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1955-06-24 第22回国会 衆議院 社会労働委員会 第28号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年六月二十四日(金曜日)     午前十一時二分開議  出席委員    委員長 中村三之丞君    理事 大石 武一君 理事 松岡 松平君    理事 大橋 武夫君 理事 山下 春江君    理事 山花 秀雄君       植村 武一君    臼井 莊一君       亀山 孝一君    草野一郎平君       小島 徹三君    床次 徳二君       山本 利壽君    横井 太郎君       倉石 忠雄君    小林  郁君       高橋  等君    中山 マサ君       永山 忠則君    野澤 清人君       岡本 隆一君    滝井 義高君       長谷川 保君    八木 一男君       横錢 重吉君    受田 新吉君       中原 健次君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 川崎 秀二君  出席政府委員         厚生事務官         (保険局長)  久下 勝次君  委員外出席者         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君         専  門  員 浜口金一郎君         専  門  員 山本 正世君     —————————————  六月二十三日  委員滝井義高辞任につき、その補欠として福  昌子君が議長指名委員に選任された。  同月二十四日  委員加藤鐐五郎君及び福田昌子辞任につき、  その補欠として永山忠則  君及び滝井義高君が議長指名委員に選任さ  れた。     ————————————— 本日の会議に付した案件  健康保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一〇二号)  健康保険法等の一部を改正する法律案岡良一  君外十一名提出衆法第五号)  厚生年金保険法の一部を改正する法率案内閣  提出第一〇四号)  船員保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一〇五号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (内閣提出第一〇三号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (八木一男君外十四名提出衆法第一七号)  国民健康保険法の一部を改正する法律案山下  春江君外五十四名提出衆法第一五号)  国民健康保険法の一部を改正する法律案木崎  茂男提出衆法第一六号)     —————————————
  2. 中村三之丞

    中村委員長 これより会議を開きます。  まず内閣提出健康保険法の一部を改正する法律案岡良一君外十一名提出健康保険法等の一部を改正する法律案厚生年金保険法の一部を改正する法律案船員保険法の一部を改正する法律案内閣提出日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案八木一男君外十四名提出日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案山下春江君外五十四名提出国民健康保険法の一部を改正する法律案及び木崎茂男提出国民健康保険法の一部を改正する法律案、以上八法案を一括して議題となし、質疑を継続いたします。横錢重吉君。
  3. 横錢重吉

    横錢委員 健康保険法改正並びに国民健康保険法改正について、大臣に要点について御質問をいたしたいと思います。  民主党の公約であるところの社会保障強化ということは、当然健康保険法改正あるいは国民健康保険法改正に当っても、これが打ち出されなければならないものと私ども承知をしておるのでありますが、この改正案をめぐりまして、社会保障強化するという精神が出ておるのかどうか。たとえたならば、千分の六十であったものを千分の六十五に引き上げるという考え方は、自由党内閣時代よりも〇・五%だけ社会保障健康保険の面において後退したと見るべきではないか、かように考えるのであるけれども、この点に関してどう考えておられるか、第一としてお伺いいたします。
  4. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健保の料率引き上げは、社会保障後退ではないかという御質問だったと思います。これは健康保険財政全般対策といたしまして考えなければならないことでありまして、確かにこれは国が何らの負担もせず、あるいはその他にかわる措置もいたしませんときに行いましたことならば、ただいま横錢さんの御質問通り、私は社会保障制度後退であると思います。しかしながら、健康保険財政は、御承知のごとく本年度におきまして六十億の赤字が見込まれ、昨年度におきまして四十一億の赤字を出したのでありますから、まずこの財政の危機を食いとめるということが、われわれとしてとらなければならぬ対策であり、そのマイナスをカバーするということは、決して社会保障後退さすことのゆえんにはたらないと思うのであります。従って、最近における医療費増大から来たところの健康保険財政の収支の均衡をとるための措置といたしまして、国が責任を負りた以上は、一方被保険者においても責任を負うという建前でこの措置をとりましたのでありますから、従って全体として見ますれば、保険財政を充実したという建前が貫かれて、決して社会保障制度後退だとは考えておらないのであります。
  5. 横錢重吉

    横錢委員 今の料率引き上げは、赤字が出てきたがために、その対応策として出したものであるから、社会保障後退ではない、かような考え方でございますが、それならば、この赤字の出てきた原因については、一体どういうふうに見ておられるか。例をあげますならば、赤字の大きな原因であるところの薬の値段、これについては一体どういうように見ておられるのか。今日の健康保険に提供されている薬の値段には、相当多数の利潤というものが含まれているのであるが、この薬の値段についての調整はどういうように考え、かつ行われたのであるか、この点について伺いたい。
  6. 川崎秀二

    川崎国務大臣 今回の健康保険赤字原因を、端的に申し上げるならば、これは医療給付費が非常に増大をいたしまして、保険料収入とのアンバランスを生じたことが第一の原因だと思っております。すなわち、現代の医学が次第に進歩をいたしまして、そのかわり新たなる医薬品が次々に現われて参りまして、疾病保険における医療費増大世界的情勢となってきておりまして、このことが今日のおもなる原因であると思います。もとより、昨年行われました各般の、たとえば健康保険の充実のための施策として行われた給付期間延長、あるいは抗生物質の採用であるとか、点数引き上げども、おもなる原因であるとは思いますけれども、たびたびお答えをいたしておりまする通り医療費増大原因になったということは指摘せざるを得ないのであります。これに対しましては、なるべく薬価を下げることにつきまして、従来厚生省としても格段の措置を講じておりまして、現にこれが低下をいたしておるところのものも現われております。しかし、これらはすべて医療費体系というものを整備しなければならず、現在点数の問題につきましても、また新医療費体系につきましても、医薬審議会その他の審議会を通じましてこれが合理的な解決に当ろうといたしておる次第でございます。
  7. 横錢重吉

    横錢委員 不正受給と乱診が相当多く赤字を出している原因になっておると見ているのでありますが、この不正受給と乱診については、当局としてはどの程度考えておられるのか、かつまた、こういうような不正受給や乱診が今日たくさん出てきておるその原因については、どう考えられておるのか、さらにあわせて、開業医健康保険あるいは社会保険費依存度というものは、戦前におけるものと戦後におけるものとは、相当数変化を遂げておると思うのでありますが、一体どの程度、今日においては開業医社会保険費に依存しているか、これについてのお考えはどうですか。
  8. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいま、今回赤字一つ原因である不正受診あるいはこれと同様な行為に対しては、どういうふうに見ておるかというお話でありましたが、私どもは、赤字原因については、第一は、先ほど申し上げましたように、医療費増大だと思うのでありまして、医療費増大ということの要素をさらに分析をいたしてみますと、第一には、やはり医療を求める機会が多くなっておる。機会が多くなっておるというのは、それだけ病人がふえたということではなくして、私の所見ではありますけれども早期治療に対して国民の自覚が高まったことが、第一の原因であろうと考えるのであります。そのようなことから医療費増大をいたして参りまして、このような赤字になったと思います。このことは、すなわち昭和二十八年度におきまして、健康保険財政が全体において三百二、三十億であったものが、翌年度には四百四、五十億になり、本年度は五百三十億と、ここ二、三年の経緯は百億ぐらいずつふえておるということを見ましても、その他の諸種の統計を見ましてもこれが打ち出されるのであります。従って、巷間言われておる乱給あるいは漏給というものにつきましては、そのウエートほどは見ておりませんけれども、一部においては、こういう健康保険制度の持つ特色を利用して、あるいは欠陥ともいえるものをも利用いたしまして、不正受診、あるいは患者と相談して不正なる保険医の一部の動きがあるということも、これは否定ができないのであります。これにつきましては、数字もございますので申し上げます。不正受診、ないしこれに類する行為をなして指定取り消しをせられたるものは、昭和二十五年度において百一人、昭和二十六年度において九十二人、昭和二十七年度において七十二人というような数字を示しておりまして、昭和二十九年度にはさらに百七人と増加を示しておるのであります。また注意などの数字を加えますと、戒告においては、昭和二十九年度一般が二百四十五人、歯科において五十九人というような数字を出し、あるいは注意においては、一般のお医者さんが百五十七人、歯科医が、七十一人、保険におけるところの返還を命ぜられたものが一千八百十件、返還金額は百五十七万六千円というような数字を示しておりまして、部分的には相当な弊害が出ておるということも、注目をしなければなりません。  しかし、大局から見ますと、これが赤字原因の一部ではありますけれども、大部分でないということが指摘できるのでありまして、われわれは保険医監査ということを厳重にし、漏給洩給ということに対しては、一そう取締りをしなければなりませんけれども、しかし、そのことのために、社会保障というものが後退するようなことはなるべく避けたいと考えておる次第であります。もとより、こういうようなことが起りました原因につきましては、保険医生活の問題もありましょうし、また生活の問題を離れて、やはり保険医自身の性格や、あるいは保険医自身の行動というものが、世上の期待に反して行われたということもあると思います。こういうふうにお答えする以外にないと考えておる次第であります。
  9. 横錢重吉

    横錢委員 今の不正受給あるいは乱診という問題は、これを根絶しなければ、健康保険としての正しい姿になってこない、こういう面から聞いておるのであります。そこで今日、単価の問題あるいは健康保険の診療に対する給付の問題、これらが適正を欠いておるのではないか、今日の価格は、戦前価格に対して、一般物価に比較をして上昇しておらない、こういうところに問題が出て、そのところから不正受給であり、あるいは乱診である、こういうようなものが現われてきているのではないか。それからまた、さらに今日の健康保険の運営としては支払い基金制度を持っているけれども、この支払いがおくれにおくれておる。今日三カ月以上もおくれて、これが来ないために、開業医においては生活に支障を来たしておる、こういうような状況が、ただいまの不正受給であり、乱診であるというところの結果をもたらしておるのでありますが、こういうような点についての考え方、あるいは改正方法について考えておられるかどうか、お伺いいたします。
  10. 川崎秀二

    川崎国務大臣 新医療費体系点数の問題につきましては、かねて来、各方面要望もあり、厚生省といたしましても、すでに審議機関を設けまして鋭意これに解決具体的提示を待っておる次第であります。その時期は大体今秋、おそくとも九月末までには、何らかの結論が出るものと期待をいたし、ことに国会がただいままで予算案審議を中心にして非常に多忙な関係もありますが、私自身これらの問題の解決に当りまして、もう少し早く結論を出してもらいたいということを申し入れいたそうと思っておりますし、ただいまの御質問趣旨を体しまして、解決に努力をいたしたいと考えておる次第であります。  なお後段に御質問支払い基金の問題でありますが、これは昨年の十一月並びに十二月におきましては、やや支払いがおくれておった。ことに、御指摘のように一カ月以上二カ月、三カ月おくれたというようなことも間々あったのでありますが、最近は順調を取り戻しまして、今日はさしておくれずに支払いを続けておるような次第でありますから、御了承願いたいと思うのであります。
  11. 横錢重吉

    横錢委員 それでは次に、健康保険として、これを強化し、その目的を達成しようとしますならば——今日の健康保険の中には、幾つかの欠陥がある。その欠陥一つとしては、今日の健康保険等は、短期の療養には役立つけれども長期の療養には役立たない。長いものであっても、三年までしか療養給付を行わないのであります。こういう改正の時期に当っては、今日結核等が三年でなおることができない事情については、よくわかっているのであるから、改正するとしたならば、当然期間延長についても考えるべきではないかと思いますが、この点についてはどうでございましょうか。
  12. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健康保険の将来の強化策につきましては、一般的に申せば、どうしても医療給付費に対する国庫負担を低率化していきたいという考え方を私は持っておるのであります。さらに、その他諸種原因考えますると、料率引き上げだけでなく、健康保険自体において解決すべき問題も、これからは出てくるのではないかというふうに大体のことを考えております。そこで、給付期間延長でありますが、一昨年の末に、国会におきまして給付期間延長を御決議いただいたばかりでありまして、今日のところ、直ちに給付期間延長する。たとえば、肺結核関係は三カ年ということになっておりますけれども、大体三年ということは、一つの病に対する治癒のめどをつけ得る期間でありますから、それから後は年金によって処理する以外に方法はないと今日は考えておりますけれども、なお、これらの問題につきましては、将来、結核に対しては特に給付期間延長せよという声が一般に高まって、世論となってきますれば、われわれとして十分考慮しなければならぬとは考えております。
  13. 横錢重吉

    横錢委員 もう一つ伺いますが、今日の国民健康保険施行は、任意施行であって強制施行ではない。このために、現在まだ七〇%程度しか全国では普及していないと思いますが、今度さらに国の方で二割の義務規定をつけよう、こういう考え方としたならば、国の恩典はあまねく全国民に渡らなければならないと考えるのであります。こういう意味からしましたならば、国民健康保険は、当然強制施行に移すべきではないかと考えますが、この点についてはいかがですか。
  14. 川崎秀二

    川崎国務大臣 国民健康保険保険制度中核体であり、将来、労働者に対して適用しております今日の健康保険と並立をして、むしろこれに重点を置いた施策を用うべきであるということは、私もしばしば申し上げておる通りでありまして、この所信は今後とも一そう貫いていきたいと思っております。そこで、この際思い切って義務設定とすべきではないかという意見が一部では言われておりますけれども、御承知通り政府昭和二十五年に勧告をせられました社会保障制度審議会勧告並びにその後におきまする勧告趣旨に沿いまして善処いたしておりますが、各界の知名の士並びに学識経験者をも入れましての御要望が、国民健康保険については直ちに義務設定とせず、しばらく任意設定のまま国民全般に浸透するように努力せよという勧告趣旨もありますし、またこの線で一応努力してみたいと思ってきります。今日国民健康保険一般に徹底をいたしませんのは、なお二千数百万の未加入者がありますることの原因は、都市におきまして国民健康保険財政関係から浸透しないという点もありますので、これらにつきましては、都市に対し、これを施行するように十分勧奨をいたしてみたいと考えておりますが、今直ちには義務設定に切りかえるという趣旨は、政府にはないのでございます。
  15. 横錢重吉

    横錢委員 これは健康保険でやられておるか、国民健康保険でやられておるか、つまびらかに知らないのでありますが、保険目的療養給付眼目でなければならないと思うのであります。ところが、この療養給付が十分に行われていない現状においても、健康保険等が野球であるとかバレーであるとか、きわめて強烈な運動相当費用を使っておる。しかも、これを各県から全国的な組織において行なっておる。こういうようなことは、国の方針としても、強烈な運動については他の方面で担当すべき部課があろうと思うのであります。ところが、これを健康保険等で、療養給付が十分に行われていないにもかかわらず、たくさんの費用を出して行わせているその理由、これらについて伺いたいのであります。
  16. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健康保険でそういうような行事を行なっておることは事実でございます。もとより健康保険眼目は、何と申しましても医療にあるのでありますから、医療態勢というものを整え、これを整備していくことが直接の目標であります。しかし、健康保険加入者は、非常に広い範囲にありまして、この健康保険加入者の日常の保健ということにつきましても、相当考えなければならない積極的な施策も要るのではないかと考えております。もとより、こういうようなことが重点でもなければ、またおもなる対策でもありませんので、そう大きな費用をかけてはおりませんけれども、積極的な施策として、たとえば陸上競技大会に三百六十四万、あるいは水上競技大会に二百八十三万というような少額の数字を計上いたしまして、朝日新聞その他の有力な団体の御支持によりまして、こういう大会を運営いたしておることはあります。しかし、これは、あらためてさらに申し上げておきますけれども、決して主たる対策ではございませんけれども保険加入者の交歓ということも目的といたし、また積極的な保険施策として一部行なっておるだけでございます。
  17. 中村三之丞

  18. 滝井義高

    滝井委員 まず先に、昨日の大臣の方で御調査をいただくようになっておりました社会保険料控除の問題、あれを一つどういう工合になっておったのか、御説明をお願いしたいと思います。
  19. 久下勝次

    久下政府委員 私の方でとりあえず所管省に問い合せまして調査をいたしましたので、内容は先生も御案内だと思いますけれども、簡単に申し上げますと、現在所得税控除になっております基礎控除生命保険料控除扶養控除医療費控除雑損控除社会保険料控除、これらのもののうち、医療費控除雑損控除社会保険料控除の総額が総所得金額の五%に満たないときには五%、ただし、金額にして一万五千円をこえますときには、一万五千円までは控除するということでございますので、従いまして、これは少くとも現状と比較いたしまして、この改正案施行になりましても、社会保険の被保険者特段に不利になるということはなく、むしろ減税恩典に浴す、同時にまた、社会保険にかかっておりません他の一般国民にも、医療費関係控除が行われるということになりますので、結局全般的に見て、よりよくなるというふうに私どもは解釈をいたしておるのでございます。
  20. 滝井義高

    滝井委員 これは認識不足もはなはだしいです。現在市町村国民健康保険というものは、われわれは強制設立法案も出しております。ところが、強制設立というものは、はっきり申し上げて、必ずしも自由党民主党ではなかなかまとまらない。これは、川崎さんなんかは、現在の日本の状態から考えて、おそらく強制設立をしなければならぬ、社会保障制度を確保するためには強制設立以外にないとお考えでしょう。ところが、それがまとまらない。国民保険をやるところの市町村というものは、非常な犠牲をもって国民保険をやっておる。一般会計からなけなしの財源を、その保険としての特別会計につぎ込んでやっておる。しかも国民保険の総保険料というものが減税対象になっておるならば、これはやはり一つ国民保険設立呼び水になる。ところが、今後これが、たとえば農村で健康保険がないところでも、健康保険をやっておるところと同じような、いわゆる一万五千円を限度としての減税になるならば、この水は、誘い水としてはきわめて小さい水かもしれないけれども誘い水がなくなる、これは何ら変らない。むしろ今度の改正恩典になるという論理は、どこからも出てこない。今まで持っておった人は、これはたまたま選択の場合に、それが一万五千円を下回る場合は、一万五千円までの限度において恩典を受けるかもしれないけれども、そうでない場合は、これはちっともないわけです。だから、これは明らかに社会保険というものについて、民主党内閣が、いかに熱意を持っておらないかという具体的な現われ以外の何ものでもない。これは昨日の本会議における討論、あるいは大蔵委員会では、この問題でおそらく二日くらい論議しているはずです。その二日も論議したものを、厚生大臣もあるいは保険局長も御存じなかった、こういうことでは、口に社会保障制度を唱えたって、それは始まらぬと私は思うのです。少くとも、国民保険なり健康保険というものを推進しようとするならば、できる限りの恩典というものをこれに集中してこなければならぬのは当然です。そういう点で、今のような御答弁では、どうも健康保険なり国民保険を担当する主管の局長としては、全くこれは認識不足もはなはだしいと私は思うのです。これは河野農林大臣不信任じゃないが、またこの委員会でそういう不信任を出すわけにはいかぬでしょうが、私はこれは認識不足もはなはだしいと思うのです。まだこれは間に合うのです。参議院で予算審議中なんで、これはようやく昨日衆議院を通ったばかりですから、あの一項だけ削ってもらえばいいわけです。どうですか、政府は今のような認識で、あれはむしろ恩典であるというようなことでいきますか、それとも、あれはやはり何とかしなければならぬというふうにお考えですか。
  21. 久下勝次

    久下政府委員 社会保険保険料負担の割合が、今御指摘のように五%以上のものにつきましては何ら変りがない措置であることは事実でございます。しかしながら、実際社会保険保険料負担が五%未満のものは、たとえば健康保険の被保険者につきましても、国民保険についてはもちろんのこと、あり得ると思うのであります。そういう意味合いにおきましてそういう場合に五%までの控除がなされるのでありますから、その部分については現状よりもよくなる。ただ、社会保険というものを特段に抜き出して、減税対象としなくなるというような結果になるものでありますから、そういう意味合いで、御指摘のように社会保険の普及のための呼び水がなくなるという考え方は、なきにしもあらずでございますけれども、しかしながら、法の建前から申しましても、社会保険料減税というものが、もしも一万五千円をこえます場合には、当然これはそのものとして保険控除されるわけでございますから、そういう意味で、私はこの改正が行われますことが、今申し上げたような意味でやはり恩典になると考えたのであります。なお、しかしながら、この改正国会議員修正でございますので、結局私は今申し上げたような認識でただいまのところはおりますが、特別に異議を申し立てる筋合いではないと考えておるのでございます。
  22. 滝井義高

    滝井委員 議員修正のものならばわれ関せず焉という態度をおとりになるわけですか。今までは、そうではないでしょう。今までは、議員修正でも、あなな方が出した予算に非常な影響を及ぼすということになれば、あなた方は目の色を変えてやっておる。たとえば、現在この委員会で、けい肺法というものはヒューマニズムの見地に立ってやっておると政府は言いながらも、わずかに千五百万か七百万の増額になると、目の色変えてその修正を阻止しようとしておるじゃありませんか。議員提案ならばそのままでいいという態度で今後も行きますか、そうじゃないはずです。それはあなた方がたまたま見落して、知らない間にそういう修正が行われたというだけのために、そういう答弁をされておると思う。しかし、これは参議院で、鳩山内閣内閣として執行における全責任を負うということを言っておる。だから、これは議員提案なら内閣は知らぬというわけにはいかぬ。もはやこの修正には、執行の面において執行部の責任にかかってきておる。そうなると、これは社会保険の今後の運営の面において、みな異様に思う。もし五%の選択を所得の面からできるというなら、社会保険というものは、何もなくてもいいわけです。なくても五%に近いもの、少くとも一万五千円というものは、みなまんべんなく受けるのですから、たまたま社会保険を持っておった人に、社会保険料をどこかで控除しておったという恩典はなくてもいいのです。だからこれが、当然五%の恩典とともにプラス社会保険料控除というものが加わるならば、これは減税というものは、進歩的な社会保障制度を推進する内閣のやり方だったと思う。ところが、その五%というものを、並列的にどちらでも選びなさいということになれば、これは社会保険がある限りは、なくても同じだと思う。それをあなた方の方では、これはむしろ社会保険を推進する改正だったという認識では、どうも私は納得がいかない。あなたの方は、もう議員修正だからやむを得ない、むしろ社会保険の進展の上に歓迎すべき修正であった、こういうことで押し通していかれる所存でありますか。もうくどくど言われる必要はありません、態度を一つ大臣から承わりたい。
  23. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これはただいま久下局長から御説明申し上げた通りでありますが、この問題が出てきた経緯を考えますと、自由党民主党の修正案の共同提案でありまして、しかして、これは社会保障後退させたというふうには、私ども考えておらないのであります。すなわち、ただいまのこの金額の問題あるいは保険料控除の問題につきましては、ただいま久下局長から答弁を申し上げた通りでありますが、五%の範囲内における社会保険料を今日まで控除されておった、すなわち主として労働者、勤労者の方々が中心でありますが、そういう方々と、農業並びに中小企業で今日まで社会保険の何らの恩典に浴さなかった者に対する比率からいいますと、社会保険に加入しておった者は大体平均をいたしまして、五%のうち三・三の既得権があるそうであります。それから全然加入のなかった者についてはゼロでありますから、従って農村、中小企業者の方々は、それだけ多くの利点を得るという比較論だけであります。もとより社会保険控除額の上にこれだけの数字を重ねますれば、さらによかったことは間違いはございませんけれども、これによって、既得権と申しますか、既得されておった受益が減少されるものとは私ども考えておらない。納税体系の方から申しますると、これらの議論は、ことごとく大蔵委員会におきます御審議の際においての中心の課題だろうと思いますけれども社会保障にも関係がありますので、一言つけ加えさせていただけば、既得的な利益を受けることをマイナスするようなことは、結果においては生まれてこないというふうに私ども考えておりますので、従ってこれを撤回する意思はありません。しかして、これらについては、今度の共同修正におきまする友党たる自由党側の提案だそうでありまして、われわれとしては非常に喜んでおる次第であります。
  24. 滝井義高

    滝井委員 顧みて川崎厚生大臣は他を言っておりますが、だれが提案しようと、この執行というものは、鳩山総理みずからが参議院において、内閣が全責任を負うということを言われた以上は、男らしくない、自由党が出したのだからということは、言ってもらいたくないと思う。既得権は、なるほど侵害はされておりません。しかし、社会保険料に対する評価というものは、きわめて低くなったということです。問題はここにある。既得権というものは、そのまま選択で認められておりますが、今まで特に社会保険に認められておったものが、選択にされる程度まで評価が低くなったということは、見のがすことのできない事実です。社会保険料に対する評価が低くなったということは、口では社会保障の推進を唱えておるけれども、その実評価そのものは、必ずしも民主党内閣はしていないということを、あなたの答弁で裏書きをしたと思う。従って、あなたはこれをどうもする意思がないということを言われるならば、それでけっこうだと思います。はっきり申しますが、この改正はきわめて選挙対策的なニュアンスが強い。いわゆる日本の組織的な労働者あるいは組織されておる農民、あるいは市町村の組織的な力を持っておるところの大衆、こういうものがようやく獲得した社会保険料減税を、民主党内閣は、明らかに今度は農民や健康保険対象となっていない中小商工業者の票を獲得するために、こういう政策を打ち出したのだというようにしかわれわれには考えられない。民主党は、口に社会保障制度の推進を唱えておるけれども、それは羊頭を掲げて狗肉を売る内閣であるということを、ここにはっきり暴露したものであるということを私は一応述べて、次の質問に移ります。  そこで、次にお尋ねをいたしたい点は、被扶養者の範囲の問題でございます。これをわざわざ三親等内に限ってきました。そうしますと、今まで貧しい労働者の家庭の中で、医療恩典を受けておった人たち、その家庭というものには、今後その三親等から除外をされた人たちは、全然保険のない社会にほうり出されるか、あるいはたまたまその住んでおる市町村国民健康保険を行なっておるならば、その国民健康保険に加入しなければならぬという、一家のうちに二重の保険ができるか、あるいは一家のうち、たった一人か二人だけしか社会保険恩典に浴さない者が出てくるということなんです。しかも、先般の本会議での川崎大臣の答弁では、十一万人の調査の結果では、わずかにこれらの該当者は五十五人であったという御答弁をされておる。そのようにわずかな人であるならば、少くとも社会保障を推進してやろうとするスローガンの内閣であるならば、なぜそんなにわずかな人を、この健康保険赤字の名のもとに切らなければならなかったか、その理論的な根拠を明白にしていただきたいと思います。
  25. 川崎秀二

    川崎国務大臣 被扶養者の範囲を狭めましたことにつきまして、非常な御議論がございます。しかし、今日健康保険財政が非常に危機に瀕しておりまして、何といたしましても、政府負担だけではなしに、この際保険者負担というものにつきましても、十分御考慮を願わなければ、保険財政の立ち直りをはかることは困難なのでございますから、料率引き上げもやむを得ず断行し、しかして保険財政の健全化のために一切の措置をとったわけであります。この被扶養者の範囲を三親等内にきめました結果、それならばどのような結果が実際に現われるかということにつきましては、先般本会議で答弁をいたし、今御指摘通り、被扶養者十一万人のうち、該当者わずかに五十五人でありまして、このことのために、社会保障制度の推進が非常に阻害されることもなければ、またわれわれといたしましては、何といたしましても保険財政を豊かに推進をいたしていきますためには、これに対して不測の場合に処しての予備金というものを整備をいたさなければなりません。昨年予備金は十八億円ほどあったのでありますが、あのような赤字を出して予備金を食ったような状態であります。今日、われわれは大体九億円程度の予備金で一応の操作をいたしたいと考えておりますが、これらを充足するためには、こういう措置もとらねばならなかった理論的根拠があるのであります。従って、被扶養者の範囲を狭めたということは、はなはだ不所存のようにも考えられますけれども、しかし、三親等内であるということが、最も今日社会常識としても合理的であろうというように考えた結果、このような措置をとったのでございます。
  26. 滝井義高

    滝井委員 どうも理論的に私は納得がいかないのです。それならば、その被扶養者の範囲から逸脱した大衆というものは、政府はいかなる方法で具体的に現実にお救いになるか。少くとも現在社会保険恩典を既得権として浴しておった人たちを、社会保険から締め出したならば、その締め出した人の対策を同時に立てておかなければならない。炭鉱の合理化法案ができたならば失業者が出てくる、その失業者に対して、曲りなりにも内閣は出してきている。少くとも社会保険というものは、貧しい人を救うために、揺籃から墓場までの制度を締め出したならば、その締め出した人の対策を持ってこなければならぬが、いかなる対策があるか。
  27. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健康保険並びに国民健康保険の発展を期するということが、われわれの目標でありまするけれども、やはり財政というものを全然考慮せずして、これらの制度を進めていくことは、政府としては非常に危険なことであると考えているのであります。従って、まず第一に、保険財政を建て直すためには、ときにはこのようなことも、やむを得ず実施をすることもあるのでありまして、それから漏れた大衆はどうするか。もとより、われわれといたしましては健康保険国民健康保険制度を、まず財政の危機を食いとめて、しかる後に、国家財政が豊かになり、また国民経済が好転をするならば、次第にこれらの範囲を拡大をしようというところの趣旨であるということは、何ら変化はないのであります。もっぱら私どもは、合理的なる基礎というよりは、今日は、むしろ財政面から来たるところの合理的な基準とお考えになっていただいてけっこうだと思っております。
  28. 滝井義高

    滝井委員 財政の基礎を確立するためには、人間は死んでもいいという結論になる。かつて池田大蔵大臣が、貧乏人は麦を食えと言って不信任になりましたが、それならば、何ら対策がない、財政の基礎が確立するまでは、今まで既得権者としての被保険者の被扶養者は、しばらく病気は自費でもって待て、おまえら死んでもやむを得ない、そういうことです。少くとも政府が切り落したならば、切り落した人たちに対するあたたかい心で、何らかの別な手を伸べることが政治じゃないでしょうか。それを、わずかに十一万の被扶養者のうちに五十五人かもしれませんが、しかし五十五人でも、国民であることには変りはない。五十五人のこの不満をそのままに放置しているということは、私は政治ではないと思う。少くとも、その少数の人を救うために、ごらんなさい、けい肺法というようなものが出ておりますが、この対象となるものはほんのわずかです、千人以下です。それをわれわれ国会は論議をして取り上げて立法をしてきている。しかもこれは、今まで既得権を持っておった人を切り落していくのだから、こういう保険行政はない。少くとも切り落された人に対しては、救う対策というものをこの委員会に持ってこなければ、われわれは被扶養者というものの範囲は軽々にきめることはできないと思っている。もっと行政の実際に当った保険局長から、これはどうしてお救いになるつもりか伺いたい。それらの記録された地区においては、国民保険を積極的に強制的にでもやっていかれる意思があるか、それ以外に救う法はない。これらの人たちは、必ず生活保護法か何かにいかざるを得ない。ところが、現在生活保護法も、そういう健康保険を持っておる家庭には行かない、そうすると、こういう人は見殺しじゃないですか。もしそういう者に結核が起った場合に、これはどうしますか、全く救う対策というものはない。もっと具体的に、これらの者に対する対策というものを御答弁願いたい。
  29. 久下勝次

    久下政府委員 対策のお尋ねでございますが、その前に、私ども考えておりましたこれの根拠を一言だけ説明をさせていただきます。  この問題につきましては、いろいろ検討いたしたのでありますが、一番最初に私どもがこの問題を取り上げる根拠といたしましたのは、同じような日雇い労働者健康保険健康保険におきまして、被扶養者の範囲の取扱いが区々であるという点が問題になりまして、それからいろいろな関係を調べて参りました。現行の民法の規定を見ましても、御案内の通り直系血族及び兄弟姉妹が、まず第一義的に互いに扶養する義務を負っておりますが、さらに家庭裁判所が特別な事情があると認めますときには、それ以外に三親等内の親族間においても、扶養の義務を負わせることができるという規定がございまして、民法の建前から申しましても、三親等内の親族に限定をして扶養の義務の関係を認めておる事情もございます。これらの点によりまして、実はこういう改正をしようということにいたしたのであります。  そこで、対策の問題でございますが、確かに少数でも該当者があるということは事実でございますが、国全体の制度といたしましては、全然救う道がないとは考えておらないのであります。先ほど大臣から申し上げました通り、私どもは、今日鋭意国民健康保険の普及につきまして、全国的な指導をいたしておるような次第でございまして、そういう面で、一朝一夕に全面的な解決は無理といたしましても、そういう方向に少くとも全体として進んでおりまするし、またほんとうにお困りの方につきましては、こういうことを申し上げては、あるいはおしかりを受けるかもしれませんが、生活保護法の制度も認められておるわけでありますから、そういうことで、国全体の制度として健康保険法一つの筋を立てましたことが、直ちにただいま御指摘のような極端な事態に陥るものと考えておりませんので、そういう点からこういう制度を取り上げました次第でございます。
  30. 滝井義高

    滝井委員 どうも具体的な対策は何も考えていないようであります。それでは保険局長数字的になりますが、三親等内にきめることによりまして、どの程度の脱落者が現在の健康保険の被保険者の家族の中から出て参りますか。
  31. 久下勝次

    久下政府委員 先ほど御指摘もございましたように、私どもがとりあえず被保険者八万人、その被扶養者十一万人につきまして調査いたしましたところ、五十五人の該当者があるのでございます。その比率でそのまま全体を推しますると、被扶養者数が現在政府管掌の健康保険で七百五十万、このほかに組合管掌健康保険で約六百万ございまして、全体で約千三百万人が健康保険の適用を受けております被扶養者でございます。そうして今の比率で行きますると千三、四百人の数になると思います。
  32. 滝井義高

    滝井委員 千二、三百人の人間を赤字のゆえをもって切らなければならぬ、こういう血も涙もない政治が民主党の行う政治であったということが、具体的に出てきたじゃないですか。千二、三百人の中で、大体何人病気になりますか、千二、三百人全部病気になったって、それが日本の社会保険赤字を飛躍的に増加し、健康保険を危機に追い込むものとは、だれが見ても考えられないじゃありませんか。それをわざわざ三親等まで限って、千二、三百人の人をこのあたたかい社会保障制度から切り離さなければならないという理論的な根拠は、どこからも出てこないと私は思う。すべからく政府は、今からでもこういうことは改むべきだと思う。  そういう政府のきわめて血も涙もない冷酷なやり方が、次にも現われてきておる。まず今度政府の出しました社会保険関係の四法、あるいは労働省から出ておる失業保険法についてもそうですが、この監査が犯罪その他と同じような状態で出てきておるということなんです。私もかつて健康保険の審査員をした経験がありますが、地方の技官なりあるいは職員が、医者なり患者を調査するときの状態は、まさに裁判所の検事以上なんです。まず私の経験したところでは、医者の財産から収入から家族からあらゆるものを、検事が調査する以上の深刻な調査をやります。今までがそうなんです。ところが今度は、あなた方の法律では、それがさらに厳重になってきておる。これは何も医者ばかりではなくして、被保険者についても、事業主についても、あるいは療養担当者についても、なってきておる。しかも、語るに落ちて、そういう調査の権限は、犯罪捜査のために認められたものではないという一項を、あなた方はわざわざ入れなければならないほどに権限を強化しておるということなんです。これはまさにファッショ的な行き方です。日本の保険の監査は、ファッショになろうとしておるということです。これは先般失業保険をやるときも、井堀さんが指摘をされました。まさにそういう状態です。なぜこういう状態でやらなければならぬ、それほどまで日本の国民自体を、被保険者にしても、事業主にしても、療養担当者にしても、信用することができないかということなんです。法律にこういうことを書く前に、自主的にそれをやらせたらいい。労働組合なりあるいは事業主の団体ができておる、あるいは医者の団体もできておるのだから、自主的にやらせたらいい。それを役人が——おそらくこれはしろうとの役人も、医療関係のない人も行くでしょう、あるいは技官という人も行くかもしれません。こういう方法をとらなければならないほど、日本の国民は信用ができない国民なのかどうかということです。この点を一つ御説明願いたい。
  33. 川崎秀二

    川崎国務大臣 基本的な方針だけは、私から申し述べまして、具体的な事例がありますれば、また局長からも答えていただきたいと思うのであります。保険医の監査を厳重にするという基本方針につきましては、先ほどお尋ねがありましたときに、私がお答えをいたしました通り、今日の健康保険赤字原因は、決して保険医の行なっておる不正受診、あるいはその他の措置が重要な原因ではないという感覚が私の考え方であります。従って、何といっても赤字の根本原因は他にあるということを指摘しておる感覚からは、さようなきびしい監査というような考え方は出てきませんから、その点は一般的には十分に御安心を願いたいと思うのであります。しかしながら、一部の保険医の動きにつきましては、当委員会におきましても、本会議場におきましても、あるいは参議院におきましても、しばしば各委員から続発的に指摘をされておることでありまして、これらは、その立場々々によって御主張は違うとは思いますけれども保険医の監査をもっと厳重にしたらどうかという非常に強い、しかも有力なる御意見も一方にはあるのであります。しかして昨年の暮れ以来、各地におきまして、部分々々ではありますけれども、共産党を初め非常に急激なる分子の活動によりまして医療費の問題が取り上げられて、これらの赤字についてはすべて国家が負担すべきである、あるいは保険料率の引き上げには全面的に反対である——もとより保険料率の引き上げについては、ひとり共産党といわず、各種の政党におきまして、今日これに対して反対の意思を表明されておる方はありますけれども、非常に一連の動きがありまして、これについては、私どもも断じて見のがすべからざる傾向であると考えておるのであります。思想的な動向並びにそれらの一連の動きと関連した保険医の動きにつきましては、今後もわれわれは決してこれを看過するものでもなければ、緩和をする方針なども持っておりません。今回強権を発動するような立ち入り検査を行うようなことになりました。これは現行の健康保険法におきましても、行政庁の検査の権限の規定は設けられておりますが、その規定の仕方が不十分でありまして、従来、法律の解釈運用によって補っておった面もありますので、この際規定を明らかにいたしたいというだけでございます。
  34. 滝井義高

    滝井委員 大臣現状をお知りにならないので、きわめて簡単に割り切っておられますが、この監査を受ける者は、実に犯罪に対する検事の取調べ以上に深刻です。患者のところに行けば、まず社会保険の出張所の官吏が一々聞き取り書きを取って判こを押させます。それから今度はその聞き取り書きを持って医者の家に行きまして、医者の財産から収入から家族から、卒業の学校の年次から、友人関係から、一切を調査するのです。それはもう犯罪の捜査以上なんです。こういうことが今まで行われておった。これが乱診であるか乱療であるかという認定というものは、実際に患者を見なかったところのその検査の人の、客観的なものではなくして、主観的なものによって行われておる。書面審査なんです。非常な弊害が出てくるのです。むしろこういう手段をとる前に、それぞれ労働組合なり事業主の団体なり医師会なりに、自主的にそういうことの粛正をやらせる手段をとるべきだと私は思うのです。大臣は、御就任になってから今日まで、そういう手段をとることを考えたことがありますか。
  35. 川崎秀二

    川崎国務大臣 もとよりそういうような改正をいたしますとともに労働組合なりその他の団体の御協力を得るために、当局としては、十分なる御了解を願い、また自主的な活動に待たなければならぬ部面が多々あることは承知をいたしております。従って、そういうような方向についても、十分に努力はいたしたいと考えておりますが、そのことと今回の規定を改正いたしましたことについては、従来不備であったものはやはり改めていきたい、こういう考え方で行なったことであります。
  36. 滝井義高

    滝井委員 私も、不正は防止しなければならないと思います。しかし、少くとも社会保障制度の法律の中に、こういう犯罪捜査にひとしいような条項を入れるということ自体が、いかに日本の社会保障制度というものをこういう面からゆがめていく道を開くかということを私はおそれるのです。おそらくこれによって、要領のいい医者、要領のいい患者——これは傷病手当金関係でありますが、それから要領のいい事業主——これは保険証の不正使用に関係いたします、これらの人々はうまくくぐっていくのです。それよりか、まずこういう法律できめる前に、自主的にとるべき方法は幾らでも現在あると私は思うのです。たとえば、現在地方でとっておりますように、それぞれ医者なら医者が寄り集まって、請求書を出す前に、まず自主的に医師会自身保険証の審査をやっておる。そういうことをやっておるところは、ずっと不正使用もなくなるし、請求点数というものも、きちっと適正診療が行われる状態が出てきておる。ところが、こういうことをだんだんやっていくと、必ず今度は筆先だけでものをごまかそうとする者が出てくることは明らかです。筆先でごまかせば、これは書面審査ですから、何もできない。立ち入っていったところで、カードにそのように書いてあれば何でもない。一々しろうとの患者のところにたずねて行ったって、なかなかわからないという状態が出てくる。また患者自身にしても、傷病手当金をもらおうとする場合には、医者に行って、先生十日前に来たことにして下さいと言ったらよい。傷病手当金は、医者に行った日から起算されるわけなんです。そして三日の待機になるわけです。こういう患者と医者の微妙な立場というものが同時にあるわけです。こういうものは、一々行って強権で調べ上げてやるというよりか、それぞれ患者の所属する組合か、あるいは国民健康保険自身の自主的な運営でできると私は思うのです。現実にわれわれはできておるところを知っておる。こういう強権を発動すればするほど、被保険者なり医者に対する非常な反撃の機会を与える。そうしてそれが、今言われるように、思想的に大阪の事件等に発展してきて、厚生省自身手がつかないような事件が出てきたのではないか。まずこういう段階に行く前に、自主的に保険の内容というものをぶちまけて、そうしてその協力を求める態度が厚生省に欠けておると私は思う。これを一々摘発して敵に回してやろうとするところに、団体自身においても、会員の中から一人か二人不名誉な者を出すことは、団体にとっても面子があるので、団体自身は全部固まらなければならぬ、こういう事態に厚生省自身が追い込んでおる。それは策の下なるものであると私は思う。むしろ、これは起る前に、予防的な措置考えていくべきだと思う。そういう意味で、私は、犯罪捜査にひとしいようなこの検査というものは、保険行政に多くの悪い跡を残すものであると確信をいたしております。  そこで、こういう席上でお伺いするのもどうかと思いますが、今後の保険行政をやる上に重大でございますからお尋ねしますが、先般の本会議で、一月においては一億五千万円、二月においては一億二千万円の節約が出てきた。これは行政的な措置によって、乱診乱療防止によって出てきたものだという御説明であったと考えます。それならばこの内訳をお尋ねいたしたい。まず医者の側の不正診療が幾ら、労働者側の傷病手当金その他の不正が幾ら、事業主側の不正が幾らという、この内訳を一つ御説明願いたい。
  37. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまお尋ねの件に答弁いたします前に、先ほど御所信を述べられた問題につきまして、私もさらに政府側の考え方を明らかにいたしておきたいと思うのであります。  これは保険医の監査の問題に対して、こういう規定を今後どしどし設けていくかというような意味のお尋ねも含んで御所信を述べられたと思うのでありますが、先ほどから聞いておりまして、私も滝井議員のお考えと大体同様であります。すなわち、社会保障立法あるいは社会保険立法のごとき、福祉を増大国民生活を守る立法に、強権の規則を多く盛るというようなことは、絶対に避けなければならぬ、たとい入れても、最小限度のものにしなければならぬと思うのであります。しかしながら、今日、健康保険の問題につきましては、先ごろ来私が申し上げておりますように、相当思想的に根深い各種の活動がありまして、今日では政治、軍事上の問題から一転して、経済上の問題に対して国家の負担を、財政負担の苦しみにもかかわらず、現実を飛び越して要求するがごとき、一連の思想的な活動が相当あるということを看過してはならぬということは、先ほど申し上げた通りであります。最近、この保険医の監査の問題につきまして、石川県下に起りました事象といたしまして、保険医の監査を行おうとします者に対しまして、集団的な暴力行為、あるいは恐喝的な行為というものが行われておるということが、ひんぴんとして検察庁並びに取締り当局に対して投書があるのであります。これらについて、厚生省考え方ははなはだ甘過ぎる、にぶ過ぎる、こういう御注意も本会議場等を通じましてたびたび賜わり、公務執行妨害に関連して、むしろ健康保険法の中の取締り規定を強化すべきではないかというような御議論もあったのでありますが、私はそのような際におきましては、やはり法律の体系としては、取締り的な法律の体系の中の解釈を拡充すべきであって、決して社会保障立法の中で、罰則あるいは取締り規定というようなものを強化してはならない、むしろ検査を施行する際における最小限度の規定は挿入をしなければならないではないかというような意味合いから、このような規定の不備を補充いたしたわけであるという所信もこの際申し述べまして、これ以上強権を発動するような改正というものは、決して望ましくはないとい考え方におきましては、滝井議員と同一の思想であるということを申し述べておきたいと思うのでございます。
  38. 久下勝次

    久下政府委員 ただいまのお尋ねの問題に、私からお答え申し上げます。一月、二月の一億五千万円あるいは一億二千万円という金額は、私どもがその前から予想しておりました支払い額よりも、今御指摘数字だけ支払いが事実上減ったという数字でございます。ところがこの数字は、実は三月の支払いにおきましては、逆に約九千万円程度予定より上昇をいたしておりまして、前にも申し上げました通り、必ずしも安定した、状態とは見られない節があるのでございます。これを内容で分けまして、どういう点で幾ら減ったという数字は、ただいまの建前から申しますと、どうにも計算のしようがございませんので、私どもとしては、ずっと毎年の支払い額の月々の推移なり、あるいはいろいろ行政措置を講じております効果の現われなども予測をいたしまして、毎月々々の支払いの予想を立てております。その立てております予想に対して、そういう上下があったということでございます。結論的に申し上げますと、昭和二十九年度赤字は、国会等に御報告を申し上げておりましたのは四十一億余円でございました。これが、今申し上げましたように、月々の予想よりも減少いたしました関係上、四十億を割りまして、たしか三十八億台になっております。こういうことを御参考に申し上げております。  ただ、予想よりも減ったというのはどういう原因かということにつきましては、いろいろな総合的な施策の結果でもあり、あるいはまた被保険者なり、あるいは保険医なりの御協力も現われておるのだと思しますので、これらを一々分析して申し上げ得る資料はございませんことを御了承願いたいと思います。
  39. 滝井義高

    滝井委員 今まで乱診乱療ということを、一つの大きな赤字原因として、厚生省当局は取り上げてきておるはずです。それを、今になってそれに対する数字がないということは、私はそれは答弁にはならぬと思う。それならば、乱診乱療というものは赤字原因からのけてもらわなければいかぬ。このために、被保険者なり事業主なり、療養担当者というものは、非常に大きな社会の疑惑を受けておる。特に療養担当者の団体というものは、さいぜん川崎厚生大臣の発言もあったように、本会議その他を通じて非常に大きな要請もあったんだという御答弁がはっきりあったじゃございませんか。それならば、その赤字一つの大きな原因をなしておる医療の不適正化というものについての分析は、当然厚生省においてできておらなければならぬ。その不適正の原因である医者側の不正、患者側の不正、事業主の不正というものの数字を出してもらわなければ、われわれはその実態を把握することはできないと思う。これはぜひ一つ述べてもらわなければなりません。
  40. 久下勝次

    久下政府委員 先ほどの御質問は、一月、二月の予想よりも減った、あるいは決算においても予定の支払い額より減ったのを分析した数字を言えというお話でございますが、これは分析のしようはございませんということを申し上げておるのであります。ただ、保険医の監査の結果、不当請求あるいは不正請求等の結果の数字につきましては、先ほど厚生大臣から返還金額として述べました件数及び金額があるのでございます。ああいうような数字でございまして、これは言えると思いますが、この金額は年々数百万円程度のものでございまして、これをもっては説明にはならないと思うのでございます。また全体の医療費支払いというものは、御案内の通り毎月今日まで二十七、八億から三十億程度になっております。それが五千万円とか一億とかというところを上下するわけでございまして、それを一々どういうわけでということは、とうていこれは私どもの力をもって、あるいは現在の資料をもちましては、分析して御説明ができないことを御了承を願いたいと思います。
  41. 滝井義高

    滝井委員 そういう説明を今になってされることは、私は心外だと思う。今まであなたの方の原因のトップにあがってきているものは、少くとも医療が不適正であった、乱診乱療が行われておったということが、あなたの方の一番の赤字原因であったはずです。それを、今になって赤字原因についての乱診乱療の分析ができないということならば、赤字原因の中から乱診乱療を撤回してもらいたいと思う。さいぜん川崎厚生大臣は、千八百十件で百五十七万円分しか言わなかった、百五十七万円が赤字原因であるということになれば、これはなるほど百五十七万円の限度においては赤字原因だけれども、日本の社会保険を危機に追い込むほどの赤字原因ではないはずだ。それは三親等内に区切らなければならない理論的な根拠の薄弱さと同じような点だと思う。そうしますと、厚生省の言うことは、何でもでたらめではありませんか。こういうことでは、私はあなたの方の社会保険に関する数字や何かを、信頼することはできないと思う。こういう点をもう少し明白にしなければ、非常に社会保険に対する影響は大きい。医者というものは、全部これは乱診乱療をやるやつだという、こういう観念が今社会にびまんしつつある、医者は信用できないものであるという状態が出てきておる。これでは、日本の社会保障を担当する医者というものは浮ばれない。私は、これを撤回するかどうか、厚生省がそれを明白に答弁するまで質問をちょっと待つことにします。
  42. 久下勝次

    久下政府委員 同じようなお答えを繰り返しますことは、大へん失礼でございますけれども、私は少くとも、今まで赤字原因は乱診乱療のみにあるということを申したことは一度もございません。乱診乱療ということも、一つ対象的な原因であることもあろうとは思いますけれども、しかしながら、これは実際保険医の監査をいたしまして、そうして不当請求等の結果返納を命じられました金額は、先ほど大臣から御披露を申し上げたような数字でございまして、一番多い金額でも、昭和二十八年度に八百六十七万円程度の返納が命ぜられたにすぎないのであります。従いまして、私は赤字原因がこれであるということを申すつもりはございません。結局、乱診乱療の結果と申しましても、具体的に保険医の監査をいたしまして、その保険医が不当に医療費支払いを受けたと認められて返納を命じました金額は、年々先ほど来申し上げておりますような金額でございます。これが分析して申し上げ得る数字でございます。ただこれは、監査をいたしますのが、全体の保険医から申しますればきわめてりょうりょうたる数字でございます。従いまして、その他の医師については、絶対に乱診乱療がないということもまた言い切れないと思います。そうかといって、それのみが赤字原因であるとも申せないのでありまして、いろいろな原因がそれぞれ重なり合いまして、むしろ医学の進歩あるいは国民の衛生思想の向上に伴います受診率なり、一件当りの金額が増加いたしますことが赤字原因でありまして、これが保険料収入とアンバランスになりました結果赤字が出てきて、これが最も大きな原因でございます。
  43. 滝井義高

    滝井委員 今まで言っておったことと違うことを言っては困る。大臣が今まで述べておった赤字原因は、昭和二十八年以来とってきた結核対策、それから入院料、往診料の引き上げ、それから二番目に医療の不適正、乱診乱療、保険証の不正使用、デフレによる保険料の滞納の慢性化というものをあげてきておる。少くとも今私の言った三つの原因の中の一つ、乱診乱療というものが大きくクローズ・アップされてきている。それを今言ったように、わずかに百五十七万円とか八百六十七万円とかいうような、一千万円以下のものしかない。ほかにまだあるかもしれないというが、そういう調査もできていないことを基礎にして原因にあげてくることは、迷惑しごくなんです。あなた方がそういう発言をされるならば、われわれは審議対象に混乱を来たしてくる。社会保険赤字にメスを入れなければならぬ。そのために、乱診乱療がうんとあるからということで、あなた方はこの犯罪捜査にひとしいことを作ってきておるはずなんです。だから、そういう論理の一貫しない答弁では、われわれは満足ができない。あなたの方が取り消すか、それともはっきりとした数字をあげて下さい。
  44. 久下勝次

    久下政府委員 はっきりしたことは、結局いろいろな原因が重なって赤字が出たということを申し上げる以外にはございまん。しかし、その要素の中に乱診乱療の結果が全然含まれていないということも言い切れないということでございます。
  45. 滝井義高

    滝井委員 しからば、その金額限度は幾らかと言うのです。それなら、私はあなたの責任を追及しますが、あなたが二年間の保険局長の間に、百億の赤字を出そうとしておる。この赤字責任は一体だれが負うのか、あなたが負う以外にないじゃないか。あなたはその百億の責任を負わないのか。わずか一千万円や八百万円の赤字原因を医者や患者に負わせておいて、その受診の不正とか乱療に負わせておいて、二年間にあなたが行なった保険行政が百億の赤字を負ったことについて、あなたは責任を負うか負わぬか、言明してもらいたい。
  46. 久下勝次

    久下政府委員 赤字の出ましたことにつきましては、私も十分責任を感じておりますが、どういう意味、どういう形で責任をとるかということにつきましては、もちろん私にも上司があることでありますから、十分指示を受けて対処するつもりでございます。私自身責任がないということは、少しも考えておりません。
  47. 滝井義高

    滝井委員 今までのあなたの答弁なり、川崎厚生大臣の答弁を聞いておりますと、一切の赤字原因というものは——自分の方の行政の不明というものはちっともあげないじゃありませんか。今までのあなた方の方の資料をごらんなさい。とにかくあなたの方は、昭和二十九年度予算を編成するときにおいては、被保険者の数は五百九十六万あるといって予算を編成しておるはずです。ところが、実績によったならば四百八十六万なんです。こういう数字の見誤りにこそ、大きな原因がある。あるいは国民健康保険にしても同じだ。現実に動いておる国民健康保険のあなた方の見積りの少なさを見てごらんなさい。そのために、全国から不平と不満をもってわれわれのところに二割の国庫負担を正確にやってくれといってきておるではありませんか。こういうようなあなた方自身の見積りの数字の不正確さの責任というものは、ひたすら隠して、一言も触れずして、一切の赤字原因責任というものを療養担当者なり、あるいは被保険者なり、事業主に負わせかけようとするその心根は、私は憎んでも憎み切れないと思う。もっと明白に、あなた方がどういう見積りの誤りをやったか、二十八年以来の見積りの誤りを一つ説明してもらいたい。
  48. 久下勝次

    久下政府委員 まず、ただいま御指摘のございました昭和二十九年度の被保険者数の予算に見積りました数字と実績とに大きな開きのありましたことは、率直に認めるところでございます。実は一昨年、国会の御審議を経まして健康保険法の一部を改正し、相当広範囲に新しい業種を適用事業所として取り入れることにいたしたのでございます。この業種に該当しております勤労者の数から、私どもの方で推定をいたしましたすでに被保険者となっておると認められるものを差し引いて約六十万人程度の被保険者の増加を見込んだのでございます。ところが、実際問題としては、結果としてそういった増加がなかったために、見込み違いになったのでございます。ただ、これは私から申し上げるまでもなく、収入の面におきまして、その被保険者数の分だけの収入が減りますが、同時にまた、支出の面におきましても、その分だけの支出が当然なくなるわけでございますので、そういう筋道におきまして、別に被保険者数に見込み違いがあったことが、大きな赤字原因であるというふうには申せないと考えておるのでございます。ただ、それにいたしましても、そういう見込み違いをしたことはけしからぬとおっしゃれば、その通りでございます。それから、主として一昨年以来でございますが、たびたびお話に出ておりますように、抗生物質の全面採用、あるいは療養給付期間延長点数改正等がございまして、私どもとしては、そういうことに基く財政支出の増は、予算の上にも見込みましてやっておったわけでございます。結局、それらの要素によって保険給付費が増額いたしましたことは事実でございまして、それをやらなければ赤字にならなかったであろうということは、いえると思うのであります。私どもとしては、当時の情勢から考えまして、こういうことが被保険者の利益になることでもございますし、また医学の進歩に伴ういろいろな対策もとる必要があると考えまして、国会の御承認を得て実施をいたしたわけであります。もっと前から今日のような給付費の増加を見込めばよかったじゃないか、だからもっと早く赤字対策を講ずればよかったではないかという議論は成り立つと思います。そういう点におきまして、私どもの手の打ち方がおくれましたことは、大へん申しわけなく思っておる次第であります。
  49. 滝井義高

    滝井委員 手を打ちそこなったことが、たった一つ原因になったようでございます。二十八年以来のあなた方の責めに帰すべき原因は、たったそれだけであったでしょうか。今の五百九十六万、こういう被保険者ができるであろうという見通しがあったからこそ——あなた方は収入と支出についてはちっとも変らぬ、こうおっしゃるけれども、五百九十六万というのは、あなた方の実績の四百九十二万よりか百三万違っておる。百三万も被保険者がふえるということは、これは保険料の収入が飛躍的に増加することを意味しますよ。一人が年間に平均して一万一千円以上の保険料を納めておるということならば、百万人ならば百億をこえるではありませんか。そういう百億以上の保険財政の、少くとも四分の一ないし五分の一以上の収入の見積りをやりそこなっておきながら、しかも二十九年にこれだけの百万以上のものがふえるからこそ、二十八年の終りに抗生物質その他の支給をやっても大丈夫であろうという見通しがつくからこそ、あなた方はやったのでしょう。それを実際はふえなかったから、収入と支出は変りません、こういう詭弁を弄してはいけない。保険というものは、人数か多ければ多いほど、その希釈の範囲が広くなって発展していくものです。保険加入者が少なければ少いほど、その保険は危険なのです。これは一年生の理論なんです。それをそういう詭弁をもってごまかしてはいけません。少くともこういう点においてあなた方は大きなミステークをやっておられる。あなた方が二十八年以来、どういう点とどういう点で大きな見込み違いをやったか、それを一つはっきりしてもらいたいと思う。見込み違いをはっきりして下さい。あなたはさいぜん、この赤字原因としては、いたずらに厚生省自身のことはちっとも言わなくて、他のことばかり言っておる。あなた方自身の見込み違い、その他のために出た原因というものがあるはずだ。それを一つ数字的に明白に言ってもらいたい。  つけ加えておきますが、川崎厚生大臣は、これは自由党のときにやったことで、民主党責任じゃない、こう言っておられる。しかし、あなたは自由党の時以来、一貫して民主党内閣にまでつながって、その責任を主体的に握ってきている人であるので、特に明確にしてもらいたい。
  50. 久下勝次

    久下政府委員 見込み違いの部分だけを数字で表わせというようなお話でございますが、問題は、見込み違いというのをどういうふうに取るかということにもかかりますので、今すぐ数字を申し上げるわけには参りません。結局は、私が数字として御説明できますのは、予算上見込みました受診率、一件当り点数、こういうものが実績と食い違いましたために、赤字となっておるわけてあります、実は収入の面におきましては、被保険者数の違いは、先ほど申し上げた通りでございますが、たとえば標準報酬の上り工合でありますとか、あるいは保険料徴収率とかいうことにつきましては、私どもの実績は大体見込み通りに行っておりまして、その面では、収入の方にはさしたる見込み違いはないのでございます。見込み違いの要素は、今申し上げました支出の面における受診率——これも入院、外来、歯科あるいは被保険者数、給与者数、それぞれ分れるのでありますが、それとそれぞれの一件当りの点数と申しますか金額と申しますか、その総乗積によって変って参ります。またそれに伴います現金給付の増加によって赤字が出てきたわけでありますから、この数字につきましては、今ここで計算をしておりませんから、予算で見込みましたものと実績として取りましたものとは、最近実績がまとまっておりますので、予算との差を書き出しまして説明にかえるようにさせていただきたいと思います。
  51. 中村三之丞

    中村委員長 滝井さん、昼をだいぶ過ぎましたから、休憩して続行していただきたいと思います。
  52. 滝井義高

    滝井委員 これで終りますから……。  大臣がおりませんので、まだ基本的な問題について尋ねなければならぬことがたくさんありますが、局長に最後に申しておきますが、とにかく自由党内閣以来、日本の社会保険行政が百億の赤字を負い込んだ原因は、いろいろあります。しかし、その一半の責任をあなたが負わなければならぬということは、事実だと思いますが、それは確認いたしますね。これだけを一つはっきり——百億の赤字の出た責任は、確かに私も一半を負いますということを御言明していただきたい、今の御説明で、大体見そこないもあるということをお認めになったようですから。
  53. 久下勝次

    久下政府委員 その点は、先ほどお答え申し上げた通りでございます。
  54. 滝井義高

    滝井委員 先ほどではわかりません。もう一ペんはっきり言って下さい。
  55. 久下勝次

    久下政府委員 私先ほど申し上げました通り責任がないということを申し上げておりませんし、私の立場における責任は十分感じております。しかしながら、その責任をいかなる形でとるかということにつきましては、上司もあることでありますから、十分そのお指図を仰ぎまして善処するつもりであります、こういうふうに申し上げたのであります。
  56. 中村三之丞

    中村委員長 午前中はこの程度にとどめ、午後二時まで休憩いたします。    午後零時三十七分休憩      ————◇—————    午後二時三十九分開議
  57. 中村三之丞

    中村委員長 休憩前に引き続き会議を再開いたします。  社会保険関係の八法案を一括議題となし、質疑を継続いたします。大橋武夫君。
  58. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 私は、特に政府が提案なすっておられます健康保険法改正法律案に関連して、質問をいたしたいと思うのでありますが、この健康保険につきまして、昨年以来赤字の問題がございまして特に川崎厚生大臣におかれましては、この問題のために非常な御苦労をなすっていただいておることは、まことに感謝にたえない次第でございます。今日は特にこの問題について質問をいたしたいと存ずるのでございますが、まず健康保険経済におきます赤字の発生の状況、特にいつごろまでが黒字でいつごろから赤字に転じておるか、そしてまた今日どの程度赤字があり、今年度においてどの程度赤字が予想されるかというようなことについて概略のお話を承わりたいと存じます。
  59. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健康保険は二十四年、五年、六年あたりに、ときどき赤字を出したことはありますが、二十七年は非常に健全な財政であったと思います。それから二十八年もそう大きな赤字を出さなかったのでありますが、十月、十一月ごろからだと思います。正確なところは久下局長から答弁してもらいますけれでも、私の記憶いたしておりますのでは、二十八年の末ごろからぼつぼつと赤字が出て参りまして、特に昨年夏以来非常に激増をしてきたと思うのであります。この根本原因は、端的に申せば、医療給付費が非常に増大をいたしまして、保険料収入とのアンバランスを生じたことにあります。現代の医学の進歩は、疾病治療の面におきまして急激な発達を遂げたのでありますが、これに伴いまして、新しい治療医薬品が次第に現われますとともに、これが相当な高価な額に上りまして、そのために赤字がふえたということは、しばしば申し上げておる通りであります。  前の答弁などと重複をいたします点は、あまり大橋先生に失礼であると思いますので、この際もう少し詳細なことを申し上げますが、一昨日整えましたこの資料で「健康保険年度医療給付の診療種類別諸率」というものがございます。これは参議院の方で書類を要求されまして昨日出しまして、まだこのことについての質疑応答をいたしておりませんけれども、衆議院の方にも、御要求がなくともこれはお回ししようと思っております。それによりますと、すぐわかるのでありますが、政府管掌健康保険においては、被保険者の入院数が昭和二十四年度におきまして八十二件でありましたものが、昭和二十九年には一八八・六と二・三倍ほどに飛躍いたしております。これに対しまして、入院外のものは二千七件ありまするけれども、二十九年には三千二百八十八と、あまり大きくはふえておりません。やはり一倍半強になっておりまするけれども、それほどふえておらず、大体こういう入院が一番大きな原因だと思っております。そのほか、この数字によりますと、最も大きく指摘をされなければなりませんのが、抗生物質の使用でありまして、これは昭和二十四年の五月に点数の比率で取りましたのが、全体を一〇〇といたしまして、わずかに結核非特異抗菌性製剤というものの比率が一〇〇%のうちに一・八二でありましたのが、二十五年には一五・一四になり、さらに二十八年に至りましては、二八・二二という数字を示しまして、要するところ、入院が非常に多くなったということと、そのうち結核性のストマイの費用が非常に大きくなったことが、二つの重要な点であることが資料によって明らかになって参りました。この資料は今日でもお配りいたしますけれども、最近一般的には言っておりましたことが、さらに正確になりましたので、御報告を申し上げておきます。
  60. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 最近数年間におきまする医術の向上によりまして、各種社会保険におきましても、医療の内容が非常に変ってきておる、このために医療費が増加しておるということは、当然予想された点でございますが、ただいまの大臣のお話によりまして、その辺がよく了解できるわけでございます。この問題については、なお後にお伺いする機会があるかと思いますが、この赤字は、要するに収入面、支出両のアンバランスでございますが、順序といたしまして収入面、すなわち保険料の収入状況あるいは滞納が増加をするというような傾向はございませんでしょうか。
  61. 久下勝次

    久下政府委員 私がかわりましてお答えを申し上げます。保険料の収納率は、昭和二十七年度、二十八年度、いずれも九二・五%という数字でございます。昭和二十九年度におきましては九一・三%ぐらいで、ずいぶん努力をいたしましたけれども、いろいろ経済界の影響などを受けまして、前年通りには上りません。ただし、以上申し上げましたのは、過年度の焦げつきの収納分も含めておりますので、いずれも前年度分だけで申しますと、九五%以上の収納になっておるような実情でございます。
  62. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 大体九五%の収入があげられているわけですか。
  63. 久下勝次

    久下政府委員 その年に調定いたしましたものは、その年度中に収納をいたします比率は九五%、それから前年度、前からの焦げつきの分につきましては、大体従来の実績は五〇%程度の収納率でございます。それを平均いたしまして九一・五%程度の収納があるわけでございます。
  64. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、収入面においては特に滞納増加というような傾向はない。そうすると、主として赤字原因は、支出の急激なる増加にある、こういうふうに一般的に了解してよろしゅうございましょうか。
  65. 久下勝次

    久下政府委員 御指摘通りでございます。なお収入の面、影響のございますのは、御指摘がございませんでしたけれども、平均標準報酬の多寡がございます。これも昨年度までの実績は、私どもが予想いたしました程度に上っております。多少この点は将来の問題と、いろいろ経済界の影響も受けますので、保険料収納率、被保険者の平均標準報酬の多寡は保険料に影響して参りますが、従来までの実績では、いろいろデフレの問題などが含まれておりましたが、少くとも二十九年度の実績は収納の面におきましては問題はないと考えております。
  66. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そこで主として支出の増大ということが、この赤字原因になっておるようでございますが、まず、医療内容の進歩に伴う医療費の増加、これについては、先ほど大臣から大体の傾向を伺っておるのでありますが、次に、羅病率といいますか、被保険者が病気にかかって治療を受ける率というものが、多少従来より増しておるというような事実はありましょうか。
  67. 川崎秀二

    川崎国務大臣 受診率も非常にふえて参りまして、昭和二十六年度では被保険者一般歯科にわけまして——一般は内科と外科その他でありますけれども一般の方は、昭和二十六年度を一〇〇とすると、昭和二十七年度が一一四、昭和二十八年度が一二七、昭和二十九年度が一五八という数字が出ております。これは入院であります。それから入院外は、昭和二十六年度を一〇〇にいたしますと、二十七年度が一一二、二十八年度が一一七、二十九年度が三〇というような数字でありますが、入院ほどふえておらない点は、先ほど申し上げました関係上対比するわけであります。それから歯科の方は、昭和二十六年度を一〇〇にいたしますと二十七年度が一〇六、二十八年が一一三、二十九年度が一二五、こういうふうになりまして、合計といたしましては、平均は昭和二十六年度が一〇〇、二十七年度が一一一、二十八年度が一一七、二十九年度が一三〇ということで、大体三割強ふえておるというのが今日の実情でございます。
  68. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 こういうふうに医療費がふえて参りまして、収入面の状況が同じならば、当然赤字が出てくることはやむを得ないわけであります。この赤字を調整いたしますためには、料率引き上げるか、あるいは医療内容を制限するか、両者を兼ね合せるか、こういうこと以外に経済自体としての赤字対策考えられないわけでございます。こういう意味において、今度赤字問題についてのいろいろな措置か考究されたものと思うわけであります。しかしこれに対しまして、社会保険審議会において、いろいろな反対論が出たように聞いておりますが、その反対論の理由といたしますところは、大体どういう点でございましたか、承わりたいと思います。
  69. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは社会保庫制度審議会並びに社会保険審議会におきまして、この国会に御審議をいただく以前に、厚生省としては慣行に従いまして両審議会の御答申を願ったのでありますが、いずれも料率引き上げ並びに今回提案をいたしました標準報酬のワクの引き上げについて、大体御反対で、あったわけであります。しかして、これをもう少し詳しく申し上げますと、料率引き上げにつきましては、労使双方ともに御反対であります。しかし、表面的にはそういう労使双方の御反対が出ておりますけれども、経営者側におかれましては、標準報酬のワクを引き上げることと一緒に料率引き上げを行うから反対であるというような空気もかなりありまして、料率引き上げのみを行うということについては、必ずしも反対でないという意見が、非公式ではありますけれども、団体の代表者からしばしば受けておるような次第であります。なお、労働君側におきましては、料率引き上げが最も御反対でありまして、この点はかなり強烈な御反対があったわけでありますが、標準報酬の方におきましては、最低の額を上げるということに対しては、必ずしも最初は御反対ではなかったのでありますが、審議の過程におきまして、今度の厚生省のとった措置につきまして、料率引き上げと標準報酬の引き上げをともに行うということについて、労使の双方が御反対でありました。  なお、いま少しく詳細に申し上げれば、社会保険審議会の中立委員、すなわち学者の大部分は、料率引き上げ並びに標準報酬の引き上げに反対する労使の意見は建設的な意見でないから、今日の赤字が出た以上は、何らかの措置をしなければならぬ、厚生省の行なった措置に対して、必ずしも賛成するものではないけれども、破壊的な意見に対しては、自分たちは賛成することができないという過程もあったのでありますが、最後には、そういうこともあったということをつけ加えて、多数で御反対になったというのが社会保険審議会の意向でございます。  社会保障制度審議会には、この法制案だけをかけましたので、訂正をしたいと思いますが、料率引き上げの方は諮問をいたしておりません。
  70. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 支出面におきまする問題が原因でありますから、支出を減らしていくということが、赤字について第一に考えられる点だと思うのであります。そこで、支出を減らす方法について、何かお考えになったというようなことがございましょうか。聞くところによりますと、医療費の経理あるいはその監査というような面について、従来いろいろな問題もなきにしもあらずでございますので、こうした点について、なお当局として十分留意すべき余地がありはしないか。またそれについて、従来どういう程度で、どういう成績をあげておられるのであるかというような点でもありましたならば、伺いたいと思います。
  71. 川崎秀二

    川崎国務大臣 この支出の抑制につきましては、私が就任する前におきましても、厚生事務当局並びに当時の大臣によりまして、医療給付費の著しい増し方を何とかしなければならぬというので、苦労をされまして、昨年八月における標準報酬の経理改訂に当りましては、極力標準報酬引き上げに努力し、平均八百四十八円の引き上げを見ることができたほか、昨年十二月、社会保険医療担当者指導大綱を新たに定めまして、これに基いて保険医に対する指導を全国的にまんべんなく実施をいたすことにいたしたのであります。その他被保険者に対する措置といたしまして被保険者及び被扶養者の診療の実態を把握し、不正受給を排除するため、診療報酬請求明細書の調査を実施いたしましたり、あるいは結核性疾病に関する療養給付記録票を新たに作成して実態をきわめ、給付の適正を期しましたり、さらに事業主に対する措置といたしまして、保険料の徴収態勢を強化するために滞納、未納を整理し、収納率の向上に努めるために御協力を願い、各般の会合等を催したりいたしまして、今日まで相当の実施をいたしておるのであります。しかして今度の措置といたしましては、法案に盛り込まれた措置がこれに該当するものと思います。  なお、最後に御指摘になりましたどういう実績をあげておるかということにつきましては、本年、特にこの内閣になりましてから、一月におきまして、大体保険支払いは一月に二十九億五千八百万円の予定でありましたものが、この保険医監査等の実施あるいは収納に対する態勢の強化によりまして二十七億九千二百万円、すなわち一億六千五百万円ほど一月は予定より少くなったのであります。それから二月は、二十九億五千八百万円の予定いたしましたものが二十八億三千五百万円、一億二千三百万円少くなったのであります。ところが三月、四月になりまして、年度末の関係もございまして、所定のような数字は現われておりませんけれども、とにもかくにも、こういうような監査の実施によりまして、数字が予定したものよりも次第に少くなったという効果は出ております。
  72. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 監査の結果が、思いのほか支出を抑制するに効果があったように承わったのでありますが、この点につきましては、今回の新しい法案におきましても、特に監督規定を強化されておるのでありますが、この監督規定の強化によって、予算上何がしかの経費が減少するというようなお見込みを立てて今度の予算はできておるのですか。
  73. 川崎秀二

    川崎国務大臣 今回もし収納率の引き上げであるとか監査の実施によって、一月、二月に現われたような実績を見ることなく参りますならば、また今度の法案の規定によって強化する部分の効果を見ることができませんならば、大体七十億と本年の赤字を見ておったのであります。これが六十億何がしかに下りましたのは、大体こういうものをも含めての予算措置であるというふうに見込んでいただいてけっこうであります。
  74. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうしますと、今度の法案のうちで、問題になっております標準報酬の引き上げはあとで伺いますが、もし監督規定が成立しないというようなことがあると、健康保険赤字が、今年度において予算上当然十億くらいふえるということを覚悟しなければならぬ、こういうことが言い得るわけですか。
  75. 川崎秀二

    川崎国務大臣 監督規定だけでありませんで、ただいま申しました収納率の引き上げその他いろいろな措置によって、総合して十億でありますから、それだけで十億少くなるということはありませんけれども、こういう規定が成立をいたしませんことには、相当な打撃を受けることは事実でございます。
  76. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 念のために伺いたいのは、この監督規定が不成立の場合に、予算上どのくらいの赤がさらに見込まれると言い得るでしょうか。むろん、これは想像ですから、的確な数字をぜひ言ってほしいというわけではありませんが、十億のうちで、在来の規定を強化実施することによって、そのうち半分ぐらいはカバーできるだろう、しかし、残り半分の五億円はどうしても新しい法規に基く措置がなければやれない、こういうことになると思いますが、この辺のお見込みは全然ございませんか。
  77. 久下勝次

    久下政府委員 予算の積算と申しますか、いろいろ折衝をいたします際に、先ほど来大臣が申し上げておりますような総合的な対策として問題を考えておるのであります。それにいたしましても、実はこの分で幾ら上るというようなことは、正確には出て参らないのでございます。私どもとしては、過去の実績なども考えまして、大体年間を通じて予算に積算をいたしました程度のことは、本改正案が通過することによって期待し得るという程度しか申し上げられないと思うのであります。特にこの監督規定だけで効果を上げるというものでもございませんし、御指摘がございませんでしたけれども、たとえば改正案の中に載っております不正受給の場合に、その保険給付に要した費用返還を命ずる規定もあります。これらはそれ自身どれだけの財政効果が上るということは申し上げられませんけれども、それらの監督規定と相待ちまして、一般に与える影響も大きいと思うのでございます。いずれにいたしましても、そうした問題を総合いたしまして、先ほど来大臣が申し上げました施策等を総合して予算の積算をいたしておるわけであります。しかも、予算の積算のやり方が、実は受診率がこのくらい上るだろう、一件当りの金頭はこの程度でとどめ得るであろうというような積算の仕方をしておるものでありますから、これらは受診率を〇・何%というふうに見るかどうかというようなこまかい数字のところにひっかかって参っておりますので、その辺を的確に申し上げる根拠はないのでございます。しかし、いずれにいたしましても、くどくど申し上げて恐縮でございますが、先ほど来申し上げておりますような具体策を総合して、私どもの見通しとしては、今年度分だけで大体三百九十一億円くらいの医療準備金で済むであろう、こういうふうな積算をいたしておるのであります。
  78. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 重ねて伺いまして恐縮ですが、承わるところによりますと、今回の改正法律においては、標準報酬の引き上げによって三億何がしの増収を見込んでおられる、それからただいま伺いますと、監督規定の強化を含めて従来の法規に基く監督措置強化、これを合せて約十億を節約するのだ、こういうふうに伺ったわけですが、そうなると、その十億円が出るについては、当然在来の規定に基く監督措置強化によってどの程度の支出減が予想され、さらに今回の法案の新し監督規定によってどの程度の支出減が予想されるということがなければならぬわけであります。むろん、これをこまかく正確に伺いたいというわけじゃございませんが、まず七分三分、三割ぐらいは新しい規定でやりますというような程度の見当はおつきになるのではないか。ざっくばらんに言えば、半々と見るか、あるいは七三と見るか、四分六と見るか、おそらくそんなところだろうと思います。これが結果として現われてくるのは、法律が改正になればどの分でどうという計算はできないのでありますが、しかし、いやしくも新しい法律を出さなければならぬのだと言われる以上は、その法律が出たためにこの程度財政上に影響があるのだということだけは、承わる必要があるのじゃないかと思います。むろん、正確なものを要求するわけじゃありません、あなた方の専門的な経験に基く勘でけっこうであります。
  79. 久下勝次

    久下政府委員 重ねてのお尋ねでございまして、まず健康保険法第九条及び第九条の二の規定の改正に触れてのお話でございます。これは午前中、他の方の御質問に、大田からも御説明申し上げたのでございますが、実は九条にいたしましても、九条の二の改正にいたしましても、従来も監査あるいは被保険者調査の際にやっておったのでございます。特に保険医の監査の場合には、保険医の方に診療録を持ってきていただきまして監査を実施しておるのでございます。ところが、現実に果して持ってこいということが言えるかどうか、そういうことが多少の疑念があったのでございますが、実際にやっておったことを法律の上に明確にするというのが、監督規定に関する限りは今度の改正の本旨でございます。そういう意味合いでありまして、財政的のことは申しませんが、ただ私があえて申し上げたいと思いますことは、赤字対策の一環といたしまして全国的に保険医、被保険者の監査を強化いたしておるわけでございまして、何と申しますか、一つの機運を作っておるわけでございます。そうした機運に対して、相当な影響のあることは考えなければならぬと思うのでございます。そうなりますと、率直に申し上げまして、果して七十億の見込みで済むかどうかも問題でございます。それがさらに六十一億八千万円に圧縮する予算を立てておりますが、これも実はできるかどうかという最後のところまで申し上げますと、はなはだ懸念があるのでございます。いずれにいたしましても、この分だけでどのくらいということを申し上げることは、はなはだ苦しいのでありまして、その辺のところから幅を申し上げましたので、御了察を願いたいと思う次第でございます。
  80. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 それではこの問題はその程度にいたしますが、そうすると、監督規定の強化ということは、従来相手方の承諾を得て実際やっておった、ただ法的な根拠がないから、この際法的な根拠を作って一そう励行していこう、そうしてまた事実監査の実を十分におさめたい、こういう意味でございましょうか。
  81. 久下勝次

    久下政府委員 改正の内容は、こまごま申し上げますれば、多少中にはニュアンスの差がございます。たとえば、実地について書類の検査ができるという規定が新たに今度ございます。これは現行法においてはございません。これはやはり実地についてやり得るというのか、法制局あるいは医務局の専門家の解釈で、実地検査を現行法でもってやっておったのでございます。それを明確にするために、実地についてということを規定したわけでございます。それから診療録を持ってきていただきます点は、御指摘通り、従来は了解のもとにやっておりましたが、今回はっきりしておいた方がいいじゃないかということで、医師会などの役員の立ち会いもございます関係もございまして、一々個人々々の宅にお伺いいたしますよりも、一カ所に持ってきてもらった方が便宜であるというので、実際にやっております問題を明確にしたいということでございます。
  82. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうしますと、特別この際規定を強化しなければならぬわけのものでもないが、赤字問題のやかましい折から、監査というものを一般的に強化する必要がある、そういう機運を作り上げる上からいっても、こういう新しい法改正をやらなければ工合が悪いという意味改正と了解しますが、それでよろしゅうございますか。
  83. 久下勝次

    久下政府委員 先生の御判断は、ずいぶん軽い意味にお取りのようでございますが、実はこまかいことを申し上げるようでありますが、この九条の改正につきましては、勤務場所についてだけ、被保険者または関係者について検査をすることができますが、実際は、病院に入っております患者について、いろいろ話を聞かなければならぬ場合も相当あるわけであります。そういうようなことにつきましては、こういう規定を改正することを御承認いただけませんと、実際問題として困る面もあるわけでございます。また九条の二の改正につきましても、今申し上げた通りでありまして、御指摘通りにそう私どもとしてはこの問題を瞬く考えておるものではございません、ぜひとも御承認を願いたいという考えでおります。
  84. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 この関係につきましてはこの程度にいたしまして、次に、赤字対策として、今度御採用になっておりますのは、支出を減らすという点においては今の点が一点、次に収入を増すという点において、標準報酬の引き上げを行なっておるわけでありますが、この標準報酬引き上げのほかに、国庫補助を予算上十億円措置しておられるわけでございます。これについては、十億円と決定するについて、何か理論的な根拠がございましょうか。
  85. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは御承知のごとく、今回の選挙に当りまして、民主党としては、健康保険赤字を解消するためには、何と申しましても医療費増大してきたことでありますから、その医療費増大は千数百万といわれる健康保険加盟者並びに被扶養者に対しまして、これに国家としての責任を感じ、当然国家がその一部を負担することが、政策上また社会保障制度の完遂上必要であるということから、選挙の際において公約をいたしたものであります。その際、何割ということにつきまして主張をいたしたわけではございませんけれども、今回厚生省を担当いたしました私といたしましては、社会保障制度審議会が数回にわたって御勧告になり、健康保険においては二割の国庫負担をすべきが当然であるということが主張されておりまして、私としては、今日の日本の非常に窮屈な財政状況から、一挙に二割を達成することは困難であると考え、党にも相談をいたしまして、一割国庫負担を要求し続けたのであります。しかしながら、これまた他の政策との折り合い並びに財政上の制約から、非常なる制約を受けまして、最後には十億という定額負担になりました。これは別に理論的根拠のある数字ではありません。しかし、一部国庫が負担をすべきだということについては、大蔵大臣との間に十分な了解を得て行なったものでありまして、これは毎年、今後六カ年赤字が出ておる間、とりあえず十億ずつ負担をするということになって、六カ年間負担をするということになっておりますが、私といたしましては、党の主張もあり、明年度からは定率の負担に直したいと考えておる次第でございます。
  86. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 一割というと、大体どのくらいの金額になりましょうか。それから十億というと、どのくらいのパーセンテージになりましょうか。
  87. 川崎秀二

    川崎国務大臣 本年は一割が三十九億五、六千万円に該当いたすかと思います。
  88. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、この国庫補助は来年からは大臣の御希望としては、一割という御希望のようで、そうなりますと、それは健康保険赤字があるから、これだけの国庫負担をするという意味のものであるか、それとも、本来健康保険制度そのものは、国庫がその程度の補助をすべきものである、こういうお考えのものであるか。
  89. 川崎秀二

    川崎国務大臣 赤字が契機となりまして、赤字対策としてこれらの措置が講ぜらるるに至ったことは事実でありますけれども、今日民主党並びに政府としての見解は、健康保険財政に対しては、当然定率の負担をすべきものであるということの方向に向って前進したいという考えでありまして、統一をいたしました結果、今日は契機としては赤字財政の問題から発しておるけれども健康保険財政に対して政府もまた、国民健康保険と同じく、これと同率とはその性質上申しがたいけれども、これとやや比肩した形において負担をいたすべきであるという考え方に相なっております。
  90. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 御承知通り健康保険については、政府管掌と組合管掌とあるわけですが、組合管掌についても、健康保険である以上は、やはり同じ趣旨をもって同じ程度の国庫補助が当然要求されると思うのでございますが、この点については今年度はどうなっておりますか、また今後のお考えはどうでありますか。
  91. 川崎秀二

    川崎国務大臣 組合管掌の健康保険は、御承知の起り非常に財政状態のよろしい組合もあれば——これは多数、少数という比較で申し上げれば、組合の数からいえば多数だと思っております。一部においては、非常に財政のよろしくないのもありますけれども、総じて非常に健全なる財政状況をたどっておりますので、まず政府管掌から手をつけましたけれども、将来はやはり組合管掌に対してもこれと同じような措置、もしくはこれと同じ措置ができませんでも、順次ワクを拡大していくべきが、政策としての筋道であろうと考えております。
  92. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、組合管掌については、財政赤字の有無にかかわらず補助を出す、こういう御意向だと思います。またそれがむろん当然なことであって、現在赤字のないものは、大体健康保険保険料をよけい取っておるから赤字もなしで済む。保険料の少いところは赤字がある。赤字があるから補助をするというのではなく、やはり健康保険としてある率の補助をする、こういうお考えであるべきものと思うわけでございます。  そこで、来年度予算のための予算要求の時期も近づいておりますが、大臣としましては、来年度においては、当然一般健康保険についても、やはり一割の予算要求をされるお考えでございましょうか。
  93. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これはまだ予算編成の時期にもなりませんので、その際におきまして、各般の状況を見渡して決定をいたさなければなりませんけれども、たとえば療養給付費の一部を負担するということ以外にも、何らか組合管掌に対するところの国庫負担というものを強化していくというような措置考えられますので、いろいろ考えておりますけれども、とりあえず明年度におきましては、何としても政府管掌の健康保険国庫負担の一割を達成し、これに続いて組合管掌におきましても、国庫負担を何らかの形で実現をいたしたい、かように思っておる次第でございます。
  94. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 これは将来の問題でございますから、その程度にいたします。  次に、今回のこの法案には現われておりませんが、医療費用を節約する方法として、今日一般的に研究されております問題は、医療費の一部を被保険者負担にするような措置を講じてはどうか。また、これは多少考え方が似た点もあると思いますが、医療の内容についてある限度を定めまして、その限度を超過した医療行為、たとえばある特殊の高価なる薬品の使用は、ある程度の症状をこえて使用する場合においては、その費用は自弁にするというような方法もあると思うのです。こうしたいわゆる医療費の一部を被保険者負担せしめるというような措置についての大臣のお考え、また今日までの当局の研究等について伺いたいと思います。
  95. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまのお話のことは、かなり保険財政の立て直しの基本問題に関連をすることでありまして、ことに大橋委員の申されておることは、あるいは将来国庫負担がされると同時に、患者の一部負担も終局的には考えられなければならぬ時節が来るのではないかということも私は考えておるのであります。しかし社会保障制度は、御承知通り、被保険者、国等の相互負担によってこれを育成していくのが建前でありまして、ことに今日の経済情勢並びに国民社会保障に対する期待からいたしまして、何としても国家がそれに対して責任を負っていくような態勢を強めることがこれに報いることであり、日本の社会保障制度を伸ばしていく第一の着手であると思うのであります。第二番目には、被保険者も一部負担をいたしていただかなければならぬ関係から、料率引き上げをいたしましたが、患者の一部負担ということは、行うにいたしましても、私は最後的手段であるというふうに考えて今日まできたのであります。しかしながら、これらにつきましては、基本問題にも関連をいたしますので、今日厚生大臣の諮問機関といたしまして、従来の健康保険制度全般にわたるところの再検討、何ゆえに赤字がかくのごとく増大してきたか、これは常識論並びに先ほども申しました統計におきましては相当に出ておりますけれども、しかし、なお相当経済の要因等についても検討を加えなければならぬ問題もあり、かつ、かりに一部負担をやりますれば、これは社会保障の、もしこのことのみを実施をいたしますれば、明らかに後退になるわけでありますから、国庫負担あるいはその他の措置というものが先行をして後に、どうしても財政上成り立たぬというときに初めて行われる措置であろうと考えております。もとよりフランスやイタリア等の先進国におきましてすら、一部負担はすでに実施をいたしておりまして、またイギリスでも、先般非常な問題を起しつつも、患者の一部負担を実施をしておる向きもあるのであります。しかし、このような先進国は、それにも増して国庫の負担というものを先に打ち出しておりますから、それで最後には患者の一部負担強化ということも、相当に納得をせしめつつ行われておるのではないかというふうにも私には感ぜられるのであります。いずれにいたしましても、これらの問題に深い検討と、世人を納得せしめつつ、全体としての社会保障制度にふくらみをつけるためにも、私は現在厚生大臣の諮問機関であります七人委員会にぜひとも結論を早く出してくれということを申しておるような次第でありまして、これができました場合におきましては、先ほどいろいろ御言及になりました問題も、あわせて断が下されるものと考えておる次第でございます。
  96. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、大臣のお考えでは、国庫補助をどんどんやる、そうしてその上でまだ赤字が出れば一部負担をやる、こういう考え方の順序のように承わったわけでありますが、国庫補助は、一割以上は、幾ら赤字が出てもやらないというようなめどがあれば、これは大臣の言われるような考え方の順序として言えると思うわけであります。しかし、赤字があれば国庫補助をやるのだというようなお考え方でありますと、赤字があれば国庫補助なのであって、国庫補助をやれば赤字がなくなるわけですから、いつまでたっても、患者の一部負担などというものの出る幕はない、こう言わなければならぬわけです。その辺にやはり、国庫の補助は最大限この程度までである、それ以上赤字が出れば一部負担であるというような、国庫補助についての限度というものを、大体あるところへ置いておられるのでしょうか、それとも、ただばく然と今のようなお考え方をお述べになっておられるのでしょうか。
  97. 川崎秀二

    川崎国務大臣 私の今日の考え方は、やはり国民各層から反映をされた世論というものに一つの基準を置きまして、そうして、ことに社会保障制度審議会等の権威ある委員会勧告を基準にして行うべきが、為政者として最も妥当な方策であろうと考えておりますから、健康保険につきましては、私は明年度予算においては一割ということを要求し、これを貫くつもりではございますけれども、それで満足しておるわけではない、やはり二割国庫負担というものは妥当であろうと思っております。しかし、それ以上健保に対して——ある団体のごときは、三割、四割等のことをすでに今日から要求をされておるような向きもありますが、そういうような所説に賛成をいたしておるわけではございません。しかしてこれは二割国庫負担が実現された後においてのみ患者の一部負担をするようなことはありません。むしろ一割国庫負担をしなときに、なおその一割国庫負担でも足りないというようなことにでもなりますれば、患者の一部負担というものをやはり考えなければならぬのではないかというふうに感じておる次第でございます。
  98. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、大臣のお話を総合しますと、大臣は、一割の国庫負担をしなければ、患者の一部負担というものは考えられない、こういうふうに印象を受けたわけでございますが、そういうお考えでございますか。
  99. 川崎秀二

    川崎国務大臣 患者の負担というものを、もしやむを得ず実施しなければならぬときには、国庫も一割負担をすべきが当然であると考えております。並行的に行うようなことに相なるかもしれませんが、これはしかし今回の七人委員会あるいは社会保険審議会等の御審議を経てその結論が出ないことには、患者の一部負担というような問題も、終局的に導き出されるということはないとお考えをいただいてけっこうであります。
  100. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうすると、要するに一割の国庫負担がなければ、患者の一部負担ということは絶対ないだろう、こういう趣旨に承わっておくわけでございます。  それから今日この健康保険赤字に関連して、その原因として取りざたされております問題は、いわゆる結核患者の医療費が非常に増加をいたしておる、これが健康保険赤字相当原因をなしておる、こういうことをよく聞くのでございますが、この点についての厚生省のお考え方並びに実情を承わりたいと思います。
  101. 川崎秀二

    川崎国務大臣 医療給付費の中において占めております結核の割合は、入院においては六二%ということになっております。全体の平均は三六・四四%という数字を示しておりまして、確かにわが国の国民病ともいわれる結核患者の多数が長期療養を要するために、この健康保険の中におきましても、結核療養費というものが重圧となっておることは事実でございますが、しかし、この結核患者の治療費を、全面的に現行の健康保険の中で見るか、あるいは結核保険といったような別個の体系を作るかということは、議論の非常に分れるところでありまして、この保険をなるべく統合しようといたしております政府といたしましては、今日結核の問題については、重視はいたしておりまするが、これを別の体系にするというような考えは、今日はいたしておらないのでございます。
  102. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 最近の結核関係の法規を、私は十分に承知をいたしておらないのでお恥かしい次第ですが、従来は、結核予防法において、結核にかかっておる貧困患者は、公費によって療養せしめるというようなことが講じられておったのではないかと記憶いたしておるのであります。この考え方というものは、結局結核というものについては、できるだけ国家の責任において予防救済の措置を講ずるという精神に基いておったものだと思うわけであります。そうすると、こういう考え方を推し広めていきますと、一般的に、特に富裕な者は別といたしまして、結核患者であり、その療養のために貧困に陥るおそれがあるというような者については、結核予防という見地から、政府相当援助をするというのが今までの考え方であったと思うので、おそらく今日でも、結核対策については、厚生省はそうした御方針を依然としてお続けになっておると思うわけであります。そういう見地からいいますと、ただいま承わります療養費の三六%が結核患者の療養費であるということになれば、その三六%に対しまして、これを全面的に政府負担にしろという議論は成り立たないといたしましても、少くと本何がしかの部分は、政府責任においで負担をいたしていくということが、一応考えられることではないかと思うわけであります。そこで、先ほど大臣の言われました給付費の一割なり二割なりを国庫で負担すべきものである、こういう考え方と、ただいまの結核に対する療養費の半分程度は、これは国庫が補助したらよかろうという考え方とは、その考え方が一致して、同じ考え方に基いて結局大臣の御意見になったのであるか、それともこれは全然別個の考え方であるのか。もし別個の考え方であるといたしましたならば、健康保険に対する政府責任は、給付費全体の一割なり二割なりの政府負担をいたしましたほかに、結核費用について相当部分をさらに政府負担するということでなければ、政府責任は解除されないのではないか、こう思われるわけでございますが、その辺のお考え方を承わりたいと存じます。
  103. 川崎秀二

    川崎国務大臣 結核予防法の関係につきましては、ただいま大橋委員から申し述べられた通りが、今日の厚生省の方針でございますけれども、事実におきまして、結核対策というものは、十分なる施策となって現われておらないことを、はなはだ私は遺憾に存じておるのであります。しかしながら、ただいま仰せの結核対策は、そういう趣旨で作られたのであるから、三六・四四%を占める結核に対する負担ということに対して国家が責任を持つということたらば、将来措置せんとする一割国庫負担も、この面と関連して考えなければならない、こういうお話であり、さらに結核の方を持って、さらにその上において持たなければつじつまが合わないのではないかというふうに承わったのですが、私は、やはり今、一応健康保険で取り扱っておる結核患者を対象として議論をいたしておりますので、健康保険に対する一割の国庫負担というのは、結核患者のみを対象にしたものでなく、すべての患者を対象とした形で考えておるわけであります。従って、その対策の中には、結核を重視した意味をも加味いたしておりますが、これのみを目標にしたものでないことは、もとより明らかであろうと思うのであります。
  104. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 そうしますと、政府は各種の社会保険における結核の取扱いについては、今後とも従来の社会保険の中における従来の取扱いをそのまま継続していく、こういうわけであって、特に社会保険における結核の問題について、特別の措置を講じようという考えはない、こう理解すべきでございましょうか。
  105. 川崎秀二

    川崎国務大臣 この面は非常に重要な問題でありまして、現在のところは、そういう方針ではいっておりまするけれども、今回作られました七人委員会等におきまして十分検討した結果、結核医療に対しては、特別の措置を講じなければならないのではないか。保険の中におきましても、一つの特別な取扱い、たとえば、保険としては健康保険の中に入っておっても、その中における結核部門としての特別な施策が必要ではないかというような結論にもしなるといたしますれば、そういう方法もありましょうし、これらはすべて審議会等の御意見によりまして、今後政府として十分検討をしてみることにいたす予定でございます。
  106. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 私が今度の改正案に関連して伺いたいと思った点は、大体尽したつもりでありますが、最後に、社会保険の根本対策、特に赤字問題を中心とした根本対策については、現在厚生省においては七人委員会なるものが持たれている、そして、その七人委員会においては、この根本対策として特に調査すべき重要なる問題として、医療費の患者の一部負担の問題、それから国庫補助の合理的基準、それから結核の取扱いの根本的な考え方、こうした問題をも含めて調査せられているというように承わったわけでありますが、その通りでございますか。
  107. 川崎秀二

    川崎国務大臣 その通りであります。しかして、今回諮問をいたしておりますのは、そういう問題を対象にいたして、とりあえず三十一年度予算とも関連して考究をしてくれということを申したのでありますけれども、なお三十一年度というようなことに限定をせず、少くとも三十二年度、向う三年ないし社会保障六カ年計画とも関連を持って研究をしていただくことに、お願いをしているわけであります。この点、社会保障の長期計画に、厚生省といたしましても最近着手をいたしておりますので、これらの進行状態ともにらみ合せて、十分に近い将来の近年における大体のめどをつけてもらいたいということが、私の願いでございます。
  108. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 今度の法案に反対する理由といたしまして、根本対策が未定である、従って根本対策ができるまで、標準報酬の引き上げその他赤字対策については、もう少ししっかりした検討ができるまで待つべきだということのほかに、聞くところによりますと新医療費制度の改善であるとか、あるいは医療費支払い制度の適正化というような問題があったように聞いておりますが、支払い制度については、先ほど伺ったことで了解いたしました。しかし、新医療費制度について、根本的な対策を立てるというような意見があったようですけれども、それは一体どういうことでございますか。
  109. 川崎秀二

    川崎国務大臣 局長から詳細に答弁していただきますが、私から申し上げますれば、これらの根本対策を立てることなくして、今度の料率引き上げあるいはその他の施策をしたことについて御不満があったことは事実であります。しかし、責任のある政府といたしましては、健康保険赤字のまま、財政の収支の償いもせずして国会に臨むことは、はなはだ無責任な態度であるというふうに考えをいたしまして、一応本年度のみを限っての対策法案を出したのが今日の姿でございます。しかし、根本対策を、それならば忘れているということであってはならぬのでありまして、これは先ほど来申し上げました趣旨に沿いまして、七人委員会等の答申をなるべく早い機会にまとめまして世上に回答いたしたい、かように考えております。  なお新医療費体系の問題につきましても、各方面からその解決を迫られておりますので、目下のところ、九月の末までにはおそくとも結論を出してもらいたいということを申し入れをいたしている次第でございます。
  110. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 今度の法案をお出しになった御事情は、健康保険赤字のままで予算を提案することができない、こういうことをただいま大臣が言われたわけですが、しかし、社会保険審議会における委員諸君も、赤字のままで提案しろという意味ではないのであって、現に政府がお出しになっておられます本年度予算においても、六十億という借入金を予定されているわけです。これは後年度において、国庫補助によって解決されるという一応の見通しのもとにできている。それに対しまして、ある若干の金額をも、さらに同様の措置で借入金で今年度は始末をしていく、そして根本対策を立てた場合に処置しよう、こういう意見だと思うわけてあります。この考え方については、借入金が六十億ならいいが七十億じゃいかぬとか、八十億じゃいかぬというようなことは、そう根拠のある点ではないと私は思うのでありまして、特にそういう反対を押し切ってこの法案をお出しになるについて、特段の理由があったら、参考のために伺っておきたいと思います。
  111. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは本年度予算の編成の当初におきまして、赤字対策は、実は何らの対策なしに第一次の原案が出てきたのであります。その何らの対策なしにこのままいくということは、国会においてわれわれは責任ある答弁もできないし、また党としては、過ぐる総選挙において一部国費負担並びにやむを得ざる場合は料率引き上げということを——料率引き上げは、選挙戦に当っては不利なのにもかかわらず、この点は明確に申して参った建前もありますので、それらの措置はとらなければならぬではないかという議論が高まりました結果、十億の国庫負担料率引き上げということが当初に決定をいたしたのであります。これ以外の措置をどうするかということにつきまして、相当な論争もあり、もんちゃくもあったのでありますが、最後に財政当局においても、十分健康保険財政の窮状というものを承知をいたしておって、このまま国会に臨むということは、従来のいきさつからしてとうていできがたいことである、この際政府としても融資において六十億を捻出するということが、その過程におきまして話し合いがついた結果、提出をいたしたのであります。もとより、六十億を今度七十億、八十億というふうな数字に改めるたけの政治力がありますれば、これはそういうことになったかもしれませんけれども、しかし、全体といたしまして赤字総額百億のうち、七十億まで本年度並びに昨年度におきまして国の直接負担ないしはこれに対するところの融資というもので見ておれば、あとは料率引き上げ並びに標準報酬のワクの引き上げ等によって措置をすることが、三者一体となって非常に責任を分担した措置であろうということで、結論がついた次第であります。もちろん、預金部資金等の原資につきましても、検討を加えたのでありますが、この程度が今日では最大限の融資額であろうということになりまして、このような御審議を願っているという実情であることを御了承願いたいのであります。
  112. 大橋武夫

    ○大橋(武)委員 私は、なお標準報酬の引き上げの問題につきましても、詳細に伺いたいと思いますが、これはだいぶこまかい問題になりますので、個別的に法案審議するときに留保させていただきまして、今日の質問を終ります。
  113. 中村三之丞

  114. 永山忠則

    永山委員 民主党の政策で、住宅、減税社会保障というような順で、予算案をお作りになったといわれているのでございますが、大体そういうような順序で御方針をお定めになったわけでございますか。
  115. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは昨年十二月、第一次鳩山内閣が成立をいたしまして、その後第一回の予算編成の閣議が行われたそうであります。その際に、党とも連絡をとられて決定をしたことでありますが、主として鳩山第一次内閣の方で、予算編成の大綱をきめられた。その項を見ますと、鳩山第一次内閣としては、予算編成を、第一に住宅の不足を解消するために振り向けたい、第二は、国民の直接の負担を減らしていきたいので減税を実施したい、第三には、失業対策を中心とする社会保障強化をしたいというので、順序としてそういう順序になったとは、確定的には申し上げられないのでありますが、大体そういうことで予算編成の大綱ができております。その後、第二次鳩山内閣が成立いたしまして最初の閣議の際におきまして、私は、失業対策を中心とする社会保障ということはどうしても納得ができない、今日は失業者が非常にふえておるから、これの防止ないしは救済を主とする政策ということでは納得できるけれども、これと並列して社会保障強化を取り上げてほしいということを申しまして、文面にその社会保障強化ということを入れるということまでには立ち至りませんでしたが、実際の予算編成に当りまして、失業対策並びに社会保険強化を中心とする社会保障ということに、大蔵大臣、労働大臣、私、三者の話し合いがついて、予算編成に着手したということに相なっております。
  116. 永山忠則

    永山委員 社会保障の中に見出す住宅政策であらねばならぬのでございますが、住宅政策の先行によって、社会保障の方が圧迫されておるというような感があるのでございますが、大臣、そうお考えになっておりませんでしょうか。
  117. 川崎秀二

    川崎国務大臣 社会保障制度が圧迫されたとは、私は考えません。しかしながら、元来から申すべきは、社会保障制度強化の方が、むしろ国民の全般から申すならば、非常に重要な政策でもあるにもかかわらず、順位として住宅政策の方に比重がいったということにつきましては、私は実は不満を持っております。
  118. 永山忠則

    永山委員 社会保障強化の中に見出す住宅政策という点について、大臣としては、本年度予算においては非常に遺憾であるという点に対しては、われわれも同感でございますが、さらに民主党の政策の中に、防衛費を圧縮してといいますか、日本側の方の負担減によるものを、民生安定と生産増強に回すといったような考え方の宣伝であったと考えるのでございます。それはすなわち、もっと端的にいえば、防衛費の方を庄縮して、社会保障制度強化していくという気持が民主党の政策であるように、国民は受けたのでございますが、そういうような考え方ではなかったのでございますか。
  119. 川崎秀二

    川崎国務大臣 選挙の当時におきましては、防衛費を削減をして——削減に成功をいたしたならば、これを民生費の方に、特に社会保障費の方に振り向けたいということは、党の首脳部並びに党員多くの人が考えておったことだと思います。鳩山総理大臣も、毎日新聞でありましたか、当時御言明になったことが記録に残っておりますので、これは何と申しても申し開きのつかぬことでありますが、削減をいたしました分が——確かに削減には成功いたしておりますが、これが防衛庁費に回りまして、御承知のごとく漸増でありますから、昨年よりも増大するのが普通であったものを、とにもかくにも民生費の方に振り向けることができたということもまた事実ではなかろうか、かように考えておる次第でございます。
  120. 永山忠則

    永山委員 防衛費の削減によって、民生安定方面へということによって、国民的感覚が非常に民主党を支持いたしたにもかかわりませず、結果的には、日本側の削減ができましたが、それが防衛庁費へ振り向けられまして、民生安定と生産増強へいくことができなかったという点と、ざらに住宅との関係で、国民的に見ますれば、公約にかかわらず民生安定の諸政策の打ち出しが非常に少かったということを、遺憾に考えておるのでございますが、この点、大臣もお考えのようでございますので、これ以上は追及いたしません。  そこで、社会保障制度の諸問題に対して、基本的な問題を御質問申し上げたいのでございます。社会保障制度の理念は、国費主義といいますか、国家扶助を中心にしていくという考え方でありますか、ことに社会保険は、社会保険制度を中心にしていくという考え方でございますか。
  121. 川崎秀二

    川崎国務大臣 社会保障の根本的な理念といいまするか、考え方についてのお話でありましたが、率直に申せば、回答はただいまどちらかといわれますれば、それは社会保険強化をしていく、これを中心にして実らしたいというのが考え方でございます。しかしながら、元来社会保障は、社会に起ってくる貧困、失業その他のきわめて悪い条件の一切のものに対しまして、この危険負担行為というものを、国家あるいは地方公共団体、さらには国民が社会連帯の理念に基いて行なってこそ、初めて社会保障の実が上るのでありまして、やはり最終的な危険負担行為は国家がこれを助成するということが、私は社会保障の理念でなければならない、かように考えておるわけであります。従いまして、もちろん国費主義であることはありませんけれども、危険負担行為に対しまする最終の責任というものは、やはり近代国家としては、国自身が持つべきものでなければ、社会保障というものは実らないという考え方をしておるのであります。従って御質問の点は、社会保険強化を中心にして行うべきではありますが、それに際して国の助成、国のこれに対するところの力の入れ方というものは、ウエートは漸次強化されていかなければならぬと、かように考えておる次第であります。
  122. 永山忠則

    永山委員 現在のように経済的に非常に苦しい状態になり、ことに戦後における敗戦国家として、国民経済は最悪の状態になっておる、またデフレ関係によりまして、一そう国民経済は圧迫されておる。こういう社会情勢になってくればくるだけ、国費補助といいますか、公費負担強化して、社会保障制度を確立しなければならぬというように考えるわけでございます。もちろん理念的には、社会保険制度を確立するというところでございますが、経済が悪くなればなるだけ、国家はこれに対して国家扶助を強化していくということに進まなければならぬと考えるのでございますが、現時の経済状態において、大臣は国家の出す公費扶助は一段と強化すべきではないかというようにお考えにはなりませんか。
  123. 川崎秀二

    川崎国務大臣 その通りでございます。
  124. 永山忠則

    永山委員 この理念をもっていくならば、どうしても私は社会保険、ことに社会医療保険に対しましては、公費負担強化せなければならぬということになると思うのでございます。国民健康保険に対しましては、大臣は先般同僚山下委員質問に対して、二割の国家負担を法制化することに対しては、賛成であるということを御発表いただいたわけでございますが、健康保険に対しては、遺憾ながら今回はそれに至らなかったという点は、お察し申し上げるのでございますけれども、実際の問題といたしましては、この赤字の出ましたところの原因の主たるものは、結局経済の非常な悪化によりまして国民の経済状態が苦しくなって、結論的に保険料を払うことができない、また中小企業者等におきましては、給料の不払い、もしくは低下というような関係、あるいは会社の破産というような経済上の事由によりまして、どうしても保険料を払うことができないということからきておりますので、先般いろいろの原因を言われておりますけれども、すべてそれは刺身のつまでございまして、本質的には日本経済の悪化、国民経済の全く苦しい状態が、この赤字に追い込めたのでございますので、こういう場合におきましては、健康保険に対しましても、勇敢に国家補助をお出しにならねばならぬというように考えておるのでございます。この点に対しての大臣考え方は、すでに前からそういう考えだということを言われておるので、さらに追及はいたしませんが、内閣全体の性格が、こういう時代においては、社会保障制度の確立ということが絶対の地位にあらねばならぬということに対して、大臣内閣におけるところの指導力といいますか、仕方において、最も遺憾ではなかったかと考えられるのであります。ことに、十億円の国庫負担によって、六カ年間でこの健保の赤字を解消しようということでございますが、その十億円は、実は公費医療給付に対する補助、この考え方でやるんだというくらいまで、私は強く内閣で推し進められるべきではないかというように考えるのでございますが、この点を一つ……。
  125. 川崎秀二

    川崎国務大臣 保険財政のことにつきまして非常に詳細に御承知永山先生から、御激励かつ御意見を受けたのでありますが、実はこの席上で申して、果して適当であろうかということにつきましては疑念がありますが、最近まで大蔵財政当局は、あれは赤字負担のものだという考え方でおったのであります。しかし私は、赤字であるとないとにかかわらず、健康保険に対する国費の負担を将来は一定率持つべきである、今回は十億という定額であったが、持つべきであるということで、予算委員会その他の委員会の質疑応答を押し切りまして、今日では大蔵大臣の感想といたしましては、あれは自分は赤字財政のつもりで出したが、今日では結局厚生大臣の言うように賛成せざるを得ないというような述懐も漏らしており、そのような関係で、この点次第に強化をいたしていきたいと思うのであります。過ぐる予算案修正に当りましても、もし自由党におきまして予算の修正をされるならば、健康保険における国費の負担についても、十分に御考慮をいたしていただきたいということを内々申しておったほどでありまして、これが他の財源等との関係から実施を見なかったのは残念でありますけれども自由党の中にも、健康保険に非常な御関心を寄せられておる永山先生のあることを、私ははなはだ力強く感じておる次第でございます。従来、国民健康保険のことにつきましては、自由党の方々からいろいろと御示唆や御教訓を得ておりますけれども健康保険についても、もっと国費の負担をせよという自由党の意見でありますならば、今後一そう勇を鼓して、私はこれに対して邁進することができると存じておる次第でございます。
  126. 永山忠則

    永山委員 大臣が、特に大蔵省の方に強く、十億というものは、単なる赤字補てんではなく、医療給付費の補助の性格を持つべきものだということを推し進めており、将来健康保険に対する国庫給付費補助をお考えになっておる点は、われわれも実に賛成するのでございますが、私が問わんとするところは、その理念を強く推し進められていけば、必ず大蔵省は了承してくれる。国民健康保険もまた、最初は赤字補てんのためと言っておりましたものを、ようやく強い社会保障の理念において国民要望に耐えかねまして、大蔵金融当局も同意いたしたのでございますが、同じようなコースにおいてこれは推し進められることを信じておるのでございます。この信念があれば、私は保険料率を議会の審議中にお上げになるということは、やはり大臣の信念が足らぬのじゃないか。もちろんいろいろの事情もございましょうが、この点については、私は最も遺憾に思うのでございます。大臣は、やむを得ず本年度の暫定措置としてそれをやったのであって、将来は保険料率を引き上げておる部分は引き戻すんだ、むしろ下げるんだ、そして国庫給付費補助をして、力強く推し進めるんだという信念をお持ちでございますか。
  127. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健康保険料率引き上げましたことは、社会保険審議会等の御勧告もあったにもかかわらず、はなはだ残念なことではありますけれども、しかしながら、料率引き上げにおきましては、先ほど私が審議会審議過程を申し上げました通り、標準報酬の問題ともからんでの御反対でありまして、これを実施することについて、経営者団体におきましては、御反対がそう強く露出をいたして参っておらぬのであります。従って、全般をながめ渡しまして、今回国がこれほどの負担をいたしました以上は、料率引き上げは、共済組合、さらには健康保険組合の一部等では、すでに相当高い料率を取っておりまして、これがために、非常に健康保険財政がうまくいっておる点もあります。もとより組合管掌の健康保険組合は、財政状況の非常によろしい大会社大事業場でありまして、政府管掌の健康保険組合のごとく、中小企業者並びにその雇っておる労働者というような、非常に経済事情の悪いものとは、同一の判断とは申しませんけれども、他の共済組合等もそういう料率引き上げておりますし、従って、これの実施の時期をおくらせますときには、一カ月において予定をしております収入の三億に近いものが減りますので、これは赤字対策として、はなはだおそきに失するということで、やむを得ず実施をいたした次第であります。  なお、将来撤回する意思はないか。今日実施をいたしたばかりでありますから、今これを撤回する意思はございませんけれども、将来経済事情が好転しまするならば、また保険財政というものが好転をするようなことがあれば、これについて十分に検討はしてみなければならぬ時節があるかとも思います。しかし、目下これを撤回するなどという意思はございません。
  128. 永山忠則

    永山委員 今日保険財政の困難なる事由は、結局国民の経済事情が悪いのでございますから、それをさらに料率引き上げるという方向に持っていくということは、非常に逆コースでございまして、保険財政の確立をはかるということを目標としながら、結果的にはそうならぬのではないかということも憂慮されるのでございますから、とくとこの点は政府において御研究を願いたいと考えるものでございます。さらに、抜本的な社会保険に対する赤字対策を直ちに実施されなくてはならぬときが来ておるのではないか。じんぜん日を待って、あるいは調査研究に日をかせぐ時期ではないというふうに考えておるのでございますが、大臣はこの抜本的な社会保障制度の確立並びに社会保険赤字に対する対策を、今直ちに何からどういうように着手しようとお考えになっておるのでございますか。
  129. 川崎秀二

    川崎国務大臣 社会保障強化並びに当面する健康保険財政の立て直しということにつきまして、大体次のようなプログラムで進みたいと思っております。すなわち、この国会がいつ終りますかわかりませんが、国会が終りますれば、社会保障企画庁の実施ということに着手をいたしたいと思っております。これは社会保障制度審議会から多年要求がありまして、この春の閣議で取り上げて原則的な了解を得ておりますので、三十一年度予算とからむか、あるいは予備金でこれを設立せしめるか、いずれの方途によりますかはまだ未決定でありますが、社会保障企画庁を作りまして、これより推進をいたしたいと思っております。しかし、その社会保障企画庁の実施を待っておるわけにも参りませんので、当面の政策といたしましては、第一に健康保険の根本的立て直しを七人委員会の答申によって行いたい。その七人委員会は、今までに五月の十三日から勘定いたしまして四回開催をいたしておることを御報告を申し上げます。そうして、その後におきましては、当厚生省の中に厚生省組織令を改正をいたしまして、社会保障企画室というものを設けまして、ここにおいて諸種の統計を整理をし、しかして社会保障の白書とも申すべきものを作り上げたいというふうに考えております。この白書の基礎に基きまして、社会保障六カ年計画というものを作りたいというふうに考えております。これは社会党の三宅議員その他から、今日しばしば御質問があり、お答えをいたしたことでありますが、この社会保障六カ年計画は、審議室とも経済企画庁とも連絡をとりまして作り上げたいと思っております。そうしてその後には、医療保険全体に対するところの検討をいたし、医療保険の統合ということをどういう形において実現するかということについては、相当な議論がありましょうけれども、漸次統合の方向に向っていきたいというのが、私のその次にくる政策でございます。しかして、鳩山内閣はいつまで時局を担当いたしておりますか、わかりませんけれども、もし政局を担当する期間が長ければ、国民年金の創設に手を染めたい、かように存じておる次第でございます。
  130. 永山忠則

    永山委員 社会保障制度強化に対する大体の目標は、社会保障制度審議会等の勧告によりまして、きまっておるといいますか、大体目標はできておるのでございますが、その目標に向って直ちに一歩々々前進されるということであっていいのじゃないかと考えるのでございます。もちろん根本的な問題について、なお多々ますます御研究をいただくことに対しては、これは別に異議は申し上げませんが、直ちに実施をするということの目標は、もうきまっておるのではないかと思うのであります。すなわち、先刻お話しのように、社会医療保険におきましては、これの統合をやるんだということでございますが、これはすでに社会保障審議会の方の第一回の勧告に、わが国現在の各種の社会保険制度を統合して、それぞれの原因に対して給付の拡充と負担の公平をはかることを企図したというようにはっきり出てございまして、民主党の方も各党も、すべて社会保険の統合、そうして一元的運営というようなことは、政策に打ち出しておるのでございますので、少くともこれが具体的な方途に向ってさらに実施を進められなければならぬと考えておるのでございます。これに対しての統合に至る過程としては、もちろん大臣も言われましたごとく、健保を拡充強化し、国保を拡充強化して、そうして社会医療保険のその上の前進だということを言われておるのでございますが、ただ赤字ということに非常に追われまして、そうしてこの統合への前進というこの方途が、予算的にも実際にも現われていないように考えられるのでございますが、この点に関してはどういうふうにお考えでございますか。
  131. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまの御質問に、率直にお答えします。最後のお話のごとく、赤字というものに忙殺をされまして、あるいは前進ということの姿勢がやや薄いように感ぜられることは、御指摘通りであります。しかしながら、私自身といたしましては、これらについて先ほどのようなめどを与えまして、社会保障企画室を省内に作って計画性を高めていくことが一つ。しかして、年度の終りかあるいは新年度におきましては、社会保障企画庁ともいうべき総合機関ができるのでありますから、この点によりまして、相当推進されるものと思います。もとより、あまり大きなことのみを申しまして、たとえば総合年金制度ども、時日をかければ、どうしてもやらなければならぬ問題であります。国民全般に対しまして不公平のないような総合年金制度を樹立することは、今や国民の非常に要望しておるところだと思うのであります。今日、軍人恩給に対する給付、あるいは遺族に対する給付というものが、自由党民主党の案によりまして、相当に充実をせられました。私はこのことを、元来喜んではおりますけれども、しかし、明年あたりになりますと、恩給の経費は一千六十一億と概算をされるようなことであって、そのことは一般国民に対していかなる心証を与えるであろうかという問題も、ここに提起されてきておるのであります。そういたしますれば、こういう問題とも関連して、総合年金制度まで手を染めなければならぬと私は思いますけれども、これはプログラムとしては第三第四のプログラムになってくると思うのであります。やはり当面する問題は健康保険赤字を処理をし、そうして医療保険の体制を整え、しかる後に総合年金制度の樹立に向いたいと思っているのでありまして、そのような意味で前進の態勢がとれておらないと言われれば、これはもとよりでございます。それほど昨年来の保険財政赤字が泥沼のごとき状態であったということが、正直に申し上げて、言えると思います。従って、その疾患から、すなわち健康保険をまず健康にすることから始めたいと思っておる次第でございます。
  132. 永山忠則

    永山委員 社会保険の統合は、すでに目標であるのでございますので、ここに社会保険の企画庁というようなものの実現を待たず、一歩々々前進をせなければならないと思うのでありますが、議論を幾らしても、社会保障制度の問題は幾らでも尽きないし、また社会保障制度は、幾らでも範囲を広げ深きを増すものでありますので、まず第一に前進実行であると考えます。  そこで、実際の問題としては、おえらい官庁の者や学者の理論よりは、実は国会内において特別委員会をお作りになりまして、具体的実行へ向っての方途を進められるということでいくことが、一番早く予算化され立法化される。実は社会保険の統合は、行政整理の一大鉄槌でございますので、従いまして、議論はするが、実行をしようということは、役所のおえら方にまかせておいても、なかなかできるものではないと考えられます。そのことから、今日に至ってもなお統合問題は叫ばれてはきておりますが、少しも前進していないと考えておるのでございます。これは大臣に言っても仕方がありませんが、大臣考え方を——学識経験者やあるいは官庁の関係者という方面重点を置かずに、国会側に中心を持って、議会政治力によってほんとうの行政整理を目ざす一大革命的な社会保険の統一を実行する、国会側の強い力をバックにしておやりになるということが、前進する一番大きな近道であると考えるのでございますが、大臣、どうお考えになりますか。
  133. 川崎秀二

    川崎国務大臣 私もただいまの御結論に対しまして、必ずしも反対はいたしません。むしろそういうような態勢ができまして、逐一御指示があるというようなことになりますれば——われわれとしても、社会保障の問題は、超党派的に推進をしなければならぬ要素をもかなりに含んでおると考えます。もとより、財政の制約等からいたしまして、あるいは将来社会保障の具体的な問題につきましては、各党におきまして、非常な意見の相違も出てくることとは思いますけれども、しかし、今日おくれておる日本の社会保障現状におきましては、各党ともこれを強化されることに一応最大公約数を出しておられることと思います。従いまして、今日そういうような機関が国会の内部に自主的にできることにつきましては、私も賛成でございますが、これは私が申し上げる筋合いではありませんで、議会人としての私ならば、同感と申し上げますけれども厚生大臣といたしましては、皆さん方の間におきましてそういう機関ができますれば、私がそれによって指示をされる、そのことによって啓示を受けるということにおいて非常に賛成であります。ただ、従来は議会人の御意見を聞いておりましたのが、今日多くの、審議会がありまして、最も権威のある審議会として一般から認められております社会保障制度審議会には、各党から有力なる幹部の御参加をいただいておるのでありまして、この意見もかなり大きく反映をいたしつつあるのであります。
  134. 永山忠則

    永山委員 立法は議会であり、予算化もまた議会でございますから、大臣考え方もそこに適当に入って、もうすでに論議、審議を越えて実行していいのじゃないかと思いますので、一つ一段とその考え方でやっていただくことに期待をいたすのでございます。  その次に、統合への前進といたしまして社会保障制度審議会は、健保並びに国保々拡充強化するということになっておるのでございますが、これに対して、本年度の御構想等はどういうようになっておるのでごいましょうか。健保及び国保の拡充強化に向っていくことが、結局社会医療制度の統合への前進でございますが、これに対するところの御方途といいますか、どういう計画で進めていかれるのでございますか。
  135. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは予算の面に現われたものによって御判断を願いたいと思うのでありますが、本年度は、特に健康保険財政が非常に崩壊の危機に到達をいたしておりましたために、先ほど前進態勢がないと言われましたが、その通りであります。しかし、後退的な態勢というものを食いとめることに全力を注ぎまして、一応その穴埋めをいたしたのが今日の実情でございます。しかして健康保険財政の危機を食いとめることに主力を注ぎました一方、保健財政の支柱でありまする国民健康保険に対しましても、例年同様の措置を行いまして、かなりの強化を見たのでありますが、先般自由党民主党におきましては、この施策をもって足れりとせず、直営診療所並びに助成費に対して、大幅な増額をすべきであるというので、今日の非常に窮迫した財政の中から三億五千万円の増額をせられまして、これに私も賛成をいたしまして、昨年よりも一段と進んだ政策がとられるようになったのが本年の具体的な構想であります。将来どうするかといえば、国民健康保険におきましては、今御審議中の自由党民主党の案が超党的に御研究をいただきましてその両案の長所を取って成立することを、私も厚生大臣といたしまして非常に熱望いたしておる次第でございます。   〔委員長退席、松岡(松)委員長代理着席〕
  136. 永山忠則

    永山委員 社会医療保険を統合していくということに向う方途としましては、むろん健保、国保を伸張することでございますが、そのねらいは、社会医療保険にさえも恵まれない国民大衆が、今なお二千八百万人もおるのでございまして、これをすみやかに国家のあたたかい手を及ぼすという方途がなければ、社会保険の統一というようなことも、なかなかできるものではないのでございます。この社会保険にさえも恵まれない層に対して、すみやかに国家のあたたかい手を伸ばすということの行き方が、政策面に出なければならぬと思うのでありますが、ただいまお説の点で、必ずしも前進をしていないとは申し上げませんけれども社会保障制度を確立するという大きなる看板と考え方には、残念ながら不適当ではないかというように考えておるのでございます。  それでは、まず具体的に申し上げたいのでありますが、先刻から問題になりました社会保険で、結局被扶養者として社会保険の範疇からはみ出ておる気の毒な層を、他の社会保険において救っていくという道がなきにしもあらずでございます。すなわち、国民健康保険においては社会保険の被扶養者を入れることができるのでありまして、しかも、今日これを強制的に入れることができる法律になっておるのでございます。しかし、これまた任意選択制をとっておりまして、入らぬということになれば、その市町村は全部入らぬでもいい、入るという方針ならば、健保の被扶養者をすべて入れるという、二つの道を選択制で選ばせるということになっておるのでございますが、これな健保の被扶養者を全部国保へも入れるんだということで御指導をしていかれますれば、ここに健保で三親等内で切られております人をも救うことができるのでございます。そういうような考え方で、社会医療に恵まれない層を、現在の厚生省の行政措置によって、少しずつでもこれを救っていくんだということが好ましいと思うのでありますが、この点に関しては、どうお考えになっておりますか。
  137. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいま御質問の点は、私も基本的には同感でございます。ただ、市町村によりましては、財政負担の実情からいたしまして、果してその線まで進み得るかどうかということについては懸念をいたし、実施をいたす際におままして、除外するような措置を講ぜざるを得ないような町村もありましょうけれども、なるべく御趣旨に沿うて強化をいたしたいと思っております。  なお、私の見ておりますところでは、昭和二十八年に国保の二割国庫負担というものが、一応これは法律ではありませんけれども予算措置としてできまして以来、国民健康保険は飛躍的に伸びてきておるのでありますから、今回のいわゆる法律によるところのものが施行されますれば、それによって一段と飛躍すると私は思うのでございます。現在国民健康保険が伸びないのは、昨日も申し上げたのでありますが、大都市、中都市におきまして実施をしておらないということなのであります。昭和二十九年度におきましては、福島、宇都宮、金沢、甲府市等、県庁所在都市も事業を開始するようになりまして、二十九年十月一日現在では二百五十六市に達しております。現在事業実施中の都市でおもなものは、札幌市、前橋市、名古屋市、高知市、福岡市等がありまして、この中にも名古屋の方がおられるかもしれませんけれども、もし名古屋がこれを実施するということになりますれば、他の都市にも相当に影響を与えるものと思います。その意味では、先般も申し上げましたが、東京都が財政状況の関係で非常な制約を受けておりますために、実施にちゅうちょをいたしておりますけれども、これが実施をいたしますれば、全国におけるところの非常な躍進にもなりますので、まず、ただいま申し上げたような都市で順次に実施をしていただきますれば、相当に大きな幅となって現われるものと思います。  以上お答えになりましたかどうかわかりませんが、ただいま御質問になりました重点に対して、大体お答えいたしたつもりであります。
  138. 永山忠則

    永山委員 行政的措置によって健保の範疇からはみ出る者に対しても、国保の方に強制加入の方途があるのでございますから、行政的措置によってこれをできるだけ救っていくというお考えについては、御賛成のようでございますので、特に厚生当局にこれが指導をお願いいたして、すみやかに医療に恵まれない層に、国家のあたたかい救いの手を伸ばすようにお願い申し上げる次第であります。  時間的関係もありますのでついでに大臣にお問いしたいのは、先刻申しましたように、今なお二千八百万人もの医療に恵まれていない層を救済する方途といたしまして、大臣の方では、国民健康保険を強制的にやることは、社会保障制度審議会の方も必ずしもそうでないのだということをお言いになっておるのでありますが、第二次勧告におきまして、国民健康保険制度を、年次計画により強制的に設立せしむべきであるということを、昭和二十六年十月二十日、前田審議会長から政府へ勧めておるのでございます。そこで、これに必ずしも強制設立の法制化という強い意味にもならぬかもしれませんけれども、結局、恵まれざる国民大衆層に、すみやかに社会医療の手が伸べられないということになれば、社会保険の統合という点において、初めて抜本的な対策ができるのでありまして、そこに初めて支払い制度の問題、あるいは保険医の問題、あらゆる諸問題が抜本的に解決して、赤字対策も克服されるのでございますから、どうしてもこれへ一歩前進していくんだ。それには、今なお社会医療保険に恵まれぬ人に対して、すみやかにやるんだという考え方がなければ——健保の赤字対策に眩惑されて、その面を忘れるようなことになっては最も遺憾にたえないので、先般国民健康保険の二割給付補助に対しましても、社会保障制度審議会勧告いたしておるごとく、年次計画を立てて国民健康保険制度を強制的に実施せしめて、それに向う方途として、ここに二割の国庫負担が必要だということを特に強調いたしておるのでございますが、今恵まれていない約三千万人の国民大衆に、年次計画をもって社会医療保険の手を伸ばしていこうということの大体の御構想はあるのですか、ないのですか。
  139. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまの第二次勧告で、年次計画によって強制的にこれを実施しろということは、これは私は必ずしも法によるものだとは、今日まで解釈しておらなかったわけであります。その原案にも、多分そういうふうに書いてあるのではないかと思います。第一次勧告は、御承知通り社会保障制度審議会が設立されました後、約一年ほどで勧告をいたしたのでありますが、その際は私も委員の一人でありまして、ことに前文の原案は、私どもも直接筆をおろしたような関係もありまして、よく存じてはおりますけれども、第二次勧告の中において取り上げられましたものも、第一次勧告趣旨からは逸脱しておらぬので、第一次勧告のときにおきまして、強制的にすべきか、あるいは任意設立にすべきかということには、非常な議論がありまして、その当時の委員の比率からいえば、八対二くらいの割合できまったと思っておりますから、後に第二次勧告において強制的という言葉が出ましても、それは法律によるものだということでお出しになったのではないと今日でも解釈いたしております。しかし、ただいまお説の通り国民健康保険を全国の市町村に適用し、大都市初め山間僻地に至るまでこれらを実施せしめて、全国民の間に医療の道を広げるということの趣旨は、厚生大臣就任当時からの考え方でありまして、年次計画をもっらてこれを実施するためにも、社会保障長期計画を作れということを申しておる次第であります。  さらに付言をいたしますれば、社会保障のことは、制度として実施をするという以前におきまして、その必要性から、市町村財政の窮迫いかんにかかわらず、これを実施しなければならぬ部面ができますれば、社会保障の実態というものは、むしろ社会保障の法律以前におきまして、一つの既成事実というものが作られていくのでありまして、その既成事実は、むしろ歓迎すべきことであろうと私は思っております。そのような意味合いで、今日国の施策がおくれておることは、はなはだ残念でありますが、かような意味合いにおきまして、全国市町村において国民健康保険が真に国民保険としての価値を発揮することを、実は期待をいたしておるのであります。もとより、将来国民健康保険健康保険の併合問題も、あるいは起ってくるかもしれませんけれども、とりあえずは、国民健康保険を全国民に均霑をするような施策を講ずることにつきましては、年次計画を立てまして進めていくつもりでございます。
  140. 永山忠則

    永山委員 一人で時間も食いますから、飛躍してどんどん結論へ進みたいと思うのでございます。結局年次計画をお立てになりまして、ことに六カ年計画というものを御計画のようでございますから、少くとも六カ年以内においては、なお医療保険に恵まれない者がないように普及をいたして、保険の統合一元化運営に向って邁進されるように一段と一つ御構想を練られたい。ここに強制的に設立せしめるべきであるというその勧告趣旨をも、やはり十分おくみ取りを願いまして、ことに、健保は強制されておるのでございまして国保もまた、市町村が決議をすれば国民には強制しておるのであります。強制の精神は、もう打ち立てられておるのでございますから、何もちゅうちょ逡巡することなくその方途に向いまして、一段と強い行政的措置で進められていくべきであると思うのであります。大臣は先刻来から、財政的の理由で、どうも国民健康保険市町村でやりにくいのではないかということを言われておるのでございますが、財政的の理由というのは、農村の方が経済事情がきわめて悪いのであります。東京都、大阪といったような六大都市は、いわゆる担税能力を持っておるのでありまして、赤字になっていない特別都市でもございます。そういう方面にこれが実施されないということは、単に財政の問題ではないのでございまして、政治的理由が一番大きな問題でございます。国民健康保険は、特別会計でございますから、町村財政とは別に、ほんとうの社会保障の理念に透徹したる指導者、為政者があるならば、ここに前進をするのでございまして、この指導方針理念が、いろいろな政治情勢において帰一しないというこの政治的理由が非常に多いのでございます。政府の方で強くこれが指導を打ち立てられるということになりますれば、ことに療養給付費の二割負担の法制化が確立するということになりますれば、一段とこれは進んでいくのでございますので、政府側の強い態度を要望しておるのでございます。この場合、さらに財政的の理由と、二千八百万人の残りの者に全部国民健康保険ができ、二割給付を法制化されたならば、政府は非常に多くの負担を要することになってまことに困るのだ、だから前進主義でいかなければならぬ、法制化することはちゅうちょすべきではないかというような考え方があるとするならば、その点非常に遺憾に思うのでありますが、これに対しては、どういうようにお考えでございますか。
  141. 川崎秀二

    川崎国務大臣 政府としては、年次計画をもって漸次拡充していきたいと思います。しかし、その年次計画ができましても、実際には市町村においてそれを実施される町村が少いことを残念に思っておるほどでありますから、むしろこれが増大をして、社会保障の既成事実というものが次第にできていきますることは、その翌年度におきまして予算を編成する際に、予算の編成難を相当にとめられましょうけれども、他の経費を削っても、実際に計上されてきておるものに対してこれを抑圧するような考えはございませんから、どんどんこれは伸長いたしたいと思っております。
  142. 松岡松平

    ○松岡(松)委員長代理 永山さんに申し上げます。八木さんの質問通告がありまして、これも十分以上かかりますから、どうかそのおつもりで簡単に願います。
  143. 永山忠則

    永山委員 先ほど大臣にどうですかと言ったら、まあ何とかと言われたので、大体そういう構想で進めてきておるのでございますから、他の関係等もございますが、重要な点だけは一つお許しを願いたいと思います。  大臣は、ただいま国家財政上、国民健康保険が伸びていけば、他の方を削ってでもということでございますが、この場合、大臣に十分認識をしてもらっておかねばならぬことがあるのでございます。国民健康保険をやっておるために、生活保護費を少くしておるという結果になっておるのでございます。そのことは、結論から言えば、国民健康保険を拡充強化すれば、生活保護費を少くして、そうして急増しようとする生活保護費を国保の方に回すことによって、この経済を処理できるという考え方をわれわれは持っておるのでございます。そういう点に対して、計数的にも御研究になったことがございますか。
  144. 川崎秀二

    川崎国務大臣 国民健康保険の網の目から漏れたものが生活保護ではありませんので、生活保護というものは、元来最低生活に呻吟をしており、生活に最も困難を感じておる人たちに対して行われておる最低生活保障法ともいうべき考え方で実施されておる法律であると解釈いたしております。従って、この生活保護対象というものがふえるということは、国家として決して喜ぶべき現象ではないのでありまして、従って、生活保護を圧迫をするような考え方はむろんありませんけれども、これが逐年減少していくことは、国家として決して悲観すべき状態ではないと思っておるのであります。従って、国民健康保険というものは、もとよりその一部には、そういうような国民健康保険が拡充されれば、生活保護を落すのだというような憂えのある傾向もありましょうけれども、元来が保険体制の上から言いましても、真の国の施策の上から言いましても、全然別の観点に立って行われておるものでありますから、国民健康保険が伸びたからといって、生活保護の実態を落すというようなことは、政府としてやるべきことではないと考えておるのであります。
  145. 永山忠則

    永山委員 これは大臣、全然見当違いの答弁でございまして、国民健康保険をやりますれば、生活保護に転落ぜずに済むということなのであります。それで、その数字をお調べになっておるかということであります。これはきわめて参考になるものとして重大な点でありますから、お聞き願いたいのであります。現在、国民健康保険をやっております。それがために、国民健康保険をやらずにおけば、当然生活保護へ落ちるべき者を、国民健康保険で救っておるので、生活保護へ転落せずに済んでおるわけであります。すなわち救貧政策より防貧政策、いわゆる貧困に落さないためにやるものとして、国民健康保険が、生活保護より優先してこれを助長していくという考え方であってほしい。そうすれば、今国民健康保険があるために、どれだけ生活保護に転落する者を防止し、生活保護費を国保でかついでおるかという数字が——これは生活保護ではございませんが、千葉県の例を取って調べたものがございます。千葉県は、国民健康保険をやっておるのといないのと、ちょうど半々あるのでございます。そこで、国民健康保険をやっておる市町村は、やっていない市町村より、生活保護に転落する者が一割少いという計算になっておるのであります。また生活保護の医療給付費の単給を国保がかついでおるということも大きな問題でありまして、国民健康保険をやっておりますれば、生活保護の医療救護で当然政府が全部出してもらうべき医療救護費を、半分は保険経済で持っておるわけであります。でありますから、生活保護の医療救護の単給が、国保ができたなら半分で済むという計算になるのでございます。そういう考えで、生活保護法第四条によって国民健康保険の社会医療保険が先行することになっておりますので、政府生活保護費のうちの半分を国保経済で持っておる。さらに貧困に転落するものが一割少くなっておるということから計算いたしまして、国民健康保険をやっていなければ、六十二億一千万円というものを当然生活保護費で見るべきものを、国民健康保険をやっておるために、生活保護費を抑えることができるという計算になっておるのでございます。その内訳を申しますと、医療扶助の中の単給を国民健康保険が半分持っておりまして、この単給の節減額が二十八億七千万円でございます。それから生活保護に落ちるべき者を落さずに押えておるという生活保護転落防止節減額が十四億四千万円という計算をすることができるのでございます。さらにこれがために、生活保護費の地方負担が二割でございますから、この節減額が十二億ございます。さらに生活保護費の事務費関係で、国民健康保険で第一次査定をいたしておりますので、社会福祉方面の福祉主事の手をセーブすることができる地方庁の節減額が二億円でございます。これだけの金額をセーブできますと同時に、さらに大臣に重大問題として申し上げますことは、結核予防法による公費負担国民健康保険との関係でございます。結核予防法で、政府が一人当りに支出しておるのは三十六円でございますが、国民健康保険に入っておる者に対しては、十六円しか出していないのであります。すなわち、あとは国民健康保険でこれをカバーしておるということです。そうすると、政府の方は、国民健康保険をやっておるために、結核費を一人当り二十円安く済ませておるのであります。その金額が五億六千万円でございます。そういうように考えますときに、国民健康保険をやることによりまして、政府がやっていなければ当然出すべき結核対策費並びに生活保護費等の総計は六十五億七千万円でありまして、本年度国民健康保険療養給付費と事務費補助が六十六億五千万円ですから、ちょうど政府から出していただいておる療養給付費六十六億五千万円を、国民健康保険をやっておるために、生活保護費並びに結核対策費から国保の方がそれだけかかえておるという結論になりまして、残りの二千八百万人に一時にこれを実行いたしましても、現在のままでやるならば、生活保護費と結核関係費用を、そのまま国民健康保険の拡充強化費へ回せばいいという結論になるのでありまして、政府財政的な支出においては何ら心配なく、むしろ防貧政策として最も必要なものであると考えますから、この場合すみやかに国民健康保険、あるいは健保の拡充強化に向って、さような構想をもって一段とお進みになるべきであると考えるのでありますが、大臣の御所見を伺います。
  146. 川崎秀二

    川崎国務大臣 先ほど来、国民健康保険に関する教室のようなお話を承わりまして、ことにこの道におきます大先輩でありますから、そのことに通暁せられておるわけでありまして、御教示の点は、承わって非常に参考になる点が多かったのであります。私は、先ほど御質問趣旨を取り違えまして、国民健康保険を全国に適用してだんだん強化していくと、生活保護の実体を離れて、生活保護費を来年度、再来年度予算等において、不当に少く計上するのではないか、圧迫するのではないかという御趣旨のように伺いましたので、答弁を取り違えたわけであります。国民健康保険生活保護の実体とダブル・フォーカスになっておるというような点は、そう大きな面ではございませんけれども、一割ないし一割五分がそういうふうになっておることは、われわれ本十分承知をいたしております。千葉県の例をあげてお話がございましたが、確かにそういうようなことが起っておると思います。しかして結核をカバーしておるということは、確かに国民健康保険のみならず、健康保険におきましても、今度の予算審議などにおいても、結核対策それ自身としては十分でないではないかという御質問がしばしばありましたが、国民健康保険並びに健康保険が、これらの制度の中におきまして、結核解決のために相当な力をいたしておることは御承知通りであります。従って、国民健康保険を充実していくことについては、何らの異論もありませんし、今度自由党並びに民主党から提案をされております原案につきまして——細部にわたりましては、まだいろいろ議論を尽さなければならぬ点もありましょうけれども厚生省といたしましては賛意を表しておる次第でありまして、その過程におきまして大蔵省側を説得させまして、大体自由党民主党関係委員の方々において、相当にコンクリートされてきたのではなかろうかと考えます。将来とも国民健康保険並びに健康保険が一そう強力に発展をすることは、望むところでありますから、この法律のいち早く成立されることを望んでやみません。また私としましても一そうの努力を振いたいと思っております。
  147. 松岡松平

    ○松岡(松)委員長代理 暫時休憩いたします。    午後五時一分休憩      ————◇—————    午後五時四分開議
  148. 松岡松平

    ○松岡(松)委員長代理 休憩前に引き続き会議を開きます。  次会は二十七日(月曜日)午前十時より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後五時五分散会