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羽仁五郎君 それでは
最後に二、三の例について伺いたいのです。先ほど実害のある場合を除いては、
収容を継続することが適当でない場合については、人情を踏みにじるようなことはない、
釈放その他の寛大の措置をとられているという御
説明があったのですが、遺憾ながら実例において見ますと、二、三の実例でいかにもこれは私どもが伺ったところでは少しむごいのではないかと思える場合がありますので、二つ、三つの場合を特に上げさせていただきたいのです。
第一は東京都足立区上沼田町八百三十二番地に移住する申祖昊、二十五歳の方がたまたま登録証を紛失し、持っていなかったために、登録法違反者として一九五三年二月以来
大村収容所に
収容され、強制
送還されようとしておるというような場合が訴えられておるのですが、これらの場合が代表しておりますように、この登録証を持っていないということについて、これはそれぞれの場合があろうかと思えるのですが、悪意をもって登録証を持っていない場合と、それからたまたま持っていないとか、あるいは紛失したということであって、従ってその登録証を持っていることを、その方も望ましいことと思っておるような場合ですね。そういう場合にまで
大村収容所に
収容され、強制
送還されるというのは私は少し妥当ではないのじゃないかというふうに思うので、この登録証携帯について実害のある場合をやはり除いて、実害のない場合については、今申し上げたのはそれに当るかどうかということは一応別問題としまして、しかし今の場合などもなおお調べを
願いたいのですが、この登録証を持っていないということをこれをしばしば聞くのですが、八百屋に買い物に行ったとか、あるいは銭湯に入りに行ったとか、その途中で登録証を持っていなかった、それを登録証を持っていないというので、大へんきびしい扱いをされるというふうな場合も聞くのですが、こういう場合をそういうふうにきびしく扱われるということは妥当でないように思いますが、この点が第一。
それから第二点は、登録手続違反なんですが、その問題に
関係して、昨年十月登録切りかえの当時、切りかえの日に一日、二日おくれた
朝鮮人が全国で数万人に逃しておるが、それに対して検察当局は
本人たちの
事情も聞かないで、一方的に登録手続違反として一人千円から一万円までの罰金を科し、または検挙及び起訴しておるということが訴えられておる。これも切りかえの際に、切りかえの手続をなさるということは当然のことであろうと思う。従って実害のある場合を問題にしておるのじゃないのですけれども、その登録の手続切りかえその他手続をなさるのに、深い悪意に基くものじゃなくしてあるいはおくれた、あるいは何とかいろいろな
事情がある場合があろうと思います。そういう場合にはやはり
本人の
事情を聞いて、そうして処置されることが妥当であろう。それをお聞きにならないで、今申し上げましたように、罰金を科し、その他せられるということは妥当じゃないのじゃないか。
それから第三は、指紋の問題なんです。指紋の問題につきましても、しばしばこの
委員会で見解を述べましたので、繰り返しませんが、指紋の問題は人権にも
関係する問題でもり、現在の
法律ができているのでありますから、その点については触れないのでありますけれども、私が先ほど申しましたように、新しく入国される場合に、現在の
法律が適用されるということは、一応そういうことがあることは認めるといたしましても、やはり長く
日本におられた方々に、この際あらためて指紋を取られるということについては、いろいろ感情上の問題があろうと思うのであります。従ってそこに納得のいかない点があって、
日本に長くおられた方なども指紋を取られるということを承知しないで、それを拒まれるような場合、これは最近の例では佐世保などにそういう例があったようですが、それを直ちに逮捕せられるということが行われているようですが、これはやはり指紋は人権の問題に
関係し、それについて新しく入ってきた場合でなく、
日本に長くおられた方々がその指紋を取られることに納得されないという場合も、その
理由も私は考慮すべき点があるのじゃないか。ですから、それを拒否されたということで、直ちに逮捕されるというようなことは妥当ではないと思う。
それから第四には名古屋市の南区の李粉時という方の場合ですけれども、この方はかなり前に、六年前に
日本に戻られて、そして
生活しておられたのが、最近
密入国ということがわかって、それで九才と四才との子供さんと一緒に
収容された。これも実際において実害がないのじゃないか。どうして実害のないのをそういうふうにして
収容せられるのであろう。この方の夫が名古屋で
生活しておられるのであり、その方のお母さんであるおばあさんが嘆いておられるというふうな点もあり、実害がない。六年前であろうと、何年前であろうと、
密入国であるから
収容するということでありますと、やはり人情にそむいているのじゃないか。
最後の場合ですが、これは最近の裁判になっている葛飾区の方の場合ですけれども、これもやはり夫をたずねて三年前に入国された。最近
密入国ということがわかった。そしてその奥さんが
収容所に
収容されて、現在裁判になっておる。第四の例、第五の例は形式からいえばいかにも
密入国でありますけれども、
日本に長く
生活しておられる。夫もこちらにおられ、
日本の敗戦当時に
朝鮮に子供さんなり、何なりを連れて行かれ、夫のもとに最近来られた。これが
密入国として
収容されるということはどうも私どもが伺っても残酷に感ずるのです。これらの個々の場合について十分のお調べを
願い、そしてそれらから帰納されますところの
一般的な原則の上において、
最初に申し上げましたような歴史的な
事情、また現在の
外交的な
事情等も考慮して、いやしくも人情にそむかないような取扱いをせられることを期待するのでありますが、いかがでありましょう。