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1955-07-25 第22回国会 衆議院 社会労働委員会 第49号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年七月二十五日(月曜日)     午前十一時三分開議  出席委員    委員長 中村三之丞君    理事 大石 武一君 理事 中川 俊忠君    理事 岡  松卒君 理事 大橋 武夫君    理事 山下 春江君 理事 山花 秀雄君    理事 吉川 兼光君       植村 武一君    臼井 蒔一君       亀山 孝一君    小島 徹三君       山本 利壽君    横井 太郎君       越智  茂君    加藤鐐五郎君       小林  郁君    中山 マサ君       八田 貞義君    岡本 隆一君       多賀谷真稔君    滝井 義高君       中村 英男君    長谷川 保君       福田 昌子君    井堀 繁雄君       受田 新吉君    神田 大作君       中村 高一君    中原 健次君  出席政府委員         厚生技官         (医務局長)  曾田 長宗君         厚生事務官         (医務局次長) 高田 浩運君         労働事務官         (職業安定局         長)      江下  孝君  委員外出席者         参議院議員   谷口弥三郎君         参議院議員   横山 フク君         参議院議員   千葉  信君         労働基準監督官         (労働基準局監         督課長)    和田 勝美君         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君     ————————————— 七月二十五日  委員賀谷真稔君、福田昌子君及び中村高一君  辞任につき、その補欠として柳田秀一君、横銭  重吉君及び山口シヅェ君が議長の指名で委員に  選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  小委員補欠選任  クリーニング業法の一部を改正する法用案(大  石武一君外八名提出衆法弟五六号)  母子福祉資金貸付等に関する法律の一部を改  正する法律案植村武一君外十六名提出衆法  第六四号)  日本国との平和条約効力発生及び日本国と  アメリカ合衆国との問の安全保障条約第三条に  基く行政協定実施等に伴い国家公務員法等の  一部を改正する等の法律の一部を改正する法律  案(千葉信君外六名提出参法第一四号)  (予) 優生保護法の一部を改正する法律案  (谷口弥三郎君外四名提出参法第一八号)  (予)  結核療養所問題  賃金の問題     —————————————
  2. 中村三之丞

    中村委員長 これより会議を開きます。  この際小委員補欠選任の件についてお諮りいたします。去る七月十八日、受田新吉君が委員を辞任せられましたのに伴い、医業類似行為に関する小委員に欠員を生じておりますが、再び同君が委員に選任せられておりますので、受田新吉君を委員長より小委員に指名するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 中村三之丞

    中村委員長 御異議なしと認め、そのように決します。     —————————————
  4. 中村三之丞

    中村委員長 まず千葉信君外六名提出参法日本国との平和条約効力発生及び日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定実施等に伴い国家公務員法等の一部を改正する等の法律の一部を改正する法律案議題となし、審査に入ります。まず提案者より趣旨説明を聴取することといたします。千葉信君。
  5. 千葉信

    千葉参議院議員 ただいま議題となりました日本国との平和条約効力発生及び日本国アメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定実施等に伴い国家公務員法等の一部を改正する等の法律の一部を改正する法律案につきまして、提案理由を御説明申し上げます。  昭和二十七年四月、日本国との平和条約効力発生に伴い、連合国軍労務者身分が切りかえられて国家公務員からはずされ、その後は、日米安全保障条約に基く駐留軍のための労務者は、国によって間接雇用され、英連邦軍のための労務者は軍に直接雇用されておりましたが、昨年、国連軍協定及び日米相互防衛援助協定の締結、並びに調達庁設置法等の一部改正によりまして、国連軍及び軍事援助顧問団のための労務者も、従来の米駐留軍のための労務者と同じく、国によって間接雇用されることになりまして、すべてこれらの者の給与その他の勤務条件は、生計費並びに国家公務員及び民間事業従業員給与その他の勤務条件を考慮して調達庁長官が定め、その労務費は軍が負担することになっております。  ところで、駐留軍等労務者は、終戦以来、言語、風俗、習慣を異にする外国軍隊に使用され、しばしば軍の都合により解雇を受ける等、身分の不安定な労働環境のもとにおきまして、国に課せられた労務提供の責務を果すため協力しており、特に、駐留軍等の配備の変更または撤退その他、国の内外の客観情勢に基き、大幅の人員整理を余儀なくされつつありますが、常にこれらの労務者給与等を定める基準とされている国家公務員につきましては、整理退職の場合の退職手当につき、支給率昭和二十三年以降しばしば改正されて、ほぼ三分の一の増加を見ておりますほか、最低保障規定も設けられまして、また一昨年の秋以来、特別待命、次いで臨時待命制度が考慮されておりますのに反し、駐留軍等労務者整理退職手当支給率昭和二十三年以降据え置かれているのであります。  従いまして、この際、駐留軍等労務者が、人員整理等、自己の責めに帰すべき事由以外の事由により、その意に反して退職する場合は、国家公務員整理退職の場合との均衡上、少くとも現行支給率の三分の一増の退職手当を保障し、もってこれらの者の身分の不安定を多少とも救済しようとするのが、この法律案提出いたした理由でございます。  何とぞ御審議の上、御賛成下さるようお願い申し上げます。
  6. 中村三之丞

    中村委員長 以上で説明は終りました。  なお本案についての質疑その他につきましては、後日に譲ることといたします。     —————————————
  7. 中村三之丞

    中村委員長 大石武一君外八名提出クリーニング業法の一部を改正する法律案議題とし審査に入ります。まず提出者より趣旨説明を聴取することといたします。長谷川保君。
  8. 長谷川保

    長谷川(保)委員 ただいま議題となりましたクリーニング業法の一部を改正する法律案につきまして、提案理由を御説明申し上げます。  昭和二十五年本法が制定公布されて以来五年を経まして、クリーニング業発展もまた著しいものがあり、その実態に即した公衆衛生上の措置を講ずることが必要となりましたので、現行法を整備して、クリーニング業の適正な経営を期すため、本法案を提出した次第であります。  この法律案改正のおもな点を申し上げますと、第一に、従来のドライクリーニング師制度を廃止して、新たにクリーニング師制度を設けたことであります。従来は、ドライクリーニング営業に対してのみ、一定衛生的知識技術を要求していたのでありまして、その現われがドライクリーニング師制度でありますが、一般クリーニング営業についても、昨今のように洗たくものの処理に関する方法が衛生的、技術的に高度になって参りますと、一定衛生的知識技術とが伴わなければ、衛生的かっ合理的な処理を望むことができないのでありまして、この改正によってこれを確保しようとするものであります。すなわち、営業者は、常時五人以上の従事者を使用するクリーニング所ごとに、一人以上のクリーニング師を置かなければならないこととしたことであります。従来、ドライクリーニング営業で、従事者十人以上を使用する場合にのみドライクリーニング師を置くことになっていたのを、ドライクリーニングに限らず、クリーニング営業全般を対象とし、かつ、実情を考慮しまして、この際は常時五人以上の従事者を使用するクリーニング所について適用することとしたのであります。  第二に、営業者クリーニング所について講ずべき衛生上の措置について、都道府県知事地方実情に沿い得るような衛生上必要な事項を定めることができることとしたことであります。これはクリーニング所施設構造設備及び管理について、現状及び地方的実情に即し得るような必要な措置を行わせようとするものであります。  第三に、クリーニング所における営業についての公衆衛生上の措置またはクリーニング師設置規定に違反しているときは、従来は都道府県知事が直ちに営業停止または閉鎖処分を行うことができたのでありますが、まず都道府県知事措置命令を出し、その措置命令に従わないときに、初めて営業停止または閉鎖処分を行うことに改めたのであります。  第四に、クリーニング師試験科目に、新たに洗たくものの処理に関する技能を加えたことであります。これは従来の試験運用から見ましても、クリーニング業現状から考慮してみましても、きわめて必要な規定と思料されるのであります。  以上がこの法律案提案理由及び概要でありますが、何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御議決あらんことをお願い申し上げます。
  9. 中村三之丞

    中村委員長 以上で説明は終りました。  なお本案についての質疑その他につきましては、後日に譲ることといたします。
  10. 中村三之丞

    中村委員長 植村武一君外十六名提出の、母子福祉資金貸付等に関する法律の一部を改正する法律案議題となし、審査に入ります。まず提出者より趣旨説明を聴取することといたします。植村武一君。
  11. 植村武一

    植村委員 ただいま議題となりました母子福祉資金貸付等に関する法律の一部を改正する法律案は、各党共同提出にかかるものでございまして、私は提案者一同にかわりまして、その提案理由を簡単に御説明申し上げます。  わが国におきまする母子家庭は、御承知通りその生活能力はきわめて乏しく、しかも、おおむね幼少の子女をかかえ、一家の生計を営みつつ、母としてその子女の養育をはからなければならないという社会的、経済的重圧にあえいでおるのが実情でございます。これが福祉対策といたしましては、昭和二十七年母子福祉資金貸付等に関する法律が実施せられまして、ややその光明を見出し得たのでございますが、最近における一般経済情勢の悪化は、母子家庭に対しての影響は特に著しくなって参りましたので、今回その法律の一部を改正し、不遇な母子家庭福祉を少しでも増進し、もってその生活の意欲を助長せしめ、経済的自立の助成に寄与せんとするのがその提案趣旨でございます。  改正の第一点は、修学資金のうち、大学に就学している者に対しての貸付額は、現行法では、二千円以内となっておりますが、これを三千円以内とした点であります。母子家庭がその子弟を教育することによって、将来自立更生する機会を与えることは、最も望ましいことでありますが、現行貸付額では、実際の就学に際し容易でないものがありますので、特に必要がある者に対して、三千円以内を貸し付けて、これの有効な活用をはかることとしたものであります。  改正の第二点は、事業継続資金に対して六カ月の据え置き期間を設けた点であります。事業継続資金は、その資金の性質上、現行法では据え置き期間を設けていないのでありますが、一時的に思わしくない事業に従事している母子家庭が、この資金を借り受けて事業の立て直しをはかる事例が多いのであります。このような場合には、事業が再び軌道に乗るまで最小限度据え置き期間を設けて、これの適正な運用をはかることとしたものであります。  以上が改正案の大要でありますが、何とぞ御審議の上、すみやかに可決せられんことをお願い申し上げます。
  12. 中村三之丞

    中村委員長 以上で趣旨説明は終りました。  本案についての質疑その他につきましては、後日に譲ることといたします。  ちょっと速記をとめて下さい。   〔速記中止
  13. 中村三之丞

    中村委員長 速記を始めて下さい。  次に結核療養所復元問題について発言の通告がございますので、これを許します。中山マサ君。
  14. 中山マサ

    中山(マ)委員 私は、元大阪市立結核療養所復元に関することで質問を試みたいと思います。大阪市がわが国産業経済の中心として飛躍的発展を遂げるとともに、その社会的機構が生み出す結核蔓延もまた年々増加をいたしておりまして、結核対策は、本市保健衛生上、非常に緊急な問題となって参ったのでございます。それで大正六年、全国にさきがけて結核患者収容治療結核に関する学術の研究を行う目的をもって、刀根山病院を設け、さらに昭和十五年には貝塚の千石荘病院を新設して、大阪結核対策の完璧を期したのでございますが、私は局長にお尋ねしたいことは、この戦時立法によりまして、医療団現物出資をいたしましたのは、強制的であったということをお認めになりますか。
  15. 曾田長宗

    曾田政委員 私も、その当時の状況はつまびらかにしておりませんですが、これを強制的にというふうに見ますか、あの当時の実態としては、非常に強制的な性格のものであったということは認められると思うのでありますが、私は法律的な問題になりますと、ことに、ただいま資料も何も持っておりませんので、明確なことを申し上げかねますが、性格としては、さようなものであったというふうに私どもも思うております。
  16. 中山マサ

    中山(マ)委員 確かに強制的であったということは、今も局長のおっしゃいましたように、戦争ということになって参りまして、そしてすべての職業がいろいろな面でもって統一されて、強制的にやめさせられた商売も多々あったことにかんがみまして、確かにこれは強制的であったということは、争われないことであろうと思うのでございます。その出資を強制されましたときに、条件がついておったということをお認めになりますか。
  17. 曾田長宗

    曾田政委員 ある程度の条件がついておったということは、承知いたしております。
  18. 中山マサ

    中山(マ)委員 それでは、その条件は、出資物件について、日本医療団において供用を廃止したるときは大阪市に還付することという条件がついておつたことはお認めになりますね。
  19. 曾田長宗

    曾田政委員 さように私も了解いたしております。
  20. 中山マサ

    中山(マ)委員 昭和二十二年に日本医療団が解散したときに、国営移管の方針を決定されたのは、いかなる理由に基くものでございましようか。今の条件を無視してこういうふうなことになりましたのは、どういう理由でこういうことになりましたのですか。
  21. 曾田長宗

    曾田政委員 当時におきましては、戦後の国民生活全般の荒廃、それに伴いまして、非常に健康状態も低下いたしておりまして、結核蔓延戦前に数倍する状態であろうと、この専門の人たちが言うような状況でありまして、国も結核対策を強力に推進させなければならぬというような状況にございましたので、そのために非常に重要な施設でございます結核療養所というようなものについては、おおむねその根幹となるべき施設の網というようなものは国が責任を持って整備し、また運営して参ることが必要であるという考えに基いたものと思います。
  22. 中山マサ

    中山(マ)委員 そういうお考えであるかもしれませんけれども、しかし、これは出資条件の不履行であるということをお考えになりませんか。
  23. 曾田長宗

    曾田政委員 この点につきましては、いろいろ関係の市等と御相談いたしまして、そして政府の意のあるところを御了解願って御協力願うというふうに、いろいろ御相談申し上げたと考えております。
  24. 中山マサ

    中山(マ)委員 しかし、それは国の方の勝手な考え方でございまして、出資いたしました大阪市におきましては、どうしてもそれを返してもらいたい、約束が違うということを、再三再四これまで述べております。それで、国が地方自治体を尊重して、終戦後というものは、国一本ということでなしに、地方自治体を育成するということを大きく打ち出しておるのでございますが、この地方自治体を尊重して育成することをしないで、国の圧力で取り上げておいたのだから、返さなかったらそこでいいということにしておくということは、不当であるとはお考えになりませんか。
  25. 曾田長宗

    曾田政委員 市の方から非常に強く復元を要望されたということは伺っておるのでありますが、当時国といたしましても、先ほど申し上げましたような根本的な考え方、それと、市で療養所自体を持ってみずから運営し、結核対策を進めたいというお考えがあるようでありますが、その趣旨は、厚生省としてもよく了解いたしておったと思うのでありますが、その目的を達するためには、必ずしも当該市療養所をお返ししなくても、目的を達し得るのではないか、あるいはまたお返しせずにしばらく国に預からせていただきまして、他のもろもろの療養所とお互いに協力しながらこれを運営していくということの方が、当該市民に対しても、むしろよりよいサービスができるのではないかというような考え方で、いろいろお話し合いを進めておったというふうに考えておりまます。
  26. 中山マサ

    中山(マ)委員 しかし、それは私が申しましたように、厚生省としての考えでございますけれども、それよりも、むしろ市が持ってやった方が、もっと徹底的にいけるということを考えて、今日まで、その要求を続けてきておるということは、国の考え方とはまた違っておるということを、ここでお認め願わなければならないと思うのです。いろいろとやっておりましたが、しかし返さないということは、結核対策として占領軍指示によったものではなかったのでございますか。
  27. 曾田長宗

    曾田政委員 当時の事情を私どもが伺っております限りにおいては、別に占領軍からの指示ということではなしに、厚生省自体考え方で市と折衝申し上げたというふうになっております。
  28. 中山マサ

    中山(マ)委員 しかし、それはあなた方の考え方で、大阪市といたしましては、占領軍指示によっての政策であるから、やむを得ないといって泣き寝入りをした。昭和三十年三月三十一日までには、当該土地建物その他の施設物件復元するという条件のもとに、一応政府がこれを扱うことに同意をしたということを市の方では申しております。それで、政府の誠意を信頼いたしまして、その時期の到来を待ち望んで今日に至ったのであります。再び約束を破るということは実に意外だと、大阪市の方では申しておるのでございますが、その通りであると思います。昭和二十五年の一月十日、厚生省医務局長名義で、大阪市長にあてて、昭和三十年三月三十一日の期限を待たずして——待たずしてでございますよ。昭和三十年三月三十一日の期限を待たずして、できる限り早急に復元するよう努力するという、その期限を待たずしてという確約を厚生省としてはしておきながら、三十年の五月十三日には、またまた医務局長名で、今までの約束を御破算にしてしまっておられるのでありますが、かくのごとくすることに朝令暮改であって、国民思想に及ぼす影響というものは、私はおそるべきものがあると思います。政府に対する信頼感の減退は、とどめるすべがないのではないかということをおそれるものでございます。自分の方で、いついつまでには必ずそれを待たないで返すと言っておきながら、出たとこ勝負の政治をなさるということは、国民政府に対する信頼感が薄れていく。戦前でございましたら、お国のなさることは何でもお上がなさることだということで、しょうがないといっておりましたけれども、戦後の思想というものは、非常に変ってきておるのでございます。政府のこういう態度で、信頼を裏切るようなことに対して、明確な御答弁を願いたいと思うのであります。この復元できない理由としては、有機的一元的に運用されておるということを、五月の十日かの通牒にお書きになっておるよでうございますが、国立病院なるものは、敗戦国国立病院だから、まことにその名の通り、お粗末なものであるとすら、ある人が言っております。刀根山病院も、私は行ってみたのでありますが、もうこれより先はあまりにお粗末でお目にかけられませんと、私が昨年厚生省におって参りましたときに申されたのであります。今日大阪市警というものの存置が、もうこの七月一日から終止符を打たれたのでございますから、その大阪市警に向けておりました金をもってすれば、国立病院として、敗戦国病院だから、国が貧乏なんだから、病院も貧乏でもかまわないというような物の考え方というものは、私は是正していけると思うのでございます。たとえば、私が土曜日に千葉県の国府台の病院に参りましたが、昔、あそこは兵舎の跡だそうでございまするが、ほんとうにこれが国立ですかと私は申したのであります。そうして精神病棟なんか見てみますと、これは明治十八年にできた建物でそうで、もう下のところの板は破れてしまって、そこの児童を収容しておりますところは、子供がそこを破りまして逃走をしてしまう。まことに、ほんとうにこれが国立か。ある一方では、みごとなる厚生年金病院というものが大都市に林立しておるかと思いますと、国立と名を打ちながら、ほんとうに恥かしいような、まるで目をおおうような施設を、私は現在見てきておるのであります。ですから、国で一貫したものをやって、うまくやっていくんだとおっしゃることが、私にはどうしても納得がいかないのでございますので、私はやはり約束通り、国がその力をもって、市に約束したことは履行していかなければならぬ。そうしなければ、国民政府に対する信頼感というものは薄れて、いかなることを政府が申しましても、自分都合のいいときには、また一片通牒によってそれが御破産にされるというおそれを与えるということは、私はいわゆる政治政策として、非常にまずいものであるということを断言してはばからないのでございます。お約束通りこれを復元なさいまして、大阪市のいわゆるお金もあるのだから、それでりっぱなものにする。特にこの神経病院でも聞かされたのでございまするが、労働者工場におりまして、五人でもって、その中の三人の人は仕事をする、あとの二人は、その仕事を一生懸命にやらせるために監督をする。それで非常なる労働過重が起きてきて、精神病者もできる。ただし、肺病患者もどんどんふえていく。御承知通り大阪日本の最も大きな工業都市でございます。そこには、日本中からいろいろな労働者が集まって参りまして、非常に非衛生的な工場もあるということも、私は存じております。そういうところは、肺病患者がどこよりも多く出るということは、私はそこの住民として、よく知っておるのでございます。この間、羽曳野にも一つできたということを見ましても、いかに大阪にはこういう施設が絶対に必要なものであるか、国が遠くから監督しておいでになるよりも、むしろ近くにおります市が、それを約束通り還元していただきまして、たえずそれを監視し、そうしてぜひ改築を要するところでは、それでもって改築していくということが、私は病人に対しての恵みであろうということの考えを変えないのです。私もまた国会におきまして、あの寒い冬の時分のために、肺浸潤という病気になりまして、いかに胸に関する病気がおそるべきものであり、精神的にいかなる打撃を与えるものであるかということを、よく承知しております。徹底した療養によりまして、今日の健康体に戻ったのでございますが、こういうわけで、私はぜひこの結核病院約束通り大阪市へ返していただきまして、そうしてここに徹底せる何をしていただきたいと思うのであります。私はそれで、これを要望された人たちに、こういうのを還元してもらっても、やはりそれに対するお金をまた国に求めに来るのではないかといって、だめを押しましたが、いや、そういうことはございません。われわれは市警廃止によって、確かに経済上に豊かになっていくのですから、それで返してもらいたい。この時機が一番返してもらうのにいい時機であるということを主張して譲らないのでございます。ぜひ私は約束を履行していただきたいということを、ここに切望いたしまするが、当局の御決意のほどを伺いたいと思います。ただ一片の、いわゆる官僚のその場のがれのあいさつでなしに、約束を履行するか、しないかという確固たることを、一つ明瞭におっしゃっていただきたいと思います。
  29. 曾田長宗

    曾田政委員 先生がお求めになっております答えは、きわめて簡潔なものであろうと思うのでありますが、私どもとしましては、この問題につきましては、やはり相当複雑な考慮をいたさねば、決断がつきかねるというふうに考えております。はなはだ相済みませんが、少し私ども考え方をお聞き願えますならば、けっこうだと思うのです。  まず第一に、なるべく早く返すということを言っておりながら、返さないのはけしからぬというふうにおっしゃいました。いわゆる約束政府は守らなければならぬというこのお言葉に対しては、私どもも、少くとも形式的にはおわびを申し上げるより仕方がないと思います。こういうように、私どもが形式的にしろ、自分たちの非を悟っておるということでありながら、これを実施できないと申しますのは、先ほどちょっと申し上げたかもしれませんが、結核対策がまだはっきりと見通しをつける段階まできておらない。先ほども期限のことをおっしゃいましたが、この趣旨は、一応国の結核対策がまず確立して、そしてめどが立つという時期まではお貸しを願いたいという点であったと聞いております。その時期は、それでは多分いつごろであるかということは、当時におきましては、ほぼ三十年ごろであろう、三十年というのは少し長過ぎるが、もう少し早くても、もしも今の国のいうような条件が熟したならば返すべきだというふうなことを言われまして、それは一つ努力をいたしますという意味で、これは必ずしもはっきりとした——この期日は一応載ってはおりますけれども、より根本的な考え方は、今申し上げたような趣旨であったと思います。それで、その後における事情として、これは私どもいろいろおしかりを受けておりますけれども、いろいろ結核蔓延状況、あるいは他面におきまして日本における社会福祉と申しますか、こういう健康対策というようなものの進展の状況というようなものとにらみ合せまして、かなり蔓延の姿及び結核治療の技術的な形というものが変って参りまして、恐縮でございますけれども、たとえば例の外科治療というようなものが非常に進んでもきておる。こうなりますと、どの療養所においても、みな外科手術をやるというわけにも参りませんで、やはり相当な設備のございます施設で手術をし、手術を待つ間、あるいは手術が済みました者は、また他の療養所で落ちついて療養するというようなことになって、療養所の間での協力関係というようなものが大切になってきております。大阪市からお借りしました療養所は、主として今でも大阪の市民が大部分これは利用いたしております。しかしながら、小数には、今のようにその療養所でなければ十分な治療が受けられぬ、手術が受けられぬという者が、他からも入れてもらって、その施設を利用しておるわけであります。他面におきまして大阪の市民は、それではこの療養所だけかと申しますれば、そうではなしに、他の療養所、あるいは近県の奈良県とかいうようなところの療養所にもやはり入っております。私どもとしましては、大阪市民である、あるいはないを問わず、幾つかの療養所をもっと有効に使い合せているというふうに考えてみております。それからまた、さらに御承知とは思いますが、ただいまは、国立結核療養所は、全国の結核対策あるいは各都道府県、あるいは市町村というようなところの結核対策に協力するような意味をもちまして、入院費といたしまして療養費の二割を減額しておるというようなこともございますので、これは結局間接に大阪の市民、あるいは大阪市にそれだけの御援助を申し上げておるというような形になっておると思うのであります。ただ、療養所をたくさん国が預かっております関係から、御承知のように、またその中でも非常に荒廃した病院をたくさん持っておるというようなところから、比較的整っております市の療養所というようなものにしばらく整備を待っていただいて、そうした他の、より荒廃した療養所において先に手をつけておったというような事情がありまして、これが、もしも市が自分で持っておったならば、もっともっとその復旧が早く、またよりりっぱにできたであろうという御批判は受けるのであります。この点は、私どもも非常に申しわけないと思い、またさような事情も考慮のうちに入れなければならぬのではないかというふうに考えまして、あまり偉そうなことは言えないかもしれませんが、中山先生ごらんになりました時より、その後も少しずつは整備をいたしておるような状況でございます。かような事情、それから御承知のように、最近になりましては結核蔓延の姿が幾分状況が変って、またかなり急激な変りを示しかかっております。厚生省におきましても、一ぺん根本的な対策を今練り直さなければならぬというような状況になっております。その筋が出ますまでには、いましばらく国に扱わせておいていただきたいというような意味でございまして、それにいたしましても、形式的にお約束のほぼ予想されておりました期間にお返しできなかったというようなことについては、私どもも非常に心苦しく考えておりますが、その事情は今申し上げたようなことでございます。今後も、いろいろ関係の市と御相談をしながら、一つ御協力を願いたいというふうに考えておる次第であります。
  30. 中山マサ

    中山(マ)委員 まことに御答弁は、非常に御無理のようで、ごもっともでございますと私も言いたいのでありますけれども、しかし国全体としてお持ちになると、どうしてもそういうわけで徹底した修理はできないと私は思うのであります。一応こういうことだ、そして結核蔓延のいろいろな状態も変っておる。今年の厚生省のベッド数を拝見いたしますと、一万床を増していらっしゃるようでございますが、あちらこちらでいろいろ聞いてみますと、なぜ厚生省はベッドをこれだけ増したのだ、そんな金があるのならば、もっとほかの方に使ったらよいじゃないかというようなお方々が非常に多いのであります。なぜならば、ベッドがあっちこっちのところで非常にあいておるということを聞きますが、いろいろ対策を立てるとおっしゃいますけれども、そういうふうな必要でないベッドを増すというような変った対策をしていただきましては、かえって私どもは満足がいかないと思うのでございます。いわゆる家庭における結核の治療ということに対しても、厚生省として御援助を賜わっておるよべでございますから、次第にベッド数をふやす必要もないものがふえておるという金の使い方が、妙な使い方ではないか。実に私は、いろいろな陳情を聞き、いろいろな情勢を聞いて、そういうふうな批判的な考え方、判断をいたしておるのでございますが、それならば、一体いつということをお約束できますでございましょうか、その時期の問題であります。ただ何かの対策ができるまで待てとおっしゃっても、大阪市ではなかなか了承してくれない。大阪市から、国会に送っておって、一体何をしておるのだといって、おしかりをちょうだいするわけでございます。私も自由党ただ一人の大阪市出身の党員でございますから、自分一人の問題ではなしに、党としてもやはり責任を感じ、市のこの立場もよくわかるのでございますから、そういうふうなお上手な御答弁でなしに、一つはっきり、いつということをおっしゃっていただきましたら、その結果をまた申しまして、そして厚生省の御立場の釈明に当ろうと思うのでございます。どうぞ一つ、いわゆるおまんじゅうのあんを隠す皮のような御説明ではなしに、直接に中心に触れた、あんこだけのところの御説明をいただきたいと思います。
  31. 曾田長宗

    曾田政委員 むしろ率直に申し上げようと思いますれば、私ども療養所のベッドの数というものも、六万数千というほどで、かなりたくさんちょうだいはしておるのであります。それからその中でもって、ぼつぼつベッドがあいてきているんじゃないかというようなことも、指摘を受けておるのであります。この問題は、すでに御論議もありましたし、また別の機会にいろいろお話を申し上げなければならぬと思っておりますが、さような状態に対して、今後どう処理していくかということ自体が一つの大きい問題であります。このベッドが多少あきかかっておる、それにもかかわらず、ある地区におきましては、まだ足りない、足りないという地域もございます。それから、ただいまは何もかも含めまして六万数千でございますが、そのうち、もう持ちこたえられないベッドが相当に出てきかかっておるのでありまして、この六万数千をあくまでも持ちこたえねばならぬものか、あるいはそのうちの若干、古いものから逐次切り捨てていって、そうしてりっぱな設備、大ぜいの患者たちの世話を焼き得るところにむしろだんだん集約していくべきではないかというようなことが、私どもとしまして今さしあたり問題となってきております。こういうような方針につきまして、率直に申し上げさせていただきますならば、さような事情で、期限のところは、ただいまのところ、明確なことを申し上げかねるということを御了承願いたいと思います。
  32. 中山マサ

    中山(マ)委員 大阪市が大阪市の税金その他のもので建てたこの病院、いわば厚生省が借家人でこちらが家主のような格好でございますが、時代の流れか知りませんが、厚生省までが家を借りた人のように居すわる、これはそういう場合は、私も弁護士の女房ですから、それくらいのことはわかっておりますが、立ちのきを命ぜられてから六カ月はそこに居すわることができる、しかしその以後はできないということに、法律で国家がはっきりときめておるのでございます。厚生省が借りたものを——これはもう何年からか頼んでおるのですが、国家が借家入の立場に立って、そういうふうなことをして、いつ返せるかわからないということは、私、どうも納得ができないと思うのでございます。せめて、いつごろというめどをはっきりと、要らない御説明はけっこうでございますから、ただはっきりとポイントをついていただきたいと思います。大阪市の、いわゆる家主を代表いたしまして、私はその期限を聞かせていただきたいと思います。
  33. 曾田長宗

    曾田政委員 この問題につきましては、ただ単に、ただいま例をあげられましたような事情だけで結論を出すわけにもいきかねると思うのでありまして、やはり結核対策というものは、全国的な問題でもございますし、一そうして都道府県あるいは市というところに御協力を願い、それぞれの立場でいろいろ仕事をやっていただくということも、あくまでも国としての結核対策という立場であろうと思うのでありまして、これをどういうような姿で御協力願うのがいいのか、どの程度のことを国にやらせていただくことがいいかというようなことにつきましては、一つぜひもう少し検討させていただき、また国会等においても、皆さん方の御意見も拝聴してきめて参りたいというふうに考えておる次第でございます。
  34. 中山マサ

    中山(マ)委員 何とか一つ期限をつけていただきたいと思うのであります。この間も、いろいろ医薬分業がやかましい時代にも、医療費体系というものがなかなか出なかった。ああいう調子でいつまでも引っぱられると——とうとう九月ということで、この問題期限がついたようでありますが、一つこの問題にも、大体の目安を聞かせていただきたいと思います。できない、できないとおっしゃって、まるで畳に食らいついて、執達吏が行っても出ない借家人のような格好では、仲に立つ私も困るのであります。何とか一つ、いつまでに回答するということだけでもよろしいから、それを伺いたい。
  35. 曾田長宗

    曾田政委員 先生のお立場も、よくわかります。このようにいろいろと御心配にあずかっておることを、非常に心苦しく考えるのでありますが、何と申されましても、私の立場としては、ただいま御確答申し上げるわけにはいきかねますので、御了承願います。
  36. 中山マサ

    中山(マ)委員 御一存ではだめでしたら、お帰りになりまして関係者と御協議の上、ぜひ御回答を賜わりたい、こういうことは了承していただけますか。
  37. 曾田長宗

    曾田政委員 御趣旨の趣きは大臣等にも十分伝えまして、御趣旨に沿っていろいろ検討はいたしたいというふうに考えます。
  38. 中山マサ

    中山(マ)委員 それでは、ぜひそういう御回答を期待いたしまして、今ここで幾らお責め申し上げましても、これ以上のことをおっしゃっていただけないということでありますので、よろしくお願いいたします。
  39. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 関連して。ただいま大阪選出のわが党の中山代議士から御質問があったのでありますが、これに対する厚生当局の御答弁は、的はずれで、いいかげんなごまかしではないかという気がいたすのであります。厚生省の御答弁によりますと、なるべく早く返すと言っておったのに、返せないからおわびを言うのだ、こういうことですが、おわびというのは、結局約束通り返せないからおわびしたというのですか。
  40. 曾田長宗

    曾田政委員 さようでございます。
  41. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、その約束があって、やはり返さなければならぬことになっておるのですね。
  42. 曾田長宗

    曾田政委員 一応御希望を承わり、こちらとしても御希望に沿うようにいたそうということは申しておりましたが、御期待に沿い得なかったことを遺憾とするというわけであります。
  43. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 返すべき約束期限は、いつになっているのですか。
  44. 曾田長宗

    曾田政委員 一応昭和三十年の三月三十一日という期限がございますが、この時までにお返しするように努力をするというお約束をしておりました。
  45. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 それでは、どれだけの努力をなさったのですか。
  46. 曾田長宗

    曾田政委員 これは少し言葉が過ぎるかもしれませんが、結核対策全般というようなものは、結核対策というものの一通りのめどをつけるという趣旨に沿って進んでおったものと考えるのでありますが、その間にまた国の療養所の整備があります。特に他の施設等の整備でございますが、これも御承知のように、予算関係といたしましても十分なものが取り得ず、市からお借りいたしました療養所にかわるべきりっぱな療養所というものの整備は、努力はいたしましたけれども、十分な成果を見るに至っておらないという状況であります。
  47. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 しかし、昭和二十二年から今日まで、年々何万ベッドという施設を作っておられながら、しかも借りてあるものを返すためのかわりの病院をやらないということは、これは誠意さえあればできたはずだ。努力はしたけれどもだめだったというような説明は、ちょっと通らないと思うのですけれども大阪のこれにかわるべき施設を、なぜ今までお作りにならなかったのですか、初めから返すつもりがなかったのじゃないですか。
  48. 曾田長宗

    曾田政委員 国としてこの八年間と申しますか、相当な期間努力いたしましたのは、何はともあれ、ただいままでは不足しておるベッドを、一床でも二床でもよけいに作ろうということが、基本的な施設対策でございました。そのために、移管ということは、必ずしもプラスにはならない。むしろ国も一生懸命ベッドを作り、それに対して、また都道府県あるいは市等におきましても、国からも補助金で御援助は申すのでありますが、できるだけのところは自力で新たな療養所を作り、ベッドをふやしていくということに御努力を願いたいというのが基本的な考えで、今日まで参ったような次第であります。
  49. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 どうもあなたの方では、結局これを返すためには、かわりを作らなければ返せないのじゃないのですか。
  50. 曾田長宗

    曾田政委員 ある程度においては、御意見の通りであります。
  51. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 それで二十二年から今まで、かわりを作るために結局何にもやらなかったわけですね。
  52. 曾田長宗

    曾田政委員 ただいま申し上げましたように、かかわりと申しますかベッドを増したという限りにおましては、お預かりいたしておりますベッドより以上のものを、その後も作りました。
  53. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、あなたの方の努力というのは、何の努力ですか。返すための努力は、ちっともしておらなかった、ほかの努力だけしておった。中山代議士の聞いておられるのは、返すためにどれだけの努力をしてくれたかということを、さっきからくどく聞いておられるので、その努力がどの程度効果を上げて、いつ完全に返せるようになるかということを聞いておるのですが、あなたはそうじやない。それと全く無関係な、結核対策の根本問題などをくどく説いておられるが、これは結核対策の根本問題とは関係がないのだということを御承知いただきたい。これは大阪市が自分結核療養所を持ちたい、そこで貸してあるものを返してもらうのが手っとり早い方法だ、だから約束通り返してもらいたい、これが大阪市の主張です。従って、あなたの方といたしましては、前から約束があるのですから、これを期限通りに返すのが何よりも大切なことで、結核対策よりも何よりも、大阪市が必要とする病院を返してくれというときに、それを返すよりも先にやらなければならぬという仕事はないと思うのです。大阪市がこれを返してもらいたいということは、大阪市としての結核の根本対策なんですから、政府としては、それを援助されるというのが当然だと思う。もしそうでないとしたならば、あなたの方で、市というものは結核病院などをこしらえない方がいいのだという法律をお出しになるなら、それでけっこうです。将来、市には結核病院を作らせないのだ、そういうような根本方針が立ちそうですか。そうすれば、今返すことはむだですから、結核の根本対策が立つまで待ってくれということも一つの理屈です。ところが、どんどん市には、結核病院を補助までして建てさせておるようですから、大阪市に一日も早くお返しになるのが当然だというふうに思いますが、いかがです。
  54. 高田浩運

    ○高田(浩)政府委員 便宜上私からお答え申し上げたいと思います。市の方の御希望は、自分たちの作った療養所を、なるべく早く返してもらいたいということでございました。それにつきまして、昭和二十二年当時、国としては、やはり結核対策の一貫した方針として、そういった療養所は国で一体として経営していくべきであるというような考え方のもとにおきまして、それまで医療団で持っておりました約九十の療養所を、一括国で経営をするという方針を立てて、自後に及んでおったわけであります。従って、そういう国の考え方と、それから市の方の考え方との関係において、今お尋ねのようないろいろな問題が出てきておるわけでありますが、その結末としましては、一応政府はすみやかに結核対策を完成されて、そして三十年まで押してもらいたい、そういうことで、結局返す時期というものは、結核対策の完成ということが一つのめどになっておるわけです。その時期を、大体いつごろに見当つけるであろうかということで、昭和三十年という年が出てきた、そういうふうな経過になっておると、私ども承知いたしておるのでございます。そういう意味におきまして、先ほど来局長が申しておりますように二十二年以来結核対策の完成について、非常に努力して参りましたけれども、なお今日においても、結核状況は御承知通り状況でございますので、現態勢を維持して、ますます結核対策の完成なり結核の撲滅に努力をしなければならない、こういう趣旨局長はお答え申し上げたのであります。
  55. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 これはそういう結核対策とかいう関係のものじゃないので、市の持っておる財産を市に返せという財産上の問題ですよ。そうして、市はそれを利用して結核療養所を作ろうと、こういうのです。だから、結核対策の上から見たって、その財産が市に渡ったために結核療養所でなくなってしまうということならば、これはまた別の問題でしょう。しかし、市はやはり結核療養所として使おうというのですから、あなた方は、結核対策などを考えるよりも、財産の所有権あるいは契約に従って、約束通り政府の義務を履行されればいいじゃないですか。
  56. 高田浩運

    ○高田(浩)政府委員 財産という観点からすれば、お話しの通りだと思いますけれども、今日まで進めて参りました結核対策の根幹というのは、一つには、全体的なベッドの増加ということでございますし、一つには、質的な結核対策と申しますか、ある意味で国立療養所を中心として、一つのまとまった組織力を駆使して、結核の治療方針なり、あるいは外科治療の増加でありますとか、そういったことに非常に努力して参りましたし、それに対して五大都市の施設というものを今日抜きますことは、そういう組織力の運営、そういった全体的な観点から支障がある、そういうふうな考え方のもとにおるわけでございます。一応お話しのように、財産の関係としてではなく、五大都市の方で自分たちの作ったものを早く返してもらいたい、このお気持は、大へんごもっともと存じますけれども、従来の両者の間の交渉の行きがかりは、今申し上げた通りでございます。この点を御了承いただきます。
  57. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうなると、いよいよ先ほど中山代議士の言われました、立ちのきを要求するのに対して居すわっているという、全くその通りになってしまう。これはあなたの方としては、結核対策という大きな見地から大阪へ返さないというのならば、あなた方は返す義務がある、これはお認めになりましょう。もともと約束しておるのですから、約束によって返さなければならぬ義務がある。その義務を、政府が一方的な都合で踏みにじるということになれば、これは重大な問題だ、法律の根拠がなければ、そういうことは政府といえどもできるものじゃない。だから、政府としては、当然返すべきものだと思う。あるいは返さずに済まそうと思ったならば、大阪市によく事情を話して、大阪市の了解をさらに得て、引き続き借りるというような措置を講ずべきものです。法律でもって、法律の力で居すわるか、あるいは相手の承諾を得て、引き続きもう少し貸してもらうか、どっちかの方法によってこの問題を解決しなければ、あなた方のように、都合が悪いから返せないというような態度でもって居すわられるというやり方は、決してほむべきことではない。政府としては慎んでいただかなければならぬと、こう思うのですが、いかがでございましょう。
  58. 高田浩運

    ○高田(浩)政府委員 先ほど来申しました趣旨によりまして、五大都市の関係者に対しまして、政府考え方を了として、さしあたり現態勢でいくことを御了承いただくように努力をいたしておるのでございますけれども、特に大阪市等におきましては、今だんだんお話しのように、いろいろ手違いの点があることは、はなはだ残念でありますけれども、なお今後とも十分お話し合いをしていきたいと考えております。
  59. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そこでお話し合いの結果、相手が承知すれば、それはもう承知する約束の範囲内で自由にお使いになっていいでしょう。相手がどうしても承知しなければ、これはもうはっきりお返しになるべきものです。そのことはお認めになるでしょうね。
  60. 高田浩運

    ○高田(浩)政府委員 両方の意見がどちらかの方向に一致いたしましたところでこれは処理すべきで、食い違った格好では処理できないと思います。
  61. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 それはちょっとおかしくないですか。もともと返すという約束があるのだから、その約束を変更してさらに延ばすという新しい契約ができれば、延ばすことは可能です。しかし相手がどうしても承知しないで、延ばすという契約がどうしても成立しなければ、返すのが当然じゃないですか。期限通り返すのが、当然じゃないですか。
  62. 高田浩運

    ○高田(浩)政府委員 契約と申しますか、両方の取りかわしました文書について、これは十分なおよく検討いたしたいと思います。このままでは、今大橋先生のお話しになったような結論にならないように存じますけれども、なおよく検討いたしたいと思います。
  63. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 いや、その文書の解釈が問題なので、先ほどから伺ったら返す約束だと言われる。返す約束だとすれば、それはさらに延ばしてくれと言って、相手が承知しない限りは、これは相手が要求すれば返さなければならぬ。それはわかっているでしょう。返す約束があれば、返さなければならぬということはわかっているでしょう。どうもあなた方のお話を伺っておりますと、返す約束があるけれども結核の根本対策という大問題のためには、約束なんかどうでもよろしいのだ、返さなくてもいいのだ、返せるようになったとき返せばいいのだ、こういうようなお考えのように承わるが、これは私は断じて許すわけにはいかないと思います。そういう無法な考え方でやっていただくというわけにはいかない。むろん、法律に従っておやりになる。ですから、もしそういう無法なお考えならば、そういう法案を御提出になって、その法案が議会を通れば、それはあなた方の言う通り約束はどうあろうとも引き続き使うということは、それは法律に従うのですから、けっこうでしょう。しかし、そういう法律を作らない以上は、相手が承諾しなければこれは返してやるべきだ、こういうふうに考えますが、その点はそう考えておられるでしょうね。
  64. 高田浩運

    ○高田(浩)政府委員 ちょっとその当時取りかわしました文書の一部をお読みいたしたいと思います。先ほど医務局長の手紙云々というお話がありましたが、これは市側の方から「政府は速かに結核対策を完成され昭和三十年三月三十一日までには当該土地建物その他の施設物件を五大都市に復元すること」という申し入れに対しまして、医務局長から「第一項については、昭和三十年三月三十一日の期限を待たず、出来得る限り早急に復元するよう極力努力する」ということになっておりまして、なお別の書類で「政府は前項の結核対策の国策が完成したる暁は、速かに前項の土地、建物その他の施設及び物件を都市に売戻す」そういうふうになっておりますので、この辺の解釈について、あるいは大橋先生のような解釈が成り立つかと思いますけれども、実は私どもはそういうふうに突き詰めては考えておりませんでしたので、なおよく検討いたします。
  65. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 今お読みになりました政府はすみやかに結核対策を完成され、何月何日までに返せ、これはただ何月何日までというようなことをきめた理由にすぎない。それは契約の内容そのものじゃないでしょう。なぜかというと、あなた方は、まさか結核対策を完成するということを、大阪市長約束するはずはないでしょう。そうでしょう。ですから、結核対策が完成するかしないかということは、関係ないと思う。大阪市長との約束は、昭和三十年の三月までに返すということが約束なので、なぜ大阪がそういう申し入れをしたかというと、とにかく、ただ返されるというわけにもいくまいから、せいぜい結核対策を完成されるように書いておく。そうすれば、厚生省の方も、この通り返さなければならぬ、ついては結核対策の完成のためにかわりの病院を早く作らなければならぬからといって、大蔵省へ行って予算を要求されるときに、何がしかの足しにもなろうという、これは大阪の親切から出ている。その親切をあなたは無にしてしまって、まだ結核対策が完成していないから大阪には返さぬということは、そういうめちゃくちゃなことは私は納得ができない。しかしこの問題については、法律問題としてまず十分に御検討になりまして、もしあなた方のなさり方が非常に不当なようでしたら、われわれとしても、法律の正しい秩序を維持するために、必要ならば議員立法も考えなければならぬ、こう思っておりますから、一つこの問題は、ほんとうにしっかり考えて下さい。そして返すというために考えて下さい。
  66. 滝井義高

    ○滝井委員 ちょっと今の問題に関連してお尋ねします。どうも厚生省は、なかなか固守されているようでありますが、今年の予算の中にも国立病院地方公共団体に払い下げるための予算が、三千万か五千万組まれておると思うのです。一昨年まで、各都道府県が払い下げを受けることをいやがるものを、厚生省は相当強行して——強行してといってはおかしいが、そういうニュアンスをもって地方公共団体に病院を移管してきた実情があるわけです。私は、国立病院というからには、結核病院であろうと普通の病院であろうと、これは意味は同じだろうと思う。わざわざ払い下げるための予算までつけてやっておった厚生省が、自治体警察がなくなったので財政的な余裕ができた、よりよき結核病床なり結核病院を完成しようという熱意のあるものに、それを結核対策の完成を理由にして払い下げないというのは、どうも今まで厚生省のやっておった政策と矛盾する感じがして私は納得がいかぬのです。あなた方は、国が持っておれば結核対策の完成ができて、地方自治体結核病院を持っておれば完成ができないという議論が、もし成り立つとするならば、今後県立病院や、あるいは財団法人や、あるいは社会福祉法人がやることは軽視する建前なのかどうか。もしそうでないとするならば、これは理論的にいっても、当然大阪に持っていっても差しつかえないことになる。日本の医療制度の建前は、私的医療機関と公的医療機関との二本建の制度になっておるというのが現在の建前なんです。そうしますと、大阪市というものはほとんど府県にひとしい、あるいは他の弱小の県よりかもつと大きな、偉大なる力を持っておるものなんです。そういうものがやることについて、異議が出てくるということになって、日本結核対策の完成にじゃまになるというなら、今後厚生省の方針が、そういう県立とか、あるいは国民健康保険の直営の診療所とか結核病院というようなものは認めないという方針であるならば、これまた話は別になりますが、大体そういう方針でいくつもりでの今のような御答弁なのですか。
  67. 曾田長宗

    曾田政委員 滝井先生は、国立施設を一本だというように言われましたが、実は私どもの方針としましては、国立療養所国立病院とは、いささかその点については異なるのであります。もっとも、大きな全部を含めた根本方針ということになりますれば、先ほど申された私立の施設とそれから公的医療機関というふうに、大きく二つに分れると思うのでありますが、具体的に国が預かっております施設としては、できるだけむしろ地方に引き受けられるものは引き受けていただく、その中で特に全国的な意味を持つ施設二十数カ所といべようなものは国が持っていこうということが、その当時立てられたいわゆる国立病院に関する方針であったのであります。その当時におきましても、結核療養所はこれは特殊病床であって、結核対策の推進というようなものと関連もあり、またこれを強力に進めていかなければならぬ必要があるので、この根幹として国も療養所の増設に努める。ただ、国だけでも力が及ばず、一床でも二床でもたくさんあることが望ましいことであるので、都道府県にも努力をしてもらって、これには国から補助を与えるという、結核療養所については、二本建の方針が立てられておったわけであります。さような方針に基いておったのであります。その後、前段に申し上げました国立病院地方移譲というのは、その方針にもかかわらず、地方財政としてはなかなか引き受けられないということで、実質的にはほぼ打ち切りになりまして、三十年度予算に移譲に関係の予算というものが千数百万円組んでございますが、これは予算案の審議のときにも申し上げましたように、あるいは地方から希望のところがあるかもしれぬというような用心の意味でございまして、少しも方針として譲る譲らぬという問題ではなかったことは、御説明申し上げた通りであります。
  68. 滝井義高

    ○滝井委員 そうしますと、全国的に昭和二十二年の当時ですか、二十二ばかりの特殊な病床を持っているものという中に、大阪の今問題になっているものが入っているわけですか、その根幹となるべきものに。
  69. 曾田長宗

    曾田政委員 これは先ほど申し上げましたように、国立病院についての話でございまして、国立療養所は、むしろ国が当時持っておりました療養所を、地方に移譲しないだけではなしに、さらに整備し、必要があれば増設するという方針であったわけであります。
  70. 滝井義高

    ○滝井委員 そうしますと、国が持たなければ、結核の病床の増加もできないし、質的な結核対策の改善もできないという理論は、大阪が持っても、その理論がくずれるということはちっともないわけです。それがくずれるというならば、私たちはあなた方の主張の正しさを認めざるを得ない。これは何も大阪に限ったことでなくして、私は結核対策一般論を、この問題と関連して論議したいのですが、その観点から考えると、あなた方は、国でなければ結核対策というものは質的な改善もできないのだ、ベッドの増床もできないというならば、最初私が申し上げるように、現実に国立療養所もできている、国民健康保険も結核の病床を持っているので、こういうものは一体どうなるのだということです。
  71. 曾田長宗

    曾田政委員 私ども先ほど申し上げましたように、国は当時持っておりましたベッドを譲らず、さらにむしろ増床する、そして地方には、市も含めまして、やはり国の結核病床増設方針というものに協力をしていただく、それには財政的な援助も国からはいたすということで、これは決して相反しているものではございません。ただ単なる管理といいますか、財産、こういうものを国に移したり、国から地方に移したりというようなことは、結核収容施設の実質的な増設というようなことには、いささかも影響がない、おのおの国も地方もそろって、できるだけの力をしぼってベッドを作ろうということが当時の方針で、今日まで参っているのであります。
  72. 滝井義高

    ○滝井委員 だから、実質的に変らなければ、国が持っているものを、大阪市が、今よりももっといいものにしたいというのならば、国の方針にかなうのだから、やってもちっともさしつかえないことになるのです。それで、どこに結核対策の完成上に大きな支障があるかということです。大きな支障があるとすれば、あなた方の方の結核対策行政能力がないところに、大きな支障があるのであって、行政能力があれば、それを地方自治体が持っておろうと、あるいは公共団体が持っておろうと、国が持っておろうと、その結核行政の一元化が貫かれていれば問題ない。結核行政の一元化が貫かれていないところに、あなた方の、地方自治体大阪とか県が持っていれば危惧が起る問題があるのだから、この問題は、日本結核行政の一元化が貫かれていないところに一つの問題があった。そうして、むしろ自己の一元化を貫くことのできないことを顧みずして、他に責任を転嫁しようというところに、この問題の複雑性があるのじゃないかと思う。どうもあなた方の今の御議論は、大橋さんなり中山さんの議論をいろいろ聞いてみても、大阪市がやって結核の対策の完成ができないという理論的な根拠はどこからも出てこない。むしろ大阪が持ったならば、中山さんが言ったように、金が余ってつぎ込むのだと言っている。現在国家予算の中につぎ込む余地がどんどん出てきているかというと、今年はあなた方の結核対策はふやしていないじゃありませんか。昨年よりも、質的には結核対策というものは衰えているのじゃないですか。ベッドは、あんな簡易ベッドになってしまった。正規のベッドができないということは、現在の国の予算が現実に示している。これは理論的にどうしても筋が通ってこない、幾くらあなた方がそこで抗弁されても。しかも、地方自治体で持って日本結核行政の完成のじゃまになるということは、どこからも出てこない。もしじゃまにされるということならば、県や市に結核病院を作ることを禁止しなければならないということになる。どうしても今のことは、結核対策一般論としても納得がいかない、そういうことになる。こう言わざるを得ない。
  73. 曾田長宗

    曾田政委員 ただいま申されました市から行政をただいま預かっているわけでありますが、この当該市におきましても、ベッドを新たに作られたところがございます。それに対しては、国からも御援助を申し上げてベッドをふやしてもらっているのであります。単なる移管ということは、行政能力の欠除ということでおしかりを受けるかもしれませんけれども、実際問題としまして療養所病院等の移管ということは、いろいろな事務的な点におきましても、あるいは病院の運営の面におきましても、非常に能率の低下を来たし、あるいはいろいろな混乱を巻き起すというようなことがございます。しかしながら、その後に期待するものが大きければ、これをあえてすべきであるというように考えるのでありますが、今の場合は、私どもとしましては、国、都道府県、市、みな力をあげてこのベッドの増設、あるいはこれをしかるべく整備していくということに力を注いでいる。決して市が結核ベッドをお作りになりお持ちになるということに対して、私どもはブレーキをかけるというようなことでなしに、むしろこちらから御援助を申し上げたいと考えている次第であります。
  74. 滝井義高

    ○滝井委員 くどいようですが、だから、国も県もあるいは財団法人あたりも、みな力を合せて結核の病床の増加をはかり、結核対策の完成をはかっていくということは当然なんです。だから大阪市が、今ならば第三者の立場で、わずかの予算をあの中に寄付金か何かの形で出すのでしょう。しかし今度は、積極的にみずからやりましょうと言うのだから、現在国が大阪病院に努力しているものをさらに加えてやって、大阪市がさらに積極的に加えるならば、結核対策の完成にさらに役立つではありませんか。今のあなた方の話を聞いていると、何か面子とか結核対策の完成というような名目だけを取って、実質的な結核対策が進んでいないのを感ずるのです。だからこの点は、結核対策を完成する上からも、あなた方の理論は納得できない。納得できないということは、すぐにそうしようという理論にもならぬでしょうけれども、理論的に言っても納得ができぬという感じがしますので、むしろ大阪に払い下げた方が、結核対策の完成に役立つような感じがいたしますから、さよう取り計らう方がよかろうと、個人的な意見を述べておきます。     —————————————
  75. 中村三之丞

    中村委員長 次に、谷口弥三郎君外四名提出優生保護法の一部を改正する法律案議題とし、審査に入ります。まず提案者より趣旨説明を聴取することにいたします。谷口弥三郎君。
  76. 谷口弥三郎

    ○谷口参議院議員 ただいま議題となりました優生保護法の一部を改正する法律案について、提案理由を御説明申し上げます。  昭和二十七年五月第十三国会において優生保護法の一部が改正されまして、受胎調節の実地指導の制度が設けられ、その後現在までに講習を終えた者が約三万六千人、うち約二万八千入が知事の指定を受け、その中の多数の者が、現に実地指導に従事しております。現在のところでは、これらの指導員が、指導に際して受胎調節のために必要な用具の購入を取次、あるいは販売することはできますが、避妊薬の販売は、薬事法の規定により不可能な状態にあります。ところが一方において、実地指導を受ける婦人の心理上の理由等もありまして、それぞれの場合に応じ、適切な避妊薬を自由に購入の取次をし、あるいは販売できるようにすることが、指導を受ける側の婦人にとって便宜であり、さらに実地指導の効果を高めるゆえんでもあります。それには、実地指導に当る者が一方技術的指導を行いつつ、あわせてその指導を受けた人たちの継続して使用すべき用具及び薬品の供給をも行うことができるようにすれば、受胎調節の実行は容易となり、その効果を高めていくことができると考えるのであります。ところが、現在、実地指導員は、用具の販売は自由でありますが、薬品の販売はできないこととなっておるのであります。そこで、販売を許す薬品を受胎調節のために必要な医薬品に限り、また、販売する対象を受胎調節の実地指導を受ける者に限って、実地指導員がその指導の効果を上げるために必要な医薬品の販売ができる道を開こうと考えて、本法案を提出いたしたのでございます。  なお、この措置は、受胎調節実地指導の必要に伴う特例でございますので、暫定的なものと考えまして、当分の間である旨を法文に明記いたし、優生保護法の附則中に規定することといたしました。また、実地指導員が、この受胎調節指導上必要な特例であるという趣旨を逸脱することがないようにするため、検定不合格品を販売したり、指定された薬品以外の薬品を販売したり、実地指導を受ける者以外の者に販売したりした場合には、受胎調節実地指導員の指定の取り消しをもって臨むことといたしてございます。  以上が本法律案提案理由及び内容の概略であります。何とぞ慎重御審議の上、すみやかに御採択相なるようお願い申し上げます。
  77. 中村三之丞

    中村委員長 これにて説明は終りました。  本案に対する質疑その他につきましては、後日に譲ることといたします。  午前中はこの程度とどめ、午後二時半まで休憩いたします。    午後零時五十三分休憩      —————・—————    午後五時四十一分開議
  78. 中村三之丞

    中村委員長 休憩前に引き続きまして会議を再開いたします。  賃金問題について発言の通告がありますので、これを許します。井堀繁雄君。
  79. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私は、最近谷地で賃金未払いで多数の労働者諸君が非常に苦しんでおりまする現状を黙過するに忍びませんので、かかる事態を、法律の精神に基いて一日もすみやかに解決するよう、政府にその善処を要望いたす意味で、二、三の事実についてお尋ねをいたしたいと思います。  その前提になりまする現在未払い賃金がどのような状態にあるかについて、政府の調査の結果をお尋ねいたしたいと思います。私どもの調べたところによりますと、非常な勢いで未払い賃金の件数も増大し、金額も加速度的に増加しておる点を見るのでありますが、ここにあります資料によりますと、本年の五月現在のものでありますが、総件数で七千二百九十二件、その未払いの総額において実に二十三億六千万円をはるかに突破する莫大な金額と相なっております。これを昨年の五月に比較して見ますと、件数において五千二百十七件からこのように増加し、金額においても十九億五千万円程度のものでありましたものが、かように大きな金額を示しておるのであります。このことは労働者生活をささえまする最低の収入と見られまする日本の現在の給与賃金のありさまから、もしそれが未払いに、あるいは遅払いになることになりますならば、当人はもちろん、当人の収入で生計をささえております家族の生計はどうなるかということは、論を待たないことであります。ものの見方でありますけれども、このことは、いろいろな問題に大きな影響を与えるものと思います。勤労によって社会に奉仕し、国の産業に貢献しております者が、当然労働報酬というものが定められた期日に確実に支払われるということが、もしくずれるようなことになりますならば、ひとり労働者生活に脅威を与え、その一家眷属を生活の危機に追い込むというだけではありません。もしこういうことが、政治によって保護を与えられぬようなことになりますならば、それはまさに日本法律秩序の上に、社会の秩序を保持しようということに、私は大きな不安の原因をもたらし、思想的にも大きな悪影響が起ると思います。でありますから、こういう問題については、すみやかに解決しなければならぬことは、申すまでもない重大問題であります。こういう重大問題が、とかく今日大きな陰に隠れて、多数の人が苦しんでおるにもかかわらず、問題にされないということは、非常に残念に思っております。こういう立場から、私どもも共同の責任があるわけであります。こういう立場で、逐次具体的な事実をお尋ねしようと思うのですが、まず第一に全国的に賃金の遅払いや、不払いというものが、どういう状態にあるかということの労働省の調査をお尋ねしたい。
  80. 和田勝美

    ○和田説明員 御説明申し上げます。昨年は、御存じのように非常に賃金不払いが増額いたしまして、秋ごろには約二十億程度の賃金不払いの残額をば月末残しております。それが、政府におきましていろいろとりました賃金の不払い対策、中小企業に対する融資あるいは労働金庫を利用いたします預金部資金の利用、そういうようなことによりまして、昨年の暮れには十四億七千五百万円程度に減って参りました。しかしながら、これは十二月に非常に精力的に今申し上げましたような積極的な面と、各監督機関におきまして、年末でもありますので、極力各監督署が各業者に働きかけました結果、約六億程度の減少を見た次第でございます。しかし、残念ながら一月から以降の各月末におきます残額を申し上げますと、一月が十五億四千三百万、二月が十六億四千万、三月が十六億一千万、四月が十七億一千万、五月が十七億四千万、こういうように少しずつの増加を見ておりますことは、まことに残念でございます。ただいま井堀先生の御指摘のように、賃金は、労働者にとりましてはほとんど唯一の収入でございますので、私どもといたしましては、各監督官を督励いたしまして、賃金不払い事件の解消に当りましては極力監督を厳にいたしまして、実情を見ながら支払い計画等を立てまして、この解消に努力をいたしておるような次第でございます。
  81. 井堀繁雄

    ○井堀委員 今日は労働大臣もしくは次官の出席を求めて、政府政策とこの賃金遅払いについてただしたいと思っておりましたが、まだ次官は来ませんでその前に、今、監督課長からの御答弁で、未払い賃金がだんだん増加しておるということは数字の示すところでありますが、私はこういう原因がどこにあるかということは、当の政府政策に重大な欠陥があるものと考えるのであります。これは後刻お尋ねすることといたしまして、課長にもう一度御答弁をいただきたいと思いますのは、こういう未払い賃金の額がだんだん増加してきておりまする政府政策から来る問題は別にいたしまして、労働省のいわゆる基準監督行政の行政能力と申しますか、そういうものに欠くるところのものがありはせぬかという私は懸念を持っている。こういう点について、一つ正直に、この機会に監督課長のお立場から御答弁いただきたい。たとえば、労働省の予算に対する問題もあるでありましょう。あるいは第一線に働く公務員の質的向上をはかろうとすれば、生活の安定もしくはその質的向上をはかるためのそれぞれの労働条件の保障といったようなものがあって、一がいにできないものもあるでありましょうけれども、そういう欠陥がもしあるとするならば、当然そういうものに対する善処は、急にできなければ、できる機会をとらえて問題処理していかなければならぬとわれわれは思うのです。こういう点について、いつも予算獲得の際にはとかくの議論があるようでありますけれども、現在私ども考えるのに、未払い賃金が増加してきたということは、監督行政の怠慢とは言いませんが、どうも能力の減退を示すものでないか。その原因がそういうところにあるのか、あるいは労働行政に対する政府の方針等にあるのか、こういう点については、事務当局から伺うわけにはいきますまいが、率直に、賃金未払いの問題だけに触れてもけっこうであります、一つ見解を聞きたいと思います。
  82. 和田勝美

    ○和田説明員 賃金未払いの問題につきましては、先ほど申し上げましたように、各監督機関といたしましては、全力をあげてこの解消に努力をいたしております。今、井堀先生の御指摘の予算の獲得の問題監督官の質の向上につきましては、私どもといたしましても、極力努力をいたしております。ただいまのところ、特段にそのために賃金未払い事件が起っておると申しますよりも、賃金未払い事件を把握いたしてみますと、ほんとうにその企業がぎりぎりの段階にまで追い込められておる、しかも司法事件にいたしましても、とても未払いの問題が解消しない。これにつきましては、監督官がいろいろ関係の金融機関その他の機関と連絡をとりまして、できるだけのことをいたしました。そして支払いの計画等を立てまして、その実行が厳正にいくかどうかということについて、各監督官は非常に熱意を持って事に当っておりまして、私どもといたしましては、第一線の監督官が、非常によくこの問題に対しては努力をしていてくれると信じておりますし、そのように実情が上っておりますが、ただ残念ながら、今申し上げましたように、賃金未払いの問題が非常に経済事情を的確に反映するものでありますだけに、単に監督官の監督という能力だけでは、いかにも追いつかない面が多々ある、こういうように私ども考えておる次第でございます。
  83. 井堀繁雄

    ○井堀委員 監督官の監督能力だけをもってしては、今日の賃金未払いのだんだん増大する勢いを阻止することは困難であるという御答弁のようでありますが、非常に重大だと思うのでありまして、これはいずれあとで政府の責任ある入にお尋ねすることにいたしまして、次に一、二具体的なものをお尋ねしようと思います。  それは賃金の未払いによって、労働者が非常な苦境に追い込まれている例は、枚挙にいとまがありませんが、これは一つの生きた事例であります。土建関係の労働者で、場所は秩父の奥地の県道の工事に従事している土建労働者の三十人近くの人々ですが、この人々が長期にわたって賃金が支払われないために、食べることにも困って飢餓に陥って、とうとう山を下ってきた。そうして、それがはからずも山を下って秩父市の秩父神社の境内に籠城をして飢餓をのがれるための運動を起したことが当時新聞に伝えられ、それから基準監督署及び地区の労働団体などが立ち上って、問題を取り上げているわけでありますが、私もこのことについては、現地において多少調査をいたしたのであります。また出先の報告も聞いておりますが、まず労働省は、このことについてどういうふうに報告を受けておいでになるか、またどういうふうに事実をごらんになっているかを簡単でけっこうでありますから、要領を御説明願いたい。
  84. 和田勝美

    ○和田説明員 ただいま御指摘になりましたのは、埼玉県秩父郡大滝村におきます県道の開さく工事に伴います問題かと存じます。これは県からこの工事を請け負いましたのは斎藤組という組でございます。この斎藤組の下に働くものとして宮崎班という——これは宮崎という人が責任者でございますが、この斎藤組に言わせますれば、宮崎何がしに下請をさせた、こういうような言い方をしておりますし、宮崎何がしは、下請でなくて、斎藤組の世話人として働いているというようなことでございますが、いずれにいたしましても、宮崎某が責任を持っております工事において、この問題が出ておるように私聞いております。宮崎がこの仕事を始めましたのは、昨年の十二月からでございまして、その後工事が順調に進みませんことと、飯場の火事等がございましたり、あるいは斎藤からの金の支払いの遅延というようなことによりまして、本年の三月から六月までの間におきまして、約三十入の労働者に対しまして四十久万余りの遅払いが出ております。これに端を発しまして、そこに働いておりました二十五人の労働者の方々が、これでは食っていけないということで、他の組に変るために山をおりましたところ、行き違いがございまして他の組に働けない、そのためにこの四十八万の遅払いを払えということで山に立てこもった、こういうような事情になっているようでございます。私どもの方の地元の秩父監督署においてこれを調査いたしました結果、不払い賃金としまして四十八万九千円余りのものがあることが把握されましたので、この使用者の問題がまず問題でございます。しかし、私のただいま手元に持っております報告書によりますと、地元の監督署におきましては、一応、斎藤組は使用者でなく、宮崎班の責任者である宮崎何がしが使用者であるということでございます。しかし、この宮崎何がしは、別に資産もないような状態でございますので、ただいま直ちにこの四十八万九千円を宮崎に支払うことを求めましても、ほんど支払い不可能でございますので、実効ある措置といたしまして、現地の公共職業安定所、土木公営所、私ども監督署と相協力いたしまして、他に職をあっせんすることに努力をいたしまして、本日から、二十五名のうち十五名が大林組の方に働き、他の三名はその他に就職いたしまして、残余の者につきましては、それぞれ一応仕事についているように報告を受けております。
  85. 井堀繁雄

    ○井堀委員 大体荒筋を伺いましたが、各社の新聞は、その地方版でかなり詳しく報道しております。その新聞記事によりますと、最近出先の秩父の労働基準監督署長から、賃金未払い問題に対して判定が下されておるようでありますが、その判定について、労働者側は一切その判定が不当であると称し、またその地区の労働団体あるいは労働基準審議委員、労働委員などが、この監督署の判定に対して、それぞれ異議を唱えておるのでありますが、一体この判定について、労働省は妥当なものとお考えであるかどうか、伺っておきます。
  86. 和田勝美

    ○和田説明員 私どもがただいま受け取っております報告によりますと、一応こういうことになっております。もし事実が相違しておるようでございますれば、さらに地元に再調査をさせたいと存じております。  労働者の採用の決定、賃金の決定、それから現場におきまする労働者の指揮監督、賃金の支払い、こういうことが、地元の埼玉の局の調査によりますと、宮崎自身の手によって行われておる、こういうことでございます。この点につきましては、ただいま井堀先生の御指摘のように、労働者側が当初宮崎何がしが使用者であることに疑義を持ち、斎藤組が使用者であるというように考えておったようでございますが、二十三日、先週の土曜日でございますが、十一時に労働者側の代表二名と宮崎とを呼びまして、局として説明をいたしましたところ、労働者側の代表の二名の方は、宮崎が使用者であることについて納得をされたようでありますが、宮崎個人といたしましては、その点についてなお不満を表明をしておる、こういう報告を受けております。
  87. 井堀繁雄

    ○井堀委員 そこで、多少新聞と今の課長の答弁とは異なるようでありますし、また現地の労働者並びに労働団体及び基準審議委員や労働委員の報告とは大へん違っておるようであります。それはとにかくとして、ここで私は、今後の問題にいかにも影響が甚大だと思いますから、ただしておきたいと思いますが、この種の土建関係の労働者は、どうも雇用関係の問題について、とかく今までも問題を起してきているのです。それは、この前労災保険の審議の際、基準局長に私はきつく御注意を申し上げたつもりであります。これがすぐにここに露呈してきているわけであります。土建関係の元請と下請の関係について、私はここで法律の範囲内において、まずお尋ねをいたしたい。本日ちょうどいい例がありますから聞きますが、宮崎班と斎藤組とある。この事実はどういうように報告を取っておるか知りませんが、斎藤組というのが県から請負工事をしておるわけであります。もちろん宮崎は、その下に使われている飯場の班長である。もちろん宮崎は、土建業法による請負業としての資格はない、資格があるのは斎藤組なんだ。県もこの点、斎藤組と契約を結んでおることは間違いない。そこで問題になるのは、請負資格のない人が労働者を雇用するということについて、二つの法律が私はひっかかってくると思う。一つは、基準法関係では、たしか六条の規定があると思う。職安の方の関係からいえば、むろん全面的に——中間搾取排除の法律の精神からいえば、こういうようなものが請負業者として、しかも三十人の多数の労働者を雇用するというようなことから、もうすでにその人が四十八万というような莫大な未払い賃金を起しておる。その下に働いている労働者は、飢えに泣いている。大きな社会問題を起している。私は、これは法律の限られた範囲内に問題を限定してみても、重大な手落ちが労働省にあるのではないか、こういう判断を下しておるわけです。そこで一つ一つ伺いますが、私もよくは知らなかったのでありますが、今日建設業法を調べてみますと、請負資格については、きびしい条件が付加されておる。もちろんこの建設業法の目的は、労働者保護が目的ではありますまい、建設業法に規定しておるように、建設業の健全な発展に資するのが目的でありますけれども、同時に、これは労働の問題と非常に深いつながりがあることは、私は非常に意義深くこれを見ました。この資格がないことは、もうきわめて明白です。今いう建設業法による無資格者で多数の人を雇用するという場合に、基準法にいう中問搾取の問題との関連はどうなんですか、この点に対する見解を一つお伺いしておきます。
  88. 和田勝美

    ○和田説明員 建設業法によりますと、土木建築業をやらせますためには、一定の資格がありまして、登録されておることが要件のように承知いたしております。この斎藤組というのは、それに適応しておりますが、ただいま問題になっております宮崎何がしは、確かに御説の通り登録をいたしておりませんので、それが下請をやります限りにおいては、建設業法の違反の性資を持っておることは、下請ということにはっきりいたしますれば、これは建設業法違反の問題が出てくると思います。私どもの方で受け取っております報告に関する限りにおきましては、土木公営所の所長の方におきましても、斎藤組から宮崎に下請をしておるということについては、あまりよく承知をしていないようでございます。従いまして、公営所との関係におきましては、一応その点についてはっきりいたしませんが、斎藤と宮崎とを突き合せてみました結果、一応こういうようなことを報告として受けております。下請の問題につきましては、別に文書によって決定をしておりません。ただ食糧と機械、火薬類、燃料というようなものは斎藤の方が提供する、労務費としては二百万前後で請負ってくれないか。これに対して宮崎の方は、いや三百万ぐらいはかかる、こういう程度の話し合いがあっただけでありまして、明確な合意が二人の間になされておるという事実は、ただいままでのところはっきりいたしておりません。しかし、先ほど申し上げましたように、宮崎が労働者との関係におきまして、一応みずからの責任があるように報告をうけておりますが、もし宮崎が下請をいたしまして、みずから事業をやっておるといたしますと、基準法の六条の中間搾取の問題は出てこないのではないか、こういうように私ども考えております。
  89. 井堀繁雄

    ○井堀委員 それではお尋ねしますが、基準法の八十九条の就業規則の義務規定は、この場合は適用されないのかどうか、この点ちょっとお伺いします。
  90. 和田勝美

    ○和田説明員 これは大体常時十人以上を使っておるように承知いたしておりますので、宮崎がやるといたしますと、この点八十九条違反は成立いたします。
  91. 井堀繁雄

    ○井堀委員 職安局長にお尋ねいたしますが、今明らかになりましたように、就業規則の八十九条の規定による手続がしてないことは明らかです。常時十人以上三十人使っている。それからさっき監督課長は、法六条の中間搾取の問題については抵触しないとおっしゃられた。抵触するかしないかは、職安局長の御答弁で明らかになってくると思いますが、要するに土建の場合においては、そういう無資格者が職業紹介の類似行為もしくは直接自分が雇用するという場合に、一体雇い主としての資格のない、条件を備えていない者が人を雇用するときに、安定所はこういう者に対する監督といいますか、違反に類するような行為があると思うのでありますが、こういうものに対する何か御調査なり——こういう問題が起ってからでけっこうでありますが、現地からこの問題について何か報告がありましたか。
  92. 江下孝

    ○江下政府委員 本件につきましては、かりに宮崎何がしなる者が一応請負主として人を使ったということに仮定して考えますと、その労働者をどういう方法で集めたかという点が問題になると思います。職安法の関係では、さようになると思う。そこで、私どもとしましては、どういう方法で集めたかということを調べているのでありますが、今のところ、いろいろな事態がこんがらがりまして、正確にどういう経路で募集したかということが、明らかになっていないのでございます。一応私の聞いておりますのは、一部については、他の組の飯場におります者を連れてきた、こういうことであります。他の一部については、宮崎の本籍である群馬県から連れてきた。しかし、それがどういう方法で集めてきたのか、よくわからない。あるいは、こういうことも言っているようでございます。何か秩父で工事が始まるというので、全国的に募集か何かして、それによってあっちこっちから労働者が集まってきた。その集まってきた労働者の中から、宮崎が何人かを採用した、こういうように聞いたのです。そこで、どうもそれだけのことでは、果して宮崎が人を使っているということが、職業安定法上違反であるかどうかということについては、はっきりとまだお話ができないというのが実情でございます。
  93. 井堀繁雄

    ○井堀委員 まだ事実について不明確な点があるようでありますから、直ちに法に照らしてどうということは、今すぐ御答弁を求めることは無理だと思いますが、私はここで一点お尋ねいたしたいと思います。今までのところでお互いに明らかになりましたことは、三十人の人に未払い賃金四十八万円ということについても明らかになり、それが現在もらえていない、このことはきわめて明確であります。それから雇い主が、実に今出先の署では宮崎を雇い主と一応判定をしたようであります。しかし実質は斎藤組であるということも、今の局長の話でわかるけれども、現在は埼玉県の直轄工事ですから、県知事は職業安定法に基いて委任事務を受けている、いわば安定所の公務員の監督者、指揮者でありますから、この点では、両方にそれぞれの立場を代表するわけでありますが、県の事業をやるのに、当然建設業法の登録された資格者を、入札の際対象とすることは間違いない。そうしてやっている。ところが、実際三十人も多数の労働者を雇用するような大がかりな請負を、もし一方で認めたということになると、これはきわめて重大だと思う。これはどっちにしても、地方庁としては責任はどっちかにかかってくると思うのです。しかしその点より、私がここで労働省に明確な態度を一つ伺っておきたいことは、一人々々の賃金を聞きますと、まことに気の毒な低い賃金。それが今まで払われなかったので、その間実はまことに涙なくしては聞けない山の暮しをしてきている。どうにもならぬので山を下ってきたことは事実です。しかも行くところがなくして野宿している。人の情で、いろいろ食糧をあてがわれたり、雨露をしのぐに、わらや何かもらっているというような状態で、今日は多少寄付金も集まって、何とか一日二日前に他に転職したという報告を受けているのでありますが、しかし、こういうわけで、全くこの労働者基準法の保護を受けていないという証拠は、きわめて歴然たるものである。こういうように、未払い賃金の一つ一つを取り上げていくと、一体基準法にいう賃金の保障なんというものがどこにあるか。この点に対して、監督署がどっかほかへあっせんすれば、四十八万円の金がどっちかわからぬ。もし出先の安定所の説をそのまま承認するとすれば、四十八万円は取れませんよ。宮崎は支払う能力はありません、一労働者です。すると、この三十名の労働者は、その未払い賃金を一体どうして確保するでしょう。それでは泣き寝入りしなければならぬということを、この法律はこの場合は見送ってしまう結果になる、きわめて重大だと思う。この見解に対して、多少これは政治的な意味もあると思いますけれども、中央の監督課長としては、重大な責任問題があると私は思う。もう起きてから、かなり長い間になるのでありますから、ほんとういえば、現地にすぐ飛び出していって事実を調べて、答弁がいつでもできるようにしなければならぬ大きな問題だと私は思う。まずこの点に対する監督課長の所見を伺っておきましょう。
  94. 和田勝美

    ○和田説明員 ただいま先生の御指摘のありましたように非常に事柄は重大なことと存じております。地元の埼玉の局といたしましても、秩父の監督署がございますが、局みずから監督課長以下出かけまして、実態の究明をいたしまして、極力未払い賃金が支払われるように、現在もなお努力を重ねております。ただいまのところ、ここに直ちに四十八万円余りのものをば、もし地元の局が言いますように宮崎が使用者であるといたしますれば、私どもの受けております報告によりますと、今直ちには支払いが不能のようでございますが、斎藤組との間におきます金銭の受授について、相当意見が分れているように聞いております。その額は、斎藤組で言いますよりも、宮崎が受け取ったと言っております額は非常に少いのでございまして、この点の事実をばさらに明らかにいたしまして、斎藤組からの支払いを促進をして、その金を直ちに、まだ現地におりまして大林組の方にも働いておりますので、それに支払いをするように、こういう努力を現地においてただいまも行なっている次第でございますが、監督署といたしましては、さしあたり、とにかくどっかに働かなければ大へんだということで、さいぜん申し上げましたように、公共職業安定所の方の非常に熱心な努力によりまして、一応ただいまのところ就職し働いている。あとの問題については、今申しましたようなその間の事実を極力はっきりいたしまして、斎藤組からの支払いを推進をして賃金の未払いに充てる、こういうことで努力を重ねて参りたいと存じております。
  95. 井堀繁雄

    ○井堀委員 そこで問題は、出先の決定についてとやかく言うのではありません。しかしこの判定は、確かに軽卒であうたと私は断ぜざるを得ない。なぜかというと、実質的に一体だれが雇い主であるかということを明確にすることが非常に重要だと思う。軽々しく班長に雇い主としての責任を決定するということは、これから調査しなければわからぬでありましょう。明らかになっている点は、先ほど来繰り返しておりますように、請負資格のない者、斎藤に県は請け負わせておる。これは明らかです。こういうことを調査しないで判定をしたものであると、私は想像するのであります。しかし、できたことは仕方がないとして、一応これは労働省の監督課長みずから出席されればなおいいし、できなければ、しかるべき責任者を現地に送って——もちろん県の当局に対して請負契約の実態を明らかにし、請負者がそうであるとするならば、さらにまた一体宮崎班が支払い能力のある実質を備えておるかどうかということを調査することが私は必要だと思う。それは支払い能力があってということになると、中間搾取の問題になってきますから、これは職安の関係になると思うのであります。しかし、ここの場合の未払い賃金は——基準法の中では、賃金は通貨をもって、定められた日に労働者に直接入るように最善を尽すことが、私はこの法の基本的精神だと思う。形式よりも実質を尊重しなければならぬ。法の精神が、出先はわからぬかもしれない。労働省は、そのことを少くとも指導する立場にあると私は思う。こういう立場にある労働省の基準監督局としては、直ちにこの問題の解決のために措置をとることを要望いたしますと同時に、その結果を、この委員会でぜひ御報告できるように、会期中に適当にその機会をお与え下さるように、委員長にも希望しておきます。  それから安定局長にいま一つお尋ねをし、希望しておきたいと思いますが、これは今までの質疑応答の間に明らかにされておりますように、今度は他にあっせんされておりますから、このあっせんされた経路から申しましても、とかく下請、又請というような関係で、土建関係における雇用の状態というものは不安定である。でありますから、このことが大きな原因になって、当然得られる賃金が、ここに得られないという基準法上の問題が起ってきておるわけであります。私は、今日の安定行政の中で一番重要なことは、いつも言っているように、今日民間のあっせん業者を排除しておるということは、人身売買という人権の基本的な保護を建前としておる憲法の精神を受けて立った立法であることは言うまでもない。そういう趣旨からいいますならば、当然職業あっせんについては、もう少し実態に触れた職業あっせんが行われてこなければいけない。特に土建のように、飯場から飯場を渡り歩く親請、下請、さらに又請といったような、こういうボスの介在を今日一番多く伝統の中に持つ土建関係の事業場における労働者の保護について、安定行政の中に一つの方針をやはり打ち立てる必要があると私は思う。私は、法の精神を生かすためには、そういうところに最善の注意を払うべきだと思う。先般ここで労災保険の改正の際に、私は触れておいた。これは物事をばらばらに考えてはいけない、労働行政は総合的にものを判断していかなければならない。こういう立場からいいますと、まことに遺憾しごくだと思う。これらの労働者にとりましては、基準法も安定法も絵にかいたぼたもちだ。要は、りっぱな法律がありましても、その運営を誤まりますと、こういう結果になるのであって、その結果をもって論ずるならば、現在の労働行政は、全くから回りをしておる、賃金未払いがこんなに多いということは、私はやはりこういうものに大きな原因があると思う。労働大臣がお見えになりませんので、他日この事実を土台にして労働行政に対するもっと真剣な態度で労働者の保護に当ってもらうように要望するつもりでおりますが、特に第一線の公務員を監督指導される監督課長、職安局長においては、この種の生きた事実を十分検討されまして、こういう事態が解消できるように、今後こういうものは再び発生しないような手段をおとりいただきたい。またそのために、この問題に対して深い分析をされて、それに対する正しい報告を願いたいと思っております。こういうものに対して、一体局長はどういうお考えを持っておるか、伺っておきたい。
  96. 江下孝

    ○江下政府委員 賃金遅配問題が中心でございますが、職安法の関係におきましても、正しい雇用が行われ、正しく賃金がもらえるということが、もちろん望ましいことでございます。これはもちろん安定法の運用、あるいは基準法の運用もそうでございますが、運用といたしましても、できるだけ労働者の保護に欠けることのないように、将来私も努めて参りたいと思います。本件につきましては、なお実情をよく調べまして、安定法上の問題で、もし問題がございますれば、善処をいたします。
  97. 井堀繁雄

    ○井堀委員 以上で私の質問を終りたいと思うのでありますが、最後に一言労働省に要望しておきたいと思います。  それは、先ほどだんだん明らかにされましたように、最近未払い賃金の問題にいたしましても、職業安定上の問題にいたしましても、失業保険の取扱いにいたしましても、どうも末端においては、労働者の非常な不平が多くなってきておる。それは単なる不平でなく、こういう事実を通じて、私どもはその不平がいかに根拠のあるものであるかを、幾つとなく例を知っておるのであります。ぜひ私は、こういう不幸なできごとでありましても、このできごとを抜本的に解決なさるために努力をされると同時に、事実を正確に把握するためにも、出先だけではなくして、ことに基準監督署については、何回も私が前の労働委員会以来御注意を申し上げておるのでありますから、非常に大きな権限を付与されておりまする監督官、あるいはその下に働いております基準局及び監督署の人々が、経営者側との間に緊密な提携を保つことはいいと思うのであります。しかし、経済的な支援を受けたり、あるいは社交上の範囲を越えた深い関係を結んでおる事例を、われわれは絶えず見せつけられておる。一つには、予算の関係から見て、基準監督行政を円滑に運用しようとすれば、たとえば自動車が足りないとか、あるいは署の建物を補修するためにも予算がないというようなこと等もあって、財政的援助を公然と受けておる。その受け方は、もちろんいろいろ別な名前を付した団体を作っておりますけれども、その団体の幹事役をしておるのはみな署長なんです。これは与える方が、何も反対給付を期待して出しておるとは、私は決して思わないのでありますが、そこは人情の弱さで、こういうところで監督行政も悪影響がある、これを改めるようにと何回か警告をしておるのでありますが、容易に改めることができないわけであります。根深いようでありますが、こういう問題もこの際よく検討してほしい。特に斎藤組と秩父署の関係について、直接行ってごらんなさい、斎藤組がどんな権力者、権威者であるかということは、行ってみるとよくわかる。これも労働団体がなかったら、これは新聞の問題にもならなかったでしょう、やみからやみに葬られたでしょう。秩父地区の労働組合が立ち上ったから、世論にもなり、また私どもが知ることにもなったわけであります。今日の土建業者の労働者に対する封建的な地位というものは、驚くべきものであります。こういうような今日の基準行政の地方における、私は腐敗、堕落という言葉は強過ぎると思いますが、まあ非常な麻痺した状態を残念に思うわけであります。私も地方の署の外郭団体の顧問に推挙されて受けております。年二回行われる会には、なかなか山海の珍味をもって迎えてくれるのであります。署員を慰労することも、非常にけっこうなことでありますけれども、そういうことによって意思が砕けるとは私は思いません、それほど軽べつはしておりません。しかし数重なりますと——そういう点で適当な措置をとられることをこの機会に御注意申し上げておきます。特に土建関係のボスに対しては、地方の署は弱いのですから、そこで私は監督局が地方にあるのだと思うのでありますが、この局がまた私が電話をかけてから実態調査にあわてて出かけていった。国会で質問するからということで、驚いて監督局長が飛び出した。予算の関係もあるが、こういうことについては、私は大胆に予算を要求すべきだと思う。私どもは、大いにそういう点は代弁します。足らない面も、そういうものもあるわけでありますから、この問題は、私はただ単に偶然なものではないと思います。安定行政については、さっきお話がありましたが、私は安定所には、非常に大きな期待をかけておるのでありますけれども、これは基準監督行政とは異なった意味で、私は出先の人々がこの精神をどれだけ正確に把握しておるかに疑いを持っておる。特殊の者は非常に熱心に法の精神に即して、公務員としての規定をはるかに乗り越えた犠牲的な努力をしておる点を、私どもはよく知っております。しかし一番大事な指揮に当っております上級公務員の態度は、私は好ましくないと思うのであります。それは局長が答弁されたように、この法の精神は、労働者の一番弱いところを助けていこうということであります。仕事のない者は、仕事を求めようとしている。しかも、労働者以外にはなかなか容易にできない。のみならず、この法規はただ仕事口を与えればいいのではなくて、仕事を与えるということは、結局生活保障なんですから、生活保障のできる労働条件がついて回らなければならぬわけでありますが、労働条件のことについては、今日の労働法規はから回りをしておると思う。だから、こんな問題が起ってくる。就職あっせんをし、そのあっせん先で、その労働者生活が保障されるかどうかという労働条件についてまでお世話する法の精神でありますけれども、そういうものはとっくに忘れられて、仕事を世話しさえすればそれでいい。それだって、現在かけずり回って、その雇い主まで訪問しなければ開拓できないという現状は、私は認めます。こういう意味で、法律の精神というものはとっくに麻痺しているということを、局長は十分肝に銘じて、もっと法律の精神を十分徹底させて、労働者の当然の権利が正しく保護されるように御努力下さるように要望いたしまして、私の質問を終りたいと思います。
  98. 中村三之丞

    中村委員長 次会は明二十六日午前十時より理事会、午前十時三十分より委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後六時三十五分散会