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1955-05-19 第22回国会 衆議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年五月十九日(木曜日)     午前十時三十一分開議  出席委員    委員長 牧野 良三君    理事 上林榮吉君 理事 重政 誠之君    理事 中曽根康弘君 理事 小坂善太郎君    理事 西村 直己君 理事 赤松  勇君    理事 今澄  勇君       宇都宮徳馬君    北村徳太郎君       楠美 省吾君    小枝 一雄君       河本 敏夫君    纐纈 彌三君       福田 赳夫君    藤本 捨助君       眞崎 勝次君    松浦周太郎君       三浦 一雄君    村松 久義君       米田 吉盛君    相川 勝六君       愛知 揆一君    植木庚子郎君       北澤 直吉君    倉石 忠雄君       周東 英雄君    野田 卯一君       橋本 龍伍君    平野 三郎君       福永 一臣君    阿部 五郎君       久保田鶴松君    志村 茂治君       田中織之進君    田中 稔男君       福田 昌子君    武藤運十郎君       柳田 秀一君    岡  良一君       小平  忠君  出席国務大臣         建 設 大 臣 竹山祐太郎君  出席政府委員         内閣官房副長官 松本 瀧藏君         大蔵政務次官  藤枝 泉介君         大蔵事務官         (主計局長)  森永貞一郎君         文部政務次官  寺本 広作君         厚生政務次官  紅露 みつ君         農林政務次官  吉川 久衛君         通商産業政務         次官      島村 一郎君         建設政務次官  今井  耕君  出席公述人         経済同友会常任         幹事日本生産性         本部専務理事  郷司 浩平君         武蔵大学教授  芹沢 彪衛君         農林中央金庫副         理事長     江沢 省三君         慶応大学教授  伊東 岱吉君         全国繊維産業労         働組合同盟会長 滝田  実君         東京教育大学教         授       藤岡 由夫君  委員外出席者         専  門  員 小林幾次郎君         専  門  員 園山 芳造君         専  門  員 小竹 豊治君     ————————————— 本日の公聴会意見を聞いた案件  昭和三十年度予算について     —————————————
  2. 牧野良三

    牧野委員長 これより昭和三十年度予算案につきまして公聴会を開きます。  開会に当りまして、御出席公述人各位にごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用の中を特に本委員会のために貴重な時間をおさきいただきまして、まことに感謝にたえません。厚く御礼を申し上げます。申すまでもございませんことでありまするが、本公聴会を開きましたのは、目下本委員会において審議中であります昭和三十年度予算案につきまして、広く各界学識経験者たる各位の御意見をお聞きいたしまして、本予算案審査の参考といたし、その審査を一そう権威あらしめたいためでございます。何とぞ各位におかれましては、忌憚なき御意見をお聞かせ下さいまするよう、委員長よりお願いを申し上げます。  なお議事の順序について申し上げまするが、公述人皆さんの御意見を述べられる時間は、大体二、三十分程度にお願いいたしまして、御一名ずつ順次にお願いをいたし、その御開陳の御意見に対しまして、順次質疑を行なっていくことにいたしたいと存じます。また念のために申し上げまするが、衆議院規則の定めまするところによりまして、御発言の際は、失礼ながら委員長にお声をかけていただきたいと存じます。なお御発言の内容は、案件の範囲をお越え下さいませんようにお願いいたしたいと存じます。  なお委員諸君は、公述人の方々に質疑をなさいます際には、どうか公述人は、委員に対して質疑をいたすことはできないことになっておりまするから、そのおつもりにお願いをいたしたいと存じます。  それではこれより公述人の御意見を承わることといたします。  経済同友会常任幹事日本生産性本部専務理事であられる郷司浩平君より御意見を承わることにいたします。どうぞお願いいたします。
  3. 郷司浩平

    郷司公述人 ただいま御紹介いただきました郷司でございます。私はきょうの公聴会の皮切りでございまするし、あとで大ぜいの公述人から、三十年度予算案個々費目等の問題については十分に論議があると思いますので、私はむしろ違った角度で二、三の問題をお話しいたしたいと思います。  ただ本年度政府予算、これはごく大ざっぱに申しますと、私の受ける感じは、今日のいろいろ困難な政治経済的諸条件のもとにおいては、まあまあというところではなかろうか。しかしながら、むしろ最初の大蔵省の原案の方がさらによかったのではあるまいか、こういう印象を受けるのでございます。  きょう私が皆様に御参考に申し上げたいと思います第一点は、今日各界で問題になっております一兆予算の問題でございます。これは、あるいは皆様方には釈迦に説法かもしれませんが、国民の間では、やはりこの問題は、相当シリアスな問題になっておりますので、この問題に対する私の考え方を簡単に申し上げてみたいと思います。  現在一兆億予算につきましては、これはほとんど各党とも、一兆億予算堅持ということは一応言っております。また与党である民主党も、選挙の公約の中にこれを声明しておりますけれども、主として自由党の方面から、一兆という数字は何も理論的な根拠があるわけではないので、そんなものにこだわる必要はない。ことに国民所得は昨年よりもふえておるのであるから、それに応じて予算をふやしても少しも危ないことはない、不合理なことはない、こういう議論が出ておるように伺っております。なるほど議論はその通りでありまして、一兆という数字は、これは架空な数字とも言うべきで、何らそこに理論的な、あるいはまた経済的な根拠はないというのが正しいのでございますが、しかし、これはやはり一つ形式論で、実際はこれは相当重要な要素になっていると私は考えるのであります。株式市場におきましても、たとえば百円の大台ということは、これは心理的に非常に重要な要素をなしているのであります。経済というものは、これは言うまでもなく、なまの人間が営む一つの行動でありまして、従って生きているものであります。従いまして、単なる理論的な問題、あるいは形式論によって左右されるとは限らない。そのほかにいろいろな臨時的な要素政治的な要素、心理的な要素、こういうものも加わって総合的に動くものであろうと思うのであります。この一兆の予算につきましては、昨年の二十九年度予算編成の当時に、当時の自由党小笠原大蔵大臣から、一兆予算堅持の理由をるる施政演説において述べられたことを記憶しております。要するに今日の日本経済は、一兆のわく堅持しなければ危ないのだ、これを破るようなことがあれば、これは大へんなことになるのだというふうな演説をしております。当時といえども、別に一兆のわくに理論的な根拠があったわけではないので、これは今日といえども、ごうも変ってはおらないだろうと私は思います。なるほど国民所得は、二%ばかり数字の上ではふえております。しかし日本経済実態は、私はこの一兆のわくを破っていいほど基礎が固まっているというふうには考えられないのであります。昨年はたまたま貿易が意外に伸びまして、これは当業者もむしろ意外としておるくらいであります。むしろそういう臨時的な、偶発的な要因によって貿易が伸びておる。しかしその基礎は、必ずしもこれが今後もずっと持続性があるとはみんな考えておらない。これはドイツ経済学者政治家も、要するに経済基本は、通貨の安定がなければドイツ経済再建繁栄もないのだという、このかたい信条に立って政治を行なっておるわけであります。日本通貨は、決してまだ安定の域に達しておらない。最近ヨーロッパでは、通貨交換性ということがしきりにいわれておりますが、日本などは、まだまだそこへいくのにはほど遠いという情ない現状でございます。ということは、要するに経済財政実態が弱いということなので、こういう時期に軽々しく一兆のワクをこえるということは、私は非常に危験を持つというのであります。もちろん、たとえば政府の提唱しております六カ年計画、まあ変態的ながら六カ年のうちに完全雇用に持っていく、こういう施策をやっていくには、これは予算面におきましても、一兆をいつまでも続けることはとうてい不可能なことなので、いずれは、一兆のワクというのは早晩突破しなければならない。私どもは、むしろそういう一兆を現実に非常に合理的に突破する時期が早いことを望むのでございますが、不幸にして今日は、まだそういう基盤がない、こういうふうに私は考えるのであります。たとえば跳躍するには、やはり屈伸姿勢を整えなければりっぱな跳躍はできません。これは経済財政においても同じことで、この一兆の見えざる一つ大関門を突破するには、やはり突破するだけの屈伸姿勢を整える必要がある。これは私は、根本の問題であろうと思うのであります。要するに一兆を破ることは必至でありますが、その破り方が問題になる。たとえて申しますならば、毎年会計検査院が、ああいう国民に見せられないような会計検査報告を出しているような状況では、私は一兆円突破は非常に危ない、こう思います。先般行政管理庁で公表した数字によりましても、今日政府補助金の中で、実に四百億に上る巨額なものが不正、不当に支出されている。こういう報告をしております。この補助金の節約につきましては、一萬田大蔵大臣も当初から非常に熱心で、これに対しては大なたをふるうということをしばしば言明しておりますが、しかし政府案によって計算しますと、補助金のうちで削られたものはわずかに六億円、こういう情ない大なたぶりでございますが、こういうものをそのままにしておきながら予算をふやしていく、一兆を突破していくということは危険である。これは国民心理の上からいっても危険でありますし、さらに政治的に見ますと、ずるずるべったりに一兆のワクを突破すると、二兆までは安易に膨張するという危険がはなはだ多い、こういう意味におきまして、私はまず屈伸姿勢が十分に整うまでは、一兆のワクは突破すべきではない、こういうふうに信じておるものでございます。  それから第二の問題は、財政国民経済に占めるウエートの問題でございます。これは簡単に数字を申し上げますと、昔は、いわゆる最小の政府が最良の政府だという自由主義経済が非常に成功しておった時代には、財政ウエートは非常に小さかったのでありますが、今日ではそのウエートが非常に大きくなっている。この委員会からいただきました昭和三十年度租税印紙収入大蔵省主税局報告の最後の方に、国民所得に対する租税負担割合、その前の国民所得の中に占める一般会計地方財政支出の統計を見ますと、戦前、すなわち昭和九年から十年の平均は、国民所得総計に対しまして財政の占め割合は二八%でございましたが、昭和二十八年——これは決算によっておりますが、昭和二十八年の比率は三一%四、こういうふうに増大しております。さらに国民所得に対する租税負担割合を見ますと、年度は多少ずれていますが、昭和九年から十一年、戦前におきましては一二%九という割合でございましたが、昭和二十九年におきましては二〇%五と非常にふえております。さらに三十年度予算案に基いて計算しますと二〇%三、二割を突破しているという状況でございます。さらにこの財政支出の中で、経済関係支出、たとえば食糧増産費とか、公共事業費、あるいは財政投融資、国債、こういうものをひっくるめた割合を見ますと、戦前におきましては一二%四であったわけであります。しかしながら昭和二十八年度におきましては三二%六、こういうふうに激増しております。これらの比表を見ましても、財政が今日経済あるいは国民生活に及ぼす影響が非常に多くなっている。こういうことか一目瞭然であろうと思うのであります。こういう国民経済における財政ウエートが増大して参りますと、やはり財政方針なり租税政策は、当然国民経済の一環として、その運行と緊密に結びついたものでなければならない。たとえば諸外国では、ソ連圏は別としましても、自由国家の間でも、そういう態勢に漸次組みかえられているように思うのであります。しかるに今日予算編成方針を見ましても、あるいはまた租税体系を見ましても、そういう国民経済運営と必ずしも密着しておらない。むしろ遊離しているといってもいいかもしれません。こういう状態にあります。これがやはり日本経済の回復をおくらせている一つの原因ではあるまいか。いわんや今後経済六カ年計画という一つ計画経済を実行していく上におきましては、財政なり税制というものがその計画と平仄を合せていかなければ、とうてい成功するものではない。計画は必ず机上のプランになってしまうというふうに私どもは思うのでありますが、今日の予算編成方針なり、あるいは租税政策というものは、必ずしもそういう態勢になっておらない。ここに今日及び今後の大きな問題があるのではあるまいか。たとえば一、二の例を申し上げますと、財政投融資、これはまた非常に大きなボリュームを占めておりますが、これを利用して、国民経済を、産業構造を所定の目標に引っぱっていく、こういうことは当然やらなければならないし、さらに税制の面で見ましても、たとえば関税とか、消費税操作によって国民消費を規制していく、あるいは産業構造を一定の目標に導いていく、こういう一つ計画的な操作が行われなければならない、こう思うのでありますが、今日そういうことは行われておらない。ここに一つの今後の問題があると思うのでございます。ことに、最近までの租税政策の最も大きな欠陥は、資本蓄積に対して、むしろこれを阻害するような租税政策をとってきた、これであろうと思います。今日日本経済の最も大きな隘路の一つは、資本蓄積不足しておる、こういうことでございます。ドイツのごときは、すでに一九四八年のあの通貨改革の当時、国民経済は非常に困窮しておりましたが、その当時資本蓄積に対して、実に大胆な政策をとっておる。これは今日ドイツがみごとに再建して、むしろ再建を越えて繁栄の時期を迎えたという根因であろうと思うのでありますが、これを従来やっておらない。むしろ資本蓄積をじゃまするような税制をとって来たというのが、率直な一つの見方でございます。ことに、資本蓄積にもいろいろな方法がございますが、企業内における蓄積、これが最もおくれているわけであります。今日表面は、相当な会社ならば、なるほど大てい利益を出しておるし、配当も相当にやっております。しかし、これは実際は見せかけの仮装利益でありまして、実態はやはり赤字の経営をやっておるのが、大半の実情であると私は思います。戦後個人の生活で、タケノコ生活とかラッキー生活ということが言われましたが、今日では、もうそういう事態は大体においてなくなっておる。国の経済も、一応は過失のタケノコ生活はやまっておりますが、そのしわが企業に来ていると言っても差しつかえない。国民経済基本をなす産業企業というものが、依然としてタケノコ生活をやっておる。これは資本蓄積をやっておらないという証拠でございます。たとえば、株式上場株五百四十九社、これは比較的大きな会社で、小さい会社はもっとひどいと思いますが、これの昨年九月の決算による固定資産の総額は、一兆八千四百六十億円でございます。これに対して償却はどのくらいしておるかというと、年率にして七百四十八億円しかやっておらないわけであります。固定資産簿価に対しまして、償却年限で割って、どれだけ償却したら健全であるかという数字をとってみますと、これは年に千五百五十四億円償却しなければつじつまが合わない、こういうことになりますが、それに対して半分も償却しておらない、償却不足額は八百六億に上るという状況でございます。これを割合にしてみますと、償却率は八・一%しかやっておらない。当然償却すべき要償却率は一六・八%であります。これだけ償却不足である。この償却不足を、資本額を不当に小さく評価しておりますので、そこで表面利益が出る。しかし実際は償却もしておらない、資本実態から見ては赤字を出しているというのが今日の企業実情でございます。国民経済の源泉となる企業がこういう状態では、私は、日本経済が発展し、このまま拡大均衡に持っていける状態になるとはとうてい思えないのであります。こういうことに対して、今度の予算案では、法人税を四二%から四〇%に下げると、わずか二%の引き下げを今度の税制計画には入れてございますが、私どもから見ますと、そういうこそくなことではいけないので、これは法人税を下げる必要は必ずしもない、むしろ社内保留に対して減税をやる、それならば外部に分配されないのでありますから、企業に残っていく、これが最も健全であり、かつ有効な資本蓄積対策であると私は確信するのでありますが、そういう観点は、今日の大蔵省主税局あたりでは、おそらくなかなか賛成されないと思うのであります。しかし、思い切った措置を講じなければ、これは禍根を将来に残すということは明瞭であります。この問題につきましては、時間がございませんので説明するひまがございませんが、皆さんが御興味を持たれるならば、特に作成した資料がございますので、これをいつでも差し上げますから、一つ御研究になっていただきたいと思います。  なお、いろいろ私考えている問題もございますが、時間が参りますので一応このくらいにいたしておきまして、御質問があったら、また私の知っている限りはお答えいたします。
  4. 牧野良三

    牧野委員長 ありがとうございました。  それではこれに対して、上林榮吉さん。
  5. 上林山榮吉

    上林山(榮)委員 公述人に対して、二、三の点について、基本的なことだけを一応お尋ねしておきたいと思います。  まず第一点は、財政規模は、財源のめどさえつけば幾らでも膨張する性格を持っているわけでありまするが、最近一部に、銀行の支払い準備の積立みて割合政府が強制的にきめて、この割合政府が自由に操作していったらいいというような意見が伝えられておるのでありまするが、こういうふうにいたしていきますと、財源幾らでも調達できることはできるのでありましょうけれども、こういうような構想を無秩序にやっていくということになれば、いわゆる財政投融資計画を放漫にして、インフレ要素を場合によっては含んでいくというように考えておるのでありますが、この点をどういうふうにごらんになっているか。  さらに第二は、このやり方は、政策的に必要な長期資金を確保するための一種の資金統制だというふうに考えられるのでありますが、国際的に見て、こういうことは最近あまり例を聞かないようでありますが、何かうまくいっている例がありまするならば、この点を承わっておきたい。  さらに一緒に申し上げまするが、こういうような支払い準備制度の創設は、現在の日本財政状態においては時期尚早ではないかというような意見も一方に聞かれておるのでありまするが、これに対する公述人の御意見を伺っておきたいと思います。
  6. 郷司浩平

    郷司公述人 今の自由党の御計画だと伝えられておりますところの、つまり財政投融資一般会計運営分二百六十二億を削って、そうしてその分を、今度の預金の免税によって預金がふえる、それに対して支払い準備金を強制的に積み立てさせて、そのワク内で公債を発行して、そうして投融資の穴埋めをする、こういうことだろうと思いますが、これはやはり実質的には一兆円予算を破るものである。ことにこれは、一般会計財源を求めてやるよりもさらに放漫な行き方で、やはり将来に禍根を残すのじゃあるまいか。なるほど財政金融一緒にした全体のばランスを見ますと、そういう操作をやればソフレーションにはならぬという理論は成り立ちましょうがこれは理屈でありまして、実際そこに非常に放漫な何を持っておるので、やはり先ほど申し上げましたように、まず整理した上でやるならば、私はそういう方法もまた今後とり得べき問題だろうと思いますけれども、今日ではやはり実情に即しない。  それからさらにそういうやり方資金統制意味を持っていないかどうかという問題、これは、おそらく金融業者はそういう懸念をみんな持っておると思いますが、私が見ますと、必ずしもそれ自体は資金統制意味は持っておらない。ただ間接に民間の資金を圧迫するということは、預金がうんとふえれば別ですけれども、やはり総体的にはそういうことが言えるわけであろうと思います。  外国でこういうことをやっておる例があるかどうか。それは私は不案内で存じませんが、第三の時期尚早の問題は、従いまして私も、今日の財政現状ではやるべきではない、こういうふうに考えております。
  7. 小坂善太郎

    小坂委員 私は郷司さんに、別に特にお伺いしたり議論をしようという意味ではないのでありますが、あなたがさつきお話になった、自由党が一兆円のワクをくずしてもいい、むしろくずしたい、こういう方向で進んでいるのじゃないかということは、いささか誤解がありますから、その点をちょっと申し上げておきたいと思います。私どもが、あるいは同僚がいろいろの機会で申しますることは、民主党選挙機会に、一兆円予算ワク内で、過去において、二十九年度において自由党がやったことは非政であると攻撃して、選挙の際に完全雇用を掲げながら、拡大均衡をうたっておった。ところが政府をとると、今度は一兆円予算ということを言っておる。これはその間に矛盾がないかということをついているのが一番おもな点なんであります。  それからもう一つは、一兆円予算と言いながら、以下五つの点について一兆円予算ワクをすでに破っているのじゃないかということであります。  まず第一は防衛費でありますが、防衛費国庫債務負担行為によりまして、百五十四億八千万円というのを御承知のように三十二年度まで契約しておる。これは、明らかに一般的に本年度においてするべきものを次年度に繰り越して国民に約束しておる。この限度においては破っておるということが言える。  第二に、食管会計赤字補填のために、一般会計からインベントリー・ファイナンス百億円をとりくずしておる。  第三には、専売公社たばこ納付金三十億円というものは、別個にたばこ消費税のほかに直接地方に交付することにしている。  第四に、一般会計から、揮発油譲与税地方道路税に移しまして、地方譲与税特別会計への繰り込みを、全廃して、全額特別会計にしておる。これが二十九年度に百十四億あったのですが、これはまた予算ワク外に相当隠しておる。  第五に、予備費を八十億円にしておりますが、これはわれわれのころは百三十億円で、二十九年の予算予備費をとったのを、八十億円に国会で修正を受けまして、これでは足りないというので、一般会計全部を緊縮して節約して、そうしてとにかく二十九年度つじつまを合せてきた。それをまた八十億でことしやれると思っておると言うが、実は思っていないのです。これはいわゆるウインドー・ドレッシングである。こういうことで、すでに一兆円の予算ワクを破っておる。しかも一兆円、一兆円と言っておるのか一体おかしいのじゃないか、こういう点をついておるのでありますから、結論を飛躍して、自由党は一兆円の予算ワクを破っておるのだ。非常に拡大均衡を叫ぶあまり、インフレもおそれずとしておる点を強調しておるようにあなたがお考えになると、これは少し違いますから、この点は一つ明確に申し上げておきたい。それだけです。
  8. 牧野良三

    牧野委員長 別に皆様質疑ございませんか。  それでは次に武蔵大学教授芹沢彪衛君より御意見をお聞きすることといたします。
  9. 芹沢彪衛

    ○芹沢公述人 私に財政のことをお話しろということでございますが、第三者でございますので、具体的なことを存じません。あるいは私の考えましたことが間違っておったら御叱正願いたいと思います。なお基本的の問題として今郷司さんからお話がありましたが、とりあえず私の気づきました個々の内容の問題で、いささか疑問とするところを申し上げまして、むしろこちらがお教え願いたいわけでございます。  もう新聞雑誌で一応は取り扱われておりますが、私どもといたしまして将来も通じまして問題になるのは、やはり防衛費ではないかと思っております。この点につきましては、現政府におきましてアメリカ側と防衛分担金の節約で非常に御努力なさいましたことは、われわれ国民としても一応感謝しておるわけであります。結果といたしましては、予算編成がおくれまして、結局この差額が防衛庁費の方に加えられるということになりまして、ワクそのものは、ことしは去年と変化がなかったということになっております。ただ問題になりますのは、例の国庫債務負担行為、これは内訳は新聞によく出ておりますので、皆様方も特によく御承知と思いますが、百五十四億八千万円でございますか、百五十五億前後というものは、先刻お話に出ました一兆円のワクの外に出たわけでありまして、これが将来どういう影響を持つかということはちょっと心配でございます。それから最近は繰越金は割合に減って参りましたけれども、かつて二、三年前には、かなりひどい繰り越しがございました。おそらくこれは発注が実際間に合わないとかいう技術上の問題があったと思いますけれども、減ってはおりますけれども、まだ二、三百億以上の繰越金がございますので、これは操作含みで、財政の方といたしましては余裕を持ちますのはごもっともと思いますが、二百億前後の金を年度内に使うか、あるいは来年に繰り越すかということはかなり重要なことでございます。大体常識上はおそらくは来年も同じ繰り越されるということになれば、含み資産と考えていいと思いますので、これは一応そう取り立てることもないかと思いますが、一般に言われておりますのは、やはり予算外の国庫負担が大きくなるのじゃないか、ことに本年度は人員の増加が三万前後と新聞に伝えられておりますが、それだけでも平年度維持費が百二十億円くらいいるだろう、これも新聞に伝えられております。私よく存じませんが、自分で計算できませんからわかりません。そうしますれば、本年度は千三百億台でおさまりましても、来年はことしの人員増加だけですでにやはり百二十億からふえなければならない。それからそれ以外に予算外の債務負担がございますので、おそらくは一千億——これの防衛庁費がことしは八百六十億、去年よりは百五十五億、つまり負担金の分だけふえたわけでございますが、それが追加されて参りますから、一千億を越すのじゃないか。この問題は私ども実は疑問にいたしております。つまり現政府が非常に御努力なさいまして、今年度の負担は一応伸ばすのを押えられたわけでありますけれども、いわば借金を来年に繰り越されたことになりますし、借金を繰り越しますと同時に、利息がついて参りますので、来年はそれだけ支払いが多くなりはせぬかということは、おそらく国民一同が非常に心配しておるのじゃないだろうか、このことが一つ疑問でございます。なお全般的な問題については、あとで時間がございましたら触れてみたいと思います。  それから住宅対策費でございますが、これも七百億円の予算が実際はいろいろ御苦心なさいましたが、五百億台に減りましたし、民間の方の負担が重くなっておる。これはいろいろ批判もされておりますが、しかしいずれにいたしましても、住宅を作っていただくことはまことにありがたいことでございます。これはあまり不平を言わぬでもいいのじゃないかと思っております。ただできますならば、これはわれわれ学校の先生をしておる者の夢でございますが、木造建築はいずれは、十年足らずで腐ってしまいます。これはおそらくは政治をおやりになる方は、そんなことはできぬとおっしゃいますでしょうが、できたらコンクリートでお作り下されば、一ぺん作れば腐らない。火事にも焼けない。これは私の思いつきでございます。政治上はできないだろうという感じは強く抱いておりますが、せっかく住宅で御苦心なさいますれば、そうしていただきたい。それから民間資金でできるというのは庶民には役に立たない。これはおそらくは一般の低額所得者の方は十分御承知と思いますが、民間で金を借りて家を建てるのはむしろ中流以上でございますから、これはあまり役に立たないのじゃないか。これはしかしよけいなことでありまして、とにかく住宅の方をお骨折り下さったことは非常にありがたいと思います。  それから社会保障でございますが、一つ一つ拾っていってもどうかと思います。ただ赤字がだいぶ出たというので、大臣の御説明を拝読いたしますと、四十億くらいのものをことしは十億くらい埋め合せをする、ただしそのかわり被保険者の方にも、千分の六十を千分の六十五にして〇・〇五%ですか、負担を引き上げる。これはかなり出す方からいうとつらいのじゃないかと思います。それより、結核の方が数字を見ますとやはり今年度四億六千五百万円ほど減っておりますので、重点的に社会保障をおやりになるという公約でございますが、われわれ庶民にとって一番つらいのは病気でございますから、結核の方にむしろ全力を注いでいただきたかったのでございます。もっともこれは一般社会保障につきましては、軍人恩給のベース・アップがある。それが四十億くらいふえるからこっちを減らしたというやりくり算段の御苦心のほどはよくわかりますが、できましたら、一般ベース。アップを押えるという口実もありますから、軍人恩給も少し減らしてもらって、それだけ結核の方にやっていただくことが、国民全体としては望ましいことじゃないかと思っております。  少しこの辺は国民生活に深く入り過ぎましたが、次に地方財政でございます。これは私ども皆様方にあまりすぐ政治上関係がないかと思いますけれども、大体四割一、二分というものは中央の予算のうち地方の方に回されております。これが一体国の仕事なりや、地方の仕事なりやを考えますとなかなかむずかしいのでありますが、一応そういう形になっておりますので、結局残った六割弱というものを中央でお使いになる。そういう関係がこのままでいいかどうかということは、これは非常に大きな疑問を持っております。ことにことしでも百四十一億の赤字が出るというのをどうにかこうにか——まだ新聞をよく読んでおりませんが、地方財政も百四十一億の赤字を出したままで予算に出されてお困りだということを承わりますが、きょうの新聞を見ますと、二十九年度で六百億円の赤字はやむを得ないということも出ておりますし、地方財政の問題についてはむずかしい問題があります。これは根本的に何か考えていただかないと——根本的と申しますけれども、これは私どもなんか考えてもしようがないのですが、やはり地方の負担になるものが中央で決定される。しかも決定したものが地方にすぐいく。これはかなり知事さん方には不平があるようであります。それからたとえば現在国が当然やるべきものを地方に負担させていいかどうか。これは公共事業費の問題がありますので、重点的な予算をお作りになれば、やはり公共事業費を思い切って切らなければならぬ。できないことはできないわけでございますから、どれもこれもということになれば、おのずから総花的にならざるを得ない、こういうことだろうと思います。  それから最後に財政投資のことでございますが、これは先刻郷司さんからもお話がございましたので、一々取り上げて問題にするのもどうかと思います。ただ感じましたことは、住宅の方に非常に力をお注ぎになり、それと開発銀行関係と申しますか、大産業基礎産業に対する投資は非常にふやされておりますが、勢いこれは中小金融の方にしわが寄っているような感じが強いのでございます。もちろんおそらく大蔵省のお考えとしては、自己資金で調達できるからいいじゃないかということだろうと思いますが、最近の新聞を見ますと、たとえば国民金融公庫あたりも取り立てが相当激しい。取り立てが激しいということは、自己資金を回収して貸し付けるとなりますれば、今まで貸したものの回収を激しくしなければならぬし、ちょうど世はデフレ横ばいの状態のときに、中小金融の方が引き締められるということになるのじゃないか。一般の大きいところになりますと、先刻の郷司さんのお話ではありませんけれども、大銀行が見て下さるのが常識でありますが、中小金融になりますと、金利の点とか、あるいは資金コストの点から申しまして、なかなか民間では十分見られないので、この点は多少社会政策的なものでやはり政府に見ていただくのが常識じゃないかと思います。その点ことしはデフレ横ばいという——これはいろいろ意見もございますが、その際にまた締められるということは、いろいろお考えおき願いたい点だと思っております。  財政投資についてもう一つちょっと問題になりますのは、帝都高速度に十億出ております。これは地下鉄でございましょう。これも都民の足がだいぶ窮屈になっておりますからやむを得ぬと思います。それから日航の方にこれはたしか赤字十億円の補てんとなっておりますが、民間の事業の赤字十億というものをここで見られるのかどうかという疑問を私は持っております。たとえば社会保障会計では健康保険の赤字が四十億ある。その四十億は一年では取り返せないので、まあ四年くらいで、ことしは十億赤字を埋めて、あとは国民の方で負担しろということになっております場合に、一応航空会社——まあ国際関係もございますから、やむを得ないという理屈もございましょうが、一方で十億という金が財政投資になっておるということにちょっと私疑問を持っておりますので、お考えおき願いたいと思っております。  それで大体こまかい点には触れたわけでございますが、全体の問題といたしまして、一兆円予算が守られたかどうかということは、先刻もうすでにお話がございましたが、たとえば例の防衛庁費の百五十五億でございますか、それの国庫債務負担、あるいは地方財政の問題、それから食管の問題、それからたとえば砂糖とかバナナの売り上げ代金が七十億見てあるようでございます。これは財政投資といいますけれども、これも実際税金に近いものでございますから、これも一兆円の予算ワクからはずれている。以上を見ても三百六十億円くらいはみ出しているということになります。これはやむを得ない結果だと思いますが、これもなかなか問題じゃないかと思います。  それから一方超デフレの意見が新聞などに出ておるようでございます。これは私も考えますけれども、確かに今度の政府の対民間支払い超過分は、二十九年度が千九百億円、ことしは七百億円でございますから半分になる。だから少し引き締め過ぎはせぬかというお話でございますが、二十九年度はそのかわり日銀の貸出金が千六百億円から引き締められておるわけでございます。それが問題になっていろいろあちこちにしわが寄ったのでございまして、むしろ現在のままで日銀の引き締めをとめる方が、金融関係からはノーマルじゃなかろうか、これは経済上そういうふうに考えられます。  ただ税金の問題でございますが、私個人として考えますれば、やはり減税されるのは、かりにそれが税法上の減税でも、されないよりかありがたいと思います。大体今全面的に税率が高過ぎるわけでございますから、むしろ下げられた方がほんとうに税が楽に納められるのじゃないか。今の高い税率では、申告なんか正直にやった人が税金が重くて、逃げ回った人が得をする。非常に個人の自由主義かもしれませんけれども、脱税に対する自由主義は私どもはあまり賛成いたしませんので、むしろ税率を軽くしてまじめに納められるようにしても、そう税収入は減らないと思うわけでございます。ことし何か予算がぎりぎりになりましたために、かなり税務署の方も引き締められるようなお気持らしいのですが、私どもあまりそういうことはよくないと思う。  全体といたしまして、一兆円のワクにつきましていろいろ御議論がありましたが、私は別にそう見方の理論的な根拠はないということで郷司さんと同一でございます。要するに国民からいえば、財政がふえれば負担が重くなる。もし負担をかけるのを逃げればインフレ政策より仕方がない。この点をはっきりさせていただきたいと存ずるのでありまして、今の状態をなるべく押えていただきたい。  なお申し上げたいことはございますが、時間の制限がございますからやめておきます。
  10. 牧野良三

    牧野委員長 時間はございますから、もう少しお願いしたい。
  11. 芹沢彪衛

    ○芹沢公述人 お許しが出ましたので、もう少し私の感じましたことを申し上げたいのでございますが、これはことしとか来年の問題ではございませんけれども、先刻触れましたように再軍備の費用、これが現在のところはそう大して問題ではございません。ただこまかい計算をいたしますと、地方財政に対する出費が国の一兆予算の約四割強、残り六割弱を中央でお使いになれば、それにとっては大体二割強ということになります。これは現在としてはそう大したことではないかもしれませんが、これはこれ自身が、先刻申し上げましたように、来年はさらに大きく成長する、再来年はさらに大きく成長せざるを得ない性格を持っております。それでまた一応軍需生産を基礎とした拡大生産ということが考えられております。学者の中にも軍需生産を中心として拡大生産は可能であるという意見もあるようなわけでございますから、そういうふうな方向に持っていかれる可能性もあると思う。ただそのやり方に実際日本が耐え得るかどうかを私ども疑問に思っておるわけであります。これは、私がすぐここで結論を申し上げるべきものではないのでありまして、皆様方に慎重に国のためにお考えを願い、また決定していただきたい。ただ必要なことは、例の三カ年計画、六カ年計画というものとの相互見合いの問題がございます。今までの三カ年計画あるいは六カ年計画を拝見いたしましても、再軍備とか軍需産業のバランスその他を全然織り込んでおられません。そういたしますと、財政上、大きな特殊の、国民生活に関係のない、学問的に申しますと不生産的消費がふえてくる。この場合にはもちろんインフレ傾向をとりますので、財政支出がふえますから、名目上の国民所得はふえます。これは、第二次大戦に突入する前の事情を御存じならばおわかりのことと思います。ドイツでも、第一次大戦のあと合理化をやりましたときに、かなり膨大な失業が出たわけでありますが、その社会不安から結局ヒットラーのファッショになったわけであります。これは軍需生産一点張りで行きまして、むしろしまいには労働力が不足になる。日本でも同一でありますが、戦争準備のために猛烈な労働の動員が行われます。そうして所得が名目上ふえるのであります。が、実質的には全部の人たちが貧乏になってくる。こういう過程、つまり一種のごまかしと申しますか、別に意識的にごまかされるわけではありませんが、みな所得がふえるから何だか景気のいいような気がしますが、しかし物価が上るから生活水準は下って困難になる。これが第一次大戦に追い込まれた場合に、われわれ経験済みのような結果になったのでございますが、今度日本のような弱い国が同じような条件になったならばどういう結果になるかということを私心配いたしておるけわでございます。今までの蓄積が多い少いの問題は、ちょっと郷司さんの方にも御質問がございましたが、私の感じからいたしますと、日本蓄積は多いようで少い、少いようで多い。これは非常に変な言い方でございますが、と申しますのは、確かにアメリカあたりの大きさから見ると少いのは事実でございます。しかし、私も全産業を勉強したわけではございませんが、最近の二、三の産業を見ますと、優良会社はかなり大きな蓄積をやっておられます。また銀行が金を貸し付けて、その金で蓄積をやっておられます。この場合に、自己資本が大事であるということをおっしゃるのは、事業の個々の会社、つまり産業資本と申しますか、からごらんになればごもっともでございます。しかし日本で自分の金だけで蓄積できるということはあまり過去の経験がありません。大体日本では、むしろ銀行の預金産業会社につぎ込まれておりますので、いわば銀行の貸付資金蓄積が行われておるわけであります。私があるところに書きましたが、これは一部の方からおしかりを受けるかもしれませんけれども、それは、銀行さんの取り分が多いか、あるいはメーカーさんの取り分か多いかの問題、いわば兄弟げんかとして、兄貴がとる方が多いか弟がとる方が多いかという問題としては問題になります。しかし国全体として銀行か産業資本か、これが一緒になっておれば学問上で金融資本と申しておりますが、その取り分が多いか少いかの別になるわけであります。その点から申しますと蓄積が非常に少いとは言い切れない。むしろ問題は過剰設備の方でございまして、資本主義を徹底させるならば、やはりデフレ政策を追及して、弱体企業をつぶしてしまって、いいのだけ残してしまえばいい。これは私ども冷静に学問的に考えればそう思うのであります。ただ現実にあちこち承わってみますと、つぶれると第一につぶれた会社の方がお困りでありますし、それから労働者の失業者が起って困る。つまりこれはお互いの責任というよりか、すでに日本資本主義が行くところまで行っておる。たとえば自動車会社ならメーカー三つでたくさんだと思っております。普通車一社、小型一社、それからもう一つディーゼルが一社くらいですれば国際水準までいくと思います。これは他の産業でもほぼそうでございます。だから一緒にしてしまえばまことにけっこう、生産力も非常に上るのでありますけれども、そのかわり現在の状態から労働時間の短縮はしない、そして合理化しただけ人員整理をするとしたら、当然膨大な失業者が出る。しかしこの問題は今すぐには起らないかもしれませんが、アメリカではすでに例のオートメーションとか無人工場の問題が起っておりますし、それから十年もたてばいや応なしに原子力の問題が起りましょう。私どもはこれは第二次産業革命が起っていると思うので、これはむしろ郷司さんの方がお詳しいわけでありますが、当然ここ二、三年の間に大きな問題が起って参ります。これは革新も保守も非常に大きな問題として、財政問題の中心にお考えおきを願いたい。この点は脱線いたしましたかもしれませんが、これだけ申し上げておきます。
  12. 牧野良三

    牧野委員長 御質疑がございますようでしたらこの際……。  御質疑がないようでありますから、次に農林中央金庫副理事長江沢省三君より御意見をお聞きすることにいたします。江沢省三君、どうぞ。
  13. 江沢省三

    ○江沢公述人 私江沢でございます。しろうとの私が予算について御批判を申し上げるのははなはだ僭越の至りでございますが、私は私なりにごく実際面から若干意見を申し述べさしていただいたらどうかと存じます。  私どものちょっと気のつきました点が五点くらいございます。一つは、一兆円予算というものをお立てになりました御苦心については、私ども心から敬意を表する次第でございますが、この内容を実質的に一兆円予算になるように、もう一段と努力をお願いしたいということ。それから第二は、財政補助金政策というようなものが、漸次財政投融資政策という方に重点が移っておるというようなことは、大へんけっこうなことでございますが、これに関連いたしまして財政投融資の一部として足りないところを、民間資金を動員するということについては慎重な御配慮が願わしいということ。それから第三には、これは私どもの方の立場になりますが、食糧増産の対策費並びに災害復旧費、これらの削減に関しまして、もし今後災害等があった場合にはどうするかというような不安がございますということ。それから第四番目は、これは私どもふだん申し上げておるのでございますが、郵便貯金とかあるいは簡易保険、こういうような農村から非常に多くの部分を集められている政府資金というものは、なるべく多く農村に還元していただきたいということ、こういうことについて私どもとしては一応の希望を申し上げたい。さらに第五番目としましては、これはきわめて卑近なことになりますが、私どもの方の団体において特に希望しておりますところの、農協及び連合会の調整勘定によって、締めることによって出ましたところの利益をぜひその団体に還付してもらいたい、こういうようなこと。これらの点について若干お話を申し上げたらどうかと思って参った次第でございます。  第一の問題は、いろいろすでに論議されたことと存ずるのでございますが、一兆円予算というのは、これは数字的にどうこうという問題ではございませんが、国民に対する心理、この点からいたしまして非常に重要な意味を持っておる、こういうふうに存ずるのでございます。いろいろインフレについても心理作用が非常に大きく働くということに考えをいたしますと、どうしてもこの一兆円というものは何とかして守りたい。そして経済のほんとうの安定を得て、それからあらためて拡大再生産の方向に進んでいくのが正しい行き方ではないか、こういうふうに思うのであります。そうしてこの一兆円予算というものにつきましては、昨年以来政府並びに議員皆様方の御努力によりまして何とか守ることができたということは、私どもたいへん感謝にたえない次第でございますが、これについてさらに本年度は実質的に一兆円の予算というところにとどめたい。さらに地方財政についてもよほどしっかりした緊縮方針をとられたいということを御希望申し上げたいのであります。  その一つとして私があげたいと存じまするのは、最近の新聞紙上で拝見いたしましたので、これがほんとうに具体的に進んでおるかどうか私は存じませんが、預金支払い準備金制度の問題でございます。正確に内容を知っておりませんので、あるいは間違った解釈をしておるということになるかもしれませんが、市中の増加預金を年間五千億と見まして、その一割、五百億をプールいたしまして、これによって公債を引き受ける、あるいは開銀債を引き受けるということにしまして、政府財政投融資予算の一部を肩がわりさせるというような案のように拝見したのでございますが、こういうことはやはり一兆円予算を実質的に破壊するということになりますので、まだまだその時期ではない、もう少ししんぼうして一兆円予算一つしっかりと堅持していきたい、こういうふうに存ずる次第でございます。  特にこれに関連しまして、公債を発行する、あるいは開銀債あるいは輸出入銀行債、こういうものを引き受けさせるということは、今までせっかく公債によらない、いわば公債依存政策を押えてきた趣旨から申しましても、国民に対しても非常にゆるい気持を与えるおそれがあると思うのでありまして、実質的に申しましても、これによって市中の資金政府財政投融資として引き上げられまして、市中のオーバー・ボローイングをせっかくだんだん直してきておる折から、これがまた激化するというようなおそれも出てくるのであります。財政金融両面から申しまして、これをぜひ一つ考え直していただきたい、こういう希望があるわけでございます。  それから第二の投融資関係、これも今の問題とも連関するわけでございますが、投融資関係にだんだん政府補助金政策が移ってきたということは、資金の効率的運用ということについて私ども前々から希望しておった点でございまして、はなはだけっこうなことであろうと思うのでございます。しかしながらこの財政投融資にいるべき部分というものについてもおのずから限界があるのでございまして、できるだけその方でやれるものはやる、しかしこれでやれないものもあるわけでございます。これまで投融資の関係に持ち込むということは投融資そのものを不明瞭なものにするというような観点からいたしまして、御考慮をわずらわしたい。たとえば災害あるいはその他社会政策的の意味を持ちますところの資金の需要、こういうものはなかなか回収が困難なものでございます。こういうものまで投融資わくに入れるということについては、私どもとしては若干の疑問を持つわけでございます。長期間を要するかもしれぬが回収は確実である、あるいは何とかある程度見込みがあるというようなものについてお考えになるなれば、これはたいへんけっこうと思いますが、何でもかんでも全部投融資の方にほうり込むというようなことについては、これはお考え直しをいただきたい。特に先ほどもちょっと触れましたが、この政府財政投融資肩がわりあるいは非常に長期にわたって、民間の資金ではまかなえないものをまかなうべきところの投融資について、民間の資金を動員するということが間々あるわけでございますが、こういうことがありますと、さらでだに不足な民間資金に重圧を加えることになりまして、せっかく進行しております金融の正常化を遅らせるということになりかねないのでございまして、この点はぜひ一つ御再考を願いたい。これは私どもの関係からあとでやや詳しく触れたいところでございます。  なお税制その他につきましてもこの際触れたいと思いますが、時間がございましたらば触れさしていただくことにいたしまして、やや特殊な問題になりますが、最近の農業界の現状をやや詳細に御説明申し上げまして、さっきの財政投融資関係と関連して私の意見を申し述べたいと存ずるのでございます。  農業界の現状は、御承知のように、一時は農村はデフレの圏外にあるとまで言われたようなときもあったのでございますが、二十九年の後半以後不況が漸次深刻になって参りました。農産物の価格が海外の物価の影響もございましてだんだん下った、それから一般のデフレの影響が農村にも浸透して参りまして、労賃収入というようなものが減少した、また雇用の機会も減ってくる、さらに都会における失業人口が農村に流入する、こういうような現象が起きて参りました。特に二十八年及び二十九年の大きな風水害というようなものの影響がまだ回復されない、こういうような事情と相まちまして、だんだん農村経済も苦しいような状況になって参ったわけであります。二十九年度中の統計が出ませんので、この実態を御報告申し上げることができないのははなはだ残念でございますが、おそらく二十八年度に比べてよほど悪化した状況が出ておるのじゃないか、こういうふうに考えられる次第でございます。二十八年度の統計を見ますと、農家の経済はほぼとんとん、やや黒字というような状況であったわけでございます。こういうような状況が反映いたしまして、農業協同組合関係の預金は、最近において減少が非常に激しいのでございます。年度間についてこの比較をとりましても、二十八年度は一年間に農協の預金は五百七十九億を増加しておるのでございますが、二十九年度すなわち三月末をもって終るところの過去一年間における農協の預金はわずかに二百三十億、前年度に比べまして半分にも足りない、三分の一に近いというような増加額しか見てないのであります。この増加率は八・六%でございます。この間他の金融機関がどの程度増加しておるかと申しますと、銀行は一九%、信用金庫は二六%、相互銀行は一三%、郵便貯金は三一%というようなことになっておりまして、各金融機関において最も悪い増加率を示すというような状況になったわけでございます。こういうようなことで、系統の資金の最後のよりどころである金庫、農林中央金庫の預金も、十二月の九百五十五億からぐんぐんと減りまして、今日では四百六十億円、これは毎年預金が減るところでございますが、例年に比べまして非常に減り方が激しい。その当時の半分にも満たないというような状況に減ったわけでございます。これに対しまして貸し出しは八百二十億、昨年に比べまして百十七億もふえておるというようなことでございます。日銀の借り入れも五月十三日現在で百四十三億円、昨年よりも三十三億円も多くなっているというような状況でございます。これらの数字を御報告申し上げましたのでおわかり願ったと思いますが、農業界における最近のデフレの状況は非常にはげしいというふうに存ぜられる次第であります。こういうような状況のもとにおきまして、先ごろ来農業関係についていろいろな措置を政府の方でもとられておると思いますが、農林予算について二、三申し上げますと、冒頭において触れましたように、食糧の増産、これは国際貸借の上から申しまして、また民生の安定という点から申しまして、どうしても日本の国策として押し進めなくてはならぬ、この予算が、今年度は一兆円予算ではありますが、そのワク内において削減を見ておるわけであります。これについては、今後において大きな心配を残さぬだろうかということを、私は考える次第であります。  さらに、災害の復旧費についても相当の削減を見ておるわけであります。一兆円予算堅持という見地からいたしまして、政府の方におきましてもやむを得ないことかと存ずるのでございますが、この予算の実行について、ワクは一兆円といたしましても、その内容については特に国の立場においてどれが大事だという点をよく考えられて、配分のよろしきを得ることが必要だろうと存ずるのでありまして、私どもの立場からは、今申し上げました食糧増産費の削滅、災害復旧費の削減について、何とかもう少し御考慮願えないのかというような希望があるわけでございます。特に災害復旧費の削減ということに限定して申し上げましても、農村経済が弾力性のある場合におきましては、災害の起きた場合何とかこれは農村の力をもって回復していくということが考えられた次第でございますが、今日におきましては、先ほど御説明申し上げましたように、なかなかそれだけの力がなくなってきておる。こういうようなときにおきまして、災害復旧費が昨年よりもさらに少くなってきておる、しかも災害に備えることに必要な予備費においても、大分の減少を見ておるということになりますと、この秋、例年の二百十日以降におきまして災害が起きた場合に、どういうふうにわれわれは措置したらいいかということについて、私は非常に心配なのでございます。組合金融は、二十八年及び二十九年の災害に対しましては、政府の御要請もございまして、その全資力を動員いたしまして四百八十五億、あるいは百十五億というよな、大きな災害資金の融通についてその力を尽したわけでございます。その当初におきましても、私は組合金融としてはこれだけの大きな荷物を背負う力はないのである、それはでるきだけのことはいたしますが、いざという場合には一つ政府のお力を借りたいという二とをくれぐれも申し上げておいたのでございますが、ただそれだけのことに終りまして、ほとんど全部組合金融の力でこれをまかなうということになったわけでございます。従ってこれが組合の持っておりますところの債券と長期の資金源を食いましたのみならず、短期の資金までもこれに動員せざるを得ぬというようなことになりまして、これが先ほど申し上げましたような、組合金融に対する大きなしわ寄せとなって出てきておるわけであります。今後の営農資金等についても、先ほど御説明申し上げましたように、せっかく日本銀行に対する依存を脱却しつつあるわれわれの系統におきまして、さらにこれによらざるを得ぬというような状況が現われてきておりますことは、はなはだ憂慮にたえないのでございます。それ以上に憂慮にたえないのは、今後起ることあるべき災害に対して、われわれとして新たに資金を動員する余力はほとんどなくなっておるという状況でありまして、これに対して財政的考慮が何とかお願いできないものかという点、これは私ども非常に御無理なことであろうかと存ずるのでございますが、特に心配しておる次第でございます。  これに関連いたしまして、しからばそういう資金は何とか農村の力で動員して作る道がないのか、こういうふうになるわけでございますが、農村におきましては、御承知のように、単位農協というものは、郵便局と貯金の吸収につきましてはまことに相せり合っておる、競合的な立場に立っておるわけでございます。しかも信用力において単協というものは、政府の信用をバックにしました郵便局とはとても比べものにならない。しかも金融界においてはいろいろ問題にされておりますように、郵便局ではいろいろサービスを非常に多くされるというようなことからいたしまして、農協の資金となるべき金がどんどんと郵便局の方に流れていとくいうのが実情でございます。しからば郵便局に流れても、農協に流れても、国の貯金としては同じことだからいいじゃないかということになるのでございますが、そういうことなれば郵便局に流れました資金を何らかの形で農村に還元する道がないかということになるわけでございます。これについてはかねがね関係方面に私どもも話しておるわけでございますが、資金運用部資金——郵便局、簡易保険、こういうものを中心といたしました資金運用部の資金が、農業関係に還元されることが非常に少いという事実、これを御認識になりまして、何らかその辺のところを調整していただくことができますれば、われわれの活動力を増強するという意味におきまして、また災害等の場合におきまして、中金が農村をバックして政府政策に応じて資金を放出し得るという点において、まことに仕合せなことだと存ずるのでございます。これは私が御説明を申し上げるまでもなく御承知のことと存じますが、資金運用部の資金は原資は約七千億に上っております。そのうち地方公共団体等に対する貸し出しがその半分の三千五百億、それから政府の諸機関に対する貸し出しが二千億、こういうことになっておりまして、金融債、すなわち民間から吸収した資金を純粋に市中に還元するという形で金融債の引き受けに回されておるものはわずかに千二百億、こんなようなことになっておる次第でありまして、こういう点について何らかの御高配がいただければまことに仕合せである、こう存ずるわけであります。農林中央金庫について見ますと、毎年資金運用部からとっていただいております農林債券は年間十二億、一月一億というような微々たるものでございます。これらの点について御高配をいただければ仕合せだ、こう存ずる次第でございます。  最後に、これははなはだむずかしい問題だろうと思うのでございますが、農業団体からの切なる要望もございますので一言申し述べたいと存ずるのでありますが、金融機関の再建製備法に基く調整勘定が閉鎖されまして、農協及び連合会が国庫に納付した調整勘定の利益金が六億円以上あるわけでございます。これはこの前の春の国会で、農協及び連合会の再建整備に回す、あるいはこれを助成するために使うという附帯決議みたいなものがございまして、そのために信連等において肩がわりいたしまして納付したというような関係もあるわけでございます。これにつきまして、本年度予算として農協に還元されておりまする額は約一億円でございまして、五億何がしのものはそのまま押えられておるというような形になっております。これにつきましては、農協関係におきましては非常な不満があるのでございまして、いろいろ事業団体におきまして、整備促進をせっかく進行しておる最中でございますので、特別の御配慮をもちまして、何らかの措置を講じていただけば、まことに仕合せに存ずる次第でございます。  なおいろいろございますが、時間もたちますし、また明日は楠見さんから農政一般についてお話しがあるものと思いますので、米価問題、その他について私の触れることはここに御遠慮申し上げたいと存ずるのであります。また何か御質問がございましたならば、それによって御説明申し上げます。
  14. 牧野良三

    牧野委員長 江沢さん、ありがとうございました。江沢さんに平野三郎君からお伺いしたいことがあるそうであります。
  15. 平野三郎

    ○平野委員 ちょっとお尋ねを申し上げたいと思います。  ただいま御意見を伺いましたが、そのうち第一点の御意見は一兆円予算堅持すべきである、これはしりがすでに抜けておって意味をなさぬようなことであるけれども、しかし心理的な立場からいってやはりこの格好だけは維持すべきである、こういうのが一つの御意見でありました。もう一つは一部に伝えられるところの開銀債、あるいは輸出入銀行債を市中銀行に引き受けさせる。これは公債政策であって、インフレを助長するから、これは差し控えてもらいたい、こういう御意見が劈頭に二つあったわけであります。さらにその後あなたは食糧増産対策費、また災害復旧費が少な過ぎる。食糧増産対策費は国策として、これはぜひ増額をしてほしい、また災害復旧費については予備費がわずかに八十億であって、これではとうていやれるわけはない、従ってこれもふやさなければ、農林中金が結局非常な責任を負わなければならぬことになる、こういうことなんです。これがあなたのたくさんの御意見の中の三つの大きな柱、この柱がありましたが非常に矛盾するのではないかと思います。ということは、食糧増産対策費をふやす、あるいは災害復旧費をふやすということになりますと、今の金融債を発行する、いわゆる財政投融資にそうしたものを追い出して、そこに穴をあけて、その方でまかなうということにしなければやれないわけです。すなわち一兆円を堅持して、しかも食糧増産対策費、災害復旧費をふやすということになれば、あなたがこれはいけないと言われた方法をとるか、あるいは現在の一兆円予算の中において、他の予算を削って、その配分を変更するか、どっちかしかないわけです。そうすればあなたの御意見を全部実現しようということになれば、結局現在の一兆円予算の中で他の費目を削って食糧増産対策費、あるいは災害復旧費をふやすということ以外にはないことになるわけですが、その点はどうお考えになっておりますか。
  16. 江沢省三

    ○江沢公述人 お答えいたしますが、私の申し上げましたのは一兆円予算堅持する、これは大前提でございます。その中でやはり重点的に資金の配分をしていただきたい、そういう意味におきまして他を削ってこれをふやせということになるかもしれませんが、非常にそれは困難なことでございますが、困難なことを骨折ってやるだけの努力は一つお願いしたい、こういうことを申し上げた次第でございます。どれを削るということになりますと、きわめて専門的なことになりまして、私ども力の範囲外になります。
  17. 平野三郎

    ○平野委員 今の御答弁からいたしますれば、結局金融債の発行は反対である、一兆円は堅持するんだ、しかも食糧増産対策費と災害復旧費を削るということになると、今のあなたの御意見は他の費目を削って、そしてその方に重点的に配分する、こういうことになるわけなんですが、それは非常に困難だということでありますけれども、そういうことをあなたが勇敢におっしゃるならば、他の費目のどれを削ればいいのか。どれかを削らなければどっかをふやせないことになる。でなければ、ただ漠然とおっしゃることは、まことに私はこれは無責任なことになると思うのですが、しからばどの費目を削って食糧増産対策費をふやすんだ、この点を一つ伺いたいと思います。
  18. 江沢省三

    ○江沢公述人 先ほど申し上げましたように、これは大事な費目であるということはお認めになるだろうと思います。食糧増産対策あるいは災害対策というものの費用ですね。だからこれは何とか一つ間に合うようにやってほしい。しかしそのためにどれを削るかという点についてはこれはなかなか専門的なことで、私どもから間違った御意見を申し上げてお叱りをこうむってもいけない。これは皆様方御審議の上で一つ……、こういうふうに存じております。
  19. 平野三郎

    ○平野委員 結局これはどれを削るということはできませんので、結局金融債を発行するということ以外には手がない。これは民主党の方に伺うことにして私はこれで終ります。
  20. 牧野良三

    牧野委員長 小平忠君。
  21. 小平忠

    ○小平(忠)委員 大へんけっこうな御意見を拝聴したわけですが、この機会に二、三点お伺いをいたしたいと思います。  ただいまの御意見の中で、農村における余裕金というか、これが農協よりも郵便貯金に回る面が非常に多いわけです。これについてはいろいろな事情があるが、これによって吸い上げられた資金、すなわちその預金した資金は大半農村から吸い上げられておるのであるからして、これを農村に還元してもらいたいという御意見も私全く同感であります。  そこで私は初めに農林中央金庫の責任の地位にあられる江沢さんにお伺いしたいことは、これは現在始まったことではないのでありますが、昨年、一昨年から特に農協なりまたは個々の農家が資金が増しているという現状にかんがみて、特に農林中央金庫がその自己資金を農業系統以外の、農村以外の方面にこれを相当流しておる。具体的な数字も、実はたびたび耳にするのでありますが、現在どのくらい農協なり農林漁業関係以外に資金が回されているかということをお伺いしたい。
  22. 江沢省三

    ○江沢公述人 お答え申し上げます。小中さんの御質問は資金運用部資金を地元に還元するのは賛成である、なるべくよけいにやっていくということについては同意見だが、そのほかに中金が自己資金を系統外に流しておる、これは何とかならぬものか、こういうお話だと思いますが、中金の預金は御承知のように、農村の主として生産物の季節性を反映いたしまして、非常に大きな波を打つわけです。秋には非常に大きな金が集まる。これは農協関係では使い切れないわけです。使い切れない金を私どもは余裕金と申しておりますが、これを系統外部、すなわちその当時金の要る方面に回しまして、これを有利に運用してその利益を農村に還元する。もちろ短期の金でございますから、有利と申しましても、そう市中で考えるほど大きな利ざやはございませんが、ともかくもできるだけ有利に回して、その利益を農村に還元する、こういうことをやっておるわけでございます。これらの系統外に対する資金は、大体三月を中心にいたしまして回収する、こういうような措置を講じておるわけでございます。特に昨年度におきましては災害が非常に激しく、資金需要が非常に多い、預金はどんどん減っていくというような状況もございまして、系統外資金は、その前年に比べますと、今年度は八十数億円もよけいに回収したというようなことになっておるわけなんです。現在の残高としては、きわめてわずかな数字になっております。御披露してもいいと思いますが、この現在の残高は、系統と直接取引のある関係、すなわちアルコールの会社、あるいは肥料会社、あるいは雪印、クローバーというような、系統と取引の密接な関係にある乳業会社、こういうような方面に行っておるわけであります。これは準系統金融と私どもは申していいのではないか、こう思うのであります。こういうものが回りませんと、農協の売った代金の取り立てもできない、また農協としては十分な肥料の手当もできない、こういうようなことになるわけであります。この辺は御了解いただけることだろうと思うのです。  数字を申し上げますと、現在貸出金の総額は、五月十三日現在で八百二十二億でございますが、そのうちそういう肥料会社——特に肥料会社については、政府の御方針によりまして硫安のたな上げをいたしました。これは今御説明申し上げましたものとちょっと性格が違いますが、そういうものを含めまして七十四億円ばかり、こういうようなことになっています。御了承いただきたいと思います。
  23. 小平忠

    ○小平(忠)委員 農林中金自体が、農協が使い切れないというような立場において、短期の資金を系統外に一時回すというような便法は、これはわれわれも準系統機関というような立場において了承できるのでありますが、私は農村の現状は、使い切れないというようなことは、常識としても考えられないのじゃないかというふうに思うのであります。ですから今後努めて系統外に流すようなことのないように御配慮いただきたい。  次に、先ほど御意見を拝聴した中で、農協の連合会、特に金融関係のいわゆる信連系統でありますが、昨年の国会において附帯決議として、御承知のように、国庫に納付したいわゆる調整金として六億を支出する。今度の予算では一億しかついてないから、さらに五億ぜひこれは出すべきである。これはわれわれも強く指摘している点でありまして、あなたの御意見に全く同感であります。  あわせて農協から強く要請されている問題がもう一点あるのでありますが、それは昨年の農業協合組合法一部改正によりまして、総合指導体制の確立という見地から、指導連を農協中央会に改組いたしたわけであります。これについては、どうしても農協の健全な育成発展のために、国がやはりある程度の助長政策をとらなければならぬという見地から、この法律の改正を見、国も若干の助成をする。これについてどうしても指導監査、さらに経営経理の指導というような、検査といわゆる監査、こういう面から、農協は約九千八百万、一億近い金をどうしても最低限要請しているわけです。それを今度の予算では半額しか認められていない、これについては江沢さん、どのようにお考えになられましょうか。
  24. 江沢省三

    ○江沢公述人 いろいろお話がございましたが、最後の一点だけでよろしゅうございますか。——中央会に対する政府の援助約一億円というものが削られた、これは復活する方がよいだろうというような御意見でございましたが、私どもといたしましても全く同感でございます。ただ、私どもはまだまだいろいろ申し上げたいことはたくさんございますが、そのうちで、特に短い時間で、またこの一兆円予算ワク内で重点的にどれを取るかというところで、先ほどの御説明を申し上げたわけであります。こう御了承いただきたいと思います。もちろん私どもはそういう御意見には全く賛成であります。
  25. 小平忠

    ○小平(忠)委員 もう一点だけお伺いいたしたいと思うのですが、農協中央会の問題に関連いたしまして、最近こういうことを特に都道府県の農協の連合会の幹部からわれわれよく耳にするわけでありますが、最近特に農林中金が官僚化しつつある、資金の借り入れについても非常にむずかしい、また手続のめんどうなことを言いつけられて非常に困っている。特に都道府県の農業協同組合の指導機関である従来の指導連、それから全指連、これが都道府県中央会、会国中央会に改組されましたが、特にこの改組の段階をめぐって、農林中金がまずその金融面を握っているという観点から、人事問題まで特に制肘を加えて、農協の指導機関であるものの自主性を非常に阻害している。特に全国中央会の場合においてそういった面が顕著ではなかろうかということを、地方の都道府県の農協の指導者からわれわれよく耳にするのでありますが、農協の健全なる発展から、特に自主的な農業協同組合運動の発達のためにも、農林中金が金融面を押えているような見地から、人事権までもそういった自主性を阻害するような越権的なことがあっては断じてならないと、私は考えているのでありますが、この点について江沢さんの御所見を承わっておきたいと思うのです。
  26. 江沢省三

    ○江沢公述人 今のお話の、中金がだんだん官僚化して、手続が複雑でやかましくて、なかなか貸さぬで困る、こういうお話ですが、これは災害金融、その他特融、いろいろな手続がございます。これによらなければ政府の方の融資として認められないというようなこと、それから県庁の方の関係の証明がなければこれはまたどうというような、いろいろな法律によって、またそれに基く規定がございまして、それによってやかましくできているわけであります。それをやはりわわれとしてははっきり固めた上で金融するということになりますので、勢いいろいろむずかしいことを申し上げる。農村の方にはなかなかそれがのみ込みにくいといういうなことで、若干末端においていろいろな批評を受けているということは私よく了承しております。そういうことのないように、できるだけよく御説明して、またお手伝いをして書類も作って差し上げるようにと申しております。時をかしていただいて、だんだんそういうことのないようにしたい、こういうふうに考えております。  それから中央会とか全国中央会の改組の結果、あるいは事業連の再建の整備計画を出すときに、中金から非常な干渉があったというふうに思われる、こういうようなお話がございましたが、これは全くそういうことはないわけでございます。これに関連してできました審議会——これは農業界のえらい方がみなおそろいで作った審議会でございますが、再建整備の関係については、これが最高の指導方針をきめる。そこの指導方針に基いて、私どもはただ専門員あるいはお手伝いというような意味でお話申し上げるという程度でございましてこういう点については誤解いただかないようにお願いしたいと存ずるのであります。なお具体的の例がございましたならば、それについてまた後刻お答え申し上げたいと思います。
  27. 牧野良三

    牧野委員長 野田卯一君。
  28. 野田卯一

    ○野田(卯)委員 簡単でいいですから、先ほどお話のありました中で、農協の預金が、昭和二十八年度で五百七十億増加しているが、それが二十九年度では二百三十億、そこで私がお尋ねしたいのは、農協の預金だけが二十八年度五百七十億、二十九年度二百三十億、非常に増加が減っておるわけです。こういう現象が、農村における郵便貯金その他あらゆる金融機関においても起っておるかどうか。それから、農業所得との関係がどうなっておるか。農業所得が減って預金が減っているのか。農業所得がふえて預金が減っているのか。もしほかの金融機関の増加があまり減ってなくて、あなたの方だけが減っておるのか。あるいは農業所得が減らないで、あなたの方だけ減っておれば特異な現象である。農村デフレそのものではないと思う。そういうことであれば、どういう理由でそういうことであるか。こういう件に関するお考えを述べていただきたい。  もう一点、先ほど、財政投融資の関係で、たしか社会政策ですか、あるいは社会保障ですか、そういうような経費とか、あるいは災害復旧的なものは、財政投融資で見るべきものではないような御発言があったと思いますが、具体的に本年度投融資計画でそういうものが入っておるとすれば、どこに入っておるか、そういう点をお答え願いたい。
  29. 江沢省三

    ○江沢公述人 これははなはだ専門的なことになりまして、数字的にお答えしなくちゃならぬのですが、今ちょっと資料を持ち合せておりません。農協預金が二十九年度として非常に減りましたのは、十二月を越してからでございます。それでその間、先ほど申し上げましたように、他の金融機関の預金は相当上昇しておるということ、これはいろいろな原因が探られるわけでありますが、農村においても、大体二十九年の上半期におきましては、順調な状態を示しておるように思うのであります。二十九年の下期から非常に悪化している。これが端的にすぐ農協に響いてくる。ほかの方の預金は、まず農協の預金を引き出してからというようなことが一部にはあるように思いますので、農村の状態が悪化するということは、すぐ農協の方にじかに響いてくる。こういう結果が出ているのじゃないか、こういうふうに思うのであります。  それから、財政融投資の関係で、社会政策的な、回収の見込みのないもの、こういうものは考えるべきじゃないということを申し上げましたのは、投融資という限りにおきましては、やはり回収が、長い期間でありましても期待できるというふうなことに限定さるべきで、災害等につきましては、あるものについては、ほとんど補助金でなければ救えないというものがあるわけでございます。しかもあるワクを与えられまして、災害については融資の関係で解決せよということになりますと、それまでやはり投融資としてしょわなければならぬという関係が出て来ておるわけであります。この辺のところは、ごく具体的なことになりますので、御説明は省略さしていただきますが、実例はないわけではないのであります。
  30. 牧野良三

    牧野委員長 三浦一雄君。
  31. 三浦一雄

    ○三浦委員 私のお尋ねいたしたいことは、今野田委員からお尋ねがあった投融資関係のことであります。今、御説によりますと、助成金等の制度がだんだん投融資に変ってきている。その傾向はある程度是認せざるを得ないけれども投融資に依存すべき部分が、今野田君がお尋ねになった通り、災害もしくは社会政策的な方面に使われている。すなわち回収できない方面に向っていくようになっている。一般的な御議論ならば、すぐ了承できるんです。しかしながら現在の投融資の制度全体から見ましても、それは避けらるべき性質のものであると思います。そこで今お話がありましたのは、特に農村の金融関係その他の面に直結している、こういうことであれば私はある意味があると思うのです。そこで今特に強調される通り、災害等が非常に累積しているわけです。従いまして農中等の金も相当その方面に事実上農村側で負担しなければならぬ部分が固定している現状だろうと思うのですが、そういうことならば事実あり得ようと思うのです。ただその量が非常に多くなったり、あるいは融資の面において非常に支障が出てくると、相当大きな問題が起きるだろうと思うのですが、そこでその意味でございます。実知的に農中あるいは漁業金融公庫等の方面の融資がそういうふうに固定してきて、農村金融の運用の面に非常に支障を来している現状であるか。あるいはその傾向をたどっているか。それらのことについて、きょうは一般的のお話を承わることになりますが、御説明を願いたい。  さらに社会政策的な方面にも流れるというのは、ちょっと私理解ができないのですが、もしありましたら、簡明でよろしゅうございますから、一、二例をとって示唆していただきたい。これだけ私伺います。
  32. 江沢省三

    ○江沢公述人 私どもとしては、大体農業関係の融資を頭に入れてお話申し上げた次第であります。二十八年度の災害融資四百八十五億のワクが与えられまして、これについては政府の方でワクを各県別にわけてある。このワクはどの県の金額だというので分配されたわけであります。従いましてこのワク内におきましては、融資の要求が非常に強く出てきた。私どもの方としては、ある程度の摩擦を起しましても、融資の対象にならぬものについてはお断わりしたわけでありますが、これはなかなかわれわれの力だけでは及ばぬ点もあります。そういう方面に、あとから考えてみて、これは融資で行くべきではなかったんじゃないかというふうな疑念を持たれるものもあるんじゃないかと考えます。  二十九年度の百十五億をワクとした災害融資につきましては、そういうような私どもの要求が若干いれられまして、金融機関として自主的な判断に基いて融資してよろしいというようなラインがはっきり出されているように思います。これは二十八年度の災害融資に比べますと、一歩進んだいい形で出てきている、こういうふうに私は思います。その辺のところで御了承を願います。
  33. 牧野良三

    牧野委員長 別段御質疑ございませんか。——午後は中小企業に関して慶大の伊東教授、さらに原子力の利用に関して藤岡博士、労働問題に関して滝田全繊同盟会長にお願いすることになっております。江沢さんまことにありがとうございました。午後は一時半より開会することにいたしまして、暫時休憩いたします。    午後零時十九分休憩      ————◇—————    午後二時開議
  34. 牧野良三

    牧野委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  本日御出席をいただきました公述人各位には、御多用中のところ特においでをいただきまして、まことに感謝にたえません。厚くお礼を申し上げます。何とぞ忌憚なき御意見をお聞かせ下さいまして、われわれの審議に権威をあらしめていただきたいと存じます。なお公述は二、三十分程度にお願いをいたしたいと存じます。それでは慶応大学教授伊東岱吉君より御意見を伺うことにいたします。伊東岱吉君。
  35. 伊東岱吉

    ○伊東公述人 新予算と中小企業の問題という課題でありますが、これについて意見を申し上げる前に、まず一昨年来デフレ政策がとられましてからの、金融の動きということから考えてみなければならぬと思うのでございます。その非常な特徴は、どこにあったかといいますと、デフレ政策日本経済の自立と輸出の増強、そういうもののために必要であると一般的に言われながらも、そのデフレ政策が非常な不平等な階層性をもって進んできたという事実であります。まず統計的に見ましても、昭和二十八年十二月から昨年の十二月、さらにごく新しく得られる最近の数字まで考えてみまして、その間に中小企業への貸し出しの比率が、全体の金融機関の総貸し出しのうちにおいて非常な減少を示してきておるということであります。たとえば昭和二十八年一月、これは中小企業専門の金融機関をも含めてですが、全体の金融機関の貸し出しの中で、中小企業金融がどのくらいの比率を示しておったかと申しますと、四五・一%でありました。それが二十八年の十二月には四三・一%になり、さらにそれが昨年の十二月には四一・一%になり、さらにこうして一月には回収が進みましの四〇・六%、こういうふうな減少を示してきておるのであります。もし昭和二十八年一月の同じ比率でもって今年の一月の金融がなされているとするならば、中小企業向けの資金がどのくらいふえなければならぬかということを、比率を換算して申し上げますと、約千八百億円になります。つまり同じ比率で融資がなされてきておるならば、千八百億円でなければならない、それだけさらにプラスにならなければならない、こういう数字になるわけでございます。従って、一方、この財政方面で投融資等でいろいろ道をつけてやっても、結論から言えば焼け石に水だ、こういう状況にあるということをまず申し上げなければならないのであります。つまりこの数年にわたって中小企業向けの融資の割合は逐次減って参りまして、大企業向けの融資の割合がどんどんふえてきておるということであります。今申し上げたのは、中小企業専門の金融機関をも含めての数字でありますが、さらにこれを銀行だけについて、つまり一般の銀行だけについて申し上げますと、さらにその減少が著しいのであります。そのうちにおきましても、この旧財閥系銀行といわれるような十一大銀行、さらにそのうちの六大銀行というようなものの貸し出しの様子を見ますと、この傾向がますます顕著であるということがいえるのであります。地方銀行におきましては、非常に多くの部分を中小企業金融に向けて参りましたが、最近のデフレ下におきまして、この地方銀行に対する大銀行との系列化、さらに自己の防衛といいますか、存立のために中小企業金融を削っていき、大口金融に向わざるを得ない、こういう傾向になってきている。さらに相互銀行等においてさえ同じような傾向が見られるということ、このことを指摘しなければならないのであります。結局今まで中小企業に回されておった融資がどんどん回収され、あるいは打ち切られまして、それが大企業へ向けられていった、実はこういう状況がデフレ政策の真相であったということであります。結局大企業にとっては、デフレ政策といいましても実はデフレでなかった、全体としてはデフレを示してきましたが、締められたのはもっぱら中小企業からの吸い上げといいますか、中小企業へ出すものの増加を押えて、そうしてその分を大企業へ回してきたというのが事の実態であったということがいえるのであります。こういうようなへんぱな金融の動向が進んで参りましたその結果として、この中小企業がそういう動きのために、相当いいものまでが圧迫されまして倒産する、こういうことが起っておるのでありますから、このことは中小企業が不合理であるからとか、あるいは中小企業の経営が不健全であるからというようなことから起っているとして非難することはできないのであります。むしろ国の政策、さらにこの政策によって動いておるところの、非常に集中的な融資を進めている大銀行の動き方、こういうところから中小企業が犠牲に供されておる、こう見ざるを得ないのであります。従って大銀行なりあるのは普通銀行においてのいろいろな経営のやり方、つまりコマーシャルベ・ースというものからいって、中小金融がなかなかそれに乗りにくいというならば、これは一方において大銀行なりそういう集中融資を大いに規制しなければならぬのでありますけれども、同時に何といっても国家の財政的任務というものが非常に大きいといわざるを得ないのであります。そこで本年どの新しい予算の中小企業関係のことを拝見しますと、中小企業金融機関への投融資の総額は二百二十五億であり、昨年の二百四十一億よりは全体として十六億の減少を示しております。われわれは当初非常な公約がありましたので、これが相当ふえるものと期待しておったのでありますが、事態はまさに逆であったということであります。  さらにこれをこまかく見まして、中小企業金融公庫に対する政府出資、一般会計からの出資は、昨年の二十五億に対して十五億に減少しておる。さらに資金運用部からの投融資が、昨年の百五億に対して九十五億に減っておる。両方合せて二十億の減少になっております。このことは中小企業金融公庫というものが非常に大きな任務を持ち、期待されているのに対して、こういうふうに減ってくるということは一つの大きな問題であります。  さらにこのデフレ下において、非常なしわが零細企業に寄っておるのでありますが、この零細金融を担当する国民金融公庫に対するところのものも、一般会計からの出資、資金運用部からのものを合せましても、これまた六億のマイナスになってきておる。もちろん、この出資等がつけ加わってくるのでありますから、全体の貸し出しそのものはふえてくるという計算になりましょう。しかしここで注意しなければならぬことは、全体の貸し出しがふえていく。たとえば七百七億、全体の中小企業関係のそういう貸し出しが本年度なされ得る予定であるということでありますけれども、これは回収が非常に順調にいくものとして見込んでの計算なのであります。従ってこれからの経済事情の動きによって、回収が困難になってくれば、この予定は狂ってくるということは第一に考えられなければならぬ。  さらに資金運用部資金に大いにたよっておりますが、ここではまた新しい事情が出てきておるわけであります。それは金利に対するところの税が免除されましたから、従って一般銀行の方へ資金が大きく流れる、郵便貯金等の資金の伸び悩みが生ずるであろう、こういう問題が考えられます。従ってこの方においても、予定通りいくであろうかどうかということに対して不安を感ぜざるを得ない。こうしてつまり貸し出しの予定というものが、昨年度よりもまた非常に伸びるよううに見えますけれども、これは必ずしも安心できないものである。商工中金の方に、今度政府出資が大幅にといいますか、十億円ばかりなされました。これは見ようによっては中小企業金融公庫のものをこちらへまわしたということでありますが、しかしこの両者は非常に性質の違った、中小企業金融機関としましても、一方は組合金融であり、一方は長期の投資をする、ことに設備投資を中心とする機関でありますが、この一方へまわったというふうに考えることは、私どもは取り得ないものであります。むしろ商工中金等に出資がなされるということも一つの問題でありまして、商工中金そのものの性格というものにも一つのここに変化が起る。そのことはともかくとしまして、商工中金にこういうふうにふえるということは、一応歓迎するとしても、中小企業金融公庫に対して削ってきておるということは、非常に遺憾とせざるを得ないのであります。しかも全体の貸し出し予定額は、今まで進んで参りましたこのデフレ下の中小企業への融資の比率の削減、比率が絶えず減ってくるという大きな流れに対しては、まさに先ほど申したように、焼け石に水である、こういう状況なんです。  ところで今日の中小企業のこういう困難というものがどうして起ってきておるか。その一つの大きな原因は今申し上げましたような、大銀行を中心とします集中融資——全体から集めてきている。そしてそれはごく自分の系列なり一部のものにしか出されていかないという動き方であります。それが第一であります。しかし金融だけが根本の問題ではないということを申し上げなければならない。それは一方において、これはこまかい計算がなかなかむずかしくて困っておるのでありますが、大局的に考えましても、この中小企業から税金を通じて吸い上げられてくるものがさらに還流されるという、この循環を考えましたときに、中小企業にはわずかしかもどってこない。その多くが大きいところに使われてしまうという、この循環の不均衡の問題なのであります。先年の大蔵省の調査——少し古いのでありますが、それ以後調査がありませんから、それを材料にして申し上げますと、中小企業が金融機関に預けておる総額の中から、中小企業がどれだけ借りているかという計算があります。それを見ますと、中小企業預金している総額を一〇〇としますと、そのうちのわずか五五%しか中小企業が借りていない。あとの残りは大きいものが利用しているということ、これは中小金融がまだうるさくない、中小金融が比較的順調であったときでさえそうである。今日においてはもしそれが詳しく調べられるならば、どれだけになっているかということは想像にかたくないのであります。そのように金融の面でそうであるのみならず、財政においてもこの中小企業の生み出したところのものが税金で上げられる。さてそれが中小企業の発展のために向けられるかというと、その大部分が大きいものに向けられて中小企業にこない。こういう循環の問題が一つの根本問題になっている。それに加えましてこの独占禁止法がありながら、事実上国内の主要ないろいろな原材料等に独占的価格の傾向が生じてきております。これは特に輸入のいろいろな抑制であるとかその他をもってさらにささえられているせいでありまして、この原料高、製品安の問題、中小企業は多くは最終の加工過程をやっていますから、従ってそこで作られたものは大衆の購買力が減れば、それによって値が下ってきて、そこでは正直に需給の法則が作用しておりますが、一方大きなところが作っているところの原材料においては、いろいろの形でその値のつり上げなり維持が行われているという、この独占価格と中小企業製品との非常なはさみ状の差がここに出ているということであります。それがさらに国際的のいろいろな条件によって強化されてきているということが、中小企業の採算なり原価割れを生ずる大きな原因になっております。さらにまた、それに加えて下請け関係の支払いの非常なアブノーマルが生じてきている。今日見られるような下請けに対する支払い遅延というようなことは、戦前にないことはありませんでしたが、珍しいことでありまして、さらに世界各国を見回してみましても、このようなことが当りまえとして行われるところはどこにもない。もういわゆる商業道徳なり、経済道徳から見て、あるいは経済の普通の常識から見て考えられぬことであります。そういうことが当りまえとして行われる、さらにはそれが一種の経営のやり方としてさえ常道化してきているということであります。こういう下請けに対するところの支払い遅延というものによって中小企業は非常な苦境に陥れられている。こうして支払い遅延があるということは、次には下請け単価の切り下げの一つの武器になっている。払ってやるかわりに下げろ、こういうことになって参ります。こうして中小企業がこういう下請け関係というものでまた非常な理不尽な圧迫をこうむる。  このことは実はどうしてこうなるかということを考えてみますときにいろいろな経済的な問題があります。それは一方からいえばこの中小企業というものの存在、ことに下層の部分についてみますと、たとえば従業員五人から三十人未満くらいの、いわゆる町工場というようなところについてみますと、中小企業の出生率、死亡率の統計でありますが、これを見まして百軒のうちで、一年間に生れるのが八軒で三軒つぶれるという計算が出て参ります。これは先年のいろいろな数字によって計算したのであります。最近を見ましてもほぼ同じである。生まれ方は少し減って死亡がふえておるというような状況でありまして、こういうつまり非常に高い死亡率がまず目を驚かせるのみでなくて、またそれを上回る出生率がある。非常にたくさん生まれて、そうして死んでおるのであります。こういう出生の中には、転業ということももちろん入っております。しかしその多くが出生である、こういう一つの非常なアブノーマルな状況があるということは何ごとか。それでその出生してくるものの前歴を調べてみるのであります。そうしますと、その多くは大企業に勤めておった人々が退職するあるいは首を切られる、退職金や何かをもらったが、この金でどのくらい続くかわからない、何か始めなければならぬということなのであります。それは言葉をかえて言えば、相当なといいますか、ある程度の小金を持った中小の小資産家といいますか、そういう者が失業しているということです。あぶれておる、さらに広くいって中小資本のあぶれ現象といってもいいでしょう。こうしてつまり一方で非常に失業がふえ、ことに半失業がふえてくるということは、労働力の失業現象と非常に関係を持ってくる。このことは末端においては中小企業の家内工業においてはまさに両方一緒になってしまいます。ところがそれから上へ来て中小の経営、さらに企業、さらに資本と見られるところにおいても同じことが起っておるということなのであります。非常にたくさんのものがあとからあとから生まれる、そうしてはげしくつぶれるがそれ以上生まれる、こういう奇妙な現象があって、それが今日よくいわれる過当競争という現象を起している、非常な自殺競争を起しておるのであります。こういう根本の事態を考えないで、そうしてただ何とかしてこれを整理しよう、あるいは何とかしてこれを制限しようといろいろ安定法や調整法を考えても、これはあと思案にすぎないということなのであります。そういうことの根本は何かといえば、一方においては国内における販路、購買力、中小企業は国内の民需市場と密着しておりますが、これがどんどん縮小してきているということです。縮小というか、生産がそれ以上ふえたのに購買力が伴わないという過剰現象です。さらに海外において中小企業が担当するところの、比較的民需的な販路というものがいよいよふさがれてきている、つまり海外貿易の問題、国内市場の問題、この両方でマーケットがその生産の増加に追いつけない。さらに中小企業の生産増加というものが今申したような、一方で国内の合理化がそういう過程で出てくる、そこで失業現象がどんどん入ってきて、そうしてそこでやたらに数がふえるということを起しておる、こういう悪循環が現実の姿である。こうなってきますとちょっとやそっとのこうやくばりの対策では、とうていこの問題は解決できない根本問題であることをわれわれは痛感するのであります。  そこで中小企業の対策としては、何よりも根本的にこの市場の拡大にもっと努力しなければならない、その場合に海外市場の拡大、日中貿易の問題がありますが、この日中貿易の問題というものはやはり最も大きな問題であります。さらに海外市場の拡大ということも重要でありますか、もう一つ考えてみなければならぬことは、今日のいろいろなシステムのもとで常に合理化合理化といって、そうしてこの国内の購買力をぐんぐん削っていく。生産はふえるが、購買力を削っていくという悪循環の現象であります。それに対して何とかしなければならないということであります。つまり購買力がぐんぐん減ってくる、あるいは生産のふえたに対して購買力がある程度ふえたにしても、とても追っつかないということ、国内の問題と海外の問題、輸出市場の問題、大きく言って市場問題の解決をもっと強力に推進していかない限り、これからの基本政策である合理化政策を進めたならば、ますます今の矛盾が深まるでありましょう。つまり合理化によって輸出が非常に増強されるといいますけれども、今までもうすでに合理化ということが相当進んできておるはずなのであります。その合理化によって価格がどれだけ下ったか、ほんとうのところどれだけコストが下り、それが現実に現われてきておるかといいますと、私がいろいろ調べました断片的なことでありますけれども、遺憾ながら価格は下っていない。むしろ鉄鋼なんかはまた建値を上げるというような状況になってきておる。つまりこの合理化が必ずしも価格の引き下げになっていない。そしてある部内でこまかく調べたところによりますと、結局合理化ということが進んだ結果その中で中小企業は整理された。そしてこの一つの系列ががっちりでき上った。系列ができ上って、その中における利潤の配分が非常に変った。大きい一番トップにあるところは非常にもうかるようになっておる。これは経理内容にはっきり出てきておる。下に行くほど吸い上げられる形ができ上ってしまった。こういうことであってはこの合理化政策を推進され、産業の再編成を進めていくにしましても、今のような点に十分な配慮を行わなければ日本産業の仕組み、経済の仕組みというものはますます土台が枯れてしまう。頭だけが栄えるというか、つまり昔の言葉で言えば、一将功なって万骨枯るるということがありますが、まさにそういう状況になっておる。結局頭でっかちでつぶれてしまう、こういう結果を引き起さざるを得ないと思います。そういう点からもこの金融政策というものはその場合の油のようなものでありますから、何といっても中小企業に対する金融面の強化、ことに財政投融資を通じた金融面の強化をはかっていただかなければならない。  もう一つは今回また提案されておるようでありますが、大銀行の集中融資の傾向を改めさせるという処置をとらなければならない。これは時間があまりございませんから、ここで資料を申し上げませんが、非常な集中融資が行われておるということだけを申し上げておきます。  さらに先ほど申したような、下請支払いの非常に理不尽な姿というものは、いわば同じ企業体相互でありながら、つまり同じ資本同士でありながら、資本内で大きな階層ができておるということであります。その階層ということが、実は一方はまるで権利を失ってしまう、あるいは無権利状態というような状況にある。それは彼らの非常にはげしい競争というようなことからも出てきましょうし、さらに今までのいろいろな下請関係の特質からも出てくる。一方大きいものは非常に特権的な傾向で伸びていきますので、どうしてもくっつかざるを得ないということからいよいよ従属的になる。この非常な格差というか、断層というか、こういうふうなものがある以上、これを何とか是正するなり——根本は経済的な動きになりますけれども——処置をとらなければならぬ。それに対して下請支払い関係についてのいろいろな下請関係調整法がまた考えられておるようでありますが、この案を拝見しますとまだまだこれは非常に微温的であるといいますか、つまりそれがどれだけ強制あるいは行い得るかということの保証に非常な疑問を感じます。元来たとえば全国中小企業協議会等で考えておったもっと非常に思い切った案、それすら私どもはなかなか問題だと思ったのでありますが、ことに中小企業者がもっと自主的に結合しながら大企業との間でこの交渉をしていくという行き方の組織を作らなければならぬと思うのでありますが、そういう面を強めていかなければならぬ。それがあの案を見ますと、公取がいろいろなことをやるのでありますが、一体どの程度あの実効を発揮し得るかという点に疑問を持つ、しかし私は疑問を持ちながらも、それが出ると出ないとは大へんな違いである。つまり中小企業者というものが互いに競争しながらもお互いに困っておる。そうして大企業の圧力をひしひしと感じておるわけなんです。何とかしてこれに処置したいと思いながら自分たちが非常に隷従的な立場に置かれたために何も言えないということなのであります。これを国家の方でそういう不当なことは不当なんだと認めてやることがすでに彼らを力づけることになるのであります。そういう意味でこの中小企業に対するあの下請代金支払い遅延に対する法案というものは、今までに見られなかった画期的な意義を持ったものである、その通過を望む次第なのであります。  以上申し上げましたように、中小企業の問題というものは、全体の経済の仕組みからさらに基本的な経済政策において、これをずっと貫かれていった場合に出てくる問題なのです。断片的な処置や何かでこれは解決できない。従って私が非常に遺憾に思うことは、六カ年計画の案を拝見しましても、その中における中小企業の置かれておる地位、あるいは中小企業の今申し上げたような非常な悪循環の状況をどうするかというようなことが、全くといっていいほどあそこに出ていない。つまり中小企業に対する処置というものが、あの大きな計画の中に入れられていかなければ、日本経済の一番重要な矛盾点というものが解決されないことになる。量的に申しましても、中小企業は数からいって御承知のように多いし、従業員数からいって農村を除いた全体の従業員の中の約八割を占めております。そういう厖大な従業員数を占めておる。そのことはとりもなおさず国民全体だということなのです。つまり中小企業というものは国民生活そのものである。同時に国民生活を対象とする商売というのはまた中小企業である。お互いがまたマーケットになっておる。こういう関係である。従って国民生活というものを尊重するような政策であるならば、中小企業政策をもっと根本的に立てなければならない。今までの歴代のいろいろな政策を見ておりまして、ほんとうの意味で中小企業政策を考えたものが残念ながらほとんどなかったのではないか、こう思わざるを得ない。ようやく最近において金融対策というものが、財政投融資からある程度とられるようになった。ところがそれが全体の金融の流れの動向において、あまりにも焼け石に水のような役割しかしていないということであります。最後に中小企業が何よりも自主的に組織を作り団結して、そうして自分たちが伸びていくという方向が大事なのでありますが、この協同組合そのものが最近のデフレ政策において、ますます大きいものとの圧力関係で変質してきている。いわば中小企業のための組織であるか、大きいものの下請のための組織であるかわからなくなってしまって、単たる親工場の金融の融通だとか、それを合理化するための機関と変っている下請組合もありますし、あるいは人絹会社の原点をうまく流し、資金の還流をうまくやるというための組合になるというふうに変ってきてしまっておる。従って形式だけを考えてはならない。何よりもこの組合というものが、ほんとうに元来の使命を持って中小企業のためになっているかどうか。それをそういうふうに持っていくには、どうしたらよいかということがやはり根本問題なのである。  最後に、今のような上からのしわ寄せというものが、同時に中小企業資本の再生産を妨げ、行き詰まりを起しておる。そこに経営の不合理はいろいろあります。ありますけれども、これは不合理を直そうと思えば金がないのであります。こういう一つの悪循環に置かれながら、しかも数がふえるときはますますふえるという状態に置かれておる。ことに企業整備をやるといってなかなかできるものではない。そのことは、実はその下の従業員に大きなしわ寄せになっているという事実であります。日本ぐらい賃金の較差のひどいところはない。各国と比較してみましても、イギリスにおいてもアメリカにおいてもあれほどの差はほとんどありません。せいぜいあって二割。日本はまさに半分、ところによっては半分以上である。いわば失業者のもらう六割の保険料と同じくらいのところがむしろいい方である。つまり末端の中小企業従業員に強くそれがかけられてきている。中小企業従業員にかけられるのみならず、そこにおいては、労働基準法はわれわれ国民が作った一つの憲法でありますが、それがどんどん破られてしまう。それに対して基準法をゆるめていくという方向をとれば、いよいよもってこの上からのあれは下に押し下るだけになってしまう。これでは民主化なんというかつての言葉はどこに行くかわからなくなってしまうのであります。このように今のような動き方といいますか、こういう方向を何とか変えていく基本方針が、長い目で立てられなければならぬということが最後に私の申し上げたいところであります。
  36. 牧野良三

    牧野委員長 どうもありがとうございました。  御質疑がございますればこの際お願いいたします。今澄勇君。
  37. 今澄勇

    今澄委員 大へんに中小企業に関する造詣の深いお話で傾聴いたしましたが、お話の中の中小企業の自殺的な過当競争、これをいかにして乗り切るかというお話はまことに大事なところで、一つは市場の開拓、購買力の増加、もう一つ問題になるのは、中小企業が営業を始めるときにその職業を要する人口、要有産業人口の中で、どの種の中小企業は何軒くらい許可したらよいかという営業許可に関する消費人口の割合から見た中小企業の営業の許可制というか、そういうものについての先生の御見解。  もう一つは市場の開拓、すなわち貿易と国内的な拡大生産に関連して一兆円の予算ワクとのつながりについて、伊東教授の御見解を一つお示し願えればたいへん仕合せだと思います。
  38. 伊東岱吉

    ○伊東公述人 今の第二の点、中小企業が今のような形で過当競争になる、その市場の問題とその次の許可制の問題、こういうものが考えられたらどうか、この許可制というのは非常な問題がありまして、これはやはり自主的に中小企業者がやっていくならよいのであります。ところがこれが効果が少い。ところが許可制というものでやっていきますと、完全な官僚統制になってしまう。官僚統制の弊害というようなものへ発展して、何らかの制限をしていく方法を考えなければならないのであります。これについては実はあまり名案はないのであります。非常にむずかしい問題であります。ただこういうことは言えるのであります。中小企業者というものがあまりにも毎日非常に苦労して働いてあくせくしておって、その見通しというものを持っていない。新しくいろいろ始める場合にも、ことに工業などでさらに拡張したり、金を借りてどうするという場合、そういう景気の見通しというもの、自分の事業の発展ということの景気の見通しですね、そういうものについてはもっと中小企業庁がこれを大いにやるべきであろうと思いますが、そういう啓蒙指導というか、指導を強化するということがやはり大事である。現にわれわれが考えても、実にばかばかしいような見通しのない拡張をやって参ってしまうのがある。拡張したが運転資金がないというので、参ってしまうものがある。それには実は中小企業者の無知ばかり責められないのでありまして、あまりにも今日までの日本経済政策なり、動き方がジグザグというか、とんでもない不安定な動き方をしてきておる。経済政策にも一貫性がない。こういうところであろうと思います。ちょっとお答えになりかねるかもしれませんが、理想を言うとやたらに数がふえるものを制限する、これを許可でやるということについては、私は非常に疑問を持つということを申し上げたいのです。  さらに一兆円予算の中での今の対策の問題でございますが、これは私が言うまでもなく、防衛費の膨張というものが実は今日の予算の根本問題である。やはりこの問題と関係してくる。私は中小企業利益のためから言いましても、防衛費増強ということは中小企業利益にならぬ。中小企業はまた国民の非常な重要な部分であり、その生活を担当するものであるとするならば、防衛費増強には私は非常に消極的な気持を持っておる。賛成できない。むしろ防衛費を削ることによって、そういう民生安定の面に向ける、中小企業の方面に向けるということが大塔であろう、こう申す以外にないと思うのであります。
  39. 上林山榮吉

    上林委員 一、二点お伺いしておきたいと思いますが、海外市場の拡張の隘路は、具体的に言えばどういうところにあると思っていられるのであるかという点が一点。第二点は、合理化によらずに製品のコストを下げるには、具体的にはどういう方法をとったらいいのか。第三番目は、生産が上っても国内の購売力が現在は上らぬ状態になってきている。非常に矛盾しておるように私どもには聞こえるのでございますが、一つもう少し具体的に御説明願いたいと思います。
  40. 伊東岱吉

    ○伊東公述人 海外市場拡張の隘路ということは、私は最も多く今日の国際政治的な問題にあると思います。それは、中共貿易の問題にそれが最もはっきり現われておる。もちろん経済的な、いろいろ技術的な側面からいって、日本が非常に激しい競争をやるために安くし過ぎて、そのためにかえって売れないとか、あるいはコストが非常に高いので売れないという面がいろいろあると思います。しかし今日の海外への輸出のいろいろな困難の最大なものは、今言った国際政治的な面であろうと私は思うのであります。  第二に合理化ということでありますが、合理化によらずにコストを下げることができるか。これは、合理化とは何か、今日行われておる合理化というものが、ほんとうにコストを下げているかどうかを私は疑うと申したのであります。もしも合理化がほんとうの技術の進歩となり、そしてもう一つ日本では特に操業度の問題が重要であります。生産がふえ、それがまた売れて、操業度がふえるということであるならば、これはもちろんコストが下る。ところが現実においては、操業度を削り、固定資本負担は非常にふえてくる。そうして一方では、国民経済的に見たら非常に多くの犠牲を払う。そしてまた財政は非常な膨張投資をやる、そして合理化をやるというのでありますが、それでは、今までに非常にコストが下ってきているか、あるいは価格が下ってきているかというと、必ずしもそうなってきていない。そこに私は疑問を感ずるのであります。操業を正しくやって、固定資本を非常に多く要して、そしてコストを下げるということは、一つの矛盾なんです。  第三点は、生産が増強したにもかかわらず購売力がふえないわけですが、これは、一方で絶えず生産がふえながら、その場合の働く者に対するところの賃金というものが、生産の増加に伴っておりません。さらにその生産の増強には、非常に多くの財政投融資等が行われておって、それが先ほど言ったように、ずっと吸い上げられてきて集中されている、こういった関係で、生産がふえたが購売力がふえていない。それが伴わない、だから過剰生産になる、こう言わざるを得ないのであります。
  41. 牧野良三

    牧野委員長 どうもありがとうございました。  次に全国繊維産業労働組合同盟会長滝田実君より御意見を承わりたいと存じます。
  42. 滝田実

    ○滝田公述人 滝田でございます。労働者の立場から三十年度予算に対しての公述をいたします。  まず一般的な予算に対する見解を申し述べた上で、具体的な項目に対する意見を述べたいと思います。  予算を総じて見れば、国際収支の均衡等を勘案して経済の健全化への努力は、吉田内閣当時よりも現在の民主党で立てられた案の方が、その努力の跡は幾分見られる、こういうふうに総体的には言えるのであります。しかし予算の組み立て方を項目別に見ると、これは非常に総花的に組まれておる。その総花的に組まれた原因を考えると、やはり選挙に対する対策、スローガン的なものが予算へしわ寄せする段階になって、どうにもならなくなってきておるという感じを受けます。そのことから、国民に公約したことが必ずしも実行予算の中に出てこない。こういう点で、私どもが鳩山首相に会ったときに、政治は弱者に対して味方するものでなければならないということをついこの間言われたのでありますが、この予算全体を見ますと、遺憾ながら、政治は弱者に味方する立場をとっていないようであります。それは、後ほど項目の問題について申し上げたいと思いますが、その根本的な問題は、軍事費と社会保障関係費とは両立し得ない、ここに根本的な問題が介在する。日本経済の規模ないしその実力と、八千数百万人の国民生活との関連を考えた場合に、これは日本経済力を国民の人口で割り返して、そこから出る答えが平均化したものが出てこなければ、それぞれの生活は維持できない。しかるに現在の富の著しい偏在、あるいはまた生活そのものは非常に差があり、貧富の差がはなはだしくなって、労働者に対する賃金の較差が非常に増大してきておる。この賃金の較差の増大、企業の規模別ないし地域の差によって増大してきておる。これは社会保障制度を拡大することによって埋め合わす以外には方法がないように思います。いわば生活そのものをささえるのが、賃金のみによってささえるという段階から、賃金以外の方法によって生活をささえることによって賃金の較差の分を埋め合わせていくという、国民所得の再分配の形をこの予算の面でとっていかなければ、国内における労働不安ないし労使の関係は調整できない。こういうことを考えると、社会保障費の増額がきわめて不十分である。不十分であるということは具体的に何か、こう言われれば、これは現在の大臣等も、選挙の前にあるいは選挙後にも、国民の前に新聞紙上等で約束しておられた、社会保障費は予算額のせめて一五%まで持っていきたい、これを最低としたいといって、スェーデンなりイギリス等の社会保障費のパーセンテージを例示しておられました。しかるにこの予算を見ますと、社会保障関係費は一千億円で、約一〇%にすぎないように思います。これは明らかに公約に違反する問題であるし、国民の期待にこたえるゆえんでもないし、また現在の富の偏在ないし生活の差というものを安定するような状態にはいかないのではないか、このようなことを、一般的な見解としてまず申し上げておきたいと思います。  各項目について、特に労働者の立場から重点的に申し上げたいと思うのであります。先ほど総花的であると申し上げましたが、社会保障費のところで、特に失業対策費をどう考えるか。昨年度に比べて四十六億円の増があるようでありますが、しかしこの二百八十九億円という失業対策費では、昨年よりも今年にわたっての失業率の増大には、まだ見合わない率であります。ことしは力を入れたということにはならない完全給付を受けている者、あるいは失業者全般、潜在失業者を含めると、数百万あるいは一千万にもなろうとしておる状態で、これをもって充てるということはとうてい失業対策にはならないのではないか、社会不安がますます増大するのではないか。特に建設事業を興すということについても、はなはだ不十分のように見受けます。四十二万戸の問題も、やはりこれはスローガン的なものであったようです。今私たちが生活をしておる上において衣食住を三つ並べてみて、衣と食の方はやや均衡がとれておるというよりも、ある程度何かとかなります。しかし今衣食住を並べてみて、一番貧富の差のはなはだしいのは住の問題であります。これは西欧諸国において——アジア諸国は問題はありましょうけれども少くとも日本人ほどの勤勉さを持ち、そしてまた教養も持ち、しかも文化程度であって、住の問題についてこれほど貧富の差のはなはだしい国はありますまい。こうした点を見ても、私たちはこの住宅対策について、もっと力の入れ方があってしかるべきではなかろうか、このように建設事業についての重点的な問題を取り上げておきたいと思います。  ささいなことのようでありますが、この失業対策について一つ申し上げておきたいのは、職業安定所関係の活動をもっと強化してもらいたいということであります。私は職安関係をしばしば訪れたことがありますが、実にみじめな状態であります。電話一本かけるにも費用が幾らかかる、それを気にしながら職を探しておる状態、あるいはお世話をしておる状態であります。ですから、国家として予算を大幅に組んでも、失業者政府との関係、あるいは予算との結びつきは、実は職安を通じて窓口になっておる。そこが実態をつかむ場所になっておるし、そこでもって国民に親切に当ろうするならば、職業安定所関係の事業活動をもつと強化して、予算をここにさくべきである、こういうふうに強調したいのであります。  次に結核対策費の問題でありますが、これが昨年よりも二億円減少いたしております。どうしてこういう数字になったのか、どうしても理解できないのでありますが、結核患者は、民主党の公約された文書によりましても、推定三百万はこえる患者があるだろうという数字が出ております。入院を要する者は百三十七万といわれております。そうしてここに出されておる結核対策費なるものは、これは主として設備費に関するもの、ベッドをふやすとか、病院をふやすとかいうことのみに重点が置かれておって、健康保険が赤字になっておる状態をどうして埋めるかということについて——これはあまりいい例ではありませんが、施設をふやして患者をそこに収容いたしますと、かなり結核患者の治療費において増大することは明らかなのであります。その治療費の方は保険の方で埋めてある。そうすると、この施設自体も少いところへ持ってきて、施設をふやすことによってさらに増大するであろうと思われる治療関係費というものを、今ですら非常に赤字になっておる健康保険のところで埋めようとすることは、非常に問題があるのであります。不可能な問題であります。従って、結核関係の費用というものは健康保険から除外して、独立の立場で結核対策費というものを組まなければ、健康保険の穴埋めを幾らやってみても、これはとうてい埋め合わし得べき問題ではないと考えるのであります。この点は、結核対策というものは独立の立場で、施設とともに治療の面の費用も独立してもっと増大しなければ、国民病としてのこの対策にはならないのではないか。で、昨年の医療給付費は三百五十二億であったようであります。この三五%は結核関係の治療費であります。そうしますと、これをワク外にしなければ、ワク外にするとすれば、さらに結核対策費というものがもっと増大してこなければならない、こういうふうに考えます。  次に輸出振興の問題に触れておきたいと思います。われわれは、やはり産業を振興して、日本経済を自立して、独立態勢をとるという意味においては、国際収支を見合わせ、あるいは健全化財政をはかるために輸出の振興をしなければならぬ、これはむろん大賛成であります。そうしてここにかなりの増額が見られておりますが、この金額の問題いかんの点よりも、運営の問題について一つ考慮を払っていただきたい点があるわけであります。これは、この予算の希望に必ずしも言うべきことじゃないかもしれませんが、こういうことをこの予算ワク内で許されたらしていただきたい。それは、現在の輸出振興対策というのは、主として政府の一方的判断ないし官僚と大資本家との話し合いによってのみ輸出対策が練られておる、そういう傾向があるのであります。で、できれば労使、それから政府、これらの立場で、三者の輸出振興的なものを産業別に設置することが考えられないだろうか、そうして予算項目について考慮を払うわけにはいくまいだろうか、こういうことを考えるのであります。たとえばイギリスのコットン・ボードのごとき、やはり労使関係によっての話し合いの場所を作る。そうしませんと、日本の輸出振興は国内で幾ら金をつぎ込んでみても——日本人ほど外国へ行って、それぞれの立場で、日本の国の悪口を言っておる国民はないというふうに、私はしばしば外国へ行って聞かされました。これは代議士だけでなくて、学者も労働組合の代表も、一般の人もその傾向があるということは、しばしば指摘されておる面であります。こういう点。そうして数字的な根拠もまちまちなのであります。使用者団体が勝手に外国に労働条件の数字を発表するかと思えば、労働組合が勝手に話す、また政府は別の資料を出すというようなことで、どこで輸出振興に対しての国際的な信用をはかろうとするのか、きわめて具体的な問題としては扱いにくい状態になっております。たとえば賃金一つ発表するにいたしましても、賃金を名目賃金で発表するか、それとも労務関係費として、福利費まで含めて発表するかということにおいてすら、見解が一致しないのであります。このようなことにおいては、やはり日本の輸出振興についてソーシッル・ダンピング、あるいは労働強化、いろいろな問題が国際問題として反映して、そういったことがガット加入の問題にも悪影響を及ぼしておるともいえるのであります。この点輸出振興について一考をお願いしたいと思うのです。  次に文教施設費であります。これは八十八億円だった昨年度予算が、五億円マイナスになっておるのであります都市。の周辺に見られるように、まだ学童は二部制をしいております。そうしてこれは人員増加を一体どう見てあるのか、私どもとしては理解できないところであります。文教関係としては全般的には予算がふくれております。しかし文教施設費という項目は減っておるのであります。私どもが今必要としておるのは、やはり文教施設費と教員を増加して、この給与を確保するという点であります。こういう点をほったらかしておいて、そうして教員の政治活動を云々するなどということは、本末転倒の問題だと実は思っておるのであります。学童に幾ら政治問題に触れるな、教員にいかに政治問題に触れるなといいましても、二部制があり、しかもその二部制をやっておる学校の周辺には料理屋が建ち、そして不急不要の設備が増大するということでは、次代の国民の教育はできがたいというふうに思いますので、二部制を解消するための施設費を増大してもらうと同時に、学童が増加しておること、それに伴う教員の定員の問題についても、ぜひとも考えていただきたい点だと思います。  次に防衛関係費の問題でありますが、これは冒頭に一般論として申し上げました通り、私どもとしてはきわめて不満な状態であります。一萬田蔵相の議会で発言しておられる中に、この問題に触れられて、わが国の自主的な防衛態勢を整えるためと言っておられますが、どうもこれは、自主的な防衛態勢とは、私ども遺憾ながら国民として見るわけには参りません。アメリカとの分担金は折衝によって減らされたから、それでつじつまが合うのだということだけではなくて、その分担金をめぐってやりとりがあった、その過程では、日本の防衛の規模についていろいろ干渉されておった事実は、国民がよく知っておるのであります。そういう自主的な立場でない、日本経済力と日本国民生活の安定との調整の面においては、遺憾ながらこの防衛庁関係の増加というのは、私ども実は賛成するわけには参りません。この点は重ねて申し上げておきたいと思います。  次に税金の基礎控除の問題ですが、選挙の前後には、基礎控除を七万円から八万円に引き上げたいという宣伝をしておられたようでありますが、私の承知するところでは、これは七万円に終ってしまった。この点も私ども承知しておったことと大分相違しておるようであります。労働者としては、この基礎控除を少くとも十二万円のところ置いてもらいたい、これが現実に立脚した私どもの要求なのであります。なお減税の総額について、五百億減税をうたわれておりましたが、三百二十七億円に終ったことも、まことに遺憾とするところでありまして、こういったことは、各項目についての重点的な私ども意見として聞いていただきたい。  最後に一般投融資の問題に言及しておきたいと思いますが、一般投融資では、開発銀行あるいは電源開発等にかなりの予算が組まれております。特にこの電源開発会社に対して、昨年度二百四十五億円に対して、ことしは三百億円を見込んでおるということが大蔵大臣によって示されておる電気事業の関係と政治ないし予算との関係をわれわれはずっと見ておりますと、まことに不可解なことが一つあるのであります。それは日本の電気事業にして初めてこういうことがあるのだと思いますが、電力が豊富になると電気料金が上るのであります。こういうばかげた傾向は世界に類例がないのであります。これだけの開発の援助を出しながら、しかも電源開発に要したその償却を、一方的に消費者の方にかぶせて来るという傾向があるのであります。しかも渇水準備金なり最近の平水との関係を見ますと、この支出ははなはだ政治的な感じを受けるのであります。そして国民利益をこれによって守っておるかどうか、産業の発展にほんとうに寄与しておるかどうか、こういうことに疑問を持たざるを得ないのであります。こういう点は、一般投融資の問題については、その支出を十分厳重にしていただきたい。そして節約できるならば節約してもらいたい。一般民間会社国民生活と比べてみて、たとえば公益企業体の事務所関係も不相応にぜいたくをしているように私どもには見受けられるのであります。こういう点もやはり節度ある態度で、締めるところは締め、出すべきところは堂々と出すという態度で、今後の予算の使用に当っていただきたい。このことをつけ加えておきたいと思います。  今、日本の貧弱な経済力で予算を組むのは、いろいろ困難があることは私どもよく承知をするわけでありますが、できることなら、今国民が当面して一番困っておる問題に、もっと予算として根本的なものを重点的にどこかへ取り組むような方法はとれないものだろうか。私は、その重点は社会保障制度の方に回していただきたい。あるいは住宅問題ないし医療制度の方にその重点を振り向けることによって、今の国民生活の貧富の差を少しでも緩和する方向によって、経済の発展をはかるようにしていただきたい、このことを申し上げて私の公述を終ることにいたします。
  43. 上林山榮吉

    上林委員 公述人は非常に御多忙の中でありますから、数字に目を通す機会があるいはなかったのじゃないか、こういうふうに思いますので、速記録に残りますから、訂正をしていただきたい。というのは、公約の減税五百億円は平年度においてそういうふうになっておるのでございまして、本年度は途中からでございますから、三百二十七億円の減税になります。  それから基礎控除の点でありますが、公約通り七万円から八万円に引き上げられていないのじゃないかという御意見は、その通りなっておりますから、数字の点でございますので、御訂正を願っておきたいと思います。
  44. 滝田実

    ○滝田公述人 私の申し上げた数字にもし間違いがありましたならば、訂正することにやぶさかではございません。ただここで、月が足りないからこれだけになったとおっしゃいますが、もし月別にしたら、果してそのことが実現されておるかどうかは別問題だと思いますので、この点も一つとくと御考慮願いたいということを申し上げておきます。
  45. 牧野良三

    牧野委員長 ありがとうございました。  次に東京教育大学教授藤岡由夫君より御意見を承りたいと存じます。
  46. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 私本日予算委員会に参りまして、原子力利用について意見を申し上げることになっておりますが、どういうお話を申し上げようかとちょっと迷ったのでございますが、単に予算問題ということに限らずに、私近ごろ外国を視察して参りましたそのことと、今日本で原子力問題について当面しておりまする幾つかの問題について、意見を申し上げたいと存じます。  ごく簡単に外国の情勢を申しますと、ヨーロッパの各国は、将来電気事業が困難になるということをいずれも予想いたしておりまして、そうしてそれに備えるには、原子力発電をしなければならないということで、その発電のための基礎的研究ということに非常に力を入れておるように思われます。どの国を見ましても、その国一体となりまして、原子力の開発に力を入れておると思います。一番熱心であり、また進んでおりますのはイギリスでございまして、御承知と存じますが、イギリスは明年五万キロワットの発電所ができまして、それから約十年の間に十二の原子力発電所を作り、百五十万キロないし二百万キロの原子力発電をすることになっております。金も非常にたくさん投じておりまして、本年度純粋な平和的研究だけに使います予算が、円に直しまして約五百億でございます。それで先ほど申しました十年間の発電所の計画、これはその建設のコストだけで約三十億を投ずるように発表されております。  その次に熱心なのはフランスでございまして、フランスも戦後すぐに原子力について非常に熱心な研究を始めまして、約五、六年の間、すなわち四六年から五二年までの間に約百五十億円の金を投じまして、そうして実験用原子炉の建設、それからウランの開発に力を入れまして、その三分の一の五十億フラン、円にいたしましても約五十億円がウラン鉱石の開発のために使われております。五三年から五カ年計画に入りまして、これに投じます費用が約四百五十億フラン、すなわち円、それでもまだこれはプルトニウム生産用でございまして、その次の段階においておそらく発電の試験的研究を行い、一九六七、八年ごろから、イギリスより少しおくれて相当の原子力発電ができるという事情になるかと考えられます。  アメリカはよほど事情が違いまして、アメリカ自身が発電のために将来へ備えるということの要望は、ヨーロッパ各国に比べるとよほど少いと思います。天然資源にも富んでおりますし、水力も豊富であります。しかし非常に大局的に見ますと、アメリカはこれまで原子力問題、つまり工業に非常な投資をいたしております。現在までは政府のAECすなわち原子力委員会がコントラクトで金を出すという形ではありますけれども、とにかくアメリカ全体としては非常な投資をいたしております。そうして軍縮問題が成立を見——これは世界各国みな希望しておると思うのでありますが、その成立があるかあるいはないといたしましても、兵器としての生産はもうやがて飽和点に達する、そうしますと、それから後はこれまでの投資をしたものをどうしても平和的産業に振り向けなければならないという事情になると思います。それで放射性同位原素、いわゆるアイソトープの各方面における利用ということも、原子力利用の一つでありますし、もう一つは動力用としての活用であります。もちろん船のエンジンということも考えられまして、現在アメリカが動力用として使いまして最初に成功しているものは、御承知の潜水艦ノーチラスのエンジンだと思いますけれども、発電用もいろいろやっております。しかしながら発電用ということになりますと、コストが問題でございまして、ことに、イギリスは国営でありますけれども、アメリカはどうせ会社がみなやるのでございますので、経済的に引き合うかどうかというところにまだいろいろ問題があるわけであります。一番初めにピッツバーグで発電の計画をいたし、これは明後年あたりに六万キロの発電所が一つできる予定になっておりますけれども、そのほかいろいろと計画が発表されております。しかし大局的に見ましてまだ発電のコストはやや高い。これはむろん場所によって非常に違います。石炭のコストの非常に高い所と安い所とございまして、場所によって違いますけれども、大局的に高い。それでコストを下げるということが一つの問題であり、また現実的に申しましてもまだ完璧と言えない。それで発電の技術もいろいろ研究されております。しかしよその国、すなわちアメリカ以外の国で発電のコストの非常に高い国があるならば、そうして工業化の進んだ国があるならば、そこへ持っていけば十分に企業として成り立つ、また世界各国に原子力の恩恵を分つということの趣旨にもかなう、そういう意味でアメリカは原子力の将来の企業化、そしてまた輸出ということに当然熱心になる事情にあると考えられます。  そこでいろいろの各国の情勢もございますが、そういうお話はこの程度にいたしまして、わが国に起っている問題について申し上げたいと思います。原子力の問題は昨年から始まりまして、私ども海外調査団が行って回ったのでございますが、とにかく結論といたしまして、原子力の研究開発は一刻も早く始めるべきであると存じます。これは日本の電力事情は、水力、火力、ともにいろいろの問題がございますけれども、要するに十年、二十年の後には行き詰まりがくるということはだれでも言うことでございます。その点はヨーロッパ各国、たとえばスェーデン、ノルウェーというような国は、完全に全部の電力が水力で、しかもまだ未開発の水力の埋蔵量も多いのでありますが、それでも三十年後には行き詰まるということをはっきり数字で言っております、日本などはもっともっと悪い状態にあるということはだれでも言うところだと思うのであります。そういうところからいたしまして、やはり原子力の利用ということ、技術はなかなか短かい期間に完成するものではありません。イギリスが百五十万ないし二百万の原子力発電をするということを言っておりますが、これでもそれができますのは六六年の予定でございまして、研究開始が四六年とすれば、ちょうど二十年かかる。アメリカで戦争中に原子炉の研究に一緒に従事したことまで入れれば、もっと長い期間を要しておるわけであります。でありますから、日本でもこの研究はぜひ開始したいのであります。  そこで現在日本で何を一番希望するかと申しますと、私どもとして希望いたしますことは、原子力開発の確固たる態勢をまずつくっていただきたいということなのであります。それは現在の日本では通産省に原子力に関します予算補助金としてございます。そうしてその予算を取り扱いますために、予算の打合会という委員会、諮問機関がございます。それから原子力問題の根本方針を論じますためには、内閣に原子力利用準備調査会というのがございます。その事務は経済審議庁で取り扱っております。この機関は閣議決定でできた機関でございまして、どちらもいわば臨時的の機関だと思います。現在濃縮ウランの受け入れ問題が起っておりますけれども、その受け入れをして、原子炉を作るのにどこがやるか、だれがやるか、まだ何にも責任のある体制がないのであります。こういう状態では、とうてい本気で責任を持って当るという人もなければ、体制もない。それにはどういうことが考えられるかと申しますと、現実の様子を見ますと、どこの国でも大体統括機関といたしましては、委員会のような形をとっておりまして、委員会でございますからヘッドがたくさんあるのでございます。特に原子力の開発問題はいろいろの方面に関係がございます。最初は学者の知恵が一番要望されるのでありますけれども、さらに実業界その他いろいろの方面のことに関係がありますので、各方面の意向を反映するために、この委員会制度というものがとられているのだと思うのであります。普通の行政組織になっていないところが大部分であると存じます。それから研究を実施いたします機関がございます。これはどこの国でも最初古くから始めた国、たとえばカナダであるとか、イギリスであるとか、フランスであるとか、そういう古い国ではどこでも最初は国家機関として始めます。ところがだんだんやっておりますうちに、それを民間企業を加えていくようにしなければならない。しかし原子力問題は民間会社が自分自身の力でもってやるとか、自分自身のリスクでもって一つ原子力をやるというにはあまりに事が大き過ぎるのであります。それでどこの国でもみな会社の集まりとかあるいは特殊会社、公社、そういうふうな形をとりまして、これに政府の金とそれから民間の金とが両方投資される、しかし経費は大体国費で払われる、そういうような形になっているのが、多いのでございます。ところがここ二、三年の間に始まりました国、実際に実例を申せばイタリヤ、とかスイスとかそういう国では、まず民間の方から声が起りまして、そうしてその民間の会社の団体に政府が投資をする、それからまた経常費も出すというような形で、最初から政府機関でいったという段階を経ないで進んでおります。これは解釈をすれば、最近に始めます国は、最初からかなり大規模なものの建設に着手している。イタリア、スイスなどの計画はいずれも相当大きいのでありまして、最初にフランスなどがやりましたものよりもずっと大きなものから着手する。金額が相当大きなものをやるようになりますと、やはり民間の金を入れた形でないと、運営の面においてもまた資金の面においても困難を感ずるのではないか、これはまあ私の解釈であります。  そこで、わが国で今望まれますことは、一つには統轄機関でございます。これがどういうものがいいか、それについては私は具体的なことは何も申しません。しかしながら、諸外国の例でもわかりますように、各方面の意向が十分に反映されて、そうして原子力の開発を強力に推進し得るような、そういう統轄機関の至急の設置が望ましいと思います。それからもう一つは開発の実施機関であります。これが国家機関がよろしいか、あるいは公社、特殊会社のような形がよろしいか、これは日本の国情のもとにおきまして十分に論議をしていただきたいのでございますけれども、とにかくそういう実施機関がなければ始められないのであります。濃縮ウランをたとい輸入いたしましても、どこでどういうふうに作るのかということが責任を持てないわけであります。そういう原子力の研究体制というものを早く確立していただきたいということは、これは私どもの切なお願いでございます。  次に技術的な面、特に濃縮ウランの問題について一言申し上げます。濃縮ウランの問題が起りました過程は皆様よく御存じだと存じますが、私はこれは適当な条件が得られるならば受け入れた方がよろしいと考えます。昨今の事情を見ますと、アメリカで他の国と結びましたいわゆる協力協定、双務協定といっておりますが、この協力協定の今までの例、またアメリカの方針等を見ますと、ただいまの程度のものについてはあまり問題はないように考えます。アメリカの原子力法では、外国にウランなどを供給いたします際の規定を非常にやかましく書いてあります。それだけを見ますと、こういう非常にやかましい条件がつけられるのではないかと考えられるのも当然なのであります。ところが原子力法というものは、他のどこの国に対してウランなり何なりを供給する場合にでも、そういうあらゆる場合を規定するようにできたものがその原子力法でございます。でありますから、原子力法は非常に秘密保持の問題その他につきまして厳重な規定がしてあります。けれども、今度アメリカが各国に提供するという問題、これは日本だけではございませんで、友好諸国に向って全部に対して提案をしている、多くの国に向って提案しているわけでございますが、これに含まれております内容はきわて簡単な、原子力の技術の方で申せば、初歩的なものを提供するということを言っております。それについての説明がありますが、それを見ますと、この濃縮ウランを使えばこれこれのことができると書いてあります。それを見ますと、その中には秘密の原子炉はほとんどないのであります。ただいまのところ、ある材料を、もしできた形で買うか借りるかするならば、これは秘密ではないかと思われるものはちょっとございますけれども、多くのものはほとんどその秘密を含まないようなものなんです。でありますから、それを貸すなり売るなりします際に、秘密に関する非常に厳重な規定ができるということは私どもも考えませんし、またアメリカ最近の発表がいろいろ伝えられておりますが、そういう心配はまずあまりないと思うのであります。そういう意味におきまして、私はやはりこれは受け入れた方が便利であると、技術的の観点から特に考えます。しかしながら、濃縮ウランを受け入れて原子炉を作る、それで日本の原子力の開発の方針は相当満足されたように考えましたならば、これはさようではないと思うのでございます。将来発電計画にいくまでにはなかなかの段階がごまざいます。私どもの希望といたしましては、できるだけ日本自身で研究を進めまして、日本自身の、つまり天然ウランから始めまして研究を進めて、そうして自立的に、自主的に電力の発電、動力用原子炉というところまで持っていきたいと考えるのであります。しかしながら、ただいまの世界の情勢を見ますと、すでに各国は非常に進んでおります。そうして今日本で何もかもやろうと思ってやっておったのでは、第一に非常に時間がかかる。フランスなりイギリスなり、それぞれ、アメリカも当然であります。みな十年なり二十年なりこれまで——二十年というのはちょっと言い過ぎでございますが、十数年研究をして参り、今後また何年かの後には原子力発電にいくというのに、日本が今初めから始めたのでは、なかなか追いつけるものではありません。それに金も非常にかかります。アメリカの学者が私どもに申しますのには、原子力は研究をやろうと思うと非常に金がかかる。しかし、できたものを買うならば安いということを申します。でありますから、第一には時間の点、第二にはまた金の点におきまして、日本であらゆる点を独力で今後研究開発にまでいけるということは私どもは考えないのでありまして、こういうことを申しますのは学者としては残念でございますけれども、これは純粋な科学の問題ではないので、経済問題とも関係するものでありますので、やはりそう考えざるを得ないのであります。しかしながらこれをどういうぺースでやるか。外国からその供給を受けまして、今度はこの程度、今度はこの程度、それだけでやっておったのでは、これはあくまで外国依好でありまして、日本の自立的な研究ではないし、経済でもないと思う。どこかで日本も追っつかなければならぬ。追っついて、そうしてもちろん将来輸入という問題も起りましょうけれども、たといある種のものを輸入するといたしましても、それを取り扱います知識、それに対するどういうものをやるかという批判力、そういうふうなものを養うだけの、つまり日本としての方針を確立いたすために必要な技術を養うような、そういう程度のものはどうしても日本人の手で作りたいと思います。そこで私ども報告書の中に、天然ウランと重水を使う原子炉で多目的なものを作れと言っておりますが、この多目的という意味は、今後新しいいろいろの技術が発展すると思います。現在すでに知られておりますもの以外の技術もまだいろいろ出てくると思うのであります。そういうところを考慮いたしまして、一つ相当がっちりしたものを作りまして、そうしてそれによって日本の今後の技術を養い、そうして今後発展に応じてまたいろいろと研究をして、将来の発展に備える、そういう意味で何かあるずっと進むのを追っかけるわけには参りませんけれども、どこかで追っついてある基盤を作る、そういうものはぜひ一つほしいと思うのであります。繰り返して申せば、濃縮ウランを受け入れますことは非常に便利であり、まず研究を開始するのには非常に便利であります。しかしこれをもって事が足りると思わないようにしたいのであります。濃縮ウランの小型実験用原子炉を作りますことは、ただいま申しました日本のほんとうのがっちりした基盤になるもののためにも非常に便利でありますので、それを並行的に考えたい、これが私どもの希望でございます。  なおそのほかいろいろの問題がございます。原子炉の建設と申しますと、よく原子炉はアメリカではすでに商品となって、幾ら幾らであるというようなこともございますが、原子炉一つあってもだめなのであります。それに対して付帯した設備というものがいろいろ必要でございます。たとえて申せば、かりに今発電用のプラントを全部買ったといたします。そうして日本のどこかに原子力発電所を作ったといたします。そうすると燃料ウランを外国から持ってきて、そこで動力を出します。そうしますと当然のこととして、そこに灰ができるわけであります。その灰というのは、いわゆるビキニの灰で御存じの通り、非常に危険な灰なのであります。これは処理しなければならない。その灰をそっくりまたアメリカへ送り返して、そうしてそこでまた新しいものを送ってもらう。そういうようなことではとうてい将来の原子力発電は日本ではできないと思います。やはり危険物を日本で処理して、そうして灰を除き、適当な処置をするということができなければならない。ところが、今のアメリカが申しておりますのでは、ウランは貸すのでありまして、そうしてそれをある程度使ったら向うへ返して取りかえることになっております。ということは、灰の処理の研究はそれを使ってはできないということなのであります。でありますから、私が先ほどそればかりにたよってはいけないと申しましたのは、私が申しますがっちりした原子炉を作れということは、これはたとえば今申します灰の処理などを十分に訓練するような、そういうこともできるようなものでなければならない。その灰の処理というふうなものはただの石炭の灰とは違いまして、非常な危険物を取り扱うのでありますので、その装置というものは相当の金がかかるのであります。一番安い原子炉は、おそらく原子炉だけならば、簡単なものならば十万ドル程度で買えます。しかしそれでいいというものではないのでありまして、それ以外にやらなければならないことがまだいろいろあります。  それから先ほど申しましたウランの探査であります。フランスは非常にウランの探査に力を入れて、今ではヨーロッパでは一番ウランを持てる国であるということをペラン教授が言っております。五十億くらいの金をかけております。わが国でもウランを探しまして、必ずあるということは申せません、しかしながら将来のことを思えば当然ウランの探査にも相当の力を尽すべきだと思うのであります。  まあ、御参考になりましたかどうでございますか、はなはだ恐縮でございますけれども、一応私の考えましたことだけを申し述べまして、あとはまた御質問なり、御意見なりを伺いまして、できるだけのお答えを申したいと存じます。
  47. 牧野良三

    牧野委員長 ありがとうございました。御質疑がありましたらこの際——今澄勇君。
  48. 今澄勇

    今澄委員 今お話の中で一番大事な点は、当面問題になっておる濃縮ウランは、日本に貸してくれるのか、売ってくれるのかというところを、私どもは非常に問題にしておりましたが、政府からはそれらの見解の発表がありませんでした。私があなたにお聞きしたいのは、濃縮ウランは今アメリカでどのくらいの価格をしておるもので、もし日本が買うとすればどのくらいの値段になるのか、今回のアメリカの申し入れば貸してくれるのか、そういうところを一つ、いま少しおわかりになりますれば教授から御説明願いたい。
  49. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 私の了解しておりますのでは、濃縮ウランは貸すのであります。売ってはくれないのだと思うのであります。これはアメリカの国内におきましても、平和的な、たとえば大学などで原子炉を持っておりますところの濃縮ウランは、みな借りております。ただしアメリカ国内では無償だと思いますが、日本に対しては有償だと考えます。そしてその値段は、私どもその値段のことについてはっきりしたことを申し上げる根拠を持ちません、つまり、学者同士の話、そういう程度のことで申し上げるのははなはだこういうような席におきましては軽率かもしれませんけれども、私の了解しているところを申し上げますと、値段はおそらく秘密ではないかと考えます。と申しますのは、値段をはっきり申しますと、それにどれだけの金がかかったか、どれだけの電力が使われたか、どれだけのことがわかったか、そういうことが推定されると思います。そういう意味で、値段は一応今のところ秘密になっているように私は了解するのでございます。しかしこれは今後の交渉によりまして——今後もし受け入れの交渉が始まるといたしますとどういうことになりますか、そこの点は私ども何とも予測いかしかねるのでございます。
  50. 今澄勇

    今澄委員 この点は非常に大事なところで、ぜひ一つ藤岡教授からお教えをいただいておきたいと思いますが、日本の技術陣が、アメリカの政府予算、使いました電力その他の点から推算をすると、この濃縮ウランはどのくらいな価格になるものわかかりませんか。  もう一つ、今回、もしあなたの言われるように貸与ということになりますならば、借りた借り賃を払うことになるのですが、それはどういう計算で出てくるものですか、一つお教えを願えればたいへん仕合せです。
  51. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 どうもどのくらいの電力、どのくらいのものであろうかという予想は、なかなかむずかしいので、私ども不勉強でございますけれども、第一天然ウランの値段それ自身がまだ今フリー・マーケットでございませんので、自由な値段はきまっていないと思います。それで今度濃縮ウランを作ります過程は、これは非常な秘密でございます。私ども調査して参りましかけれどもなかなかそういうとこまでは見ることができませんので、これの値段を推定することはちょっと困難でございます。  それから借りるにしても、これは有償だと思いますけれども、この値段の基礎も私はただいまのところ何らはっきりいたしておらないのでございます。はなはだ申しわけないのでございますけれども……。
  52. 今澄勇

    今澄委員 もう一点、問題は、値段もアメリカが一方的にきめるもので幾らになるかわからない、貸してくれるとなると借り賃も、これも一方的なもので全然わからないということになると、平和的に利用するとは言いながら、こういうものを日本でも動力源に使うと、将来わが国産業基礎となる動力の一番大事なところが、向うの一方的な値段で左右されることになる。そうすると、これは全部アメリカに握られるおそれがあって、非常に日本の動力問題に不安を残すと思いますが、その点についての先生の御見解はいかがでしょう。
  53. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 それは私ごもっともに存じます。でございますから、私どもは最初はこれをまず使うのはよろしいということを申しますが、これはたしか六キログラムを限度にして貸すということになっておりますので、その値段が非常に高いということは予想されません。しかしながら将来日本の原子力開発がすべて濃縮ウランを輸入してやるということになっては、これはやはり外国に完全にに握られることになると思います。そういうふうにならないように、最初は私どもは濃縮ウランを買うには買いますけれども、その後はやはり日本独自の、私が先ほどから申しておりますほかの炉であります。私ども報告書では第一号炉となっておりますが、その第一号炉というものをがっちり作りまして、その後はどういうふうにやっていったらいいか、できるだけ日本の原料を見つけまして、それをどういうふうに使うかという今後の方針、それからまた濃縮ウランでない天然のウラン——天然のウランは日本にはないとしても、もっと自由に国際的に売買される機会が近い将来にくるであろうということは多くの学者が予想しております。そういうような将来の情勢に応じまして、日本としては完全に外国への依存でないように進めていきたい、そういう道を今後研究していきたいというふうに考えておるわけであります。
  54. 福田昌子

    福田(昌)委員 濃縮ウランを貸していただくということはよろしいのでありますが、六キログラムを単位として貸していただきまして、ある程度減ったらというお話がありましたが、それはどの限度でございましょうか。
  55. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 これは使い方によると思います。原子炉はウランの俸を突っ込んでおります。あるいはまた溶液で入れておるのもありますけれども、それをどの程度に取りかえるかということは、パワーがどのくらいのパワーであるかということによってきまると思います。今アメリカの推奨しておりますのは、ほとんどゼロ・パワーくらいのごくパワーの低いものでまず原子炉の研究をしろということであります。そういうふうにパワーの低いものでありますので、一ぺん入れましたならばおそらく五年、十年、十五年と持つだろうと思います。それからもしその中で燃やせば灰がどんどんたまってくるわけであります。そういうふうなわけでパワーの高いものでありますと、どんどんかえなければならない。私どもが見て参りました原子炉でも、ある原子炉では入れたつきり十年もそのまま使っているのもあります。それが非常にパワーの強い、中の中性子の密度の高いものでありますと、二週間おきとか二十日おきとかに取りかえなければならない。要するにどれだけ中で使うかという問題で、今度の場合、もしごく低いエネルギーで使うとすれば、相当長年にわたって使えるものではないかと考えております。しかしそれだけに、将来発電用をやるならばそれでは困るので、どんどんパワーをとらなければいけないわけです。そうすると、日本でそういうことの科学的処理がどんどんできなければいけない、そういう練習ができないということを先ほど例として申したのであります。
  56. 福田昌子

    福田(昌)委員 そういたしますと、ただいま問題になっております百キログラムを限って貸すということになりますと、今の日本の科学水準の現状から申しまして、これは将来の問題になりますけれども、また使い方いかんでしょうが、その百キログラムを消化するのは大体どれくらいかかるのでしょうか。非常にむずかしい話なんですが、どのくらいと推定されますか。それから灰の処理に関しても伺いたいと思います。
  57. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 百キログラムは日本に対してではないのであります。各国全部に向って百キロなのであります。一カ国に向っては最高六キロまでであります。最高六キロあれば小さな原子炉ならば幾つかできると思いますが、幾つという数ははっきりしたことは申しかねますけれども、その一つにどれだけ使うかによるわけであります。  それから灰の処理でありますが、ただいまのところの申し出は貸与でございますから——灰というのは中に自然にできてくるわけでありますが、自然にできますと、それが非常に強い放射能を持って参ります。それをそっくり向うに返すわけであります。ですから、貸与という以上は、それを使っての処理は日本ではやらないことだと了解しております。
  58. 田中織之進

    ○田中(織)委員 日本の国内には天然ウランがないというお話が今あったのですが、通俗的には福島県の石川にかなり含有しているものがあるというようなことが世上伝えられているのでございます。単にこれは世間のうわさだということではなしに、そこで取ってきたものをアメリカ大使館を通じてアメリカが向うに持って行っております。その出てきたものの中にはウランがどの程度にあるかないかというようなことは、明確には資料は出しておらぬようでありますけれども、向うへ持って行ったことに対するサンプル代というか、代金も若干払ってきているような具体的な事実を私、友人関係から承知いたしておりますが、かなりアメリカが占領当時に日本の国内を探査して、あの程度のデータが出ているということが、アメリカの文献等にもあるということも聞いておるのですが、実際に今までの段階では、日本の国内には、天然ウランというものは認められていないのでしょうか、その点教授の御見解を伺っておきたいと思います。
  59. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 ただいまの点でございますが、私実は専門外でございましてほんとうはこの席でお答え申し上げるのは、少し自分の分をわきまえないものと存ずるのでございますけれども、まあその程度でお聞き取りを願いたいのですが、福島県の石川付近に相当にあるということは調べております。そうしてこれをアメリカ側で持って行って調べたということは私も存じております。ただアメリカが希望しておりますのは、ウランではないのでございまして、ネオブとか、タンタルとか、稀元素というものがアメリカにないので、非常にほしがっております。石川付近にはそれが出るのであります。そういう意味でアメリカは調査しているのではないかと思います。ウランに関しましては、残念ながらこれは非常な貧鉱でございます。アメリカはたしか〇・一%以上のウランを買い上げることになっておりますけれども、それにはとても及ばない程度しか石川付近のにはないと思います。その他あそこには水晶山とかいろいろあるようでありますが、しかしそれでもとにかくあることは確かにあるようでございます。それでございますから、ウランの点で申しますと、いわゆる良質の鉱物でないので、われわれ調査団の一行の専門家はこれを複雑鉱と名づけております。それを精錬してとるということも当然しなければいけないということもわれわれの調査報告には書いてあります。最初調査団の出かけます前には、まだ外国から入るものがわかりませんし、日本でやるという考えで、一体日本ではどのくらい取れるだろうかということで、ただいまお話のありました福島県その他のものをおよそ見積りまして、まず三トンくらいとれるであろうと予想いたしました。これは出かける前の委員会でおよその見当をつけたのでございます。詳しく調べませんとわかりませんが、福島県のも決して無視しているわけではございません。しかしなおほかの県にも福島県のペグマタイトと違うのでウランの鉱物の出る二次鉱物らしきものが見つかったという話を聞いております。そこで私しろうとでございますけれども日本も全然見込みがないわけではないのですが、やはり探鉱を組織的にやりますには、相当に金がかかるわけでございまして、先ほど来たびたび申しますように、フランス、カナダあたりが非常な力を入れているのに比べて、日本のその方における予算がはなはだ少い。原子力と申しますと、原子炉の方がまず先に立ちますけれども、ウランの探鉱ということにも今後予算をつぎ込むべきものでないかと考えております。
  60. 田中織之進

    ○田中(織)委員 濃縮ウランはアメリカから貸してもらうので、灰の処理について研究する自由も持たない、きわめて不自由な自立性のない、アメリカに従属した形において日本の原子力の開発及び研究を進めなければならぬという教授の御意見から、やはりどうしても国内における天然ガスウランの探査ということに力を入れなければならぬという立場から伺っておるわけなんです。  もう一つ伺いますが、これも多分に通俗的になっておる問題でありますけれども、大東亜戦争が終了する以前、陸軍の第八研究部でこの問題が取り上げられておるということ。当時第八研究部に関係しておった人が現在日大の工学部にもおりますし、当時研究部でやられた三、四の人たちと私交際をいたしておりますが、その人たちの話を、断片的な話でありますけれども総合すると、すでに敗戦以前に日本にも兵器としての原子の研究がある程度進んでおった。その意味で昨年度予算に二億何千万円かの原子炉に関する予算を計上したわけなんですが、通産省におけるそれの配分の問題等に関連して、第八研究部に関係した人たちの間では、結局通産省のそういうような役人のいろいろな調査とか、何だとかいう名目の費用に、そういうなけなしの予算が使われることは実に無意味だというようなことで、概嘆をしておるような話も雑談の中に出て参っておるのです。もちろんこれが最近、特にここ一年の間に非常に学会でも精力的に研究等を進められておるわけでありますが、日本の現在の研究の水準と申しますか、技術研究の進行過程から見て、今度の濃縮ウランの受け入れというものは、もちろんある程度のプラスにはなるだろうと思うのでありますけれども、その点は日本の現在進んでおる技術研究の水準との関連において、これが効果というようなものについての教授の御意見なり御感想を伺いたいと思います。
  61. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 ただいまの話の中で、通産省の予算の使い方に関する問題は、どうも私お答え申す筋でもなさそうであります。ただ私もその予算の打合会の委員の一人といたしまして申しますれば、通産省も打合会という機関を作って、非常に熱心にやっております。それでただあの予算補助金で、それ以外の事務費というものは一文も計上されておらないのでございますから、多少の事務費が必要だということはあるいはあるのじゃないかと私は考えます。これについては私はお答えすべきではないと思います。  最後の御意見に対しましては、私がきょうここで申し述べましたことの印象が、濃縮ウランは大したものでないということが、もしもあまりに強く響きましたならば、それは私の言い方が悪いのでありまして、原子力発電が今にもできるように思う者から見ますれば、それは大したものじゃない、ごく初歩なものであります。しかしやはりものは順序がございまして、今まで日本におきましては全然ゼロであったのですから、最初にものを作るということは、そういう意味においては画期的な大したものだといってよろしいと思います。日本の技術が、戦争中に何か研究が行われていたことも聞きますけれども、これは軍事研究で、まだ一般には知られておりませんが、結局何もできなかったというのが事実だと思うのです。戦後は原子力に関する研究が何もやられておりませんで、湯川博士、朝永博士などは理論物理学などで非常に有名でありますが、それで原子力の理論的部分が進んでいるというふうに考えますと非常な間違いで、湯川博士などの有名な理論的部分は、原子力とは何も関係はないと誇張して言えばそう言えるのです。ほんとうの純粋の理論物理学である。原子力に関する限りは今のところ日本にはほとんどない。そういう今までの日本の学界の状態でございますから、原子力全体から見ればごく初歩なものでございましても、今の日本に向ってこれをやりますことは非常に有益なことだ、そういうふうに考えます。
  62. 牧野良三

    牧野委員長 志村茂治君。
  63. 志村茂治

    ○志村委員 イギリスが以前に日本にウラニウムを供与してもよろしいというようなことを言っておりましたが、あなた方がおいでになりましたときに、イギリスの新聞では恥知らずの盗人というようなことをいっておったようです。これはどういうことでこういうことになりましたか、お聞かせ願いたい。
  64. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 委員長に伺いますが、いかがでしょうか、イギリスの新聞に出たことに対するお尋ねなんですが、ここでお話してよろしいものでしょうか。
  65. 牧野良三

    牧野委員長 お話が非常に愉快ですから、続いてそれを話して下さい。
  66. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 それでは申し上げますが、私どもスカンジナヴィアでストックホルム、オスローというように参りましたそのときに、イギリスの大使館から私に手紙が参りまして、イギリスの新聞の切り抜きが参りました。それによりますと、名前はあとで申してよろしゅうございますけれども、とにかく一流の新聞ではないのでございます。人の悪口などをよく書く新聞のように聞いておりますが、それがセームネスというようなことを書いておったのです。日本人は戦争中非常に残虐行為をやった、そういうものに便宜をはかってやる必要はない。また戦争のことは過去のこととして許すとしても、戦後ほんとうに日本人は恥知らずのどろぼうだ、そういうものに喜んで見せるということは大反対である、という意味のことが書いてあったのであります。それで大使館としては、できるだけ新聞記者に対する言動に気をつけてほしいということで、私どももごもっともと思いまして、私、団長といたしましてたびたび新聞記者諸君と会見いたしましたが、非常に丁重に気をつけていたつもりであります。それはそれだけで何もございません。われわれに対する新聞の論調は、新聞によりまして非常にたんたんとしておるのと、多少好意的でないと感ぜられるのもございましたが、私どもが相手になりましたのは、むろん大使館を通じてのイギリス政府でありまして、そのイギリス政府はわれわれのために大へん親切に尽して下さいました。その点全く感謝しております。ただイギリスは日本とは商売上かたき役にあるものもあるように聞いておりまして、そういう点から申しますと、日本に対してあまり好意を持たない一部の方があるのはやむを得ないのではないか。従って新聞にもいろいろありますから、そういうふうな新聞があるということもやむを得ないのではないか。私は少しも悪い感じを持っておりませんし、またそれにもかかわらずイギリス政府の機関は、特にそういうことがあったからでしょうか、非常に気をつけて親切な待遇をしてくれたということは、はっきり申し上げられると思います。
  67. 牧野良三

    牧野委員長 岡良一君。
  68. 岡良一

    ○岡委員 大へん子供っぽいお尋ねでありますが、たとえば六キログラムの濃縮ウランを受け入れ、原子物理学のエキスパートがおられると目される大学に、これを一キログラムずつ六カ所に分けられる。そうするとそこで営まれる研究は、実際にその生きた資料を通じて研究をされるだけのものでありますか。
  69. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 ただいまのお話のように、輸入されましたウランは大学に配給されるというふうな性格のものではないように理解いたしております。これは原子力の開発がどういうふうに進みますか、先ほど申しましたように、とにかく根本的な態勢を整えていただきたいのでございますけれども、それによりまして、実施機関としての研究がもしできればその研究所で取り扱われるものだと考えます。つまり実験用の原子炉をそこで作り、その研究所がそこにまた大きな原子炉を作るということもそこでやりましょうし、またその研究所が中心になってやるのだと思うのでございます。大学等にはむろんすぐれた研究者がたくさんおられますけれども、しかしそういう方々は原子力の研究者ではないと思います。でありますから、やはり原子力に関する研究の実施機関ができまして、そこに相当の人が集まり、つまりそこの職員になり、そこでやり、同時にまたそこを通じて大学に委託研究するということはあり得ると思います。それからなお濃縮ウラン輸入の約束には、きめられた場所以外には動かせないということになっております。これは物を借りる以上当然だと思います。でありますから、どこそこの研究所で使うということになればそこでやるべきもので、それが流されて動くということはないと思います。ただ日本でも、将来どんどんこの開発が進むとすれば、当然専門技術家の養成ということも考えなければなりません。そういう場合に、ある大学に原子力に関する課程を置くというようなことも予想されますが、そういう場合には、またそこに原子炉を作る、そういうことも将来は起り得るかもしれませんが、さしあたってはやはり今後できますところの中央的な研究機関でまずやる、そういう形になるのだろうと予想いたしております。
  70. 岡良一

    ○岡委員 そういたしますると、たとえば濃縮ウランを受け入れて、それを中心に、いわば国ないし国家的な統制力の強い研究のセンターができる。この研究のセンターというところへは、これから出てくる若い日本の、しかも原子物理学に大きな興味なり、まじめさを持っている者も自由に入って研究できるかできないかということについての保障はないわけなんですか。  それからもう一つ、そのセンターでできたところの業績というものは、少くともその場に出入できなくても、やはりそのことに大きな関心を持っておる多くの日本の若い原子物理学の学徒に対して、自由に公開的に情報というものはもたらされ得るのでしょうか。
  71. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 これは私の見解では、当然さもありたいものと考えております。そこで専属の職員になる方とそうでない方とができまますけれども、むろん若い熱心な研究者たちの中から、そこの専属になる人もできましょうし、それからお話のように、出入りするところの便宜、そういう国家的中心機関、統制的とはあまり考えたくないのでございますけれども、とにかく中心機関ができれば、それはあらゆる学者がこれを活用するものであり、また会社、法人その他これを将来利用しようという人も、原子力の研究を自分でやることはできませんから、そこを使うという意味で、日本一つできる機関であるならば、これは日本中のあらゆる学界、あらゆる事業界の共通の研究機関、そういうものでありたい。  それからまたその報告等が公開される。これも当然のことで、日本では、秘密がないということを今建前として考えておりますので、当然それはすべてのものが公開されるものと予想いたしております。
  72. 岡良一

    ○岡委員 それでは、その中心となる濃縮ウランを受け入れた研究機関というものは、濃縮ウランを作るまでの技術については、日本は一応シャットアウトされておる。そこでその濃縮ウランを受け入れて研究機関を作って、これはその濃縮ウランの持っておるエネルギー源としての研究をするのですか。いわゆるノーテラス号に装備されたような、そういうエネルギー源としての研究をする。それを日本の専門家の諸君が初めて実物を手に入れてされる。しかしそれは外部に応用されるのではなく、やはり一つの研究室の中において、エネルギーとして実験的に、これがどういうふうに利用されるか、どういう装置にこれが装備さるべきものかというふうなことが、学者の研究のワク内で研究されるものか。それとも、それはもっと国の必要とするようなところにおいて、学者の研究の域外を越えた、実際的な応用にそれが用いられるのかどうか。そういう見通しはどうでございますか。
  73. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 それは、将来の目的はもちろん国民のための利用ということを考えております。動力用というのはそういう意味でございます。でありますけれども、いきなりそれを作ることはできない。つまり電気をやりますのに、モーターをぐるぐるまわしますね。それから中学などですと、そのモーターの原理を、小さなものでぐるぐる回します。今やろうというのは、さしあたりその小さなものに当ると思います。しかしいきなり大きなものというのは、これはなかなかそうできませんし、将来の問題でありますが、そういうところに行く段階として、現在は小さなもののところをやる実験室的であります。しかしそれからだんだんと技術を積み、それから世界の技術が上りますから、将来は当然大きなものになることを期待してやるわけでございます。
  74. 岡良一

    ○岡委員 私がお聞きしておるのは、今かりに六キログラムという限定の上において他国に供与しょうというその濃縮ウランは、学者の実験の域以上に出るものなんだろうか、実際的な応用に用いられ得る可能な原料であるのかどうかという点をお聞きしたのです。  もう一つ、そういうものを研究室で操作される間に、たとえば農業の増産とか、あるいは病気をなおすためのアイソトープというふうなものは、副産物としてやはりできてくるのでしょうか。
  75. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 そのアイソトープは多少はできると思います。多少はできると思いますけれども、要するにアイソトープを多量に作るためては、非常に原子炉のパワーが高くなければできないと思います。ですから少しはできますが、今考えております実験用原子炉の程度では、多量を期待することは無理だと思います。でありますから、現在アイソトープを日本は年間五千万円くらい輸入いたしておりますか……。それを全部その実験用原子炉一つで置きかえるということはとうていできないと思います。今アイソトープはアメリカばかりでなく、カナダやイギリスやオランダからも少し買っておると思います。そういうふうに、やはりいろいろの特色がございますので、方々から買わなければならないので、それを全部日本で作るというようなことは、それだけの原子炉ではとてもできないと思います。
  76. 岡良一

    ○岡委員 けさの新聞でしたか、きのうでしたか、ゼネラル・ダイナミックス・コーポレーションの社長さんのお話でアメリカはアジアにも原子力の共同利用のプールを作る、これはしかもアメリカ政府の意思であるということが伝えられておりましたが、これは具体的にどういう構想なんでしょうか。先生は向うに行っておられましたので、その間の消息にも多少お通じかと思いますので、この際承わりたい。
  77. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 私はその話はけさの新聞で初めて見まして、全く驚いたのであります。全く存じませんでございます。率直な話、何も存じません。
  78. 岡良一

    ○岡委員 事実学者が研究室の中で、動力に濃縮ウランをいかにして活用するかということを研究されるほどの量が来る。アイソトープもよけいできないというふうなものを、アジア諸国のプールとして使うということが可能なんでしょうか。先生の御見解は……。
  79. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 どうも私、この問題はちょっとお答えいたし切れないのでございますが、ただ原子力問題は非常に大規模な研究を要します。それで、先ほどからたびたび申しますように、一つの国の中でも、国全体として研究をする。これは統制というような問題ばかりでなく、そうでなければやれないということだと思います。そればかりでなく、国と国とが協力してやろうという動きがすでに今までにもございました。ノルウェーのオスローの付近に実験用の原子炉が一つあります。これは天然ウランですが、あまり大きなものではございません。しかしそれもオランダとノルウェーとの共同の原子炉で、両方がちょうど同じだけ金を出し合い、学者も両方から出して、すべて共同で一つの原子炉を作って、研究を共同でやっております。それからヨーロッパの八カ国がヨーロッパの原子力連盟というものを作って、お互いに情報交換をし合っております。そういうわけで、今のオスロー付近の実験用原子炉というものも、これはほんとうの実験用原子炉で、出力三百キロワットくらいの、原子炉としては小さなものであります。それでさえ二国が共同でやっております。むろんここは一応アイソトープの生産もいたしておりますが、そう大したものではない。そういういろいろの例がありますので、アジアでは日本が技術的、科学的には割合に進んでいる、そう申しておるそうですから、それで日本が中心になってそういうようなものでも入れるというような意味ではないかと私は考えておりますけれども、具体的なことは何もないので何も存じません。
  80. 福田昌子

    福田(昌)委員 アメリカは濃縮ウランのほかに、天然ウランも援助してもいいというお話があったように伺っておるのでありますが、天然ウランの受け入れにつきましての御見解と、原子炉の建設に関しまして、これからの問題でありますが、濃縮ウランが先でありますから、それに匹敵する原子炉の建築が急がれましょうが、天然ウランの援助に対しましても、また原子炉というものに対しましても、また原子炉というものに対してはどういう速度でこれを受け入れていったらいいか。それに対する御見解を承わりたい。
  81. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 天然ウランの受け入れのことは、アメリカでは、これは私の勝手な想像ですが、おそらく考えていなかったのじゃないかと思います。濃縮ウランを各国に供与するということは、アメリカの計画でありまして、アイゼンハワーの国連の計画から始まりまして、アメリカがずっと一貫した計画を立てております。ですから、その線でやられますけれども、天然ウランを売るということは、おそらくあまり考えていなかったのではないかと思います。でありますから、日本にもしそういう希望があるならば考えてみようくらいのことは、むろん今としても言えるのではないかと思います。それで私どもの方から、これは外交上の問題でもありますから、今後どういう形になるのか全く予想いたしませんが、しかし多くの学者が申すように、ウランは世界的に申しまして相当方々で出ております。ですから、やがてかなり自由に買えるようになるだろうということは、多くの学者の一致した意見であります。日本の受け入れをどうするかという御質問でございますが、これは私ちょっとはっきりわかりませんが、たとえばこういうことではないかと思います。天然ウランを受け入れるというのを、どういう形で受け入れるかということです。これは鉱石のまま買うのか、あるいはすっかり製練されてでき上ったものを鉱物として買うか、あるいは実際にすぐ使えるような形にするかという、これはなかなかむずかしい問題であります。これも私の個人的な見解では、やはり将来のことを思いますと、日本でウランを精練し、ウランを燃えるような形に作るだけの技術はどうしても日本でなければならないと思います。そういう意味からいえば、石ころのままで買って精練するのが一番よろしい。ただしかし、これは日本にない技術で、なかなかやさしい技術ではありません。ヨーロッパ各国でも、自分の国でウランの精練をちゃんとやっている国は幾らもないので、ノルウェーとかベルギーとかいう国では、みなイギリスに頼んでやってもらっている。だから、今日本ですぐそれができるかどうかは問題で、ちょうど石油を入れるときに原油も輸入するし、精製したものも輸入する、いろいろな段階のものを輸入する。私が個人的に申せば、やはりいろいろな段階のものを輸入して、日本で技術を開拓するということが必要ではないかと考えております。
  82. 福田昌子

    福田(昌)委員 私がお伺い申し上げましたのは、アメリカの濃縮ウランの援助の申し入れと同時に、やはり天然ウランのそういうアメリカの配慮があれば、それを受け入れて学問の基礎的研究を同時にやった方がいいという御見解かどうかという意味で申し上げたのであります。
  83. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 当然私は、天然ウランも同時に受け入れて買って、そういう技術を始めたいと思います。それから先ほどのお尋ねの中で、どのくらい時間がかかるかというような意味だったかと思うのでございますが、それは両方同時に始めるとすれば、濃縮ウランの方がずっと早くできると思っております。天然ウランの方で大きいのを作り出そうというのは、なかなかむずかしい。両方同時に始めてもそういうふうになり、またそれでいいと思います。濃縮ウランの方は、小型ではありますけれども、いろいろの試験ができる。たとえばある程度の材料の純粋さなんというものは、ウランの中性子それ自身を使わないとできない。そういうときに一つ原子炉があれば、それを使って試験をして、そうして別のを作ることの基礎になる。そういう意味で濃縮ウランが先にできる、またできることが望ましいと思います。
  84. 福田昌子

    福田(昌)委員 大へん幼稚なお尋ねでございますが、濃縮ウラン六キロというのは、私どもには全然見当がつきませんが、どういう形で持ち運ばれているのですか。それから、これはたとえば電力のエネルギー源にした場合にはどのくらいの力になるものか、全然見当がつかないのですが……。
  85. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 形でございますが、形はどうでもいいのであります。ウォーター・ボイラーというものに使いますのは、福田先生はたしかケミストだと思いますので申し上げますが、ウラニル・サルフェートの形であります。そういうのを溶液にいたしまして——ナイトレートの場合はありますが、溶液にいたしまして、それから中に流し込むという場合があります。それから中に棒状にいたしまして突っ込む場合があります。そういうレストを——ある程度ちゃんとした形になっているやつですね。  それから、どれだけかというお尋ねでありますが、濃縮ウランの形になったもの、純粋なものが、一キログラムが約石炭三千トンのエネルギーに相当いたします。ただしこれは完全に燃焼した場合であります。
  86. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 二つお尋ねしたいと思います。原子炉の問題は、アメリカとの協定も大体民主党の総務会で受け入れることになりまして、国会の協賛を得れば進むと思う。一つ問題として、ウラニウムの探鉱の問題がある。われわれは永久にアメリカやその他にたよろうとは思っておらぬ。日本でもぜひ探鉱を促進してやりたい。日本にないかというと、私は必ずしもないということはないのじゃないかと思う。この間もローレンスやハフスタッドと話しまして、地球の深い所にある。ただ日本では探鉱をやっておらぬ。昨年はわれわれ千五百万円の予算を出して探鉱をやったのですが、日本の地質学者の若い層の一部が探鉱に反対して拒否するというような決議をしている。日本の学術会議の方は、この間の決議によってスムーズに動き出したと思いますが、探鉱の方が、まだ去年のままであるとすれば動かないと思う。これも将来のネックになると思うのですが、果してこういうことがいいことかどうか、またこれを打開するにはどうしたらいいか、この点をお尋ねいたしたい。もう一点あとでお尋ねしたいと思います。
  87. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 地質学会がかなりウランの探鉱の問題について拒否的な決議をされたことは、昨年ございました。私は地質学会とは別でございますが、学術会議の原子力問題委員長として、その委員会に参りましてお話をする等、理解していただくことに非常に努めました。ですが、私はそういう方々も国を思う念からされたのだと思うのでございますが、本年、ことに最近の態度が非常に変りました。私今、最近にどういうふうな決議がされ、どういうふうな形がとられたかは存じませんが、地質学会の有力な方から伺いますと、それは非常に変って、もうそういうことはやらないようになったというふうに聞いておりますが、これは私もし何ならば調べてお答え申し上げます。今その程度しか答えられないのですけれども、つまりほんとうに必要だということは、やはりだんだん皆様も御理解になってきているのじゃないかと思うのであります。
  88. 中曽根康弘

    ○中曽根委員 もう一つお尋ねしたいと思いますが、一部の学者やあるいは一部の人の間では、やはりひもの問題を非常に懸念しておられる。私の考えでは、原子力の問題は非常に国際性を持ってきて、他国との協調でなければこれはやれない問題だと思う。もう一つは、非常に長期的な計画性をもってやらなければならない。今作っているものがそのまま使えるとは思えぬので、何段階か脱皮して前進していくという方法で、非常に長期性を要すると思う。そういう国際性という面から考えると、どうしてもアメリカ系とかあるいはソ連系とか、そういう今の国際情勢から見れば、どっちかと提携してやる以外にない。日本の環境からすれば、当然アメリカとやらざるを得ぬ。この問題については、いずれ国際連合において、アメリカもソ連も協調し得るチャンスが必ず生まれると思う。ちょうど労働問題について国際労働機関ができたように、原子力の平和利用についても、そういう問題が必ず生まれると思うのです。そういう胎動もすでにあります。そういう意味で、富士山の頂上に上るようなもので、須走から行っても吉田から行ってもいい。われわれは早くやるためにアメリカと提携してやりたい。しかしそれに不当なひもがつくということは、われわれも考えなければならぬと思いますが、私どもが今まで調査した範囲では、実験原子炉については全然ないと思うのでありますが、しかし世の中では、相当な誤解があるし、懸念もある。そこで一体アメリカがどういう態度でこういうことをやっておるのかという点と、ひもがついておるのか、いないのか、その点について御見解を聞かしていただきたい。
  89. 藤岡由夫

    ○藤岡公述人 どうも、これは私よりも中曽根先生の方がよく御存じだと思うのでありますが、いかがでしょう。私どもにははなはだむずかしい問題で、私も、その原子力問題は非常に国際性の強い問題で、将来各国の協調が望ましいということは全く同感でありまして、おそらく国際連合がそういうふうな——今すでに胎動とおっしゃいましたが、今度の問題も、元はアメリカとの直接交渉ではない、いわゆるプール案から起っておるのでありますから、当然国際連合がそういうことに大きな役割を果すようになる。そういう機会が早く来ることが望ましいと存じます。  それからひもの問題は、これは私は何も申しませんが、私も今知られておる程度のことは差しつかえないと考えますので、その程度のものならば、受け入れて差しつかえないと思っております。しかしこれは、また見解によりまして、その程度のものでもいけないと考える方もあるのではないでございましょうかね。ひもというものをどういうふうに解釈するか、先ほど中曽根先生御自身が、将来いつまででもアメリカにたよるという考えはよくないというように伺いましたが、私も全く同感なんであります。しかし今あれを受け入れることによって、今後どんどん受け入れてくる、そうすると、いわゆる強いひもではなくても、日本全体として原子力工業が押えられるという心配は察せられるのではないかと思うのであります。やはりそのひもというものは、解釈がいろいろあるのではないかと思うのですけれども、どうもその問題は、私にはそれ以上お答えできそうに思えません。
  90. 牧野良三

    牧野委員長 どうもまことにありがとうございました。長い間おそれ入りました。  しからば本日はこの程度にいたしまして、次会は明二十日の午前十時から引き続き公聴会を開くことにいたします。本日はこれにて散会いたします。    午後四時二十五分散会