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説明員(朝
海浩一郎君) 今度成立いたしました日英
交渉は、これは平和
条約ができましてから、イギリスとの
関係において二度目の
交渉でございますが、今度の
交渉が前の
交渉と煙います点は、これは私どもがいつも苦労するのでありますけれども、
日本のポンドの貿易は非常に伸びないときもございますし、伸びますときには非常に伸びる。伸びないときにはポンドの赤字が出まして貿易のファイナンスにも差しつかえる。ところが伸びますときには非常に伸びて、今度は
向うに言わせますと、不当にポンドを蓄積するという非難もございますほどでありまして、これはほかの国との貿易もさようでございますが、ことにポンド地域はそれが著しい。この四年、五年の間に極端から極端に貿易が動いておる。しかもその貿易が非常に大きな量でありますので、これをどういうふうにして規制していくかということは非常に大きな問題になって参りますわけであります。
そこで今度の
交渉の特色を申しますというと、これは昨年一月ロンドンでやりました
交渉の際に、
日本がポンドは非常に少くて、植民地が締められておりまして、その前にどんどん植民地に出たものでありますから、そうして
日本の方におきましても、朝野におきましてポンドは紙屑なんだから、これ以上ためてはいけないというふうな議論も出たものでありますから、イギリスの方も自分の方の植民地を締める。従いまして、今度は非常に貿易が落ちて、ポンドの手持ちも二千万ポンドというふうな非常に困った状況になっておったのであります。従いまして、私どもの受けました訓令は、何とかして二千万ポンドでは困るから、もう少しやりくりのつくような金融の
措置を講ずるようにかけ合えということが一点と、それから植民地が締っておるので、もう少し
日本の品物が出ていけるように、ポンドがかせげるように
交渉しろというような、この二点だったのであります。ところが一年半たちまして、今度の
交渉の場合には状況がまた非常に違って参りまして、もう金融の方は頼まなくていいわけであります。ユーザンスを含めますというと、一億ポンド前後のポンドを蓄積いたしておりますので、金ぐりの方はもう大丈夫だ。しかし今度はポンドを蓄積しております
関係上、
向うの方からお前の方が困っておったときには植民地をあけてやったじゃないか、しかし今度はおれの方は非常に困っておる、とは言いませんでしたけれども、とにかくお前との
関係上非常にバランスが悪い。だからお前の方は積極的にイギリスの方から物を買ってくれなきゃ困るのだ。今度はこちらが受身に立ちました
交渉になって参ったわけであります。
そこで約三ヵ月ばかりいろいろ
交渉いたしまして今度の取りきめができたわけでございますが、その取りきめの一番の要点は、
日本が今度の実際の予算に一億五百万ポンドの予算をつけたこと、これはイギリスの要求がございまして、これだけは買おうという予算をつけた点でございます。一方にそういう約束をいたしまして、それから他方に、今後
日本がスターリング地域に輸出をしてポンドを得た場合には、その得たポンドはスターリング地域から物を買ってポンドをこれ以上不当に蓄積しないようにするという、そういうこともうたってありますのが大体の要点であろうと思うのであります。つまり一億五百万ポンドの予算をつける。つけるということは買うことではないわけでありまして、イギリス人がその
交渉中しょっちゅう言っておりましたように、資金をなるたけアヴェイラブルにすること、買うか、買わないかはそれは競争力にもよりましょうし、いろいろな条件もありましょう。
日本の方も買うことは約束しない。約束しないが、これだけは予算をつけましょう。予算をつけるのだから買わなくてもいいじゃないかということになると思うのでありますが、そうもいかないのであります。何と申しますか、その
理由は、第二項でなるたけスターリング地域からかせいだものはスターリング地域で使うということを言っておりますから、
日本が今後積極的にスターリング地域から物を買ってバランスをとるように努力をいたしませんというと、お前の方は依然としてスターリングを蓄積しているじゃないか、スターリングの蓄積という問題は、これは大きな国際経済の問題に
関連すると思いますが、イギリスといたしましてはおそらく、これは推測でございますが、交換性の問題というようなこともございますので、そう簡単に
日本がためてもいいじゃないかというように
考えるわけにいかないのじゃないかと思いますので、そういたしますと、今後一年あるいは一年半の間にどんどんスターリング地域から買いませんというと、お前の方は依然として買わないからおれの方もお前の方の収入のもとをもう少し
考えなければいかぬじゃないかということを言って参る危険があると思いますので、この点は今後の大きな問題として残って参ると思います。
それからもう
一つの点は、日英の通商
交渉はほかの国の通商
交渉の場合と違いまして、ほかの国の場合には大体一カ月くらいでありまして、お互いにうまくいった、うまくいったと申しまして祝杯をあげて別れるのでありますけれども、今度の場合は、いつも毎回そうでありますが、日英間の単なる貿易の数字の問題ばかりではなく、
日本の海運の競争の問題も取り上げましたし、それからもうイギリスで非常に問題にしております
日本の人為的な輸出振興の問題も取り上げましたし、それからまた
日本のいわゆる不正競争、ことに模倣の点でありますが、例を申しますというと、繊維とかあるいは陶器の事業におきまして、イギリスのいわゆる不正な模倣が行われておることから生じます
日本の不正競争の問題、そういう問題も取り上げられて、洗いざらい日英の
関係を論議いたしたというのが現在の経済
交渉でございまして、従いまして単なる経済的なやりとり以外に相当全般的に日英
関係に影響を及ぼすような論議が行われたわけでございます。
大体それが主たる概観でございますが、さらにこまかく一、二点申し上げますというと、今度の
交渉は、
日本から物を出さなければならない。この前の
協定でできておるワクはそのままでよろしいのでありますが、
日本から物を新しく出さなければならぬ。それに対してイギリスの方は、よろしい、しかし今のイギリスの状況からいって、お前の方が一ポンド出すならおれの方も一ポンド出す。ボンド・ツー・ポンドの基礎で
交渉をやろうじゃないかということになりましたものでありますから、こちらの新しい輸出に対しましてはイギリスの方からもまた何かそれだけの価額の輸入をしなければならない。そういう
原則が立ちまして、そこで大へん問題が二億ポンドとか三億ポンドというような大きな貿易を扱いながら、そういう二十万ポンドとか三十万ポンドという僅かな金額につきまして、いつまでもやりとりを重ねたという
関係ができたわけでございます。
今度の
交渉を通じまして、私
意見にわたりましてはなはだ恐縮でありますが、将来の
交渉という見地からいたしまして、今の、先ほど申し上げました、これからポンド、スターリング地域から相当物を買っていかないというとまた困難な問題ができるということが
一つと、それから
日本とイギリスが幸か不幸か原料国と製造国という
関係にございませんので、イギリスと
日本も同じようなものを出して参ります。だからイギリスを満足させるためにはどうしても
日本の産業との
関係が出て参ります。しかし
日本がどんどん輸出を伸ばすには植民地を締められたり本国を締められては困りますという
事情から、こちらも積極的に輸出を伸ばすためには、こちらの要らない物資もある
程度入れなければならぬ。そういう
関係が出て参りますので、それを今後どういうふうに調整して参るかということが非常に大きな将来の問題ではなかろうかということを、
交渉をいたしながら
考えておった次第であります。先ほど申し上げましたように、ポンドの貿易は一たん下向きになりますというと、非常に下向きの速度が早くなりまして、これを上に向けるのにかなり時間がかかります。これはイギリスの植民地も別に好んで
日本品を歓迎するというわけでもございませんから、やはり
政府の命令が徹底いたして、下向きのカーブが上向きになるには一年ないし一年半という時間がかかります。従いまして一ぺんこのカーブが下に向きますとなかなか上には向かない。従いまして
交渉をやって、しかも
日本のポンド地域に出しております物資を見ますというと、非常にこまごました、これは
アメリカもそうでありますが、こまごました物資の集積でございます。たとえば具体的に申しますというと、陶器なら陶器はわずか五万ポンドしか出ておりませんが、その五万ポンドがずっと続けて出ておるか、あるいは途中で切れてしまうかということは、これは非常に大きな問題なのでございまして、私どもといたしましては、そういう集積した物資を、なるほど
一つについては金額は少いのでありますが、それをできる限り落さないようにして、上向きのカーブを少くとも下へ向けないように、上に向けるようにするということが今度の私どもの受けました訓令でございまして、その訓令に基きまして
折衝をいたした次第でございますが、
折衝の結果達成し得たかどうかは、これは御批判を受けるほかはないのでありますが、そういう
方針で
交渉に当った次第でございます。