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1955-07-28 第22回国会 参議院 法務委員会 第22号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年七月二十八日(木曜日)    午前十一時三十分開会   ―――――――――――――   委員の異動 本日委員河合義一君辞任につき、その 補欠として吉田法晴君を議長において 指名した。   ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     成瀬 幡治君    理事            剱木 亨弘君            市川 房枝君    委員            中山 福藏君            廣瀬 久忠君            吉田 法晴君            赤松 常子君            一松 定吉君            羽仁 五郎君    衆議院議員            福井 盛太君            古屋 貞雄君   政府委員    法制局第二部長 野木 新一君    法務政務次官  小泉 純也君    法務大臣官房調    査課長     位野木益雄君    法務省民事局長 村上 朝一君    法務省保護局長 齋藤 三郎君   事務局側    常任委員会専門    員       西村 高兄君    常任委員会専門    員       堀  眞道君   衆議院事務局側    常任委員会専門    員       村  教三君   説明員    法務省参事官  高橋 勝好君    最高裁判所長官    代理者    (事務総局総務    局総務課長)  磯崎 良譽君    最高裁判所長官    代理者    (事務総局民事    局長)     關根 小郷君    最高裁判所長官    代理者    (事務総局刑事    局長)     江里口清雄君    最高裁判所長官    代理者    (事務総局家庭    局長)    宇田川潤四郎君   ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○接収不動産に関する借地借家臨時処  理法案衆議院提出) ○請願に関する件 ○幼児誘拐等処罰法案中山福藏君発  議) ○検察及び裁判運営等に関する調査  の件(売春対策に関する件)   ―――――――――――――
  2. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) これより委員会を開きます。  まず接収不動産に関する借地借家臨時処理法案議題に供します。提案者から逐条説明を願います。
  3. 古屋貞雄

    衆議院議員古屋貞雄君) 逐条の御説明を簡単に申し上げます。  第一条でございますが、第一条はこの法律目的規定したものでございまして、「第一条この法律は、旧連合国占領軍又は日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定を実施するため日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊若しくは日本国に駐留する国際連合加盟国軍隊等接収された土地又は建物に関し、その接収解除後における借地借家関係を調整するための措置を定めることを目的とする。」ものでございます。  第二条は定義でございまして、「第二条この法律において「接収」とは、旧連合国占領軍の用に供するためにした次に掲げる行為及びこれに基いて旧連合国占領軍又は日本国との平和条約効力発生後、旧連合国占領軍に引き続いて前条規定する駐留軍隊等が、その用に供したことをいう。」「一 旧土地工作物使用令昭和二十年勅令第六百三十六号)により、国が土地又は建物使用した行為」「二 国が土地又は建物をその所有者又は借地権者若しくは建物賃借権者から賃借した行為」「三 旧連合国占領軍土地又は建物をその所有者又は借地権者若しくは建物賃借権者から面接その占有に移した行為」「2、この法律において「接収解除」とは、接収された土地又は建物をその所有者又は借地権者若しくは建物賃借権者に返還することをいう。」「3、この法律において「借地権」とは、建物所有目的とする地上権及び賃借権をいい、「借地権者」とは、借地権を有する者をいう。」  第三条は「接収地借地権者土地優先賃借権」を規定した規定でございまして、以下申し上げます。第三条、土地接収された当時におけるその土地借地権者で、その土地接収中にその借地権存続期間満了によって消滅した者は、その土地又はその換地借地権第三者に対抗することのできない借地権及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明らかな借地権を除く。)の存しない場合には、その土地所有者に対し、この法律施行の日(この法律施行接収解除があったときは、接収解除公告の日。以下同じ。)から六箇月以内に建物所有目的賃借申出をすることによって、他の者に優先して、相当な借地条件で、その土地賃借することができる。ただし、その土地を権原により建物所有目的使用する者があるとき、又は他の法令により、その土地建物を築造するについて許可を必要とする場合に、その許可がないときは、その申出をすることができない。」「2土地接収された当時から引き続きその土地借地権を有する者で、その土地にある当該借地権者所有に属する登記した建物接収中に滅失(接収の際における除却を含む。以下同じ。)したため、その借地権をもつてこの法律施行の日までにその土地について権利を取得した第三者に対抗することができない者は、その土地又はその換地借地権第三者に対抗することのできない借地権及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明らかな借地権を除く。)の存しない場合には、その土地所有者に対し、この法律施行の日から六箇月以内に建物所有目的賃借申出をすることによって、他の者に優先して、相当な借地条件で、その土地賃借することができる。この場合には、前項ただし書の規定を準用する。」「3 土地所有者は、第一項又は前項申出を受けた日から三週間以内に、拒絶の意思を表示しないときは、その期間満了の時、その申出承諾したものとみなす。」「4 土地所有者は、建物所有目的で自ら使用することを必要とする場合その他正当な事由があるのでなければ、第一項又は第二項の申出を拒絶することができない。」「5 第一項又は第二項に規定する借地権者借地権接収された当時において第三者に対抗することができない借地権又は臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明らかな借地権であるときは、これらの規定は、適用しない。」「6 第一項又は第二項の規定により設定された賃借権存続期間は、借地法(大正十年法律第四十九号)第二条(借地権存続期間)の規定にかかわらず、二十年とする。ただし、建物が、この期間満了前に朽廃したときは、賃借権は、これによって消滅する。」「7 当事者は、前項規定する存続期間について、同項の規定にかかわらず、その合意により、別段の定をすることができる。ただし、存続期間を二十年未満とする借地条件は、 これを定めないものとみなす。」「8 第一項又は第二項の規定により設定された賃借権は、その登記及びその土地にある建物登記がなくても、これをもつてこの法律施行の日から二年以内にその土地について権利を取得した第三者に対抗することができる。」  第四条でありまするが、第四条は「接収地借地権者借地権優先譲受権」を認めた規定でございます。「第四条土地接収された当時におけるその土地借地権者で、その土地接収中にその借地権存続期間満了によって消滅した者は、その土地又はその換地借地権第三者に対抗することのできない借地権及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明らかな借地権を除く。)の存する場合には、その借地権者借地権者が更に借地権設定した場合には、その借地権設定を受けた者)に対し、この法律施行の日から六箇月以内にその者の有する借地権譲渡申出をすることによって、他の者に優先して、相当な対価で、その借地権譲渡を受けることが、できる。」「2、土地接収された当時から引き続きその土地借地権を有する者で、その土地にある当該借地権者所有に属する登記した建物接収中に滅失したため、その借地権をもつてこの法律施行の日までにその土地について権利を取得した第三者に対抗することができない者は、その土地又はその換地借地権第三者に対抗することのできない借地権及び臨時設備その他一時使用のために設定されたことの明らかな借地権を除く。)の存する場合には、その借地権者借地権者が更に借地権設定した場合には、その借地権設定を受けた者)に対し、この法律施行の日から六箇月以内にその者の有する借地権譲渡申出をすることによって、他の者に優先して、相当な対価で、その借地権譲渡を受けることができる。」「3、前条第一項ただし書、第三項から第五項まで及び第八項並び第九条の規定は、前二項の場合に準用する。この場合において、第九条中「この法律施行の日」とあるのは「借地権譲渡を受けた日(その借地権譲渡について裁判又は調停があったときは、その裁判が確定した日又はその調停が成立した日)」と読み替えるものとする。」  第五条は、借地権譲渡の場合の賃貸人承諾規定された規定でございまして、以上四条までは本法律骨子でございまして、第五条以下は事案の例記にすぎない、並びに適用条項だけでございますので、村専門員にかわって御説明を願いたいと存じます。
  4. 村教三

    衆議院専門員村教三君) ただいま古屋委員から第四条までの説明がございました。この法案重要性から申しますると、第三条に一切の条項が盛られているわけでございまして、第三条第一項がこの法案骨子だと思っております。第五条以下はいずれも罹災地借地借家法案の中にあります条項をずっと羅列したものでございまして、特別この法案だけに書いてある事柄ではないのでございます。で第五条の借地権譲渡の場合の賃貸人承諾、これは擬制したものでございまするが、フィクションの方でございまするが、これも罹災地借地借家法に出ておりまするので、そういう程度で御了承を願いたいと思います。  それから第六条の土地使用を始めない場合の解除権、これも罹災地法案に出ておりまして、このような条項がございます。  第七条の賃貸人及び譲渡人先取特権の方もこの通りございまして、賃借料につきまして先取特権設定して、もっぱら地主の人々の立場というものを考慮したものでございます。  それから第八条接収地借地権対抗力、第九条接収地借地権存続期間及び契約更新の請求、これらもいずれも罹災地の方にございまして、ただ期間設定の仕方は二年とかいうような期間につきましては、多少この法案らしく期間を変更しておりまするが、こういう条文を置いた建前は、罹災地の場合と同様でございます。  それから第十条の借地権の催告による消滅、借地権が消滅するわけでございまして、六カ月以内にこの優先借受権を申し出ないというと、すべて借地権が消滅してしまうのでありまして、この法案施行しましても六カ月の間黙っておりますると、一切の借地権はなくなってしまうという考えに基くものでございます。これも罹災地にこの例がございます。  それからこの十二条が多少異論もあり、かつまた変った規定でございまして、この条文疎開地の場合にも適用さてる、つまり最初強制疎開を命ぜられまして、それならばこの法案がかぶってこないのでありまするが、のちに接収をされた、そこでこの接収地として一応取扱うことにいたしまして、この場合にも土地優先賃借権が及ぶ、この点は条文解釈ということもございまするが、むしろ私ども政策立場からきておるものでございまして、社会政策的見地から立ちますならばこのような立場も可能であり、また意味があるものであると思っております。それから反対立場に立ちますと、これはない方がいい、こういう議論も出てくるのでありまして、私は結局は憲法上の解釈の問題ではなくて、むしろ政策的な考慮によって判定すべきものであると思っております。  それから十三条、十四条の場合は、建物の場合でありまして、建物は、この法案によりましては、原則として保護されておりませんのです。つまり期間が過ぎてしまった場合におきましては、優先借受権がないのでありまして、ただ期間が引き続き二十年も二十五年も賃貸借期間が続いておる、こういう場合に、接収によって占有を喪失したというわずかの場合の規定といたしまして、建物に十三条の保護があるだけでありまして、正常の多くの例から考えますると、借地のこれは臨時処理法であって、借家臨時処理法としましては、はなはだ不完全なものだと思っております。  あと十条の賃借権設定による損失の補償、これなどは土地所有者のためにも、幾ばくかの補償が可能であるようにという所有者のための規定でございます。  それから十七条以下は裁判の方の関係でございまして、裁判所にやはり罹災地の場合に鑑定委員会というのを置いて、ここでいろいろな状況の相談とか仕事をしておりますので、この鑑定委員会を活用しまして、できるだけ協議が円満に整うようにしたい、こういう趣旨で十七条、十八条ずっと十九条、二十条あたりを設けたものでございます。  それであと条項は大体罹災地法律にございますので、その程度で御了承願いまして、最後に二十四条には公告というのがございまして、これは新しい規定でございます。二十四条には、「調速局長は、接収された土地又は建物について、接収解除があったときは、遅滞なく、官報をもってその旨を公告しなければならない。」「公告は、これを掲載した官報の発行の日の翌日にしたものとみなす。」とありまして、この前までの法案では、官報又は新聞紙をもってといったような規定がありましたが、新聞紙でありますと、調達庁でやはり予算が多少要る形になりまして、この際予算は一切議員立法でありますから、関係のないことにしようというわけで官報にいたしました。つまり予算は全く要らない、こういう建前でございまして、大体このような工合に御了承願いたいと思っております。  なお、衆議院におきましても、逐条審議説明は、特に書類を用心したわけではございませんので、皆様方にも、参議院の方ヘ提出できないのは、はなはだ申しわけない次第でありまするが、衆議院においても作らなかったのでありまして、この点御了承を願いたいと思います。  以上で終ります。
  5. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 本案に対しての御質疑は、提案者が何か衆議院等で非常にお忙しいようですから、後日に回すことにいたしまして、次に、本案に対する政府見解を伺いたいと思います。
  6. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) ただいま議題となっておりまする接収不動産に関する借地借家臨時処理法案につきまして、法務当局見解を明らかにしておきたいと思うのであります。  本法案は、御承知通り国会から衆議院議員立法として提出をせられ、前回も衆議院が通過いたしまして参議院に回付され、解散等事情によってそのままとなっておった法律案を、また今度の国会に引き続いて提出をされまして、御承知のような、衆議院で可決されて参議院に回付に相なったのでございます。その前から法務当局はこの議員立法を非常に重視しまして、たびたび省議によっていろいろと研究を重ねておったのでございますが、いよいよ今国会においても衆議院において提出になるという事実が明らかになったことによりまして、事務当局は、事の重大性にかんがみまして今まで試みなかった異例措置をとったのでございます。それは、閣議決定によりまして特に重大なる法律案についての意見はあらかじめ官房長官まで申し出よという趣旨にのっとりまして、岸本法務事務次官が七月二十日に根本官房長官を訪問いたしまして、書面をもって反対意思表示をいたしたのでございます。今委員長から政府見解を求められましたので、この事務官から官房長官提出いたしました意見書をば読み上げさしていただきまして、政府見解にかえさしていただきたいと存じます。    「接収不動産に関する借地借家    臨時処理法案」について   表記の法律案は、以下述べる理由により、正義と衡平に反し、きわめて当を得ない立法であると考えられる。    第一 法律案要旨  本法案骨子は次の二点に要約することができる。  第一点 終戦連合国占領軍のため土地又は建物接収が行われた当時借地人又は借家人であった者で、接収のために借地法又は借家法による権利の行使を妨げられた結果、借地権又は借家権を失い、あるいはこれらの権利第三者に対抗することができなくなったものが有ると考えられる、本法律案は、このように接収のために不利益を被った借地人又は借家人に対し優先的に借地権又は借家権を取得する機会を与え、又はこれらの者のために借地権存続期間を延長し、また登記や引渡を要しないでこれらの者の有する借地権借家権第三者対抗力を与えようとするものである(第三条から第十一条まで、及び第十三条)。  第二点 戦時中防空法による強制疎開がか行われた土地終戦接収対象となったものがあるが、これらの土地については強制疎開当時の借地人終戦後も事実上これに復帰することができなかった。本法律案は、これら強制疎開当時の借地人に対しその土地について優先的に借地権を取得する機会を与えようとするものである(第一二条)。    第二 右に対する意見  一 本法律案中、前記第一点に該当する事例はきわめて稀有であって、この点に関する本法律案の各規定は実際上殆んどその適用がある場合を予想し得ない。のみならず、もし仮にその適用を見る場合があるとすれば、土地名又は建物の現所有者その他の権利者不測損害を与え、甚だしく不公平な結果を招き、また、不動産取引安全ル著しく害することにもなる。  二 本法律案中、前記第二点は、事実上強制疎開当時における借地人借地権復活を図るものであって、第一点が殆んど有名無実であるのに反し、本法律案生命をなすものであるが、次の理由によりきわめて妥当を欠く。   1 これらの借地人は、強制疎開の際、当時としては相当の補償を受け、その借地権は当時すでに完全に消滅しているのであっていまさらこれが復活を図ることは全く合理的根拠を欠く。   2 もしこれらのすでに消滅した借地権復活させるとすれば、当該土地について適法に所有権賃借権抵当権その他の権利を取得した第三者不測損害を与え、結局これらの善良な第三者の重大な犠牲において旧借地人に不当な利得をさせる結果となり、著しく正義と衡平に反する。   3 罹災都市借地借家臨時処理法第九条は、一見本法律案第十二条と趣旨々同じくするかのようであるが、前者は終戦直後の経済的混乱の時機における特殊事情下異例恩恵的措置であって、当時としては右2に述べたような不都合を生ずるおそれもなく、当時の立法としては必ずしも不当とはいえないのであるが、終戦後すでに相当期間を経過し、経済事情の一変した今日、同様の立法することはきわめて不当である。   4 強制疎開地の旧借地人で、旧借地に復帰できなかったのはひとり接収対象となった土地借地人だけに限られない。しかるにひとり接収対象となった土地借地人のみについてその旧借地権復活を認めることは、この点において著しく公平を欠く。  右申し述べましたのが、法務当局見解として岸本次官から根本官房長官書類をもって反対意見を陳述した要旨そのままをここに読み上げさしていただきまして、本法律案に対する法務当局見解は、反対であるということに御了承をいただきたいのでございます。  なお、今日まで議員立法に対してこういう措置をとったことはきわめてまれでございまして、幾多の議員立法の中におきましても、ただいま議題となっておりまする本法案については、法務当局としてはいまだかつてないような異常な関心を払いまして、事の重大に当参議院審議の経過を憂慮しながら見守っておるような実情でございます。なおまた裁判所方面におきましても、この法律案重大性にかんがみまして、大きなショックを与えられまして、いろいろと部内において協議いたしておるということも連絡がございます。  何とぞ当局見解を、御了承をいただきたいと存じます。
  7. 剱木亨弘

    剱木亨弘君 今のに関連しまして、衆議院法務委員会審議される場合に、やはりきょう政務次官が述べられましたような政府見解をはっきり委員会においてなされましたのでしょうか。
  8. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) お答え申し上げます。  衆議院委員会におきましては、やはり法務当局見解を求めるということで、大臣が都合が悪くて、私が参りまして、ただいま申し上げましたと同じ趣旨をば申し上げまして、見解を明らかにいたしておきました、なお、それにつきまして、衆議院においては、法務大臣はかつては法務委員法務委員長としてこの案に賛成であったのであるが、今日はどうかというような質問がこもごもございまして、これを参考のために申し上げておきますが、大臣は前は議員として御賛成であったことは私ども承知しておりまするが、法務大臣に就任されまして、ことに最近この問題が法務当局の重大な問題となって協議を重ねるにつきましては大臣事務当局見解に同調をされて、この意見書を出すについて大臣の決裁を求めて、根本官房長官意見を出したのでありますから、今日の大臣のお立場事務当局と同じように反対である、また私と岸木次官大臣が呼ばわれして、今までは自分は賛成の一人であったけれども事務当局意見と全く見解を同じくするから、この問題の取扱いは、あげて政務次官事務次官で適当に委員会等処理してもらいたいという御依頼があったということな、私から率直に申し述べたような次第であります。
  9. 中山福藏

    中山福藏君 私もその点についてちょっとお伺いしておきますが、大体政党内閣制をとっておる今日の日本実情では現状では結局これが衆議院全会一致で通ったということを承わっておるのですが、これは民主党全部が政府意思に反して、いわゆる大臣意思に反して全会一致の行動をとられたのですか。そこはどうなっておりますか。
  10. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) こういうことも御審議参考卒直に申し上げた方がいいと存じますので、申し述べさしていただきまするが、当初の民主党政調会においてはこれに賛成をされる議員の要請がございまして、再三にわたって政務調査会を開催をせられ、民事局長らと私が一緒に参りまして、当局見解を明らかにしていろいろ会議を重ねていただいたのであります。最終においては清瀬政調会長が党としてはこれは不適当である、提案をしようという議員提案を思いとどまらせようということになりまして、民主党としては一応政調会では議員提案をば阻止するということに相なって、党内においてはこの問題は片づいたと、私どもも実は安心をいたしておったのでおりまするが、他党から突如として衆議院法務委員会提案をされ、総務会等でも議論がありまして、私も意見を申し上げまして党として与党の立場においてこういう法案賛成でないということを申し述べて、二、三の幹部の方、清瀬政調会長を初め了承されておったのでありますが、どうしたものか委員会が一気に可決いたしまするや、委員会全会一致で可決したものをば、民主党だけが反対の態度をとるわけにはいかなくなったと、積極的に賛成ではないけれども、やむを得ないので認めざるを得なくなったというような、清瀬政調会長から私にお話があったくらいでございまして、率直に申し上げますると、民主党としては政府意見に反して不本意ではあるが委員会全会一致であるから、他党に対する考え方もあって、積極的な反対をするわけにいかず、ずるずると引きずられて、本会議も一気に可決になったというのが実情でございます。
  11. 中山福藏

    中山福藏君 これは政務次官のお立場まことに私よく了解するわけでございますが、結局民主党反対だけれども、仕方なくてずるずると投票したということになりますと、ただいまの政務次官の御説明は、これは生命というものはなくなるのじゃないかと実は考えるのですが、政府というものは、なるほど民主党と離れておりますけれども、どうもその点が私ども割り切れないのです。これは下手にやると参議院だけがこの法律案について責任を負わなければならぬというような、重大なはめに陥るきらいがありますから、私特に念を押したわけですが、これは一人も落後者がなかったわけでしょうか。民主党が投票の場合に全部賛成の意を表されたものでしょうか。その点を一つだけ承わっておきたい。
  12. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) これはいつもやりますように、本会議委員長報告で起立でもなく、御異議ありませんか、異議なしで一気に可決になったというわけでございまして、別に投票もいたしませんし、起立もいたしませんし、委員長報告の通り決するに御異議ありませんかという議長の発議で、ただ異議なしというふうに通ってしまったというのが実情でございます。
  13. 一松定吉

    ○一松定吉君 ちょっと伺います。これがかりに法律となったとして、こういうような法律の支配を受ける件数はどのくらいある見込みですか。
  14. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) これは政府提案ではございませんので、私の方で調査しました資料はございませんけれども、聞くところによりますと、接収解除件数にいたしまして約六千件前後ではないかと思います。六千件と申しますと、おそらく接収地所有者の数ではないかと想像いたすわけであります。一人の所有者の持っております土地については借地人は多いところは数十人おりますので、もしこの法律案が成立いたしまして、非訟事件手続法あるいは民事調停法における事件として裁判所に現われます場合、相当の件数になるのではないかと考えます。ことに接収地として問題となっておりますところは繁華街とかその他、非常に旧借地人と地主との間の対立の深刻な地域が多いのですから、おそらく大部分の事件は裁判所に持ち込まれるのではないかということを懸念をいたしておる次第であります。先ほど村専門員より予算は要らないという御説明がございましたけれども、その点につきましては裁判所当局にも予想件数を確かめました上でお尋ねいただく必要があると、かように考えます。
  15. 一松定吉

    ○一松定吉君 これが法律となりますと、争いになるのは、土地の値段が非常にその後において暴騰したような場所に、多くこれが行われる。そういうようなことに対して、件数は五、六千件たが、影響するところはずいぶん大きく、裁判官も調停委員も家庭裁判所の判事等、ずいぶんこれはたくさん人を要すると思う。そういうような点について予算は要らぬどころか、大いに予算をふやして員数をふやさなければ、容易にこれは処理できないと思うのですが、その点について政府当局意見はどうですか。
  16. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) ただいま申し上げました通り、予想件数も私どもにはっきりつかんでおりません。六千件というのも仄聞いたしましただけでございます。さらにそれが事件として現われます場合には、土地所有者一人に借地人数十人というような場合を想定いたしますと、裁判所の事件としては数万件に上る可能性もあると思います。その場合に予算なしでやれるかどうか、私ども事務当局に確かめてございませんので、はっきりお答えいたしかねる次第であります。
  17. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) ちょっと皆さんに申し上げますが、最高裁判所の関根民事局長もお見えになっております。
  18. 中山福藏

    中山福藏君 ちょっとこれは常識的なことですからお尋ねしておきますが、まず参議院でこれを否決したとして、衆議院に差し戻される場合は、これは衆議院で三分の二の投票があれば、結局これは通るわけになりますが、そのときに民主党の方々は前に異議なしで全部全会一致ということになっておるのだから、まさか反対するわけにはいかんと思うのですが、政府はこの点について御努力なさる御決心がついておりますかどうでしょうか、承わっておきたい。
  19. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) この問題については内閣や大臣ともまだ御相談申し上げておりませんで、ただ私の政治的経験からの率省な考え方を申し上げますると、全会一致で形は通りましたものの、現在においても民主党内においても自由党内においてもこれは大へんな問題であると憂慮しておられる有力な議員が事実たくさんございます。またそういう方々は参議院の良識に期待をしているというようなことを承わっておるのでございまして、形は全会一致通りましたものの、民主党内においても自由党内においても相当この法案については現在なお問題となっておるのでございまして、参議院において御審議の上さようなことに相なりますれば、かつて全会一致で通したからというようなことにとらわれないで、民主党においてはもちろんのこと、自由党においても相当党内においてもっと慎重審議が尽されまして、何らかの決定が見られるのではないかと私は想定をいたすのでございます。
  20. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 私からお尋ねしておきたいと思いますが、御承知接収不動産に関する借地借家臨時処理法案が今議題になっておるわけでありますが、この法案が通過した場合と申しますか、この法案に対する一つ御見解とそれから予算関係が一応提案者の方から考えておらないというような見解が述べられておりますが、予想件数にからんで予算措置というものはどんなものであるかというようなことについて一つ御見解を承わりたい。
  21. 關根小郷

    説明員(關根小郷君) この接収不動産に関しまする臨時処理法案自体のことにつきましては、衆議院の通過が非常に早かったために、深くまだ細部の検討をいたしておりませんが、もしこの法案が通るといたしますると、かなり複雑きわまる事件が戦判所に出てくるのじゃないか、それで実はそうなりますると事件数その他につきましてももう少し深い検討を要する。漏れ聞いたところでは接収解除になりまする、あるいはなりました建物なり土地なりにつきましての件数が約六千件ばかりあると聞いておりますのですが、もしその接収解除になりました土地につきまして、さらにその土地の上に数十人くらいの借地人がいるというようなことになりますると、事件はさらにかなりたくさんの件数が予想されることになります。そうなりまするとわれわれの方といたしましても予算面の措置を相当講じた上でないと、事件の処理につきまして保証できるということを申し上げることはできない。もう少し資料をいただいた上で予算面の検討をさしていただきたいと、こう考えております。
  22. 赤松常子

    ○赤松常子君 私聞き間違いだったでしょうか、さっきこの法案に対する法務省当局の御意見の中で反対理由の一つに、この法律ができてもこれを適用する場合が少いからというような理由がちょっとあったと思うのですが、私の聞き間違いでございましょうか、その反対理由にそういうことをあげておいでになって、そうして今伺うと六千件以上というようなことで、そこが私少し腑に落ちないのでございますが、反対理由のところをもう少し詳しくおっしゃって下さい。
  23. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) 先ほど政務次官の説川の中にありました実際上適用ある場合を多く予想できないとありますのは、要旨として申し上げました第一点すなわち接収の際借地権を持っていてそれが接収のために借地権を失ったという場合はきわめて少いであろうという趣旨でございまして、第二点のしかもこの法案生命をなすものであると申し上げました強制疎開の場合の件数、これは相当多いように聞いております。もし六千件前後あるといたしますと、その大部分はこれに該当するのではないかと、かように考えております。なお六千件と申しますのは、接収解除になり、また今後接収解除になる件数でありまして、裁判所へ将来非訟事件手続法あるいは民事調停法によって持ち込まれます件数は、あるいはそれよりも多いあるいは少い、必ずしもこの接収解除件数とは一致しない、かように考えます。
  24. 赤松常子

    ○赤松常子君 私ほんとうにしろうとで、あまりよくわからないのでございますけれども、この法律ができますればそういう問題が続々起きるわけでございますね。この法律適用がそういうふうにたくさん事案が発生するということになるのでございましようね。
  25. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) 御承知のように東京都内におきましても現にモーター・プールその他で駐留軍が使っております土地がたくさんございますが、これらが接収解除になりますと、その土地が戦争中の強制疎開土地であります場合には、疎開当時の借地人から現在の土地所有者に対して賃借の申し入れをし、その借地条件その他が折り合いませんと、裁判所へ持ち込まれるわけで、相当数出るのではないかと考えております。
  26. 赤松常子

    ○赤松常子君 そうすると事実上そういう問題が続出するということになりますと、この場合予想し得ないということとはどういう違いがあるのでございましょうか。
  27. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) その点は先ほど申し上げましたように、第一点と第二点の違いでございます。第一点の方はあまり多くないであろう。と申しますのは、第一点はこの法案の三条、四条に当るのでございますが、まず接収によって借地権が消滅する場合というのはどういう場合かと申しますと、接収借地権存続期間満了してしまって、普通ならば引き続いて使用しておりまして、所有者が異議を申しませんと法定更新と申しまして、さらに借地権が続いていくわけでありますが、接収中であるために法定更新ができないというような場合、それから借地権はあったのでありますが、地上に建物を持っておりませんし、また借地権登記もしてありませんために、土地所有者がかわったために借地権をもって新しい土地所有者に対抗できなくなった場合が考えられる。御承知のように土地借地権をもって第三者に対抗するためには、借地権登記があるか、あるいは借地の上にある建物について所有権登記があるか、いずれにしても登記がなければ対抗できないことになっております。接収の際には、建物があって、登記があったけれども、その後駐留軍の都合によって除却され、あるいは火災によって焼けてしまった、それにかわる建物を建てることができないでいる間に、所有者が変ったというような場合には、新しい所有者に対して借地権をもって対抗できなくなるわけでございますが、今申し上げましたように、法定更新ができなかった場合、あるいは借地権が対抗できなくなった場合というのは、これは現実に調査いたしたわけでございませんので、前者が何件くらい、後者が何件くらいということは申し上げかねるのでございますが、この条文の書き方で相当しぼってございますので、それに該当する場合はあまり多くはなかろうと、かように考えております。
  28. 中山福藏

    中山福藏君 政府に一つお願ひするのですが、ただいま大体の政府の意向はよくわかりました。この場合、たとえば仄聞するところによると、目下六千件のトラブルが起るというようなことについて、またそれを土台として組まれる予算ですね。そういうことについての御見解並びに資料というものを、簡単でいいですから、一つ相当の時期に下さることはできないでしょうか、それだけお願いしておきます。
  29. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) おそらく提案者の側である程度の件数は想定しておられるのじゃないかと存じますが、私どもの力でも、お求めがありますれば、調達庁その他と協議いたしまして、今後予想される、あるいはすでに解除されました件数、その上の借地人の数、あるいは借家人の数等がわかりましたならば申し上げたい、かように存じます。
  30. 中山福藏

    中山福藏君 それはいわゆるこの法案を出し、てぜひともこれを通過させたいという希望に沿った証拠が、必ず提案者から私どもに交付されると思います、従って政府政府の意向として、防御策と申しますか、あるいはそれに対抗する、いわゆるすべての材料というものを一応お示し願わんと、比較対照できないのです。だからその点について特にお願いしておきます。
  31. 市川房枝

    ○市川房枝君 今中山委員からお話もありましたけれども提案者の方から資料、これによって起き得ると想定される件数といいしますか、そういうことについての資料というものは参っておりませんでしょうか。
  32. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) お答えいたしますが、まだ参っておりません。
  33. 市川房枝

    ○市川房枝君 そういうものをやはりいただきたいと思います。
  34. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) 先ほど中山委員からお話のございました資料は、できるだけ集ることに努力いたします。ただ接収解除の件数等は、比較的簡単に調査がつくと思いますが、たとえば戦争中の強制疎開の当時に借地人が何人あったか、とこの疎開の場合に、土地がどれくらいの面積で借地人が何人あったというようなことは、果して現存資料が手に入りますかどうか、はなはだ瞬間に存じておりますが、できるだけ調査いたしてみたいと思います。
  35. 剱木亨弘

    剱木亨弘君 関連して、今の調査ですね、全部の件数がどうとか、なかなかむずかしいと思いますけれども、私の方にわかりやすいような、東京近くでも例があると思いますが、具体的にどこの場所で、どうということがわかりましたら一つ、例示的なものでけっこうですが、それはできるのじゃないですか。
  36. 中山福藏

    中山福藏君 私特にお願いしておきたいのですが、これは法務大臣がかって法務委員衆議院でしておられたそのときには賛成であったけれども、現在は反対になった、その気持ちの変り方が、よほどそこに、国家の責任者として、なぜそういうふうに変らなければならなかったかということを、この際この法案審議に当って、みずからここに御出席をなされて、男らしく堂々と、なぜ変らなければならぬかということを御説明なさるということは、われわれ委員に対して非常にこれは参考になると思うのです。たからその気持の変り方はなぜそうなったか、こういう弊害があるのだ、この法律を出せば……。それを明確にしていただくということが、政府当局として、大臣として、当然のこれは態度でなくちゃならぬと思うのです。ただお気の毒に政務次官にほうりっぱなしでまかして、おれは法務委員のときに賛成していたのだから、顔を出すのが都合が悪いなんというのは、これは政務次官に気の毒ですよ。だから大臣みずから堂々とこの席に来て、なぜ変らなければならなかったか、材料を示して委員説明なさるのがほんとうに大臣らしい態度だ、かように考えておりますから、次回は一つぜひ法務大臣に御出席を願って気持の変った説明をなさるということがほんとうにいいのじゃないかと思います。政務次官がお気の毒ですよ、こういうことは。
  37. 剱木亨弘

    剱木亨弘君 ちょっともう一つあります。この提案者提案理由説明の中に、政府がこの措置はすべきものである、「しかるに特別調達庁、法務省、大蔵省、東京都庁等の間に議が合わず、特別調達庁の立案いたしました連合国軍使用不動産に存した賃借権保護法案も、次官会議におきまして成案を得なかった」これは提案者が書かれておりますから事情がわかると思いますけれども提案者から聞くのは何ですが、政府部内の事情でございますが、もしその当時の事情がおわかりでございましたら、この次でもよろしゅうございますからお調べいただきまして、どういうことが問題になっておったか、一つその当時のことを一ぺん御説明願いたい。
  38. 村上朝一

    政府委員(村上朝一君) 取り調べましてお答え申し上げます。
  39. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 速記をとめて下さい。   〔速記中止〕
  40. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 速記を始めて。暫時休憩いたします。    午後零時三十四分休憩    ――――・――――    午後三時二十二分開会
  41. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 午前に引き続いて委員会を再開いたします。  まず請願を議題とし審査を行います。  速記を中止して下さい。    午後三時二十一分速記中止    ――――・――――    午後四時四分速記開始
  42. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 速記を起して下さい。幼児誘拐等処罰法案議題に供します。本案について、まず最高裁判所見解を伺いたいと存じます。
  43. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) 本案は主として七歳未満の幼児の略取誘拐について刑を加重したものと思われるのでありますが、略取罪については別でありますが、欺罔誘拐の方法による誘拐罪というのは、七歳未満の幼児についてよりもむしろ七歳以上の者について起るのが多いのではないかと思われるのであります。で、被害者が七歳未満の者についてのみ刑を加重して七歳以上の者と区別する、実質的の意義はあまりないのではなかろうか、被害者の六歳の学童である場合それから十歳の学童である場合とこれを立法上区別する理由は乏しいのではないかというふうに思うのであります。なおまた従来の実績から見まして、幼児に対するこの種の犯罪というのは非常に少いし、特に現在の刑法の法定刑で間に合わないような悪質と見られるものはわが国では起った事例はないのではないかと思いますので、量刑の実際から見ましても、特に法定刑の短期及び長期が刑法の規定の短期及び長期が低過ぎて裁判上困ったというものは、かような実例はないのでございます。で、この案によりますと刑法の二百二十四条の法定刑の短期三月それから長期五年というのを、短期六月長期十年というふうに上げる案のようでございますが、短期の三月を六月に上げてみましても、元来六月や八月という以下の短期自由刑は、行刑の上から疑問がありますので、刑法犯についてはあまり言渡しがないのが普通でありますので、短期をこのように上げてみましても、実益に乏しいのではなかろうか、それから長期を五年から十年に上げる点も、略取誘拐罪だけで五年以上の刑を盛る必要があるものというのは、よくよくの情状の悪いものであろうと思うのでありますが、情状の悪いものは、略取誘拐罪のほかに脅迫罪あるいは恐喝罪、傷害罪というような別の犯罪が加わることが多いのでありまして、この場合には併合罪によって刑を加重されることができますので、それで十分必要な刑が量定されるのではないか、従って五年を十年に高めるという実質的な必要性もあまり認められないのではないかというふうに考えるのであります。で刑法の各本条の法定刑は、当該犯罪行為に対する国家の倫理的な評価を示しておるものでありまして、一定のおのずから評価基準によって規定されておるように思われるのであります。従いまして専門の法律家や実務家、それから一般の学識経験者によって、長い研究の結果発表されました改正刑法仮案のように全体を検討いたしまして、全般にわたって法定刑を改訂するというのであれば格別でございますが、あるたまたま発生した犯罪を契機として、その一部だけについて改正を加えることは、必ずしも賛成できないように思うのであります。で、元来刑法犯、この略取誘拐罪は刑法犯でございまして、刑法に未成年者の略取誘拐罪があるのに刑法改正の方法によらないで、その一部である七歳未満の幼児につきましてのみ、たやすく特別法によりまして改正をするということは、かえって法体系を不自然に混乱させるのであって、適当ではないというふうに考えるのであります。  それから刑法の二百二十五条の常利の目的と申しますのは、財産上の利得を得る目的をいうのでありまして、その利得というのは被誘拐者、被略取者を利用することによって直接得られるものであることを要しまして、従って身しろ金要求というのが刑法の二十五条の営利の目的に入らないというのが通説のようであります。しかし、身のしろ金を要求した場合におきましては、恐喝罪の、成立があるのでありまして、併合罪といたしまして、略取、誘拐罪それから恐喝罪、これは未遂も同様でございますが、の併合罪として十五年の処断刑となるわけであります。特別に、この身のしろ金要求の場合を「営利の目的」と見なすというような特則を設ける必要性は一般にはないのではないか。ただ身のしろ金要求の目的で略取、誘拐いたしまして、身のしろ金の要求をしないうちに逮捕されたというような場合だけが問題になるのであります。この場合のための必要が考えられますので、この本案の二項の「身代金その他の財産上不法の利益を供せしめる目的をもって、幼児を略取し又は誘拐した君は、幼児について刑法第二百二十五条の罪で営利の目的をもってするものを犯した者とみなす。」というような趣旨規定をおくことは、しいて反対ではないのでありますが、その場合でも、特別法でなくして、刑法の二百二十五条の第二項に、また前項に同じというような形で刑法一部改正の方法が望ましいのではなかろうか。と申しますのは、一番最初に申しました通り、幼児のみでなくて、七歳以上の者についてもやはり身のしろ金要求の目的で略取し、誘拐した者も同じく取り扱うというような必要性からも、刑法の一部改正でその趣旨を挿入した方がいいのではなかろうか、こういうふうに考えるのでございます。
  44. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 本案について、御質疑のおありの方は御発言を願います。
  45. 中山福藏

    中山福藏君 刑事局長のただいまの御意見に対して、私二、三質疑を試みたいと存じます。  まず第一に、刑法仮案が現在でき上っておるから、それによって一般刑法の改正の場合に、こういう処置をとった方がよいじゃないかという、まあ大体の結論であります。そこで私お尋ねするのですが、大体あなたのおっしゃった、この「営利の目的をもって」という言葉は、牽連罪かあるいは併合罪か、いわゆる恐喝と略取との併合罪かどうか、あるいは牽連罪かどうかということは、判例がなくお迷いになっておるはずなんです。これは、裁判所では……。そこでこの仮案の四百二十六条というところをごらんになると、「人ヲ略取シ其ノ釈放ノ代償トシテ財物ヲ得タル者ハ強盗ヲ以テ論ズ」ということが仮案には出ておる、こういう苦しい立場をおとりにならなければ、これは現在手の打ちようがない場面に遭遇しておられると私は思う。これについては、たとえ住友の令嬢の誘拐事件、横浜の裁判所の下しました判決、これは併合罪で、恐喝罪と誘拐罪と併合してやっているんですね、このときもその判決の理由うといものは、窮屈な解釈をとっておられるわけです。そこで、営利の目的で、子供を誘拐して、身代金を要求することは、入るかどうかということは、現在の学説の上でも非常に疑問がある。それを、改正刑法ができるまで、三年、四年待って、その空間に生じた事件をどう処理されるのか。模糊あいまいたる理論をつけて、それを御処置なさるということは、それは法律家のやることなんです。法律家というのは、仕事の上で理論的に練り回すということだったらそれでいい。しかし私どもは生きたる社会というものを相手にしておるのですね。生きたる、時間々々の、一瞬々々に起ってくる事犯をとらえて、どう社会の安寧秩序のために処理していくかということが、私どもの考え方でなければならん。だからこれは法律家的に、あなたのおっしゃる理論的に全部の刑法の改正ができ上るまで待ったら、おそらく五年かかると私は見ております。これから審議しなければならん、逐条審議を……。その間に、こういうことが今度の子供をさらったような事件、あるいはリンドバーグ大佐の子供が誘拐されて、そうして身のしろ金を取られた上に虐殺せられた。そういうことの起った場合は手のつけようがないのじゃないか、やはり雲をつかむような理論をつけて、営利の目的でこれをやっただろう、恐喝罪と併合罪でこれを処理していって、ほとんどわれわれの首肯に値いするような判定理由のつかないということは、われわれの悲劇だと思います。これは私はそういうのんきなことは、学者とかあるいは理論家の間にはこれは流行するかもしれませんけれども、現在の政治を取り扱う立場にある私どもとしては、あなた方は法律をりっぱなものをお作りあげになるまでに、一応暫定的な法律をもってこれに当面しなければならんということが、私はわれわれのとるべき立場じゃないかと考えているんです。あなたは理論的にそういうことをお考えになっているのか、あるいはまたどういうお考えでそういう御意見をお出しになるのか承わりたいと思いますが、大体この私の出しておりまする、提案法律案をごらん下さると、これは特例なんです。刑に対する特例の法律案なんですが、そこで現在この二百二十四条の略取、誘拐というものは三月以上五年以下になっておりますね、これを六月以上十年以下にする、あるいは二百二十五条の営利誘拐罪というのは一年以上十年以下となっているのを一年以上の有期懲役、これは諸外国、フランスでもあるいはアメリカでも、スイスでも、チェコスロバキヤでも、すべての立法例をごらんになると、日本よりも重いということをよく御検討になれば、そういうふうなしみったれた私は御意見は出てこないのじゃないかと思いますがどんなもんでしょう。ただ理論的とか何んとかいうのじゃなくて、現在起らんとする、あるいは起るものを予防するためにはどうすればいいか、これを私どもは論じているわけです。それらについての御答弁をわずらわしたいと思います。
  46. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) 身のしろ金を要求したという場合は、これは略取誘拐罪と恐喝罪の併合でやれますので、処断刑は十五年まで参ります。その範囲内で妥当な刑が盛れるわけでございます。その必要性は必ずしもあまりないのではないか、かように考えるわけでございます。また実際今まで起りましたこの裁判の実例を見ましても、単純な略取誘拐罪につきましては、昭和二十七年、八年の裁判では一番重いのが三年でございます。三年をこえるものが一つもないのでございます。現状は差しつかえて困るというような実例もまだございません。今度の幼児の誘拐罪、これはやはり恐喝未遂の未遂と、略取誘拐罪の併合、十五年まで刑が盛れますので、それで十分ではないかと考えております。
  47. 中山福藏

    中山福藏君 これは刑事法の講座の千六百四十一ページというものをごらんになるというと、身のしろ金の要求というのはあなたの説明に入るかどうか、こういうことなんです。これが小野清一郎氏の理論を読んでもあなたの結論は出てこない。だから学説すらもふんぷんたるもので迷い続けているわけです。だから私の方の提案では営利の目的をもってやったものとみなすという確定的な根拠を与えたつもりなんです。それをいろいろな学説があるということを、そうして無理に押えつけていかれるということはいかがなものであろうと実は考えるのです。これはすべての学者の議論をごらん下さっても、あなたのような解釈をとっておる人もあるし、とっていない人もある。だからそういうふうな断定するということはできないのじゃないかと思いますね。それよりもむしろこれをはっきり理論づけ、あるいは何人も肯定し得る立場法律の根拠を持っていくということが、われわれのすべき事柄ではないかと実は考えておりますが、どんなものでしょうか。
  48. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) 身のしろ金を要求いたしました場合に恐喝罪が成立しないというお立場……。
  49. 中山福藏

    中山福藏君 いや、それを言うのじゃないのです。営利の目的じゃない……。
  50. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) みのしろ金を要求する場合には、営利の目的にならないというのが通説でございます。従いまして身のしろ金を要求する目的をもって略取誘拐いたしまして、そうして身のしろ金を要求する段階に至らない前に逮捕されたという場合には、単純略取誘拐罪で五年までの刑しか盛れないということになる。これは中山委員承知通りだと思います。その場合のためだけを考えますと、これは身のしろ金要求する目的をもって略取誘拐をしたという場合には営利の目的とみなすというような趣旨規定があることは、これはしいて反対いたしませんし、その必要性はあると思います。しかしその場合につきましては特別法の規定によらないで刑法の一部改正、刑法の二百二十五条の第二項に身のしろ金その他の財産上不法の利益を供せしめる目的もって、未成年者を略取しまたは誘拐した者は前項に同じというような規定の方がいいのではなかろうか。こういうふうにいたしますと、満七歳未満の者もそれ以上の未成年者も身のしろ金要求の目的をもって略取誘拐したという場合全部が含まれるわけでございまして、その考え方がよりよいのではないか、かように考えております。
  51. 中山福藏

    中山福藏君 あなたは諸外国の立法例をごらんなったと思うのですが、これはフランスなんかでも十六とか、あるいはスペインとかいうものは七歳を上下にして分っておる、いろいろ立法例はありますが、私がまずあなたに問いたいことは、この改正刑法の仮案というものは、私が提案した刑よりもまだ重いのですよ、これはあなた方の理想じゃないですか、これだけ重くやるということは、私らが驚いておるくらい重い刑を科しておる。それより低い刑を私はここに並べたといって、あなたがこれにかれこれ攻撃をなさるということは、自己撞着に陥っているのじゃないかと考えるのです。あなた方はやはり法曹界の有力な幹部として、直接にそれに参加しておられるかどうか知りませんが、この刑法の仮案というものの罪というものは、私の出しておる提案法律よりも二倍くらい高い。それを出しながら私の罪が重いとか何とか言われる理屈は立たんと思う。あなた方これに準拠して刑法を改正していこうとしておられる。私のはその半分くらいしかないものをこれは重いじゃないか、今の刑法でまかなえるじゃないかという議論は成り立たんと思う、論理的に。それからもう一つは身のしろ金云々ということははっきり刑法の二百二十四条、二百二十五条の規定からいくと、これははっきりとそれに当てはまるということは、なかなかいろいろ疑問があるものですよ。ですから私はそういうけちなことを単に法務省とか最高裁判所とかというところの法律をいじくる立場にある人ですね。現在の社会というよりもむしろ法律をいじくって快味を感ずる方だとわれわれの立場は違うのですから、そこには一つよく御了解願わんといかん。だから私たちは生きたる仕事をしているのです。だから私は刑法の仮案を全部ここに皆さんに参考資料としてお渡している、これは私の出した提案よりも二倍くらいも重くなった刑罰なんです。それるなぜ反対されるのでしょうか。その論拠を一つ承わっておきたい。三年か四年か先になるのです、この刑法の改正というものは……。それまでに一体こういうことが起きたらどうするか。  もう一つついでに御参考までに申し上げておきますが、あなたは色情犯罪に関する書物を法律家としてお取り調べ下さったことと思うのですが、色情犯罪というのは世界共通の、非常に気違いじみた行為によって法律家の一つの研究の対象となっておる。これをごらん下さるというと、大がい被害はアメリカなんかの実例を見てみると、三歳、五歳、七歳ですよ。私はこのがんぜない子供を一つ法律の力によって守ろうというのが私の考え方なんです。それは三歳や五歳の子供を手のひらに乗せて誘拐して持っていくということになれば世の中は真っ暗闇です。私はそういうことも勘案して、略取誘拐のうちにはそういう子供をむざんに取り扱うということは、ほかの七歳以上の子供とはこれは考え方を違わして、大人がこれを一つ処置していかなければならぬのじゃないか。こういうことから考えているのですが、スペインの刑法ははっぎりと七歳ということ々現わしておる。ほかのフランスの法律なんは十六歳というところに基準を置いておるのです。こういう点を一つよく総合して御答弁をわずらわしたい。
  52. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) 本案の刑が仮案と同じ、あるいは仮案よりも低いということはまことにお説の通りでございます。仮案は刑法各本案の法定刑全部を検討いたしまして修正したものでございます。で、この際全部検討して修正するのはけっこう思いますが、仮案中のこの条文だけを取って参りまして法定刑を改正するということになりますと、他の法定刑との釣り合いが不自然になるのではなかろうか、かように考えるわけでございます。  それから七年未満と七年以上というのを区別する、まあ区別する立法例も外国にはあることはお説の通りだと思いますけれども、これはわが国におきましては七歳未満の者に対する犯罪とのうのは、それほぼ多いわけでもございませんし、特にこれを区別するという必要はないのじゃなかろうか、かように考えるわけであります。
  53. 中山福藏

    中山福藏君 これを最後に一つ、もうあなたと議論はしませんがね。しかし不自然だとか何とかは言えないはずだ、あなたには……。私のをつり上げていけばあなたのに合致するわけです。これは自然でしょう。不自然でなくて自然にそこにいこうとしておる。だからこれは刑法の改正じゃないですよ。法定刑の特例なんですね。ちょっとこれだけをつまんでそうして一時まに合していこうかと、こういうくだけた私の立場なんです。こういうことにはおれなんかは最高裁とかあるいは検察庁の最高の地位にあるのだからというような従来の官僚主義の考え方は、さらりと一つ投げ棄てていただいて、いかにすれば世の中の児童保護ができるかというところに一つ主眼点を置いていただきたい。私どもは一つ在朝在野一体となって社会全般の利益をはかるということが私どもの責任である。これは私は旧来からの考え方を捨てて、時代センスというものにお互いに生命を吹っ込んでいかなければならぬと私は考えておりますから、これだけ申し上げておきますが、一つ猛反省か促しておくということをつけ加えて私の質問を終ります。
  54. 赤松常子

    ○赤松常子君 今度突然大谷正美ちゃんがああいうふうに連れて行かれて、そうして無事に帰って参りまして私どもほんとうにほっとしたのでございますが、無事に帰ったということの裏に刑が軽かったからという意味があるのじゃないかと思うのでございます。まあいろいろ子供が帰るといろいろ社会の世論が起っておりまして、これが極刑でったならば、子供が殺されるかもしれないし、あまり極刑でない方がいいとかいうふうな議論がいろいろございましたですね、こういう場合に子供が無事であるというを念ずるのがこれが親の気持でございますし、社会もまたそれ々望んでおるのでございますが、こういう場合に刑を重くした方がいいものか、あるいは軽くした方がいいものか、あるいはこの程度でいいものか、そこらをあなたの御経験から一つ開かせていただきたい。
  55. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) 刑を極刑というような議論がちらほら今度の事件について聞いたわけでございますが、もしもそのような極刑というような法定刑がございますと、場合によりましては誘拐された被害幼児が帰らないというような危険性も、現在の場合よりもあるいは強いのではないが、かように考えます。従いまして単純な略取誘拐罪について、そういう刑はこれは考えものだと思います。なお、幼児に対する略取誘拐罪というのはわが国ではほとんどないのでございます。今までで、はないのでございます。略取誘拐罪で罰せられた事例は、ほとんど相当年齢に達した婦女を料理屋にだまして売り飛すと申しますか、そういうところに入れるというようなことがおもでございました。幼児につきましてはほとんど例がございませんので、従来の実績からどういう刑がいいかという点については、まだ私も確たる意見はございませんが、現存の刑の程度で単なる略取誘拐罪はいいのではなかろうかとかように考えております。
  56. 中山福藏

    中山福藏君 私もう一言つけ加えて言わしていただきたいと思います。こういう刑は犯罪が起らないからこういうものは必要じゃなかろうというようなことは、世界の情勢を御存じない、知っておって知らないということになる、そういうことをおっしゃると。今日二十八、九時間でスエーデンのストックホルムへ行けるという時代に、連鎖反応式にすべての犯罪というものは伝染するのだということを私どもは頭に置かなければならぬ、ことに各国から映画というものが入って、映画を見ならって、日本の青少年あるいはおとながどういう犯罪行為をやるかということは、これは新しい手口が必ず生れてくるということを私どもは察知して、これに対する予防線を張るということは、法律家の仕事じゃないかと私はこう見ておる。昔のように三年もかからなければスエーデンに行けないという時代だったら、あなたの御議論は通用する。そうして向うさんの文化組織とか映画、演劇というものを入れることのできない世の中だったら、あなたのおっしゃることは、それは筋道が立つかもわからんと思う。しかし今日の世界の情勢から、あなたのようなあんなことは、私ども実際的に法律を取り扱っている者としては、これは承知ができぬとこう考える、どうでしょうか、そういうことを今お考えになっているのですか、あなた方は、これを承わっておきたい。そういうのんきなことをお考えになっておったら、この刑法の改正というものはまだ四、五年かかりますよ。どうですか、そのへんの私はあなた方の決心と見識を伺っておきたい。
  57. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) 中山委員のおっしゃること、まことにごもっともでございます。その点十分私たちも反省いたしまして研究を続けてゆきたいと思います。
  58. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 私からちょっと一言お尋ねしたいと思います。法制審議会ですか、そこでてやっておられる改正刑法の仮案ですね。これを見ておりますと、幼児誘拐関係が非常に罪が重くなる、これは罪を重くしなければならないのだという一つのお考えがあり、理由があってやったと思います。それでこれをどういう理由で重くしなければならぬかというその根本的な理由をお聞かせ願いたいのが第一点、第二点としてお伺いしたい点は、刑法全体の罪というものが全体として全部総体的に引き上げられるものかどうか。そういう場合にたとえば物に対するいわゆる財産に対する刑を重くして、人権関係、人命関係に対しては刑が軽過ぎるから、一つ人権関係的なものを引き上げようじゃないかというような御意見下であったと承わっておりますが、そのことに関してお答え願いたいのが第二点、第三点としてアメリカのリンドバーグ大佐の子供が誘拐されて、たしかアメリカはこれに対して死刑にしたと私は思う。誘拐されてから改正にして死刑にしたと思う。以後アメリカにおいてこういう極刑をやられたために、誘拐事件というようなものも非常に減ってきたのかどうか。アメリカの話でありますからあるいはそういう資料等がおありにならないかと思いますが、そしそういうようなことについて御調査になっておったら、あわせて一つ御答弁をお願いしたいといます。
  59. 江里口清雄

    説明員江里口清雄君) ただいまのお尋ねの仮案の点でございますが、仮案は昭和十五年に発表されたものでございます。将来刑法の改正がなされれば、この方向に基いてなされるのが望ましいということで発表されたものでございます。大体におきまして刑は身体、生命に関する点では一般に重くなっておるということはいえると思います。その意味におきまして身体、生命に対する犯罪について国家の倫理的な考えが重く見るということから、さように相なったものというふうに思うのであります。  リンドバーグの愛児の誘拐事件、あれは単なる誘拐のみならず殺人も含んでおりまして、そのためもあって死刑という刑がなされたのじゃないかと思います。その後におきまして略取誘拐の独立法が成立したようでございますが、その後におきましてあまり犯罪が減ったかどうかという点につきましては、まだ私の方でその事例を十分研究いたしておりませんので、その点はお答えいたすことができないのを遺憾といたします。
  60. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 本案提案者でおられます中山委員の教えを請いたいと思うのでありますが、非常に多い例ではないかと思われますけれども、何かの事情で幼児の実際の親がその幼児を離れた状態にあって、そうして離れた状態を取り戻したいというふうに考えて実の親が実の子を誘拐した場合などは、諸外国の例を見ますと、特にその情状が酌量されて刑罰が軽くなっておりますが、本案においてはそれらの点はどのようなふうにお考えになっておりますか。
  61. 中山福藏

    中山福藏君 羽仁委員のおっしゃることは、アメリカなんかの事例に、今の法律にそれが規定されてあるわけですね。その場合そういうことが日本に起ることがあったときにはどう処理するか、こういう御質問だと思うわけであります。この私の提案は、これをごらん下さいますと第二百二十四条から二百二十七条になっておりますその内容は少しも変っていないわけです。そうして刑だけが少し上の方に上昇してきた、これだけの関係になっているわけなんです。たとえば親の場合とか何とかということは結果から考えますと、やはりこの二百二十四条から二百二十七条までの犯罪を起きたときに、親という立場に立った人間がそういうことをした場合においては、これはこの四つの条項適用することがままあり得ると思います。しかしそういうときには、やはりこの情状酌量という法律規定がそこに適用されて、判決の上に現われてくるのではないかと、実はかように考えております。
  62. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ただいまの御説明でよくわかりましたが、改正せられました結果、この最低限を引き上げる場合におきましては、その情状酌量によりましても適用される最低限がいささか重きに失するということはないかどうか。
  63. 中山福藏

    中山福藏君 これは私よりも世界知識に明るい羽仁委員のことでございますから、私より以上によく御存じだと思いますが、お手元にあります各国の法律の抜萃をつけてございますから、それをごらん下さいますと、日本法律よりも全部重くなっております。それでこういうことから考えましても、七才以下のがんぜない子供、こういう者は抵抗力もない、またどちらに行くかという判断力もない立場にありますから、このくらいの刑をもって臨むということは、これはやはりこういう子供を保護するのに最も現在のところではいいのじゃないか、臨時的な措置としてこう考えております。
  64. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それじゃ法務省の方に伺いますが、現行刑法の幼児などをかどわかした者があったときの罪について、現の量刑の規定の根拠はどんな点にあって現在の量刑がなされているか御説明を願いたい。
  65. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) ただいまお尋ねの点についてお答え申し上げます。刑法は単純誘拐罪につきましては二百二十四条で法定刑は三月以上五年以下となっております。それから営利、わいせつまたは結婚の目的をもって略取または誘拐した者は二百二十五条で一年以上十年以下の懲役ということになっております。裁判の実際はお手元に差し上げました略取誘拐等第一審科刑表、これについてごらん願いたいと思いますが、裁判所は諸般の情を考慮いたしましてこの法定刑の範囲内で考慮する。先ほど江里口局長がおっしゃいましたように、営利誘拐の場合は格別にしまして、単純誘拐で、しかも身のしろ金を要求する考えで、誘拐したというような場合には二百二十四条と刑法の恐喝罪二百四十九条とその併合罪の関係にありまして、刑の重い恐喝罪の法定刑の最高刑の一倍半ということで処断いたしますから、結局三月以上十五年までの範囲内で実際の刑を考えるわけでございます。たとえば昭和二十七年におきまする裁判の実際、略取誘拐罪につきましては一年以上の判決のありましたものが三件、一年未満が九件となっております。営利誘拐におきましては三年以上のものが七件、それから一年以上三年未満のものが九十一件、一年未満が八件、こういうふうになっておりまして、ほかの量刑の実際と比べて入まして、むしろ執行猶予その他の点から考え合せますと、ほかの事犯よりもこの種事犯は大体重く処罰さてれているのじゃないか、こういうふうに考えられます。
  66. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 現行刑法の量刑の理論上の基礎はどういうふうになっているのか、これは法制局見解をお伺いしたい。
  67. 野木新一

    政府委員野木新一君) 現行刑法を裁判の際適用するときの裁判の量刑の方でしょうか、それとも現行法の立て力における刑の高低の方でしょうか。
  68. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 立て方の方の……
  69. 野木新一

    政府委員野木新一君) 現行刑法は、御承知のように、明治のころできた法典でありまして、非常に慎重審議の末制定されたものであります。従いまして、刑なども公益的の犯罪、あるいは普通の財盗犯罪などにおきまして、この立て力はこの立て方として一つのまとまったものになっておるものと思います。もちろん、この体系に対して、これは貯産的、個人的犯罪の刑を重くして、ほかの方が軽い点があるじゃないかというような非難もあり、ことに戦時中などはそういう点が非常に非難があった。非難というか、批判があったことは承知しております。しかしながら、これはこれとして、やはり、一つの憲法上保障された各自の人権、財産権等を尊重する建前からできておって、これはこれとして一つのまとまった体系をなしておるものと存じておる次第でございます。
  70. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 もし現在議題になっております改正法律案のように改正した場合には、刑法の全体の体系の上にいろいろな影響が避けられないのじゃないかと思われますが、そういう点について、法制局及び法務省の見解を伺いたいと思います。
  71. 野木新一

    政府委員野木新一君) 刑事法の専門のことにつきましては、刑事法の専門の方を担当しておられる法務省の方の御意見に一応おまかせしまして、大体もっと広い一般法律家としての立場から考えてみますと、この改正案のような刑法を作ったからといって、これは絶対に不可能と、あるいは刑法の根本的体系を全然はがしてしまうほど強く言えるかどうかそこまで強く言わなくてもいいのじゃないかとも思いますが、しかしながら、また翻って率直に私の感じを申し上げますと、現在の刑法のこの規定で、裁判所は適当に量刑していったならば、まかなえるのではないかというような気持が、刑法の専門家でありませんから、多少その点はあれですが、一般法律家の立場から申しますと、どうもこういうような気がいたされるわけであります。
  72. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) ただいま羽仁先生からお尋ねの点、お答え申し上げます、もし、この法案通りに刑法の一部が、この法案が成立いたしますというと、刑法全体に特に略取誘拐に関する条文にはかなりの手を加えなければならない点が出て参るわけでざいます。と申しますのは、たとえば、七歳未満の者につきましての略取、身のしろ金を目的とする略取誘拐罪につきまして三年以上十五年と、こういうことになりますと、七歳をこえる者、それから未成年ですから二十一歳までの者につきましては、依然として一年から十年、小さい者には重いけれども、年をとった者には軽いという問題が出て参ります。それから第二項の考え方、これは中山先生もおっしゃいましたように、刑法二百二十五条の営利誘拐罪の身のしろ命を要求する場合には、これは二百二十九条に含まれるか含まれないかということは、現在学者間にも争いがありますし、また判例も確定しておらないところでございます。それからこの法案の第二項に規定しておりますように、「刑法第二百二十五条の罪で営利の目的をもってするものを犯した者とみなす。」ということになりますと、今度はこれを逆にしまして、刑法の方では二百二十五条の場合はどういうふうにするか。みなす規定はないから、これを逆に刑法の関係では、それは被誘拐者うを売ったり、あるいはそれを対象にして金をもうけるということだけが対象になって、それ以外のもの、親をおどかして金を取るような者はこれに含まれないものと解すベきかというふうな解釈論も出て参りまして、かえって裁判の運用の面から申しまして、混乱をきたすおそれはないかと、こういうふうに考えられます、そういたしますと、やはり、この点は刑法の全般から観察すべき事項であって、特別法を直ちに設ける必要があるかどうかはむしろ疑問がある。やはり現行法の法定刑の範囲内におきまして、先ほども申し上げましたように、各種の条文を総合活用することによって十分その目的は達せられるのではないか、こういうふうに考えられますので、運用の面と、それから解釈の面、この二つを駆使することによって、特に新たな立法は必要としない、こういうふうに考えられるのであります。
  73. 中山福藏

    中山福藏君 牽連してお尋ねします。これはもう、異な話を私は承わるのです。あなたはお若いから、もう少し私は頭がよく働くと考えておった。大体二十才になった人間を保護するのと、意思能力のない孫の、七、八才の子供を保護するのと、どちらが手がかかるか。おとなにたった者は保護が要らない。よちよち歩く子供にこそ私は一つのうば車を与え、また父親がその揺籃を横から押すということが、これが必要なんだ。そういうお考えを持っておられるから、私は実におかしい考え方を抱くのですよ。おとなと子供とその適用する法律が別々になるからそれはいかんと、こうおっしゃるが、これは女と男でも、これは婦人に対する法律、男に対する法律というものは、おのおの親族法なんかでは別々になっている法律がたくさんあるのです。これはおとなと子供と一緒に法律を同一のものを適用していこうという考え方は私は異論であると言えるのです。これが一つ。  それから、特別にこれだけを拾い上げて改正するというのはどんなものかという御意見でありますが、それならば臨時措置法というものは要らんわけです。民事訴訟法においても、刑事訴訟法においても、一般的に改正ができない場合には、最も必要な分に対しては、臨時的に措置法をおこしらえになる。元来あなたの御議論からいけば、民事訴訟法も刑事訴訟法も一緒くたに、これは改正するときまで待った方が適当ではないかというような議論になってくる。それで私は、そういうことを、運用の面もいろいろあるという議論もありますけれども、これは私は論理的にこれを肯定することはできないのですが、そういう点については、やはりそういう議論を押していかれますか。
  74. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) お答え申し上げます。まず第一点の未成年者と成年者を区別することに関する御非難の点であります。これは中山先生も御承知通りに、略取誘拐罪の保護法益がどこにあるかということは、学者間にも非常に議論のあるところであります。すなわち未成年者の自由を保護することを目的とするものであるというのが第一点であります。第二点は、保護者もしくは監督者の権限を侵害するということがその保護法益であるということが第二説であります。そのいずれをとるかということは、ほとんど学者間にいまだ定説がないと、こういうことにも考えられまするので、中山先生おっしゃったように、年のいっている者はそれほど保護する必要がない。年端のいかない者こそ保護すべきだというお考えも、確かに成立すると思います。しかし先ほど申し上げました被拐取者の自由を保護する、その人権を保護するという面から考えてみますと、それを特に区別しなければならないという積極的な理由も見出し得ないのではないか、こう君えられるのでございます。  それから第二の点の臨時措置法をそれでは必要としないではないか、この御意見でございますが、これはやはり事案によって、それぞれ具体的に決すべきものでありまして、必ずしも臨時措置法などは必要でないというふうに私も申し上げておるわけではございません。やはり必要なるものは、どうしても必要があれば、これは臨時措置法によるべきであると思いますが、先ほど来申し上げましたように、この種事案につきましては現行刑法の法定刑と、それから運用の実際の両面から考え合せまして、特に特別法を設けなければその措置に不自由をきたす、人権の保護が全きを得ないという心配は今のところないのではないか、こういうふうに考えられるのでございます。先ほど赤松先生もおっしゃったように、もし今度の事案で法定刑が死刑、無期というふうなものでありますれば、一たび本人を略取もしくは誘拐いたしますると、そこで犯罪は既遂状態になりますので、かりに返したところで罪が消えるわけのものではないということになれば、おそらく、無事には返さないのではないかというふうなことが考えられるのでございます。それよりも法定刑は上は重くありましても下にやはり軽くなっていれば、運用の実際におきまして、まあそれほどのおとがめもなくなって用が済むかもしれないとこう思いまして、本人は無事に戻すということも考えられますので、刑を重くすることばかりが、必ずしも最善の方法とは考えられないのでございます。やはり法定係刑と運用の面の両方から考えるのが一番安全ではないか、こういうように考えておる次第でございます。
  75. 中山福藏

    中山福藏君 私は討論になりますから、これ以上は御質問申し上げませんが、あなたのおっしゃることことは、事案によっては臨時措置的な法律が必要だ。事案によるから、私は臨時措置法として出しておる。これはあなたの見識と私の見識とは、認識の相違であるといえばそれまでで、その判定は皆さんにおまかせするわけですが、事案によれば、現在私は目の前に見たのです。だからこういう事案に対しては、日本法律が欠けでおるから臨時的な措置を講じなければならぬということは、あなたのいわゆる事案に対する認識と私の認識はそう変らんと思うのです。  それから自由云々ということは、子供の自由を保護するためだとおっしゃるけれども、自由に手足を広げ得るところのおとなというものは、これは大体自分の常識によってそのおとなは行動するわけでございます。しかし子供というものはこれは相当に保護してやらなければ、その自由というものは守り得ないと思う。私これ以上は申し上げませんが、どうか一応お帰りになったら、十分考えていただきたいと思うのです。
  76. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 先ほどの質問の続きですが、刑法の罪を重くするということは、これはなかなか重大な問題だと思うのです。文明の進歩に伴って刑法の罪が軽くなっていくということが、われわれの望むところであって、刑法の罪を重くするということは、みずからわれわれ自身が現在の社会秩序を維持する能力が減退しているということを告白することにほかならない、特にこの場合問題になりますのは、刑法の中のある罪の刑を重くすることによって、やはりその類似の罪の刑を重くしなければならないという場合が起るのじゃないか、ただいま議題になっております改正法律案によって、これらの罪の刑罰が重くなった場合に、類似の犯罪について、やはり刑罰を重くしなければ、均衡を失する場合が生じてくるのじゃないかと思われますが、それらの点については法務省ではどういうふうにお考えになっておりますか。御意見を伺いたいと思います。
  77. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) ただいま御指摘の点は、まことにごもっともと考えます。と申しますのは、現行刑法の二百十七条に遺棄の罪、親などが捨てる場合でございますが、これが「老幼、不具又ハ疾病ニ為メ扶助ヲ要ス可キ者ヲ遺棄シタル者ハ一年以下ノ懲役二処ス」さらに二百十八条に「老者、幼者、不具者又ハ病者ヲ保護ス可キ責任アル者之ヲ遺棄シ又ハ其生存二必要ナル保護ヲ為ササルトキハ三月以上五年以下ノ懲役二処ス」こういうふうに規定されております。二百十七条は保護すべき責任のない者、たとへば行旅病者が自宅によろめいて入ってきたという場合に、これを突き放したような場合には、一年以下の懲役、それから親、兄弟など当然めんどうをみなければならないものが、そのめんどうをみないで突き離したという場合には、三月以上五年以下とこう規定されております。先ほどのこの法案に盛られております幼児誘拐などの刑と比べまして、これはあまりに軽過ぎるのじゃないか、当然その辺の改正問題も出てくると思います。そのほかいろいろこれは刑法全般についての問題が出て参るわけでございます。申し上げるまでもなく刑法が、先ほど刑事局長もおっしゃいましたように、物に対しては重く、人に対しては軽いという傾向があるわけでございますが、それらすべてをやはりこれはなるべく近いうちに再検討しなければならない、その際にいたしたい、こういうふうに考えるわけでございます。
  78. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今の御説明の終りで述べられました刑法の根本主義についての改正の必要、すなわち財産に対しては重く、人に対しては軽いという批判があるとすれば、それを是正しなければならないというお考えがあるということを述べておられますが、それについての現在政府はある程度までの成案を、お考えをお持ちなのか、あるいはそれぞれの機関においてそれらのことを研究しておられるとすれば、この研究の結果が一応まとまるという見込みはどうなのか、それらの点について伺いたいと思います。
  79. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) 先ほど来問題になっております刑法板案で、申し上げますというと、窃盗の罪が七年以下となっております、現行法の二百三十五条では窃盗罪が十年以下となっておりますのに比べまして、法定刑の引き下げが行われております。そのかわり今度は、現行法の強姦罪は二年以上の有期懲役、強盗罪は五年以上の有期懲役で、強姦の方が軽く、強盗が重いという、その辺の改正もやはり仮案では行われておるわけでございます。やはり仮案をできるだけ生かし、あるいはこれを事務的には個々のものについて検討を続けておりますけれども、いつごろまでにどういうふうな形でできるかということは、今私としてはちょっと申し上げられないという事情にございます。
  80. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 これは政務次官に伺いたいのですが、ただいまお聞きのようなことでありますが、この刑法改正については今議題になっております問題以外にも、いろいろの問題があるのです。仮案がなかなかその実際の具体的な問題にならないために、ただいまのような改正案の必要を痛感せられる向きもあることだと察せられるのですが、政府はその刑法の根本的な改正ということの必要性をどの程度にお考えになっているのか。そしてまたそれについての時期の上でのお見込みというものをどういうふうにお考えになっているのか御説明を願いたいと思います。
  81. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) 羽仁委員にお答え申し上げますが、私も御承知通り就任日も浅く、まだこの方面に対する経験が乏しいのでございまして、十分なお答えをすることが今日の場合はできかねるのを、はなはだ申しわけないと存じますが、ただ省内において次官や局長の諸君等から非公式ないろいろな談話の中に承わっておることを私が総合いたしますると、仮案は十五年前にできたものであり、その後相当の年月がたっておる。しかし全般の刑法改正というものは数ヵ年間を要する大事業であって、非常な困難ではあるけれども、戦後のこの大きな社会の変化その他に即応して、てきるだけ早い機会に全面的の改正をしなければならぬのであるという意見は数回承わっております。なおまた、今日といえどもよく刑事局長その他課長級の諸君がこの種の研究会と申しますか調査会等に、たびたび出席をする会合を打っておりますことも承知いたしておるところでございまして、おそらく法務省としては鋭意全面的改正をすみやかならしめんとするために努力を目下続けておる最中であると私は承知いたしております。
  82. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 これはちょっと関連して伺っておきたいのですが、本問題とは直接関連がないのですが、この刑法ではなくしてその他の法律でも改正が急がれているものが幾つかあると思う。その中で先般本委員会で私は、現行監獄法というものが、現在の主権在民憲法以前の法律であって、また裁判あるいは被告などについての考え方についても、もとの古い時代の考え方に基いて作られているので、人は有罪が決定するまでは無罪であるというような、現在の新しい考え方とは矛盾しているものが多々ある。なかんずくいわゆる拘置所とそれから刑務所との本質的な差別というものが生かされていないという点からも、監獄法の改正はきわめて急を要するものだというふうに考えております(「その通り」と呼ぶ者あり)私の、意見に対して法務担当国務大臣当局が改正を急がれているという御答弁がございましたが、これは一体いつごろ、間もなく国会提案せられることだと、またその責任を持っておられるように思いますが、その点についてもお見通しがあるならば、この際お答えをいただいておいた方がよろしいじゃないかと思います。
  83. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) ただいま御指摘になりました監獄法の問題については、大臣委員会の席上ですみやかに提出したいという意思を表明しておりますし、私が知る限りにおきましては、日にちは忘れましたが、最近刑務所長の会同を行いまして、私もその席に出席をいたしておりましたが、全国の刑務所長に向いまして大臣の訓示の中に、監獄法の改正をやるということが強調をせられ、なおまた事務次官の説示の中にも早急に改正をしたいから、各刑務所長においても実地の経験を基として意見を出してもらいたいというような説示があったことは確かに記憶いたしております。なおまたこれは内輪話でございますが、御参考になると思いますが、大臣と私が大臣室で話をしておりましたときにも、大臣は、政務次官、監獄法の改正だけは自分の大臣の在任中やりたいと思っておる。自分も急がしておるから、君も一つ十分事務当局に急いで成案を得るように督励をしてもらいたい。大臣は非常に御熱心であるように承知いたしておりまして、私ども大臣意思に沿い、また羽仁委員が今御指摘になりました通り、全くこれは監獄法のごときはあまりにも時代とかけ離れているような感を深くいたしますので、すみやかなる改正を実現されなければならぬと熱願をいたしておる次第でございます。
  84. 吉田法晴

    吉田法晴君 監獄法の問題について羽仁委員から御質問がございまして、次官から改正の意思法務大臣初め、次官、法務省全体にあるということを伺いまして、大へん私どももうれしく思うのであります。先般当委員会で取り上げられました刑務所内における殺人事件と申しますか、こういうものから見ましても、監獄法の改正の急務なることを証明しておると思うのでありますが、そこでお尋ねをいたしたいことは、改正をする、こういう方針はわかりましたが、改正をするについては、技術上の手続が必要であろうと思うのでございますが、どういう順序とそれから態勢と申しますか、改正のための委員会と申しますか、案の取りまとめがなければならぬだろうと思うのですが、その点についてどういう工合に考えられておられますか、次官として大臣から御要望があって、これから改正案をお作りになろうというのでありますが、その改正の具体的な御構想を一つ承わりたいと思います。
  85. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) 全体の構想については私も先ほど羽仁先生に申し上げた通り、私自身もまだ知識が不十分でございまして、ここで責任あるお答えを申し上げることができないのを遺憾と存じますが、先ほど来申します通り大臣初め省内あげて監獄法の改正には非常な熱意を傾けて、早急な実現を目途いたしておりまして、すでに昨年十一月から幹事会を開いて、最近においてはすでに一応の要綱がごく近い機会に脱稿の見込みというところまでこぎてつけておるわけでございまして、先ほど来申し上げます通り大臣も自分の在任中にこれはぜひとも改正をしたいという意気込みを持っておられまするし、また省内もあげてその意思に沿って着々準備をいたしております。ほとんど専門でこれにかかり切ってやっておる方もあるのでございまして、幹事会としての意見も近く脱稿いたしますれば、正式に適当な手続きがとられることと存ずる次第でございます。
  86. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 ただいま議題になっております改正法律案などが成立をいたします機会にも、やはり刑罰、あるいはその人が有罪なりやいなやを決定する手続などについて進歩的な改正が同時に行われることが必要で、先ほどどなたかの御説明にもありましたように、単に刑罰を重くすることによってのみ犯罪を防止することができないので、その刑罰の適用、あるいは有罪なりやいなやを決定する手続などについての改良というものと相伴って、初めて所期の効果を期待することができると思いますので、特に今関連しまして監獄法の改正を急がれることを強く要望するのであります。先ほどの御説明の内容を別の言葉で想像しますと、少くとも次の国会くらいには提案せられるという考えであろうとそう解釈してよろしゅうございますか、いかがですか。大臣の在任中に、もちろん現在の法務担当国務相の任期が長いということは確信いたしますけれども、しかしそういうふうにおっしゃいますこと、またすでに新聞紙にももう半年くらい前に一応新聞記者に向って構想を発表しておられます。そういう関係からもただいま申し上げたように、おそらく次の国会ぐらいには必ず御提案に相なることというふうに了解してよろしゅうございましょうか。
  87. 小泉純也

    政府委員小泉純也君) ただいまの羽仁委員の刑罰の軽重に関する問題、その刑を決定する手続に関する御高見については、私も全くその感を同じくするものでございまして、本日の御意見大臣にも関係事務当局にも十分に伝達をいたしたいと存じます。なおまた非常に急いで監獄法の改正をば断行したいという熱意に溢れていることに対しまして、次の国会には提出するということに解釈してよろしいかという御質問でございますが、私は本日ここに責任をもって当局の言明とすることには、突然の御質問でございますので、どうかと思いまするが、私自身は大臣事務当局のいろいろな話を承わっておりまして、私は来国会提出されるものであると考えておるような次第でございます。
  88. 中山福藏

    中山福藏君 ちょっとついでに私も聞いておきますが、せんだって堺の刑務所でふとん蒸しそれからエビ責めというので殺されましたね。だからこの看守の行動に関する規定というものは、監獄法の中にはこれは織り込まれなければならんと実は考えておるのですが、その行動の範囲を制限したければ、結局その最後的な場面が死んだとか生きたとかいう実際の場面があるのでなければ、これはそのものは泣き寝入りなんで、葬り去られるということになるのですが、行動の制限までも織り込んで規定されるというただいま御趣旨の監獄法の改正が進んでおるのかどうか、それを承わっておきたいとかように考えるわけであります。
  89. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) ただいまのお尋ねの点について私が、先ほど政務次官から幹事会の一員としてタッチいたしました限度について申し上げたいと思います、看官が囚人を取り扱うにつきまして、こういうふうな心がまえでなければならないという点は、強くその要綱の中にうたわれてございます。個々の行動を規定するにつきましては、いろいろこまかい点に触れますので、それらはすべて政令に譲りたい、こういうふうな構想のもとに作業を進めておるのでございます。大体そういう状態になっております。
  90. 中山福藏

    中山福藏君 この人の生命に関することは、政令に譲るというよりむしろ監獄の基本法に織り込むのがこれは至当なものじゃないかと実は考えられるのですが、それはやはり生命に関する事柄でも、なんでございますか、政令に織り込まれますか。それを一つ承わっておきたい。
  91. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) 私がただいま申し上げました点は、一般行刑の職務に従事する者としては、かくかくの心がまえでなければならないと、こういうふうな点を申し上げたのでございまして、事生命にかかわる、こうなって参りますと、これは当然法律事項になろうかと、こう考えております。
  92. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 先ほどの政務次官のお答えで満足するものでありますが、現行監獄法というものは、実際先ほども申し上げましたように、その人が有罪と決定するまでは無罪であるという観念とは全く矛盾している、あるいはそれらの点について認識の不足をそのまま現わしているのでありますから、現憲法に対しても、現在の監獄法のようなものは一日も存続すべきものではないと考えますので、どうか先ほど御説明下さいましたような御趣旨で、その提案を急がれたいということを重ねて要望して、私の質問を終ります。
  93. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 中山委員にお尋ねしますが、この七歳とここに規定してあるのです。法務局や何かの御説明によりますと、他国の例はたとえばニューヨークの方は十六歳とか、あるいはドイツは十八歳、フランスは十六歳というとになっていて、私は一つの反対法務当局の方の理由になっておると思います。先生が七歳と区切られた理由をお聞かせ願いたい。と申しますのは今申しましたようなこと、あるいは住友令嬢はたしか十二歳か十三歳だと思うのです。ですからその理由を一つお聞かせ願いたいと思うのです。あわせて法務当局に、資料をお出しになっておるのですが、もし、この資料に懲役何年というようなことの分類がございますが、これが七歳以下と七歳以上というものに、もし資料でこれがわかれば、あわせて一つ御説明願うと参考になると思います。
  94. 中山福藏

    中山福藏君 これはごもっともな御意見だと思います。それでこれは御承知通り私がお手元にお配り申し上げた外国立法例をごらん下さいますというと、ニューヨーク州の州刑法典では満十六歳未満ということに年齢がここにうたわれておる。フランスの方でも十六歳未満ということになっております。スペインが七歳未満ということにこれは取り扱っておる。それからインド刑法の方を見てみまするというと、十四歳未満の男子云々ということがありまするし、また同時に、ドイツの方では十八歳云々というようなこともここに出ておるようです。こういうふうに各国で年令の差はございますが、私は独立した日本人として、これは外国の立法例を参照するということは少しも差しつかえないことでありますけれども、独立した国民性を勘案し、並びに現在の社会風教上の事柄をすべてこう静かに検討してみて、現在の日本社会におけるところの児童の擁護にはどういうふうな年齢を基準にしてこの保護規定というものを作ったらいいかということを考えてみますと、これはやはりスペインの立法例にならった方が一番いいと、こういうことは私は落ちついてきた。それ以上の十八歳とか十六歳とか十七歳とかいう年齢になれば、相当分別もつくのです。たとえばよそのおっちゃんと申しますか、そういうものが押しかけてきても、おれはお前さんと一緒に行かんというふうに手を振ってつき放すことができると思う、しかし七歳以下の子供は私はそれができないと見ておるわけですね。そこでやはり私はスペイン流に一方に独立した国民として一個の見識を持って私はそこに基準を置くということが最も妥当だと、こういう信念のもとにこの七歳以下ということをうたった次第でございます。
  95. 高橋勝好

    説明員(高橋勝好君) ただいまお尋ねの点でございますが、先ほどお手元に差し上げました略取誘拐事件のほとんどが営利誘拐でございまして、営利誘拐は結局本人を売り飛ばし、そうしてそれによって利を得るということになっておりますので、七歳以下というふうなものはほとんどあり得ないのじゃないか、その具体的な問題につきまして、今ちょっと調べる方法はございません。なお、二、三判決の写しなどがありますものにつきましては、これを克明に探せば出て参ると思いますが、たとえば先ほど御指摘の住友令嬢の事件は、あれは十二歳と八カ月の婦人でして、もう一人の人がやはり十三歳の女子大の付属学校におった子供であります。そういうふうな判決がありますものはわかりますが、全般的にこれを調査してお答え申し上げるということは非常にむずかしいのじゃないかと思うのであります。
  96. 中山福藏

    中山福藏君 これは未成年者は現在のこの刑法の規定でいける。これはもう法務省がおつしゃる通りでございます。しかし私がここで一つ申し上げなければならんことは、私ども政府からいただいた法律案で満足なものは一つもない。これをほじくっていけば全部これは反対する。現在内閣からお出しになる法律案というものが一つもこれはなるほどという法律はないのです。しかし未完成なところに世の中の進歩というものははるか向うに見えてくる。だから一々われわれの出したものにけちをつけられるということは、あなた方の法律案というものに対して、私どもは忍びがたきを忍んでできるだけの協力をしたのです。議員立法だから、しかも私は完全に近いと考えておるのです。そういうところにわけのわからん私は理屈をつけられることは、はなはだ討論にわたるようですけれども、まことに不快千万きわまる事柄であると実は考えておるのですが、もう少し一つ御反省を促したいのです。私は政府案に対しては全部不安を持っております。幾らでも質問はできるのです、やろうと思うならば。そういうしかし未完成の世の中から少しでもよくなろうということに、私どもはあがいているのですから、それを一つくみ取っていただかなければ、これは問題にならん。
  97. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) ちょっと速記をとめて。    午後五時三十三分速記中止    ――――・――――    午後六時四分速記開始
  98. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 速記を起して下さい。  本案に対する質疑は本日はこの程度にとどめます。
  99. 吉田法晴

    吉田法晴君 炭鉱の不況と苦況は御承知通りで、数多くの炭鉱がつぶれ、賃金債権のほか多くの債権が何の保護もなく放置されて参っておりますが、従来の炭鉱に残っておりました前時代的な感覚が、最近の不況、苦況時代と関連して炭鉱地帯あるいは炭鉱市町村において暴力団の横行、暴力団の利用を頻発させて、はなはだしきに至っては権利擁護のための訴訟の提起を裁判所でもって暴力で撤回せしめんとするような事態を起したり、日本刀を振り回して人権の擁護が押えられる事態が頻発しておりますので、人権擁護と裁判検察行政の公正なる運営に常に関心を払ってこられた当委員会において、その著しい例として籾井炭鉱、小倉炭鉱に関連して起りました暴力事件について裁判検察行政の運営等に関する調査の一環として取り上げることを提案を申し上げ、皆さんの御賛成を得たいと思います。
  100. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) ただいま吉田委員より提案されました事件につきまして、この事件を本委員会として取り上げることに御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  101. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。つきましては適当な機会議題として調査することにいたします。   ―――――――――――――
  102. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 次に検察及び裁判運営等に関する調査のうち、売春対策に関する件を議題にいたします。本件について御質疑のおありの方は御発言を願います。
  103. 市川房枝

    ○市川房枝君 家庭局長にちょっとお伺いを申し上げたいのですが、売春業者つまり全国性病予防自治会という赤線業者の全国的の組織がございますことは局長よく御存じと思いますが、その会が売春等処罰法に反対することを目的として、女たちの実態調査あるいは特飲業の実態調査なるものをすることを決定をして、今調査に着手しておるわけでありますが、その調査は家庭局の事務官をしておられました村田氏が業者に働きかけて業者をくどいて承知させたものと実は聞いております。費用は業者から約五百万円を集めて、そして調査の主体は村田氏が中心となって、ほかに二、三名の学者の方々が協力されておるというわけでございます。  この問題に関連して実は二つお伺いしたいと思いますが、それはそういう一つの政治問題といいますか、法案を阻止するということをむしろ目的とするような調査を、最高裁の家庭局の事務官がそれを取り上げてやるということ自身どういうふうにお考えになりますか、公務員としてそういうことも差しつかえないということであるかもしれませんけれども、法的にはまあ差しつかえないとしても、公務員という立場から、そういう問題にタッチすることについのて家庭局長の御意見を一つ伺いたいと思います。  それからもう一つは、業者の費用において調査をする。そして目的が今申し上げましたような法案を阻止するという立場、そしてその調査についてはこれは先般の衆議院法務委員会において売春等処罰法案参考人の意見の開陳がありましたときに、業者の一番の中心人物であります、いわゆる理事長であります鈴木氏が出席をして、学者による調査が今行われておるから、その結果を国会議員の方々にも提供して御参考に願いたいと思っているということをはっきりと開陳されておりますが、そういう調査というものの信憑性といいますか、学者の名において行われるそういう調査というものが、非常に公正なものでしあり得るかどうかということについて、私どもは実は疑問に思うわけでありまするが、家庭局長はこの点どういうふうにお考えになっておるのでありましょうか。
  104. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) 市川委員の御質問につきまして、最高裁判所といたしましては、かような調査関係したことはございませんので詳しいことはわかりませんが、ただ市川房枝先生からこの問題につきましてお尋ねを受けたので、あわてて村田事務員に尋ねていろいろ聞き及んただことを申し上げてみたいと思います。お尋ねのような自治会があること、これはこの問題が国会において取り上げられてから知りましたのであります。またこの自治会が学者のグループに調査をさせたことも同様このたび聞き及びましたけれども、村田君は個人として、この調査にタッチしておるので、もちろん最高裁判所の事務員としてタッチしておるのでないということをきつく申しておりますし、私もかりに村田事務官が家庭局の一員として事務官としてかようなことにタッチしておるならば、私の命令か、あるいは課長の命令か、少くとも私の耳には入っていなければならないはずでございますが、それを私存じ上げないくらいであります。さような次第で村田事務官が個人としてこの調査に乗り出した、むしろ本人は東大の講師もしておりますので、学者の立場からこれに関係したということはうなずけるもの、こう考えております。この調査に金が五百万円出ているというようなことを市川委員から聞いたけれども、そういうような事実があるかどうかということを聞きましたが、本人はさような多額な金は出ていない、調査の実費を向うで支払ったにすぎないのだというようなことは言っておりました。その真偽のほどは私わかりませんが、たださように聞き及んだ。それを徹底的に調査することもいたしません、なお、この調査が売春等処罰法反対のための調査であるかどうかということについては、私といたしましてはどう判断していいか苦しむ次第であります。村田事務官の申すのには、全く学問的な見地からかようなことをいたしておるのだということを申しておりましたけれども、この前市川委員の仰せられたようにいやしくも金を出している以上、何らか利益がなければ金を出さないというようなことから考えますと、少くとも売春業者の方はやはりさような意図があったとも考えられるので、この点判断に苦しむような次第であります。ただ、公務員が売春等処罰に関する法案を阻止する業者の運動を助成するために公務員としてこれに寄与するということは、私はおもしろくないものだと存じます、そういう点はまことに私ども裁判所などの職員がさようなことを知りながら援助をし、また指導をするというようなことがあってはならないものと考えます。ことにこういう調査の費用が全部業者から出ておって、そうしてでき上った調査というものは、私ども個人的な見解かもわかりませんけれども、その正確さについては疑いの眼をもって見られても仕方がないのじゃないか、こういうふうに私は感じます、要するに私どもといたしましては公務員が公務員の資格として売春等処罰法阻止の業者の運動の一環としてこういうような調査をした、その調査に関しては少くともおもしろくないことだと考えております。
  105. 市川房枝

    ○市川房枝君 この調査の中心となっておられます方が学者、東大の講師といいますか、という資格でなさることは、これは御自由でありまして、私どもそれに対して何も申し上げることはないのですが、今局長もちょっとお話しになりましたよりに最高裁の人事中の任用課の事務官として御勤務になっておいでになっている方であります。そういう方がさっきも申しました通りに、この調査は売春等処罰法を粉砕するその基礎をこれによって作るのだというはっきりした目標、これは業者の機関紙にはっきり出ておりまするから、疑いの余地はないところでありますし、そうしてその会合には今申し上げた事務官は御出席になっておりまするから、それを御存じないはずはないと思います。そういう政治問題といいますか、それにそういう役割をおとりになっておるということは、私ははっきり申し上げていいのじゃないかと思いますが、さっき家庭局長は最初は関係がないのだというふうな御言葉で、おしまいにそう関係があるとすれば望ましくないようなお答えで、ちょっとどうもはっきり御意思が伺えないのでありますが、私はその事務官がはっきりとその役割をおとりになっていることは、これは明瞭なことであります、こう考えます、そうすれば局長の望ましくないといいますか、ということになるのだと思いますが、それに対しては、今局長は直接の上司ではいらっしやらないかもしれませんけれども、何かその事務官に対して適当な御注意をなさるとかいうようなことはなさいませんでしょうか、その点ちょっと……。
  106. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) 私に先ほど村田君が個人として関係しておったことは認めるわけであります。ただ、最高裁判所の職員として関係しておったということについては認めないと、まあ人の行動にも、個人的な行動とあるいは公務員的の行動と二つございますが、その個人的な行動にこの調査は属するものと私はかたく信じておるわけであります。そういう意味において関係がないということを申し上げた次第であります。そこで今の個人的の問題とし、あるいはまた学者としての立場から、公務員としての立場ではなく行なった、こう思うのでありますが、それにいたしましても私どもといたしましては、この村田君の行動については多少行き過ぎがあったという点で非常に遺憾に思っております。
  107. 市川房枝

    ○市川房枝君 今の局長は個人としてやった、公務員としてやったのじゃない、こうおっしゃるのですけれども、一体公務員のたとえば政治活動の禁止といいますか、そういうものはあれは個人として、やった場合にはそれは何も関係がないのですか。法律的なこまかいことは私はしろうとでわからないのですけれども、どうもちょっと今の個人と公務員との使いわけといいますか、どうもはっきりしないのですが。
  108. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) この調査が売春等処罰法を阻止する全く純然たる政治活動ということになりますと、やはり公務員としての立場を一応持っておりますから、これは好ましくないことだと私は思います。ただ村田君は調査々を全く学問的な見地でやった、そういうふうに申しておりますので、その点については私どももう一度調査の上お答えいたしたいと思います。
  109. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 関連して、あなたはそうおっしゃるのですが、業者はこの法案をつぶす材料として計画的におやりになったことは間違いない。選挙でたとえば公務員がだれだれ君を当選させんがためにそこに公務員が出ていって演説をする、ところがその場合にこれは個人として選挙運動を、当選させるように秘術とか知恵を授けただけで、あるいは意見を述べただけで、それはあくまで個人だ、こういうときはやはり公務員の政治活動に参加したのだといっておそらく選挙活動等でやった場合に制限を受けると思うのです。あなたに何か個人というものと公務員というものとがときと場合によっては使いわけが非常にできるようなことをおっしゃるのですが、あなたはそういう場合に本人が、私は学者としてやったのだと言えば、これは公務員ではなくなって東大の講師であるというように御解釈されておると思いますが、それは少しあなたは詭弁ではないかと思うのです。それに対してどういうふうに考えますか。
  110. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) その点非常にデリケートな問題でありますが、村田君の主張によりますと、個人として調査を受けた。しかもその調査が全く学問的なものだと、それは売春等処罰法に関する法案の成立を阻止するというような意図で自分は調査に携わったのじゃない、こういうふうにはっきり言うているのです。そうするとそれを政治活動というふうに考えるのはどうかと思う。売春業者の側からはまさしく政治的な意図でさような調査を依頼されたのかもしれませんが、村田君個人といたしましては、さような調査には協力することになっても、政治的な目的を持っていないとするならば、それは一向差しつかえないというふうに考える。しかしながらいろいろお伺いしてみますと、さように業者の新聞にもいろいろ載っている、それでまた阻止するということを目的としているということは村田事務官がはっきりわかっておったのだと、その政治活動の一環として調査をやるというようなことになりますと、これはやはり公務員としての行動としては違法もしくは不当なきらいがあると私は考えます。
  111. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) あなたはそうすると主観的に、本人個人がこれはそういう意思はなかったのだしという、そういう主観的なことを非常に尊重して、今現にいろいろなことをよくお聞きになっておって、村田個人でやったのだ、これはあくまでも公務員の政治活動ではない、こういうふうに今でもお考えになるのか、あるいは他のいろいろなことをお聞きになって客観的に本人は何と言おうと、これは少し行き過ぎた行為であると、こういうふうにお考えになっているのか、また目下調査中だとおっしゃるのか。私は調査中だと言うならば、この間衆議院であれだけ問題になっていながら、私は少しあなたの責任が何といいましょうか、職務怠慢と実は思うのですが、どうなんですか。
  112. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) その点につきましては、私どもの方におきましてこれは最高裁判所の職員としてやったのではないということをきつく主張しました。私それを確信しておりますので、そういうようなことを答弁したのでありまして、その行動が別の観点から政治活動になる、そしてその政治活動が公務員法に違反するというような問題につきましては、私そういうことを観念をはっきりさせて調査いたしておりませんので、そこで私はここで明確なお答えができないと申し上げたわけであります。
  113. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 最高裁じゃ一体そういう問題が起きたときにだれが調査するのだ。その問題についはてだれが適当な措置といいますか、そういうふうなことはだれが一体するのか。
  114. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) この問題につきましては、何分にも現在村田君が人事局の所管でございますので、人事局の方で村田君の問題については調査をすることを、私自身も人事局長に伝えておりますし、また、さような調査が行われておると思っております。
  115. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 人事局長でないとわからんですか。
  116. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) まあ何分にも私の方の局員じゃございませんので、あまり他の局員の問題をどうこうするのはと思いまして、実はこの問題について深く私の方としては調査していないわけです。
  117. 赤松常子

    ○赤松常子君 私先ほどから局長のお言葉を聞けば聞くほどとても悲しく残念に思う次第でございます。この問題が国会で取り上げられましたのはこの十九日でございましたか、衆議院の最後の法務委員会でございまして、大へん一同がく然とした次第でございます。この売春法を阻止する魔の手がどういうところに入り込んでいるのか、ほんとうに予想もつかないようなところに魔の手が延びていた。第一には衆議院の法務専門員室にも理事長の娘さんが入っていた、これもまあびっくりしたことでした。その次に私どもは最高裁は少くとも公平であり中正であり、今社会によりどころのない、悪が悪で通らない、白を黒と言いくるめるような、まことにこんとんとした今の情勢の中で最高裁だけは純粋であろう、あそこだけは正しいことは正しいと認めてもらえるところであろうというその国民の期待を持っている最高裁の中にまで、こういうまぎらわしい美名のもとに業者を利するような運動が行われていたということは、まことに私どもはがく然としたことでございます。それが十九日に公然と国会で取り上げられたのでございます。その後この最高裁の何と申しましょうか、権威にかかわると思うようなことに対しまして、このくもりをぬぐおうとか、あるいは真相をはっきりさせようとかいう努力をなされていなかったということを私はまことに今聞きまして、委員長の言われたように一体どういう神経を持っておいでになるのであろうかと憤慨する次第でございますが、課が違うとは言え、この問題に対しましてはっきりと真相調査をしようとなさる御意思は今に持っておいでにならないのでございましょうか、最高裁のくもりをぬぐうような努力をなさろうとなさらないのでございましょうか。
  118. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) 赤松委員のお尋ねについて村田宏雄君がかような調査をしたことによりまして、最高裁の裁判そういうものにまでお疑いを起したという点については、私ども非常に責任を感じますが、しかしながら最高裁判所立場あるいは裁判というものが非常に公正であるという、またこういうような調査関係があってそれによって最為裁判所裁判所その他の行動についてお疑いを持たれるということは、私どもといたしましては非常に残念に思う次第でございます。ぜひそういうような誤解は解いていただきたいのであります。かるがゆえに私といたしましても責任を感じまして、村田君の今度の問題につきまして最高裁の仕事として村田君がかような調査をしたということになっては、これは最高裁判所の名誉のために遺憾しだくだと思いまして私は非常にきつく糾明したのであります。その結果私はもちろんこの調査については存じませんが、まあいろいろな角度から見て最高裁判所の仕事として、家庭局の仕事としてこの調査をやったものではないということがわかったので、まあ非常に安堵したような次第であります。さようなことで最高裁判所の名誉、また権威のためにもと思いまして、この最高裁の仕事でないという点に重点を置いていろいろ調査をいたしました。本人の追求というのもそういうところに主力を注いだので、先ほど申し上げたような詰論に達したような次第で、 なお先ほど申しましたように、現在人事局の方でこの問題については調査をいたしておりますので、いましばらくお待ちを願いたいと思うのです。私個人といたしましてはいろいろな角度からこの問題について調査しておりますけれども、結局やはり人事局で調査いたしますことがすべてにおいて公平だと思いますので、私ども人事局にまかしておるような次第でございます。
  119. 赤松常子

    ○赤松常子君 私時間もないので簡潔にお尋ねいたしますが、村田さんばかりでございませんですが、興信新聞業者の新聞の記事によりますと、一月二十二日に全国代表者会談を東京で開いております。それの出席者名簿の中に第二課長河野さんもちゃんと出席しておられます。第二課長河野力と書いてございますのですが、これはどういう資格で御出席になったでしょうか。
  120. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) この問題は実はこの調査について市川委員から個人的と申しますか、初め電話でお尋ねがあり、それから市川先生とその後お目にかかてっ話した際に、その新聞を見せられて初めて河野課長がそこの会合に出席しておることを聞いて驚いたわけです。そこで私さっそく河野課長に尋ねました。ところが村田君の勧めもあったかもわからんが、そのころはよく記憶はないけれども、学者のグループ、これは学校が同期だったりそれから司法官試補の時代に同期だったということで、まあ行ってみようということでふらふら行ったと、それは非常に遺憾に思うと、この河野課長は非常にふだん慎重な人なので、大体そういう所に行くときには私どもにも話があるのでありますが、その際はそういうことがなかった、まあ問題が売春調査がございますが、その中に扶養の問題があるので非常に興味が深いというようなことで行ったと、こう申しております。この点につきましてはこれをいざなった先生からも聞きましたら、その通りだということで、私も非常に遺憾だと思いましたけれども、まあそれを了承したような次第であります。
  121. 赤松常子

    ○赤松常子君 ふらふらと行かれたということ、全く私驚くことが次々と起るので、私はほんとうにびっくりするのでございますが、いやしくも業者の全国大会に何が協議され何が目的とされておるかということも、大体常識があればわかるのですが、それが家庭局第一課長という名刺を持ってふらふらいらっしゃるということは、まことに不謹慎きわまると思うのでございます。河野課長は今も現職にいらっしゃるのでございましょうか。その後、一月二十二日のことでございますが、あなたがお知りになったのは七月十九日までお知りにならなかったのでございましょうか、その間河野さんも業者を利するような行動をなすったことなどでございましょうか。
  122. 宇田川潤四郎

    説明員宇田川潤四郎君) 河野課長はこの会合に出席したきりでございまして、また河野課長は調査が業者から金が出たなどと全く存じないで、売春の調査というようなことについて非常に興味をもったので、また業者から会合に出てくれるかどうかというようなことで行ったそうです。ところが行ってたら、まるでお客さん扱いにされたというのでびっくりしたようなことで、その後先生、この調査を全く存じないわけで、どういうふうに進行しているかも、この間私聞きましたら存じないのだというふうに申しておるくらいでございますから、その後河野課長が、これ以後この調査関係しているということはございません。また河野課長は、現在私のところにおられますので、私よく存じておりますが、全くこの調査関係している様子はございません。なおその出席した日は土曜だそうでありますから、退庁後だそうでございまして、私そのような関係でなおさら本人としては知らなかったのじゃないかと思います。
  123. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) ちょっと速記をとめて下さい。   〔速記中止〕
  124. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 速記を起して下さい。
  125. 赤松常子

    ○赤松常子君 この事件につきましては、適当な時期に適当な関係者を呼んでもっと糾明いたしたいと存じます。さようなお取り計らい願います。
  126. 成瀬幡治

    委員長成瀬幡治君) 本日はこれにて散会いたします。    午後六時五十九分散会    ――――・――――