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平木参考人 お答えいたします。二月の二十二日のちょうど午後二時ごろだったと思います。私が
岡地君と会いまして、
岡地君が
山田の店の会員になっているということを、
自分が存じておりましたので、
自分もきょう
散髪に行きたいので、僕も会員になってもいいんだがなあという話をいたしたのであります。ところが、
岡地君が、それだったら僕が案内しようという話になりまして、
山田の宅へ参ったのであります。一緒に参りまして、
岡地君が
山田の主人に、
平木部長も会員にしてくれという気持であるので、僕と同じように会員にしてあげてくれということを言ったのであります。ところが、
山田君は快くそれに承諾をして、ど
うそ気安く会員になってくれというような話でありました。私は待たされることなく、店のちょうど三番目のいすに案内されまして、すぐに
散髪にかかったのであります。そのときに
岡地君か、僕ちょっと用事があるので出ていってくるということを
自分に言いました。それから、主人に自転車を貸してくれということを申しておりました。
岡地君がどこへ行くとも申されませんので、一体どこへ行くのかなあというような気持を持って、
自分は
散髪にかかったのであります。
散髪は
山田の主人が私にはさみを入れて下さいまして、ちょうど
散髪の途中に、私の耳元に
山田が口を持ってきて、今うしろのソファーに坐っている人が小笠派の運動員で、僕を買い込みに来ているということを、私に申したのであります。私は職業柄、そういうようなことを聞いた以上は、やはりどうしても職業意識が働きますので、鏡越しにその人間を一応確かめておこうというので、鏡越しにその人間を見たのであります。ところが、約五十歳くらいの年輩で、口ひげのはえた方でありましたが、ただ
自分は、そうかと言ってうなずいて、引き続いて
散髪をしてもらって、ひげそりにかかりました。ひげそりが終ってから、いすが起きたときに、うしろを見ましたが、その小笠派の運動員という人は、もう帰っておりませんでした。
ひげそりを終って、洗髪も終り、一応最後の仕上げも主人がしてくれまして、
散髪が終って私がいすから下りまして、ソファーのところへ腰をかけようと、うしろの方に歩きかけたときに、
山田が
自分のすそを引っぱって、部長さん、こちらの方に来て下さいと言うので、
自分は一体何だろうかというような気持で、一体何ですかと言うて、
山田の方についていった。ちょうど三番目のいすから約二間ほど離れて、入口にカウンターがありますが、そのカウンターのところに
山田が入っていきましたので
自分もついていったのであります。ところが、
山田が、実はいい話があるのです、と言う。何ですかと言うたら、
選挙の話だと言う。実はきのうの二月二十一日に、ちょうど休みだから
亀田さんが来て、こういうことを言いかけました。
自分は
亀田という者については、全然予備知識がございませんので、一体
亀田とはだれですか、こう問い返したのです。ところが、
山田が、あなた
岡地さんから何も聞いておらぬのですか、このような問い返しが僕にあったのです。そこで
自分は、その以前に
岡地君から、あの
山田の家から
生田派の
選挙違反が出かかっているのだということを、ちらっと耳にいたしておりましたので、具体的なことについては聞いておりませんでしたが、ちらっとそのようなことを耳にいたしておりますので、その程度の予備知識はあったのであります。そこで私は、
岡地君から大体のことは聞いているけれども、詳しくは聞いていない、こう申しますと、
亀田さんという人は毎日新聞の広告係の人で、
生田派の運動員だ、こういうことを申されたのであります。それで私はそれだけでのみ込めましたので、それじゃその話を続けてくれと申しますと、実はその
亀田さんが来まして、きのうの四時ごろ、すなわち二月二十一日の四時ごろに来まして、伊月町の橘の家へ
生田派の
選挙事務所の森という人が
お金を十万円持ってくるようになっているが、それをもらうようになっているから、一緒に行きませんかというて
亀田が誘いに来た。このようなことを最初申しましたので、
自分はとっさにそのようなことを聞きましたし、何も予備知識をあまり持っていなかったので、実はびっくりいたしたのであります。そこで私は、それは
ほんとうですかと問い返しますと、それは
ほんとうです。何で
うそを申せましょう。私は実際に現認してから言うことになっている、こういうことを申されました。それからそのときに、これというのも
岡地さんにいろいろ世話になっているので、
岡地さんに何か手柄を立てさしてあげたいと思うから、このようなことを聞いたのであなたに申し上げるんだ、このようなことを言うたのであります。それからそのときにどないしていったと言いますと、ちょうど
山田宅のカウンターのところに、
山田と私が話しているところに紙きれと鉛筆が置いてあったのでありますが、それを示しながら、
亀田さんが来て、橘さんの家へ行く地図を書きかけた。私も橘さんの家は知ってるので、それは書くに及ばないと言って断ったところが、
亀田さんがそれを書くのを途中でやめた。このような話があった。それからどないして行きましたかと言うと、二人が歩いて行った。橘の家へ寄ってからは、このように問い返しますと、奥座敷へ通された。そのときにちょうど
生田派の
事務所の森さんという人ともう一人は二十四、五才くらいの若い人が来ておった。そうして私と
亀田さんが奥座敷へ入ると間もなく、一応のあいさつが済んでから、森さんが橘さんに十万円を渡しておった。それからと私が引き続いて聞きますと、その金を橘さんが受け取ってからしばらくして、森さんともう一人の
事務所の二十四、五才くらいの若い人と二人は帰りました。帰ったあとで橘が、この
うち二万円を
山田さんに上げるけれども、きょう渡すわけにはいかない。二十四日ごろの晩に来てくれ。来るときには、
うちがこういう商売をしているので、大きな
ふろしき包みのようなものをことさらに持ってきてくれ。そうすると怪しまれにくいから、そのようにしてくれと言った。こういう
情報を私は聞いたのであります。ちょうどそういう
情報を聞いておりますところへ、たしか二、三人くらいの客が入って来たように思います。私は、いやどうもありがとうございました。それじゃまたあとから調べに来ますが、いい話を聞かしてくれたので、一応本署へ帰って報告しますから、と言って私がドアをあけて帰ろうとしたところへ、ちょうど
岡地君が帰って来ましたので、私は
岡地ちょっと来いと言って
岡地君を呼んで、実は今いい
情報を聞いたのだ、そうすると
岡地君からどんなやつですか、こういうような話があったのでその概略を
岡地君に言って、それから二人でそろって本署へ帰りまして、上司に報告いたしたというような
順序になっております。