○
公述人(
井藤半彌君)
一橋大学教授井藤半彌でございます。御命令によりまして、
所得税法の一部を改正する
法律案外四件につきまして
卑見を申し上げたいと思います。
今回の
法案は、御
案内の
通りいわば
部分的な
修正でございますので、
議論の余地は
割合に少いのであります。しかしこの機会に
法案にもちろん直接または
間接に関係することでございますが、
日本の
税制全般に関連したことについても申し上げさしていただくことにいたします。
租税問題を問題にする場合に、これは私こういう
公聴会でもたえず申し上げておることでございますけれども、問題は次の
二つであります。一つは、その
総額が、
租税の金高全体が
国民経済その他から見て当を得たものであるかどうか、すなわち一番は
総額の問題、それから二番は
内容の問題であります。
総額がいいとか悪いとかきまりましても、その中身がどうか、人民への割当がどうかという
内容の問題であります。まあ一応この
二つの問題に触れませんと
議論が進みませんので、それで今日もこの
二つについて触れさしていただきます。ただし
総額の問題につきましてはきわめて簡単に取扱うことといたします。と申しますのは、私はこの参議院の
公聴会などでやはり同じようなことをよく申し上げておりますので、あまり同じようなことを繰り返すのもどうかと思いますので、ただ
結論だけを簡単に申します。
まず一番は
総額の問題、今度の
政府原案並びに民主党、自由党の
共同修正、それを加味したもの、すなわちそれがまあ一応
原案と申しますが、それでは、
国税総額が、
専売益金を含めまして九千百二億であります。これは今の二党の
共同修正による
修正も加味してでありますが、
国税総額が九千百二億円、それから
地方税でありますが、
地方税につきましても
部分的修正がありましたので、私の
計数はちょっとあやしいのでありますが、
地方税が三千五百八十二億円、
国税、
地方税を通算いたしますと、
昭和三十
年度は、この案がそのまま国会を通過するといたしますと、一兆二千六百八十四億円であります。まあ普通これを
国民所得で割算して
見当をつけるということがよく行われております。そこで
昭和三十年の
国民所得六兆三千二百七十億円、
国税地方税の合計を割算いたしますと、大体二〇%となるのであります。
国民所得の二〇%、ここ五、六年来ほとんど二〇%ないし二一%という
数字は動いておりません。奇蹟的といってもいいくらいに二〇%
内外、二〇%ないし二一%となっております。
終戦後一番重かったのが
昭和二十四年でございまして、
昭和二十四年が二七%、それに比べますと現在の二〇%というのは相当軽くなったのでございますが、
戦争のまつ最中の
昭和十九年は三〇%であります。これはまあ
戦争中ですから当然のことだと思います。それから
昭和十
年度、事変前の
昭和十
年度は二二%であります。従って現在の二〇%というのは
昭和二十四年、すなわち
シャウプが来た年であります。
シャウプ改革の前年であった
昭和二十四年の二〇%に比べますと、
比率は低いのでありますが、
昭和十年の二二%に比べますとなお五割高い、五割重いということなのであります。ところがこれはまあ当てになるようでならぬということは、いろいろ多くの方がおっしゃられる
通りであります。それで私よく、これは数年前から例の
エンゲル系数を使いまして、
国民所得から
食費の
部分を引いた
残り、
国民所得から
食費の
部分が
最小生活費とみなしまして、
国民所得から
食費を引いた
残り、これをかりに
負担能力の
最大限と解釈いたします。そして、
税金を、
国民所得の今申しました
負担能力の
最大限、これをもって
税金を割算いたしますと、もちろんこの方が真相に近い
数字が出ますので、そういう
計算をいたしますと、
昭和三十
年度は三六%になるのであります。すなわち
負担能力の三六%を
国税、
地方税として徴収することになっております。ところが過去と比較いたしますと、先に申しました
昭和二十四年は七二%になるのであります。それから
戦争前の
昭和十年は一九%になるのであります。
昭和三十
年度の三六%という
計数は、
比率は
昭和二十四
年度の七二%に比べますと約半分になっております。ですが、この
昭和十年の一九%に比べますと、これは倍近くになっておるのであります。すなわち
昭和十年と
昭和三十年を比べますと、
租税の
国民所得に対する
比率におきましては、一三%が二〇%にふえるのでありますからして、およそ五割増しになったのでありますが、
租税の、私が今申しました
意味の
負担能力に対する
比率から申しますと、一九%が三六%になったのでございますからして、およそ倍になっておるということになっておるのであります。まあこれを見まして、これだけで次のような
結論を下しますのは少し早いのでありますが、またわれわれの実感から申しましても、なお現在
日本では
税金が重いということは一応言えるのではないかと思います。
これに関連していろいろ申し上げなくてはならないことがございますのですが、これはもう簡単にこれだけにしておきまして、今度は二番の
内容の問題、これについてやや詳しく公述さしていただきます。
それで今度の
増税案の
内容を見ますと、これは
事務局からいただいた
資料によるのでありますが、直接税については相当の
減収になっております。私は
減税と申しません。
減収というのは、実
収入が減少、直接税については
減収になっております。ところが
間接税につきましては
増収になっております。何が
増収になっておるかと申しますと、必ずしも、
制度としての
増税があったわけではございませんけれども、
租税及び
印紙収入に関するあの
政府提出の
資料その他を見ますと、酒の
消費税、それから
砂糖の
消費税が非常にふえる
計算になっております。これは酒の
消費高、
砂糖の
消費高がふえるという
建前、それから
揮発油税が、今度
地方道路税なんかできたりいたしますが、
揮発油税がふえる
建前、
揮発油税は後に申しますように
増税になりますのでふえるということは考えられますけれども、酒、
砂糖につきましては
制度改革はあまりないのでございますけれども
増収になっております。これに関連いたしまして、
政府は
デフレ政策をとる、ある
意味において
消費抑制をやる
建前になっておりますが、
計数からいうとこれは
増収になるのであります。一昨日でしたか昨日でしたか、ある新聞に
国税庁の
事務官の話が出ておりましたが、酒、それから
砂糖につきましても
昭和二十九
年度も
予算以上の
増収があったそうであります。今度もまた
増収になるという
建前、これと
デフレ政策との関連はどうか、これは相当問題になることだと思います。
これはまあしばらくおきまして、今度の
税制改革の
内容の大きな特徴を見ますと、とにかく直接税は
減収になると同時に
減税になります。それから
間接税については
増収になるのであります。例によりまして直接税と
間接税の
比率を、これは私かっての
計算をいたしますと、これは先に申し上げました
二つの政党による
共同修正をも加味したものでありますが、
国税について申しますと、
国税は九千百二億円でありますが、直接税が五一%、
計数は省きます。直接税は五一%、
間接税は四九%になっておるのであります。大体半々のところになっております。これも
昭和十年ごろの三五%に比べますと、直接税はふえております。それから
昭和二十四、五年ごろのやはり五五%に比べますと、直接税は五一%でありまして、やや減っておるということになっております。
そこでまあ普通いわれておることは、
一体直接税が多い方がいいか、
間接税が多い方がいいかという問題でありますが、これは絶えずいわれておることでございますが、現在
日本におきましてはこの直接税、
間接税の仕訳によりまして
日本の
税制を判断するのは少し無理だということは一応言えると思うのであります。これは
あとから申します。
私は
日本の
財政及び
租税に関する
基本的方針としては次のものでなければならないと考えております。これはきわめて単純なことを申し上げるのでございますが、それは
国費、まあ
地方団体の
経費も含めてでありますが、この場合には国家を中心にいたします。
中央政府の
国費というものは
総額において減らさなければならない。そして直接税を
減税にして、
間接税をそのままにする。
増税をしろとは申しません。
国費を減らして、直接税を
減税にして、
間接税をそのままにする、これが一番いいのではないかと思っております。と申しますのは、この方法は絶えず私が申し上げておることでありますが、現在の
日本の直接税と申しますと、累進税とか何とか申しましても、実は
大衆課税の性質が非常に強いのであります。これも
事務局からいただきました
所得階層別の
資料によって私が
計算いたしましたところによりますと、
昭和三十
年度——もちろん
予算年度だと思いますが、
昭和三十
年度の
所得税の
申告納税並びに
給与所得について、
一体どの
部分が主として
税金を納めているかということを調べたのであります。
昭和三十
年度の
所得税の
申告納税者の
予定人員は二百七万人であります。このうち一年の
所得が五十万円以下の
納税者——五十万円というのは私は大した
金持とは考えておりません。
井藤でも五十万円以上の
所得があるのでありますから、この辺は
大衆と考えてよいのであります。ほんとうは四十万円というのがいいのでありますが、四十万円の
資料がないので、三十万円から五十万円に飛んでおります。そこで五十万円以下の
所得者は八四%であります。
所得税の
申告納税者の
予定人員二百七万人のうち五十万円以下のものが
人員から申せば八四%です。それから
所得金額は、やはり
昭和三十
年度の
申告納税者でありますが、
所得金額は七千三百十七億円、このうち五十万円以下の者が六四%であります。まあ大ざっぱにいって大
部分は五十万円以下の者で六四%であります。大ざっぱに申しますと、
申告所得税を納める人の大
部分は、七、八割はこの辺の額ということになるのでありますが、七、八割は五十万円以下です。
今度は
給与所得について申しますと、
勤労所得でありますが、
人員総数は七百九十一万人のうち、五十万円以下の者が九三%であります。これは、
給与所得者は、平均して
所得が少いのでありまして、
人員総数七百九十一万人のうち、九三%が五十万円以下の者であります。それから
給与所得総額は幾らかと申しますと、二兆一千五百九十億円、このうち五十万円以下の者が全体の八二%、五十万円以下の者が、
所得の
金額から申しまして八二%を占めておるのであります。すなわち、
給与所得だけについて申しますと、大体八、九割が五十万円以下だということになっております。すなわち現在
日本におきましては、なお
普通一般の
公式論といたしましては、
所得税は
金持がたくさん
負担する、
間接税は貧乏人も
金持も大体同じように
負担すると申しますけれども、
終戦以来、
国民全体が
国民皆貧の形になっておりますので、
所得税と申しましても、五十万円以下の者が大
部分であるというような状態になっておるのであります。それで、
税金に対するわれわれの苦痛は一番
所得税に現われております。これは私はもっともしごくだと思いますので、
所得税その他直接税を軽減する、
間接税はそのままにして、
国費全体を減らすということがいいのじゃないかと思っております。これが私の
税制問題に対する
基本的——というと大げさでありますが、まあ基本的な考えであります。
これから各
租税の
内容ついて
卑見を申し上げさしていただきます。
税法全体について
意見を申し上げることはできませんので、ただ私が気がついたものだけについて申し上げさしていただきます。
まず、
所得税でありますが、今度は
減税——減税は必ず評判がいいにきまっております。とにかく
減税することになっております。そこで、どの
程度の
減税が行われるか、
内容はここで説明することはもちろん差し控えますが、私は
昭和二十五年と三十年と比較してみました。この
二つを比較してみたのであります。
昭和二十五年というものをなぜとったかと申しますと、
昭和二十五年は、例の
シャウプ税制が実施されたのが
昭和二十五年であります。そこで
シャウプ税制の実施された第一
年度と、それから今度の
昭和三十
年度——改正案が通過してという
建前でありますが、それとの比較であります。そういたしますと、
昭和二十五
年度では、
勤労者、
夫婦、
子供三人、この五人の
標準家族でありますが、
昭和二十五
年度は、一月に七千三百円までは
免税でありました。これはきちっと合いませんけれども、大体七千三百円ぐらいのところまでが
昭和二十五年は
免税でございました。ところが、
昭和三十年は幾らまで
免税になるかというと、大体一万九千円まで
免税になってきておるのであります。一昨年、
昭和二十八年の秋に、
政府の
諮問機関として
税制調査会がございましたが、あの
調査会の案が大体一月二万円
見当で、今申しました五人
家族の
標準家族、一月に二万円くらいまでを
免税にせよという答申が出ておったのでありますが、大体あの当時の線に非常に近づいてきております。私は、これは概括的に申しますと、非常にいいことだと思っておるのであります。この間に
物価が
一体どれだけ
騰貴したか、七千三百円まで
免税だったのが一万九千円まで
免税になった。しかし
物価が何倍にもなっておればこれは困るのです。
物価を申しますと、C・P・I、
全国都市の
消費者物価指数を見ますと、これは御
案内の
通り基準年度は
昭和二十六
年度、
昭和二十六年を一〇〇にしたものでありますが、
昭和二十五年の平均は八五・九であります。ところが
昭和三十年の三月、それ以後の新らしい
計数は手に入れることができません。
昭和三十年三月のC・P・Iは幾らかと申しますと、一一八・四であります。割り算いたしますと、
昭和二十五年から今年の三月までの間に三八%
物価が
騰貴していることになっております。それで
昭和二十五年の
免税点であった、実質的の
免税点であった七千三百円というものは、今年の三月の
貨幣価値に直しますと一万七十四円、大体一万円であります。そうすると
昭和二十五年の七千三百円を今の
貨幣価値に直した一万七十四円までが
月給取りは
免税だった。
子供三人、
夫婦二人、ところが、今度は一万九千円まで
免税になるというのでございますので、これは確かに実質的にいって
減税になっておるということは言えるのであります。それは論より証拠でございまして、まず
納税人員を見ましても非常に減っております。これを
政府の推算によりますと、これは多少重複はあるのでありますけれども、
政府の推算した
資料によりますと、
所得税の
納税人員は
昭和二十五
年度は千四百二十八万人でございましたのが、
昭和三十年は九百九十九万人に減っております。およそ五割近く減っておるのであります。これだけ確かに
減税になったということが言えるのであります。
それから
減税になった
内容を申し上げましても、
昭和二十五年と
昭和三十年と比較いたしますと、三十年はもちろんこれは平
年度に直しての話で、三十年は
臨時措置でちょっと違いますけれども、
基礎控除は
昭和二十五年は二万五千円だった。ところが今度の
改革案では平
年度八万円、これは
基礎控除の
割合が
物価騰貴を加味してもふえております。それから
給与所得控除の
最高限が
昭和二十五年は三万円だったのが、今度の案では六万円とふえております。それから
扶養家族控除も、
昭和二十五
年度は一人当り、一人はすべて一万二千円ずつ、一年ですが、一年に一万二千円ずつ引いたのでありますけれども、今度の
改革案では、最初の一人が四万円、
あとの二人目、三人目がおのおの一人二万五千円、四人目から以下一万五千円と、こうなっておりますが、これも相当
物価の
騰貴以上に引いております。それから
昭和二十五年と今日の間で
社会保険料の
控除ということが行われておりまして、私はこういうところは、もちろん決して理想的とは申しませんけれども、だんだん望ましい方向に向いつつあるということが言えるのじゃないかと思います。
そこで今まではどちらかといえば賛成のことを申し上げたのでありますが、これからは
問題点、
問題点ということは、どうかと御再考を願いたいという問題、
問題点について少し申し上げることにいたします。
まず一番に問題になりますのは、今度の各
修正案でこういうことが加わったと思うのでありますが、この
雑損その他、
雑損とそれから
医療費、それから
社会保険料の
控除をする
かわりに
所得の
五彩、それも
最高は一万五千円でありますが、一年に一万五千円か、あるいは
最高五彩、これの
選択控除を認める、この問題であります。これは私は相当問題があるのじゃないかと思います。
内容は今御
案内の
通り従来
社会保険料は全額引いておる。それから
雑損についても
一定の
制限のもとに引いておる。それから
医療費についても
一定の
制限のもとに引いておりますが、この
三つを引いてもらってもいいし、あるいは
納税者が希望するならば、これを引いてもらう
かわりにその人の
所得の五%、
だし最高限は一年一万五千円、これを引くことを
選択して認めようという案が出ておるのであります。これは果していいか悪いかという問題でありますが、これは察しますに
アメリカのこの連邦の
所得税法におけるスタンダード・ディダクションによっておるものではないかと思います。それで
アメリカの
制度、これは
日本に関係があるので私申し上げますが、
アメリカの
制度ではこの
所得の、
所得といってもいろいろ
計算しての後の
所得でありますが、
所得の一割を
選択控除として認める、あるいは
最高限は一千ドル、
所得の一割あるいは
最高限の一千ドルを
選択控除として認める、そうしてその
控除が認められておるために、
アメリカの
税制というものは非常に
簡素化されておるのでありまして、これは
割合に
アメリカでは歓迎されております。わが
日本にそれを持ってこようというのでありますが、この場合に、
一体日本の場合に
簡素化といえるかどうかという問題であります。
アメリカでは非常に実用が大きいのでありますが、
日本では必ずしもそうは言えないのであります。と申しますのは、
アメリカでは
所得からこの
控除が認められる
項目が三十数
項目あります。
日本のように今
三つの
かわりにというのではなくて、三十以上の
項目があるのであります。たとえばどんなものかといいますと、
慈善団体への
寄付金、
教育団体への
寄付金、それから
扶養費、それから
医療費それから天災、盗難の
経費、それから
事業用でない
資産、すなわちたとえば私などが持っておる
資産についての
減価償却費、これも
所得から引いてもらえるのであります。これが三十以上の
項目があります。それがあまり煩雑だというので一〇%または
最高限一千ドルのスタンダード・ディダクションを認める、これは
アメリカでは確かに
意味があるのであります。ところがわが
日本ではどうかというと
選択といっても
社会保険料と
雑損控除と、
医療費控除だけであります。
雑損控除と
医療費控除というものはあまり行われておらないのでありまして、事実
一般に行われておるのは
社会保険料の
控除であります。この
社会保険料の
控除の
かわりにこういう
選択控除を認めるということが、
税制の
簡素化という点から申しましてどれだけの
効果があるかというと、これはおのおの相当問題があるのじゃないかと思います。しかしながらこれは悪いということばかりじゃございません。この
選択控除制度によって
利益を受けるものも出てきておるのであります。
次に述べます
計数は、
大蔵省主税局税制第一課長の
白石正雄氏が今から一、二週間前でしたか、
財政経済弘報の中にちょっと書いておられるのですが、これはなかなかいい研究です。その中で次のような
計数が出ておる。これをちょっと拝借いたしますが、これによって
一体だれが
利益を受けるか、
選択控除によって。そういたしますと、まず
給与所得者について申しますと、
一体一万五千円までは
最高引いてもらえるというのでありますが、この一万五千円
内外の、一万五千円級の
社会保険料をすでに
控除を認められておる人間が非常に多いのであります。
給与所得者のうち年収四十万円
程度の者は一年にすでに一万五千円
程度の
社会保険料の
控除を受けております。それで今度の
選択控除が認められるといいましても、これによって
利益を受けるのはそれ以下の
人たちであります。これは私は決して悪いとは申しません。それから
事業所得者でありますが、
事業所得者は
割合に
社会保険料の
控除を請求しておる人が少いのでありまして、
昭和二十八
年度の実績で申しますと三割、
事業所得者の三割の人が
社会保険料の
控除を請求しておるのであります。七割の者は
社会保険料の
控除の請求をしておりません。そういたしますとこの一万五千円または
最高五%の
選択控除によって一番
利益を受けるのはだれかといいますと
事業所得者であります。すなわち
事業所得者につきましては従来
社会保険料の
控除を受けておらぬ人は、
基礎控除が八万円から一万五千円加えまして、九万五千円に上ったと同じような
効果になるのであります。私は小
企業者の
負担をもっと重くせよとは申しませんけれども、ここで問題になりますのは、
一体勤労生活者とそれから
事業所得者の
負担の均衡という点から考えまして、果してこれでいいのか悪いのか、私はここではっきり
結論は申しませんけれども、相当ここに問題があるのではないかと考えるのであります。だからまあ私は
選択控除を設けるのも悪くありませんが、しかしそれよりはやはりこの
勤労生活者の下の方の
控除をふやすような考え方をする方がより合理的じゃないかと考えております。それが
選択控除。
それから次の問題に入りますと、今度はこれは
租税特別措置法でありますが、この
所得税につきまして、利子を全然
免税にしようとする案であります。その論拠は、貯蓄の奨励、資本の蓄積の必要といわれております。これはいかにももっともでございまして、私は資本蓄積、貯蓄の奨励は必要でないとは申しません。しかしこれにつきまして私はもうあらゆる機会に申しておるのでございますが、これは
租税原則に反するものであります。これは決して悪いのじゃございませんが、そういうこと自体を抽象いたしまして問題にいたしましたときは、これは確かに現在の
日本では貯蓄の増進も必要でありますが、利子を
免税にすると、
金額は大して多くはないかもわかりませんが、その
負担のしわはやはりどこかへ寄る。結局は大
部分は
勤労者または小
企業者に寄るのじゃないか。
租税というものは結局
負担の均衡ということが問題でございますので、この点を私はどうかと思うのであります。それでこの銀行預金の利子というものは、銀行預金の預金高というものは利子
免税制度によって私は確かにふえると思います。これは当然のことでありますが、われわれはこの銀行預金をするかせないかということは、まあ利子をほしさに銀行預金をするということもございますけれども、それ以上に通貨の安定性の問題であります。通貨の安定性があったらば、利子は安くともわれわれは預金をするのでありますが、結局通貨の安定性というものがより以上大きな問題じゃないかと思うのであります。私は
結論を申しますと、これはあまりにも利子
所得者を優遇し過ぎる、しわはどっかへ寄ると思うのであります。
それからその次が配当率、個人が会社からもろうた配当につきまして、配当の二五%を
所得税から従来引いておりましたが、これを三〇%に引き上げようといろ案であります。これも私
結論を申しますとこれは反対であります。というのは、
日本の現在の法人税、
所得税の
税制の
建前は、御
案内の
通り法人擬制説を基本としております。法人税というものは個人の
所得税の前取りだ、だから二重課税を排除するために、いわば法人税の一部を個人に返してやるという
建前で、現在の
制度では二五先の
控除が行われておるのであります。これを今度は三〇%まで引き上げようというのであります。これが果していいか悪いかという問題でありますが、これは察しますのに、あるいは察しなくとも、そういうふうに
政府の説明がついておるのだろうと思うのでありますが、今度は利子が
免税になるのだ、それで利子との
負担の均衡ということを考えて、配当についても少し
負担を軽くしようというのじゃないかと思うのであります。それで私はこの問題はまた
あとからもう一度触れますけれども、
結論を申しますと、
日本では現在法人擬制説といろ
建前をとっております。すなわち法人税というものが個人の
所得税の前払いになっておるという、
建前はいわば源泉徴収と考えております。そういたしますと、法人擬制説を前提にするのであれば、次に述べますように今度は法人税が値下げになります。法人税の四二%が大体四〇%または三五%の値下げになります。そうしますと、法人擬制説を前提とするのでありましたら、いわば源泉徴収というべき前取りが、すなわち個人
所得の前取りが四二%から四〇%、または三五%に下るのでありますから、この配当
所得について二五%を現在
控除をする
制度は引下げるのが当然でありまして、引上げるということは理論に反するのじゃないかと思うのであります。これは法人の本質にも関係がありますが、擬制説を前提にすると、法人税を下げておいて
控除率を引上げるということは、これは矛盾じゃないかと思うのであります。
それから時間の都合であまり詳しいことは申しませんし、また当参議院の大蔵
委員会の
公聴会でかつて申し上げさしていただく機会を持ったこともございますので、
結論だけを申し上げますると、今度の三〇%の引き上げをすることによって非常に
利益を得るのはどの辺からかと申しますと、これは法人税を個人の
税金の前払いと見ての
計算であります。そういたしますと、現行
制度では大体どういうことになっておるかというと、配当
所得の中には、法人税を入れての話でありますが、配当
所得とそれから配当以外の普通の
所得と比べますと、五百万円を超える
部分が両方とも大体六五%になっておるのであります。すなわち五百万円を超えた人が非常に
負担が軽くなる。ところが今度の三〇%に
控除率を引上げますと一三百万円を超ゆる人の
負担が非常に軽くなるということになっておるのであります。これはちょっと
計数を申し上げないと、私の申し上げたいことをはっきりと皆さんにお伝えすることができませんのでございますが、かつて申し上げたこともございます。それから時間の都合で
計数は省きます。
あとから御質問がございましたら申し上げることにいたします。配当
控除はそれだけ。
それから法人税の問題、今法人税の問題も多少出ましたが、今度は法人税を中心に申し上げますと、現在の
日本の
制度におきまして法人税ほど
制度的に見て思想の混乱のあるものはないのであります。少し話が大げさでございますけれども、とにかく法人税がめちゃめちゃといいますと言い過ぎかもしれませんが、思想の混乱といいますか、
制度として非常に混乱のあるのは法人税でございます。御
案内の
通り、わが
日本の
租税制度では明治二十年に
所得税ができましたときには、法人税については、法人の課税につきましては、大体法人擬制説的な
建前をとっておりました。ところがそれから後法人実在説的な
建前に変りまして、それから
終戦後また
アメリカの指導によりまして擬制説的な要素が加味され、それから最後に
シャウプ勧告によって大体擬制説的な
租税制度ができたのであります。ところがそれから後また法人税や個人
所得税についての
部分的修正がございまして、最近は
シャウプ勧告の擬制説からだんだんと実在説に接近しつつあります。それで現在の
日本の
建前は、先にも申しましたように個人の配当金から二五%、今度の
改革案では三〇%引くという
建前になっておりますので、
建前としては擬制説を本体としておるのでございますけれども、それから後の
部分的修正によりまして、実在説的な課税方法が非常に加味されて参りました。試みにどういうものが、
昭和二十五年以後今日に至る改正で、どういう改正によって実在説的課税の要素が加味されたかと申しますと、思いついて書いてみましたのは次の四つであります。
まず一番は会社の社内留保積立金の累積高、過去から累積したものに対して従来
シャウプ勧告では
税金がかかっておったのでありますが、その課税を廃止いたしました。現在では同族会社に限り、ただ一回限り留保したとき、積み立てたとき一回限り一〇%の課税をやっているだけであります。これはこういうことのやり方をやめたということは、擬制説を放棄して、実在説に近づいたことであります。それからその次、二番は、清算
所得、会社が解近いたしますときの清算
所得については、
シャウプ税制におきましては、清算
所得が個人に分配されたときに個人で
所得税をかけることになっておったのでありますが、一両年前の改正によって、法人税で課税することになっております。これまた実在説的課税の要素の加味であります。それから三番、これは大きな問題でありますが、三番は会社の増資株式に対する配当金は一〇%を限度として会社の損金に算入する。すなわちこれも今度は会社の資本の構成を是正と言えばいろいろ
意味があるのでありますが、利子に準じて一〇%、新規増資株式に対する配当金の一〇%を限度として、会社の
所得税を、法人税を
計算する場合の損金に算入する。これまた実在説的課税の要素であります。それから四番は
地方税でありますが、地方で住民税、府県民税や、法人税割りというのがあります。あれをかけるようになったということも、これまた実在説的の考え方であります。そこで、現在
日本では擬制説を
建前にすると言いながらも、実は実在説的な要素が相当加わっているのであります。そのために現在の
所得税、法人税の関係が非常に混乱しております。=先にも申しましたように、今回の改正におきまして、普通の法人税の税率を、四二%をやめて、四〇%と三五%と二種に分けることにいたしました。これは先の配当
控除との関連でも問題はございますけれども、法人擬制説、実在説という立場から見ますと、いわば法人税の税率について階段は
二つございますけれども、一種の累進税をかけるということになっているのであります。それで法人税に累進税をかけるとすると、やはり法人に独立の
負担能力があるというところがその前提になっておりますので、これまた実在説に接近してきたことになるのじゃないかと思うのであります。この関係がどうも
税制ではっきり現われておりません。そのために非常に
税制の混乱が行われております。これは何とか私は整理する必要があるのじゃないかと考えております。
それではお前は、
井藤はどういうような整理案を持っているかといいますと、これは学校の教員のもちろん空論でございますが、私としては次のようなやり方がいいのじゃないかと考えております。これも私数年前から持っております考えで、衆議院、参議院の
公聴会などでも絶えず申し上げている考えであります。それはどういうことかと申しますと、一口に法人と申しましても、大会社とそれから
家族会社とは非常に
意味が違います。でありますので、大法人はこれは実在説的な取り扱いをする方がいいんじゃなかろうか。従って個人と法人が二重課税になるのは、これは当然のことだと思います。それから大体小法人は、これは法人という企業形態をとっておりますけれども、その実態は個人の組合に近いのでありますので、これは擬制説的な課税方法をするのが理論的に正しいのじゃないかと思っております。現に現在
日本における小法人というものは非常にふえております。これはふえるのは、
税金の
負担を少くするという動機ばかりではありませんけれども、
税金の
負担を少くしようという動機も確かにあると思うのであります。
昭和二十四年ごろの法人の数が二十万だったのが、最近は四十万になっておりますが、これは主としてもちろん小さい法人、それから
税金と相当関係があるのじゃないかと考えております。それでこの擬制説的な課税方法のやり方、いろいろございますが、私はここでは申し上げません。
結論を申しますと、大法人につきましては実在説的な課税、これは法人の側から見ましても、投資家、出資者の側から見ましても、たとえば
井藤が〇〇会社の株を十株持っている、百株持っている、そういったって私は株主にはなりたくない、なりたく思っておらん、ただ株を買うのは、株がもうかるか、銀行預金がもうかるか、こういうことでやるのであります。それから株式会社の方でも、私なんか株式を持っていても、銀行の玄関に行ったって何しに来たかと怒られるくらいでありまして、出資など別に考えておりません。こんなのは独立の企業形態、独立の経済単位であります。だからわれわれが配当をもらおうと、社債の利子をもらおうと同じことでありますので、これは私は二重課税を認めた方がいい。ところが小法人の場合はそうはいきませんで、これは擬制説的な課税をやる方がいいだろう。擬制説的な課税のやり方にもいろいろありますが、ここでは申しません。
これに関連して私、このわが
日本で最近行われておる次の
二つの主張について特に批評しておきたいと思います。それはその一つは、法人税を
計算するときに利子というものは
経費として引いてもらいます、法人
所得から。それと同じように配当についても
一定割合まで引けというのであります。現在では総株式に対する一割については例外として引いておりますが、それ以外に引けということ。これは法人という立場からいえばそうなんでありますが、こういうことについての主張は法人実在説をとらなければこの説は成り立たないのであります。法人実在説をとって初めて成り立ちます。すなわち株を募集するのも、それから利子も、これは大体同じ似た行き方をするということは、法人実在説をとって初めて成り立つもの。それからもう一つの主張はどうかというと、今度特にそういう主張が強くなっておるのでありますが、個人の投資家、個人
所得税という立場からであります。それはどういうことかというと、今度は利子が
免税だ、現在でも利子は五%、非常に安い。ところが配当は二〇%、三〇%、利子と配当との利回り
計算をすると配当の方が重いから、配当と利子との均衡をはかれよという説であります。この説も私は実在説を前提にして初めて成り立つものじゃないかと思っておるのであります。ところがこういうことを主張する
人たちが、一番、二番もともでありますが、一方でこういうことを主張しながら、他方では個人の
所得から配当金の二五%、今度の改正で三〇%を割引する、あの
制度は手をつけてもらっては困るというのですね。だからしてこれは両方とも、実在説と擬制説と都合のいいところだけをとって、そうして一方の方で目をつぶるというものになりますので、私は、もし法人実在説を貫くのだったら、これはまた場合によっては法人実在説を貫く方がいいと思うのでありますが、二五%、場合によっては三五%の配当
控除ということはこれは全然認めない、理論的に矛盾するのではないかと思うのであります。
それから大法人の
負担と小法人の
負担でありますが、
租税特別措置法その他によりまして、大法人の
負担が事実軽くなっておるということは私は事実だと思います。
昭和二十八年の秋出ました
税制審議会の答申書を見ますと、種々の特別措置、
減税特別措置、資本蓄積その他のための、輸出振興その他のための
減税、特別措置法により五百億といっております。それから
昭和二十九
年度は幾らかといろと、これは参議院の
事務局から私ども頂戴した
資料によりますと、
昭和二十九
年度は七百八億円となっております。七百八億円が資本蓄積、輸出振興、その他の特別措置によって企業
負担が七百八億円も軽くなっておるのであります。これは
建前からいいますと、大法人でも中法人でも小法人でも、それから一部の個人経営でも平等になっておるのでありますが、事実は必ずしもそうはいかない。それでやはり参議院の
事務局からいただいた
資料によりますと、
政府の
計算では、一億円以上の大法人で三百何十社かについて実態調査をやったものによりますと、こういうことによる
減税の有効税率は一一%ということになっております。すなわち四二%の
税金から一一%を引いて三一%ということになっております。一一%を有効税率について軽減、ところがやはり参議院提出の
資料によりますと、五百万円未満のものはどうかというと、有効税率は六・五%の軽減しかなっておらん、事実はすなわち大法人がこれによって恩典をこうむっている。ところが同じく参議院提出の
資料によりますと、これは中小法人がそういう恩典を十分にフルに活用しない。だからしてフルに活用すればどうなるかというと、やはり一一%の
減税になる、こういわれておるのであります。これは私は
法律制度としてはそうなるのだろうと思います。しかしながらこれは平均しての話でありまして、個々の会社について見れば割引の恩典に浴さないものもありまして、平均したらこうだということで、正しいとは言えないのでありまして、個々について言えば相当不均衡があるのではないかと思うのであります。
それからあの
資料について私よく
内容はわからなかったのでありますが、あれだけを見ますと、次に述べるようなものはあの特別措置による
減税の中に入っておらんのじゃないかと思います。先に申しました七百八億円はこの中に入っております。この一一%、六・五%の軽減の中に次に述べるようなものはどうも入っておらない。それは企業合理化促進法による割増償却、これは入っておらない。それから同法による探鉱、鉱山を探る機械設備などの特別償却なども入っておらん。それから企業資本充実のための
法律によりまして
資産再評価を強制される会社は
一定限度以上の再評価をした場合に再評価税及び固定
資産税について減免される規定がありますが、これもどうも入っておらんように思うのであります、あの
計算の中に。それからこれは
地方税でありますが、固定
資産税について、重要産業の固定
資産税は非常に安くなっている、これはもちろん入っておらん。それから
所得税法や
法人税法に出ている重要物産の
一定の年限を通じての減
免税、これも入っておらない。こういうことを加味いたしますと、もう少し
計算が違ってくるんじゃないかと思います。
最後に
租税特別措置法について簡単に申し上げます。もちろん
租税特別措置法で
所得税、法人税に関するものは大体申し上げました。しかしまあもう一度
租税特別措置法について申し上げますと、今度の
租税特別措置法で利子の課税を全廃するとか、輸出
所得について軽減するとか何とか出ております。これはただこれだけを抽象いたしますと、みんな
意味のあることでありまして、一がいには反対はできないのでありますが、ほかの
税金との
負担の均衡という点から考えますと、一がいに賛成はできないのであります。特にこの機会に申し上げたいのは、
終戦後、ことにここ数年来
租税特別措置法によって二年間を限りこの
税金をまけるのだ、あるいは三年間を限り
税金をまけるのだといってこの特別措置が非常にでたらめに、少しこれは言い過ぎましたが、少し乱用され過ぎているように思うのであります。そのために
租税体系が非常に乱れて参りました。私は
租税体系などはどうでもいい、よければ一番いいが、
租税体系が乱れるということは、
国民の
負担が不均衡になるということ、その上に
税制がきわめて複雑化いたしました。
私は
財政の講義をやっておりまして三十有余年でございますけれども、お前こういう
税金を幾らかかるか
計算せよと言われた場合に、私は自信を持ってすることができません。大へん危くてできない。これは
所得税法だけを読んでも
所得税法自体が非常にむずかしいのでありますが、それを読んでやっとわかって
計算する。いや、それはそうではない、
租税特別措置法でこういうことをやって、企業合理化促進法による割増償却はこうする等々、これは私ども教員ふぜいではとうてい原価
計算ができない、ことほどさように複雑になっているのであります。これはこの条文が複雑である、また
制度も複雑になったということもありますけれども、それはやはり何とか
簡素化してやっていただきたい。その体系ももう少しすっきりしたものにしたいと思っております。
租税特別措置法というやつは私は
税制のガンではないかと思っております。何とか整理をしていただきたいと思います。
次に
地方道路税でございますが、これは事実問題といたしまして、これによって
揮発油税が二千円引き上げになると思います。これはやむを得ないと思っております。
それから関税定率法についての一部改正、これについてもどちらかというと技術的なことが多いのでありまして、
地方道路税、関税定率法については私はまとまって特に申し上げる
意見はないのであります。
これをもって私の公述は終ります。御清聴感謝いたします。