○
参考人(
齋藤茂夫君) 私、全
炭鉱の
齋藤であります。この前二十日の
衆議院の商工
委員会でも、私、
参考人として陳述をいたしました。その結果、二十一日にこの
法案が
衆議院を通過をいたしております。二十日の場合に私が主張いたしました点は、基本的にこの
法案について
反対であるという観点の上から、約十項目にわたりまして
政府の
考え方につきまして
意見を申し上げたわけであります。しかしながら今日の段階におきましては、すでに本
法案が
衆議院を通過をいたしまして、きょう参議院で
審議をされている
状態でございます。先ほど炭労の阿部
委員長もおっしゃられておりまするように、今日の場合に政労政治の建前をとっていきまする
関係上、
衆議院で多数で通過をいたしまして、参議院に回送されました。これがやはり参議院で通るであろうということが予想がつくわけでございます。で、問題は私は、この段階に参りまして議論を申し上げようという
考え方はございません。
〔
理事山川良一君退席、
理事古池信三君着席〕
従って、本日の
委員会におきましては、現実的にこの
法案が実施された場合に、どういう点が
労働者階級にとって不利な点、あるいは実際問題として
炭鉱のおかれておる
実情の上に立って沿わないかという点を、率直に
一つお
考え願いたいと思うのであります。従って、そういう観点から私はきょう
参考人としてただいまから申し上げることを、
一つぜひとも、これは
炭鉱労働者の立場から、ぜひとも参議院の本会議におきまして、この面はこの
法案の中へもっと具体的に、すっきりした
法案の作成に
一つ御尽力を願いたいというふうに
考えるものであります。
まず第一番目には、
政府の
石炭需要の面でございますけれ
ども、この
需要の拡大を、この
法案の中からいきまして、積極的に
政府がその
対策を講じるという観点が、この
法案から率直に受け取られない現状でございます。出炭は、なるほど
政府のこの
法案からいきますならば、約三百
炭鉱を買い上げまして、その中で三百万トンの
石炭を、結果的には現在よりもマイナスをいたしますから、その三百万トンだけは
需要の面がふえるという解釈をこの
法案の中でなされております。しかしながら、実際的にこの
法案の適用を受けまして買い上げられる
炭鉱の現状はどうであるかということになりますと、今日買い上げられる該当
炭鉱と申し上げますならば、当然それは正常な出炭を維持できない
炭鉱が買い上げの対象にになるのであります。今日そういう対象に該当するであろうというふうに
考えられまする
炭鉱におきましての
生産は、ノーマルな
状態の十分の一の出炭もしてない現状でございます。従って、これは三百万トンという数字は、あくまでも机上の数字にすぎないというふうに私は
考えております。こういうことでは、この
法案の仕上った上に立っての残された
炭鉱が、しからばそれで
生産と
需要の
バランスがとれるかどうかという問題でありまするが、そういう観点からいきますならば、
生産と
需要のアン
バランスということは依然として続くということであります。従ってここに問題になりますることは、どうしても
需要をふやさなければならぬという観点の上から、コストの軽減ということが非常に問題になって参ります。今日のコスト高というものによって
炭鉱が
赤字経営であるということは、一応これはわれわれも了解できる点はございます。しかし、その数字がわれわれと一致をするかどうかという問題につきましては、これはわれわれと
経営者側との間に
意見の食い違いがあるということな明確に申し上げておきます。しかしながら、数字の食い違いがあるといえ
ども、今日の
状態の中では、コスト高でどうしてもやれないという
状態が続出して参っております。従って、そのコストを下げまして
需要を拡大しよう、従って自由市場競争でもって販路を拡大する以外にないというのが
一つの
方法だろうというふうに
考えております。そのほか
重油、輸入炭の制限という問題もございまするが、これは百パーセントそういうことで
炭鉱の生きる面を
考えるということは、これは百パーセントその面で求めるということは不可能だと思います。しかし、こういう面も当然
考えの中に入れなければならぬと思います。しかしながら何といいましても、
炭鉱のそういう
需要と
生産の
バランスをはかるためには、もっと根本的に問題を掘り下げて
考えていかなければならないというふうに
考えております。その面の中では、この
法案にもありまするように、縦坑の開さくによってコストの軽減をしていくという問題でございます。しかし、こううい問題も、なるほどコストの軽減にはなろうかというふうに解釈いたしますけれ
ども、
炭鉱の縦坑の開発という問題につきましては、
相当膨大な金額を必要といたします。そういう金額を減価償却をするという場合には、再びコストが下るどころか、コスト高になるということは申し上げるまでもないと思います。従って、そういう縦坑の開発の問題、こういう問題に対する
政府の財政融資というものについて明確ではないというふうに私は判断をいたします。そういうような点から申し上げまして、やはりここで積極的に
政府は、この
石炭需要の面について具体策を講じていただかなければならぬというふうに
考えております。そのためには、今日、
中小炭鉱が非常に岐路に立っております。従ってこの中小炭の販路をどこに見出すかということにつきましては、今日現状の段階では非常に不可能な
状態でございます。従って
中小炭鉱の地帯を基盤として、火力発電所の設置、あるいは工業用、家庭用のガス化のために、そういう施設の施しを、ぜひともやはりこの中で
考え、具体的にそういう
対策を、
政府がこの
法案と同時に、やはり
対策を持っていかないところに、この
法案の非常に懸念性、あるいはびっこ性という問題が出て参る可能性があると思います。従ってこの点につきましては、将来ともにやはり、この
法案が通る通らないは別問題といたしましても、やはり
石炭の
需要の拡大のためには、やはりもう少し具体的な
対策が私は必要であろうというように
考えておるのであります。
第二番目には、転向の問題、あるいは経済的変動の新しい
状態の場合に、
生産と
需要の
バランスが完全に一致しております
計画に基いてやりましても、そういうことで問題がございまして、事件がございまして貯炭が出た場合に、非常に今日までのいろいろな
政府の政策というものは、そういう面については非常に政策を持っておりません。何らの具体策を持っておらなかったことは事実であります。従ってそういう場合に、
一つの天災地変の場合、著しい経済変動の場合には、この貯炭に対しまする
政府の財政融資という問題、あるいは
政府がその貯炭を買い上げて
政府貯炭とするというような何らかの具体性を私は持たないと、この
法案が採用されたといたしました暁においても、そういうことが現実的に起きてくる問題であろう。そうするならば、再び
需要と
生産のアン
バランスという問題がやはりこの面からも大きな問題としてのっかかってくる。従ってさらにまた、そういう問題が起きた場合に、
炭鉱の
危機というものが非常にさらに高まってくるということが、現実今日までの置かれました
炭鉱の実態であろうというふうに
考えております。こういう点につきまして、もう少し
政府は具体的にそういう問題についてメスを入れるべきではないかというように
考えておるのであります。
第三番目につきましては、不良
炭鉱の買い上げの場合でございます。この場合に、少くとも私は、
中小炭鉱のすべての
炭鉱、三百
炭鉱を該当して買い上げる方針について
反対を申し上げたいと思うのであります。これはやはり買い上げをするという場合には、あくまでもその
炭鉱が不良
炭鉱であるという限定を私はすべきであろう。これはなぜかということを申し上げますなら、この
中小炭鉱の中でも、非常に
労働者が今日の段階では、再建の努力を払って、むしろこのような
状態の中では、
経営者の
生産意欲、
経営者の
事業意欲というよりも、むしろ
労働者の職業を離れたくない、あるいは自分の
炭鉱に対しまする愛着心と申しますか、そういう問題が非常に強くなって参りまして、融資の問題あるいは材料の買付の問題、こういう問題を主として
労働者が
経営者に先んじて、いろいろ施策を講じて、何とか今日の自分の山を再建をしたいという努力をいたしております。こういう
炭鉱について、さらにまた実際に企業の診断を行なった場合に、その
炭鉱の
生産可能の鉱区、あるいは将来にわたってその
炭鉱がほんとうに独立できる
炭鉱についての買い上げということを私は
考える必要はないと思うのであります。そういう
炭鉱については十二分に、その
炭鉱の将来生きられる方策を
政府は
考えていくべきであろう。どうしてもやれない不良
炭鉱につきましては、私は当然その
炭鉱の
労働者の
意見も十二分に聞いて、その
労働者と
経営者の労働協約と申しますか、そういう
一つの協定に基いて、私は不良
炭鉱の買い上げをも行うべきであろう。でないと、今日の
状態の中では、単にこの
法案が通ることを非常に唯一のたよりにして買い上げてもらう、その場合、買い上げてもらった場合に、
政府から一千万あるいは二千万の金が入る。こういう
業者が非常にあるということは、現実いなめない
状態でございます。そういう場合、自分のふところの採算によって自分の
炭鉱を買い上げてもらう、こういう形になりますならば、そこの
労働者というものたちの生活は、根底からくつがえされるわけであります。従って、
経営者の一方的なひとりよがりによって、不良
炭鉱の買い上げということをぜひとも
措置するためにも、
労働者の
意見を聞いて、承認を得て、その上に不良
炭鉱の買い上げを
政府がやるという施策を、この中でとっていかないと、そういう危険性が私は出てくると思うのであります。
第四番目は、この
法案の中にありまする
石炭鉱業審議会というものがございます。この
法案の中では、構成員は、
炭鉱に対しまする学識経験者、あるいは
炭鉱関係の官庁職員、それによって構成をするということをうたっております。私はこの構成員について、なるべく働く
労働者の代表をこの中に入れて、率直にこの
石炭鉱業に対しまする将来の若返りと申しますか、
炭鉱に対しまするほんとうの救済、ほんとうの意味の
炭鉱の復興をはかろうとするならば、この中に当然大いに
労働者の代表を入れて率直に
意見を聞き、その中で取りきめて行くことが必要じゃないか。いろいろ細かい問題がございます、この
法案自身の中にもいろいろ問題がございまするけれ
ども、今時間の
関係上申し上げませんけれ
ども、これらを将来具体化していくためにも、当然この
審議会の中には
労働者代表を入れまして、その中で問題を調査
審議をしていくという形をぜひともとっていかないと、いろいろ細かい具体的な問題が片手落ちになる可能性が非常に多いというふうに私は
考えております。従ってこの
審議会の中には、ぜひとも
労働者代表を入れていただきたいということを強く私は
考えるものであります。
最後に失業
対策の問題でありまするが、この失業
対策の問題は、本
法案の中には全然該当事項がございません。しかしながら
政府の
考えておりまする点は、閣議によって出るであろうと予想されまする、
炭鉱買い上げによって二万七千、縦坑開さくによって三万、合計五万七千の失業が出るということは
政府自身認めておるところであります。そういう建前から、
政府は閣僚会議をやりまして、この
考え方に対しまする
考え方を出しております。その中では、失業
対策あるいは鉱害復旧
事業あるいは河川
事業その他いろいろな、そういう一時的な職業によってこの失
業者を救済をしようという
考え方を持っておるようであります。しかしながら今日の
状態の中で、この失
業者がそういう救済
事業で、失対
事業で賄っていくということにつきましては、もう地方自治体も限度に来ておるというように私は
考えておるのであります。従って、失対によって、この五万七千名の
労働者を、この面で生活を保証していくということは、非常に地方財政の立場から申しまして、私は問題があろうかというふうに
考えております。従って、ただ、そういう
通り一ぺんのこの職業に対しまする
対策というものについては、非常に問題があるのではないか。今日常磐炭田に若干例をとって申しますならば、すでに各
委員の
方々は十分おわかりのように、自分の妻子を赤線区域と知りながら売って、一万か、せいぜい二万の金で売りまして、それを生活費に当てているという実態が、常磐地方の炭田に約六十何人かを数える婦女子が、今日全国的にそういう形でばらまかれております。これは
一つの大きな社会盟題として今日取り上げられておりますけれ
ども、そのあとを絶たないというのが現状でございます。従って今日までも
中小炭鉱が崩壊休山いたしまして、その
中小炭鉱の
労働者が今日失対
事業その他によって辛うじて息をついておるという
状態であります。それでもなおかつ生活ができないということによって、今日も常磐地方の
炭鉱におきましては、県内から集まりました一握りのカンパ運動によって、約六百俵の米が平に集荷されております。今日それが
中小炭鉱に実際に個人々々に配給されまして、大体労務者一人九升ちょっとの配給量になります。こういうようなことによって、その場その場の窮状をしのいでおるのが現在の
状態であります。従ってそういう
一つの失対
事業におきましても、一日二百円あるいは二百四十円の程度においては、五人、六人の家族が生活できない、こういう
状態であります。従ってその失対
事業にも限度が私はあろうと思うのであります。従ってこの失対
事業や鉱害復旧
事業によって、そういうものたちの救済をはかっていこうという、この
政府の
考え方については、私はそれはその場限りの
対策であって、恒久的な
対策ではない。従って失業に対しまする
対策も、もっと具体的に私はやっていただかなければならぬというふうに
考えておるのであります。そういう面で、一般社会世相といたしましては、この
法案は明らかに
炭鉱の首切り
法案だというように評価されております。それはそういう点に、
政府のそういった具体的な
対策のないところに、世評がそういうことを申しておるというふうに
考えておるのであります。しかし現実的には、この失業
対策に対しまする
法案の該当事項がございませんので、これはやはり参議院の
委員会で十分に
考慮願って、この点はぜひとも、この参議院の商工
委員会におきまして取り上げていただかなければならぬ社会問題だと思います。従ってこれは
法案にそういう渋当事項がないとするならば、別個に付帯決議あるいは行政上の問題として、十二分にこの問題に対する処置を、
一つ当
委員会におきまして十分
考慮に入れまして、
処理をしていただかたければならぬというふうに私は
考えております。この失業
対策につきましては、ぜひともそういうことにおきまして、何らかの方途を
一つ講じていただきたいということをくれぐれも申し上げる次第であります。
以上五点にわたりまして率直に私の
意見を申し上げたわけでありまするが、この五点は、いずれを見ましても、これは
労働者の非常に淡い最後の希望だというふうに私は
考えております。従って、先ほ
ども申し上げまするように、この
法案の方向は
衆議院の方向と同じように、参議院の方向も大体方向が決せられておるというふうに
考えておりますので、そういう点につきましては、もう少し明確に、
衆議院の中で論議をされましたけれ
ども、
衆議院の中では十二分にわれわれ
労働者の率直な淡い希望というものも全然
考慮されておらぬという
状態でございますので、参議院の商工
委員会におきましては、ぜひともこの点は
一つ御配慮を願って、この
労働者の
考え方、決して私は理論のための理論でなくして、現実に置かれている立場から、この問題をどうしてくれるのだという
労働者の、強い、これは
意見だというふうに率直にお聞き取り願いまして、この面はぜひともお
考えおき願いたいというふうに
考えまして、以上私の
参考人としての
意見を終りたいと思います。