○
政府委員(
中尾文策君) 今般
提案いたしました
少年院法の一部を改正する
法律案につきまして、
逐条的に御
説明申し上げます。
第一は、第八条の二と
関係いたします。従来
少年院の
在院者が
職業の
補導等を受ける場合に負傷をいたします。その場合に、なおったときに
障害を残すような場合に、何らの
手当金も
支給できなかったのでございます。従来の
事例を申し上げますと、
昭和二十七
年度では、
職業補導中に死亡しました者が二名、
けがをして
障害を残した者が九名、計十一名でありました。
昭和二十八
年度では
障害を残す
程度の
けがをした君が三名ありました。
昭和二十九
年度は幸いにして一名もありませんでしたが、本年一月以降三月までの間にすでに
けがをした者が二名という
実情であります。このような場合に何の
措置もとれないということは、まことに気の毒な
事情もありますので、この際若干の
手当金を給与することができることとするため、新たに
本条を設けた次第であります。
昭和三十
年度予算案にはこのための費目に十万円を計上してあります。
なお、
支給に関する詳細はすべて
法務省令に譲ることといたしましたが、概略を申し上げますと、
支給額は、死亡した場合は二万円、身体に
障害を残した場合の
最高は二万五千円
程度と考えております。
支給の
方法は、
死亡手当金は死亡したときに、
障害手当金は
原則として退院のときに
支給する方針であります。
死亡手当金を与える遺族の範囲は、
配偶者、子、父、母のほか生計を一にしていた祖父母を含めることを検討しております。
第二番目は、第九条の
関係であります。現在
少年院に収容された者の所持する金品を領置する場合は、
少年院会計事務章程、これは訓令でありますが、これによって処理しておりますが、
本条の
規定によりまして、
本人に
受領証を交付しなければならないこととされておりますので、それぞれ
受領証を交付しておりまして、これらの
受領証は
在院中
本人に所持されております。しかし、相当長期にわたる
在院中には、これを亡失する場合が多く、かえって
領置手続を繁雑にしておりまして、何ら実益がありませんので、この際
領置手続の
簡素化をはかるために、
受領証を交付しなくてもよいということにするものであります。
三は、第十四条の
関係であります。従来
少年院の
在院者が
逃走した場合の連戻しについては、その
方法及び
限界等について
規定土明確を欠いておりますために、その取扱いが適正を失する場合もありますので、この際改正することにいたしたのであります。
現行少年院法第十四条の
規定は明確を欠くために、疑義を生ずるおそれがあるのであります。
一つの
見解といたしましては、
少年院の
職員は
逃走者を時間の
経過に
関係なく、たとえば三カ月たっても、六カ月たってもあるいはもっと二年でも三年でもたっても、いつでも
強制的措置をもってしても連れ戻すことができるとする
見解であります。これに対します
一つの
見解といたしましては、
逃走者の連戻しは合理的な
判断による瞬間の
限度において
強制的措置によって連れ戻すことができるが、その
限度を越えた
時日が
経過した場合は、強制的には連れ戻すことができないとして、そうしてその合理的な
判断による
限度とは、明文による
規定がありませんので、具体的な
事例によって決定されるとの
見解であります。このような二つの意見が対立しておりましたことは、確かに
規定が不明確であることによるものでありまして、運用上いろいろ支障もありますので、従来もその
明確化が要請されていたのであります。また、
逃走者の連戻しには、ほとんど例外なく
警察官の
援助を要請して、その
援助により
逃走者を連れ戻しているのが従来の例でありますが、この際における
警察官の連戻しに関する
援助の
根拠規定がないので、それを明確にする必要があるのであります。なお、この点につきましては、
警察庁からも強い
要望があるのであります。このような
事情がありましたので、今回次のように改正いたしましてこの点をはっきりさせようとする次第であります。
まず、従来の本文を第一項とし、これに後段を加えて、
少年院長から連戻しについて
援助を求められた
警察官は、
少年院の
職員が連戻しができると同じように、
逃走者の連戻しができるようにいたしまして、従来の難点の解決をはかりますとともに、
少年院の
職員は本来的に
逃走者の連れ戻しができることを明らかにいたしました。
第二項におきましては、従来
逃走者の連戻しをいたしまする場合に、相当
時日が
経過しておりましても、何らの
要式行為も必要としないで、強制的に直ちにこれを連れ戻すことができるといたしますことは、合理的でないという面もありますので、
逃走後四十八時間を
経過して連れ戻す場合には、
裁判官の発する連戻状によらなければならないことといたしまして、
手続を慎重にしたのであります。これは
逃走後の時間の
経過に伴う
社会的安定状態を尊重することと、個人の
人権の保障を重んじたにほかなりません。なお、この連戻状の
性質は、
刑事訴訟法上の
逮捕状または
勾引状等に類するものではなく、むしろ一極の許可状的なものであると考えております。
第三項におきましては、連戻状の
発付手続を
規定いたしました。連戻状の
発付は
少年院長の
請求にかからしめておりますが、これは
少年院長には
請求してもしなくてもいいというのではなく、連戻状の
発付の
請求は
少年院長の義務であると考えております。
第四項におきましては、
少年法第二十六条の同行状に関する同法の
規定は、連戻し
性質に反しない限りこれを準用することといたしました。従って
家庭裁判所の
判事補も単独で
発付することができることとなっております。なお、
最高裁判所では、この件に関しまして
少年審判規則の一部を改正することに了解を得ておりまして、目下その起草を検討中であると聞いております。
第四は、第十四条の二の
関係でございます。最近の
少年院の
実情を申し上げますと、
昭和二十九年末では十八才以上のいわゆる高
年令の者は全体の五三%を占めておりまして、また、これを
行為別、すなわち犯した
行為の別で見ますると、
少年法の
適用年令が十八才までであった
昭和二十五年末には、殺人及び強盗によって
審判を受け、
少年院に送致された者は全体の〇・一六%でありまして、
人員にいたしますと、わずか十一人にすぎなかったのでありますが、今日におきましてはこれらのものは全体の四%で、
人員にいたしますると四百二十人に激増しているのであります。このように
在院者の反
社会性は相当強いものが多くなっておりますために、往々にして集団的な騒擾や
逃走、また場合によりましては自殺というようなことが起る場合がありますので、第一項におきましてこのような場合にやむを得ないときに限って、
手錠を使い得るようにいたした次第であります。しかしながら、もともと
少年院の性格から申しましても、
手錠を使うというようなことはできるだけ避けなければならないことと考えております。従ってその
使用につきましては、特に慎重にしなければなりませんので、第二項におきまして、
原則として
手錠の
使用は
少年院長の許可がなければできないということといたした次第でありますが、当局といたしましては
手錠の
使用については、特に厳重な監督をするつもりであります。なお、
手錠の
製式は
法務省令で定めることにいたしております。
第五は、第十五条及び第十六条の
関係でありますが、これは字句の
整理でございます。その次は、第十七条の
関係、前記の第十四条及び第十四条の二の
規定は、それぞれ
少年鑑別所にこれを準用いたすことにいたしました。
以上簡単に
逐条について御
説明を申し上げました。