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1955-05-20 第22回国会 衆議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年五月二十日(金曜日)     午前十一時七分開議  出席委員    委員長 世耕 弘一君    理事 古島 義英君 理事 山本 粂吉君    理事 三田村武夫君 理事 福井 盛太君    理事 古屋 貞雄君 理事 田中幾三郎君       今松 治郎君    椎名  隆君       高橋 禎一君    林   博君       生田 宏一君    神近 市子君       佐竹 晴記君    細田 綱吉君       志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 花村 四郎君         運 輸 大 臣 三木 武夫君  出席政府委員         警察庁長官   斎藤  昇君         警  視  長         (警察庁刑事部         長)      中川 董治君         法務政務次官  小泉 純也君         検     事         (刑事局長)  井本 台吉君         法務事務官         (人権擁護局         長)      戸田 正直君         大蔵事務官         (主計局次長) 正示啓次郎君         運輸事務官         (鉄道監督局         長)      植田 純一君  委員外出席者         大蔵事務官         (主計官)   大村 筆雄君         日本国有鉄道副         総裁      天坊 裕彦君         日本国有鉄道理         事         (営業局長)  唐沢  勲君         日本国有鉄道参         事         (営業局船舶課         長)      篠田寅太郎君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 五月二十日  理事古屋貞雄委員辞任につき、その補欠とし  て同君が理事に当選した。     ————————————— 五月十九日  裁判所定員法の一部を改正する法律案内閣提  出第五三号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  理事の互選  裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出第五三号)  検察行政に関する件  人権擁護に関する件     —————————————
  2. 世耕弘一

    ○世耕委員長 これより法務委員会を開会いたします。  議事に入るに先だち、理事補欠選挙についてお諮りいたします。すなわち、委員異動に伴い、理事が一名欠員となっております。この補欠について、古屋貞雄君を御指名するに御異議ありまんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 世耕弘一

    ○世耕委員長 異議なきものと認めまして、さよう決定いたします。     —————————————
  4. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に日程に入ります。裁判所職員定員法の一部を改正する法律案議題として、政府より提案理由説明を求めます。小泉政務次官
  5. 小泉純也

    小泉政府委員 ただいま議題となりました裁判所職員定員法の一部を改正する法律案提案理由を御説明いたします。  行政費節約等のため、昨年来行政機関事務簡素化及び人員整理が行われておりますが、これに対応して裁判所につきましても、司法行政事務を極力簡素化して人員の縮減をはかることとなり、すでに昨年の第十九回国会における裁判所職員定員法の改正によりまして、裁判官以外の裁判所職員が四百二十人減員されましたことは御承知通りであります。この法律案は、同様の趣旨から、昨年に引き続き裁判官以外の裁判所職員二百八十人の減員を行なおうとするものであります。  なお、この裁判所職員人理整理につきましては、この法律案の附則におきまして、一般公務員人員整理の場合に準じ、本年九月三十日までの間は、新定員を越える員数の職員定員の外に置くことができるものとして、円滑に整理を行うことができるよう配慮いたしております。  以上がこの法律案提案理由であります。何とぞよろしく御審議のほどお願いいたします。
  6. 世耕弘一

    ○世耕委員長 本案に対する質疑は後日に譲ります。     —————————————
  7. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に検察行政に関する件について調査を進めることにいたします。質疑の通告がありますので、これを許します。佐竹晴記君。
  8. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 それでは紫雲丸沈没事件に関しまして、運輸大臣国鉄総裁並びに運輸省の政府委員各位及び法務大臣刑事局長等お尋ねをいたします。この件についてはすでに各委員会並びに本会議等で論議されて参りましたが、日を追うて新しい事実もわかって参りますし、また検察権発動を見るに至り、偽証事件まで発生いたしましたようなことでありますから、法務委員会においてもここにさらに事件の真相を追及して法律上、政治上の責任を究明しなければならぬと思います。  まず第一に、本件第三宇高丸紫雲丸衝突いたしましたのは、いかなる原因に基くものであるかということを伺いたいと思います。私は本月の十一日すなわち事件発生の当日、各党代表方々とともに東京を立ちまして、翌十二日に現地におもむいて実情調査いたしましたが、その際間瀬四国鉄道局長説明によれば、紫雲丸沈没原因は、責任者一部死亡のため詳細は海難審判を待たなければ判明しないが、各般の状況により、紫雲丸船長が第三宇高丸との行き違いに際し航法を誤まったと推定される、こういうことでありました。さらに同局長は同日各報道機関を通じて、濃霧のほかいろいろの事情もあるが、最大の原因紫雲丸中村当務船長航法の誤まりと推定される旨を公表いたしました。ところが翌十三日には高松地方検察庁は、第三宇高丸船長三宅実、二等航海士松崎敏紫雲丸二等航海士立岩正義任意出頭の形で取り調べておりましたが、同十時半に過失艦船覆没罪業務過失致死罪容疑でもって逮捕状を執行された旨報道されました。これによれば、両者に責任があるものと認めた結果であることは明らかであります。果してそのいずれが正しいてあろうか、これを検討しなければならぬと思います。よってまずこの際、高松地方検察庁が右の通り逮捕状を執行するに至った根拠並びに事案内容について法務当局より伺いたいと存じます。
  9. 井本台吉

    井本政府委員 お答え申し上げます。お尋ね通り本月の十三日に第三宇高丸務船長三宅実、同般の首席航海士松崎敏紫雲丸二等航海士立岩正義の三名を業務過失艦船覆没並びに業務過失致死容疑罪逮捕いたしまして、さらに五月の十五日この三名を拘留、引き続き捜査を進めておるわけでございます。捜査内容につきましては、ただいま取調べ中てありますので、詳細申し上げかねるわけでございますが、この紫雲丸沈没がこの三名の者らの過失によって生じたものであるという認定のもとに、かような方々取調べをしておるわけでございます。
  10. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 捜査中であるのでその内容を明らかにすることは支障を来たすという理由によって、詳細を承わることのできないのは遺憾であります。しかし逮捕請求をなさった根拠がどこにあるか、並びに拘留請求をなさったその拘留請求書に書いてあります事実は何か、これだけでも承わっておきたいと考えます。
  11. 井本台吉

    井本政府委員 逮捕拘留をいたしました被疑事実は次の通りであります。被疑者三宅実国鉄貨車輸送船第三宇高丸の当務船長として五月十一日午前六時十分貨車十八両を積載して宇野港を出港し高松に向う途中、同日午前六時四十五分ごろに同船レーダーによって約二海里前方海上を自船と反対方向に進行してくる宇高連絡船紫雲丸を探知したが、折柄濃霧のため視界きわめて狭く、かつ紫雲丸接触その他の事故を惹起するかもはかりがたい状況にあったので、船長としては直ちに減速または停船して無船電信により紫雲丸位置並びに連絡を確認して、安全に行き違いできるかどうかを確かめた上進行するなど、事故未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、これを怠って漫然と時速一一・六ノットにて進行を続けたため、同日午前六時五十五分香川香西沖合三千五百メートルの海上において紫雲丸との距離約百メートルに近接して初めて同船の船体を認め、衝突の危険を感じて急遽左かじを命じて左転したが及ばず第三字高丸の船首を紫雲丸右舷にほとんど直角に激突させて同船を大破させ、ついに同所に沈没するに至らしめたものであって、よって乗員及び乗客多数を死に至らしめたのである、という事実でございます。他の被疑者松崎敏の事実もことで大体同じような被疑事実でございます。  それから立岩正義、これは紫雲丸の二等運転士でございますが、この方の被疑事実は、五月十一日午前六時四十分ごろ、立岩正義紫雲丸二等運転士であるが、紫雲丸乗客及び乗員約九百三十名を積載し、当務船長中村正雄とともに同船を運航して高松港を出港、宇野港に向け約十二ノットの速力航行中、同日午前六時五十三分ごろ女木島沖通過の際、同船右舷前方海上において同船反対方向に進行してくる貨車輸送船第三宇高丸霧中汽笛を聞いたのであるが、当時濃霧のため視界きわめて狭く、いつ何時第三宇高丸接触その他事故を惹起するかもはかりがたい状態にあったので、直ちに減速または停船の上無線電信によって第三宇高丸位置並びに進路を確認し、安全に通過できるかどうかを確かめた上前進するなど、事故防止のため万全の措置を講ずるよう船長に進言すべき業務上の注意義務があるのにかかわらず、これをおこたり、漫然航行を続けさせたため、同日午前六時五十五分、香川香西沖約三千五百メートルの海上において、ついに右第三宇高丸をして紫雲丸右舷にほとんど直角に衝突せしめ、紫雲丸を大破、沈没させ、よって乗組員及び乗客多数を死に至らしめたものであるというのが被疑事実でございます。
  12. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 最初にお読みになったのが第三宇高丸三宅船長に関するものでございましたか。第三宇高丸がみずからの過失によって、積極的にそういう衝突を加えたふうには聞き取れなかったのでありますか、それは第三宇高丸船長三宅に対する被疑事実でございましたか。
  13. 井本台吉

    井本政府委員 先ほど申し上げましたように、最初逮捕拘留いたしましたのは、初めの三宅実杉崎敏宇高丸関係者でありまして、最初に読み上げました分は、この宇高丸関係被疑事実でございます。最後に読み上げましたのが紫雲丸の二等航海士立岩正義関係でありまして、紫雲丸関係被疑事実でございます。
  14. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 そこで聞いておきたいのでありますが、このような案件は、海難審判所調査審判が優先するということを承わるのでありますが、果してそれはどうであるか。もしそうだとしたならば、この審判所審判請求に先んじて、検察権発動をいたしました理由、並びにこのことは、海難審判所との間において了解を得ているものであるかどうか、このことについて法務大臣所見を承わりたいと思います。
  15. 花村四郎

    花村国務大臣 大体において、今佐竹君の言われたように、海難審判所の方で優先的に扱うことには相なっているのでありますが、しかしおのずからそれについてはまた例外もあるわけでありまして、要するに事案内容いかんによっては、海難審判所審判が先になり、あるいはその事案いかんによってはあとにもなるというような事例も今日まであります。そこで、今回起きました海難事件は、御承知のごとくまことに大きな事件でありますと同時に、社会の注目しておりますことも御承知通りでございますのみならず、またその被害の面におきましても、小学校の児童が相当被害者側に立っているというような観点からいたしまして、これはすみやかにその捜査を進め、そしてその黒白を決することが、最も時宜に適した処置なりといたしまして、神戸海難審判所とも連絡をいたしまして、了解の上で逮捕するに至った次第でございます。
  16. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 ついでに承わりたいのは、この事件に関連いたしまして、偽証事件発生して、十七日に至りまして紫雲丸の三等航海士鈴木秀夫、同二等航海士矢田茂の二名を、証拠隠滅、同教唆でもって逮捕し、さらに紫雲丸正船長岡忠雄証拠隠滅教唆容疑逮捕請求をいたしておりますが、その逮捕請求内容、そうしてできますならば、その事案内容を御説明願いたいと存じます。     〔委員長退席、三田村委員長代理着席
  17. 井本台吉

    井本政府委員 お尋ね通り紫雲丸二等運転士矢田茂、三等運転士鈴木秀夫は本月の十七日、それから紫雲丸船長岡忠雄、これは本月の十九日、それぞれ逮捕をしております。逮捕容疑事実は、大体次のような事実でございます。この被疑者ら三名は、紫雲丸衝突沈没事故に関する業務過失艦船覆没などの被疑事件被疑者として、立岩正義高松地検において取調べを受けていると知りながら、同人を庇護する目的で、五月十三日の午前十時ごろに、高松市の西内町海友会館におきまして、紫雲丸水手藤原安文、同飯間久雄の両名に対しまして、同人らが五月十一日の覆没事故当時に、紫雲丸船上におきまして、見張りに任じていた事実がないのに、検察官取調べに対しては、沈没事故当時両名が紫雲丸船上見張りに任じていた旨供述するよう言い含めて、右両名にその旨うその供述をすることを決意させ、よって同月十六日高松地方検察庁におきまして検察官取調べにうその供述をさせて、刑事被疑事件証拠隠滅教唆したものであるというのが大体の容疑事実でございます。
  18. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 この際運輸大臣に承わっておきたいと思います。ただいま運輸大臣もお聞きの通り四国鉄道管理局長紫雲丸責任であると公表いたしました。ところが法務当局といたしましては、ただいま検察庁がとった態度の通り、第三宇高丸船長にも過失ありといたしまして、これを逮捕し、さらに拘留を請求いたしまして、正規の拘留の上に取調べを進めております。こういう段階においてなお四国鉄道管理局長の発表が正しいと思われますか、それとも法務当局が発表されておる点も認めなければならぬとお考えになりましょうか、運輸当局といたしましてお調べなさっておりまする今日の段階までの御所見を承わっておきたいと思います。
  19. 三木武夫

    三木国務大臣 お答えいたします。事故発生原因については海難審判所などの裁決にまたなければ、いろいろあと情勢判断では正確を期されない場合もあり得るわけであります。そういうために海難審判所がある。しかしわれわれといたしましては、たとえば第三宇高丸スピードの点あるいは紫雲丸がその衝突直前において左にかじをとった点、あと考えましたときにどういう理由でそういうことをしたのかということは、今後の海難審判などによっていろいろ明らかになるが、非常に解釈しにくい点であるのであります。従って私どもは今度の事故については紫雲丸のみ責任を持った事故であるという断定はいたしておらない。やはり第三宇高丸あるいは紫雲丸両方のそのときの状態について調査する必要がある。事故原因紫雲丸の一方的なものであるという断定は私どもはしない、われわれの考え方はそういうことをいたし得ないという考えであります。
  20. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 両船とも何であのようなへたな操縦をしたのだろうかということが強く批判されておりますが、特にレーダーの備えがあるのに何ゆえに衝突をしたかということが重大な問題であると思います。衆議院派遣調査団報告書によりますれば、第三宇高丸船長は六時五十一分まで映像を見ていたが、紫雲丸既定進路航行していたごとくであり、進路を変える様子はなかったと述べている旨を明らかにいたしております。これによれば衝突の五分前までレーダーを見ておりまして、衝突時分にはその場所を離れていたことが認められる。衝突の五分前まで見ていたものが、衝突時分に、特に濃霧の際にその重要なる任務から離れたというのは一体何のためであるか、またその部署を離れて何をいたしておったか、伝うるところによれば、三宅船長は酒を飲んでいたともいうが、果してそのような事実はあるのかないのか、十分のお調べができているものと思います。当時の実情について法務当局及び運輸当局から承わりたいと存じます。
  21. 井本台吉

    井本政府委員 われわれの手元に第三宇高丸船長酒気を帯びていたかどうかという点についての報告が来ておりますが、五月十七日付の報告によりますと、係の通山検事の調べでは同船長酒気を帯びていた事実はなく、その後の捜査においても、同船長が運航当時酒気を帯びていたと認める事実はないという報告が来ております。その他お話のレーダー等の詳細な事実につきましては、目下取調べ中でございまして、詳細な報告がまだ手元にございませんので、次の機会に報告さしていただきたいと存じます。
  22. 三木武夫

    三木国務大臣 船長酒気を帯びていたかどうかということにつきましては、今検察庁取調べ通りと私も聞いておるのでございまして、なお国鉄当局から詳細な調べができておればお答えいたさせます。
  23. 唐沢勲

    唐沢説明員 三宅船長酒気を帯びていたかということにつきましては、私どももそういうことはないと聞いております。三宅船長は早くから検察庁の方にとめられておりまして、十分調べております。それからレーダーを見ておりまして途中でやめたということ、その他のことにつきましても、私どもでは十分調査はいたしかねるのでございますが、ただあの濃霧の中であのスピードで走っておって、そうしてレーダーだけにたよるということは非常に危険である、安全法を無視したやり方であるというふうに私ども考えております。
  24. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 酒気を帯びていなかったといたしますならば、この際三宅船長が当時レーダーを扱っておることについては何ら過失なきもりであったと認めなければなりません。もしそうだといたしますならば、さらに私はここに重大なる責任問題が起きると思います。三宅船長衝突五分前までレーダーかじりついて映像をよく見ていたが、紫雲丸既定進路航行していたごとくで、進路を変えるような様子はなかったと考えたこと衆議院調査団報告書通りでございます。そこで安心してその場所を離れたものと見なければなりません。酒気を帯びていたりいたしましてあちらちこちらへと右往左往しておったというならば、これはまた別です。正気のさたではないからであります。しかしそうでないといたしますならば、この調査団報告いたしております通り、そのとき正常なる精神状態において映像をよく見詰めていた。そうして規定進路航行していくので、進路を変更されるような様子はないと安心をいたしまして、その場所を離れたに相違ございません。ところがその直後にこの衝突を起しておるのであります。三宅船長がそのレーダーを見ていたというのは何の役にも立っておりません。全くレーダーを見る能力がなく、全くのでたらめなことを空想していたものと見るよりほかはないのであります。このような船長レーダーを扱わせ、多くの人命をこれに預けたということは、これは運輸当局の重大なる責任であると私は思う。十二日の朝日新聞に関西汽船の原田武文海務課長の話が出ておるのでありますが、これによると、「レーダー能力にも限界があり、映った船影だけで進路スピードまで判別することは出来ない。しかも映像米粒ほどに小さい。だから瀬戸内のように狭く航行船の多いところでは余程熟練しないと操作は難しく、レーダーに頼りすぎるのは危険で、濃霧の時は安全区域に待避することだ。」とあります。さらに同日の読売新聞には、神戸海難審判理事所の見解が載っておりますが、これによると、レーダーには故障がない、船が方向を変えるときレーダー映像は瞬時乱れ、セットすなわち固定するまでに数秒間かかる、この数秒間は海難未然に防げるかどうかのキー・ポイントである、この点を考慮に入れずレーダーを操作することは、注意力の不足として両船とも当然責任を免れない、とある。まことにその通りではないかと思います。紫雲丸にしてもレーダーの焦点を二マイルにいたしておりましたことは報告書によって明らかであります。だから近くでは見えなかったのであります。レーダーは五百メートル以内になりますと、相手の船などの像は映ってはいるが、距離はわからないということであります。専門家説明によりますと、レーダーは、瞬間的に相手の船の方向及び距難というものは刻々にわかるけれども相手の進む進路速力を知るには、少くとも数分間を置いて数回以上これを計測いたしました結果を海図の上に書き取って、これを図上に表わして作図考察しなければわからないと言っております。従って今回の衝突直前のように、狭い海面でしかも両船が全く近くに接近しておる場合には、そのようなゆうゆうたる計測をしたり、作図をいたしますいとまがないのは自明の理であります。レーダーを持っていても、ただどの方向に、どのくらいのところに、相手の船がいるかということがわかるだけであって、その船がどっちに向いて、どれぐらいの速力で走っているという肝心な点が一切わからないのは当然であります。そこで瀬戸内海のような狭い、しかも多くの船や島が散在いたしております海面で、レーダーのみによって、濃霧中盲目的に十ノット以上も出して走るということはもってのほかであります。従ってレーダーを持っておる場合において、濃霧中でありますときは、むしろかえってじっと一つのところに停船をいたしまして、船の近寄るのを見つけたらサイレンや汽笛を鳴らして警戒を与えつつ、霧の晴れるのを待つとか、あるいはせいぜい一ノットか二ノットぐらいで徐行するというのが常識であります。そのためにこそレーダーが必要なのであります。レーダーがあるからめくらで突っ走ることができると考えることほど危険なことはありません。これこそ子供に力を与えることにひとしい、よってけがをした場合、子供過失か、与えた親の過失か、これを十分にお考えを願わなければなりません。前の長崎国鉄総裁は、レーダーがあるのに不思議だと繰り返し言われておりましたが、その考え方がそもそも間違いであります。レーダーを持っておりさえすれば、めくらでも走れるというような考えがあったからこそ、こうした惨事が起ったのであります。すなわちレーダーを持っていたからこそ衝突事件が起きたのだといわざるを得ない案件であると私は考えます。従ってその責任は、断じてひとり船長その他船員のみに帰するわけには参りません。よって私は、この際運輸当局に承わりたい。  まず第一に、レーダーを設けたときに、レーダー使用に関する詳細な規則をお定めになりましたか。またその規則を励行するために監督を十分にしなければならなかったと考えますが、いかなる方法によってその監督を励行なさったのか。  第二に、ただいま申しましたごとく、レーダーの何たるかを解しない三宅船長中村船長にまかせておいたのは、これは重大なる失態ではないでありましょうか。一体いかなる教育と訓練をいたしました結果、安心と認めてそれをおまかせになったのか。  第三に、濃霧中は、たといレーダーを持っていても必ず停船減速待避等をせしめなければならない、レーダーはそのためにこそ使われるべきものでありますが、その濃霧中の航行に関しいかなる規則を定め、いかなる指示をなさっておるのか。  第四に、これに対する当局責任は、ひとり船長責任にとどまるものではございません。運輸当局はいかなる範囲において責任をとるとお考えになるのか、またいかなる程度の責任を負わせる腹であるのか、この点を承わりたいと存じます。
  25. 三木武夫

    三木国務大臣 レーダーが近代の航海には欠くべからざるものになってきておることは御承知通りであります。しかしながら、それを過信してはいけない。瀬戸内海のような場合に、それのみを過信してはいけないことは、佐竹さんの御指摘の通りだと思います。あるいは濃霧の場合においては、スピードを落すなり停船するなり、そういう方法をとる必要があることは申すまでもないのであります。さりとて、レーダーというものが全然必要でないというものでもないのでありまして、これはやはり併用していくべきものだとわれわれは考えておるのでございます。その訓練等については、国鉄当局がお答えすることが適当と思います。従って今後運輸当局として考えておりますことは、何としても船員の訓練というものが、あるいは情神的な面もありましょう、あるいは技能的な面もございましょう。従来海技専門学院等でそういうこともやっておったわけでございますが、しかし必ずしも船員の再訓練というものが十分とは思われない。今度の事故をいろいろ調査してみましてもその感を深くするものであります。今後一段と船員の再訓練、技能的な訓練も含めてこれを強化していかなければならぬと運輸当局としては考えておる次第でございます。そういうことによってこういう事故の絶滅をはかる方策を講じていくというところに、われわれの責任があるということを感じておるのでございます。
  26. 唐沢勲

    唐沢説明員 レーダーをつけましたのはこの前の事故あとで、すでに数年を経過しております。そのレーダーの操作等につきましては、それぞれの船員に講習を受けさせるなどをしまして免状をとらせるようなことをいたしております。また実際の訓練としましては毎日平均大体一時間ぐらいこれを使用して経験を積ましてきておるようなわけでございます。しかし霧の中などでこのレーダーだけにたよってやるというようなことは当然やるべからざることでありまして、これは衝突予防法によりましても当然のことでございます。ただいま御指摘のございましたように、スピードを落し相手船の様子をよく見て、そして衝突予防法に定められた適当な処置をとるということは、レーダーをつけておったからといっても当然やらなければならないことでございまして、従いましてそういう点につきましてはわれわれとしましても訓練をしておるつもりでございます。また船長としましても教育を受け、それ相当の免状を持った船長でありますので当然知っておるはずだと思うのでございますが、こういう霧中においてレーダーにたより過ぎたのかとも思いますが、とにかくそういう衝突予防法を無視したような方法をとりましたことについて大へん申しわけないと思っております。  なお、この船には無線電話もつけてございまして、スピードを落し、相手の船の様子をよくレーダー等によって計量し、そして電話などによっても打ち合せるということも完全にすればできたはずでございますので、こういう霧中における航行につきましきましては、なぜこういうことになったかと、返す返すもまことに申しわけないと思っておる次第でございます。
  27. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 たより過ぎてはいけないというお考え、また停船その他適当な方法をとったならばよかったと述懐なさっておられるが、それだけではこの問題は済まされない事案でございます。私のお尋ねしておるのは、たより過ぎたかというのではないのです。衆議院の調査団報告によれば、三宅船長なる者は全くレーダーを見る能力がないではないかということです。さらにまた紫雲丸の方でも焦点を二海里に置いていた、そして百五十メートル、二百メートルに近寄っておるものをなおこれでキャッチし得るものと安閑としておるうちにドカンとやられるなどというのは、レーダーにたより過ぎておるのでなくて、全くレーダーを操作する方法を知らない。レーダーがありさえすれば眠っておっても衝突しないというような考え方ではないかというのであります。もし知っておるならば、衆議院議員団の報告のごとくその部所を離れる道理はない。何で離れたか、どこに行ったか、何をしておったか、聞いてもお答えにならぬではありませんか。従ってこういったような機械を据えつけるときには、巨細なる規則その他将来あやまちを起さぬような指示を示さなければならぬ。と同時に、その教育と訓練をし、かつ将来あやまちを起さないだけの監督をしなければならない。ところが今のお話によると、船長は免状を持っているから当然知っていることと思うということですが、営業局長がそんなのんきなことをお考えになっておるから部下の者がこういった惨事を起すのです。先ほどお尋ねいたしましたが、このレーダーを設けるときに規則をお作りになりましたか。また船長というものは当然にそういうことを知っているものですか。三宅に対していつどれだけの教育をし訓練をして、それであなたが安心だとお考えになっていたのか、あるいは船長であるから当然大丈夫だといったようなそんな漫然たるものであったのか、いま少しそれを詳しく承わりたいと思います。
  28. 唐沢勲

    唐沢説明員 特にレーダーの操法について規則を設けたというようなことはございませんが、毎日これを扱いまして実際の経験を積ませてきておるのでございまして、これについて特別に規則を設けたというようなことはございません。それから霧中などにおいてレーダーを使用する場合におきましても、これによって衝突予防法にきめられている義務、つまり速力をダウンするとか、相手船の動向を見るとかあるいは航法を変えないというような規則はこれによって免れるものではない。そういうものを無視してやってはならぬということは当然のことでもございますし、われわれとしてもそういう安全に関する法律なり規則なりを守れということは常に指示はしておったわけでございます。
  29. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 実際の経験を積ませておるというお話でありますが、何も知らぬで何年間実際の経験をお積ましになってみたところで、ゼロに加うるのにゼロ、イコール三にも五にもなりはしません。一体どういう規格を作って、どういう教育をして、どういう訓練をしたか、どういう監督をしたかということを聞いているのです。それができなかったところの局長は当然責任を負うべきである。  この際運輸大臣に承わりたい。レーダーを持っていなかったならば安心ならぬから、おそらく停船をしてあらゆる方策を講じたでありましょう。レーダーを持っておってもその操作方法すらも知らないような連中が、五年間の経験を経ているのだから、これなら大丈夫だといって安心し切ってやっているところにこの問題が起きているということをお考えになっていただきたい。今日まで詳細な規則を設けず、教育をせず、訓練もせずかくのごとき重大な結果を生じたとするならば、船長、船員の責任ではありません。局長らそれらの衝に当る人々がこの際すみやかに責任をとるべきであると私は思う。この席でこうせよと申しましても、運輸大臣、そういたしますとは申しますまい。従ってこれだけを運輸大臣に申し上げておきます。答弁をいただかなくてもけっこうです。  ついで承わりたいのは、紫雲丸は客船であると同時に貨車航送船であります。今回の衝突で何ゆえにあっという間に沈没したか、これがまた重大なる問題であります。私は今まで衝突原因についてただして来ました。しかし検察当局もまだ十分の調べができておらぬというし、運輸当局も、ただ一点レーダーの点を聞いただけでも満足な答弁をいたしません。従ってこれより以上私は掘り下げては申しません。しかしさて衝突をしたあの大きな船が、その瞬間に、あっという間に沈没した。一体何でそうなったかということは、さらにきわめなければなりません。十分お調べになりましたか。私どもはその衝突のショックによって、積んでいたところの紫雲丸貨車が転覆をして、急激に傾斜したためにこうなったとより見ることができません。すでに識者ははっきりそう言っておる。衆議院代表の調査団報告によれば、第三宇高丸紫雲丸衝突した際、同船の沈没を防ぐためそのままの状態を続け救助に努めたとありますが、もしも右貨車の積載がなくて、衝突のままに、すなわち突っ込んだままその状態を続けておりましたならば、浸水したり転覆するようなことはございませず、乗客は完全に全部避難ができたと私は思う。ところが貨車を積んでおって、それが衝突のショックでひっくり返ったために紫雲丸がそのままの状態を維持することができなくなって、宇高丸から離れざるを得なかった。ここに浸水となり、一たまりもなく、あっという間に沈没をしたものと見なければならない。この点については遺憾ながら、衆議院派遣調査団においても、その報告書中にこの点を検討いたしておりませんことは残念であります。一体その貨車の繋止装置というものはそんなに貧弱なものでございましたか。それとも繋止装置がありながらそれを施さないでほうっていたものでありますか。それともその繋止方法が不徹底であったためにかくのごとき結果になったのか、この点十分の御説明をいただきたいと考えます。
  30. 唐沢勲

    唐沢説明員 紫雲丸が非常に短時間に沈んでしまった原因につきましては、まだ技術的に十分な調査をしないと、はっきりしたことは申し上げられないと思いますが、何にしましても、あのきず口が非常に大きかったので浸水が急激に来たことと考えられます。また貨車を積んでおった、それが転倒したために重心の問題によって早く倒れたかということにつきましては、あの貨車が倒れましても、それによって重心とか浮力の関係には影響はそうないと一応考えられるのでございますが、そういう点につきましては、なおもっと詳細に専門的に第三者に調べてもらわなければならぬと考えます。とにかくあまりにも大きなきずで、そこの浸水が急激に来たために復原力がなくなって、傾いたままもとに戻ることができずに、だんだん離れて浸水と同時に倒れた、かように考えております。
  31. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 それは大へんな間違いであると私は信じている。衆議院の調査団報告書にある通りに、宇高丸紫雲丸に突っ込んで押えております。もし貨車の積載がなければ、その押え込みがきいております。大きなきずができて、あっという間に浸水したというけれども、その穴を埋めるに足るものが突っ込んでいるのです。ところが衝突のショックで貨車がひっくり返ったために、紫雲丸が動揺して離れたとより見ることができないのであります。これは何人もこのことに気がつき、何人もいきなり調べなければならぬことである。しかるに今営業局長は何たることだ、これを第三者に調べてもらうのだ、貨車がひっくり返っても一応影響がないと考えるなど、とんでもないことであります。これはすでに洞爺丸事件において苦い経験をなめている。あなたは洞爺丸事件のあの惨事をすでにお忘れになりましたか。少くとも検察当局のお調べを待つまでもなく、貨車がどういうような状態になっておったか、それをつなぎとめる方法はどうであったか、ほうってあったか、十分にやっておったか、やっておったけれども、その繋止のつなぎが切れたのか、それくらいのことはお調べになっているでしょう。貨車は一体どうなったのです。沈没しても潜水夫ならばその状態は見られるでしょう。それくらいのお調べがないわけはありません。
  32. 唐沢勲

    唐沢説明員 貨車を航送するところの設備につきましては、洞爺丸事件以来大きな問題でございまして、私どもといたしましては、一応の運輸省の方の基準に基きまして、もちろんその許可を受け、むしろ標準以上のものを使っているのでございますけれども、こういう事故にかんがみまして、こういう船をどうするかということにつきましては、運輸省の方で専門家を委嘱しまして研究をしておったところへ、またこういう事故が起ったようなわけでございまして、私どももこれにつきましては、そういったほんとうの権威ある方々の意見によって処理するということにしているのでございます。なお貨車の緊締の問題につきましては、平時と非常時と違いますが、十分にかければ、洞爺丸のときにおきましても、倒れたものが船の中で、その緊締のためにそのまま宙にぶら下っているという例もございまして、強度は十分にあると思うのでございます。今度の般の状況を見ますと、そのままいるのもございますし、中には切れて下へ落ちたのもございます。あるいは逆に上へ向いているようなのもございました。今詳しい図面をここに持っておりませんが、いろいろな状態になっているので、一応調べてはございます。
  33. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 実に無責任な御答弁を聞いて意外千万でありますが、しかし時間があまり多くありませんので、さらに適当の時期に私の方でも詳細に調査をいたしました上に当局責任をただしたいと考えます。  進んで伺いますが、かりにその繋止装置——繋止装置というのは、そういう言葉でないかもしれませんが、つなぎとめるという意味で申しているのであります。その装置が完全で、そのつなぎとめる方法も徹底的になされていたといたしましても、これはなお非常に危険な問題であると思います。元来客船兼貨車航送船は非常に便利ではありますが、他面また船の性能上非常に危険でありますことは、これは洞爺丸の事件以来深く検討されているところであります。まず第一に、桟橋と車両の積み込みの甲板とは同じ高さであります関係上、重い貨車が船の方に積み込まれておりまして安定性を欠いております。第二に、大きい貨車を引き込むために積み込み国が大きくあいていて、よほどこれを丈夫な構造にしておかなければ荒波などにこわされたり、これから海水が侵入したりいたしますることは当然であります。船員が締めることをぬかって出航などいたしますと大へんであります。第三に、背の高い車両が甲板の上のレールに乗っておりまするから、風波が激しいときや、また今回のような衝突の場合のごときは、これがために船全体の動揺は免れませず、転覆の危険が大であります。これらの点はすでに洞爺丸沈没事件において深刻なる惨事を引き起し、切実な教訓を受けておるのでございまして、この種惨事を再び繰り返さないためには、客船と貨車航送船を分離するよりほかにはないことを私は痛切に感じます。洞爺丸事件国鉄内には連絡船設計委員会が設けられ、また運輸省内には造船技術審議会が設けられたのでありますが、運輸大臣は右客船、貨車船の分離の必要について諮問をなさったことがありますかどうか、またその委員会から何か意見の答申ないし具申があったでございましょうか、これを承わっておきたいと存じます。
  34. 三木武夫

    三木国務大臣 洞爺丸事故発生後に造船技術審議会船舶安全部会というのが事故対策として生まれたのでございます。これはその後専門家が、おそらく造船に対しての権威ある方々が集まられて検討を加えて、その結論がほとんど出て参りましたので、連絡船の構造に対しても設計にその結論を取り入れる、しかし私が承知しておりますのは、旅客と貨車航送とを分離しなければ連絡船は安全でないというような結論は、この船舶安全部会に出ていないという結論でございます。こういうものは非常に専門的な技術を要するものでございますので、専門家の意見、しかも造船の面における権威を持った専門家の意見を尊重するよりほかないわけでありますので、そういうことを私としては承知をしておるのでございます。
  35. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 運輸大臣の御説明にもかかわりませず、私ども国民といたしましては安心なりません。専門家が大丈夫だ、大丈夫だと言いながら年中事故を続けております。私は何といっても客船と貨車船の分離をしなければ、少くとも国民を安心せしむることができないと存じます。ところが当局といたしましてなかなかそれができないことは、貨物輸送能力に影響することを憂えておるためでありましょう。しかしその国鉄のサービスなるものは採算偏重でございまして、人命軽視もはなはだしいものであります。人間が貸物の犠牲になると認めたのにほかなりません。運輸大臣は五月十二日の衆議院本会議においては、船舶の安全を期するため造船技術審議会の意見を聞き、今後の新造船には万全を期すると答弁されました。これは新造船について万全を期し、既製の船はほうっておくという趣旨でございましょうか。紫雲丸の姉妹船でございまするところの眉山丸や鷲羽丸などに大改造を加える意思はないでありましょうか。もしも新造船だけのことを考えて既製の船の大改造並びに客貨分離の方針をきめなければ、今回のごとき惨事を根絶することはできないと考えます。運輸大臣は意を決して、客貨分離並びにこれと既製の船舶の大改造を断行せらるるお考えはないのであるか、これを伺います。
  36. 三木武夫

    三木国務大臣 先般の洞爺丸事件に引き続いて紫雲丸事故発生をいたしまして、こういう連絡船に対しての事故の頻発にかんがみて、本日の閣議で運輸省内に連絡船の改善審議会というようなのを設けることに決定をいたしたわけでございます。その審議会には造船の面における技術者も参加を願って、そうして洞爺丸のときにもいろいろ検討を加えましたけれども、さらにこういう事件発生したことをも勘案いたしまして、連絡船の構造というものについても再検討を加えることにいたします。その結果あるいは新造船はもちろんのこと、今日の連絡船に対しても今後安全性確保のために、こういうふうな改造を加えることが必要であるという結論が出ましたならばこれを実行いたします。そうして連絡船が、輸送能力という点もございますけれども、かくのごとく事故が頻発する現状にかんがみて、安全の確保を第一としてこれに改善を加えたいと強く考えておる次第でございます。
  37. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 安全確保のためならば断固行うという言明は、私どもまことにつつしんで承わります。ところがいざとなりますと経費の工合がどうであるとか、予算の都合がどうであるとかいって、なかなか容易にこれを実行に移されないのが通例であります。しかし人命を貨物輸送の犠牲に供するがごときに断固私はこの際排撃しなければならぬと思うと同時に、経費の問題等のためにちゅうちょするならば、われわれ国民といたしましては黙っておられないと考えます。本日、運輸大臣は経費のことについてはおっしゃらない、そして安全確保のためならばこれをやってのけるというのでありますから、その通り私はやってもらいたいと思う。だが他日どうも予算がどうかといったようなことが言われないと限らない、これに私は懸念を感ぜざるを得ないので、ここにさらに私は念を押しておきたいと思う。国鉄が赤字赤字といって国家予算のぶんどりにうき身をやつされているが、その予算なるものがほんとうに国民のために、今回の事件のごとき場合、人命の安全保障のために遺憾なく使われるというのでありましたならば、これはまことにけっこうでありますが、必ずしもさようではございません。この切実なる国民の要求というものよりも、いわゆる国鉄一家と称する首脳部の御都合のいい方面にこれが運営されておるということも否定できない事実であります。私といたしましてもいろいろの資料を持っておりますが、この際私見はこれを遠慮いたしまして、わずかに一つ、一昨日から昨日にかけて東京新聞に載っておりまする「事故原因は何処に」「ガタピシ国鉄の内情」と題する記事をごらんいただきたい。相当に批判をされておる。国鉄はそれは違うとおっしゃるならば弁解を承わりたい。これにどう書いてあるか。「洞爺丸事件が起きてから八カ月、またも宇高連絡船紫雲丸が沈没して、多くの若い生命を奪った、国鉄はタルンでいる、」云々「十億、廿億をかけた近代建築の駅舎がどんどん建てられるというのに、レールや鉄橋はそのまま、いつ転覆するか判らないほど危険なレールの上を列車は尊い人命をのせて走っている、この原因はどこにあるか、その一つは人事問題にあるといわざるを得ない、官大出の選考学士はミスさえなければ局長まで昇進できる反面、現場職員は汗水たらして働いても一生ウダツが上らない仕組みになっている、これが幹部と現場に大きなミゾを作り、作業意欲をにぶらせ、大きな事故原因となっている、」云々と述べております。またついで「これ等選考学士が退職後は川崎、近畿鉄道車両、日本車両等各車両製造会社、交通公社、鉄道弘済会、日本食堂、鉄道会館をはじめあらゆる外郭団体の最高幹部にもぐり込みまた新たに外郭団体を作り上げ、国鉄を取りまいて甘い汁を吸っている、」と説き、さらにこう言っておる。「国鉄が戦後に公社組織に改組され」云々、「合理化を徹底して能率をあげることよりもできるだけ予算を分捕りナワ張りを拡げてゆくという官僚経営方式が充満している、このような経営方式が責任観念を著しく低下させているのみではなく役得意識すら助長させているきらいさえある、その端的な表れが鉄道会館やガード下などの不当貸与であり購入物資の高価買入れである、つまらぬ小口物資は競争入札制をとっているのに石炭、セメント、鉄鋼、マクラ木、車両などの大口物資はいずれも随意契約であり、石炭などは一般市価がカロリー五十銭程度なのに八十銭程度で買っている、すなわち四割高である、国鉄の年間石炭消費量は練炭を含めざっと五百五十万トンその予算額は二百九十億である。仮に二割安く買えば五十八億円うく勘定だ、」云々と論じております。間違いならば御説明を願いたい、これは国鉄実情のほんの片りんにすぎないものでありまして、決算委員会に出ておりまするところの幾多の問題等をもここに私は繰り返して申し上げるなぞはいたしません。また私は幾多の資料を持っておりますが、それは本日の主題ではありませんから、私見をなるべく控えて遠慮いたしまして、ここにただ右一つの新聞記事を引用したにすぎません。ところがこれだけでも大いに粛正しなければならぬ点がございまするとともに、買い入れ物資を二割安にいたしましただけでも五十八億浮くのでありますから、今私は切実に叫んでいるところの連絡船の客と貸車を分離することなどは、これは部内の粛正と物資買い入れに対して正しい気持を持つならば、直ちに朝飯前にできることであります。     〔三田村委員長代理退席、委員長着席〕 先ほど安全確保のためならば必ずなし遂げるとおっしゃった、その運輸大臣の言辞を信じますと同時に、他日もし予算が足りないなどとおっしゃったならば、それは言わせぬということだけを本日ここに申し上げておきます。運輸大臣といたしましては本日私にお答えいただきましたことは、私は確実にやっていただけることを信じます。どうか客車と貸車の分離にまで突き進んでいただきまして、国民を安心させてもらいたいと存じますが、いま一言運輸大臣の言明を承わっておきたいと考えます。
  38. 三木武夫

    三木国務大臣 造船技術と申しますか、船の構造については専門家の意見を徴さなければならぬわけでございますので、先ほど申し上げましたような連絡船の改善対策審議会あるいは造船技術審議会にある船舶安全部会等の意見も徴しまして、そうしてこういう点を改造しなければ危険であるという結論が出ますようならば、それは安全の確保を第一義としなければならぬわけでございますので、そういう場合には予算がないからできなかったということは申し上げません。閣議の席上においても私はそういう点について特に発言をしておいたわけでございます。そういう点でこういう点を改造しなければ将来人命の危険があるという点につきましては、予算を理由にしてそれを回避はいたしません。ただしかしこの事故防止につきましては、単に連絡船の構造のいろいろ検討改善ということ以外に、船員の訓練あるいは気象業務の充実、いろいろな総合対策もあわせて考えなければならない、そういう点について、この再び起った事故を教訓として、総合的に事故防止の対策を立てていく、こういうことが審議会を設置いたしまする理由でありますので、あわせて申し添えておきたいと思います。
  39. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 事故発生防止のためには経営の粛正、浄化が必要でありますると同時に、共同責任体制を確立するということが肝心であると考えます。そこでここに特に運輸大臣に承わっておきたいことは、労働組合の経営参加の問題と陸と海との共同体制の確立の関係であります。今回の事件に関し、数日前に国鉄労組の中央委員会が開かれました際に、紫雲丸事件について組合の態度をどう表明するかということが問題になった旨が十六日の朝日新聞に報ぜられておる。これによると組合の中には犠牲者に哀悼の意を表そうというものと、事故を起したことに陳謝の意を表そうというものと、組合としてはこの際沈黙を守ろうというものと三つの意見に分れてなかなかうまくいかない。事故そのものをあやまれば労働組合側も悪いことになるし、といって事故原因は何かと追究すると、経営に参加しなければ事故の再発は防げないという結論になって、あれやこれやと執行部も頭を痛めておるというのであります。事故責任は直接責任者と現場責任者だけが追及されて、前述のいわゆる選考学士職員の配置されておる地位にまで及ばないという機構こそ将来の事故防止のために大いに改めなければならぬ一つであると思うと同時に、労働組合側もともに責任を負う。そうして事故を絶滅するがためには労働組合の経営参加が必要となってくるではないかという点であります。さらにまた旧来船のことは船長にまかせておくべきだという原則が行われておりますが、船の事故船長や船員のみに負わされて、おかの監督者は知らぬ顔というような体制であることが、また事故防止のために重大なる関係があるではないかと思うのであります。あの洞爺丸事件の際にも、あの荒天で出港すべきであるかどうかということをおかの監督者ないし協議をする機関が設けられておって、それらと相談しなければならない機構になっておりましたならば、あのような惨事を起さずに済んだではなかろうかといわれておるのであります。今回の紫雲丸事件は、洞爺丸事件のときのように出港すべきかどうかということにつきましては、それほど重大な問題とはなっておりませんけれども、少くとも濃霧警報が発せられておりましたことは間違いございません。そこでそれぞれの立場でいろいろと協議をいたしまして、また注意もし合う、また心の緊張を促すように海も陸もともに責任を負う態勢をとったならば、あの濃霧に対処する適当な処置が講ぜられたではないかと思うのであります。正船長が寝ていたり、また船員がふろに行っていたりしておるというがごときは濃霧に対処する態度ではないのであります。港を出るときからの心がまえがなっていない証拠であります。だから今後暴風でありましても濃霧でありましても、その他何によらず船長の相談相手となるところの協議機関を設けて、そうして互いに連帯して責任を持ち合って、注意もし、励まし合うというようなことにして、船のことは船長だけが責任を負うのだというようなことでなしに、もっとそこに心のつながりのある事故防止方法考えなければならぬと思うのでありますが、この点いかがでございましょう。
  40. 三木武夫

    三木国務大臣 私は公共企業体の国鉄のごときはやはり一日も早く労働組合が経営に参加をすることが好ましいことは考えておるのでございます。しかしながら現在の状態において労働組合が経営に参加するということは、これはいろいろ御意見もございましょうけれども、常識的に考えましてまだ労働組合がその程度に成長しておるとは考えられないのでございます。こういう点ですみやかに労働組合が堅実な——企業に対して責任を分担する、経営に参加をしても世間が危なげを感じない程度に日本の労働組合運動が成長することは、私として非常に強く希望するところでございます。しかし今お話のありましたように経営参加を許していないから事故の防止ができないというものの考え方の中にも、私は今日の労働組合に対して危なげを感ずる、そういう点でやはり経営参加をしておろうがおるまいが、企業に対する一つの責任感と申しますか、そういうことがやはり経営参加をする労働組合の成長には、そういうものの考え方もやはり克服しなければならぬものがあると私は思うのであります。また今、後段で御指摘になりました現地における船舶に対して船長一人にまかしておかないでもう少し総合的な判断をするような体制にしたらどうかということは、私もそのような感じを今持っておるのであります。でき得べくんば函館とか高松、これは鉄道という一つの企業のスケールから見れば連絡線は規模としては小さいけれども、しばしば事故が起り、しかもそれは人命に甚大な損傷を与えておるという事実にかんがみまして、現地に船舶を管理する責任体制を確立したい。高松、函館等にそういう体制を確立して、そうしてそういう機構の中で、そういう場合にも総合的に判断をいたして適宜の処置がとれるような、今お話にありましたようなことを私も考えておるということをお答えをいたしたいのであります。
  41. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 最後に承わりたいのは、遭難に関する救助の問題であります。運輸大臣は、委員会や本会議で船員が、船長ともう一名死亡したことをお認めになりまして、船員側の死亡者の少なかったことに関して船員としてもできるだけのことはしているし、遺憾の点はなかったかのような答弁をいたしておりますが、今日といえどもそれでよいと思われますのか、さらにこれを確かめておきたい。
  42. 三木武夫

    三木国務大臣 私は佐竹委員も御承知のように十三日東京を立って現地に参りました。生存をされた方々の宿舎を全部回って私の気にかかった点は、そういう場合の船員の処置というものが万全を尽したかどうかということが非常に私の聞きたい一点でございました。生存者にこれを聞きましたけれども、その結果救命ブイをおろしたりいろいろ処置をしたという話も聞きましたが、何らの指示もなかったという話もございました。そういうことを考えてみますると今回の船員の処置が遺憾ないと私は考えていない、遺憾の点も非常に感じておる。そういう点で船員の今後の訓練というものについては一段と強化しなければならぬという考えを持っておるのでございます。決して遺憾ないもう万全を尽したものとは思っていない。ただ船員が、死亡者が少なかったということにつきましては、私はそれを非難する気持には参らぬ。船員が海になれておるというようないろいろな条件もあって生き残ったという事実を非難をするということは、私は生命に対しての私の考えから、非難の気持にはなれない。ただ生き残ったことが多い少いよりも、ああいう場合に対して船員が万全を尽したかどうかということが非常に大きな問題でございまして、今後の船員の訓練をしていく場合に考えなければならぬ非常に重大な問題になってくると考えておるのでございます。
  43. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 私も現地に参りまして、このことについて触れて、実は胸を痛めたのであります。六十名中船長は覚悟の死と見なければなりません。いま一人は避けられない状態で死んだものと認めなければなりません。そこで二人犠牲になって、あと五十八名全部残っております。その残ったことの当否をとやかく言うのではありません。ただいま大臣の仰せになりました通り、生き残ったことはまことにけっこうなことであって、生き残ったことに対してとやかくいう気持はございませんことは、私といたしましてもその通りであります。しからば大臣の仰せのごとく、救助に万全を期したかという点であります。御説によると遺憾なく万全を期したものとは思えない、遺憾の点があるといわれる。それなら一体どれだけのことをしたというのでしょう。何をしたというのでしょう。私の聞きたいところはそれです。やるだけのことをやって、最後に自分の命が助からないからやめたとか、一人は助けたが二人目はよう助けなかった、力が及ばなかったというならばこれは理解いたします。頭から一人も助けなかったというのでは、国鉄当局としてこれを認められますか。救命具の配分にいたしましても、その他人命救護に対しても、何の何兵衛がどういうことをしたか、そして何の何兵衛が一人は助けたが二人目はよう助けなかった。一つや二つの事例はありましょう。どうです、天坊さん、あなたは国鉄責任者として大臣だけを矢面に立たせないで、最後の責任者として、天坊さんあなたから承わりましょう。
  44. 天坊裕彦

    ○天坊説明員 私も事故のありましたその日に現地に参りまして、それぞれ生き残られた方あるいは御遺族の方を御見舞したのであります。今お話になりました衝突させるということは、これはその前にどうしてもそういうことをさせてはならぬことが起ったのでありますが、ああいう事故になればなったで、事故被害が最小限にとどまったかどうかということが、一番私どもとしては心配な問題でございます。その点につきましては、先ほど大臣も申されましたように、いろいろ聞いて参りました。あるいはまた当時の写真を見せていただきました。ただ何のだれがしが何人助けたかという点については、はっきり聞けるいとまもございませんでしたが、写真その他で救命具を着けておられる方も相当あった。それから事務長その他が衝突直後に電気が切れましたので、拡声機が使えなかったそうでありますが、それぞれお客さんに誘導、救命具のありか等を伝えて、最小限度の努力はした。一人も助けなかったというようなことはなかったと私はそう信じておるのでございますが、ただ全体といたしまして、いろいろお話がございますように、指揮の点にもう少し、被害が少くて済むようなことがあればよかったという気持で一ぱいでございます。
  45. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 天坊さんのお話によると、何の何兵衛がどういうことをやったかということは言えぬけれども、救命具なんかかなり与えたようにおっしゃった。新聞なんか私はずいぶん気をつけて見たがこれっぽっちも出ておりません。十二日の朝日新聞の記事の中に、「なぜ防げぬ相次ぐ惨事」と題し、それの「五分間の教訓」の中に「多くの遭難者が語っているように、乗客は「わずか五分間」の間に甲板に飛び出し、救命具を身につけたわけだ。」云云、「混乱のなかで「落着こう。騒ぐまい」との声が船主で起り、救命作業は素早く行われ、なかには海に飛び込んでからでもおぼれかけた子供たちをまず先に救助ボートへたどりつかせようと努力した人々もあったという。」こう書いてあるが、これは船員でないことはこの記事自体によってきわめて明確であります。それのみでありません。松江川津小学校校長の井原氏の談が出ておりますが、これによると、「何よりも、衝突した時、乗組員の側からは何の指示もきかなかったことが原因だ」と述べております。しかして十四日付朝日新聞には「沈没の瞬間こぎつけて五十人の学童を救う」と題して、一人の老漁夫島谷さんの写真が出ておる。何の教育のない一人の漁夫でさえも、すべてをなげうって五十人の学童を救っておる。さらに新聞記事に出ておる通り、広島の江南小学校の井上信行先生は一旦安全地帯にのがれたが、さらに学童の身を思うて再び船に飛び込んで犠牲になっておることが書かれておる。だが船員はどうでしょう、一人でも救命袋を与えることに努力をしたか。ただの一人でも学童の手を引いたか。ただの一件すらも新聞に書かれていない。右に述べたように、幾多の救難の事実が記事になって現われておるのに、その船員のただの一人も救命のために働いたことが書かれておらぬではないか。当局またいわく、だれが何をしたかわからぬという。何という心のゆるんだ国鉄でありましょう。人命を何と考えておるか。そういった幹部はみなやめなさい。そうでなければあなた方にわれわれやわれわれの子の生命は託せない。天坊さん、何かあなた方は責任をお感じになりませんか。
  46. 天坊裕彦

    ○天坊説明員 ただいま佐竹先生がおっしゃったように、新聞にないから全部がどうだと言えないとおっしゃいましたが、私はあの船長事故責任を重大に感じて、おそらく自殺でございましょう。その船長の部下でございます。私はいろいろ士気頽廃をいわれておりますけれども国鉄船員にもあの場合に一人も助けなかったということは信じられません。しかし結果に対して私ども責任はどうだということに対しては、十分に責任は痛感しております。
  47. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 国鉄幹部を相手にいたしましても満足できません。そこで私はさらに法務当局お尋ねする。船員というものは、こうした衝突等において遭難の際、人命を救助しなければならぬ義務があるのかないのか、これを聞いてみたい。先ほどこれは私は一歩下って承わっておった。遠慮して聞いておると、責任があるかのごとく、ないかのごとく、当りまえであるかのごとき言葉さえも聞く。実に憤慨にたえないのである。私は船員は法律上でも人命救助の責任があると考えておる。法務当局、どうです。
  48. 井本台吉

    井本政府委員 輸送に従事する乗務員の当然の責務といたしまして、あとう限り乗客の生命の安全をはかるのが当然であると考えております。
  49. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 刑事局長も御遠慮なすっておる。それならば私は条文を読み上げて申し上げましょう。船員法第十二条「船長は、船舶に急迫した危険があるときは、人命、船舶及び積荷の救助に必要な手段を尽し、且つ旅客、海員その他船内にある者を去らせた後でなければ、自己の指揮する船舶を去ってはならない。」第十三条「船長は、船舶が衝突したときは、互に人命及び船舶の救助に必要な手段を尽し、且つ船舶の名称、所有者、船籍港、発航港及び到達港を告げなければならない。」第二十条「船長が死亡したとき、船舶を去ったとき、又はこれを指揮することができない場合において他人を選任しないときは、運航に従事する海員は、その職掌の順位に従って船長の職務を行う。」第二十一条「海員は、左の事項を守らなければならない。一、上長の職務上の命令に従うこと。」しこうして第百二十八条「海員が左の各号の一に該当する場合には、一年以下の懲役に処する。」その二号「第十二条乃至第十四条〔船舶に危険がある場合における処置・船舶が衝突した場合における処置・遭難船舶の救助〕 する場合において、船長が人命、船舶又は積荷の救助に必要な手段をとるのに当り、上長の命令に服従しなかったとき。」この条文によれば、船員は船長の命に従わなければならぬ。本件のごとく船長が死亡し、あるいは命令を下すことができないといったような場合には、おのおの船長にかわって職掌の順位に従って船長の職務を行う者の命令を聞いて努力しなければならぬ。しこうして衝突の場合においては人命救助をしなければならぬ。もしもそれをしなかったときには一年以下の懲役に処すると書いてあるが、刑事局長、私の今解するがごとく解していいですか。
  50. 井本台吉

    井本政府委員 お尋ね通りであると思います。
  51. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 しからばいま一つ運輸大臣に聞きたい。救助しなければ処罰されるときに、処罰を免れて生命を保持することが国鉄並びに運輸省の精神であるか、これを承わっておきたい。
  52. 三木武夫

    三木国務大臣 それは刑法の規定があるなしにかかわらず、船員魂と申しますか、当然にそうあるべきであります。そういう義務を果すということは、これは当然なさなければならぬことでございます。そういうことを全然放擲してという前提に立って先ほど私は申し上げたのではないことを申し上げておきます。
  53. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 船員魂によって、当然それだけのことをしなければならぬという自覚に燃えてその行動をしておるならば、私が涙をたれて何ぞ、ここに質問の必要がありましょう。何ぞまた国鉄を罵倒するの必要がありましょう。われわれは、あの海の底に沈んだ多くの学生やその旅客の霊を思うときに、自然と涙がこぼれざるを得ない。それに対して何らの責任も感じないごとく、法規をたてに論じないときには、いかにもゆとりのあるがごとくこれを解してのがれようとし、最後に四の五の言うから法規を突きつければ、態度を変えて、法規なくとも船員魂でとかようにおっしゃる。大臣はじめ国鉄幹部がそういう精神であるから、部下がこういうときにほんとうに生命を打ち込んで、一切をなげうって協力しようという気持になれないと私は思う。  私はいま一つ進んでこれは刑事局長に聞いておく。刑法に不作為犯というものがある。なすべき義務がある場合に、その義務を怠って相手を死に至らしめたときは不作為による殺人であることは、学説、判例の認めるところである。もし船員にして救助すべき義務が法規上ありといたしましたならば、その義務にそむいて、おぼれておる者を救わずに放置し、よって死に至らしめたときは、殺人罪が成立するものであると思うが、刑事局長いかがでございましょう。
  54. 井本台吉

    井本政府委員 殺人罪の構成要件に当るような殺意の点が不作為によって認められたというような場合には、当然殺人罪が成立すると思います。
  55. 佐竹晴記

    佐竹(晴)委員 私は、最初いわゆる船員魂としてわれわれを満足せしむるに足るところの御答弁があったならば、何をかかようなことまで質問いたしましょうや。船員もわれわれと同じ勤労階級の、しかも手を取り合ってやっておるところのわれわれの同志であるから、触れたくありません。ありませんが、そういうことになっているのは、上の方が乱れているからそうなるのだという気持を起しまするので、あえてこれが粛正のため申し上げたのであります。あえて検察当局に、この問題で船員法第百二十八条を発動し、あるいは不作為による殺人罪としてこれを検挙せよというのではない。船員法において責任があることすらも運輸当局みずからこれを解しないで四の五のと言って逃げようとし、条文のあいくちを突きつけて質問しなければ答弁をしないというがごとき、そういったようなことでは、部内の粛正もほんとうに部下の船員を奮起せしむることもできないということを考えてもらいたいためである。まず上層部の人々自身が下の方の船員をして奮起せしむるに足るだけのことを身をもって行うことが必要であると思う。さしあたり天坊副総裁もその他部局長ども、この際責任をとってお引きになることこそ最後にとるべき手段であると私は思う。この一言を申し上げて私の質問を終ります。
  56. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 関連して。ごく簡単にやりますが、先日東海道で列車が事故を起しましたね、アメリカ軍のトラックと衝突して。あれについて運輸当局では損害賠償を出しておられますが、先方に請求されたと思うが、それはいかなる費目にしてですか。その費目が新聞に発表されておったが非常に疑問がある。今の佐竹君の質問に関連がございますが、新聞に出ていた費目以外に何かあるかどうか、その点どうですか。特に私が伺いたいことは、あの列車に乗っておった旅客で負傷した者がある、いろんな損害を受けている者があるが、新聞に出たものにはそれだけがない。焼けた汽車とか機関車とかそういうものについての損害賠償の請求はあるが、負傷を受けた者に対する損害賠償は新聞には出ていなかった。この新聞記事は正しいかどうか、その点について御答弁を願いたい。
  57. 天坊裕彦

    ○天坊説明員 先日の静岡の事故につきましては、ただいま静岡の警察で取り調べ中でございますので、もう少し原因の探求がはっきりいたしましてから損害賠償の要求をしたいと考えておりますので、まだ出しておりません。
  58. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 そうすると新聞に出ていたのは、その旅客の負傷その他のことについても損害賠償をする予定ですか。その点だけはっきりしておきたい。まだ出されないというのならそこの点だけはっきりしておきたい。新聞にはその費目が出ておりません。国鉄の物的損害のみについて請求するという記事が出ておる。
  59. 天坊裕彦

    ○天坊説明員 ただいま仰せになりましたことについて要求するかは、いろいろ問題もございますので、調達庁と相談いたしましてきめたいと思っております。
  60. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 そのことについてはいずれ後ほどやります。
  61. 生田宏一

    ○生田委員 ちょっと簡単ですけれども関連質問。先ほど営業局長ですかのお答えの中で、船が沈んだ原因が浸水によるというお話でしたね。そうなりますとその船は右舷に倒れたのですか左舷に倒れて沈んだのですか、そこがはっきりしないのですが、ちょっとお尋ねいたします。
  62. 唐沢勲

    唐沢説明員 宇高丸衝突されまして、従って右の方から当りましたので左舷の方へ倒れた……。
  63. 生田宏一

    ○生田委員 そういたしますと船に穴があいたのは右舷に穴があいたのですか。左舷に倒れて沈んだ、こうなりますと、その浸水の個所は、船が傾斜したので左舷の甲板を越して水が入ることになるのですがそうなのですか。もしそうでなければ紫雲丸の二階に積んであった貨車が倒れて重心の移動が強く影響したことになるのですが、あなたのおっしゃったのですと浸水によって船が沈んだという。しかもその浸水が起きると思われる船の衝突した穴のあいたところはその船の右舷にある。しかしながら船は左舷に倒れた、こうなりますと衝突をして穴のあいた箇所から水が入ったために船が左舷に倒れて沈んだことにはならずに、何か船の復原力を越したような重心の移動が船に行われて、そうして左舷に倒れた、こういうことになると思うが、その関係はいかがでございますか。
  64. 篠田寅太郎

    ○篠田説明員 御承知のように第三宇高丸紫雲丸右舷の汽罐室のところで、ちょうど三十五番というところでございまして、ここがちょうど汽罐室とそのあとにあります車軸室にかかるところでございますが、ちょうどビルジ・スチール下方が一メートル半から破れ、車両甲板で三メートル以上の破口がございまして、ずっと上まで裂けております。それで浸水が汽罐室ばかりでなく、それに隣接したところにも入りましたので、フリー・ウォーターがたくさんできたので相当復原力がなくなったと思います。それて普通の場合ですと、右側に穴があきますれば、もし返るときには船は右側の方へ倒れてくるのが常識でございますが、この場合には、第三宇高丸が穴から入る水を何としても防ごうというので速力を落しませんで突っ込んだまま船の沈むのを一分でも延ばそうという努力をいたしまして、押しておりました関係上、右へ倒れるべき——ぽっとはずしてしまえば右へ倒れるのでありますが、押しておりましたので、左の方へ倒れた、こう推定されるわけであります。
  65. 生田宏一

    ○生田委員 そのお答えは、私がしろうとなのであるからわからないのですが、衝突後わずか五分後に沈んでおる。そうすると、沈むことを一分でも延ばしたいために努力をした、それがために宇高丸右舷から左舷に向って船を押しておる、こういうお話しですが、あの船が衝突後五分で沈んだというのは、あっという間に沈んだというので、私たちとしてはあまりに早いので驚いておるくらいです。どんどん水が浸水していって、その水のために船が沈みかけた、それでまだ宇高丸がささえておったというような状態ではもっと船は浮んでおるのではないかと思うのです。おっしゃったのとは逆に船が返ってこないような状態になって、そうして沈んでしまったというようにわれわれは感ずるのですが、その辺のことは何だか意見の相違のようになりますけれども、常識としてふに落ちないのです。それでは水が浸水をした、どういうような状態で水が入って、そうして船はどのような状態で沈みかけたかというようなことについては、船室の構造なり、いろいろありましょうから、われわれがわかるようなお説明ができるものならしていただきたいと思うのです。
  66. 篠田寅太郎

    ○篠田説明員 この船の復原力でございますが、復原力の喪失の中で、いわゆる自由表面、専門語でフリー・ウォーターといいますが、フリー・ウォーターというものがございまして、このフリー・ウォーターは、場所が狭ければ、そのためにGMの喪失も非常に少いわけでございます。それでどんな船でも全部船の中に自由表面ができれば、ひっくり返るわけであります。それで当時の破口の大きさで、大きくフリー・ウォーターに影響するように水が大量に短時間に入るということが船を転覆させる原因になっておるわけであります。それで御承知のように一万トン以上の船でございましても、魚雷を一発受けますと瞬時に沈むというのは、結局相当大きな破口ができまして、非常に早くフリー・ウオーターができるために早く沈むのでございます。今回の場合もあの大きさの船に比較しましてはきわめて大きな穴があきました。さらに普通そういう自由表面をよけい作らないように船には隔壁がございます。隔壁で仕切りましてなるべく自由表面ができるのを防ぎ、万一の場合でも極力減らすように隔壁を入れてあるわけてございますが、ちょうどそれに当りましたところが区画と区画との間の部分にありますので、おそらくそれに隣接した部分にも相当多量に水が入ったものと推定されるわけでございます。なお今後運輸省の方の造船技術審議会でもいろいろ御検討になると思いまして、私たちもなおこまかい点について今後調査を進めていきたい、かように考えております。
  67. 世耕弘一

    ○世耕委員長 生田君にお諮りいたします。本件に関しては検察当局もすでにそれぞれの専門的立場から調査を進めておるようでありますから、いずれ当委員会でまたあらためて報告を受けて、その上でまた御審議を願うことが妥当だと思いますから、本日はこの程度に御了解願いたいと思います。
  68. 生田宏一

    ○生田委員 承知いたしました。
  69. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に脱獄事件について調査を進めます。質疑の通告があります。これを許します。三田村君。
  70. 三田村武夫

    ○三田村委員 先般当委員会で審議の対象になりました脱獄事件でございまするが、この点に関して昨日小菅の東京拘置所に参りまして、委員長初めわれわれ現場の模様を伺ってきたのであります。そこで二、三の点についてお尋ねいたしたいのでありますが、その前に中川刑事局長がおられますから、その後の捜査経過はどのように進んでおりますか、簡単に御説明願いたいのであります。
  71. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 脱獄者菊地に関する捜査は過般当委員会で私も申しました通り、警察といたしましては重要な被疑者でありますし、これが国民の不安感と申しますか、刑に対する見地から大へん重要な事件でありますので、所轄の警視庁はもちろんでございますが、周辺の府県及び本人と特に関係の深い府県等はまことに緻密な捜査を進めておるのでございます。そうしてそういう関係のある府県のみならず全国に直ちに手配いたしまして——その手配は逐次精密にいたしておりますが、そうして現在捜査を進行しておるのでございますが、一刻も早く菊地を逮捕いたしまして、事柄の真相をはっきりいたしたい、こういう熱意に燃えておるのでございます。努力は大いにやっておるのでございますが、本日に至るもまだ菊地を逮捕しておりません。ところがこの被疑者逮捕につきましてはいろいろ資料等各方面からの御協力もいただき、民間の方々にも御尽力をいただきまして、それからいろいろの捜査資料、いろいろな推定に基きまして、特に行きそうなところにつきましてはとりわけ周密な捜査を行なったのであります。  まず逃走した時刻等につきまして、最初は逃走した時刻が十二日の朝である、こういう推定もいたしたのでございますが、それが直ちに誤まっておるとは決して申しませんけれども、また別の角度から考えましてあるいは十一日の夜でなかろうか、こういうことを推定する資料等もございますので、そういった最初の脱獄した時刻等につきましてもあらゆる角度から検討を加えまして、いろんな場合を想定して捜査を進めておるのでございます。ただしいずれにいたしましても本人が逮捕されて明らかになりません以上はいずれも推定でありますので、あまりそれにこだわってそれ以外の捜査がなおざりになってはいけない、そういうことも考えましても、いろんなケース、いろんな場合のプロバビリティを考えてやっております。以下私が申し上げます事柄もそれだけをやっているというわけではないのでありまして、それ以外の事項も考えて、そういう面を中心にやっておることも御了得の上御了承願いたいと思います。いろいろなことが考えられるのでありますが、東北線に彼が乗車したと思われる資料等もあります。それからさらに栃木県に彼の実家がありますので、この前も私ここで申したのですが、栃木県は特に周密にやっておる、こう申したのでありますが、栃木県におりたということを疑うに足る相当の資料もありますので、栃木県方面は警察をあげてという状況でございますが、非常に周密な捜査を行なっております。ところが栃木県におりたということを疑うに足る資料は相当多いのでありますが、これもまた逃走者が捜査陣営をくらますためにいろいろなことを言っておるとも考えられるということを念頭に置きまして、それ以外の府県のこともなおざりにしていないということを申し上げておきたいと思うのであります。ただしいろいろな角度から考えまして、栃木県に入っておる状況が相当多いという考えをもって右の捜査を相当重要にやっておる面は確かにございます。それから栃木県だけでなしに、栃木県の向うの福島県、その他東北各県、ことに当節の交通機関は非常に早うございますので、青函連絡といったような方面等につきましてももちろん重要な警戒はやっております。それでだんだん国民の方々の御協力をいただいておりまして、手配いたしました写真も新聞等にもちろん出していただきまして、そうして国民の方方から、あの人は見たことがある、こういう御協力も相当ございまして、積極的に各警察に、この顔によく似た人があるという御連絡を各府県から相当受けておりますけれども、やはり人間の記憶というものはそう正確でございませんので、御協力いただいておることはまことに感謝して捜査を進めて参りますけれども、これは別の人だというようなことでだんだん事柄が解明できない、こういう方面はございますけれども、そういう角度で各方面に手配いたしましてやっておりますので、まあ先入観念にこだわって事をする考えではございませんが、将来そう長くない機会に本人が見つかるのではなかろうか、こういうふうに私ども考えております。今後、当委員会の御鞭撻もございまして、われわれの当然な職務でございますので、警察の力をあげて捜査に当ってみたい、こう考えております。
  72. 三田村武夫

    ○三田村委員 この捜査活動につきましてはまたあとから伺いますが、今までこの捜査上お使いなった費用は概算どのくらいでしょうか。
  73. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 その費用の点は、いろいろ御心配いただいてありがたいのですが、結局はああいう事件が起りますとさっと手配をいたしますが、それぞれ各警察とも普通の犯罪事件も含めた犯罪捜査の予算がありまして、その費用を使っておりますので、この事件が起ってから何十万円を使用するように令達する、こういう措置をいたしておりませんので、費用の調査ということになりますと、私どもの方で各警察に照会するということにならぬとわからないのでございます。それでただいまのところ本人を発見することが大事でございますので、そういう点を中心にやっておりますので、費用の見積りはまだしていないというのがほんとうでございます。その点御了承いただきたいと思います。
  74. 三田村武夫

    ○三田村委員 私は警察庁の本庁からどれだけ捜査費用をお出しになったとか、各府県の警察でどれだけ費用がまかなわれたとか、そういうことをお尋ねするつもりじゃないのです。いずれにしても一人の逃亡犯人のために莫大な人員が動員され、莫大な費用が使われていることは、これは事実です。これは大体の推測から計算しましても、おそらくこの費用というものは何百万円ではきかぬでしょう。そこにこれから私がお尋ねをしなければならぬ問題があるのですから、この点は、今ここで幾ら金がかかっておるとかいう正確な数字をお尋ねするのではないのです。その点申し上げて、私の質疑に入りますから、しばらくそこでお聞き願いたいと思います。  昨日現場を拝見して原因と申しますか、その経路もわかったのでありますが、大別すると二つじゃないか。一つは施設、設備等に不備の点がなかったか、これが一点。もう一点は監察、監視に当る職員に過怠がなかったか、手落ちかなかったか、この二点になるのであります。第一点の設備の点からお尋ねいたしますが、私たちが見てもどうもあれなら逃げられるという気がするのです。妙な話をいたしますが、私も今の東京拘置所の前の巣鴨の東京拘置所にはしばらくいたこともありますが、あの巣鴨の拘置所よりも今の小管の拘置所は非常に建物が粗雑です。それで私たちの立場から見た設備上の欠陥というか、そういう点は、また委員会の立場からこれを究明したいと思いますが、当局におかれても今度の事件でいろいろお考えになったと思いますが、今度逃走した場合にどこが一番穴であったかという結論が出ていると思います。一応御説明願いたいのであります。
  75. 中尾文策

    ○中尾政府委員 設備の点でございますが、御承知のように、あの小菅は本来未決拘禁をする目的で作られた刑務所ではございませんで、そういう未決監としましては巣鴨の拘置所、これが本来そのために作られたわけであります。そのためにいろいろ設備の点で違った点がございますので、承知のような事情で巣鴨の方の拘置所を今未決監として使うことができませんので、やむを得ず既決囚のために作った小菅の刑務所を使っておるというようなことでございまして、そういうことからいろいろ施設の上においては不便が生じておるわけでございます。それでこれをずっと使うということになりますると、私たちは相当根本的にこれに対して改造を加えなければならぬと思うのでありますが、しかし巣鴨の方の拘置所もそういつまでもああいう状態ではないだろう。いずれこれは近い将来に返ってくるだろうと考えますので、どうしても一時的な処置ということで満足しておるわけでございますが、この前のときにも申し上げましたように、とりあえず私たちの今回の失敗の原因となりましたものは、昨日ごらんをいただきましたバリケートのございましたところ、そこの屋根裏を伝わって簡単に表に達することができるという点でございますので、そこのところにどうしてもある程度の高い障壁を作らなければならぬということでございます。いま一つは鉄棒等に対しましてある程度の補強の手段を講じなければならぬという点になるわけでございますが、しかしいずれにしましても、もうそういう鉄棒等を切られないようにするということをあまり重要視するというのは、これは大体不正のことでございまして、一番根本はやはり職員の手で、職員の力によって、精神力によってそこまでいかないようにしなければならぬということでございます。現にあの刑務所ができましてからもう三十年近くになっておりますが、あの刑務所で同じ鉄棒が三十年前からございますが、それを切られて逃げられたということはほとんどないのでございまして、やはり職員の士気の弛緩ということの方に今度の原因の相当大きなものがあるということに考えております。
  76. 三田村武夫

    ○三田村委員 大体御説明でわかりましたが、そうしますとこの設備の点においてはとりあえず外壁に手を加える。それから鉄棒をもっとかたいものにするということですね。大体予算的な面から計算されますとどのくらいになりますか。
  77. 中尾文策

    ○中尾政府委員 その外壁の点は、もうわかっておりまして、二カ所でございますから大体四十万円程度でいいのじゃないかと思われます。鉄棒の方は昨日もちょっと現場で申し上げましたが、あそこの鉄棒等を特殊の鋼鉄に取りかえるということは技術上非常にむずかしいそうでございまして、それをやろうと思ったらなかなか大がかりなことになるわけでございますが、幸いその道の特殊の研究をしておるという、ただいま防衛庁の技官になっておる方にきのうやっと会うことができまして、その人の意見を伺ったのでございますが、その人のおっしゃっておるような簡易な方法で——しかしこれもなかなか簡易というわけには参らぬで、やはり大学に行って試験なんかしなければならぬそうでございます。しかしそれによりますと、鉄棒等を一たん取りはずしてもう一ぺんそれをはめ直すという手数はなくて済むそうでございますので、これにいたしまするか、あるいはそういうようなむずかしいことをしないで、鉄棒等は縦と横にありますが、これをもっとたくさんにしたらいいじゃないか。これをたくさんにすれば切る手数は相当なものでありますので、むしろその方がいいのじゃないかという意見が部内に出ておりますので、これは両方の検討をするようになりますが、予算の方の見通しが、ただいまのところはつきかねております。
  78. 三田村武夫

    ○三田村委員 至急この点については、手当をされるようにお考えだと思いますが、三十年度の予算で、今この問題に対する当面の処置についての手当はできますか。
  79. 中尾文策

    ○中尾政府委員 その四十万円だけということになりますと、おそらくこれはできないことはないと思いますが、まだ十分検討いたしておりません。しかし片一方の鉄棒の方に手を入れるということになりますと、金額によってはとうていこれはまかなえなくなるのじゃないかということも考えられるわけでございます。
  80. 三田村武夫

    ○三田村委員 大蔵省の事務当局がおいでになっておるようですから、私もかつて小役人をしておったこともありますが、事が起るといつもあわてるのです。そうしてあわてて手当をやって、国全体の計算からすれば非常に大きな損をするということになる、こういうことが常にありがちであります。今中川刑事部長にお尋ねしたように、今度一人犯人が逃亡したことによって国全体の面でいうと莫大な金を使っておる、こういう点は一つ大蔵省の事務当局もぜひお考えを願いたいと思う。この刑務所とか検察庁とか警察とかいうところはじみちなところでございまして、予算面の折衝の場合、端的に申しますと弱い。そのために穴ができる。どうも無理がきかぬからしかたがない。それで計画を次年度に延ばそうという間に、こういうふうに一人飛び出すと、そこで莫大な損失を来たす。これは経済的な損失ばかりではない、人心に与える不安というものは実にはかり知れざるものがある。こういう点をお考え願いまして、大蔵省の事務当局方々も一つ謙虚な気持で法務当局とも御懇談を願いまして、この際ぜひとも善処を願いたい、特にこの点はお願いをしておきます。同時にその点に対する大蔵省事務当局の御意見も一応お伺いしておきたいと思います。
  81. 正示啓次郎

    ○正示政府委員 お答え申し上げます。ただいまお話の点は治安の根本に関係のある問題であり、また財政の面から申しましても、国民の税金を最も有効に適切に使うには事前に備えるにしくはないという御趣旨に拝承いたしたのでありますが、御趣旨はまことにごもっともに存じます。先ほど矯正局長からお答えがございました通りに、私の方としては事前にいろいろ研究はいたして参ったのでありますが、今回のような不祥事件が起りましたことはまことに遺憾に存じておるのであります。三田村先生御承知のように、法務省関係の施設費は一般の建設省所管に計上するもののほかに、特に法務省に計上いたしておりまして、法務省にはりっぱな技術屋の方もおられまして、いわゆる行刑施設は特別の観点から十全を期しておられるようにわれわれは承知いたしておったのであります。たとえばここ二、三年のことを申し上げましても、去年以来一兆予算で非常に官庁営繕が窮屈になっておりますが、昨年は法務省計上額三億四百万円でございましたが、ことしは四億四千四百万円、一億五千万円近くふえているようなことでございます。私どもとしては法務省の多年の御研究と御努力に全幅の信頼を置いておりまして、多少とも増額計上いたしましたものを最も有効に御使用願いまして、かような不祥事件のないように切に希望いたしておるのであります。お話のようにそういう大切な費目でございますから、財政の見地からばかりでいつも削っていくということは、かえってあとになって大きなロスになるという点も十分注意をいたしまして、今後とも重点的に必要なところに対しましてはそれぞれ手配をして参りたいという気持を持っております。今回の不祥事件は一種の災いでございますが、これを転じまして福にいたしますように、一つの教訓として十分われわれも今後の仕事の上において参考にして参りたい、かように考えておる次第でございます。
  82. 三田村武夫

    ○三田村委員 矯正局長お尋ねいたしますが、今主計局次長のお話を伺っておりますと、どうやら話の焦点が法務省に帰ったような気がいたします。法務省には営繕関係のりっぱな権威者もおられ、法務省の立場を安心しかつ信頼しておったという御意見であります。どうですか、今まで法務当局の方は小菅の拘置所、その他全国にある刑務所、拘置所などの施設の面においてこれで十分だ、心配がないというお考えだったでしょうか。
  83. 中尾文策

    ○中尾政府委員 法務省に確かに営繕課がございますが、予算をもらって、そしてそれをどういうふうに実施するかという場合に営繕課が働くわけでございまして、その予算をどれだけもらえるかというワクの方は、大蔵省のお力によっていただいているわけでございまして、その二つの使い分けがあるわけでございますが、しかし刑務所なんかの建築につきましては、やはり特殊な技術がございます。なおまた労力の使用などにつきましても、大体刑務所の収容者を使ったりしているというような関係からいたしまして、法務省のわれわれの方の建築の場合には建設省等から離れて特別に独自の立場を認められているわけであります。なお営繕費につきましても、この乏しい国家予算の中から相当大蔵省からはめんどうを見てもらっているわけでありまして、決して十分だというようなことは申せませんが、しかしそれは私たちの方の矯正施設のことだけについて日本の国のどこよりも強く主張する、またそういう権利を持っているというふうにも考えませんので、どの程度いただだけるか、これが日本全体から考えて正しいものであるかということは、私たちとても判断はできませんが、しかし極力予算をもらうときには折衝いたしまして、われわれの意見も十分聞いてもらうようにして、落ちつくところに落ちついているわけでございまして、それでいいのかどうかというふうにおっしゃられましても、ちょっとどうもいいとも悪いとも断言しきれなくて困るわけです。まあ与えられた予算の範囲内でできるだけ有効に最大限度に仕事をやっていくようにしたいというふうに考えているわけであります。
  84. 三田村武夫

    ○三田村委員 私意地の悪いことをお尋ねするつもりはないのであります。焦点をはずさないで率直な御意見を伺いたいのです。大蔵省の主計局次長のお話も私はわかるのです。法務省側の要求に従って自分たちは予算を組んだのだ、ことしは去年よりも営繕費は一億円ほどふえているのだ、法務省を信頼していたのだという大蔵省の立場もわかるのです。それで特に法務省の責任者である矯正局長お尋ねするのは、刑務所はあのままでいいと思っておられたのか。どうか手当てしなければならぬところがあるなら、その予算は総括して大蔵省に請求されるのでありますが、法務省の中の項目としてこれは強力に推進していただかないとあなたの方の営繕費に回ってこないのです。刑務所の中におる労役者の手を使って弥縫的な営繕をやられたって、これは意味はないのであります。こういう穴があいてしまえばもっと大きな損害が出るのですから、その点をお尋ねしているのです。あなたの方で刑務所の営繕費としてあるいは改築費として今までしばしば要求されたことがあるのか、現在はこのままでよいのだという考えで今までやってこられたのかということを私はまず伺いたい。
  85. 中尾文策

    ○中尾政府委員 そういうことになりますともちろんこれは足りません。毎年私たちの方としましては相当たくさん要求を出しているわけでございますが、その中で認められているものはその何分の一というような状況でございますので、むろん本年度につきましても足りないことは事実でございます。
  86. 三田村武夫

    ○三田村委員 両事務当局のお話この程度でおわかりになったと思いますから、今後は両当局隔意のない御懇談を願いまして、こういう大きな穴があかぬように善処してもらいたいと思います。応急の処置としては当然おやりになると思いますが、次いで私今度の事件実情考えてみますと、施設、設備の方にも欠陥はありますが、その実際の原因は被拘禁者の処遇にあると思います。つまり取扱い、監察、巡視、この面にあると思うのであります。きのう現場を拝見いたしましても、監察、巡視が適切に行われておりました場合は今の施設のままでも逃げられないのです。この点十分お調べになりまして、さっき中川刑事部長のお話でありましたか、逃走した時間についても食い違いがあるというお話がありました。きのうわれわれの調べたところによりましても食い違いがあるように感じてきました。こういう点やはり率直に反省願いまして、今度の事件に対する原因と条件、それから今後どのようにこれに臨んでいくかというような点も御意見を伺いたい。
  87. 中尾文策

    ○中尾政府委員 この事故の一番大きな原因はさっき申し上げましたように職員の点でございました。職員の訓練が不十分であったと私たちは痛切に感じております。今後一層職員の教養の向上あるいは訓練の強化というようなことに努めまして、こういう事故のないようにいたしたいと考えております。
  88. 三田村武夫

    ○三田村委員 今度脱走した刑事被告人は独房におったのでありますが、あの巡視の勤務内容を伺ってみますと、大体十五分くらいに回っているようであります。十五分置きに回っておりますと、なかなか鉄棒を切って逃げるなんというような余裕はない。事実上できません。私もしばらくおった経験があるのですが、できないのです。しからばどうして出るかといえば、やっぱり勤務の間に穴があるのです。十五分おきに回らなければならないのが、実は三十分も一時間も回ってこない。判こだけついてあるが人間は実際に行かないということがあり得るのです。これは事実やっている。なぜそうなるかというと、今矯正局長のおっしゃったように、非常に勤務が苛酷なんです。この点一つ大蔵当局もお聞き願いたいのでありますが、私自分のことを申し上げておかしいのだが、十八年の暮れから十九年の春にかけて東京拘置所におりました。全く同情にたえないくらい勤務が苛酷です。一昼夜勤務で二十四時間、二十四時間勤務といいますが、交代して帰る時間になると実際は二十八時間くらいになってしまう。そして給与は非常に低いのです。私が当時差し入れ弁当を食っておったのですが、一食八十銭、一日二円四十銭です。そして看守さんが言うのには、一カ月の給与があなたの差し入れ弁当に満たざること二十何円だというのです。そして子供を三人養っておると言っておりました。いろいろな話をしているうちに、こういうことを切実に拘置所長自身が言っておりました。一つ三田村さん、出ていったら刑務所の中の処遇について考えて下さい、これはすなわち、拘置者の処遇もそうですが、それにあやまちなからしめるためには、人身保護の面から、人権擁護の面からあやまちなからしむるためには、間違いのない監視、監察がやりたいのだ、その点はどうしても待遇をよくしなければならないが、だれも考えてくれないというのです。政治家でここに入ってくる人もあるが、入ってきたことをあまりいばれないような人ばかり入ってくるので、なかなか外に出ても発言してくれない、あなたはそういう懸念もなさそうだから、一つ出ていったら大いにやって下さい、これでは全く気の毒だというふうに言っておりました。私出てきたときにそれを言ったことがありますが、これは一つぜひお考え願いたい。実に安い給料で、また定員の面においても無理しております。こういうことで、刑務所の監視職員の人数が二十人か三十人少いために一人逃げ出した。その一人が逃げ出したためにどれだけ多くの人心に不安を与え、どれだけ多くの費用を使うかということを私はお考え願いたいと思うのです。どうか一つこれは待遇の面において、処遇の面において、十分お考え願うと同時に、規律、勤務は厳粛に願いたい。これは今度の事件でも小さなこのくらいののこぎりが一丁入っている。これは外から入れるのです。中にそんなものはありはしません。元来入るわけがないのです。ことに巣鴨でも小菅でも、ああいったどっちかというと罪の重い者を入れるところの扱いは厳重でして、最初に入るときは素つ裸にしてふろに入れてしまう。何も持っていない。裸にしてふろに入れて、そして出たときには、いわゆる獄衣を着せるのです。何も持っていない。あとは外からの差し入れや連絡で入ってくるだけです。外からの差し入れや連絡を厳密に監視し、警戒しておれば入ってこない。そこに穴ができるということは、やっぱり勤務上何らかの過怠があるということなんです。そういう穴がどこから出てくるか。一つは勤務が苛酷であるということと、一つは待遇が非常に低いということなんです。その点一つ十分この際お考え願いまして、施設の面で万遺憾なきを期すると同時に、勤務の内容において、あえて率直に申しますならば、設備は今のままでもいいかもしれない。勤務が厳格であり、厳粛であり疎漏のない取扱いができるならば、私はあえて設備は今のままでも、直ちに脱走者が相次いで出るというようなことはないと思いますが、一つ処遇の点、勤務の改善の点にどのような御方針をお持ちでありますか、この際伺っておきたい。
  89. 中尾文策

    ○中尾政府委員 まことに御指摘の通りでありまして、今回の事件は、ほとんど九割くらいまでは職員の勤務の怠りが原因になっておったというわけでございます。ただ、言いわけのようになりますが、ただいま三田村先生からそういうお話が出ましたので申し上げますが、いずれにいたしましても刑務所、これは少年院ももちろんそうでございますが、第一線の職員がどうしても数が足りないという点で非常に困っているわけでございます。勤務時間が全部平均いたしまして十一時間であります。この十一時間というのは事務職員ども加えまして、それを平均して十一時間でございます。しかしこれは平均でございますので、長いものでありますとさらにそれに相当超過勤務がつくわけであります。十一時間と申しますのは日勤者であります。そうしてそれだけ勤務した上で一カ月に三回休めるのはよほどいい方で、大体二回弱の程度しか一カ月に休日がない。あとは毎日毎日平均十一時間というものは勤務しておる。それに往復の時間を加えますと、さらに家におってからだを休めたり教養を積むという、そういう時間が極度に少い。ことに夜勤者になりますと、これはもうどんなにやっても最小限度二十四時間、従って一日十二時間であります。その翌日の朝になりまして帰るのですが、全部帰ればいい方でありまして、人が足りないためにやはり居残り勤務をさせるということで、徹夜勤務をした上になお翌日居残り勤務をしなければならないという状態であります。おまけに勤務が大体肉体的な労働でございまして、ほとんど立ち詰めの仕事で、腰かけて机の上でただ頭だけ使っているというのと違いまして、からだを張っている仕事でございます。しかも場合によっては相当危ないところの勤務をしなければならない。始終緊張していなければならないというようなことで、私たちが机の上で要求をいたしておりますような、そういうきれいな、いろんな理想的な型の職員というものは、現実の問題としてはなかなか要求ができないことになっているのであります。従いましてそこに大へん申しわけないことでありまするが、職務上の過怠ということが起ってくるわけでございまして、これはひとり東京拘置所に限らず、いろいろ事故を起しておりますところを調べてみますと、かなりケースがあるわけでございます。しかしそういうことで決して私たちの職務上のいろんなまずいことが起ることの言いわけにはなりませんので、極力これを是正しなければならないというわけで、私たちとしての一番の希望を申し上げますると、職員をふやしていただくことであります。しかしこういうことは国家予算の関係とか国家財政の状態ではなかなか望めないことのようでございますので、この上は私たちは種々考究をいたしておりますが、さらに一そう、職務上の仕事のやり方について、何かもっと工夫はないか、もっと人手を減らす方法はないか、あるいはもっとからだを休めてやる方法はないかということをいろいろ考えまして、従って作業場を廃止するとかいうようなことも考えております。小さいことを申し上げまするといろいろございますが、とにかく人をふやしてもらえない以上は、やはり消極的に職場を減らすとかいうようなところでただいまのところは研究をいたしております。
  90. 三田村武夫

    ○三田村委員 矯正局長お話の、人手も足りない、待遇も悪い、この点は私たちよく承知しております。しかしそれだからといって今度のような事件に対して責任がないとは言えないのです。どうしてこの責任を明らかにされるか、この点を私は明確にされたいと思うのです。これはなすべき処置は十分なさなければなりません。つまり再びこういう事件発生を防止するために、設備の点においても、その人的関係においても、予算的措置においてもすべき点は十分しなければなりませんが、同時にこういう事案発生した場合の責任だけは明らかにしていただかないと、これが幾らやかましく言っても規律は厳格になりません。別な言い方をいたしますと、やはりこういう事案発生というものは綱紀の弛緩からきておることは言うまでもありません。そういう点について、今度の事件に対して責任をどのようにお考えになっておるか、この点をお尋ねしておきたい。
  91. 中尾文策

    ○中尾政府委員 実はまだ事件の全貌がはっきりいたしませんので、最終的にどの程度どの範囲に責任があるかということにつきましてはただいまのところはっきりいたしておりません。なおまた、現在のところは何とか本人をつかまえたいということ、それからその応急的な善後策に追われまして、どういうふうに責任を追及するかというところまでははっきりいたしておりませんが、少くとも今回の事件関係のある職員、またそれの監督の地位にある者、なおまた本省につきましても重要な責任を負わなければならぬということを感じておるわけであります。
  92. 三田村武夫

    ○三田村委員 きょうは午前中から引き続いてだいぶ時間も長くなりましたからあと簡単にお尋ねいたします。  法務省の刑事局長と警察庁の刑事部長に一緒にお尋ねいたしますが、従来こういう事案が起りますと、捜査指揮と申しますか、これは前でいえば検事局も警察も一緒でしたが、最近、ことに今度の事案については法務当局は直接御関係は持っておられませんですか。
  93. 井本台吉

    井本政府委員 小菅の刑務所は東京地方検察庁の管轄でありまして、逃走者の菊地が刑務所を出たという報告を受けまして、東京地検では直ちに梶原検事を主任にして現場の検証その他犯罪の捜査を行なっております。
  94. 三田村武夫

    ○三田村委員 私少し不可解な点があるのです。きのう現場を拝見しまして、さらにその他を比較したのですが、脱獄者は金を一銭も持っておりません。そしてはっきりその人間がわかっておるのです。しかも出た場所が小菅でありまして、逃走した経路もその範囲は大体見当がついている。三日も四日も前に逃げたんじゃないのです。ただ逃亡の時刻が朝であったか、前日の夜であったか、夜中であったかという違いだけで、そう大して間隔はない。しかも夜中であるとすれば交通関係もきわめてまれな時刻で、朝早く電車を利用するにしても汽車を利用するにしても目につきやすい時刻なんです。雑踏の最中に浅草や銀座にまぎれ込んだのとは違うのです。足取りにしてもこれは得やすい条件にあるのです。それにもかかわらず今日なお検挙に至らない。私はまことに不思議に思うのです。これは正直に申しまして、一体現在の警察の捜査機能というものはこれほど脆弱なものかといわざるを得ません。これは不安なきを得ないのです。まだ彼が凶悪犯罪を起さないからいいのですが、本来殺人、強盗、強姦などで死刑の判決を受けている者だとすれば出て何をやるかわからぬ。同じような事件をどこで始めるかわからぬという大きな不安を持っておる、そういう事件なんです。それがすでに数日を経た今日なおつかまらぬ。一体何ということだという声がちまたに相当強く満ちておると私は思う。検察頼むに足らず、捜査当局たよるに足らず、どこに欠陥があるかということを言いたいのです。当委員会は検察、警察の行政調査の面からこの問題をさらに取り上げて追及したいと思いますが、一体どうなのでしょう、どこに欠陥があるのか、その点すなおに反省してお考え願いたいと思います。これはつかまらぬわけがないのです。どこに欠陥があって今までつかまらぬのか、今どの辺までしぼってきているのか。捜査に支障のあることを伺おうとは思いませんが、いまなおつかまらぬということについては大きな不安がある。警察は無能呼ばわりされる。何と脆弱な捜査機能かといわざるを得ないのです。どこに欠陥があるか、われわれは静かに反省しなければならぬ。制度機構の面において、あるいは捜査活動の法的立場において、どこに穴があるんだということはおわかりになっておると思う。率直な御意見を刑事局長、刑事部長の両者からお伺いします。
  95. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 今度の菊地の捜査がおそい、ことにああして金も持っていないと思われる人間が容易につかまらぬということにつきましては、私どもすなおな気持で率直に反省しておるのであります。菊地という人物は非常に逃げるのがうまかった人物かもしれませんが、うまければうまいほど、また警察の機能はそれに即応して処理しなければならぬことは当然であります。これは警察のパトロールなどの問題にも関連しようと思うのでありますが、警察のパトロールを実施いたして脱走犯の捜査をすることはもちろん必要でございます。そういう被疑者の発見ということは警察の末端活動の基本的な仕事でありますので、各警察ともそういう活動については非常に力点を置いてやっておるはずであります。今回の場合においても、どういう状態であったかという点もわれわれよく検討して参りたいと思うのであります。そのためにもこの被疑者を早く見つければそういう検討の資料にもなる、そういう角度から現在の警察活動というものを、ことに警察官の教養ないしは素質という問題が中心になろうと思いますが、そういう点をさらに検討いたしまして率直な気持で警察をよくして参りたい。ために人権じゅうりんその他の行き過ぎた警察官がないということと同時に、また行うべき職務を完全に行う、これが私たちの目標にしておる警察でございまして、そういった点はわれわれ教養活動を通じまして、ほんとうに国民の期待に沿える警察になりたいと念願しておるのであります。今回の事件捜査活動におきましてもそういう角度から私ども反省し、検討を加えて参りたいと思うのであります。
  96. 井本台吉

    井本政府委員 犯人がつかまってみないとどの点に欠点があったかという的確な事情は判明しないと思いますが、私の感じで当ってない点があればはなはだ恐縮でありますけれども、かような凶悪犯人に対する犯罪捜査といいますと、犯人に対する逮捕も含めましての問題でありますけれども、逃走時間がなかなか確定しなかったというような点を反省いたしまして、検察官と警察のさらに一そう緊密な共同捜査と申しますか、犯罪捜査についての緊密化という点について、反省する必要があるのではないかという点を考えております。
  97. 三田村武夫

    ○三田村委員 この問題はまたいずれ他の警察行政、検察行政全般の問題に関連してお尋ねするときもあると思うのでありますが、きょうは 午前中から続いて、時間もだいぶんおそくなっておりますから、一応この程度にとどめておきます。
  98. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 昨日世耕委員長以下われわれ、小菅刑務所の実情を視察いたしたのでありますが、そのときに遺憾な事実が新たに発見されました。どういうことかと申しますと、こういう事故が起りますと、必ず全体が締められるのであります。世耕委員長も昨日、三鷹事件で死刑の判決を受けた竹内景助をごらんになり、ほかの委員もごらんになりましたが、彼は毎夜、世耕委員長も持ってこさせて見られた懐中電燈で、十分置きに顔を照らされている。これで一体人間が眠れますか。そういうことをやっているから、彼の顔をごらんなさい。正常な顔ではなくなってきているのです。窓からいやでもおうでも見えるので、そういうことは即刻やめていただきたい。きょうは法務大臣が来ておられませんし、川上所長も来ておられませんが、小泉政務次官からその点についてせっかく指示をしていただきたい。またわれわれも注意をしましたが、中尾矯正局長から川上所長に注意していただきたい。竹内はあの問題が起ってから上っております。あのままでおきまして、拘禁性精神病という病気がありますが、ああいうことにでも立ち至ったらどうなりますか。ほかの被告も最近その点で処理が悪くなっております。困惑しておりますよ。世耕委員長も昨日の視察の結果を報告されるときには、どうかこの点を織り込んでいただきたいのであります。その点についてすぐ処置をとっていただきたい。
  99. 中尾文策

    ○中尾政府委員 私は懐中電燈の話はちょっと存しませんでしたか、確かに御指摘になりますように、何か大きな事故がありますと、それの善後策として、つい行き過ぎがありやすいということは事実でございまして、懐中電燈のことは調べてみなければ何とも申せませんが、たとえばきのうお話になりましたはち植えの花、これなんかは確かにその前日引き揚げたそうであります。これは何か調べる必要があって引き揚げたということでございますが、しかしこういう点はやはりセンスの問題でございまして、特に引き締めようとか、何かほかの者に不利益を及ぼしてやろうというような意味でなくて、そこらはセンスの違いと申しますか、考えの足らない点があって、結果的には行き過ぎになるおそれがあります。現場にも、現場としていろいろの事情があると思いますが、少くとも抽象的には、おっしゃるようなことはあってはならないことでありますので、せいぜい行き過ぎのないようにいたしたいと思います。
  100. 古島義英

    ○古島委員 私が申し上げるのは、むしろ質問というよりは、一応の注意を与えておきたいと思う。すべて犯罪が起りますと、いつでもその被疑者類似の者が非常に多くあげられる。それがために人権じゅうりんということかつい起って参るのですが、今度の菊地の問題でも、昨日大へんな問題が起りました。電話で警察に打ち合せをいたして、菊地が東武鉄道に乗り込んだ。その列車の前から二番目の箱に乗っている。しかも目じるしは、菊地は目の下にほくろのある男である、こういう風体の男だといったので、それがためにある乗客が、この人間だというのでつかまってしまった。そこで大いに調べてみたか、どうもそれらしくもあり、それらしくもない。とぼけているようにも見える。そこで結局東京に参るのに途中で列車からおろして警察まで連れて行って調べたというのです。ところが、それは幸手の人でありましたが、自分は幸手の人間で、こういう用件で東京に行くのだ、うちの方に聞いてくれと言うので、問い合わせた。その結果、それが本物だというので、疑いが晴れて出たというのです。これがもし電話がその近所にない人であったら、おそらく一晩も二晩も泊められたであろう。ほかの犯罪人の場合においては数百名、そういう人が出てくる。あるいはひどい事件になると、千名以上も被疑者をあげてみたという事件が今日まで間々あったのであります。今度は菊地の人相がわかり、菊地という人間がわかっておっても、なおほくろ一つでそういう嫌疑を持たれるということがあるのだから、今回のような場合にはよほど人権じゅうりんということも考えて、ただ犯人をあげることにきゅうきゅうとして、ほかの無事の民を苦しめるというようなことがあっては一大事だから、その点は十分注意してやっていただきたい。その点だけを申し上げておきます。
  101. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 ただいまの御注意まことにごもっともでありますので、いろいろ菊地に似た人があるというようなことを教えていただく方もあるのでありますが、その場合におきまして、その御協力に対しましては一応調べるということはいたしたいと思うのでありますが、そのために思い違いで人を逮捕する、こういうことは絶対にないようにいたしたいと思います。ことに菊地の場合は指紋かはっきりわかっておりますので、それを対照すれば絶対にそういうことはあり得ない、こういうことになるのであります。ただその対照までの段階において、あなたはちょっと似ておるという場合に、ちょっと任意に事情を聞く、こういうことはある程度事情御了察願いたいと思いますが、逮捕するというようなことは、指紋によってはっきりわかりますので、そういう間違いのないようにいたしたいと思います。
  102. 世耕弘一

    ○世耕委員長 細田綱吉君。
  103. 細田綱吉

    ○細田委員 先ほど三田村委員から、どこかに盲点があるのではないかという御質問があって、刑事部長、刑事局長からの御答弁があったのですが、率直に言って、それは監獄法の中に盲点がある。御承知のように、二十三条によって、監獄官吏は逃走後四十八時間内に限ってこれを逮捕する権利を持っておる。従って、通知はないかもしれないが、逮捕のイニシァチブは小菅刑務所の方でやっていた。従ってこんなところに意外に盲点があったのじゃないかと思いますが、これに対して御意見を伺いたいと思います。
  104. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 矯正局長からもお答えがあろうかと思いますけれども、監獄法によりまして、監獄の職員は確かに逮捕する権利があるのでありますが、刑務所で菊地が逃走したということを認知いたしまして、すぐ十二日の 午前八時に亀有の警察署へ連絡を受けておりますので、亀有の警察署におきましては拘置所から午前八時にかかる事犯があった旨の連絡を受けておりますので、八時以後におきましては、亀有警察署は監獄職員と協力して一生懸命捜査しております。
  105. 中尾文策

    ○中尾政府委員 刑務所の職員逮捕できるという制度がいいか悪いか、問題もございますが、とにかく刑務所におった者が逃げて参りまして、それに対して刑務所の方で知らぬ顔をしておる、あとはよろしく頼むということは、これは道義上からもできませんし、なお中におった者でございますので、職員がよく顔を知っておりますし、なおまた逃げた者はいろいろ特徴なんかもございますので、たとえば未決の場合は別でございますが、既決の場合なんかは刑務所の着物を着ております。そういうものについては、刑務所の職員は非常に早く発見ができるというようなわけもございまして、四十八時間以内は刑務所の職員逮捕できるというわけでございます。しかしその間に、刑務所の職員以外の者は逮捕してはならないということは決してないわけでございまして、警察の方には極力早く連絡するようにということは始終言っておるわけでございます。ただ場合によりますと、どうもまだ中におるんじゃないかというふうに考えられる場合がありまして、また実際、中で発見してしまったという場合があるような関係上、つい警察に通報するのがおくれたというようなことか全国的に見ますと多少ございますが、しかしいずれにしましても、刑務所の職員だけで逮捕するということは、とても思いも寄らぬことでございますので、すぐ連絡をしているというのが実情でございます。
  106. 細田綱吉

    ○細田委員 その通りだと思いますが、もちろん刑務所の刑務官吏も性格、容貌その他のことはよく知っているのですから、警察官吏に協力するということはけっこうだと思います。しかし主導権といいますか指導権といいますか、そういうものが四十八時間以内は刑務官吏にあるということによって、先ほど三田村さんが質問したように、人通りの少い、こういう人間もわかっておって、しかも金のないのが見つからないということになっているのではないか、それは中を捜査しておったかもしれませんけれども、中を捜査しているにしても、八時に亀有署の方に通知したということは、これはどうも少しおそすぎるのです。だから監獄法——監獄法というのは御承知のように明治四十一年という時代がかったものですか、これを改正して、最初から協力の態度に出て、捜査権は警察に移すというような方法をとってはどうかと思いますがこの点のお考えを伺いたい。
  107. 中尾文策

    ○中尾政府委員 主導権という問題につきましては、別に私たちの方は四十八時間以内の逮捕主導権は刑務所側にあるというふうなことはちっとも考えておりません。やはり警察に通報いたしまして、警察の手でも逮捕していただくように考えているわけであります。ただその聞こちらの方の職員も黙っておれないから一緒になって、全力を尽してやっておるわけでございます。しかしなおただいま私たちの方で監獄法の改正に着手しておりますので、この問題につきましてはまだ若干問題もありますので、いずれよく検討いたしたいと思います。
  108. 世耕弘一

    ○世耕委員長 なおこの際私から補足的にお尋ねしておきますが、小菅の拘置所が御承知のような脱獄者を出したのでありますが、なお全国的に拘置所の設備の不備から脱獄の危険が起りはしないかということが考えられるのですが、そういう点について全国的に何かお手配がありましたか。またさらに予算等を必要とする場合が急にあるのではないか、そういう点について局長から御説明いただきたいと思います。
  109. 中尾文策

    ○中尾政府委員 この逃走という問題は設備だけの問題ではございませんので、いろいろな条件が総合的に作用して参りまして、そうして大体逃走ということになる場合が非常に多いわけでありますので、そういう点から申しますと、この逃走を防止するためにいろいろな手を打たなければならない。従ってそういう意味で毎年私たちいろいろな要求をしているわけでありますが、そういうものが、あるものは認められたりあるものは認められなかったり、翌年回しにされたりするということがございますが、ただいまのところ明らかに逃走の危険にさらされているというふうなところは、別に私たちの気づきますところでは全国的にございません。
  110. 世耕弘一

    ○世耕委員長 なおもう一点お尋ねしておきますが、この間川上所長であったか戸田局長であったか、逃走経路の問題について当委員会で御説明があったように思いますが、看守の報告によると、七時半ごろ便器の上に腰かけていたというような説明をしておりましたが、その通りでございますか。
  111. 中尾文策

    ○中尾政府委員 それは最初、朝起きますと——刑事被告人の場合は受刑者の場合よりも起床時間が三十分ばかりおそくなっておりますが、七時に起床いたします。それから顔を洗ったり、部屋を片づけたりなんかいたしまして、七時半ごろになりますと、ずっと名簿に従って実際それがいるかどうか調べているわけです。ちょうどそのときに本人がいないということがわかったわけであります。本人の不在をはっきり認識したのは朝の七時半であります。それでこれはおかしいということで、それまでずっとそこの当直をやっておった職員に聞いてみましたところが、最後に本人を見ているのが五時二十分か三十分かに見たということを言いますので、一応そうかというように考えたわけでありますが、しかしそのときに調べてみますと、何かふとんの中にものが突っ込んであって、従って看守が見たといいましても、それはほんとうに本人であることをはっきり認識したのではなくて誤認したのだということがはっきりわかりましたので、誤認したということになりますと、別に五時幾らにいたということは根拠がないということで、もうその当日——私その現場へ参りましたが、私の参りましたのは午後でありますが、午後すでにその日の朝の五時何分かに見たという報告があったのは間違いだということは、すでに拘置所の方でも認めておったわけであります。それでだんだんと探って参りますると、その前日の七時四十分だったと思いますが、七時四十分ごろに、あの居房には腰かけがありますが、その腰かけに腰かけておったのを見た者があるということがわかりました。それからなおその後八時二十分だったと思いますが、そのときに回っていったのがはっきりと本人の顔を見たというのがございますので、本人がはっきりいるということを見た最後のときは前日の夜の八時二十分になっております。
  112. 世耕弘一

    ○世耕委員長 便器に腰かけておったというふうに説明を聞いたのですが……。
  113. 中尾文策

    ○中尾政府委員 便器というのは、ごらんになったと思いますが、板のふたがありまして、ふたをこうめくりますと、そこが便器になっております。その便器は水洗になっております。あの部屋が狭いものですから、できるだけ有効に使うことにいたしまして、たとえば洗面器はふたをいたしますと机になる。洗面するときはその板をめくって洗面する。腰かけは、ふたをめくると水洗便器になっております。そういう意味で、便器に腰かけておったというのは、つまり腰かけに腰かけておったということであります。
  114. 世耕弘一

    ○世耕委員長 本日はこの程度で散会いたします。  次会は公報をもってお知らせいたします。     午後二時二十分散会