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国立国会図書館長(
金森徳次郎君)
昭和三十一年度の
国立国会図書館の
予算の概算
要求について御
説明を申し上げたいと思います。何しろ数字にわたることでございまして、事ちょっとうるさいように感じますので、本筋だけをつかんで申し上げたいと思います。
昭和三十一年度の
国立国会図書館の
予算の概算
要求額は、いわゆる標準
予算額というものが二億七千余万円と一応きめられておりまして、それに対しまして追加額を十一億二千七百余万円、つまり合計いたしまして十三億九千九百五万八千円ということになっております。これを前年度の
予算概算
要求額の十三億四千三百五十二万三千円に比較いたしますると、五千五百五十三万五千円だけの増加となっております。しかしこれは、御
承知のごとく、
予算概算
要求額というものは、先ほ
ども御
意見がありましたように、多少よその振り合いを
考えて非常に厳密に、のっぴきならんところばかりをきめておるのではございませんので、金額がやや大げさになっている点は、世間の普通のやり方であり、それにならったものであります。
次に、これを事柄別に分けて申し上げますと、
図書館の
運営管理に要しまする経費は七億九百七十六万九千円ということになります。それから
国会図書館の営繕工事、つまり建築等に必要な経費が六億八千九百二十八万九千円、こういうことになっております。この中の管理
運営の経費につきましては、
要求額が相当かさむものでございまして、七億九百七十六万九千円でございまするが、そのうちから標準
予算領を取り除きますると、結局追加額は四億三千八百余万円ということになります。その四億三千八百余万円というものがどういう要素からできておるかと申しますると、その主なるものは人頭経費、つまり俸給に類するものでありまして、それが三億一千九百三十一万二千円となりまして、常勤労務者の給与二千二百九十三万四千円でございます。そのほかに印刷製本費、いろいろの役所で使う道具というようなものを含めての庁費が一億五千七百八十一万六千円になりまするし、書物を買います図書購入費が五千五百五十九万三千円になります。いろいろ加えましてそれらの経費が積み立てられるわけであります。
次に営繕工事に必要な経費の
要求額は六億八千九百二十八万九千円でございまして、その中身は
図書館の本庁舎を作ります経費、つまり
図書館そのものの建物を作りまする経費が六億一千五百九十三万円でございまするし、これはまあ数カ年かかることでございまして、
図書館の建物八千坪を予想しておりまするが、その建物の鉄骨と鉄筋工事、それにコンクリート打ち工事までの経費でございます。また、そのほかに書庫及び庁舎の建築費五千九百八十四万四千円を含んでありますが、それはなかなか
図書館活動及び材料の増加に伴いまして、どうしても現在の庁舎ではやっていけないのではないか。そこで最小限度の書庫と庁舎を仮建築するためのものであります。言いかえますと、
図書館の本建築がおくれたためにせっぱ詰まって、もうこれ以上に何らの手段がなくなったというところに近づいて来たわけであります。そこで最近庁舎を必要とするということでございます。そのほかこれに伴う事務費若干を含めております。
なお、人員増加
要求というものがございまして、二百十六名でございまするが、これは個々の計数によって御了解を願った方が適切であろうと思いますが、要するにいろいろな仕事、
図書館がやっておるいろいろな仕事のために理屈を論じますると、二百十六名の増員が必要であるという計算になってくるわけであります。ただそのうち特に重要なものは、今回
調査立法考査局に、
国会の方から専門員を移しかえまして、多くの専門
調査員が増加したのでありますが、これはかねがね申し上げておりまするように、
図書館の本当の立法
調査の活動をいたしまするために、十四人
国会からお移しを願い得たということは、非常に活動の上に役に立つのであります。けれ
ども移しかえられました方々は、いわば最高級の
調査員でございまして、その下にいろいろな
準備をし、また
調査のこまかいものを補っていくという職員が欠けておりますので、頭と胸腹とをあわせて完備するという
趣旨によりまして、四十五名だけ整備充実のための職員を増加したいというのでございます。それから非常に専門
調査員の増加と緊密に組み合わせるための職員でございます。そのほかにいろいろ職員のふえる点がございますが、これは主として
図書館の資料でございますところの書物と、その書物を
一般に見せるということに
関連をして、できてくるものでございまして、
一つ一つからこまかに申し上げませんと、十分の
説明になりませんので、もう少しあとの時期に譲らしていただきたいと思います。まあ常識から申しますると、この際二百十六名の人がふえるということは、一体今まで
図書館が何をやっておったか。急にこんな仕事がふえる理屈はないと思うことは、これはおそらく当然であろうと思いまするが、こういう職員と常動労務者などが相当増加するように
要求しておりまするのは、実は二つの原因によるのであります。
一つは、
図書館にも新規業務がだんだん増加をいたしてきまして、どうしてもやらなければならないものがふえましたのと、それから今までの
図書館の組織が非常に薄弱でありまして、何しろ今から七年前、倉卒の際に
国立国会図書館ができて、その当時はこんなものができて何になるのだろうという疑問もおそらくあっただろうと思いますし、できたところで大した役にはならないだろうと、悪い世間のうわさでは三年にしてつぶれるだろうと、こんな予想までされておったわけでありまして、従って何しろ計画の
基礎が手薄であったわけであります。ほんとうに正確な計算の
基礎を持っておりませんで、やってみますと、幾多の職を
考えてやらざるを得なくなりましたのと、二回ばかり行政整理がございまして、かなり手薄になっておる
図書館の機能がはなはだ欠くるところがあるという形になったわけであります。そういうような計算の
基礎は数字としてお手元に配付したわけでございますが、こういうふうに
考えてきまして、たくさんの小さなものがぞろぞろと並んでおりまして、ちょっと掴みどころがないようでございまするが、しかしそのねらい、
図書館が今日ねらっておるところのものは、実は三つの項目に帰するのでありまして、今まで
図書館がなぜほんとうに働けなかったかということは、
図書館の建物を持っていなかったということであります。今まで七年間いろいろの角度から、土地の選定、建築の設計とか、土を削るとか、各種の動作を重ねて参りましたけれ
ども、まだほんとうに
図書館建築という場面まで具体的には立ち至っておりませんでした。ところが、
図書館というものは建物がなくて働けるものではございませんので、世界のどこの
図書館を見たって個有の建物なくしてほんとうの活動をしておるものはないと思うのであります。だんだん機運が熟して参りまして、今まで
予算の面で一億とか五千万円とか小さい額を集めて
基礎工作を進めて参りましたが、いよいよ本年に至りまして実行の計画の目鼻が確定して参ったのであります。
それは前に
図書館の建築の懸賞募集をいたしまして、また
図書館の建築について外国に人を派遣していろいろ研究を進めて参りました結果、ほぼその内輪の
準備ができました。ところが大きな支障の問題が起りまして、それは日本でかようなほんとうに珍しい、おそらくは建築の方からすると誇りを持ってするような建築にしたい、こういう
希望が高まっておりましたことも手伝っておるのでありまするが、要するにだれがこの基本的な設計を具体的にするか。こういう問題になりまして、従来の官庁建物の伝統から申しますると、建設省がこれをやっていくということになっており、
法律上もその気持を強く打ち出す
規定になっております。けれ
ども、実際の方から申しますると、かような設計は、ある人が設計をすると、ほかの人がこれをむやみに手をつけるわけにはいかぬのでありまして、立派な小説の
基礎案があるときに、ほかの人がかわって書くということのできないような
事情もあると思います。その結果といたしまして、建設省が、かような懸賞募集の結果から生れた設計を完全に実現することは困難である。だからして建設省としてはある程度具体的に設計がまとまってからのみ実行の着手に至るべきものである。こういう議論が高まって参りました。そうなりますると、今度は大蔵省の側から申しますると、それは困る。つまりそういう設計費を特別に出すということは無理である。建設省の
一般の
予算からそれを支弁せよ。こういうような議論も起りまして、
図書館としては二つの
意見の間にはさまれまして、いわばたなざらし、その設計の大体のめどはついておるにもかかわらず実行的な設計が伴ってこないということで、たなざらしと申しますか、約一年の間、その問題でもだえておったのでございます。しかし幸いにして、いろいろの方面の御協力によりまして、基本的な設計は初めの懸賞募集で一等に当選した人がこれに当るのだという気持でありまして、それが今度すぐによそで使える程度に具体化されまするというと、ほんとうの実行の面を建設省がやっていく、こういうことに話が一応つきまして、大蔵省もそれに対する
予算を
出して下さるというところまできて、それ以来順調に運んでおりまして、今日一生懸命に具体化されつつあるわけであります。
大体その建築のめ
ども、今日お配りいたしました青写真の中にございますが、この年度内に基本的な設計の大体を果す予定でございます。青写真の横に白い線が引かれておりまするが、それがただいまの観察点からして、年度割で建設をやっていくという点であります。
昭和三十年の点から問題が始まるのであります。そこで今年度におきましては
基礎工事をある程度までやると、
昭和三十一年度におきまして相当の実施の場面に入っていきまして、
基礎工事、コンクリート工事までいき得る方針が確立いたしました。そういたしますると、もしこの
通りの計画が
予算によって裏づけをされまするならば、
昭和三十四年には
図書館を開くことができると、こういうふうなものであります。これは今まで
図書館ができてから七年間いわばその線において非常に難行苦行をしておりまするが、いよいよ今年からはなんとかして
予算を実現したいものであると、この点ができなければ、私
どもの手のもとにおきましては、日本の
国立国会図書館は永久に日の目を見ることができないだろうと、私はそういうふうに
考えておるわけでありまして、私のあらゆる努力をこれに注がなければならぬと信じておるわけであります。それが
一つであります。
それから次に
考えまするのは、図書、資料と申しまするか、
図書館が本を持たないでは、まず常識的に
図書館の
運営はできません。ことに新しき
図書館でございまするから、基本的なものとか、また新しい外国で出版されたものを集めなければなりません。
国内出版物はまあ買えるのでありますけれ
ども、国外から買い入れるものも相当持たなければ、百年玄関を開いても、幼稚園的
図書館しか生れないのであります。ところが、これも創設の
事情、いろいろ無理な道を通っておりましたために、今日書物は幾ら買えるかというと、正規の書物は一千六百余万円、もちろんほかに
臨時に買うものはありますけれ
ども、一千六百万ちょっとの金額でございまして、これは
国内の出版物を全部取り入れ、これに対して補償金を払わなければなりませんし、それからまたある程度古いものも買わなければなりませんし、また外国から買わなければならない。外国の書物なんかはほとんど買えないような
事情でございます。ところが、近頃になりまして日本の学問の研究が発達してきておりまして、まあ資料はそう完全とは言えませんけれ
ども、今、日本の各大学等が買っておりまする書物を見ますると、中央大学程度で一年に千五、六百万円買っておる
状況であります。東大のごときは一年に四千五百万円ずつ書物を買っておるようであります。おそらく大学というものは集めるについても限られたる方向を集めておると思いますが、総合的に集める、ことに立法
調査の任務を持っておる
国会図書館が、原則としては千六百何十万というものでございまして、
国会図書館はそのほかに幾らかほかの便宜を持っております。外国と交換する、あるいは民間出版物の納本を半額で買う、こういう特権は持っておりますけれ
ども、しかしこれでもっていけるわけではございません。ただいまのところで外国書をどのくらい買えるかというと、実にあわれむべきものでありまして、それも高い本は買えませんからして、平均単価の安いものを買っておるのであります。世界の
図書館を見まするといろいろございますけれ
ども、こんな哀れな国立
図書館というものは、少くとも文化国家にはないように思うのです。今のところは
地方の大学のある程度の、最高級じゃないのです、ある程度の大学と、同じくらいな図書購入費を持っておるというおかしい現状でございまして、これは一朝一夕には本というものは買えませんので、だんだん蓄積しなければならないのでありますが、どうしても図書購入というものは、多くば望めないにしても、基本的なものはなければならないということを
考えまして、いろいろな角度から研究をいたしましたが、本館の買う図書は、外国書と日本の図書を合せて基本的なものとしては一年に三千八百万円、この数字の中に出ておりまするが、このくらいを経常的にやっていけばよい。基本的には三千八百万、これはほかのいろいろな項目を合せて、計算上はもう少し大きくなりますが、本館の計算によりますると、一年に三千八百万円を買いますれば、基本的なものは一応そろっていくであろう。こういう計算を立てて、この線を各方面にお願いしたい。初め立ち上ったときは、戦後すぐでございましたから、そんなに貧しいものとは思っておりませんでしたけれ
ども、ふたをあけてみると、私立大学の比較的小さい大学と同じくらいである。計数はこの書類に出ておりますけれ
ども、不注意ばかりではございませんが、われわれ怠慢であって、この
責任は容易ならぬことであると、私
ども非常に自責しておるわけでございます。
それからもう
一つの
考えでございますが、同じ書物を買います中にも、私
ども書物を買う金が少いものですからして、重点主義でやっておりまして、芸術の本なんかはあまり買わないということであり、骨董本はほとんど絶対に買わない。こういう態度でありまして、新しい面について努力をしておりましたが、だんだんやっておりまするうちに、日本の文化の動き工合というものが相当変ってきたということは認めざるを得ないのであります。と申しますのは、
図書館というものは、抽象的な人文科学を相手にする、これが従来の
一般図書館の類型でありまして、しかし今日世界は、もうそういうところを飛び離れまして、科学、技術という面に全力を注いでおるというような気もいたします。
アメリカの
国会図書館はその面で大きな拡大をしておりますが、イギリスあたりでもたしか科学の
図書館というものは独立させてしまっておるというようなわけでございまするし、現代の必要を顧みますると、非常にその点が手薄であるという気がいたします。教科書は入っておりますけれ
ども、教科書よりもっと基本的な、ことに学術雑誌、これも数はよくわかりませんが、世界で二万種出ておるということでございますけれ
ども、この二万種のうちの幾ばくが日本に来るであろうか、相当情ない実情でございまするので、そういうところに若干の重点を置きまして、丁度今原子力及びPBレポートというものを手がけて、いろいろそういう方面の目もあいてきておりますので、この際科学及び産業の
基礎に関する文献をある程度この
図書館に集積をしてゆくべき
一つの方向を形づくりたいと
考えております。これは新しい
一つの着想でございます。一口にいえば
図書館の資料の充実という言葉につきまするけれ
ども、その
一端においては、そういうような
考えを持っております。これが第二の問題でございます。
それから第三の問題、先ほどから繰り返しまするように、
図書館はいわゆる立法
調査の機関でございまして、創設の当時は、実際子供のような立場で作りましたけれ
ども、だんだんやっていくうちに、こんなことではいけないということで、今から何年前になりまするか、議会の御考慮によりまして、立法
調査の陣容がある程度大きくなりまして、合計しまして百人以上の
調査職員ができたわけであります。しかしそれは実にまだ微力でございまして、その後だんだん陣容を整えまして、今ではこれは程度はいろいろ
考えられましょうが、一足飛びに完全なものができるわけはございません。だんだん若い者を育成して、本当に
要求に応じて、
国会からお求めになるものは、これは材料がなくてできませんと、こういう哀れな返事をしないで、できるだけ早く、右から左に間に合うようにいたしまするためには、たびたび申しておりまするように、今回の機会において四十五人くらい人をふやすということが必要ではないか、大体この三つのところに一番重点がございます。
あとほ常套の道と申しまするか、本が壊れておるのを修繕する費用がない。あるいはまた本を運ぶ人間が足らないとか、
図書館にありがちな問題でございますが、今申しました建築費、これは絶対の必要であって、
図書館をつぶすかぶさないか、
図書館という日本の企画をなくするかなくさないかという問題の分れるところであろうと思っております。それから図書の集積にしても、やや長期に、五年、十年の後に日本の
図書館が本格のものになるかどうか、この分れ道であろうと思います。
それから第三の
調査機能の充実ということはさしあたりの問題でありまして、今のような恥かしい姿で、
調査や考査などの件名ばかりをかつぎ上げて、中身の善悪は、悪いとは申しませんけれ
ども、ばなはだ楽屋裏から見れば見劣りするというのが、早く
図書館の
調査機能を充実する、この
一つの点に私は重点を置いていきたいと思っております。従来も大蔵省に対しまする
要求はいつもこの三つの線でいっております。まあ少しずつその三つの線が認められておりまするけれ
ども、これがもうあるものについては、今日一番適当な時期ではないか。ことに建築の方の問題などは、年々私の方では書物が、表向きにいっても七、八万ずつふえております、表向きと申しまするのは、そのほかにいろいろなものが交換等で入って参りましたが、本がふえると、その
調査の人の持っておる空間というものもよけい大きく必要になってきまするが、そんなことで現在
図書館に入りきれませんで、地下室を使っても、どうしても、また隣の庁舎を借りにいっても貸してくれない。それから書物は、ほんとうに悪いことでありますけれ
ども、白ありが出できて食う危険のあるようなところに書物を貯蔵しなければならぬ。一たび書庫をあけると、何としてこんなところに書物が置いてあるかというような嘆声を発するくらいでありますが、これが今、
図書館を始めてから七年になりますけれ
ども、その間にものがふえてしまって、何とも身動きができない。しかしこういう本建築をするときに、仮建築を作ってはけしからぬと、中で抑えておりますが、もう何とも動きのつかない爆発の点が目の前に迫ってきております。もし書物が置けなければどうするか。どこかに捨ててしまうか。それはできません。
法律の手前できませんけれ
ども、これは形のあるものですから、どうすることもできない。それを無理やりに地下室を物置にするとか、階段のところを段を利用して本だなのかわりにするとかしてやっておりますが、これはもう動きのつかぬ時期が来ております、と申しますと、やはり
図書館の本建築ができれば、こういう問題は全部解決してしまうというふうに
考えまして、これはちょっと金額がかさむものですが、しようがございません。永遠の生命をはかるために、どうしても要ることであるとすれば、今ここで申しましたようなところに、フルにことしは重点を置いていきたいと思っております。
それで議会に格別の御援助を願って、とにかく今の世界の比較的質素な段階までは早く追いつきたいと思っております。どうぞ
一つよろしくお願いいたします。