○伊藤卯四郎君 私は、日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
政府提案の
石炭鉱業合理化臨時措置法案に反対し、両社会党提案の
臨時石炭鉱業安定法案に対して
賛成の
討論を行うものでございます。(拍手)
政府のこの
法案は、仏を作って魂を入れておらない
法律でございます。と申しますのは、この三年来というものは、日本の炭鉱は非常な不況に追い詰められまして、炭鉱の不安と危機は社会問題化しておることは、皆さん御存じの
通りでございます。こうした苦しい立場に追い詰められました鳩山
内閣は、窮余の一策としてこの
法案を出したのでございます。窮余の一策にも、むしろなっておらぬのでございます。この
法案の実施の第一前提条件ともいうべき大事な点は、総合エネルギー計画というものの上に立ってこれは提案をされなければならぬのでございます。たとえば、石炭を幾ら今後使っていくか、あるいは重油を幾ら入れるか、あるいは水力、火力発電をどの程度に伸ばすか、どれを拡張した方が日本の産業と国民生活に寄与するかという、この見地に立っての提案でなければ意味がないのでございます。(拍手)そういう点等は全然考慮されておりません。全く単なる苦しまぎれの
法案にすぎないのでございます。
この
法案で一番重大な点といわなければならないのは、需要と生産をいかように調整するかということでございます。たとえば、二十九
年度、昨
年度は、四千百五十万トン国内炭が消費されております。
政府は、この
法案等によって、一応の机上数字としては、
昭和三十
年度に四千三百万トン国内炭を消費する、五年の後の三十四
年度には四千九百万トンを消費する、こういう一応の数字を作っておりますけれども、これは単なる机上数字として作っているのにすぎないのでございます。この需要を
法律をもって保証する何らの
規定もございません。従って、この需要に伴うところの計画的な生産が行われなければならぬはずでございます。需要と生産を取り組ませていく、たとえば、そういう点から貯炭というものはあり得ないという計画でなければならぬはずでございます。ところが、需要の数字は一応作っておるけれども、生産は各山々が自由勝手にどんどんやれというのでございます。需要は
法律で保証しない。生産は各山が勝手にやれというのでございます。一体、これでは何のためにこの
法律が作られてあるのか、意味がわからぬのでございます。(拍手)石炭鉱業安定をはかろうとするならば、まず需要の
年度計画を
法律で保証して、生産をこれに見合う程度行わしめて、需給関係を国家の制度として定めてやっていくところに、初めて石炭鉱業の安定化があり得ると私は信ずるのでございます。こういう点等は全然考慮されておりません。
御存じのように、石炭界が非常に不況になりましたのは、
昭和二十六年以後、外国からの重油が圧倒的に入ってきたからでございます。
昭和二十六年にはわずか二百四、五十万キロリットルでございましたものが、二年後の
昭和二十八年には五百三十七万キロリットルにふえてきたのでございます。このために圧縮をされた石炭が六百万トン以上に上ったのでございます。これがいわゆる炭鉱の深刻なる不況の根本的原因でございます。従ってこれらの問題を解決するということでなければ、の
法案の意味はないのでございます。
そこで、この需要と生産の調整を定めまして、消費するだけを生産する。しかしながら、
経済界の変動、
天災地変によって非常貯炭のあり得る場合がございます。と申しますのは、たとえば、昨年は非常に雨が降りました。そのために、電力会社が平年より二百五十万トン国内炭を使っておらぬのでございます。二百五十万トン要らなくなったのでございます。このように雨がたくさん降れば、石炭が要らなくなってくる。
経済界の変動によって貯炭ができる。こういう非常貯炭に対しては、
政府が非常貯炭を保障するということを定めない限りにおきましては、日本の炭界は安定をしないと考えるのであります。(拍手)この
法案は、全くこういう点を
規定いたしておらぬのでございます。
さらにはまた、非能率炭鉱、条件の悪い炭鉱を三百万トン買いつぶすというのでございます。ところが、この買いつぶすに当って、一トン当り二千三百五十円で三百万トン買い取るのでございます。ところが、どの物価と比較してその買取
価格の基準を定めたかという点においても、何もございません。全くいいかげんでございます。さらにはまた、この買い取り炭鉱のために三万人近くの
失業者が出るのでございますが、これに対しては、わずか一ヵ月分の首切り手当をもって三万人近くを首切ってしまおうというのでございます。さらに、租鉱権者に対する問題についても、
法律上全くこの買い取りを明確にいたしておりません。さらには、鉱害
復旧におきましても、五年、十年後に起ってくるものに対する補償を具体的にいたしておりません。
さらにはまた、低品位炭の需要につきましても、何ら具体的にいたしておりません。今後は、石炭は、燃料ということよりも、むしろ原料として使うべきでございます。たとえば、油が新しい燃料としてどんどん起りてくる、あるいは原子力が平和産業原料として起ってくる、こういうときに当って、原料としての国内炭の新しい利用度を定めていくことが、この合理化の上において当然
政府がなされなければならぬ
措置であると思うのであります。(拍手)こういう点においても、何ら具体的にしたものがないのでございます。(「簡単々々」と呼ぶ者あり)時間はまだありますから御安心下さい。
それから、標準炭価を定めようとしておりますけれども、この標準炭価というものも、どの物価、あるいはどこの外国の石炭と比較をして定めようとするのか、この点も明らかになっておりません。
政府は、ただ、高能率、低コストを調整するためであると言っております。もちろん、日本の産業と国民生活に寄与さすためには、高能率と低コストをやらなければならぬことは、国家の至上命令ともわれわれは考えるのでございます。設備の近代化によってこの
目的を達成すると同時に、炭価を下げようとするならば、なぜ
政府が行政
措置上やれるところの電力料金の値下げ——電力料金は、ことしの夏は昨年より二割以上値上げをしたではありませんか。電力料金の値下げ、鉄道運賃の値下げ、金利の引き下げ、こういうことは、
政府が行政
措置上やれるのでございます。こういうものを値下げさせながら、なお合理化によって値下げをさすというのならば、これはきわめて合理的なやり方であると私は思うけれども、
政府が行政
措置上やるべきものに対してはむしろ値上げをしておいて、ただ炭鉱の労働者の犠牲においてのみ値下げをやらすということは、あまりにも片手落ちであると言わなければならぬのでございます。(拍手)
こういう点から、この
法案は全くずさんきわまるものでございます。もちろん、この
法案の
目的を達成しようとするならば、炭鉱の労働者の協力がなければなりません。たとえば、十二トンの一人当りの石炭を、
政府は十八トンにするというのでございます。十二トンを十八トンにするということは、労働者の協力がなければやれません。さらにまた、三百万トン買い取って、三万人近くの労働者が失業する。この買い取りについても、労働者の協力がなければ、買い取りは円満に解決することはできないのでございます。しかるに、
政府は、この
法案の実施は
政府と
審議会に白紙委任をさせようとしておるのでございます。労働者の協力を求めておりません。こういう点から、この
法案というものは、実施に当っても、炭鉱地区において労働者の協力なくしてやれないと私は断言する。(拍手)
ごらんなさい。
昭和二十四年に四十八万人おった炭鉱労働者が、現在では二十八万人となっておる。この
法案を実施すれば二十二万人になる。このように、炭鉱労働者は深刻なる現状において首を切られておるではありませんか。(「自縄自縛だよ、それは」「ストライキをやったからだ」と呼ぶ者あり)自由党の諸君は、そういうことを言う資格はありません。(拍手)胸に手を当てて反省をなさい。(拍手)先ほど、神田君も、商工
委員会において、自由党、民主党を代表して
討論を行われました。その自由党、民主党の
討論の中で、この
法案はきわめて不十分であると言いました。この
法案はきわめて不満足であると言いました。これは、自由党、民主党が不十分で不満足の
法律案である。みずからそう言っておるのである。(拍手)ただ、それに
附帯決議をつけて……。