整を不可能ならしめるものは、一つも存在せぬのでございます。独立後すでに三年、日米基本的協力関係を一そうつちかうために、さらに大小の事項について冷静な判断によって合理的な調整をはかることが必要となるのはこれまた当然であると思うのでございます。単に防衛の問題だけではなく、日本自立経済を確立するためにも、また海外において経済発展を遂げるためにも、米国との協力がいかに貴重なものであるかは申すまでもないことでありましていたずらに当面の感情にとらわれて、日米基本関係に災いするがごとき言動は、有害無益なことと言わなければならぬと私は考えておるのであります。  われわれは、アジアに対する平和外交を特に重要視いたします。何となれば、日本アジアの一国であり、解放されたアジア諸国親善関係を結ぶことは、日本の宿願であったからであります。それのみならず、近隣アジア諸国との経済通商関係は、今日、日本の死活の問題とまで相なっておるのであります。すでに国交調整されている諸国との関係は、きわめて順調でありまして、特に中近東諸国わが国との通商貿易は、年々飛躍的に発展している状況でありますが、いまだ国交の開かれていない国々については、まず賠償問題の解決をはかることが必要と相なっておる次第でございます。  最近フィリピンマグサイサイ大統領とわが鳩山総理とのあいさつ交換を機として、賠償交渉再開の端緒を得たのは喜びにたえません。すなわち先月下旬フィリピン側専門家団が着京いたしましてわが方の専門家団会議を始めることになりました。この会議は、将来における正式の会議を成功に導くための準備をなすものであることはもとよりでありますが、双方の善意と互譲により、すみやかに公正妥当な賠償協定の成立せんことを祈るものでございます。次いでインドネシアとも同様、賠償交渉再開の日の早きを期待しておる次第であります。なおビルマとの平和条約及び賠償協定は、最近東京でその批准書が交換されまして両国国交が正式に樹立されたことは、重要な意義を持つものとして歓迎されている次第でございます。  また、過日タイナラデイッブ外務大臣が来朝いたしましたのを機会に、かねがね両国間の重要案件となっていた特別円問題も了解に達しまして、さらにまたタイ国との間に文化協定が締結いたされました。日タイ両国の伝統的な友好関係は、今回ピプン首相の国賓としての来朝により、ますます緊密の度を加えるものと期待される次第でございます。  かくのごとくして政府の所期するアジア善隣外交発展は、着実に歩みを進めている次第でございまして、一衣帯水の韓国との国交調整交渉も、すみやかに進捗いたしますよう、せっかく努力をいたしておる次第でございます。  アジア各国に対しては、以上のごとき個別的交渉の方法によるのほか、地域全般にわたる国際的協力もまたきわめて重要なことでございます。アジア地域経済開発については、米国援助をさらに増す模様でございますが、これに関連してわが国の貢献し得べき分野の多分に存在することは、これまた御承知の通りでございます。米国もコロンボ・プランの機構を活用するに異議なき模様でありましてその準備として、インドの主唱によって五月七日より開かれるシムラ会議には、わが国代表を派遣して積極的に協力をいたすことにしている次第でございます。  次に、バンドンにおいて開かれたアジアアフリカ会議は、この地域におる諸国相互理解と親睦を主目的とした重要なる意義を持つ国際会議でありまして、政府は本会議に対し、特に高碕国務大臣を首班とする有力なる代表団を派遣し、わが平和外交趣旨を広く徹底せしめるとともに、同地域内の経済協力及び文化交流につき、有意義なる提案をなさしめた次第であります。この会議が所期の目的を達しましたことは慶賀にたえないところでございます。  世界経済の動向は、アメリカ経済中心とする好調が大体本年も続く見通しでございますが、欧州において経済自由化の進展にかかわらず、なお各地に輸入制限が続けられる傾向が現われておりまして今後の国際通商における競争は、さらに激化されるものと考えます。かかる情勢に対処してわが国としては、ジュネーブにおいて行なっているガット関税交渉の妥結をはかり、世界主要貿易国との間に平等互恵の条件による通商発展基礎を確立いたしたいと存じている次第でございます。対アジア貿易について格段の配慮をいたしておりますことは、前に申し述べたごとくでございますが、中共に対しても一そう貿易増加を期して、これに必要なる手段をとっている次第でございます。  移民政策は、直接間接人口問題解決の一助として、政府として最も力を入れておる次第でございますが、最近中南米諸国日本移民受け入れ態勢は著しく好転をいたしまして単にブラジルのみでなく、アルゼンチン、パラグァイ、ボリヴィア及びドミニカその他の国々も、好意的態度を示している状況でございます。この情勢に即応してできるだけ多数の優良なる移民を送り出すために、必要なる施策を行なっていく方針でございます。  さて、今日は原子時代となりまして原水爆弾に対する恐怖のために、原子力に対する科学的研究に目をおおうてはならないときでございます。国際連合原子力平和的利用に熱意を示して、国際的にその研究推進しているありさまでありましてこの国際連合計画には、日本は進んで全面的に参画をいたしている次第でございます。原子爆弾の最初の洗礼を受けた日本といたしましては、原子力人類の破滅に使用することを阻止し、これを平和的利用に専用する考案が、国際的に発見せられんことを熱望してやまない次第でございます。  最後に、日本国際地位は、今日なお十分安固なものとは申し得ないと思うのであります。われわれはつぶさに世界情勢を検討し、謙虚な態度をもって各国との友好関係を重んじ、国際信義を積み上げて、国家の前途を開き、おもむろに国の力を内外に対して築くように努めていかなければならぬと信じている次第でございます。  あえて卑見を付加して私の外交演説を終ることにいたします。(拍手
  13. 河井彌八

    議長河井彌八君) 一萬田大蔵大臣。    〔国務大臣一萬田尚登君登壇拍手
  14. 一萬田尚登

    国務大臣(一萬田尚登君) 私は前国会におきましてわが民主党内閣が実行すべき財政金融政策基本方針を明らかにいたしました。ここに提出を申し上げる昭和三十年度予算は、この基本方針に即しまして編成したものでありまして、その大綱を説明いたしますとともに、この際わが国経済の実情を顧みまして今後政府のとらんといたしまする施策につきまして所信を申し述べたいと存じます。  昭和二十九年度の国際収支じりは、三億四千四百万ドルの黒字となりました。これは主として昨年来の財政金融健全化政策の効果の現われでありますことは申すまでもありません。しかしながら、昨年度の輸出増加は、海外諸国の好況や輸入制限の緩和等、外的要因に基くものが多く、また特殊の輸出助長措置に基くものが少くなかった面も看過できないのであります。また固定的な債権が累積いたし、短期の流動債務が増加したという実質も考えねばなりません。また今後特需収入の減少傾向も覚悟しなければなりませんので、国際収支の前途は決して気を許すわけに参らないのが実情であるのであります。  最近海外におきましては、欧米諸国の好景気も、その行き過ぎ、インフレヘの進行を警戒する空気となっております。英米その他の国におきまして中央銀行の公定歩合引き上げが行われ、また特に国際収支の困難を感ずる国におきましては、輸入制限の強化等の措置もとられるに至っておるのでありまして、今後海外の需要面は決して楽観を許さないのであります。他面西欧主要国は、貿易の自由化、通貨の交換性回復を目標といたしまして、一歩一歩真実な努力を重ねており、その進展に伴いまして、各国間の輸出競争は、当然激しくなってくるものと予想すべきであります。従いましてわが国といたしましては、なお経済を合理化し、生産コストの低下をはかり、物価をできるだけ引き下げまして、輸出産業の対外競争力を強化することが肝要であると申さねばなりません。なお貿易為替自由化の趨勢に沿った体制を整えて行くために、政府は外貨予算の編成に当りまして、通貨別区分を設けない予算のワクを拡大し、自動承認制の金額を増加する等の措置を講じました。また為替相場の建て方の簡素化、外貨預金制度の改正等を逐次実行に移して参ったのであります。  ひるがえって国内経済の動向を見まするに、昨年度の一兆円予算と、これに関連する金融引締政策によりまして、経済は漸次健全化の方向に進んで参りました。金融面におきましては、全国銀行の預金の増加額は、昨年度出ほぼ四千億円に近く、貸出増加額は二千三百億円にとどまり、これらの結果といたしまして、日本銀行貸出金は年度間一千六百五十億円を減少いたしました。しかしながら、このことは、国際収支の巨額の受超、その他の理由で、国庫の異常な散超があったことに基因する面も少くないのでありまして、経済健全化の地ならしができて、正常な預貯金の増加と企業経営が健全化されたことに基くとは言い切れないのであります。  さらに、企業経営の面におきましても、引締政策が企業の不自然な収益率を是正せしめ、また新規借入を困難にしたことは事実でありますが、その反面、従来のインフレ下におけるがごとき安易な態度を捨てて、経営を合理化するとともに、自己資本の充実に努め、極端な借入金依存をみずから是正して行こうという堅実な傾向が見えております。しかしながら、この努力もまだ十分とは申しがたいのでありまして、あるいは資本蓄積を怠り、あるいは合理化投資が過剰投資となって、真に合理化の効果を発揮し得なかったというような事例を今後なくして行くためには、なお新たなる決意と工夫を要するのであります。  さらに、物価の動きを見まするに、財政金融面の施策と相待ちまして、昨年度間を平均して卸売物価は二十八年度に比して約三%の低下を見たのでありまするが、国際物価水準に比しては、なお割高な面があり、消費者物価に至りましては、昨年八月以来、わずかに下落を示してはおりまするが、年度間を平均いたしますれば、未だ二十八年度より若干高いところにとどまっているのであります。  かように見て参りますると、従来の財政金融健全化の基調は、なおこれを継続すべきものと信ずるのであります。ことに今後の経済の拡大発展を図りますためには、国民の勤倹による貯蓄の増強と、企業の健全経営によって資本の蓄積を強化することを第一義としなければならないのであります。すなわち消費を節約して貯蓄を増大し、経営を健全にして資本の充実を図り、これらによって重要な方面に対する資金の供給を確保し、産業活動を盛んならしめ、もって雇用の増大を図る方向に進むべきであると信ずるのであります。従いまして政府といたしましては、法人税の軽減等により、企業資本の充実を図るとともに、さらにこの際、預貯金利子に対する一切の課税を停止いたしまして貯蓄の飛躍的増強を意図いたしておるのであります。金融機関としても、かかる政策に即応いたしまして、その公共的性格をその経営態度に反映するよう、常に十分なる自覚を有していなければならないと思うのでありまして、みずからの経営の健全化、合理化をはかるのみならず、進んで貸出金利の引き下げをはかって、企業のコスト低下に協力するとともに、資金供給につきましては、わが国経済自立発展に真に寄与する資金を確保することに、なお一層の努力を傾けられたいのであります。政府といたしましても、これが所期の効果を収め得るよう期待いたしておるのでありまするが、事態の推移に応じまして、さらに所要の措置を考慮いたしたいと存じております。  今回提出いたしました昭和三十年度予算は、総合経済六カ年計画の構想に沿いつつ、前に述べましたような見地から、まず現在の経済健全化の基調を堅持し、将来における経済自立発展についてその地固めを行うことを眼目といたしましたが、その間、民生の安定はもちろん、失業等の摩擦的現象に対する措置につきましても、十分に配慮した次第であります。すなわち本予算におきましては、第一に、財政収支の均衡を確保し、一般会計予算の総ワクを一兆円以内にとどめることといたしました。第二に、国民の租税負担の現状にかんがみまして特に低所得者層の負担軽減を主とする減税を実施することにいたしました。第三に、限られたる財源の範囲内におきまして、各種の重点施策の遂行に必要な経費を確保する一方、補助金の整理、物件費の節減等、経費の節約、効率化に一層配意を加えることといたしました。  以上の方針によりまして編成されました昭和三十年度の一般会計予算は、前年度とほぼ同規模の九千九百九十六億円と相なります。  次に、予算の内容につきまして、その概要を説明を申し上げます。まず歳入面でありまするが、政府は、国民生活の安定をはかり、資本の蓄積を促進するため、平年度約五百億円に達する減税を実行することといたしました。すなわち本年度におきましては、所得税基礎控除額及び給与所得控除の限度額の引き上げ、専従者控除の限度額の引き上げ、税率の引き下げ等によりまして勤労者、中小企業者及び農民等の低額所得者中心とする所得税の軽減をはかることといたしております。この結果、たとえば勤労者についれて申し上ぐれば、夫婦及び子供三人の場合におきまして給与の平均月額一万九千円程度までは所得税を負担しないで済むことになるのであります。なお、別途個人の事業税につきましても、基礎控除額の引き上げによりまして、特に中小事業者の税負担の軽減をはかることといたしております。  資本の蓄積の促進の面におきましては、臨時に預貯金利子に対する課税を免除し、配当所得に対する源泉課税の軽減を行うとともに、生命保険料控除の限度額を引き上げることといたしました。さらに、法人税につきましては、昭和二十七年以来、百分の四十二に引き上げられました税率を、百分の四十に引き下げることにいたしております。このほか輸出振興をはかるため、輸出所得控除の限度額を引き上げまするとともに、住宅建設の促進のため、新築貸家に対する特別償却額の引き上げ等、税制上の優遇措置を講ずることといたしておるのであります。これらの措置によりまして平年度において五百十四億円、本年度におきまして三百二十七億円に達する減税が実現されることとなるのであります。  歳出につきまして、政府が重点をおきましたのは、まず住宅対策費であります。すなわち政府は、財政資金によりまして約十七万五千戸を建設することを目途といたしまして、一般会計に二百十八億円を計上いたしましたほか、資金運用部資金等の財政投融資を含め、昨年度に比べまして百四十億円を増額して四百二十四億円の資金を振り向けることといたしました。これによりまして公営住宅のほか、住宅金融公庫及び勤労者厚生住宅の資金の充実をはかりますとともに、新たに日本住宅公団を設立し、不燃性集団庶民住宅の建設を促進することといたしたのであります。なお、これと並行いたしまして、民間における住宅建設の意欲を促進いたしますために、さきに金融機関の融資準則について住宅の順位の引き上げを行いましたが、このほかすでに申した税制上の優遇措置、住宅融資保険制度等、各種の施策を講ずることといたしております。これらの措置によりまして本年度約四十二万戸の住宅建設を実現できるものと信ずる次第であります。  次に、社会保障関係費であります。この経費は、本年度におきまして、昨年度に比し五十二億円を増加いたしまして、一千六億円を計上いたしております。生活困窮者の救済等に遺憾なきを期しますとともに、他面社会保険の充実をはかっているのであります。特に失業対策費につきましては、昨年度に比べまして四十六億円増額して二百八十九億円計上いたしましたが、このほか公共事業、特に道路整備事業及び鉱害復旧事業等におきまして、機動的運営をはかり、失業者の吸収に遺憾なきを期する所存であります。  貿易の振興対策費につきましては、海外広報宣伝、国際見本市の開催参加、重機械相談室の充実等、海外市場の維持拡大に関する措置を一層強化することといたしました。なお、さきに申しました通り、輸出免税の拡大等、税制上の配慮を加えるとともに、輸出入銀行に対する財政資金の融資を大幅に増額いたしたのであります。  次に、防衛関係費について申し上げます。わが国の自主的な防衛態勢を整えるため、国力に応じて漸次自衛隊の充実をはかって参りますることは政府基本方針でありまして本年度は陸上自衛隊二万人の増員を中心といたしまして自衛隊を強化することとし、防衛庁費を昨年度に対し百二十五億円増額をいたし、八百六十八億円を計上いたしました。また施設提供等の経費につきましても、昨年度に対し二十七億円増額し、七十九億円を計上いたしました。しかしながら国民経済の現状を考えまするとき、防衛関係費総額といたしましてこれを増額することは困難でありまするので、その増加額の全額を防衛分担金の減額によることといたしまして米国政府交渉の上、防衛分担金は昨年度より百五十二億円を減じ三百八十億円といたしました。従って防衛関係経費の総額は、昨年度の一千三百二十七億円のワク内にとどまったのであります。  地方財政につきましては、赤字累積の現状にかんがみましてその刷新改善は各方面から強く要請されているところでありまするが、それにはまず地方団体の自主的努力によって徹底的に経費を節減いたしますとともに、収入の確保をはかることが根本であると考えるのであります。近時地方公共団体の側においても、財政健全化について真摯な努力を傾けられる向きもありまして政府といたしましても積極的にこれを援助いたしますため、各般の措置を講ずることといたしました。すなわち補助金等の整理、合理化を促進し、補助率を改訂する等、地方負担の軽減をはかったのでありますが、他面地方交付税交付金につきましては、定率の増加に伴い、昨年度に比べまして百三十二億円を増額して千三百八十八億円を計上いたしたのであります。このほか地方財源の充実をはかりますために、専売公社の収益のうちから三十億円を交付いたしますとともに、特に本年度に限りまして入場税の一割相当額を一般会計に帰属させることを取り止めまして、入場税の全額を地方に譲与する等の措置を講じたのであります。さらに地方道路税を創設して、道路整備五カ年計画の実施等に伴います地方道路財源を確保することといたしております。また地方財政の再建のため、自主的努力を進められておる地方公共団体に対しましては、再建整備のため特別の地方債の発行を認め、その政府の引き受けあるいは民間引受分に対する利子の補給を行う等の施策を実行する考えであります。  次に、財政投融資につきましては、一般会計、資金運用部資金等において、ほぼ前年度程度の財源を調達いたしますとともに、新たに砂糖等輸入特殊物資の超過利潤の吸収によりまして七十億円、さらに目下米国政府交渉中の余剰農産物買い入れによる見返資金二百十四億円の借り入れをも見込みまして、総額三千二百七十七億円といたしまして、昨年度に比べまして四百二十七億円の増額を予定いたしたのであります。しかしてその配分につきましては、民生の安定、輸出の振興及び経済基盤の育成に特に重点をおくよう配意いたしております。すなわち住宅対策のための資金を充実いたしますことにつきましては、すでに述べた通りであります。  中小企業対策といたしましては、国民金融公庫及び中小企業金融公庫に対する投融資総額二百十五億円を予定いたしまして、両公庫の本年度の資金貸出予定額は約七百七億円で、前年度の貸出資金に対しまして八十七億円の増加となっておるのであります。また商工中央金庫に対しましても、金融債の引き受けのほか、新たに十億円の出資を行うことといたしております。輸出の振興のためには、輸出入銀行に対する投融資として、昨年度の五十億円に対しまして百七十億円を増額し、二百二十億円を予定いたしております。開発銀行につきましては、自己資金を合わせ、昨年度とほぼ同額の五百九十五億円の資金を予定いたしておりまするが、その運用に当りましては、特に石炭、鉄、肥料等の重要基礎産業の合理化に重点を置く考えであります。電源開発会社におきましては、本年度は事業量が相当増加する時期に当りますので、財政資金の供給は、昨年度の二百四十五億円に対しまして約三百億円を見込んでいるのであります。財政によります投融資につきましては、従来とかく資金の獲得、金利負担の軽減等の立場から、安易にこれに依存しようとの能度が見られないことはなかったのであります。窮屈な資金事情から、特に重点的に配分すべきものであることに思いをいたし、真にこの合理化の精神に徹し、いやしくも救済融資となり、過剰投資となることなく、わが国産業全体のコストの引き下げ、国際競争力の増大に資する基盤を培うべきものであると考えております。  以上、わが国経済の現状と、これに対処いたすべき施策について申し述べたのでありまするが、これに対し今日巷間には、その基調を緩和し、何らかの景気対策を要望する声がないとは申せないのであります。しかしながら、内外経済情勢にかんがみるときに、わが国経済の拡大発展は、経済健全化を基調とした資本蓄積を基礎として、初めて達成されるのでありまして、インフレ的景気政策はこの際とるべきものでないと思うのであります。このことが、あえて安易を避け困難な道を選ぶゆえんであります。国民各位もこれを了とせられまして、経済繁栄の基礎確立のために、衷心より協力を寄せられんことを祈ってやみません。
  15. 河井彌八

    議長河井彌八君) 石橋国務大臣。    〔国務大臣石橋湛山君登壇拍手
  16. 石橋湛山

    国務大臣(石橋湛山君) 高碕経済審議庁長官がただいまアジアアフリカ会議のために出張いたしておりまして不在でございますから、かわって私から昭和三十年度の経済計画につきまして概要を申し述べたいと存じます。  最近のわが国経済情勢を概観いたしますのに、わが国が今後経済自立達成いたしますためには、なお、なみなみならぬ努力が必要であることは申すまでもございません。しかし私どもは、慎重にしてしかも勇敢にこれが達成に躍進する覚悟でございます。昭和三十年度の経済計画もこの覚悟のもとに策定いたしました次第でございます。ただいまその概要を申し述べたいと存じますが、その前に、恒例によりましてまず海外並びにわが国内の経済に関する最近の情勢について一言いたします。  米国の景気の動向は、昨年二、三月を底といたしまして、逐次上向きの傾向を示して参り、本年の景気は、昨年より多少明るいものがあるように考えられます。また、西ドイツ、イギリスを初めといたしまして西欧諸国は、昨年以来相当に生産の上昇を示し、経済活動も活発化している様子でございます。しかし一部の国におきましては、昨年末ごろから国際収支の悪化傾向が見られます。かような事情から、これら諸国はもとより、各国いずれも国内経済基盤の強化をはかりつつ、輸出伸長の努力を強化せんとしている現状でございます。  また東南アジア等の諸地域経済情勢につきましては、国によりてまちまちでございますが、元来これら諸地域は購買力が乏しいのでございますが、それに加えて国によりましては、最近における農産物の世界的過剰傾向とその価格低下による打撃がきびしく響いている様子であります。しかも西欧諸国のこれら諸国に対する輸出競争は、ますます激しさを加えている形勢でございますから、従ってこの間においてわが国がこれらの地域に輸出を伸長して参りますためには、できる限りこれらの地域から輸入を行うこと、長期信用の供与を行うこと等、よほどの努力を必要とする現状でございます。  翻ってわが国経済の最近の情勢について一言いたしますと、従来とって参りました財政、金融を中心とする引き締め政策の効果と、昨年度中海外市況が比較的好調でありましたこととが相まって、七、八月ごろよりようやく輸出は伸長いたしました。国際収支も著しく改善されて参りました。すなわち国際収支昭和二十九年度間を通じて見ますると、年度初めの予想に反しまして、三億四千万ドル以上の黒字を計上するに至り国民所得もまた前年度に比べて、実質的には約三%の上昇を見たのでございます。  このようにわが国の最近の経済は、一見順調であるように見えますが、しかし遺憾ながらその実体は、なおきわめて不安定でありまして、産業基盤ははなはだ脆弱であると認めなければなりません。今その二、三の点について申し述べます。  まず第一に、昨年度におけるわが国国際収支は、年間約六億ドルに上る特需収入に支えられているのであります。また、輸出の伸長いたしました原因の中には、緊縮政策の圧迫による換金急ぎというような事情も含まれておりまして、必ずしも生産費の低下による対外競争力の増強に原因いたしたものとは言えないのであります。また輸入が減少いたしましたのも、その原因の中には、たとえば在庫の調整というような一時的な原因によったものもあると考えられます。  次に、昨年度における就業者数はある程度増大いたしましたが、しかし、年々新たに加わる八十万人近くの労働人口を吸収し尽すわけには参りません。ために完全失業者は漸増いたしまして、昨年八月には一時七十一万人の多数に上って、戦後の最高に達しました。その後若干減少はいたしたが、最近でもなお六十数万人を数えるという状況でございます。  さらに、わが国産業は、戦後急速に回復を見たのでありますが、設備の近代化、合理化に至りましては、いまだはなはだ不徹底であります。また企業の経営、あるいは資本の構成等においても、きわめて脆弱の面がありまして、今後の産業国際競争力の培養上大いなる問題を残しているのであります。  以上のような次第でございますから、この内外情勢のもとにおいて、年々増大いたします労働力人口にそれぞれ職場を与え、その活用をはかって、我が国の経済自立復興を企図いたしますためには、従来のごとき消極的な財政、金融引き締め政策一本に依頼して参ることはできないと考えます。わが国経済の健全な発展をはかり、その伸長を期するために、長期かつ総合的な経済計画を策定し、完全雇用の態勢を整えるとともに、生産性の向上をはかることがきわめて必要であると信じます。わが国の労働力人口が多いことは、わが国経済の弱点ではたく、むしろその長所であり、強みであると考えるべきでありましょう。またわが国の土地、資源は乏しいと言われますが、しかしその土地、資源は完全に利用されておるとは申せません。今後まだまだ開発の余地は残されております。さらにまた東南アジア、中南米等の諸国との経済協力によりまして、わが国各種産業の進出を可能とする余地も少くございません。われわれはこれらの与えられました内外の諸条件を最大限に生かしていくことが大切であると信じます。これこそ、わが国経済自立繁栄をはかる唯一の道でありましょう。われわれはこの道を切り開くためあらゆる努力を尽すべきであると考えられるのであります。  さき政府昭和三十五年度を目標年次といたしまして完全雇用と経済自立とを実現する意図をもって総合経済六カ年計画の構想を策定いたしましたのは、すなわちこの趣旨によったものでございます。でありますけれども、同時にもう一つここに注意すべき問題があると考えます。それはわが国経済は当面労働力の供給には事を欠きませんが、そのほかの生産要素、なかんずく工業用原材料と食糧との供給において著しき隘路が存することであります。これを見落すことはできません。従って、わが国経済といたしましては、まずこれらの隘路の打開をはかりつつ、逐次完全雇用の実現に努めて参る用意がきわめて緊要であると信ずるのであります。もしそうでなくして、にわかに完全雇用の実現を企図いたしましたならば、わが国経済は、労働力以外の生産要素の隘路に妨げられて物価の騰貴を招来し、国際収支の不均衡を発生し、ここに破綻を来たす危険なしとしないのであります。従って完全雇用と経済自立の実現を期するためには、各種生産要素の間の均衡を失わないようにその調整をはかりつつ、慎重に目標達成をはかって参る必要があると考えます。  かような見地から、本年度の経済計画は、六カ年計画の初年度といたしまして、さしあたり経済の安定と将来の拡大への態勢を整えることに主眼を置いて策定いたしました。そしてこれに基いて本年度本予算並びに財政投融資計画を編成いたした次第でございます。以下本計画の概要について申し上げます。  まず本計画実施にあたりましては、その基調として、すでに述べましたごとく、経済の安定に重点を置き、財政、金融の均衡を維持し、通貨価値の安定強化、消費の健全化、貯蓄の増強等をはかって参ります。すなわち物価につきましては、国際物価との均衡をはかるため、各種商品の生産費の低下に一そうの努力を傾けるつもりであります。ことに公企業料金、重要物資の価格につきましては、経営の合理化を推進いたし、生産用原材料の供給を確保し、資金の疎通と金利の低下とをはかる等の方法によりまして努めてその低廉化を企図いたす方針でございます。また一面政府は、率先して冗費の節約に努めるとともに、新生活運動国民的規模において推進し、奢侈的ないしは不要不急の消費を抑制し、国産品の使用を奨励する等、消費内容の健全化をはかって参るとともに、貯蓄の増強に努める考えでございます。  次に本計画における産業政策といたしましては、施策の重点を特に輸出の振興、資源の開発および食糧の効率的増産、農林漁業経営の安定、産業の合理化、生産性の向上、中小企業の育成、科学技術の振興、国民生活の安定、就業機会の増大等に置いているのであります。  第一に、輸出につきましては、本年度においてぜひとも十六億五千万ドル程度まで輸出を伸長せしめたい所存であります。これがため根本的には、企業合理化の促進に努めまして、輸出品生産費の引下げ、品質の改善をはかり、取引機構の整備確立等によって、輸出競争力の強化に努めることが肝要でありますので、これについて重機械技術相談室の強化その他の措置をとるとともに、あわせてプラント輸出促進のための輸出入銀行の資金の充実、輸出金融の円滑化、金利の引き下げ等を図って参る考えでございます。  また対外的には、経済外交をさらに強化し、国際経済協力の促進を図るとともに、東京における国際見本市、米国における日本商品見本市等の開催、海外市場の調査宣伝活動の推進等を強力に実施する考えであります。特に東南アジア、中近東地域諸国および中南米諸国が、わが国貿易市場としてきわめて重要である点にかんがみまして、これら諸国との経済協力に特段の努力をいたすつもりであります。ことに宙南アジア地域諸国につきましては、今後とも誠意をもって賠償問題等の懸案事項をすみやかに解決し、正常な通商関係の拡大に努めたいと存じます。なお近来中南米等の諸国わが国移民を歓迎してくれますことは、まことに喜ぶべき現象でありまして、将来のわが国経済海外発展に寄与するところが多大なりと信じます。政府はできる限り優良なる移民の送出に努力する計画でございます。  第二に、資源の開発、国内自給等の向上につきましては、その重点を食糧海運、電力、地下資源、繊維等に置きまして、効率的な増強方策を推進して参る考えでございます。すなわち食糧につきましては、米麦を初めとし、畜産物、水産物を含めて総合的に自給度の向上をはかるため、各般の効率的な施策を講ずるとともに、とくに農林漁業経営の安定について一そう留意いたします。農産物の価格安定、経営の多角化、米穀の集荷方式その他流通の改善、肥料、飼料等、生産資材の供給確保、農業金融の整備等について格段の努力をいたす所存でございます。  次に海運につきましては、約十九万総トンの外航船を建造いたしまして、貿易外収入の増加をはかる一助とする計画でございます。また地下資源につきましては、民間企業に努力を求めまして、鉄資源その他の開発を推進いたす計画でございますが、ことに従来おくれておりました国産石油の開発、増産には一そう努力を傾注いたしたい考えでございます。電力につきましては、計画的に需給の改善をはかるため、効率的に水力開発を引き続き推進いたしますととともに、低品位炭を利用する火力発電を奨励する等の処置を講ずる計画でございます。また繊維につきましては、合成繊維、アセテート等の増産と、その品質の改善に力をいたしまして需要面を開拓してもって輸入原料の減少に努めたいと存じます。  第三に、企業の合理化、生産性の向上につきましては、さきに発足をいたしました日本生産性本部を母体といたしまして、強力にこれを推進して参る考えでございます。この場合、企業の合理化に必要なる資金に関しましては、財政投融資の重点化、効率化に努めるとともに、日本開発銀行の債務保証制度を活用する等の方法によりまして、その供給の円滑化をはかるつもりであります。また大蔵大臣からも申し述べられましたごとく、税制の改正等により民間資本蓄積の増強をはかりますとともに、これら蓄積資本が重要産業の合理化等、有効なる面に確保されるよう適切なる措置を講じたいと考えております。  企業の合理化を実施するに当りましては、その重点を石炭、鉄鋼等、基幹産業に指向して参る考えであります。特に石炭につきましては、その生産費と価格の低下とを促進することの急務なるを感じますので、燃料全体にわたる総合対策を樹立いたしますとともに、石炭鉱業の合理化を強力にはかりたく、近くこれについては必要な法案を整えて御審議をわずらわしたいと考えております。  第四に、中小企業につきましては、日本経済に占めるその地位の重要性にかんがみまして、これまた大蔵大臣より申し述べました通り、中小企業金融公庫等の資金源を充実するとともに、これらの資金が産業基盤の強化、生産性の向上に寄与するように指導し、また全国数百カ所に存します相談所を充実し、あるいは中小企業協同組合を強化し、製品の海外販路を開拓する等、中小企業の育成助長に有効適切なる処置を講じて参る考えでございます。  以上のほか、住宅の建設、その他社会保障の問題等もございますが、これらについては、すでに総理大臣及び大蔵大臣から詳細の説明がありましたので、ここでは省略いたします。  本年度におきましては、以上に申し上げましたごとく、経済の安定をそこなわざる限度において生産活動の増大をはかり、もって雇用の増大を期する考えでありますが、なお発生いたします失業者に対しましては、道路事業、その他の事業を実施し、これらの労力を努めて建設的事業に吸収して、少くとも完全失業者の数が二十九年度のそれを超えざるように努力する考えでございます。  さて、これらの諸施策を総合的に実施いたして参りました場合、本年度のわが国経済はいかなる形になるかと考えますに、物価は若干の低下を示す見込みでございます。また国民所得は六兆三千二百億円程度に達し、昨年度に比して実質的に四%程度増加するものと期待いたしております。鉱工業生産は、昨年度に比してほぼ一・五%、農林水産生産は、昨年度が前々年度に引き続き米作等がやや不良でありましたため、本年が平年作であるといたしますれば、昨年度に比し約四%近く増大いたすものと期待しております。この結果、本年度においては人口増加を勘案いたしましても、一人当りの実質消費水準は約三%上昇する予定であります。  また、国際収支につきましては、輸入は昨年度における輸入原材料在庫の減少を調整するため、本年度におきましては十九億ドル程度を必要とすると考えております。これに対し輸出は十六億五千万ドル程度まで伸長せしめたい所存でございます。特需は昨年よりもさらに減少いたしまして四億二千万ドル程度と押えております。これらを総合いたしまして本年度の国際収支は、前に申しましたごとく、輸入を十九億ドル程度まで伸ばしましても、なお収支均衡を保持することができるものと期待いたしております。  以上申し述べましたように、三十年度における経済は、いまだ完全雇用の目標には遠いものがもちろんございますが、しかし貿易生産並びに国民所得は、堅実に伸長いたしまして、また将来さらに伸長する素地もでき、また消費水準も若干上昇して、国民生活はさらに安定へ一歩を進め得るものと考えております。申すまでもなく、今後の日本経済の前途はなお容易ならざるものがあると考えます。しかし幸いにして国民各位が、今日のわが経済の置かれた位置を了解せられ、政府と各位と一体となって努力するならば、先刻申し上げました昭和三十年度の経済計画目標達成することはむろん、総合経済六カ年計画の最終目標達成も決して難事ではなく、わが国経済の将来は、期して待つべきものがあると確信いたしておる次第であります。  私は国民各位とともに、ここに決意を新たにして、日本経済自立発展のために、最善努力をいたす覚悟でございます。どうもありがとうございました。(拍手
  17. 河井彌八

    議長河井彌八君) ただいまの国務大臣演説に対し、質疑の通告がございますが、これを次会に譲り、本日はこれにて延会いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  18. 河井彌八

    議長河井彌八君) 御異議ないと認めます。  次会は、明後二十七日午前十時より開会いたします。議事日程は決定次第、公報をもって御通知いたします。  本日は、これにて散会いたします。    午後四時三十六分散会      —————————— ○本日の会議に付した案件  一、故議員松永義雄君に対する追悼の辞  一、故議員松永義雄君に対し弔詞贈呈の件  一、議員の請暇  一、日程第一 国務大臣演説に関する件